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網膜硝子体疾患に対する最新の薬物治療

2008年3月31日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSVEGF165,VEGF189,VEGF206という4種の主要なアイソフォームが存在していることがわかっている.このうちVEGF121,VEGF165の2つが網膜で認められるアイソフォームである.これらのVEGFと複合体を形成してVEGF受容体結合を抑制する作用機序をもつ薬剤が続々と開発され,これらを硝子体内に投与する治療法が最近主流となってきている.これらの薬剤のなかには,完全ヒト型の可溶性VEGF受容体フュージョン蛋白であるaibercept(VEGFTrap-EyeTM)などこれから治験が始まるものもある.本稿では,わが国で,すでに使用されているbevacizumab,今後承認される予定のranibizumab,pegaptanibについて紹介する.1.Bevacizumab(AvastinR,Genentech)VEGF阻害薬の一つであるbevacizumab(AvastinR;Genentech,Inc.,SouthSanFrancisco,CA)は米国のFDA(FoodandDrugAdministration)に転移性大腸癌の治療薬として承認された全長ヒトモノクローナル抗体である.薬物の作用機序より,眼科疾患においてはAMDをはじめ,網膜静脈閉塞症やDRによる黄斑浮腫,PDR(図1)に対して有効であるという報告が2006年以降数多くみられる.内外ともにo-labelの使用であり,各医療機関でIRB(治験審査委員会;InstitutionalReviewBoard)や倫理委員会などの組織で承認を得る必要がある.糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)にはじめに近年,加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegenera-tion:AMD),糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR),網膜静脈閉塞症に続発した黄斑浮腫や,増殖糖尿病網膜症(proliferativediabeticretinopathy:PDR)などの網膜硝子体疾患に対し,薬物治療がさかんに行われるようになった.従来は,これらの疾患に対してレーザー光凝固,硝子体手術などの治療がおもに行われていたが,侵襲が大きいうえに満足のいく治療成績が得られない症例も多く,薬物治療が現在脚光を浴びている.本稿では,現在使用されているもの,治験中の薬物について,さらに,どのような疾患に対して有効であるか,過去の報告に基づいて述べる.I抗血管内皮増殖因子薬血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfac-tor:VEGF)は,眼内では主として網膜色素上皮によって分泌されるポリペプチドで,血管内皮細胞に特異的で強力な細胞分裂促進作用を示す.VEGFは,AMDにおける脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)をはじめ,DRなどの網膜血管閉塞性疾患における網膜新生血管にも強く関与している.また,網膜血管の透過性を亢進させて網膜浮腫の発生に関わっている.これらのことより,VEGFを抑制させる薬物は,血液網膜柵の破綻や血管新生に起因する眼科疾患においても有効である.VEGFはヒトにおいてはVEGF121,(35)309*ChiekoShiragami&FumioShiraga:香川大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕白神千恵子:〒761-0793香川県木田郡三木町大字池戸1750-1香川大学医学部眼科学教室特眼科薬物治療トレンド2008あたらしい眼科25(3):309315,2008網膜硝子体疾患に対する最新の薬物治療NewPharmacologicTreatmentforVitreoretinalDiseases白神千恵子*白神史雄*———————————————————————-Page2310あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008(36)で,有害事象は認めなかった4).また,predominantlyclassicCNVに対してIVBを32眼,光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)を30眼に施行し,6カ月目の効果を比較したところ,平均視力,中心窩網膜厚ともにIVB群のほうが有意に改善したという報告もある5).RAPに対するIVBの報告では,23眼に対してIVB1.25mgを行い,13カ月と短期経過観察では,視力,中心窩網膜厚ともに有意に改善したとされている6).しかし,RAPに対するIVBの報告は観察期間が短期のものだけで,今後中長期的な効果についての検討が必要である.ポリープ状脈絡膜血管症に対するIVBは,短期的な滲出の軽減には有効であるが,網膜色素上皮下の病変を消失させる根本的な治療にはならないとされている7).AMD1,455眼に対してIVB1.25mgを施行した症例のうち,投与後4日目から8週目の間に網膜色素上皮裂孔が発生したという報告があり,全症例,漿液性網膜色素上皮離の辺縁に起こったとされている.原因は不明で,頻度としては多くないが,網膜色素上皮離のある症例に対しては注意を要する8).その他,近視性CNV(図2)9),網膜色素線条に続発したCNV10),ぶどう膜炎に続発した黄斑浮腫11)に対してもIVBが有効であるという報告があるが,いずれも対するbevacizumab硝子体内注射(intravitrealbevaci-zumab:IVB)に関する過去の報告では,DME78眼に対してIVB1.25mg,あるいは2.5mgを行い,6カ月経過をみたところ,再投与を1回行ったものが20.5%,2回行ったものは7.7%で,投与前と最終受診時を比較すると平均視力は有意に改善し,光干渉断層検査(OCT)にて中心窩網膜厚が有意に減少したとされている1).そのほかにも経過観察期間が6週から24週と短期間でDMEにIVBが有効であるという報告がある2).さらに,DME26眼に対して,IVBと1回のトリアムシノロンの硝子体内注射(IVTA)を比較した報告では,投与後12週目の中心窩網膜厚と,投与後4週目の視力はIVTA群で有意に改善していたという報告があり3),IVBの効果については長期成績を含めて今後さらなる検討が必要である.AMDに対するIVBの報告では,まず,網膜血管腫状増殖(retinalangiomatousproliferation:RAP)を除くAMD60眼に対してIVB2.5mgを行い,滲出が残存する症例には1カ月ごとに再投与を行った臨床研究では,12カ月経過観察できた51眼において,治療前と12カ月後を比較すると,平均視力,中心窩網膜厚ともに有意な改善がみられたという結果で,平均投与回数は3.4回図1増殖糖尿病網膜症に対するbevacizumab硝子体内注入(IVB)a:IVB前フルオレセイン蛍光造影写真(FA).網膜新生血管から広範囲に蛍光漏出を認める.b:IVB後翌日のFA.新生血管からの蛍光漏出が消失している.ab———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008311(37)zumabは48kDで約1/3と小さいため(図3)硝子体内投与後に網膜深層にまで効率的に移行することができる12).また,Fcフラグメントが欠損していることより,眼内投与によるぶどう膜炎の合併症は少なくなるものと考えられている.Ranibizumabは2006年6月に米国FDAの認可を受けているが,わが国においては,中心窩下脈絡膜新生血管を伴うAMDに対して第I/II相臨床試験が現在実施中であり,日本人に対する安全性,有効性はまだ不明である.以下,海外にて現在までに行われた大規模スタディについて説明する.a.MARINA(MinimallyClassic/OccultTrialoftheAnti-VEGFAntibodyRanibizumabintheTreat-mentofNeovascularAge-relatedMacularDegen-eraion)Study13,14)中心窩下にminimallyclassicCNVまたはoccultwithnoclassicCNVを伴うAMD716眼を対象とし,ranibi-zumab0.3mgを238眼,0.5mgを240眼,shaminjection(擬似注射)を238眼に月(4週)1回24カ月行い,視力,FA(フルオレセイン蛍光造影)所見,OCT(光干渉断層計)所見を比較した多施設無作為プラセボ対照二重盲検試験である.1年目の結果では,視力がETDRS(EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy)視力にて15字未満の低下だったものが,ranibi-zumab0.3mg投与群では94.5%,0.5mg投与群では94.6%であり,それに対してsham群では62.2%であり,短期経過による結果である.2.Ranibizumab(LucentisR)Ranibizumabは,マウスのモノクローナル抗VEGF抗体(MAbVEGFA.4.6.1)に由来し,特定の抗原結合領域をMAbから全ヒト抗体のアミノ酸配列,および構造にスプライシングし,この修飾したMAbをFabフラグメントとFcフラグメントに分割している.Fabフラグメントのほうをranibizumabとよんでおり,VEGFへの親和性は全長ヒトMAb(bevacizumab)よりも高く,分子量も全長ヒトMAbが149kDに対し,ranibi-図2高度近視に続発した脈絡膜新生血管(CNV)に対するbevacizumab硝子体内注入(IVB)a:IVB前フルオレセイン蛍光造影写真(FA).黄斑部のCNVから蛍光漏出を認める.b:IVB後1カ月目のFA.CNVからの蛍光漏出がほぼ消失している.ab図3Ranibizumabの生成過程(文献26より引用,一部改変)ヒト化FabフラグメントRanibizumab(Lucentis?)FcBevacizumab(Avastin?)FcLightchainHeavychain親和性の向上選択的変異ヒト化抗体Fabフラグメント(約48kD)全長ヒト化抗体(約149kD)ヒト化Fabフラグメントマウスモノクローナル抗VEGF抗体(約150kD)ヒト化抗体の構築———————————————————————-Page4312あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008(38)行7日後から毎月ranibizumab0.5mg投与を106眼,shaminjectionを56眼に24回行う第I/II相多施設無作為単盲検試験である.PDTは通常どおり,3カ月ごとにFAを行って蛍光漏出を認めた症例はPDTの再治療を行った.12カ月目の結果では,15文字未満の視力低下だったものが,ranibizumab投与併用群で90.5%,PDT単独群で67.9%とranibizumab投与併用群で有意に視力低下を抑制できた(p<.001)(図6).PDT再治療回数に関しては,ranibizumab投与併用群ではほとんどが最初の1回のみであったのに対して,PDT単独群のほぼ3分の1は4回のPDTを施行した.Ranibizum-ab投与群で最も頻度の多い有害事象は,ぶどう膜炎などの重篤な眼内炎症(11.4%)と,細菌性眼内炎(1.9%)で,PDT単独群ではみられなかった.しかし,眼内炎症が起こった症例でも,平均視力はPDT単独群と比較すると良好であった.ranibizumab投与群で有意に視力低下を抑制できた.12カ月目に平均視力は,0.3mg投与群で6.5字,0.5mg投与群で7.2字改善したのに対し,sham群は10.4字悪化していた(図4).b.ANCHOR(Anti-VEGFAntibodyfortheTreatmentofPredominantlyClassicChoroidalNeovascularizationforAge-relatedMacularDegeneration)Study15,16)PDTとranibizumabの効果の比較試験(多施設無作為二重盲検試験)として,中心窩下にpredominantlyCNVを有するAMD423眼に対して,ranibizumab0.3mg注射+shamPDT(ベルテポルフィンを投与せずレーザー照射),ranibizumab0.5mg注射+shamPDT,shaminjection+PDTの3群に均等に分け,注射は月1回12カ月行い,PDTはFA所見より必要時に3カ月おきに行った.視力が15字未満の低下に抑えられたものは,ranibizumab0.3mg群で94.3%,ranibizumab0.5mgで96.4%であったのに対し,PDT単独群では64.3%であり,ranibizumab投与群で有意に視力低下を抑制できた.平均視力はranibizumab0.3mg群で8.5字上昇,ranibizumab0.5mgで11.3字上昇したのに対し,PDT単独群では9.5字低下した(図5).また,多変量解析の結果,治療前視力が不良なもの,CNVが小さいもの,年齢が若いものが,ranibizumab群の視力改善とPDT群の視力低下の抑制に有意に関連していた.c.FOCUS(RhuFabV2OcularTreatmentCombiningtheUseofVisudynetoEvaluateSafety)Study17)PredominantlyCNVに対するrenibizumab硝子体内投与とPDTの併用療法の安全性と効果を調べた研究で,病変部の最大直径が5,400μm未満のAMDにPDT施図4MARINAStudyにおける平均視力の変化(文献14,Figure2より引用,一部改変)(月)平均視力の変化(文字数)1050-5-10-1503691215182124:Ranibizumab0.5mg:Ranibizumab0.3mg:Shaminjection図5ANCHORStudyにおける平均視力の変化(文献15,Figure2より引用,一部改変):Ranibizumab0.5mg:Ranibizumab0.3mg:Vertepor?n(月)平均視力の変化(文字数)151050-5-10-150369121245781011図6FOCUSStudyにおける平均視力の変化(文献17,Figure1より引用,一部改変)(月)7日369121245781011+4.9-8.2平均視力の変化(文字数)1050-5-10:Ranibizumab+PDT(n=105):PDTAlone(n=56)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008313(39)マーで,VEGFの主要なアイソフォームであるVEGF165にきわめて特異的かつ高い親和性で結合するPEG化したオリゴヌクレオチドである.VEGF165は滲出型AMDの病態に関与する主要な血管新生増殖因子と考えられている21,22).Pegaptanibは他のVEGF阻害薬と異なり,165のアイソフォームと特異的に結合してVEGFを不活化するアプタマーなので,免疫学的に寛容で,全身への副作用などの影響が少ないと考えられている.実際,AMD147眼にpegaptanib1,3mgを6週ごとに54週投与した1年の経過では,血液検査,心電図,バイタルサインなど全身への影響はなかったという報告がある23).日本における臨床試験では,pegaptanibsodiumを6週間ごとに54週硝子体内投与するというもので,治験が終了し,厚生労働省に申請中である.以下,海外での臨床試験V.I.S.I.O.N.Studyの結果を述べる.V.I.S.I.O.N.(VEGFInhibitionStudyinOcularNeovas-cularization)Study24,25)米国,カナダ,ヨーロッパ,イスラエル,オーストラリアと南アメリカの117施設で行われた前向き無作為二重盲検多施設用量設定試験である.中心窩下CNVを有する50歳以上のAMDで,視力が20/40から20/320の症例1,186眼を,pegaptanib0.3mg群(294眼),pegaptanib1.0mg群(296眼),pegaptanib3.0mg群(296眼)とshaminjection群(296眼)の4群に無作為に分け,6週ごとに9回投与を行い54週までの結果をd.PIER(APhaseIIIb,Multicenter,Randomized,Double-Masked,ShamInjection-ControlledStudyoftheEcacyandSafetyofRanibizumabinSubjectswithSubfovealChoroidalNeovasularizationwithorwithoutClassicCNVSecondarytoAMD)Study18)中心窩下にCNVを有するAMDに対し,ranibizum-ab0.3mg(n=60),ranibizumab0.5mg(n=61),shaminjection(n=63)の3群に分けて,最初の3カ月は毎月,その後は3カ月おきに硝子体内注射あるいはshaminjectionを行い,12カ月経過をみた多施設無作為プラセボ対照二重盲検試験で,治療回数を減らすことが可能であるかどうかを検討した試験である.12カ月目の平均視力は,ranibizumab投与群では治療前視力を維持できており,sham群と比較すると有意に効果がみられた.