‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

眼内レンズ:Intraoperative Floppy Iris Syndrome(3)-虹彩レトラクターによる対処法-

2007年3月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLSIFISでは,白内障手術中に「水流による虹彩のうねり」,「虹彩の脱出・嵌頓」,「進行性の縮瞳」が生じ,手術の難易度が高くなる1,2).IFISの対処法にはいくつかの種類がある(表1).前回,ヒーロン?Vを用いた対処法を解説したが,今回は虹彩レトラクターを用いた方法について説明する.虹彩レトラクターは機械的に虹彩を外方へ牽引し,内方への動きに対して虹彩を固定するよう作用することから,虹彩のうねりと進行性の縮瞳はこれによって防ぐことができる.しかし,虹彩の脱出・嵌頓に関しては無力なので,その点は注意しておく必要がある.これまで,術者側から見て四角形となるように虹彩レトラクターを設置することが多かったが,それではレトラクター間の虹彩が高く持ち上がって,器具の出し入れの際に虹彩を引っかけて,虹彩損傷をきたすことがあった.それに対し,近年,ダイアモンド型に虹彩レトラクターを設置する方法が提唱されている3,4).実際の方法を解説する.まず,27ゲージの鋭針で輪部を穿孔し(図1),同部よりレトラクターを挿入する(図2).瞳孔縁まで進めた(55)大鹿哲郎筑波大学大学院人間総合科学研究科機能制御医学専攻眼科学眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎247.IntraoperativeFloppyIrisSyndrome(3)─虹彩レトラクターによる対処法─排尿障害改善剤a1ブロッカーを内服している症例でのintraoperative?oppyirissyndrome(IFIS,術中虹彩緊張低下症候群)に対して,虹彩レトラクターを使用することにより術中縮瞳および虹彩の誤吸引を防ぐことができる.使用方法と注意点を解説する.表1IFISの対処法やっていいことやってはいけないことヒーロン?Vの使用1,000倍エピネフリンの灌流虹彩レトラクターの使用虹彩エクスパンダーの使用虹彩の機械的なストレッチ虹彩切開図127ゲージの鋭針で輪部を穿孔図2同部よりレトラクターを挿入図3レトラクターの先端で虹彩を引っかけて,瞳孔を拡張———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007(00)後,レトラクターの先端で虹彩を引っかけて,瞳孔を拡張する(図3).4つのレトラクターを設置した後,手前のレトラクターより上方(内方)で角膜切開創を作製する(図4).このように設置することにより,虹彩を損傷することなく超音波操作(図5)や眼内レンズ挿入(図6)を行うことが可能となる.ただし,IFISで問題になる虹彩の脱出・嵌頓については,虹彩レトラクターを設置だけでは完全に防ぐことはできない(図7).虹彩レトラクターについては,最近,オートクレーブ滅菌が可能でくり返し使用できる製品が出ている(カティーナ,マイクロ虹彩リトラクター,1KP-34970).なお,IFISはa1ブロッカーの内服を中止したとしても元に戻ることはないと報告されているので,休薬する必要はない.文献1)ChangDF,CampbellJR:Intraoperative?oppyirissyn-dromeassociatedwithtamsulosin.????????????????????????31:664-673,20052)OshikaT,OhashiY,InamuraMetal:Incidenceofintra-operative?oppyirissyndromeinpatientsoneithersys-temicortopicala1?adrenoceptorantagonist.?????????????????143:150-151,20073)OettingTA,OmphroyLC:Modi?edtechniqueusing?exibleirisretractorsinclearcornealcataractsurgery.???????????????????????28:596-598,20024)DuppsWJJr,OettingTA:Diamondirisretractorcon?g-urationforsmall-pupilextracapsularorintracapsularcata-ractsurgery.???????????????????????30:2473-2475,2004図4手前のレトラクターより内方で角膜切開創を作製図6眼内レンズ挿入でも虹彩は邪魔にならない図5虹彩を損傷することなく超音波操作が可能図7IFISでは虹彩の脱出・嵌頓が生じうる

コンタクトレンズ:ハードコンタクトレンズ装用による乱視矯正

2007年3月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007???なベースカーブ(BC)のHCLを選択すると,涙液レンズは-0.25Dの球面レンズとして,1段階(0.05mm)スティープなBCのHCLを選択すると+0.25Dの球面レンズとして働く(図2).これらはある経線方向についてのことであるが,あらゆる経線方向についても考える必要がある(図3).角膜曲率半径の弱主経線が8.00mm,強主経線が7.90mmの角膜直乱視の症例に,BCが8.00mm,7.95mm,7.90mmのHCLを装用した場合の弱主経線方向および強主経線の方向の涙液レンズの作用を考えてみる(表1).BC8.00を装用したとき,涙液レンズは弱主経線方向が0Dとして,強主経線方向が-0.50Dとして働く.同様にBC7.95mmのHCLを装用したときには,涙液レンズは弱主経線方向が+0.25D,強主経線方向が-0.25Dとして働き,BC7.90mmのHCLを装用したときには,涙液レンズは弱主経線方向が+0.50D,強主0910-1810/07/\100/頁/JCLSハードコンタクトレンズ(HCL)を角膜上に装着すると,HCLの後面と角膜前面との間隙が涙液で満たされ,これがレンズとして働く.この涙液レンズによって角膜前面の乱視が矯正される.円錐角膜などの不正乱視や強度角膜乱視の矯正にはHCLの処方が第一選択となる.HCLの屈折率は素材によって異なる(1.416~1.460のものが多い)が,角膜(1.376)および涙液(1.336)の屈折率に近いため,HCLを装用するとHCL,涙液,角膜はまとまった一つのレンズとして働く(図1).角膜形状に対してパラレルにフィットした場合には涙液レンズは±0Dであるが,1段階(0.05mm)フラット(53)植田喜一山口大学大学院医学系研究科眼科学/ウエダ眼科コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純TOPICS&FITTINGTECHNICS273.ハードコンタクトレンズ装用による乱視矯正涙液レンズ角膜前面の乱視を涙液レンズが矯正不正乱視,強度角膜乱視の矯正にはHCLが最適屈折率空気:1HCL:1.416~1.460涙液:1.336角膜:1.376図1HCLによる角膜乱視の矯正フラット1段階(0.05mm)?-0.25Dパラレル0Dスティープ1段階(0.05mm)?+0.25D図2HCLのBCと涙液レンズ図3角膜直乱視における涙液レンズCLのBCを角膜曲率半径の弱主経線値に一致CLのBCを角膜曲率半径の中間値に一致CLのBCを角膜曲率半径の強主経線値に一致———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007(00)経線方向が0Dとして働く.このように,角膜乱視の症例においては,涙液レンズは円柱レンズとして働いていることを理解しておきたい.球面HCLを装用してフィッティングや装用感は良好でも残余乱視のため良好な視力が得られない場合には前面トーリックHCLの処方を考える.また,強度の角膜乱視で球面HCLを装用してもフィッティングが不良,良好な安定した視力が得られない,装用感が悪い,角膜上皮障害や角膜の変形が生じるなどの場合には後面トーリックHCLや両面トーリックHCLの処方を考える必要がある(表2).表1弱主経線方向と強主経線方向における涙液レンズBC8.00mmBC7.95mmBC7.90mm弱主経線方向(曲率半径8.00mm)角膜曲率とBCの関係フィッティング涙液レンズパラレル1段階(0.05mm)スティープ2段階(0.10mm)スティープ+0.50D+0.25D±0.00D強主経線方向(曲率半径7.90mm)角膜曲率とBCの関係フィッティング涙液レンズ1段階(0.05mm)フラット2段階(0.10mm)フラットパラレル±0.00D-0.25D-0.50D表2トーリックHCLの選択1.球面HCLがフィッティング良好であっても残余乱視が問題球面HCL→前面トーリックHCL2.強度角膜乱視のために球面HCLがフィッティング不良後面トーリックHCL球面HCL→↓残余乱視が問題両面トーリックHCL

写真:Posterior Corneal Vesicle

2007年3月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS(51)平林宏章神戸大学大学院医学系研究科実践医科学領域器官治療医学講座眼科学分野写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦274.PosteriorCornealVesicle①③②図2図1のシェーマ①:スリットラップの光(徹照法).②:散瞳下.③:Posteriorcornealvesicle.図1Posteriorcornealvesicleの帯状病変25歳,男性,右眼.角膜後面中央部にほぼ水平に走行する帯状病変.図3図1の拡大写真図4Posteriorcornealvesicleの帯状病変のスリット写真34歳,男性,左眼.ほぼ均一な幅を保って走行する帯状病変.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007(00)Posteriorcornealvesicle(PCV)は,直訳すれば“後部角膜の水疱”となる.その訳のごとく,角膜後面(内皮,Descemet膜)に認められる水疱様の小さな円形病変を指す.PCVとは本来,具体的な疾患名ではなく,後部多形性角膜ジストロフィ(posteriorpolymorphouscornealdystrophy:PPCD)に認められることが多い1つの所見を表すものであったが,最近は1つの疾患名(疾患群)としてとらえられており,正確にはposteriorcornealvesiclesyndrome(PCV症候群)と表すべきかもしれない.PPCDは1916年にKoeppeにより報告された,原発性角膜内皮疾患であり,通常常染色体優性遺伝である.角膜内皮変性は生下時あるいは若年より起こるとされ,両眼性でほぼ左右対称の所見を呈するとされているが,非対称例も存在する.角膜所見はおもに3種類のパターンを示すといわれ,角膜後面に小水疱様病変(vesicle-likelesion)を呈するもの,帯状病変(band-likelesion)を呈するもの,びまん性の混濁を呈するものに分類されるが,それらが混在するものもある.そのなかでも小水疱様病変,帯状病変を呈するものが最も多いとされており,いわゆるPCVとはその小水疱様病変,帯状病変を総合した名称と考える.またPPCDに伴う病変として,周辺虹彩前癒着やそれによる眼圧上昇がある.一方,PPCDと同様の角膜所見を呈するが,家族性がなく,片眼性の疾患をPCVないしはPCV症候群という.PPCDとは,家族歴がないことや,片眼性であることより鑑別されるが,これら2つの疾患がまったく別の疾患であるか,あるいは亜型であるかは現在のところ不明である.PCV症候群は片眼性であることから,同じく片眼性であるICE症候群(iridocornealendothelialsyndrome)や,分娩時外傷によるDescemet膜破裂との鑑別が必要になる.PPCD,PCV症候群ともに通常は視力低下はきたさず,非進行性であるため,治療は多くの場合必要としない.無症状なので,眼科検診などで偶然発見される場合が多い.今回は片眼性のPCV症候群の写真を2例提示する.この2例もコンタクトレンズ処方目的に眼科受診した際に偶然発見されたものである.図1,3は25歳の男性の右眼である.左眼角膜には特記すべき所見はなく,片眼性で,隅角も正常で,右眼PCV症候群と診断した.角膜後面,中央部にほぼ水平に走行する,帯状病変を認める.帯状病変はややedgeが波打ったような曲線を描きながら,はぼ水平に走行しており,幅はほぼ均一に広がっている.視力は(1.2)と良好である.図4は34歳の男性の左眼のスリット写真である.ほぼ同様の所見で,左眼PCV症候群と診断した.この症例も視力は(1.0)と良好である.帯状病変はスリット写真では全体像が把握しにくく,できれば散瞳下で徹照法にて観察すると全体像が把握しやすい.一般的にはここで示した症例のように,ほぼ水平に平行を保ちながら,角膜後部の中央からやや下方にかけて認められる場合が多い.スペキュラーマイクロスコープでは病変部の内皮細胞は大型化していたり,形も不整な場合が多く,また病変部に境界のやや不鮮明なdarkareaを認める.文献1)PardosGJ,KrachmerJH,MannisMH:Posteriorcornealvesicle.???????????????99:1573-1577,19812)WeisenthalRW,StreetenBW:Posteriormembranedys-trophies.Cornea,2nded(edbyKrachmerJHetal),p929-938,Mosby,NewYork,19973)佐野洋一郎,横井則彦:角膜内皮異常.角膜クリニック,第2版,p113-119,医学書院,2002

