———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS報を反映するものと確信するに至った.そして,このような経緯のもと,筆者らは,油層伸展挙動の定量的な解析に取り組み,レオロジーモデルの一つがそれに当てはまる可能性を見出した.本稿では,現在,筆者らが取り組んでいるレオロジーモデルを用いた涙液油層の伸展挙動のキネティックアナリシスについて紹介する.I開瞼に伴う涙液層の伸展モデルDR-1?を用いて観察すると,瞬目のたびに涙液油層がくり返し上方へ伸展する様子を観察することができる.しかも,伸展後に静止した油層の干渉像は,個々の連続する瞬目において互いによく似ており,しばらく観察していてもそのパターンはゆっくりとしか変化していかない.Bronらによれば,これは,眼瞼縁に貯留した油脂が涙液油層に反映される過程が非常にゆっくりとしているためではないかとしている1).この開瞼後の油層の伸展挙動(図1)は,閉じられたヒダつきカーテンを広げる様子に似ているため“Pleateddrapee?ect”と形容される1,5).すなわち,閉瞼時,涙液油層はヒダつきカーテンを閉じたときのように上・下の眼瞼縁の間に折りたたまれており(図2),開瞼後は,あたかもそのカーテンが広げられてゆくように,上方に向けて伸展してゆくのではないかと推察されている(図1).ところで,瞬目後に涙液油層の上方伸展が起こるのはなぜであろうか?それをうまく説明するためには,油はじめに涙液油層は,マイボーム腺から分泌される油脂によって構成され,涙液の液層の蒸発を防ぐとともにその安定性を保つ働きをもつ.また,涙液油層は100nm程度の薄膜として振る舞うため,光の干渉原理に基づいて,各種の光学的測光法を用いてその厚みを測定したり,反射光の干渉像を得ることができる1).過去に筆者らは,涙液油層観察装置の一つであるDR-1?(興和)のプロトタイプを用いて,涙液油層の干渉像を観察し,その分類(Grade分類)を提唱するとともに,健常眼とドライアイでGrade分布が異なることやGradeとドライアイの重症度との間に有意な相関があることを報告した2).当時は主として,DR-1?の高倍モード[観察範囲は角膜中央の2.3mm(縦)×3.2mm(横)の矩形領域]を用いて開瞼後の涙液油層の“静止像”について観察していたが,その後,経験を積むにつれて,高倍モードを用いた“静止像”のGradingよりも,低倍モード[観察範囲は角膜中央の7.0mm(縦)×8.0mm(横)の楕円状領域]を用いた瞬目後の油層の伸展挙動の観察のほうが,ドライアイの重症度をよく把握できるという印象をもつようになった.これは,瞬目後の油層の伸展挙動が涙液量の情報を含み,涙液量が少ないと油層の伸展が緩徐になることが経験的にわかりはじめたからである.その後Gotoら3,4)の油層伸展の半定量的解析法が報告されると,筆者らは,涙液油層の伸展挙動が涙液貯留量の情報,ひいては角膜上の液層の厚み情(33)???*NorihikoYokoi&HideakiYamada:京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕横井則彦:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学特集●前眼部四次元検査(前眼部キネティックアナリシス)あたらしい眼科24(4):431~438,2007レオロジーモデルを用いた涙液油層伸展挙動のキネティックアナリシス?????????????????????????????????????????????????????????????????????横井則彦*山田英明*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007層のキャリアである液層の挙動を想定しながら説明せねばならず,なかなかむずかしい問題である.しかし,それを説明しようとする涙液層の伸展モデルがいくつか報告されている6~8).まず,BrownとDervichianは,角膜上の涙液層の伸展挙動を液層と油層に分けて,2ステップで説明するモデルを提唱した7).すなわちこのモデルによれば,開瞼時に上眼瞼が引き上げられると,第1番目のステップとして上方の涙液メニスカスの毛細管効果9)によって涙液の液層が引き上げられ,続く第2番目のステップとして閉瞼時に圧縮されていた油層が液層の上を伸展し,油層は液層を伴いながら伸展するため次第に開瞼時の涙液層の厚みが獲得されてゆくのではないかとされる.ついで,この2ステップモデルの第1番目のステップにあたる液層の挙動に関して,Wongらは,より詳細なモデルすなわち,液層の挙動をハケでペンキを塗るがごとくに説明しようとするコーティングモデルを提唱した8).