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序説:眼科臨床医のための眼形成・眼窩外科

2007年5月31日 木曜日

———————————————————————-Page1(1)???眼科臨床医にとって,眼形成・眼窩疾患には日常診療上よく経験する疾患もあれば,なじみの薄い疾患も多いであろうと思われる.眼瞼下垂,内反症,眼瞼腫瘍,涙道閉塞症などは疾患の頻度も高く,手術方法についても教科書などで勉強できるが,手術のバリエーションを身につける機会は少なく,古くから知られた方法のみで対応されていることが多いのが実情である.眼窩悪性腫瘍や眼窩壁骨折,義眼床などの症例は一般病院の勤務医であっても年間何例も経験しないと思われる.しかし,いざその患者が目の前に現れたときに,一体どのような検査を進め,どのような治療方針を立てるのか,またはどの専門施設に紹介すればよいのかといった点を知らなければ,その目の前の患者にどのように説明すればいいのかさえわからないといった状況に陥ってしまう.本特集は,眼科臨床医のための眼形成・眼窩外科のタイトルのもと,10もの疾患群についての総説を各分野のスペシャリストの先生方にお願いした.大阪市立大学眼科の高橋靖弘先生・三戸秀哲先生には,眼瞼内反症・外反症の手術治療について,先天性内反症,加齢性内反症,外反症それぞれの病態を解剖学的にわかりやすく解説したうえで,病態に即した手術方法を紹介していただいた.ゆうこう眼科クリニックの兼森良和先生には,MRI(磁気共鳴画像法)を用いた術前の挙筋機能評価方法,現在施行されているさまざまな眼瞼下垂の術式の整理,および先生の施行されている挙筋短縮術を紹介していただいた.それぞれの疾患の病態,解剖学的根拠に基づいた術式を学び,ぜひ手術のバリエーションを増やしていただきたい.眼瞼腫瘍は日常よくみる疾患であるが,ときに悪性腫瘍も経験する.九州大学眼科の吉川洋先生には,眼瞼腫瘍の臨床診断のポイントである発生部位推定の重要性について,多くの良・悪性腫瘍の写真を示しながら各々の腫瘍の診断と治療のポイントについて詳細に記述していただいた.眼瞼腫瘍ほど頻度は高くないものの,眼窩腫瘍もときに悪性腫瘍を経験する.眼窩腫瘍については,京都府立医科大学眼科の荒木美治先生に前編として,眼窩良性腫瘍および浅在性眼窩腫瘍に対する経眼窩縁アプローチによる手術方法を中心に紹介していただき,嘉鳥は後編として,眼窩悪性腫瘍,眼窩頭蓋底腫瘍の診断と治療について述べさせていただいた.眼窩腫瘍に対する手術の基本は生検であり,その病理組織診断に応じてつぎのステップへ進む必要がある.実際に全摘出手術はしなくても,生検を行えるようになるだけで多くの患者を自らの手で救うきっかけになると思われる.涙道疾患は日常経験することが多い疾患である.鈴木眼科クリニックの鈴木亨先生には,体表からみえない涙道疾患をいかに安全確実に治療に導くかと0910-1810/07/\100/頁/JCLS*AkihideWatanabe:京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学**NobutadaKatori:聖隷浜松病院眼形成眼窩外科●序説あたらしい眼科24(5):539~540,2007眼科臨床医のための眼形成・眼窩外科??????????????????????????????????????????????????????????????渡辺彰英*嘉鳥信忠**———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007(2)いうことについて,経験豊富な涙道内視鏡所見から得られたエビデンスに基づき,検査から診断,治療に至るまで詳細に述べていただいた.涙道疾患は漫然と通水のみで経過をみていては治療のタイミングを逃してしまうが,早期のチューブ挿入術やDCR(涙?鼻腔吻合術)は一般眼科医でも十分可能な手術であることが認識できると思われる.眼窩の外傷性疾患の代表といえば,眼窩壁骨折,外傷性視神経症である.聖隷浜松病院眼形成眼窩外科での多くの症例の経験を基に,渡辺が眼窩壁骨折の診断と治療について述べさせていただいた.また,外傷性視神経症については,昭和大学眼科の稲富誠先生に,視神経管開放術の適応および術式について先生の豊富な経験を基にわかりやすく述べていただいた.外傷性疾患は初期治療が非常に重要なウエイトを占める.手術時期を逃さないために,外傷性疾患に対する理解を深めていただきたい.網膜芽細胞腫による眼球摘出後の無眼球症では,義眼の装用状態が問題になる.放射線治療も受けている症例が多いため,義眼床形成はむずかしい.冨士森形成外科の冨士森良輔先生には,多数の症例のご経験から,義眼床形成のポイントを述べていただいた.また,甲状腺眼症については,愛知医科大学眼科の柿崎裕彦先生・木下慎介先生に,甲状腺眼症の活動性と症状の評価の重要性とともに,眼窩減圧術の適応および術式について述べていただいた.義眼床形成や眼窩減圧術は一般眼科医にはなじみが薄い手術であるが,その適応を知ることが,タイミングを逃さず専門施設に紹介することを可能にする.本特集が,眼科臨床医にとって診療の一助になれば幸いである.

ニュープロダクツ

2007年4月30日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???●ハイデルベルグエンジニアリング社レーザ走査型眼底検査装置<ハイデルベルグレチナトモグラフ3(HRT3)>(株式会社JFCセールスプラン)株式会社JFCセールスプランは,新しいレーザ走査型眼底検査装置ハイデルベルグレチナトモグラフ3(HRT3)を発売した.本器は,HRTⅡのMoor?elds解析(コントアライン方式)に,新機能の自動診断システムGPS(GlaucomaProbabilityScoreTM)モジュールを加えた新設計の装置である.?GPS(GlaucomaProbabilityScoreTM)モジュール視神経乳頭とその周辺網膜の形状を三次元解析することにより,正常眼と緑内障眼の典型的な特徴をとらえ,自動判定する.正常眼緑内障眼オプションとしてレチナモジュール,ロストック角膜モジュールがある.?レチナモジュール共焦点レーザ走査システムにより得られる反射光の強度分布を解析し,黄斑部における浮腫の診断や経過観察に役立つモジュール.?ロストック角膜モジュール角膜の各層を???????で観察.?標準販売価格:¥8,750,000(JFC電動テーブル付)(消費税別)¥8,950,000(ハイデルベルグ社オリジナル電動テーブル付)〔問合せ先〕<総発売元>株式会社JFCセールスプラン〒113-0033東京都文京区本郷4-3-4明治安田生命本郷ビル電話:03-5684-8531<製造販売元>ジャパンフォーカス株式会社〒113-0033東京都文京区本郷4-37-18IROHA-JFCビル電話:03-3815-2611(79)ニュープロダクツ医療機器認証番号218AIBZX00052000本欄に紹介した製品は,すべて当該社の提供資料による.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007●ハイデルベルグエンジニアリング社前眼部OCT<ハイデルベルグSL-OCT>(株式会社JFCセールスプラン)株式会社JFCセールスプランは,新しい前眼部OCTハイデルベルグSL-OCTを発売した.本器は,ハーグストレイト社スリットランプBD900にOCT機能を搭載した前眼部OCTシステム.1,310nmの長波長により非接触で前眼部の断面を鮮明にとらえ,隅角の定量的評価をはじめ,角膜,前房など,各部の計測を一度のスキャンで自動計測表示する.?デジタルゴニオスコピー豊富なパラメーターで計測することにより,定量的な解析を行う.?AOD(AngleOpeningDistance)?TISA(TrabecularIrisSpaceArea)?ARA(AngleRecessArea)?ACA(AnteriorChamberAngle)?TICL(TrabecularIrisContactLength)?バイオメトリー,パキメトリー?標準販売価格:¥9,590,000(JFC電動テーブル付)(消費税別)¥9,800,000(ハイデルベルグ社オリジナル電動テーブル付)〔問合せ先〕<総発売元>株式会社JFCセールスプラン〒113-0033東京都文京区本郷4-3-4明治安田生命本郷ビル電話:03-5684-8531<製造販売元>ジャパンフォーカス株式会社〒113-0033東京都文京区本郷4-37-18IROHA-JFCビル電話:03-3815-2611(80)ニュープロダクツ医療機器認証番号218AIBZX00054000本欄に紹介した製品は,すべて当該社の提供資料による.

