———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSIなぜPEA+IOLなのか1.LI後の残存閉塞隅角進行した原発閉塞隅角症(PAC)あるいは原発閉塞隅角緑内障(PACG)に対してのLIは効果が限られることが明らかになっている1).一般に,LI後も高眼圧をきたす場合,周辺虹彩前癒着(PAS)が多ければ隅角癒着解離術(GSL),PASが少なければ開放隅角機序の合併として流出路手術や濾過手術が選択される.しかしこのほかにも,瞳孔ブロック以外の機序(水晶体およびプラトー虹彩)(図1)による機能的閉塞がLI後に残存することはかなり多い2).実際にはこの機能的閉塞の検出がなかなかむずかしいことが診断を困難にしていたが,暗室うつむき負荷試験(PPT)が検出に非常に有用である.原発閉塞隅角疑い(PACS)からPACGまでの全体ではLI後のPPT陽性率は疑陽性も含めて約4割であったが,なかでもLI前からすでに高眼圧や視野変化をきたしていた症例での陽性率はより高く(図2),進行したPACあるいはPACGに対してのLIは効果が限られる原因の一つと考えられる2).また,LI後に高眼圧の症例におけるPPT陽性率は非高眼圧眼と比べ高いこと2)や,LI後の視野進行とPPTの結果との相関も報告されており3),LI後の高眼圧や視野進行をみたときは原因として残存した機能的閉塞も常に念頭におかねばならない.LI後も機能的閉塞が残存しやすい原因として,アジア人の閉塞隅角では形態的に瞳孔ブロック以外にもプラトー虹彩はじめに日本におけるレーザー虹彩切開術(LI)後の水疱性角膜症によって角膜移植を受ける頻度は推定で200人から300人に1人といわれる.この頻度に,発症したものの移植を受けていない例や水疱性角膜症まで至っていない潜在的な角膜内皮障害例,さらには長期間の経過後の発症の可能性などを加味すれば,LI後の角膜内皮障害の頻度はもっと高いものになると思われる.近年この角膜内皮障害の発症機序に大きな関心が向けられるようになり,今後の研究の成果に期待が寄せられる一方,角膜内皮障害の発症がない周辺虹彩切除術(PI)も最近になって見直されはじめている.このようななか,LI後の水疱性角膜症を減らすために治療方針を大きく変更し,LIに代わり白内障手術を第一選択の治療とすることでLIをほとんど行わなくなった施設も出てきている.ただし,予防まで含めて非常に広くとられてきていたLIの治療対象そのままに白内障手術を行うべきでは決してないので,治療対象の考え方も今までとは異なっていることも推測されるが,なかなか議論される場は少ない.この場を借りて,白内障手術の大きな効果だけでなく,LIに依存しない閉塞隅角眼のマネージメントについてPEA+IOL(水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術)を推進する立場から論じてみたい.(43)????*AtsushiNonaka:神戸市立医療センター中央市民病院眼科〔別刷請求先〕野中淳之:〒650-0046神戸市中央区港島中町4-6神戸市立医療センター中央市民病院眼科特集●原発閉塞隅角緑内障のカッティングエッジあたらしい眼科24(8):1027~1032,2007原発閉塞隅角緑内障治療の第一選択はレーザー虹彩切開術かPEA+IOLか?:PEA+IOL推進の立場から????????????????????????????????????????????-????????????????野中淳之*———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007(44)図1原発閉塞隅角のマルチメカニズム原発閉塞隅角のメカニズムは3つのファクターに分けて考えるとわかりやすい.1)水晶体:虹彩の先端部の位置を決める中心前房深度は水晶体の肥厚や前方移動により浅くなり,狭隅角化する.2)瞳孔ブロック:瞳孔ブロックにより虹彩の前方膨隆が増大し,狭隅角化する.3)プラトー虹彩:毛様突起および虹彩根部の位置形状により狭隅角化する.白内障手術は,水晶体の除去だけでなく瞳孔ブロックも解消し,プラトー虹彩に特徴的な毛様突起の前方回旋も軽減することなどを考え合わせると,白内障手術は原発閉塞隅角に根治的といえる.瞳孔ブロック水晶体プラトー虹彩瞳孔ブロック水晶体プラトー虹彩図2緑内障性変化の有無によるLIの効果の比較LI前にすでに高眼圧(a)や視野変化(b)をきたしていた症例では,LI後に機能的閉塞が残存しやすいといえる.