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コンタクトレンズ:トライアルレンズの管理(2)

2006年11月30日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLSコンタクトレンズ(CL)処方においてはトライアルレンズが不可欠である.前号の「トライアルレンズの一般的な管理や規格の確認などについて(植田喜一)」に続き,今回は「トライアルレンズの消毒法」について,ハードコンタクトレンズ(HCL)の場合とソフトコンタクトレンズ(SCL)の場合に分けて概説する.●トライアルレンズの汚染CL処方時は感染の危険性のある不特定多数に対してトライアルレンズを使用するため,何らかの前眼部感染症をもつ人からのトライアルレンズの汚染が考えられる.また,感染のない場合でも表皮ブドウ球菌などの常在菌によってトライアルレンズが汚染される危険性がある.●トライアルレンズを取り巻く汚染媒体トライアルレンズ本体のほか,CL用保存ケース,手指,ピンセット,その他CL室で使用する器具,機械などが汚染の媒体となりうる危険性がある.汚染防止のためには手洗いの励行,トライアルレンズおよび使用器具の適切な消毒,感染・汚染物の適切な処理などを徹底しなければならない.●SCLのトライアルレンズのケア頻回交換レンズ,定期交換レンズ,ディスポーザブルレンズの場合には,トライアルレンズは毎回新品を使用することが可能で,これがトライアルレンズの理想である.使用後のレンズは感染媒体として扱い,確実に廃棄しなければならない.一方,従来型SCLの場合は毎回新品を使用することがむずかしく,洗浄・消毒を行って再利用する.1.洗浄・すすぎ患者にレンズの装脱を行った後,界面活性剤配合の洗浄液で洗浄する.洗浄・すすぎにより物理的に微生物を除去することができる.2.消毒最も確実な消毒法は,熱による煮沸消毒で細菌や真菌のみならず,ウイルス,アカントアメーバなどに対しても確実な消毒効果を有している.しかしながら,熱によるレンズ素材への影響も大きく,特に高含水レンズは煮沸消毒は不可能で,コールド消毒を行う.a.煮沸消毒煮沸消毒可能な低含水のトライアルSCLおよびSCL用保存ケースは100℃で20分以上煮沸消毒することが好ましい.従来型SCLは米国食品医薬品局(FDA)の分類でグループIが多く,一般に煮沸消毒で問題となる熱によるレンズ変形をきたしにくい.トライアルでの短時間の使用では汚れも軽度であるため,蛋白質の沈着の問題も生じにくい.b.コールド消毒煮沸ができないSCLの場合には熱を用いずコールド(47)柳井亮二山口大学大学院医学系研究科眼科学/下関市立豊田中央病院眼科コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純TOPICS&FITTINGTECHNICS269.トライアルレンズの管理(2)─トライアルレンズの消毒─図1トライアルレンズ管理のためのフローチャート消毒用石鹸を用いて流水で手を洗う直ちに流水で手を洗うことができない場合は,0.1%次亜塩素酸ナトリウム水溶液あるいは消毒用アルコール*に浸した脱脂綿などで清拭する患者に装脱の操作を行う*:HBに無効廃棄可能なCLは廃棄**再利用する場合煮沸20分以上オートクレーブ20分以上コールド消毒ケース,ピンセットは流水ですすぎ,煮沸あるいは消毒液に30分浸漬後流水ですすいだ後,保存バイアルビンまたはレンズケースにSCLを入れる洗浄液にて洗浄後,流水ですすぐ0.5%次亜塩素酸ナトリウム水溶液に10~30分浸漬する流水ですすぎレンズケースに保存液をそそぐトライアルレンズセットケースに保存SCLの場合HCLの場合**:密閉できる容器に保管し,焼却あるいはオートクレーブで滅菌後廃棄———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006(00)消毒剤による消毒を行う.一般には,MPS(多目的用剤)がレンズケアの主流であるが,MPSの消毒効果は煮沸消毒や過酸化水素よりも弱く,トライアルレンズの消毒には不十分であると考えられる.1)ポビドンヨードポビドンヨード(イソジン?)は,古くから医療現場に用いられている消毒剤で,広い抗菌スペクトルと生体に対する安全性が特長である.クレンサイド?(オフテクス)は,消毒効果と生体に対する安全性は高く評価されるが,つけ置き洗浄のシステムであるため,汚れを十分に除去できない可能性がある.また,ヨウ素に対するアレルギーに注意が必要である.2)次亜塩素酸ナトリウム塩素系の次亜塩素酸塩は,細菌,真菌,ウイルス,アメーバなどの消毒が可能で,0.5%次亜塩素酸ナトリウム水溶液に20分浸漬する.ただし,次亜塩素酸は漂白効果が強いため,退色に注意が必要である.SCL用ケア用剤としてはマンスリークリーナー?(東レ)やクラフレッシュ?マンスリークリーナー(クラレ)がある.市販消毒剤にはアンチホルミン?,クロラックス?,ピューラックス?,ハイター?,ミルトン?がある.3.保存最近は保存液中に界面活性剤や酵素を添加することにより,つけ置き洗浄を行うコールド消毒剤もある.ただし,眼刺激症状や過敏症をひき起こす可能性があり,装用前に防腐剤の入っていない生理食塩水などですすいだほうがよい.●HCLのトライアルレンズのケアHCLはSCLに比べると,汚れが付着しにくい素材で微生物の汚染も起こりにくいが,残存した汚れがレンズ表面の水濡れ性を低下させたり,微生物汚染の足場となる.1.洗浄・すすぎ蛋白質や脂肪が付着しやすいため,界面活性剤に酵素を配合した洗浄剤で洗浄を行い,大量の水道水ですすぐ.2.消毒ガス透過性ハードコンタクトレンズ(RGPCL)においても,感染予防のためにはトライアルレンズの消毒が必要で,次亜塩素酸塩による消毒が好ましい.しかしながら,次亜塩素酸塩は酸化力が強く,着色レンズの退色や破損,ひび割れを生じやすくなるため,丁寧に操作する.次亜塩素酸ナトリウム洗浄剤にはプロージェント?(メニコン),ハードケア?(HOYA)がある.3.保存わが国では,水濡れ性を保持するためにHCLを保存液に浸漬して保存するが,海外ではポリメチルメタクリレート(PMMA)素材のHCLと同様にRGPCLにおいても乾燥した状態でレンズケースに保管することが多い.これは乾燥により微生物汚染の予防になるほか,バイオフィルムの形成もなく衛生的にレンズを保存できる利点がある.保存液は定期的に交換しなければならないため,使用頻度の低いトライアルレンズの場合には,乾燥保管のほうがよい.ただし,RGPCLではレンズの水濡れ性が悪くなり,レンズのくもりの原因となりやすいため,トライアルレンズの使用前にCL装着液などで水濡れ性を改善する.おわりに近年はディスポーザブルレンズの増加により,トライアルレンズを洗浄・消毒する頻度は減少しているが,逆に洗浄・消毒の必要なトライアルレンズの管理が疎かになりやすくなる.CL診療において最も重要なトライアルレンズをきちんと管理し,衛生的に維持しておくことは,適切なCL処方の基本となるばかりでなく,院内における感染防止の観点からも重要である.

写真:Capsular Block Syndrome

2006年11月30日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS(45)德田芳浩井上眼科病院写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦270.CapsularBlockSyndrome①①図2図1のシェーマ①:増殖した水晶体上皮細胞.図1ディフューズ光による観察レンズ全体が強く白濁しているようにみえる.図4レトロイルミネーションによる観察混濁の割りに,反射光はよく通ってみえる.図3スリット光による観察眼内レンズ(IOL)に混濁はなく,IOL後面から?内全体に乳白色の均一で無構造な液体が観察できる.後?は混濁の奥にあってはっきりしない.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006(00)Capsularblocksyndrome(CBS)とは,白内障手術や眼内レンズ(IOL)挿入に関連して,水晶体?の開口部(=連続前?切開窓)が何らかの要因で閉鎖することで?内圧の上昇や?内部への物質の貯留が起こる症候群であり,Miyakeらによって新しく3群に分類1)されている.今回,紹介する症例はその3群(術中CBS,術後早期CBS,術後晩期CBS)のうちの,術後晩期CBSであり,液状後発白内障2)とよばれていたものである.症例は73歳,女性,10年前に右眼の白内障手術を施行された.術中術後の合併症を認めず,予後良好な状態で経過していた.術前に糖尿病や緑内障などの,全身合併症や眼疾患の併発を認めていない.術式は典型的な超音波乳化吸引術による小切開白内障手術で,前?切開縁はスムーズで連続しており,IOLは6.0mm光学部径の3ピースアクリルフォーダブルレンズが完全?内固定されている.カルテ上では,術後約8年目から,IOL後方のはっきりとした混濁を認めている.実は,左眼も15年前に?外摘出術による白内障手術が施行され,ワンピースポリメチルメタクリレート(PMMA)レンズが挿入されているが,そちらには後発白内障を認めない.右眼のみのはっきりとした混濁にもかかわらず,問診にて見え方の左右差はないという解答を得ている.散瞳後の細隙灯顕微鏡による観察で,前?切開縁はぎりぎりのところもあるが全周でIOL光学部をカバーしており,前?切開窓は閉鎖されていると考えられる.IOL後方には部分的に水晶体上皮細胞の増殖と白色で均一な液体の貯留を認めた.矯正視力は両眼ともに術後から1.2を保持しており,自覚的な混濁の認識は認めない.文献的にこの液体は水晶体上皮由来の無構造な蛋白質とされている3).治療としては,YAGレーザーによる後?切開が最も一般的と考えられるが,フォーカシングがむずかしいと聞いている.また,この蛋白質による炎症を懸念して,筆者は外科的な?の洗浄を第一選択で行っている.前?とレンズは簡単に?離できるので,シムコ針を使って?内の液体を除去すると同時に,?赤道部にある増殖水晶体上皮をすべて取り去り,前?切開を拡張してブロックの再発を予防している.洗浄除去により,液状の後発白内障の再発はなくなるが,後?の線維性混濁タイプの後発白内障は再発する.ちなみに,本症例では本人の自覚がなく,治療を希望していないので経過観察としている.文献1)MiyakeK,OtaI,IchihashiSetal:Newclassi?cationofcapsularblocksyndrome.???????????????????????24:1230-1234,19982)MiyakeK,OtaI,MiyakeSetal:Liqueiedafter-cataract:Acomplicationofcontinuouscurvilinearcapsulorhexisandintraocularlensimplantationinthelenscapsule.???????????????125:429-435,19983)永田万由美,松島博之,泉雅子:液状後発白内障の成分分析.眼紀52:1020-1023,2001

