———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSやサリドマイドの全身投与が試されたが有効性が認められず1,2),しばらく薬物療法は鳴りを潜めた.その間,黄斑移動術とベルテポルフィン(ビスダイン?)を用いた光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)が一定の評価を得たものの,前者は手技の複雑さや斜視や増殖硝子体網膜症などの合併症の問題があり3),後者も視力改善率という点では依然満足できるものではなく4,5),より良い治療法の開発が求められてきた.その後,血管新生の研究の進歩に伴い,局所投与を行う眼科医と開発する側の製薬会社が連携して,さまざまな血管新生阻害薬の局所投与(Tenon?下投与や硝子体内投与)による臨床試験が競って実施されるようになった.なかでも血管新生過程を制御する主要なサイトカインである血管内皮細胞増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)を標的とした抗VEGF療法の臨床試験が順調に実施され,PDTを超える効果が報告され期待されている6,7).しかし,依然,効果の評価はおもに治療前視力を基準としての視力維持率の比較に留まる(表1).AMDが発症して,患者が視力低下,変視症や,中心暗点を自覚して眼科に足を運ぶ段階である程度(平均して0.2~0.3程度に)視力が低下しており,引き続き(発症後1年以内に)急激な視力低下をきたす場合も多い.このように,治療開始の時点ですでに視力不良の症例も多いため,視力維持で満足できるものではなく,たとえば,読書可能な矯正視力(0.4以上)を保てない症例を十分に減らせないようではAMDを克服したということにはなはじめに黄斑は最も治療が困難な組織の一つである.黄斑は光を感受する感覚神経であり,しかも両眼の対応があるため,その機能維持には,(1)構造,位置,(2)透明性,(3)神経生理機能の保持が不可欠である.さらに隣接する網膜色素上皮と脈絡膜毛細血管が健常であることが必要不可欠であるため,いずれの組織の障害や恒常性低下も網膜萎縮への悪循環に陥ることになる.加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)は深刻な黄斑疾患であり,欧米における成人法的失明の主因であり,わが国でも近年増加傾向にある.AMDには,地図状萎縮(網膜視細胞,網膜色素上皮,脈絡膜毛細血管の萎縮)に至る萎縮型(drytype)と脈絡膜新生血管が網膜下または網膜色素上皮下に侵入する滲出型(wettype)がある.日本では欧米に比較して滲出型が多いとされるが,現在の治療のほとんどは脈絡膜新生血管を標的としたものであり,萎縮型に対しては他の遺伝性網膜変性疾患と同様,ほとんど治療の手立てがないことをまず念頭に置かなければならない.滲出型に対する治療においても決め手となる治療法がなく,外科療法,光線療法,薬物療法などさまざまな方法が乱立して試されている状態である.中心窩外の脈絡膜新生血管に対しては光凝固術が有効であると以前から認知されていたが,中心窩下新生血管に対しては手の施しようがなかった.薬物療法は,時期を問わず比較的容易にしかもくり返し施行できることが絶対的有利な点であり,インターフェロン(37)???*TsutomuYasukawa:名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学〔別刷請求先〕安川力:〒467-8601名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学特集●加齢黄斑変性の薬物治療あたらしい眼科24(3):303~315,2007加齢黄斑変性:新しい薬物療法の可能性????????????????????????????????????????????????????????-????????????????????????????安川力*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007らないだろう.では,より良い効果を発揮しうる新たな薬物療法の開発戦略とはどういうものだろうか?単純に考えると,(1)標的は従来通り,脈絡膜新生血管で,血管新生阻害薬の新たな候補を試してみるということになる.しかし,抗VEGF療法のような分子レベルで特異的にしかもメカニズムの要所を阻害する薬剤に勝ることができるであろうか.治療効果を上げる戦略としては,まず,(2)既存薬剤でも血管新生過程の別のレベルで効果を発揮するもの同士の併用療法で活路を見出せるかもしれない.一方,単独使用において既存の薬剤を上回る薬効を得るための製剤設計時の工夫としては,(3)VEGFへの親和性を高めて抗VEGF効果を増強した薬剤の開発,(4)ドラッグデリバリーシステム(drugdeliverysys-tem:DDS)を応用して薬効を上げると同時に副作用を改善することが手段にあげられる.しかし,脈絡膜新生血管を標的としていては,萎縮型の治療を放棄しているし,線維血管組織,滲出液,フィブリンや,血液が網膜下を占拠した時点で,多少なりとも網膜視細胞の萎縮が始まることを考えると,視力低下した症例の視力改善率が100%にはなりえないだろう.そこで,(5)脈絡膜新生血管発生以前の段階に目を向け,予防医学的立場で新たな薬物療法の可能性をさぐるか,または萎縮を防ぐための神経保護か,萎縮した神経の再生の可能性に目を向けるべきかもしれない.AMDは加齢に伴い誰もが発症しうる疾患である.本稿では,このようなAMD治療という困難に立ち向かうための新規薬剤開発の現状と将来の可能性について紹介する.I脈絡膜新生血管を標的とした薬物療法脈絡膜新生血管を標的とする薬物療法は,癌治療の分野における血管新生抑制の研究と関連して発展してきたが,癌治療ではおもに内服や静脈内注射などの全身投与が行われるので,当初は,インターフェロンやサリドマイドなどのようにAMDの治療においても全身投与が選択されたが,最近では,トリアムシノロン・アセトニド(ケナコルト?)やpegaptanib(Macugen?)の使用経験などで,頻回の硝子体内投与の手技自体の安全性がおおむね示されたこともあり,初めから脈絡膜新生血管治療を目的としたものも加わり新薬開発の波が押し寄せている.硝子体腔という閉鎖空間への薬物投与は滞留性の予測,投与量の設定が比較的容易で,投与した全量が全身へ移行したとしても全身投与の系で想定される血中薬物濃度に比較するとかなり少量であるので全身への副作用は問題となりにくい.世界的には,実に多くの薬剤の治験が行われている(表2).新しく血管新生阻害作用を示す薬剤が見つかるたびに,癌治療の分野でまず臨床試験が行われる.ある程度,効果が見出せる場合,AMDの薬物療法へと転用される傾向がある.