———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSるためのレンズであるので,角膜上で回転することは許されない.トーリックレンズの回転を抑制するレンズデザインとして,現在ではプリズムバラスト法(図2)と,ダブルスラブオフ法(図3)が採用されている.はじめにトーリックコンタクトレンズはレンズ表面の両面あるいは片面が球面ではなくトーリック面で構成されているレンズであり,乱視を矯正するために用いられる.トーリック面とはドーナツやラグビーボールの側面のように任意の経線方向とそれに直交する経線方向の曲率が異なる面をいう(図1).以前は,トーリックコンタクトレンズは特殊レンズに分類されていたが,1日使い捨てレンズが登場してからは特殊レンズという印象は薄くなり,広く一般に処方されるようになってきている.Iトーリックレンズのデザイン通常の球面コンタクトレンズは瞬目ごとに角膜上で常に回転を続けている.トーリックレンズは乱視を矯正す(11)???*MasayoshiKajita:梶田眼科〔別刷請求先〕梶田雅義:〒108-0023東京都港区芝浦3-6-3協栄ビル4F梶田眼科特集●コンタクトレンズの流れを読むあたらしい眼科24(6):705~709,2007ワンデートーリックソフトコンタクトレンズ??????????????????????????????????????????梶田雅義*図1トーリック面円板を中心以外にある軸の周りに回転させたときの回転体の側面がトーリック面である.軸円板図2プリズムバラスト法レンズの下方に相当する部分を厚く加工する.図3ダブルスラブオフ法レンズの上下部分を削ぎ落として薄く加工する.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007プリズムバラスト法はレンズ下方に厚みをもたせる形状をしており,瞬目時にレンズの厚い部分が先に上眼瞼から開放されるように滑り出す特性を利用している.この特性はヌルヌルしたスイカの種を指で圧迫すると,必ず種の厚みの大きいほうから飛び出してゆく現象に代表されるため,「スイカの種理論」として説明されている(図4).またダブルスラブオフ法はレンズの対面する2方向の周辺部分を薄く削ぎ落とした構造にすることにより,厚い部分が眼瞼の圧力から先に開放される方向には動こうとする力,およびレンズの薄い部分を上下眼瞼でくわえ込むことにより,回転を抑える仕組みになっている1).回転抑制方法が同じであっても,メーカーやレンズの種類によってそのデザインは微妙に異なり,回転抑制効果にも差異がある.トーリックレンズの処方にはレンズデザインの特徴を知ることが必要であり,それはトーリックレンズの処方成功率にも大きく影響する.II現在わが国で利用できる1日使い捨てトーリックソフトコンタクトレンズ(表1)1.フォーカス?デイリーズ?アクアトーリック(チバビジョン社製)レンズの上下部分は薄く,水平方向が厚く加工されたダブルスラブオフタイプである(図5).トーリックレンズの安定方向をチェックするためのガイドマークは刻印されていない.以下,デイリーズトーリックと略す.2.ワンデーアキュビュー?[乱視用](ジョンソン・エンド・ジョンソン社製)上下方向は薄く,水平方向は厚く加工されたダブルスラブオフタイプであるが,水平方向の厚みの分布に特徴があり,水平方向に向けて厚みの勾配が急峻になった構造をしており,瞬目時に眼瞼の圧力によるレンズの回転(12)図5デイリーズトーリックの正面,縦断面(右),横断面(下)上下方向が薄く加工されている(ダブルスラブオフタイプ).ガイドマークはないが,細隙灯顕微鏡で注意深く観察するとスラブオフの形状が見える.素材によるFDA(米国食品医薬品局)分類はグループⅡ.表11日使い捨てトーリックソフトコンタクトレンズの比較ワンデーバイオメディックストーリックフォーカス?デイリーズ?アクアトーリックワンデーアキュビュー?乱視用デザインプリズムバラストバックトーリックダブルスラブオフバックトーリックダブルスラブオフバックトーリック含水率55%69%58%BC8.7mm8.6mm8.5mmレンズ径14.5mm14.2mm14.5mm球面度数(D)0.00~-6.00-6.50~-7.00+4.00~-6.00-6.50~-8.000.00~-6.00-6.50~-9.00円柱度数(D)-0.75,-1.25-0.75,-1.50-0.75,-1.25,-1.75軸(°)180180,90160,180,20,90BC:ベースカーブ.図4スイカの種理論スイカの種を指で圧迫すると,種は必ず厚みのあるほうから飛び出してゆく.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???