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眼内レンズ:親水性アクリルレンズの混濁

2007年6月30日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS親水性アクリルレンズは,支持部がpolymethyl-metacrylate(PMMA),光学部が2-hydroxyeth-ylmethacrylate(HEMA)と6-hydroxyhexylmethacry-late(HoHEXMA)の共重合体からなる親水性アクリル素材の眼内レンズであり,含水率は18%である.親水性アクリルレンズはハイドロジェルレンズともよばれるが,ハイドロジェルとは,水分を吸収すると膨張し,水分を失うと虚脱した状態に戻るポリマーを意味する.親水性アクリルレンズは,高い生体適合性が得られることが期待されていた1)が,2000年以降,眼内で混濁を呈する場合があることが報告され2),わが国でも2003年より親水性アクリルレンズの混濁例の報告が相ついだ(図1)3,4).この混濁は,リン酸カルシウムの沈着(図2)と考えられ,沈着の機序については,糖尿病や虚血性心疾患などの患者側因子および,光学部表面に付着した容器由来の低分子量シリコーンに房水中の脂肪酸が結合,その脂肪酸がリン酸カルシウムを凝集することによってひき起こされる可能性が高いとされた(図3).またWernerらも,数種ある親水性アクリルレンズの混濁はリン酸カルシウムの沈着によって生じ,全例その表面にシリコーン化合物がみられたと報告した5).親水性アクリルレンズの混濁は新容器変更後(2001年11月),発生はない.しかし親水性アクリルレンズの共通素材であるHEMAは,ウサギ筋肉内移植の実験(81)小早川信一郎東邦大学医学部第一眼科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎250.親水性アクリルレンズの混濁親水性アクリルレンズの混濁について述べた.混濁はリン酸カルシウムの沈着であり,親水性アクリルレンズの共通素材である2-hydroxyethylmethacrylate(HEMA)に起因するものと推測される.親水性アクリルレンズ挿入例は長期にわたる経過観察が必要である.図1白濁した親水性アクリルレンズ図2混濁した親水性アクリルレンズ光学部表面の電顕写真(1,000倍)リン酸カルシウムの沈着による細かい凹凸が見られる.図3親水性アクリルレンズにおけるカルシウム沈着の模式図リン酸カルシウム親水性基脂肪酸疎水性基疎水性シリコーン親水性アクリルレンズ———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007(00)において疎水性レンズ(疎水性アクリル,シリコーン,PMMA)と比較し強いカルシウム沈着をきたしたとの報告もあり6),親水性アクリルレンズ挿入例は長期にわたる経過観察が必要であることを強調したい.親水性アクリルレンズの混濁は,多くは術後1~2年で出現する.混濁の初期はごく軽度であると見落としやすいが,眼底の視認性が不明瞭となる中等度以上の混濁では細隙灯顕微鏡検査にて容易に観察され(図4),患者自身が強く霧視感を訴える.一方,混濁の程度が強くても視力は良好に保たれる症例も多い.親水性アクリルレンズ挿入例で,霧視感があり眼底の視認性が低下し,レンズの混濁が認められたら,速やかに摘出および交換術を行う.レンズの摘出は,6mmの切開創を作製するか,可能ならば半切して摘出する.光学部と?の癒着は27ゲージ針などの先端で?がした後,粘弾性物質を注入することで解除される.しかし,ときに支持部が?と強固に癒着しており,?間より引き抜けないことがある.支持部を?間より引き抜く際に?の全体移動がみられたなら,速やかに支持部と光学部を切断して光学部のみを摘出し,支持部を残すことも考慮する.Gashauらは5年間のハイドロジェルレンズ(SC60B-OUV,シングルピース)52眼の治療成績では,12眼(23.1%)にZinn小帯断裂および後?破裂,4眼(7.7%)に?と眼内レンズの全摘出がみられたと報告している6).筆者もPMMA支持部の強固な癒着のため,下半周のZinn小帯断裂をきたした例を経験している.混濁の強い視力良好な症例の手術適応については慎重な対応が望まれる.文献1)SchauersbergerJ,KrugerA,AbelaCetal:Courseofpostoperativein?ammationafterimplantationof4typesoffoldableintraocularlenses.???????????????????????25:1116-1120,19992)WernerL,AppleDJ,Escobar-GomezMetal:Postopera-tivedepositionofcalciumonthesurfacesofahydrogelintraocularlens.?????????????107:2179-2185,20003)小早川信一郎,大井真愛,丸山貴大ほか:白色混濁を呈したハイドロジェル眼内レンズ.眼科手術16:419-426,20034)永本敏之,川真田悦子:摘出交換を要したハイドロビューTM眼内レンズ混濁.日眼会誌109:126-133,20055)WernerL,HunterB,StevensSetal:Roleofsiliconecon-taminationoncalci?cationofhydrophilicacrylicintraocu-larlenses.???????????????141:35-43,20066)BuchenSY,CunananCM,GwonAetal:Assessingintra-ocularlenscalci?cationinananimalmodel.???????????????????????27:1473-1484,20017)GashauAG,AnandA,ChawdharyS:Hydrophilicacrylicintraocularlensexchange:Five-yearexperience.????????????????????????32:1340-1344,2006図4細隙灯顕微鏡で観察される親水性アクリルレンズの混濁

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ装用上の点眼薬(3)

2007年6月30日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???1)臨床的には,点眼の差し心地や眼障害の有無などをみる,2)有効成分や防腐剤のSCLへの吸着,放出,沈着を測定する,3)pHや浸透圧によるSCLの変型などを測定するなどである.抗アレルギー薬は,各薬剤それぞれ差し心地に違いがある.しみる,ベタベタする,瞼がだるくなる,皮膚炎を起こしやすいなどの特徴がある.処方する際には,どのような差し心地であるかを説明しておくとよい.●副作用が予想される点眼薬副作用が予想される点眼薬とは,裸眼時では副作用はもちろん出ないが,SCLに薬剤が吸着したために起こるドラッグデリバリーシステムによる薬剤の濃縮および効果の増大により副作用が出る点眼薬である.これは,薬剤のSCLへの吸着,放出,沈着を確認しなければならない1,2).筆者は,緑内障治療薬すべてにおいてSCLの上からは点眼させていない.また,ステロイド点眼薬も注意すべきである.●ジェネリック医薬品最近,「ジェネリック医薬品を希望します」というカードを持って受診した患者がいた.小口が,ヒアルロン酸ナトリウムの先発医薬品と後発医薬品について述べ0910-1810/07/\100/頁/JCLS●装用中に使用できる点眼薬ほとんどの点眼薬の注意書には,ソフトコンタクトレンズ(SCL)装用上からの点眼はしないように書かれている.書かれていないのは,ヒアレイン?ミニ点眼液0.1%,ヒアレイン?ミニ点眼液0.3%,ソフトサンティア,使い捨てユニットドースの人工涙液タイプの点眼薬など少数しかない.いわゆる使い捨てSCL(ディスポーザブルSCLと頻回交換SCL)であれば,レンズに点眼薬が付着しても沈着量は少ないと考えられ,多くの眼科専門医は,使い捨てSCLの上からの一部の点眼薬の点眼を許可している場合が多い.製薬会社の立場としては,SCLとの適合性を確認していないため,ディスポーザブルSCLに使用できるとは書けない.数多くのSCLがあり,すべてを対象に適合試験を行えないからと想像する.したがって,医師の裁量で使用するしかない.医師への情報は,論文や学会発表などであり,?元1),小玉ら2)などの論文がある.眼科医はそれらの知識と臨床での経験で患者に点眼の指導をすることになる.筆者も抗アレルギー薬の頻回交換SCLの上からの点眼についての論文を書いている3)が,点眼の可否の判定は,点眼薬のSCLと眼に対する影響をみなければならない.(79)渡邉潔ワタナベ眼科コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純TOPICS&FITTINGTECHNICS276.コンタクトレンズ装用上の点眼薬(3)表1先発医薬品と後発医薬品の違い会社ABCD有効成分ヒアルロン酸ナトリウムヒアルロン酸ナトリウムヒアルロン酸ナトリウムヒアルロン酸ナトリウム添加物(防腐剤)塩化ナトリウム塩化カリウムe-アミノカプロン酸エデト酸ナトリウム塩化ベンザルコニウム塩化ナトリウム塩化カリウムホウ酸ホウ砂グルコン酸クロルヘキシジン塩化ナトリウムリン酸二水素カリウムリン酸水素ナトリウムエデト酸ナトリウムポリソルベート80塩化ベンベンゼトニウム塩化ナトリウムe-アミノカプロン酸ホウ酸ホウ砂エデト酸ナトリウムpH調整剤パラオキシ安息香酸メチルパラオキシ安息香酸プロピル(出典:各製品の添付文書より改変)———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007(00)ている4)が,後発医薬品は有効成分が同じでも添加物の種類が異なる(表1).たとえば,防腐剤である塩化ベンザルコニウムは,炭素の数が少ない構造式の含有率が多いほど副作用が少ないといわれている.もちろん,グルコン酸クロルヘキシジンを用いている後発医薬品もある.小口は,わが国の後発医薬品は添加剤が先発医薬品と異なり,しかもヒトでの臨床試験は行われていない点では,安全性は担保されていないとしている.したがって,どの点眼薬でもよいと考えてはいけないであろうし,レンズの上から点眼することも,もう一度考え直さなければならないのかもしれない.●シリコーンハイドロゲルレンズと点眼薬シリコーンハイドロゲルレンズ(SHCL)は,含水性ソフトレンズと区別すべきであると考える.SHCLと消毒液の相性があるといわれているが,点眼薬との相性もある可能性がある.しかし,消毒液の場合はSHCLが約6時間以上浸漬され,吸着量も多いが,点眼薬の場合は吸着する量は比較的少量と考える.今後,それについての論文も出てくるであろう.文献1)?元卓:治療用コンタクトレンズへの防腐剤の吸着.日コレ誌35:177-182,19932)小玉裕司,北浦幸一:ソフトコンタクトレンズ装用上における点眼使用の安全性について.日コレ誌42:9-14,20003)渡邉潔:頻回交換ソフトコンタクトレンズ装用者にみられるアレルギー性結膜炎に対する塩酸レボカバスチン点眼薬の臨床効果.日コレ誌47:54-57,20054)小口芳久:眼科医家のためのメモ─眼科領域に関する後発医薬品.眼科48:1044,2006

写真:円錐角膜に対するICRS(intra corneal ring segments)

2007年6月30日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS(77)山本享宏南青山アイクリニック写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦277.円錐角膜に対するICRS(intracornealringsegments)ICRSリング挿入部縫合糸ICRS図2図1のシェーマ図4図3の症例の術後1カ月のトポグラフィー瞳孔領は扁平化しており,下方の急峻部は消失している.図3自験例(35歳,男性)の術前トポグラフィー下方に特徴的な急峻部を認める.図1角膜内に挿入されたICRS円錐角膜に対し,弱主経線方向に挿入されたICRS突出度に応じて,上下で異なるサイズのリングが選択されている.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007(00)ICRS(intracornealringsegments)とは,中心角150?のポリメチルメタクリレート(PMMA)製リング状セグメントを瞳孔両側の周辺部角膜実質に挿入するものである(図1,2).これにより2つのセグメントが角膜を押し出し,角膜中央部をフラット化することが可能となる.現在2種類の角膜内リングがあり,それぞれIntacs?,Ferrararings?の商品名で知られている.後者はプリズム状であり,前者はより扁平でより角膜中央部から離れて挿入される.Intacs?は近視治療用として初めて1999年にアメリカ合衆国食品医薬品局(FDA)から承認を受けた.2004年7月にはFDAにより適用範囲が円錐角膜まで拡大され1),Ferrararings?の円錐角膜への適用は現在FDAの承認待ちである.ICRSの円錐角膜への応用を最初に提唱したのはColinら2)である.彼らは円錐角膜10例10眼に対し,ICRSを施行し,術後1年の経過観察では平均裸眼視力が0.1から0.4へ,平均矯正視力が0.4から0.6に改善したという.適応として筆者らは角膜移植の前段階として比較的進行した円錐角膜に対し,コンタクトレンズの装用が可能となるよう,角膜形状の改善を目的とする場合が多い.さらに円錐角膜の進行を予防する効果も期待されている3)(図3,4).現在の角膜移植は非常に安定した手術となったが,感染や拒絶反応などの避けられない合併症も存在するため,今回紹介したICRSは角膜強度の増強による進行予防,角膜中央部のフラット化によるコンタクトレンズ装用の容易化などの点で,角膜移植を選択する前に検討に値する術式であると考えられる.文献1)USFDA,NewHumanitarianDeviceApproval,20042)ColinJ,CochenerB,SavaryGetal:Correctingkeratoco-nuswithintracornealrings.???????????????????????26:1117-1122,20003)HellstedtT,MakelaJ,UusitaloRetal:Treatingkerato-conuswithintacscornealringsegments.??????????????21:236-246,2005

