———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS化吸引術/眼内レンズ挿入術)の長期予後が必ずしも明らかにされていないことは,現在,手術適応を考えるうえで障害となっている.筆者らは先月号(本誌Vol.24,No.7)においても,原発閉塞隅角症/原発閉塞隅角緑内障に対するレーザー虹彩切開術の位置付けについて論じた1).本稿では,先月号と論旨はもちろん変えないものの,表現を工夫して読者の理解を得たい.I原発閉塞隅角緑内障とレーザー虹彩切開術をめぐる事実と推論の流れ1.原発閉塞隅角緑内障は失明する疾患である原発閉塞隅角緑内障は失明する疾患である.この認識が大切である.ゆえに将来にわたって視機能障害をきたさない症例は治療の対象とはならない.原発閉塞隅角症と原発閉塞隅角緑内障の進展は,「隅角閉塞を生じない狭隅角→機能的ないし器質的な隅角閉塞→眼圧上昇→視神経症」という過程を経て起こるのだから,視神経症発症前に必要な処置が行われれば視機能障害は生じない.したがって,おもに隅角所見から隅角閉塞とそれに伴う眼圧上昇,視神経症の発症を予測することが本症診療の第一歩である.2.狭隅角眼では隅角は閉塞しているか?狭隅角眼のうち多くは,器質的隅角閉塞(周辺虹彩前癒着)を認めない.そのことは症例ごとに隅角検査(圧はじめに最近,原発閉塞隅角症/原発閉塞隅角緑内障に対する関心が再び高まっているようにみえる.良いことである.しかし,病名を視神経から論じたり,あるいは水晶体がなくなればそれで一件落着のような議論は,筆者には時として本質を逸脱しているように感じられることがある.レーザー虹彩切開術登場の頃(1980年代前半)とは眼科診療の質が大きく異なっている以上,レーザー虹彩切開術の適応の考え方が変わるのは当然である.しかし,確定診断に基づく治療の選択という基本となる治療哲学に変更を加える必要はないであろう.先日口頭試問委員として参加した眼科専門医試験では,ほぼすべての受験者がレーザー虹彩切開術後の水疱性角膜症を知識としてもっていたにもかかわらず,レーザーの照射条件設定に関しては甘い条件の答がいくつもあった.また,筆者は圧迫隅角検査のマスターには専門医試験の臨床経験年数(現在5年)では不足であると考えるが,受験者のレーザー虹彩切開術の経験例数はすでに平均20~30例程度であった.このことから,一部のレーザー虹彩切開術が適応や照射条件の決定に慣れていない医師の手で施行されていることが危惧された.こうした状況は同術式で視機能に重大な障害をきたしうる合併症の発症が知られている今日,決して望ましいものではない.さらに,原発閉塞隅角症では自覚症に乏しいことが多いため経過観察が不完全でレーザー虹彩切開術やPEA/IOL(水晶体乳(37)????*TetsuyaYamamoto:岐阜大学大学院医学系研究科神経統御学講座眼科学分野〔別刷請求先〕山本哲也:〒501-1194岐阜市柳戸1-1岐阜大学大学院医学系研究科神経統御学講座眼科学分野特集●原発閉塞隅角緑内障のカッティングエッジあたらしい眼科24(8):1021~1025,2007原発閉塞隅角緑内障治療の第一選択はレーザー虹彩切開術かPEA+IOLか?:レーザー虹彩切開術擁護の立場から???????????????????????????????????山本哲也*———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007迫隅角検査が必須:図1)や超音波生体顕微鏡検査で確認する必要がある.さらに,機能的隅角閉塞の有無も合わせて判定する必要があるが,これは超音波生体顕微鏡などの動的な隅角検査が可能な機器を用いない限り判定の信頼性に問題が生じやすい.Sha?er2度の狭隅角眼であってもある条件の下で機能的隅角閉塞を示すことが多いと考えられる2)が,機能的隅角閉塞はいわゆるタイプSの隅角閉塞を生じることが多く(図2,3)3),機能的隅角閉塞の存在をもって全例をレーザー虹彩切開術(瞳孔ブロック解消手術)の適応とすることには疑問の余地がある.3.レーザー虹彩切開術で眼圧がコントロールできるか?初期であればほぼ間違いなく可能であるといえる.自験例246眼を対象としたKaplan-Meier生命表法による検討で,コントロール不良を眼圧が3回連続21mmHgを超えることで定義した場合,コントロール率は周辺虹彩前癒着のない原発閉塞隅角症で98±2%,周辺虹彩前癒着を有する原発閉塞隅角症で83±8%,原発閉塞隅角緑内障で66±7%であり,周辺虹彩前癒着を有する原発閉塞隅角症と原発閉塞隅角緑内障の間には眼圧コントロール率の有意差が認められた.モンゴルでの原発閉塞隅角緑内障と原発閉塞隅角症に対するレーザー虹彩切開術の成績によれば,濾過手術施行や視力低下で不成功を定義した場合,レーザー虹彩切開術の成功率は原発閉塞隅角症で97%,原発閉塞隅角緑内障では52%と報告されている4).