低侵襲という点では,点眼,内服,静(38)表1加齢黄斑変性の治療成績の比較薬物症例数投与量観察期間3段階以上視力改善(平均視力の変化*)良好視力獲得率未治療(MARINAStudy)23812カ月5.0%(-10.4文字)10.9%(≧0.5)未治療(MARINAStudy)23824カ月3.8%(-14.9文字)5.9%(≧0.5)PDT(TAPStudy)40212カ月6.0%(-10文字)─PDT(ANCHORStudy)14312カ月5.6%(-9.5文字)2.8%(≧0.5)PDT(TAPStudy)31224カ月11.0%(-11文字)─PDT(TAPStudy)19360カ月10.0%(-11.5文字)─PDT(JATStudy)6412カ月20.0%(+3.0文字)9%(>0.5)Anecortaveacetate(Retaane?)26315mg12カ月──Pegaptanib(Macugen?)2940.3mg12カ月6.1%(-7文字)─Ranibizumab(Lucentis?)2380.3mg24カ月26.1%(+5.4文字)34.5%(≧0.5)(MARINAStudy)2400.5mg24カ月33.3%(+6.6文字)42.1%(≧0.5)Ranibizumab(Lucentis?)1400.3mg12カ月35.7%(+8.5文字)31.4%(≧0.5)(ANCHORStudy)1390.5mg12カ月40.3%(+11.3文字)38.6%(≧0.5)*ETDRS視力表による(+5文字が通常の視力表の1段階改善に相当).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007???脈内投与,Tenon?下投与,硝子体内投与の順で望ましいものであるが,血液網膜関門をはじめとする眼球の特異性から,点眼ではほとんど薬剤が後眼部に到達しないし,内服,静脈内投与などの全身投与では,標的組織への十分量の薬物送達が困難であり,全身への副作用の問題があることは,インターフェロンやサリドマイドを使った治験から得た経験からもうかがえることである.このような知見を考慮した場合,最近のanecortaveace-tate(Retaane?),pegaptanib,ranibizumab(Lucentis?),bevacizumab(Avastin?)などの使用例のごとく,脂溶性薬剤であればTenon?下注射,水溶性薬剤であれば硝子体内注射が選択される傾向がある.薬剤の種類としては,ステロイドと抗VEGF療法が国内でも認可を控え,現状では最も優れた効果を示すものであり,新規薬剤の効果を判定するための基準となるであろう.今後は,これらの類似薬を中心に,血管内皮増殖抑制作用を示す合成新薬のほか,IL(インターロイキン)-2,TNF(腫瘍壊死因子)aなどの発現抑制または阻害する抗体その他の薬剤が試されていくであろう.また,特殊な薬物療法としては,遺伝子導入と最近注目されているsiRNA(smallinterferingRNA)を用いた治療の試みがある.1.新しい血管新生阻害薬癌治療の分野に加え,最近では血管新生に炎症細胞の関連が示唆されていることもあり関節リウマチなど炎症性疾患の分野で開発された薬剤がAMD治療の可能性を秘めていると考えられ,研究が進められている(表2).それぞれ各製薬会社が威信をかけ開発している薬剤であり,より良いものが出現することを切に願う.一方,以前のインターフェロンにしても,サリドマイドにしても,動物実験レベルでは有効性が示され期待されたものであった.それが,いざ臨床試験が始まってみると,全身投与ではどうも十分な効果が得にくい.また,副作用が懸念されるということが明らかになった.したがって,同様の方法(動物実験など)で効果を示した後,臨床試験へと進んでいるか進もうとしている全身投与による低分子量の新規薬剤に関しては,悲観的に意見を述べるとすればどれも同じ結果に至る可能性が高い.(39)表2開発中の加齢黄斑変性の薬物療法薬物種類投与経路国内海外開発状況anecortaveacetate(Retaane?)ステロイドTenon?下PhaseI/II終了アメリカで認可pegaptanib(Macugen?)抗VEGF硝子体内PhaseI/II終了アメリカなどで認可ranibizumab(Lucentis?)抗VEGF硝子体内PhaseI/II終了アメリカ,スイスなどで認可bevacizumab(Avastin?)抗VEGF硝子体内直腸癌で治験中PhaseIII,アメリカで直腸癌に認可VEGF-trap抗VEGF硝子体内─PhaseII中bevasiranibsodium(Cand5)siRNA(VEGF産生抑制)硝子体内─PhaseII終了sirna-027siRNA(VEGF産生抑制)硝子体内─PhaseII中AdPEDF遺伝子導入(血管新生抑制)硝子体内─PhaseI終了AE-941(Neovastat)MMP阻害内服─PhaseII中,肺癌に治験中JSM6427抗インテグリン局所─PhaseI予定CGC-11047血管新生抑制結膜下─PhaseI中,固形癌,前立腺癌に治験中combretastatinA4phosphate血管新生抑制静脈内─PhaseII中(強度近視の脈絡膜新生血管)squalaminelactate(EVIZONTM)血管新生抑制静脈内─PhaseII終了genistein血管新生抑制内服─サプリメント(genistein+vitaminD,E)mecamylamine(ATG003)血管新生抑制点眼─PhaseI中TG100801血管新生抑制,抗炎症点眼─PhaseI中?uocinoloneacetonide(Retisert?)ステロイド硝子体内インプラント─PhaseII終了rapamycin(Sirolimus)IL-2阻害内服,局所─PhaseII予定,PhaseI中daclizumab抗IL-2受容体静脈内─PhaseII予定in?iximab抗TNFa静脈内─PhaseII予定———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.3,20072.併用療法により活路を見出す薬剤単独使用では満足のいく効果を発揮できない薬剤でも,作用機序の違う薬剤を併用することによって,有効性を見出せる可能性はある.また,神経保護効果などプラスアルファの要素をもっている薬剤であれば使用意義があるかもしれない.このような薬剤では副作用が問題となりにくいことが前提である.臨床応用されている例としては,トリアムシノロンとPDTの併用による有効性が示されている(表3).PDTは光線照射にベルテポルフィンが反応して活性酸素が生じるため,新生血管内皮の障害・閉塞に至る治療であるので,施行直後は炎症反応がむしろ増悪することは光干渉断層計(OCT)を用いた観察でも示されている8).これをトリアムシノロンの併用により抑制するというのは理にかなっている.現在,ステロイドの併用に抗VEGF療法も加えた3種併用療法まで海外で臨床試験が行われている(表3).ただ,PDT+トリアムシノロン一つ取り上げてみても,トリアムシノロンの投与の時期は,PDTの1週間前,前日,直後と施設によりまちまちで,またTenon?下注射か硝子体内注射かという投与法と投与量に関して一定していない(表3).このように,併用療法一つでもそのプロトコールに多様性が生じ,最善のものを評価していくのに時間を要することになる.さらに別の薬剤の組み合わせが存在するわけで,しばらく多岐にわたる治療が乱立して試される状況は避けられそうにない.3.抗VEGF療法の改善を狙った薬剤VEGFは,白血球の関与と血管透過性亢進を主体とする炎症反応においても,炎症,虚血に対する血管新生という現象においても大きな役割を演じているのは確かである.