総説:遺伝子変異解析におけるコツと注意点

2007年6月30日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS2.DNA抽出3.プライマー合成4.PCR5.電気泳動6.PCR産物精製7.シーケンス反応・解析8.Validationstudy9.変異の意義についての検討・機能解析1.採血採血は抗凝固剤入りであれば真空採血管,注射器のどちらでもよく,抗凝固剤の種類も特に気にしなくてもよい.採血後はできるだけ速やかにつぎのDNA抽出に移ったほうがよいが,1~2日であれば冷蔵庫で保存することは可能である.得られるゲノムDNAの収量は以下のように見積もることができる.白血球の細胞密度を5,000個/??とすると1m?では5×106個となり,1細胞中のゲノムDNAは約6pgなので,1m?のゲノムDNAは30?gとなる.よって5m?もあれば十分すぎる量のゲノムDNAが得られることになる.小児などで採血が困難な場合,口腔粘膜から採取する方法がある.採取には綿棒でも良いし,産婦人科で使うサイトロジーブラシでも良い.それでも嫌という患者には裏技がある.口をゆすいだあとの水を採取して遠心すると細胞が採取でき,結構な量のゲノムDNAが採取できるのである.またDNAが少ない場合には鎖置換型ポリメラーゼのPhi29を利用したゲノム増幅法2)(アマシャム社からGenomiphiという名で販売されている)で増はじめに遺伝性疾患に関する遺伝子変異の同定は分子生物学の飛躍的進歩によって前世紀の終わりから今世紀初頭にかけピークを迎え,現在単一メンデル遺伝型の遺伝性疾患についてはかなりのものが出そろった状況にあるといえる.研究的視点では常に原因遺伝子の新規同定のみに注目が集まるが,臨床医としての視点からは,いかにしてその結果を臨床に結びつけるかに重きを置くべきであり,既報の遺伝子変異を調べることは患者にとっても,また臨床研究的にも大きな意義をもつ.角膜上皮・実質・内皮の遺伝性疾患についてもすでにさまざまな遺伝子変異が同定されており,これらの成果を臨床に還元することは,われわれ臨床眼科医にとってある意味責務であるといえる.本稿では遺伝子変異全般に関わる技術的な注意点について,できるだけ詳しく,また一般的なテキストには載っていないような私的経験に基づくコツについても記載した.これから遺伝子変異の解析を行おうとする大学院の先生方の参考になれば幸いである.I遺伝子変異解析に必要な機器と実験の流れ遺伝子変異解析を行うには最低限,遠心機,poly-merasechainreaction(PCR)マシン,シーケンサーが必要である.シーケンサーは高価なので持っていないという場合もあろうが,その場合は外注すれば1解析当たり1,000円程度でやってくれる.実験の大まかな流れは以下のごとくで,それぞれについて説明していく.1.採血(65)???*SatoshiKawasaki:京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕川崎諭:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学あたらしい眼科24(6):759~769,2007?遺伝子変異解析におけるコツと注意点?????????????????????????????????????????????????川崎諭*総説———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007幅することも可能で,もちろん変異解析に使ってもなんら問題ない.2.DNA抽出DNA抽出は古典的には低張食塩水にて核ゲノムを含まない赤血球を溶血させた後,遠心して有核の白血球を集め,ProteinaseKでタンパク質を消化後,フェノールクロロホルム精製,エタノール沈殿にて抽出する.現在では簡便なキット(たとえばキアゲン社のDNAeasyなど)が数社より市販されているので,キットの手順書に従えば特に原理を知らなくとも抽出することは可能である.ただ血液から直接DNAを採取する一般的な市販キットで取った場合,収量は古典的な方法に比べるとかなり劣るのが普通である.筆者らの施設では,収量が欲しい場合には,低張食塩水にて溶血後に遠心して白血球だけを集め,それを市販キットの流れに乗せている.抽出後は濃度を測定して保存する.濃度測定はどの吸光度計でも良いが,NanodropTechnologies社のNano-dropという機械が微量サンプル(1??)でも測定可能なうえ希釈作業も要らないためきわめて便利である.保存は冷凍庫をお薦めする.特に長期保存には-20℃冷凍庫よりも-80℃冷凍庫が好ましい.4℃で保存することもあるが,これは長鎖DNAとしての解析を目的とする場合にfreezeandthawを避けるためで,PCRが目的なら冷凍庫保存で問題ない.どうしても4℃で保存したいならTris-EDTA(TE)バッファー中で保存して細菌のコンタミを防止するようにする.3.プライマー合成PCRの原理についての詳細は実験書を参照されたい.まずは目的の遺伝子を増幅するためにプライマーを作成する.プライマーは自分でデザインしても良いし,またすでに論文で配列が公開されているのならそれを参考にしても良い.ただ注意していただきたいのは,論文で公開されているプライマー配列にはかなりウソ(記載ミスと信じたいが)が混じっているということである.筆者もだまされたことが数回ある.論文のプライマー配列を採用するなら,少なくとも核酸データベースからダウンロードした配列と比較して〔比較するにはNCBIのBLASTサービスの一つペアワイズアラインメント(Aligntwosequences;http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/bl2seq/wblast2.cgi)が便利である〕,その配列が正しいことを確認する必要がある.自分で作成する場合,一般的にはプライマー作成ソフト〔有料ソフトとしては有名なOligoやABI社のPrim-erExpress,日立ソフトのDNASISなど,またインターネットの無料サイトとしてはPrimer3(http://frodo.wi.mit.edu/cgi-bin/primer3/primer3_www.cgi)など〕を(66)図1?????遺伝子のゲノム情報をUCSCのGoldenpathで開いたところ遺伝子をクリックすると詳細情報のページが開き,ゲノム配列を得ることができる.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???利用することとなる.まずは解析対象遺伝子のゲノム配列を手に入れることから始めるが,インターネットに無料公開されているデータベースから配列をダウンロードする.サイトとしてはUCSC(カルフォルニア大学サンタクルズ校)で運営されているGoldenpath(http://genome.ucsc.edu/)が使いやすくお薦めである.GeneSymbol(遺伝子の統制語.たとえば?????など)や一般的な遺伝子名(たとえば????-????やkeratoepithelinなど)を入力すると遺伝子のゲノム構造や反復配列の有無などのさまざまな情報がグラフィカルに表示され(図1),遺伝子をクリックするとゲノム配列を得ることができる.その際エクソン,イントロンを分割して表示したり,コード領域を大文字として表示するように設定することもできるので活用したい.変異解析の場合には通常タンパク質コード領域を解析対象とするが,ゲノムDNAではタンパク質コード領域はイントロンにて複数の領域(エクソン)に分断されていることがほとんどであるので,各エクソンを増幅するようにイントロン内にデザインする.その場合,プライマーのすぐ下流からシーケンス解析することが困難なこと(未反応のダイが邪魔するため),エクソン・イントロン境界部の変異が時にスプライシングエラーを起こし疾患をきたすことがあることなどを考慮し,エクソン・イントロン境界部から50~100塩基ほどイントロン内部に作成したほうが良いことが多い(図2).シーケンス解析のクオリティにもよるが,エクソンが長い場合には1つのエクソンを2つの領域に分けて解析しなければならないこともある.これらを考慮すると,市販のプライマー作成ソフトやインターネットの無料ソフトを用いて自動でプライマー作成するのは時に困難であり,配列を片手にソフトに頼らず目で見て作成することも多い.最初のうちはこのようにして作成したプライマーが本当に動くのかと心配になるかもしれないが,PCRの理論から言えばたとえどのようなプライマー配列であっても適度な長さをはさんで向かい合うようにしてやれば増幅するはずなので(もちろん熱力学的に適切なプライマーのほうがPCRの成功率は高いが),ものは試しと思ってデザインしてみることをお薦めする.経験上,プライマー配列に極端な%GCの偏り(%GCが80%以上,あるいは20%以下など)などの問題がなければ,特にPCR条件の検討をしなくともうまくいくことが多い.今一つの注意点としては,ゲノムの特に非コード領域中には高度反復配列(LINE,SINEなど)というものがかなり存在しており,プライマーの配列がこれらと一致するか似ていると特異性が低くなってPCRが失敗する可能性が高いということがあげられる.そのためデザインしたプライマーがそれらと一致するかどうかを合成前に調べる必要がある.先のPrimer3では反復配列データベースを参照して作成することができ便利である.ソフトを用いずに作成した場合はNCBIのBlastサービスでAluデータベースを選んで検索すれば良い.また時にはタンパク質のコード領域に反復配列が存在することもある(アミノ酸の繰り返し構造をもつタンパク質など)が,この場合もうまくPCRがかからないことが多い.このような反復配列を見つけるには,それ自身の配列に対してペアワイズアラインメント(先のAligntwosequencesで)を行うと良い.反復配列がなければ斜めの1本線だけだが,反復配列がある場合には何本もの斜め線が認められる(図3).プライマーはシーケンス反応でも必要である.最も標準的なケースではPCRで使用したプライマーをそのままシーケンス反応でも使うことができる(図2A).ノイ(67)図2変異解析におけるプライマーデザインの実際A:変異解析における標準的なPCR・シーケンス兼用プライマー設計部位.四角はエキソン,細線はイントロンを示す.万全を期すのならエクソン・イントロン境界部から50~100塩基ほどイントロン内部に作成したほうが良い.B:シーケンス用のプライマー(点線矢印)をPCR用のプライマー(実線矢印)と別に設計するとシーケンスクオリティが向上することが多い.C:エキソンが長い場合,領域を分断してPCRを行いシーケンスする.またはD:PCRは1回でエキソン全体を増幅して,内部にシーケンス用のプライマーを設定する方法が取られる.ABCDPCR1PCR250~100bpPCR———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007ズレベルが高い場合は図2BのようにPCRのプライマーとシーケンスのプライマーを別々にすると改善することが多い.またシーケンスはせいぜい700塩基くらいしか正確に読むことができないので(機械のグレードとシーケンス反応に依存するが),エクソンが長い場合は前述したように1回のシーケンスで解析できない.その場合は図2Cのように領域を分断してPCR反応を行うか,図2DのようにPCRは1回で,内部にシーケンス用のプライマーを設定するかのどちらかで対応する.どちらが良いかは状況次第だが,簡便性を取るなら図2Dの方法,正確性を取るなら図2Cの方法を選択する.プライマーが設計できればプライマー合成を依頼する.以前は合成機を使って自分で作成していたらしいが,ベンダー間の過当競争もあいまってプライマーは格段に安くなった.現在では1塩基当たり50円くらいが相場であろうか.ベンダー間の品質差も以前ほど言われなくなったので,価格と納期の早さで決められたらよかろう.注文する際,納品形態(液体か粉末か,液体なら濃度はどれくらいか,精製はどうするかなど)を聞かれるが,通常は液体で濃度は100?M,精製は脱塩グレードとしたらよい.脱塩とはゲル濾過カラム(通常G50グレード)による粗精製を意味するが,経験上PCR,シーケンス反応のどちらもこのグレードで問題となることはない.どうしても気になる人は逆相クロマト精製をすれば良い.これならHPLCやPAGE精製が7,000円ほど余計にかかるのに対してプラス1,000円程度でやってくれる.プライマーが来れば濃度調整をして-20℃冷凍庫に保存し,残りは-80℃冷凍庫に保存する.濃度調整は10?M程度が標準である.PCRだけを目的とするなら向かい合うペアをあらかじめ混合しておいても差し支えないが,変異解析の場合はPCRのあとシーケンス反応をするので,個別に調整することとなろう.4.PCRプライマーが調整できればいよいよPCRである.PCRと一言で言っても星の数ほど(というのは大袈裟だが)条件がある.一般的には酵素の種類と濃度,温度条件,プライマー濃度,マグネシウム濃度,鋳型(サンプルのこと)濃度,添加物の有無などとなろう.これらは細かいことのようにみえるが,実は変異解析において最も重要なのはいかにして特異的なPCRを成功させるかなので,ここを素通りするわけにはいかない.まず酵素であるが,ご存じのとおりPCRに用いるDNAポリメラーゼは好熱菌由来のものである.これにはエラーを訂正する校正活性(proof-reading活性;3¢-5¢exonuclease活性のこと)を持つものと持たないものがある.ポリメラーゼは鋳型DNAの配列を読み取ってそれに対して相補的な塩基を伸ばしていくのだが,間違った塩基を取り込むとそこで止まってしまうことがある.校正活性は間違った塩基を取り除いてポリメラーゼが再び前に進むことができるようにする実にありがたい機能なのである.しかし校正活性が高い酵素のほうが良いかというと必ずしもそうではない.この活性が高すぎるとポリメラーゼが前に進む効率(processibityという)が低下してむしろ増幅効率が低下してしまうのである(前向きより後ろ向きの力が強すぎるわけである).そこで試薬メーカーが考え出したのがブレンド酵素である.すなわち間違いは多いが前に進む力だけは強い???Ⅰ型酵素と,前に進む力は弱いけど校正能力に優れたa型酵素をある割合で混ぜるのである.こうすると2つの酵素の長所が互いの弱点をうまく補い合って増幅効率は著しく改善する.現在ではありとあらゆるブレンド酵素が市販され,筆者らの施設でもさまざまなブレンド酵素を試してきた.別に日本人だからというわけではないが,お薦めはTAKARAの?????である.増幅効率は同等品中トップレベルで,特に条件検討を行わなくとも良い結果が得られることが多い.酵素の濃度は標準量で良いが,PCRのサイクル数が多くなる場合には1.5~2倍量程度入れておいても差し支えない.つぎに温度条件であるが,これも酵素についで重要な(68)図3BLASTのAligntwosequencesによるmRNAの内部リピートの検出Aケラチン12では斜めの1本線しかなく,内部リピートがないことがわかる.Bインボルクリンでは斜めの1本線の他,多数の短い斜め線が認められ,この領域に内部リピートが存在することがわかる.ここにプライマーを作成するとPCRはかからない可能性が高い.2AB1———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???因子である.標準的には94~95℃の熱変性を3~5分ほど最初に行った後,94℃30秒(熱変性),55℃30秒(アニーリング),72℃30~60秒(エクステンション)を25サイクルから35サイクル行い,最後に72℃のエクステンションを5~10分ほど行う.サイクル中のエクステンション時間は通常増幅するDNAの長さによって変えるようにするが,1分/1kbpが目安である.またアニーリング温度は55℃が標準だが,%GCが極端に高い場合や低い場合はTm値(meltingtemperature;二本鎖が一本鎖に分かれる温度)より5℃低く設定する.この標準条件のほか,筆者らはタッチダウン3)という温度条件をしばしば利用している.この温度条件では,最初の熱変性の後,94℃30秒,70℃30秒のサイクルを3サイクル行う.70℃ではアニーリングとエクステンションが同時に起こっている.つぎに94℃30秒,68℃30秒を3サイクル行い,ついで66℃,64℃,62℃と3サイクルごとに2℃ずつ下げていく.そのつぎは94℃30秒,60℃30秒,72℃30秒を3サイクル行う.これは温度が下がったためアニーリングとエクステンションを別々に行うという意味である.ついで94℃30秒,58℃30秒,72℃30秒を3サイクル行い,最後に94℃30秒,55℃30秒,72℃30秒を(筆者らはboostとよんでいる)25~35サイクル行った後,標準条件と同様に72℃のエクステンションを5~10分ほど行う.一見非常に複雑な温度条件にみえるが,要はアニーリング温度が高いほど特異的な増幅が起こるので,増幅の最初のほうで目的の配列の存在比率を増やしておいて,増幅の後ろのほうでドカンと増やすという戦略である.少しずつ敵の陣地に侵入するアメフトにちなんでこの名がついている.特にゲノムDNAに対してPCRを行う場合には効果的であることが多い(経験上80%程度で改善する).プライマー濃度は最終濃度で0.2mMとするのが標準的であるが,1?Mまでは特に問題がないことが多い.基本的に濃度が高いほうが増幅産物の量も多くなる傾向がある.マグネシウム濃度は教科書的には1.5mMが標準であるが,筆者らは2?Mを採用している.1.5mMよりも低くなると増幅効率が極端に悪くなるが,高い分には問題があまりないように思う.高いマグネシウム濃度は塩基の取り込みエラーが誘発するため,わざと変異を起こさせる????????進化実験などで好んで使われる(error-pronePCRという).一見変異解析では良くなさそうに思われるが,変異解析ではPCR産物をクローニングせず直接シーケンスするため,ランダムな部位にエラーが生じても問題とはならない.鋳型は10??のPCR反応の場合,10ngを標準量としている.それより多少多くても問題はないが,一度濃度を間違えて300ng入れたことがあり,そのときは増幅されなかった.後日間違いに気づいて濃度を調整するとちゃんと増幅されたので,多分これくらいの量だと多すぎるのであろう.ヒトゲノムはハプロイド当たり3pgなので,10ngでも3,000コピーほどとなり,十分すぎるくらいの量となるのである.添加物であるが,添加物にはポリメラーゼの活性を阻害する抗体と,二本鎖DNAの間の結合(水素結合である)を弱めるDMSOとベタインがある.まず抗体であるが,実はポリメラーゼは比較的低温でもある程度の活性があり,また低温のときにはプライマーが非特異的に鋳型DNAに結合するため,特に4℃から94℃に上がる最初の温度変化のときに非特異的な伸長反応が起こってしまう.しかもたちの悪いことには,ここでできた非特異的産物は末端にプライマー配列を確実に含むため,以後のサイクルでも効率の良い鋳型となってしまう.すなわち多くの非特異的産物の種がこの最初の温度上昇のときに作られているのである.そこでこの間だけ酵素の活性を抑えると特異性が格段に改善する.これがいわゆるホットスタートPCRである.最も簡便には酵素抜きのPCR反応液を調製して,94℃になってから酵素を加えるだけでよい.また酵素ではなく,マグネシウムやプライマーの後入れでも同様の効果は得られる.初期の頃には熱で溶けるワックスをチューブ内に入れてPCR反応液を2相にして94℃になってから2相が混ざり合うようにしたりもした.現在では抗体でホットスタートを行うことがほとんどである.すなわち抗体はポリメラーゼに結合して活性を抑えているが,熱耐性ではないので94℃になると変性して酵素から離れ酵素活性が復活するという仕組みである.現在では多くのPCR酵素においてホットスタート品がラインアップされ,価格も標準品に比べやや高い程度なので,最初からホットスタート酵素を買うことを強くお薦めする.TAKARAばかりをひいきするわけではないが??????HS(HSとはホットスタートの意味)がお薦めである.もう一つの添加物であるDMSOは分極性の高い分子で,水素結合を壊して二本鎖DNAの結合力を弱める.そのためプライマーの%GCが高い場合や,増幅産物の(69)———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007%GCが高いときに添加すると,Tm(meltingtempera-ture)値が下がってPCRが格段にかかりやすくなる.最終濃度で5%から10%くらいで使用する.%GCが低い場合には逆効果となることがあるので注意されたい.ベタインもほぼ同様の機序で%GCが高い場合のPCRを改善する.最後に機械とPCRチューブについて述べてみたい.PCRは温度変化によって反応を進めているので,この温度変化が確実にPCR反応液に伝わっているかどうかがきわめて重要な因子となる.意外と知られていないことだが,PCRの増幅効率はチューブごとにかなりばらついている.これはPCRマシンとPCRチューブの接点をイメージしてもらうとわかりやすい.いくら世界に名だたる工業国の日本でもプラスティック製品を寸分の狂いもなくつくるのは至難の業である.それゆえチューブごとにPCRマシンとの接触状態がある程度異なることは容易に想像できる.また機械とチューブの間にホコリなどの異物が挟まっていることもある.ほんの些細なことだが,それらは熱伝導の違いとなり,結果としてチューブごとの増幅効率を大きくばらつかせる要因となる.以前PCRがかからなくてどうしたことかとPCRマシンを見ると,小さな虫がメタルブロックの上にたくさん死んでいた(筆者の大学は川の側にあるので特に夏は虫が多い).この事件以後,使わないときはPCRマシンのカバーは必ず閉めるようにし,PCRをかける前にはカメラのブローワーでホコリを飛ばしている.機械そのものにも問題は潜んでいる.現在のPCRマシンのほとんどは96ウエルプレートに対応した96ウエルメタルブロックを採用している.ABI社の場合4枚のペルチエ素子でこの96ウエルメタルブロックの温度制御を行っているが,場所によって多少の温度差が生じることは想像に難くない.また一部のペルチエ素子が壊れたり性能が低下することもまれではない(ABI社のPCRにはセルフチェック機能がついているので,知らないうちに壊れていることはまずないが).これらもまたPCRの増幅効率をばらつかせる要因となる.筆者らは最初にPCRを行うとき,同じ組成の反応液を2~3ウエルに分けてPCRを行い,ウエルポジションによる問題でないことを必ず確認するようにしている.PCRは簡単な場合(増幅しやすいもの)は初心者でも問題なくできると思われるが,むずかしい場合(増幅しにくいもの)にはこれまで述べたような不確定要素に大きく振り回される.