加齢黄斑変性:新しい薬物治療の可能性

2007年3月31日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSやサリドマイドの全身投与が試されたが有効性が認められず1,2),しばらく薬物療法は鳴りを潜めた.その間,黄斑移動術とベルテポルフィン(ビスダイン?)を用いた光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)が一定の評価を得たものの,前者は手技の複雑さや斜視や増殖硝子体網膜症などの合併症の問題があり3),後者も視力改善率という点では依然満足できるものではなく4,5),より良い治療法の開発が求められてきた.その後,血管新生の研究の進歩に伴い,局所投与を行う眼科医と開発する側の製薬会社が連携して,さまざまな血管新生阻害薬の局所投与(Tenon?下投与や硝子体内投与)による臨床試験が競って実施されるようになった.なかでも血管新生過程を制御する主要なサイトカインである血管内皮細胞増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)を標的とした抗VEGF療法の臨床試験が順調に実施され,PDTを超える効果が報告され期待されている6,7).しかし,依然,効果の評価はおもに治療前視力を基準としての視力維持率の比較に留まる(表1).AMDが発症して,患者が視力低下,変視症や,中心暗点を自覚して眼科に足を運ぶ段階である程度(平均して0.2~0.3程度に)視力が低下しており,引き続き(発症後1年以内に)急激な視力低下をきたす場合も多い.このように,治療開始の時点ですでに視力不良の症例も多いため,視力維持で満足できるものではなく,たとえば,読書可能な矯正視力(0.4以上)を保てない症例を十分に減らせないようではAMDを克服したということにはなはじめに黄斑は最も治療が困難な組織の一つである.黄斑は光を感受する感覚神経であり,しかも両眼の対応があるため,その機能維持には,(1)構造,位置,(2)透明性,(3)神経生理機能の保持が不可欠である.さらに隣接する網膜色素上皮と脈絡膜毛細血管が健常であることが必要不可欠であるため,いずれの組織の障害や恒常性低下も網膜萎縮への悪循環に陥ることになる.加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)は深刻な黄斑疾患であり,欧米における成人法的失明の主因であり,わが国でも近年増加傾向にある.AMDには,地図状萎縮(網膜視細胞,網膜色素上皮,脈絡膜毛細血管の萎縮)に至る萎縮型(drytype)と脈絡膜新生血管が網膜下または網膜色素上皮下に侵入する滲出型(wettype)がある.日本では欧米に比較して滲出型が多いとされるが,現在の治療のほとんどは脈絡膜新生血管を標的としたものであり,萎縮型に対しては他の遺伝性網膜変性疾患と同様,ほとんど治療の手立てがないことをまず念頭に置かなければならない.滲出型に対する治療においても決め手となる治療法がなく,外科療法,光線療法,薬物療法などさまざまな方法が乱立して試されている状態である.中心窩外の脈絡膜新生血管に対しては光凝固術が有効であると以前から認知されていたが,中心窩下新生血管に対しては手の施しようがなかった.薬物療法は,時期を問わず比較的容易にしかもくり返し施行できることが絶対的有利な点であり,インターフェロン(37)???*TsutomuYasukawa:名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学〔別刷請求先〕安川力:〒467-8601名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学特集●加齢黄斑変性の薬物治療あたらしい眼科24(3):303~315,2007加齢黄斑変性:新しい薬物療法の可能性????????????????????????????????????????????????????????-????????????????????????????安川力*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007らないだろう.では,より良い効果を発揮しうる新たな薬物療法の開発戦略とはどういうものだろうか?単純に考えると,(1)標的は従来通り,脈絡膜新生血管で,血管新生阻害薬の新たな候補を試してみるということになる.しかし,抗VEGF療法のような分子レベルで特異的にしかもメカニズムの要所を阻害する薬剤に勝ることができるであろうか.治療効果を上げる戦略としては,まず,(2)既存薬剤でも血管新生過程の別のレベルで効果を発揮するもの同士の併用療法で活路を見出せるかもしれない.一方,単独使用において既存の薬剤を上回る薬効を得るための製剤設計時の工夫としては,(3)VEGFへの親和性を高めて抗VEGF効果を増強した薬剤の開発,(4)ドラッグデリバリーシステム(drugdeliverysys-tem:DDS)を応用して薬効を上げると同時に副作用を改善することが手段にあげられる.しかし,脈絡膜新生血管を標的としていては,萎縮型の治療を放棄しているし,線維血管組織,滲出液,フィブリンや,血液が網膜下を占拠した時点で,多少なりとも網膜視細胞の萎縮が始まることを考えると,視力低下した症例の視力改善率が100%にはなりえないだろう.そこで,(5)脈絡膜新生血管発生以前の段階に目を向け,予防医学的立場で新たな薬物療法の可能性をさぐるか,または萎縮を防ぐための神経保護か,萎縮した神経の再生の可能性に目を向けるべきかもしれない.AMDは加齢に伴い誰もが発症しうる疾患である.本稿では,このようなAMD治療という困難に立ち向かうための新規薬剤開発の現状と将来の可能性について紹介する.I脈絡膜新生血管を標的とした薬物療法脈絡膜新生血管を標的とする薬物療法は,癌治療の分野における血管新生抑制の研究と関連して発展してきたが,癌治療ではおもに内服や静脈内注射などの全身投与が行われるので,当初は,インターフェロンやサリドマイドなどのようにAMDの治療においても全身投与が選択されたが,最近では,トリアムシノロン・アセトニド(ケナコルト?)やpegaptanib(Macugen?)の使用経験などで,頻回の硝子体内投与の手技自体の安全性がおおむね示されたこともあり,初めから脈絡膜新生血管治療を目的としたものも加わり新薬開発の波が押し寄せている.硝子体腔という閉鎖空間への薬物投与は滞留性の予測,投与量の設定が比較的容易で,投与した全量が全身へ移行したとしても全身投与の系で想定される血中薬物濃度に比較するとかなり少量であるので全身への副作用は問題となりにくい.世界的には,実に多くの薬剤の治験が行われている(表2).新しく血管新生阻害作用を示す薬剤が見つかるたびに,癌治療の分野でまず臨床試験が行われる.ある程度,効果が見出せる場合,AMDの薬物療法へと転用される傾向がある.低侵襲という点では,点眼,内服,静(38)表1加齢黄斑変性の治療成績の比較薬物症例数投与量観察期間3段階以上視力改善(平均視力の変化*)良好視力獲得率未治療(MARINAStudy)23812カ月5.0%(-10.4文字)10.9%(≧0.5)未治療(MARINAStudy)23824カ月3.8%(-14.9文字)5.9%(≧0.5)PDT(TAPStudy)40212カ月6.0%(-10文字)─PDT(ANCHORStudy)14312カ月5.6%(-9.5文字)2.8%(≧0.5)PDT(TAPStudy)31224カ月11.0%(-11文字)─PDT(TAPStudy)19360カ月10.0%(-11.5文字)─PDT(JATStudy)6412カ月20.0%(+3.0文字)9%(>0.5)Anecortaveacetate(Retaane?)26315mg12カ月──Pegaptanib(Macugen?)2940.3mg12カ月6.1%(-7文字)─Ranibizumab(Lucentis?)2380.3mg24カ月26.1%(+5.4文字)34.5%(≧0.5)(MARINAStudy)2400.5mg24カ月33.3%(+6.6文字)42.1%(≧0.5)Ranibizumab(Lucentis?)1400.3mg12カ月35.7%(+8.5文字)31.4%(≧0.5)(ANCHORStudy)1390.5mg12カ月40.3%(+11.3文字)38.6%(≧0.5)*ETDRS視力表による(+5文字が通常の視力表の1段階改善に相当).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007???脈内投与,Tenon?下投与,硝子体内投与の順で望ましいものであるが,血液網膜関門をはじめとする眼球の特異性から,点眼ではほとんど薬剤が後眼部に到達しないし,内服,静脈内投与などの全身投与では,標的組織への十分量の薬物送達が困難であり,全身への副作用の問題があることは,インターフェロンやサリドマイドを使った治験から得た経験からもうかがえることである.このような知見を考慮した場合,最近のanecortaveace-tate(Retaane?),pegaptanib,ranibizumab(Lucentis?),bevacizumab(Avastin?)などの使用例のごとく,脂溶性薬剤であればTenon?下注射,水溶性薬剤であれば硝子体内注射が選択される傾向がある.薬剤の種類としては,ステロイドと抗VEGF療法が国内でも認可を控え,現状では最も優れた効果を示すものであり,新規薬剤の効果を判定するための基準となるであろう.今後は,これらの類似薬を中心に,血管内皮増殖抑制作用を示す合成新薬のほか,IL(インターロイキン)-2,TNF(腫瘍壊死因子)aなどの発現抑制または阻害する抗体その他の薬剤が試されていくであろう.また,特殊な薬物療法としては,遺伝子導入と最近注目されているsiRNA(smallinterferingRNA)を用いた治療の試みがある.1.新しい血管新生阻害薬癌治療の分野に加え,最近では血管新生に炎症細胞の関連が示唆されていることもあり関節リウマチなど炎症性疾患の分野で開発された薬剤がAMD治療の可能性を秘めていると考えられ,研究が進められている(表2).それぞれ各製薬会社が威信をかけ開発している薬剤であり,より良いものが出現することを切に願う.一方,以前のインターフェロンにしても,サリドマイドにしても,動物実験レベルでは有効性が示され期待されたものであった.それが,いざ臨床試験が始まってみると,全身投与ではどうも十分な効果が得にくい.また,副作用が懸念されるということが明らかになった.したがって,同様の方法(動物実験など)で効果を示した後,臨床試験へと進んでいるか進もうとしている全身投与による低分子量の新規薬剤に関しては,悲観的に意見を述べるとすればどれも同じ結果に至る可能性が高い.(39)表2開発中の加齢黄斑変性の薬物療法薬物種類投与経路国内海外開発状況anecortaveacetate(Retaane?)ステロイドTenon?下PhaseI/II終了アメリカで認可pegaptanib(Macugen?)抗VEGF硝子体内PhaseI/II終了アメリカなどで認可ranibizumab(Lucentis?)抗VEGF硝子体内PhaseI/II終了アメリカ,スイスなどで認可bevacizumab(Avastin?)抗VEGF硝子体内直腸癌で治験中PhaseIII,アメリカで直腸癌に認可VEGF-trap抗VEGF硝子体内─PhaseII中bevasiranibsodium(Cand5)siRNA(VEGF産生抑制)硝子体内─PhaseII終了sirna-027siRNA(VEGF産生抑制)硝子体内─PhaseII中AdPEDF遺伝子導入(血管新生抑制)硝子体内─PhaseI終了AE-941(Neovastat)MMP阻害内服─PhaseII中,肺癌に治験中JSM6427抗インテグリン局所─PhaseI予定CGC-11047血管新生抑制結膜下─PhaseI中,固形癌,前立腺癌に治験中combretastatinA4phosphate血管新生抑制静脈内─PhaseII中(強度近視の脈絡膜新生血管)squalaminelactate(EVIZONTM)血管新生抑制静脈内─PhaseII終了genistein血管新生抑制内服─サプリメント(genistein+vitaminD,E)mecamylamine(ATG003)血管新生抑制点眼─PhaseI中TG100801血管新生抑制,抗炎症点眼─PhaseI中?uocinoloneacetonide(Retisert?)ステロイド硝子体内インプラント─PhaseII終了rapamycin(Sirolimus)IL-2阻害内服,局所─PhaseII予定,PhaseI中daclizumab抗IL-2受容体静脈内─PhaseII予定in?iximab抗TNFa静脈内─PhaseII予定———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.3,20072.併用療法により活路を見出す薬剤単独使用では満足のいく効果を発揮できない薬剤でも,作用機序の違う薬剤を併用することによって,有効性を見出せる可能性はある.また,神経保護効果などプラスアルファの要素をもっている薬剤であれば使用意義があるかもしれない.このような薬剤では副作用が問題となりにくいことが前提である.臨床応用されている例としては,トリアムシノロンとPDTの併用による有効性が示されている(表3).PDTは光線照射にベルテポルフィンが反応して活性酸素が生じるため,新生血管内皮の障害・閉塞に至る治療であるので,施行直後は炎症反応がむしろ増悪することは光干渉断層計(OCT)を用いた観察でも示されている8).これをトリアムシノロンの併用により抑制するというのは理にかなっている.現在,ステロイドの併用に抗VEGF療法も加えた3種併用療法まで海外で臨床試験が行われている(表3).ただ,PDT+トリアムシノロン一つ取り上げてみても,トリアムシノロンの投与の時期は,PDTの1週間前,前日,直後と施設によりまちまちで,またTenon?下注射か硝子体内注射かという投与法と投与量に関して一定していない(表3).このように,併用療法一つでもそのプロトコールに多様性が生じ,最善のものを評価していくのに時間を要することになる.さらに別の薬剤の組み合わせが存在するわけで,しばらく多岐にわたる治療が乱立して試される状況は避けられそうにない.3.抗VEGF療法の改善を狙った薬剤VEGFは,白血球の関与と血管透過性亢進を主体とする炎症反応においても,炎症,虚血に対する血管新生という現象においても大きな役割を演じているのは確かである.このVEGFを抑制する治療(抗VEGF療法)は透過性亢進や血管新生を抑制する最も直接的な手段であり,効果も他の薬剤より優れている.Ranibizumabとbevacizumabが眼科領域で多く用いられているが,違いは,ranibizumabがフラグメント抗体(Fab断片)であり分子量約48,000であるのに対し,bevacizumabはヒト化モノクローナル抗体IgG(免疫グロブリンG)で分子量約149,000である(表4).分子量の違いのほか,ranibizumabのほうがbevacizumabより10倍VEGFへの親和性が高い.今後,これらの抗VEGF療(40)表3加齢黄斑変性の併用療法薬物症例数投与量観察期間3段階以上視力改善(平均視力の変化)良好視力獲得率PDT+TA18425mg硝子体内9.7カ月─(+6.1文字)─PDT+TA4125mg硝子体内12カ月29.3%4125mg硝子体内24カ月31.7%PDT+TA(名古屋市立大)1420mgTenon?下12カ月28.6%35.7%(≧0.5)PDT+Lucentis?(FOCUSstudy)1620.5mg硝子体内12カ月24%薬物種類投与量投与経路海外開発状況PDT+TAPDT+ステロイド4mg硝子体内PhaseIII終了PDT+TA(Kenalog?)PDT+ステロイド4mg硝子体内PhaseII終了PDT+TA(Kenalog?)+Avastin?PDT+ステロイド+抗VEGF硝子体内PhaseII中PDT+dexamethasone+Lucentis?PDT+ステロイド+抗VEGF硝子体内PhaseII中PDT+TAvsPDT+Macugen?(VERITASstudy)PDT+ステロイドまたは抗VEGF1,4mg;0.3mg硝子体内PhaseI/II中PDT+Avastin?(SANAstudy)PDT+抗VEGF5mg/kg静脈内PhaseI/II終了PDT+Avastin?PDT+抗VEGF2.5mg硝子体内PhaseII中PDT+squalaminelactate(EVIZONTM)PDT+血管新生抑制静脈内PhaseII中PDT+celecoxibPDT+抗炎症内服PhaseI/II予定Imatinibmesylate(Glivec?)+Lucentis?抗PDGF+抗VEGF400mg/day+0.5mg内服+硝子体内PhaseI中———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007???法に関しては,全身投与で用いるのか,硝子体内投与を行うのか,また,それぞれにおける使用頻度,濃度などは,薬剤の分子量とVEGFへの親和性の違いによって状況が変わってくる.VEGFへの親和性を大幅に向上させた薬剤にVEGFtrapがある(図1,表4).Ranibi-zumabのさらに80倍の親和性をもつといわれ,現在,海外で癌やAMDに対して臨床試験中である.ただ,VEGFは生理的な血管新生にも重要な働きをしており,抗VEGF療法は,全身投与では高血圧が併発するほか,月経,創傷治癒,蛋白尿,骨形成,血栓・塞栓形成などへの影響が考えられ,虚血性心疾患のリスクのある場合などまれにしても心筋梗塞や脳梗塞による死亡例もあるようである.これらの理由で,眼科疾患への抗VEGF療法はおもに硝子体内投与により行われるが,投与量が少ないといっても眼内投与した薬物のほとんどは全身へ移行してくると考えられるので,分子量が大きく血中滞留性の高いbevacizumabやVEGFtrapなどでは特に,全身への影響についても念頭に置かねばならない.また,VEGFが神経保護作用も有していたり生理的にも不可欠であるため,はたして,抗VEGF療法の網膜毒性などは問題ではないか,長期的な有効性についての評価を待たねばならない.4.ドラッグデリバリーシステム(DDS)・遺伝子療法を応用した薬剤かつてのインターフェロン,サリドマイドの治験で有効性を得られなかったように,一般に低分子量薬剤は,全身投与では全身に均等に分布するため,標的となる脈絡膜新生血管組織に十分量薬剤を送達することが困難なため,大量かつ頻回投与を余儀なくされるが,それでは全身への副作用が問題となる(図2).現在では,局所投与がおもに試される傾向にあるが,局所投与だけでなく(41)12345671234567R1D2R2D3R1D2R2D3VEGFR2(Flk-1)VEGFR1(Plt-1)VEGFtrapFc部図1VEGFtrapVEGF受容体であるVEGFR1の2nddomainとVEGFR2の3rddomainを抗体のFc断片に結合させたもので,VEGFに非常に高い親和性を示す.現在,海外でAMDに対して臨床試験が行われている.高分子薬剤③副作用軽減≪②ターゲティング*①血中半減期延長腎臓肺/RES正常組織網膜脳新生血管炎症部位=副作用大/効果少低分子量薬剤図2高分子の受動的ターゲティング特性通常の低分子量薬剤は尿中排泄率が高く全身に均一に分布するため,効果が得られにくく,副作用が問題となる.高分子は,①血中半減期が長く,②血管透過性亢進部位(血管新生・炎症部位)に送達(ターゲティング)されやすい.同時に③副作用軽減につながる.ただし,あまり巨大分子になると肺や細網内皮系(reticuloendothelialsystem:RES)に捕縛されやすい(*).表4抗VEGF療法の比較Avastin?Lucentis?VEGFtrapVEGFとの親和性(比)110800分子量149,00048,000Avastin?より低血中半減期20日3時間14~18日硝子体中半減期5.6日3.2日?問題点ILM透過不良?良好?良好?不良?全身からの排泄不良良好不良全身への影響あり?少ない?あり?価格安価高額高額?Fc部関連炎症あり?なしあり?———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007全身投与における薬剤の使用性改善,つまり薬効を上げ,副作用を減らすための一つの手段が,DDSの応用である.DDSは大きくつぎの3つの範疇に分類される.(1)全身投与された薬剤が標的組織に優位に送達されることを目的とした薬物標的指向化(ドラッグターゲティング).(2)局所投与において薬物を徐放させて薬効を持続させることを目的とした薬物放出制御(コントロールドリリース).(3)薬剤の透過の改善.抗VEGF療法を越える新薬の開発は困難であると予測される.現在の薬剤の効果の限界を打破するには,これらの概念を取り入れた薬剤開発が不可欠かもしれない.a.全身投与の改善:ドラッグターゲティング療法ベルテポルフィンと光線を組み合わせたPDTも,血中のリポ蛋白というナノサイズの粒子中に移行したベルテポルフィンが新生血管組織周囲および新生血管の内皮細胞内へ集積する傾向と外部からの光線照射を巧みに組み合わせたターゲティング療法である.高分子が受動的に炎症や血管新生部位に効率よく送達されることは,実は,生体内で免疫反応のためBリンパ球が産出する免疫グロブリンで実践されている.IgGの分子量が149,000と,分子量数千から数万程度のサイトカインをはじめとする他のペプチド,蛋白質と比較して圧倒的な大きさをもっているのは意味があって,血中に循環する抗体は血中半減期が長く,血管透過性亢進している炎症部位で優位に血管外に出るため,抗体が効率よく炎症部位に送達される.このように液性免疫は生体による受動的ターゲティング療法なのである.ところで,癌組織や脈絡膜新生血管組織は,通常の血管新生や炎症部位と少し異なる特殊環境下にある.すなわち,透過性亢進した血管が存在するが周囲に高分子を回収するべきリンパ管が未熟または存在しないのである.したがって,抗体のような大きな分子は血管外に漏出した後,回収されにくく新生血管周囲に集積する傾向がある.これをenhancedpermeabilityandretentione?ect(EPR効果)とよぶ.ただし,分子量が大きすぎると,血液循環において,肝臓,脾臓などの細網内皮系や肺組織に回収される傾向があるので,EPR効果を得るために最適な分子量というものがあり,ポリエチレングリコール,デキストランや,ポリビニルアルコールなどの直鎖型の水溶性高分子の場合,分子量220,000ぐらいが最も効率よく集積効果が得られる.これらの水溶性高分子の生体適合性については,たとえばpegaptanibに安定化と眼内滞留性向上のため,ポリエチレングリコールが付加されている身近な例が示すように問題ないことは示されている.このような概念のもとで,筆者らは,血管新生阻害作用を示す低分子量薬剤のTNP-470と臨床応用がかなわなかったインターフェロンを高分子化し,家兎の脈絡膜新生血管モデルで効果を調べたところ,高分子化していない同一薬剤に比較し,脈絡膜新生血管組織への集積効果(EPR効果)と,より低容量,より少ない治療頻度で治療効果の向上を確認した(図3)9,10).また,ミセル粒子が,EPR効果によりラットの脈絡膜新生血管モデルへ集積すると(42)ECADB高分子脈絡膜新生血管網膜色素上皮視細胞外節脈絡膜毛細血管板図3脈絡膜新生血管へのEPR効果家兎の脈絡膜新生血管モデルを作製し,脈絡膜新生血管を蛍光眼底造影(A,B)で確認後,蛍光色素標識高分子(A,C同一眼)と蛍光色素のみ(B,D同一眼)を静脈内投与24時間後に蛍光顕微鏡で観察を行うと(C,D),脈絡膜新生血管周囲には高分子が集積しているのがわかる.眼内にリンパ管が存在しないので,脈絡膜新生血管周囲に漏出した高分子は回収されにくく集積する傾向がある(EPR効果)(E).(文献9から引用,改変)———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007???の報告もある11).このEPR効果に基づく受動的ターゲティングという概念は元は癌治療の分野で提唱されたが,眼科領域に応用できる大きな可能性を秘めている.b.持続作用を期待:眼内インプラント局所投与において,薬物の局所滞留性を向上させることを目的としたDDSを,コントロールドリリースとよぶ(図4).臨床応用されているものとしては,AIDS(後天性免疫不全症候群)などに合併するサイトメガロウイルス網膜炎に対してガンシクロビル徐放性非生体分解性インプラント(Vitrasert?)を代表として,同じ形状でフルオロシノロン・アセトニドを徐放するインプラント(Retisert?)もぶどう膜炎の治療に用いられ,最近では黄斑浮腫の治療のために臨床試験が進行中である.非分解性インプラントの最大の長所は,大量の薬剤を内部に封入しておけるので,数年にわたる徐放も可能であることと,薬剤の包む被膜(ポリビニルアルコールなど)の薬剤透過率と表面積で薬物徐放が制御できるので,非常に安定した放出が可能である.Retisert?自体のAMDへの臨床応用は進んでいないようであるが,今後,この形状のインプラントを用いてAMD治療の候補となる低分子量薬剤の徐放が試されるだろう.ただ,短所として,非分解性インプラントは薬剤放出が終了した後も眼内にインプラントが残留することと,薬剤による副作用の問題が顕著となりやすいということである.たとえば,Retisert?はステロイド徐放剤であり,インプラント移植症例の95%に白内障進行,60%に眼圧上昇を認め,34%に緑内障手術を要したという報告もされてきている.非分解性インプラントが生体内に残存するという欠点を考慮して,生体分解性インプラントの開発も始まっている.黄斑浮腫の治療のためのSK-0503(Posurdex?)はデキサメタゾン徐放性生体分解性インプラントで22ゲージの特殊インジェクターで眼内移植可能であり,米国でphaseIII,国内でもphaseI/II試験が進行中であり,基材となっているポリ乳酸・グリコール酸共重合体など生体分解性高分子の眼内投与の安全性は立証されており,今後,他の薬剤を用いたAMD治療のためのインプラント開発が進むと予想される.Pegaptanibの生体分解性高分子マイクロスフェアの開発も行われており,家兎実験で一度の投与で120日間の徐放効果が得られている.c.遺伝子導入療法:siRNAとAdPEDF遺伝子導入療法も前述のインプラントと同様,持続的な効果を期待できる治療法の一つで,ここ数年,注目されているのがsiRNAである.線虫において細胞内で二本鎖RNAがそれと相補的配列をもつmRNAを分解し蛋白発現を抑制することが報告され,これは2006年のノーベル医学生理学賞を受賞するほどの大きな発見と評価されている.というのも,後に,哺乳類などでも短い配列の二本鎖RNA(siRNA)によりこの現象を再現でき(43)図4眼内薬物放出制御(コントロールドリリース)システムの可能性動物実験レベルでは種々のコントロールドリリースシステムの開発が行われている.AMD以外の疾患ではあるものの,臨床応用されているもの(**)や臨床試験の段階にあるもの(*)もあり,今後,AMD治療にも応用されるであろう.———————————————————————-Page8???あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007ることが立証されたことにより(図5),実験レベルで遺伝子の制御が容易になり,分子生物学の分野の大きな発展に貢献したためである.実験レベルを超えて,最近,臨床応用,つまり特定の遺伝子を阻害する試みが始まっている.滲出型AMDに対しても,bevasiranibsodium(以前のCand5)とsirna-027というともにVEGFを標的としたsiRNAによる臨床試験が行われ,一定の治療効果と安全性が示されつつある.siRNAは,抗VEGF療法と異なり,すでに分泌されたVEGFの作用を阻害するのではなく,新たなVEGFやVEGF受容体の産生をおそらく持続的に抑制して作用を発揮するというものである.そのため,抗VEGF療法のような即効性はなく,数週間後に効果が現れてある程度持続的効果を発揮するらしい.1回の硝子体内投与で12週間CNVの増殖を阻止できたと報告されている.ただ,現状では問題点も多い.遺伝子治療の分野では,細胞内への遺伝子導入の障壁となる細胞膜通過という克服すべき問題がある.遺伝子導入率向上のために,ウイルスベクターを使用したり,安全面からウイルス由来の物質の使用を避けてリポソームなどの非ウイルス性ベクターの開発に関する研究分野が存在する.siRNAに関しても例外でなく,????????の実験ではリポフェクタミンなど陽電荷の試薬を併用することにより導入効率を上げて使用されるが,このような陽電荷試薬は細胞膜への影響力をもち,それは細胞毒性につながる要素でもある.