免合併症に対する治療

2006年11月30日 木曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSあり,実際には個々の症例,疾患ごとにその適応については十分な検討が必要となる.以下に個々の疾患ごとに白内障手術適応を決めるうえで参考となる最近の論文を紹介する.a.Beh?et病合田らは最終眼発作から6カ月以内に手術した症例と7カ月以上経て手術した症例では,後者の群のほうが眼発作の出現頻度が有意に低いことを報告している3).平岡らは長期間炎症が鎮静化していても,免疫抑制薬を使用しているような活動性の高い症例では術後に眼発作頻度が増加することを報告している4).またKadayif?ilarらは術前に3カ月の消炎期間をおいた場合,術後炎症は軽度でその後経過は良好であったと述べている5).b.若年性関節リウマチに伴うぶどう膜炎若年性関節リウマチ(juvenilerheumatoidarthritis:JRA)に伴うぶどう膜炎は欧米では多く,日本ではJRAとほぼ同一の病態を示す若年性慢性虹彩毛様体炎(chro-niciridocyclitisinyounggirls)が圧倒的に多い.併発白内障は約60~70%に発症し,重篤な視力障害の原因となる.しかし,対象が若年者であることや長期的に炎症が持続していること,また手術時にすでにcycliticmembraneを形成していることなどから術後成績については賛否両論である.最近のLamらの報告では最終受診時において全症例で0.5以上の視力が得られ,また術後に後発白内障と続発緑内障が約80%の症例で認められていた6).小児の併発白内障でも成人と同様にステはじめに一般にぶどう膜炎に対する治療の基本は副腎皮質ステロイド薬の局所および全身投与,免疫抑制薬や抗微生物薬の投与といった薬物療法が主体となる.しかしながらぶどう膜における短期間の著しい炎症,あるいは炎症の遷延化や再燃によりさまざまな合併症や続発症が生じ,その結果手術療法が唯一の治療手段となることもある.これまでぶどう膜に炎症を有する眼に対して,あるいは炎症の既往のある眼に対して外科的治療を行うことはさらなる炎症を誘発する可能性があり,その適応についてはかなり慎重に判断がなされていたが,近年の白内障,緑内障,硝子体疾患における手術手技の進歩や手術器具の改良,術前術後の効果的な抗炎症療法の導入により,良好な手術成績が得られるようになってきた1).本稿では,「ぶどう膜炎併発白内障および続発緑内障」に焦点を絞って手術治療に関する現時点でのevidencebasedmedicine(EBM)をまとめてみたい.Iぶどう膜炎併発白内障1.手術適応白内障手術に伴うさまざまな炎症性細胞の反応を予防するために,ある程度の期間活動性の炎症のないことを確認したうえで,手術計画を立てることが重要である.これまでさまざまな報告がなされているが,一般的には1カ月から6カ月の消炎期間を経たうえで手術を行うのが良いとされている2).しかし,これらは1つの目安で(37)????*HiroshiKeino:東京医科大学霞ヶ浦病院眼科〔別刷請求先〕慶野博:〒300-0395茨城県稲敷郡阿見町中央3-20-1東京医科大学霞ヶ浦病院眼科特集●非感染性ぶどう膜炎治療の最先端あたらしい眼科23(11):1421~1428,2006合併症に対する治療??????????????????????????????????????????????????????????????????慶野博*———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006ロイドの局所および全身投与,報告によってはメソトレキセートなどの免疫抑制薬を使用することで,しっかりと術前に消炎させることが良好な術後成績を得るうえで必須であることを述べている7,8).c.Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎これまでこの疾患の併発白内障手術についていくつかの報告がなされているが,おおむね術後成績は良好である9,10).ただし,術後の眼圧上昇や前房出血などを生じることがあるため,他のぶどう膜炎と同様に注意深い経過観察が必要である11).d.原田病原田病の併発白内障は特に遷延例において虹彩後癒着を伴って生じてくることが多い.Ganeshらは全体の80%で視力が改善し,50%は6/18以上の視力を得たと報告している.また全体の76%が後発白内障を生じ,そのうちの42%においてYAGレーザーによる後?切開が施行されていた12).一般的には炎症が鎮静化された時期に行えば視力予後は良好であるが,当施設における原田病併発白内障の術後合併症についてみると,全体の46%で術後の眼圧上昇を認めたことから,厳密な術後管理が重要である13).e.サルコイドーシスサルコイドーシスの術後成績は比較的良好といわれており,術前の消炎が2~3カ月間にわたって維持されていれば眼内レンズ挿入も特に大きな問題はない.当施設でも術後ぶどう膜炎再燃例の疾患別頻度でみてもサルコイドーシスが最も頻度が低いという結果であった13).しかしながら,一部の症例では術後に?胞様黄斑浮腫が出現,あるいは増強することがあること,また術後炎症が強いケースではcycliticmembraneを形成することがあり注意を要する14).2.術前のぶどう膜炎活動性の評価ぶどう膜炎併発白内障手術では術前にある程度の消炎鎮静期間をおいた後,手術施行となるわけだが検眼鏡的に消炎が得られている(当施設では消炎の定義として前房中に炎症細胞を認めないか,認めたとしても全視野に1~5個程度であること)としても,subclinicalには前房内炎症が持続していることもある.その程度を評価する客観的な数値として当施設では前房フレア値をぶどう膜炎の術前評価項目として活用している.当院において手術直前のフレア値と術後視力との相関をみたところ,術前フレア値の高い症例ほど術後視力が悪い傾向があった13)(図1).また術前のフレア値が50photoncounts/ms以上の症例では術後6カ月を経ても鎮静化せず,反対に術前のフレア値が20photoncounts/ms以下の症例では術後のフレア値は安定しており,フレア値に上昇は認められなかった15)(図2).さらにぶどう膜炎を肉芽腫性と非肉芽腫性に分類し術後のフレア値を比較したところ,肉芽腫性のほうが非肉芽腫性に比べてフレア値が高く,フレア値の上昇が長く続くことが判明した15)(図3).これらの結果から術前のフレア値が50photoncounts/ms以上の肉芽腫性ぶどう膜炎の場合,慎重に手(38)術前020406080100120140期間フレア値(photoncounts/ms):術前炎症(+)併発白内障n=5:術前炎症(-)併発白内障n=20:対照群(加齢白内障)n=10p<0.051日3日7日6月3月1月14日図2ぶどう膜炎併発白内障手術前の炎症の有無による術後フレア値の変化(文献15より)0204060801.00.50.1術前フレア値(photoncounts/ms)術後視力n=66,r=-0.524,p<0.001図1術前フレア値と術後視力(文献13より)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006????術時期を決定する必要があると思われる.このように術前のぶどう膜炎の活動性を評価するうえで,細隙灯顕微鏡の所見だけでなく,フレア値を測定しておくことは術後の炎症の程度をある程度予測するうえで,有力な手がかりになりうると考えられる.3.術前の消炎対策術前の準備として消炎目的のために予防的にステロイド投与を行うかについては意見が分かれるところである.筆者らの施設では十分に消炎期間のとれている症例については,特に術前のステロイドの内服は行っていない.一方でMeacockらは白内障術前30分前からメチルプレドニゾロンを点滴静注(15mg/kg)した群と手術日の2週間前からプレドニゾロンを内服(0.5mg/kg)させた群で比較し,視力予後には差がないものの,血液?眼関門の破綻が後者のほうが軽度であったことを報告している16).4.術式および眼内レンズの種類最近の国内におけるぶどう膜炎患者の白内障手術における眼内レンズ挿入術に関しての報告をみると,全体の99%とほとんどの施設で眼内レンズ挿入術が行われていることが明らかとなっている17).挿入する眼内レンズの種類に関するデータをみると,acrylレンズが71%と最も多く,ついでpolymethylmethacrylate(PMMA)レンズが33%,heparinsurface-modi?ed(HSM)PMMAレンズが19%,siliconeレンズが8%であった17).当施設においてもacrylレンズが最も多く(全体の74.8%),ついでHSMPMMAレンズ18%,PMMAレンズ他7.2%であった18).使用頻度の最も多かったacrylレンズについてのこれまでの報告をみると,術後炎症が少なく,再燃の頻度も低いこと,後発白内障の頻度も他のレンズに比べて低いという利点がある19~21).Siliconeレンズについては術後の炎症細胞の付着が少ないものの後発白内障の頻度が高いことが指摘されている19,20).また術後の前房炎症の指標とされるフレア値についてacrylレンズ,siliconeレンズ,ハイドロジェルレンズで比較したところ,3者の間には有意な差はみられなかった22).生体適合性の面からacrylレンズとHSMPMMAレンズとの間で比較したところ,acrylレンズのほうが炎症細胞の付着が少なく生体適合性に優れていることが判明している23).当施設でも後?切開の頻度についてレンズ間で比較したところ,acrylレンズはHSMPMMAレンズやPMMAレンズよりも有意に後?切開の頻度が少ないことが明らかとなった13).5.術後の薬物療法当院では,まず術後の消炎対策として,手術終了時に抗生物質とともにベタメタゾン(リンデロン?)の結膜下注射,また症例によってはトリアムシノロンアセトニド(ケナコルト?)の後部Tenon?下注射を行っている.さらに術翌日の炎症に応じてステロイド薬の全身投与(プレドニゾロン換算で20~40mg)や非ステロイド消炎薬の全身投与を2~4日間行う.これと並行してステロイド薬点眼(ベタメタゾン,またはフルオロメトロン),非ステロイド消炎薬(ジクロフェナクナトリウム,またはブロムフェナクナトリウム)などの点眼を最低3カ月継続する.炎症が持続しているうちは虹彩後癒着防止のため散瞳薬の点眼を就寝前に行う.6.術後合併症まず当施設における術後合併症の種類と発生頻度につ(39)術前01020304050期間フレア値(photoncounts/ms):肉芽腫性ぶどう膜炎n=18:非肉芽腫性ぶどう膜炎n=14:正常対照群(加齢白内障)n=10p<0.051日3日7日6月3月1月14日図3非肉芽腫性ぶどう膜炎併発白内障と肉芽腫性ぶどう膜炎併発白内障手術前後におけるフレア値の変化(文献15より)———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006いて表1に示す13).ぶどう膜炎の再燃が全体の27.8%,以下高眼圧が17.3%,後発白内障が16%でみられた.視力低下の原因となる?胞様黄斑浮腫の出現頻度は全体の2.5%であった.また術前,術後の6カ月から3年間におけるぶどう膜炎炎症発作発生頻度については,頻度が増加したものが17.3%,不変が45.7%,減少したものが37.0%であった13).さらに術後高眼圧を認めた症例を疾患ごとにみてみると,表2に示すように若年性関節リウマチが78%,原田病・交感性眼炎が46%,ヘルペス性虹彩毛様体炎が33.3%,Beh?et病が20%であった13).他施設のデータをみると,Estafanousらの報告によれば,ぶどう膜炎の再燃が全体の41%,後発白内障が62%,?胞様黄斑浮腫は33%,網膜前膜が15%,虹彩後癒着が8%でみられた24).またRahmanらは後発白内障が96%にみられ,?胞様黄斑浮腫は24%に認められたと報告している25).対象とした疾患や術式,用いた眼内レンズも施設間で違いがあるため当施設のデータと単純に比較はできないが,どの施設でも一定の割合で術後合併症が生じることは明らかであり,その発症をいかに少なくするかが今後も大きな課題である.7.まとめ近年のfoldable眼内レンズを組み合わせた小切開白内障手術の進歩により,ぶどう膜炎併発白内障に対してもより低侵襲で安全に手術を行えるようになった.しかしながらぶどう膜炎の種類によって術後の炎症や合併症の発生頻度はさまざまである.白内障手術を行う前に個々の症例ごとに疾患の同定および病型を把握して手術による影響を予測しておくこと,そして術後の消炎対策まで事前に準備しておくことなど,手術を中心とした術前,術後の総合的な治療戦略がぶどう膜炎併発白内障手術に不可欠である.IIぶどう膜炎続発緑内障1.続発緑内障の頻度と眼圧上昇機序ぶどう膜炎続発緑内障は併発白内障と並んで比較的頻度の高い合併症である.その発生頻度はぶどう膜炎全体の10~20%であると報告されている26~29).ぶどう膜炎続発緑内障の原因を2つに大別すると,閉塞隅角と開放隅角に分類される30).眼圧上昇の機序として閉塞隅角緑内障は,虹彩後癒着が瞳孔領全周に生じ瞳孔ブロックの状態(irisbomb?)にある場合,隅角に周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)が形成された結果,隅角線維柱帯が閉塞されて眼圧が上昇する場合,原田病のように発症早期に虹彩水晶体隔膜の前方移動で急性狭隅角緑内障をきたす場合,慢性的な炎症による新生血管緑内障の場合などがあげられる.開放隅角緑内障は隅角線維柱帯への炎症,炎症産物の蓄積による通過障害,炎症による隅角線維柱帯自体の機能低下,プロスタグランジンによる血液房水関門の破綻と房水産生の増加,ステロイド緑内障にみられる隅角線維柱帯への異常結合織とムコ多糖類の蓄積などがある.実際の臨床の場では,上記の眼圧上昇機序が重複しているケースも認められ,治療に苦慮することが少なくないが,眼所見を正確に把握し病態を理解することがその後の治療法や術式の選択をするうえで最も重要となる.ここではおもにぶどう膜炎続発緑内障の外科的治療に焦点を絞り,各々の術式の適応や成績について最近の知見(40)表1術後合併症の種類と発生頻度術後合併症眼数%(眼数)ぶどう膜炎再燃高眼圧後発白内障虹彩後癒着水晶体?異常収縮眼内レンズ偏位?胞様黄斑浮腫45282614118427.817.316.08.66.84.92.5(文献13より)表2術後高眼圧を認めた例の疾患別頻度術後合併症眼数%(眼数)Beh?et病サルコイドーシス原田病?交感性眼炎若年性関節リウマチヘルペス性虹彩毛様体炎同定不能(非肉芽腫性)(肉芽腫性)84631642201146783313227(文献13より)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006????と併せて述べる.2.レーザー虹彩切開術と周辺虹彩切除術慢性的な虹彩炎が持続すると,虹彩の後面と水晶体の前面が徐々に癒着していく(虹彩後癒着:posteriorsynechia).それが瞳孔全周へ拡大すると後房から前房への房水の流れが遮断され後房圧が上昇し,膨隆虹彩(irisbomb?)が生じる(図4).このような場合は早急にレーザー虹彩切開術を行う必要がある.使用するレーザーにはargonとYAGの2種類があるが,筆者は照射回数が少なくて済むYAGレーザーを使用している.しかし,前房炎症を有する眼にYAGレーザーを行った場合,術後の前房炎症により開通した穴が再度閉塞することがしばしばみられる.そこで通常の狭隅角に伴った緑内障発作時と比べて大きめにレーザー虹彩切開術を施行する.そして数発照射しても穴が開かないような場合,また再閉塞をきたすような場合は観血的に周辺虹彩切除術を施行する.その際,術後の炎症は必発であるため,ステロイドの点眼や結膜下注射,炎症の程度によっては内服も併用して消炎に努める.特にBeh?et病でirisbomb?が生じた場合,レーザー虹彩切開術を行うと炎症発作の増悪を誘導するおそれがあるため,当施設ではできるかぎり周辺虹彩切除術を施行するようにしている.3.隅角癒着解離術谷原らは続発閉塞隅角緑内障に対して隅角癒着解離術が40%に有効であったと報告している31).この事実は続発閉塞隅角緑内障でも症例によっては線維柱帯以降の房水流出障害の少ないものが存在することを示している.一方で線維柱帯以降の房水流出が完全に障害されているような症例に対しては,隅角癒着解離術を何度もくり返すのではなく,流出抵抗の部位に応じて他の術式を加えていくべきであろう.4.MitomycinC併用線維柱帯切除術ぶどう膜炎による続発緑内障に対するmitomycinC(MMC)併用線維柱帯切除術の眼圧コントロール成績について表3に示す.まずわが国からの論文をみると,1998年の比較的炎症の程度の軽い例を対象にした松村らの報告では術後3年で眼圧調節率が87%32),2001年に今泉らは術後5年で初回手術例において有効率が76.3%であったと述べている33).2002年に高橋らは20(41)図4膨隆虹彩(irisbomb?)ブロック解除前(左)とブロック解除後(右).表3MMC併用線維柱帯切除術の眼圧コントロール成績報告者報告年平均経過観察期間眼圧コントロール率松村ら32)今泉ら33)高橋ら27)高橋ら34)Ceballosら37)重安ら35)岡田ら36)Yalvacら38)199820012002200220022004200420042.0年1.9年記載なし3.8年2.5年2.0年2.3年3.3年87%*76%89%80%*62%70%*82%67%*:点眼併用と記載あり.———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006mmHgを目標眼圧とした場合,無投薬で62.9%,点眼併用で80.5%の生存率があったとしている34).2004年に重安らは平均観察期間48カ月において眼圧調整率は初回手術70%であったと報告している35).同じく2004年に岡田らは術後24カ月で生存率は81.6%であったと述べている36).海外からの報告では2002年にCeballosらはMMC併用あるいは5-?uorouracilを併用した線維柱帯切除術を行い,点眼を併用しても生存率は術後1年で78%,2年で62%であったと報告している37).興味深いことに男性では術後2年で生存率が39%であったのに対して女性では71%と女性のほうが良好な成績であった.2004年にYalvacらはBeh?et病に伴う続発緑内障に対してMMC併用線維柱帯切除術を行ったところ,術後1年で眼圧調整率は83%,術後3年では70%の成績を得たと報告した38).また開放隅角緑内障とぶどう膜炎続発緑内障で術後の眼圧調整率を比較した場合,長期経過ではその有効性はぶどう膜炎続発緑内障群において有意に低下していた33).さらに沖波らはPASが半周以上の症例では有効率は25%であったのに対して,半周未満ないし開放隅角では85%と有意な差があったと報告している39).つぎに続発緑内障に対して緑内障単独手術と白内障緑内障同時手術で術後眼圧を比較してみると,以前に溝口らは白内障手術を併用すると術後に眼圧を20mmHg以下へ調整できる確率は術後3年で68%,緑内障手術単独では87%,さらに14mmHg以下へ調整できる確率は同時手術群で24%,単独群では63%と有意な差があったとしている40).2004年の岡田らの報告では目標眼圧が15mmHgであった場合,眼圧調整率は同時手術群が16%であったのに対して単独群が58%であった36).これらの結果より眼圧をlowteenで安定させるためには,緑内障単独手術のほうがより効果的であると考えられる.術後の炎症管理は濾過胞維持のために重要であるが,最近のMoltenoらの報告によれば,続発緑内障術後の濾過胞を維持させる手段として,術後に一定期間ステロイドや非ステロイド系消炎薬およびコルヒチンを内服させると良好な結果が得られている41).5.線維柱帯切開術続発緑内障に対して線維柱帯切開術を行うか,線維柱帯切除術を行うかは術前の炎症や眼圧,視野障害の程度,視神経乳頭変化,術後の目標眼圧,患者の年齢などから総合的に判断する.線維柱帯切開術は術後highteenを目標眼圧とする比較的視野障害が軽度の症例に推奨される術式であるといえる42).また下方からのアプローチで本術式を行った場合,上方の結膜を温存することができ将来的に線維柱帯切除術が必要となった場合でも対応可能である.しかしながら本術式では術後の前房出血は必発であり,一部の症例では切開した隅角へ虹彩が癒着し,PASを形成することがある.ステロイド緑内障のように炎症が少なくPASがないような症例に対しては本術式が有効であると報告されている43).最近Freedmanらは小児慢性ぶどう膜炎の続発緑内障12例16眼に対して隅角切開術を施行したところ有効率が75%であったと報告しており44),Hoらも31例31眼に対して本術式を行い,71%の有効率を示している45).さらに術後成績を決定する因子として,虹彩炎の罹病期間,緑内障手術に至るまでの期間,PASの程度が少ないことなどをあげている45).これらのデータは小児ぶどう膜炎症例に対する本術式の有効性を示すものである.6.まとめぶどう膜炎続発緑内障の治療を行うためには,その病態を正しく把握し眼圧上昇の原因を明らかにすることが重要である.続発緑内障に対する手術治療はMMCの登場により,その成績は以前と比較して改善されてはいるものの,良好な眼圧コントロールを維持するうえで術前,術後の消炎は併発白内障手術と同様,必須であるといえる.ステロイド使用による眼圧上昇は大きな問題であるが,その機序についてもまだ未解明の部分が多い.今後はステロイドにかわるような薬剤による抗炎症療法によって続発緑内障への進展の予防,さらには続発緑内障治療成績の向上が期待される.本稿を終えるに際し,ご校閲いただいた東京医科大学臼井正彦教授に深謝いたします.(42)———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006????文献1)後藤浩:ぶどう膜炎に対する外科的治療法の適応と注意点.眼科手術17:149-154,20042)NussenblattRB,WhitcupSMeds:Uveitis,FundamentalsandClinicalPractice.p137-154,Mosby,StLouis,20043)合田千穂,小竹聡,笹本洋一ほか:ベーチェット病の併発白内障に対する手術成績.臨眼54:1272-1276,20004)平岡美衣奈,藤野雄次郎:ベーチェット病の併発白内障に対する手術成績.日眼会誌103:109-123,19995)Kadayif?ilarS,GedikS,EldemBetal:CataractsurgeryinpatientswithBeh?et?sdisease.???????????????????????28:316-320,20026)LamLA,LowderCY,BaerveldtGetal:Surgicalmanage-mentofcataractsinc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科の実地医家にも十分役立つよう歴史・由来・全身症状・治療法など,広範な解説.4.各症候群に関する最新の,入手可能な文献をも収載.■本書の特色■

