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眼科医のための先端医療80.眼底自発蛍光の変化が示唆するもの

2007年8月31日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007????0910-1810/07/\100/頁/JCLS眼底自発蛍光とは眼底自発蛍光(fundusauto?uorescence:FAF)は主として網膜色素上皮(RPE)細胞内のリポフスチンに由来します1).RPEが視細胞外節を貪食した際に生じる副産物?-retinylidene-?-retinylethanolamine(A2-E)が,RPEに特異的な蛍光物質としてリポフスチンに含まれています.リポフスチンはRPE細胞内に蓄積し,加齢とともに増加します.70歳の健常人においては,RPE細胞1個は約30億個の視細胞外節を貪食していると考えられ,RPE内の細胞質の約25%はリポフスチンが占めているといわれています.FAFはRPEの視細胞外節の代謝機能を反映していると考えられます.酸化ストレスは細胞内のリポフスチンを増加させ,さらに蓄積したリポフスチンは酸化ストレスを促します.リポフスチンには細胞毒性があるため,RPE内に過剰に蓄積するとRPE細胞は死滅すると考えられています.リポフスチンの蛍光波長は500~750nmと広範な波長を有し,630nm付近にピークが存在します.撮影装置,正常自発蛍光像,異常蛍光の解釈おもに2つの撮影方法があります.走査型レーザー検眼鏡(ハイデルベルグ社のHeidelbergRetinaAngio-graph:HRA2など)を用いたフルオレセイン蛍光撮影用の波長488nmで撮影する方法と,眼底カメラに組み込んだ580nmの励起波長で撮影する方法です2,3).FAFの撮影では造影剤注入は不要です.眼底の微弱な自発蛍光を捉えるため,HRA2による撮影では複数枚の画像を加算平均処理します.撮影装置によって用いる波長が異なるため,正常なFAF像も異なります(図1).HRA2の488nmでは,キサントフィルの影響を受けてしまうため,黄斑部は暗く,網膜血管や視神経乳頭も暗くなります.しかし,580nmの波長においてはキサントフィルの影響が除外されるため,黄斑は明るく映し出されます.過蛍光所見を示す場合の解釈として,大まかにRPEの代謝亢進状態,リポフスチンの過剰な蓄積が考えられています.しかし,用いる波長によっては他の蛍光物質を検出している可能性があります.たとえば,出血の吸収過程においても強い過蛍光を示す場合もみられるので,過蛍光の解釈には注意を要します.低蛍光を示す場合の解釈として,RPE上に存在する物質(硬性白斑や網膜下出血など)によるブロック効果,RPEの萎縮・欠損などが考えられます.異常な自発蛍光を示す疾患異常な自発蛍光がみられる代表的な疾患を以下に提示します.紹介する自発蛍光像はHRA2によって撮影されたFAF画像です.1.遺伝性黄斑疾患Best病,成人型卵黄様黄斑変性では,眼底での黄色い沈着物は強い過蛍光病変として観察されます.Star-gardt病ではRPE内にリポフスチンが過剰に蓄積しま(73)◆シリーズ第80回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊沢美喜五味文(大阪大学大学院医学系研究科眼科学視覚科学)眼底自発蛍光の変化が示唆するもの図1正常人の眼底自発蛍光像左:HRA2,右:580nmで撮影.図2Stargardt病のFAF所見(右)黄斑部の萎縮巣は均一な低蛍光,萎縮巣周囲の黄色斑は強い過蛍光がみられる.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007す.黄色斑は強い過蛍光を示し,黄斑部の萎縮巣は均一な低蛍光(自発蛍光の欠損)として認められます(図2)4).2.加齢黄斑変性ドルーゼンは必ずしも過蛍光を示すわけではなく,ブロック効果によって低蛍光を示す場合もあります.萎縮型加齢黄斑変性である地図状萎縮は特徴的な自発蛍光像を示します.萎縮部位に一致した境界明瞭な低蛍光(自発蛍光の欠損)を示し,その周囲にはさまざまな形状の過蛍光変化(帯状,斑状,びまん性など)を伴っている場合が多くみられます.周囲の過蛍光部位は過剰なリポフスチンの蓄積が示唆され,将来,RPEが細胞死に至り,萎縮性変化が拡大すると考えられています.滲出型加齢黄斑変性の僚眼における異常な過蛍光変化が報告されています(図3)3).欧米では狭義の加齢黄斑変性が多く,東洋人ではポリープ状脈絡膜血管症が多いという人種差があります.このような僚眼における自発蛍光の変化が,東洋人での加齢黄斑変性にもあてはまるかどうかは不明です.滲出型加齢黄斑変性眼における自発蛍光の報告は少ないものの,周囲の滲出性変化のある部位は過蛍光を示し,脈絡膜新生血管の部位は経過が長くなるにつれて低蛍光を示します.3.中心性漿液性脈絡網膜症中心性漿液性脈絡網膜症では発症から数カ月経過すると網膜下液が存在する部位は過蛍光として観察され,時間が経つにつれ過蛍光が強くなります.これは網膜下液内に存在する蛍光物質に由来する可能性も示唆されています5).慢性型に移行し,萎縮性変化がみられるようになると低蛍光領域として観察されます(図4).また,網膜下液は重力によって下方に移動すると考えられ,網膜下液の通り道(atrophictract)の中央部分は低蛍光で,その周囲は過蛍光を示すFAF所見が多くみられます(図4).おわりにFAF撮影は造影剤の使用なしに,非侵襲的かつ簡便にRPEの貪食状態やRPEの萎縮性変化を観察することができます.眼底変化を多面的に観察することで,治療の方針・予後予測などに役立つ可能性があります.しかし,自発蛍光像の解釈には未解明な点も多いため,さらなる研究が必要であると思われます.文献1)DeloriFC,DoreyCK,StaurenghiGetal:Invivo?uores-cenceoftheocularfundusexhibitsretinalpigmentepithe-liumlipofuscincharacteristics.??????????????????????????36:718-729,19952)HolzFG,BellmannC,MargaritidisMetal:Patternsofincreasedinvivofundusauto?uorescenceinthejunctionalzoneofgeographicatrophyoftheretinalpigmentepitheli-umassociatedwithage-relatedmaculardegeneration.?????????????????????????????????237:145-152,1999(74)図3滲出型加齢黄斑変性の僚眼のFAF所見(右)フルオレセイン蛍光眼底造影(左)の黄斑部のひび割れ様の低蛍光線は,FAF像において過蛍光を示している.図4慢性型中心性漿液性脈絡網膜症例フルオレセイン蛍光眼底造影(中央)では,下方に伸びたatrophictractが過蛍光として観察される.FAF像(右)では,黄斑部に低蛍光領域が観察され,周囲には過蛍光を伴い,下方に広がっている.Atrophictractの中央には低蛍光領域が観察される.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007????115:609-615,19975)vonRuckmannA,FitzkeFW,FanJetal:Abnormalitiesoffundusauto?uorescenceincentralserousretinopathy.???????????????133:780-786,20023)SpaideRF:Fundusauto?uorescenceandage-relatedmaculardegeneration.??????????????110:392-399,20034)vonRuckmannA,FitzkeFW,BirdAC:Invivofundusauto?uorescenceinmaculardystrophies.????????????????(75)☆☆☆■「眼底自発蛍光の変化が示唆するもの」を読んで■眼底自発蛍光が,最近注目されるようになったのは,以下のような理由があります.以前から,加齢黄斑変性などの病因に,網膜色素上皮が重要な役割を果たしていることはわかっていましたが,生体でその機能を調べることは困難でした.網膜色素上皮の重要な機能の一つは,視細胞外節の貪食ですが,その際に生じる10種類以上の自発蛍光物質のうち最も重要なものがリポフスチンです.そこで,リポフスチンの自発蛍光を調べることにより,間接的に網膜色素上皮の機能を評価しようとの試みが行われました.しかし,メラニン色素が邪魔をして,臨床的に意味のある自発蛍光を捉えることは不可能でした.この問題を解決したのが,1990年代に登場した,confocallaserophthal-moscopyです.この報告を最初に行ったvonRuck-mannの論文では,網膜におけるリポフスチンの詳細な分布が示され,眼科研究者に衝撃を与えました.ただし,リポフスチンというのは網膜色素上皮機能の一部を反映しているにすぎないと考えられたため,ある程度の評価を受けるに留まっていました.ところが,1990年後半から2000年前半にかけて,自発蛍光物質リポフスチンの主要構成成分A2-Eこそが,網膜色素上皮の貪食機能を傷害したり,細胞膜の安定性を阻害したり,さらには青色光障害を増強する本体であることが報告されはじめると,眼底自発蛍光はがぜん注目されるようになりました.つまり,眼底自発蛍光像は,われわれが最も知りたい網膜色素上皮機能を直接表わすものであったのです.それ以来,眼底自発蛍光検査は,網膜研究のなかで重要視されるようになりました.本文中で沢美喜・五味文両先生が述べられたように,報告される臨床データは,それらの説を裏づけるものばかりでした.沢先生らが示された美しい眼底写真を御覧になると,このことがよくおわかりになると思います.今後は,検査といえども,侵襲的な方法は不可能ですので,多数の臨床データ収集は困難になると思われます.非侵襲的な本検査により,これから眼低自発蛍光の臨床データが集積されれば,眼底疾患の病態解明が大きく進むと思われます.鹿児島大学医学部眼科坂本泰二

