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涙液を用いるアレルギー学的検査法

2008年2月29日 金曜日

———————————————————————-Page1アレルギー性結膜疾患における涙液検査の現状1.TotalIgE(総免疫グロブリンE)a.TotalIgEについて血清中のtotalIgE値は,IgEを産生しやすい体質,すなわちアトピー素因を示す指標として用いられている.しかし,血清中IgE値は健常者においてもみられ,また,寄生虫感染,膠原病,肝疾患およびネフローゼ症候群などの疾患でも血清IgE値が高値を示すことから,アレルギー疾患に対する特異性は疑問視されている.また,アトピーの重症度とIgE値は相関しないとの指摘もある.したがって,アレルギーに対する特異性を重視してIgEを検索するのであれば,アレルゲン特異的IgE抗体(後述)を検索することになる.b.涙液中totalIgE(1)アレルギー性結膜疾患の診断筆者らが行った涙液中totalIgE値に関する検討では,アレルギー性結膜疾患で陽性,健常対照では陰性を示し,両者が明確に区別された.これは,眼局所のtotalIgEを測定することにより,血清IgE値の場合とは異なり,アレルギー疾患に対する特異性が向上したものと考えられる.したがって,涙液中totalIgE値を用いたアレルギー性結膜疾患の診断は有用であると考えられる.また,診断率に関しては,アレルギー性結膜炎で11.9%,アトピー性角結膜炎で60.0%であったのに対して,春季カタルでは94.1%と高率で,測定値も有意に高値を示0910-1810/08/\100/頁/JCLSはじめにアレルギー性結膜疾患は,「I型アレルギーが関与する結膜の炎症性疾患で,何らかの自他覚症状を伴うもの」と定義されている1).アレルギー性結膜疾患診療ガイドラインによれば,アレルギー性結膜疾患を確定診断するためには,アレルギー性結膜疾患に特徴的な臨床症状を有することのほかに,眼局所でのアレルギー反応が証明されることが条件であるとされている.眼科医にとって,眼局所でのI型アレルギー反応を臨床的に診断することは,以前からの課題である.現在の日常診療で用いられている診断方法としては,結膜擦過塗抹標本中に好酸球を証明する方法だけである.しかし,結膜擦過塗抹標本中の好酸球検査は,病理組織学的検査の範疇であり,眼科医にとっては,内科における血液生化学検査に相当する眼局所の検査法が望まれるところである.以前から涙液は,角結膜疾患における局所の病態を反映する臨床検体として注目されている.しかし,これまでは涙液採取量が微量であることから,臨床検査として実用化されることはなく,実験室レベルでの検討が続いていた.近年,涙液を用いた臨床検査の実用化に向けての研究結果報告が増加している.本稿では,眼アレルギー検査としての涙液検査の有用性と実用化に向けての展望について述べる.(21)155*JunShoji:日本大学医学部視覚科学系眼科学分野〔別刷請求先〕庄司純:〒173-8610東京都板橋区大谷口上町30-1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野特集眼アレルギーの知はいまあたらしい眼科25(2):155162,2008涙液を用いるアレルギー学的検査法AllergologicalExaminationUsingTearFluid庄司純*———————————————————————-Page2156あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008(22)どのようなアレルゲンに感作されているかを検査する方法である.すなわち,ダニやスギ花粉のような特定のアレルゲンに対する特異的IgE抗体が存在すれば,その生体はダニまたはスギ花粉に感作されていることを意味しており,ダニやスギ花粉によりアレルギー疾患が惹起されると考えられる.したがって,アレルゲン特異的IgE抗体検査は,アレルギー疾患の診断においてtotalIgEよりも特異性の高い検査法として位置づけられているほか,原因アレルゲンの検索としても有用である.日常診療で用いられているアレルゲン特異的IgEの検査法は,皮膚反応と血清中アレルゲン特異的IgE抗体価測定とがある.皮膚反応としては,スクラッチテストおよびプリックテストがあり,直接アレルゲンを皮膚に作用させて皮膚の発赤,腫脹などにより判定する方法である.しかし,この方法の欠点として,アレルゲンを作用させることによりアナフィラキシーやアレルギー疾患を誘発する危険があることが指摘されている.したがって,現在はinvivo検査として血清中アレルゲン特異的IgE抗体価を測定する方法が頻用されており,UniCAP法,イムライズ法,MAST-26などの自動測定装置が日常診療に用いられている.しかし,血清中のアレルゲン特異的IgE抗体は,単独陽性例から複数陽性例までさまざまであり,検出されたアレルゲン特異的IgE抗体すべてがアレルギー疾患(気管支喘息・アレルギー性鼻炎など)の原因であるかは不明である.したがって,アレルギー性鼻炎では,鼻汁中などに検出される局所のアレルゲン特異的IgE抗体を検索し,より正確に病態を把握しようとする試みが考えられている.アレルギー性結膜炎の場合,血液検査の結果と結膜の病態との関連が疑問視されていることから,涙液中アレルゲン特異的IgE抗体の検討は,アレルギー性結膜疾患の診断および重症度判定に有用であると考えられる.眼局所におけるアレルゲン特異的IgE抗体の産生に関しては,これまでにさまざまな説が報告されている.春季カタルにおける病理学的検討では,結膜の炎症病巣の中にIgE陽性形質細胞が存在するという報告3,4)とIgE産生形質細胞は存在しないとする報告とがある5).Tuftら3)は,輪部型の春季カタル10例を免疫組織化学的に検索し,10例中4例にIgE陽性形質細胞を認めたした(図1).この結果は,涙液中totalIgE値はある程度の重症度の指標になると考えられるが個々の症例でみてみると,軽症例では陰性化してしまうことや病状の悪化と涙液中totalIgE値の増減が一致しない場合がある点について,さらに検討する必要がある.(2)日常診療での実用化へ向けての検討涙液中totalIgE測定キットによるアレルギー性結膜疾患の診断に関する検討が報告されている2).このキットは,イムノクロマト法を用いた方法であるが,健常者での検査結果がすべて陰性であることから,特異度が100%であったと報告されている.また,本キットと臨床診断との陽性一致率は73.6%であるため,感度は73.6%であると考えられている.筆者らの検討においても同様であるが,アレルギー性結膜炎症例では,涙液中totalIgE値が低値の症例が多いため,アレルギー性結膜疾患全体で検査法の感度を算出した場合,アレルギー性結膜炎次第で感度が変化すると考えられる.今後は,アレルギー性結膜炎に対する感度を上げることが,涙液中totalIgE値を用いた診断キットの課題であると考えられる.2.アレルゲン特異的IgE抗体a.アレルゲン特異的IgE抗体についてアレルゲン特異的IgE抗体に関する検査は,生体が図1アレルギー性結膜疾患における涙液中totalIgE値と診断率春季カタルでは,測定値と診断率ともに高値を示すが,アレルギー性結膜炎では両者とも低値である.AC:allergicconjunctivitis,AKC:atopickeratoconjuncti-vitis,VKC:vernalkeratoconjunctivitis,ND:notdetected.0.11101001,00010,000100,000ACAKCVKC健常対照涙液総IgE値(IU/m?)ND094.160.011.9診断率0/1032/349/155/42陽性者/検体数———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008157(23)がコントロールとの間に統計学的有意差はなかったと述べている.また,AbuEl-Asrarら5)は,7例の春季カタル症例の結膜組織を免疫組織化学的に検討し,巨大乳頭内には,B細胞からなる濾胞が形成され,濾胞内には,IgE陽性のfolliculardendriticcellがみられる症例があるが,全例の結膜組織でIgE陽性形質細胞がみられなかったことから,IgEの局所産生は行われていないと結論している.また,涙液中の抗原特異的IgE抗体の検査により,IgEの局所産生を示唆する報告もある6).Ballowら7)は,涙液中特異的IgE値と血清中特異的IgE値とを比較するとともに,血清中に存在し,涙液中には通常存在しないトランスフェリンを用いて涙液中の特異的IgE値の局所産生を検討した結果,春季カタルでは特異的IgEの局所産生を示唆する所見が得られたが,アレルギー性結膜炎では血管からの漏出を示唆する所見が得られたと報告している.すなわち,これらの病理学的検査および涙液検査所見は,春季カタルの一部の症例で特異的IgEの結膜局所産生がみられることを示唆する所見であるが,健常組織や軽症のアレルギー性結膜炎ではほとんどみられないと考えられる.したがって,IgE抗体価の局所産生という観点から涙液中アレルゲン特異的IgE抗体価測定は,特異性が高い反面,感度が不十分な検査法になる可能性が考えられる.b.涙液中アレルゲン特異的IgE抗体検査筆者らは以前に,アレルギー性結膜疾患と関連が深いダニに対する涙液中ダニ特異的IgE抗体価の検討を行った.その結果,アレルギー性結膜炎およびアトピー性角結膜炎よりも春季カタルにおいて涙液中ダニ特異的IgE抗体価が高値を示した8)(図2).また,春季カタルにおいて,角膜病変を有さない軽症例と角膜病変を有する重症例とを比較したところ,重症例で有意に涙液中ダニ特異的IgE抗体価が高値を示した(図3).さらに,血清中ダニ特異的IgE抗体が陽性である春季カタル,アトピー性角結膜炎および季節性アレルギー性結膜炎(スギ花粉飛散時期)において,涙液中ダニ特異的IgE抗体価と血清中ダニ特異的IgE抗体価とを比較した.その結果,ダニが原因アレルゲンの一つであると考えられている春季カタルおよびアトピー性角結膜炎では,涙液中の抗体価と血清中の抗体価とがよく相関する結果となった(図4).これに対して,スギ花粉による季節性アレルギー性結膜炎では,血清中のダニ特異的IgE抗体価が高値を示しても,涙液中ダニ特異的IgE抗体価が低値の症例が多く存在することが判明した(図4).これらの結果は,涙液中のアレルゲン特異的IgE抗体検査が,アレルギー性結膜疾患の原因アレルゲン検査法として有用であることを示すとともに,涙液中の抗体価の推移により病状の重症度や経過を観察するためのツールとしても有用である可能性を示している.しかし,問題図2涙液中ダニ特異的IgE抗体価春季カタル,アトピー性角結膜炎および通年性アレルギー性結膜炎では,涙液中ダニ特異的IgE抗体価が高値を示すが,季節性アレルギー性結膜炎ではコントロールと差がない.SAC:seasonalallergicconjunctivitis,PAC:perennialallergicconjunctivitis,AKC:atopickeratoconjunctivitis,VKC:vernalkeratoconjunctivitis.0.11101001,00010,000ダニ特異的IgE(kU/?)VKCAKCPACSACControl陽性数/対象数27/31Cut-o?値(0.35kU/?)16/282/5610/2211/30図3春季カタルの重症度と涙液中ダニ特異的IgE抗体価春季カタルでは,巨大乳頭(GPC)に角膜病変を合併する重症例で,有意な涙液中ダニ特異的IgE抗体価の上昇がみられた(*:p<0.05,Kruskal-Wallis検定).GPC:giantpapillaryconjunctivitis.GPC+角膜病変なしGPC+角膜病変あり*6005004003002001000沈静期ダニ特異的IgE値(kU/?)———————————————————————-Page4158あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008(24)は,涙液中ダニ特異的IgEが陰性の症例に対する臨床的な解釈である.すなわち,陰性を示す症例のなかに真の陰性(アレルギー性結膜炎ではない症例)と偽陰性(軽症のために涙液中にダニ特異的IgE抗体の局所産生が生じない症例)とが混在すると考えられる.これらの陰性例が本検査法を実用化した際の最大の問題点になると考えられる.3.Eosinophilcationicprotein(ECP)値a.ECPについて好酸球は,即時型アレルギー反応の遅発相でみられる主要な炎症細胞で,細胞質内には好酸性の特異顆粒を有する.特異顆粒のなかには,塩基性蛋白とよばれる細胞障害性蛋白が含まれていることから,好酸球はアレルギー炎症における組織障害に関与すると考えられている.特異顆粒中には,MBP(majorbasicprotein),ECP(eosinophilcationicprotein),EPO(eosinophilperoxi-dase),EDN(eosinophil-derivedneurotoxin)の4種類の塩基性蛋白の存在が知られており,脱顆粒により好酸球から放出される.ECPは,好酸球の活性化およびturnoverの指標とされるほか,アレルギー疾患では,血清中ECP値,鼻汁中ECP値などが気管支喘息,アレルギー性鼻炎などの他覚的な活動性マーカーとして注目されている9).b.涙液中ECP値涙液中ECP値については,アレルギー性結膜疾患症例に対する抗原点眼誘発試験により,誘発後6時間以降で有意に増加することが示されたことにより10),アレルギー性結膜疾患でも即時型アレルギー反応の遅発相で上昇することが確認された.したがって,涙液ECP値はアレルギー性結膜疾患におけるアレルギー炎症の指標として有望と考えられている.(1)アレルギー性結膜疾患の診断筆者らは,涙液ECP値を用いたアレルギー性結膜疾患の診断について検討した.涙液中ECPは,アレルギー性結膜炎,健常対照および非アレルギー性結膜炎のいずれの症例においても検出された11).したがって,まず健常値を健常対照群の5パーセンタイル値から95パーセンタイル値までと設定した.つぎに,健常対照群の95パーセンタイル値未満を陰性,95パーセンタイル値以上を陽性として診断率を検討した.その結果を示したのが表1である.アレルギー性結膜疾患に対する診断率は,最も低値であった季節性アレルギー性結膜炎を除いて,通年性アレルギー性結膜炎(78.6%),アトピー性角結膜炎(53.8%),春季カタル(100%)ではほぼ良好な診断率を示したと考えられる.したがって,涙液中ECP値による診断は,春季カタル,アトピー性角結膜炎,通年性アレルギー性結膜炎では有用であるが,季節性アレルギー性結膜炎の診断には不十分であると結論することができる.(2)重症度・治療効果の判定涙液中ECP値をアレルギー性結膜疾患の病型別にみると,季節性アレルギー性結膜炎(スギ花粉性結膜炎)で低値を示し,健常対照と差がなかった.そこで,スギ花粉結膜炎を対象として,花粉飛散前と花粉飛散中との涙液中ECP値を比較検討したところ,花粉飛散中では図4涙液中と血清中とのダニ特異的IgE抗体価の比較AlaSTAT法により測定した涙液中および血清中ダニ特異的IgE抗体のAlaSTATscoreの関係を示す.