しかし,MARINAStudyやANCHORStudyで行われた毎月の投与を続ける治療に比較すると視力改善の面で劣っており(図7),ranibizumabの効果を最大に生かすためには毎月の投与が必要であるという結果であった.e.DMEに対するranibizumabの効果Ranibizumabは,VEGF-Aのほぼすべてのアイソフォームに対する抗体であるため,DMEに対しても有効であると報告されている19,20).3.Pegaptanibsodium(MacugenR)Pegaptanibsodiumは血管新生を伴うAMDおよびDMEの治療を目的とした血管内皮増殖因子アンタゴニスト,抗VEGF;PEG(polyethyleneglycol)化アプタ図7PIERStudyにおける平均視力の変化(文献18,Figure1より引用,一部改変)平均視力の変化(文字数)1050-5-10-15:Sham(n=63):Ranibizumab0.3mg(n=60):Ranibizumab0.5mg(n=61)(月)36912124578101116.1文字差14.7文字差-0.2-1.6-16.3図8V.I.S.I.O.N.Studyにおける平均視力の変化(文献24,Figure1より引用,一部改変)(週)平均視力の変化(文字数)0-1-2-3-4-5-6-7-8-9-10-11-12-13-14-15-16-17061218243036425448ShaminjectionPegaptanib1.0mgPegaptanib0.3mgPegaptanib3.0mg———————————————————————-Page6314あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008(40)が,徐放製剤である点で期待されている.2.Triamcinoloneacetonide現在使用可能なケナコルトRは,眼科疾患には適応外であり,また溶媒を含んでいることから眼内使用には問題がある.そこで,複数の会社が,眼科疾患に適応のあるtriamcinoloneacetonideを開発している.そのうち,TriesenceTMは,米国FDAの認可を最近受け,ぶどう膜炎以外に硝子体手術中の可視化にも適応を取得している.日本でも開発されて現在治験中の薬剤があり,近い将来眼科適応のあるtriamcinoloneacetonideが使用可能になることが期待される.3.その他Anecortaveacetate(RetanneTM)は,AMDに対するステロイド薬として開発され,現在,滲出型への進行の予防薬として米国で臨床治験中である.またわが国で開発されたステロイドのマイクロスフェア製剤が,糖尿病黄斑浮腫に対する後部Tenon下注入薬として現在治験中である.おわりにRanibizumabは,眼内投与用に開発された薬剤で,AMDに対しては臨床試験を行って眼内投与における安全性と有効性が欧米では確立されている.また,beva-cizumabよりも血中半減期が短く,抗VEGF抗体の最も重篤な副作用とされる心筋梗塞や脳梗塞など全身の血管閉塞性疾患などの発症が理論的には少ないとされている.一方,bevacizumabの長所は,価格が1回の投与で$17$50ときわめて安価である点である(ranibi-zumabは1回の投与で$1,950)26).しかしながら,適応外使用の現状では,重篤な有害事象の発生の可能性を考えると,慎重に投与されるべきである.特にAMDにおいては,今後わが国でもranibizumabやpegaptanibが承認された場合,臨床試験を行って安全で有効であると立証されたこれらの薬剤が選択されるべきであろう.今後,抗VEGF薬のAMD以外の疾患への適応拡大,さらに,ステロイド薬を含めた新薬の開発,特にDMEに対する強力で持続効果のある新薬が望まれる.最初に報告している.Pegaptanib投与群は用量に関係なくsham群に比較すると有意に効果がみられた(図8).54週目に視力が15字未満の低下に抑えられたのは,pegaptanib0.3mg群で70%,1.0mg群で71%,3.0mgで65%であったのに対し,sham群は55%と,pegap-tanib投与群で有意に視力低下を抑制できた.また,FA所見よりpredominantlyclassicCNV,minimallyclas-sicCNV,occultwithnoclassicCNVに分けてpegap-tanibの効果を比較したところ,CNVのタイプにかかわらずほぼ同様の効果があることがわかった.54週目以降で,再度,pegaptanib投与継続と投与中止を1対1で無作為にグループ化を行い,102週目に効果を検討したところ,pegaptanib0.3mg投与を継続した群が54週目に投与を中止した群よりも視力維持率が高いという結果であった.4.抗VEGF薬硝子体内注入の有害事象微量の硝子体内投与であっても一部は全身の血管に移行するため,全身合併症として高血圧,深部静脈閉塞,脳梗塞,月経異常などが起こる可能性があることは忘れてはならない.また,眼局所の合併症として,虹彩炎,ぶどう膜炎,硝子体炎などのほか,最も重篤なのは硝子体注射手技によって起こりうる細菌性眼内炎,水晶体損傷,裂孔原性網膜離,硝子体出血などである.IIステロイド薬1.PosurdexTMデキサメタゾンなどのコルチコステロイドはVEGFの増加やプロスタグランジンの分泌を抑制し,フィブリン沈着,毛細血管からの漏出,貪食細胞の遊走などの炎症反応に関わる主要な因子を抑え,浮腫を抑制するといわれている.PosurdexTM(デキサメタゾン後眼部送達製剤)は,有効成分のデキサメタゾンに乳酸,グリコール酸共重合体を添加物として混合した生体内分解性高分子製剤であり,硝子体内に投与することによってデキサメタゾンを持続的に放出する後眼部送達製剤である.わが国では,網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)とDRに続発した黄斑浮腫に対して現在第I/II相試験が進行中で,その効果や安全性については現在のところは不明である———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.25,No.3,200831514)RosenfeldPJ,BrownDM,HeierJSetal;MARINAStudyGroup:Ranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed355:1419-1431,200615)BrownDM,KaiserPK,MichelsMetal;ANCHORStudyGroup:Ranibizumabversusvertepornforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed355:1432-1444,200616)KaiserPK,BrownDM,ZhangKetal:Ranibizumabforpredominantlyclassicneovascularage-relatedmaculardegeneration:subgroupanalysisofrst-yearANCHORresults.AmJOphthalmol144:850-857,200717)HeierJS,BoyerDS,CiullaTAetal;FOCUSStudyGroup:Ranibizumabcombinedwithvertepornphotody-namictherapyinneovascularage-relatedmaculardegen-eration:year1resultsoftheFOCUSStudy.ArchOph-thalmol124:1532-1542,200618)RegilloCD,BrownDM,AbrahamPetal;ThePIERStudyGroup:Randomized,Double-Masked,Sham-Con-trolledTrialofRanibizumabforNeovascularAge-relatedMacularDegeneration:PIERStudyYear1.AmJOph-thalmol145:239-248,200819)ChunDW,HeierJS,ToppingTMetal:Apilotstudyofmultipleintravitrealinjectionsofranibizumabinpatientswithcenter-involvingclinicallysignicantdiabeticmacu-laredema.Ophthalmology113:1706-1712,200620)NguyenQD,TatlipinarS,ShahSMetal:Vascularendothelialgrowthfactorisacriticalstimulusfordiabeticmacularedema.AmJOphthalmol142:961-969,200621)KvantaA,AlrevePV,BerglinLetal:Subfovealbrovas-cularmembraneinage-relatedmaculardegenerationexpressvascularendothelialgrowthfactor.InvestOphthal-molVisSci37:1929-1934,199622)LeungDW,CachianesG,KuangW-Jetal:Vascularendothelialgrowthfactorisasecretedangiogenicmito-gen.Science246:1306-1309,198923)MacugenAMDStudyGroup,ApteRS,ModiMetal:Pegaptanib1-yearsystemicsafetyresultsfromasafety-pharmacokinetictrialinpatientswithneovascularage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology114:1702-1712,200724)GragoudasES,AdamisAP,CunninghamJrETetal:andVEGFInhibitionStudyinOcularNeovascularizationClini-calTrialGroup:Pegaptanibforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed351:2805-2816,200425)VEGFInhibitionStudyinOcularNeovascularization(V.I.S.I.O.N.)ClinicalTrialGroup,ChakravarthyU,AdamisAP,CunninghamETJretal:Year2ecacyresultsof2randomizedcontrolledclinicaltrialsofpegap-tanibforneovascularage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology113:1508.e1-1525,200626)SteinbrookR:Thepriceofsight─ranibizumab,bevaci-zumab,andthetreatmentofmaculardegeneration.NEnglJMed355:1409-1412,2006文献1)ArevaloJF,Fromow-GuerraJ,Quiroz-MercadoHetal;Pan-AmericanCollaborativeRetinaStudyGroup:Prima-ryintravitrealbevacizumab(Avastin)fordiabeticmacularedema:resultsfromthePan-AmericanCollaborativeRet-inaStudyGroupat6-monthfollow-up.Ophthalmology114:743-750,20072)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork,ScottIU,EdwardsARetal:AphaseIIrandomizedclinicaltrialofintravitrealbevacizumabfordiabeticmacularedema.Oph-thalmology114:1860-1867,20073)PaccolaL,CostaRA,FolgosaMSetal:Intravitrealtriam-cinoloneversusbevacizumabfortreatmentofrefractorydiabeticmacularoedema(IBEMEstudy).BrJOphthal-mol92:76-80,20084)BashshurZF,HaddadZA,SchakalAetal:IntravitrealBevacizumabforTreatmentofNeovascularAge-relatedMacularDegeneration:AOne-yearProspectiveStudy.AmJOphthalmol145:249-256,20085)BashshurZF,SchakalA,HamamRNetal:Intravitrealbevacizumabvsvertepornphotodynamictherapyforneovascularage-relatedmaculardegeneration.ArchOph-thalmol125:1357-1361,20076)MeyerleCB,FreundKB,IturraldeDetal:Intravitrealbevacizumab(Avastin)forretinalangiomatousprolifera-tion.Retina27:451-457,20077)GomiF,SawaM,SakaguchiHetal:Ecacyofintravit-realbevacizumabforpolypoidalchoroidalvasculopathy.BrJOphthalmol92:70-73,20088)RonanSM,YoganathanP,ChienFYetal:Retinalpig-mentepitheliumtearsafterintravitrealinjectionofbeva-cizumab(avastin)forneovascularage-relatedmaculardegeneration.Retina27:535-540,20079)ChanWM,LaiTY,LiuDTetal:Intravitrealbevacizum-ab(Avastin)formyopicchoroidalneovascularization:six-monthresultsofaprospectivepilotstudy.Ophthal-mology114:2190-2196,200710)RinaldiM,Dell’OmoR,RomanoMRetal:Intravitrealbevacizumabforchoroidalneovascularizationsecondarytoangioidstreaks.ArchOphthalmol125:1422-1423,200711)CorderoComaM,SobrinL,OnalSetal:Intravitrealbev-acizumabfortreatmentofuveiticmacularedema.Oph-thalmology114:1574-1579,200712)MordentiJ,CuthbertsonR,FerraraNetal:Comparisonsoftheintraoculartissuedistribution,pharmacokinetics,andsafetyof124I-labeledfull-lengthandFabantibodiesinrhesusmonkeysfollowingintravitrealadministration.Tox-icolPathol27:536-544,199913)KaiserPK,BlodiBA,ShapiroHetal:MARINAStudyGroup:AngiographicandopticalcoherencetomographicresultsoftheMARINAstudyofranibizumabinneovascu-larage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology114:1868-1875,2007(41)

