———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSI黄斑疾患1.黄斑疾患とMIVS増殖糖尿病網膜症や増殖硝子体網膜症と比べて黄斑上膜(ERM),黄斑円孔(MH)などの黄斑疾患は硝子体手術のなかでは合併症が比較的少なく安定した結果が得られる疾患群であり,それだけに患者の期待度も高く,最終視力のみならず,早期からの視力改善や異物感の軽減,早期退院などと要求も多い.そういった要求に応えるためにも結膜への侵襲が少ないMIVSは非常に理にかなったものである.2.20G手術との違い手術を行うにあたって従来の20Gシステムとの違いはなんといっても器具の剛性の違いである.黄斑疾患の場合は周辺部硝子体の完全な郭清までは必要としないため硝子体カッターの性能はそれほど手術に影響しないが,ERMの膜離や内境界膜(ILM)離は鉗子で行うため,従来の20Gシステムに慣れている術者は最初はMIVSの鉗子,とりわけ25Gシステムでは剛性が低く戸惑うこともあるかもしれない.しかしながら徐々に慣れてゆくのでほとんど20Gの鉗子と遜色なく操作を行うことが可能になる.ところが25Gシステムでは従来の20Gシステムのように眼球を両手に持った眼内照明と硝子体カッターでコントロールすることはむずかしく,考え方を改めMIVSではできるだけ両手のポートはじめに今でこそ極小切開硝子体手術(microincisionvitrec-tomysurgery:MIVS)において強膜創は斜め切り(obliqueincision)1)による自己閉鎖が常識となっているが,当初MIVSが紹介された手技では25ゲージ(G)のトロッカーを経結膜的に強膜に垂直に刺入し,周辺部硝子体を残すことによって自己閉鎖させるように考案されたものであった2).つまり,MIVSは周辺部硝子体を郭清しなくてよい黄斑疾患しか適応でないと考えられていた.さらには慣れない繊細な25Gの器具では従来の20Gほど安定して強膜圧迫などの操作が行いにくいこともそういった考えを定着させることになった.しかしながら,現在では裂孔原性網膜離や増殖糖尿病網膜症などほとんどすべての疾患にMIVSは対応可能となり,必ずしも経結膜手術にこだわらなくともトロッカーを使うことによる強膜への侵襲の低下や硝子体創口への嵌頓の減少,25Gや23Gの小口径硝子体カッターを使うことによる増殖膜処理時の有効性などMIVSの有効性の評価はさまざまな場面に及ぶようになった.とはいえ,MIVSを初めて導入する場合など,後極部への操作が主体の黄斑疾患はMIVSと非常に相性がよい疾患であることに変わりない.本稿では黄斑疾患に対してMIVSを初めて導入する際の注意点について述べたい.(31)1359aaaa::761079317501特集●極小切開硝子体手術あたらしい眼科25(10):13591365,2008極小切開硝子体手術の実際:黄斑疾患MicroincisionVitrectomySurgeryforMacularDisease山地英孝*———————————————————————-Page21360あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(32)面からいえば,23Gシステムがより20Gシステムに近い感覚で行えるので,いきなり25Gシステムを導入するよりも23Gから始めるというのも一法である.3.MIVSは本当に低侵襲かMIVSは視力の立ち上がりが早いことなどが報告されで眼球をコントロールせずに行う手術を心がける必要がある.MIVSでは患者の眼球運動も押さえ込むことはむずかしく,よく眼球が動く症例には球後麻酔などを追加し眼球運動を抑制する必要がある.また,器具の剛性のVA=(0.4)VA=(1.5)VA=(1.5)図3症例68歳,女性:ERMに対する25GMIVSの経過術前(左),術1週後(中),術3カ月後(右).