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メタボリックシンドロームには運動が重要

2008年1月31日 木曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSII自律神経活動の評価法心拍変動は自律神経活動を反映するとされ,従来からその変動が副交感神経機能を臨床的に評価する方法として,広く利用されてきた.これら一連の洞房結節のリズムの解析による神経性循環調節機能の分析は,冠動脈疾患,心不全,不整脈,高血圧症などの心血管系疾患の病態に対する新しいアプローチとして現在,注目を集めている.特に心臓副交感神経機能の非侵襲的評価が可能な心拍変動スペクトルにより,副交感神経機能低下が冠動脈性心疾患や突然死の重要な危険因子であることが明らかになっている.心拍変動による自律神経機能評価の原理は,交感神経および副交感神経機能がそれぞれ特定の周波数帯域の心Iヒトが太る訳GeorgeBray1)により提唱されたMONALISA(MostObesitieskNownareLowInSympatheticActivity)仮説,すなわち,交感神経活動の低下と肥満とが密接に関連しているという考えは動物実験などから支持されてきた.適度な体脂肪量を維持し,一定の体重を保つ仕組みとその破綻としての肥満の遺伝的要因解明は,分子遺伝学的手法を駆使した最近の研究によって著しく進展した.図1にその概略を示す.白色脂肪組織に脂肪が蓄積すると脂肪細胞から肥満遺伝子レプチンが内分泌され,大脳の視床下部の交感中枢(満腹中枢)の神経細胞膜に存在するレプチン受容体に結合して細胞を活性化する.交感神経活性の上昇は副交感中枢(摂食中枢)を抑制して摂食を抑えるとともに,b3-アドレナリン受容体を介して白色脂肪組織(特に内臓型)からの脂肪動員と褐色脂肪組織からの熱放散〔脱共役蛋白質(uncouplingpro-tein1:UCP1):ミトコンドリアでの酸化的リン酸化を脱共役させ,アデノシン三リン酸(ATP)を合成せずに,エネルギーを熱として放散する蛋白質ファミリーの一つ〕を促進し,これらの総合効果によって脂防の過剰蓄積を防ぐものと考えられている.つまり,自律神経は,食欲やエネルギー代謝の調節に関わり,生体の体重や脂肪を一定範囲に保つうえでも重要な役割を果たしているのでメタボリックシンドロームの予防,治療の観点からも非常に大切な問題である.(23)23*ToshioMoritani:京都大学大学院人間・環境学研究科〔別刷請求先〕森谷敏夫:〒606-8501京都市左京区吉田二本松町京都大学大学院人間・環境学研究科特集眼の病い─生活習慣病が原因あたらしい眼科25(1):2328,2008メタボリックシンドロームには運動が重要ExerciseIsImportantforMetabolicSyndrome森谷敏夫*図1体重調節における自律神経の役割満中(神経)満腹中枢(交感神経)摂食中枢(副交感神経)摂食中枢(副交感神経)摂食down白色脂肪細胞白色脂肪細胞褐色脂肪細胞褐色脂肪細胞β3-アドレナリン受容体交感神経脂肪分解脂肪燃焼UP脱共役蛋白質(UCP1)などUP満腹感満腹感———————————————————————-Page224あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008(24)自律神経活動には肥満群・非肥満群の間で有意な差が認められなかったが,熱産生刺激(たとえば,唐辛子の辛味成分カプサイシン摂取,寒冷曝露など)を与えたときの交感神経活動,特にVLF成分は肥満群では増加せず,またその反応性は非肥満群に比べ有意に低下していた.したがって,安静レベルの交感神経活動の低下というよりはむしろ,“交感神経反応性の低下”,特に“交感神経のエネルギー代謝調節に関する生理的機能の低下”が肥満の形成を促す一要因になりうることが示唆された.最近の筆者らの研究から,b3-アドレナリン受容体(b3-AR)と脱共役蛋白質(UCP1)の両方の遺伝子変異をもつ被験者で,交感神経活動動態が有意に低下することが明らかになりつつある(詳細は森谷と永井3),森谷4)参照).III運動と自律神経活動この自律神経活動には可逆性があるのだろうか.安静時の自律神経活動を比較すると加齢や運動習慣,疾患の有無,喫煙習慣,肥満度などにより大きく異なる.中高齢者を対象にした研究でも同様な結果が報告されてお拍変動に反映されることに基づいている.図2上段は心電図R波の時間間隔(心拍加速・減速)の時系列データ,下段が心電図R-R間隔の周波数パワースペクトルである.心拍変動のパワースペクトルには低周波帯(0.030.15Hz)と高周波帯(0.150.4Hz:呼吸性不整脈と同期する)にピークがみられ,それぞれlowfrequency(LF)成分,highfrequency(HF)成分とよばれている(図2参照).HF成分は呼吸によって生じる心拍のゆらぎで心臓副交感神経よって媒介され,その振幅値は心臓副交感神経活動を反映することが神経系の薬理ブロックや動物実験での神経節切除の実験結果から明らかになっている.一方,LF成分は交感神経と副交感神経活動の両者が反映されるが,Akselrodら2)によれば血圧調節がこのスペクトル帯域で行われている可能性を示唆している.筆者らは,LFおよびHF成分に加え,交感神経系体温・熱産生調節機構に関与するverylowfrequency(VLF)成分(0.0070.03Hz)を特定することが可能な,より精度の高い手法を開発し,各種生理的条件下における肥満者の交感神経活動動態を評価した.その結果,安静時の健常者糖尿病患者心拍変動パワ-スペクトル副交感交感・副交感LFHF2000-20030150ms2000-200msPower(ms2/Hz)00.20.40.60.81.0Frequency(Hz)30150Power(ms2/Hz)00.20.40.60.81.0Frequency(Hz)図2健常者と糖尿病患者の典型的な心拍変動スペクトル解析による自律神経活動———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.1,200825(25)慣病リスクファクターや心臓自律神経活動が有意に改善した5,6).図3はその典型例を示したものである.また,強力な血管収縮物質であるエンドセリンやカテコラミンおよび心負担度の指標である脳性ナトリウム利尿ペプチドの増加が運動中に認められなかった6).これらの自律神経活動の可逆的効果から,「安全運動閾値」での運動は,心臓に負担が少なく,中年肥満者におけるエネルギー代謝機構を改善し肥満を解消させるだけでなく,虚血性心疾患や突然死を予防する可能性があることが示唆されている.IV運動時のエネルギー代謝運動中の脂肪の利用率は運動強度に依存する.一般的には最大酸素摂取量(VO2max)の約50%の運動強度では,エネルギー源として糖質と脂質がほぼ同じ割合で利用されるため,高強度の運動に比べて脂肪燃焼率が高くなり,脂質代謝の活性化に適している.米国スポーツ医学会7)では,呼吸循環機能を向上させる運動処方として,少なくとも5085%VO2maxの強度で,20分間の有酸素運動を週に3回,数カ月間継続することを推奨している.しかし,内臓脂肪型肥満者に発生している糖・脂質り,自律神経系でもおもに副交感神経で調整される圧受容体感受性も運動習慣のある中高齢者が有意に高いことも指摘されている.図2は健常者と糖尿病患者の典型的な4分間の心拍変動(図上段)とそのパワースペクトル(下段)である.この患者は特に心臓の電気的安定性を維持する副交感神経の顕著な低下が認められ,自宅で心臓突然死を起こした方である.おそらく自律神経障害の著しく進展した糖尿病患者の自律神経機能の可逆性はあまり見込めないかもしれないが,初期の段階や単純性肥満で器質的な神経障害がない場合にはその可逆性が見込まれる.筆者らは肥満者や糖尿病患者に対して安全で有効な運動処方の開発を行ってきた.特に,血中乳酸や呼気ガスの変化ではなく,上述した心拍変動スペクトル解析から心臓副交感神経活動を基準にした「安全運動閾値」で運動処方箋を作成し,生活習慣病のリスクが高く,自律神経活動の低下した肥満者を対象に12週間の運動トレーニングを実施した.その結果,「安全運動閾値」での運動トレーニング12週後では,血圧,血中コレステロール,中性脂肪,高比重リポ蛋白(HDL)および低比重リポ蛋白(LDL)-コレステロール,体脂肪,等々の生活習70070(ms)70070(ms)70070(ms)00.10.20.30.40.5Frequency(Hz)Power(ms2Hz)051000.10.20.30.40.5Frequency(Hz)Power(ms2Hz)051000.10.20.30.40.5Frequency(Hz)Power(ms2Hz)0510トレーニング前5週目12週目図3中年女性の有酸素運動トレーニングによる自律神経活動の変化(文献5より改変)———————————————————————-Page426あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008(26)V運動のメタボリックシンドローム予防・改善効果糖尿病の三大合併症の一つである網膜症は大人の中途失明の第一位の原因である.インスリンは,糖取り込み以外にも細胞内での糖・脂質代謝,遺伝子調節,DNA合成,アミノ酸代謝,電解質調節など多くの生体機能に関与している.慢性的な運動不足が,肥満や2型糖尿病におけるインスリン感受性の低下と密接な関係にあることはよく知られている.たとえば,Ferrandら8)はたった7日間のベッドレスト(完全休養)で,顕著な骨格筋の糖取り込み能力の低下やインスリン作用の低下が起こることを報告している.逆に,運動はインスリンとは別の細胞内シグナル伝達機構を介して,糖輸送を活性化できるので,インスリン抵抗性の存在下においても運動により糖輸送は通常正常に機能する.つまり,運動はインスリンと独立した細胞内機構により骨格筋の糖輸送担体(glucosetransporter4:GLUT4)のtranslocationを惹起し糖輸送を活性化することができる.インスリン感受性の改善は動脈硬化・心血管系疾患のリスクを軽減させることになり,臨床的意義も大きい.運動療法の効果は運動によるエネルギー消費によると考えられていたが,前述した機構が明らかとなった現在,エネルギー消費は第2義的なものとされる.実際,肥満した患者で体重減少を図る場合,その効率と有効性から食事制限が優先されるのが現状である.しかし,運動には脂肪減量効果の促進や体組成の維持,他の生活習慣病危険因子の是正,運動機能の保全などの重要な意義があるので,食事制限と運動療法の併用が推奨される.糖尿病の治療には,薬物療法,食事療法,運動療法が用いられるが,運動療法は比較的軽い糖尿病患者では特に顕著に血糖の改善が認められる.この運動の血糖降下作用は,筋が最も多量のグルコースを利用できる組織であることと関係している.筋活動で消費されるグルコースの量は,安静時に比較すると軽い歩行運動で約3倍,中等度のジョッギング運動では約510倍近くにも及ぶことが報告されている.運動によるインスリン感受性の亢進は,典型的には1回の有酸素性持久運動による急代謝異常の改善には必ずしもこの運動処方が適するとは限らない.一般的に肥満者や糖尿病患者の場合,運動不足を伴って無酸素性作業閾値(anaerobicthreshold:AT;血中乳酸の増加が起こり始める運動強度)も低く,速歩程度でこの閾値に達する場合もある.特に高齢者ではATレベルの運動が単純な歩行に相当する場合が大半である.また合併症の問題から運動制限が必要な場合も多い.この意味から,歩行レベルの軽度の運動が糖・脂質代謝を有意に改善させる運動刺激になるか,あるいは糖代謝改善に最低必要な運動強度や運動量が存在するかは臨床上重要な課題である.肥満者を対象にした有酸素運動のトレーニング効果を扱った最近の先行研究によれば,低強度(約50%VO2max)の有酸素運動でも,総エネルギー消費量を増加させることにより,呼吸循環機能の有意な向上は認められないが,肥満者における糖・脂質代謝の改善に十分効果を発揮することが明らかにされている.実際,中程度の有酸素運動と食事制限を組み合わせたプログラムで肥満者の体組成が有意に改善されることが多くの先行研究により明らかにされている.ATは健康成人の場合,VO2maxのおよそ5070%程度(糖尿病患者ではこれよりやや低い)に相当し,従来推薦されてきた運動強度の範囲内である.このレベルではアドレナリンやグルカゴンなど血糖上昇ホルモンの血中濃度の上昇も軽度で,脂質代謝の面からも,エネルギー源として遊離脂肪酸の利用率が高く,脂質が効率よく代謝される.また,運動中,組織内のアシドーシスが進行せず,自覚的にもきつい運動ではないので,長時間の運動が可能である.前述した50%VO2maxの運動強度は,日頃運動習慣のない人のATとほぼ等しく,この強度で運動を長時間行っても乳酸蓄積を伴わず,また心筋への負担も少ないことが明らかにされている.したがって,軽度な食事制限と中程度の有酸素運動を最低2030分間継続して行うプログラムは,心臓に過度の負担をかけることなく安全に行うことが可能であり,除脂肪体重を維持しながら,脂肪のみをある程度選択的に減少させるとともに,安静時代謝の亢進をもたらす可能性があり,肥満者にとっては最適な運動処方といえよう.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.1,200827糖代謝や脂質代謝を亢進するAMPキナーゼ活性化するとともにtumornecroticfactor-a(TNF-a)を抑制してインスリン抵抗性を緩和することが明らかになっている.糖尿病,肥満症の患者はもとより肥満の小児や中年男女性に習慣的な運動を励行すべきで,まさに厚生労働省が推奨している「1に運動,2に食事,しっかり禁煙,最後にクスリ」である.文献1)BrayGA:Obesity,adisorderofnutrientpartitioning:TheMONALISAhypothesis.JNutr121:1146-1162,19912)AkselrodS,GordonD,UbelFAetal:Powerspectrumanalysisofheartrateuctuation:aquantitativeprobeofbeat-to-beatcardiovascularcontrol.Science213:220-222,19813)森谷敏夫,永井成美:「運動と食品」栄養・食品と運動(伏木亨監修),p124-156,朝倉書店,20064)森谷敏夫:運動による自律神経活動の賦活とその生理学的意義.糖尿病の食事・運動療法(津田謹輔,林達也編),p162-168,文光堂,20075)AmanoM,KandaT,UeHetal:Exercisetrainingandautonomicnervoussystemactivityinobeseindividuals.MedSciSportsExerc33:1287-1291,20016)ShibataM,MoritaniT,MiyawakiTetal:Exercisepre-scriptionbaseduponcardiacvagalactivityformiddle-agedobesewomen.IntJObesity26:1356-1362,20027)AmericanCollegeofSportsMedicine:Positionstandontherecommendedquantityandqualityofexercisefordevelopingandmaintainingcardiorespiratorymusculartnessinhealthyadults.MedSciSportsExerc22:265-(27)性効果として得られ,運動を行った筋肉に限局し,運動後48時間以上継続する.効果の持続時間は筋グリコーゲンの蓄積量によって影響され,筋グリコーゲンが減少するとインスリン感受性亢進の期間が延長する.インスリン作用の改善はGLUT4の増加や血流の増加と相関するので,運動トレーニングの継続による筋の生理学的・生化学的変化も重要になる.トレーニングにより,筋蛋白量当たりのGLUT4が増加する.また,筋力トレーニングによる筋重量の増加も,糖代謝容量の増加を介してインスリン抵抗性を改善する可能性がある.最近では肥満していても運動習慣がある人のほうがスリムで身体的不活動な人たちよりも圧倒的に病気の罹患率や死亡率が低いことが報告されている.図4は米国のBlair博士が14,000人の男女性を8年以上も追跡調査した結果で,肥満度と運動習慣が各種の病気で死ぬ確率にどのような影響を与えるかを検証したものである9).その結果,男性も女性も肥満度が高く,かつ運動不足のグループでは圧倒的に癌,心臓病,脳卒中,糖尿病などで死んだ人が多いことが判明した.その後の数多くの研究でも,同様に「肥満薄命」がはっきりと示されている.この結果から習慣的な運動の予防医学的効果は素晴らしくパワーがあることがわかる.最新の医科学の研究では軽い歩行程度の運動でも,筋肉から免疫強化や生活習慣病の予防・改善につながる多数の遺伝子をONにするマイオカイン(筋由来生理活性物質)が放出されることも明らかにされつつある10)(図5).免疫を司るインターロイキン(IL-6)が運動中に筋細胞から数十倍も放出され,020406080100120140160死亡率(1万人/1年間)低中高体力レベル<2020~25>25???????????????????肥満度小大図4男性の肥満度(BMI)と体力レベルが各種疾患での死亡率に与える影響(文献9のデータから筆者作図)血管AMPKAMPKBDNFIL-6GLUT4IL-6asenergysensorLipolysis3.脳由来神経栄養因子肝臓AMPK1.糖輸送・脂肪酸化2.インスリン抵抗性TNF-a4.脂肪脂肪分解・消費TypeⅡ筋線維収縮図5筋収縮に伴って放出されるマイオカイン(筋由来生理活性物質)の働き(文献10から筆者作図)———————————————————————-Page628あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008tnessandall-causemortality.Aprospectivestudyofhealthymenandwomen.JAMA262:2395-2401,198910)PedersenB,FischerCP:Benecialhealtheectsofexer-cise─theroleofIL-6asamyokine.TrendsinPharma-colSci28:152-156,2007274,l9908)FerrandAA,StuartCA,BrunderDGetal:Bed-rest-inducedinsulinresistanceoccursprimarilyinmuscle.Metabolism37:802-806,19889)BlairSN,KohlHW3rd,PaenbargerRSJretal:Physical(28)新糖尿病眼科学一日一課初から7年,糖尿病の治療,眼合併症の,治療の進歩に伴い,の改行編集夫(東京女子医科大学教授)・山下英俊(山形大学教授)・加藤聡(東京大学講師)本書の初版が出版されて7年余がたった.この間に糖尿病自体の治療や合併症の診断と治療が大きく変遷し進歩した.ことに糖尿病網膜症と糖尿病黄斑浮腫の発症と進展に関与するサイトカインの研究が進展し,病態の解明が大きく前進した.これを踏まえて,発症と進展に関与する薬物療法の可能性を追求する臨床試験が進んでいる.一方で,視機能,ことに視力低下に直接つながる糖尿病黄斑浮腫の治療は,現時点で最も論議が活発な病態となっている.硝子体手術やステロイド薬の投与の適応と効果について,初版が出版された頃に比べると大きく見解が変化している.そして,糖尿病黄斑浮腫の診断に大きな効果を発揮する画像診断装置が普及した.(序文より)〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替00100-5-69315電話(03)3811-0544メディカル葵出版株式会社Ⅰ糖尿病の病態と疫学Ⅱ糖尿病網膜症の病態と診断Ⅲ網膜症の補助診断法Ⅳ糖尿病網膜症の病期分類Ⅴ糖尿病網膜症の治療Ⅵ糖尿病黄斑症Ⅶ糖尿病と白内障Ⅷその他の糖尿病眼合併症Ⅸ網膜症と関連疾患Ⅹ糖尿病網膜症による中途失明糖尿病眼科における看護Ⅸ■内容目次■B5型総224頁写真・図・表多数収載定価9,660円(本体9,200円+税460円)

