———————————————————————-Page1(87)15570910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(11):15571560,2008cはじめに結膜弛緩症は,おもに下方球結膜が弛緩する状態を指し,加齢性変化によって生じるとされている1).また近年capsu-lopalpebralfascia(CPF)の弛緩により結膜円蓋部が挙上し,結果として結膜が下眼瞼縁を占拠する機序の結膜弛緩症が存在することが報告されている2).結膜弛緩症は決して新しい疾患概念ではなく,高齢者における有病率が高い疾患であるが,長い間,過小評価されてきた疾患の一つである1).しかし米国で1990年代から流涙あるいはドライアイの原因疾患の一つとして再認識され,わが国でも多彩な自覚症状を呈する高齢者の不定愁訴の原因疾患として注目されるようになってきている3).結膜弛緩症の治療として手術が有用であることが知られており,その術式も横井らの結膜切除術3,4),Mellerらの羊膜移植を併用した結膜切除術5),Otakaらの結膜縫着術6)などさまざまな術式が報告されている.筆者らはOtakaらの結〔別刷請求先〕永井正子:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学病院眼科Reprintrequests:MasakoNagai,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversityHospital,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPAN結膜弛緩症に対する結膜縫着術永井正子*1,2羽藤晋*1,2大野建治*1望月弘嗣*1山田昌和*1*1国立病院機構東京医療センター感覚器センター*2慶應義塾大学医学部眼科学教室SurgicalRepairofConjunctivochalasiswithAnchoringSuturesMasakoNagai1,2),ShinHatou1,2),KenjiOhno1),HiroshiMochizuki1)andMasakazuYamada1)1)NationalInstituteofSensoryOrgans,NationalTokyoMedicalCenter,2)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine結膜弛緩症に対するanchoringsutureによる結膜縫着術の治療成績について検討した.対象は東京医療センターで結膜縫着術を施行した結膜弛緩症症例21例38眼で,手術時年齢は平均74.0±6.9歳,性別は男性3例,女性18例であった.本術式により89.5%の例で涙液メニスカスを完全に再建できたが,自覚症状の著明な改善を得ることができたのは63.2%であった.自覚症状の改善率を自覚症状別に比較すると,流涙型では87.5%(16眼中14眼)で高かったが,ドライアイ型では50%(8眼中4眼),炎症型では50%(8眼中4眼)と流涙型以外では低い傾向にあった.また対象には,capsulopalpebralfascia(CPF)の弛緩を伴う円蓋部挙上型5眼が含まれていたが,同じ術式で対応することができた.本方法は,手術手技が比較的容易で短時間に行えること,術後の炎症所見,異物感が少ないこと,CPFの弛緩を伴う円蓋部挙上型にも同じ術式で対応できることなどが利点と考えられた.Surgicalresultsofconjunctivochalasisrepairwithanchoringsutureswerereviewedin38eyesof21patients(meanage:74.0±6.9yrs;3males,18females)whoweretreatedwithanchoringsuturesatNationalTokyoMedi-calCenter.Ofthesepatients,89.5%achievedtheresolutionofconjunctivochalasis,resultingincompleterecon-structionofthetearmeniscus.Subjectivesymptoms,however,werecompletelyresolvedinonly63.2%ofcases.Whenthepatientsweredividedintosubgroupsaccordingtothesubjectivesymptoms,thesuccessrateoflacrima-tiontypewasexcellent(87.5%),whereasthesuccessratesofthedry-eyeandinammationtypeswere50%and50%,respectively.Fivecasesthathadaccompanyingrelaxationofthecapsulopalpebralfascia(CPF)weretreatedbythesameprocedure,withoutproblems.Thissurgicaltechniqueappearstobeeasy,safeandlesstime-consum-ing.Theminimizationofpostoperativeinammationandforeign-bodysensationisadvantageousoverothertech-niques.Surgicalrepairofconjunctivochalasiswithanchoringsuturesappearstobeeectivefortreatingthecondi-tion.