昨日はかかったのに今日はかからないなどということは日常茶飯事である.それゆえ,できることは全部やるという姿勢でないとなかなか結果はついてこない.酵素を入れたかどうか覚えがないなどというのはまさに論外で,せめて試薬調整くらいは確実にしないと話にならない.また指導する側も「酵素を入れ忘れたんだろう」などの軽率な言動は慎むべきで,部下を信じ前向きな処方を与えるべきである.5.電気泳動シーケンス反応に進む前に,はやる気持ちを抑えてPCRが成功したかどうか電気泳動で確かめなければならない.電気泳動用のバッファーにはTAE(Tris-ace-tate-EDTA)とTBE(Tris-borate-EDTA)があり,TAEは長い核酸断片の解析に,TBEは比較的短い核酸断片の解析に好んで用いられる.変異解析のPCRでは1kb以下の比較的短い断片を扱うことが多いのでTBEを選択すれば良いが,TAEしかなければそれでも特に問題はない.PCRが成功しているかどうかの判断基準は,シングルバンドであるかどうか,予測されたサイズであるかどうか,の2点である.そのためにはサイズマーカーを忘れずに泳動する.PCR産物のサイズがわずかに予測されるサイズからズレることがあるが,その場合サイズマーカーとの塩濃度の違いが原因である可能性がある.すなわちPCR産物は塩(イオン)を含んでいるので,電場がかかった場合にこのイオン(特に陰イオン)が核酸と競合しあって泳動するのである.よって塩が含まれていると,含まれていない場合に比べて核酸の泳動速度は確実に遅くなる.通常PCRのバッファーに含まれる塩濃度はそれほど高くないが,なかには高塩濃度のものもあり(TAKARAのPrimeStarという酵素の添付バッファーなど),その場合かなりのズレが生じるので,サイズマーカーにも同じ濃度のバッファーを加えるようにする.6.精製PCR反応が首尾よく成功すれば,つぎはいよいよシーケンス反応である.だがその前にPCR産物を精製しておく必要がある.精製の目的は未反応のプライマーと未反応のdNTPを除き,同時にバッファーを交換することにある.要するにそれらが大量に残っているとシーケンス反応で問題が起こるのである.精製の方法はいくつ(70)———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???かあり,筆者らの施設でもこれまでに数種類の方法を試してきた.結論を言うと,おそらく現時点で最も簡便なのはアマシャム社のExoSapItという製品である.この製品はexonucleaseIとshrimpalkalinephosphataseの混合品で,exonucleaseIが未反応のプライマーを分解し,shrimpalkalinephosphataseが未反応のdNTPをピロリン酸とdNMPにする.メーカーのプロトコルに従うと1反応当たり約200円と結構いいお値段なのだが,大きな声では言えないが実はかなり薄くしても(1/20程度)問題ない.PCR反応後の電気泳動で複数のバンドが認められた場合,基本的には条件を検討し直してシングルバンドになるまでやったほうが良いが,どうしてもできない場合,予測サイズにバンドがあれば電気泳動後のアガロースゲルから切り出すこともできる.その場合収量がかなり少なくなるのでPCRを多めにかけて(30~50??程度),4~5サンプル分のウエルに電気泳動して切り出す.切り出すときの染色剤は必ずエチジウムブロマイドとし,サイバーグリーンの先染めは避ける.サイバーグリーンは高感度であるが,泳動が乱れやすいという欠点があるため切り出しには不適である.どうしても使いたいなら後染めでやる.切り出すには一般的には紫外線を使うが,実験者への影響(皮膚癌,電気性眼炎など)やPCR産物が分解されるなどの問題がある.筆者らは懐中電灯型の高輝度青色LEDと専用のバリアフィルタを組み合わせてバンドを目視しながら切り出している(図4).エチジウムブロマイドにもサイバーグリーンでも使用でき,また実験者にも安全である.7.シーケンス反応・解析シーケンス反応は現在ではほとんどの場合で,サンガーのダイデオキシ法4)が使われていると思う.サンガー(FrederickSanger)は2回もノーベル化学賞を受賞したほどの偉人(なんと史上初の3回受賞も有力視されているらしい)で,この方法なしにはヒトゲノム計画はまだ終わっていなかったに違いない.簡単に説明すると,この方法で用いるダイデオキシNTPはリボースの3¢末端の通常ヒドロキシル基であるところが水素となっている(図5).そのためポリメラーゼがこの塩基を取(71)図4アガロースゲルからのPCR産物調製A:高輝度青色LEDによるゲルからのバンド切り出しの様子(実際には部屋を暗くする).B:筆者らが愛用している懐中電灯型の高輝度青色LEDライト(商品名BlueNova,アズバイオ).ゲルからの切り出しの他,GFPマウスの選択(一般的にはこちらで使われている)にも有用である.AB図5通常のデオキシTTP(dTTP)(上)とダイデオキシTTP(ddTTP)(下)の化学構造式リボースの3位(矢印)が異なっている.HOOOOOPOOPOPOHOHOHCH2OHCH3HNNOHOOOOOPOOPOPOHOHOHCH2CH3HNNO———————————————————————-Page8???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007り込むとそれ以上の伸長反応を行うことができず,伸長反応がそこで終了する.そこでdNTPとこのダイデオキシNTP(ddNTP)の存在下で鋳型DNAをプライマーとポリメラーゼで伸長すると,1塩基ごとに長さの違うDNA断片の集まりが得られる.さらにddNTPを塩基ごとに違う標識をし,1塩基の解像度で分離可能なアクリルアミドゲルで電気泳動すると配列を示すシーケンスラダーが得られる.以前は標識をRIで行っていたため一つの配列を読むのに塩基ごとに違う反応(すなわち4反応)を行い電気泳動も別々に行っていたが,現在ではRI標識は蛍光標識に代わり反応も1配列1回で済むようになった.実際の手順はきわめて簡単で,試薬会社の説明どおりに反応液を調整してPCR産物のシーケンス反応を行う.プライマーはPCRで用いたものでよいが,ノイズが多いようなら内部に作成するとS/N(シグナル/ノイズ)比が改善する.必ずしなくてはいけないわけではないが,両方向からシーケンスすることをお薦めする.また温度条件はメーカーの説明どおりで通常問題ない.お金の話をすると反応液はメーカーの説明どおりに使うと1反応で1,000円ほどかかり,これでは外注したほうが安くなってしまう.筆者の施設では専用の希釈バッファーを用いて反応液を8分の1の濃度とし,さらに反応量を4分の1としているが,特に問題はないようである.これだと実質1反応に30円程度で済み,ポリマーなど諸々を合わせても1解析100円以下に抑えられる.一度試していただきたい.反応後は精製して未反応の標識ddNTPを除く必要がある.ゲル濾過,限外濾過,エタノール沈殿などがあるが,エタノール沈殿で十分である.プレート遠心機があれば96ウェルプレートのままエタノール沈殿することも可能でサンプル数が多いときには重宝する.真偽のほどは明らかではないが,某社のマグネットを利用した精製キットはABI社のキャピラリーシーケンサーには使わないほうが良いらしい.使うとそのうちキャピラリーがダメになってしまうそうである.筆者らの施設でもそれが原因と考えられる問題が発生したことがあり,それ以来マグネットタイプの精製キットは禁止にさせてもらっている.精製後はホルムアミドで溶解するのだが,ホルムアミドのグレードには注意したほうが良い.グレードが悪かったり,変性してしまっていたりすると分離がきわめて悪くなるからである.メーカー純正のシーケンス用ホルムアミドが安心だが,高いというのなら分子生物学グレードのホルムアミドを買って,イオン交換レジン(BioRad社のAG501-X8など)で処理すると比較的安くできる.その場合保存は-20℃で行う.現在の標準型であるキャピラリーシーケンサー(図6)は日々のメンテナンスも楽で,なによりゲルを作らなくて良いのがありがたい.ホルムアミドに溶かしたサンプルを機械にセットして,ソフトを開いてスタートボタンを押せば終わりである.サンプル数にもよるが数時間後には結果は出ている.結果の解析であるが,最も簡単なのは標準で添付のシーケンス解析ソフトで波形データをテキストデータとし,上で述べたペアワイズアラインメントにて正常配列と比較して変異があるか調べる方法である.この場合解析ソフトの設定によってはヘテロの変異が見過ごされてしまう可能性がある.そのため原始的ではあるが波形データを印刷して目視しながら変異があるか調べるほうがヘテロ変異を見逃さずに済む.またお金に余裕があれば,変異の可能性のある部位を示してくれるインテリジェントなソフト(ABI社のSeqScapeなど,図7)を購入するのも良い.データベース機能もあり,変異解析をルーチンにやっていく場合や大量の解析を行う場合にはかなり有用である.8.ValidationstudyValidationstudyはシーケンス反応の結果が正しいかどうかを確認するために行う.方法はいろいろだが,簡(72)図6キャピラリーシーケンサーに使う16連キャピラリーアレイシーケンスサンプルはキャピラリー内部を泳動し,ディテクションセル(矢印)にてレーザーで検出される.———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???便なのは1塩基伸長反応,制限酵素処理などである.それぞれについて説明する.まず1塩基伸長反応であるが,ABI社がSnapShotという名前のキットで販売している.原理は簡単で,反応液のなかに酵素と蛍光標識したダイデオキシNTPが入っている(dNTPは入っていない).ダイデオキシNTPはシーケンス反応でも説明したように,リボースの3¢末端の通常ヒドロキシル基であるところが水素となっている(図5).そのためそれ以上の伸長反応が行われずに,プライマーから1塩基伸びたところで反応が終了する.塩基の種類によって標識している蛍光が違うので,シーケンサーで電気泳動すれば伸長した1塩基がどの塩基なのかがわかるというものである.実際にはまず変異部位の直前までのプライマーを作成する.これはセンス鎖,アンチセンス鎖のどちらでも良いが,慎重を期すのなら両方作成すると良い.変異部位を含むようにPCRを行い,ExoSapItにて精製後に上記プライマーとキットの反応液を混合してメーカーの手順書の温度条件で反応させる.反応後SAP(shrimpalkalinephosphatase)にて処理し,そのまま希釈してホルムアミドに溶解してシーケンサーで電気泳動する.つぎに制限酵素処理についてであるが,これは変異部位を含むようにPCRを行い,変異していないと切断されるが,変異すると切断されなくなる(あるいはその逆でも良い)制限酵素で処理して電気泳動を行う.適切な制限酵素を探すには専用のソフト(DNASIS,MIKE-NORAなど.MIKENORAは第一化学薬品のサイトから無料でダウンロード可,http://www.shiyaku-daiichi.jp/special/mikenora/)を使うかインターネットで無料公開されているサイト(NEBcutter;http://tools.neb.com/NEBcutter2/index.php)を利用すれば良いが,適切な制限酵素が見つからないことも多い.その場合はPCRで制限酵素サイトを導入する方法もあるが,1塩基伸長をするほうが無難であろう.また比較的長い挿入変異や欠失変異の場合には,変異部位を含んだPCRを行い,分離能の高いアクリルアミ(73)図7ABI社Seqscapeソフトによる????遺伝子の変異解析サンプル5において20塩基の挿入変異が見られる.棒(矢印)が立っているところは変異の可能性がある部位で,棒が長いほど変異の可能性が高い.また各塩基についてシーケンスクオリティをQV(qualityvalue)という値として棒グラフ表示し,さらにクオリティの低い部位は黄色や赤で表示しているので,変異なのか単なるシーケンスの問題なのかを判断しやすい.サンプル1は混合塩基表示(YやSなど)が多いが,変異があるのではなく単にノイズレベルが高いということがわかる.———————————————————————-Page10???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007ドゲルで電気泳動すると長さの違いによって変異が証明できることもある.シーケンス解析で2カ所にヘテロの変異が認められたとき,それぞれが別々のアリルにある場合はコンパウンドヘテロ接合型の変異5)となる.シーケンス解析だけでは1つのアリルに2つの変異が存在するのか(劣性遺伝疾患ではこの場合は疾患を生じないこととなる),あるいはそれぞれが別々のアリルに存在するかは判断できない.この場合は2つの変異を含むようにPCRを行い(場合によってかなり長くなるが),ゲルから切り出してから精製しプラスミドにTAクローニングしてシーケンスする.TAクローニングのベクター(Tベクターという)は自作もできるが,市販のものを使ったほうが良い.プロメガ社のpGEM-Tが価格も手ごろで青白スクリーニング(PCR産物がきちんとプラスミドに入っているかどうかを簡便に調べる方法)もできるのでお薦めである.9.変異の意義についての検討・機能解析変異が確実となれば,それが意義のある,すなわち疾患を起こしうる変異であるかどうかについて調べなくてはならない.変異が見つかればそれで決まりでしょと思われるかも知れないが,実際はそれほど単純ではない.顔つきや体格,体質が一人一人違うのは疾患を起こさないレベルのゲノム配列変化があるためで,遺伝子内部にもこのような配列変化はかなりの頻度で存在する(多くはSNPsである).そのため変異が見つかっても疾患と関連しないものかどうかよく検討する必要がある.また以下で述べる家系内での疾患と変異の一致が見つかったとしてもまだ確実ではない.単に偶然に一致した可能性,あるいはその遺伝子と物理的に近接した部位の遺伝子ないし非遺伝子配列の変異が疾患の原因である可能性が残っている.物理的に近接した遺伝子同士は配偶子形成時の際に起こる交差(crossover)の影響を受けにくいからである(連鎖不平衡の状態にあるという).最初に調べることはアミノ酸レベルで変異があるかどうかである.ご存じのように遺伝コードは3塩基がコドンという1単位となってアミノ酸に対応するが,43すなわち64種類ある組み合わせに対しアミノ酸およびそれに対応するtRNAは20種類しかないので,コドンの3番目の塩基に対しては対応が甘く(ゆらぎ:wobbleといわれる)なっている.そのため核酸レベルで変異があってもアミノ酸レベルで変異がない場合があり(silentmutation),この場合変異が疾患と関連している可能性はきわめて低い.またアミノ酸レベルで変異があっても同じグループのアミノ酸(たとえばロイシンとイソロイシンなど)に変異した場合は注意が必要である.同じグループのアミノ酸は性質が似ているため,変異しても明らかなタンパク質機能異常を起こさないことがまれではなく,その場合疾患と関連していない可能性が高い.一方,かなり性質が異なるアミノ酸に変異した場合や,終止コドンとなった場合は疾患と関わっている可能性はかなり濃厚である.また挿入変異や欠失変異の場合は挿入,欠失した長さが3の倍数であればその部分のアミノ酸の挿入,欠失となるが,3の倍数でなければフレームシフトが起こるためそれ以降のアミノ酸はまったく異なるものとなり疾患と関連している可能性が高い.またスプライシングに変化が生じるような変異の場合,エクソン単位で欠失が生じたり,イントロンが挿入されたりするので通常アミノ酸レベルでもかなり大規模な変化が生じる可能性が高く,疾患との関連性も高くなる.つぎにすべきことは同一家系内における表現型との一致を調べることである.表現型(疾患)と原因と思われる遺伝子変異が同一家系内で一致していれば,その変異は疾患と関連している可能性が高い.しかし1家系だけの場合はたまたま一致しただけということもあるので,この結果だけに頼りきることはできない.その場合は正常者にそのような変異が見いだされるかどうか(com-monなSNPsかどうか)をSNPsデータベース(NCBIのdbSNPなど,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/projects/SNP/)で確認する.ただSNPsは民族によっても異なるうえ,データベース自体も現時点では完全とはいえない状況にあるので,データベースになくともSNPsである可能性は否定できない.その場合はできれば自分で正常者のゲノムDNAを調べたほうが良い.上記の検討を行ったとしても,見いだした遺伝子変異が本当に疾患の原因であるかどうかは実はかなりむずかしい問題である.たとえば変異によって終止コドンに変化した場合を考えてみる.その場合変異部位より下流のアミノ酸を欠くこととなるが,その部分がタンパク質の機能にそれほど重要でない場合には,タンパク質機能がやや低下する程度に収まる可能性もある.たとえて言うなら,ハサミの刃の部分が壊れたら使い物にならないが,指を入れる柄の部分が少々欠けたとしても多分それなりに使えるであろうということである.身の回りのも(74)———————————————————————-Page11あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???のを見ても,少し故障しているがそれなりに使っているというのは結構あると思う.このように終止コドンに変わった場合ですら,突き詰めて考えるとわからないという結論に到達する.ではどうしたら良いのか?最後の仕事は機能解析である.ご存じのように機能解析はものによってはかなり大変である.実際変異解析の仕事でも機能解析まで踏み込んだ論文は少数派である.比較的簡単にできるものとしては,たとえば変異によってタンパク質の局在に変化が生じる可能性が予測された場合,そのタンパク質をタグ配列(GFP,c-myc,HA,FLAG,V5などたくさんある)と融合した状態で発現するプラスミドを作成して,培養細胞に遺伝子導入することが考えられる.正常タンパク質と変異タンパク質で細胞内の局在に変化があれば,疾患と関連している可能性はきわめて濃厚となる.また改変マウスを作成してヒトで見られた異常がマウスでも認められるかを調べるのも有用な手段である.いずれにせよタンパク質の性質と変異部位によってやるべき機能解析はさまざまで,概してかなりの時間と労力を強いられる.ただ幾多の苦労を乗り越えて機能解析を成功させたとしても,????????の実験では個体レベルの状態を完全に反映しない,マウスとヒトとは違うなどという厳しいことを言い出すと,結局遺伝子変異と疾患の関連性はどこまでやっても完全にはわからないということになる.まあそこまで懐疑主義的になると,おそらく生物の問題は何一つ解けないことになるであろうが….II法的・倫理的側面ここまで実験の技術的な部分を解説してきたが,実際に変異解析を行う際には法的・倫理的側面もきわめて重要となる.血液の採取および研究への使用にあたっては,ヘルシンキ宣言に基づき患者の同意を得ることが最低の条件となる.また施設に倫理委員会がある場合はここの承認をとる必要もある.これらに加えゲノム解析ではゲノム情報が患者の個人情報であるとの見解から,患者が特定できるゲノムデータおよびゲノムサンプルが第三者に漏出しないような措置をとる必要がある.具体的にはサンプルおよびデータは暗号化して患者情報と切り離して管理し,データと患者情報を連結する鍵のデータを第三の管理者に預けておくという方法をとる.これらは2001年に厚生労働省,文部科学省,経済産業省の3省合同で通達されている.詳細は文部科学省のホームページで公開されているpdf書類をダウンロードして確認されたい.おわりに以上,遺伝子変異解析における分子生物学的実験手技およびその背景知識について説明させていただいた.これだけの字数を使っても専門用語の解説や実験の具体的なところまで記述することはできなかったので,実際の実験に際しては標準的な実験書(羊土社のバイオ実験イラストレイテッドが初心者には好評のようである.本格的に知りたいのならManiatis著のMolecularCloningをお薦めする)を参照していただきたい.冒頭でも述べたが,変異解析の実験で最も重要なのはいかにPCRを成功させるかで,そこがうまくいけばあとは何とかなることが多い.PCRは試行錯誤が重要な局面が多く,うまくいかないときにはとにかくいろいろやってみることが重要である.このときのコツは自分が寝ている間に酵素に働いてもらうことである.(要するに夜PCRをかけっぱなしにして帰るということ.機械にはやや悪いという意見もあるが….)大学院生の先生は自分の経験値を上げる意味でもいろいろなPCRに挑戦してほしい.本稿を作成するうえで同僚の松田彰先生に多大なご助言をいただきました.また谷岡秀敏さん,山崎健太さんには本文の構成および図の作成で大変お世話になりました.ここに深謝いたします.文献1)MunierFL,KorvatskaE,DjemaiAetal:Kerato-epithe-linmutationsinfour5q31-linkedcornealdystrophies.?????????15:247-251,19972)DeanFB,HosonoS,FangLetal:Comprehensivehumangenomeampli?cationusingmultipledisplacementampli?-cation.??????????????????????99:5261-5266,20023)DonRH,CoxPT,WainwrightBJetal:‘Touchdown’PCRtocircumventspuriousprimingduringgeneampli?-cation.?????????????????19:4008,19914)SangerF,DonelsonJE,CoulsonARetal:Determinationofanucleotidesequenceinbacteriophagef1DNAbyprimedsynthesiswithDNApolymerase.??????????90:315-333,19745)TianX,FujikiK,LiQetal:CompoundheterozygousmutationsofM1S1geneingelatinousdroplikecornealdystrophy.???????????????137:567-569,2004(75)

