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回折型眼内レンズの適応

2007年2月28日 水曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS能の面で多焦点IOLは魅力的であるが,眼軸長や角膜曲率半径が変化するため,どの時点に合わせるかなどの問題があり,現段階では適応としていない.ここでは屈折が安定した成人を前提に述べる.1.若年例いわゆる老視を経験したことのない45歳ぐらいまでの症例は,回折型IOLの良い適応年齢といえる.従来の単焦点IOLでは,視力が低下していても,水晶体摘出による調節機能障害の欠点を考慮して,手術時期を遅らせる傾向にあった.また,僚眼に白内障手術の可能性がなければ,通常は僚眼と屈折度数を合わせ,老眼鏡をかけることへの抵抗に対しては,やや近方視に合わせたIOL度数を選択していた.屈折型IOLは,わが国でArray?(AMO社)が承認を受け,すでに臨床報告もされている5,6).IOL光学部中央の直径2.1mmが遠用,そのまわりの3.4mmまでが近用ゾーンと同心円状に度数が遠用と近用の交互になっている.近用ゾーンを使用するには,瞳孔径が2.2mm以上必要となるが,若年例では瞳孔径が比較的大きく,高齢者よりも視力が出やすい7).しかしながら,夜間の瞳孔径も大きいことから,グレア,ハローを訴える例が多く,それほど普及していないのが事実である.回折型では遠方および近方が見えるので,通常,正視目標のIOL度数を選択する.回折型IOL挿入後の夜間グレア,ハローは単焦点IOLよりハローを訴える例がはじめに屈折型多焦点眼内レンズ(IOL)に続き,回折型が導入され,挿入後の良好な裸眼遠方および近方視力が報告されている1~3).今まで多焦点IOLというと,単焦点IOLよりも遠方視力の出方が悪い,近方視力が思ったよりも出ない,夜間のグレア,ハローが強い,また,術前および術後検査の項目が多く,患者への説明にも時間がかかるといった,あまりいい印象がなかった.しかしながら,これから導入される回折型は,明らかに良好な遠方および近方視力が得られ,挿入された症例の満足度は非常に高い4).特に白内障手術の大半である老人性白内障例では,眼鏡なしで遠方および近方が見えるのは若い時代に戻ったようだという喜びの声がきかれ,今までの単焦点IOL術後には達成できなかったqualityoflifeを提供できる.白内障手術において,一つの新しい時代に入ったといっても過言ではないであろう.筆者は,屈折型および回折型IOL両者の挿入経験から,回折型は,眼科医が適応をしっかり把握していれば,非常に良好な結果が得られることを確信している.2007年後半,遅くとも2008年前半には,回折型IOLがわが国でも承認されることを期待して,導入時に重要な適応判断について述べる.I年齢白内障の大半は老人性で,いわゆる老視年齢層であるが,若年例もある.幼児や小児は水晶体摘出後,調節機(13)???*HirokoBissen-Miyajima:東京歯科大学水道橋病院眼科〔別刷請求先〕ビッセン宮島弘子:〒101-0061東京都千代田区三崎町2-9-18東京歯科大学水道橋病院眼科特集●バイフォーカル眼内レンズあたらしい眼科24(2):147~150,2007回折型眼内レンズの適応???????????????????????????????????????????????ビッセン宮島弘子*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007多い傾向にあるが,屈折型IOLに比べ程度が軽度で,日常生活には問題ない.また,コントラスト感度については,高周波数領域で単焦点IOL挿入後より落ちているが,日常生活で気になるような差ではない.2.老視年齢層すでに眼鏡を装用している例がほとんどであるが,眼鏡のわずらわしさから,遠方および近方を眼鏡なしで見えるようになりたい人には回折型IOLは非常に魅力的である.すでに承認を受けている屈折型IOLは,年齢が増すとともに,瞳孔径が小さくなるため,高齢者は近方視で瞳孔径2.2mm以下の例も多く,その場合は近方視力が出にくい.回折型は瞳孔径に影響されないため,高齢者でも良好な近方視力が出る.老眼年齢の症例でも,遠方および近方を眼鏡なしで生活したいという希望がある場合に,第一選択となるIOLである.ただし,先にも述べたようにコントラスト感度の低下を考慮すべきである.高齢者は若年者よりも全体にコントラスト感度が低下しており,そこへさらにコントラスト感度を低下させる要素のIOLを挿入することになる.実際には,単焦点IOLを挿入した例と比べ,高周波領域のみやや低下している程度なので,高齢者でも問題ないと考えている.II術前の屈折白内障において,術前の近視や遠視をIOL度数で矯正することが一般的に行われている.実際に術前の屈折によって適応は異なるのだろうか?問題はIOL度数がぴったり合うかどうかにかかわってくる.長眼軸眼や短眼軸眼ではIOL度数が予定よりずれやすい.単焦点IOLにおいて,度数決定がむずかしくなる要素がある場合,多焦点IOLでも注意する必要がある.近年,IOL度数については,測定装置や計算式が改良され,かなり良好な成績になっている.詳細は「眼内レンズ度数決定」の項で述べられているが,まず,使用する回折型多焦点IOLと同材質およびデザインである単焦点IOLを何例か挿入して,A定数を確認しておくことを勧める.1.近視例もともと手元近くで読むことができたため,術後も同様に良好な裸眼近方視力を望む例が多い.従来の単焦点IOLでは,術後屈折を-3.0Dぐらいの近方視に合わせるようにしていた.回折型多焦点IOLは,術前の近視例でも術後屈折を正視にし,かつ近方視力が得られる.ただし,強度近視例では,眼鏡をはずして,かなり本などを近づけて読む習慣があるので,術後の最適読書距離が30cm前後であることを説明しておく.2.遠視例術前は遠用と近用の眼鏡,あるいは遠近両用の眼鏡をしている例が多く,多焦点IOL挿入後は,どちらの距離も見やすくなるので,満足度が非常に高い.今回は白内障例における回折型多焦点IOLの適応であるが,欧米では,白内障のない遠視例に老視治療も兼ねてこのIOLを挿入する屈折矯正手術が行われている8).3.角膜乱視角膜乱視は適応を決めるうえで,非常に重要な要素である.術前乱視は水晶体乱視と角膜乱視があるが,術後には角膜乱視のみとなるので,角膜乱視をチェックする.実際の挿入例における乱視度数と裸眼視力の関係をみると,1D以内であれば遠方は1.0以上,近方も0.7以上が得られ,眼鏡なしで遠方と近方が見える.ただし,乱視が1.5D以上になると,当然のことながら,裸眼視力は遠方のみならず,近方も低下する.良好な裸眼視力を得るには,乱視は少なければ少ないほどよい.ただし,乱視例でも,乱視矯正の眼鏡のみで,遠方と近方が良く見えるので,眼鏡が1つで足りる点は有利である.乱視に対する対応として,切開位置や切開法で調整する方法,術後にLASIK(laser???????keratomileusis)などのエキシマレーザーで調整する方法がある.現在,回折型デザインに乱視矯正を加えたIOLが開発されているので,近い将来,乱視が1.5D以上でも回折型IOLのみで良好な裸眼視力が得られる可能性は高い.III職業従来の屈折型多焦点IOLは,夜間のグレア,ハロー(14)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???を訴える率が高いため,職業上,夜間の運転が多いタクシー運転士やトラック運転士には,慎重に挿入していた.回折型では,屈折型に比べグレアやハローを訴える例は少ない.アンケート調査などで,単焦点IOLよりもハローを訴える例は多いが,日常生活に支障をきたす危険性が少ない.このため,職業上の規制はほとんどないともいえる.逆に,職業上の適応として,眼鏡やコンタクトレンズ装用がむずかしい例,すなわち,大工や,冷凍庫に入る仕事では,眼鏡やコンタクトレンズによる危険性があるので,眼鏡なしの視力が非常に重要である.また,接客業では外見上,遠方視はもちろん近方視でも老眼鏡はかけたくないという例が多いので,このような場合もよい適応である.医師,歯科医師への挿入経験から,術後の日常診療に支障がなく,遠方と近方を交互に見るのに非常に便利という声が聞かれ,満足度が高かった.IV眼鏡なしでの生活への願望何はともあれ本人の意思が重要である.せっかく回折型IOLを挿入しても,眼鏡に慣れていたので,眼鏡をしていないと不安という症例には,多焦点IOLを挿入した利点が生かされない.多少,球面度数や乱視の影響で裸眼視力が悪くても,このIOLのおかげで遠方と近方が眼鏡なしで見えるということを理解できることが大切である.日頃,矯正視力さえ良ければよしとしていたが,眼鏡なしに遠方も近方も見たいと願っている人の数が予想外に多く,今後,術後の裸眼視力向上が重要である.V白内障でなく屈折矯正のみとして考える場合の注意本項では白内障手術ということで,症例は白内障により視力低下があることが前提である.今後,軽度の白内障,あるいは,欧米のように白内障がない場合でも,老視治療として,clearlensectomy,refractivelensex-change(RLE)が検討される時代がくると思われるので,その際の注意点を簡単に述べておく.遠方裸眼視力が良好な例では,回折型IOL挿入後の裸眼遠方視力に満足できない例が出る可能性がある.それは,このIOLのデザインから入ってくる光が遠方と近方に分散されるためのコントラストの低下である.多少遠方の見え方が落ちても,近くを眼鏡なしで見たいという希望が強い例には,このことを十分説明してIOL挿入を検討すべきである.一方,遠視のため,遠方も眼鏡による矯正が必要な,遠近両用眼鏡をしている例では,裸眼遠方および近方の両方の視力が向上するので,非常に喜ばれる.近視では,前述したように,もともと近方は裸眼で良く見えていたので,遠方の見え方は非常に改善されるが,近方は見やすい距離が30cm前後であることを確認しておく.これらの点に注意すれば,今後,老視年齢層における屈折矯正手術として普及していく可能性が高い.おわりに白内障手術は術式およびIOLの完成度が高く,あまり大きな進歩がないように言われているが,回折型IOLは,この流れを大きく変えるであろう.今まで,症例によって意外に近方視力が良好であった例や瞳孔径による影響が論じられていたが,安定して良好な遠方および近方視力が保証されるIOLはなかったといっても過言ではない.これが,可能になっただけでも,非常に大きな進歩である.最後に,適応のポイントとしては,患者サイドでは,角膜乱視が少ない,本人が眼鏡のない生活を望んでいるという条件,手術施設サイドでは,白内障手術経験があり,良好な結果が得られている,IOL度数に関して習熟しているという条件が満たされれば,非常に良好な結果が得られる.今まで数多くの白内障手術を施行し,術翌日に多くの患者が,明るくなった,世界が変わったなど視力の回復を喜んでくださった.しかし,このIOL挿入後の感激は,ただ見えるようになっただけでなく,近くの字も見えるという,今まで以上の喜び方で,医師のみでなく検査をする視能訓練士,看護師などスタッフ全員が,その素晴らしさを感じている.患者への説明時間がかかる,検査時間がかかるといった印象をもたれているが,実際の症例を経験すると,通常の単焦点IOLでどこに焦点を合わせるか,遠方か近方かといった選択の悩みもなくなり,かえってIOL度(15)———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007数選択は単純である.術後視力も遠方と近方を測定,コントラスト感度や焦点深度といった,多くの項目があるが,これは,症例を経験すれば,全例にする必要はなくなる.眼鏡なしでの生活はqualityoflifeの向上につながることが報告されている9,10)が,このIOLが正しい方向でわが国に普及することを心より願って,この稿を締めたい.文献1)KohnenT,AllenD,BoureauCetal:Europeanmulti-centerstudyoftheAcrySofReSTORapodizeddi?ractiveintraocularlens.?????????????113:578-584,20062)ChiamPJ,ChanJG,AggarwalRetal:ESTORintraocularlensimplantationincataractsurgery:Qualityofvision.???????????????????????32:1459-1463,20063)BlaylockJ,ZhaominS,VickersC:Visualandrefractivestatusatdi?erentfocaldistancesafterimplantationoftheReSTORmultifocalintraocularlens.???????????????????????32:1464-1473,20064)鈴木高佳,ビッセン宮島弘子:眼内レンズの進歩:Multifo-calIOL.あたらしい眼科21:591-596,20045)NegishiK,Bissen-MiyajimaH,KatoKetal:Evaluationofazonal-progressivemultifocalintraocularlens.???????????????124:321-330,19976)HayashiK,HayashiH,NakanoFetal:Correlationbetweenpupillarysizeandintraocularlensdecentrationandvisualacuityofazonal-progressivemultifocallensandamonofocallens.?????????????108:2011-2017,20017)後藤英樹,中村邦彦,ビッセン宮島弘子:若年者における屈折型多焦点眼内レンズの効果.あたらしい眼科17:1417-1420,20008)Bissen-MiyajimaH:MultifocalIOLsforPresbyopia.HyperopiaandPresbyopia(edbyTsubotaK,BoxerWachlerBS,AzarDTetal),p237-248,MarcelDekker,NewYork,20039)JavittJC,SteinertRF:Cataractextractionwithmultifocalintraocularlensimplantation─amultinationalclinicaltrialevaluatingclinical,functional,andquality-of-lifeoutcomes.?????????????107:2040-2048,200010)JavittJ,BrauweilerHP,JacobiKWetal:Cataractextrac-tionwithmultifocalintraocularlensimplantation:clinical,functional,andquality-of-lifeoutcomes.Multicenterclini-caltrialinGermanyandAustria.???????????????????????26:1356-1366,2000(16)

