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屈折矯正手術:Conductive Keratoplasty(熱伝導角膜形成術)

2007年5月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS●ConductiveKeratoplasty(CK)の原理高周波電流が角膜周辺部コラーゲン組織内を通る際に組織抵抗により熱を発生,この部のコラーゲン組織が収縮することにより丁度ベルトにより体を締め付けるように角膜中央部をスティープ化させ遠視を矯正する.●使用器械Refractec社View-PointsSystem?を用いる.プローベ先端はkeratoplast-tipといわれるステンレス製の針になっており,このチップを角膜周辺部に穿刺して高周波電流を流す.チップは1例ごとの使い捨てである.●CKの適応CKは手術適応がきわめて重要である.遠視の場合は+2.50D以下,乱視は0.75D以下が望ましい.老視の場合,45歳以上で今まで眼鏡をかけたことがない,最近,近くが見にくい,老眼鏡をかけるのはいやという人が最も良い適応となる.老視の場合,非優位眼を近方に合わせるため,非優位眼のみにCKを行う.また,laser???????keratomileusis(LASIK)などの屈折矯正手術後や白内障術後の遠視や乱視に対するCKはo?-labelの治療法であり,術式やノモグラムも確立していないため,慎重に適応を選ぶ必要がある.●術前検査通常の眼科的検査以外にCK特有の検査として下記の検査がある.①優位眼検査:優位眼の決定はきわめて重要なので幾つかの優位眼テストを併用する必要がある.②Loose-lenstest:非優位眼に+1.0D,+1.75D,+2.50Dのレンズを装用し近方,遠方とも見え方に違和感がないかどうかを検査する.この検査によりCKの術式を決定する.この検査は,必ず術者自身が行い,これにパスしない場合,手術を行ってはいけない.③角膜厚検査:チップの全長は450?mであるが,発熱の影響はさらに深部に及ぶため,瞳孔中心6mmでの角膜厚が560?m以上必要である.角膜厚測定にはペンタカム?などの角膜全面の角膜厚が測定できる機器が有用である.●術式Milneのノモグラム(図1)に従って行う.対極のある専用開瞼器を用いて十分に開瞼した後,CKの専用マーカーによりマーキングを行う.十分水分を拭きとった後,予定された部位に穿刺凝固を行う.Conventionalpressuretechniqueとlighttouchtechniqueの2種類の術式があるが,最近は凝固時に角膜を強く圧迫しないlighttouchtechniqueのほうが種々の利点により主流術式となっている.CK手術のポイントとしては正確なセンタリング,プローベを完全に角膜内に直角に埋没させる,すべての穿刺を均等な圧で行うなどがある.術後はヒアルロン酸,抗菌薬,非ステロイド消炎薬などの点眼(87)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載?監修=木下茂大橋裕一坪田一男84.ConductiveKeratoplasty(熱伝導角膜形成術)坂西良彦坂西眼科医院高周波電流を用いて中等度までの遠視を矯正するconductivekeratoplasty(熱伝導角膜形成術)は遠視のみならず,老視,屈折矯正手術後の過矯正,白内障術後の遠視や乱視の矯正にも応用されている.術後早期には一旦過矯正となるが,術後1週より次第にregressionを生じる.Regressionや惹起乱視により患者が不満を訴えた場合,enhancementの適応となる場合がある.図1CKノモグラム(HLRickMilne)中央の数字が矯正量.●:凝固位置.1.0D1.75D2.50D8spots8mm8spots7mm16spots7&8mm———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007を行う.コンタクトレンズの装用は通常行わない(図3a,b).●CKの利点と欠点最大の利点は術野が瞳孔領に触れないため致命的な合併症がないことである.またLASIKなどエキシマレーザーを用いる他の屈折矯正手術に比べると比較的低コストであることなどがあげられる.一方,欠点としては術後に疼痛を生じることがある,惹起乱視を生じることがある,regressionを生じる,ノモグラムが確立していず予測性に劣ることなどがある.●手術成績当院での手術成績を図2に示す.術直後は過矯正になり,近方視力はかなり向上するが,次第にregressionを生じてくる.CKは一種のモノビジョンであるが,角膜形状解析で角膜中央部にはフラット部分が残っており,通常のモノビジョンに比べ,遠方視力の低下が少ない.●EnhancementRegressionを生じ,患者の不満が強い場合,enhance-mentの適応となる.初回術式とregressionの程度によりenhancementの術式は異なる.また術後2カ月以上経て,2D以上の乱視がある場合,オートレフラクトメータ値や角膜形状解析のデータを参考にして1点または2点の凝固をおくことにより乱視を軽減できる.●屈折矯正手術後症例に対するCK最近になり,LASIKなどの屈折矯正手術後の遠視や老視に対してもCKが行われている.手術適応としてはフラップにストリエがない,di?uselamellarkeratitis(DLK)やingrowthの既往がない,角膜厚が十分保たれていることなどがある.しかし,LASIK後のCKのノモグラムは確立していず,自験例でもCKの効果にバラツキがある.●インフォームド・コンセントの重要性CKは術前のインフォームド・コンセントがきわめて重要であり,術後の疼痛や異物感,術後早期の遠方視力低下,術後乱視の可能性,CK自体のregressionおよび加齢による老視進行により手術効果は永続的ではないことなどをあらかじめ説明しておく必要がある.文献1)McDonaldMB,HershPS,MancheEEetal:Conductivekeratoplastyforthecorrectionoflowtomoderatehypero-pia:U.S.clinicaltrial1-yearresultson355eyes;theConductiveKeratoplastyUnitedStatesInvestigatorsGroup.?????????????109:1978-1989,20022)McDonaldMB,DurrieD,AsbellPetal:Treatmentofpresbyopiawithconductivekeratoplasty:six-monthresultsofthe1-yearUnitedStatesFDAclinicaltrial.???????23:661-668,20043)HershPS,FryKL,ChandrashekharRetal:ConductivekeratoplastytotreatcomplicationsofLASIKandphotore-fractivekeratectomy.?????????????112:1941-1947,20054)坂西良彦:Conductivekeratoplastyによる遠視・老視の治療.眼科プラクティス13,角膜外科のエッセンス(坪田一男編),p184-185,文光堂,2007(88)図2両眼近方裸眼視力(logMAR)の推移術後1週までは過矯正であるが,次第にregressionを認める.0.00.20.40.60.81.01.2LogMAR術前術後1日1週1カ月3カ月6カ月図3bCK術後1年凝固斑は薄くなっており,肉眼的には見えない.図3aCK翌日凝固部位に一致して角膜エロジオンになっている.

眼内レンズ:眼軟膏の前房内迷入

2007年5月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS●症例1患者は74歳,女性.2.4mm角膜切開にて右眼白内障手術を施行,術中合併症なくオフロキサシン眼軟膏にて閉眼して手術終了とした.術翌日眼帯をはずし,前眼部所見は前房内に軽微な炎症を認めるのみで,他に異常所見なく点眼治療を開始した.術後2日目,前房内3時方向に異物を認めた.異物は白色で半透明,残存した皮質や核にしては,あまりに綺麗な球形をしていた(図1).術後6日目に前房内異物除去術を施行,仰臥位にて異物は前房内に浮かび,自由に移動した(図2).除去を試みて前房が虚脱した際に,異物もつぶれて眼内レンズ(IOL)表面にべったりと張り付いてしまった(図3)が,幸いつぶれた異物はI/A(吸引灌流)にて容易に除去することができた.(85)園尾純一郎大洗海岸病院眼科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎249.眼軟膏の前房内迷入角膜切開白内障術後,前房内に異物が出現した2例を経験し,異物が術後使用したオフロキサシン眼軟膏であることを確認した.2.4mmの小切開でも,術後眼内に逆流が起こりうると考えられ,また眼内に入った眼軟膏が,術後2年経過して突如前房内に出現したことから,角膜切開白内障術後は十分な長期経過観察が必要と考えられた.図1症例1の前眼部写真前房内3時方向に,白色半透明で球形の異物を認めた.図2症例1の術中写真異物は仰臥位にて前房内に浮かび,自由に移動した.図3症例1の術中写真I/A挿入時に前房が虚脱した際,異物がつぶれIOLに張り付いた.図4症例2の前眼部写真前房内12時方向に,異物を認めた.図5症例2の隅角写真異物は症例1同様に,白色半透明で球形をしていた.図6症例2の術中写真スパーテルをIOLと異物の間に入れ,粘弾性物質にて異物を押し進めて創口から摘出した.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007(00)●症例2患者は78歳,男性.3.0mm角膜切開にて右眼白内障手術を施行,術中合併症なくオフロキサシン眼軟膏で閉眼して手術終了とした.術後所見は特に問題なく経過良好であったが,約2年後の定期受診の際,前房内12時方向に異物が出現した.異物は直径約2mmで,症例1と同様に白色半透明で球形をしていた(図4,5).今回は異物の成分分析のため,粘弾性物質ヒアルロン酸ナトリウムを使用し前房内異物の摘出を試みた.サイドポートと角膜創を新たに作製し,粘弾性物質で前房内を満たし,IOL表面に異物が張り付かないようスパーテルを間に入れ,粘弾性物質にて異物を押し進めて創口から摘出した(図6).摘出した異物とオフロキサシン眼軟膏の基材との,1HNMRスペクトルを比較したところ,両者のスペクトルが非常に良く一致したため,眼内異物オフロキサシン眼軟膏の基材に由来する可能性がきわめて高いことが確認された.●考察今回の2症例とも異物による合併症は起こらなかったが,眼圧上昇やIOLの混濁,角膜混濁を起こしたという報告もあり1,2),発見して早期の除去が有効であったと考えられた.オフロキサシン眼軟膏の使用は,術直後の1回のみであり,術直後から翌日までに眼内に入ったものと思われた.症例1では,手術終了時に角膜切開創にハイドレーションを行っており,術翌日の眼圧は左右差なく,前房も深く保たれており,角膜切開創の自己閉鎖が不完全であったことを示す所見はなかった.さらに2.4mmという小切開であったにもかかわらず,残念なことに術後眼内に逆流が起こりうることがわかった.過去の報告をみても,眼軟膏の前房内迷入が強角膜切開で起こったものはなく,角膜切開特有の合併症といえるだろう.また,2症例とも術翌日は異物が前房内に存在しておらず,眼軟膏が虹彩裏面に隠れていたことが推測された.特に症例2に関しては,2年間も溶けることなく眼内に留まっていたことは驚きであり,角膜切開白内障術後は十分な長期の経過観察が必要であることを痛感させられた.文献1)RiedlM,MacaS,AmonMetal:Intraocularointmentaftersmall-incisioncataractsurgerycausingchronicuve-itisandsecondaryglaucoma.???????????????????????29:1022-1025,20032)WernerL,SherJH,TaylorJRetal:Toxicanteriorseg-mentsyndromeandpossibleassociationwithointmentintheanteriorchamberfollowingcataractsurgery.????????????????????????32:227-235,2006

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ装用上の点眼薬(2)

2007年5月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???設定した各種条件下でCL装用上において使用させ,レンズをはずした後,レンズから放出されるクロロブタノールとパラベン類を定量し比較した2).その結果は以下のとおりである.①レンズ装用上1回2滴,10分間隔で4回点眼させた場合,1dayDSCLからは防腐剤は検出されなかったが,RGPCLからは微量ではあるがクロロブタノールが検出された.②レンズ装用上1回2滴,3時間間隔で4回点眼させた場合,FRCLからもRGPCLからも防腐剤は検出されなかった.●懸濁液グループ4の1dayDSCLを装用したグループに,懸濁液である塩酸レボカバスチン点眼液を1回1滴,2時間間隔で4回点眼させ,点眼後毎回角結膜を観察したが,点眼薬によると思われる問題となる副作用は認められなかった3).●CL装用上における点眼液の安全な使用方法防腐剤のレンズへの吸着という観点から,CL装用上1日4回程度の点眼薬使用は問題ないようであるが,CL装用上における点眼薬の,より安全な使用方法について上述の実験結果も踏まえながら箇条書きにしてみる.0910-1810/07/\100/頁/JCLSコンタクトレンズ(CL)装用上の点眼薬の安全性と危険性について,含有される防腐剤という観点から,および性状としての懸濁液という観点から考察し,CL装用上における点眼薬のより安全な使用方法について私見を述べてみる.●塩化ベンザルコニウム2週間頻回交換ソフトコンタクトレンズ(FRCL)のなかからグループ1のレンズ1種類,グループ4のレンズ2種類を選択し,塩化ベンザルコニウムを含有する角膜保護剤,抗アレルギー剤,抗生物質,非ステロイド消炎剤の点眼薬を,設定した各種条件下でCL装用上において使用させ,レンズをはずした後,レンズから放出される塩化ベンザルコニウムを定量し比較した1).その結果は以下のとおりである.①グループ1のレンズがグループ4のレンズより検出量が少なかった.②点眼薬を5分間隔で連続投与すると検出量は高くなった.③ヒアルロン酸ナトリウムを含む角膜保護剤の点眼薬が他の点眼薬に比較して,検出量が高い傾向を示した.④塩化ベンザルコニウムが検出された検体も,その検出量はきわめて微量であった.また,グループ4のレンズを装用上(マルチパーパスソリューションにてケア),ヒアルロン酸ナトリウムを含む角膜保護剤を1日3回2週間点眼させた実験では,塩化ベンザルコニウムは検出されなかった.●クロロブタノール・パラベン類グループ4の1日使い捨てソフトコンタクトレンズ(1dayDSCL),グループ4のFRCL,酸素透過係数(Dk値)108とDk値128のガス透過性ハードコンタクトレンズ(RGPCL)を装用した各グループに,クロロブタノール・パラベン類を防腐剤として含有する点眼薬を,(83)小玉裕司小玉眼科医院コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純TOPICS&FITTINGTECHNICS275.コンタクトレンズ装用上の点眼薬(2)図1SCL装用上の点眼薬使用———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007(00)①感染症やCL自体による障害の可能性があるときは,CLの装用を止めさせてから治療する.②可能であれば防腐剤を含まない点眼薬を使用する.③防腐剤を含む点眼薬を複数使用するときは,点眼間隔を10分以上空けさせる.④症状が良くなれば点眼薬の使用を止めるように指示する.⑤点眼薬使用中はこまめに来院させる.⑥SCLの種類によって防腐剤の吸着量が異なることを知っておく.⑦ヒアルロン酸ナトリウムを防腐剤を含む複数の点眼薬と併用するときは,最後に点眼させる.⑧ドライアイに対して防腐剤を含まない人工涙液をヒアルロン酸ナトリウムと併用させるときは,ヒアルロン酸ナトリウムを先に点眼させ,直後に人工涙液を点眼させると効果的である.文献1)小玉裕司,北浦孝一:ソフトコンタクトレンズ装用上における点眼使用の安全性について.日コレ誌42:9-14,20002)小玉裕司:コンタクトレンズ装用上におけるアシタザノラスト水和物点眼液(ゼペリン?点眼液)の安全性.あたらしい眼科20:373-377,20033)小玉裕司:塩酸レボカバスチン点眼液(リボスチン?点眼液0.025%)の毎日交換ディスポーザブル・ソフトコンタクトレンズ(dailyDSCL)装用眼における角結膜に及ぼす影響.あたらしい眼科22:231-234,2005