マルチパーパスソリューション

2007年6月30日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSの適合性,眼障害,選択方法について概説する.I日本で販売されているMPSの特徴現在,市販されているMPSの消毒成分は塩化ポリドロニウムあるいはポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)である.上述したStandalonetestはISOで採用されているコンタクトレンズケア用品の消毒評価試験であるが,試験菌のうち細菌(黄色ブドウ球菌ATCC6538,緑膿菌ATCC9027,セラチア菌ATCC13880)に対しては対数減少値が3以上で,真菌(カンジダATCC10231,フザリウムATCC36031)に対しては対数減少値が1以上であると消毒剤は液に漬けておくだけで効果があると判断され,一次基準をクリアしたMPSに分類される.このはじめにソフトコンタクトレンズ(SCL)は細菌や真菌などの微生物に汚染しやすいため,毎日の消毒が義務づけられている.日本では1972年のSCL発売以来,100℃で20分間の加熱消毒(煮沸消毒)が厚生労働省(旧厚生省)により定められていたが,加熱によるSCLの劣化の防止,簡便性やコンプライアンスの面からコールド消毒(化学消毒)が開発された.1992年には過酸化水素を用いた消毒剤が,1995年には多目的用剤(multipurposesolu-tion:MPS)が,2001年にはポビドンヨードを用いた消毒剤が発売された.MPSは,1剤で洗浄だけでなく,消毒,すすぎ,保存ができることから,誤使用がない,簡便であるがゆえにコンプライアンスが高いなどの特徴があるが,他の消毒法に比べて消毒効果が弱いという問題がある.しかしながら,MPSの消毒効果は近年向上しており,国際標準化機構(ISO)のStandalonetestの一次基準に適合したもの(multipurposedisinfectingsolution:MPDSといわれることもある)も発売された.一方,消毒効果が高くなれば細胞毒性が問題となる症例が生じる.特に,シリコーンハイドロゲルレンズ(SHCL)とMPSおよびMPDSとの適合性が問題視されている1~4).これらに含まれる化学物質によってアレルギー反応を生じることもある5).本稿では,MPDSを含めたものを広くMPSとし,日本で販売されているMPSの特徴を述べた後に,SCLと(53)???*KiichiUeda:山口大学大学院医学系研究科眼科学/ウエダ眼科**RyojiYanai:山口大学大学院医学系研究科眼科学〔別刷請求先〕植田喜一:〒751-0872下関市秋根南町1-1-15ウエダ眼科特集●コンタクトレンズの流れを読むあたらしい眼科24(6):747~757,2007マルチパーパスソリューション?????????????????????植田喜一*柳井亮二**図1ISOのStandalonetest(文献6より改変)**:contactlensdisinfectingproduct(コンタクトレンズ消毒液)に分類**:contactlensdisinfectingregimen(コンタクトレンズ消毒システム)に分類Standalonetest不合格一次基準試験合格*試験合格**Regimentest二次基準不合格試験不合格不合格試験不合格合格合格———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007(54)表1市販されているMPSの性状と特徴メーカー日本アルコン日本アルコンエイエムオー・ジャパンエイエムオー・ジャパンチバビジョンロート製薬ロート製薬製品名オプティ・フリー?プラスオプティ・フリー?コンプリート?テンミニッツコンフォートケア?フレッシュルックケア?10ミニッツロートCキューブソフトワンモイスト?ロートCキューブソフトワンクール?外観消毒成分塩化ポリドロニウム(ポリクォッド)(11ppm)塩化ポリドロニウム(ポリクォッド)(11ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)洗浄成分クエン酸テトロニッククエン酸ポロクサマーチロキサポールポロクサマーポロクサマーポロクサマー粘稠剤──HPMCHPMC─HPMCHPMC特徴クエン酸とテトロニックによるデュアルアクション洗浄システムテトロニックによる潤いの持続作用独自の消毒成分ポリクォッドによる高い消毒効果と高い安全性クエン酸による洗浄システム独自の消毒成分ポリクォッドによる高い消毒効果と高い安全性消毒が最短10分で完了HPMCとポロクサマーの働きで優れた潤いクッションポロクサマーとPHMBの働きで優れた洗浄・消毒効果涙液に近い性状で瞳にやさしいしっかり消毒.蛋白汚れの付着も防止レンズに潤いを与える成分をプラス涙液に近い性状だから,目にやさしい1本で,洗浄・すすぎ・消毒・保存がOK消毒,洗浄が最短10分で完了リン酸塩,EDTA,ポロクサマーの3つの成分で相乗的に汚れ除去液体粘性を高めることで,潤いを持続清涼洗浄成分をプラスすることで,爽快なつけ心地を実現メーカーファシル旭化成アイミー旭化成アイミーエイコーエイコー日本油脂日本オプティカル製品名フォレストリーフレンズコートワンボトルケアクリアモイストケアピュアモイストケアピュラクルモイストティアラ外観消毒成分PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)洗浄成分───ポロキサマーポロキサマー─ポロキサマー粘稠剤HPMC─HPMCHPMCHPMC─HPMC特徴PHMBでSCL表面を効果的に消毒HPMCで乾燥を防ぎ,快適な装用感涙液成分(リン脂質)に着目し,開発された潤い成分(リピジュア)配合PHMBでSCL表面を効果的に消毒HPMCで乾燥を防ぎ,快適な装用感乾燥を防ぐ潤い成分HPMC配合洗浄成分ポロキサマーでレンズの汚れを除去乾燥を防ぐ潤い成分HPMC配合洗浄成分ポロキサマーでレンズの汚れを除去涙液成分(リン脂質)に着目し,開発された潤い成分(リピジュア)配合乾燥を防ぐ潤い成分HPMC配合洗浄成分ポロキサマーでレンズの汚れを除去PHMB:ポリヘキサメチレンビグアニド,HPMC:ヒドロキシプロピルメチルセルロース.(メーカー提供)*ワンボトルケアはフォレストリーフのOEM,モイストティアラはクリアモイストケアのOEM,レンズコートはピュラクルのOEM.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???一次基準をクリアするほどの消毒効果はないものの,二次基準(3種類の細菌に対し対数減少値がそれぞれ1以上,かつその和が5以上を示すとともに,真菌に対して浸漬中に菌数の増加を認めない)に適合する消毒剤はregimentest(用法用量に従った試験)の合格基準(消毒後の菌数の平均がレンズ当たり10コロニーを超えないこと)をクリアした場合はregimen試験適合消毒剤と判断される6,7)(図1).日本でも2003年に,市販されているMPSに対してこのStandalonetestに準拠した方法で,一次基準に合格する消毒効果を有するかどうかを自主点検するようにという内容の行政通知が発出されている6).現在,日本でメーカーが一次基準をクリアしたと公表しているMPS(いわゆるMPDS)はレニュー?,レニュー?マルチプラス,コンプリート?アミノモイスト,エピカコールド,バイオクレン?ワン,バイオクレン?ゼロである.現在市販されているMPSの性状ならびに特徴をまとめたものを表1,2に示す.各製品は消毒成分のほかに洗浄成分(界面活性剤)や保湿成分(粘稠剤)などを添加して付加価値を高めている.IIMPSとSCLとの適合性SCL使用者にMPSを使用すると角膜ステイニングが発生することから,SCLとMPSとの適合性がこれまでにも問題視されていたが,新しい素材であるSHCLにおいても同様の角膜ステイニングが高頻度に発現することが報告されている4).1.短時間使用による角膜ステイニングMPSに浸漬したSCLの短時間装用試験ではMPSに配合される消毒成分によって角膜ステイニングの発生に差があることが報告されている4)が,筆者らも検証を行った8).試験レンズにはSCL2種(2ウィークアキュビュー?,マンスウエア)とSHCL1種(O2オプティクス)を,化学消毒剤にはMPS3種(エピカコールド,レニュー?マルチプラス,オプティ・フリー?プラス)と過酸化水素消毒剤1種(エーオーセプト?)を用いた.2ウィークアキュビュー?はイオン性高含水SCL,マンスウエアは(55)表2市販されているMPDSの性状と特徴メーカーボシュロム・ジャパンボシュロム・ジャパンエイエムオー・ジャパンメニコンオフテクスオフテクス製品名レニュー?マルチプラスレニュー?コンプリート?アミノモイストエピカコールドバイオクレン?ワンバイオクレン?ゼロ外観消毒成分PHMB(1.1ppm)PHMB(0.7ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)洗浄成分ポロキサミンハイドラネート(蛋白除去成分)ポロキサミンポロクサマーPOE硬化ヒマシ油(植物原料の界面活性剤)ポロクサマーポロクサマーポリリジン(蛋白付着防止)粘稠剤──HPMC──ヒアルロン酸,HPMC特徴ハイドラネートの働きで蛋白除去まで1本でOKPHMB(ダイメッド?)とポロキサミンの働きで優れた洗浄・消毒効果PHMB(ダイメッド?)の働きで優れた消毒効果を発揮ポロキサミンの働きで優れた洗浄効果と潤いの持続3つの潤い成分(PG/HPMC/ポロクサマー)で潤いを長時間キープアミノ酸配合で瞳にやさしい環境をサポートアミノ酸で蛋白変性防止消毒効果と安全性の両立高い脂質洗浄力蛋白付着防止効果2つの潤い成分(POE硬化ヒマシ油/PG)による潤い効果PHMBでしっかり消毒ポロクサマーで高い洗浄効果と潤い効果ヒアルロン酸の効果で潤いを持続ポリリジンで蛋白付着防止POE:ポリオキシエチレン,PG:プロピレングリコール.(メーカー提供)———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007非イオン性高含水SCLで,エピカコールドとレニュー?マルチプラスはPHMBを含有し,オプティ・フリー?プラスは塩化ポリドロニウムを含有する.ブリスターケースから取り出した試験レンズを化学消毒剤に16~24時間浸漬した.男性6名,女性9名の計15名を被験者として,片眼には化学消毒剤で処理した試験レンズを装用し,他眼にはブリスターケースから取り出した試験レンズを生理食塩水で十分にすすいだ後に装用した.2時間装用した後に,試験レンズをはずして,角膜所見をフルオレセイン染色下で細隙灯顕微鏡(ブルーフリーフィルターを使用)で観察した所見を宮田の点状表層角膜症の重症度分類〔AD分類(A:area,D:density)〕9)に照らして評価した(表3).化学消毒剤で処理された試験レンズの装用によって生じた角膜ステイニングの代表例を図2に示す.化学消毒剤を使用しない未処理の各レンズにおいても角膜ステイニングが発生したが,程度の軽いものであった.a.SCLの装用による角膜ステイニング2ウィークアキュビュー?ではすべての化学消毒剤においてこれらで処理をしたレンズと未処理のレンズで発生した角膜ステイニングの範囲および密度に有意な差はなく,化学消毒剤の種類によって発生した角膜ステイニングの範囲および密度に有意な差はなかった(図3).マンスウエアではエピカコールド,オプティ・フリー?プラス,エーオーセプト?で処理されたレンズは未処理のレンズと角膜ステイニングの範囲および密度に有意な差はなかったが,レニュー?マルチプラスで処理されたレンズは有意に高かった.エピカコールド,オプティ・フリー?プラス,エーオーセプト?については発生した(56)表3点状表層角膜症の重症度分類〔AD分類(A:area,D:density)〕GradeArea(範囲)Density(密度)0点状染色なし点状染色なし1点状染色の範囲:角膜全体の1/3未満点状染色の密度:疎(離れている)2点状染色の範囲:角膜全体の1/3~2/3点状染色の密度:中程度3点状染色の範囲:角膜全体の2/3以上点状染色の密度:密(ほとんど隣接)図2化学消毒剤で処理されたレンズの装用によって生じた角膜ステイニングの例※:本試験においてA2D3に相当する症例は観察されなかった.(文献8より)A1D1A1D2A1D3A2D1A2D2A3D1A3D2A3D3A2D3※———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???角膜ステイニングの範囲,密度のいずれにおいても有意な差がなかったが,レニュー?マルチプラスは角膜ステイニングの範囲においてエピカコールドおよびエーオーセプト?より有意に程度が高く,密度においてもエピカコールドと有意な差があった(図4).b.SHCLの装用による角膜ステイニングエピカコールド,オプティ・フリー?プラス,エーオーセプト?で処理されたO2オプティクスは未処理のO2オプティクスと角膜ステイニングの範囲および密度に有意な差はなかったが,レニュー?マルチプラスで処理されたO2オプティクスは有意に高かった(図5).エピカコールド,オプティ・フリー?プラス,エーオーセプト?については発生した角膜ステイニングの範囲,密度のいずれにおいても有意な差はなかったが,レニュー?マルチプラスはエピカコールド,オプティ・フリー?プラス,エーオーセプト?より角膜ステイニングの範囲が有意に広く,密度も有意に高かった(図5).SCLについては含水率およびイオン性の異なる2種類の含水性レンズを使用したが,SCLによって角膜ステイニングの発生に違いがあった.非イオン性高含水SCLのマンスウエアでは化学消毒剤の種類によって角膜ステイニングの発生に有意な差を認めたが,イオン性高含水SCLの2ウィークアキュビュー?では有意な差を認めなかった.PHMBはプラスに帯電しているため,(57)図32ウィークアキュビュー?の短時間装用による角膜ステイニング(文献8より改変)0%20%40%60%80%100%処理未処理エピカコールド処理未処理レニュー?マルチプラス処理未処理オプティ・フリー?プラス処理未処理エーオーセプト?0%20%40%60%80%100%処理未処理エピカコールド処理未処理レニュー?マルチプラス処理未処理オプティ・フリー?プラス処理未処理エーオーセプト?密度範囲:Grade0:Grade1:Grade2:Grade3図4マンスウエアの短時間装用による角膜ステイニング(文献8より改変)**1*2**2*1*20%20%40%60%80%100%処理未処理エピカコールド処理未処理レニュー?マルチプラス処理未処理オプティ・フリー?プラス処理未処理エーオーセプト?0%20%40%60%80%100%処理未処理エピカコールド処理未処理レニュー?マルチプラス処理未処理オプティ・リー?プラス処理未処理エーオーセプト?密度範囲:Grade0:Grade1:Grade2:Grade31:**p<0.01Mann-WhitneyのU検定2:**p<0.01Steel-Dwass検定1:**p<0.05Mann-WhitneyのU検定2:**p<0.05Steel-Dwass検定———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007マイナスに帯電している2ウィークアキュビュー?とのイオン結合は強く,レンズ内にPHMBは著しく取り込まれる一方で,レンズ外には放出されにくい.そのためPHMBを含むMPSで処理された2ウィークアキュビュー?では角膜ステイニングの発生が少なかったのではないかと推察する8).MPSとSCLの組み合わせによる角膜ステイニングの発生には,PHMBなどの薬剤のSCLへの吸着と放出が関与していると考える.工藤らはPHMBを含有するMPSで処理したO2オプティクスを装用すると高頻度に角膜ステイニングを発生すると報告している4)が,現在市販されているMPSは消毒成分としてPHMBを含有していても,それぞれPHMB以外の配合物を含有するため,これらの作用によって角膜ステイニングの発生が異なると考える.エピカコールドはPHMBを含有するが,その他の成分としてグリコール酸やアミノメチルプロパンジオール(AMPD)が配合されており,これらの相互作用によりイオンバランスが調整され,PHMBの角膜への影響を弱めていると推察する8).化学消毒剤で処理されたSCLの装用による角膜ステイニングは装用後短時間で発生し,その後回復傾向を示す.具体的には装用2時間後に強い角膜ステイニングを認めた症例でも,装用6時間後には軽微となっていることがほとんどであると報告されている4).MPSに含まれる消毒成分やその濃度,さらには他の成分などが角膜上皮細胞に影響を及ぼし,角膜ステイニングを生じたと考えるが,上皮障害そのものの程度は軽いため角膜上皮細胞の伸展,移動で治癒すると推察する.2.継続使用による角膜ステイニング角膜ステイニングはレンズをはずして,フルオレセインで染色してブルーフリーフィルターでわかる程度の軽度の所見が多いが,このステイニングが臨床上問題になるかを確認することを目的として,筆者らはMPSでケアされたレンズを継続使用した症例の角膜所見を評価した.試験レンズにはSCL2種(2ウィークアキュビュー?,マンスウエア)とSHCL1種(O2オプティクス)を,化学消毒剤にはMPS2種(エピカコールド,オプティ・フリー?プラス)を用いた.男性10名,女性24名の計34名の被験者を3群(2ウィークアキュビュー?群:16名,マンスウエア群:8名,O2オプティクス群:10名)に分けて,エピカコールドとオプティ・フリー?プラスをそれぞれ1カ月間使用させて,角膜ステイニングの発生を調べた.フルオレセイン染色下で,細隙灯顕微鏡(ブルーフリーフィルターを使用)で観察した所見をAD分類9)に照らして評価した.レンズの装用時間は10時間以上とした.(58)図5O2オプティクスの短時間装用による角膜ステイニング(文献8より改変)**1**2**2**2**1**2**2**20%20%40%60%80%100%処理未処理エピカコールド処理未処理レニュー?マルチプラス処理未処理オプティ・フリー?プラス処理未処理エーオーセプト?0%20%40%60%80%100%処理未処理エピカコールド処理未処理レニュー?マルチプラス処理未処理オプティ・フリー?プラス処理未処理エーオーセプト?密度範囲:Grade0:Grade1:Grade2:Grade31:**p<0.01Mann-WhitneyのU検定2:**p<0.01Steel-Dwass検定———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???2ウィークアキュビュー?では,エピカコールドの使用で2名4眼に,オプティ・フリー?プラスの使用で1名2眼に,マンスウエアではエピカコールドの使用で1名2眼に,オプティ・フリー?プラスの使用で1名1眼に,O2オプティクスではエピカコールドの使用で1名2眼に,オプティ・フリー?プラスの使用で2名4眼にMPSによると考えられる角膜ステイニングが観察された.ただし,これらの角膜ステイニングは,いずれのレンズにおいても軽度なものであり,臨床上問題とはならなかった.いずれのレンズにおいても,エピカコールドとオプティ・フリー?プラスで角膜ステイニングの発生に有意な差はなかった(図6~8).エピカコールドとオプティ・フリー?プラスは短時間使用でも角膜ステイニングの発生の少なかったMPSであるが,本試験の結果から継続使用によるMPSの成分の蓄積で角膜ステイニングが悪化する可能性が低いこと(59)図62ウィークアキュビュー?の継続使用による角膜ステイニング0%20%40%60%80%100%エピカコールドオプティ・フリー?プラス密度範囲:Grade0:Grade1:Grade2:Grade3n=320%20%40%60%80%100%エピカコールドオプティ・フリー?プラスn=32図7マンスウエアの継続使用による角膜ステイニング0%20%40%60%80%100%エピカコールドオプティ・フリー?プラス密度範囲:Grade0:Grade1:Grade2:Grade3n=160%20%40%60%80%100%エピカコールドオプティ・フリー?プラスn=16図8O2オプティクスの継続使用による角膜ステイニング0%20%40%60%80%100%エピカコールドオプティ・フリー?プラス密度範囲:Grade0:Grade1:Grade2:Grade3n=200%20%40%60%80%100%エピカコールドオプティ・フリー?プラスn=20———————————————————————-Page8???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007が示唆された.日本ではSCLの消毒として1992年より化学消毒剤が使用されるようになった.当初,化学消毒剤の製造(輸入)承認申請に際しては,各レンズについて個々の化学消毒剤との組み合わせごとに一定の試験を行いその適合性が評価されていたが,1999年にSCLを原材料ポリマーの含水率およびイオン性により分類(FoodandDrugAdministration:FDA分類)されるようになってからは,4分類(グループⅠ:非イオン性低含水,グループⅡ:非イオン性高含水,グループⅢ:イオン性低含水,グループⅣ:イオン性高含水)のうち,グループⅠおよびⅣに属する任意の代表レンズを各1種類ずつ選択し,そのレンズに対する適合性について必要な試験を行うだけで評価されるようになった.すなわち,レンズと化学消毒剤が1対1の対応から,グループ分類に従って,2種類のレンズを試験することによって,市販されるすべてのレンズについて認可が得られるようになり,煩雑であった申請が簡素化され,多くの化学消毒剤が短期間で認可されるようになった.このFDA分類は含水性SCLに対してはあまり問題になることはなかったが,SHCLについても同様に分類してよいかという問題がある10).SHCLを含む含水性SCLと化学消毒剤の適合性は個別に確認したほうがよいと考える.IIIMPSによる角結膜障害上述した角膜ステイニング以外に注意したいのはアレルギー反応である.両眼に生じた原因不明の角結膜障害(輪部充血,角膜周辺部に多発する小さな角膜浸潤など)を生じた場合(図9)にはMPSによるアレルギー反応を疑う必要がある5).角結膜障害はステロイドの点眼ですぐに治癒するが,MPSを再使用すると同様の障害が生じることで臨床的に診断できる.他の種類のMPSに変更するか,過酸化水素消毒剤,ポビドンヨード消毒剤に変更する.MPSで消毒できない細菌の毒素に対するアレルギー反応が生じることもある.MPSによるこすり洗いを徹底させることや,消毒効果の高いMPSや他の消毒剤に変更する必要がある.最近では細菌がレンズケースに付着してバイオフィルムを形成し,バイオフィルム感染症を生じることがあると報告されている11).レンズを装用したらレンズケースの中の保存液を捨てて汚れを十分に洗浄して自然乾燥させることや,1~3カ月ごとにレンズケースを交換することを指導して,レンズケースが微生物に汚染されないようにしなければならない.IVMPSの選択MPSに求められる条件としては,高い消毒効果と洗浄効果を有すること,生体に対する安全性に優れていること,CLへの影響が少ないこと,などである.これらのバランスがよいものが第一選択となる.1.消毒効果MPSは消毒剤であることから,高い消毒効果を有することが求められる.筆者らはMPSを含む化学消毒剤の微生物に対する消毒効果の有効性を検討した.図10は塩化ポリドロニウム製剤(日本アルコン株式会社),PHMB製剤(AMOジャパン),過酸化水素製剤(AMOジャパン),ポビドンヨード製剤(株式会社オフテクス)の消毒効果を比較したものである.細菌に対してはどの消毒剤も十分な消毒効果を示したが,カンジダ,アカントアメーバ,アデノウイルスに対してはポビドンヨード製剤以外の消毒剤は十分な消毒効果を示さなかった12,13).(60)図9MPSによるアレルギー反応(文献5より)———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???2.生体に対する安全性筆者らはSCLの消毒剤として使用されている消毒成分の安全性を確認するために,培養したヒト角膜上皮細胞を用いてニュートラルレッド法により評価した.すべての消毒成分が濃度依存性に細胞障害性を示していたが,製剤で使用されている濃度では過酸化水素の細胞障害率は90%以上であったのに対して,PHMB製剤は10%程度でPHMBが最も安全性が高かった(図11)14).市販SCL消毒剤の家兎角膜上皮のバリア機能を評価した実験でも,過酸化水素製剤はカルボキシルフルオレセインの取り込み量が有意に増加していたが,塩化ポリドロニウム製剤およびPHMB製剤はコントロールと差がなかった(図12)15).過酸化水素製剤は角膜上皮バリアに影響を与えるが,PHMBは影響を与えないことが(61)図10化学消毒剤の微生物に対する消毒効果(文献12,13より改変)細菌真菌アカントアメーバウイルス緑膿菌黄色ブドウ球菌セラチアフサリウムカンジダアカントアメーバアデノウイルス:ポビドンヨード製剤:過酸化水素製剤:塩化ポリドロニウム製剤:PHMB製剤543210微生物減少値(log個/m?)図11化学消毒剤のヒト角膜上皮細胞に対する影響(文献14より改変)細胞障害率(%)100806040200010201008060402000102010080604020001020(時間)(時間)(時間):0.05%(製剤配合濃度):0.005%(1/10):3%(製剤配合濃度):0.3%(1/10):0.03%(1/100):0.003%(1/1,000):0.1%(1,000倍):0.01%(100倍):0.001%(10倍):0.0001%(製剤配合濃度)ポビドンヨード過酸化水素PHMB図12家兎摘出眼球に対する化学消毒剤の角膜障害性(文献15より改変)0.040.030.020.010カルボキシフルオレセイン取り込み量(nmo?/mm2)*ポビドンヨード製剤過酸化水素製剤塩化ポリドロニウム製剤PHMB製剤コントロールn=3,平均±標準誤差4時間曝露*:Dunnett?stestp<0.05———————————————————————-Page10???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007示唆され,PHMBの細胞毒性は比較的軽いものと考えられる.3.CLへの影響MPSによってレンズに物理化学的な変化が生じないことは必須である.レンズの物理化学的変化はレンズの光学性の変化,フィッティングの変化,装用感の悪化,角結膜障害につながる.筆者はO2オプティクスを化学消毒剤6種(エーオーセプト?,オプティ・フリー?プラス,コンプリート?・モイストプラス,レニュー?マルチプラス,フレッシュルック?ケア,クレンサイド)で処理した後に,レンズの形状,外観,色調,直径,ベースカーブ,頂点屈折力(パワー),含水率,光線透過率(視感透過率)を測定した.各測定値は厚生労働省告示第349号(2001年10月5日)と医薬発第1097号(2001年10月5日)の基準を満たしていた16)(表4).これらの測定値以外に各種化学消毒剤のレンズ表面の沈着やレンズ内への蓄積に問題がないかなどを検証する必要があると考える.このように各MPSは,製品によって消毒効果や生体への安全性,CLの影響ならびにCLとの適合性(角膜ステイニングの発生など)に違いがある.さらに,蛋白除去などの洗浄効果や潤い効果にも違いがあるため,これらを考慮して製品を選択する必要がある.消毒効果の高いMPSは微生物に強く作用するだけでなく,正常な角膜上皮細胞にも影響を及ぼす可能性がある.頻回交換SCLのように比較的短期間で新しいレンズと交換するのであれば,消毒効果の低いMPSでも臨床上問題になることは少ないと考えるが,従来型SCLや1~3カ月間の定期交換SCLのように長期間使用するのであれば,消毒効果の高いMPSを選択したい.特に角膜感染症の既往のある人では消毒効果の高い化学消毒剤(MPDS,ポビドンヨード製剤,過酸化水素消毒剤)あるいは煮沸消毒を選択する.白内障術後の無水晶体眼で従来型SCLを使用している人に対しては煮沸消毒が第一選択である.おわりにMPSは簡便なレンズケアとして,SCL使用者に広く普及しているが,消毒効果が弱いことや,含水性SCLおよびSHCLとの組み合わせによる角膜ステイニングの発生,MPS特有のアレルギー反応などの問題がある.現在,MPSは多くの製品が販売されているが,これらの特徴を把握してCL使用者に適する製品を選択することが求められる一方,MPSの使用による眼障害を認めた場合はその原因を究明して適切な対応を図ることも求められる.Standalonetestは特定の細菌ならびに真菌,それも特定した菌株に対する消毒効果を評価したものであるため,これをクリアすればすべての細菌ならびに真菌に対して効力があるというわけではない.一次基準をクリアしたMPDSであるにもかかわらず,海外ではフザリウムによる感染を生じた例がある17,18).ウイルスやアメーバなど他の微生物に対する評価法は規定されていない6).MPSはこれらの微生物に対する消毒効果が低いので十分な消毒効果を期待するのならば他の消毒法を選択したほうがよいといえる.MPSの使用にあたってはこすり洗いの徹底とレンズケースの洗浄,乾燥,および短(62)表4O2オプティクスに対する化学消毒剤の影響1.形状,外観,色調内部に気泡,不純物または変色がなかった表面に有害な傷または凹凸がなかったエッジが角膜に障害を与えるような形状になっていなかった2.直径直径の許容差;±0.20mm内であった3.ベースカーブベースカーブの許容差;±0.20mm内であった4.頂点屈折力(パワー)頂点屈折力の許容差;±0.25D内であった5.含水率含水率の許容差;±2%(絶対値)内であった6.光線透過率(視感透過率)視感透過率の許容差;±5%(絶対値)内であった———————————————————————-Page11あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???期間の交換を促すことが重要である.最近のトピックスとして,SHCLとの適合性の観点から角膜ステイニングの発生のことが取り上げられているが,このステイニングがどの程度臨床上問題になるかを検討する必要がある.個人的な意見としては,臨床上大きな問題となる症例は少ないので,軽度なステイニングであれば経過をみていいのではないかと考える.それよりも重篤な角膜感染症を予防するという観点から消毒効果の高いMPSを選択することが優先される.もし中等度以上の角膜ステイニングが発生した場合に他の消毒剤に変更すればよいと考える.そして,MPSの使用者については定期検査の際に角膜ステイニングやアレルギー反応が生じていないかを注意深く観察することと,充血,異物感,眼痛などの自覚症状がある場合にはMPSの使用をやめてすぐに眼科専門医の診察を受けるように指導することが大切である.(各表中に記載した製品名は2007年4月1日現在市販されているものを列挙した.)稿を終えるにあたり,各製品の調査につきまして多大なご協力を賜りました株式会社メニコンの杉本圭司氏,酒井利江子氏に心から謝意を表します.文献1)GarofaloRJ,DassanayakeN,CareyCetal:Cornealstain-ingandsubjectivesymptomswithmultipurposesolutionsasafunctionoftime.????????????????31:166-174,20052)JonesL,MacDougallN,SorbaraGL:Asymptomaticcor-nealstainingassociatedwiththeuseofbala?lconsilicone-hydrogelcontactlensesdisinfectedwithapolyaminopro-pylbiguanide-preservedcareregimen.??????????????79:753-761,20023)AmosC:Performanceofanewmultipurposesolutionusedwithsiliconehydrogels.????????227:18-22,20044)工藤昌之,糸井素純:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズと消毒剤との相性.あたらしい眼科22:1349-1355,20055)植田喜一:塩化ポリドロニウム(POLYQUAD?)による角結膜障害が疑われた1例.日コレ誌42:164-166,20006)岡田正司:ソフトコンタクトレンズの消毒の評価法(スタンドアロンテスト).日コレ誌48:93-97,20067)小玉裕司:新しいマルチパーパスソリューション.あたらしい眼科22:1345-1348,20058)植田喜一:化学消毒剤による角膜ステイニングの発生.日コレ誌49(2007)(印刷中)9)MiyataK,AmanoS,SawaM:Anovelgradingmethodforsuper?cialpunctatekeratopathymagnitudeanditscorrelationwithcornealepithelialpermeability.????????????????121:1537-1539,200310)佐野研二:FDA分類とSCLケア.日コレ誌47:284-286,200511)工藤昌之:レンズケアと感染症(バイオフィルム感染症).日コレ誌47:224-226,200512)柳井亮二,植田喜一,田尻大治ほか:細菌・真菌に対するポビドンヨード製剤の有効性.日コレ誌47:32-36,200513)柳井亮二,植田喜一,田尻大治ほか:アカントアメーバおよびウイルスに対するポビドンヨード製剤の有効性.日コレ誌47:37-41,200514)YanaiR,YamadaN,UedaKetal:Evaluationofpovi-done-iodineasadisinfectantsolutionforcontactlenses:antimicrobialactivityandcytotoxicityforcornealepitheli-alcells.??????????????????????29:85-91,200615)柳井亮二,植田喜一,戸村淳二ほか:家兎に対するポビドンヨード製剤の安全性.日コレ誌47:120-123,200516)植田喜一:シリコーンハイドロゲルソフトコンタクトレンズと化学消毒剤との適合性.臨眼60:707-711,200617)LevyB,HeilerD,NortonS:Reportontestingfromaninvestigationof????????keratitisincontactlenswear-ers.????????????????32:256-261,200618)稲田紀子:CL装用と感染症第1回─2006年に報告された????????角膜炎多症例について─.日コレ誌49:57-58,2007(63)

