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糖尿病網膜症二次および三次予防のエビデンス-黄斑浮腫による視力低下阻止を目指して-

2007年10月31日 水曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSれまでにも糖尿病黄斑浮腫と関連のある全身因子として収縮期血圧1,2),蛋白尿1),HbA1C(ヘモグロビンA1C)1,3,4),インスリン治療1),心血管疾患1)などが報告されている.1.血糖コントロールと糖尿病黄斑浮腫DCCT(DiabetesControlandComplicationTrial)は血糖コントロールが糖尿病網膜症の発症と進展を抑制することを報告した代表的な大規模臨床研究である.本研究では,血糖を厳格にコントロールした強化療法群と従来のインスリン療法を行う従来治療群の2群を比較し,平均6.5年の経過観察を行っている.その結果,強化療法群では,従来治療群に比較し網膜症の発症も進展も抑制され,また,研究の終了時点においては,糖尿病黄斑浮腫の割合が従来療法群に比較し強化療法群で有意に低いことがわかった.EDIC(EpidemiologyofDiabetesInterventionsandComplications)Study4)はDCCTの調査終了後に引き続き行われた追加調査であり,DCCTの終了後さらに4年の経過観察が行われた.血糖コントロールは,DCCTが終了してから従来治療が行われていた患者は強化療法に変更され,強化療法の患者は強化療法を継続させることを前提として,それぞれのクリニックに戻された.その結果,両治療群の平均HbA1C値の差は縮まり,4年間の平均HbA1C値は強化療法群で7.9%,従来治療群で8.2%とほぼ近い値であったにもかかわらず,4年間の観察終了時点において,両治療群の糖尿病黄斑浮腫の有病率はさらに大きな差が開き,はじめに現在でも糖尿病はさらに増加傾向にあり,とりわけ若年者に増加していることが指摘されている.若年者糖尿病患者の増加は将来的に長い罹病期間を有する患者が増加することになるが,罹病期間が長く糖尿病網膜症のステージが進行すると糖尿病黄斑浮腫の頻度が増加することが知られている.1984年のKleinら1)の調査によると,30歳以上で糖尿病を発症し軽症非増殖糖尿病網膜症を有する場合は,罹病期間が14年以下で糖尿病黄斑浮腫は2.6%であるのに対し,罹病期間が15年以上では6.3%と約2倍になることが報告されている.また,罹病期間にかかわらず軽症の非増殖糖尿病網膜症と比較して中等症~重症の非増殖糖尿病網膜症では,糖尿病黄斑浮腫の頻度が10倍以上になることが報告されている.今後,糖尿病患者の増加により糖尿病黄斑浮腫がますます増加することが予想される.このため,糖尿病黄斑浮腫の予防と治療の戦略的アプローチが重要になると考えられ,本稿ではその対策を解説する.I糖尿病黄斑浮腫と全身状態硝子体手術や薬物療法などあらゆる眼局所の治療を行ってもまったく軽減しない黄斑浮腫が,腎機能が改善したとたんに急速に減少することがある.このような症例に遭遇すると,改めて糖尿病黄斑浮腫が全身疾患の一部であったことを認識させられる.治療の成績の向上を目指すためには全身状態を無視するわけにはいかない.こ(27)????*:山形大学医学部附属病院眼細胞工学講座〔別刷請求先〕山本禎子:〒990-9585山形市飯田西2-2-2山形大学医学部附属病院眼細胞工学講座特集●糖尿病網膜症:一次予防,二次予防,三次予防の戦略あたらしい眼科24(10):1299~1304,2007糖尿病網膜症二次および三次予防のエビデンス─黄斑浮腫による視力低下阻止を目指して─?????????????????????????????????????????????????????????????????????:?????????????????????????????????????????????山本禎子*———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007従来治療群と比較して強化治療群で圧倒的に低い結果となった(図1).これらの大規模臨床研究により,糖尿病網膜症のみならず糖尿病黄斑浮腫も血糖コントロールと強く関連することが明らかにされた.2.高血圧と糖尿病黄斑浮腫糖尿病網膜症と血圧の関係についての大規模臨床研究は,UKPDS(UnitedKingdomProspectiveDiabetesStudy)の第38報5)で行われている.本研究では,2型糖尿病および高血圧を有する症例1,148例について,血圧が144/82mmHg以下を目標値とした厳格血圧コントロール群と154/87mmHg以下を目標値とした通常血圧コントロール群の2群に分け,大血管および細小血管障害の発症および進展のリスクについて検討している.その結果,平均8.4年の経過観察で糖尿病網膜症や糖尿病黄斑浮腫に対して網膜光凝固治療が必要となった割合は,通常血圧コントロール群に比較し厳格血圧コントロール群で有意に低い結果となった.また,ETDRS(EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy)視力表で3段階以上視力が低下した割合は厳格血圧コントロール群で10.2%であったのに対し,通常血圧コントロール群では19.4%と厳格血圧コントロール群で有意に低かった.Kleinら6)は2型糖尿病における視力低下の原因の多くは糖尿病黄斑浮腫によると報告しているので,UKPDSの結果は,厳格な血圧コントロールが糖尿病黄斑浮腫の発症および進行を抑制する可能性があることを示している.II糖尿病黄斑浮腫の治療近年,糖尿病黄斑浮腫の治療には多くの新しい治療法が開発され,臨床的に導入されてきている.ここでは,各種の治療法についてその概略を解説する.1.薬物全身投与─ProteinkinaseCb(PKCb)阻害薬─高血糖になるとジアシルグリセロールが多く産生され,その結果,網膜内でPKCbが活性化される.PKCbは血管内皮細胞増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)を介して血管透過性を亢進させることにより糖尿病黄斑浮腫を発生させる7).Ruboxistaurinmesylate(LY333531)はPKCのbアイソフォームの選択的阻害薬であり,眼科領域では糖尿病網膜症および糖尿病黄斑浮腫に対する治療目的で開発された.糖尿病黄斑浮腫を対象とした多施設二重盲検無作為研究8)では,mild~moderatelysevere非増殖糖尿病網膜症を有し,浮腫が黄斑中心部から300?m以上離れ,視力が0.6以上の条件を満たす686例を対象にプラセボ,4mg,16mg,32mgの内服を行い,30カ月間経過を観察した.エンドポイントは,(1)網膜の肥厚が黄斑中心から100?m以内に迫ってきた場合,(2)研究開始時において網膜肥厚が黄斑中心から1,300?m以上離れていたものが300?m以内に迫った場合,(3)黄斑部光凝固を施行した場合とされた.その結果は,プラセボ,4mg,16mg,32mgの各群の黄斑浮腫の悪化率をKaplan-Meier法により経時的に観察したところ,4群間に統計学的有意差はみられなかった(図2).しかし,Coxの比例ハザードモデル(図3)では,ruboxistaurin32mg,BMI(bodymassindex),治療開始時の視力,平均収縮期血圧,ETDRSで定義されたsevereの黄斑浮腫,1型糖尿病,HbA1Cについて検討したところ,プラセボ群とruboxi-staurin32mg群の比較で有意な関連がみられ,この結果より,糖尿病黄斑浮腫の浮腫増悪をruboxistaurin32mgが抑制する可能性があると結論された.本薬剤については今後さらなる検討が必要であるが,黄斑浮腫の予防やレーザー治療や手術療法などの補助療法,再発防止などに用いられる可能性がある.(28)図1糖尿病黄斑浮腫(文献4より改変)02468101214従来群強化群EDIC4年後従来群強化群DCCT終了時発症率(%)オッズ減少率46%p=0.03補正後オッズ減少率58%p<0.001———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007????2.局所治療a.局所性黄斑浮腫に対する治療─光凝固治療─局所性黄斑浮腫は漏出点が明らかな局所性の黄斑浮腫であり,光凝固治療が第一選択となる.局所黄斑浮腫に対する光凝固治療の大規模臨床研究はETDRS9)による研究が代表的であり,現在も本研究より得られた知見が基本となって治療が行われている.ETDRSは,糖尿病黄斑浮腫が原因で現在あるいは近い将来に視力低下を生じる可能性のある黄斑浮腫を,臨床的に問題となる浮腫(clinicallysigni?cantmacularedema:CSME)として定義した.つぎに示すいずれかの所見があればCSMEとされる(図4)10).①黄斑中心部から500?m以内にみられる網膜肥厚,②黄斑中心部から500?m以内の網膜肥厚を伴った硬性白斑,③1乳頭径以上の大きさの網膜肥厚が黄斑中心部より1乳頭径以内にあるもの.以上のCSMEにおいて浮腫の原因となっている漏出部分(毛細血管瘤や毛細血管床からびまん性に漏出している部分)が黄斑中心部から2乳頭径以内で,かつ500?m以上離れている病巣に対して光凝固を行ったところ,3年間の経過観察で中等度視力低下〔ETDRSチャートで3段階,スネレン(Snellen)視力表で2段階以上の視力低下〕を生じた割合を50%以上減少させ,約12%以下にすることができた(図5).局所性黄斑浮腫では光凝固治療が有効な症例が多いので,日頃から黄斑部光凝固の手技に十分に熟練しておくことが望まれる.b.びまん性黄斑浮腫の治療局所性黄斑浮腫では黄斑部光凝固が有効な症例が多く,治療の第一選択は光凝固であるが,びまん性黄斑浮腫では局所凝固のみでは十分な効果が得られない症例が多い.このため,格子状光凝固や以下に示す薬物の眼球注射や硝子体手術などが検討されている.(29):プラセボ:4mgofRBX:16mgofRBX:32mgofRBX6050403020100糖尿病黄斑浮腫の悪化率0369121518212427303336経過観察期間(月)図2LY333531の各濃度における糖尿病黄斑浮腫の悪化RBX:ruboxistaurin.(文献8より改変)*500μm500μm網膜肥厚硬性白斑1DD*図4Clinicallysigni?cantmacularedema(CSME)(文献10より)0.250.501.002.004.00ハザード比p値0.020.050.390.10.050.060.003Ruboxistaurin(32mg)Bodymassindex(>30)治療開始時の視力(<84letters)平均収縮期血圧(>105mmHg)糖尿病黄斑浮腫(severe)1型糖尿病HbA1C(>10%)図3各因子のCox比例ハザードモデル(文献8より改変):従来の光凝固:局所凝固3020100中等度視力低下眼の割合(%)122436観察期間(月)図5黄斑部光凝固による視力の推移(文献9より改変)———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007(1)抗VEGF抗体糖尿病黄斑浮腫の病態にはVEGFが大きく関わることから,抗VEGF抗体を治療薬として用いる試みが行われており,糖尿病黄斑浮腫に対する治療薬として,抗VEGF抗体pegaptaniboctasodium(MacugenTM)の第2相臨床研究の結果が2005年に報告されている11).PegaptaniboctasodiumはSELEX法(試験管内人工進化法)により得られたVEGF165に対する高親和性リガンドの28塩基のオリゴヌクレオチドである.第2相臨床研究が対象とした症例は,黄斑の中心部に浮腫が及んでいるが,16週間は黄斑部光凝固を行わないでも問題ないと判断された172例である.用いられた薬剤は0.3mg,1mg,3mgとプラセボの4種類である.投与方法は,観察開始時点,6週後,12週後の3回は全例に投与を行い,その後さらに追加注入が必要と判断された場合は最高6回まで6週間隔で注入可能とした.局所および格子状光凝固は必要と判断された場合は12週以降に行われた.その結果,治療開始から36週の時点において多くの症例が2,3段階の視力改善を得た(図6).また,0.3mg,1mg,3mgの比較では,低濃度(0.3mg,1mg)で視力改善効果が得られた(表1).同じ抗VEGF抗体であるbevacizumab(AvastinTM)は米国で第2相臨床研究が進行中である.Arevaloら12)は6カ国6施設の糖尿病黄斑浮腫例88例110眼を対象とした後ろ向き多施設研究を報告している.本研究では,bevacizumab1.25mgあるいは2.5mgを硝子体内に投与し,視力および網膜厚について検討している.その結果,平均観察期間約6カ月の間で2回の硝子体内注射を行ったものが20%(1回目の硝子体内注射から平均13.8週目で2回目投与),3回投与されたものが7.7%であり,投与時と最終観察時点の比較では,視力および網膜厚は有意に改善していたことが報告されている.(2)ステロイドこれまでにも,眼内の血液眼関門が障害され,増殖機転が生じた眼内にtriamcinoloneacetonideを注入する研究は試みられていた13)が,びまん性糖尿病黄斑浮腫の治療目的で本剤を硝子体内に注射する試みがMartidisら14)により行われた.しかし,その後に副作用の報告が相つぎ,眼圧上昇12),感染性眼内炎15),白内障などが報告された.また,糖尿病黄斑浮腫例に対し,Tenon?下から注入針を刺入し眼球周囲にtriamcinoloneを投与する方法がOhguroら16)により報告された.しかし,triamcinoloneの作用は永続的ではなく,薬剤としての効果が消失すると黄斑浮腫が再発する症例がある.Massinら17)はtriamcinolone投与後12週まではコントロール群に比較して投与群で有意に網膜厚が減少したものの,24週では有意差が消失したことを報告している.このため,現在では黄斑部光凝固とtriamcinoloneの併用療法が試みられたり18),または,糖尿病黄斑浮腫に対する?uocinoloneacetonideの除法剤の埋植システムが検討されている19).(30)01020304050100908070600Lines改善1Lines改善2Lines改善3Lines改善症例数の割合:Pegaptanib0.3mg(n=44):Pegaptanib1mg(n=44):Pegaptanib3mg(n=44):Sham(n=42)*p<0.05†p<0.01***†**図6治療開始後36週における視力維持および改善の割合(文献11より改変)表1ベースラインからの視力変化度観察時期Pegaptanibプラセボ(n=42)0.3mg(n=44)1mg(n=44)3mg(n=42)ベースラインからの視力改善度0週+0.4-0.0+0.2+0.96週+1.8+2.9+3.6+1.412週+3.5+4.3+2.5+1.330週+5.4+4.1+2.3+0.636週+4.7+4.7+1.1-0.436週におけるプラセボ群との比較(p値)0.040.050.55(文献11より改変)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007????(3)硝子体手術糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術は,最初にLewisら20)が肥厚した後部硝子体膜を認める糖尿病黄斑浮腫に対して硝子体手術を行い,浮腫の軽減が得られたことを報告して以来,多くの報告が相ついだ.筆者も,肥厚した後部硝子体膜や後部硝子体?離の有無にかかわらず,びまん性黄斑浮腫に対し硝子体手術が有効な症例があることを報告した21).また,硝子体手術を行った糖尿病黄斑浮腫例73眼を1年間以上経過観察した結果,ステロイドや抗VEGF抗体の局所投与などが投与後に再発する症例が多くみられるのに対し,硝子体手術が有効であった症例では術後3カ月頃から浮腫は軽減し,術後2年の時点で97%の症例で黄斑浮腫の改善がみられた.一方,視力改善は浮腫の軽減からやや遅れて12カ月頃からみられ,24カ月まで視力改善は維持された22).III今後の展望これまでも,新しい治療法や薬剤の効果について1施設,少数例,コントロールと比較検討されていない報告は多い.しかし,その有効性について確実性の高い検討を行うためには大規模,多施設,前向き,比較対照試験であることが望ましい.そこで,現在,米国のNationalEyeInstituteが中心となってTheDiabeticRetinopa-thyClinicalResearchNetwork(DRCRnet)23)が組織され,糖尿病黄斑浮腫に関する大規模臨床研究が進行中または予定されている.そのいくつかについて簡単に紹介する.(1)糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術の治療効果:視力が0.025以上の糖尿病黄斑浮腫例400例について硝子体手術を行い,視力,網膜厚,網膜牽引の変化,手術合併症について検討する.(2)汎網膜光凝固後に生じる黄斑浮腫の検討:早期の増殖糖尿病網膜症あるいは重症の非増殖糖尿病網膜症で,OCT(光干渉断層法)で測定した黄斑中心部が200?m以下の症例に対して汎網膜光凝固を1回で行う群と4回に分けて行う群の2群に分けて網膜厚と視力の推移について比較検討する.(3)無症候性糖尿病黄斑浮腫の検討:検眼鏡的には中心窩に黄斑浮腫は認められず視力低下もないが,OCTによる測定で225?m以上299?mの網膜厚の肥厚を認める糖尿病黄斑浮腫がどのように変化するかについて観察する.その観察結果から無症候性糖尿病黄斑浮腫の予後因子,浮腫増悪時の徴候について検討する.(4)糖尿病黄斑浮腫に対する光凝固療法の検討.(5)糖尿病黄斑浮腫に対するtriamcinoloneの硝子体内注射と光凝固の無作為比較研究.(6)糖尿病黄斑浮腫に対するtriamcinolone眼球周囲注射の検討.(7)糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF療法─アバスチンの評価─第2相臨床試験,第3相臨床試験.(8)白内障手術と糖尿病黄斑浮腫.以上の検討項目はすべて糖尿病黄斑浮腫の治療を考えていくうえで必要不可欠なものであり,これらの大規模臨床研究から得られる結果によってさらに糖尿病黄斑浮腫の治療法が改善され,黄斑浮腫による視力低下が減少し,よりよい視力が保持できることが期待できる.文献1)KleinR,KleinBE,MossSEetal:TheWisconsinEpide-miologicStudyofDiabeticRetinopathy.IV.Diabeticmacu-laredema.?????????????91:1464-1474,19842)UKProspectiveDiabetesStudy(UKPDS)Group:Inten-siveblood-glucosecontrolwithsulphonylureasorinsulincomparedwithconventionaltreatmentandriskofcompli-cationsinpatientswithtype2diabetes(UKPDS33).???????352:837-853,19983)DiabetesControlandComplicationsTrialResearchGroup:Thee?ectofdiabetesonthedevelopmentandprogressionoflong-termcomplicationsinsulin-dependentdiabetesmellitus.????????????329:977-986,19934)TheDiabetesControlandComplicationsTrial/Epidemiolo-gyofDiabetesInterventionsandComplicationsResearchGroup:Retinopathyandnephropathyinpatientswithtype1diabetesfouryearsafteratrialofintensivethera-py.????????????342:381-389,20005)UKProspectiveDiabetesStudyGroup:Tightbloodpres-surecontrolandriskofmacrovascularandmicrovascularcomplicationsintype2diabetes:UKPDS38.???317:703-713,19986)KleinR,MossSE,KleinBEetal:TheWisconsinEpide-miologicStudyofDiabeticRetinopathy.XI.Theincidenceofmacularedema.?????????????96:1501-1510,19897)AielloLP,BursellSE,ClermontAetal:Vascularendo-(31)———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007thelialgrowthfactor-inducedretinalpermeabilityismedi-atedbyproteinkinaseCinvivoandsupressedbyanorallye?ectivebeta-isoform-selectiveinhibitor.?????????46:1473-1480,19978)PKC-DMESStudyGroup:E?ectofruboxistaurininpatientswithdiabeticmacularedema:thirty-monthresultsoftherandomizedPKC-DMESclinicaltrial.???????????????125:318-324,20079)EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Photocoagulationfordiabeticmacularedema.EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyreportnum-ber1.???????????????103:1796-1806,198510)山本禎子,山下英俊:特集眼科診療とEBM7.糖尿病網膜症.眼科48:911-921,200611)MacugenDiabeticRetinopathyStudyGroup:AphaseIIrandomizeddouble-maskedtrialofpegaptanib,ananti-vascularendothelialgrowthfactoraptamer,fordiabeticmacularedema.?????????????112:1747-1757,200512)ArevaloJF,Fromow-GuerraJ,Quiroz-MercadoHetal:Primaryintravitrealbevacizumab(Avastin)fordiabeticmacularedema:resultsfromthePan-AmericanCollabor-ativeRetinaStudyGroupat6-monthfollow-up.??????????????114:743-750,200713)TanoY,ChandlerD,MachemerR:Treatmentofintraoc-ularproliferationwithintravitrealinjectionoftriamcino-loneacetonide.???????????????90:810-816,198014)MartidisA,DukerJS,GreenbergPBetal:Intravitrealtriamcinoloneforrefractorydiabeticmacularedema.??????????????109:920-927,200215)MoshfeghiDM,KaiserPK,ScottIUetal:Acuteendo-phthalmitisfollowingintravitrealtriamcinoloneacetonideinjection.???????????????136:791-796,200316)OhguroN,OkadaAA,TanoY:Trans-Tenon?sretrobul-bartriamcinoloneinfusionfordi?usediabeticmacularedema.????????????????????????????????242:444-445,200417)MassinP,AudrenF,HaouchineBetal:Intravitrealtri-amcinoloneacetonidefordiabeticdi?usemacularedema:preliminaryresultsofaprospectivecontrolledtrial.??????????????111:218-224,200418)TuncM,OnderHI,KayaM:Posteriorsub-Tenon?scap-suletriamcinoloneinjectioncombinedwithfocallaserpho-tocoagulationfordiabeticmacularedema.?????????????112:1086-1091,200519)Fluocinoloneacetonideophthalmic─Bausch&Lomb:?uocinoloneacetonideEnvisionTDimplant.????????6:116-119,200520)LewisH,AbramsGW,BlumenkranzMSetal:Vitrecto-myfordiabeticmaculartractionandedemaassociatedwithposteriorhyaloidaltraction.?????????????99:753-759,199221)YamamotoT,AkabaneN,TakeuchiS:Vitrectomyfordiabeticmacularedema:theroleofposteriorvitreousdetachmentandepimacularmembrane.???????????????132:369-377,200122)YamamotoT,TakeuchiS,YamashitaH:Thelong-termfollowupresultsofparsplanavitrectomyfordiabeticmacularedema,????????????????,inpress23)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork(DRCRnet):Website:www.DRCR.net.(32)

