———————————————————————-Page1(117)15870910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(11):15871591,2008cはじめに学童児の原因不明の視機能障害は,心因性視覚障害の診断で経過観察されていることが少なくなく,器質的疾患が潜在あるいは発症しても,その非特異的な視野異常ゆえ,その発見が遅れたり,見逃されたりする場合がある1).今回筆者らは,心因性視力低下および高眼圧の診断で経過観察されていた11歳児に対し,眼科学的検査を行い,発達緑内障が合併していることをつきとめた.さらに眼圧下降目的に線維柱帯切開術を施行したところ,視力および視野の改善が得られ,まれな1症例と思われたので報告する.I症例患者:11歳,男児.主訴:両眼視力低下.既往歴:なし.家族歴:いとこに心因性視力低下.〔別刷請求先〕竹森智章:〒060-8543札幌市中央区南1条西16丁目291番地札幌医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:TomoakiTakemori,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversity,S-1W1-16,Chuo-ku,Sapporo060-8543,JAPAN心因性視覚障害に発達緑内障を合併した1例竹森智章*1片井麻貴*2田中祥恵*1大黒幾代*1大黒浩*1*1札幌医科大学医学部眼科学講座*2札幌逓信病院眼科ACaseofPsychogenicVisualDisturbanceComplicatingDevelopmentalGlaucomaTomoakiTakemori1),MakiKatai2),SachieTanaka1),IkuyoOhguro1)andHiroshiOhguro1)1)DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,SapporoTeishinHospital症例は11歳,男児.両心因性視力低下,高眼圧の精査目的に札幌医科大学附属病院眼科を紹介受診.初診時視力は右眼0.02(0.25×3.0D),左眼0.04(0.32×2.5D),眼圧は右眼26mmHg,左眼26mmHgであった.隅角所見は,虹彩の高位付着と多数の虹彩突起を認めた.眼底所見は,両眼とも視神経乳頭陥凹拡大あり,緑内障性変化が考えられた.静的視野検査で両眼に著明な求心性視野狭窄を認め,緑内障性変化は不明であったが,以前にも動的視野検査にて求心性視野狭窄があることから,心因性視覚障害も有しているものと思われた.両眼に対し線維柱帯切開術を行ったところ,視力,眼圧に加えて視野も改善がみられた.本症例は緑内障と心因性視力障害が合併し,緑内障の発見が遅れた可能性がある.よって,心因性視覚障害が疑われた場合にも,くり返し隅角検査や眼底検査,眼圧検査などを行い,緑内障の有無を検索することが必要と思われた.本症例が緑内障手術を契機に視力,視野が改善した詳細な機序については不明であり,今後も経過をみていきたいと考えている.An11-yearoldmalewasreferredtoourhospitalcomplainingofbothvisualdisturbanceandocularhyperten-sion.VisualacuitywasVD=0.02(0.25×3.0D),VS=0.04(0.32×2.5D).Intraocularpressurewas26mmHginbotheyes.Gonioscopydisclosedhighinsertionoftheirisandmanyirisprocessesinbotheyes,buttherewasnoperipheralanteriorsynechia.Funduscamerashowedenlargedcuppingoftheopticnerveheadinbotheyes,indi-catingglaucomatouschange.Furthermore,staticperimetryrevealedconcentriccontractioninbotheyes,indicatingpsychogenicvisualdisturbance.Weperformedtrabeculotomyinbotheyes,afterwhichvisualacuity,intraocularpressureandvisualeldimproved,whichsuggestedthatthepatienthadalsodevelopmentalglaucoma.Althoughitisrareforapatienttohavebothglaucomaandpsychogenicvisualdisturbance,sinceglaucomamaybediscoveredlateritisnecessarytorepeatedlyperformgonioscopy,funduscopy,andtonometry,soastodeterminewhetherthepatienthasglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(11):15871591,2008〕Keywords:心因性視覚障害,発達緑内障,求心性視野狭窄,トラベクロトミー.psychogenicvisualdisturbance,developmentalglaucoma,concentriccontraction,trabeculotomy.