おしゃれ用カラーコンタクトレンズ

2007年6月30日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSCLの販売を禁止するよう要望を出したが,「度数のはいっていないCLは視力補正をしないので,CLではない」という見解である.実際には,度数のはいっているはじめに虹彩付カラーコンタクトレンズ(カラーCL)は,治療目的や美容を目的として使用されている(図1).装用者は,眼科専門医に受診することは非常に少ない.非眼科専門医の診察を受ける者も少なく,おもちゃのカラーCLが合法的にインターネット通販や雑貨店などで購入されることが多い.IカラーCLの分類カラーCLは,大きく2つのグループに分けて考えるべきである.一つは,臨床試験を行い厚生労働省の高度管理医療機器の承認を受けて販売されているカラーCL(承認されたカラーCL)であり,もう一つは,玩具(おもちゃ)として輸入して,消費者に売るときは「コンタクトレンズ(CL)」と言って販売している「おもちゃのカラーCL(未承認カラーCL)」である(表1).未承認カラーCLは,臨床試験も行われていないため,安全性も確認できていない.また,未承認カラーCLは,医師の診察をまったく受けずに購入し,使用するため,消毒方法やレンズケースさえ持たない装用者がおり,誤用による眼障害が非常に多くみられる.II度数なしのCLの扱い眼科医であれば,何故,未承認カラーCLが堂々と販売されているのかという疑問をもつであろう.日本コンタクトレンズ学会は,厚生労働省に対して未承認カラー(49)???*KiyoshiWatanabe:ワタナベ眼科〔別刷請求先〕渡邉潔:〒530-0001大阪市北区梅田1丁目大阪駅前ダイヤモンド地下街5-5250ワタナベ眼科特集●コンタクトレンズの流れを読むあたらしい眼科24(6):743~746,2007おしゃれ用カラーコンタクトレンズ???????????????????????渡邉潔*図1フレッシュルック?デイリーズ?を装用したところ表1カラーCLの種類1.高度管理医療機器として承認されたカラーCL1-1.角膜混濁などを隠すためのカラーCL(入手経路:医師の処方)例:シード虹彩付カラーレンズ1-2.虹彩色を変えるためのカラーCL(入手経路:医師の処方,通販で購入)例:イリュージョン,エレガンス,デュラソフトカラー,フレッシュルック?カラー,ワンデーアキュビュー?ディファインTM2.未承認カラーCL(入手経路:通販,雑貨店やエステティックサロンで購入)———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007未承認カラーCLも同じように通販や雑貨店で販売されている.もし,未承認カラーCLで障害を起こした場合は,玩具などと同じように経済産業省の管轄の問題になる.なお,障害が発生すれば,経済産業省とともに厚生労働省も対応するとのことである.未承認カラーCLで障害を起こした装用者は,眼科を受診してはじめて危険なおもちゃであったことを知る.眼科医でさえ,実物を見ても承認を得たCLがどうかわからない場合がある.そのような場合,コンタクトレンズのデータブック1)などがあれば,承認されたCLかどうか判明する.今回の特集のように,読者にカラーCLについての情報を伝えることも重要だと考える.IIIデザインによる分類カラーCLは,着色デザインにより2種類に分けて考えたい.一つは,もともとの装用者の虹彩の色を隠して,CL色を虹彩色としてみせるOpaqueタイプ(図2)で,以前はすべてこのタイプであった(表2).もう一つは,虹彩色を変えるのではなく,角膜周辺部を強調させるEnhanceタイプである.欧米人は,髪の色や虹彩色がさまざまで,髪の色を変えるように虹彩色を変えてみたいという要望で,OpaqueタイプのカラーCLが使用され始めた.Opaqueタイプのなかでは,エレガンス(NaturalTouchTM)のデザインが虹彩色も変えるが角膜径を大きく見せるということで使用する者が多かった(図3).それが改良され,茶色の虹彩色のアジア人にEnhanceタイプが流行し始めた(図4).現在のところ,欧米人にはEnhanceタイプは必要とされず,ワンデーアキュビュー?ディファインTMはアメリカでは発売されていない.また,虹彩色が封入されている場所が,レンズの表面,内面,中央部にサンドイッチなど,いろいろなデザインがある.内面に虹彩色が印刷されているものは,当然,epithelialsplittingなどの角膜障害を起こしやすい1).IV装用スケジュールカラーCLには,従来型,頻回交換,1日使い捨てなどの装用スケジュールがある(表3).2000年頃,従来型カラーCLは,透明のソフトCLに比べて寿命が短いという印象があった.なぜなら,消毒方法が煮沸消毒であり,熱により6カ月くらい使用するとオムレツ状に丸まってくるからである.したがって,筆者は従来型カラーCLの寿命は6カ月程度であると説明し,煮沸消毒ではなく,コールド消毒と蛋白除去の組み合わせを指示している.巨大乳頭結膜炎を多くみるのも蛋白除去を怠る(50)図3エレガンス(Opaqueタイプ,Enhanceの効果もあり)図2デュラソフトカラー(Opaqueタイプ)図4ワンデーアキュビュー?ディファインTM(Enhanceタイプ)表2カラーCLのデザイン上の分類1.Opaqueタイプ(もともとの虹彩色や角膜混濁を隠す)イリュージョン,デュラソフト,フレッシュルック?カラーなど2.Enhanceタイプ(虹彩色を変えず,角膜周辺部を強調させる)ワンデーアキュビュー?ディファインTM———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???装用者が多いためと考える.頻回交換のカラーCLは障害が少なく,さらに,1日使い捨てのカラーCLはほとんど障害をみることがない.使用時間が少ないだけでなく,ケアなどの誤用がないためと考える.V承認されたカラーCLでのトラブル当院の調査では,承認された従来型カラーCLでも,他院で処方された患者の場合,約75%に角膜上皮障害が認められた.アレルギー性結膜炎や巨大乳頭結膜炎を起こしているケースも多い.理由として,医師の説明不足,患者が医師の指導を守らない,ケア方法の誤り,カラーCLを入れたまま寝た,寿命を超えた汚れのひどいCLを使用するなどルール違反の使い方が原因であった(表4).当院で処方した症例では,度数入りも度数なしも9.1%の頻度で障害があった.他のレンズの障害頻度は2~3%であるから,それに比べると障害の頻度は多い.また,他院で処方された症例では,度数入りが48%と多く,さらに度数なしでは86.7%と非常に多くなる.度数入りカラーCLのほうが度数なしカラーCLより障害が少ないのは,度数入りが必要な患者は,すでに他の透明なCLを使用している場合が多く,使用方法やケアの方法の正しい指導を受けているからと推測する.すでに述べたが,毎日使い捨てや頻回交換のカラーCLは非常に障害が少ない.VI未承認のカラーCLでのトラブル未承認のカラーCL装用者は,消毒薬やケア用品を持たないものが多かった.品質的にも色素が溶出した粗悪なCLもあった.未承認カラーCLは絶対に使用しないように装用者に指導しなければならない.眼科専門医の診察を受けていないため,CLが禁忌である眼にCLを装用している場合もある.また,使用方法や定期的な眼科専門医の診察の重要性を知らない.充血や異物感があれば,すぐに眼科専門医の診察を受けることを指導する必要がある.おわりに装用者に対して,高度管理医療機器のカラーCLと未承認のカラーCLの区別をもっとはっきり知らせる必要がある.眼科専門医は,安い医療費でCL診療をするこ(51)表4カラーCLに障害が多い理由?処方および診察なしの購入?装脱指導が行われていない?消毒などケアの仕方がわからない(消毒液を持っていない)?定期的な診察が行われていない?患者のコンプライアンスが悪い?友人と交換する(特に度数なしカラーCLの場合)?変形したり,色素が溶出したりしているCLを無理に装用する表3高度管理医療機器の承認を得たおもなカラーCL販売会社名・商品名使用方法デザインのタイプジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社ワンデーアキュビュー?ディファインTM1日使い捨てEnhanceタイプワンデーアキュビュー?カラー1日使い捨てOpaqueタイプ株式会社シードNaturalTouchTM従来型Opaqueタイプ(Enhanceの効果もあり)シード虹彩付ソフト従来型Opaqueタイプチバビジョン株式会社フレッシュルック?デイリーズ?1日使い捨てOpaqueタイプフレッシュルック?カラー頻回交換Opaqueタイプフレッシュルック?カラーブレンド頻回交換Opaqueタイプイリュージョン従来型Opaqueタイプエレガンス従来型Opaqueタイプ(Enhanceの効果もあり)デュラソフトカラー従来型Opaqueタイプ注:ワンデーアキュビュー?カラーは平成19年6月30日で販売中止.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007(52)とは赤字になるため処方したくないということがあり,カラーCLの装用希望者はますます眼科専門医の診察を受ける機会がなくなってきた.その結果,眼障害を起こして受診する患者が増加している.まずは,未承認のカラーCLを市場から撤退させることが医療費削減になるのではないだろうか.文献1)コンタクトレンズを考える会:カラーレンズ.コンタクトレンズデータブック(改訂2版),p89-98,メジカルビュー社20062)渡邉潔:美容用カラーSCL.ディスポーザブルコンタクトレンズ,p46-49,メジカルビュー社,1998

オーダーメイドハートコンタクトレンズ

2007年6月30日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS異なる.サ社では,角膜のプラチド写真を解析して角膜全域の形状を算出し,その形状に合わせて1枚ずつ適切なデザインの球面レンズが設計される.具体的な解析結果を示す(図1).レンズ径は,角膜径,角膜曲率半径,眼瞼形状などを考慮して決定される.特にベベルデザインについては高い技術を有し,角膜周辺形状との相性を考慮したうえで,個々の眼に合うようベベルが作製される.フィッティングは,眼瞼圧や角膜の剛性などにより変化するので,フルオレセイン染色し,レンズの動きによって最終的には評価する必要があるが,より良好なフィッティングを追求し,自覚症状を改善する目的で,レンズのさまざまな調整や研磨を行う技術がある(図2).具体例として,レンズが下方停止している症例を示す(図3a).レンズの表面周辺部にサ社特有のMZ(溝)加工2)を施し(図2d),上眼瞼による引き上げ効果により,レンズの安定位置が改善した(図3b).繊細にマニュアルでレンズを研磨修正するこれらの専門技術を医師自身が駆使できるようになること3)が理想であるが,すべての医師がその域に達するのは容易ではない.サ社の営業技術員にレンズの研磨を指示することも可能であり,その際,研磨の技術的なアドバイスを受けることもできる.一方,エ社のHCL(DOCTOR?SEX-GタイプLD)は大直径非球面をその大きな特徴としている.正常角膜の形状は周辺になるほどフラットになる非球面である4)ため,大直径にてアライメントフィットが得られるようにはじめに現代では迅速化や簡略化が好まれ,コンタクトレンズ(CL)においても,簡便な処方が可能であり超量産既製品である使い捨てCLが席巻している.その一方で,ハードCL(HCL)の処方頻度は,初装時の強い異物感1)や処方が煩雑である印象により減少傾向にある.しかし,HCLには酸素透過性が高いことや光学性に優れることなど多くの利点がある.特に角膜不正乱視の強い症例では,既製品では対応できないことがある.本来,HCLでは,個々の症例の異なった条件を満たすために,レンズの各部分が角膜に対して自由に設計できるオーダーレンズが理想である.このようなオーダーメイドHCLという高い技術をもつ代表的なメーカーに,サンコンタクトレンズ社(以下,サ社)とエイコー社(以下,エ社)の2社があげられる.2社それぞれのレンズのコンセプトと特徴およびその具体的な処方の一端について紹介する.Iレンズのコンセプトと特徴通常のHCL処方は,直径8.8mm程度の球面レンズをトライアルレンズとして用い,ケラトメータなどで得られる角膜中心部2~3mmの角膜曲率を基にしてベースカーブ(BC)を決定し,レンズの規格が決定される場合が多い.これに対し,2社のレンズはともにコンピュータを用いて角膜全体の形状を解析することによりレンズ規格の決定に至るが,そのレンズコンセプトは2社で(43)???*HirokiFujita:藤田眼科〔別刷請求先〕藤田博紀:〒270-1132我孫子市湖北台1-1-3藤田眼科特集●コンタクトレンズの流れを読むあたらしい眼科24(6):737~742,2007オーダーメイドハードコンタクトレンズ?????????????????????????????????藤田博紀*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007(44)図2レンズの代表的な調整や研磨の方法a:エッジリフトを上げる.b:エッジリフトを下げる.c:周辺部からエッジにかけて薄くする.d:周辺部にMZ(溝)加工を施す.dcab図1サ社のオーダーメイド解析結果角膜のプラチド写真を解析し,適切なデザインの球面レンズの具体的な解析結果が得られる.<解析結果例>図3MZ加工によるレンズの引き上げ効果a:修正前,b:修正後.ab———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???非球面デザインを用いている.中心部のBCと周辺部の離心率を独立したパラメータとして選択できるため,レンズを支持する周辺部では角膜のカーブに対してアライメントするアライメントゾーンが形成され,周辺まで面接触でレンズを支えることが可能となる.具体例として,中心部のBCが8.00mm,直径が10.0mmという同じ条件のHCLで,アライメントゾーンの曲率を変えた際のフルオレセインパターンを示す(図4).大直径非球面HCLは小直径球面HCLと比較して初装時の異物感が軽度であり5),角膜形状に対する影響が少ないという報告もある6).レンズデザインのオプションとしては,サ社と同様に多くの種類の対応が可能であり(図2a~c),数値化してオーダーできるため,再現性という点で優れている.図5に具体的な処方例を示す.レンズが上眼瞼でくわえ込まれ,上方安定していた(図5a)が,レンズ周辺部の厚みを薄くする(図2c)ことにより,安定位置が改善された(図5b).このようなレンズデザインの変更は表面への涙液循環が悪く,自覚症状として異物(45)図4大直径非球面HCL周辺部のアライメントゾーンの曲率を変えた際のフルオレセインパターンa:周辺部の染まりはやや狭い.b:周辺部において適度な染まりがある.c:周辺部の染まりはやや広い.周辺部スティープ周辺部パラレル周辺部フラットabc図5レンズ周辺部の厚みを薄くすることによる安定位置の改善a:修正前,b:修正後.ab———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007感や充血などを訴える症例に対してその改善が期待される.II強度角膜乱視用レンズサ社の強度角膜乱視用レンズ(サンコンマイルドⅡツインベルベベルトーリックタイプ)は,ベベル形状を強弱両主経線の形状に合わせたベベルトーリックデザインを用いている(図6)7).光学部は球面であり,ベベルは弱主経線方向から強主経線方向の円周方向にカーブが段々と小さくなり,強主経線方向が一番小さくなるよう2つの中間カーブがトーリックに設計されている.このデザインにより,全周のベベル幅が均一になりやすく,直乱視の3-9時方向の圧迫が少なくなり,その結果,異物感の軽減,および良好な涙液交換と中心安定性が得られる.III遠近両用レンズエ社の遠近両用レンズ(DOCTOR?SEX-GタイプMF)は,中心が遠用光学部,周辺が近用光学部である(図7).近方を重要視する際には近用光学部を広く変更したり(図7a),逆に遠方を重要視する際には遠用光学部を広く変更したり(図7b),中間距離だけが見にくい場合には,移行部パワー分布をなだらかにしたりするオプションもある(図7c).また,加入度数を変えてオーダーすることもできる.IV円錐角膜用レンズ円錐角膜や角膜移植後などの角膜の中央部と周辺部の曲率の差が大きい症例では,ケラトメータでは角膜形状の測定が困難な場合もあり,このような角膜不正乱視の(46)図6強度角膜乱視用ベベルトーリックCLa:本CLの模式図.IC:Intermediatecurve,PC:Peripheralcurve,OZ:Opticalzone.b:強主経線方向のベベル形状.c:弱主経線方向のベベル形状.PCICⅢICⅡICⅠ強主経線方向の断面図弱主経線方向の断面図OZベベルaフロントベベルbc———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???強い症例に対するオーダーメイドHCLの利用価値は大きい.このような症例では,トライアルアンドエラーによる処方は大変煩雑であり,角膜形状写真解析から得られるレンズデータの精度は高い(図8).サ社にはエムカーブタイプ,エ社にはDOCTOR?SEX-GタイプKCという円錐角膜用特殊レンズがそれぞれあり,高度な円錐角膜まで対応できる.ところで,筆者らはエ社とともに,レンズの下方が浮いて2点接触法になり,CLが外れやすく,良好な装用感が得られにくい高度な円錐角膜症例に対して,新しいコンセプトのHCLを開発した(図9).本CLは上下左右で曲率の異なるデザインであり,レンズ下方での浮きを防ぐためにトランケーションを用い,また,レンズの回転を防ぐためにプリズムバラストを用いた.良好なフィッティングに至るまで,トランケーションの高さやエッジリフトを変更したりするなど,何度もトライアルアンドエラーを要したが,最終的には良好な装用感が得られた.本報告は「Clinicalperformanceofprismballasted-truncatedtoriccontactlensforadvancedkeratoconus」として2007年に米国で開催されたGlobalKeratoconusCongressのポスターコンペティションにて3位に入賞し,レンズデザインのアイデアやレンズの設計加工技術は世界にも評価を受ける高い水準にあることが示されている.おわりに昨年からCLは「高度管理医療機器」に指定され,リスクレベルが最高の医療機器であると認識されており,HCLはそのデザインを個々の症例に合わせるような医療機器であるのが本来の姿である.わが国のCLメーカーは特にHCLに関して高度な技術を有している.処方(47)図8サ社のフルオシミュレーションと実際の装用パターンレンズシミュレーションデータ(a)は,実際のフィッティングパターン(b)の特徴を表している.ab図7遠近両用CLの度数分布の変更中心エリア(mm)周辺レンズ度数(D)baca:遠用重視b:中間距離重視c:近用重視近用光学部遠用光学部累進移行部———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007(48)する側も,さまざまなデザインに関する高度な知識を習得し,そのなかから適切なデザインを選択する高度な処方能力が望まれる.最適なCLを提供するオーダーメイドCLの処方には,個々の症例の自覚症状やフィッティングをレンズデザインにフィードバックする姿勢と手間が医師にも求められる.文献1)FujitaH,SanoK,SasakiSetal:Oculardiscomfortattheinitialwearingofrigidgaspermeablecontactlenses.????????????????48:376-379,20042)小玉裕司:コンタクトレンズフィッティングテクニック.メディカル葵出版,20053)村上正建,稲垣恭子,三枝淳子ほか:ハードコンタクトレンズの下方固着解消の一方法について(第Ⅱ報).日コレ誌25:251-256,19834)KokJHC:AEuropean?ttingphilosophyforaspherichigh-DkRGPcontactlenses.??????18:232-236,19925)藤田博紀,馬場富夫,佐野研二ほか:大直径非球面ハードコンタクトレンズの初装時における異物感の評価.あたらしい眼科24:835-837,20076)猪原博之,前田直之,渡辺仁ほか:非球面デザインレンズと球面デザインレンズが角膜形状に与える影響.日コレ誌40:206-210,19987)小玉裕司:ベベルトーリックハードコンタクトレンズの紹介.あたらしい眼科23:861-865,2006図9新しいデザインの円錐角膜用CLa:本CLの模式図.b:高度な円錐角膜症例の角膜形状.c:従来の球面CL装用による2点接触法.d:本CL装用時.cbd270°180°0°ABCDベベル側面視正面視プリズムバラストトランケーション(ベースカーブ:A≧B≒C≫D)90°a