このVEGFを抑制する治療(抗VEGF療法)は透過性亢進や血管新生を抑制する最も直接的な手段であり,効果も他の薬剤より優れている.Ranibizumabとbevacizumabが眼科領域で多く用いられているが,違いは,ranibizumabがフラグメント抗体(Fab断片)であり分子量約48,000であるのに対し,bevacizumabはヒト化モノクローナル抗体IgG(免疫グロブリンG)で分子量約149,000である(表4).分子量の違いのほか,ranibizumabのほうがbevacizumabより10倍VEGFへの親和性が高い.今後,これらの抗VEGF療(40)表3加齢黄斑変性の併用療法薬物症例数投与量観察期間3段階以上視力改善(平均視力の変化)良好視力獲得率PDT+TA18425mg硝子体内9.7カ月─(+6.1文字)─PDT+TA4125mg硝子体内12カ月29.3%4125mg硝子体内24カ月31.7%PDT+TA(名古屋市立大)1420mgTenon?下12カ月28.6%35.7%(≧0.5)PDT+Lucentis?(FOCUSstudy)1620.5mg硝子体内12カ月24%薬物種類投与量投与経路海外開発状況PDT+TAPDT+ステロイド4mg硝子体内PhaseIII終了PDT+TA(Kenalog?)PDT+ステロイド4mg硝子体内PhaseII終了PDT+TA(Kenalog?)+Avastin?PDT+ステロイド+抗VEGF硝子体内PhaseII中PDT+dexamethasone+Lucentis?PDT+ステロイド+抗VEGF硝子体内PhaseII中PDT+TAvsPDT+Macugen?(VERITASstudy)PDT+ステロイドまたは抗VEGF1,4mg;0.3mg硝子体内PhaseI/II中PDT+Avastin?(SANAstudy)PDT+抗VEGF5mg/kg静脈内PhaseI/II終了PDT+Avastin?PDT+抗VEGF2.5mg硝子体内PhaseII中PDT+squalaminelactate(EVIZONTM)PDT+血管新生抑制静脈内PhaseII中PDT+celecoxibPDT+抗炎症内服PhaseI/II予定Imatinibmesylate(Glivec?)+Lucentis?抗PDGF+抗VEGF400mg/day+0.5mg内服+硝子体内PhaseI中———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007???法に関しては,全身投与で用いるのか,硝子体内投与を行うのか,また,それぞれにおける使用頻度,濃度などは,薬剤の分子量とVEGFへの親和性の違いによって状況が変わってくる.VEGFへの親和性を大幅に向上させた薬剤にVEGFtrapがある(図1,表4).Ranibi-zumabのさらに80倍の親和性をもつといわれ,現在,海外で癌やAMDに対して臨床試験中である.ただ,VEGFは生理的な血管新生にも重要な働きをしており,抗VEGF療法は,全身投与では高血圧が併発するほか,月経,創傷治癒,蛋白尿,骨形成,血栓・塞栓形成などへの影響が考えられ,虚血性心疾患のリスクのある場合などまれにしても心筋梗塞や脳梗塞による死亡例もあるようである.これらの理由で,眼科疾患への抗VEGF療法はおもに硝子体内投与により行われるが,投与量が少ないといっても眼内投与した薬物のほとんどは全身へ移行してくると考えられるので,分子量が大きく血中滞留性の高いbevacizumabやVEGFtrapなどでは特に,全身への影響についても念頭に置かねばならない.また,VEGFが神経保護作用も有していたり生理的にも不可欠であるため,はたして,抗VEGF療法の網膜毒性などは問題ではないか,長期的な有効性についての評価を待たねばならない.4.ドラッグデリバリーシステム(DDS)・遺伝子療法を応用した薬剤かつてのインターフェロン,サリドマイドの治験で有効性を得られなかったように,一般に低分子量薬剤は,全身投与では全身に均等に分布するため,標的となる脈絡膜新生血管組織に十分量薬剤を送達することが困難なため,大量かつ頻回投与を余儀なくされるが,それでは全身への副作用が問題となる(図2).現在では,局所投与がおもに試される傾向にあるが,局所投与だけでなく(41)12345671234567R1D2R2D3R1D2R2D3VEGFR2(Flk-1)VEGFR1(Plt-1)VEGFtrapFc部図1VEGFtrapVEGF受容体であるVEGFR1の2nddomainとVEGFR2の3rddomainを抗体のFc断片に結合させたもので,VEGFに非常に高い親和性を示す.現在,海外でAMDに対して臨床試験が行われている.高分子薬剤③副作用軽減≪②ターゲティング*①血中半減期延長腎臓肺/RES正常組織網膜脳新生血管炎症部位=副作用大/効果少低分子量薬剤図2高分子の受動的ターゲティング特性通常の低分子量薬剤は尿中排泄率が高く全身に均一に分布するため,効果が得られにくく,副作用が問題となる.高分子は,①血中半減期が長く,②血管透過性亢進部位(血管新生・炎症部位)に送達(ターゲティング)されやすい.同時に③副作用軽減につながる.ただし,あまり巨大分子になると肺や細網内皮系(reticuloendothelialsystem:RES)に捕縛されやすい(*).表4抗VEGF療法の比較Avastin?Lucentis?VEGFtrapVEGFとの親和性(比)110800分子量149,00048,000Avastin?より低血中半減期20日3時間14~18日硝子体中半減期5.6日3.2日?問題点ILM透過不良?良好?良好?不良?全身からの排泄不良良好不良全身への影響あり?少ない?あり?価格安価高額高額?Fc部関連炎症あり?なしあり?———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007全身投与における薬剤の使用性改善,つまり薬効を上げ,副作用を減らすための一つの手段が,DDSの応用である.DDSは大きくつぎの3つの範疇に分類される.(1)全身投与された薬剤が標的組織に優位に送達されることを目的とした薬物標的指向化(ドラッグターゲティング).(2)局所投与において薬物を徐放させて薬効を持続させることを目的とした薬物放出制御(コントロールドリリース).(3)薬剤の透過の改善.抗VEGF療法を越える新薬の開発は困難であると予測される.現在の薬剤の効果の限界を打破するには,これらの概念を取り入れた薬剤開発が不可欠かもしれない.a.全身投与の改善:ドラッグターゲティング療法ベルテポルフィンと光線を組み合わせたPDTも,血中のリポ蛋白というナノサイズの粒子中に移行したベルテポルフィンが新生血管組織周囲および新生血管の内皮細胞内へ集積する傾向と外部からの光線照射を巧みに組み合わせたターゲティング療法である.高分子が受動的に炎症や血管新生部位に効率よく送達されることは,実は,生体内で免疫反応のためBリンパ球が産出する免疫グロブリンで実践されている.IgGの分子量が149,000と,分子量数千から数万程度のサイトカインをはじめとする他のペプチド,蛋白質と比較して圧倒的な大きさをもっているのは意味があって,血中に循環する抗体は血中半減期が長く,血管透過性亢進している炎症部位で優位に血管外に出るため,抗体が効率よく炎症部位に送達される.