———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.7,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLSはじめに動物モデルの利点は,隅角や視神経・網膜における変化を発症過程に沿って詳細に解析できること,さらに新薬の評価を行えることである.これまでにも複数の哺乳類やその他の種で動物モデルの探索や開発が行われてきた1).利用目的に応じて1)ヒトとの視覚形態の類似性,2)発症までの時間,3)遺伝子操作の可能性,4)モデル動物作製に必要な技術,5)眼球の大きさ,6)解析に必要な技術,7)モデル動物の有効性,8)動物の維持費用などの検討が必要である.これまでにも異なる種で自然発症した緑内障モデル動物が紹介されているが,一般的には手術的あるいは遺伝子改変によって作製されたモデル動物が利用されている.●霊長類モデルすべての動物モデルのなかで隅角や視神経乳頭の構造がヒトと最も類似する霊長類モデルが研究に適していることはいうまでもないことである.特に房水流出機構に関する研究においては貴重な存在である.しかし,1頭当たりの維持費用がマウスの約100倍かかることや,飼育・管理に高度な知識・技術が必要であることから,多くの研究では利用されていない.房水流路の遮断にはおもに線維柱帯の光凝固が利用される2,3).この手法によって手術後数日間で25~60mmHgの眼圧上昇が期待できる.その他の手法としては前房内に赤血球4),ラテックス5),ポリアクリルアミドゲル6),ステロイド7)を注入することによって眼圧上昇を促す方法が報告されているが,光凝固によって最も安定した眼圧上昇が得られている8).霊長類における眼圧上昇は視神経乳頭,網膜神経線維,網膜神経節細胞層に障害9)をもたらし,ヒトと同様な病理学的所見が再現されることが確認されている.また,霊長類モデルを利用した,光凝固後30日における網膜内の遺伝子発現の研究も報告されており10),この情報は新しい治療薬の開発にも利用されている.●ラットモデル動物モデルを用いて薬効評価を行う場合,実験には多数の動物が必要になる.このような場合にラットは有効である.ラットは簡単に飼育でき,性質もおとなしく,眼球も手ごろな大きさであることから,市販の機器を使って麻酔なしで眼圧測定ができる11).ラットの眼球には緑内障に関係する部位がすべて存在する.ラットにおける眼圧上昇は強膜静脈への生理食塩水の注入12),インドインクを使った線維柱帯の光凝固13),線維柱帯の光凝(61)●連載?緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄85.緑内障の動物モデル(1)─霊長類モデル,ラットモデル─岩田岳独立行政法人国立病院機構東京医療センター臨床研究センター(感覚器センター)分子細胞生物学研究部門緑内障研究において動物モデルの存在はきわめて重要である.現在はおもに霊長類に加えてラットやマウスなどの齧歯(げっし)類が利用されている.本セミナーでは緑内障で利用されている動物モデルについて,2回シリーズで紹介したい.AB図1カニクイザルとマウスの視神経乳頭の比較カニクイザル(A)の視神経乳頭の構造はヒトときわめて類似しており,マウス(B)のそれとは大きく異なる.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.7,2007固14),強膜静脈の焼灼15)などの方法が用いられるが,研究者には高い技術が求められる.この方法によって最大約2倍眼圧上昇を急激に起こすことができる.眼圧上昇は通常数週間持続し,さらに2回目の光凝固が行われると,3週間以上の持続も可能である.眼圧上昇によってヒトに類似する網膜神経線維の萎縮や視神経乳頭の変化が観察できる16,17).ラットモデルの登場によって,眼圧上昇に伴う電気生理学的な研究や神経保護薬の開発,豊富な網膜の材料を使った遺伝子解析なども可能になった.眼圧が25~45mmHgに上昇するRCS(RoyalCol-legeofSurgeons)ラットも発見されており,網膜神経節細胞死や視神経乳頭陥凹などが観察されている.しかし残念ながらRCSラットにはチロシンキナーゼ遺伝子に変異があり,視細胞の変性が起こることから,緑内障モデルとしては敬遠されている.次回は,マウスモデルとその他の動物モデルについて述べる.文献1)RitchR,ShieldsMB,KrupinT:Animalmodelsofglauco-ma.TheGlaucomas(2nded),p55-69,Mosby-YearBook,StLouis,19962)GaasterlandD,KupferC:Experimentalglaucomaintherhesusmonkey.??????????????????????????13:455-457,19743)QuigleyHA,HohmanRM:Laserenergylevelsfortra-becularmeshworkdamageintheprimateeye.??????????????????????????24:1305-1307,19834)QuigleyHA,AddicksEM:Chronicexperimentalglauco-mainprimates.I.Productionofelevatedintraocularpres-surebyanteriorchamberinjectionofautologousghostredbloodcells.?????????????????????????19:126-136,19805)WeberAJ,ZelenakD:Experimentalglaucomainthepri-mateinducedbylatexmicrospheres.???????????????????111:39-48,20016)KaufmanPL,L?tjen-DrecollE,HubbardWCetal:Obstructionofaqueoushumorout?owbycross-linkedpolyacrylamidemicrogelsinbovine,monkey,andhumaneyes.?????????????101:1672-1679,19947)ArmalyMF:Aqueousout?owfacilityinmonkeysandthee?ectoftopicalcorticoids.?????????????????3:534-538,19648)RasmussenCA,KaufmanPL:Primateglaucomamodels.??????????14:311-314,20059)QuigleyHA,NickellsRW,KerriganLAetal:Retinalgan-glioncelldeathinexperimentalglaucomaandafteraxoto-myoccursbyapoptosis.?????????????????????????36:774-786,199510)MiyaharaT,KikuchiT,AkimotoMetal:Genemicroar-rayanalysisofexperimentalglaucomatousretinafromcynomologousmonkey.?????????????????????????44:4347-4356,200311)MooreCG,MilneST,MorrisonJC:Noninvasivemeasure-mentofratintraocularpressurewiththeTono-Pen.?????????????????????????34:363-369,199312)MorrisonJC,MooreCG,DeppmeierLMetal:Aratmodelofchronicpressure-inducedopticnervedamage.???????????64:85-96,199713)UedaJ,SawaguchiS,HanyuTetal:Experimentalglau-comamodelintheratinducedbylasertrabecularphoto-coagulationafteranintracameralinjectionofIndiaink.????????????????42:337-344,199814)Levkovitch-VerbinH,QuigleyHA,MartinKRetal:Translimballaserphotocoagulationtothetrabecularmeshworkasamodelofglaucomainrats.??????????????????????????43:402-410,200215)ShareefSR,Garcia-ValenzuelaE,SaliernoAetal:Chron-icocularhypertensionfollowingepiscleralvenousocclu-sioninrats[letter].???????????61:379-382,199516)Garcia-ValenzuelaE,ShareefS,WalshJetal:Pro-grammedcelldeathofretinalganglioncellsduringexperi-mentalglaucoma.???????????61:33-44,199517)JohnsonEC,MorrisonJC,FarrellSetal:Thee?ectofchronicallyelevatedintraocularpressureontheratopticnerveheadextracellularmatrix.???????????62:663-674,1996(62)☆☆☆