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眼感染症:常在微生物叢と眼感染症

2008年1月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008590910-1810/08/\100/頁/JCLS眼感染症の発症機序は大別して2つあり,外傷や飛入により眼の外から病原体が持ち込まれる場合と,眼表面に存在する常在微生物が増殖して発症する場合がある.近年は薬剤耐性を獲得した常在微生物による感染症が増えており,結膜炎,角膜炎といった前眼部感染のほか,術後眼内炎の原因となる.眼感染症を正しく診断,あるいは予防するためには,常在微生物叢に関する知識をもち,薬剤耐性化に注意せねばならない.在微生物叢とは皮膚や眼,消化管など外界と接する身体各部の表面には,一定の微生物群が互いにバランスを保って存在し,これらの微生物群を一括して「常在微生物叢」とよぶ.そのほとんどは細菌であるため「常在細菌叢」あるいは「正常細菌叢」ともよばれるが,真菌やウイルスも存在する.常在微生物叢は,ホストの要因(年齢,性,薬剤の服用,免疫力など)や外的要因(点眼,微生物の侵入など)によって菌量や構成パターンが変動する.たとえば,ホストの免疫力が低下すると常在微生物叢が増殖する(日和見感染).また薬剤投与という外因によって微生物叢のバランスが崩れると,特定の菌のみが増殖する(菌交代現象).常在微生物叢は外来性の微生物,特に病原微生物に拮抗し,それらの侵入や増殖を防いでいる.一方で常在微生物叢の均衡が破綻し,ある菌のみが過剰に増殖すると,生体にとって不利な状況すなわち「感染症」となる.表面と常在微生物眼表面にも常在微生物が恒常的に存在し,表皮ブドウ球菌,コリネバクテリウム,アクネ菌などの細菌が健常な結膜から検出される1).ほとんどは病原性の乏しい弱毒菌であるが,黄色ブドウ球菌など病原性の高い菌も検出される.宿主が常在細菌に反応しない理由として,上田らは自然免疫に注目し,病原体認識機構であるTolllikereceptors(TLRs)について検討した.その結果,マクロファージでは細胞表面に発現し,細菌の菌体成分(PGNやLPS)に反応するTLR2やTLR4が,角膜上皮では細胞内に発現し,細胞表面のPGNやLPSに反応しなかった2).眼表面上皮は常在細菌に反応しないための機構を有すると考えられる.在微生物の薬剤耐性化1.ブドウ球菌①薬剤投与による耐性化表皮ブドウ球菌などのコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)と黄色ブドウ球菌は結膜の常在細菌であり,その多くは一般的な抗菌点眼薬で容易に菌の増殖が抑制される.長期に抗菌薬が点眼されると眼表面において菌交代現象が生じて,使用している抗菌薬の効かない菌のみが存在する状態,すなわちメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(MR-CNS)やメチシリン耐性黄色ブドウ球(59)眼感染アレルーー感染症と生体防●連載①監修=木下茂大橋裕一1.常在微生物叢と眼感染症外園千恵京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学眼表面には常在微生物叢が存在し,通常は病原性を有さないが日和見感染や術後眼内炎の原因となる.近年は薬剤耐性化した常在細菌による感染症が増えており,結膜炎,角膜炎などの前眼部感染のほか,術後眼内炎が問題となる.常在微生物の薬剤耐性化に注意し,発症時には塗抹検鏡と培養検査の両方を行うことが有用である.表1代表的な常在細菌とグラム染色グラム性球菌グラム性菌ブドウ球菌色ブドウ球菌レ球菌球菌コリネバクテリウムバクテリウムクネ菌バのバクテリウムの性菌の菌———————————————————————-Page260あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008菌(MRSA)が常在細菌となる.さらにステロイドが使用されると,弱毒菌による日和見感染を発症しやすくなり,MRSAあるいはMR-CNSによる感染症を発症する.たとえば,角膜移植後は糸の緩みなどが契機となって移植片に感染症を生じるが,起炎菌としてMRSAと酵母型真菌が多い3).このことは術後投薬(抗菌薬,ステロイド)による常在微生物叢の変化と密接に関係する.②健常結膜における耐性ブドウ球菌高齢者の健常な結膜から,少数ではあるが薬剤耐性を獲得したMR-CNS,MRSAが常在細菌として検出される4).あるいは,アトピー性皮膚炎患者において白内障術前に結膜からMRSAを検出することがある.このように,特に眼局所に投薬しておらず,充血も眼脂もない結膜から耐性菌を検出することは,手術や外傷で耐性菌が眼内に持ち込まれて眼内炎を発症するリスク因子となる.さらには,健常な小児や成人が市中型MRSAを無症候性に有することがある.市中型MRSAについては本シリーズの次回で記載する.2.コリネバクテリウムコリネバクテリウムも常在細菌叢の主要メンバーであり,通常は病原性に乏しい.しかしレボフロキサシン(LVFX)耐性コリネバクテリウムが増えてきつつあり,眼感染症の原因となりうる(図1の症例).3.その他ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)による角膜炎はMRSA感染と同様に抗菌薬の長期投与,日和見感染で生じる.b-ラクタマーゼ陰性アンピシリン耐性ヘモフィリス(BLNAR)による眼感染症も今後問題になる可能性がある.感染症の診断培養検査で菌を検出しただけでは,起炎菌と断定することはできない.菌量と,どのような生体反応を示しているかが重要な判断材料となり,塗抹検鏡が有用である.図1の症例は,塗抹検鏡で好中球に貪食されるグラム陽性桿菌を多数認め,培養でLVFX耐性コリネバクテリウムを検出した.このように塗抹検鏡と培養検査で同じ菌を同定し,貪食像があれば起炎菌といえる.細菌検査機関が,これは常在細菌である,という理由で薬剤感受性試験を省略することがあり注意を要する.さらには検査結果そのものが省略され,「菌を検出せず」などと報告されることがある.「難治性結膜炎であり,薬剤感受性試験をお願いします.」あるいは「耐性化した常在細菌による感染症を疑っています.」など,依頼内容を明確にして検査を行う.文献1)原二郎:眼瞼・結膜の常在細菌叢について教えてください.あたらしい眼科17(臨増):5-7,20002)UetaM,NochiT,JangMHetal:IntracellularlyexpressedTLR2sandTLR4scontributiontoanimmu-nosilentenvironmentattheocularmucosalepithelium.JImmunol173:3337-3347,20043)脇舛耕一,外園千恵,木下茂ほか:角膜移植術後の角膜感染症に関する検討.日眼会誌108:354-358,20044)KatoT,HayasakaS:Methicillin-resistantStaphylococcusaureusandmethicillin-resistantcoagulase-negativestaph-ylococcifromconjunctivasofpreoperativepatients.JpnJOphthalmol42:461-465,1998(60)図1帯状角膜変性に対する治療的レーザー表層角膜切除術後の角膜感染症a:前眼部所見.角膜表層の細胞浸潤(*)と前房蓄膿を認める.b:病巣部の塗抹検鏡.多数のグラム陽性桿菌(小矢印)と好中球の貪食像(大矢印)を認める.a*b

緑内障:緑内障治療薬-後発品と先発品の比較

2008年1月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008570910-1810/08/\100/頁/JCLS医療費削減の必要性が唱えられている現在,治療薬を処方する際に後発品が注目されるようになってきた.特に緑内障のような慢性疾患に対して後発品を処方する場合,治療期間が長期にわたるためそのメリットは大きくなる.しかし,医療費削減の切り札として期待される後発品は先発品と比較して劣っていない点と劣っている点がある.表1に後発品が先発品と比較して劣っていない点と劣っている点を示した.後発品が先発品に劣っていない点を生かすために,その経済性なども理解しておく必要がある一方,劣っている点として,すべての薬剤に後発品は発売されていないことなどの確認も重要である(表1).本稿では,緑内障治療薬の後発品が先発品に劣っていない点と劣っている点について解説する.売されている後発品は?現在,国内では濃度も区別に含めると25種類の緑内障点眼薬が発売されているが,そのうち何種類の点眼薬に後発品が存在するのだろうか?(57)載緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄91.緑内障治療薬─後発品と先発品の比較池田博昭*1塚本秀利*2*1広島大学病院臨床研究部*2高山眼科最近,医療費削減のため,後発品が医師のみならず患者の間でも注目されるようになってきた.しかし,後発品は先発品と比較して劣っていない点と劣っている点があり,その選択にはこれらの特徴をよく理解して処方する必要がある.表1後発品が先発品と比較して劣っていない点と劣っている点劣っていない点劣っている点発売されている後発品は?がしがれ先発品に後発品が発売されるが薬価のい薬にがであるがしがれていて先発品の薬価がいがさいと後発品は発売されないとある後発品は本当に安い?先発品に比て薬価がいのでの薬でのはる後発品と先発品の薬価にのない薬のなるとが先発品と同しはるがある後発品の適応症・効果・副作用は先発品と同一?先発品に効効果がされない同一先発品に効効果がされ用用適応症が一になる後発品の中身は先発品と同一?後発品は先発品と同のとで売され薬の品が同であるとのやなは先発品と後発品後発品でなる後発品は安定供給できる?点眼薬にし後発品がある医薬品ののがしている後発品の医薬品情報は提供される?先発品と同に後発品の情報できるの載内め情報提供は先発品に比劣る表2緑内障点眼薬の後発品の有無(2007.12現在)後発品のある点眼薬後発品の銘柄数後発品のない点眼薬0.25%チモプトールR6キサラタンRデタントールR0.5%チモプトールR7トラバタンズRエイゾプトR1%ミケランR5レスキュラRトルソプトR(0.5%,1%)2%ミケランR5チモプトールRXE(0.25%,0.5%)ピバレフリンR(0.04%,0.1%)ベトプティックRS2ミロルRウブレチドR(0.5%,1%)ハイパジールRコーワニプラノールR5リズモンRTG(0.25%,0.5%)1%サンピロR12%サンピロR1———————————————————————-Page258あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008後発品は先発品の再審査期間が終了し,かつ特許切れ後に発売されることから,すべての先発品に対して後発品が存在するわけではない.後発品が存在する点眼薬と存在しない点眼薬を表2に示す.後発品が存在する点眼薬は9種類,しない点眼薬は16種類である.なお,ジピベフリン0.1%の後発品は2007年3月末に販売が中止となっているが,経過措置期間まで保険請求は可能である.発品は本当に安い?後発品の薬価は,その後発品が発売された時期に応じて先発品の薬価の7割に設定されている.たとえば,2007年夏に発売されたニプラジロールの後発品は先発品の7割の薬価であるのに対し,1981年に発売したチモロールの後発品の最も低い薬価は2割程度まで低下している.先発品と後発品の薬価を表3に示す.なお,後発品が複数存在する場合は最も低い価格を示した.また,先発品の薬価が経年的に低下するに従い後発品の薬価も低下するが,その低下率は後発品が大きい.0.5%チモロールの薬価は1995年当時で先発品が3,056円,後発品が2,020円であったのに対し,2007年の時点で先発品が2,107円(69%),後発品が463円(23%)と後発品の低下率が大きい.一方,1967年に発売したピロカルピンは2007年現在,先発品と後発品が同一の薬価になっている.すべての後発品が先発品に比べて低価格とは限らない.では,後発品を処方した場合,実際の医療現場ではどの程度安くなるのであろうか?たとえば,0.5%チモロールの先発品と後発品の最大薬価差は1,644円(表3)で,自己負担が3割の患者の場合,先発品を後発品に変更した場合,1本の最大の薬剤費用負担差は約500円になる.しかし,0.5%チモロールの先発品と先の後発品の1本当たり滴下できる滴数は各々151滴と118滴で,点眼できる期間は37日と29日(1日2回,1回1滴を両眼にした場合)と異なる.各々の薬価を滴数で除した1滴薬価は14円と4円,1日の理論的薬剤費用(1日2回,1回1滴を両眼にした場合)を算出すると薬価費用差は40円となる.自己負担が3割の患者の場合,後発品と先発品の最大の薬剤費用負担差は1日に12円(月間360円)となる.後発品の適応症・効果・副作用や中身は先発品と同一?後発品は動物での薬理試験データで有効性を確認しているが,安全性に特化した試験は行っていない.後発品は臨床試験(第Ⅲ相試験)を行っていない場合が多く,添加物の種類や添加量の異なる先発品と効果・副作用を正確に比べることはむずかしい.発品は安定供給できる?後発品が発売される際,厚生労働省は安定供給の指導を行っている.医薬品卸会社から入手できない後発品もあることから,予め供給ルート・日数などを確認しておく必要がある.ジピベフリン0.1%の後発品は1998年に数社から発売されたが,2007年3月には発売が中止されている.発品の医薬品情報は提供される?後発品の添付文書には,臨床試験(治験),使用成績調査(再審査終了時),薬物動態,臨床成績,薬効薬理(作用機序)などが記載されていない.添加剤の塩化ベンザルコニウムは記載されているが,等張化のための添加剤は記載されていない.塩化ベンザルコニウム濃度の違いで角膜潰瘍の発現率が異なることが判明しているので,後発品はできるかぎり情報を開示することが望ましい.まとめ以上,後発品が先発品と比較して劣っていない点と劣っている点について説明した.私たちは,劣っていない点と劣っている点を理解して,後発品を適切に使用する必要がある.(58)表3後発品のある緑内障点眼薬の薬価比較(2007.12現在)後発品のある点眼薬先発品の薬価(円)後発品のうち最も低い薬価(円)薬価の差(円)後発品薬価/先発品薬価0.25%チモプトールR1,4153461,0690.20.5%チモプトールR2,1074631,6440.21%ミケランR1,1916335580.52%ミケランR1,7238738510.5ベトプティックRS2,2561,6376190.7ハイパジールRコーワニプラノールR2,4681,7277410.71%サンピロR70470401.02%サンピロR85485401.0薬価は1本当たり.

