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屈折矯正手術:屈折矯正手術はチームワーク-スタッフ教育について-

2007年4月30日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS●患者体験をしてみて昨年,筆者自身もlaser???????keratomileusis(LASIK)を受けてたみた.信頼できる術者とスタッフに囲まれて,安心して手術をできたことは幸運であった(図1).もし,誰も知らないような施設で手術を受けるとしたらどうだろうか.術者が信頼できる人間であるかどうか,手術のシステムは?検査の精度は?滅菌処理は?などなど,眼科医療にかかわっている人間が患者であれば疑問はつきないように思われる.しかし,手術ベッドに横たわれば,患者としてはすべてを信頼してまかせるしかないわけだから,いかにリスクが低い手術とはいえ,どのような施設で手術を受けるかは慎重でありたい.手術自体は自分自身が何回も行っている手技ではあったが,患者になってみると,今まで気がつかなかった部分がみえてくることがある.点眼麻酔が十分効いていれば,LASIKは無痛手術で,固視標をみることもまったく問題ない.ただ,わずかではあるが痛みを感じると,どうしても眼をつぶりたくなってしまう.開瞼器をつけた状態で眼をつぶると,眼球は上転してレーザー照射が中断されてしまう.点眼麻酔を十分効かせることはこの手術の大切なポイントかもしれない.ただ,筆者らの施設では点眼麻酔をするのは術者ではなく,待合室でスタッフが行う.このスタッフがしっかり点眼してくれな(57)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載?監修=木下茂大橋裕一坪田一男83.屈折矯正手術はチームワーク─スタッフ教育について─稗田牧バプテスト眼科クリニックLaser???????keratomileusis(LASIK)をはじめとする屈折矯正手術は,近視や乱視を矯正するだけではなく,患者が受けた手術に満足していただかなくてはならない.術者のみならずスタッフ全員が,患者の満足度向上という目標に向かって何が必要であるか常に考え続けることが大切である.図1患者が安心して手術を受けられる環境が大切である(患者は筆者)勤めているクリニックであれば安心である.図2(筆者の)LASIK術翌日の所見向かって左が右眼で右が左眼.左はフラップエッジに出血があるが,視力は良好.出血は1カ月で吸収した.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007ければ,点眼麻酔を効かせることはできない.また,開瞼器を急に開きすぎると痛みを感じてしまう原因となる.筆者らの施設では開瞼器をかけるのは術者ではなく,手術助手が行う.手術助手がゆっくり丁寧に瞼を開けないと,痛みを感じてしまうことがあるかもしれない.いずれにせよ,一度痛みを感じればそれが恐怖となり,短い手術は大変恐ろしい時間に変わる.自分自身手術時に片眼のLASIKが,少し点眼麻酔の効きが悪かったのか,軽い痛みを感じた.点眼麻酔の効きが十分でなかったといって,視力が良くなっても不満を訴える患者の気持ちもわからないではないのである.幸いに自身のLASIK術後経過は,翌日(図2)からは外来診療が問題なく行えて,翌週からは眼科手術が問題なく行えた.視力回復の速さがLASIKの特徴ではあるが,自身で体験することでそれが本当に理解できた気がする.しかし何といっても,点眼麻酔の重要性は身にしみて感じられたのである.●LASIKを精確に行うためにチームとは,ある目的を達成するために集まった2人以上の集まりという定義らしい.ある目的というのは,屈折矯正手術の場合,患者の屈折異常を矯正するということである.LASIKの精度は±1.0D以内に95%,±0.5D以内に90%が入る手術であり,もし全員正視ねらいだとすると9割方正視になる手術である.もちろん,これには精確で安定性のある検査がなされており,レーザーのキャリブレーションが正しくなされており,レーザー室の温度湿度が管理され,マイクロケラトームのセッティングが正しく行われていることが前提条件で,かつ手術が安全に行われた場合である.それらのいずれも,術者もしくは医師が行っている施設は存在しないのではないだろうか?医師以外の看護師,視能訓練士,事務職員などがいずれかの仕事を受け持ち,そのいずれもがしっかりと行われていて初めて精度の高い屈折矯正手術ができるのである.従来の眼科手術にもそのような側面はあったものの,屈折矯正手術のなかでもLASIKは医師以外の役割が比較的大きい手術ではないかと思われる.●チームワークは生成されるもの?筆者らの施設ではつい最近まで,LASIKの説明は医師がすべて行っていた(図3).しかし,患者の理解をより十分得るには,医師でないスタッフにLASIKのことを十分理解してもらい,それを説明したほうが,よりわかりやすいのではないかと考えるようになった.LASIKのことを知っているようで,他人に説明できるほどよく理解しているスタッフは,LASIK専門施設でもなければなかなかいないものである.医師の負担軽減という効果ももちろんあるが,それよりもスタッフの一人でも多くにLASIKのことを理解してもらうことは重要と考えている.なぜなら,そのことが,医師以外の立場からみた現在のシステムの盲点を明らかにすることも多いからである.LASIKの満足度に影響しているものは,精確な屈折矯正以外にも,痛みがなく,待ち時間も少なく,患者一人ひとりを尊重して対応し,十分安全性に留意するなど,さまざまな要素がある.医師の手術手技が問題なければそれですべてがうまくいくというような単純なものではない.医師のみならず医師以外のスタッフもLASIKに関心をもち,さまざまな角度から現時点の問題点を指摘しあい,患者の満足度をより向上するためのアイデアを出していけるような環境をととのえていかなくてはならないと感じている.(58)☆☆☆図3患者への説明(説明しているのは筆者)最初は医師のみで行っていたが,今は事務職員も説明ができるようになった.

眼内レンズ:シリコーン眼内レンズの石灰化

2007年4月30日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS石灰化は起こらないとされているシリコーン眼内レンズに表面石灰化を認めた症例を報告する1).症例は70歳,男性.1999年7月左眼超音波白内障乳化吸引術,シリコーン眼内レンズ挿入術を行った.術前視力0.4(矯正不能),術後視力0.2(矯正1.0)と視力改善を認めたが,2年後術眼の霧視を自覚した.視力に大きな低下はなかった(矯正1.0)が,レンズ後面の混濁を認め,後発白内障の診断のもと,レーザー後?切開術を施行された.しかし,混濁は後?ではなくレンズの後面に付着していたため除去できず,主訴の改善も認めなかった.混濁は後?切開窓の範囲に一致するように存在した(図1).手術による沈着物の除去,またはレンズの交換が必要と判断され,2003年5月,国立病院機構大阪医療センターに混濁除去と硝子体手術のため紹介受診の運びとなった.混濁は手術機器での擦過でも除去できずレンズを摘出し,アクリル眼内レンズを挿入した.術後矯正視力は術前と同様であった(1.0×sph-2.0D)が,主訴の改善を認めた.摘出したレンズは,鑷子で把持したところのみ,混濁が外れているのが観察され(図2),何らかの物質の付着(55)渕端睦*1斉藤喜博*2*1行岡病院眼科*2国立病院機構大阪医療センター眼科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎248.シリコーン眼内レンズの石灰化海外でも数例の報告しかない,シリコーン眼内レンズにみられた石灰化の1例を経験した.星状硝子体症が関与していると考えられ,その臨床経過と発症機序について検討した.同様の症例の発生に注意を払う必要があると同時に,星状硝子体症の起こりやすい糖尿病患者にはシリコーンレンズの使用は禁忌であると結論された.図1細隙灯顕微鏡写真眼内レンズの後面に白色の混濁を認める.混濁はレーザー切開窓に一致して認められている.図2手術中写真レンズ後面の混濁を手術中に擦過したが,混濁は除去できなかった.流水で洗浄しても混濁は残存,摘出の際にレンズ鑷子で把持したところのみ,混濁が外れていた.図3摘出した眼内レンズ光学部の走査型電子顕微鏡写真レンズ表層に膜状の付着物が存在している.成分分析の結果,付着物には,リン(P)とカルシウム(Ca)が,レンズ中央部の混濁のないところと比べて多いことがわかった.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007(00)であると考えられた.レンズ表層を電子顕微鏡で構造解析したところ膜状の付着物が存在していた(図3).付着物の成分分析ではリン(P)と,カルシウム(Ca)が多く含まれており,リン酸カルシウムが主成分であることが判明した.海外と今回の症例を合わせ,シリコーン眼内レンズに混濁をきたした6症例を検討したが,いずれも共通して手術眼または僚眼に星状硝子体症がみられており,後?切開術を施行後,沈着物が増加し,レンズの摘出をするに至った,という経過も共通していた.どの報告においても混濁の主成分はリン酸カルシウムであった.疎水性であり,生物学的に不活性というシリコーンの性質を考えると,生体にとって異物である眼内レンズに対し,異物性巨細胞(マクロファージ,多核巨細胞など)の接着が起こり,硝子体中のリン酸カルシウムを引き付けて,表面石灰化が起こった可能性が高い.異物性巨細胞は血液房水柵の破綻,慢性の術後炎症を反映するものと考えられている.本症例には血液房水柵の破綻をきたす糖尿病などの基礎疾患はなく,細隙灯による術後所見では,炎症の遷延もみられなかったが,6症例のなかには基礎疾患に糖尿病のある症例も,半数みられていた2~4).星状硝子体は高齢者の硝子体内にみられる白色の構造物であり,主成分はリン酸とカルシウムである.発生原因として加齢や後部硝子体?離が考えられ,基礎疾患として糖尿病が隠れているという意見もある.本症例では右眼に星状硝子体症を認めており,硝子体内のリン酸カルシウムが結晶化しやすいという素因が眼内レンズの石灰化を発生させた可能性が考えられる.また,後?切開を行うことで,さらにレンズが硝子体内のリン酸やカルシウムと接触するため,沈着物の増加をきたすと考えられた.星状硝子体症は硝子体液のイオンバランスやコラーゲン線維の変化,血管透過性の増加によって発生するといわれており,片眼に星状硝子体がみられる場合,顕微鏡下では所見がなくとも,他眼でもカルシウムイオン,リン酸イオンの濃度が高いあるいは血管透過性が高いといった理由で,将来星状硝子体が発生する可能性がある.眼内レンズ石灰化の正確な機序は不明であるが,星状硝子体症が関与している可能性は非常に高い.また星状硝子体症の起こりやすい糖尿病などの基礎疾患をもつ患者には,レンズの選択は慎重に行う必要があると考えられた.文献1)渕端睦,斉藤喜博,北口善之ほか:シリコーン眼内レンズに石灰化が発生した星状硝子体症の1例.日眼会誌110:736-740,20062)WackernagelW,EttingerK,WeitgasserUetal:Opaci?-cationofasiliconeintraocularlenscausedbycalciumdepositsontheoptic.???????????????????????30:517-520,20043)FootL,WernerL,GrillsJPetal:Surfacecalci?cationofsiliconeplateintraocularlensesinpatientswithasteroidhyalosis.???????????????137:979-987,20044)WernerL,KollaritsCR,MamalisNetal:Surfacecalci?ca-tionofa3-piecesiliconeintraocularlensinapatientwithasteroidhyalosis:aclinicopathologiccasereport.??????????????112:447-452,2005

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ装用上の点眼薬(1)

