‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

硝子体手術のワンポイントアドバイス48.ガスタンポナーデ後の隅角変化(中級編)

2007年5月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLSはじめに増殖硝子体網膜症などの難治性網膜?離では,水晶体および硝子体を切除した後に,眼内タンポナーデ物質として長期滞留ガスを使用することが多い.術後に無水晶体眼となった症例では,虹彩がガスにより角膜内皮面に長期間圧排され,隅角癒着(周辺虹彩前癒着)をきたすことがある.特に水晶体?をすべて除去した症例ではこの傾向が強い.虹彩全面が角膜内皮面に癒着すると,高度の眼圧上昇をきたす(図1).●隅角癒着の危険因子一般に隅角癒着は,術後の前房内炎症が高度で高眼圧の期間が長いほど生じやすい(図2)1).この間は,ステロイド結膜下注射による消炎や,炭酸脱水酵素阻害薬による眼圧コントロールを積極的に行う.●隅角癒着の治療ガスの消失に従い下方から隅角癒着が自然に解離することもあるが,癒着が永続すると,外科的治療が必要となる.ガスが眼内に滞留している時期でも,伏臥位で角膜輪部から26~27ゲージ針を前房内に刺入し,虹彩を後方に押しやることで癒着を解離できることもある.下方の隅角が開放すれば,ガスの消失とともに徐々に上方に向かって癒着が解離することが多い.ガスが消失しても癒着が持続する場合には,隅角癒着解離術を行う.筆者は,硝子体手術のセットアップで,硝子体鑷子で虹彩(103)を後方に牽引し,癒着を解離することが多い2)(図3).隅角癒着の予防法として水晶体?をリング状に残存させ,虹彩を残存水晶体?に癒着させる方法があるが,これは次回に述べることにする.文献1)池田恒彦,檀上真次,桑山泰明ほか:ガスタンポナーデ後の隅角変化.眼科手術6:299-303,19932)小室青,池田恒彦,澤浩ほか:硝子体手術後の閉塞隅角緑内障に対する隅角癒着解離術の一変法.あたらしい眼科15:869-871,1998硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載?48ガスタンポナーデ後の隅角変化(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図1ガスによる虹彩の角膜内皮面への圧排虹彩全面が角膜内皮面に癒着すると,高度の眼圧上昇をきたす.図2術後炎症の遷延例に生じた隅角癒着a:術直後の前眼部所見,b:ガス消失時の隅角所見.隅角癒着は術後の前房内炎症が高度で高眼圧の期間が長いほど生じやすい.ab図3隅角癒着解離術硝子体手術のセットアップで硝子体鑷子を用いて癒着を解離する.

眼科医のための先端医療77.超音波とマイクロバブルを利用した遺伝子導入

2007年5月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLSこれまでの遺伝子導入法遺伝子導入法には大きく2種類があり,1つはウイルスが本来もっている細胞侵入機構を利用して細胞への遺伝子導入を行うウイルスベクター法,もう1つは化学的もしくは物理的な操作で細胞に遺伝子を取り込ませる非ウイルス法です.これまで,その導入効率の高さから前者のウイルスベクター法が用いられていましたが,ウイルス由来の重篤な副作用の発生により,その安全性が危惧されており,後者のエレクトロポレーション法でも電気を使うために,照射部位の組織障害が問題となっていて,より安全で効率の高い遺伝子導入法が求められています.超音波を利用した遺伝子導入法(マイクロバブル添加)新たな遺伝子導入法として,一般的に診断に利用されているような低エネルギーの超音波を使った方法(ソノポレーション法)が注目されています.ソノポレーションの原理は,超音波照射によってミクロの気泡が形成され,複雑に激しく運動しはじめます.この運動は,キャビテーション運動とよばれ,気泡は細胞膜へ激しくぶつかり,細胞膜に小さな孔を開けます.この小孔から細胞膜周囲にある遺伝子が細胞内に取り込まれると考えられています.また,走査型電子顕微鏡による観察によって,この小孔は一定時間後には元に戻るという,可逆性変化であることも確認されています.しかし,超音波だけではキャビテーション誘導に長い時間がかかるため,遺伝子導入効率が低く障壁となっていました.しかし近年,超音波にマイクロバブル(以下,MB)を併用することで,高率にキャビテーションが誘導され,遺伝子の取り込みが促進されるといわれています.MBは血管造影剤としてすでに臨床応用されているもので,比較的安定した1層の外壁をもち,その内部にガスをもつマイクロサイズの泡のことです.MBがキャビテーション運動時に発生する気泡に大変類似しているため,MBを添加した場合,超音波単独照射よりも低いエネルギーで細胞膜の透過性が亢進し,効率的に細胞内への取り込みが行われるといわれています(図1).すでに血管内皮細胞や肝細胞などへの効果的な遺伝子導入が報告されていますが,眼球におけるソノポレーション法の応用は今まで報告がないため,眼球での利用の可能性を検討してみました.ウサギ角膜を使った遺伝子導入実験培養ウサギ角膜上皮細胞を用いた????????の実験では,green?uorescentprotein(GFP)プラスミドと培養細胞を混ぜた状態で,超音波(ソニトロン2000TMを使用)を照射して48時間後のGFP蛍光を測定し,遺伝子導入効果を判定しました.MBの併用下でも同様に実験を行ったところ,図2に示すように,プラスミドを混合するだけでは遺伝子導入されませんが,超音波照射によって遺伝子導入がされることがわかりました.MBを併用した場合,超音波単独と比べて導入効率が2~3倍増加することもわかりました.また,超音波やMBを利用した実験後の細胞増力能に問題がないこともわかりました.この結果を受けてさらに,ウサギ角膜を使った???????の実験を行いました.角膜にGFPプラスミドを注射した直後に,同部位に超音波照射を行い,48時間後(99)◆シリーズ第77回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊園田祥三(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科)感覚器病学視覚疾患学超音波とマイクロバブルを利用した遺伝子導入超音波のみ超音波とMB1.MB添加2.US照射4.ジェット流3.バブル崩壊:MB:超音波により崩壊したMB細胞キャビテーションUSprobe図1超音波照射による細胞の変化MBを添加した状態でプローブから超音波が発進されると超音波によってMBは破裂して直接細胞膜に孔を開けたり,バブル周囲に発生する時速600km以上の液体マイクロジェット流自身が細胞膜に孔を開ける.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007に角膜を摘出し,GFP蛍光を測定し導入効果を判定しました.MBを併用した場合も同様に実験を行いました.その結果,超音波のみでもGFP蛍光は認めますが,図3に示すように,MBを併用すると,超音波プローブ(6mm)を当てた部位に一致してGFP陽性細胞の密度が著しく高くなっていました.超音波とMBを併用することで効率的に遺伝子が導入されたことがわかりました.また,摘出した組織の光学・電子顕微鏡での検査でも組織障害は認めませんでした.今後の応用以上の実験から,超音波とMBを併用することで効果的にウサギ角膜へ遺伝子導入できることがわかりました.今回紹介した方法は,超音波とMBといういずれもすでに臨床応用されたツールを組み合わせたもので,安全性の面でヒトへの応用を考えた場合最も魅力的であると思います.また,組織障害が少ないため,くり返し照射可能であることも興味深い点です.ソノポレーション法は,細胞に開いた可逆性の小孔を介して物質が出入りすることから,この方法は遺伝子だけではなく,薬物にも応用可能で,新たなドラッグデリバリーとしても利用できると考えられています.現在の遺伝子導入効率はウイルスベクターから比べるとそれほど高いものではありませんが,今後さらに眼球用の超音波照射装置の開発によってさらに導入効率が上がることが予想されます.また,MBの改良も進んでいて,外壁に組織特異的な表面マーカーを結合させるといった試みが行われています.これによって,特定部位への遺伝子の導入が可能となりさらに発展が望めると思います.文献1)SonodaS,TachibanaK,UchinoEetal:Genetransfertocornealepitheliumandkeratocytesmediatedbyultra-soundwithmicrobubbles.?????????????????????????47:558-564,20062)TachibanaK,UchidaT,TamuraKetal:Enhancedcyto-toxice?ectofAra-CbylowintensityultrasoundtoHL-60cells.???????????149:189-194,20003)UngerEC,HershE,VannanM,McCreeryT:Genedeliv-eryusingultrasoundcontrastagents.????????????????18:355-361,20014)GreenleafWJ,BolanderME,SarkarGetal:Arti?cialcav-itationnucleisigni?cantlyenhanceacousticallyinducedcelltransfection.???????????????????24:587-595,19985)TaniyamaY,TachibanaK,HiraokaKetal:Localdeliv-eryofplasmidDNAintoratcarotidarteryusingultra-sound.???????????105:1233-1239,2002(100)■「超音波とマイクロバブルを利用した遺伝子導入」を読んで■今回は園田祥三先生(鹿児島大学)による新しい遺伝子治療研究の方法です.遺伝子治療は残念ながら臨床の現場に根付いているとはいえません.それはイントロダクションで園田先生が述べておられるように,安全性と効率のよい遺伝子導入が両立しなかったことにあります.今回は,園田先生たちの研究は遺伝子を細胞内に導入する際に組織に対する障害を少なくする超音波を用いた遺伝子導入法というユニークな研究の3020100US(-)n=15US(+)n=15US(+),MBn=37導入効率(%)***Tukey法**p<0.05**p<0.01図2遺伝子導入効率(????????)図3ウサギ角膜への遺伝子導入超音波とMBを併用した例.プローブを当てた領域に一致してGFP蛍光を多数認める(丸内).矢頭内:プラスミド注射領域.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???(101)☆☆☆成果の紹介です.臨床への橋渡しとしての動物実験でも証明され,臨床応用が近未来にせまっていることがわかります.指導教授でいらっしゃる坂本泰二教授が数年前の学会での講演で,「遺伝子治療には現在(当時),まだ問題があるが,アメリカではそれにより研究が下火になるのでなく,したたかに解決すべく研究が行われている」(不正確だと思いますがお許しください)という趣旨のお話をされました.人類に福音をもたらす治療法であれば困難の点を一つ一つ解決していき,最終的に臨床応用を実現するという坂本教授の臨床研究に対する哲学が園田先生の総説には現れているように考えます.今後,どのような遺伝子をどのような疾患に導入するか,超音波を用いたドラッグデリバリーへの応用の可能性の研究など困難だけれど楽しみな研究テーマがたくさんあります.すぐに役立つという研究ではなく中長期的な臨床応用を目指した研究は面白いだけでなく,今後,各国が特許取得競争によりバイオ産業の経済的な競争の場になるという意味でも重要性が認識されるべきと考えます.山形大学医学部視覚病態学山下英俊