写真:打ち上げ花火による角膜熱傷

2007年5月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS(81)冨田真智子東京歯科大学市川総合病院眼科写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦276.打ち上げ花火による角膜熱傷②①③④図2図1のシェーマ①:結膜虚血,壊死.②:花火のスス44の一部.③:角膜混濁.④:焼けただれた睫毛.図1打ち上げ花火による角膜熱傷の急性期(9歳,男児)地面に置いた打ち上げ花火を覗き込んで受傷した症例の受傷3日目.全角膜上皮欠損と角膜実質混濁,球結膜の壊死,下眼瞼睫毛の脱落が見られた.重症度分類ではグレードⅣに相当する.花火のスス44が眼表面と眼瞼に付着している.図3図1と同一症例の眼瞼を中心とした皮膚熱傷上下眼瞼を中心として広範囲に皮膚熱傷が見られる.後に瘢痕による眼瞼外反をきたしたため,2回の眼瞼形成術を要した.図4打ち上げ花火による角膜熱傷の瘢痕期上方の瞼球癒着と角膜への著明な結膜侵入が見られる.中央の角膜は上皮欠損,実質融解,実質混濁をきたしている.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007(00)花火は眼外傷の原因として重要である.アメリカでは重症眼外傷のうち6%が花火に関連した外傷であったとの報告がある1).なかでも打ち上げ花火による受傷の場合,角結膜熱傷(図1,2)のみならず眼瞼の熱傷(図3)もきたすことが多い.また受傷の際に強い外力が作用することもあり,眼窩骨骨折の合併や後眼部へ障害が及ぶ可能性がある.そのため詳しい問診を行うことや眼瞼と後眼部の観察を怠ってはならない.眼表面の熱・化学傷急性期の重症度を受傷程度と範囲によって分類したものを表1に示す.この分類によって予後が予想できる.輪部上皮が一部でも残存しているグレードⅢaまででは軽度の結膜侵入や血管新生を伴うものの,残存角膜上皮により治癒が期待できる.逆にグレードⅢb以上では遷延性上皮欠損を経て瘢痕治癒するため,視力予後は不良となる.POV(palisadesofVogt)に関しては,受傷直後には完全に消失しているように見えても輪部基底細胞が残存していると数日後に角膜上皮が再生してくることがあるため,受傷後数日経ってから重症度を判定する.なお,打ち上げ花火による角膜熱傷は重症であることが多い2).治療は急性期と瘢痕期でその目的,方法がかなり異なる.急性期にはまず大量の生理食塩水で洗眼し,異物を除去する.消炎と二次感染予防のために点眼はステロイドと抗生物質を使用する.ステロイド点眼の種類はグレードⅠ,Ⅱでは0.1%フルオロメトロンを,グレードⅢ以上では0.1%ベタメタゾンを選択する.また,グレードⅢ以上の重症例ではステロイドの全身投与も行う.瘢痕期には,部分的な偽翼状片症例では通常の翼状片に準じた手術治療を考慮する.図4に示したような瘢痕性角結膜症に対する手術治療としては,①瞼球癒着の解除,②眼表面再建として羊膜移植を併用した輪部移植もしくは培養角膜上皮移植,③角膜混濁に対して深層表層角膜移植,などを行う.眼表面の再建には眼瞼の状態が非常に重要であり,図3のように眼瞼熱傷から眼瞼の内反や外反をきたした症例では,眼表面の再建に先立って眼瞼の再建が必要になる.文献1)BrownS,WitherspoonCD,MarrisRetal:Seriouseyeinjuriesassociatedwith?reworks;UnitedStates,1990-1994.????274:110-111,19952)ShimazakiJ,KonomiK,ShimmuraSetal:Ocularsurfacereconstructionforthermalburnscausedby?reworks.??????25:139-145,2006表1角膜熱傷・化学傷急性期の重症度分類グレード所見Ⅰ結膜充血,角膜上皮欠損なしⅡ結膜充血,部分角膜上皮欠損Ⅲa結膜充血あるいは部分的壊死,全角膜上皮欠損,POV(palisadesofVogt)一部残存Ⅲb結膜充血あるいは部分的壊死,全角膜上皮欠損,POVの完全消失Ⅳ半周以上の輪部結膜壊死,全角膜上皮欠損,POVの完全消失

