———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS日常生活ではヒトは常に眼を使い,連続的にものを見ている.経時的な視力変化を測定することにより,日常生活での視機能を評価するのが実用視力なのである.実用視力は従来の視力検査では検出できない,「視力検査では1.0であるが,なんとなく見えにくい」といった視機能を評価するのに有用であると考えられる.I原理実用視力はGotoらにより最初にその概念が紹介された4).ヒトが集中してものを見るとき,瞬きが抑制される1,2).このような状態での視機能を評価しようとしたのが実用視力である.Gotoらは瞬目を意図的に抑制して開瞼させた状態を「集中してものを見る」,すなわち「凝視」の状態と仮定し,瞬目を抑制した状態で視力を測定することで視機能を評価した.眼表面点眼麻酔により瞬目を抑制させ,開瞼後10秒の時点での視力を実用視力として測定した.眼表面麻酔は涙液の反射性分泌を抑制し,また開瞼による眼の痛みや不快感を最小限にすることにより10秒以上の開瞼を可能にするためである.しかし,開瞼後10秒時点での正確な視力測定は検査員の熟練を要し,一般的な測定方法として適していない.そこで開発されたのが実用視力計である.II実用視力測定方法視力変化を連続的に測定する新しい視力検査機器として実用視力計がIshidaらにより紹介された5).Gotoらはじめに実用視力(functionalvisualacuity)は連続して視力を測定することにより視機能を評価するものであり,通常の視力検査では検出できないような「見え方の質」を評価するのに有用であると考えられる.通常の視力検査では自由な瞬目下の,ある一時点での視力を測定しており,一瞬でも見えればそれが視力として評価される.しかしこの視力が日常生活での視力にどの程度反映しているかは議論されるところである.実際,ドライアイの診療において視力検査では良好な視力が得られているにもかかわらず,「かすみ目」の訴えをしばしば経験する.読書,パソコン,車の運転などの凝視作業時にかすみ目を感じることがあり,このことは目を継続して使用することにより視力が低下する可能性を示唆している.そして,この視力の変動は開瞼中の眼表面の涙液層の状態変化に関係しているのではないかという仮説に基づき,実用視力という概念が提案された.凝視により瞬目は抑制され眼表面は乾き,涙液層は不安定になる.開瞼下では涙液層の乱れが生じることにより視力は低下すると考えられ,特にドライアイ患者で視力は著しく低下すると報告されている1,2).実際にドライアイ患者は正常者に比べて涙液の安定性が悪いという報告3)があり,Gotoらはドライアイ患者を対象に開瞼10秒後の視力を測定し,従来の視力検査で得られた視力値より低下していること,ドライアイ患者では正常者に比べ有意に低下していることを示している4).(3)???*MinakoKaido:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕海道美奈子:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室特集●前眼部四次元検査(前眼部キネティックアナリシス)あたらしい眼科24(4):401~408,2007新しい視力計:実用視力の原理と測定方法???????????????????????????????????????????????:?????????????????????????????????????????????????????????????????海道美奈子*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007は強制開瞼10秒後の一時点での視力を実用視力と定義したのに対して,実用視力計を用いることにより設定した時間内の経時的な視力変化の測定が可能になった.Ishidaらはこの実用視力計を用いて強制開瞼下で30秒間の視力変化を測定し,10秒あるいは20秒,30秒の時点の視力を実用視力とし,通常の視力検査で得られた視力値と比較している.実際には実用視力を開検10秒時点の視力に限定する必要はないが,通常の視力検査での視力値と開瞼10秒時点の視力の関係に有意差が認められており4,5),10秒時点の視力を実用視力として用いるのは妥当であると考えられる.しかし,眼表面点眼麻酔により強制的に開瞼した状態での視力は本当に集中してものを見る「凝視」という状態を反映しているのだろうか.日常生活でのヒトが感じている視力を検出するためには,もっと自然な状態での測定方法が検討されるべきである.そこで,自然状態に近いように,点眼麻酔をせずに自然瞬目下で連続的に視力を測定する方法が推奨されている.連続的に視標マークを見るという行為そのものが「凝視」であり,この状態で測定した視力がむしろ日常の見え方であると考えられる.III実用視力計実用視力計はハードディスク,モニター,ジョイスティックの3つの構造より構成されており,患者はモニターに表示されたLandolt環に応じてジョイスティックを動かし,回答する仕組みになっている(図1).視力は瞬目により正常な涙液層が生じた直後が最も良好で,その後徐々に低下するという仮説に基づいて実用視力計が開発されたため,初期型実用視力計ではモニターに表示される視標は経時的に視力が低下していくようにプログラムされていた.すなわち,視標マークは回答が不正解または無回答ごとに視力が一段階低下し,正解の場合は同サイズの視標マークが表示される.しかし,実際に測定してみるとジョイスティックの精度や患者の誤操作により回答が不正解と判定される場合があり,このため実際より低い実用視力値が結果として表示されることがわかった.バージョンアップされた最新型実用視力計では回答が不正解または無回答の場合には視標マークが大きくなるが,正解の場合には視標マークの大きさは変わらないという従来の測定モードに加えて,回答の正誤に伴い視標マークが大きくなったり小さくなったりする測定モードが追加搭載された(図2).