糖尿病網膜症二次予防のエビデンス-血管新生阻止を目指して(薬物療法,光凝固など)-

2007年10月31日 水曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSなされている.糖尿病による細小血管障害により,網膜血管に病変が生じると網膜は高度の虚血環境下に曝される.虚血に陥った網膜に対して光凝固を播種することによって,酸素消費量の多い視細胞と網膜色素上皮細胞に変性壊死が起こる.網膜外層における代謝需要の低下とそれに伴う酸素消費量の減少により,網膜の虚血が是正されることが示唆されている.いわゆる光凝固の間引き効果といわれるものである.一方,網膜外層の光凝固による破壊で,脈絡膜血管から網膜内層への酸素拡散が2次的に増加し,網膜の虚血が是正されることもいわれている.光凝固により網膜内層の酸素分圧が正常化し,低酸素状態に陥っていたグリア細胞や血管内皮細胞の代謝や機能が回復し,血管内皮細胞増殖因子(VEGF)などの血管新生促進因子の産生や分泌が抑制されることが示唆されている.もう一つの光凝固の効果として,光凝固により網膜への循環血流量が減少し,これによる血管拡張の緩和があげられる.これらの光凝固奏効機序の仮説は,多くの動物実験で裏付けが試みられている.II光凝固のエビデンスDiabeticRetinopathyStudy(DRS)1)は,1971年から1975年にかけて行われた無作為多施設臨床治験である.糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固の有効性と実施時期,キセノンとアルゴンレーザーによる効果と副作用の差異を検討するため,少なくとも1眼に増殖網膜症を有するか,両眼に重症の非増殖網膜症を有し,矯正視力がはじめに糖尿病網膜症(以下,網膜症)に対する眼科的治療は,網膜光凝固療法(以下,光凝固)と硝子体手術が主体的に行われ,薬物療法は網膜症を対象とした治験中のものもあるが,あくまでも補助的な意味合いで行われている.網膜症治療の到達目標は,良好な視機能を保持したまま網膜症の鎮静化を図ることにある.眼科的治療介入においては,視力予後を悪化させる増殖性病変の発症と進展の阻止が最優先課題とされていた.しかし,光凝固や硝子体手術の飛躍的な進歩により,失明予防を高率に抑制することが可能となり,現在は,黄斑浮腫や視野狭窄といった視機能のクォリティーを低下させる合併症をいかに最小限に留めるかが問われている.そのため,網膜症に対して,いかなる治療が,いかなる時期に行われるべきかのエビデンスが求められている.本稿では,光凝固を中心に血管新生阻止を目的とした眼科的治療のエビデンスを取り上げて,網膜症の眼科的治療の介入の方向性について述べてみたい.I光凝固の奏効機序網膜は,全身の組織のなかでも,酸素消費量の多い組織とされている.酸素消費量の高い網膜外層,特に視細胞や網膜色素上皮細胞は,網膜全体の2/3以上の酸素を消費するといわれる.網膜組織は,網膜と脈絡膜の2つの血管系により栄養され,網膜内層は網膜血管系により,網膜外層は脈絡膜血管系により酸素の供給がおもに(19)????*ShigehikoKitano:東京女子医科大学糖尿病センター眼科〔別刷請求先〕北野滋彦:〒162-8666東京都新宿区河田町8-1東京女子医科大学糖尿病センター眼科特集●糖尿病網膜症:一次予防,二次予防,三次予防の戦略あたらしい眼科24(10):1291~1297,2007糖尿病網膜症二次予防のエビデンス─血管新生阻止を目指して(薬物療法,光凝固など)─????????????????????????????????????????????????????????:???????????????????????????????????????????????????????北野滋彦*———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.10,20070.2以上の糖尿病患者1,758名を対象に,片眼にキセノンまたはアルゴンレーザーで汎網膜光凝固を施行し,他眼は経過観察を行った.3年経過で視力0.025以下まで悪化した率(seversvisualloss)は,アルゴンレーザーで13.3%,キセノンで18.5%,経過観察群で26.4%であり,5年経過で光凝固療法により視力の悪化するリスクが50%に減少された(図1).DRSでは,増殖網膜症のなかでもハイリスクな増殖網膜症において,著しい視力障害(視力0.025以下)をきたす頻度が汎網膜光凝固により有意に減少したという結果が得られた.ハイリスクな増殖網膜症とは,①1/4から1/3乳頭径を超える乳頭上新生血管,②視神経乳頭から1乳頭径内の新生血管,③硝子体出血または網膜前出血を伴う視神経乳頭から1乳頭径内の新生血管,④硝子体出血または網膜前出血を伴う1/2乳頭径大以上の増殖性病変のいずれかがみられるものをいう.一方,EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy(ETDRS)3)は,1979年から1991年にかけて行われた無作為多施設臨床治験である.光凝固の実施にあたり生じてきた疑問である,①汎網膜光凝固をどの時期に施行するのが最も有効か,②黄斑浮腫に対する光凝固は有効か,③アスピリン内服は網膜症治療に有効かが検討された.軽症から重症の非増殖網膜症または初期の増殖網膜症を有する糖尿病患者3,711名を以下の3群に分けた.すなわち,Ⅰ.黄斑浮腫を認めない群,Ⅱ.黄斑浮腫を認める軽症または中等度の非増殖網膜症(lessseverereti-nopathy)群,Ⅲ.黄斑浮腫を認める重症の非増殖網膜症または初期増殖網膜症(moresevereretinopathy)群の3群である.それぞれの群で,早期に光凝固を行う群と行わない群に割り付け,さらに早期に光凝固を行う場合は,凝固総数が1,200発を超える密凝固(completescatterphotocoagulation)群と超えない粗凝固(mildscatterphotocoagulation)群,加えて黄斑凝固を併用させるか否かに細分した(図2).5年間の経過観察で,ハイリスクな増殖網膜症への進展率は,各群とも非凝固群で高く,Ⅲ群のmoresevereretinopathyにおいては61.3%にのぼる.しかし,Ⅲ群で密凝固を行った群では,ハイリスクな増殖網膜症への進展率は27.6%に抑えられた(表1).一方,5年間の経過観察における視力0.025以下まで悪化した率(severevisualloss)は,黄斑浮腫を認めないⅠ群では差はみられなかったが,黄斑浮腫を認めるⅡ群のlesssevereretinopathy,Ⅲ群のmore(20)図1DRSにおける視力0.025以下まで悪化した率(DRS1)による)403020100081624324048566472調査開始からの期間(月)5/200以下の視力(%)キセノン・コントロールアルゴン・コントロールキセノン・治療群アルゴン・治療群→図2ETDRSにおける症例の割り付け法ETDRS症例黄斑浮腫(-)いずれの非増殖網膜症または早期増殖網膜症黄斑浮腫(+)軽症または中等度非増殖網膜症非光凝固非光凝固非光凝固早期光凝固粗光凝固密光凝固粗光凝固密光凝固黄斑凝固→粗光凝固黄斑凝固→密光凝固早期光凝固黄斑浮腫(+)重症非増殖網膜症または早期増殖網膜症粗光凝固密光凝固黄斑凝固→粗光凝固黄斑凝固→密光凝固早期光凝固———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007????severeretinopathyでは,非凝固群に比し粗凝固群,密凝固群ともに抑制されていた(表2).しかし,軽度や中等度の非増殖網膜症における汎網膜光凝固は,後述するように視野狭窄などの合併症をきたす頻度が著しい視力障害への抑制効果を上回るため,推奨されないという考察が述べられている.これらの臨床治験の結果から,ETDRSの推奨する網膜症に対する光凝固は,図3に示すように,重症あるいは超重症非増殖網膜症,さらに初期増殖網膜症においては時に汎網膜光凝固が施行され,ハイリスクな増殖網膜症に至ってからただちに汎網膜光凝固が施行されるという治療指針が示されている.黄斑浮腫を伴う軽症または中等症の非増殖網膜症の場合は,まず黄斑浮腫に対する光凝固を行って経過を観察し,増殖網膜症に移行した時点で汎網膜光凝固を行うのがよいとしている.わが国では後述する厚生省(現厚生労働省)の治療指針が示すように,血管床閉塞に対して選択的に光凝固を行う病巣凝固が主体で,血管床閉塞が3象限以上の広範にみられる場合や,増殖性病変がすでに認められている場合のみ汎網膜光凝固が行われている.志水ら5)は,増殖前網膜症に対し網膜光凝固を行った96眼と,光凝固を行わなかった46眼を3年間経過観察し,光凝固眼における眼底所見で改善率は高率であり,増殖期への進行は有意に低率であったと報告している.増殖前網膜症には,軟性白斑が散在するのみの軽症例から,網膜内細小血管異常がみられ,蛍光眼底造影で血管床閉塞が同定される中等症例,さらに静脈の数珠状拡張や,ループ形成,重複化など高度の異常をきたす重症例まである.増殖前網膜症における光凝固の対象は,蛍光眼底造影における血管床閉塞とされる.症例の網膜症の進展に伴い,蛍光眼底造影をくり返し行い,新たな血管床閉塞の出現に対し病巣凝固を追加する方法が,必要最小限の光凝固で,黄斑浮腫などの合併症を少なくして,増殖網膜症への進行を阻止しうるものと思われる.しかしながら,このエビデンスは今のところない.米国とわが国のいずれかの治療指針が,次項にあげる光凝固の合併症を最小限にして,網膜症の増殖化の予防・鎮静化を効果的に行えるかを検討するため,現在,日本糖尿病眼学会を中心に臨床治験がわが国で進められている.III光凝固の合併症網膜色素上皮や視細胞が熱凝固され,神経網膜の外層に凝固効果が及ぶことが光凝固の狙いであり,網膜内層や脈絡膜深部に至る凝固は過剰となる.光凝固による合併症は,硝子体牽引のほか,網脈絡膜の炎症,血液網膜柵の破綻,毛様体?離や脈絡膜毛細血管板閉塞があり,周辺視野狭窄,暗順応の低下,色覚異常などの症状を生じる.ETDRSの報告において,凝固後4年の周辺部視(21)表1ETDRSにおけるハイリスクな増殖網膜症への進展率密凝固粗凝固非凝固Ⅰ群黄斑浮腫(-)583眼590眼1,179眼18.8%26.9%38.5%Ⅱ群黄斑浮腫(+)718眼730眼1,429眼Lesssevereretinopathy11.1%19.0%26.7%Ⅲ群黄斑浮腫(+)542眼548眼1,103眼Moresevereretinopathy27.6%43.5%61.3%表2ETDRSにおける5年経過観察後の視力0.025以下まで悪化した率密凝固粗凝固非凝固Ⅰ群黄斑浮腫(-)583眼590眼1,179眼2.7%2.6%2.2%Ⅱ群黄斑浮腫(+)718眼730眼1,429眼Lesssevereretinopathy1.0%1.7%2.9%Ⅲ群黄斑浮腫(+)542眼548眼1,103眼Moresevereretinopathy4.2%4.0%6.5%図3ETDRSにおける光凝固治療のアルゴリズム網膜症なし増殖網膜症汎網膜光凝固経過観察軽度非増殖網膜症重症非増殖網膜症中等度非増殖網膜症コントロール不良白内障手術妊娠片眼の進行度糖尿病病型NoNoYesYesハイリスク網膜症———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007野狭窄は早期密凝固群に著明であり,早期粗光凝固群では非凝固群とほぼ同じである.色覚異常は,凝固後4年で各群とも約20%の頻度で認められているが,黄斑浮腫を認めるⅡ群のlesssevereretinopathyにおいて,早期に黄斑凝固を行い,その後に汎網膜光凝固を行った場合に頻度が少なかった.凝固斑拡大(atrophiccreep)は,凝固部周囲の網膜色素上皮が光凝固による熱エネルギーにより徐々に萎縮するもので,近視眼や高齢者によくみられ,特に後極部の過剰凝固には注意を要する.汎網膜光凝固において,最も問題とされるのは光凝固後の黄斑浮腫である.黄斑浮腫は,中心視力を得る網膜の中心にあたる部位に血管透過性亢進により浮腫を生ずる病態をいい,網膜症における視力障害の一因となっている.汎網膜光凝固後の8~25%の頻度で,黄斑浮腫が発生または増悪するといわれ,治療後に視力低下をきたすため憂慮されている.汎網膜光凝固後に発生または増悪する黄斑浮腫を予防するにあたり,1回に行う光凝固数を400発以下に抑え,光凝固の間隔を2週間以上あけるべきといった提唱がされているが,ETDRSの結果からも,事前に黄斑浮腫を同定し,汎網膜光凝固より優先して対処していくことが薦められる.IV光凝固の適応網膜症に対する光凝固の目的は,増殖化予防・停止にあり,一般的には,網膜症の増殖前期に光凝固を行うのが効果的であるとされている.糖尿病網膜症に対する光凝固の適応に関して,1994年に厚生省(現厚生労働省)から適応と実施基準が示されている4)(表3).なお,黄(22)表3厚生省(現厚生労働省)による糖尿病網膜症に対する光凝固の治療指針病型検眼鏡所見蛍光造影所見光凝固対象部位備考単純網膜症・黄斑症は別項参照・びまん性網膜浮腫広範な血管拡張と透過性亢進後極部を除く病巣部位増殖前網膜症に移行しやすい増殖前網膜症・急性型軟性白斑の多発と血管異常(網膜内細小血管異常または静脈数珠状拡張)・慢性型白線化血管網膜内細小血管異常血管拡張と透過性亢進が目立つ病巣部位は網膜全体あるいは後極部広範な血管閉塞黄斑を除く病巣部位血管閉塞域軟性白斑のみが主要な所見の場合は光凝固非適応硝子体?離があれば増殖化しにくい増殖網膜症・新生血管・線維増殖合併・硝子体牽引合併広範な血管閉塞新生血管からの蛍光漏出同上同上血管閉塞域(汎網膜光凝固)同上(増殖膜は除く)同上(網膜?離部は除く)硝子体出血は何時でも起こりうる硝子体手術を前提黄斑症・単純浮腫(びまん性)・単純浮腫(限局性)・?胞様黄斑浮腫・輪状網膜症・脂質沈着・虚血性黄斑症黄斑周囲のびまん性透過性亢進毛細血管瘤?胞造影硬性白斑内の異常血管透過性亢進黄斑部血管閉塞格子状光凝固病巣部位びまん性の蛍光漏出は格子状光凝固限局性の蛍光漏出は病巣凝固異常血管病巣および格子状凝固非適応黄斑症以外の周辺部にも注意を払う黄斑牽引病変は手術適応黄斑から離れていれば不要隅角および虹彩血管新生広範な血管閉塞循環遅延汎網膜光凝固隅角閉塞の程度により他の治療を併用糖尿病網膜症で光凝固を実施するにあたっては,事前に硝子体観察と蛍光眼底造影を行うことが望ましい.