屈折矯正手術:有水晶体眼内レンズとLASIKの比較

2008年1月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008550910-1810/08/\100/頁/JCLS屈折矯正手術の主流はLASIK(laserinsitukerato-mileusis)であるが,医原性角膜拡張症(keratecta-sia)の発症リスクを避ける意味で,高度近視や角膜が薄い症例では少なからず制限を受ける.本来角膜が備え合わせる優れた光学特性や生体力学特性を低下させることも無視できない.さらには,角膜の創傷治癒反応には個体差があり,矯正量が大きいほど予測精度や安定性に悪影響を及ぼすと考えられる.それらの欠点を補うべく有水晶体眼内レンズ(phakicintraocularlens:phakicIOL)が開発されたが,高い安全性・有効性だけでなく術後視機能の優位性が報告されている.理由としては,第一にLASIKによる角膜中央部の切除により,角膜形状がprolateからoblateshapeへの変化に伴う球面収差の増加1)およびフラップ作製や照射ずれに起因するコマ収差の増加も含め,矯正量が大きくなるほど高次収差が増加すること,第二にphakicIOLでは瞳孔に非常に近い位置で矯正を行うため,網膜像の倍率変化を生じにくいことがあげられる(図1).これは屈折矯正手術を行ううえで重要であり,phakicIOLは最適な部位であることを意味する.高度近視における自験例での検討では,後房型phak-icIOL(implantablecollamerlens:ICLTM)はwave-front-guidedLASIKに比較して安全性・有効性が高かった.また,予測精度や安定性に関しても,ICLTMでは個体差のある角膜創傷治癒反応を受けにくく,over-shoot(遠視化)やregression(再近視化)も起こらず(図2),ICLTMの優位性は明らかであった.術後眼球全体の高次収差に関してもLASIKでは有意な増加を示したのに対して,ICLTMでは有意な変化を認めなかった.特に球面様収差は,LASIKでは有意な増加を示したが,ICLTMではほぼ不変であった.コントラスト感度もLASIKでは有意に低下したが,ICLTMでは有意に上昇した(図3).LASIK後regressionによる再照射を要した症例が4.0%に認められたが,その他明らかな術中・(55)屈折矯正手術スップ●連載監修=木下茂大橋裕一坪田一男92.有水晶体眼内レンズとLASIKの比較神谷和孝北里大学医学部眼科有水晶体眼内レンズ(phakicIOL)は,LASIKに比較して高い安全性・有効性だけでなく術後視機能の優位性が報告されている.角膜創傷治癒反応も受けにくいため,予測精度・安定性もきわめて良好である.これまで高度近視や角膜が薄い症例が良い適応と考えられていたが,中等度近視にまで適応が拡大しつつある.図1網膜像の倍率変化PhakicIOLでは近視量が大きくなっても,網膜像の倍率変化は無視しうる.一方,LASIKでは近視量が大きくなるほど,網膜像倍率は低下する.0.91.01.1-10.0矯正度数(D)網膜像倍率:LASIK:phakicIOL6.04.02.00.0-2.0-4.0-6.0-8.0図2PhakicIOLとwavefrontguidedLASIKの安定性の比較PhakicIOLでは角膜創傷治癒反応にほとんど影響されず,術翌日以降,屈折が安定している.一方,LASIKではovershootやregressionを生じている.-15.0-10.0-5.00.05.0術前1日1週1カ月3カ月6カ月1年等価球面度数(D):phakicIOL:LASIK術後期間———————————————————————-Page256あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008術後合併症を認めなかった.参考までに,自験例によるICLTM手術全体における白内障発生率は1.9%であった.Sandersらは,中等度・高度近視眼においてICLTMは安全性・有効性・予測精度・安定性いずれもLASIKより良好な結果であったとしている2).また,Hrubaらは,10diopters(D)以上の症例においてICLTMはLASIKより早期に視力が回復し,予測精度・安定性に優れ,合併症も少ないとしている3).一方,Malecazeらは,812Dまでの症例において虹彩支持型pha-kicIOL(ArtisanTM)とLASIKを比較したところ,予測精度は同様であったが,矯正視力や術後視機能はphak-icIOLのほうが良好であったと報告している4).ではいったい,どの程度の近視にまでphakicIOLは適応となるのであろうか?これに対して現時点では明確な回答は得られていない.しかしながら,最近Sandersらは,軽度近視眼におけるICLTMとLASIKの比較を行い,安全性・有効性・予測精度・安定性すべてにおいてICLTMがLASIKより良好であったと報告している5).中等度近視における自験例での検討においても,高度近視ほどではないが,ICLTMはLASIKに比較して安全性・有効性が高かった.もちろん,phakicIOLは長期的な予後が不明であり,虹彩支持型(ArtisanTM,Arti-exTM)では術後炎症や角膜内皮障害,後房型(ICLTM)では二次性白内障といった克服しなければならない問題点も確かに存在する.しかしながら,これらの結果を考慮すると今後phakicIOLの適応は高度近視のみならず,軽度・中等度近視へ拡大していくのではないかと推測される.文献1)HershPS,FryK,BlakerJW:Sphericalaberrationafterlaserinsitukeratomileusisandphotorefractivekeratecto-my.Clinicalresultsandtheoreticalmodelsofetiology.JCataractRefractSurg29:2096-2104,20032)SandersDR,VukichJA:Comparisonofimplantablecon-tactlensandlaserassistedinsitukeratomileusisformod-eratetohighmyopia.Cornea22:324-331,20033)HrubaH,VlkovaE,HorackovaMetal:ComparisonofclinicalresultsbetweenLASIKmethodandICLimplanta-tioninhighmyopia.CeskSlovOftalmol60:180-191,20044)MalecazeFJ,HulinH,BiererPetal:Arandomizedpairedeyecomparisonoftwotechniquesfortreatingmoderatelyhighmyopia:LASIKandartisanphakiclens.Ophthalmology109:1622-1630,20025)SandersD,VukichJA:Comparisonofimplantablecollam-erlens(ICL)andlaser-assistedinsitukeratomileusis(LASIK)forlowmyopia.Cornea25:1139-1146,2006(56)☆☆☆●●●●●●●●●●LASIKPhakicIOL●:術後●:術前●●●●●●●●●●空間周波数(c/d)1.5361218空間周波数(c/d)1.536121830020010050201052.33.512510205030020010050201052.33.5125102050コントラスト感度図3PhakicIOLとwavefrontguidedLASIKのコントラスト感度の比較PhakicIOLでは術後コントラスト感度が有意に上昇するのに対し,LASIKでは有意に低下する.

眼内レンズ:嚢内眼内レンズの前房中脱臼

2008年1月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008530910-1810/08/\100/頁/JCLS白内障手術後に,水晶体に固定されたままの眼内レンズ(intraocularlens:IOL)偏位や脱臼の報告はこれまでにもいくつかの報告がある1,2).しかし,前房内に内固定のままIOLが完全に脱臼した症例はまれである3).今回筆者らは,両眼IOLが内に固定されたまま前房内脱臼し,眼圧上昇,角膜内皮障害をきたした症例を経験したので報告する.例患者:78歳,女性.主訴:両眼視力低下.現病歴:2002年3月,前医にて両眼白内障に対し超音波水晶体乳化吸引術(PEA)およびIOL挿入術を施行された.術中合併症はなくIOLは内固定された.IOLは3ピースアクリルレンズ(全長6mm,光学部13mm)で,術直後の視力は右眼0.3×IOL(1.0×+1.00D(cyl1.50DAx100°),左眼0.7×IOL(1.0×+1.25D(cyl1.50DAx80°)であった.術後IOL振盪は認めていなかった.2005年1月定期受診時には両眼IOLの瞳孔捕獲を認めた.2006年5月定期受診時,右眼IOLが内に固定されたまま前房内に脱臼していた.左眼の瞳孔捕獲は解除されていた.視力は右眼(0.1×0.50D(cyl1.50DAx9°),左眼(0.3×0.25D(cyl1.50DAx9°)と低下していた.2007年2月転倒後より視力低下を認め,前医を受診した際,両眼IOLが内固定のまま前房内脱臼を認めたため,北里大学病院眼科(以下,当科)を紹介され受診となった.既往歴:糖尿病,認知症.家族歴:特記すべきことなし.来院時所見:視力は右眼0.02×IOL(0.03×8.00D),左眼光覚なし.眼圧は右眼20mmHg,左眼60mmHgであった.両眼IOLが内固定のまま前房内に脱臼し(53)ていた(図1,2).右眼は脱臼したIOLが角膜内皮に接触しており,左眼は前房内に炎症と凝血塊を認め,隅角鏡検査にてほぼ全周に周辺虹彩前癒着(PAS)を認めた.角膜内皮細胞密度は右眼1,492個/mm2,左眼1,891個/mm2であった.視神経は両眼ともに蒼白であった.山根史佳天野理恵清水公也北里大学医学部眼科眼内レンズー監修/大鹿哲郎257.内眼内レンズの前房中脱臼内固定した眼内レンズ(IOL)が両眼とも前房内に脱臼した症例を経験したので報告する.IOL前房内偏位は角膜内皮障害や続発緑内障など不可逆的な合併症を生じ,その処置に緊急性を要する.白内障術後,長期にわたる経過観察の必要性を再認識した.図1初診時の右眼前眼部写真眼内レンズが内固定のまま前房内に脱臼し,ループが角膜内皮に接触している.2初診時の左眼前眼部写真眼内レンズは内固定のまま前房内に脱臼し,前房内に炎症と凝血塊を認めた.隅角にはほぼ全周にPASを認めた.———————————————————————-Page254あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008(00)治療および経過:今回視力の比較的良好であった右眼のIOL摘出術を勧めたが,本人,家族の希望により,2007年3月右眼は既存IOLの縫着術を施行し,左眼は経過観察とした.上方に2.8mmの角膜切開を行い,IOLのループのみを創口より出して(図3),角膜輪部より2mmの位置,3時と9時の2カ所でポリプロピレン糸にて縫着を行った.術後視力は右眼0.1×IOL(0.1×+1.00D(cyl2.00DAx130°).現在経過観察中である.本症例は78歳と高齢であり,Zinn小帯が経年変化により脆弱化していたと考えられる.そこに転倒,打撲などの外力が加わり,さらにZinn小帯の断裂が起こり,後方からの硝子体圧により瞳孔捕獲が起こった.そして対光反応などの瞳孔の運動により,徐々にZinn小帯の断裂が進み完全断裂し,前房内に脱臼したと考えられる.IOLが前房内に脱臼した場合には角膜内皮障害や続発緑内障をきたすことがある.その結果,不可逆的な視機能障害をきたす可能性があるため,その処置に緊急性を要する.高齢者は,Zinn小帯の経年変化による脆弱化に加え,転倒などの外傷の頻度も増加するため,IOLの偏位をきたす危険がある.当科において,平成18年7月からの1年間だけで28例29眼のIOL偏位により観血的治療を必要とした症例を経験した.白内障手術の増加により,今後もIOLが偏位する症例の増加が予想され,白内障術後の長期にわたる経過観察の必要性を再認識した.文献1)幾井重行,佐藤文平,田尻健介ほか:眼内レンズが内固定のまま硝子体中で脱臼した1例.眼科手術18:539-542,20052)加藤桃子,木村亮二,加藤整ほか:眼内レンズ位置異常をきたした症例の検討.眼科手術20:103-107,20073)神野英生,渡辺朗,神前賢一ほか:眼内レンズが内固定のまま前房内に脱臼したアトピー性皮膚炎の1例.眼科手術18:221-223,20053術中写真上方より2.8mmの角膜切開を行い,眼内レンズのループのみを創口より出して操作を行った.