甲状腺眼症-眼窩減圧術の適応および術式-

2007年5月31日 木曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS(settingsunsyndrome)13).そのため,眼窩内下壁減圧術の際に除去されていた上顎洞と篩骨洞の境界部の骨を温存する術式が考案された13).本術式では温存した骨が支えとなり,眼窩内組織の内下方への偏位が軽減され,術後複視の発症は減少した13).1989年Leoneらによって,眼窩内壁減圧術と眼窩外壁(深部)減圧術(balanceddecompression)が報告された15).それまでは,眼窩外壁(浅部)減圧術のみでの効果は限られたものとされていた16)が,眼窩外側壁の深部を構成する蝶形骨大翼,前頭骨,?骨および上顎骨を除去することで,眼窩外壁減圧でも十分な効果が得られることが明らかになった(deeplateralwalldecompres-sion)17).これらの術式は,眼窩下壁を温存し外側へ眼窩内容を脱出させることで,眼窩内組織の内下方への偏位を抑えることができ,その結果,術後複視の合併が大幅に減少した8~10,12,15).筆者らはこれらの知見を背景としてdeeplateralwalldecompression17)またはbalanceddecompression12)を症例に応じて選択している.II術前検査甲状腺眼症では,活動性と症状の評価が重要である21).これは,同程度の眼球突出であっても,活動性(炎症)の有無によって治療方針が異なるためである.活動性を認めた場合,まず,薬物治療や放射線治療が選択される22).活動性を認めなければ,症状の程度や種類I眼窩減圧術の変遷眼窩減圧術とは,文字通り,眼窩内圧を減少させる手術であるが,眼窩脂肪摘出1)や外眥靱帯切断2)など,眼窩内圧を減少させうるすべての術式を含む概念である.しかし,一般的には,眼窩容積を拡張し,その拡張した部分に眼窩内組織を脱出させる術式をさす3~20).甲状腺眼症によって生じる視神経症や眼球突出の治療として用いられることが多い3).眼窩減圧術の歴史は古く,1911年Dollingerによって眼窩外側壁(浅部)減圧術がはじめて報告された4).さらに,1957年,WalshとOguraによって経上顎洞アプローチによる眼窩内下壁減圧術が報告された5).この方法は,甲状腺視神経症や悪性眼球突出による角膜障害の改善に効果的であったため,広く用いられてきた6,7).1980年代まで,甲状腺眼症に対する眼窩減圧術は,視神経症や悪性眼球突出による角膜障害に対してのみ行われていた8).しかし,薬物治療や放射線治療の有効性が確立するにつれ,整容目的で眼窩減圧術が行われるようになった8).そのため,術後の合併症である複視が大きな問題となった8~11).術後複視は,眼窩内組織の偏位により,外眼筋運動が不均衡になるために生じる8~13).眼窩内下壁減圧術では,眼窩内組織が内下方へ大きく偏位するため,高率に複視を合併する14).また,眼球の位置が変化するため,瞳孔より下方の角膜が,下眼瞼で隠れてしまうこともある(73)???*HirohikoKakizaki&ShinsukeKinoshita:愛知医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕柿崎裕彦:〒480-1195愛知県愛知郡長久手町岩作字雁又21愛知医科大学眼科学教室特集●眼科臨床医のための眼形成・眼窩外科あたらしい眼科24(5):611~617,2007甲状腺眼症─眼窩減圧術の適応および術式─?????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????柿崎裕彦*木下慎介*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007に応じた手術が考慮される23).III活動性の評価甲状腺眼症において,眼窩内炎症の程度を正確に知ることは困難である21).そのため,さまざまな指標を組み合わせて活動性の評価を行う24).Clinicalactivityscore25)(CAS)は,視診で眼窩内炎症の活動性の評価を行う方法である.CASは特別な検査機器を必要とせず,すぐに判定できるため世界中で広く用いられている.また,眼症の経過も重要な指標であり,6カ月以上症状の変化がない場合,活動性がないと判断できる22).Magneticresonanceimaging(MRI)では,画像的に炎症の程度を判断することができる26).MRIではT2強調像のみではなくT1強調像も必ず撮像しなければならない.これは,T2強調脂肪抑制像は画像が粗いこと,また,T1強調像とT2強調像ともに脂肪は高信号として描写されるので,T1強調像とT2強調像の外眼筋を比較することによって,炎症の有無を判断することができる24).外眼筋に炎症性変化を認める場合,T2強調像ではT1強調像と比べて水の分だけ高信号領域として描出される24,26).したがって,炎症が落ちついたら,T2強調像とT1強調像は同程度の信号として描出される26).IV症状の評価視神経症は甲状腺眼症の約10%に認められるが,自覚症状に乏しく診断は困難である21,27).乳頭浮腫を認めれば視神経症の確定診断となる21,27)が,甲状腺眼症における乳頭浮腫の出現率は20~50%であり,すべての視神経症に認められるわけではない14,28).視神経症の約80%が両側性であるため27),relativea?erentpupillarydefect(RAPD)が認められない場合,その評価は参考にとどめられるべきである.視神経乳頭に異常所見を認めなければ,視力検査,視野検査,色覚検査,RAPD,視覚誘発電位,コントラスト感度のうち2項目以上の変化をもって視神経症と診断する21).眼球突出はHertel眼球突出計を用いて測定する.眼球突出の程度によって術式を考慮するため必ず行わなくてはならない.日本人ではHertel眼球突出計で17mm以上あるもの,または左右差が2mm以上あれば眼球突出があるとする29).眼瞼の観察では,眼瞼後退の程度と内反症の有無を上下左右それぞれについて観察する.角膜では,軽度の点状表層角膜症が観察されることがある.これは眼瞼後退によることが多い21).診察の際は閉瞼時に角膜が眼瞼で覆われているかどうかを観察する.閉瞼は力を入れず,自然に行うように指示する.Bell現象を認めず,角膜が露出している場合,点状表層角膜症は角膜潰瘍となり角膜穿孔を生じる危険性がある21).上輪部角結膜炎もしばしば認められるため,上方球結膜と角膜輪部も観察しなければならない21).眼球運動の評価はHessチャートを用いて行い,複視の程度は両眼単一視野検査を用いて評価する.眼球運動障害の程度と複視の程度は,各個人によって異なるため必ず両方の検査を行う21).最近では4直筋,上斜筋のほかに30,31)下斜筋病変も明らかにされたので,下斜筋の動きにも留意する32).V眼窩減圧術の適応眼窩減圧術は,一般に6カ月以上症状に変化のない非活動期に行う23).非活動期における手術は,眼球突出を治療することが主目的であり,おもに兎眼に対して,または整容目的に行われる8~12,17,23).整容的,機能的改善を目的に眼瞼手術や斜視手術を予定する場合は,最初に眼窩減圧術を行い,その後,斜視手術,眼瞼手術の順に行う23).眼窩減圧術では,眼窩内組織の移動により外眼筋や眼瞼の状態に影響を与え,また,斜視手術は眼瞼の位置に影響するためである.しかし,活動期に手術せざるをえない場合もある.活動期における手術適応は,視神経症とBell現象を認めない兎眼である23).活動期では一般に薬物治療が有効であるが,薬物治療に抵抗する場合や薬物治療の副作用で治療が続行できない場合などが対象となる23).VI手術方針複視の発生を抑えるために,眼窩下壁を温存することを基本とする.術式はdeeplateralwalldecompres-sion17)またはbalanceddecompression12)を選択する.術前における術式の選択は眼球突出の程度を基準とす(74)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???る18).眼球突出が22mm未満ではdeeplateralwalldecompression,22~25mmではbalanceddecompres-sionを選択する.25mmを超える場合,内下壁および外壁を除去するthreewalldecompressionが選択されることがある18).Balanceddecompressionに眼窩内脂肪除去(fatdecompression)を併用した手術と,threewalldecompression19)との治療効果は同等とされる12).しかし,複視を生じる割合はthreewalldecompressionで圧倒的に大きいため12),眼球突出が25mmを超える場合はbalanceddecompressionに眼窩内脂肪除去(fatdecompression)を併用した術式12)を選択するほうがよい.なお,1m?の眼窩内脂肪除去に対して約0.7mmの眼球陥凹の効果が期待できる23).眼窩内組織の弾性は,活動期における治療内容によって差が生じる.眼窩内組織の弾性が小さい場合,すなわち,眼窩内の線維化が著しい場合,眼窩内組織が効果的に脱出しない場合がある8,17).そのため,眼球陥凹の効果を判定しながら手術を行い,必要があれば術式を変更する.VII手術手技1.眼窩外壁減圧術(deeplateralwalldecompression)眼窩外壁減圧術の際に除去する骨は,蝶形骨大翼,前頭骨,?骨および上顎骨である17).外眥切開を用いた方法を解説する(swingingeyelidprocedure)20).1%エピネフリン入りキシロカイン?を外眥部皮下,?骨(眼窩外側縁)の骨膜下に注入する.15番メスを用いて外眥部より耳側へ約15mmの切開を加える.切開部より電気メスを用いて?骨前面まで達し,また,剪刀を用いて外眥靱帯の下脚を切断する.外眥靱帯切断後に鑷子を用いて下眼瞼を牽引すると抵抗を感じるが,これはLockwood靱帯によるものである.したがって,Lockwood靱帯による抵抗が残存した状態では術野を広く展開できないため,Lockwood靱帯を切断する.Lockwood靱帯を切断すれば下眼瞼の抵抗がほぼ消失する.つぎに,眼輪筋下の?離を行う.?離の範囲は,上方は前頭?骨縫合,下方は?骨弓をそれぞれ少し越える範囲で行う.?離終了後,15番メスを用いて骨膜を切開し,骨膜?離子を用いて眼窩外側縁骨膜下の?離を行う.眼窩外側縁から側頭窩にかけては急峻な曲面となっているため,?離は骨の感触を確かめながら丁寧に行う.眼窩外側縁から眼窩内へ?離を進めると?骨顔面動脈,?骨側頭動脈が確認できる.ともに電気凝固を行い切断する.眼窩内への?離は,前頭蝶形骨縫合,前頭?骨縫合,?骨蝶形骨縫合を越えるように行う.眼窩外側縁の骨切りは前頭?骨縫合の5mm上方と?骨弓より5mm上方で行う.骨切りを行う前に,固定用のプレートの穴を開けておく.なお,プレートは術後のMRIによる経過観察も考慮して,吸収性のプレート(フィクソーブ?またはネオフィックス?)を用いる.ボーンソーを用いて骨切りを行うが,この際,誤って眼窩内容を損傷しないように脳ベラを用いて眼窩内容を保護しながら行う.骨切り終了後に,リュエルを用いて眼窩外側縁を把持し外側へ回転させ,眼窩外側壁を骨折させる.眼窩外側縁が動かなければ無理に回転させず,ノミを用いて骨切りを追加する.眼窩外側縁を外した後,computedtomography(CT)水平断で蝶形骨大翼の三角形に撮影される部分(sphe-noiddoorjamb,図1),前頭骨の涙腺窩(lacrimalkey-hole,図2)をドリル(またはソノペット?)を用いて削る.続いて,彫骨器を用いて?骨と上顎骨に囲まれた眼窩下裂下方の凹になった部分(basinoftheinferiororbital?ssure,図3)を除去する.特にsphenoiddoorjambは,本術式で得られる眼窩拡大容積の大半を占めるため重要な部分である17)(図4).予定した範囲の骨除去を終了したら,12番メスを用いて骨膜切開を行い,眼窩脂肪を十分に脱出させる.このとき,縦方向に数条の切開を入れ,横方向にも切開を加える.眼窩脂肪除去(fatdecompression)を追加する場合は,外直筋と下直筋の間に存在する眼窩脂肪を3m?程度除去する.外した眼窩外側縁をプレートで固定し,ドレーンを眼窩内に留置する.結膜をバイクリル?糸で縫合し,切断した外眥靱帯の下脚を上脚または骨膜に縫合する.上下眼瞼のgreylineが合うように,外眥部のcommissureを縫合する.この際,左右の外眥部の高さに差がないことを確認する.皮膚縫合を行い手術終了とする.(75)———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.5,20072.BalanceddecompressionBalanceddecompressionでは,眼窩外壁減圧術(deeplateralwalldecompression)と眼窩内壁減圧術を行う.先に,眼窩外壁減圧術について説明をしたので,ここでは眼窩内壁減圧術(経涙丘的アプローチ:transcaruncu-larapproach)を用いた方法を解説する.1%エピネフリン入りキシロカイン?を内側の眼球結膜と半月ひだに注入し,剪刀を用いて涙丘を切開する.切開の安全域は,滑車付近から6時の位置までであ(76)図1Sphenoiddoorjamb上:蝶形骨大翼の三角形に見える部分(矢印)がsphenoiddoorjambである.中:○囲みで示す部分の蝶形骨大翼を除去する(右眼窩内を正面から観察).下:術中所見.眼窩内容を保護しながらsphenoiddoorjambを除去する.図2Lacrimalkeyhole(右眼窩内を鼻下側から観察)涙腺窩の部分がlacrimalkeyholeである.図3Basinoftheinferiororbital?ssure(右眼窩内を上前方から観察,下方が頭蓋方向)?骨と上顎骨に囲まれた眼窩下裂下方の凹になった部分がbasinoftheinferiororbital?ssureである.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???る33).同じく剪刀を用いて内壁方向へ鈍的?離を行い,内壁の骨膜を露出する.?離を行う際は,眼球および内直筋を損傷しないように,剪刀は眼球の接線方向に向ける.?離を進め,後涙?稜を確認し11番メスを用いて後涙?稜後端の骨膜を切開する.骨膜?離子を用いて,骨膜下の?離を眼窩側へ進めると前篩骨動脈が確認できる.前篩骨動脈は眼窩前縁から約20mmの部分に認められる30).前篩骨動脈を電気凝固した後,切断し,?離をさらに進めると,前篩骨動脈から後方約12mmの部分に後篩骨動脈が確認できる34).後方への?離は後篩骨動脈が確認できた部分で終了する.後篩骨動脈も前篩骨動脈と同様に電気凝固を行い切断する.この時点で篩骨のほぼ全体が露出したことになる.篩骨を除去する際に基準となるのが前篩骨動脈と後篩骨動脈である.前篩骨動脈と後篩骨動脈を結んだ線が前頭篩骨縫合に一致するため,前頭篩骨縫合より下方が篩骨となる.前頭篩骨縫合より上方への操作は,頭蓋底を損傷する可能性があるため行わない.頭蓋底の位置は個人差があるため,術前CTで確認しておく(図5).まず,篩骨紙様板に骨膜?離子を押し付け骨折させる.紙様板は薄いため容易に骨折が生じる.骨折箇所より鋭匙鉗子を用いて,上記した範囲の篩骨を除去する.この際,篩骨蜂巣や篩骨粘膜を確実に除去することが重要である.篩骨蜂巣や篩骨粘膜が存在すると眼窩脂肪が脱出せず十分な効果を得ることができないためである.後方への操作は,後篩骨動脈の位置までとする.これを越えた篩骨の除去は,視神経損傷の可能性があるため控(77)図5頭蓋底の位置篩骨洞天蓋の位置は個人差があるため,術前に確認することが重要である.図6眼窩内壁減圧術の際に除去する部分(右眼窩内を前外方から観察)上:前篩骨動脈と後篩骨動脈は,それぞれ前篩骨孔(黒矢印)と後篩骨孔(白矢印)を通過する.下:前篩骨動脈と後篩骨動脈を結んだ線が前頭篩骨縫合に一致する.前頭篩骨縫合より下方が篩骨である.前頭篩骨縫合より下方,後篩骨動脈より前方で篩骨を除去する.図4Deeplateralwalldecompression術後Sphenoiddoorjambを確実に処理することが重要である.———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007えたほうがよい(図6).すべての骨除去が終了し篩骨蜂巣をつぶしたら,12番メスを用いて骨膜切開を行い,眼窩脂肪を篩骨洞に脱出させる.7-0バイクリル?糸を用いて,結膜の切開部を縫合する(図7).VIII合併症1.髄液漏Sphenoiddoorjambを削る際に硬膜が露出することがある9,10,12,17).この際,硬膜を穿孔すると髄液漏が生じる.髄液漏が生じた場合は,フィブリン糊製剤(ボルフィール?,ベリプラスト?)を用いるか,硬膜を縫合して穿孔部を閉鎖する.硬膜を損傷することで,頭蓋内出血をきたす場合があるため,術後,CTの撮影を必ず行う17).2.知覚異常?部知覚鈍麻が生じることがある.これは,眼窩外側減圧術の際に,?骨顔面神経や?骨側頭神経を切断または圧排することによる17).知覚異常は術後1年ほどで慣れてくることが多い.3.複視術後に複視が生じた場合は,一過性の場合があるため,1年間は経過観察を行う11).一過性複視の場合,deeplateralwalldecompressionとbalanceddecom-pressionを比較すると,balanceddecompressionのほうが複視の回復までに時間がかかる傾向がある11).1年以上経過しても複視が残存している場合は斜視手術を行う.術前に複視を認める症例10,11)や活動期に眼窩減圧術を行った場合は,術後に複視が残存することが多い23).おわりに甲状腺眼症に対する手術では,視機能の改善が最優先される.しかし,眼球突出による顔貌の変化は“qualityoflife”を著しく低下させるため,整容的な改善も重要な要素となる.Deeplateralwalldecompressionやbal-anceddecompressionは,視機能と整容を十分に改善させうることができ,かつ,眼球運動障害などの合併症が他の眼窩減圧手術に比べて著しく小さいため,今後の普及が期待される.文献1)OlivariN:Transpalpebraldecompressionofendocrineophthalmopathy(Graves?disease)byremovalofintraor-bitalfat:experiencewith147operationsover5years.????????????????????87:627-641,19912)GoodallKL,BrahmaA,BatesAetal:Lateralcanthotomyandinferiorcantholysis:ane?ectivemethodofurgentorbitaldecompressionforsightthreateningacuteretrobul-barhaemorrhage.??????30:485-490,19993)GoldbergRA,HwangMM,GarbuttMVetal:Orbitaldecompressionfornon-Graves?orbitopathy:aconsider-ationofextendedindicationsfordecompression.???????????????????????????11:245-252,19954)AiperMG:Pioneersinthehistoryoforbitaldecompres-sionforGraves?ophthalmopathy.R.U.Kroenlein(1847-1910),O.Hirsch(1877-1965)andH.C.Na?ziger(1884-1961).??????????????89:163-171,19955)WalshTE,OguraJH:Transantralorbitaldecompressionformalignantexophthalmos.????????????67:544-568,19576)DeSantoLW:ThetotalrehabilitationofGraves?ophthal-mopathy.????????????90:1652-1678,19807)Sei?SR,TovillaJL,CarterSRetal:Modi?edorbitaldecompressionfordysthyroidorbitopathy.???????????????????????????16:62-66,20008)UnalM,IleriF,KonukOetal:Balancedorbitaldecom-pressioninGraves?orbitopathy:Uppereyelidcreaseinci-sionforextendedlateralwalldecompression.?????19:109-117,20009)GrahamSM,BrownCL,CarterKD:Medialandlateralorbitalwallsurgeryforbalanceddecompressioninthyroideyedisease.????????????113:1206-1209,200310)ShepardKG,LevinPS,TerrisDJ:BalancedorbitaldecompressionforGraves?ophthalmopathy.????????????108:1648-1653,1998(78)図7Balanceddecompression術後眼窩脂肪を篩骨洞に脱出させることが重要である.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???11)GoldbergRA,PerryJD,HoratalezaV:Strabismusafterbalancedmedialpluslateralwallversuslateralwallonlyorbitaldecompressionfordysthyroidorbitopathy.???????????????????????????16:271-277,200012)UnalM,IleriF,KonukOetal:Balancedorbitaldecom-pressioncombinedwithfatremovalingravesophthal-mopathy.???????????????????????????19:112-118,200313)GoldbergRA,ShorrN,CohenMS:Themedialorbitalstrutinthepreventionofpostdecompressiondysthyroidophthalmopathy.????????????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義眼床の再建