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(11):15571560,2008〕Keywords:結膜弛緩症,手術,ドライアイ,流涙.conjunctivochalasis,surgery,dryeye,epiphora.———————————————————————-Page21558あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(88)膜縫着術をmodifyして,より簡便で侵襲の少ない術式として10-0ナイロンR糸を用いたanchoringsutureによる結膜縫着術を行っている.今回,その治療成績について検討したので報告する.I対象および方法対象は東京医療センター眼科において,2005年4月から2006年12月に結膜縫着術を施行した結膜弛緩症21例38眼である.対象の手術時年齢は6186歳(74.0±6.9歳,平均±標準偏差),性別は男性3例,女性18例であった.国立病院機構東京医療センター感覚器センター(以下,当科)では,結膜弛緩症の治療の第一選択を手術とはせずに,まず点眼治療を試みている.点眼治療として人工涙液,ヒアルロン酸製剤,ステロイド薬,非ステロイド系消炎薬などを症例に応じていくつか試み,自覚症状の軽快がみられないものを手術適応とした.手術は点眼麻酔の後に2%リドカイン(キシロカインR)を少量,結膜下に注射して行い,6-0シルク糸で6時に制御糸をかけて上転させた状態で眼球を固定した(図1).輪部から結膜円蓋部に向けてスパーテルか鑷子の背の部分を用いて結膜を伸展させた状態を保ちながら,輪部から約8mmの部分に10-0ナイロンR糸で結膜から強膜をすくって縫合した.結膜を伸展させると下直筋の位置が同定できるので,下直筋は避けるようにし,下直筋の耳側に2針,鼻側に3針縫合をかけるようにした.術後は,抗菌薬とステロイド薬(0.1%フルオロメトロンあるいは0.1%リン酸ベタメタゾン)の点眼1日34回を術後23週間行い,原則として抜糸は行わなかった.診療録をもとに結膜弛緩症手術症例の術後の自他覚所見の改善度,合併症,再発についてretrospectiveに検討した.また症例を術前の臨床症状別,もしくはCPF弛緩の有無に基づいて分類し,術後の改善度を比較検討した.CPFには下瞼板枝,円蓋部枝があり,結膜弛緩症は円蓋部枝の弛緩で起こりやすく,ここでいうCPFの弛緩とは円蓋部枝の弛緩である.臨床症状については流涙型,ドライアイ型,炎症型の3型に分けた7).流涙型は角結膜の生体染色所見や刺激症状はあまりみられず,間欠的流涙を主症状とする型,ドライアイ型は眼乾燥症状や異物感があり,弛緩結膜上方の角膜に生体染色がみられる型,炎症型は刺激症状や充血が強く,結膜炎症所見が主体の型とした.ただし,いずれか1つに分類できない症例に関しては,混合型としたものもある.II結果今回の対象である結膜弛緩症手術症例21例38眼を臨床所見別に分類した結果を図2に示す.流涙型10例16眼が最も多く,ドライアイ型4例8眼,炎症型4例8眼で,1つに分類できなかった混合型は炎症型+ドライアイ型2例4眼,流涙型+ドライアイ型1例2眼であった.また,CPF弛緩の有無では,CPF弛緩を伴う円蓋部挙上型が3例5眼,CPF弛緩を伴わないものが18例33眼であった.典型的な症例の術前後の所見を図3に示す.弛緩した結膜が下方の涙液メニスカスを占拠しているが,CPFの弛緩は伴っていない例である.術後1週目には涙液メニスカスは完全に再建されており,下方球結膜の炎症所見は軽度であることがわかる.図4はCPFの弛緩を伴い,結膜が浅くなっている例であるが,術後は結膜が深く保たれていることがわかる.38眼のうち,涙液メニスカスを完全に再建できたものは89.5%(34眼)であったが,自覚症状の著明な改善を得られ①②③④図1手術方法①結膜下注射で局所麻酔を行い,②6時方向に6-0シルク糸で制御糸をかける.③上転させた状態で結膜を伸展し,輪部から約8mmのところに10-0ナイロンR糸で結膜と強膜を縫着する.下直筋を避け,その鼻側と耳側に23針ずつ縫着する.④結膜が伸展し,弛緩が解除されていることを確認して終了.ドライアイ型4例8眼流涙型10例16眼炎症型4例8眼1例2眼2例4眼図2臨床所見別の症例の内訳———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081559(89)たのは63.2%(24眼)にとどまった.臨床所見別の分類では,涙液メニスカスの再建率は流涙型で93.8%(16眼中15眼),炎症型で100%(8眼中8眼)と良好であったが,ドライアイ型では62.5%(8眼中5眼)と低い結果になった.