———————————————————————-Page1(1)???本号の特集として,「加齢黄斑変性(AMD)の薬物治療」を企画した.AMDはかつて老人性円盤状黄斑変性症(SDMD)などとよばれ,予後不良,治療法皆無の疾患であった.唯一認められていたのがレーザー光凝固術であった.しかし,当然のことながら,黄斑を凝固すると直後から視力は急激に低下する.国際学会のパネルディスカッションで,症例が提示され,治療法は光凝固で全員意見が一致したが,座長が「もし自分が患者だったら光凝固を受けますか」と訊くと,パネリスト全員がNoと言った,という笑えない話もある.その後1990年代半ば頃より,重症例に対する外科的治療が始まった.重篤な合併症である網膜下出血に対する血腫除去術や,脈絡膜新生血管抜去術,さらには黄斑移動術といった黄斑下手術が一世を風靡した.それまでの治療では考えられないくらい良好な術後視力を得る症例が存在したものの,広く施行されるには至らなかった.その理由は,手術対象の多くがすでに病巣の拡大している進行例であり,視力成績が全体として期待されるほどには至らなかったことと,術後の脈絡膜新生血管の再発・拡大やその他合併症で,術後一旦改善された視力が再低下するのを食い止めることができなかったことにある.1990年代後半になり登場したのが,経瞳孔温熱療法(TTT)と光線力学的療法(PDT)である.外科的治療法に比べ,侵襲が少なく,患者負担が軽いので,世界的に広く行われており,PDTは現在のAMD治療の主流である.しかし,治療成績は視力維持,もしくは,無治療に比べ視力低下が抑制された,というものであり,患者の期待する視力改善は達成できていない.適応を早め,病巣が小さく視力の良好な初期症例に施行すれば,日常生活に必要な良好な視力の維持が可能と予想される.しかし,治療直後には照射範囲の脈絡膜血管が健常部も含めて閉塞することから,組織侵襲は無視できず,また,少数ではあるが照射後に出血などのため急激に視力低下をきたす症例もあるので,早期適応の是非には議論の余地が残っている.そして,今世紀に入りスポットライトを浴びているのが本特集で取り上げる薬物療法である.2004年に米国においてpegaptanib(Macugen?)が,AMDの薬物治療として初めて認可された.新生血管の発症・伸展に重要な役割を果たしている血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の作用を抑制することにより,脈絡膜新生血管を抑えようという治療法である.Pegaptanibは標的蛋白質(この場合VEGF)に結合することのできる核酸分子である.同様の目的で,VEGFに対する抗体が開発された.Ranibi-zumab(Lucentis?)とbevacizumab(Avastin?)がそれである.現在わが国ではpegaptanibとranibi-zumabが臨床治験中(エントリーは終了)であり,0910-1810/07/\100/頁/JCLS*MotohiroKamei:大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室●序説あたらしい眼科24(3):267~268,2007加齢黄斑変性に対する最新の治療─薬物治療の現状と未来─???????????????????????????-????????????????????????????─????????????????????????????????????─瓶井資弘*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007(2)数年以内に使用可能となると思われる.しかし,現在使用は不可能であるので,脚光を浴びているのがbevacizumabである.欧米では大腸癌に対する薬剤として認可されているが,わが国では未承認薬であり,しかも,眼科使用は適応外である.倫理的観点から,使用に際しては法的手続きを要し,かつ,慎重な使用が望まれるが,現在わが国で唯一使用可能な抗VEGF薬である.海外からはこれら抗VEGF薬の単独,もしくはPDTと組み合わせた治療法に関する,前向き臨床試験の結果が報告されている.その結果を含め,野田佳宏先生にpegap-tanib(Macugen?),辻川明孝先生にranibizumab(Lucentis?),坂口裕和先生にbevacizumab(Avas-tin?)の解説をお願いした.また,以前よりステロイド薬には血管新生抑制作用があることが知られている.抗VEGF薬より早く,1990年代半ばにはAMDに対するtriamcino-lone硝子体内投与の効果が検討され,その後副作用を抑えたanecortaveacetateも開発された.Tri-amcinolone硝子体内投与は黄斑浮腫に対する治療法としては欧米で広く行われており,応用が容易であったと考えられる.しかし,臨床試験の結果,やや効果が弱いと考えられ,今後はPDTなどとのカクテル療法に使用されることになると予想される.大久保明子先生にはtriamcinoloneの治療経験を含めた解説をお願いし,山岡青女先生にはanecor-taveacetateについて執筆していただいた.上述のごとく,AMDに対する治療は,めまぐるしく変化している.侵襲のある治療法から,患者負担も少ない薬物治療へ移行してきているといえる.広い視野からみると,この薬物治療の隆盛はきわめて望ましいものであり,さらには,予防医学が望ましい.そういう観点から,森隆三郎先生にサプリメントについて解説していただいた.臨床現場では,すでに片眼が進行したAMD患者から,「まだ発症していないほうの眼をどうやって守っていったらいいか」との質問を受けることも多いので,その対応の一助になれば幸いである.最後に,安川力先生にAMDの発症メカニズムを踏まえた新しい薬物療法の可能性の解説をお願いした.本特集に目を通している若い世代が,AMD治療をさらに発展させてくれることを期待したい.