回折型多焦点眼内レンズの光学特性

2007年2月28日 水曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLScm(-3.2D)と同じ焦点の条件で,絞り(瞳孔径)を2mmから5mmに変化した場合に得られる網膜像のシミュレーションを行った.その結果を供覧しながら,回折型の特徴を単焦点レンズ,屈折型と比較しながら説明する.その際に,角膜およびIOLの正の球面収差4)(簡単にいえば,この収差特性はレンズの周辺にいくに従って,焦点が短くなるものである)を考慮した場合,それを補正した場合および回折型にアポダイゼーション(瞳孔が大きくなると遠方にエネルギーが多くいくような設計)を付加した場合についても検討を行った.図1にシミュレーションの条件を示す.シミュレーションでは波長が550nmの単波長のもので,可視光のはじめに近年開発された回折型多焦点眼内レンズ(IOL)であるAcrySof?ReSTOR?(米国アルコン社)やTECNISTMZM900(米国AMO社)は初期の回折型のファルマシア社製の811Eに比べて,光学特性が優れ,ハロー,グレアが少なくなり,実用の域に達してきているといわれている1).また,これまで多焦点IOLで主流であった屈折型2,3)と比較して,優れていると思われる臨床上の特性は,瞳孔が小さいときでも,遠近にフォーカスが合うことである.つまり,瞳孔径を気にしないで,手術ができることである.一方,欠点は,その構造上から散乱光があるので,すべての光を有効に利用することができない点である.これは,レンズ表面に微細な加工を施し,その部分で光がいろいろな方向に回折し,特定の2点で光が強め合うように作製するのであるが,どうしても,それ以外の方向へいく光を0になるようにすることがむずかしいためである.このため,入射してきた光の約8割しか結像に使用できず,残りの2割が散乱光となって眼球全体へと広がることになる.これが,ハロー,グレアの問題であり,これは夜間の見え方に影響してくる.確信はもてないが,昨年の第60回日本臨床眼科学会での諸先生の発表を伺うと,それも解決の域にきているようである.今回,筆者は,波面を用いて網膜上の光学像を計算するソフトを開発し,そのソフトを使って,回折型と屈折型で遠方の焦点を2m(-0.5D)に,近方の焦点を31.25(3)???*KazuhikoOhnuma:千葉大学工学部メディカルシステム工学科〔別刷請求先〕大沼一彦:〒263-8522千葉市稲毛区弥生町1-33千葉大学工学部メディカルシステム工学科特集●バイフォーカル眼内レンズあたらしい眼科24(2):137~146,2007回折型多焦点眼内レンズの光学特性????????????????????????????????????????????????????????大沼一彦*図1シミュレーションの条件術後の焦点位置を0.5Dと3.2Dとし,Landolt環視標を無限遠から-3.75Dまで,0.25Dずつ移動させて,瞳孔径を2mmから5mmまで変化させたときの網膜上の光学像を求める.DCBAシミュレーションに用いた視標2つの焦点位置角膜とIOLの合成レンズ網膜-0.5DAperturesize(2,3,4,5mmF)0.25Dずつ視標を移動無限遠から-3.75DまでR0.10.40.20.0-0.10.3———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007すべての領域を使う白色光のシミュレーションではない.そのため,色収差による影響は今回扱っていない.シミュレーションに使った視標は自作のLandolt環の画像で,logMARで,-0.1から0.4までのものである.また,視標位置は無限遠から26.7cm(-3.75D)まで,0.25Dごとに行った.ここで示すものはあくまでも網膜上の光学像であり,知覚される像ではない.実際に知覚される像は,もう少し良いコントラスト像になると思われる.I単焦点IOLはじめに,比較のために単焦点IOLのシミュレーションの結果を示す.IOL挿入後の遠方焦点を2m(-0.5D)とした場合で,球面収差がない場合と,ある場合について示す.ここでは角膜+IOLの球面収差量は,平均的な角膜の球面収差量が0.27?mであるので,角膜+IOLの球面収差が0.6?m(6mm瞳孔径,アメリカンスタンダード表示)とした.最近は非球面IOLがあり,角膜の球面収差を補正して0にするものがあり,この場合も示す.このとき,瞳孔径を2mmから5mmまで1mmおきに変化させた.結果を図2a,b~5a,bに示す.aは球面収差なし,bは球面収差ありである.この結果から球面収差なしの場合では,瞳孔が2mmの場合,近方-1.25Dから無限大まで解像した像が見られることがわかる.もし,術後の遠方焦点を無限遠にしてしまうと,無限遠から近方1.7m(-0.6D)までとなる.一方,1m(-1.0D)に術後の遠方焦点をするようにすれば,無限遠は見えづらくなるが,近方が1.75Dまで見えるようになる.瞳孔が3mmから6mmと増大するに従って,解像した像が見られる範囲が狭くなることがわかる.(4)∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cm∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cmab図2単焦点IOLの網膜像術後の焦点位置を(2m)0.5Dとし,瞳孔径2mmの場合の無限遠から57cmまでの網膜像.a:球面収差なし,b:球面収差あり.∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cm∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cmab図3単焦点IOLの網膜像(瞳孔径3mm)a:球面収差なし,b:球面収差が0.6?m(6mm瞳孔径)の場合.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???6mmでは,2mのところだけがよく見えるようになる.球面収差ありの場合では,瞳孔径を2mmと3mmに変化させた場合では,球面収差なしの場合とほとんど差が認識できないが,4mmから5mmと大きくなるに従って,その差が明確となる.つまり,球面収差があることで,解像した像が見られる範囲が広くなるのである.そして,近方にコントラストの良い像が移ってくるのである(=近視化).しかし,そのコントラストは低下していくのがわかる.II屈折型多焦点IOL今回シミュレーションを行った屈折型多焦点IOLのデザインを図6に示す.このレンズデザインは,遠方と近方2つにフォーカスが合うデザインとし,中心のゾーンを遠用としている.したがって瞳孔径が2mmの場合,近方にフォーカスは合わず,単焦点IOLと同じ結果となることがわかる.ここでは,球面収差なしとありについて瞳孔が2mmから5mmと変化した場合を示す.(5)∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cm∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cmab図5単焦点IOLの網膜像(瞳孔径5mm)a:球面収差なし,b:球面収差が0.6?m(6mm瞳孔径)の場合.∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cm∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cmab図4単焦点IOLの網膜像(瞳孔径4mm)a:球面収差なし,b:球面収差が0.6?m(6mm瞳孔径)の場合.2.13.43.94.66.0mm:近用:遠用図6屈折型の多焦点眼内レンズのデザイン(中心遠用型の5ゾーン)———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.2,20071.球面収差なしの場合術後の遠方焦点が2m(-0.5D),近方焦点が31.25cm(-3.2D)となり,球面収差をIOLが補正して0になる場合の結果を図7~11に示す.瞳孔径が2.0mmの場合,単焦点と同様の結果が得られた.瞳孔径を3mm,4mm,5mmと変化させると,遠方での解像の範囲が近方に比べて広いのがわかる.その広さは,単焦点の3mm瞳孔のときよりも広く,優れた特性である.これは,3mm瞳孔径でも,3mm全体が遠方の結像に使われているのではなくて,第1ゾーン(2.1mm)が使われているためである.一方,近方の像は瞳孔が4mm,5mmでは,その範囲は少し狭くなる.このように2つの焦点距離が離れている場合,中間距離のボケが大きいこともわかる.これらの結果より,瞳孔径が3mm以下の眼には,このレンズは単焦点レンズとして働くことがわかり,術前に瞳孔径の計測が必須であり,3mm以上の瞳孔径を常にもたない眼には多焦点レンズの機能は働かず,意味のないものになる.(6)図7屈折型多焦点眼内レンズで,球面収差なし,瞳孔径2mmの場合の無限遠から27cmまでの網膜像∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cm50cm40cm44cm36cm30cm33cm28cm27cm∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cm50cm40cm44cm36cm30cm33cm28cm27cm図9屈折型多焦点眼内レンズの網膜像球面収差なし,瞳孔径4mmの場合∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cm50cm40cm44cm36cm30cm33cm28cm27cm図8屈折型多焦点眼内レンズの網膜像球面収差なし,瞳孔径3mmの場合———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???2.球面収差ありの場合単焦点レンズと同様に,球面収差が0.6?m(6mm瞳孔径)の場合を図11~14に示す.球面収差の影響は,3mmから5mm瞳孔径において,球面収差なしの場合と比較して遠方および近方の焦点が近方へずれている(=近視化).さらに,像のコントラストが,3mm瞳孔から5mm瞳孔へと大きくなるに従って低下している.球面収差があっても,瞳孔径が3mm以下の眼では多焦点効果が得られにくいと考える.III回折型多焦点IOL今回シミュレーションを行った回折型多焦点IOLのデザインは,現在欧米などにて販売されている回折型多焦点IOLと同一ではなく,屈折型の比較を行うため,近用加入度を3.4D(眼鏡度数換算で加入度2.7D)のレンズとした.加入度が大きい場合は,中間の領域が広がるものと想像していただきたい.アポダイゼーションについてシミュレーションを行うときは,レンズの周辺部(7)にいくに従って遠方のエネルギーが増大するもの,つまり,瞳孔が開いたときに遠方重視になるようにした.1.球面収差なしの場合術後の遠方焦点が2m(-0.5D),近方焦点が31.25cm(-3.2D)となり,球面収差をIOLが補正して0になる場合の結果を図15~18に示す.この結果から,遠方の見え方が単焦点IOLと同様の結果となった.近方の見え方は,単焦点の見え方が近方にシフトしているだけで同じであることがわかる.つまり,2つの焦点距離の異なるレンズの像が重なっているのである.このことより,回折型では瞳孔径のサイズによる解像の差が少なく,瞳孔径を考慮する必要がないと考えられる.ただ,屈折型と比較すると,瞳孔が開いていくと,遠方で解像している範囲が狭くなり,特定の距離のコントラストが高くなるのがわかる.∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cm50cm40cm44cm36cm30cm33cm28cm27cm図10屈折型多焦点眼内レンズの網膜像球面収差なし,瞳孔径5mmの場合∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cm50cm40cm44cm36cm30cm33cm28cm27cm図11屈折型多焦点眼内レンズで,球面収差0.6?m(6mm瞳孔径),瞳孔径2mmの場合の無限遠から27cmまでの網膜像———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007(8)∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cm50cm40cm44cm36cm30cm33cm28cm27cm図12屈折型多焦点眼内レンズの網膜像球面収差0.6?m(6mm瞳孔径),瞳孔径3mmの場合∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cm50cm40cm44cm36cm30cm33cm28cm27cm図13屈折型多焦点眼内レンズの網膜像球面収差0.6?m(6mm瞳孔径),瞳孔径4mmの場合∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cm50cm40cm44cm36cm30cm33cm28cm27cm図14屈折型多焦点眼内レンズの網膜像球面収差0.6?m(6mm瞳孔径),瞳孔径5mmの場合∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cm50cm40cm44cm36cm30cm33cm28cm27cm図15回折型多焦点眼内レンズで,球面収差なし,瞳孔径2mmの場合の無限遠から27cmまでの網膜像———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???(9)2.球面収差がある場合単焦点レンズと同様に,球面収差が0.6?m(6mm瞳孔径)の場合を図19~22に示す.これは,単焦点IOLの球面収差ありとまったく同様に,遠方と近方の焦点付近に,球面収差の影響で近視化と解像する範囲の広がり,コントラストの低下がみられる.3.アポダイゼーションのある場合今回,遠方重視になるように設計したアポダイゼーションを図23に示す.もちろん,これらは,夜間における遠方のコントラストの重視を狙っている.球面収差なしの場合で,瞳孔径が4mmと5mmのシミュレーションの結果を図24,25に示す.瞳孔径が2mm,3mmではアポダイゼーションの効果はほとんどなく,4mmを超えると,遠方のコントラストが良くなり,近方のコントラストが低下するのがわかる.ここには示さないが,球面収差ありの場合は,さらに近方のコントラストが低下してしまい,クリアに解像した像は得られなかった.∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cm50cm40cm44cm36cm30cm33cm28cm27cm図16回折型多焦点眼内レンズの網膜像球面収差なし,瞳孔径3mmの場合∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cm50cm40cm44cm36cm30cm33cm28cm27cm図17回折型多焦点眼内レンズの網膜像球面収差なし,瞳孔径4mmの場合∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cm50cm40cm44cm36cm30cm33cm28cm27cm図18回折型多焦点眼内レンズの網膜像球面収差なし,瞳孔径5mmの場合———————————————————————-Page8???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007(10)∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cm50cm40cm44cm36cm30cm33cm28cm27cm図19回折型多焦点眼内レンズの網膜像球面収差0.6?m(6mm瞳孔径),瞳孔径2mmの場合∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cm50cm40cm44cm36cm30cm33cm28cm27cm図20回折型多焦点眼内レンズの網膜像球面収差0.6?m(6mm瞳孔径),瞳孔径3mmの場合∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cm50cm40cm44cm36cm30cm33cm28cm27cm図21回折型多焦点眼内レンズの網膜像球面収差0.6?m(6mm瞳孔径),瞳孔径4mmの場合∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cm50cm40cm44cm36cm30cm33cm28cm27cm図22回折型多焦点眼内レンズの網膜像球面収差0.6?m(6mm瞳孔径),瞳孔径5mmの場合———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???(11)おわりに今回,回折型多焦点IOLの光学特性について,距離ごとの網膜像を用いて単焦点IOL,屈折型多焦点IOLと比較して,その特徴を検討した.今回のシミュレーションでわかったのは,瞳孔の小さい場合でも回折型は適応可能であることである.しかし,瞳孔が開くと,球面収差なしの場合は,解像している範囲が狭くなり,屈折型のほうがその点は優れているように思われる.今回のシミュレーションはあくまでも網膜のうえの光学像であり,実際の昼間の見え方では,もう少しコントラストは良いと思われる.しかし,夜間の見え方では,ぼぁーとしたハロー,グレアがさらに強調されて見えることになるものと思われる.収差については,球面収差のほかに非点収差,コマ収差の存在も無視できないが,今回は紙面の都合上示さなかった.多焦点IOLの特性で一番気になるのは,中間の見え方が悪いことである.これは加入度が高いためである.少し加入度を下げて,中間の見え方を良くすることも考えられる.加入度を下げることにより無限遠から近方が50cmくらいまで見えるようになれば,生活に不自由はないと思われる.ただ,そのときに,2つの焦点による像が重なり,コントラストが低下し,特に近方の見え方が悪くなるようでは困るので,レンズにはなにか工夫がいるように思われる.これは,余談であるが,「人間は2つの像のどちらかを選択してみている」という話があるが,これらのシミュレーションの結果をみると,遠方や近方の像は選択∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cm50cm40cm44cm36cm30cm33cm28cm27cm図24回折型多焦点眼内レンズの網膜像アポダイゼーションあり,球面収差なし,瞳孔径4mmの場合43210レンズ中心からの距離(mm):近用:遠用強度透過率1.00.80.60.40.20図23シミュレーションにおけるアポダイゼーションレンズ中心から周辺に向かうにつれて,遠方へエネルギーが集中するようになっている.∞2m4m1.33m80cm1m67cm57cm50cm40cm44cm36cm30cm33cm28cm27cm図25回折型多焦点眼内レンズの網膜像アポダイゼーションあり,球面収差なし,瞳孔径5mmの場合———————————————————————-Page10???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007(12)する必要はないし,中間の距離での像はどちらを選択するのであろうか?仮にどちらかを選択できても(そんな方法は思いもつかないが)ボケた像である.最後に,一般的に多くの近用視力表の測定距離は30cmとなっているが,患者のQOL(qualityoflife)を考慮し,今後は柔軟な近方視の評価方法を検討する必要があるのではないだろうか.文献1)LaneSS,MorrisM,NordanLetal:Multifocalintraocularlenses.????????????????????????19:89-105,20062)KawamoritaT,UozatoH:Modulationtransferfunctionandpupilsizeinmultifocalandmonofocalintraocularlensesinvitro.???????????????????????31:2379-2385,20053)LeeES,LeeSY,JeongSYetal:E?ectofpostoperativerefractiveerroronvisualacuityandpatientsatisfactionafterimplantationoftheArraymultifocalintraocularlens.???????????????????????31:1960-1965,20054)HalladayJT,PiersPA,KoranyiGetal:Anewintraocu-larlensdesigntoreducesphericalaberrationofpseudo-phakiceyes.??????????????18:683-691,2002

