———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS収差,球面様収差,全高次収差のいずれもが涙液層破綻後では有意に高くなっていた.瞬目直後のHartmann像は,スポットパターンのひずみがほとんどみられず,高次収差のカラーコードマップはほぼ均一な緑色で,高次収差は非常に少ないのに対し,涙液層が破綻した瞬目15秒後では,スポットパターンにひずみがみられ,中央部,下方の高次収差マップに色の変化がみられ,高次収差が増加しているのがわかる4)(図1).はじめにドライアイはこれまで視機能障害をきたさない疾患と考えられ1),主として,涙液の量/質的低下,角膜上皮障害に関するものが詳細に解析されてきた.しかし,近年眼科臨床においてqualityofvisionの重要性が認識されるなか,従来の視力検査では検出することができなかった,涙液変化による視機能異常を捉えることが可能になり,さらにドライアイの新しい定義に「眼不快感や視覚障害を伴う」ことが追加され,ドライアイにおける視機能評価はますます重要となってきている2,3).正常人においても環境やVDT(visualdisplaytermi-nal)作業などによって,涙液層や瞬目のパターンが変化することが知られているが,これに伴って視機能がどのような変化を生じるかは興味があるところである.従来,光学的特性を動的に評価することはむずかしかったが,最近波面センサーによって動的に眼球光学系の特性を評価することが可能となってきた.本稿においては,実際に瞬目がくり返されるなかでの眼球高次収差の連続測定と,さまざまな涙液動態における涙液動態と高次収差の関係を中心に解説したい.I涙液層破綻と高次収差涙液層の破綻が眼球の光学的特性に及ぼす影響について,以前筆者らは波面センサーを用いて,正常人に対して涙液層破綻前後で眼球全体の高次収差を測定したところ,瞳孔径4mm,6mmのいずれにおいても,コマ様(51)1461*ShizukaKoh:大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室〔別刷請求先〕高静花:〒565-0871吹田市山田丘2-2大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室特集●眼の収差を理解するあたらしい眼科24(11):14611466,2007涙液と高次収差DynamicsofTearFilmandHigher-OrderAberrations高静花*図1涙液層破綻前後のHartmann像と高次収差カラーマップa.瞬目直後b.瞬目15秒後Hartmann像高次収差マップ———————————————————————-Page21462あたらしい眼科Vol.24,No.11,2007II短焦点型波面センサーによる測定,解析涙液動態変化が視機能に与える微細な影響を動的かつ定量的に評価するために,筆者らは短焦点型波面センサーを開発した5).これは現行モデルに比べて測定スポットが多く微細な変化を捉えること,そして1秒ごとの測定で最長60秒まで連続測定が可能である.方法a.測定短焦点型波面センサーを用いて,高次収差を1秒ごとに30秒間(あるいは60秒間)連続測定する.測定中の瞬目間隔はVDT作業時などの瞬目抑制下を想定した10秒ごととしている6).また,眼球表面上の涙液は,温度,湿度の影響を受けるため,室内環境を一定に保った状態で測定を行う.高次収差の解析はZernike多項式を用いて,瞳孔径4mmについて6次までZernike展開し,コマ様収差,球面様収差,および両者をあわせた全高次収差を算出する7).b.高次収差の変化の指数瞬目後10秒間に測定される眼球全高次収差の変化の指数として,つぎの2つの指数を定義した(図2).Fluctuationindex:高次収差のばらつきをみるもので,10秒間に得られた高次収差の標準偏差から算出する.Stabilityindex:高次収差の全体的な変化の傾向をみるもので,10秒間に得られた高次収差の回帰直線の傾きから算出する.値が高くなるほど,変化の傾向が大きいことを示す.IIIさまざまな涙液動態における高次収差変化涙液動態と高次収差の関係については,角膜トポグラフィーを用いて角膜の高次収差を経時的に調べた研究もなされている8,9)が,ここでは,一連の研究5,1013)によって得られた,涙液動態に伴う眼球全体の高次収差の経時的変化について述べる.1.正常眼屈折異常以外に異常を認めない正常眼20眼に対し,高次収差の連続測定を行ったところ,20眼のうち,値(52)?Fluctuationindex(FI):高次収差のばらつき?Stabilityindex(SI):高次収差の変化の傾向全高次収差(?m)SI●FI時間(秒)瞬目瞬目図2高次収差の変化を示す指数図3正常眼における瞬目後の高次収差の経時的変化blinkc.のこぎり型b.動揺型a.