———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSII髄液の生理髄液は大部分が脳室内の脈絡叢で産生されるが,脳室上衣,くも膜下腔でも産生される.髄液産生量はイヌリンなどのトレーサーを髄液腔内に灌流させて計算される.トレーサー入り人工髄液の流入量(Vi),流出量(Vo)と,それぞれのトレーサー濃度(Ci,Co)から髄液産生量(Vf)と髄液吸収量(Va)を求めることができる.髄液産生量:Vf=Vi(CiCo)/Co髄液吸収量:Va=Vi(CiVoCo)/Coはじめに脳脊髄液(髄液)は頭蓋内容積の510%を占め,髄液腔内で一定の組成を保ちながら産生・吸収・循環をくり返しているが,今なおその生理機構には不明な点もある.髄液検査は検査の適応,禁忌,解剖学的知識や合併症を知って行えば安全な検査であり,髄膜炎,眼科領域では特にVogt-小柳-原田病などが疑われる場合にしばしば決定的な意味をもつ.本稿では髄液の生理,正常所見から適応症,留意点,さらに眼科領域での施行意義について解説したい.I髄液研究の歴史髄液の存在はすでに古代ギリシアのHippocrates(BC460375)によって記載されている.しかし,科学的見地からの記載はCotugno(1764),医学的見地からの記載はMagendieの剖検例での観察による(1828).Magendie(図1)は健常者にも髄液が存在すること,脳室・脳表・脊髄くも膜下腔が連続していることを明らかにした.さらに1875年にはKeyとRetziusにより,髄液の大部分は脳室の脈絡叢で産生され,脳室系を経てくも膜下腔へ流れ,やがてくも膜絨毛を介して吸収されるという髄液循環の基本事項が明らかになった.今日では髄液は血液,リンパ液につぐ第3循環と認識されている.(27)14971oosiitaiiigeaino2Masaaiiino6157特集●ぶどう膜炎検査の正しい使い方あたらしい眼科25(11):14971500,2008髄液検査CerebrospinalFluidExamination北市伸義*1新野正明*2大野重昭*11FrancoisMagendie(17831855)フランスの医学者で実験生理学の先駆者.剖検例の観察から髄液・髄腔の基本構造を明らかにした.ベル・マジャンディーの法則(求心性神経線維は脊髄後根から入り,遠心性神経線維は脊髄前根から出る)の発見者でもある.———————————————————————-Page21498あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(28)う.4)0.51.0%リドカイン溶液約2mlで局所麻酔.5)穿刺部に針先はわずかに頭側へ向け,体に対して80°の角度に針を進める.手応えを確かめながら針を進め,骨にあたったら皮下組織まで針先を戻し,再度進入する.ヒトでの産生量は約0.35ml/分,1日では500700mlとなり,計算上髄液は1日に34回入れ替わっていることになる.III髄液検査の適応1.適応脳血管障害,脳腫瘍,脊髄疾患,髄膜炎,脳炎,多発性硬化症,Guillain-Barre症候群などほとんどの神経疾患が適応となる.眼科領域ではVogt-小柳-原田病,多発性硬化症,頭蓋内腫瘍などで関係が深い.どのような疾患を念頭におくかで髄液の検査項目は異なる(表1).特にVogt-小柳-原田病は自己免疫性のぶどう膜炎と髄膜炎を合併するため診断に有意義である1).ステロイド薬全身投与を開始するうえで重要な検査であるが,漫然とするのではなく,鑑別診断を考えて行う.2.禁忌頭蓋内圧亢進時,穿刺部の感染病巣,出血傾向,脊椎変形例では禁忌である.今日神経内科領域では髄液検査前に頭部単純CT(computedtomography)検査が推奨されている.3.手技1)脊柱をできる限り後弯させ棘突起を開き,椎間腔を広げる.そのまま検査終了まで同一体位を保つ.2)穿刺部を触診して位置をよく確認する.