———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSの所見から腫瘍の存在を疑い,眼科一般検査とともに積極的にCT(コンピュータ断層撮影)-scanやMRI(磁気共鳴画像)などの画像診断を施行することが大切である.2.画像診断の重要性臨床所見が腫瘍の存在により生じているか否かは,画像診断で確認しなければならない.さらに治療計画を立てて実際に手術を行うには,腫瘍内容の性状,骨,眼球,外眼筋と腫瘍の位置関係などを正確に把握できる画像が必要であり,頭部単純CTだけでは不十分である.放射線科に画像をオーダーする際は,眼窩水平基準面を中心にできるだけ薄い水平断を依頼し,前頭洞から上顎洞までが入るようにしてもらう.さらに水平断画像から冠状断,矢状断の再構成を行う.CT-scanは,骨と腫瘍の関係,骨壁の菲薄化,破壊所見,副鼻腔の状況を把握するのに必須である.より詳細な情報,たとえば腫瘍内部の詳細,腫瘍と外眼筋,視神経,動静脈など軟部組織との位置関係が知りたければMRIが有用である.眼窩静脈瘤などの易出血性の腫瘍は,術中出血がコントロはじめに眼窩手術は,内眼手術と比較し,手術手技や使用する器具が異なる.筆者は,白内障手術などの内眼手術から眼科手術をスタートしたが,眼窩手術においては,内眼手術の感覚や基本操作がほとんど通用しないことを実感した.眼窩手術を成功させるポイントは,十分な解剖知識に加え,皮膚,筋肉,脂肪組織,骨などの扱い方を知ること,眼窩手術専門器具での切開,展開,?離,縫合といった基本操作をマスターすることである.実際の腫瘍摘出術は,短時間で手術が終了する比較的容易なものから,悪性腫瘍や開頭術を必要とするものまであり,他科との合同手術では5,6時間にも及ぶこともある.いずれの場合も,眼付属器を取り扱うわけであるから,その中心を担うのは眼科の素養のある眼科医であるべきである.本稿では,眼窩腫瘍に遭遇した際の診断の進め方と,眼科医単独でも施行可能な開頭を必要としない経眼窩縁アプローチのポイントについて解説する.1.眼窩腫瘍の初発症状眼科外来でみる眼窩腫瘍の頻度は,初診患者全体の0.2%程度と決して高いものではない1).しかし,不定愁訴とも思われる眼瞼浮腫や眼窩深窩部痛を主訴とし,受診する場合もあり,眼窩腫瘍を頭の片隅にでもおいて診察することが重要である.眼窩腫瘍に特徴的な症状と症候を表1に示す.これら(27)???*BijiAraki:京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕荒木美治:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学特集●眼科臨床医のための眼形成・眼窩外科あたらしい眼科24(5):565~569,2007眼窩腫瘍(前編)─特に経眼窩縁アプローチについて─??????????????(???????????????????????????????)荒木美治*表1眼窩腫瘍の症状症候?眼瞼腫脹?眼球突出?複視?視力,視野障害?眼窩深窩部痛?結膜充血?流涙———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007ール不能に陥る危険があり,画像診断で静脈瘤が疑われる場合の手術適応は慎重を要する.3.全摘出か部分切除か?画像診断で上皮系腫瘍(図1)が予想される場合,腫瘍を完全摘出しなければならない.上皮系腫瘍の摘出が不完全に終わると,残存組織から腫瘍が再発するだけでなく,悪性転化する危険がある.また,腺癌,腺様?様癌などの悪性腫瘍が予想される場合は,骨破壊,頭蓋内浸潤の有無を確認し,十分に腫瘍を取り切れる術式なのかどうか再度確認する.一方,リンパ腫などの非上皮系腫瘍(図2)は,全摘出が困難であった場合は無理をせずに部分摘出にとどめてもよい.その理由は,リンパ腫が放射線療法や化学療法などの後療法に感受性が高いからである.特にMALTリンパ腫では,眼部に限局した場合では放射線が奏効し,5年生存率はほぼ100%近くと予後が良い2).リンパ腫の肉眼所見は,ややピンクがかった表面平滑な外観をしており,周囲との癒着は比較的少ないことが多い.手術の際は,最低5mm四方の腫瘤を2切片切り出し,片方をホルマリン固定し永久標本へ,もう一方を生検体で提出し,フローサイトメトリーやサザンブロット法で細胞表面マーカー,遺伝子再構成を検討する.4.