コンタクトレンズ:円錐角膜へのハードコンタクトレンズ処方(1)  -仮面円錐角膜(masked keratoconus)を見抜く-

2008年1月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008510910-1810/08/\100/頁/JCLS円錐角膜へのハードコンタクトレンズ(HCL)処方について,今回から5回にわたって解説する.1回目は診断,2回目はHCL単独処方,3回目はHCLベベルの修正,4回目はピギーバックレンズシステム,5回目は急性水腫のHCLを用いた治療について,私見を交えながら解説しようと思う.今回はHCLを処方する前に避けては通れない円錐角膜の早期発見について述べる.「円錐角膜の早期発見に意義はあるのか?」すなわち,円錐角膜を早期に発見して的確なHCL装用をさせれば,進行抑制が可能なのかという点について,はっきり結論づけた論文はみつからない.ただ,筆者らの印象では,円錐角膜進行例におけるDescemet膜破裂の症例では,HCLを処方されていなかったり,または処方されていてもHCL不耐症で装用していなかったケースが実に多い.逆に,筆者らが初期の段階からHCLを処方して経過観察を行っている数百人のケースにおいて,Descem-et膜破裂に至った例をみたことがないので,ある程度的確なHCLを装用していれば,円錐角膜の進行は抑制できるのではないかという仮説は十分通用すると考えている.円錐角膜の早期発見に意義があるとすると,これを見逃すことは眼科医として面目が立たなくなるのであるが,東京医科歯科大学の円錐角膜外来にたどり着くまで,何人かの眼科専門医の診断をすり抜けてきた円錐角膜のなかには,確かに診断がむずかしいと思われる症例があり,これを筆者らは仮面円錐角膜(maskedkerato-conus)とよんで整理している.<仮面円錐角膜タイプ1>屈折矯正視力検査をすり抜けてしまうタイプ.矯正視力が出にくい,乱視度数が強いといった状況で初めて疑われることの多い円錐角膜であるが,図1の右眼のように角膜形状がシンメトリーな場合,矯正視力は1.2まで出てしまう場合があり,ただの直乱視として片づけられてしまうことが多い.HCLを装用したときのフィッティ(51)黒石川誠佐野研二東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学コンタクトレンズー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純1仮面円錐角膜タイプ1のカラーコードマップVD=0.3(1.2×0.25D(cy13.0DAx50°),VS=1.5p(n.c.)で矯正視力は良好である.2仮面円錐角膜タイプ2のカラーコードマップ3図2と同一症例のHCL脱後30分のカラーコードマップ———————————————————————-Page252あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008(00)ングパターンも,直乱視のそれと酷似しており,よく見逃される.非球面デザインHCLのフィッティングパターンの評価には,特に気をつけなければならない.対策は角膜形状解析に尽きる.最近はレフラクトケラトメータに付属したような普及機も登場しているので,ぜひ一台は持っていたい.<仮面円錐角膜タイプ2>タイプ2は,角膜形状解析検査さえすり抜けてしまうタイプ.たとえば,図2の左眼のカラーコードマップを見て,一体どれだけの眼科医が円錐角膜を疑うだろうか?図3が,この症例の本来の角膜形状である.円錐角膜の8割が両眼性であることを考えると,右眼が円錐角膜であることから,左眼も円錐角膜として間違いないだろう.こうした見落としの原因は本症例で装用していたHCLによるオルソケラトロジー効果による角膜のみかけ上の球面化である.対策は,HCL装用者の場合,レンズを外して最低20分経ってから角膜形状解析検査をすることである.HCL脱後,角膜形状は2週間ほどかけて本来の形状に戻るが,はじめの20分間は特に変化が大きく,円錐角膜を見抜くには十分な時間だからである.こうした仮面円錐角膜の概念を頭に入れていれば,日常診療のなかでの見逃しも,ぐっと少なくなるのではないかと思う.次号では,円錐角膜の視力補正の基本である,HCL単独処方のコツについて解説する.

写真:アシナガバチによる角膜刺傷

2008年1月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008490910-1810/08/\100/頁/JCLS(49)坂根由梨山口昌彦愛媛大学医学部眼科ミナー監修/島﨑潤横井則彦284.アシナガバチによる角膜刺傷図1アシナガバチによる角膜刺傷(45歳,女性)右眼角膜中央付近に5mm大の類円形の角膜浮腫と細胞浸潤がみられた.中央部は強いDescemet膜皺襞を認めたが,角膜後面沈着物および前房炎症は明らかではなかった.図3図1と同一症例のフルオレセイン染色刺傷部位に一致した上皮欠損を認めた.図4再燃時の前眼部所見治癒約3カ月半後に角膜炎が再燃.前回の受傷部位とほぼ同部位に6mm大の類円形の浮腫と細胞浸潤を認め,上方に2つ,下方周辺部に4つの浸潤病巣を認めた.前房内に炎症所見はなく,角膜上皮欠損はみられなかった.図2図1のシェーマ①:角膜浮腫,②:細胞浸潤,③:前房内炎症(-).③①②———————————————————————-Page250あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008(00)ハチによる角膜刺傷の報告は多数みられるが,それらの報告を検討すると,ハチの種類,受傷した季節,受傷深度,注入された毒量,受傷者の感受性などにより,その臨床像や予後は必ずしも画一的ではないことがわかる.特にハチの種類による予後の差は明らかであり,強毒性のスズメバチやクマバチの場合,水疱性角膜症,白内障,虹彩萎縮,続発緑内障,網膜の高度な障害にまで至るケース1,2)も多いのに対し,弱毒性のミツバチやアシナガバチの場合,最終的にわずかな角膜混濁を残すのみで,視力予後は比較的良好なケースがほとんどである3,4).三木ら1)がまとめた19611991年までのわが国におけるスズメバチ眼球刺傷の報告13例では,刺傷部位が前房まで至るケースが10例(77%)であり,最終視力は角膜移植を施行された2例を除けばすべて0.2以下で,5例(45%)が失明に至っている.また,中澤ら3)がまとめた19531994年までのアシナガバチ眼球刺傷の報告12例では,角膜でとどまっているケースが10例(85%)を占め,最終視力も11例(92%)が0.8以上と非常に良好である.治療としては,前房中に毒液が入った場合,できるだけ早期の前房洗浄をすべきとされており,消炎のためステロイドの点眼や全身投与,アトロピンの点眼などが必要である.スズメバチによる刺傷の場合は,早期では前房洗浄などの処置や,長期的には水疱性角膜症に対する角膜移植や白内障手術などの外科的治療を必要とすることも多い.それに比し,アシナガバチによる刺傷は,点眼などの保存的治療のみでも治癒することが多い.今回はアシナガバチによる刺傷で,特異な経過をたどった1症例4)を提示する.〔症例〕45歳,女性.庭で草むしりをしていた際,アシナガバチに右眼を刺され受診した.初診時角膜中央付近に,5mm大の類円形の角膜浮腫と細胞浸潤がみられ,強いDescemet膜皺襞を認めたが,前房炎症は明らかではなく(図1),刺傷部位に一致した角膜上皮欠損を認めた(図3).経過:レボフロキサシンおよびベタメタゾン点眼と,メチルプレドニゾロン眼軟膏を開始し,デキサメタゾン結膜下注射を3日行った.全身的には,プレドニゾロンを20mgから漸減投与した.1カ月後には視力(1.2)まで回復し,角膜もわずかに混濁を残すのみであったが,受傷約3カ月半後,角膜炎の再燃が生じた.前回の受傷部位とほぼ同部位に,上皮欠損を伴わない6mm大の類円形の角膜浮腫と細胞浸潤があり,その周辺にも浸潤病巣がみられた(図4).ヘルペスによる円板状角膜炎なども疑われたが,主病巣が前回の受傷部位に一致し,角膜上皮欠損を伴わない細胞浸潤を認め,血清中のアシナガバチIgE(免疫グロブリンE)抗体価が上昇していたことから,アレルギー反応と考え,ベタメタゾン点眼を開始したところ,角膜浸潤は改善し,消失した.その後,病巣の再燃は認めていない.本症例で角膜炎が再燃した理由として,角膜は血管の存在しない免疫学的に特異な臓器であるため,受傷時のハチ毒抗原が十分にクリアランスされないまま角膜実質内に残存し,ステロイド漸減により徐々に免疫抑制状態が解けた時点で,実質内にアレルギー反応が生じた可能性が考えられる.過去の報告では,本症例のような経過をたどった例はないが,予後良好とされるアシナガバチの刺傷においても,角膜炎の再燃を念頭に入れた長期間の経過観察が必要であると考えられた.文献1)三木淳司,阿部達也,白鳥敦ほか:スズメバチによる角膜刺傷の1例.眼紀45:1063-1066,19942)前田征徳,國吉一樹,入船元裕ほか:蜂による眼外傷の2例.眼紀52:514-518,20013)中澤毅,保谷卓男,野原雅彦ほか:良好に経過したアシナガバチによる角膜刺傷.眼臨89:1667-1669,19954)南伸也,山口昌彦,大島鉄朗ほか:特異な経過をたどったアシナガバチによる角膜刺傷の1例.眼臨97:961-964,2003