このように液性免疫は生体による受動的ターゲティング療法なのである.ところで,癌組織や脈絡膜新生血管組織は,通常の血管新生や炎症部位と少し異なる特殊環境下にある.すなわち,透過性亢進した血管が存在するが周囲に高分子を回収するべきリンパ管が未熟または存在しないのである.したがって,抗体のような大きな分子は血管外に漏出した後,回収されにくく新生血管周囲に集積する傾向がある.これをenhancedpermeabilityandretentione?ect(EPR効果)とよぶ.ただし,分子量が大きすぎると,血液循環において,肝臓,脾臓などの細網内皮系や肺組織に回収される傾向があるので,EPR効果を得るために最適な分子量というものがあり,ポリエチレングリコール,デキストランや,ポリビニルアルコールなどの直鎖型の水溶性高分子の場合,分子量220,000ぐらいが最も効率よく集積効果が得られる.これらの水溶性高分子の生体適合性については,たとえばpegaptanibに安定化と眼内滞留性向上のため,ポリエチレングリコールが付加されている身近な例が示すように問題ないことは示されている.このような概念のもとで,筆者らは,血管新生阻害作用を示す低分子量薬剤のTNP-470と臨床応用がかなわなかったインターフェロンを高分子化し,家兎の脈絡膜新生血管モデルで効果を調べたところ,高分子化していない同一薬剤に比較し,脈絡膜新生血管組織への集積効果(EPR効果)と,より低容量,より少ない治療頻度で治療効果の向上を確認した(図3)9,10).また,ミセル粒子が,EPR効果によりラットの脈絡膜新生血管モデルへ集積すると(42)ECADB高分子脈絡膜新生血管網膜色素上皮視細胞外節脈絡膜毛細血管板図3脈絡膜新生血管へのEPR効果家兎の脈絡膜新生血管モデルを作製し,脈絡膜新生血管を蛍光眼底造影(A,B)で確認後,蛍光色素標識高分子(A,C同一眼)と蛍光色素のみ(B,D同一眼)を静脈内投与24時間後に蛍光顕微鏡で観察を行うと(C,D),脈絡膜新生血管周囲には高分子が集積しているのがわかる.眼内にリンパ管が存在しないので,脈絡膜新生血管周囲に漏出した高分子は回収されにくく集積する傾向がある(EPR効果)(E).(文献9から引用,改変)———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007???の報告もある11).このEPR効果に基づく受動的ターゲティングという概念は元は癌治療の分野で提唱されたが,眼科領域に応用できる大きな可能性を秘めている.b.持続作用を期待:眼内インプラント局所投与において,薬物の局所滞留性を向上させることを目的としたDDSを,コントロールドリリースとよぶ(図4).臨床応用されているものとしては,AIDS(後天性免疫不全症候群)などに合併するサイトメガロウイルス網膜炎に対してガンシクロビル徐放性非生体分解性インプラント(Vitrasert?)を代表として,同じ形状でフルオロシノロン・アセトニドを徐放するインプラント(Retisert?)もぶどう膜炎の治療に用いられ,最近では黄斑浮腫の治療のために臨床試験が進行中である.非分解性インプラントの最大の長所は,大量の薬剤を内部に封入しておけるので,数年にわたる徐放も可能であることと,薬剤の包む被膜(ポリビニルアルコールなど)の薬剤透過率と表面積で薬物徐放が制御できるので,非常に安定した放出が可能である.Retisert?自体のAMDへの臨床応用は進んでいないようであるが,今後,この形状のインプラントを用いてAMD治療の候補となる低分子量薬剤の徐放が試されるだろう.ただ,短所として,非分解性インプラントは薬剤放出が終了した後も眼内にインプラントが残留することと,薬剤による副作用の問題が顕著となりやすいということである.たとえば,Retisert?はステロイド徐放剤であり,インプラント移植症例の95%に白内障進行,60%に眼圧上昇を認め,34%に緑内障手術を要したという報告もされてきている.非分解性インプラントが生体内に残存するという欠点を考慮して,生体分解性インプラントの開発も始まっている.黄斑浮腫の治療のためのSK-0503(Posurdex?)はデキサメタゾン徐放性生体分解性インプラントで22ゲージの特殊インジェクターで眼内移植可能であり,米国でphaseIII,国内でもphaseI/II試験が進行中であり,基材となっているポリ乳酸・グリコール酸共重合体など生体分解性高分子の眼内投与の安全性は立証されており,今後,他の薬剤を用いたAMD治療のためのインプラント開発が進むと予想される.Pegaptanibの生体分解性高分子マイクロスフェアの開発も行われており,家兎実験で一度の投与で120日間の徐放効果が得られている.c.遺伝子導入療法:siRNAとAdPEDF遺伝子導入療法も前述のインプラントと同様,持続的な効果を期待できる治療法の一つで,ここ数年,注目されているのがsiRNAである.線虫において細胞内で二本鎖RNAがそれと相補的配列をもつmRNAを分解し蛋白発現を抑制することが報告され,これは2006年のノーベル医学生理学賞を受賞するほどの大きな発見と評価されている.というのも,後に,哺乳類などでも短い配列の二本鎖RNA(siRNA)によりこの現象を再現でき(43)図4眼内薬物放出制御(コントロールドリリース)システムの可能性動物実験レベルでは種々のコントロールドリリースシステムの開発が行われている.AMD以外の疾患ではあるものの,臨床応用されているもの(**)や臨床試験の段階にあるもの(*)もあり,今後,AMD治療にも応用されるであろう.———————————————————————-Page8???あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007ることが立証されたことにより(図5),実験レベルで遺伝子の制御が容易になり,分子生物学の分野の大きな発展に貢献したためである.実験レベルを超えて,最近,臨床応用,つまり特定の遺伝子を阻害する試みが始まっている.滲出型AMDに対しても,bevasiranibsodium(以前のCand5)とsirna-027というともにVEGFを標的としたsiRNAによる臨床試験が行われ,一定の治療効果と安全性が示されつつある.siRNAは,抗VEGF療法と異なり,すでに分泌されたVEGFの作用を阻害するのではなく,新たなVEGFやVEGF受容体の産生をおそらく持続的に抑制して作用を発揮するというものである.そのため,抗VEGF療法のような即効性はなく,数週間後に効果が現れてある程度持続的効果を発揮するらしい.1回の硝子体内投与で12週間CNVの増殖を阻止できたと報告されている.ただ,現状では問題点も多い.遺伝子治療の分野では,細胞内への遺伝子導入の障壁となる細胞膜通過という克服すべき問題がある.遺伝子導入率向上のために,ウイルスベクターを使用したり,安全面からウイルス由来の物質の使用を避けてリポソームなどの非ウイルス性ベクターの開発に関する研究分野が存在する.siRNAに関しても例外でなく,????????の実験ではリポフェクタミンなど陽電荷の試薬を併用することにより導入効率を上げて使用されるが,このような陽電荷試薬は細胞膜への影響力をもち,それは細胞毒性につながる要素でもある.