新しい治療と検査シリーズ171.新しい手術用隅角鏡

2007年5月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLSるプローブの金属光沢を確認する.?本方法の良い点本隅角鏡は,眼球や頭部を傾斜させることなく全周の隅角を観察・操作可能な手術用隅角鏡として有用である.新しい治療と検査シリーズ(97)?バックグラウンド従来の手術用隅角鏡は視軸方向から隅角を観察できないため,隅角手術時に全周の隅角を操作するには,その都度,顕微鏡,眼球もしくは頭部を目的とする方向へ傾斜させねばならず,手間と時間がかかるとともに結果として無駄な操作も増える.?新しい治療法または検査法(原理)筆者らが考案した新しい手術用隅角鏡には,以下の2つの特徴がある.第1は,岩崎らのコンセプトと同様に内蔵した2枚のミラーにより傾斜なく視軸方向から隅角を観察・操作可能である点,第2は,回転しても手術器具の位置が把握できるよう中央部視野を確保した点である.ダブルミラーと中央部の2つの光路により(図1),隅角を明るく照明できるのみならず器具の陰影も形成されなくなり,より視認性に優れた隅角像を得ることができる.?使用方法(治療,検査法の実際のやり方)通常,隅角手術時には手術用隅角鏡を角膜上に載せ,片手で把持して行う.1.隅角切開術(goniotomy)と隅角癒着解離術(goniosynechialysis)(図2a)いずれも全周にわたって隅角を確認しながら切開もしくは癒着解離を施行する必要がある.従来は眼球と頭部,顕微鏡を傾斜させながら1象限ずつ行っていたが,ダブルミラーにより傾斜させることなく単なる隅角鏡の回転のみで全周操作が可能である.2.線維柱帯切開術(trabeculotomy)(図2b)線維柱帯切開術成功にはプローブの確実なSchlemm管内挿入が必須であり,手術用隅角鏡を用いて隅角側からプローブ挿入部を観察し,線維柱帯を通して視認でき171.新しい手術用隅角鏡プレゼンテーション:森和彦京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学コメント:山本哲也岐阜大学大学院医学系研究科眼科学表1手術用隅角鏡比較のまとめ従来型手術用隅角鏡今回の新しい隅角鏡特徴直像型ダブルミラー型観察方向視軸に対し約45~60?視軸方向眼球・頭位傾斜垂直滅菌オートクレーブ可EOGガス滅菌,グルタルアルデヒドab図2隅角癒着解離術(a)と線維柱帯切開術(b)への応用手術器具中央部光路ダブルミラー光路図1新しい手術用隅角鏡の光路図———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007文献1)IwasakiN,TakagiT,LewisJMetal:Thedouble-mirrorgonioscopiclensforsurgeryoftheanteriorchamberangle.???????????????115:1333-1335,19972)MoriK,IkushimaT,IkedaYetal:Double-mirrorgonio-lenswithdualviewingsystemforgoniosurgery.???????????????143:154-155,2007(98)?本方法に対するコメント?隅角切開術や隅角癒着解離術は基本的な緑内障手術手技である.しかしながら,手術用顕微鏡の下で隅角鏡を操作しながらの手術は,手術部位の適切な視認性の確保に経験と技術を要することから,なかなか習得が困難であった.特に,おもに隅角手術で使用されるSwan-Jacob隅角鏡やBarkan隅角鏡のような直接型隅角鏡は日常診療の場での使用頻度が極端に低いため,隅角鏡の適切な操作にすら習熟した術者が少ないのが現状ではなかろうか.森和彦氏は,隅角手術を他の眼科手術と同様の手術姿勢で行うこと,また,多くの眼科医が慣れている間接型隅角鏡で行うことを目的として新しい手術用隅角鏡を開発した.最初に賞賛されるべきはその発想の転換であり,また,その具現化への努力である.私自身まだ使用経験はないが,その仕様を見る限り使用に値しそうである.欠点を探せば,隅角鏡が大きく,助手が眼球固定器具を入れるスペースが取りにくいこと,それに伴う眼内挿入器具の操作性の問題であろう.本隅角鏡の開発とともに隅角手術がより普及することを望みたい.☆☆☆コンタクトレンズフィッティングテクニック【著】小玉裕司(小玉眼科医院院長)CLの処方に必要な角膜・涙液・屈折矯正・その他の知識/CLの選択/ハードCLの処方/フルオレセインパターンの判定方法と注意点/レンズデザインと角膜形状/ベベル・エッジのチェック/SCLの処方・種類・選択/CLと定期検査・眼障害/HCLの修正/修正によるHCLの苦情処理-くもり・充血・異物感・視力/SCLの苦情処理-くもり・かすみ・視力低下・異物感・眼痛・流涙・充血/乱視に対するCLの処方/ドライアイ/ラウンドコルネア/カラーCL/治療用SCL/無水晶体眼・乳幼児と小児に対するCLの処方/光彩付きCL・義眼CLの処方/ハード・ソフトタイプバイフォーカルCLの処方/HCLのカスタムメイドの処方/CLと点眼薬/CLとケア用品/●ワンポイントB5判総152頁カラー写真多数収載定価8,400円(本体8,000円+税400円)メディカル葵出版〒113─0033東京都文京区本郷2─39─5片岡ビル5F振替00100─5─69315電話(03)3811─0544■内容目次■この本があれば,明日からのコンタクトレンズ診療は安心して出来る!株式会社

眼感染症:多剤耐性緑膿菌(MDRP)