時の人

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———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.1,200847(47)和歌山県立医科大学医学部眼科学講座に2007年4月1日,大西克尚教授(現名誉教授)の後任として,雑賀司珠也先生が第4代教授に就任された.雑賀先生は1964年2月生まれの和歌山市の出身で,地元の小中学校・高等学校を経て,1988年に和歌山県立医科大学を卒業,先々代の上野山謙四郎現名誉教授の主催されていた眼科学講座に入局された.翌1989年に大学院医学研究科外科系眼科学に進学され,以降,助手に採用された.その後,大西教授の下で講師,助教授を経て,今回の教授就任である.その間,講師在職中に文部省長期在外研究員に採用され,米国オハイオ州立大学眼科に派遣された.同科で,Visitingassistantprofes-sorとして角膜の創傷治癒と角膜発生学に関する基礎的研究に従事された.雑賀先生は上野山先生から白内障手術の指導を受けられ,その後,神戸海星病院の山中昭夫先生に日帰り白内障手術の導入時期や硝子体手術について学ばれ,さらに大西先生からは眼悪性腫瘍の治療に関して指導を受けられた.これらが雑賀先生の臨床面での大きな柱になっている.*創傷治癒が恒常性維持に必須である反面,過剰な治癒反応は瘢痕・線維化病変をひき起こし,視力障害の原因となるとのことから,雑賀先生は大学院時代から一貫して「創傷治癒と組織線維化」の研究に取り組んでこられた.学位論文では,安定型アスコルビン酸誘導体の局所投与がアルカリ外傷動物モデルで治癒促進効果をもたらすことを報告し,同論文により1993年に和歌山医学会青洲賞を受賞された.近年はノックアウトマウスを用いて特定の遺伝子の創傷治癒での役割を検討され,その遺伝子欠損の効果をウイルスベクターによる遺伝子導入で再現するという研究に取り組んでおられる.以上の「角膜,結膜」での創傷治癒の研究のほかに,「水晶体上皮細胞,網膜色素上皮細胞」の創傷治癒反応についても,さまざまな知見を得られ,その成果をもとに2003年にはゴードンカンファレンスで招待講演を行われた.また,2004年には日本白内障学会奨励賞を授与されている.*雑賀先生は臨床面では,早くから「日帰り白内障手術」の実現に取り組まれ,1995年1月には和歌山県下の官公立病院に先駆けて実施された.1995年には106例,1996年には136例,1997年には162例と増え,その後も現在まで順調に伸びているとのことである.網膜・硝子体手術についても和歌山県立医科大学へ導入され,医局スタッフの先生方への手術技術の指導も1998年頃には終了された.また,網膜下血腫除去手術とその手技を応用した黄斑部網膜下手術の手技も確立された.また,先生ご自身の研究テーマである「眼組織の線維化」に関連して,後発白内障に対して軟性アクリル素材の眼内レンズが軟性シリコーン性の眼内レンズよりも合併症が少ないと結論づけられた.*最後に,雑賀先生は「今後の抱負」として,卒前教育,臨床と卒後教育,研究面など多岐にわたり語られたが,その趣旨は,臨床研究,基礎的研究を問わず,「質の高い研究」を維持し,世界をリードできる専門分野を有する医師の育成であり,そのためには「リーダー自身が先頭に立って実践する」とのことである.先生ご自身の実験研究は週末と平日夜間に行われており,質・両ともに優れた原著論文を多数執筆されている.講義面では学生から,診療・手術面では多くの患者さんおよび教室のスタッフから絶大な信頼を得ておられる.先生個人としては,スタッフの健康維持が日々の診療に必要との考えから,家庭生活を犠牲にしない勤務体制を実現したいと語られた.0910-1810/08/\100/頁/JCLS人の時和歌山県立医科大学医学部眼科学・教授雑さい賀か司し珠ず也や先生

アルコールはやめなくても大丈夫か?

