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マルチパーパスソリューション

2007年6月30日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSの適合性,眼障害,選択方法について概説する.I日本で販売されているMPSの特徴現在,市販されているMPSの消毒成分は塩化ポリドロニウムあるいはポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)である.上述したStandalonetestはISOで採用されているコンタクトレンズケア用品の消毒評価試験であるが,試験菌のうち細菌(黄色ブドウ球菌ATCC6538,緑膿菌ATCC9027,セラチア菌ATCC13880)に対しては対数減少値が3以上で,真菌(カンジダATCC10231,フザリウムATCC36031)に対しては対数減少値が1以上であると消毒剤は液に漬けておくだけで効果があると判断され,一次基準をクリアしたMPSに分類される.このはじめにソフトコンタクトレンズ(SCL)は細菌や真菌などの微生物に汚染しやすいため,毎日の消毒が義務づけられている.日本では1972年のSCL発売以来,100℃で20分間の加熱消毒(煮沸消毒)が厚生労働省(旧厚生省)により定められていたが,加熱によるSCLの劣化の防止,簡便性やコンプライアンスの面からコールド消毒(化学消毒)が開発された.1992年には過酸化水素を用いた消毒剤が,1995年には多目的用剤(multipurposesolu-tion:MPS)が,2001年にはポビドンヨードを用いた消毒剤が発売された.MPSは,1剤で洗浄だけでなく,消毒,すすぎ,保存ができることから,誤使用がない,簡便であるがゆえにコンプライアンスが高いなどの特徴があるが,他の消毒法に比べて消毒効果が弱いという問題がある.しかしながら,MPSの消毒効果は近年向上しており,国際標準化機構(ISO)のStandalonetestの一次基準に適合したもの(multipurposedisinfectingsolution:MPDSといわれることもある)も発売された.一方,消毒効果が高くなれば細胞毒性が問題となる症例が生じる.特に,シリコーンハイドロゲルレンズ(SHCL)とMPSおよびMPDSとの適合性が問題視されている1~4).これらに含まれる化学物質によってアレルギー反応を生じることもある5).本稿では,MPDSを含めたものを広くMPSとし,日本で販売されているMPSの特徴を述べた後に,SCLと(53)???*KiichiUeda:山口大学大学院医学系研究科眼科学/ウエダ眼科**RyojiYanai:山口大学大学院医学系研究科眼科学〔別刷請求先〕植田喜一:〒751-0872下関市秋根南町1-1-15ウエダ眼科特集●コンタクトレンズの流れを読むあたらしい眼科24(6):747~757,2007マルチパーパスソリューション?????????????????????植田喜一*柳井亮二**図1ISOのStandalonetest(文献6より改変)**:contactlensdisinfectingproduct(コンタクトレンズ消毒液)に分類**:contactlensdisinfectingregimen(コンタクトレンズ消毒システム)に分類Standalonetest不合格一次基準試験合格*試験合格**Regimentest二次基準不合格試験不合格不合格試験不合格合格合格———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007(54)表1市販されているMPSの性状と特徴メーカー日本アルコン日本アルコンエイエムオー・ジャパンエイエムオー・ジャパンチバビジョンロート製薬ロート製薬製品名オプティ・フリー?プラスオプティ・フリー?コンプリート?テンミニッツコンフォートケア?フレッシュルックケア?10ミニッツロートCキューブソフトワンモイスト?ロートCキューブソフトワンクール?外観消毒成分塩化ポリドロニウム(ポリクォッド)(11ppm)塩化ポリドロニウム(ポリクォッド)(11ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)洗浄成分クエン酸テトロニッククエン酸ポロクサマーチロキサポールポロクサマーポロクサマーポロクサマー粘稠剤──HPMCHPMC─HPMCHPMC特徴クエン酸とテトロニックによるデュアルアクション洗浄システムテトロニックによる潤いの持続作用独自の消毒成分ポリクォッドによる高い消毒効果と高い安全性クエン酸による洗浄システム独自の消毒成分ポリクォッドによる高い消毒効果と高い安全性消毒が最短10分で完了HPMCとポロクサマーの働きで優れた潤いクッションポロクサマーとPHMBの働きで優れた洗浄・消毒効果涙液に近い性状で瞳にやさしいしっかり消毒.蛋白汚れの付着も防止レンズに潤いを与える成分をプラス涙液に近い性状だから,目にやさしい1本で,洗浄・すすぎ・消毒・保存がOK消毒,洗浄が最短10分で完了リン酸塩,EDTA,ポロクサマーの3つの成分で相乗的に汚れ除去液体粘性を高めることで,潤いを持続清涼洗浄成分をプラスすることで,爽快なつけ心地を実現メーカーファシル旭化成アイミー旭化成アイミーエイコーエイコー日本油脂日本オプティカル製品名フォレストリーフレンズコートワンボトルケアクリアモイストケアピュアモイストケアピュラクルモイストティアラ外観消毒成分PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)洗浄成分───ポロキサマーポロキサマー─ポロキサマー粘稠剤HPMC─HPMCHPMCHPMC─HPMC特徴PHMBでSCL表面を効果的に消毒HPMCで乾燥を防ぎ,快適な装用感涙液成分(リン脂質)に着目し,開発された潤い成分(リピジュア)配合PHMBでSCL表面を効果的に消毒HPMCで乾燥を防ぎ,快適な装用感乾燥を防ぐ潤い成分HPMC配合洗浄成分ポロキサマーでレンズの汚れを除去乾燥を防ぐ潤い成分HPMC配合洗浄成分ポロキサマーでレンズの汚れを除去涙液成分(リン脂質)に着目し,開発された潤い成分(リピジュア)配合乾燥を防ぐ潤い成分HPMC配合洗浄成分ポロキサマーでレンズの汚れを除去PHMB:ポリヘキサメチレンビグアニド,HPMC:ヒドロキシプロピルメチルセルロース.(メーカー提供)*ワンボトルケアはフォレストリーフのOEM,モイストティアラはクリアモイストケアのOEM,レンズコートはピュラクルのOEM.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???一次基準をクリアするほどの消毒効果はないものの,二次基準(3種類の細菌に対し対数減少値がそれぞれ1以上,かつその和が5以上を示すとともに,真菌に対して浸漬中に菌数の増加を認めない)に適合する消毒剤はregimentest(用法用量に従った試験)の合格基準(消毒後の菌数の平均がレンズ当たり10コロニーを超えないこと)をクリアした場合はregimen試験適合消毒剤と判断される6,7)(図1).日本でも2003年に,市販されているMPSに対してこのStandalonetestに準拠した方法で,一次基準に合格する消毒効果を有するかどうかを自主点検するようにという内容の行政通知が発出されている6).現在,日本でメーカーが一次基準をクリアしたと公表しているMPS(いわゆるMPDS)はレニュー?,レニュー?マルチプラス,コンプリート?アミノモイスト,エピカコールド,バイオクレン?ワン,バイオクレン?ゼロである.現在市販されているMPSの性状ならびに特徴をまとめたものを表1,2に示す.各製品は消毒成分のほかに洗浄成分(界面活性剤)や保湿成分(粘稠剤)などを添加して付加価値を高めている.IIMPSとSCLとの適合性SCL使用者にMPSを使用すると角膜ステイニングが発生することから,SCLとMPSとの適合性がこれまでにも問題視されていたが,新しい素材であるSHCLにおいても同様の角膜ステイニングが高頻度に発現することが報告されている4).1.短時間使用による角膜ステイニングMPSに浸漬したSCLの短時間装用試験ではMPSに配合される消毒成分によって角膜ステイニングの発生に差があることが報告されている4)が,筆者らも検証を行った8).試験レンズにはSCL2種(2ウィークアキュビュー?,マンスウエア)とSHCL1種(O2オプティクス)を,化学消毒剤にはMPS3種(エピカコールド,レニュー?マルチプラス,オプティ・フリー?プラス)と過酸化水素消毒剤1種(エーオーセプト?)を用いた.2ウィークアキュビュー?はイオン性高含水SCL,マンスウエアは(55)表2市販されているMPDSの性状と特徴メーカーボシュロム・ジャパンボシュロム・ジャパンエイエムオー・ジャパンメニコンオフテクスオフテクス製品名レニュー?マルチプラスレニュー?コンプリート?アミノモイストエピカコールドバイオクレン?ワンバイオクレン?ゼロ外観消毒成分PHMB(1.1ppm)PHMB(0.7ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)洗浄成分ポロキサミンハイドラネート(蛋白除去成分)ポロキサミンポロクサマーPOE硬化ヒマシ油(植物原料の界面活性剤)ポロクサマーポロクサマーポリリジン(蛋白付着防止)粘稠剤──HPMC──ヒアルロン酸,HPMC特徴ハイドラネートの働きで蛋白除去まで1本でOKPHMB(ダイメッド?)とポロキサミンの働きで優れた洗浄・消毒効果PHMB(ダイメッド?)の働きで優れた消毒効果を発揮ポロキサミンの働きで優れた洗浄効果と潤いの持続3つの潤い成分(PG/HPMC/ポロクサマー)で潤いを長時間キープアミノ酸配合で瞳にやさしい環境をサポートアミノ酸で蛋白変性防止消毒効果と安全性の両立高い脂質洗浄力蛋白付着防止効果2つの潤い成分(POE硬化ヒマシ油/PG)による潤い効果PHMBでしっかり消毒ポロクサマーで高い洗浄効果と潤い効果ヒアルロン酸の効果で潤いを持続ポリリジンで蛋白付着防止POE:ポリオキシエチレン,PG:プロピレングリコール.(メーカー提供)———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007非イオン性高含水SCLで,エピカコールドとレニュー?マルチプラスはPHMBを含有し,オプティ・フリー?プラスは塩化ポリドロニウムを含有する.ブリスターケースから取り出した試験レンズを化学消毒剤に16~24時間浸漬した.男性6名,女性9名の計15名を被験者として,片眼には化学消毒剤で処理した試験レンズを装用し,他眼にはブリスターケースから取り出した試験レンズを生理食塩水で十分にすすいだ後に装用した.2時間装用した後に,試験レンズをはずして,角膜所見をフルオレセイン染色下で細隙灯顕微鏡(ブルーフリーフィルターを使用)で観察した所見を宮田の点状表層角膜症の重症度分類〔AD分類(A:area,D:density)〕9)に照らして評価した(表3).化学消毒剤で処理された試験レンズの装用によって生じた角膜ステイニングの代表例を図2に示す.化学消毒剤を使用しない未処理の各レンズにおいても角膜ステイニングが発生したが,程度の軽いものであった.a.SCLの装用による角膜ステイニング2ウィークアキュビュー?ではすべての化学消毒剤においてこれらで処理をしたレンズと未処理のレンズで発生した角膜ステイニングの範囲および密度に有意な差はなく,化学消毒剤の種類によって発生した角膜ステイニングの範囲および密度に有意な差はなかった(図3).マンスウエアではエピカコールド,オプティ・フリー?プラス,エーオーセプト?で処理されたレンズは未処理のレンズと角膜ステイニングの範囲および密度に有意な差はなかったが,レニュー?マルチプラスで処理されたレンズは有意に高かった.エピカコールド,オプティ・フリー?プラス,エーオーセプト?については発生した(56)表3点状表層角膜症の重症度分類〔AD分類(A:area,D:density)〕GradeArea(範囲)Density(密度)0点状染色なし点状染色なし1点状染色の範囲:角膜全体の1/3未満点状染色の密度:疎(離れている)2点状染色の範囲:角膜全体の1/3~2/3点状染色の密度:中程度3点状染色の範囲:角膜全体の2/3以上点状染色の密度:密(ほとんど隣接)図2化学消毒剤で処理されたレンズの装用によって生じた角膜ステイニングの例※:本試験においてA2D3に相当する症例は観察されなかった.(文献8より)A1D1A1D2A1D3A2D1A2D2A3D1A3D2A3D3A2D3※———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???角膜ステイニングの範囲,密度のいずれにおいても有意な差がなかったが,レニュー?マルチプラスは角膜ステイニングの範囲においてエピカコールドおよびエーオーセプト?より有意に程度が高く,密度においてもエピカコールドと有意な差があった(図4).b.SHCLの装用による角膜ステイニングエピカコールド,オプティ・フリー?プラス,エーオーセプト?で処理されたO2オプティクスは未処理のO2オプティクスと角膜ステイニングの範囲および密度に有意な差はなかったが,レニュー?マルチプラスで処理されたO2オプティクスは有意に高かった(図5).エピカコールド,オプティ・フリー?プラス,エーオーセプト?については発生した角膜ステイニングの範囲,密度のいずれにおいても有意な差はなかったが,レニュー?マルチプラスはエピカコールド,オプティ・フリー?プラス,エーオーセプト?より角膜ステイニングの範囲が有意に広く,密度も有意に高かった(図5).SCLについては含水率およびイオン性の異なる2種類の含水性レンズを使用したが,SCLによって角膜ステイニングの発生に違いがあった.非イオン性高含水SCLのマンスウエアでは化学消毒剤の種類によって角膜ステイニングの発生に有意な差を認めたが,イオン性高含水SCLの2ウィークアキュビュー?では有意な差を認めなかった.PHMBはプラスに帯電しているため,(57)図32ウィークアキュビュー?の短時間装用による角膜ステイニング(文献8より改変)0%20%40%60%80%100%処理未処理エピカコールド処理未処理レニュー?マルチプラス処理未処理オプティ・フリー?プラス処理未処理エーオーセプト?0%20%40%60%80%100%処理未処理エピカコールド処理未処理レニュー?マルチプラス処理未処理オプティ・フリー?プラス処理未処理エーオーセプト?密度範囲:Grade0:Grade1:Grade2:Grade3図4マンスウエアの短時間装用による角膜ステイニング(文献8より改変)**1*2**2*1*20%20%40%60%80%100%処理未処理エピカコールド処理未処理レニュー?マルチプラス処理未処理オプティ・フリー?プラス処理未処理エーオーセプト?0%20%40%60%80%100%処理未処理エピカコールド処理未処理レニュー?マルチプラス処理未処理オプティ・リー?プラス処理未処理エーオーセプト?密度範囲:Grade0:Grade1:Grade2:Grade31:**p<0.01Mann-WhitneyのU検定2:**p<0.01Steel-Dwass検定1:**p<0.05Mann-WhitneyのU検定2:**p<0.05Steel-Dwass検定———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007マイナスに帯電している2ウィークアキュビュー?とのイオン結合は強く,レンズ内にPHMBは著しく取り込まれる一方で,レンズ外には放出されにくい.そのためPHMBを含むMPSで処理された2ウィークアキュビュー?では角膜ステイニングの発生が少なかったのではないかと推察する8).MPSとSCLの組み合わせによる角膜ステイニングの発生には,PHMBなどの薬剤のSCLへの吸着と放出が関与していると考える.工藤らはPHMBを含有するMPSで処理したO2オプティクスを装用すると高頻度に角膜ステイニングを発生すると報告している4)が,現在市販されているMPSは消毒成分としてPHMBを含有していても,それぞれPHMB以外の配合物を含有するため,これらの作用によって角膜ステイニングの発生が異なると考える.エピカコールドはPHMBを含有するが,その他の成分としてグリコール酸やアミノメチルプロパンジオール(AMPD)が配合されており,これらの相互作用によりイオンバランスが調整され,PHMBの角膜への影響を弱めていると推察する8).化学消毒剤で処理されたSCLの装用による角膜ステイニングは装用後短時間で発生し,その後回復傾向を示す.具体的には装用2時間後に強い角膜ステイニングを認めた症例でも,装用6時間後には軽微となっていることがほとんどであると報告されている4).MPSに含まれる消毒成分やその濃度,さらには他の成分などが角膜上皮細胞に影響を及ぼし,角膜ステイニングを生じたと考えるが,上皮障害そのものの程度は軽いため角膜上皮細胞の伸展,移動で治癒すると推察する.2.継続使用による角膜ステイニング角膜ステイニングはレンズをはずして,フルオレセインで染色してブルーフリーフィルターでわかる程度の軽度の所見が多いが,このステイニングが臨床上問題になるかを確認することを目的として,筆者らはMPSでケアされたレンズを継続使用した症例の角膜所見を評価した.試験レンズにはSCL2種(2ウィークアキュビュー?,マンスウエア)とSHCL1種(O2オプティクス)を,化学消毒剤にはMPS2種(エピカコールド,オプティ・フリー?プラス)を用いた.男性10名,女性24名の計34名の被験者を3群(2ウィークアキュビュー?群:16名,マンスウエア群:8名,O2オプティクス群:10名)に分けて,エピカコールドとオプティ・フリー?プラスをそれぞれ1カ月間使用させて,角膜ステイニングの発生を調べた.フルオレセイン染色下で,細隙灯顕微鏡(ブルーフリーフィルターを使用)で観察した所見をAD分類9)に照らして評価した.レンズの装用時間は10時間以上とした.(58)図5O2オプティクスの短時間装用による角膜ステイニング(文献8より改変)**1**2**2**2**1**2**2**20%20%40%60%80%100%処理未処理エピカコールド処理未処理レニュー?マルチプラス処理未処理オプティ・フリー?プラス処理未処理エーオーセプト?0%20%40%60%80%100%処理未処理エピカコールド処理未処理レニュー?マルチプラス処理未処理オプティ・フリー?プラス処理未処理エーオーセプト?密度範囲:Grade0:Grade1:Grade2:Grade31:**p<0.01Mann-WhitneyのU検定2:**p<0.01Steel-Dwass検定———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???2ウィークアキュビュー?では,エピカコールドの使用で2名4眼に,オプティ・フリー?プラスの使用で1名2眼に,マンスウエアではエピカコールドの使用で1名2眼に,オプティ・フリー?プラスの使用で1名1眼に,O2オプティクスではエピカコールドの使用で1名2眼に,オプティ・フリー?プラスの使用で2名4眼にMPSによると考えられる角膜ステイニングが観察された.ただし,これらの角膜ステイニングは,いずれのレンズにおいても軽度なものであり,臨床上問題とはならなかった.いずれのレンズにおいても,エピカコールドとオプティ・フリー?プラスで角膜ステイニングの発生に有意な差はなかった(図6~8).エピカコールドとオプティ・フリー?プラスは短時間使用でも角膜ステイニングの発生の少なかったMPSであるが,本試験の結果から継続使用によるMPSの成分の蓄積で角膜ステイニングが悪化する可能性が低いこと(59)図62ウィークアキュビュー?の継続使用による角膜ステイニング0%20%40%60%80%100%エピカコールドオプティ・フリー?プラス密度範囲:Grade0:Grade1:Grade2:Grade3n=320%20%40%60%80%100%エピカコールドオプティ・フリー?プラスn=32図7マンスウエアの継続使用による角膜ステイニング0%20%40%60%80%100%エピカコールドオプティ・フリー?プラス密度範囲:Grade0:Grade1:Grade2:Grade3n=160%20%40%60%80%100%エピカコールドオプティ・フリー?プラスn=16図8O2オプティクスの継続使用による角膜ステイニング0%20%40%60%80%100%エピカコールドオプティ・フリー?プラス密度範囲:Grade0:Grade1:Grade2:Grade3n=200%20%40%60%80%100%エピカコールドオプティ・フリー?プラスn=20———————————————————————-Page8???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007が示唆された.日本ではSCLの消毒として1992年より化学消毒剤が使用されるようになった.当初,化学消毒剤の製造(輸入)承認申請に際しては,各レンズについて個々の化学消毒剤との組み合わせごとに一定の試験を行いその適合性が評価されていたが,1999年にSCLを原材料ポリマーの含水率およびイオン性により分類(FoodandDrugAdministration:FDA分類)されるようになってからは,4分類(グループⅠ:非イオン性低含水,グループⅡ:非イオン性高含水,グループⅢ:イオン性低含水,グループⅣ:イオン性高含水)のうち,グループⅠおよびⅣに属する任意の代表レンズを各1種類ずつ選択し,そのレンズに対する適合性について必要な試験を行うだけで評価されるようになった.すなわち,レンズと化学消毒剤が1対1の対応から,グループ分類に従って,2種類のレンズを試験することによって,市販されるすべてのレンズについて認可が得られるようになり,煩雑であった申請が簡素化され,多くの化学消毒剤が短期間で認可されるようになった.このFDA分類は含水性SCLに対してはあまり問題になることはなかったが,SHCLについても同様に分類してよいかという問題がある10).SHCLを含む含水性SCLと化学消毒剤の適合性は個別に確認したほうがよいと考える.IIIMPSによる角結膜障害上述した角膜ステイニング以外に注意したいのはアレルギー反応である.両眼に生じた原因不明の角結膜障害(輪部充血,角膜周辺部に多発する小さな角膜浸潤など)を生じた場合(図9)にはMPSによるアレルギー反応を疑う必要がある5).角結膜障害はステロイドの点眼ですぐに治癒するが,MPSを再使用すると同様の障害が生じることで臨床的に診断できる.他の種類のMPSに変更するか,過酸化水素消毒剤,ポビドンヨード消毒剤に変更する.MPSで消毒できない細菌の毒素に対するアレルギー反応が生じることもある.MPSによるこすり洗いを徹底させることや,消毒効果の高いMPSや他の消毒剤に変更する必要がある.最近では細菌がレンズケースに付着してバイオフィルムを形成し,バイオフィルム感染症を生じることがあると報告されている11).レンズを装用したらレンズケースの中の保存液を捨てて汚れを十分に洗浄して自然乾燥させることや,1~3カ月ごとにレンズケースを交換することを指導して,レンズケースが微生物に汚染されないようにしなければならない.IVMPSの選択MPSに求められる条件としては,高い消毒効果と洗浄効果を有すること,生体に対する安全性に優れていること,CLへの影響が少ないこと,などである.これらのバランスがよいものが第一選択となる.1.消毒効果MPSは消毒剤であることから,高い消毒効果を有することが求められる.筆者らはMPSを含む化学消毒剤の微生物に対する消毒効果の有効性を検討した.図10は塩化ポリドロニウム製剤(日本アルコン株式会社),PHMB製剤(AMOジャパン),過酸化水素製剤(AMOジャパン),ポビドンヨード製剤(株式会社オフテクス)の消毒効果を比較したものである.細菌に対してはどの消毒剤も十分な消毒効果を示したが,カンジダ,アカントアメーバ,アデノウイルスに対してはポビドンヨード製剤以外の消毒剤は十分な消毒効果を示さなかった12,13).(60)図9MPSによるアレルギー反応(文献5より)———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???2.生体に対する安全性筆者らはSCLの消毒剤として使用されている消毒成分の安全性を確認するために,培養したヒト角膜上皮細胞を用いてニュートラルレッド法により評価した.すべての消毒成分が濃度依存性に細胞障害性を示していたが,製剤で使用されている濃度では過酸化水素の細胞障害率は90%以上であったのに対して,PHMB製剤は10%程度でPHMBが最も安全性が高かった(図11)14).市販SCL消毒剤の家兎角膜上皮のバリア機能を評価した実験でも,過酸化水素製剤はカルボキシルフルオレセインの取り込み量が有意に増加していたが,塩化ポリドロニウム製剤およびPHMB製剤はコントロールと差がなかった(図12)15).過酸化水素製剤は角膜上皮バリアに影響を与えるが,PHMBは影響を与えないことが(61)図10化学消毒剤の微生物に対する消毒効果(文献12,13より改変)細菌真菌アカントアメーバウイルス緑膿菌黄色ブドウ球菌セラチアフサリウムカンジダアカントアメーバアデノウイルス:ポビドンヨード製剤:過酸化水素製剤:塩化ポリドロニウム製剤:PHMB製剤543210微生物減少値(log個/m?)図11化学消毒剤のヒト角膜上皮細胞に対する影響(文献14より改変)細胞障害率(%)100806040200010201008060402000102010080604020001020(時間)(時間)(時間):0.05%(製剤配合濃度):0.005%(1/10):3%(製剤配合濃度):0.3%(1/10):0.03%(1/100):0.003%(1/1,000):0.1%(1,000倍):0.01%(100倍):0.001%(10倍):0.0001%(製剤配合濃度)ポビドンヨード過酸化水素PHMB図12家兎摘出眼球に対する化学消毒剤の角膜障害性(文献15より改変)0.040.030.020.010カルボキシフルオレセイン取り込み量(nmo?/mm2)*ポビドンヨード製剤過酸化水素製剤塩化ポリドロニウム製剤PHMB製剤コントロールn=3,平均±標準誤差4時間曝露*:Dunnett?stestp<0.05———————————————————————-Page10???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007示唆され,PHMBの細胞毒性は比較的軽いものと考えられる.3.CLへの影響MPSによってレンズに物理化学的な変化が生じないことは必須である.レンズの物理化学的変化はレンズの光学性の変化,フィッティングの変化,装用感の悪化,角結膜障害につながる.筆者はO2オプティクスを化学消毒剤6種(エーオーセプト?,オプティ・フリー?プラス,コンプリート?・モイストプラス,レニュー?マルチプラス,フレッシュルック?ケア,クレンサイド)で処理した後に,レンズの形状,外観,色調,直径,ベースカーブ,頂点屈折力(パワー),含水率,光線透過率(視感透過率)を測定した.各測定値は厚生労働省告示第349号(2001年10月5日)と医薬発第1097号(2001年10月5日)の基準を満たしていた16)(表4).これらの測定値以外に各種化学消毒剤のレンズ表面の沈着やレンズ内への蓄積に問題がないかなどを検証する必要があると考える.このように各MPSは,製品によって消毒効果や生体への安全性,CLの影響ならびにCLとの適合性(角膜ステイニングの発生など)に違いがある.さらに,蛋白除去などの洗浄効果や潤い効果にも違いがあるため,これらを考慮して製品を選択する必要がある.消毒効果の高いMPSは微生物に強く作用するだけでなく,正常な角膜上皮細胞にも影響を及ぼす可能性がある.頻回交換SCLのように比較的短期間で新しいレンズと交換するのであれば,消毒効果の低いMPSでも臨床上問題になることは少ないと考えるが,従来型SCLや1~3カ月間の定期交換SCLのように長期間使用するのであれば,消毒効果の高いMPSを選択したい.特に角膜感染症の既往のある人では消毒効果の高い化学消毒剤(MPDS,ポビドンヨード製剤,過酸化水素消毒剤)あるいは煮沸消毒を選択する.白内障術後の無水晶体眼で従来型SCLを使用している人に対しては煮沸消毒が第一選択である.おわりにMPSは簡便なレンズケアとして,SCL使用者に広く普及しているが,消毒効果が弱いことや,含水性SCLおよびSHCLとの組み合わせによる角膜ステイニングの発生,MPS特有のアレルギー反応などの問題がある.現在,MPSは多くの製品が販売されているが,これらの特徴を把握してCL使用者に適する製品を選択することが求められる一方,MPSの使用による眼障害を認めた場合はその原因を究明して適切な対応を図ることも求められる.Standalonetestは特定の細菌ならびに真菌,それも特定した菌株に対する消毒効果を評価したものであるため,これをクリアすればすべての細菌ならびに真菌に対して効力があるというわけではない.一次基準をクリアしたMPDSであるにもかかわらず,海外ではフザリウムによる感染を生じた例がある17,18).ウイルスやアメーバなど他の微生物に対する評価法は規定されていない6).MPSはこれらの微生物に対する消毒効果が低いので十分な消毒効果を期待するのならば他の消毒法を選択したほうがよいといえる.MPSの使用にあたってはこすり洗いの徹底とレンズケースの洗浄,乾燥,および短(62)表4O2オプティクスに対する化学消毒剤の影響1.形状,外観,色調内部に気泡,不純物または変色がなかった表面に有害な傷または凹凸がなかったエッジが角膜に障害を与えるような形状になっていなかった2.直径直径の許容差;±0.20mm内であった3.ベースカーブベースカーブの許容差;±0.20mm内であった4.頂点屈折力(パワー)頂点屈折力の許容差;±0.25D内であった5.含水率含水率の許容差;±2%(絶対値)内であった6.光線透過率(視感透過率)視感透過率の許容差;±5%(絶対値)内であった———————————————————————-Page11あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???期間の交換を促すことが重要である.最近のトピックスとして,SHCLとの適合性の観点から角膜ステイニングの発生のことが取り上げられているが,このステイニングがどの程度臨床上問題になるかを検討する必要がある.個人的な意見としては,臨床上大きな問題となる症例は少ないので,軽度なステイニングであれば経過をみていいのではないかと考える.それよりも重篤な角膜感染症を予防するという観点から消毒効果の高いMPSを選択することが優先される.もし中等度以上の角膜ステイニングが発生した場合に他の消毒剤に変更すればよいと考える.そして,MPSの使用者については定期検査の際に角膜ステイニングやアレルギー反応が生じていないかを注意深く観察することと,充血,異物感,眼痛などの自覚症状がある場合にはMPSの使用をやめてすぐに眼科専門医の診察を受けるように指導することが大切である.(各表中に記載した製品名は2007年4月1日現在市販されているものを列挙した.)稿を終えるにあたり,各製品の調査につきまして多大なご協力を賜りました株式会社メニコンの杉本圭司氏,酒井利江子氏に心から謝意を表します.文献1)GarofaloRJ,DassanayakeN,CareyCetal:Cornealstain-ingandsubjectivesymptomswithmultipurposesolutionsasafunctionoftime.????????????????31:166-174,20052)JonesL,MacDougallN,SorbaraGL:Asymptomaticcor-nealstainingassociatedwiththeuseofbala?lconsilicone-hydrogelcontactlensesdisinfectedwithapolyaminopro-pylbiguanide-preservedcareregimen.??????????????79:753-761,20023)AmosC:Performanceofanewmultipurposesolutionusedwithsiliconehydrogels.????????227:18-22,20044)工藤昌之,糸井素純:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズと消毒剤との相性.あたらしい眼科22:1349-1355,20055)植田喜一:塩化ポリドロニウム(POLYQUAD?)による角結膜障害が疑われた1例.日コレ誌42:164-166,20006)岡田正司:ソフトコンタクトレンズの消毒の評価法(スタンドアロンテスト).日コレ誌48:93-97,20067)小玉裕司:新しいマルチパーパスソリューション.あたらしい眼科22:1345-1348,20058)植田喜一:化学消毒剤による角膜ステイニングの発生.日コレ誌49(2007)(印刷中)9)MiyataK,AmanoS,SawaM:Anovelgradingmethodforsuper?cialpunctatekeratopathymagnitudeanditscorrelationwithcornealepithelialpermeability.????????????????121:1537-1539,200310)佐野研二:FDA分類とSCLケア.日コレ誌47:284-286,200511)工藤昌之:レンズケアと感染症(バイオフィルム感染症).日コレ誌47:224-226,200512)柳井亮二,植田喜一,田尻大治ほか:細菌・真菌に対するポビドンヨード製剤の有効性.日コレ誌47:32-36,200513)柳井亮二,植田喜一,田尻大治ほか:アカントアメーバおよびウイルスに対するポビドンヨード製剤の有効性.日コレ誌47:37-41,200514)YanaiR,YamadaN,UedaKetal:Evaluationofpovi-done-iodineasadisinfectantsolutionforcontactlenses:antimicrobialactivityandcytotoxicityforcornealepitheli-alcells.??????????????????????29:85-91,200615)柳井亮二,植田喜一,戸村淳二ほか:家兎に対するポビドンヨード製剤の安全性.日コレ誌47:120-123,200516)植田喜一:シリコーンハイドロゲルソフトコンタクトレンズと化学消毒剤との適合性.臨眼60:707-711,200617)LevyB,HeilerD,NortonS:Reportontestingfromaninvestigationof????????keratitisincontactlenswear-ers.????????????????32:256-261,200618)稲田紀子:CL装用と感染症第1回─2006年に報告された????????角膜炎多症例について─.日コレ誌49:57-58,2007(63)