春季カタルおよびアトピー性角結膜炎は,両者がよく相関するのに対して,季節性アレルギー性結膜炎では,涙液中AlaSTATscoreが血清中のものと比較して低値である.SAC:seasonalallergicconjunctivitis,AKC:atopickeratoconjunctivitis,VKC:vernalkeratoconjunctivitis.4111611511433321106543210涙液AlaSTATscore血清AlaSTATscore(n=18)65114131221106543210涙液AlaSTATscore血清AlaSTATscore(n=7)VKC・AKCSAC———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008159(25)涙液ECP値が増加するものの,その程度は軽度であることが判明した12)(図5).一方,春季カタルでは涙液中ECP値が高値を示した(表1).Montanらの報告によれば,春季カタルでは臨床所見の重症度と涙液中ECP値がよく相関するとされている13).したがって,涙液ECP値は,眼局所の病型,炎症の重症度,治療効果を反映して鋭敏に変化する指標であると考えられるため,眼局所のアレルギー炎症を評価する指標として有用であると考えられた.(3)日常臨床での応用涙液ECP値およびtotalIgE値を用いて経過観察した症例について示す.図6に示した症例は,春季カタルの急性増悪がみられたために,トリアムシノロン(ケナコルトR)結膜下注射,シクロスポリン点眼,クロモグリク酸ナトリウム(インタールR)点眼により治療した症表1涙液ECP値症例眼値診断率値±標準偏差(ng/ml)7.4±7.230.0±60.4147.0±249.8172.8±667.14,687.6±6,981.9Cut-o値:健常対照の95パーセンタイル値=19.4ng/ml.SAC:seasonalallergicconjunctivitis,PAC:perennialallergicconjunctivitis,AKC:atopickeratoconjunctivitis,VKC:vernalkeratoconjunctivitis.涙液ECP値(μg/l)健常対照花粉飛散前花粉飛散期NS*0100200300400500600700図5季節性アレルギー性結膜炎の涙液中ECP値花粉飛散前と比較して花粉飛散期では涙液中ECP値が有意に増加している.しかし,涙液ECP値は200μg/l以下の症例が多く,全体的に低値である.*:p<0.005,Mann-WhitneyU-test,NS:有意差なし.ECP:eosinophilcationicprotein.図6涙液検査で経過観察した春季カタルの代表例春季カタルの臨床所見は,治療前と比較して治療後では巨大乳頭が扁平化し,結膜の充血,腫脹も減少している.涙液検査では,治療によりtotalIgEとECPが著明に低下している.ECP:eosinophilcationicprotein.治療前治療後治療前治療後涙液TotalIgE(kU/?)1200涙液ECP(?g/m?)10,872.87.2———————————————————————-Page6160あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008(26)例で,急性増悪時期と寛解期との涙液検査を比較している.涙液totalIgE値と涙液ECP値は,治療とともに低下傾向を示すが,両者が相関しているわけでなく,ECP値のみ低下する場合とtotalIgE値とECP値の両者が低下する場合とがある.両者が低下することが寛解期であり,その際のECP値はおおむね200μg/ml以下となることが多い.今後は,病状を判定するための数値や薬剤選択の指標になる数値を決めることができれば,より本検査の有用性が増すと考えられる.4.涙液中サイトカイン・ケモカイン値a.サイトカイン・ケモカインについてサイトカイン・ケモカインは,マスト細胞,リンパ球などの免疫担当細胞および上皮細胞などから分泌される.したがって,涙液中のサイトカイン・ケモカインは,眼局所のアレルギー炎症を反映するよい指標となる可能性が考えられている.しかし,アレルギー炎症に関与するサイトカイン・ケモカインは多数あり,どの因子が有用な指標となるかは不明である.アレルギー反応とヘルパーT細胞1型/2型(Th1/Th2)バランスの関係では,アレルギー反応がTh2優位の免疫反応であるため,interleukin(IL)-4,IL-13などのTh2サイトカインを中心に検討が進められてきた.しかし,Th1/Th2バランスは,T細胞の培養系を基礎として確立された概念であり,invivoではTh1およびTh2サイトカインを産生する細胞がリンパ球ばかりでないため,Th2サイトカインが上昇すればTh1サイトカインが低下するというTh1/Th2バランスの関係をとりにくいという状況がある.したがって,Th1/Th2サイトカインは,臨床検査として結果の解釈がむずかしいという欠点が生じている.また,サイトカインはネットワークを形成し,互いに影響しながら増加および減少するため,単一の因子だけで評価するのは困難である.また,アレルギー疾患とケモカインとの関連を検討した研究も多数報告されているが,アレルギー性結膜疾患において臨床的な有用性が示されているのは好酸球浸潤に関与するeotaxinである14).そこで,臨床的な重症度と涙液中の値がよく相関する因子を選定する必要が出てくる.近年,1検体から同時に数種類から数十種類の蛋白質を検出するproteinarray法という方法が近年開発された.この方法を涙液に応用することにより,涙液中の数十種類のサイトカイン・ケモカインを同時に評価できる可能性が考えられた.b.涙液中サイトカインプロファイルの検討筆者らは,春季カタルについてproteinarray法を用いて評価したところ,可溶性IL-6受容体(sIL-6R)およびeotaxin-2が健常対照と比較して有意に増加していた(表2).また,春季カタル症例で,ステロイド結膜下注射による治療前と治療後とを比較したところ,inter-feron-g(IFN-g),IL-4,eotaxin-2,sIL-6Rなどが激減していることが判定でき,春季カタルにおける治療効果判定にも有用であると考えられた15)(図7).また,Leonardiら16)は,protein-array法を用いて涙液中サイトカインプロファイルを解析し,春季カタル症例ではIFN-g,IL-4,IL-10,TNF(腫瘍壊死因子)-a,eotax-inが増加していることが特徴であると報告している.このようなproteinarray法を足がかりとして,涙液検査の新しい方向が示されてきている.単一の物質だけでは評価できないサイトカイン・ケモカインなどでは,1枚のシートで多種類の因子が同時に評価できるアレイ方式の検査法であれば,病態解析や治療効果判定に有用であり,今後このような涙液検査が有望であると考えられる.表2春季カタルにおける涙液中サイトカインプロフィール春季カタル率値d15.6NSTIMP-29.0NSIL:interleukin,MIP-1d:macrophageinammationfactor-1d,sIL-6sR:solubleinterleukin-6receptor,TIMP-2:tissueinhibitorofmatrixmetalloprotease-2,NS:notsignicant.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008161(27)おわりにアレルギー疾患は,即時型アレルギー反応が原因で発症するという共通点がみられるものの,臓器特異的な反応が多く関連し,複雑な病態を形成している.さらに,アレルギー性結膜疾患のなかでも,アレルギー性結膜炎や春季カタルのように病型の相違によっても異なる病態を示すと考えられる.したがって,アレルギー性結膜疾患は,眼局所で診断し,治療薬を選択し,治療効果を判定することがより良い診療につながると考えられる.涙液検査は,将来の検査法としての有用性が固まりつつあるため,今後は実用化に向けた検討が大きな課題であると考えられる.稿を終えるに当たり,涙液検査についてご指導をいただいており,本稿のご校閲を賜りました,日本大学医学部視覚科学系眼科学分野澤充主任教授に深謝いたします.文献1)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン作成委員会:特集:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン.日眼会誌110:99-140,20062)中川やよい,石崎道治,岡本茂樹ほか:アレルギー性結膜疾患に対する涙液中総IgEのイムノクロマトグラフィ測定法の臨床的検討.臨眼60:951-954,20063)TuftSJ,CreeIA,WoodsMetal:Limbalvernalkerato-conjunctivitisinthetropics.Ophthalmology105:1489-1493,19984)MorganG:Thepathologyofvernalconjunctivitis.TransOphthalmolSocUK91:467,19715)AbuEl-AsrarAM,VandenOordJJ,GeboesKetal:Immunopathologicalstudyofvernalkeratoconjunctivitis.GraefesArchClinExpOphthalmol227:374-379,19896)KariO,SaloOP,BjorkstenFetal:Allergicconjunctivitis,totalandspecicIgEinthetearuid.ActaOphthalmolTherapeticineIg<0.001IL-4<0.001IP-100.2Eotaxin0.1Eotaxin-20.001IL-1a0.01IL-60.06TNF-a0.5sIL-6R<0.001ICAM-10.004IFN-g:Interferon-g.IP-10:Interferon-ginducibleprotein-10.TNF-a:Tumornecrosisfactor-a.sIL-6R:Solubleinterleukin-6receptor.ICAM-1:Intercellularadhesionmolecule-1.HumanInammationArrayAH1234567812345678治療後治療前LKJIGFEDCBAHLKJIGFEDCB図7春季カタルの涙液proteinarray法春季カタル症例に対して施行したトリアムシノロン結膜下注射の施行前と施行後とで涙液中サイトカインプロファイルを比較した.Protein-array法で得られた化学発光強度をデンシトメトリー法で解析しtherapeuticindex(=治療後の化学発光強度/治療前の化学発光強度)で判定した.———————————————————————-Page8162あたらしい眼科Vol.25,No.2,200812)室本圭子,庄司純,稲田紀子ほか:季節性アレルギー結膜炎における涙液中eosinophilcationicproteinの測定.日眼会誌110:13-18,200613)MontanPG,vanHage-HamstenM:Eosinophilcationicproteinintearsinallergicconjunctivitis.BrJOphthalmol80:556-560,199614)FukagawaK,NakajimaT,TsubotaKetal:Presenceofeotaxinintearsofpatientswithatopickeratoconjunctivi-tiswithseverecornealdamage.JAllergyClinImmunol103:1220-1221,199915)ShojiJ,InadaN,SawaM:Antibodyarray-generatedcytokineprolesoftearsofpatientswithvernalkerato-conjunctivitisorgiantpapillaryconjunctivitis.JpnJOph-thalmol50:195-204,200616)LeonardiA,CurnowSJ,ZhanHetal:Multiplecytokinesinhumantearspecimensinseasonalandchronicallergiceyediseaseandinconjunctivalbroblastcultures.ClinExpAllergy36:777-784,200663:97-99,19857)BallowM,MendelsonL:SpecicimmunoglobulinEanti-bodiesintearsecretionsofpatientswithvernalconjuncti-vitis.JAllergyClinImmunol66:112-118,19808)北澤実,庄司純,稲田紀子ほか:アレルギー性結膜疾患患者における涙液中特異的IgE抗体の測定.日眼会誌107:578-582,20039)VengeP,BystromJ,CarlsonMetal:Eosinophilcationicprotein(ECP):molecularandbiologicalpropertiesandtheuseofECPasamarkerofeosinophilactivationindis-ease.ClinExpAllergy29:1172-1186,199910)LeonardiA,BorghesanF,FaggianDetal:Tearandserumsolubleleukocyteactivationmarkersinconjuncti-valallergicdisease.AmJOphthalmol129:151-158,200011)ShojiJ,KitazawaM,InadaNetal:Ecacyofteareosi-nophilcationicproteinlevelmeasurementusinglterpaperfordiagnosingallergicconjunctivaldisorders.JpnJOphthalmol47:64-68,2003(28)眼部来マニアルの手術を写真・イラストを多用しわかりやすく,読みやすく!【編集】稲富誠(昭和大学教授)・田邊吉彦(昭和大学客員教授)Ⅰ眼瞼の疾患1.霰粒腫(三戸秀哲井出眼科新庄分院)2.麦粒腫(三戸秀哲)3.眼瞼下垂(久保田伸枝帝京大学)4.眼瞼内反(根本裕次帝京大学)5.眼瞼外反─老人性(八子恵子福島医科大学)6.兎眼(八子恵子)7.睫毛乱生(柿崎裕彦愛知医科大学)8.眼瞼皮膚弛緩症(井出醇・山崎太三・辻本淳子井出眼科病院)9.眼瞼良性腫瘍(小島孚允さいたま赤十字病院)Ⅱ結膜・眼球の疾患1.翼状片(江口甲一郎江口眼科病院)2.眼窩脂肪脱出(金子博行帝京大学)Ⅲ涙器の疾患1.涙道ブジー(先天性狭窄)(吉井大国立身体障害者リハビリテーションセンター)2.涙小管炎(吉井大)3.涙点閉鎖(吉井大)B5判総122頁写真・図・表多数収載定価6,300円(本体6,000円+税300円)メディカル葵出版株式会社〒113─0033東京都文京区本郷2─39─5片岡ビル5F振替00100─5─69315電話(03)3811─05440(かっこ内は執筆者)