顆粒球除去療法

2006年11月30日 木曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSどう膜炎),4:外陰部潰瘍を主症状とする原因不明疾患である.日本をはじめ,韓国,中国,中近東,地中海沿岸諸国によくみられ,silkroaddiseaseともいわれる1).日本では現在約18,000人の報告がある.発病年齢は,男女とも20~40歳に多く,30歳代前半にピークを示す.特に眼病変は男性で重症化しやすい.病因は不明で,何らかの内因と外因が関与して白血球の異常が生じて病態が形成されると考えられている.なかでも眼症状は重篤で失明に至るケースが多く,本症患者のqualityoflife(QOL)を著しく低下させている.本疾患に対する根本治療法はいまだ確立されていない.Beh?et病の眼病変の特徴は眼内各組織の閉塞性血管炎を主体とした眼組織全体の炎症である.急性前眼部発作時には,しばしば境界線が明瞭な前房蓄膿がみられる.虹彩や毛様体から前房や硝子体中に好中球が遊走し,前房蓄膿や硝子体混濁になる.前房蓄膿の臨床的特徴は「さらさら」していることであり,体位により容易に移動する.前房水スメアをギムザ染色すると,前房蓄膿の構成細胞はほとんどが分葉核をもつ好中球であり(非肉芽腫性虹彩ぶどう膜炎),好中球の何らかの異常がBeh?et病を誘発すると考えられる.症状は一過性であるが,炎症は再燃しやすい.再燃を重ねるに従って,種々の器質的障害が残るようになり,ついには失明またはそれに近い状態まで視機能が低下する.眼病変に対する治療は急性期と緩解期で異なる.急性期には副腎皮質ステロイド薬の頻回点眼や結膜下・後部はじめにアフェレーシス(眼科では聞き慣れない用語だが)とは,人工デバイスを用いて,血液から何らかの成分を除去する治療の総称である.血液透析や血漿交換など老廃物や毒素を除く治療や,自己免疫病で自己抗体を特異的に除去する治療などが含まれる.しかし液性成分のみでなく,特定血球細胞を除去する治療(cytapheresis)も重要なアフェレーシスの分野であり,近年さまざまな疾患で実施されている.Granulocytapheresisは翻訳すると「顆粒球除去療法」となる.顆粒球は文字通り細胞内顆粒をもった細胞の総称であるが,生体内の多くの顆粒球は好中球であるため,臨床的には「好中球除去療法」という意味合いをもつことが多い.Beh?et病に伴うぶどう膜炎発作に,活性化型顆粒球(おもに好中球)が深く関わることが知られる.筆者らは(Beh?et病と同様に顆粒球が発作に関わる)潰瘍性大腸炎患者に対し顆粒球除去治療が行われ,副腎皮質ステロイド薬が効きにくい重症患者でも一定の効果をあげていることに注目した.今回眼症状を伴うBeh?et病患者に対し,顆粒球除去治療を行った.本稿では,そのパイロットスタディの概要・成績を述べるとともに,今後の臨床応用について考察する.IBeh?et病のこれまでの治療Beh?et病は1:口腔内難治性アフタ潰瘍,2:結節性紅斑などの皮膚症状,3:虹彩毛様体炎・網脈絡膜炎(ぶ(31)????*Koh-HeiSonoda:九州大学大学院医学研究院眼科学**KenichiNamba:北海道大学大学院医学研究科眼科学分野〔別刷請求先〕園田康平:〒812-8582福岡市東区馬出3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学特集●非感染性ぶどう膜炎治療の最先端あたらしい眼科23(11):1415~1419,2006顆粒球除去療法???????????????????園田康平*南場研一**———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006Tenon?下注射といった局所投与を行う.急性発作が落ち着いた緩解期には,発作頻度減少を目的とした治療を行う.まずコルヒチンを0.5~1.5mg経口投与する.コルヒチン単独で無効の場合,シクロスポリンを5mg/kg/day併用内服する.これでも無効の場合や副作用で投与できない症例では,低用量プレドニゾロン(5~10mg)の持続内服を行う.これらの薬剤は造血系,腎臓,肝臓,中枢神経系などに障害をきたす副作用もしばしば出現し,注意深く治療していかなければならない.Beh?et病眼発作予防に行われてきた上記の薬物治療は,これまで一定の効果をあげてきたが,残念ながら治療に反応せず失明に至る症例が数多く存在する.また全身副作用のため長期で投与できないケースもある.患者はBeh?et病に伴う臓器障害に加え,薬物副作用による症状にも苦しんでいる.顆粒球除去療法は潰瘍性大腸炎ですでに治療の実績があり,目立った副作用は報告されていない.現状では有効な治療法がなく眼発作のたびに失明の恐怖におびえる患者にとって,本研究で有用性が確かめられればこの上ない選択肢となりうると考えた.II顆粒球除去療法をBeh?et病に応用するまで潰瘍性大腸炎は,大腸に限局して,くり返し慢性の炎症・潰瘍ができる原因不明の疾患である.中等症以上の患者を対象とした,カラム治療(1回/週×5週間施行)と薬物療法との多施設共同無作為割付比較試験の結果,特に重症や難治例でカラム治療の有用度が評価され,保険適用になっている2).潰瘍性大腸炎では腸間の炎症部位に多数の顆粒球が浸潤する3).酢酸セルロース製ビーズカラムが潰瘍性大腸炎で効果を示す機序は,顆粒球・単球を中心とした病的白血球の選択的吸着,細胞の機能変化などによる.上述したようにBeh?et病病態形成にも同様に顆粒球が深く関わる.ゆえにこれを直接除去するカラム治療はBeh?et病の新治療法になると考えた.III実施プロトコールおよび結果北海道大学・九州大学眼科の共同研究として,各大学倫理委員会で同一プロトコールによる治療計画承認後,同時期に本治療を開始した4,5).筆者らが採用した適応基準および除外基準を表1に示す(両大学での総数14名).今回の検討では急性期眼発作ではなく,治療前後6カ月間の眼発作回数で治療成績を評価した.ゆえに眼発作の頻度の高いこと(治療開始前14週に2回以上の眼発作を起こしている)をエントリーの条件とした.またエントリー時急性発作を起こしている患者は,発作緩解を確認した後治療を開始した.急性発作期に顆粒球除去療法を行っても早期消炎効果は期待できると思われる.しかしBeh?et病眼発作は,単一発作自体自然に緩解するため,仮に治療に反応して緩解しても,自然経過との比較が困難である.また同一患者でも,その時々で急性眼発作の程度がまちまちで(前房蓄膿や黄斑部を含む広範囲の網膜滲出斑がみられるような大発作を起こすときもあれば,ごく軽微な前眼部炎症のみの小発作のときもある),回復時間も自ずと異なる.今回のような症例数の限られたパイロットスタディでは,急性期発作での効果判定が困難と考えた.酢酸セルロース製ビーズカラムはこれまで潰瘍性大腸(32)表1適応基準および除外基準<選択基準>1)年齢:20歳以上2)性別:不問3)入院・外来:不問4)片眼あるいは両眼に再発性網膜ぶどう膜炎型を有する完全型または不全型Beh?et病の患者5)ステロイド,コルヒチン,シクロスポリンA単独または組み合わせ治療にもかかわらず,過去14週で2回以上の眼発作を起こしている患者6)治療およびそのプロトコールについて本人および代諾者より文書同意の得られた患者<除外基準>1)顆粒球数2,000/mm3以下の患者2)感染症を合併している患者および合併が疑われる患者3)妊娠中,または妊娠している可能性のある女性4)前眼部のみの眼発作患者<慎重に使用することが望まれる場合>1)肝障害・腎障害のある患者2)アレルギー素因のある患者3)抗凝固剤(ヘパリン,低分子ヘパリン,メシル酸ナファモスタット)に対し過敏症の既往のある患者4)心血管系疾患のある患者5)赤血球減少(300万/mm3以下),極度の脱水(赤血球600万/mm3以上),凝固系の高度亢進(フィブリノーゲン700mg/d?以上)のある患者6)体温38℃以上の患者———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006????炎に使われてきた実績からも,安全性の高い医療器具といえる.しかしBeh?et病に対しては初めての試みであり,予想外の副作用が発生する可能性も考えた.そこで個々の患者に対して安全性が確立されるまでの期間(1週間程度)は入院のうえ治療を受けていただいた.実際の治療プロトコールを図1に示す.本治療では,酢酸セルロースビーズカラムとしてアダカラム?(株式会社JIMRO)を使用し,週1回の頻度で連続5回治療を施行した.患者の一方の肘静脈を脱血側,反対側の肘静脈を返血側として血管を確保する.静脈から静脈に専用ポンプを用いて循環させ,途中でカラムを通すことでビーズに顆粒球を吸着させる.循環条件は血液流量:30m?/分,循環時間:1時間,処理血液量:1,800m?,体外流出血液量:約200m?である.機器内での血栓形成予防のため,ヘパリン(2,000単位)またはメシル酸ナファモスタット(フサン?20mg)を体外循環時に持続混入させる.血液流量は30m?/分,治療時間は60分であり,1回の治療で1,800m?の全血を処理することになる(図2).14例全体の平均発作回数は,治療前4.2±1.6回,治療後2.9±1.4回(p=0.028)であった(図3).本治療によって発作は完全に抑制されるわけではなかったが,統計学的有意差をもって発作抑制効果があることが確かめられた.また筆者らは有効な症例とそうでない症例に2分されると感じたため,有効群と無効・不変群に分けて(33)表2有効群と無効群での治療前後の発作回数治療前6カ月の治療後6カ月の発作回数発作回数患者大発作小発作大発作小発作12110有効23002有効30601有効45203有効52111有効64203有効70723有効80402有効92220有効103114無効111350無効120212無効131213無効141203無効大発作の定義:網膜の半分以上に及ぶ病変を伴う後眼部発作,または前房蓄膿を伴う前眼部発作.(文献5より)図1プロトコールの概要遡及期間(14週)観察期間(2週以内)有効性および安全性評価期間(24週)週1回計5回のアダカラム?治療入院1)カラム治療:1回/週,計5回.2)安全性が確立されるまでの期間(1週間程度)は眼科入院.その後は外来通院で行う.3)既存薬は増減せずそのまま併用4)治療前後6カ月間の発作回数で判定図3前症例の治療前後での眼発作回数の比較(文献5より改変)4.2±1.6回治療前6カ月876543210治療後6カ月症例1症例2症例3症例4症例5症例6症例7症例8症例9症例10症例11症例12症例13症例14眼発作回数2.9±1.4回(p=0.028)アダカラム?(酢酸セルロースビーズカラム)肘静脈(脱血側)肘静脈(返血側)抗凝固剤注入口返血脱血図2顆粒球除去療法の概略図———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006臨床的に解析を行った.表2に有効群と無効群での治療前後の発作回数を示す.エントリーした14例中,9例は治療後発作回数が減少し有効群と判定したが,残り5例は発作回数の減少がみられず無効群と判定した.有効群では特に治療前にみられた大発作が消失するケースもあり,発作回数以上に患者の満足度は高かった.一方,無効群においては発作の重症度にも大きな変化はなかった.このように有効群と無効群の分かれる要因を特定するため,2群間の年齢,性別,罹病期間,使用薬剤,病型(完全型・不完全型)などの因子を比較検討した.その結果,罹病期間が5年以上の症例は有効群,5年未満は無効群に分類される症例が多いことが判明した.事実,罹病期間5年以上の症例7例で解析すると,全体で解析した以上にカラム治療の効果が大きいことがわかった(図4).今回の検討では,期間を通して重篤な全身副作用は認めなかった.これまで本治療に伴う副作用には,治療直後の脱力感・倦怠感・めまいなどが報告されている2).これらはすべて一過性であり,顆粒球除去治療自体ではなく,治療中使用する抗凝固剤によるものと考えられている.また本治療は眼症状以外の口腔内アフタ性潰瘍・関節症状・皮膚症状なども軽快する傾向があった.眼症状では無効群と判定した患者のなかにも,眼外症状の経過がいいという理由で,本治療の再施行を希望する患者もいる.本治療の作用機序について,アダカラム?はBeh?et病患者の顆粒球・単球を効率良く吸着除去したことを確かめた(図5).またカラムを通過した顆粒球においては接着分子(CD62L)の発現が低下していた(図5).また,接着分子の発現変化に伴い,インターロイキン(IL)-1bで刺激したヒト臍帯静脈内皮細胞への接着能の低下が認められたが,顆粒球の貪食能には変化がないことが報告されている6).つまり組織にとどまり眼炎症に関与すると考えられる顆粒球のみが選択的にビーズに吸着されるということではないかと考えている.IV今後の展望今回筆者らが行ったパイロットスタディの結果は,顆粒球除去療法が再発性の眼発作に苦しむBeh?et病患者にとってある一定の効果があることを示している7).ただし,眼発作をすべて抑制できるわけではなく,またまったく効果がなかったと思われる症例も存在した.特に現プロトコールでは発症後5年以上経過した症例では効果が高いと考えられた.Beh?et病眼症に対して,顆粒球除去療法が奏効するメカニズムを今後さらに解析していく必要がある.おそらく各種接着因子や炎症性サイトカイン・ケモカインの産生能の高い,活性化型好中球を選択的に除去している結果と考えられる.現在こちらの解析を進めているところである.今後最も大切なことは,Beh?et病に伴うぶどう膜炎(34)**p=0.014;*p=0.009;***p=0.001,out?owvsin?ow白血球数(×103/m?)012345678Columnin?owColumnout?ow(A)Columnin?owColumnout?ow(B)陽性細胞数CD62L?uorescenceintensityCD62L?uorescenceintensity陽性細胞数総白血球*好中球**リンパ球モノサイト***図5治療前後の白血球の性状(文献5より改変)眼発作回数7.24±1.49年(n=14,p=0.0275)3.13±0.3年(n=7,p=0.829)11.4±1.97年(n=7,p=0.0054)PrePostPrePostPrePost全体罹病期間<5年012345罹病期間≧5年平均罹病期間図4罹病期間別の眼発作回数の推移(文献5より改変)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006????(35)に対して最適な治療プロトコールを作成することだと考えている.現プロトコールは潰瘍性大腸炎でなされたプロトコールをそのまま使用しており,決してBeh?et病にそのまま当てはまるものではない.くり返しであるがBeh?et病患者はいつも眼の状態が悪いわけではなく,緩解と増悪をくり返しつつ徐々に不可逆性の変化を眼にきたす.ゆえに眼発作予防・頻度減少が大切であり,その観点からも眼発作をある程度予測したうえで,予防的・集中的な治療が望ましい.今度何らかの方法(血液中の各種炎症マーカーなど)で病勢をモニターしつつ,増悪期に入りそうなときに治療を行うことが効果的と考えている.今後多症例での検討を積み重ねるうちに,患者ごとのオーダーメイド的な治療プロトコールができあがっていくと期待される.謝辞:本研究の遂行に当たり,以下の方々に深く感謝申し上げます.北明大洲,小竹聡,大野重昭(以上北海道大学眼科),稲葉頌一(神奈川県赤十字血液センター),宮本敏浩(九州大学病院輸血部),有山章子,松浦敏恵,中村隆彦,藤本武,肱岡邦明,石橋達朗(以上九州大学眼科),川野庸一(浜の町病院眼科),株式会社JIMRO.文献1)SakaneT,TakenoM,SuzukiNetal:Currentconcepts:Beh?et?sdisease.????????????341:1284-1291,19992)KashiwagiN,HirataI,KasukawaR:Aroleforgranulo-cyteandmonocyteapheresisinthetreatmentofrheuma-toidarthritis.?????????????????????2:134-141,19983)AllisoMC:Pathogenesisofin?ammatoryboweldisease.In?ammatoryBowelDisease.p15-22,Mosby,StLouis,19984)SonodaK-H,InabaS,AriyamaAetal:Therapeuticneu-trophilapheresisinpatientswithocularBeh?et?sdisease.???????????????123:267-269,20055)NambaK,SonodaK-H,KitameiHetal:Granulocytapher-esisinpatientswithrefractoryocularBeh?et?sdisease.????????????21:121-128,20066)下山孝,澤田康史,田中隆夫ほか:潰瘍性大腸炎の活動期における顆粒球除去療法─多施設共同無作為割付比較試験─.日本アフェレシス学会雑誌18:117-131,1999