2007年4月30日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLSコンタクトレンズ(CL)を装用しているときに,点眼薬を使用する必要がなければ,それにこしたことはないが,ドライアイ,アレルギー,白内障,緑内障などの疾患を有する患者は点眼薬の使用を余儀なくされる.当院において平成9年1月~12月の1年間にCLを処方した1,232人を対象に,点眼薬使用の有無と点眼薬による角結膜障害について調査したことがある1).点眼薬使用者は244人(19.8%)であった.対象疾患としては,アレルギーが42.3%,ドライアイが28.2%と大半を占めていたが,点状表層角膜症,虹彩炎,霰粒腫,慢性結膜炎,白内障,緑内障などの疾患も含まれていた.経過観察中,明らかに点眼薬によると思われる角結膜障害は認められなかったが,本稿では,コンタクトレンズ装用上の点眼薬使用の危険性と注意点について解説する.●点眼薬による副作用点眼薬には有効となる主薬剤のほかに,等張化剤,緩衝剤,可溶化剤,安定化剤,粘稠化剤,防腐剤などが含まれている.このような成分はいずれもアレルギー反応などによる角結膜障害をひき起こす可能性があるが,ここでは主薬剤と防腐剤についてのみ触れる.主薬剤による副作用としては,やはり緑内障治療用単眼薬によるものが代表であろう.全身的な副作用としては,b-遮断薬の循環機能障害(不整脈・徐脈)や呼吸障害(喘息),ピロカルピンの消化器障害(悪心・嘔吐),ジピベフリンやエピネフリンの循環器障害(心悸亢進),ラタノプロストの呼吸器機能障害(喘息),ドルゾラミドの悪心・頭痛,イソプロピルウノプロストの頭痛・悪心・動悸などがある.眼局所的副作用としては,プロスタグランジン製剤,b-遮断薬の角膜障害,ジピベフリンやエピネフリンの結膜障害,ピロカルピンの近視化・暗黒感,エピネフリンやプロスタグランジン製剤の黄斑症などがある.白内障術後に使用されるプロスタグランジン生合成阻害薬であるインドメタシンやジクロフェナ(53)小玉裕司小玉眼科医院コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純TOPICS&FITTINGTECHNICS274.コンタクトレンズ装用上の点眼薬(1)図2ジクロフェナクによる角膜上皮障害角膜混濁と不正乱視が残り,自己角膜回転移植を施行した.図1塩化ベンザルコニウムによる角膜上皮障害広範囲に角膜びらんが生じ,中央部には遷延性角膜上皮欠損が認められる.表1点眼薬に含まれる防腐剤の種類?パラオキシ安息香酸エステル類メチルパラベン,エチルパラベン,プロピルパラベン,ブチルパラベン?逆性石?類塩化ベンザルコニウム,塩化ベンゼトニウム,グルコン酸クロルヘキシジン?アルコール類クロロブタノール,フェニルエチルアルコール?有機酸類デヒドロ酢酸ナトリウム,ソルビン酸,ソルビン酸ナトリウム———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007(00)クによる角膜上皮障害も報告されている2~5)(図1).多くの点眼薬のなかには,防腐剤として塩化ベンザルコニウムやパラベン類などが含まれている(表1).これらの防腐剤が角膜上皮に障害をもたらすことは,臨床研究や基礎研究により数多く報告されている.特に塩化ベンザルコニウムは,わが国において認可市販されている点眼薬の60%に用いられており6),その毒性の高さからも最も注目を浴びている(図2).●CL装用上の点眼薬使用上述したように,CL装用上でなくとも,点眼薬を使用することによって,さまざまな全身症状や眼局所症状がひき起こされる可能性がある.このような副作用が,CL装用上において点眼薬を使用することで,より強く生じるのであろうか.ハードコンタクトレンズ(HCL)においてもソフトコンタクトレンズ(SCL)においても,レンズ下の涙液中に点眼薬が通常より長い時間存在すること,レンズの材質によっては薬剤を吸着する可能性があること,またSCLにおいてはレンズ内への薬剤の貯留や蓄積が生じる可能性があることなどから,点眼薬の副作用が通常より強く生じる危険性を考慮に入れて使用しなければならない.点眼薬によるレンズ材質の変性や着色,レンズ形状の変化などによる角結膜障害,懸濁液においてはレンズ下の薬剤による機械的刺激による角結膜障害も危惧されるところである.次回のセミナーでは,CL装用上の点眼薬使用の安全性と危険性について,また点眼薬の使用上の注意点などについて,さらに具体的に解説する.文献1)小玉裕司,北浦孝一:コンタクトレンズ装用上における点眼使用の安全性について.あたらしい眼科17:267-271,20002)土屋忠久:インドメロール点眼液による角膜上皮障害.???2:189-194,19883)山田昌和,坪田一男ほか:白内障術後のインドメサシン点眼が角膜上皮に及ぼす影響.臨眼44:455-459,19904)山田昌和,坪田一男:白内障術後のジクロフェナック点眼が角膜上皮に及ぼす影響.あたらしい眼科9:1583-1587,19925)小玉裕司:ジクロフェナックによる角膜上皮障害.あたらしい眼科13:383-384,19966)中村雅胤,西田輝夫:防腐剤の功罪.眼科NewInsight②,点眼薬─常識と非常識─(大橋裕一編),p36-43,メジカルビュ-社,1994

写真:シリコーンハイドロゲルソフトコンタクトレンズとマルチパーパスソリューションとの組み合わせで発生しうる角膜上皮障害とその考察

2007年4月30日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS(51)丸山邦夫横井則彦京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦275.シリコーンハイドロゲルソフトコンタクトレンズとマルチパーパスソリューションとの組み合わせで発生しうる角膜上皮障害とその考察図1PHMBを含むMPSに12時間浸漬した新品のシリコーンハイドロゲルソフトコンタクトレンズ(seno?lconA)を,2時間装用した際にみられた角膜上皮障害(28歳,女性)図3新品のシリコーンハイドロゲルソフトコンタクトレンズ(seno?lconA)を1日終日装用し,図1と同じMPSで,洗浄,すすぎ,保存(12時間)を行って,翌朝,装用2時間後に観察したときの角膜観察所見図1に比べて,角膜上皮障害は軽度であることがわかる(図1と同じボランティア眼).図4図3のシェーマ極軽度のびまん性の点状表層角膜症の観察所見.図2図1のシェーマ中等度のびまん性の点状表層角膜症の観察所見.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007(00)マルチパーパスソリューション(MPS)は,ソフトコンタクトレンズ(SCL)の洗浄,消毒,保存を1液で行うケア用品であるが,ときとして,MPS特有の角膜上皮障害が発生する1,2).この角膜上皮障害は,消毒成分として配合されているポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)が原因と考えられており1),MPSとSCLとの組み合わせにより,その発生率は異なる1,3).また,MPSに一晩(12時間以上)浸漬した新品のSCLを装用すると,角膜上皮障害は装用2時間後に最も強くなり,6時間後には消失することが知られている4,5).近年,シリコーンハイドロゲルSCL(SHSCL)が普及しはじめ,PHMBを含むMPSとの組み合わせで角膜上皮障害が発生しやすいものがある3).この上皮障害は,レンズ装用中にSHSCLに吸着したPHMBが涙液中に放出されることが原因と考えられている4).図1,2に,PHMBを含むMPSに12時間浸漬した新品のSHSCL(seno?lconA)を2時間装用したときの典型的な角膜上皮障害を示すが,この障害は装用6時間後には自然に消失しうるため,臨床上問題となるか否かについては意見の分かれるところである.一方,筆者らは,同一のボランティア眼において,新品のSHSCL(seno?lconA)を1日装用した後に,図1,2の場合と同じMPSに12時間浸漬し,翌朝,装用2時間後に観察した結果,角膜上皮障害が明らかに軽度(図3,4)であることを経験した.そこで症例を増やし,上記と同一のSHSCLとMPSを用いて,8名8眼(男性3名,女性5名,平均年齢31.4±4.4歳)で検討したところ,新品のSHSCLをMPSに12時間浸漬したときの角膜上皮障害(AD分類)が,area2.8±0.5,density1.0±0.0であったのに対し,1日装用後にMPSに浸漬したときはarea1.4±1.2,density0.9±0.6と,areaが有意に減少していた(p<0.05).筆者らは,これまでの報告とは異なるこの結果をつぎのように考えている.1日装用したSHSCLは,レンズ表面に常在菌や涙液成分が付着し,PHMBがこれらと接触することで活性が低下し,障害性が軽減したため,角膜ステイニングの程度が軽度であったと推察する.つまり,これまでに報告されている装用2時間後の角膜上皮障害は,新品のSCLを用いた試験系であり,実際の使用とは異なると考えている.しかし,PHMBとの関連が強く疑われる角膜上皮障害を実際にみた場合は,PHMBを含有していないMPS(消毒成分として塩酸ポリドロニウムを配合)5)やPHMBがSCLに吸着しないように工夫されたMPS6)(グリコール酸でSCLへのPHMBの吸着を予防)への変更や,SCLメーカーが推奨するMPSを使用することで,眼表面へのPHMBの悪影響を回避することが必要である.MPSは,近年SCLユーザーに急速に普及しているが,眼表面に障害が発生することもありうる.レンズを処方する側は,レンズの知識のみならず,MPSとの相性についても十分な知識をもち,定期検査では,レンズをはずして前眼部障害を観察する習慣を身につけることが大切である.文献1)LebowKA,SchachetJL:Evaluationofcornealstainingandpatientpreferencewithuseofthreemulti-purposesolutionsandtwobrandsofsoftcontactlenses.?????????????????29:213-220,20032)JonesL,MacDougallN,SorbaraLG:Asymptomaticcor-nealstainingassociatedwiththeuseofbala?lconsilicone-hydro-gelcontactlensesdisinfectedwithapolyminopro-pylbiguanide-preservedcareregimen.?????????????79:753-761,20023)http://www.staininggrid.com4)GarofaloRJ,DassanayakeN,CareyCetal:Cornealstain-ingandsubjectivesymptomswithmultipurposesolutionsasafunctionoftime.????????????????31:166-174,20055)工藤昌之,糸井素純:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズと消毒剤との相性.あたらしい眼科22:1349-1355,20056)Santodomingo-RubioJ:Thecomparativeclinicalperfor-manceofanewpolyhexamethylenebiganide-vsapoly-quad-basedcontactlenscareregimewithtwosiliconehydrogelcontactlenses.???????????????????27:168-173,2007

時の人

2007年4月30日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS広島大学大学院医・歯・薬学総合研究科視覚病態学教室の歴史を簡単にひも解くと,昭和23年4月に赤木五郎先生(専門は緑内障)によって開講された.その後,百々次夫先生(網膜・硝子体),調枝寛治先生(網膜・硝子体),三嶋弘先生(緑内障)と引き継がれ,そして平成18年8月に木内良明先生が第5代目教授として就任された.木内先生の専門分野も緑内障であり,広島大学眼科は緑内障と網膜疾患の治療と研究を看板としてきたことになる.*木内良明先生は,昭和58年に広島大学を卒業され,広島大学および関連施設で研修後,緑内障の研究をスタートさせ,三嶋前教授の下で家兎毛様体における細胞内情報伝達系の研究で学位を得られた.その後,平成2年から2年間,米国エール大学で眼圧の日内変動の研究をされた.米国から帰国されたときはちょうどラタノプロスト(キサラタン?)の臨床開発が行われている最中で,臨床にたずさわりながらキサラタン?の房水循環動態や眼圧日内変動に及ぼす影響などを楽しみながら調べられていたという.しかし,平成9年からは三嶋前教授,大阪大学の田野保雄教授のご配慮で大阪大学眼科の関連施設である国立大阪病院で勤務できることになり,そこから臨床三昧の生活が始まったといわれる.国立大阪病院時代には糖尿病網膜症やぶどう膜炎に続発した緑内障の患者さんを診療する機会を多数得られたそうである.また,平成15年8月から国家公務員共済連合会の大手前病院に転勤され,「角膜移植や屈折矯正手術を経験するとともに前眼部疾患に続発した緑内障患者の治療経験を深めることができる幸運にも恵まれた.おかげで網膜疾患も緑内障も角膜前眼部疾患もかなり深い世界を見ることができたと思います.」と話された.木内先生が平成8年に勤務されていた広島赤十字・原爆病院は700床以上あるいわゆる大病院である.それでも眼科医は定員3名で毎日午前中が外来で,火曜日と木曜日の午後から手術を行われていたが,整形外科や,外科の先生方は朝から1日中手術室で働いておられたという.整形外科の先生からにはそんなに良いものではないと言われたが,手術的な治療が好きな木内先生は,「一度でよいから朝から晩まで手術ばっかりしてみたいとあこがれたものです.国立大阪病院,大手前病院では朝から晩まで1日中手術ができました.大手前病院に異動したころから急速に患者さんが増えてシステムが追いつかなかったこともあり,朝の9時から終電車がなくなる時刻まで手術室にいる生活が続きましたが,本当に良いものではありませんでした.おかげで手術技術は上達し,現在の眼科学の限界もみえました.その関係で緑内障の薬物治療,手術治療の発展に興味がありますが,今のところそこまで手が回りません.」と話された.*現在の教室のスタッフは若く,木内先生が赴任されたときは平成7年卒業の先生が医局長で最年長,助教授も講師もいない状態であったという.そこで,すでに医局を離れていた昭和63年卒業の高松倫也先生に,助教授として大学に戻ってもらったとのことである.現在は,広島大学が「21世紀COEプログラム」の拠点として採択された,「超速ハイパーヒューマン技術が開く新世界」の中で見えないものを見えるようにして緑内障の診断に役立てる技術の確立,および放射能影響研究所と共同して行う「被曝線量と緑内障」の研究に時間を割いておられる.そのほか,教室では三嶋前教授が確立されたシステムの中で,神経節細胞保護,網膜疾患におけるプロテオミクス解析などが行われており,その中心として活躍されている.木内先生は,信条,信念などは特にないが,しいて言えば「患者さんのためにできるだけのことをする,逃げない」,ことを心がけておられるという.(49)人の時広島大学大学院医・歯・薬学総合研究科視覚病態学・教授木?内??良??明??先生

