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新しい治療と検査シリーズ169.OCT-ophthalmoscope

2007年2月28日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS度は最大6mmまで可能であるので,ある程度の大きさの病変にも対応可能である.撮影途中にはB-scanへの切り替えもできる.眼底写真上の赤のラインを動かすことで,撮影部位を任意に選択できる.撮影結果はB-scan,C-scanともにグレースケールと擬似カラーで表示することができる.C-scan像はSLO像とoverlayすることが可能で,病変の正確な位置,大きさ,範囲の判定が容易にできる.網膜厚の測定や3D立体画像の構築も内蔵ソフトで可能である(図1).ただし,B-scan像はC-scan像を元に構築されるため,時間が多少必要となり,固視不良例では鮮明な画像を得るのがむずかしい場合がある.また,この装置はGull-strand模型眼を元に製作されているため,強度近視眼などの眼軸長が極端に長い場合には鮮明なOCT像を得るのにある程度の技術の習熟が必要である.?本方法の良い点OCT-ophthalmoscopeは,従来のOCTでは不可能であった網脈絡膜の断面画像(C-scan)が得られるのが一番の利点である.つまり,眼底写真同様の平面的な病変新しい治療と検査シリーズ(67)?バックグラウンド黄斑部疾患をはじめとする網脈絡膜疾患では立体的な観察が必須であるが,opticalcoherencetomography(OCT)の開発により詳細な断層像(B-scan)が得られ診断が容易になった.このOCT-ophthalmoscopeではさらに断面画像(C-scan)の撮影が可能となり,三次元的に病変を観察することで,病変の大きさ,位置,形状などの把握がより容易にできるようになった.?新しい検査法(原理)従来のOCTと同様にスーパールミネッセンスダイオード(SLD)光源を用い,参照光と測定光の干渉現象を利用して画像を構築する.さらに従来のOCTと異なり,測定光路内にガルバノミラーを挿入することで,網膜内のある点と等光路面上を高速にスキャンすることが可能となっている.まず横方向にスキャンし平面での情報を得た後,リファレンスミラーを動かすことで奥行き方向の情報を得られる.この方法を用いることで,従来の断層像(B-scan)のみならず任意の深さの断面画像(C-scan)が撮影可能となった.また,OCT測定光軸と同一光軸の走査型レーザー検眼鏡(SLO)画像も同時に得られるため,鮮明な眼底像を確認しながら測定でき,かつ撮影箇所を任意に選択できる.?実際の使用方法─治療,検査法の実際のやり方撮影は無散瞳でも可能であるが,通常は散瞳下に行う.まず,前眼部観察用モニターで撮影眼の瞳孔中心が光軸にくるように位置を調節する.つぎに,患者に内部固視標を固視させ,撮影したい場所を画面左側の眼底画像に表示させるように誘導する.撮影モードを選択し,撮影を開始する.深度を調整することで,画面右側にC-scan像が現れる.深度の調節は手動でも自動でも可能である.測定深169.OCT-ophthalmoscopeプレゼンテーション:佐柳香織大阪大学大学院医学研究科視覚病態学コメント:飯田知弘福島県立医科大学医学部眼科学講座図1OCT-ophthalmoscopeで構築した3D立体画像B-scan,C-scan像と同様にグレースケールと擬似カラーを任意に選択できる.網膜厚の測定も可能である.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007観察が可能となり,病変の正確な位置判定のみならず微小視野計などの他の検査との対比が行いやすい.また,3D画像を比較的容易に作成することができるので,病変を立体的に把握することも可能である.自験例でこのOCT-ophthalmoscopeが有用であった例としては,強度近視眼の後部ぶどう腫部における網膜微小皺襞があげられる1,2).SLOによる眼底像とC-scan像を撮影,重ね合わせを行うことによって,この皺襞が網膜動脈の走行と一致することが判明した(図2).つまりこの網膜皺襞は,動脈硬化で伸展性が低下した血管が,眼軸長延長に伴う眼球の変化に対応できずに網膜を吊り上げることによって形成されると推察される.また,中心性漿液性網脈絡膜症では,C-scan像で漿液性網膜?離や網膜色素上皮の変化が鮮明に観察され,この部位が蛍光造影撮影における蛍光漏出点と一致することがわかった.したがって,この機械を用いることで非侵襲的に漏出点の同定が行えるのみならず,B-scan像を用いることで従来の網膜断層像による形態学的評価も可能である3).文献1)IkunoY,GomiF,TanoY:Potentretinalarteriolartrac-tionasapossiblecauseofmyopicfoveoschisis.????????????????139:462-467,20052)SayanagiK,IkunoY,GomiFetal:Retinalvascularmicrofoldsinhighlymyopiceyes.???????????????139:658-663,20053)MitaraiK,GomiF,TanoY:Three-dimensionalopticalcoherencetomographic?ndingsincentralserouschorio-retinopathy.????????????????????????????????244:1415-1420,2006(68)?本方法に対するコメント?OCT-ophthalmoscopeでは,本文に述べられているようにB-scanだけでなくC-scan画像が得られ,三次元的に病変を把握することができる.しかし,かなり自動化されているOCT3と比べると画像の取得には慣れが必要である.OCT-ophthal-moscopeの機能を十分発揮するには,検者は限定される.多くの検査機器に共通することではあるが,見たい病変部位のOCT像を得るには,やはり,その眼科医自身が検者になる必要がある.また,C-scan画像の読影には多少の経験が必要となる.これらの欠点はあるものの,本装置には大きなメリットがある.それは,従来機種に比べ高解像度のB-scan画像が得られることと,OCT画像がSLO画像と1対1で対応しているので病変の正確な位置を把握できることである.解像度が良いので,網膜の層構造や視細胞内節外節の境界部(IS/OS)が観察できる.IS/OSの変化は視機能に影響するとされる.形態的変化と機能的変化の関係をみていくうえで,有用な検査機器であると考える.図2強度近視眼における網膜微小皺襞a:左がSLOによる眼底像,右がC-scan像である.黄色矢印が網膜血管を,白矢印が微小皺襞部を示している.b:aの眼底像とC-scan像をoverlayしたものである.図にあるよう微小皺襞部と網膜血管の走行は一致し,皺襞が網膜血管の牽引によって形成された可能性を示唆している.ab

眼感染症:グラム染色の効用-眼科医の眼・検査室の眼-

2007年2月28日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS■臨床と検査の連携眼科医による初診時臨床診断≪眼科医の眼≫は,患者の主訴,基礎疾患,既往歴などに基づく視診(肉眼観察と顕微鏡観察)で決定される.その眼は,眼瞼炎,涙?炎,結膜炎,角膜炎,虹彩炎,網膜炎などの特徴を捉え,さらに細菌性,真菌性,ウイルス性を推察し,加えて特定微生物をも見据えることができる.つぎは,確定診断のための精密検査を企画実行し,経験的治療を開始することになるが,この時点で有用となるのが鏡検法であり,眼科医の眼から検査室の眼に判断を委ねることになる.依頼を受ける検査室としては,適正に採取された材料であることを望み,可能な限りの患者情報や検査目的を詳細に入手することが大切となる.これは,臨床医からの情報に基づいて検査法の選別追加,培養方法(検体希釈,培地選択)や培養時間の延長,鏡検成績と培養成績の矛盾判断,汚染菌と病原性菌の鑑別に役立てるためである.これらの情報を基にグラム染色を中心とした各種鏡検法が遂行され,≪検査の眼≫による分析と特定微生物の推定を速やかに臨床医に報告する.成績の伝達に際しては推定微生物名称のみならず,その微生物に関する病原的意義や抗菌薬情報(耐性度など)などの付加価値を伝えることも大切である.大手前病院では,特殊検査や臨床医の要請に応じ技師が眼科診察の現場に出向し,材料採取に立会うとともに,直接医師からの情報(患者状態や目的など)を取得し,その意思≪眼科医の眼≫を念頭に迅速検査を行い,リアルタイムで成績≪検査の眼≫を報告している.■鏡検法迅速検査の実例1.?????????????????????感染症例患者は25歳,女性.眼瞼腫脹,結膜浮腫,疼痛にて来院.眼科医の眼:大量の膿性眼脂,膿漏眼(眼瞼からあふれる,図1)を認め,淋疾患を疑う.ただちに検査室に状態を伝え,材料採取とグラム染色を依頼.検査室の眼:膿性分泌物を採取し,その場で塗抹標本を作製.検査室に持ち帰りグラム染色鏡検した(培養も実施).その結果,炎症細胞(白血球)に貪食されたグラム陰性双球菌を認め(図2),臨床医の推察どおり???(63)45.グラム染色の効用─眼科医の眼・検査室の眼─眼感染症セミナー─クライシスコントロール講座─●連載?監修=浅利誠志井上幸次大橋裕一山中喜代治大手前病院臨床検査部眼科領域におけるpointofcaretesting(POCT)技術は免疫学,分子生物学手法を中心に浸透しているが,最も経済的で迅速性を発揮できるのは鏡検法であり,なかでもグラム染色検査は群を抜いた迅速検査の一つである.ここでは,眼感染症における鏡検法の効用について概説し,グラム染色については従来のHucker変法に代わるB&M(Bartholomew&Mittwer)法について紹介した.図1??????????????による結膜炎膿漏眼(眼瞼からあふれる膿).図2膿漏眼分泌物のグラム染色??????????????を推定.図3角膜擦過物の生標本アカントアメーバシストを確認.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???????????を推定し,最近分離される??????????????の多くがキノロン耐性であることを含め,臨床に報告した.2.アカントアメーバ角膜炎症例患者は29歳,男性.異物感と充血,疼痛にて来院,コンタクトレンズ使用.眼科医の眼:斑状混濁が散発,前房蓄膿,無菌性眼内炎を疑い,アカントアメーバ検査を目的に検査室に連絡.検査室の眼:診療現場に赴き,採取した角膜擦過物をその場でスライドグラス数枚および専用培地に塗布.検査室では無染色標本を観察し,アカントアメーバシスト(図3)および微動の栄養型を認めた.さらにファンギフローラY染色にて明るい蛍光を発するシスト(図4)を確認し,臨床医の眼による診断に間違いないことを伝えた.また,これまでの実験1)にて確認したアカントアメーバに対する薬剤効果成績(ジフルカン,フロリード,ファンギゾンは耐性傾向にありピマリシンが有効)も伝えた.(64)←図7a角膜潰瘍擦過物のグラム染色neo-B&M法????????????????????????を推定.→図7b角膜潰瘍擦過物のグラム染色Hucker変法?????????????を推定.図4角膜擦過物のファンギフローラ染色蛍光を発するアカントアメーバシスト.図6a眼瞼膿瘍(結膜炎)のグラム染色neo-B&M法??????????????を推定.図6b眼瞼膿瘍(結膜炎)のグラム染色Hucker変法??????????????を推定.図5グラム染色neo-B&Mワコーの染色手順1.材料の塗抹2.メタノール固定4.ヨウ素水酸化ナトリウム溶液を作用5.アセトンアルコールで脱色7.100倍率1,000倍率で鏡検3.調整クリスタルバイオレットで前染色6.パイフェル液で後染色乾燥1分≪通常はガラス瓶に満たしたアルコールに浸し固定する≫水洗30秒≪水洗を省略し続けてヨウ素液を満載することもできる≫水洗30秒≪1NNaOH調整ヨウ素液を作用させ,十分水洗する≫水洗数秒≪漿液性材料はアルコールのみで十分.濃厚材料はアセトンアルコールを用いる≫水洗数秒≪100400倍率は乾燥系,1,000倍率は油浸系レンズで鏡検≫乾燥≪脱脂スライドグラスを使用≫≪瞬間の染色時間で十分であり,しっかり洗浄し,乾燥させる≫———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???■グラム染色検査最も手軽で迅速なグラム染色であるが,手技手法によっては熟練を要し,鏡検時に苦慮する場合も少なくない.筆者らは,古くから知られるHucker変法に代わり,特別な訓練なしでグラム陽性,陰性が判別しやすいグラム染色B&M(Bartholomew&Mittwer)変法2)『neo-B&Mワコー(和光純薬)』を開発した(図5).このneo-B&Mは,染色時間や手技を無造作に行っても良好な染色像が得られ,Hucker変法のようにグラム陽性菌が薄い陽性色または陰性に染まるような傾向は見られない.両染色法の比較を図6a,bおよび図7a,bに紹介する.文献1)奥村真理子,藤本雅彦,原田純ほか:薬剤感受性試験の結果が治療に有効であったアカントアメーバ角膜炎の1例.眼紀55:301-305,20042)山中喜代治:グラム染色“Bartholomew&Mittwer”を試そう.日臨微生物誌3:21-26,1993(65)☆☆☆◎検査室から眼科医へ◎臨床医が微生物検査を依頼するときのターゲットの絞り方のポイントは?◎眼科医から検査室へ◎眼科医が感染を疑った場合は,まず,細菌・ウイルス・真菌・原虫のいずれであるかを考えます.基本的には進行が速くて好中球が多いことを示す所見なら(結膜炎なら粘液膿性眼脂,角膜炎なら濃厚な混濁)細菌を,進行が速くてリンパ球が多いことを示す所見なら(結膜炎なら漿液線維素性眼脂,角膜炎なら淡い混濁)ウイルスを,進行が遅ければ真菌や原虫を考えます.あとはそのなかでさらに菌種を絞りますが,よほど特徴的な所見のもの(本文中にある淋菌性結膜炎やアカントアメーバ角膜炎,あるいは緑膿菌による輪状角膜潰瘍など)や特定の患者背景と結びついたもの(アトピー性皮膚炎患者に黄色ブドウ球菌感染が多いなど)以外は絞りきれずに,検査室にお願いする場合のほうが多いように思います.鳥取大学医学部視覚病態学井上幸次

