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緑内障:急性原発閉塞隅角症と毛様体脈絡膜剥離

2006年12月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS●超音波生体顕微鏡(UBM)で観察される毛様体脈絡膜?離UBMを用いることにより眼底検査では確認できない微少な毛様体脈絡膜?離(もしくは浮腫,uveale?u-sion)が観察される(図1).微少な毛様体脈絡膜?離は,内眼手術(特に濾過手術後1)),汎網膜光凝固術後,ぶどう膜炎(特にVogt-小柳?原田症候群2)などの炎症に伴って観察される.毛様体脈絡膜?離は一般に低眼圧と関連している.低眼圧は毛様体脈絡膜?離の原因になる一方,毛様体脈絡膜?離の存在は低眼圧の原因にもなる.濾過手術においては急激な減圧や手術時の微少な毛様体の損傷がその原因であると推測されている.しかし,UBMにより観察される毛様体脈絡膜?離は必ずしも低眼圧に付随して観察されるわけではない.急激な眼圧下降のほか炎症による毛様体からの滲出および房水のぶどう膜強膜流の増加という合目的的な生理反応と,強膜からの排出のアンバランスにより出現するものと考えられる(図2).●原発閉塞隅角症と毛様体脈絡膜?離筆者らは,原発閉塞隅角症においてレーザー虹彩切開術後に高頻度で観察されることを報告し,炎症によるぶどう膜強膜流の増加によるものと考察した3).しかし,一方でこの研究の間にレーザー虹彩切開術や内眼手術の既往がない眼において,特発性の毛様体脈絡膜?離が存在する症例のあることに気がついた.連続した原発閉塞隅角症症例に対するUBM観察の結果,原発閉塞隅角症(61)●連載?緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄78.急性原発閉塞隅角症と毛様体脈絡膜?離酒井寛琉球大学医学部眼科急性原発閉塞隅角症(いわゆる緑内障急性発作)では,薬物治療による発作緩解後に超音波生体顕微鏡で観察される毛様体脈絡膜?離を高率に生じている.急性発作緩解後の毛様体脈絡膜?離は,一過性の低眼圧の原因となる一方で再度の隅角閉塞の原因ともなる.その病態の理解は,臨床経過の予想に重要である.図1原発閉塞隅角症に観察される毛様体脈絡膜?離(上:矢状断,下:冠状断)a:UBMで明らかな毛様体脈絡膜?離.b:UBM上にわずかに観察される微少な毛様体脈絡膜?離.強膜毛様体扁平部強膜毛様体扁平部ab図2急性原発閉塞隅角症(急性発作)と毛様体脈絡膜?離の関係(概念図)炎症(PGs)ぶどう膜強膜流↑毛様体脈絡膜?離低眼圧短眼軸強膜肥厚,組織異常ぶどう膜強膜流のうっ滞毛様体前方回旋浅前房隅角閉塞急性発作治療による急激な眼圧下降———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006では開放隅角緑内障と比べて高率に特発性の微少な毛様体脈絡膜?離が存在することを発見した.各病型での毛様体脈絡膜?離の発生率および頻度を図3に示す4).●急性原発閉塞隅角症における毛様体脈絡膜?離の臨床的意義急性原発閉塞隅角症は最も古典的な「緑内障」病型であり,現代においても適切な治療がなされなければ重篤な視力障害の原因になる可能性のある疾患である.急性原発閉塞隅角症とその治療過程においては,眼圧上昇によるうっ血,眼圧の急激な下降,虹彩虚血による炎症,ピロカルピン点眼による毛様体収縮・炎症,アセタゾラミドの使用など毛様体脈絡膜?離の原因となりうる病態が集積している.真性小眼球においては毛様体脈絡膜?離が手術後にも手術前にも起こりうるが,急性原発閉塞隅角症眼も眼軸の短い眼に多いことから同様に毛様体脈絡膜?離を生じやすいのではないかと推測される.急性原発閉塞隅角症の治療後の毛様体脈絡膜?離発症頻度は約60%と非常に高い.しかしその程度はきわめて軽度であり,眼底検査で脈絡膜?離として診断されることはなくUBM検査においてのみ観察されるものである.?離は毛様体の後方から脈絡膜にかけて頻発し,全周性だけでなく限局性にも存在する.そのため,UBM検査を用いたとしても隅角部だけの撮影では検出されないことも多い.しかしながら,軽度であっても慢性閉塞眼では毛様体脈絡膜?離眼の前房深度が浅いことも判明しているので,急性発作治療後の前房は続発性にさらに浅くなっていると考えられる.毛様体脈絡膜?離は毛様体の前方回旋により隅角を閉塞するように働くことにも注意が必要である.急性発作が薬物治療で緩解し,薬物治療中止(減量)後にも低眼圧が数日続くことがある.これは,以前は毛様体の血流が発作によって途絶するためと考えられていたが,毛様体脈絡膜?離の高頻度での発症から,微少毛様体脈絡膜?離によるぶどう膜強膜流の増加によると考えるのが妥当であろう.実際に,急性発作緩解後角膜浮腫の軽減を待っている間に再発作を起こす症例を散見する.こうした症例のUBMを観察すると最初の発作解除後の隅角はあまり開放していないにもかかわらず眼圧が下降している.そして,数日後に眼圧が再上昇するのである.こうした経過は急性発作後の微少毛様体脈絡膜?離によって説明することができる.すなわち,急性発作後に微少毛様体脈絡膜?離を伴って眼圧は数日間下降するが,一方で浅前房は悪化し,隅角も多くが閉塞している.数日後,消炎や時間経過に伴い微少毛様体脈絡膜?離が消失すると,眼圧は隅角閉塞の程度に従って再上昇するものと考えられる(図4).おわりにUBM検査は行えない場合でも急性発作後には毛様体脈絡膜?離が存在している,と考えることが病態の理解および治療戦略において重要であることを強調したい.文献1)SugimotoK,ItoK,EsakiKetal:Supraciliochoroidal?uidatanearlystageaftertrabeculectomy.????????????????46:548-552,20022)KawanoY,TawaraA,NishiokaYetal:Ultrasoundbio-microscopicanalysisoftransientshallowanteriorchamberinVogt-Koyanagi-Haradasyndrome.????????????????121:720-723,19963)SakaiH,IshikawaH,ShinzatoMetal:Prevalenceofcil-iochoroidale?usionafterprophylacticlaseriridotomy.???????????????136:537-538,20034)SakaiH,Morine-ShinjyoS,ShinzatoMetal:Uveale?usioninprimaryangle-closureglaucoma.??????????????112:413-419,2005(62)図4急性発作緩解後の眼圧再上昇と毛様体脈絡膜?離の消長急性発作治療↓眼圧下降毛様体脈絡膜?離低眼圧&隅角閉塞持続眼圧再上昇毛様体脈絡膜?離の消失020406080100急性発作僚眼閉塞隅角慢性原発開放隅角:毛様体脈絡膜?離(-):毛様体脈絡膜?離(+)発症頻度(%)図3原発閉塞隅角症の各病型と毛様体脈絡膜?離発症頻度(文献4より作図)

屈折矯正手術:屈折矯正手術-LASIK術後管理の注意点

2006年12月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLSLASIK(laser???????keratomileusis)は現在最も行われている屈折矯正術であり,年間の手術件数も約10万件に達する.専門施設で手術を施行され,術後は他の眼科施設を訪れる患者が今後は増加すると考えられるため,術後管理についての一般的知識を共有することは大切である.●早期合併症のモニタリングと治療術後1週間以内は,フラップの創傷治癒にかかわる合併症が起こりやすいので,特に注意が必要である.またフラップの接着が弱いため,外傷などによってフラップのずれなどが起こりうる時期である.1.Di?uselamellarkeratitis(DLK)フラップ下への原因不明の細胞浸潤で術後1日に発症することが多い.細胞浸潤の程度と経過によってStage1~4に分類される.Stage1は周辺部のみの細胞浸潤,Stage2はフラップ下全体のびまん浸潤,Stage3は細胞どうしが一部塊となり,さざなみ様を呈する状態,Stage4は中央部に細胞が集中し実質のmeltingが始まる状態,である1)(図1).治療方針はStage1ではステロイド点眼(1~2時間ごと),Stage2ではステロイド内服(PSL30mg/日),Stage3ではフラップ下の洗浄である.Stage4に達すると視力障害が残る可能性があり,適切な時期にフラップ下洗浄を行いStage4への進行を予防しなければならない.したがって,Stage2の(59)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載?監修=木下茂大橋裕一坪田一男79.屈折矯正術-LASIK術後管理の注意点-戸田郁子南青山アイクリニックLASIKは術後回復も早く重篤な術後合併症もないため,術後管理は比較的容易である.術後1カ月以内は,di?uselamellarkeratitis(DLK),フラップ偏位,epithelialingrowth,ドライアイ,夜間のみにくさなどの可能性があるが,いずれも適切な管理により改善することがほとんどである.長期における屈折の戻りは再手術にて対応する.図1Di?uselamellarkeratitis(DLK)のStage分類Stage1:フラップ辺縁部の細胞浸潤,Stage2:フラップ下全体のびまん性細胞浸潤,Stage3:細胞が一部かたまって「さざなみ様」を呈した状態,Stage4:細胞が中央に集結し,フラップのmeltingが始まった状態.Stage1Stage2Stage3Stage4図2ガタースコアフルオレセイン点眼の後フラップ縁の染まる範囲をGrade1~3で判定する.Grade0:染まらない.1:1/2以下の染色.2:1/2以上の染色.3:全周の染色.Grade0Grade1Grade3Grade2———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006DLKをみたら1~2日ごとに診察する必要がある.2.フラップ偏位フラップ周辺部上皮化は約24時間で完成するが,1カ月くらいまでの間は,ぶつけたり強くこすったりしないよう指導する.万が一フラップ偏位が起こった際は,視力や屈折に影響する場合は整復を行う.周辺部の軽度の皺などは放置してもよい.3.Epithelialingrowthフラップ周辺部の上皮がフラップ下に迷入する状態で,術後1週間までの間に発症することが多い.軽度のものは,そのままかソフトコンタクトレンズ装用によって数週間でフラップエッジの上皮化が起こり,自然消滅するため経過観察してよい.フラップエッジの創傷治癒が悪い場合は,フルオレセインで染色すると染まり(ガター),その部位から上皮が侵入していることがわかる(図2).異物感の強い場合,進入速度と範囲が広い場合,ガターの範囲が広い場合,などはフラップ下を洗浄し迷入上皮を除去する.4.ドライアイLASIK術後は涙液分泌や涙液安定性が低下し,患者はドライアイ症状をうったえる2).症状にあわせて人工涙液の点眼や涙点プラグなどを施行する.術後ドライアイは平均1カ月くらいで改善するが,重症の場合は数カ月続いたり,ときに視力や屈折に影響する場合があり,意外に術後の不満の原因となるため適切な管理が大切である.5.夜間の見え方LASIK術後は高次収差が増加し,特に夜間において光のにじみやコントラストの低下などの視力の質の低下が起こる.ほとんどの場合は時間とともに改善するが,矯正度数が大きい場合は残ることもある.対策はあまりないが,半年以上経っても改善しない場合,縮瞳薬や過矯正眼鏡が効果的な場合もある.●長期管理術後1カ月経てば生活制限はなくなり,水泳やダイビングを含めたすべてのスポーツが可能である.その後の合併症発生はきわめてまれである.1.屈折変化LASIK後は約1割の患者では,屈折の戻りや進行による裸眼視力低下が起こる.角膜厚に余裕がある場合は,術後3カ月以上経って屈折が安定していれば再手術で対応する.2.ケラトエクタジアLASIK術後の角膜の一部が進行性に突出する状態で,いわゆる医原性円錐角膜である.術後の残余全角膜厚400?m,フラップベッド250?m以上を維持することがケラトエクタジアの防止とされているが,この基準でも発症した例が報告されている3).また,術前に潜在的な円錐角膜であるとケラトエクタジア発症のリスクが高まる.したがって,角膜形状解析を用いた術前のスクリーニングは大切である.発症後の対応は円錐角膜に準じ,まずは眼鏡やコンタクトレンズ矯正を試みる.角膜の変形が強い場合は,角膜内リング(ICRS)や深層角膜移植術などの適応になる.文献1)LinebargerEJ,HardtenDR,LindstromRL:Di?uselamel-larkeratitis:diagnosisandmanagement.???????????????????????26:1072-1077,20002)TodaI,Asano-KatoN,Hori-KomaiYetal:Dryeyefol-lowinglaserinsitukeratomileusis.????????????????132:1-7,20013)RandlemanJB,RussellB,WardMAetal:RiskfactorsandprognosisforcornealectasiaafterLASIK.??????????????110:267-275,2003(60)☆☆☆

眼内レンズ:Infusion Misdirection Syndrome( IMS)対策

2006年12月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLSInfusionmisdirectionsyndrome(IMS)1)は,特に高齢者でZinn小帯が脆弱でかつWieger?帯2,3)が外れている場合に,水晶体乳化吸引(PEA)や吸引灌流(I/A)中に発症し4),わが国では吉冨らによりI/A時?拡張不全症候群とよばれていた.これは上記の理由から,術中灌流液が脆弱Zinn小帯を容易に通過して,後房,とりわけBerger腔に回り,後?を前?の位置まで押し上げることにより生ずる.このとき,もしサージが生じたら,後?は一時的にさらに上昇し,PEAや粗暴なI/A操作により後?は容易に破損する.これらを防ぐためには,Cole核操作具やM-フック5)などをサイドポートから前房に挿入し,後?を強制的に通常の位置まで押し下げてPEAやI/Aを続行すればよい.あるいは,PEAの最終段階で,小さい核片のみが残っている場合には,破?前に核片をvisco-extractionしてもよい.いずれにしても後?破損を防ぐ最良の方法はPEA後半(前半は核片が後?を押し下げているので認識できない)やI/Aの際に,後?の挙動をよく見きわめ,もし後?がサージとは別に上昇してくるようであれば,IMSか,灌流液不足,創口よりのリークが多いなどの異常にいち早く“気づく”ことである.(57)三好輝行*1吉田博則*2*1医療法人節和会三好眼科*2高知大学医学部眼科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎244.InfusionMisdirectionSyndrome(IMS)対策Infusionmisdirectionsyndromeは,特に高齢者でZinn小帯が脆弱でかつWieger?帯が外れている場合に,水晶体乳化吸引(PEA)や吸引灌流(I/A)中に発症する.不意に生じる後?破損を避けるには,Cole核操作具やM-フックで後?を強制的に押し下げながら手術操作を続行するか,後?が破損する前に残りの核片をvisco-extractionすればよい.図1IMSの発生機序Zinn小帯が弱く,かつWieger?帯が一部でも外れている(部分前部硝子体?離の生じている)症例では,灌流液は密でないZinn小帯の間隙を速やかに通過して後房(Berger腔)に回る.核片が大きい間は後?の上昇を核片自体がブロックしているが,核片が小さくなると後?は上昇し,この時点でサージが起こると容易に破?する.それを防ぐために,M-フックやCole核操作具で後?を強制的に押し下げることが必要となる.図2IMSによる後?破損の防ぎ方PEA後半,Cole核操作具で後?を押し下げて核乳化吸引を安全に行えるスペースを確保する.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006(00)付記するまでもないが,脆弱Zin小帯を予想できる要因としては,高齢者,強度近視,ぶどう膜炎,緑内障,浅前房,レーザー虹彩切開術施行,小瞳孔,偽落屑症候群,網膜色素変性症,鈍的外傷歴,アトピー性白内障,膨化白内障,過熟白内障,網膜硝子体・緑内障などの内眼手術術後,Marfan症候群,Marchesani症候群,ホモシスチン尿症などがある.なお,きわめてまれではあるが,後?,虹彩ともいっそう上昇して前房がさらにできにくく,あるいはまったくできない状態を招来した場合には当然のことながら激しい疼痛,acutechoroidale?usionや駆逐性出血前駆状態などの“緊急事態”(これらの合併症は,高齢者,高血圧症または術中血圧上昇,糖尿病,緑内障の患者に生じやすい)を考えるべきである.文献1)MackoolRJ,SirotaM:Infusionmisdirectionsyndrome.???????????????????????19:671-672,19932)HammingNA,AppleD:Anatomyandembryologyoftheeye.PrinciplesandPracticeofOphthalmology(edbyPey-manGA,SandersDRetal),p3-68,Saunders,PA,19803)猪俣孟,吉冨文昭,沖坂重邦:ベルガー腔とウイガー?帯.臨眼54:1034-1035,20004)三好輝行,吉田博則:Wieger?帯の術中観察.あたらしい眼科23:889-890,20065)南宣慶:M-フックの多角的機能性とその使い方(M-Cutテクニック).あたらしい眼科13:1129-1132,1996図4Visco-extraction核片が小さく残り少なくなった時点でIMSの発症に気づいた場合は,破?が生ずる前に残りの核片をvisco-extractionしてもよい.図3I/A時の後?保護I/Aの際も同様にM-フックなどで後?の上昇を防護しながら操作を続行する.