序説:バイフォーカル眼内レンズ

2007年2月28日 水曜日

———————————————————————-Page1(1)???機能に優れ合併症のない多焦点眼内レンズ,遠近両用眼内レンズは調節力喪失という白内障手術の欠点を補うものとして以前より強く要求されてきている.しかし,今までの多焦点眼内レンズは,その多焦点効果よりも術後のハロー,グレアやコントラスト感度の低下などが問題視され,その普及はほとんどなされておらず,治療上の選択肢としての地位を得ているとは言いがたいのが現状であろう.一方,最近欧米でかなり積極的に使用されるようになってきた新しい多焦点レンズについては,レンズそのものに起因する合併症も少なく,今までの多焦点レンズを大きく上まわる治療成績が報告され,今後さらなる普及が予想されている.もし今回登場した新型多焦点眼内レンズがわれわれの期待を裏切らないものであれば,患者の術後qualityoflife(QOL)向上に大きく寄与するはずであり,わが国へも積極的に導入しなければならない.多焦点眼内レンズは構造上の違いから,屈折型眼内レンズと回折型眼内レンズに分けられる.後者の回折型眼内レンズは,レンズ表面に回折構造を有し入射光を遠用と近用の2カ所に振り分けるため,その結果,機能上からはバイフォーカル眼内レンズと考えてよい.本特集は,最新型の回折型多焦点眼内レンズについての理解を深めるためのさまざまな観点からのアプローチである.まず回折型多焦点レンズの構造上の特性を理解するために大沼一彦先生(千葉大学)には単焦点レンズとの相違点を距離ごとの網膜像のシミュレーションからわかりやすく解説していただいている.つぎに,臨床上の問題として,多焦点レンズは適応を誤るとその機能を発揮できないばかりか,かえって患者に不利益をもたらしかねない.正しい適応について,多焦点レンズを使用した白内障手術について経験豊富なビッセン宮島弘子先生(東京歯科大学水道橋病院)にポイントをまとめていただき,屈折矯正として考える場合の注意点にも言及していただいた.林研先生(林眼科病院)には回折型眼内レンズを使用するにあたり大変重要なポイントとなる眼内レンズ度数の決定に関わる問題点を解説していただき,単なる度数計測だけでなく術前乱視や瞳孔径の関与,手術時の注意点についても述べていただいている.また多焦点眼内レンズは単焦点眼内レンズに比べ術前術後の検査に費やす時間が少なくない.その検査の蓄積が今後の治療成績を向上させるために重要であり,したがって検査を実施する場合のポイントは十分把握しておきたい.それらの点について,大木伸一先生(東京歯科大学水道橋病院)に大変詳しく解説していただくことができた.何よりも興味があるのは実際の治療成績であるが,それについては中村邦彦先生(たなし中村眼科クリニック)と清水直子先生(大木眼科)に術後成績をまとめていただいている.大変素晴らしい術後成績であり,今後に大きな期待を抱か0910-1810/07/\100/頁/JCLS*KotaroOki:大木眼科●序説あたらしい眼科24(2):135~136,2007バイフォーカル眼内レンズ??????????????????????????大木孝太郎*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007(2)せるものである.中村先生には同じ形状・材質の単焦点レンズとの比較も記載していただき,バイフォーカル機能をより明瞭に知ることができる.清水先生には単なる術後成績のまとめではなく,異なった生活背景をもつ患者の症例報告を加えていただき,回折型多焦点眼内レンズのバイフォーカル機能が患者のQOL向上に寄与する点を浮き彫りにしていただいた.平容子先生(眼科龍雲堂医院)には,この新しい多焦点眼内レンズを使用する前に押さえなければならないインフォームド・コンセントについてご自身の経験から意見を述べていただくことができた.従来の単焦点レンズでは遠近どちらかの裸眼視力を断念してもらうことが大きなポイントであったが,バイフォーカル眼内レンズでは理論上ではその必要はなくなる.しかし逆に過剰な期待感を抱かせることになっては,それもまた新たな問題を生んでしまうことになりかねない.多焦点レンズにはそれ相応のインフォームド・コンセントが必要であり,ぜひ理解しておきたい項目である.以上,構造と光学特性,適応,度数算定と手術,検査,術後成績,症例報告,そしてインフォームド・コンセント,と紙面の許す限り多方面からこの新しい回折型多焦点眼内レンズについて解説している本特集をぜひ通読していただき,すぐそこに来ている白内障眼内レンズ手術のつぎのステップに関心を深めていただきたい.年間予約購読ご案内眼における現在から未来への情報を提供!あたらしい眼科2007Vol.24月刊/毎月30日発行A4変形判総140頁定価/通常号2,415円(本体2,300円+税)(送料140円)増刊号6,300円(本体6,000円+税)(送料204円)年間予約購読料32,382円(増刊1冊含13冊)(本体30,840円+税)(送料弊社負担)最新情報を,整理された総説として提供!眼科手術2007Vol.20■毎号の構成■季刊/1・4・7・10月発行A4変形判総140頁定価2,520円(本体2,400円+税)(送料160円)年間予約購読料10,080円(本体9,600円+税)(4冊)(送料弊社負担)日本眼科手術学会誌【特集】毎号特集テーマと編集者を定め,基本的事項と境界領域についての解説記事を掲載.【原著】眼科の未来を切り開く原著論文を医学・薬学・理学・工学など多方面から募って掲載.【連載】セミナー(写真・コンタクトレンズ・眼内レンズ・屈折矯正手術・緑内障・光線力学的療法・眼感染症)新しい治療と検査/眼科医のための先端医療他【その他】トピックス・ニュース他■毎号の構成■【特集】あらゆる眼科手術のそれぞれの時点における最も新しい考え方を総説の形で読者に伝達.【原著】査読に合格した質の高い原著論文を掲載.【その他】トピックス・ニューインストルメント他株式会社メディカル葵出版〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替00100-5-69315電話(03)3811-0544お申込方法:おとりつけの書店,また,その便宜のない場合は直接弊社あてご注文ください.http://www.medical-aoi.co.jp

硝子体手術のワンポイントアドバイス44.乳頭上新生血管膜抜去時の止血法(中級編)

2007年1月31日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??0910-1810/07/\100/頁/JCLS●乳頭上新生血管膜抜去時に生じる出血の処理法増殖糖尿病網膜症の線維血管性増殖膜の処理時に,乳頭上新生血管膜を硝子体鑷子で抜去することがある.このときは通常出血が生じる.視神経乳頭上なので,眼内ジアテルミー凝固は施行しにくい.一般的には高灌流圧による圧迫止血を行うが,筆者は通常以下のような方法をとっている.1)乳頭上新生血管を抜去する際には,抜去前に灌流圧を上げる.2)新生血管膜は癒着の緩いと思われる方向から硝子体鑷子で牽引し,やや水平方向気味にゆっくりと紙をめくるように?離する.垂直方向には極力牽引をかけない(図1).3)出血が生じてもしばらく高眼圧のまま硝子体鑷子を眼内に留置し,すぐに強膜創から抜去しない.4)灌流圧を徐々に下げながら,出血があまり拡大しないことを確認したうえで,把持した新生血管を強膜創から抜去する.5)この後に生じる出血に対しては,まずバックフラッシュニードルで出血を視神経乳頭上に集める(図2a,b).6)灌流圧を上げた状態で,しばらく圧迫止血を試みる.7)このときに形成される凝血塊は抜去しないで,バックフラッシュニードルや硝子体カッターなどで小さくする(図3).再度出血が生じるようなら凝血塊をある程度大きく残存させて同様の処置を施行する.8)灌流圧はゆっくりと下げながら,出血が広がらないことを確認する.●その他の方法新生血管膜を抜去することで著明な出血が予想される場合には,新生血管膜を抜去せず意図的に残存させるのも一法である.この場合,新生血管膜の断端を眼内ジア(87)テルミーで止血凝固しておく.また,新生血管膜抜去後に,上記のような方法を施行しても止血困難な場合には,トロンビンを灌流液に添加する方法1)があるが,筆者は最近ほとんどこの方法を用いていない.文献1)日昔真美,澤浩,池田恒彦ほか:糖尿病硝子体手術におけるトロンビンの止血効果.眼臨95:1105-1108,2001硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載?44乳頭上新生血管膜抜去時の止血法(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図1新生血管膜の抜去法癒着の緩いと思われる方向から硝子体鑷子を用いて新生血管膜を牽引し,やや水平方向気味にゆっくりと?離する.図2a出血の吸引バックフラッシュニードルで出血を視神経乳頭上に集める.図2b圧迫止血灌流圧を上げた状態でしばらく圧迫止血する.図3凝血塊の処理凝血塊を抜去しないでバックフラッシュニードルや硝子体カッターなどで小さくする.