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS■臨床と検査の連携眼科医による初診時臨床診断≪眼科医の眼≫は,患者の主訴,基礎疾患,既往歴などに基づく視診(肉眼観察と顕微鏡観察)で決定される.その眼は,眼瞼炎,涙?炎,結膜炎,角膜炎,虹彩炎,網膜炎などの特徴を捉え,さらに細菌性,真菌性,ウイルス性を推察し,加えて特定微生物をも見据えることができる.つぎは,確定診断のための精密検査を企画実行し,経験的治療を開始することになるが,この時点で有用となるのが鏡検法であり,眼科医の眼から検査室の眼に判断を委ねることになる.依頼を受ける検査室としては,適正に採取された材料であることを望み,可能な限りの患者情報や検査目的を詳細に入手することが大切となる.これは,臨床医からの情報に基づいて検査法の選別追加,培養方法(検体希釈,培地選択)や培養時間の延長,鏡検成績と培養成績の矛盾判断,汚染菌と病原性菌の鑑別に役立てるためである.これらの情報を基にグラム染色を中心とした各種鏡検法が遂行され,≪検査の眼≫による分析と特定微生物の推定を速やかに臨床医に報告する.成績の伝達に際しては推定微生物名称のみならず,その微生物に関する病原的意義や抗菌薬情報(耐性度など)などの付加価値を伝えることも大切である.大手前病院では,特殊検査や臨床医の要請に応じ技師が眼科診察の現場に出向し,材料採取に立会うとともに,直接医師からの情報(患者状態や目的など)を取得し,その意思≪眼科医の眼≫を念頭に迅速検査を行い,リアルタイムで成績≪検査の眼≫を報告している.■鏡検法迅速検査の実例1.?????????????????????感染症例患者は25歳,女性.眼瞼腫脹,結膜浮腫,疼痛にて来院.眼科医の眼:大量の膿性眼脂,膿漏眼(眼瞼からあふれる,図1)を認め,淋疾患を疑う.ただちに検査室に状態を伝え,材料採取とグラム染色を依頼.検査室の眼:膿性分泌物を採取し,その場で塗抹標本を作製.検査室に持ち帰りグラム染色鏡検した(培養も実施).その結果,炎症細胞(白血球)に貪食されたグラム陰性双球菌を認め(図2),臨床医の推察どおり???(63)45.グラム染色の効用─眼科医の眼・検査室の眼─眼感染症セミナー─クライシスコントロール講座─●連載?監修=浅利誠志井上幸次大橋裕一山中喜代治大手前病院臨床検査部眼科領域におけるpointofcaretesting(POCT)技術は免疫学,分子生物学手法を中心に浸透しているが,最も経済的で迅速性を発揮できるのは鏡検法であり,なかでもグラム染色検査は群を抜いた迅速検査の一つである.ここでは,眼感染症における鏡検法の効用について概説し,グラム染色については従来のHucker変法に代わるB&M(Bartholomew&Mittwer)法について紹介した.図1??????????????による結膜炎膿漏眼(眼瞼からあふれる膿).図2膿漏眼分泌物のグラム染色??????????????を推定.図3角膜擦過物の生標本アカントアメーバシストを確認.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???????????を推定し,最近分離される??????????????の多くがキノロン耐性であることを含め,臨床に報告した.2.アカントアメーバ角膜炎症例患者は29歳,男性.異物感と充血,疼痛にて来院,コンタクトレンズ使用.眼科医の眼:斑状混濁が散発,前房蓄膿,無菌性眼内炎を疑い,アカントアメーバ検査を目的に検査室に連絡.検査室の眼:診療現場に赴き,採取した角膜擦過物をその場でスライドグラス数枚および専用培地に塗布.検査室では無染色標本を観察し,アカントアメーバシスト(図3)および微動の栄養型を認めた.さらにファンギフローラY染色にて明るい蛍光を発するシスト(図4)を確認し,臨床医の眼による診断に間違いないことを伝えた.また,これまでの実験1)にて確認したアカントアメーバに対する薬剤効果成績(ジフルカン,フロリード,ファンギゾンは耐性傾向にありピマリシンが有効)も伝えた.(64)←図7a角膜潰瘍擦過物のグラム染色neo-B&M法????????????????????????を推定.→図7b角膜潰瘍擦過物のグラム染色Hucker変法?????????????を推定.図4角膜擦過物のファンギフローラ染色蛍光を発するアカントアメーバシスト.図6a眼瞼膿瘍(結膜炎)のグラム染色neo-B&M法??????????????を推定.図6b眼瞼膿瘍(結膜炎)のグラム染色Hucker変法??????????????を推定.図5グラム染色neo-B&Mワコーの染色手順1.材料の塗抹2.メタノール固定4.ヨウ素水酸化ナトリウム溶液を作用5.アセトンアルコールで脱色7.100倍率1,000倍率で鏡検3.調整クリスタルバイオレットで前染色6.パイフェル液で後染色乾燥1分≪通常はガラス瓶に満たしたアルコールに浸し固定する≫水洗30秒≪水洗を省略し続けてヨウ素液を満載することもできる≫水洗30秒≪1NNaOH調整ヨウ素液を作用させ,十分水洗する≫水洗数秒≪漿液性材料はアルコールのみで十分.濃厚材料はアセトンアルコールを用いる≫水洗数秒≪100400倍率は乾燥系,1,000倍率は油浸系レンズで鏡検≫乾燥≪脱脂スライドグラスを使用≫≪瞬間の染色時間で十分であり,しっかり洗浄し,乾燥させる≫———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???■グラム染色検査最も手軽で迅速なグラム染色であるが,手技手法によっては熟練を要し,鏡検時に苦慮する場合も少なくない.筆者らは,古くから知られるHucker変法に代わり,特別な訓練なしでグラム陽性,陰性が判別しやすいグラム染色B&M(Bartholomew&Mittwer)変法2)『neo-B&Mワコー(和光純薬)』を開発した(図5).このneo-B&Mは,染色時間や手技を無造作に行っても良好な染色像が得られ,Hucker変法のようにグラム陽性菌が薄い陽性色または陰性に染まるような傾向は見られない.両染色法の比較を図6a,bおよび図7a,bに紹介する.文献1)奥村真理子,藤本雅彦,原田純ほか:薬剤感受性試験の結果が治療に有効であったアカントアメーバ角膜炎の1例.眼紀55:301-305,20042)山中喜代治:グラム染色“Bartholomew&Mittwer”を試そう.日臨微生物誌3:21-26,1993(65)☆☆☆◎検査室から眼科医へ◎臨床医が微生物検査を依頼するときのターゲットの絞り方のポイントは?◎眼科医から検査室へ◎眼科医が感染を疑った場合は,まず,細菌・ウイルス・真菌・原虫のいずれであるかを考えます.基本的には進行が速くて好中球が多いことを示す所見なら(結膜炎なら粘液膿性眼脂,角膜炎なら濃厚な混濁)細菌を,進行が速くてリンパ球が多いことを示す所見なら(結膜炎なら漿液線維素性眼脂,角膜炎なら淡い混濁)ウイルスを,進行が遅ければ真菌や原虫を考えます.あとはそのなかでさらに菌種を絞りますが,よほど特徴的な所見のもの(本文中にある淋菌性結膜炎やアカントアメーバ角膜炎,あるいは緑膿菌による輪状角膜潰瘍など)や特定の患者背景と結びついたもの(アトピー性皮膚炎患者に黄色ブドウ球菌感染が多いなど)以外は絞りきれずに,検査室にお願いする場合のほうが多いように思います.鳥取大学医学部視覚病態学井上幸次———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS■臨床と検査の連携眼科医による初診時臨床診断≪眼科医の眼≫は,患者の主訴,基礎疾患,既往歴などに基づく視診(肉眼観察と顕微鏡観察)で決定される.その眼は,眼瞼炎,涙?炎,結膜炎,角膜炎,虹彩炎,網膜炎などの特徴を捉え,さらに細菌性,真菌性,ウイルス性を推察し,加えて特定微生物をも見据えることができる.つぎは,確定診断のための精密検査を企画実行し,経験的治療を開始することになるが,この時点で有用となるのが鏡検法であり,眼科医の眼から検査室の眼に判断を委ねることになる.依頼を受ける検査室としては,適正に採取された材料であることを望み,可能な限りの患者情報や検査目的を詳細に入手することが大切となる.これは,臨床医からの情報に基づいて検査法の選別追加,培養方法(検体希釈,培地選択)や培養時間の延長,鏡検成績と培養成績の矛盾判断,汚染菌と病原性菌の鑑別に役立てるためである.これらの情報を基にグラム染色を中心とした各種鏡検法が遂行され,≪検査の眼≫による分析と特定微生物の推定を速やかに臨床医に報告する.成績の伝達に際しては推定微生物名称のみならず,その微生物に関する病原的意義や抗菌薬情報(耐性度など)などの付加価値を伝えることも大切である.大手前病院では,特殊検査や臨床医の要請に応じ技師が眼科診察の現場に出向し,材料採取に立会うとともに,直接医師からの情報(患者状態や目的など)を取得し,その意思≪眼科医の眼≫を念頭に迅速検査を行い,リアルタイムで成績≪検査の眼≫を報告している.■鏡検法迅速検査の実例1.?????????????????????感染症例患者は25歳,女性.眼瞼腫脹,結膜浮腫,疼痛にて来院.眼科医の眼:大量の膿性眼脂,膿漏眼(眼瞼からあふれる,図1)を認め,淋疾患を疑う.ただちに検査室に状態を伝え,材料採取とグラム染色を依頼.検査室の眼:膿性分泌物を採取し,その場で塗抹標本を作製.検査室に持ち帰りグラム染色鏡検した(培養も実施).その結果,炎症細胞(白血球)に貪食されたグラム陰性双球菌を認め(図2),臨床医の推察どおり???(63)45.グラム染色の効用─眼科医の眼・検査室の眼─眼感染症セミナー─クライシスコントロール講座─●連載?監修=浅利誠志井上幸次大橋裕一山中喜代治大手前病院臨床検査部眼科領域におけるpointofcaretesting(POCT)技術は免疫学,分子生物学手法を中心に浸透しているが,最も経済的で迅速性を発揮できるのは鏡検法であり,なかでもグラム染色検査は群を抜いた迅速検査の一つである.ここでは,眼感染症における鏡検法の効用について概説し,グラム染色については従来のHucker変法に代わるB&M(Bartholomew&Mittwer)法について紹介した.図1??????????????による結膜炎膿漏眼(眼瞼からあふれる膿).図2膿漏眼分泌物のグラム染色??????????????を推定.図3角膜擦過物の生標本アカントアメーバシストを確認.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???????????を推定し,最近分離される??????????????の多くがキノロン耐性であることを含め,臨床に報告した.2.アカントアメーバ角膜炎症例患者は29歳,男性.異物感と充血,疼痛にて来院,コンタクトレンズ使用.眼科医の眼:斑状混濁が散発,前房蓄膿,無菌性眼内炎を疑い,アカントアメーバ検査を目的に検査室に連絡.検査室の眼:診療現場に赴き,採取した角膜擦過物をその場でスライドグラス数枚および専用培地に塗布.検査室では無染色標本を観察し,アカントアメーバシスト(図3)および微動の栄養型を認めた.さらにファンギフローラY染色にて明るい蛍光を発するシスト(図4)を確認し,臨床医の眼による診断に間違いないことを伝えた.また,これまでの実験1)にて確認したアカントアメーバに対する薬剤効果成績(ジフルカン,フロリード,ファンギゾンは耐性傾向にありピマリシンが有効)も伝えた.(64)←図7a角膜潰瘍擦過物のグラム染色neo-B&M法????????????????????????を推定.→図7b角膜潰瘍擦過物のグラム染色Hucker変法?????????????を推定.図4角膜擦過物のファンギフローラ染色蛍光を発するアカントアメーバシスト.図6a眼瞼膿瘍(結膜炎)のグラム染色neo-B&M法??????????????を推定.図6b眼瞼膿瘍(結膜炎)のグラム染色Hucker変法??????????????を推定.図5グラム染色neo-B&Mワコーの染色手順1.材料の塗抹2.メタノール固定4.ヨウ素水酸化ナトリウム溶液を作用5.アセトンアルコールで脱色7.100倍率1,000倍率で鏡検3.調整クリスタルバイオレットで前染色6.パイフェル液で後染色乾燥1分≪通常はガラス瓶に満たしたアルコールに浸し固定する≫水洗30秒≪水洗を省略し続けてヨウ素液を満載することもできる≫水洗30秒≪1NNaOH調整ヨウ素液を作用させ,十分水洗する≫水洗数秒≪漿液性材料はアルコールのみで十分.濃厚材料はアセトンアルコールを用いる≫水洗数秒≪100400倍率は乾燥系,1,000倍率は油浸系レンズで鏡検≫乾燥≪脱脂スライドグラスを使用≫≪瞬間の染色時間で十分であり,しっかり洗浄し,乾燥させる≫———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???■グラム染色検査最も手軽で迅速なグラム染色であるが,手技手法によっては熟練を要し,鏡検時に苦慮する場合も少なくない.筆者らは,古くから知られるHucker変法に代わり,特別な訓練なしでグラム陽性,陰性が判別しやすいグラム染色B&M(Bartholomew&Mittwer)変法2)『neo-B&Mワコー(和光純薬)』を開発した(図5).このneo-B&Mは,染色時間や手技を無造作に行っても良好な染色像が得られ,Hucker変法のようにグラム陽性菌が薄い陽性色または陰性に染まるような傾向は見られない.両染色法の比較を図6a,bおよび図7a,bに紹介する.文献1)奥村真理子,藤本雅彦,原田純ほか:薬剤感受性試験の結果が治療に有効であったアカントアメーバ角膜炎の1例.眼紀55:301-305,20042)山中喜代治:グラム染色“Bartholomew&Mittwer”を試そう.日臨微生物誌3:21-26,1993(65)☆☆☆◎検査室から眼科医へ◎臨床医が微生物検査を依頼するときのターゲットの絞り方のポイントは?◎眼科医から検査室へ◎眼科医が感染を疑った場合は,まず,細菌・ウイルス・真菌・原虫のいずれであるかを考えます.基本的には進行が速くて好中球が多いことを示す所見なら(結膜炎なら粘液膿性眼脂,角膜炎なら濃厚な混濁)細菌を,進行が速くてリンパ球が多いことを示す所見なら(結膜炎なら漿液線維素性眼脂,角膜炎なら淡い混濁)ウイルスを,進行が遅ければ真菌や原虫を考えます.あとはそのなかでさらに菌種を絞りますが,よほど特徴的な所見のもの(本文中にある淋菌性結膜炎やアカントアメーバ角膜炎,あるいは緑膿菌による輪状角膜潰瘍など)や特定の患者背景と結びついたもの(アトピー性皮膚炎患者に黄色ブドウ球菌感染が多いなど)以外は絞りきれずに,検査室にお願いする場合のほうが多いように思います.鳥取大学医学部視覚病態学井上幸次