2007年5月31日 木曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSイレーター)による拡張に努めたい.結膜義眼床がよほど小さいものでない限り,患者がその気になればわずか2週間の施行で相当の拡張が得られるはずである.結膜義眼床の拡張のために部分的な植皮を行うことはできるだけ避けたい.義眼床が汚染され分泌液が増加し,外観が不潔で悪臭を放ち,患者は大変惨めな思いを強いられるからである.植皮が必要な場合は義眼床全体に行うのがよい(skinsocketordrysocket).1.義眼床拡張器(ソケットダイレーター)による拡大一時フットボール型のダイレーターを使用していたが安定が悪く,固定に難渋した(図1b)1).現在のたかつき型(Sタイプ)は安定がよく使いやすい.なお,大小2個のたかつき型を1個にまとめたつづみ型(Dタイプ)は義眼床の拡大を逐次進めていく際にさらに便利である(図2).「注1」ダイレーターの使用法:適当な大きさのダイレーターを選ぶ.たかつきの皿の部分を義眼床粘膜にあてがい,台の部分をテープでできるだけ強く圧迫固定しておく.この圧迫が大切なのである.圧迫がなければ単なる義眼装着と変わらないので拡張効果は著しく劣る.2~3週間で義眼床が拡大すると逐次大きいダイレーターに替えていく(図3).「注2」急速拡大を図った義眼床は再縮小する傾向が強いので,義眼床が安定するまでは昼間は義眼,夜間はダイレーター装着を交互に行う.この方法で義眼の早期装着も,また早期の社会復帰も可能となる.はじめに義眼床再建の対象疾患には腫瘍,外傷,先天奇形などいろいろあり,その症状の軽重も実にさまざまである.そのなかでも幼児網膜芽細胞腫摘出後の放射線照射症例の再建をとりあげて筆者なりの治療法を解説することにした.具体的にはまず義眼が収まる部屋(義眼床)を作らねばならない.義眼を入れると下眼瞼が沈むのでその補強(耳介軟骨移植)が必要となる.さらに義眼床の入り口(瞼裂)はしばしば狭いのでその水平方向の延長を図り,また義眼が奥にあるため,眼窩に詰め物をして義眼を前方に移動させることも必要となる.たとえば瞼裂狭小症(blepharophimosis)と眼球陥凹症(enophthal-mos)の治療も重なってくる.そうしてでき上がった眼を健側と比較してみるとやはり不自然さが目立つ.かくしてようやく眼瞼,特に内眥,外眥の修正を主とする仕上げの手術が始まることになる.以上の長期にわたる複雑な再建治療にあたって,筆者は一貫して他の部位の身体の損傷を極力避ける愛護的治療と社会復帰が可能な顔に仕上げることに努力してきたつもりである.そして多くの試行錯誤の結果?rstchoiceとすべき治療法や原則として用いるべき術式もいくつか選択できたので,それに沿った義眼床再建の術式を述べることとした.I義眼床の拡大義眼床の結膜がなにがしか残っている限りは(con-junctivesocket)できるだけ義眼床拡張器(ソケットダ(63)???*RyosukeFujimori:冨士森形成外科〔別刷請求先〕冨士森良輔:〒600-8327京都市下京区西洞院通塩小路上る東塩小路町608-9日生三哲ビル2F冨士森形成外科特集●眼科臨床医のための眼形成・眼窩外科あたらしい眼科24(5):601~609,2007義眼床の再建???-??????????????冨士森良輔*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007「注3」ダイレーターは楕円形なので義眼床内で90?回転させるとさらなる拡張が可能となる.2.遊離植皮術による拡大(図4参照)厚めの分層皮片を採取し,真皮面を外側にして約3×3.5cmの袋をつくる.その中にコンホーマーを縫い込めて瞼裂より眼窩内に埋植する.2週間以降に瞼裂を再び切開して皮膚の袋(義眼床)を開放する.コンホーマーは厚さ約2mmのシリコーン板を用いる.眼球下垂防止用(高研)が手頃である.コンホーマーは作製したい義眼床より少し大きめにトリミングすることと,辺縁3~4mmの幅を残して中央をくりぬいておくことが大切である.コンホーマーの出し入れ,義眼床の清掃,管理を容易にするためである2).「注1」埋植後約2週間目の瞼裂の切開は瞼裂の長さの半分くらいに止める.移植皮膚の拡張効果を弱めず収縮を予防するためである.露出したコンホーマーは取り出すことなく,ときどき洗浄しながらこの新しい義眼床内に少なくとも3カ月間は留置して移植皮膚の安定を待ち義眼床の拘縮を防ぐ.必要があれば,コンホーマーの上に薄い義眼を重ねても良い.「注2」移植皮膚の拘縮を防止するためには,従来から国を問わず実にさまざまな試みがなされてきたが,そのすべてはいかに長期間義眼床を拡張状態に保持するかの工夫である3).(64)図1義眼床拡張器による拡大a:2歳,女児,小眼球症.b:フットボール型ダイレーター使用.c,d:14歳,拡大した義眼床と義眼装着の状態.abcd図2義眼床拡張器(ソケットダイレーター)下段のたかつき型Sタイプ(singletype)は乳児から成人用の10種類のサイズがある.上段のつづみ型Dタイプ(doubletype)はそれぞれ大小2個のSタイプを1個にまとめた新型でサイズの選択に便利である.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???(65)abcde図3義眼床拡張器による拡大a:16歳,男子,術前.b:術前の義眼床.下円蓋が消失して義眼が落ちやすい.c:Sタイプ・ダイレーターの使用状態.d:義眼床下円蓋は早期に,容易に拡大した.e:義眼装着の状態.abc図4遊離植皮術による拡大a:縮小した義眼床.b:皮膚の袋を作り,真皮面を外にして中にコンホーマーを縫い込める.コンホーマーは厚さ約2mmのシリコーン板を用いる(本文参照).この袋を眼窩に埋植する.c:2週間前後で瞼裂を切開して皮膚の袋(義眼床)を開放する.中に露出したコンホーマーが見えている.ab図5Belt?apによる瞼裂の延長a:植皮後3カ月を過ぎて内眥,外眥に細長い皮弁を作製する.b:その細い皮弁を折り曲げて義眼床結膜または義眼床皮膚に縫着する.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007II瞼裂水平方向の延長原則としてベルト皮弁(belt?ap)を用いる.延長手術の後しばしば再拘縮を見るが,ベルト皮弁はそれを防止するのに優れた効果を示す(図5).III下眼瞼の補強義眼床を作製し義眼を装着してみて下眼瞼が沈下する症例では腱または軟骨によって下眼瞼を補強しなければならない.しかし腱での吊り上げでは下眼瞼は吊り橋のように中央がたわむ(図7b)4).その点耳介軟骨を推奨したい5).弾力もあり,薄い眼瞼に最適である(図6).「注意」1:耳介軟骨は長さ3.5cm以上が必要.2:軟骨は瞼板に密着させ,また瞼縁にも十分密接させて軟骨両端では内・外眥靱帯に,また中央で瞼板の3カ所にしっかり縫合固定し,さらにボルスターで結膜─軟骨─皮膚とサンドイッチ固定(図7a,8,9).IV眼球陥凹の修正幼児期網膜芽細胞腫摘出と術後放射線照射に伴う成長障害では骨の萎縮と,軟部組織の不足が著明である.しかしその再建にあたって患者の骨,肋軟骨,皮弁などによる充?を図るのでは身体に与える損傷が大きく,特に小児,若い女性にとってその苦痛は無視できないものがある.特に眼窩内へ移植された肋軟骨は後日義眼床の結膜あるいは皮膚と固着して?離困難となり,再建操作を妨げることがあり,結局取り除くことになる.そのとき(66)abcd図6耳介軟骨移植による下眼瞼の補強a:外傷による義眼床欠損例.術前.b,c:義眼床を作製し義眼を装着したが下眼瞼沈下.d:耳介軟骨移植で補強した.図7下眼瞼の補強a:耳介軟骨を採取し下眼瞼に移植する.b:腱と軟骨の支持力の比較.(a)(c)(b)ab———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???(67)の患者の悔しさは想像に余りある.著者は,骨の欠損はセラミック人工骨で,その他の軟部組織の充?は原則として吸引脂肪の注入で補っている6).1.脂肪吸引,注入下腹部(採取部)の局所麻酔は型どおりに行う.さらに脂肪層には生理食塩水で5~10倍に薄めた局所麻酔剤を採取予定量の約10倍量注入する(tumescentpro-cedure).皮膚切開は臍部に入れると創痕が目立たない.ついで吸引用カニューラを皮下脂肪層に挿入し,注射器に陰圧をかけながら前後運動させて脂肪を吸引する.陰圧保持用のストッパーが市販されている.採取脂肪は生理食塩水で洗浄後,線維質を剪刀でこまかく切断した後1m?注射器に吸引し16ゲージの鈍針などで患部に注入する.1カ所の注入量は0.2m?前後が適当であろう(図10,11).図10bに使用中のような注射筒は大きすぎるので注意が必要.図8上下眼瞼縁が脆弱だと義眼床拘縮は容易に進行するa,b,c:耳介軟骨の補強がなければ義眼床,眼瞼は拘縮し,瞼裂はとめどなく開大していく.cba図9耳介軟骨による上,下眼瞼の補強a,b:神経線維腫(左義眼).上下眼瞼に軟骨を移植することによってシャープな眼の形を保持することができた.bacba図10陥凹に対する脂肪注入術a,b,c:上眼瞼の陥凹に脂肪注入.術前(a),術中(b),術後(c).———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007(68)「注1」注入脂肪の生着率をさほど問題にする必要はない.脂肪の採取,注入はほとんど創痕を残さないし,吸引・注入は何回も可能である.さらに一度に大量注入しないことが原則であるから必要あれば期間を空けて何回でも注入をくり返せばよい.眼瞼,眼窩を合わせて1回注入量は一応10m?前後であろうか?注入脂肪が一部吸収され再注入をするかどうかを判断する時期は前回注入後約3カ月以降である.「注2」陥凹眼窩の充?には骨,軟骨,真皮,側頭腱膜,各種義眼台,ガラス球,シリコーン球など実にさまざまなものが用いられたが,再度の補充の困難なもの,排出されるもの,瘢痕を残すものなどの問題が残り,結局は吸引脂肪注入術に落ち着いた.図11陥凹に対する脂肪注入術a:幼児期網膜芽細胞腫の手術および術後放射線照射後の変形.b:下眼瞼軟骨移植後の脂肪注入術を眼瞼・眼窩に合計3回施行した.1回量:眼瞼2m?,眼窩8m?前後か.c,b:術前術後の仰角.abcd図12皮弁移植による陥凹修復例a,b,c:幼児期網膜芽細胞腫の手術および術後放射線照射後の変形.局所皮弁で義眼床の拡張と陥凹の充?を図った.cba———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???(69)2.皮弁法義眼床の拡大と眼球陥凹の充?を同時に行う効果的方法で現在最も広く行われているが,患者に大きな犠牲を強いることになり,できるだけ避けたいものである.特に眼瞼周囲からの局所皮弁は,後述するように最後の外表面の仕上げ手術に必要になることが多い.その大切な皮膚を義眼で隠れる部分に消費するのはもったいない(図12).V仕上げの手術眼の形の再建にあたって重要なポイントは,まず内眥をきちんと整えることであり,そのことは,われわれ日図13眼の再建のポイントは内眥と外眥の再建a:幼児期網膜芽細胞腫の手術および術後放射線照射を受けた.b:一応の再建手術は終了したが右眼(患側)の形が不自然である.c:ちなみに内眥,外眥に墨を入れてみると違和感のない眼となった.内眥,外眥形成のポイントを教えられた症例である.cba図14内眥の再建a:幼児期網膜芽細胞腫にて術後放射線照射を受けた.b:特有の著明な変形に対して既述の再建術を行ってきた.c:前進皮弁の作図.ポイント1)皮弁は末広がりの形であること,2)皮弁先端は内眼角より数mm内下方に進めて縫合すること,3)後戻りを防ぐため皮弁は眼窩上縁の骨膜や外眥靱帯にしっかり埋没糸で固定しておくことである.d:術後.abcd———————————————————————-Page8???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007(70)図15内眥の再建a,b:外傷による変形,義眼装着症例.Z?形成術により内眥を再建した.ab図16外眥の再建a:幼児期網膜芽細胞腫の手術および術後放射線照射を受けた.術前.b:外眥の組織欠損変形.c,d:外眥皮弁の作図と縫合.e:術後.cbaed図17外眥の再建a:幼児期網膜芽細胞腫の術後放射線照射症例.b:外眥形成術術前の状態.c,d:YVZ-作図.点aをa¢に,点bをb¢に移動させて縫合する.e:術後.上眼瞼が下眼瞼に被さった状態が再建された.a?ab?bcbaed———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???(71)本人にとってはスッキリした内眼角贅皮の再建といえる(図13).さらに注意すべきは内眥部,外眥部ともに,上眼瞼を下眼瞼の上に覆い被さった状態に仕上げることである.1.内眥形成術ポイントは原則として前進皮弁,症例によってはZ-形成術を用いて内眼角贅皮を作製する(図13~15).2.外眥形成術1)外眥皮弁(仮称).上眼瞼の小さい組織欠損に有効(図16).2)YVZ?形成術(仮称)上眼瞼が下眼瞼の上に被さる状態を作るための作図(図17).3)回転皮弁(rotation?ap)+Z-形成術(図18).文献1)秋山太一郎:萎縮した結膜?を自動的に拡大する方法.形成外科11:215-220,19682)冨士森良輔:義眼床の再建.眼の形成外科(添田周吾編),p189,克誠堂出版,19933)AntinaNH:Malignantcontractureoftheeyesocket.???????????????????74:293,19844)VistnesLM,IversonRE:Theanophthalmicorbit.????????????????????52:346-351,19735)冨士森良輔:結膜?または義眼床形成術.アトラス眼の形成外科手術書(一色信彦編),p228,金原出版,19886)冨士森良輔:脂肪注入術.形成外科38:33-38,1995adcb図18外眥の再建a:幼児期網膜芽細胞腫の手術および術後放射線照射症例.b:一応の義眼床再建が終わり外眥形成術前の状態.c:回転皮弁で上眼瞼皮膚の余裕を作る.その際外眥部に生じたdogearに小さいZ-形成術を加えて仕上げる.d:術後の状態.

経篩骨洞視神経減圧術(視神経管開放術)