外科的治療の適応と方法

2008年2月29日 金曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSはじめに重症アレルギー性結膜疾患は一般的な花粉症などによるアレルギー性結膜炎と異なり,角膜に炎症や潰瘍を伴い,激しい疼痛や視力低下を伴う疾患である.本稿では重症アレルギー性結膜疾患の概念と臨床像を紹介したうえで,手術適応と手術方法を紹介する.外科的治療は非常に即効性があり,保存療法で軽快しない症例にはぜひ勧めたい治療法の一つである.外科的治療の後で免疫抑制薬点眼を使用すれば再発率も低くなり効果的である.また,最後に長期にわたる角膜炎症で遷延性角膜上皮欠損を認める症例への角膜上皮障害の治療についても紹介する.I重症アレルギー性結膜疾患の概念一般的な花粉などによるアレルギー性結膜炎の治療はヒスタミンH1拮抗点眼薬やメディエーター遊離抑制点眼薬が効果的である1).一方,重症アレルギー性結膜疾患とはアレルギー性結膜炎でも角膜に炎症や潰瘍を伴い,激しい疼痛や視力低下を伴う疾患である.本疾患は多くは非常に治療抵抗性である.重症アレルギー性結膜疾患の代表的疾患は春季カタルであるが,日本のガイドラインではアトピー性皮膚炎の有無は問わない.一方,世界で大半の国々の眼アレルギー疾患の分類にはアトピー性皮膚炎を伴う患者に起こる慢性のアレルギー性結膜炎がアトピー性角結膜炎として独立しており,結膜巨大乳頭などの増殖性変化(図1)(15)149*HiroshiFujishima:国際医療福祉大学三田病院眼科〔別刷請求先〕藤島浩:〒108-8329東京都港区三田1-4-3国際医療福祉大学三田病院眼科特眼アレルギーのはいまあたらしい眼科25(2):149153,2008外科的治療の適応と方法SurgicalTreatmentforSevereOcularAllergicDiseases藤島浩*図1アトピー性角結膜炎─結膜乳頭増殖典型的な重症例結膜乳頭増殖と眼脂を認める.さらに閉瞼も不完全となり,外から乳頭増殖がみえる場合がある.図2輪部型春季カタル角膜輪部の炎症———————————————————————-Page2150あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008(16)眼は重症アレルギー疾患に非常に有効な場合がある.特に角膜輪部型の春季カタルに非常に有効である(図3).本点眼薬を使用しても,またステロイド点眼を併用しても角膜潰瘍などの重症アレルギー疾患に伴う症状が進行する症例にはステロイド内服やステロイド結膜下注射を期間限定で行う必要が出てくる.しかし春季カタルなどは基本的に児童に多く,ステロイド緑内障の問題があり,発達期の患者にステロイドを全身投与することの是非の議論は依然絶えない.そこでこういった患者に今回紹介する外科的療法があるわけである.適応(1)保存的治療ですでに何週間も経過している患者は早期の改善を望まれることが多い.たとえば,ステロイドやシクロスポリン点眼を中心にした保存的治療にて1カ月経過しても症状が軽快せず,角膜潰瘍などが進行する症例に対しては適応である.(2)本疾患が若年者に多く,疼痛や視力低下が患者の社会生活にも影響を与える.痛みが強く,患者の生活スタイルに支障をきたす症例では本法は保存的治療1カ月を待たずに適応となる.(3)再発例で非常に劇症であり,本人が早期の外科的療法を望んだ場合(再発をくり返す症例でも,しばらくの間は自覚的にも他覚的にも著効を示す4)).(4)乳頭増殖が眼瞼縁を越えて外から見える程度になる症例もある.こういった症例には外見上の意味からも適応となる.III外科的治療の方法1.麻酔(1)まずベノキシールを点眼後,白内障手術の際に用いられる4%キシロカイン点眼を行う.(2)点眼麻酔を何回か行った後に2%キシロカインを結膜下に注射し(図4),十分マッサージする.この方法だと結膜下注射の痛みが少なく,小児でも手術可能である.麻酔液は冷蔵庫から取り出してすぐのものではなく,体温程度まで暖めてから使用すると痛みが少ない.(3)挟瞼器を用いて止血を行う場合には上眼瞼皮下にも注射する.その際にはアムスラーテープなどで,事前を伴う症例は難治性アレルギー疾患の代表的疾患である.いずれにしても結膜巨大乳頭を伴うものや,輪部結膜の腫脹や堤防状隆起を認める場合もある(図2).これら難治性アレルギー疾患は高率に角膜病変を伴う.それは軽度なものから点状表層角膜炎,落屑様角膜炎,遷延性角膜上皮欠損,角膜潰瘍,角膜プラークである2,3).春季カタルは10歳代の男性に多く,加齢に伴い減少する.原因抗原としてはハウスダスト,ダニが多い.アトピー性角結膜炎の重症型は20歳代にピークが認められる.外科的治療は両者に有効であるが,アトピー性角結膜炎の重症型は再発率も高くなる傾向がある.アトピー性角結膜炎重症型の多くは眼瞼にも炎症を認め,より強い痒みがあることが一つの理由であるかもしれないが,やはり高率に認められる眼瞼炎もその理由であるかもしれない.角膜所見ではトランタス斑や角膜輪部の堤防状隆起を認めることもある(図2).シールド潰瘍は角膜潰瘍底に好酸球などの沈着物が堆積したものと考えられ,外科的治療(角膜潰瘍掻爬術)の適応の一つである2,3).II外科的治療の適応最近はこういった重症例には保存療法として免疫抑制薬点眼がある(別項参照).現在発売されているシクロスポリン点眼はT細胞の活性化を選択的に抑制する薬剤で,本剤の眼圧への影響はない.このシクロスポリン点図3シクロスポリン治療後角膜輪部は綺麗になる.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008151(17)4.術後(1)術当日は鎮痛剤を処方する.(2)術翌日から抗アレルギー点眼,シクロスポリン点眼,ステロイド点眼を主体とした点眼治療を行う.(3)この方法で,術翌日には結膜や角膜は劇的に改善する.結膜は約1週間で新しい正常結膜が張っているようである6).5.術後の副作用(1)痛みが継続する症例は現在までない.(2)現在まで最長15年の経過観察で眼瞼などに異常をきたした症例は認めていない(図7).(3)前述したように,アトピー性角結膜炎の場合は再に皮膚表面麻酔を行っておくと痛みが少なくてよい.(4)全身麻酔が必要な症例では,事前に何も行う必要はない.2.結膜切除(1)右利きの術者で,右眼上眼瞼結膜なら,耳側結膜から乳頭をいっしょに,できるだけ広く鼻側へ結膜を切除する(図5).(2)出血が強い場合はボスミンガーゼなどを使用してもよい.(3)乳頭や炎症の強い結膜部分を十分切除し,できるだけ取り残しのないようにする(図6).(4)切除の深さは瞼板があるので,それ以上は深くしない.(5)線維化した組織も切除する.(6)細かい乳頭も刃先で擦るように切除する.3.切除後(1)可能であれば術後に0.05%マイトマイシンを使用して再発を予防する5).スポンゼルに浸して5分間切除面に浸す.(2)その後生理的食塩水500mlで角膜を含めて十分洗浄する.(3)術後は圧迫と軟膏である.結膜上皮の移植や止血機具を用いた止血などの処置を追加しない.(4)抗生物質の眼軟膏を入れて圧迫して止血を待つ.図427ゲージ針による麻酔点眼麻酔のあとで結膜下に注入する.図5結膜乳頭切除1右利きなら結膜を向かって右側より切除し,できるだけ乳頭を残さない(手術顕微鏡で頭側よりみた図).(文献4より)図6結膜乳頭切除2大きな乳頭は茎を切断する.———————————————————————-Page4152あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008(18)発をみる場合がある.再発防止のためにシクロスポリン点眼は長期に用いる(図8).IV角膜上皮障害の治療重症アレルギー性結膜疾患では,眼表面の炎症が遷延化したために角膜上皮を冒して角膜上皮障害を起こす場合がある.上皮障害には点状表層角膜炎から角膜びらん,角膜潰瘍,遷延性上皮欠損に至るまでさまざまである.特にアトピー性角結膜炎の患者は角膜上皮,とりわけ周辺輪部も注意深く観察することが重要である.治療は点状表層角膜炎などにはヒアルロン酸入りの点眼などから使用し,高度の上皮障害には血清点眼も有効である.血清中には上皮の成長因子などが含まれ,血清点眼は角膜上皮障害に非常に有効である.プラークは切除しないと良好な上皮化に時間が必要であるので,結膜切除図9アトピー性角結膜炎患者の角膜潰瘍(a)と羊膜移植後の正常化した角膜(b)(文献7より)図7手術前後の写真(左側:術前,右側:術後)A:大きな乳頭,C:細かい乳頭,E:角膜潰瘍と結膜充血,G:角膜潰瘍の染色像.(文献4より)図8結膜乳頭を雑草にたとえた図本治療の意義のまとめである.外科的治療で雑草を除去し,一度綺麗にする.そのままでは再発するので,再び生えてこないための草取り剤としてシクロスポリン点眼を使用.結膜切除とシクロスポリン点眼療法結膜切除とシクロスポリン点眼療法———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008153(19)cellsinbrushcytologysamplescorrelatewiththeseverityofcorneallesionsinatopickeratoconjunctivitis.BrJOph-thalmol88:1504-1505,20044)FujishimaH,FukagawaK,SatakeYetal:Combinedmedicalandsurgicaltreatmentofseverevernalkerato-conjunctivitis.JpnJOphthalmol44:511-515,20005)FujishimaH,SaitoI,TakeuchiTetal:Immunologicalcharacteristicsofpatientsvernalkeratoconjunctivitis.JpnJOphthalmol46:244-248,20026)TanakaM,TakanoY,DogruMetal:AcomparativeevaluationoftheecacyofintraoperativemitomycinCuseaftertheexcisionofcobblestone-likepapillaeinsevereatopicandvernalkeratoconjunctivitis.Cornea23:326-329,20047)TakanoY,FukagawaK,Miyake-KashimaMetal:Dra-matichealingofanallergiccornealulcerpersistentfor6monthsbyamnioticmembranepatchinginapatientwithatopickeratoconjunctivitis:acasereport.Cornea23:723-725,2004の後でぜひ角膜潰瘍掻爬術を追加して欲しい.アレルギー疾患の治療に併せてこれらの角膜上皮外科治療を併用する.春季カタルなどが原因で角膜輪部に障害が及ぶと遷延性上皮欠損を起こし,角膜上皮のステムセル(幹細胞)障害の治療が必要になる.一部輪部機能が残っていれば血清や羊膜移植などで治療が可能である(図9).文献1)Miyake-KashimaM,TakanoY,TanakaMetal:Compari-sonof0.1%bromfenacsodiumand0.1%pemirolastpotassiumforthetreatmentofallergicconjunctivitis.JpnJOphthalmol48:587-590,20042)TanakaM,DogruM,FujishimaHetal:Therelationofconjunctivalandcornealndingsinsevereocularaller-gies.Cornea23:464-467,20043)TakanoY,FukagawaK,DogruMetal:Inammatoryお申込方法:おとりつけの書店,また,その便宜のない場合は直接弊社あてご注文ください.メディカル葵出版年間予約購読ご案内眼における現在から未来への情報を提供!あたらしい眼科HFFNVol.25月刊/毎月30日発行A4変形判総140頁定価/通常号2,415円(本体2,300円+税)(送料140円)増刊号6,300円(本体6,000円+税)(送料204円)年間予約購読料32,382円(増刊1冊含13冊)(本体30,840円+税)(送料弊社負担)【特集】毎号特集テーマと編集者を定め,基本的事項と境界領域についての解説記事を掲載.【原著】眼科の未来を切り開く原著論文を医学・薬学・理学・工学など多方面から募って掲載.【連載】セミナー(写真・コンタクトレンズ・眼内レンズ・屈折矯正手術・緑内障・眼感染アレルギーなど)/新しい治療と検査/眼科医のための先端医療他【その他】トピックス・ニュース他■毎号の構成■株式会社〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替00100-5-69315電話(03)3811-0544http://www.medical-aoi.co.jp

