———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSに大きく変化している(図1,未発表データ).したがって,この急速な変化を考えた場合,計画から結果の解析までに数年を要する多施設ランダム化比較試験(rando-mizedcontrolledtrial:RCT)をゆっくりと行うことがむずかしく,また仮に行っても,臨床試験を行っている間に手術手技が進化し,数年後に結果が出ても,すでにその時期には有用でなくなってしまう可能性がある.したがって,この手術に関して,レベルの高い多施設でのRCTは,米国のTheDiabeticRetinopathyVitrectomyStudy(DRVS)による研究のみである.1.多施設RCTの結果a.硝子体出血に対する硝子体手術DRVSは,3つの群から成り立っている.このなかで,6カ月以内の硝子体出血で視力が5/200以下に低下した594例616眼(GroupH)を対象として,ただちに手術を行う群(早期手術群)と1年間手術を待つ群(手術延期群)に分けて両者の成績を検討した3).ランダム化前の3カ月以内にレーザー光凝固,重症の虹彩血管新生,はじめに従来中途失明の原因のトップであった糖尿病網膜症は,平成17年度の厚生労働科学研究研究費補助金難治性疾患克服研究事業網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する研究班の報告1)では,緑内障についで第2位であった(表1).このことは,網膜を専門とするわれわれにとって朗報であり,患者教育や適切な内科的治療もさることながら,硝子体手術の進歩と標準化の貢献が大きい.この報告から試算すると,日本全体で,1年間に565名の糖尿病網膜症患者が視覚障害の第1級の新規認定を受けていることになる.一般的に,増殖糖尿病網膜症,血管新生緑内障,黄斑浮腫のいずれかで失明に至るわけであるが,そのなかで増殖糖尿病網膜症(proliferativedia-beticretinopathy:PDR)によって視力を失う症例が多い.したがって,PDRに対する硝子体手術成績の向上が直接的に失明予防につながる.本稿では,三次予防としてのPDR手術に関して,過去のエビデンスをレビューし,また進化し続けるこの手術の最近の進歩を紹介する.I増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術のEBM(evidence-basedmedicine)近代PDR手術はMachemerによって行われて以来2),現在までの約35年間に,急速に手術手技が進歩してきた.それに伴い安全性が増し,成績が向上し,早期手術を含めて適応が拡大した.実際に筆者自身の成績も,早期手術への移行,手術手技の進歩によって,この15年間(33)????*FumioShiraga:香川大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕白神史雄:〒761-0793香川県木田郡三木町大字池戸1750-1香川大学医学部眼科学教室特集●糖尿病網膜症:一次予防,二次予防,三次予防の戦略あたらしい眼科24(10):1305~1309,2007増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術(三次予防)のエビデンス??????????????????????????????????????????????????????????????白神史雄*表11級視覚障害認定の原因疾患緑内障25.5%糖尿病網膜症21.0%網膜色素変性8.8%高度近視6.5%白内障4.4%加齢黄斑変性4.2%———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007黄斑?離などは除外された.20歳以下で糖尿病(DM)の診断を受け,エントリー時にインスリン投与を受けている症例はTypeI(37.8%)とされ,40歳以降にDMの診断を受けている(DMの診断をそれよりも若く受けてもエントリー時にインスリン投与を受けていない症例を含む)症例はTypeII(28.3%)と分類された.なお,21歳から39歳までにDMの診断を受けたインスリン投与患者は中間群(33.9%)に分類された.硝子体手術のゴールは,赤道部まで硝子体出血の完全除去と周辺部までの増殖膜除去である.術中の汎網膜光凝固は許可されていない.なお,手術の施行に必要な場合にのみ水晶体切除が許されており,手術時に有水晶体眼であった464眼のうちの30.4%に水晶体切除が行われた.手術延期群のほうにおいても,黄斑?離が発見された時点で硝子体手術が許されている.全体の49.2%は光凝固の既往があった.2年後の視力結果であるが,10/20以上の視力は,早期手術群24.5%,手術延期群15.2%であった(有意差0.01).また,NLP(光覚なし)は,早期手術群24.9%,手術延期群19.3%であり,両者間に有意差はなかった.TypeIでは,2年後視力が10/20以上の症例は,早期手術群35.6%,手術延期群11.7%,TypeIIでは,早期手術群15.9%,待機手術群18.1%で,タイプにより差がみられた.一方,2年後視力がNLPになる比率においてはタイプによる両群間の差に違いはなかった.つぎに視力低下に関与する血管新生緑内障の発生率は,早期手術群30.2%,待機手術群17.2%であり,TypeIIにこの差は大きかった.この結果には,手術中に光凝固が許されていないことが関係しており,現在のように手術終了時には汎網膜光凝固を完成させていれば,この発生率はかなり低くなり,早期手術群の結果がより良くなったものと考えられる.4年後の結果4)でも同様で,TypeIにおいて早期手術の有効性が示されたが,TypeIIではみられなかった.b.重症の線維血管性増殖に対する硝子体手術のEBMこのスタディ(DRVSのGroupNR)は,重症の線維血管性増殖があり,視力が10/200以上の視力を有する370眼の症例を対象にして,早期手術群と非手術群(重症な硝子体出血や黄斑?離が生じれば手術)に無作為に分けて視力を評価項目として比較検討したものである.手術は前述のGroupHと同じであり,ゴールはすべての線維血管性増殖膜の除去である.