安型定00.050.100.150.200.250.30RMS(?m):コマ様収差:全高次収差051015202530時間(秒)00.050.100.150.200.250.30RMS(?m)051015202530時間(秒)00.050.100.150.200.250.30RMS(?m)051015202530時間(秒):球面様収差———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.11,20071463がほぼ一定のもので増減傾向がみられない「安定型」が25%,増減の傾向はないものの,値にばらつきがみられる「動揺型」が45%,瞬目ごとに値が増加する傾向にある「のこぎり型」(形状がのこぎり歯に似ている)が20%にみられた.20眼のうち2眼はいずれにも属さず,分類不能であった(図3).のこぎり型では,瞬目ごとに高次収差が増加するという特徴的なパターンを示し,しかも,瞬目ごとに収差の値も高くなっていた.経時的な(53)図4瞬目後の高次収差マップの経時的変化(a:安定型,b:のこぎり型.)コマ様収差球面様収差全高次収差瞬目瞬目時間(秒)19876a5423コマ様収差球面様収差全高次収差瞬目瞬目時間(秒)19876b5423———————————————————————-Page41464あたらしい眼科Vol.24,No.11,2007高次収差の変化の指数を3群で比較したところ,Fluc-tuationindex,Stabilityindexともに,のこぎり型では安定型と動揺型に比べて有意に高値を示していた.安定型では瞬目後10秒間,高次収差マップもsimulationの網膜像もおおむね安定しているのに対し(図4a),のこぎり型では瞬目後時間が経過するにつれて,全高次収差マップの下方の青色が増強するなど著明に変化し,また網膜像も経時的に悪化していくのがわかる.間隔の長い瞬目を行うと,不安定な涙液動態が高次収差に現れやすく,安定した視機能が得られていない可能性がある.また,全高次収差の変化との連動は球面様収差よりコマ様収差が強く,涙液層の厚みの非対称な変化との関連が示唆するものと思われる(図4b).このように,臨床的にドライアイのない正常眼でも,安定型,動揺型,のこぎり型とvariationがあることが高次収差の連続測定により示された5).2.BUT短縮型ドライアイBUT(tearbreak-uptime)短縮型ドライアイ(shortBUTドライアイ)は,異常所見としてBUTの極端な短縮のみを認め,眼精疲労などの眼不快感や視覚に関する症状を強く訴えることが多い,涙液の質的な異常がある病態と知られている.ShortBUTドライアイにおいて,瞬目に伴う高次収差の経時的変化を測定すると,瞬目後に高次収差が増加傾向を示す「のこぎり型」がみられ,全高次収差,コマ様収差,球面様収差のいずれも瞬目後に有意に増加していた10).ShortBUTドライアイでは角膜上皮障害はない,あるいはあってもわずかなので,瞬目直後の高次収差は高くなく,そして,瞬目抑制下では,涙液の質的異常が高次収差の増加をもたらし,それが眼精疲労や視覚に関わる症状の原因となると推察される.正常眼のこぎり型グループとの違いは,shortBUTドライアイでは自覚症状を訴えるということであるが,自覚症状の有無が,BUTが5秒よりも短いからなのか,それともshortBUTドライアイは他になにか視機能的に問題があるのかというのは興味あるところで,VDT作業,IT(informationtechnology)眼症と関連が深いという背景があるだけにその病態生理の解明が期待される.(54)コマ様収差球面様収差全高次収差SimulatedLandoltC(logMAR0)瞬目瞬目時間(秒)198765423図5涙液減少型ドライアイにおける高次収差マップの経時的変化Sjogren症候群.BUT:2秒,Schirmertest:2mm.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.11,20071465(55)3.涙液減少型ドライアイ涙液が量的にも質的にも低下し,角膜中央部に上皮障害を生じているドライアイでは,高次収差は瞬目後から高く,経時的なばらつきはあるものの,増加傾向を示すのこぎり型はみられない.高次収差のカラーマップも正常眼の安定型に比べ,赤色,青色が増強しており,瞬目と瞬目の間でLandolt環像はずっとぼけたままで,経時的に著明に悪化していく様子はみられない(図5).このメカニズムについては,まず角膜上皮障害があると光学面が不整になり高次収差が増加する.そして,涙液減少型ドライアイではtearbreak-upが速く,涙液層は不安定であるが,涙液量そのものが少なく,水層の厚みも大変うすいため,正常人の「のこぎり型」やBUT短縮型ドライアイのような動態変化が高次収差に現れにくかったと考えらる11).4.涙点プラグ挿入後視力低下を訴えたドライアイ症例涙点プラグ治療は,涙液量を増やすことにより,角結膜上皮障害を改善し眼球の光学的特性をも改善させるすぐれた治療であるが,プラグ挿入後にドライアイ症状は改善したものの,かえって涙液量増加による流涙,およびそれによる見えにくさを訴えることはときどき経験される.点眼治療が有効でなかった中等度の涙液減少型ドライアイに対し,涙点プラグを上下涙点に挿入したところ,自覚的,他覚的にもドライアイ症状は改善したが,「涙がたまって,まばたきのたびにかえって見えにくい」と訴えた.そこで,眼球高次収差を治療前後で測定したところ,プラグ挿入前は瞬目後の高次収差の変化は軽微であったが,プラグ挿入後では,瞬目後数秒でピークを示し,その後徐々に下がり,また瞬目でピークを迎えるという「逆のこぎり型」パターンを示していた(図6).