生物学的製剤

2006年11月30日 木曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSI炎症性サイトカインと炎症性疾患近年のめざましい分子生物学的進歩によりRA,Crohn病,Beh?et病といった炎症性疾患において,TNF-a,インターロイキン(IL)-1,IL-6といった炎症性サイトカインが病態形成の中心的な役割を担っていることが解明されてきた.これらの疾患においては炎症性サイトカインが抗炎症性サイトカインを凌駕しバランスが炎症性サイトカインに過度に偏った状態にあるといえる(図1).生物学的製剤として抗サイトカイン抗体が用いられたのはRAがはじめである.RAの病態は,T細胞を中心とした自己免疫反応が関節滑膜に生じ,滑膜細胞や浸潤はじめに近年,関節リウマチ(RA)やCrohn病の治療として新たに生物学的治療が登場し,切り札的存在となってきている.その代表的なものが抗腫瘍壊死因子(TNF)-a抗体(表1)であるが,現在日本で製品として使用できるものはインフリキシマブとエタネルセプトである.そのうち,インフリキシマブがこれまで約8年の治験を経て,ようやく後眼部への炎症発作をくり返すBeh?et病への適応拡大まで後一歩というところまできている.これはBeh?et病患者への大きな福音となるに違いない.また,現在多くの生物学的製剤が開発中であり,それらのうちぶどう膜炎治療への応用が期待される薬剤について述べる.(25)????*KenichiNamba&ShigeakiOhno:北海道大学大学院医学研究科眼科学分野〔別刷請求先〕南場研一:〒060-8638札幌市北区北15条西7丁目北海道大学大学院医学研究科眼科学分野特集●非感染性ぶどう膜炎治療の最先端あたらしい眼科23(11):1409~1414,2006生物学的製剤???????????????南場研一*大野重昭*IL?1IL?6TNF?aIL?10IL?4TGF?b炎症性サイトカイン抗炎症性サイトカイン図1サイトカインのバランス炎症性疾患においては,炎症性サイトカインと抗炎症性サイトカインのバランスが崩れて,炎症性サイトカイン側へ傾いた状態にあるといえる.生物学的製剤の治療はこのバランスを是正することにある.表1抗TNF-a抗体製剤?インフリキシマブ(レミケード?)ヒト?マウスキメラ型抗体0,2,6週,以後8週ごとの点滴治療RA,Crohn病に適用Beh?et病,乾癬,潰瘍性大腸炎,ASに対して治験中?エタネルセプト(エンブレル?)ヒトTNF可溶性レセプター週2回の皮下注射(自己注射可)RAに適用?アダリムマブ(ヒューミラ?)ヒト型抗体RA,乾癬,AS,潰瘍性大腸炎,Crohn病,JIAに対して治験中RA:関節リウマチ,AS:強直性脊椎炎,JIA:若年性突発性関節炎,TNF:抗腫瘍壊死因子.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006してきたマクロファージ,リンパ球から炎症性サイトカインが過剰産生され,関節を主座とした全身の炎症が生じると考えられている.これまでのRAの治療は,1.非ステロイド系抗炎症薬,2.メトトレキサート,3.低容量ステロイド薬であったが,1993年のFeldmannらにより報告された抗TNF-aキメラ抗体による治療成績は驚くべき有効性を示していた1).それまでにもTNF-a,IL-1,IL-6といった炎症性サイトカインがRAの病態形成に関与していることは示されてきたが,サイトカインの生物活性の多重性,ネットワークの存在より,たった1つのサイトカインの制御が治療に結びつくことに対して嫌疑的な意見が多かった(筆者もそうであった).しかしながら実際には抗TNF-a抗体による治療は高い有効性を示し,後述のごとく他のサイトカインに対する治療薬が次々と開発されるに至っている.Beh?et病においても,Beh?et病患者では末?血中TNF-a値が他のぶどう膜炎と比較して有意に高いこと,単球のTNF-a産生能の亢進が示されてきた2).一方,ヒトぶどう膜炎の動物モデルであるマウス,ラットでの実験的自己免疫性ぶどう膜網膜炎(EAU)においてもTNF-aがぶどう膜炎の発症に関与していることが示され,抗TNF-a抗体あるいはTNF可溶性レセプターの投与によりEAUが抑制された3,4).このような事実より抗TNF-a抗体治療がBeh?et病をはじめとするぶどう膜炎に対して有効であることが期待される.IIこれまでのBeh?et病の治療これまでBeh?et病の眼炎症発作予防の治療としては,第一選択薬としてコルヒチンの全身投与が行われ,コルヒチンでの発作抑制効果が不十分である場合にはシクロスポリン内服が選択されてきた.シクロスポリンが登場した当時,シクロスポリンに対する期待は大変大きかった.しかし,残念ながら発作抑制が得られる症例は約半数であること,腎障害,中枢神経症状出現などの副作用のために使用を中止せざるをえない症例も多いことから,満足のいく治療方法とはいえないのが現状である.したがって現在でも失明に至るBeh?et病患者は多く存在し,新たな治療方法の模索が続いている.IIIぶどう膜炎を有するBeh?et病患者に対する抗TNF-a抗体治療現在ぶどう膜炎を有するBeh?et病患者に対するインフリキシマブの治験が進行中である(図2).その結果の一部を示す.まず,1999年6月より2001年5月まで全国5施設にて行われた前期第Ⅱ相臨床試験についてである5,6).対象は18歳以上65歳未満の網膜ぶどう膜炎を有するBeh?et病患者のうちシクロスポリン治療の効果不十分,あるいは副作用により投与が不可能となった症例で,治験登録前の遡及期間(14週)と観察期間(14週以内)にそれぞれ1回以上,かつ両期間中に3回以上の眼炎症発作を生じた例である.登録順に1回当たり5mg/kgもしくは10mg/kgの2用量を割り付け,0週,2週,6週,10週の4回点滴静注を行った.実際に投与を受けた症例は5mg/kg投与群7例,10mg/kg投与群6例であった.5mg/kg投与群では7例中5例において,10mg/kg投与群では6例中5例において眼炎症発作がみられなくなった.また,平均発作回(26)評価期間14週026100261422303846(週)インフリキシマブ遡及・観察期間前期臨床試験評価期間(有効性54週,安全性62週)観察期間長期臨床試験図2網膜ぶどう膜炎を有するBeh?et病におけるインフリキシマブ投与臨床試験既存治療抵抗性の網膜ぶどう膜炎を有するBeh?et病におけるインフリキシマブ投与試験のスケジュールを示す.先に前期臨床試験として0,2,6,10週のインフリキシマブ投与を行い投与開始から14週の有効性・安全性の評価を行い,後に約1年間の長期臨床試験として0週,2週,6週,さらに8週おきに46週まで投与を行い投与開始から54週の有効性,62週の安全性を評価した.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006????数を投与前14週の遡及・観察期間と投与後14週の評価期間において比較してみると,5mg/kg投与群では投与前に平均3.5±1.1回であった発作回数が投与後平均1.0±2.2回へと有意に減少し,10mg/kg投与群においても同様,投与前平均3.8±1.7回が投与後0.2±0.4回へと有意に減少していた(図3).有害事象として1例に粟粒結核,結核性髄膜炎がみられ,さらに,薬剤に対する中和抗体が1例において検出された.その他下痢,感冒様症状,嘔気,血圧変動などがみられた.つぎに,先に行われた13名の臨床試験参加者のうち1年間の長期投与試験を行えた症例について述べる.対象は,18歳以上65歳未満の網膜ぶどう膜炎を有するBeh?et病患者で先の臨床試験においてインフリキシマブ治療を予定通り行い治療後26週の評価を得ることができ,眼炎症発作減少の有効性がみられた症例である.先に行った投与量と同じ1回当たり5mg/kgもしくは10mg/kgを,0週,2週,6週,さらに8週おきに46週まで投与を行い投与開始から54週を評価期間として効果を判定した.投与を受けた症例は5mg/kg投与群4例,10mg/kg投与群4例であった.長期試験に参加できた全症例は,先の臨床試験においてインフリキシマブ投与中に眼炎症発作は完全にみられなかったが,長期試験開始までのインフリキシマブ投与中止中はシクロスポリン投与を再開しても全症例において眼炎症発作が再発しており,改めてインフリキシマブ治療の効果が再認識された.平均発作回数を投与前54週に換算した観察期間と投与後54週の評価期間において比較してみると,5mg/kg投与群では投与前に平均10.1±3.0回であった発作回数が投与後平均0.5±0.6回へと有意に減少し,10mg/kg投与群においても同様,投与前平均15.1±5.7回が投与後1.7±1.7回へと有意に減少していた(図4).また,治療開始から62週を安全性評価期間として有害事象の調査を行ったが,結核を含めた感染症など重篤な有害事象はみられず,みられたものは注射反応として一時的にみられる頭痛,血圧変動などであった.以上,既存治療に抵抗性の網膜ぶどう膜炎を有するBeh?et病に対する抗TNF-a抗体インフリキシマブの治験成績を示したが,従来のコルヒチン,シクロスポリンの治療効果と比較すると驚異的ともいえる非常に高い眼炎症発作抑制効果を示している.RAにおいて切り札的な治療と位置づけられてきている治療であるが,(27)図4長期(1年間)インフリキシマブ投与臨床試験先に行われたインフリキシマブ投与試験に参加したBeh?et病患者の一部に1年間のインフリキシマブ投与試験を行った.先の試験においてインフリキシマブ投与中に眼炎症発作の抑制が得られていた患者でもインフリキシマブ投与中止時の観察期間には再び眼炎症発作がみられるようになっていた.インフリキシマブ投与再開後は5mg/kg投与群,10mg/kg投与群いずれにおいても眼炎症発作が有意に減少した.0510152025:5mg/kg群:10mg/kg群治療前(観察期間)治療後(評価期間)眼炎症発作回数/54週0246p=0.031p=0.031:5mg/kg群:10mg/kg群治療前(遡及・観察期間)治療後(評価期間)眼炎症発作回数/14週図3インフリキシマブ投与前期臨床試験コルヒチンやシクロスポリンなどの既存治療にて眼炎症発作が抑制されないBeh?et病患者にインフリキシマブ治療を行った.インフリキシマブの5mg/kg投与群,10mg/kg投与群いずれにおいても有意な眼炎症発作抑制効果がみられた.———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006Beh?et病においても同様に眼炎症発作抑制の切り札となることを期待したい.しかしながら,インフリキシマブの治療においていくつかの問題点があることも事実である(表2).TNF-aは炎症の起点となると同時に感染防御に重要なサイトカインである.そのTNF-aの働きを遮断する治療であるために副作用として最も懸念されるのは感染症である.特に結核の発症のリスクが高いといわれており,実際,この治験中にも1例の結核感染症がみられた.抗TNF-a抗体治療中に発症する結核は潜在的に存在していた結核の再活性化によるものと考えられている.投与前の胸部X線写真・CT(コンピュータ断層撮影)など結核感染スクリーニング検査および内科医の診察が必須であり,リスクのある患者では抗結核薬(イソニアジド)の予防投与も必要である.最近ではこの抗結核薬の予防投与により治療中の結核の発現がほとんど生じなくなったとの報告もある.また,反復投与中にアナフィラキシー症状(血管浮腫,チアノーゼ,呼吸困難,気管支痙攣,血圧上昇/低下など)を呈することがあり,毎回投与中および投与後は十分な観察が必要である.さらに,インフリキシマブにはマウス由来の蛋白構造が含まれるため,反復投与によりインフレキシマブに対する中和抗体が誘導されることがあり,その場合薬剤効果が減弱されてしまう.以上のように,インフリキシマブはいくつかの問題点があるものの非常に大きな効果が期待される治療である.Beh?et病の治療において革新的な治療になるに違いない.IV今後ぶどう膜炎治療へ期待される生物学的製剤インフリキシマブの高い有効性に基づき,つぎつぎと他の製剤が開発,発売されている(表1,3).1.エタネルセプト(エンブレル?)インフリキシマブと同じくTNF-aをターゲットとした生物学的製剤であるが,こちらはヒトTNF可溶性レセプターである.点滴静注による投与ではなく,週に2回皮下注射を行う.インスリンのように自己注射も行え(28)表3他の生物学的製剤製剤標的分子一般名商品名有効性が報告されている疾患IL-1レセプター拮抗薬IL-1アナキンラキネレットRA(治験中)ヒト化抗IL-6レセプター抗体IL-6トシリズマブアクテムラCastleman病(保険適用)RA,若年性突発性関節炎(治験中)CTLA4IgCD80/CD86:CD28アバタセプトオレンシアRA(治験中)抗CD20キメラ抗体CD20リトキシマブリツキサンB細胞性リンパ腫(保険適用)RA(米国にて治験中)SLE(報告のみ)ヒト化抗VEGF抗体VEGFベバシズマブアバスチン結腸・直腸癌(治験中)加齢黄斑変性症(報告のみ)増殖糖尿病網膜症(報告のみ)新生血管緑内障(報告のみ)PEG化抗VEGFアプタマーVEGFペガプタニブマキュジェン加齢黄斑変性症(治験中)増殖糖尿病網膜症(報告のみ)抗VEGFFab抗体VEGFラニビズマブルセンティス加齢黄斑変性症(治験中)IL:インターロイキン,CTLA4Ig:細胞障害性Tリンパ球関連抗原4免疫グロブリン融合蛋白,VEGF;血管内皮細胞増殖因子,PEG:ポリエチレングリコール,RA:関節リウマチ,SLE:全身性エリテマトーデス.表2インフリキシマブの問題点?感染症(特に結核)?アナフィラキシー?薬剤に対する中和抗体———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006????るがややむずかしい.日本国内では現在RAにのみ保険適用されている.ぶどう膜炎に対してもインフリキシマブと同等の効果が期待される.2.アダリムマブ(ヒューミラ?)インフリキシマブと同様抗TNF-a抗体であるがマウスとのキメラ抗体ではなく,完全ヒト型抗体であるという点で優れている.このため,中和抗体の出現が少なく反復使用により効果が減弱することも少ないと考えられる.現在米国でRAに対する使用が承認されており,日本でもRAに対する治験が進行中である.小児ぶどう膜炎に対する有効性の報告もある.3.アナキンラ(キネレット?)ヒトIL-1レセプター拮抗薬で,米国にてRAに対する臨床試験で有効性が示され,RAに対して使用が認可されている.日本ではRAに対する治験が行われている.炎症性サイトカインの一つであるIL-1を阻害する薬剤であるので,ぶどう膜炎に対しても有効性が期待できる.4.トシリズマブ(アクテムラ?)ヒト化抗IL-6レセプター抗体で,大阪大学と中外製薬との共同開発により日本で製品化された.腫脹したリンパ節から多量のIL-6が産生される疾患であるキャッスルマン(Castleman)病に対して2005年に保険適用.現在RAおよび若年性突発性関節炎に対して治験を行っている.炎症性サイトカインの一つであるIL-6を阻害する薬剤であるので,ぶどう膜炎に対しても有効であることが期待される.5.アバタセプト(オレンシア?)T細胞の活性化には抗原提示細胞からの抗原提示に加えて抗原提示細胞上のCD80/CD86分子からT細胞上のCD28分子への補助刺激が必要である.アバタセプトはCD28よりも強力な結合力をもつ細胞障害性Tリンパ球関連抗原4(CTLA4)分子を可溶化したCTLA4免疫グロブリン融合蛋白であり,投与により補助刺激を阻害しT細胞活性化を抑制する.米国,カナダにおいて2006年2月よりRAに対して使用が承認され,日本でもRAに対して治験が行われている.T細胞の活性化を抑制する薬理効果が期待できることからぶどう膜炎にも有効であることが期待される.6.リツキシマブ(リツキサン?)抗CD20キメラ抗体.現在CD20陽性B細胞非ホジキンリンパ腫に対して保険適用.現在RAに対する治験が行われている.また,全身性エリテマトーデス(SLE)に対して有効性を示す報告がある.この治療はB細胞系の免疫反応を介した疾患に有効であり,ぶどう膜炎への応用はむずかしいかもしれない.7.ベバシズマブ(アバスチン?)ヒト化抗血管内皮細胞増殖因子(VEGF)抗体で,血管新生に重要な役割を果たしているVEGFを中和するものである.米国ではすでに結腸・直腸癌に対しての使用に承認されているが,日本でも同疾患に対して治験を行っている.最近,加齢黄斑変性症,増殖糖尿病網膜症,血管新生緑内障に対するベバシズマブの硝子体内投与により高い有効性が得られることが相ついで報告されている.新生血管を伴うぶどう膜炎に対して有効である可能性がある.8.ペガプタニブ(マキュジェン?):ポリエチレングリコール(PEG)化抗VEGFアプタマーベバシズマブと同様VEGFをターゲットにしているが,PEG化により消失までの時間延長を図っており,硝子体内投与において有効性が高い.米国ではすでに加齢黄斑変性症に対して使用の認可を受けており,日本においても治験が進行中である.新生血管を伴うぶどう膜炎に対して有効である可能性がある.9.ラニビズマブ(ルセンティス?):ヒト化抗VEGF抗体のFabフラグメント抗体のFabフラグメントを遺伝子組み換え合成したもの.全長ヒト化抗体と同等の効果を有しながら低分子蛋白であるため,網膜への浸透性が高いと考えられる.ペガプタニブと同様に硝子体内へ投与することにより加(29)———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006齢黄斑変性症に対して有効であり,日本でも治験が行われている.新生血管を伴うぶどう膜炎に対して有効である可能性がある.以上,代表的なものを列挙したが,この他にも多く薬剤が開発中であり,さらに,今年のノーベル医学生理学賞の受賞テーマであるRNA干渉を使った治療も検討されている.それらのなかからどれだけのものが生き残り,患者へ使用できるようになるか定かではない.いずれにしてもこれら生物学的製剤が今後のぶどう膜炎を含む炎症性眼疾患の治療において大きな役割を果たすようになるのは間違いがない.文献1)ElliottMJ,MainiRN,FeldmannMetal:Randomiseddouble-blindcomparisonofchimericmonoclonalantibodytotumournecrosisfactoralpha(cA2)versusplaceboin(30)rheumatoidarthritis.??????344:1105-1110,19942)中村聡,杉田美由紀,田中俊一ほか:ベーチェット病患者における末?血単核球のinvitrotumornecrosisfactor-alpha産生能.日眼会誌96:1282-1285,19923)SartaniG,SilverPB,RizzoLVetal:Anti-tumornecrosisfactoralphatherapysuppressestheinductionofexperi-mentalautoimmuneuveoretinitisinmicebyinhibitingantigenpriming.?????????????????????????37:2211-2218,19964)RobertsonM,LiversidgeJ,ForresterJVetal:Neutraliz-ingtumornecrosisfactor-alphaactivitysuppressesactiva-tionofin?ltratingmacrophagesinexperimentalautoim-muneuveoretinitis.?????????????????????????44:3034-3041,20035)OhnoS,NakamuraS,HoriSetal:E?cacy,safety,andpharmacokineticsofmultipleadministrationofin?iximabinBeh?et?sdiseasewithrefractoryuveoretinitis.????????????31:1362-1368,20046)中村聡,堀貞夫,島川眞知子ほか:ベーチェット病患者を対象とした抗TNFa抗体の前期第II相臨床試験成績.臨眼59:1685-1689,2005