時の人

2007年8月31日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007????0910-1810/07/\100/頁/JCLS東京慈恵会医科大学眼科学教室は,明治24年(1891年)に「成医学校」の初代眼科学教授として,宮下俊吉先生が任命されて以来,116年の歴史を有している.常岡寛先生は平成19年4月1日,第8代の教授に就任された.先生は就任にあたって次の3つの方針を掲げられた.すなわち,(1)慈恵らしい,患者を大切にする医師の育成,(2)幅広い分野の専門外来と研究の継続,(3)全教室員が各立場で満足できる教室の運営,である.*眼科学教室は北原健二前教授の時代より,眼科領域におけるできるだけ多くの分野の研究ができるように配慮されてきた.北原先生が専門とされる視覚情報処理機構に関する研究,視機能異常に関する研究に加え,角膜,白内障,屈折矯正,緑内障,ぶどう膜疾患,網膜疾患,眼窩腫瘍,涙道疾患に関する臨床研究が精力的に行われている.常岡先生は今後もこの伝統を引き継ぎ,眼科のあらゆる疾患に対して最善の治療ができるように幅広い分野の研究が行える体制を維持していきたいと述べられた.*常岡先生は昭和51年3月に東京慈恵会医科大学を卒業され,ご両親が眼科医であられたこともあり,眼科医を目指された.昭和60年7月に国立相模原病院眼科の医長に就かれ,平成2年11月には同大学眼科学教室で講師に任ぜられ,さらに同8年11月,助教授に就任された.平成12年1月からは同大学附属第三病院眼科において診療部長を務められ,本年4月に同大学眼科学教室の主任教授に就任された.常岡先生が特に大きな影響を受けられたのは,入局当時の主任教授であられた舩橋知也先生で,その眼科医としての圧倒的な力量と患者さんに接する姿の“すばらしさ”に感動されたと回顧しておられる.その後,舩橋先生の後任の松崎浩先生のもとで超音波乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を学ばれ,白内障手術を専門とする今日の先生へつながることとなった.さらに松崎先生の後任の北原先生には,専門が異なるなかで幅広くサポートしていただいたとのことである.*常岡先生は,大学院時代には慈恵医大附属病院にて,透過型電子顕微鏡を用いた網膜の微細構造の研究をされたが,その後の研究テーマは次の通りである.(1)視機能に関する研究として,中心性網脈絡膜症と夜間視力の関連について取り組む.(2)白内障手術に関する研究として,患者の負担を軽減する低侵襲白内障手術の実現を目指し,①テノン?麻酔の開発を行い,球後麻酔に代わる画期的な麻酔法を開発し普及させる,②バイマニュアル・フェイコの開発を通して極小切開白内障手術を実現させるために,超音波チップのスリーブを外して乳化吸引する新しい手術手技を開発し普及させる,③新しい眼内レンズ挿入法に取り組み,できるだけ小さな創口から眼内レンズを挿入させる新しい手技を開発し普及させる,などである.臨床面では,眼科入局後10年間は緑内障専門外来を担当されていたが,その後慈恵医大附属病院および国立相模原病院にて網膜?離の治療を専門に行われ,さらに,入局15年目より白内障手術を専門とされるようになり,現在に至っておられるという.海外の学会での業績としては,バイマニュアル・フェイコのインストラクションコース,スキルトランスファーコースなどを行っておられる.*常岡先生の日頃の信念・信条は患者さんに満足してもらえる医療を行うこと,そしてそれを実現できる医師を育成し,同時に,教室員全員が夢をもって仕事ができるように配慮したいと語られた.また,先生の趣味は水泳で,多忙な日々を支える体力を養っておられるという.(71)人の時東京慈恵会医科大学眼科・教授常??岡??寛???先生

眼感染症:β-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌(BLNAR)

2007年8月31日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007????0910-1810/07/\100/頁/JCLSインフルエンザ菌(?????????????????????)は,パスツレラ科のグラム陰性小桿菌でヒトの上気道における常在菌であるが,呼吸器感染症,耳鼻咽喉科領域感染症,眼科領域感染症,菌血症,髄膜炎などの原因菌の一つであり,特に莢膜抗原型(血清型b)インフルエンザ菌は侵襲性が高く,小児に重篤な髄膜炎を起こす.本菌の標準的治療薬としてはアンピシリン(ABPC)が用いられてきたが,1970年代にペニシリンを分解するb-ラクタマーゼを産生する(beta-lactamase-produc-ingampicillin-resistant:BLPAR)株が分離されて以来,わが国では10%前後の頻度で検出されている.さらに1980年代には,b-ラクタム系抗菌薬の作用標的である5種類の細胞壁合成酵素PBPs(penicillinbindingpro-teins)の一つであるPBP3をコードする????遺伝子の変異によるb-ラクタマーゼ非産生(beta-lactamase-non-producingampicillin-resistant:BLNAR)株が出現した.現在,BLNARは40%前後の高頻度で検出されており,ペニシリン系抗菌薬のみでなくセフェム系抗菌薬にも耐性化傾向を示す.BLNAR株のABPCの最小発育阻止濃度(MIC)は,????遺伝子の変異箇所によって異なり3つのグループに分類される.すなわちABPCのMICが0.5~1?g/m?の株と2~4?g/m?の株は,各々517番目のアルギニン→ヒスチジン,526番目のアスパラギン→リジンの1カ所が置換しているのに対し,≧8?g/m?の株は526番目のアスパラギン→リジンの置換に加え,377番目のメチオニン→イソロイシン,385番目のセリン→スレオニン,389番目のロイシン→フェニルアラニンの4カ所が置換している.欧米ではBLPAR株の分離頻度が高いが,わが国ではBLNAR株の分離頻度が高く,この原因の一つとして,欧米ではペニシリン系抗菌薬の使用頻度が高く,わが国ではセフェム系抗菌薬の使用頻度が高いことが考えられている.■塗抹鏡検でのコツインフルエンザ菌は,グラム染色標本で大腸菌などのグラム陰性桿菌と比較して球状小桿菌であることから推定可能である(図1).■培養法ヘモフィルスとは,その名のとおり血好性を意味し発育に血液成分を必要とするが,生のヒトやヒツジの血液中には発育阻害物質が存在するので発育しない.このため,培養には阻害物質を不活化するために血液寒天培地を加熱して作製したチョコレート寒天培地が用いられ,ヒツジ血液寒天培地での発育を比較することで推定される(図2).(69)51.b?ラクタマ-ゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌(BLNAR)眼感染症セミナー─クライシスコントロール講座─●連載?監修=浅利誠志井上幸次大橋裕一山崎勝利和歌山労災病院検査科近年,b-ラクタマーゼを産生せずにアンピシリンに耐性を示すインフルエンザ菌(beta-lactamase-nonpro-ducingampicillin-resistant:BLNAR)の拡散が問題となっている.この耐性メカニズムは,PBP3(penicillinbindingproteins-3)をコードする????遺伝子に変異が生じることでb-ラクタム系薬の親和性が低下することに起因している.図1インフルエンザ菌のグラム染色標本インフルエンザ菌はグラム陰性球状小桿菌である.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007■耐性菌判定法BLPAR株はニトロセフィン法を用いた赤色発色により検出される(図3).わが国の臨床検査室で広く用いられている米国臨床検査標準化協会(ClinicalandLabora-toryStandardsInstitute:CLSI)の基準では,ABPCのMICが≧4?g/m?を耐性と規定しているが,この判定基準はBLPAR株に対するものであり,BLNARを検出するための基準ではない.多くの施設ではABPCのMICが≧2?g/m?の株をBLNAR株として判定していると思われるが,≦1?g/m?を示す株にもBLPAR株とBLNAR株が混在しており,薬剤感受性結果からすべてのBLNAR株を検出するには限界がある.■治療薬剤選択BLNAR株に対してMICが低く有効と考えられるb-ラクタム系抗菌薬として,経口薬ではセフジトレン(CDTR),注射薬ではセフトリアキソン(CTRX)やセフォタキシム(CTX)などの第三世代セフェム系抗菌薬,メロペネム(MEPM)やビアペネム(BIPM)などのカルバペネム系抗菌薬があり,b-ラクタム系抗菌薬以外ではレボフロキサシン(LVFX)やガチフロキサシン(GFLX)などのフルオロキノロン系抗菌薬が推奨される.文献1)生方公子,千葉菜穂子,小林玲子ほか:本邦において1998年から2000年の間に分離された?????????????????????の分子疫学解析─肺炎球菌等による市中感染症研究会収集株のまとめ─.日化療会誌50:794-804,20022)ClinicalandLaboratoryStandardsInstitute:Performancestandardsforantimicrobialsusceptibilitytesting;16thinformationalsupplement.CLSIdocumentM100-S16,CLSI,Wayne,Pa,2006(70)◎検査室から眼科医へ◎通常の薬剤感受性結果は点眼薬や眼軟膏には対応していませんが,眼科医は点眼薬や眼軟膏を使用した場合に薬剤感受性結果が参考になりますか?◎眼科医から検査室へ◎ご指摘のとおり,眼科で使用されている点眼薬,眼軟膏は通常CLSIの基準で示されている?g/m?オーダーではなく,mg/m?オーダーの高い濃度で使用していますので,耐性との結果が検査室から返ってきても実際には,その薬剤が十分効いているということもあります.MICやそれに基づくCLSIの基準は点眼薬の局所での効果を類推する一つの指標にすぎず(もちろんそれも重要で参考になりますが),PAEや組織移行など他の多数の因子が絡まりあって最終的な臨床効果となると考えられます.BLNAR,BLPARについては眼科での第一選択薬がニューキノロン系点眼薬であることから,臨床的に現在あまり問題となっていませんが,インフルエンザ桿菌は小児の結膜炎の重要な起炎菌であることから,眼科のドクターにもBLNAR,BLPARについて知っておいていただくことは重要だと思います.鳥取大学医学部視覚病態学井上幸次図2ヒツジ血液寒天培地/チョコレート寒天培地でのインフルエンザ菌の発育ヒツジ血液寒天培地(左)では発育していないが,チョコレート寒天培地(右)では発育することからヘモフィルス属を推定する.図3ニトロセフィン法を用いたb-ラクタマ-ゼ試験左:陰性,右:陽性.☆☆☆