穿刺部はJacoby線(左右腸骨稜の最高点を結ぶ仮線)と腰椎の交差点である(図2).ここは第4腰椎と第5腰椎間にあたり,穿刺は正中から行う.3)穿刺部を消毒.滅菌手袋を着用し,孔あき布で覆図2穿刺の位置Jacoby線を目印にして第4と第5腰椎間を穿刺する.図3腰椎穿刺の断面図針がくも膜下腔に達すると髄液が流出する.表1おもな疾患に対する髄液検査項目疾患検査項目脳血管障害,髄液細胞診,腫瘍特異抗原,生化学的検査,ミエログラフィなど脳腫瘍,水頭症脊髄疾患髄膜炎(含Vogt-小柳-原田病),脳炎細胞数,蛋白質,糖,抗体価,(塗抹標本)多発性硬化症,脱髄疾患,蛋白質,細胞数,電気泳動(gグロブリン),酵素濃度神経変性疾患Guillain-Barre症候群蛋白質,細胞数(髄液蛋白細胞解離)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081499(29)1)一過性頭痛2)一過性脊髄根性疼痛3)頭蓋内圧亢進時の脳ヘルニア4)局所感染による髄膜炎5)髄液大量採取後の一過性神経麻痺(特に外転神経麻痺)6)硬膜下血腫IV髄液の正常値と病的意義1.髄液圧髄液圧の正常値は側臥位で70180mmH2Oであり,200mmH2O以上は病的亢進とされる.髄液圧は体動,緊張,咳漱などで変動するためしばらく観察して一定になってから圧を測定するとよい(図4).髄液圧が40mmH2O以下は低髄圧であり,脊髄くも膜下腔ブロック,脱水,循環虚脱,穿刺部からの髄液漏出などを考える.2.外観正常髄液は水様,無色透明である.わずかでも着色,混濁があれば病的と考える.混濁は細菌や細胞成分の増加による.血性髄液はくも膜下出血か医原性を含めた血管損傷を考える.採取髄液が黄色調を呈する場合をキサントクロミーとよび,くも膜下出血後にみられる(表2).3.細胞数と細胞成分正常髄液の細胞成分はおよそ5個/mm3以下とされ,おもにリンパ球である.北海道大学病院では検体3mm3で計数し,10個/3mm3(3.3個/mm3)以下を正常値としている.10個/mm3以上は病的である.長時間放置すると髄液内の細胞が破壊されるため採取後は速やかに細胞数を計測する.細胞増多がみられる場合にはその種類を特定することが重要である.多核白血球が増加して6)棘間靱帯を貫通する際は抵抗が強く,硬膜を貫通すると抵抗がなくなる.これで針は皮膚,皮下組織,筋膜,棘上靱帯,黄靱帯,硬膜,くも膜を順に穿通してくも膜下腔に達したことになる(図3).内針を抜くと髄液がでる.7)髄液の流出を少量にとどめ,圧棒を接続して初圧を測定する(図4).同時に液の性状,液面の上昇速度も観察する.正しく穿通していれば呼吸性動揺がみられる.血性の場合はすぐに抜去する.8)液圧を確認しながら髄液を採取する.初圧の半分以下にならない範囲でとどめる.一般的には10ml以内である.9)髄液採取後終圧を測定する.10)針を抜去し,局部をガーゼなどで強く圧迫する.検査後2時間以上は枕なしでベッド上絶対安静とし,その後も当日はできるだけ安静を心がける.4.合併症合併症は種々報告があるが,代表的なものは以下の通りである.最も一般的なものは一過性頭痛で,約20%にみられる.その他は比較的まれである.表2髄液外観と関連疾患正常水様,無色透明混濁血性黄色(キサントクロミー)細菌や細胞成分の増加くも膜下出血,血管損傷くも膜下出血後図4初圧の測定髄液が流出したら圧棒で初圧を測定する.同時に髄液の性状,液面の上昇速度もみる.正しく穿通していると呼吸性動揺がみられる.———————————————————————-Page41500あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(30)患の病態から考えて,診断時の髄液検査の重要性はコンセンサスが得られているといってよい.したがって現在の診断基準を「髄液検査は不要」と誤解してはならない.また,発症初期にはぶどう膜炎のみで髄膜炎がまだ発症していないことがあり,その時点では髄液細胞増多はみられない.