眼科医にすすめる100冊の本-4月の推薦図書-

2007年4月30日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS現代は情報が氾濫した時代だといえるでしょう.数多くの情報のなかから必要な情報を集積し,それを分析することによって,たとえば病院経営や医院経営などに役立つ隠れた法則を見つけることができるかもしれません.もともとデータマイニングが受け入れられたとき,多くの人はマーケッティングツールとしてこれを認識しました.つまり,販売促進に有用な法則や規則を見つけるといった一点にデータマイニングの意義が集約されていたのです.しかし,溢れかえる情報によって,従来は分析の対象にできなかった情報も対象にできる,すなわち分析対象の幅が広がり深度を増し,データマイニングの応用範囲はマーケッティング分野だけに留まらず,社会のさまざまな局面で活用されるようになったとのことです.本書では数式は完全に排除してあり,私のような数学アレルギーのものにも,データマイニングというものがどういうものなのかがわかりやすく解説されています.データマイニングと従来の統計処理とはどう違うのでしょうか.データマイニングといって,「データマイニング」という分析手法があるわけではなく,データマイニングは行為の総称であって,回帰分析,決定木分析,クラスタ分析,ニューラルネットワークなどの手法を組み合わせて情報の分析を行うことであり,その本質は手法の目新しさにあるのではなく,用意する情報の質と量にあるとのことです.また,従来型の統計分析が事後検証を指向しているのに対し,データマイニングは多分に未来予測を指向しているという点も異なります.データマイニングでは,取り扱う情報量が桁違いの大きさであるという事実は,情報のなかに混ざっているノイズもきわめて大きいことになります.よって,見つかった法則のなかから使えるものを探し出すことが大切です.データマイニングは使いようによってはとても有益な結果をもたらすことができますが,万能のツールでは決してないこと,使いこなすためにはデータマイニングに対する理解が必要なこと,得られた法則の背後にあるメカニズムをみつけだすにはやはり人間の力が要求されることを,しっかり認識して利用する必要があると著者の岡崎先生は説いています.データマイニングを行うためには,まず何を明らかにしたいのか,目的を設定しなければなりません.本書では「禁欲の誓いを立てた仲間の中で,異性交遊をしている裏切り者を探す」といったユニークな目的を設定し,データマイニングの手順について,データの集め方や不必要な情報の削除,データのなかで何を手がかりに使うか,失敗をどう活かすか,異常値をどう取り扱うか,仮説の立て方,複数の属性(情報の種類)にまたがる隠れた法則の見つけ方など,順を追って面白おかしく解説していますが,使えるデータマイニングを作り上げるには,気の遠くなるほどの仮説と検証をくり返す必要があるようです.つぎに,データマイニングで使用されるいくつかの解析方法について解説があります.回帰分析,重回帰分析,決定木分析,クラスタ分析,自己組織化マップ,連関規則,ニューラルネットなど,言葉を聞いただけでは頭が痛くなるような分析法が数式を用いず,わかりやすいテーマを例に取り上げ,図を駆使してその活用方法とともに解説されています.脳とコンピュータを比較した場合,脳がもつアドバンテージは,強力な学習能力と並列性であると考えられます.並列性とは,複数の処理を並行して同時に行う性質・能力のことであり,コンピュータが本質的には一つ一つの処理を順番に行うのと対置される性質です.脳のもつ学習能力と並列性をできる限り(77)■4月の推薦図書■数式を使わないデータマイニング入門隠れた法則を発見する岡崎裕史著(光文社新書)シリーズ─72◆小玉裕司小玉眼科医院———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007まねをしようというのがニューラルネットということになります.ニューラルネットの解説には花粉症がテーマとして取り上げられているので,眼科医には余計に馴染みやすいと思います.本書を読み進むにつれ,患者の主訴,症状,検査結果などから病因を探り診断をつけるというわれわれの行為はデータマイニングそのものといった感じを受けます.診断技術が進み遺伝子情報など膨大な患者の情報を基に診断するには,コンピュータの力を借りなければならないという事態が生じるかもしれませんし,そうなればますます医療というものはデータマイニングを必要としてくるでしょう.最後に,データマイニングの手法が洗練されたこと自体が,データマイニングの運用に質的な変化をもたらすことになり,情報管理ということがとても重要になってくると岡崎先生は指摘しています.つまり情報に精通していない人は,そうとは気づかないまま監視のもとにおかれ,情報を搾取され,管理される,それに対して,情報に精通している人は,集積する情報を利用し,他者を管理する側にまわり,自らを監視の外におく方法すら知り得るということになるとのことです.個人情報保護法が制定されても,情報漏洩事件が跡を絶ちません.ウィニーなどによって個人情報が流出した事件も記憶に新しいところです.このような現代の抱える情報に関する危険性を自覚するうえでも,本書を一読する価値があると思います.(78)☆☆☆年間予約購読ご案内眼における現在から未来への情報を提供!あたらしい眼科2007Vol.24月刊/毎月30日発行A4変形判総140頁定価/通常号2,415円(本体2,300円+税)(送料140円)増刊号6,300円(本体6,000円+税)(送料204円)年間予約購読料32,382円(増刊1冊含13冊)(本体30,840円+税)(送料弊社負担)最新情報を,整理された総説として提供!眼科手術2007Vol.20■毎号の構成■季刊/1・4・7・10月発行A4変形判総140頁定価2,520円(本体2,400円+税)(送料160円)年間予約購読料10,080円(本体9,600円+税)(4冊)(送料弊社負担)日本眼科手術学会誌【特集】毎号特集テーマと編集者を定め,基本的事項と境界領域についての解説記事を掲載.【原著】眼科の未来を切り開く原著論文を医学・薬学・理学・工学など多方面から募って掲載.【連載】セミナー(写真・コンタクトレンズ・眼内レンズ・屈折矯正手術・緑内障・光線力学的療法・眼感染症)新しい治療と検査/眼科医のための先端医療他【その他】トピックス・ニュース他■毎号の構成■【特集】あらゆる眼科手術のそれぞれの時点における最も新しい考え方を総説の形で読者に伝達.【原著】査読に合格した質の高い原著論文を掲載.【その他】トピックス・ニューインストルメント他株式会社メディカル葵出版〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替00100-5-69315電話(03)3811-0544お申込方法:おとりつけの書店,また,その便宜のない場合は直接弊社あてご注文ください.http://www.medical-aoi.co.jp