これらのことからわかることは,周辺虹彩前癒着が生じる前に瞳孔ブロックを解消すると緑内障性視神経症を(38)図1圧迫隅角検査により確認された周辺虹彩前癒着○の中にテント状の小型の周辺虹彩前癒着が観察される.図2機能的隅角閉塞の2型aはタイプSとよばれ,線維柱帯より高位に閉塞部位が生じ,bはタイプBとよばれ,隅角底から連続して閉塞する.ab図3超音波生体顕微鏡で観察された機能的隅角閉塞灰色:タイプS,黒色:タイプB,白色:閉塞なし.タイプSの機能的隅角閉塞の多いことがわかる.454035302520151050出現率(%)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007????生じる可能性はほとんどなくなるということであり,また,周辺虹彩前癒着を生じてから瞳孔ブロックを解消したのでは眼圧を10mmHg台に維持することが困難な症例が相当数出てくるということである.加えて,視神経症を有する症例では眼圧コントロールの可能な症例数がさらに減り,かつ,現代の考え方によれば緑内障性視神経症が進行しないためにはより厳密な眼圧コントロールが要求されるのであるから,多くの症例では薬物の追加使用,追加緑内障手術の必要性が生じ,さらに,進行を認める症例も出ることは容易に想像される.4.慢性原発閉塞隅角緑内障は緩徐に進行する疾患である浅前房眼の自然経過の研究は現在では行いにくいので,人種は異なるものの過去の研究を参考にする.Wilenskyらの報告5)では129例に対し1年ごとの経過観察を行い平均約3年の経過観察により,急性発作6.2%,慢性閉塞隅角緑内障(旧義)13.2%を認めている.本研究の対象は中心前房深度が2.0mm以下,もしくは眼科医が十分な狭隅角と判断した症例であり,比較的高度の浅前房をきたしている症例と考えられる.実際に筆者らが臨床の場で遭遇し手術治療の対象とするか否か悩む症例は,より程度の軽い浅前房眼/狭隅角眼である.そうした症例の観察記録としてはAlsbirkの報告6)をあげたい.vanHerick2度以下もしくは前房深度2.7mm以下の眼を10年後に再検査した報告である.初回検査時に隅角鏡検査にてoccludableangleとされた症例の35%(7/20眼)に原発閉塞隅角緑内障(旧義)が発症しており,occludableangleとされなかった症例の8%(4/49眼)に比べて有意に高率であった.初回検査時にはoccludableangleと判定されなかった眼で10年後にoccludableangleになったものが29%あり,10年という期間での隅角の経時変化を示している.〔原発閉塞隅角緑内障(旧義)とは,現在の緑内障性視神経症(GON)で緑内障を定義する以前の本術後の用語のこと.〕インドで実施された狭隅角眼が原発閉塞隅角症や原発閉塞隅角緑内障に進展する可能性を検討した疫学的研究では,原発閉塞隅角症の疑われる症例(隅角鏡で隅角が180?以上透見できない,周辺虹彩前癒着なし,眼圧22mmHg未満)を5年間基本的に無治療においた場合,原発閉塞隅角症(視神経変化はなく,加えて,周辺虹彩前癒着がなくて眼圧22mmHg以上または周辺虹彩前癒着を有する)に進展した割合は22%,原発閉塞隅角緑内障(視神経症あり)へ進展した症例はなかったと報告されている7).また,当初原発閉塞隅角症であった症例が5年間に原発閉塞隅角緑内障へ進展する症例は,レーザー虹彩切開術を受けた9例中の1例,レーザー虹彩切開術を受けていない19例中7例であり,進行例の割合は全例で29%であった8).このことから,狭隅角眼が,加齢に伴い,原発閉塞隅角症や原発閉塞隅角緑内障へ進展する確率の高いことが理解されるとともに,その緩慢な進行速度から,日本の診療環境できちんとした管理を行えば,原発閉塞隅角症への進展を捉えることは困難ではないことも理解できる.5.急性発作を発症以前に予測できるか?こうした研究も現在では無理であるが,以前の研究によると,急性例の反対側の発作発現確率は,特に治療を行わない状態では5~10年で40~80%9~14),縮瞳薬を使用しても39%10)と報告されている.この高い発症率から,急性原発閉塞隅角症/急性原発閉塞隅角緑内障の僚眼に対する瞳孔ブロック解消の手術適応は合理化されている.では,狭隅角眼の急性発作を事前に予測できるかというと,これは完全にはできない.負荷試験陽性は診断的意義の高いことが知られているが,負荷試験に関しては陰性例で発作の発現を否定しきれないことが重大な問題とされている.このことが,一部の識者の狭隅角眼に対する瞳孔ブロック解消手術の早期適応を合理化する根拠となっている.しかし,急性発作の発症前の予測がまったくできないわけではない.少なくとも日本人ではZinn小帯の脆弱性をきたす状況がない限り周辺虹彩前癒着をまったく生じていない狭隅角眼がいきなり急性原発閉塞隅角症をきたす可能性はかなり低い(注:急性原発閉塞隅角症の僚眼については話は別).したがって,隅角の注意深い観察は急性発作予測の一つの指標となりうる.