眼科医のための先端医療73.角膜潰瘍-感染微生物,炎症細胞および細胞外マトリックスとの相互作用-

2007年1月31日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??0910-1810/07/\100/頁/JCLS角膜実質細胞角膜実質細胞は角膜実質に存在する線維芽細胞系の細胞であり,これまでこの細胞の役割はおもに細胞外マトリックスの代謝を行い,実質組織のintegrityを保つことで,角膜実質細胞は角膜に炎症や感染が生じると炎症細胞や病原微生物により一方的に攻撃を受けると考えられていました.しかしながら,近年では角膜実質細胞も種々のサイトカインやケモカインなどの生体活性物質や接着分子などを発現することで眼表面炎症の増悪,遷延化に重要な役割を果たしていることが解明されつつあります.また角膜実質細胞は異物や病原微生物を貪食することも報告されており,角膜での生体防御に関与している可能性もあります.細菌感染などによる角膜潰瘍では,角膜実質を構成するI型コラーゲンが融解し,病変部には病原微生物に加えて好中球などの炎症細胞の浸潤が認められます.本稿では,角膜実質細胞と炎症細胞や感染微生物,細胞外マトリックスとの相互作用が角膜潰瘍の病態において,どのように関わっているかについて概説します.角膜実質細胞と自然免疫応答角膜上皮細胞は強いバリアー機能を有することや,自然免疫応答を惹起する細菌由来のエンドトキシン(リポポリサッカライド:LPS)やペプチドグリカンに反応しないことより,上皮が健常な状態では細菌と接しても角膜に炎症は生じません.しかし外傷などで上皮が傷害されると,細菌あるいは細菌由来のLPSなどの因子が傷害部位より角膜実質へ浸入します.LPSはグラム陰性菌の細胞外膜を構成する糖脂質で,さまざまな病原体成分のなかでも最も強く宿主の自然免疫機構を活性化し,炎症細胞からの種々のサイトカインの産生を促します.筆者らが検討した結果,角膜実質細胞にもTLR(toll-likereceptor)-4とその細胞外ドメインに会合するMD-2およびCD14から構成されるLPSの受容体が発現しており,LPSは角膜実質細胞からの,好中球や単球に対するケモカインであるインターロイキン(IL)-8やMCP-1(monocytechemoattractantprotein-1)などの産生および接着分子ICAM-1(intercellularadhesionmolecule-1)の発現を促進させました.すなわち,角膜実質細胞はLPSにより活性化されることで細菌感染を認識し,自然免疫応答により感染に引き続いて起こる角膜実質への炎症細胞浸潤をひき起こしているのです.LPSは,コア領域とO抗原からなる親水性の多糖部分と,lipidAと総称される疎水性の糖脂質から構成される両親媒性物質で,通常は細胞壁に強固に結合しています.また,細胞の溶解が起こってLPSが遊離しても,血清の存在しない場合は活性部位である疎水性のlipidAを内側に向けてミセルを形成して受容体に結合できない状態にあります.LPSはLPS結合蛋白(LBP)とよばれる血清蛋白によって細菌の膜から引き抜かれ,単体となり,活性部位が露出することで受容体に結合できるようになります.LPSはさらに可溶性CD14(sCD14)という血清蛋白と結合することで,受容体への親和性が上がります.これらの因子の作用を培養角膜実質細胞を用いて検討すると,LBPやsCD14は単独では何ら角膜実質細胞には作用しませんが,LPSの存在下ではLPSの作用を数十倍も増強し,角膜実質細胞の転写因子NF-kBを活性化してケモカインや接着分子の発現を濃度依存的に促進しました.さらに健常人の涙液中には,LBPとsCD14両者とも培養実験に使用した濃度よりも非常に高濃度に存在していました.これらの結果はグラム陰性菌の感染が生じると,涙液中のLBPとsCD14はLPSに結合し,LPSの活性部位を露出させて角膜実質細胞におけるLPSの信号伝達を増強して自然免疫反応を促進し,生態防御因子として働くことを示しています.角膜実質細胞を介した緑膿菌のコラーゲン分解筆者らは,微生物由来の蛋白分解酵素による直接的な角膜実質の融解に加えて,活性化した角膜実質細胞によるコラーゲン分解も角膜潰瘍の病態に関与していると考え,角膜実質細胞によるコラーゲン分解および微生物,炎症細胞との相互作用を検討しました.コラーゲンゲルに緑膿菌の培養上清を添加すると,コラーゲン分解は促進されますが,コラーゲンゲルに角膜実質細胞を入れて(83)◆シリーズ第73回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊福田憲熊谷直樹西田輝夫(山口大学大学院医学系研究科眼科学)角膜潰瘍─感染微生物,炎症細胞および細胞外マトリックスとの相互作用─———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007おくと,その分解量はさらに促進されました.これは緑膿菌の培養上清によるコラーゲン分解促進作用には,直接的な作用と角膜実質細胞を介した間接的な作用の両者が関与していることを示しています.そこで緑膿菌の病原因子と考えられるLPS,elastase,exotoxinAを角膜実質細胞を含んだコラーゲンゲルに添加すると,elas-taseのみが角膜実質細胞によるコラーゲン分解を促進させました.この結果は,elastaseを分泌しないように遺伝子改変した緑膿菌株の培養上清ではコラーゲン分解は促進されなかったことでも確認されました.さらに,elastaseが角膜実質細胞を介してコラーゲン分解を促進する機序として,角膜実質細胞より分泌された不活性型のpro-MMP(matrixmetalloproteinase)を活性化するためであることがわかりました.好中球による角膜実質細胞の活性化とコラーゲン分解つぎに,角膜実質細胞と炎症細胞の相互作用を検討しました.好中球はそれ単独では,コラーゲン分解能はほとんど認められませんでしたが,角膜実質細胞と好中球を同時に培養するとコラーゲンの融解は相乗的に促進しました.それぞれの培養上清を用いた実験により(図1),角膜実質細胞に好中球培養上清を添加して培養すると,角膜実質細胞からMMPの産生が促進され,コラーゲン分解が相乗的に促進されることがわかりました.すなわち好中球の培養上清自体には,コラーゲン分解活性はありませんが,e?ectorである角膜実質細胞に作用して,MMPの産生を亢進させ,コラーゲン分解を促進させるmodulatorとしての役割を果たしています.さらにこの好中球培養上清の作用は,通常の培養液のみで培養した場合ではあまり認められず,I型コラーゲンゲル内で三次元培養した上清で非常に強い活性をもつことがわかりました(図1).コラーゲンゲル内で培養した好中球培養上清中に含まれる生体活性物質の濃度を測定したところ,IL-1を含む種々の炎症性サイトカインやケモカインの放出が促進していました.そこでIL-1と拮抗する作用をもつIL-1receptorantagonistを好中球の培養上清に添加すると,角膜実質細胞によるコラーゲン分解促進作用が阻害されました.これらの結果より,血管から角膜実質へ浸潤してきた好中球は,角膜実質を構成するI型コラーゲンと接触することにより活性化され,IL-1などの炎症性サイトカインを含む種々の液性因子を放出すること,さらに好中球由来のサイトカインによって活性化された角膜実質細胞がMMPを産生して,コラーゲン分解を促進することが示唆されました.(84)8-LIsetycotareK1-PCMfonoitartlifnIsllecyrotammalfnISPL41DCsPBLlamortSnegalloCnegalloCnoitadargedsPMMo-rpevitcasPMMesatsale1-LInoitavitca.PasonigureaSPLamortSlaenroCsdiulfraeTPBL41DCs図2角膜実質細胞による角膜実質コラーゲン融解のメカニズム100806040200好中球(+)線維芽細胞(+)好中球(-)線維芽細胞(-)a.好中球培養上清:培養液のみ:培養上清:コラーゲンゲル培養の培養上清b.線維芽細胞培養上清**#*#*#†コラーゲン分解量(?gofHYPperwell)NS図1好中球および角膜実質細胞によるコラーゲン分解コラーゲンゲルで培養した好中球の培養上清を角膜実質細胞に添加するとコラーゲン分解が促進される.*p<0.01(培養液のみに対して),#p<0.01(培養上清に対して),†p<0.01.すべてSche?e?stestによる.(文献3より改変)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??テロイド薬やその他の免疫反応を抑制する薬剤によって制御されます.今後これらの病態解明が進み,状況に応じた角膜潰瘍治療薬が新たに開発,応用されることが期待されます.文献1)KumagaiN,FukudaK,FujitsuYetal:Lipopolysaccha-ride-inducedexpressionofintercellularadhesionmole-cule-1andchemokinesinculturedhumancorneal?broblasts.?????????????????????????46:114-120,20052)FukudaK,KumagaiN,YamamotoKetal:Potentiationoflipopolysaccharide-inducedchemokineandadhesionmole-culeexpressionincorneal?broblastsbysolubleCD14orLPS-bindingprotein.?????????????????????????46:3095-3101,20053)LiQ,FukudaK,LuYetal:Enhancementbyneutrophilsofcollagendegradationbycorneal?broblasts.?????????????74:412-419,20034)LuY,FukudaK,SekiKetal:InhibitionbytriptolideofIL-1-inducedcollagendegradationbycorneal?broblasts.?????????????????????????44:5082-5088,20035)NaganoT,HaoJL,NakamuraMetal:Stimulatorye?ectofpseudomonalelastaseoncollagendegradationbycul-turedkeratocytes.?????????????????????????42:1247-1253,2001線維芽細胞の制御による治療の可能性このように,角膜潰瘍は単に病原微生物が一方的に角膜実質を破壊しているのではなく,角膜実質細胞と微生物,炎症細胞,実質の細胞外マトリックスなどとの複雑な相互作用により病態が形成されると考えられます.角膜実質のコラーゲン融解においては細菌の直接的な破壊だけでなく,緑膿菌由来のelastaseや好中球由来の炎症性サイトカインなどがmodulatorとしての役割をもち,異なる機序でe?ectorとして働く角膜実質細胞を介して間接的にコラーゲン分解を促進しています.好中球などの炎症細胞は,微生物感染初期には細菌の貪食など生体防御に重要である一方,感染が沈静化した後も角膜実質細胞からのケモカインの産生が持続すると,角膜実質への浸潤が継続し,角膜実質細胞を活性化することでコラーゲンを分解するという生体にとって不利益な反応を起こしている可能性が考えられます.無菌性の潰瘍や,感染が治癒した後も角膜融解が進むような状況においては,角膜実質細胞と炎症細胞の相互作用によるコラーゲン融解が持続しているのかもしれません.角膜実質細胞と炎症細胞との相互作用は,抗菌薬では制御されず,ス(85)■「角膜潰瘍─感染微生物,炎症細胞および細胞外マトリックスとの相互作用─」を読んで■今回は福田憲先生・熊谷直樹先生・西田輝夫先生による,角膜潰瘍の分子病態についての総説です.角膜潰瘍は私など角膜の門外漢は病原微生物が角膜実質を分解していく病態を漠然と思い浮かべていましたが,福田先生たちはそこにホスト側の角膜実質細胞の重要な働きを明らかにされました.病原微生物由来の分子が角膜実質細胞に作用してコラーゲンが分解されること,さらに抗微生物の作用のために組織局所に集まる好中球が炎症を長引かせ,かつ角膜実質細胞を活性化することを明らかにしておられます.また,無菌性潰瘍,感染が治癒した後の組織反応もこのメカニズムできわめて明快に理解できます.このような一連の動きを体系だったストーリーとして一つの研究グループで構築されたことに心から敬意を表するものです.このような研究成果はすぐに臨床応用として新しい治療薬の開発へと直結します.角膜感染症は日常の診療できわめて多く遭遇する疾患であり,われわれの治療は病原微生物をたたくという治療にばかり目がいきますが,それをやりつつ角膜組織を保全するための治療は別に行う必要性を福田先生は示しておられます.まさに研究の醍醐味は臨床の現場で有用な知識を供給することですが,この総説はその典型的な成功例を示していると考えます.このような研究は単発的に論文を作るといった研究スタイルからは生まれてきません.福田先生が所属しておられる山口大学眼科は西田輝夫教授の角膜疾患の病態を分子細胞生物学的に解明していくというライフワークともいうべき明快な研究の方向づけがあり,これまでの多くの成功した研究が有機的に結びついてさらに高みに向かっている研究のよい循環があると考えます.また,研究戦略のみでなく,この総説でも随所にみられます実験系がきわめて整備され,自らセットアップした実験系を用いていろいろなアイデアを仮説として立ち上げ,実験をプランし,それを検証し,さらに新しい仮説をつくってつぎへ進むというきわめて魅力的な研究室が想像されます.臨床医学の,特に外———————————————————————-Page4??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(86)科系の忙しい教室でこのような高いactivityをもち続けるには西田教授のような強力なリーダーシップと継続する研究戦略を構築できる能力をもつ優れた指導者の存在,熊谷先生,福田先生のような有能で勤勉な研究者の並々ならぬ努力の賜物と考えられます.日本の眼科研究のレベルは紛れもなく世界のトップレベルですが,このような体系だった研究を連続して生み出していく研究機関が今後,日本になるべく多く存在する必要があると考えます.そのためには公的な研究費(文部科学省や厚生労働省の研究費補助金)が潤沢に供給されることはもちろん必須ですが,新臨床研修制度を乗り切って眼科の高いレベルの研究を目指す若い後継者を連綿と確保し続けることが重要と考えます.山形大学医学部視覚病態学山下英俊☆☆☆

新しい治療と検査シリーズ168.Heidelberg Ratina Tomograph Ⅱ(HRT Ⅱ)/Rostock Cornea Module(RCM)