メタボリックシンドロームと眼疾患  -レニン・アンジオテンシン系の関与-

2008年1月31日 木曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSいったメタボリックシンドロームの基礎病態への関与や,眼などの各組織における炎症や血管新生にも関与していることが明らかとなってきた.つまり,メタボリックシンドロームと糖尿病網膜症・加齢黄斑変性の病態には,RASが共通して関与している可能性があることが推測される.本稿では,メタボリックドミノというメタボリックシンドロームに関連する新しい概念を紹介したうえで,この2つの代表的な眼内血管新生疾患はRASの影響を受けながらメタボリックドミノの下流に位置することを,筆者らの最近の知見を交えて解説する.はじめに近年,メタボリックシンドロームはマスコミにしばしば取り上げられ,非常に注目を浴びている.これまでに複数の診断基準が提唱され多少混乱を招いてはいるものの,メタボリックシンドロームとは,生活習慣の乱れに基づく内臓肥満やインスリン抵抗性を共通の基礎病態として高血圧,脂質代謝異常,高血糖などの危険因子が重積すると,心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化性疾患の発症頻度がきわめて高率になるという疾患である.眼科領域において,メタボリックシンドロームが大きな問題となる代表的な疾患としては,糖尿病網膜症と加齢黄斑変性の2つが考えられる.これらはわが国における主要な失明原因疾患であり,眼内血管新生という共通の中心病態を有する.レニン・アンジオテンシン系(renin-angiotensinsys-tem:RAS)は,アンジオテンシノーゲンがレニンによりアンジオテンシン(angiotensin:Ang)Ⅰとなり,さらにアンジオテンシン変換酵素(angiotensin-convert-ingenzyme:ACE)によりAngⅡに変換されて,最終活性ペプチドであるこのAngⅡが1型受容体(angio-tensinIItype1receptor:AT1-R)と2型受容体(angiotensinIItype2receptor:AT2-R)という2つのAngⅡ受容体に作用するホルモンシステムである.RASは全身の血圧調節系として広く知られている循環RASと組織障害に関与する組織RASの2種類に大別される(図1).近年,RASは肥満やインスリン抵抗性と(15)15図1レニン・アンジオテンシン系(RAS)アンジオテンシノーゲンアンジオテンシンⅠアンジオテンシンⅡAT1-受容体(AT1-R)AT2-受容体(AT2-R)レニンアンジオテンシン変換酵素(ACE)循環RAS:全身の血圧調節組織RAS:組織障害(網膜,腎臓など)〔*ShingoSatofuka&SusumuIshida:慶應義塾大学医学部眼科学教室・網膜細胞生物学研究室〔別刷請求先〕石田晋:〒160-0016東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室・網膜細胞生物学研究室特集●眼の病い─生活習慣病が原因あたらしい眼科25(1):1521,2008メタボリックシンドロームと眼疾患─レニン・アンジオテンシン系の関与─MetabolicSyndromeandEyeDiseases─InvolvementoftheRenin-AngiotensinSystem─里深信吾*石田晋*———————————————————————-Page216あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008(16)いことが近年明らかになってきた1).II糖尿病網膜症メタボリックシンドロームの存在は,糖尿病網膜症の有病率を上昇させることがこれまでにいくつか報告されている35).糖代謝異常,高血圧,脂質代謝異常などは,それぞれ単独でも糖尿病網膜症の発症・進展の危険因子であることが多くの疫学研究により明らかであったが,Costaら5)はメタボリックシンドロームの構成要素であるこれらの危険因子が単独で存在するよりも重複するほど,糖尿病網膜症の有病率が上昇することを報告した.それによると,糖尿病網膜症の有病率は,高血圧,脂質代謝異常,肥満,尿中微量アルブミンの4項目中,01項目を有していると20%,2項目だと38%,3項目で42%,4項目だと64%というように項目数が重複するほど増加した.Steno-2study6)では,早期腎症を有する糖尿病患者を無作為に強化治療群と通常治療群に分け,前者に対しては生活習慣改善(食事・運動・喫煙など)に加えて,高血糖,高血圧,高脂血症のすべてに対して積極的に薬物治療を行い,後者と比較した.すると強化療法群では通常治療群に比較して糖尿病網膜症の発症あるいは進行が有意に抑制された.糖尿病患者を診察する際には,高血圧や脂質代謝異常など血糖値以外の全身状態にも注意しなければならないことが,これらのことからも再認識できる.近年の研究により,糖尿病網膜症における浮腫,虚血,血管新生などの病態は,白血球接着などの炎症を介することが明らかになり,糖尿病網膜症は炎症性疾患と認識されるようになってきた79).糖尿病では早期から網膜血管への白血球接着が亢進しており,白血球接着は網膜血管の透過性亢進7)や病理的網膜血管新生8)の引き金となる重要な病態である.RASはこのような白血球接着などの炎症メカニズムに関与しており,実際,非糖尿病患者や網膜症のない糖尿病患者と比較すると,増殖糖尿病網膜症10)や糖尿病黄斑浮腫11)の患者における硝子体中のAngⅡの濃度は有意に上昇していることが報告されている.さらに,AngⅡの濃度は,糖尿病網膜症の病態形成に重要な血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)と相関して上昇しIメタボリックドミノとRAS最近,メタボリックシンドロームの病因,病態およびその合併症を一連の流れとしてとらえるメタボリックドミノという概念が提唱されている1)(図2).この概念では,最上流に生活習慣の乱れが存在し,その乱れがドミノ倒しの駒を倒す引き金となって肥満やインスリン抵抗性などの共通の基礎病態を惹起し,その結果として高血圧,高脂血症,食後高血糖などがほぼ同じ時期に生じてくる.この段階がメタボリックシンドロームである.この段階になると,眼では網膜症(微小血管瘤,網膜出血,軟性白斑など),細動脈狭細化,動静脈交叉現象,網膜静脈拡張などの網膜血管の異常所見が有意にみられるようになり,しかもメタボリックシンドロームの構成要素の該当項目数が多いほどいずれの異常所見も有病率が上昇することがAtherosclerosisRiskInCommunitiesstudy(ARICstudy)2)で報告されている.全身では,メタボリックシンドロームが発症した時点から動脈硬化症が進行して,虚血性心疾患,脳虚血,閉塞性動脈硬化症などの大血管障害が発症する.さらにこれらと並行して糖尿病が生じて高血糖になると,細小血管障害が進行して,腎症,網膜症,神経障害を合併し,最後にメタボリックドミノが総崩れになると,心不全,痴呆,脳卒中,下肢切断,腎透析や失明に至る.このメタボリックドミノにおいて,最上流に位置する肥満から最下流の心血管イベント,血管合併症の発症に至るまで,そのすべての段階でRASが連続的に関与しており,しかもその関与の程度はメタボリックドミノの下流になるほど大き図2メタボリックドミノ生活習慣ンスリン抗性の活性・症網膜症症糖尿病血血糖性血ミクアンオー血性患血症脈血管———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.1,200817(17)筆者らは,増殖糖尿病網膜症患者の病理的網膜新生血管である線維血管組織やマウス網膜の血管内皮細胞にAT1-Rが発現していることを示した(図3)13).さらに糖尿病網膜症とRASの関係について明らかにするために,マウスストレプトゾトシン誘導糖尿病モデルを用いて検討を行った.これはストレプトゾトシンにより膵臓のb細胞が特異的に破壊されるために高血糖が誘導される1型糖尿病モデルである.高血糖誘導後2カ月の時ており,しかも活動性が強いほど両者の濃度は有意に高いことが明らかとなっている.これらのことから,糖尿病網膜症が進行するほど,RASが活性化されていることがわかる.培養網膜血管内皮細胞を用いたinvitroの検討では,AngⅡはAT1-Rを介してvascularendo-thelialgrowthfactorreceptor2(VEGFR-2)の発現を増加させ,VEGFによる血管新生作用を促進することも明らかとなっている12).図3増殖糖尿病網膜症患者の線維血管組織(A,B)とマウス網膜の血管内皮細胞(C~G)におけるAT1R(矢印)の発現(文献13より改変)AT1-RNegativecontrol増殖糖尿病網膜症線維血管組織マウス網膜———————————————————————-Page418あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008(18)らの報告以外でも,ラット糖尿病モデルにAT1-R拮抗薬を投与すると網膜の血流が改善することが明らかとなっている15).以上のことから,糖尿病網膜症の発症から進展まで,RASが病態に深く関わっていることが考えられる.実際に臨床でも,UKPDS(UKProspectiveDiabetesStudy)によりACE阻害薬による厳格な血圧コントロールによって,糖尿病網膜症の発症・進行が有意に抑制されること16)や,さらに,TheEURODIABControlledTrialofLisinoprilinInsulin-DependentDiabetesMellitus(EUCLID)により,高血圧のない1型糖尿病患者に対するACE阻害薬lisinoprilがplacebo群と比較して糖尿病網膜症の進行を抑制することが報告されている17).現在,AT1-R拮抗薬candesartanの1型および2型糖尿病患者における糖尿病網膜症への効果についての検討〔TheDiabeticRetinopathyCandesartanTrials(DIRECT)〕が行われており,結果が待たれている18).III加齢黄斑変性加齢黄斑変性の分子メカニズムは完全に解明されてはいないが,その病因に酸化ストレスや慢性炎症が関与するとされている.筆者らは加齢黄斑変性患者の硝子体手術時に採取したヒト脈絡膜新生血管に,RASの構成要素であるAngⅡ,AT1-R,AT2-Rが発現していることを示した(図5)19).加齢黄斑変性とRASの関係を明らかにするために,マウスレーザー誘導脈絡膜血管新生モデルを用いて筆者らはさらなる検討を行った.まずレーザー照射により脈絡膜血管新生を誘導するとRASが活性化されることが,mRNA,蛋白質レベルで明らかとなった.この脈絡膜新生血管は,AT1-R拮抗薬を投与すると有意に抑制された(図6).そのメカニズムとしては,AT1-Rシグナルの阻害により脈絡膜新生血管へのマクロファージの浸潤が抑制され,脈絡膜におけるVEGF,ICAM-1,白血球の遊走因子であるmonocytechemotacticprotein(MCP)-1などの発現が抑制されたことから,炎症機転の軽減が考えられた.AT2-R拮抗薬の投与では,このような脈絡膜血管新生の抑制はみられなかった19).加齢黄斑変性の危険因子としては,メタボリックシン点では,網膜におけるAngⅡ,AT1-R,AT2-Rの発現はいずれも亢進しており,RASが活性化されていることがわかった.ここにAT1-R拮抗薬を投与すると,高血糖により亢進していた網膜血管への接着白血球数は有意に抑制され(図4),さらに網膜におけるVEGFや白血球の接着因子であるintercellularadhesionmole-cule(ICAM)-1の発現も有意に抑制された.しかし,AT2-Rの拮抗薬の投与では,網膜血管への接着白血球数は抑制されず,VEGFやICAM-1の発現も変化がみられなかった.これらのことから,糖尿病網膜症ではRASが活性化されており,AT1-Rを介するシグナルが病態に大きく関与している可能性が示唆された14).筆者視神経乳頭部正常糖尿病モデル+Vehicle糖尿病モデル+テルミサルタンAB周辺部p<0.01p<0.00135302520151050正常網膜血管接着白血球数Vehicleテルミサルタン糖尿病モデル図4糖尿病モデルにおけるAT1R拮抗薬(テルミサルタン)による網膜炎症の抑制糖尿病モデルで亢進していた白血球接着(矢印)は,AT1-R拮抗薬の投与により抑制される.Bar=50μm.(文献14より改変)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.1,200819(19)図5加齢黄斑変性の患者の脈絡膜新生血管におけるRASの構成要素(矢印)の発現(文献19より改変)NegativecontrolAT1-RAT2-RAngⅡBAp<0.001700,000600,000500,000400,000300,000200,000100,00000.55脈絡膜新生血管(μm3)Vehicleテルミサルタン(mg/kg)Vehicleテルミサルタン図6AT1R拮抗薬(テルミサルタン)によるレーザー誘導脈絡膜新生血管の抑制(文献19より改変)———————————————————————-Page620あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008(20)4)Abdul-GhaniM,NawafG,NawafFetal:Increasedprev-alenceofmicrovascularcomplicationsintype2diabetespatientswiththemetabolicsyndrome.IsrMedAssocJ8:378-382,20065)CostaLA,CananiLH,LisboaHRetal:AggregationoffeaturesofthemetabolicsyndromeisassociatedwithincreasedprevalenceofchroniccomplicationsinType2diabetes.DiabetMed21:252-255,20046)GaedeP,VedelP,LarsenNetal:Multifactorialinterven-tionandcardiovasculardiseaseinpatientswithtype2diabetes.NEnglJMed348:383-393,20037)IshidaS,UsuiT,YamashiroKetal:VEGF164ispro-inammatoryinthediabeticretina.InvestOphthalmolVisSci44:2155-2162,20038)IshidaS,UsuiT,YamashiroKetal:VEGF164-mediatedinammationisrequiredforpathological,butnotphysio-logical,ischemia-inducedretinalneovascularization.JExpMed198:483-489,20039)IshidaS,YamashiroK,UsuiTetal:Leukocytesmediateretinalvascularremodelingduringdevelopmentandvaso-obliterationindisease.NatMed9:781-788,200310)FunatsuH,YamashitaH,NakanishiYetal:AngiotensinIIandvascularendothelialgrowthfactorinthevitreousuidofpatientswithproliferativediabeticretinopathy.BrJOphthalmol86:311-315,200211)FunatsuH,YamashitaH,IkedaTetal:AngiotensinIIandvascularendothelialgrowthfactorinthevitreousuidofpatientswithdiabeticmacularedemaandotherretinaldisorders.AmJOphthalmol133:537-543,200212)OtaniA,TakagiH,SuzumaKetal:AngiotensinIIpoten-tiatesvascularendothelialgrowthfactor-inducedangio-genicactivityinretinalmicrocapillaryendothelialcells.CircRes82:619-628,199813)NagaiN,NodaK,UranoTetal:Selectivesuppressionofpathologic,butnotphysiologic,retinalneovascularizationbyblockingtheangiotensinIItype1receptor.InvestOph-thalmolVisSci46:1078-1084,200514)NagaiN,Izumi-NagaiK,OikeYetal:Suppressionofdia-betes-inducedretinalinammationbyblockingtheangio-tensinIItype1receptororitsdownstreamnuclearfac-tor-kBpathway.InvestOphthalmolVisSci48:4342-4350,200715)HorioN,ClermontAC,AbikoAetal:AngiotensinAT(1)receptorantagonismnormalizesretinalbloodowandacetylcholine-inducedvasodilatationinnormotensivedia-beticrats.Diabetologia47:113-123,200416)UKProspectiveDiabetesStudyGroup:Ecacyofatenololandcaptoprilinreducingriskofmacrovascularandmicrovascularcomplicationsintype2diabetes:UKPDS39.BMJ317:713-720,199817)ChaturvediN,SjolieAK,StephensonJMetal:Eectoflisinoprilonprogressionofretinopathyinnormotensivepeoplewithtype1diabetes.TheEUCLIDStudyGroup.ドロームと関連のある高血圧20),脂質異常20),粥状硬化21)などがこれまでに報告されており,加齢黄斑変性にメタボリックシンドロームが関与していることが強く示唆される.AT1-R拮抗薬がこれらの病態の治療薬として有効であることは臨床研究や動物モデルで示されていることから,AT1-R拮抗薬の投与は脈絡膜新生血管だけでなく加齢黄斑変性の全身的背景も改善する可能性があり,加齢黄斑変性の治療薬として今後の臨床試験が期待される.おわりに現在,糖尿病網膜症の治療としては,レーザー網膜光凝固術,硝子体手術が一般的に行われる.これらの治療法は有効であるが,網膜症が進行してから行う治療法であり,しかも組織破壊を伴うという側面がある.その結果,視機能は不良のままであるということも経験される.また加齢黄斑変性に対する治療として,わが国では光線力学療法が行われており,抗VEGF療法も臨床試験が行われているが,これらの治療法も脈絡膜新生血管により視機能が障害されてから行う治療法であり,早期から積極的に行える安全かつ有効な治療法が望まれる.AT1-R拮抗薬をはじめとするRAS抑制薬は,世界中で広く使用されている安全性の高い治療薬であり,高血圧のみならず糖尿病腎症など臓器保護にも用いられている.RASの抑制は,メタボリックシンドロームが関連する糖尿病網膜症や加齢黄斑変性に対して,眼局所のみならずその全身背景をも是正する予防医学的な側面ももった新しい治療戦略の一つと考えられる.文献1)伊藤裕:メタボリックドミノとは─生活習慣病の新しいとらえ方─.日本臨牀61:1837-1843,20032)WongTY,DuncanBB,GoldenSHetal:Associationsbetweenthemetabolicsyndromeandretinalmicrovascu-larsigns:theAtherosclerosisRiskInCommunitiesstudy.InvestOphthalmolVisSci45:2949-2954,20043)BonadonnaRC,CucinottaD,FedeleDetal:Themetabol-icsyndromeisariskindicatorofmicrovascularandmac-rovascularcomplicationsindiabetes:resultsfromMetascreen,amulticenterdiabetesclinic-basedsurvey.DiabetesCare29:2701-2707,2006———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.25,No.1,200821Biol26:2252-2259,200620)KleinR,KleinBE,TomanySCetal:Theassociationofcardiovasculardiseasewiththelong-termincidenceofage-relatedmaculopathy:theBeaverDamEyeStudy.Ophthalmology110:1273-1280,200321)vanLeeuwenR,IkramMK,VingerlingJRetal:Bloodpressure,atherosclerosis,andtheincidenceofage-relatedmaculopathy:theRotterdamStudy.InvestOphthalmolVisSci44:3771-3777,2003EURODIABControlledTrialofLisinoprilinInsulin-DependentDiabetesMellitus.Lancet351:28-31,199818)SjolieAK,PortaM,ParvingHHetal:TheDIabeticREtinopathyCandesartanTrials(DIRECT)Programme:baselinecharacteristics.JReninAngiotensinAldosteroneSyst6:25-32,200519)NagaiN,OikeY,Izumi-NagaiKetal:AngiotensinIItype1receptor-mediatedinammationisrequiredforchoroidalneovascularization.ArteriosclerThrombVasc(21)