2008年1月31日 木曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLS一人当たりのアルコール消費量は近年はほぼ横ばいで,世界第29位の水準にあり,米国と同等で,ドイツ,フランスなど欧州諸国の約6割程度となっている2).しかし,わが国においてはアルデヒド脱水素酵素(ALDL)II型の活性欠損者が4割程度いることを考えると,依然としてアルコール消費量は高い水準にあり,現代生活では飲酒は日常的行為で,個人の生活習慣を形成している重要な因子の一つである.特に近年は女性の飲酒者の増加が著しく,昭和43年には19.2%であった飲酒率は76.7%とかつての男性の水準に達した3).男性の飲酒率は90.8%に達し,ALDHII型活性の完全欠損者以外は,ほぼ全員が飲酒している計算となる.大量飲酒者(1日平均アルコール摂取量として純エタノール換算150ml以上,日本酒換算5合半以上)の数は,約240万人いるものと推測されていたが,2003年度の調査では,CAGE,はじめにわが国におけるアルコールの総消費量は,戦後著明な増加を示し,飲酒者数の増加のみならず,成人一人当たりのアルコール消費量も増加してきた(図1)1,2).1990年代に入り総消費量の増加は横ばい傾向になったものの,ワインや発泡酒ブームも手伝って微増傾向を示していたが,1999年度をピークに減少傾向を示している.国民(39)39*YoshinoriHorie:永寿総合病院消化器科/慶應義塾大学医学部消化器内科〔別刷請求先〕堀江義則:〒110-8645東京都台東区東上野2-23-16(財)ライフ・エクステンション研究所付属永寿総合病院内科(消化器科)特集眼の病い─生活習慣病が原因あたらしい眼科25(1):3946,2008アルコールはやめなくても大丈夫か?ShouldIStopDrinkingAlcoholicBeverages堀江義則*表1スクリーニングテスト,ICD10によるアルコール依存症者数の推計性アルコール依存症推計()推計()推計()推計()性性計いアルコール症のスクリーニングテストのみ生「成の飲酒態と関のに関る」(者),成図1わが国におけるアルコール消費量の推移(酒類別)11,00010,0009,0008,0007,0006,0005,0004,0003,0002,0001,0000(千KL)昭45505560平2712151617(年度):ビール:リキュール類:清酒:焼酎:ウイスキー類:雑酒:その他———————————————————————-Page240あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008(40)を与え,基本的には後述するような多くの生活習慣病同様に適正飲酒が推奨される.実際の眼科診療の場で最も飲酒継続が問題となるのは,慢性的な大量飲酒習慣により発生した,高血圧,高脂血症,糖尿病といった生活習慣病を介した眼への影響である.大量飲酒は糖尿病や高血圧を増悪させ眼底変化を起こす一方で,適正飲酒は増殖糖尿病網膜症発症率を低下させるとの報告もある.適正量の急性エタノール投与は,網膜血流量や血管径,眼動脈や網膜中心動脈の血流速度に影響しないが,視神経乳頭血流は増やすことが報告されている8).生活習慣病と眼病変の関係の詳細は,本号の他稿を参照してもらうこととし,本稿では,飲酒の生活習慣病への影響と,その発生機序としてのアルコールによる血管障害のメカニズムを概説し,適正飲酒の重要性について説明する.IIアルコールと生活習慣病1.アルコールと栄養(栄養状態と肥満,脂肪肝)アルコール性肝疾患患者の栄養状態を正確に把握するのは,アルコール摂取量を把握するのに比して,大変困難である.アルコール依存症患者に対して積算飲酒量は定量的に解析するが,栄養状態は食事摂取の不良であるとか,酒肴しか摂取していないなどの定性的,抽象的な表現でしか病歴を聴取していないことが多い.しかし,アルコール依存症患者には,中等度飲酒者に比して栄養不良の状態が多く観察される9).その程度,割合は慢性肝疾患のために入院してきたアルコール依存症患者に多い.わが国における報告でも,大酒家肝疾患患者の食生活調査にて,食事摂取量は国民栄養調査平均値や栄養所要量に比して著明な低下を示し,低蛋白質,低糖質食という特徴的パターンであった10).エネルギー比をみてもアルコールに由来するエネルギー比がきわめて高く,40%以上を占めており,その結果,蛋白質比,糖質比は著しく低下していた.ビタミン摂取量においても,ビタミンAは所要量の38%,B1は62%,B2は55%とそれぞれ著しく低ビタミン摂取となっており,カルシウムも所要量の61%と低下していた20)(表2).一方,依存症まで至らない症例では,肥満や脂肪肝との合併が問題となる.アルコール1gに7kcalのカロリAUDIT,KASTなどのスクリーニングテストで問題飲酒者と判定される人数が300400万人超と推計されている(表1)3).慢性的な多量の飲酒は肝機能障害はもとより,膵臓,脳,心臓をはじめとする全身の臓器障害を惹起し,栄養障害,代謝障害,免疫能低下をひき起こすが,このような飲酒に伴う臓器障害,代謝障害などは,現代日本の飲酒状況をみると生活習慣病とよぶにふさわしく,その中の重要な位置を占めていると考えられる.しかし,これに対して古くから酒は百薬の長といわれており,適度のアルコール摂取がむしろ健康にプラスに働くことは,疫学的研究からも広く認められている.本稿では,生活習慣としての飲酒に伴う疾患について述べるとともに,アルコールの健康に対する影響を,眼に対する影響も含めて,功と罪の両面から考察し,適正飲酒の重要性について述べる.Iアルコールと眼疾患アルコールによる直接的な眼病変としては,慢性アルコール中毒に伴う中毒性弱視で,アルコール性霧視から始まり,視神経周囲組織間隙の炎症,黄斑乳頭線維束の変性から視神経乳頭耳側の蒼白化がみられる.中心暗点を呈するが,周辺視野は正常である.視神経炎の一つと考えられ,ビタミンB1の不足も原因の一つと考えられる.治療には,ビタミンBの補充が重要である4).同じく,アルコール依存症者にみられ,チアミン(ビタミンB1)の欠乏がおもな原因と考えられる疾患に,Wer-nicke-Korsako脳症がある.アルコール依存症の310%に認める.意識障害,運動失調,眼球運動障害が認められ,眼球運動障害は96%に出現し,眼振(外側視の水平性眼振),外直筋麻痺(内斜視),共同注視麻痺が多い5).疾患頻度の高い緑内障や白内障への飲酒の影響では,緑内障への影響は,関連あるとする報告とないとする報告がある.アルコールの急性投与は眼圧を下げるという報告があり,慢性投与は,用量依存性に上げるという報告が多い6).白内障への影響は,U字型パターン,つまり過剰の飲酒者でリスク上昇し,適正飲酒でリスク低下するとの報告が多い.特にワインでリスク低下するとの報告が多い7).このように飲酒は直接的に眼疾患に影響———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.1,200841(41)とや,夜の吸収効率が最も良い時間の前に食べることなども一因と考えられる.しかし,飲めば飲むほど体重が増えるかというと,図2に示すように,飲酒量に伴って摂取カロリーは増えるが,表4に示すように,飲酒量とbodymassindex(BMI)の間に有意な相関関係は認めない11).この原因は,体重が喫煙などの飲酒以外の影響を受けるため統計学的に差が出ないものと考えられる.欧米での研究でもチョコレートを追加摂取すると体重が増加するが,アルコールを追加摂取しても体重が増えなーがあり,炭水化物や蛋白質の単位当たりのカロリーより高い.さらに,ビールや日本酒には糖質などが含まれ,ビール大瓶1本で247kcalを有し,茶碗1杯のご飯が160kcalであることを考えると決して少ないものではない(表3).しかし,アルコールそのもののカロリーより,むしろ一緒に食べる食事やおつまみによるカロリー超過が原因ともいわれている.アルコールのもつ胃酸分泌増加(特にビールで強い)の作用で食欲が進むこ表2大酒家肝臓病患者の飲酒量と食事摂取量肝非肝栄養量にる()肝非肝平均年齢(歳)52.947.6飲酒量飲酒開始年齢21.819.9習慣飲酒期間(年)24.021.4アルコール摂取量(純アルコールg/日)162.0131.8(日本酒換算合/日)7.46.0積算飲酒量(純アルコールkg)1,5281,107栄養素摂取量蛋白質(g/日)50.550.77272脂質(g/日)35.939.0糖質(g/日)188.8207.1ビタミンA(IU/日)759.5755.53838B1(mg/日)0.560.566262B2(mg/日)0.670.645653C(mg/日)68.675.6137151エネルギー摂取量(kcal/日)食事エネルギー1,3261,4076264アルコールエネルギー1,149929合計2,4752,336116107表3アルコール飲料の成分(1単位)量(ml)総カロリー(kcal)アルコール(g)蛋白質(g)脂質(g)糖質(g)清酒180193230.9*7ビール(大)633247223.2*20ビール(小)350135121.8*11焼酎(25度)18025236***ウイスキー(ダブル)6013419***ワイン12092120.4*2.4*:微量.アルコール飲料に含まれるカロリーは異なる.図2飲酒量と総摂取カロリーの関係2,5002,0001,5001,000500023g未満23~46g46g以上:アルコール:非アルコール摂取カロリー(kcal/日)———————————————————————-Page442あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008(42)れと同時に飲酒に伴う生活習慣病として,虚血性心疾患が注目を集めている.これは,乳脂肪摂取量と虚血性心疾患の発生率は相関するが,フランスにおいてのみ回帰直線から偏位しており,赤ワイン消費量の解析を加えると回帰直線の相関はさらに良好となり,さらにフランスの回帰直線からの偏位も消失するという,Renaudらのいわゆる“フレンチパラドックス”に端を発している14).しかし,赤ワインに限らず適正飲酒が虚血性疾患を予防するとの報告も多い.図3に示したように,アルコール摂取量が1日に34g以下の適度な飲酒者は,総死亡率,心血管系疾患による死亡率ともに非飲酒者よりも低い.また,脳梗塞においても,男性180g/週以下,女性120g/週以下の飲酒は脳梗塞の発症頻度を低下させ,わが国での検討でも,140g/週以下の飲酒は脳梗塞の発症頻度を低下させるとの報告がある14).こうした適正飲酒による血管障害の予防の機序としては,アルコールによる(1)血小板凝集抑制作用,(2)血管内皮からのプラスミノーゲン活性化因子分泌増加による線溶系亢進,(3)虚血性心疾患の発症頻度と逆相関する血中HDL(高比重リポ蛋白)コレステロールの上昇などが考えられる.一方,習慣的な多量飲酒は高血圧症,特に収縮期圧の上昇の原因となることが,多くの疫学調査により実証されており,これは他の高血圧症の危険因子とは独立したものである14).また,過度の飲酒は,適正飲酒とは逆に虚血性心疾患の危険因子ともなる.大量の習慣飲酒は脳血管障害の危険因子でもある.大量の習慣飲酒は,血管障害のほかに,心筋症や不整脈といったいという研究12)もあり,飲酒と体重の関係については今後の研究が待たれる.アルコール性脂肪肝は,ほとんどの大酒家にみられ,中心静脈域への脂肪蓄積が特徴的である.エタノール代謝の際に細胞内還元型nicotinamidadeninedinucleotid/酸化型nicotinamidadeninedinucleotide(NADH/NAD)比が上昇し,クエン酸回路が障害され,acetyl-CoAが増加して脂肪酸合成が増加する13).また,エタノールによるミトコンドリア外膜にあるacyl-CoA合成酵素活性抑制が,ミトコンドリア内への取り込みを抑制して脂肪酸のb酸化を抑制する機序もアルコール性脂肪肝の発症機序の一因と考えられる.エタノールによる血中adi-ponectin値の減少が,肝臓内のperoxisomeproliferat-ed-activatedactivatedreceptor(PPAR)-aの発現やAMP-activatedproteinkinase活性を抑制し,脂肪酸合成の増加や脂肪酸の酸化抑制を惹起して,中性脂肪合成の増加をきたし,アルコール性脂肪肝に至る機序が考えられている.女性においては,男性より少量(積算飲酒量にして男性の約3分の2)かつ短期間(常習飲酒期間は約10年)で種々の程度の肝障害をきたし,また,治療後に再燃も起こしやすい.近年,女性の飲酒率が上昇しているが,居酒屋や屋台といったおもに中年男性の飲酒場所への女性進出のほかに,ワインバーやイタリアンレストランの増加,既成のカクテルの販売など,アルコールを提供する側の変化も関与していると思われる.女性の社会進出に伴う飲酒機会の増加と女性に好まれる食・飲酒習慣への変化により,今後女性のアルコール性肝障害患者の増加が予想される.2.