術1週後で視力は(1.5)に達し,惹起乱視はほとんど認めない.0.0000.0500.1000.1500.2000.2500.3000.3500.4000.450logMAR視力p0.017p0.040p0.010p0.014p0.021p0.570術前術後1週術後経過1カ月3カ月25G20Gpairedttest図1黄斑上膜(ERM)術前後の視力経過20G群では有意な視力改善は1カ月後からであるが,25G群では1週後より有意に視力は改善する.00.511.522.53術前術後1週術後1カ月術後経過*惹起乱視クトル対値(D)*p0.001:Mann-WhitneyU-test25G20G図2惹起乱視の変化術後1週では20G群に比べて25G群では有意に惹起乱視が少ない.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081361(33)は極小切開の内径の細いライトパイプでは十分な光量が得られないため,キセノンもしくは水銀蒸気灯の光源を用意する必要がある.各メーカーから発売されているが,筆者らはsynergetics社のPhotonもしくはPhotonⅡ(図4)を用いている.Dorc社製のBrightStarや,Alcon社製のハイブライトイルミネーターなどがあるが,アタッチメントの豊富さからはPhotonが優れていている3,4)が,本当に20Gと比べて低侵襲であるかどうかを検討してみた.筆者らはERMに対して硝子体手術を行った53眼に対し20G群(24眼)と25G群(29眼)の2群について術前と術後1週,1カ月,3カ月の視力について検討した.術前の平均年齢や視力などは2群間に差がなく,50歳以上では両群で2.4mmの角膜切開または強角膜切開にて白内障手術を行った.20G群では術前と比べ術後1カ月目に初めて有意に視力が改善したのに対し,25G群では術後1週目から有意な視力の改善がみられた(図1).この原因として術後の惹起乱視や手術時間との関連が疑われたため,術後の惹起乱視と手術時間について検討を行ったが,術1週後において20Gに対して25Gでは有意に惹起乱視が少なく,術1カ月後には両群で差はなくなっていた(図2).手術時間では20Gでは中央値が33.5分であったのに対し,25Gでは25.0分と有意に短い(p=0.001:Mann-WhitneyU-test).つまり,20G手術では強膜創の縫合が必要であり,この強膜創の縫合によって少なからず乱視が発生し,視力の回復を遅らせている可能性があり,逆に25Gでは強膜創の縫合が不要であるため惹起乱視が少なく,さらに手術時間も短いため手術侵襲が少なく早期の視力回復に寄与していることがわかる(図3).4.黄斑疾患のMIVSでは何を揃える?MIVSを行うにあたり,まず揃えなくていけないものは眼内照明の光源装置であろう.従来のハロゲン光源で図4眼内照明の光源装置synergetics社製PhotonとPhotonⅡ.Photonはキセノン光源,PhotonⅡは水銀蒸気灯光源.PhotonⅡがやや緑がかった色調である.図525G通常照明(右)とワイド照明(左)硝子体ゲルの視認性には通常照明が優れるが,眼底全体や周辺部の把握にはワイド照明が使いやすい.———————————————————————-Page41362あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(34)移る.MVR(microvitreoretinal)ブレードを曲げたマイクロフックトニードルで取っ掛かりを作り,後は鉗子で膜を除去する(図8).黄斑部を通過するときは癒着が強い場合があり,無理に引っ張ると黄斑円孔を生じるので慎重に行う.筆者らは膜の取り残しや再増殖を防ぐために内境界膜(ILM)の離も行っている.さらに,トリアムシノロンアセトニド(TA)を眼底に散布し,ILMを鉗子のまま離する.ERMを除去すると部分的にILMの断裂がみられるので,そこからILM離を始めると容易に行える.このときMIVSの鉗子では把持する面積が20Gと比べて小さくILMが切れやすいので慎重に力を加えながらapを大きくしていくのがコツである(図9).ILMが取れれば周辺部の確認およびポート周辺の硝子体を切除する.最低限トロッカーに嵌頓した硝子体は切除する(図10).