臨床試験において,細胞内導入効率を上げる工夫がなされているか明示されていないが,ウイルス性ベクターを使用しない系でうまく臨床応用されている例が少ないことから,単純に硝子体内投与しても導入されない可能性が高い.Bevasira-nibに関しても220日目には全例,再治療を要したと報告されている.ウイルス性ベクターを使用した薬剤の臨床試験も進んでいる.色素上皮由来因子(pigmentepithelium-derivedfactor:PEDF)は抗血管新生作用を有するサイトカインであり,アデノウイルスベクターを用いPEDF遺伝子導入のために製剤化されたものがAd(GV)PEDF.11Dであり,現在,硝子体内投与でphaseIが終了し,安全性が確認されている(図5).II加齢黄斑変性の発生機序と予防的薬物療法の可能性今後,あらゆる治療法の可能性を探ったところで,AMDが発症し視力が低下した時点で,良好な視力を取り戻すには限りあるものと思われる.また,日本のAMDはポリープ状脈絡膜血管症も含め滲出型が多いものの,地図状萎縮に至る萎縮型も混在しており,ますます治療が困難で無視できないものである.このように治療の限界を考慮して別の視点に立った場合,一つの可能性としては,すでに恒久的視力障害に至った眼に対する網膜再生や人工網膜の研究があげられる.このような研究の発展を期待したいものである.そして,もう一つは発症予防の可能性である.薬物療法開発のためには,従来のように脈絡膜新生血管を標的とする場合でも血管新生のメカニズムの解明が重要で新しい知見が得られれば新しい薬剤開発の可能性が広がる.同様に,AMDの予防を考えるのであれば,AMDのメカニズムについて理解する必要があるが,いまだ多くのことがわかっていない.しかし,最近ではリポフスチン由来の自発蛍光やドルーゼン形成とAlzheimer病の類似性,補体の関与など,いくつかの鍵となる知見が得られ,病態解明に向けて前進しているのは間違いない.(44)図5遺伝子導入療法の可能性VEGF発現を抑制するsiRNAと,アデノウイルスベクターによるPEDFを発現する遺伝子の導入療法が開発中である.短い二本鎖RNAは細胞内でRNA-inducedsilencingcomplex(RISC)(RNA誘導サイレンシング誘導体)を形成して(②),相補配列のmRNAを特異的に分解する(③).臨床応用では細胞内導入が問題点である(①).ウイルスベクターによる遺伝子導入(AdPEDF)siRNA導入(bevasiranib,sirna-027)短い二本鎖RNA①細胞内移行②RISC形成③特定RNA分解mRNA①細胞内導入②mRNA発現③蛋白発現(分泌)———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007???1.軟性ドルーゼン生成・網膜色素上皮?離AMD発症の原因を考えていくと,ドルーゼンや網膜色素上皮の色素異常が前駆症状であることは統計的に確かであるので,ドルーゼンはAMDの発症にかかわっている可能性がある.そこで,レーザー凝固でドルーゼンを消失させることでAMD発症の予防が可能かどうか臨床試験が行われていたが,無効であるという結果が出ている12).原因として考えられることは,レーザー凝固自体で効果的にドルーゼンを消失させることができなかったことと,ドルーゼンの存在自体が直接の危険因子ではない可能性があるということである.臨床的にはドルーゼンや色素上皮異常が出現して初めて眼科医の目で確認できるが,実のところ,Bruch膜のびまん性肥厚が基盤として存在している.ドルーゼンが直接原因でないと考えると,加齢現象としてその上流に位置するBruch膜の肥厚に目を向けることとなる.2.(硬性)ドルーゼン生成と補体の関与欧米ではアイバンクの眼球を用いての加齢眼の免疫組織学的検討が容易で,加齢眼にしばしば認めるドルーゼンに関して,Andersonらを中心に精力的に研究が行われてきた.そして,まず,ドルーゼン内にビトロネクチン,apoE,アミロイドb,免疫グロブリン,補体C3,C5b-9複合体などの蛋白質の存在や,マクロファージ,樹状細胞など炎症系細胞をときに認めることなど,Alzheimer病における老人斑や動脈硬化における粥状硬化の部位と多くの共通点を認めたため,発生機序に関しても類似しているのではないかと推測されている.ドルーゼン形成を若年性に認める2型膜性増殖性糸球体腎炎という疾患があるが,その原因遺伝子は補体H因子の異常であると考えられていること,また,AMDのドルーゼンにもH因子を認めることから,米国でAMDの患者の遺伝子を調査し対照群と比較したところ,H因子の遺伝子多型が見出された13).後に国内のAMDへのH因子の関与は少ないことがわかった14)が,補体を中心とした炎症反応がAMD発症の原因として認識されつつある(図6).今後,補体の活性を阻害する物質などの効果について検討されることが予想される.しかし,一つ注意すべきことは,ドルーゼンの生成機序にまでHagemanの仮説15)のように炎症反応の関与が提唱され,もっとものように世界で認識されているものの,ドルーゼン発生と炎症反応の因果関係に関してはどちらが原因でどちらが結果であるのか立証する証拠は何もないということである.数年前に,Alzheimer病の老人斑にアミロイドβの沈着を認めることから,アミロイドβに対するワクチン療法の開発が進み,Alzheimer病モデルマウスを使用した実験で老人斑の消失が確認され,臨床試験が行われたが効果は認めるものの症例の6%と高率に髄膜脳炎を併発したため開発中止に至った16).この失敗(45)図6補体とドルーゼン補体C3,C5b-9,H因子などをドルーゼン周辺に認める.H因子は補体の活性化に抑制的に働く.炎症反応が脈絡膜新生血管を誘導するのは明らかである.しかし,ドルーゼンと補体を含めた炎症反応のいずれが原因でいずれが結果であるか明らかではない(①,②).H子因H因子3C9-b5C網膜色素上皮視細胞外節Bruch膜脈絡膜毛細血管ドルーゼン3C+B因子→b3C→9-b5C)CAM(→症炎a5Ca3C→生新管血D子因制抑性活離遊化性活H因子離遊化性活体補FGEV成生ンゼールド生新管血膜絡脈①②化性活体補———————————————————————-Page10???あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007は,老人斑への炎症反応は老人斑消失の方向へ誘導するが病的な炎症をひき起こしうるとも解釈できる.したがって,ドルーゼンにかかわる炎症反応の証拠も,ドルーゼンを除去するための生体の炎症反応であり,その病的段階として炎症反応としての脈絡膜血管新生が位置すると考えるほうがむしろ自然であるように思われる.したがって,今後,補体を初めとした免疫反応の抑制を目指した研究が行われた場合,確かに脈絡膜新生血管発生を抑制できても,ドルーゼンその他の沈着物の排除が妨げられ沈着が進み,萎縮型に至る症例が増す可能性がある.ただ,これらはすべて憶測であり,研究結果が示されるのを待つべきであろう.3.Bruch膜の肥厚(脂質沈着)Bruch膜の肥厚は30歳ぐらいの頃から認めるようになり(図7),その後,加齢とともに直線的に増悪してくる.仮に,ドルーゼンが出現する基盤としてBruch膜の肥厚の存在が必要条件であると考え,肥厚がさらに顕著になることが,AMD発症の発症条件の一つと考えると,ドルーゼンがAMD発症の直接要因ではなく,すべてのAMDにおいてドルーゼンを認めるわけでないことも説明できる.