手術時に有水晶体眼であった177眼の6.2%に手術時に水晶体切除を行っている.このスタディでも,術中の汎網膜光凝固は許されていない.4年後の結果であるが,10/20以上の症例は,早期手術群で44%,非手術群で28%あった.しかし,視力不良例の比率では両群間に差はなかった.早期手術の有用性は,重症例ほど高くなる傾向がみられた.網膜?離発生率は,非手術群に有意に高かった.このスタディでは,糖尿病のタイプにより,早期手術の有効性(34)1.01.00.10.10.010.010.0010.001PostRxVAPreRxVA術前平均視力0.017術後平均視力0.0481992~19971.01.00.10.10.010.010.0010.001PostRxVAPreRxVA術前平均視力0.023術後平均視力0.1221998~20011.01.00.10.10.010.010.0010.001PostRxVAPreRxVA術前平均視力0.086術後平均視力0.4922006図1筆者の手術成績の変遷(1992年から2006年)縦軸は術後視力,横軸は術前視力.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007????に差はみられなかった.2.GradeII(CanadianTaskForceonPreventiveHealthCare)以下のエビデンスa.手術適応6,7)PDRの硝子体手術適応に関しては,Hoらのレビュー7)の1992年の時点からあまり大きな変化はない(表2).強いて言えば,黄斑?離が生じてからではなく,視力予後を考えて黄斑に?離が生じる前に手術を行うべきであると考える.b.手術手技8~11)手術手技に関しては,この35年間に休むことなく新しい手技が考案され続けている.これらの手技に関して,多施設によるRCTが行われたことはない.しかし,有用性が明白な場合には,あえてRCTを行う必要はないと判断されてきた.現在まで,有用性について賛否両論であるのは,“Enbloc”excusion8),前部線維血管増殖9)(強膜血管新生を含む)を予防するための周辺部硝子体切除,白内障手術の併用10)などであり,これらに関しては,RCTが行われない限り,最終的な結論は得られないであろう.c.術後合併症術後合併症に関しては,1981年にMichelsが詳細に述べている12).すなわち角膜欠損,遷延性角膜浮腫,白内障,硝子体出血,網膜裂孔,網膜?離,虹彩血管新生,そして低眼圧,眼球萎縮などである.この当時,術後の裂孔原性網膜?離が5~10%,眼球萎縮が10~20%に生じると述べており,現在と比べると高率である.II最新の手術とエビデンス小切開硝子体手術(microincisionvitreoussurgery:MIVS)14),キセノン光による明るいシャンデリア照明,抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfac-tor:VEGF)抗体の硝子体注入15,16)などの最近の進歩により,PDR手術は変貌した.現在MIVSは23ゲージと25ゲージの2つのシステムがあるが,PDRの増殖膜切除には25ゲージ硝子体カッターが優れており(図2),(35)表2増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術の適応1.吸収しない多量の硝子体出血2.最近生じた黄斑の牽引性?離3.裂孔併発牽引性?離4.重症の進行性線維血管増殖5.眼底の透見が不良な虹彩新生血管例6.厚い黄斑前出血7.泡沫細胞緑内障8.黄斑牽引が関係する黄斑浮腫(文献6より改変)図225ゲージカッターによる増殖膜切除(双手法)図3増殖糖尿病網膜症手術におけるシャンデリア照明下での双手法:抗VEGF抗体:線維血管増殖膜———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007筆者は25GゲージシステムでPDR手術を行っている.硝子体カッター1本で切断,分層した増殖膜や出血を除去しながら膜処理が行え,そのまま周辺部まで硝子体を切除できるので,器具の入れ替えをくり返す必要はない.もちろん,後部硝子体が赤道部までほとんど未?離で線維血管性増殖膜が広く周辺部まで存在するような症例では,20ゲージで行い,粘弾性物質による膜?離などが必要であるが,ほとんどの症例はMIVSで十分施(36)図4ベバシズマブ投与による新生血管抑制a:投与前のフルオレセイン蛍光眼底写真.活動性の高い新生血管から蛍光漏出がみられる.b:投与翌日のフルオレセイン蛍光眼底写真.新生血管は細くなり,蛍光漏出もみられない.abab図5早期手術a:術前カラー眼底写真.数日前に生じた硝子体出血が軽度にみられる.線維血管性増殖が耳側アーケードから上方にかけて存在している.矯正視力は0.5であるが,この時点で手術施行を決定し,ベバシズマブを術前に投与し,25ゲージ経結膜無縫合手術を行った.b:術後4週のカラー眼底写真.矯正視力は0.7に改善した.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007????(37)行できる.また,キセノン光によるシャンデリア照明によって双手法が可能になり,眼内鑷子と硝子体カッターで増殖膜を容易に切除できるようになった(図3).さらに,抗VEGF抗体であるベバシズマブを手術の数日前に硝子体内に注入すると,翌日には新生血管が細くなり活動性も低下するので(図4),手術中に増殖膜処理時のエピセンターからの出血を少なくすることができ,止血操作がほとんど不要となる.こういった手術手技の進歩によって,安全かつ低侵襲でPDR手術を行えるようになり,以前に比べると,前述のように視力成績も格段に向上している.これには,手術をより早期に行うようになったことも大きく影響している(図5).おわりにETDRS(TheEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy)13)によると,頻回の観察と適切な時期に汎網膜光凝固を行うと,5年間で硝子体手術を行った症例は5.3%であった.今後,さらに適切な一次予防,二次予防が行われていければ,この比率はますます低下するであろう.