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———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS合によっては2~3クール行う.(2)ベタメタゾン(リンデロン?)1日8mgから漸減投与(点滴,内服)に切り換える.同時に以下を併用する.(3)ビタミンB12(メチコバール?錠1日1,500?g分3,30日).(4)循環促進剤(カリクレイン?錠1日30単位分3,30日など)2.手術療法(経篩骨洞視神経減圧術)(1)目的:視神経管内視神経浮腫の減圧を図ることである.(2)適応:筆者らは各治療法,その有効性,予後などを説明し,希望があれば下記以外すべての症例を適応と考えている.最初に薬物療法を行う場合もある.〔手術非適応〕*手術を希望しない場合.*視力0の陳旧例(1カ月以上経ている場合).*髄液漏が予想される場合.*陳旧例(数カ月以上経ている場合).〔術前視力と改善率の関係から〕自験例(723例)での術前視力別の視力改善率(2段階以上)は表1のごとくである.術前視力0群は24.4%,s.l.~n.d.群は74.1%,0.01~0.09群は60.9%,0.1~0.4群は47.3%,0.5~群は45.8%である.術前視力がs.l.~0.09であれば60~70%の改善率が,またたとえ術前視I外傷性視神経症とは外傷によって生じる視神経障害の病態にはいくつかあるが,外傷性視神経症とよばれているのは眉毛部外方の打撲によるものである.これは眉毛部の鈍的打撲による介達外力により同側の視神経管に歪みを生じ,視神経管内視神経に種々の視神経障害をきたすと考えられている1).したがって頭蓋骨骨折に伴った視神経障害や眼窩内疾患による視神経障害は除外される.視神経障害の病態は臨床的あるいは実験的にも解明が試みられているが出血,視神経線維の断裂,循環障害などが提唱されているがまだ不明なところが多い.松崎ら2)は視神経実質内の横断性浮腫を生じると述べている.この疾患は以前には視神経管骨折といわれていたが,骨折のない場合も多く,骨折の有無には関係なく外傷性視神経症とよばれるようになった.II治療ステロイド薬と高浸透圧液を中心にした薬物治療と視神経管骨を部分除去する視神経減圧術がある.いずれの治療も可能な限り早期に開始する.1.薬物療法(1)高浸透圧液グリセオール(300~500m?)点滴内にコハク酸メチルプレドニゾロンナトリウム(ソル・メドロール?)1,000mg点滴静注3日(1クール)を行い,場(57)???*MakotoInatomi:昭和大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕稲富誠:〒142-0064東京都品川区旗の台1-5-8昭和大学医学部眼科学教室特集●眼科臨床医のための眼形成・眼窩外科あたらしい眼科24(5):595~599,2007経篩骨洞視神経減圧術(視神経管開放術)???????????????????????????????????????????稲富誠*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007力が0でも24%の改善率が期待できるといえる.以上から術前視力の如何によらずほぼ全例が適応と考えている.早期であれば術前視力が0でも手術適応と考えている.〔受傷後期間と改善率の関係〕自験例(723例)での手術時期別の視力改善率は表2のごとくである.受傷後0~6日以内群の改善率は69.7%で最も高く,つぎが7~13日群49.2%,それ以後の群は35%台である.この結果から手術時期としては受傷後6日以内が望まれる.(3)術式:筆者らが行っている経篩骨洞視神経減圧術3)(図1a,b)を略記すると,以下のとおりである.①麻酔・手術器械・レイアウト手術は原則として成人では局所麻酔で,小児では全身麻酔で行う.術者は患者の健側顔横に位置し横からアプローチすることになる.助手は対側から同軸の側視鏡で見ながら助手を行う.手術用顕微鏡の対物レンズはワーキングディスタンスの長い焦点距離300mmを用いる.機械台は患者の頭部方向に位置する(図2a,b).筆者らが用いている器具類は表3のごとくである.②皮膚麻酔・切開・骨窓形成までまず患側鼻根部皮下に1,000倍エピネフリン添加2%キシロカイン?浸潤麻酔の後,約2cmの縦皮膚切開(図3)を行い開創鈎をかけ創を広げ固定し骨膜を露出する.(58)表1術前視力別視力改善率術前視力症例数改善不変悪化不明改善率(%)0164401240024.4s.l.~n.d.11283262174.10.01~0.092941799912460.90.1~0.412961588247.30.5~2411121045.8小計723374319237平均51.7表2術前期間別視力改善率術前期間(日)症例数改善不変・悪化改善率(%)0~62902028869.77~13120596149.214~2084315336.921~2748173135.428~1816511635.9小計723374349平均51.7前頭洞骨窓前篩骨洞前篩骨洞前篩骨動脈後篩骨洞後篩骨洞視神経管隆起視神経管隆起蝶型骨洞蝶型骨洞隔壁隔壁手術方向手術方向ab図1経篩骨洞視神経減圧術(a:水平断図,b:矢状断図)?は手術方向,前篩骨洞?後篩骨洞?篩骨洞・蝶形骨洞隔壁?視神経管隆起.表3用意するおもな薬液器具類薬液2%キシロカイン?2m?(1,000倍エピネフリン添加):皮膚浸潤麻酔用4%キシロカイン?約5m?(シャーレ)5,000倍エピネフリン5m?(シャーレ)生理的食塩水10m?(ドリル使用中に使用,術野の洗浄)器具類吸引觜管,エアトーム,開創鈎,骨膜?離子,耳鼻科用鑷子,眼科用鑷子,彫骨器,粘膜鉗子,鋭匙鉗子,骨鉗子,骨鋭匙,コメガーゼ,メス類,縫合セット———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???皮下組織は血管が豊富で出血しやすいため麻酔後少し時間をおいてから切開を行う.切開の深さは骨膜に達する深さで一気に行い,素早く開創鈎をかけ創を固定する.骨膜の縦切開を行った後,左手に吸引嘴管を持ち,右手に持ったエアドリルで大きさ約10×15mm径の縦長骨窓を作製する(図4~6).このとき助手は患者の頭が動かないように頭部を支え,同時にドリル先端部に生理的食塩水をかける.③篩骨洞蜂巣の除去つぎに前篩骨洞に入るが,このときには患者の頭位に(59)術者助手機械台切開創(左眼手術)図2b術者,助手,器械台の位置関係図2a手術におけるレイアウト患者の足側から頭側をみたところ.左眼手術,術者は患者顔面右横に位置し,助手は反対側に位置する.図3皮膚切開左眼手術,出血を防ぐために骨膜に達する深さまで一気に切開する.図4開創鈎で創を開き骨膜切開を行う図5エアトームでの骨窓形成術者は右手にエアドリル,左手に吸引嘴管を持つ.助手は患者頭部を固定しながら生理食塩水を創部にかける.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007留意し,やや顎を引かせるように命じる.ときとしてドリル操作中に患者はつい顎を上げ気味になるためで,そのまま垂直方向に篩骨洞に入ると前頭蓋底にあたり,視野がさえぎられ,また篩骨動脈と神経を損傷する危険性があるためである.このことに留意しながら耳鼻科用鑷子で5,000倍エピネフリンコメガーゼと4%キシロカイン?コメガーゼで前篩骨洞を3~4cmの深さまで蜂巣を穿通する要領で押し込み,止血と麻酔を交互にくり返しながら(図7),篩骨蜂巣を粘膜鉗子で除去する.この過程で篩骨洞脈を損傷すると拍動性の出血がみられる.このときはコメガーゼで持続圧迫を行う,止血が困難なときには止血用スポンジ,オキシセルガーゼなどを併用する.この動脈損傷は極力避けたい合併症で,これを避けるためにはコメガーゼを押し込む方向,手術方向を垂直よりやや斜め下方にとる.④視神経管隆起の露出・視神経管管壁の除去篩骨蜂巣を除去しながら奥へ進むとやや平坦な後篩骨洞・蝶形骨洞隔壁に達する.この隔壁は皮膚面から約4,5cmの深さに相当する.この時点からは逆に顎をやや突き出すように命じると上方の視野が見やすくなる.隔壁を穿通するとその奥は深く暗く見える蝶形骨洞である.隔壁を除去しながらこれに沿って上方に進むと眼窩先端から手前奥にむかう半管状に盛り上がった視神経管隆起が確認できる.この露出した視神経管管壁を細い骨鋭匙を用いて手前に引っかく要領で部分的に数mm除去し視神経(硬膜)を露出する(図8).視神経を包むこの硬膜は白色でやや光沢があり特徴的な色調である.硬膜の露出で視神経の減圧を終了したと考える.最後に出血のないことを確認した後,骨膜縫合(図9)と皮膚縫合(図10)を行い手術を終了する.⑤術中合併症術中に髄液漏が確認された場合にはその時点で手術を中止し,コメガーゼで圧迫し自然閉鎖を待つ.大部分はこれで髄液の漏出は止まり問題はないが,どうしても拍(60)図7篩骨蜂巣の除去4%キシロカイン?,5,000倍エピネフリンを浸したコメガーゼで粘膜麻酔と止血を交互にくり返しながら篩骨蜂巣を除去する.図8視神経(硬膜)の露出後篩骨洞・蝶形骨洞隔壁に沿って上方へ進むと半管状の視神経管隆起に達する.この骨壁を骨鋭匙で部分的に除去する.?視神経.図6骨窓形成前頭洞の一部をかすめて前篩骨洞に入る.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???(61)動性の髄液漏が止まらない場合には脳神経外科医の処置をあおぐ.自験例723例のうち髄液漏は13例(1.8%)であった.⑥術中の留意点*常に患者の頭の位置に留意し,手術方向を確認する.患者は疼痛や恐怖心などから顎を上げたり,横向きになりがちで,手術方向を誤る可能性がある.誤って眼窩に入ると激しい痛みを訴える.同時に眼窩脂肪の脱出をきたすため手術が困難になる.*篩骨動脈の損傷を避ける.この血管は比較的浅い前篩骨洞上方を走るため手術方向をやや下方にとり,圧排する要領で損傷を避ける.*術中に出血が口腔内に流れることがあり,このことを患者にあらかじめ説明しておき,誤飲しないよう術中まめに口腔内の吸引を行う.(4)術後の治療一般的な消炎酵素剤と抗菌薬を約7日間投与する.(5)術後合併症筆者は篩骨動脈を損傷したが止血も十分に行われ順調に手術を終了できた症例で,術後7日頃に動脈性の副鼻腔出血を生じた1例を経験している.このときは急遽耳鼻科医によるベロックタンポナーデ処置をお願いし事無きを得た.また術後副鼻腔?腫の発症を1例経験している.術後の感染症の経験はなく術後合併症は少ないと思われる.文献1)深道義尚,篠塚清志,林正泰ほか:視神経管骨折の病因と治療.日眼会誌71:1909-1938,19672)松崎浩,北原健二,堀内二彦ほか:視神経管内構築に関する研究.宿題報告,神経眼科に関する諸問題.日眼会誌89:132-161,19853)稲富誠:経篩骨洞視神経減圧術.眼科手術3:53-57,1990図9骨膜縫合(6-0バイクル糸)図10皮膚縫合(6-0ナイロン糸で連続埋没縫合)

