———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS歴史的に“悪性”緑内障は,急性原発閉塞隅角症に対する虹彩切除術後が成功したにも関わらず発症する極度の浅前房および高眼圧であり,予後不良な病態として19世紀にvonGraefeにより報告された.瞳孔ブロックの概念も成立しておらず虹彩切除によって何故“緑内障”(急性原発閉塞隅角症)が治癒するのか不明であった当時,“別のメカニズムによる緑内障”であるとされた.現在も“悪性緑内障”の定義はしばしばメカニズムとともに語られ明確でないが,眼内手術後に発症する極度の浅前房および瞳孔ブロックによらない隅角の閉塞を伴う高眼圧で,縮瞳薬が無効または増悪因子となる.“Aqueousmisdirection”セオリー(房水の硝子体中への回り込み)は,1954年にSha?erにより悪性緑内障に対する術中所見から提唱された概念である.1972年には,WeissとSha?erは毛様体?水晶体間の接触による硝子体圧の上昇という概念を提唱し“ciliaryblockglauco-ma”と命名した.RitchおよびLoweは“TheGlaucomas”1)のなかで,Pavlinも著書“Ultrasoundbiomicroscopyoftheeye”2)のなかで悪性緑内障の超音波生体顕微鏡(UBM)所見(89)●連載?緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄83.毛様体脈絡膜?離と悪性緑内障酒井寛琉球大学医学部眼科悪性緑内障は,狭義には緑内障手術後の前房消失を伴う続発閉塞隅角による高眼圧のことであり,現在では比較的まれな病態である.悪性緑内障の発症メカニズムには毛様体ブロック,房水の硝子体腔への回り込み,などの説がある.超音波生体顕微鏡による観察によると毛様体脈絡膜?離も悪性緑内障発症に何らかの役割を果たしているらしい.図1血管新生緑内障に対する線維柱帯切除術後に発症した悪性緑内障のUBM写真虹彩は瞳孔ブロックによる前弯を示さない.毛様体は扁平に押しつぶされたような形状で,前方に回転(偏位)している.毛様体に押し付けられるように虹彩が隅角を完全に閉塞している.中央前房は非常に浅い.?図2正常眼と悪性緑内障発症眼の模式図悪性緑内障眼(B)の眼球は正常眼(A)に比べ小さいことが多く,水晶体は相対的に大きい.前方に偏位した水晶体?虹彩平面,水晶体赤道部に接し前方に回転し扁平化した毛様体突起,虚脱した後房を示す.房水は毛様体?水晶体ブロックにより硝子体中へ流出しさらに前後房を圧排する.(文献5より)A.正常前眼部B.悪性緑内障房水の流れ図3悪性緑内障の発症メカニズムの関係(仮説)ぶどう膜強膜流↑毛様体脈絡膜?離眼球開放水晶体前方移動毛様体ブロック毛様体前方回旋浅前房隅角閉塞急激な眼圧下降硝子体への房水の回り込み眼圧上昇手術炎症(PGs)ピロカルピン硝子体圧>前後房圧———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007(図1)として,毛様体脈絡膜?離を示している.こうした症例の診断を“悪性緑内障”とするのか“毛様体脈絡膜?離に続発する閉塞隅角緑内障”とするのかは議論となっている3,4).しかしながら,“aqueousmisdirection”同様の機序をひき起こし3),臨床的に鑑別不能4)であるとされる.急性原発閉塞隅角症が悪性緑内障をひき起こしやすいことは,小眼球,浅前房であるという術前の解剖学的特徴に加えて5)(図2),急性発作後の毛様体脈絡膜?離が一因である可能性がある6).1915年にHeer-fordtは悪性緑内障の機序として渦静脈と脈絡膜のうっ血による毛様体の前方回転という仮説を提唱した7).UBMによる観察結果はこの仮説を裏付けているようだ.毛様体脈絡膜?離の関与を含めた悪性緑内障の病態の概念を図3に示す.文献1)RitchR,LoweRF:Angle-ClosureGlaucoma:Mechani-smsandEpidemiology.TheGlaucomaas,3rded(edbyRitchR,BruceShieldsM),p801-820,Mosby,StLouis,19962)PavlinCJ,FosterFS:Ultrasoundbiomicroscopyoftheeye.p82-85,Springer-Verlag,NewYork,19943)DugelPU,HeuerDK,ThachABetal:Annularperipher-alchoroidaldetachmentsimulatingaqueousmisdirectionafterglaucomasurgery.?????????????104:439-444,19974)LiebmannJM,WeinrebRN,RitchR:Angle-closureglau-comaassociatedwithoccultannularciliarybodydetach-ment.???????????????116:731-735,19985)酒井寛,澤口昭一:悪性緑内障.眼科手術19:309-313,20066)SakaiH,Morine-ShinjyoS,ShinzatoMetal:Uveale?usioninprimaryangle-closureglaucoma.??????????????112:413-419,20057)HyamsS:Angle-ClosureGlaucoma.AComprehensiveReviewofPrimaryandSecondaryAngle-ClosureGlauco-ma.Kugler,Amstelveen,1990(90)☆☆☆眼科学【監修】眞鍋禮三(大阪大学名誉教授)I.総論VIII.ぶどう膜XV.屈折・調節異常II.眼科診療室にてIX.水晶体XVI.光覚・色覚の異常III.眼瞼X.網膜硝子体XVII.全身疾患と眼IV.涙器(涙腺,涙道)XI.視路,瞳孔,眼球運動XVIII.眼のプライマリーケアV.結膜XII.眼窩XIX.眼治療学総論VI.角膜XIII.緑内障XX.付録VII.強膜XIV.斜視,弱視A.眼科略語集/B.眼科関連法律(法令)/C.リハビリテーション/D.主な眼科雑誌の紹介基礎と臨床との関連性を強く前面に打ち出し、単に眼科学の知識の羅列でなく、何故そうなるのかがわかる記載を心がけた。また、基礎編の記載でも必ず臨床を念頭においた書き方に努めることとした。教科書の内容になじまないトピックス的なものにも触れようと囲み記事として随所に配したが、勉強中の息抜きの読み物として楽しんでもらえれば幸いである。楽しみながら、そして考えながら「眼科学」を身につけることができる教科書として、広く親しまれることを願ってやまない次第である。(あとがきより)B5判2色刷り総674頁カラー写真・図・表多数収録定価23,100円(本体22,000円+税5%)メディカル葵出版〒113─0033東京都文京区本郷2─39─5片岡ビル5F振替00100─5─69315電話(03)3811─0544■内容内容■考える診療のために!あの名著が更にUp-To-Dateな情報を盛り込んで!待望の改訂版、登場!■疾患とその基礎■<改訂版>株式会社