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緑内障点眼薬の先発医薬品と後発医薬品の使用調査

2022年12月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科39(12):1694.1699,2022c緑内障点眼薬の先発医薬品と後発医薬品の使用調査中牟田爽史*1井上賢治*1國松志保*2石田恭子*3富田剛司*1,3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科CSurveyontheUseofBrand-NameandGenericEyeDropsforGlaucomaSoshiNakamuta1),KenjiInoue1),ShihoKunimatsu-Sanuki2),KyokoIshida3)andGojiTomita1,3)1)InouyeEyeHospital,2)NishikasaiInouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterC目的:緑内障点眼薬の先発医薬品と後発医薬品の使用状況,使用理由を調査した.対象および方法:井上眼科病院に通院中で後発医薬品の存在する緑内障点眼薬を使用中のC504例を対象とした.お薬手帳や点眼薬実物から使用薬剤を判断した.先発あるいは後発医薬品の使用理由をアンケートで調査した.結果:対象者は男性C222例,女性C282例,年齢はC68.9±10.8歳,使用薬剤数はC2.5±1.3剤だった.先発医薬品のみ使用C134例(26.6%),後発医薬品のみ使用353例(70.0%),両方とも使用C17例(3.4%)だった.先発医薬品の使用理由は,安心・安全C65.6%,薬局の推奨C12.6%など,後発医薬品の使用理由は,薬局の推奨C59.2%,価格が安いC25.9%などだった.結論:先発医薬品のみ使用は26.6%で,薬剤への安心感や安全性から選択していた.後発医薬品のみ使用はC70.0%で,薬局の推奨や経済的観点から選択していた.CPurpose:Toinvestigatetheuseofbrand-nameandgenericeyedropsforglaucoma.PatientsandMethods:CTheCstudyCinvolvedC504CoutpatientsCseenCatCInoueCEyeCHospitalCwhoCusedCcurrentlyCavailableCbrand-nameCandCgenericglaucomamedications.Thetypeofmedicationusedwasinvestigatedviaanalysisofthemedicationinstruc-tionsheetortheactualmedicationbottles.Thereasonsforuseweresurveyedviapatientquestionnaire.Results:CTherewere222malesand282females,(meanage:68.9±10.8years),andthemeannumberofmedicationsusedwas2.5±1.3.Ofthe504patients,134(26.6%)wereusingonlybrand-namemedications,353(70.0%)wereusingonlyCgenericCmedications,Cand17(3.4%)wereCusingCboth.CReasonsCforCusingCbrand-nameCmedicationsCincludedCsafetyandsecurity(65.6%)andpharmacyrecommendation(12.6%),whileasforuseofthegenericmedications,pharmacyrecommendation(59.2%)andlowerprice(25.9%)weretheprimaryreasons.Conclusions:Ofthe504patients,26.6%CusedConlyCbrand-nameCmedicationsCand70.0%CusedConlyCgenericCmedications,CwithCtheCprimaryCreasonsforusebeingsafetyandsecurityintheformerandpharmacyrecommendationorcostinthelatter.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(12):1694.1699,C2022〕Keywords:緑内障点眼薬,先発医薬品,後発医薬品,薬物選択.glaucomaeyedrops,brand-name,generic,choiceofmedication.Cはじめに近年,厚生労働省は保険財政の改善と患者負担の軽減を考えて先発医薬品ではなく後発医薬品の使用を推奨している.後発医薬品は先発医薬品と同じ有効成分を含有し,効能・効果,用法・用量は原則同一であるが,添加剤(防腐剤を含む)は異なる.後発医薬品は先発医薬品の独占的販売期間(有効性・安全性を検証する再審査期間および特許期間)が終了した後に発売される.厚生労働省の後発医薬品推奨の姿勢は診療報酬にも反映されている.医療機関では薬剤を処方する際に一般名で処方するとC5.7点が加算される(2022年C2月現在).また,調剤薬局では後発医薬品調剤体制加算があり,後発医薬品の使用割合によりC15.28点が加算される.このような施策により後発医薬品の使用割合は年々増加しており,2005年C32.5%,2007年C34.9%,2009年C35.8%,2011年C39.9%,2013年46.9%,2015年C56.2%,2017年C65.8%,2020年C78.3%と〔別刷請求先〕中牟田爽史:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:SoshiNakamuta,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANC1694(126)報告されている1).2022年C2月現在,緑内障点眼薬の後発医薬品はC16種類存在する.このように後発医薬品は多数使用されるようになったが,患者がどのような考えで後発医薬品あるいは先発医薬品を選択しているかは不明である.また,後発医薬品を使用している患者の特徴も不明である.そこで今回,患者が使用している緑内障点眼薬を調査し,先発医薬品あるいは後発医薬品の使用理由と患者背景を解析した.CI対象および方法2021年C9月.2022年C2月に井上眼科病院に通院中で,後発医薬品の存在する緑内障点眼薬を使用中で以下の方法により使用薬剤を確認できたC504例を対象とした.男性C222例,女性C282例,平均年齢はC68.9C±10.8歳(平均C±標準偏差),24.93歳であった.使用している緑内障点眼薬はC2.5C±1.3剤,1.6剤であった.配合点眼薬はC1剤とした.外来受診時にお薬手帳あるいは点眼薬実物を持参しているかを患者に問い合わせ,いずれかを持参しており,使用薬剤を正確に確認できた症例を対象とした.対象眼に関しては両眼に点眼薬を使用している症例では使用点眼薬数が多い眼を採用し,左右同数の場合は右眼を採用した.各々使用薬剤が先発医薬品か後発医薬品かを確認後に,先発医薬品あるいは後発医薬品を使用している理由を対面式アンケートで調査した(図1).なお,井上眼科病院では後発医薬品の存在する緑内障点眼薬はすべて一般名で処方しており,患者が調剤薬局で先発医薬品あるいは後発医薬品のいずれかを自由に選択できるようにしている.また,緑内障点眼薬はすべて院外処方で対応している.緑内障点眼薬のうち先発医薬品,後発医薬品ともに存在する点眼薬は,イソプロピルウノプロストン点眼薬,ラタノプロスト点眼薬,トラボプロスト点眼薬,ビマトプロスト点眼薬,チモロール点眼薬,持続性チモロール点眼薬,カルテオロール点眼薬,持続性カルテオロール点眼薬,ニプラジロール点眼薬,ベタキソロール点眼薬,ブリンゾラミド点眼薬,ブリモニジン点眼薬,ラタノプロスト/チモロール配合点眼薬,トラボプロスト/チモロール配合点眼薬,ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬で,先発医薬品のみ存在する点眼薬はタフルプロスト点眼薬,ドルゾラミド点眼薬,ブナゾシン点眼薬,リパスジル点眼薬,オミデネパグイソプロピル点眼薬,ピロカルピン点眼薬,ジピベフリン点眼薬,タフルプロスト/チモロール配合点眼薬,ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬,ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬,ブリモニジン/チモロール配合点眼薬,ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬で,後発医薬品のみ存在する点眼薬はレボブノロール点眼薬である(2022年C2月現在).つぎに先発医薬品のみ使用症例と後発医薬品のみ使用症例で性別,平均年齢,使用薬剤数,カテゴリー別使用薬剤を比較した.さらに男女間での先発あるいは後発医薬品のみ使用症例,平均年齢,使用薬剤数,カテゴリー別使用薬剤を比較した.若年者(65歳未満)と高齢者(65歳以上)で先発あるいは後発医薬品のみ使用症例,性別,使用薬剤数,カテゴリー別使用薬剤を比較した.カテゴリー別使用薬剤はラタノプロスト点眼薬,トラボプロスト点眼薬,ビマトプロスト点眼薬をプロスタグランジン関連薬(以下,PG関連薬),チモロール点眼薬,持続性チモロール点眼薬,カルテオロール点眼薬,持続性カルテオロール点眼薬,ニプラジロール点眼薬,ベタキソロール点眼薬をCb遮断薬(Ca遮断薬を含む),ブリンゾラミドを点眼炭酸脱水酵素阻害薬(以下,CAI),イソプロピルウノプロストン点眼薬をイオンチャネル開口薬,ラタノプロスト/チモロール配合点眼薬,トラボプロスト/チモロール配合点眼薬をCPG関連薬/Cb遮断薬配合点眼剤,ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬をCCAI/Cb遮断薬配合点眼剤,ブリモニジン点眼薬をCa2刺激薬と分類した.平均年齢と使用薬剤数の比較には対応のないCt検定を,先発医薬品・後発医薬品の使用割合,性別,カテゴリー別使用薬剤の比較にはCc2検定とCFisherの直接確率検定を使用した.有意水準はp<0.05とした.患者には本研究の主旨を口頭で説明し,アンケート調査の際に文書で同意を得た.本研究は井上眼科病院倫理審査委員会で承認された(承認番号C202202-2).CII結果先発医薬品のみ使用C134例(26.6%),後発医薬品のみ使用C353例(70.0%),両方とも使用はC17例(3.4%)であった.先発医薬品の使用理由は「安心,安全」93例(69.4%),「後発品(ジェネリック医薬品)よりも効果があると思う」17例(12.7%),「薬局にすすめられた」14例(10.4%),「後発品(ジェネリック医薬品)よりも使いやすいと思う」4例(3.0%)などであった(図2).後発医薬品の使用理由は「薬局にすすめられた」209例(59.2%),「金額が安くなる」92例(26.1%),「その他」43例(12.2%)などだった(図3).その他の症例をさらに解析したところ「役所や保険組合の推奨」25例(7.1%)と「医師の推奨」11例(3.1%)が多かった.先発医薬品のみ使用症例と後発医薬品のみ使用症例を比較すると,性別,使用薬剤数,カテゴリー別薬剤は同等だった(表1).平均年齢は先発医薬品のみ使用症例C71.3C±10.2歳が後発医薬品のみ使用症例C67.9C±10.9歳に比べて有意に高かった(p<0.01).男女で比較すると,先発医薬品のみ使用症例と後発医薬品のみ使用症例の割合,平均年齢,使用薬剤数は同等だった(表2).カテゴリー別薬剤では,Cb遮断薬,CAI,イオンチャネル開口薬,PG関連薬/Cb遮断薬配合点眼剤,CAI/Cb遮断薬配合点眼剤,Ca2刺激薬は先発あるいは後発医薬品の後発品よりも使いやすいと思う4例(3.0%)薬局にすすめられた14例(10.4%)後発品よりも効果があると思う17例(12.7%)その他43例(12.2%)先発品よりも使いやすいと思う3例(0.8%)先発品よりも効果があると思う6例(1.7%)金額が安くなる92例(26.1%)図2先発医薬品の使用理由図3後発医薬品の使用理由表1先発医薬品のみ使用症例と後発医薬品のみ使用症例の比較先発医薬品のみ後発医薬品のみp値男性:女性49(C36.6%):C85(C63.4%)164(C46.5%):C189(C53.5%)Cp=0.0525平均年齢C71.3±10.2C67.9±10.9Cp=0.0022*使用点眼薬数C2.4±1.2C2.5±1.3Cp=0.3968使用点眼薬別PG関連薬89(C27.6%)233(C72.4%)Cb遮断薬(Ca遮断薬を含む)27(C32.9%)55(C67.1%)CCAI24(C23.3%)79(C76.7%)イオンチャネル開口薬4(4C4.4%)5(5C5.6%)Cp=0.7509PG関連薬/Cb遮断薬配合剤20(C28.6%)50(C71.4%)CCAI/b遮断薬配合剤30(C27.8%)78(C72.2%)Ca2刺激薬24(C29.6%)57(C70.4%)CAI:炭酸脱水酵素阻害薬,PG:プロスタグランジン.*p<0.05表2性別による比較男性女性p値先発医薬品のみ:後発医薬品のみ49(C23.0%):C164(C77.0%)85(C31.0%):C189(C69.0%)Cp=0.0525平均年齢C68.3±11.5C69.3±10.2Cp=0.3464使用点眼薬数C2.6±1.2C2.4±1.3Cp=0.1296使用点眼薬別(先発品:後発品)PG関連薬32(C20.5%):C124(C79.5%)57(C34.3%):C109(C65.7%)Cp=0.0061*Cb遮断薬(Ca遮断薬を含む)10(C27.0%):C27(C73.0%)17(C37.8%):C28(C62.2%)Cp=0.3509CCAI9(1C8.8%):3C9(8C1.3%)15(C27.3%):C40(C72.7%)Cp=0.3559イオンチャネル開口薬2(5C0.0%):2(5C0.0%)2(4C0.0%):3(6C0.0%)p>C0.9999PG関連薬/Cb遮断薬配合剤9(3C0.0%):2C1(7C0.0%)11(C27.5%):C29(C72.5%)p>C0.9999CCAI/b遮断薬配合剤12(C25.5%):C35(C74.5%)18(C29.5%):C43(C70.5%)Cp=0.6716Ca2刺激薬13(C36.1%):C23(C63.9%)11(C24.4%):C34(C75.6%)Cp=0.3288CAI:炭酸脱水酵素阻害薬,PG:プロスタグランジン.*p<0.05表3若年者と高齢者の比較若年者(.64歳)高齢者(65歳.)p値先発医薬品のみ:後発医薬品のみ30(C20.5%):C116(C79.5%)104(C30.5%):C237(C69.5%)Cp=0.0267*男性:女性69(C47.3%):C77(C52.7%)144(C42.2%):C197(C57.8%)Cp=0.3199使用点眼数C2.4±1.3C2.5±1.2Cp=0.4693使用薬剤別(先発品:後発品)PG関連薬16(C17.2%):C77(C82.8%)73(C31.9%):C156(C68.1%)Cp=0.0087*Cb遮断薬(Ca遮断薬を含む)7(3C1.8%):1C5(6C8.2%)20(C33.3%):C40(C66.7%)p>C0.9999CCAI5(2C1.7%):1C8(7C8.3%)19(C23.8%):C61(C76.3%)p>C0.9999イオンチャネル開口薬1(2C5.0%):3(7C5.0%)3(6C0.0%):2(4C0.0%)Cp=0.5238PG関連薬/Cb遮断薬配合剤6(2C5.0%):1C8(7C5.0%)14(C30.4%):C32(C69.6%)Cp=0.7824CCAI/b遮断薬配合剤5(1C3.9%):3C1(8C6.1%)25(C34.7%):C47(C65.3%)Cp=0.0243*Ca2刺激薬9(2C7.3%):2C4(7C2.7%)15(C31.3%):C33(C68.8%)Cp=0.8064CAI:炭酸脱水酵素阻害薬,PG:プロスタグランジン.*p<0.05み使用症例は同等だった.PG関連薬は後発医薬品のみ使用症例が男性(79.5%)のほうが女性(65.7%)に比べて有意に多かった(p<0.05).若年者(146例)と高齢者(341例)で比較すると性別,使用薬剤数は同等だった(表3).後発医薬品のみ使用症例が若年者(79.5%)のほうが高齢者(69.5%)に比べて有意に多かった(p<0.05).カテゴリー別薬剤では,Cb遮断薬,CAI,PG関連薬/Cb遮断薬配合点眼剤,Ca2刺激薬は先発あるいは後発医薬品のみ使用症例は同等だった.PG関連薬は後発医薬品の使用症例が若年者(82.8%)のほうが高齢者(68.1%)に比べて有意に多かった(p<0.05).CAI/Cb遮断薬配合点眼剤は後発医薬品の使用症例が若年者(86.1%)のほうが高齢者(65.3%)に比べて有意に多かった(p<0.05).CIII考按今回の調査で後発医薬品の使用症例はC73.4%(後発医薬品のみ使用C70.0%+先発・後発医薬品両方とも使用C3.4%)であった.厚生労働省が発表したC2020年の後発医薬品使用割合C78.3%よりは少なかったが近い割合であった.今回は具体的な使用薬剤の解析ではなく症例ごとの解析を行った影響も考えられる.先発医薬品と後発医薬品の特徴を以下に述べる2).後発医薬品の存在する先発医薬品は開発から長期を経過しており,医師の使用経験や薬剤の情報(効果・副作用など)が多く,供給も安定している.今回のアンケート調査でも先発医薬品の使用理由は安心,安全がC69.4%と圧倒的に多かった.眼圧下降効果や副作用などに問題のない症例では薬剤を変更する必要はないと考えられる.一方,後発医薬品は先発医薬品に比べて価格が安いことが最大の利点である3,4).今回のアンケート調査でも後発医薬品の使用理由は薬局にすすめられたC59.2%,金額が安くなるC26.1%の順であった.薬局からの推奨は調剤薬局での後発医薬品調剤体制加算の取得のためと考えられる.しかし,後発医薬品は先発医薬品と添加剤が異なり,先発医薬品から後発医薬品への変更による眼圧下降効果減弱や副作用出現が懸念される.発売してからの期間も短く,効果や副作用の情報が少なく,また供給が安定していないことも問題点である.後発医薬品の効果と安全性は,先発医薬品から切り替えた症例で報告されている5.10).ラタノプロスト点眼薬5.9),ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬10)の先発医薬品から後発医薬品への切り替えでは眼圧下降効果の維持と高い安全性が報告されている.症例により眼圧下降効果は異なるが,有効成分は同一のため後発医薬品の眼圧下降効果減弱はあまり考慮しなくてよいと考えられる.仮に後発医薬品を使用して副作用が出現した場合でも先発医薬品に戻せば副作用も軽減・消失するので,後発医薬品の経済的優位性を考慮し,先発医薬品から後発医薬品への切り替えは試みてもよいと思われる.今回の詳細な検討では,平均年齢は先発医薬品のみ使用症例が後発医薬品のみ使用症例に比べて有意に高かった.その理由として年齢が高いほうが緑内障罹病期間や先発医薬品を使用している期間が長く,病状が安定しているためあえて後発医薬品へ変更しなかったのではないかと考えられる.男女の比較ではCFP受容体作動薬は後発医薬品の使用割合が男性のほうが女性に比べて有意に多かった.その理由としてCPG関連薬では眼瞼色素沈着や上眼瞼溝深化などの美容的副作用が出現することがあり11,12),とくに女性は後発医薬品へ変更した際に新たにこのような副作用が出現することを避ける傾向があると考えられる.若年者と高齢者の比較では,PG関連薬とCCAI/Cb遮断薬配合点眼剤は後発医薬品の使用症例が若年者のほうが高齢者に比べて有意に多かった.その理由として高齢者のほうが緑内障罹病期間や先発医薬品を使用している期間が長く,病状が安定している点と,若年者のほうが経済的に余裕がない点が考えられる.今回の調査の問題点として,お薬手帳や点眼薬実物を診察時に持参している人を対象としたため,使用薬剤を管理する意識の高い人が対象になっている可能性がある.しかし,先発医薬品あるいは後発医薬品のどちらを使用しているかを正確に把握するのは問診ではむずかしいため,お薬手帳や点眼薬実物で確認する方法とした.また,対象患者の利用している調剤薬局は同一でなく,調剤薬局によって先発医薬品と後発医薬品の調剤の方針が異なる可能性がある.患者の利用した調剤薬局をすべて調査することはできないと考えた.さらに以前は先発医薬品のみ使用していたので,一般名処方で先発医薬品でも後発医薬品でも使用できるようになり,患者から後発医薬品でもよいのかと質問されることが多くなった.その際は「後発医薬品でも問題がない場合がほとんどです」と答えるが,これが医師の推奨としてとらえられた可能性がある.今回緑内障点眼薬の先発医薬品と後発医薬品の使用状況と使用理由を調査した.先発医薬品のみ使用C26.6%,後発医薬品のみ使用C70.0%だった.使用理由は先発医薬品は安心・安全C65.6%,調剤薬局からの推奨C12.6%など,後発医薬品は調剤薬局からの推奨C59.2%,価格が安いC25.9%などだった.今後ますます後発医薬品が使用されると考えられるため,先発医薬品だけではなく後発医薬品の効果・安全性も調査する必要がある.本論文は第C126回日本眼科学会総会で発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)福田正道:緑内障点眼薬後発品(いわゆるジェネリック)の特性.臨眼68:7-12,C20142)菅原仁,島森美光,吉町昌子ほか:点眼剤の後発医薬品使用促進に関わる薬剤費の比較研究.JpnCJCDrugCInformC14:62-68,C20123)冨田隆志,池田博昭,櫻下弘志ほか:Cb遮断点眼薬の先発医薬品と後発医薬品におけるC1日あたりの薬剤費の比較.臨眼63:717-720,C20094)神山幸輝,阿部貴至,唐澤健介ほか:緑内障治療に用いる点眼剤の先発医薬品と後発医薬品における製剤学的性質および経済性に関する比較研究.レギュラトリーサイエンス学会誌C10:99-108,C20205)木村格,木村亘,横山光伸ほか:正常眼圧緑内障におけるラタノプロスト点眼液C0.005%ジェネリック医薬品の使用経験.新薬と臨牀61:1141-1144,C20126)櫻井寿也,田野良太郎,山本裕弥ほか:ラタノプロスト点眼液C0.005%ジェネリック医薬品の使用経験.新薬と臨牀60:1225-1228,C20117)東條直貴,林篤志:ラタノプロスト点眼液C0.005%の先発品からジェネリック品への切替効果.新薬と臨牀C63:C1471-1474,C20148)井上賢治,増本美枝子,若倉雅登ほか:防腐剤無添加ラタノプロスト点眼薬の眼圧下降効果と安全性.あたらしい眼科C28:1635-1639,C20119)大塚光哉,澁谷法子,本多祐樹ほか:ドルゾラミド塩酸塩・チモロールマレイン酸塩点眼液の先発医薬品から後発医薬品への切り替え効果.新薬と臨牀70:143-147,C202110)岩崎直樹,楠部亨,黒澤誠治ほか:ラタノプロスト点眼液C0.005%「わかもと」の眼圧下降効果と安全性.新薬と臨牀50:615-618,C201311)InoueCK,CShiokawaCM,CHigaCRCetal:AdverseCperiocularCreactionsto.vetypesofprostaglandinanalogs.EyeC26:C1465-1472,C201212)InoueCK,CShiokawaCM,CWakakuraCMCetal:DeepeningCofCtheCupperCeyelidCsulcusCcausedCbyC5CtypesCofCprostaglan-dinanalogs.JGlaucomaC22:626-631,C2013***