(39)———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007IIあるべき姿上述のことを考慮すると,原発閉塞隅角症あるいは原発閉塞隅角緑内障では早期に相対的瞳孔ブロックを解消することは理にかなっていることがわかる.しかし,原発閉塞隅角症に進展する前の単なる狭隅角眼ではじっくりと(年単位で)様子を見る余裕があることも理解できる.レーザー虹彩切開術を避け,水晶体摘出手術や周辺虹彩切除術を勧める意見もあるが,原発閉塞隅角緑内障眼には浅前房,散瞳不十分などの悪条件もあり必ずしもリスクフリーではないことにも注意を払う必要がある.こうした種々の条件を考慮し,レーザー虹彩切開術(瞳孔ブロック解消手術)の適応について筆者の意見を述べると,角膜内皮異常のない症例におけるほぼ絶対的な適応(表1)として,急性原発閉塞隅角症およびその僚眼,相対的瞳孔ブロックによる周辺虹彩前癒着の存在,高眼圧の存在(開放隅角緑内障によるものでないことを確定後),視神経症の存在(言い換えると原発閉塞隅角緑内障),負荷試験陽性,をあげることができる.しかしながら,相対的な適応に関して統一的な指針を立てることはしにくい.緑内障診療ガイドライン改訂版15)では,原発閉塞隅角症と原発閉塞隅角緑内障の管理に関して,表2のように記載している.原則的には,このガイドラインの範疇で,担当医の判断により具体的な治療方針を決定することが推奨される.原発閉塞隅角症/原発閉塞隅角緑内障に対する瞳孔ブロック解消を目的とした手術の適応は,施行の適否,術式の選択も含めて,症例ごとのrisk-bene?tを考えて行うのが最善である.したがって,狭隅角眼とみればレーザー虹彩切開術(あるいはPEA/IOLに置き換えても良い)を行うといったステレオタイプの方針選択は望ましくなく,トラベクレクトミーの適応を決めるくらいに慎重な姿勢が望まれる.そうした過程を経て決定された方針は尊重されるべきである.また,緑内障管理全般に言えるのであるが,一定の範疇にあるいくつかの治療選択肢のなかから自分の決めた方針で治療しその結果を自らにフィードバックすることで自らの新しい治療基準を築いていくプロセスが原発閉塞隅角症/原発閉塞隅角緑内障の管理にも求められているということを述べて,筆を擱きたい.文献1)近藤雄司,山本哲也:レーザー虹彩切開術の適応と限界─緑内障専門医の立場から.あたらしい眼科24:855-859,20072)KunimatsuS,TomidokoroA,MishimaKetal:Preva-lenceofappositionalangleclosuredeterminedbyultra-sonicbiomicroscopyineyeswithshallowanteriorcham-bers.?????????????112:407-412,20053)SawadaA,SakumaT,YamamotoTetal:Appositionalangleclosureineyeswithnarrowangles:comparisonbetweenthefelloweyesofacuteangle-closureglaucomaandnormotensivecases.??????????6:288-292,19974)NolanWP,FosterPJ,DevereuxJGetal:YAGlaseriri-dotomytreatmentforprimaryangleclosureineastAsianeyes.???????????????84:1255-1259,20005)WilenskyJT,KaufmanPL,FrohlichsteinDetal:Follow-upofangle-closureglaucomasuspects.????????????????115:338-346,19936)AlsbirkPH:Anatomicalriskfactorsinprimaryangle-clo-sureglaucoma.Atenyearfollowupsurveybasedonlim-balandaxialanteriorchamberdepthinahighriskpopu-(40)表1角膜内皮異常のない症例におけるレーザー虹彩切開術(瞳孔ブロック解消手術)の絶対的な適応(山本,2007)①急性原発閉塞隅角症およびその僚眼②相対的瞳孔ブロックによる周辺虹彩前癒着の存在③高眼圧の存在(開放隅角緑内障によるものでないことを確定後)④視神経症の存在(原発閉塞隅角緑内障)⑤負荷試験陽性表2「原発閉塞隅角緑内障の治療」に関するガイドライン相対的瞳孔ブロックによる原発閉塞隅角緑内障虹彩切開術あるいは虹彩切除術による瞳孔ブロック解除が根本的治療法であり,治療の第1選択である.有水晶体眼では水晶体摘出も有効であるが,白内障手術の適応のない例に,瞳孔ブロック解除を目的とした水晶体摘出を行うことについては意見が分かれる.