光線力学的療法(PDT):治療の実際:IA-guided PDT

2007年8月31日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007????0910-1810/07/\100/頁/JCLS視力や血管病巣形態など比較的光線力学的療法(PDT)前の条件が似ている症例を選んだ.ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)に対して当院でインドシアニングリーン蛍光眼底造影検査(IA)の結果をもとにPDTを行った2症例である1,2).●予後良好例(図1)〔症例1〕69歳,男性.片眼PCV.左眼は1年前から視力低下を自覚していた.PDT前視力右眼1.0,左眼0.4.(67)大谷篤史京都大学大学院医学研究科眼科学光線力学的療法(PDT)セミナー監修/石橋達朗湯沢美都子11.治療の実際:IA-guidedPDTポリープ状脈絡膜血管症(PCV)は加齢黄斑変性(AMD)の一型として光線力学的療法(PDT)が行われている.PCVはPDTに対する反応性,予後が他のAMDと比べ良いが,まれに悪化してしまう症例が印象に残り,事前に予後を判断できないかと考えさせられることも多い.その一助になるかどうかはわからないが,当院での2症例を提示する.提供図1IA-guidedPDT予後良好例(症例1)a:左眼眼底写真;橙赤色隆起病変は明瞭でない.b:フルオレセイン蛍光眼底造影;オカルト病巣と色素上皮?離.c:インドシアニングリーン蛍光眼底造影;小さいポリープ状病巣が集簇.黄点線:IA-guidedGLD=3,000mm.d:OCT;色素上皮下結節状病巣,中心窩漿液性網膜?離.黄線:IA-guidedGLD.abcd図2IA-guidedPDT予後不良例(症例2)a:左眼眼底写真;黄斑部耳側に橙赤色隆起病変.b:フルオレセイン蛍光眼底造影;オカルト病巣と色素上皮?離.c:インドシアニングリーン蛍光眼底造影;ポリープ状病巣明瞭.黄点線:IA-guidedGLD=2,800mm.d:OCT;色素上皮下の病巣と色素上皮?離,中心窩漿液性網膜?離.黄線:IA-guidedGLD.abcd———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007PDT後左眼視力3カ月後0.9,1年後0.9.●予後不良例(図2)〔症例2〕86歳,女性.両眼PCV.左眼は1年前から視力低下を自覚していた.PDT前視力右眼0.06,左眼0.4.PDT後左眼視力3カ月後0.8,1年後0.2.症例1,2ともPDT前左眼視力は0.4であった.ところが症例2では1年後左眼視力0.2,対照的に症例1はPDT1年後左眼視力0.9であった.症例1では1回のPDTで所見,視力とも改善し,その後1年間安定していた.対照的に症例2ではPDT後3カ月の時点では視力,所見とも改善がみられたものの,その後再増悪し,PDT後1年の時点で活動性のあるPCVが存在し,視力も低下した.提示した2症例のPDT前病状にはあまり違いがないようにみえるが,出血などを含めた全病巣の大きさは治療結果と関連する可能性はある.当院での症例ではIA検査で描出されるPCV血管病巣に比し,出血,色素上皮?離などをすべて含めた全体病巣が大きい場合は,多くの症例でPDTによる視力,所見の改善が得られにくいことがわかった(第45回網膜硝子体学会).両症例ともIAで計測した病変部の最大直径(GLD)に差はないが,出血を含めた全病巣範囲は症例2で大きかった.また,結果的にPDT照射範囲が大きくなる症例でもPDT後しばらくして比較的大きな出血がみられることが多い3).PCVでは病巣の大きさが活動性や予後に関連するのかもしれない.これまで当院では,IA-guidedPDTを実施した際,(68)照射範囲が小さいため,予後が悪くなったと考えられる症例は経験していない.短期的にはIA-guidedPDTはPCVに対し非常に有効であり,当院では1回の照射でほぼ全例にポリープ状病巣の消失が得られた1).しかし,今回の症例2のようにその後病態に差が出てしまうことは珍しいことではなく,PCVの予後は長期的に考える必要がありそうだ.同一症例に違う治療を行い,効果を比較することはできない.自然経過に任せたほうが良いのか,治療介入したほうが良いのかの判断がむずかしい症例は多い.もしかしたら,長期的なPCVの予後は治療の介入にかかわらず,すでに決しているのかもしれないとさえ思わされるときがある.このようにいってしまえば元も子もないのだが,PDTなど加齢黄斑変性(AMD)治療は始まったばかりである.今後,長期的な治療経過を解析することにより,PCVの本質,本態とそれに対する治療効果,PDTの有効な使い方などの情報が出てこよう.現時点でいえるのは,IA-guidedPDTはPCV病巣に少なくとも短期的には非常に有効であること,その後長期的に悪化していく症例があること,現在使える治療はすべて対症療法であり使用には工夫が必要であろうということである.文献1)大谷篤史:ICGA-guidedPDT.眼科48:1233-1242,20062)OtaniA,SasaharaM,YodoiYetal:Indocyaninegreenangiography:guidedphotodynamictherapyforpolypoidalchoroidalvasculopathy.???????????????144:7-14,20073)HiramiY,TsujikawaA,OtaniAetal:Hemorrhagiccom-plicationsafterphotodynamictherapyforpolypoidalcho-roidalvasculopathy.??????27:335-341,2007☆☆☆