アーメド緑内障バルブ挿入時における結膜被覆困難症例の検討

2022年12月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科39(12):1690.1693,2022cアーメド緑内障バルブ挿入時における結膜被覆困難症例の検討小岩千尋*1春日俊光*1浅田洋輔*2朝岡聖子*3林雄介*2,3松田彰*2*1順天堂大学医学部附属練馬病院眼科*2順天堂大学医学部附属順天堂医院眼科*3順天堂大学医学部附属静岡病院眼科CClinicalOutcomesofAhmedGlaucomaValveImplantationwithIntraoperativeConjunctivalClosureProblemsChihiroKoiwa1),ToshimitsuKasuga1),YosukeAsada2),SatokoAsaoka3),YusukeHayashi2,3)andAkiraMatsuda2)1)DepartmentofOphthalmology,JuntendoUniversityNerimaHospital,2)DepartmentofOphthalmology,JuntendoUniversitySchoolofMedicine,3)DepartmentofOphthalmology,JuntendoUniversityShizuokaHospitalC目的:アーメド緑内障バルブ(AGV)挿入術において,手術部位の結膜被覆に難渋した症例について後ろ向きに検討した.対象および方法:順天堂附属病院でC2017.2020年にCAGVを挿入したC155例C165眼中,術中に結膜被覆が困難であったC5例C5眼の臨床経過を検討した.結膜被覆困難例は全例,線維柱帯切除術不成功のためアーメドCFP7を全例耳下側に挿入した症例で,原発開放隅角緑内障C4眼,落屑緑内障C1眼であった.結果:平均観察期間はC13.4(8.24)カ月であった.全例で術後C6カ月以内に結膜上皮欠損は解消したが,その後C2眼でインプラントが露出し,インプラント抜去と耳上側への再挿入を施行した.露出したC2眼では結膜を引き寄せて手術創の被覆をめざしたのに対し,露出がなかったC3眼では完全被覆を断念し,輪部側のパッチ組織を覆わない状態で手術を終了した.結論:AGVの結膜被覆困難例ではプレート側の被覆を優先し,輪部側に無理に引き寄せない方法が好ましいと考えられた.CPurpose:ToevaluatetheclinicalcourseofcasesinwhichconjunctivalclosureatthesurgicalwoundsitepostAhmedCglaucomavalve(AGV)implantationCwasCdi.cult.CPatientsandMethods:InCthisCretrospectiveCstudy,CweCreviewedthemedicalrecordsof5cases(n=5eyes)inwhichconjunctivalclosureatthesurgicalwoundsitepostAGVimplantationwasdi.cult.Results:Themeanfollow-upperiodwas13.4months(range:8-24months).All5eyeshadahistoryoffailedtrabeculectomyandtheAGVbeingimplantedattheinferior-temporalquadrant.In2eyes,theconjunctivawaspulledtightlytofullycoverthesurgicalwound,thusresultinginexposureoftheAGV,soCtheCexposedCAGVCwasCremovedCandCaCnewCFP7CAGVCwasCreinsertedCatCtheCsuperior-temporalCquadrant.CInC3Ceyes,CtheCconjunctivaCwasCsecuredCtoCtheCpatchCtissueCtoCavoidCtension,CandCnoCAGVCexposureCwasCobservedCinCthoseeyes.Conclusions:Incaseswithconjunctivalclosuredi.cultypostAGVimplantation,itappearspreferabletoCgiveCpriorityCtoCcoveringCtheCplateCandCnotCforciblyCpullingCtheCconjunctivaCtowardCtheClimbalCsideCinCorderCtoCavoidAGVexposure.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(12):1690.1693,C2022〕Keywords:緑内障,アーメド緑内障バルブ,チューブ露出,プレート露出,合併症.glaucoma,Ahmedglaucomavalve,tubeexposure,plateexposure,complications.Cはじめに緑内障ロングチューブ手術の一つであるアーメド緑内障バルブ(AhmedCglaucomavalve:AGV)挿入術は,血管新生緑内障,続発緑内障,線維柱帯切除術が不成功に終わったなどの難治性緑内障に対して施行される術式である.わが国ではC2012年にバルベルト緑内障インプラント(BaerveldtglaucomaCimplant:BGI)が保険適用となり,2014年にはAGVによるチューブシャント手術が認可された.AGVは眼圧の調整弁が付いているため,BGIと比較し,速やかな眼圧下降が望ましい重症緑内障患者に施行されることが多い1).AGV挿入術では,術中に強膜パッチの結膜被覆に難渋することをときに経験するが,これまでに術中に強膜パッチを結膜で被覆することができなかった症例の経過について検討した報告は少ない2).本研究では,順天堂大学附属病院で経〔別刷請求先〕小岩千尋:〒177-8521東京都練馬区高野台C3-1-10順天堂大学医学部附属練馬病院眼科Reprintrequests:ChihiroKoiwa,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JuntendoUniversityNerimaHospital,3-1-10Takanodai,Nerima-ku,Tokyo177-8521,JAPANC1690(122)表15例5眼の背景年齢眼科手術白内障術前緑内障観察期間症例(歳)性別病型既往(回)同時手術点眼数(剤)インプラント露出(カ月)1C71女原発開放隅角緑内障C2なしC4あり(チューブ,プレート)C24C2C90女落屑緑内障C3なしC3なしC15C3C59女原発開放隅角緑内障C1ありC3あり(チューブ)C10C4C77男落屑緑内障C1ありC3なしC10C5C71男原発開放隅角緑内障C2なしC4なしC8C験したC5例C5眼の結膜被覆困難症例を対象として,AGV挿入術後の重篤な合併症であるインプラント露出2.14)の有無の観点から臨床経過をレトロスペクティブに検討した.CI対象および方法1.対象順天堂大学附属病院でC2017年C6月.2020年C8月にCAGVを挿入したC155例C165眼のうち,術中に手術部位(強膜パッチ部位)を結膜で被覆することが困難であったC5例C5眼の臨床経過をレトロスペクティブに検討した.結膜被覆困難の定義はCGe.enらの論文に準じて,手術終了時にパッチ組織を結膜で被覆できなかった眼とした2).平均年齢はC73.6C±10.1歳(59.90歳),平均観察期間はC13.4C±5.8カ月(8.24カ月),病型は原発開放隅角緑内障C4眼,落屑緑内障C1眼で,全例耳上側の線維柱帯切除術(trabeculectomy:TLE)の術後であった.落屑緑内障のC1例は,鼻上側にもCTLEを施行していた.AGVのプレートは全例で耳下側に固定し,チューブは毛様溝に挿入した.術前の緑内障点眼使用数は平均C3.4±0.49剤(3.4剤)であった.なお,本研究は順天堂大学医学部の倫理委員会の承認(承認番号C16-287)を得て施行した.C2.手術方法有水晶体眼は耳側角膜切開による白内障手術を併施した.順天堂医院におけるCAGV導入初期に手術を施行したC1眼(症例1)では,耳下側の結膜を輪部から約C6Cmmの位置で円周状にC3時からC7時にかけて切開した.以後の症例(症例2.5)では,結膜は輪部切開を基本として,耳下側を右眼の場合はC9時からC5時,左眼の場合はC3時からC7時にかけて輪部切開し,両側に放射状の減張切開を加えた.プレートの留置は直筋間とし,角膜輪部からC8Cmmの位置にC8-0ナイロン糸で強膜に固定したあとにトリアムシノロンアセトニドをプレート下へ散布した.粘弾性物質で虹彩と眼内レンズ間の空間を確保し,角膜輪部よりC2.5Cmmの強膜からC23ゲージ針で穿刺後,チューブを毛様溝に挿入した.一眼のC1/8の大きさで作製しておいた保存強膜片をチューブ被覆のために必要十分な大きさにトリミングした後でC10-0ナイロン糸を用いて固定し,その後結膜をC8-0バイクリル糸で縫合した.AGVは全例でCFP7を使用し,全例同一術者(A.M.)が執刀した.術後点眼はC0.5%モキシフロキサシン塩酸塩点眼液をC1日C4回,0.1%ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼液をC1日C6回から開始し,術後C2カ月を目安に漸減終了した.CII結果5例C5眼の特徴について表1に示した.5例のうちC4例は耳上側にCTLEをC1回,症例C2は鼻上側と耳上側に計C2回のTLEを施行していた.また,症例C3,4は,AGV挿入術と水晶体再建術との同時手術であった.全例で術後C6カ月以内に結膜上皮が伸展して上皮欠損は解消した.3眼はインプラント露出なく経過したが,2眼でインプラントの露出が生じ,2眼ともCAGVの抜去と耳上側への再挿入を施行した.1眼(症例1)では,術後C22カ月でチューブとプレートの露出(図1)を,別のC1眼(症例3)では術後C8カ月でチューブ露出を生じた.露出を認めたC2眼では可能な限り結膜を引き寄せて被覆をめざしたのに対し,露出がなかったC3眼では手術時の完全被覆を断念し,輪部側の強膜パッチ組織を覆わない状態で手術を終了していた.術前緑内障点眼使用数は,チューブとプレートが露出した症例C1でC4剤,チューブが露出した症例C3でC3剤であった(表1).全例において,他の合併症は認めなかった.CIII考按本研究では,術中に強膜パッチ部位を結膜で被覆することが困難であったC5例C5眼の臨床経過をレトロスペクティブに検討した.結膜被覆困難の原因はさまざまであるが,共通点として手術部位の結膜組織が薄く,進展性に乏しい状態であったことがあげられる.AGV挿入術後のインプラント露出は,重要な合併症の一つである.TVTstudy3)ではチューブシャント術後の晩期合併症として,インプラントの露出をC5%に認めたと報告して図1プレート露出・チューブ露出を認めた症例(71歳,女性.症例1)a:結膜輪部から約C6Cmmの位置に円弧上の結膜切開創(.)を作製してCAGVプレートを挿入した.輪部側から結膜を引き寄せて,強膜パッチの被覆を試みるも,結膜裂創を生じ完全な被覆を断念した(.).b:術後C22カ月でプレート露出(.)とチューブ露出(.)を生じた.図2インプラント露出を生じなかった症例(77歳,男性.症例4)a:右眼耳下側の輪部に設置した強膜パッチを結膜で覆わない状態(.)で手術を終了した.Cb:術後C1年,耳下側の強膜パッチは結膜上皮で被覆されている(.).いる.国内では沼尾ら4)がCAGV挿入術後のプレートの露出・脱出をC17%に認めたと報告している.Ge.enら2)は,AGV挿入術後にC8.9%の症例で平均C996C±735日後にインプラント露出を認めたとし,結膜離開を生じたインプラント挿入部位は鼻下側(57.1%),耳下側(46.2%),耳上側(24.6%),鼻上側(16%)の順に多かったと報告している.しかし,本検討でも全例で耳上側のCTLE術後であったためチューブ挿入箇所に耳下側を選択したように,下側を選択するのはすでに耳上側に濾過手術を施行している場合が多いことが理由として考えられ,下方挿入例で露出が多いのは多重手術によるバイアスがかかっている可能性がある.本検討では結膜被覆困難症例のみを扱っているが,同時期に手術をした165眼のうちインプラント露出を生じたのは,前述のC2眼を含めC4眼(2.4%)と既報より少ない結果であった.インプラント露出のリスク因子として既報では,若年症例5)や多重手術後の症例6)があげられている.インプラント露出は眼内炎のリスクであり,すみやかに修復術を行う必要がある.Levinsonら7)は,初回のCAGVFP7挿入例でチューブまたはプレートの露出がC3.8%に生じ,とくに鼻下側への挿入で露出が起こりやすいと報告した.さらに,露出を生じた症例のうち,16.3%が同時に眼内炎症を引き起こしており,下方で露出した症例が上方挿入例よりも眼内炎症を起こしやすかったとしている.Pakravanら8)は,抜去を要するインプラント露出が下方挿入例で有意に多かったとし,Rachmielら9)は下方挿入例で結膜創部離開が有意に多く,チューブやプレートの露出につながったと報告している.現在では,筆者らは耳上側のCTLE術後であっても,可能な限り瘢痕化濾過胞部位を再度切開して耳上側にCAGVを挿入することを原則に手術を施行しており,瘢痕化濾過胞部位への挿入が術後成績に与える影響を現在検討している.修復術を行う際には強膜パッチ組織を含めて修正を行うことが推奨されているが10),糖尿病罹患症例,術前の緑内障点眼薬使用数が多い症例,多重手術後症例は,露出修復術後の成績が不良であることが報告されており11),赤木ら12)は計C8回の内眼手術既往がある患者において,同一眼でC2度のインプラント露出を生じた症例を報告している.今回のインプラント露出のC2症例は糖尿病ではなかったが,露出部位の結膜の状態が不良であったため,修復術ではなく耳下側のインプラント摘出と耳上側への再挿入術を施行した.1例は術後C9カ月,もうC1例は術後C10カ月が経過しているが,現時点で合併症なく経過している.また,症例C1のように順天堂医院におけるCAGV挿入術導入初期において,結膜は輪部から約6Cmmの位置で円弧状に切開していたが,プレート近傍の結膜切開はプレート露出のリスクになるのではと考え,この症例の経験をきっかけに現在では全例で輪部からのCfornixbaseの切開を行っている.過去の報告でインプラント露出の原因として眼瞼との摩擦,チューブやプレートの動きが指摘されており2,13),とくに耳側下方に挿入された症例では,第一眼位における瞼裂内の強膜パッチの露出部位が上方挿入例と比較して広いこと,結膜.の奥行きが耳上方より狭いことから,インプラント露出のリスクがより高い可能性が示唆されている14).本検討におけるインプラント露出症例においても,結膜を輪部側に引き寄せたことにより結膜に機械的なストレスがかかり,摩擦に対する脆弱性が生まれた可能性が考えられた.また,チューブ露出を認めたC2症例ではプレート近傍の結膜が薄い状態が持続し,最終的にチューブを固定していたC10-0ナイロン糸が時間の経過とともに強膜からはずれたことでプレート近くのチューブが強膜パッチを破って露出に至った.一方で,結膜での完全被覆を断念したC3例では,プレート側の被覆を優先し結膜組織を牽引することなく結膜組織をパッチ組織に固定し,時間をかけて結膜上皮の進展を待つ方針がよい結果を生んだと考えられた.本研究は少数例でのレトロスペクティブなものであり,今後さらなる検討が必要である.CIV結論手術時に結膜を輪部側に引き寄せることで結膜が菲薄化し,インプラント露出をきたした可能性が考えられた.AGVの結膜被覆困難症例においてはプレート側の被覆を優先し,輪部側に無理に引き寄せない被覆方法が好ましいと考えられた.文献1)ChristakisCPG,CKalenakCJW,CZurakowskiCDCetal:TheCAhmedversusBaerveldtstudy:one-yeartreatmentout-comes.OphthalmologyC118:2180-2189,C20112)Ge.enCN,CBuysCYM,CSmithCMCetal:ConjunctivalCcompli-cationsCrelatedCtoCAhmedCglaucomaCvalveCinsertion.CJGlaucomaC23:109-114,C20143)GeddeCSJ,CHerndonCLW,CBrandtCJDCetal:PostoperativeCcomplicationsintheTubeversusTrabeculectomy(TVT)CstudyCduringC.veCyearsCofCfollow-up.CAmCJCOphthalmolC153:804-814,Ce1,C20124)沼尾舞,平井鮎奈,權守真奈ほか:アーメド緑内障バルブ挿入術の短期成績.臨眼C75:1067-1071,C20215)ChakuCM,CNetlandCPA,CIshidaCKCetal:RiskCfactorsCforCtubeexposureasalatecomplicationofglaucomadrainageCimplantsurgery.ClinOphthalmolC10:547-553,C20166)ByunCYS,CLeeCNY,CParkCK:RiskCfactorsCofCimplantCexposureCoutsideCtheCconjunctivaCafterCAhmedCglaucomaCvalveimplantation.JpnJOphthalmolC53:114-119,C20097)LevinsonCJD,CGiangiacomoCAL,CBeckCADCetal:GlaucomaCdrainagedevices:riskCofCexposureCandCinfection.CAmJOphthalmolC160:516.521,C20158)PakravanM,YazdaniS,ShahabiCetal:SuperiorversusinferiorAhmedglaucomavalveimplantation.Ophthalmol-ogyC116:208-213,C20099)RachmielCR,CTropeCGE,CBuysCYMCetal:Intermediate-termCoutcomeCandCsuccessCofCsuperiorCversusCinferiorCAhmedCGlaucomaCValveCimplantation.CJCGlaucomaC17:C584-590,C200810)GeddeCSJ,CScottCIU,CTabandehCHCetal:LateCendophthal-mitisCassociatedCwithCglaucomaCdrainageCimplants.COph-thalmologyC108:1323-1327,C200111)HuddlestonSM,FeldmanRM,BudenzDLetal:Aqueousshuntexposure:aCretrospectiveCreviewCofCrepairCout-come.JGlaucomaC22:433-438,C201312)赤木忠道,須田謙史,亀田隆範ほか:2回の緑内障インプラント露出に対してインプラント摘出と再留置術を要した続発緑内障のC1例.臨眼C73:573.580,C201913)LankaranianD,ReisR,HendererJDetal:Comparisonofsinglethicknessanddoublethicknessprocessedpericardi-umCpatchCgraftCinCglaucomaCdrainageCdevicesurgery:aCsingleCsurgeonCcomparisonCofCoutcome.CJCGlaucomaC17:C48-51,C200814)SidotiPA:InferonasalCplacementCofCaqueousCshunts.CJGlaucomaC13:520-523,C2004***