アルコールと心臓,血管障害近年,赤ワイン中に含まれる虚血性心疾患予防因子(抗酸化物質,血小板凝集抑制物質)が注目を浴び,そ表4アルコール摂取量とBMIの関係飲酒量満図3アルコール摂取量にみた総死亡率,心血管系死亡率,非心血管系死亡率●●●●■■■■総死亡率非心血管系疾患心血管系疾患34<<34<90121086420年齢補正死亡率(%)アルコール摂取量(g/日)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.1,200843(43)の糖尿病患者においてはアルコール摂取により低血糖を生じやすく,適切な治療がなされなければ致命的となりうるため,アルコールを糖質と交換することは危険である.また,グリコーゲンの貯蔵能力が低下している肝硬変患者でも,食事を取らずに飲酒することは低血糖をひき起こす可能性がある.一方,同じ代謝障害でも高尿酸血症では,飲酒により血清尿酸値が下がるという報告も痛風,高尿酸血症罹患の危険を低下させるという報告もなく,飲酒は一義的に血清尿酸値を上昇させると考えられる.山中ら16)の報告によると,日本酒換算で12合の適正飲酒者でも高尿酸血症患者の頻度は非飲酒者に比して多く,3合以上の飲酒者と差がない.アルコール飲料中に含まれるプリン体が高尿酸血症をもたらすだけではなく,NADH/NAD比の上昇による高乳酸血症により尿酸の腎排泄が乳酸と拮抗し低下したり,酢酸代謝によるプリン代謝の亢進により尿酸の産生が増加することなども関与している.しかし,高尿酸血症は,飲酒以外に食事性の生活習慣病としての側面ももっており,大量習慣飲酒者の禁酒または節酒の指導は重要であるが,高尿酸血症を合併した飲酒者においては,禁酒を指導する前に,食事や酒肴の種類としてプリン体の多い肉などの摂取を控えることや,酒類としてプリン体の多いもの(特にビールは他のアルコール飲料に比し際立って多い)を控えることを,まず指導すべきと思われる.高脂血症については,長期にわたる飲酒は血清コレステロール,トリグリセライドの上昇を惹起する14).また,アルコール依存症患者の多く(34%)に高脂血症を認める.しかし,これらの高脂血症は,断酒により速やかに改善され,一般的には抗高脂血症剤の投与を必要としないことが多い.一方,1日エタノールとして30g程度の習慣飲酒時には血清コレステロール,トリグリセライドの上昇は認められず,さらに,虚血性心疾患の発症頻度と逆相関する血中HDLコレステロールの上昇が認められるとの報告が多い.IIIアルコールと炎症,微小循環障害生活習慣病に伴う眼病変の進展には,微小循環障害や活性酸素産生が関与している(詳細は他稿を参照)が,心臓病の危険因子ともなる.3.アルコールと代謝異常アルコール依存症患者に高血糖を合併することは臨床的にしばしば経験され,飲酒は生活習慣病として代表的な糖尿病の増悪因子になりうる.アルコール慢性摂取による膵臓障害は,インスリンの産生を低下させ,糖尿病を悪化すると考えられるが,末梢でのインスリン抵抗性増加に伴う糖の利用低下もその悪化の原因としてあげられる14,15).その他にも肝のグリコーゲン分解亢進,副腎髄質や交感神経末端からアドレナリンの分泌亢進などがアルコール慢性ならびに大量摂取による糖尿病の悪化に関与している可能性がある.肝硬変まで至ると肝でのグリコーゲンの貯蔵能力が低下し,食後の高血糖を生じる.このように飲酒は糖尿病の悪化の原因となりうるが,疫学的に飲酒が糖尿病を悪化させるという明確なデータは意外に少ない.また,適正飲酒は糖尿病罹患の危険を低下させるとの報告もある.この機序としてインスリン抵抗性が改善されることや,エタノールがエネルギー効率の悪い,いわゆる“emptycalory”であることがその理由として考えられる.さらに,アルコールがアルコール脱水素酵素(ADH),アルデヒド脱水素酵素(ALDH)を介して酢酸に代謝される際NADがNADHに変換されることにより生じるNADH/NAD比の上昇が,ピルビン酸の乳酸への還元を促進し酸糖新生を抑制することも原因の一つと考えられる.このように,糖尿病において軽度飲酒(適正飲酒)を禁止する医学的根拠は確立されていない.合併症のない血糖安定時には適正飲酒を容認し,血糖調節がつくまで禁酒するという姿勢のほうが患者によっては受け入れられやすく,治療への協力が得られ,結果的に短期間で良い血糖調節ができる場合もありうる.しかし,経口血糖降下薬を服用している患者や膵炎などの合併症では,飲酒の容認は服用薬の効果を妨げたり,膵炎の増悪につながるため禁酒が望ましい.しかし,既述のとおり,アルコールはインスリン抵抗性の改善,NADH/NAD比の上昇による糖新生の抑制などを介した血糖低下作用を有している.アルコールによる低血糖発作は多数報告されており,特に薬物治療中———————————————————————-Page644あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008(44)してNADを必要とし,基質を代謝すると同時にNADをNADHに変換する.したがってアルコールを摂取すると肝細胞内でNADH/NAD+の比が上昇する.NADH/NAD+比の上昇した状況ではミトコンドリア呼吸鎖が過剰に回転し,結果として酸化ストレスを増悪させることが示唆されている.また,アルコール性肝障害実験モデルにおいて,炎症細胞由来のNADPH酸化酵素,キサンチン酸化酵素(XO)やミエロペルオキシダーゼ(MPO)をはじめとする酵素群が,活性酸素の産生源として重要な役割を担うことが示唆されている(図5).IVいわゆる適正飲酒と「健康日本21」21世紀のわが国を,すべての国民が健やかで心豊かに生活できる活力ある社会とするために厚生労働省は,「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」を展開し,国民各層の自由な意思決定に基づく健康づくりに関する意識の向上および取り組みを促そうとする運アルコールはこれらに対し大きく影響することが知られている.動物実験における炎症性の反応において,慢性エタノール投与は,血中サイトカイン増加を介して接着因子の発現を増強し,腸間膜微小血管や肝類洞における白血球膠着を増強することが報告されており,アルコール性臓器障害の進展に白血球を介した微小循環障害の関与が示唆される17).酸化ストレスも臓器障害の大きな因子であるが,アルコールは酸化ストレスを増強する.アルコールは,サイトゾールに存在するADH,ミクロソームに存在するチトクロームP4502E1(CYP2E1)を中心とするミクロソームエタノール酸化系(MEOS),およびペルオキシソーム内に存在するカタラーゼによって代謝され,アセトアルデヒドに変えられる(図4)18,19).産生されたアセトアルデヒドはALDHによって酢酸に代謝される.慢性的にエタノールを摂取するとCYP2E1が誘導され,CYP2E1で代謝されるエタノールが相対的に増加するようになる.ADHとALDHは補酵素と図4アルコール代謝経路と活性酸素産生経路EthanolMicrosomeMitochondriaCytosolPeroxisomeMEOSO2O2-O2O2-EthanolAcetaldehydeNADPHNADP+EthanolAcetaldehydeRespiratoryChain2H2OO2+4H+etatecAedyhedlatecANADHNAD+edyhedlatecAlonahtENADPHOxidase+CatalaseHypoxanthineXanthineXanthineUricAcidNADPHNADP+H2O2+O2-H2O+O2H2O+O2XOXOATPADP+PiNADHNAD+ADHALDHNADH/NAD+H2O2+O2———————————————————————–Page7あたらしい眼科Vol.25,No.1,200845(45)おわりにアルコールは,種々の臓器に障害を生じうる.いずれの障害においてもそれぞれの疾患に対応した治療を行うのは当然のことであるが,唯一,確実な治療法は断酒であり,断酒なくしては他の治療法を行う意義も低いことを明記すべきである.また,これらアルコールによる臓器障害をきたす多くの症例においては,アルコール依存症である場合も多く,早期からのこれら依存症患者の精神科との関わりが断酒の継続に有効であることがあり,飲酒が原因の眼病変の場合,内科だけではなく精神科への紹介も積極的に考慮されるべきである.しかし,高尿酸血症などの一部の疾患を除いて少量(1030g)の飲酒が疾患を誘発,増悪させるとの報告はなく,むしろ健康にプラスに働くことが疫学的研究からも広く認められてきている.生活習慣という見地からすると,ストレスの減少といった精神的な有効性だけではなく,直接的な身体的有効性の面からも適正飲酒が推奨される.今後は,アルコール関連障害の一次予防の確立のためには,普遍性があるとともに個人の体質,さらには遺伝的特異性に従った原則を確立する必要がある.いわばオーダーメイドの健康維持,そして医療が必要とされる時代が遠動を推進する方針を明らかにした.厚生労働省「健康日本21」のアルコール分科会では,アルコールによる死亡および疾患を減少させるための対策を講ずることを基本方針とし,「多量飲酒問題」「未成人の飲酒」「節度ある飲酒」についての知識の普及について下記のごとき3つの目標を設定した.1)1日に平均3合を超え多量に飲酒する者の減少2)未成年の飲酒をなくす3)「適度な飲酒」として「1日1合程度」であることの知識を普及Moderatedrinking,lowriskdrinkingなどを適正飲酒と邦訳し,その解釈,特に適正飲酒量の設定については以前より議論があったが,今回の目標設定として1日平均純アルコールで約20g程度の飲酒が「節度ある適度な飲酒」として設定された.壮年から中年期の男性における虚血性心疾患や脳血管障害の発症予防の観点から,1日2合以下を適正量とする考えが多い.肝障害についても1日40g以下が安全域とする考え方が比較的普及しているが,厳密な科学的根拠はなく,すべて経験的・疫学的データからの推測である.生活習慣病という見地からも,同様の量が適正と推察される.図5肝における活性酸素産生細胞と肝細胞障害肝細胞Kup?er細胞白血球内皮細胞星細胞———————————————————————-Page846あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008(46)10)山内浩,石井裕正:食事療法シリーズ;肝疾患.MedicalPractice4:1913-1920,198711)足達寿,今泉勉ほか:中年男性におけるアルコール摂取と身体指標や食生活との関係.日本公衆衛生学会雑誌47:879-886,200012)PirolaRC,LieberCS:Theenergycostofthemetabolismofdrugs,includingethanol.Pharmacology7:185-196,197213)堀江義則,石井裕正:特集:肝の脂質代謝異常の臨床─最新の知見.アルコール性脂肪肝.TheLipid17:44-49,200614)堀江義則,石井裕正:アルコールと生活習慣病.臨床検査47:589-597,200315)山岸由幸,堀江義則,加藤眞三:アルコールと糖・脂質代謝.肝胆膵54:581-585,200716)山中寿,鎌谷直之:尿酸代謝異常.日本臨牀(特別号)55:200-204,199717)堀江義則,石井裕正:肝・消化管障害と微小循環.特集「微小循環障害と消化器疾患」.細胞32:20-24,200018)堀江義則,石井裕正:アルコール性肝障害と酸化ストレス.臨床消化器内科20:469-476,200519)堀江義則,石井裕正,日比紀文:肝疾患と酸化ストレス.日本消化器病学会雑誌103:789-796,2006からず到来すると思われる.文献1)堀江義則,石井裕正,日比紀文:わが国のアルコール性肝障害の現状についての検討.日本アルコール・薬物依存医学会雑誌39:505-510,20042)国税庁課税部酒税課:平成19年度酒のしおり.20073)尾崎米厚,松下幸生,白坂知信ほか:わが国の成人飲酒行動およびアルコール症に関する全国調査.日本アルコール・薬物依存医学会雑誌40:455-470,20054)高橋信夫:栄養障害,タバコ,エタノール,メタノール,シンナーと眼.眼科47:161-166,20055)吉本博昭:チアミン(ビタミンB1)欠乏(ウェルニッケ・コルサコフ脳症).精神科治療学21:195-198,20066)中元兼二:眼圧に影響する諸因子.眼科プラクティス11:136,20067)佐々木洋:白内障疫学におけるデータマイニング─飲酒習慣とポリフェノール類の関与について.あたらしい眼科21:1213-1216,20048)小嶌祥太:飲酒と眼循環.眼紀57:336-341,20069)GabuzdaGJ:Nutritionandliverdisease.Practicalconsid-erations.MedClinNorthAm54:1455-1472,1970