術式の選択外科的に眼窩に到達するためには,経眼窩縁,経頭蓋,経副鼻腔のアプローチある(表2).なかでも経眼窩縁アプローチは,眼窩隔膜または骨膜を切開し眼窩腔に到達する術式であり,眼窩尖端部や頭蓋にまで及ぶ腫瘍を除くすべての眼窩腫瘍に対応できる.表2のごとく経眼窩縁アプローチには,骨切除を併用しない方法と併用する方法があるが,いわゆる前方アプローチが前者で,側方アプローチは後者であると考えてよい.経眼窩縁アプローチについて詳しく述べたい.眼窩腔の前方1/3までの浅層に限局する例では,骨切除なしで腫瘍を摘出できることが多いが,これはあくまで目安であり,腫瘍がさらに深部に位置していても,腫瘍と周囲組織の癒着が軽度である症例では骨切りなしで摘出可能である.一方,腫瘍の後端が眼球の赤道部を越える症例は,骨のひさしが邪魔になることが多く,骨切除が必要になることが多い.骨を切除し術野を確保する方法は,古くKr?nlein法3)として広まったが,図3のように眼窩上孔から?骨弓上縁まで骨切除の範囲を拡大することで,格段に腫瘍摘出が容易になる4).特殊なケースとして,腫(28)表2さまざまなアプローチ?経眼窩縁骨切除(-)眼窩腔の前方1/3に限局した腫瘤骨切除(+)眼窩尖端部を除く後方の腫瘤?経頭蓋眼窩漏斗尖端部,上壁の腫瘤?経副鼻腔副鼻腔からの続発性眼窩腫瘤図1上皮系腫瘍CT-scan:涙腺部から発生した腫瘤が眼球を上外側から圧排している.病理組織診断は涙腺多形腺腫であった.図2非上皮系腫瘍MRI:眼窩外壁に沿って眼窩内に浸潤する腫瘤を認める.病理組織診断はdi?useB-celllymphomaであった.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???瘍が鼻側に存在する場合,涙?窩を一塊にして骨切りするケースもある.5.手術道具,手術材料の選択眼窩手術では,狭くて深い術野で直視下の操作できる器具が重宝される.筆者らの施設で眼窩腫瘍摘出術の際に使用している手術器具と手術材料の一部を示した(図4).術野の展開は,深度により大きさ3種の釣り針鈎を使い分ける.展開に従って何度でも掛け替えができるメリットがある.糸付きの小綿は,脳神経外科領域で広く使用されているものであるが,眼窩軟部組織を小綿で押しやりスペースを確保したり,組織を直接吸引しないよう小綿を介して血液を吸引し術野を洗浄したりと用途が広い.大きさは,1×1cmと1×3cmのサイズが使いやすい.6.手術の実際全身麻酔の場合,患者を傾斜可能なベッドに固定する.手術用顕微鏡は,深く狭い術野を覗き込む必要があるので,自由に角度を変化させることができるコントラバス型が望ましい.脳神経外科用の顕微鏡が代用できる.7.麻酔方法の選択浅層の腫瘤で骨切除が不要な場合,局所麻酔下での手術が可能である.しかし術前の予想に反し,腫瘍の周囲組織の?離が癒着により困難な症例や,大出血をきたすような症例も存在する.この場合,手術時間が大幅に延長し輸血が必要になるケースもあるので,可能な限り全身麻酔で手術を行うことが望ましい.仰臥位では,重力の影響で腫瘤が触知不能となるケースがあり,麻酔の前に腫瘤部位にマークをしておくようにする.8.皮膚切開,結膜切開皮膚皺線に平行な予定切開線をデザインし,腫瘤触知可能な症例では局在に合わせて腫瘍の直上皮膚を切開する.骨切りが必要な場合は,骨切除の範囲に合わせて皮膚切開する.皮膚にマーキングをする際,ピオクタニンが血液や麻酔液で消えることがあり,エタノールで溶解させたタイプが使用しやすい.腫瘤が鼻側に存在する場合は,経結膜的に後涙?稜,眼窩に入る経路を選択することもある.(29)図3骨切除のイメージ眼窩上切痕~?骨弓上縁までの骨切除で術野が拡大する.頬骨弓上縁眼窩上切痕図4眼窩手術の器具上からフックピンセット,丹下式持針器,バヨネット型マイクロ剪刀,マイクロ鑷子,釣り針鈎,糸付きの小綿.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.5,20079.骨膜切開,骨切除骨膜切開,?離の後,側頭筋を?離しガーゼで圧排して側頭窩を十分に露出する.側頭筋の?離が不十分であると,骨切除の際に骨のブロックが崩れたり,切除に手間取ったりする原因になる.図3のように,骨切りは?骨上縁と眼窩上孔までの切除可能であるが,腫瘍の局在,深度に合わせて骨切除に範囲を調節する.実際の骨切除を図5に示した.