光凝固を実施するにあたっては,起こりうる合併症に関して患者に十分な説明を行う.また,どのような状態に対し,どのような光凝固を行ったか,その後の経過を含めて内科主治医に連絡するのが望ましい.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007????斑浮腫に対する治療に関しては別項で述べられているので,本稿では省略する.単純網膜症では,黄斑症と蛍光造影所見において広範な血管拡張と透過性亢進を示す,びまん性網膜浮腫が対象となるが,両者の糖尿病網膜症における頻度は少ないと思われる.増殖前網膜症においては,急性型と慢性型に分類している.急性型は,軟性白斑の多発と網膜内細小血管異常および静脈数珠状拡張を示す血管異常を主体とし,蛍光造影所見では,血管拡張と透過性亢進が目立ち,病巣部位は網膜全体あるいは後極部が主体である.急性型に対する光凝固は,黄斑を除く病巣部位に行われる.慢性型は,白線化血管や網膜内細小血管異常が主体で,蛍光眼底所見では,広範な血管床閉塞を示す.慢性型に対する光凝固は,血管床閉塞に行われる.しかし,増殖前網膜症のなかで,軟性白斑のみで血管異常が認められない場合,蛍光眼底所見において血管床閉塞は限局的で,光凝固の必要性は低いとされる.増殖網膜症は,新生血管がみられる場合,蛍光造影所見で広範な血管床閉塞と新生血管からの蛍光漏出がみられ,光凝固は,血管閉塞に対して汎網膜光凝固が行われる.線維増殖合併の場合は,蛍光眼底所見は新生血管と同様に広範な血管床閉塞がみられ,光凝固も増殖膜は除いて血管床閉塞に対して汎網膜光凝固が行われる.硝子体牽引合併の場合も,線維増殖合併と同様だが,光凝固はあくまでも硝子体手術を前提とし網膜?離部は避けて行う.上記のように,網膜症に対する光凝固は,単純網膜症から増殖網膜症まで,病期や病変に応じた適応があるとされている.汎網膜光凝固の適応わが国においては,血管床閉塞に対して選択的に光凝固を行うことが多い.網膜症に対する光凝固の目的は,黄斑浮腫の場合を除き,基本的には増殖化の発生母地といえる血管床閉塞が対象とされ,その程度により,病巣凝固と汎網膜光凝固が選択される.病巣凝固(選択的病変部光凝固あるいは限局的直接的光凝固)は,特定の病変部を選択し,直接光凝固する.ここでいう病変部とは,血管床閉塞や血管透過性亢進部位をさす.血管床閉塞が3象限以上の広範にみられる場合や,増殖性病変がすでに認められている場合は,限局的なものを除きすべてが汎網膜光凝固の対象となる.特に,血管新生緑内障,あるいは広範な網膜前出血や硝子体出血をすでに生じている場合は,早急に汎網膜光凝固を完成させなくてはならない.汎網膜光凝固は,増殖化を予防あるいは軽減させるために,あくまでも間接的効果をもとに行われる.凝固斑が小さく,まばらであると,血管床閉塞に対する増殖化予防の効力を発しない.逆に,過剰凝固を行えば,汎網膜光凝固による弊害も考慮しなくてはならない.光凝固による増殖膜の収縮や,硝子体牽引の増強で,硝子体出血や牽引性網膜?離を誘発する症例がしばしば認められる.V網膜症に対する薬物療法網膜症に対する薬物療法は,あくまでも補助的な意味合いで行われている.現在までの網膜症(黄斑浮腫を除く)をターゲットとした治験について述べる.ETDRSの臨床治験では,無作為にアスピリン650mg/日とプラセボが投与された.アスピリンの投与は,網膜症治療に有効であるという裏付けも,硝子体出血や網膜前出血が誘発要因となることも示されなかった5).アルドース還元酵素阻害薬(ARI)は,グルコースからソルビトールへの変換を阻害し,ポリロール代謝経路の活性亢進による網膜症の発症・進展を抑制することが期待されている.ARIとして糖尿病性神経症を対象に,エパルレスタット(キネダック?)が臨床応用されている.網膜症に対する効果については,否定的な意見が多い.プロテインキナーゼC(PKC)は蛋白リン酸化酵素で,高血糖の持続により,ジアシルグリセオール(DAG)の合成が促進され,PKCの活性が上昇する.PKCの活性化は,血管内皮細胞増殖因子(VEGF)を発現させて,網膜血管内細胞の増殖や血管透過性の亢進に関与する.ルボキシスタウリン・メシレート(LY333531)は,PKCbの特異的阻害薬で,米国での臨床治験において,末?神経障害に対して有効性が示されている.PKC-(23)———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007DRSStudyGroupでは,ETDRS分類の47B・53Eにあたる網膜症で,視力0.16以上,光凝固非施行の252例に対して,8mg,16mg,32mgとプラセボを無作為に分け,36~46週間投与した.その結果,網膜症の進展に関しては有意差が得られなかったが,主要評価項目である中等度視力障害は,32mg投与群で有意に減少していた.特に,観察開始時に黄斑浮腫を併発する例において有意差が認められた6).昨年末からわが国において,糖尿病黄斑浮腫に対するPKCb阻害薬の第Ⅱ相臨床治験が全国で開始されている.現在のところ,PKCb阻害薬の対象は,糖尿病黄斑浮腫に向けられている.アンジオテンシン変換酵素阻害薬が,臨床的に網膜症に有効であることも示され7),現在はアンジオテンシンⅡタイプ1(AT1)受容体拮抗薬であるcandesartanの臨床試験が行われている8).VEGFは内皮細胞の遊走と増殖,管腔形成促進,細胞接着分子の発現といった血管新生作用を有する.網膜では,血管内皮細胞をはじめとして,網膜色素上皮細胞,M?ller細胞,神経節細胞でVEGFの産生がみられ,血管内皮細胞に受容体の発現が認められている.特に,網膜症や黄斑浮腫患者の眼内液中には,初期よりVEGFの存在が認められており,その進展により濃度の上昇がみられ,VEGFは,網膜症の発症から増殖網膜症に至るまで重要な役割を担っていると思われる.VEGF阻害治療として,VEGF抗体の硝子体内投与があり,ranibizumab(Lucentis?)は黄斑浮腫に対する臨床治験が計画され,bevacizumab(Avastin?)は,硝子体出血を伴う増殖網膜症9)や硝子体手術が無効な虹彩新生血管の抑制10~12),硝子体手術の術前投与13)として試験的に使用されている.また,VEGFのアプタマーであるpegaptanib(Macugen?)による網膜新生血管の抑制が報告され14,15),黄斑浮腫に対しては,第Ⅲ相臨床治験が進行中である16).VEGF阻害治療は,全身投与では虚血性冠動脈疾患をはじめとした全身疾患への作用が危惧され,硝子体注射など眼局所に投与されることが多い.おわりに糖尿病網膜症に対する光凝固において,網膜症の増殖化の予防・鎮静化に有効であることはすでに立証されている.光凝固の実施するタイミングが,どの病期において最も適切なのかは,今後の課題が残されている.近い将来,網膜症に対する薬物治療が臨床応用されるものと思われるが,高血糖是正といった根本的な治療を優先しなければならないことには変わりないと思われる.文献1)TheDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Prelimi-naryreportone?ectsofphotocoagulationtherapy.???????????????81:383-396,19762)EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Earlyphotocoagulationfordiabeticretinopathy:ETDRSreportnumber9.?????????????98:766-785,19913)志水葉子,小嶋一晃:前増殖型糖尿病性網膜症に関する臨床的検討─光凝固.眼紀40:1635-1642,19894)清水弘一:分担研究報告書汎網膜光凝固治療による脈絡膜循環の変化と糖尿病血管新生緑内障のレーザー治療ならびに糖尿病網膜症の光凝固適応及び実施基準.平成6年度糖尿病調査研究報告書,p346-349,厚生省,19955)EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:E?ectofaspirintreatmentondiabeticretinopa-thy.ETDRSreportnumber8.?????????????98:757-765,19916)ThePKC-DRSStudyGroup:Thee?ectofruboxistaurinonvisuallossinpatientswithmoderatelyseveretoveryseverenonproliferativediabeticretinopathy:initialresultsoftheProteinKinaseCbetaInhibitorDiabeticRetinopa-thyStudy(PKC-DRS)multicenterrandomizedclinicaltrial.????????54:2188-2197,20057)ChaturvediN,SjolieAK,StephensonJMetal:E?ectoflisinoprilonprogressionofretinopathyinnormotensivepeoplewithtype1diabetes.TheEUCLIDStudyGroup:EURODIABControlledTrialofLisnoprilinInsulin-DependentDiabetesMellitus.??????351:28-31,19988)SjolieAK,PortaM,ParvingHHetal:TheDiabeticReti-nopathyCandesatanTrial(DIRECT)Programme:baselinecharacteristics.?????????????????????????????????????6:25-32,20059)SpaideRF,FisherYL:Intravitrealbevacizumab(Avastin)treatmentofproliferativediabeticretinopathycomplicatedbyvitreoushemorrhage.??????26:275-278,200610)AveryRL:Regressionofretinalandirisneovasculariza-tionafterintravitrealbevacizumab(Avastin)treatment.??????26:352-354,200611)OshimaY,SakaguchiH,GomiFetal:Regressionofirisneovascularizationafterintravitrealinjectionofbevaci-zumabinpatientswithproliferativediabeticretinopathy.???????????????142:155-158,2006(24)———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007????12)GrisantiS,BiesterS,PetersSetal:Intracameralbevaci-zumabforirisrubeosis.???????????????142:158-160,200613)ChenE,ParkCH:Useofintravitrealbevacizumabasapreoperativeadjunctfortractionalretinaldetachmentrepairinsevereproliferativediabeticretinopathy.??????26:699-700,200614)KrzystolikMG,FilippopoulosT,DucharmeJFetal:Pegaptanibasanadjunctivetreatmentforcomplicatedneovasculardiabeticretinopathy.???????????????124:920-921,200615)AdamisAP,AltaweelM,BresslerNMetal:ChangesinretinalneovascularizationafterPegaptanib(Macugen)therapyindiabeticindividuals.?????????????113:23-28,200616)CunninghamETJr,AdamisAP,AltaweelMetal:Macu-genDiabeticRetinopathyStudyGroup:AphaseⅡran-domizeddouble-maskedtrialofpegaptanib,ananti-vas-cularendothelialgrowthfactoraptamer,fordiabeticmacularedema.?????????????112:1747-1757,2005(25)新糖尿病眼科学一日一課初版から7年,糖尿病の治療,眼合併症の診断,治療の進歩に伴い,待望の改訂版刊行!【編集】堀貞夫(東京女子医科大学教授)・山下英俊(山形大学教授)・加藤聡(東京大学講師)本書の初版が出版されて7年余がたった.この間に糖尿病自体の治療や合併症の診断と治療が大きく変遷し進歩した.ことに糖尿病網膜症と糖尿病黄斑浮腫の発症と進展に関与するサイトカインの研究が進展し,病態の解明が大きく前進した.これを踏まえて,発症と進展に関与する薬物療法の可能性を追求する臨床試験が進んでいる.一方で,視機能,ことに視力低下に直接つながる糖尿病黄斑浮腫の治療は,現時点で最も論議が活発な病態となっている.硝子体手術やステロイド薬の投与の適応と効果について,初版が出版された頃に比べると大きく見解が変化している.そして,糖尿病黄斑浮腫の診断に大きな効果を発揮する画像診断装置が普及した.(序文より)〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替00100-5-69315電話(03)3811-0544メディカル葵出版株式会社Ⅰ糖尿病の病態と疫学Ⅱ糖尿病網膜症の病態と診断Ⅲ網膜症の補助診断法Ⅳ糖尿病網膜症の病期分類Ⅴ糖尿病網膜症の治療Ⅵ糖尿病黄斑症Ⅶ糖尿病と白内障Ⅷその他の糖尿病眼合併症Ⅸ網膜症と関連疾患Ⅹ糖尿病網膜症による中途失明糖尿病眼科における看護Ⅸ■内容目次■B5型総224頁写真・図・表多数収載定価9,660円(本体9,200円+税460円)