2007年5月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS■眼科領域の緑膿菌感染術後眼感染症の起因菌はグラム陽性菌によるものが大部分でグラム陰性菌によるものは少ないとされている.しかし,Hanらの研究では5.9%3),原らでは20%4),湯口らでは40%5)と,報告者によってグラム陰性菌による頻度が大きく異なっている.この違いは,グラム陰性菌のうち緑膿菌をはじめとするブドウ糖非発酵菌群は,高齢者,糖尿病および悪性腫瘍などを基礎に有する患者に感染例が多いことより,各報告施設の患者背景が大きく影響していることが考えられる.また,?????????????????????(セパシア菌)などでは,グルコン酸クロルヘキシジンに耐性獲得をした院内感染事例の報告も多いことより,術野および手術時手指消毒に用いる消毒薬の種類も陰性菌感染要因の一つと考えられる.一方,眼科外来市中感染においては,緑膿菌による角膜炎がコンタクトレンズ(CL)装着者に多くみられるが,その原因としてはCLの消毒操作の不備とCL装着によって眼表面のムチン層が破壊されやすくなることにより緑膿菌の角膜に対する親和性が高まるためと考えられる6~10).■多剤耐性緑膿菌(multi-drugresistant???????????????????????:MDRP)とはMDRPの定義を表1に示したが,緑膿菌のなかでカルバペネム系薬剤,アミノ配糖体系薬剤,フルオロキノロン系薬剤の3系統の薬剤に対して同時耐性を示す緑膿菌がMDRPと定義される.本菌は,五類感染症に指定されているため基幹定点に勤務している医師がMDRPによる「感染症患者」を診察した場合は保健所に届出をしなければならない.耐性機序は,緑膿菌の細胞膜透過性の低下によるもの,抗菌薬の汲みだし(排出)によるもの,メタロb-ラクタマーゼ産生(抗菌薬を加水分解し失活させる)という3つの耐性機構による.■材料の採取と塗抹検査1.材料の採取方法と輸送眼感染症は感染部位が狭い範囲に限られており採取できる材料も少ない.このため,検査実施時には,周囲菌の汚染に注意を払い確実に感染部位の材料を採取する.塗抹用検体は綿球の細いダクロン綿棒を用い培養検体とは区別して採取した後,保存培地を含有しない滅菌試験管に入れ検査室に提出するか,直接塗抹したスライドガラスを提出する.眼内レンズ(IOL)装着後感染患者の検体採取は,前房水をシリンジで穿刺した後,ただちに検査室へ提出する.ただちに提出できない場合はケンキポーターなど嫌気性菌の保存が可能な滅菌済み容器に採取・保存する.また,滅菌スパーテルなどで採取した角膜擦過材料などは滅菌試験管に入れ検査室へ提出する.2.塗抹検査塗抹標本の作製は,採取した材料中の貪食細胞や赤血球の物理的な損傷を防ぐため,綿棒や擦過材料をスライドガラスに優しく塗布した後,アルコール固定を行う.前房水やCL保存液などの液性の検査材料は,基本的には遠心分離後の沈渣をスライドガラスに塗布した後,アルコール固定を行う.塗抹検鏡は,白血球数や貪食像,白血球の核の状態,フィブリン析出の有無などを観察する(図1).緑膿菌のグラム染色像は短桿菌から桿状に観察されることが多(93)48.多剤耐性緑膿菌(MDRP)眼感染症セミナー─クライシスコントロール講座─●連載?監修=浅利誠志井上幸次大橋裕一山本剛西神戸医療センター臨床検査技術部術後眼感染症の発症は,周術期における術野の感染リスクをどのように低減できるか否かに大きく左右される.特に緑膿菌をはじめとするブドウ糖非発酵菌群による眼感染症は,術前後の長期抗菌薬投与による菌交代現象などによって患者自身の腸管内,眼周囲皮膚,鼻腔および上咽頭などに定着した菌に起因する内因性感染と院内環境からおもに医療従事者の手指を介した外因性感染により起こる.近年は多剤耐性緑膿菌(multi-drugresistant??????????????????????:MDRP)の院内感染事例も多く報告1,2)されているため手術部位感染の管理はきわめて重要である.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007く,連鎖形成や細胞集塊は形成しない.緑膿菌の菌体はやや丸みを帯びており,淡い染色性を示すのが特徴的であるが,日常からグラム染色像を見慣れておかなければ,腸内細菌やインフルエンザ菌など他のグラム陰性桿菌との鑑別はむずかしい.■培養検査緑膿菌は血液寒天培地などの分離培地により35℃好気培養で容易に発育する.しかし,眼科材料の菌量は少ない場合が多いため,チオグリコレート(TGC)培地などの増菌培地を用い増菌培養を併用する.偏性好気性菌である緑膿菌は,増菌培地の上層部に菌が発育する.緑膿菌は緑色色素であるピオシアニン産生,オキシダーゼ試験陽性など特徴的な性状を示すため,最終同定結果を待つことなく菌種の推定が可能である.このため,検体提出の翌日には検査室からの一次(中間)報告を受け取ることも可能である.■薬剤感受性試験の実施起因菌が緑膿菌の場合,抗緑膿菌作用のある抗菌薬を(94)表1多剤耐性緑膿菌(multi-drugresistant???????????????????????:MDRP)の定義14)(1)定義広域b-ラクタム剤,アミノ配糖体,フルオロキノロンの3系統の薬剤に対して耐性を示す緑膿菌による感染症である.(2)臨床的特徴感染防御機能の低下した患者や抗菌薬長期使用中の患者に日和見感染し,敗血症や骨髄,気道,尿路,皮膚,軟部組織,耳,眼などに多彩な感染症を起こす.(3)届出基準ア患者(確定例)指定届出機関の管理者は,当該指定届出機関の医師が,(2)の臨床的特徴を有する者を診察した結果,症状や所見から薬剤耐性緑膿菌感染症が疑われ,かつ,(4)の表の左欄に掲げる検査方法により,薬剤耐性緑膿菌感染症患者と診断した場合には,法第14条第2項の規定による届出を月単位で,翌月の初日に届け出なければならない.この場合において,検査材料は,同欄に掲げる検査方法の区分ごとに,それぞれ同表の右欄に定めるもののいずれかを用いること.イ感染症死亡者の死体指定届出機関の管理者は,当該指定届出機関の医師が,(2)の臨床的特徴を有する死体を検案した結果,症状や所見から,薬剤耐性緑膿菌感染症が疑われ,かつ,(4)の表の左欄に掲げる検査方法により,薬剤耐性緑膿菌感染症により死亡したと判断した場合には,法第14条第2項の規定による届出を月単位で,翌月の初日に届け出なければならない.この場合において,検査材料は,同欄に掲げる検査方法の区分ごとに,それぞれ同表の右欄に定めるもののいずれかを用いること.(4)届出のために必要な検査所見検査方法検査材料分離・同定による病原体の検出(敗血症・心内膜炎,腹膜炎,胸膜炎,髄膜炎,骨髄炎)及び以下の検査室での判断基準を満たすもの(検査室での判断基準は,以下の3つの条件を全て満たした場合である)アイミペネムのMIC≧16?g/m?又は,イミペネムの感受性ディスク(KB)の阻止円の直径が13mm以下イアミカシンのMIC≧32?g/m?又は,アミカシンの感受性ディスク(KB)の阻止円の直径が14mm以下ウシプロフロキサシンのMIC≧4?g/m?又は,シプロフロキサシンの感受性ディスク(KB)の阻止円の直径が15mm以下)血液,腹水,胸水,髄液,通常は無菌的であるべき臨床検体分離・同定による病原体の検出,かつ,感染症の起因菌と判定された場合(呼吸器感染症,肝・胆道系感染症,創傷感染症,腎盂腎炎・複雑性尿路感染症,扁桃炎,細菌性中耳炎・副鼻腔炎,皮膚・軟部組織感染症)及び以下の検査室での判断基準を満たすもの(検査室での判断基準は,以下の3つの条件を全て満たした場合である)アイミペネムのMIC≧16?g/m?又は,イミペネムの感受性ディスク(KB)の阻止円の直径が13mm以下イアミカシンのMIC≧32?g/m?又は,アミカシンの感受性ディスク(KB)の阻止円の直径が14mm以下ウシプロフロキサシンのMIC≧4?g/m?