私が思うこと4.Borderlessな交流を目指して

2007年4月30日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???私が思うこと●シリーズ④(75)交流テーマがフリーという本コーナーにおいて,何について書こうか悩みましたが,最近私が心がけていることがあるのでそれについてお話ししようと思います.それはさまざまな領域の方や年齢の異なる方との交流です.学生時代から,いろんなものに興味をもち,とりあえず自分が面白いと思うものはすべて,トライしていました.貧乏海外旅行,山登り,バレーボール,バイトなど.そのなかで,大変貴重な経験をしたと思っています.医師になってからも,なるべく「交流」するところまでいけません.しようとがんばっていましたが,しかし,勤務の忙しさなどからなかなか実行するところまでいけません.現在,地方在住の私にとって,交流しようと思っても,ある程度地理的条件により制限される場合が多いのが実際です.眼科のなかの「交流」はなおさらで,学会や研究会でしか他の大学の先生と話すことができないのが現状で,気軽に話し合う場がないかなあと日ごろから思っていました.YOBCの立ち上げそんなことを考えているときに,2つの大きなチャンスを得ることができました.まず,とある学会で,京都府立医科大学の小嶋健太郎先生,奥村直毅先生とお話しする機会があり,「大学間の壁を越えて,気軽にディスカッションできる場があったらいいねえ.」と意気投合するようになりました.そこで,若い先生(どこまでを若いとするかの定義は曖昧で,若いと自分自身で思っている先生)を中心に,ある議題について気軽に討論しあう会を作ろうと言う話になりました.そこで,「若手によるボーダレスな検討会」すなわちYOBC(YoungOphthalmologists?BorderlessConference)を立ち上げました.特に決まりは作らず,前向きに討論をするというものです.MVC-onlineへの登録同時期に,もう一つ私にとっては大きな出会いがありました.それは,大学時代の部活(ワンダーフォーゲル部に所属していました)の先輩から,「面白い医療人のネットサークルがあるから,登録しない?」と言うものでした.当時,m3やmixiなどのサイトの存在は知っていましたが,ネットで意見を開示するということに若干の抵抗がありました.しかしながら,せっかくの機会なので,紹介していただいたサイトに登録することになりました.それは特定非営利活動法人「MVCメディカルベンチャー会議」という医療実務の研究会(http://blog.goo.ne.jp/med-venture)が運営する診療科・所属を越え0910-1810/07/\100/頁/JCLS鈴木崇(??????????????)鷹の子病院眼科1974年愛媛県生まれ.愛媛大学医学部附属病院,市立宇和島病院を経て,現在,愛媛県松山市の鷹の子病院に勤務.専門は眼感染症領域全般で,バイキンと戦う日々を過ごしている.「度胸」でなく「愛嬌」を重視し,人と話をするのが大好きである.趣味は山歩き.最近,替え歌作りにも興味をもち,師匠である愛媛大学大橋裕一教授に手ほどきを受けている.(鈴木)Borderlessな交流を目指して図1MVC-onlineのホームページ———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007た,医療人限定,招待制の電子会議室(MVC-online)です(図1).MVC-onlineのモットーはFree,Friendly,Fair,Fine,Flatで,この5つのFは医師・歯科医師なら出身大学を問わず自由に参加でき(Free),友好的で(Friendly),実名で誹謗中傷なく(Fair),明るく建設的な議論をし(Fine),極力上下関係を作らない(Flat),という原則を表しています.この原則に非常に心打たれ,すぐにこの会議室を利用することにしました.このMVC-onlineはソーシャルネットワーキングサービス(SNS)という形式で運営されており,日記に加えて,意見を交換できるコミュニティーが存在し,学術はもちろんのこと,法律関係や趣味などさまざまな話題について,知識を共有できるというものです.このサイトは実名登録を原則としており,他のサイトでみられるような誹謗中傷が皆無で,純粋に知識交流を深めるという点においても気軽に参加しやすいと思いました.管理責任者は京都大学医学部眼科の武蔵国弘先生で,このサイトの登録後は,何度かメールで意見交換をさせていただきました.武蔵先生の「電子会議室が人的・知的交流を深め,誰もが予想しなかった出会いやアイデアが創出される」というお考えにとても共感しました.そこで,このサイトと連動し,YOBCの連絡や意見交換をすることにしました.ネットを用いるため,地理的制限に関係なく,多くの知識をリアルタイムに共有できる,幅広い「交流」が可能になりました.たとえば,愛媛と京都の間で,症例検討が可能になり,多くの眼科医の意見を聞くことができたのは,日常診療において大きな希望と励みになりました.第1回YOBC討論会の開催MVC-onlineに連動しながら,YOBCを運営し,ついに臨床眼科学会の開催に合わせて,10月6日に第1回のYOBC討論会を開くことができました(図2).参加者は約13人と決して多い人数ではないものの,さまざまな大学から参加していただき,第1回のテーマである「眼科領域の抗菌薬」に関して,日ごろ診療で感じている疑問などをぶつけ合いました.学会や研究会で得られにくい,Flatな討論が可能で楽しい時間を共有できました.討論会の後は,懇親会を開き,大いに「交流」したことは言うまでもありません.まったく違う環境で教育を受けていたこともあり,器具や道具の呼び方,カルテの記載など大学医局によって違いがあることにも驚きました.また,このとき,武蔵先生とはじめてお会いしたのですが,MVC-onlineでやりとりしていたこともあり,長い間付き合っている仲間のように感じ,それだけネットが「交流」のツールとして十分活用できていると思いました.私にとって,YOBCとMVC-onlineを通して,たくさんの「交流」をもてたことは大きな財産です.医療人はどうしても「知識を守ること」を重視しがちですが,ネットが普及し,素早い意見交換が可能になった今日,「知識を共有すること」もこれから重要になってくると思われます.今後も「交流」をどんどん進めていきたいと思います.YOBC・MVC-onlineに興味のある方は,私(suzuki@ehime-u.ac.jp)もしくはNPO法人MVCメディカルベンチャー会議代表理事の武蔵国弘先生(med-venture@goo.jp)にご連絡ください.MVC-onlineへの招待メールを送ります.そこには「交流」の場が待っていると思います.鈴木崇(すずき・たかし)1974年生まれ1999年愛媛大学医学部卒業,眼科学教室入局2002年岐阜大学大学院病原体制御学2004年愛媛大学医学部眼科学教室2006年市立宇和島病院2007年鷹の子病院(76)図2第1回YOBC討論会の集合写真

よくわかる医療情報のお話6.眼科医も医療情報技師の資格を取りましょう

2007年4月30日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS医療情報技師という資格をご存知でしょうか.医療と情報の両方の素養を有することを証明する日本医療情報学会の認定資格です.医療へのIT導入に伴い,医療情報技術の専門家を育成するために,平成15年から日本医療情報学会が主催した「医療情報技師能力検定」が,年に一度,行われるようになりました.この3年間に11,702名が受験し,3,844名が合格しています.特に受験資格はなく,検定試験に合格すれば認定されます.試験内容は情報処理技術,医療情報システム,医学医療と分かれています.医療を専門にしている人にとっては馴染みの深い医学医療分野が,情報を専門にしている人からはむずかしい分野となり,その逆に,情報を専門にしている人にとっては馴染みの深い情報処理技術や医療情報システムが,医療を専門にしている人からはむずかしい分野となるのが通常のようです.最近の医療情報への関心の高さを表すように,受験者数は第1回目の3,521名から第3回目の4,375名へと増加してきており,また,教科書が充実してきたこと,事前に講習会が開かれることなどのためか,合格率も第1回目の27.8%から第3回目の37.67%へと年々,向上してきています.医療系,情報処理系資格による検定科目免除制度は平成18年度で廃止になりました.平成17年11月からはポイントを取り入れた更新制度が導入されたため,資格の延長にはそれなりの研修や実績が必要となりました.眼科の世界で専門医というのがありますが,それに似ていますね.来年からは上級医療情報技師資格が開始される予定で,将来的には医療情報部門管理者資格も必要と考えているようです.詳細はhttp://www.jami.jp/hittoptitle/indexhit.htmlで閲覧することができます.この医療情報技師能力検定が目指しているものは,これまで他部門と兼任で行われてきた医療情報システムの運営にかかわる業務が従来のスタイルではむずかしいほど,複雑化・大規模化していることから,専門的に医療情報を扱える人材を育成しようとするところにありますが,実際にこの資格を取得した人は医療系のほか,事務系,工学系などさまざまであり,必ずしも医療情報を生業にしようとする人ばかりではありません.医療情報にかかわる眼科関係者の姿をみることが少ないことから,眼科の世界ではほとんど知られていない資格と思われますが,医療情報を専門にするということではなく,医療を取り巻く環境を知り,今後もますます進むと予想される電子化に対応するために,眼科領域からも取得を志す人が増えることは望ましいことと思います.眼科が全科のなかでも特殊な医療情報の環境に置かれていることは間違いありませんが,現実の困難が目前に迫ってからというのではなく,将来的な医療環境を考えながら眼科としての情報発信をしていくことは大切なことです.医療情報はそれを専門とする人々に任せていれば良いというものではありません.なぜなら,眼科に携わる人でなければ眼科業務の何が問題なのかがわからないからです.これまで6回に分けて眼科に関係する医療情報のお話をしてきました.本稿が少しでも医療情報に興味をもっていただく機会になれば幸いです.(73)よくわかる医療情報のお話●連載⑥(最終回)若宮俊司*1山内一信*2眼科医も医療情報技師の資格を取りましょう*1ShunjiWakamiya:川崎医科大学眼科学教室/川崎医療福祉大学感覚矯正学科/同医療情報学科/名古屋大学大学院医学系研究科医療管理情報学教室*2KazunobuYamauchi:名古屋大学大学院医学系研究科医療管理情報学教室日本医療情報学会による「医療情報技師認定証」