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ装用者における緑内障の症例

2006年12月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS●近視眼には緑内障が発症しやすいコンタクトレンズ(CL)装用者や装用希望者の診察を行う際に,緑内障をみつけることが多い.緑内障の多治見スタディや他の報告から,筆者は「40歳以上の人で約5%が緑内障になる」と患者に説明している.ワタナベ眼科(当院)の調査(2003年)1)でも,CL装用者の0.2%に視野異常を伴う「緑内障」が認められた.また,緑内障の疑いのある高眼圧症が1.8%,視神経乳頭陥凹拡大が1.0%みられた.当院はオフィス街の中にあり,患者は男女とも20~35歳が多い.CL装用者の年齢分布と緑内障関係の疾患をもつ患者の年齢分布を図1,2に示すが,40歳以下でも多いことがわかる.2006年8月の当院のデータでは,2万人のCL装用者の約800人(約4%)を緑内障および緑内障疑いで経過観察をしている.もともと,近視眼に高眼圧が多いという話がある.第16回日本緑内障学会のランチョンセミナー「緑内障ベースで近視を見る!」2)に興味あるデータがでていた.いくつかの論文を検討したところ,近視眼には緑内障が合併しやすく,正視眼の1.48~3.3倍もあるとしている.また,近視の程度が強くなるほど眼圧が高い傾向があり,眼圧に対する抵抗力が弱い可能性があるとしている.すなわち,CL装用者は,特に緑内障の検査が必須であるということになる.●緑内障を発見するボランティア精神をもつこと2006年4月に医療費改定でCL診察の包括化が行われた.厚生労働省は,CL装用者は若年者が多いため,精密眼圧検査や眼底検査は必要がないと判断していると想像できる.もし,緑内障の発見が遅れたら,厚生労働省は責任をとってくれるのであればよいが,結局は,診察した医師の責任か,症状を言わなかった患者本人の自己責任になる.したがって,眼科専門医は,自分の責任を果たすために,ボランティアで検査を行うことが強いられる.緑内障の検査は,眼圧検査と眼底検査(視神経乳頭陥凹)が主であるが,前房の深さや隅角のチェックも忘れてはいけない.非接触式眼圧検査以外は,非眼科医では行えない検査である.これまで,リテイラー(商売人や非眼科医が経営)の診療所では,行ってもいない検査を保険請求し続けてきたことが,今回の医療費改定につながったと考えられている.●視神経乳頭の観察早期の正常眼圧緑内障の発見率が増えている印象がある.筆者は,CL装用者を眼科専門医が眼底精査することが励行されていることが発見率を増加させた一因と推(55)渡邉潔ワタナベ眼科コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純TOPICS&FITTINGTECHNICS270.コンタクトレンズ装用者における緑内障の症例図2緑内障の疾患をもつ患者の年齢分布10~1415~1920~2425~2930~3435~3940~4445~4950~5455~5960~6465~6970~年齢(歳)050100150200250300患者数(人):緑内障:高眼圧症:視神経乳頭陥凹拡大02,0004,0006,0008,00010,00012,00014,00016,00010~1415~1920~2425~2930~3435~3940~4445~4950~5455~5960~6465~6970~年齢(歳)患者数(人)図1CL装用者の年齢分布———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006(00)測している.リテイラーや通信販売でCLを購入していたCL装用者が,調子が悪くなった場合,眼科専門医を受診することが常識となってきたからであろう.多くの患者は,リテイラーには眼科専門医はいないことを知っているが,「少々診察代金が高くても,空いていて,CL代金が安いリテイラーで購入していた」,そして,「眼に異常を感じたら,眼科医のいる眼科に行く」という.毎回,無散瞳であっても眼底検査で視神経乳頭を観察することは必須であると考える.視神経乳頭の変化があった場合,一般の眼科診療所では視神経の画像解析などできないが,眼底写真を示して患者に説明すれば患者は緑内障について関心をもってくれる.近視眼の乳頭の形態にはいろいろある.形態分類では,①円形,②楕円形,傾斜の分類では,①非傾斜,②傾斜に分類できる.図3は,楕円の傾斜の例である.乳頭の傾斜を示す血管起始部の偏位がある.ほとんどが鼻側にずれていることが多い.耳側にコーヌスを認めるが,乳頭とコーヌスを含めると,真円形になることが多いといわれており,研修医などは見誤ることがある.●緑内障治療薬と角膜障害緑内障の薬物療法が長期にわたることや多剤を併用するため,角膜上皮障害をひき起こしやすい.CL装用で上皮障害が生じた場合,その治癒を遅らせることもある.また,緑内障治療薬のなかには,角膜上皮細胞に毒性のある塩化ベンザルコニウムが高濃度含まれているものもある.●緑内障治療薬による角膜上皮障害の診察方法ソフトCL装用者でも,CLをはずしてフルオレセイン染色を行い,上皮障害の有無をみる.薬剤毒性の上皮障害のパターンは「びまん性の点状表層角膜症」が最も多い.また,染色して1分以上経過してみると,マスクメロン様上皮障害やバスクリン角膜症など上皮のバリアーの破壊を意味する所見をみることがある.また,保険請求のルール上では,CL装用者の緑内障検査には,接触式の眼圧計(アプラネーション)を使用することになっているが,接触式は角膜上皮をかなりの頻度で傷めるので,通常は非接触式を用いるべきである.文献1)渡邉潔,大原博美,日下佳苗:コンタクトレンズ装用者の定期的診察の重要性第1報─屈折以上以外の眼疾患の有病率─.日コレ誌46:80-83,20042)吉川啓司,松本俊,坪井俊一ほか:緑内障3分診療を科学する!─近視を「見る!」─.眼科48:357-372,2006図3近視眼の視神経乳頭陥凹拡大─楕円の傾斜の例

写真:両眼の眼瞼ならびに球結膜に多発した結膜乳頭腫

2006年12月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS(53)若山美紀千葉大学大学院医学研究院眼科学写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦271.両眼の眼瞼ならびに球結膜に多発した結膜乳頭腫①②③④図2図1のシェーマ①:円蓋部から眼瞼結膜にかけて発生した結膜乳頭腫.②:眼瞼結膜に発生した結膜乳頭腫.③:球結膜に発生した結膜乳頭腫.④:円蓋部結膜に発生した結膜乳頭腫.図1右下眼瞼ならびに球結膜に生じた結膜乳頭腫眼瞼結膜に血管に富んだ桑実状腫瘤,球結膜ならびに眼瞼結膜に花弁状腫瘤を計4個認めた.病理組織学的検査にて結膜乳頭腫と診断した.免疫学的検査を施行したが,HPV(ヒトパピローマウイルス)は検出されなかった.図3左上眼瞼結膜に生じた結膜乳頭腫図1と同患者の左上眼瞼である.花弁状腫瘤が多発しているのがわかる.図4左眼球結膜に生じた結膜乳頭腫図1と同患者の左眼球結膜である.円蓋部から連続したカリフラワー状腫瘤が球結膜にも広く分布している.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006(00)乳頭腫は,重層扁平上皮が乳頭状に増殖した良性腫瘍で,皮膚・口腔内・喉頭・外陰部粘膜などに発生する.その原因は,感染性・非感染性に分けられ,感染性のものは若年者に多く,両眼多発性・有茎性・再発性で,眼瞼縁や結膜円蓋部に好発する.非感染性のものは高齢者に多く,片眼単発性・無茎性で,角膜輪部や球結膜に好発し,悪性化のおそれがある.特に高齢者にみられる輪部病変や急速に進行増大する病変は,異形成・上皮内癌・扁平上皮癌などを考慮しなければならない.感染性乳頭腫の原因にヒトパピローマウイルス(humanpapillomavirus:HPV)の関与があげられ,皮膚の疣贅,生殖器における尖圭コンジローマ,子宮頸癌などの発生に関与していることが明らかとなっている.HPVはパポバウイルス科に属し,二本鎖DNAをもつ,直径約55nm,正20面体の球状ウイルスで,宿主特異性が強く,ヒトの上皮系組織でのみ増殖し,上皮細胞の異型性に関連があるとされている1,2).DNAの塩基配列の相同性により,現在では約80型に分類され,それぞれの型による病変の特徴や臓器親和性が解明されつつある.結膜乳頭腫では,尖圭コンジロームや喉頭乳頭腫と関連の深いHPV6・11型が多く検出され,結膜の上皮内異形成・上皮内癌・扁平上皮癌などの悪性疾患では,HPV16・18型が多く検出される1).また,病理組織像上,増殖上皮の表層にみられるkoilocytosis(上皮細胞の核の濃染と細胞質の空胞化)は,ウイルス感染を示唆する所見といわれている.HPVの感染経路について,小児では,尖圭コンジローマをもつ母体からの産道感染が報告されている3).成人では,手指などからの直接感染として,結膜乳頭腫に性感染症である尖圭コンジローマを合併した症例や,兄弟間での感染と考えられる報告がある4).また,産道感染後に再活性化が起こり発症する可能性などが考えられている.治療としては,切除が基本であるが,再発が多い.病巣の単純切除術と冷凍凝固術やマイトマイシンC処理の併用が有効であるが,インターフェロンa-2bの投与5),マイトマイシンCや5-FU(フルオロウラシル)の局所投与の有効性も報告されている.また,シメチジン(タガメット?)の内服が有効であった報告もある6).文献1)ShieldsCL,ShieldsJA:Tumorsoftheconjunctivaandcornea.???????????????49:3-24,20042)伊藤由香,小幡博人,水流忠彦:Insituhybridization法を用いてヒトパピローマウイルスを検出した結膜乳頭腫の再発例.臨眼57:29-32,20033)NaghashfarZ,McDonnellPJ,McDonnellJMetal:Genitaltractpapillomavirustype6inrecurrentconjunctivalpap-illoma.???????????????104:1814-1815,19864)WilsonFM,OstlerHB:Conjunctivalpapillomasinsib-lings.???????????????77:103-107,19745)SchechterBA,RandWJ,VelazquezGEetal:Treatmentofconjunctivalpapillomatawithtopicalinterferonalfa-2b.???????????????134:268-270,20026)ShieldsCL,LallyMR,SinghADetal:Oralcimetidine(Tagamet)forrecalcitrant,di?useconjunctivalpapilloma-tosis.???????????????128:362-364,1999