眼表面サーモグラフィー

2007年4月30日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSの結果から,炎症性疾患や眼循環障害の評価におけるサーモグラフィーの将来性が期待されたが,その後はドライアイなどの眼表面疾患の病態解析の検討3,4)が散見されるにとどまっている.III通常のサーモグラフィーによる測定経験眼科臨床の現場では,サーモグラフィーはほとんど馴染みがない.この理由として,正確な測定に室内環境が一定に保たれた専用のスペースが必要なため,心電図やX線検査あるいはCT(コンピュータ断層撮影)検査などと同程度のややハードルの高い検査とみなされている点があげられる.しかし,サーモグラフィー装置(NECSanei社製サーモトレーサー:TH1106)(図1)を実際に使用してみると,機器の扱いは簡単で,画質も眼表面の解剖が十分にわかる解像度(図2)を有しており,使Iサーモグラフィーとは?サーモグラフィーとは,物体から放射されている電磁波の一種である赤外線を検知し,それを温度に変換することにより,物体の表面温度を測定できる装置である.近年,機器の改良に伴い医療用としても普及し,末?循環障害の診断などに広く利用されている.撮影は非接触のまま数秒以内に行えるほか,特殊な技術は不要で,人体に有害な副作用もない.測定結果は簡便なカラーマップとして表示されるため理解しやすく,きわめて有用な生理学的検査の一つといえる.II眼科領域でのサーモグラフィー研究表1に示すように,1957年にサーモグラフィー機器が開発され,1970年ごろから本格的に眼科領域で応用されはじめ,1980年代には蒲山ら1)が精力的な研究を行っている.その一部を紹介すると,正常者120眼の検討から角膜中央温度は平均34.6±0.5℃であること,さらに持続開瞼では,角膜中央温度は開瞼開始後40秒で0.5℃下降し,120秒後には約0.7℃下降する一定のパターンをとるという基礎データを示している1).また,冷却負荷試験を用いた検討で,白内障術後の炎症は術後13日目で術前状態に回復することや開放隅角緑内障眼の飲水負荷後(平均5mmHg上昇)は飲水前に比べて温度回復が著しく遅れることなども示している2).これら(41)???*ShiroKawasaki,MasahikoYamaguchi,ShiroMizoue,TakashiSuzuki&YuichiOhashi:愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻高次機能制御部門感覚機能医学講座視機能外科学分野〔別刷請求先〕川﨑史朗:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻高次機能制御部門感覚機能医学講座視機能外科学分野特集●前眼部四次元検査(前眼部キネティックアナリシス)あたらしい眼科24(4):439~446,2007眼表面サーモグラフィー???????????????????????????川?史朗*山口昌彦*溝上志朗*鈴木崇*大橋裕一*表1眼科領域へのサーモグラフィーの応用1957年1960年↓1970年↓1980年↓1990年↓サーモグラフィーが開発される眼科領域への応用が始まるわが国でも眼科応用が始まる1,2)・正常者の研究(角膜中央温度:34.6±0.5℃)・眼疾患の研究(炎症性疾患の温度上昇など)ドライアイなどの眼表面疾患の病態解析の検討3,4)———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007用感は,眼科での検査にたとえれば,角膜トポグラフィーの撮影に近いものである.試しに,持続開瞼のまま,健常者とドライアイ患者の眼表面を連続撮影すると,健常者では開瞼後も表面温度は下がりにくい(図3上)が,ドライアイ患者では開瞼後から徐々に角膜表面が冷却されていく様子がわかる(図3下).これはMorganらの報告3)と一致した所見であり,眼表面疾患,特にドライアイの病態解析に今後応用できる可能性を示唆している.(42)図1一般医療用サーモグラフィー装置(NECSanei社製サーモトレーサー:TH1106)図2一般医療用サーモグラフィー装置で得られた眼部サーモグラフィー15101510図3一般医療用サーモグラフィー装置で撮影した健常者(上)とドライアイ患者(下)の持続開瞼のサーモグラフィー健常者に比べて,ドライアイ患者は時間経過とともに冷却されやすい.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???また,最近,筆者らはトラベクレクトミー術後の濾過胞の機能評価にサーモグラフィーを応用し,興味深い知見を得ている5).たとえば,細隙灯顕微鏡所見上ではほぼ同様の形態を示す無血管性濾過胞を対象に,眼圧コントロール良好例(無治療で13mmHg)と眼圧コントロール不良例(眼圧下降薬を使用して24mmHg)のサーモグラフィー所見を比較したところ,図4(上)に示すように,前者の濾過胞表面温度は周辺結膜に比べて低い,低温エリアとして表示されるのに対し,図4(下)のように,後者の濾過胞表面温度は周辺結膜とほぼ同程度であった.この温度差は,おそらく濾過胞における房水の灌流効率を表していると筆者らは考えている.すなわち,図5のように,毛様体の無色素上皮細胞で産生された房水は,後房から前房へ移動し,前房に留まる間に角膜面より冷却され低下していく.よって,機能良好な濾過胞においては,冷却された房水が結膜下を常に灌流しているため,周辺結膜温度よりも相対的に低温となる勘定である.サーモグラフィーで捉えられた濾過胞の低温エリアは実際の房水灌流域を反映しており,生理学的な意味での濾過胞と考えている.このようにサーモグラフィーは,細隙灯顕微鏡では捉えることのできない生理学的所見をわれわれに提供してくれる有用なツールである.新たな視点からの機能評価法として眼科領域における価値が再評価されるべきであるが,それには,より精度が高く,効率的に測定可能な‘眼科用サーモグラフィー装置’の開発が必要であろう.(43)図4眼圧コントロール良好例(上)と不良例(下)の濾過胞サーモグラフィー良好例の濾過胞は周辺結膜と比べて低温となり,不良例は差がない.図5機能良好な濾過胞眼での房水動態の考察濾過胞には冷却された房水が灌流する.冷却角膜濾過胞外気温体温———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007IVOcularSurfaceThermographer?の開発そこで,愛媛大学は,株式会社トーメーコーポレーションと共同で,眼部に特化した眼表面サーモグラフィー装置(図6)の開発に取り組んでいる.本装置は角膜トポグラフィーの撮影と同じような感覚で使用できるように設計されているため,眼科医にも馴染みやすいと思われる.開発上特記すべき点として,第一に,同じ角度のサーモグラフィーと前眼部写真をほぼ同時に記録できるようになった点があげられる.従来は,サーモグラフィーと前眼部写真を別々に記録し,後にパソコン上で重ね合わせることにより位置情報を得ていたが,回転ミラーを用いて0.25秒ごとにカメラを切り替え,サーモグラフィーと前眼部写真を同軸で記録撮(44)図7可視光観察時(A)と温度観察時(B)のサーモグラフィー装置の光学配置状態(回転ミラー方式)可視光検出器赤外線検出器赤外線検出器赤外線レンズ赤外線レンズ可視光反射ミラー被写体AB被写体可視光反射ミラー可視光レンズ回転図8OcularSurfaceThermographer?で撮影した前眼部写真とサーモグラフィー前眼部写真・サーモグラフィーともに精度の高い画像が同時に撮影され,位置情報のリンクも容易かつ正確である.図6OcularSurfaceThermographer?愛媛大学と(株)トーメーで共同開発中の眼表面サーモグラフィー装置.角膜トポグラフィーを撮る要領で,眼表面サーモグラフィーの撮影ができる.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???(45)影することで(図7),位置情報へのリンクが容易かつ正確となった.光学系も眼球接写の位置で最高の解像度が得られるように設計している.図8は実際にOcularSurfaceThermographerTMで撮影した翼状片症例であるが,前眼部写真・サーモグラフィーともに精度の高い画像を同時に得ることができる.そのほか,計測開始直前に装置内での熱放射の影響を特製のシャッターで自動的に温度補正できるシステムも備えている.持続開瞼負荷試験に対応できるように,時系列に並べたデータをリアルタイムで供覧(図9)・解析(図10上)できるソフトウェアや,サーモグラフィーの3D表示(図10下),角膜部分の平均温度の経時的変化の表示機能も開発中である.VOcularSurfaceThermographer?の実際ここで,現在までに得られている臨床データの一部を紹介し,今後の応用の可能性について解説したい.1.角膜表面温度ドライアイに対する有用性の検討を,健常者およびSj?gren症候群患者を対象に行った5).開瞼直後では両群の眼表面温度に差はみられなかったが,10秒間持続開瞼させると,健常者(図11上)に比較しSj?gren症候群患者(図11下)では,角膜中央の表面温度が有意図9OcularSurfaceThermographer?撮影のモニター画面健常者の持続開瞼での前眼部写真とサーモグラフィーを10秒間連続記録した結果がリアルタイムで表示され,記録される.———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007(46)に低下していた.OcularSurfaceThermographerTMによる測定と記録は簡便であり,今後,スクリーニング検査として期待できるのではないかと思われた.細菌性角膜炎の1例(図12)では,炎症期の感染巣が周辺の角膜に比べてやや高温となり(図12上),持続開瞼しても冷却されにくく,炎症の消退とともに周辺角膜と同様の温度となった(図12下).虹彩炎症例を対象とした過去の報告2)でも,角膜中央は冷却されにくく,正常者と比べて高温を示しており,炎症という観点からは傾向は合致していた.角膜感染症などの炎症性疾患の臨床経過を細隙灯顕微鏡所見だけから判断するには,相当の知識や経験を要するが,サーモグラフィーを使用することで,客観的に炎症の程度を評価できる可能性がある.2.濾過胞表面温度OcularSurfaceThermographerTMによる測定を濾過胞についても試みた.たとえば,同一症例において,眼圧コントロール良好時と眼圧が再上昇して再手術を受ける直前を比較すると,眼圧コントロール良好時の濾過胞の表面温度は開瞼直後から低温であり,持続開瞼にてさらに冷えていくが,再上昇時には開瞼直後は低温ではな図10OcularSurfaceThermographer?で撮影した図9の症例の解析サーモグラフィー上をマウスで指した点での10秒間の経時的温度変化が表示できる(上).サーモグラフィーの3D画像も容易に作製できる(低温が凸で高温が凹と設定)(下).———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???(47)543210109876543210109876図11健常者例(上)とSj?gren症候群患者例(下)の10秒間持続開瞼サーモグラフィー健常者では眼表面の温度低下はほとんどないが,Sj?gren症候群例では約1.1℃低下した.0011223300112233図12細菌性角膜炎症例:炎症期(上)と終息期(下)炎症期には感染巣が周辺の角膜に比べてやや高温となり,持続開瞼しても冷却されにくく,炎症の消退とともに周辺角膜と同様の温度となった.4321043210図13同一症例における眼圧コントロール良好時(上)と再上昇時(下)の持続開瞼による濾過胞表面温度の比較眼圧良好時は濾過胞は低温エリアで,持続開瞼により冷却されやすいが,再上昇時は開瞼直後からは低温とならず,冷却されにくい傾向がみられた.———————————————————————-Page8???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007(48)く,持続開瞼にても冷えにくい傾向がみられた(図13).別の眼圧コントロール良好例の濾過胞のサーモグラフィーを3D表示(図14)でみると,細隙灯顕微鏡所見とは違った形態の濾過胞が見える.このように,時間要素や温度域の概念が加われば,より詳細な濾過胞機能評価ができる可能性がある.おわりにOcularSurfaceThermographerTMを用いれば,簡便に眼表面の温度変化を捉えることができる.今後,多くの症例を積み重ねれば,種々の疾患の病態理解に有用な情報が得られると期待される.文献1)蒲山俊夫:眼科サーモグラフィの研究(第2報).日眼会誌84:375-382,19802)蒲山俊夫,大木孝太郎:眼科サーモグラフィの研究(第3報・その2).日眼会誌86:116-126,19823)MorganPB,TulloAB,EfronN:Infraredthermographyofthetear?lmindryeye.???9:615-618,19954)MoriA,OguchiY,OkusawaYetal:Useofhigh-speed,high-resolutionthermographytoevaluatethetear?lmlayer.???????????????124:729-735,19975)川﨑史朗,溝上志朗,山口昌彦ほか:サーモグラフィーによる濾過胞機能評価.第60回日本臨床眼科学会,20066)山口昌彦,川﨑史朗,溝上志朗ほか:オキュラーサーモグラフィーTMを用いたドライアイにおける経時的な眼表面温度変化の解析.第60回日本臨床眼科学会,2006図14眼圧コントロール良好例の細隙灯顕微鏡所見と濾過胞のサーモグラフィー3D画像