免疫抑制薬

2006年11月30日 木曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS投与がしにくいBeh?et病やステロイド薬の投与が基本となる遷延型原田病,または重症の急性前部ぶどう膜炎や中間部ぶどう膜炎においても,免疫抑制薬が第一選択となることはまずない.免疫抑制薬の適応は,Beh?et病の治療でコルヒチン無効例か,遷延型原田病でステロイドの反応性が悪く,投与してもすぐ再発してしまう場合に限られる.これは,免疫抑制薬の効果もさることながら,第一選択薬とするには副作用が強いことが原因の一端である(これについては後ほど述べる).免疫抑制薬を第二選択薬として使用したが,あまり効果があがらなかった場合,ステロイド薬やコルヒチンと併用して免疫抑制薬が使われることになる.1.シクロスポリンa.わが国におけるシクロスポリンの使用状況わが国において,免疫抑制薬はシクロスポリンを中心に使用されている.他にアザチオプリン(イムラン?,アザニン?),シクロフォスファミド(エンドキサン?)も用いられることがあるが,その使用頻度は保険の適用となるシクロスポリンに比べたらわずかである.1987年から用いられてきたシクロスポリン(サンディミュン?)は,最近マイクロエマルジョン製剤(ネオーラル?)への切り替えが進んできている.その理由として,ネオーラル?のほうがサンディミュン?に比べて血液中の薬物動態パラメータのばらつきが少なく,実際,食事や胆汁分泌に影響されにくく安定した吸収ができる2~4).またはじめに眼科領域,特にぶどう膜炎で免疫抑制薬をよく使用するようになったのは,シクロスポリンからである.活動性の眼病変のあるBeh?et病に対して,1987年に厚生省の認可を得て以来,諸外国で用いられた種々の免疫抑制薬はあまり使用されることはなく,シクロスポリン(サンディミュン?)が投与されてきた.また,2000年にはより効果的と考えられているシクロスポリンのマイクロエマルジョン製剤であるネオーラル?が認可された.わが国のぶどう膜疾患で免疫抑制薬を用いざるをえなくなるのは,Beh?et病と頻度は少ないが遷延型原田病の難治例に対してである.これらの疾患に対してシクロスポリンがどのように用いられているかを中心に述べていきたいと思う.ぶどう膜炎の薬物療法における免疫抑制薬の位置づけぶどう膜炎(内眼炎)は,免疫応答の亢進によってひき起こされる疾患であり,比較的軽症な虹彩毛様体炎から重症な汎ぶどう膜炎に至るまでいろいろなパターンがあり,それぞれの治療選択肢を考えなければならない1).基本的にはステロイド薬の点眼療法から始め,ステロイド局所投与,全身投与を行うことが多い.Beh?et病に限っては,長期間にわたるステロイド薬の全身投与を行うと,ステロイド減量中に大きな眼炎症発作を起こしやすくなるため,禁忌とされている.ステロイド薬の全身(19)????*TakeshiKezuka:東京医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕毛塚剛司:〒160-0023東京都新宿区西新宿6-7-1東京医科大学眼科学教室特集●非感染性ぶどう膜炎治療の最先端あたらしい眼科23(11):1403~1408,2006免疫抑制薬????????????????????????毛塚剛司*———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.11,200610mg,25mg,50mgと細かな用量調節ができるというメリットもある.シクロスポリン治療は,副作用の観点から,5mg/kg/dayから開始することになっている.これを1日2回に分けて食前または食後に服用し,しばらくの間継続することになる.ついで,次回投与直前のシクロスポリン血液濃度(トラフレベル)を月1回程度調べることで薬効と副作用に対する安全性を確認することができる5).通常全血中濃度が50~200ng/m?になるようにシクロスポリン量を調整する.このとき,グレープフルーツジュースによりシクロスポリン血中濃度が上昇することや,ステロイド薬との併用により血中濃度が高く維持されることを注意すべきである.気候が安定した時期なら,経過をみながら0.5mg/kg/dayを1~2カ月かけて減量するようにし,最終的に2.5~3.0mg/kg/day程度になるようにする.この過程において,トラフレベルが50ng/m?をきることもあるが,眼症状が安定していれば差し支えないと思われる.シクロスポリンの血中濃度と薬効は,個々の症例で異なり少量でも非常に効果的な場合や,逆に相当濃度をあげても効果が薄い症例もある.このときは臨床効果をみながら徐々に増減し副作用の発現をできるかぎり抑えていかなければならない.減量のタイミングとしては季節の変わり目や冬場は,眼発作が起こりやすいので,性急な減量は控えるべきである3).シクロスポリン内服の中止の目安として,中川らは6カ月間まったく眼炎症発作がないか,3カ月間にわたりまったく眼炎症発作がなく,かつその前の6カ月間に軽度の眼発作が1~2回程度でおさまった場合を最低基準にするよう提唱している2).中止の時期が近くなると,低容量のシクロスポリン投与でトラフレベルが基準値より低くなるため,いきなり中止したりせずにゆっくりと中止したほうがよいと思われる.表1にシクロスポリンの用法と用量をまとめる.b.シクロスポリンの副作用コルヒチンに比べ,シクロスポリンは副作用が強く初回投与前および投与中に種々の全身検査が必要となる.トラフレベルが高いと副作用は起きやすくなる.以下に症状をあげる.1)中枢神経症状シクロスポリンの副作用として,最も問題となる.多くは頭痛が初発症状となり,手足のしびれ,振戦のこともある.疑わしい症例では神経内科医と連携をとり,緊急で頭部MRI(磁気共鳴画像),髄液検査を行いシクロスポリンは中止とする.Kotakeらは,Beh?et病における中枢神経症状の発現頻度を調査し,シクロスポリン投与症例で47例中12例に発現し,非投与症例では270例中9例にとどまったことから,シクロスポリンでは中枢神経症状が高頻度で起こることを示した6).また,シクロスポリンは,コルヒチン内服時にミオパチーが出現しやすいが,シクロスポリン単独でも出現することがある.このため,定期的に血清CPK(creatinephosphoki-nase)値を測定する必要がある.2)腎機能障害腎障害は,トラフレベルにかかわらず出現する可能性がある.血清クレアチニン値とb2?マイクログロブリンを測定し,異常値となれば30~50%減量するのが望ましい7).3)高血圧血圧は,収縮期165mmHg以上,拡張期95mmHg以上になるようなら減量を考える7).以上の副作用の発現をより早く知るために,初期には1カ月に1回,その後は1~2カ月に1回の割合で採血を行い末?血,生化学検査を行い,同時に血圧検査を施行するべきである.表2にシクロスポリン投与時の(20)表1Beh?et病におけるシクロスポリン(ネオーラル?)の用法と用量5)投与量および用法初期には5mg/kg/dayの投与を2回/dayで行う.継続期において,増量:初期投与量でも臨床効果が十分に得られず,またシクロスポリンのトラフレベルが基準値(150ng/m?以内)より低い場合に,1~2mg/kg/dayを1~2カ月ごとに施行.減量:以下のいずれかを満たす場合1)臨床効果が十分に得られた場合2)シクロスポリンのトラフレベルが高い場合3)副作用が出現した場合4)副作用の出現の恐れがある場合急激な減量は,重篤な眼炎症発作の再発をきたすことがある.再発した場合は,ステロイド薬の局所療法による対症療法を行う.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006????チェック項目を示す.c.シクロスポリンと他剤の併用シクロスポリンが,ぶどう膜炎の眼炎症発作を抑制する薬剤として登場する以前は,Beh?et病の眼発作に対する内服治療薬としてコルヒチンのみが用いられていた.このため,わが国においてぶどう膜炎(Beh?et病)のシクロスポリン導入に際してシクロスポリンとコルヒチンの二重盲検試験が行われた8,9).その結果,シクロスポリンはコルヒチンに比べ,有意に眼炎症発作が抑制できることが判明した8,9).Beh?et病の眼炎症頻度を下げるにはコルヒチンの内服加療が重要であるが,コルヒチンで眼炎症発作の頻度を押さえ込めないならシクロスポリン(ネオーラル?)への切り替えが必要となる8).導入量は5mg/kg/dayであるが,前述したように維持量として2.5~3mg/kg/dayまで徐々に減量していく.それでも眼発作が続くようなら,シクロスポリンとコルヒチンの併用療法を行う4)(表3).d.Vogt-小柳-原田病に対するシクロスポリン療法Vogt-小柳-原田病の治療には,基本的にステロイド大量療法を行うが,ステロイドで炎症を抑制できない場合,免疫抑制薬を用いることがある.導入量は5mg/kg/dayであるが,併用しているステロイドを徐々に減量していき,ステロイド薬を完全に中止してからシクロスポリンを減量していく10,11).当教室の経験では,シクロスポリンを5mg/kg/dayから用いてもBeh?et病に比べて副作用が出にくい傾向があった.その一方,Vogt-小柳-原田病では,最初に高用量のステロイド薬をシクロスポリンと併用したとき,ステロイド薬にシクロスポリンの血中濃度が高く維持する働きがあるため,思わぬほどにトラフレベルが上昇することがある12).このようなときはまずステロイド薬の減量を行い,2週間ほどみてからまたトラフレベルが高いようならシクロスポリン濃度を下げるというように,交互に減量を行うことが望ましい.2.タクロリムスタクロリムス(プログラフ?)は,日本で初めに発見された?????????????????????????から分離された物質であり,以前FK506とよばれていた.現在ではおもに臓器移植に用いられており,プロトピック軟膏?としてアトピー皮膚炎にも使われている.作用としてはシクロスポリンと似通っており,T細胞の活性を弱めサイトカインの産生を抑制する1).以前に多施設共同臨床試験を非感染性ぶどう膜炎53例(80%がBeh?et病)に対して行ったところ,0.05~0.2mg/kg/dayでの調査では最も高い濃度で効果がみられた13~15).しかし,腎機能障害が28%に,神経障害が21%に,胃腸障害が19%に,高血糖が13%に各々みられた14).その後,イギリスなどでシクロスポリン無効例のぶどう膜炎に対してタクロリムスが使用され,一定の効果をみた16,17).しかし,現在のところぶどう膜炎に対して保険適用はなく,使用できない状況にある.(21)表2シクロスポリン(ネオーラル?)投与時のチェック項目5)眼科的一般検査:視力,眼圧,眼底検査?このとき,眼病変の臨床経過を追うことが望ましい.?眼炎症の有無など.全身検査項目:?血圧:165/95mmHg以上が続くなら,シクロスポリンの30~50%減量もしくは中止を検討し,対症療法を開始する.?血中シクロスポリン濃度(トラフレベル):50~200ng/m?を超えないようにする.開始初期は200ng/m?を超えないようにするが,投与期間が長くなる場合100ng/m?を超えないように調整する.測定は,投与開始はじめは2週間ごと,投与後1カ月以降は1カ月ごとに行う.投薬を増減した場合,その直後に測定する.?腎機能検査(血中クレアチニン,BUN,血中b2-マクログロブリン):トラフレベルが150ng/m?を超えると腎機能障害が起きやすくなるので,より期間を短くして測定する.可能なら副作用の発現も考え,この値以下のトラフレベルが望ましい.?肝機能検査(GOT,GPT,g-GTP)GOT:グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ,GPT:グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ,g-GTP:g-グルタミルトランスペプチダーゼ.表3Beh?et病眼炎症発作予防のためのシクロスポリン治療の選択4)第一選択:コルヒチン処方:コルヒチン?(0.5mg)2T/day分2(朝・夕食後)第二選択:シクロスポリン(ネオーラル?)処方:ネオーラル?(50mg)5T/day分2(朝・夕食後)第三選択:コルヒチンとシクロスポリン(ネオーラル?)の併用処方:コルヒチン?(0.5mg)1T/day分1(朝食後)ネオーラル?(50mg)4T/day分2(朝・夕食後)———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.11,20063.メソトレキセート最初は抗癌剤として使用されたメソトレキセートは,リウマチ性関節炎や他のリウマチ疾患にも用いられた.メソトレキセートは,その作用として葉酸代謝拮抗薬として働くが,少量用いることでサイトカイン産生抑制,細胞増殖抑制といった免疫抑制効果を生む1).難治性ぶどう膜炎に対して,欧米ではステロイド薬の全身投与の無効例に投与することがあるが,わが国ではシクロスポリンに比べてあまり使用されていない.Samsonらは,若年性関節リウマチ,HLA-B27関連ぶどう膜炎,サルコイドーシス,Beh?et病やVogt-小柳-原田病などによる多数のぶどう膜炎の症例で,ステロイド薬の全身投与無効もしくはステロイド薬の副作用をきたしたものに限り,メソトレキセート治療を行い検討した18).結果は,メソトレキセート治療(12.3mg/week)で76%が炎症を抑制できたが,7%において副作用のために中止せざるをえなかった18).副作用で最も一般的なのが嘔吐,下痢などの消化器症状であるが,肝機能障害,造血器障害,中枢神経障害,呼吸器障害も起きることがあり注意が必要である.また,他の報告では,若年性関節リウマチ患者に低濃度のメソトレキセートを投与したところ,7例中6例においてぶどう膜炎が軽快した19).さらなる報告では,ステロイド薬が無効なサルコイドーシス患者に低濃度のメソトレキセートを投与したところ,11例で炎症が抑制され,視力が改善した20).4.アザチオプリンアザチオプリン(イムラン?,アザニン?)は,プリン合成を阻害しDNA合成やRNA合成ができず,生体内ではリンパ球減少やリンパ球増殖抑制,抗体産生抑制などの免疫担当細胞障害を起こす1).このため,臓器移植に対する免疫抑制薬としてよく用いられるが,わが国ではシクロスポリンに比べて,ぶどう膜炎に対してあまり用いられない.欧米での報告では,低濃度(1~3mg/kg/day)の経口投与を行うが,リンパ球減少と肝機能障害をきたすことがあるため,1カ月ごとのモニタリングが必要である1).Andraschらは,難治性の内因性ぶどう膜炎22例において,低濃度のアザチオプリン(2.0~2.5mg/kg/day)と低濃度のプレドニゾロン(10~15mg/kg/day)を併用した治療効果を検討した21).結果は12例で眼炎症が抑制されたが,10例で効果が認められなかったか,もしくは副作用のため中止せざるをえなかった21).当研究では,ステロイド薬の全身投与のみでは炎症が抑制できなかった症例に限っており,難治例が多かった可能性がある.Beh?et病に対してもトライアルはなされており,2.5mg/kg/dayのアザチオプリンでプラセボに比べ,有意に眼炎症発作の抑制効果が認められた22,23).また低濃度のステロイド薬とアザチオプリンを併用して用いた場合でも眼炎症発作の抑制に効果的である24).5.シクロフォスファミドシクロフォスファミド(エンドキサン?)は,ナイトロジェンマスタードのアナログで,正常細胞より細胞障害性細胞に効果的なアルキル化剤である.DNAとRNA機能抑制および合成障害をきたし,細胞周期にも影響しアポトーシスを誘導する1).実際リンパ球増殖抑制および抗体産生の抑制,遅延型過敏反応の抑制が起きる1).副作用も多く,リンパ球減少や好中球減少に代表される骨髄抑制が最も多くみられる1).このため日和見感染も多々みられ,投与中は他の免疫抑制薬と比べてきめ細かなモニタリングが必要である.Beh?et病の治療では,シクロフォスファミドと低濃度のステロイド薬との組み合わせで一定の効果がある25).一方,Beh?et病患者に対して,シクロフォスファミドとコルヒチンを組み合わせた治療とシクロスポリン投与とを比較したが,シクロスポリンのほうが有効であったという報告もある26).これらから考慮してもシクロフォスファミドは他の免疫抑制薬と比較して第一選択とはならないと思われる.6.ミコフェノール酸モフェチルミコフェノール酸モフェチル(mycophenolatemofetil,セルセプト?)は,プリンの???????合成に働きかけ,免疫抑制に働く.このため,欧米ではおもに臓器移植の拒絶抑制に用いられている1).筆者らが以前行ったラットぶどう膜炎におけるミコフェノール酸モフェチルの抑制効果は絶大で,ほぼ完全にぶどう膜炎の眼炎症を抑制(22)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006????した27).最も規模の大きいヒトぶどう膜炎治療の研究では,ステロイド薬の全身投与,または他の免疫抑制薬の単独療法では寛解の得られなかった54症例を選び,ミコフェノール酸モフェチルの投与を行っている28).ミコフェノール酸モフェチルの単独投与で眼炎症が沈静化したのは65%にのぼり,11%でシクロスポリンを追加投与することにより炎症が抑制された.しかし44%において消化器症状などの副作用が出現した28).このように効果が期待されるミコフェノール酸モフェチルは,現在わが国ではぶどう膜炎での適応がなく,眼科領域では使えない状況にある.以上に述べたシクロスポリン以外の免疫抑制薬について表4にまとめる.おわりにこれまで難治性ぶどう膜炎に対する種々の免疫抑制薬を述べてきたが,わが国でぶどう膜炎が適応疾患として認められている免疫抑制薬は,シクロスポリンのみである.このため,現在のところシクロスポリンの使い方を習熟することがより良いぶどう膜炎治療につながることになる.しかし,ステロイド薬の全身投与やシクロスポリンの無効例も少なからず存在し,他の免疫抑制薬を使わざるをえないこともありうる.このようなとき,どのような免疫抑制薬があり,どのような用量で用い,副作用の発現のモニタリングはいかにして行うかを知っておくことは有益なことだと思われる.文献1)OkadaAA:Immunomodulatorytherapyforocularin?ammatorydisease:Abasicmanualandreviewoftheliterature.???????????????????13:335-351,20052)中川やよい,春日恭照,多田玲ほか:ベーチェット病に対するシクロスポリンの長期投与.眼紀39:1786-1790,19883)藤野雄次郎:Beh?et病眼症に対するシクロスポリン治療.医学のあゆみ215:95-98,20054)川島秀俊:Beh?et病の眼病変(病態・診断・治療).医学のあゆみ215:55-59,20055)大野重昭:ネオーラルによるベーチェット治療のガイドライン.厚生省厚生科学研究.ベーチェット病に関する調査研究班.20006)KotakeS,HigashiK,YoshikawaKetal:CentralnervoussystemsymptomsinpatientswithBeh?etdiseasereceiv-ingcyclosporinetherapy.?????????????106:586-589,19997)中村聡,石原麻美:ぶどう膜炎免疫抑制薬治療のEBM.臨眼55(増刊号):164-171,20018)FujinoY,JokoS,MasudaKetal:Ciclosporinmicroemul-sionpreconcentratetreatmentofpatientswithBeh?et?sdisease.????????????????43:318-326,19999)MasudaK,NakajimaA,UrayamaAetal:Double-maskedtrialofcyclosporinversuscolchicineandlong-termopenstudyofcyclosporininBeh?et?sdisease.??????8647:1093-1096,198910)WakatsukiY,KogureM,TakahashiYetal:CombinationtherapywithcyclosporinAandsteroidinseverecaseofVogt-Koyanagi-Harada?sdisease.????????????????32:358-360,198811)岩永洋一,望月學:Vogt-小柳-原田病(症候群)の診断と治療3.Vogt-小柳-原田病の薬物療法.眼科47:943-948,200512)稲用和也,藤野雄次郎:ぶどう膜炎の治療原田病の治療.眼科43:1307-1317,200113)MochizukiM,IkedaE,ShiraoMetal:PreclinicalandclinicalstudyofFK506inuveitis.????????????11(Suppl):87-95,199214)MochizukiM,MasudaK,SakaneTetal:AclinicaltrialofFK506inrefractoryuveitis.???????????????115:(23)表4シクロスポリン以外のぶどう膜炎に対する免疫抑制薬以下にあげる免疫抑制薬は,わが国ではぶどう膜炎に対して適応とされておらず,難治性ぶどう膜炎といえども使いにくい状況にある.しかし,欧米では豊富な使用経験があり,報告もされている.?タクロリムス(プログラフ?)シクロスポリン療法に反応しない難治性ぶどう膜炎に対して炎症抑制ができるかもしれない.しかしわが国における臨床治験ではBeh?et病に対して有意な有効性は認められていない.?メソトレキセート(メソトレキセート?)ステロイド薬の全身療法で無効か,もしくは副作用で使用できない場合に眼炎症の抑制可能である.低濃度の全身ステロイド薬と合わせて使用する場合もある.?アザチオプリン(イムラン?,アザニン?)多くのぶどう膜炎で有効性を認められている.低濃度の全身ステロイド薬と合わせて使用するとより良いと思われる.?シクロフォスファミド(エンドキサン?)難治性ぶどう膜炎や強膜炎で有効性が確認されている.しかし強い細胞毒性(骨髄抑制)があるため,他の免疫抑制薬の無効例に限り使用されるべきである.?ミコフェノール酸モフェチル(セルセプト?)ステロイド薬の全身投与で効果がなかった症例もしくは他の免疫抑制薬を用いても眼炎症が抑制できない症例に用いる.———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006763-769,199315)IshiokaM,OhnoS,NakamuraSetal:FK506treatmentofnoninfectiousuveitis.???????????????118:723-729,199416)KilmartinDJ,ForresterJV,DickAD:Tacrolimus(FK506)infailedcyclosporineAtherapyinendogenousposterioruveitis.???????????????????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ステロイド硝子体体内投与