メタボリックシンドロームとカロリー制限-糖代謝を中心に-

2008年1月31日 木曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSIIインスリンシグナルとインスリン抵抗性インスリンはその受容体に結合後,内在のチロシン残基が自己リン酸化されて活性化する.活性化した受容体はその下流にあるinsulinreceptorsubstrate(IRS)やSrchomologyandcollagenprotein(Shc)などをリン酸化する.IRSは代謝作用を調節するphosphatidylinosi-tol-3kinase(PI3K)経路を,Shcは増殖作用を調節すIメタボリックシンドロームとは肥満を基盤として高血圧,糖代謝異常,脂質代謝異常が心血管疾患発症の背景に存在し,このような危険因子を合併した病態がメタボリックシンドロームとよばれている.国際的にさまざまな診断基準が発表されているが,メタボリックシンドロームはインスリン抵抗性が病態の中心に位置している.(9)9図1インスリンシグナルとその作用機構PI3K経路MAPK経路IRSShcインスリンインスリン受容体細胞膜蛋白*HaruyoshiYamaza,TakuyaChiba&IsaoShimokawa:長崎大学大学院医歯薬学総合研究科生命医科学講座探索病理学〔別刷請求先〕山座治義:〒852-8523長崎市坂本1丁目12-4長崎大学大学院医歯薬学総合研究科生命医科学講座探索病理学特集●眼の病い─生活習慣病が原因あたらしい眼科25(1):914,2008メタボリックシンドロームとカロリー制限─糖代謝を中心に─RelationshipbetweenMetabolicSyndromeandCaloricRestrictioninGlucoseMetabolism山座治義*千葉卓哉*下川功*———————————————————————-Page210あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008(10)ぼ一定に保たれているが,インスリンがその中心的な役割を演じている.グルコースの細胞内への取り込みは,骨格筋や脂肪組織ではインスリン依存性にグルコース輸送体(glucosetransporter:GLUT)4が働くが,肝臓ではインスリン非依存性にGLUT2がその役割を担い,細胞内外のグルコース濃度の格差により糖の取り込み・放出を行う.インスリンはグルコキナーゼ(glucokinase:GK)や解糖系の調節酵素であるホスホフルクトキナーゼ-1,グリコーゲン合成酵素の遺伝子発現を増加させ,グリコーゲン分解や糖新生の律速酵素であるホスホリラーゼキナーゼやホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(phosphoenolpyrubatecarboxykinase:PEPCK),グルコース6-リン酸脱リン酸化酵素(glucose-6-phos-phatase:G6Pase)の活性や遺伝子発現を抑制する.以上のことから肝細胞内のグルコース濃度が減少して,間るmitogen-activatedproteinkinase(MAPK)経路を活性化して,インスリン作用を下流に伝達する(図1).インスリンシグナルは糖(グルコース)の細胞内への取り込みや糖新生に関与する遺伝子発現の調節など糖代謝に重要な働きをするが,この一連の反応が阻害されることによりインスリン抵抗性が生じると考えられている.一方,脂肪組織は,栄養過剰時に肝臓や脂肪組織で糖から合成された脂肪酸や中性脂肪を蓄積する機能に加え,脂肪細胞がサイトカインやホルモンなどのさまざまな生理活性物質を分泌することが最近明らかになった.このような生理活性物質は総称してアディポカインとよばれており,脂肪組織はエネルギー代謝の調節に関与する生体中では最大の内分泌臓器として非常に注目されている(図2).肥大化した脂肪細胞では,遊離脂肪酸やtumornecrosisfactor(TNF)-a,レジスチンなどのアディポカインの分泌が増加し,肝臓や骨格筋におけるインスリンシグナルを障害してインスリン抵抗性を惹起する.また,インスリン感受性の調節に関与するレプチンに対する抵抗性の出現や,抗動脈硬化作用やインスリン感受性を向上させる作用をもつアディポネクチンの分泌低下をひき起こし,病態の悪化を招く.III糖代謝とインスリン抵抗性糖はおもに脳や筋肉のエネルギー源として重要であり,血糖値はさまざまなホルモンや神経作用によってほ図3肝臓における糖代謝インスリンにより遺伝子発現が影響を受ける酵素を番号(インスリンにより抑制される酵素はイタリック,亢進する酵素は下線)で示している.①:グルコキナーゼ,②:グルコース6-リン酸脱リン酸化酵素,③:ホスホリラーゼキナーゼ,④:グリコーゲン合成酵素,⑤:ホスホフルクトキナーゼ-1,⑥:ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ.グリコーゲングルコース1?リン酸グルコース6?リン酸グリセルアルデヒド3?リン酸1,3?ビスホスホグリセリン酸3?ホスホグリセリン酸2?ホスホグリセリン酸ホスホエノールピルビン酸ピルビン酸オキザロ酢酸アセチルCoA乳酸フルクトース6?リン酸フルクトース1,6?リン酸グルコースウリジン二リン酸グルコースジヒドロキシアセトンリン酸グルコースGLUT2細胞膜④①⑤③②⑥図2脂肪細胞から分泌されるおもなアディポカイン脂肪細胞の肥大化により,アディポネクチンの発現・分泌は抑制され,遊離脂肪酸やTNF-a,レジスチン,レプチンは亢進する.肥大化した脂肪細胞TNF?a遊離脂肪酸レジスチンレプチンアディポネクチン———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.1,200811(11)ウスを中心とした研究からその効果はくり返し実証され,カロリー制限による寿命延長効果に関する仮説が提唱されている2)が,実際のメカニズムについてはいまだ謎である(表1).しかし,カロリー制限動物における共通の特徴は,血中グルコースおよびインスリン濃度の減少およびインスリン感受性の亢進であり,少なくともげっ歯類においてはアディポネクチンの血中濃度の上昇とレジスチンやTNF-aの減少が観察されている.この表現型はメタボリックシンドロームとは反対であり,大変興味深いところである.筆者らはカロリー制限の寿命延長のメカニズムを解明する目的で,下垂体特異的に成長ホルモン(growthhormone:GH)をアンチセンス遺伝子によりその発現を抑制することにより,適度にGH-インスリン様成長因子(insulin-likegrowthfactor:IGF)-1系を抑制させた遺伝子改変ラットを用いて研究を行った3).この遺伝子改変ラットはカロリー制限をすることなく寿命の延長が確認されただけでなく,血中のグルコースやインスリン濃度が低下しており,アディポネクチンの血中濃度は上昇していた.さらに体重の変化や摂食量はカロリー制限下のラットと類似していた.以上のことは,カロリー制限による寿命延長効果は,GH-IGF-1系が重要であることを示唆している.Vカロリー制限における糖代謝カロリー制限ラットに糖負荷試験を行ったところ,大変興味深い結果が得られた(図4).血中グルコース濃度の変化から,カロリー制限ラットの耐糖能は対照群である自由摂食群よりも耐糖能の成績は良かった(図4a)が,そのときの血中インスリン濃度は対照群のような変化がみられず,ほぼ一定のままであった4)(図4b).ま接的にインスリン作用によりグルコースの取り込みが行われる.また空腹時は血中のインスリン濃度が抑制されることにより,肝臓でのグリコーゲン分解や糖新生が亢進することにより肝細胞内のグルコース濃度が上昇し,グルコースが細胞外に放出されて血糖値が保たれている(図3).このように血糖値は,インスリンによるグルコースの細胞内への取り込みと糖新生の抑制のバランスによって維持されているが,インスリン抵抗性が生じるとインスリン作用の減弱によりこのバランスが崩壊し,耐糖能の障害が生じる.アディポカインの一つであるアディポネクチンは,肝臓や骨格筋においてアデノシン一リン酸(adenosinemonophosphate:AMP)キナーゼを活性化する.活性化したAMPキナーゼは,肝臓での糖新生の律速酵素であるPEPCKやG6Paseの発現を抑制し,骨格筋ではインスリン非依存性にGLUT4の細胞膜への移行を促進する.また脂肪細胞では,インスリン抵抗性に関与するTNF-aの分泌を抑制する.しかしアディポネクチンは脂肪細胞が肥大化するとその発現・分泌量が減少し,その結果,糖代謝のバランスの崩壊やインスリン抵抗性を増悪させる.IVカロリー制限食事をするときに満腹になるまで食べるよりも腹八分に抑えるほうが健康にいいとよくいわれるが,実験室レベルではそのことが実証されている.つまり,ラットやマウスなどのげっ歯類に摂食量の6070%の餌を与えると,自由に餌を摂取できる対照群(自由摂食群)よりも平均寿命や最大寿命が延長し,老化現象や疾患の発症を遅延または抑制できる1).特定の栄養素を制限するのではなく摂取量を抑制することからカロリー制限といっているが,その効果はげっ歯類にだけではなく,酵母から線虫,ショウジョウバエなどの下等生物,さらには現在進行中である米国でのサルを用いたカロリー制限でもげっ歯類と同様の生理学的変化が観察されている.このことから,カロリー制限による抗老化・寿命延長作用には進化論的に保存された機構の関与が示唆される.1935年,MacCayらがカロリー制限により実験動物の寿命が延長することを初めて報告して以来,ラット・マ表1カロリー制限のメカニズムに対する仮説仮説脂肪仮説代謝仮説スス仮説グルースインスリン仮説仮説ルメシス仮説———————————————————————-Page412あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008(12)けるインスリン感受性の亢進にはアディポネクチンが大きく関与していることが考えられる.カロリー制限ラットの肝臓において,糖新生の律速酵素であるPEPCKの遺伝子発現および酵素活性は,摂食直後に一時的に減少するが,カロリー制限では自由摂食群よりも高い状態にある8).また,GKや解糖系とクエた,グルコースを投与したカロリー制限ラットにおいて,肝臓や骨格筋でのインスリン受容体のリン酸化レベルも有意に上昇しなかった5).このことはカロリー制限では糖代謝においてインスリン非依存性のシステムが存在することを示唆するものであり,今後の研究課題である.さらに18カ月齢から4カ月間カロリー制限を行ったラットの糖負荷試験では,耐糖能の改善がみられ(図4c),グルコース濃度がピークとなるグルコース投与後15分の血中インスリン濃度は,対照群よりも低値であった6)(図4d).またカロリー制限ラットのインスリン負荷試験では,対照群よりも早く血中グルコース濃度が減少した4)(図5).以上のことから,カロリー制限は耐糖能を改善するとともにインスリン感受性を亢進するといえる.そしてアディポネクチンは,カロリー制限によってその血中濃度が上昇すること7),18カ月齢から4カ月間カロリー制限を行ったラットにおいても血中濃度が上昇する(未発表データ)ことから,カロリー制限にお図4耐糖能試験におけるカロリー制限の影響生後6週よりカロリー制限を行った6カ月齢のラットのグルコース濃度(a)とインスリン濃度(b)の変化.18カ月齢より4カ月間カロリー制限を行ったラットのグルコース濃度(c)とインスリン濃度(d)の変化.