———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007????0910-1810/07/\100/頁/JCLS眼底自発蛍光とは眼底自発蛍光(fundusauto?uorescence:FAF)は主として網膜色素上皮(RPE)細胞内のリポフスチンに由来します1).RPEが視細胞外節を貪食した際に生じる副産物?-retinylidene-?-retinylethanolamine(A2-E)が,RPEに特異的な蛍光物質としてリポフスチンに含まれています.リポフスチンはRPE細胞内に蓄積し,加齢とともに増加します.70歳の健常人においては,RPE細胞1個は約30億個の視細胞外節を貪食していると考えられ,RPE内の細胞質の約25%はリポフスチンが占めているといわれています.FAFはRPEの視細胞外節の代謝機能を反映していると考えられます.酸化ストレスは細胞内のリポフスチンを増加させ,さらに蓄積したリポフスチンは酸化ストレスを促します.リポフスチンには細胞毒性があるため,RPE内に過剰に蓄積するとRPE細胞は死滅すると考えられています.リポフスチンの蛍光波長は500~750nmと広範な波長を有し,630nm付近にピークが存在します.撮影装置,正常自発蛍光像,異常蛍光の解釈おもに2つの撮影方法があります.走査型レーザー検眼鏡(ハイデルベルグ社のHeidelbergRetinaAngio-graph:HRA2など)を用いたフルオレセイン蛍光撮影用の波長488nmで撮影する方法と,眼底カメラに組み込んだ580nmの励起波長で撮影する方法です2,3).FAFの撮影では造影剤注入は不要です.眼底の微弱な自発蛍光を捉えるため,HRA2による撮影では複数枚の画像を加算平均処理します.撮影装置によって用いる波長が異なるため,正常なFAF像も異なります(図1).HRA2の488nmでは,キサントフィルの影響を受けてしまうため,黄斑部は暗く,網膜血管や視神経乳頭も暗くなります.しかし,580nmの波長においてはキサントフィルの影響が除外されるため,黄斑は明るく映し出されます.過蛍光所見を示す場合の解釈として,大まかにRPEの代謝亢進状態,リポフスチンの過剰な蓄積が考えられています.しかし,用いる波長によっては他の蛍光物質を検出している可能性があります.たとえば,出血の吸収過程においても強い過蛍光を示す場合もみられるので,過蛍光の解釈には注意を要します.低蛍光を示す場合の解釈として,RPE上に存在する物質(硬性白斑や網膜下出血など)によるブロック効果,RPEの萎縮・欠損などが考えられます.異常な自発蛍光を示す疾患異常な自発蛍光がみられる代表的な疾患を以下に提示します.紹介する自発蛍光像はHRA2によって撮影されたFAF画像です.1.遺伝性黄斑疾患Best病,成人型卵黄様黄斑変性では,眼底での黄色い沈着物は強い過蛍光病変として観察されます.Star-gardt病ではRPE内にリポフスチンが過剰に蓄積しま(73)◆シリーズ第80回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊沢美喜五味文(大阪大学大学院医学系研究科眼科学視覚科学)眼底自発蛍光の変化が示唆するもの図1正常人の眼底自発蛍光像左:HRA2,右:580nmで撮影.図2Stargardt病のFAF所見(右)黄斑部の萎縮巣は均一な低蛍光,萎縮巣周囲の黄色斑は強い過蛍光がみられる.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007す.黄色斑は強い過蛍光を示し,黄斑部の萎縮巣は均一な低蛍光(自発蛍光の欠損)として認められます(図2)4).2.加齢黄斑変性ドルーゼンは必ずしも過蛍光を示すわけではなく,ブロック効果によって低蛍光を示す場合もあります.萎縮型加齢黄斑変性である地図状萎縮は特徴的な自発蛍光像を示します.萎縮部位に一致した境界明瞭な低蛍光(自発蛍光の欠損)を示し,その周囲にはさまざまな形状の過蛍光変化(帯状,斑状,びまん性など)を伴っている場合が多くみられます.周囲の過蛍光部位は過剰なリポフスチンの蓄積が示唆され,将来,RPEが細胞死に至り,萎縮性変化が拡大すると考えられています.滲出型加齢黄斑変性の僚眼における異常な過蛍光変化が報告されています(図3)3).欧米では狭義の加齢黄斑変性が多く,東洋人ではポリープ状脈絡膜血管症が多いという人種差があります.このような僚眼における自発蛍光の変化が,東洋人での加齢黄斑変性にもあてはまるかどうかは不明です.滲出型加齢黄斑変性眼における自発蛍光の報告は少ないものの,周囲の滲出性変化のある部位は過蛍光を示し,脈絡膜新生血管の部位は経過が長くなるにつれて低蛍光を示します.3.中心性漿液性脈絡網膜症中心性漿液性脈絡網膜症では発症から数カ月経過すると網膜下液が存在する部位は過蛍光として観察され,時間が経つにつれ過蛍光が強くなります.これは網膜下液内に存在する蛍光物質に由来する可能性も示唆されています5).慢性型に移行し,萎縮性変化がみられるようになると低蛍光領域として観察されます(図4).