2006年11月30日 木曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS膜疾患に応用されるようになった1~4).しかし,TA硝子体内投与には,薬剤効果が短期間(数カ月まで)しか持続しないことと,薬剤濃度が一定に保てない(というより,濃度が今どのくらいであるのかわからない)という欠点がある.この欠点を補うものとしてフルオシノロンアセトニド硝子体内インプラント(以下,インプラント)が開発され,現在臨床試験が行われている.本稿では,この2つの硝子体内薬物治療について概説する.ITA硝子体内投与1.投与方法TAを直接硝子体内に投与する方法では,TA溶液に含まれるTA粒子安定剤に眼組織への毒性があるとさはじめに眼という臓器が約5m?という適度な大きさの球状閉鎖空間を形成しており,その空間を充?している硝子体が適度な粘度を有しているということが,他の臓器にない特殊なドラッグデリバリーシステム(drugdeliverysystem:DDS)を眼において可能にしているといえる.すなわち,硝子体内に薬物を投与すると,薬物は血流に乗って全身に拡散するのではなく,硝子体腔を形成している周囲組織(網膜,ぶどう膜,水晶体,前房)に徐々に浸透していくのである.その結果,全身の薬剤副作用をほとんど生じることなく,高い薬物濃度を眼組織において達成することが可能となるのである.つまり,副作用は最小限度で効果は最大限という理想的薬物治療が眼では可能となる.しかしながら,このDDSにも限界があり,病巣部位以外の眼組織に対する薬剤副作用を避けることは現在のところできないのである.感染性眼炎症疾患(細菌性眼内炎,真菌性眼内炎,サイトメガロウイルス網膜炎など)に対し抗微生物薬を硝子体内に直接投与することは1990年代以降積極的に行われるようになったが,非感染性眼炎症疾患に対し徐放性ステロイドであるトリアムシノロンアセトニド(tri-amcinoloneacetonide:TA)の硝子体内投与が広く行われるようになったのは2000年代になってからのことである.そして,非感染性眼炎症疾患のみならず,糖尿病黄斑症や加齢性黄斑症に対する効果がつぎつぎと発表されると,TA硝子体内投与は瞬く間にさまざまな網脈絡(13)????*NobuyukiOguro:大阪大学大学院医学系研究科感覚器外科学(眼科学)〔別刷請求先〕大黒伸行:〒565-0871吹田市山田丘2-2大阪大学大学院医学系研究科感覚器外科学(眼科学)特集●非感染性ぶどう膜炎治療の最先端あたらしい眼科23(11):1397~1402,2006ステロイド硝子体内投与???????????????????????????????????大黒伸行*図11回分ごとに分注したアンプル———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006れているため,この溶媒を除去しTA粒子を眼内灌流液などで再度懸濁させる必要がある.しかし,この方法は清潔操作が要求されるため外来の処置室で簡単にできるものではない.そこで筆者らは薬剤部と共同でTA粒子を低濃度ヒアルロン酸に溶解し,注射用バイアルに1回分ずつ小分けして滅菌する方法を開発した(濃度8mg/0.1m?:図1)5).そして使用する針を30ゲージの1/2インチのものを使用するようにした.これにより安全に硝子体内注射ができるようになった.具体的には,点眼麻酔ならびに1.25%ポビドンヨード点眼による結膜?内の消毒を行い(できれば眼瞼周囲をポビドンヨード原液で消毒しておく),1m?の注射シ(14)図2硝子体内投与手技A:1.25%ポビドンヨード点眼を3回行い,結膜?内を殺菌する.B:帽子・マスクを着用し,清潔手袋を装用する.以後は手術室同様の清潔操作を行う.C:手袋の入っていた袋を広げて,内側(こちら側は清潔)を上にし,そこに必要な器具(30ゲージ1/2インチ針2本,25ゲージ針1本,1m?注射器2本,開瞼器,有鉤鑷子,キャリパー)を載せる.D:ポビドンヨードで眼瞼周囲を十分に消毒する.E:清潔な穴あき覆布をかけ(これは必ずしも必要ではない),開瞼器を装着する.F:キャリパーで角膜輪部から4mmの部位にマークする.G:TA粒子を25ゲージ針で吸引する.H:30ゲージ1/2インチ針につけかえて,マーク部位より眼球に対し垂直に針を刺入する.I:患者に「真ん中が暗くないですか」と必ず問う(眼圧が上がりすぎと,網膜中心動脈閉塞症に似た状態になることがある).もし「はい」という返答が返ってくれば,用意したもう一つの30ゲージ1/2インチ針を用いて前房穿刺をしておいたほうがよい.GHIDEFABC———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006????リンジに作製したTA溶液を吸引して30ゲージ針を装着し,毛様体扁平部より50??注射するのである(図2).投与後,TA粒子により霧視を自覚することがあることは事前に説明しておく必要がある(図3).2.必要な‘ステロイドの量’は?ぶどう膜炎に対するステロイド全身治療で,最も投与量が多く,効果も高いのがパルス治療である.この場合,メチルプレドニゾロン1,000mgを静脈投与するのであるが,それで眼内濃度がどれくらいになるかというと,およそ0.6?g/m?になる(硝子体中濃度;対象疾患は黄斑上膜患者)6).硝子体の体積をおよそ5m?とすると,3.0?gのステロイドが硝子体内に存在することになる.この薬剤量計算には網脈絡膜濃度が含まれておらず,また,炎症があると血流が増加するとともに血液網膜柵も破綻するため薬剤移行もよくなるということも斟(15)図3TA硝子体内投与後1日目TA硝子体投与後はTAが視軸上に存在し,霧視を訴えることがある.図4経Tenon?下球後注射投与前(左)と投与後(右)TATenon?下注射でも消炎効果はあるが十分ではない.図5図4症例の反対眼左:硝子体投与前,右:硝子体投与1カ月後.TA硝子体内投与では十分な消炎が得られる.———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006酌しないといけないが,おおよその目安として10?g/日ほど眼局所に到達すれば,メチルプレドニゾロン1,000mg静脈投与と同程度の効果が期待できるという推論が成り立つ.3.長所は?本方法は眼内組織全体をターゲットにしているため,高度の汎ぶどう膜炎を伴った症例にきわめて有効である(図4,5).また,筆者らのデータでは,Beh?et病の炎症発作や原田病の再発を抑える効果も観察されており6),消炎効果のみならず炎症発作・再発を抑制する効果も期待できる方法である.しかし,TA硝子体内投与は本特集で河原先生がすでに記述されたTATenon?下注射に比較し,はるかに眼合併症をきたしやすい.TAの眼局所治療はもともとステロイド全身投与の副作用回避のために始めた治療である.それゆえ,局所治療といえども眼局所の副作用もできるだけ回避すべきであるのは当然である.後極部のみの炎症に対しTA硝子体内投与を行うのは,眼だけの炎症に対しステロイドを全身投与するのと同じことになりかねない.後極部のみの炎症に対しては,やはりTATenon?下注射を第一に考えるべきである.病巣のみを標的とし,副作用を最小限度にする方法というのを常に意識すべきと考える.4.短所は?手技上,眼内感染や眼内組織障害(網膜?離,硝子体出血,水晶体穿刺など)が合併症としてあるが,実際に問題なのは,ステロイドの眼合併症がでやすい点である.筆者らは,既存の方法では炎症をコントロールできなかった約60眼に本方法を施行しているが,そのうち8眼でトラベクロトミーを施行せざるをえない状況となった.これらの症例はいずれも慢性ぶどう膜炎で,ベタメタゾン1日6回点眼4週間持続にても眼圧上昇をきたさなかったが,TA硝子体内投与後6カ月くらい経過したころから眼圧上昇を突然生じ,薬物治療にまったく反応しなかった.また,白内障進行も多くの症例で認めている.現在筆者らはTA4mgを投与しているが,既述したように10?g/日で十分な効果が得られるはずであるから,今後投与量を減量していくことも考慮していく必要があるかもしれない.他の施設ではTA25mg投与している報告もある2,3)が,どのような根拠でこのような大量のTAを投与しているのか,理解に苦しむところである.ただ,誤解をおそれずに申し上げると,筆者らが対象としたような慢性かつ既存の薬物全身投与に反応しないような症例では,遅かれ早かれ,持続する炎症自体によって併発白内障や続発緑内障をきたす可能性が高いわけであるから,黄斑障害が高度になる前に本方法にて消炎することは治療戦略として間違っているとは思わない.もちろん,だからといって,副作用の少ない方法を模索していく必要があることは論を俟たないところではある.5.持続期間は?対象症例の多くが「内服ステロイドを減量していく過程で,ある濃度以下に減量すると再発する」という症例であったので,TA有効濃度が切れた時点でぶどう膜炎も再発するものと仮定できるのではと考えている.その観点で,筆者らの症例をみてみると,再発時期は注射後2~8カ月と症例によってバラバラであるという結果になっている.これは何を意味するのであろうか?一つには,最初の仮定が間違っていたということが考えられる.もう一つの可能性として,TAの硝子体中での徐放率は,硝子体の性状や炎症の程度など,個々の症例によって異なるのではないかということである.この点についてはさらに症例を増やして検討する必要があるが,硝子体内でのTAの有効期間には個体差が強いということは念頭においておいたほうがいいと思われる.IIインプラント本法の概略は,板状の基盤の端に円盤状の薬剤を接着させ,薬剤がないほうの板に開けてある孔に糸を通して強膜に縫合固定し,薬剤のあるほうを硝子体内に設置するというものである(図6).基本的には1990年代初頭より欧米において臨床応用されている製剤(サイトメガロウイルス網膜炎に対してガンアシクロビル製剤を硝子体に埋植するもの)を改良したもので,中に含まれてい(16)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006????る薬物をフルオシノロンアセトニドというステロイド薬にするとともに,製剤を小さくしたため切開幅が小さくてすむようになった.手術操作自体はそれほどむずかしいものではなく,単純硝子体切除術を習得した術者であれば問題ないと思われる.紙面の都合で詳細を記述できないので,具体的な手術手技は別報を参照願いたい7).埋植後,製剤は水晶体後面斜め下方に存在しており,製剤自体視野には入らないため,患者は特に自覚症状を訴えない(図7).その効果については,現在臨床治験中であり提示できないが,文献的に報告されているものを見るかぎり難治性ぶどう膜炎に対する効果はTA硝子体内投与と同等の効果が期待できそうである8).また,一度埋植すれば3年間炎症をコントロールすることが可能になるという点,および,硝子体中薬剤濃度を一定に保てる点においてTA硝子体内投与に優っているといえる.ただ,欠点は観血的方法であることと,TAの硝子体内注射同様,硝子体内にステロイド薬が放出されるため白内障や眼圧上昇をきたしやすいという点にある.本法は,難治性ぶどう膜炎や慢性ぶどう膜炎に対する新しい治療方法として大きな期待が寄せられており,長所,短所を踏まえて,今後の臨床治験の成績が待たれる.おわりに全身の副作用を避けながらも病巣への薬物効果が十分に発揮できる硝子体内薬物治療は,近い将来,眼科領域,特に後眼部疾患における薬物治療の中心になっていくことが予想される.今後は疾患ごとにどのような薬物(17)図6インプラント製剤(上)と埋植術後模式図図7埋植術後スリット所見(A)と眼底所見(B)製剤は眼内レンズ下後方に存在し,周辺部硝子体中にしっかりと固定されている.AB———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006を選択するかが問題となってくるわけで,そういう意味において,今まで以上に「分子レベルでの病態解析→標的分子解明」が重要となってくる.文献1)MartidisA,DukerJS,GreenbergPBetal:Intravitrealtriamcinoloneforrefractorydiabeticmacularedema.??????????????109:920-927,20022)JonasJB,HaylerJK,Panda-JonasS:Intravitrealinjectionofcrystallinecortisoneasadjunctivetreatmentofprolifer-ativevitreoretinopathy.???????????????84:1064-1067,20003)DegenringRF,JonasJB:Intravitrealinjectionoftriam-cinoloneacetonideastreatmentforchronicuveitis.???????????????87:361,20034)DanisRP,CiullaTA,PrattLMetal:Intravitrealtriam-cinoloneacetonideinexudativeage-relatedmaculardegeneration.??????29:244-250,20005)OishiM,MaedaS,NakamuraAetal:Examinationofpuri?cationmethodsanddevelopmentofintravitrealinjectionoftriamcinoloneacetonide.????????????????49:384-387,20056)Behar-CohenFF,GauthierS,ElAouniAetal:Methyl-prednisoloneconcentrationsinthevitreousandtheserumafterpulsetherapy.??????21:48-53,20017)大黒伸行:眼局所へのドラッグデリバリーシステム.あたらしいしい眼科21:35-40,20048)Ja?eGJ,Ben-NunJ,GuoHetal:Fluocinoloneacetonidesustaineddrugdeliverydevicetotreatsevereuveitis.?????????????107:2024-2033,2000(18)外眼部外来手術マニュアルEyeadnexaの手術を写真・イラストを多用しわかりやすく,読みやすく!【編集】稲富誠(昭和大学教授)・田邊吉彦(昭和大学客員教授)Ⅰ眼瞼の疾患1.霰粒腫(三戸秀哲井出眼科新庄分院)2.麦粒腫(三戸秀哲)3.眼瞼下垂(久保田伸枝帝京大学)4.眼瞼内反(根本裕次帝京大学)5.眼瞼外反─老人性(八子恵子福島医科大学)6.兎眼(八子恵子)7.睫毛乱生(柿崎裕彦愛知医科大学)8.眼瞼皮膚弛緩症(井出醇・山崎太三・辻本淳子井出眼科病院)9.眼瞼良性腫瘍(小島孚允さいたま赤十字病院)Ⅱ結膜・眼球の疾患1.翼状片(江口甲一郎江口眼科病院)2.眼窩脂肪脱出(金子博行帝京大学)Ⅲ涙器の疾患1.涙道ブジー(先天性狭窄)(吉井大国立身体障害者リハビリテーションセンター)2.涙小管炎(吉井大)3.涙点閉鎖(吉井大)B5判総122頁写真・図・表多数収載定価6,300円(本体6,000円+税300円)メディカル葵出版株式会社〒113─0033東京都文京区本郷2─39─5片岡ビル5F振替00100─5─69315電話(03)3811─0544■内容目次■(かっこ内は執筆者)