緑内障:緑内障の動物モデル(2)-マウスモデル,その他-

2007年8月31日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007????0910-1810/07/\100/頁/JCLSはじめに霊長類や齧歯類モデルによってこれまでに緑内障の発症機序に関する貴重な情報が得られている.しかし,ヒトとの比較において,厳密には眼球の構造も異なっており,病気の進行速度も加速化されている場合もある.ここで紹介する各モデル動物で観察される現象はそのままヒトに当てはまるわけではない.しかし一つひとつの動物モデルは緑内障の一面を捉えていると考えられ,これらの情報を総合的に検討することによって,緑内障に関係する共通なメカニズムの発見につながる可能性がある.この点について,単一あるいは複数の遺伝子についてこれを欠損や過剰発現させる技術が確立しているマウスモデルには期待が寄せられている.●マウスモデルマウスモデルはラットモデルの影で開発が遅れていたが,近年目覚しいマウスの遺伝子改変技術の進歩によって,目的とするトランスジェニックマウス,ノックアウトマウス,ノックインマウスなどが容易に作製されるようになり,眼球が小型であるという欠点がありながら,モデル動物として利用される機会が増加している.また,マウスは他の哺乳類に比べてデータベースが整備されており,遺伝子,蛋白質,代謝系,行動パターンに至るまで詳細な情報を手に入れることが可能である.しかしながら,マウスには緑内障モデルとしての欠点も存在する.マウスとヒトでは視神経乳頭周辺の血管構造が異なることや,篩状板が存在しないなどの違いがあり1),眼球の取り扱いについても不利な面がある.その一つに眼圧測定のむずかしさがある.これまでにマウス専用の侵襲式や非侵襲式の眼圧測定法が開発されているが,最も信頼性の高い眼圧測定法としては,角膜の厚さや曲率半径などに影響されない侵襲式の方法がある.圧力計に接続したガラス管の針をマウスの前房に差し込み,眼圧を測定する方法である.この方法によって,異なるマウスの系について10~20mmHgの眼圧差が存在することが明らかになった2).非侵襲式の利点は多数のマウスの眼圧を短い時間で測定できることであるが,角膜の性状に影響される.いずれの方法についても安定した結果を得るにはやはり訓練が必要である.最近の遺伝子解析研究によってミオシリン,チトクロム???????,オプチニュリン,?????が緑内障遺伝子として発見されているが,これらの遺伝子改変マウス(65)●連載?緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄86.緑内障の動物モデル(2)─マウスモデル,その他─岩田岳独立行政法人国立病院機構東京医療センター臨床研究センター(感覚器センター)分子細胞生物学研究部門緑内障研究において動物モデルの存在はきわめて重要である.前号では霊長類とラットモデルについて紹介したが,今回はヒトにつぐ情報量と最新の遺伝子改変技術が利用できるマウスモデルについて,その眼球サイズが小さいことから生まれる実験のむずかしさを含めて紹介したい.図1正常マウスとオプチニュリン変異体(Glu50Lys)を発現するトランスジェニックマウスの視神経乳頭変異体マウスでは網膜神経線維層が菲薄化している.正常マウス変異体マウス———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007が緑内障を発症するのか研究が行われている.遺伝子改変マウスの利点は発症原因が明確なこと,手術的な方法に比べて表現型が安定していること,そして特別な訓練を必要とせずにネズミ算式に繁殖できることである.すでに複数の緑内障マウスが作製されているが,その一つにミオシリンのTyr437His変異を発現するトランスジェニックマウスがある.このマウスは正常マウスに比べて昼は2mmHg,夜は4mmHgの眼圧上昇が認められ,生後1年目には網膜神経節細胞数の20%が減少する3).コラーゲンタイプIa1サブユニットに遺伝子変異のあるトランスジェニックマウスではコラーゲンのメタロプロテアーゼ(MMP1)による分解が阻害され,生後36週ほどかけて眼圧が4.8mmHg上昇することが報告されている.隅角の構造は保持されたまま,網膜神経節細胞層への障害が観察され,開放隅角緑内障マウスモデルとして認識されている4).また,筆者らはオプチニュリンGlu50Lys変異体を高発現したマウスを作製したところ,正常眼圧は維持されたまま,生後1年後には網膜神経節細胞死や視神経乳頭の陥凹が観察されている.マウスに対する手術的な眼圧上昇はラットよりもさらに困難である.C57BL/6Jマウスの前房にインドシアニングリーンを注入し,線維柱帯と上強膜静脈部位の光凝固を施すと,約10日後に眼圧が正常なマウスの15.2±0.6mmHgに対して33.6±1.5mmHgに上昇したが,60日後には正常値に戻ったと報告されている5).網膜神経節細胞層や網膜への機能障害がERG(網膜電図)などによって明らかにされている.SimonJohnらによって報告されたDBA/2Jマウスは2つの遺伝子??????と?????6)に変異があり,色素顆粒の分散による虹彩の萎縮が起こり,虹彩癒着によって生後9カ月後には眼圧が上昇し,視神経乳頭を基点として網膜神経節細胞死が扇状に観察されている7).●その他の動物モデルその他の動物モデルにはウサギ,ブタ,ウシなどが報告されているが,広く利用されていない.眼における遺伝子の機能をすばやくおおざっぱに調べる方法として,ゼブラフィッシュ(zebra?sh)を利用した研究が最近報告されており,ミオシリン,オプチニュリン,?????などの欠損による眼球への影響が報告されている8).残念ながら眼圧は測定できない.文献1)MayCA,Lutjen-DrecollE:Morphologyofthemurineopticnerve.?????????????????????????43:2206-2212,20022)SavinovaOV,SugiyamaF,MartinJEetal:Intraocularpressureingeneticallydistinctmice:anupdateandstrainsurvey.?????????2:12,20013)SenatorovVV,MalyukovaI,FarissRetal:Expressionofmutatedmousemyocilininducesopen-angleglaucomaintransgenicmice.??????????26:11903-11914,20064)MabuchiF,LindseyJD,AiharaMetal:OpticnervedamageinmicewithatargetedtypeIcollagenmutation.?????????????????????????45:1841-1845,20045)GrozdanicSD,BettsDM,SakaguchiDSetal:Laser-inducedmousemodelofchronicocularhypertension.?????????????????????????44:4337-4346,20036)AndersonMG,SmithRS,HawesNLetal:MutationsingenesencodingmelanosomalproteinscausepigmentaryglaucomainDBA/2Jmice.?????????30:81-85,20027)JakobsTC,LibbyRT,BenYetal:Retinalganglioncelldegenerationistopologicalbutnotcelltypespeci?cinDBA/2Jmice.???????????171:313-325,20058)McMahonC,SeminaEV,LinkBA:Usingzebra?shtostudythecomplexgeneticsofglaucoma.????????????????????????????????????????138:343-350,2004(66)☆☆☆

屈折矯正手術:Neuro Vision R

2007年8月31日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007????0910-1810/07/\100/頁/JCLSNeuroVision?は,NeuroVision社によって開発された視覚訓練装置で,軽度近視の裸眼視力を向上させるものとして注目されている.近視が軽く屈折矯正手術がためらわれる場合,術後に誤差が生じるもエンハンスメントに抵抗がある場合,年齢などにより手術適応を満たさない場合,などにおける選択肢の1つと考えられる.訓練の実態は,GaborPatch(正弦波格子縞の小円形視標の一種)を視覚視標とした認知学習である.訓練によりコントラスト感度が高まり,その結果として視力が向上すると考えられている.この装置開発の発端となったのは,ネコ視覚野細胞の受容野に対する反応が受容野以外の部位からの視覚刺激により(細胞のコントラスト感度に依存して)影響を受けるという報告1)と,感受性期を過ぎ可塑性を認めなくなった成人の弱視患者に対する訓練により視力とコントラスト感度の改善が認められたという報告2)とであった.両者とも中心と近傍とにGaborPatchの視覚刺激を置くというlateralmaskingの手法を用いているが,前者はlateralmaskingによる視覚刺激が視覚野のlong-rangelateralinteractionを介して視覚野細胞の反応に影響(反応の促進・抑制など)を与えることを示し,後者は前者と同様の視覚刺激法によりlateralinterac-tionを介して視覚野の機能が高められたことを示したものである.このような神経生理学および心理物理学的研究結果から,GaborPatchを用いたlateralmaskingによる認知訓練はlateralinteractionを介して視覚野のコントラスト感度と分解能とを高める可能性が示唆された.これらの結果を踏まえ,弱視眼の患者以外への応用も考えて開発されたのが本装置である.近年シンガポールにおいて軽度近視に応用され効果が報告されている3,4).近視に対するNeuroVision?の訓練では,具体的にはNeuroVision社が規定する,①年齢9~55歳,②-1.50Dより軽い近視,-0.75Dより軽い乱視,③裸眼視力(63)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載?監修=木下茂大橋裕一坪田一男87.NeuroVision?寺井和都*1溝部惠子*2*1明治鍼灸大学附属病院眼科*2京都第二赤十字病院眼科NeuroVision?は,新たに開発された視覚訓練装置である.視覚訓練により,屈折を変化させることなく軽度近視の裸眼視力を向上させる.本装置の最大の利点は非侵襲的で副作用のないことである.現在,軽度近視,LASIK後,老視の各プログラムがあり,近日中に弱視プログラムが開始される予定である.図1実際の訓練画像イメージ正答すると段階的に標的のコントラストが低下し誤答すると3段階戻る.シングルイメージタスクトリプルイメージタスク正解正解正解正解正解正解正解正解不正解不正解———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.8,20070.1logMAR-0.6logMAR,④裸眼視力の左右差が0.3logMAR未満,⑤高いモチベーション,という適応が推奨されている.訓練参加者はディスプレイ上に連続して表示される2つの画像のいずれに中心視標(target)があったかを答える作業を行うのであるが,正答すると段階的に標的のコントラストが低下し誤答すると3段階戻るしくみとなっている(図1).これをくり返すことにより,コントラスト閾値測定作業がくり返されることになる.Targetの大きさ,方位,近傍Gabor(?ankers)の有無,target-?ankersの距離などのparameterはNeuroVision社がこれまでに蓄積したデータの解析結果に基づいて設定される.1回約30分間の訓練を少なくとも1カ月に9回行い,視力検査の結果が3回連続で0.05logMAR以上の改善が認められない場合,もしくは30回の訓練終了をもって終了となる.筆者らがこれまで軽度近視へ応用した結果では,訓練者8名中6名でlogMAR0.2以上の裸眼視力の改善を認めた.本装置による訓練効果がまったく認められない症例も存在したが,原因については明らかではなかった.例数が増えれば訓練効果に関与する条件などが徐々に明確になると期待される.本装置の最大の利点は非侵襲的で副作用のないことである.屈折に直接関与しないことからさらなる適応の拡大が期待できる.現在,軽度近視,LASIK(laser???????keratomileusis)後,老視の各プログラムがあり,老視は自宅でトレーニングを行うホームエディションが存在する.年内までには,弱視プログラムが開始される予定である.現在国内では7カ所の眼科施設で実施されている.〔ニューロビジョントレーニングの問い合わせ〕国内サポートセンター(㈱アットワーキング)フリーダイヤル:0120-366-445E-mail:support@atworking.com文献1)PolatU,MizobeK,PettetMWetal:Collinearstimuliregulatevisualresponsesdependingoncell?scontrastthreshold.??????391:580-584,19982)PolatU,Ma-NaimT,BelkinMetal:Improvingvisioninadultamblyopiabyperceptuallearning.??????????????????????101:6692-6697,20043)TanDT:Thefutureisnear:focusonmyopia.???????????????45:451-455,20044)LimKL,FamHB:NeuroVisiontreatmentforlowmyopiafollowingLASIKregression.??????????????22:406-408,2006(64)☆☆☆

