———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSけたりするときにハッキリと快適に見やすい眼鏡が必要となってきている.パソコン作業をしない場合でも,一般に高齢者は若年者と比べ室内で過ごす時間が長くなるため遠方よりも近方や中間距離を見る時間が増えてくるので,その距離を見やすい眼鏡の需要が増えてくる.遠近レンズは遠くから近くまで見えて便利であるが,近方視するときは下方に視線移動しなければならず,加齢に伴い注視野が狭くなることからもわかるように,長時間の下方視は加齢とともに辛くなってくる.このようなニーズに応えるためいわゆる中近や近近レンズが登場した.いずれも累進屈折力レンズで,徐々に度数が変化している設計となっている.II近用単焦点レンズにおける不具合従来の近用単焦点レンズの場合遠方は正視で,近方視も近用度数がsph+1.50Dくらいまでの弱いうちは良いが,sph+2.50Dになってくると眼鏡を装用したままでは100/(+2.50D)=40cmが遠点距離となり40cmを超える距離はぼやけてしまう.仮にパソコンの画面が50cmの距離にあるとすれば顔を近づけないとハッキリ見ることができなくなってしまう.もちろん遠方はぼやけてよく見えない.また近用に限らず単焦点レンズを装用している場合には目標物の距離が変われば常に自身が調節をしなければピント合わせができないことになり,それが可能な範囲も狭い.しかし,累進屈折力レンズの場合にはレンズの度数変化を利はじめに日本で累進屈折力レンズが発売されて今年で40年となった.その間,眼鏡レンズには大きな変化が起きている.まずレンズ素材はガラスが主力だったものが現在ではプラスチックに変わり,約95%以上をプラスチックレンズが占めている.また,遠近両用レンズでは二重焦点タイプが激減し,累進屈折力設計である境目のない遠近両用タイプがやはり約95%以上となっている.累進屈折力の遠近両用レンズ(以下,遠近レンズと表す)のデメリットであるユレや歪みは発売初期と比べ設計の進化により減少し,その原因ともなる強すぎる加入度処方も少なくなったことなどにより,装用感が向上し,常用できるレンズとして広く普及し,遠くから近くまで見ることができる快適な眼鏡と認知されるようになった.さらに設計技術の飛躍的な進歩と,素材がプラスチックになったことで設計,製造の自由度が高まり,今では多様なニーズに合わせることができる眼鏡レンズ(中近・近近タイプ)が発売されている.I眼鏡に対する患者のニーズは何か近方用の眼鏡はかつて本や新聞が見えれば事足りた.しかし近年は,パソコンや携帯電話のメールなどIT機器の普及によりさらに近方視する機会が増え,目的距離,文字の大きさ,注視する時間などが変化してきている.現代の中高齢者には手元だけではなくパソコン画面のようにおもに40~60cmくらいの距離を長時間見続(25)????*KenjiYanashima:やなしま眼科〔別刷請求先〕簗島謙次:〒144-0051東京都大田区西蒲田7-69-1蒲田東京プラザ6Fやなしま眼科特集●眼鏡の新しい展開あたらしい眼科24(9):1157~1162,2007中近・近近眼鏡???????????????????????????????????????????簗島謙次*———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007用することで調節が少なくても,ときには無調節でも視線移動によりピント合わせが可能である.III累進屈折力レンズの設計1.遠近レンズ第一眼位を遠方視の位置(遠用フィッティングポイント位置)とすればそこから4mm上方が遠用度数測定位置である.この遠用フィッティングポイント位置では遠方を明視でき,レンズのほぼ上半分が遠用部である.遠用アイポイント位置からレンズ下方にかけて加入度数が累進的に変化していく.この加入度が変化していく部分を累進帯といっている.累進帯の長さは商品により異なるが一般的には14mm前後である.近年小さいフレームが増え累進帯の長さが11mm前後の遠近レンズも発売されている.14mm前後としても後ほど述べる中近・近近と比べると度数変化と累進帯長の長さの関係から急に度数変化していることになる.(図1のレイアウト数値はHOYA製HOYALUXFDを例に記す.)遠近レンズでの近方視における問題点は,もし遠近レンズの加入度が2.50Dくらいでパソコン画面が顔と同じ高さにあるとすれば,眼前40cmにあるモニターを見るためには,加入度数を一杯一杯使う必要があるため,遠用のフィッティングポイント位置より14mm下のレンズ位置を使わなければならず,顎を上げるような姿勢でレンズの下方部分を通して見ないと画面をハッキリ確認することができない.