疾患感受性遺伝子同定のアプローチと今後の展望

2006年12月31日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSにする.本稿では,疾患に関連する遺伝子の多様性および遺伝子同定の戦略について,最新の情報を交えて概説したい.Iゲノムと遺伝子「ゲノム」とは「ある生物をその生物足らしめるのに必須な遺伝情報」,すなわちその生物の遺伝情報の総体のことであり,ゲノムには生命現象のプログラムが書き込まれている.ヒトでは22種類の常染色体とX,Yの2種類の性染色体に遺伝情報が蓄えられ,この遺伝情報を担っているのが「DNA」である.DNAは4つの塩基,アデニン(A),チミン(T),グアニン(G),シトシン(C)で構成され,4塩基の並び(配列)が遺伝情報を決定している.ヒトに限らずすべての生物の遺伝情報は,この4種類の塩基のみから構成されているが,その並び方(配列)の違いにより異なった生物となっている.DNAのなかでヒトの体の構成要素である蛋白質をコードしている領域が「遺伝子」であり,A,T,G,Cの4塩基が3個1組の順列で1つのアミノ酸を規定し,その連続である蛋白質の種類を特定する.ヒトゲノムは約30億個の塩基対から成るが,蛋白質をコードしている領域(遺伝子)はそのうちのわずか2%程度にすぎず,大半は非遺伝子領域である.ヒトの遺伝子数はこれまで予想されていた数よりも大幅に少ない23,000個程度と推定され,フグ(約22,000個)や線虫(約20,000個)と同程度である(表1).他の生物よりも高度かつ多様な生はじめにワトソン(Watson)とクリック(Crick)によるDNAの二重らせん構造の発見から半世紀となる2003年,ヒトの全ゲノムの塩基配列の解読完了が発表された.これは全ゲノムの99%の配列を99.999%以上の精度で解読したとされている1).この遺伝情報の解明が21世紀のバイオテクノロジーや医学の発展に寄与するところは多大である.現在のところ,ヒトの遺伝子の数は当初予測されていた100,000に比べはるかに少ない23,000程度と推定されている.この23,000個の遺伝子により10万種類を超える蛋白質が合成され,ヒトのさまざまな生体組織が形成されている.脳,心臓,肝臓などの諸臓器もおのおのの遺伝情報から作り上げられ,精密な機能が備えられている.すなわち,23,000個の遺伝子から人体を構成する60兆個の細胞が寸分違わず再現されるのである.しかし,われわれの姿形や体質が千差万別であるように,「生命の設計図」である遺伝情報には個人差(多型)が存在する.そしてこの遺伝子の多型が多くの疾患の発症に関与していると考えられ,多型と疾患の関連を解明することがポストゲノム時代のこれからの医学,科学の重要課題となっている.ヒトゲノム解読に加え,近年の遺伝子解析技術の飛躍的な進歩により,疾患の原因蛋白質の同定や発症機序の解明が遺伝子レベルで急速に進展してきている.このような遺伝学的知見は疾患の理解のみならず,疾患のより的確な診断や治療といった臨床医学の新たな一歩を可能(45)????*AkiraMeguro&NobuhisaMizuki:横浜市立大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕目黒明:〒236-0004横浜市金沢区福浦3-9横浜市立大学医学部眼科学教室特集●組織適合抗原(HLA)のすべてあたらしい眼科23(12):1559~1566,2006疾患感受性遺伝子同定のアプローチと今後の展望????????????????????????????????????????????-?????????????????????????????????????????目黒明*水木信久*———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006命活動を営むヒトの遺伝子数が予想外に少ないのは驚きであるが,このことは遺伝子の数が必ずしも生物の多様性や知性を決定しているのではないということを示唆する.ヒトが多様性に富む生物である理由は,1つの遺伝子から合成される転写産物(mRNA)およびその翻訳産物(蛋白質)の多様性に因るものと考えられる.II疾患と遺伝子多くの疾患は遺伝学的見地から,非遺伝性疾患,単一遺伝子疾患,多因子性遺伝子疾患(多因子疾患)の3つに大別される.非遺伝性疾患では,環境因子のみが疾患の発症要因となる.一般に外傷や中毒性疾患などが代表的な疾患である.遺伝性疾患である単一遺伝子疾患は特定の1つの遺伝子に突然変異が生じることで発症する.遺伝因子により発症が規定されるこの疾患は種類が多いものの,有病率の低いまれな疾患である.古くは鎌状赤血球症,フェニルケトン尿症あるいはHuntington病などが有名である.一方,多因子疾患は複数の環境因子と遺伝因子の相互作用により発症する有病率の高い疾患で複雑な病態を示す.遺伝因子の多数は多型遺伝子からなると考えられている.糖尿病,高血圧,肥満といった日常的にありふれた疾患(commondisease)が多因子疾患の代表的な例である.単一遺伝子疾患では特定の遺伝因子(原因遺伝子)が発症の必要条件であるのに対し,多因子疾患においては特定の遺伝因子は疾患発症の必要条件でもなければ,十分条件でもない.多因子疾患では遺伝因子の保有は疾患に対する「かかりやすさ(感受性)」を規定しており,複数の遺伝因子(疾患感受性遺伝子)の関与のもとに,環境因子が合わさって発症に至ると考えられている.インターネット上のOMIM(OnlineMendelianInheritanceinMan)からの統計結果では,2型糖尿病は17遺伝子,高血圧は16遺伝子,肥満は18遺伝子との関連が指摘されている(表2).多様な精神機能の障害がみられる統合失調症では最も多くの21遺伝子が関連遺伝子として同定されている.また,自己免疫疾患と考えられる疾患においても,免疫応答の惹起に疾患感受性遺伝子が関与していると推測されており,これまでにいくつかの疾患において感受性遺伝子が同定(46)表1各種生物の推定遺伝子数生物遺伝子数哺乳類ヒト23,000チンパンジー20,000~25,000アカゲザル22,000イヌ18,000~20,000マウス24,000ラット22,000~23,000ウサギ15,000鳥類ニワトリ18,000両生類ニシツメガエル18,000魚類フグ22,000メダカ21,000昆虫類ショウジョウバエ14,000ガンビエハマダラカ13,000~14,000線虫線虫20,000菌類分裂酵母5,000出芽酵母6,000~7,000植物シロイヌナズナ27,000イネ34,000インターネット上のNCBI,Ensemblのデータベースを参考にした(2006年10月現在).遺伝子数は推定のため,後に修正される場合がある.表2各疾患に関連のある遺伝子の数疾患遺伝子数関節リウマチ7肺癌9Parkinson病10全身性エリテマトーデス11乳癌12喘息12Alzheimer病13大腸癌・直腸癌14高血圧162型糖尿病17肥満18前立腺癌19統合失調症21インターネット上のOMIMのデータベースから検索した(2006年10月現在).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????されてきている.III疾患感受性遺伝子同定の戦略ヒトの生命活動は遺伝子にプログラミングされたとおりに適材適所に適量の蛋白質を合成することで,健常に営まれる.しかしながら,ヒトの遺伝子には多くの変異や多型が存在し,合成される蛋白質の量や質に個人差が生じる.この個人差の異常こそが多因子疾患発症の主因であると推測されている.このような遺伝因子の解明に飛躍的な進歩をもたらしたのは,1980年半ばのPCR(polymerasechainreaction)技術の発見である2).このPCR技術の進歩は,遺伝性疾患のなかでも特に単一遺伝子疾患の原因遺伝子の同定に対して大きな力を発揮した.そして現在,ヒトゲノムの完全解読により数多くの遺伝子多型が判明し,従来は困難であった遺伝学的アプローチによる多因子疾患の疾患感受性遺伝子の同定の研究が急速に進められている.多因子疾患の感受性遺伝子同定の戦略としては大きく分けて,①疾患でみられる機能異常などから候補となりうる遺伝子や遺伝子領域をあらかじめ選択して解析を行う「候補遺伝子アプローチ」と②全遺伝子を網羅するように全染色体の解析を行う「ゲノムワイドアプローチ(全ゲノム網羅的解析)」の2つがある.候補を絞り込み同定を試みる「候補遺伝子アプローチ」は,「ゲノムワイドアプローチ」に比べ,はるかに効率的に感じられるが,多因子疾患の分子病理の複雑さゆえに疾患感受性遺伝子がまったく予想もしない遺伝子であったりするため,「候補遺伝子アプローチ」では的外れの候補遺伝子解析になってしまう場合も少なくない.一方,全染色体を対象とした「ゲノムワイドアプローチ」は網羅的に疾患感受性遺伝子のマッピングを行うため,われわれの予測を超えた遺伝子の同定も可能であり,多因子疾患の遺伝学的解析の主流になりつつある.疾患感受性遺伝子をゲノムワイドに絞り込む手法の一つとしては,罹患した兄弟姉妹(同胞対)を含む小家系を多数用いた罹患同胞対解析(a?ectedsib-pairanaly-sis)がある.遺伝マーカーとしてマイクロサテライト(MS:ゲノム上に散在する数塩基単位の反復配列)が頻繁に用いられ,疾患とともに家系内で遺伝する遺伝因子を探索する.この解析法の利点は,前述したようにゲノム全域にわたって疾患感受性遺伝子を同定できる点である.しかしながら,検出力が低いという欠点があり,遺伝子寄与(相対危険率)の低い疾患感受性遺伝子を見いだすことができない可能性がある.検出力を高めるには,多くの同胞対を必要とするが,罹患同胞対を含む家系を多数集めるのは非常に困難である.このようななかで現在最も有力であると考えられるゲノムワイドな解析法は,患者群(case)と健常群(control)を比較し,患者群に偏った遺伝因子を統計学的に検索する相関解析(case-controlstudy)であると考えられている.相関解析自体は何ら目新しい手法ではないが,最も検出力が高く,患者と健常者がともに数百人ずつ集まれば,遺伝子寄与の低い疾患感受性遺伝子も同定することが可能である.相関解析では遺伝マーカーとしておもにSNP(sin-glenucleotidepolymorphism:1塩基多型)を用いる方法とMSを用いる方法がある.IV疾患遺伝子へのアプローチ近年の遺伝子解析技術のめざましい進歩に加え,ヒトゲノムの全解読によってSNPやMS多型の大半が判明した今日,「ゲノムワイドアプローチ」による多因子疾患の疾患感受性遺伝子を同定する試みが行われてきている.筆者らもこれまでに多くの多因子性眼疾患の疾患感受性遺伝子の検索をゲノムワイドに行ってきた.以下に筆者らが実際に行っているMSマーカーを利用した方法とSNPマーカーを利用した方法による多因子疾患のゲノム解析について実例を交えて概説する.1.マイクロサテライト多型解析マイクロサテライト(MS)とはゲノム上に散在する数塩基単位の反復配列のことで,たとえば,CとAが順列にn回反復する場合は(CA)nのように表記される.一般に遺伝子間やイントロンなどの非コード領域に多く存在し,生理的には意味をもたない配列である.しかしながら,その反復回数に個人差(多型)が多く認められるため,疾患遺伝子マッピングの有用な遺伝マーカーになりうることが示されてきた3).MSは連鎖不平衡(複数の対立遺伝子や多型の組み合わせがランダムではなく(47)———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006相関している現象)の距離が100kb以上にわたって存在している4).したがって,およそ30億塩基対(30Gb=3×109b)からなるヒトゲノムの全染色体上に100kb(1×105b)ごとに1個の密度で計3万個のMSマーカーを設定して相関解析を行えば,100kb前後に疾患遺伝子候補領域が特定(マッピング)できると予想される.筆者らは2000年度から,日本人集団において多型性豊富なMSマーカーの検索を行い,全染色体を網羅する約3万個のMSマーカーの収集・設定を完了している(図1).また,筆者らは各個人のDNA量が均一になるように100~200人程度のDNAを混合したpooledDNAを用いてPCRをする方法(pooledDNAPCR法)を確立しているため,PCRの回数が従来の100~200分の1となり,時間的にも,コスト的にも,労力的にも大幅に効率的な遺伝子マッピングが可能となっている.筆者らはこれまでに本法を用いて強度近視,Beh?et病,正常眼圧緑内障,網膜格子状変性,本態性高血圧などの多因子疾患の疾患感受性遺伝子の解析を遂行してきた.筆者らが現在行っているBeh?et病感受性遺伝子のMSマッピングを紹介する.Beh?et病は全身の諸臓器に急性の炎症をくり返す原因不明の難治性疾患であり,内的遺伝要因に加え,何らかの外的環境要因が作用して発症する多因子疾患と考えられている.本病は人種を超えてHLA-B51抗原と顕著に相関しており,HLA-B*51対立遺伝子(アリル)が本病の疾患感受性遺伝子として有力視されている.しかしながら,患者群のHLA-B51(48)400kb以上のマーカーギャップ?nisheddraftゲノムのphase213456789101112131415X16171819202122Y図1多型マイクロサテライトマーカーの分布各染色体上に設定したMSマーカーを青色の横線で示す.全染色体を網羅するように,約100kbごとに31,924個のMSマーカーを設定した.400kb以上のマーカーギャップがあるところは赤矢印で示した.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????(49)1番染色体2番染色体3番染色体4番染色体5番染色体HLA6番染色体7番染色体8番染色体9番染色体10番染色体11番染色体12番染色体13番染色体14番染色体15番染色体16番染色体17番染色体18番染色体19番染色体20番染色体21番染色体22番染色体X染色体Y染色体図2Beh?et病のMSスクリーニング結果横軸は染色体上のMSマーカーの位置を示す.縦軸は患者群と健常群でのMSのアリル分布の有意差検定の値(p値)を示している.青色の横線がp値0.05を示し,それより下がp値0.05未満である.p値0.05未満の陽性MSマーカーを黄色丸で示した.———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006抗原陽性頻度はどの民族においても60%前後であり,残りの40%前後はHLA-B51抗原以外の他のHLA-B抗原を有している.また,HLA-B51抗原陽性者のうち本病を発症するのはほんのわずかである(浸透率が低い).したがって,本病発症にはHLA-B*51アリル以外の他の遺伝子も関与している可能性が示唆されるために,全ゲノムを網羅するMSマーカー約3万個を用いて,ゲノムワイドに本病の疾患感受性遺伝子のマッピングを行っている.本MSマッピングでは,偽陽性を防ぐために患者群,健常群ともに300人ずつを対象にし,両群ともに100人ずつの3集団(一次~三次pooledDNA)に分けて3段階の解析を行った.独立した3集団のすべてにおいて患者群と健常群の比較で有意差を認めたMSマーカーのみを真の陽性MSマーカーとした.これまでに3段階のpooledDNAスクリーニングが終了し,本病の疾患感受性遺伝子の候補領域を147領域に絞り込んでいる(図2).本病と強い相関が知られているHLA-B遺伝子から36kbテロメア側に位置するMSマーカーが本病と顕著に相関しており,このMSマーカーがHLA-B遺伝子と強い連鎖不平衡にあることがわかる.このことから,残り146個のいずれかのMSマーカーの近傍にも本病の疾患感受性遺伝子が存在することが示唆される.146個のうち,3個はHLA領域に位置し,残りはY染色体を除くすべての染色体に散在していた.これらの近傍領域をSNP解析することによりHLA-B*51アリル以外の本病の疾患感受性遺伝子を同定することが可能と考えている.現在,筆者らは146個の陽性MSマーカーのpooledDNAスクリーニングにおける解析データおよび近傍の遺伝子情報を考慮して11個のMSマーカーを抽出し,おのおの100kb内外のゲノム領域のSNP解析を行っているところである.2.SNP解析SNP(singlenucleotidepolymorphism)とは一塩基多型のことであり,個人間における塩基配列上の単一塩基の違いのことである.ヒトゲノムの大部分では1,000塩基(10kb)に1個の割合でSNPがあり,ゲノム全体で300万~1,000万個存在すると推定されており,最も高頻度に存在する多型である.SNPは疾患感受性遺伝子同定の指標(遺伝マーカー)として広く用いられているが,実際に機能的SNPも多数存在し,SNP自体が疾患の危険因子となる場合がある.蛋白質をコードする遺伝子領域には50万個のSNPが存在すると推測され,これら遺伝子領域にあるSNPは,発現レベルやアミノ酸配列に直接影響し,遺伝子産物の質・量あるいは機能に違いを生じさせ,疾患に対する感受性(かかりやすさ)や薬剤への応答性(効きやすさ)などの個人差をもたらすと考えられている.近年の遺伝子解析技術の大幅な進歩に加え,ゲノムを網羅するデータベースの整備によりSNP情報を詳細に得ることが可能となった.これまでは多量のサンプルと大量の試薬や機器を必要とし,非常に高価であった全ゲノムの網羅的SNP解析は現在は安価で迅速(ハイスループット)に遂行できるようになってきた.代表的なSNP解析法としては,Invader?法,Sniper?法,TaqMan?法,GeneChip?法などがあり,現在でも解析技術の開発競争が行われている.ここでは,筆者らが用いているSNP解析法として,GeneChip?法を紹介する.GeneChip?(A?ymetrix社)とは固相化学合成と半導体製造用の光リソグラフィ技術の応用で作製され,ガラスの基盤上に数十万種類のオリゴヌクレオチドを配置し(50)図3GeneChip?HumanMapping500KArray(原寸大)500KArraySetは2枚のアレイからなる.中央部の1.28cm四方の基板上に25万個のSNPを配置している.2枚のアレイのみで50万個のSNPを一度にジェノタイピングできる.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????た超高密度マイクロアレイである.GeneChip?は当初,全ゲノムを対象とした遺伝子発現の解析に開発されたが,その後飛躍的に進歩し,ハイスループットで高精度なSNP識別ツールとして全ゲノムの網羅的相関解析を可能にしている.GeneChip?は数cm四方のカートリッジ式で,オリゴヌクレオチドをプローブとして担体上にアレイし,ラベルされたサンプルとハイブリダイズさせてSNPを検出する(図3).前述のようにSNPはゲノム全体で300万~1,000万個存在し,それらすべてのSNPを解析することは困難であり,非現実的である.SNPは多型性が少ないために連鎖不平衡の距離が約3~10kbと短く,ゲノムワイドに疾患感受性遺伝子をマッピングするためには,高密度にSNPを設定する必要がある5)が,筆者らが使用しているGeneChip?HumanMapping500KArraySetには全ゲノムにわたり50万個を超えるSNPが平均距離5.8kbごとに超高密度にプロットされてある.さらに,ヒトゲノムの85%が10kb以内に1個のSNPを含んでいることを考慮すると,HumanMapping500KArraySetを用いることでゲノムワイドに高精度のSNP解析を行うことが可能と考えられる.現在筆者らは,HumanMapping500KArraySetを用いて正常眼圧緑内障の全ゲノムの網羅的相関解析を行っている.正常眼圧緑内障の疾患感受性遺伝子の解析はMSとSNPの両方面からゲノムワイドに行っており,解析結果のデータベースを整備することでより良い結果が得られるものと考えている.Vトランスレーショナルリサーチトランスレーショナルサーチとは高度かつ先進的な医療を行うための研究開発のことで,基礎研究で得られた成果を速やかに臨床応用することを目指している.近年,この基礎研究と臨床をつなぐトランスレーショナルリサーチに注目が集まっており,多大な期待が寄せられている.1.遺伝子診断昨今,疾患発症に関与する染色体や遺伝子の変異(または多型)を各個人で検査する遺伝子診断が注目されている.疾患の原因遺伝子や感受性遺伝子の有無の判別により,将来的に特定の疾患を「発症する」か「発症しない」か,または「発症しやすい」か「発症しにくい」かを診断する.生活習慣病を含め多くの疾患は複数の要因の相互作用で発症する多因子疾患であり,疾患感受性遺伝子の保有は発症を規定するものではなく,発症のリスク(かかりやすさ)を規定するものである.そのため遺伝子診断により,①自分が保有している疾患感受性遺伝子の数とその相対危険率を知る,②疾患発症の相乗モデルから,将来自分が疾患を発症する確率を推定する,③疾患の早期発見,早期診断の一助となる,④疾患に対する本人の注意喚起,意識改革をひき起こす,といったことが想定され,その医学的価値は大変高いと考えられる.しかしながら,浸透率の低い疾患感受性遺伝子では陽性の結果が得られても,陰性の人と比較してほんのわずかにその疾患を発症しやすい程度である.大きな混乱を招かないためにも,遺伝子診断の有効性を客観的に評価するシステムを構築する必要がある.また,着床前診断や出生前診断による生命の選別,疾患遺伝子保有者への遺伝子差別などが起こらないように,その利用には十分注意しなくてはならない.2.ゲノム創薬ゲノム創薬とはゲノム研究の成果を利用して新規医薬品の開発を行うことである.解明された疾患感受性遺伝子をもとに発症に関与する蛋白質(標的分子)を同定し,この標的分子を手がかりに医薬品を開発する.標的分子が分泌酵素や蛋白質修飾酵素であった場合,それらの阻害薬が治療薬となりうる.また,標的分子の活性化部位を特異的に不活化する化合物を合成したり,不活化された蛋白質の高次構造を変化させ機能を回復させるような化合物の検索がなされたりしている.レセプターに対するアゴニスト(作用薬)やアンタゴニスト(拮抗薬),シグナル伝達物質の刺激薬や阻害薬,モノクローナル抗体なども治療薬となりうる.ゲノム研究により疾患の原因の標的を絞ることができれば,このようにより有効な副作用の少ない医薬品の提供が可能となる.3.個人化医療個人化医療(personalizedmedicine)は個人のゲノム(51)———————————————————————-Page8????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006情報に基づいた薬剤応答性を予測し,個人に最も適切な薬剤と投与量を選択するものである.従来の医療は疾患が中心であり,疾患名に応じた画一的な治療が行われてきた.個々人の体質は千差万別であり,同一の疾患であっても薬剤に対する応答性や副作用の程度が異なることは以前より知られていたが,そのような薬剤に対する個人差をあらかじめ予測する手立てはなかった.しかしながら,ヒトゲノム完全解読以降の遺伝学的研究の著しい進歩により,従来「体質」とよばれてきた個々人で多様に異なる特性は遺伝子の多様性に起因するものであり,薬剤の治療効果をこの遺伝子の多様性が規定していることがわかってきた.今後,多数の遺伝子の機能や多型の情報が蓄積されれば,多くの疾患において副作用のないより有効な治療法が確立されることが期待される.おわりに以上,疾患感受性遺伝子同定のアプローチと今後の展望について最新の知見を交えながら概説した.今日の遺伝子研究の飛躍的な進展により,疾患に関与する遺伝要因が数多く解明されてきた.しかしながら,遺伝要因と環境要因の相互作用についてはいまだ不明な点が多く,疾患発症のメカニズムの解明には今後のさらなる研究が必要である.文献1)InternationalHumanGenomeSequencingConsortium:Finishingtheeuchromaticsequenceofthehumangenome.??????431:931-945,20042)MullisKB,FaloonaFA:Speci?csynthesisofDNAinvitroviaapolymerase-catalyzedchainreaction.???????????????155:335-350,19873)DibC,FaureS,FizamesCetal:Acomprehensivegenet-icmapofthehumangenomebasedon5,264microsatel-lites.??????380:152-154,19964)KochHG,McClayJ,LohEWetal:AlleleassociationstudieswithSSRandSNPmarkersatknownphysicaldis-tanceswithina1MbregionembracingtheALDH2locusintheJapanese,demonstrateslinkagedisequilibriumextendingupto400kb.?????????????9:2993-2999,20005)WeissKM,TerwilligerJD:HowmanydiseasesdoesittaketomapagenewithSNPs??????????26:151-157,2000(52)