白内障手術併用マイクロフックAb Interno トラベクロトミー の患者背景別奏効率

2022年12月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科39(12):1685.1689,2022c白内障手術併用マイクロフックAbInternoトラベクロトミーの患者背景別奏効率池田瑞希白戸勝北村裕太馬場隆之千葉大学医学部附属病院眼科CTheOutcomeofCombinedCataractSurgeryandMicrohookAbInternoCTrabeculotomybyPatientBackgroundCMizukiIkeda,SuguruShirato,YutaKitamuraandTakayukiBabaCDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,ChibaUniversityGraduateSchoolofMedicineC目的:白内障手術併用マイクロフックCabinternoトラベクロトミー(PEA+IOL+μLot)の奏効率を患者背景別に検討する.対象および方法:初回手術として施行されたCPEA+IOL+μLotの連続症例C126例C171眼(平均年齢C71.4C±9.1歳)を対象とし,最終受診時の眼圧がC18CmmHg以下かつC15%以上下降を認めた場合を奏効と定義し,1年後の奏効率を年齢別,性別,病型別,術前眼圧別,術前点眼スコア別に検討した.結果:術後平均経過観察期間はC10.3C±8.5カ月(1.39カ月),病型は広義原発開放隅角緑内障(POAG)69例C100眼,原発閉塞隅角緑内障(PACG)3例C3眼,続発緑内障(SG)54例C68眼であった.病型別の奏効率はCPOAG45.0%,SG67.6%であり,POAGはCSGと比べ有意に奏効率が低かった(p<0.05).術前眼圧別ではC20mmHg以下でC51.3%,21mmHg以上30mmHg以下でC60.0%,31CmmHg以上でC66.7%であり,有意ではないものの術前眼圧が高くなると奏効率が上昇する傾向がみられた.年齢,性,術前点眼スコアによる差はみられなかった.結論:PEA+IOL+μLotはCPOAGに対してCSGで奏効率が高く,術前眼圧が高くなると奏効率が上昇する傾向がみられた.CPurpose:ToinvestigatetheoutcomeofcombinedcataractsurgeryandmicrohookabinternoCtrabeculotomy(μLOT)[phacoemulsi.cation(PEA)+intraocularClensimplantation(IOL)+μLOT]C.Methods:ThisCretrospectiveCstudyinvolved171eyesof126consecutivecases(meanage:71.4C±9.1years)thatunderwentPEA+IOL+μLOT.Asuccessfulsurgicaloutcomewasde.nedasa.nalIOPof≦18CmmHgandanintraocularpressure(IOP)reduc-tionCrateCof15%CorCmore,CandCwasCreviewedCbyCpatientCage,Csex,CdiseaseCtype,CpreoperativeCIOP,CandCmedicationCscore.CResults:TheCmeanCfollow-upCperiodCwasC10.3±8.5months(range:1-39months)C.COfCtheC171Ceyes,C100CwereprimaryCopen-angleCglaucoma(POAG,Cn=69cases)C,C3CwereprimaryCangle-closureCglaucoma(PACG,Cn=3cases),and68weresecondaryglaucoma(SG,n=54cases).Successratebydiseasetypewas45%forPOAGand67.6%forSG,whichwassigni.cantlyhigherthanthatofPOAG(p<0.05)C,andbypreoperativeIOPwas51.3%intheC≦20CmmHgCgroup,60%CinCtheC21CmmHg-30CmmHgCgroup,Cand66.7%CinCtheC≧30CmmHgCgroup.CTheCsuccessCrateCtendedCtoCincreaseCasCtheCpreoperativeCIOPCincreased.CNoCrelationshipCwasCfoundCbetweenCsuccessCrateCandCpatientage,gender,andpreoperativemedicationscore.Conclusions:PEA+IOL+μLOThadahighersuccessrateinSGthaninPOAG,andthesuccessratetendedtobehighwhenthepreoperativeIOPwashigh.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(12):1685.1689,C2022〕Keywords:緑内障,谷戸式Microhook,線維柱帯切開術,MIGS.glaucoma,Tanitomicrohookabinterno,tra-beculotomy,minimallyinvasiveglaucomasurgery.Cはじめに管に導き,主経路からの房水流出を促進させる目的で行われ線維柱帯切開術(以下,トラベクロトミー)は線維柱帯とる手術である.濾過胞を形成する線維柱帯切除術と比較するSchlemm管内皮を機械的に切開することで房水をCSchlemmと,視力低下に直結する低眼圧黄斑症,脈絡膜.離,濾過胞〔別刷請求先〕池田瑞希:〒260-8677千葉市中央区亥鼻C1-8-1千葉大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:MizukiIkeda,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,ChibaUniversityGraduateSchoolofMedicine,1-8-1Inohana,Chuo-ku,Chiba260-8677,JAPANC感染など重篤な合併症をきたす割合が低い反面,本手術のみで緑内障による視野の進行を抑制するだけの眼圧下降を得ることはむずかしく,術後も緑内障治療用点眼を併用することが多い.線維柱帯の切開方法は,強膜弁を作製し,Schlemm管を開放してからトラベクロトームでC120°切開する方法や,5-0ナイロン糸をC360°通し,全周切開する眼外アプローチと,ゴニオプリズムを用い,線維柱帯を直視下にマイクロフックで切開する眼内アプローチに大別される1).眼外アプローチは虹彩前癒着が存在しても線維柱帯を切開できる反面,手技が煩雑で難易度が高い.眼内アプローチは簡便で手術時間が短く患者の負担が少ない反面,角膜の視認性が悪いとうまく切開できない.また,虹彩前癒着があると切開が困難な場合がある.それぞれ長所,短所があるが,眼内アプローチは簡便であり白内障手術と同一創から切開できるため近年急速に普及している.緑内障を合併した患者の白内障手術では,術後眼圧を下降させ,緑内障治療用点眼の本数を減らす目的で,眼内アプローチからのトラベクロトミーを併用するケースが増えている2).しかし,併用したものの十分な眼圧下降を得られないケースにもしばしば遭遇する.筆者らは白内障手術を同時に行ったマイクロフックCabinternoトラベクロトミーの奏効率を病型別,患者背景別に比較し,効果の得られやすい背景を検討した.CI対象および方法2017年C10月C24日.2020年C11月C24日に千葉大学医学部附属病院で同一術者により初回手術として行われた白内障手術併用マイクロフックCabinternoトラベクロトミーの連続症例C126例C171眼を対象とした.内訳は男性症例C86眼,女性症例C85眼,年齢はC71.0C±9.1歳(平均値C±標準偏差),病型は広義原発開放隅角緑内障(primaryCopen-angleCglauco-ma:POAG)100眼,原発閉塞隅角緑内障(primaryCangleCclosureglaucoma:PACG)3眼,落屑緑内障(exfoliationglaucoma:EG)48眼,ステロイド緑内障C6眼,ぶどう膜炎続発緑内障C14眼であった(表1).症例を患者背景により次のようにグループ分けした.年齢(65歳未満とC65歳以上),性別,病型,術前眼圧(21CmmHg未満,21CmmHg以上C31CmmHg未満,31CmmHg以上),点眼スコア(5以上とC6以上).点眼スコアはC1剤C1点,配合剤点眼C2点,炭酸脱水酵素阻害薬内服C2点とした.観察ポイントは手術前日,手術後C1カ月,3カ月,6カ月,1年,最終受診時とし,術後眼圧がC18CmmHg以下かつ術前よりC15%以上下降を認めた症例を生存とした.最終受診時における生存率を手術奏効率とし,それぞれの患者背景別に比較,検討した.手術方法は次のとおりである.耳側角膜切開(2.8Cmm)で水晶体超音波乳化吸引術,眼内レンズ挿入を施行後,前房に粘弾性物質(ヒアルロン酸C0.3アルコン)を投与し隅角を広げる.患者の頭部を術者と逆側に向けると同時に顕微鏡を術側と逆側に傾け,術眼の視軸と顕微鏡の光軸をC45°ほどずらした状態で隅角鏡(ヒルサージカルゴニオプリズム)を角膜に乗せ,隅角を観察する.白内障手術と同一創からストレートマイクロフック(イナミ)を前房に挿入し,鼻側から下方にかけて可能な限り広範囲に(90°以上)線維柱帯を切開する3).前房から粘弾性物質を吸引し,耳側のC2.8Cmm角膜創をC10-0ナイロン糸(マニー)で縫合する.最後に角膜サイドポートから眼内灌流液(BSS)を注入し,眼圧を高めた状態で終刀した.眼圧推移における術前後の比較はCpairedt-test,奏効率の比較にはCc2testを用い,いずれもCp<0.05を有意水準とした.CII結果術後平均経過観察期間はC10.3C±8.5カ月(1.39カ月)だった.全症例の眼圧経過は術前,術後C1カ月,3カ月,6カ月,1年でそれぞれC19.9C±5.9,15.4C±4.2,14.9C±3.7,15.5C±3.5,C16.6±4.6CmmHgであり(表2),いずれの時点でも有意な眼圧下降を認めた(p<0.05).また,術後眼圧C18CmmHg以下,15%以上の眼圧下降を成功とした場合の生存率は術後C1カ月,3カ月,6カ月,1年でそれぞれC69.0%,57.3%,53.8%,50.3%となった(図1).最終受診時の眼圧下降率はC21.8%,手術奏効率はC54.4%だった.追加手術を要した症例は23眼で,Express手術はC19眼,線維柱体切除術はC4眼であった.患者背景別の手術奏効率を表1に示す.年齢別,性別,術前眼圧別,術前点眼スコア別の検討では有意な差はみられなかった.有意ではないが,術前眼圧別では眼圧が上昇するにつれ奏効率が上昇する傾向にあった.病型別では広義POAGのみ奏効率がC45.0%と低く,その他はC66.7.71.4%と高かった.症例数の多いCEGおよび続発緑内障全体では有意差を認めた.CIII考按今回,白内障手術を併用したマイクロフックCabCinternoトラベクロトミーの術後眼圧を患者背景別に検討した.全症例の最終受診時の眼圧下降率はC21.8%,手術奏効率はC54.4%であった.既報を参照すると(表3)術後眼圧はC12.18mmHg程度であり,術後C1年の奏効率は約C50.80%程度である4.6).術者によって切開範囲が異なること,報告により症例の傾向が異なるため結果にばらつきがあるが,おおむね眼外法で施行されるトラベクロトミーと同等の成績と考える.表1患者背景n(眼)奏効率(%)Cp年齢<6C5C29C58.6C0.69C65≦C142C53.5性男C86C60.4C0.12女C85C48.2広義CPOAGC100C45CPACGC3C66.7C0.59C病型PEGC48C66.7C67.6C0.01C0.41C0.090.005SteroidCSGC6C68C66.7CUveitisC14C71.4C<2C1C119C51.3術前眼圧21≦IOp<3C1C40C60C0.36C31≦C12C66.7C0.37点眼スコア5以下C82C53.7C0.886以上C89C55.1病型別のCp値はCPOAGとの比較,術前眼圧のCp値は<21との比較.表2術前および術後1,3,6,12カ月の眼圧,点眼スコアn(眼)眼圧(mmHg)p値点眼スコアp値術前C171C19.9±5.9C5.7±1.34p<C0.0001術後C1カ月C169C15.4±4.16p<C0.0001C2.94±2.08p<C0.0001術後C3カ月C160C14.9±3.66p<C0.0001C3.99±1.72p<C0.0001術後C6カ月C88C15.5±3.54p<C0.0001C3.26±1.66p<C0.0001術後1年C58C16.6±4.62p<C0.0001C3.28±1.61p<C0.0001また,本研究では術前眼圧が高い症例で奏効率が高い傾向C1.0にあること,病型別では続発緑内障のほうが広義CPOAGよC0.8り奏効率が良いことが示された.線維柱帯-Schlemm管を介0.20.0術後日数(日)171118989892929292図1手術後1年間の生存曲線群ではC21.79CmmHgと術前平均眼圧が続発緑内障より低く,トラベクロトミーが奏効しづらいのではないかと考える.さらに本研究,既報ともに続発緑内障のほうが術後平均眼圧が低く,これも理由として考えられる.広義CPOAGのほうが続発緑内障よりトラベクロトミー後の眼圧が高めになること050100150200250300350生存確率する主経路の房水流出は過去の報告で示されているとおり,眼圧に依存して流出量が増える性質をもっている.トラベクロトミーで線維柱帯の一部を開放すると,眼圧の高い症例ほど主経路を介した房水流出が増えるため,眼圧下降率が高くなる.そのため手術の奏効率が上昇したものと考えた.本研究では術前眼圧が高いほど眼圧下降率が高い(図2)一方で,術前眼圧が低いほど術後眼圧が低くなる(図3)傾向が示されており,既報と一致する結果となった7).続発緑内障のほうが広義CPOAGより奏効率が高かったことに関しては表4に示すとおり,既報でも同様の結果となっている8,9).既報はトラベクトーム,トラベクロトミー(眼外法)と本研究と術式が異なるが,眼圧下降のメカニズムは同様であり,参考になりうるものである.理由の一つとして,広義CPOAGには正常眼圧緑内障も含まれるため,術前平均眼圧が広義CPOAG群ではC18.51CmmHgであり,続発緑内障0.60.4表3既報との比較術式Cn(眼)術前眼圧(mmHg)術後眼圧(mmHg)奏効率(%)成功基準C3)Tanito,etal(2C017)PEA+IOL+μLOTC68C16.4±2.910カ月C11.8±4.51年82%CIOP≦18CmmHg15%以上の低下C4)Yachna,etal(2C013)PEA+IOL+μLOTCorμLOTC246C21.6±8.62年C15.3±4.62年22%CIOP≦18CmmHg20%以上の低下C5)Mori,etal(2C020)PEA+IOL+μLOTorμLOTC69C28.4±7.81年C17.8±6.31年74%C5≦IOP≦20CmmHg20%以上の低下C6)Tojo,etal(2C021)PEA+IOL+μLOTCorμLOTC61C24.1±9.21年C12.5±3.91年59%CIOP≦18CmmHg20%以上の低下本研究CPEA+IOL+μLOTC171C19.9±6.01年C16.6±4.61年54%CIOP≦18CmmHg15%以上の低下1506050術後眼圧(mmHg)眼圧下降率(%)40030-5020-10010-150051015202530354045-200術前眼圧(mmHg)術前眼圧(mmHg)図2術前眼圧と眼圧下降率の散布図図3術前眼圧と術後眼圧の散布図表4病型別の既報との比較0術式病型Cn(眼)術前眼圧(mmHg)術後眼圧(mmHg)奏効率(%)成功基準CTingJLM,etal8)(C2012)PEA+IOL+TrabecutomeCPOAGC263C19.9±5.4C15.6±3.287%CIOP≦21CmmHg20%以上の低下CSG(PEG)C45C21.7±8.4C14.2±3.191%C9)ChinS,etal(2C012)Trabecutomy(withmetaltrabeculotome)CPOAGC1631%CIOP≦18CmmHg30%以上の低下CSGC1950%本研究CPEA+IOL+μLOTCPOAGC100C18.4±4.2C15.3±6.068%CIOP≦18CmmHg15%以上の低下CSGC68C21.7±7.3Cは興味深く,Schlemm管から房水静脈に至る経路に何らか者背景から症例を選んで施行することが重要と考える.の異常があることが推測される.白内障手術併用マイクロフックCabinternoトラベクロト利益相反:利益相反公表基準に該当なしミーは術前眼圧の高い症例,続発緑内障でより高い奏効率を得られる傾向が示された.一般的にこの術式の奏効率が線維柱帯切除術など他の緑内障手術に劣ることを考慮すると,患文献1)TanitoCM,CSanoCI,CIkedaCYCetal:Short-termCresultsCofCmicrohookCabCinternoCtrabeculotomy,CaCnovelCminimallyCinvasiveCglaucomaCsurgeryCinCJapaneseeyes:initialCcaseCseries.ActaOphthalmolC95:e354-e360,C20172)TanitoCM,CIkedaCY,CFujiharaCECetal:E.ectivenessCandCsafetyCofCcombinedCcataractCsurgeryCandCmicrohookCabCinternoCtrabeculotomyCinCJapaneseCeyesCwithglaucoma:Creportofaninitialcaseseries.JpnJOphthalmolC61:457-464,C20173)TanitoM:MicrohookCabCinternoCtrabeculotomy,CaCnovelCminimallyCinvasiveCglaucomaCsurgery.CClinCOphthalmolC12:43-48,C20184)YachnaA,SonMKP,MehrdadMetal:ClinicalresultsofabinternotrabeculotomyusingthetrabeclotomyforopenangleCglaucoma:TheCMayoCClinicCseriesCinCRochester,CMinnesota.AmJOphthalmolC156:927-935,C20135)MoriCS,CMuraiCY,CUedaCKCetal:ACcomparisonCofCtheC1-yearCsurigicalCoutcomesCofCabCexternoCtrabeculotomyCandmicrohookabinternotrabeculotomyusingpropensityscoreanalysis.BMJOpenOphthalmolC5:e000446,C20206)TojoCN,COtsukaCM,CHayashiCACetal:ComparisonCofCtra-bectomeCandCmicrohookCsurgicalCoutcomes.CIntCOphthal-molC41:21-26,C20217)TanitoCM,CSugiharaCK,CTsutsuiCACetal:E.ectsCofCpreop-erativeCintraocularCpressureClevelConCsurgicalCresultsCofCmicrohookCabCinternoCtrabeculotomy.CJCClinCMedC10:C3327,C20218)TingJLM,DamjiKF,StilesMCetal:Abinternotrabec-ulectomy:outcomesCinCexfoliationCversusCprimaryCopenCangleCglaucoma.CJCCataractCRefractCSurgC38:315-323,C20129)ChinS,NittaT,ShinmeiYetal:Reductionofintraocularpressureusingamodi.ed360-degreesuturetrabeculoto-mytechniqueinprimaryandsecondaryopenangleglau-coma:apilotstudy.JGlaucomaC21:401-407,C2012***

自閉症スペクトラム障害の小児に認めた眼球乾燥症の1 例

2022年12月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科39(12):1681.1684,2022c自閉症スペクトラム障害の小児に認めた眼球乾燥症の1例輪島羽慈*1横川英明*1小林顕*1黒田文人*2杉山和久*1*1金沢大学附属病院眼科*2金沢大学附属病院小児科CACaseofXerophthalmiainaChildwithAutismSpectrumDisorderHagukuWajima1),HideakiYokogawa1),AkiraKobayashi1),MondoKuroda2)andKazuhisaSugiyama1)1)DepartmentofOphthalmology,KanazawaUniversityHospital,2)DepartmentofPediatrics,KanazawaUniversityHospitalC緒言:自閉症スペクトラム障害の小児における偏食によるビタミンCA欠乏性眼球乾燥症のC1例を報告する.症例:12歳,男児.両眼の先天白内障に対する手術(1歳時とC7歳時)および心因性弱視の既往があった.右眼痛を自覚し,近医にて右眼角膜潰瘍の診断で抗菌薬点眼が開始されたが,難治のため金沢大学附属病院眼科に紹介となった.初診時,細隙灯顕微鏡にて,右眼の角膜潰瘍,両眼の点状表層角膜症と結膜の角化を認めた.自閉症スペクトラム障害があり,詳細な問診にて極端な偏食が判明した.ビタミンCA欠乏症(血清ビタミンCA5CIU/dl)と診断してビタミンCA筋肉内注射を行ったところ,角膜に重篤な後遺症を遺さず,眼球乾燥症が改善した.結論:日本を含む先進国において,ビタミンCA欠乏性眼球乾燥症はまれではあるが,重度の偏食にて発生することが明らかとなった.眼科医による正しい診断が,小児科医や内科医による全身的な治療の方針決定に役立つ疾患であると考えられた.CPurpose:Toreportacaseofxerophthalmiainachildwithautismspectrumdisorder(ASD)C.CaseReport:CA12-year-oldboywithahistoryofASD,psychogenicamblyopia,andcongenitalcataractwasreferredtoourhos-pitalfortreatmentofapainfulcornealulcerinhisrighteye.Healsohadsuper.cialpunctatekeratopathyandcon-junctivalkeratosisinbotheyes.ThepatientwasdiagnosedasxerophthalmiaduetovitaminAde.ciencycausedbyCanCunbalancedCdiet.CIntramuscularCvitaminCACe.ectivelyCandCrapidlyCcuredCbothCtheCcornealCulcerCandCocularCdrynessCwithoutCanyCseriousCocularCsequelae.CConclusions:AlthoughCvitaminCACde.ciencyCisCnowCquiteCrareCinCadvancedcountries,includingJapan,ophthalmologistsshouldbeawarethatitdoeshappenincaseswithasevereunbalancedCdiet.CDiagnosisCofCthisCdiseaseCbyCanCophthalmologistCcanChelpCpediatriciansCand/orCphysiciansCwhenCselectingapropertherapy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(12):1681.1684,C2022〕Keywords:ビタミンCA欠乏,偏食,眼球乾燥症,角膜潰瘍.vitaminAde.ciency,unbalanceddiet,xerophthal-mia,cornealulcer.CはじめにビタミンCA欠乏症は不十分な食事摂取による栄養失調をきたしやすいアフリカや南アジアなど発展途上国で生じやすい疾患で,ビタミンCAやCb-カロテンを含有する食品を日常的に摂取していないことが原因とされる1.4).これらの国ではC1.4億人以上の未就学児がビタミンCA欠乏状態であり,毎年C25万以上が失明に至る幼少期の視覚障害の原因の一つとして知られる1,5).一方,わが国を含む先進国での真性ビタミンCA欠乏症はまれであるが,摂取した食物の消化,吸収,代謝障害がある場合や,精神科疾患を背景とした続発性ビタミンCA欠乏症の報告は散見される1,4,6.10).精神的疾患に由来した極端な偏食や摂食障害は近年増加傾向にあり,ときに重篤な栄養障害に陥り眼合併症をきたす.今回筆者らは自閉症スペクトラム障害に伴う偏食が原因と考えられるビタミンCA欠乏性眼球乾燥症のC1例を経験したので報告する.CI症例患者:12歳,男児.主訴:右眼痛.現病歴:X年某日に右眼が急に痛くなり近医眼科を受診した.右眼の角膜全面に点状表層角膜炎,角膜中央に潰瘍,混濁を認め,前房にフィブリンの析出を認めたため,ガチフロ〔別刷請求先〕輪島羽慈:〒920-8641金沢市宝町C13-1金沢大学附属病院眼科Reprintrequests:HagukuWajima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KanazawaUniversityHospital,13-1Takara-machi,Kanazawacity,Ishikawa920-8641,JAPANC図1初診時の前眼部所見a:右眼.角結膜は乾燥しており光沢を失い角化している.結膜充血,角膜中央に円形の潰瘍を認め,前房内がフィブリン析出により混濁している.Cb:右眼のフルオレセイン染色.角膜潰瘍部分が染色され,びまん性の角化,点状表層角膜症,結膜には皺襞を認める.Cc:左眼.角結膜上皮は角化により光沢を失い,表面は粗造である.Cd:左眼のフルオレセイン染色.右眼同様に角結膜の乾燥所見がみられ,角膜全体に点状表層角膜症がみられる.キサシンC0.3%C1日C8回,オフロキサシン眼軟膏C1回が処方された.近医再診時,右眼角膜全体の混濁が増悪し,前房透見不能となり,前眼部所見の明らかな増悪を認めたため,同日金沢大学附属病院眼科(以下,当科)を受診した.初診時所見:視力,眼圧ともに,上転位のまま動かず患児の拒否が強いため測定不可能だった.細隙灯顕微鏡検査でも正位での診察は非常に困難だった.両眼ともに結膜は充血し,結膜上皮は乾燥し粗造な印象で角化を認めた.両眼とも角膜は全体にすりガラス状であり点状角結膜障害を認め,右眼には瞳孔領にかかるように径C2.3Cmm程度の潰瘍を認めた.前房は深く前房内炎症については不詳,両眼とも眼内レンズ挿入眼であった.眼底は角膜混濁と診察拒否により観察困難であった.フルオレセイン染色では右眼の角膜中央に斑状の染色域を認め,結膜は点状に染色された(図1).既往歴:両眼の先天白内障のためC1歳時およびC7歳時に白内障手術施行歴あり.5歳時に斜視手術を受けている.もともと心因性視力障害で紹介医を定期通院していた.当科を受診するC2年半前は,矯正視力で右眼C1.0,左眼C0.1であった.自閉症スペクトラム障害で当院小児科に定期通院している.反復性陰部膿瘍のため複数回の入院歴あり.家族歴:特記すべき事項なし.生活歴:過度な偏食のため白飯,塩鮭,ヒレカツ,フライドポテト,特定銘柄の市販のお茶を摂取するという生活をC5年以上続けていた.母親の話では目が見えなくなった当科受診C2年半前頃から閉瞼した状態で生活しており,手づかみで食事をしている.受診時も母親が手をひき歩行している.初診時血液検査所見:血液検査で軽度の貧血(HbC11.8Cd/dl[正常値C12.2.15.7]),白血球の上昇(14.39C×103/μl[同4.0.10.7]),CRPの上昇,クレアチニンキナーゼの低下(16IU/l[同C51.270]),低アルブミン血症(3.8Cg/dl[同C3.8.4.7])を認めた.眼脂培養の提出は患児の拒否が強く施行できなかった.図2治療開始後3週間の前眼部所見a:右眼.結膜充血は消失し,角結膜は光沢を有する.点状表層角膜症は消失し,潰瘍は瘢痕を残さず治癒した.Cb:左眼.右眼同様,前眼部所見の改善を認めた.II治療および経過角膜潰瘍に対する初期治療としてガチフロキサシンC0.3%点眼液C8回,セフメノキシム塩酸塩点眼液C8回,トブラマイシン点眼液C8回,アトロピン点眼液C2回を開始した.過度の偏食歴があることから,ビタミンCA欠乏症を疑い,全身的な評価が必要と考え同日に当院小児科に紹介した.血清ビタミンCA値C5CIU/dl[正常値C97.316],血清亜鉛値C57Cμg/dl[同C80.130],血清葉酸値C1.5Cng/ml[同C2.4.9.7Cng/ml],25OHビタミンCD16.6Cng/ml[同C20Cng以上/ml]と著しい低値を認め,ビタミンCA欠乏症による両眼の眼球乾燥症と右眼角膜潰瘍と診断した.診断後より,ビタミンCA10万単位/日C7日間(累計C70万単位)の筋肉内注射による投与を開始した.ポラプレジンク錠,葉酸,アルファカルシドールの内服も開始し,薬物治療と並行して栄養サポートチームの介入による栄養指導を開始した.食生活の改善は患児の強いこだわり行動で難航し,まずは白飯にビタミン剤を混入することから始めた.ビタミンCA筋肉内注射開始後C7日目には血清ビタミンCAは正常域内となり,内服での補充に移行した.ビタミンCA補充後C21日目には前眼部所見は改善し,角膜,結膜ともに清明となった(図2).しかし所見,疼痛の自覚症状改善後も両眼の閉瞼状態は変わらず,視力は治療前と同様測定不可能だった.点眼薬を終了後も角結膜障害の再発は認めず,当科初診からC3カ月後当科通院終了とした.CIII考按ビタミンCAは,レチノール,レチナール,レチノイン酸などの脂溶性ビタミンの総称である.Cbカロテンからレチナールが生成され,亜鉛を補酵素として血液中で蛋白質との複合体を形成し,小腸上皮で吸収され肝臓に貯蔵される.ビタミンCAは幅広い生理機能に関与しており,上皮組織の保持による感染予防,遺伝子の発現調節,細胞増殖や分化制御などの役割を担っている.レチナールはロドプシンの成分として杆体細胞や錐体細胞に含まれることで,正常な視覚機能が維持される11).ビタミンCA欠乏症に伴う眼合併症では眼痛,眼球掻痒感,羞明,開瞼障害,夜盲,視野狭窄が先行し,晩期症状として眼球乾燥症,角膜潰瘍,角膜軟化症,角膜穿孔を生じる1,3,4,6.8).これらは杯細胞が減少し,ムチン産生が低下することで結膜上皮の角化をきたすことによるもので,角結膜の光沢を失い,BitotC’s斑をみるようになる.またビタミンCAは尿路上皮の免疫系に働きかけることで尿路上皮を安定化させ,小児の再発性尿路感染症の予防効果があるとされている12).ビタミンCA欠乏症の原因として,ビタミンCA摂取不足,消化管疾患やその手術後の吸収障害や胆道系障害,肝硬変などの蛋白合成低下,血液透析など腎障害由来のものなどがある8,13).発展途上国では公衆衛生が深く関与し,ビタミンCAやCbカロテン含有食物が入手困難であることや貧困のため日常的に摂取していないことが多いため,真性ビタミンCA欠乏症に至る.また近年先進国においても本症例のように過度な偏食や摂食障害,神経性食欲不振症などの精神科領域の疾患に併発し発症する例が過去にも報告されている9,10,14).自閉症スペクトラム障害(autismCspectrumdisorder)は神経発達障害の総称であり,社会性コミュニケーションや相互作用の障害,限定的な興味や行動を特徴とし,易刺激性や感覚過敏,ときに知的障害を有する.遺伝や環境因子が関与し,男性に多く,有病率はC2.75%以上とされるが近年世界的に増加傾向である15).自閉症スペクトラム障害の患児は食に強いこだわりをもつがゆえに,健常児と比較して偏食の割合が高く,全身的な合併症を有することもあり,診察や検査,治療への協力が得にくいため発見や治療が遅れることがあると考えられる.本症例では,長年の偏食により摂取されるべきビタミンA量が極端に低下し,ビタミンCA欠乏症に至ったと考えられる.本症例の角膜潰瘍の原因が感染性か非感染性であったかについては明確に判別することはむずかしい.しかしかろうじて観察できた細隙灯顕微鏡所見からは,円形の角膜上皮欠損が認められ,軽度の感染症を併発しているものと推測された.患児はC5年以上の偏食歴から長期のビタミンCA欠乏状態であったことが予想され,当科受診C2年半前の左眼視力低下時には,すでに両眼にビタミンCA欠乏性眼球乾燥症をきたしていた可能性があり,今回の右眼角膜潰瘍による眼痛が,眼球乾燥症発見の契機となったのではないかと推察される.またわが国での自閉症スペクトラム障害に伴うビタミンCA欠乏眼球乾燥症の既報では,4.7歳での症例報告が多い.こうした年齢の児では診察,検査の協力を得られないことが少なくないが,本症例のように青年期以降であっても病歴,症状の聴取がむずかしい患児の特性を理解することが大切であると感じた.本症例は他科や他職種との連携を行うことで治療開始後,速やかに症状と所見は改善し,角膜混濁など後遺症も認めなかった.また治療前にみられた反復性尿路感染についても栄養状態が改善されたことで現在まで再発はない.眼痛発症から比較的早期の治療介入が有効であり,全身状態の改善も得られたと考える.今回,自閉症スペクトラム障害による偏食が原因とされるビタミンCA欠乏性眼球乾燥症を経験した.全身的,精神的疾患を背景とする栄養障害の重篤化が眼科領域での合併症を契機に発見されうることを念頭に診療に臨むことが望ましい.文献1)MatternRM,DingJ:KeratitiswithKocuriapalustrisandRothiaCmucilaginosaCinCvitaminCACde.ciency.CCaseCRepCOphthalmolC27:72-77,C20142)LongoCDL,CFauciCAS,CKasperCDLCetal:VitaminCACde.ciency.In:HarrisonC’sCprinciplesCofCinternalCmedecine(18thedition)C.p601,McGraw-Hill,NewYork,20113)PhillipsSM,JensenC:Micronutrientde.cienciesassociat-edwithmalnutritioninchildren.In:Uptodate(https://Cwww.uptodate.com/contents/micronutrient-de.ciencies-associated-with-malnutrition-in-children,CAccessedCon2022May11)4)HsuCHY,CTsaiCIL,CKuoCLLCetal:HerpeticCkeratouveitisCmixedCwithCbilateralCpseudomonasCcornealCulcersCinCvita-minCACde.ciency.CJCFormosCMedCAssocC114:184-187,C20155)母子保健改善のための微量栄養素欠乏に関する援助研究:ビタミンCA欠乏症.JICA,2003(https://www.jica.go.jp/Cjica-ri/IFIC_and_JBICI-Studies/jica-ri/publication/archives/jica/.eld/pdf/2003_05a.pdf)6)SteinemannCTL,CChristiansenSP:VitaminCACde.ciencyCandCxerophthalmiaCinCanCautismCchild.CArchCOphthalmolC116:392-393,C19987)LaiCKL,CNgCJY,CSrinivasanS:XerophthalmiaCandCkerato-malaciasecondarytodiet-inducedvitaminAde.ciencyinScottishadults.CanJOphthalmolC49:109-112,C20148)佐々木優美,山腰友珠,佐藤英津子:強皮症によるビタミンCA欠乏症により夜盲を呈した一症例.眼臨紀C1:1205-1209,C20089)山本総一郎,中尾功,平田憲ほか:ビタミンCA欠乏症に伴い,両眼眼球乾燥症をきたしたC1例.眼科C55:1543-1547,C201310)井之川宗右,中島史絵,重安千花ほか:自閉症スペクトラム障害の偏食によるビタミンCA欠乏により眼球乾燥症をきたしたC1例.眼臨紀8:905-909,C201511)林孝彰:代謝異常ビタミンCA欠乏症.臨眼61:65-69,C200712)YilmazCA,CBahatCE,CYilmazCGGCetal:AdjuvantCe.ectCofCvitaminCAConCrecurrentClowerCurinaryCtractCinfections.CPediatrIntC49:310-313,C200713)安藤友梨,杉本光生,水口忠ほか:透析患者にみられたvitaminA欠乏症のC2例.眼臨紀C4:1103,C201114)平野耕治:摂食障害が原因と考えられるビタミンCA欠乏性眼球乾燥症のC1例.眼科C61:7:763-769,C201915)SasayamaD,KugeR,ToibanaYetal:TrendsinautismspectrumCdisorderCdiagnosesCinCJapan,C2009CtoC2019.CJAMANetwOpenC4:e219234,C2021***