そのような場合には数日後に再度髄液検査を行うとよい.おわりに髄液検査は基本事項を理解・習得すれば安全できわめて有効な検査である.特にVogt-小柳-原田病ではステロイド薬を大量に用いるかどうかの決定的な根拠となることが多い.しかし本稿で示したように,髄液検査でリンパ球増多がみられる鑑別疾患は多く,また原田病でも初期には髄液細胞増多がみられないことなどを理解し,しっかり眼所見を見きわめて診断・治療を進めることが基本であり,かつ重要である.文献1)KitaichiN,MatobaH,OhnoS:Thepositiveroleoflum-barpunctureinthediagnosisofVogt-Koyanagi-Haradadisease:lymphocytesubsetsintheaqueoushumorandcerebralspinaluid.IntOphthalmol27:97-103,20072)KitaichiN,HorieY,OhnoS:PrompttherapyreducesthedurationofsystemiccorticosteroidsinVogt-Koyanagi-Haradadisease.GraefesArchClinExpOphthalmol246:1641-1642,20083)SugiuraS:Vogt-Koyanagi-Haradadisease.JpnJOphthal-mol22:9-35,19784)ReadRW,HollandGN,RaoNAetal:ReviseddiagnosticcriteriaforVogt-Koyanagi-Haradadisease:reportofanInternationalCommitteeonNomenclature.AmJOphthal-mol131:647-652,2001いる場合には化膿性髄膜炎,脳膿瘍,硬膜下膿瘍,脊髄硬膜外膿瘍などを考える.リンパ球増多の場合はウイルス性髄膜炎,Vogt-小柳-原田病,サルコイドーシス,神経Behcet病,脳炎,脳脊髄炎,結核性髄膜炎,真菌性髄膜炎,梅毒性髄膜炎,神経梅毒,多発性硬化症,外傷,脳脊髄腫瘍などを考える.好酸球増多は肺吸虫,旋毛虫,トキソプラズマ,マラリア,原虫感染などによる.また,伝染性単核症では異型リンパ球,白血病では白血球,転移性腫瘍では腫瘍細胞などの異常細胞がみられることがある(表3).VVogt小柳原田病における髄液検査Vogt-小柳-原田病はモンゴロイドに多発し,わが国ではぶどう膜炎の3大原因の一つである.疾患の本態はメラノサイトに対する自己免疫疾患であるため,ぶどう膜(おもに脈絡膜),髄膜,皮膚,内耳などに炎症が惹起される.その証拠に本疾患では眼内リンパ球の表面マーカーを解析すると髄液中のリンパ球と同じサブセットであり,血中リンパ球とはまったく異なる1).本疾患ではステロイド薬の大量療法かパルス療法が治療法として確立しているが,いずれにせよ大量のステロイド薬を長期間全身投与するため,確実な診断が重要である.しかも早期にステロイド薬投与を開始したほうが結果的にステロイド薬投与期間は短く済む2).これまで長く世界的に用いられてきた杉浦の診断基準では眼所見とともに無菌性髄膜炎所見が重視されてきた3)が,2001年に提唱された新診断基準では髄液検査を行わなくても診断できる例がある4).しかし,これは米国で髄液検査が保険適用とならないことがおもな理由の一つであり,日本をはじめアジア,ヨーロッパなど米国以外では本疾表3髄液細胞と関連疾患正常5(または3.3)個/mm3以下(10個/mm3以上は病的),リンパ球多核白血球増多化膿性髄膜炎,脳膿瘍,硬膜下膿瘍,脊髄硬膜外膿瘍などリンパ球増多ウイルス性髄膜炎,Vogt-小柳-原田病,サルコイドーシス,神経Behcet病,脳炎,脳脊髄炎,結核性髄膜炎,真菌性髄膜炎,梅毒性髄膜炎,神経梅毒,多発性硬化症,外傷,脳脊髄腫瘍など好酸球増多肺吸虫,旋毛虫,トキソプラズマ,マラリア,原虫感染など異常細胞伝染性単核球症,白血病,転移性髄膜癌腫症など