そこでBruch膜肥厚を防ぐことができれば予防につながるかもしれない.最近,肝臓でのみ産生されるとされてきたapoB-100という蛋白質を含む大型のリポ蛋白を網膜色素上皮が基底膜側に放出していることが,Curcioらのアイバンクの眼球を用いた研究から明らかになっている.そこで,網膜色素上皮は小腸上皮と類似の環境にあると考えることができる(図8).すなわち,小腸が食事から消化吸収された栄養素と,特に脂質をカイロミクロンとして小腸リンパ管内に放出しているのに対し,網膜色素上皮は日々視細胞外節を貪食してリポ蛋白としてBruch膜を超えて脈絡膜血管に向けて放出しているものと考えられる.Bruch膜に蓄積する脂質は多くはこの網膜色素上皮が産生するリポ蛋白由来と考えられるが,高脂血症が基盤にあると高密度リポ蛋白(HDL)を介した中性脂肪の回収率が下がり蓄積速度が増すと考えられるため,蓄積しにくい魚由来の脂質が良いとか,高脂血症の改善が予防につながる可能性が出てくるのだと推測する17).実際,血中コレステロールと脈絡膜新生血管の関連や,スタチン(高脂血症改善薬)摂取や魚摂取により滲出型AMDの発症が予防できるという報告もある18,19).その後,スタチン摂取は無効であったという追試もあり20),議論の余地が残るが予防治療として注目される.では,Bruch膜肥厚は肥満に関係なく加齢とともに30歳ぐらいから直線的増加を見せるが,肥厚開始のスイッチが何故30歳ぐらいに入るのか?その疑問を解く鍵は,リポフスチンである可能性がある.(46)④AMD③AMD前駆期②Bruch膜肥厚①リポフスチン蓄積1009080706050403020100②④③①脂質沈着リポフスチン蓄積脈絡膜新生血管ドルーゼン程度・頻度図7リポフスチン,Bruch膜肥厚,AMD前駆症状,AMDの関係リポフスチンは生後まもなく網膜色素上皮細胞内に頭頂側から蓄積を始め,30歳ぐらいには基底側にまで占拠するようになる(①).そのころから,Bruch膜への脂質沈着が顕在化し,加齢とともに肥厚してくる(②).その後,加齢が進むにつれ,ドルーゼン,色素異常などのAMD前駆症状(③),そしてAMD(④)の順に発症率が増加する.図8網膜色素上皮と小腸の類似性小腸は食事から消化吸収した脂質をリポ蛋白(カイロミクロン)として小腸リンパ管に放出する.網膜色素上皮は視細胞外節を貪食,処理した後,超低比重リポ蛋白(VLDL)よりやや大きいリポ蛋白をBruch膜を超えて脈絡膜側に放出していると考えられる.Bruch膜への脂質沈着はリポフスチン蓄積が関与している可能性がある.小腸リポ蛋白(カイロミクロン)小腸上皮小腸リンパ消化・吸収食物(脂質)網膜色素上皮Bruch膜脈絡膜血管リポ蛋白網膜色素上皮貪食・消化視細胞外節リポフスチン蓄積———————————————————————-Page11あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007???4.網膜色素上皮細胞内のリポフスチン蓄積リポフスチンは生体において加齢とともにさまざまな臓器で出現する顆粒状沈着物である.リポフスチンは,蛋白質,脂質,その他の分子が糖化や酸化といった修飾を受けた混合物からなる顆粒で,網膜色素上皮細胞内に蓄積するリポフスチンの場合,多くは視細胞外節由来と考えられる.もともと,視細胞は光線および高酸素曝露により酸化反応を受けやすい環境下にある.酸化産物や糖酸化産物は一般にライソゾームの消化酵素に抵抗するため,網膜色素上皮細胞内に滞り,これがリポフスチン沈着の原因であると考えられる.実際,生後すぐにリポフスチンは蓄積し始める.網膜色素上皮細胞内に頭頂側から蓄積して30歳ぐらいには基底部側まで細胞質内をリポフスチンが占拠するようになる(図7).蓄積したリポフスチンの運命についてはわかっていないが,高齢者でリポフスチンと同じ黄金色の自発蛍光をBruch膜に認めるようになり21),また,成分のほとんどは不溶性であることがわかっている22).したがって,30歳以降,リポフスチンがBruch膜側に消化不良な断片のまま排泄されるものと考えられる.この時期からBruch膜への脂質沈着が始まるので,Bruch膜や網膜色素上皮基底部に存在するリポフスチンがリポ蛋白の生理的な放出機能を障害した結果,脂質の停滞につながるのではないだろうか.筆者らは糖酸化作用を利用して作製した模擬リポフスチンを家兎の網膜下に注入して網膜色素上皮の貪食作用によってリポフスチンが網膜色素上皮細胞内に蓄積したモデルを作製したところ,全例,ドルーゼンの生成と,一部に1型脈絡膜新生血管の発生を認めた(投稿中)(図9).このことから,リポフスチン蓄積がドルーゼン生成やAMD発症の要因となっている可能性が示唆される.このような観点に立てば,リポフスチン沈着を防ぐ,または遅らせることが,Bruch膜への脂質沈着という加齢変化を防ぎ,その先のAMD発症を予防できる可能性がみえてくる.抗酸化作用と拮抗しうる喫煙がAMDの危険因子であることや,ビタミンC,E,アントシアニン,ポリフェノールなど抗酸化剤の摂取や,ルテイン・ゼアキサンチンなどの黄斑色素の摂取がAMD予防につながる可能性は,脈絡膜新生血管発症というAMDの最終段階への影響だけでなく,光線と酸素曝露により視細胞周辺で日々生じる酸化ストレスの存在から(47)図9家兎リポフスチン蓄積モデルとドルーゼン最終糖化産物(advancedglycationendproduct:AGE)よりなる模擬リポフスチン微粒子を家兎網膜下に注入することにより,網膜色素上皮内リポフスチン蓄積モデルを作製すると,高率にドルーゼン(矢印)が生成され,リポフスチンとドルーゼンの関与が示唆される.図10自発蛍光,A2E,リポフスチンの関係ロドプシンサイクルのうち,all-?????-retinalとethanolamineがシッフ塩基を形成する.多くは,ABCA4を介して,ロドプシンサイクルに回収されるが,一部,さらに反応が進みA2Eが形成される.A2Eは光線曝露などにより,さらにライソゾーム内での糖化,酸化反応の進行,リポフスチン形成に関与しているようである.蓄積したリポフスチンは自発蛍光を発する.ンシプオンシプドロlaniter-sic-11laniter-snart-llaレチノイドサイクル4ACBA基塩フッシE2AEP2A,どな,EGA物産化酸素酸,線光(酸化ストレス)リポフスチン食貪節外網膜色素上皮視細胞外節PE,E視細胞外節蓄積・自発蛍光PE,E———————————————————————-Page12???あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007説明できるものと考える.また,リポフスチン生成過程を直接抑制する試薬などの開発を期待したい.ただ,このように加齢変化は生後すぐに始まるものであり,喫煙歴もあるとか,大型のドルーゼンを認めるなどBruch膜肥厚がすでに顕著であろうと考えられる時点で,上記の抗酸化に努めてもAMD発症を免れない場合も多いと思われる.そこで,生成したリポフスチンを分解するなどによってBruch膜を若返らせることができれば理想である.リポフスチンに関するその他のキーワードとして,自発蛍光とA2Eがある(図10).