抗ヒスタミン点眼薬とDual Action

2008年2月29日 金曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSが起こり,ケミカルメディエーターが結膜局所に遊離される.ヒスタミンは,ケミカルメディエーターの一つで,マスト細胞内に存在し,アレルゲンによる抗原抗体反応の結果,結膜局所に遊離し,結膜の血管や三叉神経のC線維の自由終末に存在するヒスタミンH1レセプターに結合し,充血,痒感などのアレルギー性結膜炎の症状をひき起こす.この一連の反応によって,局所の結膜下の血管へサイトカインや接着分子が働きかけ,結膜上皮中や涙液中に好酸球が浸潤してくる.II抗アレルギー点眼薬の作用機序と特徴抗アレルギー薬は,Ⅰ型アレルギー反応を抑制する薬剤であり,主たる作用機序からケミカルメディエーター遊離抑制薬とヒスタミンH1受容体拮抗薬(抗ヒスタミン薬)に分類される(図1).ケミカルメディエーター遊離抑制薬はマスト細胞の脱顆粒を抑制することにより,ヒスタミンなどのケミカルメディエーターが結膜局所へ遊離することを抑制し,症状を抑える.一方,ヒスタミンH1受容体拮抗薬は,脱顆粒により結膜局所へ遊離したヒスタミンが三叉神経や毛細血管のH1受容体に結合するのを妨げる.眼痒感や充血などの出現をレセプターレベルで抑えるため,自覚症状の改善に対し,即効性が期待できる.わが国では,現在までに9種類の抗アレルギー点眼薬が製剤化されている(表1).いずれの薬剤もすでに内服薬や点鼻薬として認可され処方されているものである.はじめにスギ花粉症をはじめとするアレルギー性結膜炎には,抗アレルギー点眼薬が第一選択薬1)として用いられている.ステロイド点眼薬と異なり,安全性が高い点から,眼科医にとっても使いやすい点眼薬である.しかし,アレルギー性結膜炎の治療満足度を高めるためには,早く痒みを軽減させることが求められており,抗ヒスタミン作用を有する点眼薬(抗ヒスタミン点眼薬)に期待が寄せられている2).従来,わが国の抗アレルギー点眼薬は,抗ヒスタミン作用を有するものが少なかったが,最近,新しい抗ヒスタミン点眼薬が処方可能となった.本稿では,抗アレルギー点眼薬を中心に,抗ヒスタミン点眼薬とその特徴について述べてみたい.Iアレルギー性結膜炎の病態─ヒスタミンの関与─アレルギー性結膜炎の症状は,Ⅰ型アレルギー反応の即時相が主体で発症する.涙液を介し眼表面に外界からスギ花粉などのアレルゲンが飛入すると,結膜のマクロファージに捕えられ,この情報がT細胞に伝えられ,T細胞からの情報で,B細胞は,アレルゲン特異的免疫グロブリンE(IgE)抗体を産生する.これが,結膜組織中のマスト細胞表面のIgEレセプターに結合すると,このアレルゲンに感作された状態となる.再度,アレルゲンが眼表面に侵入し,2個のマスト細胞上のアレルゲン特異的IgE抗体を架橋すると,マスト細胞の脱顆粒(9)143*EtsukoTakamura:東京女子医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕高村悦子:〒162-8666東京都新宿区河田町8-1東京女子医科大学眼科学教室特集眼アレルギーの知識はいまあたらしい眼科25(2):143148,2008抗ヒスタミン点眼薬とDualActionAnti-HistamineEyedropsandDualAction高村悦子*———————————————————————-Page2144あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008(10)しかし,現在アレルギー性鼻炎に用いられる治療薬(表2)では,第二世代の抗ヒスタミン薬が主流となっているのに比べ,わが国で認可されている抗アレルギー点眼薬は,ケミカルメディエーター遊離抑制薬は6種類あるものの,抗ヒスタミン作用を有するものは3種類と少ない.点眼薬は,全身への移行が少ないため,抗ヒスタミン薬であっても内服薬の場合に問題となる眠気など副作用を気にせず使えるメリットがある.抗ヒスタミン薬が表1抗アレルギー点眼薬の種類と点眼法メディエーター遊離抑制点眼薬(抗ヒスタミン作用のいの)2%クロモグリク酸ナトリウム(インタールR):1日4回点眼0.25%アンレキサノクス(エリックスR):1日4回点眼0.1%ペミロラストカリウム(アレギサールR):1日2回点眼0.05%トラニラスト(リザベンR/トラメラスR):1日4回点眼0.1%イブジラスト(ケタスR/アイビナールR):1日4回点眼0.1%アシタザノラスト水和物(ゼペリンR):1日4回点眼ヒスタミンH1受容体拮抗薬(抗ヒスタミン作用のあるもの)0.05%フマル酸ケトチフェン(ザジテンR):1日4回点眼0.025%塩酸レボカバスチン(リボスチンR):1日4回点眼0.1%塩酸オロパタジン(パタノールR):1日4回点眼表2アレルギー性鼻炎に用いられる治療薬ミカルメディエーター遊離抑制薬(マスト細胞薬)クロモグリク酸ナトリウム(インタールR),トラニラスト(リザベンR),アンレキサノクス(ソルファR),ペミロラストカリウム(アレギサールR,ペミラストンR)②ケミカルメディエーター受容体拮抗薬a)ヒスタミンH1受容体拮抗薬(抗ヒスタミン薬)第1世代:d-マレイン酸クロルフェニラミン(ポララミンR),フマル酸クレマスチン(タベジールR)など第2世代:フマル酸ケトチフェン(ザジテンR),塩酸アゼラスチン(アゼプチンR),オキサトミド(セルテクトR),メキタジン(ゼスランR,ニポラジンR),フマル酸エメダスチン(ダレンR,レミカットR),塩酸エピナスチン(アレジオンR),エバスチン(エバステルR),塩酸セチリジン(ジルテックR),塩酸レボカバスチン(リボスチンR),ベシル酸ベポタスチン(タリオンR),塩酸フェキソフェナジン(アレグラR),塩酸オロパタジン(アレロックR),ロラタジン(クラリチンR)b)ロイコトリエン受容体拮抗薬(抗ロイコトリエン薬)プランルカスト水和物(オノンR)c)プロスタグランジンD2・トロンボキサンA2受容体拮抗薬(抗プロスタグランジンD2・トロンボキサンA2薬)ラマトロバン(バイナスR)③Th2サイトカイン阻害薬トシル酸スプラタスト(アイピーディR)④ステロイド薬a)鼻噴霧用:プロピオン酸ベクロメタゾン(アルデシンRAQネーザル,リノコートR),プロピオン酸フルチカゾン(フルナーゼR)b)経口用:ベタメタゾン・d-マレイン酸クロルフェニラミン配合剤(セレスタミンR)⑤その他変調療法薬,生物製剤,漢方薬図1抗アレルギー薬の作用機序b.ヒスタミンH1受容拮抗薬(抗ヒスタミン薬)メディエーター遊離抑制薬即時相反応眼?痒感充血流涙異物感などPGD2ロイコトリエントリプターゼなどヒスタミン抗原IgEマスト細胞脱顆粒ヒスタミンH1受容体拮抗薬即時相反応眼?痒感充血流涙異物感などヒスタミンH1受容体抗原IgEマスト細胞脱顆粒a.メディエーター遊離抑制薬———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008145(11)において人工涙液投与眼に比べ,有意な自覚症状スコアの低値が示されている3).イネ科の花粉によるアレルギー性結膜炎に対し,自覚症状のスコアの推移を抗ヒスタミン点眼薬とメディエーター遊離抑制点眼薬で比較すると,抗ヒスタミン点眼薬投与群では投与開始後3日目で投与開始前に比べ自覚症状スコアの有意な改善がみられた.5日目には,抗ヒスタミン点眼薬投与群において,メディエーター遊離抑制点眼薬投与群に比べ有意な自覚症状スコアの改善が認められた(図2)4).これらの結果から,症状の改善の開始も早く,投与開始1週間以内で比較すると,メディエーター遊離抑制薬に比べ,抗ヒスタミン薬点眼群で症状の改善がみられ,投与開始後短期間で効果が得られている.IV眼誘発試験による抗ヒスタミン点眼薬の有効性の検討花粉症に対する点眼薬の効果を検討する場合,花粉飛散期に症状を有する患者を対象に行う環境試験が用いられているが,経過観察期間での花粉への曝露量が結果に影響を及ぼす可能性があり,評価がむずかしいことがある.眼誘発テスト(conjunctivalallergenchallengetest:CAC)は,日常生活で抗原に曝露された状態と同じ機序でアレルギー性結膜炎を再現でき,環境試験に比較し,結果に影響を及ぼす花粉飛散量などの環境要因や個体差などを最小限にして薬効を評価できる.無症状期のスギ花粉症患者に同意を得て,両眼に同程度の眼痒感,充血が発現する濃度のスギ抗原溶液により眼症状を点眼製剤化しにくいといった点もこれらの較差の原因の一つと思われるが,欧米で認可されている抗アレルギー点眼薬(表3)10種類のうち,6種類が抗ヒスタミン作用を有するものであることを考えると,アレルギー性結膜炎に対する治療薬として抗ヒスタミン薬の必要性がうかがわれる.III抗ヒスタミン点眼薬の特徴─即効性:メディエーター遊離抑制点眼薬との比較─ヒスタミンH1受容体拮抗薬はアレルギー症状に対し即効性が期待できる薬剤である.両眼同程度の自覚症状を有する季節性アレルギー性結膜炎患者の片眼に抗ヒスタミン点眼薬である0.025%レボカバスチン点眼薬を,他眼に人工涙液を点眼し,経時的に眼痒感のスコアを比較した結果,15分後には抗ヒスタミン点眼薬投与眼表3米国で承認されている抗アレルギー点眼薬メディエーター遊離抑制点眼薬(抗ヒスタミン作用のいの)4%クロモグリク酸ナトリウム0.1%ペミロラストカリウム0.1%ロドキサミド2%ネドクロミルヒスタミンH1受容体拮抗薬(抗ヒスタミン作用のあるもの)0.1%塩酸オロパタジン0.2%塩酸オロパタジン0.025%フマル酸ケトチフェン0.05%塩酸アゼラスチン0.05%フマル酸エメダスチン0.05%塩酸レボカバスチン0.05%塩酸エピナスチン-2.0-1.5-1.0-0.500.51.0♯******1日目2日目4日目5日目6日目7日目投与後日数投与開始時対象:イネ科抗原などによるアレルギー性結膜炎3日目*p<0.05#p<0.05:トラニラスト点眼薬投与群(n=8):塩酸レボカバスチン点眼薬投与群(n=7)投与1週間後のスコア差図2アレルギー性結膜炎に対する抗アレルギー点眼薬の効果─メディエーター遊離抑制薬と抗ヒスタミン薬との比較─(文献4より改変)———————————————————————-Page4146あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008(12)行い,抗ヒスタミン点眼薬である0.025%レボカバスチン点眼薬の有効性を評価した.その結果,抗原溶液点眼15分後の眼痒感,充血はプラセボに比較し有意な改善がみられている(図3)6).抗ヒスタミン点眼薬の比較もこの方法で行うことができる.片眼に0.1%オロパタジン点眼薬を,他眼に0.025%レボカバスチン点眼薬を点眼し,3.5時間後に至適濃度の抗原を両眼に投与し,その3分後,5分後,7分後の眼痒感を両眼で比較した結果では,いずれの時間においても0.1%オロパタジン点眼薬が0.025%レボカバスチン点眼薬に比べ有意に低値を示した7).VDualactionとは「Dualaction」とは,メディエーター遊離抑制作用とヒスタミンH1受容体拮抗作用の両方の作用を併せもつことである8).現在,わが国の抗アレルギー点眼薬のうち,オロパタジン,ケトチフェンが,そして,欧米で承認されているものとして,アゼラスチン,エピナスチンなどがこれにあたるが,invitroの結果では,点眼薬の濃度,すなわち,0.025%ケトチフェン(わが国では0.05%),0.05%アゼラスチン,0.05%エピナスチンは,ヒトのマスト細胞や角膜上皮の細胞膜にも影響を及ぼすが,0.1%オロパタジンは細胞膜に影響しない.オロパタジン以外の抗ヒスタミン薬は,低用量では,ヒスタミ誘発する方法で,米国ではFDA(食品・医薬品局)で認可されているアレルギー性結膜炎の治療薬の評価方法である5).CACの方法として,まず最初に,症状が発現するスギ抗原至適濃度を決定する.2回目の来院で至適濃度の抗原点眼によって両眼に同程度の目的とする重症度の症状が出現することを確認する.3回目の来院で抗アレルギー点眼薬などの試験薬を片眼に,対照薬またはプラセボを他眼に投与後に,2回目までの来院で決定した至適濃度の抗原を点眼し,その後の症状,所見を左右眼で比較する.この方法を用いて,スギ花粉によるアレルギー性結膜炎の既往があり,血清学的検査(RAST法)にてスギ抗原特異的IgE抗体陽性の患者に同意を得て,花粉非飛散期に,ニホンスギ抗原による眼誘発テストを図3スギ抗原による眼誘発テストを用いた0.025%レボカバスチン点眼薬の効果(n=24)抗原溶液点眼15分後の眼痒感はプラセボに比較し有意な改善がみられている.(文献6より)2.52.01.51.00.50.0***********10*p<0.01**p<0.001平均症状スコア:プラセボ:塩酸レボカバスチン点眼液?痒感の推移(初回誘発)?痒感の推移(再誘発)15250240245255(分)2302.52.01.51.00.50.0***********10*p<0.01**p<0.001平均症状スコア:プラセボ:塩酸レボカバスチン点眼液充血の推移(初回誘発)充血の推移(再誘発)15250240245255(分)230図4塩酸オロパタジンのヒト結膜マスト細胞からのヒスタミン遊離抑制作用0.1%オロパタジンは濃度依存的にヒスタミン遊離を抑制した.(文献9より改変)log〔薬剤濃度〕***-3-4-5-6-7*-20020406010080ヒスタミン遊離抑制率(%)(mol/?):塩酸オロパタジン(n=3):ペミロラストカリウム(n=3):クロモグリク酸ナトリウム(n=3)平均値±SD*p<0.05———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008147(13)に低値を示した11).同時に行った結膜ブラッシュサイトロジーでは,初期療法により結膜上皮内の炎症細胞の浸潤や,ヒスタミンの濃度の抑制が認められている.また,季節性アレルギー性結膜炎患者12例を対象に,花粉飛散開始2週間前から右眼に0.1%オロパタジン点眼薬,左眼に人工涙液を1回12滴,1日4回点眼し,花粉飛散開始,花粉飛散14日目の眼痒感を比較し,オロパタジン点眼薬投与眼では眼痒感スコアは上昇せず,人工涙液に比べ有意に症状を抑制した.これらの結果から,スギ花粉によるアレルギー性結膜炎に対し抗ヒスタミン点眼薬による初期療法が有効であることが示されている13).耳鼻科領域においては,スギ花粉症の鼻症状に対し,初期療法としてメディエーター遊離抑制薬だけでなく,抗ヒスタミン薬の内服が積極的に用いられているが,それには,花粉飛散早期に症状がでる,すなわち,花粉飛散量がそれほど多くなくても症状が出現するhighres-ponderに対する治療の意味も含まれている.眼科領域では,従来初期療法には,メディエーター遊離抑制点眼薬が選択されることが多かったが,11月以降には,散発的にスギ花粉が飛散することを考慮すると,初期療法にも抗ヒスタミン作用を有する点眼薬の有用性が期待できる.実際,初期療法により,花粉飛散ピーク時の症状が例年に比較し軽症であった患者は,その後もこの方法を希望することから考えても,点眼薬による初期療法の効果は日常臨床の場でも有用と思われる.初期療法に対する患者意識調査14)では,平成9年に比べ平成13年では,初期療法を「知らなかった」が減り,すでに初期療法を受けている,が増えている.また,初期療法中,点眼を忘れる理由として,約半数が「日中忙しいとき」をあげていることから,症状が少ない時期に点眼を継続するためには,点眼時の刺激の少ない抗ヒスタミン点眼薬は初期療法に適した点眼薬になる可能性がある.眼科領域では,花粉飛散ピーク時に副作用を考慮しステロイド点眼薬を長期に使用することを避けるために,抗アレルギー点眼薬を中心に,たとえば,レボカバスチン点眼薬とクロモグリク酸点眼薬を併用するといったように,ヒスタミンH1受容体拮抗薬とメディエーター遊ン遊離を誘発する二層性の作用が認められている.オロパタジンは,薬理作用として,ヒト結膜マスト細胞からのヒスタミン遊離を濃度依存的に抑制し(図4)9),点眼薬の濃度(0.1%)でヒト結膜マスト細胞からのヒスタミン遊離を抑制することが可能であり,抑制率は90%以上(図5)8)と報告されている.また,抗ヒスタミン点眼薬のなかでも,ケトチフェンやレボカバスチンに比べ,選択的にヒスタミンH1受容体へ結合し10),抗ヒスタミン作用を発揮する.VI初期療法へのDualactionの応用スギ花粉症では,花粉飛散時期が予測可能であり,アレルギー性結膜炎に対しても抗アレルギー点眼薬を用いた初期療法により花粉飛散時期の症状の軽減が期待できる1113).毎年スギ花粉飛散時期に眼の痒感,流涙,眼脂などのアレルギー性結膜炎の症状の既往があり,RAST法により血清中抗スギIgE抗体が陽性を示す症例に対し抗ヒスタミン点眼薬である0.05%ケトチフェン点眼薬を花粉飛散開始2週間前から開始する季節前投与群(初期療法群)と,飛散開始時期に点眼治療を開始する季節前非投与群に封筒法により無作為に割り付け,花粉飛散時期の痒感,流涙,異物感,眼脂,充血などの自覚症状の程度をビジュアルアナログスケールにより比較した.その結果,すべての自覚症状において季節前投与群は季節前非投与群に比べ自覚症状のスコアは有意80200406080100401002060:塩酸アゼラスチン(0.05%):塩酸エピナスチン(0.05%):塩酸オロパタジン(0.1%):フマル酸ケトチフェン(0.025%)ヒスタミン遊離抑制率(%)図50.1%オロパタジン点眼薬のヒト結膜マスト細胞からのヒスタミン遊離抑制作用塩酸オロパタジンは,点眼薬の濃度(0.1%)でヒトマスト細胞からのヒスタミン遊離を抑制し,抑制率は90%以上であった.(文献8より)———————————————————————-Page6148あたらしい眼科Vol.25,No.2,20087)大野重昭,内尾英一,高村悦子ほか:日本人のアレルギー性結膜炎に対する0.1%塩酸オロパタジン点眼液の有効性と使用感の検討─0.25%塩酸レボカバスチン点眼液との比較.臨眼61:251-255,20078)RosenwasserLJ,O’BrienT,WeyneJ:Mastcellstabiliza-tionandantihistamineeectsofolopatadineophthalmicsolution:areviewofpre-clinicalandclinicalresearch.CurrMedResOpin21:1377-1387,20059)YanniJM,MillerST,GamacheDAetal:Comparativeeectsoftopicalocularanti-allergicdrugsonhumancon-junctivalmastcells.AnnAllergyAsthmaImmunol79:541-545,199710)SharifNA,XuSX,YannniJM:Olopatadine(AL-4943A):Ligandbindingandfunctionalstudiesonanovel,longact-ingH1-selectivehistamineantagonistandanti-allergicagentforuseinallergicconjunctivitis.JOculPharmacolTher12:401-407,199611)高村悦子:アレルギー性結膜炎の治療─初期療法,季節前投与.アレルギーの臨床14:650-654,199412)齋藤圭子:アレルギー性結膜炎に対する予防的治療法.あたらしい眼科17:1199-1204,200013)海老原伸行:塩酸オロパタジン点眼液による季節性アレルギー性結膜炎の初期療法.あたらしい眼科24:1523-1525,200714)中川やよい,東田みち代:スギ花粉性結膜炎患者の受診パターンと治療のコンプライアンス─眼科外来患者アンケート調査─.あたらしい眼科19:113-120,2002(14)離抑制点眼薬を併用することも有効な治療法として行われてきたが,今後は,「Dualaction」を有する抗アレルギー点眼薬の有効な使い方が検討されるであろう.文献1)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン編集委員会:特集アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン,日眼会誌110:99-140,20062)中川やよい:アレルギー性結膜炎患者の受診パターンと治療のコンプライアンス─インターネット患者アンケート全国調査2005年度報告書─.新薬と臨床55:74-88,20063)FujishimaH,FukagawaK,TakanoYetal:Theearlyecacyoftopicallevocabastineinpatientswithallergicconjunctivitis.AllergoInt55:301-303,20064)福島敦樹,中川やよい,内尾英一ほか:スギ花粉以外の抗原によるアレルギー性結膜炎の薬物療法─ヒスタミンH1受容体拮抗点眼薬とメディエーター遊離抑制点眼薬の効果について─.あたらしい眼科22:225-229,20055)AbelsonMB,ChambersWA,SmithLM:Conjunctivalalle-rgenchallenge.Aclinicalapproachtostudyingallergicconjunctivitis.ArchOphthalmol108:84-88,19906)TakamuraE,NomuraK,FujishimaHetal:EcacyoflevocabastinehydrochlorideophthalmicsuspensionintheconjunctivalallergenchallengetestinJapanesesubjectswithseasonalallergicconjunctivitis.AllergoInt55:157-165,2006