———————————————————————-Page21588あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(118)現病歴:2004年5月(9歳時),学校健診の際に視力低下を指摘され近医初診.視力右眼0.1(1.2×1.0D),左眼0.1(1.2×1.25D)で眼鏡処方.2005年4月(10歳時),再度学校健診の際に視力低下を指摘され前医再診.視力右眼0.02(0.06),左眼0.03(0.2)と矯正視力の低下を認め,眼圧右眼21mmHg,左眼21mmHgとやや高値であった.また,動的視野検査(図1)で右眼に著明な求心性視野狭窄,左眼にはイソプター全体の軽度の沈下が認められたため,心因性視覚障害の診断で経過観察していたところ,7月に右眼0.05(0.1),左眼0.1(1.2)と矯正視力改善するも,2006年11月(11歳時),視力右眼0.04(0.1),左眼0.04(0.1)と再び低下,眼圧も右眼24.7mmHg,左眼22.0mmHgと高値となったため,精査加療目的で2007年1月札幌医科大学附属病院(以下,当院)眼科外来を紹介受診となった.初診時所見:瞳孔は正円同大,対光反応迅速,左右差を認めなかった.視力;右眼0.02(0.25×3.0D),左眼0.04(0.32×2.5D).眼圧;右眼26mmHg,左眼26mmHg.隅角所見;虹彩の高位付着と多数の虹彩突起を認めた.前眼部,中間透光体;異常所見なし.眼底所見(図2);両眼とも乳頭径(DD)と乳頭中心から中心窩までの距離(DM)の比(DM/DD)は2.5で正常範囲であった.右眼の陥凹乳頭比(C/D比)は0.8で,上耳側にリムのnotchを認め,laminadotsign(+),血管の鼻側偏位を認めた.左眼はC/D比は0.7で,上方リムの狭細化を認め,laminadotsign(+),血管の鼻側偏位を認めた.黄斑部および周辺網膜に異常はなかった.静的視野検査(図3,当院初診時施行);両眼に著明な求図1前医で施行の動的視野検査(2005年5月)右眼に著明な求心性視野狭窄を認めた.また,左眼も軽度の求心性視野狭窄を認める.右左右左図2初診時の眼底所見両眼ともDM/DD比は2.5で正常範囲であった.右眼のC/D比は0.8で,上耳側にリムのnotchを認め,laminadotsign(+),血管の鼻側偏位を認めた.左眼はC/D比は0.7で,上方リムの狭細化を認め,laminadotsign(+),血管の鼻側偏位を認めた.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081589(119)心性視野狭窄を認めた.経過:2007年1月29日に当院眼科に入院.隅角所見,視神経乳頭所見,および高眼圧が続いていることから,以前より発達緑内障があるものと考えられた.さらに,視力の動揺がみられること,今回の視野検査で乳頭所見から想定される以上の著しい求心性の視野狭窄が認められることから,心因性視覚障害も合併していると考えられた.そこで,眼圧下降目的に1月31日,全身麻酔下にて両トラベクロトミーを施行した.手術は下耳側より行い,二重強膜弁を作製し,内方弁は後に切除するという定型的なもので,特に合併症はなか図4眼圧推移1月31日手術施行前は両眼とも20mmHg台の高眼圧であったが,施行後は1517mmHgで推移している.1月31日トラベクロトミー05101520253011月1月19日1月29日2月1日2月28日4月4日5月9日6月22日7月18日眼圧(mmHg)右眼眼圧左眼眼圧図3初診時当院で施行の静的視野検査両眼に著明な求心性視野狭窄を認めた.1月31日トラベクロトミー矯正視力00.20.40.60.811.21.42007/1/172007/1/312007/2/142007/2/282007/3/142007/3/282007/4/112007/4/252007/5/92007/5/232007/6/62007/6/202007/7/42007/7/182007/8/12007/8/152007/8/292007/9/12:右眼:左眼図5矯正視力の経過術後早期は測定ごとにばらつきがみられたが,4月頃改善傾向となり,9月には右眼1.25,左眼1.0まで回復している.図6平成19年6月22日施行の動的視野検査内部イソプターでnasalstepを示しており,緑内障性の変化があることをうかがわせるが,視野は両眼とも著明に改善している.———————————————————————-Page41590あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(120)った.手術施行前は両眼とも20mmHg台の高眼圧であったが,施行後は1517mmHgで推移した(図4).また,矯正視力も徐々に改善し,術後半年以上経過した9月には右眼1.25,左眼1.0であった(図5).さらに,2007年6月22日施行の動的視野検査において,右眼下耳側内部イソプターのわずかな低下を認めたほかに異常なく,両眼とも著明な改善がみられた(図6).II考按心因性視覚障害に発達緑内障を合併した症例を経験した.心因性視覚障害は,近年小児によくみられ,このなかでも視力障害が最も多いが,視野障害,色覚異常なども検査を行うと合併していることも多い1).発症は614歳の小中学校学齢期に集中し,女子が男子の34倍を占めている2).本疾患に明らかな心因を見出せることはまれで,あっても思春期によくみられる学校や家庭などの身近な問題であり,普遍的一般的で何ら特有のものではない.一方で,同胞間の葛藤や母子関係などに心因との関連を見出すことも多いとの報告もある3).