頭側の骨切除は脳損傷の危険があり特に気を使うが,眼窩縁から7mmまでなら安全に切除可能である5).切除範囲が決定したら,電動式の骨鋸で上壁に対し,まず垂直に骨切りを行う.つぎに水平方向に,最後に?骨弓上縁で外壁を骨切りする6).内側は前頭神経の損傷に,?骨上縁側は外転神経,外直筋,眼球を損傷に十分注意を払う.ある程度切れ込みが入れば,大きめの平ノミで切除を進める.骨の可動性が出てきたらガーゼで骨を保護し,リュエルで外方へ骨折させる.骨折線は?骨蝶形骨縫合と一致するため,比較的少ない力で骨折させることができる.骨からの出血は,適宜骨?で止血する.10.眼窩隔膜切開,骨膜切開眼窩隔膜または眼窩骨膜を切開し,眼窩に進入する.眼窩隔膜は線維性結合織で1層の膜ではなく同定しにくいが,奥の腫瘍を傷つけないよう丁寧にスプリング剪刀で分けていく.眼窩骨膜を剪刀で浅く切開すると,眼窩の陽圧でゆっくりと眼窩軟部組織が押し出されてくる.骨切除の範囲まで十分に切開を広げる.涙腺腫瘍では,腫瘍による圧排ですでに骨膜が損傷し,骨切除した時点で腫瘍が露出しているケースもある.切開した眼窩隔膜,骨膜は,釣り針鈎か7-0モノフィラメント糸で牽引する.11.腫瘍摘出筋円錐内の腫瘍では,骨膜切開後,眼窩脂肪を小綿で避けながら腫瘍を探す作業が必要になる.眼窩内での基本操作は,片手の吸引嘴管で小綿をコントロールしながらマイクロ鑷子,剪刀,バイポーラ鑷子で腫瘍,周辺組織を切離,止血していくという作業のくり返しである.腫瘍がある程度露出したら,クライオプローブまたは絹糸で腫瘍を把持し,助手にコントロールしてもらいながら,周辺組織との分離を進める.腫瘍血管は直視下であらかじめバイポーラで止血する.皮様?腫は,骨縫合線から発生するため,骨膜付着部でどうしてもカプセルを破?してしまうことが多い.逆に破?させて内容量を減じないと大きすぎて摘出できない巨大?胞もある.破?時は?内部をピオクタニンで染色し,染まったカプセルを全摘出する.涙腺腫瘍で,腫瘍と正常涙腺組織との区別が困難である場合,少し腫瘍側に正常涙腺をつけて切除する7).12.閉創腫瘍摘出後は,生理食塩水で眼窩内を洗浄し十分に止血を確認する.眼窩隔膜を切開した場合は,7-0モノフィラメント糸で縫合する.骨切除した場合は,眼窩骨膜を6-0モノフィラメント糸で縫合し,切除した骨を元に戻して5-0モノフィラメント糸で骨膜縫合することで骨を固定する.最後に眼輪筋,皮膚を縫合する.13.術後合併症眼瞼下垂,眼球運動制限,眼窩内出血,視神経障害などが問題となる.眼瞼腫脹,浮腫,皮下出血は術後数週間でほぼ改善する.眼瞼下垂が生じた場合,半年経過観察し改善しない場合,残存した挙筋機能に応じて挙筋短縮術か吊り上げ手術を行う.小児の場合は遮断性弱視の(30)図5骨切除の実際左側涙腺部腫瘤に対し,上外側の骨切除を行っている.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???(31)危険があり,早めに吊り上げ手術を行うようにする.眼球運動障害は,支配神経や外眼筋の損傷がなければ数カ月で改善してくることが多い.おわりに本稿では,眼科医が単独で手術可能な経眼窩縁アプローチについて述べたが,手術を成功させるためには,解剖を勉強して眼形成外科医,形成外科医の基本手技を手術見学から学び,経験を積み重ねる以外にない.普段見慣れない疾患に遭遇した際,できるだけ紹介先の専門施設に出向き手術見学をすることは,疾患を深く理解するうえで大切なことである.文献1)後藤浩,阿川哲也,臼井正彦:眼窩腫瘍218例の臨床統計.臨眼56:297-301,20022)辻英貴,小幡博人,鈴木茂伸:眼腫瘍の展望.眼科47:781-809,20053)Kr?nleinRU:ZurPthologieundBehangdlungderDer-moidcystederOrbita.???????????????4:149,18884)NakamuraY:Osteroplasticorbitomyfororbitaltumorsurgery.?????5:235-237,19865)三戸秀哲:眼窩腫瘍の観血的および保存的治療にはどのようなものがあるのか.あたらしい眼科19:573-577,20026)荒木美治,中村泰久:眼窩腫瘍への外科的アプローチ.あたらしい眼科19:567-572,20027)安積淳:眼窩腫瘍の外科的治療.臨眼56:1666-1673,2002