眼内レンズ:水晶体Retrodots混濁

2007年8月31日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007????0910-1810/07/\100/頁/JCLSRetorodots(RD)は1981年Bronらがスペキュラーマイクロスコープを介してとらえた水晶体混濁所見である1).RDの本体はリン酸カルシウムまたはシュウ酸カルシウムが凝集したものとされている2).当初RDの視機能への直接的な影響は少ないと報告されたこと,正しい観察法を用いないと見落としやすい所見であることから,日常臨床での注目は低い所見である.しかし最近,Sparrowら3),佐々木4)はRDの視機能低下について改めて提唱している.RDの観察法,混濁程度と視機能の関係について解説する.●RDの観察法細隙灯顕微鏡での水晶体観察は斜照法が多用されるが,この観察法でRDを検出することはむずかしい.注意深く観察すると,水晶体核部周囲の皮質深層部に小さな楕円形の盛り上がり,またはcleftとして観察されることはあるが,これを白濁としてとらえることはできない(図1a).しかし,徹照法を用いると瞳孔領内に50~800?mの斑状の陰影としてRDの存在を明瞭に検出することができる(図1b).RDは同心円状に分布してい(61)ることが多く,瞳孔中央部に局在した場合には視機能低下の原因になる.●RDの視機能への影響50歳以上の日本人の約1/4にRDがみられ,70歳以上になるとその有所見率は約50%となる5).また核混濁との合併頻度が高く,約60%である.通常,核混濁程度Ⅱ(WHO分類4))までは視力の低下は少ないが,RDを合併すると視力を含め,視機能が低下する.坂本保夫金沢医科大学感覚機能病態学・眼科学金沢医科大学総合医学研究所環境原性視覚病態研究部門眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎252.水晶体Retrodots混濁水晶体混濁の一病型であるretrodots(RD)は細隙灯顕微鏡下で直接照明法(斜照)による観察はむずかしいが,徹照法では明瞭な斑状の陰影として検出できる.皮質,核,後?下混濁がみられなくても,瞳孔領にRDが局在すると視機能は低下することが多い.RDの観察法と視機能に及ぼす影響を解説した.図1Retrodotsの細隙灯顕微鏡写真aは斜照法.軽度の皮質と核混濁が観察されるが,その他は特に異常所見はない.しかし徹照像(b)では瞳孔領全体に斑状のRD陰影(↑)が明瞭に観察される.ab図2RDの混濁程度と網膜像シミュレーションVAは遠見矯正視力.徹照像内の円は瞳孔中央3mmの範囲.RDはRD陰影が占める割合.シミュレーションは眼鏡による最良屈折矯正状態で,0.1Landolt環視標が網膜に投影される様子を表す.健常正視眼(模型眼)⇒症例1VA:0.8RD:8.5%症例2VA:0.7RD:31.0%症例3VA:0.4RD:64.3%徹照像(EAS-1000,NIDEK)網膜シミュレーション像(PSF-1000,TOPCON)———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007(00)瞳孔領3mm内に小型のRDが10個程度(RD陰影が占める割合:約10%)までは明らかな視機能低下は認めないが,これ以上になるとコントラスト感度が低下する.さらにRD陰影が50%を超えると明らかな視機能障害が起こり,視力も低下する.図2にRDの程度とPSFAnalyzer(PSF-1000,TOPCON)でシミュレートした網膜像の様相を示した.〔症例1〕68歳,女性.軽度の皮質混濁がある以外,視機能低下の原因となるような核・?下混濁はない.瞳孔領3mm内のRD陰影は8.5%,シミュレーションしたLandolt環網膜像はわずかに不鮮明であるが,遠見矯正視力は0.8で,自覚的にも明らかな視機能障害の訴えはない.〔症例2〕81歳,男性.瞳孔領内のRD混濁(31%)以外に視機能低下の原因を疑う所見はない.矯正視力は0.7と顕著な低下はないが,シミュレーション網膜像は明らかに不鮮明となり,コントラスト視力値も有意に低下している(図3).昼間のグレア光付加状態では,25%コントラスト視標値で0.6logMARと同年代の正常値0.29logMARより感度は悪化している.〔症例3〕症例2の右眼でRD混濁は64%,視力,コントラスト感度,シミュレーション網膜像すべての所見が顕著な視機能障害を示している.まとめRDは水晶体混濁所見として広くは認識されていない.しかし,これが瞳孔中央部に局在すると眼内散乱光(前方散乱光)が増強し,視機能低下の一因となる.RD単独でも視機能障害をひき起こすこともあり,日常診療での水晶体観察では,徹照法によるRD検出も重要な検査項目の1つである.文献1)BronAJ,MatsudaK:Specularmicroscopyofthehumanlens.???????????????????????101:163-169,19812)VrensenGF,WillekensB,DeJongPTetal:Heterogene-ityinultrastructureandelementalcompositionofperinu-clearlensretrodots.?????????????????????????35:199-206,19943)FrostNA,SparrowJM,MooreL:Associationsofhumancrystallinelensretrodotsandwatercleftswithvisualimpairment:anobservationalstudy.?????????????????????????43:2105-2109,20024)佐々木洋:白内障の混濁度の評価.すぐに役立つ眼科診療の知識「白内障」(谷口重雄,綾木雅彦編),p23-27,金原出版,20065)曲静濤,佐々木洋,藤澤綾ほか:3主病型以外の水晶体病変有所見率MonzenEyeStudy.臨眼59:903-906,2005図3症例2と3のコントラスト感度視力(CAT-2000,NEITZ)昼間視でグレア光が付加された状態,点線は70歳代の正常眼の平均感度を示す.0102030405060708090100Contrast(%)1.00.80.60.40.20.0logMAR:症例2:症例3:正常70歳代