ステロイド局所投与-内服および点滴療法-

2006年11月30日 木曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS的配列(glucocorticoidresponsiveelement:GRE)に結合することにより,その下流の遺伝子発現を調節する.これらの機序を介して,細胞レベルでの抗炎症作用,免疫抑制作用を発揮する1).IIステロイド全身投与の前の注意点まずステロイド治療前に気をつけることは,炎症の原因が感染性か非感染性であるか診断をつけることが重要である.感染性ぶどう膜炎の場合にはその感染原因に対する治療が優先となる.もしステロイド薬内服を使った場合,免疫力が低下し感染が増悪して症状の悪化もありうる.非感染性のぶどう膜炎であったとしても,いきなり投与を開始せず可能な限り診断をつけることが重要である.原因疾患を診断する種々の検査が終わるまではステロイド局所投与で経過をみながら結果を待つ.炎症が強いときでも診断が明らかでない例に対しては,全身投与をするべきではない.たとえば,サルコイドーシスを疑う患者であったとしても前医ですでにステロイド内服を開始されているため,眼科的にはサルコイドーシスを疑っても全身所見が発症していないもしくは消失しているために診断がつかないケースもある.Beh?et病を否定せずにステロイド薬単独投与を行った場合,ステロイド薬離脱の際重篤な炎症発作をひき起こす可能性もある.はじめに副腎皮質ステロイド薬(以下,ステロイド)は抗炎症作用と免疫抑制作用を有し,広くさまざまな疾患に対して用いられている.ぶどう膜炎の治療にもステロイド薬が広く用いられているが,原因もさまざまであるため,投与量は疾患により異なり同一疾患でも症例により加減が必要となり,一律ではない.副作用の多い薬物であり,なかには重篤なものもあるため,ステロイド全身投与の際には事前の十分な問診や検査が必要であり,場合によっては他科との連携も不可欠となる.そこで本稿では,ステロイド薬全身投与前の注意点を述べ,代表的な疾患についてその使用法を解説する.Iステロイドの作用機序副腎皮質ホルモンは糖質代謝に関与する糖質コルチコイドと電解質代謝に関する電解質コルチコイドに分けられ,それぞれ別の受容体に作用する.抗炎症作用や免疫抑制作用を有するのは糖質コルチコイドである.ステロイドは細胞内でステロイド受容体(SR)と結合することで生物学的活性を示す.ステロイドは細胞内に侵入しSRと複合体を形成すると核内で転写調節因子であるnuclearfactorkappaB(NFkB)などの転写因子の活性化を阻害し,腫瘍壊死因子(TNF)-a,インターロイキン(IL)-1などの炎症性サイトカインやシクロオキシゲナーゼ(COX)-2などの炎症関連蛋白の産生を抑制する.またこの複合体は遺伝子のプロモータ領域の特異(7)????*MichitakaSugahara:東邦大学医療センター佐倉病院眼科〔別刷請求先〕菅原道孝:〒285-8741佐倉市下志津564-1東邦大学医療センター佐倉病院眼科特集●非感染性ぶどう膜炎治療の最先端あたらしい眼科23(11):1391~1396,2006ステロイド全身投与─内服および点滴療法─???????????????????????????????─????????????????????????????─菅原道孝*———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006IIIステロイドの全身への副作用ステロイド薬全身投与の際は特にその副作用について気をつけなければならない.表1にステロイドの副作用についてまとめたが,患者の生命予後やqualityoflife(QOL)につながる糖尿病,重症感染症,骨粗鬆症,大腿骨頭壊死,胃潰瘍などには特に注意を払いたい2).1.骨粗鬆症ステロイドの副作用で最も頻度が高いものとされている.骨粗鬆症は,骨密度と骨質の変化により骨脆弱性が亢進し,骨折しやすくなった状態と定義される.骨粗鬆症は原発性と続発性に二分され,続発性の原因の最多はステロイド薬である.骨形成と骨吸収のバランスが崩れた病態が,ステロイドによる骨粗鬆化である.ステロイド薬は,骨芽細胞のアポトーシスの比率が大幅に増強して骨形成を阻害し,破骨細胞の分化・成熟を誘導する.また,腸管でのカルシウム吸収,腎でのカルシウム再吸収,下垂体でのホルモン産生の低下などの機序を介して補助的に骨粗鬆化を促進する(図1).ステロイド性骨粗鬆症はステロイド薬中止にても改善せず,ステロイド薬投与早期に(3~6カ月以内)進行するといわれている.ステロイド薬は骨量と骨質の双方を減衰させるため,骨量が低下しなくても骨折する場合もあるため,服用量に関する安全域はないといわれている.2004年にわが国初のステロイド性骨粗鬆症に対する管理と治療のガイドラインが策定されたが,そのなかでステロイドを3カ月以上投与され,骨折があるかもしくは骨折がなくても骨密度が若年成人平均値(YAM)の80%未満,もしくは投与量がプレドニゾロン換算で5mg/日以上ならステロイド骨粗鬆症とし,一般的指導と治療が必要としている.6カ月から1年ごとに骨密度測定を定期的に行い,治療はビスフォスフォネート製剤を第一選択薬としている3).2.大腿骨頭壊死大腿骨頭壊死症は骨粗鬆化とは関連が薄いが,ステロイドパルス療法に伴う重大な骨障害である.大部分はステロイドパルス療法の施行を既往に有する.大腿骨頭のような終末動脈支配部位では,血管障害による組織虚血が重要な問題となる.自覚症状は股関節の可動制限,運動時痛や跛行,ときに腰痛を訴える.現在明確な予防手段はない3).3.動脈硬化肥満,高脂血症,高血圧,耐糖能低下などの因子が複合すると,動脈硬化病変が加速され,心筋梗塞,脳梗塞などのリスクが高まるため,予防と治療が重要である.カロリー制限,塩分制限などの栄養指導を行い,抗高脂血症薬や降圧剤を併用する.ステロイドに食欲増進効果もあるため,投与前に十分副作用についてインフォーム(8)表1ステロイド薬全身投与における副作用?重度の副作用??易感染症?骨粗鬆症,圧迫骨折,大腿骨頭壊死?動脈硬化病変?副腎不全?胃潰瘍・十二指腸潰瘍(NSAIDと併用時)?糖尿病の誘発・増悪?精神障害,不眠?小児の成長障害?軽度の副作用??体重増加,満月様顔貌,尋常性座瘡?皮下出血,皮膚萎縮,皮膚線状,脱毛・多毛?発汗異常?白内障,緑内障,中心性漿液性網脈絡膜症?浮腫,高血圧?電解質異常(低カリウム血症)?ステロイド筋症?月経異常?白血球増多?食欲亢進NSAID:非ステロイド系抗炎症薬.破骨細胞分化・成熟誘導糖質コルチコイド骨芽細胞アポトーシス骨吸収過剰骨形成阻害骨量低下体内Ca低下副甲状腺ホルモン分泌低下図1ステロイド骨粗鬆症の機序———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006????ド・コンセントを行うことにより,合併症や悪化のリスクを軽減できると考えられる1).4.糖尿病ステロイドは肝における糖新生の亢進と,末?での糖利用の阻害作用があり,いわゆるステロイド糖尿病の発症や,既存する糖尿病の悪化をみることがある.糖尿病の既往がある患者には内科医に相談しインスリンなどを必要に応じて使用のうえステロイド治療を行う.適切なインスリン療法を行えば血糖は良好にコントロールできるのでステロイド投与の禁忌とはならないが,注意深い血糖監視を行わないと糖尿病性ケトアシドーシス,低血糖などにより死亡する危険もあるため注意が必要である1).5.易感染症ステロイド内服により炎症反応と免疫能が抑制され患者は易感染性となり,重篤化しやすい.重症感染症の頻度はおおよそ3%前後である.ステロイドパルス療法を行った場合や中等量異常のステロイドを長期投与している場合,真菌症やニューモシスチス・カリニ肺炎やサイトメガロウイルス感染症,結核などに注意する.ステロイド長期投与時に,結核感染が起こると容易に重症化するので,発熱や感冒症状でも頻回に胸部X線を施行したほうが無難である.以前ステロイド大量療法中に,水痘感染を起こし,ヘルペス脳炎に至った事例も報告されている4).ステロイド長期投与前には問診をできるかぎり行い,少しでも感染の可能性が疑われたら,速やかにしかるべき検査を行うことが重要である.6.胃潰瘍・十二指腸潰瘍ステロイド性潰瘍の原因は,胃酸分泌亢進,胃粘液産生低下,肉芽形成抑制,プロスタグランジン産生低下などが考えられている.胃潰瘍・十二指腸潰瘍のリスクは,非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)をステロイドと併用すると上がるが,ステロイド単独では消化性潰瘍の頻度に有意差がないとする報告もある5).潰瘍があっても疼痛がないかごく軽度の場合もあるので,微妙な症状の変化や検査データの変動に注意し,定期的な検査を勧める.IVステロイド投与前と投与後のチェック事項について表2にまとめたが,治療開始前に糖尿病,高脂血症,貧血や他の全身疾患の有無やツベルクリン反応や胸部X線で結核などの感染を調べる.投与後も定期的な問診,血液検査が必要であり異常が生じた場合迷わず他科を受診させる1,2).Vステロイド薬全身投与の実際1.サルコイドーシス眼サルコイドーシスにおいて主たる治療はステロイドによる消炎であるが,適応や投与法,長期予後などについて対照例を含んだ多数例のコントロールスタディはなく,治療法の決定はこれまで経験に基づいて行われてきた.2002年に眼サルコイドーシスのステロイド治療のガイドラインについて検討を行い,「サルコイドーシス治療に関する見解?2003」がまとめられた.それには原則として前眼部炎症に対してはステロイド薬の点眼と必要があればステロイドの結膜下注射や後部Tenon?下注射と散瞳薬で治療し,視機能障害のおそれがある活動性病変がある場合には全身投与を適応としている6).以前筆者らも眼サルコイドーシスに対して積極的に局所治療を行い,その治療成績について報告した.87.5%の症例で局所投与のみで消炎が十分可能であった7).しかし(9)表2ステロイド薬全身投与時のチェック事項?ステロイド投与開始前??問診?採血(血算,生化,血糖,血沈,CRPなど)?胸部X線検査(結核の有無)?心電図?ツベルクリン反応(結核の有無)?骨量検査(骨密度など)?ステロイド投与開始後??問診?採血(血算,生化,血糖,血沈,CRPなど)?骨量検査*(骨密度投与開始後6カ月・1年後)CRP:C反応性蛋白.*ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療のガイドラインに該当する症例の場合.———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006持続的に漿液性網膜?離があり,ステロイド後部Tenon?下注射をしても軽快しないなど,局所治療のみでは対応がむずかしい場合に対しては全身投与を行う必要がある(図2).投与法に関する基準は表3に記す.ステロイド薬の全身投与については初期投与量としてプレドニゾロン30~40mg/日から,重症例では60mg/日の内服から開始し,初期投与期間として2週間から1カ月継続し,その後は1~2カ月ごとに5~10mgずつ減量していくことが勧められている.最終的には2.5~5mg/日相当を投与し,これを1~数カ月続けて投与を終了とする.プレドニゾロンの全投与期間は3カ月から1年以上とし,減量は病勢を見きわめながら慎重に行い,副作用の発現を含め全身の検査データも考慮しながら投与することを推奨している.最も大切なことはゆっくりと減量することであり,最終的に6カ月以上内服させたほうがよい.早い減量を行うと再発する.ただ内科領域でも肺サルコイドーシスに対しステロイド内服適応となる症例は少なく,長期予後の観点からその有用性は疑問視されてきているので,眼科領域でもできるだけ局所投与にて治療することが大事であると考える.2.Beh?et病原則としてステロイド薬単独,特に短期間の内服は慎むべきである.