———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS能に深く関与しており,眼球光学系の正常なコントロールのために必要であるとされている(後述)1,2).色収差は大きく分けて縦色収差(longitudinalchro-maticaberration)と横色収差(transversechromaticaberration)に分類することができる.縦色収差は光軸方向に生じる色収差で,横色収差は光軸外の点から出た光がレンズに入射した場合に生じる光軸と垂直方向の色収差である(図2).一般に色収差は屈折力が大きくなると増加し,アッベ数(屈折系の素材に固有の値)が小さくなると増加する.II色収差の視覚への影響色収差はさまざまな面で視覚およびその生理機能に関与している.代表的なものは調節(accommodation)とはじめに白内障および屈折矯正手術においては,現在,視力のみならずqualityofvision(QOV)の向上を含めた術後視機能回復が目標とされるようになっている.これに伴い,従来は問題とされなかった眼球光学系に存在するさまざまな収差が注目され,すでに屈折矯正手術においては高次収差を含めて治療するwavefront-guridedrefrac-tivesurgeryが主流となり,眼内レンズでは球面収差の補正を考慮した非球面眼内レンズが登場している.収差のなかで,主としてヒトの視機能に影響を与えるのは単色高次収差においては,球面収差,コマ収差,非点収差などであるが,色収差も視機能に影響を与えることが報告されている.以下に色収差について概説し,眼内レンズ挿入眼の視機能に対する色収差の影響について述べる.I色収差とは光は波長によって異なった屈折率を有しており,自然光のような多色光がレンズを通過すると波長の異なる光は異なった角度で屈折し(このことを分散とよぶ),異なった位置に焦点を結ぶ(図1).これを色収差とよぶ.眼球光学系においては,白色光のような多色光が入ると,色収差によって網膜像はぼやけ,像のコントラストは低下する.すなわち,眼球が光学系としてより質の高い像を得るためには色収差はないほうがよい.しかし一方で,色収差は調節などのさまざまな生理機(29)1439*KazunoNegishi:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕根岸一乃:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室特集●眼の収差を理解するあたらしい眼科24(11):14391442,2007眼内レンズと色収差IntraocularLensandChromaticAberration根岸一乃*図1色収差(chromaticaberration)波長によって屈折率は異なるため,色によって結像位置が異なる.たとえば,緑色光に焦点があっている場合,青色光や赤色光はぼやけている.赤色の焦点青色の焦点:赤色光:緑色光:青色光色収差緑色の焦点———————————————————————-Page21440あたらしい眼科Vol.24,No.11,2007色立体視(chromostereopsis)である1).たとえば,調節刺激を与えた場合,白色光(多色光)で刺激すれば被検者のほとんどは適切な反応を示すが,単色光の場合は60%が適切に反応できないという3).また,縦色収差は調節系が正しく反応するのを助けていると考えられている4,5).静止物体および動いている物体に対する調節反応は単色光下よりも白色光(または波長幅が広い光)下でのほうがより正確であり,色収差を2倍に増やしても調節の正確性には影響はでないが,色収差を修正すると調節反応が悪くなると報告されている6,7).色立体視は両眼視機能と関係し,同じ距離に物体をおいても色によって物体までの距離が違って見える現象である.すなわち,赤い物体が青い物体よりも近くに見えるという現象は色立体視のために起こる.色立体視は横色収差が両眼視機能と組み合わさって起こる現象である(図3)1).III正常眼における色収差ヒトの眼球光学系においては,色収差に影響するのは主として角膜と水晶体で,水晶体の関与は光学系全体の28.5%であると報告されている8).ヒトの眼で可視光線領域の端から端までの色収差は2D以上に達する.しかし,ヒトがこれほど大きな焦点のボケを日常的に感じないのは,視感度が波長によって違うためである.すなわち,通常の条件下ではヒトは視感度が最も高い波長(ピーク波長;明所視では555nm,暗所視では507nm)に焦点を合わせるが,このときピーク波長から離れるほど光の感度は低下し,スペクトルの両端の光の像は自覚しにくくなる.このため,実際にヒトが自覚できる色ボケは白色光視標の場合で0.25D以内であるといわれ9),日常視の範囲では大きな問題にはならない.IV眼内レンズ挿入眼における色収差眼内レンズの色収差は光学部素材のアッベ数(表1)によって決まる.アッベ数が小さいほど色収差は大きくなり,アッベ数が大きければ色収差は小さくなる.従来から使用されていたポリメチルメタクリレート(PMMA)素材のアッベ数は正常水晶体と大差ないが,種々の素材のフォルダブル眼内レンズのなかには,光学部のアッベ数がヒトの水晶体と大きく異なるものも含まれている(表1).実際,眼内レンズ挿入眼の軸上色収差を近軸光線追跡法により算出すると,波長500640nm間で正常(30)図2縦色収差と横色収差a:縦色収差(longitudinalchromaticaberration).b:横色収差(transversechromaticaberration).横色収差縦色収差青色光の焦点赤色光の焦点赤色光の焦点青色光の焦点ab:赤色光:緑色光:青色光図3色立体視(chromostereopsis)上図の実線はOの位置においた赤色と青色の視標からの光路を示す.瞳孔は視軸より耳側寄りに偏位している.赤色光は青色光よりも屈折が少ないので,網膜のより耳側に入る(横色収差).このため網膜上の解離は点線で示したような異なる位置からの光線により起こる解離と同等になる.これを両眼で見ると明らかな位置のずれとして自覚され,赤色の視標のほうが青色の視標よりも近くに見える.赤色青色赤色青色O鼻側耳側———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.11,20071441水晶体では0.74D,PMMA眼内レンズ挿入眼で0.64D,アクリルレンズ(アッベ数は製品によって異なるが,ここでは37とする)挿入眼では0.98Dで,アクリルレンズ挿入眼では色収差が大きい10).