一般に心因性視覚障害では,裸眼視力の大部分(75%)が0.20.7にあり矯正不能で,ほとんど(95%以上)が両眼性である.Goldmann視野検査においては,約半数が正常であるが,らせん状視野・求心狭窄・不規則反応が約半数にみられる4).また,SPP(標準色覚検査表)-Ⅱ検査で約半数に色覚のメカニズムからは説明しえない異常がみられる5).治療法としては箱庭療法に代表される芸術療法,行動療法,精神療法などがあげられおり6),予後はGoldmann視野検査所見ならびにSPP-Ⅱ所見に異常がみられた場合に視力上昇が遅れることが多いが,ほとんどが16歳までに視力を回復し,いわば学童期にみられる特異的な疾患とされている7).今回の症例は視力右眼0.02(0.25),左眼0.04(0.32)と両眼に強い視力低下および両眼の著しい求心性視野狭窄を認め,黄斑に器質的変化を認めなかったことにより心因性視覚障害と診断された.さらに,眼圧推移,隅角検査,視神経乳頭所見より発達緑内障が合併していると考えられたが,視野は非特異的であったため,緑内障の発見が遅れた可能性がある.また,本症例はトラベクロトミー施行により良好な眼圧コントロールが得られたばかりか,以降の経過において矯正視力,視野の改善もみられたことは非常に興味深い点である.もし緑内障が進行していれば視野所見は改善しないはずであり,当初の視野障害は心因性の要素も関連していると考えられた.問題点としては,視野障害のうち,何%が発達緑内障の影響で,何%が心因性視覚障害の影響なのかを定量的に測定できないこと,および前医のGoldmann視野検査と当院のGoldmann視野検査の施行者が当然ながら異なるため,アプローチの方法により得られる結果が異なっていたかもしれないという点がある.実際,他院より著明な両求心性視野狭窄にて紹介された小児の症例に対し,以下の方法によってGoldmann視野検査を行ったところ,両眼とも正常視野が得られたとの報告もある8).その方法とは,1.検者は患児に対して毅然とした態度で接する,2.測定前に30cmのところに示される視標を識別する検査であると説明する,3.両眼性であれば,低視力のほうから測定する,4.視認可能な最小の視標(可能ならⅠ/1)からⅤ/4のイソプターへと逆順に測定する,5.視標を切り替える際に,患児に視標が見やすくなることを伝える,というものである.したがって,図2のような著明な求心性視野狭窄が,はたしてどこまで正確に測定されたものであるかというところに議論の余地は残る.ただし,図6に示すように,視野が改善した後も内部イソプターでnasalstepを示しており,緑内障性の変化があったことをうかがわせる.まとめとしては,当院受診時,心因性視覚障害と発達緑内障を合併していた可能性が非常に高いと考えられ,海外の文献においても心因性視覚障害の原因,もしくは同時期の発症として発達緑内障を取り上げている文献は調べる限りにおいてなく911),非常にまれな症例であると考えられた.しかし,経過および大学初診時の所見から考えるに,発達緑内障が元々あり,それに心因性視覚障害を合併したという可能性も否定できない.特に小児においては,実際に器質的な疾患があるが,その症状を自分でうまく形容しづらいがために,その転換反応として心因性視覚障害が現れた可能性もあるからである.本症例では明らかな心因は発見できなかったが,手術を契機に視覚障害が改善しており,早期の発達緑内障が手術により進行が抑えられ,治療がうまくいったということが心身の安定にもつながったのではないかと考える.本例は11歳という就学児童であり,今後心因性視覚障害の再発もありうると思われるので,注意して経過をみていくつもりである.本症例のように,心因性視覚障害が疑われた場合でも,くり返し隅角検査や眼底検査,眼圧検査などを行い,緑内障の有無の検索をすることが必要と考えられた.本論文の要旨は第18回日本緑内障学会にて発表した.文献1)小口芳久:心因性視力障害.日眼会誌104:61-67,20022)横山尚洋:心因性視覚障害の病態と治療方針─精神医学の立場から─.眼臨92:669-673,19983)大辻順子,内海隆:心因性視覚障害児の治療経験およびその母子関係.眼臨89:750-754,19954)大辻順子,内海隆:心因性視覚障害児の病態と治療方針─母子関係に注目して─.眼臨92:658-664,1998———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081591(121)5)山出新一,黄野桃世:エゴグラムから見た心因性視覚障害.眼臨89:247-253,19956)松村香代子,中田記久子,児嶋加代ほか:心因性視力障害児の治療.眼臨94:626-630,20007)内海隆:小児の心因性視覚障害の病態と治療.神経眼科21:417-422,20048)山本節:小児の視野検査.あたらしい眼科19:1297-1301,20029)CatalanoRA,SimonJW,KrohelGBetal:Functionalvisuallossinchildren.Ophthalmology93:385-390,198610)BrodskyMC,BakerRS,HamedLM:Transient,unex-plained,andpsychogenicvisuallossinchildren.Pediatric-Neuro-Ophthalmology,p164-200,Springer-Verlag,NewYork,199611)BainKE,BeattyS,LloydC:Non-organicvisuallossinchildren.Eye14:770-772,2000***