HLA分子と全身疾患

2006年12月31日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSれる窪みが5~7個存在し,そこで抗原ペプチドと結合する.ポケットを構成するアミノ酸はHLA分子の各タイプ(対立遺伝子:アリル)により異なっているため,各HLAアリルと結合する抗原ペプチドは,その抗原ペプチドのアミノ酸配列により,HLA分子との結合性(親和性)が大きく異なってくる(図2).各HLAアリルは,特定の部位に特定のアミノ酸をもった抗原ペプチドと親はじめにHLA(humanleukocyteantigen)は,ヒトの主要組織適合抗原複合体(majorhistocompatibilitycomplex:MHC)である.HLA分子は免疫応答において重要な役割を担っている細胞膜蛋白であるが,つぎにあげるように,いくつかの側面をもつ.①文字通りに白血球抗原とよべば,白血球の型としてとらえることもできるが,②臓器移植の治療成績や拒絶反応に大きく影響することから移植抗原ともよべる.③機能的には自己・非自己の認識を行う免疫応答の中心的役割を担っている.④それ以外に,膠原病をはじめとする自己免疫疾患(図1,表1)をはじめとするさまざまな疾患の直接的な発症要因となる,もしくは間接的に疾患のマーカーとなることがある.今回,HLA分子と全身疾患との関連について,前半では免疫学の基本的な内容について,後半では膠原病を中心に,各疾患の病態におけるHLA分子の果たす役割について述べたい.IHLA分子と疾患の相関機序1.HLAアロ抗原特異性(HLA型による免疫応答の個人差)HLA分子と疾患の相関機序として,特定のHLA型とペプチド抗原の親和性の強弱が考えられる.HLAはaへリックスとbシートにより環状の構造をとり,そこに抗原ペプチドを結合し,T細胞に情報を伝える(抗原提示).このHLA分子の溝にはさらにポケットとよば(33)????*TakahikoHayashi&NobuhisaMizuki:横浜市立大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕林孝彦:〒236-0004横浜市金沢区福浦3-9横浜市立大学医学部眼科学教室特集●組織適合抗原(HLA)のすべてあたらしい眼科23(12):1547~1557,2006HLA分子と全身疾患?????????????????????????????????????????????????????????????林孝彦*水木信久*図1全身臓器と自己免疫疾患———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006(34)表1HLAと全身疾患との相関疾患相関コメント膠原病慢性関節リウマチDR4(Dw4,Dw14サブタイプ)DR1,DR10(白,東)DRB1*01,0401,0404(白)DRB1*0405,1001(東)DRB1遺伝子70~74番目のアミノ酸(Glu-Arg-Arg-Ala-Ala),Epstein-BarrvirusのglycoproteinB:???????のHspDnaJとのMHCmimicryの可能性若年性関節リウマチDR4,多関節型DRw6(白)少関節型DR5(女児),HLA-B27(男児)全身性紅斑性狼瘡(SLE)DR2,DR3,DQ3(白),DQB1*0602-DRB1*1501(日),DQB1*1501,1503(黒)HLAクラスⅢ抗原の一つをコードするC4A,C4B遺伝子の片方または両方が発現しない,自己抗原:ds-DNASj?gren症候群B8,DR3(白),DR53(日)膠原病類縁疾患Beh?et病B*5101(東,白)B*5102もわずか存在.シルクロード辺縁諸民族,HLA-B遺伝子63番目Asnと67番目Phe,MICA遺伝子A6アリル強直性脊髄炎B27各民族で患者の85~96%,特定のアリルとの相関なし,種々のグラム陰性腸内微生物とのMHCmimicry,B27トランスジェニックラットは自発的に本疾患類似症状発症Reiter症候群B27(白)強直性脊髄炎と同様急性虹彩毛様体炎B27白:30~88%,日:20~40%,黒:26%強直性脊椎炎と同様,またIRBPとMHCmimicryの可能性血管炎川崎病B51(白),B54(日)高安病B52,DQ1(日)近年ではHLA近傍のMICAとの遺伝子との関連性の指摘消化器疾患セリアック病B8,DR3,DR7(白)DQ2(DQA1*0501,DQB1*0201)(白)皮膚の疱疹状皮膚炎も同様のハプロタイプと相関自己免疫性肝炎DR3(白),HLA-DRB1*0405(DR4)(日)肝細胞表面のHLAクラスⅡ分子の発現の指摘皮膚疾患乾癬性関節炎B27陽性率は40%尋常性乾癬Cw6天疱瘡DQA1*0101,DQB1*0503(ユダヤ人)DR4,DR6,DQ5(白)DR5-DQ7,DR6-DQ5(日)地中海沿岸とユダヤ人に多いDR4またはDR6で白人患者の95%を占めるがDQが第一義的関与の可能性が強い,DQB1遺伝子57番目Asp内分泌疾患インスリン依存性糖尿病ⅰ)DQA1*0301-DQB1*0302ⅱ)DQA1*0302-DQB1*0302ⅲ)DQA1*0301-DQB1*0402(日)ⅳ)DQA1*0302-DQB1*0303(日)…※ⅰ)~ⅲ)はDQA1*03アリルとDQB1遺伝子57番目が非Asp(アスパラギン酸)のアリルの組み合わせ(※ⅳ)のようにAspのケースもあり)Basedow病B8,Cw7,DR3(白)B35,B44,DR5(日)DQA1*0102(白)DPB1*0501(日)自己抗原:TSHreceptor橋本病DR5(白,日),DQA1*0301,0302(白),DQB1*0201,0301(白)自己抗原:thyroglobulin自己反応性T細胞を抑制するサプレッサーT細胞の機能異常腎疾患抗糸球体基底膜症候群DR2(白)神経疾患多発性硬化症DR2(白),DRB1*1501(白),DRB5*1501(白)DPA1*0202,DPB1*0501(日)DQA1*0102,0103,0501の一つとDQB1*0602,0603,0604,0302,0303の一つの組み合わせ,EAE(MBPが標的抗原の自己免疫疾患動物モデル)と症状類似重症筋無力症B8(白),DR3(白),DQ3(日)DR9-DQ9(日),DR13-DQ6(日)自己抗原:acetylcholinereceptor感染症AIDS(早い進行)B7,B35,Cw7(白)(遅い進行)DQB1*0605眼疾患Vogt-小柳-原田病,交感性眼炎DR4,DQ4,DR53DRB1*0405,DQA1*0301,DQB1*0401,0402(日)日本人以外の民族ではDRB1*0405アリル以外のDRB1*04アリルと相関ありサルコイドーシスDR3(白),DR5,DR6,DR8,DR52DRB1*1101,1201,1401,0802(日)DRB1遺伝子11番目Ser散弾状網脈絡膜症A29(白)日本人はA29と相関せず,HLA-A遺伝子62番目Leuと63番目Gin白:白人,東:東洋人,黒:黒人,日:日本人.NODマウス:non-obesediabeticmouse(I型糖尿病自然発症モデルマウス),GOD-65:glutamicaciddecarboxylase65,CPH:carboxypeptidaseH,JunB,ICA512:膵細胞自己抗原,IPBP:inter-photoreceptorretinoid-bindingprotein,EAE:experimentalautoimmuneencephalomyelitis(実験的自己免疫性脳脊髄炎),MBP:myelinbasicprotein,MICA:MHCclassIchain-relatedgeneA,C4:complementcomponentC4(補体成分C4),ds-DNA:doublestrandDNA(二本鎖DNA).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????和性が強く,この特定のアミノ酸をHLAモチーフという.このように各HLA分子は独自のHLAモチーフをもつため,私達が,どのHLAアリルを所有するかによって,特定の抗原ペプチドとの親和性は大きく異なってくる.この所有するHLAアリルの相違(個人差)により,疾患のかかりやすさが異なってくるために,特定の疾患を発症しやすい人と,発症しにくい人が出てくると考えられる.2.分子擬態(molecularmimicry)説これは細菌やウイルスなどの外来抗原の抗原分子の一部と自己の細胞の一部(自己抗原)に分子相同性があるため,外来抗原に対し産生された抗体が,自己抗原にも反応してしまうと考えられている.具体的には,a.外来抗原とHLA分子に相同性がある場合,b.外来抗原と自己抗原に相同性がある場合,c.外来抗原と自己抗原のモチーフに相同性がある場合の3通りが想定されている.a.外来抗原とHLA分子の相同性(図3)強直性脊椎炎はHLA-B27抗原と顕著に相関するが,HLA-B27分子と肺炎桿菌の窒素分解酵素(ニトロゲネース)の間にはグルタミン(Q),スレオニン(T),アスパラギン酸(D),アルギニン(R),グルタミン酸(E),アスパラギン酸(D)という共通のアミノ酸配列が存在する.そのため,この外来抗原ペプチドに対して産生された抗体が,自己抗体として自己のHLA-B27分子とも交叉反応してしまうと考えられている.HLA分子も自己抗原であるので,厳密にはbと同じ範疇に含まれる.(35)図2HLAクラスⅠ分子のポケットと抗原ペプチドの結合(a)はHLAクラスⅠ分子のポケットと抗原ペプチドの結合の様子である.T細胞は自己のHLAと結合した抗原ペプチドのみを認識する(alteredself説).クラスⅠ分子にはペプチド結合溝の中にさらにポケットとよばれる6つの窪み(A~Fポケット)が存在する.6つのポケットにはまり込む形で9個のアミノ酸からなる抗原ペプチドが結合する.多くのクラスI分子ではB,CポケットおよびFポケットが抗原ペプチド抗原との結合性(親和性)に重要である.(b),(c)に示すように,Bポケットは抗原ペプチドの2番目のアミノ酸残基(P2)とFポケットは9番目のアミノ酸残基(P9)と結合するため,とても重要でアンカー残基とよばれる.このように各HLA分子によって,結合できる抗原ペプチドには一定の特徴(偏り)があり,これをHLA結合モチーフという.同様にHLAクラスⅡ分子にも数個(一般に5つ)のポケットが存在する.クラスII分子に結合する抗原ペプチドにも各クラスII分子により一定の特徴(モチーフ)がある.クラスⅡ分子に結合するペプチドは平均すると15アミノ酸で,長いのが特徴である.さらに,ペプチドとHLA分子との結合力もクラスⅠ分子ほど強固ではない.P1P5P6P7P8P9P4CNCβα1N末端ペプチドP1P2P3P4P5P6P7P8P9HLA-A*0201WLSLLVPFVLLFGVPVYVILKEPVHGYHLA-A*6801KTGGPIYKREVAPPEYHRAVAAVAARRHLA-B7GPGPQPGPLIPQCRLTPLPPPIFIRRLHLA-B27RRVKEVVKKGRIDKPILKRROKEIVKKP1P3P4P5P6P7P8P9P2ABDCEFHLANCP2P3BACDEF(a)(b)(c)アンカー残基ペプチドモチーフ123458967———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006b.外来抗原と自己抗原の相同性(図4)インスリン依存性糖尿病において,自己抗原である膵臓b細胞のグルタミン酸デカルボキシラーゼとコクサッキーウイルスは,プロリン(P),グルタミン酸(E),バリン(V),リジン(K),グルタミン酸(E),リジン(K)という共通のアミノ酸配列が存在する.したがって,外来抗原と自己抗原のアミノ酸配列の相同性により,外来抗原ペプチドに対して産生された抗体が,自己抗体として自己抗原ペプチドとも交叉反応してしまうと考えられている.c.外来抗原と自己抗原のモチーフの相同性(交叉反応)(図5)外来抗原と自己抗原の間に分子相同性はないが,両者にHLA結合モチーフが類似しているペプチドが存在するために,T細胞が交叉反応を起こしてしまうと考えられている.このような場合も広義のmolecularmimicryといわれる.本仮説は多発性硬化症(MS)において示唆されている.MSでは,自己抗原であるミエリン塩基性蛋白(myelinbasicprotein:MBP)と1型単純ヘルペスウイルス(herpessimplextypeⅠ:HSV-1),Epstein-Barrウイルス(EBV)やアデノウイルス(adenovirus:AdV)などの間に交叉反応があるといわれる.MBPとこれらのウイルスの間に分子相同性のあるペプチドは存在しないが,HLAクラスⅡ抗原との結合性(親和性)およびT細胞への反応性(抗原提示)に交叉反応性があり,それが疾患発症に関与すると考えられている.このように,アミノ酸配列が異なっているペプチド間で広義のmolecularmimicryが生じる可能性もある.3.HLA連鎖不平衡(遺伝子マーカー)説HLA遺伝子領域には,補体(C2,C4),リンフォトキシン,腫瘍壊死因子(TNF)-aなど,免疫系にとって重要な遺伝子が多数存在する.HLA遺伝子はこれらの遺伝子と連鎖し,ハプロタイプを形成しているため,特定の疾患があたかもHLA遺伝子と相関しているようにみえることがある.すなわち,真の疾患遺伝子がHLA分子の近傍にあり,HLA遺伝子が疾患のマーカーになっていることがある.たとえば,C2,C4欠損の患者は全身性紅斑性狼瘡(SLE)様症状を呈することがある3,4).またTNF遺伝子には多型性があり,ある型のTNF遺伝子は自己免疫疾患と相関する.一方,抗糸球体基底膜(抗GBM)病のように,抗原抗体反応を中心とする機序で発症する疾患であるが,近傍のHLA-DR2との相関が報告されている5).II自己免疫疾患発症とHLA分子正常な個体は,自己反応性クローンが自己抗体産生をしないような調節機構が働いている.しかし,自己免疫疾患では,自己抗体が高頻度に認められる.抗体産生のための免疫学的な応答は複雑で,自己免疫疾患の発症要因も一義的に解釈できるものではない.ここでは自己免疫疾患発症の機序として,代表的な3つの説について述べてみたい1).(36)図3強直性脊椎炎における外来抗原ペプチド(肺炎桿菌窒素分解酵素)とHLA-B27分子の相同性肺炎桿菌(窒素分解酵素)HSV-1図5多発性硬化症における外来抗原ペプチド(HSV-1ウイルスペプチド)と自己抗原ペプチド(ミエリン塩基性蛋白:MBP)のモチーフの相同性コクサッキーウイルス図4インスリン依存性糖尿病における外来抗原ペプチド(コクサッキーウイルスペプチド)と自己抗原ペプチド(グルタミン酸脱炭酸酵素)の相同性———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????1.分子擬態(molecularmimicry)説前述したように外来抗原とHLA分子の相同性,外来抗原と自己抗原の相同性,外来抗原と自己抗原のモチーフ相同性などにより,免疫寛容が破綻して自己免疫疾患が発症することがあり,その発症にはHLA分子が深く関わっている.2.T細胞バイパス説免疫系の発達の過程では,胸腺(T細胞の場合)と骨髄(B細胞の場合)において,自己と強く反応するものは排除され(負の選択),自己と弱く反応するものが生き残り(正の選択),自己MHC分子と反応がないものは死滅する.正常な個体では,中枢性免疫寛容(負の選択)と,末?性免疫寛容が存在する.末?組織には負の選択を免れて,自己抗原に反応するB細胞,T細胞が残存するが,末?性免疫寛容のため,アナジー(不活化)の状態に陥っているか,調節性T細胞によって抑制されているため,通常,自己免疫反応を起こすことはない.末?性免疫寛容を破綻させるものに,T細胞バイパスがある.これは,T細胞の活性化に不可欠である補助シグナルを誘導するための一つの方法である.通常では,自己抗原にはB細胞エピトープとT細胞エピトープが存在するが,B細胞によって取り込まれ,T細胞に抗原提示された場合には,補助シグナルを出すことはなく,免疫反応は惹起されない.しかし,薬剤やウイルス感染,紫外線などにより,自己抗原が変性をきたすことがあり,このような場合,自己抗原と類似部分は自己反応性B細胞に取り込まれ,自己抗原と異なる部分をヘルパーT細胞に提示して,補助シグナルも出してしまうため,B細胞により,自己抗体が産生されてしまう(図6).3.隠れた自己抗原の曝露生体内には眼や精巣などのように,通常の免疫系から隔離された場所,いわゆる免疫特権をもつ場所がある.これらの組織内には免疫系に曝されていない多くの隠れた自己抗原があることが知られている.すなわち,組織中にとどまっている間は,免疫寛容を獲得しているが,組織が傷害を受けて,組織から放出されるとその自己蛋白に対する自己抗体が産生されてしまうことがある.1956年Dresslerによって発見された,Dressler症候群2)は,心筋梗塞後,心筋細胞に対する自己抗体が産生されてしまい,それが引き金となり,多彩な症状を呈する疾患である.眼科領域では,眼外傷後の交感性眼炎は本仮説により発症すると考えられている.後述するが,インスリン自己免疫症候群(insulinautoimmunesyndrome:IAS)も同様の機序で発症する.メチマゾールやグルタチオンといった薬剤(還元剤)を内服することによりインスリンa鎖とb鎖のジスルフィド結合が解離され,このペプチドが直鎖状ペプチドとして生体内に大量に放出してくることにより,本来免疫系から隔離されていたこの自己ペプチドが抗原提示さ(37)ウイルス・紫外線・薬剤による修飾自己抗体産生⇒自己免疫疾患発症図6T細胞バイパス説自己免疫疾患発症の機序として,自己抗原の変性による免疫寛容(トレランス)の破綻機序が考えられる.通常では,自己抗原にはB細胞エピトープとT細胞エピトープが存在するが,B細胞によって取り込まれ,T細胞に抗原提示されても補助シグナルを出すことはなく,免疫反応は惹起されない(免疫寛容).しかし,薬剤やウイルス感染,紫外線などにより,自己抗原が変性をきたすことがあり,このような場合,自己抗原と類似部分は自己反応性B細胞に取り込まれ,自己抗原と異なる部分をヘルパーT細胞に提示して,補助シグナルも出してしまうため,B細胞により,自己抗体が産生されてしまう(免疫寛容の破綻).———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006れ自己免疫が発動されてしまうと考えられている.また,通常はHLAクラスⅠ分子しか発現しない細胞がHLAクラスⅡ分子を発現することによって,ヘルパーT細胞の攻撃をうけることがある.代表的なものとして,自己免疫性肝炎の肝細胞,Graves病の甲状腺細胞などがある.III各疾患におけるHLA分子の関与をどう評価するか?特定の抗原に対する免疫系の反応性は,おおむねT細胞レベルで決定される.T細胞には大きく分けて,CD8陽性のキラーT細胞(CTL)と,CD4陽性のヘルパーT細胞(Th)がある.CTLはMHCクラスⅠ分子と結合した抗原ペプチドを認識し,細胞傷害活性を有する.Thには細胞性免疫を誘導するTh1細胞と,液性免疫を誘導するTh2細胞がある.Thは,免疫応答を増強,または抑制するといった,免疫系の司令官として働いている.たとえば,ウイルス抗原などに反応するCTLは,Th1細胞非存在下では活性化されない.B細胞は,二次免疫応答では抗原提示細胞(antigenpre-sentingcell:APC)として機能するが,通常は抗体を産生する役割を担っている.しかし,B細胞の抗体産生分子は,ほとんどすべての抗原で,Th2細胞の助けが必要である.このように,ThとMHCクラスⅡ(ヒトの場合にはHLAクラスⅡ分子)との相互作用が免疫反応の中心的役割を担っている(図7).しかし,注意しなくてはならないのは,その特定のHLAアリルを所有していれば,必ずその疾患を発症するということではない.むしろそのHLAアリルを所有している人の大多数は,その疾患を発症しておらず,そのなかのほんの一部分の人がその疾患を発症しているにすぎない.多因子疾患になればなるほど,一つの疾患感受性遺伝子の寄与は小さくなる.このように,ある遺伝子型をもつ個体が,その疾患を発症する確率のことを浸透率という.たとえば,HLA-B51抗原は日本人の約16%の人(約1,500万人)が保有している抗原であるが,そのなかでBeh?et病を発症する人はほんのわずか(1万人程度)にすぎない.すなわち,Beh?et病の疾患感受性遺伝子の一つと考えられるHLA-B*51アリルの浸透率は約1/1,500とかなり低い.このように多くの多因(38)図7免疫系の概要生体防御機構における要は,免疫反応における自己と非自己の識別である.2経路(外来抗原,内在性抗原)により提示された抗原は2種類のT細胞レセプター(キラーT,ヘルパーTレセプター)により認識され,最終的に非自己抗原感染細胞を細胞性傷害や抗体で破壊される.また,癌化した細胞はNK細胞やNKT細胞により破壊される.TCR(Tcellreceptor):T細胞受容体.BCR(Bcellreceptor):B細胞受容体.GPI(glycosylphosphatidylinositol):グリコシルホスファジチジルイノシトール.細胞膜表面に存在する糖脂質で,補体系の制御を行っている.CD1d:抗原提示細胞のもつ非典型的MHCクラスI分子の一つで,ナチュラルキラーT細胞のTCR(T細胞受容体)と結合する.NK(naturalkiller)細胞:ナチュラルキラー細胞.自然免疫を担う細胞の一つであり,バクテリアやウィルスなどの非自己,癌細胞などの変質した自己を攻撃する.体内のリンパ球の約15%を占める.NKT(naturalkillerT)細胞:ナチュラルキラーT細胞.