レオロジーモデルを用いた涙液油層伸展挙動のキネティックアナリシス

2007年4月30日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS報を反映するものと確信するに至った.そして,このような経緯のもと,筆者らは,油層伸展挙動の定量的な解析に取り組み,レオロジーモデルの一つがそれに当てはまる可能性を見出した.本稿では,現在,筆者らが取り組んでいるレオロジーモデルを用いた涙液油層の伸展挙動のキネティックアナリシスについて紹介する.I開瞼に伴う涙液層の伸展モデルDR-1?を用いて観察すると,瞬目のたびに涙液油層がくり返し上方へ伸展する様子を観察することができる.しかも,伸展後に静止した油層の干渉像は,個々の連続する瞬目において互いによく似ており,しばらく観察していてもそのパターンはゆっくりとしか変化していかない.Bronらによれば,これは,眼瞼縁に貯留した油脂が涙液油層に反映される過程が非常にゆっくりとしているためではないかとしている1).この開瞼後の油層の伸展挙動(図1)は,閉じられたヒダつきカーテンを広げる様子に似ているため“Pleateddrapee?ect”と形容される1,5).すなわち,閉瞼時,涙液油層はヒダつきカーテンを閉じたときのように上・下の眼瞼縁の間に折りたたまれており(図2),開瞼後は,あたかもそのカーテンが広げられてゆくように,上方に向けて伸展してゆくのではないかと推察されている(図1).ところで,瞬目後に涙液油層の上方伸展が起こるのはなぜであろうか?それをうまく説明するためには,油はじめに涙液油層は,マイボーム腺から分泌される油脂によって構成され,涙液の液層の蒸発を防ぐとともにその安定性を保つ働きをもつ.また,涙液油層は100nm程度の薄膜として振る舞うため,光の干渉原理に基づいて,各種の光学的測光法を用いてその厚みを測定したり,反射光の干渉像を得ることができる1).過去に筆者らは,涙液油層観察装置の一つであるDR-1?(興和)のプロトタイプを用いて,涙液油層の干渉像を観察し,その分類(Grade分類)を提唱するとともに,健常眼とドライアイでGrade分布が異なることやGradeとドライアイの重症度との間に有意な相関があることを報告した2).当時は主として,DR-1?の高倍モード[観察範囲は角膜中央の2.3mm(縦)×3.2mm(横)の矩形領域]を用いて開瞼後の涙液油層の“静止像”について観察していたが,その後,経験を積むにつれて,高倍モードを用いた“静止像”のGradingよりも,低倍モード[観察範囲は角膜中央の7.0mm(縦)×8.0mm(横)の楕円状領域]を用いた瞬目後の油層の伸展挙動の観察のほうが,ドライアイの重症度をよく把握できるという印象をもつようになった.これは,瞬目後の油層の伸展挙動が涙液量の情報を含み,涙液量が少ないと油層の伸展が緩徐になることが経験的にわかりはじめたからである.その後Gotoら3,4)の油層伸展の半定量的解析法が報告されると,筆者らは,涙液油層の伸展挙動が涙液貯留量の情報,ひいては角膜上の液層の厚み情(33)???*NorihikoYokoi&HideakiYamada:京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕横井則彦:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学特集●前眼部四次元検査(前眼部キネティックアナリシス)あたらしい眼科24(4):431~438,2007レオロジーモデルを用いた涙液油層伸展挙動のキネティックアナリシス?????????????????????????????????????????????????????????????????????横井則彦*山田英明*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007層のキャリアである液層の挙動を想定しながら説明せねばならず,なかなかむずかしい問題である.しかし,それを説明しようとする涙液層の伸展モデルがいくつか報告されている6~8).まず,BrownとDervichianは,角膜上の涙液層の伸展挙動を液層と油層に分けて,2ステップで説明するモデルを提唱した7).すなわちこのモデルによれば,開瞼時に上眼瞼が引き上げられると,第1番目のステップとして上方の涙液メニスカスの毛細管効果9)によって涙液の液層が引き上げられ,続く第2番目のステップとして閉瞼時に圧縮されていた油層が液層の上を伸展し,油層は液層を伴いながら伸展するため次第に開瞼時の涙液層の厚みが獲得されてゆくのではないかとされる.ついで,この2ステップモデルの第1番目のステップにあたる液層の挙動に関して,Wongらは,より詳細なモデルすなわち,液層の挙動をハケでペンキを塗るがごとくに説明しようとするコーティングモデルを提唱した8).つまり,このモデルによれば,上眼瞼縁(ハケに相当)における涙液メニスカスの陰圧9)(メニスカスの表面張力に比例し曲率半径Rに反比例する)は,メニスカスの液層が角膜上の液層に移行する領域に圧勾配を生じせしめ,その部に液層を塗りつける原動力になるという(図3).また,この圧勾配は,角膜表面によってもたらされる液層の粘性抵抗(液層の粘度と上眼瞼の開瞼速度(34)図1開瞼後の油層の伸展挙動DR-1?を用いると涙液油層の伸展挙動を観察することができる.図の1~6は,開瞼直後からの油層の伸展を示すデジタルキャプチャー画像.涙液油層がヒダ付きカーテンのごとく広げられてゆく様子がわかる(いわゆるpleateddrapee?ect5)).321654図2閉瞼時の油層断面の仮想図閉瞼時には,涙液油層は,ヒダ付きカーテンが折りたたまれたような状態になっている.(Bron教授のご厚意による図を改変)涙液油層上眼瞼下眼瞼涙液液層———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???に比例)と拮抗するため,涙液の粘性が高かったり開瞼速度が速いと,メニスカスから水を奪って液層の厚みが増すよう作用し,逆にメニスカスの表面張力が高かったりその曲率半径Rが小さいと(涙液減少を意味する)メニスカスに涙液が奪われて涙液層は薄くなるという.一方,BrownとDervichianの2ステップモデル7)の第2ステップにあたる油層の伸展挙動に関して,最近,King-Smithらは,液層の挙動を含めた新しいモデルを提唱した6).このモデルによると,開瞼時には,角膜から液層に対して粘性抵抗が働くために,角膜上の液層の水は上方のメニスカスから引き出され,その際,メニスカスの油層も引き出されて涙液層に加えられる.ところが,それらの涙液層の追加の際に,上方のメニスカスの水は,上眼瞼下に満たされた水によって十分に補われるのに対して,油層は液層のようには十分に補われないために,開瞼が進むに従って,涙液油層は下方に比べて上方で次第に薄くなってゆく.つまり,King-Smithらは開瞼後,角膜表面の涙液油層には厚みの勾配が生じ,その結果,表面張力の勾配(油層が薄いところほど表面張力が高い!)が生まれ,その勾配を消失せしめるべく油層の上方への伸展(再分配)が起こるのではないかと推察している(図4).II油層の伸展挙動―定量解析の黎明先に述べたように,DR-1?によって観察される涙液油層の上方への伸展は,重症の涙液減少においてはきわめて緩徐で,健常眼で俊敏であるのに比べて対照的であり,油層の伸展が眼表面の涙液貯留量に依存していることを想定させる.しかし,このことが客観性をもって解析されるようになったのは最近のことである.すなわち,Gotoら3,4)は,涙液油層の伸展挙動の半定量解析を試み,DR-1?を用いて伸展中の角膜上の涙液油層干渉像を約0.2秒ごとに静止画として取り込み,油層の伸展が終了するまでの時間をlipidspreadtime(LST)と定義してそれを求めた.その結果,健常眼に比べて,涙液減少型ドライアイではLSTが長く,涙点プラグの挿入後は,挿入前に比べLSTが短くなることを見出し4),油層の伸展挙動が貯留涙液量に依存する可能性を示した.一方,角膜上の涙液表面に浮遊する微粒子の動きを定量的に評価した興味深い報告10)もある.おそらく,この微粒子は油層表面に付着しており,その動きは油層の挙動を反映したものと推察されるが,この報告では0.04秒ごとの微粒子の移動量を記録し,微粒子の移動速度の時間変化を解析して,その対数近似式から求めた微粒子(35)図3液層の塗りつけモデル8)上方の涙液メニスカスの陰圧は,メニスカスの液層が角膜上の液層に移行する領域(◇)に圧勾配を生じせしめ,この力は,角膜表面によってもたらされる液層の粘性抵抗と拮抗しながら,角膜表面に液層を塗りつけてゆく原動力となる(文献6より引用改変).Rは涙液メニスカスの曲率半径.上眼瞼粘性抵抗圧勾配涙液メニスカス液層が塗りつけられる領域R図4開瞼後の油層の伸展挙動モデルa:開瞼直後,b:開瞼後,油層の伸展が終了した状態(King-Smithら6)による).開瞼直後,涙液油層には厚みの勾配が生じており,その結果,表面張力の勾配が生まれて,その勾配を消失せしめるべく油層の上方への伸展が生じる.(文献6より引用改変)涙液油層ab———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007の移動初速度(initialvelocity:IV)と微粒子の移動が止まるまでの時間(stabilizationtime:ST)について検討している.その結果,Gotoら4)の報告と同様,涙点プラグ挿入後では,健常眼と同じレベルまで,IVとSTが回復することを明らかにした.IIIレオロジーとVoigtモデルレオロジー(rheology)11)とは,物質の変形と流動を取り扱う学問分野であり,日本語に直訳すれば流動学であるが,現在では,レオロジーのままカタカナで使用するのが一般的である.この分野では一般に粘弾性体の挙動が取り上げられる.たとえばある粘弾性体に圧力(応力)を加えると,その粘弾性体は変形し平衡状態から離れた状態となる.しかし,圧力を解除すると,粘弾性体は再び平衡状態に戻ろうとする.そして,この粘弾性体が平衡状態へと復元しようとする物性挙動は,レオロジーにおいて,その最も単純なモデルである,Maxwellモデル,Voigtモデルあるいはそれらの組み合わせで表現しうる.また,これらのモデルは,粘弾性体の物性物理学の歴史において“時間”の要素が入った初めてのモデルといわれる.ここにVoigtモデルとは,バネ(弾性要素)とダッシュポット(粘性要素)を並列に組み合わせた力学モデルであり,バネはフック(Hooke)の法則に従い,力(s)は伸び(g)に比例する(s=k×g,k:バネ係数).ダッシュポットとは,先端を閉じたシリンジを引く際に生じる抵抗と同様のもので,ダッシュポットには速度(dg/dt)に比例した抵抗(s)を生じる(s=h×dg/dt,h:粘性係数).一般に,Voigtモデルは,g=g0(1-e-t/l)(g:伸び,g0:平衡状態での伸び,t:時間,l:遅延時間)で表され(図5),この挙動は,スポンジやクッションなどに指で作ったへこみが,指を離すと徐々に元に戻る様子(レオロジーでクリープ挙動とよぶ)をイメージするとわかりやすい.筆者らは,閉瞼時に圧縮され,開瞼後に元に戻る涙液油層の伸展挙動が,この粘弾性体の物性挙動モデルの一つであるVoigtモデルにあてはめられるのではないかと考えた.VI油層の伸展挙動がVoigtモデルにあてはまるとする理論的背景ある粘弾性体を引き伸ばして,その表面積を増やすにはエネルギーが必要であり,必要とされるエネルギーΔEは,ΔE=g×ΔA(g:表面張力,ΔA:増加させる表面積)で与えられる.つまり,増加させようとする表面積に比例したエネルギーが必要となる.