一方,自覚症状の改善率は流涙型87.5%(16眼中14眼)で高かったが,ドライアイ型では50%(8眼中4眼),炎症型では50%(8眼中4眼)と流涙型以外では低い傾向にあった.CPF弛緩の有無では,涙液メニスカス再建率はCPF弛緩による円蓋部挙上型では100%(5眼中5眼),CPF弛緩を伴わない型では87.8%(33眼中29眼)であったが,自覚症状の改善率は円蓋部挙上型においては20%(5眼中1眼),CPF弛緩を伴わない型では69.7%(33眼中23眼)となり,他覚的な涙液メニスカス再建率と自覚症状改善率はあまり一致しなかった.術後の合併症として,異物感と充血・結膜下出血がみられたが,眼球運動障害,感染などの重篤な合併症はみられなかった.異物感は,術後1週間では50%(19眼)にみられたが,術後1カ月では28.9%(11眼)に減少した.術後1カ月を超えて異物感が持続した症例は6眼あったが,2例4眼でマイボーム腺機能不全,1例2眼で眼瞼外反を合併しており,持続する異物感には結膜弛緩症以外の要因が考えられた.充血・結膜下出血は,術後1週間で18.4%(7眼),術後1カ月で7.9%(3眼)の症例で生じたが,これ以上遷延する例はなかった.術後経過観察期間中,10.5%(4眼)に再発がみられた.その内訳は炎症型2例3眼,流涙型1例1眼であり,再発の時期は術後1年後以降であった.このうち,炎症型1例1眼では再手術を施行し,症状,所見ともに改善している.III考按結膜弛緩症に対して施行した10-0ナイロンR糸を用いたanchoringsutureによる結膜縫着術の治療成績について検討した.本術式により89.5%の例で涙液メニスカスを完全に再建できたが,自覚症状の著明な改善を得ることができたのは63.2%であった.他覚的な結膜弛緩の改善率と自覚症状の改善率の間には差があり,手術によって自覚症状の著明な改善を得られなかった症例が1/3以上あったことは,結膜弛緩症以外にマイボーム腺機能不全,眼瞼外反など他の眼表面疾患を合併している症例が含まれていたことが影響していると思われる.当科では手術の適応を点眼治療で症状が改善しない例としているが,愁訴が結膜弛緩症によるものかどうか術前にはさらに慎重な検討を要するものと考えられた.臨床所見,自覚症状により病型を分類した場合,流涙型では自他覚所見の改善率が87.5%と良好であったが,ドライアイ型,炎症型では自覚症状の改善率がいずれも50%と低い傾向にあった.また,CPFの弛緩を伴う円蓋部挙上型においては,5眼全例で涙液メニスカスを完全に再建することができたが,自覚症状が改善したのは1眼にとどまった.これらの結果は,臨床所見や解剖学的な所見によって,手術の予後をある程度推測できることを示しているのかもしれない.ただし,病型別の奏効率に関しては,今回の症例数が十分でない面があり,今後,症例数を増やして検討する必要があるものと考えられた.本手術は1015分程度と短時間で行うことができ,術後の合併症は重篤なものはなかった.また,術後の異物感,充血が軽く,ほとんどの症例で術後1カ月以内に消失することも利点と考えられた.また,新たな円蓋部を作製することで,CPFの弛緩による円蓋部挙上型にも同じ術式で対応できる点で有用と考えられた.ただし,経過観察期間中に10.5%に弛緩症の再発がみられた.結膜切除による結膜弛緩症手術と異なり,球結膜と強膜に癒着が生じる範囲が狭く,結膜に近い部分に限られることが原因と推測される.この術前術後1週図3典型的な症例の術前後の所見弛緩した結膜が下方の涙液メニスカスを占拠しているが,結膜短縮は伴っていない例.術後1週目には涙液メニスカスは完全に再建されており,下方球結膜の炎症所見は軽度である.術前術後1週図4円蓋部挙上型の術前後の所見術前に比べて,術後は結膜はむしろ深くなっており,円蓋部挙上型にも同じ術式で対応できる.———————————————————————-Page41560あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(90)点は,術後の炎症所見が軽いという利点と表裏の関係にあるものと思われるが,再発しにくい術式の改良の余地があるものと考えられた.本論文の要旨は第31回角膜カンファランスで発表した.文献1)MellerD,TsengSC:Conjunctivochalasis,literaturereviewandpossiblepathophysiology.SurvOphthalmol43:225-232,19982)三戸秀哲,井出醇:結膜弛緩症を合併した加齢性下眼瞼内反症.眼紀52:1025-1027,20013)山崎太三,井出醇,三戸秀哲ほか:結膜弛緩症.眼科47:1536-1542,20054)横井則彦,西井正和:結膜弛緩症,結膜弛緩症関連疾患に対する手術.眼科手術18:7-14,20055)MellerD,MaskinSL,PiresRTetal:Amnioticmembranetransplantationforsymptomaticconjunctivochalasisrefractorytomedicaltreatments.Cornea19:796-803,20006)OtakaI,KyuN:Anewsurgicaltechniqueformanage-mentofconjunctivochalasis.AmJOphthalmol129:385-387,20007)山田昌和:結膜弛緩症の考え方.東京都眼科医会報194:2-5,2006***