臨床試験において,細胞内導入効率を上げる工夫がなされているか明示されていないが,ウイルス性ベクターを使用しない系でうまく臨床応用されている例が少ないことから,単純に硝子体内投与しても導入されない可能性が高い.Bevasira-nibに関しても220日目には全例,再治療を要したと報告されている.ウイルス性ベクターを使用した薬剤の臨床試験も進んでいる.色素上皮由来因子(pigmentepithelium-derivedfactor:PEDF)は抗血管新生作用を有するサイトカインであり,アデノウイルスベクターを用いPEDF遺伝子導入のために製剤化されたものがAd(GV)PEDF.11Dであり,現在,硝子体内投与でphaseIが終了し,安全性が確認されている(図5).II加齢黄斑変性の発生機序と予防的薬物療法の可能性今後,あらゆる治療法の可能性を探ったところで,AMDが発症し視力が低下した時点で,良好な視力を取り戻すには限りあるものと思われる.また,日本のAMDはポリープ状脈絡膜血管症も含め滲出型が多いものの,地図状萎縮に至る萎縮型も混在しており,ますます治療が困難で無視できないものである.このように治療の限界を考慮して別の視点に立った場合,一つの可能性としては,すでに恒久的視力障害に至った眼に対する網膜再生や人工網膜の研究があげられる.このような研究の発展を期待したいものである.そして,もう一つは発症予防の可能性である.薬物療法開発のためには,従来のように脈絡膜新生血管を標的とする場合でも血管新生のメカニズムの解明が重要で新しい知見が得られれば新しい薬剤開発の可能性が広がる.同様に,AMDの予防を考えるのであれば,AMDのメカニズムについて理解する必要があるが,いまだ多くのことがわかっていない.しかし,最近ではリポフスチン由来の自発蛍光やドルーゼン形成とAlzheimer病の類似性,補体の関与など,いくつかの鍵となる知見が得られ,病態解明に向けて前進しているのは間違いない.(44)図5遺伝子導入療法の可能性VEGF発現を抑制するsiRNAと,アデノウイルスベクターによるPEDFを発現する遺伝子の導入療法が開発中である.短い二本鎖RNAは細胞内でRNA-inducedsilencingcomplex(RISC)(RNA誘導サイレンシング誘導体)を形成して(②),相補配列のmRNAを特異的に分解する(③).臨床応用では細胞内導入が問題点である(①).ウイルスベクターによる遺伝子導入(AdPEDF)siRNA導入(bevasiranib,sirna-027)短い二本鎖RNA①細胞内移行②RISC形成③特定RNA分解mRNA①細胞内導入②mRNA発現③蛋白発現(分泌)———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007???1.軟性ドルーゼン生成・網膜色素上皮?離AMD発症の原因を考えていくと,ドルーゼンや網膜色素上皮の色素異常が前駆症状であることは統計的に確かであるので,ドルーゼンはAMDの発症にかかわっている可能性がある.そこで,レーザー凝固でドルーゼンを消失させることでAMD発症の予防が可能かどうか臨床試験が行われていたが,無効であるという結果が出ている12).原因として考えられることは,レーザー凝固自体で効果的にドルーゼンを消失させることができなかったことと,ドルーゼンの存在自体が直接の危険因子ではない可能性があるということである.臨床的にはドルーゼンや色素上皮異常が出現して初めて眼科医の目で確認できるが,実のところ,Bruch膜のびまん性肥厚が基盤として存在している.ドルーゼンが直接原因でないと考えると,加齢現象としてその上流に位置するBruch膜の肥厚に目を向けることとなる.2.(硬性)ドルーゼン生成と補体の関与欧米ではアイバンクの眼球を用いての加齢眼の免疫組織学的検討が容易で,加齢眼にしばしば認めるドルーゼンに関して,Andersonらを中心に精力的に研究が行われてきた.そして,まず,ドルーゼン内にビトロネクチン,apoE,アミロイドb,免疫グロブリン,補体C3,C5b-9複合体などの蛋白質の存在や,マクロファージ,樹状細胞など炎症系細胞をときに認めることなど,Alzheimer病における老人斑や動脈硬化における粥状硬化の部位と多くの共通点を認めたため,発生機序に関しても類似しているのではないかと推測されている.ドルーゼン形成を若年性に認める2型膜性増殖性糸球体腎炎という疾患があるが,その原因遺伝子は補体H因子の異常であると考えられていること,また,AMDのドルーゼンにもH因子を認めることから,米国でAMDの患者の遺伝子を調査し対照群と比較したところ,H因子の遺伝子多型が見出された13).後に国内のAMDへのH因子の関与は少ないことがわかった14)が,補体を中心とした炎症反応がAMD発症の原因として認識されつつある(図6).今後,補体の活性を阻害する物質などの効果について検討されることが予想される.しかし,一つ注意すべきことは,ドルーゼンの生成機序にまでHagemanの仮説15)のように炎症反応の関与が提唱され,もっとものように世界で認識されているものの,ドルーゼン発生と炎症反応の因果関係に関してはどちらが原因でどちらが結果であるのか立証する証拠は何もないということである.数年前に,Alzheimer病の老人斑にアミロイドβの沈着を認めることから,アミロイドβに対するワクチン療法の開発が進み,Alzheimer病モデルマウスを使用した実験で老人斑の消失が確認され,臨床試験が行われたが効果は認めるものの症例の6%と高率に髄膜脳炎を併発したため開発中止に至った16).この失敗(45)図6補体とドルーゼン補体C3,C5b-9,H因子などをドルーゼン周辺に認める.H因子は補体の活性化に抑制的に働く.炎症反応が脈絡膜新生血管を誘導するのは明らかである.しかし,ドルーゼンと補体を含めた炎症反応のいずれが原因でいずれが結果であるか明らかではない(①,②).H子因H因子3C9-b5C網膜色素上皮視細胞外節Bruch膜脈絡膜毛細血管ドルーゼン3C+B因子→b3C→9-b5C)CAM(→症炎a5Ca3C→生新管血D子因制抑性活離遊化性活H因子離遊化性活体補FGEV成生ンゼールド生新管血膜絡脈①②化性活体補———————————————————————-Page10???あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007は,老人斑への炎症反応は老人斑消失の方向へ誘導するが病的な炎症をひき起こしうるとも解釈できる.したがって,ドルーゼンにかかわる炎症反応の証拠も,ドルーゼンを除去するための生体の炎症反応であり,その病的段階として炎症反応としての脈絡膜血管新生が位置すると考えるほうがむしろ自然であるように思われる.したがって,今後,補体を初めとした免疫反応の抑制を目指した研究が行われた場合,確かに脈絡膜新生血管発生を抑制できても,ドルーゼンその他の沈着物の排除が妨げられ沈着が進み,萎縮型に至る症例が増す可能性がある.ただ,これらはすべて憶測であり,研究結果が示されるのを待つべきであろう.3.Bruch膜の肥厚(脂質沈着)Bruch膜の肥厚は30歳ぐらいの頃から認めるようになり(図7),その後,加齢とともに直線的に増悪してくる.仮に,ドルーゼンが出現する基盤としてBruch膜の肥厚の存在が必要条件であると考え,肥厚がさらに顕著になることが,AMD発症の発症条件の一つと考えると,ドルーゼンがAMD発症の直接要因ではなく,すべてのAMDにおいてドルーゼンを認めるわけでないことも説明できる.そこでBruch膜肥厚を防ぐことができれば予防につながるかもしれない.最近,肝臓でのみ産生されるとされてきたapoB-100という蛋白質を含む大型のリポ蛋白を網膜色素上皮が基底膜側に放出していることが,Curcioらのアイバンクの眼球を用いた研究から明らかになっている.そこで,網膜色素上皮は小腸上皮と類似の環境にあると考えることができる(図8).すなわち,小腸が食事から消化吸収された栄養素と,特に脂質をカイロミクロンとして小腸リンパ管内に放出しているのに対し,網膜色素上皮は日々視細胞外節を貪食してリポ蛋白としてBruch膜を超えて脈絡膜血管に向けて放出しているものと考えられる.Bruch膜に蓄積する脂質は多くはこの網膜色素上皮が産生するリポ蛋白由来と考えられるが,高脂血症が基盤にあると高密度リポ蛋白(HDL)を介した中性脂肪の回収率が下がり蓄積速度が増すと考えられるため,蓄積しにくい魚由来の脂質が良いとか,高脂血症の改善が予防につながる可能性が出てくるのだと推測する17).実際,血中コレステロールと脈絡膜新生血管の関連や,スタチン(高脂血症改善薬)摂取や魚摂取により滲出型AMDの発症が予防できるという報告もある18,19).その後,スタチン摂取は無効であったという追試もあり20),議論の余地が残るが予防治療として注目される.では,Bruch膜肥厚は肥満に関係なく加齢とともに30歳ぐらいから直線的増加を見せるが,肥厚開始のスイッチが何故30歳ぐらいに入るのか?その疑問を解く鍵は,リポフスチンである可能性がある.(46)④AMD③AMD前駆期②Bruch膜肥厚①リポフスチン蓄積1009080706050403020100②④③①脂質沈着リポフスチン蓄積脈絡膜新生血管ドルーゼン程度・頻度図7リポフスチン,Bruch膜肥厚,AMD前駆症状,AMDの関係リポフスチンは生後まもなく網膜色素上皮細胞内に頭頂側から蓄積を始め,30歳ぐらいには基底側にまで占拠するようになる(①).そのころから,Bruch膜への脂質沈着が顕在化し,加齢とともに肥厚してくる(②).その後,加齢が進むにつれ,ドルーゼン,色素異常などのAMD前駆症状(③),そしてAMD(④)の順に発症率が増加する.図8網膜色素上皮と小腸の類似性小腸は食事から消化吸収した脂質をリポ蛋白(カイロミクロン)として小腸リンパ管に放出する.網膜色素上皮は視細胞外節を貪食,処理した後,超低比重リポ蛋白(VLDL)よりやや大きいリポ蛋白をBruch膜を超えて脈絡膜側に放出していると考えられる.Bruch膜への脂質沈着はリポフスチン蓄積が関与している可能性がある.小腸リポ蛋白(カイロミクロン)小腸上皮小腸リンパ消化・吸収食物(脂質)網膜色素上皮Bruch膜脈絡膜血管リポ蛋白網膜色素上皮貪食・消化視細胞外節リポフスチン蓄積———————————————————————-Page11あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007???4.網膜色素上皮細胞内のリポフスチン蓄積リポフスチンは生体において加齢とともにさまざまな臓器で出現する顆粒状沈着物である.リポフスチンは,蛋白質,脂質,その他の分子が糖化や酸化といった修飾を受けた混合物からなる顆粒で,網膜色素上皮細胞内に蓄積するリポフスチンの場合,多くは視細胞外節由来と考えられる.もともと,視細胞は光線および高酸素曝露により酸化反応を受けやすい環境下にある.酸化産物や糖酸化産物は一般にライソゾームの消化酵素に抵抗するため,網膜色素上皮細胞内に滞り,これがリポフスチン沈着の原因であると考えられる.実際,生後すぐにリポフスチンは蓄積し始める.網膜色素上皮細胞内に頭頂側から蓄積して30歳ぐらいには基底部側まで細胞質内をリポフスチンが占拠するようになる(図7).蓄積したリポフスチンの運命についてはわかっていないが,高齢者でリポフスチンと同じ黄金色の自発蛍光をBruch膜に認めるようになり21),また,成分のほとんどは不溶性であることがわかっている22).したがって,30歳以降,リポフスチンがBruch膜側に消化不良な断片のまま排泄されるものと考えられる.この時期からBruch膜への脂質沈着が始まるので,Bruch膜や網膜色素上皮基底部に存在するリポフスチンがリポ蛋白の生理的な放出機能を障害した結果,脂質の停滞につながるのではないだろうか.筆者らは糖酸化作用を利用して作製した模擬リポフスチンを家兎の網膜下に注入して網膜色素上皮の貪食作用によってリポフスチンが網膜色素上皮細胞内に蓄積したモデルを作製したところ,全例,ドルーゼンの生成と,一部に1型脈絡膜新生血管の発生を認めた(投稿中)(図9).このことから,リポフスチン蓄積がドルーゼン生成やAMD発症の要因となっている可能性が示唆される.このような観点に立てば,リポフスチン沈着を防ぐ,または遅らせることが,Bruch膜への脂質沈着という加齢変化を防ぎ,その先のAMD発症を予防できる可能性がみえてくる.抗酸化作用と拮抗しうる喫煙がAMDの危険因子であることや,ビタミンC,E,アントシアニン,ポリフェノールなど抗酸化剤の摂取や,ルテイン・ゼアキサンチンなどの黄斑色素の摂取がAMD予防につながる可能性は,脈絡膜新生血管発症というAMDの最終段階への影響だけでなく,光線と酸素曝露により視細胞周辺で日々生じる酸化ストレスの存在から(47)図9家兎リポフスチン蓄積モデルとドルーゼン最終糖化産物(advancedglycationendproduct:AGE)よりなる模擬リポフスチン微粒子を家兎網膜下に注入することにより,網膜色素上皮内リポフスチン蓄積モデルを作製すると,高率にドルーゼン(矢印)が生成され,リポフスチンとドルーゼンの関与が示唆される.図10自発蛍光,A2E,リポフスチンの関係ロドプシンサイクルのうち,all-?????-retinalとethanolamineがシッフ塩基を形成する.多くは,ABCA4を介して,ロドプシンサイクルに回収されるが,一部,さらに反応が進みA2Eが形成される.A2Eは光線曝露などにより,さらにライソゾーム内での糖化,酸化反応の進行,リポフスチン形成に関与しているようである.蓄積したリポフスチンは自発蛍光を発する.ンシプオンシプドロlaniter-sic-11laniter-snart-llaレチノイドサイクル4ACBA基塩フッシE2AEP2A,どな,EGA物産化酸素酸,線光(酸化ストレス)リポフスチン食貪節外網膜色素上皮視細胞外節PE,E視細胞外節蓄積・自発蛍光PE,E———————————————————————-Page12???あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007説明できるものと考える.また,リポフスチン生成過程を直接抑制する試薬などの開発を期待したい.ただ,このように加齢変化は生後すぐに始まるものであり,喫煙歴もあるとか,大型のドルーゼンを認めるなどBruch膜肥厚がすでに顕著であろうと考えられる時点で,上記の抗酸化に努めてもAMD発症を免れない場合も多いと思われる.そこで,生成したリポフスチンを分解するなどによってBruch膜を若返らせることができれば理想である.リポフスチンに関するその他のキーワードとして,自発蛍光とA2Eがある(図10).前述のごとく,リポフスチンは黄金色の自発蛍光を発しているがこれも糖化や酸化産物の特徴である.HeidelbergRetinaAngiograph(HRA)によって眼底の自発蛍光の測定が容易になったが,地図状萎縮の拡大部位で萎縮に先行して自発蛍光の増強が観察できるとか23),加齢眼においてさまざまな異常自発蛍光を呈する場合があり24),AMD発症との関連が示唆されている.A2Eは糖酸化反応の第一段階でもあるアルデヒドとアミノ基がシッフ塩基を形成という過程を経て,アルデヒドであるロドプシン由来のall-?????-retinal2分子(A2)と視細胞の細胞膜のリン脂質(フォスファチジルエタノールアミン)由来のエタノールアミン1分子(E)が化学結合した産物であり,リポフスチンの多様な構成成分の一つである.リポフスチンの構成成分として抽出が容易であったため同定され精力的に研究されている.ライソゾーム膜を破壊する界面活性剤としての効果や,光線曝露に反応して産生されるフリーラジカルが,リポフスチンの糖化・酸化反応を進行させ不溶化に影響しているほか,網膜色素上皮へのストレスとなっている可能性が報告されている25,26).ただ,A2Eは,すべてのリポフスチンに優位に存在するというわけでなく,また,Stargardt病における原因遺伝子がABCA4であり,著明にA2Eが蓄積する疾患であるが,病態は黄斑ジストロフィであり,一般にドルーゼンやその他のAMDの病態とは異なることから,A2Eを前面に押し出した研究には無理があるように思われるが,A2E産生を抑制する薬剤が開発されれば,Star-gardt病の治療薬となる可能性がある他,リポフスチンの不溶化を抑えてAMD予防に結びつくかもしれない.おわりにPDTに始まり,最近の抗VEGF療法を中心として,AMD治療の道も開けてきた.ただ,AMDのメカニズムや神経再生の可能性について未知の部分が多いなか,まだまだ薬剤開発の道は険しい.悲観的になるということではなく,現実を冷静に見つめると,AMDは発症してしまうとqualityoflife(QOL)を保つに十分な視力を維持できるのは約3人に1人とまだまだ厳しい状況である.両眼発症は約20%であるので,何としても一方の眼だけでも発症させないという目標をもって日々の診療を行いたい.このような観点で,片眼発症した患者はもちろんであるが,AMDの前駆症状である大型ドルーゼンや色素上皮のむらを認めたら,「発症してからではむずかしい,予防が大切です」というアドバイスを眼科医すべてに心掛けていただきたい.患者は発症してしまった眼の視力低下を嘆き,医師に何とかして欲しいとすがって当然である.決して諦めず治療を受けるよう促すのはもちろん重要である.しかし,それ以上にもう一方の眼を守る努力が大切であることをまず医師が認識していなくてはならない.患者の治療の申し出に,「では大きな病院を紹介しましょう」「では最新の薬物療法に期待してみましょう」だけでは,この疾患の本質が見えていないように思われる.QOL保持の観点で患者の将来をまず配慮するべきである.わが国においては喫煙が最大の危険因子であるから,何としても患者本人が納得して禁煙する方向にもっていけるよう促すことがまず大切である.仮に約250人の喫煙者を禁煙させることができれば1人のAMD発症を予防できることになる.喫煙以外でもエビデンスの有無も含めた危険因子の情報と予防のための生活指導をできるだけ早期に行っていきたいものである.不幸にも両眼発症してしまった場合は,治療に全力を尽くすのはもちろんであるが,ロービジョンケアについても念頭におくべきである.以上,AMD治療の将来は決して暗いものではない.今後の薬物療法の発展を期待したいものである.また,同時に,一般眼科医の患者本位の地道な診療が実は最大の予防効果を発揮しうることを忘れてはならない.(48)———————————————————————-Page13あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007???文献1)PharmacologicalTherapyforMacularDegenerationStudyGroup:Interferonalfa-2aisine?ectiveforpatientswithchoroidalneovascularizationsecondarytoage-relatedmaculardegeneration.Resultsofaprospectiverandom-izedplacebo-controlledclinicaltrial.???????????????115:865-872,19972)IpM,GorinMB:Recurrenceofachoroidalneovascularmembraneinapatientwithpunctateinnerchoroidopathytreatedwithdailydosesofthalidomide.?????????????????122:594-595,19963)AisenbreyS,LafautB,SzurmanPetal:Maculartranslo-cationwith360degreeretinotomyinthetreatmentifexudativemaculardegeneration.Functionalandangio-graphicresults.?????????????99:164-170,20024)BlumenkranzMS,BresslerNM,BresslerSBetal:Treat-mentofAge-RelatedMacularDegenerationwithPhoto-dynamicTherapy(TAP)StudyGroup:Vertepor?nther-apyforsubfovealchoroidalneovascularizationinage-relatedmaculardegeneration:three-yearresultsofanopen-labelextensionof2randomizedclinicaltrials─TAPReportno.5.???????????????120:1307-1314,20025)JapaneseAge-RelatedMacularDegenerationTrial(JAT)StudyGroup:Japaneseage-relatedmaculardegenerationtrial:1-yearresultsofphotodynamictherapywithvertepor?ninJapanesepatientswithsubfovealchoroidalneovascularizationsecondarytoage-relatedmaculardegeneration.???????????????136:1049-1061,20036)RosenfeldPJ,BrownDM,HeierJSetal:MARINAStudyGroup:Ranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration.????????????355:1419-1431,20067)BrownDM,KaiserPK,MichelsMetal:ANCHORStudyGroup:Ranibizumabversusvertepor?nforneovascularage-relatedmaculardegeneration.?????????????355:1432-1444,20068)MennelS,MeyerCH,EggarterFetal:Transientserousretinaldetachmentinclassicandoccultchoroidalneovas-cularizationafterphotodynamictherapy.?????????????????140:758-760,20059)YasukawaT,KimuraH,TabataYetal:Targeteddeliv-eryofanti-angiogenicagentTNP-470usingwater-solu-blepolymerinthetreatmentofchoroidalneovasculariza-tion.??????????????????????????40:2690-2696,199910)YasukawaT,KimuraH,TabataYetal:Targetingofinterferontochoroidalneovascularizationbyuseofdex-tranandmetalcoordination.??????????????????????????43:842-848,200211)IdetaR,YanagiY,TamakiYetal:E?ectiveaccumula-tionofpolyioncomplexmicelletoexperimentalchoroidalneovascularizationinrats.?????????557:21-25,200412)ComplicationsofAge-RelatedMacularDegenerationPre-ventionTrialResearchGroup:Lasertreatmentinpatientswithbilaterallargedrusen:thecomplicationsofage-relatedmaculardegenerationpreventiontrial.???????????????113:1974-1986,200613)HagemanGS,AndersonDH,JohnsonLVetal:Acom-monhaplotypeinthecomplementregulatorygenefactorH(HF1/CFH)predisposesindividualstoage-relatedmac-ulardegeneration.??????????????????????102:7227-7232,200514)OkamotoH,UmedaS,ObazawaMetal:ComplementfactorHpolymorphismsinJapanesepopulationwithage-relatedmaculardegeneration.???????12:156-158,200615)HagemanGS,LuthertPJ,VictorChongNHetal:Anintegratedhypothesisthatconsidersdrusenasbiomarkersofimmune-mediatedprocessesattheRPE-Bruch?smem-braneinterfaceinagingandage-relatedmaculardegen-eration.??????????????????20:705-732,200116)OrgogozoJM,GilmanS,DartiguesJFetal:SubacutemeningoencephalitisinasubsetofpatientswithADafterAbeta42immunization.?????????61:46-54,200317)TheEyeDiseaseCase-ControlStudyGroup:Riskfactorsforneovascularage-relatedmaculardegeneration.???????????????110:1701-1708,199218)HallNF,GaleCR,SyddallHetal:Riskofmaculardegen-erationinusersofstatins:crosssectionalstudy.????????323:375-376,200119)SeddonJM,GeorgeS,RosnerB:Cigarettesmoking,?shconsumption,omega-3fattyacidintake,andassociationswithage-relatedmaculardegeneration:theUSTwinStudyofAge-RelatedMacularDegeneration.????????????????124:995-1001,200620)McGwinGJr,ModjarradK,HallTAetal:3-hydroxy-3-methylglutarylcoenzymeareductaseinhibitorsandthepresenceofage-relatedmaculardegenerationintheCar-diovascularHealthStudy.???????????????124:33-37,200621)OkuboA,RosaRHJr,BunceCVetal:TherelationshipsofagechangesinretinalpigmentepitheliumandBruch?smembrane.??????????????????????????40:443-449,199922)SparrowJR,BoultonM:RPElipofuscinanditsroleinretinalpathobiology.???????????80:595-606,200523)HolzFG,BellmanC,StaudtSetal:Fundusauto?uores-cenceanddevelopmentofgeographicatrophyinage-relatedmaculardegeneration.??????????????????????????42:1051-1056,200124)BindewaldA,BirdAC,DandekarSSetal:Classi?cationoffundusauto?uorescencepatternsinearlyage-relatedmaculardisease.??????????????????????????46:3309-3314,200525)LambLE,SimonJD:A2E:acomponentofocularlipo-fuscin.???????????????????79:127-136,200426)ZhouJ,CaiB,JangYPetal:Mechanismsfortheinduc-tionofHNE-MDA-andAGE-adducts,RAGEandVEGFinretinalpigmentepithelialcells.???????????80:567-580,2005(49)