おしゃれ用カラーコンタクトレンズ

2007年6月30日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSCLの販売を禁止するよう要望を出したが,「度数のはいっていないCLは視力補正をしないので,CLではない」という見解である.実際には,度数のはいっているはじめに虹彩付カラーコンタクトレンズ(カラーCL)は,治療目的や美容を目的として使用されている(図1).装用者は,眼科専門医に受診することは非常に少ない.非眼科専門医の診察を受ける者も少なく,おもちゃのカラーCLが合法的にインターネット通販や雑貨店などで購入されることが多い.IカラーCLの分類カラーCLは,大きく2つのグループに分けて考えるべきである.一つは,臨床試験を行い厚生労働省の高度管理医療機器の承認を受けて販売されているカラーCL(承認されたカラーCL)であり,もう一つは,玩具(おもちゃ)として輸入して,消費者に売るときは「コンタクトレンズ(CL)」と言って販売している「おもちゃのカラーCL(未承認カラーCL)」である(表1).未承認カラーCLは,臨床試験も行われていないため,安全性も確認できていない.また,未承認カラーCLは,医師の診察をまったく受けずに購入し,使用するため,消毒方法やレンズケースさえ持たない装用者がおり,誤用による眼障害が非常に多くみられる.II度数なしのCLの扱い眼科医であれば,何故,未承認カラーCLが堂々と販売されているのかという疑問をもつであろう.日本コンタクトレンズ学会は,厚生労働省に対して未承認カラー(49)???*KiyoshiWatanabe:ワタナベ眼科〔別刷請求先〕渡邉潔:〒530-0001大阪市北区梅田1丁目大阪駅前ダイヤモンド地下街5-5250ワタナベ眼科特集●コンタクトレンズの流れを読むあたらしい眼科24(6):743~746,2007おしゃれ用カラーコンタクトレンズ???????????????????????渡邉潔*図1フレッシュルック?デイリーズ?を装用したところ表1カラーCLの種類1.高度管理医療機器として承認されたカラーCL1-1.角膜混濁などを隠すためのカラーCL(入手経路:医師の処方)例:シード虹彩付カラーレンズ1-2.虹彩色を変えるためのカラーCL(入手経路:医師の処方,通販で購入)例:イリュージョン,エレガンス,デュラソフトカラー,フレッシュルック?カラー,ワンデーアキュビュー?ディファインTM2.未承認カラーCL(入手経路:通販,雑貨店やエステティックサロンで購入)———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007未承認カラーCLも同じように通販や雑貨店で販売されている.もし,未承認カラーCLで障害を起こした場合は,玩具などと同じように経済産業省の管轄の問題になる.なお,障害が発生すれば,経済産業省とともに厚生労働省も対応するとのことである.未承認カラーCLで障害を起こした装用者は,眼科を受診してはじめて危険なおもちゃであったことを知る.眼科医でさえ,実物を見ても承認を得たCLがどうかわからない場合がある.そのような場合,コンタクトレンズのデータブック1)などがあれば,承認されたCLかどうか判明する.今回の特集のように,読者にカラーCLについての情報を伝えることも重要だと考える.IIIデザインによる分類カラーCLは,着色デザインにより2種類に分けて考えたい.一つは,もともとの装用者の虹彩の色を隠して,CL色を虹彩色としてみせるOpaqueタイプ(図2)で,以前はすべてこのタイプであった(表2).もう一つは,虹彩色を変えるのではなく,角膜周辺部を強調させるEnhanceタイプである.欧米人は,髪の色や虹彩色がさまざまで,髪の色を変えるように虹彩色を変えてみたいという要望で,OpaqueタイプのカラーCLが使用され始めた.Opaqueタイプのなかでは,エレガンス(NaturalTouchTM)のデザインが虹彩色も変えるが角膜径を大きく見せるということで使用する者が多かった(図3).それが改良され,茶色の虹彩色のアジア人にEnhanceタイプが流行し始めた(図4).現在のところ,欧米人にはEnhanceタイプは必要とされず,ワンデーアキュビュー?ディファインTMはアメリカでは発売されていない.また,虹彩色が封入されている場所が,レンズの表面,内面,中央部にサンドイッチなど,いろいろなデザインがある.内面に虹彩色が印刷されているものは,当然,epithelialsplittingなどの角膜障害を起こしやすい1).IV装用スケジュールカラーCLには,従来型,頻回交換,1日使い捨てなどの装用スケジュールがある(表3).2000年頃,従来型カラーCLは,透明のソフトCLに比べて寿命が短いという印象があった.なぜなら,消毒方法が煮沸消毒であり,熱により6カ月くらい使用するとオムレツ状に丸まってくるからである.したがって,筆者は従来型カラーCLの寿命は6カ月程度であると説明し,煮沸消毒ではなく,コールド消毒と蛋白除去の組み合わせを指示している.巨大乳頭結膜炎を多くみるのも蛋白除去を怠る(50)図3エレガンス(Opaqueタイプ,Enhanceの効果もあり)図2デュラソフトカラー(Opaqueタイプ)図4ワンデーアキュビュー?ディファインTM(Enhanceタイプ)表2カラーCLのデザイン上の分類1.Opaqueタイプ(もともとの虹彩色や角膜混濁を隠す)イリュージョン,デュラソフト,フレッシュルック?カラーなど2.Enhanceタイプ(虹彩色を変えず,角膜周辺部を強調させる)ワンデーアキュビュー?ディファインTM———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???装用者が多いためと考える.頻回交換のカラーCLは障害が少なく,さらに,1日使い捨てのカラーCLはほとんど障害をみることがない.使用時間が少ないだけでなく,ケアなどの誤用がないためと考える.V承認されたカラーCLでのトラブル当院の調査では,承認された従来型カラーCLでも,他院で処方された患者の場合,約75%に角膜上皮障害が認められた.アレルギー性結膜炎や巨大乳頭結膜炎を起こしているケースも多い.理由として,医師の説明不足,患者が医師の指導を守らない,ケア方法の誤り,カラーCLを入れたまま寝た,寿命を超えた汚れのひどいCLを使用するなどルール違反の使い方が原因であった(表4).当院で処方した症例では,度数入りも度数なしも9.1%の頻度で障害があった.他のレンズの障害頻度は2~3%であるから,それに比べると障害の頻度は多い.また,他院で処方された症例では,度数入りが48%と多く,さらに度数なしでは86.7%と非常に多くなる.度数入りカラーCLのほうが度数なしカラーCLより障害が少ないのは,度数入りが必要な患者は,すでに他の透明なCLを使用している場合が多く,使用方法やケアの方法の正しい指導を受けているからと推測する.すでに述べたが,毎日使い捨てや頻回交換のカラーCLは非常に障害が少ない.VI未承認のカラーCLでのトラブル未承認のカラーCL装用者は,消毒薬やケア用品を持たないものが多かった.品質的にも色素が溶出した粗悪なCLもあった.未承認カラーCLは絶対に使用しないように装用者に指導しなければならない.眼科専門医の診察を受けていないため,CLが禁忌である眼にCLを装用している場合もある.また,使用方法や定期的な眼科専門医の診察の重要性を知らない.充血や異物感があれば,すぐに眼科専門医の診察を受けることを指導する必要がある.おわりに装用者に対して,高度管理医療機器のカラーCLと未承認のカラーCLの区別をもっとはっきり知らせる必要がある.眼科専門医は,安い医療費でCL診療をするこ(51)表4カラーCLに障害が多い理由?処方および診察なしの購入?装脱指導が行われていない?消毒などケアの仕方がわからない(消毒液を持っていない)?定期的な診察が行われていない?患者のコンプライアンスが悪い?友人と交換する(特に度数なしカラーCLの場合)?変形したり,色素が溶出したりしているCLを無理に装用する表3高度管理医療機器の承認を得たおもなカラーCL販売会社名・商品名使用方法デザインのタイプジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社ワンデーアキュビュー?ディファインTM1日使い捨てEnhanceタイプワンデーアキュビュー?カラー1日使い捨てOpaqueタイプ株式会社シードNaturalTouchTM従来型Opaqueタイプ(Enhanceの効果もあり)シード虹彩付ソフト従来型Opaqueタイプチバビジョン株式会社フレッシュルック?デイリーズ?1日使い捨てOpaqueタイプフレッシュルック?カラー頻回交換Opaqueタイプフレッシュルック?カラーブレンド頻回交換Opaqueタイプイリュージョン従来型Opaqueタイプエレガンス従来型Opaqueタイプ(Enhanceの効果もあり)デュラソフトカラー従来型Opaqueタイプ注:ワンデーアキュビュー?カラーは平成19年6月30日で販売中止.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007(52)とは赤字になるため処方したくないということがあり,カラーCLの装用希望者はますます眼科専門医の診察を受ける機会がなくなってきた.その結果,眼障害を起こして受診する患者が増加している.まずは,未承認のカラーCLを市場から撤退させることが医療費削減になるのではないだろうか.文献1)コンタクトレンズを考える会:カラーレンズ.コンタクトレンズデータブック(改訂2版),p89-98,メジカルビュー社20062)渡邉潔:美容用カラーSCL.ディスポーザブルコンタクトレンズ,p46-49,メジカルビュー社,1998