(文献4,6より改変)180a12060204060時間(分)グルコース濃度(mg/d?)80100120:対照群:カロリー制限群:対照群:カロリー制限群:対照群:カロリー制限群00250c2001501005030時間(分)グルコース濃度(mg/d?)6090対照群カロリー制限群005d4321対象インスリン濃度(ng/m?):0分:15分0120b10040206080102030時間(分)インスリン濃度(ng/m?)40506000図5インスリン負荷試験におけるカロリー制限の影響(文献4より改変)12010040206080204060時間(分)グルコース濃度(mg/d?)80100120:対照群:カロリー制限群00———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.1,200813(13)カロリー制限においてはショウジョウバエや哺乳類においても,その相同蛋白質の発現が上昇している報告がある14,15).この蛋白質は,グルコース濃度の減少により活性が上昇し16),またインスリン/IGF-1シグナル伝達系との関連も示唆されており16,17),カロリー制限のメカニズムを解明する分子の一つであることが示唆されている.Sir2の哺乳類相同蛋白質であるSirT1は,転写共役因子peroxisomeproliferationactivatedreceptor(PPAR)gcoactivator(PGC)-1aと相互作用して脱アセチル化をすることにより,絶食時の糖代謝関連酵素の遺伝子発現を制御していること,PGC-1aはFoxO1と相互作用してインスリンによる糖新生を制御している18)ことから,これらの分子の関係はカロリー制限での転写制御に重要な役割を演じていることが推察される.厚生労働省によると,中高年の男性の2人に1人,女性の5人に1人がメタボリックシンドロームもしくはその予備軍といわれている.食生活を含む生活習慣の欧米化に伴い,患者および予備群はさらに増加することが十分に予想されることから,その予防対策は急務である.カロリー制限の特徴はメタボリックシンドロームと反対の状態にあり,カロリー制限の抗老化・寿命延長機構を解明することは,メタボリックシンドロームへの治療法・予防法の開発につながっていくであろう.文献1)WeindruchR,WalfordRL:Thereductionofaginganddiseasebydietaryrestriction.CharlesCThomasPublish-er,Springeld,IL,USA,19982)MasoroEJ:Overviewofcaloricrestrictionandaging.MechAgeingDev126:913-922,20053)ShimokawaI,HigamiY,UtsuyamaMetal:Lifespanextensionbyreductioningrowthhormone-insulin-likegrowthfactor-1axisinatransgenicratmodel.AmJPathol160:22592265,20024)YamazaH,KomatsuT,ChibaTetal:Atransgenicdwarfratmodelasatoolforthestudyofcalorierestric-tionandaging.ExpGerontol39:269272,20045)山座治義,小松利光,樋上賀一ほか:長寿ラットにおけるグルコースインスリン機構;カロリー制限とGHIGF1系抑制の影響.基礎老化研究29:2529,20056)ParkS,KomatsuT,HayashiHetal:Calorierestrictioninitiatedatmiddleageimprovedglucosetolerancewith-outaectingagerelatedimpairmentsofinsulinsignalinginratskeletalmuscle.ExpGerontol41:837-845,2006ン酸回路の橋渡しをするピルビン酸デヒドロゲナーゼの活性は,摂食後一時的に上昇するがその変化は自由摂食群に比べて小さく,解糖系を調節するピルビン酸キナーゼの活性も含めて,カロリー制限では低い状態に保たれている8).糖代謝関連の多くの酵素はインスリンの制御を受けている(図3)ことから,カロリー制限での肝臓における糖代謝は,カロリー制限の特徴である低インスリン血症と深く関連している.カロリー制限におけるグルコースの細胞内への取り込みは低インスリン血症にもかかわらず,自由摂食群よりも亢進していた.また臓器別では,骨格筋や白色脂肪組織,褐色脂肪組織などのGLUT4を発現するインスリン感受性臓器において,摂食前後に関係なくグルコースの取り込みが亢進していた9)ことから,インスリン感受性の高い状態であるカロリー制限では,グルコースを効率よく利用して血中グルコース濃度を常に低く保つことができる.さらにカロリー制限では,摂食直後は炭水化物をエネルギー源として利用し,その後は脂質を利用するという代謝のシフトが生じている10).このように,低インスリンおよび低グルコース状態やインスリン感受性の亢進,エネルギー代謝のシフトなどのカロリー制限の特徴は,カロリー制限の抗老化・寿命延長機構を明らかにする糸口になると考えられる.おわりにカロリー制限の抗老化・寿命延長機構にはまだ謎が多い.前述のようにカロリー制限では血中アディポネクチン濃度が上昇しているが,アディポネクチンのシグナルの下流に位置するAMPキナーゼは,GLUT4を細胞膜に転移させてインスリン非依存性にグルコースを細胞内に取り込むことができ,カロリー制限における重要な分子の一つと考えられている.しかし,筆者らの最近の研究により,少なくともカロリー制限下の肝臓と骨格筋ではAMPキナーゼの活性が有意に高いとは言えない11)ことから,カロリー制限でのアディポネクチンのシグナルは別の経路を活性化していることが考えられる.また酵母や線虫において,Sir2とよばれるニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)依存性脱アセチル化酵素の発現量を増加させることによりその寿命が延長し12,13),———————————————————————-Page614あたらしい眼科Vol.25,No.1,20087)YamazaH,KomatsuT,ToKetal:Involvementofinsu-lin-likegrowthfactor1intheeectofcaloricrestric-tion:regulationofplasmaadiponectinandleptin.JGeron-tolABiolSciMedSci62:27-33,20078)DhahbiJM,MotePL,WingoJetal:Caloricrestrictionaltersthefeedingresponseofkeymetabolicenzymegenes.MechAgeingDev122:1033-1048,20019)WetterTJ,GazdagAC,DeanDJetal:Eectofcalorierestrictiononinvivoglucosemetabolismbyindividualtis-suesinrats.EndocrinolMetab39:E728-E738,199910)McCarterRJ,PalmerJ:Energymetabolismandaging:alifelongstudyofFisher344rats.EndocrinolMetab26:E448-E452,199211)ToK,YamazaH,KomatsuTetal:Down-regulationofAMP-activatedproteinkinasebycalorierestrictioninratliver.ExpGerontol42:1063-1071,200712)KaeberleinM,McVeyM,GuarenteL:TheSIR2/3/4complexandSIR2alonepromotelongevityinSaccharo-mycescerevisiaebytwodierentmechanisms.GnesDev13:2570-2580,199913)TissenbaumHA,GuarenteL:Increaseddosageofasir-2geneextendslifespaninCaenorhabditiselegans.Nature410:227-230,200114)WoodJG,RoginaB,LavuS:Sirtuinactivatorsmimiccaloricrestrictionanddelayageinginmetazoans.Nature430:686-689,200415)CohenHY,MillerC,BitternmanKJetal:Calorierestric-tionpromotesmammaliancellsurvivalbyinducingtheSIRT1deacetylase.Science305:390-392,200416)LinSJ,DefossezPA,GuarenteL:RequirementofNADandSIR2forlife-spanextensionbycalorierestrictioninSaccharomycescerevisiae.Science289:1319-1332,200017)YamazaH,ChibaT,HigamiY:Lifespanextensionbycaloricrestriction:anaspectofenergymetabolism.MicroscResTechniq59:325-330,200118)RodgersJT,LerinC,HaasW:NetrientcontrolofglucosehomeostasisthroughacomplexofPCG1-aandSIRT1.Nature434:113-118,2005(14)お申込方法:おとりつけの書店,また,その便宜のない場合は直接弊社あてご注文ください.メディカル葵出版年間予約購読ご案内眼における現在から未来への情報を提供!あたらしい眼科HFFNVol.25月刊/毎月30日発行A4変形判総140頁定価/通常号2,415円(本体2,300円+税)(送料140円)増刊号6,300円(本体6,000円+税)(送料204円)年間予約購読料32,382円(増刊1冊含13冊)(本体30,840円+税)(送料弊社負担)【特集】毎号特集テーマと編集者を定め,基本的事項と境界領域についての解説記事を掲載.【原著】眼科の未来を切り開く原著論文を医学・薬学・理学・工学など多方面から募って掲載.【連載】セミナー(写真・コンタクトレンズ・眼内レンズ・屈折矯正手術・緑内障・眼感染アレルギーなど)/新しい治療と検査/眼科医のための先端医療他【その他】トピックス・ニュース他■毎号の構成■株式会社〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替00100-5-69315電話(03)3811-0544http://www.medical-aoi.co.jp