サプリメント:OcuviteR

2007年3月31日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS環境要因と喫煙や食事などの個人要因が修飾することにより発症する.外的要因のうち日光の紫外線や青色光およびタバコの煙は,活性酸素やフリーラジカルを発生させる.その発生を抑えるのが抗酸化物質である.喫煙は,抗酸化物質であるビタミンCを破壊する.II活性酸素,フリーラジカルと抗酸化物質活性酸素は老化の原因としても注目されている.われわれの生きていくうえでの必須エネルギーである酸素が細胞内のエネルギー代謝の過程で活性酸素に変化する.スーパーオキシド,過酸化水素,ヒドロキシラジカル,一重項酸素などの活性酸素は反応性の高い不安定な酸素分子である.そのなかでスーパーオキシド,ヒドロキシラジカルは,対になっていない電子をもつフリーラジカルで,まわりの分子から電子を奪い安定しようとする酸化反応を連鎖的にひき起こす.これら活性酸素を分解し,最終的に水と酸素にする酵素がスーパーオキシドジスムターゼ,グルタチオンペルオキシダーゼ,カタラーゼであり,これらの補酵素としてつぎにあげる体内の微量元素が存在する.亜鉛と銅とマンガンはスーパーオキシドジスムターゼ,セレンはグルタチオンペルオキシダーゼ,鉄はカタラーゼの補酵素で抗酸化ミネラルである.また,体内酵素のほかに,対外から補給されるb-カロチン(ビタミンA),ビタミンC,ビタミンE,ミネラルなどの抗酸化物質も活性酸素を消去する働きがあるとされている(b-カロチンは生体内でビタミンAにはじめにサプリメントとは「補足」という意味があり,食事で摂取しにくいあるいは不足しがちな必要栄養成分を錠剤などにした補助食品のことで,手軽に摂取できる利点がある.加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegenera-tion:AMD)のわが国での疫学調査である久山町研究でみるとAMDの頻度は,脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)による滲出型が0.67%,地図状萎縮がみられる萎縮型が0.2%で合わせて0.87%である.一方,ドルーゼンや網膜色素上皮の異常のみの前段階の頻度は13.6%であり,予備群の管理と発症予防が重要である1,2).実際の診察で患者から進行の予防あるいは片眼のみAMDに罹患している場合に僚眼の発症予防のためになにか薬はないかと聞かれることがあるが,実際に処方できる薬はなくサプリメントならあると返答する.しかし,眼に良いと称して販売されているサプリメントは多種多様であり,それらの多くはエビデンスに基づいているわけでない.そのなかでOcuvite?は,米国で行われた大規模比較臨床試験によって滲出型AMDへの進行を減少できることが立証されたものを基準とした抗酸化物質とミネラルからなるサプリメントである.本稿では,その臨床試験に基づいたOcuvite?を中心に述べる.IAMDの発症要因AMDは,遺伝的な要因に日光曝露と受動喫煙などの(31)???*RyuzaburoMori:日本大学駿河台病院眼科〔別刷請求先〕森隆三郎:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台1-8-13日本大学駿河台病院眼科特集●加齢黄斑変性の薬物治療あたらしい眼科24(3):297~301,2007サプリメント:Ocuvite???????????:????????森隆三郎*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007変わる)(図1).しかし,代謝のバランスが崩れると分解されなかった活性酸素は細胞を障害すると考えられている.フリーラジカルは,特に酸化しやすい細胞膜の脂質(不飽和脂肪酸)と反応する.視細胞外節は多価不飽和脂肪酸を豊富に含み障害されやすい.視細胞外節は網膜色素上皮細胞によって貪食され消化されるが,過酸化により残った残渣,いわゆるドルーゼンはBruch膜の脆弱化の原因となりCNV発生と関連がある.後述する黄斑色素(カロチノイド)であるルテインとゼアキサンチンも抗酸化物質であり視細胞外節に多く存在し3),酸化の連鎖的拡大を断ち切っている.IIIAge-RelatedEyeDiseaseStudy(AREDS)4)AREDSは,AMDと白内障に対して高用量の抗酸化物質と亜鉛の投与の臨床効果を検証することを目的として米国で行われた大規模な無作為プラセボ対照臨床試験である.AREDSreportNo.8によると調査は1992年からはじまりAMDの被験者は55~80歳の3,640名である.(この臨床試験は,対象者が多く,平均観察期間が6.3年で,脱落者が2.5%未満であることからevidence-basedmedicine:EBMでは信頼度が非常に高い.)被験者は黄斑所見と視力によって以下の3グループに分けられた(図2a).①初期グループ:多発する小さいドルーゼン(<63?m),単発の中程度の大きさのドルーゼン(63~124?m),網膜色素上皮異常,が少なくとも1つ(32)図1活性酸素と抗酸化物質?活性酸素スーパーオキシド,過酸化水素,ヒドロキシラジカル,一重項酸素?抗酸化物質活性酸素を消去する酵素と補酵素として働く抗酸化ミネラルスーパーオキシドジスムターゼ─亜鉛,銅,マンガングルタチオンペルオキシダーゼ─セレンカタラーゼ─鉄体外から補給される抗酸化ビタミンb-カロチン(ビタミンA),ビタミンC,ビタミンEa.被験者の黄斑所見と視力による分類図2Age-RelatedEyeDiseaseStudy(AREDS)reportNo.8:加齢黄斑変性への高用量の抗酸化物質と亜鉛の投与の大規模無作為プラセボ対照臨床試験①初期グループ多発する小さいドルーゼン(<63?m),単発の中程度の大きさのドルーゼン(63~124?m),網膜色素上皮異常,が少なくとも1つみられ,視力は両眼とも20/32以上.②中期グループ両眼ともにAMDの所見(中心窩にかかる地図状萎縮,またはCNV)はみられないが,少なくとも片眼が20/32以上の視力で大きなドルーゼン(≧125?m),広範囲にある少数の中程度の大きさのドルーゼン,中心窩外に地図状萎縮,が少なくとも1つみられる.③後期グループ対象眼はAMDの所見がみられず,20/32以上の視力を満たし,かつ他眼にAMDの所見あるいは20/32未満の視力低下を説明できるAMDに基づく異常所見がみられる.c.中期および後期グループの各投与群とプラセボ群との比較結果?AMDへの進行の抑制抗酸化物質オッズ比0.76p=0.03亜鉛オッズ比0.71p=0.008抗酸化物質+亜鉛オッズ比0.66p=0.001?視力低下を軽減(15文字以上の視力低下)抗酸化物質オッズ比0.85p=0.16亜鉛オッズ比0.83p=0.10抗酸化物質+亜鉛オッズ比0.73p=0.008?CNVの発生の抑制抗酸化物質オッズ比0.79p=0.09亜鉛オッズ比0.73p=0.02抗酸化物質+亜鉛オッズ比0.62p=0.001b.4種類の製剤①抗酸化物質(ビタミンC500mg,ビタミンE400IU,b-カロチン15mg)②抗酸化物質+亜鉛(ビタミンC500mg,ビタミンE400IU,b-カロチン15mg,酸化亜鉛80mg,酸化銅2mg)③亜鉛(酸化亜鉛80mg,酸化銅2mg)④プラセボ———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007???みられ,視力は両眼とも20/32以上を満たす1,063名.②中期グループ:両眼ともにAMDの所見(中心窩にかかる地図状萎縮,またはCNV)はみられないが,少なくとも片眼が20/32以上の視力で大きなドルーゼン(≧125?m),広範囲の少数の中程度の大きさのドルーゼン,中心窩外に地図状萎縮,が少なくとも1つみられる1,621名.③後期グループ:対象眼はAMDの所見がみられず,20/32以上の視力を満たし,かつ他眼にAMDの所見あるいは20/32未満の視力低下を説明できるAMDに基づく異常所見がみられる956名.これらの被験者に対してつぎの4種類の製剤が無作為に割付され,1日3回に分け投与された(図2b).①抗酸化物質(ビタミンC500mg,ビタミンE400IU,b-カロチン15mg)投与945名.②抗酸化物質+亜鉛(ビタミンC500mg,ビタミンE400IU,b-カロチン15mg,酸化亜鉛80mg,酸化銅2mg)888名投与.③亜鉛(酸化亜鉛80mg,酸化銅2mg)投与904名.④プラセボ903名.初期グループを除いた中期および後期グループにおける各投与群とプラセボ群との比較結果を図2cに示す.抗酸化物質+亜鉛の投与群が有意にAMDへの進行を抑制し(5年でAMDの割合はプラセボ群28%に対し,抗酸化物質+亜鉛群は20%と有意に抑制),視力低下を軽減させ,CNVの発生を抑制することが実証された.中心窩の地図状萎縮の発生は,各投与群ともプラセボ群との差はなく,抑制できていなかった.現在AREDSでは,後述するルテインと青魚に多く含まれ視細胞の再生や網膜の機能維持に有用であるw-3多価不飽和脂肪酸〔エイコサペンタエン酸(EPA),ドコサヘキサエン酸(DHA)〕を中期および後期グループの被験者に投与する無作為二重盲検臨床試験が予定されている.また従来の抗酸化物質+亜鉛の処方からb-カロチンを除去したもの,亜鉛を半減させたものの投与試験が予定されている.それら(AREDSⅡ)の結果からAMD患者へのより的確な処方が期待される.IVルテインルテインは,ゼアキサンチン(ルテインの構造異性体)とともに黄斑部の網膜に存在するカロチノイドで,太陽光線のうち波長が長く黄斑部まで到達し有害とされる青色光を吸収するフィルター効果があり青色光による酸化のダメージを軽減する.抗酸化物質でもあり,フリーラジカル還元機能により酸化の連鎖的拡大を断ち切っている.AMDの患者は黄斑部のルテインとゼアキサンチンの量が少ないことが報告されている5).また,ルテインとゼアキサンチンを摂取するとAMDのリスクが低くなるという報告もある6).ルテインは,老化や外的要因で欠乏する.しかも,体内で生成されないため,日常の食べ物やサプリメントから摂取する必要がある.ほうれん草やケールなどの緑黄色野菜に多く含まれるが,1日の必要量であるとされる約6mgを摂取するためには,ルテインを多く含むほうれん草でも60~80g食べなければならず,食事だけで毎日摂取することはむずかしい.そこでルテインを含むサプリメントが必要である.VOcuvite?Ocuvite?は,わが国では3種類が販売されている.(33)図3Ocuvite?の成分と価格表(Baush&Lombホームページより)———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007成分と価格を図3に示す.1.OcuvitePreserVision?AREDSのAMDへの効果が臨床的に実証された<抗酸化物質+亜鉛>と等価の処方を日本人向けにしたものである(欧米人と日本人の体格差から標準処方量をAREDSの75%にしてある).AREDSでは亜鉛は酸化亜鉛を使用しているが日本では酸化亜鉛は使用できないことから亜鉛酵母の亜鉛に置き換えてある.AREDSでは亜鉛80mgに対して酸化銅2mgを加えているが,これは亜鉛による貧血防止のためである.銅はスーパーオキシドジスムターゼの補酵素として亜鉛とともに抗酸化物質であり,日本人向けの処方でも1.5mg含まれている.OcuvitePreserVision?摂取を勧める対象はAREDSの臨床試験のエビデンスに基づき,中期および後期グループの基準を満たす者である(図2a).具体的には,片眼あるいは両眼に軟性ドルーゼンや網膜色素上皮異常を認める場合,あるいは片眼がすでに中心窩にCNVまたは網膜色素上皮の地図状萎縮を認めるが,僚眼には認めない場合である.患者には,AREDSの臨床試験の結果は,5年間1日3回欠かさず服用した場合に得られたものであることと,AMDへの進行を完全に防止できたわけではないことを必ず説明する必要がある.OcuvitePreserVision?を患者に勧める際に,高用量のb-カロチンや亜鉛の摂取に伴うリスクを認識しておく必要である.高用量のb-カロチン投与の喫煙者では肺癌罹患リスクがプラセボより高くなるという報告があり7,8),喫煙者にはb-カロチンを含むOcuvitePreserVision?を勧められない.亜鉛を100mg/日の高用量摂取を続けると前立腺癌のリスクが高まる報告がある9).OcuvitePreserVision?のみでは30mg/日であるので問題はないが,他に亜鉛を含むサプリメントを服用する場合には注意が必要である.2.OcuvitePreserVision+Lutein?OcuvitePreserVision?に含まれるb-カロチンを除き,同じカルチノイドの一種であるルテイン9mgが追加で配合してある.前述したように,AREDSⅡのルテインの臨床試験の結果は出ていないが,OcuvitePreserVision?を摂取できない喫煙者には勧めることができる.3.Ocuvite+Lutein?OcuvitePreserVision?成分と同等のものが少ない量で配合され,販売価格が低くなっている.ルテインおよびビタミンB,ナイアシン,セレン,マンガンなども配合されているが,AREDSの臨床試験に基づいた配合ではないのでAMDの進行予防のエビデンスがあるわけではない.おわりに今回,数多くあるAMDのサプリメントのなかからOcuvite?に絞ったのは,OcuvitePreserVision?がEBMでは信頼度が非常に高いAREDSの臨床試験の結果に基づいて開発されたものであるからである.今後販売される(すでに販売されているかもしれないが)他のサプリメントがこのAREDSの臨床試験の結果に基づいたものであれば,同様にそれらを患者に紹介することができる.また,現在進行中のAREDSⅡの臨床試験の結果に基づいてルテインやw-3多価不飽和脂肪酸を含んだAMD患者のためのより有用なサプリメントの開発が期待される.稿を終えるにあたり,ご校閲いただきました湯沢美都子教授に深謝いたします.文献1)OshimaY,IshibashiT,MurataTetal:PrevalenceofagerelatedmaculopathyinarepresentativeJapanesepopula-tion:theHisayamastudy.???????????????85:1153-1157,20012)MiyazakiM,NakamuraH,KuboMetal:RiskfactorsforagerelatedmaculopathyinaJapanesepopulation:theHisayamastudy.???????????????87:469-472,20033)RappLM,MapleSS,ChoiJH:Luteinandzeaxantincon-centrationsinrodoutersegmentmembranesfromperifo-vealandperipheralhumanretina.?????????????????????????41:1200-1209,20004)Arandomized,placebo-controlled,clinicaltrialofhigh-dosesupplementationwithvitaminsCandE,betacaro-tene,andZincforage-relatedmaculardegenerationandvisionloss.Age-RelatedEyeDiseaseStudyResearch(34)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007???Group:AREDSreportNo.8.???????????????119:1417-1436,20015)BoneRA,LandrumJT,MayneSTetal:Macularpig-mentindonoreyeswithandwithoutAMD:acase-con-trolstudy.?????????????????????????42:235-240,20016)SeddonJM,AjaniUA,SperdutoRDetal:Dietarycarot-enoids,vitamineA,C,andE,andadvancedage-relatedmaculardegeneration.EyeDiseaseCase-ControlStudyGroup.????272:1413-1420,19947)TheAlpha-Tocopherol,BetaCaroteneCancerPreventionStudyGroup:Thee?ectofvitaminEandbetacaroteneontheincidenceoflungcancerandothercancersinmalesmokers.????????????330:1029-1035,19948)OmennGS,GoodmanGE,ThornquistMDetal:Riskfac-torsforlungcancerandforinterventione?ectsinCARET,theBeta-CaroteneandRetinolE?cacyTrial.??????????????????21:1550-1559,19969)LeitzmannMF,StampferMJ,WuKetal:Zincsupple-mentuseandriskofprostatecancer.??????????????????95:1004-1007,2003(35)