オーダーメイドハートコンタクトレンズ

2007年6月30日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS異なる.サ社では,角膜のプラチド写真を解析して角膜全域の形状を算出し,その形状に合わせて1枚ずつ適切なデザインの球面レンズが設計される.具体的な解析結果を示す(図1).レンズ径は,角膜径,角膜曲率半径,眼瞼形状などを考慮して決定される.特にベベルデザインについては高い技術を有し,角膜周辺形状との相性を考慮したうえで,個々の眼に合うようベベルが作製される.フィッティングは,眼瞼圧や角膜の剛性などにより変化するので,フルオレセイン染色し,レンズの動きによって最終的には評価する必要があるが,より良好なフィッティングを追求し,自覚症状を改善する目的で,レンズのさまざまな調整や研磨を行う技術がある(図2).具体例として,レンズが下方停止している症例を示す(図3a).レンズの表面周辺部にサ社特有のMZ(溝)加工2)を施し(図2d),上眼瞼による引き上げ効果により,レンズの安定位置が改善した(図3b).繊細にマニュアルでレンズを研磨修正するこれらの専門技術を医師自身が駆使できるようになること3)が理想であるが,すべての医師がその域に達するのは容易ではない.サ社の営業技術員にレンズの研磨を指示することも可能であり,その際,研磨の技術的なアドバイスを受けることもできる.一方,エ社のHCL(DOCTOR?SEX-GタイプLD)は大直径非球面をその大きな特徴としている.正常角膜の形状は周辺になるほどフラットになる非球面である4)ため,大直径にてアライメントフィットが得られるようにはじめに現代では迅速化や簡略化が好まれ,コンタクトレンズ(CL)においても,簡便な処方が可能であり超量産既製品である使い捨てCLが席巻している.その一方で,ハードCL(HCL)の処方頻度は,初装時の強い異物感1)や処方が煩雑である印象により減少傾向にある.しかし,HCLには酸素透過性が高いことや光学性に優れることなど多くの利点がある.特に角膜不正乱視の強い症例では,既製品では対応できないことがある.本来,HCLでは,個々の症例の異なった条件を満たすために,レンズの各部分が角膜に対して自由に設計できるオーダーレンズが理想である.このようなオーダーメイドHCLという高い技術をもつ代表的なメーカーに,サンコンタクトレンズ社(以下,サ社)とエイコー社(以下,エ社)の2社があげられる.2社それぞれのレンズのコンセプトと特徴およびその具体的な処方の一端について紹介する.Iレンズのコンセプトと特徴通常のHCL処方は,直径8.8mm程度の球面レンズをトライアルレンズとして用い,ケラトメータなどで得られる角膜中心部2~3mmの角膜曲率を基にしてベースカーブ(BC)を決定し,レンズの規格が決定される場合が多い.これに対し,2社のレンズはともにコンピュータを用いて角膜全体の形状を解析することによりレンズ規格の決定に至るが,そのレンズコンセプトは2社で(43)???*HirokiFujita:藤田眼科〔別刷請求先〕藤田博紀:〒270-1132我孫子市湖北台1-1-3藤田眼科特集●コンタクトレンズの流れを読むあたらしい眼科24(6):737~742,2007オーダーメイドハードコンタクトレンズ?????????????????????????????????藤田博紀*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007(44)図2レンズの代表的な調整や研磨の方法a:エッジリフトを上げる.b:エッジリフトを下げる.c:周辺部からエッジにかけて薄くする.d:周辺部にMZ(溝)加工を施す.dcab図1サ社のオーダーメイド解析結果角膜のプラチド写真を解析し,適切なデザインの球面レンズの具体的な解析結果が得られる.<解析結果例>図3MZ加工によるレンズの引き上げ効果a:修正前,b:修正後.ab———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???非球面デザインを用いている.中心部のBCと周辺部の離心率を独立したパラメータとして選択できるため,レンズを支持する周辺部では角膜のカーブに対してアライメントするアライメントゾーンが形成され,周辺まで面接触でレンズを支えることが可能となる.具体例として,中心部のBCが8.00mm,直径が10.0mmという同じ条件のHCLで,アライメントゾーンの曲率を変えた際のフルオレセインパターンを示す(図4).大直径非球面HCLは小直径球面HCLと比較して初装時の異物感が軽度であり5),角膜形状に対する影響が少ないという報告もある6).レンズデザインのオプションとしては,サ社と同様に多くの種類の対応が可能であり(図2a~c),数値化してオーダーできるため,再現性という点で優れている.図5に具体的な処方例を示す.レンズが上眼瞼でくわえ込まれ,上方安定していた(図5a)が,レンズ周辺部の厚みを薄くする(図2c)ことにより,安定位置が改善された(図5b).このようなレンズデザインの変更は表面への涙液循環が悪く,自覚症状として異物(45)図4大直径非球面HCL周辺部のアライメントゾーンの曲率を変えた際のフルオレセインパターンa:周辺部の染まりはやや狭い.b:周辺部において適度な染まりがある.c:周辺部の染まりはやや広い.周辺部スティープ周辺部パラレル周辺部フラットabc図5レンズ周辺部の厚みを薄くすることによる安定位置の改善a:修正前,b:修正後.ab———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007感や充血などを訴える症例に対してその改善が期待される.II強度角膜乱視用レンズサ社の強度角膜乱視用レンズ(サンコンマイルドⅡツインベルベベルトーリックタイプ)は,ベベル形状を強弱両主経線の形状に合わせたベベルトーリックデザインを用いている(図6)7).光学部は球面であり,ベベルは弱主経線方向から強主経線方向の円周方向にカーブが段々と小さくなり,強主経線方向が一番小さくなるよう2つの中間カーブがトーリックに設計されている.このデザインにより,全周のベベル幅が均一になりやすく,直乱視の3-9時方向の圧迫が少なくなり,その結果,異物感の軽減,および良好な涙液交換と中心安定性が得られる.III遠近両用レンズエ社の遠近両用レンズ(DOCTOR?SEX-GタイプMF)は,中心が遠用光学部,周辺が近用光学部である(図7).近方を重要視する際には近用光学部を広く変更したり(図7a),逆に遠方を重要視する際には遠用光学部を広く変更したり(図7b),中間距離だけが見にくい場合には,移行部パワー分布をなだらかにしたりするオプションもある(図7c).また,加入度数を変えてオーダーすることもできる.IV円錐角膜用レンズ円錐角膜や角膜移植後などの角膜の中央部と周辺部の曲率の差が大きい症例では,ケラトメータでは角膜形状の測定が困難な場合もあり,このような角膜不正乱視の(46)図6強度角膜乱視用ベベルトーリックCLa:本CLの模式図.IC:Intermediatecurve,PC:Peripheralcurve,OZ:Opticalzone.b:強主経線方向のベベル形状.c:弱主経線方向のベベル形状.PCICⅢICⅡICⅠ強主経線方向の断面図弱主経線方向の断面図OZベベルaフロントベベルbc———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???強い症例に対するオーダーメイドHCLの利用価値は大きい.このような症例では,トライアルアンドエラーによる処方は大変煩雑であり,角膜形状写真解析から得られるレンズデータの精度は高い(図8).サ社にはエムカーブタイプ,エ社にはDOCTOR?SEX-GタイプKCという円錐角膜用特殊レンズがそれぞれあり,高度な円錐角膜まで対応できる.ところで,筆者らはエ社とともに,レンズの下方が浮いて2点接触法になり,CLが外れやすく,良好な装用感が得られにくい高度な円錐角膜症例に対して,新しいコンセプトのHCLを開発した(図9).本CLは上下左右で曲率の異なるデザインであり,レンズ下方での浮きを防ぐためにトランケーションを用い,また,レンズの回転を防ぐためにプリズムバラストを用いた.良好なフィッティングに至るまで,トランケーションの高さやエッジリフトを変更したりするなど,何度もトライアルアンドエラーを要したが,最終的には良好な装用感が得られた.本報告は「Clinicalperformanceofprismballasted-truncatedtoriccontactlensforadvancedkeratoconus」として2007年に米国で開催されたGlobalKeratoconusCongressのポスターコンペティションにて3位に入賞し,レンズデザインのアイデアやレンズの設計加工技術は世界にも評価を受ける高い水準にあることが示されている.おわりに昨年からCLは「高度管理医療機器」に指定され,リスクレベルが最高の医療機器であると認識されており,HCLはそのデザインを個々の症例に合わせるような医療機器であるのが本来の姿である.わが国のCLメーカーは特にHCLに関して高度な技術を有している.処方(47)図8サ社のフルオシミュレーションと実際の装用パターンレンズシミュレーションデータ(a)は,実際のフィッティングパターン(b)の特徴を表している.ab図7遠近両用CLの度数分布の変更中心エリア(mm)周辺レンズ度数(D)baca:遠用重視b:中間距離重視c:近用重視近用光学部遠用光学部累進移行部———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007(48)する側も,さまざまなデザインに関する高度な知識を習得し,そのなかから適切なデザインを選択する高度な処方能力が望まれる.最適なCLを提供するオーダーメイドCLの処方には,個々の症例の自覚症状やフィッティングをレンズデザインにフィードバックする姿勢と手間が医師にも求められる.文献1)FujitaH,SanoK,SasakiSetal:Oculardiscomfortattheinitialwearingofrigidgaspermeablecontactlenses.????????????????48:376-379,20042)小玉裕司:コンタクトレンズフィッティングテクニック.メディカル葵出版,20053)村上正建,稲垣恭子,三枝淳子ほか:ハードコンタクトレンズの下方固着解消の一方法について(第Ⅱ報).日コレ誌25:251-256,19834)KokJHC:AEuropean?ttingphilosophyforaspherichigh-DkRGPcontactlenses.??????18:232-236,19925)藤田博紀,馬場富夫,佐野研二ほか:大直径非球面ハードコンタクトレンズの初装時における異物感の評価.あたらしい眼科24:835-837,20076)猪原博之,前田直之,渡辺仁ほか:非球面デザインレンズと球面デザインレンズが角膜形状に与える影響.日コレ誌40:206-210,19987)小玉裕司:ベベルトーリックハードコンタクトレンズの紹介.あたらしい眼科23:861-865,2006図9新しいデザインの円錐角膜用CLa:本CLの模式図.b:高度な円錐角膜症例の角膜形状.c:従来の球面CL装用による2点接触法.d:本CL装用時.cbd270°180°0°ABCDベベル側面視正面視プリズムバラストトランケーション(ベースカーブ:A≧B≒C≫D)90°a