光線力学的療法(PDT):光線力学的療法の方法

2007年2月28日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS本稿では,加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegen-eration:AMD)に対する光線力学的療法(photody-namictherapy:PDT)の実際の方法について述べる.●PDTを行う前にPDTを行う前にはPDT認定医の資格をもった眼科専門医,ツァイス社製ビズラスPDTシステム690S(図1),レーザー用のコンタクトレンズ,ノバルティスファーマ社ベルテポルフィン(ビスダイン?),ビスダイン?静注用の薬品・物品が必要である.PDTに必要な器具を図2に示す.PDT認定医資格取得については「眼科PDT研究会」のウェブサイト1)に説明されているので詳細は割愛させていただくが,資格取得には講習会を受講して試験に合格する必要がある.コンタクトレンズは通常の網膜光凝固の際に使用するレンズで構わないが,低倍率,高倍率両方のレンズが準備できることが望ましい(理由は後述する).また,初回治療後は48時間の入院が義務づけられているため,遮光の可能な入院施設であることが施設要件となる.●PDT治療の流れPDT適応患者へのインフォームド・コンセント/同意取得・術前検査を治療前に行い,治療当日はベルテポルフィンの投与,その後レーザー照射という2ステップで治療が行われる.治療後は経過観察を行い,3カ月ごとに再治療の要否を決定するというのが大まかな流れである.(61)野田佳宏九州大学大学院医学研究院眼科学分野光線力学的療法(PDT)セミナー監修/石橋達朗湯沢美都子5.光線力学的療法の方法光線力学的療法(PDT)を行うにはPDT認定医,専用レーザー機器,薬剤が必要である.治療前には蛍光眼底造影を行い,レーザー照射サイズの決定と,身長・体重から薬剤投与量を算出しておく.治療は薬剤投与・レーザー照射の2段階で行われる.治療時には薬剤の血管外漏出に注意する.治療後は光線過敏症対策が必要で,初回治療後48時間までは入院しなければならない.その後は3カ月ごとに再治療の要否を決定していく.提供図2PDTに必要な器具①:シリンジポンプ,②:30m?シリンジ,③:10m?シリンジ,④:18ゲージ針,⑤:静脈内留置針,⑥:Y字チューブ,ラインフィルター,三方活栓のセット,⑦:延長チューブ,⑧:留置針接続チューブ(静脈確保から治療まで時間が空く場合にヘパリンと同時に使用),⑨:輸液セット(ブドウ糖液と接続),⑩:レーザー用コンタクトレンズ,⑪:⑥⑦⑨をつないだもの.図1ビズラスPDTシステム690S写真は細隙灯顕微鏡SL130に装着されたビズラスPDTシステム690S.日本で薬事承認された唯一のPDT専用レーザー機器である.レーザー波長は689nm(±3nm)に固定されている.(ツァイス社カタログより許可を得て転載)———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.2,20071.インフォームド・コンセント/同意取得PDTは視力維持が目的であるが視力低下することもあること,網膜下出血などの副作用についても説明する.2.術前検査フルオレセイン眼底造影検査(FA),身長・体重計測は必須の検査である.FAの結果から病変の最大直径(greatestlineardimension:GLD)および治療時のレーザースポットサイズを決定する.身長・体重から算出された体表面積を用いてベルテポルフィンの投与量を決定する.インドシアニングリーン眼底造影検査(IA)や光干渉断層計(OCT)は必須ではないが,病変サイズの決定や治療後の効果判定の重要な指標となるため,ほぼ必須の検査といってよい.3.レーザー機器の動作チェックビスダイン?は高価な薬剤であるため,調整する前にレーザー機器のテスト照射を行い,動作を確認する.4.薬剤調整ビスダイン?を7m?の日局注射用水で溶解した後(液容積が7.5m?になる),必要量(6mg/m2)を別のシリンジで採取し,5%ブドウ糖注射液を加えて30m?にする.ビスダイン?の容量は1バイアル15mgであるので,日局注射用水に溶解した時点で2mg/m?となり,溶解液必要量は6mg/m2×体表面積(m2)/(2mg/m?)=3×体表面積(m?)となる.つまり体表面積1.6m2の患者には4.8m?が必要ということになる(「体表面積の3倍」と覚えておくとよい).薬剤調整後は4時間以内にレーザー照射を終了しなければならない.5.薬剤投与/レーザー照射静脈注射ラインを組み立て,ライン内に5%ブドウ糖液を満たした後,シリンジポンプに総量30m?となったビスダイン?をセットする.静注は10分間(180m?/hの設定)で行い,静注終了後静注ライン上のビスダイン?を5%ブドウ糖注射液でフラッシュする.静注開始15分後にビズラスPDTシステム690Sを用いて83秒間のレーザー照射を行う.本機器は通常の細隙灯顕微鏡より眼底は暗く不鮮明に観察されるため,コンタクトレンズは病変サイズに合わせてレーザースポット倍率がなるべく低く,明るいレンズを用いると治療は容易となる.そのため,倍率の異なる複数のレンズを症例により使い分けることが望ましい.ビスダイン?の血管外漏出がないように血管確保は確実に行い,漏出が発生しても光の曝露が避け難い手背からは血管を確保しないようにするべきである.しかしビスダイン?が万一血管外漏出してしまった際はすぐに投与を中止し,投与量が半分以上の場合は投与開始後15分で予定通りレーザー照射を行い,投与量が半分未満であった場合は別の静脈から残りの薬剤の投与を行った後,再投与開始から15分後にレーザー照射を行う.漏出部位はすぐに冷湿布か氷をあてるなど,適切な処置を行う.ビズラスPDTシステム690Sの設定については,本誌22巻12号(2005年)の特集2)に詳しく述べたので,本稿では割愛させていただく.●PDT治療直後光線過敏症対策として日光やハロゲン光を遮る必要があるため,帽子,サングラス,長袖シャツ,長ズボン,手袋,靴下を予め準備しておき,治療後に着用する.治療後5日まで遮光を行うが,治療後48時間までは薬剤の血中濃度が高いので遮光は確実に行う.蛍光灯やテレビの光などは問題ないので真っ暗にする必要はない(むしろ蛍光灯の光は浴びたほうがよいとされている).●PDT治療後のフォローアップPDT治療後1カ月までは網膜下出血などの有害事象が起こりやすいので,PDT後は1カ月を目処に外来診察を行うことが望ましい.その後は治療から数えて3カ月ごとに再治療の要否を判定し,必要があれば再治療を行っていく.再治療時の入院は必須ではない.文献1)眼科PDT研究会http://www.pdti.jp/2)野田佳宏:「最新のレーザー治療機器バイヤーガイド」ビズラスPDTシステム690S(カールツァイス).あたらしい眼科22:1613-1617,2005(62)☆☆☆