2007年1月31日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??0910-1810/07/\100/頁/JCLSModule(RCM)を取り付けることにより,角膜の各層の二次元画像を取り込むことを可能にした生体共焦点角膜顕微鏡である.HRTⅡ/RCMでは波長670nmのダイオードレーザーの焦点を角膜上に置き,焦点面以外からの反射光を抑制することにより,焦点面の位置の二次元画像を鮮明に得ることができる.得られた二次元画像は400×400?mの範囲が384×384ピクセルの解像度で表される.毎秒30フレームまで撮影することができ,撮影モードの選択で動画撮影も可能である.?実際の検査方法システムはHRTⅡと共有している.準備として,HRTⅡにCorneaModuleの対物レンズ,ヘッドレスト,あご台,被検眼を側面から撮影できるCCDカメラを取り付ける(図1).撮影方法は,対物レンズにPMMA(ポリメチルメタクリレート)製のトモキャップを取り付けCCDカメラの画像を観察しながらトモキャップが角膜新しい治療と検査シリーズ(81)?バックグラウンド細隙灯顕微鏡は,その扱いやすさ,100年以上にわたる経験の蓄積から角膜疾患の観察,診断においては必須の検査機器である.しかし細隙灯顕微鏡の最大拡大率は約40倍であり,より細胞レベルでの観察には限界がある.1990年代になると細胞レベルでの観察を可能にしようと,共焦点顕微鏡が角膜の観察に応用されるようになり,角膜の各細胞,神経線維が形として捕らえられるようになった1~3).しかし,その解析能力は十分に満足できるものではなく,改良が加えられてきた1).そして現在,ニデック社製のConfoscan4とハイデルベルグ社製のHeidelbergRetinaTomographⅡ(HRTⅡ)/Ros-tockCorneaModule(RCM)が最新の機種として活躍している.残念なことに,ニデック社のConfoscan4は現在のところ日本では販売されていないため,HRTⅡ/RCMについて解説したい.?原理HRTⅡ/RCMは,後局部の三次元画像解析装置であるHeidelbergRetinaTomographⅡにRostockCornea168.HeidelbergRetinaTomographII(HRTII)/RostockCorneaModule(RCM)プレゼンテーション:白石敦:愛媛大学医学部眼科学教室コメント:小林顕:金沢大学大学院医学系研究科視覚科学図1HRTII/RCMシステムHRTⅡにCorneaModuleの対物レンズ,ヘッドレスト,あご台,被検眼を側面から撮影できるCCDカメラを取り付けた.図2正常角膜のHRTII/RCM観察像a:角膜上皮最表層,b:角膜上皮基底細胞層,c:Bowman膜神経線維叢,d:角膜実質層.abcd———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007表面に接触するまでカメラを進める.角膜表層細胞が観察できたら焦点面位置(角膜表面からの距離)を“0?m”にセットし,焦点面調整リングを手動で調整し,観察したい角膜層に焦点を合わせ,撮影を開始する.撮影モードは3種類ある.セクション:フットスイッチを踏むごとに静止画を取り込む.シーケンス:最大100枚までの連続画像(焦点面は手動で調整)を取り込むことができ,動画として再生も可能である.ボリューム:2?mごと(連続した2枚の焦点面の間隔が2?m)に30~40枚の画像を連続して自動的に撮影する.撮影にあたっては,被検者の固視が非常に重要であり,わずかなずれが観察部位,深度の判定に影響する.カメラ操作,焦点調整ともに手動であるため多少の経験が必要であるが,慣れれば角膜中央での角膜表層上皮細胞層から内皮面までの観察が可能であるのみならず,周辺角膜,さらには結膜まで観察が可能となる(図2).?本装置の利点本装置の利点は,従来の共焦点顕微鏡から飛躍的に改良された解像度にある.重症ドライアイや角膜の炎症性疾患では,個々の上皮細胞の質的観察が可能であるとともに,進入してきた炎症細胞が,リンパ球であるかLangerhans細胞であるかの観察までが可能である4)(図3).このようにHRTⅡ/RCMによって角膜のより詳細な構造,細胞レベルでの観察,診断が可能となった.もう一つの大きな利点は,非侵襲的にくり返し検査が可能である点があげられる.これは診断困難例をくり返し観察し,診断確定に役立てるとともに病状の変化を把握するうえで大きな利点であると思われる.今後,多方面からの経験が集積されることにより角膜診断における重要な検査機器となると推測される.文献1)CavanaghHD,JesteJV,EssepianJetal:Confocalmicroscopyofthelivingeye.??????16:65-73,19902)P?sterDR,CameronJD,KrachmerJHetal:Confocalmicroscopic?ndingsofAcanthamoebakeratitis.???????????????121:119-128,19963)Oliveira-SotoL,EftronN:Morphologyofcornealnervesusingconfocalmicroscopy.??????20:374-384,20014)ZhivovA,StaveJ,VollmarBetal:InvivoconfocalmicroscopicevaluationofLangerhanscelldensityanddis-tributioninthenormalhumancornealepithelium.????????????????????????????????243:1056-1061,2005(82)?本方法に対するコメント?生体レーザー共焦点顕微鏡の特徴は何といってもその驚くべき解像度である.角膜上皮,Bowman層,上皮下神経叢をはじめ,角膜のさまざまなコンポーネントがこれまでの白色光源共焦点顕微鏡で観察される画像よりもはるかに高解像度で観察できるようになった.また角膜のみならず,結膜やマイボーム腺の生体観察を可能にした点も新しい.一方,問題点としては,①得られる画像サイズが400?m四方と小さく,検査したい領域を素早く探すのには若干の慣れが必要,②本体と合わせると高価である,③モジュールの取り外しが面倒,④内皮の可視化がやや劣る,などがあげられる.とはいいつつも,本装置で得られる高解像度の眼表面の生体画像は多くの情報を提供してくれるため,筆者らの施設では,角結膜疾患に対する研究目的の用途のみならず,アカントアメーバ角膜炎の補助診断や,各種角膜疾患の詳細な経過観察などに大変重宝している.ab図3重症ドライアイのHRTII/RCM観察像a:角膜上皮表層.低輝度に抜けている範囲は点状表層角膜症に一致したdefect,炎症細胞の浸潤が高輝度な細胞として認められる.b:角膜上皮基底細胞~Bowman膜.多数のLanger-hans細胞浸潤が認められる.

眼感染症:眼感染症クライシス-世界の感染症と薬剤耐性菌-

2007年1月31日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??0910-1810/07/\100/頁/JCLS交通網の発達に伴う経済・文化交流は,同時に世界の感染症や薬剤耐性菌の交流をも顕著に増大させた.このため日常の患者診療においてもグローバルな観点から感染症を把握することが重要となり,感染対策はウイルス感染症をも含み,より複雑になった.眼科診療においても例外ではなく2003年3月16日にオランダで家禽の選別に濃密に従事している関係者18名とその家族1名に結膜炎,流涙,腫脹,眼痛などを主症状としたHPAI(高病原性鳥インフルエンザ)による眼感染症が確認された.さらに,この症例でHPAIがヒトからヒトへと感染伝播する1)ことが証明され,以後,家禽業者・家族や周辺住民へのワクチン接種と抗ウイルス薬の予防投与が徹底された.このようにパンデミックな感染症も眼科と無縁ではなく,またエンデミックな結核や麻疹患者も絶えず外来を訪れている.医療の危機管理が社会的問題となり病院の情報公開が実施される今日,世界の感染症を対岸の火事と侮ってはいけない.■危機管理の必要な感染症とは世界の感染症を危機管理の立場から分類すると,表1のように大きく5群に分けられる.表には代表的な疾患名または略名を明記した.EIDクライシス:新興感染症とは,過去20年以内に発見された伝播力の強い感染症を意味し,現在,世界流行が危惧されているHPAIやSARS(重症急性呼吸器症候群)などが該当する.WHO(世界保健機構)は,インフルエンザの世界流行を防止する目的で,表2に示すよ(77)44.眼感染症クライシス─世界の感染症と薬剤耐性菌─眼感染症セミナー─クライシスコントロール講座─●連載?監修=浅利誠志井上幸次大橋裕一浅利誠志大阪大学医学部附属病院感染制御部/検査部2007年4月施行予定の改正医療法ですべての医療機関の情報公開が義務づけられ,専門医数,手術件数,対応可能疾患などが都道府県のホームページに掲載される.今後は,死亡率,手術成功率など「病院の実力」を示すデータの公示が義務づけられると思われるが,病院の実力を支える最も大きな支柱の一つは,感染症危機管理の徹底である.