つまり,高齢者は手元から中間距離を見るのに遠近レンズでも近用単焦点レンズでも見える部分はあるが,長時間見続けるにはいずれも最適とはいえない.2.中近レンズ遠用度数測定位置はレンズ幾何学中心より上方にあり,図2のレンズでは隠しマーク中央より14mm上にレンズメータを当てて測定する.第一眼位の高さに相当するフィッティングポイント位置はすでに加入度が累進的に変化している途中部分であり,加入度の約40%を示す度数となっている.さらにレンズ下方にかけて加入度数は変化し続け,累進帯の長さは23.5mmあり遠近レンズと比べ緩やかに変化していることになる.隠しマーク中央付近での見え方は仮に加入度が2.50Dとすれば,+2.50D×40%=+1.00Dとなっているので,この場合には100cmより手前の中間距離を見るのに適している.しかし,この位置での遠方視はぼやけてしまうことになる.遠方をハッキリ見たい場合には上目遣いをし,レンズの上部を使えばよい.遠近レンズと比べて中間,近方を見やすいのが特長である.なぜなら第一眼位からの視線移動量が少なくても(26)図1遠近レンズの設計例遠用アイポイント(隠しマークから4mm上)近用アイポイント加入度数測定位置プリズム量測定位置隠しマークとレンズ記号遠用PDに合わせます隠しマークと加入度情報累進帯長遠用度数測定位置遠用アイポイント(隠しマークから4mm上)近用アイポイント近用アイポイント加入度数測定位置プリズム量測定位置隠しマークとレンズ記号遠用PDに合わせます隠しマークと加入度情報累進帯長遠用度数測定位置図2中近レンズの設計例遠用度数測定位置加入度数測定位置遠用PDに合わせます中間アイポイント加入度の37%変化プリズム量測定位置隠しマークと加入度情報隠しマークとレンズ記号累進帯長遠用度数測定位置加入度数測定位置遠用PDに合わせます中間アイポイント加入度の37%変化プリズム量測定位置隠しマークと加入度情報隠しマークとレンズ記号累進帯長———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007????見え,慣れてくれば調節をあまり使わなくてもピント合わせができ,近方作業が長い場合などには非常に快適に使用することができる.しかし,室内でも5m先のテレビの小さい文字をハッキリ楽に見たい場合には遠近レンズのほうが優れている.(図2のレイアウト数値はHOYA製HOYALUXiDクリアークを例に記す.)3.近近レンズ隠しマーク中央より8mm下方の位置が近用度数測定位置である.その位置から上方にかけて累進度数がマイナス側に変化していく設計である.その度数変化量は遠近レンズ,中近レンズとは逆にマイナス加入度数として表示されている.また,遠近レンズ,中近レンズで加入度は処方に応じ指定するが,近近レンズの場合にはその商品名にてマイナス加入度は決まっている.マイナス加入度は-0.75D,-1.00D,-1.50Dなどがあり,近用度数測定円より上方20mmの累進帯長で緩やかに変化している.中近レンズと異なり遠用度数領域はないのでもっぱら近方視に重きをおいたレンズである.しかしこの設計により近用単焦点レンズと比べ奥行き感や側方視したときに明視できる範囲が大きく広がっている.もし,遠用が正視で近用度数がsph+2.50Dの近用単焦点レンズの場合,この眼鏡を装用した状態では遠点が40cmとなる.調節力が1.00Dであれば約29cmが近点距離となるので,40~29cmの約11cmの範囲内のみピント合わせができる眼鏡となる.もっとも近くを見るだけであれば近用単焦点レンズでも適している.しかし,パソコン作業をはじめ,40cmより遠方にある目標物を明視しようとするときにはぼやけてしまう.そのような場合にこの近近レンズであれば視線を上方に移動することで度数がマイナスされているため,たとえば-1.50Dタイプであれば近用度数sph+2.50Dに対し上方20mmの位置ではsph+1.00Dであるのでその位置での遠点,近点はそれぞれ100cmと50cmである.したがって,近用度数測定位置での近点距離29cmから上方へ視線移動することにより100cmまでの範囲なら明視できる眼鏡となる.デスクワークをする患者であれば手元の資料からパソコン画面や机上にあるものなら視線移動により明視できることになる.遠方はもちろんぼやけているが,室内なら装用したまま歩いている患者がいる.上記の例ではレンズ上方ならsph+1.00Dなので,近視1.00Dの屈折異常の患者の裸眼の状態と等しい.sph+2.50Dの近用単焦点レンズでは装用したまま歩く気にはとてもならない.また,側方視したときにも幅広く見ることができるように近用度数測定位置から横方向にも度数変化をつけているため,たとえば新聞紙を机上に広げて見るときなどに広い範囲をハッキリ見ることができる.