つまり,このモデルによれば,上眼瞼縁(ハケに相当)における涙液メニスカスの陰圧9)(メニスカスの表面張力に比例し曲率半径Rに反比例する)は,メニスカスの液層が角膜上の液層に移行する領域に圧勾配を生じせしめ,その部に液層を塗りつける原動力になるという(図3).また,この圧勾配は,角膜表面によってもたらされる液層の粘性抵抗(液層の粘度と上眼瞼の開瞼速度(34)図1開瞼後の油層の伸展挙動DR-1?を用いると涙液油層の伸展挙動を観察することができる.図の1~6は,開瞼直後からの油層の伸展を示すデジタルキャプチャー画像.涙液油層がヒダ付きカーテンのごとく広げられてゆく様子がわかる(いわゆるpleateddrapee?ect5)).321654図2閉瞼時の油層断面の仮想図閉瞼時には,涙液油層は,ヒダ付きカーテンが折りたたまれたような状態になっている.(Bron教授のご厚意による図を改変)涙液油層上眼瞼下眼瞼涙液液層———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???に比例)と拮抗するため,涙液の粘性が高かったり開瞼速度が速いと,メニスカスから水を奪って液層の厚みが増すよう作用し,逆にメニスカスの表面張力が高かったりその曲率半径Rが小さいと(涙液減少を意味する)メニスカスに涙液が奪われて涙液層は薄くなるという.一方,BrownとDervichianの2ステップモデル7)の第2ステップにあたる油層の伸展挙動に関して,最近,King-Smithらは,液層の挙動を含めた新しいモデルを提唱した6).このモデルによると,開瞼時には,角膜から液層に対して粘性抵抗が働くために,角膜上の液層の水は上方のメニスカスから引き出され,その際,メニスカスの油層も引き出されて涙液層に加えられる.ところが,それらの涙液層の追加の際に,上方のメニスカスの水は,上眼瞼下に満たされた水によって十分に補われるのに対して,油層は液層のようには十分に補われないために,開瞼が進むに従って,涙液油層は下方に比べて上方で次第に薄くなってゆく.つまり,King-Smithらは開瞼後,角膜表面の涙液油層には厚みの勾配が生じ,その結果,表面張力の勾配(油層が薄いところほど表面張力が高い!)が生まれ,その勾配を消失せしめるべく油層の上方への伸展(再分配)が起こるのではないかと推察している(図4).II油層の伸展挙動―定量解析の黎明先に述べたように,DR-1?によって観察される涙液油層の上方への伸展は,重症の涙液減少においてはきわめて緩徐で,健常眼で俊敏であるのに比べて対照的であり,油層の伸展が眼表面の涙液貯留量に依存していることを想定させる.しかし,このことが客観性をもって解析されるようになったのは最近のことである.すなわち,Gotoら3,4)は,涙液油層の伸展挙動の半定量解析を試み,DR-1?を用いて伸展中の角膜上の涙液油層干渉像を約0.2秒ごとに静止画として取り込み,油層の伸展が終了するまでの時間をlipidspreadtime(LST)と定義してそれを求めた.その結果,健常眼に比べて,涙液減少型ドライアイではLSTが長く,涙点プラグの挿入後は,挿入前に比べLSTが短くなることを見出し4),油層の伸展挙動が貯留涙液量に依存する可能性を示した.一方,角膜上の涙液表面に浮遊する微粒子の動きを定量的に評価した興味深い報告10)もある.おそらく,この微粒子は油層表面に付着しており,その動きは油層の挙動を反映したものと推察されるが,この報告では0.04秒ごとの微粒子の移動量を記録し,微粒子の移動速度の時間変化を解析して,その対数近似式から求めた微粒子(35)図3液層の塗りつけモデル8)上方の涙液メニスカスの陰圧は,メニスカスの液層が角膜上の液層に移行する領域(◇)に圧勾配を生じせしめ,この力は,角膜表面によってもたらされる液層の粘性抵抗と拮抗しながら,角膜表面に液層を塗りつけてゆく原動力となる(文献6より引用改変).Rは涙液メニスカスの曲率半径.上眼瞼粘性抵抗圧勾配涙液メニスカス液層が塗りつけられる領域R図4開瞼後の油層の伸展挙動モデルa:開瞼直後,b:開瞼後,油層の伸展が終了した状態(King-Smithら6)による).開瞼直後,涙液油層には厚みの勾配が生じており,その結果,表面張力の勾配が生まれて,その勾配を消失せしめるべく油層の上方への伸展が生じる.(文献6より引用改変)涙液油層ab———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007の移動初速度(initialvelocity:IV)と微粒子の移動が止まるまでの時間(stabilizationtime:ST)について検討している.