太っていなくてもメタボリックシンドローム?  -内蔵脂肪症候群とアディポネクチンの発見

2008年1月31日 木曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSの増加はそのまま糖尿病患者数の増加へとつながった.国際糖尿病連盟(InternationalDiabetesFederation:IDF)が予測した将来の2025年,わが国を含めた東アジアや南アジアにおける糖尿病患者数は,肥満大陸の北Iわが国における肥満および2型糖尿病患者の動向近年,欧米諸国同様にわが国においても過栄養や運動不足といった環境因子の変化により肥満が増加している.米国における肥満患者〔bodymassindex:BMI≧30,BMIは体重指数の意味で体重(kg)/身長2(m)2〕は1990年頃より著しい増加がみられた(図1)が,わが国においても同じ頃より,特に40歳代以降の男性肥満患者(BMI≧25)の増加は顕著となった(図2).アジア人はあまり極端な体重の増加がなくても糖尿病になりやすいと考えられている.すなわち大雑把に上記のBMI≧30(身長170cmで体重87kg)の米国人とBMI≧25(身長170cmで体重72kg)の日本人がほぼ同じ割合で糖尿を発症すると考えられていたが,こうした肥満(3)3*KazuhisaMaeda&IichiroShimomura:大阪大学大学院医学系研究科内分泌代謝内科学〔別刷請求先〕前田和久:〒565-0871吹田市山田丘2-2大阪大学大学院医学系研究科内分泌代謝内科学特集眼の病い生活習慣病が因あたらしい眼科25(1):37,2008太っていなくてもメタボリックシンドローム?─内臓脂肪症候群とアディポネクチンの発見─BodyWeightCannnotPredictMetabolicSyndrome─VisceralFatSyndromeandtheDiscoveryofAdiponectin前田和久*下村伊一郎*図1米国における肥満者(BMI≧30)の推移(19912000)19952000199120%:(BMI≧30)15~19%:10~14%:<10%:Nodata:60~6920~2930~3940~4950~5970~(歳)(%)35302520151050男性60~6920~2930~3940~4950~5970~(歳)女性:昭和55年(1980):平成2年(1990):平成12年(2000)図2国民栄養調査による肥満者(BMI≧25)の割合図3全世界における糖尿病患者増加の予測(20032025)(単位:百万人)IDFAtlas2003———————————————————————-Page24あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008(4)ムの必須診断基準に取り入れられているが,1980年代より筆者らが提唱してきた「内臓脂肪症候群」こそが,メタボリックシンドロームの上流の基盤病態として,重要であることが実証されたといえよう(図6).すなわち,内臓脂肪症候群とは,本来高度の肥満でなくても糖尿病を起こしやすい日本人に対するきめ細かい臨床観察研究から発見された概念である.具体的にはBMIが高くない非肥満者でも,臍部での内臓脂肪面積が100cm2を超える場合,多くの合併症が集積することが示されている.III内臓脂肪型肥満者の割合これまで正確な内臓脂肪量の測定は腹部CT(コンピュータ断層撮影)測定による内臓脂肪面積値を算出す米を追い抜いて著しく増加すると予想されているのである(図3).その一方で,同じ1990年頃より20歳代から30歳代にかけての女性の体重減少傾向が認められることは注目すべきである(図2).実はこれら出産適齢の女性のやせがわが国における小児肥満者の増加と関連していることも指摘されている.妊婦の体重増加低下すなわち過少栄養は,胎児の相対的な飢餓状態を意味する.胎内でやせた胎児の体には,太ろうとする機構が働き,倹約遺伝子ともよばれる抗肥満ホルモンが低下する.すると出生後に豊富な人工乳などにより過栄養状態に曝露されると,肥満に対する防御機構が働かず,体重増加や糖尿病をきたしやすくなるという考えである1).IIメタボリックシンドロームの概念と内臓脂肪症候群2005年4月の日本内科学会において,内科系8学会で構成されたメタボリックシンドローム診断基準検討委員会により日本人のメタボリックシンドロームの定義と診断基準が公開された(図4).メタボリックシンドロームは耐糖能異常,高脂血症,高血圧が個々人に合併する心血管病の易発症状態と定義され,動脈硬化性疾患予防の重要なターゲットになると考えられている(図5).その必須項目にあるのがウェスト周囲径,すなわち腹部肥満である.WHO(世界保健機関)やIDFをはじめ,世界中でこのウェスト周囲径がメタボリックシンドローウェスト周囲径男性85cm以上女性90cm以上(内臓脂肪面積100平方cm以上に相当する)中性脂肪値150mg/d?以上HDL(善玉)コレステロール値40mg/d?未満のいずれか,または両方収縮期血圧130mmHg以上拡張期血圧85mmHg以上のいずれか,または両方空腹時血糖110mg/d?以上以下のうち,2項目以上+内臓脂肪蓄積血清脂質異常血圧高値高血糖図4メタボリックシンドローム(MS)の診断基準(日本内科学会,2005)図5危険因子の数と冠動脈疾患の発症(JpnCircJ,2001より)0102030400123~4危険因子の数(肥満,高脂血症,高血圧,糖尿病)1.05.19.731.3メタボリックシンドローム冠動脈疾患オッズ比図6内臓脂肪がたまるといろんな病気になる皮下脂肪型肥満インスリン抵抗性糖尿病高脂血症左室機能不全高血圧冠動脈疾患睡眠時無呼吸症候群内臓脂肪型肥満????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.1,20085(5)る方法しかなかったが,コスト面や被曝の問題がある.ウェスト周囲径の測定はウェストサイズが内臓脂肪蓄積と相関することから簡便な指標として用いられるが,皮下脂肪の多寡を考慮できない.最近,筆者らは内臓脂肪を従来のCT法ではなく,12分で簡易式かつ正確に測定可能とする腹部インピーダンス法によるベルト型装置の開発に成功した2).本装置の使用によって,ウェスト周囲径のスクリーニング調査では内臓脂肪型肥満が発見できない症例を検出することができ,内臓脂肪型肥満の早期発見に役立つことも示されている.筆者らの行った検討では,内臓脂肪蓄積はすでに40歳において一般健診者の60%にも達していることが判明した(図7).本装置は特に放射線被曝の懸念される小児科領域における生活習慣病検診にも役立てられている(図8).IVバイオマーカーアディポネクチンの発見ではこうして明らかにされてきた内臓肥満およびメタボリックシンドローム発症のメカニズムあるいは治療標的となる分子は何であるか.筆者らはこの問いかけに対する答えを得るべく,1990年代後半,その発症に際し最も重要な臓器と考えられる脂肪組織の網羅的発現遺伝子の解析を行った.そして見いだしたのが,脂肪組織こそが体内で最大の内分泌臓器であるという概念(図9)と,その脂肪組織から特異的に分泌され,メタボリックシンドローム進展のkey分子であるアディポネクチンである3).アディポネクチンは当初脂肪組織中に特異的に最も高頻度に発現している遺伝子として見いだされたことから,apM1=adiposemostabundantgenetranscript1図7内臓脂肪面積≧100cm2の比率男性1,803名,検診時簡易式測定装置による.(平成16年度未来医療センターより)02040608020歳代30歳代40歳代50歳代60歳以上内臓脂肪面積(%)図8大阪大学内分泌代謝内科ウェイトマネジメント外来外来において内臓脂肪面積,安静時代謝量,運動量モニター,血清アディポネクチン濃度を基盤に介入治療を行う.内臓脂肪面積代謝率測定過去現在図9脂肪組織から多くのホルモンや蛋白質が分泌されるTNF-aPAI-1LeptinアディポネクチンHB-EGFResistinインスリン抵抗性動脈硬化高血圧症Angiotensinogen図10apM1:ヒトアディポネクチン遺伝子(apM1:adiposemostabundantgenetranscript-1)Collagen-likeFibrousDomainC1q-likeGlobularDomain11841244heartbrainlungliverkidneyovaryuterusplacentaintestinemuscleadipose????????????????????????????????????????????????????????????????????107———————————————————————-Page46あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008かになった(図13).現在,世界中から2,000件を超える論文がアディポネクチンに関して報告されているが,メタボリックシンドローム以外にも過栄養や運動不足などにより低下したアディポネクチンが癌や非アルコール性脂肪性肝炎(nonalcoholicsteatohepatitis:NASH),炎症性腸疾患(inammatoryboweldisease:IBD)といった消化器疾患,出生時低体重などに関与するという知見も報告されている.おわりにメタボリックシンドロームの治療に向けては,高血圧,高脂血症,耐糖能異常など各危険因子の治療が重要であることは言うに及ばない.しかし,減少させるどころか増加し続ける肥満患者を前にして,薬剤療法だけでは医療経済的にも破綻をきたす.運動療法により内臓脂肪を減少させ,食事療法によりアディポネクチンを増やと命名された(図10)4).ほぼ同時期にマウス脂肪細胞cDNAライブラリーから同定されたAcrp30,AdipoQはアディポネクチンのマウスホモログであり,ゼラチン結合能をもつ血漿蛋白として精製されたGBP28はアディポネクチンと同一分子である.ヒト脂肪組織ライブラリーからapM1がクローニングされたことにより血中レベル測定系確立とともにその後,臨床病態を中心とした解析が進められた.すなわちアディポネクチンの血中濃度は肥満者,特に内臓脂肪蓄積状態に伴って低下する(図11).そして臨床データに相応すべく,細胞実験やマウスを用いた検討などを中心に多くのアディポネクチンの作用機序の解析が進められ(図12)5),内臓脂肪の減少に伴って低下したアディポネクチンが直接心循環器疾患に対して,あるいは間接的に高血圧や糖尿病などを介してメタボリックシンドローム発症に関与していることが明ら(6)0内臓脂肪面積(cm2)20051015血中アディポネクチン(?g/m?)300200100図11内臓肥満者はアディポネクチン値が低い図14メタボリックシンドローム=脂肪不全?アディポネクチン内臓脂肪面積健常者前方障害後方障害メタボリックシンドローム100cm24.0μg/m?②運動療法①食事療法図12アディポネクチンは大阪大学で発見された善玉因子である〔2007年4月現在,アディポネクチンに関する論文2,000件以上(PubMed)〕糖尿病をよくする肝臓筋肉脂肪血圧を改善する血管癌細胞もやっつける動脈硬化を防ぐ図13アディポネクチンが減るとメタボリックシンドロームになる高脂血症高血圧糖尿病心血管疾患内臓脂肪過栄養運動不足アディポネクチン癌,NASH,IBD,出生時低体重———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.1,20087forthemeasurementofvisceralfataccumulationbybio-electricalimpedance.DiabetesCare28:451-453,20053)MaedaK,OkuboK,ShimomuraIetal:Analysisofanexpressionproleofgenesinthehumanadiposetissue.Gene190:227-235,19974)MaedaK,OkuboK,ShimomuraIetal:cDNAcloningandexpressionofanoveladiposespeciccollagen-likefactor,apM1(AdiPoseMostabundantGenetranscript1).BiochemBiophysResCommun221:286-289,19965)MatsuzawaY,FunahashiT,KiharaSetal:Adiponectinandmetabolicsyndrome.AnteriosclerThrombVascBiol24:29-33,2004す.これらを包括的に管理することがメタボリックシンドロームの制御に不可欠であると考えられる.今,その改善に向けて心不全の治療を行うがごとく科学的かつ簡便な指標が明らかになってきたと考えられる(図14).文献1)GluckmanPD,HansonMA,PinalC:Thedevelopmentaloriginsofadultdisease.MaternChildNutr1:130-141,20052)RyoM,MaedaK,OndaTetal:Anewsimplemethod(7)