糖尿病網膜症一次予防のエビデンス-久山町研究から-

2007年10月31日 水曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSにおける糖尿病患者総数は690万人と報告され,5年後の2003年の調査では740万人と報告されている.5年間で50万人も増加しており,現在も糖尿病自体の患者数はさらに増加しつつあり,今後もその傾向は変わらないと予想されている.これに伴い糖尿病網膜症患者数も増加することが容易に想像できる.しかしながら,これまではわが国においては糖尿病網膜症の疫学研究,特に住民を対象としたpopulation-basedstudyはあまり行われていなかった.実際の糖尿病網膜症の患者数を把握するために筆者らは久山町での疫学研究を開始した.1998年に40歳以上の久山町全住民を対象に糖尿病および糖尿病網膜症の有病率の調査を開始した.その後2003年に追跡調査を行い,糖尿病網膜症の実態調査を行った.最初に調査を行った1998年の結果では,糖尿はじめに科学的根拠に基づいた医療(EBM)が必要とされているなか,残念ながら眼科疾患においてわが国独自のエビデンスはあまり多くない.従来わが国で発表された論文は,クロスセクショナルに一時期に遭遇した患者の症例報告や臨床統計が多く,長期間にわたってプロスペクティブに追跡調査された臨床研究はあまりみられない.しかし,日本においても,世界の水準をゆく疫学研究が進行中である.福岡県久山町を舞台に,1960年代から進められている“久山町研究”がそれである(図1).福岡県久山町は福岡市東部に隣接する人口約7,500人の都市近郊型農村地域で,人口の年齢分布や職業構成および生活様式や疾病構造(高血圧,高脂血症,肥満,糖尿病など)が全国統計と差異がなく,わが国の平均的な集団であるとされている(図2,3).追跡率は99%を超え,その高い追跡率と精度から世界的にも高い評価を受けている.1998年から九州大学眼科学教室はこの久山町研究に参加し,40歳以上の久山町全住民を対象にプロスペクティブな追跡調査を行い,糖尿病網膜症の有病率,発症率および危険因子を調査している.これらの調査結果より明らかになったわが国における糖尿病網膜症のエビデンスについて報告する.I糖尿病網膜症有病率の推移糖尿病網膜症は糖尿病の代表的な合併症である.1998年の厚生労働省による糖尿病実態調査ではわが国(15)????*MihoYasuda:九州厚生年金病院眼科〔別刷請求先〕安田美穂:〒806-0034北九州市八幡西区岸の浦2-1-1九州厚生年金病院眼科特集●糖尿病網膜症:一次予防,二次予防,三次予防の戦略あたらしい眼科24(10):1287~1290,2007糖尿病網膜症一次予防のエビデンス─久山町研究から─???????????????????????????????????????????????????????:??????????????????安田美穂*図1久山町と人口の推移福岡市久山町134万人65万人福岡市7,600人6,500人久山町2000年1960年九州大学———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007病の有病率は16.3%,糖尿病網膜症の有病率は2.6%(糖尿病患者の15.8%)であった(図4).その5年後の2003年の調査では,糖尿病の有病率は19.0%,糖尿病網膜症の有病率は2.0%(糖尿病患者の10.5%)であり(図5),1998年の調査と比較すると,糖尿病の割合は増加しているが,網膜症の割合は減少していることがわかった(図6).その背景として,久山町では1998年より対象者全員に糖負荷試験を実施しており,厳しい診断基準で治療が行われるようになったことが影響していると考えられる.この結果をわが国の40歳以上の総人口に換算すると,糖尿病網膜症患者数は1998年では166万人,2003年では134万人と推定される(表1).これは厳しい診断基準で血糖コントロールを行うことで網膜症患者数が約30万人も減少することを示している.この結果から,健診を行うことは網膜症の予防につながるといえれる.(16)図2年齢階級別人口構成割合の比較久山町と日本全国,1960年と2000年の国勢調査.男性女性01040203070~7960~6950~5940~4980~4030200101960年40歳以上の割合日本全国27.8%久山町27.6%男性女性2000年40歳以上の割合日本全国51.8%久山町55.2%:日本全国:久山町(歳)70~7960~6950~5940~4980~(歳)(%)(%)010402030403020010(%)(%)図3久山町と全国の就労人口の産業の割合40~79歳,2000年.500%久山町25全国1005%23%72%5%28%67%:第三次産業:第二次産業:第一次産業75図4糖尿病および糖尿病網膜症の有病率40~79歳,1998年,久山町.:糖尿病あり,網膜症なし:糖尿病あり,網膜症あり:糖尿病なし糖尿病(16.3%)糖尿病網膜症(全体の2.6%)(糖尿病患者の15.8%)糖尿病網膜症(全体の2.6%)(糖尿病患者の15.8%)糖尿病なし(83.7%)図5糖尿病および糖尿病網膜症の有病率40~79歳,2003年,久山町.:糖尿病あり,網膜症なし:糖尿病あり,網膜症あり:糖尿病なし糖尿病(19.0%)糖尿病網膜症(全体の2.0%)(糖尿病患者の10.5%)糖尿病網膜症(全体の2.0%)(糖尿病患者の10.5%)糖尿病なし(81.0%)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007????II糖尿病網膜症発症率と危険因子新たに網膜症を発症する患者数がどれくらいいるのか,またその危険因子は何であるのかについて引き続き追跡調査を行ってきた.具体的には1998年の久山町眼科健診受診者をベースラインのコホート集団に設定し,2003年の久山町眼科健診でベースラインのコホート集団を追跡する5年間の前向きコホート調査を行った.1998年に住民健診を受けた福岡県久山町在住の40~79歳の住民1,637名のうち,網膜症の既発症者37名を除いた1,600名を5年間追跡し,2003年に再度住民健診を受けた936名を追跡した.追跡率は59%であった.調査の結果,糖尿病網膜症の5年発症率は久山町一般住民の1.6%(糖尿病患者の7.5%)であった.性別による発症率の差は認めなかった.また,男女とも網膜症の発症には年齢による影響はみられなかった.海外の報告と比較すると,オーストラリアのMerbourneVisualImpairmentProject1)による疫学調査の報告では,糖尿病網膜症の5年発症率は糖尿病患者の11%,BlueMountainsEyeStudy2)による報告では,5年発症率は22.2%と報告されており,わが国の発症率は欧米と比較するとかなり少ないことがわかる(表2).これには生活習慣や環境因子,遺伝的因子などさまざまな因子が影響していると考えられる.さらに発症に関係する危険因子を調査するために,年齢,性別,空腹時血糖値,糖負荷後2時間血糖値,HbA1C(ヘモグロビンA1C),糖尿病罹病期間,高血圧,高脂血症,喫煙,飲酒,bodymassindex(体型指数),白血球数の12の因子のうち,5年後の網膜症発症に有意に関連している因子を探索した.その結果,空腹時血糖値と糖尿病罹病期間が網膜症発症の有意な危険因子となった.この結果から,糖尿病網膜症の発症には空腹時の血糖値と糖尿病の罹病期間が特に関与していることが明らかとなった(図6).つまり空腹時血糖値を低めに維持することが網膜症の発症に最も重要であり,特に罹患期間が長い糖尿病患者においては血糖管理を厳しく行うことが重要であることがわかる.III糖尿病の診断基準1997年にADA(AmericanDiabetesAssociation),1998年にWHO(WorldHealthOrganization)が糖尿病の新しい診断基準を示した3).すなわち空腹時血糖値が126mg/d?以上または糖負荷後2時間血糖値が200mg/d?以上と決定された.これらの診断基準は欧米のpopu-lation-basedstudyでの血糖値レベルと網膜症の関係から算出されたものである.日本では一般住民を対象に血糖値レベルと網膜症の関係を調査した研究はなく,欧米での診断基準に基づいて糖尿病の診断基準が決められている.日本人と欧米人では人種はもちろん体格や食事内(17)表1糖尿病網膜症の推定患者数(1998年と2003年,日本全国)1998年2003年人口総数1億2,525万人1億2,614万人40歳以上6,390万人6,710万人糖尿病1,042万人1,275万人糖尿病網膜症166万人134万人表2糖尿病網膜症の5年発症率久山町study:7.5%(MerbourneVisualImpairmentProject:11%)(BlueMountainsEyeStudy:22.2%)危険因子オッズ比95%信頼区間空腹時血糖値1.031.01~1.04*糖尿病罹病期間1.121.04~1.20**p<0.05.久山町健診(1998~2003,2004年)図6糖尿病および糖尿病網膜症有病率の時代的変化40~79歳,1998年と2003年,久山町.1998年2003年糖尿病16.3%→19.0%糖尿病網膜症(vs全体)2.6%→2.0%(vs糖尿病患者)15.8%→10.5%:糖尿病あり,網膜症なし:糖尿病あり,網膜症あり:糖尿病なし1998年2003年———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007容も違うため欧米での診断基準をそのまま日本人にあてはめるのは適当ではないと思われる.そこで日本人において,糖尿病を診断するための空腹時血糖値,2時間血糖値,HbA1C値のそれぞれの診断基準値を決定するために,1998年久山町住民健診で経口血糖負荷試験および眼科健診を受けた40~79歳の男女1,637名を対象として網膜症有病率を算出し,それぞれの測定値について最適な診断基準値を決定した4).具体的にはそれぞれの測定値の十分位による網膜症有病率を算出し,さらにROC(receiveroperatingcharacteristic)曲線から敏感度(sensitivity)と特異度(speci?city)が最大となる空腹時血糖値,2時間血糖値,HbA1C値を算出して最適な診断基準値を決定した.その結果,空腹時血糖値,2時間血糖値,HbA1C値の十分位による網膜症有病率はそれぞれ117mg,200mg,5.8%から著明に増加した(図7).またROC曲線を用いて敏感度および特異度が最大となるそれぞれの最適な診断基準値を算出すると,空腹時血糖値が116mg,2時間血糖値が200mg,HbA1Cが5.7%となり,十分位値ともほぼ一致した(表3).この結果から日本人では,空腹時血糖値が116mg,2時間血糖値が200mg,HbA1Cが5.7%のところにcut-o?pointがあり,2時間血糖値は現在の診断基準値と一致するが,空腹時血糖値は現在の診断基準値よりも低いレベルから網膜症の合併症が出現していることがわかった.これらの結果をもとに今後日本人における糖尿病の診断基準を見直す必要があると思われる.おわりにわが国においては久山町研究のような大規模住民研究による前向きコホート研究のデータがほとんどなく,欧米のデータを参考とすることはできるが,欧米での研究を参考とするには人種や環境が大きく異なる.効率的な発症予防,進展予測のためにもこのような大規模住民研究が必須であり,さらなる追跡調査によりさまざまな眼科疾患のEBMの確立が期待できると思われる.文献1)McCartyDJ,FuCL,HarperCAetal:Five-yearinci-denceofdiabeticretinopathyintheMelbourneVisualImpairmentProject.???????????????????31:397-402,20032)CikamatanaL,MitchellP,RochtchinaEetal:Five-yearincidenceandprogressionofdiabeticretinopathyinade?nedolderpopulation:theBlueMountainsEyeStudy.???21:465-471,20073)HarrisMI,EastmanRC,CowieCCetal:ComparisonofdiabetesdiagnosticcategoriesintheU.S.populationaccordingtothe1997AmericanDiabetesAssociationand1980-1985WorldHealthOrganizationdiagnosticcriteria.?????????????22:1859-1862,19974)MiyazakiM,KuboM,KiyoharaYetal:Comparisonofdiagnosticmethodsfordiabetesmellitusbasedonpreva-lenceofretinopathyinaJapanesepopulation:theHisaya-maStudy.????????????47:1411-1415,2004(18)図7血糖値,HbA1C十分位別にみた糖尿病網膜症の有病率40~79歳,1998年,久山町.0510152025HbA1C(%)2hBS(mg/d?)FBS(mg/d?)118~200~5.8~5.3~137~103~5.1~118~97~4.9~103~93~4.7~85~87~5.5~5.2~5.0~4.8~4.1~157~126~111~96~25~108~100~95~90~69~有病率(%):FBS(空腹時血糖値):2hBS(2時間血糖値):HbA1C表3糖尿病診断基準値の最適値(40~79歳,1998年,久山町)空腹時血糖値2時間血糖値HbA1C最適値116mg/d?200mg/d?5.7%敏感度(%)86.586.586.5特異度(%)87.389.690.1