緑内障:眼圧日内変動を探る

2007年2月28日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS眼圧日内変動は1904年に眼圧計を用いて報告されて以来の古くて新しい話題である.変動のメカニズムはまだ解明されていないが,体内時計により視交叉上核で制御され,交感神経が大きく関与している可能性が高い.眼圧には,体位,運動,薬物,嗜好品,ストレスなどが影響しており,さらに医療機関での終日測定は通常の環境と異なるため,正確な個人の日内変動を測定することは困難である.最近,体位を考慮した眼圧日内変動の報告が相ついでおり,夜間の眼圧への注目度が高まっている.●ヒトの眼圧日内変動従来眼圧は午前中に高く,午後低くなり,夜間は昼より低いとされてきていたが,それは座位での測定による.環境が異なり,個々の要因も影響するために精度の高い日内変動測定は困難であったが,Liuらはsleepinglaboratoryという個人の日々の活動時間や光環境,嗜好品などの条件を整え,1週間測定室の環境に適応させたうえでの眼圧測定を行う日内変動測定法を整備し,信頼性の高いデータを出している.まず座位,仰臥位同一体位測定ではともに眼圧は明け方が最も高く,夕方にかけて下降し,明け方に向かって上昇する1,2).房水動態の研究から日中は交感神経系の関与が高い房水産生が亢進し,夜間は房水産生が低下していることがおもに関与している.このことは房水産生抑制効果のあるβ遮断薬による夜間の眼圧下降効果は減弱し,一方同じく房水産生抑制による眼圧下降機序を呈する炭酸脱水酵素阻害薬による夜間眼圧下降効果は維持される,という最近の報告からも裏づけられている3).●夜間眼圧体位の影響注目すべきは,仰臥位では確実に眼圧が上昇し,座位(59)●連載?緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄80.眼圧日内変動を探る相原一東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚運動機能医学講座眼科学一般的に眼圧日内変動は同一体位では朝方に高く夜にかけて低くなり,開放隅角緑内障患者でも同様である.仰臥位では座位に比べ眼圧が常に4~5mmHg高いことから,生活体位における眼圧変動が推定でき,現実的に夜間の高眼圧が起こりうる.マウスの眼圧日内変動測定により,光環境,体位に連動した上強膜静脈圧,時計遺伝子の影響が判明している.図1若年正常人の眼圧日内変動a:若年正常人の眼圧日内変動.b:開放隅角緑内障眼(OAG)と正常眼の日内変動は明け方に高く夜に低下するパターンを呈する.仰臥位で常に一定量上昇する.(文献1,2より改変)23222120191817161514supinesitting3:30PM5:30PM7:30PM9:30PM11:30PM1:30AM3:30AM5:30AM7:30AM9:30AM11:30AM1:30AM262524232221201918171615143:30PM5:30PM7:30PM9:30PM11:30PM1:30AM3:30AM5:30AM7:30AM9:30AM11:30AM1:30AM○:仰臥位●:座位夜間・睡眠時日中・覚醒時日中・覚醒時時刻(24時間)眼圧(mmHg)○△:コントロール●▲:OAG○●:座位△▲:仰臥位a夜間・睡眠時日中・覚醒時日中・覚醒時時刻(24時間)眼圧(mmHg)b———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007日内変動と平行に4~5mmHg高い値を示す点で,機序としては仰臥位では上強膜静脈圧の上昇によるものと考えられる.われわれヒトの通常の生活パターンである日中座位,夜間就寝時の仰臥位(生活体位)を考慮すると図1aのように,夜の眼圧はかなり高いことになる.幸いに緑内障眼での仰臥位による夜間の眼圧上昇は,正常人ほどではないが,それでも緑内障眼は正常人より終日高く,朝方に眼圧が最も高い2)(図1b).またHaraらも日本人正常眼圧緑内障(NTG)患者において仰臥位では終日座位より一定の幅で眼圧が上昇することから,日中の仰臥位,座位間の眼圧差を測定しておけば,終日座位の日内変動から生活体位における日内変動を推定することができると報告している4).同様に日本人NTG患者において視野進行と仰臥位眼圧が有意に相関すると報告され,生活体位での特に夜間仰臥位眼圧への関心が高まっている5).●眼圧日内変動のメカニズムを探るマウスでの研究過去にはウサギによる数多くの研究がなされ,中枢性には視交叉上核,その出力として頸部交感神経の関与が解明されているが,マウスでも日内変動が測定できるようになり,興味深い結果が得られている.マウスは夜行性であるためにヒトとは日内変動のピークがシフトしており,夕方から夜中にかけて眼圧が上昇し,明け方下降する6).これも活動性にかかわる交感神経が関与していることを示唆する.さらに終日明室あるいは暗室においた場合には日内変動が不規則になり,個体間の同調がなくなり,しかも終日暗室条件下では眼圧が上昇する7)(図2).これらは光刺激やストレスによる影響を受けやすいことを示しており,ヒトにも共通する眼圧制御因子であろう.また,マウスは生活体位が腹臥位である点でヒトのような体位による眼圧変化を考慮する必要がないが,実験的に体位を変化させ上強膜静脈圧と眼圧の変化を調べると,体位と上強膜静脈圧,眼圧が連動していることが判明した8).ヒトでのこのような実験は困難であるが,体位変化と眼圧変動はおそらくこの上強膜静脈圧の変化と捉えてよいと考える.また,時計遺伝子の一つを欠損させたマウスで眼圧日内変動が消失したことから,眼圧は上位レベルでは体内時計で制御されていることが判明した9).今後は体位による日内変動も考慮し,夜間眼圧の上昇も念頭においた終日眼圧下降させる薬剤の選択も重要である.また,病型や個体差などから日内変動にかかわる因子の解明が期待される.文献1)LiuJH,BoulignyRP,KripkeDFetal:Nocturnaleleva-tionofintraocularpressureisdetecatableinthesittingposition.?????????????????????????44:4439-4442,20032)LiuJH,ZhangX,KripkeDFetal:Twenty-four-hourintraocularpressurepatternassociatedwithearlyglauco-matouschanges.?????????????????????????44:1586-1590,20033)QuarantaL,GandolfoF,TuranoRetal:E?ectsoftopicalhypotensivedrugsoncircadianIOP,bloodpressure,andcalculateddiastolicocularperfusionpressureinpatientswithglaucoma.?????????????????????????47:2917-2923,20064)HaraT,HaraT,TsuruT:Increaseofpeakintraocularpressureduringsleepinreproduceddiurnalchangesbyposture.???????????????124:165-168,20065)KiuchiT,MotoyamaY,OshikaT:Relationshipofpro-gressionofvisual?elddamagetoposturalchangesinintraocularpressureinpatientswithnormal-tensionglau-coma.?????????????,2006(inpress)6)AiharaM,LindseyJD,WeinrebRN:Twenty-four-hourpatternofmouseintraocularpressure.????????????77:681-686,20037)SugimotoEI,AiharaM,OtaTetal:E?ectoflightcycleon24-hourpatternofmouseintraocularpressure.???????????15:505-511,20068)AiharaM,LindseyJD,WeinrebRN:Episcleralvenouspressureofmouseeyeande?ectofbodyposition.????????????27:355-362,20039)MaedaA,TsujiyaS,HigashideTetal:Circadianintraoc-ularpressurerhythmisgeneratedbyclockgenes.?????????????????????????47:4050-4052,2006(60)図2光周期の違いによるマウス眼圧日内変動通常では夜間高く日中低い二相性変動が明室,暗室条件で飼育すると消失し,暗室条件下では眼圧上昇もみられる.(文献7より改変)302520151050:終日暗条件飼育:12時間ごと明暗条件飼育:終日明条件飼育時刻(24時間)眼圧(mmHg)6:009:0012:0015:0018:0021:000:003:006:00n=11