遠隔診療支援を行った急性期Stevens-Johnson 症候群の 1 例

2022年12月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科39(12):1676.1680,2022c遠隔診療支援を行った急性期Stevens-Johnson症候群の1例伊藤賀一*1,2,3清水映輔*1,4佐藤真理*1小川葉子*1根岸一乃*1*1慶應義塾大学医学部眼科学教室*2国家公務員共済組合連合会立川病院眼科*3いとう眼科*4株式会社OUICACaseofStevens-JohnsonSyndrome-AssociatedDryEyeDiseasethatImprovedbyTelediagnosisSupportYoshikazuIto1,2,3),EisukeShimizu1,4),ShinriSato1),YokoOgawa1)andKazunoNegishi1)1)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,2)3)ItoEyeClinic,4)OUIInc.CDepartmentofOphthalmology,TachikawaHospital,Stevens-Johnson症候群(SJS)は,重篤な眼合併症をきたす重症薬疹である.わが国における発症率は年間C100万人当たり約C3.1人とされており,一般の外来診療で目にする機会は多くない.発症早期には全身管理の治療と並行して,眼科領域においても,免疫反応による炎症に対する治療と,線維増殖性変化の抑制のための消炎治療,易感染性に対する感染予防が必要であり早期治療介入が,重篤な視力障害や眼部不快感などの後遺症の予後を改善するとされる.受診早期からの適切な治療選択が患者の予後を左右するが,今回,立川病院眼科を受診したCSJSの患者に対して,スマートフォンアタッチメント型細隙灯顕微鏡を使用し,慶應義塾大学病院眼科のドライアイ外来との間で,医師対医師の遠隔コンサルテーションを行いながら診療した.早期からの専門的な治療介入により,SJS眼合併症の良好な経過を得たC1例を経験したので報告する.CStevens-Johnsonsyndrome(SJS)isaseverelife-threateningdiseaseoftheskinandmucousmembranesthatcanCbeCcausedCbyCadverseCreactionCtoCnon-steroidalCanti-in.ammatoryCdrugs,CandCocularCcomplicationsCcanCoccur.CForCSJSCcases,CtheCprimaryCtreatmentCisCanti-in.ammatoryCandCanti-infectiousCtherapy.CHowever,CtheCyearlyCinci-denceCofCSJSCinCJapanCisCestimatedCtoCbeCapproximatelyC3.1CcasesCperC1-millionCpeople,CsoCitCisCnotCoftenCseenCinCgeneraloutpatientclinics.Inthisstudy,wereportadoctor-to-doctor(DtoD)teleconsultationperformedbetweentheCDepartmentCofCOphthalmologyCatCTachikawaCHospitalCandCtheCDryCEyeCDiseaseCOutpatientCClinicCatCtheCDepartmentCofCOphthalmology,CKeioCUniversityCSchoolCofCMedicineCforCaCcaseCofCSJS-associatedCdry-eyeCdiseaseCusingCourCnewly-developedCportableCandCrecordableCSmartCEyeCCameraCslit-lampCdevice.COurC.ndingsCrevealedCthatCtheCSJSCcaseCthatCweCexperiencedCprogressedCwellCafterCearlyCandCspecializedCtherapeuticCinterventionCusingCtheDtoDteleconsultationsystem.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(12):1676.1680,C2022〕Keywords:スティーヴンス・ジョンソン症候群,ドライアイ,スマートフォン,医療用アプリ,遠隔診療支援.Stevens-Johnsonsyndrome(SJS),dryeyedisease(DED),smartphone,medicalapplication,telediagnosissupport.CはじめにStevens-Johnson症候群(Stevens-Johnsonsyndrome:SJS)は,高熱や倦怠感などの全身症状を伴って,全身の皮膚・粘膜に紅斑・びらん・水疱が多発する重症薬疹である.SJSのわが国における発症率は年間C100万人当たり約C3.1人で,多臓器不全や敗血症などを合併すると致命的となり,死亡率は1.5%と報告されている.急性期には眼病変(結膜充血・角結膜上皮欠損・偽膜形成・瞼球癒着など)を伴いやすく,不可逆的な視力障害や重症ドライアイ(dryCeyedisease:DED)をきたす可能性があるが,早期治療介入で慢性期の合併症の予後は改善するとされる1).本疾患は,救命救急科・皮膚科など他科との連携が必須であり,総合病院〔別刷請求先〕伊藤賀一:〒190-8531東京都立川市錦町C4-2-22国家公務員共済組合連合会立川病院眼科Reprintrequests:YoshikazuIto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TachikawaHospital,4-2-22Nishikimachi,Tachikawa-city,Tokyo190-8531,JAPANC1676(108)図1SmartEyeCamera(SEC)で撮影中の様子と専用アプリ画面スマートフォンアタッチメント型細隙灯顕微鏡CSECは,操作法が簡便で,動画形式で前眼部所見の記録が可能である.や大学病院で診療にあたることが多い.そのため,一般の医療機関において経験することは少ないが,眼科外来で対応する必要が生じた急性期からの適切なマネジメントが視機能の予後を左右するため,本疾患に対する治療経験が豊富な医師への迅速なコンサルテーションが重要と考えられる.遠隔診療とは「通信技術を活用した健康増進,医療,介護に資する行為をいう」と定義されている.遠隔診療の形態は,医師対医師(DCtoD),医師対看護師などのコメディカル(以下,DtoN)と,医師対患者(以下,DtoP)に分類される2).DCtoDの遠隔診療は,医師法でとくに制限はなく,行うことができる.また眼科領域は所見を得る検査機器が必要で,専門性が高いこともあり,DCtoDの遠隔診療が中心となる.そして,信頼性の高い遠隔診療を安全に行うためには,依頼側の医師が患者対象の適切な選択を行い,画像所見を共有するセキュリティ対策の整った環境を準備する必要がある3).今回筆者らは,立川病院眼科を受診したCSJS患者に対して,スマートフォンアタッチメント型細隙灯顕微鏡「SmartCEyeCamera(SEC)」(株式会社OUI)(図1)と遠隔診療が可能な専用アプリケーションを用いた専門医の遠隔診療支援により,早期からの専門的な治療介入を行うことで,SJS眼合併症に対し良好な経過を得たC1例を経験したので報告する.CI症例患者:61歳,男性.主訴:左眼の視力低下.既往歴:C型肝炎.現病歴:発熱などの感冒症状があり,近医で新型コロナウィルスに対するCPCR検査を受け,陰性であったため,アセトアミノフェンを処方された.そのC3日後,発熱は改善せず,皮疹が出現し,総合病院に救急搬送された.総合病院にてCSJSの診断でステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロンC1,000Cmg点滴C3日間)を実施し,その後,プレドニゾロン(PSL)60Cmgの内服を実施した.しかし,ステロイドパルス療法後も皮疹の改善を認めず,結膜充血および偽膜形成も認めたため,発症C1週間後に高次医療機関である前医に転院し,全身管理とともに眼科併診も開始された.前医眼科の初診時には両眼の結膜充血,偽膜形成,角膜潰瘍を認め,偽膜除去を行い,ヒアルロン酸・人口涙液・ステロイドの点眼が開始された.左眼角膜潰瘍が残存したもの,両眼の前眼部所見が改善傾向となり,発症C3週目にステロイド点眼終了,防腐剤無添加のヒアルロン酸点眼C0.1%一日C4回両眼,レバミピド点眼一日C4回両眼,フラビンアデニンジヌクレオチド軟膏一日C1回両眼で加療継続となって退院した.発症C5週目に住居に近い立川病院眼科を紹介受診した.経過:立川病院初診時,視力は右眼(0.8sph+2.50D(cylC.2.00DAx90°),左眼(0.03Csph+3.00D(cyl.1.50DCAx90°),眼圧は右眼C15mmHg,左眼測定不能で,両眼の偽膜形成,左眼の角膜潰瘍と角膜菲薄化を認めた.PSLの内服はC30Cmgに漸減されていた.偽膜除去を行い,ベタメタゾン点眼C1日C4回両眼を再度追加した.立川病院受診後C2日目(発症C5週目),Schirmer試験は右眼C13,左眼C3Cmm,左眼眼圧はC8CmmHg,両眼の偽膜形成の改善を認めるも,左眼の角膜潰瘍は改善が乏しく,活動性のある急性期CSJS眼合併症と,左眼はそれに伴う遷延性角膜上皮欠損と考えられた.そこで患者同意のもとに,遠隔診療が可能なスマートフォンアタッチメント型細隙灯顕微鏡のSECを用い,慶應義塾大学病院CDED外来の専門医とCDCtoC図2細隙灯顕微鏡所見と前眼部光干渉断層計所見(初回遠隔診療時)細隙灯顕微鏡で,右眼に比べて左眼は結膜充血が強く,角膜潰瘍が観察され,遷延性角膜上皮欠損を認めた.前眼部光干渉断層計では左眼の角膜は菲薄化していた.(患者本人から匿名性を確保するかたちでの検査データの使用を許可していただいたうえ掲載)図3初回の遠隔診療時のSmartEyeCamera(SEC)SECで撮影した左眼所見とチャットの画面.結膜充血や角膜潰瘍が観察でき,チャット形式でCDtoDの遠隔コンサルテーションを行い,点眼の内容などの治療方針を決定した.D遠隔診療を開始した.眼所見を撮影後に,SECの専用アプリケーションのチャット機能を用いて,DED専門医と所見の供覧を行った.左眼角膜中央に角膜混濁と潰瘍,強い充血所見を認めたため,偽膜除去と内反している睫毛抜去を行い,ベタメタゾン点眼を防腐剤無添加のベタメタゾンリン酸エステル点眼C1日C6回両眼に変更,防腐剤無添加のヒアルロン酸点眼C0.1%をC6回に増量,レバミピド点眼C1日C4回両眼の継続,フラビンアデニンジヌクレオチド軟膏の中止,オフロキサシン軟膏の眠前C1日C1回両眼,人口涙液頻回両眼を開始とした(図2,3).立川病院受診後C2週目(発症C7週目),左眼は,視力(0.1Csph+0.50D(cyl.1.50DAx90°),眼圧13mmHg,Schirm-er試験C4Cmmであった.主科の皮膚科より皮疹と粘膜疹は改善傾向のため,PSLの内服はC10Cmgに減量されていた.左眼の角膜潰瘍は改善傾向であるが,完全な上皮化は認めず,同量の点眼を継続した(図4).立川病院受診後C6週目(発症C11週目),左眼は,視力(0.4Csph+1.75D(cyl.2.50DAx30°),眼圧15mmHg,Schirm-er試験C6Cmmであった.PSL内服は終了していたが,同量の点眼で,左眼の角膜上皮化を認めて,遷延性角膜上皮欠損図42週後の遠隔診療時のSEC画面SECで撮影した左眼所見とチャットの画面.左眼の結膜充血は改善して,角膜潰瘍は縮小傾向であることが観察できた.図56週後の遠隔診療時のSEC画面SECで撮影した左眼所見とチャットの画面.左眼の角膜は上皮化し,潰瘍は認めず,遷延性角膜上皮欠損は改善していることが観察できた.は改善した.また,結膜充血所見も改善しており,矯正視力の改善も認めた(図5).PSLの内服投与量の漸減中に眼所見の増悪は認めなかったが,ひきつづき眼所見に注意しながらステロイド点眼の回数を漸減する方針である.CII考按SJSはまれな疾患だが,発症C4日以内に眼科的治療を開始した場合には予後良好といった報告や4),発症C1週間以内のステロイド点眼加療により,視力予後が改善するといった報告が存在する5).そのため,発症早期からの適切な専門的な治療介入が必須である.今回筆者らは,急性期CSJS眼合併症を伴う症例に対して,スマートフォンアタッチメント型細隙灯顕微鏡とその専用アプリケーションを使用してCDCtoD遠隔コンサルテーションによる専門的な治療介入を行うことで,良好な治療経過を得た.SJSの亜急性期に遷延性角膜上皮欠損が生じた場合,治療に難渋することがある.ステロイドの点眼または全身投与を行うが,上皮欠損が長期化した場合には,角膜上皮幹細胞疲弊による角膜混濁や,結膜上皮の分化異常による角化で瞼球癒着が生じ,失明につながる6).本症例は当院初診時も活動性の高い急性期CSJS眼合併症と考えられ,ステロイド投与に加え,涙点プラグ,偽膜除去,内反している睫毛抜去などの処置を組み合わせることで,矯正視力や前眼部所見が改善できた.また,SJS関連重症CDEDの治療は急性期を脱して終了するのではなく.慢性期もマネジメントを継続することが必須だが7),本症例は急性期を脱したこれからも遠隔診療支援を継続して,DED専門外来からのフォローアップを行う予定である.本症例で使用したCSECは,DED8)で既存の細隙灯顕微鏡と同等に評価可能というエビデンスがあり,今回,SJS関連重症CDEDの所見を複数の眼科専門医で共有・評価することが可能であった.SECは動画で前眼部所見を記録することが可能であり,本症例のように,眼瞼・角膜・結膜全体を評価したい場合は,静止画よりも適していると考えられる9).一方,アプリケーションの動画で伝わりづらい所見は,診察医と支援医師の間でチャット機能を用いて情報を共有できた.遠隔診療が可能な医療機器の導入により,あらゆる医療機関で同等の医療が提供できる可能性があり,地域の医療格差の解消にも寄与できると考えられる10).また,本症例では眼科医Cto眼科医のCDCtoD遠隔診療を行ったが,SECは小型で操作が容易であり,島嶼などの眼科専門医が常駐しない医療現場で,非眼科医Cto眼科医のCDtoD遠隔診療を行うことで,眼科医療に直接アクセスできない患者への前眼部診療の提供が可能である.CIII結論重篤な眼合併症を伴うCSJS症例に対して,DED専門医とのCDCtoD遠隔診療による治療介入は有用であった.遠隔診療が可能な医療機器の導入により,あらゆる医療機関で専門的治療が提供できる可能性があり,地域の医療格差の解消にも寄与できると考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)塩原哲夫,狩野葉子,水川良子ほか:重症多形滲出性紅斑スティーヴンス・ジョンソン症候群・中毒性表皮壊死症診療ガイドライン.日皮会誌126:1637-1685,C20162)石子智士,吉田晃敏:眼科における遠隔診療の可能性.眼科C58:43-50,C20163)石子智士,守屋潔,木ノ内玲子ほか:眼科遠隔医療支援ガイドライン(旭川医大版).日本遠隔医療学会雑誌C12:C181-184,C20164)ArakiCY,CSotozonoCC,CInatomiCTCetal:SuccessfulCtreat-mentCofCStevens-JohnsonCsyndromeCwithCsteroidCpulseCtherapyCatCdiseaseConset.CAmCJCOphthalmolC147:1004-1011,C20095)SotozonoCC,CUetaCM,CKoizumiCNCetal:DiagnosisCandCtreatmentofStevens-Johnsonsyndromeandtoxicepider-malCnecrolysisCwithCocularCcomplications.COphthalmologyC116:685-690,C20096)SotozonoCC,CUetaCM,CKinoshitaS:Japan:DiagnosisCandCmanagementCofCStevens-JohnsonCsyndrome/toxicCepider-malCnecrolysisCwithCsevereCocularCcomplications.CFrontMed(Lausanne)C8:657327,C20217)吉川大和,外園千恵:Stevens-Johnson症候群の治療.CFrontiDryEye1:51-54,C20178)ShimizuE,YazuH,AketaNetal:AvalidationstudyforevaluatingCtheCtearC.lmCbreakupCtimeCinCdryCeyeCdiseaseCpatients.TranslVisSciTechnolC10:28,C20219)清水映輔:スマートアイカメラ(SEC)を用いた,前眼部遠隔診療,視覚の科学42:32-34,C202110)石子智士:特集遠隔医療の現状とこれからの展開2.事例紹介:地域における遠隔医療の有用性と課題,医事新報C4840:32-36,C2017***

