———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLS加していることもある.通常,角膜内への血管の侵入は認められない.Peters異常や強膜化角膜などと異なり,通常は前眼部,後眼部ともに異常所見を伴わない.また,一般に全身的な先天異常や精神発達遅滞を伴わない.常染色体優性遺伝と劣性遺伝の場合があり,後者では家族歴がはっきりしない(孤発例)ことがある.一般に優性遺伝のCHED1では発症年齢が遅く,混濁の程度が軽い傾向がある4,5).視力が比較的良好な例はCHED1でみられやすく,逆に劣性遺伝のCHED2では視力予後が不良で,眼振を伴いやすい.角膜所見は基本的に変化しないか,緩徐に進行する.ただし,成人例では2次的な変化が加わり,spheroid変性や血管侵入を伴ってくることがある.図2は40歳代のCHED1症例の前眼部写真であるが,角膜浮腫に加えて続発性にspheroid変性を生じていることがわかる.小児の全層角膜移植は手術手技や術後管理に困難な点が多く,予後不良であることが多いが,CHEDに関しては比較的良好な成績が報告されている6,7).これは,1)虹彩や水晶体などに異常を伴わないこと,2)全身合併症や精神発達遅滞などを伴わないこと,3)発症時期は生後早期であっても,手術は成長してから行っている場合が多いこと(成人になって手術を行う場合もある)などが関係しているものと推測される.術後観察期間が3年程度の2つの報告6,7)では,移植片透明治癒率は90%程度ときわめて高く,視力予後でも0.2以上の視力が6684%の症例で得られている.はじめに先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィ(congenitalhereditaryendothelialdystrophy:CHED)は1893年にLaurenceにより初めて報告されたまれな先天性角膜ジストロフィであり1),わが国でも少数の報告例がある.本疾患は先天性の水疱性角膜症とでも言うべき疾患であり,さまざまな名称が付けられていたが,Pearceらにより提唱されたCHEDが現在は広く用いられている2,3).遺伝形式には常染色体優性遺伝と劣性遺伝の両方があり,前者をCHED1,後者をCHED2とよぶ.両者の責任遺伝子は異なることがわかってきており,臨床的にも違いがみられる.非常にまれな角膜ジストロフィであるが,乳幼児の両眼性の角膜混濁を診た場合には鑑別疾患の一つである.幼少時より発症するために視性刺激遮断弱視の問題があるが,場合によっては角膜移植の適応となる.ここでは本症の臨床所見,検査所見,鑑別診断について概説する.I臨床所見および臨床経過両眼の角膜混濁が生直後から生後12年以内に生じることがほとんどで,進行はごく緩徐であることが多い(図1).視力予後は一般に不良であり,特に眼振を伴う場合は視力不良のサインである.ただし,発症時期が遅い症例や混濁が著明でない症例では,ある程度の視力の発達がみられる.角膜混濁は内皮機能不全による実質浮腫によるものであり,角膜厚は正常の23倍にまで増(25)163s先152251特集●角膜内皮疾患を理解するあたらしい眼科26(2):163166,2009先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィCongenitalHereditaryEndothelialDystrophy山田昌和*———————————————————————-Page2164あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(26)2.遺伝子検査所見常染色体優性遺伝のCHED1の責任遺伝子の染色体座位は染色体20番の20p11.2-q11.2の領域にあり9),劣性遺伝のCHED2は同じ20番染色体の別の領域(20p13)にマップされ,両者は異なる遺伝子背景をもつことが2000年までに報告されていた10).最近,CHED2の責任遺伝子がsolutecarrierfamily4(sodiumboratetransporter)member11(SLC4A11)であることが明らかとなり,SLC4A11領域の遺伝子変異が相次いで報告されている11,12).Sodiumboratetransporterは細胞内外のイオン輸送に関与する膜蛋白であり,その異常は角膜内皮の主要な機能であるポンプ機能の障害に繋がるものと推測されている.Fuchs角膜内皮ジストロフィの一部でもSLC4A11領域のヘテロの遺伝子変異が報告されており13),sodiumboratetrans-porterが角膜内皮の機能維持に重要な膜蛋白であることが示唆される.優性遺伝のCHED1の責任遺伝子は確定されていないが,20p11.2-q11.2の領域は後部多形性角膜内皮ジストロフィがマップされている領域14)とoverlapしており,両者には何らかの関連があることが示唆される.