つまり,近近レンズは単焦点レンズより奥行き感だけではなく横幅も広く見ることができる設計になっている.(図3のレイアウト数値はHOYA製レクチュールを例に記す.)IV累進屈折力レンズの明視域の変化患者の調節力やレンズの加入度により同じ遠近レンズでも明視できる範囲は大きく異なるし,もちろん中近,近近も条件により明視域がずいぶん変化する.累進屈折力レンズはレンズ内の位置により度数変化しているため,レンズで見る位置(高さ)により明視できる範囲が変化する.その様子を図4に示す.条件は左側は調節力が2.00Dで加入度または近用度数を+1.50Dとした場(27)図3近近レンズの設計例近用度数測定位置(隠しマーク中央より8mm下)隠しマークとレンズ記号近用CDに合わせます近用度数からの変化量A:-1.00DB:-1.50D隠しマークとマイナス加入度近用度数測定位置(隠しマーク中央より8mm下)隠しマークとレンズ記号近用CDに合わせます近用度数からの変化量A:-1.00DB:-1.50D隠しマークとマイナス加入度———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007合(おおむね50歳)と右側は調節力1.00Dで加入度または近用度数を+2.50Dとした場合(おおむね60歳)のそれぞれの明視域を図示している.レンズは上から遠近,中近,近近(マイナス加入が1.50Dと1.00D)の場合を示している.横軸は視距離を,縦軸はレンズ内の視線位置を表す.加入度が1.50Dの状態ではまだ明視できる範囲が遠用部でも近用部でも広いことがわかる.しかし加入度が2.50Dの遠近レンズでは患者の調節力も低下していることもあり,各明視域が狭まり遠用,中間,近用と見える位置が限られてくる.このようなとき中近や近近タイプのレンズであれば,第一眼位に近いレンズ位置で中間,近用部を見ることができるので,患者の目的に合わせてレンズを選ぶと良い.1.製品紹介a.中近タイプiDクリアーク,タクト(HOYA)ルーメスト,キャスター,パフィーナ(SEIKOオプティカルプロダクツ)レアル(東海光学)b.近近タイプレクチュールA,レクチュールB,アドパワー(HOYA)ファンクリック,PCWay(SEIKOオプティカルプロダクツ)ソルテス(ニコンエシロール)ベルーナラルゴ,ウノ(東海光学)(28)図4累進屈折力レンズの明視域の変化遠近レンズ中近レンズ近近レンズ(-1.50D)近近レンズ(-1.00D)020406080100120140160180200加入度測定位置centerFEP02040608010012014016018020012mm近用度数測定位置4mmcenter+4mm+8mm+12mm+16mm02040608010012014016018020012mm近用度数測定位置4mmcenter+4mm+8mm+12mm+16mm020406080100120140160180200加入度測定位置12mm8mm4mmcenter+4mm+8mm遠用度数測定位置020406080100120140160180200加入度測定位置centerFEPサミットプロ02040608010012014016018020012mm近用度数測定位置4mmcenter+4mm+8mm+12mm+16mmレクチュールB02040608010012014016018020012mm近用度数測定位置4mmcenter+4mm+8mm+12mm+16mmレクチュールA020406080100120140160180200加入度測定位置12mm8mm4mmcenter+4mm+8mm遠用度数測定位置タクトサミットプロレクチュールBレクチュールAタクト調節力2.00D加入度または近用度数1.50D調節力1.00D加入度または近用度数2.50D———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007????2.処方事例a.中近タイプ室内用の遠近両用と表現したほうがわかりやすいかもしれない.遠方視力はおまけ程度に見えれば良いが,逆に近方,中間を見る時間が多くこの距離を楽にハッキリと見たいという患者に向いている.度数イメージは加入度が2.00Dを超えかつ明視できる奥行き感も欲しいという患者に適している.また遠用度数が正視か弱度遠視系で遠方は眼鏡なしでも生活できる.しかし,手元は見にくく室内で過ごすときに掛け外しをしなくてもよい眼鏡を望むようなケースである.職業としては商店主や工場労働者など近方を見る機会が多く,ときには周辺も見なければならない高齢者に適している.オフィスワーカーや主婦でも該当することが多い.b.近近タイプおもに加入度2.00Dを超える遠近レンズを常用している患者で近方を見る機会が多い場合に,近業作業用として使い分けをする眼鏡として処方すると便利である.