進化するコンタクトレンズ素材-水との共生-

2007年6月30日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS水との共生」である.本稿では各種CL素材の性質と,それに施された乾きへの対策や水濡れ性向上技術について解説する.それぞれのCL素材の特徴をつかんで,症例ごとにCL素材を使い分けていただければ幸いである.I非含水性HCL素材1.酸素透過性HCL素材の変遷CLの素材は,ほぼ100%有機化合物である.まったく含水せず,まったく弾性をもたないCL用有機化合物というのも実はないのであるが,ここでは一般にイメージされる硬質素材の酸素透過性HCLを想定して,非含水性HCL素材とよぶ.非含水性HCL素材は,1970年前半くらいまで,ポリメチルメタクリレート(図1)が主として用いられてきた.ポリメチルメタクリレートは,安価なうえ,安定しており,さらに優れた光学特性を有するため,現在でも眼内レンズ素材として一定の需要があるのはご承知のとおりである.水に対する接触角が60~70?程度の水濡れ性を示し,親水性のための表面はじめにコンタクトレンズ(CL)が角膜の生理に及ぼす影響を最小限にとどめるためには,その良好な水濡れ性が欠かせない.この30年間,機能性高分子としてのCL素材の酸素透過性能は至上命題とされ,ハードCL(HCL)素材を中心に飛躍的に進歩したが,その一方でCLの水濡れ性の悪化が指摘されてきた.すなわち,1975年ごろ登場したセルロースアセテートブチレートから,酸素拡散係数の非常に高いシリコーン系素材や,酸素溶解係数の高いフッ素系素材への変遷がみられ,酸素透過性素材開発の一定の方向性が示されるなか,これらシリコーンもフッ素系素材特有の強い撥水性がHCLの不良な水濡れ性をひき起こしてしまったのである.一方,酸素が水を担体として運ばれる含水性ソフトCL(SCL)素材の酸素透過性は,その含水率に依存し,1960年に登場したポリヒドロキシエチルメタクリレートから,これにメタクリル酸を組み合わせたり,?-ビニルピロリドン,ジメチルアクリルアミドを用いたりして,ヒドロゲル(以下,ハイドロゲル)素材の高含水化を図る方向で改善されてきた.こうした高含水SCLでは乾きやすさが問題となり,さらに最近では,ハイドロゲルの高分子網目構造自体に,超酸素透過性ではあるが撥水性かつ親油性のシリコーン誘導体を導入したシリコーンハイドロゲルレンズが登場し,やはり,その水との相互作用にフォーカスが当てられるようになった.CL素材開発における現在のトレンドは「CL素材と(29)???*KenjiSano:あすみが丘佐野眼科/東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学〔別刷請求先〕佐野研二:〒267-0066千葉市緑区あすみが丘1-1-8ビアブルック3Fあすみが丘佐野眼科特集●コンタクトレンズの流れを読むあたらしい眼科24(6):723~735,2007進化するコンタクトレンズ素材─水との共生─?????????????????????????????????????佐野研二*CCOOCH2CH3CH3図1メチルメタクリレート重合させてポリメチルメタクリレートとなる.PMMAと略される.優れた光学性能をもつ.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007処理も必要としなかったため,研磨による屈折度数の調整やベベルの切削なども容易であったが,酸素透過性をほとんどもたないというCL素材としては決定的な弱点があった.この時代,メニコン8(エイト)などのレンズ直径を小さくして角膜への酸素供給を考慮した,ポリメチルメタクリレート製のいわゆるマイクロレンズが一世を風靡したことを知る方も多いと思う.1975年ごろ,本格的な酸素透過性HCL素材が登場してくる.セルロース(図2)を酢酸や酪酸とエステル化させたセルロースアセテートブチレート(CAB)である.酢酸などと完全にエステル化されるわけではなく,残存する-OH基によって親水性を保たせることができる.しかしながら,耐久性に劣り使われなくなった.今後,使い捨てCLには応用する余地があるかもしれない.1980年代になると,シロキサニルメタクリレートなどのシリコーン系素材が登場する(図3~5).シリコーン系素材は,Siのまわりの側鎖の回転エネルギーがきわめて低く,容易に回転する側鎖の間隙を酸素分子が大玉送りのように移動する.酸素透過係数,いわゆるDk値は酸素拡散係数と酸素溶解係数の積であるが,シリコーンでは,酸素の拡散係数が非常に高い.撥水性かつ親油性である.この頃,フルオロアルキルメタクリレート(図6)に代表されるような含フッ素化合物(図7~9)もCL素材として登場する.フッ素原子はあらゆる元素のなかで最も電気陰性度が高く,分極率が小さいため,これを用いた素材の表面エネルギーはきわめて低くなり,酸素溶解係数が高くなる1).また,含フッ素化合物は脂質を寄せつけず,耐汚染性に優れるという長所もある2).現在では,酸素透過性HCL素材としてシリコーン系と(30)CCCCCCCCCCOOOOCH2OHCH2OHOHOHOHOHHHHHHHHHHH図2セルロースアセテートブチレート酢酸や酪酸とエステル化してセルロースアセテートブチレートを作る.CABと略される.耐久性,耐汚染性に欠ける.図3ペンタメチルジシロキサニルプロピルメタクリレートシリコーン系.Siの側鎖の回転エネルギーはきわめて低く,ぐるぐる回転するため,その間を酸素が透過していく.すなわち,酸素拡散係数が非常に高い.CCOOSiSiOCH3CH3CH3CH3CH3CH2(CH2)3CH3図4トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルメタクリレート回転エネルギーが低いSiの多さに注目.最近,シリコーンハイドロゲルレンズによく使われることで注目されている.CCOOCH2CH3SiSiOCH3CH3CH3SiCH3CH3CH3O(CH2)3CH3SiCH3CH3CH3図5メチルジ(トリメチルシロキシ)プロピルグリセロールメタクリレート側鎖が長く,酸素が透過できる間隙が大きい.その分,耐衝撃強度は低下する.CCOOOCH2CH3CH2CH2CH2CH2CH2CHOHSiOSiOCH3CH3CH3CH3SiCH3CH3CH3———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???フッ素系素材の共重合体がよく用いられている.2.酸素透過性HCL素材と親水処理シリコーン系もフッ素系も強い撥水性のため,表面にプラズマ処理を施したり,架橋剤に極性をもった親水性のモノマーを用いたり(図10,11)して,少しでも,水濡れ性を高める工夫が施されることが多い.プラズマとは,物質の気体状態にさらに温度を上げた場合に原子の状態を保つことができなくなって裸の原子核と電子となる状態を言い,CLの表面プラズマ処理には通常,有機化合物の気体を用いて,これをCL表面という基板に析出させている.ピンホールのない均質な親水性の超薄膜を作ることができるが,空気中では親水基が素材の中に潜り込んでしまい,レンズ表面が涙液で覆われていないと撥水性のCL表面が露呈されてしまう(図12).数カ月たった酸素透過性HCLの表面が,開瞼した直後から涙液層が破綻していく様子を,スリット上でよく観察す(31)図6フルオロアルキルメタクリレート含フッ素重合体では,フッ素のもつ表面エネルギーが非常に低く,安定しているうえに,分子間隙が広くなるため酸素がよく透過する.すなわち,酸素溶解係数が高い.CCOHOCH2CH3(CH2)n(CF2)m図7トリフルオロエチルメタクリレートフルオロメタクリレート系素材の最もシンプルな構造をもつ.重合しやすい.CCOOCH2CF3CH2CH3図8ヘキサフルオロイソプロピルメタクリレートトリフルオロエチルメタクリレートよりもフッ素の密度が大きくなっている.CCOOCHCF3CF3CH2CH3図9パーフルオロオクチルエチルメタクリレートヘキサフルオロイソプロピルメタクリレートよりさらにフッ素の密度が高くなり,側鎖も長くなって分子間隙が広くなる.CCOO(CH2)2(CF2)7CF3CH2CH3図10?,?¢-メチレンビスアクリルアミドエチレン系モノマー.高分子の合成において最もよく使われるラジカル重合の際の架橋剤としてよく使われる.極性をもち,親水性である.CHCNOHNHCCHOCH2CH2CH2CCOOOCOOCH2CH2CH3CH2CH3CH3図11エチレングリコールジメタクリレートジビニル化合物の架橋剤.架橋剤の濃度は高分子の理工学的性質に大きな影響を与える.図12プラズマ処理後のもぐりこみ効果高分子構造のなかでSiの側鎖や線状ポリマーの主鎖のまわりの親水基は,乾くと素材内に埋没してしまう.水中空気中疎水性CL親水基———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007ることと思う.こうした親水基の潜り込み効果を避けるために,親水性モノマーをHCL表面にグラフト重合する試みも行われている(図13)3).グラフト重合によって,水に対する接触角は改善し(図14),レンズ上の涙液層破壊時間(BUT)も延長している(図15).また,素材によらず,HCLのベベル修正で,ある程度レンズ表面に涙液を誘導して乾きを抑制することもできる(図16).具体的にはベベル研磨によってベベル幅を狭くし,エッジの浮き上がりを少なくするが,職人芸を必要とするため,筆者は何度もレンズをダメにしている.自分で加工するのが億劫な場合や自信のない場合,(32)図13親水性モノマーのグラフト重合レンズ表面に親水性モノマーをグラフト重合して,親水性のコーティングを施されている.SEEDS1に搭載.ラジカル重合種レンズ断面水膜層中を揺れ動く,親水性グラフト高分子鎖親水性グラフトにより形成された水膜層図14親水性モノマーをグラフト重合させたRGPL表面の水に対する接触角100806040200グラフト処理処理なしグラフト処理処理なし*,**:p<0.01気泡法**液滴法*水に対する接触角(度)グラフト重合ありBUT=7secグラフト重合なしBUT=3sec図15親水性モノマーグラフト重合親水性HCLのBUT図16HCLのベベル調整(写真提供:小玉裕司氏)HCLでは,素材選択の他に周辺デザインなどを調整することによって,ある程度,レンズ上の乾きを潤すことができる.しかし,ここまでやってCL検査料112点(一般眼科)とはいかがなものか.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???オーダーメイド的にデザインを変えられるシステムを,サンコンタクトレンズ社,エイコー社,ニチコン社などが用意しているので相談するのも良い.また,酸素透過性素材は,水蒸気も多く透過する場合が多いのであるが,乾きの自覚が強い場合,レンズサイズを大きくすると涙液蒸発も抑えられ,症状が改善する場合もある.なお,サンコンタクトレンズ社から最近,代用血漿,血流改善剤として用いられる超親水性多糖類のデキストランを配合したサンコンマイルドEpiが発表されているので,レンズデザインも含めて同社にコンサルトするのも良いかと思う.私見であるが,表1に酸素透過性HCLの選び方をまとめた.II非含水性SCL素材非含水性SCL素材とは,軟性で,ほとんど含水しないCL用高分子をいう.1978年にシリコーンラバーレンズ(図17)が登場したが,その超撥水性と易汚染性からスタンダードになりえなかった.これまで唯一実用に成功した非含水性SCLは,わが国から発信された,ブチルアクリレートとブチルメタクリレートの共重合体4,5)からなるソフィーナ?だけである.筆者は,現在でも顔面神経麻痺による兎眼患者に,このソフィーナ?を装用してもらっている.しかし,残念ながら生産が打ち切られてしまった.これに代わるレンズがなく,スペアレンズがなくなったらどうしようかと大変困っている.筆者らも,ヘキサフルオロプロピレンとビニリデンフルオライドの共重合体とエチルメタクリレートおよび2-エチルヘキシルアクリレートを組み合わせて,新しい非含水性SCL素材(図18)を合成し2),ソフィーナ?の素材を上回る酸素透過性と水濡れ性(表2)を達成して,その実用化への可能性を模索したが叶わなかった.多数のベースカーブを揃えても,なお,フィッティングがむずかしかったり,良好な涙液交換がむずかしかったりと,さまざまな難点があるが,顔面神経麻痺やドライアイ患者など,一定の需要があるはずなので,今後ぜひ復活してもらいたい分野である.図19は,CIBAVision社の松沢康夫氏に,シリコーンハイドロゲルレンズのO2OPTIXTMの素材からハイドロゲル成分を除いて作っていただいた非含水性SCLである.含フッ素素材でもあり,シリコーンの親油性と易汚染性を打ち消すバランスのとれた超酸素透過性フルオロシリコーン系素材である.ベースカーブは8.60mmで,平均的角膜形状の筆者には快適なレンズであるが,(33)表1酸素透過性HCLの選択涙液蒸発亢進型ドライアイ?サイズ指定のできるレンズサンコンマイルドⅡメニコンEXおよびZエスタージュEXツインベルⅡBUT短縮型ドライアイアレルギー結膜炎?水濡れの良いレンズSEEDS1サンコンマイルドEpi(デキストラン含有)ニチコンうるるUV離心率,ベベルデザインを指定できるオーダーレンズサンコンカスタムメイドレンズドクターズEX-GタイプLDニチコンEX-UV図17シリコーンラバーレンズ素材ポリジメチルシロキサン.Dk値(酸素透過係数)は500もあるが,超撥水性,親油性である.SiOCH3CH3SiOCH3CH3SiOCH3CH3SiOCH3CH3SiOCH3CH3SiOCH3CH3SiCH3CH3図18フッ素系ラバーレンズ素材ヘキサフルオロプロピレン/ビニリデンフルオライドの共重合体をエチルメタクリレートおよび2-エチルヘキシルアクリレートとともに重合した.———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007市販化となるとベースカーブをHCL並みに揃えなければならず,市場経済主義の過酷さに耐え切れずにソフィーナ?の生産をやめてしまった同社の決断を促す道のりは遠い.III含水性SCL素材1.ゲル素材のCLへの応用とその進化ここでいう含水性SCL素材とは,ハイドロゲルのことをいう.ゲルとは,高分子が架橋されて三次元の網目構造を作り,それが水などの溶媒を吸収,膨潤したものと定義される.ゲルがCLに応用されたのは,1960年,チェコスロバキアのオットー・ビヒテルレ博士らの開発したハイドロゲル素材,ポリヒドロキシエチルメタクリレートに始まる.このハイドロゲルレンズは,その後,10年足らずの間に市販化されることとなるが,それ以前のCL素材の代表格であるポリメチルメタクリレートに比べ,酸素をよく通した(ポリメチルメタクリレートとはいえ,酸素透過性はゼロではない).ハイドロゲル内で,水は分子空間を形成している高分子鎖の親水基と水素結合している結合水部分と,分子空間の中を自由に移動できる自由水とに分けられ,ゲルの含水率が二十数%を超えると自由水が生じ始めるとされる(図20,21).この自由水に酸素分子が溶解し,高分子鎖の三次元網目構造の中を移動することにより,ハイドロゲルの酸素透過性が獲得される.当時,ポリヒドロキシエチルメタクリレートを用いたSCLは,臨床的な意味での初の酸素透過性CLとしても注目されたのである.その後,ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)以外に,ジメチルアクリルアミド(DMA),?-ビニルピロリドン(NVP),メタクリル酸(MAA),ポリビニルアルコール(PVA)を組み合わせて素材の含水率を上げ,高酸素透過性を獲得していった.ちなみに,PVAはポリ酢酸ビニルを加水分解して合成するため,ビニルアルコールというモノマーは実存しない.これらのモノマーやポリマーを組み合わせて,多様な含水率,フレキシビリティ,強度をコントロールすることができ,高酸素透過性SCLである高含水ハイドロゲルレンズが成型される(図22).ただし,MAAなどの帯電しているモノマーを一定量以上用いたイオン性ポリマーは,膜強度に優れ,水濡れ性もよくなる一方で,蛋白質が付きやすく,ソリューションの浸透圧やpHに対して含水率が変(34)表2非含水性SCL素材の理工学的性質と架橋剤Sample123ゴム硬度35.8±0.838.8±0.844.6±2.0Dk値*60.8±1.656.0±2.041.7±1.5屈折率(n20D)1.380±0.0011.377±0.0011.378±0.001水に対する接触角(?)79.8±3.880.2±1.881.0±4.5破断強度(g/mm2)2,5001,4001,300モノマー溶出率(wt%)0.0180.001未満0.001未満*Dk値単位:×10-11(cm2/sec)・(m?O2/m?×mmHg).架橋剤のペンタエリスリトールテトラアクリレートの量を,モノマー全体量に対して1,3,5wt%となるように3種類のsample1,2,3を合成し,各種理工学的性質を測定した.架橋剤の量によって,フレキシビリティを表すゴム硬度,破断強度は著しく変化する.図19非含水性フルオロシリコーンSCL(プロトタイプ)含水率を低くしていくほど,酸素透過性は高くなるシリコーンハイドロゲル素材であるが,CIBAVision社にお願いして含水率をゼロにしてみた.同社のメタンプラズマコーティングを施した超酸素透過性非含水性SCLである.空気中に1時間放置しても規格は変わらず,このまま装用できる.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???(35)わりやすい6).また,涙液の安定維持に不可欠なリン脂質の分解酵素であるsecretaryphosphorlipaseA2が付着しやすいという報告もある7).2.水と高含水性SCL使い捨てCLのパイオニアでありながら,Eta?lconA1種類しか素材をもっていなかったJohnson&Johon-son社は,最近,さまざまな新しいCL素材を発表している.その一つが1DayAcuvue?MoistTMに使われているEta?lconAの改良型で,HEMAとMAAの共重合体に親水性のポリビニルピロリドンを物理的に埋包させている.Eta?lconAは,初めての使い捨てCL素材図20高分子と水の束縛状態ゲルの中の溶媒である水には,自由水,中間水,結合水の3つがある.自由水は高分子内で自由に移動し,酸素を運ぶことができる.結合水は親水性高分子に水素結合して束縛されている.中間水は温度が高いと自由水になり,低いと結合水としての挙動を示す.HHHHHHHHHHHHHHHHHHHHOOOHHHOOHHHHOOOOOOOOOO結合水中間水自由水自由水〈親水性高分子と水〉HHHHHHHHHHHHHHHHCH3CH3CH3OOOOOOOO〈疎水性高分子と水〉図22進化する含水性SCL材料左から,ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA),ジメチルアクリルアミド(DMA),?-ビニルピロリドン(NVP),メタクリル酸(MAA),ポリビニルアルコール(PVA).PVAはポリ酢酸ビニルを加水分解して合成するため,ビニルアルコールというモノマーはない.それぞれを組み合わせて,多様な含水率,フレキシビリティ,強度をコントロールすることができ,高酸素透過性SCLである高含水ハイドロゲルレンズが成型される.CCOOCH2CH3CCOO-H+CH2CHOHCH2CH3CH2CH2OHCCNOCH2HCH3CH3HEMACHNCOCH2CH2CH2CH2DMANVPMAAPVAn図21SCLの含水率とDk値一般に結合水をもつ親水性高分子の場合,含水率27%前後から,自由水が生じ,同時に酸素透過性能が現れてくる.シリコーンハイドロゲルの場合は疎水性高分子を用いているので,結合水はほとんど生じず,このグラフのようにはならないと思われる.7060403010502000含水率(%)Dk値×10-11(cm2/sec)(m?O2/m?×mmHg)102030405060708090100———————————————————————-Page8???