屈折矯正手術:PRKとLASIKの術後成績の期間別比較

2007年2月28日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLSPhotorefractivekeratectomy(PRK)とlaser???????keratomileusis(LASIK)に代表されるエキシマレーザーを使用した近視矯正手術は,現在,屈折矯正手術の主流となりその症例数も増加している.わが国でも,PRK認可後,6,7年が経過し,良好な結果が報告されているが,1年以内の短期データが多い.一方,手術を受ける側から変わらず出てくる質問の一つに,手術結果の安定性がある.そこで,今回はPRKとLASIKの短期データと長期データの検討比較を行い,それぞれの特徴を述べるとともに,その原因をさぐる.●術後1年以内の変化PRKとLASIKを比較した場合に,よく取りざたされるのが,術後早期視力と疼痛である.術後視力は術後1年以内では,LASIKが術直後から良好で安定しているのに比較して,PRKはLASIKと同等への視力改善までに時間を要する(図1).PRKは角膜上皮層を除去後,実質表層の切削が行われるために,創傷治癒機転としては,まず術後1,2週で生じる角膜上皮細胞層の再生とそれに遅れて実質表層部の細胞応答が生じる.術後1,2週の視力が不十分であるのは前者の,その後徐々に視力が安定するのは後者のためと考えられる.一方,LASIKはフラップ直下の実質,つまり実質層内での切削が行われる.実質切除部は角膜のもつ陰圧により接着し,創傷治癒機転としての細胞応答は生じず,フラップ周辺の上皮層のみ創傷治癒が生じる.そのために,安定するのが速く一定の結果が(57)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載?監修=木下茂大橋裕一坪田一男81.PRKとLASIKの術後成績の期間別比較宮田和典宮田眼科病院Photorefractivekeratectomy(PRK)とlaser???????keratomileusis(LASIK)の術後経過を比較すると,術後1年以内はPRKと比較してLASIKが成績良好で安定性も高い.しかし,2,3年経過するとPRKのほうが安定し,LASIKは近視化が生じる.この近視化は角膜前方突出ではなく,中央角膜厚の増加によるものと考えられる.図1術後1年以内の裸眼視力1.0以上の症例割合PRKvsLASIK1Y6M3M1M1W:PRK:LASIK100806040200(%)4Y3Y2Y1Y:PRK:LASIK100806040200(%)図2術後1~4年の裸眼視力1.0以上の症例割合PRKvsLASIK***4Y3Y2Y1Y:PRK:LASIK*p<0.05Mann-Whitney?sU-test1.00.50-0.5-1.0-1.5-2.0度数(D)図3術後1~4年の等価球面度数の変化PRKvsLASIK———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007早期に得られると考えられる.この手術部位による差は,角膜の知覚神経の再生にも関与する.PRKの場合,表層のみの神経再生ですむが,LASIKは実質内で神経線維を切断してしまうため,再生に時間を要する.その結果,角膜知覚の低下と改善の遅延,それに伴うと考えられる角膜バリア機能,涙液分泌能の低下と改善の遅延が生じる1).また角膜前方変位はPRKに比較してLASIKのほうが早期に生じ,その程度も大きい2).●術後1~4年の変化それでは,同一症例の術後1~4年の長期経過をみてみると,PRKは1年以降安定した視力結果を得ているのに対して,LASIKは視力の低下がみられ,視力成績が逆転している(図2).等価球面度数の変化をみてみても,PRKが安定しているのに対して,LASIKは徐々に近視化している(図3).このLASIKの近視化はなぜ生じているのか?LASIKに多いといわれている角膜の前方変位を比較してみると,PRK,LASIK両者ともに1年以降は安定している(図4).一方,角膜中央厚の変化をみてみると,PRKと比較してLASIKは増加していた(図5).中央の角膜厚の増加は,結果として角膜フラップ前面がsteep化するために角膜屈折力が増加し,近視の戻りが生じたと考えられる.このLASIKに生じる長期間の角膜実質の変化の原因は今のところ検討中であるが,実質内に作製されたフラップ面はその周囲の角膜実質細胞に何らかの影響を与え続けていると考えられる.術後数年たっても,再手術の際容易にフラップを?がすことができること,眼圧が上昇した場合に角膜上皮下ではなく,角膜実質内のフラップの境界面?に水分が貯留すること3)などの臨床的な所見から,角膜実質内のフラップ面での創傷治癒が完成していないことは明らかである.この面により,角膜内に張り巡らされた角膜神経線維,および角膜実質細胞同士がgapjunctionを介して構成するネットワークが破壊されており,正常の細胞機能が失われている可能性はある.最近の検討では,術後角膜実質細胞の密度の長期的変化も指摘されており4),角膜実質細胞が手術により受けた刺激への細胞応答が持続している可能性もある.わが国でも導入後飛躍的に伸びたLASIKの症例群は,これから術後4,5年を迎える症例が今後急激に多くなってくる.本稿に述べたような,近視の戻る症例も増加してくるものと考えられる.また,このLASIKの長期でみられる変化は今後も持続する可能性もあり,さらなる検討が必要である.文献1)NejimaR,MiyataK,TanabeTetal:Cornealbarrierfunction,tear?lmstability,andcornealsensationafterphotorefractivekeratectomyandlaserinsitukeratomileu-sis.???????????????139:64-71,20052)YoshidaT,MiyataK,TokunagaTetal:Di?erencemaporsingleelevationmapintheevaluationofcornealfor-wardshiftafterLASIK.?????????????110:1926-1930,20033)GalalA,ArtolaA,BeldaJetal:Interfacecornealedemasecondarytosteroid-inducedelevationofintraocularpres-suresimulatingdi?uselamellarkeratitis.??????????????22:441-447,20064)ErieJC,PatelSV,McLarenJCetal:Cornealkeratocytede?citsafterphotorefractivekeratectomyandlaserinsitukeratomileusis.???????????????141:799-809,2006(58)4Y3Y2Y1Y:PRK:LASIK*p<0.05Mann-Whitney?sU-test6050403020100移動量(?m)6M3M1M35.3*32.233.832.233.131.132.924.526.426.827.928.127.126.5図4術後4年間の角膜前方移動の変化PRKvsLASIK図5術後4年間の角膜中心厚の変化PRKvsLASIK4Y3Y2Y1Y:PRK:LASIK*p<0.05Mann-Whitney?sU-test520500480460440420400380中心厚(?m)6M3M1W1M449.7*447.9461.1462.9468.6466.5470.0479.4441.7440.0446.7452.7455.3456.6456.3455.0

眼内レンズ:Intraoperative Floppy Iris Syndrome(2)-対処法-

2007年2月28日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS前立腺肥大症に対して排尿障害改善剤a1ブロッカーを内服している患者の40~60%にIFISが発症するとされている1,2).IFISの三徴は,白内障手術中の「水流による虹彩のうねり」,「虹彩の脱出・嵌頓」,「進行性の縮瞳」である.IFIS症例で最初に生じる徴候は,hydrodissection時に虹彩が脱出気味になり,縮瞳してくることである.ハイドロ針で虹彩を押さえつつhydrodissectionを行うようにする(図1).虹彩の脱出傾向が強い場合は,創口部の虹彩上にヒーロン?Vかビスコート?を注入し,虹彩を押さえるようにする.また,BSS(balancedsaltsolu-tion)の注入量は控えめとし,必要最低限のhydrodis-sectionを行うよう心がける.つぎに,ヒーロン?Vを注入して散瞳し,虹彩を安定化させる(図2).ヒーロン?Vが前房中に残っている間は散瞳が維持されるが,吸引除去されてしまうと速やかに縮瞳してくるので,ヒーロン?Vを吸引除去しないよ(55)大鹿哲郎筑波大学大学院人間総合科学研究科機能制御医学専攻眼科学眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎246.IntraoperativeFloppyIrisSyndrome(2)─対処法─Intraoperative?oppyirissyndrome(IFIS,術中虹彩緊張低下症候群)の症状が生じたら,ヒーロン?Vで虹彩を安定化させ,散瞳を維持し,US(超音波)装置の設定値を適正に変更して手術を行う.それでも手術の進行が困難な場合は,その他の対処法を組み合わせる.IFISの対処法は,通常の小瞳孔例の対処法と異なるため,術前に排尿障害改善剤服用の有無を尋ねてIFISの発生を予期しておくことが重要である.図1a虹彩が脱出傾向にあるので,ハイドロ針で虹彩を押さえつつhydrodissectionを行う図1b図1aのシェーマ図3ヒーロン?Vを吸引除去しないよう超音波装置の設定値を下げるこの場合,吸引流量(aspiration?ow)を15mm/min,吸引流量(vacuum)を100mmHg程度に下げている.図2ヒーロン?Vを注入して散瞳し,虹彩を安定化させる———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007(00)う超音波装置の設定値を変更しておく必要がある.通常は,吸引流量(aspiration?ow)を15mm/min,吸引流量(vacuum)を100mmHg程度に下げて(図3),この低い設定値のまま分割まで終える.核分割終了後は設定値を上げて,核片を引き寄せて処理する(図4).ただ,ここで設定値を上げすぎると,対側の虹彩を誤吸引するおそれがあるので注意が必要である(図5,6).通常の小瞳孔例では,2本の虹彩フックによって瞳孔をストレッチする方法がときに行われるが,この方法では一時的に散瞳効果は得られるものの,虹彩がより脆弱になってrigidityが低下し,IFIS症状が悪化するので行ってはいけない(表1).瞳孔縁の切開(multiplesphincterotomy)も虹彩の脆弱化を招くので勧められない.このように,通常の小瞳孔例の対処法と,IFIS症例の対処法は異なるため,術前に排尿障害改善剤服用の有無を尋ねてIFISの発生を予期しておくことが重要である.文献1)ChangDF,CampbellJR:Intraoperative?oppyirissyn-dromeassociatedwithtamsulosin.???????????????????????31:664-673,20052)OshikaT,OhashiY,InamuraMetal:Incidenceofintra-operative?oppyirissyndromeinpatientsoneithersys-temicortopicala1?adrenoceptorantagonist.????????????????143:150-151,2007図5設定値を上げすぎると対側の虹彩を誤吸引するおそれがある表1IFISの対処法やっていいことやってはいけないことヒーロン?Vの使用1,000倍エピネフリンの灌流虹彩レトラクターの使用虹彩エクスパンダーの使用虹彩の機械的なストレッチ虹彩切開図4低い設定値のまま分割まで終えた後,設定値を上げて,核片を引き寄せて処理する図6一旦,誤吸引した虹彩は,容易に再吸引されるため,フックで押さえるなど注意して操作を行う