(文献2より)100%75%50%25%0%≦19mmHg(n=43)≧20mmHg(n=10)a眼圧LI前の眼圧平均16.5±2.7mmHg(p<0.05)22.3±2.8mmHg:≧20mmHg:15~19mmHg:≦14mmHg100%75%50%25%0%≦19mmHg(n=38)≧20mmHg(n=10)PPTLI前の眼圧(p<0.05):陽性:疑陽性:陰性100%75%50%25%0%緑内障性視野変化(-)(n=29)緑内障性視野変化(+)(n=29)bLI後の眼圧LI前の緑内障性視野変化緑内障性視野変化(-)(n=26)緑内障性視野変化(+)(n=29)LI前の緑内障性視野変化平均16.0±3.4mmHg(p=NS)17.4±3.9mmHg:≧20mmHg:15~19mmHg:≦14mmHg100%75%50%25%0%LI後のPPT(p<0.01):陽性:疑陽性:陰性———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007????の関与が大きいマルチメカニズムの頻度が高いことがあげられる.このような理由でLIだけでは閉塞隅角を完全に解除できないことが多いことが,慢性閉塞隅角に対する治療が瞳孔ブロックの解除だけで完結できることが少ない大きな理由の一つと考えられる.2.LI後の残存閉塞隅角に対する白内障手術LI後に残存した機能的閉塞を完全に解除する手段として,白内障手術は単独で効果がきわめて高い2).隅角は大きく開大し,眼圧は下降し,PPTは陰性化する(図3).これは水晶体の除去によって中心前房深度が深まるというだけでなく,毛様突起の前方回旋が有意に弱まり4)プラトー虹彩にも効果があることも大きく関与している(図4).したがって,LI後の高眼圧に対しGSL,流出路手術,濾過手術などが考慮される場合に白内障手術とのトリプル手術で行われることも一般に多いが,PPTによって機能的閉塞を確認した場合には白内障手術は必要であるだけでなく,単独でも機能的閉塞を解消(45)100%75%50%25%0%白内障手術前(LI後)白内障手術後(n=13)白内障手術前(LI後)平均AOD500=0.07±0.07mm白内障手術後平均AOD500=0.25±0.10mmabLI後の眼圧白内障手術前(LI後)白内障手術後(n=13)平均19.3±4.1mmHg(p<0.01)14.8±3.0mmHg:≧20mmHg:15~19mmHg:≦14mmHg100%75%50%25%0%LI後のPPT(p<0.01):陽性:疑陽性:陰性図3LI後に残存した機能的閉塞に対する白内障手術の効果白内障手術は,眼圧下降とPPT陰性化(a),隅角の大きな開大(b)など,機能的閉塞を完全に解除するといえる.(文献2より)図4白内障手術前後の毛様突起の位置形状原発閉塞隅角に対し白内障手術を行うと,個体差はあるものの,術前(左)と比べ術後(右)毛様突起の前方回旋は有意に軽減し,隅角開大に大きく関与する.一方,虹彩根部の毛様突起への付着形状は大きく変化しない.(文献4より)白内障手術前白内障手術後———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007することで十分効果が期待できると考えられる.以上のことから考えると,進行したPACあるいはPACG,言い換えれば高眼圧や視野変化をすでにきたして治療的手段を必要としている症例では,効果の限られたLIを選択せずに隅角閉塞を完全に解除できる白内障手術を最初から選択するべきであるとも言える.3.白内障手術からみた原発閉塞隅角病態を瞳孔ブロックからだけでなく水晶体を通して考えれば,原発閉塞隅角の病態理解は大きく進む.たとえば,従来閉塞隅角はほとんどが瞳孔ブロック起因性の疾患であると考えられてきた.しかし,アジア人においてはマルチメカニズムが多く,瞳孔ブロック,プラトー虹彩,水晶体のすべてに対し白内障手術は効果をもつ(図1)からこそ,瞳孔ブロックのみを解除するLIと異なり根治的なのである.したがって,原発閉塞隅角は水晶体起因性であって,水晶体の関与の仕方の一つに瞳孔ブロックがある,と言ったほうがより正確であろう.また,器質的あるいは機能的という閉塞隅角の状態の面から言えば,白内障手術は基本的に機能的閉塞を強力に解除するものであり,広範囲の器質的閉塞を伴う場合はGSLの追加または併用も考慮する必要がある.しかし,この白内障手術単独での眼圧下降効果から考えると,決して器質的閉塞だけが眼圧上昇をきたすわけではなく,機能的閉塞も眼圧上昇の大きな原因となっていることもわかる.4.機能的閉塞と白内障手術とPPT機能的閉塞を強力に解除するのが白内障手術,機能的閉塞を検出するのがPPTである.したがって,白内障手術の術前に機能的閉塞の存在をPPTで確認することは非常に合理的と言える.緑内障または高眼圧の原因が閉塞隅角機序によるものなのか,その他の機序によるものなのか診断に苦慮することも日常診療では多いが,その鑑別診断にも有用である.