アジスロマイシン(アジマイシン点眼液1%)の細菌学的効果に 関する特定使用成績調査

2022年12月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科39(12):1661.1675,2022cアジスロマイシン(アジマイシン点眼液1%)の細菌学的効果に関する特定使用成績調査山際智充坂本祐一郎末信敏秀千寿製薬株式会社Post-MarketingSurveillanceofAzithromycin(AZIMYCINOphthalmicSolution1%)forBacterialOcularInfectionTomomitsuYamagiwa,YuichiroSakamotoandToshihideSuenobuCSenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.C細菌性外眼部感染症に対するアジスロマイシン(アジマイシン点眼液C1%)の使用成績調査を実施した.安全性解析対象症例C500例,有効性解析対象症例C450例について安全性,有効性の検討を行った.副作用発現率はC3.80%(19/500)で,おもな副作用は,眼刺激(8件),眼瞼炎(3件),眼痛および眼の異物感(各C2件)であり,いずれも眼局所における事象であった.担当医師が,臨床経過などに基づき総合的に判断した全般改善度(有効性)により算出した有効率はC86.9%(391/450)であった.以上の結果,本剤は細菌性外眼部感染症に対して有用な点眼薬であると評価された.CInCthisCstudy,CweCperformedCaCpost-marketingCdrug-useCresultCsurveyCofazithromycin(AZIMYCINCOphthal-micCSolution1%)inCpatientsCwithCbacterialCocularCinfection.CFive-hundredCpatientsCwereCevaluatedConCtheCsafetyCandC450CpatientsCwereCevaluatedConCtheCe.cacy.CTheCincidenceCrateCofCadverseCdrugCreactionsCwas3.80%(19/500)C.TheCadverseCeventsCincludedCeyeirritation(8incidents)C,blepharitis(3incidents)C,Ceyepain(2incidents)C,CandCfor-eignbodysensationintheeyes(2incidents)C,whichwereobservedatthedrugadministrationsite.Inthee.cacyevaluationCbasedConCclinicalC.ndings,CtheCe.cacyCrateCwas86.9%(391/450)C.COurC.ndingsCsuggestCthatCAZIMY-CINRCOphthalmicSolution1%isasafeande.ectivemedicationforthetreatmentofpatientsa.ictedwithbacteri-alocularinfection.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(12):1661.1675,C2022〕Keywords:アジスロマイシン,アジマイシン点眼液C1%,副作用,有効性,細菌学的効果.azithromycin,CAZI-MYCINRophthalmicsolution1%,adversedrugreaction,e.cacy,bacteriologicale.ect.はじめに細菌性外眼部感染症の治療にあたっては,抗菌薬の適正使用の観点から,患者背景や感染経路を考慮するとともに,特徴的な臨床所見から起炎菌を推定して,有効な抗菌薬を選択することが望まれる.しかし,国内の眼感染症に対する抗菌薬の使用実態は,初診時に起炎菌を同定できないため,経験則的に,強い抗菌活性と広い抗菌スペクトルを有するフルオロキノロン系抗菌薬(オフロキサシン,ノルフロキサシン,ロメフロキサシン,レボフロキサシン,ガチフロキサシン,トスフロキサシンおよびモキシフロキサシン)が汎用されている.このようなフルオロキノロン系抗菌薬の眼感染症への応用は,1987年にオフロキサシン点眼液が承認されて以来,1989年にノルフロキサシン点眼液,1994年にロメフロキサシン点眼液,2000年にレボフロキサシン点眼液,2004年にガチフロキサシン点眼液,2006年にトスフロキサシン点眼液およびモキシフロキサシン点眼液と続き,さらには,2010年に従来のC3倍濃度のレボフロキサシン点眼液が承認されてきた.一方,フルオロキノロン系以外の抗菌薬は,1987年にセフェム系のセフメノキシム点眼用,2009年にグリコペプチド系のバンコマイシン眼軟膏の承認に止まり,フルオロキノロン系以外の選択肢はきわめて限定的である.眼科診療における抗菌薬のC9割以上をフルオロキノロン系が占〔別刷請求先〕山際智充:〒541-0048大阪市中央区瓦町C3-1-9千寿製薬株式会社信頼性保証本部医薬情報企画部Reprintrequests:TomomitsuYamagiwa,MedicalInformationPlanningDepartment,Safety&QualityManagementDivision,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,3-1-9Kawara-machi,Chuo-ku,Osaka541-0048,JAPANCめる1)なか,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistantCStaphylococcusaureus:MRSA),コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negativeCStaphylococci:CNS),淋菌,コリネバクテリウムの同系抗菌薬への耐性化が問題視されている2.5).アジスロマイシン(AZM)は,ファイザー社が開発した15員環マクロライド系抗生物質であり,細菌のC70SリボゾームのC50Sサブユニットと結合し,細菌の蛋白合成を阻害することにより抗菌作用を示す.国内での点眼への応用は,2019年に結膜炎・眼瞼炎・涙.炎・麦粒腫を適応症とする「アジマイシン点眼液C1%」(以下,本剤)として製造販売承認された.本剤は,製剤化技術(DuraSite)により薬剤滞留性が高められた製剤であり6),結膜炎に対しては最初のC2日間はC1日C2回,その後のC5日間はC1日C1回,眼瞼炎・涙.炎・麦粒腫に対しては最初のC2日間はC1日C2回,その後の12日間はC1日C1回であり,他の抗菌薬に比べて点眼回数が少ない.今回筆者らは,本剤の製造販売後における抗菌活性推移の把握,安全性および有効性の確認を目的に,計C2回の特定使用成績調査を計画し,その第C1回調査(以下,本調査)を2019年C9月.2021年C9月に実施し,製造販売後の使用実態下における成績を得たので報告する.なお,本調査は,GPSP省令(「医薬品の製造販売後の調査および試験の実施の基準に関する省令」平成C16年C12月C20日付厚生労働省令第171号)に従い実施した.CI対象および方法1.調査対象および目標症例数調査対象は,本調査に参加した医療施設において,本剤の使用経験がなく,適応症である細菌性外眼部感染症(結膜炎・眼瞼炎・涙.炎・麦粒腫)に対して本剤が投与された症例とし,目標症例数はC500例とした.C2.調査方法および調査項目本調査は連続調査方式にて実施した.観察期間は,本剤投与開始日から投与終了時までとし,来院ごとに各所見(表1)の観察および細菌検査検体採取を実施し,electronicCdatacapture(EDC)にてデータを収集した.調査項目は,患者背景(性別,年齢,使用理由,発症日,合併症,既往歴,アレルギー歴),本剤の使用状況,併用薬,併用療法,臨床経過,有害事象,全般改善度,細菌学的効果とした.実施医療機関にて採取された細菌検査検体は,輸送用培地(カルチャースワブプラス)を用いて検査施設である一般財団法人阪大微生物病研究会に輸送した.検査施設では,検体からの細菌分離と同定,さらに分離菌に対するCAZMの最小発育阻止濃度(minimuminhibitoryconcentration:MIC)を測定した.3.安全性評価本剤との因果関係にかかわらず,観察期間中に発現した医学的に好ましくないすべての事象(徴候,症状または疾病)を有害事象とし,そのうち本剤との因果関係が否定できないものを副作用とし,安全性解析対象症例における副作用発現率および内容を評価した.有害事象の器官別大分類および基本語への分類は,ICH国際医薬用語集日本語版(MedDRA/CJVer.24.1)に基づいた.器官別大分類および基本語ごとに副作用の発現症例数とその割合を集計した.副作用発現件数については,同一症例に同一基本語が複数回発現した場合にもC1件として取り扱い,その合計を集計した.C4.有効性評価有効性評価は,有効性解析対象症例における全般改善度および臨床症状とした.全般改善度は,本剤投与終了・中止時に担当医師が本剤投与開始後の臨床経過および初診時検出菌の消失状況などより総合的に判断し,「有効」「無効」「悪化」および「判定不能」のC3段階C4区分で評価した.このうち「無効」および「悪化」と判定された症例を無効例とし,「判定不能」を分母から除いた有効率を算出した.初診時検出菌別の有効率の算出については,初診時検出菌が複数菌種検出された場合は検出菌ごとにC1症例とし,同一症例に同一菌種が複数株検出された場合にもC1症例として取り扱った.臨床症状は,他覚的所見および自覚症状をスコア化(表1)し,本剤投与前後の合計スコアを比較した.C5.統計解析副作用発現率および有効率に影響を及ぼす要因を特定するため,Cc2検定(有意水準は両側C5%)を用いて評価対象症例全体および対象疾患ごとに各患者背景因子別のカテゴリー間で解析を実施し,副作用発現率および有効率を比較した.本剤投与前後の臨床症状の合計スコアの比較は,Wilcoxon符号付順位検定(有意水準は両側C5%)を用いて対象疾患ごとに実施した.統計解析ソフトウェアはCSAS(Ver.9.4)を用いた.なお,複数の対象疾患を併発している場合は,担当医師の判断により症状の重い疾患を対象とした.C6.細菌学的効果細菌学的効果は,細菌学的効果評価対象症例における初診時検出菌別の消失率を評価した.消失については,初診時に検出された菌種ごとに判定し,同一の菌種が検出されなかった時点で「消失」と判定した.C7.最小発育阻止濃度(MIC)抗菌活性評価対象症例における初診時検出菌のCAZMのMICをCClinicalandLaboratoryStandardsInstitute(CLSI)M1002018年版(28thEdition)7)に準じた微量液体希釈法にて測定した.ブドウ球菌属はオキサシリン(MPIPC)感受性にて細分類し,MPIPCのCMICがC2Cμg/ml以下の黄色ブドウ球菌をCmethicillin-susceptibleCStaphylococcusCaureusC表1所見・症状スコア対象疾患評価項目結膜炎眼瞼炎涙.炎麦粒腫判定基準(スコア)眼瞼を翻転すれば,円蓋部結膜に眼脂を認める+(1)眼脂〇眼瞼を翻転すれば,眼瞼結膜に眼脂を認める++(2)眼瞼を翻転しなくても,眼瞼縁または眼瞼皮膚に眼脂を認める+++(3)軽度または部分的な充血を認める+(1)結膜充血〇〇中等度の充血を認める++(2)高度の充血を認める+++(3)数本の睫毛根部に分泌物を認める+(1)〇多数の睫毛根部に分泌物を認める++(2)眼瞼縁の軽度の充血を認めるが眼瞼皮膚の発赤がない+(1)眼瞼縁充血・眼瞼発赤〇眼瞼縁の高度の充血を認めるが眼瞼皮膚の発赤がない++(2)眼瞼縁の潰瘍または眼瞼皮膚の発赤を認める+++(3)睫毛根部の分泌物分泌物により複数の睫毛が束になっている来院ごとに各所見を観察し,本剤投与前後の合計スコアを比較した.痛くて開瞼不可能痛いが開瞼可能少し痛い痛くて我慢できない痛むが我慢できる押すと痛むたえずゴロゴロして開瞼不可能ゴロゴロするが開瞼可能〇異物感自覚症状時々ゴロゴロする涙が頻繁にこぼれる涙で眼が潤む眼瞼結膜の充血と眼瞼皮膚全体の発赤を認める眼瞼結膜の充血と眼瞼皮膚の部分的な発赤を認める眼瞼結膜の充血を認めるが眼瞼皮膚の発赤がない全体的に腫脹を認め,開瞼不可能自然に認める眼瞼腫脹〇全体的に腫脹を認めるが開瞼可能部分的な腫脹を認める涙.部の腫脹〇涙.皮膚瘻を形成している発赤を伴った腫脹を認める腫脹を認める圧迫で多量認める〇涙点からの逆流分泌物他覚的所見圧迫で少量認める結膜充血・眼瞼発赤〇流涙〇〇涙が時々こぼれる〇〇〇〇疼痛〇眼痛〇C.±全疾患・全項目共通所見なし:(0),所見ほとんどなし:(0.5).+++(3)++(2)+(1)+++(3)++(2)+(1)+++(3)++(2)+(1)+++(3)++(2)+(1)+++(3)++(2)+(1)+++(3)++(2)+(1)+++(3)++(2)+(1)+++(3)++(2)+(1)+++(3)図1症例構成図調査完了症例C500例に本剤未投与症例はなく,全例を安全性解析対象症例とした.(MSSA),4Cμg/ml以上のものをCMRSAとした.CII結果1.症例構成図1に症例構成図を示した.調査完了症例C500例の全例が安全性解析対象症例(結膜炎C281例,眼瞼炎C63例,涙.炎C48例,麦粒腫C108例)であった.安全性解析対象症例から本剤の過量投与症例および有効性判定不能症例を除外した結果,有効性解析対象症例はC450例(結膜炎C249例,眼瞼炎54例,涙.炎C43例,麦粒腫C104例),安全性解析対象症例から初診時検出菌陰性症例,本剤の過量投与症例および本剤投与終了翌々日以降に検体採取された症例を除いた細菌学的効果評価対象症例はC451例(結膜炎C246例,眼瞼炎C58例,涙.炎C45例,麦粒腫C102例)であった.調査完了症例から初診時検出菌陰性症例を除いた抗菌活性評価対象症例はC484例(結膜炎C271例,眼瞼炎C61例,涙.炎C46例,麦粒腫C106例)であった.C2.患者背景安全性解析対象症例の患者背景因子別の内訳を表2に示した.年齢分布は,65歳以上C75歳未満C96例,75歳以上C80歳未満C64例,80歳以上C139例であり,65歳以上の高齢者がC59.8%(299/500)を占め,全体の平均年齢はC62.1C±23.78であった.対象疾患は,結膜炎がもっとも多く全体のC56.2%を占め,ついで麦粒腫がC21.6%であった.表2患者背景因子別症例数患者背景因子内訳対象疾患全体結膜炎眼瞼炎涙.炎麦粒腫性別男C184C108C18C13C45女C316C173C45C35C63妊娠なしC316C173C45C35C63ありC0C0C0C0C0年齢7歳未満C12C6C0C1C57歳以上C15歳未満C22C6C1C0C1515歳以上C65歳未満C167C81C15C9C6265歳以上C75歳未満C96C64C9C9C1475歳以上C80歳未満C64C35C13C11C580歳以上C139C89C25C18C7平均年齢C62.1±23.78C65.7±21.58C70.0±20.20C73.1±16.08C43.3±24.01罹病期間3日未満C162C86C9C12C553日以上C8日未満C123C75C8C7C338日以上C15日未満C42C30C3C1C815日以上C36C19C6C7C4不明C137C71C37C21C8合併症なしC182C96C11C13C62ありC243C142C48C27C26不明C75C43C4C8C20眼疾患なしC306C168C21C29C88ありC194C113C42C19C20肝疾患なしC381C213C54C34C80ありC0C0C0C0C0不明C119C68C9C14C28腎疾患なしC375C210C52C34C79ありC6C2C2C0C2不明C119C69C9C14C27その他の疾患なしC253C136C32C18C67ありC118C67C20C17C14不明C129C78C11C13C27既往歴なしC292C153C40C28C71ありC128C75C17C11C25不明C80C53C6C9C12眼疾患なしC310C160C44C29C77ありC110C68C13C10C19その他の疾患なしC397C218C52C38C89ありC23C10C5C1C7アレルギー歴なしC357C197C49C32C79ありC73C42C10C4C17不明C70C42C4C12C12投与期間3日未満C0C0C0C0C03日以上C8日未満C291C264C5C4C188日以上C15日未満C205C17C57C43C8815日以上C4C0C1C1C2前治療薬なしC314C182C21C26C85ありC186C99C42C22C23併用薬なしC237C141C21C29C46ありC263C140C42C19C62併用療法なしC444C274C61C28C81ありC56C7C2C20C27対象疾患の内訳は,結膜炎がC56.2%,麦粒腫がC21.6%であった.年齢は,65歳以上がC59.8%を占め,全体の平均年齢はC62.1C±23.78歳であった.(97)あたらしい眼科Vol.39,No.12,2022C1665表3副作用発現率対象疾患全体結膜炎眼瞼炎涙.炎麦粒腫安全性解析対象症例数C500C281C63C48C108副作用の発現症例数C19C13C3C1C2副作用の発現症例率3.80%4.63%4.76%2.08%1.85%眼障害18(C3.60%)12(C4.27%)3(4C.76%)1(2C.08%)2(1C.85%)眼刺激8(1C.60%)6(2C.14%)1(1C.59%)C01(0C.93%)眼瞼炎3(0C.60%)2(0C.71%)1(1C.59%)C0C0眼痛2(0C.40%)2(0C.71%)C0C0C0眼の異物感2(0C.40%)1(0C.36%)C01(2C.08%)C0結膜炎1(0C.20%)1(0C.36%)C0C0C0アレルギー性結膜炎1(0C.20%)1(0C.36%)C0C0C0角膜浮腫1(0C.20%)1(0C.36%)C0C0C0点状角膜炎1(0C.20%)1(0C.36%)C0C0C0霧視1(0C.20%)1(0C.36%)C0C0C0眼瞼紅斑1(0C.20%)C01(1C.59%)C0C0眼瞼浮腫1(0C.20%)C01(1C.59%)C0C0結膜充血1(0C.20%)C01(1C.59%)C0C0眼そう痒症1(0C.20%)C01(1C.59%)C0C0麦粒腫1(0C.20%)C0C0C01(0C.93%)一般・全身障害および投与部位の状態1(0C.20%)1(0C.36%)C0C0C0投与部位不快感1(0C.20%)1(0C.36%)C0C0C0副作用名はCICH国際医療用語集日本語版(MedDRA/JVer.24.1)に基づき器官別大分類(SOC)ごとに分類し,基本語(PT)で記載した.3.安全性1)副作用発現状況安全性解析対象症例における副作用発現率を表3に示した.すなわち,19例(26件)に副作用が発現したことから,副作用発現症例率はC3.80%であった.また,2例以上に認められた副作用は「眼刺激」8例C8件(結膜炎C6例C6件,眼瞼炎1例1件,麦粒腫1例1件),「眼瞼炎」3例3件(結膜炎2例2件,眼瞼炎1例1件),「眼痛」2例2件(結膜炎2例2件)および「眼の異物感」2例C2件(結膜炎C1例C1件,涙.炎C1例C1件)であり,いずれも使用上の注意から予測できる非重篤な副作用であった.このほか,重篤な副作用は認められなかった.2)患者背景要因別副作用発現状況安全性解析対象症例を対象とし,対象疾患別,性別,年齢別,罹病期間別,合併症,既往歴,アレルギー歴,前治療薬,併用薬,1日平均投与量および併用療法の有無別にて副作用発現率を比較した(表4).合併症,合併症(眼疾患),合併症(その他の疾患),既往歴,既往歴(眼疾患),前治療薬の有無別およびC1日平均投与量別で有意差が認められた.合併症,合併症(眼疾患),合併症(その他の疾患),既往歴,既往歴(眼疾患)および前治療薬の有無別では,いずれも「あり」群は「なし」群に比べ発現率が有意に高かった.1日平均投与量別では「2滴以上C3滴未満」群は「2滴未満」群に比べ発現率が有意に高かった.累積症例数を母数とした投与期間別および総投与量別では,投与期間が長くなる,または投与量が多くなると副作用発現率が上昇するという傾向は認められなかった.C4.有効性1)有効率有効性解析対象症例の対象疾患別の有効率を表5に示した.すなわち,全例での有効率はC86.9%であり,対象疾患別の有効率は,結膜炎C88.0%,眼瞼炎C75.9%,涙.炎C79.1%および麦粒腫C93.3%であった.2)患者背景要因別有効率有効性解析対象症例を対象とし,患者背景要因別に有効率を比較した(表5).その結果,合併症(眼疾患)の有無別で有意差が認められ,合併症(眼疾患)「あり」群は「なし」群に比べ有効率が有意に低かったが,「あり」群においても82.7%の有効率であった.3)初診時検出菌別の有効率有効性解析対象症例の初診時検出菌別の有効率を表6に示した.ブドウ球菌属でC87.5%,レンサ球菌属でC92.9%,肺炎球菌C100.0%,コリネバクテリウム属でC95.1%,アクネ菌表4患者背景因子別副作用発現率患者背景因子症例数副作用発現症例数副作用発現症例率(%)検定対象疾患結膜炎C281C13C4.63Cp=0.5334眼瞼炎C63C3C4.76涙.炎C48C1C2.08麦粒腫C108C2C1.85性別男C184C4C2.17p=0.1467女C316C15C4.75C妊娠なしC316C15C4.75検定不可ありC0C─C─年齢7歳未満C12C0C0.00Cp=0.56807歳以上C15歳未満C22C0C0.0015歳以上C65歳未満C167C4C2.4065歳以上C75歳未満C96C4C4.1775歳以上C80歳未満C64C3C4.6980歳以上C139C8C5.76罹病期間3日未満C162C6C3.70Cp=0.19913日以上C8日未満C123C3C2.448日以上C15日未満C42C0C0.0015日以上C36C3C8.33不明C137C7C5.11合併症なしC182C3C1.65Cp=0.0219*ありC243C15C6.17不明C75C1C1.33眼疾患なしC306C6C1.96Cp=0.0069*ありC194C13C6.70肝疾患なしC381C17C4.46検定不可ありC0C─C─不明C119C2C1.68腎疾患なしC375C16C4.27Cp=0.6052ありC6C0C0.00不明C119C3C2.52その他の疾患なしC253C6C2.37Cp=0.0167*ありC118C9C7.63不明C129C4C3.10既往歴なしC292C9C3.08Cp=0.0318*ありC128C10C7.81不明C80C0C0.00眼疾患なしC310C10C3.23Cp=0.0317*ありC110C9C8.18その他の疾患なしC397C17C4.28Cp=0.3221ありC23C2C8.70アレルギー歴なしC357C15C4.20Cp=0.9714ありC73C3C4.11不明C70C1C1.43投与期間3日未満C500C9C1.80累積集計のため3日以上C8日未満C500C8C1.60検定不可8日以上C15日未満C209C2C0.9615日以上C4C0C0.001日平均投与量2滴未満C337C7C2.08Cp=0.0111*2滴以上C3滴未満C159C12C7.553滴以上C4C0C0.00総投与量9滴未満C500C10C2.00累積集計のため9滴以上C19滴未満C432C8C1.85検定不可19滴以上C33滴未満C54C1C1.8533滴以上C0C─C─前治療薬なしC314C7C2.23Cp=0.0170*ありC186C12C6.45併用薬なしC237C7C2.95p=0.3474ありC263C12C4.56C併用療法なしC444C16C3.60Cp=0.5178ありC563C5.36C対象疾患別の副作用発現率に有意な差は認められなかったが,複数の因子で有意な差が認められた.表5患者背景因子別有効率患者背景因子症例数有効例無効例判定不能有効率(%)検定対象疾患対象疾患全体C結膜炎C眼瞼炎C涙.炎C麦粒腫C450C249C54C43C104C391C219C41C34C97C59C30C13C9C7C28C14C8C4C2C86.9C88.0C75.979.193.3─p=0.0075*性別男C女C169C281C143C248C26C33C6C22C84.6C88.3p=0.2678妊娠なしCありC281C0C248C─C33C─C22C0C88.3─検定不可年齢7歳未満C7歳以上C15歳未満C15歳以上C65歳未満C65歳以上C75歳未満C75歳以上C80歳未満C80歳以上C11C22C156C85C52C124C10C21C138C73C42C107C1C1C18C12C10C17C0C0C8C6C8C6C90.9C95.588.585.980.886.3p=0.5881罹病期間3日未満C3日以上C8日未満C8日以上C15日未満C15日以上C不明C148C113C39C30C120C134C100C37C26C94C14C13C2C4C26C6C7C1C4C10C90.5C88.594.986.778.3p=0.6300合併症なしCありC不明C172C208C70C151C176C64C21C32C6C5C19C4C87.8C84.691.4p=0.3738眼疾患なしCありC282C168C252C139C30C29C12C16C89.4C82.7p=0.0441*肝疾患なしCありC不明C342C0C108C295C─C96C47C─C12C20C0C8C86.3─88.9検定不可腎疾患なしCありC不明C337C5C108C290C5C96C47C0C12C20C0C8C86.1C100.088.9p=0.3686その他の疾患なしCありC不明C238C98C114C206C83C102C32C15C12C8C7C13C86.6C84.789.5p=0.6549既往歴なしCありC不明C267C109C74C228C97C66C39C12C8C14C10C4C85.4C89.089.2p=0.3553眼疾患なしCありC283C93C241C84C42C9C16C8C85.2C90.3p=0.2071その他の疾患なしCありC356C20C310C15C46C5C22C2C87.1C75.0p=0.1248投与期間3日未満C3日以上C8日未満C8日以上C15日未満C15日以上C0C274C176C0C─C242C149C─C─C32C27C─C0C15C13C0C─C88.384.7─p=0.26141日平均投与量(評価対象眼あたり)1滴未満C1滴以上C2滴未満C2滴以上C0C450C0C─C391C─C─C59C─C0C28C0C─86.9─検定不可総投与量(評価対象眼あたり)5滴未満C5滴以上C10滴未満C10滴以上C17滴未満C17滴以上C0C274C176C0C─C242C149C─C─C32C27C─C0C15C13C0C─C88.384.7─p=0.2614前治療薬なしCありC287C163C254C137C33C26C16C12C88.5C84.0p=0.1786併用薬なしCありC209C241C177C214C32C27C19C9C84.7C88.8p=0.1979併用療法なしCありC396C54C345C46C51C8C27C1C87.1C85.2p=0.6925合併症(眼疾患)の有無で有効率に有意な差が認められた.