序説:目の病い─生活習慣病が原因

2008年1月31日 木曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSとはいえ,考えてみると生活習慣病はこれだけではない.現代人の「生活」には,環境や食物汚染,アレルゲン(抗原)や感染因子,交通手段の危険性などさまざまな問題が存在する.また「習慣」には,食材の好み,運動不足,ストレスなどの因子も含まれる.すなわち,遺伝子で決まること以外は,健康状態にとってすべての影響は生活習慣から来ているといえる.さらに最近の研究より生活習慣が遺伝子の発現を規定するエピジェネティックスにも影響を与える可能性が示唆されており,遺伝子そのものに加えて生活習慣が遺伝子の発現をも左右する可能性が指摘されている.これをすべて改善しようと考えるのは所詮無理がある(たとえば,ストレスが多すぎるから医師の仕事を止めるというわけにはいかない).したがって,毎日,生活や習慣からの危険に触れながら,自分でコントロールできる因子(肥満,喫煙,運動不足)を防ぐことに努力するのが現実的な対応法だろう.従来眼科では治療が優先されてきたが,これからの21世紀は予防医学の時代となっており,外来に来院される患者に対しても生活習慣病対策を含めた適切な指導が必要になってきている.ご自身の健康はもとより患者の健康のために本特集をご活用いただければ幸いである.「目を見ればその人間がわかる」と言うことがある.これは本当で,眼(眼底)は,人体で唯一臓器の血管を直接観察できる場所であるため,血管障害や血管炎などを評価するのに適している.無論,加齢黄斑変性に合併する脈絡膜新生血管のように眼だけのプロセスもあるが,糖尿病,高血圧のように多くの場合は全身疾患が網膜血管に反映されている.さまざまな網膜血管障害を伴う疾患は根本的に生活習慣病であるという認識をもつ必要がある.本特集の前半では,わが国で最近急増しているメタボリックシンドロームに注目した.これにより高血圧,高脂血症,糖尿病の合併症が高頻度に出現し,網膜静脈閉塞症や糖尿病網膜症の原因となる.眼科ジャーナルにはあまり登場しない内科の情報が紹介されており,参考になるはずである.本特集の後半は,メタボリックシンドロームと直接関係しない他の2つの「習慣」に注目する.すなわち喫煙および飲酒である.飲酒については一日に男性では2杯,女性では1杯までなら摂取したほうが,心血管イベントに対してプラスに働くなどの報告もあり,プラスマイナスを一概に論じることはできない.しかし,喫煙は加齢黄斑変性の発症,視力予後に強く関与していることは以前から多くのevidenceが存在しており,ぜひこの場を借りて訴えたいと思う.(1)1*AnnabelleAyameOkada:杏林大学医学部眼科学教室**KazuoTsubota:慶應義塾大学医学部眼科学教室あたらしい眼科25(1):1,2008目の病い─生活習慣病が原因DiseasesofLifestyleAecttheEyes岡田アナベルあやめ*坪田一男**

眼科医にすすめる100冊の本-12月の推薦図書-

2007年12月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.12,200716450910-1810/07/\100/頁/JCLS最近よくリーダー待望論を耳にします.企業でも,リーダー育成のための研修やコーチングが頻繁に行われるようになってきました.しかし,まだ日本では,「リーダーシップとは何か」という質問に論理的に答えきれていないのが現状だと思います.ほかに「リーダーシップは学習で身につけられるのか」「だとすれば,教えることも可能なのか」「可能ならば,どのような方法や手段で教えることができるのか」「教えることもリーダーシップの行為の一つだろうか」といった問いの答えもはっきりしていません.リーダーあるいはリーダーシップという概念は,まだまだ曖昧です.加えて,リーダーの資質やリーダーシップについては,先天的な才能という見方が前提になっており,それもまた,リーダーシップというものを正しく知るうえでの障害になっていると思います.本書の著者は文中でそのことに何度も触れています.「リーダーになれる人というのは,他者を率いるために,特別な資質を生まれながらにして神から授かっている」.このような考え方はいまでも一般的です.日本でも,メディアのインタビューに対して「力強いリーダーが現れることを待ち望みます」「今こそリーダーシップを」と答える街の人の声を聞くことがあります.そこには,まるでこの世にないものを待ちわびるような,または稀有な存在の出現を待つかのような響きがあります.リーダーは,「預言者」と同類であるかのように捉えられているとさえ感じます.また,リーダーの存在は,そのカリスマ性からもたらされるのか,どこかドラマチックに考えられる傾向もあります.しかし一方で,それが的外れであり,実は「リーダーシップとは身につけられるものであり,また身につけるものである」という考え方が出てきていることも確かです.それを裏付けるために,本書では,ハーバード・ケネディスクールのロナルド・ハイフェッツ教授と彼の開発した教授法を紹介しています.ロナルド・ハイフェッツ教授は,「リーダーシップは学習によって身に付けることのできる」ものであることを証明しました.彼は独自の教授方法を開発し,ハーバード・ケネディスクールの学生たちのために活用しています.本書はこの教授方法に,著者のシャロン・ダロッツ・パークス氏が切り込み,成果をまとめたものです.さて本書で著者は,今日リーダーシップへの危機感が強まっている理由には5つあり,そのうち先の2つは従来存在するもので,残りの3つは現在の独特な状況のなかで生じている,と述べています.(以下,文中より抜粋)①すべての人に潜む,何らかの決定権への欲求影響力,権力,物事を変革する権限などを行使し,人の役に立ったり,何かをつくり上げたりしながら,他者をリードしたいという欲求だ.②オーソリティ(権威,権力)への欲求歴史を通じて,人間の社会集団の中には,必ずこの欲求があった.オーソリティによる方向づけがあれば,安心感が得られるためだ.ストレスや不安の多い時代には,この傾向が顕著になる.③目まぐるしく複雑化するシステムに対応できるリーダーシップへの欲求システムの複雑化は,機械・電子工学,経済,政治,環境などの領域で,接続性の向上や相互依存型システムの構築が進んだことによるもの.④複雑化にともなう変化の深さ,広さ,速さに,適切に対応できるリーダーシップへの欲求⑤「公共の利益」に貢献するリーダーシップへの欲求新しい環境のもと,道徳の規範も変わりつつある.リ(95)■12月の推薦図書■リーダーシップは教えられるシャロン・ダロッツ・パークス著中瀬英樹訳(ランダムハウス講談社)シリー78◆伊藤守株式会社コーチ・トゥエンティワン———————————————————————-Page21646あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007ーダーも,環境が様変わりするなかで重大なことを決定しなくてはならない.また考え方の多様化を考慮して,当然とされてきた価値観に揺さぶりをかける必要もある.こうした中,道徳面での想像力,精神面での大胆さを発揮して「公共の利益」に寄与するリーダーシップが求められている.本書は,リーダーシップそのものについての分析ではなく,いかにしてリーダーを育成することができるのか,またリーダーシップを教えることの可能性について説いています.ハイフェッツたちは60名余の学生とともにリーダーシップ育成に関するリサーチをはじめ,そのプロセスを通して,新しいタイプのリーダーの育成が可能であることを証明していきます.それを検証するために,観察,インタビュー,分析を基に,つぎのような側面から進めています.○理論○教え方(教授法)○学生の経験談本書では,リーダーを育てる効果的な方法として,コーチングにも着目しています.「複雑な実践の場で生き抜くための知恵は『教えられる』だけでは身につかない.それより実際の経験のほうがものをいう.必要なのは,学習者に『その職業の流儀』を伝え,彼らを『正しい教え方』で導くことのできる指導者である.この人たちがそれぞれの目的や方法にもとづいて,学習者が本当に学ぶ必要のあることを見きわめればよい」.「そして,実践と優れたコーチング技術にもとづく学習経験について,研究すべきだ.ただし次の考え方を前提にすること.『演習やコーチングのプロセスは,理論的に構築できる.限度はあるにせよ,理論によって解き明かせる』.」(文中,ドナルド・シェーン著「EducatingtheReectivePractitioner」からの抜粋引用)これらを読んでも,リーダーの育成は決して偶然ではなく,理論的であることを求められていることが理解できます.本書では,リーダーシップは教えることができることを主張していますが,上記抜粋からもわかるとおり,リーダーを育てるときの基本は,個別対応であることが重要です.もちろん,グループワークは必要とされますが,組織内におけるリーダー候補にはコーチをつけ,個別に教育する必要があるでしょう.ハイフェッツとその同僚は,一つの教授法として,「ケース・イン・ポイント」を示しました.実は,ケース・イン・ポイント教授法の基礎には,確立された伝統的な学習方法が活きています.その内容は,セミナー,シミュレーション(講義,テキスト,映像などを併用),ディスカッションとダイアログ,臨床心理学,コーチング,研究室やアート・スタジオの活用,考えを深め整理することを目的とした文章執筆,そしてケースメソッドなどです.これらを用いて,リーダーシップを教授するという試み,そしてそのプロセスを本書では紹介しています.当然その過程では,従来のリーダーシップのイメージとの葛藤が続きます.リーダーシップ理論の専門家の間では,すでに指揮統制型のマネージメントをする英雄的なリーダーシップ・モデルは,おおむね否定されています.しかし,この英雄的なリーダーシップ像は,単なるモデル以上のものとして浸透しているのも事実です.今日の社会のリーダーといえば,CEO,CFO,社長,国会議員,司令官,学長,機長,会長,上司.これらの役割に期待するイメージとは,やはり,力強い,男性的,影響力がある,そういうヒーローなのです.英雄的なヒーローのイメージはアメリカの文化とともに広まったもので,無意味になったわけではありませんが,弊害も徐々に現れていると思います.医学の世界でも,オーソリティからエビデンスへのシフトが始まっているように,おそらく企業においても,リーダーの定義のシフトが始まっていると思います.「信頼の獲得」「状況分析能力」「体系的に考えること」「変化を学習する能力」「実践の中で理論を学ぶ能力」「ストレスへの対応力」「コミュニケーション能力」「コーチングの能力」「相手の言葉を理解し,周りに翻訳する能力」「不確実さを受け入れる能力」.本書は,これらの能力を効果的に学び,実践し,コーチをつけることで,「現代にマッチするリーダーの育成」の可能性を開いた一冊だと思います.☆☆☆(96)