その結果,Gotoら4)の報告と同様,涙点プラグ挿入後では,健常眼と同じレベルまで,IVとSTが回復することを明らかにした.IIIレオロジーとVoigtモデルレオロジー(rheology)11)とは,物質の変形と流動を取り扱う学問分野であり,日本語に直訳すれば流動学であるが,現在では,レオロジーのままカタカナで使用するのが一般的である.この分野では一般に粘弾性体の挙動が取り上げられる.たとえばある粘弾性体に圧力(応力)を加えると,その粘弾性体は変形し平衡状態から離れた状態となる.しかし,圧力を解除すると,粘弾性体は再び平衡状態に戻ろうとする.そして,この粘弾性体が平衡状態へと復元しようとする物性挙動は,レオロジーにおいて,その最も単純なモデルである,Maxwellモデル,Voigtモデルあるいはそれらの組み合わせで表現しうる.また,これらのモデルは,粘弾性体の物性物理学の歴史において“時間”の要素が入った初めてのモデルといわれる.ここにVoigtモデルとは,バネ(弾性要素)とダッシュポット(粘性要素)を並列に組み合わせた力学モデルであり,バネはフック(Hooke)の法則に従い,力(s)は伸び(g)に比例する(s=k×g,k:バネ係数).ダッシュポットとは,先端を閉じたシリンジを引く際に生じる抵抗と同様のもので,ダッシュポットには速度(dg/dt)に比例した抵抗(s)を生じる(s=h×dg/dt,h:粘性係数).一般に,Voigtモデルは,g=g0(1-e-t/l)(g:伸び,g0:平衡状態での伸び,t:時間,l:遅延時間)で表され(図5),この挙動は,スポンジやクッションなどに指で作ったへこみが,指を離すと徐々に元に戻る様子(レオロジーでクリープ挙動とよぶ)をイメージするとわかりやすい.筆者らは,閉瞼時に圧縮され,開瞼後に元に戻る涙液油層の伸展挙動が,この粘弾性体の物性挙動モデルの一つであるVoigtモデルにあてはめられるのではないかと考えた.VI油層の伸展挙動がVoigtモデルにあてはまるとする理論的背景ある粘弾性体を引き伸ばして,その表面積を増やすにはエネルギーが必要であり,必要とされるエネルギーΔEは,ΔE=g×ΔA(g:表面張力,ΔA:増加させる表面積)で与えられる.つまり,増加させようとする表面積に比例したエネルギーが必要となる.ここで,涙液油層が液層の上を伸展しΔAだけ表面積が増加したとすると,増加するエネルギー(=油層の表面積をΔAだけ広げるのに必要なエネルギー)ΔEは,ΔE=goilΔA+goil/aqueousΔA-gaqueousΔA=(goil+goil/aqueous-gtear)ΔA(goil:油層の表面張力,goil/tear:油層と液層の界面張力,gtear:液層の表面張力)で与えられる.すなわち,油層の表面積の増加はバネ(弾性)で表現されうる(バネ係数×表面積の増加).しかし,油層の伸展に伴って,油層の内部には流動が起こるため,粘性(粘性係数×速度:ダッシュポットで表される)が生じ,この粘性が油層の容易な伸展に絶えず抑制をかけて,クリープの伸びが絶えず遅れるように作用する(遅延クリープ).すなわち,この推論は,涙液油層の伸展挙動がVoigtモデルで表されることを推理させるものである.そこで,1)油層の伸展がVoigtモデルで表されうること,および2)油層と水層との間の摩擦が無視できることの2点を仮定すると,油層に加わる応力s(単位面積当たりの力)と歪e(伸展した表面積÷元の表面積)(36)図5VoigtモデルVoigtモデルとは,バネとダッシュポットを並列に組み合わせた最もシンプルな粘弾性のレオロジーモデルの一つであり,g=g0(1-e-t/l)(g:伸び,g0:平衡状態での伸び,t:時間,l:遅延時間)で表現され,図のようなクリープ曲線を示す.バネkダッシュポットhg0時間tlg0(1-1/e)伸びg———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???の関係は,次式で表される.s=ke+b×de/dt(1)[k:弾性係数(バネ係数),b:減衰係数,t:時間]ここでs=s0(一定)として,式(1)を積分すれば,e=s0/k+C×e-(k/b)t(C:定数)(2)となる.式(2)は油層を一定の応力で引き上げたときの油層の歪(表面積の増加率)を表す.ここで初期条件,e=0(t=0)を用いると,C=-s0/kとなり,両辺にL(元の表面積)をかければ,Le=(Ls0/k)[1-e-(k/b)t](3)となる.式(3)を書き換えれば,g=g0(1-e-t/l)となる.そこで,涙液油層の伸展挙動がこの式にあてはまるか否かを検討した.VVoigtモデルを用いた涙液油層伸展のキネティックアナリシス筆者らは涙液油層の伸展挙動をVoigtモデルを用いて解析するために,まず,DR-1?