ぶどう膜炎

2008年3月31日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLS者への投与は慎重に行う必要がある1,2).眼感染症に起因する炎症に対してステロイド薬を用い,過剰な治癒反応を抑えることは,病原体の駆逐の面ではマイナスである.病原体の駆逐を優先するべきなのか,過剰な治癒反応を抑えるべきか(つまりステロイド薬を使うのか)はいつも悩む問題である.感受性検査に基づく的確な抗菌薬の投与とともに,どの時期からどれだけの量のステロイド薬を使用するのか微妙なさじ加減が必要となる.またステロイド薬投与による眼合併症に対しても注意が必要である2).おもなものは白内障と緑内障である.これら眼合併症は喘息・膠原病などで長期にステロイド薬全身投与を受けている患者のみならず,ステロイド薬点眼でも誘発される.2.ぶどう膜炎局所ステロイド薬治療ぶどう膜炎治療の基本はステロイド薬の局所投与である.局所投与法としては点眼,結膜下注射などが一般的だが,ときにTenon下,球後注射,硝子体腔注射なども行われる(現時点では,硝子体腔注射は倫理委員会の承認を得て行うべきである).おもに前眼部病変に対しては点眼・結膜下注射,中間部ぶどう膜炎や後眼部病変に対しては後部Tenon下注射で対応する3).加えて適切な瞳孔管理がきわめて重要である.眼局所投与は全身的な副作用が少ないが,それでもステロイド緑内障,白内障などを起こすことがある.使われるステロイド薬はじめにぶどう膜は眼球内で唯一豊富な血流を有する部位である.単位体積当たりの血管が多く,さまざまな全身血管病に伴う眼炎症の起炎部位になりやすい.ぶどう膜炎といっても単にぶどう膜の炎症のみを指すのではなく,眼球内炎症の総称である.ゆえに,最近は広く眼全体の炎症状態を代表する呼び名として国際的には「内眼炎(intraocularinammation)」といわれるようになってきた.ぶどう膜炎は大きく自己免疫病などの内因性のものと,感染症などの外因性のものに分類できる.本稿では特に内因性のぶどう膜炎薬物治療について,副腎皮質ステロイド薬とそれ以外に分けて概説する.また近年治療に変化が起きつつあるBehcet病を取り上げ,現在の知見をまとめてみたい.I副腎皮質ステロイド薬1.全般的留意点眼科領域におけるステロイド薬投与法には大きく分けて全身投与と局所投与がある.いずれの投与法であれ,ステロイド薬は副作用の明らかな薬剤であり,投与する際に常にそのリスクとベネフィット比を考えなくてはならない.ぶどう膜炎治療では大量のステロイド薬を使う機会もあり,その場合全身管理の面から他科との連携は不可欠である.感染症(結核,ウイルス性肝炎など),糖尿病,骨粗鬆症,精神疾患など全身基礎疾患がある患(29)303*KoheiSonoda:九州大学大学院医学系研究院眼科学〔別刷請求先〕園田康平:〒812-8582福岡市東区馬出3-1-1九州大学大学院医学系研究院眼科学特眼科薬物治療トレンド2008あたらしい眼科25(3):303308,2008ぶどう膜炎CurrentMedicalTreatmentforUveitis園田康平*———————————————————————-Page2304あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008(30)はよく反応するが,漸減や中止のたびに再発するため,ステロイド薬を中止できない症例.⑤糖尿病などの合併性があり,長期間のステロイド薬投与が躊躇される症例.④ステロイド薬を処方してもコンプライアンスが良好でない症例.この治療法は眼内にステロイド薬徐放製剤を埋植するため,白内障や緑内障を起こす可能性がある.しかし,すでに白内障の手術が終わり,ステロイドレスポンダーでないことが確認されている症例には有効であろう.また,高齢者などに対するステロイド薬全身投与のリスクを考えると,全身的副作用を軽減できる点からも有用な治療法の一つになりうると考えられる.3.ぶどう膜炎全身ステロイド薬治療ステロイド薬を発症初期から大量に投与する必要のある代表的な疾患にVogt-小柳原田病がある5).初期量としてベタメタゾンなどの長期間持続性のあるステロイド薬をプレドニゾロン換算で200240mg/日から点滴静注として投与する.眼所見の改善を確認しながら徐々に減らし,プレドニゾロン換算で5060mg/日となったところで同量のプレドニゾロン内服に切り替える.その後,34カ月かけて内服量を漸減する.一方,メチルプレドニゾロン1,000mgを3日間点滴静注し,その後プレドニゾロン内服4060mg/日から漸減するパルス療法も行われることがある.いずれにせよ初回治療が非常に大切で,発症後早期に十分量のステロイド薬が投与されないと再発をくり返す,いわゆる遷延型に移行し,不可逆的な視機能障害に至る可能性が出てくる.Vogt-小柳原田病以外のぶどう膜炎に関しては,前述したとおり,治療の大原則はステロイド薬局所投与である.しかし,局所治療に反応せず,強い硝子体混濁や広範囲にわたる網膜血管炎,汎ぶどう膜炎に付随する黄斑浮腫などが存在する場合にはステロイド薬全身投与が適応となる.その投与量や投与期間については個々の症例に応じた匙加減が必要で,画一的な処方はない.たとえば,重症のサルコイドーシスなどではプレドニゾロン3060mg/日の内服から開始し,所見の改善にあわせて2030mg/日までは早めに減量し,その後は1カ月の種類は局所投与用としてはリン酸ベタメタゾン,デキサメタゾン,プレドニゾロン,フルオロメトロンなどで,点眼,眼軟膏製剤として使われる.現在日本で使用できるステロイド点眼薬の種類は大きく制限されている.単一の点眼薬をむやみに長く処方するのではなく,効果の強い製剤から徐々に弱い製剤に移行させながら治療するのが本来の姿である.皮膚科などで,さまざまな強さの数十種のステロイド製剤が存在し,さまざまな治療の選択肢が存在するのに比べると明らかに見劣りする.また,点眼薬のなかで最強のリン酸ベタメタゾン(リンデロンR)ですら全ステロイド製剤のなかでは中間の部類に属しており,真に重篤な炎症をコントロールできる点眼薬が日本には存在しない.当局が副作用を恐れるために,有望な新薬の開発ならびに上市をなかなか承認しないのが問題であるが,眼科医側からも草の根的な要望を出し続ける必要がある.最近,遷延性のぶどう膜炎症例に対して全身投与を行う前に,まずはトリアムシノロンなどの持続性デポ型ステロイド製剤(1020mg)の経Tenon下球後投与などが行われることが以前にも増して多くなった4)(その結果,全身投与が施行される頻度が減少しており,喜ばしいことである).トリアムシノロンは厳密には現行の保険でぶどう膜炎に使用できない.眼局所注射用の製剤の承認が待たれる.また,眼内にインプラントを設置し,数年にわたり有効濃度のステロイド薬を眼内に徐放させる製剤の開発・治験も行われている.これはフルオロシノロンアセトニドというステロイド薬を継続的に眼内で徐放するインプラントである(ボシュロム社).強膜側から毛様体に3.5mmの切開を加え,ステロイド薬を含んだインプラントを硝子体腔に挿入し,プロリン糸で強膜に固定する.一度埋植すると,眼内で有効に働く濃度のステロイドを3年間持続的に徐放する仕組みになっている.外科的な手技を必要とするので,すべての症例に勧められる治療法ではないが,以下のようなケースはよい適応であろう.①後眼部の炎症が主体で,ステロイド薬の点眼だけでは炎症をコントロールできない慢性のぶどう膜炎.②慢性のぶどう膜炎で,ステロイド薬の全身投与に———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008305(31)らしつつある.インフリキシマブ以外にも同じ腫瘍壊死因子a(TNF-a)拮抗薬として,エタネルセプトやアダリムマブといった製剤のぶどう膜炎治療への応用が今後進む可能性がある.また他のサイトカインや細胞表面分子をターゲットにした製剤がつぎつぎに開発されている.今後はどの生物学的製剤を取捨選択し,どの時期にどのような形で使用するか?という臨床プロトコール作りが課題になってくると思われる.IIIBehcet病に伴うぶどう膜炎治療の進歩1.Behcet病ぶどう膜炎の基本薬物治療Behcet病は1:口腔内難治性アフタ潰瘍,2:結節性紅斑などの皮膚症状,3:虹彩毛様体炎・網脈絡膜炎(ぶどう膜炎),4:外陰部潰瘍を主症状とする原因不明疾患である.なかでも眼症状は重篤で失明に至るケースが多く,本症患者のQOL(qualityoflife)を著しく低下させている.Behcet病の眼病変の特徴は眼内各組織の閉塞性血管炎を主体とした眼組織全体の炎症である.症状は一過性であるが,炎症は再燃しやすい.再燃を重ねるに従って,種々の器質的障害が残るようになり,ついには失明またはそれに近い状態まで視機能が低下する.眼病変に対する治療は急性期と緩解期で異なる.急性期にはステロイド薬の点眼,結膜下・後部Tenon下注射といった局所投与を頻回に行う.こうして急性発作が落ち着いた緩解期に,発作頻度減少を目的とした治療を行う.まずコルヒチン0.51.5mgを経口投与する.コルヒチン単独で無効の場合,シクロスポリン(ネオーラルR)を併用内服する.5mg/kg/日を目安に投与を開始し,特に投与初期は血中トラフ値(シクロスポリンの血中最低濃度)が高くならないように気を配りながら投与量を加減する(通常100ng/ml以下).副作用として肝腎障害や神経Behcet病の誘発があり,特に後者は生命予後にも関わる問題であるため,本薬剤の使用開始に当たっては十分な注意が必要である.2.インフリキシマブの適応と注意点インフリキシマブ(レミケードR)が,わが国での3つの治験を経て6),2007年1月よりBehcet病による難治性網膜ぶどう膜炎に適応認可された.インフリキシマブから2カ月ごとに5mgずつ減量する.原因不明の急性劇症型ぶどう膜炎で,毛様体機能が著しく低下して低眼圧をきたしている症例などでは短期間のステロイドパルス療法が有効なことがある.前述のメチルプレドニゾロン500mg/日の点滴静注を3日間施行する.こうしたステロイド薬の全身投与を行った際は,副作用の発現に注意が必要である2).消化管潰瘍,骨粗鬆症,感染症,精神症状など多くの点に注意を払わなくてはならない.特に中高年の症例にステロイド薬の長期投与を余儀なくされた場合に問題となるのが骨粗鬆症である.最近はこのステロイド骨粗鬆症に対し,ビスホスホネートという薬剤が有効であることがわかってきた.整形外科に依頼して骨密度を定期的に測定しながら,必要に応じて内科や整形外科での加療を早めに依頼することも肝要である.II非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs:non-steroidalanti-inammatorydrugs)と免疫抑制薬,代謝拮抗薬,生物学的製剤ぶどう膜炎に伴う眼内炎症抑制にエビデンスのあるNSAIDs内服薬はない.唯一,有効な局面があるとすれば,充血や毛様痛の激しい急性発症の前部ぶどう膜炎の鎮静化や,随伴する眼外症状の緩和目的に使用される程度である.現在日本で使用できるぶどう膜炎に対して免疫抑制薬は,Behcet病に対するシクロスポリンのみである(使用法については次項で述べる).しかし諸外国では,メトトレキサート,アザチオプリン,シクロフォスファミドなどの代謝拮抗薬が使用され,ある程度の効果をあげている.日本で免疫抑制薬・代謝拮抗薬の処方が制限されていることが診療に及ぼす影響は計り知れない.特にステロイド薬の全身副作用のある症例に(すべてとは言わないが)有効である可能性が高い.徐々にでもよいので免疫抑制薬・代謝拮抗薬の保険適用を広げていく必要がある.生物学的製剤が次世代治療薬として関心が高まっていることは周知の事実である.Behcet病に伴う難治性ぶどう膜炎に対し,2007年1月にインフリキシマブ(レミケードR)が保険適用となり治療に劇的な変化をもた———————————————————————-Page4306あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008(32)向きがちだが,インフリキシマブはいわゆる生物学的製剤とよばれる新しい治療薬であり,また全身投与をする以上,投与前には投与可能かどうかの全身検査が必須であり,投与後も全身的な副作用に常に注意を払うことが必要である.まず本製剤ならびにマウス由来蛋白質に対する過敏症の既往歴,脱随疾患およびその既往歴,うっ血性心不全,重篤な感染症,活動性結核,がある場合は投与禁忌となっている.これらを確認した後,以下に進む.a.結核問診で結核既往歴を聴取し,ツベルクリン反応の検査を行う.また胸部X線,必要に応じて胸部CT(コンピュータ断層撮影)も追加する.これらの検査の結果,既感染が疑われる場合には必要に応じて抗結核薬の同時投与も検討しなければならない.b.肝炎B型肝炎ウイルスキャリアの患者においてB型肝炎ウイルスの再活性化が報告されている.HBs(B型肝炎表面)抗原を調べ,陽性であった場合には定期的な肝機能検査や肝炎ウイルスマーカーのモニターを行う.C型肝炎も同様である.c.その他の感染症採血を行い,白血球やリンパ球の上昇があったり,またb-d-グルカン陽性がみられたら感染症のリスクが高くなる.感染症の早期発見に努め,必要に応じて早期治療を行う.4.インフリキシマブの副作用副作用の種類としては,抗体製剤であることによる副作用と,TNF-aを抑制することによる副作用,の2つに大別される.a.抗体製剤であることによる副作用(1)Infusionreaction(投与時反応)即時型過敏症のことで,投与開始から投与後2時間以内に認められた副作用をいう.頭痛,発熱,めまい,血圧上昇,痒,嘔吐などがある.5.4%で起こると報告されている8).軽度のものでは点滴速度を下げるなどで対応するが,中等度以上のものでは点滴中止や抗ヒスタミン薬やステロイド薬追加投与などで対応するが,場合はあらゆる炎症の起点となるサイトカインTNF-aに対する抗体製剤で,マウス由来抗ヒトTNF-aモノクローナル抗体のうち,TNF-aへの結合部(可変部)のみを残し,定常領域をヒトIgG(免疫グロブリンG)に変換したキメラ抗体である.TNF-aを無力化するだけでなく,TNF-a産生細胞をも傷害することにより,炎症を抑制する7).具体的にはインフリキシマブ(5mg/kg)を0,2,6,14週(以後8週おき)で点滴投与する(図1).インフリキシマブがBehcet病による網膜ぶどう膜炎に適応承認されて以来,各施設で発作を頻回にくり返す難治性の眼Behcet病患者に順次導入され,結果報告が出てきつつある.それによるとおおむね眼発作の頻度は激減し,眼科的には著効しているといえるようである.忘れてはならないのは,「インフリキシマブはBehcet病治療の第一選択ではない」ということである.インフリキシマブ投与には後述するさまざまなリスクがある.(現時点では)Behcet病と診断したらまずはコルヒチン・シクロスポリンといった従来通りの治療を行うべきである.従来の治療に抵抗する,または副作用でコルヒチン・シクロスポリンの投与ができない症例に限りインフリキシマブの適応になる.今後症例数が増え安全性がより確立されるようなら,インフリキシマブのトップダウン療法などが検討される可能性がある.3.インフリキシマブ投与前の必須検査眼科ではぶどう膜炎の病勢がどうなるかにばかり目が図1インフリキシマブ(レミケードR)治療の実際インフリキシマブ(5mg/kg)を0,2,6,14週(以後8週おき)で点滴投与する.効能・効果Beh?et病による難治性網膜ぶどう膜炎(既存治療で効果不十分な場合に限る)用法・用量通常,体重1kg当たり5mgを1回の投与量とし点滴静注する.初回投与後,2週,6週に投与し,以後8週間の間隔で投与を行う.01020304050週02614223038468週間隔———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008307(33)でも一定の効果をあげている.ゆえにBehcet病患者に対し顆粒球除去治療が有効だと考えられた.アフェレーシスとは,人工デバイスを用いて,血液から何らかの成分を除去する治療の総称である.血液透析や血漿交換など老廃物や毒素を除く治療や,自己免疫病で自己抗体を特異的に除去する治療などを指す.しかし液性成分のみでなく,特定血球細胞を除去する治療も重要なアフェレーシスの分野である.顆粒球除去療法は酢酸セルロースビーズで充満されたカラム内に血液を体外循環させ,顆粒球をビーズに吸着させることで生体内から除去する(図2).顆粒球は文字通り細胞内顆粒をもった細胞の総称であるが,生体内の多くの顆粒球は好中球であるため,臨床的には「好中球除去療法」という意味合いをもつことが多い.眼症状を伴う活動期Behcet病患者に対し,顆粒球除去治療を行った.対象は従来の治療に抵抗して眼発作をくり返すBehcet病患者とした.顆粒球除去には酢酸セルロースビーズカラム(アダカラム)を使用し,治療効果判定は,治療前後6カ月間の眼発作回数で行った.エントリーした14例中,9例は治療後発作回数が減少し「効果あり」と判定した.全体の平均発作回数は,治療前4.2±1.6回,治療後2.9±1.4回(p=0.028)であった.発症からの5年以上経過した症例が,有効例が多かった11).本治療で最も注目すべきは重篤な副作用がないとによっては気道確保なども必要なこともある.(2)遅発性過敏症前回投与から一定期間置いて再投与する場合に,投与後3日以上経過して発現する過敏症をいう.筋肉痛,発疹,発熱,関節痛などがある.b.TNFaを抑制することによる副作用TNF-aは多くの炎症性疾患の元凶となってはいるが,本来正常な作用では,腫瘍の増殖を抑制したり,また感染防御機構の一翼を担っている.したがって,TNF-aを極端に抑制すると,腫瘍増大や感染症をひき起こす危険性が高まる.(1)感染症の発症関節リウマチにおける日本での調査では,細菌性肺炎の発症率は2.2%,結核の発症率は0.3%となっている.結核は投与前のスクリーニングや抗結核薬の予防投与により発症を抑えることができる.(2)悪性腫瘍の発症,悪化悪性リンパ腫や皮膚癌などが報告されてはいるが,自然発症頻度と差はなく,関連性は明らかではない.(3)ループス様症候群海外で結節性紅斑の悪化例9)や,抗ds(二本鎖)DNA抗体の上昇例が報告されている10).投与後のループス様症候群を思わせる徴候が認められ,さらに抗dsDNA抗体陽性化が認められた場合には投与を中止しなければならない.(4)脱随疾患既往がある場合は投与禁忌であり,疑いの場合は必要に応じて画像診断などを行う.5.顆粒球除去療法による治療Behcet病に伴うぶどう膜炎発作に活性化型顆粒球が深く関わることが知られている.虹彩や毛様体から前房や硝子体中に好中球が遊走し,前房蓄膿や硝子体混濁になる.前房水スメアをギムザ染色すると,前房蓄膿の構成細胞はほとんどが分葉核をもつ好中球であり(非肉芽腫性虹彩ぶどう膜炎),好中球の何らかの異常がBehcet病を誘発すると考えられる.Behcet病と同様に顆粒球が発作に関わる潰瘍性大腸炎患者に対し顆粒球除去治療が行われ,副腎皮質ステロイド薬が効きにくい重症患者図2顆粒球除去療法の実際患者の一方の肘静脈を脱血側,反対側の肘静脈を返血側として血管を確保する.静脈から静脈に専用ポンプを用いて循環させ,途中でカラムを通すことでビーズに顆粒球を吸着させる.循環条件は血液流量:30ml/分,循環時間:1時間,処理血液量:1,800ml,体外流出血液量:約200mlである.返血脱血アダカラム(酢酸セルロースビーズカラム)肘静脈(脱血側)抗凝固剤注入口肘静脈(返血側)———————————————————————-Page6308あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008(34)1009-1019,19852)若倉雅登:ステロイド薬剤および免疫抑制剤の使用と眼科における注意点.あたらしい眼科17:11-15,20003)YoshikawaK,KotakeS,IchiishiAetal:Posteriorsub-Tenoninjectionsofrepositorycorticosteroidsinuveitispatientswithcystoidmacularedema.JpnJOphthalmol39:71-76,19954)OkadaAA,WakabayashiT,MorimuraYetal:Trans-Tenon’sretrobulbartriamcinoloneinfusionforthetreat-mentofuveitis.BrJOphthalmol87:968-971,20035)沼賀二郎:ぶどう膜炎治療薬の副作用.あたらしい眼科17:1353-1357,20006)OhnoS,NakamuraS,HoriSetal:Ecacy,safety,andpharmacokineticsofmultipleadministrationofiniximabinBehcet’sdiseasewithrefractoryuveoretinitis.JRheu-matol31:1362-1368,20047)稲森由美子,水木信久:ベーチェット病の抗TNFa抗体療法.眼科48:489-503,20068)ChefetzA,SmedleyM,MartinSetal:Theincidenceandmanagementofinfusionreactionstoiniximab:alargecenterexperience.AmJGastroentenol98:1315-1324,20039)YuselAE,Kart-KoseogluH,AkovaYAetal:Failureofiniximabtreatmentandoccurrenceoferythemanodo-sumduringtherapyintwopatientswithBehcet’sdisease.Rheumatology43:394-396,200410)KatsiariCG,TheodossiadisPG,KaklamanisPGetal:Suc-cesfullong-termtreatmentofrefractoryAdamantiades-Behcet’sdisease(ABD)withiniximab.AdvExpMedBiol528:551-555,200311)NambaK,SonodaK-H,KitameiHetal:Granulocyta-pheresisinpatientswithrefractoryocularBehcet’sdis-ease.JClinApher21:121-128,2006いうことである.Behcet病に関与する病的活性化型好中球を選択的に除去するため,感染防御に必要な好中球は温存される.ゆえに治療後易感染性となることもない.筆者らが行ったパイロットスタディの結果は,顆粒球除去療法が再発性の眼発作に苦しむBehcet病患者にとってある一定の効果があることを示している.しかし,(今回は潰瘍性大腸炎で行われているプロトコールを踏襲したが)眼発作をすべて抑制できるわけではなく,またまったく効果がなかったと思われる症例も存在した.作用機序の解明や,プロトコールの改善も含め引き続き検討していく必要がある.おわりに内因性のぶどう膜炎薬物治療について,現時点でトピックになるものをまとめてみた.今後症例を積み重ねて,個々の治療の最適な適応と投与法を見出していくことが大切である.またステロイド治療一辺倒ではなく,それ以外の治療をうまく組み合わせることで,薬物効果を高めながら,同時に副作用も減らせるような工夫が必要になると思われる.文献1)臼井正彦,坂井潤一:眼科薬物治療法─卒後研修医のために,ステロイド薬剤の眼科における使用法.眼科27:

緑内障の薬物治療

2008年3月31日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLS緑内障治療薬の併用療法は急速に普及した.さらに,眼圧日内変動,日内変動幅,中心角膜厚など眼圧に関する因子の重要性が強調された.併用療法の普及により薬剤性角膜障害と緑内障薬物治療は切り離すことができない問題となって現在に至っている.最近の緑内障薬物治療について私見をまじえて述べる.I緑内障薬物治療の歴史(図1)緑内障薬物治療はあるサイクル(不定期)で大きな変化,進歩を生じている.まず最初の進歩は1980年代初めに市販されたb遮断薬のチモロールであった.縮瞳はじめに緑内障薬物治療は眼圧下降効果に優れた新しい薬物の登場と,精度が高く,客観性に優れた検査機器の臨床への応用により大きく進歩した.精度の高い検査機器による早期診断や眼科医の緑内障性視神経障害の診断能力の向上によって,多くの症例の中長期的な進行悪化の正確な評価が行われるようになった.また欧米の大規模スタディにより眼圧下降効果の長期的な有効性が再評価され,これによって目標眼圧の考え方が確立し日常臨床の場に広く普及した.実現可能,かつ数値化された目標眼圧の報告と,それに基づく厳密な目標眼圧達成のために(23)297*ShoichiSawaguchi:琉球大学医学部高次機能医科学講座視覚機能制御学分野〔別刷請求先〕澤口昭一:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原207琉球大学医学部高次機能医科学講座視覚機能制御学分野特眼科薬物治療トレンド2008あたらしい眼科25(3):297302,2008緑内障の薬物治療MedicalGlaucomaTreatment澤口昭一*????烱追????烱追????烱追????烱追????烱????烱????烱????烱????烱????烱????烱????烱?β遮断薬PG関連薬CAIその他????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????図1これまでに市販された緑内障治療薬の歴史(各製品添付文書より)———————————————————————-Page2298あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008(24)の点眼,PG製剤の点眼が市販され,大きな進歩が緑内障薬物治療に訪れた.目標眼圧の概念は広く日常臨床の場へと普及したため,いっそうの眼圧下降は同時に多くの点眼薬を使用する併用療法の時代を迎えた.このため点眼薬のコンプライアンスという問題が新たに登場した.点眼回数を減らす方策としてb遮断薬の多くが1日2回点眼から1回点眼へとシフトした.最近の欧米での緑内障治療薬の市場占有率を図2に示す.II緑内障治療薬の効果と副作用1.眼圧下降効果a.単剤での効果眼圧下降に関する英語論文のまとめから,現時点ではラタノプロストが眼圧下降効果としては最も優れている1).チモロールを含めたb遮断薬は発売後,すでに30年近く経過しているが,いまだに多くの患者に使用されている.実際その眼圧下降効果は若干劣るもののラタノプロストに近い1)(図3).炭酸脱水酵素阻害薬のドルゾラミドやブリンゾラミドは単剤としての眼圧下降効果はラタノプロストやチモロールに劣るものの全身的な副作用は皆無であり,ラタノプロストでみられる眼瞼や虹彩色素沈着などの副作用も認めず使用しやすい点眼薬として評価された.現時点ではこのb遮断薬,PG製剤,炭酸脱水酵素阻害薬,あるいはその併用が緑内障薬物治療の中心となっている.縮瞳薬のピロカルピンは眼圧下降効果はそれほどではないが,閉塞隅角緑内障の隅角の開大に必須であり,また線維柱帯切開術後の虹彩の線維薬のピロカルピンと散瞳薬のエピネフリンしかなかった薬物治療に新たな変化がもたらされた.当時,アセタゾラミドの内服は尿路結石やしびれ,脱力感,食欲不振など多くの全身問題を抱えていながらも最後の切り札としてやむをえず処方されていた.チモロールが臨床の場に登場してから緑内障の薬物治療はいろいろな意味で大きな変化を迎えた.まず目標眼圧である.それまで緑内障は正常眼圧(21mmHg)以下にコントロールすることが治療の目標であり,それ以外はなかった.交感神経作動薬,副交感神経作動薬にb遮断薬を加えた3剤の組み合わせと眼圧下降への効果はまさに眼圧を21mmHg以下にコントロールできるかどうかぎりぎりのところであった.Goldmann視野測定は診断に有用ではあっても,進行悪化を定量的に評価することには少なからずの困難を伴った.一方,1980年代より,静的視野計の開発,臨床への導入が進み,客観性の高い,再現性のある視野計測により,病期と目標眼圧の概念が臨床の場に芽生え始めた.1990年代に入り,代謝型プロスタグランジン(PG)のウノプロストンが市販された.全身的な副作用がなく,b遮断薬の代用として,瞳孔への作用がないため縮瞳薬のピロカルピンや散瞳薬のエピネフリンの代わりにチモロールとの併用が行われた.この併用治療で角膜障害が高頻度で発症したことが後の薬剤性角膜障害,特に緑内障治療薬に含まれる防腐剤の問題や,点眼薬自体の角膜毒性の研究へと発展した.さらに1990年代後半から炭酸脱水酵素阻害薬(CAI)図3メタ分析による各種緑内障治療薬の眼圧下降効果(文献1より)ラタノプロスト102030:Peak:Trough51525眼圧下降率(%)ドルゾラミド2%ブリンゾラミド1%チモロール0.5%31%28%27%26%22%17%17%17%図2最近の欧米の緑内障治療薬の市場占有率ザルコム?3.6%トルソプト?4.2%キサラタン?(G)67%コソプト?13.4%ルミガン?9%トラバタン?8.3%アルファガン?7.4%エイゾプト?4.3%———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008299(25)はあるものの全身的副作用の軽減,眼圧下降効果といった面からは評価されている(図4).一方,b遮断薬をファーストラインとして投与している患者でいっそうの眼圧下降を求める場合はどのように考えたらよいのであろうか.まず,b遮断薬は長期投与による効果の減弱が知られている.このため中期までの視野障害であればPG製剤への切り替えが勧められる.PG製剤は少数例であるがノンレスポンダーの存在が知られており,注意が必要である.一方で23カ月投与し続けていると次第に効果が強まってくる場合もあるので慎重に眼圧測定をくり返す必要がある.もちろん,b遮断薬に追加投与していっそうの眼圧下降を図ってもよい.さらに,3剤併用が必要な場合には現時点ではPG製剤(1日1回点眼),b遮断薬(1日1回点眼)と炭酸脱水酵素阻害薬(1日23回点眼)が行われる.ただ,b遮断薬が禁忌の場合,ブナゾシン,ジピベフリン,ピロカルピンなど3剤目として併用も可能である.例数は少ないが4剤目を追加することもある.2.眼圧下降以外の効果a.循環改善効果緑内障視神経障害に眼局所の循環障害が関与している可能性が指摘されてきた.降圧剤のカルシウムチャンネル阻害薬は末梢血管を拡張し,中枢血管系の支配下にある眼への循環改善を促すことが知られている.カルシウムチャンネル阻害薬のブロミンカミンの内服が正常眼圧緑内障の視神経障害の進行悪化をある程度予防できることが明らかにされている4).しかしながら一方で,その対象となる症例は限られ,すべての正常眼圧緑内障患者が対象となるものでないことも問題点として提起している.緑内障治療薬自体が眼局所の循環を改善する可能性について多くの点眼薬の眼循環への影響,効果が検討された.現時点では循環を悪化させる緑内障治療薬はなく,眼循環改善効果のあるといわれる点眼薬の視機能への有効性は確認されていないということが結論である.緑内障による視神経障害に循環説と機械説が対立して論争が行われてきたが,循環改善効果のある薬物の緑内障への効果は不明のままである.柱帯切開部への陥入を防ぐ意味から必要な薬物といえる.交感神経作動薬のジピベフリンは眼圧下降効果も強くなく,散瞳や充血などの眼の局所への副作用があり,次第に利用者は減少してきている.ブナゾシンはa1遮断薬で,副作用が少なく他の薬物への併用効果が認められることから,併用療法の一剤として使用される.b.併用療法の効果目標眼圧が日常臨床に普及し始めたことからいっそうの眼圧下降が薬物療法にも求められた.さらにわが国では正常眼圧緑内障の有病率が諸外国に比べて際立って高頻度であることも明らかにされ2),正常眼圧緑内障患者のいっそうの眼圧下降の必要性に迫られた.併用療法の基本は①作用機序の異なる薬剤の投与,②コンプライアンスを考えて点眼回数の少ない薬剤の選択,③全身ならびに局所への副作用を考えての選択がポイントとなる.PG製剤をファーストライン薬剤とした場合,一般的にはb遮断薬がその併用薬剤として考えられる.組み合わせとしてはラタノプロスト1日1回点眼に持続性b遮断薬1日1回点眼の追加によって,患者は朝,夕の2回点眼で済むためコンプライアンスの面からも有力な選択肢となる.しかしながら全身的な問題がある場合,たとえば心臓疾患,気管支喘息などでは,b遮断薬の追加投与は困難となる.炭酸脱水酵素阻害薬は全身的な影響はなく,セカンドライン薬としてラタノプロストへの追加投与が選択される.また最近の報告3)ではラタノプロストへの併用効果としては炭酸脱水酵素阻害薬の追加点眼のほうがb遮断薬の追加投与に比べ眼圧下降効果に優れているとされており,点眼回数が増えるという欠点図4ラタノプロストに追加投与した場合の眼圧下降効果(文献3より)1234(mmHg)β遮断薬併用5102015(%)<眼圧下降値><眼圧下降率>β遮断薬併用ドルゾラミド2%併用ドルゾラミド2%併用2.0mmHg3.9mmHg12.3%19.7%———————————————————————-Page4300あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008(26)題点となっている.コンプライアンスの向上には医師・患者双方向の良好な関係の構築が重要であり,さらに①必要にして最小限の点眼薬数,点眼回数,②疾患,治療,副作用の十分な説明と理解,③正しい点眼指導,④若年者,高齢者などのコンプライアンス不良があらかじめ予想される年代層への対応,があげられている.2.全身および局所への副作用副作用の出現はコンプライアンスの悪化にも関与している.ファーストラインに用いられるPG製剤とb遮断薬にはそれぞれに特徴的な副作用が知られている.b遮断薬は心疾患の既往,喘息の既往を有する患者には注意を払う必要があり,慎重な問診が必要である.心肺機能の低下した高齢者では点眼開始時に問題はなくても数年後に症状が現れることもあり,十分な事前の説明が必要である.PG製剤には虹彩色素沈着,睫毛伸張,さらに眼瞼周囲の色素沈着が生じる.女性で若い患者では十分説明をしておく必要がある.黄斑浮腫,ぶどう膜炎再発や,ヘルペス性角膜炎の再発,悪化をひき起こす可能性があり,このような症例では慎重に投与を行う.薬剤性角膜障害も大きな問題として,特に多剤併用の場合には常に注意を払う必要がある(図5).防腐剤フリーの点眼薬への変更,一時的な内服への切り替え,防腐剤フリーの人工涙液の投与など,症状,所見と照らし合わせた処方の変更が必要である.最近,防腐剤フリーの点眼薬がb.神経保護効果緑内障の神経細胞死に神経保護因子や神経成長因子の不足,枯渇やグルタミン酸などの興奮性アミノ酸による神経毒性が注目された.これまでにブリモニジンの点眼で動物実験で神経保護因子のmRNAが誘導された報告や,いくつかのb遮断薬の神経保護効果が実験的に報告されたり,グルタミン酸に拮抗する薬物が神経細胞死を抑制したとする多くの基礎研究が行われたが,臨床応用された薬物はまだない.神経細胞死のうち,アポトーシスが緑内障視神経障害に関与している報告が相つぎ,虚血再還流モデル動物を用いて多くの報告が相ついだが,こちらも臨床に応用された薬物はない.唯一,Alz-heimer病の治療薬として市販されているグルタミン酸受容体拮抗薬のメマンチンの投与が欧米の緑内障患者を対象に臨床治験が行われているという報告があったが,いまだにその結果は公表されていない.III緑内障薬物治療の問題点1.コンプライアンス緑内障のように慢性に自覚症状がないまま,ゆっくりと進行していく疾患において点眼コンプライアンス(指示通りの点眼を行っているかどうか)は進行悪化の要因として重要である.実際,中長期的には多くの緑内障患者が治療からドロップアウトしていることが知られており,緑内障の視神経障害の悪化の原因として大きな問左眼右眼変更前変更後β遮断薬+PG製剤+CAI点眼による角膜障害内服CAI+防腐剤フリーのβ遮断薬と人工涙液による角膜障害の軽減←←図5緑内障薬物治療(併用)による薬剤性角膜障害———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008301(27)2.中心角膜厚中心角膜厚(CCT)は直接的に眼圧へ影響する7)(図6).正常眼圧緑内障や眼圧がコントロールされていると考えられる症例で進行悪化が速い場合は一度チェックする必要がある.高眼圧症例で逆にCCTが非常に厚い場合もあり,視神経乳頭所見,視野所見(正常範囲のはずだが)を考慮し,治療薬の選択を行う.正常のCCTを540μmとすると,角膜厚約90μmで眼圧は3mmHg影響されることが報告されている7).3.片眼トライアル眼圧には季節変動,日々変動,日内変動など多くの変動要因がある.それらの変動幅も個人差が大きい.さらに緑内障治療薬の眼圧下降効果にも個人差があることも知られており,かなり進行した高眼圧を伴う緑内障患者(中期以降)を除いては,まず,①月に1回程度で23回の無治療での眼圧測定(正常眼圧緑内障であれば23カ月に1回で6カ月1年程度)の基礎眼圧測定を行う,②ファーストラインのb遮断薬とPG製剤は片眼トライアルを4週間以上行う.炭酸脱水酵素阻害薬は基本的にはセカンドあるいはサードラインの薬物となるが,同様に併用したうえで可能であれば片眼の眼圧下降を測定する(もっとも実際はやることは少ない).4.目標眼圧眼圧の絶対値で考える場合はわが国では岩田の目標眼つぎつぎに市販されはじめており,薬剤の角膜障害と眼圧下降効果を慎重に考慮したうえでの処方が望まれる.IV新しい緑内障治療薬1.緑内障薬物わが国における新規薬剤は,PG製剤に関してトラボプロストが発売された.FP受容体の親和性がラタノプロストに優っており,これまでの報告でも眼圧下降効果は若干優れている.副作用に関しては多少多めに出現することも知られている.今後,PG製剤系ではビマトプロスト,タフロプストの市販が予定されており,これら同種の薬剤の今後のシェア争いが激化することが予測される.欧米ではすでに市販されているa2アゴニストのブリモニジンがわが国においても最後の臨床治験に入っており,これまでにないタイプの薬剤として期待されている.実際,眼圧下降効果はPG製剤に劣るものの欧米でのマーケットでの占有率は少なくない(図2).カルテオロールの1日1回点眼が市販され,b遮断薬のなかでも作用,副作用がマイルドで,差し心地も優れている本剤の市場での評価が注目される.2.緑内障薬物以外スタチンが緑内障の発症を抑制している可能性がある.有意差はわずか(p<0.04)であるが,スタチン内服群で緑内障の有病率が少ないことが報告された5).V緑内障薬物治療の注意ポイント1.1日眼圧現在薬物治療の中心となっている,b遮断薬,PG製剤と炭酸脱水酵素阻害薬の1日眼圧への効果,影響が報告された6).眼圧日内変動幅が大きいほど進行悪化しやすいとされており,眼圧下降の質の向上に努める必要がある.1日眼圧測定の対象として,①進行悪化の速い症例,②若年者,③正常眼圧緑内障患者を含めたすでに進行した視野障害緑内障患者,④視野と視神経乳頭が一致しない症例,などがあげられる.図6眼圧の実測値を角膜厚みで換算RT:右眼眼圧,LT:左眼眼圧.実測値(値)無治療RT15.5(18.8)LT15.6(18.9)mmHg遮断薬RT13.0(16.3)LT13.5(16.8)mmHgPG製剤RT11.4(14.7)LT12.2(15.5)mmHgJ.N.男性診断:正常眼圧緑内障———————————————————————-Page6302あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008おわりに1980年代初めにチモロールで始まった緑内障薬物治療の進歩は,1990年代のレスキュラRの市販で本格的な併用療法へと展開し,一方で,薬剤性角膜障害という負の合併症を生み出した.1990年代後半からのラタノプロストの市販は大きな進歩を緑内障薬物治療へ与えた.100年来の夢であった炭酸脱水酵素阻害薬の点眼も同時期に始まり,現在の薬物療法はほぼ完成の域に近づきつつあるように思える.これからの緑内障薬物治療はどこへ向かって進歩していくのか,期待したい.文献1)vanderValkR,WebersCAB,ShoutenJSetal:Intraocu-larpressure-loweringeectsofallcommonlyusedglauco-madrugs.Ameta-analysisofrandomaizedclinicaltrials.Ophthalmology112:1177-1185,20052)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryopen-angleglaucomainJapanese.TheTajimistudy.Ophthalmology111:1641-1648,20043)O’ConnorDJ,MartoneJF,MeadA:Additiveintraocularpressureloweringeectofvariousmedicationswithlatanoprost.AmJOphthalmol133:836-837,20024)SawadaA,KitazawaY,YamamotoTetal:PreventionofvisualelddefectprogressionwithbromincamineineyeswithNTG.Ophthalmology103:283-288,19965)McGwinJrG,McNeakS,OwsleyCetal:Statinsandothercholesterol-loweringmedicationsandpresenceofglaucoma.ArchOphthalmol122:822-826,20046)OrzalesiN,RossettiL,InvernizziTetal:Eectsoftimolol,latanoprost,anddorzolamideoncircadianIOPinglaucomaorocularhypertension.InvestOphthalmolVisSci41:2566-2573,20007)KaufmannC,BachmannLM,ThielMA:Intraocularpres-suremeasurementsusingdynamiccontourtonometryafterlaserinsitukeratomileusis.InvestOphthalmolVisSci44:3790-3794,20038)岩田和雄:低眼圧緑内障および原発開放隅角緑内障の病態と視神経障害.日眼会誌96:1501-1531,1992圧がよく用いられる8)(表1).カナダの目標眼圧設定に関するデータもわかりやすく(表2)参考になる.しかしながら実際の臨床では例外も多く,あまりにも厳密に目標眼圧への到達を求めた場合,かなりの症例で併用療法でも34剤が必要となり,さらには手術治療への選択が迫られることになる.治療は最初から厳密にする必然性はなく,長期的かつ定期的な眼圧測定と視野検査,それらの情報によってつぎの目標眼圧の再設定を考慮し続ける.(28)表1岩田の目標眼圧(1992)Goldmann視野原発開放隅角緑内障(POAG)視野正常19mmHg以下孤立暗点鼻側階段16mmHg以下1/4以上の視野欠損14mmHg以下正常眼圧緑内障(NTG)12mmHg以下表2目標眼圧への合理的アプローチ─カナダ緑内障専門医ワークショップ(2003)─1.緑内障疑い:OHTSスタディ25mmHg以下:20%以上の下降2.早期緑内障:CIGTS(EMGT)スタディ21mmHg未満:20%(25%)以上の下降3.中等度緑内障:CNTGS,AGISスタディ18mmHg未満:30%以上の下降4.進行期緑内障:AGISスタディ15mmHg未満:30%以上の下降日本人の平均眼圧は欧米に比べ1mmHg低い.OHTS:OcularHypertensionTreatmentStudy.CIGTS:CollaborativeInitialGlaucomaTreatmentStudy.EMGT:EarlyManifestGlaucomaTrial.CNTGS:CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudy.AGIS:AdvancedGlaucomaInterventionStudy.