進化するコンタクトレンズ素材-水との共生-

2007年6月30日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS水との共生」である.本稿では各種CL素材の性質と,それに施された乾きへの対策や水濡れ性向上技術について解説する.それぞれのCL素材の特徴をつかんで,症例ごとにCL素材を使い分けていただければ幸いである.I非含水性HCL素材1.酸素透過性HCL素材の変遷CLの素材は,ほぼ100%有機化合物である.まったく含水せず,まったく弾性をもたないCL用有機化合物というのも実はないのであるが,ここでは一般にイメージされる硬質素材の酸素透過性HCLを想定して,非含水性HCL素材とよぶ.非含水性HCL素材は,1970年前半くらいまで,ポリメチルメタクリレート(図1)が主として用いられてきた.ポリメチルメタクリレートは,安価なうえ,安定しており,さらに優れた光学特性を有するため,現在でも眼内レンズ素材として一定の需要があるのはご承知のとおりである.水に対する接触角が60~70?程度の水濡れ性を示し,親水性のための表面はじめにコンタクトレンズ(CL)が角膜の生理に及ぼす影響を最小限にとどめるためには,その良好な水濡れ性が欠かせない.この30年間,機能性高分子としてのCL素材の酸素透過性能は至上命題とされ,ハードCL(HCL)素材を中心に飛躍的に進歩したが,その一方でCLの水濡れ性の悪化が指摘されてきた.すなわち,1975年ごろ登場したセルロースアセテートブチレートから,酸素拡散係数の非常に高いシリコーン系素材や,酸素溶解係数の高いフッ素系素材への変遷がみられ,酸素透過性素材開発の一定の方向性が示されるなか,これらシリコーンもフッ素系素材特有の強い撥水性がHCLの不良な水濡れ性をひき起こしてしまったのである.一方,酸素が水を担体として運ばれる含水性ソフトCL(SCL)素材の酸素透過性は,その含水率に依存し,1960年に登場したポリヒドロキシエチルメタクリレートから,これにメタクリル酸を組み合わせたり,?-ビニルピロリドン,ジメチルアクリルアミドを用いたりして,ヒドロゲル(以下,ハイドロゲル)素材の高含水化を図る方向で改善されてきた.こうした高含水SCLでは乾きやすさが問題となり,さらに最近では,ハイドロゲルの高分子網目構造自体に,超酸素透過性ではあるが撥水性かつ親油性のシリコーン誘導体を導入したシリコーンハイドロゲルレンズが登場し,やはり,その水との相互作用にフォーカスが当てられるようになった.CL素材開発における現在のトレンドは「CL素材と(29)???*KenjiSano:あすみが丘佐野眼科/東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学〔別刷請求先〕佐野研二:〒267-0066千葉市緑区あすみが丘1-1-8ビアブルック3Fあすみが丘佐野眼科特集●コンタクトレンズの流れを読むあたらしい眼科24(6):723~735,2007進化するコンタクトレンズ素材─水との共生─?????????????????????????????????????佐野研二*CCOOCH2CH3CH3図1メチルメタクリレート重合させてポリメチルメタクリレートとなる.PMMAと略される.優れた光学性能をもつ.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007処理も必要としなかったため,研磨による屈折度数の調整やベベルの切削なども容易であったが,酸素透過性をほとんどもたないというCL素材としては決定的な弱点があった.この時代,メニコン8(エイト)などのレンズ直径を小さくして角膜への酸素供給を考慮した,ポリメチルメタクリレート製のいわゆるマイクロレンズが一世を風靡したことを知る方も多いと思う.1975年ごろ,本格的な酸素透過性HCL素材が登場してくる.セルロース(図2)を酢酸や酪酸とエステル化させたセルロースアセテートブチレート(CAB)である.酢酸などと完全にエステル化されるわけではなく,残存する-OH基によって親水性を保たせることができる.しかしながら,耐久性に劣り使われなくなった.今後,使い捨てCLには応用する余地があるかもしれない.1980年代になると,シロキサニルメタクリレートなどのシリコーン系素材が登場する(図3~5).シリコーン系素材は,Siのまわりの側鎖の回転エネルギーがきわめて低く,容易に回転する側鎖の間隙を酸素分子が大玉送りのように移動する.酸素透過係数,いわゆるDk値は酸素拡散係数と酸素溶解係数の積であるが,シリコーンでは,酸素の拡散係数が非常に高い.撥水性かつ親油性である.この頃,フルオロアルキルメタクリレート(図6)に代表されるような含フッ素化合物(図7~9)もCL素材として登場する.フッ素原子はあらゆる元素のなかで最も電気陰性度が高く,分極率が小さいため,これを用いた素材の表面エネルギーはきわめて低くなり,酸素溶解係数が高くなる1).また,含フッ素化合物は脂質を寄せつけず,耐汚染性に優れるという長所もある2).現在では,酸素透過性HCL素材としてシリコーン系と(30)CCCCCCCCCCOOOOCH2OHCH2OHOHOHOHOHHHHHHHHHHH図2セルロースアセテートブチレート酢酸や酪酸とエステル化してセルロースアセテートブチレートを作る.CABと略される.耐久性,耐汚染性に欠ける.図3ペンタメチルジシロキサニルプロピルメタクリレートシリコーン系.Siの側鎖の回転エネルギーはきわめて低く,ぐるぐる回転するため,その間を酸素が透過していく.すなわち,酸素拡散係数が非常に高い.CCOOSiSiOCH3CH3CH3CH3CH3CH2(CH2)3CH3図4トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルメタクリレート回転エネルギーが低いSiの多さに注目.最近,シリコーンハイドロゲルレンズによく使われることで注目されている.CCOOCH2CH3SiSiOCH3CH3CH3SiCH3CH3CH3O(CH2)3CH3SiCH3CH3CH3図5メチルジ(トリメチルシロキシ)プロピルグリセロールメタクリレート側鎖が長く,酸素が透過できる間隙が大きい.その分,耐衝撃強度は低下する.CCOOOCH2CH3CH2CH2CH2CH2CH2CHOHSiOSiOCH3CH3CH3CH3SiCH3CH3CH3———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???フッ素系素材の共重合体がよく用いられている.2.酸素透過性HCL素材と親水処理シリコーン系もフッ素系も強い撥水性のため,表面にプラズマ処理を施したり,架橋剤に極性をもった親水性のモノマーを用いたり(図10,11)して,少しでも,水濡れ性を高める工夫が施されることが多い.プラズマとは,物質の気体状態にさらに温度を上げた場合に原子の状態を保つことができなくなって裸の原子核と電子となる状態を言い,CLの表面プラズマ処理には通常,有機化合物の気体を用いて,これをCL表面という基板に析出させている.ピンホールのない均質な親水性の超薄膜を作ることができるが,空気中では親水基が素材の中に潜り込んでしまい,レンズ表面が涙液で覆われていないと撥水性のCL表面が露呈されてしまう(図12).数カ月たった酸素透過性HCLの表面が,開瞼した直後から涙液層が破綻していく様子を,スリット上でよく観察す(31)図6フルオロアルキルメタクリレート含フッ素重合体では,フッ素のもつ表面エネルギーが非常に低く,安定しているうえに,分子間隙が広くなるため酸素がよく透過する.すなわち,酸素溶解係数が高い.CCOHOCH2CH3(CH2)n(CF2)m図7トリフルオロエチルメタクリレートフルオロメタクリレート系素材の最もシンプルな構造をもつ.重合しやすい.CCOOCH2CF3CH2CH3図8ヘキサフルオロイソプロピルメタクリレートトリフルオロエチルメタクリレートよりもフッ素の密度が大きくなっている.CCOOCHCF3CF3CH2CH3図9パーフルオロオクチルエチルメタクリレートヘキサフルオロイソプロピルメタクリレートよりさらにフッ素の密度が高くなり,側鎖も長くなって分子間隙が広くなる.CCOO(CH2)2(CF2)7CF3CH2CH3図10?,?¢-メチレンビスアクリルアミドエチレン系モノマー.高分子の合成において最もよく使われるラジカル重合の際の架橋剤としてよく使われる.極性をもち,親水性である.CHCNOHNHCCHOCH2CH2CH2CCOOOCOOCH2CH2CH3CH2CH3CH3図11エチレングリコールジメタクリレートジビニル化合物の架橋剤.架橋剤の濃度は高分子の理工学的性質に大きな影響を与える.図12プラズマ処理後のもぐりこみ効果高分子構造のなかでSiの側鎖や線状ポリマーの主鎖のまわりの親水基は,乾くと素材内に埋没してしまう.水中空気中疎水性CL親水基———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007ることと思う.こうした親水基の潜り込み効果を避けるために,親水性モノマーをHCL表面にグラフト重合する試みも行われている(図13)3).グラフト重合によって,水に対する接触角は改善し(図14),レンズ上の涙液層破壊時間(BUT)も延長している(図15).また,素材によらず,HCLのベベル修正で,ある程度レンズ表面に涙液を誘導して乾きを抑制することもできる(図16).具体的にはベベル研磨によってベベル幅を狭くし,エッジの浮き上がりを少なくするが,職人芸を必要とするため,筆者は何度もレンズをダメにしている.自分で加工するのが億劫な場合や自信のない場合,(32)図13親水性モノマーのグラフト重合レンズ表面に親水性モノマーをグラフト重合して,親水性のコーティングを施されている.SEEDS1に搭載.ラジカル重合種レンズ断面水膜層中を揺れ動く,親水性グラフト高分子鎖親水性グラフトにより形成された水膜層図14親水性モノマーをグラフト重合させたRGPL表面の水に対する接触角100806040200グラフト処理処理なしグラフト処理処理なし*,**:p<0.01気泡法**液滴法*水に対する接触角(度)グラフト重合ありBUT=7secグラフト重合なしBUT=3sec図15親水性モノマーグラフト重合親水性HCLのBUT図16HCLのベベル調整(写真提供:小玉裕司氏)HCLでは,素材選択の他に周辺デザインなどを調整することによって,ある程度,レンズ上の乾きを潤すことができる.しかし,ここまでやってCL検査料112点(一般眼科)とはいかがなものか.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???オーダーメイド的にデザインを変えられるシステムを,サンコンタクトレンズ社,エイコー社,ニチコン社などが用意しているので相談するのも良い.また,酸素透過性素材は,水蒸気も多く透過する場合が多いのであるが,乾きの自覚が強い場合,レンズサイズを大きくすると涙液蒸発も抑えられ,症状が改善する場合もある.なお,サンコンタクトレンズ社から最近,代用血漿,血流改善剤として用いられる超親水性多糖類のデキストランを配合したサンコンマイルドEpiが発表されているので,レンズデザインも含めて同社にコンサルトするのも良いかと思う.私見であるが,表1に酸素透過性HCLの選び方をまとめた.II非含水性SCL素材非含水性SCL素材とは,軟性で,ほとんど含水しないCL用高分子をいう.1978年にシリコーンラバーレンズ(図17)が登場したが,その超撥水性と易汚染性からスタンダードになりえなかった.これまで唯一実用に成功した非含水性SCLは,わが国から発信された,ブチルアクリレートとブチルメタクリレートの共重合体4,5)からなるソフィーナ?だけである.筆者は,現在でも顔面神経麻痺による兎眼患者に,このソフィーナ?を装用してもらっている.しかし,残念ながら生産が打ち切られてしまった.これに代わるレンズがなく,スペアレンズがなくなったらどうしようかと大変困っている.筆者らも,ヘキサフルオロプロピレンとビニリデンフルオライドの共重合体とエチルメタクリレートおよび2-エチルヘキシルアクリレートを組み合わせて,新しい非含水性SCL素材(図18)を合成し2),ソフィーナ?の素材を上回る酸素透過性と水濡れ性(表2)を達成して,その実用化への可能性を模索したが叶わなかった.多数のベースカーブを揃えても,なお,フィッティングがむずかしかったり,良好な涙液交換がむずかしかったりと,さまざまな難点があるが,顔面神経麻痺やドライアイ患者など,一定の需要があるはずなので,今後ぜひ復活してもらいたい分野である.図19は,CIBAVision社の松沢康夫氏に,シリコーンハイドロゲルレンズのO2OPTIXTMの素材からハイドロゲル成分を除いて作っていただいた非含水性SCLである.含フッ素素材でもあり,シリコーンの親油性と易汚染性を打ち消すバランスのとれた超酸素透過性フルオロシリコーン系素材である.ベースカーブは8.60mmで,平均的角膜形状の筆者には快適なレンズであるが,(33)表1酸素透過性HCLの選択涙液蒸発亢進型ドライアイ?サイズ指定のできるレンズサンコンマイルドⅡメニコンEXおよびZエスタージュEXツインベルⅡBUT短縮型ドライアイアレルギー結膜炎?水濡れの良いレンズSEEDS1サンコンマイルドEpi(デキストラン含有)ニチコンうるるUV離心率,ベベルデザインを指定できるオーダーレンズサンコンカスタムメイドレンズドクターズEX-GタイプLDニチコンEX-UV図17シリコーンラバーレンズ素材ポリジメチルシロキサン.Dk値(酸素透過係数)は500もあるが,超撥水性,親油性である.SiOCH3CH3SiOCH3CH3SiOCH3CH3SiOCH3CH3SiOCH3CH3SiOCH3CH3SiCH3CH3図18フッ素系ラバーレンズ素材ヘキサフルオロプロピレン/ビニリデンフルオライドの共重合体をエチルメタクリレートおよび2-エチルヘキシルアクリレートとともに重合した.———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007市販化となるとベースカーブをHCL並みに揃えなければならず,市場経済主義の過酷さに耐え切れずにソフィーナ?の生産をやめてしまった同社の決断を促す道のりは遠い.III含水性SCL素材1.ゲル素材のCLへの応用とその進化ここでいう含水性SCL素材とは,ハイドロゲルのことをいう.ゲルとは,高分子が架橋されて三次元の網目構造を作り,それが水などの溶媒を吸収,膨潤したものと定義される.ゲルがCLに応用されたのは,1960年,チェコスロバキアのオットー・ビヒテルレ博士らの開発したハイドロゲル素材,ポリヒドロキシエチルメタクリレートに始まる.このハイドロゲルレンズは,その後,10年足らずの間に市販化されることとなるが,それ以前のCL素材の代表格であるポリメチルメタクリレートに比べ,酸素をよく通した(ポリメチルメタクリレートとはいえ,酸素透過性はゼロではない).ハイドロゲル内で,水は分子空間を形成している高分子鎖の親水基と水素結合している結合水部分と,分子空間の中を自由に移動できる自由水とに分けられ,ゲルの含水率が二十数%を超えると自由水が生じ始めるとされる(図20,21).この自由水に酸素分子が溶解し,高分子鎖の三次元網目構造の中を移動することにより,ハイドロゲルの酸素透過性が獲得される.当時,ポリヒドロキシエチルメタクリレートを用いたSCLは,臨床的な意味での初の酸素透過性CLとしても注目されたのである.その後,ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)以外に,ジメチルアクリルアミド(DMA),?-ビニルピロリドン(NVP),メタクリル酸(MAA),ポリビニルアルコール(PVA)を組み合わせて素材の含水率を上げ,高酸素透過性を獲得していった.ちなみに,PVAはポリ酢酸ビニルを加水分解して合成するため,ビニルアルコールというモノマーは実存しない.これらのモノマーやポリマーを組み合わせて,多様な含水率,フレキシビリティ,強度をコントロールすることができ,高酸素透過性SCLである高含水ハイドロゲルレンズが成型される(図22).ただし,MAAなどの帯電しているモノマーを一定量以上用いたイオン性ポリマーは,膜強度に優れ,水濡れ性もよくなる一方で,蛋白質が付きやすく,ソリューションの浸透圧やpHに対して含水率が変(34)表2非含水性SCL素材の理工学的性質と架橋剤Sample123ゴム硬度35.8±0.838.8±0.844.6±2.0Dk値*60.8±1.656.0±2.041.7±1.5屈折率(n20D)1.380±0.0011.377±0.0011.378±0.001水に対する接触角(?)79.8±3.880.2±1.881.0±4.5破断強度(g/mm2)2,5001,4001,300モノマー溶出率(wt%)0.0180.001未満0.001未満*Dk値単位:×10-11(cm2/sec)・(m?O2/m?×mmHg).架橋剤のペンタエリスリトールテトラアクリレートの量を,モノマー全体量に対して1,3,5wt%となるように3種類のsample1,2,3を合成し,各種理工学的性質を測定した.架橋剤の量によって,フレキシビリティを表すゴム硬度,破断強度は著しく変化する.図19非含水性フルオロシリコーンSCL(プロトタイプ)含水率を低くしていくほど,酸素透過性は高くなるシリコーンハイドロゲル素材であるが,CIBAVision社にお願いして含水率をゼロにしてみた.同社のメタンプラズマコーティングを施した超酸素透過性非含水性SCLである.空気中に1時間放置しても規格は変わらず,このまま装用できる.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???(35)わりやすい6).また,涙液の安定維持に不可欠なリン脂質の分解酵素であるsecretaryphosphorlipaseA2が付着しやすいという報告もある7).2.水と高含水性SCL使い捨てCLのパイオニアでありながら,Eta?lconA1種類しか素材をもっていなかったJohnson&Johon-son社は,最近,さまざまな新しいCL素材を発表している.その一つが1DayAcuvue?MoistTMに使われているEta?lconAの改良型で,HEMAとMAAの共重合体に親水性のポリビニルピロリドンを物理的に埋包させている.Eta?lconAは,初めての使い捨てCL素材図20高分子と水の束縛状態ゲルの中の溶媒である水には,自由水,中間水,結合水の3つがある.自由水は高分子内で自由に移動し,酸素を運ぶことができる.結合水は親水性高分子に水素結合して束縛されている.中間水は温度が高いと自由水になり,低いと結合水としての挙動を示す.HHHHHHHHHHHHHHHHHHHHOOOHHHOOHHHHOOOOOOOOOO結合水中間水自由水自由水〈親水性高分子と水〉HHHHHHHHHHHHHHHHCH3CH3CH3OOOOOOOO〈疎水性高分子と水〉図22進化する含水性SCL材料左から,ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA),ジメチルアクリルアミド(DMA),?-ビニルピロリドン(NVP),メタクリル酸(MAA),ポリビニルアルコール(PVA).PVAはポリ酢酸ビニルを加水分解して合成するため,ビニルアルコールというモノマーはない.それぞれを組み合わせて,多様な含水率,フレキシビリティ,強度をコントロールすることができ,高酸素透過性SCLである高含水ハイドロゲルレンズが成型される.CCOOCH2CH3CCOO-H+CH2CHOHCH2CH3CH2CH2OHCCNOCH2HCH3CH3HEMACHNCOCH2CH2CH2CH2DMANVPMAAPVAn図21SCLの含水率とDk値一般に結合水をもつ親水性高分子の場合,含水率27%前後から,自由水が生じ,同時に酸素透過性能が現れてくる.シリコーンハイドロゲルの場合は疎水性高分子を用いているので,結合水はほとんど生じず,このグラフのようにはならないと思われる.7060403010502000含水率(%)Dk値×10-11(cm2/sec)(m?O2/m?×mmHg)102030405060708090100———————————————————————-Page8???