表1危機管理の必要な感染症とはERIDクライシス院内感染クライシスNBCクライシスEID:パンデミック多剤耐性菌バイオテロ対策・HPAI:高病原性鳥インフルエンザ・SARS:重症急性呼吸器症候群・ウエストナイル熱・エボラ出血熱・MRSA,MDRP,PRSP,MRSE,BLNAR,VRE,ESBLs・炭疽菌・ペスト菌・鼻疽菌・類鼻疽菌・野兎病菌ウイルス感染症・麻疹,水痘,風疹,ムンプス,EKC,HSVRID:エンデミックSTDクライシスNIDクライシス・結核・HIV/AIDS・土壌伝播線虫症・マラリア・性器クラミジア症・住血吸虫症・コレラ・淋病・リンパ系フィラリア症・赤痢・梅毒・トラコーマ・狂犬病・B型肝炎・オンコセルカ症ERID:新興・再興感染症,EID:新興感染症,RID:再新興感染症,NBC:核・生物・化学,STD:性行為感染症,NID:Neglectedinfectiousdiseases,MRSA:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌,MDRP:多剤耐性緑膿菌,PRSP:ペニシリン耐性肺炎球菌,MRSE:メチシリン耐性白色ブドウ球菌,BLNAR;b?ラクタマーゼ陰性アンピシリン耐性ヘモフィルス属,VRE:バンコマイシン耐性腸球菌,ESBIs:拡張型b?ラクタマーゼ産生菌,EKC:流行性角結膜炎,HSV:単純ヘルペスウイルス,HIV:ヒト免疫不全ウイルス,AIDS:後天性免疫不全症候群.感染症は危機管理上,5群に分類すると理解しやすい.———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007うに「パンデミックインフルエンザ警報」を発し注意を促しており,現在はパンデミックアラート期のフェーズ3に位置している.このフェーズ3は,「新しい亜型によるヒト感染(複数も可)がみられるが,ヒト?ヒト感染による拡大はみられない,あるいは非常にまれではあるが密接な接触者への感染に留まる.」と,定義されており,今後の動向には注意が必要である.RIDクライシス:再新興感染症とは過去20年以前に発見されたがその後,継続的に強い伝播力を発揮している感染症である.経済大国世界第2位である日本の最大の感染症は結核で,2004年の新登録結核患者数は29,736人である.院内感染クライシス:院内感染対策上重要な微生物は,基本的に接触感染予防(①)の徹底で防止可能である.飛沫感染予防(②)が必要な感染症としては,風疹,ムンプス,インフルエンザ(Flu)などがあり,さらに,空気感染予防(③)が必要な感染症としては,麻疹,水痘,結核およびFluがある.標準予防策を体で習得し,これに重ねて①~③を適時使い分ける実践訓練が必要である.また,世界中で重要視されている薬剤耐性菌は表3に示すように9種あるが,VRSA(バイコマイシン耐性黄色ブドウ球菌)は国内では検出されていない.治療に際しては,耐性菌の特性を十分に知ることが治療成績の向上と耐性菌の発生防止につながる.STDクライシス:性行為感染症のなかで毎年増加傾向がみられているのはHIV(ヒト免疫不全ウイルス)で,2004年に新たに報告されたHIV感染者は780人(男性698人,女性82人),AIDS(後天性免疫不全症候群)患者は385人(男性344人,女性41人)であり,ともに前年を大きく上回り過去最高となっている.特徴としては,25~34歳群での報告数が顕著に増加している.また,淋病の特徴としては,多剤耐性化した淋菌が多く検出されているため,淋菌性結膜炎では薬剤感受性試験の実施により耐性菌の確認が必要である.NBCクライシス:核・生物・化学物質によるテロのなかで,炭疽菌やペスト菌などの微生物を用いたテロを生物テロとよぶ.2002年に米国内で発生した炭疽菌テロを契機に米国臨床検査標準化協会(CLSI:臨床検査の標準化を国際的に推進する組織)は,WHOの勧告に準じて表1の5菌種に対する検査法と薬剤感受性薬剤を標準化した.国内にはバイオテロ対策の検査基準がないため,有事の際はこの基準に準じて検査が行われる.NIDクライシス:おもに開発途上国で蔓延している感染症で軽視・無視されている感染症を意味する.近年はendemictropicaldiseasesとよばれている.土壌伝播線虫症に感染している患者は10億人以上,住血吸虫症2億人,フィラリア症1億2千万人,トラコーマ1億5千万人,オンコセルカ症1千8百万人と膨大な患者数(78)表3重要視されている薬剤耐性菌略号グラム染色日本語名英名MRSA陽性メチシリン耐性黄色ブドウ球菌methicillin-resistant?????????????????????MR-CNSメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌methicillin-resistantcoaglasenegative?????????????VRSAバンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌vancomycin-resistant?????????????????????VREバンコマイシン耐性腸球菌vancomycin-reisitant????????????spp.PRSPペニシリン耐性肺炎球菌penicillin-resistant????????????????????????BLNAR陰性b?ラクタマーゼ陰性アンピシリン耐性ヘモフィルス属b-lactamasenegativeampicillinresistant????????????ESBLs拡張型b?ラクタマーゼ産生菌extended-spectrumb-lactamaseproducingbacteriaMDRP多剤耐性緑膿菌multidrug-resistant??????????????????????MDR-NG多剤耐性淋菌multidrug-resistant?????????????????????検査結果にこのような耐性菌コメントが付記されていたら治療薬剤を再考する!表2WHOによる現在のパンデミックインフルエンザ警報フェーズパンデミック間期12パンデミックアラート期345パンデミック期6国立感染症情報センターまたはCDCのホームページへアクセスし確認!———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??が推定されているが,一部の感染症を除き治療薬の開発は著しく遅れているのが現状である.今後,地球の温暖化と国際交流に伴い熱帯・亜熱帯特有の感染症は急激に増加すると思われるが,パンデミック・エンデミック感染症に対する感染防止対策の習得は医療従事者の責務である.■本年,施行される改正感染症法とは1999年4月1日に感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)が施行されてから間もなく8年を経過しようとしている.この間,感染症法は何度か見直しがされたが,さらに2006年12月8日に改正感染症法(法律第一〇六号,厚生労働省)が公布され本年より大幅に変わる.主な改正事項としては,1.生物テロや事故による感染症の発生・まん延を防止するため,一種病原体(ペスト菌など)~四種病原体(狂犬病など)までの病原微生物の所持,輸入等の禁止,許可,届出,基準の遵守等の規則が設けられ,無許可での病原菌保管や譲渡ができなくなる.2.近年の医学的知見に基づき感染症の分類が見直され,医師・獣医師の届出や慢性感染症に関する情報の収集および発生状況等の情報が公開される.3.これまで独立していた結核予防法が感染症法に位置付けられ,総合的な対策(健康診断,就業制限,入院及び医療など)が実施される.■シリーズ:眼感染症クライシスとは本シリーズでは,1年間を通じて主に薬剤耐性菌に関するわかりやすい情報を検査室から眼科医に提供する.具体的には,本総説(1)で概説した薬剤耐性菌について,2.グラム染色の効用について解説後,3.MRSA,4.MRSE,5.MDRP,6.ESBLs,7.PRSP,8.BLNAR,9.VRE,10.多剤耐性淋菌,11.????????????????????????と???????????????,12.エビデンスに基づく点眼剤の使い分け,という順番で掲載予定である.検査室からのアドバイスが眼感染症治療の一助になれば幸甚である.文献1)DuRyvanBeestHolleM,MeijerA,KoopmansMetal:Human-to-humantransmissionofavianin?uenzaA/H7N7,TheNetherlands,2003.?????????????10(12):264-268,2005(79)■コメント■「眼感染症セミナー─クライシスコントロール講座─」と題するシリーズが今回から始まる.企画を大阪大学医学部附属病院感染制御部/検査部の浅利誠志先生にお願いして,眼科医のためのワンポイントレッスンを多数組んでいただいた.よく考えれば,われわれの周囲は微生物だらけである.眼,特に角結膜は外界と接しており,感染の好発部位と言えるが,鳥インフルエンザウイルスで結膜炎が起こるという話には背筋がぞっとした.このシリーズで感染制御学の知識レベルをワンランク,アップさせていただければ幸いである.愛媛大学医学部眼科大橋裕一☆☆☆