ドライアイ

2008年3月31日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSえばVDT(visualdisplayterminals)作業時の瞬目減少のように,開瞼持続時間がBUTを超えると上皮に障害が生じる.一方,ムチンは,涙液とのインターフェイスにあたる表層上皮の表面にも発現して1),積極的に上皮の濡れ性を維持し(上皮の涙液保持機能),結果として,涙液の安定性維持に寄与している.したがって,涙液と上皮の関係においては,一方が障害されると他方が障害されて,悪循環が生じる.2006年度のドライアイの新定義2)によれば,ドライアイとは,「さまざまな要因による涙液および角結膜上皮の慢性疾患であり,眼不快感や視機能異常を伴う」と定義される.つまり,ドライアイの病態の構築は,眼表面における涙液と上皮の悪循環(涙液および角結膜上皮の慢性疾患)と,さらにその上流の悪循環をもたらすさまざまな要因(リスクファクター,増悪因子,あるいは上流にある原疾患といえるもの)の2段構えとして捉えることができる(図1).つまり,この構築に立てば,ドライアイの治療には,眼表面の悪循環に対するものと,上流にあるリスクファクターの一つひとつに対するものとがある.IIドライアイの中心メカニズムと治療の切り口眼表面において涙液と上皮の関係に悪循環が生じようとしても,それを解消しようとする自己修復システム(Reexloop-涙腺システム)が働く(図1).すなわち,はじめに点眼治療を基本とする他の眼疾患,たとえば,緑内障,角膜感染症,アレルギー性結膜疾患などに比べると,ドライアイに対する点眼治療の選択肢は限られており,現在,わが国においては,人工涙液,増粘剤を含む点眼液,ヒアルロン酸,ステロイドといったものしかない.また,ドライアイに対する内服治療も一般的ではない.そしてこのことが,たとえば涙液減少型ドライアイにおいては,涙点閉鎖に成功した重症例のほうが軽症例に比べてむしろ管理しやすい場合があるといった矛盾を生じている.ドライアイの涙液異常に対して,水分,油分,ムチンをはじめとする涙液成分を補いうる新しい点眼液の登場が待たれるなか,緑内障の薬物治療で経験してきたように,今後は,ドライアイにおいても,病態に応じたさまざまな薬物治療の選択が可能となることが期待される.そこで,本稿では,ドライアイの病態生理を考えながら,ドライアイの薬物治療の現状と期待される新しい治療薬について紹介してみたい.I眼表面の悪循環とドライアイの新しい考え方涙液層は,単純な水の層ではなく,油層やムチンの働きによってその表面張力が下げられて安定しており,開瞼維持を強いられる状況においても,少なくとも涙液層の破綻までの間(breakuptime:BUT)は,上皮は涙液に覆われてその乾燥が防がれている.したがって,たと(17)291*NorihikoYokoi:京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕横井則彦:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学特眼科薬物治療トレンド2008あたらしい眼科25(3):291296,2008ドライアイMedicationforDryEye横井則彦*———————————————————————-Page2292あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008(18)IIIドライアイの慢性症状とリスクファクターを結ぶメカニズムドライアイの症状である眼不快感,視機能異常を生じさせる背景には,さまざまな疾患が存在するが,それらとドライアイの慢性症状を橋渡しするメカニズムとして,おもに5つが考えられる(図3)3).それらを列挙すると,①瞬目による摩擦,②涙液減少,③涙液の安定性の低下,④炎症,⑤涙液動態の障害となる.そして,ドライアイ治療の基本となる点眼治療は,①⑤のすべてに奏効しうる.すなわち,人工涙液やその保水性により涙液の安定化にすぐれたヒアルロン酸は,①③のメカニズムの軽減に奏効し,その効果は,人工涙液に比べてヒアルロン酸で大きい.一方,一般に,点眼後は,眼表面の水分量が増加するため,点眼液が眼表面から消失するまでの間は,涙液のクリアランスが促進されて,ウォッシュアウト効果を生み,その意味において,点眼治療は,④,⑤のメカニズムの軽減にも奏効する可能性がある.しかし,点眼後の眼表面の水分量の増加がせいぜい10分程度しか得られないことを考えると,ドライアイの治療は,どうしても頻回点眼によらざるをえないことがわかる.また,④のメカニズムは,現在,欧米においてドライアイの核となる考え方の眼表面の異常は,三叉神経-中間神経-涙腺神経を通じて涙腺に反射性の涙液分泌を生じさせ,眼表面の水分貯留量を増加させることによって涙液を量的に安定化させ,眼表面の悪循環を解消しようとする.したがってSchir-merテストI法が低値の涙液分泌減少眼では,この修復システムが十分に働かず,その機能障害の程度に応じて悪循環が解消されずに残り,結果として,慢性の上皮障害や症状を生じる.ドライアイの基本治療として頻回点眼が奏効するのは,それが自己修復システムの機能障害を補うことによって悪循環を軽減するためである.しかし,先に述べたように悪循環の上流にはさまざまなリスクファクターが存在するため,眼表面の慢性の上皮障害や症状は,結局,これらのリスクファクターと反射性涙液分泌の力比べによって決定される(図2).また,ドライアイの診断基準2)によれば,ドライアイは,SchirmerテストI法,BUT,角結膜上皮障害によって診断されるため,もし,上流のリスクファクターが看破されなければ,こられの異常値だけからドライアイと診断され,治療が選択されることになる.つまり,上流のリスクファクターに目を向けて,それらを一つひとつ減らすことを考えないことには,十分な治療効果が得られない(図2)ことに注意したい.今後のドライアイ治療について考えてみると,眼表面のさらに上流のリスクファクターにもっと目が向けられるようになり,その治療の選択肢が増えてくるのではないかと筆者は考えている.図1ドライアイの中心メカニズム眼表面の悪循環の上流にさまざまなリスクファクターが存在し,悪循環を解消するシステムとしてReexloop-涙腺システムがある.角膜上皮障害濡れ性の低下悪循環涙液障害Reflexloop-涙腺システムReflextear知覚神経安定性の低下眼表面の涙液量緑内障点眼液リスクファクター炎症浸透圧上昇ドライアイ健常眼反射性涙液分泌リスクファクター治療の切り口眼表面の水分貯留量を増やすリスクファクターを減らす図2眼表面の力関係とドライアイ治療の切り口さまざまなリスクファクターが眼表面をドライアイに傾けようとするが,唯一反射性涙液分泌がこれに抗する.したがって,ドライアイの治療には,リスクファクターを減らすか,点眼治療によって眼表面の涙液貯留量を増やすかの切り口がある.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008293(19)の,あるいは,現在臨床試験中のものとして,以下のようなものがある.a.ムスカリン受容体作動薬唾液腺のムスカリン性アセチルコリン受容体(M3型)の作動薬(イノシトールリン脂質代謝促進)として,塩酸セビメリン水和物(商品名:エボザックR,サリグレンR)の内服薬があり,Sjogren症候群の口腔乾燥症状に有効であることが知られている.また,この治療により,涙液分泌も促進されることが報告されている7).しかし,発汗増多,胃腸症状,頻尿などの副作用のほかに,抗コリン作用薬剤の併用による効果の減弱や,心疾患,閉塞性肺疾患などがある場合に,服用上の注意が必要である.同様の薬剤にピロカルピン塩酸塩(サラジェンR)がある.b.P2Y2受容体作動薬P2Y2レセプター作動薬であるdiquafosoltetrasodi-um(INS365,DE-089)は,角結膜上皮細胞に分布するクロールイオンを介した水輸送,あるいは杯細胞からのムチン放出を促すとされ,その2%点眼液が,涙液の水分,ムチンの分泌を促進し,プラセボに比べて有意に角結膜染色,Schirmerテスト値,自覚症状の一部を改善したという8).本薬剤は将来,ヒアルロン酸などの他のドライアイ点眼液と併用可能な薬剤としても期待できる一つであるが,これに対しては,抗炎症という治療の切り口がある4).一方,今回のテーマと異なるため,触れるにとどめるが,①の瞬目時の摩擦は,眼瞼と眼表面の摩擦によるため,そのメカニズムが,症状に強く関与する例では,外科治療の切り口もありうる3,5).さらに,⑤のメカニズム(あるいは,⑤によってもたらされる④のメカニズム)は,涙液減少眼でなければ,結膜や眼瞼の弛緩がその病態に強く関与するため,ここでも外科治療の切り口がありうる.以上のように上流のメカニズムを突き詰めてゆくと,点眼治療の向かうべき方向が見えてくるのではないかと思われる.そこで,以下には,②,③,④のメカニズムを考えながら,現在臨床試験中のものも含めて代表的な薬物治療を紹介してみたい.1.涙液減少に対する薬物治療(②のメカニズム)先に述べたように反射性涙液分泌は,眼表面の悪循環を解消するシステムとして働くため,その良否は眼表面の健常性を知る一つの目安となりうる.一般に,反射性涙液分泌量と眼表面の涙液貯留量との間にはある程度の相関があり,涙液貯留量の少ない眼では,一般にSchir-merテストI法も低値を示しやすい.涙液減少に対する薬物治療としては,涙液分泌を増やす治療と眼表面の水分量を増加させる点眼治療がある.そして,後者が一般に用いられ,防腐剤フリーの人工涙液とヒアルロン酸点眼液の組み合わせが主流であると思われる.特に,ヒアルロン酸は,その3次元構造に基づく保水性によって,眼表面でより長く滞留しながら6),涙液層を安定させ上皮障害の改善をもたらす.また,欧米では,カルボキシメチルセルロース(CMC),ヒドロキシメチルセルロース(HPMC),ポリビニルアルコール(PVA),コンドロイチン硫酸などさまざまな高分子を含む多種多様なOCT(over-the-counter)薬としてのドライアイ用点眼液がある.涙液分泌を促す薬物治療として,現在利用できるも図3ドライアイの慢性症状とリスクファクターを結ぶメカニズム症状と上流のリスクファクターを結ぶメカニズムとして5つが考えられる.(文献3より引用,改変)上皮障害眼表面の知覚低下個人の要求度加齢慣れ(慢性)反射性涙液分泌不定愁訴(慢性症状)上皮障害症状を増やす仕組み症状を減らす仕組み⑤涙液動態の障害①瞬目時の摩擦(眼瞼縁・眼瞼結膜─眼表面間)④眼表面の炎症②涙液減少+③涙液の安定性低下リスクファクター(背景疾患)———————————————————————-Page4294あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008(20)d.ムチンに対する薬物治療(1)アルブミン涙液中に少なからず含まれるアルブミンを用いた点眼治療が,重症の涙液減少型ドライアイにおけるフルオレセインやローズベンガルの染色所見を有意に改善した(BUTや症状の改善はなし)との報告11)があり,ムチンの欠乏を代償する可能性があるとされる.(2)15(S)-HETE15(S)-HETE[15-(S)-hydroxy-5,8,11,13-eicosatet-raenoicacid]は,気道上皮のムチンの産生を促すとされ,点眼でウサギ角膜上皮のムチン様糖蛋白を増加させると報告されている12).現在,臨床試験が進められている.(3)Gefarnate,Rebamipide,Ecabetsodiumこれらはメカニズムは明確ではないが,胃潰瘍治療薬としての効果からムチン産生薬としての応用が期待されている薬物である.Gefarnateは,ラットの培養角膜上皮において,ムチン様糖蛋白の発現を促し,ウサギ結膜の杯細胞密度を増加させ,乾燥に基づく角膜上皮障害を抑制したという報告13)がある.Rebamipideは,N-アセチルシステインの点眼により作製したウサギのドライアイモデルに対して,角結膜上を被覆するムチン様の物質の増加とローズベンガル染色の改善を認めたと報告され14),ヒトを対象とした臨床試験も進められている.Ecabetsodiumでも臨床試験での有意な結果が限定的ではあるが報告されている.3.眼表面の炎症に対する薬物治療(④のメカニズム)ドライアイに関連する炎症には,マイボーム腺機能不全の原因となる後部眼瞼縁炎やマイボーム腺炎,あるいは,Sjogren症候群に代表される結膜上皮や涙液の炎症があり,後者の炎症は,疾患特異的な炎症以外にドライアイ涙液の安定性の低下やそれに続く,涙液の浸透圧の上昇に続発するとされる.炎症は,近年,ドライアイ治療の切り口の一つとして欧米を中心に重視されている4)が,少なくともSjogren症候群の病態には強く関与していると考えられる.のではないかと思われる.2.涙液の安定性低下に対する薬物治療(③のメカニズム)涙液層のいずれの層が障害されても,涙液の安定性が低下して眼表面に悪循環を生じうる.したがって,涙液層の安定性低下に対する薬物治療は,涙液層の中の異常を示す層に対して向けられるのが理想的である.一方,点眼液に含まれる防腐剤は,その界面活性作用により,③のメカニズム(涙液の安定性を低下)を介して眼表面に悪影響をもつため,ドライアイの点眼治療において,防腐剤はできるだけ避けるのが望ましい.a.涙液の液層に対する薬物治療涙液を安定させるためには,涙液の水のボリュームを増加させる治療の切り口があるが,これについては,先に述べた.b.涙液油層に対する薬物治療涙液油層の量および質の低下は,涙液の安定性を低下させ,眼表面に悪循環を生じさせるが,この背景となる疾患は,マイボーム腺機能不全(Meibomianglanddys-function:MGD)である9).MGDでは,一般に,マイボーム腺開口部の閉塞が第一の異常であるが,この背景には開口部周囲の炎症があり,これが導管上皮の過剰角化を招いてMGDの要因となる.MGDに対しては,減少した涙液油層を補う油性点眼治療や,マイボーム腺の油脂の分泌を促す治療,マイボーム腺炎を含む後部眼瞼縁炎に対する治療がある.もちろん,温罨法や清拭,圧出といった薬物治療以外の併用もなされる.c.油性点眼油は水をキャリアーとするため,油性点眼は,水層が確保されているタイプのドライアイ,すなわち,涙液減少型の軽症例や蒸発亢進型ドライアイに適応があると考えられる.涙液油層は疎水性と親水性の脂質から構成されるため,油性点眼も両脂質が配合されるべきであるが,2%のひまし油(主成分はリシノール酸,長期に用いれば消炎効果があり,眼瞼炎にも奏効するとされる)と5%のポリオキシエチレンひまし油を混合して油性点眼液として用いると,非炎症性の閉塞性MGDに有効との報告がある10).———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008295(21)d.必須脂肪酸サプリメント多価不飽和脂肪酸である必須脂肪酸には,n-3(オメガ3)とn-6(オメガ6)の2系統があるが,これらは体内では合成できず,一方から他方が作られることもなく,ともに食事から摂取しなければならないとされる.オメガ3脂肪酸には,aリノレン酸,エイコサペンタエン酸(EPA),ドコサヘキサエン酸(DHA)があり,aリノレン酸から他は合成され,これらは,サケやマグロなどに多く含まれる.一方,オメガ6脂肪酸には,リノール酸,gリノレン酸,アラキドン酸があり,リノール酸から他は合成されうる.生体にとってこれらのバランスが重要であるとされ,現代人の食生活では,オメガ6の過剰とオメガ3の不足が生じがちであるといわれている.いずれの系統も抗炎症作用をもち,ドライアイやMGDへの効果が示されている19,20).4.その他─上皮障害に対する薬物治療ドライアイの上流のメカニズムとなりうる涙液減少や涙液の安定性の低下,あるいは炎症を切り口とせず,上皮障害の改善を促す治療がある.5.血清点眼血清には,上皮成長因子,フィブロネクチン,神経成長因子,ビタミンAなどの上皮修復を促す成分が含まれるため,ドライアイにおける上皮の創傷治癒を促し,それを介した眼表面ムチンの発現を促進して,涙液安定性に寄与する可能性がある.実際,血清点眼が,人工涙液に比べ,涙液の安定性,眼表面の染色スコア,刺激症状を有意に改善するとの報告がある21).また,ドライアイ以外にも,血清点眼の遷延性上皮欠損,上輪部角結膜炎,神経麻痺性角膜炎への有効性が示されている.おわりにドライアイを増悪させるリスクファクターとしての上流の疾患群と眼表面を橋渡しするドライアイの病態生理に基づいて,薬物治療の切り口を概観してみたが,現在,いくつかの切り口があるにしても,わが国における薬物治療は,特に炎症に対しては欧米ほどには積極的ではない.これは,欧米に比べ,眼瞼縁の炎症性疾患が少a.テトラサイクリン系薬剤テトラサイクリンやその誘導体であるミノサイクリン,ドキシサイクリンは,細菌に対して静菌的に働くとともにそのリパーゼ活性を抑制して,MGDに奏効するといわれる.これらの薬剤は,抗菌作用以外に抗炎症作用や血管新生抑制作用を有し,さまざまな投薬方法が報告されているが,欧米に多い酒さに伴う眼瞼縁炎への有効性が多く報告されている.ドキシサイクリンの消炎作用は,特に注目されており,少量長期投与(20mg,2回/日,2カ月)で,慢性の難治性MGDにも効果があるという15).また,マクロライド系抗生物質(クラリスロマイシンなど)にも同様の消炎効果を期待しうる.b.副腎皮質ステロイドドライアイの中心メカニズムに存在しうる炎症に対する副腎皮質ステロイドの効果が報告されている.長期投与による緑内障や白内障などの副作用を考えると,ドライアイに対しては,フルオロメトロンなどの低力価ステロイドの短期的使用が望ましいと思われるが,フルオロメトロンと人工涙液の4週間の点眼により,人工涙液単独に比べて症状や染色所見が軽度であることが報告されている16).また,防腐剤フリーのメチルプレドニゾロン点眼もドライアイの炎症に奏効し,1日34回,2週間の点眼で,それまでの点眼治療に反応しないSjogren症候群の眼刺激症状,角膜染色,糸状物を改善したという17).c.シクロスポリンA(CsA)炎症の切り口から長期投与可能な点眼液として,CsA点眼液(RestasisR:0.05%ユニドーズ懸濁点眼液,1日2回点眼)が2002年12月より米国で処方薬としてドライアイ治療に用いられている.本点眼液は,6カ月の臨床試験で,中等度から重度のドライアイの人工涙液併用の必要性を有意に減らし,自覚症状および角膜上皮障害やSchirmerテスト値を改善したとされる18).奏効機序は,涙腺や結膜へのリンパ球の浸潤抑制によるとされ,結膜上皮の免疫炎症マーカー(HLA-DR),アポトーシスマーカー(Fas),炎症性サイトカイン(IL-6),Tリンパ球浸潤を減少させるとともに杯細胞密度を増加させることが示されている.———————————————————————-Page6296あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008(22)2030-2035,200211)ShimmuraS,UenoR,MatsumotoYetal:Albuminasatearsupplementinthetreatmentofseveredryeye.BrJOphthalmol87:1279-1283,200312)JacksonRS2nd,VanDykenSJ,McCartneyMDetal:Theeicosanoid,15-(S)-HETE,stimulatessecretionofmucin-likeglycoproteinbythecornealepithelium.Cornea20:516-521,200113)NakamuraM,EndoK,NakataKetal:Gefarnatestimu-latessecretionofmucin-likeglycoproteinsbycornealepi-theliuminvitroandprotectscornealepitheliumfromdes-iccationinvivo.ExpEyeRes65:569-574,199714)UrashimaH,OkamotoT,TakejiYetal:Rebamipideincreasestheamountofmucin-likesubstancesonthecon-junctivaandcorneaintheN-acetylcysteine-treatedinvivomodel.Cornea23:613-619,200415)YooSE,LeeDC,ChangMH:Theeectoflow-dosedoxycyclinetherapyinchronicmeibomianglanddysfunc-tion.KoreanJOphthalmol19:258-263,200516)AvundukAM,AvundukMC,VarnellEDetal:Thecom-parisonofecaciesoftopicalcorticosteroidsandnon-steroidalanti-inammatorydropsondryeyepatients:aclinicalandimmunocytochemicalstudy.AmJOphthalmol136:593-602,200317)MarshP,PugfelderSC:Topicalnonpreservedmethyl-prednisolonetherapyforkeratoconjunctivitissiccainSjogrensyndrome.Ophthalmology106:811-816,199918)SallK,StevensonOD,MundorfTKetal:Twomulti-center,randomizedstudiesoftheecacyandsafetyofcyclosporineophthalmicemulsioninmoderatetoseveredryeyedisease.CsAPhase3StudyGroup.Ophthalmolo-gy107:631-639,200019)RashidS,JinY,EcoierTetal:Topicalomega-3andomega-6Fattyacidsfortreatmentofdryeye.ArchOph-thalmol26:219-225,200820)PinnaA,PiccininiP,CartaF:Eectoforallinoleicandgamma-linolenicacidonmeibomianglanddysfunction.Cornea26:260-264,200721)KojimaT,IshidaR,DogruMetal:Theeectofautolo-gousserumeyedropsinthetreatmentofseveredryeyedisease:aprospectiverandomizedcase-controlstudy.AmJOphthalmol139:242-246,2005ないことや,ドライアイの炎症説にそれほどの力点がおかれていないこと,あるいは,わが国ではシクロスポリンA点眼液がドライアイに適用となっていないといった現状を反映したものと考えられる.いずれにしても,涙液分泌の減少(すなわち,自己修復システムとしての反射性涙液分泌が少ないことを意味する)が眼表面にとって最大のリスクファクターであることから,重症例に対する涙点閉鎖術ほどには効果がないにしても,軽症から中等症のドライアイに対して,点眼回数を積極的に減らしてくれるような薬物治療の登場が待たれるところである.文献1)堀裕一:ムチンと眼の乾き.あたらしい眼科22:289-294,20052)島潤(ドライアイ研究会):2006年ドライアイ診断基準.あたらしい眼科24:181-184,20073)横井則彦:眼の不定愁訴と結膜弛緩症.臨眼61:1985-1992,20074)PugfelderSC:Anti-inammatorytherapyofdryeye.OculSurf1:31-36,20035)横井則彦,荒木美治,渡辺彰英:眼瞼とオキュラーサーフェスの接点.眼科手術20:329-337,20076)YokoiN,KomuroA:Non-invasivemethodsofassessingthetearlm.ExpEyeRes78:399-407,20047)OnoM,TakamuraE,ShinozakiKetal:TherapeuticeectofcevimelineondryeyeinpatientswithSjogrensyndrome:arandomized,double-blindclinicalstudy.AmJOphthalmol138:6-17,20048)TauberJ,DavittWF,BokoskyJEetal:Double-masked,placebo-controlledsafetyandecacytrialofdiquafosoltetrasodium(INS365)ophthalmicsolutionforthetreat-mentofdryeye.Cornea23:784-792,20049)横井則彦:蒸発亢進型ドライアイの病態,原因,およびその治療.日本の眼科78:721-726,200710)GotoE,ShimazakiJ,MondenYetal:Low-concentrationhomogenizedcastoroileyedropsfornoninamedobstruc-tivemeibomianglanddysfunction.Ophthalmology109:

結膜アレルギー疾患

2008年3月31日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSは好酸球による組織傷害である.IIアレルギー性結膜疾患の臨床像とメカニズムアレルギー性結膜疾患ガイドライン1)には,アレルギー性結膜疾患の診断に際して特異性が高い自覚症状,他覚所見について記載がある(表1).自覚症状では掻痒感以外は特異性が低い.他覚所見では,重症例に認められる巨大乳頭やシールド潰瘍などは特異性が高いとされている.最も高頻度に認められる結膜充血は,アレルギー以外の結膜炎でも認められるため,特異性が低いとされはじめにアレルギー性結膜疾患はⅠ型アレルギーが関与する結膜の炎症性疾患であり,薬物治療の目標は結膜におけるⅠ型アレルギーを抑制することである.治療に用いる薬物は重症度により異なり,軽症ではⅠ型アレルギーを抑制する抗アレルギー点眼薬を用いる.重症例ではⅠ型アレルギーのみならずⅣ型アレルギーもその発症に関与し,抗アレルギー点眼薬のみではアレルギー症状を抑制できない場合が多く,免疫抑制能をもつステロイド点眼薬や免疫抑制点眼薬が用いられる.重症例のなかにはこれらの点眼薬ではコントロールできない最重症例も存在し,ステロイド内服薬が処方される場合もある.本稿では,まずアレルギー性結膜疾患の軽症例と重症例のメカニズムの差異と治療戦略について述べ,最後に各種点眼薬の使い方を概説する.Iアレルギー性結膜疾患の発症機序Ⅰ型アレルギーは,肥満細胞表面に結合している抗原特異的IgE(免疫グロブリンE)が抗原により架橋されることにより生じる.その結果,肥満細胞が活性化され,活性化された肥満細胞は種々のメディエーターを放出しアレルギー炎症反応を誘導する.Ⅰ型アレルギー反応は,抗原が侵入し5~15分後に生じる即時相と,3~12時間後に生じる遅発相とに大別される(図1).即時相では,肥満細胞が放出するヒスタミンなどのケミカルメディエーターにより組織障害を生じる.一方,遅発相(9)283*AtsukiFukushima:高知大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕福島敦樹:〒783-8505南国市岡豊町小蓮高知大学医学部眼科学講座特集眼科薬物治療トレンド2008あたらしい眼科25(3):283~289,2008結膜アレルギー疾患ConjunctivalAllergicDiseases福島敦樹*図1アレルギー性結膜疾患の免疫学的機序抗原が侵入し5~15分後に生じる即時相と,3~12時間後に生じる遅発相とに大別される.即時相では肥満細胞が,遅発相では好酸球,T細胞が重要な役割を果たす.ECP:eosinophilcationicprotein,EPO:eosinophilperoxidase,MBP:majorbasicprotein.(眼アレルギーフォーラム21スライド集より抜粋)浮腫脱顆粒抗原IgETMBPECPEPO血管好酸球充血組織破壊IL-5肥満細胞即時相(EPR)(5~15分後)遅発相(LPR)(3~12時間後)ヒスタミンなどのケミカルメディエーター———————————————————————-Page2284あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008(10)アレルギー性結膜疾患は抗原特異的な疾患であるが,好酸球には抗原認識能はなく,好酸球浸潤には抗原特異性認識能をもつT細胞あるいは抗体の関与が考えられる.そこで結膜好酸球浸潤がT細胞あるいは抗体のいずれが結膜好酸球浸潤に関与するのか,動物モデルを用いて検討したところ,Ⅰ型アレルギー単独では結膜好酸球浸潤を誘導できない3)が,T細胞,特にヘルパー2型T細胞(Th2細胞)により結膜好酸球浸潤が誘導された4).以上の結果から,重症型の病像形成には,Th2細胞を中心とするⅣ型アレルギーが重要な役割を果たしていることが判明した.ている.これらの他覚所見のなかで,軽症例の代表所見として充血を,重症例の代表所見として巨大乳頭と角膜傷害を例にあげてメカニズムを考えてみる.充血は血管透過性亢進により生じる.Ⅰ型アレルギーにより肥満細胞から放出されるメディエーターの多くが血管透過性亢進作用をもつことから,充血はⅠ型アレルギーで説明がつく(図2).巨大乳頭の病理組織像では好酸球浸潤,線維芽細胞の増生,細胞外マトリックスの沈着に加えて,数多くのT細胞の浸潤もみられる(図3).すなわち,巨大乳頭の形成にはⅣ型アレルギーも関与していると考えられる.重症化の指標である角膜傷害に関しては,その程度と涙液中好酸球数との関連性が報告されている2).図2メディエーター遊離抑制作用薬の作用機序肥満細胞膜を安定化させることにより肥満細胞からのメディエーターの遊離を抑制する.(眼アレルギーフォーラム21スライド集より抜粋)アレルンIgEcAMP低下FcεRI肥満細胞脱顆粒Newlygeneratedmediators●LTC4,D4,E4●TXA2●PAF●PGD2Preformedmediators●ヒスタミン●セロトニン●ECF-A平滑筋収縮血管透過性亢進粘液分泌亢進炎症細胞浸潤膜リン脂質図3巨大乳頭切除術の病理組織像a:ギムザ染色.多数の好酸球を粘膜固有層に認める.b:抗CD3抗体を用いた免疫染色.好酸球に加えて多数のCD3陽性T細胞の浸潤を認める.バーは100μm.ab表1アレルギー性結膜疾患の臨床症状の特異性特異性自覚症状臨床症状(他覚所見)大眼掻痒感強度巨大乳頭,輪部増殖,シールド潰瘍(楯型潰瘍)中眼掻痒感中等度結膜浮腫,結膜濾胞,乳頭増殖,角膜びらん,落屑様点状表層角膜症,角膜プラーク小眼掻痒感軽度,眼脂,流涙,異物感,眼痛,羞明結膜充血,点状表層角膜症(アレルギー性結膜疾患ガイドラインより抜粋)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008285(11)(newlygeneratedmediators)に大別される(図2).メディエーター遊離抑制作用薬は肥満細胞膜を安定化させることによりこれらの分子の遊離を抑制する(図2).一方,ヒスタミンH1受容体拮抗作用薬は肥満細胞から放出される分子のなかでヒスタミンに標的を絞り,受容体にヒスタミンが結合する部位で競合作用により,ヒスタミンの作用を抑制する薬物である(図4).わが国ではメディエーター遊離抑制作用点眼薬は6種類,ヒスタミンH1受容体拮抗作用点眼薬は3種類販売されており,ヒスタミンH1受容体拮作用薬であるフマル酸ケトチフェンIII点眼薬の種類と治療の基本的スタンス上記のごとく軽症例ではⅠ型アレルギーが,重症例ではⅠ型アレルギーのみならずⅣ型アレルギーも関与する.すなわち軽症でも重症でもⅠ型アレルギーを抑制する抗アレルギー点眼薬が基本となる.抗アレルギー点眼薬のみではⅣ型アレルギーを抑制することができないので,重症例ではステロイド点眼薬や免疫抑制点眼薬の追加投与を必要とする.以下にそれぞれの点眼薬の作用機序と適応について述べる.1.抗アレルギー点眼薬抗アレルギー点眼薬はⅠ型アレルギーを抑制する薬物である5).現在市販されている抗アレルギー点眼薬を表2に示す.メディエーター遊離抑制作用薬とヒスタミンH1受容体拮抗作用薬に大別される.メディエーター遊離抑制作用薬とは,肥満細胞からのメディエーター遊離を抑制する薬物で,別名,肥満細胞膜安定化物質ともよばれている(図2).肥満細胞が放出する分子はヒスタミン,セロトニンなど,あらかじめ肥満細胞中の顆粒に準備されている分子(preformedmediators)と,ロイコトリエンなどのように肥満細胞に刺激が入ることにより膜リン脂質の活性化を介して新たに産生される分子図4ヒスタミンH1受容体拮抗作用薬の作用機序受容体に結合する部位でヒスタミンと競合することにより,ヒスタミンの作用を抑制する.(眼アレルギーフォーラム21スライド集より抜粋)三叉神経毛細血管肥満細胞IgEFcεRIアレルギー性結膜炎症状ヒスタミンレセプターをブロックヒスタミンH1受容体拮抗作用薬(H1ブロッカー)抗ヒスタミン作用掻痒感,結膜充血,眼脂,流涙,異物感など即時相反応毛細血管拡張血管透過性亢進粘液分泌亢進アレルゲン表2抗アレルギー点眼薬の一覧分類薬剤名商品名点眼回数抗ヒスタミン作用メディエーター遊離抑制作用点眼薬クロモグリク酸ナトリウムインタール?1日4回アンレキサノクスエリックスR1日4回ペミロラストカリウムアレギサールR1日2回ペミラストンR1日2回トラニラストリザベンR1日4回トラメラスR1日4回イブジラストケタスR1日4回アイビナールR1日4回アシタザノラスト水和物ゼペリンR1日4回ヒスタミンH1受容体拮抗作用点眼薬フマル酸ケトチフェンザジテンR1日4回+塩酸レボカバスチンリボスチンR1日4回+塩酸オロパタジンパタノールR1日4回+(眼アレルギーフォーラム21作成を改変)———————————————————————-Page4286あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008(12)開始後3日目より掻痒感の有意な改善を認め,その効果はほぼ持続したが,メディエーター遊離抑制作用薬は点眼開始後6日目より有意な改善を認めた(図5)7).さらに点眼開始後5日目にはヒスタミンH1受容体拮抗作用薬のほうがメディエーター遊離抑制作用薬よりも有意な改善を認めた(図5)7).以上の結果から,掻痒感の早期改善にはヒスタミンH1受容体拮抗作用薬の処方が推奨される.実際,肥満細胞には種々のメディエーターが存在し起痒物質(掻痒感を誘発する物質)として働くが,これらの多くはヒスタミンの作用を介すると報告されている8).このことからも,ヒスタミンの作用を直接抑制するヒスタミンH1受容体拮抗作用薬が掻痒感の抑制に優れていると思われる.b.メディエーター遊離抑制作用薬の使い方メディエーター遊離抑制作用薬の有効な使い方として初期療法がある.初期療法は耳鼻科領域で始まった方法で,スギ花粉飛散開始予想日を基準とし,それより2週間ほど前から予防的にメディエーター遊離抑制作用薬を点眼薬,塩酸オロパタジン点眼薬では,invitroにおいてメディエーター遊離抑制作用も確認されている.メディエーター遊離抑制作用点眼薬に関しては,メディエーター遊離抑制作用に加えて,抗ロイコトリエン作用,好酸球遊離抑制作用,活性酸素抑制作用などさまざまな付加的効果が報告されている6)(表3).a.メディエーター遊離抑制作用薬とヒスタミンH1受容体拮抗作用薬の掻痒感に対する効果の比較上述のごとくアレルギー性結膜疾患に特異的な自覚症状は掻痒感であり1),花粉症患者にとって最もつらい症状である.掻痒感は肥満細胞が遊離するメディエーターにより誘発される.そこで,掻痒感に対してメディエーター遊離抑制作用薬とヒスタミンH1受容体拮抗作用薬のいずれの点眼薬がより効果的かを検討した8).メディエーター遊離抑制作用薬とヒスタミンH1受容体拮抗作用薬を1日4回点眼し,点眼開始後1週間目まで毎日の掻痒感スコアについてアレルギー日記をもとに評価した.その結果,ヒスタミンH1受容体拮抗作用薬は点眼表3抗アレルギー点眼薬の付加的効果一効果イストロトムトニストトンレカスンメディエーター抑制×抗ヒスタミン×××○◎抗ロイコトリエン○××××好酸球遊走抑制○○○○○活性酸素抑制○××××(文献6より抜粋)-2.0-1.5-1.0-0.500.51.0♯******1日目2日目4日目5日目6日目7日目投与後日数投与開始時対象:イネ科抗原などによるアレルギー性結膜炎3日目*p<0.05#p<0.05投与1週間後のスコア差図5メディエーター遊離抑制作用薬とヒスタミンH1受容体拮抗作用薬の掻痒感に対する効果の比較メディエーター遊離抑制作用薬(トラニラスト)とヒスタミンH1受容体拮抗作用薬(塩酸レボカバスチン)を点眼しアレルギー日記により掻痒感の推移を評価した.(文献7より抜粋):トラニラスト点眼薬投与群(n=8):塩酸レボカバスチン点眼薬投与群(n=7)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008287(13)が,初期療法を受けに来院する患者はあまり多くない.中川らの報告では初期療法を認識している患者が70%を占めているにもかかわらず,実際に初期療法を受けている患者は16%にすぎなかった11)ことから,初期療法についての啓蒙活動が重要であると思われる.通年性アレルギー性結膜炎のように年中抗原に曝露されている場合も,肥満細胞の細胞膜の安定化を維持しておくうえで,メディエーター遊離抑制作用点眼薬は有効であると考えられる.開始する方法である.その有効性が検討された結果,花粉症の症状発現を遅らせるのみならず,自覚症状が出現してから点眼薬を投与された患者と比較し,約30%の患者において花粉症症状を認めなかった(図6)9).筆者らも,昨年のスギ花粉飛散時期に初期療法の有効性を検討したところ,初期療法群は,花粉飛散開始前に比べ花粉飛散開始後においても自他覚所見の悪化は認められず,さらに自覚症状出現後に抗アレルギー点眼薬を開始した群と比較し,自他覚所見が有意に軽度であった10).このように,眼科領域においても初期療法が有効である図6初期療法の臨床効果(累積発症率と発症日の違い)初期療法を行うことにより,花粉症症状発現が遅くなる.さらに,初期療法を受けた患者の約3割で花粉症症状が出現しなかった.(文献9より改変,眼アレルギーフォーラム21スライド集より抜粋)初期療法によって症状が現れる時期が遅くなっている初期療法を受けた患者の約30%は症状が現れなかった初期療法を受けなかった患者はほぼ100%に何らかの目の症状が現れた飛散期治療群初期療法群1009080706050403020100350300250200150100500累積発症率(%)花粉飛散量(個/cm2)2/10以前2/10~152/16~202/21~252/26~3/23/3~73/8~123/13~173/18~223/23~273/28~4/1発症日図7ステロイド薬による眼圧上昇:反応性の特徴ステロイド点眼薬による眼圧上昇には個体差があるが,35%で6mmHg以上の眼圧上昇を認める.また薬剤,投与経路,投与期間によっても眼圧に与える影響に違いがある.(眼アレルギーフォーラム21スライド集より抜粋)長期投与によりリスクは高まる■ステロイドへの反応の個体差ステロイド点眼薬に対する眼圧の感受性には個体差がある小児は反応性が高いSteroidResponderは意外に多い!自覚症状は少ないので注意■薬剤および処方による反応の違い65%低反応性(5mmHg以下の上昇)5%高反応性(16mmHg以上の上昇)30%中等度反応性(6~15mmHgの上昇)薬剤別分類別投与期間別フルオロメトロンベタメタゾンデキサメタゾンプレドニゾロン内服点眼眼軟膏結膜下注射(局所投与)———————————————————————-Page6288あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008れている.現時点までの報告では重篤な副作用は認められていないが,今後長期間の観察により,安全性の面でのエビデンスを蓄積していく必要がある.FK-506も治験が終了し,現在認可申請中であり,近々発売されると思われる.免疫抑制点眼薬を処方する際の注意点としては,ステロイド点眼薬をすでに処方されている場合は追加点眼薬として処方し,ステロイド点眼薬をすぐに中止しないことが重要である.その後,改善が得られれば,徐々に濃度の薄いステロイド点眼薬に変更し,最終的にステロイド点眼薬を中止する方向で考える.おわりに抗アレルギー点眼薬,ステロイド点眼薬,免疫抑制点眼薬の作用機序について概説した.結膜で生じているアレルギー反応が即時相/遅発相,Ⅰ型アレルギー/Ⅳ型アレルギーのいずれが主体であるかを考え,それぞれの薬物の作用機序を理解し処方することにより,より高い治療効果が期待できると思われる.文献1)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン編集委員会:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン.日眼会誌110:99-140,20062)FukagawaK,NakajimaT,TsubotaKetal:Presenceofeotaxinintearsofpatientswithatopickeratoconjunctivi-tiswithseverecornealdamage.JAllergyClinImmunol103:1220-1221,19993)FukushimaA,OzakiA,JianZetal:Dissectionofantigen-specichumoralandcellularimmuneresponsesforthedevelopmentofexperimentalimmune-mediatedblepharoconjunctivitis(EC)inC57BL/6mice.CurrEyeRes30:241-248,20054)OzakiA,SekiY,FukushimaAetal:Thecontrolofaller-gicconjunctivitisbysuppressorofcytokinesignaling(SOCS)3andSOCS5inamurinemodel.JImmunol175:5489-5497,20055)高村悦子:アレルギー性結膜疾患─薬物治療のコツ─.あたらしい眼科20:65-70,20036)岡本茂樹:アレルギー性結膜疾患最近の治療と今後の展望2)重症アレルギー性結膜疾患の薬物治療.アレルギー・免疫12:877-881,20057)福島敦樹,中川やよい,内尾英一ほか:スギ花粉以外の抗原によるアレルギー性結膜炎の薬物療法─ヒスタミンH1受容体拮抗点眼薬とメディエーター遊離抑制点眼薬の効果について─.あたらしい眼科22:225-229,20052.ステロイド薬ステロイド薬は免疫担当細胞の増殖,分化を抑制し,サイトカイン,ケミカルメディエーター,接着分子発現の抑制など幅広い免疫抑制効果,抗炎症作用をもち,即時相も遅発相も抑制する.多くの種類が市販されており,薬物により抗炎症作用の力価が異なる12).ステロイド点眼薬は非常に強い抗炎症作用,免疫抑制作用をもつが,眼圧上昇を一定の割合で認めるため(図7)13),基本的に抗アレルギー点眼薬に反応しない重症例に投与し,ファーストチョイスとすべきではない.重症例である春季カタルは若年者に多く,若年者にステロイドレスポンダーが多いことも注意すべき点である(図7)14).すなわち,ステロイド点眼薬を処方する場合は定期的な受診,眼圧測定が必須である.3.免疫抑制薬免疫抑制薬は種々の免疫担当細胞に働くが主としてT細胞を抑制する(図8).免疫抑制点眼薬は自家調整薬あるいは治験薬として使用された結果,重症アレルギー性結膜疾患にすぐれた効果をもつことが明らかとなった.2006年1月にシクロスポリン点眼液が市販され,市販後調査が行われてきた.中間報告の結果から15),自覚症状,他覚所見とも点眼開始後1カ月目より有意な改善を認めた.さらに,シクロスポリン点眼によりステロイド点眼薬の減量または中止が可能となった症例が多数みられることは,ステロイド点眼薬からの離脱の点でもすぐ(14)図8免疫抑制薬の標的細胞免疫抑制薬の代表であるシクロスポリンとタクロリムスはT細胞のみならず,抗原提示細胞,肥満細胞,好酸球に抑制効果をもつが,線維芽細胞や上皮細胞に対する効果は低い.(眼アレルギーフォーラム21スライド集より抜粋)シクロスポリン(CsA)タクロリムス(FK-506)抗原提示細胞Th1/Th2好酸球IL-2R↓,MHC↓,CD80↓サイトカイン↓活性化・脱顆粒↓ケモカイン↓効果は低い肥満細胞/好酸基球線維芽細胞/上皮細胞———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008289性結膜疾患─点眼治療薬と作用機序─.あたらしい眼科22:749-753,200513)ArmalyMF:Efectofcorticosteroidsonintraocularpres-sureandluiddynamics.I.Theefectofdexamethasoneinthenormaleye.ArchOphthalmol70:482-491,196314)OhjiM,KinoshitaS,OhmiEetal:Markedintraocularpressureresponsetoinstillationofcorticosteroidsinchil-dren.AmJOphthalmol112:450-454,199115)海老原伸行,内尾英一,岡本茂樹ほか:春季カタル治療薬パピロックRミニ点眼液0.1%全例調査春季カタル治療薬研究会報告.日眼会誌111(臨時増刊号):213,20078)江畑俊哉:痒みのマネジメント,1.痒みの種類と鑑別.医薬ジャーナル137:3235-3239,20019)齋藤圭子:アレルギー性結膜炎に対する予防的治療法.あたらしい眼科17:1199-1204,200010)山岸哲哉,奥村直毅,中井孝史ほか:アシタザノラスト水和物点眼液の季節性アレルギー性結膜炎に対する季節前投与の効果.臨眼61:313-317,200711)中川やよい,東田みち代:スギ花粉性結膜炎患者の受診パターンと治療のコンプライアンス─眼科外来患者アンケート調査─.あたらしい眼科19:113-120,200212)福島敦樹:アレルギー性結膜疾患診療指針2005アレルギー(15)