眼内レンズの光学部素材としてアッベ数の小さい素材を選択することは術後の視機能に影響する可能性があり,過去にそのような報告もある11).着色眼内レンズは,単波長光がカットされることから色収差が減少し,網膜像コントラストが上昇する可能性があるが,MTF(modulationtranferfunction)の上昇は1.5%にとどまり,臨床的に有意と考えられる40%には遠く及ばず12),これに関しては影響がないと考えられる.近年発売された非球面眼内レンズは,単色収差である球面収差の軽減により網膜像コントラストを向上させることを目標にしているが,計算によるシミュレーション結果によれば,球面収差の軽減による網膜像質の向上は色収差の影響によって低減する13,14).しかし,一方では色収差は焦点深度を増加させる働きがあるので,その妥協点を見出す必要がある14).最近では屈折型と回折型の光学部を組み合わせて球面収差と色収差の両方をキャンセルし,中心固定され傾斜もない理想的条件のもとでは,diraction-limited(回折の影響以外を受けない良好な光学系)の光学系に近い性能をもつ「色消し」眼内レンズのデザインも報告されている15).色消し眼内レンズは網膜像質を向上させ,計算上は偏位1mm,傾斜4°までであれば通常の球面眼内レンズと同じ性能になる計算である.今後はこのような色収差まで考慮した眼内レンズの臨床応用が進む可能性がある.ただし,色収差をキャンセルした場合の調節機能など,生理機能への影響は十分に検討されるべきであろう.おわりにこれまでは眼内レンズの開発,素材選択には,生体適合性,操作性,加工性,などが重視されてきた.しかし,QOV追求の時代にあって,wavefrontsensorなどの高次収差まで解析できる診断機器,そしてadaptiveopticsの臨床応用により,眼内レンズによって収差コントロールを行うことも現実味をましている.今後の眼内レンズの開発には,すでに行われている球面収差のコントロールばかりでなく,さまざまな収差を考慮することがますます重視されるであろう.ヒトが多色光のもとで生活する限り,単色収差ばかりでなく色収差も考慮し,網膜像の質および生理機能を損なわない光学的にバランスのとれた眼内レンズを開発していくことが必要であろう.文献1)AtchisonDA,SmithG:Chromaticaberration.OpticsoftheHumanEye,p180-193,Butterworth-Heinemann,MA,USA,20002)RabbettsR:Clinicalvisualoptics,Thirdedition,p275-281,Butterworth-Heinemann,MA,USA,19983)AggarwalaKR,NowbotsingS,KrugerPB:Accommoda-tiontomonochromaticandwhitelighttargets.InvestOph-thalmolVisSci36:2695-2705,19954)KrugerPB,MathewsS,AggarwalaKRetal:Chromaticaberrationandocularfocus:Finchamrevisited.VisionRes33:1397-1411,19935)AggarwalaKR,KrugerES,MathewsSetal:Spectralbandwidthandocularaccommodation.JOptSocAmA12:450-455,19956)KrugerPB,AggarwalaKR,BeanSetal:Accommodationtostationaryandmovingtargets.OptomVisSci74:505-510,19977)KrugerPB,NowbotsingS,AggarwalaKRetal:Smallamountsofchromaticaberrationinuencedynamicaccommodation.OptomVisSci72:656-669,19958)魚里博,平井宏明,福原潤ほか:眼光学の基礎(西信元嗣編).p132,金原出版,19909)ThibosLN,BradleyA,ZhangX:Eectofocularchro-maticaberrationonmonocularvisualperformance.OptomVisSci68:599-607,1991(31)表1眼内レンズ光学部素材のアッベ数素材アッベ数PMMA58*シリコーン56.7*アクリル(アクリソフR)37*含水ゲル52.9*正常水晶体50**アッベ数は,アッベ数=nd1/nFnC(nd,nF,nCはそれぞれ波長589.3nm,486.1nm,656.3nmにおける屈折率)と定義される.アッベ数から色収差を計算することができる.*メーカー提供値,**文献1より.———————————————————————-Page41442あたらしい眼科Vol.24,No.11,200710)NagataT,KubotaS,WatanabeIetal:Chromaticaberra-tioninpseudophakiceyes.JJpnOphthalmolSoc103:237-242,199911)NegishiK,OhnumaK,HirayamaNetal:Eectofchro-maticaberrationoncontrastsensitivityinpseudophakiceyes.ArchOphthalmol119:1154-1158,200112)ZhaoH,MainsterMA:Theeectofchromaticdispersiononpseudophakicopticalperformance.BrJOphthalmol91:1225-1229,2007(32)13)FranchiniA:Comparativeassessmentofcontrastwithsphericalandasphericalintraocularlenses.JCataractRefractSurg32:1307-1319,200614)FranchiniA:Compromisebetweensphericalandchro-maticaberrationanddepthoffocusinasphericintraocu-larlenses.JCataractRefractSurg33:497-509,200715)Lopez-GilN,Montes-MicoR:Newintraocularlensforachromatizingthehumaneye.JCataractRefractSurg33:1296-1302,2007