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007として,ベースカーブを少なくするために非常に高いフレキシビリティが要求され,実際に,筆者らが円錐角膜へのピギーバックレンズシステムによく用いているように,あらゆる角膜形状に対応する能力を示す.しかし,一方でこの軟らかいレンズは,装用後,大気に触れ,瞬目などのストレスによって含水率は低くなる傾向もあり,そこにしっかりとした構造をもつ超親水性ポリマーのポリビニルピロリドンが物理的に組み込まれた意味は大きい.しっかりとした保水性をもったハイドロゲルレンズとなっている.一方,ポリビニルアルコールを素材とするDailies?Aquaもユニークなレンズである.ポリビニルアルコールは優れた生体適合性をもち,人工硝子体や人工血管にも用いられるハイドロゲルで,表面が非常に滑らかな素材である.前述したように,ポリ酢酸ビニルを加水分解して合成するため,素材を,高分子レベルで,結晶の並びを変えたり,結晶化度などを高めたりすることができ,レンズの厚みに頼らずに,硬さ,軟らかさのコントロールがしやすい.Dailies?Aquaでは,Dailies?のポリビニルアルコールの分子量を変え,装用すると,潤滑剤としてのポリビニルアルコール分子をリリースし,角膜を保護する役目を担わせている.また,わが国では未発表であるが,2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)(図23)を混合した含水性SCLもCooperVision社から米国などでは発売されている.MPCは1978年,東京医科歯科大学医用器材研究所の中林教授らによって合成された生体細胞膜模倣材料であり,このときは1gしか合成できず,大量生産には程遠い状況であったが,現在ではあらゆる人工臓器に使われている.細胞膜を構成するリン脂質極性基をもつレシチンと構造が非常に似通っている.水濡れ性がよく,内径2mmの人工血管を可能にするほど生体成分(蛋白質など)との相互作用が非常に少ない素材である.ドライアイの屈折矯正に有効なことは間違いなく,わが国での発表が待たれる.また,SEED2weekPureの素材は,メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライドのN+と,2-メタクリルオキシエチルサクシニックアシドのカルボキシル基(COOH)がCOO-のように電離することにより,極性を維持しながら電気的に中性を保つ.MPC同様,生体膜蛋白質構造によく似るユニークな素材である(図24).IVシリコーンハイドロゲルCL素材1.酸素透過性高分子とハイドロゲルの融合想像上のCL,AllWaterLensが存在したとしてもDk値は80を超えないのであるから,含水性SCLにさらなる高酸素透過性能を求めるならば,ゲルの骨格となる高分子網目構造の部分に,前述した酸素透過性HCL素材の酸素透過機序を持ち込まざるをえない.すなわち,シリコーン系材料か含フッ素材料のハイドロゲルへの導入である.こうした酸素透過性素材はもともと強い撥水性をもち,これがうまくハイドロゲルと融合することができれば,CLに必須である良好な水濡れ性の獲得にも繋がるのであるが,撥水性のものと親水性のものは(36)図232-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)1978年,東京医科歯科大学医用器材研究所の中林らによって合成された生体細胞膜模倣材料.リン脂質極性基をもつレシチンと構造が非常に似通っている.内径2mmの人工血管を可能にする,生体成分(蛋白質など)との相互作用が非常に少ない生体適合性に優れた有機化合物である.OCCOCH2CH2CH3CH3CH3CH3CH2OOPOCH2CH2N+O-メタクリロイル基ホスホリルコリン基図24両性イオン性含水性素材SEED2weekPureのformulation.N+と,カルボキシル基(COOH)がCOO-と電離することにより,極性を維持しながら電気的に中性を保つ.MPC同様,生体膜蛋白質構造によく似るユニークな素材である.CCONHCH2CH2CH2CH2CH3CH3CH3N+Cl-H3CCCCOOOOHOCH2CH2CH2COCH2CH2H3Cメタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド2-メタクリルオキシエチルサクシニックアシド———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???混ざりにくく,同時に共重合しても,なかなか透明にならない.物質が透明性を保つためには規則正しい均一な構造が必要であるからである.性質の異なる種類の高分子は通常,水と油のように非相溶であり,ブレンドすると相分離することが知られている.しかしながら,ブロックコポリマーは,高分子が化学的に結合されているために水と油のようにマクロなスケールで分離することができない.その結果,ミクロ相分離構造とよばれる10nm~1?mスケールの自己組織化された相分離構造が作られ,それぞれの高分子の利点をもった透明な高分子が完成する(図25).将来的に無重力の宇宙ステーションの中でCL素材を合成できれば,素材開発の自由度も相当広がると思うのであるが,頻回交換レンズとして,地上での大量生産が必要な現状では,各レンズともに酸素透過性シリコーン誘導体とハイドロゲルの良好な融合のためにミクロ相分離構造の概念を用いている.また,各レンズの親水性獲得のための手法もアプローチが異なり興味深い.2.O2OPTIXTM海外では30日連続装用CLとして,Night&Day?の名称で1999年に発売されたわけであるから,わが国では最新のトピックスのように扱われているシリコーンハイドロゲルCLも,もうすぐ10年の歴史をもつことになる.内外の学会レベルでは,メニコン社もシリコーンハイドロゲル素材を登場させていたが,シリコーンハイドロゲルCLに関する特許はO2OPTIXTMの製造元のCIBAVision社が広く握っており,他社はその開発販売に苦労していることはよく知られている.O2OPTIXTM素材の特筆すべき点はシリコーン誘導体の欠点である親油性を,撥油性のフッ素を用いて耐汚染性,耐劣化性を改善している点である(図26).筆者が仕事をしていた東京医科歯科大学医用器材研究所(現医用材料工学研究所)では,フッ素系素材の安定性,撥油性,酸素透過性に着目した研究を得意としていたが,(37)図25ミクロ相分離構造性質の異なる種類の高分子は通常,水と油のように非相溶であり,ブレンドすると相分離することが知られている.しかしながら,ブロックコポリマーは高分子が化学的に結合されているために水と油のようにマクロなスケールで分離することができない.その結果,ミクロ相分離構造とよばれる10nm~1?mスケールの自己組織化された相分離構造が作られ,それぞれの高分子の利点をもった透明な高分子が完成する.ハイドロゲル相自由水の移動シリコーン相高酸素透過性ionO2図26O2OPTIXTMの素材シリコーン誘導体の欠点である親油性を,撥油性のフッ素を用いて耐汚染性,耐劣化性を改善している.ハイドロゲルにDMAを用いたのは両者ともメチル基が多く相性が良いのであろう.CCNOCH2CH2RCH3CH3CH3CH3DMAOOOOOOHOSi(CH3)3Si(CH3)3Si(CH3)3SiOSiCH3CH3Siシリコーン・モノマーフルオロシリコーン・マクロマーTRISNCOOlml3HNCOOCH23CH2CH2CH2CF2CF2CF2CH3CH3HOSiCH3CH3SiNCOOHNNHCCOOOOOnCF2CF2O3HNCOOOOCH23———————————————————————-Page10???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007その視点からみると,O2OPTIXTMは非常にユニークで,フッ素系シリコーンハイドロゲル素材,すなわちフルオロシリコーンハイドロゲルCLとよぶべき,いまだに新鮮さを放つ素材である.24%という含水率の低さも乾きを感じさせず,平均的なオキュラーサーフェス形状をもつものにとっては,最高のレンズだと思う.ただ,ハイドロゲルにDMAを用いたのは両者ともメチル基が多く相性が良いからなのであろうが,架橋を緩くするとか,シリコーン誘導体のformulationを改良するとかして,もう少しレンズにフレキシビリティが欲しい.それでなければ,デザインを改良するか,ベースカーブをもう一段大きなものを用意しないと,曲率の大きな角膜形状には対応しきれない.親水処理は,松沢8)によって開発されたメタンプラズマコーティング(図27)とよばれるユニークな手法がとられている.メタンガスに空気を入れてプラズマコーティングしたところがポイントで,20nmという,超薄膜でありながら,C,N,Oを基盤上に析出させ,重合化,超親水化に成功している.正しくはメタンガス・エア・プラズマコーティングとよぶべきであろう.この超薄膜超親水化技術は,あらゆる撥水性素材のCLへの応用を可能とさせうるばかりか,CL以外のさまざまな分野へ応用可能と思われる.3.PureVision?わが国では連続装用専用シリコーンハイドロゲルCLとして登場した.現在発売されているシリコーンハイドロゲルCLのなかで,唯一のイオン性素材であるが,基本的にケアソリューションを使わない「狭義の使い捨てCL」として使用される分には大きな問題はないと思う.基本的に非イオン性素材にフォーカスを当ててきたBausch&Lomb社が,あえて,このレンズをイオン化させたのは,おそらく,フレキシビリティと親水性を付与させたかったのではないかと推察する.イオン性モノマーの導入という極性をもたせることによって,蛋白質が付着しやすくなったり,ソリューションに敏感になったりするデメリットもあるが,もともと,このレンズはケアしないことが前提なので,ケアによる付着蛋白質の変性といった心配はなく,むしろ,シリコーン誘導体特有の強い撥水性を抑えるというメリットが上回るかもしれない.イオン性で含水率36%ともなると,適度な軟らかさをもち,シリコーンハイドロゲルの本来の硬さを上手く緩和している.また,親水性処理は反応ガスとして酸素を用いたプラズマ処理を施している.前述した親水基のもぐり込み効果の出現が想定されるが,使い捨てCLとして1週間装(38)重合反応(モノマー)20nm程度の親水性超薄膜(C,N,O)の形成Mi(MiMkMk)M*kM*iグロー放電(メタンガス+空気)図27メタン・プラズマコーティングメタンガスに空気を入れてプラズマコーティングしたところがポイントである.20nmという,超薄膜でありながら,C,N,Oを基盤上に析出させ,超親水化に成功している.この超薄膜超親水化技術は,さまざまな分野へ応用可能と思われる.図28PureVision?の素材疎水性シリコーン誘導体のTRISに親水性のNH基を取り付けることに成功してNVP,HEMAとの相性を改善させている.TRISVC(TRIS誘導体)CCOOCH2CH3CH2CH2OHHEMACHNCOCH2CH2CH2CH2NVPOOOOOSi(CH3)3Si(CH3)3Si(CH3)3SiOOOOHNOSi(CH3)3Si(CH3)3Si(CH3)3SiTRIS———————————————————————-Page11あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???用する分には問題ないだろう.さらに,疎水性シリコーン誘導体のTRISに親水性のNH基を取り付けることに成功して,ハイドロゲルのNVP,HEMAとの相性を改善させていることも特筆すべき点である(図28).4.Acuvue?AdvanceTMとAcuvue?OasysTMEta?lconA1種類の素材を,厚さを変え,デザインを変え,さまざまな付加価値を与えて多数のレンズラインアップを作ってきたJohnson&Johonson社であったが,先日,Acuvue?AdvanceTMとAcuvue?OasysTMという2種類の異なる素材のシリコーンハイドロゲルCLを同時発売して話題をさらった.ソリューションを用いてケア消毒をする頻回交換CLでは非イオン性が望ましく,今回登場したこれら2種類のレンズは,ともに非イオン性素材である.米国ではAcuvue?AdvanceTMが先発で,Acuvue?OasysTMが後発であるが,OasysTMを単により乾きにくく酸素透過性の高いプレミアムレンズバージョンと位置づけるのには,少々AdvanceTMをunderestimateしており,このAdvanceTMにはこのレンズ特有の長所がある.47%の含水率はシリコーンハイドロゲルCLとしては,注目すべき含水率の高いCLであり,ミクロ相分離構造のうち,ハイドロゲル相のイオン透過性能も十分機能していると思われる.すなわち,酸素が溶解した水の移動とともに,さまざまな物質の十分な交換も期待できるわけである.また,最も軟らかなシリコーンハイドロゲルCLとして,2種類のベースカーブを利用すれば,どんな角膜形状にも対応できる.高分子学的には,Acuvue?AdvanceTMは疎水性シリコーン誘導体のTRISに親水性のOH基を取り付けることに成功して,NVP,DMA,HEMAとの相性を改善させている(図29).Acuvue?OasysTMはさらにシリコーンの量を増やして酸素透過性能を高め,同時に良好なフレキシビリティの獲得に成功している.UsanCouncilのホームページからAcuvue?OasysTMの化学構造を読み取ると,シリコーン誘導体の側鎖を伸ばしていることがわかる.このレンズが,含水率38%という見かけの数値以上に軟らかく,酸素透過性能に優れているのは,シリコーン誘導体の側鎖が長くなることによって,酸素が透過する間隙が大きくなり,良好なフレキシビリティを獲得しているからである.親水処理には,もともと含水率を高く設定し,前述し(39)図29Acuvue?AdvanceTMとAcuvue?OasysTMの素材疎水性シリコーン誘導体のTRISに親水性のOH基を取り付けることに成功して,NVP,DMA,HEMAとの相性を改善させている.Acuvue?OasysTMはさらにシリコーンの量を増やして酸素透過性能を高め,同時に良好なフレキシビリティの獲得に成功している.SiGMA(TRIS誘導体)OOOOOSi(CH3)3Si(CH3)3Si(CH3)3SiOOOOOHOSi(CH3)3Si(CH3)3CH3SiTRISCCOOCH2CH3CH2CH2OHCCNOCH2RCH3CH3HEMACHNCOCH2CH2CH2CH2DMANVP———————————————————————-Page12???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007たようにシリコーン誘導体にOH基を導入したうえに,超親水性ポリマーであるHydraclearTM(ポリビニルピロリドン)を二相性ミクロ相分離構造のハイドロゲル部分に埋包させている(図30).NVPをポリマー状態で,レンズの主成分となるモノマーと重合させる手法は,筆者らがフッ素系非含水性SCL素材を合成したときと同じ方法である2)が,素材の十分な光線透過率を獲得するためにも有効な手段であると思う.涙液などで濡れた雰囲気のなかで,HydraclearTMはレンズ表面に顔を出し,非常に良好な親水性を示す.筆者が2週間装用した後,乾燥させて生理的食塩水を滴下すると接触角は約30?,再び生理的食塩水に浸漬して測ると接触角は0?となった(図31).また,HydraclearTMの成分であるポリビニルピロリドンの保水能力は非常に高いので,レンズ自体の含水率保持能にも貢献しているはずである.Acuvue?OasysTMは,含水率38%という見かけの数値以上に軟らかく,酸素透過性能に優れているため,筆者らは,よくピギーバックレンズシステムに利用している.Acuvue?OasysTM(-0.50D)のフレキシビリティと親水性は素晴らしく,円錐角膜に容易にフィットするうえ,メニコンZ(-3.0D)との組み合わせで,Dk/t値は計算上67.6となり,数値上は連続装用も可能である(図32).装用感は1DayAcuvue?MoistTMに匹敵し,ランニングコストもこちらのほうが安い.(40)図30HydraclearTMによる親水化へのアプローチ超親水性ポリマーであるHydra-clearTM(ポリビニルピロリドン)を,二相性ミクロ相分離構造のハイドロゲル部分に物理的に埋包させた.涙液などで濡れた雰囲気のなかではHydraclearTMは表面に顔を出し,親水性を高める.(文献8より)図31HydraclearTM(PVP)による親水化Acuvue?OasysTM&AdvanceTMに搭載.2週間装用後,乾燥生理的食塩水に対する接触角:約30?2週間装用後,乾燥後,再び含水生理的食塩水に対する接触角:0?gnizilituSLBPgnizilituSLBP8891ecnisLCSD8891ecnisLCSD図32Acuvue?OasysTMとメニコンZによるピギーバックレンズAcuvue?OasysTM(-0.50D)のフレキシビリティと親水性は素晴らしく,円錐角膜に容易にフィットするうえ,メニコンZ(-3.0D)との組み合わせで,Dk/t値は計算上67.6となる.装用感は1DayAcuvue?MoistTMに匹敵する.———————————————————————-Page13あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???(41)おわりに私見を交えて,HCL同様,素材からみたSCLの選択の仕方を図33に示した.シリコーンハイドロゲルCLとひとまとめのカテゴリーで表しているが,そのなかでも三者三様,性質は微妙に異なっているのは解説したとおりである.症例ごとに,レンズの含水率やフレキシビリティを考慮して処方していただけたらと思う.使い捨てレンズの登場と普及によって,外資系資本の勢いが止まらないが,ベースには日本の高分子化学技術が息づいている.MPCは日本油脂であるし,フッ素系素材はダイキン,シリコーン系素材は信越化学である.MPCをはじめ,生体機能にベースをおいた高分子学でもわが国は世界をリードしている9).CL保険診療の締め付けは相変わらず厳しく,一部にCL診療離れがあると聞くが,患者の良好なqualityofvisionのため,そして日本経済のためにもCL処方に前向きになっていただきたいと思う.文献1)黒川考臣:機能性ふっ素高分子.p132,日刊工業新聞社,19822)佐野研二,所敬,鈴木禎,今井庸二:フッ素系非含水性ソフトコンタクトレンズ用素材の研究.日コレ誌36:196-200,19943)佐野研二,勝山晴美,小林里津子ほか:親水性モノマーを表面にグラフト重合させた新しい酸素透過性ハードコンタクトレンズ.あたらしい眼科16:851-853,19994)住江太郎,高橋和彦,伊藤徹男ほか:新しい非含水性ソフトコンタクトレンズの研究.第1報素材の基本物性(その1).日コレ誌25:100-104,19835)住江太郎,高橋和彦,伊藤徹男ほか:新しい非含水性ソフトコンタクトレンズの研究.第2報素材の基本物性(その2).日コレ誌25:142-145,19836)佐野研二:イオン性素材─何が問題なのか.あたらしい眼科17:917-921,20007)望月弘嗣,山田昌和,大野建治ほか:ソフトコンタクトレンズに沈着したsPLA2によるドライアイ.第47回日本コンタクトレンズ学会総会抄録集,p46,20048)松沢康夫:シリコーンハイドロゲルレンズの基礎知識─表面の性質について─.あたらしい眼科22:1315-1324,20059)秋吉一成:生物の匠から学ぶナノテクノロジー.ライフサイエンスレポート1(3):183-187,2004図33SCLの選択涙液蒸発亢進型ドライアイBUT短縮型ドライアイアレルギー結膜炎シリコーンハイドロゲルCL1DayAcuvue?MoistTMDailies?Aqua1DayMedalist?PlusMPC含有レンズ(CooperVisionから発売予定)2weekPure1DayDSCL非イオン性,両性イオン性FRSCL+過酸化水素消毒+人工涙液非イオン性,両性イオン性