ステロイド:Triamcinolone Acetonide

2007年3月31日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS眼では,18カ月後,視力は55%の症例で維持され,重篤な眼合併症はみられなかった.著者らはランダム化比較試験で効果が証明されるまではルーチンに使用すべきではないとしながらも,滲出型AMDに対する治療の候補となりうると結んだ.続いてDanisらによるランダム化比較試験では,有効性をみる指標として視力の変化のほかに蛍光眼底造影検査でCNVの大きさの変化をみている2).術後3カ月,6カ月で,トリアムシノロンの硝子体内単回投与による治療群11眼では,無治療群27眼に比べて有意に視力が維持され,治療群の半数以上にCNVの活動性低下が認められるとされた.当科で行った日本人の滲出型AMDに対するトリアムシノロン8mgの硝子体内注入の研究では,トリアムシノロンの硝子体内注入を行った群では注入を行わなかった群と比べると,術後3カ月の時点でのCNVの大きさや活動性は有意に縮小・低下しており3),6カ月,12カ月では視力の維持~改善がみられ,Danisらの報告と同等以上の効果が得られることがわかった(図1).ところが,その後Gilliesらによって行われた151眼の滲出型AMDに対するランダム化比較試験4)では,4mgのトリアムシノロンの硝子体内単回投与では,新生血管膜の大きさが一時的に縮小するものの,視力の改善効果および新生血管膜の大きさが1年後には対象群と差がなくなることがわかった(表1).また,治療群では1年後に有意に眼圧の上昇がみられた.これにより,AMDへのトリアムシノロン治療は否定されるかにみえた.ところが,特に欧はじめにトリアムシノロンアセトニド(triamcinoloneaceto-nide,以下,トリアムシノロンと略)による網膜硝子体疾患の治療が報告されるようになって数年になる.滲出型の加齢黄斑変性(AMD)もその対象疾患として例外ではない.滲出型AMDの治療として,光線力学的療法(PDT)や抗新生血管薬の眼内注入などが選択肢にある現在,トリアムシノロンを用いたAMDの治療は,単独療法というよりもむしろPDTなど他の治療法との併用療法として再び注目されている.I加齢黄斑変性に対するトリアムシノロン治療の歴史1.単独療法としてのトリアムシノロン硝子体内注入トリアムシノロンは副腎皮質ステロイドの一つであり,古くから抗炎症薬として使われてきた.現在では,トリアムシノロンの硝子体内注入あるいはTenon?下注入は増殖網膜硝子体症,糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症などさまざまな眼疾患の治療に用いられている.トリアムシノロンが今日使われているような目的で使われ始めたのは,1990年代後半からであり,初期の対象疾患は滲出型のAMDであった.すなわち,Penfoldらによって28症例30眼の中心窩下あるいは傍中心窩に脈絡膜新生血管(CNV)を有するAMDに対して,トリアムシノロンを4mg硝子体内に注入するパイロットスタディが行われた1).その結果,術前視力が0.1以上の20(25)???*AkikoOkubo:鹿児島大学大学院医歯学総合研究科視覚疾患学講座〔別刷請求先〕大久保明子:〒890-8520鹿児島市桜ヶ丘8-35-1鹿児島大学大学院医歯学総合研究科視覚疾患学講座特集●加齢黄斑変性の薬物治療あたらしい眼科24(3):291~296,2007ステロイド:TriamcinoloneAcetonide???????:???????????????????????大久保明子*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007米において,ベルテポルフィン(ビスダイン?)を用いた光線力学療法(PDT)の効果の限界が認識されるようになると,PDTに本治療を併用する治療法として再び注目を集めるようになった.2.PDTとの併用療法としてのトリアムシノロン硝子体内注入2003年,Schmidt-ErfurthらによってPDT後に血管内皮細胞増殖因子(VEGF)が増加することが報告された5).このようなPDT後の炎症性サイトカインの放出を抑えるため,さらに,抗炎症作用も有するトリアムシノロンと併用することにより,治療効果が持続し,相乗効果が得られることを期待して,この2つの治療の併用が行われるようになった.2005年Spaideらは,滲出型AMDの26症例26眼に対してビスダイン?を用いたPDTの直後に4mgのトリアムシノロンを硝子体内に注入するパイロットスタディを報告した6).13眼は過去にPDTを受けた群で,残り13眼はPDTの治療歴のない群であったが,後者では1年後の視力が術前と比べて有意に改善しており,再治療の回数もTreatmentofAge-RelatedMacularDegenerationwithPhotodynam-icTherapy(TAP)およびVertepor?ninPhotodynam-icTherapy(VIP)Studyにおけるものと比べると少なかった.この研究では,CNVのサブグループ別(クラシック型が占める割合が大きいか,オカルト型が占める割合が大きいか)の効果の解析は行われていない.Chanらは,AMDの中心窩下CNVを有する48症例48(26)図1トリアムシノロン硝子体内注入を行った加齢黄斑変性の症例A~C:術前.視力は指数弁.右眼底写真(A)は中心窩を含む脈絡膜新生血管(CNV)と網膜下出血を示す.フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)の初期(B)および後期(C)の写真は,CNVからの旺盛な色素の漏出を示す.D~F:術後3カ月.視力は0.07.眼底写真(D)はCNVの縮小と出血の吸収を示す.FAの初期(E)および後期像(F)は,CNVの縮小と漏出の軽減を示す.(文献3のFig.2を一部改変)ABCDEF表1トリアムシノロン硝子体内注入に関する単独療法と併用療法の効果の比較─3段階以上の視力低下の割合治療前治療後1年単独療法(Gilliesら4))治療群61%対照群**63%PDT*との併用療法(Chan7))治療群29%対照群***67%*光線力学的療法,**生理食塩水注入群,***トリアムシノロン単独療法群.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007???眼に対して,Spaideらと同様の方法でPDTとトリアムシノロンの併用療法を行った群と,PDT単独療法を行った群との比較研究(非ランダム化)を行った結果,1年後に併用療法群ではPDT単独群よりも視力が低下する症例の割合が小さく(表1),再治療の回数が低下すると報告した7).また,CNVのサブグループ別にかかわらず,視力が低下する割合は少なかったとしている.Ariasらはクラシック型が占める割合の大きいCNVをもつAMDの61症例に対してPDT直後に11mgのトリアムシノロンを硝子体内に注入する併用療法群とPDT単独群のランダム化試験を行った結果,1年後に併用群では単独群と比べて視力低下の割合・病巣の大きさ・中心窩厚・再治療率は有意に減少したと報告した8).これらの結果はPDTとトリアムシノロンの併用療法が少なくとも短期の効果としては期待できることを示唆しているが,大規模なランダム化比較試験で有効性が証明されるまでは,確立された治療法とはいえない.3.日本におけるAMDに対するトリアムシノロンの投与日本においては,AMDに対するトリアムシノロンは,単独療法としてもあるいはPDTとの併用療法としても,硝子体内注入よりもむしろ,後部Tenon?下注入が一般的に行われている.その理由として,外来で比較的容易に行えること,硝子体内注入に伴う眼内炎や硝子体出血などの合併症が避けられること,副腎皮質ステロイドに関連して起こる眼圧上昇や白内障の進行などの合併症が硝子体内注入と比較して起こりにくいことなどがあげられる.Okadaらは,小型の特発性あるいはAMDに続発するCNVやポリープ状脈絡膜血管症(PCV)などの22症例22眼に対して,トリアムシノロン20mgの後部Tenon?下注入を行った結果,術後3カ月までに64%の症例でCNVの線維化がみられたと報告した9).当科で経験したPCVの症例を提示する(図2,3)10).PCVでは自然経過でポリープ状血管が消失(閉塞)することもあることが知られているが,トリアムシノロンはこの自然経過を促進する働きがあるのかもしれない.この症例(27)図3図2の症例の治療後1カ月の眼底写真漿液性網膜?離の消失を示す.挿入図:治療後のインドシアニングリーン蛍光眼底造影写真(色素注入後47秒)はポリープ状血管の消失を示す.ネットワーク血管(矢印)は残存している.(文献10のFig.2から転載)図2トリアムシノロンの後部Tenon?下注射注入を行ったポリープ状脈絡膜血管症の症例A:治療前の左眼底写真.中心窩下に橙赤色隆起病巣と漿液性網膜?離がみられる.B:治療前のフルオレセイン蛍光眼底造影写真.C~D:インドシアニングリーン蛍光眼底造影写真(C:色素注入後33秒.D:48秒.)はポリープ状血管とネットワーク血管(矢印)を示す.(文献10のFig.1から転載)ABDC———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007ではトリアムシノロンの後部Tenon?下注入を1回行った後3年以上経過をみているが,ポリープ状血管の再発や滲出性変化は起きていない.PDTとの併用療法としては,PDTの前に行うか,あるいは後に行うかについては施設によりさまざまである.また,どのような症例を選んでPDTと併用しているかについても見解は統一されていないようである.IIトリアムシノロンの作用機序AMDが発症するメカニズムについて詳細は解明されていないが,網膜色素上皮-Bruch膜?脈絡膜の加齢変化,虚血,炎症などがCNVの発生に関与していると考えられている.副腎皮質ステロイドは,血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の発現を阻害し,CNVの基底膜を分解し,intercellularadhesionmolecule-1(ICAM-1)と細胞外基質のメタロプロテアーゼの発現をdownregulateする11).また,トリアムシノロンはハイドロコルチゾンの5倍もの抗炎症作用をもっていて,他のステロイドよりも作用時間が長い.トリアムシノロンが滲出型AMDに奏効する理由としては,このように,副腎ステロイドに抗炎症作用,抗血管新生作用および透過性に影響を及ぼす働きがあるためではないかと考えられている.IIIトリアムシノロン硝子体内注入の合併症滲出型AMDに対するものに限らず,トリアムシノロン硝子体内注入に伴う合併症としては,副腎皮質ステロイドに関連するものと硝子体注射に関連するものとがある.すなわち,前者としては,眼圧上昇や白内障などが報告されており,後者としては眼内炎などが報告されている(表2).1.副腎皮質ステロイドに関連するものAMDに関連するトリアムシノロン硝子体内注入についてはGilliesらのランダム化比較試験によると,4mgのトリアムシノロンの単回投与では,注入後6週でコントロール群と比べて有意に眼圧が上昇し,注入後2年で白内障の進行がみられたと報告している4).眼圧上昇は1~2種類の眼圧降下薬によりコントロール可能であったが,白内障は手術が必要となる頻度がコントロール群と比べて有意に高かった.また,Jonasらは積極的に通常よりも多い用量(20~25mg)のトリアムシノロンをAMDや,糖尿病黄斑症などの症例に対して硝子体内に注入する研究を行ってきたが,この用量では約半数の症例で術後眼圧は21mmHg以上に上昇したと報告している12).眼圧上昇は術後2カ月に起こり,ほとんどの症例で術後6カ月までに眼圧降下薬の投与により眼圧は正常レベルに回復したが,なかには濾過手術が必要になった症例もあったという.また,2回目のトリアムシノロン注入時に眼圧が上昇する症例は,初回注入時にも眼圧が上昇した症例であったと報告している.当科で行った日本人の滲出型AMDに対するトリアムシノロン8mgの硝子体内注入の研究では,術後3カ月に有意に術前と比べて眼圧は上昇したが,濾過手術が必要になった1眼を除けば,眼圧降下薬,内服でコントロール可能であった3).また,術後9カ月の時点で90%の症例に水晶体後?下の混濁の進行がみられた.2.硝子体注射に伴うもの硝子体注射に関連するものとして重要なものは眼内炎である.前述のGilliesらのランダム化比較試験によると,4mgのトリアムシノロンの硝子体内単回投与では,硝子体注射に伴うものとして重篤なものはみられず,一時的な不快感やかすみといった軽微なものであったとしている4).しかし,同様の手技,同じ用量のトリアムシノロンを使用した症例でも非病原菌性眼内炎の報告もある13).報告されている4例では,トリアムシノロン注入1週間後の視力は低下し,硝子体に混濁がみられたが,無治療で数週間以内に混濁は消失した.前房の炎症所見はなく,自覚的に疼痛はなかったという.対象疾患をAMDに限らず,広くトリアムシノロンの(28)表2トリアムシノロン硝子体内注入の合併症1.副腎皮質ステロイドに関連するもの?眼圧上昇?白内障の進行2.硝子体注射に関連するもの?眼内炎(病原菌性/非病原菌性)?硝子体出血?網膜?離———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007???硝子体内注入という面からは,Moshfeghiらは,糖尿病黄斑症やぶどう膜炎に続発した?胞様黄斑浮腫,脈絡膜新生血管などの症例に対してトリアムシノロンの硝子体内注入を行ったところ0.87%に術後1~15日に虹彩炎,硝子体の炎症,結膜充血,前房蓄膿,疼痛などを伴う病原菌性眼内炎が発症し,発症した8眼のうち3眼が光覚を失ったと報告している14).そして,このような眼内炎を避けるためには厳密な滅菌操作,免疫不全状態にある患者では投与を延期する,術後1週間以内には必ず検査を受けに来てもらう,患者に疼痛や視覚異常が生じればただちに検査に来てもらう,眼内炎が起こったときに適切な処置ができるように設備を整えておくことなどを推奨している.これに対して非病原菌性眼内炎の発症頻度は,0.2%から1.6%とされている.Jonasらは,糖尿病黄斑症,AMD,網膜静脈閉塞症などの症例に対して25mgのトリアムシノロン硝子体注射を行った520眼のうち,術後に前房蓄膿や前部硝子体の炎症をきたした症例はなかったが,1眼で前房中に偽蓄膿がみられ,前房穿刺の結果これはトリアムシノロンの結晶であったと報告している.Nelsonらは,トリアムシノロンによる非病原菌性眼内炎は術後2日以内に不快感,前房蓄膿を伴って起こるが,無治療で速やかに改善すると報告した15).しかし,非病原菌性眼内炎と病原菌性眼内炎との区別は簡単ではないので,判断に迷うなら病原菌性眼内炎として治療を始めるべきである.その他,硝子体内注入に伴う合併症として網膜?離,硝子体出血などが考えられるが,文献上明らかな報告はない.PDTとトリアムシノロンの併用療法における合併症は,トリアムシノロン単独投与におけるものと同じく,眼圧の上昇,白内障の進行などがある.その他1例ではあるが急性網膜壊死の報告がある16).3回のPDTと1回のトリアムシノロン(4mg)の硝子体内注入後6カ月の検査で眼圧上昇と網膜壊死をきたしたが,抗ウイルス薬によく反応し症状は改善した.筆者らは,副腎皮質ステロイドが眼内の免疫反応を抑制した結果,ウイルス感染や再活性化が起こったのではないかと考察している.IVトリアムシノロン後部Tenon?下注射の合併症後部Tenon?下注射に関する合併症としては,副腎皮質ステロイドに関連するものと注射に関連するものとがある.眼圧に関してはMuellerらはCNV,増殖網膜硝子体症,?胞様黄斑浮腫,原田病などの患者を対象にして後部Tenon?下注射後の眼圧の経過をみたが,有意な眼圧上昇はみられなかったと報告している17).Okadaらの,硝子体炎,?胞様黄斑浮腫など51眼にトリアムシノロンの後部Tenon?下注射を行った報告では,白内障の進行は31%でみられ眼圧の上昇は27%でみられたという18).眼圧の上昇は術後2~3カ月に観察されたが,眼圧降下薬でコントロール可能であった.ただし,これらの症例では同時にステロイドの点眼も受けていたと記載されているので,純粋にトリアムシノロンだけの影響ではないかもしれない.当科でトリアムシノロンの後部Tenon?下注射を行ったAMD症例に限れば,問題になるような眼圧上昇,白内障の進行はみられなかった.1回の注入では硝子体内注入と比べて眼圧上昇や白内障の進行は起こりにくいと考えられる.その他に眼球の穿刺,脈絡膜や網膜血管の閉塞,感染,斜視,眼瞼下垂,皮膚の色素の脱失,膿瘍形成などが報告されている.また,後部Tenon?下注射は局所のみならず全身に循環することが報告されていることから,くり返し投与が行われるならば全身的な副作用も考慮しなければならない.おわりに昨今の滲出型AMDに対する薬物治療の開発はめざましい.そのような中で,単独療法としてのトリアムシノロンの硝子体内あるいは後部Tenon?下注入は,これまでの研究結果からはCNVの縮小や視力改善の効果は短期間であることから治療の第一選択とはならないと考えられる.しかし,AMDのCNV発症にはさまざまな過程が関与しているとされていることから,相乗効果を期待してPDTや他の薬物療法との併用療法として今後も選択肢の一つに考えられる治療法であるかもしれない.日本人と欧米人の滲出型AMDに対する治療効果(29)———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007は,PDTにおけるJapaneseAge-relatedMacularDegenerationTrial(JAT)Studyでも示されたように若干異なることが知られているので,欧米人での研究データだけを参考にせずに,日本人におけるトリアムシノロンと他の治療法との併用療法としての効果を検討するランダム化比較試験が必要であろう.稿を終えるにあたり,坂本泰二教授のご校閲に感謝いたします.文献1)PenfoldPL,GyoryJF,HunyorABetal:Exudativemacu-lardegenerationandintravitrealtriamcinolone,Apilotstudy.????????????????????23:293-298,19952)DanisRP,CiullaTA,PrattLMetal:Intravitrealtriam-cinoloneacetonideinexudativeage-relatedmaculardegeneration.??????20:244-250,20003)ItoM,OkuboA,SonodaYetal:Intravitrealtriamcino-loneacetonideforexudativeage-relatedmaculardegener-ationamongJapanesepatients.???????????????220:118-124,20064)GilliesMC,SimpsonJM,LuoWetal:Arandomizedclini-caltrialofasingledoseofintravitrealtriamcinoloneace-tonideforneovascularage-relatedmaculardegenera-tion:one-yearresults.???????????????121:667-673,20035)Schmidt-ErfurthU,Schlotzer-SchrehardU,CursiefenCetal:In?uenceofphotodynamictherapyonexpressionofvascularendothelialgrowthfactor(VEGF),VEGFrecep-tor3,andpigmentepithelium-derivedfactor.??????????????????????????44:4473-4480,20036)SpaideRF,SorensonJ,MarananL:Photodynamicthera-pywithvertepor?ncombinedwithintravitrealinjectionoftriamcinoloneacetonideforchoroidalneovascularization.?????????????112:301-304,20057)ChanW-M,LaiTYY,WongALetal:Combinedphoto-dynamictherapyandintravitrealtriamcinoloneinjectionforthetreatmentofsubfovealchoroidalneovascularisationinagerelatedmaculardegeneration:acomparativestudy.???????????????90:337-341,20068)AriasL,Garcia-ArumiJ,RamonJMetal:Photodynamictherapywithintravitrealtriamcinoloneinpredominantlyclassicchoroidalneovasuclarization,One-yearresultsofarandomizedstudy.?????????????113:2243-2250,20069)OkadaAA,WakabayashiT:Trans-Tenon?sretrobulbartriamcinoloneinfusionforsmallchoroidalneovascularisa-tion.???????????????88:1097-1098,200410)OkuboA,ItoM,KamisasanukiTetal:Visualimprove-mentfollowingtrans-Tenon?sretrobulbartriamcinoloneacetonideinfusionforpolypoidalchoroidalvasculopathy.????????????????????????????????243:837-839,200511)PenfoldPL,WenL,MadiganMCetal:Triamcinoloneacetonidemodulatespermeabilityandintercellularadhe-sionmolecule-1(ICAM-1)expressionoftheeECV304cellline:implicationsformaculardegeneration.????????????????121:458-465,200012)JonasJB,SpandauUH,KamppeterBAetal:Follow-upafterintravitrealtriamcinoloneacetonideforexudativeage-relatedmaculardegeneration.???,2006[Epubaheadofprint]13)SutterFKP,GilliesMC:Pseudo-endophthalmitisafterintravitrealinjectionoftriamcinolone.???????????????87:972-974,200314)MoshfeghiDM,KaiserPK,ScottIUetal:Acuteendo-phthalmitisfollowingintravitrealtriamcinoloneacetonideinjection.???????????????136:791-796,200315)NelsonML,TennantMT,SivalingamAetal:Infectiousandpresumednoninfectiousendophthalmitisafterintravit-realtriamcinoloneacetonideinjection.??????23:686-691,200316)TohT,BorthwickJH:Acuteretinalnecrosispostintra-vitrealinjectionoftriamcinoloneacetonide.????????????????????34:380-382,200617)MuellerAJ,JianG,BankerASetal:Thee?ectofdeepposteriorsubtenoninjectionofcorticosteroidsonintraocu-larpressure.???????????????125:158-163,199818)OkadaAA,WakabayashiT,MorimuraYetal:Trans-Tenon?sretrobulbartriamcinoloneinfusionforthetreat-mentofuveitis.???????????????87:968-971,2003(30)