抑制効果をさらに強く引き出そうとするデザインで,ASD(acceleratedstabilizationdesign)とよばれている.上下方向に1本ずつガイドマークがある(図6).以下,アキュビュー乱視用と略す.3.ワンデーバイオメディックストーリック(クーパービジョン社製)プリズムバラストであるが,従来のプリズムデザインとは異なり,レンズ周辺部分は水平方向の厚みが同じになるように設定されている.このデザインにより眼瞼からの圧力がレンズに均一に加わり,プリズムバラストの効果がレンズ全体に均一に発揮される.レンズ下方に1本のガイドマークが刻印されている(図7).以下,バイオトーリックと略す.III従来型トーリックソフトコンタクトレンズ(TSCL)との比較従来型TSCLの多くはレースカット製法で作製され,レンズの前面にトーリック面をもつフロントトーリックレンズである.従来型TSCLのほとんどがプリズムバラストタイプであり(一つだけダブルスラブオフタイプがあったが,現在は販売を終了している),レンズの切削時に光軸を偏心させることによりレンズ内に厚みの差をつける製法のため,レンズ全体が偏心したプリズム形状となっている.そのため,レンズのパワーによってプリズムバラストの形状が異なり,TSCLの回転抑制効果も異なる.トライアルレンズと実際に処方されたレンズでフィッティングや軸の安定位置が異なるという現象が生じることも少なくなく,このことがTSCLの処方に「難しい」,「面倒」,「処方成功率が低い」という印象を与えている.一方,頻回交換型や1日使い捨てTSCLはキャストモールド製法で作製され,レンズの後面にトーリック面を有するバックトーリックレンズである.レンズ中央部の8mm程度を光学部として周辺部から独立させ,周辺部のみにプリズムバラストやダブルスラブオフの加工を施した形状になっている.このため中央部分の球面レンズパワーや円柱レンズパワーが異なっても,TSCLの回転抑制効果には変化は少なく,回転抑制効果は従来型TSCLに比べて格段に向上している2,3).(13)図6アキュビュー乱視用の正面,縦断面(右),横断面(下)上下方向は薄く加工さており(ダブルスラブオフタイプ),左右方向の周辺部がデイリーズに比べて厚く加工されている(ASD).ガイドマークが上下に2本付けられている.素材によるFDA分類はグループⅣ.図7バイオトーリックの正面,縦断面(右),横断面(下)下方が厚く加工されている(プリズムバラストタイプ).水平方向の周辺部分に厚みが一定の領域が存在する特徴的な構造を有する.素材によるFDA分類はグループⅣ.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007IVトーリックソフトコンタクトレンズの処方1.レンズタイプの選択筆者の臨床経験に基づくレンズタイプの選択は,以下のようである.上眼瞼が角膜の上部を覆い,乱視軸が180?に近い直乱視の場合には,プリズムバラストタイプを第一選択とする.プリズムバラストは瞬目時に上眼瞼がレンズを押し出す力を受け,開瞼時には上眼瞼でレンズ上部が押さえられて回転が抑制される.下眼瞼の影響は受けにくい.上眼瞼からの圧力はレンズに対し垂直方向にのみかかるわけではなく,レンズを回転させる力も同時に加わる.日本人の場合,右眼は観察者から見てレンズを時計回りに,左眼は反時計回りに回転させる力が加わっている例が多く,この瞬目運動によるレンズを回転させる力が加わるためと考えられるが,回転力の加わる方向に5~10?程度回転して,TSCLの軸が安定することが多い(下方のガイドマークはハの字).倒乱視の場合,ダブルスラブオフタイプを第一選択とする.倒乱視を矯正するレンズの光学部は横方向が厚い形状であるため,ダブルスラブオフの効果が一層強まり,TSCLの回転抑制効果が増す.またダブルスラブオフは,いわゆる「つり目」や「たれ目」で,瞼裂方向と乱視軸が一致している症例などに合わせやすい.ダブルスラブオフは上下眼瞼に押さえ込まれレンズの回転を抑制しているため,瞼裂の方向に一致して軸が安定しやすいためである.上下眼瞼が角膜周辺部を覆い,瞼裂方向と乱視軸が一致している直乱視も良い適応である.角膜の全周が眼瞼から露出する「パッチリ目」ではいずれのタイプも軸は不安定になりがちである.どちらかより軸の安定の良いほうをトライエンドエラーで捜すしかない.斜乱視の場合には,TSCLの軸の安定が得られないことが多く,TSCLによる矯正は困難である.2ウィークアキュビュー?トーリックなどすべての軸度を有するTSCLを試みるしかないが,処方成功率はそれほど高くないことをあらかじめ伝えておいたほうが良い.従来型,定期交換型あるいは頻回交換型のTSCLを快適に使用している症例で,1日使い捨てTSCLの処方を希望する場合は,使用中のTSCLと同じタイプを使うのが望ましい.