また,網膜下液は重力によって下方に移動すると考えられ,網膜下液の通り道(atrophictract)の中央部分は低蛍光で,その周囲は過蛍光を示すFAF所見が多くみられます(図4).おわりにFAF撮影は造影剤の使用なしに,非侵襲的かつ簡便にRPEの貪食状態やRPEの萎縮性変化を観察することができます.眼底変化を多面的に観察することで,治療の方針・予後予測などに役立つ可能性があります.しかし,自発蛍光像の解釈には未解明な点も多いため,さらなる研究が必要であると思われます.文献1)DeloriFC,DoreyCK,StaurenghiGetal:Invivo?uores-cenceoftheocularfundusexhibitsretinalpigmentepithe-liumlipofuscincharacteristics.??????????????????????????36:718-729,19952)HolzFG,BellmannC,MargaritidisMetal:Patternsofincreasedinvivofundusauto?uorescenceinthejunctionalzoneofgeographicatrophyoftheretinalpigmentepitheli-umassociatedwithage-relatedmaculardegeneration.?????????????????????????????????237:145-152,1999(74)図3滲出型加齢黄斑変性の僚眼のFAF所見(右)フルオレセイン蛍光眼底造影(左)の黄斑部のひび割れ様の低蛍光線は,FAF像において過蛍光を示している.図4慢性型中心性漿液性脈絡網膜症例フルオレセイン蛍光眼底造影(中央)では,下方に伸びたatrophictractが過蛍光として観察される.FAF像(右)では,黄斑部に低蛍光領域が観察され,周囲には過蛍光を伴い,下方に広がっている.Atrophictractの中央には低蛍光領域が観察される.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007????115:609-615,19975)vonRuckmannA,FitzkeFW,FanJetal:Abnormalitiesoffundusauto?uorescenceincentralserousretinopathy.???????????????133:780-786,20023)SpaideRF:Fundusauto?uorescenceandage-relatedmaculardegeneration.??????????????110:392-399,20034)vonRuckmannA,FitzkeFW,BirdAC:Invivofundusauto?uorescenceinmaculardystrophies.????????????????(75)☆☆☆■「眼底自発蛍光の変化が示唆するもの」を読んで■眼底自発蛍光が,最近注目されるようになったのは,以下のような理由があります.以前から,加齢黄斑変性などの病因に,網膜色素上皮が重要な役割を果たしていることはわかっていましたが,生体でその機能を調べることは困難でした.網膜色素上皮の重要な機能の一つは,視細胞外節の貪食ですが,その際に生じる10種類以上の自発蛍光物質のうち最も重要なものがリポフスチンです.そこで,リポフスチンの自発蛍光を調べることにより,間接的に網膜色素上皮の機能を評価しようとの試みが行われました.しかし,メラニン色素が邪魔をして,臨床的に意味のある自発蛍光を捉えることは不可能でした.この問題を解決したのが,1990年代に登場した,confocallaserophthal-moscopyです.この報告を最初に行ったvonRuck-mannの論文では,網膜におけるリポフスチンの詳細な分布が示され,眼科研究者に衝撃を与えました.ただし,リポフスチンというのは網膜色素上皮機能の一部を反映しているにすぎないと考えられたため,ある程度の評価を受けるに留まっていました.ところが,1990年後半から2000年前半にかけて,自発蛍光物質リポフスチンの主要構成成分A2-Eこそが,網膜色素上皮の貪食機能を傷害したり,細胞膜の安定性を阻害したり,さらには青色光障害を増強する本体であることが報告されはじめると,眼底自発蛍光はがぜん注目されるようになりました.つまり,眼底自発蛍光像は,われわれが最も知りたい網膜色素上皮機能を直接表わすものであったのです.それ以来,眼底自発蛍光検査は,網膜研究のなかで重要視されるようになりました.本文中で沢美喜・五味文両先生が述べられたように,報告される臨床データは,それらの説を裏づけるものばかりでした.沢先生らが示された美しい眼底写真を御覧になると,このことがよくおわかりになると思います.今後は,検査といえども,侵襲的な方法は不可能ですので,多数の臨床データ収集は困難になると思われます.非侵襲的な本検査により,これから眼低自発蛍光の臨床データが集積されれば,眼底疾患の病態解明が大きく進むと思われます.鹿児島大学医学部眼科坂本泰二