ここで,涙液油層が液層の上を伸展しΔAだけ表面積が増加したとすると,増加するエネルギー(=油層の表面積をΔAだけ広げるのに必要なエネルギー)ΔEは,ΔE=goilΔA+goil/aqueousΔA-gaqueousΔA=(goil+goil/aqueous-gtear)ΔA(goil:油層の表面張力,goil/tear:油層と液層の界面張力,gtear:液層の表面張力)で与えられる.すなわち,油層の表面積の増加はバネ(弾性)で表現されうる(バネ係数×表面積の増加).しかし,油層の伸展に伴って,油層の内部には流動が起こるため,粘性(粘性係数×速度:ダッシュポットで表される)が生じ,この粘性が油層の容易な伸展に絶えず抑制をかけて,クリープの伸びが絶えず遅れるように作用する(遅延クリープ).すなわち,この推論は,涙液油層の伸展挙動がVoigtモデルで表されることを推理させるものである.そこで,1)油層の伸展がVoigtモデルで表されうること,および2)油層と水層との間の摩擦が無視できることの2点を仮定すると,油層に加わる応力s(単位面積当たりの力)と歪e(伸展した表面積÷元の表面積)(36)図5VoigtモデルVoigtモデルとは,バネとダッシュポットを並列に組み合わせた最もシンプルな粘弾性のレオロジーモデルの一つであり,g=g0(1-e-t/l)(g:伸び,g0:平衡状態での伸び,t:時間,l:遅延時間)で表現され,図のようなクリープ曲線を示す.バネkダッシュポットhg0時間tlg0(1-1/e)伸びg———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???の関係は,次式で表される.s=ke+b×de/dt(1)[k:弾性係数(バネ係数),b:減衰係数,t:時間]ここでs=s0(一定)として,式(1)を積分すれば,e=s0/k+C×e-(k/b)t(C:定数)(2)となる.式(2)は油層を一定の応力で引き上げたときの油層の歪(表面積の増加率)を表す.ここで初期条件,e=0(t=0)を用いると,C=-s0/kとなり,両辺にL(元の表面積)をかければ,Le=(Ls0/k)[1-e-(k/b)t](3)となる.式(3)を書き換えれば,g=g0(1-e-t/l)となる.そこで,涙液油層の伸展挙動がこの式にあてはまるか否かを検討した.VVoigtモデルを用いた涙液油層伸展のキネティックアナリシス筆者らは涙液油層の伸展挙動をVoigtモデルを用いて解析するために,まず,DR-1?の低倍モードで得られる開瞼後の伸展中の涙液油層の光干渉像をデジタル録画し,つぎに0.05秒ごとに静止画像として取り込んで(図6),伸展中の油層領域を画像解析ソフトを用いて切り取(37)図6開瞼直後から0.05秒ごとにキャプチャーされた涙液油層の干渉像左上隅の像は,閉瞼時である.上段から下段に向けて,左から右に0.05秒ごとに静止画として取り込まれたデジタルイメージを示す.涙液油層の伸展挙動がわかる.———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007(38)図7伸展中の油層領域(図6参照)図6から,画像解析ソフトを用いて,伸展中の油層部分だけを切り取ったもの.図8Voigtモデルを用いた伸展油層面積の経時変化の解析伸展中の油層の面積を経時的にプロットし,これをVoigtモデルにあてはめて解析した.油層伸展挙動のパラメーターとして,油層伸展初速度S?(0)=dS(0)/dtを定義できる.353025201510504.00.50時間(秒)面積S(mm2)S?(0)=75.94(mm2/sec)Voigtモデルによるクリープ曲線の近似式S(t)=31.54-29.92×e-2.54×t(mm2)(R2=0.978)1.01.52.02.53.03.5———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???り(図7),それらの面積を計測した.つぎに,計測された油層面積の経時変化をプロットし,これをVoigtモデル[S(t)=r(1-e-t/l);S(t):伸展油層面積(mm2),r:定数,t:時間(秒),l:緩和時間(秒)]にあてはめて解析してみた(図8).その結果,計測し得たすべての例(29例)において,きわめて良好(R2の平均=0.985)にVoigtモデルで近似されうることが判明した12).また,このことは逆に,涙液油層の伸展挙動がレオロジーのVoigtモデルで表現される粘弾性挙動を示すことを示唆していると考えられる.VI油層伸展初速度と涙液貯留量の関係Gotoら4)やOwensら10)の報告にあるように,涙液減少と涙液油層の伸展速度には何らかの関係があり,涙液が少ないと油層の伸展が悪いことが推定される.そこで,両者の詳細な関係を知るために,先のVoigtモデルの式から油層伸展初速度S?(0)=dS(0)/dtを定義し(図8),S?(0)とビデオメニスコメーター13)で測定しうる涙液メニスカスの曲率半径R(涙液貯留量と相関14))との関係を検討してみた.その結果,両者の間には,有意な正の相関が認められた12).ここで,King-Smithら6)によれば,角膜上の涙液の厚みhは,h=1.338×R(?U/s)2/3(R:涙液メニスカスの曲率半径;?:涙液の粘度;U:上眼瞼の開瞼速度;s:メニスカスの涙液の表面張力)によって与えられ,hがRに比例することから,先のS?(0)とRとの有意な相関は,S?(0)とhとの相関,すなわち,涙液油層伸展初速度の増加が涙液の液層の厚みの増加によってもたらされていることを意味していると考えられる.また,以上の結果から,Gotoらの報告4)にあるように,涙液減少型ドライアイに涙点プラグを挿入すると,涙液貯留量が増加し,それに比例して角膜上の涙液の液層が厚くなり,油層の伸展が促進されることが容易に想像できる.そこで,涙点プラグ挿入前・後で油層伸展初速度を比較してみたところ,涙点プラグ挿入後にRが有意に増加するとともに,S?(0)が有意に増加することが見出された15).以上の結果から,逆に,涙液油層の伸展挙動をVoigtモデルを用いて解析することにより,角膜上の涙液の液層の厚みの情報(涙液減少型ドライアイの重症度を意味する)が得られるのではないかと考えた.VII涙液減少の評価としての油層伸展のキネティックアナリシスドライアイにおいては,一般に涙液と上皮の相互作用に悪循環がみられ16),その悪循環をもたらす原因としてその上流にさまざまなリスクファクターが存在する.なかでも涙液減少は最も大きなリスクファクターであり,日常臨床において,涙液減少のスクリーニング,すなわち,涙液の量的検査は,ドライアイ診断の一翼を担っているといっても過言ではない.現在までのところ,この涙液量の検査として,SchirmerテストI法や各種の涙液メニスカスの評価法がある.SchirmerテストI法17)は,反射性の涙液分泌を調べる検査法であり,眼表面に障害が生じたときにその障害を修復しうるだけのポテンシャルとしての涙液分泌があるか否かを調べる検査である.そして,この検査の意義はこの点にあり,SchirmerテストⅠ法にはそれなりの定量性もあるが,侵襲性が高いうえに,眼表面で現在使われている涙液量の検査とはいえない.一方,涙液メニスカスには眼表面の涙液の75~90%が貯留しているとされる18)ため,涙液メニスカスの評価は,ドライアイのスクリーニング指標としても意味のあるものであり,高さと曲率半径(R)がその指標として最も適しているとされる19).筆者らの施設では,ビデオメニスコメーター13)を開発し非侵襲的にRを計測することに成功している.しかし,このメニスコメトリー法で評価した涙液量も,ドライアイの戦場ともいえる,実際に上皮障害が起きている角膜表面の現場における涙液の液層の厚み情報を拾っているものではない.すなわち,角膜上の涙液の液層の厚みを計測できるならば,より理想的な涙液評価法として位置づけられるはずである.しかし,現在までのところ,涙液の厚みを計測しうる検査法6)はまだ限られており,ようやく正常眼の角膜中央でのピンポイントの測定結果が得られるようになったばかりである21).油層伸展のパラメーター[S?(0)]とRの有意な相関は,油層の伸展挙動の解析が,その直下の液層の厚み情報を得るのに役立つ可能性を意味していると考えられ,将来的には,この解析法が,短時間,非侵襲的,かつ定量的な涙液の量的検査となり(39)———————————————————————-Page8???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007うる可能性を示しているように思われる.おわりに瞬目後に涙液油層は,直下の液層の厚みを反映しながら,角膜表面の液層の上を上方に向かって伸展してゆく.涙液減少型ドライアイにおいては,角膜上の液層は薄く,上皮は少なからず障害を受けて,ガタガタ道を走るがごとくに油層の伸展は悪くなる.油層の伸展挙動の観察は,油層をトレーサーとして直下の液層の状態をスキャンする検査のように思える.近い将来,さらにこの新しい研究領域が発展して,油層のキネティックアナリシスで得られたワンパラメーターでドライアイのスクリーニングや重症度評価が行えることは,あながち夢ではないのではないだろうか.そして,もしそうなれば,侵襲的で,アーティファクトの多かったドライアイの検査が,一変して,非侵襲的かつ簡便で定量的な検査としてコメディカルの手にゆだねられ,眼科医は,得られた油層伸展挙動のデータを見て,ドライアイの重症度を的確に把握し,治療法を選択できるかもしれない.引き続き,この検査法の確立に努力してゆきたいと思う次第である.謝意:稿を終えるにあたり,油層伸展解析システムの確立にご尽力いただいた水草豊氏,鈴木孝佳氏(ともに興和株式会社),レオロジーの理論についてご教授いただいた東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻の加藤孝久教授に深謝いたします.文献1)BronAJ,Ti?anyJM,GouveiaSMetal:Functionalaspectsofthetear?lmlipidlayer.???????????78:347-360,20042)YokoiN,TakehisaY,KinoshitaS:Correlationoftearlipidlayerinterferencepatternswiththediagnosisandseverityofdryeye.???????????????122:818-824,19963)GotoE,TsengSC:Di?erentiationoflipidtearde?ciencydryeyebykineticanalysisoftearinterferenceimages.???????????????121:173-180,20034)GotoE,TsengSC:Kineticanalysisoftearinterferenceimagesinaqueoustearde?ciencydryeyebeforeandafterpunctalocclusion.?????????????????????????44:1897-1905,20035)McDonaldJE:Surfacephenomenaofthetear?lm.???????????????67:56-64,19696)King-SmithPE,FinkBA,HillRMetal:Thethicknessofthetear?lm.????????????29:357-368,20047)BrownSI,DervichianDG:Hydrodynamicsofblink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DR- 1Rによる涙液油層動態解析