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ装用による乱視-残余乱視-

2007年2月28日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???余乱視を計算することができる3).残余乱視=全乱視-角膜乱視全乱視:完全矯正値を測定することで得られる乱視(度数,軸).角膜乱視:ケラトメータで測定することによって得られる乱視(度数,軸).残余乱視:全乱視から角膜乱視を差し引いた理論上の乱視(度数,軸).HCLおよびSCLを装用した状態での残余乱視を考えると以下のようになる.HCL装用下における残余乱視≒全乱視-角膜乱視≒水晶体乱視SCL装用下における残余乱視≒全乱視円柱レンズの合成は倍角座標上のベクトル計算が必要で単純な加減算では対処できないが,軸が同じあるいは直交した場合には加減算でよい.実例を表1,2に示す.このように,HCLとSCLを装用したときに,どちらのレンズのほうが残余乱視が少なくなるかを予測してレンズを選択するとよい3).症例によってはトーリックHCLやトーリックSCLの処方を検討する必要がある.0910-1810/07/\100/頁/JCLS乱視があればハードコンタクトレンズ(HCL)で矯正すればよいと考える人がいるが,HCLを装用することでかえって乱視が強くなることがある.HCL下の涙液レンズの作用によって角膜前面乱視がほとんど矯正されることで,これを補正していた水晶体乱視が顕性になることがある.コンタクトレンズ(CL)装用により出現する乱視を持ち込み乱視とよぶ1).一方,CLを装用した状態で生じる乱視を残余乱視という.残余乱視は水晶体乱視,CLで完全に矯正されない角膜乱視,網膜乱視,CLによる持ち込み乱視の合成系として生じる2).CLの処方においてはqualityofvisionの観点から残余乱視をいかに小さくするかを考えることは重要である.●CLを選択する際の残余乱視の計算CLを選択する際は,あらかじめ残余乱視を計算しておくとよい.HCLを装用した場合は角膜乱視が完全に矯正されたと仮定し,またソフトコンタクトレンズ(SCL)を装用した場合はほとんど角膜乱視が矯正されないと仮定して考えると,おおよそではあるが簡単に残(53)植田喜一山口大学大学院医学系研究科眼科学/ウエダ眼科コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純TOPICS&FITTINGTECHNICS272.コンタクトレンズ装用による乱視?残余乱視?表1残余乱視とCLの選択症例全乱視角膜乱視残余乱視第一選択するCLHCL(予測値)SCL(予測値)1cyl-1.50DAx180?cyl-2.00DAx180?cyl-0.50DAx90?cyl-1.50DAx180?球面HCL2cyl-0.50DAx90?cyl-1.00DAx180?cyl-1.50DAx90?cyl-0.50DAx90?球面SCL3cyl-1.00DAx180?cyl-2.50DAx180?cyl-1.50DAx90?cyl-1.00DAx180?前面トーリックHCLまたはトーリックSCL4cyl-4.25DAx180?cyl-3.00DAx180?cyl-1.25DAx180?cyl-4.25DAx180?後面トーリックHCL5cyl-2.50DAx180?cyl-4.00DAx180?cyl-1.50DAx90?cyl-2.50DAx180?両面トーリックHCL6cyl-1.50DAx90?cyl-0.50DAx180?cyl-2.00DAx90?cyl-1.50DAx90?トーリックSCL———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007(00)文献1)日本コンタクトレンズ学会(編):コンタクトレンズ用語辞典,p64,メジカルビュー社,20012)日本コンタクトレンズ学会(編):コンタクトレンズ用語辞典,p27,メジカルビュー社,20013)植田喜一:トーリックレンズ.日コレ誌40:179-188,1998表2残余乱視の計算(表1の症例1~6の計算)症例1全乱視cyl-1.50DAx180?角膜乱視cyl-2.00DAx180?1.HCLを装用した場合-1.500--2.000=+0.500sph+0.50Dcyl-0.50DAx90°予想される残余乱視=cyl-0.50DAx90?2.SCLを装用した場合予想される残余乱視=cyl-1.50DAx180?症例4全乱視cyl-4.25DAx180?角膜乱視cyl-3.00DAx180?1.HCLを装用した場合-4.250--3.000=-1.250sph±0Dcyl-1.25DAx180°予想される残余乱視=cyl-1.25DAx180?2.SCLを装用した場合予想される残余乱視=cyl-4.25DAx180?症例2全乱視cyl-0.50DAx90?角膜乱視cyl-1.00DAx180?1.HCLを装用した場合0-0.50--1.000=+1.00-0.50sph+1.00Dcyl-1.50DAx90°予想される残余乱視=cyl-1.50DAx90?2.SCLを装用した場合予想される残余乱視=cyl-0.50DAx90?症例5全乱視cyl-2.50DAx180?角膜乱視cyl-4.00DAx180?1.HCLを装用した場合-2.500--4.000=+1.500sph+1.50Dcyl-1.50DAx90°予想される残余乱視=cyl-1.50DAx90?2.SCLを装用した場合予想される残余乱視=cyl-2.50DAx180?症例3全乱視cyl-1.00DAx180?角膜乱視cyl-2.50DAx180?1.HCLを装用した場合-1.000--2.500=+1.500sph+1.50Dcyl-1.50DAx90°予想される残余乱視=cyl-1.50DAx90?2.SCLを装用した場合予想される残余乱視=cyl-1.00DAx180?症例6全乱視cyl-1.50DAx90?角膜乱視cyl-0.50DAx180?1.HCLを装用した場合01.50--0.500=+0.50-1.50sph+0.50Dcyl-2.00DAx90°予想される残余乱視=cyl-2.00DAx90?2.SCLを装用した場合予想される残余乱視=cyl-1.50DAx90?

写真:Avellino角膜ジストロフィにThygeson点状表層角膜炎が合併した症例

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———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS(51)杉田二郎名古屋大学大学院医学系研究科頭頸部・感覚器外科学講座写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦273.Avellino角膜ジストロフィにThygeson点状表層角膜炎が合併した症例②①図2図1のシェーマ①:やや大きめに点状に染色されている.②:小さな点状病巣の集合体.図1Avellino角膜ジストロフィにThygeson点状表層角膜炎を合併した症例のフルオレセイン染色所見(62歳,女性)数カ所にやや大きめの点状染色所見がみられる.おのおのの病変は小さな点状病巣の集合体であり,Thygeson点状表層角膜炎の特徴を呈している.図3図1と同一症例のディフューザー所見Avellino角膜ジストロフィの実質混濁が背景にあるため,Thygeson点状表層角膜炎の上皮内混濁は不明である.図4Thygeson点状表層角膜炎の典型例(70歳,女性)角膜上皮内に灰白色のやや大きな点状混濁が多数認められる.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007(00)Thygeson点状表層角膜炎は,1950年にPhillipsThygesonにより初めて記載された特異な再発性の角膜上皮炎である1).その特徴として,1)慢性・両眼性の点状角膜上皮炎,2)経過は長く,緩解・増悪をくり返す,3)最終的には瘢痕を残さずに治癒する,4)抗生物質の局所・全身投与や上皮除去に反応しない,5)ステロイドの点眼が著効する,の5つがあげられている2).本疾患の原因はいまだに不明であるが,病変はリンパ球を主体とする単核球の浸潤からなり,ステロイドの点眼に反応することから,この疾患の本態が上皮内に存在する抗原(おそらくウイルス抗原)に対する過敏反応であることが示唆されている3).自覚症状は,異物感・羞明・軽度の視力低下などである.細隙灯顕微鏡検査では,おもに角膜上皮内に数個から多数の灰白色の点状混濁が認められ,それぞれの混濁はさらに微細な混濁の集積として観察される(図4).病巣直上の角膜上皮は,急性期にはフルオレセインにて星芒状に染色されることが多い.上記の特徴を認めれば本症の診断および治療は比較的容易であるが,角膜実質に混濁がある症例ではフルオレセイン染色所見をよく観察することが重要である.今回Avellino角膜ジストロフィ患者の経過観察中,視力低下と異物感を訴えた症例を示した.スリット所見では,Avellino角膜ジストロフィによる角膜実質混濁以外に,特に異常はないと思われたが,フルオレセイン染色にてやや大きめの点状に染色される病変が,角膜実質混濁とは無関係に数個散在していた(図1,3).このやや大きめな点状病巣の一つひとつは,Thygeson点状表層角膜炎に特徴的な小さな上皮病変が集合して形成されていた.低力価のステロイド(フルオロメトロン)の点眼治療を行ったところ,速やかに治癒した.近年,Thiel-Behnkeジストロフィの混濁が,Thy-geson点状表層角膜炎の罹患後に消失したという報告があり,非常に興味深い4).しかし今回のAvellino角膜ジストロフィの症例では,実質混濁に変化はみられなかった.文献1)ThygesonP:Super?cialpunctatekeratitis.????144:1544-1549,19502)ThygesonP:Furtherobservationsonsuper?cialkeratitis.???????????????66:34-38,19613)宇野敏彦,大橋裕一,渡辺潔:Thygeson点状表層角膜炎.角膜クリニック,第2版(井上幸次,渡辺仁,前田直之,西田幸二編),p72-73,医学書院,20034)KobayashiA,IjiriS,OhtaT,SugiyamaK:DisappearanceofhoneycombopacityofThiel-BehnkecornealdystrophyafterThygesonsuper?cialpunctatekeratitis.??????24:1029-1030,2005