後はトロッカーを除去し,自己閉鎖の確認を行うが,トロッカー抜去直後には若干の漏出を認めてもポートの位置を確認して綿棒もしくは比較的鈍な鑷子の先端で創口をしばらく押さえるとほとんどの場合ポートからの漏出は止まる.それでも漏出が止まらない場合は,結膜上から創口が確認できれば結膜上から,確認がむずかしければ結膜切開を行い直接強膜ると筆者は考えている.23Gもしくは25Gシステムでの硝子体鉗子,照明プローブ,硝子体カッターとバックフラッシュニードルなどが必要である.黄斑疾患については3ポートシステムで十分行えるが,ライトパイプが通常のタイプでは照射角度が狭いためワイドタイプの照明を用いるのがよい(図5).ワイドタイプのものにも術者が眩しくないようにシールド付のライトパイプや,特に鉗子の操作に集中するためにはカニューラに取り付けるシャンデリア(図6)があり,それらを用いると,鉗子を両手で持つこともでき便利である.II実際の手技1.黄斑上膜(ERM)創口の作製は別項に譲るが,3ポート作製した後,MIVSの経験が少ない場合にはコンタクトレンズのリングは縫着する.縫着不要のSuturelessring(HOYA社)など便利な器具もあるが角膜とリングがずれることがあり,まずはMIVSに慣れるためになるべく20Gと同様な環境を心がける.筆者らは接触型レンズのワイドビューイングシステムを用いてコアビトレクトミーを行う.ワイドビューイングレンズでは散瞳が良好な症例ではほぼ鋸状縁まで視認できる(図7)ので,ワイドビューイングレンズを用いて可能な限り周辺部硝子体を切除する.その後,後極部拡大レンズに替えてERMの離に図6カニューラシャンデリアカニューラ用のシャンデリアは簡単に位置を変更でき,固定すれば両手で鉗子を操作することができて便利である.図7ワイドビューイングレンズとカニューラシャンデリアの組み合わせワイドビューイングレンズでは倒像となるため反転装置(インバーター)が必要であるが,シャンデリア照明と組み合わせることによって鋸状縁近くまで一度に観察できる(黄斑円孔症例).———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081363(35)ERMの手術と同様にコアビトレクトミーを行う.このときstage4を除き後部硝子体は未離であるためPVD作製時に誤って周辺部の硝子体を誤吸引しないように硝子体カッターを入れたポートから視神経乳頭までの硝子体を可能な限り切除しておき,その後TAを後極部に散布する.ワイドビューイングレンズでも行える(図11)が(筆者は普段行っている),慣れるまではより創に一糸縫合をおく.2.黄斑円孔(MH)黄斑円孔も基本的にはERMの手術に後部硝子体離(PVD)作製とガス置換の2つの手技の追加があるだけなので,この2点について解説する.ab8ERMの離MVRブレードの先端を曲げたマイクロフックトニードルでERMを撫でるとERMが引っかかってくる(a)ので鉗子に持ち替えて断端を把持して膜離を行う(b).図9ILM離ERMの離後TAを後極部網膜に散布すると大抵ILMが一部ERMと一緒に取れているのでその断端をつかみ離する.図10トロッカー周辺の硝子体切除シャンデリアを挿入したトロッカー周辺を圧迫して硝子体を切除している.———————————————————————-Page61364あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(36)離を行う.ILM離は再度トリアムシノロンを後極部網膜に散布して行うが,ILM離にはMVRブレードなどで取っ掛かりを作らなくても鉗子でILMをつまんで裂け目を作り,それを取っ掛かりとして離してゆけばよい.今後はブリリアントブルーG(BBG)などの新しい染色剤も視認性が高く期待されている(図12).3.黄斑浮腫網膜静脈分枝閉塞症(BRVO),糖尿病黄斑症(DME)に対するMIVSも手技的にはほとんどERMと同様であり,しいて言えばILM離時に黄斑浮腫や漿液性網膜離などによって網膜に可動性があるのでILM離を行う際,ILMを鉗子でつかむと網膜ごとついてくることがあり,ERMやMHよりさらにゆっくりとした操作が必要となる.IIIさらなる低侵襲をめざす以前は白内障手術でも翌日強い術後炎症や角膜浮腫を認める症例は少なくなく,翌日に見えにくいのは手術侵襲によるもので仕方がないと考えられていたが,現在では白内障手術の翌日に角膜に浮腫はなく視力も改善しているのが当たり前である.