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007として,ベースカーブを少なくするために非常に高いフレキシビリティが要求され,実際に,筆者らが円錐角膜へのピギーバックレンズシステムによく用いているように,あらゆる角膜形状に対応する能力を示す.しかし,一方でこの軟らかいレンズは,装用後,大気に触れ,瞬目などのストレスによって含水率は低くなる傾向もあり,そこにしっかりとした構造をもつ超親水性ポリマーのポリビニルピロリドンが物理的に組み込まれた意味は大きい.しっかりとした保水性をもったハイドロゲルレンズとなっている.一方,ポリビニルアルコールを素材とするDailies?Aquaもユニークなレンズである.ポリビニルアルコールは優れた生体適合性をもち,人工硝子体や人工血管にも用いられるハイドロゲルで,表面が非常に滑らかな素材である.前述したように,ポリ酢酸ビニルを加水分解して合成するため,素材を,高分子レベルで,結晶の並びを変えたり,結晶化度などを高めたりすることができ,レンズの厚みに頼らずに,硬さ,軟らかさのコントロールがしやすい.Dailies?Aquaでは,Dailies?のポリビニルアルコールの分子量を変え,装用すると,潤滑剤としてのポリビニルアルコール分子をリリースし,角膜を保護する役目を担わせている.また,わが国では未発表であるが,2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)(図23)を混合した含水性SCLもCooperVision社から米国などでは発売されている.MPCは1978年,東京医科歯科大学医用器材研究所の中林教授らによって合成された生体細胞膜模倣材料であり,このときは1gしか合成できず,大量生産には程遠い状況であったが,現在ではあらゆる人工臓器に使われている.細胞膜を構成するリン脂質極性基をもつレシチンと構造が非常に似通っている.水濡れ性がよく,内径2mmの人工血管を可能にするほど生体成分(蛋白質など)との相互作用が非常に少ない素材である.ドライアイの屈折矯正に有効なことは間違いなく,わが国での発表が待たれる.また,SEED2weekPureの素材は,メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライドのN+と,2-メタクリルオキシエチルサクシニックアシドのカルボキシル基(COOH)がCOO-のように電離することにより,極性を維持しながら電気的に中性を保つ.MPC同様,生体膜蛋白質構造によく似るユニークな素材である(図24).IVシリコーンハイドロゲルCL素材1.酸素透過性高分子とハイドロゲルの融合想像上のCL,AllWaterLensが存在したとしてもDk値は80を超えないのであるから,含水性SCLにさらなる高酸素透過性能を求めるならば,ゲルの骨格となる高分子網目構造の部分に,前述した酸素透過性HCL素材の酸素透過機序を持ち込まざるをえない.すなわち,シリコーン系材料か含フッ素材料のハイドロゲルへの導入である.こうした酸素透過性素材はもともと強い撥水性をもち,これがうまくハイドロゲルと融合することができれば,CLに必須である良好な水濡れ性の獲得にも繋がるのであるが,撥水性のものと親水性のものは(36)図232-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)1978年,東京医科歯科大学医用器材研究所の中林らによって合成された生体細胞膜模倣材料.リン脂質極性基をもつレシチンと構造が非常に似通っている.内径2mmの人工血管を可能にする,生体成分(蛋白質など)との相互作用が非常に少ない生体適合性に優れた有機化合物である.OCCOCH2CH2CH3CH3CH3CH3CH2OOPOCH2CH2N+O-メタクリロイル基ホスホリルコリン基図24両性イオン性含水性素材SEED2weekPureのformulation.N+と,カルボキシル基(COOH)がCOO-と電離することにより,極性を維持しながら電気的に中性を保つ.MPC同様,生体膜蛋白質構造によく似るユニークな素材である.CCONHCH2CH2CH2CH2CH3CH3CH3N+Cl-H3CCCCOOOOHOCH2CH2CH2COCH2CH2H3Cメタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド2-メタクリルオキシエチルサクシニックアシド———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???混ざりにくく,同時に共重合しても,なかなか透明にならない.物質が透明性を保つためには規則正しい均一な構造が必要であるからである.性質の異なる種類の高分子は通常,水と油のように非相溶であり,ブレンドすると相分離することが知られている.しかしながら,ブロックコポリマーは,高分子が化学的に結合されているために水と油のようにマクロなスケールで分離することができない.その結果,ミクロ相分離構造とよばれる10nm~1?mスケールの自己組織化された相分離構造が作られ,それぞれの高分子の利点をもった透明な高分子が完成する(図25).将来的に無重力の宇宙ステーションの中でCL素材を合成できれば,素材開発の自由度も相当広がると思うのであるが,頻回交換レンズとして,地上での大量生産が必要な現状では,各レンズともに酸素透過性シリコーン誘導体とハイドロゲルの良好な融合のためにミクロ相分離構造の概念を用いている.また,各レンズの親水性獲得のための手法もアプローチが異なり興味深い.2.O2OPTIXTM海外では30日連続装用CLとして,Night&Day?の名称で1999年に発売されたわけであるから,わが国では最新のトピックスのように扱われているシリコーンハイドロゲルCLも,もうすぐ10年の歴史をもつことになる.内外の学会レベルでは,メニコン社もシリコーンハイドロゲル素材を登場させていたが,シリコーンハイドロゲルCLに関する特許はO2OPTIXTMの製造元のCIBAVision社が広く握っており,他社はその開発販売に苦労していることはよく知られている.O2OPTIXTM素材の特筆すべき点はシリコーン誘導体の欠点である親油性を,撥油性のフッ素を用いて耐汚染性,耐劣化性を改善している点である(図26).筆者が仕事をしていた東京医科歯科大学医用器材研究所(現医用材料工学研究所)では,フッ素系素材の安定性,撥油性,酸素透過性に着目した研究を得意としていたが,(37)図25ミクロ相分離構造性質の異なる種類の高分子は通常,水と油のように非相溶であり,ブレンドすると相分離することが知られている.しかしながら,ブロックコポリマーは高分子が化学的に結合されているために水と油のようにマクロなスケールで分離することができない.その結果,ミクロ相分離構造とよばれる10nm~1?mスケールの自己組織化された相分離構造が作られ,それぞれの高分子の利点をもった透明な高分子が完成する.ハイドロゲル相自由水の移動シリコーン相高酸素透過性ionO2図26O2OPTIXTMの素材シリコーン誘導体の欠点である親油性を,撥油性のフッ素を用いて耐汚染性,耐劣化性を改善している.ハイドロゲルにDMAを用いたのは両者ともメチル基が多く相性が良いのであろう.CCNOCH2CH2RCH3CH3CH3CH3DMAOOOOOOHOSi(CH3)3Si(CH3)3Si(CH3)3SiOSiCH3CH3Siシリコーン・モノマーフルオロシリコーン・マクロマーTRISNCOOlml3HNCOOCH23CH2CH2CH2CF2CF2CF2CH3CH3HOSiCH3CH3SiNCOOHNNHCCOOOOOnCF2CF2O3HNCOOOOCH23———————————————————————-Page10???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007その視点からみると,O2OPTIXTMは非常にユニークで,フッ素系シリコーンハイドロゲル素材,すなわちフルオロシリコーンハイドロゲルCLとよぶべき,いまだに新鮮さを放つ素材である.24%という含水率の低さも乾きを感じさせず,平均的なオキュラーサーフェス形状をもつものにとっては,最高のレンズだと思う.ただ,ハイドロゲルにDMAを用いたのは両者ともメチル基が多く相性が良いからなのであろうが,架橋を緩くするとか,シリコーン誘導体のformulationを改良するとかして,もう少しレンズにフレキシビリティが欲しい.それでなければ,デザインを改良するか,ベースカーブをもう一段大きなものを用意しないと,曲率の大きな角膜形状には対応しきれない.親水処理は,松沢8)によって開発されたメタンプラズマコーティング(図27)とよばれるユニークな手法がとられている.メタンガスに空気を入れてプラズマコーティングしたところがポイントで,20nmという,超薄膜でありながら,C,N,Oを基盤上に析出させ,重合化,超親水化に成功している.正しくはメタンガス・エア・プラズマコーティングとよぶべきであろう.この超薄膜超親水化技術は,あらゆる撥水性素材のCLへの応用を可能とさせうるばかりか,CL以外のさまざまな分野へ応用可能と思われる.3.PureVision?わが国では連続装用専用シリコーンハイドロゲルCLとして登場した.現在発売されているシリコーンハイドロゲルCLのなかで,唯一のイオン性素材であるが,基本的にケアソリューションを使わない「狭義の使い捨てCL」として使用される分には大きな問題はないと思う.基本的に非イオン性素材にフォーカスを当ててきたBausch&Lomb社が,あえて,このレンズをイオン化させたのは,おそらく,フレキシビリティと親水性を付与させたかったのではないかと推察する.イオン性モノマーの導入という極性をもたせることによって,蛋白質が付着しやすくなったり,ソリューションに敏感になったりするデメリットもあるが,もともと,このレンズはケアしないことが前提なので,ケアによる付着蛋白質の変性といった心配はなく,むしろ,シリコーン誘導体特有の強い撥水性を抑えるというメリットが上回るかもしれない.イオン性で含水率36%ともなると,適度な軟らかさをもち,シリコーンハイドロゲルの本来の硬さを上手く緩和している.また,親水性処理は反応ガスとして酸素を用いたプラズマ処理を施している.前述した親水基のもぐり込み効果の出現が想定されるが,使い捨てCLとして1週間装(38)重合反応(モノマー)20nm程度の親水性超薄膜(C,N,O)の形成Mi(MiMkMk)M*kM*iグロー放電(メタンガス+空気)図27メタン・プラズマコーティングメタンガスに空気を入れてプラズマコーティングしたところがポイントである.20nmという,超薄膜でありながら,C,N,Oを基盤上に析出させ,超親水化に成功している.この超薄膜超親水化技術は,さまざまな分野へ応用可能と思われる.図28PureVision?の素材疎水性シリコーン誘導体のTRISに親水性のNH基を取り付けることに成功してNVP,HEMAとの相性を改善させている.TRISVC(TRIS誘導体)CCOOCH2CH3CH2CH2OHHEMACHNCOCH2CH2CH2CH2NVPOOOOOSi(CH3)3Si(CH3)3Si(CH3)3SiOOOOHNOSi(CH3)3Si(CH3)3Si(CH3)3SiTRIS———————————————————————-Page11あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???用する分には問題ないだろう.さらに,疎水性シリコーン誘導体のTRISに親水性のNH基を取り付けることに成功して,ハイドロゲルのNVP,HEMAとの相性を改善させていることも特筆すべき点である(図28).4.Acuvue?AdvanceTMとAcuvue?OasysTMEta?lconA1種類の素材を,厚さを変え,デザインを変え,さまざまな付加価値を与えて多数のレンズラインアップを作ってきたJohnson&Johonson社であったが,先日,Acuvue?AdvanceTMとAcuvue?OasysTMという2種類の異なる素材のシリコーンハイドロゲルCLを同時発売して話題をさらった.ソリューションを用いてケア消毒をする頻回交換CLでは非イオン性が望ましく,今回登場したこれら2種類のレンズは,ともに非イオン性素材である.米国ではAcuvue?AdvanceTMが先発で,Acuvue?OasysTMが後発であるが,OasysTMを単により乾きにくく酸素透過性の高いプレミアムレンズバージョンと位置づけるのには,少々AdvanceTMをunderestimateしており,このAdvanceTMにはこのレンズ特有の長所がある.47%の含水率はシリコーンハイドロゲルCLとしては,注目すべき含水率の高いCLであり,ミクロ相分離構造のうち,ハイドロゲル相のイオン透過性能も十分機能していると思われる.すなわち,酸素が溶解した水の移動とともに,さまざまな物質の十分な交換も期待できるわけである.また,最も軟らかなシリコーンハイドロゲルCLとして,2種類のベースカーブを利用すれば,どんな角膜形状にも対応できる.高分子学的には,Acuvue?AdvanceTMは疎水性シリコーン誘導体のTRISに親水性のOH基を取り付けることに成功して,NVP,DMA,HEMAとの相性を改善させている(図29).Acuvue?OasysTMはさらにシリコーンの量を増やして酸素透過性能を高め,同時に良好なフレキシビリティの獲得に成功している.UsanCouncilのホームページからAcuvue?OasysTMの化学構造を読み取ると,シリコーン誘導体の側鎖を伸ばしていることがわかる.このレンズが,含水率38%という見かけの数値以上に軟らかく,酸素透過性能に優れているのは,シリコーン誘導体の側鎖が長くなることによって,酸素が透過する間隙が大きくなり,良好なフレキシビリティを獲得しているからである.親水処理には,もともと含水率を高く設定し,前述し(39)図29Acuvue?AdvanceTMとAcuvue?OasysTMの素材疎水性シリコーン誘導体のTRISに親水性のOH基を取り付けることに成功して,NVP,DMA,HEMAとの相性を改善させている.Acuvue?OasysTMはさらにシリコーンの量を増やして酸素透過性能を高め,同時に良好なフレキシビリティの獲得に成功している.SiGMA(TRIS誘導体)OOOOOSi(CH3)3Si(CH3)3Si(CH3)3SiOOOOOHOSi(CH3)3Si(CH3)3CH3SiTRISCCOOCH2CH3CH2CH2OHCCNOCH2RCH3CH3HEMACHNCOCH2CH2CH2CH2DMANVP———————————————————————-Page12???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007たようにシリコーン誘導体にOH基を導入したうえに,超親水性ポリマーであるHydraclearTM(ポリビニルピロリドン)を二相性ミクロ相分離構造のハイドロゲル部分に埋包させている(図30).NVPをポリマー状態で,レンズの主成分となるモノマーと重合させる手法は,筆者らがフッ素系非含水性SCL素材を合成したときと同じ方法である2)が,素材の十分な光線透過率を獲得するためにも有効な手段であると思う.涙液などで濡れた雰囲気のなかで,HydraclearTMはレンズ表面に顔を出し,非常に良好な親水性を示す.筆者が2週間装用した後,乾燥させて生理的食塩水を滴下すると接触角は約30?,再び生理的食塩水に浸漬して測ると接触角は0?となった(図31).また,HydraclearTMの成分であるポリビニルピロリドンの保水能力は非常に高いので,レンズ自体の含水率保持能にも貢献しているはずである.Acuvue?OasysTMは,含水率38%という見かけの数値以上に軟らかく,酸素透過性能に優れているため,筆者らは,よくピギーバックレンズシステムに利用している.Acuvue?OasysTM(-0.50D)のフレキシビリティと親水性は素晴らしく,円錐角膜に容易にフィットするうえ,メニコンZ(-3.0D)との組み合わせで,Dk/t値は計算上67.6となり,数値上は連続装用も可能である(図32).装用感は1DayAcuvue?MoistTMに匹敵し,ランニングコストもこちらのほうが安い.(40)図30HydraclearTMによる親水化へのアプローチ超親水性ポリマーであるHydra-clearTM(ポリビニルピロリドン)を,二相性ミクロ相分離構造のハイドロゲル部分に物理的に埋包させた.涙液などで濡れた雰囲気のなかではHydraclearTMは表面に顔を出し,親水性を高める.(文献8より)図31HydraclearTM(PVP)による親水化Acuvue?OasysTM&AdvanceTMに搭載.2週間装用後,乾燥生理的食塩水に対する接触角:約30?2週間装用後,乾燥後,再び含水生理的食塩水に対する接触角:0?gnizilituSLBPgnizilituSLBP8891ecnisLCSD8891ecnisLCSD図32Acuvue?OasysTMとメニコンZによるピギーバックレンズAcuvue?OasysTM(-0.50D)のフレキシビリティと親水性は素晴らしく,円錐角膜に容易にフィットするうえ,メニコンZ(-3.0D)との組み合わせで,Dk/t値は計算上67.6となる.装用感は1DayAcuvue?MoistTMに匹敵する.———————————————————————-Page13あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???(41)おわりに私見を交えて,HCL同様,素材からみたSCLの選択の仕方を図33に示した.シリコーンハイドロゲルCLとひとまとめのカテゴリーで表しているが,そのなかでも三者三様,性質は微妙に異なっているのは解説したとおりである.症例ごとに,レンズの含水率やフレキシビリティを考慮して処方していただけたらと思う.使い捨てレンズの登場と普及によって,外資系資本の勢いが止まらないが,ベースには日本の高分子化学技術が息づいている.MPCは日本油脂であるし,フッ素系素材はダイキン,シリコーン系素材は信越化学である.MPCをはじめ,生体機能にベースをおいた高分子学でもわが国は世界をリードしている9).CL保険診療の締め付けは相変わらず厳しく,一部にCL診療離れがあると聞くが,患者の良好なqualityofvisionのため,そして日本経済のためにもCL処方に前向きになっていただきたいと思う.文献1)黒川考臣:機能性ふっ素高分子.p132,日刊工業新聞社,19822)佐野研二,所敬,鈴木禎,今井庸二:フッ素系非含水性ソフトコンタクトレンズ用素材の研究.日コレ誌36:196-200,19943)佐野研二,勝山晴美,小林里津子ほか:親水性モノマーを表面にグラフト重合させた新しい酸素透過性ハードコンタクトレンズ.あたらしい眼科16:851-853,19994)住江太郎,高橋和彦,伊藤徹男ほか:新しい非含水性ソフトコンタクトレンズの研究.第1報素材の基本物性(その1).日コレ誌25:100-104,19835)住江太郎,高橋和彦,伊藤徹男ほか:新しい非含水性ソフトコンタクトレンズの研究.第2報素材の基本物性(その2).日コレ誌25:142-145,19836)佐野研二:イオン性素材─何が問題なのか.あたらしい眼科17:917-921,20007)望月弘嗣,山田昌和,大野建治ほか:ソフトコンタクトレンズに沈着したsPLA2によるドライアイ.第47回日本コンタクトレンズ学会総会抄録集,p46,20048)松沢康夫:シリコーンハイドロゲルレンズの基礎知識─表面の性質について─.あたらしい眼科22:1315-1324,20059)秋吉一成:生物の匠から学ぶナノテクノロジー.ライフサイエンスレポート1(3):183-187,2004図33SCLの選択涙液蒸発亢進型ドライアイBUT短縮型ドライアイアレルギー結膜炎シリコーンハイドロゲルCL1DayAcuvue?MoistTMDailies?Aqua1DayMedalist?PlusMPC含有レンズ(CooperVisionから発売予定)2weekPure1DayDSCL非イオン性,両性イオン性FRSCL+過酸化水素消毒+人工涙液非イオン性,両性イオン性