カルシニューリン阻害薬(シクロスポリン,タクロリムス)によって変わる春季カタルの治療

2008年2月29日 金曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLS菌)より産生される11個のアミノ酸よりなる環状ポリペプチド,一方,タクロリムスは放線菌の一種Strepto-mycestsukubaensisの代謝産物でマクロライド系化合物である.両者とも強力なT細胞特異的免疫抑制作用をもちヘルパーT細胞からの分化・増殖因子であるインターロイキン2(IL-2),インターフェロンg(IFN-g)などのサイトカイン産生を抑制する.タクロリムスのはじめに新しい薬の登場は,疾患の治療方針を変更させる.そして,その薬剤の厳密な効果評価は,その疾患の発症・増悪メカニズムの解明につながる.2007年1月に0.1%シクロスポリン水性点眼が発売され,2008年春には0.1%タクロリムス点眼が使用可能になる.両薬剤とも,オーファンドラックとして春季カタルのみの使用となる.ともにT細胞選択的免疫抑制効果をもつ.シクロスポリン点眼に関しては発売後の全例調査にて約1,000例に近いデータが蓄積されている.一方,タクロリムス点眼に関しては治験による約67例のデータがある.本稿ではそれらの具体的データを提示し,その効果,副作用,安全性,その限界などを検討する.そして,この2種のカルシニューリン阻害薬の使い分け,抗アレルギー薬点眼・ステロイド点眼との併用方法を示し,春季カタルの新しい点眼治療方針について提案する.一般にシクロスポリン・タクロリムスとも免疫抑制薬とよばれるが,広い意味ではステロイドも抗アレルギー薬も免疫抑制薬である.皮膚科領域ではタクロリムス軟膏はTIM(topicalimmuno-modulater),米国ではカルシニューリン阻害薬とよばれている.ゆえに本稿ではシクロスポリン・タクロリムスの点眼をカルシニューリン阻害薬点眼とする.Iカルシニューリン阻害薬の作用機序シクロスポリンはTolypocladiuminatumGams(真(3)137*NobuyukiEbihara:順天堂大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕海老原伸行:〒113-8421東京都文京区本郷3-1-3順天堂大学医学部眼科学教室特眼アレルギーの識はいまあたらしい眼科25(2):137141,2008カルシニューリン阻害薬(シクロスポリン,タクロリムス)によって変わる春季カタルの治療ImprovementofVernalKeratoconjunctivitisTreatmentwithCalcineurinInhibitors海老原伸行*図1タクロリムス・シクロスポリンのサイトカイン産生抑制作用シクロスポリンFK結合蛋白シクロフィリンタクロリムスT細胞抗原提示TCRチロシンリン酸化ZAP70PLCgRasMAPKKIP3Ca2+小胞体CN:カルシニューリン,CaM:カルモジュリンMARKCNCaMPPPPNFATNFATNFAT核mRNAIL-2遺伝子AP-1AP-1TCR———————————————————————-Page2138あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008(4)はよくなかった.人工涙液で希釈したものもあったが懸濁しておりやはり患者のコンプライアンスが低かった.a-シクロデキストランに溶解した0.05%の製剤は透明であったが自家調整や冷所保存が必要で処方が限定された.米国においてはドライアイ治療薬として0.05%のミセル製剤(RestasisR)がある.今回発売された0.1%水性シクロスポリン点眼(パピロックRミニ)は室温で安定,防腐剤を有さない1回使い捨てのディスポーザブルタイプの製剤である.2.シクロスポリン点眼の至適濃度油性基剤による2%シクロスポリン点眼の春季カタルに対する有効性についての報告は多い16).トルコのグループはアトピー性皮膚炎を合併していないステロイド抵抗性春季カタル患者4例のシールド潰瘍に対する,2%オリーブ油溶解シクロスポリン点眼の効果を検討している7).2%シクロスポリン点眼後,約10日でシールド潰瘍の消失を認め,その後13カ月点眼継続し,1%シクロスポリン点眼に変更しても再発は認めなかった.しかし,0.5%シクロスポリン点眼に変更すると再発し,さらに1%に戻すと症状・所見が改善した.一方,イタリアのグループは1.25%の人工涙液希釈シクロスポリン点眼を20名の巨大乳頭をもつ子供の重症春季カタル患者(514歳)に点眼投与した二重盲検・プラセボ試験を実施している8).点眼4週後には著明な自覚・他覚所見の改善を認め,4カ月後には自覚症状の重症度スコアが点眼前に比較して90%軽減,他覚所見の重症度スコアも80%軽減を示している.そして,翌年に同様の方法で1.00%シクロスポリン点眼を32名の子供の重症春季カタル患者に4カ月間点眼し,自覚症状の重症度スコアの96%軽減,他覚所見の重症度スコアの96%軽減を認めている.以上の報告より重症春季カタルに対してシクロスポリン点眼を単独で用いる場合の有効最低濃度は1.0%となる.低濃度のシクロスポリン点眼の効果を検討した報告もある.オーストラリアのグループは0.05%シクロスポリン点眼(RestasisR)をステロイド点眼施行中の春季カタル患者17名に併用し,ステロイド点眼からの離脱または症状・所見の改善についてプラセボとの無作為コンinvitroでのT細胞分化・増殖抑制効果はシクロスポリンの約100倍であり,移植臓器に対する拒絶反応抑制作用は用量比でシクロスポリンの30100倍である.シクロスポリン・タクロリムスのT細胞活性化抑制メカニズムは以下のように考えられている(図1).T細胞レセプターが抗原を認識すると,数々のカスケードが活性化され小胞体よりCa2+が放出される.カルモジュリン(CaM)はCa2+と結合し活性化し,さらにカルシニューリン(CN)は活性化CaMと結合し活性化する.活性化CNは細胞質内のNFAT(nuclearfactorofacti-vatedTcell)を脱リン酸化してNFATを核内へ移行させ,サイトカインのmRNA転写をひき起こす.シクロスポリン・タクロリムスは,それぞれ細胞質内のイムノフィリンであるシクロフィリン・FK結合蛋白と結合し,さらに活性化型CNに結合し不活性化する.不活性化CNはNFATの脱リン酸化を阻害し,NFATの核内移行が阻止され,サイトカイン産生が抑制される.ゆえに両者ともカルシニューリン阻害薬といわれる.春季カタルにおける巨大乳頭・トランタス斑への好酸球浸潤には,T細胞が強く関与する.抗原特異的高親和性Ig(免疫グロブリン)E受容体(FceRI)を発現している樹状細胞にIgEが結合し,多価抗原によりFceRIが架橋され樹状細胞が活性化し,T細胞に対し抗原提示を行う.活性化されたT細胞は増殖しIL-4・5・13などのサイトカインを産生し,局所へ好酸球を遊走させる.シクロスポリン・タクロリムスはT細胞の分化・増殖を抑制することにより,局所への好酸球浸潤を阻止する.IIシクロスポリン点眼1.シクロスポリン点眼の歴史シクロスポリンは臓器・骨髄移植後の拒絶反応抑制・Behcet病・乾癬・再生不良性貧血・ネフローゼなどの治療に使用されている.欧米では内服にてアトピー性皮膚炎に適応がある.そして今回点眼として春季カタルの適応になった.以前よりシクロスポリンは水に不溶性のためオリーブ油やヒマシ油に溶解し12%濃度で使用されていたが,その刺激性や粘性のため眼刺激感,接触眼瞼炎や霧視などの訴えが多く患者のコンプライアンス———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008139(5)与した.患者の自覚症状(痒感,眼脂,流涙,羞明感,異物感,眼痛)は点眼後1カ月で点眼前に比べすべての症状で6割近く低下した.その効果は点眼中の6カ月にわたり継続した.他覚所見は眼瞼結膜の充血,腫脹,濾胞,乳頭,巨大乳頭において点眼後1カ月目にはそれぞれ40%,47%,33%,23%,45%の軽減を認めた.そして点眼中の6カ月間にわたりその効果は継続した.乳頭の軽減が23%と低いのは巨大乳頭が乳頭へ変化したためと思われる.眼球結膜・輪部・角膜所見においては充血が50%,浮腫が57%,輪部トランタス斑が69%,輪部腫脹が64%,角膜上皮障害が44%の軽減を認め,点眼中の6カ月間にわたり維持された(図2).特に,輪部病変に対しては著効した.b.副作用901例のうち81例(8.98%)に副作用を認めた.主な眼副作用は点眼時の眼刺激感(3.33%)であった.感染トロール試験を施行している9).結果は,ステロイドからの離脱効果・症状改善効果にプラセボとの有意差はなかった.一方,トルコのグループはステロイド点眼施行中の子供の重症春季カタル患者6名に対し0.05%シクロスポリン点眼(RestasisR)を6カ月間併用し,効果を検討している10).結果は自覚症状・他覚所見も63%・67%の改善を認め,6例中5例にステロイドからの離脱が可能であった.このようにステロイド施行中の重症春季カタル患者に対する0.05%シクロスポリン点眼の効果は報告により異なり確定していない.3.0.1%水性シクロスポリン点眼の効果と副作用a.効果抗アレルギー点眼のみではコントロールできない春季カタル患者約800名に,0.1%水性シクロスポリン点眼(パピロックRミニ)を1回1滴・1日3回・6カ月間投図2春季カタルに対するパピロックRミニ点眼の効果(1カ月後)点眼後,巨大乳頭の平坦化,粘性眼脂の改善,角膜上皮障害の消失が認められた.点眼前点眼後———————————————————————-Page4140あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008(6)眼圧上昇例はなかった.今後,長期使用したときの感染症の誘発について注意深く経過をみていかなくてはならない.IV春季カタル治療のパラダイムチェンジ文献考察,全例調査,治験から重症春季カタルに対して,シクロスポリン点眼を単独使用する場合は,2%程度,最低でも1%の濃度が必要であることが推察される.抗アレルギー薬点眼やステロイド点眼との併用効果やステロイド点眼からの離脱を図るためには0.05%シクロスポリン点眼では不十分で,0.1%水性シクロスポリン点眼が必要になる.一方,0.1%タクロリムス点眼は単独でも重症春季カタルに効果がある.近い将来0.1%水性シクロスポリン点眼と0.1%タクロリムス点眼との使い分けが必要になる.タクロリムスはシクロスポリンに比べinvitroでのT細胞選択抑制効果は約100倍強い.また臓器移植後の拒絶反応抑制作用は30100倍強い.ゆえに同濃度の点眼ならば,タクロリムスのほうが少なくとも10倍は強い効果を期待してよい.また両者の分子量が異なることも重要である.シクロスポリンの分子量は1,202.61以上であり,タクロリムスは822.05で小さい.アトピー性皮膚炎の外用剤としてシクロスポリンがタクロリムスに比較して無効なのは分子量が大きく皮膚バリアを越えて真皮まで薬が到達できないからである.春季カタル巨大乳頭組織においても結膜上皮細胞が重層化しており,分子量が小さいタクロリムスのほうが効果的に組織へ浸潤していくと思われる.すなわち,0.1%タクロリムス点眼の効果は0.1%シクロスポリンの1020倍近くあり,12%シクロスポリン点眼と同程度またはそれ以上と推察され症は11例(1.44%)に認め,細菌性角膜潰瘍が2例,ヘルペス性角膜炎が3例あった.すべての症例でアトピー性皮膚炎の合併を認め,ヘルペスの既往があった.入院を有するような重篤な有害事象は4例認め,上記の細菌性・ヘルペス性角膜炎の2例と,重症例に対しステロイド点眼を急に中止し本剤へ切り替えた2症例であった.c.安全性眼圧や前房フレアへの影響はなく,6カ月間点眼しても副作用の上昇は認めなかった.d.ステロイド点眼からの離脱ステロイド点眼を使用していた310例のうち,シクロスポリン点眼開始後1カ月で31%,2カ月で33%の症例がステロイド点眼を中止している.0.1%ベタメタゾン使用率が点眼前は38.4%であったものが,2カ月後には21.0%へ,0.1%フルオロメトロンが52.6%から36.1%へ低下しており,0.1%シクロスポリン点眼によってステロイド点眼からの離脱が可能であることを示している.IIIタクロリムス点眼タクロリムスを点眼にして春季カタル治療に応用する考えは以前からあったが,不水溶性のため点眼として使用されることはなかった.一方,0.1%タクロリムス軟膏を眼科用軟膏と混ぜ使用した報告では,著明な改善が報告されている11).そして2008年春には0.1%タクロリムス点眼が発売される予定である.治験では10歳以上の春季カタル患者に各濃度(0.01%,0.03%,0.1%)の点眼液を1日4回・4週間連続投与された.各種自覚症状・他覚所見をスコア化し,その合計を臨床スコアとした.対象は,プラゼボ群16名・0.01%群17名・0.03%群17名・0.1%群17名で,男女比はほぼ1:1であった.他覚所見において0.1%点眼では点眼1週後で基準値(スコア0)より4,4週後には8の改善を認めた.0.03%,0.01%濃度では4週後で6程度の改善にとどまった.自覚症状では「良くなった」「とても良くなった」と回答した症例が0.01%群で全症例の58.8%,0.03%群で64.7%,0.1%群で88.2%と濃度に相関した.一方,副作用においては,どの濃度群でも約70%近くに眼部刺激感(熱感,刺激感,眼痛,流涙など)を認めた.表1カルシニューリン阻害薬点眼使用のkeypoint春季カタルにる12シクロスポリ1.ン0.1タクロリムスの春季カタルにルー薬2.スロ薬0.1シクロスポリン薬るによ,の,スロ薬よのるカルシニューリン阻害薬3.カルシニューリン阻害薬のに4.る———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008141cyclosporineinthetreatmentofvernalkeratoconjunctivi-tis.AmJOphthalmol110:641-645,19903)BleikJH,TabbaraKF:Topicalcyclosporineinvernalkeratoconjunctivitis.Ophthalmology98:1679-1684,19914)PucciN,NovembreE,CianferoniAetal:Ecacyandsafetyofcyclosporineeyedropsinvernalkeratoconjuncti-vitis.AnnAllergyAsthmaImmunol89:298-303,20025)KilicA,GurlerB:Topical2%cyclosporineAinpreser-vative-freearticialtearsforthetreatmentofvernalker-atoconjunctivitis.CanJOphthalmol41:693-698,20066)DoanS,GabisonE,AbitbolOetal:Ecacyoftopical2%cyclosporineAasasteroid-sparingagentinsteroid-dependentvernalkeratoconjunctivitis.JFrOphtalmol30:697-701,20077)CetinkayaA,AkovaYA,DursunDetal:Topicalcyclo-sporineinthemanagementofshieldulcers.Cornea23:194-200,20048)SpadavecchiaL,FanelliP,TesseRetal:Ecacyof1.25%and1%topicalcyclosporineinthetreatmentofseverevernalkeratoconjunctivitisinchildhood.PediatrAllergyImmunol17:527-532,20069)DaniellM,ConstantinouM,VuHTetal:RandomisedcontrolledtrialoftopicalciclosporinAinsteroiddepen-dentallergicconjunctivitis.BrJOphthalmol90:461-464,200610)OzcanAA,ErsozTR,DulgerE:Managementofsevereallergicconjunctivitiswithtopicalcyclosporina0.05%eyedrops.Cornea26:1035-1038,200711)VichyanondP,TantimongkolsukC,DumrongkigchaipornPetal:Vernalkeratoconjunctivitis:Resultofanoveltherapywith0.1%topicalophthalmicFK-506ointment.JAllergyClinImmunol113:355-358,2004る.前述したように,1%シクロスポリン点眼がステロイド抵抗性春季カタルに対し有効最低濃度であることを考えると,ステロイド抵抗性重症春季カタルには0.1%タクロリムス点眼が良い.また,軽・中等度で抗アレルギー点眼のみでは十分コントロールできない症例,長期間のステロイド点眼により合併症(白内障/緑内障)が生じステロイドから離脱したい症例には0.1%水性シクロスポリン点眼を併用すべきと考える(表1).近い将来,春季カタルの治療は大きく変化していくと考えられる.すなわち,図3に示すように基盤点眼として抗アレルギー薬点眼±カルシニューリン阻害薬点眼を使用する.シクロスポリンかタクロリムスかは重症度によって決定する.そして,症状悪化時には各種ステロイド点眼を短期間併用する.このことによって,ステロイド点眼のもつ眼圧上昇・白内障誘発・創傷治癒過程の遅延などの副作用が回避できる.今までステロイド点眼が主であった春季カタル治療がカルシニューリン阻害薬点眼の登場により治療方針のパラダイムチェンジが生じている.文献1)BenEzraD,Pe’erJ,BrodskyMetal:Cyclosporineeye-dropsforthetreatmentofseverevernalkeratoconjuncti-vitis.AmJOphthalmol101:278-282,19862)SecchiAG,TognonMS,LeonardiA:Topicaluseof(7)図3春季カタルに対する新しい点眼療法Keypoint:抗アレルギー薬とカルシニューリン阻害薬を基盤点眼とし,症状悪化時のみステロイド点眼を併用する.基盤点眼追加点眼第1段階(軽度)抗アレルギー薬点眼↓第2段階(軽中等度)抗アレルギー薬点眼0.1%水性シクロスポリン点眼↓±0.1%フルオロメトロン点眼(悪化時のみ併用)第3段階(中等度)抗アレルギー薬点眼0.1%水性シクロスポリン点眼↓±0.1%ベタメタゾン点眼(悪化時のみ併用)第4段階(重度)抗アレルギー薬点眼0.1%タクロリムス点眼±0.1%ベタメタゾン点眼(悪化時のみ併用)