硝子体手術のワンポイントアドバイス47.強膜バックリング手術におけるTenon嚢縫合の意義(初級編)

2007年4月30日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLSはじめに硝子体手術というよりは強膜バックリング手術におけるワンポイントアドバイスである.強膜バックリング手術の術後合併症の一つに眼球運動障害,癒着性斜視がある.一般に癒着性斜視の原因としては,複数回の手術,過剰冷凍凝固,大きな強膜バックル設置などがあげられるが,初回手術時の不適切なTenon?処理が一因となっていることが予想以上に多い1).特に強膜バックル設置後にTenon?でバックルを丁寧に被覆しておかないと,バックルの後方にTenon?がずれ落ち,眼球を後方から包み込むような瘢痕組織が形成されてしまう(図1).このような状態になれば,もはや斜視手術で眼位を矯正することは困難となる.●強膜バックリング手術時のTenon?縫合筆者は,強膜バックリング手術の終了時,結膜を縫合する前に,Tenon?を鑷子で引きずり出し,外眼筋の両端に8-0バイクリル糸で縫合している(図2).この操作により,バックルはTenon?によって被覆された形となり(図3),術後のバックル露出の予防になるだけでなく,術後の眼球運動障害の発生を最小限にすること(71)ができる.この操作は初回手術に施行するのが重要で,再手術時にはすでにTenon?は瘢痕化しているので,その効果が不十分となることが多い.●その他の注意点本シリーズの(26)網膜硝子体手術における結膜,Tenon?および上強膜血管の処理(初級編)でも書いたが,網膜硝子体手術時には,できるだけ結膜やTenon?を丁寧に扱う癖をつけることが重要である.そのためには,顕微鏡下で上強膜や外眼筋周囲の血管を不用意に損傷しないこと,周囲組織を巻き込んだ侵襲の大きな冷凍凝固やジアテルミー凝固を極力避けることが重要である.文献1)飯田眞世,池田恒彦,今居寅男ほか:網膜?離術後の癒着性斜視.眼紀42:1285-1289,1991硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載?47強膜バックリング手術におけるTenon?縫合の意義(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図2強膜バックリング手術時のTenon?縫合(術中写真)結膜を縫合する前に,Tenon?を鑷子で引きずり出し,外眼筋の両端に8-0バイクリル糸で縫合する.図3強膜バックリング手術時のTenon?縫合(シェーマ)この操作により,バックルはTenon?の被覆された形となる.図1強膜バックリング手術後の癒着性斜視の原因バックルの後極側にTenon?がずれ落ちると,眼球を後方から包み込むような瘢痕組織が形成されてしまう.