光線力学的療法(PDT):照射範囲の決定

2007年1月31日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??0910-1810/07/\100/頁/JCLS滲出型加齢黄斑変性(AMD)は視力予後が不良で,欧米では失明原因の第1位であり,わが国でも急増している疾患である.ベルテポルフィン(ビスダイン?,ノバルティスファーマ株式会社)を用いた光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)は,2004年5月より日本に導入され,脈絡膜新生血管(CNV)を伴うAMDに対して視力低下を抑制する目的で行われており,広く臨床的に適用されている1,2).PDTの適応は中心窩下CNVを伴うAMDであり,その適応の判断およびPDTの照射範囲の決定には,フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)をもとにして行うのが原則である.まずFA所見をもとに病変サイズを決める必要があるが,ここでいう「病変」とは,FA像から,classicおよびoccultCNV,出血,網膜色素上皮?離(PED),瘢痕を含めたものすべてを指す.CNVはclassicCNVが病変の50%以上を占めるpredominantlyclas-sicCNV,50%未満のminimallyclassicCNV,classic成分のないoccultwithnoclassicCNVに分けられる1).「病変」の範囲のなかで最大直径に値するものを最大病変直径(greatestlineardimen-sion:GLD,?m)とよぶ.PDT照射の際に使用するスポットサイズは病変部を完全にカバーできるようにするために,病変に500?mの縁どりを行い,つまりGLDに1,000?mを加えた値とする(図1).測定に使用するFA写真は機種により拡大率は異なるが,TOPCONの眼底カメラでは,実際の眼底の2.5倍に拡大される35?の写真を用いて測定する.しかし,視神経乳頭の耳側縁より200?m以内は照射を行ってはいけないので注意が必要である.また推奨されるGLDは5,400?m以下である1,2).網膜下出血が多い症例やPEDを伴う症例では,GLDは大きくなりやすい(図2,3).AMDの一型であるポリープ状脈絡膜血管症(PCV)は脈絡膜血管に由来する枝状の異常血管網とその先端の拡張したポリープ状病巣からなり,インドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)によって異常血管像が証明される.PCVは日本人に多く,PDTを行うケースに遭遇しやすい疾患である.PCVは網膜下出血や,PEDを伴いやすく,この場合IA所見から得られるポリープ状病(75)齋藤昌晃福島県立医科大学眼科光線力学的療法(PDT)セミナー監修/石橋達朗湯沢美都子4.照射範囲の決定ベルテポルフィン(ビスダイン?)を用いた光線力学的療法(PDT)は脈絡膜新生血管を伴う滲出型加齢黄斑変性に対して視力低下を抑制する目的で広く行われている.照射範囲の決定には,フルオレセイン蛍光眼底造影所見を参考にするのが原則であるが,症例によってはインドシアニングリーン蛍光眼底造影所見を参考にする場合もある.提供図2網膜下出血を伴う例:MinimallyclassicCNV網膜下出血のためGLDは大きくなる,GLD:5,944?m.図1GLDの測定:PredominantlyclassicCNVFAでのGLD測定,GLD:5,350?m.———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(00)巣と異常血管網の範囲は,FA所見で決めたGLDよりも小さくなりやすい.照射の際にFA所見を参考にするのか,IA所見を参考にするのか迷うことが多い(図3).最近ではPCVでの照射範囲の決定の際に,FAをもとにした標準的な方法(FA-guidedPDT)3)のほかに,IAをもとにした方法(IA-guidedPDT)の報告4)があり,いずれも治療成績は良好である.IA-guidedPDTの場合,IA像からポリープ状病巣および異常血管網を含む最大直径である「PCV病変サイズ」(?m)を測定する.なお,漿液性網膜?離,色素上皮?離,出血などの,滲出性病変はPCV病変サイズに含めない.PCV病変サイズに1,000?mを加えた値をスポットサイズとするのが一般的である.しかし,これまでにわが国ではPDTの治療成績に関する前向き研究の報告がなく,照射範囲の方法のどちらが臨床的に適しているかの検討もない.そこで現在,眼科PDT研究会がPCVに対するFA-guidedPDT,IA-guidedPDTに関しての前向き試験を行っており,その結果が待たれる.文献1)TreatmentofAge-RelatedMacularDegenerationwithPhotodynamicTherapy(TAP)StudyGroup:Photody-namictherapyofsubfovealchoroidalneovascularizationinage-relatedmaculardegenerationwithvertepor?n:one-yearresultsof2randomizedclinicaltrials─TAPreport.???????????????117:1329-1345,19992)JapaneseAge-RelatedMacularDegenerationTrial(JAT)StudyGroup:Japaneseage-relatedmaculardegenerationtrial:1-yearresultsofphotodynamictherapywithverte-por?ninJapanesepatientswithsubfovealchoroidalneo-vascularizationsecondarytoage-relatedmaculardegener-ation.???????????????136:1049-1061,20033)SpaideRF,Donso?I,LamDLetal:Treatmentofpolyp-oidalchoroidalvasculopathywithphotodynamictherapy.??????22:529-535,20024)ChanWM,LamDS,LaiTYetal:Photodynamictherapywithvertepor?nforsymptomaticpolypoidalchoroidalvas-culopathy.One-yearresultsofaprospectivecaseseries.?????????????111:1576-1584,2004図3網膜色素上皮?離を伴った症例:PCVa:橙赤色隆起病巣を認める.b:FA所見をもとにしたGLDの測定,GLD:7,289?m.c:IA所見を基にしたGLDの測定,GLD:3,290?m.PEDを伴う症例ではFA所見と,IA所見とではGLDに差がでやすい.bac