生体内に0.05%しか存在せず,NK細胞とNKT細胞の両方の特徴をあわせもっている.TCRNKBBCRNKTBGPICD1dBCRTCRGPIHLA自己HLA分子+非自己抗原———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????子疾患では,浸透率の低い遺伝子型を多数保有することによって,疾患発症に至ると考えられている.─全身疾患とHLA分子の相関─代表的疾患とHLA分子の関与を表にまとめてみた(表1).以下,代表的な疾患について概説してみる.I膠原病および類縁疾患1.慢性関節リウマチ(rheumatoidarthritis:RA)慢性関節リウマチは末?関節を対称性に侵し,組織破壊をきたす疾患である.有病率は約1%である.強膜炎や周辺部角膜潰瘍,Sj?gren症候群(RAの約30%)を合併した場合には乾性角結膜炎などがみられる.自己抗体として免疫グロブリン(Ig)Gや熱ショック蛋白(heatshockprotein:HSP)のほか,関節に含まれるⅡ型コラーゲンなどが示唆されている.リウマチ因子(rheu-matoidfactors:RF)はIgGのFc部分に対する抗体である.EBVとの関連も指摘7)されている.本疾患がTh1優位で起きているのかTh2優位で起きているのかについては,明確にはわかっていない.一方で,家族内集積がみられ,一卵性双生児などの研究から遺伝要因が関与していることが指摘されている6).この遺伝的疾患感受性に関与するのがHLA-DR4とDR1であることが示唆されている.HLA-DRで多型性のあるb鎖がDRB1*0101(DR1),DRB1*0401(DR4),DRB1*0404(DR4),DRB1*0405(DR4)の場合にはb鎖の67~74残基が特定のアミノ酸配列になり,このためHLA分子とRAの原因抗原との親和性の違いやThへの抗原提示の反応性の違いをもたらし,疾患発症に関与していると考えられている.一方,DRB1*0402(DR4)とDRB1*0403(DR4)の場合にはRAに対する感受性がなくなることも示唆されている.2.全身性紅斑性狼瘡(systematiclupuserythema-tosus:SLE)妊娠可能年齢の女性に多く発症する疾患で,有病率は人口10万人当たり40人である.白人よりも,東洋人,黒人に発症しやすい.細胞の核に対する抗体(抗核抗体)がみられる.環境因子としては,薬剤と紫外線(UV-B)が明らかにされている.一卵性双生児に関する研究から,遺伝要因が大きく関与することが示唆されている.関節炎,皮膚症状,光線過敏症,口腔内潰瘍,脱毛,精神神経症状(痙攣,うつ病),汎血球減少症,SLE腎症,心外膜炎など多彩な症状を呈する.そのほか,血小板などや血管内皮細胞のリン脂質に対する抗リン脂質抗体が動静脈に血栓症をきたし,脳梗塞や血小板減少症,流産などをひき起こすことがある(抗リン脂質抗体症候群).補体は消費されやすく,特にC4低値である.眼合併症としては,網膜血管炎やSj?gren症候群(10%),本疾患治療(ステロイド内服)に伴う合併症(白内障,緑内障)などがある.内的遺伝要因としてHLA分子の関与が示唆され,HLA-DR3(白人)やHLA-DR2(東洋人)との関連が指摘された.しかし,実際は,白人における研究でHLAクラスⅢ領域に存在する補体に関与する遺伝子(C4)の補体を産生しない遺伝子型(C4Q0サイレント)の相対危険度のほうが高く,こちらが真の疾患感受性遺伝子である可能性が示唆されている.この場合のハプロタイプはHLA-B8-DR3-DQ2-C4Q0であり,補体であるC4Aを産生しない.補体がつくられないことで,免疫複合体の処理が滞り,SLEを発症すると考えられている.3.Sj?gren症候群(SS)SSは涙腺,唾液腺の慢性的な炎症によって涙液産生,唾液産生が低下し,乾性角結膜炎や口腔乾燥症をきたす疾患である.中年女性に多く,男女比は1:9であり,単独発症する原発性SSとRAやSLE,まれに強皮症などに合併する続発性SSに分類される.本疾患もC型肝炎ウイルス(HCV)やEVB7,8),ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)など多くのウイルスとの関連が示唆されている.高ガンマグロブリン血症を生じ,高頻度で悪性リンパ腫を合併する.IgM型のRFが90%に陽性であり,抗核抗体(斑紋型,均質型)も陽性である.SSに特異的な抗核抗体は抗SS-A(Ro)抗体と抗SS-B(La)抗体である.これらは,SS患者の半数以上にみられるほか,SLE患者の20%(SS-A),10%(SS-B)にもみられる.内的遺伝要因としては,HLA-B8-DR3と相関があることが報告されている.また,HLA-DQa鎖,DQ(39)———————————————————————-Page8????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006b鎖の超可変領域の特定のアミノ酸配列がSS-A,SS-Bの産生を促進することも示唆されている.4.強直性関節炎(ankylosingspondylitis:AS)40歳までの男性に好発し,男女比は3:1である.典型的には脊椎が侵され,初発症状は仙腸関節炎による腰痛である.腰痛は3カ月以上持続し,運動により軽減する.診断上は脊椎X線でのbamboospineという椎体の癒合した所見が有用である.関節外症状として眼症状があり,片眼性の急性前部ぶどう膜炎を起こす.RFや抗核抗体は陰性で,血清反応陰性関節炎ともいわれる.HLA-B27抗原陽性率は90%以上であり(白人の場合),これは白人の一般集団の7%に比べると顕著に高い.しかし,HLA-B27抗原陽性は診断上,必須にはなっていない.HLA-B27抗原陰性患者の多くがHLA-B7抗原陽性であり,B27とB7のアミノ酸配列間の共通性が疾患発症に関与している可能性が示唆されている.病態としては,クレブシエラ,エルシニア,サルモネラなどの肺炎桿菌の先行感染による自己HLA-B27分子との交叉反応(molecularmimicry)説が示唆されている.HLA-B27分子と肺炎桿菌のニトロゲネース間にはグルタミン(Q),スレオニン(T),アスパラギン酸(D),アルギニン(R),グルタミン酸(E),アスパラギン酸(D)という共通のアミノ酸配列が存在する(図3).そのため,この外来抗原ペプチドに対して産生された抗体が,自己抗体として自己のHLA-B27分子とも交叉反応してしまうと考えられている.最近では,微生物抗原が関節局所から実際に見出されることから,HLA-B27分子の溝に微生物抗原が組み込まれ,CTLに抗原提示され,関節炎が惹起されるという関節炎ペプチドモデルという説も提唱されている.また,HLA-B27トランスジェニックラットを用いた研究では,関節炎や大腸炎の発症にHLA-B27分子が直接関与している可能性が示唆されており興味深い.5.Beh?et病Beh?et病は口腔内アフタ,皮膚症状,眼症状(ぶどう膜炎),陰部潰瘍を4主症状とする疾患であるが,その他にも神経症状,消化器症状など多彩な症状を呈する.病態として,さまざまな機序が考えられているが,人種を越えてHLA-B51抗原と顕著に相関していることが知られている.Beh?et病の病態形成において,HLA-B51分子が重要な役割を担っていると考えられている.HLA-B51抗原保有者では,Beh?et病に罹患する相対危険度が7~17倍10)ときわめて高い.詳細に関しては本特集の“HLAとBeh?et病”の項を参照されたい.6.Vogt-小柳?原田病(VKH)VKHにおいては,DRB1*0405(HLA-DR4)が重要な役割を担っており,DRb鎖57番目のアミノ酸(セリン)が疾患発症に関与している可能性が示唆されている.詳細に関しては本特集の“HLAとVogt-小柳?原田病”の項を参照されたい.II内分泌疾患1.インスリン依存性糖尿病(insulindependentdiabetesmellitus:IDDM)インスリン依存性糖尿病(I型糖尿病)は膵臓Langer-hans島b細胞からのインスリン分泌が少ないため,糖尿病を発症する疾患である.思春期頃に発症のピークがあり,罹病率は0.3%である.好発地域と低発症地域があり,緯度の違いも大きい.家族内集積がみられることや,一卵性双生児などの研究から,発症には遺伝要因が強く関与していると考えられている.病理学的には,Langerhans島炎がみられることもある.Langerhans島炎の例では,炎症細胞の浸潤がみられ,CD8陽性細胞が優位であり,CD4陽性細胞やマクロファージが続く.さらに,蛍光抗体法を用いると,Langerhans島細胞質に対するLangerhans抗体(ICA)が75%の患者に認められる.病態形成に関しては,ウイルス感染説,分子擬態説などいくつかの説がある11).IDDMにおいて,膵臓b細胞のグルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD65)とコクサッキーウイルスの間にプロリン(P),グルタミン酸(E),バリン(V),リジン(K),グルタミン酸(E),リジン(K)という共通配列がみられ,ウイルス感染により,molecularmimicryが成立している可能性も考えら(40)———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????れている.すなわち,コクサッキーウイルス内のこのペプチドに対して反応するT細胞が自己のGAD65内のこのペプチドにも交叉反応してしまう可能性が考えられている.また,HLA-DQbのアミノ酸配列の変化が本疾患の発症に関与しているという説も知られている12).HLA-DQ8陽性者では,DQbの57番のアミノ酸がアスパラギン酸ではない(非アスパラギン酸である)ため,HLA-DQ抗原のT細胞への反応性が変化し,本症を発症するという説である.しかし,日本人においては,HLA-DQb鎖の57番目がアスパラギン酸であるHLA-DQ9抗原陽性者が多く,日本人に関してこの説はあてはまらない13,14).2.インスリン自己免疫症候群(insulinautoimmunesyndrome:IAS)本症は,HLA-DRB1*0406アリルと顕著に相関する疾患であるが,メチマゾールやグルタチオンといった薬剤(還元剤)で誘発することも知られている(薬剤誘発性IAS).インスリンのa鎖にはDRB1*0406の結合モチーフに適合した高親和性のTSICSLYQLEというペプチドが存在する.しかし,生体内でインスリンa鎖はb鎖とジスルフィド結合をしており,このペプチドがDRB1*0406と結合可能な直鎖状のペプチド断片となることは少ない.それがこれらの薬剤を内服することによりインスリンa鎖とb鎖のジスルフィド結合が解離され,このペプチドが直鎖状ペプチドとして生体内に大量に放出されてくることにより,本来免疫系から隔離されていたこの自己ペプチドがT細胞に抗原提示され,自己免疫が発動されてしまうと考えられている.3.橋本病橋本病は自己免疫性甲状腺炎ともいい,甲状腺の腫大と,甲状腺機能低下による多彩な症状を呈する.罹病率は0.5%であり,女性に多く,男女比は1:4である.橋本病ではHLA-DR5抗原との相関が報告されている〔相対危険度(relativerisk:RR)は3〕(以下,RRとする).4.Graves(Basedow)病甲状腺を刺激する自己抗体により,甲状腺の機能が亢進され多彩な症状がみられる.罹病率は0.5%であり,女性に多く,男女比は1:7である.眼症状は8%にみられ,眼球突出や複視がみられる.Graves病ではHLA-DR3抗原との相関が報告されている(RR=4).本病では通常の甲状腺組織にはみられないHLAクラスⅡ抗原の発現が異所性にみられる15)が,これが,炎症の原因なのか結果なのかはわかっていない.III腎疾患抗糸球体基底膜(抗GBM)病,Goodpasture症候群本病は腎臓の糸球体基底膜に対する自己抗体によって発症すると考えられている.病理学的には半月体形成性糸球体腎炎を,臨床的には急速進行性糸球体腎炎を呈し,急速に腎不全に至る.肺組織の基底膜にも自己抗体が結合し,肺胞出血などを発症した場合には,Good-pasture症候群とよばれる.従来Ⅱ型アレルギーとして分類されてきたが,近年,HLA-DR2との有意な相関(RR=5)が指摘されており5),bシート内の28番目のアミノ酸近傍に存在する特有のアミノ酸が疾患発症に関与することが示唆されている.IV神経疾患多発性硬化症(multiplesclerosis:MS)多発性硬化症は脳,脊髄などの中枢神経において,ミエリンのみを侵す脱髄性疾患であり,眼症状としては視神経炎やぶどう膜炎がみられる.再発と寛解をくり返す.高緯度地域の白人に多く,発症年齢のピークは30歳で,男女比は1:2から1:7程度と報告されている.遺伝素因やHLA遺伝子,人種差などの内的要因と,緯度,移住地,ウイルス感染などの要因と外的要因が発症に重要であると考えられている.外的要因としては,15歳以下で低発症地域から高発症地域に移住した場合にはMS発症リスクが高まることや隔離された島の住人に小流行することが報告されている.内的要因としては,家族内集積がみられ,一卵性双生児では発症リスクは約300倍になるという報告もなされている.白人の(41)———————————————————————-Page10????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006患者の50~70%が,HLA-DR2抗原陽性である.アジア人に多い東洋型と白人に多い西洋型の間では,臨床症状にもHLA遺伝子のタイプにも明確な違いがあり17),東洋型ではHLAハプロタイプはHLA-DPA1*0202,DPB1*0501であり,臨床的には中枢神経の病変が少なく,視神経病変が多い.西洋型ではHLA-DRB1*1501,HLA-DRB5*0101であり,中枢神経症状が中心となる.動物実験モデルとして実験的アレルギー性脳髄膜炎(experimentalallergicencephalomyelitis:EAE)があり,異種動物の脳成分を注射することで,MS様の症状を惹起することが可能である.EAEモデルにおいて,MSを発症する動物の系統が限られており,疾患感受性遺伝子がMHCにあるという説を支持している.また,本疾患において前述したように分子擬態説も提唱されている.MSの自己抗原であるミエリン塩基性蛋白(MBP)とHSV-1,EBVやAdV間に交叉反応があるといわれる.MBPとHSV-1の間に分子相同性のあるペプチドは存在しないが,HLAクラスⅡ分子との結合性(親和性)およびT細胞との反応性(抗原提示)に交叉反応性があることが疾患発症に関与すると考えられている.アミノ酸配列の一致という点から考えると非典型的ではあるが,広義のmolecularmimicryと考えられる.HLAクラスⅡ分子との結合性では,左から2番目のバリン(V)がHSVとMBPで同一で,左から5番目のHSVのV(バリン)とMBPのフェニルアラニン(F)が類似アミノ酸である.T細胞受容体との結合性では,左から4番目のフェニルアラニン(F)がHSVとMBPで同一で,6番目のHSVのアルギニン(R)とMBPのリジン(K)が類似の親和性アミノ酸である(図5).したがって,ペプチドとしての相同性は低いが,ペプチドモチーフとしてはHLA分子結合性,T細胞反応性が類似しており,交叉反応を起こしてしまうと考えられている.おわりにHLA分子との関連性が指摘されている自己免疫疾患は数多く,ここでは臨床的によく遭遇する疾患について概説した.特定のHLAアリルが疾患発症に関与することは疑いないと思われるが,人種によって相関するHLAアリルが異なることも多く,疾患の感受性遺伝子を同定するためには,人種特有の変化も検討する必要がある.本稿がHLA分子と疾患の相関機序を考えるうえで先生方の日常診療の一助となれば幸いである.文献1)小山次郎,大沢利昭:免疫学の基礎.p161-180,東京化学同人,20042)DresslerW:Apost-myocardialinfarctionsyndrome:preliminaryreportofacomplicationresemblingidiopathic,recurrent,benignpericarditis.????160:1379-1383,19563)MeyerO,HauptmannG,Mascart-LemoneFetal:Genet-icde?ciencyofC4,C2orC1qandlupussyndromes.Associationwithanti-Ro(SS-A)antibodies.????????????????62:678-684,19854)HartungK,FontanaA,KlarMetal:AssociationofclassI,II,andIIIMHCgeneproductswithsystemiclupusery-thematosus.ResultsofaCentralEuropeanMulticenterStudy.?????????????9:13?18,19895)FisherM,PuseyCD,ReesAJetal:Susceptibilitytoanti-glomerularbasementmembranediseaseisstronglyassoci-atedwithHLA-DRB1genes.??????????51:222-229,19976)MacGregorAJ,BamberS,SilmanAJ:Acomparisonoftheperformanceofdi?erentmethodsofdiseaseclassi?ca-tionforrheumatoidarthritis.Resultsofananalysisfromanationwidetwinstudy.???????????21:1420-1426,19947)FoxRI,PearsonG,VaughanJH:DetectionofEpstein-Barrvirus-associatedantigensandDNAinsalivaryglandbiopsiesfrompatientswithSj?gren?ssyndrome.???????????137:3162-3168,19868)FoxRI,ChiltonT,VaughanJHetal:PotentialroleofEpstein-BarrvirusinSj?gren?ssyndrome.???????????????????????13:275-292,19879)DubinskyMC,TaylorK,RotterJIetal:Immunogeneticphenotypesinin?ammatoryboweldisease.Review.?????????????????????12:3645-3450,2006.10)Chajek-ShaulT,PisantyS,KnoblerHetal:HLA-B51mayserveasanimmunogeneticmarkerforasubgroupofpatientswithBeh?et?ssyndrome.????????83:666-672,198711)UenoA,ChoS,YangYetal:Diabetesresistance/suscep-tibilityinTcellsofnonobesediabeticmiceconferredbyMHCandMHC-linkedgenes.?????????175:5240-5247,200512)ToddJA,BellJI,McDevittHOetal:HLA-DQbetagenecontributestosusceptibilityandresistancetoinsulin-dependentdiabetesmellitus.??????329:599-604,198713)OisoM,NishiT,MatsushitaSetal:Di?erentialbinding(42)———————————————————————-Page11あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????(43)ofpeptidessubstitutedatputativeC-terminalanchorresi-duetoHLA-DQ8andDQ9di?eringonlyatbeta57.???????????52:47-53,199714)NishimuraY,KanaiT,MatsushitaSetal:MolecularanalysesofHLAclassII-associatedsusceptibilitytosub-typesofautoimmunediseasesuniquetoAsians.Review.?????????????66:93-104,199815)Zantut-WittmannDE,BoechatLH,VassalloJetal:Auto-immuneandnon-autoimmunethyroiddiseaseshavedi?erentpatternsofcellularHLAclassIIexpression.???????????????117:161-164,199916)KennedyJ,O?ConnorP,BanwellBetal:Ageatonsetofmultiplesclerosismaybein?uencedbyplaceofresidenceduringchildhoodratherthanancestry.?????????????????26:162-167,200617)OnoT,ZambenedettiMR,SasazukiTetal:MolecularanalysisofHLAclassI(HLA-Aand-B)andHLAclassII(HLA-DRB1)genesinJapanesepatientswithmultiplesclerosis(WesterntypeandAsiantype).???????????????52:539-542,1998