眼アレルギーの知識はいま

2008年2月29日 金曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLS胞はアレルギー反応全体を制御しているので,高度な増殖性病変にはアレルギー反応全体を制御するT細胞を標的とした治療法が選択されるのは合理的である.シクロスポリンはVKCを唯一の適応疾患として,世界ではじめて点眼薬として広く使用されるようになった.免疫抑制点眼薬にはその薬理作用が完全に解明されていない部分があるが,臨床例の蓄積からVKCおよびAKCの重症例への効果が明らかになってきている.その実情について,海老原伸行先生が解説される.抗アレルギー点眼薬はアレルギー性結膜疾患の治療薬のベースに位置するものであり,I型アレルギー反応が眼アレルギー共通の発症機序であるため,マスト細胞の反応を制御する化学伝達物質遊離抑制点眼薬とマスト細胞から放出される化学伝達物質のヒスタミンの結膜局所における反応をブロックするヒスタミン拮抗点眼薬が車の両輪と考えられる薬剤である.旧ガイドライン以降,抗アレルギー点眼薬の種類は増加して,現在9種類になっている.化学伝達物質遊離抑制とヒスタミン拮抗を併せもつ点眼薬が選択肢に加わることによって,疾患ごとの病態や時期に合わせた使い分けが容易に行えることが期待される.このようなdualaction点眼薬について,その存在意義と使用法を高村悦子先生にわかりやすい解説をお書きいただいた.重症例では,巨大乳頭切除や輪部病変切除など眼科領域のアレルギー疾患はオキュラーサーフェスを舞台に病変を生じるいわゆるアレルギー性結膜疾患であり,アレルゲンによって生じる病態であることから,近年の地球環境の急激な変化が疫学を含めた臨床像に何らかの負の影響を与えていることも懸念されている.眼アレルギーを取り巻く状況にはいくつかの大きな変化があるが,まず診療ガイドラインの改訂があげられる.1995年に日本眼科医会アレルギー眼疾患調査研究班によって,わが国ではじめて「アレルギー性結膜疾患の診断と治療のガイドライン」が作成された.アレルギー性結膜疾患という全体の概念など,眼アレルギーの臨床の進歩に大きな意味のあるガイドラインであったが,ほぼ10年が経過して,見直しが行われた.2006年2月に新しく作成された「アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン」(日眼会誌110:99-140,2006)では,多くの議論があった春季カタル(VKC)とアトピー性角結膜炎(AKC)の定義が改訂され,国際的に広く使用されている分類に近いものになった.ガイドラインの治療では,新しく臨床応用された免疫抑制点眼薬について,ステロイド薬との異同,VKC治療における位置づけが触れられている.VKCの特徴である結膜増殖性病変や角膜組織障害は種々の炎症細胞と角結膜構成細胞の相互作用によって形成される.T細(1)135*EiichiUchio:福岡大学医学部眼科学教室序説あたらしい眼科25(2):135136,2008眼アレルギーの知識はいまCurrentRequiredandUsefulKnowledgeonOcularAllergy内尾英一*———————————————————————-Page2136あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008(2)抗原提示細胞との免疫反応を獲得免疫とよぶのに対して,生体が生まれながらにもっている免疫系を自然免疫とよび,高等動物を含むあらゆる動物がもつ非特異的免疫系である.1990年代後半からのToll様受容体,Nod蛋白質,RIG-I(病原微生物に対するセンサー)などの研究から,自然免疫についての詳細が明らかになりつつある.粘膜免疫組織でもある結膜におけるアレルギー・免疫反応についての基礎研究も最近大きな進展をみせている.この領域の研究者である宮崎大・上田真由美両先生が結膜アレルギーのメカニズムについての研究成果や今後の治療との関わりも含めて解説される.さらに,眼アレルギーを全身の各領域におけるアレルギーの一つと捉え,アレルギー学会の認定するアレルギー専門医制度について,内尾が解説させていただいた.アレルギー専門医は眼科医にとって,診療の幅や知識を深めるだけでなく,眼科専門医以外に手に入れられる可能性が意外に大きく,アレルギー科標榜というメリットもあることをご理解いただければと思っている.21世紀に入り,治療薬,診断の両面で大きな変化と進歩をみせている眼アレルギーの現状について,それぞれ専門の先生方にわかりやすく詳しい解説をお書きいただいた.本特集によって,読者の眼アレルギーについての知識の再確認(rearmation)だけでなく再活性化(refreshment)にお役に立てれば幸いである.の外科的治療は,治療効果の迅速性から臨床的な重要性は依然として大きい.アレルギー素因という背景が解決されていない以上,術後再発抑制を含めた効果的な治療戦略が求められる.外科的治療の経験が豊富な藤島浩先生が実際のテクニックについて,プラクティカルなコツを伝授してくださる.新しいガイドラインでは,アレルギー性結膜疾患の診断について,確定診断,準確定診断および臨床診断とにクラス分けを行い,臨床症状,Ⅰ型アレルギー素因の証明,眼局所(結膜)でのⅠ型アレルギー反応の証明のすべてに当てはまる症例を確定診断群とすることになった.眼局所のI型アレルギー証明法として,現在最も注目を浴びているのが,涙液における免疫グロブリンE(IgE)検査法である.原理的には免疫クロマトグラフィー法を用い,総IgE値ないし抗原特異的IgE値をターゲットとするものがある.アデノウイルス結膜炎診断キットで眼科医にとってなじみのある方法となった免疫クロマトグラフィー法キットが導入されれば,感染性結膜炎との鑑別診断などで診断精度の向上が期待される.涙液を用いたアレルギー学的検査法は,庄司純先生が検討データを含めて述べられる.ヘルパーT細胞におけるTh1/Th2理論はアレルギー学に大きな影響を与えたエポックメーキングとなった.現在はこれにさらにTh3を加えた大きなバランスで腫瘍性疾患を含めた疾患の病態をヘルパーT細胞から捉える見方が有力である.ヘルパーT細胞が