すなわち,プリズムバラストレンズ使用者であれば,プリズムバラストタイプを,ダブルスラブオフレンズ使用者であれば,ダブルスラブオフタイプを第一選択とする.しかし,もしこれまで使用中のTSCLの装用が快適でなかった場合には,反対にプリズムバラストレンズ使用者にはダブルスラブオフタイプを,ダブルスラブオフレンズ使用者にはプリズムバラストタイプを試してみる.このような臨床的な印象はあるものの,実際にはTSCLを装用してみなければ適否の判断はできない.2.処方レンズの度数決定TSCLの度数は,最初に円柱度数を決めてしまうほうが良い.TSCLの円柱度数を適切に設定するためには,自覚的屈折検査を正しく行う必要がある.強弱主経線方向の屈折値を別々に頂間距離補正することもポイントである.強弱主経線方向の頂間補正後の屈折値差がTSCLに必要な円柱レンズ度数になる.たとえば,自覚的屈折検査で球面度数が-1.00D,円柱度数が-1.50Dの場合,頂点間距離補正後の円柱度数は-1.44Dであるが,同じ円柱度数であっても球面度数が-6.50Dであれば,頂点間距離補正後の円柱度数は-1.27Dとなる.TSCLの円柱レンズ度数は前者では-1.25Dを採用するが,後者では-0.75Dあるいは-1.00Dで足りる.このように球面度数によってTSCLに必要な円柱レンズ度数が変わることにも注意が必要である.TSCLでは軸のずれやゆれなどが生じている可能性は常に考慮しなければならない.これには矯正に必要な円柱レンズ度数よりも若干弱めの円柱度数を選択することがポイントになる.TSCLを用いて,2.00Dの直乱視を完全矯正した場合,円柱軸が正しい位置にあれば,乱視は完全に矯正されるが,15?回転すると円柱度数1.00D,軸143?の斜乱視となり,矯正視力の変動が大きい.これに対して,2.00Dの乱視を1.25Dの円柱レンズ度数で矯正すると,円柱軸が正しい位置にあるときにも0.75Dの乱視は残るが,15?回転しても残余乱視は1.11D(変化量0.36D)までしか増加せず,乱視矯正効果の変動も少ない(表2).このようにTSCLで乱視を矯正する場(14)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???(15)合には,乱視を弱めに矯正したほうが,矯正視力値の変動が少なく,不快感を生じにくい.TSCLの円柱度数が決まれば,トライアルレンズを装用し,球面度数のみで追加矯正を行う.それで満足な視力が得られれば,球面レンズ度数の頂間距離補正を行い,球面レンズ度数を決定する.満足な視力が得られない場合は,1段階強い円柱レンズ度数のTSCLに交換し再度調整を試みる.軸が不安定なときは別タイプのTSCLに交換することも含め柔軟に対応することも必要である.TSCLを装用した状態で,オートレフラクトメータによる他覚的屈折値(オーバーレフ)を測定し,安定して乱視が矯正されていることを確認することが有用である.瞬目ごとに記録したオーバーレフ値が安定していれば,処方成功率は高いと判断できる.瞬目ごとにオーバーレフ値にふらつきや変動がある場合には,レンズのフィッティングが不良であり,適切な矯正ではないと判断できる.特に,デイリーズトーリックでは,レンズの回転を検査するためのガイドマークが付されていないので,細隙灯顕微鏡検査でレンズの安定性を観察することが容易ではなく,オーバーレフによる安定性のチェックは絶対に欠かせない.その他のTSCLでもオーバーレフによる最終チェックは非常に重要であり,処方成功の目安になる.おわりにトーリックソフトレンズにも1日使い捨てや頻回交換型が加わり,規格のバリエーションも豊富になっている.TSCLはレンズ銘柄が異なると素材やデザインの違いによって,乱視の矯正効果も少なからず異なる.これらのTSCLの特徴と処方眼の特徴が一致したときに初めて快適な矯正が可能になる.CL装用を希望する人達に最適な矯正を提供したいものである.文献1)梶田雅義:トーリックコンタクトレンズの構造.トーリックコンタクトレンズ,p26-32,メジカルビュー社,19992)植田喜一,梶田雅義,塩谷浩:頻回交換トーリックソフトコンタクトレンズの使用経験.日コレ誌41:55-58,19993)塩谷浩,梶田雅義,平野秀和:トーリックソフトコンタクトレンズ・ロートIQ?の特徴と臨床成績.日コレ誌44:S28-S33,2002表2乱視を完全矯正したときと低矯正にしたときの残余乱視の比較軸ずれCyl-2.00で矯正Cyl-1.25で矯正0?Cyl-0.00×0Cyl-0.75×0+5?Cyl-0.35×138Cyl-0.80×172+10?Cyl-0.69×140Cyl-0.93×166+15?Cyl-1.00×143Cyl-1.11×1631.00Dの差0.36Dの差