又は,シプロフロキサシンの感受性ディスク(KB)の阻止円の直径が15mm以下)喀痰,膿,尿,便,無菌的ではない検体MIC:最小発育阻止濃度.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???マーゼ産生菌である.メタロb-ラクタマーゼ産生機構はプラスミドにより菌種を超えて耐性伝播するため,早期に発見し院内での拡大を未然に防ぐ必要がある.MDRPの3つの耐性機序は感受性検査結果より推測が可能であり,典型的な感受性パターンを図2に示した.現在,メタロb-ラクタマーゼの確認試験として2-メルカプトプロピオン酸添加による阻害確認試験(2-MPA法)が広く用いられている.この方法は特別な器材を必要とせず,ディスク拡散法によりメタロb-ラクタマーゼの検出が可能である.方法は感受性培地上にIPMとセフタジジム(CAZ)の感受性ディスク,2-MPAを浸漬させたディスクを25mm間隔で置き,翌日に2-MPAの阻害作用により形成される阻止帯の形成を判定する(図3).■治療薬の選択緑膿菌による眼感染症は基本的に点眼薬による治療を優先する.治療薬としては,PIPC,CAZ,MEPM,TOB,イセパマイシン(ISP),LVFXのなかで感受性を示した薬剤を単剤または併用で用いるが,点眼薬としてはTOB,LVFXが第一選択薬となる.メタロb-ラクタマーゼを産生するMDRPに対しては,CL単剤またはアミノ配糖体系薬剤を中心にフルオロキノロン系薬剤かカルバペネム系薬剤を併用する.症例によっては感受中心に感受性検査を実施する.第一選択薬のアミノ配糖体系薬剤(アミカシン:AMK,ゲンタマイシン:GM,トブラマイシン:TOBなど),第二選択薬のフルオロキノロン系薬剤(オフロキサシン:OFLX,レボフロキサシン:LVFX,ガチフロキサシン:GFLXなど)の感受性試験11)は必須である.また,重症の眼内炎症例においては前述した点眼薬に加えて注射用抗菌薬の併用が有効な場合も報告されているため11)カルバペネム系薬剤(イミペネム:IPM,メロペネム:MEPMなど)やピペラシリン:PIPC,アズトレオナム:AZTなど抗緑膿菌作用のあるb-ラクタム系薬剤の感受性検査も併せて実施する.■メタロb-ラクタマーゼ産生耐性菌の判定MDRPは3つの耐性機序をもち合わせているが,院内感染対策上,特に問題となるものがメタロb-ラクタ(95)図2多剤耐性緑膿菌の感受性パターンによる耐性機序の推測(典型例)①外膜透過性の低下によるもの耐性:IPM感受性:MEPMやCAZ②薬剤の排泄によるもの耐性:IPM,CAZ,LVFX感受性:特にない③メタロb-ラクタマーゼ耐性:IPM,MEPM,CAZ感受性:PIPC,AZT図1結膜分泌物の塗抹所見上皮細胞(中央右)の周りに赤くフィブリンが染色されている.一部白血球と思われる物質(中央左)も確認できる.菌量が少ないため塗抹所見では確認できないが感染が疑われる症例である.図32-メルカプトプロピオン酸の阻害によるメタロb-ラクタマーゼの確認IPM含有のディスクを培地の左右に置き中央に2-MPA含有ディスクを置く.翌日IPM含有ディスクの単独(図左)では阻止円が認められないが,2-MPA含有ディスクのほうには阻害帯が確認できる.IPMIPM2-MPA———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007性結果を基に自施設で点眼薬を用事調整することも必要である.また,ホスホマイシン(FOM)は単独では抗菌作用が弱いが,細胞壁合成の第一段階に作用するため,後続の抗菌薬の効果を上げる働きがある.このためFOMを先行投与し,投与終了後30分でフルオロキノロン系薬剤または抗緑膿菌作用のあるb-ラクタム系薬(スルバクタム:SBT/セフォペラゾン:CPZ,CAZなど)を投与する方法も1法である.副島らはFOM+OFLXの場合は相乗作用が90%,林らはFOM+SBT/CPZの場合は相乗作用が47%であったと報告している12).さらに,宮尾らはラットを用いカルバペネム系薬剤4剤について前房水中の濃度について検討しているが,MEPMが最も良好な結果を示したと報告している13).文献1)徳川英樹,井上幸次,前田直之ほか:白内障手術にあたり多剤耐性緑膿菌が検出された一例.第37回日本眼感染症学会抄録集,20002)宮永嘉隆:細菌性眼感染症の主要起炎菌にはどんなものがあるのでしょうか.あたらしい眼科17(臨増):3-4,20003)HanDP,WisniewskiSR,WilsonLAetal:Spectrumandsusceptibilitiesofmicrobiologicisolateintheendophthal-mitisvitrectomystudy.???????????????122:1-17,19964)原二郎:起炎菌の変遷の術前消毒の効果.眼科手術11:159-164,19985)湯口琢磨,山田真,海谷忠良:IOL挿入術と眼内炎.眼科手術12:85-90,19906)連続装用シリコンハイドロゲルレンズと緑膿菌角膜炎.http://infohitomi.biz.archives/000025.html7)日本コンタクトレンズ学会コンタクトレンズ診療ガイドライン編集委員会編:CL合併症.日眼会誌109:654-656,20058)日本コンタクトレンズ学会コンタクトレンズ診療ガイドライン編集委員会編:基礎知識.日眼会誌109:661-665,20059)山本英津子,堀尾直市,寺崎浩子:眼内レンズ挿入術後眼内炎の起炎菌.臨眼56:135-140,200210)FleiszigSM,ZaidiTS,RamphalRetal:Modulationof??????????????????????adherencetothecornealsurfacebymucus.????????????62:1799-1804,199411)松本光希:細菌性角膜炎の治療方針について教えてください.あたらしい眼科17(臨増):61-63,200012)清水喜八郎監修:ホスホマイシン新たなる展開.中外医薬社,199513)宮尾益也,阿部達也,本山まり子ほか:抗菌薬の薬動力学パラメーターと眼科感染症に対する臨床効果─カルバペネム薬─.あたらしい眼科13:423-426,199614)感染症の予防及び感染症患者に対する医療に関する法律.平成18年4月(96)☆☆☆◎検査室から眼科医へ◎MDRPをはじめとする耐性菌による感染症は治療に難渋する症例が多いため,その発生を未然に防ぐ工夫と同時に院内への二次感染拡大を防止することが大切です.このため検査室から結果報告と同時に発信される耐性菌警告「多剤耐性緑膿菌:メタロb-ラクタマーゼ産生菌.院内感染に注意して下さい」に対し,眼科医は迅速な患者隔離やスタッフの標準予防策の再徹底などのルールを決めているのでしょうか?また,臨床症状や経過よりMDRPが疑われる症例は診断できるのでしょうか?◎眼科医から検査室へ◎術後感染症の起炎菌としての頻度がそれほど高くないこともあって,眼科医にとってMDRPはMRSAほどのインパクトはまだないようです.したがって,MRSAのように,患者への具体的な対応指針が眼科医の間で普及していないのが現状です.眼科領域で緑膿菌感染といえば,CL装用者に見られる角膜炎ですが,私の知る限りにおいて,MDRPが分離された報告はこれまでにありません.これは,起炎菌がおもにレンズケース(家庭の洗面所などの水場)に由来しているため,院内環境との関連の深いMDRPとの接点が希薄だからではないかと思うのですが確信はありません.ただ,病原性は同一でしょうから,通常の緑膿菌とは臨床所見からの見分けはつかないはずです.CL装用者の緑膿菌角膜炎においても,フルオロキノロンとアミノ配糖体の点眼治療効果は今のところ良好ですが,眼科領域においても,MDRPの出現に絶えず注意を払っておく必要があります.愛媛大学医学部眼科大橋裕一