私が思うこと8.おつきあい

2007年12月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.12,20071643私が思うこと●シリーズ⑧(93)普段の仕事帰りの飲み会や,地方学会の医局の飲み会などに若い医者を誘うと,是非にと付いてくるのですが,他の大学の先生たちと飲みに行こうかと誘っても,最近の若い先生たちは,「いいですよ,面倒くさいから.」といつも断られてしまいます.確かに,いつものメンバーで飲んだり騒いだりするのは楽しく,知らない人と飲んだり話したりはいやかもしれません.しかし,そういうお付き合いをしていくことで,いろいろな人たちと交流ができます.私の若いころはどうであったかというと,上の先生や教授からお誘いがあれば,小さな飲み会から海外の学会まですべてお断りをせず参加させていただいていました.3年医の秋にAAO(アメリカ眼科アカデミー)を中心にエモリー大学でのadvancedvitreoussurgerycourse,デューク大学アイセンター,マサチューセッツ眼科耳鼻科病院での手術見学を企画したツアーに樋田哲夫教授よりお誘いを受け参加しました.このツアーを企画されたのは大阪大学の田野保雄教授,東邦大学の竹内忍教授,杏林大学の樋田教授で,田野教授や竹内教授とは初対面でした.そのほか,浜松の海谷忠良先生や新潟の安藤伸朗先生たちもいらっしゃいました.昼は学会に参加し,夜はホテルの一室で飲みながら勉強のことだけでなくいろいろと語り明かしたのを思い出します.「いつもは怖そうな顔で演者に質問を浴びせていた先生がこんな気さくな先生だったなんて!」だとか,「え,この先生がこんな飲んだくれだったの?」とか目からうろこのことばかりでした.このツアーから帰ってきてはじめての学会で,ご一緒した先生や教授方からお声をかけられたときは,とてもうれしく思いました.今でも親しくお付き合いさせていただいている先生方もいらっしゃいます.また,私の留学のきっかけをつくったのも,デューク大学の見学でした.当時,ちょうど日本大学の佐藤幸裕先生(現東邦大学佐倉病院教授)と慶應義塾大学の平形明人先生(現杏林大学教授)が留学中で,いつかは自分も留学したいなと考えるようになったのが実現したものです.国内の学会でも先輩の先生方に金魚の糞のようにくっついて飲みに連れていってもらいました.福岡の網膜硝子体学会では,関西の某大学の網膜硝子体を専門にしていた先生たちと中洲を何軒もはしごしました.私がデューク大学に留学する1年前にこの時一緒に飲んでいた先生が留学されており,なんと奇遇なことかと思われます.2004年の日本眼科手術学会で現在亀田総合病院の堀田一樹先生が中心となり,全国の私と同世代の網膜硝子体術者と飲み会を開くことになりました.当時40歳前後の網膜硝子体術者が20名近く集まりました.この会0910-1810/07/\100/頁/JCLS三木大二郎(DaijirouMiki)杏林大学医学部眼科学教室1960年東京生まれ.公立阿伎留病院に1年出張,デューク大学に1年留学した以外,18年間杏林大学に居続けている珍しい医者である.専門は網膜硝子体手術.最近ようやく緊急手術を若い先生たちに振り分けることができるようになった.こよなく酒を愛し,最近では泡盛に夢中.太ってはいるが,スポーツは水泳以外は何でもこなす万能スポーツマンであると自負している.(三木)おつきあい▲第四世代?網膜硝子体術者の会———————————————————————-Page21644あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007の参加者は日本の網膜硝子体術者の第四世代であるし,このなかから将来何人の教授が誕生するだろうと思いを馳せながら語らいました.酔った勢いというのは恐ろしいもので,「○○があんなこと言うからみんな真似してしまいミスリードになるんだよ.」とか,「おまえそんなことしたら駄目だろう.」とかふだんではできないようなしかし非常に内容の濃い討論ができるものです.今まで金魚の糞だった私もそろそろ金魚として若い先生たちをこのような会に誘ってあげようと,杏林大学の若手の術者に声をかけるのですが,誰一人手を上げず,面倒くさいからいいよ,知らない人と飲むのは気を使うから僕らは僕らで行きますとむげに断られます.すでに私を含め何人もの方々が准教授,講師になられており,なかには教授になられた先生もいらっしゃいます.若手のバリバリの硝子体術者のコメントなんてなかなか機会がなければ聞くことはできませんよ.このように出会った方々とは,学会でお会いするたびに,一言お声をかけていただいたり,飲みに連れて行っていただいたり,わからない症例やあんなことこんなことをしてしまった症例などの相談にも乗ってもらい,私の人脈は形成されています.若い先生たちも,勉強も大事ですが,人と人のつながりもとても重要であることをもう一度考えてみてはいかがでしょうか.学会で大勢の前で質問はしにくいでしょうが,酔った席でさっきの発表のことですけどなんて質問するのは比較的やりやすいですよ.また,学会場で質問されるよりそういう席で質問されるほうがあなたのことを覚えてくれていますよ.次の学会で会ったとき,「ああ,あのときの○○先生だね.元気ですか.」なんて声をかけられたらとってもうれしいと思うのですが,こんなことを考えているのは私だけでしょうか.ご賛同いただける先生方がいらっしゃいましたら,今度飲みに行きませんか.三木大(みき・だいじろう)昭和63年5月杏林大学医学部眼科入局平成9年10月米国デューク大学アイセンター留学平成16年4月杏林大学医学部眼科学内講師平成17年4月杏林大学医学部眼科講師平成19年4月杏林大学医学部眼科准教授現在に至る(94)☆☆☆

硝子体手術のワンポイントアドバイス55.赤道部増殖を有する増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術(上級編)

2007年12月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.12,200716410910-1810/07/\100/頁/JCLSはじめに増殖糖尿病網膜症の線維血管性増殖膜は,通常後部硝子体皮質前ポケットの辺縁に沿って形成されるので,視神経乳頭から血管アーケードに沿った形状を呈することが多い.しかし,なかには赤道部近傍に線維血管性増殖膜を有する症例に遭遇することがある1,2).赤道部増殖を有する増殖糖尿病網膜症の臨床的特徴このような症例は,一般に中間周辺部から赤道部にかけて後部硝子体剥離はまったく生じておらず,硝子体が広範囲かつ面状に網膜と癒着している.軽症例では,網膜血管に沿って島状の増殖膜が孤立性に認められるが,重症例では円周状に増殖膜が融合する.このような症例では,往々にして眼底後極部の増殖性変化が軽度で,一見硝子体手術の難易度が低いと判断しがちであるが,実際には後部硝子体剥離作製が困難で,かつ赤道部の増殖膜の癒着も強固であり,手術の難易度はきわめて高い(91)(図1a,b).術後にも,硝子体再出血や血管新生緑内障をきたす頻度が高く注意が必要である.赤道部増殖を有する増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術のポイント初回硝子体手術時に確実な増殖膜処理と人工的後部硝子体剥離作製が必須であるが,周辺部の牽引が残存する場合には輪状締結術が有効な場合もある1).増殖膜処理時の視認性の確保がむずかしく,十分な散瞳を得ておく必要がある.また,周辺部の増殖膜を確実に処理するためには水晶体を摘出したほうが有利である.増殖膜はしばしば網膜と面状の強固な癒着を形成しており,一手法での膜処理は困難なことが多く,適宜双手法を併用する.後合併症のと対このような症例は,見かけ上網膜症の活動性が高くなくても,術後に再出血や血管新生緑内障を併発することが多い.初回手術時に十分な眼内光凝固を施行することが重要であるが,必要に応じてシリコーンオイルタンポナーデも考慮する.文献1)HanDP,PulidoJS,MielerWFetal:Vitrectomyforpro-liferativediabeticretinopathywithsevereequatorialbrovascularproliferation.AmJOphthalmol119:563-570,19952)澤浩,池田恒彦:前部硝子体線維血管性増殖と赤道部増殖:病態と対処法.眼科手術11:335-341,1998硝子体手術のンポイントアドイ●連載赤道部増殖を有する増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術(上級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図1赤道部増殖を有する増殖糖尿病網膜症例a:後極部眼底写真.活動性の低下した増殖膜を後極に認め,一見手術の難易度は低いと判断しがちである.b:耳側周辺部眼底写真.ほぼ全周にわたって赤道部に円周方向の増殖膜を認める.後部硝子体剥離は生じておらず,膜処理の難易度は高い.ab