同様に硝子体手術でも成績はもとよりいっそうの低侵襲が求められている.しかしながら通常のルーチン検査では検出できないような侵襲が実際には起きていることがある.黄斑円孔術後早期に自詳細な観察ができる後極部拡大レンズを用いて硝子体カッターの吸引でPVDを作ってゆく.この作業は20Gと変わらないが,灌流量がMIVSでは少ないため眼球の虚脱に注意し,無意味な灌流液の吸引を行わないように注意する.一旦部分的にでもPVDが起こり始めれば眼底全体を確認できるワイドビューイングレンズに交換して硝子体カッターで断端を軽く吸引しPVDを進めていき,後は硝子体カッターで切除していけば徐々にPVDは進んでゆく.ワイドビューイングレンズで見える範囲を切除できれば後極部拡大レンズに交換しILM図12BBGを用いたILM離BBGを用いればICGと同様かそれ以上に鮮明にILMを確認することができる.abc11後部硝子体離の作製ワイドビューイングレンズを用いているがTAを散布した後,さらに視神経乳頭付近の硝子体を切除する(a).その後視神経乳頭から少し黄斑よりで硝子体カッターの吸引をかけて後部硝子体離を作ってゆく(b).1カ所後部硝子体膜に穴ができれば後はそこを吸引することで広げてゆく(c).———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081365発蛍光(AF)を撮影するとこのように鉗子で取っ掛かりをつけた部位に一致した低蛍光が認められる.これはいまだ原因は明らかではないが,手術侵襲によって神経線維に浮腫を生じ,その浮腫が軸索を逆行性に進んだものと推測されている(図13).こういった変化も3カ月後には消失しており,視力などには影響はないものの侵襲をどこまで減らせるかが今後の課題である.おわりに20G手術と比べると結膜切開が不要で,創口が小さく乱視の発生を抑えることができるMIVS手術は,手術侵襲を大幅に低減する効果がある.若干の器具の脆弱性は認めるものの,20Gとほぼ同様なシステムで行え,少しの慣れで十分習得できる黄斑疾患はMIVSを始めるにあたり非常によい適応である.黄斑疾患に慣れてくれば他の疾患に対しても適応を広げてゆけばよい.文献1)ShimadaH,NakashizukaH,MoriRetal:25-gaugescler-altunneltransconjunctivalvitrectomy.AmJOphthalmol142:871-873,20062)FujiiGY,DeJuanEJr,HumayunMSetal:Anew25-gaugeinstrumentsystemfortransconjunctivalsuturelessvitrectomysurgery.Ophthalmology109:1807-1812,20023)KadonosonoK,YamakawaT,UchioEetal:Comparisonofvisualfunctionafterepiretinalmembraneremovalby20-gaugeand25-gaugevitrectomy.AmJOphthalmol142:513-515,20064)RizzoS,Genovesi-EbertF,MurriSetal:25-gauge,suturelessvitrectomyandstandard20-gaugeparsplanavitrectomyinidiopathicepiretinalmembranesurgery:acomparativepilotstudy.GraefesArchClinExpOphthal-mol244:472-479,2006(37)図13黄斑円孔後の眼底自発蛍光(FAF)術1週後には取っ掛かりを作った部位に一致した低蛍光がみられる(矢印)が,術3カ月後では消失した.視力や視野に異常はない.1週目3カ月目