表6初診時検出菌別有効率対象疾患全体結膜炎眼瞼炎涙.炎麦粒腫初診時検出菌検出有効率検出有効率検出有効率検出有効率検出有効率症例数(%)症例数(%)症例数(%)症例数(%)症例数(%)グラム陽性菌C429C87.2C233C88.4C52C76.9C42C78.6C102C93.1ブドウ球菌属C335C87.5C192C87.5C41C78.0C29C79.3C73C95.9CStaphylococcusepidermidisC186C92.5C110C93.6C25C84.0C14C85.7C37C97.3CStaphylococcusaureus(MSSA)C110C86.4C57C86.0C14C64.3C8C87.5C31C96.8CStaphylococcusaureus(MRSA)C29C62.1C17C52.9C3C66.7C3C66.7C6C83.3その他ブドウ球菌属C59C89.8C38C94.7C5C80.0C6C50.0C10C100.0レンサ球菌属C28C92.9C14C92.9C6C100.0C7C85.7C1C100.0肺炎球菌C2C100.0C2C100.0C0C─C0C─C0C─その他レンサ球菌属C26C92.3C12C91.7C6C100.0C7C85.7C1C100.0CCorynebacteriumCsp.C162C95.1C89C96.6C19C94.7C17C82.4C37C97.3CCutibacteriumacnesC142C88.0C73C91.8C17C82.4C14C78.6C38C86.8その他グラム陽性菌C50C94.0C26C100.0C5C60.0C9C88.9C10C100.0グラム陰性菌C85C89.4C59C89.8C8C87.5C14C85.7C4C100.0CHaemophilusin.uenzaeC13C84.6C10C80.0C0C─C2C100.0C1C100.0その他グラム陰性菌C72C90.3C49C91.8C8C87.5C12C83.3C3C100.0Cutibacteriumacnes:アクネ菌(旧CPropionibacteriumacnes),Haemophilusin.uenzae:インフルエンザ菌.初診時検出菌別の有効率はブドウ球菌属C87.5%,レンサ球菌属C92.9%,肺炎球菌C100.0%,コリネバクテリウム属C95.1%,アクネ菌C88.0%,インフルエンザ菌C84.6%であった.表7症状スコア合計の推移対象疾患症状スコア合計投与開始時C3±1日C7±1日C14±2日最終観察時検定平均値±SDC3.93±1.755C0.81±1.162C1.02±1.315C─C0.96±1.315p<0.0001*結膜炎症例数C243C32C170C─C243スコア比C─C0.21C0.26C─C0.24C眼瞼炎平均値±SDC症例数Cスコア比C5.09±2.387C54C─C4.00±2.828C2C0.79C1.93±1.657C20C0.38C1.82±1.710C31C0.36C2.27±2.341540.45p<C0.0001*涙.炎平均値±SDC症例数Cスコア比C4.15±2.581C43C─C3.50±0.000C2C0.84C2.05±2.087C22C0.49C1.26±0.903C21C0.30C1.67±1.683430.40p<C0.0001*麦粒腫平均値±SDC症例数Cスコア比C4.99±2.875C101C─C1.33±1.277C29C0.27C1.20±1.870C32C0.24C0.63±0.815C23C0.13C0.93±1.3061010.19p<C0.0001*いずれの疾患においても最終観察時のスコアは本剤投与開始時と比較して有意に低下していた.SD:標準偏差.でC88.0%,インフルエンザ菌でC84.6%であった.MRSAの有効率はC62.1%と他の菌種と比較して低い傾向にあった.4)臨床症状スコア有効性解析対象症例の対象疾患別の他覚的所見および自覚症状の合計スコアの推移を表7に示した.いずれの疾患においても最終観察時のスコアは本剤投与開始時と比較して有意に低下していた.C5.細菌学的効果表8に示したとおり,細菌学的効果評価対象症例における初診時分離菌株数はC922株であり,グラム陽性菌および陰性菌の割合は,それぞれC89.4%およびC10.6%であった.菌種別の分布は,ブドウ球菌属C44.6%,レンサ球菌属C3.0%,肺炎球菌C0.2%,コリネバクテリウム属C20.2%,アクネ菌15.9%およびインフルエンザ菌C1.4%がおもな構成員であった.対象疾患別では,結膜炎および眼瞼炎の菌種の構成比は近似していたが,涙.炎ではブドウ球菌属の割合が低くグラム陰性菌の割合が高く,麦粒腫ではブドウ球菌属およびアクネ菌の割合が高くレンサ球菌属およびグラム陰性菌の割合が表8初診時検出菌別消失率対象疾患全体結膜炎眼瞼炎涙.炎麦粒腫初診時検出菌検出検出割合消失率検出検出割合消失率検出検出割合消失率検出検出割合消失率検出検出割合消失率株数(%)(%)株数(%)(%)株数(%)(%)株数(%)(%)株数(%)(%)全菌株C922C─C75.1C531C─C76.3C114C─C60.5C101C─C76.2C176C─C80.1Cグラム陽性菌C824C89.4C73.7C463C87.2C74.3C105C92.1C59.0C84C83.2C76.2C172C97.7C79.7Cブドウ球菌属C411C44.6C75.9C236C44.4C74.6C53C46.5C64.2C34C33.7C79.4C88C50.0C85.2StaphylococcusepidermidisC205C22.2C81.0C123C23.2C81.3C26C22.8C73.1C16C15.8C81.3C40C22.7C85.0Staphylococcusaureus(MSSA)C107C11.6C64.5C55C10.4C61.8C14C12.3C35.7C8C7.9C75.0C30C17.0C80.0Staphylococcusaureus(MRSA)C28C3.0C39.3C16C3.0C25.0C3C2.6C33.3C3C3.0C33.3C6C3.4C83.3その他ブドウ球菌属C71C7.7C93.0C42C7.9C90.5C10C8.8C90.0C7C6.9C100.0C12C6.8C100.0Cレンサ球菌属C28C3.0C92.9C14C2.6C100.0C6C5.3C66.7C7C6.9C100.0C1C0.6C100.0肺炎球菌C2C0.2100.0C2C0.4100.0C0C0.0C─C0C0.0C─C0C0.0C─その他レンサ球菌属C26C2.8C92.3C12C2.3C100.0C6C5.3C66.7C7C6.9C100.0C1C0.6C100.0CCorynebacteriumCsp.C186C20.2C79.6C108C20.3C78.7C21C18.4C66.7C20C19.8C80.0C37C21.0C89.2CutibacteriumacnesC147C15.9C53.1C78C14.7C59.0C19C16.7C26.3C14C13.9C57.1C36C20.5C52.8その他グラム陽性菌C52C5.6C82.7C27C5.1C85.2C6C5.3C83.3C9C8.9C66.7C10C5.7C90.0Cグラム陰性菌C98C10.6C86.7C68C12.8C89.7C9C7.9C77.8C17C16.8C76.5C4C2.3C100.0CHaemophilusin.uenzaeC13C1.4C100.0C10C1.9C100.0C0C0.0C─C2C2.0C100.0C1C0.6C100.0その他グラム陰性菌C85C9.2C84.7C58C10.9C87.9C9C7.9C77.8C15C14.9C73.3C3C1.7C100.0CCutibacteriumacnes:アクネ菌(旧CPropionibacteriumacnes),Haemophilusin.uenzae:インフルエンザ菌.結膜炎および眼瞼炎の菌種の構成比は近似していたが,涙.炎ではブドウ球菌属の割合が低くグラム陰性菌の割合が高く,麦粒腫ではブドウ球菌属およびアクネ菌の割合が高くレンサ球菌属およびグラム陰性菌の割合が低かった.表9年代別初診時検出菌15歳未満15歳以上C65歳未満65歳以上C75歳未満75歳以上C80歳未満80歳以上初診時検出菌検出割合検出割合検出割合検出割合検出割合検出株数(%)検出株数(%)検出株数(%)検出株数(%)検出株数(%)全菌株C54C─284─186─108─290─Cグラム陽性菌C49C90.7C266C93.7C168C90.3C93C86.1C248Cブドウ球菌属C29C53.7C138C48.6C84C45.2C48C44.4C112C38.6StaphylococcusepidermidisC7C13.0C78C27.5C46C24.7C22C20.4C52C17.9Staphylococcusaureus(MSSA)C14C25.9C30C10.6C17C9.1C12C11.1C34C11.7Staphylococcusaureus(MRSA)C4C7.4C6C2.1C7C3.8C5C4.6C6C2.1その他ブドウ球菌属C4C7.4C24C8.5C14C7.5C9C8.3C20C6.9Cレンサ球菌属C2C3.7C4C1.4C4C2.2C4C3.7C14C4.8肺炎球菌C0C0.0C00.0C10.5C00.0C10.3その他レンサ球菌属C2C3.7C4C1.4C3C1.6C4C3.7C13C4.5CCorynebacteriumCsp.C9C16.7C44C15.5C43C23.1C17C15.7C73C25.2CutibacteriumacnesC6C11.1C70C24.6C30C16.1C17C15.7C24C8.3その他グラム陽性菌C3C5.6C10C3.5C7C3.8C7C6.5C25C8.6Cグラム陰性菌C5C9.3C18C6.3C18C9.7C15C13.9C42CHaemophilusin.uenzaeC2C3.7C4C1.4C4C2.2C2C1.9C1C0.3その他グラム陰性菌C3C5.6C14C4.9C14C7.5C13C12.0C41C14.1CCutibacteriumacnes:アクネ菌(旧CPropionibacteriumacnes),Haemophilusin.uenzae:インフルエンザ菌.加齢に伴いグラム陽性菌の割合が低下し,とくにC80歳以上ではブドウ球菌属およびアクネ菌の割合が低かったが,コリネバクテリウム属の割合は高かった.表10初診時検出菌の最小発育阻止濃度MIC(μg/ml)初診時検出菌C≦0.06C0.13C0.25C0.5C1C2C4C8C16C32C64C128>128合計最小最大CMIC50CMIC90C全菌株C47C135C110C145C118C34C32C15C23C38C28C61C213C999C≦0.06>128C1>128グラム陽性菌C47C134C107C132C110C27C23C8C13C20C20C44C208C893C≦0.06>128C1>128ブドウ球菌属C0C0C34C103C98C13C5C1C1C10C10C27C135C437C0.25>128C1>128StaphylococcusepidermidisC0C0C20C67C30C1C1C1C1C8C10C22C56C217C0.25>128C1>128Staphylococcusaureus(MSSA)C0C0C0C4C54C8C3C0C0C0C0C3C40C112C0.5>128C1>128Staphylococcusaureus(MRSA)C0C0C0C1C2C1C0C0C0C0C0C0C27C31C0.5>128>128>128その他ブドウ球菌属C0C0C14C31C12C3C1C0C0C2C0C2C12C77C0.25>128C0.5>128レンサ球菌属C8C6C0C5C4C4C2C0C0C0C0C0C332≦0.06>128C0.54肺炎球菌C0C00001000000C122>128C──その他レンサ球菌属C8C6C0C5C4C3C2C0C0C0C0C0C230≦0.06>128C0.54CCorynebacteriumCsp.C22C39C19C14C3C6C7C2C11C9C10C16C46C204C≦0.06>128C2>128CutibacteriumacnesC15C85C45C4C0C1C0C0C0C1C0C1C8C160C≦0.06>128C0.13C0.25その他グラム陽性菌C2C4C9C6C5C3C9C5C1C0C0C0C16C60≦0.06>128C4>128グラム陰性菌C0C1C3C13C8C7C9C7C10C18C8C17C51060.13>128C16C128CHaemophilusin.uenzaeC0C1C1C8C3C0C0C0C0C0C0C0C0C130.13C1C0.5C1その他グラム陰性菌C0C0C2C5C5C7C9C7C10C18C8C17C5C930.25>128C32C128CCutibacteriumacnes:アクネ菌(旧CPropionibacteriumacnes),Haemophilusin.uenzae:インフルエンザ菌.MIC90は,アクネ菌C0.25Cμg/ml,インフルエンザ菌C1Cμg/mlであった.肺炎球菌の検出はC10株未満であったため,MICC50およびCMICC90は算出はしなかった.低かった.一方,MRSAの分離頻度は,結膜炎C3.0%,眼瞼炎C2.6%,涙.炎C3.0%および麦粒腫C3.4%であり,同程度であった.初診時検出菌の消失率はC75.1%で,グラム陽性菌では73.7%,グラム陰性菌ではC86.7%であった.菌種別では,ブドウ球菌属C75.9%,レンサ球菌属C92.9%,肺炎球菌C100.0%,コリネバクテリウム属C79.6%,アクネ菌C53.1%,インフルエンザ菌C100.0%であった.一方,MRSAの消失率はC39.3%であったことから,他の菌種と比較して低い傾向にあった.表9に示したとおり,年代別の初診時検出菌の分布は,加齢に伴いグラム陽性菌の割合が低下し,とくにC80歳以上ではブドウ球菌属およびアクネ菌の割合が低かったが,コリネバクテリウム属の割合は高かった.一方,グラム陰性菌の割合は加齢により上昇していた.また,MRSAの検出割合は15歳未満でC7.4%であり,年代別でもっとも高かった.C6.初診時検出菌に対するAZMのMIC抗菌活性評価対象症例における初診時検出菌のうち,10株以上検出された菌種に対するCAZMのCMIC(最小値,最大値,MICC50,MICC90)は表10に示したとおりであった.すなわち,初診時に分離された全菌株(999株)に対するCMICC90は>128μg/mlで,グラム陽性菌(893株)では>128μg/ml,グラム陰性菌(106株)ではC128Cμg/mlであった.菌種別では,ブドウ球菌属>128Cμg/ml,レンサ球菌属C4Cμg/ml,コリネバクテリウム属>128Cμg/ml,アクネ菌C0.25Cμg/ml,インフルエンザ菌C1Cμg/mlであった.CIII考察医療用医薬品の製造販売承認取得のための臨床試験(治験)は,症例数が限られ,組み入れられる症例の年齢,合併症,併用薬・併用療法などに制限が設けられている.このため,治験では得られないデータが存在することも事実である.そこで筆者らは,医薬品を使用する患者の条件を定めることのない製造販売後の使用実態下における安全性・有効性のデータを早期に収集し,医療現場に提供することは,医薬品の適正使用の観点から重要であると考え,医療機関の協力を得て本調査を実施した.その結果,副作用発現率はC3.80%であり,承認時までの試験成績(治験)における副作用発現症例率C10.06%(73/726)を上回ることはなかった8).本調査で認められたおもな副作用は「眼刺激」1.60%(8件),「眼瞼炎」0.60%(3件),「眼痛」および「眼の異物感」0.40%(各C2件)であり,すべての副作用は使用上の注意から予測できる非重篤な事象であった.また,発現した副作用(26件)はすべて前眼部の事象であり,おもに受診時の問診により検知される事象〔眼刺激(8件),眼痛(2件),眼の異物感(2件),霧視,眼掻痒症および投与部位不快感(各C1件)〕が半数以上を占めていた.このうち,毎回の点眼後に一過性に発現していた霧視は本剤特性である懸濁性9)あるいは粘性によるものと考えられるが,その他の事象は対象疾患による炎症に加え,前眼部の合併症に起因することが示唆された.すなわち,一般に速やかに回復のみられる角膜上皮欠損が遷延化する理由としてドライアイなどがあげられている10)が,類似の症状を有するアレルギー性結膜炎,後天性涙道狭窄およびマイボーム腺機能不全などの涙液層を含めた眼表面の状態が健全でない合併例が存在したことから,眼刺激などが自覚されやすかったものと推察された.このほか,対象疾患別,本剤曝露量の増加に伴う副作用発現率の上昇は認められなかったことから,現状の用法・用量において,本剤の安全性に関する重要な懸念はないものと考えられた.本調査全例における有効率はC86.9%であり,対象疾患別では,結膜炎C88.0%,眼瞼炎C75.9%,涙.炎C79.1%,麦粒腫C93.3%であり,治験における有効率(結膜炎C84.5.85.6%,眼瞼炎C70.0%,涙.炎C50.0%,麦粒腫C90.0%)と大きく乖離するものではなかった8).また,合併症(眼疾患)を有する患者において有効率が低かったが,おもな合併症(眼疾患)はドライアイ,白内障,緑内障,加齢黄斑変性であり,特定の合併症(眼疾患)が有効率に及ぼす影響は認められなかった.臨床所見合計スコアについては,結膜炎および麦粒腫では投与C3C±1日後,眼瞼炎および涙.炎では投与C7C±1日後に,ベースラインからC50%以上の低下を認めた.初診時検出菌の分布については,ブドウ球菌属およびコリネバクテリウム属をはじめとするグラム陽性菌の割合が89.4%であった.また,対象疾患別では,麦粒腫でのグラム陽性菌の割合がC97.7%ともっとも高かった一方で,涙.炎ではグラム陰性菌の割合がC16.8%でもっとも高かった.このような対象疾患別での初診時分離菌の特徴は,既報11)と同様であった.しかしながら,年齢別での分離菌の特徴として,小児期においてはインフルエンザ菌の分離頻度が高いことが知られている11,12)が,本調査におけるC15歳未満での分離頻度はC3.7%でありきわめて低かった.また,加齢に伴いコリネバクテリウム属の分離頻度が上昇する傾向については既報12)と同様であった.外眼部感染症の起炎菌として重要であるCMRSAの分離頻度は,結膜炎C3.0%,眼瞼炎C2.6%,涙.炎C3.0%および麦粒腫C3.4%であり,対象疾患別では同程度であった.一方,年齢別ではC15歳未満での分離頻度がC7.4%ともっとも高かった.全検出菌に占めるCMRSAの分離頻度はC3.0%であり既報(2%)13)と同程度であったが,年齢別においては高齢者(80歳以上)での分離頻度C2.1%に比して,若齢者での分離頻度が高かった原因については不明である.MRSA検出症例における有効率はC62.1%であり,他菌種よりも低い傾向にあり,MICが高値であったこと(MICC90:>128Cμg/ml),消失率がC39.3%と低かったことに起因するものと推察された.レンサ球菌属の全症例に占める分離頻度はC3.0%であり,肺炎球菌に至ってはC0.2%であった.対象疾患別でのレンサ球菌属の分離頻度は,涙.炎でのC6.9%がもっとも高く既報11)と同様の傾向を示した.レンサ球菌属検出症例に対する有効率はC92.9%で良好であり,これは消失率がC92.9%と高かったことに裏付けられるものと推察された.コリネバクテリウム属の分離頻度はC20.2%であり,全分離株数のC1/5を占めた.コリネバクテリウム属については,起炎性に関する議論の余地が残されるが他菌種と同様に評価した結果,有効率はC95.1%で良好であった.一方,MICC90が>128Cμg/mlであったことから低感受性株の存在は明らかであるものの,79.6%が消失し,臨床所見の改善が認められたことにより良好な有効率が得られたものと推察された.インフルエンザ菌の分離頻度はC1.4%で概して低かった.CMIC90はC1μg/ml,消失率はC100%であったが,有効率は84.6%であった.アクネ菌の全症例に占める分離頻度はC15.9%であり,対象疾患別では麦粒腫でC20.5%ともっとも高く,また年齢別ではC15歳以上C65歳未満でC24.6%ともっとも高く,80歳以上でC8.3%ともっとも低かった.また,MICC90はC0.25Cμg/mlであり,全菌種のなかでもっとも高い感受性を示したものの消失率はC53.1%であった.とくに,眼瞼炎での消失率は26.3%であり,対象疾患中,もっとも低かった.一方で,アクネ菌検出症例の全体での有効率はC88.0%で良好であった.初診時検出菌に対するCAZMの抗菌活性(MICC90)は,ブドウ球菌属>128Cμg/ml,レンサ球菌属C4Cμg/ml,コリネバクテリウム属>128Cμg/ml,アクネ菌C0.25Cμg/ml,インフルエンザ菌C1Cμg/mlであった.概して良好な成績とは言い難いが,アクネ菌に対する活性は優秀であった.以上のように,各検出菌に対するCAZMの抗菌活性,本剤投与後の初診時検出菌の消失率,臨床所見スコア推移などを指標とした総合的な有効性評価結果については,一部の考察において,各調査項目の因果が十分に検討できなかった.すなわち,ウサギの黄色ブドウ球菌感染モデルに対する本剤C1日C2回投与は,病原菌に対するCMICがC20倍異なるガチフロキサシンのC0.3%点眼液C1日C3回投与と同程度の感染症状抑制効果が示されており7),また,細菌によるバイオフィルムやエラスターゼ,プロテアーゼなどの毒性物質の産生抑制によって,細菌の病原性を低下させる14,15)ことが知られている.さらに,AZMの組織移行性は非感染部位に比べ感染部位で高い16,17).本調査においても,このようなCAZMの特徴が,臨床評価に影響した可能性は否定できない.以上の結果より,アジマイシン点眼液C1%は外眼部感染症治療に有用であり,フルオロキノロン系抗菌剤に依存した外眼部感染症治療に伴う耐性菌の出現や菌交代現象18)の抑制,少ない点眼回数によるアドヒアランスの向上など,眼感染症治療に貢献できる新たな選択肢の一つとなりうる薬剤であると考えられた.謝辞:本調査の実施に際し,貴重なデータをご提供いただきました医療機関ならびに調査担当医師の先生方に深謝いたします.利益相反::山際智充,坂本祐一郎,末信敏秀(カテゴリーE:千寿製薬)文献1)独立行政法人医薬品医療機器総合機構ホームページ(医療用医薬品情報検索)https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/CiyakuSearch/2)MillerCD,CFlynnCPM,CScottCIUCetal:InCvitroC.uoroqui-noloneCresistanceCinCstaphylococcalCendophthalmitisCiso-lates.ArchOphthalmolC124:479-483,C20063)中川尚:眼感染症の謎を解く,眼科プラクティス28(大橋裕一編),p382-383,文光堂,20094)鈴木崇:眼感染症の謎を解く,眼科プラクティス28(大橋裕一編),p408-409,文光堂,20095)江口洋:眼感染症の謎を解く,眼科プラクティス28(大橋裕一編),p412-413,文光堂,20096)UtineCA:Updateandcriticalappraisaloftheuseoftop-icalCazithromycinCophthalmic1%(AzaSiteCR)solutionCinCtheCtreatmentCofCocularCinfections.CClinCOphthalmolC5:C801-809,C20117)ClinicalandLaboratoryStandardsInstitute:Performancestandardsforantimicrobialsusceptibilitytesting;twenty-sixthCinformationalCsupplement,CCLSICdocumentCM100-S28,CClinicalCandCLaboratoryCStandardsCInstitute,CWayne.PA,20188)千寿製薬株式会社:アジマイシン点眼液CR1%医薬品インタビューフォーム(第C7版)9)大鳥聡:眼科プラクティス23眼科薬物治療CACtoCZ,p596-598,文光堂,200810)近間泰一郎,西田輝夫:角膜疾患の細胞生物学(木下茂編),眼科CNewInsight,第C5巻,p35-42,メジカルビュー社,199511)末信敏秀,川口えり子,星最智:ガチフロ点眼液C0.3%の細菌学的効果に関する特定使用成績調査.あたらしい眼科C31:1674-1682,C201412)加茂純子,村松志保,赤澤博美ほか:感受性からみた年代別眼科領域抗菌薬選択C2018.あたらしい眼科C37:484-489,C202013)小早川信一郎,井上幸次,大橋裕一ほか:細菌性結膜炎における検出菌・薬剤感受性に関するC5年間の動向調査(多施設共同研究).あたらしい眼科28:679-687,C201114)TatedaCK,CComteCR,CPechereCJCCetal:AzithromycinCinhibitsquorumsensinginpseudomonasaeruginosa.Anti-microbAgentsChemotherC45:1930-1933,C200115)SwattonCJE,CDavenportCPW,CMaundersCEACetal:Imapct17)横山秀一,三浦和美,武藤秀弥ほか:Azithromycinの感染CofCazithromycinConCtheCquorumCsensing-controlledCpro-組織への移行─オートラジオグラフィーによる検討─.日CteomeCofCpseudomonasCaeruginosa.CPLoSCOneC11:化療会誌C43:122-126,C1995Ce0147698,C201618)松本治恵,井上幸次,大橋裕一ほか:多施設共同による細16)RetsemaCJA,CBergeronCJM,CGirardCDCetal:Preferential菌性結膜炎における検出菌動向調査.あたらしい眼科C24:CconcentrationCofCazithromycinCinCanCinfectedCmouseCthighC647-654,C2007Cmodel.JAntimicrobChemotherC31:5-16,C1993***