コンタクトレンズ:ドライアイに対するコンタクトレンズ処方(2)-ハードコンタクトレンズの素材-

2007年8月31日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007????●動物実験HCL,SCLともに角膜上で角膜上皮をこすりながら動く.角膜にCLで機械的ストレスを加えると角膜障害が生じるが,材料を変えた場合,材料によって障害の程度に差がでる.豚眼角膜上皮にHCLで回転摩擦を与える動物実験で,摩擦後上皮のローズベンガル染色が少ない機械的ストレス低障害性HCL材料(サンコンマイルドEpiTM:シリコン,フッ素,デキストランの共重合体から成る酸素透過性HCL,Dk31.1)が見いだされた1)(図1,2).ローズベンガルはドライアイ診断用の色素で,その染色の少なさはHCLの機械的ストレスによる細胞障害とムチン?離が少ないことを意味する2).●臨床試用前記動物実験の結果から,「機械的ストレス低障害性材料HCLは,臨床的にHCL装用者の軽度自・他覚的0910-1810/07/\100/頁/JCLS前回はハードコンタクトレンズ(HCL)のドライアイ用デザインについてとりあげたが,今回はドライアイ患者のCL装用に伴う軽度の自・他覚症状の軽減に有用と考えられるHCL材料についてとりあげる.●概念機械的ストレス低障害性材料HCLという概念をご存じだろうか.HCL,ソフトコンタクトレンズ(SCL)ともに角膜表面に機械的ストレスをかける.この機械的ストレスの少ない材料により作製されたHCLを,機械的ストレス低障害性材料HCLとよんでいる.この材料の存在を知ったのは,10年前に東京歯科大学で開催されたドライアイ研究会のときであったが,昨年4月サンコンタクトレンズ社からサンコンマイルドEpiTMとして発売された.(59)濱田恒一ハマダ眼科コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純TOPICS&FITTINGTECHNICS278.ドライアイに対するコンタクトレンズ処方(2)─ハードコンタクトレンズの素材─図1HCLの回転摩擦で角膜上皮面に障害を与える装置(図はサンコンタクトレンズ・井口郁夫氏の提供)図2各種HCLで回転摩擦を与えローズベンガル染色した豚眼角膜上皮サンコンマイルドEpiTMではローズベンガル染色が少ない.(写真はサンコンタクトレンズ・井口郁夫氏の提供)———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007(00)症状を改善する」と考え臨床的に検討した3).症例は,軽い自・他覚所見のある6例11眼で,できるだけ従来のHCLとデザインを変えない条件で機械的ストレス低障害性材料HCL(サンコンマイルドEpiTM)を処方し,自・他覚所見を2カ月間観察した.症例中にSchirmerテスト5mm以下でドライアイの症例が4例7眼あった.いずれのドライアイ症例も,軽い自・他覚所見(乾燥感,充血,くもる,かすむ,異物感)が改善し,装用時間が延長したものが1例2眼(4~7時間→10時間)あった.機械的ストレス低障害性材料HCL(サンコンマイルドEpiTM)は,ドライアイの症例の,HCL装用時の軽い自・他覚所見の改善に有用と考えられた.●角膜形状に合ったデザインを要求する材料抵抗が少ないからか,このHCLは通常のHCLとは異なる動きをするようだ.抵抗が少ない分デザインに厳しい一面をもち,過去1年ハマダ眼科でこのレンズを処方した56例の患者のうち,1例は動きが気になり装用できなかった.この理由で,この材料でレディーメイドのCLを提供したとしても,なかなか患者の満足度を上げることはむずかしいのではないかと考えている.あくまで,角膜形状に合ったレンズデザインでこの材料で作製した場合に,CLの装用に伴う軽度の自・他覚症状の軽減がはかれるのではないかと考えている.個別の角膜形状の情報を取り込んだデザインを要求するHCL材料といえる.サンコンマイルドEpiTMのレンズデザインは,サンコンマイルドIIと同じに設定されている.材料に合った固有のデザインがあるかどうか,また材料によりレンズデザインを変えるべきかどうかについては,さらに臨床経験の蓄積が必要と考えている.まとめドライアイ患者に有用と考えられる,機械的ストレス低障害性材料HCLにつき,その概念,試用経験,処方時の注意点などについて述べた.文献1)IguchiI,KamiyamaK,ImamichiMetal:In?uenceondynamiccontactofhardcontactlensmaterialsoncornealepithelialcellsexaminedbyrosebengalstaining.?????????????15:647-652,19962)NornMS:Rosebengalvitalstaining:Stainingofcorneaandconjunctivaby10%rosebengal,comparedwith1%.???????????????48:546-563,19703)濱田恒一,喜多健一,有馬勇一ほか:軽い自・他覚所見のあった症例への機械的ストレス低障害性材料HCL(サンコンマイルドEpiTM)の試用.日コレ誌49:108-111,2007

写真:オルソケラトロジーによる合併症(1)-不正乱視-

2007年8月31日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007????0910-1810/07/\100/頁/JCLS(57)吉野健一吉野眼科クリニック写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦279.オルソケラトロジーによる合併症(1)─不正乱視─瞳孔領Basecurve部Reversecurve部Alignmentcurve部Peripheralcurve部瞳孔縁Steepな角膜表面Flatな角膜表面図2図1のシェーマ図1レンズの中心ずれ(レンズ装用6日目)視力:VD=1.2p(1.5×sph-0.25D)と視力は良好だが,夜間の見づらさを訴える.レンズは瞳孔領に対し下方に偏位している.通常,細隙灯顕微鏡による観察では,やや下方にレンズが偏位していても閉瞼時には中央にフィットすることがあるが,トポグラフィーの所見から閉瞼時にも下方に偏位していることがわかる.図3Dimpleveil(装用6時間後)視力:VS=0.3(0.6×sph-2.00Dcyl-0.25DAx90?)と矯正視力も不良である.Looseなフィッティングによりレンズ下に迷入した気泡,または装用前からreversecurveの溝に存在していた気泡が,装用中にbasecurve下に泡沫状に移動して角膜表面を圧迫することにより,ゴルフボール表面の凹み(dimple)のような圧痕(不正乱視)を瞳孔領に生じる.局所の著しいMeyerリングの歪みからトポグラフィーは描出不能となっている.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007(00)特殊なデザイン(図4)をもつRGPCL(rigidgaspermeablecontactlens)を,睡眠中に装用することにより屈折異常を矯正し,日中の裸眼視力を向上する屈折矯正手段をオルソケラトロジー(以下,オルソK)とよぶ.現在日本では6社のオルソKレンズが治験の最中にあり,現時点では未承認のコンタクトレンズ(CL)である.適応と使用方法を遵守すれば有用な屈折矯正手段となりうるが,通常のハードCLとは異なる独特の処方原理により,軽症なものから重症なものまで合併症も散見されている.今後3回にわたりオルソKの合併症を紹介するが,今回は(1)不正乱視である.図4のごとくオルソKによる屈折矯正効果は,直径6mmのbasecurve(BC)部の?at?ttingによる角膜中心部上皮細胞層の菲薄化と,その外側に隣接した幅0.6mmのreversecurve(RC)部のsteep?ttingによる角膜中間周辺部上皮細胞層の肥厚化により生み出されている(図5).したがって,レンズのセンタリングが不良であると,光学領の角膜形状に不正な歪みが生じ視力不良の原因となる(図1).RC,alignmentcurve(AC),レンズの直径を調整することによりセンタリングの改善を試みる必要がある.睡眠時のレンズセンタリングを直接観察することは不可能なため,トポグラファーを用いたセンタリングの間接的な観察が必須となる.Looseなフィッティングのためレンズ下に気泡が入り,その気泡がRC部にトラップされる場合,またはRC部に気泡が残った状態でレンズを装着した場合,その気泡が泡状になってBC下部に移動し,BC部レンズ後面により角膜表面に押しつけられることにより,ゴルフボールの表面のごとく多数のくぼみができる状態をdimpleveilという(図3).このくぼみは,時間をおけばいずれ消失するが,視軸部にかかると不正乱視をつくり著しい霧視の原因となる.いずれの不正乱視も,オルソKレンズの装用を2カ月以上中止することにより,装用前の角膜形状に復帰すると考えられている.図5家兎を用いたオルソK装用角膜の組織像オルソKレンズ装用5日目の家兎角膜パラフィン切片のPAS染色像.Basecurve部の中央角膜上皮細胞層は2~3層に菲薄化し,一方reversecurve部の中間周辺部角膜上皮細胞層は,6~9層に重層化し基底細胞層はその丈を増し全体として肥厚化している.この両者の角膜厚の変化が角膜全体の形状を凹面化し近視矯正を実現しているものと考えられる.(吉野健一:知っておきたいCL合併症.日コレ誌48:267-268,2006より改変)B:Basecurve部C:Reversecurve部D:Reversecurve部Ep:EpitheliumSt:StromaEn:Endthelium図4第三世代オルソKレンズのデザインBCPCRCACオルソK用コンタクトレンズフィッティング黄色く染まっている部分が涙液層.BC:Basecurve(直径6mm)RC:Reversecurve(幅0.6mm)AC:Alignmentcurve(幅1mm)PC:Peripheralcurve(幅0.4mm)(吉野健一:オルソケラトロジー.あたらしい眼科20:465-470,2003より改変)