総説:2006年ドライアイ診断基準

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———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSりこれを見直そうという動きが2004年より具体化し,DryEyeWorkshop(通称DEWS)が結成された.定義と診断基準に限らず,検査,疫学調査,基礎研究,治療の各分野にわたる広い範囲で現在に至るまで検討が行われている(http://www.tear?lm.org/dewshome.html).DEWSにおけるドライアイの定義・診断基準の決定は,まだ最終結論を得るに至っていないが,方向性はかなりまとまってきているので,今回,ドライアイ研究会としてはこの流れを参考にして新しい基準を作成することとした.II診断基準改訂に当たっての立場今回の改訂に当たっては,以下の3つの点を特に留意した.1.世界の基準との整合性上述のように,世界的にドライアイの定義・診断基準の見直しが行われており,わが国もこれに参加している.今回のドライアイ研究会の改訂は,わが国のドライアイの定義と診断基準を定めるために行われたが,世界の動きとの整合性を図ることは,日本発の研究を国際的に広めていくうえでも重要と考えられる.したがって,特にドライアイの定義を定めるに当たっては,DEWSでの討議を意識した.もちろんまったくの翻訳ではなく,ニュアンスが多少異なる部分もある.また診断基準Iドライアイ診断基準見直しの経緯ドライアイ研究会が,1995年にドライアイの定義と診断基準を発表してから10年が経過した1).同じ診断基準にのっとって臨床研究を行うことが,ドライアイ研究を進めるうえで欠かせない,という認識のもとに前回の発表を行ったが,この10年間でその目的は十分に果たしたと考えている.この10年はドライアイ研究にとって非常に多くの進歩が見られた.新しい診断機器の導入,涙腺,涙液,オキュラーサーフェスに関する基礎的・臨床的研究の進歩,ドライアイの内科的・外科的治療の開発など,多方面で新しい知見が得られた.そのかなりの部分が,わが国の研究者からもたらされたことはまことに喜ばしい.さらに,一般の人々の間でのドライアイの認知も大幅に進んだ.最近では自分がドライアイではないか,といって来院される受診者も珍しくなくなった.これらドライアイを取り巻く環境の変化に応じて,10年前に発表したドライアイの定義・診断基準の見直しを図ることとし,今回,ドライアイ研究会のメンバーによる協議の結果,改訂版を発表するに至った.アメリカでも日本と時を同じくして,1995年にNationalEyeInstituteのサポートのもとに,DrLempが中心となってドライアイの定義と分類が定められた2).10年が経過し,世界中のドライアイ研究者の間よ(47)???*JunShimazaki:ドライアイ研究会,東京歯科大学市川総合病院眼科〔別刷請求先〕島?潤:〒272-8513市川市菅野5-11-13東京歯科大学市川総合病院眼科あたらしい眼科24(2):181~184,2007?2006年ドライアイ診断基準???????????????????????????????????????島?潤*(ドライアイ研究会**)**ドライアイ研究会:世話人代表;坪田一男(慶應義塾大学)世話人;木下茂(京都府立医科大学)大橋裕一(愛媛大学)下村嘉一(近畿大学)田川義継(北海道大学)濱野孝(ハマノ眼科)高村悦子(東京女子医科大学)横井則彦(京都府立医科大学)渡辺仁(関西ろうさい病院)島?潤(東京歯科大学)(順不同)総説———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007など,わが国のほうがむしろ検討が進んでいる部分も多い.今回,わが国での基準が定められて広く用いられるようになれば,これをもとに世界に情報を発信して世界の診断基準に影響を与えることも期待される.2.検査法と診断基準10年前の論文でも同様のことを述べたが,診断基準に用いられる検査法は,「ほとんどの施設で日常的に行うことができる」ものを取り上げた.いかに優れた検査法であっても,一部の施設でしか行うことができないのでは,診断基準に含める意味がないと考えた.したがって,検査機器や診断法の進歩によっては,今後の新たな検査法が取り入れられることは十分考えられる.3.診断基準とカットオフ値ドライアイの検査法には絶対的なものがないことはよく知られている.個々の方法の感度・特異度は十分でなく,再現性にも問題がある.そのなかで最善の基準をもって判定が行われるべきであるのは当然のことである.たとえば,シルマー法で何ミリより少なければ異常とするか,についての基準(カットオフ値の設定)は,エビデンスに基づいて行われるべきと考える.1995年の基準は,その時点でのドライアイ専門家の意見を元に定められた.これが適当であったかどうかの検討もドライアイ研究会で行ってきたが,十分な結論が得られたとはいえない.この点については今後も研究を続けていき,より良い基準を作ることが重要と考えている.したがって今回の改訂では,明らかに変更したほうがよいと意見が一致したものを除いて,カットオフ値の変更は行わなかった.今後の研究によって新たなデータが得られれば,これについても変更される可能性がある.IIIドライアイの定義今回の討議により,ドライアイの定義は表1のように改訂された.10年前の定義「涙液(層)の量的・質的異常によって引き起こされる角結膜上皮障害」と比較すると,いくつかの大きな変化があったことがわかる.一つは,自覚症状を有することが定義に含まれた点である.日常診療においても,涙液分泌の少ない患者がすべて眼不快感を訴えるわけではない.ドライアイ治療の目的の多くが,患者の自覚症状の軽減にあることを考えると,自覚症状を有することが定義に含まれたのは自然のことといえる.ちなみにNEI(NationalEyeInstitute)の定義2)でも自覚症状は含まれており,新しいDEWSの討議でも症状を有することが定義として明記されている.さらに今回,「眼不快感」だけでなく,「視機能異常」もドライアイの症状と定められたことも大きな特徴である.ドライアイの多くは,視機能異常をきたすことはないといわれてきたが,近年の研究で運転やVDT(visualdisplayterminal)作業など,瞬目が少なくなるような環境では,持続開瞼によって不正乱視の増大,視力低下が生じることが明らかとなってきた3,4).日常診療でも,ドライアイ患者が漠然とした見づらさを訴えることはよく経験されるが,矯正視力には異常がないことが多かった.今回の定義で視機能異常が含まれたことは,ドライアイ検査法の進歩が,ようやく患者の訴えを検出できるまで進歩したことの表れといえる.また,スティーブンス・ジョンソン症候群などの重症ドライアイでは,眼表面の著明な角化によって逆に異物感や乾燥感などの眼不快感を訴えなくなることが経験されるが,こうした場合も視機能異常を伴うことが定義に定められたことで矛盾がなくなった.今回,ドライアイの原因が多岐にわたる「多因子による疾患」であることが明記された.これまでも「ドライアイ症候群」という単語もあるように,多くの因子がその発症や増悪に関わっていることが指摘されていたが,今回この点を定義に含めたことでさらに明確となった.IV診断基準今回定められた診断基準を表2,3に示す.10年前のものと比べると,以下の点で違いがある.1.自覚症状を有することが診断基準に含まれた定義のところでも述べたが,ドライアイの自覚症状(視機能異常を含む)を有することが,診断の必須項目となった.内容をよく吟味すれば疫学的調査(ドライアイの頻度や性差など)もアンケートのみによって行うことは十分可能であることが示されている5~8).ここで問題となるのが,どういった症状をいかにして捉えるか,という点である.患者側から訴えるもののみを取り上げ(48)表1ドライアイの定義(2006年,ドライアイ研究会)ドライアイとは,様々な要因による涙液および角結膜上皮の慢性疾患であり,眼不快感や視機能異常を伴う———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???るのか,医師側から積極的に聞くのか,あるいは問診表などの形式をとるのかによって,自覚症状をもつ者の割合は大きく左右される.自覚症状を聴取することには,(1)疫学的調査,(2)ドライアイの診断,(3)ドライアイの治療判定,などいくつかの目的がある.それぞれによって聴取項目や方法が異なることは当然である.この点については,ドライアイ研究会が中心となって標準となる症状の聴取項目の設定がなされる見通しである.この問題はDEWSでも独立したワーキンググループのもとでディスカッションが行われている.これによってさらに統一されたドライアイ診断が行われることが期待される.また,ドライアイの定義に含まれた視機能異常を検出する方法の確立も望まれる.従来の視力検査では検出することができなかった異常を調べる検査法として,tear?lmstabilityanalysissystemや実用視力などが提唱されている4,9,10)が,その検査法や解析法はいまだ検討中であり,検査機器の入手法とともにその確立が望まれる.2.涙液検査涙液異常の検査法としては,シルマー法と涙液層破壊時間(BUT)が選ばれた.以前の診断基準に含まれていた綿糸法(10mm以下が異常)は,国際的に広く行われているとはいえないことと,必ずしも涙液貯留量を反映しているとはいえない11)などの理由で今回の基準からは省かれた.ただし,コンタクトレンズ装用の適否のスクリーニングなどの場での有用性はあると考えられるので,検査法そのものの意義が否定されたわけではない.検査法の標準化も大きな問題として取り上げられた.シルマー法,BUT検査ともにいろいろなバリエーション,判定方法があり,これを標準化しないと一定の基準で判定したことにならない.シルマー法は,点眼麻酔を用いない第Ⅰ法で自然瞬目状態で測定することが推奨されたが,用いる試験紙の種類や試験紙の挾み方,検査時に涙液をふき取るかどうかなど,施設によって微妙な差異がある.またBUT検査はさらにバリエーションが大きく,用いるフルオレセイン染色液の濃度と量,時間の測定法,繰り返して結果を平均化するか,涙液break-upの判定法などさまざまである.研究会で推奨する方法を表4に示すが,これらの検査法の標準化に向けてさらなる啓発と基礎的検討が必要であることが示された.3.角結膜上皮障害の検査染色試験によって角結膜上皮障害の判定を行うことには変わりがないが,その判定基準と用いる染色液について若干の変更があった.まず,フルオレセイン染色試験の判定方法では,従来の角膜上の染色を3点満点で判定(49)表2ドライアイの診断基準1.涙液の異常①シルマー試験Ⅰ法にて5mm以下②涙液層破壊時間(BUT)5秒以下①,②のいずれかを満たすものを陽性とする2.角結膜上皮障害*①フルオレセイン染色スコアー3点以上(9点満点)**②ローズベンガル染色スコアー3点以上(9点満点)**③リサミングリーン染色スコアー3点以上(9点満点)**①,②,③のいずれかを満たすものを陽性とする*生体染色スコアリングを臨床研究に用いる場合は,用いる治療法や薬剤の特性を考慮して,適宜改変して用いることが望ましい.**図1参照.表3ドライアイ診断における確定例と疑い例①自覚症状○○×○②涙液異常○○○×③角結膜上皮障害○×○○ドライアイの診断確定疑い疑い疑い**涙液の異常を認めない角結膜上皮障害の場合は,ドライアイ以外の原因検索を行うことを基本とする.表4涙液層破壊時間(BUT)検査の方法点眼するフルオレセイン溶液の量は最小限にする時間の測定はストップウォッチやメトロノームで正確に行う検査は3回行って,その平均をとる涙液層の破綻は,角膜全体のどこかに生じたときに陽性とする図1角結膜上皮障害スコアリング(フルオレセイン,ローズベンガル,リサミングリーンとも)耳側球結膜,角膜,鼻側球結膜における染色の程度を各々3点満点で判定し,これを合算して9点満点として計算する.角膜03点03点03点鼻側結膜耳側結膜———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007して1点以上を陽性とする基準から,角膜と結膜を9点満点で判定して3点以上を陽性とする基準に改められた(表3,図1).ドライアイにおいては,結膜上皮の障害が角膜上皮障害より高率に認められ,点眼や涙点プラグなどの治療を行った後も結膜染色が残存する傾向が強い.従来,結膜上皮障害は,ローズベンガル染色によって判定することが推奨され,今回もこの判定基準はそのまま残された.フルオレセインとローズベンガルの染色メカニズムが異なることは報告されているが,日常診療においては,フルオレセイン染色によっても結膜上皮障害を十分に判定しうると考えられる.フルオレセインによる結膜上皮障害をさらに詳細に検討・記録するには,ブルーフリーフィルターなどを使用する方法もある12).結膜の異常に目を向けることが,ドライアイ診療において重要であることが示されたといえる.また,ローズベンガルとともに,リサミングリーンも角結膜上皮障害の判定に用いることができることが示された13).ローズベンガルの染色スコアは,シェーグレン症候群の診断基準にも用いられているが,点眼後の疼痛を訴える例が多く,特に光毒性が強いため日常診療には用いにくいという欠点があった.リサミングリーンはこうした障害が少なく,特別な観察フィルターも必要がないため,その有用性があると判断された.この上皮障害スコアリングとそのカットオフ値の正当性についても,今後の研究結果によっては変更がありうることを再度確認のために記しておく.また,生体染色液による上皮障害スコアリングを臨床研究に用いる場合は,用いる治療法や薬剤の特性を考慮して,適宜改変して用いることが望ましい.まとめ今回10年ぶりに改訂された,新しいドライアイの定義と診断基準を紹介した.いまだ発展途上であり,今後の研究の進展をまたなくてはならない部分も多いが,新しい基準を用いることで,これまで以上にドライアイの病態の理解が深まることが期待される.文献1)島﨑潤:ドライアイの定義と診断基準.眼科37:765-770,19952)LempMA:ReportoftheNationalEyeInstitute/IndustryWorkshoponClinicalTrialsinDryEyes.??????21:221-232,19953)KohS,MaedaN,KurodaTetal:E?ectoftear?lmbreak-uponhigher-orderaberrationsmeasuredwithwavefrontsensor.???????????????134:115-117,20024)IshidaR,KojimaT,DogruMetal:Theapplicationofanewcontinuousfunctionalvisualacuitymeasurementsys-temindryeyesyndromes.???????????????139:253-258,20055)SchaumbergDA,SullivanDA,BuringJEetal:Preva-lenceofdryeyesyndromeamongUSwomen.????????????????136:318-326,20036)LinPY,TsaiSY,ChengCYetal:PrevalenceofdryeyeamonganelderlyChinesepopulationinTaiwan:theShi-hpaiEyeStudy.?????????????110:1096-1101,20037)ScheinOD,MunozB,TielschJMetal:Prevalenceofdryeyeamongtheelderly.???????????????124:723-728,19978)LeeAJ,LeeJ,SawSMetal:Prevalenceandriskfactorsassociatedwithdryeyesymptoms:apopulationbasedstudyinIndonesia.???????????????86:1347-1351,20029)GotoT,ZhengX,KlyceSDetal:Anewmethodfortear?lmstabilityanalysisusingvideokeratography.????????????????135:607-612,200310)KojimaT,IshidaR,DogruMetal:Anewnoninvasivetearstabilityanalysissystemfortheassessmentofdryeyes.?????????????????????????45:1369-1374,200411)YokoiN,KinoshitaS,BronAJetal:TearmeniscuschangesduringcottonthreadandSchirmertesting.??????????????????????????41:3748-3753,200012)KohS,WatanabeH,HosohataJetal:Diagnosingdryeyeusingablue-freebarrier?lter.???????????????136:513-519,200313)ManningFJ,WehrlySR,FoulksGN:Patienttoleranceandocularsurfacestainingcharacteristicsoflissaminegreenversusrosebengal.?????????????102:1953-1957,1995(50)☆☆☆