角結膜感染性疾患

2008年3月31日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLS2.臨床所見の原則と捉え方基本病像は角膜中央部に単発して起こる円形の浸潤病巣である.この浸潤病巣は細菌そのものではなく,好中球などの炎症細胞が集積したものを見ていることを念頭におく.これは“感染症に禁忌”であるステロイドの点眼を行ってしまった場合,起炎菌が増殖しつつあってもみかけ上病巣が縮小するというパラドックスの原因であり,判断を誤らせてしまう要因になることを肝に銘じるべきである.発症に至る要因にはさまざまなものがあるため,基本病像は大きく修飾されうる.先行する角膜上皮障害やコンタクトレンズ装用者においては中央部に限らず周辺部角膜に病巣ができることも少なくない.この場合,円形ではなく,不整形を示すこともある.3.微生物学的検査感染性角膜炎の診断に鏡検および培養検査は欠かすことができない.具体的なことは成書に譲るが,臨床実地において重要な点について以下言及する.1)直前に防腐剤を含む点眼を行わない.角膜擦過時には点眼麻酔が必要であるが,通常のベノキシールR点眼には防腐剤が含まれており,これは培養検査の検出率を下げてしまう.必ず防腐剤を含まない点眼麻酔薬(ベノキシネートRミニムスなど)を使用する.2)眼 瞼縁などには触れずに角膜病巣のみから検体を採取する.はじめに感染症の鉄則は起炎菌の同定とそれに即した抗微生物薬の選択である.しかし実際の臨床の現場では起炎菌の同定未了の状態で治療を開始する.この初期治療ではわが国における感染症の“トレンド”を把握し,想定される起炎菌としてどのようなものがあるのかを知っておくことが最大の武器であろう.臨床の現場で遭遇するさまざまな角結膜感染性疾患について,その臨床所見からどのような初期治療を選択していくかに主眼をおいて筆者なりの考え方を述べさせていただく.なお,紙面の都合上本稿では角膜炎を中心とし,結膜炎については他書に譲ることとする.I感染性角膜炎の治療の前に1.透明組織を場とする感染症感染性角膜炎は当然のことながら角膜という透明組織を感染の場としている.このことは,病巣を詳細に観察することを可能としており,日々刻々と変化する所見を確実に捉えていく義務をわれわれ眼科医に与えるものである.本疾患の治療の目的は透明治癒である.感染をただ収束させればよいというわけにはいかず,的確な初期治療により瘢痕形成を最小限にとどめ,視力低下を防ぐ必要がある.瘢痕による角膜混濁のみならず,治癒後の視機能にも注意を払う必要がある.(3)ツꀀ 277*Toshihiko Uno:愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野(眼科学)〔別刷請求先〕宇野敏彦:〒791-0295 愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野(眼科学)特集眼科薬物治療トレンド2008 あたらしい眼科 25(3):277282,2008角結膜感染性疾患InfectiousDiseaseontheOcularSurface宇野敏彦*———————————————————————-Page2278あたらしい眼科Vol. 25,No. 3,2008(4)桿菌に注意する必要がある.2.臨床所見の特徴細菌性角膜炎の臨床所見はきわめて多様であり,細菌学的検査の結果がきわめて重要である.しかしCL関連細菌性角膜炎のなかにはその臨床所見に特徴がみられることも少なくない.まず症例を供覧する〔症例〕25歳,女性.約3日前から左眼の違和感,結膜や眼瞼縁の常在菌の混入をなるべく防ぐ必要があり,擦過の際,病巣以外には触れないように注意する.このため開瞼器を使用することが望ましい.また病巣擦過の前に生理食塩水で病巣周囲を洗浄するとよい.3)潰瘍部の辺縁を擦過.病巣の中心のすでに融解が進んだ部分からは菌の検出は困難である.潰瘍部の辺縁の,融解していないところを狙って角膜擦過するとよい.4)スライドグラスにこすりつけない.綿棒などで病巣擦過した検体はスライドグラス上で転がすように塗布するとよい.こすりつけると検体中の菌が破壊されて判断がむずかしくなる.IIコンタクトレンズ関連細菌性角膜炎コンタクトレンズ(CL)関連感染性角膜炎はCL販売形態および保険行政の混乱もあり,患者数はかなり増加している.10代,20代の若年者の視力を脅かす眼感染症であることも大きな問題である.まずよりどころになるものとして“感染性角膜炎全国サーベイランス”について復習してみたい.1.感染性角膜炎全国サーベイランスより本サーベイランスは2003年の1年間に全国24施設で診療した感染性角膜炎について,細菌学的検査の結果・患者背景・治療などをまとめたものである1).これによると30歳未満の症例の約9割がCL装用者であるという結果であった.図1は検出菌(細菌)別にCL装用者の割合を示したものである.CL装用者で検出されやすい菌としてStaphylococcusepidermidis, Pseudomo-nasaeruginosa, Serratia sp. の3菌種がまずあげられる.同様の結果はBourcierらも指摘しているところであ り2),CL感染の細菌性角膜炎の起炎菌としてまずこの3菌種を念頭におくべきである.さらに図2はCLの種類と起炎菌についてのものである.従来型のソフトコンタクトレンズ(SCL)および2週間交換などの頻回交換ソフトコンタクトレンズ(FRSCL)ではグラム陰性桿菌が起炎菌として特に頻度が高いことがわかる.すなわち,装用したCLをはずし,洗浄・保存・再装着をくり返すCLの装用者での細菌性角膜炎起炎菌としてグラム陰性図1主要な検出菌ごとのCL装用者の割合症例数を上に示す.S.epidermidis, P.aeruginosa, Serratia sp.の3菌種においてCL装用者が多い.(文献1の図6を元に改変)?????????????????????????????????????????????????????????sp.17171195例:CL使用(-):CL使用(+)100806040200(%)図2CLの種類と起炎菌FRSCLや従来型のSCLではグラム陰性桿菌が検出される割合が高い.FRSCL:頻回交換SCL,DSCL:ディスポーザブルSCL,HCL:ハードコンタクトレンズ.(文献1の図5を元に改変)FRSCLDSCLSCL(従来型)HCL治療用SCL:検出されず:真菌・アメーバ:その他:グラム陰性桿菌:グラム陽性球菌50454035302520151050(例)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol. 25,No. 3,2008279(5)チアがCLと親和性の強い菌であるので,この2菌種を念頭におく必要がある.ハードコンタクトレンズ(HCL)やdisposable SCLの場合は本来眼表面に存在するグラム陽性球菌の頻度も高いため,緑膿菌とセラチアとともに表皮ブドウ球菌を含むCNS(coagulase negative Staphylococcus)も考慮する.臨床所見からは先述の症例のように,融解傾向の強い円板状ないしは輪状浸潤を伴う症例で緑膿菌とセラチアを考えていくべきと思われる.起炎菌が判明するまでの初期治療はニューキノロン点眼薬の頻回点眼を基本とするが,緑膿菌などのグラム陰性菌を想定する場合はアミノグリコシド点眼薬の併用も考える.CNSなどグラム陰性菌を念頭におく場合は,アミノグリコシドあるいはセフェム系の点眼薬などから併用を考えてよい.4.予想される治療経過と注意点緑膿菌などのグラム陰性菌が起炎菌の場合,治療開始後に病巣周囲の角膜浮腫が増強することがある.病巣が視軸をはずれている場合ではかえって視力が低下したと不満を訴えることも少なくない.詳細な機序は不明であるが,治療によって細菌そのものは死滅しつつあっても菌体外に放出されたさまざまなトキシンなどが周囲の角膜浮腫を増強させると考えるとわかりやすい.円板状の病巣そのものの変化を詳細に観察することが大切であり,このような経過をたどりうることをあらかじめ説明のうえ治療を開始するとよい.IIIアカントアメーバ角膜炎代表的なCL関連感染性角膜炎の一つである.症例数さらには眼痛を自覚するようになり近医受診後ただちに愛媛大学病院眼科を紹介受診された.FRSCL(2週間交換)を使用し,ケアにはいわゆるMPS(multi purpose solution)を使用するもこすり洗いは行っていなかった.視力は手動弁.前眼部所見を図3に供覧するが,傍中心部に融解傾向の強い円形の浸潤病巣を呈しており,周囲には広い範囲で強い角膜浮腫を伴っていた.なお,角膜擦過物よりグラム陰性桿菌を認め,培養で緑膿菌が検出されている.本症例は比較的短期間に重症化するCL関連細菌性角膜炎の典型的な症例である.緑膿菌などのグラム陰性桿菌を起炎菌として想定すべき臨床所見である.角膜融解の進行が速く一刻も早く治療を開始すべきであるが,治療にはよく反応する例が多い.3.パターン別起炎菌推定法細菌性角膜炎の確定診断は病巣擦過物から細菌を同定することであり,その抗菌薬感受性試験に応じて薬剤の選択を行うのが王道である.しかし冒頭でも述べたように,現実的には病歴・患者背景・臨床所見から治療を開始していく必要がある.例外も多数あると思われるが,ここでは私見も交え,かなり割り切った“パターン別起炎菌推定法”を提示する(図4).前述のように,FRSCLや従来型のSCLなど,洗浄・保存・再装着をくり返すCLの装用者ではグラム陰性桿菌をまず起炎菌として想定する.なかでも緑膿菌とセラ図3CL関連細菌性角膜炎症例の前眼部所見図4CL関連細菌性角膜炎におけるパターン別起炎菌推定法3大主要起炎菌…CNS・緑膿菌・セラチア重症!重症度から緑膿菌・セラチア?軽症CNS?FRSCL従来型SCLCLの種類からHCLdisposableSCL緑緑膿菌・セラチア?3大主要起炎菌———————————————————————-Page4280あたらしい眼科Vol. 25,No. 3,2008(6)軟膏を併用する.消毒剤の一種であるクロルヘキシジン(0.02%のステリクロンRとして市販されている)は結膜の洗浄・消毒の適応をもっており,原液のまま頻回点眼を行える.さらに欧米ではプールなどの消毒剤として市販されているPHMB(ポリヘキサメチレンビグアナイド)も0.02%の濃度での使用がなされており,クロルヘキシジンとほぼ同様の臨床効果であったという報告がある4).欧米では消毒剤であるクロルヘキシジンあるいはPHMBを中心とした治療であり,わが国では抗真菌薬を中心として施設によって消毒剤も併用しているというのが大筋のところであろう.治療方針については今後さらなる検討が必要であろう.IV真菌性角膜炎真菌性角膜炎はカンジダ(酵母菌)によるものと糸状菌によるものに大別できる.治療に難渋しやすい疾患であるが,現在の治療方針についてまとめてみたい.1.抗真菌薬の現況近年抗真菌薬のレパートリーが増えたためわれわれ眼科医も従来の画一的な治療から症例に応じた治療が可能となりつつある.その詳細は成書を参照していただくこととし,本稿では治療に必要なポイントのみを解説する.なお,眼科的な適応のある薬剤はピマリシン(点眼・眼軟膏)のみであり,その他の薬剤の眼局所への使用は適応外であること,使用に際しては医師の裁量となり,インフォームド・コンセントをとるなど,適切な対応が望まれる.抗真菌薬の主流はアゾール系薬剤であり,点眼用としても古くから使用されてきた.フルコナゾールは原液のまま点眼・結膜下注射が可能であるが,カンジダ属でも耐性化が進行している.糸状菌に対する効果は期待しにくいので治療の選択肢からはずしておくのが賢明であろう.ミコナゾールは生理食塩水などで10倍希釈して用いる.フルコナゾール耐性のカンジダおよびアスペルギルスにも一定の効果が期待できる.眼局所への刺激が強いこと,希釈後の安定が悪く2,3日ごとの再作が必要などの注意点に留意する.ボリコナゾールはFusarium, Paecilomyces, Alternariaなどの角膜炎起炎菌に対し効としては細菌性のものに及ばないが,昨今増加傾向であり3),治療が困難で長期に及ぶことを考慮すると社会的にも大きな問題である.本疾患はまず特徴的な所見を把握することにより臨床的診断を迅速に行うことが重要である.1.臨床所見アカントアメーバ角膜炎は上皮内を炎症の首座とする場合と実質を首座とする場合がある.前者の特徴的な所見として放射状角膜神経炎がまずあげられるが,一過性に出現して消失する場合もあるので必ずみられるものではない.一方,中央部角膜に多発する浸潤(図5)は必ずみられるといっても過言でなく,早期診断に最も重要な所見である.炎症が実質に移行すると円板状ないしは輪状の浸潤病巣を呈してくる.ここで大切なポイントはその実質内浸潤が多発する浸潤の集合体であるということである.この“ツブツブ”としたイメージもアカントアメーバ角膜炎診断の重要なポイントである.2.治療方針治療方針にゴールデンスタンダードはない.決め手となる薬剤がないため,各施設で独自に工夫したメニューを設定しているところが多い.一般的にはフルコナゾール,ミコナゾールを代表とするアゾール系薬剤を自家調整ののち頻回点眼を行う.施設によってはピマリシン眼図5アカントアメーバ角膜炎の前眼部所見9,11時方向の周辺部角膜に放射状角膜神経炎を認める.瞳孔領には多発する小浸潤の集合体が認められる.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol. 25,No. 3,2008281(7)3.治療方針フサリウムなどの薬剤に感受性の低い起炎菌の場合,メディカルな治療には限界があり,次項の角膜移植の適応を睨みながら治療していく必要がある.カンジダが起炎菌である場合はアゾール系薬剤を自家調整したうえで頻回点眼を行う.前述のように,フルコナゾールは原液のまま点眼が可能であり利便性が高い.このほかミコナゾール・ボリコナゾールも使用可能である.フルコナゾール耐性のカンジダの台頭が叫ばれて久しいが,これを考慮する場合はミコナゾールあるいはボリコナゾールへのスイッチが有用であろう.糸状菌が起炎菌であればピマリシンとアゾール系薬剤の併用を行う.筆者はピマリシン眼軟膏(1日5回)とともにボリコナゾールの頻回点眼を第一選択としている.もちろんミコナゾールも使用可能であり,アスペルギルスなどキャンディン系薬剤のミカファンギンに感受性を有している起炎菌であることがわかっている場合にはこれも選択肢に入れる.糸状菌が起炎菌の場合,治療の経過中角膜実質深層に病巣が残っているにもかかわらず上皮が修復してしまう場合も多い.このときは薬剤の移行性を考慮し角膜上皮を擦過することも考慮してよい.4.治療的角膜移植前項のメディカルな治療が奏効しない場合治療的角膜移植を考慮する.外科的治療に踏み切るためにはいくつかの条件がある.まずこれまでの治療が最大限のものであるかということを確認する必要がある.感染症の治療は“過剰なくらい”行うべきであり,特に糸状菌感染の場合は初期から最強の治療を行うべきである.これによりメディカルな治療の限界を超えているのかの判断が早期に可能となる.つぎに病巣が完全に切除できる範囲にとどまっているかの判断を行う.通常使用するトレパンの直径78 mmを一つの基準とし,これを超えないうちに角膜移植の必要性を判断する.外科的治療の時期を逸すると隅角の閉塞をはじめきわめて厳しい予後が待っている.果が期待でき,1%の濃度で点眼加療が可能である5).キャンディン系のミカファンギンは比較的新しい系統の抗真菌薬である.カンジダに対し殺菌的に作用するほか,アスペルギルス属に効果がある.一方,フサリウムなど多くの糸状菌には無効である.点眼による薬物動態には不明な点が多い.ピマリシンはポリエン系の薬剤であり,フサリウムを含め幅広い抗菌スペクトルムを有する.結膜刺激症状,マイボーム腺炎,眼瞼炎などの副作用があるが,眼軟膏製剤のほうが副作用は少ないようである.2.臨床所見真菌性角膜炎は臨床所見および治療に関し,カンジダによるものと糸状菌によるものの2者に分けて考えるとよい.カンジダによる角膜炎は比較的限局した感染病巣を呈し,融解傾向が強い.ただし,同様の所見を取りうる細菌性角膜炎との鑑別はスリットランプのみでは困難である.糸状菌による病巣は境界が不鮮明で“羽毛状”とも形容される.初期には角膜実質の融解傾向が少ないこと,endothelial palqueとよばれる内皮面での病巣の広がり(図6)があれば本疾患を疑う手がかりとなる.反面,細菌学的検査では真菌を捉えることがむずかしく,上記臨床判断のみで治療を行わなければならないことが多い.図6フサリウムが起炎菌であった真菌性角膜炎中央部角膜実質深層の病巣とともにendothelial plaqueを認める.———————————————————————-Page6282あたらしい眼科Vol. 25,No. 3,2008Acanthamoeba keratitis:a parasite on the rise. Cornea 26:701-706, 2007 4) LinksLim N, Goh D, Bunce C et al:Comparison of poly-hexamethylene biguanide and chlorhexidine as monother-apy agents in the treatment of acanthamoeba keratitis. AmJOphthalmol 145:130-135, 2008 5) Ozbek Z, Kang S, Sivalingam J et al:Voriconazole in the management of Alternaria keratitis. Cornea 25:242-244, 2006文献 1) 感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス─分離菌・患者背景・治療の現況.日眼会誌 110:961-972, 2006 2) Bourcier T, Thomas F, Borderie V et al:Bacterial kerati-tis:predisposing factors, clinical and microbiological review of 300 cases. BrJOphthalmol 87:834-838, 2003 3) Thebpatiphat N, Hammersmith KM, Rocha FN et al:(8)