の低倍モードで得られる開瞼後の伸展中の涙液油層の光干渉像をデジタル録画し,つぎに0.05秒ごとに静止画像として取り込んで(図6),伸展中の油層領域を画像解析ソフトを用いて切り取(37)図6開瞼直後から0.05秒ごとにキャプチャーされた涙液油層の干渉像左上隅の像は,閉瞼時である.上段から下段に向けて,左から右に0.05秒ごとに静止画として取り込まれたデジタルイメージを示す.涙液油層の伸展挙動がわかる.———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007(38)図7伸展中の油層領域(図6参照)図6から,画像解析ソフトを用いて,伸展中の油層部分だけを切り取ったもの.図8Voigtモデルを用いた伸展油層面積の経時変化の解析伸展中の油層の面積を経時的にプロットし,これをVoigtモデルにあてはめて解析した.油層伸展挙動のパラメーターとして,油層伸展初速度S?(0)=dS(0)/dtを定義できる.353025201510504.00.50時間(秒)面積S(mm2)S?(0)=75.94(mm2/sec)Voigtモデルによるクリープ曲線の近似式S(t)=31.54-29.92×e-2.54×t(mm2)(R2=0.978)1.01.52.02.53.03.5———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???り(図7),それらの面積を計測した.つぎに,計測された油層面積の経時変化をプロットし,これをVoigtモデル[S(t)=r(1-e-t/l);S(t):伸展油層面積(mm2),r:定数,t:時間(秒),l:緩和時間(秒)]にあてはめて解析してみた(図8).その結果,計測し得たすべての例(29例)において,きわめて良好(R2の平均=0.985)にVoigtモデルで近似されうることが判明した12).また,このことは逆に,涙液油層の伸展挙動がレオロジーのVoigtモデルで表現される粘弾性挙動を示すことを示唆していると考えられる.VI油層伸展初速度と涙液貯留量の関係Gotoら4)やOwensら10)の報告にあるように,涙液減少と涙液油層の伸展速度には何らかの関係があり,涙液が少ないと油層の伸展が悪いことが推定される.そこで,両者の詳細な関係を知るために,先のVoigtモデルの式から油層伸展初速度S?(0)=dS(0)/dtを定義し(図8),S?(0)とビデオメニスコメーター13)で測定しうる涙液メニスカスの曲率半径R(涙液貯留量と相関14))との関係を検討してみた.その結果,両者の間には,有意な正の相関が認められた12).ここで,King-Smithら6)によれば,角膜上の涙液の厚みhは,h=1.338×R(?U/s)2/3(R:涙液メニスカスの曲率半径;?:涙液の粘度;U:上眼瞼の開瞼速度;s:メニスカスの涙液の表面張力)によって与えられ,hがRに比例することから,先のS?(0)とRとの有意な相関は,S?(0)とhとの相関,すなわち,涙液油層伸展初速度の増加が涙液の液層の厚みの増加によってもたらされていることを意味していると考えられる.また,以上の結果から,Gotoらの報告4)にあるように,涙液減少型ドライアイに涙点プラグを挿入すると,涙液貯留量が増加し,それに比例して角膜上の涙液の液層が厚くなり,油層の伸展が促進されることが容易に想像できる.そこで,涙点プラグ挿入前・後で油層伸展初速度を比較してみたところ,涙点プラグ挿入後にRが有意に増加するとともに,S?(0)が有意に増加することが見出された15).以上の結果から,逆に,涙液油層の伸展挙動をVoigtモデルを用いて解析することにより,角膜上の涙液の液層の厚みの情報(涙液減少型ドライアイの重症度を意味する)が得られるのではないかと考えた.VII涙液減少の評価としての油層伸展のキネティックアナリシスドライアイにおいては,一般に涙液と上皮の相互作用に悪循環がみられ16),その悪循環をもたらす原因としてその上流にさまざまなリスクファクターが存在する.なかでも涙液減少は最も大きなリスクファクターであり,日常臨床において,涙液減少のスクリーニング,すなわち,涙液の量的検査は,ドライアイ診断の一翼を担っているといっても過言ではない.現在までのところ,この涙液量の検査として,SchirmerテストI法や各種の涙液メニスカスの評価法がある.SchirmerテストI法17)は,反射性の涙液分泌を調べる検査法であり,眼表面に障害が生じたときにその障害を修復しうるだけのポテンシャルとしての涙液分泌があるか否かを調べる検査である.