乾燥予防ワンデー使い捨てコンタクトレンズ

2007年6月30日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSきるだけ予防するような工夫がなされたワンデーDSCLのノウハウを紹介するとともに,その効果について考えてみたい.I乾燥防止効果を謳ったワンデーDSCLMPSにおいては名称に「モイスト」,「モイスチャー」なるものが使われて,潤い効果,つまり乾燥防止効果を謳ったものが市販されたわけであるが,ワンデーDSCLにおいても「モイスト」あるいは「アクア」という名称を付けて,乾燥防止効果を謳ったものが市販されている.1.ワンデーアキュビュー?モイストTM(図8)ワンデーアキュビュー?モイストTMにはジョンソン・エンド・ジョンソン社が独自に開発した「ラクリオン・テクノロジー」を採用し,親水性高分子であるポリビニルピロリドン(PVP)をポリマーマトリックス内に物理的な方法で閉じこめており,レンズの保湿力を長時間持続できるような工夫がなされている.ワンデーアキュビュー?モイストTMでは保存液中のPVPがレンズ内に閉じこめられており,アキュビュー?アドバンスTMやアキュビュー?オアシスTMでは製造過程においてPVPはシリコーンポリマーと混ぜてから重合されているという違いがある.はじめにソフトコンタクトレンズ(SCL)の他覚的眼障害としては,スマイルマーク点状表層角膜症(SPK,図1),ピグメンテッド・スライド(図2),エピセリアルスプリッティング(図3),周辺部角膜浸潤(図4),角膜潰瘍(図5),角膜内血管新生(図6),巨大乳頭結膜炎(図7)などがある1)が,自覚的訴えとしては乾燥感が最も多く2),マルチパーパスソリューション(MPS)も乾燥感対策としての工夫を凝らしている.乾燥感のなかには,実際にコンタクトレンズ(CL)を装用することによってドライアイ症状がひき起こされて生じるもの3),レンズの汚れによって生じるもの,レンズの収縮・変形によって生じるもの,レンズの張り付きによって生じるものなどがあり,これらが単独あるいは幾つか組み合わさってCL装用者は乾燥感を覚えるものと考えられる.よって単純に乾燥感を訴えるからといって,含水率の低いレンズに替えれば解消するというものではない.乾燥感を訴える2週間頻回交換SCL(FRCL)装用者に対して,同程度の含水率を有したワンデーSCLに変更することで解消できるケースも,実際の臨床の場ではよく経験することである.ワンデー使い捨てコンタクトレンズ(ワンデーDSCL)はMPSなどのケアを必要としない.つまり,乾燥予防をケア用品には頼ることができないわけである.そこで,各社はワンデーDSCLによる乾燥感を解消すべくさまざまな努力をしている.今回は乾燥感をで(23)???*YujiKodama:小玉眼科医院〔別刷請求先〕小玉裕司:〒610-0121京都府城陽市寺田水度坂15-459小玉眼科医院特集●コンタクトレンズの流れを読むあたらしい眼科24(6):717~721,2007乾燥予防ワンデー使い捨てコンタクトレンズ????????????????????????????????????????????????小玉裕司*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007(24)図1スマイルマーク点状表層角膜症図2ピグメンテッド・スライド図3エピセリアルスプリッティング図4周辺部角膜浸潤図5角膜潰瘍図6角膜内血管新生———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???2.フォーカス?デイリーズ?アクア(図9)フォーカス?デイリーズ?アクアにはチバビジョン社が独自に開発した「ライトストリーム・テクノロジー」が採用されている.これは原材料の精製工程を改善し高純度なポリビニルアルコール(PVA)素材を実現するとともに,写真製版を応用したマスキング・テクニックで,原材料であるPVAの架橋結合を誘発する紫外線照射をコントロールして精密かつ均一なコンフォートエッジを形成することができる.このような新しいテクノロジーを採用してレンズの質を向上させることによって,素材の保水効果を最大限に引き出し乾燥予防を図っている.IIその他のワンデーDSCL前2製品のように「モイスト」あるいは「アクア」などという名称を付けないまでも,各社はワンデーDSCLの乾燥予防効果に工夫を凝らしている.ボシュロム社のメダリストワンデープラス(図10)やクーパービジョン社のワンデーバイオメディックス(図11)では,レンズデザインに工夫を凝らしたり,保湿成分の入った保存液(ポロキサミンなどの界面活性剤を使用)を採用して乾燥予防を図っている.III乾燥予防ワンデーDSCLの効果臨床上における乾燥予防ワンデーDSCLの評価は比較的高い.ワンデーアキュビュー?とメニコンワンデー(ワンデーバイオメディックスのOEM:OriginalEquip-mentManufacturer)比較検討を行った報告4)では,自覚的な乾燥感,SCL上の涙液の干渉像のgrade,SCL上の涙液のNIBUT(non-invasivebreakuptime)のいずれにおいてもメニコンワンデーのほうが乾燥予防といった面では優れていたとしている.筆者もワンデーアキュビュー?モイストTM,フォーカス?デイリーズ?アクア,メダリストワンデープラス,ワンデーバイオメディックスをモニター12名に対して装用させ,装用直後,4時間後,8時間後に装用感,乾燥感,見え方の鮮明さについてアンケート調査を行い,それぞれの時間におけるSCL上の涙液の干渉像の(25)図7巨大乳頭結膜炎図8ワンデーアキュビュー?モイストTM図9フォーカス?デイリーズ?アクア図10メダリストワンデープラス図11ワンデーバイオメディックス———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007grade,SCL上の涙液のNIBUTを測定してみた.どのレンズにおいても4時間後,8時間後と装用感は悪くなり,乾燥感も増大してきた(図12).SCL上の涙液の干渉像のgradeについては,ワンデーアキュビュー?モイストTM,メダリストワンデープラス,ワンデーバイオメディックスは,やはり4時間後,8時間後と高くなる傾向を示したが,フォーカス?デイリーズ?アクアのみ低くなる傾向を示した(図13).SCL上の涙液のNIBUTについては,ワンデーアキュビュー?モイストTMとワンデーバイオメディックスは4時間後に短くなり8時間後に長くなるという傾向,メダリストワンデープラスは4時間後に長くなり8時間までそのまま,フォーカス?デイリーズ?アクアは4時間後,8時間後と次第に長くなる傾向を示した(図14).SCL上の涙液の干渉像のgrade,SCL上の涙液のNIBUTの結果から判断すれば,どのワンデーDSCLもそれなりに乾燥予防効果がありそうである.しかし,自覚的には装用感,乾燥感ともに,時間経過によって悪くなっているというのは,やはり乾燥感というものは前述したようにさまざまな要素が加わって生じる可能性を示(26)図12アンケート調査結果(図12~14ともにCVJ:ワンデーバイオメディックス,AC:ワンデーアキュビュー?モイストTM,B&L:メダリストワンデープラス,DL:フォーカス?デイリーズ?アクア.)快適度(点)10.09.59.08.58.07.57.06.56.05.55.00hr4hr8hrOverall0hr4hr8hrOverall0hr4hr8hrOverall装用感乾燥感見え方の鮮明さ:CVJ:AC:B&L:DL図13SCL上の涙液の干渉像のgrade2.92.72.52.32.11.91.71.510min4hrs8hrsTear?lmgrade:AC:B&L:CVJ:DL図14SCL上の涙液のNIBUT3.53.33.12.92.72.52.32.11.91.71.510min4hrs8hrsNIBUT:AC:B&L:CVJ:DL———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???唆しているものと思われる.おわりにガス透過性ハードコンタクトレンズ(RGPCL)装用者に比べて,SCL装用者における乾燥感の訴えは多いとされている2).SCL装用者におけるCL-induceddryeye3)の発症にはSCL上の涙液層の菲薄化5,6),SCL上の涙液油層の欠如7~9),SCL表面からの涙液の蒸発亢進10,11),SCL上の涙液の不安定化12)などの関与が示されている4)とのことである.ワンデーDSCLの乾燥感軽減のために,各社はレンズの材質,デザイン,PVPのレンズ内への閉じ込め,保存液中への保湿成分の添加などさまざまな工夫を凝らしている.筆者の実験は正常者をモニターとして採用しており,自覚症状と他覚検査の結果に不一致があったが,乾燥感を訴えるSCL装用者に乾燥予防ワンデーDSCLを処方すると臨床的には効果が認められる.新しい素材を使用したシリコーンハイドロゲルCLが各社から定期交換レンズ,頻回交換レンズ,連続装用レンズとして続々と市販されてきているが,将来的にはワンデーDSCLとしてシリコーンハイドロゲルCLが登場してくるかもしれない.乾燥感を訴える多くのSCL装用者に,その訴えをさらに解決できるレンズの登場が待たれる次第であり,ワンデーDSCLとしてのシリコーンハイドロゲルCLは,その可能性を秘めたレンズということができよう.文献1)小玉裕司:ソフトコンタクトレンズと眼障害.日コレ誌45補遺:S2-S5,20032)濱野孝,小谷摂子,光永サチ子:コンタクトレンズ装用と乾燥感.臨眼53:1053-1056,19993)LempMA:ReportoftheNationalEyeInstitute/Industryworkshoponclinicaltrialsindryeyes.??????21:221-232,19954)丸山邦夫,横井則彦,木下茂ほか:乾燥感の軽減を目的とした1日使い捨てソフトコンタクトレンズの比較検討.日コレ誌48:20-25,20065)濱野孝:コンタクトレンズと涙液のインターアクション.日コレ誌36:21-23,19946)NicholsJJ,King-SmithPE:Thicknessofthepre-andpost-contactlenstear?lmmeasuredinvivobyinterfer-ometry.?????????????????????????44:68-77,20037)丸山邦夫,横井則彦:コンタクトレンズ装用眼とティアダイナミクス.日コレ誌45:60-65,20038)HamanoH:Thechangeofpre-cornealtear?lmbytheapplicationofcontactlenses.????????????????????????????7:205-209,19819)GuillonJP:Tear?lmstructureoncontactlens.ThePre-ocularTearFilminHealth,Disease,andContactLensWear(edbyHollyFJ),p914-916.DryEyeInstitute,Lub-bock,Texas,198610)濱野光:Evaporimeterの眼科領域への応用.日コレ誌22:101-107,198011)Cedarsta?TH,TomlinsonA:Acomparativestudyoftearevaporationratesandwatercontentofsoftcontactlenses.??????????????????????60:167-174,198312)濱野孝:涙液とコンタクトレンズ.あたらしい眼科8:1707-1713,1991(27)

頻回交換遠近両用ソフトコンタクトレンズの選択法

2007年6月30日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS分けられる.中心光学部の特徴からは中心遠用タイプと中心近用タイプに分けられる1)(表1).はじめに日本の人口構成が高齢化していくにつれて,コンタクトレンズ(CL)使用者も老視の矯正を必要とする中高年者層が増加してきている.そのため,これからのCL診療においては老視を矯正するための遠近両用CLの知識と処方技術なしに過ごすことはできない.現在日本で普及している最長2週間までの使用で交換する頻回交換ソフトコンタクトレンズ(FR-SCL)では,遠近両用タイプの頻回交換遠近両用ソフトコンタクトレンズ(FRBF-SCL)が4種類発売されている.本稿では,遠近両用CLの処方が初めての方にも理解しやすいよう,はじめに遠近両用CLの一般的なことを概説し,その後に4種類のFRBF-SCLを比較と,その選択方法について解説する.I遠近両用コンタクトレンズ1.種類遠近両用CLの種類にはガス透過性ハードコンタクトレンズ(RGPCL)とソフトコンタクトレンズ(SCL)があり,SCLには従来型と頻回交換型がある.これらは光学的機能,焦点の構造,光学部の形状,中心光学部の特徴からさらに分類される(表1,図1).光学的機能からRGPCLは交代視型と同時視型に分けられるが,SCLは同時視型のみである.焦点の構造からは二重焦点型と累進屈折力型に分けられ,光学部の形状からはセグメント型,同心円型,回折型,非球面型に(17)???*HiroshiShioya:しおや眼科〔別刷請求先〕塩谷浩:〒960-8034福島市置賜町5-26しおや眼科特集●コンタクトレンズの流れを読むあたらしい眼科24(6):711~716,2007頻回交換遠近両用ソフトコンタクトレンズの選択法?????????????????????????????????????????????????????????????塩谷浩*図1遠近両用CLの機能と形状の分類同心円型同心円型非球面型回折型セグメント型交代視型同時視型表1遠近両用コンタクトレンズの分類機能焦点形状中心光学部種類交代視型二重焦点型セグメント型遠用RGPCL同心円型同時視型二重焦点型同心円型遠用SCL近用回折型近用累進屈折力型非球面型遠用RGPCLSCL近用SCL———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.6,20072.特徴遠近両用CLは種類の違いにより,ものを見る機能のうえでも違いがある.RGPCLタイプはSCLタイプより遠方視,近方視とも見やすく感じる患者が多い.しかし,RGPCL未経験の中高年者のRGPCLタイプへの慣れはむずかしいと考えられるため,一般的には処方の適応はRGPCL経験者に限られる.交代視型は,遠用光学部と近用光学部がレンズ上の異なった部分にあるため遠方視,近方視ともクリアな視界が得られるが,視線の移動を必要とする.同時視型は,遠用光学部と近用光学部の中心が同一中心線上にあるため視線の移動を必要としないが,遠方視,近方視ともクリアな視界は得にくい.光学部が中心遠用タイプは,近方視時より遠方視時に比較的見やすく感じる患者が多く,中心近用タイプは,遠方視時より近方視時に比較的見やすく感じる患者が多い1).3.選択の考え方処方する遠近両用CLのタイプを選択するための代表的な条件として,遠方視を重視する場合,近方視を重視する場合,遠方視と近方視のバランスを重視する場合,センタリングを重視する場合があげられる.遠方視を重視する場合には光学部は中心遠用タイプが適応となり,近方視を重視する場合には,光学部は中心近用タイプが適応となると考えられる.遠方視と近方視のバランスを重視する場合には光学部は中心遠用タイプで二重焦点型が適応となると考えられる.眼瞼圧が強いなどの理由で,それまで使用していたCLでセンタリングが不良であったような患者でセンタリングを重視する場合には,レンズのずれの見え方への影響が比較的少ない累進屈折力型・非球面型が適応となると考えられる1)(表2).実際の処方時のレンズ選択の考え方の流れは,まず装用者の遠方視と近方視の重視度,または見え方や視力の要求度から,その条件を満たすレンズのタイプを第一選択する.つぎに患者にトライアルレンズを装用させて細隙灯顕微鏡検査でフィッティングを観察し,その判定結果からレンズのタイプを変更するかどうか検討する.そしてFRBF-SCLを処方する場合には,処方規格と同じトライアルレンズによるテスト装用後に,装用者の見え方,装用感,ハンドリングの問題点の有無などを確認し,角結膜への影響やフィッティングの変化を検討して,最終的に処方する遠近両用CLの種類と規格を決定する1~3)(表3).II頻回交換遠近両用ソフトコンタクトレンズ1.種類現在日本では,FRBF-SCLはジョンソン・エンド・ジョンソン社のアキュビュー?バイフォーカル(AV-BF),チバビジョン社のフォーカス?プログレッシブ(FP),ロート製薬のロートi.Q.14バイフォーカル(iQ-BF),ボシュロム社のメダリストマルチフォーカル(MD-MF)の4種類が発売されている(表4).素材はAV-BF,FP,iQ-BFは,米国食品医薬品局分類(FDA分類)でグループⅣに属する高含水率のイオン性であり,MD-MFはFDA分類でグループⅠの低含水率の非イオン性である.直径はすべてのレンズで1種類であり,ベースカーブはAV-BF,FP,iQ-BFでは1種類であり,MD-MFには2種類ある.加入度数はAV-BFとiQ-BFは+1.00D,+1.50D,+2.00D,+2.50Dの4種類,MD-MFは加入度数LowタイプとHighタイプの2種類,FPは1種類である.(18)表2遠近両用コンタクトレンズの選択の条件と適応?遠方視重視⇒光学部が中心遠用タイプ?近方視重視⇒光学部が中心近用タイプ?遠方視と近方視のバランス重視⇒光学部が中心遠用タイプ・二重焦点型?センタリング重視⇒累進屈折力型・非球面型表3遠近両用コンタクトレンズの選択の流れ第一選択レンズ遠方視と近方視の重視度,見え方や視力の要求度から決定フィッティング検査後レンズのセンタリング,動きなどから決定テスト装用後見え方,装用感,ハンドリングなどから最終決定———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???光学的機能による分類では,すべて同時視型である.焦点の構造による分類ではAV-BFは二重焦点型であり,他の3種は累進屈折力型である.光学部の形状は,AV-BFは同心円型で5層構造のデザインをしており,FP,iQ-BF,MD-MFは非球面型である.光学部のデザインは,AV-BFは中心遠用,FPとMD-MFは中心近用であり,iQ-BFは中心遠用のDタイプと中心近用のNタイプの2種類がある.2.アキュビュー?バイフォーカルの特徴AV-BFは同時視型で,二重焦点型,同心円型である.光学部は図2のようにレンズの中心から周辺に向かって遠用部と近用部が同心円状に5層に並んだ独特の構造をしている.光学部は中心遠用タイプで,それが同心円状に3層あり,その間に2層の近用部を挟んでいる.中心厚は-3.00Dで0.075mmと4種類のレンズのなかで最も薄くなっている.この特徴から,適応は表5のように遠方視を重視する場合,遠方視と近方視のバランスを重視する場合となる.そして加入度数の最弱度に+1.00Dがあるため初期老視から適応となる.中心厚が薄いため,一般のSCL装用で異物感のある場合や長時間装用の場合は適応となるが,乱視のある場合は適応とならない.二重焦点型であるためセンタリング不良の場合は自覚的な見え方が不(19)表4頻回交換遠近両用ソフトコンタクトレンズの種類製品名アキュビュー?バイフォーカルフォーカス?プログレッシブロートi.Q.14バイフォーカルメダリストマルチフォーカルメーカーJohnson&JohnsonCIBAVisionROHTOBoush&Lomb素材Eta?lconAVi?lconAMetha?lconAPoly-HEMA含水率(%)58555538.6FDAグループⅣⅣⅣⅠDk*281619.69Dk/L**37.31612.39中心厚(mm)0.075(-3.00D)0.10(-レンズ),0.16(+3.00D)0.159(-3.00Dadd+1.00D)0.10(-3.00D)ベースカーブ(mm)8.58.68.78.7,9.0直径(mm)14.21414.414.5球面度数(D)+3.00~-9.00+3.00~-7.00+4.00~-6.00+5.00~-10.00加入度数(D)+1.00,+1.50,+2.00,+2.50+2.50+1.00,+1.50,+2.00,+2.50Low(~+1.50),High(~+2.50)機能による分類同時視型同時視型同時視型同時視型焦点による分類二重焦点型累進屈折力型累進屈折力型累進屈折力型光学部形状同心円型非球面型非球面型非球面型中心光学部遠用近用Dタイプ:遠用,Nタイプ:近用近用**Dk:酸素透過係数〔単位=×10-11(cm2/sec)・(m?O2/m?×mmHg)〕.**Dk/L:酸素透過率〔単位=×10-9(cm2/sec)・(m?O2/m?×mmHg)〕.図2アキュビュー?バイフォーカルの特徴?同時視型?二重焦点型?同心円型(5層構造)?中心光学部:遠用?中心厚:0.075mm(-3.00D)遠用部近用部表5アキュビュー?バイフォーカルの適応?適応?遠方視を重視する場合?遠方視と近方視のバランスを重視する場合?初期老視から?一般のSCL装用で異物感のある場合?長時間装用をする場合?非適応?近方視を重視する場合?乱視のある場合?センタリング不良の場合———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007良なことが多く,適応とならない.3.フォーカス?プログレッシブの特徴FPは同時視型で,累進屈折力型・非球面型である.図3のように光学部は中心近用タイプで,その周辺は狭い累進移行部を挟んで遠用部になっている.中心厚はマイナスレンズでは0.10mm,+3.00Dのレンズでは0.16mmとやや厚くなっている.この特徴から,適応は表6のように近方視を重視する場合となる.そして加入度数が+2.50Dの1種類であるため中期以降の老視から適応となる.累進屈折力型・非球面型であるためセンタリング不良の場合でも自覚的な見え方への影響が少なく適応となりうる.しかし,遠方視を重視する場合,遠方視と近方視のバランスを重視する場合は適応となりにくい.素材の特性から一般のSCLの装用で異物感のある場合には適応とならないことが多い.4.ロートi.Q.14バイフォーカルの特徴iQ-BFは同時視型で,累進屈折力型・非球面型である.図4のようにDタイプは光学部が中心遠用で,その周辺はやや広い累進移行部を挟んで近用になっている.Nタイプは光学部が中心近用で,その周辺はやや広い累進移行部を挟んで遠用になっており,中心光学部の領域はDタイプよりやや狭くなっている.中心厚は-3.00D,加入+1.00Dのレンズで0.159mmと4種類のレンズのなかで最も厚い.この特徴から,適応は表7のように遠方視を重視する場合で,主としてDタイプが用いられる.近方視とのバランスをとる必要がある場合にはNタイプが用いられる.加入度数の最弱度に+1.00Dがあるため初期老視から適応となる.また中心厚が厚いため,乱視のある場合にも適応となる.非球面型・累進屈折力タイプであるためセンタリング不良の場合でも自覚的な見え方への影響が少なく適応となりうる.さらに素材の特性から一般のSCLの装用で異物感のある場合にも適応となる.しかし近方視を重視する場合,遠方視と近方視のバランスを重視する場合は適応となりにくい.(20)図4ロートi.Q.14バイフォーカルの特徴?同時視型?累進屈折力型?非球面型?中心光学部:Dタイプ遠用Nタイプ近用?中心厚:0.159mm(-3.00Dadd+1.00D)遠用部近用部遠用部近用部DタイプNタイプ表7ロートi.Q.14バイフォーカルの適応?適応?遠方視を重視する場合?初期老視から?乱視のある場合?センタリング不良の場合?一般のSCL装用で異物感のある場合?非適応?近方視を重視する場合?遠方視と近方視のバランスを重視する場合表6フォーカス?プログレッシブの適応?適応?近方視を重視する場合?中期以降の老視から?センタリング不良の場合?非適応?遠方視を重視する場合?遠方視と近方視のバランスを重視する場合?一般のSCL装用で異物感のある場合図3フォーカス?プログレッシブの特徴?同時視型?累進屈折力型?非球面型?中心光学部:近用?中心厚:0.10mm(マイナスレンズ)0.16mm(+3.00D)遠用部近用部———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???5.メダリストマルチフォーカルの特徴MD-MFは同時視型で,累進屈折力型,非球面型である.図5のように光学部は中心近用で,その周辺は広めの累進移行部を挟んで遠用になっている.加入度数Highタイプは加入度数Lowタイプより中心光学部の最大加入度数領域が広くなっている.中心厚は-3.00Dで0.10mmとやや厚くなっている.この特徴から,適応は表8のように主として近方視を重視する場合となるが,加入度数Lowタイプは遠方視と近方視のバランスを重視する場合,加入度数Highタイプはさらに近方視を重視する場合となる.加入度数Lowタイプがあるため初期老視から適応となる.非球面型・累進屈折力型であるためセンタリング不良の場合でも自覚的な見え方への影響が少なく適応となりうる.中心近用であるため理論的には遠方視を重視する場合は適応となりにくいが,臨床的に遠方視と近方視のバランスを重視する場合には適応となる.しかし素材の特性から一般のSCLの装用で異物感のある場合には適応となりにくい.6.頻回交換遠近両用ソフトコンタクトレンズの適応と選択以上の4種類のFRBF-SCLの適応を条件ごとに比較し,実際の選択についてまとめると表9のようになる.遠方視を重視する場合はAV-BFとiQ-BFが適応となり,第一選択になると考えられる.近方視を重視する場合はFPとMD-MFが第一選択になると考えられる.遠方視と近方視のバランスを重視する場合はAV-BFまたはMD-MFが第一選択になると考えられる.乱視の影響で球面SCLでの見え方が不良の場合は,レンズの中心厚の厚いiQ-BFが第一選択となる.SCL装用時のセンタリングが不良の場合はFP,iQ-BF,MD-MFが第一選択となる.一般のSCLの装用で異物感の訴えがあった場合はAV-BFとiQ-BFが第一選択となる.おわりにFRBF-SCLは,最長2週間までの使用で交換するという点では共通であるが,遠近両用レンズとしての機能はどれも同じではなく,その特徴をよく理解しておく必要がある.FRBF-SCLの処方を成功させるためには,(21)表9頻回交換遠近両用ソフトコンタクトレンズの適応と選択製品名アキュビュー?バイフォーカルフォーカス?プログレッシブロートi.Q.14バイフォーカルメダリストマルチフォーカル遠方重視○△△△近方重視△○○○遠方視近方視のバランス○×△○乱視×△○△センタリング不良×○○○装用感○△○△○:適応,△:比較的適応,×:非適応.図5メダリストマルチフォーカルの特徴?同時視型?累進屈折力型?非球面型?中心光学部:近用?中心厚:0.10mm(-3.00D)遠用部近用部表8メダリストマルチフォーカルの適応?適応?近方視を重視する場合?遠方視と近方視のバランスを重視する場合?初期老視から?センタリング不良の場合?非適応?遠方視を重視する場合?一般のSCL装用で異物感のある場合———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007対象の条件,CLを使用する環境や状況などから最適と思われるレンズを選択し,テスト装用したうえで最終処方レンズを決定することが重要である2,3).ただし本稿のFRBF-SCL選択の考え方は,あくまでも筆者の臨床経験からの判断であり,これを参考に読者がFRBF-SCLの処方を多く経験し,自分自身のなかに評価する基準を作る努力が必要である.文献1)塩谷浩:各種バイフォーカルコンタクトレンズの選択.あたらしい眼科18:463-468,20012)塩谷浩,梶田雅義:頻回交換遠近両用ソフトコンタクトレンズ処方例の検討.日コレ誌44:103-107,20023)塩谷浩,梶田雅義:頻回交換型遠近両用ソフトコンタクトレンズの処方成績─二重焦点型と累進屈折力型の比較─.日コレ誌48:226-229,2006(22)