HLAと交感性眼炎

2006年12月31日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSが,起交感眼は病像が修飾されるため組織像が破壊されているものもあり注意を要する8).臨床症状は視神経乳頭の腫脹,硝子体混濁,滲出性網膜?離,脈絡膜?離を生ずる(図2).発症から数カ月を経ると脈絡膜のメラノサイトが減少して夕焼け状眼底(図3)を示し,やがて脈絡膜が変性する.症例によってI交感性眼炎(sympatheticophthalmia)交感性眼炎は穿孔性眼外傷あるいは眼科手術の後に生じる両眼性肉芽腫性汎ぶどう膜炎である.1840年に初めてMackenzieが報告し,1905年にFuchsが臨床像を報告した.交感性眼炎の有病率は人口100万人当たり1.1人で,男女比は眼外傷の割合が男性に多いため男性が多い傾向がある.発症までの日数は約70%の症例は3カ月以内に,約90%の症例は1年以内に発症する.実際の報告例では,短いものでは5日後から,長いものでは20年以上のものや最長では62年後に発症したというものもある1,2).近年では網膜?離手術や硝子体手術など複雑な手術が多く行われるようになったため,眼科手術後の症例の報告が増え,特に再手術を受けた症例の報告が散見されるようになった3~5).さらに交感性眼炎は,穿孔性の眼科手術のみならず,YAGレーザー毛様体凝固術後や毛様体冷凍凝固術後などの非穿孔性眼科手術でも起こりうる疾患であることも示されている6,7).穿孔性外傷または手術を受けた側の眼を起交感眼(excitingeye),僚眼を被交感眼(sympathizingeye)とよぶ.交感性眼炎はメラノサイトに対する自己免疫疾患の一つと考えられている.組織像ではぶどう膜のメラノサイトに対するリンパ球の浸潤による慢性肉芽腫性ぶどう膜炎がみられる(図1).交感性眼炎はぶどう膜炎であり,網膜自体へ炎症の波及はまれである.基本的には病理学上は起交感眼,被交感眼とも同一の所見を示す(29)????*YumikoShindo:ユノクリニック〔別刷請求先〕新藤裕実子:〒243-0303神奈川県愛甲郡愛川町中津818-1ユノクリニック特集●組織適合抗原(HLA)のすべてあたらしい眼科23(12):1543~1546,2006HLAと交感性眼炎??????????????????????????????????????????????????????????????????新藤裕実子*図1交感性眼炎の病理所見脈絡膜の肥厚,リンパ球の浸潤による肉芽腫性変化がみられる.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006はDalen-Fuchs?spotを生じる.眼外症状として皮膚の白斑や毛髪の白髪化がみられる場合がある(図4).このように,交感性眼炎は臨床症状,病態生理,病理所見がVogt?小柳?原田病(以下,VKH病)ときわめて類似し,メラノサイトに対する自己免疫疾患と考えられている.II交感性眼炎とHLAの関係自己免疫疾患は免疫機構の何らかの異常により自己を非自己と認識するために生ずる自己防衛機能の破壊による疾患である.ヒトの主要組織適合抗原複合体(majorhistocompatibilitycomplex:MHC)であるヒト白血球抗原(humanleukocyteantigen:HLA)は,第6染色体短腕に位置し,免疫応答に深く関わり,疾患感受性を規定する遺伝的要因の一つであると考えられている.日本人の交感性眼炎におけるHLAを調べた.血清学的HLAタイピングでは,クラスⅡ抗原であるHLA-DR53,HLA-DR4,HLA-DQ4に有意な上昇が認められた.このうちHLA-DR53はHLA-DR4,HLA-DR7,HLA-DR9と連鎖不平衡にある.しかし交感性眼炎においてはHLA-DR4のみ相関が認められ,HLA-DR7,HLA-DR9とは相関がみられなかった.このことから交感性眼炎とHLA-DR53の相関は二次的相関によるものであり,HLA-DR4,HLA-DQ4に有意に相関することが推定された9).日本人のその後の交感性眼炎の症例報告において,HLAが調べられたものについてはHLA-DR4を示すことが報告されている.これらの結果を踏まえて筆者らはさらにHLA-DNAタイピングを行った.その結果,日本人において交感性眼炎はHLA-DQA1*0301-DRB1*0405-DQB1*0401と相関することが明らかになった.このうちHLA-DQA1*0301はHLA-DRB1*04とHLA-DRB1*09に連鎖不平衡にある.しかし交感性眼炎においてはHLA-DRB1*09とは相関しなかった.このことからHLA-DQA1*0301は連鎖不平衡による二次的相関であると考えられた.しかし,日本人においてはHLA-DRB1*04と(30)図2交換性眼炎の眼底写真視神経乳頭の発赤・腫脹,硝子体混濁がみられる.図3交感性眼炎の眼底写真メラノサイトが減少して夕焼け状眼底がみられる.図4交感性眼炎の眼外症状毛髪・睫毛の白髪化,皮膚の白斑がみられる.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????HLA-DQB1*04は連鎖不平衡にあり,この結果のみではどちらが有意に相関する可能性があるかは不明であった9).さらに注目すべきことに,この結果はVKH病におけるHLA-DNAタイピングの結果10)と一致するものであった.このことにより,日本人において,交感性眼炎は臨床症状のみならず,HLA-DNAタイピングにおいてもVKH病と一致することが示された.さらなる疾患感受性遺伝子の解析のためにはHLA-DRBとDQBの連鎖不平衡の異なる民族での交感性眼炎のHLA-DNA解析が望まれていた.2001年イギリスから交感性眼炎のHLA-DNAタイピングの27報告例がなされた.イギリスにおける交感性眼炎はHLA-DQA1*03-DRB1*04と相関し,HLA-DQB1との相関はみられなかった.さらにHLA-DRB1*04のサブタイプは日本人のHLA-RB1*0405ではなくHLA-DRB1*0404であった.この報告における交感性眼炎患者の民俗学的背景は,ネイティブイギリス人(14),スコットランド人(8),アイルランド人(4),北アイルランド人(1)であり,日本人とは異なる民族であった11).異なる民族においても,交感性眼炎が日本人と同様HLA-DRB1*04と相関したことは非常に興味深いものであった.この事実は交感性眼炎が民族を超えてHLA-DRB1*04と相関することを示唆するものであった.サブタイプの相違が他の民族でどうなのか,疾患にどのように関わるかは今後の課題となった.VKH病では白人には非常に少なく,東洋人,北米,中米,南米のインディアン,イヌイットなどに多く,発症頻度に民族差があることが知られてきた(「原田病」の項のVKH病の世界分布図を参照)12).しかも海外に移住した日本人でも発症頻度に有意差がないことが知られてきた.一方,交感性眼炎はこれまで中国,シンガポール,トルコ,サウジアラビア,スペイン,ロシア,ブラジル,ユーゴスラビア,イギリス,アイルランド,アメリカ,オランダ,カナダなど多くの国々で報告されている13~16).交感性眼炎は非常に発症頻度が低いため,これらの症例報告例をそのまま世界分布とするのは性急であろう.しかもこれらの報告では民族的背景までは細かく言及されていない場合がほとんどであり,交感性眼炎はVKH病のように明らかな人種差はみられないとされてきた.先に示したように日本人において原田病はHLA-DR4に相関し,そのアリルはHLA-DRB1*0405が95%を占め,HLA-DRB1*0405またはHLA-DRB1*0410のいずれかをもっていた.このHLA-DRB1*0405,DRB1*0410は東洋人,ヒスパニクスに多く白人にはまれなアリルでありVKH病の民族的有意差と一致するものであった.その後VKH病とHLA-DRB1*04の相関は日本人のみならず,韓国,中国,ブラジル,メキシコでも追試され,ラオス,ブラジルではHLA-DRB1*0405と相関していることが示された17~20).一方,交感性眼炎では日本人以外でHLAの相関を調べたものが2報告ある.一つ目はアメリカのVKH病とともに調べられた8報告例で,HLA-DR4と相関することが示されているがサブタイプまでは調べられていない21).二つ目は先に示したイギリスの27報告例で,患者は日本人でもヒスパニクスでもないがHLA-DRB1*04と相関したがそのサブタイプは筆者らが調べた日本人のHLA-DRB1*0405の相関とは異なりHLA-DRB1*0404であった11).交感性眼炎は必ずしも民族的有意差がみられないことと,HLA-DRB1*04に相関すること,HLA-DRB1*04のサブタイプにバリエーションがみられることが明らかとなったが,この事実が交感性眼炎の疾患感受性にどう関与するのかはVKH病との関連を含めて今後さらに検討が必要と考えられる.交感性眼炎ではサイトカイン遺伝子の多型性が重症度に関わっている可能性やVKHの項で述べられているチロシナーゼとの関連についても今後検討されるべき課題である22).おわりに交感性眼炎は人種を超えてHLA-DR4(HLA-DRB1*04)と相関することが示された.交感性眼炎が疑われた場合,HLAを調べることは診断および治療のスタートを決めるうえで有用であると考えられる.交感性眼炎とVKH病は臨床症状,病態生理,HLAについて非常に類似した疾患と考えられている.今後,HLAにおけるさらなる相関機序,ヒトゲノムにおけるさらなる疾患感受性遺伝子の検索が進められることが期(31)———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006待される.文献1)LubinJR,AlbertDM,WeinsteinM:Sixty-?veyearsofsympatheticophthalmia.Aclinicopathologicreviewof105cases(1973-1978).?????????????87:109-121,19802)MacClellanKA,BillsonFA,FilipicM:Delayedonsetsympatheticophthalmia.??????????147:451-454,19873)石川友昭,後藤浩,市側能稔博ほか:交感性眼炎16例の臨床的検討.臨眼52:555-558,19984)松山茂夫,日谷千夏,末廣龍害ほか:網膜?離手術後に脈絡膜?離を主体とした交感性眼炎をきたした一例.眼紀51:604-609,20005)久保勝文,中沢満,荒井優子ほか:黄斑円孔術後早期に発症した交感性眼炎の一例.臨眼55:683-586,20016)BechrakisNE,Muller-StolzenburgNW,HelbigHetal:Sympatheticophthalmiafollowinglasercyclocoagulation.???????????????112:80-84,19947)PollackAL,McDonaldHR,AiEetal:Sympatheticoph-thalmiaassociatedwithparsplanaviterectomywithoutantecedentpenetratingtrauma.??????21:146-154,20018)InomataH:Necroticchangesofchoroidalmelanocytesinsympatheticophthalmia.???????????????106:239-242,19989)ShindoY,OhnoS,UsuiMetal:Immunogeneticstudyofsympatheticophthalmia.???????????????49:111-115,199710)ShindoY,InokoH,YamamotoTetal:HLA-DRB1typ-ingofVogt-Koyanagi-Harada?sdiseasebyPCR-RFLPandstrongassociationwithDRB1*0405andDRB1*0410.???????????????78:223-226,199411)KilmartinDJ,WilsonD,LiversidgeJetal:Immunogenet-icsandclinicalphenotypeofsympatheticophthalmiainBritishandIrishpatients.???????????????85:281-286,200112)OhnoS:ImmunologicalaspectsofBeh?et?sandVogt-Koyanagi-Harada?sdisease.???????????????????????101:335-341,198113)SuDH,CheeSP:SympatheticophthalmiainSingapore:newtrendsinanolddisease.?????????????????????????????????244:243-247,200614)GurdalC,ErdenerU,IrkecMetal:Incidenceofsympa-theticophthalmiaafterpenetratinginjuryandchoiceoftreatment.??????????????????10:223-227,200215)El-AsrarAM,Al-ObeidanSA:Sympatheicophthalmiaaftercomplicatedcataractsurgeryandintraocularlensimplantation.????????????????11:193-196,200116)ChanCC,RobergeRG,WhitcupSMetal:32casesofsympatheticophthalmia.AretrospectivestudyatNationalEyeInstitute,Md.,from1982-1992.????????????????113:597-600,199517)KimMH,SeongMc,KwakNHetal:AssociationofHLAwithVogt-Koyanagi-HaradasyndromeinKoreans.???????????????129:173-177,200018)ZangXY,WangXM,HuTS:Pro?linghumanleukocyteantigensinVogt-Koyanagi-Haradasyndrome.????????????????113:567-572,199219)GoldbergAC,YamamotoJH,ChiarellaJMetal:HLA-DRB1*0405isthepredominantalleleIBrazilianpatientswithVogt-Koyanagi-Harada?sdisease.????????????59:183-188,199820)AlaesC,PilarMoraM,ArellanesLetal:Strongassocia-tionofHLAclassIIsequencesinMexicanswihVogt-Koyanagi-Harada?sdisease.???????????60:875-882,199921)DavisJL,MittalKK,FreidlinVetal:HLAassociationsandancestoryinVogt-Koyanagi-Haradadiseaseandsym-patheticophthalmia.?????????????97:1137-1142,199022)AtanD,TurnerSJ,KilmartinDJetal:Cytokinegenepolymorhphisminsympatheticophthalmia.??????????????????????????46:4245-4250,2005(32)