周辺虹彩切除術と隅角癒着解離術をマスターしよう

2007年8月31日 金曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSPEA+IOLの施行がためらわれる症例(高眼圧,手技的にむずかしい)2)続発閉塞隅角緑内障において炎症が強くLIでは再閉塞が生じやすい症例で,第一選択としてのPEA+IOLがためらわれる症例(炎症が非常に強い)が適応になると思われる.II周辺虹彩切除術の手術手技1.基本的な周辺虹彩切除術の手順1)制御糸2)結膜切開3)Tenon??離4)強膜切開5)虹彩切除6)強膜縫合7)結膜縫合2.強膜弁作製による周辺虹彩切除術(強膜弁作製法)の手順1)制御糸2)結膜切開3)強膜弁作製(1重強膜弁,2重強膜弁)4)強膜切開,虹彩切除5)強膜弁縫合6)結膜縫合A周辺虹彩切除術I周辺虹彩切除術の適応周辺虹彩切除術(peripheraliridectomy:PI)の奏効機序は,閉塞隅角緑内障における瞳孔ブロックにより生じた隅角閉塞を解除することで房水流出路を再建することである.確かに,発作眼や角膜混濁が強い症例,炎症が強く再閉塞が危惧される症例にはレーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)だけでは不十分であるが,手技的に容易であるLIを選択することが多く,実際的にPIの適応が少ないのが現状である.さらに,最近閉塞隅角緑内障の発生機序に瞳孔ブロックだけでなくプラトー虹彩形態(毛様体の位置異常)が関与していることが報告されることで,閉塞隅角緑内障の治療として瞳孔ブロックの解除だけではなく,隅角を開大する目的で水晶体摘出術が推奨されるようになってきている.その結果,昨今問題となっているLI後の水疱性角膜症の発症と相まって,閉塞隅角緑内障治療の第一選択として水晶体摘出術と眼内レンズ挿入術(PEA+IOL)が選択されるようになり,PIの適応がますます減少している.したがって,現在のPIの適応を考えた場合,瞳孔ブロックを解除する目的で,1)LIの施行がむずかしい原発閉塞隅角緑内障で,(49)????*ShinichiroKuroda:永田眼科〔別刷請求先〕黒田真一郎:〒631-0844奈良市宝来町北山田1147永田眼科特集●原発閉塞隅角緑内障のカッティングエッジあたらしい眼科24(8):1033~1040,2007周辺虹彩切除術と隅角癒着解離術をマスターしよう??????????????????????????????????????????????????????????(??)??????????????????????黒田真一郎*———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007〔概説〕基本的術式と強膜弁作製法との違いは,虹彩根部をいかに的確な位置で切除可能かという点と思われる.基本的術式がマスターされていれば,それで問題はないのであるが,最近ではLIが第一選択となる場合が多く,実際に周辺虹彩切除を行う症例が少なくなっていることを考えると,基本的術式のマスターがむずかしい状況になっているのは事実である.したがって,むしろ強膜弁作製法のほうが正確に周辺虹彩切除が施行できるのではと思っている.Schlemm管部位を確認することにより,虹彩根部へ向けての強膜切開が適正な位置で行えることで,確実な周辺虹彩切除術が可能となる.また,虹彩を切除する場合も,残っている強膜が薄いため虹彩根部を適切に切除しやすい.ただ,結膜や強膜の瘢痕形成が強くなるので,将来の緑内障手術に影響する点が問題となる.3.基本的周辺虹彩切除(peripheraliridectomy:PI)の実際術前処置縮瞳:2%ピロカルピンを術前1時間前より15分ごと5回点眼しておく.高眼圧を認めている場合:高浸透圧剤点滴や炭酸脱水酵素阻害薬(ダイアモックス?)静注で眼圧下降を図る.1)制御糸上直筋付着部に制御糸を掛けるが,これはその他の術式の場合と特に違いはない.眼球を下転させ結膜上から筋付着部と思われる部位を有鈎鑷子で?み,4~5-0シルク糸を通糸する.糸を上方に引き眼球を下転させ固定する.2)結膜切開結膜下に2%キシロカイン?Eを注射し,結膜が膨らんだ所を輪部より4~5mm離れた部位で幅7~8mmでやや弓状に切開する(図1).3)Tenon?下麻酔鑷子で強膜を固定し,永田式経結膜球後針で2%キシロカイン?Eを約2m?注入する.4)Tenon?の?離切開した結膜をTenon?と一緒に角膜側にMQAで引き上げ,強膜刀で強膜を擦り上げるようにして結膜角膜移行部を露出する(図2).5)強膜切開外科的輪部の強膜側1/4の部位で,強膜に直角に幅3.5mmで切開を行う(図3).このとき眼球の向きとレーザーブレードの角度を調節し強角膜とブレードが直角になるようにする.最初に1/2強の深さまで切開するが,初心者の場合どうしても浅くなりがちで何回も切れ込むことになるので方向がずれないよう注意しなければならない(図4).また,切開底が確認できないからといって,強膜を鑷子で強く引っ張ると切開方向がずれるのでこれも注意を要する.切開底を確実に確認するために切開部からの出血を凝固止血する(図5).切開底を確認しながら幅一杯に前房まで切開することを心掛けるが,端まで確実に切開することはむずかしい.したがって,一旦前房へ達した後,左右端はブレードを前房側から切り上げるようにして幅一杯に切開する(図6).6)虹彩切除切開創の角膜側を鑷子で?み角膜方向に少し広げると自然に虹彩が嵌頓してくる.強膜側を剪刀で圧迫するとより確実になる.眼圧が高い場合,強く力を入れ過ぎると虹彩が大きく脱出してくる場合があるので注意を要する.嵌頓した虹彩を引っ張り,虹彩後葉まで切開創から脱出させた後,今度は角膜方向へ引っ張り,虹彩根部を切開創に嵌頓させる.ウェッケル剪刀を強膜に押し付けるようにして,できるだけ虹彩根部を切断する.虹彩根部をできるだけ幅広く切除したい場合は,切開創に嵌頓した虹彩を角膜方向に引っ張る際,剪刀の反対側へ引っ張りながら半分だけ虹彩を切断し(図7),そのまま剪刀側へ引っ張りながら残った半分を切除するとよい(図8).7)強膜縫合結膜を切開創の上に戻し,切開創の上を軽く撫でるように圧迫すると,虹彩が元の位置に整復され,角膜を通して切除された虹彩が確認でき,瞳孔も正常位置に戻る(図9).10-0ナイロン糸で3/4~2/3の深さで中央に1糸,または1交差縫合で切開創を縫合する(図10).切開(50)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007????創から塩化アセチルコリン(オビソート?)を注入し,虹彩が嵌頓していないことを確認しながら前房を形成する.8)結膜縫合8-0または7-0シルク糸で連続縫合を行う(図11).9)術後管理点眼は一般の内眼手術と同様,抗菌薬とステロイドの点眼を約2週続ける.さらに,術翌日から1%硫酸アトロピンを1回/日,数日間点眼する.(51)図1結膜をU字型に輪部基底で輪部が確認できるまで切開する.図2強膜上に残ったTenon?を切開除去し,切開予定の強角膜部位を露出させる.図3カリパーで3.5mmの切開幅をマークする.図4レザーブレードで強膜に直角に切開を行う.切開位置は外科的輪部の強膜側1/4とし,深さはできるだけ前房に達するくらいを心掛ける.図5切開部よりの出血を凝固止血する.図6レザーブレードを前房側から引き上げるようにして,切開創を予定幅一杯に拡大する.図7ウェッケル剪刀を強膜に押し付けるようにして,虹彩を左に引っ張りながら右半分を切開する.図8ウェッケル剪刀はそのままで,虹彩を右方向に引っ張りながら残った左半分を切除する.図9結膜上から切開創部位を軽く圧迫して虹彩を整復する.———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.24,No.8,20074.強膜弁作製による周辺虹彩切除術(強膜弁作製法)の実際1)制御糸基本的術式と同様である.2)結膜切開輪部基底切開,円蓋部基底切開のいずれでもよいが,筆者は結膜の瘢痕形成が少なく,後の緑内障手術への影響が少ないことを考慮して円蓋部基底切開を好んでいる.強膜上のTenon?は?離除去しておく.3)強膜弁作製切開予定の強膜上の血管をバイポーラーで凝固止血した後,幅3.5~4.0mm×奥行き3.5mmの角膜輪部を基底とする強膜弁を作製する.強膜弁はシングルフラップ,ダブルフラップいずれでもよい.強膜弁の作製はトラベクロトミーの場合と同様に考えてよく,ダブルフラップの場合,外側強膜弁の幅は4mmとし,1/3層の深さで作製する.内側強膜弁の幅は3~3.5mmとし,トラベクロトミーの場合よりやや浅く作製する.シングルフラップの場合は,ダブルフラップの内側強膜弁の深さと同じ深さで作製する.内側強膜弁を角膜方向に作製して行きSchlemm管の位置を同定する.この場合,トラベクロトミーと同様にSchlemm管内壁を露出させてもよいが,Schlemm管の位置が強膜を透かして確認できる程度の深さでもよい.強膜弁は角膜実質が確認できるまで切開を進める(図12).