眼窩壁骨折

2007年5月31日 木曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS候を把握する.眼窩壁骨折の症状・症候は,眼瞼腫脹,眼球運動障害,複視,眼球運動時痛,眼球陥凹,?部のしびれや知覚低下などであるが,緊急手術を要する可能性の高い症状・症候としては,嘔気,嘔吐,頭痛,非常に強い眼球運動障害と眼球運動時痛がある.眼瞼腫脹は,外傷そのものによる場合の他に,受傷後に鼻を強くかんだための眼窩内気腫による場合もある.その場合,同時に眼球突出や複視の出現もしくは悪化をきたすことがあり,初診時に,約1カ月間は強く鼻をかまないことを患者に指導する.眼球運動障害,複視,眼球運動時痛は,その骨折の部位や程度,外眼筋や筋周囲の眼窩内組織の眼窩外への脱出量や絞扼の有無によって程度はさまざまであるが,一般的には開放型骨折で多量の眼窩内組織の脱出,閉鎖型骨折で筋の絞扼がある場合に症状が強い.特に閉鎖型骨折で筋が絞扼されている場合は,迷走神経反射のため前述したように嘔吐,嘔気,頭痛も伴い,救急受診した医療機関で眼窩壁骨折を見逃され,脳外科や消化器内科でしばらく入院し精査されたといった症例もしばしば経験する.眼球陥凹は,骨折によって眼窩内容積が増大することで生じ,特に内壁骨折では外見上陥凹を認めやすいが,受傷後すぐでは外傷による腫脹のためにわかりづらく,経過観察中に目立ってくることもしばしばである.片側性の?部,上口唇の知覚低下は,下壁骨折で三叉神経第2枝が傷害されることにより生じ,受傷後約半年から1年くらいかけて徐々にはじめに眼窩壁骨折は,眼科日常診療でしばしば経験する疾患であるが,初診時の診察機会の多い眼科医が眼窩壁骨折の診断を下した後,患者は形成外科や耳鼻咽喉科に紹介され,眼科医の知らないところで手術が施行され,その後の経過もわからないままになっていることが多いのが実情である.しかし,眼窩壁骨折治療の大原則は「正常な眼球運動を目指す」ことであり,Hesschartや両眼単一視領域などの眼球運動の検査を施行し,適切な検査結果診断が可能なのはやはり眼科医であることも事実である.眼窩壁骨折が患者のQOL(qualityoflife)を著しく低下させる可能性がある疾患である以上,その診断,治療(手術),その後の経過観察を一貫して眼科医の手で行えるのがベストと筆者は考えている.本稿では,眼科臨床医の眼窩壁骨折診療の一助となるべく,その診断,手術適応,術式および術後経過観察上のポイントについて紹介する.I診断1.初診時の診察眼部,眼部周囲の外傷により眼窩壁骨折がひき起こされるが,初診時の診察では,受傷時の状況を詳細に問診する必要がある.受傷日,受傷機転(スポーツ,喧嘩,交通事故,転倒,偶発的接触などが多い1)),受傷後から現在までの自覚症状とその変化などを問診し,患者の視診を行う.眼内病変の有無について検査し,症状・症(49)???*AkihideWatanabe:京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕渡辺彰英:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学特集●眼科臨床医のための眼形成・眼窩外科あたらしい眼科24(5):587~593,2007眼窩壁骨折????????????????????????渡辺彰英*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007改善することが多い.2.検査症状・症候を把握し,視力,眼圧,細隙灯検査,眼底検査などの眼科一般検査の後,Hesschart(図1),両眼単一視領域(図2)の検査を行う.Hesschartは,必ず30?の枠まで検査する.著明な眼球運動障害の患者では15?の枠でも変化がでるが,15?以上30?未満の眼球運動障害を検出しなければ,多くの眼窩壁骨折の患者の眼球運動障害を正確に診断することはできない.また,最低限上下左右で30?以上は単一視可能な視野がなければ日常生活レベルでも複視を自覚し不自由なことが多い.眼窩壁骨折に限らず,Hesschartは30?まで施行することを原則として考えたい.両眼単一視領域の検査は30?以上での複視の検出に有効である.また,日常的な単一視の範囲を調べるのに有効で,単一視可能な範囲を容易に把握できる2).Goldmann視野計のV-4eで測定する3).牽引試験(forcedductiontest)は,古くから眼窩壁骨折の診断に用いられていたが,CT(コンピュータ断層撮影)などの画像診断による骨折部の詳細な把握が可能となった現在,牽引試験は無意味なだけではなく,患者に強い痛みを強いるうえ,筋絞扼型ではさらなる筋の挫滅を生じる危険性があり,外来では禁忌である2).全身麻酔下での手術直前に抵抗の程度を判断するために初めて行うべきものである.画像検査は,骨折の診断および手術適応の決定に必須である.単純X線で詳細な骨折部の把握は困難であるため,眼窩壁骨折を疑えば,迷わずCTをオーダーす(50)図1Hesschart必ず30?の枠まで検査する.左:左眼窩下壁開放型骨折術前,右:術後.図2両眼単一視領域Hesschartでは検出できない複視を検出できる.左:左眼窩下壁開放型骨折術前,右:術後.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???る.眼窩上縁から上顎下縁までの範囲をできるだけ細かいスライス(2mm以下)で撮影し,冠状断と矢状断を再構成する.再構成に時間がかかるような施設であれば,まずは水平断および冠状断をそれぞれ撮影し,手術を行う場合は手術までには矢状断を再構成してもらうのが望ましい.しかし,directcoronalscanは歯にかぶせた金属がある場合,artifactが強くでる4).水平断は内壁骨折の診断はしやすい反面,下壁骨折の診断は慣れるまではややむずかしいが,左右の上顎洞の形状を見比べながらみていくとわかりやすい.また,骨折している場合は上顎洞内に出血していることが多く,左右の上顎洞内の血液貯留も比べてみると良い.冠状断は内壁,下壁とも診断しやすく,矢状断は下壁骨折の奥行きを把握しやすい.2次手術の症例や受傷から相当な時間が経過した症例などで,眼窩内組織の状態を詳細に把握したいとき,たとえば壁と眼窩内組織の癒着などをみたいときには,MRI(磁気共鳴画像法)が有用である.特にcinemodeMRIは眼球を動かしながら撮影する方法で,筋の伸縮の程度や眼窩組織の癒着の有無などを動画で評価することができる.3.画像診断および治療方針眼窩骨折を疑い,CTを撮影したら眼窩壁骨折の有無や程度を診断するが,その際,眼窩以外の部位の骨折を見逃さないことが重要である.?骨骨折,頭蓋底骨折,鼻骨骨折,前頭骨骨折,下顎骨折,顔面多発骨折,視神経管骨折,頭蓋内出血を合併していないか,必ずチェックする.顔面の骨折は,可能であれば3D-CTを撮影すると評価しやすい.頭部外傷も合併している場合は,頭部CTも必ず撮影する.外傷の部位や顔貌の変化,髄液漏(透明な鼻水が継続している)の有無などを考慮して,CTをオーダーすることが重要である.眼窩壁骨折の診断は,通常の軟部組織陰影を中心としたsofttissuewindowでわかりやすいが,頭蓋底骨折などは骨陰影を中心としたbonewindowのほうがわかりやすいこともある.頭蓋内病変,頭蓋底骨折,髄液漏などの合併を認めれば,ただちに脳神経外科へコンサルトする.眼窩壁骨折よりもそれらの治療が優先されるからである.?骨骨折,鼻骨骨折などの顔面骨折を認めれば,形成外科も(51)図3左眼窩下壁開放型骨折左上下:術前,右上下:術翌日.上段:冠状断,下段:矢状断.人工骨(アパセラムシート)およびシリコーンプレートを用いて整復.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007しくは耳鼻科にそれらの骨折の治療方針についてコンサルトし,眼窩壁骨折の治療と合わせて合同手術もしくは主となる科による単独治療かを相談する.眼窩壁骨折は開放型と閉鎖型に分類される.部位では,眼窩下壁骨折,内壁骨折,内下壁骨折に分類でき,眼窩下壁骨折の好発部位は眼窩下神経溝の内側である.ここでは,開放型骨折,閉鎖型骨折に分けてその画像所見の特徴および手術を行うべきか経過観察するべきかの判断のポイントを述べる.a.開放型骨折開放型骨折(図3,4)では,骨片の転位,眼窩内組織の脱出を認める.眼窩内容の脱出や筋の偏位が軽度であれば,眼球運動はそれほど障害されていない場合もある.軟部組織や筋の腫脹,浮腫や眼窩内気腫のみの場合は,可逆的変化であり,経過観察できる.眼窩内容が多量に脱出している場合は,骨片は大きく転位し,筋の偏位の程度も大きいため,日常生活に支障をきたす眼球運動障害を残すことが多い.脱出した眼窩内組織が瘢痕化をきたす以前の,受傷後1週間以内の手術が望ましい.1週間以上経過していても,可能な限り早期に(できれば2週間以内)手術を行い,眼窩内組織を整復し筋の走行を正常化することでHesschart上は正常となることも多い.手術を行うべきか否かは,受診時のHesschart,両眼単一視領域,CT,受傷からの経過日数などから総合的に判断するが,Hesschartで異常が認められる,つまり両眼単一視領域が30?未満の場合は,軽度の骨折でCT上可逆的変化のみ認める場合を除いて,通常手術適応であり,2週間以内の手術が望ましい.また,おもに内壁骨折では眼球陥凹が受傷後の腫脹軽減とともに目立ってくる場合が多く,眼球運動が正常であっても,陥凹改善のために手術を行うこともある.b.閉鎖型骨折閉鎖型骨折は,骨に弾力のある小児に起こりやすい5).一旦骨折し副鼻腔側へ吹き抜けた瞬間に眼窩内組織が脱出したが,骨片がその弾力によって元の位置に戻ることで,脱出した眼窩内組織を絞扼した状態である.外傷で眼部打撲の後に,強い嘔気,嘔吐,頭痛,眼球運動時痛を呈している場合は要注意である.特に筋自体が絞扼されている場合は著明な眼球運動障害を示す.閉鎖型骨折では,結合組織(connectivetissueofsepta)のみが絞扼されている場合と,筋まで絞扼されている場合(図5)があり,いずれも手術が必要であるが,特に筋まで絞扼されている場合は手術が遅れれば筋組織の壊死が進行し,重篤な眼球運動障害を残すため緊急手術を要する.典型的な画像はmissingrectusといい,CTで筋陰影が正常の走行部位から途中消失している所見である.(52)図4左眼窩内壁開放型骨折左:術前,右:術翌日.術前眼窩内気腫を認める.人工骨(アパセラムシート)およびシリコーンプレートを用いて整復.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???II手術の実際骨折部の不可逆的な変化による眼球運動障害および眼球陥凹が手術の適応である.全身麻酔下にまずforcedductiontestを施行し,整復前の眼球運動時の抵抗をみる.術終了時に,同様に行い,その改善を確認する.眼科用顕微鏡では骨折深部を観察するのが非常に困難であるため,コントラバス型の,角度を自由に変えることができるような顕微鏡が望ましい.顕微鏡およびベッドの角度を調整しながら行えば,眼窩深部の骨折であっても必ず観察できる.手術方法は,原則的に経眼窩縁アプローチで行う.経副鼻腔アプローチによるバルーン留置による手術方法は,骨膜が保たれている症例ではうまくいくことがあっても,骨膜が破綻している場合がほとんどであり,副鼻腔から脱出した眼窩内組織をきちんと整復し,術後の癒着を防ぐことは経眼窩縁アプローチと比較して困難であることは明白であり,その適応は慎重でなければならない.手術の目的は,正常な眼球運動への回復を目指すことが大原則であり,決して画像上の骨折部の正常化のみではない.眼窩下壁骨折の展開は,下眼瞼睫毛下約3mm下方に自然皺に沿った皮膚切開から,内壁骨折の展開は前涙?稜から滑車付近のrimに沿った皮膚切開からアプローチする.下壁では眼輪筋と眼窩隔膜の間を鈍的に?離し,内壁では眼輪筋および眼輪筋下の結合組織を分け,骨膜へ到達する.いずれも眼窩隔膜を穿孔し眼窩脂肪が脱出すると手術がやりにくくなるため注意する.骨膜を切開し,?離する.骨折部に到達すると眼窩内組織が脱出していることが確認できるが,やみくもに組織を引き上げるのではなく,まずは骨折縁の周囲の?離を進め,残った骨膜ごと組織を引き上げるようにすると,眼窩内組織を痛めずに整復できることが多い.マイクロ鑷子,バイポーラ,剪刀,鋭匙,糸つき小綿などと吸引嘴管を組み合わせて整復する.受傷後間もない場合は整復もしやすいが,陳旧例では瘢痕化が進行しており,バイポーラで凝固止血,切断をくり返しながら丁寧に組織を分離する1).骨折縁の全周を確認できたら,整復した組織が再度脱出しないように,また骨との癒着を防ぐためにシリコーンプレートを骨折縁の全周を覆うように挿入する.閉鎖型骨折などで骨膜が縫合可能な場合は不要である.シリコーンプレートを使用することについては国内外でいろいろな意見があるが,手に入れやすく,症例に合わせた形状のトリミングも簡便であり,非常によい人工材料であると筆者は考えている.異物であるため術後に線維性被膜がプレート周囲に形成されるが,それが破綻した骨膜の代わりとなる.術後の眼球運動の回復は良好であ(53)図5左眼窩下壁閉鎖型骨折左:冠状断,右:矢状断.筋絞扼を認め,嘔吐,頭痛,眼球運動障害が著明であり,緊急手術の適応である.———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007(54)り,シリコーンプレート周囲に形成される血腫の問題は2次的に抜去すれば解決する6).シリコーンプレートを挿入した後,転位した骨片を引き上げる.骨片が小さく粉砕してしまっている場合や,強度が低下してしまっている場合は,人工骨(アパセラムシート)や厚めのシリコーンプレート(1mm)を用いて骨壁を再建する.上顎洞の側壁まで骨折が及んでいる場合,アパセラムシートがうまく固定できないこともしばしばであるが,そのような場合はKirschner鋼線を用いて下壁の直下でアパセラムシートを支持している(図6).眼窩壁骨折の初回手術は大変重要であり,初回手術で術後の眼球運動の予後が決まるといっても過言ではない.それは,やむを得ず2次手術になった症例の経験から明らかである.眼窩壁骨折の程度は症例によってさまざまであり,当然手術の難易度も異なってくるため,初回手術を行う場合はその適応を慎重に判断し,難易度の高い症例については専門施設へ紹介する選択肢も常に念頭においておく必要がある.III術後の経過観察術後は眼球運動の回復目的にリハビリを指導する.指を上下,左右方向へ動かし両眼で追わせる追視運動,ベッド上でぶら下げたコインを動かし両眼で追わせるコインリハビリを指導し,退院後も少なくとも指の追視運動は自宅や外出先で継続するよう指導する.術後の眼球運動は,骨折の部位や程度,年齢によって個人差はあるが一般的に3カ月から半年くらいかけて徐々に改善することが多く,その間のリハビリは眼球運動の回復に非常に重要である.外来ではHesschart,両眼単一視領域検査を行いながらフォローする.シリコーンプレートを挿入した場合,約3カ月以降で2次的に抜去するのが望ましい6).術後早期から中期,晩期に至るまで常にシリコーンプレート周囲に血腫形成図7シリコーンプレート周囲の血腫眼窩骨折整復術後約2年で血腫形成した症例.突然の眼位上昇で来院した.シリコーンプレート抜去および血腫吸引を行った.図6Kirschner鋼線固定広範囲の骨折や複雑な骨折の場合に,人工骨を固定する目的で刺入する.先端は蝶形洞内にある.約3カ月後に抜去する.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???(図7)の可能性がある.特に若年者の場合,将来的に血腫を形成し眼位上昇,眼球運動障害をくり返すのは必発であり,予防的に抜去を勧めるべきであると筆者は考えている.シリコーンプレートの抜去は眼窩縁近傍のシリコーンプレート周囲の被膜に切開を入れ,シリコーンプレートのみ抜去してしまえば,周囲の線維性被膜は保たれたまま血腫は二度と形成されない.シリコーンプレート抜去後は骨折の一連の治療も終了できるうえ,シリコーンプレートを抜去することでさらに眼球運動が改善する症例も筆者は多く経験している6).おわりに眼窩壁骨折の治療は,その目的が眼球運動の正常化である以上,眼科医によって行われることが望ましいと筆者は考えている.眼科医の手によって眼窩壁骨折を適切に治療できる施設はまだ全国的には少数であるが,将来的には各都道府県に1施設以上眼窩壁骨折の治療可能な眼科があれば,眼窩壁骨折の診療レベルは飛躍的に向上すると考えられ,将来眼窩壁骨折の治療に携わる眼科医の増加が期待される.文献1)荒木美治,中村泰久:眼窩壁骨折,損傷.あたらしい眼科20:1653-1658,20032)荒木美治:初期診療と治療への展開.あたらしい眼科21:1597-1602,20043)中村泰久,小野一郎:眼窩部の骨折.新図説臨床眼科講座眼部救急医療/腫瘍(中村泰久編),p122-151,メジカルビュー社,19994)嘉鳥信忠,柿崎裕彦:眼窩壁骨折の画像診断.あたらしい眼科21:1603-1609,20045)JordanDR,AllenLH,WhiteJetal:Interventionwithindaysforsomeorbital?oorfractures;Thewhite-eyedblowout.???????????????????????????14:379-390,19986)渡辺彰英,嘉鳥信忠:眼窩壁骨折整復術後のシリコーンプレート抜去術施行症例の検討.聖隷浜松病院医学雑誌6:22-25,2006(55)