ステロイド:Anecortave Acetate(RetaaneR)

2007年3月31日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSナルの阻害から血管新生抑制効果をもつが,眼圧上昇や白内障といった副作用をもつ.このようなステロイド薬特有の副作用をもたずに,血管新生抑制作用を有するステロイド“angiostaticsteroid”として開発されたのが,anecortaveacetate(Retaane?)である.その作用機序は十分に解明されていないが,多様な動物種の異なる新生血管モデルに対して広く血管新生抑制効果を示すため,多種多様な血管新生メカニズムにより生じる病的血管新生に対しての抑制効果が期待されている.6カ月ごとに後部Tenon?下に2回の薬剤投与を行い,1年間経過観察を行った米国での臨床試験の結果1)では,anecortaveacetate15mgを後部Tenon?下に投与した群では,プラセボ投与群と比較して,視力維持率が有意に高く,重度の視力悪化率が有意に低かったと報告されている.II化学的性質グルココルチコイド活性をまったくもたないように設計合成された血管新生阻害薬であり,分子式はC23H30O5,分子量は386.48である.物理的・化学的性質および組成を表1に,構造式を図1に示す.原薬は白色粉末で,クロロホルムにやや溶けやすく,水にほとんど溶けない.製剤は,眼科用無菌水性懸濁性注射剤であり,その性状は白色~やや微黄色がかった均一な懸濁液である.室温で冷凍を避けて保存するとき,少なくとも24カ月は安定であることが確認されている.はじめに加齢黄斑変性症(age-relatedmaculardegeneration:AMD)は,従来欧米の白人に多い疾患であるとされていたが,近年わが国においても高齢化などにより患者数が急速に増えつつある.医学の進歩により,以前は経過観察するしかなかった症例においても,その治療法はいくつか選択できるようになってきた.観血的治療として脈絡膜新生血管抜去術や黄斑移動術などの手術療法,非観血的治療として,レーザー光凝固・経瞳孔的温熱療法(transpupillarythermotherapy:TTT)・光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)・放射線療法・抗血管新生薬物療法などがあげられる.どの治療も,一部の患者にとっては視力維持に有効であることが示されているが,脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)の存在する位置(subfoveal/juxtafoveal/extrafo-veal)・タイプ(classic/occult)・病変の大きさなどにより,治療の適応がある程度決まってくるものが多い.抗血管新生薬による薬物治療は有効なCNVの病型が多様であり,外科的治療法に比べ反復または継続投与を行いやすく,患者の身体的負担が少ないなどの利点を有し,近年めざましく進展している.本稿では,血管新生阻害薬の一つであるanecortaveacetateについて述べる.I概要ステロイドは,サイトカインの産生抑制や細胞内シグ(21)???*SeijoYamaoka:杏林大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕山岡青女:〒181-8611東京都三鷹市新川6-20-2杏林大学医学部眼科学教室特集●加齢黄斑変性の薬物治療あたらしい眼科24(3):287~290,2007ステロイド:AnecortaveAcetate(Retaane?)???????:??????????????????(????????)山岡青女*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007III薬理作用異なる原因により誘発されたさまざまな動物種や組織での新生血管形成阻害作用が認められた.最初に鶏卵漿尿膜試験2)において検討され有意な血管新生阻害を示した.塩基性線維芽細胞成長因子(b-FGF)で脈絡膜血管新生を誘発させたウサギでは,本剤0.5~10mgのTenon?下(後部強膜上)投与により50~60%の新生血管形成阻害が示された.また,酸素誘発性網膜症のモデル(新生児ラットおよびネコ)における新生血管形成や,眼内腫瘍の増殖および血管形成を有意に阻害した.マウス眼内腫瘍モデルにおいては,点眼投与のみで眼内の腫瘍増大抑制効果を示した.本剤が新生血管を抑制するメカニズムは,????????試験の結果から,血管形成における蛋白分解カスケードの抑制や血管内皮細胞増殖を阻害することにより血管新生を阻害している可能性や,plasminogenactivatorinhibi-tor1の抑制効果に関連する可能性が動物実験上示唆されているが,まだ十分に確認されたとはいえない.また,サルを用いた薬物動態試験の結果からは,本剤の懸濁液をTenon?下の後部強膜上に投与することにより,血管新生阻害作用を発揮するのに十分な標的組織(網膜,脈絡膜)中の薬物濃度が投与6カ月後まで維持されることが推定された.さらに,本剤はステロイド骨格を有するものの,糖質コルチコイド(グルココルチコイド)に特有な抗炎症作用は示さず,グルココルチコイドによりひき起こされる眼局所による副作用である眼圧上昇作用や後?下白内障などを呈さないことが示された.IV投与方法仰臥位で被験眼を消毒後,点眼麻酔下にてlimbusより8mm上耳側のところから,弯曲カニューレを用いてTenon?下投与を施行する(図2a~d).カニューレの先端が挿入できる程度のわずかな切開を結膜およびTenon?につくり,眼球壁に沿ってゆっくりカニューレを挿入し,薬剤を確実に後部強膜上(Tenon?下)に投与する.薬剤投与後は,カニューレ挿入部位より薬剤が逆流しないように,cottonswabにて挿入部位を少し圧迫しながらカニューレをゆっくり抜去する.表2に示したように,当院で臨床試験を施行した血管新生阻害薬は,anecortaveacetateを含めて全部で3種類あるが,他の2剤が硝子体内投与に対して本剤のみがTenon?下投与である理由は,投与後の安全性と,Tenon?と強膜の間にanecortaveacetateのデポ(懸濁性の薬剤貯留)が形成されることがターゲット組織(強膜を経由して脈絡膜)への薬物移行にとって重要であり,効果持続につながることを重視したからである.しかし,実際に本剤の硝子体内投与とTenon?下(後部(22)表1物理的・化学的性質および組成一般名酢酸アネコルタブ(anecortaveacetate)化学式17,21-dihydroxypregna-4,9(11)-diene-3,20-dione21acetate分子式C23H30O5分子量386.48性状原薬白色粉末製剤白色~やや微黄色がかった均一な懸濁液貯法室温保存(冷凍を避ける)安定性製剤は少なくとも24カ月は安定表2代表的な血管新生阻害薬の投与方法および間隔薬剤名投与方法投与間隔Anecortaveacetate(Retaane?)血管新生阻害コルチコステロイド後部Tenon?下投与6カ月Pegaptanib(Macugen?)抗VEGFアプタマー硝子体内注射6週間Ranibizumab(Lucentis?)抗VEGFモノクロナール抗体硝子体内注射4週間図1Anecortaveacetateの構造式OCH3CH3CH3HOHOOOH———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007???強膜上)投与を比較した非臨床および臨床データはない.V効果と副作用視力20/40~20/320の滲出型AMD症例128例に対して,6カ月ごとに後部Tenon?下に2回の本剤投与を行い,1年間経過観察を行った米国での臨床試験の結果1)では,15mg投与群ではプラセボまたは3mg投与群と比較して,視力維持率が有意に高く,平均視力悪化および6段階以上の視力悪化の出現頻度が有意に少なかったと報告された.一方,30mg投与群では以上の効果は認められなかった.副作用に関しては,トリアムシノロン(triamcinoloneacetonide)とは異なり,眼圧上昇および白内障進展を含めて,対象群との有意差を認めなかった.Tenon?下投与に関連して眼瞼下垂または眼痛を認めたが,軽度かつ一時的なものであった.以上より,anecortaveacetateは,少ない反復投与回数にて,滲出型AMD症例の進展を抑制する効果を示し,高い安全性が示唆された.臨床試験上15mg投与群に認められた有効性が30mg投与群では認められていないが,その理由については今後の検討を要する.PDTとの比較試験3)では,anecortaveacetate15mgのTenon?下単独投与は1年間の経過観察においてはPDTと同等の視力維持効果があることが示された.PDTと効果が同じであるならば,術後の日光遮断やわが国で初回治療時に義務づけられている入院の必要性もないanecortaveacetateの局所投与のほうが簡易であり,反復投与の期間や回数の面からみても,高齢の患者にとっては身体的にも経済的にも負担が少ないと思われる.最近では,特発性傍中心窩網膜血管拡張症(idiopathic(23)図2後部強膜上(Tenon?下)投与方法(a~d)(AlconResearch,Ltd.の許可を得て転載)abcd———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007perifovealtelangiectasia)や網膜血管腫様増殖(retinalangiomatousproliferation:RAP)に対し,本剤のTenon?下投与を行った報告もされている.特発性傍中心窩網膜血管拡張症においては,少数例の報告4)ではあるが,網膜および網膜下の透過性は減少し,CNVを伴った症例も含め,2年間の観察期間においては視力が維持されている.RAPに対しては,3種類の濃度(30mg,15mg,3mg)のanecortaveacetateをTenon?下投与し,1年間経過観察を行った結果,滲出性網膜?離や網膜色素上皮?離はすべての症例において改善したが,CNVの進展はすべての症例において進行し,視力も悪化したと報告された.本剤の単独投与では効果がないことを示している5).おわりにAMDなど対象患者の大部分が高齢者であることを考えるとanecortaveacetateは,投与経路がTenon?下であること,反復投与間隔が半年であること,眼圧上昇や白内障などの合併症を起こさないことなどは大きな利点であると思われる.しかし,さまざまな臨床報告からは,本剤の単独投与のみでは他の血管新生抑制薬に比べるとその効果は弱い印象をうける.網脈絡膜毛細血管の透過性亢進状態の改善には有用であるので,PDTとの併用や逆にCNVを伴わず,単に毛細血管の透過性に異常をきたしている他の疾患のほうが有用なのかもしれない.個人的な見解であるが,どんな疾患に対しても治療を受ける患者背景はさまざまであり,治療の選択肢は沢山あるにこしたことはない.近年,短期間の間に次々と新しい治療法や治療薬が開発され,最近の学会でのトピックは,ほとんど抗血管内皮細胞増殖因子(VEGF)抗体であるranibizumab(Lucentis?)やbevacizumab(Avas-tin?)であるが,何年か後には,また違う治療法や治療薬が話題を集めていることと思う.単独投与では効果が弱いと思われる薬剤でも,他の治療法との併用や,本来治療の対象としていなかった疾患に対して有効である可能性が示唆された場合,欧米のように,もう少し臨床応用しやすくなることが望まれる.文献1)TheAnecortaveAcetateClinicalStudyGroup:Anecor-taveacetateasmonotherapyfortreatmentofsubfovealneovascularizationinage-relatedmaculardegeneration:twelve-monthclinicaloutcomes.?????????????110:2372-2383,20032)McNattLG,WeimerL,YanniJetal:AngiostaticactivityofsteroidsinthechickembryoCAMandrabbitcorneamodelsofneovascularization.?????????????????????15:413-423,19993)SlakterJS,BochowTW,D?AmicoDJetal:Anecortaveacetate(15milligrams)versusphotodynamictherapyfortreatmentofsubfovealneovascularizationinage-relatedmaculardegeneration.?????????????113:3-13,20064)EandiCM,OberMD,FreundKBetal:Anecortaveace-tateforthetreatmentofidiopathicperifovealtelangiecta-sia:apilotstudy.??????26:780-785,20065)KlaisCM,EandiCM,OberMDetal:Anecortaveacetatetreatmentforretinalangiomatousproliferation:apilotstudy.??????26:773-779,2006(24)

抗 VEGF抗体:Bevacizumab(AvastinR)