全高次収差の変化は,球面様収差よりコマ様収差との連動が強く,涙液層の厚みの上下非対称な変化との関連が示唆された12).このように,涙点プラグ挿入によって上皮障害が改善しても,過剰な涙液が貯留し,それが瞬目により移動すると,視機能低下を生じる可能性があることがわかる.おわりに波面収差の連続測定により,瞬目に伴うさまざまな涙液動態が視機能に及ぼす影響を動的かつ定量的に評価することが可能である.ドライアイの病態理解および治療効果の評価を考えるうえで,涙液動態が視機能の質に及ぼす影響を動的かつ定量的に評価し,光学の観点からドライアイの病態とqualityofvisionを関連付けることは,今後よりいっそう重要になると思われる.今後,ドライアイやさまざまな涙液動態の光学的特性を評価することにより,ドライアイの病態の解明,および,各種点眼,コンタクトレンズ13)など良好な視機能が得られる治療法の開発の模索,およびその治療効果の評価に役立つと考えられる.図6涙点プラグ挿入後に視力低下を訴えた患者における,プラグ挿入後の高次収差の変化00.050.10.150.20.250.300.050.10.150.20.250.3瞬目RMS(?m):コマ様収差:全高次収差05101520253530404550556065時間(秒)RMS(?m)05101520253530404550556065時間(秒):球面様収差———————————————————————-Page61466あたらしい眼科Vol.24,No.11,2007(56)文献1)GotoE,YagiY,MatsumotoYetal:Impairedfunctionalvisualacuityofdryeyepatients.AmJOphthalmol133:181-186,20022)DogruM,SternME,SmithJAetal:Changingtrendsinthedenitionanddiagnosisofdryeyes.AmJOphthalmol140:507-508,20053)島潤:2006年ドライアイ診断基準.あたらしい眼科24:181-184,20074)KohS,MaedaN,KurodaTetal:Eectoftearlmbreak-uponhigher-orderaberrationsmeasuredwithwavefrontsensor.AmJOphthalmol134:115-117,20025)KohS,MaedaN,HiroharaYetal:Serialmeasurementsofhigher-orderaberrationsafterblinkinginnormalsub-jects.InvestOphthalmolVisSci47:3318-3324,20066)TsubotaK,NakamoriK:Dryeyesandvideodisplayter-minals.NEnglJMed328:584,19937)MartinezCE,ApplegateRA,KlyceSDetal:Eectofpupillarydilationoncornealopticalaberrationsafterpho-torefractivekeratectomy.ArchOphthalmol116:1053-1062,19988)Montes-MicoR,AlioJL,MunozGetal:Temporalchang-esinopticalqualityofair-tearlminterfaceatanteriorcorneaafterblink.InvestOphthalmolVisSci45:1752-1757,20049)Montes-MicoR,AlioJL,CharmanWN:Dynamicchangesinthetearlmindryeyes.InvestOphthalmolVisSci46:1615-1619,200510)KohS,MaedaN,HoriYetal:Eectsofsuppressionofblinkingonqualityofvisioninborderlinecasesofevapo-rativedryeye.Cornea,inpress11)KohS,MaedaN,HiroharaYetal:Serialmeasurementsofhigher-orderaberrationsafterblinkinginpatientswithdryeye.InvestOphthalmolVisSci,inpress12)KohS,MaedaN,NinomiyaSetal:Paradoxicalincreaseofvisualimpairmentwithpunctalocclusioninapatientwithmilddryeye.JCataractRefractSurg32:689-691,200613)KohS,MaedaN,HamanoTetal:Eectofinternallubri-catingagentsofdisposablesoftcontactlensesonhigher-orderaberrationsafterblinking.EyeContactLens,inpress