緑内障:マイトカイシンC併用繊維柱帯切除術後の眼圧日内変動

2007年1月31日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??0910-1810/07/\100/頁/JCLS線維柱帯切除術は,マイトマイシンC(MMC)の併用で眼圧を長期に低くコントロールできるようになったため,緑内障の観血的手術として最も一般的な術式となっている.MMC併用線維柱帯切除術を含む濾過手術の眼圧日内変動に及ぼす効果については,これまで術前の平均眼圧を大きく下降させ,眼圧変動幅も著しく減少させることが報告されている1,2)が,MMC併用線維柱帯切除術後の眼圧日内変動についての詳細な報告は少ない.そこで,筆者らは熟練した同一術者による初回のMMC併用線維柱帯切除術後で術後2カ月以上経過した原発開放隅角緑内障(広義)20例31眼を対象に,術後の眼圧日内変動をGoldmann圧平眼圧計で測定した3).その結果,全対象の各測定時刻の平均眼圧は終日低く安定していたが,わずかではあるが日内変動を認め10時の眼圧が1時の眼圧より有意に高かった(10時の眼圧9.9±3.9mmHg,1時の眼圧8.8±3.5mmHg,p<0.05)(図1).また,術後1日平均眼圧(眼圧日内変動で得られた全測定時刻の眼圧の平均値)と術後眼圧変動幅(術後最高眼圧-術後最低眼圧)の間には,有意な正の相関を認め,術後1日平均眼圧が低いほど,術後眼圧変動幅は小さかった(相関係数r=0.456,p<0.05)(図2).このことから,手術による治療効果を高めるためには,術後合併症を招かない範囲でできるだけ低い眼圧を目指す必要があるといえる.しかし,実際には,術後1日平均眼圧がかなり低くても,ある測定時刻だけ眼圧が上昇したため,術後眼圧変動幅が大きい症例もみられた.以下,具体例を2例呈示する.〔症例1〕69歳,男性で,2001年2月1日に左眼のMMC併用線維柱帯切除術を施行された.外来での左眼術後眼圧は5mmHgであった.2001年4月3日(術後62日)に眼圧日内変動を測定したところ,術後1日平均眼圧は7.8mmHgと低いものの,10時と19時で眼圧はspike状に上昇していたため,術後眼圧変動幅は7(73)●連載?緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄79.マイトマイシンC併用線維柱帯切除術後の眼圧日内変動中元兼二東京警察病院眼科マイトマイシンC併用線維柱帯切除術後の眼圧日内変動を測定したところ,術後1日平均眼圧と術後眼圧変動幅の間には正の相関があり,術後1日平均眼圧が低いほど術後眼圧変動幅は小さかった.しかし,術後眼圧が低くても特定の時刻だけ眼圧がspike状に上昇する症例があり,術後眼圧の評価には注意が必要である.*平均値±標準誤差*p<0.05測定時刻(時)眼圧(mmHg)12111098761013161922137図1MMC併用線維柱帯切除術後の眼圧日内変動原発開放隅角緑内障(広義)20例31眼を対象に,術後の眼圧日内変動を測定したところ,全対象の各測定時刻の平均眼圧は終日低く安定していたが,有意な日内変動があり,10時の眼圧が1時の眼圧より有意に高かった.(文献3より)術後1日平均眼圧(mmHg)術後眼圧変動幅(mmHg)8765432104681012141618r=0.456,p<0.05図2術後1日平均眼圧と術後眼圧変動幅との相関関係術後1日平均眼圧と術後眼圧変動幅の間には,有意な正の相関を認め,術後1日平均眼圧が低いほど術後眼圧変動幅は小さかった.(文献3より)———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007mmHgと大きかった(図3a).2001年5月1日レーザー切糸術を施行し,2001年6月9日(術後99日)に再度眼圧日内変動を測定すると10時と19時のspike状の眼圧上昇は消失し,術後1日平均眼圧は5.5mmHgとさらに下降し,術後眼圧変動幅も2mmHgと終日低く変動の少ない眼圧日内変動となった(図3b).〔症例2〕78歳,男性で,1995年11月16日に左眼のMMC併用線維柱帯切除術を施行された.外来での左眼術後眼圧は5~8mmHgであった.術後2,014日に眼圧日内変動を測定したところ,10時から3時までは眼圧は5~7mmHgと低く安定していたが,7時にspike状の眼圧上昇を認めた.しかし,続く10時には6mmHgまで下降していた(図4).以上のように,原因は明らかでないが,MMC併用線維柱帯切除術後においても外来眼圧が低くても眼圧日内変動を測定すると,ある測定時刻でspike状に眼圧が上昇するものがあることがわかった.このことから,特に外来の眼圧コントロールが良好で視野障害が進行する症例では,術後であっても積極的に眼圧日内変動を測定し,24時間を通して眼圧が良好にコントロールされているか評価したほうがよいと考えられる.文献1)佐藤出,陳進輝,大野重昭:緑内障手術前後における眼圧日内変動の検討.臨眼58:1973-1976,20042)MedeirosFA,PinheiroA,MouraFCetal:Intraocularpressure?uctuationsinmedicalversussurgicallytreatedglaucomatouspatients.?????????????????????18:489-498,20023)福田匠,中元兼二,安田典子ほか:マイトマイシンC併用線維柱帯切除術後の眼圧日内変動.臨眼60:1961-1963,2006(74)測定時刻(時)眼圧(mmHg)2016128401013161922137測定時刻(時)眼圧(mmHg)2016128401013161922137ab図3症例1(69歳,男性)のレーザー切糸術前後の眼圧日内変動(左眼)a:術後62日の眼圧日内変動では,術後1日平均眼圧は低いが,術後眼圧変動幅は7mmHgと大きかった.b:レーザー切糸術後(術後99日)の眼圧日内変動では,眼圧変動幅が2mmHgと終日低く変動の少ない眼圧日内変動となった.測定時刻(時)眼圧(mmHg)14121086420101316192213710図4症例2(78歳,男性)のMMC併用線維柱帯切除術後の眼圧日内変動(左眼)術後2,014日に眼圧日内変動測定した.7時にspike状の眼圧上昇を認めたが,続く10時には6mmHgまで下降していた.☆☆☆

屈折矯正手術:屈折矯正手術-エンハンスメントの適応と実際-

2007年1月31日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??0910-1810/07/\100/頁/JCLS屈折矯正手術後に予定矯正量より低矯正または過矯正となったため,あるいは裸眼視力が再度低下し(regression)追加矯正手術を行うことを一般にエンハンスメントと呼称している.現在ではエンハンスメントの対象症例はその大半がLASIK(laser???????keratomile-usis)手術後の低矯正またはregression症例に対する近視矯正であるため,本稿ではLASIK後の近視エンハンスメントの適応と手技に関して述べる.●エンハンスメントの適応エンハンスメントの適応決定には視力,年齢,屈折値,角膜厚,角膜形状,術後経過や経過期間などを考慮する必要がある.視力に関しては,患者が術後裸眼視力に満足できない状態がエンハンスメントの適応となり,裸眼視力が幾つ以下ならエンハンスメントを行うという絶対的な境界値は存在しない.エンハンスメント適応に年齢制限はないが,エンハンスメントを行う際に年齢を考慮するには二つの理由がある.一つは,高齢の患者にとって軽度の近視残存は良好な近方裸眼視力という利点を有するため,この点を十分に患者に説明してから適応決定を行う.もう一つは,若年者に比べ30歳以上の患者では術後regres-sion頻度がやや高く,屈折値の変化もやや長期にわたる傾向がある.このため高齢者のエンハンスメント適応は,若年者に比べ十分な経過観察を行い,できれば初回手術後6カ月は経過してから決定する.屈折値に関しては,初回手術前の屈折値と術後の残存近視量の値を考慮する必要がある.初回手術前屈折値が6D未満の症例では術後1カ月程度で屈折値はほぼ安定し,術後3カ月経過した時点でエンハンスメントの適応を判断しても問題はないが,術前9Dを超える強度近視の場合,術後のregressionが3カ月以上の長期にわたる場合があり1),屈折値が十分,安定するのを確認してからエンハンスメントの適応を決定する.術後残存近視量が0.5D未満とわずかな場合は,b-遮断薬点眼加療によるregression加療を優先するとともにエンハンスメントに伴う角膜上皮迷入などのリスクを十分説明してから手術を行う.角膜厚測定はkeratectasia予防のために重要である.確定した値ではないが,一般にはエンハンスメント後の残余角膜厚が400?mおよびフラップ厚が既知な場合はベッド厚250?mを残せる症例が適応となる.初回手術の角膜フラップ厚が不明な場合は慎重な検討を要する.初回LASIK術後に角膜上皮が肥厚したために角膜厚が増大し,残存ベッド厚が過大評価されしまう症例があることを忘れず,角膜厚に十分な安全量を残す2).角膜形状測定も角膜厚と並んでエンハンスメント適応(71)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載?監修=木下茂大橋裕一坪田一男80.屈折矯正手術-エンハンスメントの適応と実際-江口秀一郎江口眼科病院屈折矯正手術後のエンハンスメントは患者の視力,年齢,術前および初回手術後の屈折状態,角膜厚,角膜形状,さらには術後経過や経過期間などを考慮して適応を決定する.特に角膜厚と角膜形状は術後keratectasia予防のために重要である.手術はリフティング法を基本とし,角膜上皮迷入防止に配慮した手技を要する.図1エンハンスメント術前にkeratectasiaを疑われた症例のOrbscan?結果角膜後面のエレべーションマップ(右上)で突出したエリアがある.前面エレベーションマップ(左上)の突出頂点と後面の突出頂点が非対称で位置が不一致である.Axialマップで上下の非対称性が強い.以上の所見が初回LASIK術前に円錐角膜が存在していた疑いが強い.———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007決定にきわめて重要である.特に走査型角膜形状解析装置Orbscan?を用いて,角膜前面のみならず角膜後面の形状と変化を定量的に測定することが重要である.角膜厚が十分に厚くとも,角膜後面の前方偏位量が大きい症例や,角膜前後面で突出頂点の位置が著しく異なる症例は,もともと円錐角膜症例であった疑いが強く,エンハンスメント適応としないほうが安全である(図1).初回手術の術後経過において,術後に角膜上皮?離,角膜上皮迷入やDLK(di?uselamellarkeratitis)がなかったか,ステロイド緑内障の既往がなかったかなどを確認し,これらの術後合併症を有した症例に対してはエンハンスメントを避ける.術後経過期間に関しては屈折値の安定を確認するため,最低でも初回手術後3カ月経過してからエンハンスメントを行うべきであるが,術前屈折値や年齢なども併せて考慮する必要がある点は前述した.●エンハンスメントの手術手技エンハンスメントは,初回手術時に作製したフラップを再?離するリフティング法と新たなフラップをマイクロケラトームで作製するリカット法に分かれる.初回手術後2~3年経過してもフラップとベッドの間の癒着はきわめて緩く,エンハンスメントにはリフティング法が主として用いられている.リフティング法でエンハンスメントを行う場合は,まず,細隙灯顕微鏡下にて27ゲージ注射針などを用いてフラップ縁をマーキングまたは小さく再?離し,エキシマレーザーに付随した顕微鏡下にてもフラップ縁を見失わないよう準備する.ときに細隙灯顕微鏡下でもフラップ縁の同定が困難な症例がある.そのような場合は,角膜をフルオレセイン染色してみると,フラップ縁が淡い混濁として観察でき,マーキングが容易となる.消毒後,顕微鏡下でフラップを正しい位置に戻すためのマークを置き,細隙灯顕微鏡下で付けたマーキングをガイドとしながらスパーテルを用いてフラップエッジを全周にわたり?離する(図2).この際,術後角膜上皮迷入やDLKを防止するため,角膜上皮損傷,欠損が最小限になるように留意する.初回手術でパンヌスからの出血があった部位ではフラップとベッドの癒着が強固で,フラップの?離はきわめて困難である.このような場合は,無理にフラップを牽引せずに剪刀にて癒着部位のフラップを切断したほうが手術侵襲が少ない.フラップ中央部?離はスパーテルや鑷子を用いてもよいが,層間洗浄針でBSS(balancedsaltsolution)を注入していくと容易に?離することが可能であるとともにフラップの乾燥も防止可能である(図3).フラップ?離後,エキシマレーザー照射を行う.レーザー照射後,角膜ベッドを十分に洗浄し,フラップをもとの位置に戻し,フラップ下に異物,角膜上皮細胞片がないことを確認する.初回手術に比べ角膜上皮に対する侵襲が強いので,治療用コンタクトレンズを装用させて手術を終了する.文献1)ChayetAS:Regressionanditsmechanismsafterlaserinsitukeratomileusisinmoderateandhighmyopia.??????????????105:1194-1199,19982)BrahmaA,McGheeCN,CraigJPetal:Safetyandpre-dictabilityoflaserinsitukeratomileusisenhancementby?apreelevationinhighmyopia.???????????????????????27:593-603,2001(72)図2エンハンスメント術中所見スパーテルを用いて術前マーキング地点よりフラップエッジを?離していく.図3エンハンスメント術中所見フラップエッジの?離が終了したら層間洗浄針でBSSを注入していくと容易に?離することが可能である.