光線力学的療法(PDT):治療の実際:Minimally classic CNV

2007年5月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS加齢黄斑変性(AMD)に伴う脈絡膜新生血管(CNV)においてminmallyclassicCNVとは,フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)で病変全体のうちclassicCNVが50%未満のものと定義されている1,2).ひとくちにminimallyclassicCNVといっても,病変はCNV以外に出血,漿液性網膜色素上皮?離,瘢痕なども含むため,病変の構成成分によって治療効果もさまざまである.本稿では,classicCNV病変以外の部位のほとんどがoccultCNVである,比較的活動性の強い症例に対する治療例を述べる.●治療効果があった例(図1)〔症例〕81歳,女性,治療前視力(0.2).検眼鏡所見:黄斑部には色素沈着を伴った網膜色素上皮?離がみられ,その上方と下方に感覚網膜下のCNVと考えられる灰白色病巣がみられる.造影所見:造影早期には黄斑部の上,下方に境界鮮明な過蛍光を示すclassicCNVがみられ,その周囲には不明瞭な過蛍光や低蛍光を示すoccultCNVがみられる.造影後期にはclassicCNVからは旺盛な蛍光漏出,occultCNVからは滲むような緩慢な蛍光漏出がみられる.また,黄斑部の色素沈着や網膜下出血,病変部下方の網膜下出血による蛍光ブロックがみられる.インドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)では明らかなポリープ病変はみられない.OCT(光干渉断層計)所見:網膜色素上皮?離の内部は不規則な低反射を示し,線維血管組織が形成されている.感覚網膜下にはⅡ型CNVがみられる.治療と経過:病変の最大直径(GLD)はclassicCNV周囲のoccultCNVをすべて含むように計測,5,256?mとしてPDTを施行した.PDTはこの1回のみで治療後12カ月には視力(0.6)と改善した.治療後12カ月のFA所見では黄斑部上,下方のclassicCNVは治療前に比べ拡大しているものの線維瘢痕組織となり終息している.OCT所見は下方のclassicCNVの拡大がみられるが,中心窩には及んでいない.線維瘢痕組織の拡大が中心窩に及ばなかったため,良好な視力改善が得られた.(91)石川浩平名古屋大学大学院医学系研究科頭頸部・感覚器外科学講座光線力学的療法(PDT)セミナー監修/石橋達朗湯沢美都子8.治療の実際:MinimallyclassicCNV加齢黄斑変性に対する光線力学的療法(PDT)では,病変の大きさ,タイプを決定するために治療前にフルオレセイン蛍光眼底造影が行われる.ClassicCNVが病変全体の50%未満であるminimallyclassicCNVに対するPDTの視力予後はclassicCNVの拡大をいかに抑えるかにかかっている.提供図1治療効果があった例(81歳,女性)上:治療前,下:治療後12カ月.後療治21月カ)6.0(mm8↑1AF分01AF分1AI分01AI分VNCcissalC大拡の2型VNC大拡のはに窩心中2型VNCいないでん及はmm8↑前療治)2.0(VNCcissalCVNCtluccO1AF分01AF分1AI分01AI分2型VNC離?皮上素色膜網性管血維線クッロブるよに血出———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007●悪化した例(図2)〔症例〕73歳,男性,治療前視力(0.6).検眼鏡所見:黄斑部を含む1.5乳頭径ほどの範囲で網膜色素上皮の色むらがみられる.造影所見:造影早期には中心窩に及ぶ境界鮮明なclassicCNVがみられ,その周囲にはoccultCNVがみられる.造影後期にはCNVからの蛍光漏出がみられる.IAではCNVが網目状過蛍光となり,明らかなポリー(92)プ病変はみられない.OCT所見:中心窩にかかる2型CNVと漿液性網膜?離がみられる.治療と経過:OccultCNVをすべて含むようにGLDを計測し5,100?mでPDTを施行した.その後,3回のPDTを追加し,治療後12カ月には視力(0.2)であった.PDT後は徐々にclassicCNVが拡大し,治療後12カ月のFA所見ではclassicCNVは中心窩下方まで大きく拡大している.OCT所見では中心窩下の線維瘢痕組織が網膜色素上皮レベルの高反射層として検出され,漿液性網膜?離,網膜浮腫も残存している.大きな線維瘢痕組織が中心窩下にあるため,視力が低下した症例である.本稿で紹介したような,大きなoccultCNVを下地としてclassicCNVが発生した,比較的活動性の強いminimallyclassicCNV症例は,PDTを行ってもoccultCNVがclassicCNVに変化,拡大し,視力予後が悪くなる.このような症例にはトリアムシノロンTenon?下もしくは硝子体内注入を併用することにより治療成績が向上する可能性があり,さらなる症例の検討が必要である.文献1)TreatmentofAge-RelatedMacularDegenerationWithPhotodynamicTherapy(TAP)StudyGroup:Photody-namictherapyofsubfovealchoroidalneovascularizationinage-relatedmaculardegenerationwithvertepor?n:one-yearresultsof2randomizedclinicaltrials─TAPReport1.???????????????117:1329-1345,19992)TheJapaneseAge-relatedMacularDegenerationTrial(JAT)StudyGroup:Japaneseage-relatedmaculardegenerationtrial:1-yearresultsofphotodynamicthera-pywithvertepor?ninJapanesepatientswithsubfovealchoroidalneovascularizationsecondarytoage-relatedmaculardegeneration.???????????????136:1049-1061,2003図2悪化した例(73歳,男性)上:治療前,下:治療後12カ月.後療治21月カ)2.0(mm5↑巣病痕瘢維線VNCcissalC大拡の1AF分01AF分1AI分01AI分mm5↑前療治)6.0(1AF分01AF分1AI分01AI分VNCcissalCVNCtluccO光蛍過状目網2型VNC☆☆☆