特に透明水晶体や白内障による自覚症状に乏しい場合には,患者にとってだけでなく医師にとっても,手術の決断をするうえで大きな判断材料となる.PPTは現在あまり行われなくなった検査ではあるが,特別な装置も必要ないし安全性も高く,特異度も高いと以前から考えられており,得られる結果は大きな意味をもつ.今一度PPTの意義について再認識されてよいのではないだろうか.II白内障手術の適応についてでは,白内障手術を基本的に第一選択の治療として位置づけたとき,治療対象をどのように考えるべきか.白内障による視力低下の自覚があれば,閉塞隅角の進行度や形式によらず,白内障手術の適応である.では,透明水晶体,あるいは自覚症状に乏しい場合どうするべきか.白内障手術は内眼手術特有の合併症の問題に加え閉塞隅角眼特有の技術的むずかしさも確かに存在する5).したがって,現在まで予防治療を含めて非常に広くとられているLIの治療対象に対し,そのままLIの代わりに白内障手術を行うべきではない.白内障による自覚症状に乏しい症例に白内障手術という手術治療を行う以上は,本当に必要な症例とそうでない症例を区別する必要があると考えている.治療の目的別に具体的に述べてみたい.a.慢性の治療前述のように,高眼圧や視野変化をきたした慢性のPACまたはPACGに対するLIの効果は限られているが,一方,白内障手術は単独で効果が強い.したがって,このような受診時に降圧治療を必要とされる症例では,水晶体の混濁の程度によらず積極的な白内障手術をまず考慮するべきである.ただし,視野進行度によって,より低い眼圧を目指す場合あるいはPASの範囲によっては,濾過手術ないしGSLの追加あるいは同時手術も症例に応じて検討する必要がある.注意すべき点として,ステロイドレスポンダーが閉塞隅角に多いと言われており,術後眼圧の再上昇をきたしたときは術後ステロイド点眼薬を中止ないし変更する.特殊例として,一般に難治である若年のPACG(大部分はプラトー虹彩)では水晶体の関与する度合いが高齢者と異なる可能性があり,白内障手術単独の効果も高齢者と異なる可能性がある6).b.慢性の予防PACSあるいはPACのすべての症例が必ず進行するというわけでなく,進行するのは一部である.PACG(46)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007????に進行する前に白内障自体が進行して手術適応となれば,閉塞隅角に関しても効果的なのは言うまでもない.また白内障手術の慢性のPACGに対する効果の高さも考え合わせると,急性の予防と異なり慢性の予防という意味で合併症リスクの存在する予防治療をむやみに急ぐ必要はない.特にPACは一般に治療対象とされるが,PASもごくわずかでサイレントな経過の症例もあれば,PASがかなり広範囲だったりPPTによって高度の眼圧上昇をきたす症例,高眼圧をきたしている症例まで非常に幅広いため,予防治療の必要性も一様でなく症例によって異なると思われる.PACSあるいはPACのなかでもハイリスクと考えられる症例に対しては積極的な白内障手術を考慮すべきであろう.c.急性の治療急性原発閉塞隅角症(APAC)に対する外科的処置の一次的手段としての白内障手術の効果が多数報告されてきており,術後経過はきわめて良好である7).ただし,保存的治療によっても降圧が得られない場合の高眼圧下での白内障手術は,正常眼圧下での手術以上に難易度が高く術者にかなりの技術と経験が要求されることも事実である.したがって降圧という意味で,corevitrecto-myの併用も考慮されなければならないし,一次的にPIあるいはLIによって眼圧を一旦下降させておくことも十分大きな選択肢である.一時的にではあるがレーザー隅角形成術によってAPACを解除させるという手段も報告されている.d.急性の予防APACの原因である瞳孔ブロックは,LIやPIと同様に白内障手術によっても解除され,術後APACは発症しなくなる.しかし,隅角が狭いというだけでは,頻度の決して高いものではないAPACの予防の目的で広く白内障手術を行うべきではない.現在までLIによる予防治療を非常に広くとらざるをえなかった大きな一つの理由はAPACの発症リスクの評価が困難なことである.発症リスクの評価が可能であるならば,リスクが低い症例は経過観察でよく,LI,PI,白内障手術のいずれにせよ,合併症の可能性のある治療を行う必要はない.逆にリスクが高い症例では,そのリスク評価の精度が高まるほど,どの治療手段を用いるにせよ治療の合併症の問題(47)は許容されうる.当科ではこの評価に暗室うつむき試験と中心前房深度値(可能ならば超音波生体顕微鏡画像による虹彩の前方膨隆値8))などを組み合わせることで,APACの予防治療の対象を激減させる可能性を報告し(日本緑内障学会,2006年)実践している.