糖尿病網膜症一次および二次予防のエビデンス-他の合併症との関連ならびにJDCS中間報告から-

2007年10月31日 水曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS対象患者は全国の糖尿病専門施設59カ所に通院する2型糖尿病患者2,205名である(前増殖性以上の網膜症や心血管疾患など進行した合併症をもつ患者は除外された).対象患者は,表1に示すように,都市部病院の発症後10年くらいの典型的な2型糖尿病患者と考えられる.これらの患者の血糖・血圧・血清脂質・合併症など多くの項について,毎年調査が続けられ,特に合併症については,あらかじめ定められた診断基準により専門委員が発症の判定をしている.網膜症については,山下により作成された本研究専用の重症度ステージ分類とエンドポイントの定義(表2)を用いて解析されている.III糖尿病網膜症の有病率糖尿病患者のうち網膜症を有する者の割合(すなわちIわが国における糖尿病とその合併症代表的な生活習慣病である2型糖尿病の患者数は,社会の高齢化と生活習慣の欧米化により,戦後一貫して増え続けてきた.その結果,現在わが国は世界第5位の患者数を擁する糖尿病大国となっている1).これに伴い糖尿病合併症も増加しており,国民の健康と生活の質に深刻な影響を与えている.たとえば,透析療法導入ならびに成人失明の原因疾患のそれぞれ第1位,第2位は糖尿病によるものである.欧米2,3)および日本4)のこれまでの臨床研究では,2型糖尿病患者の血糖コントロールや血圧を改善させると,糖尿病細小血管(毛細血管)合併症が抑制できることが示されてきた.しかし日本人を含むアジア人糖尿病患者を対象にした研究は,断面調査も前向き研究も大規模なものはまだ多くない.IIJDCSの概要1996年にわが国で始められたJapanDiabetesCom-plicationsStudy(JDCS)5,6)は2型糖尿病の多施設大規模介入研究としては,欧米以外では初めてのもので,現在も継続中である.本研究は,生活習慣介入の長期効果を検討する介入研究であると同時に,登録者全体の合併症や診療の実態についても前向きに追跡している.(9)????*1,2HirohitoSone:お茶の水女子大学人間文化創成科学研究院生活習慣病医科学*2NobuhiroYamada:筑波大学医学群内分泌代謝・糖尿病内科*3HidetoshiYamashita:山形大学医学部情報構造統御学講座視覚病態学分野〔別刷請求先〕曽根博仁:〒112-8610東京都文京区大塚2-1-1総合研究棟612お茶の水女子大学人間文化創成科学研究院生活習慣病医科学特集●糖尿病網膜症:一次予防,二次予防,三次予防の戦略あたらしい眼科24(10):1281~1285,2007糖尿病網膜症一次および二次予防のエビデンス─他の合併症との関連ならびにJDCS中間報告から─?????????????????????????????????????????????????????????????????????:???????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????(????)曽根博仁*1,2山田信博*2山下英俊*3表1JDCS登録患者の背景(平均値)年齢(歳)59糖尿病罹患期間(年)11Bodymassindex(BMI)(kg/m2)23.1血圧(mmHg)132/77空腹時血糖(mg/d?)158HbA1C(%)7.7総コレステロール(mg/d?)201トリグリセリド(mg/d?)125———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007有病率)については,地域・患者背景・診断基準・診断精度にもよるが,欧米では,2型糖尿病患者の大体3割前後とする報告が多い7).その割合は白人と黒人とで大差がないことも示されている8).わが国においては,1990年に行われた糖尿病患者約2,000人の多施設断面調査9)によると,糖尿病患者の38%に網膜症がみられ,10%では増殖網膜症であった.糖尿病罹患期間10~14年では,網膜症は1型糖尿病患者の79%(29%は増殖網膜症),2型糖尿病患者の44%(11%は増殖網膜症)にみられた.また1997年に実施された全国の糖尿病患者約13,000人の断面調査10,11)によると,1型糖尿病患者の29%,2型糖尿病患者の23%に網膜症がみられた.したがって2型糖尿病患者のうち網膜症を有する者の割合は,日本でも欧米同様,3割前後とみられる.IV糖尿病網膜症の発症率および進展増悪率一方,糖尿病患者において網膜症がどのくらいの頻度で発生しているか(すなわち発症率)については,英国のUnitedKingdomProspectiveDiabetesStudy(UKPDS)12)において,網膜症をもたない2型糖尿病患者のうち22%に,6年間で網膜症が新たに発生したことが報告されている.日本においては,1960~1979年に初診した2型糖尿病患者のうち網膜症のなかった976人(平均年齢52歳,平均糖尿病罹病期間3年)を,平均8.3年間追跡したSasakiらの前向き調査13)があるが,1,000人年当たりの網膜症の発症率は39.8(年率約4%)であった.JDCSは登録時に網膜症がない者および単純網膜症の者を登録し,前者を対象に網膜症の新規発症率を,後者を対象に進展増悪率をそれぞれ検討してきた14).これまでの中間結果では,毎年,網膜症のない患者の3.4%に網膜症が発症していた.これは,前記のSasakiらの報告13)の年約4%に比較的近い.対象患者の平均糖尿病罹患期間はJDCSのほうがかなり長いので直接比較はむずかしいが,糖尿病診療の進歩にもかかわらず,この約20年間に網膜症発症率は大きく低下したようにはみえない.また,もともと単純網膜症を有していた患者の1.3%に前増殖性以上への網膜症の進展増悪が認められた.発症率と比較すると,進展増悪率のデータは少ないため貴重なデータである.V糖尿病網膜症のリスクファクターどのような因子をもつ患者で網膜症が発症または増悪しやすいか(すなわちリスクファクター)に関しても多くの検討が重ねられてきた15).それらを総合すると,糖尿病罹病期間以外では,血糖コントロールが最も強いリスクファクターであり,ついで血圧が有意なリスクファクターであるとする報告が多い.血糖コントロール16~19)と血圧コントロール20,21)については,それらを改善させた際の予防効果(介入効果)も証明されている.また,もとの網膜症病変が進行しているほど,その後の進展増悪の頻度も高いことが,WESDR(WisconsinEpidemiologicStudyofDiabeticRetinopathy)21)などで(10)表2JDCSの網膜症重症度ステージ分類(山下)各ステージの所見が一つでもあれば当該ステージに分類する.重症度ステージ眼底検査所見蛍光眼底検査による所見ステージ0網膜症の所見なしステージ1点状出血*斑状出血硬性白斑ステージ2軟性白斑網膜毛細血管床閉塞領域(NP)が眼底の2象限以内に分布**ステージ3IRMA***IRMA***静脈変形****静脈変形****NPが眼底の3象限以上に広がる*ステージ4新生血管新生血管網膜前増殖組織硝子体出血網膜?離通常の眼底検査によりステージ2へと進行した際に蛍光眼底検査を施行することとする.*:毛細血管瘤(microaneurysm)は眼底検査で検出するのは難しいので点状出血のみを基準ととることとする.**:視神経乳頭を中心に眼底を4象限に分けて,NPの分布している範囲を調べる.***:網膜内細小血管異常(intraretinalmicrovascularabnor-malities).****:静脈変形は静脈の径不同,ビーズ状変形(venousbead-ing),ループ状変形(venousloop),二重化(duplica-tion)など正常の所見から変形している状態をさす.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007????示されている.その他の因子,たとえば喫煙,性別,アルコール,血中コレステロール値,腎症の合併などについては報告ごとに結果が一定せず,さらなる検討が必要である.JDCSにおける網膜症発症のリスクファクターをCoxの比例ハザードモデルにより解析すると,開始後6年の中間データでは糖尿病罹患期間,HbA1C(ヘモグロビンA1C),収縮期血圧が有意となった.一方,網膜症進展の有意なリスクファクターはHbA1Cであった.そのHbA1Cで層別化した際のリスクを算出すると,HbA1Cが7%未満の患者と比較して,HbA1Cが7~8%の層の網膜症発症のリスクは2倍,8~10%の層では約3.5倍,10%以上の層では7.6倍にも上ることが明らかになった.同時に,血圧も有意なリスクファクターであることが明らかになった14).開始後5年間の網膜症発症率を,開始時HbA1C別に図1に示した.これをみるとHbA1Cが9%以上であった層では,その後4年間に3割以上に網膜症が発症していることがわかる.一方,HbA1Cが7%未満でも網膜症発症は完全には抑制されておらず,網膜症発症予防のためには非常に厳格な血糖コントロールが必要であることを示している.VI他の糖尿病合併症と網膜症の関連網膜症はそれ自体が視力低下の原因となり,糖尿病患者のQOL(qualityoflife)を大幅に低下させる重大な合併症であるが,他の合併症の予測因子としてもとらえる必要がある.たとえば,最近のフィンランドの2型糖尿病患者における報告22)では,増殖網膜症をもつ患者は男女とも,網膜症のない患者の3.4倍も心血管死亡のリスクが高いことが示されている.さらに女性患者では,単純網膜症も有意な予測因子であることが示されている.AtheroscleroticRiskinCommunitiesStudyでも,糖尿病網膜症をもつ患者はもたない患者と比較して,虚血性脳卒中のリスクを2.3倍高まることが示されている23)(図2).JDCSにおいては,糖尿病早期腎症のマーカーである尿中アルブミン量が,網膜症のリスクファクターでもあることが示されており,網膜症と腎症との関連も示唆されている.おわりに中途失明の原因疾患第1位の座を緑内障に譲ったとは言え,糖尿病網膜症が患者ならびに社会に与える損失は非常に大きい.JDCSのような日本人の臨床データに基づくリスクファクターの検討が進むにつれて,他の合併症と同様,網膜症の予防にも,血糖や血圧などのリスクファクターのコントロールが必須であることが改めて確(11)図1JDCSにおける開始時HbA1Cレベル別の網膜症累積発症率(Kaplan-Meier解析)1.00.80.6網膜症未発症者率(%)001234開始時からの経過年数(年):HbA1C:7.0%未満:HbA1C:7.0%以上9.0%未満:HbA1C:9.0%以上図2AtheroscleroticRiskinCommunitiesStudyにおける,糖尿病網膜症の有無別の虚血性脳卒中の発生状況(文献23より)1.000.980.960.940.920.900.88脳卒中未発症者率(%)01,0002,0003,0004,000追跡日数(日):なし:あり糖尿病網膜症———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007認されてきた.網膜症に限らず,糖尿病合併症は無症状で進行するため患者の危機感が乏しく,診療上困難をきたすことも多いが,このような大規模臨床研究のエビデンスを患者指導に活かして,視力予後の改善に結びつけることが期待される.謝辞:本研究の統計解析は,東京大学大学院生物統計学/疫学教室の大橋靖雄教授・田中佐智子先生(現:国立がんセンターがん予防・検診研究センター情報研究部)が担当されています.また本研究は,下記糖尿病専門施設の共同研究であり,ご参加いただいている多くの先生方・関係者・患者さんのご尽力に深謝いたします.?JDCSグループ?主任研究者:山田信博(筑波大学)評価委員:赤沼安夫(朝日生命糖尿病研究所)分担協力研究者:衛藤雅昭,伊藤博史,網頭慶太(旭川医科大学),赤沼安夫,菊池方利,野田光彦(朝日生命成人病研究所),福本泰明,鷲見誠一(医療法人ガラシア病院),清水靖久,小杉圭右(大阪警察病院),星充,渡會隆夫(大阪厚生年金病院),竹村芳,難波光義,宮川潤一郎,山崎義光(大阪大学),阿部隆三(太田記念病院),清野弘明(太田西ノ内病院),石田俊彦(香川医科大学医学部),藤田芳邦,矢島義忠(北里大学医学部),名和田新(九州大学大学院医学研究院),中埜幸治,中村直登(京都府立医科大学医学部),岸川秀樹,豊永哲至(熊本大学),野中共平,牧田善二,山田研太郎(久留米大学医学部),武井泉(慶應義塾大学医学部),貴田岡正史(公立昭和病院),今泉昌利,東堂龍平(国立大阪病院),山田研一(国立佐倉病院),原納優,吉政康直(国立循環器病センター),野上哲史,西山敏彦(済生会熊本病院),松岡健平(済生会糖尿病臨床研究センター),梅津啓孝,仲野淳子(済生会福島総合病院),片山茂裕(埼玉医科大学),柏木厚典(滋賀医科大学),吉村幸雄(四国大学),井上達秀(静岡県立総合病院),石橋俊(自治医科大学),川上正舒(自治医科大学大宮医療センター),河盛隆造(順天堂大学医学部),大森安恵,河原玲子,佐藤麻子(東京女子医科大学),北田俊雄,渡部良一郎(竹田綜合病院),宮川高一(立川相互病院),高橋和男,金塚東,橋本尚武,齋藤康(千葉大学医学部),曽根博仁,山下亀次郎(筑波大学),坂本美一,茂久田修(帝京大学市原病院),田中明(東京医科歯科大学),佐々木敬(東京慈恵会医科大学),門脇孝,大須賀淳一,水野佐智子,藤井仁美,飯室聡,大橋靖雄(東京大学),藤田美明(東京都老人研究所),井藤英喜(東京都多摩老人医療センター),白井厚治(東邦大学附属佐倉病院),高橋和眞(東北大学大学院医学系研究科),村勢敏郎,小田原雅人(虎の門病院),小林正(富山医科薬科大学),長瀧重信,赤澤昭一,川崎英二(長崎大学医学部附属病院),堀田饒,中村二郎(名古屋大学医学部),及川眞一(日本医科大学),林洋一(日本大学医学部),江草玄士,大久保政通,山根公則(広島大学医学部),仲井継彦,笈田耕治(福井医科大学),番度行弘(福井県済生会病院),竹越忠美,若杉隆伸(福井県立病院),豊岡重剛(福井赤十字病院),小池隆夫(北海道大学医学部),松島保久(松戸市立病院),布目英男(水戸済生会総合病院),豊島博行(箕面市立病院),高橋秀夫(みなみ赤塚クリニック),川崎良,山下英俊(山形大学),関原久彦(横浜市立大学医学部),西川哲男(横浜労災病院),南條輝志男(和歌山県立医科大学)(当時の所属を含む)文献1)WildS,RoglicG,GreenAetal:Globalprevalenceofdia-betes:estimatesfortheyear2000andprojectionsfor2030.?????????????27:1047-1053,20042)UKProspectiveDiabetesStudy(UKPDS)Group:Inten-siveblood-glucosecontrolwithsulphonylureasorinsulincomparedwithconventionaltreatmentandriskofcompli-cationsinpatientswithtype2diabetes(UKPDS33).???????352:837-853,19983)StrattonIM,AdlerAI,NeilHAetal:Associationofgly-caemiawithmacrovascularandmicrovascularcomplica-tionsoftype2diabetes(UKPDS35):prospectiveobser-vationalstudy.???321:405-412,20004)ShichiriM,KishikawaH,OhkuboYetal:Long-termresultsoftheKumamotoStudyonoptimaldiabetescon-trolintype2diabeticpatients.?????????????23(Suppl2):B21-29,20005)SoneH,KatagiriA,IshibashiSetal:E?ectsoflifestylemodi?cationsonpatientswithtype2diabetes:theJapanDiabetesComplicationsStudy(JDCS)studydesign,base-lineanalysisandthreeyear-interimreport.??????????????34:509-515,20026)SoneH,YoshimuraY,ItoHetal;JapanDiabetesCompli-cationsStudyGroup:EnergyintakeandobesityinJapa-nesepatientswithtype2diabetes.??????363:248-249,20047)McCartyCA,HarperCA,TaylorHR:Long-tremcompli-cations:DiabeticRetinopathy.In:TheEpidemiologyofDiabetesMellitus.AnInternationalPerspectives(edbyEkoeJM,ZimmetP,WilliamsR),p349-368,JohnWileys&Sons,Ltd,England,20018)山本禎子,川崎良,山下英俊:糖尿病眼合併症の疫学.糖尿病47:777-780,20049)KuzuyaT,AkanumaY,AkazawaYetal:PrevalenceofchroniccomplicationsinJapanesediabeticpatients.???????????????????????24(Suppl):S159-164,199410)日本臨床内科医会調査研究グループ:糖尿病性神経障害に関する調査研究.第1報わが国の糖尿病の実態と合併症.日内会誌16:167-195,2001(12)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007????11)日本臨床内科医会調査研究グループ:糖尿病性神経障害に関する調査研究.第3報網膜症,腎症,足動脈拍動,合併症終末像.日内会誌16:383-406,200112)StrattonIM,KohnerEM,AldingtonSJetal:UKPDS50:riskfactorsforincidenceandprogressionofretinopa-thyinTypeIIdiabetesover6yearsfromdiagnosis.??????????????44:156-163,200113)SasakiA,HoriuchiN,HasegawaKetal:Developmentofdiabeticretinopathyanditsassociatedriskfactorsintype2diabeticpatientsinOsakadistrict,Japan:along-termprospectivestudy.???????????????????????10:257-263,199014)山下英俊:網膜症経過観察プログラムについての報告書.厚生科学研究費補助金21世紀型医療開拓推進研究事業「糖尿病における血管合併症の発症予防と進展抑制に関する研究(JDCStudy)」平成14年度総括研究報告書.15)McCartyCA,HarperCA,TaylorHR:Long-termCompli-cations:DiabetictRetinopathy.InTheEpidemiologyofDiabetesMellitus.AnInternationalPerspective(edbyEkoeJM,ZimmetP,WilliamsR),p349-368,JohnWiley&Sons,Ltd,England,200216)DiabetesControlandComplicationsTrialResearchGroup:Thee?ectofintensivetreatmentofdiabetesonthedevelopmentandprogressionoflong-termcomplica-tionsininsulin-dependentdiabetesmellitus.????????????329:977-986,199317)UKProspectiveDiabetesStudy(UKPDS)Group:Inten-siveblood-glucosecontrolwithsulphonylureasorinsulincomparedwithconventionaltreatmentandriskofcompli-cationsinpatientswithtype2diabetes(UKPDS33).??????352(9131):837-853,199818)StrattonIM,KohnerEM,AldingtonSJetal:UKPDS50:riskfactorsforincidenceandprogressionofretinopa-thyinTypeIIdiabetesover6yearsfromdiagnosis.?????????????44:156-163,200119)UKProspectiveDiabetesStudyGroup:Tightbloodpres-surecontrolandriskofmacrovascularandmicrovascularcomplicationsintype2diabetes:UKPDS38.???317(7160):703-713,199820)UKProspectiveDiabetesStudyGroup:E?cacyofateno-lolandcaptoprilinreducingriskofmacrovascularandmicrovascularcomplicationsintype2diabetes:UKPDS39.???317(7160):713-720,199821)KleinR,KleinBE,MossSEetal:TheWisconsinEpide-miologicStudyofdiabeticretinopathy.XIV.Ten-yearincidenceandprogressionofdiabeticretinopathy.???????????????112:1217-1228,199422)JuutilainenA,LehtoS,RonnemaaTetal:Retinopathypredictscardiovascularmortalityintype2diabeticmenandwomen.?????????????30:292-299,200723)CheungN,RogersS,CouperDJetal:Isdiabeticretinop-athyanindependentriskfactorforischemicstroke???????38:398-401,2007,Epub2006Dec28.(13)