緑内障:毛様体脈絡膜剥離と悪性緑内障

2007年5月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS歴史的に“悪性”緑内障は,急性原発閉塞隅角症に対する虹彩切除術後が成功したにも関わらず発症する極度の浅前房および高眼圧であり,予後不良な病態として19世紀にvonGraefeにより報告された.瞳孔ブロックの概念も成立しておらず虹彩切除によって何故“緑内障”(急性原発閉塞隅角症)が治癒するのか不明であった当時,“別のメカニズムによる緑内障”であるとされた.現在も“悪性緑内障”の定義はしばしばメカニズムとともに語られ明確でないが,眼内手術後に発症する極度の浅前房および瞳孔ブロックによらない隅角の閉塞を伴う高眼圧で,縮瞳薬が無効または増悪因子となる.“Aqueousmisdirection”セオリー(房水の硝子体中への回り込み)は,1954年にSha?erにより悪性緑内障に対する術中所見から提唱された概念である.1972年には,WeissとSha?erは毛様体?水晶体間の接触による硝子体圧の上昇という概念を提唱し“ciliaryblockglauco-ma”と命名した.RitchおよびLoweは“TheGlaucomas”1)のなかで,Pavlinも著書“Ultrasoundbiomicroscopyoftheeye”2)のなかで悪性緑内障の超音波生体顕微鏡(UBM)所見(89)●連載?緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄83.毛様体脈絡膜?離と悪性緑内障酒井寛琉球大学医学部眼科悪性緑内障は,狭義には緑内障手術後の前房消失を伴う続発閉塞隅角による高眼圧のことであり,現在では比較的まれな病態である.悪性緑内障の発症メカニズムには毛様体ブロック,房水の硝子体腔への回り込み,などの説がある.超音波生体顕微鏡による観察によると毛様体脈絡膜?離も悪性緑内障発症に何らかの役割を果たしているらしい.図1血管新生緑内障に対する線維柱帯切除術後に発症した悪性緑内障のUBM写真虹彩は瞳孔ブロックによる前弯を示さない.毛様体は扁平に押しつぶされたような形状で,前方に回転(偏位)している.毛様体に押し付けられるように虹彩が隅角を完全に閉塞している.中央前房は非常に浅い.?図2正常眼と悪性緑内障発症眼の模式図悪性緑内障眼(B)の眼球は正常眼(A)に比べ小さいことが多く,水晶体は相対的に大きい.前方に偏位した水晶体?虹彩平面,水晶体赤道部に接し前方に回転し扁平化した毛様体突起,虚脱した後房を示す.房水は毛様体?水晶体ブロックにより硝子体中へ流出しさらに前後房を圧排する.(文献5より)A.正常前眼部B.悪性緑内障房水の流れ図3悪性緑内障の発症メカニズムの関係(仮説)ぶどう膜強膜流↑毛様体脈絡膜?離眼球開放水晶体前方移動毛様体ブロック毛様体前方回旋浅前房隅角閉塞急激な眼圧下降硝子体への房水の回り込み眼圧上昇手術炎症(PGs)ピロカルピン硝子体圧>前後房圧———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007(図1)として,毛様体脈絡膜?離を示している.こうした症例の診断を“悪性緑内障”とするのか“毛様体脈絡膜?離に続発する閉塞隅角緑内障”とするのかは議論となっている3,4).しかしながら,“aqueousmisdirection”同様の機序をひき起こし3),臨床的に鑑別不能4)であるとされる.急性原発閉塞隅角症が悪性緑内障をひき起こしやすいことは,小眼球,浅前房であるという術前の解剖学的特徴に加えて5)(図2),急性発作後の毛様体脈絡膜?離が一因である可能性がある6).1915年にHeer-fordtは悪性緑内障の機序として渦静脈と脈絡膜のうっ血による毛様体の前方回転という仮説を提唱した7).UBMによる観察結果はこの仮説を裏付けているようだ.毛様体脈絡膜?離の関与を含めた悪性緑内障の病態の概念を図3に示す.文献1)RitchR,LoweRF:Angle-ClosureGlaucoma:Mechani-smsandEpidemiology.TheGlaucomaas,3rded(edbyRitchR,BruceShieldsM),p801-820,Mosby,StLouis,19962)PavlinCJ,FosterFS:Ultrasoundbiomicroscopyoftheeye.p82-85,Springer-Verlag,NewYork,19943)DugelPU,HeuerDK,ThachABetal:Annularperipher-alchoroidaldetachmentsimulatingaqueousmisdirectionafterglaucomasurgery.?????????????104:439-444,19974)LiebmannJM,WeinrebRN,RitchR:Angle-closureglau-comaassociatedwithoccultannularciliarybodydetach-ment.???????????????116:731-735,19985)酒井寛,澤口昭一:悪性緑内障.眼科手術19:309-313,20066)SakaiH,Morine-ShinjyoS,ShinzatoMetal:Uveale?usioninprimaryangle-closureglaucoma.??????????????112:413-419,20057)HyamsS:Angle-ClosureGlaucoma.AComprehensiveReviewofPrimaryandSecondaryAngle-ClosureGlauco-ma.Kugler,Amstelveen,1990(90)☆☆☆眼科学【監修】眞鍋禮三(大阪大学名誉教授)I.総論VIII.ぶどう膜XV.屈折・調節異常II.眼科診療室にてIX.水晶体XVI.光覚・色覚の異常III.眼瞼X.網膜硝子体XVII.全身疾患と眼IV.涙器(涙腺,涙道)XI.視路,瞳孔,眼球運動XVIII.眼のプライマリーケアV.結膜XII.眼窩XIX.眼治療学総論VI.角膜XIII.緑内障XX.付録VII.強膜XIV.斜視,弱視A.眼科略語集/B.眼科関連法律(法令)/C.リハビリテーション/D.主な眼科雑誌の紹介基礎と臨床との関連性を強く前面に打ち出し、単に眼科学の知識の羅列でなく、何故そうなるのかがわかる記載を心がけた。また、基礎編の記載でも必ず臨床を念頭においた書き方に努めることとした。教科書の内容になじまないトピックス的なものにも触れようと囲み記事として随所に配したが、勉強中の息抜きの読み物として楽しんでもらえれば幸いである。楽しみながら、そして考えながら「眼科学」を身につけることができる教科書として、広く親しまれることを願ってやまない次第である。(あとがきより)B5判2色刷り総674頁カラー写真・図・表多数収録定価23,100円(本体22,000円+税5%)メディカル葵出版〒113─0033東京都文京区本郷2─39─5片岡ビル5F振替00100─5─69315電話(03)3811─0544■内容内容■考える診療のために!あの名著が更にUp-To-Dateな情報を盛り込んで!待望の改訂版、登場!■疾患とその基礎■<改訂版>株式会社

屈折矯正手術:Conductive Keratoplasty(熱伝導角膜形成術)

2007年5月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS●ConductiveKeratoplasty(CK)の原理高周波電流が角膜周辺部コラーゲン組織内を通る際に組織抵抗により熱を発生,この部のコラーゲン組織が収縮することにより丁度ベルトにより体を締め付けるように角膜中央部をスティープ化させ遠視を矯正する.●使用器械Refractec社View-PointsSystem?を用いる.プローベ先端はkeratoplast-tipといわれるステンレス製の針になっており,このチップを角膜周辺部に穿刺して高周波電流を流す.チップは1例ごとの使い捨てである.●CKの適応CKは手術適応がきわめて重要である.遠視の場合は+2.50D以下,乱視は0.75D以下が望ましい.老視の場合,45歳以上で今まで眼鏡をかけたことがない,最近,近くが見にくい,老眼鏡をかけるのはいやという人が最も良い適応となる.老視の場合,非優位眼を近方に合わせるため,非優位眼のみにCKを行う.また,laser???????keratomileusis(LASIK)などの屈折矯正手術後や白内障術後の遠視や乱視に対するCKはo?-labelの治療法であり,術式やノモグラムも確立していないため,慎重に適応を選ぶ必要がある.●術前検査通常の眼科的検査以外にCK特有の検査として下記の検査がある.①優位眼検査:優位眼の決定はきわめて重要なので幾つかの優位眼テストを併用する必要がある.②Loose-lenstest:非優位眼に+1.0D,+1.75D,+2.50Dのレンズを装用し近方,遠方とも見え方に違和感がないかどうかを検査する.この検査によりCKの術式を決定する.この検査は,必ず術者自身が行い,これにパスしない場合,手術を行ってはいけない.③角膜厚検査:チップの全長は450?mであるが,発熱の影響はさらに深部に及ぶため,瞳孔中心6mmでの角膜厚が560?m以上必要である.角膜厚測定にはペンタカム?などの角膜全面の角膜厚が測定できる機器が有用である.●術式Milneのノモグラム(図1)に従って行う.対極のある専用開瞼器を用いて十分に開瞼した後,CKの専用マーカーによりマーキングを行う.十分水分を拭きとった後,予定された部位に穿刺凝固を行う.Conventionalpressuretechniqueとlighttouchtechniqueの2種類の術式があるが,最近は凝固時に角膜を強く圧迫しないlighttouchtechniqueのほうが種々の利点により主流術式となっている.CK手術のポイントとしては正確なセンタリング,プローベを完全に角膜内に直角に埋没させる,すべての穿刺を均等な圧で行うなどがある.術後はヒアルロン酸,抗菌薬,非ステロイド消炎薬などの点眼(87)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載?監修=木下茂大橋裕一坪田一男84.ConductiveKeratoplasty(熱伝導角膜形成術)坂西良彦坂西眼科医院高周波電流を用いて中等度までの遠視を矯正するconductivekeratoplasty(熱伝導角膜形成術)は遠視のみならず,老視,屈折矯正手術後の過矯正,白内障術後の遠視や乱視の矯正にも応用されている.術後早期には一旦過矯正となるが,術後1週より次第にregressionを生じる.Regressionや惹起乱視により患者が不満を訴えた場合,enhancementの適応となる場合がある.図1CKノモグラム(HLRickMilne)中央の数字が矯正量.●:凝固位置.1.0D1.75D2.50D8spots8mm8spots7mm16spots7&8mm———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007を行う.コンタクトレンズの装用は通常行わない(図3a,b).●CKの利点と欠点最大の利点は術野が瞳孔領に触れないため致命的な合併症がないことである.またLASIKなどエキシマレーザーを用いる他の屈折矯正手術に比べると比較的低コストであることなどがあげられる.一方,欠点としては術後に疼痛を生じることがある,惹起乱視を生じることがある,regressionを生じる,ノモグラムが確立していず予測性に劣ることなどがある.●手術成績当院での手術成績を図2に示す.術直後は過矯正になり,近方視力はかなり向上するが,次第にregressionを生じてくる.CKは一種のモノビジョンであるが,角膜形状解析で角膜中央部にはフラット部分が残っており,通常のモノビジョンに比べ,遠方視力の低下が少ない.●EnhancementRegressionを生じ,患者の不満が強い場合,enhance-mentの適応となる.初回術式とregressionの程度によりenhancementの術式は異なる.また術後2カ月以上経て,2D以上の乱視がある場合,オートレフラクトメータ値や角膜形状解析のデータを参考にして1点または2点の凝固をおくことにより乱視を軽減できる.●屈折矯正手術後症例に対するCK最近になり,LASIKなどの屈折矯正手術後の遠視や老視に対してもCKが行われている.手術適応としてはフラップにストリエがない,di?uselamellarkeratitis(DLK)やingrowthの既往がない,角膜厚が十分保たれていることなどがある.しかし,LASIK後のCKのノモグラムは確立していず,自験例でもCKの効果にバラツキがある.●インフォームド・コンセントの重要性CKは術前のインフォームド・コンセントがきわめて重要であり,術後の疼痛や異物感,術後早期の遠方視力低下,術後乱視の可能性,CK自体のregressionおよび加齢による老視進行により手術効果は永続的ではないことなどをあらかじめ説明しておく必要がある.文献1)McDonaldMB,HershPS,MancheEEetal:Conductivekeratoplastyforthecorrectionoflowtomoderatehypero-pia:U.S.clinicaltrial1-yearresultson355eyes;theConductiveKeratoplastyUnitedStatesInvestigatorsGroup.?????????????109:1978-1989,20022)McDonaldMB,DurrieD,AsbellPetal:Treatmentofpresbyopiawithconductivekeratoplasty:six-monthresultsofthe1-yearUnitedStatesFDAclinicaltrial.???????23:661-668,20043)HershPS,FryKL,ChandrashekharRetal:ConductivekeratoplastytotreatcomplicationsofLASIKandphotore-fractivekeratectomy.?????????????112:1941-1947,20054)坂西良彦:Conductivekeratoplastyによる遠視・老視の治療.眼科プラクティス13,角膜外科のエッセンス(坪田一男編),p184-185,文光堂,2007(88)図2両眼近方裸眼視力(logMAR)の推移術後1週までは過矯正であるが,次第にregressionを認める.0.00.20.40.60.81.01.2LogMAR術前術後1日1週1カ月3カ月6カ月図3bCK術後1年凝固斑は薄くなっており,肉眼的には見えない.図3aCK翌日凝固部位に一致して角膜エロジオンになっている.