後天性涙道閉塞の診断と治療

2007年5月31日 木曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS進めると無理なく入る(図1b).総涙小管では前方へ屈曲して涙?へ接続する2)ので,涙?まで入るときは注意する.③成人では,涙?へ挿入したブジーなどの傾きは,鼻涙管の傾斜角度と一致しないことが多い.約70%の症例で鼻涙管はブジーより前方へ向かう(図はじめに後天性涙道閉塞は涙?洗浄(以下,涙洗)をくり返しても決して治らない.早期症例であれば涙道内視鏡を用いた低侵襲外来手術で涙を止めることができるが,晩期変化が進行してしまえば,専門家によるむずかしい手術が必要になることが多い.漫然とした涙洗通院で様子をみるうちに早期治療を逸しないよう心がけたい.これから涙道手術に取り組もうとする一般眼科医に向けて,後天性涙道閉塞の診断の基礎と治療の概略を解説する.I基礎編1.涙道の構造の最重要ポイント涙道の構造全体については,すでに簡単に紹介した教科書1)があるので省略する.ここでは,涙道にモノを差し込む操作に最低限必要となる初歩知識について解説した.①上涙点から涙?へはスムーズに連絡しているが,下涙点からは,下涙小管と総涙小管の接続部分で上方へ屈曲する2).したがって,ブジー,涙道内視鏡,チューブは上涙点からのほうが涙?へ入りやすい(図1a).②涙小管水平部は深部の涙?へ向かって斜め後方へ走る.したがって涙洗針は涙点に挿入した後,やや後方へ先端を向けるとスムーズに通水する.涙点プラグや涙道内視鏡の挿入などで涙点を大きく拡張する場合も,拡張針をやや後方へ向けながら(41)???*ToruSuzuki:鈴木眼科クリニック〔別刷請求先〕鈴木亨:〒808-0102北九州市若松区東二島4丁目7-1鈴木眼科クリニック特集●眼科臨床医のための眼形成・眼窩外科あたらしい眼科24(5):579~585,2007後天性涙道閉塞の診断と治療?????????????????????????????????????????????????????????????????????鈴木亨*図1涙道の構造a:右の涙道.総涙小管が涙?に開く口を内総涙点とよぶ.軟部組織だけみると涙?と鼻涙管は区別できず,上顎骨のnasolacrimalcanalに潜り込む部分を鼻涙管としている.鼻涙管開口部のポケットにチューブが引っ掛かりやすい症例があることに注意.b:上からみた右の涙道の冠状断面.c:ブジーなどの挿入角度は眼窩上縁で制限を受けるので,涙?の後壁に突き当たる.acb鼻涙管の走行方向ブジーブジーブジー涙?涙小管前涙?稜後涙?稜ポケット内総涙点涙?鼻涙管———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.5,20071c).盲目的操作では,ブジーなどは鼻涙管まで挿入できないと考えたほうがよい.2.涙道閉塞の病型涙小管水平部から内総涙点までに閉塞病変があるものを涙小管閉塞症,涙?内から鼻涙管開口部までに閉塞病変のあるものを鼻涙管閉塞症とする(図2).涙点が硬く癒着している症例は涙小管閉塞症の重症例であることが多く,涙点狭窄の症例では涙道内にも狭窄があることが多い.3.涙小管の閉塞様式涙小管閉塞症で最も多いのは内総涙点に膜様組織が生じた病型で,初期のものでは膜はクモの巣のごとく,あるいは障子紙のように柔らかいのでブジーや涙道内視鏡などで簡単に穿破できて涙?へ入れる.晩期になると膜は厚く硬くなり,簡単には穿破できなくなる.総涙小管の近位や涙小管水平部に生じた閉塞は一般に硬いため,一般眼科医では治療できない.特に涙小管水平部閉塞では専門家の手術でも再開通(recanalization)することはできない場合が多く,この点に注目して図3に示したような涙小管閉塞症の重症度分類とむずかしい手術手技を提案した報告3)もある.また,一部の抗癌剤の投与患者で涙点から涙小管水平部にかけての閉塞が急速に発症,進行することが知られており4),癌治療を行う総合病院の眼科では重要チェックポイントとなる.4.後天性鼻涙管閉塞症における鼻涙管の閉塞様式後天性鼻涙管閉塞症は涙?から鼻涙管開口部までどの位置でも起こるが,手術中に骨鼻涙管内の膜性鼻涙管を摘出して閉塞組織を調べた研究5)があり,その発生機序から進行様式までが推察されている.鼻涙管粘膜は涙小管と異なって上皮層の下に海綿体様の組織を有する(上皮下結合組織層).この層に原因不明の炎症で浮腫が生じ,鼻涙管内腔で上皮同士が接近して癒着することで鼻涙管閉塞症が発症する.発症後1年以内の早期(earlyphase)であれば閉塞組織内に上皮細胞が残存しており,(42)図2涙小管閉塞症(上段:a~e)と鼻涙管閉塞症(下段:f~j)a:内総涙点の膜形成.b:総涙小管の近位での閉塞症例.c:一方の涙小管水平部遠位での閉塞症例.d:両方の涙小管水平部に及ぶ閉塞症例.e:涙小管水平部近位のみの閉塞症例.f:涙?下端での閉塞症例.g:涙?内癒着で涙?スペースが小さい症例.h:下方ほど内腔が細くなる下部鼻涙管閉塞症(すり鉢状狭窄).i:涙?から鼻涙管に狭窄リングと拡張部分をくり返す症例(数珠状狭窄).j:下部鼻涙管が拡張している下部鼻涙管閉塞症(下部拡張型).このうちa(内総涙点の膜形成)のDSIと,f(涙?下端での閉塞)のDSIまたはDCRについては一般眼科医でも成績良好.edcbajihgf———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???上皮下結合組織層の消炎によって鼻涙管粘膜の再生の可能性があるが,2~3年までには上皮細胞は消失して上皮下の線維化が進行した時期(latephase)となり粘膜再生は期待できなくなる(表1).つまり涙洗通院などの保存的治療を続けることで,鼻涙管そのものの再建はますますむずかしくなるといえる.II術前編1.問診おもに流涙の発症時期について問診することが重要である.罹病期間の長さと閉塞組織の状態がある程度関係しており,有効な治療法が異なる.特に鼻涙管閉塞症に関しては,流涙発症後3年を超えるとシリコーンチューブ留置術では治りにくい6)ことが明らかにされており,問診が治療方針の決定に参考となる.2.スクリーニング検査a.細隙灯検査まず細隙灯検査でドライアイやアレルギー性結膜炎,結膜弛緩症などの有無を調べ,それらの治療を優先する.また,涙液メニスカスの高さ(TMH)の観察は,涙道治療の経過観察に大変に役立つ.閉塞病変が涙点に近いほどTMHは高くなり,ドライアイが合併していれば涙道閉塞があってもTMHは高くならないことに注意する.b.涙洗涙洗では通水の有無そのものよりも,逆流する症例において上下交通の有無を知ることがポイントである(図4).下涙点から通水して上涙点から水が帰ってくれば,少なくとも上下の涙小管ループは開存しており,水平部閉塞がないことが証明される.この場合は,一般眼科医でも治療できる病型である可能性があるので精密検査へと進む.しかし上下交通がない場合は閉塞が水平部に及んでおり本格的な涙道手術の適応となるので,それ以上(43)表1鼻涙管閉塞症の病期分類罹病期間病期(phase)閉塞組織の病理変化~1年1~3年3年~EarlyIntermediateLate上皮下の炎症と上皮の癒着上皮下の消炎と部分的な線維化線維化の進行と上皮細胞の消失罹病期間は流涙が発症してからの経過年数.EarlyphaseのうちにDSIを済ませたい.LatephaseではDCRが必要となる.図3涙小管閉塞症の重症度分類(矢部分類)Grade1:ブジーが涙点から10mm以上入る.Grade2:ブジーが5mm以上は余裕で入る.Grade3:ブジーを無理に押し込んでも5mm以下しか入らない.10mm,5mmの基準は覚えやすいので便利であるが,あくまでも目安として考えたほうがよい.実践的な感覚では,涙洗で上下交通があればGrade1,上下交通がなければGrade2,涙洗針がうまく入らなければGrade3と判断してかまわない.Grade1のみが一般眼科医でもDSIで成績良好.その他は専門家による涙小管形成術の適応.Grade1Grade2Grade3ブジーブジーブジー図4涙洗での観察ポイント涙洗では涙小管水平部閉塞の有無の判定が最重要.排膿の有無は治療方針と関係がない.対側の涙点から水が漏れ出る様子を顕微鏡下に観察する.?———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007の精密検査は必要なく専門家への紹介を検討する.ただし,逆流がはっきりしない場合でも,涙道内視鏡検査では涙小管水平部の狭窄や鼻涙管開口部で狭窄がみられることもあり,涙洗ですべての涙道通過障害がスクリーニングできるとは限らない.c.ブジー涙小管閉塞症では,ブジーを涙道に挿入して突き当たったところが閉塞部付近と考えてよい.しかし鼻涙管閉塞症では,図1cでわかるようにブジーの突き当たりが閉塞部である確証はなく,閉塞部より近位の随伴狭窄病変や正常な涙?後壁のこともあるので十分注意する.また,総涙小管遠位での閉塞では,ブジーで突き当たった部位に骨様感触があれば涙?内が癒着した鼻涙管閉塞症,骨との間に軟部組織が介在する感触であれば涙小管閉塞症の可能性が高い(図5).3.涙道精密検査(涙道精査)スクリーニング検査で涙道の通過障害を調べた後,その原因を調べて手術方針を検討するためには涙道精査が必要である.涙道精査は客観的な術後評価方法の一つでもあり,術後にも必要である.a.涙道造影検査伝統的な重要検査であり,涙道内視鏡検査のできない施設では唯一の涙道精査方法となるが,本稿では省略する.b.涙道内視鏡検査7)涙道内視鏡を用いれば,涙道内の様子をモニターに拡大して直接観察できるので,術前のみならず術中にも有用である(図6).表2にあげたように閉塞の病型によって治療方針などが異なり,術前や術中に涙道内腔の状態を詳細に知ることは重要である.また,涙道は粘膜の管であるので感染性があると考えるべきで,検査前には血液検査で肝炎ウイルス程度は検索して内視鏡検査による院内感染の予防に努める必要がある.(44)図5鼻涙管閉塞症か涙小管閉塞症か?ブジーの感触が曖昧な症例もあって,術中と術前の診断が一致しないこともある.また,総涙小管に涙?粘膜組織が入り込んでいる症例も多く,内視鏡所見でも術前には確定できない場合がある.ブジーブジーコツコツ♪トントン♪総涙小管閉塞涙?内癒着「涙小管閉塞症」「鼻涙管閉塞症」図6涙道内視鏡と検査の様子a:ファイバーテック社(東京)の涙道内視鏡.2002年に「涙道ファイバースコープ」という商品名で,涙道の検査と治療を行う目的のもとに薬事認可を受けた.b:涙道内視鏡検査の様子.涙道内麻酔(キシロカイン?点眼液で涙洗する)が必要だが,注射は不要.涙点は拡張するが切開不要.検査だけなら時間は1分以内.外来で施行する.ab———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???c.CT(コンピュータ断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像)などの画像診断涙道から発生する腫瘍はきわめて稀であるが,副鼻腔の術後?胞などが涙道の問題に関与している場合は少なくないので画像診断は有用である.III手術編1.シリコーンチューブ留置術(siliconeintubation)涙道の閉塞を何らかの方法でrecanalizationさせた後に一時的ステントを留置し,涙道再建を期待する方法である.ステントは一定期間の後に抜去してその後の再発の様子を観察するが,一般に経過とともに再発症例が増え通院期間は長期にわたる.涙道ステントとしては伝統的にシリコーンチューブが主流であったが,最近では衛生面などの理由からポリウレタン製のチューブを選択する術者が増えてきた.手術の進め方にはつぎの2種類がある.a.涙管チューブ挿入術皮膚切開を行わずに閉塞部をブジーなどで穿破し,チューブを涙点から挿入する方法である.従来すべて盲目的操作に頼りながら進めていた手術方法で,涙小管閉塞症の治療法とされていた.現在ではヌンチャク型シリコーンチューブや鼻内視鏡,涙道内視鏡の導入によって成績が向上し,涙?炎を伴うような鼻涙管閉塞症に対しても適応があると考えられるようになった.わが国ではdirectsiliconeintubation(DSI)8)の通称でよばれて広く行われるようになったが,内視鏡の使用状況には施設によってばらつきが大きく,まだ盲目的操作に頼る伝統的な手法も生き残っている.涙洗で上下交通のある涙小管閉塞症Grade1や,流涙発症後1年以内の早期鼻涙管閉塞症に対して有効である.閉塞組織が柔らかい場合,涙道内視鏡で見ながら軽くプロービングするだけで閉塞は簡単に穿破される〔内視鏡直接穿破法(directendoscopicprobing:DEP)〕9).その向こう側に涙道内腔(お迎えの穴)が確認できる場合は,閉塞した管がrecanalizationできたと考えてチューブを留置する.どの閉塞病型でも,涙?や鼻涙管内では単一腔内に2本のチューブが不具合なく留置されなければならない.鼻内視鏡で鼻内を観察して鼻涙管開口部からチューブが正しく出ていても,約20%の症例で涙道内ではチューブの粘膜下挿入などの不具合がある10).特に鼻涙管閉塞症では術後経過に直接関係するので,チューブの不具合の確認と修正は不可欠である.慢性涙?炎を伴う症例では,涙?に涙石が見られることがある.小さな涙石は涙道内視鏡下に鼻涙管を経由して下鼻道まで排出できる場合があるが,無理な涙石排出操作の結果,眼窩蜂巣炎様の急性症状を起こしたとの学会発言もある(文献未作成).術前の涙道精査で涙石が見られる場合はDSI以外の方法を検討するのが無難である.(45)表2涙道内の様子と手術方針涙小管閉塞症手術Grade1Grade2Grade3鼻涙管閉塞症DSI→だめなら涙小管形成涙小管形成DCRしてJonestube移植など手術Ⅰ器質的閉塞がないもの1)涙?結石,停留チューブ2)白色の綿花様混濁物涙石やチューブの摘出混濁物の内視鏡下洗浄Ⅱ器質的閉塞1.閉塞組織が柔らかい症例はまずDSI(Earlyphase症例,クモの巣状閉塞7))2.閉塞組織が硬い症例はDCR(Latephase症例が中心となる)1)涙?下端の閉塞2)涙?内癒着,数珠状狭窄3)下部鼻涙管閉塞症鼻外法,鼻内法,初心者可鼻外法,鼻内法,上級者向き鼻外法,鼻内法,下鼻道法,上級者向き———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007b.涙小管形成術皮膚を切開して涙?を開け,顕微鏡下に涙?内腔を直視しながら進める方法11)である.DSIで対応できなかった涙小管閉塞症に対して適応がある.涙?を開けることで,直視下に内総涙点の厚い膜を剪刀やメスで切開することができるだけでなく,内総涙点から小川拡張針やピッグテールプローブを挿入して涙小管水平部を逆行性に探索できるので,症例によっては水平部近位に限局した硬い閉塞を穿破できる場合もある.矢部分類Grade1~2程度では涙小管形成術が奏効することが多いが,Grade3に相当するような重症例では涙小管の再建は困難であるのが実情で,DCRを併用したより専門的な手術が適応となる場合が多い.2.涙?鼻腔吻合術(DCR)涙?の一部や鼻涙管の閉塞のrecanalizationを諦め,閉塞部よりも上方の眼窩内壁に骨窓を作製し,涙?から鼻腔への吻合を作る手術方法である.本来は鼻涙管閉塞症や狭窄症の治療法であるが,涙小管形成術の際に,その成績を保証するため鼻涙管に異常がなくてもDCRを追加施行する考え方もある12).その吻合口はリノストミーとよばれるが,正しく手術すればリノストミーは術後早期に安定するものが多い.リノストミーの安定後は再発も少ないため,シリコーンチューブ留置術に比較して通院も短期となる.リノストミーを作る方法には,皮膚切開の後に顕微鏡下に骨窓を作製して涙?と鼻粘膜を縫合する方法(鼻外法)13)と,皮膚は切開せず鼻内から内視鏡下に骨窓を作製して涙?と鼻粘膜は縫合しない方法(鼻内法)14)がある.鼻内法は慣れれば短時間で終了するので術中は医師と患者の双方に低負担となるが,術後早期において,リノストミーの肉芽形成や鼻粘膜癒着のため鼻内処置の手間がかかる症例がある.また,下部鼻涙管閉塞症に対しては骨窓を作らず内視鏡下にDCRする方法も一般化してきている(DCR下鼻道法,下部鼻涙管鼻腔吻合術15)).おわりに一般眼科医の守備範囲は早期症例のDSIと涙?下端(46)での閉塞例のDCRと考えてよい.実際の外来では,涙道閉塞が疑われれば涙洗で上下交通の有無をみて,その後の方針を振り分ける.上下交通がなければ涙小管水平部の閉塞で,その手術はむずかしいため専門家への紹介を考えるのが無難である(涙小管形成術and/orDCRなどの適応).水平部にさえ閉塞がなければDSIで対応できる可能性があるので,感染症検索のための採血とDSI予約をする.予約再来にて涙道内視鏡を用いて涙道精査とDSIを同時に試み,DSIが困難な状況がわかれば他の方法(自分でDCRできる症例か,専門家に依頼すべき症例か)を検討する.涙道精査をせずに,ブジーの触診だけをたよりにDSIまで行うことは危険である.ブジーの突き当たった場所が閉塞病変でなかった場合は医原性涙道粘膜裂孔を作り,そこへチューブが誤挿入される結果,抜去のむずかしい停留チューブ症例となる場合もある16).涙道内視鏡が使えない場合は,術前に涙道造影検査で閉塞部位を確かめることが必要である.安全と確実が体表から見えない涙道の治療の最重要ポイントであることは,涙道内視鏡のなかった過去の論文11)に書かれたときから変わっていない.文献1)鈴木亨:涙道.眼科プラクティス,6巻眼科臨床に必要な解剖生理(大鹿哲郎編),p69-75,文光堂,20052)TuckerNA,TuckerSM,LinbergJVetal:Theanatomyofthecommoncanaliculus.???????????????114:1231-1234,19963)矢部比呂夫:涙小管閉塞の分類と術式選択.臨眼50:1716-1717,19964)加藤秀紀,尾本聡,久保寛ほか:ドセタキセルによって涙道閉塞をきたした3例.臨眼58:1463-1466,20045)StevenAM,JVLinberg:Pathologyofnasolacrimalobstruction.LacrimalSurgery,ContemporaryIssuesinOphthalmology(5)(edbyJohnVL),p169-202,ChurchillLivingstone,NewYork,19886)鈴木亨,野田佳宏:鼻涙管閉塞症のシリコーンチューブ留置術の手術時期.眼科手術20:305-309,20077)鈴木亨:涙道ファイバースコピーの実際.眼科45:2015-2023,20038)栗橋克明:DirectSiliconeIntubation(DSI)による内視鏡的・顕微鏡的涙道形成術.ダクリオロジー,p151-183,メディカル葵出版,19989)鈴木亨:内視鏡を用いた涙道手術(涙道内視鏡手術).眼———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???(47)科手術16:485-491,200310)井上康,杉本学,藤井一弘ほか:慢性涙膿炎に対する涙道内視鏡を用いたシリコーンチューブ留置再建術.臨眼58:735-739,200411)中村泰久:安全確実なシリコンチューブ留置.臨眼50:1458-1460,199612)OliverJ:Longstandingcanalicularobstruction.ColorAtlasofLacrimalSurgery,p158-174,ButtereorthHeine-mann,Oxford,200213)佐々木次壽:涙?鼻腔吻合術鼻外法.眼科47:425-430,200514)原吉幸:涙?鼻腔吻合術鼻内法.眼科診療プラクティス5(3):98-99,200215)SasakiT:Nasolacrimalductobstructionclassi?edbydac-ryoendoscopeandtreatedwithinferiormeataldacryorhi-notomy:PartⅡ.Inferiormeataldacriorinotomy.???????????????140:1070-1074,200516)鈴木亨:涙道内視鏡を利用した停留チューブの治療経験.眼科47:1241-1248,2005