そして,この検査の意義はこの点にあり,SchirmerテストⅠ法にはそれなりの定量性もあるが,侵襲性が高いうえに,眼表面で現在使われている涙液量の検査とはいえない.一方,涙液メニスカスには眼表面の涙液の75~90%が貯留しているとされる18)ため,涙液メニスカスの評価は,ドライアイのスクリーニング指標としても意味のあるものであり,高さと曲率半径(R)がその指標として最も適しているとされる19).筆者らの施設では,ビデオメニスコメーター13)を開発し非侵襲的にRを計測することに成功している.しかし,このメニスコメトリー法で評価した涙液量も,ドライアイの戦場ともいえる,実際に上皮障害が起きている角膜表面の現場における涙液の液層の厚み情報を拾っているものではない.すなわち,角膜上の涙液の液層の厚みを計測できるならば,より理想的な涙液評価法として位置づけられるはずである.しかし,現在までのところ,涙液の厚みを計測しうる検査法6)はまだ限られており,ようやく正常眼の角膜中央でのピンポイントの測定結果が得られるようになったばかりである21).油層伸展のパラメーター[S?(0)]とRの有意な相関は,油層の伸展挙動の解析が,その直下の液層の厚み情報を得るのに役立つ可能性を意味していると考えられ,将来的には,この解析法が,短時間,非侵襲的,かつ定量的な涙液の量的検査となり(39)———————————————————————-Page8???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007うる可能性を示しているように思われる.おわりに瞬目後に涙液油層は,直下の液層の厚みを反映しながら,角膜表面の液層の上を上方に向かって伸展してゆく.涙液減少型ドライアイにおいては,角膜上の液層は薄く,上皮は少なからず障害を受けて,ガタガタ道を走るがごとくに油層の伸展は悪くなる.油層の伸展挙動の観察は,油層をトレーサーとして直下の液層の状態をスキャンする検査のように思える.近い将来,さらにこの新しい研究領域が発展して,油層のキネティックアナリシスで得られたワンパラメーターでドライアイのスクリーニングや重症度評価が行えることは,あながち夢ではないのではないだろうか.そして,もしそうなれば,侵襲的で,アーティファクトの多かったドライアイの検査が,一変して,非侵襲的かつ簡便で定量的な検査としてコメディカルの手にゆだねられ,眼科医は,得られた油層伸展挙動のデータを見て,ドライアイの重症度を的確に把握し,治療法を選択できるかもしれない.引き続き,この検査法の確立に努力してゆきたいと思う次第である.謝意:稿を終えるにあたり,油層伸展解析システムの確立にご尽力いただいた水草豊氏,鈴木孝佳氏(ともに興和株式会社),レオロジーの理論についてご教授いただいた東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻の加藤孝久教授に深謝いたします.文献1)BronAJ,Ti?anyJM,GouveiaSMetal:Functionalaspectsofthetear?lmlipidlayer.???????????78:347-360,20042)YokoiN,TakehisaY,KinoshitaS:Correlationoftearlipidlayerinterferencepatternswiththediagnosisandseverityofdryeye.???????????????122:818-824,19963)GotoE,TsengSC:Di?erentiationoflipidtearde?ciencydryeyebykineticanalysisoftearinterferenceimages.???????????????121:173-180,20034)GotoE,TsengSC:Kineticanalysisoftearinterferenceimagesinaqueoustearde?ciencydryeyebeforeandafterpunctalocclusion.?????????????????????????44:1897-1905,20035)McDonaldJE:Surfacephenomenaofthetear?lm.???????????????67:56-64,19696)King-SmithPE,FinkBA,HillRMetal:Thethicknessofthetear?lm.????????????29:357-368,20047)BrownSI,DervichianDG:Hydrodynamicsofblink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