薬物治療による眼圧下降は瞳孔ブロック解消後にも遷延する高眼圧(残余緑内障:residualglaucoma)に対する治療法として,あるいは急性緑内障発作などの例では症状や所見を緩和し,さらにレーザー虹彩切開術や虹彩切除術の施行を容易にし,安全性を高める目的で行われる.また,ほとんどの例が両眼性であることから,片眼に原発閉塞隅角症,あるいは急性緑内障発作もしくは慢性閉塞隅角緑内障がみられた場合は,他眼に対しても予防的なレーザー虹彩切開術や虹彩切除術を行う.(緑内障診療ガイドライン改訂版15)より引用)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007????lation.??????????????16:265-272,19927)ThomasR,GeorgeR,ParikhRetal:Fiveyearriskofprogressionofprimaryangleclosuresuspectstoprimaryangleclosure:apopulationbasedstudy.????????????????87:450-454,20038)ThomasR,ParikhR,MuliyilJetal:Five-yearriskofprogressionofprimaryangleclosuretoprimaryangleclo-sureglaucoma:apopulation-basedstudy.??????????????????????81:480-485,20039)BainWES:Thefelloweyeinacuteclosed-angleglauco-ma.???????????????41:193-199,195710)LoweRF:Acuteangle-closureglaucoma.Thesecondeye:ananalysisof200cases.???????????????46:641-650,1962(41)11)RitzingerI,BenediktO,DirisamerF:Surgicalorconser-vativeprophylaxisofthepartnereyeafterprimaryacuteangleblockglaucoma.?????????????????????????164:645-649,197412)SnowTI:Valueofprophylacticperipheraliridectomyonthesecondeyeinangle-closureglaucoma.????????????????????????97:189-191,197713)WollensakJ,EhrhornJ:Angleblockglaucomaandpro-phylacticiridectomyintheeyewithoutsymptoms.?????????????????????????167:791-795,197514)HyamsSW,FriedmanZ,KeroubC:Felloweyeinangle-closureglaucoma.???????????????59:207-210,197515)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第2版.日眼会誌110:777-814,2006年間予約購読ご案内眼における現在から未来への情報を提供!あたらしい眼科2007Vol.24月刊/毎月30日発行A4変形判総140頁定価/通常号2,415円(本体2,300円+税)(送料140円)増刊号6,300円(本体6,000円+税)(送料204円)年間予約購読料32,382円(増刊1冊含13冊)(本体30,840円+税)(送料弊社負担)最新情報を,整理された総説として提供!眼科手術2007Vol.20■毎号の構成■季刊/1・4・7・10月発行A4変形判総140頁定価2,520円(本体2,400円+税)(送料160円)年間予約購読料10,080円(本体9,600円+税)(4冊)(送料弊社負担)日本眼科手術学会誌【特集】毎号特集テーマと編集者を定め,基本的事項と境界領域についての解説記事を掲載.【原著】眼科の未来を切り開く原著論文を医学・薬学・理学・工学など多方面から募って掲載.【連載】セミナー(写真・コンタクトレンズ・眼内レンズ・屈折矯正手術・緑内障・光線力学的療法・眼感染症)新しい治療と検査/眼科医のための先端医療他【その他】トピックス・ニュース他■毎号の構成■【特集】あらゆる眼科手術のそれぞれの時点における最も新しい考え方を総説の形で読者に伝達.【原著】査読に合格した質の高い原著論文を掲載.【その他】トピックス・ニューインストルメント他株式会社メディカル葵出版〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替00100-5-69315電話(03)3811-0544お申込方法:おとりつけの書店,また,その便宜のない場合は直接弊社あてご注文ください.http://www.medical-aoi.co.jp