眼窩腫瘍(後編)-眼窩悪性腫瘍,眼窩頭蓋低腫瘍

2007年5月31日 木曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSACC,adenocarcinomaが多いことは知っておきたい.II眼窩腫瘍の画像診断眼窩腫瘍を疑った場合は,必ず画像診断を行い,良性,悪性のめぼしをつける.可能であればCT(コンピュータ断層撮影)および造影MRI(磁気共鳴画像法)の両方を行うことが望ましい.CTでは腫瘍と骨との関連性がよくわかり,骨破壊や骨浸潤などから悪性腫瘍を疑うことができる(図1).MRIは,腫瘍の性状や形状,はじめに眼科日常診療上,眼窩悪性腫瘍を経験することはまれであるが,眼窩悪性腫瘍を疑った場合には,迅速に適切な検査・診断のもと,早期の治療もしくは専門施設への紹介が必要である.眼窩悪性腫瘍は,腫瘍の発生が眼窩内のため目に見えることはなく,症状発現までのタイムラグのため治療開始が遅れることもしばしばである.悪性腫瘍であることがわかった時点で患者はすでに死に直面しているといえる.しかし,眼科臨床医にはなじみの薄い疾患であるため,ともすればいたずらに経過をみてしまう可能性も否定できない.本稿では,眼窩悪性腫瘍および眼窩頭蓋底腫瘍に対する検査,診断,治療について,症例を提示しながら述べる.I眼窩腫瘍の組織分類表1に,聖隷浜松病院眼形成眼窩外科における2004年4月から2006年3月までの眼窩腫瘍99例の内訳を示す.眼窩良性腫瘍は52例(平均年齢44.9歳),眼窩悪性腫瘍は47例(54.1歳)であった.悪性リンパ腫がMALT(粘膜関連リンパ組織)19例(平均年齢62.5歳),adenoidcysticcarcinoma(腺様?胞癌)(ACC)6例(43.5歳)の計25例で多く,di?uselargeBcelllymphoma4例(67.0歳),adenocarcinoma(腺癌)4例(60.8歳),hemangiopericytoma(血管周皮腫)4例(35.2歳)が続く.2年間の臨床上のデータのため,年度によって違いがあるが,悪性リンパ腫が多いこと,リンパ腫を除けば(33)???*NobutadaKatori:聖隷浜松病院眼形成眼窩外科〔別刷請求先〕嘉鳥信忠:〒430-0906浜松市住吉2-12-12聖隷浜松病院眼形成眼窩外科特集●眼科臨床医のための眼形成・眼窩外科あたらしい眼科24(5):571~577,2007眼窩腫瘍(後編)─眼窩悪性腫瘍,眼窩頭蓋底腫瘍─??????????????????????????????????????????????????????嘉鳥信忠*表1眼窩腫瘍99例良性52例(52.5%,平均44.9歳)悪性47例(47.5%,平均54.1歳)Pleomorphicadenoma16MALT*19Hemangioma9Adenoidcysticcarcinoma6Schwannoma6Di?uselargeBcelllymphoma4Granuloma5Adenocarcinoma4Fibrousdysplasia3Hemangiopericytoma4Cyst(mucocele)3Solitary?broustumor1Neuro?broma2Malignantmelanoma1Varix2Mucoepidermoidcarcinoma1Dermoidcyst2Squamouscellcarcinoma1Lymphangioma1MPNST**1Meningioma1Acutemyeloidleukemia1Wegenergranulomatosis1Myeloidsarcoma1Dacryoadenitis1Angiosarcoma1Liposarcoma1Rhabdomyosarcoma1*ExtranodalmarginalzoneB-celllymphomaofmucosa-associatedlymphoidtissue(MALT).**Malignantperipheralnervesheathtumor.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007周囲組織への浸潤の有無をみることができ,悪性腫瘍を疑う場合には必須の検査である.図2に,眼窩腫瘍の症例を4例示す.それぞれの腫瘍に対し,どのような治療方針を立てるべきか考えてみて欲しい.III眼窩腫瘍の診断,治療図2aは,両涙腺部腫瘍の症例である.境界は比較的明瞭で,眼窩深部への腫瘍進展はない.リンパ腫を疑い,大きな左涙腺部腫瘍に対し,左眉毛下外側の皮膚切開から生検を施行した.病理組織診断はdi?uselargeBcelllymphomaであった.当院血液内科に紹介し,全身検索が行われた.他部位には悪性リンパ腫は認めず,その後全身化学療法が施行された.悪性リンパ腫では腫瘍を全摘出する必要はない.血液疾患であり,放射線療法,化学療法が治療のメインである.悪性リンパ腫では上述のようにMALTが多い.放射線感受性が高く予後もよいが,予後不良なdi?uselargeBcelltypeもしばしば経験するので,生検による病理組織診断の後,血液内科に全身検索を依頼し,適切な治療を行うことが望ましい.涙腺部に腫瘍を認めた場合,涙腺炎,pleomorphicadenoma(多形腺腫),悪性リンパ腫,ACCなどが鑑別にあげられる.涙腺炎,lymphomaは片側性も両側性もありうるが,pleomorphicadenoma,ACCは原則片側性である.涙腺炎,lymphoma,ACCなどを疑えばまずは生検を行うが,pleomorphicadenomaであれば全摘出しなくてはならない.取り残しがあれば悪性化して(34)図1眼窩悪性腫瘍のCT所見左:Bonewindow,右:Softtissuewindow.特徴的所見:眼窩壁に沿って進展,頭蓋内へ浸潤傾向あり,境界不明瞭,腫瘍内不均一,骨のerosion,骨欠損.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???再発することがあるからである.画像診断でpleomor-phicadenomaはある程度予測がつくことが多いが,鑑別がむずかしい場合は術中迅速病理検査を行い,生検で終えるか,全摘出に踏み切るか決定する.また,生検であっても部位によっては骨切りを要する場合もあり,術前の画像診断で骨切りの準備をするべきか検討する.図2bは,右眼窩内の大きな筋円錐内腫瘍の症例である.造影MRIで?owvoid(早い血流により,腫瘍内部の血管が黒く映る)を認め,非常に血流の豊富な腫瘍であることがわかる.Capillaryangioma(毛細血管腫)やhemangiopericytoma(血管周皮腫)を疑った.脳血管造影を施行し,眼動脈の網膜中心動脈の分岐部よりもやや末?から太い栄養動脈が確認された.骨切り併用経眼窩縁アプローチでこの腫瘍を全摘出することは,腫瘍の部位,血流(術中出血)の観点から非常に困難であると判断し,手術前日に脳神経外科で超選択的腫瘍栄養動脈塞栓術を依頼し,前頭側頭開頭下に腫瘍を全摘出した.病理組織診断はhemangiopericytomaであった.図3に別のhemangiopericytomaの症例を示す.この症例は頬骨骨切りにより眼窩外下方アプローチにて全摘出した.Hemangiopericytomaは,基本的には低悪性度の腫瘍であるが,短期予後は良いが長期予後は悪い症例もあるとされる.特徴として,病理組織上の悪性度と臨床的な生物学的悪性度が相関せず,solitary?broustumor(孤立性線維性腫瘍)とともに,病理組織で悪性度の低い腫瘍と診断されても,長期にわたる慎重な経過観察を要するため,注意が必要である.図2cは,右眼窩涙腺部から外直筋に沿って存在する腫瘍である.よくみると,眼窩内から海綿静脈洞に浸潤していることがわかる.造影された腫瘍と周囲の組織と(35)図2眼窩悪性腫瘍のMRI(造影)(a~dの説明は本文参照)acbd———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007の境界も不明瞭であり,悪性腫瘍が強く疑われた.CTでは海綿静脈洞への浸潤は不明瞭であったため,造影MRIの重要性が再確認できた症例であった.ただちに眉毛下外側の皮膚切開からの生検を施行した.術中,腫瘍は骨にも浸潤しており,術中迅速でも悪性像が認められ,最終の病理組織診断はACCであった.海綿静脈洞内へ浸潤しているため眼窩内容除去,遊離皮弁移植といった手術療法の適応がなく,また,通常の放射線や化学療法に効果のない腫瘍であるため,重粒子線治療を放射線医学総合研究所重粒子医科学センター病院へ依頼した.2007年3月現在,涙腺癌の重粒子線治療の適応は,涙腺原発の上皮性悪性腫瘍(ACC,adenocarciomaなど)で,眼窩を超える浸潤や転移のない症例または保存的手術後の残存・再発例(ホームページより抜粋)となっている.本症例は,重粒子線治療が奏効し,現在腫瘍は消失している.重粒子線治療の長期成績はまだ不明のため,今後も長期的な予後について注目しなくてはならないが,手術適応にならず,化学療法や通常の放射線療法に効果のない眼窩悪性腫瘍症例には今後第一選択の治療になると思われる.図2dは,右眼窩,側頭窩,中頭蓋窩,硬膜に腫瘍性の変化を認める眼窩頭蓋底腫瘍である.髄膜腫(menin-gioma)を疑い,前頭側頭開頭アプローチで腫瘍を全摘出した.腫瘍摘出により欠損した硬膜は大腿筋膜で再建(36)図3Hemangiopericytomaの症例上:術前CT,中:術前MRI,下:術後MRI.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???し,眼窩壁は頭蓋骨内板で再建した.図4に術中所見を示す.病理組織診断は,meningiotheliomatousmenin-gioma(髄膜上皮腫型髄膜腫)であった.眼窩頭蓋底腫瘍に限らず,眼窩先端部,眼窩筋円錐内の腫瘍で,前方からのアプローチが困難であれば,迷わず前頭側頭開頭アプローチを選択するべきである.狭い術野で無理な腫瘍摘出は,術中に出血のコントロールがつかなくなる,視力を失うなど,かえって重篤な合併症を招くことになる.確実に安全に摘出するためには開頭アプローチも眼窩腫瘍摘出の重要な手段である.IV眼窩悪性腫瘍切除,再建術生検で眼窩悪性腫瘍(悪性リンパ腫を除く)の診断がついたら,全身検索で転移の有無を調べる.眼窩,頭部のCT,MRIはもちろん,頸部から骨盤までの造影CT,Ga(ガリウム)シンチグラフィーでの転移検索が基本であるが,PET(ポジトロン放出CT)のある施設ではPETも有用である.全身転移がなく,頭蓋内や海綿静脈洞への腫瘍の浸潤がなければ,手術適応である.ACCやadenocarcinomaなど,悪性度の高い腫瘍は,基本的に眼窩内容除去が原則である.眼球の温存にこだわるあまり,手術時期が遅れ命を落とすようでは本末転倒である.根治手術の必要性,他の保存的治療の効果との比較などを十分に説明する.眼窩悪性腫瘍切除後の再建方法には,三つの手段がある.一つは遊離複合組織移植であり,腹直筋皮弁など,筋肉と脂肪を動静脈血管付の状態で眼窩に移植する.血管は側頭動静脈や顔面動静脈に縫合する.感染が危惧される場合には生体組織によるバリアとして必須の手術である.ただ,手術侵襲も大きく,組織の生着などの問題が起こる可能性もある.眼瞼が温存できる場合には義眼床形成も可能であり,整容的にも満足なことが多い.つぎに植皮術であるが,侵襲は少ないが,整容面,感染の危険性の面で問題がある.もう一つの手段としてのエピテーゼは,いわば人工の眼瞼・眼窩であり,非常に精巧にできている(図5).図6は涙腺部に限局したACCの症例である.この症例は眼瞼温存可能であったため,眼窩内容除去,遊離腹直筋皮弁移植を施行した.義眼床は移植皮弁の脱上皮で形成し,術後比較的早期に義眼装用可能であった.二期的に大腿筋膜移植による眼瞼吊り上げ術を施行した.(37)図5エピテーゼ(アヘッドラボラトリーズ社製)図4図2dの術中所見前頭側頭開頭下に腫瘍を全摘出した.前頭葉側頭葉眼球眼窩先端部———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007(38)図6左眼窩ACCの症例左上:術前MRI.右上:遊離腹直筋皮弁移植後MRI.左下:二期的眼瞼吊り上げ術後.右下:術後の義眼床.図7右眼窩ACCの症例左上:術前MRI,右上:拡大眼窩頭蓋底切除検体.左下:遊離腹直筋皮弁.動静脈を吻合して移植する.右下:術後MRI.腹直筋を眼窩頭蓋底側に,脂肪を義眼床側に移植している.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???図7は拡大眼窩頭蓋底切除,再建術を施行したACCの症例である.図6左上のように,境界不明瞭な腫瘍であり,眼窩頭蓋底欠損を遊離腹直筋皮弁(左下)で再建した.図6,7の症例はいずれも遊離組織移植で眼窩を再建し,比較的整容面でも満足のいく結果が得られたが,腫瘍の浸潤の程度によっては,眼瞼を温存できない場合もある.その場合は,眼窩内容除去後の再建として,遊離複合組織移植だけにこだわらず,整容面での問題も考え,エピテーゼによる再建も治療の選択肢として重要になってくると思われる.眼窩悪性腫瘍切除後の再建方法については,腫瘍の浸潤の程度(眼瞼温存可能かどうか,頭蓋底切除を要するか),患者の希望,患者の社会的状況や年齢,手術のリスクなどを総合的に判断して選択する必要がある.おわりに眼窩悪性腫瘍,眼窩頭蓋底腫瘍の診断および治療について述べた.眼科医にとって,眼窩悪性腫瘍は眼科領域で最も患者の生命に直接かかわる疾患であることは間違いない.眼球突出,複視,涙腺部腫瘤など,眼窩悪性腫瘍の患者が眼科を受診するきっかけとなる症状は,他の疾患でも起こりうる症状である.生命にかかわる眼窩悪性腫瘍を早期に発見し早期に治療する,もしくは治療に導くことは眼科医の義務である.そのためには,眼窩腫瘍を疑えば迷わず画像を撮ること,その結果悪性腫瘍を疑えば生検を行うこと,病理組織診断で悪性であれば早期に治療(手術,放射線,化学療法など)を開始する,もしくは専門施設に紹介することが重要である.本稿がその一助になれば幸いである.(39)