角膜内皮移植と全層角膜移植の術後外傷性創離開に関する 検討

2022年12月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科37(12):1655.1660,2020c角膜内皮移植と全層角膜移植の術後外傷性創離開に関する検討奥拓明*1,2脇舛耕一*1福岡秀記*2稗田牧*2山崎俊秀*1稲富勉*2,3横井則彦*2外園千恵*2木下茂*1,4*1バプテスト眼科クリニック*2京都府立医科大学大学院医学研究科視機能再生外科学*3国立長寿医療研究センター*4京都府立医科大学感覚器未来医療学CAnalysisofTraumaticWoundDehiscenceAfterDescemetStrippingAutomatedEndothelialKeratoplastyandPenetratingKeratoplastyHiroakiOku1,2)C,KoichiWakimasu1),HidekiFukuoka2),OsamuHieda2),ToshihideYamasaki1),TsutomuInatomi2,3)C,NorihikoYokoi2),ChieSotozono2)andShigeruKinoshita1,4)1)BaptistEyeInstitute,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,3)NationalCenterforGeriatricsandGerontology,4)DepartmentofFrontierMedicalScienceandTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC目的:角膜内皮移植術(DSAEK)と全層角膜移植術(PKP)における角膜移植後の外傷性創離開について検討する.方法:2007年C8月.2020年C3月にバプテスト眼科クリニックで角膜移植術(DSAEK:895眼およびCPKP:733眼)を施行した症例を対象とした.そのうち,外傷症例に関して,外傷前矯正視力,移植から外傷までの期間,創離開の範囲,水晶体または眼内レンズ脱臼の有無,外傷後の移植片の状態を検討した.結果:DSAEK症例,PKP症例それぞれの術後外傷性創離開はC2眼(0.2%),15眼(2.0%)であり,DSAEK症例のほうがCPKP症例より有意に発症率が低かった(p<0.01).外傷前視力がC0.1未満の症例はCDSAEK症例でC0眼,PKP症例でC2眼であった.外傷性創離開の時期はCDSAEK症例,PKP症例それぞれ移植後平均C58.0C±38.0カ月,66.0C±39.0カ月であり,PKP症例に関しては移植片縫合糸抜去後C1カ月以内に外傷性創離開が生じた症例はC3眼(20.0%)であった.創離開の範囲はCDSAEK症例ではC2眼ともC180°未満であったが,PKP症例では15眼中8眼(53.3%)が180°以上であった.外傷時,水晶体または眼内レンズ脱出を認めた症例はCDSAEK症例ではC0眼,PKP症例ではC8眼であった.外傷性創離開後の経過ではCDSAEK症例はC2眼ともに移植片の透明性が維持できたが,PKP症例ではC8眼に移植片機能不全を認めた.結論:DSAEKはPKPと比較し,外傷性創離開の発症率は低く,重症度も低かった.CPurpose:ToinvestigatetraumaticwounddehiscenceafterDescemetstrippingautomatedendothelialkerato-plasty(DSAEK)andpenetratingCkeratoplasty(PKP)C.CMethods:ThisCstudyCinvolvedCeyesCthatChadCundergoneCDSAEKorPKPattheBaptistEyeInstitute,Kyoto,JapanfromAugust2007toMay2020.PatientswhodevelopedtraumaticCwoundCdehiscenceCafterCDSAEKCandCPKPCwereCevaluatedCforCtheCincidenceCrateCofCtraumaticCwoundCdehiscence,CtheCintervalCbetweenCtransplantationCandCtrauma,CtheCrangeCofCwoundCdehiscence,CdislocationCorCpro-lapseoflens,andthestateofthegraftaftertrauma.Results:Thisstudyinvolved895post-DSAEKeyesand733post-PKPeyes.Ofthe895post-DSAEKeyes,traumaticwounddehiscenceoccurredin2(0.2%)C.Ofthe733post-PKPCeyes,CtraumaticCwoundCdehiscenceCoccurredCin15(2.0%)C.CThereCwasCaCsigni.cantlyClowerCtraumaticCwoundCdehiscenceratepostDSAEKthanpostPKP(p<0.01)C.ThemeantimeintervalsbetweentransplantationandonsetofCtraumaCpostCDSAEKCandCPKPCwasC58.0±38.0CmonthsCandC66.0±39.0Cmonths,Crespectively.CIn3(20%)ofCtheCcasesthatunderwentPKP,traumaticwounddehiscenceoccurredwithin1monthpostremovalofthePKPsuture.TheareaofwounddehiscenceinallDSEAKcaseswaswithin180degrees,yetwasover180degreesin8(53.3%)CofthePKPcases.Dislocationorprolapseofthelensattraumaoccurredin8ofthePKPcasesandinnoneofthe〔別刷請求先〕奥拓明:〒606-8287京都市左京区北白川上池田町C12バプテスト眼科クリニックReprintrequests:HiroakiOku,BaptistEyeInstitute,12Kamiikeda-cho,Kitashirakawa,Sakyo-ku,Kyoto606-8287,JAPANC0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(87)C1655DSAEKcases.Followingtraumaticwounddehiscence,allDSAEKgraftsremainedclear,yetgraftfailureoccurre-din8ofthePKPeyes.Conclusions:ThereisalowerincidencerateoftraumaticwounddehiscenceandseveritypostDSAEKthanpostPKP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(12):1655.1660,C2022〕Keywords:角膜内皮移植術,全層角膜移植術,外傷,創離開.Descemetstrippingautomatedendothelialkerato-plasty,penetratingkeratoplasty,trauma,traumaticwounddehiscence.Cはじめに水疱性角膜症に対する外科的治療法としては,全層角膜移植術(penetratingCkeratoplasty:PKP)がおもに行われていた.しかし,近年国内では角膜内皮移植術,とくにCDes-cemet膜.離角膜内皮移植術(Descemetstrippingautomat-edCendothelialkeratoplasty:DSAEK)が主流となってきている.バプテスト眼科クリニック(以下,当院)ではC2007年よりCDSAEKを施行しており,既報と同様にC2010年以降には,DSAEKがC1年あたりの角膜移植件数の半数以上を占めるようになっている1).PKPと比較し,DSAEKは術後乱視が少ないこと,視力の回復が早いこと,術後縫合糸管理が不要であることが利点であるとされる2).一方,角膜移植後の外傷による創離開は,視力低下の原因となる重篤な合併症である3).PKP後の外傷性創離開の報告は多数あり,1.3.6.3%程度とされている3.15).しかし,DSAEK術後外傷性創離開を検討した報告,PKPとCDSAEK間での発症率を比較した報告は少ない16).今回,角膜移植後外傷性創離開症例について後ろ向き観察研究にて検討したので報告する.CI対象および方法2007年C8月.2020年C3月に当院で角膜移植(DSAEKおよびPKP)を施行した症例を対象とした.複数回にわたり角膜移植を施行した症例に関しては全手術を分析対象とした.対象症例を術式によってCDescemet群とCPKP群に分け,手術時年齢,性別,術眼,経過観察期間を後ろ向きに検討して2群間で,手術時年齢,性別,術眼,経過観察期間の差をCc2検定,Wilcoxonの順位和検定にて比較した.また,術式,手術時年齢,性別,術眼に関して角膜移植後外傷の創離開にかかわる因子を多変量ロジスティック回帰分析にて検討した.外傷症例における,外傷前視力,移植から外傷までの期間,創離開の範囲,水晶体または眼内レンズ脱臼の有無,外傷後の移植片の状態に関して検討した.外傷時年齢,性別,術眼,創離開の範囲,水晶体の脱出と外傷後の移植片の状態との関係をCFisherの正確検定にて検討した.CII結果今回,DSAEK群895眼(男性410眼,女性485眼)およびPKP群733眼(男性374眼,女性359眼)であった(表1).角膜移植の原疾患は,DSAEK群では全例が水疱性角膜症であり,PKP群では角膜混濁(274眼,37.4%),移植片機能不全(175眼,23.9%),円錐角膜(171眼,23.3%),水疱性角膜症(110眼,15.0%)の順に多かった.DSAEK群で術後外傷性創離開を認めた症例はC2眼(0.2%),PKP群で術後外傷性創離開を認めた症例はC15眼(2.0%)であった.PKP群はCDSAEK群と比較し有意に術後外傷性創離開の発症率が高かった(p<0.01).また,手術時年齢がC75歳未満であることも術後創離開の発症率と有意に関連していた(p=0.04).一方,性別,術眼とは関連を認めなかった(表2).外傷性創離開症例C17眼の背景因子とその予後を表3に示す.また,DSAEK後の外傷性創離開症例のC1例(症例C17)を図1,PKP後の外傷性創離開症例のC1例(症例5)を図2に示す.外傷前視力がC0.1未満の症例はC2眼(11.8%)であり,いずれもCPKP症例であった.15眼(88.2%)では外傷前視力はC0.1以上であった.外傷性創離開の時期は移植後平均C65.1C±38.9カ月(術後C6カ月からC138カ月)であった.また,移植片縫合糸抜去後C1カ月以内に外傷性創離開が生じた症例は3眼(17.6%)であった.創離開の範囲はCDSAEK症例ではC2眼ともC180°未満,PKP症例ではC15眼中C8眼(53.3%)が180°以上であった.DSAEK後の外傷症例のうち,1眼(症例C17)はCDSAEK時に作製した移植片挿入用切開創の離開であった.もうC1眼(症例C16)はCDSAEK時の移植片挿入用切開創ではなく,角膜移植以前の水晶体.外摘出時に作製された創の離開であった.外傷時,水晶体または眼内レンズの脱出はCDSAEK症例では認めなかったが,PKP症例ではC15眼中C8眼(53.3%)で認めた.なお,いずれの症例も外傷前は有水晶体眼または眼内レンズ挿入眼であった.創離開に対する手術に関しては,PKP症例C1眼(6.7%,症例C11)は受傷後来院時に移植片を喪失しており,角膜移植術を施行した.他のC16眼では創離開部位の縫合を行った.創離開の縫合に伴う合併症は認めなかった.外傷性創離開後の経過ではCDSAEK症例はC2眼ともに移植片の透明性が維持できた.一方,PKP症例ではC7眼(46.7%)で透明性が維持できたが,7眼(46.7%)で移植片機能不全が生じた.外表1DSAEK群およびPKP群の比較DSAEK群PKP群p値症例数C895C733C-手術時平均年齢(C±標準偏位)C72.3±11.8歳C63.6±17.0歳<C0.001性別(男性/女性)410/485人374/359人C0.04術眼(右眼/左眼)503/392眼367/366眼C0.01平均経過観察期間(C±標準偏位)C39.8±35.6月C50.5±38.2月<C0.001表2角膜移植後の外傷性創離開の発症に関与する因子の検討症例数外傷発症眼数オッズ比95%信頼区間p値(n=1,628)(n=17)PKP(vsDSAEK)733人15眼C7.161.62.31.63<0.01手術時平均年齢<75歳(vs≧75歳)940人16眼C8.291.08.63.31C0.04男性(vs女性)784人11眼C1.580.58.4.32C0.38右眼(vs左眼)870人9眼C1.090.42.2.87C0.86CPKP:penetratingCkeratoplasty,DSAEK:DescemetCstrippingCautomatedCendothelialCkeratoplas-ty.表3外傷性創離開症例17眼の背景因子と予後手術外傷時外傷前僚眼視覚創離開水晶体移植からの外傷後症例時年齢年齢性別術眼術式視力*視力*等級の範囲脱出抜糸時期期間(月)移植片の経過視力*受傷機転1C24C27男右眼CPKPC1.2C1.0C─C210+10日前C31透明C0.6打撲(バネ)C2C45C45女右眼CPKPC0.2C0.2C─C60C─14日前C6透明C0.8打撲(手)C348C50男左眼PKPC0.5C1C─90C─5日前C21透明C0.3不詳C4C54C64女左眼CPKPC0.03手動弁2級C180C─40カ月前C108透明C0.02打撲(ドア)C5C54C58女左眼CPKPC0.1C0.55級C180+抜糸未C37移植片機能不全光覚弁打撲(蛇口)C6C63C71男右眼CPKPC0.4C0.5C─C60C─67カ月前C99透明C0.2打撲(手)C7C63C66男左眼CPKPC0.4C0.35級C150C─16カ月前C34透明C0.4打撲(棒)C8C63C72男右眼CPKPC0.8C1.0C─C90C─82カ月前C108移植片機能不全C0.09不詳C9C65C68男右眼CPKPC0.06C0.5C─C120+15カ月前C37移植片機能不全光覚弁打撲(壁)C10C67C77女右眼CPKPC0.8光覚弁─C240+120カ月前C120移植片機能不全手動弁転倒C11C69C75男右眼CPKPC0.2C0.9C─C360+抜糸未C70移植片喪失手動弁**打撲(角材)C12C70C82男左眼CPKPC0.6C0.6C─C240+抜糸未C138移植片機能不全手動弁転倒C13C73C79女左眼CPKPC0.1C0.3C─C240+64カ月前C68移植片機能不全光覚弁転倒C14C74C78女右眼CPKPC1.2C1.0C─C360+21カ月前C44移植片機能不全光覚弁転倒C15C81C87男右眼CPKPC0.2C0.015級C30C─抜糸未C69透明C0.3打撲(ゴム)C16C60C62男左眼DSAEKC0.5C1.0C─C30C─抜糸未C20透明C0.5打撲(杭)C17C64C72男左眼CDSAEKC0.4C1.2C─C60C─84カ月前C96透明C0.6打撲(蛇口)*:矯正視力,**:角膜移植後視力.PKP:penetratingkeratoplasty,DSAEK:Descemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty.傷時,水晶体脱出の有無は有意に移植片の透明性の維持に関与していた(p<0.003).CIII考按PKP後の外傷性創離開の発症頻度はC1.3.6.3%とさまざまである3.15).本検討では,PKP後の外傷性創離開の発症頻度はC2.0%と既報と同等であった.一方,DSAEKは外傷性創離開のリスクが低いとの報告があるが16),PKPと比較した報告は筆者の知る限りではない.今回の検討ではDSAEK後の外傷性創離開の発症頻度はC0.2%であり,PKPと比較して有意に低い結果であった.白内障手術後の外傷性創離開の発症率は水晶体.外摘出術症例ではC0.4%,超音波乳化吸引術症例ではC0.02%程度と報告されている17).また,当院で経験したCDSAEKの外傷性創離開の症例のうち,1例はCDSAEK時に作製した創口ではなく,水晶体.外摘出時に作製した創口であった.そのため,DSAEKの術後創離開図1DSAEK術後創離開症例(症例17)a:外傷前の前眼部写真.Cb:外傷直後の前眼部写真.Cc:外傷後の前眼部写真(外傷後C1カ月).の発症頻度は水晶体.外摘出術よりは低い可能性が示された.PKP後の経過観察において,外傷性創離開は術後成績に影響する重篤な合併症であることはよく知られている.一方,DSAEKに関しては眼窩底骨折が生じるほどの強い外傷に対しても創離開が生じなかったとの症例報告がある18).今回の検討において,DSAEKはCPKPと比較し,創離開の範囲が小さく,水晶体,眼内レンズ脱出が生じにくい傾向があった.また,外傷性創離開後の移植片の経過は,DSAEK症例ではC2例ともに透明性が維持されたが,PKPではC733例中C15例(53.3%)で移植片喪失または移植片機能不全を認め図2PKP術後創離開症例(症例5)a:外傷前の前眼部写真.Cb:外傷直後の前眼部写真.Cc:外傷後の前眼部写真(外傷後C18カ月).た.眼内レンズ脱出を認める,または創離開の範囲がC180°を超える創離開症例は予後が悪いとの既報もあり6,13,19,20),今回の検討でも外傷時に水晶体の脱出を認める症例では移植片の予後が有意に悪いことが示された.360°の創を作製するPKPと比較し,最大切開創がC4.5CmmであるCDSAEKは創離開の発症頻度が少なく,かつ,生じても軽傷であることが多いことを示唆している.一方,角膜移植後の創離開に関して,術式以外に移植時年齢も発症に関与している可能性が示唆された.角膜移植後の創離開の症例の外傷時年齢は平均C16.6.76.2歳と報告によってさまざまである3,6).本検討では角膜移植時年齢がC75歳未満の症例に有意に外傷性創離開が多かった.一見,Activi-tiesofdailyliving(ADL)の低下を認める高齢者では転倒などが外傷のリスクとして考えられるが12,21),実際にはC75歳未満の外傷例が多く,作業による外傷リスクに注意が必要であると考えられた.また,外傷症例のうち,視覚障害に該当する症例はC17例中C4例であり,必ずしも視力が悪い症例に外傷性創離開が多いというわけではなかった.外傷性創離開の時期は術後早期がとくに多いとの報告がある5,8,22).今回の検討では外傷性創離開の発症時期は術後C6.138カ月と広範囲で,平均はC65カ月であった.PKP後早期はとくに角膜の強度が弱く,また数年経過しても本来の角膜強度まで回復しないとされており23,24),PKP後長期経過した角膜移植症例の外傷性創離開の報告もある25,26).今回の検討からも,外傷後長期にわたる経過観察が必要であると考えられた.一方,抜糸後C1カ月以内に生じた症例はC17.6%と,抜糸後早期の外傷性創離開の発症が多かった.縫合糸の抜糸により創の構造,創にかかる圧が変化し,ホスト・グラフト接合部にかかる圧が増えること,縫合糸の支えがなくなり創強度の低下を認めることより創離開が生じやすくなるとされる27).そのため移植片縫合糸抜糸後は,とくに外傷に注意する必要がある.外傷に関しては縫合糸の存在が外傷後創離開のリスクを下げる19)一方,筆者らの過去の報告にもあるように,感染症に関しては縫合糸の存在がリスクになる可能性がある28,29).そのため移植片縫合糸の抜糸の時期に関しては慎重に検討する必要があると考える.今回の検討により,DSAEKはCPKPと比較し,外傷性創離開の発症頻度が低く,創離開が生じても予後がよいと考えられた.文献1)EyeCBankCAssociationCofAmerica:2015CEyeCBankingCStatisticalReport.AccessedNovember12,20162)中川紘子,宮本佳菜絵:角膜内皮移植の成績.あたらしい眼科32:77-81,C20153)小野喬,森洋斉,子島良平ほか:角膜移植後に外傷により創口離開した症例の検討.あたらしい眼科C35:253-257,C20184)AgrawalV,WaghM,KrishnamacharyMetal:Traumat-icCwoundCdehiscenceCafterCpenetratingCkeratoplasty.CCor-neaC14:601-603,C19955)ElderMJ,StackRR:Globerupturefollowingpenetratingkeratoplasty:HowCoften,Cwhy,CandCwhatCcanCweCdoCtoCpreventit?CorneaC23:776-780,C20046)BowmanCRJC,CYorstenCD,CAitchisonCTCCetal:TraumaticCwoundCruptureCafterCpenetratingCkeratoplastyCinCAfrica.CBrJOphthalmolC83:530-534,C19997)HiratsukaCY,CSasakiCS,CNakataniCSCetal:TraumaticCwoundCdehiscenceCafterCpenetratingCkeratoplasty.CJpnJOphthalmolC51:146-147,C2007表4外傷後の移植片機能不全にかかわる因子の検討移植片機能不全p値なしあり*外傷時年齢7C5歳未満7C5歳以上性別男女術眼右眼左眼創離開の範囲1C80°未満1C80°以上水晶体脱出ありなし8例(7C2.8%)3例(2C7.3%)C1例(1C6.7%)5例(8C3.3%)7例(6C3.6%)4例(3C6.4%)C2例(3C3.3%)4例(6C6.7%)4例(4C4.4%)5例(5C5.6%)C5例(6C2.5%)3例(3C7.5%)7例(7C7.8%)2例(2C2.2%)C2例(2C5.0%)6例(7C5.0%)1例(1C2.5%)7例(8C7.5%)C8例(8C8.9%)1例(1C1.1%)0.050.330.640.060.003*移植片喪失も含める.8)JafarinasabCMR,CFeiziCS,CEsfandiariCHCetal:TraumaticCwoundCdehiscenceCfollowingCcornealCtransplantation.CJOphthalmicVisResC7:214-218,C20129)山田由希子,佐々木秀次,佐々木環ほか:東京医科歯科大学における角膜移植術後成績.あたらしい眼科C20:1699-1702,C200310)村松治,五十嵐羊羽,花田一臣ほか:旭川医科大学眼科における過去C5年間の角膜移植術の成績.あたらしい眼科C21:1229-1232,C200411)TsengCSH,CLinCSC,CChenFK:TraumaticCwoundCdehis-cenceafterpenetratingkeratoplasty:clinicalfeaturesandoutcomein21cases.CorneaC18:553-558,C99912)WilliamsCMA,CGawleyCSD,CJacksonCAJCetal:TraumaticCgraftCdehiscenceCafterCpenetratingCkeratoplasty.COphthal-mologyC115:276-278,C200813)KawashimaCM,CKawakitaCT,CShimmuraCSCetal:Charac-teristicsCofCtraumaticCglobeCruptureCafterCkeratoplasty.COphthalmologyC116:2071-2076,C200914)WangX,LiuT,ZhangSetal:Outcomesofwounddehis-cenceCafterCpenetratingCkeratoplastyCandClamellarCkerato-plasty.JOphthalmolC2018:1435389,C201815)OnoCT,CIshiyamaCS,CHayashideraCTCetal:Twelve-yearCfollow-upCofCpenetratingCkeratoplasty.CJpnCJCOphthalmolC61:131-136,C201716)PriceCMO,CGorovoyCM,CPriceCFWCJrCetal:DescemetC’sCstrippingCautomatedCendothelialkeratoplasty:three-yearCgraftCandCendothelialCcellCsurvivalCcomparedCwithCpene-tratingkeratoplasty.OphthalmologyC120:246-251,C201317)BallCJL,CMcLeodBK:TraumaticCwoundCdehiscenceCfol-lowingcataractsurgery:athingofthepast?.Eye(Lond)15(Pt1):42-44,C200118)TachibanaCE,CKohCS,CMaedaCNCetal:BlowoutCfractureCafterCDescemet’sCstrippingCautomatedCendothelialCkerato-plasty.CaseRepOphthalmolC5:357-360,C201419)MeyerJJ,McGheeCN:Incidence,severityandoutcomesoftraumaticwounddehiscencefollowingpenetratinganddeepCanteriorClamellarCkeratoplasty.CBrCJCOphthalmolC100:1412-1415,C201620)LamCFC,CRahmanCMQ,CRamaeshK:TraumaticCwoundCdehiscenceCafterCpenetratingCkeratoplastyC─CaCcauseCforCconcern.Eye(Lond)C21:1146-1150,C200721)SteinbergCJ,CEddyCMT,CKatzCTCetal:TraumaticCwoundCdehiscenceCafterCpenetratingkeratoplasty:caseCseriesCandCliteratureCreview.CEurCJCOphthalmolC22:335-341,C201222)GoweidaCMB,CHelalyCHA,CGhaithAA:TraumaticCwounddehiscenceafterkeratoplasty:characteristics,riskfactors,andvisualoutcome.JOphthalmolC2015:631409,C201523)MauriceDM:Thebiologyofwoundhealinginthecorne-alstroma.Castroviejolecture.CorneaC6:162-168,C198724)GliedmanCML,CKarlsonKE:WoundChealingCandCwoundCstrengthCofCsuturedClimbalCwounds.CAmCJCOphthalmolC39:859-866,C195525)GunasekaranCS,CSharmaCN,CTitiyalJS:ManagementCofCtraumaticwounddehiscenceofafunctionalgraft34yearsafterCpenetratingCkeratoplasty.CBMJCCaseCRepC2014:Cbcr2014205903,C201426)PettinelliDJ,StarrCE,StarkWJ:LatetraumaticcornealwoundCdehiscenceCafterCpenetratingCkeratoplasty.CArchCOphthalmolC123:853-856,C200527)Abou-JaoudeCE,CBrooksCM,CKatzCDGCetal:SpontaneousCwounddehiscenceafterremovalofsinglecontinuouspen-etratingCkeratoplastyCsuture.COphthalmologyC109:1291-1296,C200228)井村泰輔,脇舛耕一,粥川佳菜絵ほか:全層角膜移植後感染症の発症背景と起炎菌,予後に関する検討.日眼会誌C124:484-493,C202029)奥拓明,脇舛耕一,稗田牧ほか:角膜内皮術後と全層角膜移植術後の角膜感染症に関する比較検討.日眼会誌C125:22-29,C2021***