HLAとサルコイドーシス

2006年12月31日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSのであるが,ときにその変異の性質や場所により,重要な遺伝子の機能発現に変化をもたらすことになり,遺伝性疾患が発症する.サルコイドーシスの発症に関与する遺伝子をみつけるためのアプローチ法の代表的なものには連鎖解析と相関解析がある.連鎖解析とは家系調査による解析法であり,有病率が少ない多因子疾患にはあまり向かない.一方,相関解析は患者群と同じ民族の対照群において,既知の遺伝子または遺伝子マーカー(くり返し配列などから構成され,ゲノム中で特定の座位に存在する目印となるDNA配列)に存在する対立遺伝子〔多型(polymor-phism):塩基配列の個人差〕の保有頻度をc2検定で比較する方法である.特定の対立遺伝子が患者群で有意に多い場合,それ自身が疾患感受性遺伝子である場合と,その近くに存在する連鎖不平衡にある別の遺伝子が真の疾患感受性遺伝子の場合がある.また,両解析ともに特定の既知の遺伝子について検討する候補遺伝子アプローチと,ヒトゲノム全域にわたり多くの遺伝子マーカーを用いて網羅的に検索するゲノムスキャンがある.II候補遺伝子による相関解析サルコイドーシスの病態に関連している可能性の高い候補遺伝子の1つ,HLAについての相関解析がいろいろな人種,民族集団から報告されている.はじめに多くの眼疾患はいまだに発症の原因が不明であるが,内因(個体の遺伝素因),外因(感染因子,環境因子)に加え,ストレスや加齢などの誘因が関与している.サルコイドーシスは原因不明の全身性肉芽腫性疾患であるが,感染力の強い病原微生物や,特別な環境因子が原因とは考えにくく,むしろ遺伝素因や普遍的な誘因が発症に関与していると考えられている.サルコイドーシスには家族集積性があり,患者の同胞がサルコイドーシスに罹患するオッズ比は日本人では8.11)と高く,アメリカ人では4.7(白人に限ると18.0)であり2),遺伝素因は無視できない.また,1つの遺伝素因だけが発症に関与しているとは考えにくく,多数の遺伝素因が複雑に絡み合って発症する多因子(多遺伝子)疾患である可能性が高い.近年,分子遺伝学の発達とともに疾患感受性や疾患抵抗性についてDNAレベル,アミノ酸レベルで研究・解明が進んでいる.本稿ではサルコイドーシスの遺伝素因の1つとして,ヒト白血球抗原(humanleukocyteanti-gen:HLA)が疾患感受性や疾患抵抗性を規定している可能性について内外の知見を紹介する.I疾患感受性遺伝子検索法1999年,全ゲノムの塩基(DNA)配列が決定され,ヒトゲノムは約3.1Gb,31億塩基対からなることが明らかになった.実はその塩基配列は一人ひとり少しずつ違っている.この微妙な違いは通常なんら影響のないも(21)????*MamiIshihara:横浜市立大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕石原麻美:〒236-0004横浜市金沢区福浦3-9横浜市立大学医学部眼科学教室特集●組織適合抗原(HLA)のすべてあたらしい眼科23(12):1535~1541,2006HLAとサルコイドーシス???????????????????????????????????????????????????????石原麻美*———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.12,20061.HLAとは?3)サルコイドーシスは全身多臓器に非乾酪性肉芽腫を形成する疾患である.まず,病因抗原を組織マクロファージが貪食し,その結果生じた抗原ペプチドがHLAクラスⅡ分子とともに抗原提示細胞に表出され,T細胞上の受容体によりCD4陽性T細胞に提示される.このように非自己(病因抗原)を識別する際に働くのが主要組織適合抗原複合体(MHC)で,ヒトの場合はHLA(ヒト白血球抗原)である.その遺伝子は染色体6p21.31にあり,ゲノムのなかで最も多型性(塩基配列の個人差)に富んでいる.現在ではHLAクラスⅠ(A,B,C,D,E,F,G)抗原,およびクラスⅡ(DP,DQ,DR)抗原が遺伝子タイピングにより詳細に検討されている(図1).サルコイドーシスの場合はクラスⅡ抗原が重要である.クラスⅡ抗原は多型性に富むa鎖とb鎖からなり,特に細胞外ドメインのa1,b1ドメインは多型性が著明である.HLA-DR抗原のa鎖はHLA-DRAにより,b鎖はHLA-DRBによりコードされる.a1,b1ドメインで構成される抗原結合溝(ポケット)に9~30個のアミノ酸残基からなる抗原ペプチドが結合する(図2,3).抗原結合溝に収容された抗原とHLA抗原との複合体が,T細胞上の受容体(T細胞レパトア)と結合して,抗原特異的免疫応答が惹起される(図3).事実,サルコイドーシスの一亜型であるL?fgren症候群で,DR17(DR3のsplit抗原)陽性患者の気管支肺胞洗浄液中には,特定の抗原受容体を有するT細胞がoligoclonalに増殖している4).2.HLAとサルコイドーシスの相関血清学的検査ではイタリア人でHLA-B8-DR35),スカンジナビア半島の白人でHLA-DR17(DR3のsplit抗原)6),ドイツ人でHLA-DR57),オランダ人でHLA-DR68)が報告されている.一方,日本人ではHLA-DR529~11)とDR59,11),DR611),DR810,11)頻度の増加が報告されてきたが,共通なのはDR52頻度の増加であった.筆者らは1994年,日本人サルコイドーシス患者では(22)図1ヒト第6染色体短腕上のHLA遺伝子領域の遺伝子群クラスⅡ領域にHLA-DR,DQ,DP遺伝子がある.テロメアヒト第6染色体長腕部セントロメアクラスⅡ抗原クラスⅠ抗原テロメア短腕部クラスⅢ抗原DPDQDRBCAクラスⅡクラスⅢクラスⅠDPDQDRHSP70-1HSP70-2Hum70tABEAGFC4DRAC4C2HSP70TNFBCDPB1DQB2DQA2DQA1DRB1DRB2DRB3DPA1DNARING3DMADMBDOBDQB3DQB1RING9TAP1TAP2LMP2LMP7———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????じめてHLA-DRB1,DRB3,DQA1,DQB1,DPB1遺伝子について遺伝子タイピングを行った.その結果,HLA-DR11,DR12(DR11,DR12はDR5のsplit抗原),DR14(DR14はDR6のsplit抗原),DR8のいくつかの対立遺伝子頻度〔DRB1*11(1101),DRB1*12(1201),DRB1*14(1401),DRB1*08(0802)〕の有意な増加を患者群で認めた12)(表1).さらにHLA-DR52の対立遺伝子の1つDRB3*0101頻度の有意な増加を認めた13).ここでサルコイドーシスの発症にはHLA-DR5,DR6,DR8とHLA-DR52のどちらが関与しているのかが問題となる.それについてはつぎのように説明できる(図4).HLA-DR5,DR6,DR8の抗原性はHLA-DRB1遺伝子でコードされている.また,日本人ではほとんど存在しないDR3(白人サルコイドーシスで頻度が高い抗原)の抗原性もDRB1遺伝子でコードされ(23)図2HLAクラスⅡ抗原(HLA-DR1分子)の三次元立体構造モデルa1,b1ドメインで構成されるbシートの抗原結合溝(ポケット1,4,6,7,9)に抗原ペプチドが結合する.11番目のアミノ酸はポケット6にあり,多型に富む〔このモデルはDR1分子なので,11番目はL(ロイシン)となっている.DR3,DR5,DR6,およびDR8分子ではS(セリン)である〕.(SternLJHetal:??????368:215,1994より)T細胞受容体ペプチドP2P3P4P1P6P7P9P5P8ポケット14679ヘルパーT細胞a鎖b鎖図3HLAクラスⅡ抗原(HLA-DR分子),抗原ペプチド,T細胞受容体のinteraction抗原結合溝である“ポケット”1,4,6,7,9は抗原ペプチドであるペプチドP1,P4,P6,P7,P9と直接結合する部位である.(SternLJHetal:??????368:215,1994より改変)DRB1DRB3DRADR52DR3DR3,DR11,DR12,DR5DR13,DR14DR6DRB1DRADR8DRB1DR8図4HLA-DR52グループ(DR3,DR5,DR6)とHLA-DR8グループのハプロタイプによるDR遺伝子構成DR52グループはDRB1とDRB3遺伝子をもち,DR8はDRB1遺伝子しかもたない.(BodmerJGetal:??????????????39:161,1992より改変)———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006ている.一方,HLA-DR52の抗原性はDRB3遺伝子でコードされている.図4に示すようにHLA-DR3,DR5,DR6はDRB1遺伝子とDRB3遺伝子の両方をもっているが,HLA-DR8はDRB1遺伝子だけでDRB3遺伝子はもっていない.サルコイドーシス患者群ではHLA-DR8の対立遺伝子頻度も増加していたので,発症にはHLA-DR3,DR5,DR6,DR8が共通してもっているDRB1遺伝子が関与していると考えられる.HLA-DR3,DR5,DR6,DR8がコードするDRB1遺伝子bドメインの9~12番目のアミノ酸残基(チロシン,セリン,スレオニン)は共通である.そのうち11番目のアミノ酸(セリン)は抗原結合溝(第6ポケット)を構成するアミノ酸の1つであり,抗原と直接結合する重要な部位である(図2,3).このHLA-DR3,DR5,DR6,DR8が共通にもつセリンはsharedepitopeとして重要なアミノ酸であるという仮説を図5に示した.このアミノ酸をコードする対立遺伝子頻度はサルコイドーシスで79.4%,対照で47.3%,相対危険度4.3であり,このアミノ酸をもつヒトはもたないヒトの4.3倍サルコイドーシスになりやすいといえる.また,HLA-DR6のsplit抗原であるDR13〔DRB1*13(1302)〕だけが11番目にセリンをもっているにもかかわらず,患者群で頻度が低かった(表1)が,その理由として71番目(これはT細胞レセプターと直接結合する部位)のアミノ酸がDRB1*11,DRB1*12,DRB1*14,DRB1*08の同位置のアミノ酸と異なっているため,抗原が結合しにくいと考えられる(図5).一方,DR1の対立遺伝子の1つであるDRB1*01(0101)頻度は患者群で有意に低下していた.DRB1*01の11番目のアミノ酸残基はロイシンであり,疎水性アミノ酸である(セリンは非疎水性).そのため抗原が結合する第6ポケットの性質や形状が変わってしまい,抗原が結合しにくくなるため,DR1保有者はサルコイドーシスになりにくいと考えられた(図5).つまりDR1は疾患抵抗性に働くと考えられ,このアミノ酸をコードする対立遺伝子頻度はサルコイドーシ(24)表1サルコイドーシスと相関のみられるHLA-DRB1遺伝子HLA抗原HLA対立遺伝子対照(n=110)患者(n=63)p値相対危険度DR1DRB1*01DRB1*010116(14.5%)1(1.6%)<0.020.1DR11(DR5)DRB1*11DRB1*11013(2.7%)9(14.3%)<0.025.9DR12(DR5)DRB1*12DRB1*12017(6.4%)12(19.0%)<0.0253.5DRB1*12023(2.7%)2(3.2%)DR13(DR6)DRB1*13DRB1*130218(16.4%)6(9.5%)DR14(DR6)DRB1*14DRB1*14016(5.5%)10(15.9%)<0.053.4DRB1*14031(0.9%)4(6.3%)DRB1*14052(1.8%)1(1.6%)DRB1*14063(2.7%)1(1.6%)DR8DRB1*08DRB1*08023(2.7%)8(12.7%)<0.0255.2DRB1*08039(8.2%)11(17.5%)DR11(DR5)DRB1*113(2.7%)9(14.3%)<0.025.9DR12(DR5)DRB1*1210(9.1%)14(22.2%)<0.052.9DR14(DR6)DRB1*1412(10.9%)16(25.4%)<0.0252.8DR8DRB1*0812(10.9%)19(30.2%)<0.013.5図5サルコイドーシスの疾患感受性遺伝子(HLA-DRB1*11,*12,*14,*08)と疾患抵抗性遺伝子(DRB1*0101,DRB1*1302)の模式図DRB1遺伝子上の11番目アミノ酸がsharedepitopeであるとする仮説.DRB1*11DRB1*12DRB1*14DRB1*08DRB1*1302DRB1*0101疾患感受性遺伝子疾患抵抗性遺伝子11-Ser71-Glu11-Ser11-LeuHLAAgHLAAgHLAAg———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????スで1.6%,対照で14.5%,相対危険度0.1であった.また,患者群でみられたDRB3*0101(DR52の対立遺伝子)やDQA1*0501,DQB1*0301の頻度の増加はHLA-DR5,DR6,DR8との連鎖不平衡で説明できる.2001年Foleyらは,イギリス,ポーランド,チェコスロバキアの3民族の白人それぞれについてHLA-DRB1とDQB1遺伝子多型を検討した14).その結果,DRB1*12(DR12はDR5のsplit抗原),DRB1*14(DR14はDR6のsplit抗原),DRB1*15(DR15はDR2のsplit抗原)が患者群で頻度が高く,DRB1*01(DR1),DRB1*04(DR4)の頻度が低かった.彼らは,頻度が患者群で低く疾患抵抗性に働くDR抗原(DR1,DR4)は,抗原結合溝(第6ポケット)を構成する11番目のアミノ酸(図2)が疎水性のアミノ酸で,逆に発症に関与しているDR抗原(DR12,DR14,DR15)では11番目のアミノ酸が非疎水性であったことから,11番目の疎水性アミノ酸が疾患抵抗性因子であると考察している.しかし,疎水性アミノ酸をコードする対立遺伝子頻度はサルコイドーシスで18%,対照で28%,相対危険度0.55であり,この値は疾患抵抗性因子としてあまり強いものではないと考えられる.2003年,Rossmanらはアメリカの黒人と白人についてHLA-DRB1,DQB1,DPB1遺伝子多型を検討した15).その結果,黒人ではDRB1*11(1101),DRB1*12(1201)とDPB1*0101頻度が高く,白人ではDRB1*11(1101),DRB1*14(1401),DRB1*15(1501),DRB1*04(0402)頻度が高かったが,両人種に共通して頻度の高かったのはDRB1*11(1101)であった.これを有しているのは黒人で16%,白人で9%であり,オッズ比はおのおの2.04,2.05であった.彼らはDRB1*11(1101),DRB1*12(1201),DRB1*15(1501)に共通している第7ポケットを構成する47番目のアミノ酸(図2)が発症に関与していると考察している.いろいろな人種・民族の遺伝子タイピングの結果から,HLA-DR3(DR17),DR5(DR11,DR12),DR6(DR14),DR8のDRB1遺伝子が疾患感受性に,HLA-DR1のDRB1遺伝子が疾患抵抗性に関与している可能性が考えられる.人種ごとに相関するHLAが多少異なっているのはつぎのような理由による.たとえば,DRB1*03(DR3)は白人ではよくみられるHLAタイプであるが,日本人ではきわめてまれなので,サルコイドーシス患者でもみられない.逆に日本人サルコイドーシスに相関のあるDRB1*08(DR8)は,白人や黒人では頻度が少ないので,患者でも少ない.このように,ある人種には頻度の高い対立遺伝子が,別の人種ではほとんどみられないため,疾患と相関するHLAに相違がある.3.サルコイドーシス臨床型,予後とHLAの相関発熱,結節性紅斑,関節痛,両側肺門リンパ節腫脹(BHL)を呈するL?fgren症候群はサルコイドーシスの一亜型であり,ヨーロッパ系白人に多くみられる.HLA-DR34)との相関が報告されており,特にDR17(DR3のsplit抗原)陽性患者で予後がよいといわれている6).また最近ではポーランド人でHLA-DRB1*03(DR3)とインターフェロン(IFN)g遺伝子のある対立遺伝子(IFN-gamma3,3)の両者をもつ患者が有意に多いという報告16)がある.日本人は他の民族に比べ心病変の合併が多いのが特徴であるが,心病変をもつ日本人サルコイドーシス患者26人の検討ではDRB1遺伝子ではなく,DQB1遺伝子が発症にかかわっている可能性も示唆されている17).予後とHLAとの関係では,アイルランド人でHLA-DR2またはHLA-DR11(DR5のsplit抗原)をもつ患者はHLA-DR3をもつ患者に比べて慢性化しやすく,予後も悪いとの報告がある18).また,イギリス人とオランダ人でHLA-DQB1*0201陽性患者はL?fgren症候群で発症することが多く,予後が良いとの報告があるが,これはDRB1*0301(DR3)とハプロタイプを作るDQ遺伝子である19).III連鎖解析によるゲノムスキャン疾患感受性遺伝子がどの染色体上に位置するかをスクリーニングするのによい方法である.サルコイドーシスでは2001年にドイツより63家系138名の患者でマイクロサテライトマーカーを使った連鎖解析がはじめて報告された20).その結果染色体6p-21-22のマーカー遺伝子に最も強い相関を認めた(p=0.001).ここはHLA遺伝子領域であり,特に補体やHSP70(ヒト熱ショック(25)———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006蛋白70),腫瘍壊死因子(TNF)遺伝子を含むクラスⅢ領域の近傍に疾患感受性遺伝子がある可能性が示唆された.そのほか,1p22,3p21,7q36,9q33,Xq21などの遺伝子マーカーと弱い相関が見いだされた.2003年にアメリカ黒人225家系704名を対象に,染色体6p-21-22上のHLA領域を網羅する6つのマイクロサテライトマーカーを使った連鎖解析が行われた21).クラスⅡ領域のうち,HLA-DQB1遺伝子領域(p=0.002)近傍のマイクロサテライトに最も強い相関がみられた.つまりアメリカ黒人では,相関解析ではDRB1遺伝子,ゲノムスキャンではDQB1遺伝子の関与が示唆されている.IVサルコイドーシスとHLA遺伝子サルコイドーシスは非乾酪性肉芽腫が多臓器にできるという共通の疾患でありながら,各臓器病変の頻度,臨床像,予後などに人種差,民族差がはっきりしている.たとえば,眼病変や心病変は日本人で多く,L?fgren症候群のような急性型はヨーロッパ白人に多い.また,アメリカの黒人は白人に比べ罹患率も高く,重症になりやすい.このような相違の原因の1つが,病因抗原に対する個体の反応の差,すなわち人種や民族ごとのHLA遺伝子の相違であると考えられる.近年のゲノムスキャンの結果から,少なくとも疾患感受性遺伝子の1つは,第6染色体上のHLA遺伝子領域近傍にありそうである.その場合,HLA遺伝子そのものまたは,HLA遺伝子の近傍にある遺伝子が疾患感受性遺伝子である可能性がある.一方,サルコイドーシスの遺伝子タイピングが報告されはじめてから10年以上が過ぎ,日本人,ヨーロッパ系白人,アメリカ黒人,アメリカ白人などさまざまな人種・民族からの相関解析の結果が蓄積されてきた.HLA遺伝子そのものが疾患感受性遺伝子である場合,HLAクラスⅡ領域のDR(DRB1)遺伝子が疾患感受性または抵抗性に働いているとする説はこれらの民族集団で見解の一致をみている.解析結果を合わせると,HLA-DR3(DR17),DR5(DR11,DR12),DR6(DR14),DR8のDRB1遺伝子(の共通するアミノ酸部位)が疾患感受性に関連している可能性があり,人種・民族ごとに,これらHLA遺伝子の相関が少しずつ異なっている.ある人種には頻度の高い対立遺伝子が,別の人種ではほとんどみられないから,という理由もあるが,このことが人種・民族間の臓器病変の頻度,臨床像,予後の相違をも説明しているのではないだろうか.たとえば,ヨーロッパ白人で多くみられる急性型(L?f-gren症候群)が日本人ではまれなのは,この病型と相関するHLA-DR3(DR17)が日本人にほとんどいないからであろう.またヨーロッパ白人でHLA-DR11(DR5)保有者はDR3保有者に比べ,慢性の経過をとり予後が悪いという報告は,日本人,アメリカ黒人,アメリカ白人のサルコイドーシス(3民族に共通な疾患感受性HLAはDR11)が慢性に経過するものであることと矛盾しない.一方,DQ(DQA1,DQB1)遺伝子はDRB1遺伝子と強い連鎖不平衡(ハプロタイプを作る)にあるため,病気の臨床型や一部の民族・人種によっては,統計学上これらの関与のほうが強く検出される場合もある.現在,筆者らは日本人サルコイドーシスでのゲノムスキャンを進めているが,他の人種と異なる結果が得られる可能性もあり,興味のあるところである.また,多因子遺伝疾患であると考えられるので,HLA遺伝子以外の疾患感受性遺伝子22)の関与も検討していく必要がある.文献1)片岡幹男,中田安成,平松順一ほか:サルコイドーシスの家族発生─本邦家族発症例の文献的考察と遺伝的素因の検討─.日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会雑誌20:21-26,20002)RybickiBA,IannuzziMC,FrederickMMetal:Familialaggregationofsarcoidosis.Acasecontroletiologicstudyofsarcoidosis(ACCESS).?????????????????????????164:2085-2091,20013)石原麻美,大野重昭:眼の免疫遺伝学─HLAと疾患感受性.新しい免疫学的アプローチと眼疾患(望月学編),眼科NewInsight4巻,p2-15,メジカルビュー社,19954)GrunewaldJ:LungT-helpercellsexpressingTcellreceptorAV2S3associatewithclinicalfeaturesofpulmo-narysarcoidosis.?????????????????????????161:814-818,20005)PasturenziL,MartinettiM,CucciaMetal:HLAclassI,II,IIIpolymorphismsinItalianpatientswithsarcoidosis.?????104:1170-1175,1993(26)———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????6)BerlinM,Fogdell-HahnA,OlerupOetal:HLA-DRpredictstheprognosisinScandinavianpatientswithpul-monarysarcoidosis.????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HLAとVogt-小柳-原田病

