———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLSはじめに現在,緑内障診療では神経障害の評価を,視神経乳頭所見,神経線維層所見,視野所見などの客観的所見と主観的所見から総合的に行い,目標眼圧の設定や治療の適正性の評価に用いることが主流となっています.緑内障神経障害の発症や進行を早期に発見することが緑内障診療においても最も重要ですが,主観的検査や定性的検査は信頼性が乏しい,小児や一部の高齢者では検査が困難な場合もある,検者間で評価に誤差が生じやすいなどの問題点があります.近年,これらの問題に対応するために,他覚的,定量的検査をキーワードとしていくつかの検査法が開発されています.新しい定量的計測機器:網膜神経節細胞(RGC)数測定の時代へこれまでの形態解析装置は解像力の限界などから,乳頭径乳頭陥凹比,乳頭辺縁容積,神経線維層厚など,視神経乳頭もしくは神経線維をマクロに評価してきました.最近光干渉断層装置(opticalcoherenttomogra-phy:OCT)などの測定機器の発達は目覚しいものがあります.市販されている機種では縦方向の解像力は10?m程度ですが,次世代機であるhigh-resolutionOCTは2~3?m程度と非常に高い解像力をもっています1).RGCの細胞直径が5~8?m程度であることを考えると,網膜内においてRGCが個々に測定できる可能性があります.実際最近,豚眼でRGCの個数を測定したことも報告されています2).今後の緑内障診療に非常に期待される検査ですが,網膜におけるRGCは分布密度が少なく部位によりばらつきが大きいため,面や小範囲での解析ではRGC数の測定誤差が大きいことが危惧されるため,ある程度の広さをカバーした三次元的解析が必要と考えられます.これまで主流のOCTの測定原理であるタイムドメイン方式のOCTでは,その測定理論から三次元構築は必ずしも容易ではありませんでしたが,フーリエドメイン方式のOCTではより詳細で広範な三次元解析が可能です.これにより,ある体積中のRGC数が測定できる可能性も考えられ,限局的なRGCの障害の評価などには非常に有効であると考えられます.ただし,測定に際し測定位置の再現性や患者の測定協力などの物理的な困難が予測されます.網膜神経線維厚(nerve?berlayerthickness:NFLT)の測定は乳頭周囲の限定的範囲を測定することで,短時間で安定したRGC数を測定することができ,その有用性は高いと考えられます.NFLTの定量的測定には組織の複屈折性を利用した計測法とOCTがおもに用いられていますが,複屈折性原理の場合,角膜のもつ複屈折性の影響をいかに除外するかが問題であり,測定精度に関してもさらなる改善が必要と考えられます.一方,次世代型OCTの場合,かなり高い精度でNFLTの測定が可能と考えられます(図1).しかしながら,これらの方法は基本的に網膜神経線維構造が形態的には正常眼と同等であるという前提に基づいて評価している測定方法です.最近の報告では,軸索構造は緑内障眼では正常眼と異なる可能性があり,これらの変化に軸索の骨格蛋白である微小管やニューロフィラメントが関与しているとの報告もあります3~5).測定精度が高まるほど病的な神経線維と正常な神経線維の構造的差異が測定結果に影響する可能性が危惧されますが,もし機能障害別にRGCを評価できたら非常に有用であると考えられます.機能的評価法の重要性定量的測定機器は以前に比べ,非常に進歩していますが,定量的結果と機能評価が必ずしも一致しないことから,今後定量的評価と同時に機能評価が重要になると考えられます.緑内障視野障害は感度低下点を中心に障害が拡大することが多く,軽微な変化を捉えるには,通常の視野計の活用に加え,すでに存在する感度低下点付近をより詳細に観察することが可能な微小視野計(マイクロペリメトリー)が有用であると考えられます.従来のマイクロペリメトリーは走査レーザーを用いたものが主流でやや臨床使用には難がありましたが,最近開発されたダイオードレーザーを用いたマイクロペリメトリーはより簡便に任意の点を測定することが可能となりまし(67)◆シリーズ第76回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊柏木賢治(山梨大学医学部眼科)緑内障視神経障害評価のこれから———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007た.さらに定量的測定結果と視野結果をリンクさせた視野検査の開発が検討されています6).自覚的機能検査では測定不能例が存在するため,OCTと網膜電位図を組み合わせ初期緑内障眼の検出力を高めた研究も報告されており7),今後他覚的機能検査の発展が待たれます.視覚中枢への障害評価緑内障神経障害はRGCに止まらず,上位のリレーニューロンや視覚中枢への影響を与えることが実験動物やヒト緑内障眼で報告されています8).神経保護治療や将来の再生医療を考えるうえで,これら中枢性の神経障害の評価は今後重要になってくると考えられます.すでに高性能MRI(磁気共鳴画像)や機能性MRIなどの方法を用いた中枢機能評価が検討されており9),これらは今後緑内障診療に活用されてくると考えられます.まとめ最近の疾患定義では緑内障は神経障害が必須となっており,その障害程度の評価が適切な診療にとって不可欠です.特に日本人患者に多い正常眼圧緑内障の場合,眼圧測定の有用性は眼圧上昇型緑内障に比べて低く,形態的や機能的な神経障害の検出や評価が非常に重要です.(68)210mm0.50mm1.20mm0.60mm図1OCTによる神経線維層厚,視神経乳頭の定量評価(1)左に示す市販型OCTによる網膜断面図に比べ,右の次世代型OCTでは神経線維層を含めより詳細に網膜各部の構造が判定できる.(2)市販型OCTによる乳頭部解析では6本の断面画像から乳頭形態を評価しているのに対し,(3)の次世代型OCTではより詳細な三次元解析が可能となっている.