研修医“初心”表明

2008年1月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008710910-1810/08/\100/頁/JCLS自分は大学時代に,単に生きる死ぬよりもいかに生きるかに関わった医者になりたいと思いました.それは自分が病気になった経験を踏まえてのことなのですが,「健康」がいかに素晴らしいか,健康とまでは言えなくとも「普通に」生きるということがいかに素晴らしいかと感じたためです.そして,生きるということを考えたとき,自分の体のなかで一番失いたくないものは眼でした.外部からの情報の大部分を得ている眼を守りたい,『目を失う=失明』を生涯かけて一人でも多く救っていきたいと.その思いから,自分が生きるべき方向もみえてきました.自分はこの眼という臓器に不思議な魅力を感じました.なぜか慣用句でも体の部位のなかで目を使ったものが一番多いように思います.この直径24mmの球体の中に何かすごいものが詰まっているのではないだろうか.当然解剖学的には硝子体が詰まっているのですが,そこに一生を懸けていけるものが詰まっているように感じられ,眼科医の道を進む決意をしたのです.将来は角膜や網膜などといった具体的な分野はまだ決まってませんが,手術でその人の人生を変えられるような眼“外”科医になりたい,そしてそれに付随した研究も行っていきたいと思っています.また,自分の恩師が眼疾患,例えば白内障になったときに多くの眼科医のなかで,主治医として自分を選んでいただけるような眼科医になっていたいと考えています.今は積極的に研修医のうちから学会などに参加していきたいと思っています.昨年,眼科の学会で初めて「臨眼」に参加して,スケールの大きさに圧倒されました.その際に行われていた第3回YOBC(YoungOphthal-mologists’BorderlessConference)にも参加して,全国から集まった若手の先生方の活発な討論を聴いて大変刺激になりました.入局もまだの全くの若輩者なのですが,これから先生方どうぞよろしくお願いいたします.◎今回から始まったシリーズ「研修医“初心”表明」はいかがだったでしょうか.縁があって貴重な1ページを頂けることになり,初回は私自身の「“初心”表明」としましたが,以後このページで次世代の熱い想いをもった眼科医を紹介していくことができければ幸いです.(加藤)☆本シリーズ「研修医“初心”表明」では,眼科に熱い想いをもった研修医前期専攻医の先生の投稿を募集します!熱い想いを800字程度で読者の先生にアピールしてください!宛先は,《あたらしい眼科》「研修医“初心”表明」投稿として,下記のメールアドレス宛にお送りください.Email:hashi@medical-aoi.co.jp(71)研修医“初心”表明●シリーズ①世界中から失明する人を一人でも減らしたい!加藤浩晃(HiroakiKato)京都府立医科大学附属病院1981年福井県生まれ,浜松医科大学卒業.現在,京都府立医科大学附属病院研修医.大学時代はスーパーアルバイター!マクドナルド店員からカリスマ予備校講師まで.縁があって本を出していたら,あれよあれよと計7冊.人と話をするのが大好きで,まだ半年ながら医者は天職だと思っている.将来は眼“外”科医を目指す!(加藤)編集責任加藤浩晃・木下茂自3回YOBC討論会の集合写真

後期臨床研修医日記8.山形大学医学部眼科学教室

2008年1月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008690910-1810/08/\100/頁/JCLSおそらく多忙な毎日を過ごしているのは,どの教室の研修医も同じでしょう.ここでは割愛させていただきます.4人の同期,一人主治医制そしてそれぞれの専門を目指してわれわれの学年は4人入局しました.皆,山形大学出身の同期生です.卒業後,私は初期研修を近くの市中病院で行い,内科系プログラムに参加しました.他の3人は,当大学の初期研修プログラムに入り,最後の選択科目で眼科を専攻していました.選択科目として眼科を選ぶと,2カ月間は大学での研修,6カ月間は近くの関連(69)臨床研修医制度が始まって2年のブランクがあった後,山形大学では4人の後期研修医が入局しました.今年新たに2人が加わり,現在6人の後期研修医が所属しています.山下英俊教授をはじめ医局の先輩の先生からの指導を受け,日々たくましく成長しているつもりです.当教室の後期研修医プログラムの特徴は,なんといっても朝の勉強会,それぞれがそれぞれの研修を行っているということでしょうか.当教室の研修を紹介しながら,私の眼科に入局してからの2年を振り返ってみたいと思います.勉強会研修医の朝は,午前7時30分,勉強会から始まります.曜日ごとにテーマが決まっています.月曜日は,“Adler’sphysiologyoftheeye”の輪読会.隔週で行っているため進みはゆっくりですが,この2年間休まず行い,TheCorneaandtheSclera,TheRetinalPigmentEpithelium,TheVitreousを読破しました.現在Aque-ousHumorHydrodynamicsを勉強中です(写真).火曜日は,JournalClub.論文の抄読会です.一人では英語論文を読むのを億劫がってしまうのですが,持ち回りで読むため容易に知識をuptodateできます.山下教授の解説付きなので,データの読み方,良い論文悪い論文の見分け方など,論文選びのポイントも勉強になります.水曜日は,医局会が同時刻にあるためお休みです…早く来るのに変わりはありません.木曜および金曜日は,レジデントクリニカルクラークシップ.山下教授と研修医との勉強会です.昨年(2006年)までは,日常の診療業務のなかで疑問に思った点を教授に質問したり,眼底写真をpickupしてその所見を読み,病態を考えたりしていました.医局で行っている症例検討会は流れるように進んでしまい,チンプンカンプンでしたが,この勉強会で読影力を身につけることができました.今年か後期臨床研修医日●シリーズ③教▲Adler?s勉強会で(中央が筆者)———————————————————————-Page270あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008(70)われわれ4人は“眼科”を学びたくて入局したのですが,面白いことに皆興味のある分野が異なっていました.山下教授はそれを後押ししてくださり,それぞれの分野における日本のスペシャリストの下で勉強するチャンスを提供してくださっています.私は,斜視・弱視を学ぶべく浜松医科大学の佐藤美保先生のもとへ2回ほど見学に行かせていただきました.同じく,同期の田邊智子先生は眼感染症を学びに愛媛大学へ,田邊祐資先生は緑内障および神経眼科を学びに大阪赤十字病院の柏井聡先生の下に見学に行っています.中野早紀子先生は網膜硝子体を当教室の山下教授や山本禎子准教授のもとで学んでいます.そして,そこで得た知識を還元できるように大学ではそれぞれの専門外来のお手伝いもしています.さらに,AAOやARVOなど海外の学会に積極的に参加させてもらっています.“若いうちに世界をみる”ことで,目標を高くもつことがコンセプトのようです.おわりに先日,初雪が降りました.山形の厳しい冬の到来です.しかし,われわれは雪にも負けず,寒さにも負けず眼科のスペシャリストを目指して日々頑張ります!!病院での研修を行い,計8カ月間学ぶこととなります.私は初期研修プログラムが4月まで続いたため,皆より1カ月遅れで入局しました.入局して驚いたのが,他の3人とのギャップです.手技も知識もすべて大きく出遅れていました.先輩の先生は数カ月もすれば変わらなくなるよと言ってくださるのですが,不安と焦りがいつもありました.その5カ月後,ようやく仕事に慣れ眼底が見えるようになってきたとき,突然“一人主治医制”の宣告を受けたのです.非常にショックでした.オーベンの先生の足手まといからようやく“使える”研修医になったころであり,これからさらに多くのことを教えていただきたいと思っていたころだったのですが….けれども山下教授は,いつでも研修医が相談できるように毎日コンサルトの時間をつくってくださいました.病棟では先輩の先生方が手助けしてくださり,なんとか治療時期を逸せずに診ることができています.それ以上に,患者さんに対する責任感がでてきました.一つの疾患をじっくり診ることにより,より深く学ぶことができています.オーベンとネーベンの一対一の関係のときは,直属の先生の考え方がすべてのように感じていたのですが,いろんな先生の意見を知ることができて考え方に広がりがでました.気づけば他の3人とのギャップも感じなくなりました.確かに,最初の数カ月の遅れはそれほど大きなものではなかったようです.もちろん,まだまだ知識にむらがあり,憶えることは膨大にあります.これからも,先輩の先生からたくさん学んでいきたいと思います.プロール羽根田思(はねだしおん)平成16年山形大学医学部卒業.山形県立中央病院にて初期臨床研修,平成18年5月より山形大学医学部眼科学教室後期研修医.教授からのッセージ教育のしみ初期臨床研修制度が始まり,眼科の医局に入局して専門の勉強を開始するという今の制度は平成16年度から始まりましたが,新制度での一期生が羽根田先生たちの世代です.われわれ卒業直後に眼科に入局した医局員と比較して,いろいろな診療科を回ってきたたくましさを羽根田先生たちには感じます.このような優秀な医局員を教育する醍醐味を味わえるのは大学に奉職するものの特権です.羽根田先生たちを迎えて自らの手で教育しようと考え,時間の合わせやすい朝,7時30分からの約1時間を教育に専念する時間としてきました.そのなかで私が伝え続けているのが“自分の頭で考えて理解しながら進歩する眼科医”ということです.私自身のもつ知識量は大したことはなく,あらゆる分野を教える能力はありません.勉強会と称して私も学びながら研修医を教えています.だから,知識を教えているのでなく,考え方を教えているつもりです.たとえば,ジャーナルクラブでは論文を批判的に読む癖を獲得することであり,これが羽根田先生に伝わっていたことがわかり喜ばしかった次第です.自分で考える眼科医をわれわれの教室から生み出していくという私の目的は達成されつつあるのがとても幸せな気分です.山形大学医学部眼科・教授山下英俊

硝子体手術のワンポイントアドバイス56.脈絡膜上腔への気体誤注入(初級編)

2008年1月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008670910-1810/08/\100/頁/JCLSはじめに裂孔原性網膜剥離に対するガスタンポナーデの合併症には,新裂孔形成,網膜剥離拡大,眼圧上昇,白内障,網膜下気体迷入などの報告があるが,非常にまれな合併症として,Bakerらは脈絡膜上腔への気体誤注入例を報告している1).筆者らも以前に,他院で強膜バックリング手術を施行された際に,この合併症をきたした症例を紹介されたことがある2).絡膜上腔への気体誤注入の原毛様体扁平部から27ゲージ針を硝子体腔内に刺入する際に,針先が硝子体腔内に入っていることを確認しないで,中途半端な刺入のまま気体を強膜と脈絡膜の間に注入してしまった場合に生じる(図1).同様のことは,気体だけでなく人工房水やシリコーンオイルを注入する際にも生じうる.脈絡膜剥離が生じている症例では,特に注意が必要である.筆者らが経験した症例では,初回強膜バックリング手術終了時に硝子体腔内に注入するはずの気体が誤って脈絡膜上腔に注入され,広範な脈絡膜剥離をきたしていた(図2a,b).本症例では,おそらく初回強膜バックリング手術時に脈絡膜剥離がわずかに生じており,強膜と毛様体の間隙が生じていて,気体が迷入しやすい状況にあったのではないかと考えられる.併症の予防と対このような合併症を防止するには,針先が硝子体腔内に刺入されていることを必ず確認してから気体を注入することが重要である.一般にガスが網膜下に迷入した場合には,視細胞が直接気体の影響を受けるので,網膜の障害は重篤であることが予想される.脈絡膜上腔気体迷入はそれに比較すると網膜への障害の程度は少ないと考えられる.Bakerらの報告や筆者らの症例でも再手術後の矯正視力は良好であった.しかし,気体は体位によっ(67)て脈絡膜上腔を移動する危険性もあるので,できる限り早期に気体を抜去するべきである.気体抜去の方法は27ゲージ針で人工房水を硝子体腔内に確実に注入すれば,針の抜去時に脈絡膜上腔の気体は圧に押されて針の刺入部より漏出する.文献1)BakerSR,HainsworthDP:Suprachoroidalgasasacom-plicationofpneumaticretinopexy.Retina20:224-225,20002)山本泰史,桑原ちひろ,齋藤総一郎ほか:脈絡膜上腔にガスが迷入した網膜剥離の1例.眼科手術16:109-112,2003硝子体手術のンポインバイス●連載脈絡膜上腔への気体誤注入(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科1脈絡膜上腔への気体誤注入の原因針先が硝子体腔内に入っていることを確認しないで,中途半端な刺入のまま気体を強膜と脈絡膜の間に注入してしまった場合に生じる.脈絡膜剥離併発例では特に注意を要する.図2a術前の眼底写真上耳側に胞状の脈絡膜剥離を認める.2b術前の超音波Bモード胞状の脈絡膜剥離とその後極に網膜剥離を認める.