2006年12月31日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSが知られている5)(図1).さらに,日本在住の日本人と,南米やハワイなどに移住した日系人,その子孫との間にその発症頻度に大きな差がみられないことも知られている.このように,人種的に発症頻度に大きな差がみられることと,移住による環境要因の変化によってもその発症頻度に大きな差がみられないことから,VKH病の発症には遺伝的な要素が大きくかかわっていることが以前から考えられてきた.IIVKH病とHLAの関係HLA(humanleukocyteantigen)クラスⅠアリルと原田病の相関については,過去にいくつかの報告がなされている.日本人ではHLA-B54頻度がVKH病患者群で高いと報告されている5,6)が,韓国人7),中国人8,9),ブラジル人10),ヒスパニック11)ではHLA-B54との相関はみられないことが報告された.また,韓国人ではHLA-A31,B-55の頻度が有意に高い7)ことも報告された.このことから,日本人でHLA-B54と連鎖不平衡にある遺伝子が調べられ,HLA-DR4,-DR53,-DQ4がVKH病と相関することが報告された5,12,13).しかし,DR53はDR4,7,9と連鎖不平衡にあるにもかかわらず,DR7および9にはVKH病患者とコントロール群との間で有意差がみられないことから,DR53の増加はDR4に連鎖したものと考えられるようになった.HLAタイピングの技術の進歩により,この後DR4はさらに細かいサIVogt?小柳?原田病の病態Vogt?小柳?原田病(VKH病)は両眼性の肉芽腫性汎ぶどう膜炎を主体とする疾患である.しかし,その症状は眼科領域にとどまらず,頭痛,発熱,耳鳴り,感音性難聴,頭髪のぴりぴり感,めまい,皮膚の白斑,頭髪の白変,脱毛など多岐に及ぶ1,2)(表1).VKH病の本態は,患者リンパ球がメラノサイトを攻撃している組織像がみられること3),患者リンパ球がメラノサイトに対し細胞障害性を示すこと4)などからメラノサイトに対する自己免疫疾患と考えられている.また,VKH病は日本をはじめ,韓国,台湾などの東アジアやオーストラリアのアボリジニ,北米や中米,南米などのアメリカインディアン,イヌイット,インディオなどのモンゴロイドに多くみられるが,アフリカの黒人にはみられず,白人ではその発症は非常に少ないこと(15)????図1VKH病の世界分布*YukoTakemoto&ShigeakiOhno:北海道大学大学院医学研究科眼科学分野〔別刷請求先〕竹本裕子:〒060-8648札幌市北区北15条西7丁目北海道大学大学院医学研究科眼科学分野特集●組織適合抗原(HLA)のすべてあたらしい眼科23(12):1529~1533,2006HLAとVogt?小柳?原田病???????????????????????????????????????????????-????????-??????????????竹本裕子*大野重昭*———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006ブタイプに分類されるようになり,日本ではDRB1*0405およびDRB1*0410と,中国,ラオスではDRB1*0405と,メキシコやブラジルではHLA-DRB1*04との非常に強い相関がみつかっている12,14~16).また,日本人ではHLA-DRB1*1302やDRB1*0803と負の相関があること,DQA1*0301および*0401が正の相関を,DQA1*0103が負の相関を示すことも報告されている12).しかし,DQA1*0301はDR4およびDR9と連鎖不平衡にあるが,DR9に有意差がみられないことから,DQA1*0301はDR4に連鎖しているための二次的上昇と考えられるようになった.HLAと疾患との相関は,HLAそのものが特定の自己あるいは非自己抗原に対する免疫応答の個体差を決定することにより疾患感受性を直接的に決定している場合と,HLAと連鎖不平衡にあるHLA以外の疾患感受性遺伝子が存在する場合の2通りが考えられる.たとえば,前者では自己免疫疾患などがその例であると推定される.また疾患感受性を示す自己ペプチドとHLAの複合体が,胸腺におけるT細胞レパートリーの形成(posi-tiveselection)に重要な役割を担い,このようなT細胞のなかに自己免疫疾患を誘導する自己反応性T細胞が含まれる可能性も提唱されている.後者の例としては,補体第2,第4あるいはB因子欠損症および21-ヒドロキシラーゼの欠損による先天性副腎過形成などがある.(16)表1VKH病の診断基準完全型(complete):1~5の全項目を満たすもの1.穿孔性眼外傷あるいは手術の既往歴がない2.他の眼疾患を示唆する臨床所見がないか補助検査に該当しない3.両眼性であり,疾患の時期によりaまたはbが満たされているa.初期所見(1)他の炎症所見の有無にかかわらず,びまん性脈絡膜炎を示唆する次のどれかの所見(a)限局性の網膜下液,または(b)胞状漿液性網膜?離(2)網膜下液や網膜?離が明確でない場合は,次の両所見が必要(a)フルオレセイン蛍光眼底造影検査による限局性の脈絡膜灌流遅延,多発性点状漏出,大きな斑状過蛍光,網膜下蛍光貯留,または乳頭蛍光染色,および(b)超音波検査によるびまん性脈絡膜肥厚b.晩期所見(1)3aを示唆する原病歴,および次の(2)および(3),あるいは(3)の複数の所見(2)次のいずれかの眼色素脱失所見(a)夕焼け状眼底,または(b)杉浦徴候(3)他の眼所見(a)貨幣状の網脈絡膜色素脱失斑,または(b)網膜色素上皮遊走を示唆する色素沈着の所見,または(c)再発性あるいは慢性前部ぶどう膜炎4.神経,聴覚所見(眼科診察の際にすでに消失している可能性がある)a.髄膜刺激症状b.耳鳴りc.髄液細胞増加5.皮膚所見(ぶどう膜炎発症前には存在しない)a.脱毛b.白毛c.皮膚白斑不全型(incomplete):項目1~3,および項目4あるいは項目5を満たすもの疑い例(probable):項目1~3を満たすもの(ReadRW,HollandGN,RaoNAetal:ReviseddiagnosticcriteriaforVogt-Koyanagi-Haradadisease:reportofaninternationalcommitteeonnomenclature.???????????????131:647-652,2001より)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????これらの疾患は,特定のHLA-BおよびHLA-DR対立遺伝子と連鎖した,補体第2,第4,B因子あるいは21-ヒドロキシラーゼの構造遺伝子に突然変異が生じ,機能を有する蛋白質が産生されないことに起因する.この場合,疾患と相関を示すHLA対立遺伝子は単なるマーカーにすぎず,HLAと疾患発症との間には因果関係はない.そこで,VKH病と正の相関を示すDRB1*0405,*0410および負の相関を示す*0803,さらにVKH病の発症のまれな白人で最も多いHLA-DR4サブタイプであるDRB1*0401のアミノ酸配列を比較してみたのが表217)である.この表からわかるとおり,DRB1*0405および*0410の両者に共通して特異的なアミノ酸は57番目のセリンであり,さらにVKH病と負の相関を示すDRB1*0803では57番目のセリンと,70番目にアスパラギン酸をもっていることがわかった.これらのアミノ酸はいずれもaへリックスに位置し,これらの部位でのアミノ酸変化は抗原結合部位の立体構造変化をもたらし,抗原ペプチドとの結合やT細胞受容体の認識に大きな影響をもたらすことが報告されている18~21).このため,HLA-DRB1*0405やDRB1*0410に特異的なこれらのアミノ酸がVKH病疾患感受性因子として働いていると考えられる.IIIHLA-DRB1*0405と日本人日本人においてHLA-DRB1*0405の頻度は約12%と非常に高い(表3)22).しかし,VKH病の新患は北海道大学では年間10人前後,ぶどう膜炎患者の新患全体の約10%であることからHLA-DRB1*0405をもつ日本人の多くは,VKH病を発症しないでその生涯を終えることが予想される.また,VKH病の家族発症頻度は低く,このことからも遺伝要因以外にもVKH病発症に関与する要因が存在すると考えられる.このように,単一の要因で発症するか否かが決まらず,複数の要因が発症に関(17)表2HLA-DRB1のアミノ酸配列アミノ酸配列番号9135770717486DRB1*0101WQLKFDQRAGDRB1*0401E─V─H──K──DRB1*0402E─V─H─DE─VDRB1*0403E─V─H───EVDRB1*0404E─V─H────VDRB1*0405E─V─HS────DRB1*0406E─V─H───EVDRB1*0407E─V─H───E─DRB1*0408E─V─H─────DRB1*0409HS─K──DRB1*0410S───VDRB1*0411S──EVDRB1*0803EYSTGSD─L─(大野重昭:第96回日本眼科学会総会宿題報告免疫と眼眼疾患の免疫遺伝学的研究.日眼会誌96:1558-1579,1992より)表3日本人におけるHLA-DRB1アリル頻度AlleleGenefrequencyDRB1*0101DRB1*0401DRB1*0403DRB1*0404DRB1*0405DRB1*0406DRB1*0407DRB1*0410DRB1*0701DRB1*0802DRB1*0803DRB1*0901DRB1*1001DRB1*1101DRB1*1201DRB1*1202DRB1*1301DRB1*1302DRB1*1401DRB1*1403DRB1*1405DRB1*1406DRB1*1407DRB1*1412DRB1*1501DRB1*1502DRB1*16020.0650.0070.040.0010.1150.0350.0090.0180.0030.040.0810.1240.0090.0340.0380.0150.0070.0770.0420.0150.0110.0180.0030.0010.0850.10.009(SaitoS,OtaS,YamadaEetal:Allelefrequenciesandhap-lotypicassociationsde?nedbyallelicDNAtypingatHLAclassIandclassIIlociintheJapanesepopulation.???????????????56:522-529,2000より)———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006与する疾患を多因子疾患とよぶ.このため,HLA-DRB1以外の遺伝子とVKH病との相関や,感染などの環境要因とVKH病発症との関係が調べられている.IVVKH病の発症機序現在,VKH病の発症にはチロシナーゼが関わっている可能性が示唆されている.チロシナーゼとはチロシンをメラニンやドーパミンに変換する際に働く酵素である(図2).この酵素を構成するペプチドの一部を合成し,ラットや秋田犬に投与したところ,脱毛やぶどう膜炎などのVKH病様の症状を惹起することが確認された23,24).また,VKH病患者から得られたT細胞株をチロシナーゼ構成ペプチドで刺激すると免疫反応を惹起することが確認されている25,26).さらに,T細胞免疫応答を誘導するこの構成ペプチドは,HLA-DRB1*0405結合ペプチドモチーフを含むと報告されている25).しかし,患者と健常人のチロシナーゼをコードしている遺伝子に多型はみられなかった27).つまり,チロシナーゼの発現や構造にはVKH病患者と健常人で変化はなく,その認識系に変化が生じていると考えられる.以上から,HLA-DRB1*0405などの内的要因(遺伝素因)をもっているヒトに,感染などの外的要因が加わることによって,本来は免疫寛容で免疫機構に認識されないはずの自己蛋白であるチロシナーゼとHLA-DRB1*0405との複合体に対してCD4+T細胞が誤って反応してしまい,メラノサイトに炎症が惹起されると推定される.また,現在までのところ,HLA-DRB1以外の遺伝子とVKH病との相関は報告されていないが,おそらくHLA-DRB1以外のVKH病疾患感受性遺伝子が存在することが予想され,今後の研究報告が待たれるところである.おわりにVKH病はわが国ではサルコイドーシスについで多くみられる内眼炎である.本病のHLAとの真の相関機序,さらには全ゲノムにわたる疾患感受性遺伝子の検索により,本病の分子遺伝学的発症機序が解明され,将来はその応用としての遺伝子診断,そして遺伝子治療が確立されることが強く望まれる.文献1)杉浦清治:Vogt?小柳?原田病.臨眼33:411-424,19792)ReadRW,HollandGN,RaoNAetal:ReviseddiagnosticcriteriaforVogt-Koyanagi-Haradadisease:reportofaninternationalcommitteeonnomenclature.????????????????131:647-652,20013)OkadaT,SakamotoT,IshibashiTetal:VitiligoinVogt-Koyanagi-Haradadisease:immunohistologicalanalysisofin?ammatorysite.???????????????????????????????234:359-363,19964)MaezawaN,YanoA,TaniguchiMetal:TheroleofcytotoxicTlymphocytesinthepathogenesisofVogt-Koyanagi-Haradadisease.???????????????185:179-186,19825)OhnoS:ImmunologicalaspectsofBeh?et?sandVogt-Koyanagi-Harada?sdiseases.???????????????????????101:335-341,19816)TagawaY:Lymphocyte-mediatedcytotoxicityagainstmelanocyteantigensinVogt-Koyanagi-Haradadisease.????????????????22:36-41,19787)KimMH,SeongMC,KwakNHetal:AssociationofHLAwithVogt-Koyanagi-HaradasyndromeinKoreans.???????????????129:173-177,20008)ZhaoM,JianY,AbrahamsW:AssociationofHLAanti-genswithVogt-Koyanagi-HaradasyndromeinaHanChi-nesepopulation.???????????????109:368-370,19919)ZhangXY,WangXM,HuTS:Pro?linghumanleukocyteantigensinVogt-Koyanagi-Haradasyndrome.????????????????113:567-572,199210)GoldbergAC,YamamotoJH,ChiarellaJMetal:HLA-DRB1*0405isthepredominantalleleinBrazilianpatientswithVogt-Koyanagi-Haradadisease.???????????59:183-188,199811)WeiszJM,HollandGN,RoerLNetal:AssociationbetweenVogt-Koyanagi-HaradasyndromeandHLA-DR1and-DR4inHispanicpatientslivinginsouthernCalifor-nia.?????????????102:1012-1015,1995(18)図2チロシナーゼのはたらきチロシン3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)ドーパミンノルアドレナリンアドレナリンフェニルアラニン3,4-キノンメラニンチロシナーゼチロシナーゼ———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????12)ShindoY,InokoH,YamamotoTetal:HLA-DRB1typ-ingofVogt-Koyanagi-Harada?sdiseasebyPCR-RFLPandthestrongassociationwithDRB1*0405andDRB1*0410.???????????????78:223-226,199413)OhnoS,CharDH,KimuraSJetal:Vogt-Koyanagi-Hara-dasyndrome.???????????????83:735-740,197714)ShindoY,InokoH,NakamuraSetal:Clinicalandimmu-nogeneticinvestigationofaLaotianpatientwithVogt-Koyanagi-Harada?sdisease.???????????????210:112-114,199615)Arellanes-GarciaL,BautistaN,MoraPetal:HLA-DRisstronglyassociatedwithVogt-Koyanagi-HaradadiseaseinMexicanMestizopatients.???????????????????6:93-100,199816)AlaezC,delPilarMoraM,ArellanesLetal:Strongasso-ciationofHLAclassIIsequencesinMexicanswithVogt-Koyanagi-Harada?sdisease.???????????60:875-882,199917)大野重昭:第96回日本眼科学会総会宿題報告免疫と眼眼疾患の免疫遺伝学的研究.日眼会誌96:1558-1579,199218)BjorkmanPJ,SaperMA,SamraouiBetal:StructureofthehumanclassIhistocompatibilityantigen,HLA-A2.??????329:506-512,198719)BjorkmanPJ,SaperMA,SamraouiBetal:TheforeignantigenbindingsiteandTcellrecognitionregionsofclassIhistocompatibilityantigens.??????329:512-518,198720)SchwartzRH:T-lymphocyterecognitionofantigeninassociationwithgeneproductsofthemajorhistocompati-bilitycomplex.???????????????3:237-261,198521)SpiesT,BresnahanM,BahramSetal:AgeneinthehumanmajorhistocompatibilitycomplexclassIIregioncontrollingtheclassIantigenpresentationpathway.??????348:744-747,199022)SaitoS,OtaS,YamadaDetal:Allelefrequenciesandhaplotypicassociationsde?nedbyallelicDNAtypingatHLAclassIandclassIIlociintheJapanesepopulation.???????????????56:522-529,200023)YamakiK,KondoI,NakamuraHetal:Ocularandextra-ocularin?ammationinducedbyimmunizationoftyrosi-naserelatedprotein1and2inLewisrats.???????????71:361-369,200024)YamakiK,TakiyamaN,IthohNetal:ExperimentallyinducedVogt-Koyanagi-HaradadiseaseintwoAkitadogs.???????????80:273-280,200525)KobayashiH,KokuboT,TakahashiMetal:TyrosinaseepitoperecognizedbyanHLA-DR-restructedT-celllinefromaVogt-Koyanagi-Haradadiseasepatient.???????????????47:398-403,199826)GochoK,KondoI,YamakiK:Identi?cationofautoreac-tiveTcellsinVogt-Koyanagi-Haradadisease.??????????????????????????42:2004-2009,200127)HorieY,TakemotoY,MiyazakiAetal:TyrosinasegenefamilyandVogt-Koyanagi-HaradadiseaseinJapanesepatients.????????????????(inpress)(19)