2007年4月30日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSの文字を書いているのかなど,格段に得られる情報が増える(図2).涙液油層動態解析は基本的にはビデオ撮影およびそのコマ送り再生を行い,油層の分布を解析する.オキュラサーフェスはダイナミックである.涙のダイナミクスはcompositionalfactor(分泌,三層構造)と,hydrodynamicfactor(瞬目,閉瞼)によりなる1)(図3).涙腺で涙液が分泌され,マイボーム腺から油が分泌されるわけだが,それだけでは眼表面全体にきれいな三層構造は形成されない.瞬目することにより上下のメニスカスに貯留している涙液が眼表面に拡散し,また,油が閉瞼時に圧縮され開瞼時に涙液水層上に伸展するのである.そして涙液の大部分は涙道から排出され,開瞼時には一部分が眼表面から蒸発する.オキュラサーフェスのはじめに涙液が表層から油層,水層,ムチン層の三層構造をとることはよく知られているが,現在のところ,ドライアイの診断はSchirmerテストを中心にした水層の評価が中心となっている.治療に関しても,人工涙液やヒアルロン酸の点眼,涙点プラグや涙点閉鎖など水層をターゲットにしたものがほとんどである.しかしSchirmerテストに異常を示さないドライアイ患者やこのアプローチのみでは治癒しない患者も多く存在し,涙液油層やムチンに対して目が向けられるようになってきた.また,眼科全般において,検査の技術は目覚しい発展を遂げているが,特に動的要素の多いオキュラサーフェス領域においては,ある一瞬一瞬の結果だけでは病態評価が困難であり,二次元から三次元,さらには時間的な要素を加味した,いわゆる四次元検査が発展を続けている.本稿では,近年発展してきた涙液油層の非侵襲的検査DR-1?,およびその動的解析について述べる.I動的解析とは動きのあるものをある一瞬の結果のみ解析しても,その瞬間の情報しか得ることができない.たとえば,文字を書く経過を例にしてみるとわかりやすい.書いている途中のある一瞬を見ただけでは,その先に何を書くのかすらわからない(図1).書く経過を連続して見てみると,どのような書き順で,どのくらいのスピードで,何(25)???*EriHosaka&EikiGoto:鶴見大学歯学部眼科学講座〔別刷請求先〕保坂絵里:〒230-8501横浜市鶴見区鶴見2-1-3鶴見大学歯学部眼科学講座特集●前眼部四次元検査(前眼部キネティックアナリシス)あたらしい眼科24(4):423~429,2007DR-1?による涙液油層動態解析??????????????????????????????????????????????????-?????????保坂絵里*後藤英樹*図1静的解析のイメージ1枚の写真だけ見ても何の文字を書いているかはわからない.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007状態は刻一刻と変化し,瞬目直後と直前では涙液層の厚みや油層の動態,涙液の蒸発量はまったく異なるのである.すなわち,分泌量,層の厚さなどの静的解析のみならず,経時的変化を考慮した動的解析が重要になってくる.DR-1?が登場した当初は涙液油層干渉像の評価方法としては,TearscopeTMのパターン判定,DR-1?のグレード分類,干渉色からの油層の厚みのおおよその定量化などの静的解析がおもなものであった.動的解析の方法としてはDR-1?,TearscopeTMを用いたnon-inva-siveBUT(NI-BUT)測定が行われていた.最近での涙液油層動的解析としては,DR-1?を用いた脂質伸展時(26)表1オキュラサーフェスの解析静的解析動的解析Schirmer試験BUT染色試験NI-BUTメニスカスTSAS角膜トポグラフィーLipidspreadtime(脂質伸展時間)DR-1?のグレード分類油層厚み定量図2動的解析のイメージ連続写真を見ると経時的変化がわかり,情報量が格段と増大する.図3涙のダイナミクス涙液の分泌開瞼時に蒸発涙道を通り鼻腔へ瞬目による涙液の拡散および油の伸展マイボーム腺より油の分泌涙腺,———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???間(lipidspreadtime)の測定がある(表1).これは涙液層破壊時間(BUT),NI-BUT,TearStabilityAnaly-sisSystem(TSAS)(五藤智子先生の項参照)などと同様,大きな意味での涙液の安定性の検査といえる.IIDR-1?の原理涙液油層干渉像カメラDR-1?(興和,名古屋)(図4)は無色で観察しがたい涙液油層の動態を特殊な光学系を通して観察することのできるデバイスである2).角膜に白色光を投影すると,油層の表面と裏面からの2つの反射光に光路差が生じ,干渉現象が起こり,そのときに干渉縞を呈する3)(図5).多波長の白色光源では膜厚の変化に伴って茶色がかった灰色から徐々に明るくなり,虹色の干渉縞を呈する.わかりやすく言うと,シャボン玉(石けんの薄膜が覆っており,太陽光によって干渉現象が生じる)の表面が虹色に見えるのと同じ現象である.DR-1?では白色光源を用いており,涙液表層の薄膜(油層)によって呈される干渉像を観察することができ,無色の薄膜を可視化している.IIIDR-1?の所見DR-1?では,角膜上の油層の分布と開瞼時の油層の経時的変化を観察することができる.油層の厚みが0~約100nmの範囲では灰色の干渉光を呈し,厚みの増加に伴い,黄,茶,青の順に色が変化していく.DR-1?による油層の干渉像は瞬目後1~3秒で安定したパターンを示し,正常では開瞼後10~30秒でドライスポットが出現する.DR-1?は本来,薄膜干渉色情報(油層の厚み情報)を観察する装置である.しかし,涙液分泌が減少していると油が角膜上を均一に伸展,安定せず,油層の厚みが増すことが知られており,涙液分泌減少型ドライアイ(Sj?gren症候群など)の重症度の判定や涙点プラグや涙点閉鎖の治療後の評価にも有用である2,4).IVDR-1?の評価方法DR-1?の結果の評価には,瞬目数秒後の安定した油膜の状態を評価する静的解析(staticanalysis)と油膜の状態を経時的に評価する動的解析(kineticanalysis)がある.1.静的解析正常眼では,油層は瞬目後1~3秒で角膜全体に油が行きわたり,安定したパターンを呈する.Yokoiらは,この安定した時点での干渉像を5つのグレードに分類した2,4)(図6).正常眼では水層が十分に存在するので,油の伸展が良く薄く均一に分布するため,灰色一色の干渉色を示す(グレード1)が,ドライアイでは水層が減少するため,油が均一に伸展せず厚みにばらつきが生じる.そのため,干渉光が多彩になり干渉縞が観察される(27)図4涙液油層干渉像カメラDR-1?図5原理入射光が,油層表面で鏡面反射(g1)および油層水層境界面で鏡面反射(g2)し干渉することにより,干渉光(R)を呈する.?は角膜前涙液油層厚,f1は反射角でありDR-1?光学系ではレンズ設計により0?を実現しており,?は空気,涙液油層,涙液水層の屈折率である.(文献3より使用許諾を得て掲載)Air1.0Lipid1.48Aqueous1.33)R(?g1g2f1=0?———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007(グレード3~5).グレード5になると瞬目に伴う油層の伸展もほとんどみられず,角膜表面が露出している.かなりの重症ドライアイの所見である.涙液減少型ドライアイの重症度と相関するため,ドライアイのスクリーニングに有用と考えられている2,4).2.動的解析a.涙液干渉像によるNI-BUT(non-invasiveBUT)涙液の安定性の評価方法としてはフルオレセイン染色を用いたBUT測定があるが,フルオレセインを点眼することによって本来の涙液安定性に影響を与えてしまうことが知られている5).DR-1?やTearscopeTMなどの涙液干渉装置では,フルオレセインを点眼することなく,涙液層の破壊像を観察することができる(図7).正常眼では10~30秒程度とされているが,破壊像が観察されない症例もあることから,涙液三層のうち,どの層の破壊像なのかははっきりとわかっていない.b.脂質伸展時間(lipidspreadtime)の測定瞬目後約0.2秒間隔でDR-1?にて油層干渉像をビデオ撮影し,経時的な油層の動態を解析する.正常では油層の干渉縞が水平方向に伸展していくパターンがみられるが,マイボーム腺機能不全などの油層が減少していると考えられるドライアイ症例では,干渉縞は下から上へ垂直方向に伸展し,なおかつ角膜上方まで伸展しきらずに角膜全体に行きわたる前に伸展が止まってしまうパターンがみられることが多い6)(図8).Gotoらは瞬目してから油の伸展が止まるまでの時間を脂質伸展時間(lipidspreadtime)とし,健常者では0.36±0.22秒,(28)図7DR-1?によるNI-BUT開瞼10秒後に出現したドライスポット(矢印).グレード1グレード2グレード4グレード5グレード3図6DR-1?グレード分類———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???マイボーム腺機能不全患者では3.54±1.86秒,さらに涙液減少性ドライアイ患者では2.2±1.1秒であり,涙点閉鎖後では0.8±0.5秒と脂質伸展時間は有意に短縮したことを報告した6,7)(図9).健常者では1秒以内で眼表面全体に伸展する油がドライアイ患者では油の伸展障害が起こっており,伸展が止まるまでに時間がかかり,(29)図8正常眼(上)およびマイボーム腺機能不全患者(下)の油層の分布正常眼では,油層の分布が水平に伸展しているが,マイボーム腺機能不全患者では垂直に分布している.また,瞬目(O)から油層の伸展が止まる(X)までの時間が(脂質伸展時間)正常眼に比して,マイボーム腺機能不全患者では延長していることがわかる.(文献7より使用許諾を得て掲載)———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007さらに油が角膜全体に伸展しないことがわかる6,7).最近では,横井,山田らにより涙液油層の動態に関してレオロジーモデルを用いた解析が報告されており(横井則彦先生の項参照),そちらも今後の発展が期待される8).このようにDR-1?の動的解析を用いることにより,涙液脂質伸展,およびそれに影響する涙液水分量の(30)図9涙液減少型ドライアイ(上)vs涙点閉鎖術後(下)瞬目(O)から油層の伸展が止まる(X)までの時間(脂質伸展時間が)涙点閉鎖後では短縮していることがわかる.(文献6より使用許諾を得て掲載)———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???評価を行うことが可能となってきている.V今後の課題動的解析は四次元(xyz軸+時間軸)の対象を比較検討するもので,その結果の評価が現在のところ非常に困難である.まずは三次元の対象を一次元に表現するインデックスの開発が急務である.たとえば,角膜トポグラフィーにおけるSRI(surfaceregularityindex)や角膜波面収差におけるZernike多項式のような臨床上有用なものが望まれる.DR-1?画像においては油層の厚みは部位によって異なるため,その平均を一つの値で表現し,画像全面での厚み定量を可能にすることが今後の課題と考えている.文献1)SolomonA,TouhamiA,SandovalHetal:Neurotrophickeratopathy,basicconceptsandtherapeuticstrategies.??????????????????????3:165-174,20002)YokoiN,TakehisaY,KinoshitaS:Correlationoftearlipidlayerinterferencepatternswiththediagnosisandseverityofdryeye.???????????????122:818-824,19963)GotoE,DogruM,KojimaTetal:Computer-synthesisofaninterferencecolorchartofhumantearlipidlayer,byacolorimetricapproach.?????????????????????????44:4693-4697,20034)DanjoY,HamanoT:Observationofprecornealtear?lminpatientswithSj?gren?ssyndrome.?????????????????????73:501-505,19955)MengherLS,BronAJ,TongeSRetal:E?ectof?uores-ceininstillationonthepre-cornealtear?lmstability.????????????4:9-12,19856)GotoE,TsengSC:Kineticanalysisoftearinterferenceimagesinaqueoustearde?ciencydryeyebeforeandafterpunctualocclusion.?????????????????????????44:1897-1905,20037)GotoE,TsengSC:Di?erentiationoflipidtearde?ciencydryeyebykineticanalysisoftearinterferenceimages.???????????????121:173-180,20038)横井則彦,山田英明,小室青ほか:レオロジーモデルによる涙液油層伸展速度と涙液貯留量の関連の検討.第30回角膜カンファランス,東京,2006.2.9(31)