煙草スモーキングはどのくらい悪いのか?

2008年1月31日 木曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSI喫煙と各種眼疾患1.甲状腺眼症3)喫煙は甲状腺眼症発症や眼症の程度の危険因子である.ヨードの摂取と合成の阻害,ベンゾピレンを介した交感神経系への作用,血清中の甲状腺ホルモンへの影響,低酸素による影響などが考えられている.2.斜視4)母親の喫煙は子供の内斜視や外斜視発症の危険因子であり,原因として中枢神経での眼球運動制御の発達異常が推測されている.はじめに20002010年を目途としてわが国(厚生労働省)が政策として取り組んでいる21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)のなかで,喫煙は生活習慣病およびその原因となる生活習慣などの9つの課題のうちの一つとして取り上げられている.児童の喫煙,妊婦の喫煙,また受動喫煙の問題など課題はきわめて広範囲にわたるが,運動推進の壁の一つは健康への煙草の害についての知識不足であろう.煙草は,肺癌など多くの癌や,虚血性心疾患,脳卒中などの生命を脅かす疾患,低出生体重児や流・早産など妊娠に関連した異常の危険因子である1)ことは周知されているが,眼疾患への大きな影響についてのわれわれ医師,まして一般市民の知識はそのインパクトを考慮すると必ずしも十分とはいえない.英国で1618歳を対象に行われた調査2)では,喫煙が強い危険因子となっている疾患として認識されていた割合は,卒中15%,心疾患27%,肺癌81%,そして盲5%であり,これに聾を加えた5つの病気に対して感じる恐怖を15点でスコア化した場合,図1のように,盲は他の4つに比べて有意に高くランクされた.さらに,初期症状が現れたら喫煙をやめると答えた割合は盲が90%で,他の疾患の卒中80%,心疾患80%,肺癌78%に比べて有意に高かった.本稿では,種々の眼疾患と煙草の関連,および眼組織に対する煙草の影響について3)紹介する.(33)33*KeiShinoda:大分大学医学部脳・神経機能統御講座感覚・運動分野眼科学教室〔別刷請求先〕篠田啓:〒879-5593由布市狭間町医大ヶ丘1丁目1番地大分大学医学部脳・神経機能統御講座感覚・運動分野眼科学教室特眼の病い生活習慣病が原因あたらしい眼科25(1):3337,2008煙草スモーキングはどのくらい悪いのか?HowBadisSmokingfortheEyes篠田啓*図1各種疾患に対する恐怖スコア(英国での調査)英国で1618歳を対象に行われた調査において,グラフ中の各疾病に対して感じる恐怖を15点でスコア化した場合,盲は他の4つに比べて有意に高くランクされた.(文献2より改変)5盲肺癌卒中心疾患聾43210平均恐怖スコア———————————————————————-Page234あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008(34)6.加齢黄斑変性症3,8,9)加齢,高血圧,動脈硬化,紫外線,血清ビタミン低値,亜鉛不足,遠視,虹彩低色素,皮膚弾性線維変性,中心性漿液性網脈絡膜症の既往,特定の遺伝子多型などが危険因子として報告されているが,なかでも人種を越えて共通しているのは加齢と喫煙である.わが国の大規模なpopulation-basedcohortstudyである久山町研究10)(表2)でも,加齢,男性,喫煙が加齢黄斑変性(AMD)の危険因子であると報告している.また,世界の大規模な疫学研究の代表であるBeaverDamEyeStudy,RotterdamStudy,BlueMountainEyeStudyでは,喫煙者と非喫煙者の間で約3倍の危険性(オッズ比)があるとしている(表2).また禁煙者(以前は喫煙者)におけるAMDの発症のリスクは非喫煙者(まったく喫煙歴のない人)に比べると高いものの喫煙者(現在も喫煙中)に比べると有意に低い.BeaverDamEyeStudy,BlueMountainEyeStudyの515年の追跡調査では禁煙者と非喫煙者であまり差はなく,MacularPhotocoagulationStudyによると,脈絡膜新生血管に対するレーザー治療後の再発率は喫煙者のほうが非喫煙者に比べて高い.近年注目されているAMDの遺伝的背景と喫煙について,ある補体因子(complementfactorH)の遺伝子多3.眼表面への影響5)涙液層破壊時間の短縮,涙液の基礎分泌量低下,涙液のリゾチームの低下,lipidlayerの不整,角膜結膜知覚低下などが報告され,喫煙による酸化ストレスを介した機序が探求されている.受動喫煙により涙液中のニューロトロピン(神経栄養因子)が減少する.4.角膜移植術後の拒絶反応6)米国の大規模な調査では,喫煙者は非喫煙者に比べて拒絶反応の率や不全の率が有意に高かったが,拒絶による不全に限ると両者の間で差を認めなかった.5.白内障3,7)多くの疫学調査が,喫煙は白内障,特に核白内障発症の強い危険因子であると報告している.後下白内障とは弱い関連があり,皮質白内障との関連は明らかではない.BlueMountainEyeStudy(表1)では,シガレットよりパイプのほうが核白内障との関連が高いとしている.その他,用量依存的に発症率が高まる,禁煙によってある程度リスクが下がるなどのデータも多い.内因性抗酸化物質の低下による,酸化ストレスに対する防御能の低下,煙草が含有する重金属(カドミウム,鉛,銅)のレンズへの直接の毒性などが考えられている.表1喫煙と白内障に関する研究研究対白内障白内障後白内障白内障白内障後白内障白内障白内障後白内障———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.1,200835(35)が出ていない.喫煙者の平均寿命が短く,したがって疫学調査では増殖糖尿病網膜症にまで至る例が低く見積もられる可能性があるかもしれない.また,喫煙はインスリン抵抗性を高める,HbA1cを上昇させる,網膜血流のautoregulationを障害するなどの報告もある.8.緑内障3)開放隅角緑内障や高眼圧症については,喫煙が疾患の危険因子であるという報告と関連性はないという報告があるが,現時点では明らかではない.9.視神経症3)現在はほとんどみられなくなったが,煙草・アルコール性弱視14)は,ヘビースモーカー,慢性アルコール症にみられる視力障害で,中心視野障害,進行すると視神経萎縮となる.基本的には栄養障害性視神経症で,ビタ型をもつ喫煙者はもたない非喫煙者に比べて,末期のAMD罹患の危険が34倍もあると報告された11).これらの機序については酸化ストレスをはじめ,①黄斑色素濃度を減少させる,②血清中のニコチンなどにより網膜内のホスホリパーゼA2が活性化され炎症のメディエーターであるプロスタグランジンやロイコトリエンなどの前駆物質であるアラキドン酸の生成を促進する,③タールに多く含まれるハイドロキノンの関与,④マクロファージの活性化などがある.7.糖尿病網膜症12,13)30年以上前から喫煙が糖尿病網膜症の増悪因子である,喫煙量の多いものに増殖糖尿病網膜症が多いなど,喫煙と糖尿病網膜症の正の相関を示すデータが多く報告されている.一方,前向き研究も含め大多数例の調査で有意な相関を認めないという報告も相つぎ,現在は結論表2喫煙と加齢黄斑変性に関するpopulationbasedstudyosssetionalstudyeaeayetudy214771煙のsい1.291.02煙s煙o煙3.292.50lueountainyetudy2336541.894.464.943.26ottedayetudy22ン61741.53.6isayaatudy199612.22ootstudyeaeayetudy52410253583のののの1.530.742.341.001.371.34lueountainyetudy5272335のののの煙s煙o煙0.942.53.61.6———————————————————————-Page436あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008(36)と,ひとたび認識した際に禁煙しようとする意識の高さを鑑みると,眼科医の立場からの禁煙の啓蒙は非常に効果的であると思われる.煙草による眼疾患へのpositiveな影響はまだ多くあると考えられ,また,副流煙による眼表面への影響も近年わかってきた.今後は疫学調査のデータを踏まえ,眼疾患との関わりにおける機序の解明,さらには病態や新しい治療のきっかけとなる研究が待たれる.文献1)HirayamaT:LifestyleandMortality:ALarge-ScaleCensusBasedCohortStudyinJapan,ContributionstoEpidemiologyandBiostatistics,Vol.6,Karger,Basel,19902)MoradiP,ThorntonJ,EdwardsRetal:Teenagers’per-ceptionsofblindnessrelatedtosmoking:anovelmessagetoavulnerablegroup.BrJOphthalmol91:605-607,20073)SolbergY,RosnerM,BelkinM:Theassociationbetweencigarettesmokingandoculardiseases.SurvOphthalmol42:535-547,19984)ChewE,RemaleyNA,TamboliAetal:Riskfactorsforesotropiaandexotropia.ArchOphthalmol112:1349-1355,19945)AltinorsDD,AkcaS,AkovaYAetal:Smokingassociat-edwithdamagetothelipidlayeroftheocularsurface.AmJOphthalmol141:1016-1021,20066)MaguireMG,StarkWJ,GottschJDetal:Riskfactorsforcornealgraftfailureandrejectioninthecollaborativecor-nealtransplantationstudies.CollaborativeCornealTrans-plantationStudiesResearchGroup.Ophthalmology101:1536-1547,19947)KellySP,ThorntonJ,EdwardsRetal:Smokingandcat-aract:reviewofcausalassociation.JCataractRefractSurg31:2395-2404,20058)deJongPT:Age-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed355:1474-1485,20069)ThorntonJ,EdwardsR,MitchellPetal:Smokingandage-relatedmaculardegeneration:areviewofassocia-tion.Eye19:935-944,200510)MiyazakiM,KiyoharaY,YoshidaAetal:The5-yearincidenceandriskfactorsforage-relatedmaculopathyinageneralJapanesepopulation:theHisayamastudy.InvestOphthalmolVisSci46:1907-1910,200511)DesprietDD,KlaverCC,WittemanJCetal:ComplementfactorHpolymorphism,complementactivators,andriskofage-relatedmaculardegeneration.JAMA296:301-309,200612)小川憲治:喫煙と網膜症.眼科プラクティス7:149,2006ミンB群欠乏やシアン化合物の蓄積その両者,その他の煙草に含まれる物質の影響とされている.その他,視神経炎3,15)に対する煙草の関与は議論が分かれている.非動脈炎性の虚血性視神経症16)については,煙草と強い関連のある脳血管発作とは異なり,喫煙は危険因子とはいえず,これは血栓性か血流障害かによる違いとされている.Leber病17)はミトコンドリア遺伝子の異常による遺伝性視神経症であるが,喫煙は発症のリスクを高め重篤さにも相関するという報告も多い.10.その他眼サルコイドーシス18)について,煙草産業に従事する女性はその発症率が高く,煙草に含まれる塵が何らかの免疫反応に関与している可能性がある.裂孔原性網膜離19)は喫煙者ではその危険率が低い,両親のいずれかが喫煙者の場合子供の屈折異常20)は遠視が多い,妊婦の喫煙は子供の視覚誘発電位(VEP)で潜時の延長を生じる21),喫煙は網膜静脈閉塞症22),種々の結膜炎23,24)の危険因子である,などの報告がある.II喫煙の視機能への影響1.網膜への影響喫煙によって多局所網膜電図(ERG)において固視点付近(中心部018°付近)の応答密度の振幅の増加と潜時の短縮(P1およびN1成分ともに)が生じる25).ニコチンの神経伝達への影響や網膜,視神経,脈絡膜循環への影響が推測されているがいまだ明らかではない.また,喫煙による視神経乳頭部,黄斑部の血流速度の上昇26)や網膜血流量の低下27)などが報告されている.2.視神経への影響喫煙による限界フリッカー値の増加28),VEPの振幅低下29),patternERGの振幅増加潜時短縮30)などが報告されている.おわりに煙草に含まれる4,000以上の物質の多くが人体に有毒な作用があるといわれている.最初に紹介した英国での調査から,喫煙が眼に及ぼす影響に関する認知度の低さ———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.1,200837(37)smokingbehaviourandeectsoftobaccosmokeonchil-dren’shealthinFinlandandRussia.EurJPublicHealth2007,inpress24)Annesi-MaesanoI,OryszczynMP,RaherisonCetal:Increasedprevalenceofasthmaandallieddiseasesamongactiveadolescenttobaccosmokersaftercontrollingforpassivesmokingexposure.AcauseforconcernClinExpAllergy34:1017-1023,200425)GundoganFC,ErdurmanC,DurukanAH:Acuteeectsofcigarettesmokingonmultifocalelectroretinogram.ClinExpOphthalmol35:32-37,200726)TamakiY,AraieM,NagaharaMetal:Acuteeectsofcigarettesmokingontissuecirculationinhumanopticnerveheadandchoroid-retina.Ophthalmology106:564-569,199927)RobinsonF,PetrigBL,RivaCE:Theacuteeectofciga-rettesmokingonmacularcapillarybloodowinhumans.InvestOphthalmolVisSci26:609-613,198528)LarsonPS,FinneganJK,HaagHB:Observationsontheeectofcigarettesmokingonthefusionfrequencyoficker.JClinInvest29:483-485,195029)VazquezAJ,TomanJEP:Someinteractionsofnicotinewithotherdrugsuponcentralnervousfunction.AnnNYAcadSci142:201,196730)GundoganFC,DurukanAH,MumcuogluTetal:Acuteeectsofcigarettesmokingonpatternelectroretinogram.DocOphthalmol113:115-121,200613)PaetkauME:Diabeticretinopathyandsmoking.Lancet18:1098-1099,197814)RizzoJF3rd,LessellS:Tobaccoamblyopia.AmJOph-thalmol116:84-87,199315)PerkinGD,BowdenP,RoseFC:Smokingandopticneu-ritis.PostgradMedJ51:382-385,197516)HayrehSS,JonasJB,ZimmermanMB:Nonarteriticante-riorischemicopticneuropathyandtobaccosmoking.Oph-thalmology114:804-809,200717)TsaoK,AitkenPA,JohnsDR:SmokingasanaetiologicalfactorinapedigreewithLeber’shereditaryopticneurop-athy.BrJOphthalmol83:577-581,199918)MerrittJC,BallardDJ,CheckowayHetal:Ocularsarcoi-dosis.Acase-controlstudyamongblackpatients.AnnNYAcadSci465:619-624,198619)AustinKL,PalmerJR,SeddonJMetal:Case-controlstudyofidiopathicretinaldetachment.IntJEpidemiol19:1045-1050,199020)StoneRA,WilsonLB,YingGSetal:Associationsbetweenchildhoodrefractionandparentalsmoking.InvestOphthalmolVisSci47:4277-4287,200621)ScherMS,RichardsonGA,RoblesNetal:Eectsofpre-natalsubstanceexposure:alteredmaturationofvisualevokedpotentials.PediatrNeurol18:236-243,199822)KleinR,KleinBE,MossS:Theepidemiologyofretinalveinocclusion:theBeaverDamEyeStudy.TransAmOphthalmolSoc98:133-141,200023)HuggTT,JaakkolaMS,RuotsalainenROetal:Parental