乾燥予防ワンデー使い捨てコンタクトレンズ

2007年6月30日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSきるだけ予防するような工夫がなされたワンデーDSCLのノウハウを紹介するとともに,その効果について考えてみたい.I乾燥防止効果を謳ったワンデーDSCLMPSにおいては名称に「モイスト」,「モイスチャー」なるものが使われて,潤い効果,つまり乾燥防止効果を謳ったものが市販されたわけであるが,ワンデーDSCLにおいても「モイスト」あるいは「アクア」という名称を付けて,乾燥防止効果を謳ったものが市販されている.1.ワンデーアキュビュー?モイストTM(図8)ワンデーアキュビュー?モイストTMにはジョンソン・エンド・ジョンソン社が独自に開発した「ラクリオン・テクノロジー」を採用し,親水性高分子であるポリビニルピロリドン(PVP)をポリマーマトリックス内に物理的な方法で閉じこめており,レンズの保湿力を長時間持続できるような工夫がなされている.ワンデーアキュビュー?モイストTMでは保存液中のPVPがレンズ内に閉じこめられており,アキュビュー?アドバンスTMやアキュビュー?オアシスTMでは製造過程においてPVPはシリコーンポリマーと混ぜてから重合されているという違いがある.はじめにソフトコンタクトレンズ(SCL)の他覚的眼障害としては,スマイルマーク点状表層角膜症(SPK,図1),ピグメンテッド・スライド(図2),エピセリアルスプリッティング(図3),周辺部角膜浸潤(図4),角膜潰瘍(図5),角膜内血管新生(図6),巨大乳頭結膜炎(図7)などがある1)が,自覚的訴えとしては乾燥感が最も多く2),マルチパーパスソリューション(MPS)も乾燥感対策としての工夫を凝らしている.乾燥感のなかには,実際にコンタクトレンズ(CL)を装用することによってドライアイ症状がひき起こされて生じるもの3),レンズの汚れによって生じるもの,レンズの収縮・変形によって生じるもの,レンズの張り付きによって生じるものなどがあり,これらが単独あるいは幾つか組み合わさってCL装用者は乾燥感を覚えるものと考えられる.よって単純に乾燥感を訴えるからといって,含水率の低いレンズに替えれば解消するというものではない.乾燥感を訴える2週間頻回交換SCL(FRCL)装用者に対して,同程度の含水率を有したワンデーSCLに変更することで解消できるケースも,実際の臨床の場ではよく経験することである.ワンデー使い捨てコンタクトレンズ(ワンデーDSCL)はMPSなどのケアを必要としない.つまり,乾燥予防をケア用品には頼ることができないわけである.そこで,各社はワンデーDSCLによる乾燥感を解消すべくさまざまな努力をしている.今回は乾燥感をで(23)???*YujiKodama:小玉眼科医院〔別刷請求先〕小玉裕司:〒610-0121京都府城陽市寺田水度坂15-459小玉眼科医院特集●コンタクトレンズの流れを読むあたらしい眼科24(6):717~721,2007乾燥予防ワンデー使い捨てコンタクトレンズ????????????????????????????????????????????????小玉裕司*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007(24)図1スマイルマーク点状表層角膜症図2ピグメンテッド・スライド図3エピセリアルスプリッティング図4周辺部角膜浸潤図5角膜潰瘍図6角膜内血管新生———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???2.フォーカス?デイリーズ?アクア(図9)フォーカス?デイリーズ?アクアにはチバビジョン社が独自に開発した「ライトストリーム・テクノロジー」が採用されている.これは原材料の精製工程を改善し高純度なポリビニルアルコール(PVA)素材を実現するとともに,写真製版を応用したマスキング・テクニックで,原材料であるPVAの架橋結合を誘発する紫外線照射をコントロールして精密かつ均一なコンフォートエッジを形成することができる.このような新しいテクノロジーを採用してレンズの質を向上させることによって,素材の保水効果を最大限に引き出し乾燥予防を図っている.IIその他のワンデーDSCL前2製品のように「モイスト」あるいは「アクア」などという名称を付けないまでも,各社はワンデーDSCLの乾燥予防効果に工夫を凝らしている.ボシュロム社のメダリストワンデープラス(図10)やクーパービジョン社のワンデーバイオメディックス(図11)では,レンズデザインに工夫を凝らしたり,保湿成分の入った保存液(ポロキサミンなどの界面活性剤を使用)を採用して乾燥予防を図っている.III乾燥予防ワンデーDSCLの効果臨床上における乾燥予防ワンデーDSCLの評価は比較的高い.ワンデーアキュビュー?とメニコンワンデー(ワンデーバイオメディックスのOEM:OriginalEquip-mentManufacturer)比較検討を行った報告4)では,自覚的な乾燥感,SCL上の涙液の干渉像のgrade,SCL上の涙液のNIBUT(non-invasivebreakuptime)のいずれにおいてもメニコンワンデーのほうが乾燥予防といった面では優れていたとしている.筆者もワンデーアキュビュー?モイストTM,フォーカス?デイリーズ?アクア,メダリストワンデープラス,ワンデーバイオメディックスをモニター12名に対して装用させ,装用直後,4時間後,8時間後に装用感,乾燥感,見え方の鮮明さについてアンケート調査を行い,それぞれの時間におけるSCL上の涙液の干渉像の(25)図7巨大乳頭結膜炎図8ワンデーアキュビュー?モイストTM図9フォーカス?デイリーズ?アクア図10メダリストワンデープラス図11ワンデーバイオメディックス———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007grade,SCL上の涙液のNIBUTを測定してみた.どのレンズにおいても4時間後,8時間後と装用感は悪くなり,乾燥感も増大してきた(図12).SCL上の涙液の干渉像のgradeについては,ワンデーアキュビュー?モイストTM,メダリストワンデープラス,ワンデーバイオメディックスは,やはり4時間後,8時間後と高くなる傾向を示したが,フォーカス?デイリーズ?アクアのみ低くなる傾向を示した(図13).SCL上の涙液のNIBUTについては,ワンデーアキュビュー?モイストTMとワンデーバイオメディックスは4時間後に短くなり8時間後に長くなるという傾向,メダリストワンデープラスは4時間後に長くなり8時間までそのまま,フォーカス?デイリーズ?アクアは4時間後,8時間後と次第に長くなる傾向を示した(図14).SCL上の涙液の干渉像のgrade,SCL上の涙液のNIBUTの結果から判断すれば,どのワンデーDSCLもそれなりに乾燥予防効果がありそうである.しかし,自覚的には装用感,乾燥感ともに,時間経過によって悪くなっているというのは,やはり乾燥感というものは前述したようにさまざまな要素が加わって生じる可能性を示(26)図12アンケート調査結果(図12~14ともにCVJ:ワンデーバイオメディックス,AC:ワンデーアキュビュー?モイストTM,B&L:メダリストワンデープラス,DL:フォーカス?デイリーズ?アクア.)快適度(点)10.09.59.08.58.07.57.06.56.05.55.00hr4hr8hrOverall0hr4hr8hrOverall0hr4hr8hrOverall装用感乾燥感見え方の鮮明さ:CVJ:AC:B&L:DL図13SCL上の涙液の干渉像のgrade2.92.72.52.32.11.91.71.510min4hrs8hrsTear?lmgrade:AC:B&L:CVJ:DL図14SCL上の涙液のNIBUT3.53.33.12.92.72.52.32.11.91.71.510min4hrs8hrsNIBUT:AC:B&L:CVJ:DL———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???唆しているものと思われる.おわりにガス透過性ハードコンタクトレンズ(RGPCL)装用者に比べて,SCL装用者における乾燥感の訴えは多いとされている2).SCL装用者におけるCL-induceddryeye3)の発症にはSCL上の涙液層の菲薄化5,6),SCL上の涙液油層の欠如7~9),SCL表面からの涙液の蒸発亢進10,11),SCL上の涙液の不安定化12)などの関与が示されている4)とのことである.ワンデーDSCLの乾燥感軽減のために,各社はレンズの材質,デザイン,PVPのレンズ内への閉じ込め,保存液中への保湿成分の添加などさまざまな工夫を凝らしている.筆者の実験は正常者をモニターとして採用しており,自覚症状と他覚検査の結果に不一致があったが,乾燥感を訴えるSCL装用者に乾燥予防ワンデーDSCLを処方すると臨床的には効果が認められる.新しい素材を使用したシリコーンハイドロゲルCLが各社から定期交換レンズ,頻回交換レンズ,連続装用レンズとして続々と市販されてきているが,将来的にはワンデーDSCLとしてシリコーンハイドロゲルCLが登場してくるかもしれない.乾燥感を訴える多くのSCL装用者に,その訴えをさらに解決できるレンズの登場が待たれる次第であり,ワンデーDSCLとしてのシリコーンハイドロゲルCLは,その可能性を秘めたレンズということができよう.文献1)小玉裕司:ソフトコンタクトレンズと眼障害.日コレ誌45補遺:S2-S5,20032)濱野孝,小谷摂子,光永サチ子:コンタクトレンズ装用と乾燥感.臨眼53:1053-1056,19993)LempMA:ReportoftheNationalEyeInstitute/Industryworkshoponclinicaltrialsindryeyes.??????21:221-232,19954)丸山邦夫,横井則彦,木下茂ほか:乾燥感の軽減を目的とした1日使い捨てソフトコンタクトレンズの比較検討.日コレ誌48:20-25,20065)濱野孝:コンタクトレンズと涙液のインターアクション.日コレ誌36:21-23,19946)NicholsJJ,King-SmithPE:Thicknessofthepre-andpost-contactlenstear?lmmeasuredinvivobyinterfer-ometry.?????????????????????????44:68-77,20037)丸山邦夫,横井則彦:コンタクトレンズ装用眼とティアダイナミクス.日コレ誌45:60-65,20038)HamanoH:Thechangeofpre-cornealtear?lmbytheapplicationofcontactlenses.????????????????????????????7:205-209,19819)GuillonJP:Tear?lmstructureoncontactlens.ThePre-ocularTearFilminHealth,Disease,andContactLensWear(edbyHollyFJ),p914-916.DryEyeInstitute,Lub-bock,Texas,198610)濱野光:Evaporimeterの眼科領域への応用.日コレ誌22:101-107,198011)Cedarsta?TH,TomlinsonA:Acomparativestudyoftearevaporationratesandwatercontentofsoftcontactlenses.??????????????????????60:167-174,198312)濱野孝:涙液とコンタクトレンズ.あたらしい眼科8:1707-1713,1991(27)

頻回交換遠近両用ソフトコンタクトレンズの選択法

2007年6月30日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS分けられる.中心光学部の特徴からは中心遠用タイプと中心近用タイプに分けられる1)(表1).はじめに日本の人口構成が高齢化していくにつれて,コンタクトレンズ(CL)使用者も老視の矯正を必要とする中高年者層が増加してきている.そのため,これからのCL診療においては老視を矯正するための遠近両用CLの知識と処方技術なしに過ごすことはできない.現在日本で普及している最長2週間までの使用で交換する頻回交換ソフトコンタクトレンズ(FR-SCL)では,遠近両用タイプの頻回交換遠近両用ソフトコンタクトレンズ(FRBF-SCL)が4種類発売されている.本稿では,遠近両用CLの処方が初めての方にも理解しやすいよう,はじめに遠近両用CLの一般的なことを概説し,その後に4種類のFRBF-SCLを比較と,その選択方法について解説する.I遠近両用コンタクトレンズ1.種類遠近両用CLの種類にはガス透過性ハードコンタクトレンズ(RGPCL)とソフトコンタクトレンズ(SCL)があり,SCLには従来型と頻回交換型がある.これらは光学的機能,焦点の構造,光学部の形状,中心光学部の特徴からさらに分類される(表1,図1).光学的機能からRGPCLは交代視型と同時視型に分けられるが,SCLは同時視型のみである.焦点の構造からは二重焦点型と累進屈折力型に分けられ,光学部の形状からはセグメント型,同心円型,回折型,非球面型に(17)???*HiroshiShioya:しおや眼科〔別刷請求先〕塩谷浩:〒960-8034福島市置賜町5-26しおや眼科特集●コンタクトレンズの流れを読むあたらしい眼科24(6):711~716,2007頻回交換遠近両用ソフトコンタクトレンズの選択法?????????????????????????????????????????????????????????????塩谷浩*図1遠近両用CLの機能と形状の分類同心円型同心円型非球面型回折型セグメント型交代視型同時視型表1遠近両用コンタクトレンズの分類機能焦点形状中心光学部種類交代視型二重焦点型セグメント型遠用RGPCL同心円型同時視型二重焦点型同心円型遠用SCL近用回折型近用累進屈折力型非球面型遠用RGPCLSCL近用SCL———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.6,20072.特徴遠近両用CLは種類の違いにより,ものを見る機能のうえでも違いがある.RGPCLタイプはSCLタイプより遠方視,近方視とも見やすく感じる患者が多い.しかし,RGPCL未経験の中高年者のRGPCLタイプへの慣れはむずかしいと考えられるため,一般的には処方の適応はRGPCL経験者に限られる.交代視型は,遠用光学部と近用光学部がレンズ上の異なった部分にあるため遠方視,近方視ともクリアな視界が得られるが,視線の移動を必要とする.同時視型は,遠用光学部と近用光学部の中心が同一中心線上にあるため視線の移動を必要としないが,遠方視,近方視ともクリアな視界は得にくい.光学部が中心遠用タイプは,近方視時より遠方視時に比較的見やすく感じる患者が多く,中心近用タイプは,遠方視時より近方視時に比較的見やすく感じる患者が多い1).3.選択の考え方処方する遠近両用CLのタイプを選択するための代表的な条件として,遠方視を重視する場合,近方視を重視する場合,遠方視と近方視のバランスを重視する場合,センタリングを重視する場合があげられる.遠方視を重視する場合には光学部は中心遠用タイプが適応となり,近方視を重視する場合には,光学部は中心近用タイプが適応となると考えられる.遠方視と近方視のバランスを重視する場合には光学部は中心遠用タイプで二重焦点型が適応となると考えられる.眼瞼圧が強いなどの理由で,それまで使用していたCLでセンタリングが不良であったような患者でセンタリングを重視する場合には,レンズのずれの見え方への影響が比較的少ない累進屈折力型・非球面型が適応となると考えられる1)(表2).実際の処方時のレンズ選択の考え方の流れは,まず装用者の遠方視と近方視の重視度,または見え方や視力の要求度から,その条件を満たすレンズのタイプを第一選択する.つぎに患者にトライアルレンズを装用させて細隙灯顕微鏡検査でフィッティングを観察し,その判定結果からレンズのタイプを変更するかどうか検討する.そしてFRBF-SCLを処方する場合には,処方規格と同じトライアルレンズによるテスト装用後に,装用者の見え方,装用感,ハンドリングの問題点の有無などを確認し,角結膜への影響やフィッティングの変化を検討して,最終的に処方する遠近両用CLの種類と規格を決定する1~3)(表3).II頻回交換遠近両用ソフトコンタクトレンズ1.種類現在日本では,FRBF-SCLはジョンソン・エンド・ジョンソン社のアキュビュー?バイフォーカル(AV-BF),チバビジョン社のフォーカス?プログレッシブ(FP),ロート製薬のロートi.Q.14バイフォーカル(iQ-BF),ボシュロム社のメダリストマルチフォーカル(MD-MF)の4種類が発売されている(表4).素材はAV-BF,FP,iQ-BFは,米国食品医薬品局分類(FDA分類)でグループⅣに属する高含水率のイオン性であり,MD-MFはFDA分類でグループⅠの低含水率の非イオン性である.直径はすべてのレンズで1種類であり,ベースカーブはAV-BF,FP,iQ-BFでは1種類であり,MD-MFには2種類ある.加入度数はAV-BFとiQ-BFは+1.00D,+1.50D,+2.00D,+2.50Dの4種類,MD-MFは加入度数LowタイプとHighタイプの2種類,FPは1種類である.(18)表2遠近両用コンタクトレンズの選択の条件と適応?遠方視重視⇒光学部が中心遠用タイプ?近方視重視⇒光学部が中心近用タイプ?遠方視と近方視のバランス重視⇒光学部が中心遠用タイプ・二重焦点型?センタリング重視⇒累進屈折力型・非球面型表3遠近両用コンタクトレンズの選択の流れ第一選択レンズ遠方視と近方視の重視度,見え方や視力の要求度から決定フィッティング検査後レンズのセンタリング,動きなどから決定テスト装用後見え方,装用感,ハンドリングなどから最終決定———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???光学的機能による分類では,すべて同時視型である.焦点の構造による分類ではAV-BFは二重焦点型であり,他の3種は累進屈折力型である.光学部の形状は,AV-BFは同心円型で5層構造のデザインをしており,FP,iQ-BF,MD-MFは非球面型である.光学部のデザインは,AV-BFは中心遠用,FPとMD-MFは中心近用であり,iQ-BFは中心遠用のDタイプと中心近用のNタイプの2種類がある.2.アキュビュー?バイフォーカルの特徴AV-BFは同時視型で,二重焦点型,同心円型である.光学部は図2のようにレンズの中心から周辺に向かって遠用部と近用部が同心円状に5層に並んだ独特の構造をしている.光学部は中心遠用タイプで,それが同心円状に3層あり,その間に2層の近用部を挟んでいる.中心厚は-3.00Dで0.075mmと4種類のレンズのなかで最も薄くなっている.この特徴から,適応は表5のように遠方視を重視する場合,遠方視と近方視のバランスを重視する場合となる.そして加入度数の最弱度に+1.00Dがあるため初期老視から適応となる.中心厚が薄いため,一般のSCL装用で異物感のある場合や長時間装用の場合は適応となるが,乱視のある場合は適応とならない.二重焦点型であるためセンタリング不良の場合は自覚的な見え方が不(19)表4頻回交換遠近両用ソフトコンタクトレンズの種類製品名アキュビュー?バイフォーカルフォーカス?プログレッシブロートi.Q.14バイフォーカルメダリストマルチフォーカルメーカーJohnson&JohnsonCIBAVisionROHTOBoush&Lomb素材Eta?lconAVi?lconAMetha?lconAPoly-HEMA含水率(%)58555538.6FDAグループⅣⅣⅣⅠDk*281619.69Dk/L**37.31612.39中心厚(mm)0.075(-3.00D)0.10(-レンズ),0.16(+3.00D)0.159(-3.00Dadd+1.00D)0.10(-3.00D)ベースカーブ(mm)8.58.68.78.7,9.0直径(mm)14.21414.414.5球面度数(D)+3.00~-9.00+3.00~-7.00+4.00~-6.00+5.00~-10.00加入度数(D)+1.00,+1.50,+2.00,+2.50+2.50+1.00,+1.50,+2.00,+2.50Low(~+1.50),High(~+2.50)機能による分類同時視型同時視型同時視型同時視型焦点による分類二重焦点型累進屈折力型累進屈折力型累進屈折力型光学部形状同心円型非球面型非球面型非球面型中心光学部遠用近用Dタイプ:遠用,Nタイプ:近用近用**Dk:酸素透過係数〔単位=×10-11(cm2/sec)・(m?O2/m?×mmHg)〕.**Dk/L:酸素透過率〔単位=×10-9(cm2/sec)・(m?O2/m?×mmHg)〕.図2アキュビュー?バイフォーカルの特徴?同時視型?二重焦点型?同心円型(5層構造)?中心光学部:遠用?中心厚:0.075mm(-3.00D)遠用部近用部表5アキュビュー?バイフォーカルの適応?適応?遠方視を重視する場合?遠方視と近方視のバランスを重視する場合?初期老視から?一般のSCL装用で異物感のある場合?長時間装用をする場合?非適応?近方視を重視する場合?乱視のある場合?センタリング不良の場合———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007良なことが多く,適応とならない.3.フォーカス?プログレッシブの特徴FPは同時視型で,累進屈折力型・非球面型である.図3のように光学部は中心近用タイプで,その周辺は狭い累進移行部を挟んで遠用部になっている.中心厚はマイナスレンズでは0.10mm,+3.00Dのレンズでは0.16mmとやや厚くなっている.この特徴から,適応は表6のように近方視を重視する場合となる.そして加入度数が+2.50Dの1種類であるため中期以降の老視から適応となる.累進屈折力型・非球面型であるためセンタリング不良の場合でも自覚的な見え方への影響が少なく適応となりうる.しかし,遠方視を重視する場合,遠方視と近方視のバランスを重視する場合は適応となりにくい.素材の特性から一般のSCLの装用で異物感のある場合には適応とならないことが多い.4.ロートi.Q.14バイフォーカルの特徴iQ-BFは同時視型で,累進屈折力型・非球面型である.図4のようにDタイプは光学部が中心遠用で,その周辺はやや広い累進移行部を挟んで近用になっている.Nタイプは光学部が中心近用で,その周辺はやや広い累進移行部を挟んで遠用になっており,中心光学部の領域はDタイプよりやや狭くなっている.中心厚は-3.00D,加入+1.00Dのレンズで0.159mmと4種類のレンズのなかで最も厚い.この特徴から,適応は表7のように遠方視を重視する場合で,主としてDタイプが用いられる.近方視とのバランスをとる必要がある場合にはNタイプが用いられる.加入度数の最弱度に+1.00Dがあるため初期老視から適応となる.また中心厚が厚いため,乱視のある場合にも適応となる.非球面型・累進屈折力タイプであるためセンタリング不良の場合でも自覚的な見え方への影響が少なく適応となりうる.さらに素材の特性から一般のSCLの装用で異物感のある場合にも適応となる.しかし近方視を重視する場合,遠方視と近方視のバランスを重視する場合は適応となりにくい.(20)図4ロートi.Q.14バイフォーカルの特徴?同時視型?累進屈折力型?非球面型?中心光学部:Dタイプ遠用Nタイプ近用?中心厚:0.159mm(-3.00Dadd+1.00D)遠用部近用部遠用部近用部DタイプNタイプ表7ロートi.Q.14バイフォーカルの適応?適応?遠方視を重視する場合?初期老視から?乱視のある場合?センタリング不良の場合?一般のSCL装用で異物感のある場合?非適応?近方視を重視する場合?遠方視と近方視のバランスを重視する場合表6フォーカス?プログレッシブの適応?適応?近方視を重視する場合?中期以降の老視から?センタリング不良の場合?非適応?遠方視を重視する場合?遠方視と近方視のバランスを重視する場合?一般のSCL装用で異物感のある場合図3フォーカス?プログレッシブの特徴?同時視型?累進屈折力型?非球面型?中心光学部:近用?中心厚:0.10mm(マイナスレンズ)0.16mm(+3.00D)遠用部近用部———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???5.メダリストマルチフォーカルの特徴MD-MFは同時視型で,累進屈折力型,非球面型である.図5のように光学部は中心近用で,その周辺は広めの累進移行部を挟んで遠用になっている.加入度数Highタイプは加入度数Lowタイプより中心光学部の最大加入度数領域が広くなっている.中心厚は-3.00Dで0.10mmとやや厚くなっている.この特徴から,適応は表8のように主として近方視を重視する場合となるが,加入度数Lowタイプは遠方視と近方視のバランスを重視する場合,加入度数Highタイプはさらに近方視を重視する場合となる.加入度数Lowタイプがあるため初期老視から適応となる.非球面型・累進屈折力型であるためセンタリング不良の場合でも自覚的な見え方への影響が少なく適応となりうる.中心近用であるため理論的には遠方視を重視する場合は適応となりにくいが,臨床的に遠方視と近方視のバランスを重視する場合には適応となる.しかし素材の特性から一般のSCLの装用で異物感のある場合には適応となりにくい.6.頻回交換遠近両用ソフトコンタクトレンズの適応と選択以上の4種類のFRBF-SCLの適応を条件ごとに比較し,実際の選択についてまとめると表9のようになる.遠方視を重視する場合はAV-BFとiQ-BFが適応となり,第一選択になると考えられる.近方視を重視する場合はFPとMD-MFが第一選択になると考えられる.遠方視と近方視のバランスを重視する場合はAV-BFまたはMD-MFが第一選択になると考えられる.乱視の影響で球面SCLでの見え方が不良の場合は,レンズの中心厚の厚いiQ-BFが第一選択となる.SCL装用時のセンタリングが不良の場合はFP,iQ-BF,MD-MFが第一選択となる.一般のSCLの装用で異物感の訴えがあった場合はAV-BFとiQ-BFが第一選択となる.おわりにFRBF-SCLは,最長2週間までの使用で交換するという点では共通であるが,遠近両用レンズとしての機能はどれも同じではなく,その特徴をよく理解しておく必要がある.FRBF-SCLの処方を成功させるためには,(21)表9頻回交換遠近両用ソフトコンタクトレンズの適応と選択製品名アキュビュー?バイフォーカルフォーカス?プログレッシブロートi.Q.14バイフォーカルメダリストマルチフォーカル遠方重視○△△△近方重視△○○○遠方視近方視のバランス○×△○乱視×△○△センタリング不良×○○○装用感○△○△○:適応,△:比較的適応,×:非適応.図5メダリストマルチフォーカルの特徴?同時視型?累進屈折力型?非球面型?中心光学部:近用?中心厚:0.10mm(-3.00D)遠用部近用部表8メダリストマルチフォーカルの適応?適応?近方視を重視する場合?遠方視と近方視のバランスを重視する場合?初期老視から?センタリング不良の場合?非適応?遠方視を重視する場合?一般のSCL装用で異物感のある場合———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007対象の条件,CLを使用する環境や状況などから最適と思われるレンズを選択し,テスト装用したうえで最終処方レンズを決定することが重要である2,3).ただし本稿のFRBF-SCL選択の考え方は,あくまでも筆者の臨床経験からの判断であり,これを参考に読者がFRBF-SCLの処方を多く経験し,自分自身のなかに評価する基準を作る努力が必要である.文献1)塩谷浩:各種バイフォーカルコンタクトレンズの選択.あたらしい眼科18:463-468,20012)塩谷浩,梶田雅義:頻回交換遠近両用ソフトコンタクトレンズ処方例の検討.日コレ誌44:103-107,20023)塩谷浩,梶田雅義:頻回交換型遠近両用ソフトコンタクトレンズの処方成績─二重焦点型と累進屈折力型の比較─.日コレ誌48:226-229,2006(22)