Tear Stability Analysis System(TSAS)による涙液動態検査

2007年4月30日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSI角膜形状解析装置ビデオケラトスコープ角膜形状解析装置には,オートレフラクトメーターをはじめさまざまな種類があるが,オートレフラクトメーターは角膜上の数点しか角膜曲率半径を計測できないのに対して,フォトケラトスコープは同心円状の多数のリングを角膜に投影することにより,大まかな角膜形状を把握できるようになったこと,角膜曲率半径計測ポイントも増えたことなど大きく改善された.その次世代として登場したビデオケラトスコープは同じく角膜に同心円状のリングを投影するのであるが,そこから得られたマイヤー像をもとに1本のリング当たり約250ポイント,28本のリングを投影すれば約5,000ポイントもの角膜曲率半径をはじきだすことができるようになった(図1).しかもそれをカラーコードマップに変換することにより初期の円錐角膜でも,画期的にしかも容易に検出できるようになった2).このビデオケラトスコープがわれわれにもたらした恩恵は多大なものがある.ただこのマイヤーリングを用いて測定するタイプの装置は,眼表面の涙液の影響を受けるという,唯一ともいえる欠点がある.測定時は必ず瞬きをして開瞼して間もないとき(涙液層が安定している間)に測定をしなければきれいなマイヤー像は得られず,角膜形状を正しく反映しない場合がある(図2).筆者らはこのビデオケラトスコープが円錐角膜をはじめとする角膜形状異常をスクリーニングすることに成功したことから,その他のあらゆる角膜疾患はじめに日常の診察において非常にポピュラーな疾患であるドライアイは,Sj?gren症候群のような重症型からOA作業などに伴う軽症型まで疾患内のスペクトル幅はとても広く,またその病態にいたっては,基本的に涙腺の機能異常を主とする涙液分泌低下型と涙液層の安定性の異常を主とする蒸発型とに分類されてはいるものの,眼表面という観点からいうと,さまざまな要因がからみあっていることが多く,個々の病態に応じた治療戦略が必要とされる.ドライアイの診断基準が1995年にドライアイ診断基準委員会によって発表されてからも診断にあたって確実な基準となる検査法が見出されないまま,昨今ではその見直しがすでに検討され,ついに新たな診断基準が発表された1).患者の自覚症状を盛り込んだことで,最近ドライアイ患者数が増えている要因ともいうべき涙液層破壊時間(BUT)短縮型のドライアイをその診断基準のなかで取りこぼすことがないよう,非常にうまく改善された.しかしながら涙液を含む眼表面の恒常性を非侵襲的にできるだけ簡単なパラメーターで評価することは今後も大きな課題である.今回の小論では,そういった問題点から筆者らが開発することに至った角膜形状解析装置を利用した,涙液安定性評価装置(TearStabilityAnalysisSystem:TSAS)について,説明と考察を加える.(17)???*TomokoGoto:鷹の子病院眼科〔別刷請求先〕五藤智子:〒790-0925松山市鷹子町525-1鷹の子病院眼科特集●前眼部四次元検査(前眼部キネティックアナリシス)あたらしい眼科24(4):415~421,2007TearStabilityAnalysisSystem(TSAS)による涙液動態検査??????????????????????????????(????)五藤智子*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007をスクリーニングできることを目標とした.もともと涙液に影響を受けやすいという欠点を逆手にとり,涙液を非侵襲的に評価することに成功したのである.II涙液安定性評価装置(TearStabilityAnalysisSystem:TSAS)3)1.測定原理図2aは開瞼直後に撮影した正常角膜であるが,同じ眼を10秒間開瞼させた状態で撮影すると図2bのように異常なフラット像が現れる.角膜表面の涙液層が変化することによってその部位のマイヤーリングに変化をきたし,結果的にカラーコードマップに変化をきたすのである.このように角膜形状解析装置のビデオケラトスコープは涙液の影響を受けやすい.その欠点を利用して開瞼時から連続撮影できるよう改良を行った.図3a,bにTSASで得られた代表的な検査結果を示す.図3aは,正常眼の検査結果で,左上が開瞼直後0秒時のもの,以後,1秒,2秒と最長10秒まで,開瞼したままの状態で1秒ごとに連続撮影している.最後の右下のカラーマップはbreakupmapとよばれるもので,開瞼後の何秒の時点で角膜屈折値に0.5ジオプトリー(D)以上の変化が現れたかを示している.これによれば,涙液層の安定性を時間軸と面積軸からよりビジュアルに把握することができる.この症例では,開瞼直後からカラーマップにほとんど変化が認められず,涙液層がきわめて安定し(18)図1ビデオケラトスコープ同心円状のリング光を角膜に投影し,得られたマイヤー像を解析することでカラーコードマップに変換する.図2TSASの原理a:開瞼直後の角膜形状.b:aと同じ眼を開瞼して10秒後に撮影したもの.涙液破壊のため異常なフラット像がみられる.ab———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???た状態にあると考えられる.つぎに図3bは,Schirmer値は正常範囲であるがドライアイ様の症状を訴える症例である.ご覧のように,開瞼直後よりカラーマップが変化し,涙液層の安定性が悪いことがうかがわれる.2.TSASの有用性の検討はたしてこの検査がドライアイの検出に有用であるかどうかを,0.5D以上の角膜屈折値変化が現れるまでの時間(秒)であるTMS-BUTと,5秒以内に変化の認められた領域を面積比で表したTMS-BUAという,2つのパラメーターを用いて検討してみた(図4a,b).これらのパラメーターを従来からのBUT(SLE-BUTと記載)と比較したところ,TMS-BUTとは正の相関が,(19)表1SLE-BUTとTSASの比較検討SLE-BUTTotaleyesTMS-BUTTMS-BUA>5sec≦5sec<0.2≧0.2Norml(>5seconds)3423112212Short(≦5seconds)4603430640SLE-BUT:tearbreakuptimeevaluationusingslit-lampmicroscope.TMS-BUA:ratioofareahavingtearbreakuptime≦5secondstothewholecolor-codearea;TMS-BUT:TMStearbreakuptime.SLE-BUT正常群のなかにTSASにて異常を示した例がみられ,その89%になんらかのドライアイ症状が認められた.(文献3より)図3aTSASによって撮影された1回1眼に対する検査データ0秒から10秒までほとんど角膜屈折値に変化がみられず,涙液が非常に安定していることを表している.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007TMS-BUAとは負の相関が得られた(図5a,b).また,表1に示すように,あらかじめBUT短縮群と正常群に分けてそれぞれTSASの検査結果を検討したところ,正常群と判定されたなかにTSASでは異常を示す症例が認められ,さらにその89%が何らかのドライアイ症状を有していたことがわかった.これまでの検査では捉(20)図3b涙液の安定性が悪い症例開瞼直後より角膜屈折値にさまざまな変化がみられ,非常に涙液の安定が悪い.図4bTMS-BUAの算出方法TMS-BUA=0.89●TMS-BUT:thetimingofoccurrenceoftearbreakup(changeofcornealpower>0.5D)Areawithtearbreakuptime≦5sec●TMS-BUA=──────────────────Wholecolor-codearea図4aTSASから導いたパラメーターTMS-BUTとTMS-BUAの2つのパラメーターを用いてTSASの有用性について検討した.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???(21)えられなかった潜在的なドライアイ患者ポピュレーションを検出している可能性もある.3.TSASによるLASIK術前後評価4)LASIK(laser????????keratomileusis)は短時間で安定した矯正を得られることなどから,今や屈折矯正手術の大半を占めている.その合併症の一つである術後ドライアイは,ほとんどの症例が数カ月で改善が得られるということにはなっているが,なかには術後点状表層角膜症(super?cialpunctatekeratopathy:SPK)が遷延化し涙点プラグの挿入を余儀なくされる症例もみられる.その機序は明確にはされていないものの,角膜知覚が術後3カ月までは有意に低下している事実からも,マイクロケラトームによる角膜神経の切断が関与していることは明らかである.しかし3カ月以降は回復する傾向がみられるという事実があるにもかかわらず,ドライアイが重症化する症例が見受けられるのはなぜであろう?そもそもドライアイというのは涙液側とそれを保持する上皮側,上皮に均一な涙液層をつくる眼瞼,など多くの要因がその病態をつくり出す恐れのある眼表面疾患なのである.もともと悪条件を有する潜在的ドライアイに,涙液のre?exloopの求心路を担っている角膜知覚神経切断という大きなストレスが加わった場合,不可逆性のドライアイ状態となりうるのではないだろうか.筆者らは,TSASを用いてLASIK術前後の評価をし,術前においてTSASが異常であった場合にドライアイ合併症が多いという結果を得られた.その結果と術前ケアとして今後考えられることについて検討したことを,以下に述べる.4.LASIK術前後のTSASLASIKの手術前後でTSASにて撮影し,比較してみると(図6a),術後に涙液層の安定性が悪化していることがよくわかる.術後3カ月までは有意な低下がみられ6カ月で回復傾向がみられる.しかし症例のなかには術前のSchirmer試験,SLE-BUTは正常であったにもかかわらず,LASIK術後,SPKが長期間にわたって遷延し,最終的に涙点プラグを挿入せざるをえなくなったケースがみられ,その症例の術前TSASでは,わずかながらも開瞼直後よりカラーマップに乱れがあり,涙液層の安定性が悪いことが示されていた.術後のドライアイ合併症としてSPKが散見される.ほとんどの症例は回復し,自覚症状も改善がみられる.しかしながら,この症例のように術後ドライアイが重症化し角結膜上皮障害が遷延化するケースにおいては術前より何らかの潜在性ドライアイ要因があったのではないかと思われる.そこで筆者らは術前TSASのデータが正常であった群と異常であった群に分けてSPKの出現率をみてみることにした(図6b).その結果,グラフに示すように明らかに術前TSASが異常を示した群においては有意に術後経過中SPKの出現率が高かった.しかもその症例のなかには6カ月を経てもSPKが遷延化し,重症化するケー図5aTMS-BUTとSLE-BUTの関係正の相関関係がみられる.(文献3より一部改変)1412108642002468101214SLE-BUT(秒)TMS-BUT(秒)r=0.7219p<0.0001図5bTMS-BUAとSLE-BUTの関係負の相関関係がみられる.(文献3より一部改変)102468101214SLE-BUT(秒)TMS-BUAr=0.6317p<0.00010———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007(22)スが含まれた.このことよりTSASは術前検査において潜在性のドライアイ要因を鋭敏に検出しているのではないかと推察された.TSAS異常群においては,涙液量だけでなく涙液安定性に異常を及ぼすような要因を総合的に問診,観察をして突きとめておかなければならない.要因として考えられるものには,コンタクトレンズによる影響,アレルギー性結膜炎,その他の結膜炎,軽微なドライアイ,マイボーム腺機能異常などである.そのケアとしてはコンタクトレンズ離脱時間の考慮をはじめとしてそれぞれに対する点眼治療などであり,TSASが改善された状態において施術をすれば,術後ドライアイの重症化は防げる可能性も十分あるのであろう.図7ドライアイ患者(67歳,女性)への0.1%ヒアルロン酸点眼後のTSASによる涙液安定性の評価点眼前BUI:35.130.756.61分後30分後BUI:57.366.3120分後5分後Schirmer:5mmBUT:2秒A2D2図6aLASIK前後のTSAS術後1週より涙液の安定性は低下し,術後3カ月まで有意な低下がみられる.(文献4より一部改変)02468106カ月3カ月1カ月1週術前TMS-BUT(秒)****p<0.05経過期間図6b術前TSASとSPK出現率術前TSASが異常であった群において有意にSPK出現率が高い.(文献4より一部改変)1009080706050403020100SPK出現率(%)****6カ月3カ月1カ月経過期間1週術前:異常TSAS値:正常TSAS値*p<0.05———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???(23)現在TSASは改良が進められ,その評価法も新たなインデックスBUI(breakupindex)の導入が愛媛大学眼科学教室の山口らによって行われ,点眼薬が涙液安定性に及ぼす影響などさまざまな取り組みがなされている.5.ヒアルロン酸点眼薬の涙液への影響TSASを用いたさまざまな試みがなされているなかで,筆者らの愛媛大学眼科学教室では点眼薬が涙液に与える影響についてすでに検討を行った.図7に示すのはドライアイ患者に0.1%ヒアルロン酸を点眼した後の涙液安定性を経時的にTSASで評価したものである.指標として用いているBUIは新たに導入されたインデックスで,100を最高とし数値が高いほど涙液安定性がよいことを示している.点眼前はBUIが35.1と涙液安定性が悪かったのに対して,ヒアルロン酸点眼1分後では若干悪くなり,5分後,30分後と涙液の安定性は改善し,120分後には最も安定した数値が得られている.ヒアルロン酸は涙液保持効果が高いということからドライアイの治療に使われるようになって久しいが,実際点眼してからどのような時間経過で涙液を保持し安定化させることができるのかをこのような形で評価することができるということは画期的である.今後新薬の開発やその他の薬剤の評価に用いることが可能であり,いっそう期待されるところである.おわりにドライアイ患者の病態を捉えるためには,患者自身の生活環境や眼表面の病態を把握するため,詳細な問診と注意深い眼の観察を行うことが必要である.『なんとかしてこの上皮欠損を治したい!!』という熱意のなか,悪循環サイクルからの離脱策がひとたび奏効すれば,これ以上の快感はないであろう.しかしながら,涙液層を客観的に評価する方法がなければ,説得力のない独りよがりの診察となってしまいかねない.検査は非侵襲的で客観的な手法であることが望ましい.今後も新たなよりよい涙液評価法の開発が待たれるところであるが,そのなかでTSASは非侵襲的な検査法であり,そのデータを共有できる客観性もある.今後厳密な検討がなされ,涙液評価法の一つとして利用され役に立つ存在になることを期待したい.文献1)島?潤ほか(ドライアイ研究会):2006年ドライアイ診断基準.あたらしい眼科24:181-184,20072)MaedaN,KlyceSD,SmolekMK:Neuralnetworkclassi?-cationofcornealtopography.Preliminarydemonstration.?????????????????????????36:1327-1335,19953)GotoT,ZhengX,KlyceSDetal:Anewmethodfortear?lmstabilityanalysisusingvideokeratography.????????????????135:607-612,20034)GotoT,ZhengX,KlyceSDetal:Evaluationofthetear?lmstabilityafterlaserinsitukeratomileusisusingthetear?lmstabilityanalysissystem.???????????????137:116-120,2004