遺伝子異常からみるとCHED1とCHED2は別疾患であり,CHED1が後部多形性角膜内皮ジストロフィと,CHED2がFuchs角膜内皮ジストロフィとの関連が示唆この数字は,成人の角膜ジストロフィに対する全層角膜移植の成績と比較しても極端に劣るものではない.ただし,重症例で乳幼児のうちに手術を行う場合には,周術期の管理の問題と視性刺激遮断弱視の存在があるので,これほどの成績は期待できない.II検査所見1.病理組織所見病理組織所見では,Descemet膜の肥厚と角膜内皮細胞の欠如,もしくは著明な減少が特徴とされている3,8).角膜上皮には,細胞間隙の拡大や上皮基底細胞下の水疱性変化がみられ,Bowman膜は一部で消失していたり,線維性組織で置換されていることもある.角膜実質は著明に厚みが増しており,ラメラ構造の乱れが著明である.これらは水疱性角膜症で一般的にみられる変化であり,続発性の変化と考えられる.病理所見として重要なのはDescemet膜と角膜内皮の所見である.Descemet膜の肥厚は劣性遺伝のCHED2で著明であることが多い.また肥厚したDescemet膜のうち内皮側にPAS染色(過ヨウ素酸Schi染色)で染色されない領域があることも特徴とされている8).年齢の高い症例ほどDescemet膜の肥厚が著明であることから,CHEDでの角膜の変化は生後も続いていることが示唆される.図1先天性角膜内皮ジストロフィ角膜上皮,実質に浮腫状混濁がみられるが,優性遺伝の症例であり,混濁の程度は比較的軽い.図2先天性角膜内皮ジストロフィ成人例であり,浮腫状混濁の程度は軽いが,spheroid変性や周辺からの血管侵入など続発性の変化を生じている.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009165(27)腫の軽減がみられない場合には本症の合併を疑う必要がある.Peters異常や強膜化角膜などの前眼部発生異常は,両眼の所見に左右差がみられる場合が多いこと,虹彩や隅角,水晶体などの異常所見から鑑別される(図3,4).されるのは興味深い.他の角膜ジストロフィのように臨床型ではなく,分子遺伝学からの分類がなされ,CHEDの疾患概念が再構成される日が近いのかもしれない.III鑑別疾患鑑別疾患として問題になるものを表1に示す.生下時もしくは乳幼児に両眼性に角膜混濁をきたす疾患が鑑別の対象となる.先天緑内障ではDescemet膜破裂により浮腫性の角膜混濁をきたすことがあるが,眼圧の上昇,角膜径の増大により鑑別される.ただし,先天緑内障と合併した症例の報告があり,先天緑内障で眼圧が正常化しても角膜浮表1先天性角膜内皮ジストロフィ(CHED)の鑑別疾患罹患眼発症時期他の眼異常全身異常遺伝形式CHED両眼生下時なしなし常優,常劣先天緑内障両眼または片眼生下時さまざま高眼圧,牛眼伴うことありさまざまPeters異常両眼または片眼生下時虹彩,水晶体の異常Peters’plus症候群不明が多い鉗子分娩片眼生下時なしなし非遺伝性梅毒性角膜実質炎両眼幼児期以降網脈絡膜炎虹彩萎縮,癒着Hutchinson3徴非遺伝性ムコ多糖症両眼12歳以降網膜変性視神経萎縮ガーゴイル顔貌全身症状主に常劣後部多形性角膜内皮ジストロフィ両眼生下時さまざまなしなし常優先天性角膜実質ジストロフィ両眼生下時なしなし常優常優:常染色体優性遺伝,常劣:常染色体劣性遺伝.図3Peters異常角膜混濁が中央に限局しており,虹彩と角膜の不分離と白内障を合併している.図4Peters異常角膜混濁が広範で両眼性の例では先天性角膜内皮ジストロフィとの鑑別が問題になる(A)が,前眼部エコーで虹彩と角膜の不分離が確認される(B).AB———————————————————————-Page4166あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(28)文献1)LaurenceGZ:Corneitisinterstitialisinutero.KlinMonatAugenheilkunde1:351,18932)MaumeneeAE:Congenitalhereditarycornealdystrophy.AmJOphthalmol50:1114-1124,19603)PearceWG,TripathiRC,MorganG:Congenitalendotheli-alcornealdystrophy:clinical,pathologicalandgeneticstudy.BrJOphthalmol53:577-591,19694)KenyonKR,MaumeneeAE:Furtherstudiesofcongeni-talhereditaryendothelialdystrophyofthecornea.AmJOphthalmol76:419-439,19735)JudischGF,MaumeneeIH:Clinicaldierentiationofrecessivecongenitalhereditaryendothelialdystrophyanddominanthereditaryendothelialdystrophy.AmJOphthal-mol85:606-612,19786)KirknessCM:Thecornealendothelialdystrophies.AnnAcadMed18:158-164,19897)SajjadiH,JavadiMA,HemmatiRetal:Resultsofpene-tratingkeratoplastyinCHED(congenitalhereditaryendothelialdystrophy).Cornea14:18-25,19958)KirknessCM,McCartneyA,RiceNSetal:CongenitalhereditarycornealoedemaofMaumenee:itsclinicalfea-tures,managementandpathology.BrJOphthalmol71:130-144,19879)TomaNMG,EbenezerND,InglehearnCFetal:Linkageofcongenitalhereditaryendothelialdystrophytochromo-some20.HumanMolGenet4:2395-2398,199510)CallaghanM,HandCK,KennedySMetal:Homozygositymappingandlinkageanalysisdemonstratethatautosomalrecessivecongenitalhereditaryendothelialdystrophy(CHED)andautosomaldominantCHEDaregeneticallydistinct.BrJOphthalmol83:115-119,199911)VithanaEN,MorganP,SundaresanPetal:Mutationsinsodium-boratecotransporterSLC4A11causerecessivecongenitalhereditaryendothelialdystrophy(CHED2).NatureGenet38:755-757,200612)JiaoX,SultanaA,GargPetal:Autosomalrecessivecorenalendothelialdystrophy(CHED2)isassociatedwithmutationsinSLC4A11.JMedGenet44:64-68,200713)VithanaEN,MorganP,RamprasadVetal:SLC4A11mutationsinFuchsendothelialcornealdystrophy.HumanMolGenet17:655-666,200814)HeonE,MathersWD,AlwardWLetal:Linkageofpos-teriorpolymorphouscornealdystrophyto20q11.HumanMolGenet4:485-488,199515)WitschelH,FineBS,GrutznerPetal:Congenitalheredi-tarystromaldystrophyofthecornea.ArchOphthalmol96:1043-1051,197816)GinderdeurenRV,VosRD,CasteelsIetal:Reportofanewfamilywithdominantcongenitalhereditystromaldystrophyofthecornea.Cornea21:118-120,2002鑑別で問題となるのは先天性角膜実質ジストロフィ(congenitalhereditarystromaldystrophy:CHSD)であると思われる(図5).CHSDはきわめてまれな先天性角膜ジストロフィであり,生下時より存在し,非進行性の両眼性の角膜混濁を特徴とする15,16).スリガラス状のびまん性の混濁は中央部の実質浅層に強く,角膜厚は正常である.常染色体優性遺伝であり,原因遺伝子は特定されていない.実質のコラーゲン線維の形成異常と考えられており,角膜内皮やDescemet膜に異常はない.CHEDと臨床診断されている症例のなかにCHSDが混在している可能性があり,実際,CHEDと臨床診断された症例のなかに病理所見からはCHSDと考えられる症例が報告されている15).おわりに先天性の角膜混濁は10万人の出生に3人の割合といわれ,基本的にはまれな病態である.先天性角膜混濁にはさまざまな原因があり,CHEDはそのうちの一つにすぎないので,一般眼科医が遭遇する機会はなかなかないかもしれない.しかし,最近の知見からは,角膜内皮ジストロフィがCHEDや後部多形性角膜内皮ジストロフィからFuchs角膜内皮ジストロフィまで一連のスペクトラムで整理される可能性があり,その意味も含めて角膜専門医でなくとも知っておきたい疾患と考えられる.図5先天性角膜実質ジストロフィスリガラス状のびまん性実質混濁は角膜中央部に強く,実質の厚みは正常である.