ワンデートーリックソフトコンタクトレンズ

2007年6月30日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSるためのレンズであるので,角膜上で回転することは許されない.トーリックレンズの回転を抑制するレンズデザインとして,現在ではプリズムバラスト法(図2)と,ダブルスラブオフ法(図3)が採用されている.はじめにトーリックコンタクトレンズはレンズ表面の両面あるいは片面が球面ではなくトーリック面で構成されているレンズであり,乱視を矯正するために用いられる.トーリック面とはドーナツやラグビーボールの側面のように任意の経線方向とそれに直交する経線方向の曲率が異なる面をいう(図1).以前は,トーリックコンタクトレンズは特殊レンズに分類されていたが,1日使い捨てレンズが登場してからは特殊レンズという印象は薄くなり,広く一般に処方されるようになってきている.Iトーリックレンズのデザイン通常の球面コンタクトレンズは瞬目ごとに角膜上で常に回転を続けている.トーリックレンズは乱視を矯正す(11)???*MasayoshiKajita:梶田眼科〔別刷請求先〕梶田雅義:〒108-0023東京都港区芝浦3-6-3協栄ビル4F梶田眼科特集●コンタクトレンズの流れを読むあたらしい眼科24(6):705~709,2007ワンデートーリックソフトコンタクトレンズ??????????????????????????????????????????梶田雅義*図1トーリック面円板を中心以外にある軸の周りに回転させたときの回転体の側面がトーリック面である.軸円板図2プリズムバラスト法レンズの下方に相当する部分を厚く加工する.図3ダブルスラブオフ法レンズの上下部分を削ぎ落として薄く加工する.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007プリズムバラスト法はレンズ下方に厚みをもたせる形状をしており,瞬目時にレンズの厚い部分が先に上眼瞼から開放されるように滑り出す特性を利用している.この特性はヌルヌルしたスイカの種を指で圧迫すると,必ず種の厚みの大きいほうから飛び出してゆく現象に代表されるため,「スイカの種理論」として説明されている(図4).またダブルスラブオフ法はレンズの対面する2方向の周辺部分を薄く削ぎ落とした構造にすることにより,厚い部分が眼瞼の圧力から先に開放される方向には動こうとする力,およびレンズの薄い部分を上下眼瞼でくわえ込むことにより,回転を抑える仕組みになっている1).回転抑制方法が同じであっても,メーカーやレンズの種類によってそのデザインは微妙に異なり,回転抑制効果にも差異がある.トーリックレンズの処方にはレンズデザインの特徴を知ることが必要であり,それはトーリックレンズの処方成功率にも大きく影響する.II現在わが国で利用できる1日使い捨てトーリックソフトコンタクトレンズ(表1)1.フォーカス?デイリーズ?アクアトーリック(チバビジョン社製)レンズの上下部分は薄く,水平方向が厚く加工されたダブルスラブオフタイプである(図5).トーリックレンズの安定方向をチェックするためのガイドマークは刻印されていない.以下,デイリーズトーリックと略す.2.ワンデーアキュビュー?[乱視用](ジョンソン・エンド・ジョンソン社製)上下方向は薄く,水平方向は厚く加工されたダブルスラブオフタイプであるが,水平方向の厚みの分布に特徴があり,水平方向に向けて厚みの勾配が急峻になった構造をしており,瞬目時に眼瞼の圧力によるレンズの回転(12)図5デイリーズトーリックの正面,縦断面(右),横断面(下)上下方向が薄く加工されている(ダブルスラブオフタイプ).ガイドマークはないが,細隙灯顕微鏡で注意深く観察するとスラブオフの形状が見える.素材によるFDA(米国食品医薬品局)分類はグループⅡ.表11日使い捨てトーリックソフトコンタクトレンズの比較ワンデーバイオメディックストーリックフォーカス?デイリーズ?アクアトーリックワンデーアキュビュー?乱視用デザインプリズムバラストバックトーリックダブルスラブオフバックトーリックダブルスラブオフバックトーリック含水率55%69%58%BC8.7mm8.6mm8.5mmレンズ径14.5mm14.2mm14.5mm球面度数(D)0.00~-6.00-6.50~-7.00+4.00~-6.00-6.50~-8.000.00~-6.00-6.50~-9.00円柱度数(D)-0.75,-1.25-0.75,-1.50-0.75,-1.25,-1.75軸(°)180180,90160,180,20,90BC:ベースカーブ.図4スイカの種理論スイカの種を指で圧迫すると,種は必ず厚みのあるほうから飛び出してゆく.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???抑制効果をさらに強く引き出そうとするデザインで,ASD(acceleratedstabilizationdesign)とよばれている.上下方向に1本ずつガイドマークがある(図6).以下,アキュビュー乱視用と略す.3.ワンデーバイオメディックストーリック(クーパービジョン社製)プリズムバラストであるが,従来のプリズムデザインとは異なり,レンズ周辺部分は水平方向の厚みが同じになるように設定されている.このデザインにより眼瞼からの圧力がレンズに均一に加わり,プリズムバラストの効果がレンズ全体に均一に発揮される.レンズ下方に1本のガイドマークが刻印されている(図7).以下,バイオトーリックと略す.III従来型トーリックソフトコンタクトレンズ(TSCL)との比較従来型TSCLの多くはレースカット製法で作製され,レンズの前面にトーリック面をもつフロントトーリックレンズである.従来型TSCLのほとんどがプリズムバラストタイプであり(一つだけダブルスラブオフタイプがあったが,現在は販売を終了している),レンズの切削時に光軸を偏心させることによりレンズ内に厚みの差をつける製法のため,レンズ全体が偏心したプリズム形状となっている.そのため,レンズのパワーによってプリズムバラストの形状が異なり,TSCLの回転抑制効果も異なる.トライアルレンズと実際に処方されたレンズでフィッティングや軸の安定位置が異なるという現象が生じることも少なくなく,このことがTSCLの処方に「難しい」,「面倒」,「処方成功率が低い」という印象を与えている.一方,頻回交換型や1日使い捨てTSCLはキャストモールド製法で作製され,レンズの後面にトーリック面を有するバックトーリックレンズである.レンズ中央部の8mm程度を光学部として周辺部から独立させ,周辺部のみにプリズムバラストやダブルスラブオフの加工を施した形状になっている.このため中央部分の球面レンズパワーや円柱レンズパワーが異なっても,TSCLの回転抑制効果には変化は少なく,回転抑制効果は従来型TSCLに比べて格段に向上している2,3).(13)図6アキュビュー乱視用の正面,縦断面(右),横断面(下)上下方向は薄く加工さており(ダブルスラブオフタイプ),左右方向の周辺部がデイリーズに比べて厚く加工されている(ASD).ガイドマークが上下に2本付けられている.素材によるFDA分類はグループⅣ.図7バイオトーリックの正面,縦断面(右),横断面(下)下方が厚く加工されている(プリズムバラストタイプ).水平方向の周辺部分に厚みが一定の領域が存在する特徴的な構造を有する.素材によるFDA分類はグループⅣ.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007IVトーリックソフトコンタクトレンズの処方1.レンズタイプの選択筆者の臨床経験に基づくレンズタイプの選択は,以下のようである.上眼瞼が角膜の上部を覆い,乱視軸が180?に近い直乱視の場合には,プリズムバラストタイプを第一選択とする.プリズムバラストは瞬目時に上眼瞼がレンズを押し出す力を受け,開瞼時には上眼瞼でレンズ上部が押さえられて回転が抑制される.下眼瞼の影響は受けにくい.上眼瞼からの圧力はレンズに対し垂直方向にのみかかるわけではなく,レンズを回転させる力も同時に加わる.日本人の場合,右眼は観察者から見てレンズを時計回りに,左眼は反時計回りに回転させる力が加わっている例が多く,この瞬目運動によるレンズを回転させる力が加わるためと考えられるが,回転力の加わる方向に5~10?程度回転して,TSCLの軸が安定することが多い(下方のガイドマークはハの字).倒乱視の場合,ダブルスラブオフタイプを第一選択とする.倒乱視を矯正するレンズの光学部は横方向が厚い形状であるため,ダブルスラブオフの効果が一層強まり,TSCLの回転抑制効果が増す.またダブルスラブオフは,いわゆる「つり目」や「たれ目」で,瞼裂方向と乱視軸が一致している症例などに合わせやすい.ダブルスラブオフは上下眼瞼に押さえ込まれレンズの回転を抑制しているため,瞼裂の方向に一致して軸が安定しやすいためである.上下眼瞼が角膜周辺部を覆い,瞼裂方向と乱視軸が一致している直乱視も良い適応である.角膜の全周が眼瞼から露出する「パッチリ目」ではいずれのタイプも軸は不安定になりがちである.どちらかより軸の安定の良いほうをトライエンドエラーで捜すしかない.斜乱視の場合には,TSCLの軸の安定が得られないことが多く,TSCLによる矯正は困難である.2ウィークアキュビュー?トーリックなどすべての軸度を有するTSCLを試みるしかないが,処方成功率はそれほど高くないことをあらかじめ伝えておいたほうが良い.従来型,定期交換型あるいは頻回交換型のTSCLを快適に使用している症例で,1日使い捨てTSCLの処方を希望する場合は,使用中のTSCLと同じタイプを使うのが望ましい.すなわち,プリズムバラストレンズ使用者であれば,プリズムバラストタイプを,ダブルスラブオフレンズ使用者であれば,ダブルスラブオフタイプを第一選択とする.しかし,もしこれまで使用中のTSCLの装用が快適でなかった場合には,反対にプリズムバラストレンズ使用者にはダブルスラブオフタイプを,ダブルスラブオフレンズ使用者にはプリズムバラストタイプを試してみる.このような臨床的な印象はあるものの,実際にはTSCLを装用してみなければ適否の判断はできない.2.処方レンズの度数決定TSCLの度数は,最初に円柱度数を決めてしまうほうが良い.TSCLの円柱度数を適切に設定するためには,自覚的屈折検査を正しく行う必要がある.強弱主経線方向の屈折値を別々に頂間距離補正することもポイントである.強弱主経線方向の頂間補正後の屈折値差がTSCLに必要な円柱レンズ度数になる.たとえば,自覚的屈折検査で球面度数が-1.00D,円柱度数が-1.50Dの場合,頂点間距離補正後の円柱度数は-1.44Dであるが,同じ円柱度数であっても球面度数が-6.50Dであれば,頂点間距離補正後の円柱度数は-1.27Dとなる.TSCLの円柱レンズ度数は前者では-1.25Dを採用するが,後者では-0.75Dあるいは-1.00Dで足りる.このように球面度数によってTSCLに必要な円柱レンズ度数が変わることにも注意が必要である.TSCLでは軸のずれやゆれなどが生じている可能性は常に考慮しなければならない.これには矯正に必要な円柱レンズ度数よりも若干弱めの円柱度数を選択することがポイントになる.TSCLを用いて,2.00Dの直乱視を完全矯正した場合,円柱軸が正しい位置にあれば,乱視は完全に矯正されるが,15?回転すると円柱度数1.00D,軸143?の斜乱視となり,矯正視力の変動が大きい.これに対して,2.00Dの乱視を1.25Dの円柱レンズ度数で矯正すると,円柱軸が正しい位置にあるときにも0.75Dの乱視は残るが,15?回転しても残余乱視は1.11D(変化量0.36D)までしか増加せず,乱視矯正効果の変動も少ない(表2).このようにTSCLで乱視を矯正する場(14)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???(15)合には,乱視を弱めに矯正したほうが,矯正視力値の変動が少なく,不快感を生じにくい.TSCLの円柱度数が決まれば,トライアルレンズを装用し,球面度数のみで追加矯正を行う.それで満足な視力が得られれば,球面レンズ度数の頂間距離補正を行い,球面レンズ度数を決定する.満足な視力が得られない場合は,1段階強い円柱レンズ度数のTSCLに交換し再度調整を試みる.軸が不安定なときは別タイプのTSCLに交換することも含め柔軟に対応することも必要である.TSCLを装用した状態で,オートレフラクトメータによる他覚的屈折値(オーバーレフ)を測定し,安定して乱視が矯正されていることを確認することが有用である.瞬目ごとに記録したオーバーレフ値が安定していれば,処方成功率は高いと判断できる.瞬目ごとにオーバーレフ値にふらつきや変動がある場合には,レンズのフィッティングが不良であり,適切な矯正ではないと判断できる.特に,デイリーズトーリックでは,レンズの回転を検査するためのガイドマークが付されていないので,細隙灯顕微鏡検査でレンズの安定性を観察することが容易ではなく,オーバーレフによる安定性のチェックは絶対に欠かせない.その他のTSCLでもオーバーレフによる最終チェックは非常に重要であり,処方成功の目安になる.おわりにトーリックソフトレンズにも1日使い捨てや頻回交換型が加わり,規格のバリエーションも豊富になっている.TSCLはレンズ銘柄が異なると素材やデザインの違いによって,乱視の矯正効果も少なからず異なる.これらのTSCLの特徴と処方眼の特徴が一致したときに初めて快適な矯正が可能になる.CL装用を希望する人達に最適な矯正を提供したいものである.文献1)梶田雅義:トーリックコンタクトレンズの構造.トーリックコンタクトレンズ,p26-32,メジカルビュー社,19992)植田喜一,梶田雅義,塩谷浩:頻回交換トーリックソフトコンタクトレンズの使用経験.日コレ誌41:55-58,19993)塩谷浩,梶田雅義,平野秀和:トーリックソフトコンタクトレンズ・ロートIQ?の特徴と臨床成績.日コレ誌44:S28-S33,2002表2乱視を完全矯正したときと低矯正にしたときの残余乱視の比較軸ずれCyl-2.00で矯正Cyl-1.25で矯正0?Cyl-0.00×0Cyl-0.75×0+5?Cyl-0.35×138Cyl-0.80×172+10?Cyl-0.69×140Cyl-0.93×166+15?Cyl-1.00×143Cyl-1.11×1631.00Dの差0.36Dの差

シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ

2007年6月30日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS過性が十分ではなかった.特に近視度数が強いソフトコンタクトレンズ(図1)やトーリック(図2)やバイフォーカルのような特殊ソフトコンタクトレンズではレンズ厚が厚くなり,角膜内皮細胞障害,角膜血管新生,pig-mentedslideなどの慢性の酸素不足による眼障害をひき起こす.またコンタクトレンズ装用による酸素不足は,緑膿菌の角膜上皮への接着を助長させることも報告されている1,2).安全なソフトコンタクトレンズの装用には,より高い酸素透過性の素材が必要であった.そこに登場したのがシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズである.シリコーンは非常に酸素透過性が高い素材であるが,疎水性であり,コンタクトレンズの素材として使用するには難点があった.シリコーンを含む含水性の素材を作ることが開発目標であったが,水と油を混ぜるようなものであり,透明な素材を作製することはIシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの必要性ハードコンタクトレンズ装用下の眼球への酸素供給は,おもに瞬目によるレンズ移動に伴う涙液交換に依存しているが,ソフトコンタクトレンズ装用下では涙液交換に伴う酸素供給はわずかであり,おもにレンズ自体を透過する酸素に依存している.ソフトコンタクトレンズ装用下の眼球への酸素供給量を増やすには,素材の酸素透過性を上げることが必須である.しかし,従来のハイドロゲル素材の酸素透過性は,素材に含まれる自由水に依存しているため,水の酸素透過係数〔Dk値,単位=×10-11(cm2/sec)・(m?O2/m?×mmHg)〕である80を超えることは理論的に不可能であった.つまり,既存のハイドロゲル素材のソフトコンタクトレンズでは酸素透(3)???*MotozumiItoi:道玄坂糸井眼科医院〔別刷請求先〕糸井素純:〒150-0043東京都渋谷区道玄坂1-10-19糸井ビル1F道玄坂糸井眼科医院特集●コンタクトレンズの流れを読むあたらしい眼科24(6):697~703,2007シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ????????????????????????????????糸井素純*図2ソフトコンタクトレンズの断面右:球面レンズ,左:トーリックレンズ(プリズムバラスト).図1ソフトコンタクトレンズ(球面)の断面右:-2D,左:-10D.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007なかなかできなかった.その後,たとえば現在日本で販売されているO2オプティクスでは,シロキサンをポリマー化せずにマクロモノマーの状態で含水性モノマーと二層性構造を形成させることにより透明化に成功し,シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズが誕生した.シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズはハイドロゲル相とフルオロシロキサン相の二層性構造を有し,フルオロシロキサン相はハイドロゲル相に比べて非常に多くの酸素を透過する(図3).このため,これまでのハイドロゲルコンタクトレンズとは異なり,シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズでは低含水性でありながら,非常に高い酸素透過性を実現することができる(図4,5).II海外のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ市場1998年にメキシコで最初のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとしてCIBAVision社からNIGHT&DAY?(日本で発売されているO2オプティクスと同一製品)が発売開始された.その後,1999年にBausch&Lomb社のPureVision?の発売が欧米で開始され,当初は1カ月間の連続装用としてシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは普及した.しかし,すべてのシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用者が1カ月間の連続装用を継続することは困難であり,徐々に,終日装用して使用される割合が高くなっていった.このような状(4)図3シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの二相性構造TRISフルオロシロキサン相ハイドロゲル相図4含水率と酸素透過性(Dk値)200180160140120100806040200酸素透過係数シリコーンハイドロゲル水020406080100含水率(%)ハイドロゲル(従来の含水性SCL素材)図5シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの酸素透過率200180160140120100806040200酸素透過率(Dk/L値)ACUVUE?ACUVUE?ADVANCETMPureVision?O2OPTIXTMACUVUE?OASYSTMbio?nityTMNIGHT&DAY?4086110138147160175Dk/L:酸素透過率〔×(10-9cm2/sec)・(m?O2/m?×mmHg)〕———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???況のなかで,2004年1月にはシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとして,初めてJohnson&Johnson社のACUVUE?ADVANCETMが2週間終日装用というカテゴリーで米国にて発売された.その後,CIBAVision社のO2OPTIXTM(日本で発売されているO2オプティクスとは異なる製品)が欧州で2004年6月に2週間終日装用と1週間連続装用のカテゴリーで発売され,2005年にJohnson&Johnson社のACUVUE?OASYSTMとCooperVision社のbio?nityTMが欧州で2週間終日装用というカテゴリーで発売開始された.このように海外ではシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズがすでに6製品(表1)発売され,急速な普及をしており,2006年1月現在で,シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは米国のソフトコンタクトレンズ市場の37%を占めている3)(図6).2007年度には過半数を超えるであろうといわれている.シリコーンハイドロゲル素材のコンタクトレンズは酸素透過性が高く,デザイン上,レンズ厚が厚くなってしまうトーリックコンタクトレンズで有用性が高い.海外では,すでにJohnson&Johnson社のACUVUE?ADVANCETMforAstigmatism,Bausch&Lomb社のPureVision?Toricが発売されている.CIBAVision社のO2OPTIXTMToricも限定的な市場であるが米国で発売されている.これらのレンズが日本市場に登場する時期もそう遠くはないであろう.III日本のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ市場日本では2004年10月にチバビジョン社がO2オプティクス(図7)(海外ではNIGHT&DAY?として発売(5)表1海外で発売されているシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズレンズ名NIGHT&DAY?(日本ではO2オプティクス)PureVision?ACUVUE?ADVANCETMO2OPTIXTMACUVUE?OASYSTMbio?nityTM販売会社CIBAVisionBausch&LombVistakonCIBAVisionVistakonCooperVisionDk値*114010160110103128Dk/L値*217511086138147160含水率(%)243647333848装用方法1カ月間連続装用1カ月間連続装用2週間終日装用2週間終日装用2週間終日装用2週間終日装用1カ月間終日装用1カ月間終日装用1週間連続装用*1Dk:酸素透過係数〔Dk値単位=×10-11(cm2/sec)・(m?O2/m?×mmHg)〕.*2Dk/L:酸素透過率〔Dk値単位=×10-9(cm2/sec)・(m?O2/m?×mmHg)〕.図6米国のソフトコンタクトレンズ市場(2006年1月)─素材による分類低含水性8.0%中含水性49.0%高含水性6.0%シリコーンハイドロゲルCL37.0%図7O2オプティクス(チバビジョン社)———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007されている)を1カ月交換終日装用レンズのカテゴリーで発売開始した.2006年2~3月の調査では日本のソフトコンタクトレンズ市場の5.6%(図8)を占めているにすぎない.諸外国に比べて,シリコーンハイドロゲルレンズの市場拡大が遅いのにはいくつかの理由が考えられるが,最も大きな理由は1カ月交換というカテゴリーであったと筆者は考えている.欧州では1カ月交換レンズのカテゴリーが圧倒的なシェアを占めていたが,日本では頻回(2週間)交換レンズがソフトコンタクトレンズ市場の約45%,1日使い捨てレンズが約35%であり,1カ月交換レンズは10%程度と一般的でない(図9).このため1カ月交換レンズであるO2オプティクスの爆発的な普及ができなかったと考える.2007年3月にジョンソン・エンド・ジョンソン社から2種類のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズが発売された.アキュビュー?アドバンスTM(図10)とアキュビュー?オアシスTM(図11)である.両レンズともに2週間終日装用レンズのカテゴリーであり,装用感も既存のハイドロゲルコンタクトレンズに勝るとも劣らない.両レンズは発売当初から急激に市場に浸透している.これらのレンズ以外にもボシュロム社のボシュロムピュアビジョン?とボシュロムピュアビジョン?〈乱視用〉が1週間連続装用のカテゴリーとして,メニコン社の2ウィークプレミオが2週間終日装用のカテゴリーとして,2007年4月20日現在,すでに国の認可を受けており,年内には日本市場に登場してくるものと思われる.日本市場においてもシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの急激な市場拡大が予想される.IV各世代のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの特徴1998年に最初のシリコーンハイドロゲルコンタクト(6)図8日本のソフトコンタクトレンズ市場(2006年2~3月)─素材による分類低含水性15.6%中含水性57.9%高含水性20.9%シリコーンハイドロゲル5.6%図9日本のソフトコンタクトレンズ市場(2006年2~3月)─カテゴリーによる分類1日使い捨て34.6%2週間交換45.8%従来型7.3%1カ月交換10.8%3~6カ月交換0.3%1年交換0.4%1週間連続装用0.9%図10アキュビュー?アドバンスTM(ジョンソン・エンド・ジョンソン社)図11アキュビュー?オアシスTM(ジョンソン・エンド・ジョンソン社)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???レンズとしてCIBAVision社からNIGHT&DAY?が発売開始され,その後,次々と新製品が登場し,欧米では現在,6製品が販売されている.各コンタクトレンズの素材や規格の違いを表1に示したが,これらのシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは大きく3つの世代にグループ分けができる.1.第一世代のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ第一世代のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとしてあげられるのが,CIBAVision社のNIGHT&DAY?(日本で発売されているO2オプティクスと同一製品)とBausch&Lomb社のPureVision?である.発売当初は1カ月間連続装用のコンタクトレンズとして普及した.その後,海外でも終日装用としても使用されるようになった.両製品とも含水性が低く,非常に酸素透過性が高い反面,レンズ硬がやや硬く,そのために従来の使い捨てソフトコンタクトレンズに比べて装用感がやや劣り,特有の合併症〔SEALs(superiorepithelialarcuatelesions)(図12),巨大乳頭結膜炎〕の発生の問題があった.2.第二世代のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ第二世代のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとして位置づけられるのがJohnson&Johnson社のACUVUE?ADVANCETMである.これまでのシリコーンハイドロゲルレンズよりも含水率が高く,素材の酸素透過性はDk60と低下したが,レンズ硬をこれまでのシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズよりも軟らかくし,従来の使い捨てソフトコンタクトレンズに装用感を近づけた.シリコーンハイドロゲル特有の合併症と考えられたSEALsや巨大乳頭結膜炎の発生も少なくなった.3.第三世代のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ第三世代のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとしてあげられるのが,Johnson&Johnson社のACU-VUE?OASYSTM,CIBAVision社のO2OPTIXTM(日本で発売されているO2オプティクスとは異なる製品),CooperVision社のbio?nityTMである.これらのシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは,いずれもDk100以上で,高酸素透過性でありながら,第一世代のレンズに比べて,レンズ硬が軟らかく,装用感も向上している.特有の合併症(SEALs,巨大乳頭結膜炎)の問題も改善されている.最近,米国でBausch&Lomb社のPureVision?の改良版が発売されているが,以前のものよりもレンズ硬が軟らかくなっており,このカテゴリーに入るものと推測する.Vレンズケア製品との相性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは塩酸ポリ(7)図12O2オプティクス装用者にみられたSEALs図13O2オプティクスとPHMBを含む多目的溶剤使用者にみられた角膜上皮障害———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007ヘキサニド(PHMB)を含む多目的溶剤(MPS)との相性が悪いことが国内外で報告されている4~6).筆者らが行った臨床実験でも,PHMBを含むMPSに浸漬したO2オプティクスを装用すると,装用初期にびまん性の点状表層角膜症が発症した(図13).ただし,同じPHMB製品であっても,配合される他の成分により,角膜上皮障害の程度は異なった.海外では前述したように,すでにシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは6製品販売されている.Andraskoはシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ5製品と米国で販売されているレンズケア7製品の相性の詳細な報告をしている7).彼の実験結果は,ホームページ(http//www.staininggrid.com)上で,常にアップグレードされている(図14).その結果をみると,コンタクトレンズの種類により,MPSとの相性が大きく異なることが報告されている.PHMBを含まないMPSはシリコーンハイドロゲルレンズと比較的良い相性を示している.ただし,彼の報告では日本で発売されているMPSは2製品しか含まれていない.また新品のコンタクトレンズをパッケージから開け,コンタクトレンズをすすがずに,MPSに直接浸漬しているためにパッケージ内の保存液に含まれる成分の影響も考えられ,必ずしも,通常のコンタクトレンズの使用状況に即しているとはいえない.いずれにしても,シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの安全な装用のためには,日本でもAndraskoの研究のように,シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとレンズケア製品の相性の確認が必要であろう.文献1)LadagePM,YamamotoK,RenDHetal:E?ectsofrigid(8)図14シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズと米国で販売されているレンズケア製品の相性(ホームページより転載)———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???andsoftcontactlensdailywearoncornealepithelium,tearlactatedehydrogenase,andbacterialbindingtoexofo-liatedepithelialcells.?????????????108:1279-1288,20012)RenDH,PetrollWM,JesterJVetal:TherelationshipbetweencontactlensoxygenpermeabilityandbindingofPseudomonasaeruginosaadherencetoexfoliatedhumancornealepithelialcells.??????25:80-100,19993)MorganPB,WoodsCA,JonesDetal:Internationalcon-tactlensprescribingin2006.ContactLensSpectrum/Jan-uary:34-38,20074)JonesL,MacDougallN,SorbaraGL:Asymptomaticcor-nealstainingassociatedwiththeuseofbara?lconsilicone-hydrogelcontactlensesdisinfectedwithpolyaminopropylbiguanide-preservedcareregimen.?????????????79:753-761,20025)AmosC:Performanceofanewmultipurposesolutionusedwithsiliconehygrogels.????????227:18-22,20046)工藤昌之,糸井素純:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズと消毒剤との相性.あたらしい眼科22:1349-1355,20057)AndraskoGJ,RyenKA:EvaluationofMPSandsiliconehydrogellenscombinations.ReviewCornea&ContactLenses/March:36-42,2007(9)

序説:コンタクトレンズの流れを読む

2007年6月30日 土曜日

———————————————————————-Page1(1)???この半世紀,ハードコンタクトレンズ素材の酸素透過性能は,シリコーン系材料や含フッ素材料を導入することにより飛躍的に進歩した.また,含水性ソフトコンタクトレンズ素材の酸素透過性は,ポリヒドロキシエチルメタクリレートにメタクリル酸や?-ビニルピロリドンなどを組み合わせて高含水化を図る方向で改善されてきた.そして現在,両者の長所を生かすべく,ハイドロゲルの高分子網目構造に超酸素透過性のシリコーン誘導体を導入したシリコーンハイドロゲルレンズが完成し,コンタクトレンズ素材の種類は多彩を極めている.さらに,地球規模のマーケティングと大量生産によるコストダウンによって登場した「使い捨てコンタクトレンズ」は,それまでの素材の耐久性,耐汚染性という高分子学上の重要問題を,ディスポーザブル化という文科系的手法で解決した.この「短期間限定使用」の前提は,弱いけれども,より薄くフレキシビリティに富んだ素材の実用化を可能にし,高分子設計の自由度を広げ,使い捨てコンタクトレンズは新たな機能性(付加価値)を獲得しつつある.コンタクトレンズは,時代の要請に応えつつ,方向性を微妙に変えながら着実に進化を遂げているのだ.一方で,平成18年度の保険診療報酬改定後,コンタクトレンズの煩雑な処方や管理への対価があまりにも低く設定されたため,その診療をやめてしまう眼科医が続出していると聞く.強度近視や円錐角膜患者にとって,コンタクトレンズは,まともな視覚を得るための現在考えうる最善の手段であるし,運動神経をはじめ,あらゆる感覚が研ぎ澄まされる若年世代の患者に,収差のない良好なビジョンを提供することは,将来さまざまなフィールドで活躍する人材の輩出につながるに違いない.「あたらしい眼科」の読者の先生方には,正義のために,何とかコンタクトレンズ診療を続ける熱意をもっていただきたい.高度管理医療機器であるコンタクトレンズの安全な処方のためには,相応な知識と技術が必須である.たとえば,白内障手術で,水晶体の混濁の仕方や核の硬化度によって戦略が変わるように,コンタクトレンズ処方においても,角膜形状や眼瞼およびオキュラーサーフェスの状態,涙液の質や量によって戦略が変わる.眼科を生業とする者は,屈折矯正の非常に有効な手段であるコンタクトレンズの重要性と,危険性,難しさを再認識して,ますます多様化し,進歩のとどまらないコンタクトレンズの流れを本特集でつかみ,これを自由自在に扱えるようになっていただけることを切に願う.コンタクトレンズ診療に厳しい風が吹く今こそ,いろいろな意味で眼科医の品格が見きわめられている.0910-1810/07/\100/頁/JCLS*KenjiSano:あすみが丘佐野眼科/東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学**YujiKodama:小玉眼科医院●序説あたらしい眼科24(6):695,2007コンタクトレンズの流れを読む???????????????????????????????????????????????????????????佐野研二*小玉裕司**

眼科医にすすめる100冊の本-5月の推薦図書-

2007年5月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS「Freakonomics」は2005年に出版されるや否や人気を集めた「経済学」の本ですが,タイトルの通り(freakは変人の意味),一般的な意味での経済学について書いたものではありません.アメリカの経済学者とジャーナリストがコンビで執筆していますが,従来あまり学問的に取り上げられたことのない日常生活やニュースで話題になったトピックを分析し,一般人(素人)にも面白く読めるよう解説した短いストーリーを集めています.そして,この解説は一般常識を引っくり返すようなもので,読後は世の中を少し違った目で見るようになりました.国際的にもベストセラーになり,たくさんの読者,ファンから寄せられたコメントや間違いの指摘に基づいて改訂・増補版が2006年に出版されました.2006年5月には日本語版も出ており,今回「眼科医にすすめる100冊の本」に紹介させていただきました.まず目につくトピックは,第1章「学校の先生と相撲の力士,どこがおんなじ?」です.のっけから日本の相撲の話しが登場するので,日本に住むアメリカ人としてはぜひ読んでみたいと思いました.あるアメリカの学校では,授業内容を良くするために生徒の試験成績を教師の給料に反映するようにしたそうです.しかし結果的には,自分の給料が上がるように,生徒に試験の解答を教えるなどズルをする教師が出てきました.集めたデータを客観的に分析すると,どうやら相撲の八百長(があったとすれば)と同じ現象が起きているらしいのです.力士の場合,本場所で8勝7敗の勝ち越しが非常に大きなモチベーションになります.日本でもときどき話題に上ることですが,著者らは本場所の勝敗分析を行って,7勝7敗から勝ち越しをするために力士の間で何らかの取引が行われているということを経済学的に証明しました.どの世界でも,人の行動にはすべて「経済」の力が働いています.経済は,普通お金に関係したものとして捉えられますが,他のポイントもあるようです.八百長はよく言われていることで,多くの人がそうだろうと思っています.とはいえ,このような不正行為を証明できるのが経済学のすごいところだと思います.このように,第1章から第6章まで,「変人(freak)が考える経済学」のトピックを興味深く次から次へと紹介していきます.医学からは遠い話と思いがちですが,実は病院の中のさまざまな出来事や人間関係にまで応用できるかもしれません.個人的には,後期研修医がなぜ大学病院より民間病院を選ぶかについて,著者のレヴィット氏とダブナー氏に依頼し,彼らの独特な分析に基づき,この傾向に歯止めをかけるべくぜひともアドバイスを貰いたいところです.本書のトピックに共通するのは,どの人も,「動機(インセンティブ)」により行動するということです.動機はお金であったり地位であったりとさまざまですが,いずれにしてもメリットが欲しい(またはデメリットを回避したい)と思って職場を選び,他人と付き合い,ものを買うなどの行動をするのです.動機を分析すれば,人の行動が非常に解りやすいような気がします.「眼からウロコ」のエピソードが満載なので,ぜひお薦めします.(105)■5月の推薦図書■ヤバい経済学─悪ガキ教授が世の裏側を探検するFreakonomics:ARogueEconomistExplorestheHiddenSideofEverythingスティーヴン・D・レヴィット/スティーヴン・J・ダブナー著望月衛訳(東洋経済新報社)シリーズ─73◆岡田アナベルあやめ杏林大学医学部眼科☆☆☆