2007年3月31日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS癌および直腸癌に対する医薬品としてFDA(食品医薬品局)により認可された.サリドマイドも血管新生阻害作用で癌治療に使用されているが,癌治療に正式に認可されているわけではないので,癌治療薬としてFDAの承認を得た初めての血管新生阻害薬である.したがってbevacizumabは眼科疾患に対して開発されたものではない.その点,加齢黄斑変性に伴う脈絡膜新生血管に対して開発されたranibizumabとは異なる.当薬剤は,前述のように眼科的疾患の治療を目的に開発された薬剤ではないが,加齢黄斑変性に併発した脈絡膜新生血管をはじめ,その発生,進展にVEGFが主要な役割を担っていると考えられる眼科的疾患に対する効はじめにBevacizumab(Avastin?,Genentech,Inc)とは,vascularendothelialgrowthfactor(VEGF:血管内皮細胞増殖因子)に対するヒト型のモノクローナル抗体製剤(anti-VEGF)である(図1).ここでいうヒト型のモノクローナル抗体とは,IgG(免疫グロブリンG)モノクローナル抗体の一部をヒト配列に変化させ,生体適合性を向上させた,いわゆるヒト化抗体というものである(図2).抗体の全長を用いており,分子量は約150kDである.VEGFのすべてのアイソフォームをターゲットとし,それらの効果を抑制する.同じく抗VEGF抗体製剤(同様にすべてのアイソフォームをターゲットとする)であるranibizumab(Lucentis?)(別項)は,anti-bodybindingsite(Fab)を中心とした分子量48kD程度の比較的小さなものである(図2).Bevacizumabは米国で開発され,2004年2月に結腸(15)???*HirokazuSakaguchi:大阪大学大学院医学系研究科眼科学〔別刷請求先〕坂口裕和:〒565-0871吹田市山田丘2-2大阪大学大学院医学系研究科眼科学特集●加齢黄斑変性の薬物治療あたらしい眼科24(3):281~286,2007抗VEGF抗体:Bevacizumab(Avastin?)????-?????????????:???????????(????????)坂口裕和*図1抗VEGF抗体bevacizumab(Avastin?)図2抗VEGF抗体bevacizumab(Avastin?)とranibizumab(Lucentis?)の比較(RyanSJ,HindonDR,SchatAPetal:Retna,4thed,p1230-Fig.65-15,ElsevierMosby,2006より一部改変)RhuFab2Fab(50,000daltonsea.)lgG(150,000daltons)Ft(50,000daltons)Ranibizumab(Lucentis?)Bevacizumab(Avastin?)PapainCleavage———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007果が期待され,すでに実際に使用されており,近年,それらの治療効果が続々報告され始めている.本稿では,特に加齢黄斑変性に併発した脈絡膜新生血管への使用について述べたい.IBevacizumabの眼科的適応Bevacizumabは,すでに米国をはじめ各国において加齢黄斑変性に伴う脈絡膜新生血管を始め,多くの疾患に対する治療に用いられている.しかしながら,米国においてFDAの認可が得られているのは結腸癌および直腸癌に対する全身投与のみである.また米国では認可されているが,日本では,未認可の薬剤である.したがって,bevacizumabの眼科疾患に対する使用はすべて適応外使用であり,使用されている各国における方法も,治験などを施行して決定されたものではなく,最適な投与量,投与間隔,適応疾患などの検討はなされていない.適応外使用で現在当院にて治療対象となっている眼科疾患は,大きく分けて眼内血管新生と網膜浮腫の2つである1~8).眼内血管新生には,加齢黄斑変性,近視性血管新生黄斑症などの脈絡膜新生血管,あるいは,増殖糖尿病網膜症などに併発する網膜新生血管,虹彩新生血管,血管新生緑内障などがある.網膜浮腫としては網膜中心静脈閉塞症,糖尿病網膜症などの疾患に併発するものがある.これらの対象疾患に対してbevacizumabを使用しているが,適応外使用ということで,各施設の倫理委員会またはそれに類する機関において承認を得ること,本人(または代諾者)に対して,当薬剤が適応外使用であること,他の代替治療法の有無,使用方法,合併症などについての十分な説明を行ったうえで,承諾を得ることが前提となる.当院においては,近視性血管新生黄斑症,特発性血管新生黄斑症など,代替治療に認可されている方法がない対象に対しては,インフォームド・コンセントを得たうえで使用しているが,加齢黄斑変性に併発する中心窩脈絡膜新生血管で病変の大きさが5,400?mを超えないものに対しては,主としてすでに日本において認可を受けている光線力学的療法を施行している.したがって当院において加齢黄斑変性に併発する脈絡膜新生血管で現在bevacizumabを投与しているのは,病変が乳頭に近い,病変が5,400?mを超えるなど,なんらかの理由があり,光線力学的療法が施行できない症例がほとんどである.今後bevacizumab硝子体内投与の安全性,有効性がより確実になった場合,加齢黄斑変性に併発するその大きさが5,400?mを超えないような中心窩脈絡膜新生血管に対しても施行する可能性がある.IIBevacizumabの眼科疾患に対する使用方法Bevacizumabが眼科疾患に対して最初に用いられた投与方法は,全身投与であった1).加齢黄斑変性に併発した脈絡膜新生血管を有する患者に全身投与され効果があったと報告された.当時,bevacizumabは硝子体内投与をしても,網膜下まで浸透しないと考えられていたが,その後,実際には硝子体内投与でも効果が認められたため,より全身的に影響が少なく,より安全と考えられる硝子体内投与が主として施行されるようになった2~4).当院においても全身投与ではなく,硝子体内投与が施行され,最初の報告にあった1mg/40??を,角膜輪部より3.5~4.0mmの位置から29ゲージあるいは30ゲージ針を用いて注入している.IIIBevacizumab硝子体内投与の効果加齢黄斑変性に併発する脈絡膜新生血管に対してbevacizumab硝子体内投与の奏効したとする最初の発表が2005年にあり,その後同様の報告が相ついでいる.2006年Averyら3)は加齢黄斑変性に併発する脈絡膜新生血管に対して当薬剤の硝子体内投与を施行した症例について報告した.4週経過を追えた81眼中30眼(37.0%)に,また8週経過を追えた51眼中25眼(49.0%)に,網膜浮腫,網膜下液,網膜色素上皮?離の完全な消退を認め,平均視力も施行前20/200から8週後20/80に改善したと報告している.彼らの症例の多くは光線力学的療法や,pegaptanibsodium(Macugen?)による治療効果がなかった症例であった.Spaideら4)も加齢黄斑変性に対するbevacizumab硝子体内投与の治療効果について報告した.施行後3カ月で平均網膜厚が340?mから213?mに減少し,141症例のうち,54症例(38.3(16)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007???%)で2段階以上の視力改善を認めたとしている.筆者らの施設では前述のように光線力学的療法の適応のある症例には光線力学的療法を,光線力学的療法の適応のない症例,またはなんらかの理由で光線力学的療法を施行しなかった症例のうち,インフォームド・コンセントが得られた症例に対しては,bevacizumab硝子体内投与を施行している.大血管が病変上にあり,レーザー照射できない症例(図3),病変が大きく光線力学的療法が施行できない症例(図4,5),などに対し硝子体内投与を施行し,症例によっては形態学的および機能的に改善を認めている.IVBevacizumabの合併症は?Bevacizumabの全身投与による一般的な副作用として,倦怠感,腹痛,頭痛,血圧上昇,蛋白尿,出血,下痢,心不全,胃腸の穿孔などが報告されている.全身投与により脈絡膜新生血管の退縮を認めたとの報告があるが,全身投与には上記のような副作用の問題がある.硝子体内投与は眼球内局所投与であり,また1回の投与量が全身投与量の約400分の1と極少量であるため,全身投与により生じうる合併症が硝子体内投与で発生する可能性は低いと考えられる.(17)図3大血管が病変上にあり,レーザー照射できない症例A:網膜下出血を伴う脈絡膜新生血管を認め血管膜上を大血管が通過している.B:Aと同症例のフルオレセイン蛍光眼底造影(FA)写真.C:Bevacizumab硝子体内投与後2カ月の眼底写真.D:Cと同日のFA結果.脈絡膜新生血管の縮小を認める.ACBD———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007しかしながら最近の報告では,眼局所はもとより全身に対しても少なからず影響があるとする報告がある.Fungら9)の7,113例における合併症の報告によると,薬剤によると考えられる眼合併症にはぶどう膜炎,白内障進行,急激な視力低下,網膜中心動脈閉塞症,網膜下出血,網膜色素上皮?離など,全身合併症には血圧上昇,深部静脈塞栓,脳梗塞などがあり,死亡例も2例ある.手技そのものによると思われる合併症は角膜障害,水晶体障害,眼内炎,網膜?離などである.加齢黄斑変性は高齢者に発症することから,前述の全身合併症とbevacizumab硝子体内投与との直接の因果関係を確定するのはむずかしいが,可能性はあるため,それら重篤な合併症についての説明は不可欠であると考えられる.V加齢黄斑変性の治療としてのbevacizumabの今後Bevacizumab硝子体内投与の効果について今後検討されるべきことは抗VEGF抗体ranibizumab(Lucentis?)(別項),光線力学的療法との効果の比較,単独投与と他の治療方法との併用による効果の比較など多岐にわたる.他の治療方法で再発する症例に対しての有効性も検討されるべきである(図6).また最適投与間隔,投与数などについても検討されるべきである.Bevacizumabが抗体そのもの(分子量約150kD)であるのに対し,ranibizumabはantibodybindingsite(Fab)部分を中心とした分子量48kD程度の比較的小さなものである.したがって網膜下への浸透性という点から考えるとranibizumabのほうが優れており,網膜下の新生血管に対しては効果的に作用するかもしれな(18)図4病変が大きく光線力学的療法が施行できない症例A:広範囲の病巣を有する加齢黄斑変性の眼底写真.網膜浮腫を広範囲に認める.B:Aと同症例のOCT所見.網膜浮腫を認める.C:初回投与から約1年後の眼底写真.再発に対して2度bevacizumab硝子体内投与を施行している.D:Bevacizumab硝子体内投与後1カ月のOCT所見.網膜浮腫の減退を認める.ACBD———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007???(19)い.光線力学的療法とranibizumab硝子体内投与を比較した臨床研究では,ranibizumab硝子体内投与による結果が有意に良好であった10).今後,加齢黄斑変性に併発する脈絡膜新生血管の治療のうち,抗VEGF抗体の硝子体内投与が注目されることは間違いないが,そのなかでbevacizumabを使用し図5光線力学的療法後,病変が大きくなった症例A:光線力学的療法を施行したが効果がなく,病巣が広範囲に至った症例の眼底写真.B:Aと同症例のOCT像.網膜浮腫を認める.一部?胞様浮腫を形成している.C:Bevacizumab硝子体内投与後1.5カ月の眼底写真.浮腫の減少を認める.D:Cと同日のOCT所見.網膜浮腫が減少している.ACBD図6光線力学的療法後,再発を認めた症例A:光線力学的療法前の眼底写真.網膜下出血を伴った脈絡膜新生血管膜を認める.B:光線力学的療法後,脈絡膜新生血管は線維化していたが,初回光線力学的療法2年半後鼻側に新たな新生血管膜を認めた.C:Bevacizumab硝子体内投与後4カ月の眼底写真.新しい新生血管膜は消退している.ABC———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007(20)続けるべきか否かは今後の結果をみて検討していきたい.また,他の疾患に対する使用についても同様である.脈絡膜新生血管,網膜,虹彩新生血管に対してはある程度の効果があると思われるが,各種網膜浮腫に対しては現在のところ強い持続的な効果はないような印象がある.いまだ私見の域を超えないが,今後さらに症例検討し,加齢黄斑変性に対するのと同様に,使用を続けるべきか否か検討を重ねたい.文献1)MichelsS,RosenfeldPJ,Pulia?toCAetal:Systemicbev-acizumab(Avastin)therapyforneovascularage-relatedmaculardegenerationtwelve-weekresultsofanuncon-trolledopen-labelclinicalstudy.?????????????112:1035-1047,20052)RosenfeldPJ,MoshfeghiAA,Pulia?toCA:Opticalcoher-encetomography?ndingsafteranintravitrealinjectionofbevacizumab(Avastin)forneovascularage-relatedmacu-lardegeneration.??????????????????????????????36:331-335,20053)AveryRL,PieramiciDJ,RabenaMDetal:Intravitrealbevacizumab(Avastin)forneovascularage-relatedmacu-lardegeneration.?????????????113:363-372,20064)SpaideRF,LaudK,FineHFetal:Intravitrealbevaci-zumabtreatmentofchoroidalneovascularizationsecond-arytoage-relatedmaculardegeneration.??????26:383-390,20065)SakaguchiH,IkunoY,GomiFetal:Intravitrealinjectionofbevacizumabforchoroidalneovascularizationcausedbypathologicalmyopia.???????????????91:161-165,20076)OshimaY,SakaguchiH,GomiF:Regressionofirisneo-vascularizationafterintravitrealinjectionofbevacizumabinpatientswithproliferativediabeticretinopathy.???????????????142:155-158,20067)GomiF,NishidaK,OshimaYetal:Intravitrealbevaci-zumabforidiopathicchoroidalneovascularizationafterpreviousinjectionwithposteriorsubtenontriamcinolone.???????????????143:507-509,20078)RosenfeldPJ,FungAE,Pulia?toCA:Opticalcoherencetomography?ndingsafteranintravitrealinjectionofbev-acizumab(Avastin)formacularedemafromcentralretinalveinocclusion.??????????????????????????????36:336-339,20059)FungAE,RosenfeldPJ,ReichelE:TheinternationalBev-acizumabSafetySurvey:usingtheinternettoassessdrugsafetyworldwide.???????????????90:1344-1349,200610)BrownDM,KaiserPK,MichelsMetal:ANCHORStudyGroup.Ranibizumabversusvertepor?nforneovascularage-relatedmaculardegeneration.????????????355:1432-1444,2006

抗 VEGF抗体:Ranibizumab(LucentisR)

2007年3月31日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSムのVEGFを阻害する.さらに,アミノ酸配列を少し変えているため,VEGFへの親和性はbevacizumabよりも高い.現在ranibizumabの適応は中心窩下にCNVを伴った滲出型AMDということになる(図2).IIRanibizumabの使い方Ranibizumabは硝子体内注入することにより用いられる.現在,硝子体内注射は,海外では外来で行われることが多いが,日本では入院で行われることが比較的多い.麻酔は点眼麻酔で十分である.消毒の後,有水晶体眼では角膜輪部から4mm,無水晶体眼,偽水晶体眼では3.5mm後方から30ゲージ針で注入する(図3).感染予防のため投与前後には抗生物質の点眼をするほうが安全である.投与量は50??であるので,前房穿刺をすIRanibizumab(Lucentis?)とはこれまでの報告から滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)における脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)の発症には血管内皮細胞増殖因子(vascularendothelialgrowthfac-tor:VEGF)が強く関与していると考えられている.そこで,このVEGFを阻害することで,CNVの治療を行おうというのは自然な試みである.VEGFを標的に眼科で最初に臨床応用された薬剤がpegaptanib(Macugen?)であり,2004年10月にアメリカFDA(FoodandDrugAdministration)の認可を受け,日本でも治験が行われている.Pegaptanibはアプタマーとよばれるオリゴヌクレオチド製剤であり,VEGFアイソフォームに対する特異性がある.VEGF165には結合するが,VEGF121には結合しないため,生体に対して安全であろうと推測されている1).一方,bevacizumab(Avastin?)はマウス由来の抗ヒトVEGF中和抗体として転移性大腸癌・結腸癌に対してFDAの承認を受け,アメリカでは臨床応用されている.しかし,全長の抗VEGF中和抗体bevacizumabは硝子体内注入した場合の網膜内移行性が悪いと考えられている.そこで,抗VEGF中和抗体のFabフラグメントから作られたより小さな分子量の誘導体としてranibizumabが開発された(図1)2,3).VEGFアイソフォームに対する特異性はなく,すべてのアイソフォー(9)???*AkitakaTsujikawa:京都大学大学院医学研究科視覚病態学〔別刷請求先〕辻川明孝:〒606-8507京都市左京区聖護院河原54京都大学大学院医学研究科視覚病態学特集●加齢黄斑変性の薬物治療あたらしい眼科24(3):275~280,2007抗VEGF抗体:Ranibizumab(Lucentis?)????-?????????????:???????????(?????????)辻川明孝*図1Ranibizumab(Lucentis?)の構造(文献3から一部改変),OO,LightchainHeavychainHumanizedFabフラグメントHumanizedFabフラグメント全長Humanized抗体(約149kD)Humanized抗体フラグメント(48kD)Humanized抗体の合成選択的結合能の向上FcFcBevacizumab(Avastin?)Ranibizumab(Lucentis?)———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.3,20071.MARINA(MinimallyClassic/OccultTrialoftheAnti-VEGFAntibodyRanibizumabintheTreatmentofNeovascularAge-relatedMacularDegeneration)Study2006年10月,MARINAStudyの2年の結果が公表された(表1)4).この多施設無作為プラセボ対照二重盲検試験では,中心窩下にminimallyclassicCNVまたはoccultwithnoclassicCNVを伴ったAMDの患者を対象として行われた.これは,その時点で最も有効と考えられていた光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)の効果がpredominantlyclassicCNVに比べて,minimallyclassicCNVまたはoccultwithnoclassicCNVでは効果が低いためである.対象のAMD症例716眼に対して,238眼に0mg(sham),238眼に0.3mg,240眼に0.5mgのranibizumabが月1回24カ月間投与された.Sham群,0.3mg投与群,0.5mg投与群とを比較すると,24カ月後の視力変化はそれぞれ14.9字低下,5.4字上昇,6.6字上昇と薬剤投与群で有意(p<0.001)に良好であった(図4).また,視力の改善または安定(15字未満の視力低下)はそれぞれ52.9%,92.0%と90.0%であり,薬剤投与により有意(p<0.001)に視力低下が抑制された.また,視力改善(15る必要はまずない.海外での治験では月1回の反復投与が行われたが,実際にどの程度の頻度,投与期間が必要かは不明である.III海外の臨床試験の結果中心窩下脈絡膜新生血管を伴うAMDに対する日本人を対象としたranibizumabの第I/II相臨床試験は現在行われている最中であり,日本人に対する安全性,有効性のデータは存在しない.そのため,データは海外で行われた臨床試験の結果から推測せざるをえない.これまでに,ranibizumabの中心窩下脈絡膜新生血管を伴うAMDに対する3つの臨床試験の結果が報告されている.(10)図2中心窩下に脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性Ranibizumab(Lucentis?)の適応と考えられる.図3有水晶体眼では角膜輪部から4mm,無水晶体眼,偽水晶体眼では3.5mm後方から30ゲージ針で注入———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007???字以上)はsham群で3.8%,0.3mg群で26.1%,0.5mg群で33.3%であり.薬剤投与により有意(p<0.001)に視力改善が得られる結果となった.2.FOCUS(RhuFabV2OculartreatmentCombin-ingtheUseofVisudynetoEvaluateSafety)Study2006年10月,ranibizumabとPDT併用試験のデータとしてFOCUSStudyの1年後の結果が発表された(表2)5).この第I/II相多施設無作為単盲検試験ではGLD(病変最大直径)5,400?m以下の中心窩下にpre-dominantlyclassicCNVを伴ったAMD症例を対象として行われた.Day0にPDTを施行し,1週間後に,PDT単独群(PDT+sham)にはshaminjectionを,ranibizumab併用群にはranibizumab0.5mgの投与を行った.PDTは通常のPDTと同様に3カ月ごとにフルオレセイン蛍光眼底造影を施行し,蛍光漏出がみられれば再治療を行った.また,shamもしくはranibizum-ab0.5mgの硝子体内注入は月1回12カ月行われた.治療開始後1年の経過では,PDT単独群(56眼)と(11)表1MARINAStudyの結果MinimallyClassic/OccultTrialoftheAnti-VEGFAntibodyRanibizumabintheTreatmentofNeovascularAge-RelatedMacularDegenerationStudyDesign:第III相多施設無作為プラセボ対照二重盲検試験対象:minimallyclassicCNVまたはoccultwithnoclassicCNVを中心窩下に伴った加齢黄斑変性ShamRanibizumab(0.3mg)Ranibizumab(0.5mg)割付238眼238眼240眼24カ月後に15字未満の視力低下52.9%92.0%*90.0%*24カ月後に15字以上の視力上昇3.8%26.1%*33.3%*24カ月後に20/40以上の視力5.9%34.5%*42.1%*24カ月後に20/200以下の視力47.9%14.7%*15.0%*24カ月後の平均視力変化-14.9文字+5.4文字*+6.6文字**p<0.001(sham群と比較して)(文献4から一部改変)表2FOCUSStudyの結果RhuFabV2OcularTreatmentCombiningtheUseofVisudynetoEvaluateSafetyStudyDesign:第I/II相多施設無作為単盲検試験対象:GLD5,400?m以下のpredominantlyclassicCNVを中心窩下に伴った加齢黄斑変性PDT単独Ranibizumab(0.5mg)+PDT割付56眼106眼12カ月後に15字未満の視力低下67.9%90.5%a12カ月後に15字以上の視力上昇5.4%23.8%b12カ月後に30字以上の視力低下8.9%1.0%d12カ月後に20/40以上の視力7.1%20.0%a12カ月後に20/200以下の視力46.4%29.5%c12カ月後の平均視力変化-8.2文字+4.9文字a再治療の割合91.1%27.6%aap<0.001,bp=0.003,cp=0.006,dp=0.01(PDT単独群と比較して)(文献5から一部改変)図4MARINAStudyでの視力変化の結果(文献4から一部改変)期間(月):Rabinizumab(0.5mg):Rabinizumab(0.3mg):Sham視力変化(文字)036912151821241050-5-10-15期間(月)Rabinizumab+PDT視力変化(文字)7d1245367891210111050-5-10PDT-8.2+4.9図5FOCUSStudyでの視力変化の結果(文献5から一部改変)———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007ranibizumab併用群(105眼)とを比較すると,12カ月後の平均視力変化はそれぞれ8.2字低下,4.9字上昇と,ranibizumab併用群で有意(p<0.001)に良好であった(図5).視力の改善または安定(15字未満の視力低下)はそれぞれ67.9%,92.5%であり,ranibizumab併用群により有意(p<0.001)に視力低下が抑制された.また,視力改善(15字以上)はPDT単独群で5.4%,ranibi-zumab併用群で23.8%であり,ranibizumab併用により有意(p=0.003)に視力改善が得られた.また,再治療を要した割合は,PDT単独群で91.1%,ranibizumab併用群で27.6%であり,ranibizumab併用により有意(p<0.001)に再治療を必要としなくなった.3.ANCHOR(Anti-VEGFAntibodyfortheTreat-mentofPredominantlyClassicChoroidalNeo-vascularizationforAge-relatedMacularDegen-eration)Study2006年11月,PDTとranibizumabの効果の比較試験のデータとしてANCHORStudyの1年後の結果が発表された(表3)6).この第III相多施設無作為単盲検試験ではGLD5,400?m以下の中心窩下CNVを伴ったAMD症例を対象として行われた.Shaminjectionまたはranibizumab(0.3mg)またはranibizumab(0.5mg)の硝子体内注入を1カ月おきに1年間施行した.また,shaminjection群にはPDTを施行し,ranibizumab投与群にはshamPDTを施行した.PDT(shamPDT)は通常のPDTと同様に3カ月ごとにフルオレセイン蛍光眼底造影を施行し,再治療の必要が認められれば再治療を行った.治療開始後1年の経過では,PDT群(143眼)とranibizumab0.3mg群(140眼)とranibizumab0.5mg群(140眼)を比較すると,12カ月後の平均視力変化はそれぞれ9.5字の低下,8.5字上昇,11.3字上昇と,ranibizumab併用群で有意(p<0.001)に良好であった(図6).視力の改善または安定(15字未満の視力低下)はそれぞれ64.3%,94.3%,96.4%であり,ranibi-zumab併用群により有意(p<0.001)に視力低下が抑制された.また,視力改善(15字以上)はPDT群で5.6%,ranibizumab0.3mg群で35.7%,ranibizumab0.5mg群で40.3%であり,ranibizumab併用により有意(p<0.001)に視力改善が得られた.また,治療回数は,PDT群で2.8回,ranibizumab群でそれぞれ1.7回であった.中心窩下にCNVを伴ったAMDに対する治療としては光凝固が長い間エビデンスに基づく唯一の方法であった.しかし,治療直後から高度で恒久的な視力低下が伴(12)期間(月):Rabinizumab(0.5mg):Rabinizumab(0.3mg):PDT視力変化(文字)0453336789101112151050-5-10-15図6ANCHORStudyでの視力変化の結果(文献6から一部改変)表3ANCHORStudyの結果Anti-VEGFAntibodyfortheTreatmentofPredominantlyClassicChoroidalNeovascularizationforAge-relatedMacularDegenerationStudyDesign:第III相多施設無作為二重盲検試験対象:GLD5,400?m以下のCNVを伴ったAMDPDTRanibizumab(0.3mg)Ranibizumab(0.5mg)割付143眼140眼140眼12カ月後に15字未満の視力低下64.3%94.3%*96.4%*12カ月後に15字以上の視力上昇5.6%35.7%*40.3%*12カ月後に20/40以上の視力2.8%31.4%*38.6%*12カ月後に20/200以下の視力60.1%22.1%*16.4%*12カ月後に30字以上の視力低下13.3%0%*0%*24カ月後の平均視力変化-9.5文字+8.5文字*+11.3文字*治療回数2.8回1.7回1.7回*p<0.001(PDT群と比較して)(文献6から一部改変)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007???うことが多いため,feedervessel凝固などの応用がなされてきた.その後,PDTが鳴り物入りで導入され,広く施行されるようになったが,それでも,術後の平均視力は低下しており,高度な視力低下のリスクを減らすという目的の意味合いが強かった.その後,薬物治療としてpegaptanibが導入された.しかし,studyの結果でも平均視力は低下していた.そういう意味で,MARINAStudy4)で示されたようにranibizumabは治療により平均視力が上昇する,視力改善の可能性がある治療法として注目を集めている.IV安全性Ranibizumabの硝子体内投与に伴う眼局所のadverseeventとしては,眼内炎症,水晶体損傷,網膜?離などがあげられる.先に紹介したMARINAStudy4)ではranibizumab投与群477眼中,眼内炎を疑わせる症例が5眼(1.0%),ぶどう膜炎6眼(1.3%),網膜裂孔2眼(0.4%),硝子体出血2眼(0.4%),水晶体損傷1眼(0.2%)が報告されている.また,眼内炎症は軽度の症例を含めると32眼(6.7%)に報告されている.しかし,Studyではほぼ全例外来で注射されていると考えられる.しかし,入院で施行する場合の安全性については不明であるが,より安全であることが予測される.Study期間中の全身的なadverseeventとしては種々報告されているが,ほとんどはshaminjection群と大きな差はないようである.脳梗塞はshaminjection群で0.8%であるのに対して,ranibizumab(0.3mg)群,ranibizumab(0.5mg)群でそれぞれ,1.3%,2.5%であった.硝子体内に投与されたranibizumabは少量ではあるが血中に入る.しかし,全身的な合併症を起こすかどうかは不明である.V日本人に対しては?わが国での治療効果は現在治験中であり,不明である.わが国では広義AMD中のポリープ状脈絡膜血管症の割合が高いことが知られている.ポリープ状脈絡膜血管症は狭義AMDよりも視力予後が良く,治療に対する反応性も異なる可能性がある.PDTの欧米のデータでは治療を行っても平均視力は低下するが,日本での治験であるJAT(JapaneseAge-relatedMacularDegenera-tionTrial)Studyでは視力維持効果があることが示されている.また,わが国での認可後の各施設からの報告でもPDTは明らかに欧米人に対するよりも良好な結果が報告されている.では,ranibizumabの場合はどうであろう?結論としては不明であり,治験の結果を待たざるをえない.PDTの場合と同様に効果が良好な可能性はある.しかし,全長の抗体であるbevacizumabのポリープ状脈絡膜血管症への治療効果は低いという報告もある.また,bevacizumabとranibizumabの反応性が同じともかぎらない.いずれにせよ,海外のデータが日本人にそのまま当てはまらない可能性は十分にありうる.おわりに昨年のAAO(AmericanAcademyofOphthalmology)はbevacizumab一色であった.もちろん,ranibizumabも有効性が示され,脚光を浴びていた.何が違うかというと,その価格である3).アメリカではLucentis?は1回当たり$1,950ある.一方,Avastin?は1バイアル100mgで$550である.1バイアルから何本とるかによるが$17から$50程度と試算されている.O?label使用なので,リスクはあるが,需要があるのも確かである.あるポスターではLucentis?が$4,000だったらAvastin?を使うが,$100だったらLucentis?を使うと書かれていた.もちろん,日本は事情が違う.国民皆保険で,誰もが安全で有効な治療を受けることができる.安易なo?label使用には問題が大きいことは間違いない.文献1)石田晋,山城健児:血管新生治療薬(VEGF阻害薬─PegaptanibとRanibizumab─).眼科48:187-192,20062)ChenY,WiesmannC,FuhGetal:Selectionandanalysisofanoptimizedanti-VEGFantibody:crystalstructureofana?nity-maturedFabincomplexwithantigen.??????????293:865-881,19993)SteinbrookR:Thepriceofsight─ranibizumab,bevaci-zumab,andthetreatmentofmaculardegeneration.????????????355:1409-1412,20064)RosenfeldPJ,BrownDM,HeierJSetal:Ranibizumabfor(13)———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007neovascularage-relatedmaculardegeneration.????????????355:1419-1431,20065)HeierJS,BoyerDS,CiullaTAetal:Ranibizumabcom-binedwithvertepor?nphotodynamictherapyinneovas-cularage-relatedmaculardegeneration:year1resultsof(14)theFOCUSStudy.???????????????124:1532-1542,20066)BrownDM,KaiserPK,MichelsMetal:Ranibizumabversusvertepor?nforneovascularage-relatedmaculardegeneration.????????????355:1432-1444,2006