序説:眼科薬物治療トレンド2008

2008年3月31日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLS結膜領域については,角膜感染症に的を絞って宇野敏彦先生(愛媛大学)に,網膜硝子体領域については,病原体を幅広く網羅した形で,鈴木潤先生と後藤浩先生(東京医科大学)に解説していただいた.一方では,分子レベルでの病態解析に基づいて治療ターゲットを設定し,治療薬を開発していくという試みも盛んとなっている.そこで,アレルギー性結膜疾患については,軽症例と重症例とのメカニズムの違いとそれに立脚した治療戦略を福島敦樹先生(高知大学)に,網膜硝子体疾患については,抗VEGF(血管内皮増殖因子)治療に焦点を当て,白神千恵子先生と白神史雄先生に解説していただいた.これらの疾患に対しては,実にさまざまな治療薬が上市あるいは開発の途上にあるが,臨床医としても,それぞれの長所,短所を把握しつつ,使い分ける工夫をしていく必要がある.また,近年,疾患概念がより明確となってきた緑内障やドライアイについては,その病態に応じた適切な治療法の選択が肝要である.誰でもが診療する機会のあるきわめてポピュラーな疾患であるため,患者の満足度を向上させるための手順を十分に理解しておく必要がある.ここでは,澤口昭一先生(琉球大学)から,緑内障の薬物療法の基本的な原則と最近のトレンドについて,横井則彦先生(京都府立一般に,外科系の診療においては,比重の差こそあれ,薬物治療と手術治療の両者の組み合わせにより治療目的を達成するが,この原理は眼科診療においても同様である.近年,分子細胞生物学,分子遺伝学,あるいは種々のITテクノロジーなどの進歩により,眼疾患の病態解明が急速に進みつつある.また,得られた成果に基づいて多様な新薬がつぎつぎと開発されており,その一部は日常診療ですでに使用されている.本特集では,「眼科薬物治療トレンド2008」と銘打ち,各専門領域における薬物治療の進歩を総括することとした.各領域のオピニオンリーダーにご執筆をお願いしたところ,大変読み応えのある総説集がここに完成した.むろん,「あたらしい眼科」のコンセプトである「専門家による一般的な眼科医のための」啓発的な原稿ばかりであり,日常診療にすぐに応用できる情報が満載されている.是非ともご一読され,刻々と進歩する薬物治療の2008年時点のトレンドをご理解いただきたいと考えている.さて,どの領域においても薬物治療は重要な治療戦略の柱であるが,眼感染症の臨床においてはまさに主役である.臨床所見からの診断予測,適切な治療薬の選択,臨床効果の判定,そして手術治療の適否など,臨機応変な判断が必要であり,難治性の場合には対応に苦慮することも多い.本特集では,角(1)275*HidetoshiYamashita:山形大学医学部情報構造統御学講座視覚病態学分野**YuichiOhashi:愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野(眼科学)説あたらしい眼科25(3):275276,2008眼科薬物治療トレンド2008MedicalTreatmentinOphthalmology─Trendsof2008山下英俊*大橋裕一**———————————————————————-Page2276あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008(2)経験と高度な技量が必要であるが,総説では,「Behcet病」に対する最新の治療戦略を中心に園田康平先生(九州大学)に解説していただいた.近年,薬物治療も手術治療と同様に,基礎研究の成果を臨床現場へフィードバックする(いわゆるbenchtobedside)という大きな流れのなかで急速に進歩している.本特集からの新鮮な情報が,一般眼科医あるいは眼科研修医の先生方のお役に立つことを心より願っている.医科大学)からは,「眼表面の悪循環」を断ち切るうえでのリスクファクターを回避するコツについて,専門家の凝縮された「知恵」をわかりやすく解説していただいた.さらに,眼感染症と同様,薬物治療が主役となる内因性ぶどう膜炎に対しても,副腎皮質ステロイド薬に加えて,非ステロイド消炎薬,免疫抑制薬,抗TNF(腫瘍壊死因子)-a抗体(インフリキシマブ)など多くの新薬が開発されている.診療には長年のお申込方法:おとりつけの書店,また,その便宜のない場合は直接弊社あてご注文ください.メディカル葵出版年間予約購読ご案内眼における現在から未来への情報を提供!あたらしい眼科HFFNVol.25月刊/毎月30日発行A4変形判総140頁定価/通常号2,415円(本体2,300円+税)(送料140円)増刊号6,300円(本体6,000円+税)(送料204円)年間予約購読料32,382円(増刊1冊含13冊)(本体30,840円+税)(送料弊社負担)最新情報を,整理された総説として提供!眼科手術HFFNVol.21(本体2,400円+税)(送料160円)年間予約購読料10,080円(本体9,600円+税)(4冊)(送料弊社負担)日本眼科手術学会誌【特集】毎号特集テーマと編集者を定め,基本的事項と境界領域についての解説記事を掲載.【原著】眼科の未来を切り開く原著論文を医学・薬学・理学・工学など多方面から募って掲載.【連載】セミナー(写真・コンタクトレンズ・眼内レンズ・屈折矯正手術・緑内障・眼感染アレルギーなど)/新しい治療と検査/眼科医のための先端医療他【その他】トピックス・ニュース他■毎号の構成■【特集】あらゆる眼科手術のそれぞれの時点における最も新しい考え方を総説の形で読者に伝達.【原著】査読に合格した質の高い原著論文を掲載.【その他】トピックス・ニューインストルメント他株式会社〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替00100-5-69315電話(03)3811-0544http://www.medical-aoi.co.jp

研修医“初心”表明

2008年2月29日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.2,20082070910-1810/08/\100/頁/JCLS僕が眼科を志望する理由は,目が見えない人の目が見えるようになったとき,どんなに喜んでいただけて,そしてどんなにやりがいを感じることができる仕事だろうかと思うからです.また何より眼科の先生方が楽しそうに仕事をしていらっしゃるからです.仕事が好きで,仕事を楽しめたのならこんなに幸せなことはないと思います.学生のときからの印象ですが,母校の医局の雰囲気も理由の一つです.飲み会には大勢の先生方が来られますし,人格的に素晴らしい方ばかりで出席するのがいつも楽しみです.早く上の先生方と一緒に働ける日が来ればいい,と待ち遠しい思いです.医局にはインターナショナルな雰囲気もあり,外人の秘書さんがおられますし英語が堪能な先生も多く,英語が飛び交っていてすごく魅かれるのですが,僕は英語を話せないのですごく悲しい気分にもなります(笑).僕の眼科医としての目標ですが,オペが上手いと言われるような先生になることです.先生方がオペの話をされているとき,もしオペを独りでやっていたなら話に加わって教えを請えるのにと,まどろっこしい気持ちになります.目をドリルで突いた少年を失明から救った眼科医の話をテレビで見て,将来的には自分しかできないような手術ができるようになりたいと思うようになりました.そして,せっかく仕事をするからにはとことんまでやる仕事人間の眼科医になりたいと思っています.先生方が夜遅くまで病院で仕事をしておられる話を聞くと大変そうだなと思う反面,実は密かに心躍ってしまいます.「しばらく家に帰ってないぜ」などと自慢話をしたいものです.母校は世界トップレベルの再生医療をしていることで有名なので,再生医療に携われたらいつか新聞に載れることもあるかなと思っています.テレビに出ようとか,新聞に載ることは小学生の頃からの夢ですが,いつか実現させ,その夢を叶えたいと思っています.◎今回は京都府立医大出身の山本先生に登場していただきました.研修医が入局先を決める視点として,「医局の雰囲気」や「上の先生方の仕事への姿勢」が挙げられるのではないでしょうか.今後も津々浦々いろいろな大学の先生方の熱い想いをお待ちしています!(加藤)☆本シリーズ「研修医“初心”表明」では,眼科に熱い想いをもった研修医前期専攻医の先生の投稿を募集します!熱い想いを800字程度で読者の先生にアピールしてください!宛先は,《あたらしい眼科》「研修医“初心”表明」投稿として,下記のメールアドレス宛にお送りください.Email:hashi@medical-aoi.co.jp(73)研修医“初心”表明●シリーズ②眼科の将来を背負いたい!山本雄士(YujiYamamoto)公立南丹病院1982年生まれ,京都市出身.洛星中学・高校を経て京都府立医科大学を卒業.大学ではヨット部に所属していました.現在は京都府公立南丹病院で研修医をしています.(山本)編集責任加藤浩晃・木下茂・右下が部長の伴先生,右上が吉田先生,左下が内田先生,左上が山岸先生,真ん中が僕です.

私が思うこと9.私の大切なひとびと

2008年2月29日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008203私が思うこと●シリーズ⑨(69)山形に赴任して今年で早4年になりました.ようやく山形の気候風土や土地の雰囲気もわかってきて知れば知るほどこの土地が好きになってきました.凍結道路の運転には今でもまったく慣れませんが,四季折々のおいしいフルーツ,そばや漬物が私を楽しませてくれます.患者さんも饒舌ではないものの忍耐強く人間関係を大切にする人々なので,付き合えば付き合うほど味わいのある関係を築くことができます.以前,患者さんと接する時間が長かったときは,患者さんとのやりとりや患者さんの嬉しそうな顔が何よりの喜びでしたが,立場的に患者さんとの距離が開き患者さんの手を取って歩く時間が少なくなった今では,医局員や学生との交流が何よりの楽しみとなってまいりました.ここでは,毎日何となく感じているよもやまの思いを書き連ねてみたく思います.私の尊敬する人々と教育私はこれまで本当に素晴らしい指導者に恵まれてきました.疾患の病態のみならず,患者さん自身,ときには患者さんの立場や人生観までを考えて治療法を選択すること.おごることなく真摯に疾患と向き合うこと.これらのことは言葉で教えられたものではなく,私の尊敬する多くの師匠方がその背中で語ってくださったことばかりです.ある疾患と対峙するとき,私から多大な時間とエネルギーが奪われていきます.自分を見つめなおす時間や体力はもとより,ときには人間的な余裕すらなくなってしまいます.決して楽なものではありませんが,それが臨床であるのだろうと思います.私のこれからの仕事は,こうして教えていただいた臨床医としての姿勢を若い先生たちに伝えていくことだと思っています.わが医局にも,ありがたいことに元気のいい何人かの新人がいます.若いながらも真剣に医師としての将来のことを考えているようです.教えると目を輝かせて聞き,何でも意欲的に行動します.彼らが来て医局に活気があふれ,医局が元気になりました.また,私が疲れたときに元気を与えてくれるのが彼らであり,仕事の楽しみを与えてくれるのも彼らです.彼らと一緒に仕事をできる喜びをしっかりとかみしめ,彼らに与えてもらっているエネルギーに感謝して,わが教室がますます活気あふれる元気な医局になるようにと願っております.私を支えてくれるひとびと仲間,友人仲間は仕事を続けるうえで非常に大きな支えとなってくれます.特にそのなかでも友人は,診療で行き詰ったとき,心の底から愚痴を言いたいとき,思いっきり悔や0910-1810/08/\100/頁/JCLS山本禎子(TeikoYamamoto)山形大学医学部附属病院眼細胞工学講座山形に来て,食べ物やお酒の美味しさにはまり,ダイエットがまったく成功しない今日この頃です.(山本)私の大切なひとびと▲現在の当教室の手術仲間他のメンバーは残念ながら網膜剥離の手術中で一緒に写真に入れられませんでした.———————————————————————-Page2204あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008んでいるときになくてはならない存在となってくれます.さらに,私がこれまで経験したことのない症例に遭遇し,その手術を早急に行わなくてはならないときなどに,突然の電話に立腹しないばかりか,まるで自分のことのように経験談や注意点などを的確に短時間で教えてくれる友人のありがたさは,仕事上のみならず人生の宝物といっていいものです.完全に指導者に頼っていたときは,友人のありがたさに真の意味で気がついていなかったのかもしれません.立場が上になるにつれて,独りで悩み,独りで考える機会が増え,どうにもならないときに目の前の霧が晴れるような助言をしてくれる友人や,私のくだらない悩みにも耳を傾け,苦言や賛同を与えてくれる友人は私にとってかけがえのないものです.この場を借りて心からお礼を申し上げます.忘れ得ぬ患者さんたち私がまだ硝子体手術を習い始めた頃,心細さが患者さんにも伝わるのか,それでも患者さんが私を支えてくれた経験は今でも忘れられない思い出となっております.○一人はとても気っ風のいいおばあちゃん.増殖糖尿病網膜症でした.手術への不安(おばあちゃんのではなく私自身の)から,手術前夜まで手術の合併症から術後のうつ伏せ体位が苦しいことをくどくどと話し,さらに私の手術の練習台(今から思えばきっとおばあちゃんはその覚悟ができていたのだろうと思う)になっていただく申し訳なさでいっぱいで,一緒にいるときは必ず手を引いたり背中をなでたり,実の孫のように接していました.さて,手術の当日,手術台上に横たわるおばあちゃんに心のなかで最敬礼をし,いよいよ手術開始.ところが1時間くらい粘ってはみたものの,いよいよ途中でにっちもさっちもいかなくなり指導医の応援を頼むと,手術台上のおばあちゃんからの声.「もう,止めちゃうの?もっと先生独りで頑張りなさいよ」.思わず絶句.私の腕の未熟さも,心細さもすべて知っていて手術台に上がってくれたおばあちゃんでした.私の勉強のために大切な眼を差し出してくれたおばあちゃん.もう,このときから約10年以上の歳月が流れましたが,私のなかではかけがえのない思い出となっております.○もう一人は左官屋のおじいちゃん.再び,やったことのない手術に挑むことになった私.いつものように手術や合併症に関するきわめてくどい説明を終え,挙げ句の果てに,私が本手術に経験が浅いこと,場合によっては慣れた術式に変えることなどを話したところ,「でも,先生はいつかその手術を練習しなければならないんだろ?いつまでもできないってわけにいかないんだろ?だったらおれの眼で練習してみないか?」.後で聞いたところ,孫のように思えて,勉強させてやりたいと思ったと,打ち明けてくれました.思えば,どれもこれも,私が未熟であったために私の心細さや不安がすべて患者さんに伝わってしまったことから出てきた言葉のように思われます.心が寒くなるような医療訴訟が絶えない今日この頃,とかく患者さんと医療スタッフの間の溝が深くなりがちですが,今でも心の持ち方ひとつでこのような温かい患者さんとの関係を築くことができるのだと私は確信しています.○三人目は90歳の山形のおばあさん.私が山形に赴任して間もなく,ぶどう膜炎で定期通院中に見えなくなったといって受診し,たまたま暇だった私が診察したときから付き合いが始まりました.腰は90度に曲がり,顔には90年の歳月がそのまま刻み込まれているおばあさんでしたが,90歳とは思えない頭の回転の速さで,現役時代は学校の先生だったということがうなずける知性のある方でした.娘さんと息子さんが毎月交互に付き添って受診に来るのですが,受診のたびに「ずっと先生が診てね」,「おばあちゃんが人生を全うする日までずっと診ますよ」.この会話が毎回診察のたびに繰り返され,その関係が2年半続いた秋,あれほど正確だった受診予約の日におばあさんの姿が見られませんでした.いやな予感で気になっていたところ,私の外勤先で車椅子で運ばれてきたおばあさんに遭遇.話を聞くと,がんの治療で最近入院したが,私が来ることを聞きつけてやってきたとのこと.「まだまだ,見届けたいものや聞いておきたいものが山ほどあるのにこんな身体になっちゃて…」とはらはら大粒の涙をこぼす小さな皺だらけの顔を見ながら,その枯れ枝のような手を握りしめて思わず私ももらい泣き.しかし,外来に姿を現してくれたのもその日が最後でした.ある日,家族が来院し,おばあさんの遺品を持ってきました.渡された水彩画には,きれいなブドウの絵と私への感謝の言葉がふるえる毛筆で記されてありました.そして,色紙の裏には「91歳の母をこれまでありがとうございました」と家族の言葉が添えられてありました.今でもこの絵は私の仕事部屋を飾ってくれています.(70)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008205(71)私は,医者になったお陰できらきら輝く宝石のような思い出をたくさん作ることができました.これからもたくさん素敵な思い出をつくり,人生を輝く宝石でいっぱいにしたいと思います.山本子(ていこ・やまもと)1984年杏林大学医学部卒業東京大学医学部眼科入局1985年東京大学医学部眼科助手1990年東京厚生年金病院眼科医長1998年東邦大学佐倉病院眼科講師2004年山形大学医学部付属病院眼細胞工学講座准教授現在に至る☆☆☆新糖尿病眼科学一日一から7年,糖尿病の治療,眼合併症の診,治療の歩にい,の行(東京女子医科大学教授)・山下英俊(山形大学教授)・加藤聡(東京大学講師)本書の初版が出版されて7年余がたった.この間に糖尿病自体の治療や合併症の診断と治療が大きく変遷し進歩した.ことに糖尿病網膜症と糖尿病黄斑浮腫の発症と進展に関与するサイトカインの研究が進展し,病態の解明が大きく前進した.これを踏まえて,発症と進展に関与する薬物療法の可能性を追求する臨床試験が進んでいる.一方で,視機能,ことに視力低下に直接つながる糖尿病黄斑浮腫の治療は,現時点で最も論議が活発な病態となっている.硝子体手術やステロイド薬の投与の適応と効果について,初版が出版された頃に比べると大きく見解が変化している.そして,糖尿病黄斑浮腫の診断に大きな効果を発揮する画像診断装置が普及した.(序文より)〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替00100-5-69315電話(03)3811-0544メディカル葵出版株式会社Ⅰ糖尿病の病態と疫学Ⅱ糖尿病網膜症の病態と診断Ⅲ網膜症の補助診断法Ⅳ糖尿病網膜症の病期分類Ⅴ糖尿病網膜症の治療Ⅵ糖尿病黄斑症Ⅶ糖尿病と白内障Ⅷその他の糖尿病眼合併症Ⅸ網膜症と関連疾患Ⅹ糖尿病網膜症による中途失明糖尿病眼科における看護Ⅸ■内容目次■B5型総224頁写真・図・表多数収載定価9,660円(本体9,200円+税460円)▲私をとりこにする山形の美味しいものたち

硝子体手術のワンポイントアドバイス57.Tenon嚢下麻酔による脈絡膜皺襞(初級編)

2008年2月29日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.2,20082010910-1810/08/\100/頁/JCLSはじめに網膜硝子体手術ではしばしば手術時間が長くなるため,疼痛緩和のために術中にTenon下麻酔を追加することがある.このとき,注入した麻酔液によって眼球壁が圧排されて,脈絡膜皺襞をきたすことがある.絡膜皺襞の原因筆者らは過去に術中のTenon下麻酔の追加により,著明な脈絡膜皺襞をきたした4例を報告した1).いずれの症例も,球後麻酔を施行した後,術中にTenon下麻酔を追加した症例である(図1).4例に共通した特徴としては,瞼裂が狭いこと,眼軸が短いことがあげられる.このような症例では,球後麻酔を施行した時点ですでに眼窩内圧が上昇していることが多く,その後のTenon下麻酔の追加により,より眼球への圧迫が強くなった可能性が考えられる(図2).手術中に生じる脈絡膜皺襞の原因として,術中低眼圧,駆逐性出血,球後出血などが考えられるが,術中低眼圧を除けば,いずれもまれな合併症である.図1の症例は球後麻酔を約4ml注射し,その後にTenon下麻酔を約2~3ml追加している.この注入量はやや多いものの,通常の硝子体手術時に使用する麻酔量を大きく超過しているとはいえず,通常のTenon下麻酔によっても脈絡膜皺襞を生じる可能性があると考えられる.図1の症例も眼軸長がやや短い傾向にあり,このような症例では眼窩容積が通常より小さい可能性がある.中操作にける注意点筆者らが報告した4例では脈絡膜皺襞による術後視力への悪影響はみられなかった.しかし,本合併症をきたすと術中の操作が通常よりも困難となるので注意が必要である.黄斑円孔症例では内境界膜離は施行可能であるが,増殖糖尿病網膜症で複雑な増殖膜処理が必要な症(67)例では,手術の続行が困難になる可能性も考えられる.合併症の予眼軸が短く眼窩容積が少ないと予測される症例では,眼窩内圧を上昇させないように,球後麻酔やTenon下麻酔の液量を極力少なくする必要がある.また,今回の球後麻酔による鎮痛効果が十分に得られなかったためにTenon下麻酔を追加したが,初回の球後麻酔の技量を向上させることに加えて,最初からTenon下麻酔で手術を開始するなど臨機応変な対応が必要である.文献1)中泉敦子,南政宏,佐藤孝樹ほか:硝子体手術中のTenon麻酔追加によって脈絡膜皺襞を生じた4症例.眼科手術20:541-544,2007硝子体手術の●連載Tenon下麻酔による脈絡膜皺襞(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図1硝子体術中所見眼底は全象限に著明な脈絡膜皺襞を認め,皺襞は黄斑部にも及んでいた.2脈絡膜皺襞の発生機序Tenon下麻酔追加により眼窩内圧が上昇し,眼球が外側より圧迫され脈絡膜皺襞を生じたと考えられる.