基礎研究コラム :67.脂質と眼科疾患

2022年12月31日 土曜日

脂質と眼科疾患眼における脂質の働き脂質は,おもに生体膜の構成成分,エネルギー源,シグナル分子,バリア構築因子などの機能をもち,生体のさまざまな局面で恒常性の調節から疾患制御に至るまで,重要な役割を担うものと考えられています.眼科領域も例外ではなく,臨床的に,シグナル脂質の一群である脂質メディエーターのうち,アラキドン酸由来のプロスタグランジンCFC2aの誘導体は房水の排出を促進して眼圧を下げ,緑内障の治療に用いられています.また,リゾリン脂質メディエーターの一種であるスフィンゴシンC1-リン酸(S1P)は,S1PC1受容体を介して眼内血管新生および眼内血管透過性抑制作用を示し,本受容体に対するモノクローナル抗体が加齢黄斑変性の治療薬の候補として研究が行われています.リン脂質の生合成.リモデリングと網膜疾患網膜変性は網膜色素上皮細胞や視細胞における構造の異常,網膜色素上皮細胞による視細胞の貪食の不全,ビジュアルサイクルの異常などに起因すると考えられていますが,脂質代謝の異常もまた網膜変性をもたらします.生体膜の主要構成成分であるリン脂質は,6種の極性基に加え,グリセロール骨格の一位,二位の多様な脂肪酸の組み合わせにより,1千種類を超える異なる分子種から構成されます(図1).このリン脂質の構造多様性は上述の脂質の四大機能に大きな影響を及ぼします.網膜変性モデルであるCrd11マウスでは,主要リン脂質であるホスファジジルコリン(PC)の二位に飽小野喬東京大学大学院医学系研究科眼科学教室東京大学疾患生命工学センター健康環境医工学和脂肪酸の一種であるパルミチン酸を導入する酵素LPCAT1の遺伝子変異により,パルミチン酸含有CPCレベルが減少して光受容体の機能障害をもたらします(図2)1).また,多価不飽和脂肪酸の一種であるドコサヘキサエン酸(DHA)をリン脂質の二位に導入する酵素CLPAAT3の欠損により,DHA含有リン脂質が顕著に減少して網膜が変性することが報告されました(図2)2).今後の展望網膜において,膜リン脂質は絶えず生合成と分解を繰り返すことで,網膜の恒常性の維持にかかわっており,リン脂質の分子種構成のバランスの異常は網膜変性をもたらすことが想定されますが,その詳細な分子機序は未だ明らかではありません.筆者らは,網膜色素変性症の原因遺伝子群の中から膜リン脂質の新陳代謝にかかわる責任酵素の一つを同定し,網膜変性との関連で研究を進めています.近い将来,脂質を基軸に網膜変性の新しい分子機序が解明されることが期待されます.文献1)FriedmanCJS,CChangCB,CKrauthCDSCetal:LossCofClyso-phosphatidylcholineacyltransferase1leadstophotorecep-torCdegenerationCinCrd11Cmice.CProcCNatlCAcadCSciCUSAC107:15523-15528,C20102)ShindouCH,CKosoCH,CSasakiCJCetal:DocosahexaenoicCacidCpreservesCvisualCfunctionCbyCmaintainingCcorrectCdiscCmorphologyCinCretinalCphotoreceptorCcells.CJBiolCChemC292:12054-12064,C2017リゾリン脂質(リゾホスファチジルコリン)図1リン脂質の生合成とリモデリング生体におけるリン脂質はdenovoの脂質合成経路(Kennedy経路,緑枠)により合成され,ホスホリパーゼにより分解される.産生されたリゾリン脂質は,LPCAT1やLPAAT3などのリゾリン脂質アシル基転移酵素(LPLAT)によってアシル基が付与されてC1千種を超える多様なリン脂質が再構成される(Lands回路,青枠).(79)C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY脂肪酸(ドコサヘキサエン酸:DHA)図2リン脂質を合成するアシル基転移酵素LPCAT1やCLPAAT3などのリゾリン脂質アシル基転移酵素によって,リゾリン脂質に脂肪酸が組み込まれ,特有のリン脂質が合成される.これらの酵素の機能異常は網膜変性をもたらす.あたらしい眼科Vol.39,No.12,2022C1647

硝子体手術のワンポイントアドバイス :235.傾斜乳頭症候群に生じた黄斑円孔に対する硝子体手術(中級編)

2022年12月31日 土曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載235235傾斜乳頭症候群に生じMH辺縁の網膜の伸展性がやや低下していた.術後,全例でMHの閉鎖が得られたが,2眼で中心窩網膜厚が薄く,1眼で中心窩網膜の層状構造の修復が不良であった.た黄斑円孔に対する硝3例とも術後矯正視力はC0.3.0.5に留まった.子体手術(中級編)●3症例の臨床的特徴池田恒彦大阪回生病院眼科今回のC3症例は術後CMH閉鎖が得られたが,術後の中心窩網膜厚は症例C1,2で薄く,症例C3では術後C1年経過しても中心窩の層状構造は明瞭に回復しなかった.これは中心窩網膜にCIPSに起因する牽引力が影響を与C●はじめにえた可能性が考えられる.また,MH発症前にみられた傾斜乳頭症候群(tilteddiscsyndrome:TDS)は胎生SRDやCCNVが視力予後に影響した可能性も考えられ期の眼胚裂閉鎖不全に起因する視神経の先天異常である.今回のC3症例では残念ながらCMH発症前におけるる.TDSに伴う下方後部ぶどう腫(inferiorCposterior経時的変化の状態を正確に把握できなかったが,いずれstaphyloma:IPS)の辺縁が黄斑部をCsplitする症例では,にしてもCTDSのCIPS辺縁に生じるCMHは,MH発症前しばしば漿液性網膜.離(serousCretinaldetachment:からCSRD,RS,CNVなどの黄斑合併症をきたしているSRD),脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:可能性が考えられるので,術後CMHが閉鎖しても視力CNV),網膜分離(retinoschisis:RS),網膜色素上皮萎改善度が低い可能性を念頭においておく必要がある.縮などの黄斑合併症をきたすが,黄斑円孔(macular文献hole:MH)を併発したとする報告はまれである1.3).筆者らは過去にCTDSのCIPS辺縁にCMHをきたしたC3症例1)CohenCSY,CDuboisCL,CNghiem-Bu.etCSCetal:SpectralCdomainopticalcoherencetomographyanalysisofmacularを経験し報告したことがある4).CchangesCinCtiltedCdiskCsyndrome.CRetinaC33:1338-1345,C2013C●症例2)CocoCRM,CSanabriaCMR,CAlegriaJ:PathologyCassociatedCwithCopticalCcoherenceCtomographyCmacularCbendingCdue年齢はC73.84歳,性別は全例女性,屈折はC1例が軽CtoCeitherCdome-shapedCmaculaCorCinferiorCstaphylomaCin度近視,2眼が強度近視であった.いずれもCIPSの辺縁Cmyopicpatients.COphthalmologica228:7-12,C20123)BrueC,RossielloI,GuidottiJMetal:Spontaneousclosureあるいはその近傍にCMHが生じていた.1眼ではCMHCofCaCfullyCdevelopedCmacularCholeCinCaCseverelyCmyopic辺縁のCRS範囲がやや広く,1眼ではCCNVに対する治Ceye.CaseRepOphthalmolMedC2014:182892,C2014療歴があった.手術は人工的後部硝子体.離作製後に4)MizunoCH,CSuzukiCH,CMimuraCMCetal:ThreeCcasesCofMH周囲の内境界膜を.離し,ガスタンポナーデを施行CmacularCholeCthatCoccurredCinCinferiorCscleralCstaphylomaした.術中所見として,3例とも通常のCMHと比べてCassociatedwithtilteddiscsyndrome:acaseseries.CJMedCCaseRep16:36,C2022図1症例2(a:術前眼底写真,b:術前OCT,c:術後OCT,.:IPSの辺縁)術前に軽度の網膜分離を伴うMHを認めた.術後CMHは閉鎖したが,中心窩の網膜厚がやや菲薄化していた.(文献C4より引用)図2症例3(a:術前眼底写真,b:術前OCT,c:術後OCT,.:IPSの辺縁)術後CMHは閉鎖したが,層状構造の修復がやや不完全の状態で留まった.(文献C4より引用)(77)あたらしい眼科Vol.39,No.12,2022C16450910-1810/22/\100/頁/JCOPY

考える手術:12.急性網膜壊死に対する硝子体手術

2022年12月31日 土曜日

考える手術⑫監修松井良諭・奥村直毅急性網膜壊死に対する硝子体手術南高正JCHO大阪病院眼科急性網膜壊死(acuteretinalnecrosis:ARN)はウイルスの眼内感染により生じ,急速に進行する予後不良な疾患であり,続発する網膜.離の有無は視力予後を左右する重要な因子の一つである.その発症率は50~70%であると報告されており,高率に続発する網膜.離を予防するために,ARNと診断したのち速やかにシリコーンオイルタンポナーデ併用硝子体手術を行うことが有用であると考えられている(図1).受診時にARNを疑った場合には前房水を採取し,ポリメラーゼ連鎖反応(polymerasechainreaction:れば結果を待たずに薬物治療を開始することもある.その後,4~10日程度経過してから硝子体手術を行う.多くの場合はその間に治療の効果から白色病巣の進行の停止,炎症の消退傾向を認める.手術は,有水晶体眼であれば白内障手術を行い,その後,前部硝子体,中心部硝子体を切除する.後部硝子体.離(posteriorvitre-ousdetachment:PVD)が起こっていなければPVDを作製した後に,広角観察システムで可能な限りの周辺部の硝子体切除を行い,強膜圧迫を行いながら最周辺部の硝子体を切除する.また,続発性黄斑前膜の予防から内境界膜.離を施行する.液空気置換を行い,白色病巣がいずれ脱落し裂孔となることから,それを囲むように光凝固を行い,シリコーンオイルを注入して手術終了とする.ARNは強く慢性的な炎症が続くことから硝子体が増殖性変化を起こす可能性が高い.そのことから術中に硝子体の観察を怠らず,可能な限りの硝子体切除を行うことが肝要である.聞き手:網膜.離予防の早期手術は必要なのでしょうか.病巣が及んだものをzone1,そのラインから赤道部ま南:施設,術者によって賛否が分かれるところかと思いでに及んでいるものをzone2,赤道部より最周辺部のますが,当院では,網膜.離(黄斑.離)の予防,炎症ものをzone3としています.ただし,透見良好であり,性物質の除去,透見性向上などの目的から早期に予防手周辺にわずかな病巣を認める程度のzone3の場合は,術を行っています.また,ARNの評価については,サ手術をせず外来での光凝固のみで様子をみていく場合もイトメガロウイルス網膜炎の治療における評価方法,あります.Hollandの分類にならい,アーケード内,乳頭周囲まで(75)あたらしい眼科Vol.39,No.12,202216430910-1810/22/\100/頁/JCOPY考える手術聞き手:早期手術のタイミングはいつでしょうか.南:ARNを疑う所見を認めた際にPCR検査を行い,抗ウイルス薬による加療を開始するわけですが,当院では初診時にスケジュールを調整し,4~10日後に入院のうえで硝子体手術を計画します.抗ウイルス薬による加療を開始すると病巣の進展,悪化は抑制できますので,当日緊急手術を実施しなくても問題はないと考えています.聞き手:硝子体手術において,タンポナーデは実施しますか?タンポナーデ物質の選択はどうすればよいでしょうか.南:Zone3の場合にはタンポナーデは実施せずに手術終了としています.Zone1,2の場合には術後の眼底管理の意味からガスよりシリコーンオイルが望ましいと考えています.聞き手:シリコーンオイルの抜去のタイミングはいつ頃ですか.南:当院では白色病巣が脱落する,また光凝固の瘢痕化を認める約1カ月後から2カ月後を基本としています.長期のシリコーンオイル下で増殖性変化が生じた経験もあることから,比較的短期間で抜去を実施することが望ましいと考えます.ただし,アーケード内まで病巣が及んでいるzone1の場合や,zone2であっても病巣が広範囲に大きく癒合している場合は低眼圧となる場合が多く,シリコーンオイル抜去がむずかしい症例もあります.聞き手:白色病巣を中心に網膜周辺部において網膜.離がある場合,どのようにすればよいのでしょうか.南:病巣網膜と硝子体との癒着が強く,一般的な疾患の硝子体手術と比較して,硝子体のみ切除するのが困難な場合が多々あります.とくに網膜.離の領域では,硝子体のみ切除することがかなり困難です.可能な限り網膜を残すべきですが,病巣の網膜を多少切除しても硝子体術前術後2週間をきれいに切除することが重要と考えています.なお,網膜を温存できたとしてもウイルスが感染している白色の網膜はいずれ脱落します.聞き手:輪状締結術は併用したほうがよいでしょうか.南:周辺部硝子体切除を可能な限り実施すれば,前部硝子体の増殖性変化は抑止できることから,基本的に行っておりません.低眼圧に対して術後に輪状締結術を施行した症例もありますが,大きな変化は認めませんでした.また,輪状締結術併用症例でも,術後10年経過してから牽引性網膜.離を認めた症例も経験しています.しかし,増殖性変化へ効果や術後低眼圧の予防効果などを考え,症例に応じて対応を変化させることは施設,術者の判断に委ねられるところだと思います.聞き手:PVDの有無は予後を左右すると思われますか.南:私が経験したPVDが既存であった症例の多くは問題なく経過しましたが,PVDが生じておらず,術中にPVDを作成した症例の約半数がシリコーンオイル抜去時までに増殖膜による牽引性網膜.離を発症しました.PVDが生じていない症例は硝子体が残りやすく,そこにARNの炎症が加わることから,牽引性網膜.離を発症する確率は高いと思われます.それよりPVDの有無は予後を左右すると思われます.聞き手:視力予後についてはいかかでしょうか.南:早期手術を行うことによって多くの場合,黄斑.離を予防できますが,視神経障害,慢性的な黄斑浮腫,低眼圧黄斑症による視力低下を予防できるわけではありません.手術を問題なく施行し,シリコーンオイル抜去後の眼底がきれいであったとしても一定以上の視力を保つことが困難な疾患です.ありきたりな結論ですが,ARNは早期発見,早期治療が基本です.手術により視力を守ることが可能なこともありますが,手術は治療の一助にすぎません.術後3カ月術後1カ月(シリコーンオイル抜去後1カ月半)図1シリコーンオイルタンポナーデ併用硝子体手術の経過1644あたらしい眼科Vol.39,No.12,2022(76)