(52)図10切開創の真中を10-0ナイロン糸で1糸縫合する.図11輪部基底の結膜切開を8-0バージンシルク糸で連続縫合する.図12強膜を透してSchlemm管の位置が確認できる.図16円蓋部基底の結膜切開を9-0バージンシルク糸で結節縫合する.図13Schlemm管の位置よりやや角膜側で,レザーブレードで強膜弁の幅一杯で切開する.図14強膜弁を引っ張ると虹彩根部が嵌頓してくる.図15強膜弁を10-0ナイロン糸で密に縫合する.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007????4)強膜切開,虹彩切除Schlemm管の位置よりやや角膜側に強膜弁幅でレザーブレードにて強膜切開を行う.残っている強膜は薄いため1回で前房に達し,幅一杯に切開しやすい(図13).嵌頓してきた虹彩(図14)を鑷子で角膜側へ引っ張り,剪刀を強膜に押しつけながら虹彩後葉まで切除する.虹彩根部を幅広く切開したい場合は,基本術式と同様左右に振りながら切除するが,残っている強膜が薄いため虹彩根部も幅広く切除可能となり,大きく振る必要はない.5)強膜弁縫合切開した強膜弁を元の位置に戻し,シングルフラップはそのままで,ダブルフラップは内側と外側を同時に,それぞれ10-0ナイロン糸で4~5糸密に縫合する(図15).6)結膜縫合8~9-0シルク糸で連続または結節縫合を行う(図16).7)術後管理基本的術式と同様である.B隅角癒着解離術I隅角癒着解離術の適応閉塞隅角緑内障に対する治療は,機能的あるいは基質的に閉塞した隅角を開放することで房水流出路を再建することを目的としており,特に隅角癒着解離術(gonio-synechialysis:GSL)は基質的閉塞をきたした隅角を開放する目的で適応される術式である.したがって,瞳孔ブロックが解除された後でも眼圧下降が得られない症例で,隅角閉塞の割合が大きく,この隅角閉塞により眼圧上昇が生じていると思われる症例が適応となる.ただ,どの程度の隅角閉塞で眼圧上昇を認めるか明確な基準はないが,過去の経験により約50%以上の隅角閉塞を認めている場合に眼圧上昇をきたすと考え,GSLは閉塞隅角緑内障で約50%以上の基質的隅角閉塞が確認された症例に対して適応があると考える.最近の実際的な治療方針としては,眼圧上昇を認めている閉塞隅角緑内障に対し,まずLIか周辺虹彩切除術(PI)を施行する.LI後の水疱性角膜症が危惧されたり,プラトー虹彩形状の関与を考慮すると,可能ならばPEA+IOLを第一選択としたいところである.その後の眼圧により,眼圧下降が得られた場合は隅角が開放されたものとしてそのまま経過観察とするが,LIまたはPIだけの症例は経過とともに水晶体の前方移動により隅角閉塞が進行することもあるので,時期をみてPEA+IOLを施行したい.眼圧下降が得られなかった場合は,隅角検査にて隅角閉塞の割合を確認し,50%以上の閉塞率ならばGSLを選択する.閉塞率が50%以下ならば混合型緑内障と考え開放隅角緑内障の治療に準じる.II隅角癒着解離術の手術手技1.手術手順1)制御糸を掛ける2)Tenon?下麻酔3)眼球の位置決め(顔の位置,顕微鏡の位置),隅角確認4)角膜ポート作製,粘弾性物質の注入5)癒着解離6)各象限での癒着解離7)粘弾性物質の吸引〔概説〕GSLは水晶体摘出術を併用したほうが成績が良く,基本的にPEA+IOLとの同時手術か,前もってPEA+IOLを施行しておくことを原則とする.同時手術の場合,筆者は角膜の視認性を保つために先にGSLを行うようにしている.GSLを施行する場合,患者の頭位と術者の位置,顕微鏡の傾きや方向を大きく変換することが必要であり,この点においても前もってベッドや顕微鏡を調節しておく必要がある.2.手技の実際1)制御糸上下直筋付着部に4-0シルク糸で制御糸を掛ける(図17).(53)———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.24,No.8,20072)Tenon?下麻酔耳側下方で永田式経結膜球後針でTenon?下麻酔を行う.3)眼球の位置決め制御糸を左右に引っ張り,12時方向が対側にくるよう眼球を回旋する.12時方向が下になるよう頭部を回し(図18,19),さらに顎を上げながら,プリズム(スワンヤコブ型)を角膜に乗せ,12時方向の隅角が確認できるように調節する.さらに,隅角が確実に確認できるよう,顕微鏡の傾き,術者の位置を細かく調節する(図20,21).(54)図17上下直筋付着部に制御糸を掛け,眼球を回旋するように引っ張る.図1812時方向が観察しやすくなるように顔の傾きや制御糸を調節する.図19頭を傾け隅角が観察しやすい角度に調節する.図20術者の座る位置を下方からに変更し,顕微鏡の方向と傾きを調節し隅角が確認できるようにする.図21プリズムを乗せ隅角が観察できることを確認する.図22隅角方向に向かって角膜ポートを作製する.図23スパーテルで圧迫しながら後房水も抜いておく.図24最初に前房内の解離針の位置を確認してからプリズムを乗せる.図25解離針の先をプリズム下で確認し,ゆっくりと隅角方向へ進めていく.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007????4)角膜ポート作製,粘弾性物質の注入Vランスで中央よりやや利き手側にポートを作製する(図22).スパーテルで圧迫しながら後房水も抜いておく(図23).粘弾性物質をゆっくり注入し,ある程度前房を形成した時点で隅角の視認性を確認する.癒着部位がはっきり確認できるまで粘弾性物質を追加注入する.前房保持が良いのは高分子のものだが,隅角の端まで充?されにくいため,癒着部位の視認性が悪くなる場合があるので注意を要する.また,あまり多く入れると虹彩が下方に下がり癒着部位がかえって確認しにくくなるので,虹彩面が平坦になるくらいが良い.5)癒着解離プリズムを乗せない状態で解離針を隅角付近まで挿入してから(図24),プリズムを乗せ解離針を確認する.解離針の先が隅角底に届くまでゆっくりと進め(図25),解離針を回すようにして先を下方に動かす.解離針の先の曲がりは,左右方向あるので術者の使いやすい方向のものを使用する.癒着部位の少し手前を下に押し下げ,CB帯が確認されるまで解離する(図26,27).強く解離すると隅角部より出血するので注意を要する.プリズムの位置を調節して,その状態で確認できる部位を解離した後,顕微鏡と術者の座る位置を少しずつ移動させながら,可能な範囲で解離を行う.つぎに制御糸を反対方向に引っ張り,6時方向に近い部位が確認できるように調節する.同様の操作で解離を行うが,解離針の角度が合わない場合は別の部位にポートを作製する.6)各象限での癒着解離反対側の解離を行うには,顔を反対方向に傾け,顕微鏡の向き,術者の位置も180?反対の方向に調節し直す(図28).同様にして,角膜ポートを作製した後,順次癒着部位を解離していく.耳側を解離する場合,鼻の上からアプローチするため,解離針の動きに制限が生じるので,解離針を動かしやすい位置に角膜ポートを作製する.6時方向を解離する場合は,12時部位の制御糸を左(55)図26解離針を回すようにして先を下に動かし,癒着した虹彩根部の少し手前を押し下げる.図27CB帯が確認できたところで解離を止める.図28反対側の解離を行うために,術者の座る位置,顕微鏡の位置,患者の頭の傾きをすべて反対に設定する.←図296時方向を解離する場合,制御糸を下方に引っ張り眼球を下転させ,さらに顎を引いて隅角が確認しやすいよう調節する.→図30解離した虹彩根部がレーザー光で凝固され,白く緩やかに縮み平坦になるよう照射量を調節する.———————————————————————-Page8????あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007右に開くように下方に引き眼球を下転させる(図29)が,不十分な場合は,頭を上げたり,顕微鏡を前方に向け隅角が確認できるように調節する.7)粘弾性物質の吸引バイマニュアルI/Aで粘弾性物質を吸引するが,症例によっては角膜ポートが自己閉鎖しない場合がある.前房形成が悪い場合は,10-0ナイロン糸でポート部位を縫合する.8)術後管理点眼は一般の内眼手術と同様に考えて良いが,炎症が強い場合はステロイド点眼回数を増やしたり,場合によってはステロイドの内服を追加する.縮瞳剤のピロカルピンは,むしろ隅角が狭くなるので使用しない.9)Lasergonioplasty(LGP)癒着解離を行った後,プラトー虹彩形状を認めている場合,再癒着を予防する目的でLGPを施行する.施行時期は炎症が治まったGSL後3~4日で,施行条件は通常のLGPと同様に考えてよい.筆者は照射径400?m,照射時間0.3秒とし,照射量は虹彩が白く凝固し,縮んで平坦になる程度としている(図30).追加:白内障手術を追加施行する場合は,6)の後から行うが通常のPEA+IOLに準じてよい.ただし,前房が浅かったり,Zinn小帯が緩んでいる場合もあるので,それぞれに対処しながら施行する.(56)