眼科医のための先端医療76.緑内障視神経障害評価のこれから

2007年4月30日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLSはじめに現在,緑内障診療では神経障害の評価を,視神経乳頭所見,神経線維層所見,視野所見などの客観的所見と主観的所見から総合的に行い,目標眼圧の設定や治療の適正性の評価に用いることが主流となっています.緑内障神経障害の発症や進行を早期に発見することが緑内障診療においても最も重要ですが,主観的検査や定性的検査は信頼性が乏しい,小児や一部の高齢者では検査が困難な場合もある,検者間で評価に誤差が生じやすいなどの問題点があります.近年,これらの問題に対応するために,他覚的,定量的検査をキーワードとしていくつかの検査法が開発されています.新しい定量的計測機器:網膜神経節細胞(RGC)数測定の時代へこれまでの形態解析装置は解像力の限界などから,乳頭径乳頭陥凹比,乳頭辺縁容積,神経線維層厚など,視神経乳頭もしくは神経線維をマクロに評価してきました.最近光干渉断層装置(opticalcoherenttomogra-phy:OCT)などの測定機器の発達は目覚しいものがあります.市販されている機種では縦方向の解像力は10?m程度ですが,次世代機であるhigh-resolutionOCTは2~3?m程度と非常に高い解像力をもっています1).RGCの細胞直径が5~8?m程度であることを考えると,網膜内においてRGCが個々に測定できる可能性があります.実際最近,豚眼でRGCの個数を測定したことも報告されています2).今後の緑内障診療に非常に期待される検査ですが,網膜におけるRGCは分布密度が少なく部位によりばらつきが大きいため,面や小範囲での解析ではRGC数の測定誤差が大きいことが危惧されるため,ある程度の広さをカバーした三次元的解析が必要と考えられます.これまで主流のOCTの測定原理であるタイムドメイン方式のOCTでは,その測定理論から三次元構築は必ずしも容易ではありませんでしたが,フーリエドメイン方式のOCTではより詳細で広範な三次元解析が可能です.これにより,ある体積中のRGC数が測定できる可能性も考えられ,限局的なRGCの障害の評価などには非常に有効であると考えられます.ただし,測定に際し測定位置の再現性や患者の測定協力などの物理的な困難が予測されます.網膜神経線維厚(nerve?berlayerthickness:NFLT)の測定は乳頭周囲の限定的範囲を測定することで,短時間で安定したRGC数を測定することができ,その有用性は高いと考えられます.NFLTの定量的測定には組織の複屈折性を利用した計測法とOCTがおもに用いられていますが,複屈折性原理の場合,角膜のもつ複屈折性の影響をいかに除外するかが問題であり,測定精度に関してもさらなる改善が必要と考えられます.一方,次世代型OCTの場合,かなり高い精度でNFLTの測定が可能と考えられます(図1).しかしながら,これらの方法は基本的に網膜神経線維構造が形態的には正常眼と同等であるという前提に基づいて評価している測定方法です.最近の報告では,軸索構造は緑内障眼では正常眼と異なる可能性があり,これらの変化に軸索の骨格蛋白である微小管やニューロフィラメントが関与しているとの報告もあります3~5).測定精度が高まるほど病的な神経線維と正常な神経線維の構造的差異が測定結果に影響する可能性が危惧されますが,もし機能障害別にRGCを評価できたら非常に有用であると考えられます.機能的評価法の重要性定量的測定機器は以前に比べ,非常に進歩していますが,定量的結果と機能評価が必ずしも一致しないことから,今後定量的評価と同時に機能評価が重要になると考えられます.緑内障視野障害は感度低下点を中心に障害が拡大することが多く,軽微な変化を捉えるには,通常の視野計の活用に加え,すでに存在する感度低下点付近をより詳細に観察することが可能な微小視野計(マイクロペリメトリー)が有用であると考えられます.従来のマイクロペリメトリーは走査レーザーを用いたものが主流でやや臨床使用には難がありましたが,最近開発されたダイオードレーザーを用いたマイクロペリメトリーはより簡便に任意の点を測定することが可能となりまし(67)◆シリーズ第76回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊柏木賢治(山梨大学医学部眼科)緑内障視神経障害評価のこれから———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007た.さらに定量的測定結果と視野結果をリンクさせた視野検査の開発が検討されています6).自覚的機能検査では測定不能例が存在するため,OCTと網膜電位図を組み合わせ初期緑内障眼の検出力を高めた研究も報告されており7),今後他覚的機能検査の発展が待たれます.視覚中枢への障害評価緑内障神経障害はRGCに止まらず,上位のリレーニューロンや視覚中枢への影響を与えることが実験動物やヒト緑内障眼で報告されています8).神経保護治療や将来の再生医療を考えるうえで,これら中枢性の神経障害の評価は今後重要になってくると考えられます.すでに高性能MRI(磁気共鳴画像)や機能性MRIなどの方法を用いた中枢機能評価が検討されており9),これらは今後緑内障診療に活用されてくると考えられます.まとめ最近の疾患定義では緑内障は神経障害が必須となっており,その障害程度の評価が適切な診療にとって不可欠です.特に日本人患者に多い正常眼圧緑内障の場合,眼圧測定の有用性は眼圧上昇型緑内障に比べて低く,形態的や機能的な神経障害の検出や評価が非常に重要です.(68)210mm0.50mm1.20mm0.60mm図1OCTによる神経線維層厚,視神経乳頭の定量評価(1)左に示す市販型OCTによる網膜断面図に比べ,右の次世代型OCTでは神経線維層を含めより詳細に網膜各部の構造が判定できる.(2)市販型OCTによる乳頭部解析では6本の断面画像から乳頭形態を評価しているのに対し,(3)の次世代型OCTではより詳細な三次元解析が可能となっている.(文献10より改変)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???5)KashiwagiK,OuB,NakamuraSetal:Increaseindephosphorylationoftheheavyneuro?lamentsubunitinthemonkeychronicglaucomamodel.?????????????????????????44:145-159,20036)ShahNN,BowdC,MedeirosFAetal:Combiningstruc-turalandfunctionaltestingfordetectionofglaucoma.?????????????113:1593-1602,20067)VenturaLM,SorokacN,DeLosSantosRetal:Therela-tionshipbetweenretinalganglioncellfunctionandretinalnerve?berthicknessinearlyglaucoma.??????????????????????????47:3904-3911,20068)GuptaN,AngLC,NoeldeTillyLetal:Humanglaucomaandneuraldegenerationinintracranialopticnerve,lateralgeniculatenucleus,andvisualcortex.???????????????90:674-678,20069)DuncanRO,SamplePA,WeinrebRNetal:Retinotopicorganizationofprimaryvisualcortexinglaucoma:Com-paringfMRImeasurementsofcorticalfunctionwithvisual?eldloss.??????????????????26:38-56,200710)WojtkowskiM,SrinivasanV,FujimotoJGetal:Three-dimensionalretinalimagingwithhigh-speedultrahigh-resolutionopticalcoherencetomography.?????????????112:1734-1746,2005細胞個体レベルまで達しようとしている形態評価に関しては,一定の到達点に近づいているともいえますが,機能的評価,特に客観性の高い機能評価法に関しては,いまだ不十分で,今後この領域のさらなる進歩と形態評価と連携した評価法が進むことが期待されます.文献1)DrexlerW,MorgnerU,GhantaRKetal:Ultrahigh-reso-lutionophthalmicopticalcoherencetomography.???????7:502-507,20012)HangaiM,AkibaM,ChanKPetal:Retinalganglioncellimagingbyultrahighresolution,full-?eldopticalcoher-encetomographyinpigeyes.ARVOabstract,p160,20063)PavlidisM,StuppT,NaskarRetal:Retinalganglioncellsresistanttoadvancedglaucoma:apostmortemstudyofhumanretinaswiththecarbocyaninedyeDiI.?????????????????????????44:5196-5205,20034)HuangXR,KnightonRW:Microtubulescontributetothebirefringenceoftheretinalnerve?berlayer.??????????????????????????46:4588-4593,2005(69)■「緑内障視神経障害評価のこれから」を読んで■今回は柏木賢治先生により,highresolutionOCTなどの新しい診断機器を用いることで,今まで不可能であった病態の解析ができるようになったことが述べられています.実際の患眼における網膜神経節細胞の直接解析などということは,数年前には夢物語でしたが,近い将来に臨床現場で行われることになるでしょう.これらの詳細は,本文ならびに多くの眼科関連誌に書かれていますので,私は別の観点から,新しい検査機器の出現がもたらすインパクトについて述べます.一般に,ある事柄が科学・学問として発展してゆくには,知識や情報が正確かつ広く共有されることが必要です.たとえば,ある疾患を正確に診断する良い方法があっても,それがむずかしい方法であれば,その方法は広くは用いられません.また,簡単な方法であっても,検者によって異なる結果が出るようなもの,言い換えれば主観によって異なるものも同じです.視神経乳頭の評価法や,隅角の角度におけるSha?er分類法などは,わかりやすいものですが,結果が検者の主観や習熟度の影響を受けるので,正確な情報という点では不十分でした.つまり,科学的なデータとは言い切れなかったのです.情報を共有するために,科学の世界では厳密なターミノロジーが求められています.しかし,いくらターミノロジーを厳密にしても,データの取り方がむずかしく,そこに主観が入るのであれば,正確な情報の共有はできません.いわゆる名人芸というものであれば,優れた情報も狭い範囲に留まり,つぎの段階への飛躍的進歩をとげる礎となることは不可能です.今回紹介された新しい診断機器には,新しい解析ができるという利点があります.しかし,より重要なのは,新しい診断機器のおかげで,初心者にもベテランにも,同じように客観的なデータが取れるという点です.客観的なデータが多くの人に共有されたとき,それを元にした新しい考え方や飛躍的治療法が必ず生まれます.その意味から,新しい検査機器の出現は,診断向上のみでなく学問としての眼科学の発展に大きなインパクトを与え続けるものと信じます.鹿児島大学医学部眼科坂本泰二

眼感染症:メチシリン耐性表皮ブドウ球菌(MRSE)