糖尿病の代謝コントロールと網膜症の発症進展阻止-DCCT/EDIC, Kumamoto Study, UKPDSの結果から-

2007年10月31日 水曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS進展を阻止しうる」ことが明確になった.I1型糖尿病患者を対象としたDiabetesControlandComplicationsTrial(DCCT)/Epidemi-ologyofDiabetesInterventionsandCompli-cations(EDIC)1.1型糖尿病患者を対象としたDiabetesControlandComplicationsTrial(DCCT)米国とカナダの29施設において,1型糖尿病患者を対象に,強化インスリン療法を用いた厳格な血糖コントロールにより細小血管合併症の発症を予防しうるか(一次予防試験),また細小血管合併症の進展を抑制しうるか(二次介入試験)について検討した研究である.登録した1型糖尿病患者(1,441例)は,研究開始時に網膜症を認めなかった一次予防群,網膜症をすでに有していた二次介入群に分け,さらに,無作為に従来インスリン療法(conventionalinsulintherapy)群と頻回注射を用いた強化インスリン療法(intensiveinsulintherapy)群に分けられ,平均6.5年間(3~9年間)の観察がなされた3).インスリン療法は,従来インスリン療法群では混合型インスリンを含む1日1~2回のインスリン注射により,強化インスリン療法群では1日3回以上のインスリン頻回注射またはCSII(continuoussubcutaneousinsulininfu-siontherapy)により施行され,血糖コントロールの目標は,従来インスリン療法群では,高血糖症状のないこと,強化インスリン療法群では,空腹時血糖値70~120mg/はじめに血糖コントロールが長期間不良な患者では網膜症の発症進展が生じやすいことが,米国のKleinらの一連の研究(ウィスコンシン糖尿病網膜症疫学研究)において示唆されていた1,2).図1に1型糖尿病,2型糖尿病の10年間の観察により若年発症糖尿病(おもに1型),30歳以上発症の糖尿病でインスリン治療中の患者,30歳以上発症の糖尿病でインスリン以外の治療法により加療されている者(2型)のいずれにおいても,HbA1C(ヘモグロビンA1C)が高値となると網膜症の進展率が高いことを示す.その後,1型糖尿病および2型糖尿病患者を対象に,厳格な血糖コントロールにより糖尿病性慢性血管合併症の発症,進展を阻止しうるかを検討した無作為前向き調査研究の成果が,国内外で相ついで報告され,「厳格な血糖コントロールにより糖尿病網膜症の発症,(3)????*1HidekiKishikawa:熊本大学保健センター*2NakayasuWake&EiichiAraki:熊本大学大学院医学薬学研究部代謝内科*3MotoakiShichiri:生長会生活習慣病研究所〔別刷請求先〕岸川秀樹:〒860-8555熊本市黒髪2-40-1熊本大学保健センター特集●糖尿病網膜症:一次予防,二次予防,三次予防の戦略あたらしい眼科24(10):1275~1280,2007糖尿病の代謝コントロールと網膜症の発症進展阻止─DCCT/EDIC,KumamotoStudy,UKPDSの結果から─????????????????????????????????????????????????:???????????????????????????????????????????????????岸川秀樹*1和気仲庸*2荒木栄一*2七里元亮*3図1ウィスコンシン糖尿病網膜症疫学研究(WESDR)002040680100HbA1C(%)網膜症の進展率:5.4~8.5:8.6~10.0若年(30歳未満)発症,ほぼ1型30歳以上発症ほぼ2型,インスリンにより治療30歳以上発症,ほぼ2型,非インスリンにより治療:10.1~11.5:11.6~20.8———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007d?,食後血糖値180mg/d?未満,午前3時の血糖値65mg/d?以上,HbA1C6.05未満とされた.その結果,強化インスリン療法群では,HbA1Cは,研究開始後6カ月後約7.0%まで低下し,観察期間中維持されたが,従来インスリン療法群では研究開始後明らかな変化は認められなかった.網膜症については,ETDRS(EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy:25段階)分類で3段階以上の上昇時を網膜症の悪化と定義し経過をみたところ,網膜症悪化率(平均観察期間6年の成績)は,一次予防群,二次介入群ともに,従来インスリン療法群に比し,強化インスリン療法群で有意な低値を示した(図2).二次介入群の網膜症悪化率においては,研究開始当初,従来インスリン療法群に比し強化インスリン療法群で高率となるがその後に逆転するという所見となり,DCCTに先行する1型糖尿病患者を対象としたヨーロッパの小規模研究と同様な所見となった.研究開始当初より進行した網膜症を有する患者が,DCCTの二次介入群に多数含まれていたことが示されており,強化インスリン療法導入後の網膜症悪化との関連も推測される.2.EpidemiologyofDiabetesInterventionsandComplications(EDIC)─DCCT終了後のDCCT登録患者における慢性血管合併症の発症・進展に関する前向き調査研究EDICではDCCT終了後も登録患者を継続観察し,DCCT終了後4年間の網膜症の発症・進展に関する調査結果が報告された4).1,208名の眼底所見,および血糖コントロール状況を調査したところ,前項で述べたDCCT調査期間中に従来インスリン療法群に割り付けられた患者群と強化インスリン療法に割り付けられた患者群におけるHbA1Cの差(従来インスリン療法群で9.1%,強化インスリン療法群で7.2%)は,DCCT終了後4年間の間に従来インスリン療法群の多数の患者が強化インスリン療法に移行したため,縮小していた(従来インスリン療法群で8.2%,強化インスリン療法群で7.9%).したがって,2群におけるEDIC調査期間中の血糖コントロール状態に明らかな差はなかったが,DCCT研究時従来インスリン療法を施行した群と強化インスリン療法を施行した群における4年間の網膜症の累積悪化(4)図2DCCTにおける糖尿病網膜症の推移網膜症の増悪:modi?edETDRS25段階分類3段階上昇.6050403020100累積悪化率(%)0123456789経過期間(年)一次予防:従来インスリン療法:強化インスリン療法6050403020100累積悪化率(%)0123456789経過期間(年)二次介入図3EpidemiologyofDiabetesInterventionsandComplications(EDIC)─網膜症累積悪化率01432従来インスリン療法強化インスリン療法網膜症の悪化はDCCT終了時の所見からの悪化(ETDRS25段階分類の3段階)網膜症累積悪化率DCCT終了後の年数24201612840———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007????は明らかに強化インスリン療法施行群で,持続的に低値となり(図3),また,EDIC調査4年後の両群の網膜症悪化率,増殖網膜症の発症率,網膜浮腫発症率,光凝固施行率は,DCCT研究時従来インスリン療法を施行した群に比べ,強化インスリン療法を施行した群で明らかな低値となった(図4).したがって,厳格な血糖コントロールの網膜症発症・進展に及ぼす好影響は,施行後4年間にわたり続くことが示された.EDICにおける厳格な血糖コントロールによる同様の長期効果は,腎障害,神経障害についても報告されている.II2型糖尿病患者を対象とした熊本スタディ熊本大学代謝内科において中間型インスリン朝1回または朝夕2回で加療されていた糖尿病患者110例を,中間型インスリン療法継続群(conventionalinsulininjectiontherapy:CIT群)または頻回インスリン注射療法群(multipleinsulininjectiontherapy:MIT群)に割り付け,研究開始時に網膜症を認めず尿中アルブミン排泄量<30mg/dayの患者における細小血管合併症の発症に及ぼす厳格な血糖コントロールの影響(一次予防(5)図4EpidemiologyofDiabetesInterventionsandComplications(EDIC)─網膜症リスク減少率:従来インスリン療法:強化インスリン療法a.網膜症の進展c.網膜浮腫b.増殖または重症網膜症d.光凝固療法発症率(%)オッズ減少76%修正後オッズ減少75%6040200DCCT終了時DCCT終了4年後発症率(%)オッズ減少46%修正後オッズ減少58%12840DCCT終了時DCCT終了4年後発症率(%)オッズ減少68%修正後オッズ減少69%20100DCCT終了時DCCT終了4年後発症率(%)修正後オッズ減少75%修正後オッズ減少52%12840DCCT終了時DCCT終了4年後図5KumamotoStudyにおける網膜症の推移網膜症の増悪:modi?edETDRS19段階分類2段階上昇.80706050403020100累積悪化率(%)012345678109経過期間(年)一次予防従来インスリン療法群強化インスリン療法群80706050403020100累積悪化率(%)012345678109経過期間(年)二次介入従来インスリン療法群強化インスリン療法群———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007試験)および研究開始時に単純網膜症を認め,尿中アルブミン排泄量<300mg/dayの患者の細小血管合併症の進展に及ぼす厳格な血糖コントロールの影響(二次介入試験)を調査した5~7).血糖コントロール目標は,CIT群においては空腹時血糖値140mg/d?以下,MIT群では空腹時血糖値140mg/d?以下,食後血糖値200mg/d?以下,HbA1C7.0%以下とした.その結果,10年間の経過観察中,空腹時血糖値,HbA1C値は,CIT群に比し,MIT群で有意な低値を示し,MIT群における厳格な血糖コントロールが示唆された.網膜症の悪化をmodi?edETDRS分類(19段階)において2段階以上の悪化を認める場合と定義し,10年間の網膜症累積悪化率を算出したところ,一次予防試験および二次介入試験ともに,CIT群に比し,MIT群で有意な低値となった(図5).また,血糖コントロール状態と網膜症の進展,増悪率の関係を対数線形ポアソン(Poisson)回帰分析で検討した結果,網膜症の進展,増悪率は,血糖コントロール状態の悪化とともに増大することが明らかにされた.III2型糖尿病患者を対象としたUnitedKingdomProspectiveDiabetesStudy(UKPDS)1.血糖コントロールに関する研究UKPDSでは,2型糖尿病患者において代謝コントロールが糖尿病合併症に及ぼす影響を明らかにするため,血糖と血圧コントロールの効果がともに検討された.血糖コントロールに関する研究においては,より厳格に血糖コントロールを行うと合併症のリスクが減少するか,血糖をコントロールする際の治療(スルフォニル尿素剤,インスリン,メトホルミン)に差があるのか,肥満2型糖尿病に対するメトホルミンは有用かを明らかにすべく,新規に糖尿病と診断された2型糖尿病患者5,102例を対象に,3カ月間の食事指導の後,空腹時血糖値が108~207mg/d?の患者を選択,一部を肥満2型糖尿病に対するメトホルミン研究に組み込み,残り3,867例を従来療法(食事療法)群,またはより良好な血糖コントロールを目指す強化療法群(当初より経口剤,インスリンなどの薬物治療を開始する群)に割り付けた8).研究期間中の平均HbA1C値は,強化療法群で7.0%となり,従来療法群の平均HbA1C値7.9%に比し有意な低値となった.観察期間中の合併症の発症・進展から,強化療法施行群では,従来療法群に比し,白内障手術などのリスクが有意に低下すること,網膜症の発症進展(modi-?edETDRS21段階分類の2段階上昇時に悪化と定義)が低下することが示され(図6),血糖コントロールによる血管合併症のリスク減少は,使用された薬剤(スルフォニル尿素剤,インスリン)間に差がなかったことも報告された.UKPDSでは,熊本スタディにおいて示唆された頻回インスリン注射療法を用いた良好な血糖コントロールの細小血管合併症に及ぼす好影響が,インスリン以外の経口薬など,あらゆる糖尿病治療法についてもあてはまることが示唆された8).2.血圧コントロールに関する研究UKPDSの高血圧合併糖尿病患者においては,高血圧の是正により血管合併症を阻止しうるか,アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬とb遮断薬の効果に差があるかが検討された9,10).血糖コントロール研究に登録された5,102例のうち,高血圧があった1,148例を,ACE阻害薬またはb遮断薬の投与により厳格に血圧管理を行う群(降圧目標:150/80mmHg以下)と,ACE阻害薬またはb遮断薬を使用せずゆるやかに血圧管理を行(6)図6強化療法による細小血管合併症のリスク減少率UKPDS:12年後のデータ.従来療法群(n=1,138)の平均HbA1C:7.9%.強化療法群(n=2,729)の平均HbA1C:7.0%.網膜症の増悪:modi?edETDRS21段階分類2段階上昇.神経障害(振動覚)の増悪:両足の平均値≧25V.微量アルブミン尿:50mg/?,蛋白尿:>300mg/?.網膜症神経障害(振動覚)微量アルブミン尿腎症血漿クレアチニン値2倍増加218333474010080204060リスク減少率(%)NS蛋白尿———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007????う群(降圧目標:180/105mmHg以下)に分け,その後の経過(平均8.4年)を観察した結果,研究期間中の平均血圧は,ゆるやかな血圧管理群(154/87mmHg)に比し,厳格な血圧管理群(144/82mmHg)で有意に低値となること,厳格な血圧管理群では,ゆるやかな血圧管理群に比し,網膜症の進展が抑制されることが明らかになった(図7).また,合併症抑制効果は使用した薬剤(ACE阻害薬とb遮断薬)間に有意な差がなかったこと,収縮期血圧を10mmHg下降させることにより,細小血管障害(光凝固・硝子体出血など網膜症の増悪および腎不全状態)のリスクが13%低下したことが明らかにされた(図8)11).網膜症の発症進展阻止におけるACE阻害薬の有用性は,高血圧のない糖尿病患者を対象とした研究においても報告されている.正常血圧1型糖尿病を対象とした2年間のEUrodiabControlledtrialofLisinoprilinInsu-lindependentDMStudy(EUCLID;ユークリッド研究)では,網膜症を5段階に分類し1段階以上の上昇を認めたとき網膜症悪化と定義し,ACE阻害薬が網膜症の発症進展に及ぼす影響が検討された12).その結果,プラセボ群に比し,ACE阻害薬(リシノプリル)投与群では,網膜症の発症進展率が約50%低下すること,プラセボ群に比したリシノプリル群の収縮期血圧低下は,わずか3mmHgであったこと,網膜症の進展と微量アルブミン尿の間に相関がなかったことが報告され,ACE阻害薬に,腎症抑制,血圧低下作用とは独立した機序で,網膜症予防?網膜血管保護作用を有する可能性が示唆された.ACE阻害薬による腎症進展抑制効果については肯定的な研究が多いが,ACE阻害薬による網膜症の発症進展に関しては否定的な報告も多く,今後検討すべき問題となっている.おわりに糖尿病の代謝管理においては,脂質代謝異常のコントロールも重要である.EDICにおいては,脂質代謝異常が網膜症の進展に関与することが報告され,脂質代謝正常化の必要性が示唆されている13).網膜症をはじめとする細小血管合併症の発症予防および進展阻止のためには,1型糖尿病,2型糖尿病のいずれにおいても,糖尿病発症早期から厳格な代謝コントロールを行うことが不可欠である.文献1)KleinR,KleinBE,MossSEetal:Glycosylatedhemoglo-binpredictstheincidenceandprogressionofdiabeticofdiabeticretinopathy.????260:2864-2871,19882)KleinR,KleinBE,MossSEetal:Relationshipofhyper-glycemiatothelong-termincidenceandprogressionofdiabeticretinopathy.???????????????154:2169-2178,1994(7)図8UKPDSにおける収縮期血圧コントロールの細小血管エンドポイントに及ぼす影響サブポピュレーション(n=3,642)の解析.収縮期血圧10mmHg低下に対し13%のリスク減少.1010.5110120130140150160170p<0.0001収縮期血圧(mmHg)リスク比図7UKPDSにおける厳格な血圧コントロールによる細小血管合併症のリスク減少率UKPDS:網膜症7.5年後,腎症6年後のデータ.網膜症の増悪:modi?edETDRS21段階分類2段階上昇.神経障害(振動覚)の増悪:両足の平均値≧25V.微量アルブミン尿:50mg/?,蛋白尿:>300mg/?.厳格な血圧コントロール群(n=758)の平均血圧:144/82mmHg.ゆるやかな血圧コントロール群(n=390)の平均血圧:154/87mmHg.網膜症神経障害(振動覚)微量アルブミン尿腎症血漿クレアチニン値2倍増加342939010080204060リスク減少率(%)NSNSNS蛋白尿———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.24,No.10,20073)TheDiabetesControlandComplicationsTrialResearchGroup:Thee?ectofintensivetreatmentofdiabetesonthedevelopmentandprogressionoflong-termcomplica-tionsininsulin-dependentdiabetesmellitus.?????????????329:977-986,19934)TheDiabetesControlandComplicationsTrial/Epidemiolo-gyofDiabetesInterventionsandComplicationsResearchGroup:Retinopathyandnephropathyinpatientswithtype1diabetesfouryearsafteratrialofintensivethera-py.????????????342:381-389,20005)OhkuboY,KishikawaH,ArakiEetal:Intensiveinsulintherapypreventstheprogressionofdiabeticmicrovascu-larcomplicationsinJapanesepatientswithnon-insulin-dependentdiabetesmellitus─arandomizedprospective6-yearstudy─.???????????????????28:103-117,19956)ShichiriM,KishikawaH,OhkuboYetal:Long-termresultsoftheKumamotoStudyonoptimaldiabetescon-trolintype2diabeticpatients.?????????????23(Suppl2):B21-B29,20007)WakeN,HisashigeA,KatayamaTetal:Cost-e?ective-nessofintensiveinsulintherapyfortype2diabetes─Aten-yearfollow-upofKumamotoStudy─.???????????????????48:201-210,20008)UKProspectiveDiabetesGroup:Intensiveblood-glucosecontrolwithsulphonylureaorinsulincomparedwithcon-ventionaltreatmentandriskofcomplicationsinpatientswithtype2diabetes(UKPDS33).??????352:837-853,19989)UKProspectiveDiabetesGroup:Tightbloodpressurecontrolandriskofmacrovascularandmicrovascularcom-plicationsintype2diabetes(UKPDS38).????????317:703-713,199810)UKProspectiveDiabetesGroup:E?cacyofatenololandcaptoprilinreducingriskofmacrovascularcomplicationsintype2diabetes(UKPDS39).????????317:713-720,199811)AdlerAI,StrattonIM,NeilHAWetal:Associationofsystolicbloodpressurewithmacrovascularandmicrovas-cularcomplicationsoftype2diabetes(UKPDS36):pro-spectiveobservationalstudy.????????321:412-419,200012)ChaturvediN,SjolieA-K,StephensonJMetal:E?cacyoflisinoprilonprogressionofretinopathyinnormotensivepeoplewithtype1diabetes.??????351:28-31,199813)LyonsTJ,JenkinsAJ,ZhengDetal:Diabeticretinopa-thyandserumlipoproteinsubclassesintheDCCT/EDICcohort.?????????????????????????45:910-918,2004(8)