眼科医のための先端医療85.「見る」ことで網膜は強くなる!?  -ラット明環境飼育による網膜保護効果とNrf2-ARE経路の関わり-

2008年1月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008630910-1810/08/\100/頁/JCLS1966年,Noellらはラットへの可視光照射によって視細胞が不可逆的に傷害されるという現象を報告しました1).以後の研究により,可視光による網膜傷害(網膜光傷害)が,ビタミンCやE,グルタチオン前駆物質,フリーラジカルトラップ剤などの抗酸化剤で効果的に抑制されることが報告されました.そのため,網膜光傷害は酸化ストレスによる細胞傷害機構解析の良いモデルとして用いられてきました.また,網膜光傷害による細胞死が網膜色素変性症における細胞死と同じくアポトーシスの形態をとる2)ことから,網膜変性症のモデルとしても利用されています.一方,光に対する網膜傷害の感受性が,ラットの飼育条件によって異なることが,初期の頃から知られていました3).その後,1980年代になって,Andersonらにより,通常の飼育環境の光照度(50100ルクス)よりも明るい環境光(400600ルクス)で数週間飼育した動物では,3,000ルクス・24時間照射による網膜光傷害がほぼ完全に抑制されること,暗い環境光(510ルクス)で飼育した動物では,同条件の光照射で非常に強い網膜傷害が惹起されることが報告されました4).このことは,網膜内に光によって惹起される内因性の生体防御機構が備わっていることを示唆する実験的事実ですが,長い間その分子機構については不明のままでした.酸化ストレスのキー分子Nrf2生体がミトコンドリア呼吸鎖を通じて,酸素からエネルギーを産生する過程では,常に一定の割合で不完全燃焼した不安定な酸素(活性酸素種)が漏れ出てきます.また,炎症や免疫細胞の貪食に関連しても種々の酸化酵素が働き,活性酸素種が生成されます.これらの活性酸素種や活性窒素種,X線,紫外線,金属,化学物質などの酸化ストレス要因に曝されると,生体は,グルタチオン,チオレドキシンやそれらの関連酵素などの生体防御因子の発現を誘導することで,細胞を守ろうとします.この,生体防御因子の誘導に転写因子nuclearfactorerythroid2-relatedfactor2(Nrf2)が重要な役割をもつことが明らかとなってきました5).図1に現在提唱されている,Nrf2による転写調節機構の模式図を示しま(63)シリーズ第85回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊(島根大学医学部眼科学)「見る」ことで網膜は強くなる!?─ ラット明環境飼育による網膜保護効果とNrf2-ARE経路の関わり─図 1Nrf2-AREによる転写調節機構の模式図Nrf2:nuclearfactorerythroid2-relatedfactor2,Keap1:Kelch-likeECH-associatedprotein1,ARE:antioxidant-responsiveelement,Ub:ユビキチン,Cys:蛋白質上のシステイン残基.Keap1Nrf2UbNrf2小MafUbCysCysKeap1Nrf2Nrf2Nrf2の寿命延長Cys-酸化Cys-酸化酸化ストレス~可視光(活性酸素種・活性窒素種)プロテアソームによる分解アクチン細胞膜細胞質核DNA転写第2相解毒酵素↑抗酸化酵素↑ARE———————————————————————-Page264あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008す.Nrf2は,細胞質内でKelch-likeECH-associatedprotein1(Keap1)というアクチン結合蛋白と結合しています.非酸化ストレス下では,Keap1のユビキチンライゲース活性によりユビキチン化されたNrf2は,プロテアソームによる分解を受けます.そのため,非酸化ストレス下でのNrf2の寿命は非常に短いと考えられています.一方,細胞が酸化ストレスを受けると,その酸化ストレスは,Keap1内のシステイン残基の酸化という形で感知され,Nrf2のユビキチン化が抑制されます.その結果,細胞質内でのNrf2の寿命が延長し,核に移行するNrf2の量が増加します.Nrf2は,小Maf分子群とヘテロダイマーを形成し,DNAプロモーター領域のantioxidant-responsiveelement(ARE)配列に結合して,転写活性を発揮します.Nrf2-ARE経路によって転写活性化が亢進する分子として,グルタチオン-S-トランスフェラーゼなどの第2相解毒酵素やヘムオキシゲナーゼ1やチオレドキシン還元酵素などの抗酸化酵素が誘導され,細胞を酸化ストレスから守ります.網膜保護機構としてのNrf2-ARE経路前述の明環境飼育による網膜保護現象の系で,明るい環境光で飼育したラットの網膜では,暗い環境光で飼育したラットの網膜と比較して,4ヒドロキシノネナール(4HNE)という脂質過酸化マーカーの発現が上昇し,Nrf2-ARE経路による転写活性が亢進します6).さらに,チオレドキシンやチオレドキシン還元酵素の発現も亢進します.培養視細胞の系では,4HNEの前処置により,チオレドキシンやチオレドキシン還元酵素の発現が亢進し,過酸化水素による細胞傷害が抑制されます.この細胞傷害抑制効果は,Nrf2の発現をノックダウンすることでキャンセルされます.これらの実験的事実から,Nrf2-ARE経路活性化による生体防御因子の増強が,明環境飼育による網膜保護現象の分子機構として重要であると考えられます.網膜は,光を視覚情報として利用する(見る)という本来の目的と並行して,適度な光刺激によって網膜を保護する機構を誘導するという非常に巧妙なシステムを有していることが示唆されます.このような細胞保護機構が加齢などにより減弱することが,加齢黄斑変性などの何らかの網膜疾患の発症・増悪に関わる可能性について,今後検討が進むと予測されます.文献1)NoellWK,WalkerVS,KangBSetal:Retinaldamagebylightinrats.InvestOphthalmol5:450-473,19662)HafeziF,SteinbachJP,MartiAetal:Theabsenceofc-fospreventslight-inducedapoptoticcelldeathofphoto-receptorsinretinaldegenerationinvivo.NatMed3:346-349,19973)NoellWK,AlbrechtR:Irreversibleeectsonvisiblelightontheretina:roleofvitaminA.Science172:76-79,19714)PennJS,NaashMI,AndersonRE:Eectoflighthistoryonretinalantioxidantsandlightdamagesusceptibilityintherat.ExpEyeRes44:779-788,19875)ItohK,WakabayashiN,KatohYetal:Keap1repressesnuclearactivationofantioxidantresponsiveelementsbyNrf2throughbindingtotheamino-terminalNeh2domain.GenesDev13:76-86,19996)TanitoM,AgbagaMP,AndersonRE:UpregulationofthioredoxinsystemviaNrf2-antioxidantresponsiveele-mentpathwayinadaptive-retinalneuroprotectioninvivoandinvitro.FreeRadicBiolMed42:1838-1850,2007(64)■「「見る」ことで網膜は強くなる!?」を読んで─ラット明環境飼育による網膜保護効果とNrf2-ARE経路の関わり─今回は光による網膜障害のモデルから出発して網膜を保護する分子メカニズムをNrf2分子の働きを通して検討したお仕事を紹介していただきました.網膜疾患の治療戦略は,いろいろの疾患の病態を明らかにしてその原因を除くという治療が主流です.というより,種々の原因により網膜細胞が障害されるのを抑制して網膜細胞を保護する治療が確立していないのです.これが現在の網膜疾患の治療成績を上昇させるためにはボトルネックになっています.疾患の病態研究に基づき導入された抗VEGF(血管内皮増殖因子)抗体などや硝子体手術を用いた治療によっても糖尿病網膜症の治療成績はまだまだ満足できるものではありません.視力が最も大切な眼科医療の成否を示す指標ですが,視力は必ずしも現在の治療で上昇しません.網膜の細胞が破壊されて本来のものを見る機能が低下していることによります.今後は網膜神経細胞が破壊されないような新しい観点からの治療が大切です.今回の谷戸正樹先生の解説は,網膜光障害は単に光———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.1,200865(65)☆☆☆による障害を検討するのみでなく,活性酸素が各種疾患に対する影響を明らかにすることにより,光障害を分子レベルでわかりやすく説き起こしています.いわば神経保護治療についての基礎エビデンスを示されたと考えられます.医学的なこのようなしっかりした分子レベルでの研究成果があがっていると,その成果は活性酸素により網膜が障害される糖尿病網膜症,網膜分枝閉塞症,加齢黄斑変性など多くの疾患の病態解明,治療法開発に資することがきわめて大です.今後,まずは効果がはっきりと示せる疾患に対する治療薬が開発され,それが峰から裾野に広がっていくというのがとてもいい戦略的な研究ではないでしょうか?今後もこのような光による網膜障害を基にした多くの臨床研究,基礎研究が強力に推進されると考えております.山形大学医学部情報構造制御学講座視覚病態学分野山下英俊

新しい治療と検査シリーズ178.病的近視に続発した中心窩分離症に対する手術治療

2008年1月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008610910-1810/08/\100/頁/JCLS的に硝子体手術が行われている3).〔症例〕65歳,男性.右眼変視を訴え当科紹介となる.屈折等価球面値は11ジオプトリー,眼軸長28.7mmの強度近視で,矯正視力は(0.1)に低下していた.眼底に軽度の近視性網脈絡膜萎縮と非常に丈の低い網膜剥離様所見を後極部網膜に認め,OCTで典型的な中心窩剥離型の分離症と診断した(図1).実際の手術法中高年の病的近視では核白内障を合併していることも多いため,有水晶体眼は原則として白内障手術を行う.しい治療と検シリー(61)バックグラウンド病的近視に続発する中心窩分離・剥離の歴史は古く,すでに1958年Phillipsらによって「強度近視眼における後極部網膜剥離」として報告されている1).特徴は,病的近視にみられる後極部網膜剥離で第一義的には網膜裂孔を伴わないものを指すが,黄斑小裂孔や沿血管微小裂孔を併発しているものも少なからずみられる.剥離の程度は検眼鏡的に明らかに認めるものから,光干渉断層計(OCT)を用いることによりはじめてその存在が明らかになる程度のものまである.またOCTで詳しく観察すると網膜分離だけで網膜剥離をまったく認めないものから,逆に分離がほとんどみられず剥離が病態のほとんどを占める場合があるなど病態は多彩である.注目すべきは強度近視眼で治療に苦戦する黄斑円孔網膜剥離の前駆状態であるとされており,本疾病を治療することで黄斑円孔網膜剥離の予防治療がある程度可能であるという点である.筆者らはその形状と手術成績から中心窩分離症を大きく3型に分類している.すなわち中心窩の視細胞が網膜色素上皮から剥離した「中心窩剥離型」,網膜分離はあるが網膜色素上皮から中心窩視細胞が剥離していない「網膜分離型」,そして黄斑円孔をすでに併発してしまっている「黄斑円孔型」である.視力は網膜分離型が最もよく,黄斑円孔型が最も悪い.また手術の効果は中心窩剥離型が最も高い.新しい治療法中心窩分離症の成因として網膜血管牽引,黄斑前膜,内境界膜の非伸展性などが指摘されており2),これらを外科的に除去することで網膜の復位ひいては黄斑円孔網膜剥離の予防を行うのが治療の目的である.症例の蓄積により安全性が確立し,最近は中心窩分離症に対し積極178.病的近視に続発した中心窩分離症に対する手術治療プレゼンテーション:生野恭司大阪大学大学院医学系研究科眼科学コメント:大野京子東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学1症例の中心窩分離症の眼底写真(上)とOCT像(下)眼底に近視性変化を認め,後極部網膜は中心窩剥離を伴う中心窩分離症を生じている.———————————————————————-Page262あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008トリアムシノロンで可視化した後に硝子体切除を行うが,病的近視では網膜面上に硝子体皮質が強く癒着していることが多い.これら癒着硝子体や網膜前膜をDia-mond-dustedmembranescraperや硝子体鑷子を用いて丁寧に後極部網膜から剥離してゆく.内境界膜剥離の是非については議論の余地があるが,症例の多くで内境界膜の非伸展性が原因としてかかわっており,筆者は全例内境界膜剥離を行っている.インドシアニングリーンは毒性が報告されているため,萎縮性変化が軽微な場合はトリアムシノロンを用いるが,著しい場合は術中の安全性を優先してインドシアニングリーンを用いる.最後に20%六フッ化硫黄ガスガスタンポナーデを行って終了である.患者には1~2週間程度の伏臥位を指示する(図2).通常網膜はゆっくりと復位することが多く,長い場合,中心窩の復位に6カ月~1年かかる.非常に遅い場合,心配することもあるが,筆者は本術式で復位しなかった症例は今のところ経験していない.本法の利点2段階以上の視力改善は中心窩剥離型で80%前後,中心窩分離型で50%程度である.術後中長期で黄斑円孔の形成をみる場合が数%あるが,円孔形成の自覚のないものも多い.このように中心窩分離症に対する硝子体手術は比較的安全でかつ効果の高い術式であると考えられる.放置することで黄斑円孔網膜剥離まで進展すると失明の危機もある.それを予防するという意味でも有用な手術と考えている.文献1)PhillipsCI:Retinaldetachmentattheposteriorpole.BrJOphthalmol42:749-753,19582)生野恭司:強度近視眼に続発した中心窩分離症の病因と治療(総説).日眼会誌110:855-863,20063)IkunoY,SayanagiK,OhjiMetal:Vitrectomyandinter-nallimitingmembranepeelingformyopicfoveoschisis.AmJOphthalmol137:719-724,2004(62)☆☆☆本に対するント近年,近視に伴う黄斑(中心窩)分離・剥離に対する手術成績の報告が散見される.しかし,術後長期における再発などの合併症の危険性や手術適応について,まだ不明な点も多い.また,術式についても内境界膜(ILM)剥離併用の有無やILM剥離の範囲,ガスタンポナーデの併用の有無などについて必ずしも一定の見解が得られていない.前述したように,黄斑分離・剥離の1つの成因としてILMを含めた網膜表層の増殖変化があげられるため,生野らのようなILM剥離を併用した硝子体切除は理にかなっていると思われる.また,ガスタンポナーデを行うことにより剥離部位の移動や網膜復位までの時間短縮が得られると考えられ,有用であろう.しかしながら,黄斑分離・剥離の形態や成因は個々の症例によりそれぞれ異なっており,今後は長期術後経過を踏まえたうえで,個々の症例に応じた術式選択と手術タイミングの検討が必要となるであろう.図2症例の術後1年後の眼底写真(上)とOCT像(下)周囲に網膜分離は残存するが,中心窩剥離は復位した.視力は術前の(0.1)から(0.6)まで改善した.