2007年4月30日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS表皮ブドウ球菌はコアグラーゼ陰性ブドウ球菌群(coagulasenegative?????????????:CNS,コアグラーゼを産生する黄色ブドウ球菌以外のブドウ球菌を総括した呼称)の代表的な菌種であり,臨床材料から分離されるCNSの多くは表皮ブドウ球菌である.表皮ブドウ球菌はヒトの表皮や粘膜部(鼻腔,結膜?など)の常在菌であり,通常は非病原性であるが,損傷を受けた粘膜部や外科的人工留置物(眼内レンズ,血管内留置カテーテル,人工関節など)が本菌により汚染された際には感染症をひき起こすことがある.表皮ブドウ球菌は異物に対する付着性やスライム産生性が高く,汚染の機会も多いことから,人工留置物に関連するバイオフィルム感染症を起こしやすい(図1).メチシリン耐性表皮ブドウ球菌(methicillin-resistant??????????????????????????:MRSE)は,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant?????????????????????:MRSA)と同一の耐性機序により,既存のすべてのb-ラクタム系薬に耐性を獲得した表皮ブドウ球菌である.それゆえMRSE感染症の治療にはb-ラクタム系薬以外の抗菌薬を用いる必要があり,術後眼内炎などの重篤なMRSE感染症においてはバンコマイシンなどの抗MRSA薬による治療が基本となる.なお,MRSEは健常人の鼻腔からも30%程度(MRSAは5%以下)の頻度で検出されることから,入院歴のない健常人であっても術後眼内炎が発生した際にはMRSEの関与を想定し診断・治療を進める必要がある.■塗抹鏡検での見方とコツ眼科材料は極微量であることが多いため,検査室に依頼する場合であっても塗抹スライドは眼科医みずからが(63)47.メチシリン耐性表皮ブドウ球菌(MRSE)眼感染症セミナー─クライシスコントロール講座─●連載?監修=浅利誠志井上幸次大橋裕一豊川真弘浅利誠志大阪大学医学部附属病院臨床検査部メチシリン耐性表皮ブドウ球菌(MRSE)はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)と同一の薬剤耐性因子を獲得した表皮ブドウ球菌である.それゆえ術後眼内炎などの重篤なMRSE感染症の抗菌薬治療は抗MRSA薬が基本となる.さらに,MRSEは抗菌薬のみでは治療困難なバイオフィルム感染症をひき起こすことが多いため,このような症例においては眼内レンズなどの人工留置物の除去を考慮する必要がある.図1IVHカテーテル表面に付着した表皮ブドウ球菌とバイオフィルム(電子顕微鏡,2,500倍)バイオフィルムは細菌が産生する粘液状の多糖体成分(スライムあるいはグライコカリクスとよばれる)によって形成された生物膜である.多くの抗菌薬はバイオフィルム内の細菌に作用できないため,生体内においていったんバイオフィルムが形成されると抗菌薬のみでは治療困難な慢性持続性感染症となる.バイオフィルムは,多くの場合,カテーテルや眼内レンズなどの人工留置物に形成されるが,損傷を受けた粘膜部位にも形成されることがある.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007作製・固定することが望ましい(回収ロスを大幅に軽減することができる).ブドウ球菌による急性感染症では,通常は好中球浸潤ならびに好中球によるグラム陽性ブドウの房状球菌の貪食像が認められるので,グラム染色では細胞成分(炎症細胞,上皮細胞)および貪食像を中心に観察する.ただし,眼内レンズに起因するバイオフィルム感染症では好中球の浸潤が乏しいことがあるため,細胞外に存在する菌体成分も注意深く観察する必要がある.また,硝子体液や前房水のグラム染色では上皮細胞由来の色素顆粒がブドウ球菌様にみえることがあるため注意を要する(色素顆粒は大小不同の正円形を示すのでこの点を鑑別に利用する).なお,黄色ブドウ球菌を含むすべてのブドウ球菌は同一の形態を示すため,形態学的に菌種を推定するのは困難である.■材料採取における注意事項材料採取にあたっては,滅菌生理食塩水による洗浄や表層部消毒後の切開排膿などにより,常在菌の汚染がないよう十分注意を払う.また,常在菌の汚染が避けられない材料(眼脂,結膜)から分離培養検査のみにて表皮ブドウ球菌が検出された場合には起因性の判断が困難となるため,可能なかぎり塗抹鏡検を併用する.■分離菌株のメチシリン耐性判定法ブドウ球菌のメチシリン耐性判定法を表1に示したが,ほとんどの微生物検査室では薬剤感受性測定法を採用している(表皮ブドウ球菌は表中CNSの判定基準を用いる).これらの方法にて“メチシリン耐性=耐性因子保有株”と判定された場合には,表皮ブドウ球菌であってもすべてのb-ラクタム系薬(カルバペネム系薬を含む)に耐性と判定する.■基本的な治療薬剤●角膜炎1):感受性を有するニューキノロン系点眼薬あるいはバンコマイシン溶液(50mg/m?に自家調整)を15~60分おきに24~72時間続け,以後徐々に減量する.●術後眼内炎(早期の急性発症)2):バンコマイシン溶液(64)表1ブドウ球菌のメチシリン耐性判定法検出法測定法使用薬剤対象判定基準(CLSI法)薬剤含有量単位備考R(耐性)I(中間)S(感性)薬剤感受性測定法ディスク拡散法オキサシリン?????????のみ≦1011~12≧131?g阻止円mm米国CLSI標準法CNS≦17─≧18メチシリン?????????のみ≦910~13≧145?gセフォキシチン?????????,??????????????≦19─≧2030?gCNS≦24─≧25希釈法(2%NaCl添加MH培地)オキサシリン?????????,??????????????≧4≦2MIC?g/m?米国CLSI標準法日本化学療法学会標準法CNS≧0.5≦0.25メチシリン?????????のみ≧16≦8スクリーニング法オキサシリン?????????のみ6?g/m?4%NaCl耐性因子検出法(PBP-2?)ラテックス凝集法市販試薬(デンカ生研)耐性遺伝子検出法(???A)PCR法市販試薬(日本ロシュ)CLSI:米国臨床検査標準化委員会,PCR:polymerasechainreaction,CNS:コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,MIC:最小発育阻止濃度.注)CNSの判定基準は,??????????????においてはメチリシン耐性遺伝子(???A)保有の有無と相関する.これらの判定基準は?????????????????など,ほかのCNSを偽耐性と判定する可能性がある.??????????????以外のCNSによる重篤な感染症においては,MIC値が0.5~2?g/m?を示す場合,???AまたはPBP-2?の確認試験を行うことが重要である.最も正確なメチシリン耐性判定法は耐性因子あるいは耐性遺伝子を検出する方法であるが,ほとんどの微生物検査室では安価な薬剤感受性測定法にて判定している(“メチシリン耐性”を判定するのであるが,通常は検査精度の高いオキサシリンを用いる).なお,薬剤感受性測定法を用いる場合には菌種により判定基準が異なるので注意が必要である.検査を依頼している検査室(外注検査センター)において正しい検査法・判定基準が採用されているか否かを確認しておくことが望ましい.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???(1mg/0.1m?)を硝子体内ワンショット投与,改善が認められない場合には2~3日後にもう一度投与する.●術後眼内炎(軽症,慢性発症)2):抗菌薬投与は急性発症に準ずる.眼内レンズの除去を要するかもしれない.参考までにMRSEおよびMRSAに対する各種抗菌薬の薬剤感受性率を表2に示した.文献1)サンフォード感染症治療ガイド2006(GilbertDNほか編).p25-27,ライフサイエンス出版,20062)HanscomTA:Postoperativeendophthalmitis.???????????????38:542-546,2004(65)表2MRSEおよびMRSAに対する各種抗菌薬の薬剤感受性率MRSE(93株)MRSA(121株)MIC90*(?g/m?)感受性率(%)MIC90*(?g/m?)感受性率(%)経口薬ミノサイクリンレボフロキサシンガチフロキサシンモキシフロキサシンクラリスロマイシンアジスロマイシン抗MRSA注射薬バンコマイシンテイコプラニンアルベカシンリネゾリド抗VRE注射薬キヌプリスチン/ダルフォプリスチン81622>64>64232120.259234344128261008110010010016──64──22240.521──3──10010095100100VRE:バンコマイシン耐性腸球菌.*:測定対象株の90%以上を抑制する最小発育阻止濃度(MIC).(藤村享滋ほか:日本化学療法学会雑誌54:330-354,2006より抜粋し作成)b-ラクタム系薬以外の抗菌薬の感受性率はMRSEとMRSAでは多少異なる.ミノサイクリンおよびニューキノロン系経口薬はほとんどのMRSAに無効であるが,MRSEに対してはそれぞれ92%および30~40%の感受性率が認められる.一方,バンコマイシンなどの抗MRSA注射薬はMRSEおよびMRSAのいずれに対しても高い感受性率を保持しているが,近年,MRSEに対するテイコプラニンならびにMRSAに対するアルベカシンの感受性率は若干低下傾向にある.なお,新規抗MRSA/VRE抗菌薬であるリネゾリドはMRSAおよびMRSEに対し優れた抗菌力を有しており,さらに,組織内移行性が高いという利点を有することから,今後は眼科領域においても有用性評価が期待される抗菌薬である.◎検査室から眼科医へ◎表皮ブドウ球菌を含むCNSは結膜?の常在菌であることから,検査材料種別(無菌材料;硝子体液,眼内レンズ,汚染を回避し採取した角膜擦過物/常在菌の汚染が避けられない検査材料;眼脂・結膜擦過物)によって検査法および検査の進め方が異なります.このため眼科医は常在菌の汚染を可能な限り回避した材料採取を行うとともに検査室(検査センター)へ材料種別や患者情報などを伝える必要があります.また,検査室ではどのように検査を進めているのか(無菌材料の増菌培養は何日行っているか?CNSが検出された場合にはどのような基準で検査を進めているか?など)について話し合いの場をもつことが望ましいと考えます.これらは検査室とのトラブル回避はもちろんのこと臨床と検査室の双方のレベルアップにも役立ちます.◎眼科医から検査室へ◎単に機械的に検査を行うのでなく,検査室と常に情報を交換していくことは,臨床に有用な情報を得るうえで大変大事なことだと思います.MRSEについては,眼科では点眼という他科にはない治療法が駆使できるので,点眼で利用でき,MRSEへの効果の期待できるクロラムフェニコールやゲンタマイシン・トブラマイシン・ミクロノマイシンなどのアミノグリコシド系薬の感受性についての情報があればありがたいと思います.また,バイオフィルムをつくるスライム産生能を知る指針として,???遺伝子についての情報があれば,その臨床的病態を考えるうえで役立つと思います.鳥取大学医学部視覚病態学井上幸次☆☆