眼内レンズ:眼軟膏の前房内迷入

2007年5月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS●症例1患者は74歳,女性.2.4mm角膜切開にて右眼白内障手術を施行,術中合併症なくオフロキサシン眼軟膏にて閉眼して手術終了とした.術翌日眼帯をはずし,前眼部所見は前房内に軽微な炎症を認めるのみで,他に異常所見なく点眼治療を開始した.術後2日目,前房内3時方向に異物を認めた.異物は白色で半透明,残存した皮質や核にしては,あまりに綺麗な球形をしていた(図1).術後6日目に前房内異物除去術を施行,仰臥位にて異物は前房内に浮かび,自由に移動した(図2).除去を試みて前房が虚脱した際に,異物もつぶれて眼内レンズ(IOL)表面にべったりと張り付いてしまった(図3)が,幸いつぶれた異物はI/A(吸引灌流)にて容易に除去することができた.(85)園尾純一郎大洗海岸病院眼科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎249.眼軟膏の前房内迷入角膜切開白内障術後,前房内に異物が出現した2例を経験し,異物が術後使用したオフロキサシン眼軟膏であることを確認した.2.4mmの小切開でも,術後眼内に逆流が起こりうると考えられ,また眼内に入った眼軟膏が,術後2年経過して突如前房内に出現したことから,角膜切開白内障術後は十分な長期経過観察が必要と考えられた.図1症例1の前眼部写真前房内3時方向に,白色半透明で球形の異物を認めた.図2症例1の術中写真異物は仰臥位にて前房内に浮かび,自由に移動した.図3症例1の術中写真I/A挿入時に前房が虚脱した際,異物がつぶれIOLに張り付いた.図4症例2の前眼部写真前房内12時方向に,異物を認めた.図5症例2の隅角写真異物は症例1同様に,白色半透明で球形をしていた.図6症例2の術中写真スパーテルをIOLと異物の間に入れ,粘弾性物質にて異物を押し進めて創口から摘出した.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007(00)●症例2患者は78歳,男性.3.0mm角膜切開にて右眼白内障手術を施行,術中合併症なくオフロキサシン眼軟膏で閉眼して手術終了とした.術後所見は特に問題なく経過良好であったが,約2年後の定期受診の際,前房内12時方向に異物が出現した.異物は直径約2mmで,症例1と同様に白色半透明で球形をしていた(図4,5).今回は異物の成分分析のため,粘弾性物質ヒアルロン酸ナトリウムを使用し前房内異物の摘出を試みた.サイドポートと角膜創を新たに作製し,粘弾性物質で前房内を満たし,IOL表面に異物が張り付かないようスパーテルを間に入れ,粘弾性物質にて異物を押し進めて創口から摘出した(図6).摘出した異物とオフロキサシン眼軟膏の基材との,1HNMRスペクトルを比較したところ,両者のスペクトルが非常に良く一致したため,眼内異物オフロキサシン眼軟膏の基材に由来する可能性がきわめて高いことが確認された.●考察今回の2症例とも異物による合併症は起こらなかったが,眼圧上昇やIOLの混濁,角膜混濁を起こしたという報告もあり1,2),発見して早期の除去が有効であったと考えられた.オフロキサシン眼軟膏の使用は,術直後の1回のみであり,術直後から翌日までに眼内に入ったものと思われた.症例1では,手術終了時に角膜切開創にハイドレーションを行っており,術翌日の眼圧は左右差なく,前房も深く保たれており,角膜切開創の自己閉鎖が不完全であったことを示す所見はなかった.さらに2.4mmという小切開であったにもかかわらず,残念なことに術後眼内に逆流が起こりうることがわかった.過去の報告をみても,眼軟膏の前房内迷入が強角膜切開で起こったものはなく,角膜切開特有の合併症といえるだろう.また,2症例とも術翌日は異物が前房内に存在しておらず,眼軟膏が虹彩裏面に隠れていたことが推測された.特に症例2に関しては,2年間も溶けることなく眼内に留まっていたことは驚きであり,角膜切開白内障術後は十分な長期の経過観察が必要であることを痛感させられた.文献1)RiedlM,MacaS,AmonMetal:Intraocularointmentaftersmall-incisioncataractsurgerycausingchronicuve-itisandsecondaryglaucoma.???????????????????????29:1022-1025,20032)WernerL,SherJH,TaylorJRetal:Toxicanteriorseg-mentsyndromeandpossibleassociationwithointmentintheanteriorchamberfollowingcataractsurgery.????????????????????????32:227-235,2006

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ装用上の点眼薬(2)