さらには,APACに対する白内障手術を含めたマネージメントに自信のある施設ならば,患者が発症時に確実に自覚でき迅速な受診が可能でさえあれば,まったく予防治療を行わないという考え方も可能になってくるかもしれない.おわりに白内障手術は原発閉塞隅角に対しての根治的治療となる.LIと比較して,機能的閉塞をより完全に解除する強力な隅角開大手段であり9),短中期予後は明らかに良好である.LIと異なり,白内障の進行,水疱性角膜症の発症,閉塞隅角解除の点で術後マネージメントフリーになる可能性は高い.逆に水晶体を温存するがゆえのLIや濾過手術は,合併症の問題に加え,術後に進行した白内障の手術の難易度が高まることも多い.また白内障手術には,原発閉塞隅角に一般的な軽度遠視の屈折矯正の副次的効果もある.今後,長期予後の検討が必要となるが,予期せぬ特有の合併症が起きるという可能性も考えにくい.一方,特に透明水晶体の症例で問題となるnegativeな面としては,決してLIだけでなく白内障手術においても合併症の問題は存在することである.閉塞隅角眼特有の白内障手術の技術的むずかしさが存在することも多く5),術者には技術と経験が求められる.病診連携の面では,閉塞隅角はPACGからPACSまで含め頻度の高い疾患であり,白内障手術設備を備えた施設だけしかマネージメントできないというのも現実的ではない.したがって,白内障手術の効果が大きくクローズアップされるようになった現在でも,合併症の問題さえ解決すれば,一次的に瞳孔ブロックを選択的に外来で解除できAPACを確実に予防できるLIの存在意義はきわめて大きい.むしろ,現在までLIの安全性を根拠に閉塞隅角の治療適応が予防まで含め非常に広くとられてきたことが,決して高頻度ではない水疱性角膜症の絶対数を増やしてしまっていることが大きな問題点を含んでいるのかもしれない.今本当に求められているのはLIと———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007(48)白内障手術の単なる比較だけでは決してなく,PIの見直しも含めた閉塞隅角治療の適応と方針の再検討,再構築ではないだろうか.PEA+IOL(水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術)を推進する立場で言えば,閉塞隅角の治療対象の考え方を修正したうえで白内障手術を第一選択として適切にかつ慎重に行えば,LIを行う機会を非常に少なくすることが現実に可能である.文献1)永田誠:わが国における原発閉塞隅角緑内障診療についての考察.あたらしい眼科18:753-765,20012)NonakaA,KondoT,KikuchiMetal:Cataractsurgeryforresidualangleclosureafterperipherallaseriridotomy.?????????????112:974-979,20053)吉川啓司,中瀬佳子,東出登志ほか:原発閉塞隅角緑内障の予後と眼圧.臨眼45:311-314,19914)NonakaA,KondoT,KikuchiMetal:Anglewideningandalterationofciliaryprocesscon?gurationaftercata-ractsurgeryforprimaryangleclosure.?????????????113:437-441,20065)間山千尋,富所敦男:閉塞隅角緑内障の白内障手術のポイント.あたらしい眼科22:1207-1209,20056)NonakaA:Primaryangle-closureglaucoma.??????????????114:1031,20077)家木良彰,三浦真二,鈴木美都子ほか:急性緑内障発作に対する初回手術としての超音波白内障手術成績.臨眼59:289-293,20058)NonakaA,IwawakiT,KikuchiMetal:Quantitativeevaluationofirisconvexityinprimaryangleclosure(Briefreport).???????????????143:695-697,20079)栗本康夫,宮澤大輔,竹内篤ほか:狭隅角眼に対するレーザー虹彩切開術と白内障手術による隅角開大効果の比較.あたらしい眼科14:427-432,1997■用語解説■暗室うつむき試験(pronepositiontest:PPT):暗室による散瞳とうつむき姿勢とによって機能的閉塞を一時的に増強し眼圧の上昇をみる誘発試験.暗室で1時間のうつむき姿勢後の眼圧上昇が8mmHg以上を陽性,6~7mmHgを疑陽性とする.