序説:糖尿病網膜症:一次予防,二次予防,三次予防の戦略

2007年10月31日 水曜日

———————————————————————-Page1(1)????糖尿病網膜症は,身体障害者手帳の発給状況を基本のデータとして日本における視力障害の現状を調査した厚生労働省研究班「網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する研究」によると,現在,緑内障と並んで後天性視力障害の原因の第2位を占めており,糖尿病網膜症については同様の方法で約20年前に行われた調査とほぼ同様の割合を占めている.今後も糖尿病患者の増加,特に若年者(40歳代,50歳代)での増加を背景に糖尿病網膜症による視力障害は大きな問題となると考えられる.特に若年での糖尿病発症患者の糖尿病網膜症は重症化するため,社会的にactiveである年代に起こりうる視力低下は,医療費の問題に加えて,当該患者たちが健康である場合に生み出していた社会への貢献を減少させることになる.このため,糖尿病網膜症の治療の戦略は重症患者の治療(三次予防)のみでなく,網膜病変を発症の予防(一次予防),発症した軽症の網膜症を進行させない(二次予防)医療,すなわち,失明予防ではなく,視力の低下を阻止することを目的とする医療の重要性が今後ますます大きくなる.本特集では今後の糖尿病網膜症の治療戦略を予防医学の面から整理し,現状と今後の問題点を認識して,次世代の新しいパラダイムを構築することを目指して企画した.このためには眼科─内科の診療の連携が不可欠であることから,特に一次予防においては内科からの寄稿をお願いすることにより,多面的に糖尿病網膜症を捉えられるように企画した.一次予防は血糖,血圧コントロールをはじめとする全身的管理が主となる.そのため本特集でも,糖尿病網膜症一次予防のエビデンスについて岸川秀樹教授(熊本大学保健センター)ほかによるDCCT(DiabetesControlandComplicationsTrial),EDIC(EpidemiologyofDiabetesInterventionsandComplications),KumamotoStudyについての解説,曽根博仁先生(筑波大学内科,御茶ノ水女子大学)ほかによる日本における多施設前向きの大規模調査JDCS(本文参照)の解説をお願いし,安田美穂先生(九州厚生年金病院眼科,九州大学)には眼科の立場から住民調査による研究からの知見の解説をお願いして,糖尿病網膜症発症のリスクについて多角的,多面的に理解できるようにした.二次予防では糖尿病網膜症の重症化の阻止がその大きな目的であり,全身の治療と並んで眼科的治療を有機的にリンクさせ,それぞれの適切なときに治療を行うこと,すなわち糖尿病網膜症の管理と治療を適切に行うことが重要であり,一次予防から二次予防へとスムーズに診療体制が流れる必要がある.本特集では,重症化のマーカーとして網膜硝子体血管新生と黄斑浮腫を取り上げた.前者については北野滋彦教授(東京女子医科大学糖尿病センター),後者については山本禎子先生(山形大学医学部附属病院眼細胞工学)に最新の知見を解説していただい0910-1810/07/\100/頁/JCLS*1HidetoshiYamashita:山形大学医学部情報構造統御学講座視覚病態学分野*2TatsuroIshibashi:九州大学大学院医学研究院眼科学分野●序説あたらしい眼科24(10):1273~1274,2007糖尿病網膜症:一次予防,二次予防,三次予防の戦略??????????????????????????????????????????:???????????????????????????????????????????????????????????山下英俊*1石橋達朗*2———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007た.三次予防は白神史雄教授(香川大学)にお願いして,重症例での最新の治療を解説していただいた.糖尿病網膜症の診療のトータルを検討するためにはロービジョン,再生医療および人工網膜が必要になるが,これはそれぞれで特集に値する大きなテーマであり紙数の関係上省かせていただいた.本特集での糖尿病網膜症による視力低下を抑制するための体系的,戦略的なアプローチについての紹介が読者の皆さんの糖尿病網膜症の診療の役に立てれば幸いである.(2)年間予約購読ご案内眼における現在から未来への情報を提供!あたらしい眼科2008Vol.25月刊/毎月30日発行A4変形判総140頁定価/通常号2,415円(本体2,300円+税)(送料140円)増刊号6,300円(本体6,000円+税)(送料204円)年間予約購読料32,382円(増刊1冊含13冊)(本体30,840円+税)(送料弊社負担)最新情報を,整理された総説として提供!眼科手術2008Vol.21■毎号の構成■季刊/1・4・7・10月発行A4変形判総140頁定価2,520円(本体2,400円+税)(送料160円)年間予約購読料10,080円(本体9,600円+税)(4冊)(送料弊社負担)日本眼科手術学会誌【特集】毎号特集テーマと編集者を定め,基本的事項と境界領域についての解説記事を掲載.【原著】眼科の未来を切り開く原著論文を医学・薬学・理学・工学など多方面から募って掲載.【連載】セミナー(写真・コンタクトレンズ・眼内レンズ・屈折矯正手術・緑内障など)/新しい治療と検査/眼科医のための先端医療他【その他】トピックス・ニュース他■毎号の構成■【特集】あらゆる眼科手術のそれぞれの時点における最も新しい考え方を総説の形で読者に伝達.【原著】査読に合格した質の高い原著論文を掲載.【その他】トピックス・ニューインストルメント他株式会社メディカル葵出版〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替00100-5-69315電話(03)3811-0544お申込方法:おとりつけの書店,また,その便宜のない場合は直接弊社あてご注文ください.http://www.medical-aoi.co.jp

硝子体手術のワンポイントアドバイス52.糖尿病硝子体手術時に生じるavulsed retinal vessel(中級編)

2007年9月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007????0910-1810/07/\100/頁/JCLSはじめに増殖糖尿病網膜症では増殖膜の牽引により網膜血管が硝子体腔内に遊離することがある.一般にこの病態を?離網膜血管(avulsedretinalvessel)とよんでいる.広川らは,724眼の糖尿病網膜症を調査し,36眼に?離網膜血管を確認し,すべてが増殖型であり,約80%が耳側に存在したと報告している1).このavulsedretinalves-selは増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術の術中に形成されることもある.●どのような症例に生じやすいか一般にavulsedretinalvesselは後部硝子体が未?離かつ網膜硝子体癒着が強固な症例で,人工的後部硝子体?離を強引に作製する際に形成されることが多い(図1).網膜血管は,硝子体カッターなどの牽引により内境界膜を破り,硝子体腔に遊離してくる.Avulsedretinalvesselをきたした部分の網膜には血管の存在していた部位に一致して線状の溝が認められる.しばしば血管が破綻して出血が生じ,血管が遊離する際の牽引が高度だと溝に沿ったスリット状の網膜裂孔が形成されることもある.●処置はどうするか血管からの破綻性の出血が生じた場合には眼内ジアテルミー凝固で確実に止血を行う.また,avulsedretinalvesselが広範囲に形成された部位の網膜は,虚血がより高度になっている可能性があるので,同部位に眼内光凝固を確実に施行しておく必要がある.筆者らは広範囲のavulsedretinalvesselをきたした症例の硝子体手術後に,網膜虚血が原因と考えられる晩期の医原性裂孔が形成され,限局性網膜?離に至った症例を経験している(図2)2).(79)●予防法は術中のavulsedretinalvessel形成を未然に予防するには,人工的後部硝子体?離作製時に硝子体カッターなどで強引に吸引をかけないことが重要である.癒着の程度が強い症例では,適宜硝子体剪刀を使用して,癒着を解離しながら,人工的後部硝子体?離の作製を慎重に行う必要がある.文献1)広川博之,吉田晃敏,門正則ほか:糖尿病性網膜症での?離網膜血管.臨眼45:31-34,19912)今村裕,南政宏,植木麻理ほか:増殖糖尿病網膜症の?離網膜血管部位に萎縮性裂孔を生じた1例.眼紀52:943-945,2001硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載?52糖尿病硝子体手術時に生じるavulsedretinalvessel(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図1人工的後部硝子体?離作製時に形成されたavulsedretinalvessel(矢印)?離網膜血管からの出血を認める.図2術5カ月後の眼底所見Avulsedretinalvesselが生じた領域に3個の萎縮性裂孔が形成され,その周囲に限局性網膜?離を認めた.再手術を施行し復位を得た.

眼科医のための先端医療81.加齢黄斑変性に対する最新抗vascular endothelial growth factor(VEGF)療法 -Aflibercept(VEGF Trap-Eye)-

2007年9月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007????0910-1810/07/\100/頁/JCLS加齢黄斑変性に対する抗VEGF治療これまでの動物実験・組織学的研究・薬剤の臨床効果から滲出型加齢黄斑変性の病態にVEGF-Aが関与していることは間違いないでしょう.欧米では抗VEGF治療薬として滲出型加齢黄斑変性に対してpegaptanib(Macugen?)1),ranibizumab(Lucentis?)2)が承認されています.VEGF-Aは種々のアイソフォームをもっています.Pegaptanibはアプタマーとよばれるオリゴヌクレオチド製剤であり,VEGF165には結合しますが,VEGF121には結合しないため,作用が弱い反面,安全性が高いと推測されてきました.一方,bevacizumab(Avastin?)はマウス由来の抗ヒトVEGF中和抗体として転移性大腸癌・結腸癌に対して国内でも承認されています.しかし,全長の抗体であるbevacizumabは硝子体内注入した場合の網膜内移行性が悪いと推測され,抗VEGF中和抗体のFabフラグメントからつくられたより小さな分子量の誘導体としてranibizumabが開発されました.VEGFアイソフォームに対する特異性はなく,すべてのアイソフォームのVEGF-Aを阻害します.さらに,アミノ酸配列を少し変え,VEGFへの親和性はbevaci-zumabよりも高められています.また,最近bevaci-zumabもranibizumabと同等か,それ以上の加齢黄斑変性に対する治療効果があるのではないかと考えられ盛んに臨床使用されています3).VEGFTrap滲出型加齢黄斑変性に対してpegaptanib,ranibi-zumabにつづく第3の抗VEGF製剤として期待されているのがa?ibercept(VEGFTrap)4~6)です.VEGFTrapはVEGFreceptor1(FLT1)の細胞外イムノグロブリンドメイン2とVEGFreceptor2(KDR)の細胞外イムノグロブリンドメイン3とをヒトIgG1Fcとに結合させた可溶性融合蛋白で,胎盤成長因子(PIGF),すべてのアイソフォームのVEGF-A,VEGF-B,VEGF-C,VEGF-Dと結合します(図1)6).VEGFTrapのVEGF-Aとの結合能はKd<1pmol/?と非常に高いと報告されています4).また,VEGF165とのみ結合するpegaptanib,VEGF-Aとのみ結合するranibizumabと比べて,VEGFTrapはすべてのアイソフォームのVEGF-Aと結合するだけではなく,血管増殖作用のあるPIGFなどとも結合することにより,これまでの製剤と比べて高い血管新生抑制効果が期待されています.さらに,Fcフラグメントで結合されていることにより,半減期が長くなっています.これまで,進行卵巣癌に対して,phaseII臨床試験が行われ,有効性・安全性が報告されています.眼科領域ではレーザーを用いた脈絡膜新生血管モデルにおいて,マウス,サルでの有効性が示されています.投与方法としては全身投与(VEGFTrap)と硝子体内投与(VEGFTrap-Eye)があります.VEGFTrap治療成績2006年,滲出型加齢黄斑変性に対するVEGFTrapの静脈内投与のphaseI(無作為,多施設,プラセボコントロール)臨床試験の結果が報告されました5).0.3~(75)◆シリーズ第81回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊辻川明孝(京都大学大学院医学研究科感覚運動系外科学)加齢黄斑変性に対する最新抗vascularendothelialgrowthfactor(VEGF)療法─A?ibercept(VEGFTrap-Eye)─図1VEGFTrapの構造(文献6より)ヒトVEGFR1(FLT1)の細胞外イムノグロブリンドメイン2とVEGFR2(KDR)の細胞外イムノグロブリンドメイン3とをヒトIgG1Fcとに結合させた融合蛋白.VEGF:vascularendothelialgrowthfactor.VEGFR1:VEGFreceptor1.VEGFR2:VEGFreceptor2.①②③④⑤⑥⑦VEGFR1KinaseKd10~20pMKd<1pMKinaseKd100~300pMVEGFTrap②③Fc①②③④⑤⑥⑦VEGFR2②③———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.9,20073.0mg/kgのVEGFTrapを滲出型加齢黄斑変性19症例に対して静脈内投与し,視力改善効果,網膜厚減少効果はいずれの濃度でも認められました.しかし,高濃度では高血圧,蛋白尿などの副作用がみられたため中止に至っています.一方,滲出型加齢黄斑変性に対するVEGFTrap-Eyeの硝子体内投与に関してはphaseII(無作為,多施設)臨床試験が行われており,中間解析の結果が2007年のARVO(TheAssociationforResearchinVisionandOphthalmology)で報告されました.滲出型加齢黄斑変性150例に対してVEGFTrap-Eye硝子体内投与を行い,12週間の経過観察を終えた78例に関する中間解析です.この試験では,0.5mgまたは2.0mgのVEGFTrap-Eyeの4週間間隔での硝子体内投与および0.5mg,2.0mgまたは4.0mgのVEGFTrap-Eyeの単回投与後の12週間での有効性,安全性について評価を受けています.すべてのグループの総計で網膜厚は平均135?m減少し(p<0.0001),視力も平均5.9文字増加しています(p<0.0001).また,糖尿病網膜症に対しても,phaseI臨床試験が行われ,VEGFTrap-Eyeの単回投与の安全性が報告されています.加齢黄斑変性に対する今後の治療VEGFTrap-EyeのphaseIII臨床試験は2007年秋頃からの実施に向け,滲出型加齢黄斑変性に対して,4週間,8週間間隔でのVEGFTrap-Eye投与と4週間間隔でのLucentis?投与との治療効果を比較することが計画されています.VEGFTrap-Eyeの治療効果が,pegaptanib,ranibizumab,bevacizumabより高いかどうかは現時点では不明です.しかし,たとえ効果が高かったとしても,視力改善効果が極端に違うことはないでしょう.いったん,中心窩下にtype2脈絡膜新生血管が生じてしまうと完全に消失することはまれで,治療を行ってもあまり良い視力は期待できません.しかし,治療間隔を長くできるという点では大いに期待をもつことができます.1カ月に1回の硝子体内注射は現実的には治療を行う側にとっても,受ける側にとっても大変なものがあります.2カ月に1回,できれば3カ月に1回でしたらかなり負担は違ってくるでしょう.文献1)GragoudasES,AdamisAP,CunninghamETJretal:Pegaptanibforneovascularage-relatedmaculardegenera-tion.????????????351:2805-2816,20042)RosenfeldPJ,BrownDM,HeierJSetal:Ranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration.????????????355:1419-1431,20063)AveryRL,PieramiciDJ,RabenaMDetal:Intravitrealbevacizumab(Avastin)forneovascularage-relatedmacu-lardegeneration.?????????????113:363-372,20064)HolashJ,DavisS,PapadopoulosNetal:VEGF-Trap:aVEGFblockerwithpotentantitumore?ects.??????????????????????99:11393-11398,20025)NguyenQD,ShahSM,Ha?zGetal:AphaseItrialofanIV-administeredvascularendothelialgrowthfactortrapfortreatmentinpatientswithchoroidalneovascularizationduetoage-relatedmaculardegeneration.?????????????113:1522-1532,20066)RiniBI,RathmellWK:Biologicalaspectsandbindingstrategiesofvascularendothelialgrowthfactorinrenalcellcarcinoma.???????????????13:741s-746s,2007(76)■「加齢黄斑変性に対する最新抗vascularendothelialgrowthfactor(VEGF)療法」を読んで■今回は辻川明孝先生による,VEGFの作用の制御のための新しい薬物の解説です.血管新生が病態の本態である加齢黄斑変性の治療薬として,これまでのpegaptanib(Macugen?),抗VEGF中和抗体と比較しつつ大変わかりやすく解説していただきました.1回の硝子体内注射での効果に差があるかどうかは今後の詳細な検討を待ってということですが,「Fcフラグメントで結合されていることにより,半減期が長くなっています.」とのアドバンテージがあり,今後の治療薬として臨床の現場での有効性が期待されます.VEGFは眼科領域では循環障害などの病態に伴って発生する血管新生,血管の透過性亢進に伴う網膜の浮腫といった病態に中心的な役割をはたしていることが,分子細胞生物学的,???????での研究などにより明らかにされてきました.今回紹介のあった種々のVEGFの作用の抑制により上記の病態が抑制,治癒させられることが明らかになり,VEGFの病態における位置づけが科学的にきちんと確立されたことにな─A?ibercept(VEGFTrap-Eye)─———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007????(77)☆☆☆ります.今後ますます種々の薬物がVEGFの作用をターゲットとして開発されると考えられます.その際に,どのような時期にこれらの薬物を使うかという臨床医としては最も重要な問題を今後解決していく必要があります.まずは加齢黄斑変性のようにきわめて長期にわたって進行する疾患のどの時期にどのような薬物をどのようなツールで(ドラッグデリバリー)使用するかを明らかにする必要があります.また,長期にわたって使用した場合の予期せぬ副作用にも注意が必要です.そして,種々の抗VEGF薬が開発されたときにそれぞれの効果の比較検証を誰がやるかという問題もあります.辻川先生もそのような観点で総説をわかりやすく書いていただきました.学会でもトピックスになっている最先端の治療法の基礎をまとめて理解する良い機会を与えていただいたことに感謝します.山形大学医学部視覚病態学山下英俊