メタボリックシンドロームへのサプリメント

2008年1月31日 木曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSれていった.しかし,LDLが単独で発症を規定しているのではないことはもちろん,LDLが高くなくても心血管病を発症することは日常臨床でよく経験することであった.そのようななかで,高トリグリセリド血症,低HDL血症,さらに高血糖,高血圧など身近な生活習慣病が一個人に複数合併するいわゆるマルチプルリスクファクターの重要性が強調されるようになってきたわけである.高血圧症単独で外来治療中の患者よりも,若干血圧が高く,若干血糖が高く,脂質代謝異常がある一見健康そうな肥満気味中年男性が心血管病で倒れることが,社会医学的にも問題となっているのである.メタボリックシンドロームを疾患概念として確立する目的は,「飽食と運動不足によって生じる過栄養を基盤にますます増加してきた心血管病に対して効率よい予防対策を確立すること」である.したがって,メタボリックシンドロームの第1の臨床的帰結は心血管病であり,診断は心血管病予防のために行うものである必要がある.内臓脂肪蓄積はしばしばインスリン抵抗性を伴い,両者は併存する場合が多い.よってメタボリックシンドロームは,2型糖尿病の発症リスクも高い.内臓脂肪蓄積とインスリン抵抗性のいずれが上流に存在するかについては,検討委員会でも検討され,本シンドロームでみられるのは内臓脂肪蓄積によって生じるインスリン抵抗性であると考えられている.このような背景により,診断基準が示され,基本は内臓脂肪蓄積であり,それにプラはじめに2005年に発表されたわが国の診断基準によると中年男性の4分の1はメタボリックシンドロームと診断されるようである.シンドロームとは症候群のことであるが,本シンドロームは将来の心血管病の危険が高い,きわめて深刻な状態であるとされている.メタボリックシンドロームなる概念は,心血管病予防に向けた介入試験の高危険群として位置づけられている.内臓脂肪蓄積が基盤となって発症するため,最も簡単かつ重要なバイオマーカーは内臓脂肪量である.本稿では,メタボリックシンドロームに対する食品因子サプリメントの応用とその考え方について解説した.Iメタボリックシンドロームとは?日本内科学会を含む8学会の委員で構成された診断基準検討委員会が策定したわが国のメタボリックシンドローム診断基準が2005年4月に発表されている.従来の,疾病の捉え方やその治療法の探索は,できるだけ単独の病態に整理していきその原因を掘り下げることにより,分子レベル,遺伝子レベルで解明して治療法を確立するといったストラテジーが本道であると考えられてきた.たとえば,家族性高脂血症にみられるように高LDL(低比重リポ蛋白)血症は動脈硬化の進展,心血管合併症のリスクファクターであり,よってコレステロール合成酵素阻害薬が開発,臨床応用されてきた.さらに,高血圧,喫煙などの冠動脈疾患のリスクファクターが同定さ(29)29*YujiNaito:京都府立医科大学医学部生体機能分析医学講座**ToshikazuYoshikawa:京都府立医科大学大学院医学研究科免疫内科学〔別刷請求先〕内藤裕二:〒602-8566京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学医学部生体機能分析医学講座特集眼の病い─生活習慣病が原因あたらしい眼科25(1):2932,2008メタボリックシンドロームへのサプリメントSupplementTherapyforMetabolicSyndrome内藤裕二*吉川敏一**———————————————————————-Page230あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008(30)スして脂質代謝異常,高血圧,高血糖の2項目以上がみられるものとなった.II内臓脂肪蓄積内臓脂肪蓄積はメタボリックシンドロームにおいて主要な役割を担っており,わが国の診断基準では必須項目である.わが国では肥満症診断基準に示されているがごとく,臍高レベル腹部CT(コンピュータ断層撮影)スキャンによって判定した腹腔内脂肪面積100cm2以上が男女共通した内臓脂肪蓄積のカットオフ値である.それに対応するウェスト周囲径が検討され,診断基準にある男性85cm,女性90cmが設定された.この基準値は,CTによる評価よりも,一般臨床医や健康診断の場で用いることができ,臨床的な有用性が高い.ただし,数字だけが独り歩きしないように注意することも必要で,将来的には改定される可能性もある.特に,この基準は女性には甘い基準になっており,NCEP(NationalChole-sterolEducationProgram)-ATPIII(AdultTreatmentPanelIII)やIDF(InternationalDiabetesFederation)といった国際的基準ではアジア人の場合,男性90cm以上,女性80cm以上となっている.久山町のコホート研究においても,この国際基準値の妥当性が見いだされており,今後,わが国のデータによりシンドロームの定義は見直されていくものと考えられる.なお,ウェスト周囲径は,立位,軽呼気時,臍レベルで測定する.脂肪蓄積が著明で臍が下方に偏位している場合には肋骨下縁と前上腸骨棘の中点の高さで測定する.動物実験モデルなどが盛んに利用されるようになってきているが,内臓脂肪量の測定がgoldstandardとなっていることは明らかである.体重に対する比率で示したほうが内臓脂肪蓄積をより正確に反映していると考えられる.さて,内臓脂肪蓄積より早期に判定できる血清バイオマーカーは存在するのであろうか.遊離脂肪酸,plas-minogenactivatorinhibitor-1(PAI-1),アディポネクチンなどのさまざまな生理活性物質が注目されているところである.内臓脂肪の絶対量よりも,内臓脂肪細胞の機能によってメタボリックシンドロームを早期に判定できるものが臨床的有用性も高いわけで,それが,心血管合併症のリスク予測因子になっていればさらに有難いことになる.脂肪細胞由来アディポサイトカインのなかでもアディポネクチンは善玉サイトカインとして最も注目されているバイオマーカーである.アディポネクチンの血中濃度は肥満者,特に内臓脂肪蓄積により低下し,減量によって増加する.さらに,肥満度が同じであっても,心筋梗塞や狭心症といった動脈硬化性疾患,および糖尿病で血中アディポネクチン濃度は低下する.ヒト血清中のアディポネクチンはさまざまな多量体構造で存在しており,なかでも300kDa以上の1218量体から形成される高分子(HMW)アディポネクチンは最も生理活性が高いアイソフォームと考えられている.心血管病発症,糖尿病発症,メタボリックシンドロームの有意な危険因子ではないかと研究が進められている.アディポサイトカイン分泌異常のメカニズムの一つとして脂肪細胞,脂肪組織における酸化ストレスの関与が注目されている(図1)1).ヒトおよびマウスにおいて酸化ストレスマーカーである血中thiobarbituricacid-reactivesubstances〔臨床検査での過酸化脂質(LPO)に相当する〕や尿中8-epi-prostaglandin-F2aが肥満度とともに上昇することが報告されている.脂肪組織における酸化ストレスの亢進状態は,NADPH酸化酵素の活肥満白色脂肪組織における酸化ストレスアディポサイトカインの産生調節異常遠隔臓器への酸化ストレス活性酸素インスリン抵抗性糖尿病動脈硬化メタボリックシンドローム活性酸素PAI-1,TNF-a,MCP-1Adiponectin図1脂肪細胞,組織における酸化ストレスとメタボリックシンドローム(文献1,p1759,Fig.8より改変引用)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.1,200831(31)たメタボリックシンドロームの栄養治療の原則を示した2).さて,近年,メタボリックシンドローム予防についての機能性食品成分の役割について注目が集まっている.しかし,C57BL/6マウスを用いた寿命実験でも,抗酸化剤のコエンザイムQ10やaリポ酸には寿命延長作用はなく,40%程度のカロリー制限が有意に寿命を延長させている.メタボリックシンドロームの確実な動物モデルは存在しないが,高脂肪食負荷などにより内臓脂肪蓄積モデルを作製して,食品因子サプリメントの有効性性化と抗酸化酵素の発現低下の結果であった.その結果,アディポサイトカイン分泌異常が生じており,肥満マウスに対してNADPH酸化酵素阻害薬を投与することによりその異常は是正される.この結果はきわめて興味深く,脂肪細胞に移行しやすい抗酸化薬にメタボリック症候群を是正できる可能性を示していると同時に,酸化修飾蛋白質などの酸化ストレスマーカーが早期のメタボリック症候群のバイオマーカーとなりうる可能性があり,今後の研究成果を期待したい.IIIメタボリックシンドロームに有効なサプリメントメタボリックシンドロームの予防には食事制限と運動療法に勝るものはない.食事療法の基本は,エネルギー摂取制限と食事の質の問題である.食事制限は25kcal/日を目安にして1,2001,800kcal/日,現体重の7%減を目指す.食事の質の問題としては,複合糖質をおもに摂取し,ショ糖などの単純糖質摂取を制限する必要がある.すなわち,同じエネルギー摂取であっても,できる限り血糖上昇が少なく,インスリン上昇反応の少ない低グリセミックインデックス食品を選択すればよい.さらに食物繊維の摂取不足は現代人では明らかである.目標値は25g/日とされているが,多くの日本人では不足気味であり,若者では10g/日以下の人も少なくない現状である.食物繊維の摂取は,食後血糖上昇を予防し,食後のインスリン反応を低下させ,高中性脂肪血症を予防することが期待される.脂肪摂取の問題点がメタボリックシンドローム発症に直結している.脂肪酸の組成としては,飽和脂肪酸含量が少なく,不飽和脂肪酸含量が比較的多い食品を選択する必要がある.飽和脂肪酸の少ない脂肪として,オリーブ油,ナタネ油は比較的オレイン酸を多く含んでおり,サフラワー油,コーンオイルにはリノール酸が比較的多く,リノレン酸はカボチャに多い.一方,海藻類,イワシ,サバなどの魚類にはアラキドン酸,EPA(w3多価不飽和脂肪酸),DHA(ドコサヘキサエン酸)などの多価不飽和脂肪酸が多く含まれている.以上をまとめると,メタボリックシンドロームを予防するための食事の基本形は,日本食,地中海食であるといえる.表1に滋賀医科大学柏木厚典教授がまとめ表1メタボリックシンドローム─栄養治療の原則─ー食のによるがのするのにする脂肪の脂肪酸の,w3不飽和脂肪酸摂取,肉より魚,オリーブ油(1価不飽和脂肪酸は代謝的に中性)3.糖質の質,量摂取の問題:低GI食(低インスリン反応食),複合糖質,適切量の果物,砂糖など単純糖質摂取の制限4.高食物繊維食(2025g/日)5.抗酸化ビタミンを含むビタミン,ミネラルの十分な摂取6.高血圧合併患者の場合塩分制限(6g/日以下),カリウムに富む野菜の摂取7.高LDL-C血症合の症例の場合コレステロール制限食(30mg/日以下)(文献2,p205,表2より許可を得て引用)熟脂肪細胞を成熟脂肪細胞に分化させる肥大型脂肪細胞から分泌されるインスリン抵抗性因子を抑制する肥大した脂肪細胞を小さくさせる,アポトーシスを誘導する前駆脂肪細胞の分化を褐色脂肪細胞に向かわせるアディポサイトカイン分泌異常を是正する図2脂肪細胞に対する食品因子によるアプローチ———————————————————————-Page432あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008(32)抵抗性を予防する可能性があることを示唆している.筆者らのKK/TaJclマウスを用いた実験でも,糖負荷試験の成績ではアスタキサンチンにインスリン抵抗性予防効果を確認しており,今後のヒトでの臨床試験の結果に期待したい.筆者らは,現在血清プロテオーム解析を進めており,メタボリックシンドローム動物モデルに対しての介入試験を実施しつつ,内臓脂肪蓄積抑制に代わる新しいバイオマーカーの同定にも取り組んでいる.このようなバイオマーカーの同定は,メタボリックシンドロームの早期発見につながるだけでなく,食品因子サプリメントによるヒト介入試験においてもその有効性をより早期に科学的手法によって確認することができるものと考えている.今後の展開に期待していただきたい.文献1)FukuharaS,FujitaT,ShimabukuroMetal:Increasedoxidativestressinobesityanditsimpactonmetabolicsyndrome.JClinInvest114:1752-1761,20042)柏木厚典:エイジングの予防と治療1.メタボリックシンドローム.アンチエイジング医学─その理論と実践─(吉川敏一編),p200-208,診断と治療社,20063)MaedaH,HosokawaM,SashimaTetal:Fucoxanthinanditsmetabolite,fucoxanthinol,suppressadipocytedierentiationin3T3-L1cells.IntJMolMed18:147-152,2006を評価する研究は盛んに行われている(図2).食品因子サプリメントの研究ストラテジーとしては,①脂肪細胞の分化を刺激することにより成熟脂肪細胞数を増加させる,②肥満した白色脂肪細胞の増殖を抑制したり,アポトーシスを誘導したり,成熟細胞に逆戻りさせる,③前駆脂肪細胞の分化を褐色脂肪細胞に向かわせる,④TNF(tumornecrosisfactor)-aなどによるアディポサイトカイン産生異常を是正する,⑤肝臓や骨格筋に作用してインスリン抵抗性を改善させるなどが考えられている.北海道大学の宮下和夫教授らは,海藻脂質の研究から抗肥満作用を有するカロテノイドの一種であるフコキサンチンを同定し,白色脂肪細胞におけるUCP(ubiquitincarrierprotein)蛋白質発現誘導といった作用機構を報告している3).興味深い作用機構であり,今後の展開が期待される.多くの天然物のなかにはこのような抗肥満作用を有するものがあることが予想される.このような予防対策を科学的評価のもと積極的に進めるためには,動物実験モデルの確立が急務である.これまでにもいくつかのモデルが報告されてきているが,筆者らはヒト類似性を考え,雄性マウスに発症しやすい,何らかの遺伝的背景の存在,高カロリー食の負荷の3点からメタボリックシンドロームの新規マウスモデルの作製を試み,さらに赤色カロテノイドであるアスタキサンチンの影響を検討している.5週齢雄性KK/TaJclマウスを1週間の前飼育後,高脂肪食摂取を開始した.高脂肪食:対照食の組成は,グラニュー糖19.85%:49.1%,粉末牛脂37.5%:6.2%がおもな差異である.8週間の飼育後には内臓脂肪が対照に比較して有意に増加するモデルを確立した.現在,試験は進行中であるが,アスタキサンチン投与により内臓脂肪の軽減,糖負荷試験での改善作用がみられており,その詳細を検討中である.最近,石倉らはC57BL/6系マウスに高脂肪食を摂取させアスタキサンチン(150mg/kg)の影響を報告している.アスタキサンチン投与群では,16週間の投与後,内臓脂肪量は有意に減少しており(図3),空腹時血糖値,インスリン値も有意に低値であった.以上の結果はアスタキサンチン投与が脂肪蓄積を抑制するだけでなく,インスリン00.010.020.030.040.050.060.070.08鼠径部皮下脂肪生殖器周囲脂肪腎周囲脂肪背部皮下脂肪体重に対する割合(%)普通飼料食高脂肪食高脂肪食+アスタキサンチン***p<0.05***p<0.01***p<0.001*******************図3アスタキサンチンの脂肪組織量割合に対する影響(「石倉正治,飯尾久美子,岡田裕実春:アスタキサンチンの脂肪蓄積抑制効果.第61回日本栄養食糧学会.2007年5月1720日,京都」より許可を得て引用)