光線力学的療法(PDT):Predominantly classic CNVに対する光線力学的療法

2007年4月30日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS●PredominantlyclassicCNVとは滲出型加齢黄斑変性(AMD)に伴う脈絡膜新生血管(CNV)のうち,フルオレセイン蛍光眼底造影検査(FA)所見上,典型的な造影所見を示すclassicCNVが全病巣の半分以上を占める場合にpredominantlyclassicCNVと称する.ここでいう病巣とは,漿液性色素上皮?離,蛍光ブロック,瘢痕のすべてを含んだものであり,病巣にoccultCNVが含まれるかどうかは問わない.Pre-dominantlyclassicCNVに分類される症例には,狭義AMDだけではなくポリープ状脈絡膜血管症(PCV)や網膜内血管腫状増殖(RAP)などが含まれるが,本稿では狭義AMDのためにpredominantlyclassicCNV所見を呈しているAMDについて述べる.●PredominantlyclassicCNVに対する光線力学的療法(PDT)の効果欧米ではPDT施行の際にFAによるCNV分類が重要視されている.TreatmentofAge-relatedMacularDegenerationwithPhotodynamicTherapy(TAP)investigationによってpredominantlyclassicCNVでは病変サイズ,術前視力によらずPDTの有効性が示され,PDTが推奨される.これは,病巣の大きさや,病状の進行度によりPDT適応に制限のあるminimallyclassicCNVやoccultwithnoclassicCNVと対照的である.すなわち,predominantlyclassicCNVはPDTの最もよい適応とされている1).欧米ではpredominantlyclassicCNVはminimallyclassicCNVよりは再治療率が低い2)が,occultwithnoclassicCNV3)よりは再治療率が高いと報告されている.また,日本人を対象にしたJapaneseAge-relatedMac-ularDegenerationTrialではclassicCNVは,occultCNVよりも閉塞率が低いことが報告されている4).●症例提示〔症例1〕PDT単独.72歳,女性.4年前にAMDを指摘され,経瞳孔温熱療法を一度施行されておりCNVは沈静化していたが,2005年3月頃からCNV再燃が認められた(図1a~c).治療前の矯正視力は0.1であった.経過:FAにて中心窩領域にclassicCNVを認める(61)柳靖雄東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能医学講座眼科学光線力学的療法(PDT)セミナー監修/石橋達朗湯沢美都子7.PredominantlyclassicCNVに対する光線力学的療法PredominantlyclassicCNVはoccultwithnoclassicCNVと比較して光線力学的療法(PDT)による閉塞が得られにくく,長期間くり返しPDTを行う必要があることが多い.また,治療後は線維性瘢痕を残すことが多く,視力障害の原因となることがある.トリアムシノロン併用PDTを行うと,CNVの高い閉塞率が得られる可能性があり,本症の治療の併用薬剤として有効である.提供図1症例1:PDT単独(72歳,女性)治療前;a:眼底写真,b:OCT,c:左よりFA早期,後期,IA.治療後;d:眼底写真,e:OCT,f:左よりFA早期,後期,IA.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007(図1c).2005年3月,病変最大径(GLD)1,240?m,照射径2,240?mで初回PDTを施行した.以降3カ月ごとに二度PDTを施行したところ,治療開始から1年目に滲出性変化の軽減を認めたため,PDTは行わずトリアムシノロン(TA)を後部Tenon?下に単独投与した.一度,脈絡膜新生血管は沈静し,矯正視力0.1を保っていた.その後,2006年6月頃より,再度新生血管が活動してきたが,治療を望まなかったため,追加のPDTは施行せず,現在に至る.CNVは依然として活動しており(図1d~f),矯正視力は0.08である.〔症例2〕TA併用PDT.67歳,男性.2005年11月の初診時,矯正視力0.15.2006年1月の治療前は,矯正視力0.04であった(図2a~c).経過:FAにて中心窩領域にclassicCNVを認めた(図2c).PDT単独療法とTA併用PDTについて説明し,インフォームド・コンセント取得のうえ,2006年1月,GLD3,200?m,照射径4,200?mで初回のTA併用PDTを行った.TAは後部Tenon?下にPDT治療(62)の前日に投与した.治療後3カ月目にはCNVの活動性が依然として残存していたため二度目のTA併用PDTを行った.その後,CNVは線維化し,最終治療から9カ月経過する現在まで病状は安定している(図2d~f).線維性瘢痕が中心窩に残存し,矯正視力は0.04に留まっている.●解説PredominantlyclassicCNVに対してはPDTが有効である.しかしながら,CNVの閉塞をきたすまでには治療回数が多くなる.また,治療後は,線維性組織が網膜下に残存することが多く,視力障害の一因となることがある.TA併用PDTは,PDT単独施行と比較して治療回数が少なくて済むとされる.また,TAを併用したPDTではPDT単独療法に比較して視力予後が良いとする報告も多数存在する.したがって,CNVの閉塞が得られにくいpredominantlyclassicに対してはTAの併用を検討してもよいと考えられる.投与経路は,欧米での報告は硝子体内投与が主流であるが,わが国では合併症を危惧して後部Tenon?下注射が好まれる傾向にある.いずれの投与方法でもTA併用による白内障の進行促進,眼圧上昇などの合併症のリスクがありうるので,投与前には十分な説明を行い,投与後の経過観察が重要となる.文献1)Guidelinesforusingvertepor?n(Visudyne)inphotody-namictherapyforchoroidalneovascularizationduetoage-relatedmaculardegenerationandothercauses:update.??????25:119-134,20052)BresslerNM,ArnoldJ,BenchabouneMetal:Vertepor?ntherapyofsubfovealchoroidalneovascularizationinpatientswithage-relatedmaculardegeneration:addition-alinformationregardingbaselinelesioncomposition?simpactonvisionoutcomes─TAPreportNo.3.????????????????120:1443-1454,20023)Vertepor?ntherapyofsubfovealchoroidalneovasculariza-tioninage-relatedmaculardegeneration:two-yearresultsofarandomizedclinicaltrialincludinglesionswithoccultwithnoclassicchoroidalneovascularization─Vertepor?ninphotodynamictherapyreport2.????????????????131:541-560,20014)JapaneseAge-relatedMacularDegenerationTrial:1-yearresultsofphotodynamictherapywithvertepor?ninJapanesepatientswithsubfovealchoroidalneovasculariza-tionsecondarytoage-relatedmaculardegeneration.???????????????136:1049-1061,2003図2症例2:TA併用PDT(67歳,男性)治療前;a:眼底写真,b:OCT,c:左よりFA早期,後期,IA.治療後;d:眼底写真,e:OCT,f:左よりFA早期,後期,IA.