前述のごとく,リポフスチンは黄金色の自発蛍光を発しているがこれも糖化や酸化産物の特徴である.HeidelbergRetinaAngiograph(HRA)によって眼底の自発蛍光の測定が容易になったが,地図状萎縮の拡大部位で萎縮に先行して自発蛍光の増強が観察できるとか23),加齢眼においてさまざまな異常自発蛍光を呈する場合があり24),AMD発症との関連が示唆されている.A2Eは糖酸化反応の第一段階でもあるアルデヒドとアミノ基がシッフ塩基を形成という過程を経て,アルデヒドであるロドプシン由来のall-?????-retinal2分子(A2)と視細胞の細胞膜のリン脂質(フォスファチジルエタノールアミン)由来のエタノールアミン1分子(E)が化学結合した産物であり,リポフスチンの多様な構成成分の一つである.リポフスチンの構成成分として抽出が容易であったため同定され精力的に研究されている.ライソゾーム膜を破壊する界面活性剤としての効果や,光線曝露に反応して産生されるフリーラジカルが,リポフスチンの糖化・酸化反応を進行させ不溶化に影響しているほか,網膜色素上皮へのストレスとなっている可能性が報告されている25,26).ただ,A2Eは,すべてのリポフスチンに優位に存在するというわけでなく,また,Stargardt病における原因遺伝子がABCA4であり,著明にA2Eが蓄積する疾患であるが,病態は黄斑ジストロフィであり,一般にドルーゼンやその他のAMDの病態とは異なることから,A2Eを前面に押し出した研究には無理があるように思われるが,A2E産生を抑制する薬剤が開発されれば,Star-gardt病の治療薬となる可能性がある他,リポフスチンの不溶化を抑えてAMD予防に結びつくかもしれない.おわりにPDTに始まり,最近の抗VEGF療法を中心として,AMD治療の道も開けてきた.ただ,AMDのメカニズムや神経再生の可能性について未知の部分が多いなか,まだまだ薬剤開発の道は険しい.悲観的になるということではなく,現実を冷静に見つめると,AMDは発症してしまうとqualityoflife(QOL)を保つに十分な視力を維持できるのは約3人に1人とまだまだ厳しい状況である.両眼発症は約20%であるので,何としても一方の眼だけでも発症させないという目標をもって日々の診療を行いたい.このような観点で,片眼発症した患者はもちろんであるが,AMDの前駆症状である大型ドルーゼンや色素上皮のむらを認めたら,「発症してからではむずかしい,予防が大切です」というアドバイスを眼科医すべてに心掛けていただきたい.患者は発症してしまった眼の視力低下を嘆き,医師に何とかして欲しいとすがって当然である.決して諦めず治療を受けるよう促すのはもちろん重要である.しかし,それ以上にもう一方の眼を守る努力が大切であることをまず医師が認識していなくてはならない.患者の治療の申し出に,「では大きな病院を紹介しましょう」「では最新の薬物療法に期待してみましょう」だけでは,この疾患の本質が見えていないように思われる.QOL保持の観点で患者の将来をまず配慮するべきである.わが国においては喫煙が最大の危険因子であるから,何としても患者本人が納得して禁煙する方向にもっていけるよう促すことがまず大切である.仮に約250人の喫煙者を禁煙させることができれば1人のAMD発症を予防できることになる.喫煙以外でもエビデンスの有無も含めた危険因子の情報と予防のための生活指導をできるだけ早期に行っていきたいものである.不幸にも両眼発症してしまった場合は,治療に全力を尽くすのはもちろんであるが,ロービジョンケアについても念頭におくべきである.以上,AMD治療の将来は決して暗いものではない.今後の薬物療法の発展を期待したいものである.また,同時に,一般眼科医の患者本位の地道な診療が実は最大の予防効果を発揮しうることを忘れてはならない.(48)———————————————————————-Page13あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007???文献1)PharmacologicalTherapyforMacularDegenerationStudyGroup:Interferonalfa-2aisine?ectiveforpatientswithchoroidalneovascularizationsecondarytoage-relatedmaculardegeneration.Resultsofaprospectiverandom-izedplacebo-controlledclinicaltrial.???????????????115:865-872,19972)IpM,GorinMB:Recurrenceofachoroidalneovascularmembraneinapatientwithpunctateinnerchoroidopathytreatedwithdailydosesofthalidomide.?????????????????122:594-595,19963)AisenbreyS,LafautB,SzurmanPetal:Maculartranslo-cationwith360degreeretinotomyinthetreatmentifexudativemaculardegeneration.Functionalandangio-graphicresults.?????????????99:164-170,20024)BlumenkranzMS,BresslerNM,BresslerSBetal:Treat-mentofAge-RelatedMacularDegenerationwithPhoto-dynamicTherapy(TAP)StudyGroup:Vertepor?nther-apyforsubfovealchoroidalneovascularizationinage-relatedmaculardegeneration:three-yearresultsofanopen-labelextensionof2randomizedclinicaltrials─TAPReportno.5.???????????????120:1307-1314,20025)JapaneseAge-RelatedMacularDegenerationTrial(JAT)StudyGroup:Japaneseage-relatedmaculardegenerationtrial:1-yearresultsofphotodynamictherapywithvertepor?ninJapanesepatientswithsubfovealchoroidalneovascularizationsecondarytoage-relatedmaculardegeneration.???????????????136:1049-1061,20036)RosenfeldPJ,BrownDM,HeierJSetal:MARINAStudyGroup:Ranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration.????????????355:1419-1431,20067)BrownDM,KaiserPK,MichelsMetal:ANCHORStudyGroup:Ranibizumabversusvertepor?nforneovascularage-relatedmaculardegeneration.?????????????355:1432-1444,20068)MennelS,MeyerCH,EggarterFetal:Transientserousretinaldetachmentinclassicandoccultchoroidalneovas-cularizationafterphotodynamictherapy.?????????????????140:758-760,20059)YasukawaT,KimuraH,TabataYetal:Targeteddeliv-eryofanti-angiogenicagentTNP-470usingwater-solu-blepolymerinthetreatmentofchoroidalneovasculariza-tion.??????????????????????????40:2690-2696,199910)YasukawaT,KimuraH,TabataYetal:Targetingofinterferontochoroidalneovascularizationbyuseofdex-tranandmetalcoordination.??????????????????????????43:842-848,200211)IdetaR,YanagiY,TamakiYetal:E?ectiveaccumula-tionofpolyioncomplexmicelletoexperimentalchoroidalneovascularizationinrats.?????????557:21-25,200412)ComplicationsofAge-RelatedMacularDegenerationPre-ventionTrialResearchGroup:Lasertreatmentinpatientswithbilaterallargedrusen:thecomplicationsofage-relatedmaculardegenerationpreventiontrial.???????????????113:1974-1986,200613)HagemanGS,AndersonDH,JohnsonLVetal:Acom-monhaplotypeinthecomplementregulatorygenefactorH(HF1/CFH)predisposesindividualstoage-relatedmac-ulardegeneration.??????????????????????102:7227-7232,200514)OkamotoH,UmedaS,ObazawaMetal:ComplementfactorHpolymorphismsinJapanesepopulationwithage-relatedmaculardegeneration.???????12:156-158,200615)HagemanGS,LuthertPJ,VictorChongNHetal:Anintegratedhypothesisthatconsidersdrusenasbiomarkersofimmune-mediatedprocessesattheRPE-Bruch?smem-braneinterfaceinagingandage-relatedmaculardegen-eration.??????????????????20:705-732,200116)OrgogozoJM,GilmanS,DartiguesJFetal:SubacutemeningoencephalitisinasubsetofpatientswithADafterAbeta42immunization.?????????61:46-54,200317)TheEyeDiseaseCase-ControlStudyGroup:Riskfactorsforneovascularage-relatedmaculardegeneration.???????????????110:1701-1708,199218)HallNF,GaleCR,SyddallHetal:Riskofmaculardegen-erationinusersofstatins:crosssectionalstudy.????????323:375-376,200119)SeddonJM,GeorgeS,RosnerB:Cigarettesmoking,?shconsumption,omega-3fattyacidintake,andassociationswithage-relatedmaculardegeneration:theUSTwinStudyofAge-RelatedMacularDegeneration.????????????????124:995-1001,200620)McGwinGJr,ModjarradK,HallTAetal:3-hydroxy-3-methylglutarylcoenzymeareductaseinhibitorsandthepresenceofage-relatedmaculardegenerationintheCar-diovascularHealthStudy.???????????????124:33-37,200621)OkuboA,RosaRHJr,BunceCVetal:TherelationshipsofagechangesinretinalpigmentepitheliumandBruch?smembrane.??????????????????????????40:443-449,199922)SparrowJR,BoultonM:RPElipofuscinanditsroleinretinalpathobiology.???????????80:595-606,200523)HolzFG,BellmanC,StaudtSetal:Fundusauto?uores-cenceanddevelopmentofgeographicatrophyinage-relatedmaculardegeneration.??????????????????????????42:1051-1056,200124)BindewaldA,BirdAC,DandekarSSetal:Classi?cationoffundusauto?uorescencepatternsinearlyage-relatedmaculardisease.??????????????????????????46:3309-3314,200525)LambLE,SimonJD:A2E:acomponentofocularlipo-fuscin.???????????????????79:127-136,200426)ZhouJ,CaiB,JangYPetal:Mechanismsfortheinduc-tionofHNE-MDA-andAGE-adducts,RAGEandVEGFinretinalpigmentepithelialcells.???????????80:567-58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