(文献10より改変)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???5)KashiwagiK,OuB,NakamuraSetal:Increaseindephosphorylationoftheheavyneuro?lamentsubunitinthemonkeychronicglaucomamodel.?????????????????????????44:145-159,20036)ShahNN,BowdC,MedeirosFAetal:Combiningstruc-turalandfunctionaltestingfordetectionofglaucoma.?????????????113:1593-1602,20067)VenturaLM,SorokacN,DeLosSantosRetal:Therela-tionshipbetweenretinalganglioncellfunctionandretinalnerve?berthicknessinearlyglaucoma.??????????????????????????47:3904-3911,20068)GuptaN,AngLC,NoeldeTillyLetal:Humanglaucomaandneuraldegenerationinintracranialopticnerve,lateralgeniculatenucleus,andvisualcortex.???????????????90:674-678,20069)DuncanRO,SamplePA,WeinrebRNetal:Retinotopicorganizationofprimaryvisualcortexinglaucoma:Com-paringfMRImeasurementsofcorticalfunctionwithvisual?eldloss.??????????????????26:38-56,200710)WojtkowskiM,SrinivasanV,FujimotoJGetal:Three-dimensionalretinalimagingwithhigh-speedultrahigh-resolutionopticalcoherencetomography.?????????????112:1734-1746,2005細胞個体レベルまで達しようとしている形態評価に関しては,一定の到達点に近づいているともいえますが,機能的評価,特に客観性の高い機能評価法に関しては,いまだ不十分で,今後この領域のさらなる進歩と形態評価と連携した評価法が進むことが期待されます.文献1)DrexlerW,MorgnerU,GhantaRKetal:Ultrahigh-reso-lutionophthalmicopticalcoherencetomography.???????7:502-507,20012)HangaiM,AkibaM,ChanKPetal:Retinalganglioncellimagingbyultrahighresolution,full-?eldopticalcoher-encetomographyinpigeyes.ARVOabstract,p160,20063)PavlidisM,StuppT,NaskarRetal:Retinalganglioncellsresistanttoadvancedglaucoma:apostmortemstudyofhumanretinaswiththecarbocyaninedyeDiI.?????????????????????????44:5196-5205,20034)HuangXR,KnightonRW:Microtubulescontributetothebirefringenceoftheretinalnerve?berlayer.??????????????????????????46:4588-4593,2005(69)■「緑内障視神経障害評価のこれから」を読んで■今回は柏木賢治先生により,highresolutionOCTなどの新しい診断機器を用いることで,今まで不可能であった病態の解析ができるようになったことが述べられています.実際の患眼における網膜神経節細胞の直接解析などということは,数年前には夢物語でしたが,近い将来に臨床現場で行われることになるでしょう.これらの詳細は,本文ならびに多くの眼科関連誌に書かれていますので,私は別の観点から,新しい検査機器の出現がもたらすインパクトについて述べます.一般に,ある事柄が科学・学問として発展してゆくには,知識や情報が正確かつ広く共有されることが必要です.たとえば,ある疾患を正確に診断する良い方法があっても,それがむずかしい方法であれば,その方法は広くは用いられません.また,簡単な方法であっても,検者によって異なる結果が出るようなもの,言い換えれば主観によって異なるものも同じです.視神経乳頭の評価法や,隅角の角度におけるSha?er分類法などは,わかりやすいものですが,結果が検者の主観や習熟度の影響を受けるので,正確な情報という点では不十分でした.つまり,科学的なデータとは言い切れなかったのです.情報を共有するために,科学の世界では厳密なターミノロジーが求められています.しかし,いくらターミノロジーを厳密にしても,データの取り方がむずかしく,そこに主観が入るのであれば,正確な情報の共有はできません.いわゆる名人芸というものであれば,優れた情報も狭い範囲に留まり,つぎの段階への飛躍的進歩をとげる礎となることは不可能です.今回紹介された新しい診断機器には,新しい解析ができるという利点があります.しかし,より重要なのは,新しい診断機器のおかげで,初心者にもベテランにも,同じように客観的なデータが取れるという点です.客観的なデータが多くの人に共有されたとき,それを元にした新しい考え方や飛躍的治療法が必ず生まれます.その意味から,新しい検査機器の出現は,診断向上のみでなく学問としての眼科学の発展に大きなインパクトを与え続けるものと信じます.鹿児島大学医学部眼科坂本泰二