インフォームド・コンセントと患者満足度

2007年2月28日 水曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSを用いて調査したので,その一部を抜粋して紹介する.MVFTは三宅らが米国版VF14を日本人向けに改良したものであり,遠・中・近の各距離に大・中・小の大きさの文字や対象物を組み合わせて,日常生活の具体的な項目が設問されている1,2).図1に質問表の一部を紹介する.回答は「読みにくいことはない」から「ほとんど見えない」を5段階に分けて,4点~0点のスコアとして計算する.まず術後1年の眼鏡使用状況についてのアンケート結果を図2に示す.回折型IOL群では,眼鏡を使用せずが58.8%,遠用のみ使用が5.9%に対し,同時期に単焦点IOLを挿入した群では,全例近用または遠近両用眼鏡を使用していた.これは従来の回折型・屈折型IOL挿入後の眼鏡使用状況と比較しても良好な結果である3~5).最も興味ある眼鏡なしでのMVFTスコアを図3に示す.日常生活で不自由なしという100点が回折型IOLでは41%に比べ,単焦点IOLでは0%であった.また,90点以上が回折型IOLで91%,単焦点IOLで41%と明らかな違いが認められた.この結果から,患者の満足度が非常に高いことがわかり,このメリットについては,医師側が十分に強調してよいであろう.3.細かい字が見えるかどうか単焦点IOLでも,術後屈折が正視にもかかわらず,遠くも近くもよく見えると満足される症例を日常経験する.偽調節,瞳孔径など,いろいろ考察されているが,はじめに白内障手術時のインフォームド・コンセントについては,すでに各施設で工夫されたパンフレットやビデオなど,定番の説明様式があると思われる.従来の単焦点眼内レンズ(IOL)の説明に対し,バイフォーカルIOL,今回は特に回折型IOLにおいては,どのような内容を加え,どのような点に注意を払うべきか,さらに,どうすれば術後の患者満足度を上げることができるか,回折型IOLを100眼以上に挿入し,すでに2年の経過観察を行った経験から述べたい.I回折型IOL挿入によるメリットの説明1.眼鏡なしでの良好な遠方および近方視力このIOLのメリット,従来の単焦点IOLと比較した場合の優位性は「眼鏡なしで遠方,近方ともに見える」の一点に尽きる.適応や術後成績の詳細は他項に述べられているが,角膜乱視が少なく,裸眼遠方視力1.2が得られれば,裸眼近方視力もほぼ1.0近くが得られる.これは,患者側というより,まず医師側が感動する内容である.2.アンケート結果からわかる患者満足度視力が良好なのは,検査結果から数値として確認できるが,実際の見え方に対する自覚的な満足度はアンケート調査に頼るしかない.今回は,回折型IOL挿入後に改良型VF14(modi?edvisualfunctiontest:MVFT)(43)???*YokoTaira:眼科龍雲堂医院〔別刷請求先〕平容子:〒353-0004志木市本町4-3-17眼科龍雲堂医院特集●バイフォーカル眼内レンズあたらしい眼科24(2):177~180,2007インフォームド・コンセントと患者満足度?????????????????????????????????????????平容子*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007近くが見えるという場合の字の大きさに注意すべきである.近くが見えると一言で言っても,大きな字が見えるのと細かい字が見えるのでは,かなり違う.実際に単焦点IOL群のMVFTスコアでも,得点が低いのは近見の細かい文字であり,ある程度の大きさになると近見でも判読可能で得点は上がる.回折型IOLでは,近方視力が0.7以上の症例が多く,この視力であれば辞書の字も裸眼で読める.単焦点IOLで,遠方視に度数を合わせた症例で,近くがここまで見える例は今まで経験がない.4.患者側のメリットに対する理解度現在,回折型IOLの保険診療上の扱いが未定である.インフォームド・コンセントにより患者自身が回折型IOLを選び,そのメリットに対して海外のように,ある程度の代価を個人的に払うことになれば,その期待のハードルは高いものとなる.患者自身が「遠方・近方ともに眼鏡なしで見える」ことの,優位性・利便性・必要性を本当に確実に理解しているか,言い換えれば,単焦点IOLで正視にすると近くは見えないということを,理論的に理解できているか,医師側がしっかりと見きわめる必要がある.この点がしっかり理解されていれば,多少のデメリットが生じても患者の満足度は高いものとなるであろう.II回折型IOL挿入によるデメリットの説明1.自覚症状の有無にかかわらず起こりうるデメリット回折型IOL挿入後の患者満足度が非常に高いことから,自覚的に感じるデメリットは非常に少ないといえ(44)両用近用のみ遠用のみ眼鏡使用なし0100(%)50:単焦点群:多焦点群0058.805.9088.2411.8011.8023.50図2眼鏡使用状況10090~9980~89MVFTスコア70~790(%)50:単焦点群:多焦点群410504765330図3MVFTスコア図1視機能アンケート(MVFT)用紙(抜粋)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???る.しかし,回折というデザインによる理論的なデメリットがあり,実際の検査にても単焦点IOLより明らかである.大きく分けて3つで,グレア・ハロー,コントラスト感度の低下,中間視力の低下である.2.グレア,ハロー屈折型IOLでは,術前に夜間のグレア,ハローが出現することを十分説明し,納得できる症例にしか挿入すべきでなかった.海外では,このため,IOL摘出例がでている.回折型ではどうなのだろうか?モデル眼などから得られた写真でも単焦点IOLよりグレア,ハローが明らかである.特に夜間のハローは,回折型IOL挿入後のアンケート調査でも100%に認められた.しかし生活に支障をきたすようなものはではなく,そのために夜間の運転ができないという症例はなく,明らかに屈折型とは異なる.インフォームド・コンセントとして,これらは必ず説明しなければならないが,内容を具体的に説明することで,このIOLのメリットに比べると,非常に小さなデメリットであることが理解してもらえるであろう.3.コントラスト感度・コントラスト視力コントラスト感度についても,実際の測定結果では単焦点IOLより低下している例があるものの,日常生活に影響する例はなかった.このタイプのIOL挿入後早期に,「よく見えるが何となく落ち着かない」「水の中で見ているような感じがする」「ショボショボする」などの訴えを経験する.これらは,表現は異なっているが,ほぼ同じような感覚を表しているとも思える.幸いにもある程度時間が経過するとこの症状は自然に消失するが,これらの表現が,コントラスト感度と関係している可能性は否定できない.4.中間距離の見え方中間距離の見えにくさは,遠方と近方の2点に明らかにデフォーカスカーブをもつ回折型IOLの光学特性から,最も気にしていた点であるが,実際にはほとんどの症例で自覚的な訴えはなかった.中間視力に関して,「書店で書架に並んだ本の背表紙の文字が読めずビックリしたが,少し顔を近づけると読めたので,納得した」と話した症例を経験したが,このように,1メートル前後の距離では遠方や近方ほど視力がでていないことがわかる.この点は,術前に説明しておくべきである.すなわち,若い頃のように,どの距離でもはっきり見えるのではなく,遠方と30cmぐらいの近方が見やすいIOLなのである.5.視力の安定ほとんどの症例は術翌日,1週後と単焦点IOL挿入後と変わりない視力の回復をみせるが,まれに,術翌日は良好な視力が得られたにもかかわらず,その後しばらくの間,裸眼のみでなく矯正視力も不安定な症例を,高齢者で経験した.従来の回折型IOLでも高齢者において視力の戻りが遅いとの報告6)があるが,原因は明らかでない.しかし術後3カ月から6カ月で視力は安定したので,術後早期に視力が予想より不良な場合でも,時間経過とともに改善する可能性が高いと考える.おわりに以上,回折型IOL挿入前のインフォームド・コンセントは,単焦点IOLに比べ,付け加えるべき項目はそれほど多くない.従来の白内障手術について言えば,眼内炎の発生率や破?の割合を詳しく説明しても,白内障で日常生活に支障があるので,患者側は手術を選ぶことになる.それは今のところ手術以外に視力を回復する手段がないからである.つまり,従来のインフォームド・コンセントは,術後の医事紛争を避けることが主眼であり,患者の納得を得ることに傾けられている7,8).しかし「IOLの種類を選ぶ」となると,まさに医師側の説明と情報により,患者側が選択することになる.挿入後に起こりうる症状に言及しておくことは,インフォームド・コンセントの基本であり,患者の安心と信頼を高めるものであるが,あまり?子定規に説明すると,術後かえってその事柄にこだわり,神経質な患者の不定愁訴を誘発する恐れもあるので,注意を要する.回折型IOLは単焦点IOLに比べ,非常にメリットのあるIOLであることは,実際の臨床結果から明らかである.この回折型IOLが実際に使えるようになった場(45)———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007合,まず適応を守り,そのうえで医師側が,患者の性格・生活状況・知識や理解度などを見きわめて,今まで述べた点について注意を払いインフォームド・コンセントをすれば,まず問題はないと考える.術後,患者とともに医師も高い満足度を得られる.今後,患者自身の理解と希望で,より高いqualityofvision(QOV)・quali-tyoflife(QOL)の得られるIOLが,自由に選択できるようになることが望まれる.文献1)三宅三平,太田一郎,前久保久美子ほか:視機能評価法(VF14)の改良.????????11:116-120,19972)三宅三平,三宅謙作,太田一郎ほか:アンケート調査を利用した白内障における視機能評価法.視覚の科学20:52-57,19993)別当京子,馬嶋慶直,黒部直樹ほか:多焦点眼内レンズの手術適応について.???6:330-334,19924)黒部直樹,馬嶋慶直:回折型多焦点眼内レンズ.あたらしい眼科8:1751-1754,19915)庄司信行,清水公也:屈折型多焦点眼内レンズの術後成績と適応.臨眼53:259-263,19996)上田勇作:回折型多焦点レンズ移植眼の術後視機能.臨眼46:1677-1681,19927)杉浦康弘:説明義務と手術承諾書.????????20:76-85,20068)平岡孝浩,大鹿哲郎:眼科手術におけるインフォームド・コンセント白内障手術.眼科47:813-820,2005(46)