2007年5月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???設定した各種条件下でCL装用上において使用させ,レンズをはずした後,レンズから放出されるクロロブタノールとパラベン類を定量し比較した2).その結果は以下のとおりである.①レンズ装用上1回2滴,10分間隔で4回点眼させた場合,1dayDSCLからは防腐剤は検出されなかったが,RGPCLからは微量ではあるがクロロブタノールが検出された.②レンズ装用上1回2滴,3時間間隔で4回点眼させた場合,FRCLからもRGPCLからも防腐剤は検出されなかった.●懸濁液グループ4の1dayDSCLを装用したグループに,懸濁液である塩酸レボカバスチン点眼液を1回1滴,2時間間隔で4回点眼させ,点眼後毎回角結膜を観察したが,点眼薬によると思われる問題となる副作用は認められなかった3).●CL装用上における点眼液の安全な使用方法防腐剤のレンズへの吸着という観点から,CL装用上1日4回程度の点眼薬使用は問題ないようであるが,CL装用上における点眼薬の,より安全な使用方法について上述の実験結果も踏まえながら箇条書きにしてみる.0910-1810/07/\100/頁/JCLSコンタクトレンズ(CL)装用上の点眼薬の安全性と危険性について,含有される防腐剤という観点から,および性状としての懸濁液という観点から考察し,CL装用上における点眼薬のより安全な使用方法について私見を述べてみる.●塩化ベンザルコニウム2週間頻回交換ソフトコンタクトレンズ(FRCL)のなかからグループ1のレンズ1種類,グループ4のレンズ2種類を選択し,塩化ベンザルコニウムを含有する角膜保護剤,抗アレルギー剤,抗生物質,非ステロイド消炎剤の点眼薬を,設定した各種条件下でCL装用上において使用させ,レンズをはずした後,レンズから放出される塩化ベンザルコニウムを定量し比較した1).その結果は以下のとおりである.①グループ1のレンズがグループ4のレンズより検出量が少なかった.②点眼薬を5分間隔で連続投与すると検出量は高くなった.③ヒアルロン酸ナトリウムを含む角膜保護剤の点眼薬が他の点眼薬に比較して,検出量が高い傾向を示した.④塩化ベンザルコニウムが検出された検体も,その検出量はきわめて微量であった.また,グループ4のレンズを装用上(マルチパーパスソリューションにてケア),ヒアルロン酸ナトリウムを含む角膜保護剤を1日3回2週間点眼させた実験では,塩化ベンザルコニウムは検出されなかった.●クロロブタノール・パラベン類グループ4の1日使い捨てソフトコンタクトレンズ(1dayDSCL),グループ4のFRCL,酸素透過係数(Dk値)108とDk値128のガス透過性ハードコンタクトレンズ(RGPCL)を装用した各グループに,クロロブタノール・パラベン類を防腐剤として含有する点眼薬を,(83)小玉裕司小玉眼科医院コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純TOPICS&FITTINGTECHNICS275.コンタクトレンズ装用上の点眼薬(2)図1SCL装用上の点眼薬使用———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007(00)①感染症やCL自体による障害の可能性があるときは,CLの装用を止めさせてから治療する.②可能であれば防腐剤を含まない点眼薬を使用する.③防腐剤を含む点眼薬を複数使用するときは,点眼間隔を10分以上空けさせる.④症状が良くなれば点眼薬の使用を止めるように指示する.⑤点眼薬使用中はこまめに来院させる.⑥SCLの種類によって防腐剤の吸着量が異なることを知っておく.⑦ヒアルロン酸ナトリウムを防腐剤を含む複数の点眼薬と併用するときは,最後に点眼させる.⑧ドライアイに対して防腐剤を含まない人工涙液をヒアルロン酸ナトリウムと併用させるときは,ヒアルロン酸ナトリウムを先に点眼させ,直後に人工涙液を点眼させると効果的である.文献1)小玉裕司,北浦孝一:ソフトコンタクトレンズ装用上における点眼使用の安全性について.日コレ誌42:9-14,20002)小玉裕司:コンタクトレンズ装用上におけるアシタザノラスト水和物点眼液(ゼペリン?点眼液)の安全性.あたらしい眼科20:373-377,20033)小玉裕司:塩酸レボカバスチン点眼液(リボスチン?点眼液0.025%)の毎日交換ディスポーザブル・ソフトコンタクトレンズ(dailyDSCL)装用眼における角結膜に及ぼす影響.あたらしい眼科22:231-234,2005

写真:打ち上げ花火による角膜熱傷

2007年5月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS(81)冨田真智子東京歯科大学市川総合病院眼科写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦276.打ち上げ花火による角膜熱傷②①③④図2図1のシェーマ①:結膜虚血,壊死.②:花火のスス44の一部.③:角膜混濁.④:焼けただれた睫毛.図1打ち上げ花火による角膜熱傷の急性期(9歳,男児)地面に置いた打ち上げ花火を覗き込んで受傷した症例の受傷3日目.全角膜上皮欠損と角膜実質混濁,球結膜の壊死,下眼瞼睫毛の脱落が見られた.重症度分類ではグレードⅣに相当する.花火のスス44が眼表面と眼瞼に付着している.図3図1と同一症例の眼瞼を中心とした皮膚熱傷上下眼瞼を中心として広範囲に皮膚熱傷が見られる.後に瘢痕による眼瞼外反をきたしたため,2回の眼瞼形成術を要した.図4打ち上げ花火による角膜熱傷の瘢痕期上方の瞼球癒着と角膜への著明な結膜侵入が見られる.中央の角膜は上皮欠損,実質融解,実質混濁をきたしている.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007(00)花火は眼外傷の原因として重要である.アメリカでは重症眼外傷のうち6%が花火に関連した外傷であったとの報告がある1).なかでも打ち上げ花火による受傷の場合,角結膜熱傷(図1,2)のみならず眼瞼の熱傷(図3)もきたすことが多い.また受傷の際に強い外力が作用することもあり,眼窩骨骨折の合併や後眼部へ障害が及ぶ可能性がある.そのため詳しい問診を行うことや眼瞼と後眼部の観察を怠ってはならない.眼表面の熱・化学傷急性期の重症度を受傷程度と範囲によって分類したものを表1に示す.この分類によって予後が予想できる.輪部上皮が一部でも残存しているグレードⅢaまででは軽度の結膜侵入や血管新生を伴うものの,残存角膜上皮により治癒が期待できる.逆にグレードⅢb以上では遷延性上皮欠損を経て瘢痕治癒するため,視力予後は不良となる.POV(palisadesofVogt)に関しては,受傷直後には完全に消失しているように見えても輪部基底細胞が残存していると数日後に角膜上皮が再生してくることがあるため,受傷後数日経ってから重症度を判定する.なお,打ち上げ花火による角膜熱傷は重症であることが多い2).治療は急性期と瘢痕期でその目的,方法がかなり異なる.急性期にはまず大量の生理食塩水で洗眼し,異物を除去する.消炎と二次感染予防のために点眼はステロイドと抗生物質を使用する.ステロイド点眼の種類はグレードⅠ,Ⅱでは0.1%フルオロメトロンを,グレードⅢ以上では0.1%ベタメタゾンを選択する.また,グレードⅢ以上の重症例ではステロイドの全身投与も行う.瘢痕期には,部分的な偽翼状片症例では通常の翼状片に準じた手術治療を考慮する.図4に示したような瘢痕性角結膜症に対する手術治療としては,①瞼球癒着の解除,②眼表面再建として羊膜移植を併用した輪部移植もしくは培養角膜上皮移植,③角膜混濁に対して深層表層角膜移植,などを行う.眼表面の再建には眼瞼の状態が非常に重要であり,図3のように眼瞼熱傷から眼瞼の内反や外反をきたした症例では,眼表面の再建に先立って眼瞼の再建が必要になる.文献1)BrownS,WitherspoonCD,MarrisRetal:Seriouseyeinjuriesassociatedwith?reworks;UnitedStates,1990-1994.????274:110-111,19952)ShimazakiJ,KonomiK,ShimmuraSetal:Ocularsurfacereconstructionforthermalburnscausedby?reworks.??????25:139-145,2006表1角膜熱傷・化学傷急性期の重症度分類グレード所見Ⅰ結膜充血,角膜上皮欠損なしⅡ結膜充血,部分角膜上皮欠損Ⅲa結膜充血あるいは部分的壊死,全角膜上皮欠損,POV(palisadesofVogt)一部残存Ⅲb結膜充血あるいは部分的壊死,全角膜上皮欠損,POVの完全消失Ⅳ半周以上の輪部結膜壊死,全角膜上皮欠損,POVの完全消失