眼科医のための先端医療84.日本人における加齢黄斑変性の遺伝的特徴

2007年12月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.12,200716370910-1810/07/\100/頁/JCLS加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)は先進国,特に西欧諸国の失明の主要な原因で,全世界に約2,500~3,000万人の患者が存在し,アメリカ合衆国だけでも約1,700万人の患者が存在し,毎年約15.5万人が新たに罹患しています.特にアメリカ合衆国では約116,000人がすでに法律的に失明し,毎年約1,600人が新規に失明しています.欧米人(白色人種)はAMDに罹患した患者のほとんどが,地図状萎縮といわれるdrytypeのAMDに罹患し,10%が,より視力予後の悪い,脈絡膜新生血管(choroidalneovasculari-zation:CNV)を伴うwettypeのAMDに罹患します1).それに対して,日本人は多くがCNVを伴うwettypeのAMDに罹患します.日本人のAMDの疫学調査(久山町スタディ)では,wettypeの罹患率は0.67%,drytypeの罹患率は0.2%と全人口のうち約1%弱にAMDの患者を認めました.AMDの眼底所見における危険因子に関しても欧米人ではドルーゼン(特に軟性)の集積が重要な危険因子であるのに対し,日本人ではドルーゼンの集積(18%)よりも漿液性網膜色素上皮離(58%)のほうがより主要な危険因子となっています2).このように,欧米人と日本人においては一口にAMDといってもその表現型に大きな違いをみるわけです.世界の加齢黄斑変性の遺伝的特家族や双児を対象とした研究などにより,以前からAMDは網膜視細胞,網膜色素上皮,Bruch膜が環境因子に加えて遺伝的異常にも影響を受けて発症する疾患と考えられてきました1).近年の統計的な解析手法の進歩により,染色体上の1番長腕31(1q31),3番短碗13(3p13),4番長腕32(4q32),9番長腕33(9q33),10番長腕26(10q26)が遺伝的危険因子の候補部位とされ3),その後の研究で,そのなかでも特に,1q31と10q26にAMDとの強い相関がみられることがわかり,ついに2005年,1q31に位置し,補体経路に関与するcomplementfactorH(CFH)のY402H遺伝子多型が白色人種のAMDの危険因子として報告されました4).この事実は,現在までdrytypeとwettype双方のAMDにおいて12以上の異なった白色人種で確認されています.続いて2006年DeWanらが香港人において10q26に位置し,humanhigh-temperaturerequirementfactorA1(HTRA1)のプロモーター部位に存在するHTRA1-512(HTRA1の512b上流)とその近傍のLOC387715の一塩基多型をwettypeのAMDの危険因子として報告し5),ほぼ同時期にYangらは,白色人種でも同様の事実を確認し6),加えて,同遺伝子多型が地図状萎縮の危険因子でもあることを報告しました.日本人における加齢黄斑変性の遺伝的特一方,日本人においてCFHY402H遺伝子多型は,リスクアレル(C)をもつホモ個体(2%),ヘテロ個体(9%)はわずかにしか存在せず,AMDとの関連性は証明されませんでしたが,2007年,筆者らは,日本人においてもHTRA1-512とLOC387715の遺伝子多型をwettypeのAMDの危険因子として報告し7),それ以降,多施設で同様の報告が続いています.Humanhigh-temperaturerequirementfactorA1(HTRA1)HTRA1は10q26に存在するheatshockserinepro-teasesの一つで,1~4まで確認されているHTRAfamilyの一員です.細胞ストレスで惹起され,発生段階でtransforminggrowthfactor(TGF)bのシグナルを阻害し,妊娠および卵巣や子宮の腫瘍にも関与が示唆されており,その蛋白は比較的ユビキタスに,全身に発現しています5,7).ヒトとマウスの網膜への発現も確認されていますが,眼の発生や機能との関係はほとんど知られていません.DeWanらはHTRA1-512の遺伝子変異がHTRA1の転写活性を増強するとも報告しています5)が,それが,網膜および脈絡膜でどのような生理活性をもつかは不明です.(87)シリー第84回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊(東京医療センター感覚器センター)日本人における加齢黄斑変性の遺伝的特徴———————————————————————-Page21638あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007まとめと今後も,たとえば,さまざまな施設で行われているDNAチップを用いた新しい原因遺伝子の探索法の導入などにより,CFHY402H,HTRA1-512遺伝子多型に続き,新たな遺伝的危険因子が報告される可能性は高いと思われます.それは,たとえば,早期の遺伝子診断により疾患の発生を予測し,経過観察を行うことにより,適切な時期での治療が可能になるなどのメリットをわれわれに供与することになるかも知れません.同様にまた,それはAMDという難治性の疾患に対して,疾患原因遺伝子に対する遺伝子治療など,新たな治療法の可能性も切り開くことになるかも知れません.余談になりますが,CFHに続いて,factorB(BF)やcomplementcomponent2および3(C2,C3)などの補体経路の諸因子がAMDに関与しているという報告を受けて,筆者らの研究施設では,遺伝的に黄斑部にドルーゼンが集積し,drytypeのAMDに類似した病態を起こすカニクイザルに対し,霊長類において補体経路(C3)を,特異的に抑制する薬剤を硝子体に投与し,その病態に対する影響を評価中です.文献1)SchollHP,FleckensteinM,CharbelIssaPetal:Anupdateonthegeneticsofage-relatedmaculardegenera-tion.MolVis13:196-205,20072)UyamaM,TakahashiK,IdaNetal:ThesecondeyeofJapanesepatientswithunilateralexudativeagerelatedmaculardegeneration.BrJOphthalmol84:1018-1023,20003)MajewskiJ,SchultzDW,WeleberRGetal:Age-relatedmaculardegeneration─agenomescaninextendedfami-lies.AmJHumGenet73:540-550,20034)KleinRJ,ZeissC,ChewEYetal:ComplementfactorHpolymorphisminage-relatedmaculardegeneration.Sci-ence308:385-389,20055)DewanA,LiuM,HartmanSetal:HTRA1promoterpolymorphisminwetage-relatedmaculardegeneration.Science314:989-992,20066)YangZ,CampNJ,SunHetal:AvariantoftheHTRA1geneincreasessusceptibilitytoage-relatedmaculardegeneration.Science314:992-993,20067)YoshidaT,DeWanA,ZhangHetal:HTRA1promoterpolymorphismpredisposesJapanesetoage-relatedmacu-lardegeneration.MolVis13:545-548,2007(88)白色人種Drytype>Wettype日本人Drytype<Wettype表現型ドルーゼンの形成を認めることが多く,地図状萎縮(geographicatrophy:GA)をきたすdrytypeのAMD患者が多い.ドルーゼンが少ないもしくはまったくない“wet”typeAMDに罹患する.ドルーゼンは脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)発生の中等度リスク(18%)でしかないが,漿液性網膜色素上皮離は高いリスクである(58%).民族によって,表現型に加え,遺伝的リスクも大きな違いがある.ComplementfactorH(CFH)Y402H遺伝子多型と加齢黄斑変性(AMD)CFHY402H遺伝子多型とAMD=地図状萎縮(GA)および脈絡膜新生血管(CNV)との関連が12以上の異なった白色人種で示されている.CFHY402H遺伝子多型とAMDの関連性は証明されず,リスクアレル(C)をもつホモ(2%),ヘテロ(9%)はわずかにしか存在しなかった.Humanhigh-temperaturerequire-mentfactorA1(HTRA1)近傍のHTRA1-512およびLOC387715遺伝子多型と加齢黄斑変性(AMD)HTRA1のプロモーター部位に存在するHTRA1-512とその近傍のLOC387715の一塩基多型がwettype(CNV),drytype(GA)のAMDの危険因子として報告された.HTRA1のプロモーター部位に存在するHTRA1-512とその近傍のLOC387715の一塩基多型がwettype(CNV)のAMDの危険因子として報告された.図1加齢黄斑変性(AMD)の表現型と遺伝的リスク<complementfactorH(CFH)1q32およびhumanhightemperaturerequirementfactorA1(HTRA1512)10q26>***———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.12,20071639(89)☆☆☆■「日本人における加齢黄斑変性の遺伝的特徴」を読んで加齢黄斑変性のに的に本文にるよに人と日本人で(表現)遺伝るとま特に人で遺伝型と加齢黄斑変性ののに日本人で遺伝と加齢黄斑変性とののよとま加齢黄斑変性とのる遺伝のとま現まで遺伝にのののまま遺伝ま遺伝と遺伝けでのにるのと人まの人に遺伝「遺伝にびとる世のにのでにおまでの性る性る」とま本でる()まに「遺伝によるの」のので現吉田統彦をにるによる加齢黄斑変性のにると遺伝の性のとに遺伝にとまののでのるののよで坂本泰二

新しい治療と検査シリーズ177.開放隅角緑内障に対する選択的レーザー線維柱帯形成術

2007年12月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.12,200716350910-1810/07/\100/頁/JCLS条件はスポットサイズ400μm(固定),照射時間は3nsec(固定),照射出力は0.8mJから開始し,わずかに気泡が生じる最小の出力とする.照射範囲は隅角半周照射(50~60発)の報告が多いが,近年は隅角全周照射(100~120発)の報告も散見される.当施設でも隅角半周照射と全周照射で眼圧下降効果の比較検討を行ったが全周照射のほうが優れており3),現在は全周照射で施行している(表1).術後は炎症による眼圧上昇を防ぐ目的で,非ステロイド性消炎剤を1週間点眼する.合併症は術後一過性の眼圧上昇が生じることがあるが,特に問題になる症例は経験したことはない.効果の判定時期は術後1~3カ月に行う.1カ月後に眼圧が下降しない症例も2~3カ月後に徐々に眼圧が下降する症例を経験する.有効率は約70~80%で,無効例も約20~30%存在するが術前の予測は困難である.このため効果が出現するまで最低でも1カ月程度は要するので,緑内障の末期で眼圧が高い症例は適応から除外したほうがいい.術後成績はアルゴンレーザーとほぼ同等との報告が多い.SLTの術後成績を表2にまとめた.再照射に関しては,初回治療で有効であった症例のみに限定している.なお,いたずらに再照射をして手術の時期を逃さないことも肝要である.新しい治療と検ーズ(85)バックグラウンド開放隅角緑内障に対するレーザー線維柱帯形成術は1979年のアルゴンレーザーが最初である1).眼圧下降機序としては線維柱帯の熱凝固による瘢痕形成,収縮による線維柱帯組織間隙の開大に伴う房水流出の増加と考えられている.合併症としては約30~50%の症例で周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)をきたすことがあり,反復照射は逆に眼圧レベルを上昇する可能性があった.術後成績は1年で約70%,5年で約50%が有効とされており年数が経過するごとに低下する.新しい治療法1995年になり線維柱帯組織の破壊を伴わない新しいレーザー治療である選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculoplasty:SLT)が開発された2).Qスイッチ半波長Nd:YAGレーザー(波長:532nm)を用いることで線維柱帯の色素顆粒をもつ細胞のみに選択的に作用し,線維柱帯の房水流出率を改善する治療法である.線維柱帯の熱変性やSchlemm管の破壊をきたさないことが特長で,理論上くり返し照射可能と考えられている.奏効機序は不明な点が多いが,レーザーによる炎症反応の過程で線維柱帯細胞が活性化し房水流出が増加することが想定されている.治療の実際SLTには専用のレーザー装置が必要である.最近はYAGレーザーと機能を一体化したものもある.治療の実際は,術直後の眼圧上昇を抑える目的でアプラクロニジンを照射1時間前と直前に点眼し,点眼麻酔後にGoldmann三面鏡や隅角鏡を用いて線維柱帯幅全体にスポット間隔を空けずに重ならないように照射する.照射177.開放隅角緑内障に対する選択的レーザー線維柱帯形成術プレゼンテーション:菅野誠山形大学医学部情報構造統御学講座視覚病態学分野コメント:千原悦夫千原眼科表1SLTの照射条件照射部位線維柱帯幅全体スポット間隔を空けずに重ならないように照射スポットサイズ400μm(固定)照射時間3nec(固定)出力0.8mJから開始しわずかに気泡が生じる最小出力照射範囲全周(360°)照射数100~120発———————————————————————-Page21636あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007本方法の利点SLTの利点はレーザー照射による線維柱帯組織の破壊を伴わない点である.このため,術後PAS形成などの合併症もなく,くり返し照射できる点が優れている.効果としては,点眼薬1本分で永続的な効果はないが,点眼コンプライアンスの悪い症例や点眼薬アレルギーのある症例には,積極的に考慮していいと考えられる.文献1)WiseJB,WitterSL:Argonlasertherapyforopen-angleglaucoma.Apilotstudy.ArchOphthalmol97:319-322,19792)LatinaM,ParkC:Selectivetargetingoftrabecularmesh-workcells:invitrostudiesofpulsedandCWlaserinter-actions.ExpEyeRes60:359-371,19953)菅野誠,永沢倫,鈴木理郎ほか:照射範囲の違いによる選択的レーザー線維柱帯形成術の術後成績.臨眼61:1033-1037,2007(86)☆☆☆表2SLTの成績表照射野治菅野菅野ののののの文献本方法に対するコメント隅角に対するレーザー光凝固は1970年の初め頃線維柱帯(TM)を焼灼して眼圧を上げ,実験的緑内障を誘発する手段であったが,1973年KrasnovがTMにレーザーで開口すると眼圧が下がることを報告し,1979年Wiseらは開口ではなくアルゴンレーザー凝固によりTMを収縮させれば房水透過性が向上し,眼圧が下がることを発表した(argonlasertrabeculo-plasty:ALT).ALTは眼圧下降,点眼薬数の減少や日内変動の縮小に寄与することが多くの追試によって確認されたが,治療後眼圧が一過性に上昇すること,組織学的にTMに凝固瘢痕や周辺虹彩前癒着(PAS)が形成され,眼圧下降効果が長期的に減弱することが問題となった.選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)は菅野先生が記載されているように選択的に色素を含む細胞に作用し,ALTより組織破壊が少なく,くり返し凝固治療ができるという長所がある.しかしながら,眼圧の下降効果はプロスタグランジン剤1剤とほぼ同等で,効果は持続性がなく次第に減衰する.したがって,現在のSLTの適応は,薬剤副作用によって点眼治療が困難な人,点眼のコンプライアンスが悪い人などに限られると考えてよいであろう.