視力測定範囲は検査距離を1m,2.5m,5mのいずれかを選択することにより,0.01から2.0の視力測定が可能である.実際の検査では,本機種を用いて手動検眼により最高矯正視力を測定し,この視力値をスタート視力として完全矯正下で実用視力の測定を開始する.モニ(4)図2視力表示の仕組みモニターに表示される視標マークに対して,1回目の回答が正解の場合は同サイズの視標マークが表示されるが,2回目の回答でさらに正解の場合には一段階小さい視標マークが表示される(矢印).不正解の回答に対しては随時,大きな視標が表示される.解正1目回答回無・解正不答回無・解正不正解2回目解正1目回解正1目回答回無・解正不正解2回目答回無・解正不解正1目回答回無・解正不解正1目回答回無・解正不答回無・解正不図1最新型実用視力計———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???ターに矯正最高視力のLandolt環の視標マークが表示され,この表示に対しジョイスティックで回答する.視標マークが表示される時間(視標表示時間)は1~5秒が選択できる.経験的に視標表示時間は2秒に設定しているが,その根拠は特にない.視標表示時間内でジョイスティックを動かした場合には,その時間が応答時間として表示され,つぎの視標マークが回答の正誤に従い表示される.設定時間内に回答できない場合には不正解とみなされて,視標表示時間後に自動的に一段階大きい視標マークが表示される.検査結果は表とグラフにより表示される(図3).表では,経時的変化に伴い被検者が回答したすべての視力値が,正解の場合は○マーク,不正解の場合は×マーク,無回答の場合は空欄になるように表示される.また,回答に要した時間も反応時間として表示される.グラフ表示では,回答が正解であった視力値のみをプロットし,(5)図3実際の実用視力結果(表とグラフ)表による結果表示では,経時的変化に伴い回答が得られたすべての視力値が表示される.回答と同時に瞬目した場合はレ点,つぎの回答との間で瞬目が生じた場合は^1,2(数字は瞬目回数)で表示される.回答の正誤は○マーク,×マークで,無回答の場合は空欄で表示される.グラフ表示では,回答が正解であった視力値のみをプロットすることにより,視力の変動を表示する(赤線).青線はスタート視力,緑線は実用視力,矢印(↓)は瞬目時点を示す.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007線でつなげることにより視力の変動が判読しやすい.さらに,検者が被検者の瞬目をチェックし,瞬目時にキーボードのキーを押すことにより瞬目時点をグラフに↓マークで表示することが可能になった.IV実用視力評価項目従来の実用視力評価方法は経時的に測定した視力の10秒時点,あるいは20秒,30秒時点の視力を実用視力として評価していた4,5).しかし,通常の視力検査で得られる視力がある一時点での視力であるのと同様に,この評価法も「開瞼後のある一時点での視力」である.これに対し,最新型実用視力計では連続的に測定して正解が得られたすべての視力の平均視力を実用視力として算出されるようになった.さらに,視力維持率(visualmaintenanceratio:VMR)が重要な評価項目として追加された(図4).この視力維持率とはスタート視力に対する実用視力の比である.視力維持率は,VMR=(2.7-FVA)/(2.7-スタート視力)の式で算出する.2.7は最小視力の対数視力であり,手動弁を小数視力0.002とした対数視力値である.視力維持率は通常の視力値に対して連続的な見え方がどの程度維持できるかというもので,視力の違う群同士の比較研究においても客観的な評価ができるようになったことでその意義は大きい6).そのほか,実用視力の標準偏差(対数表示),測定時間内の最高視力と最低視力,平均応答時間,瞬目時点の瞬目回数が表示される.平均応答時間とは回答が正解のときの応答時間を平均した値である.最高視力,最低視力の表示により測定時間内の変動の大きさ,すなわち連続的にものを見る場合の視力の安定性が評価できる.また,瞬目時点の表示が可能になり,測定時間内の合計瞬目回数も算出される.これにより,瞬目と視力変動の関係についても今後の検討が期待される.V実用視力測定の適応ドライアイ患者では眼表面の涙液層が不安定であることが示されており,また実用視力についても正常者に比べ低下していることが明らかにされている4,5,7,8)(図5,(6)=RMVの面積/で囲まれた面積図4視力維持率赤線は視力の変動であり,視力維持率は赤網部分の面積を青点線で囲まれた面積で割った値である.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???(7)0.1AVtratS49.0AVF99.0RMV図5正常眼の実用視力典型例スタート視力は1.0,経時的視力変化はほぼ横ばいで,実用視力は0.94,視力維持率は0.99である.5.1AVtratS26.0AVF77.0RMV図6ドライアイ眼の実用視力典型例スタート視力は1.5であるが,経時的視力変化の測定直後より視力は低下している.実用視力は0.62,視力維持率も0.77と低値を示している.———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.4,20076).そもそも実用視力はドライアイ眼の視機能を評価するために考案されたが,実際に通常の視力検査では検出しがたい視機能を評価するのに有用であると考えられる.さらに,ドライアイ眼に対する涙点プラグ治療の評価にも実用視力は有用であることが示されている5).