理想的には三次予防にまで進行させないことが肝心であるが,不幸にも硝子体手術の適応になっても,早いタイミングで低侵襲手術を行えば,失明率を限りなく0に近づけることが可能であろう.もちろん,そのためには,血管新生緑内障の制御が必要であることはいうまでもない.文献1)中江公裕ほか:わが国における視覚障害の現状.厚生労働科学研究研究費補助金難治性疾患克服研究事業網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する研究平成17年度総括・分担研究報告書,p263-2672)MachemerR,BuetnnerH,NortonEWetal:Vitrecto-my;aparsplanaapproach.??????????????????????????????????75:813-820,19713)TheDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Earlyvitrectomyforseverevitreoushemorrhageindiabeticret-inopathy.Two-yearresultsofarandomizedtrial.DiabeticRetinopathyVitrectomyStudyReport2.????????????????103:1644-1652,19854)TheDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Earlyvitrectomyforseverevitreoushemorrhageindiabeticret-inopathy.Four-yearresultsofarandomizedtrial.DiabeticRetinopathyVitrectomyStudyReport5.????????????????108:958-964,19905)TheDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Earlyvitrectomyforsevereproliferativediabeticretinopathyineyeswithusefulvision.Resultsofarandomizedtrial-Dia-beticRetinopathyVitrectomyStudyReport3.??????????????103:1644-1652,19856)AabergTM,AbramsGW:Changingindicationsandtech-niquesforvitrectomyinmanagementofcomplicationsofdiabeticretinopathy.?????????????94:775-779,19877)HoT,SmiddyW,FlynnHW:Vitrectomyinthemanage-mentofdiabeticeyedisease.???????????????37:190-202,19928)AbramsGW,WilliamsGA:“Enbloc”excisionofdiabeticmembranes.???????????????103:302-308,19879)LewisH,AbramsGW,WilliamsGA:Anteriorhyaloid?brovascularproliferationaftervitrectomy.????????????????104:607-613,198710)HonjoM,OguraY:Surgicalresultsofparsplanavitrec-tomycombinedwithphacoemulsi?cationandintraocularlensimplantationforcomplicationsofproliferativediabeticretinopathy.??????????????????????29:99-105,199811)SonodaK,SakamotoT,EnaidaHetal:Residualvitreouscortexaftersurgicalposteriorvitreousseparationvisual-izedbyintravitreoustriamcinoloneacetonide.??????????????111:226-230,200412)MichelsRG:Proliferativediabeticretinopathy.Pathophys-iologyofextraretinalcomplicationsandprinciplesofvitre-oussurgery.??????1:1-17,198113)TheEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:ParsplanavitrectomyintheEarlyTreatmentDiabeticRetinopathy.ETDRSReportNumber17.?????????????99:1351-1357,199214)OhshimaY,OhjiM,TanoY:Surgicaloutcomesof25-gaugetransconjunctivalvitrectomycombinedwithcata-ractsurgeryforvitreoretinaldiseases.???????????????????????35:175-180,200615)AveryRL,PearlmanJ,PieramiciDJetal:Intravitrealbevacizumab(Avastin)inthetreatmentofproliferativediabeticretinopathy.?????????????113:1695.e1-15,2006;16)ChenE,ParkCH:Useofintravitrealbevacizumabasapreoperativeadjunctfortractionalretinaldetachmentrepairinsevereproliferativediabeticretinopathy.??????26:699-700,2006