VEGF アプタマー:Pegaptanib Sodium(MacugenR)

2007年3月31日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSIアプタマーとは?アプタマー(aptamer)は核酸分子が連なって一本鎖を形成し,標的蛋白質と特異的に結合する能力をもった核酸分子で,蛋白質の機能を阻害,または促進する働きをもつ.アプタマーには増殖因子,酵素,受容体,膜蛋白質,ウイルス,金属イオンなどと結合するものもあることがわかっている.このようにアプタマーは結合する対象に制約がないだけではなく,抗体では実現できなかった分子量の小さな分子やわずかに配列の異なる蛋白質や,立体構造のみが異なる分子も区別できることが明らかになっている.アプタマーを得るにはSELEX法(systematicevolu-tionofligandsbyexponentialenrichment:試験管内人工進化法)2)という方法を通常用いる.まずランダム配列をもつRNAプールのなかからターゲットに結合する配列をもつものを選択し,逆転写,PCR(polymerasechainreaction)での増幅を行う.それを転写したもののなかから再び結合する配列を選択するというサイクルをくり返すのだが,それぞれのサイクルにおいて選択の際に蛋白質とRNAプールの濃度比を変えたり,競合剤を加えたりすることで結合条件を厳しくすることによって結合特異性の高い配列を得ることができるのである.アプタマーには大量の合成が容易,作用機序が単純といった利点もあり,構造プロテオミクス,ターゲット解析,創薬などの分野で強力なツールとして期待されていはじめに加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)に対する治療として現在国内において数種類の薬物の臨床試験が行われている.本稿ではそのなかの一つであるpegaptanibsodium(Macugen?)について紹介する.Pegaptanibsodiumは血管内皮細胞増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)に対するアプタマーで,2006年6月時点で,42カ国注1)で承認または市販されている.アメリカでは2004年12月に,EUでは2006年2月に承認され,実際に多くのAMD症例に投与されている.P?zer社の2006年9月11日のプレスリリース1)によるとpegaptanibsodiumはアメリカで2005年に7万人以上の滲出型AMD患者に投与されたそうである.本稿では読者の一番疑問な点であろうと思われる「アプタマーって何?」ということからpegaptanibsodiumの作用や海外の臨床試験の結果などを紹介する.注1)2006年6月時点でpegaptanibsodiumが承認または市販されている国:アルゼンチン,オーストリア,ベルギー,ブラジル,イギリス,カナダ,キプロス,チェコ,コロンビア,デンマーク,エストニア,フィンランド,フランス,ドイツ,ギリシア,ハンガリー,アイスランド,インド,アイルランド,イタリア,ラトビア,リトアニア,ルクセンブルク,マルタ,メキシコ,オランダ,ノルウェー,パキスタン,ペルー,フィリピン,ポーランド,ポルトガル,シンガポール,スロバキア,スロヴェニア,スペイン,スウェーデン,スイス,タイ,トルコ,アメリカ,ベネズエラ.(3)???*YoshihiroNoda:九州大学大学院医学研究院眼科学分野〔別刷請求先〕野田佳宏:〒812-8582福岡市東区馬出3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野特集●加齢黄斑変性の薬物治療あたらしい眼科24(3):269~273,2007VEGFアプタマー:PegaptanibSodium(Macugen?)????????????:?????????????????(????????)野田佳宏*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007る.そして今回この技術の結晶というべきpegaptanibsodiumが世に出ることになったのは非常に感慨深いことなのである.IIPegaptanibsodiumとはPegaptanibsodiumはVEGFアイソフォームの一つであるVEGF165を阻害するアプタマーとよばれるRNA分子で,VEGF165分子に結合しVEGF受容体との結合を阻害する(図1).一般的にRNAはDNAに比して安定が悪く,通常は核酸分解酵素によって短時間で分解されてしまうが,pegaptanibsodiumは核酸分解酵素による分解を抑えるためにポリエチレングリコールな(4)図2Pegaptanibsodiumの構造式(アメリカMacugen?添付文書より)WhereRisandnisapproximately450.図1Pegaptanibsodium(Macugen?)の作用イメージPegaptanibsodiumはVEGF165分子に結合しVEGF受容体との結合を阻害する.(P?zer社資料より許可を得て掲載,一部改変)Macugen?Macugen?bindstoVEGF165VEGF165blockedfrombindingtoreceptors———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007???どの修飾が加えられ,硝子体中での半減期を延長するよう工夫されている(構造式を図2に示す).VEGF165の165はアミノ酸数を表しており,ヒトのVEGFのアイソフォームには,ほかにもVEGF121,VEGF145,VEGF189,VEGF206などが報告されている.VEGF165はほかのアイソフォームとの違いは,生物活性が高くVEGFR-2(KDR)やVEGF165の特異的受容体であるニューロピリン(neuropilin)-1を介した病的血管新生との関係が深いことがあげられる3,4).AMDや糖尿病網膜症などのVEGF濃度の上昇した血管新生が優勢な環境ではVEGFの過剰な働きを抑制することが病態を改善することは多くの研究者の意見が一致するところであるが,一方VEGFには生理的な役割ももつことを忘れてはならない.VEGF遺伝子は1アレルの欠損でも胎生致死になることから胎生期において重要であることは言うまでもないが,創傷治癒,血管狭窄や閉塞の際の虚血の改善にもVEGFが重要な役割を果たしている.虚血網膜症モデルラットにpegaptanibsodiumを投与すると生理的血管新生を温存しながら病的血管新生は抑制したという報告もある5).このことからVEGFすべてを抑制するより特に過剰な働きをするVEGF165を治療のターゲットとすることはVEGFの生理的役割に配慮した理にかなった方法であるといえる.III使用方法Pegaptanibsodiumの海外での1回投与量は0.3mg/90??である.日本での臨床試験においては0.3mgと1.0mgの2用量が使用されている.Pegaptanibsodiumの溶液は注射針付きのガラス製プレフィルド・シリンジ中に封入されており,1回で全量を使い切るようになっている(図3に海外での製剤写真を示す).投与は6週間に1回のペースで硝子体内注射によって行われており,国内および海外の臨床試験では9回投与して効果を判定している.IV海外の臨床試験結果国内の臨床試験は原稿執筆時にはまだ発表前であり,症例や治療成績について呈示することができない(自験例ではpegaptanibsodiumはかなり有効であったという印象であることのみ記しておく).そこで本稿では,pegaptanibsodiumに関する海外の臨床試験の結果について紹介する.VISION(VEGFInhibitionStudyinOcularNeovas-cularization)ClinicalTrial(以下,VISION試験)6)はアメリカ,カナダ,ヨーロッパ,イスラエル,オーストラリア,南アメリカの117施設,1,186人に対して行われたランダム化比較試験である.視力が20/320から20/50(小数視力で0.06から0.5)の間のAMD患者を無作為に4群に分け,3群にはpegaptanibsodiumの投(5)図3Pegaptanibsodium(Macugen?)の製剤写真Pegaptanibsodiumの溶液は注射針付きのガラス製プレフィルド・シリンジ中に封入されており,1回で全量を使い切るようになっている.(P?zer社資料より許可を得て掲載)図4VISION試験1年目の平均視力の推移Pegaptanibsodiumを投与群は非投与群に比して視力低下の度合いが小さい.(P?zer社資料より許可を得て掲載):0.3mg(n=286):1.0mg(n=292):3.0mg(n=286):Sham/Usualcare(n=291)47%Bene?tp<0.01061218243036424854Time(weeks)0-2-4-6-8-10-12-14-16-18MeanChangeinVA(Letters)———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007与をそれぞれ0.3mg,1.0mg,3.0mg,残りの1群には擬似注射(sham群)を,6週ごとに9回行い54週間経過をみている.54週間後に視力を維持した症例注2)はsham群で55%に留まったのに対しpegaptanibsodiumを0.3mg,1.0mg,3.0mg投与した場合はそれぞれ70%(p<0.001),71%(p<0.001),65%(p=0.03)であった.54週後の平均視力はsham群に比してpegap-tanibsodiumを投与した3群のほうが良好な結果であり,0.3mg群と1.0mg群がほぼ同等で3.0mg群がやや劣るというものであった(図4).治療前のフルオレセイン蛍光眼底造影により母集団をpredominantlyclassic,minimallyclassic,occultwithnoclassicの3型に層別しても3型ともにほぼ同様の効果が認められた.治療前の視力,病変サイズで層別した場合同様に薬効が認められた.病変サイズが小さく,治療前の視力がよく,以前に治療を受けておらず,萎縮や瘢痕のない早期のAMD,またはoccultwithnoclassicで脂質の沈着がなく僚眼の視力の良い早期のAMDでは無治療または光線力学的療法より成績が良く,視力悪化率が無治療または光線力学的療法が23~29%であるのに対しpegaptanibsodium0.3mg反復投与群では3~10%であった.15文字以上の視力改善も同様に0~4%に対して12~20%とpegap-tanibsodium群で良い成績であった7).VISION試験の2年目8)では54週(1年)終了後に再ランダム化を行い治療継続と無治療の比較もしているがpegaptanibsodium0.3mgを2年間投与した群は1年間で治療を中止した群に比して視力維持率が高いという結果であった.注2)視力を維持した症例:ETDRS(EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy)チャート(文字数で判定,5文字で1段階相当)による視力低下が15文字(3段階相当)未満の症例.V有害事象・副作用VISION試験においての重大な合併症としてはまず眼内炎があげられ,その頻度は54週(1年),9回の投与で1.3%,硝子体注射1回当たりの発生率は0.16%であった.水晶体の損傷は年間0.6%,注射1回当たり0.07%,網膜?離は年間0.7%,注射1回当たり0.08%の頻度であった.そのうち30文字(6段階)以上の視力低下がみられたのは眼内炎で全体の0.1%,水晶体損傷で0.1%,網膜?離では0%であったと報告されている6).試験眼に対する有害事象のおもなものとして眼痛(34%),硝子体内浮遊物(33%),点状角膜炎(32%),白内障(20%),硝子体混濁(18%),前房内炎症(14%),視覚異常(13%),角膜浮腫(10%),眼脂(9%)が報告されている.そのうちpegaptanibsodium投与群とsham群の間に差があったのは硝子体浮遊物,硝子体混濁,前房内炎症であった.そのほかの有害事象の多くは手技によるものの割合が高いことが考えられる.全身性の有害事象では高血圧,血管透過性異常,出血性のイベント,血栓性塞栓のイベントなどの発生が報告されているが,pegaptanibsodium投与群とsham群の間に明らかに差があるものはなかった.薬剤の安全性という点では大きな問題はないようであるが,投与手技による有害事象・合併症の発生確率が高いという印象である.年間9回も硝子体内注射を行うことを考えると眼内炎,水晶体の損傷,網膜?離には薬剤投与時および経過観察時において細心の注意を払う必要があり,その点はvertepor?nを用いた光線力学的療法に比してリスクが大きいため,硝子体手術が可能な医療施設においてpegaptanibsodiumが投与されることが望ましいと筆者は考える.VI今後の展開1.光線力学的療法との併用加齢黄斑変性に対してpegaptanibsodiumと光線力学的療法の併用療法はあまり有効だという報告がみられないが,pegaptanibsodiumの1回投与量の値段設定が日本円で10万円以上することに関係があるかもしれない.2.合併症低減薬剤の半減期を延ばすためにpegaptanibsodiumの徐放剤をPRPharmaceuticals社が開発中とのプレスリリースが出ている9).投与回数が減れば年間の合併症発生率も下がることが予想されるため早期の開発・発売が期待されるが,Eyetech社を買収したOSIPharmaceu-(6)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007???ticals社が眼科部門からの撤退を検討しているとのことで,今後の動きによっては開発に大きな影響がある可能性がある10).3.糖尿病黄斑浮腫・網膜中心静脈閉塞症による黄斑浮腫への応用加齢黄斑変性だけではなく,糖尿病黄斑浮腫11,12)や網膜中心静脈閉塞症13)に対する臨床試験も行われており,良好な成績が報告されている.おわりに抗VEGFアプタマーであるpegaptanibsodiumの臨床試験における効果や問題点について述べた.分子生物学の結晶である本薬剤がわが国でも認可されれば治療の有力な選択肢となり,患者にとって大きな福音となることであろう.文献1)P?zer社プレスリリース(日本語版)http://www.p?zer.co.jp/p?zer/company/press/2006/2006_09_19.html2)TuerkC,GoldL:Systematicevolutionofligandsbyexponentialenrichment:RNAligandstobacteriophageT4DNApolymerase.???????249:505-510,19903)SokerS,Gollamudi-PayneS,FidderHetal:Inhibitionofvascularendothelialgrowthfactor(VEGF)-inducedendo-thelialcellproliferationbyapeptidecorrespondingtotheexon7-encodeddomainofVEGF165.???????????272:31582-31588,19974)SokerS,TakashimaS,MiaoHQetal:Neuropilin-1is(7)expressedbyendothelialandtumorcellsasanisoform-speci?creceptorforvascularendothelialgrowthfactor.?????92:735-745,19985)IshidaS,UsuiT,YamashiroKetal:VEGF164-mediatedin?ammationisrequiredforpathological,butnotphysio-logical,ischemia-inducedretinalneovascularization.?????????198:483-489,20036)GragoudasES,AdamisAP,CunninghamETJretal:Pegaptanibforneovascularage-relatedmaculardegenera-tion.????????????351:2805-2816,20047)GonzalesCR:Enhancede?cacyassociatedwithearlytreatmentofneovascularage-relatedmaculardegenera-tionwithpegaptanibsodium:anexploratoryanalysis.??????25:815-827,20058)ChakravarthyU,AdamisAP,CunninghamETJretal:Year2e?cacyresultsof2randomizedcontrolledclinicaltrialsofpegaptanibforneovascularage-relatedmaculardegeneration.?????????????113:1508.e1-1508.25,20069)PRPharmaceuticals社プレスリリースhttp://www.prpharm.com/news.asp?id=10310)OSIPharmaceuticals社プレスリリースhttp://phx.corporate-ir.net/phoenix.zhtml?c=70584&p=irol-newsArticle&ID=927532&highlight=11)CunninghamETJr,AdamisAP,AltaweelMetal:AphaseIIrandomizeddouble-maskedtrialofpegaptanib,ananti-vascularendothelialgrowthfactoraptamer,fordiabeticmacularedema.?????????????112:1747-1757,200512)AdamisAP,AltaweelM,BresslerNMetal:Changesinretinalneovascularizationafterpegaptanib(Macugen)therapyindiabeticindividuals.?????????????113:23-28,200613)OSIPharmaceuticals社プレスリリースhttp://phx.corporate-ir.net/phoenix.zhtml?c=70584&p=irol-newsArticle&ID=862675&highlight=