涙点プラグ挿入により眼表面の涙液層が改善することがTearStabilityAnalysisSystem(TSAS)を用いて示されており,この涙液層の安定性の増加が実用視力の改善に影響している可能性が示唆される3)(図7a,b).また,LASIK(laser????????keratomileusis)後の視力の評価においても実用視力は有用である.LASIK後の視力は通常非常に良好であるにもかかわらず,「何となくかすむ」という訴えがある.TanakaらはLASIKを受けたドライアイ患者とドライアイ疑わしい患者の2群(8)図7aBUT(tear?lmbreakuptime)短縮型ドライアイの涙点プラグ挿入前の実用視力とTSAS視力は測定直後より低下し,ある時点でほぼ横ばいに維持されている.BUI(breakupindex)は37.4%であった.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???(9)について術後1日,1週間後の実用視力を比較している9).両群とも術後の視力は良好であるにもかかわらず,ドライアイ確定患者では術後1日の実用視力は低下しており,「何となくかすむ」という自覚症状を裏付ける結果を示している.さらに,Stevens-Johnson症候群患者の視機能評価においても実用視力検査は有用である.KaidoらはSte-vens-Johnson症候群とSj?gren症候群,正常者の実用視力を比較している6).これまで涙液機能の低下に伴い実用視力は低下するとされていたが,本報告で対象となった症例において,Stevens-Johnson症候群はSj?gren症候群に比べ良好な涙液機能であるにもかかわらず,実用視力は悪化していた.このことは単に実用視力は涙液機能のみに影響されているのではなく,その他の要因が実用視力に影響していることが示唆された.そして臨床所見と実用視力との関係において,角膜混濁と角膜への血管侵入という2つの臨床所見が実用視力に有意に関係があることが明らかにされた.このことは,実用視力が涙液機能との関係だけでなく,他の要因にも影響される可能性を示し,他の疾患の視機能を評価するのにも有効図7bBUT(tear?lmbreakuptime)短縮型ドライアイの涙点プラグ挿入後の実用視力とTSAS視力は経時的にほぼ維持されており,BUI(breakupindex)も95.8%と改善している.———————————————————————-Page8???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007(10)であることを示唆している.VI今後の展望実用視力計により従来の視力検査では検出できない視機能の低下を評価できるようになったことは画期的である.最新型実用視力計では実用視力値に加え視力維持率の算出を可能にしたことにより視力の違う群との比較も可能にした.元来,ドライアイの視機能評価のために実用視力という概念が考案され,正常眼に比べドライアイ眼では実用視力が低下していることが明らかにされた4,5).しかしSj?gren症候群ほど涙液機能が低下していないStevens-Johnson症候群で実用視力がより低下していることが示されたことより,涙液機能に関連した疾患の視機能評価だけでなく,今後はもっと広い範囲での実用視力の応用が期待される.単に実用視力値や視力維持率に焦点を置くのではなく,瞬目回数と視力の関係や,視力の変動など実用視力の応用範囲は拡大されることが期待される.文献1)TsubotaK,NakamoriK:Dryeyesandvideodisplayter-minals.????????????328:584,19932)NakamoriK,OdawaraM,NakajimaTetal:Blinkingiscontrolledprimarilybyocularsurfaceconditions.???????????????124:24-30,19973)KojimaT,IshidaR,DogruMetal:Anewnoninvasivetearstabilityanalysissystemfortheassessmentofdryeyes.?????????????????????????45:1369-1374,20044)GotoE,YagiY,MatsumotoYetal:Impairedfunctionalvisualacuityofdryeyepatients.???????????????133:181-186,20025)IshidaR,KojimaT,DogruMetal:Theapplicationofanewcontinuousfunctionalvisualacuitymeasurementsys-temindryeyesyndromes.???????????????139:253-258,20056)KaidoM,DogruM,YamadaMetal:FunctionalvisualacuityinStevens-Johnsonsyndrome.???????????????142:917-922,20067)LizZ,P?ugfelderSC:Cornealsurfaceregularityandthee?ectofarti?cialtearsinaqueoustearde?ciency.??????????????106:939-943,19998)RiegerG:Theimportanceoftheprecornealtear?lmforthequalityofopticalimaging.???????????????76:157-158,19929)TanakaM,TakanoY,DogruMetal:E?ectofpreoper-arivetearfunctiononearlyfunctionalvisualacuityafterlaserinsitukeratomileusis.???????????????????????30:2311-2315,2005