緑内障:プロスタノイド受容体と眼圧下降

2007年4月30日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS●プロスタグランジン系眼圧下降薬とプロスタノイド受容体プロスタグランジン(PG)シクロオキシゲナーゼ系のおもな代謝物はPGD2,PGE2,PGF2a,PGI2,TXA2である.それぞれに特異性の高い受容体はプロスタノイド受容体とよばれ,DP,EP1~4,FP,IP,TPと分類されているが,実際には生体内のPGは1種以上の受容体に交叉結合しうるので,各々の薬理作用は広い.PGの眼での最初の報告は1955年にAmbacheがirinと名付けた瞳孔収縮作用のある物質を虹彩から抽出したことに始まり,それはおもにPGF2aとPGE2であることが判明している.1970年代になり低用量のPGF2aがウサギで眼圧下降を示すことがわかり,その後多くのPGE2,PGF2aとその関連物質が試され,角膜透過性に優れたPGF2a-isopropylesterから,現在のラタノプロスト,ウノプロストン,トラボプロスト,ビマトプロストの開発に至り,前2者が国内で,後者が海外で使用されている.国内ではタフルプロストも開発され治験中である(図1).ビマトプロスト以外はカルボキシル基末端がエステル化されてprodrugとなっており,角膜でesteraseにより代謝されてacid体となり受容体に結合する.ビマトプロストはアミド基が結合している点が他4剤と異なるが,角膜でamidaseにより代謝されて眼内ではacid体として働くと考えられる.図2に5種のPG系眼圧下降薬の受容体への親和性を示した.ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロストacid体はFP受容体への結合力が強いことが特徴であるが,ビマトプロストは当初代謝されず作用する可能性も示されていた.ウノプロストンはどの受容体にも結合が弱く作用機序が不明とされていた.FPアゴニスト作用の強い4薬剤は受容体レベルでの特異性が非常に高いので,本来のPGF2aより作用も絞り込まれた結果,FP以外の受容体を介した副作用が分離されて強い眼圧下降作用を示しているのが大きな特徴であるといえる.ウノプロストンは受容体結合能が弱いことを反映して眼圧下降効果に劣る.(59)●連載?緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄82.プロスタノイド受容体と眼圧下降相原一東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能医学講座眼科学プロスタノイド受容体は8種DP,EP1,EP2,EP3,EP4,FP,IP,TPが存在し,そのうちFP受容体が現在上市されている4種および開発中のプロスタグランジン系薬剤による眼圧下降に必須であることが受容体欠損マウスを用いた実験により証明された.また,EP受容体サブタイプも眼圧下降に関与している可能性があり,今後の新しい眼圧下降薬の開発が期待される.図1PG系眼圧下降薬ウノプロストン,ラタノプロスト,トラボプロスト,ビマトプロスト,タフルプロストの化学式と基本骨格のPGF2a-IEおよび17-phenyltrinor-PGF2a-IEの比較.赤丸で示したところが各薬剤の特徴.IE:isopropylester.esteraseesteraseesteraseesteraseesteraseesteraseamidaseHC(HCOOC3)2HOHOO31417151ronirtlynehp-71EI-lonetsorpulFronirtlynehp-71FGP2α-edimalyhteenotsorponUenotsorponU%21.0%21.0tsorpovarT%400.0tsorpotamiB%30.0tsorpulfaTHC(HCOOC3)2HOHO3141516171HOHC(HCOOC3)2HOHOOF314171FFHOHC(HCOOC3)2HOHOFFOHC(HCOOC3)2HOHO314171HOHC(HCOOC3)2HOHO71HOFGP2α-EIFGP2α-EIHOHONOCC2H4HOH314171HOtsorponataLtsorponataL%500.0%500.0———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007●FP受容体欠損マウスにおける眼圧下降眼圧下降効果はFP特異性が高いほど強い傾向にあることから,FP受容体が眼圧下降作用の主たるシグナル開始点である可能性が示唆され,筆者らは5種の薬剤によるFP受容体欠損マウスにおける眼圧下降効果を検討した1,2)(図3).野生型マウスとFP受容体欠損マウスの片眼に市販濃度の5種のPG系眼圧下降薬を3??点眼後,僚眼を対象として3時間での眼圧下降率を検討したところ,図3のように野生型マウスではいずれも有意な眼圧下降効果が得られたが,FP受容体欠損マウスではほとんど眼圧下降効果が得られなかった.したがって,現在のPG系眼圧下降薬はいずれもFP受容体を介して眼圧下降効果を示すことが判明した.FP受容体欠損マウスの日中夜間の眼圧は野生型マウスと同様であり,FP受容体自体は眼圧維持や日内変動には影響しないことも判明した.●EP受容体アゴニストにおける眼圧下降すでにサル眼を用いたPGE2の眼圧下降効果が示されているが,EP受容体は4つのサブタイプがあるため,眼圧下降に対する特異性が異なる可能性がある.そこで,EP1~4の各受容体のアゴニストを用いた眼圧下降効果を検討した.興味深いことにEP2およびEP4受容体アゴニストによる眼圧下降効果が得られ,EP1およびEP3受容体ではまったく眼圧下降効果が得られなかった(2005ARVO発表).EP2およびEP4受容体の細胞内シグナルはともにcAMPの上昇を介することが判明しているので,線維柱帯,毛様体でのcAMP上昇が眼圧下降作用に関与している可能性がある.●将来の展望作用機序が不明のままに開発されたPGF2a系の薬剤から,現在はプロスタノイド受容体レベルでの眼圧下降効果が検討できるようになってきた.FP受容体が眼圧下降作用の大きな役割をはたしていることは相違ないが,その他にEP受容体,DP,IP,TP受容体も関与している可能性がある.今後は受容体特異性の高い薬剤を開発することにより,さらに作用,副作用を分離し,眼圧下降効果が高い薬剤の開発につなげる必要がある.また,受容体レベル以下のシグナル伝達と細胞外出力をさらに検討して眼圧下降機序のよりいっそうの解明が期待される.文献1)OtaT,AiharaM,NarumiyaSetal:Thee?ectsofprosta-glandinanaloguesonIOPinprostanoidFP-receptor-de?-cientmice.?????????????????????????46:4159-4163,20052)OtaT,AiharaM,SaekiTetal:TheIOP-loweringe?ectsandmechanismofactionofta?uprostinprostanoidrecep-tor-de?cientmice.???????????????2006,inpress(60)図2PG系薬剤(acid体)のプロスタノイド受容体に対する親和性グラフの外側ほどその受容体に対する親和性が強いことを示す.Unoprostoneacid以外はFPに強い親和性を有するが,FP以外にはそれぞれ異なる特性を示す.全薬剤同一の親和性試験は行われていないので,薬剤間での比較はできないことに注意.enotsorponUenotsorponUdicadica011-014-017-0101-PF1PE2PE3PE4PEPDPIPT011-014-017-0101-PF1PE2PE3PE4PEPDPIPTtsorpulfaTtsorpulfaTdicadicatsorpotamiBtsorpotamiBdicadica011-014-017-0101-PF1PE2PE3PE4PEPDPIPTtsorpotamiBtsorpotamiB011-014-017-0101-PF1PE2PE3PE4PEPDPIPTtsorpovarTtsorpovarTdicadicatsorponataLtsorponataLdicadica011-014-017-0101-PF1PE2PE3PE4PEPDPIPT図3FP受容体欠損マウスにおける眼圧下降野生型(WT)およびFP受容体欠損マウス(FP)眼に夜間点眼後3時間での眼圧下降率(%)を示す(平均±SD).FP受容体欠損により各薬剤ともに眼圧下降効果が消失する.*:p<0.01.(文献1より)LatanoprostTravoprostBimatoprostTa?uprostUnoprostone-100102030*****WTFPWTFPWTFPWTFPWTFP眼圧下降率(%)