新しい治療と検査シリーズ174.極小量眼軟膏を用いた新しいドライアイ治療

2007年9月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007????0910-1810/07/\100/頁/JCLS?使用方法(治療の実際のやり方)治療手順としては,人工涙液・ヒアルロン酸点眼や涙点プラグなどで水分を確保したうえで,効果が不十分であれば極少量の眼軟膏追加と選択していくことになる.従来の眼軟膏の使用方法である結膜?へのバルク投与では視界がぼやけてしまうため,今回の方法では,硝子新しい治療と検査シリーズ(73)?バックグラウンド涙液は油層,水層,ムチン層の3層構造をしているといわれている.ドライアイの原因は水層の欠乏のみならず,油層,ムチン層の異常によってもひき起こされる.近年,ドライアイ観察装置DR-1?(興和)によって涙液油層の観察や厚みの定量が可能1)になっており,ドライアイ患者のなかには,油層が薄くなっている症例が少なからず存在する2).そのようなドライアイ患者に対する油成分補充を目的とした治療法を紹介する.?新しい治療法(原理)今回紹介する治療法は,涙液油層の薄くなったドライアイ患者に対して油成分を補充する治療法である.現在使用可能な油成分の含まれた点眼薬は,インドメタシン(インドメロール?),塩酸オキシテトラサイクリン・ヒドロコルチゾン(テトラゾール?)油性点眼液と眼軟膏であるが,油性点眼液は油成分の濃度が高く,点眼後に視認性が悪くなり,かえって自覚症状が悪くなる傾向がある.そこで,生理的に油成分が分泌されるマイボーム腺開口部に沿ってうっすらと眼軟膏を塗布する方法を油層の薄いドライアイ患者に施行している.使用する眼軟膏は,防腐剤無添加であり,非極性脂質に加え極性脂質(非極性脂質の水層上での伸展を助ける)も基剤に含むオフロキサシン(タリビッド?)眼軟膏が向いている3).抗菌薬を含有しているため,閉塞性マイボーム腺梗塞や眼瞼炎を合併している症例に使用する.この治療法の鍵は極性脂質を水層の上で滑らせ,その極性脂質の上に均一な厚みの非極性脂質の膜を形成させることであり,水分がなければ油成分の伸展が得られない4).水成分が足りない場合はその補充も重要である.174.極少量眼軟膏を用いた新しいドライアイ治療プレゼンテーション:保坂絵里糟谷優子後藤英樹鶴見大学歯学部眼科学講座コメント:横井則彦京都府立医大大学院医学研究科視覚機能再生外科学図1ゴマ粒大眼軟膏硝子棒の先に最少限の眼軟膏(約2mm)をつける.図2眼軟膏の塗り方硝子棒の先につけた眼軟膏を下眼瞼縁に沿って,うっすらと伸ばすように塗布する.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007棒の先端にゴマ粒大(約2mm)のタリビッド?眼軟膏をのせ(図1),下眼瞼縁に沿って均一に伸ばすようにして塗布する(図2).上記の方法で1日3回塗布する.?本方法の良い点本治療法は,油層欠乏性のドライアイ患者に対して,簡便に油成分を補充することができる.また,今までの眼軟膏の使用方法では,視界のぼやけ,眼瞼がベタベタしてしまうなどの訴えにより,就寝前の使用に限られていたが,本治療法では日中に使用可能であり,自覚症状を軽減させることができる.この治療法は今までのところ,涙液油層が薄いo?ceのdryeye,涙液油層が薄いStevens-Johnson症候群および眼類天疱瘡などの重度のドライアイ,EEC(ectro-dactyly-ectodermaldysplasiaclefting)症候群で効果が報告されている5).高齢者にみられるマイボーム腺機能不全はしばしば涙液分泌減少を伴い,そもそも涙液油層の厚みが薄くない例も多く,この治療の効果は要検討である.文献1)GotoE,DogruM,KojimaTetal:Computer-synthesisofaninterferencecolorchartofhumantearlipidlayer,byacolorimetricapproach.?????????????????????????44:4693-4697,20032)GotoE,TsengSC:Di?erentiationoflipidtearde?ciencydryeyebykineticanalysisoftearinterferenceimages.???????????????121:173-180,20033)横井則彦,木下茂:眼軟膏とその特性.眼科NewInsight2,点眼薬─常識と非常識─(大橋裕一編),p66-75,メジカルビュー社,19954)後藤英樹,保坂絵里,山崎朝子:特集ドライアイ(診療の最前線)6.MGD.眼科48:1019-1031,20065)GotoE,DogruM,FukagawaKetal:Successfultearlipidlayertreatmentforrefractorydryeyepatientsino?ceworkersbylow-doselipidapplicationonthefull-lengthlidmargin.???????????????142:264-270,2006(74)?本方法に対するコメント?涙液の油層は涙液の蒸発を抑制し,その安定性を保つ.ドライアイ治療としての油性点眼液は,たとえば米国では実際に用いられているが,わが国ではまだない.マイボーム腺機能不全による蒸発亢進型ドライアイにおいては,涙液の液層は確保されるため,何らかの形で涙液の蒸発を抑えることができれば,治療として成り立つ.本稿は,涙液油層の薄いドライアイに対して極少量の眼軟膏で油層を補うという新しい治療法を示しており,その発想は非常にユニークである.しかしながら,点入されたゴマ粒大の眼軟膏が,涙液油層にうまく取り込まれて,涙液の蒸発を抑制しその安定性を高めてくれるかという疑問がわく.しかし,Gotoらは,そのエビデンスをすでに見事に示している.今後,多施設での,極少量眼軟膏の効果を検討した報告が待たれるところである.眼軟膏は人工涙液に比べてターンオーバが遅く,1時間以上は涙液層として存在しうるため,回数を少なくして長い効果が期待できると思われる.☆☆☆表1極少量眼軟膏治療法のまとめ目的油層欠乏性のドライアイ患者への油成分の補充.原理極性脂質および非極性脂質を基材に含む軟膏を少量使用することにより水層上に薄い均一な油層を形成させる.方法ゴマ粒大のタリビッド?眼軟膏を硝子棒の先端にのせ,下眼瞼縁に沿って薄く伸ばす.1日3回塗布.利点油層を補充することによるドライアイ症状の改善.眼軟膏使用後のぼやけ感なし.欠点抗菌薬が含有されている.原理や利点,欠点をよく理解する必要がある.

眼感染症:バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)

2007年9月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007????0910-1810/07/\100/頁/JCLS腸球菌はグラム染色でグラム陽性球菌として観察される(図1).腸球菌はヒトを含む動物の腸管内に生息している細菌であり,日和見感染症の原因菌として,尿路感染症,腹腔内・骨盤内感染症,菌血症,心内膜炎,術後創感染などをひき起こす.腸管内の常在菌であるため,多くは内因性感染であると考えられているが,入院患者では直接的あるいは間接的な接触感染を起こす.■培養法腸球菌の細菌学的な特徴は,酸素があってもなくても発育可能(通性嫌気性),カタラーゼ試験陰性,10~45℃やpH9.6の環境下でも発育可能,6.5%食塩含有培地や40%胆汁酸含有培地で発育可能,エスクリンを加水分解するなどの性状を示し,他の細菌と区別できる.現在,腸球菌は21菌種に分類されているが,臨床検体から分離される腸球菌は,?????????????????????が70~80%を占め,ついで??????????が約20%,残りの10%未満に????????,?????????????,???????????????などがある.培養依頼時の検査材料は採取後すみやかに検査室に提出することが望ましい.保存しなければならないときは冷蔵保存する.■耐性菌判定法現在,バンコマイシン耐性腸球菌(vancomycin-resis-tantenterococci:VRE)には????,????,????,????,????,????の6タイプの遺伝子型がある.おもな遺伝子型は????,????,????である.臨床的に問題となるのは,耐性を他の菌に伝達することのできる????および????遺伝子を有する??????????または???????????である1)(表1).VRE選択培地によるスクリーニング検査,薬剤感受性検査,耐性遺伝子検査などを組み合わせてVREを検出する(図2).感染症法では,VRE感染症は五類感染症として全例(69)52.バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)眼感染症セミナー─クライシスコントロール講座─●連載?監修=浅利誠志井上幸次大橋裕一小森敏明京都府立医科大学附属病院臨床検査部バンコマイシン耐性腸球菌(vancomycin-resistantenterococci:VRE)は感染防止対策と治療の両面で注目すべき病院感染原因菌である.日本でもVRE集団発生が散発的に報告されており,病院外への感染拡大も懸念されている.VREが検出されたときには,感染症か保菌かを区別することが重要である.VRE伝播防止のためには,予防対策と伝播の遮断が必要となる.図1膿検体のグラム染色白血球による腸球菌の貪食像を認める(矢印).図2バンコマイシン添加エンテロコッコセル寒天培地(日本ベクトン・ディッキンソン)VRE選択培地の一つで,胆汁エスクリン培地にバンコマイシンが8?g/m?添加されている.周囲が黒変した発育集落はVREを疑う.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007報告が義務化されている.■治療薬剤選択近年,いくつかの抗VRE薬が開発され,VRE感染症治療が可能となった2).??????????によるVRE感染症ではbラクタム系薬剤,アミノグリコシド系,テトラサイクリン系などの薬剤にすべて耐性であることが多く,治療はリネゾリド(LZD)やキヌプリスチン?ダルフォプリスチン(QPR/DPR)を使用する.しかし,LZDやQPR/DPRに対し耐性を示すVREがすでに報告されている.LZDは???????????および??????????のVREをはじめ,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などの多剤耐性菌を含めたグラム陽性菌に対して広い抗菌スペクトルを示す.QPR/DPRは????,????を有する??????????に抗菌作用を示すが,???????????に対する抗菌作用は弱い.VREのなかでも???????????はアンピシリン(ABPC)に対して比較的感受性を有している.ABPCとゲンタマイシン(GM)またはストレプトマイシン(SM)の併用効果も報告されている.臨床的には????遺伝子を有するVREにテイコプラニン(TEIC)の選択肢が残されている.文献1)GoldHS:Vancomycin-resistantenterococci:Mechanismsandclinicalobservations.??????????????33,210-219,20012)小森敏明,藤田直久:バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)─感染拡大に対する懸念─.感染制御3:247-252,20063)松本哲朗:VRE集団感染から明らかになったこと.?????????????????14:836-838,2005(70)表1代表的なバンコマイシン耐性腸球菌の分類表現型関連耐性遺伝子おもな分離菌種感受性MIC(?g/m?)伝達性感染対策VCMTEICVanA型????????????????????????????????????????????????64~>1,02416~512○必要VanB型??????????????????????????????????????4~>1,0240.5~>32(大半は感受性)○必要VanC型????????????????????????????????????????????2~320.5~1×現時点では不要VCM:バンコマイシン,TEIC:テイコプラニン.◎検査室から眼科医へ◎国内で起こったVRE集団発生の解析で,VRE感染症の危険因子として,VRE陽性者やMRSA陽性者と同室,IVH(経静脈高カロリー輸液)やモニターの使用者,褥創の処置,長期臥床,喀痰の吸引などが報告されました3).その他の危険因子としては長期入院患者,免疫能低下患者,尿道カテーテル挿入患者や腎不全による腹膜透析(CAPD)患者などの易感染性患者,長期抗菌薬投与患者,臓器移植患者などがあげられます.VREが検出されたときは,まず感染症か保菌かを区別します.発熱や敗血症などの症状がない無症状患者で,VREが定着しているだけの保菌患者では,VREに対する治療は不必要で,標準予防策と接触感染予防策を基本としたVRE伝播防止のための予防対策に重点を置きます.◎眼科医から検査室へ◎眼科医が腸球菌を恐れる最大の理由は,白内障術後にみられる腸球菌眼内炎にあります.本文でも述べられているように,元来は日和見病原体ですが,眼内(硝子体内)に迷入すると想像を絶する強い病原性を発揮します.進行が速く,発症すれば視力予後不良に至る例が少なくないため,白内障サージャンにとって———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007????(71)は大きな脅威となっています.起炎菌のほとんどは,?????????????????????ですが,ごくまれに??????????も病原体となりえます.本稿で詳細に取り上げられたVREが,眼内炎の起炎菌としては分離されたことはいまだありませんが,最近,他科領域において増加していると聞きます.特に,外眼部細菌叢における分離動向は眼科医にとって重要です.サーベイランス情報を定期的にご提供いただければありがたいと思います.愛媛大学医学部眼科大橋裕一☆☆☆