実用視力の臨床応用:ドライアイから白内障まで

2007年4月30日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS測定の概念である.実用視力測定においては,実用視力(functionalvisu-alacuity:FVA),測定時間内の変動する視力の積分値が,測定スタート時の視力が仮にずっと維持できた場合のそれに対する割合である視力維持率(visualmainte-nanceratio:VMR)をおもな視標として検出する2).詳細は前項『新しい視力計:実用視力の原理と測定方法』を参照されたい.IIドライアイドライアイにおいて実用視力が低下すること3,4),また治療によりドライアイ症状が改善すると実用視力も改善すること4,5)が報告されている.ドライアイでは,眼光学系の最前層である涙液層に異常をきたし,涙液層の安定性が低下する6).そして,涙液層に乱れが生じた状態では,視機能が低下していることが予想される.図1は,ドライアイ症例の実用視力測定結果の一例である.スタート時の視力(通常の矯正視力)が右眼1.0,左眼1.2であるのに対し,FVAは右眼0.769,左眼0.517である.この症例は,Sj?gren症候群に伴う比較的重症のドライアイで,Schirmer試験における低値,角膜染色,眼乾燥感など典型的なドライアイの自覚・他覚症状を認めたが,それ以外に“かすみ目”の訴えもあった.この症例に対し,治療として上下涙点への涙点プラグ挿入術が行われた.そして図2はその1週間後の実用視はじめに矯正視力が正常であるにもかかわらず,患者から“かすみ目”や“見づらさ”の訴えを聞くことはしばしば体験する.そしてわれわれは,その自覚的な視機能の低下を他覚的にとらえることができないと,診断や治療に苦慮せざるをえない.診断ができない責任を「視力はいいのだから気のせいだ」「患者が神経質だから」と患者に転嫁し,お互いの信頼関係を損ねることにもなりかねない.それに対し,グレア視力測定,コントラスト視力測定といった測定条件を工夫した視力検査,近年では波面収差や点像強度分布解析の手法を使った視機能検査1)など,通常の視力検査では検出できない視機能の低下を客観的に検出するさまざまな試みがなされている.I実用視力測定通常の矯正視力検査では,被検者がものを見る能力の最高値を検出する.“風”にたとえるなら“最大瞬間風速”だといえる.しかし,視力1.2の人が日常生活において常に1.2の視力でものを見ているわけではない.眼表面から大脳視覚野までの形態的,機能的変化に伴って視機能も常に変化しているはずである.常に変化し続ける風速の一定期間の平均を平均風速とするならば,視力にも平均視力の概念が持ち込めるのではないか,そして日常生活においてわれわれが実際に感じている“見え方”を評価する手法の一つになりうるのではないか,これが,経時的に連続して視力を測定し解析する実用視力(11)???*ReikoIshida:いしだ眼科〔別刷請求先〕石田玲子:〒421-0301静岡県榛原郡吉田町住吉427-1いしだ眼科特集●前眼部四次元検査(前眼部キネティックアナリシス)あたらしい眼科24(4):409~413,2007実用視力の臨床応用:ドライアイから白内障まで????????????????????????????????????????????????????????????????????─?????????????????????????????????石田玲子*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007力測定の結果である.まず,視力の変動が治療前に比べて小さく,安定しているのがわかる.60秒間の視力の変動幅が小さくなり,FVAは右眼1.155,左眼0.944に改善している.患者自身も「ものの見え方が改善した」と喜んでいた.もう一つ注目すべきは瞬目回数である.治療前の測定では,60秒間に20回以上であった瞬目が治療後は10回未満に減少している.ドライアイでは瞬目回数が増加することが報告されている7)が,実用視力と瞬目との相関についても,今後検討される必要があると思われる.III白内障白内障の手術適応の決定には,まず矯正視力が検討される.患者がいくら見づらさを訴えていても,視力が1.0あれば適応外とされることが多いと思われる.コントラスト視力などの視機能検査が行われることもあるが,実際患者がどのくらい見づらいのかを検出することはむずかしい.図3は,矯正視力が1.0であるにもかかわらず霧視を訴える患者のFVA測定結果である.FVA0.601,VMR0.92で,視力が安定せず変動が大きいことがわかる.眼底と眼表面には異常がなく,FVA低下は白内障によると考えられ白内障手術が施行された.図4は手術後のFVA結果である.矯正視力は1.2と1段階の改善であるが,FVAは0.993,VMRも1.00に改善した.自覚的には,霧視が解消されて見やすくなったと満足が得られた.IV後発白内障後発白内障は,白内障術後に一定期間をおいて発生する霧視,矯正視力の低下がおもな症状であり,通常は比較的容易に診断に至る.治療として,一般的にYAGレーザーによる後?切開が施行される.図5は,両眼とも眼内レンズ挿入眼で,右眼の強い霧(12)FVA=0.517VMR=0.91FVA=0.769VMR=0.96左眼右眼図1ドライアイの実用視力左右とも視力が不安定である.左眼FVA=0.944VMR=0.96右眼FVA=1.155VMR=0.96図2図1と同じ症例の涙点プラグ挿入後の実用視力治療前に比べ視力が安定している.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???V眼瞼けいれん眼瞼けいれんは,眼輪筋の不随意な収縮が発生し,末期には開瞼困難で日常生活に多大な支障をきたす疾患である.図10のように特徴的な顔貌を示すことと,パチパチと素早く瞬目することができないのを注意して観察できれば,初期でも診断は可能である.しかし,初期に視を訴える症例の実用視力測定結果である.右眼に軽度の後?混濁を認めたが,両眼とも矯正視力は1.2で眼底は正常であるため,当初は霧視の原因が何かが議論された.YAGレーザーによる後?切開は,組織侵襲が比較的少ない治療ではあるが,無用な治療は行うべきではない.しかし,実用視力は右眼において著明に低下を示し,FVAは0.547,VMRは0.90であった.患者の訴えを他覚評価できたため,YAGレーザーによる後?切開を施行した.ところが,術後に自覚的な霧視,実用視力ともに改善は認められなかった(図6).後?切開は,瞳孔領中心に約3mm径であった(図7)が,瞳孔内に混濁した後?が残存していた(図8).そこで,レーザー照射を追加して切開部を明時瞳孔径よりも大きく拡大したところ,強く訴えていた霧視は解消された.矯正視力は術前と変わらず1.2であったが,図9のように実用視力は著明に改善し,FVAは0.817,VMRは0.99であった.(13)図4図3と同症例の白内障手術後の実用視力FVAは0.993に改善し,視力が安定している.白内障術後FVA=0.993VMR=1.00白内障術前FVA=0.601VMR=0.92図3白内障の実用視力通常の矯正視力は1.0であるが,FVAは0.601と低下している.右眼FVA=0.547VMR=0.90左眼FVA=1.22VMR=0.97図5後発白内障の実用視力後?混濁をほとんど認めない左眼と比べ,右眼は視力が不安定である.矯正視力はともに1.2と変わらない.FVA=0.563VMR=0.88図6後?切開術後(右眼)の実用視力1回目のYAGレーザーによる後?切開後.実用視力は改善していない.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007はその多くがドライアイと診断されているといわれている8)ように,なかなか診断に至らず,結果として治療が遅れてしまうケースもある.図11は,眼瞼けいれん患者のFVA測定の一例である.途中から測定の続行ができなくなっているのがわかる.検査員からは「検査方法が理解できないため測定不可能」という報告であった.この疾患の初期から中期では,眼輪筋が常時収縮しているわけではなく,「何かを見ようとすると目が閉じてしまう」ことが多い.この症例においても,視標を凝視しようとすることで眼輪筋の収縮が誘発されたものと考えられる.ドライアイを含めた他の疾患では測定不可能になることはなく,眼瞼けいれんに特異的な変化として診断の一助になるのではないかと期待される.この症例に対し,治療としてボツリヌストキシンの眼周囲局注が施行された.図12は,その1週間後の(14)図7後?切開術後(右眼)図6の症例の写真.後?の切開部が小さい.図8後?再切開術後(右眼)1回目より切開部を広げてある.図9後?再切開術後(右眼)の実用視力矯正視力は1.2のままであるが,FVAは0.817に改善している.FVA=0.817VMR=0.99図10軽度眼瞼けいれん患者の顔貌眉間に深い縦じわがよるのが特徴である.図11眼瞼けいれん症例の実用視力(ボツリヌストキシン使用前)60秒間視標を見続けていることができないことがわかる.FVA測定不可———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???(15)FVA測定結果である.不安定ではあるが,治療前と違い60秒間視標を見続けることが可能になっていることがわかる.おわりに臨床の現場における実用視力測定の例をいくつかあげた.ドライアイの視機能低下を検出するために開発された手法であるが,被検者の自覚的な見え方を直接的に解析するため,さまざまな症例において,他の視機能検査では検出できなかった“見づらさ”の拾い出しができる可能性がある.疾患の診断や治療効果の検討,そして患者への説明や指導のために,実用視力測定が効果的に活用されていくことが望まれる.文献1)NegishiK,KobayashiK,OhnumaKetal:Evaluationofopticalfunctionusinganewpointspreadfunctionanalysissystemincataractousandpseudophakiceyes.?????????????????50:12-19,20062)KaidoM,DogruM,YamadaMetal:FunctionalvisualacuityinStevens-Johnsonsyndrome.???????????????142:917-922,20063)GotoE,YagiY,MatsumotoYetal:Impairedfunctionalvisualacuityofdryeyepatients.???????????????133:181-186,20024)IshidaR,KojimaT,DgruMetal:Theapplicationofanewcontinuousfunctionalvisualacuitymeasurementsys-temindryeyesyndromes.???????????????139:253-258,20055)GotoE,YagiY,KaidoMetal:Improvedfunctionalvisualacuityafterpunctalocclusionindryeyepatients.???????????????135:704-705,20036)KojimaT,IshidaR,DogruMetal:Anewnoninvasivetearstabilityanalysissystemfortheassessmentofdryeyes.?????????????????????????45:1369-1374,20047)TsubotaK,HataS,OkusawaYetal:Quantitativevideo-graphicanalysisofblinkinginnormalsubjectsandpatientswithdryeye.???????????????114:715-720,19968)MartinoD,DefazioG,AlessioGetal:Relationshipbetweeneyesymptomsandblepharospasm:amulti-centercase-controlstudy.??????????20:1564-1570,2005図12図11の症例のボツリヌストキシンによる治療後60秒間視標を見続けることができるようになり,測定が可能になった.FVA=0.473VMR=0.87