加入度が低い場合でも処方可能であり,その場合は奥行き感がさらに広いので中近のような明視域となる.もちろん近用の明視野が広いので近用単焦点レンズに代替するレンズとして必ず紹介したいレンズである.調節が少なくなったロービジョン患者の近方作業用のレンズとしても適したケースが多い.いずれの場合も患者がこのレンズの存在を知らないことが多いのでその長所,短所を伝える必要がある.手元での作業の多い,調理師,理容師,美容師,医師などに最適である.特にカウンターを挟んで客と接する調理師にとっては,手元の料理,盛り付けと同様に,カウンターの客の表情もよくわかり便利である.V今後の問題遠近両用レンズが先に存在し,10余年前に中近レンズが開発された.近近レンズは今世紀に入ってからの登場である.遠近レンズの認知度は高く装用者も多いが,中近や近近は患者だけではなくわれわれ眼科医を含めこれらの商品に対する情報が少なく認知度がきわめて低い.中近や近近というネーミングについてもしっくりこない場合がある.明視できる範囲は度数の状況により異なる.たとえば中近レンズや近近レンズでもレンズの見る位置をフルに使えば遠近レンズに近い明視域をもつ場合も起こり得る.その違いを患者のニーズに合わせて説明しなければならないが,単焦点のテストレンズだけではなかなか困難である.このような場合,見え方の違いを説明するのに各種の累進設計テストレンズによる装用テストが有効である.しかし,遠近レンズのテストレンズでも普及率は低いと想定され,中近,近近についてはほとんど設置されていないと思われる.HOYA株式会社に確認したところ希望があればレンズ説明のために訪問し,HOYA製累進屈折力テストレンズセット(図5)とHOYA累進屈折力レンズ医家向けマニュアルの提供が可能とのことである.衣類や靴などについてはそのときそのときの状況に合わせて,いろいろの色の服や,それに合った靴を履いて外出する.毎日使う眼鏡に関しても同様に,目的に合わせて専用の眼鏡を使用することは重要である.無理して一つの遠近累進レンズで何でもかんでも間に合わせることには無理があり,ひいては無駄に眼精疲労を誘発して,快適な日常生活を送ることができない.眼に関しても,TPOに合わせて状況に合った眼鏡を掛け替えることが大切である.ところで,オートレンズメータが普及しているが,そのオートモード測定では今回紹介した多様化している累進屈折力レンズのそれぞれの正しい測定位置で計測していないことが想定され,その場合正しい度数で表示されないことになる.概略の度数を知りたいときには便利な(29)図5テストレンズセット———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007ツールであるが,処方度数確認には手動で所定の位置に合わせて測らなければならない.おわりに今回は中近・近近レンズを紹介した.遠近レンズと複数使用で便利なレンズとして,また近用単焦点レンズに変わるレンズとして今後認知度が上がるとともに普及していくであろう.的確な問診により患者のQOL(qualityoflife)が向上する各種の進化したレンズを処方していただきたい.(30)■用語解説■フィッティングポイント:遠用フィッティングポイントであれば,第一眼位の視線で見るときに適したレンズ設計上の位置.メーカーによりアイポイントなどと表現することもある.CD(centrationdistance:心取り点間距離):眼鏡として製作するとき,レンズの光学中心をレイアウトする位置.遠用眼鏡では遠用PD(pupilarydistance:瞳孔間距離)と同位置で良いが,近用眼鏡の場合は眼鏡レンズと角膜頂点間距離が12mm程度あるため輻湊した瞳孔先端位置よりさらに内側にレンズ光学中心をレイアウトしなければならない.近業目的距離によっても変化する.このようにPDとCDでは異なる数値となり,それを区別するためJIS規格により制定された用語である.隠しマーク:レンズの種類,加入度,レイアウト,度数測定位置などを確認するためレンズに残された印.○や△などの記号が2カ所34mm離れた位置に水平に付けられていることが多く,一般に記号の下に商品略号や加入度情報を示す数字,文字が記されている.マークが眼鏡装用状態で妨げになってはいけないので細く小さく表示されている.累進帯長:遠用フィッティングポイントから近用フィッティングポイントにかけて加入度が累進的に変化している.一般的にその度数変化部分を累進帯とよび,その長さを累進帯長とよんでいる.なお,累進面がレンズの凸面側にある場合には凸面上の距離となり,凹面側にある場合には凹面上の距離となる.また最新の設計にはレンズの両面を複合的に設計して累進構造となっている設計もでている.そのため,メーカーによって規定が異なるので,一概に長さだけの比較はむずかしいので注意が必要である.