その理由として,ステロイド薬の漸減・離脱後はかえって重篤な炎症発作をひき起こしてしまうからである.Beh?et病の眼炎症の発作の頻度の抑制や炎症の程度の軽減を目的とした治療としてはコルヒチンの内服が第一選択,免疫抑制薬のシクロスポリン(ネオーラル?)や他の免疫抑制薬が第二選択薬となる.炎症が最初から強い場合シクロスポリンから治療開始することもある.発作時にはベタメタゾン(リンデロン?)などのステロイド薬点眼,散瞳薬の点眼に加えて,強い前眼部炎症発作にはステロイド薬の結膜下注射,後眼部炎症に関してはトリアムシノロンアセトニド(ケナコルト-A?)などのステロイド薬の後部Tenon?下注射を行う.しかし,最近ではステロイド薬の全身投与を見直す報告もある.コルヒチン,シクロスポリン,あるいは両者(10)表3眼サルコイドーシスにおけるステロイド薬全身投与の一般的投与法1)第一選択はプレドニゾロンの経口投与2)初期投与量は30~40mg/日・連日投与,重症の場合は60mg/日・連日投与を2週間から1カ月投与3)1~2カ月ごとに5~10mgずつ減量4)最終投与量を2.5~5mg/日相当とし,1~数カ月続けて終了する5)全投与期間は3カ月から1年以上とする図2サルコイドーシスの代表症例63歳,女性.左眼漿液性網膜?離でプレドニゾロン40mgから開始したが,反応が悪いため3カ月後に硝子体手術を施行した.左:治療前,右:治療後.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006????の併用投与を行っても頻回に眼炎症発作をきたす症例に対して,長期間にわたってプレドニゾロンの内服投与を行うことによって眼炎症発作の頻度を減少させたとする報告が散見される8~10).これらの報告に共通しているのは,一定量以上のプレドニゾロン,すなわちグルココルチコイドとしての薬理作用が期待できる10~15mg/日以上を内服している間は炎症抑制効果が期待できるという点である.そして減量についてはきわめてゆっくりと減らしていくことも重要である.3.Vogt-小柳?原田病(図3)Vogt-小柳?原田病は,自然治癒する症例もあり,必ずしもすべての症例にステロイド全身療法は必要ないとの意見もあるが,遷延化すると不可逆的な視機能の障害を残すため,全身的に投与がむずかしい症例を除き,急性期には全例にステロイド全身投与を行う.現在わが国でVogt-小柳?原田病に対して施行されているステロイドの全身投与方法は2つある.1つは1969年に増田らにより提唱されたステロイド大量点滴漸減療法であり,もう1つはステロイドパルス療法である.図4はステロイド大量点滴漸減療法の一例であるが,プレドニゾロン200mg×2日間点滴静注から開始し,150mg×2日間,100mg×2日間,80mg×2日間点滴静注し,1日投与量60mgあるいは40mgより内服に切り替え,その後は2~4週ごとに5~10mg減量する.ステロイド初回投与期間は6カ月以上続けたほうがよいとされている.一方,ステロイドパルス療法は図(日数)10050プレドニゾロン換算量(mg/日)20020308011015001060200150100806040302015105図4Vogt-小柳?原田病に対するステロイド大量点滴漸減療法(11)図3Vogt-小柳?原田病の代表症例57歳,女性.両眼とも多発した漿液性網膜?離を認め,蛍光眼底造影検査では典型的な初期に点状過蛍光,後期に蛍光色素の網膜下腔への貯留を認めた.ステロイドパルス療法2クールを行い漿液性網膜?離は消失した.———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006(12)5に例を示したが,メチルプレドニゾロン(ソルメドロール?)1,000mg×3日間点滴静注施行し,その後プレドニゾロン1mg/kg/日内服として1週間経過をみる.ステロイドパルス療法開始から1週間くらいでフルオレセイン蛍光眼底造影検査を行い,治療の効果を確認する.1週間で効果がみられ,特に副作用もなければ5mgくらい減量する.その後は患者の重症度にもよるが,1週間から10日くらいで5mgずつ減量し40mgから2週間ずつ減量し,20mgあたりから4週間ずつ減量し,トータルで4~6カ月の投与になるようにする.いずれのステロイド療法においても,発症から治療開始までの期間が遷延化を規定する1つの因子といわれているため,発症からできるだけ早期に治療を開始すべきであることと,ステロイドの減量が早すぎると炎症の再燃・遷延化するため20mgからの減量は慎重に指示する.ステロイド離脱前は5mgを1カ月投与し,続いて5mg隔日投与を1カ月施行し,徐々に副腎皮質機能を回復させていくのがよいと思われる11).おわりにステロイドはぶどう膜炎治療において必要不可欠な薬剤である.使用前に十分な原因検索を行い,副作用について理解し適切な対策を講じることが大切である.安易なステロイドの使用は患者のQOLを脅かすこともあるため注意が必要である.文献1)杉原誠人,堤明人,住田孝之:《治療薬の使い方とピットフォール》副腎皮質ステロイド薬.内科97:636-640,20062)丸山耕一:ぶどう膜炎患者における副腎皮質ステロイド薬全身治療の副作用とその対策.眼紀56:801-808,20053)田中良哉:ステロイド骨粗鬆症のマネジメント,p9-23,医薬ジャーナル社,20054)岩瀬光:眼科医のための「医療過誤訴訟」入門原田病ステロイド治療中の成人水痘の死亡事例.臨眼55:1323-1325,20015)PiperJM,RayWA,DaughertyJRetal:Corticosteroiduseandpepticulcerdisease:roleofnonsteroidalanti-in?ammatorydrugs.??????????????114:735-740,19916)大原國俊:サルコイドーシス治療に関する見解-2003.日眼会誌107:113-121,20037)菅原道孝,岡田アナベルあやめ,若林俊子ほか:眼サルコイドーシスに対する積極的局所治療の有用性.臨眼60:621-626,20068)渋井洋文,川島秀俊,釜田恵子ほか:自治医科大学におけるBeh?et病眼症治療の経験.あたらしい眼科14:1723-1727,19979)藤野雄次郎:ぶどう膜炎治療の問題点─ベーチェット病.眼科41:1401-1408,199910)川野庸一,西岡木綿子,鬼木隆夫ほか:ベーチェット病眼病変に対するステロイド薬長期間継続併用投与.眼科42:421-428,200011)岩永洋一,望月學:Vogt-小柳?原田病の薬物療法.眼科47:943-948,2005(日数)30プレドニゾロン換算量(mg/日)1,2503014011060010601,250605040302015105図5Vogt-小柳?原田病に対するステロイドパルス療法(体重60kgの場合)

ステロイド局所投与-点眼・眼球周囲注射-

2006年11月30日 木曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSや皮膚萎縮・色素沈着などの原因になるので,結膜?内点入の方法を指導する.下眼瞼を下方に引き,下眼瞼縁の瞼結膜側に眼軟膏をのせる.量は長さ5~10mm程度で十分である.数回瞬目すると眼軟膏は眼表面に広がる.眼軟膏使用後は,眼表面の油膜のためにその後の点眼薬が吸収されなくなるので,点眼液と眼軟膏を併用する際は,眼軟膏を最後に使うよう患者に指導する.また,油膜のために霧視が起こることを説明しておく.II結膜下注射前眼部炎症にはステロイド薬点眼が第一選択であるが,頻回点眼でも効果が十分でない場合,ステロイド薬の結膜下注射を行う.水溶性ステロイド薬のデキサメタゾン(dexamethasone:デカドロン?)やベタメタゾン(betamethasone:リンデロン?)の使用が一般的である.点眼麻酔後,27ゲージ針で結膜下に薬液を注入するが,血管や強膜を損傷して出血を起こさないようにする.針先はベベルダウンにすると眼球損傷が少なくなる.強膜炎などでは強膜菲薄化や融解などを起こす危険性はじめにぶどう膜炎治療の基本は副腎皮質ステロイド薬(ステロイド薬)1)であり,ステロイド薬の投与方法には,全身投与と局所投与がある.局所投与には,点眼と眼球周囲注射があり,眼球周囲注射は,薬液注入部位および注射方法に応じて,結膜下注射・Tenon?下注射・球後注射・経眼瞼的(経皮的)眼窩隔膜注射などに分けられる(表1).現在では結膜下注射・Tenon?下注射が一般的である.本稿では,ステロイド薬点眼(眼軟膏を含む)と,結膜下注射・Tenon?下注射について述べる.I点眼前眼部炎症の程度に応じて,デキサメタゾン(dexa-methasone)やベタメタゾン(betamethasone)の点眼回数を1日4~5回程度から増減する.炎症が高度なときには,1時間あるいは2時間ごとに頻回点眼することもある.消炎を確認しながら点眼回数を減らしていく.ステロイド薬点眼の減量に際しては,フルオロメトロン(?uorometholone)へすぐに変更するより,デキサメタゾンやベタメタゾンの点眼回数を1日1~3回に減らしていくほうがよい.抗菌薬の併用については意見が分かれるが,筆者は原則必要ないと考えている.羞明や眼痛のために流涙が多いときは,ステロイド薬眼軟膏の使用も考慮する.また,就寝中の徐放効果目的で就寝前に使用することもある.ただし,ステロイド薬眼軟膏を眼瞼周囲に塗り広げて長期使用すると,眼瞼炎(3)????*SumieKawahara:久留米大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕河原澄枝:〒830-0011久留米市旭町67久留米大学医学部眼科学講座特集●非感染性ぶどう膜炎治療の最先端あたらしい眼科23(11):1387~1390,2006ステロイド局所投与─点眼・眼球周囲注射─????????????????????????????─??????????????????????????????????─河原澄枝*表1副腎皮質ステロイド薬の眼球周囲注射1)結膜下注射2)Tenon?下注射a.鋭針を用いる方法b.鈍針を用いる方法(経Tenon?球後注射)3)球後注射4)経眼瞼的(経皮的)眼窩隔膜注射———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006もあり,注射の部位や頻回の注射には注意する.IIITenon?下注射遷延する強い後眼部炎症や?胞様黄斑浮腫(cystoidmacularedema:CME)の治療には,トリアムシノロン(triamcinoloneacetonide:ケナコルト?)の後部Tenon?下注射を行う.Tenon?下注射されたステロイド薬は,経強膜的に眼内移行し(図1),また,トリアムシノロンは徐放性の懸濁ステロイド薬であるため,粒子が徐々に溶解吸収されて抗炎症効果が長期間持続する.1回の投与で数週間から数カ月の効果が期待でき(図2,3),ステロイド薬全身投与に比べると全身的な副作用が少ない.Tenon?下注射には,鋭針を用いる方法と鈍針を用いる方法(経Tenon?球後注射2~4))があるが,筆者らは後者を行っている.経Tenon?球後注射は,白内障手術時のTenon?下麻酔と同様の要領で,経Tenon?下的に眼球後方に薬液を注入する方法である.結膜切開を必要とする点では煩雑であるが,眼球穿孔の可能性も少なく,ステロイド薬を眼球後方に確実に注入すること(4)図1Tenon?下注射されたステロイド薬の移行経路Tenon?下へ注入されたステロイド薬は,眼球後部から吸収され眼内へ移行する.図2症例:63歳,女性,サルコイドーシス─トリアムシノロンTenon?下注射前a:フルオレセイン蛍光眼底造影,b:光干渉断層法(opticalcoherencetomography:OCT).フルオレセイン蛍光眼底造影では強い蛍光漏出があり,OCTでは黄斑浮腫と漿液性網膜?離がみられる.ab図3図2のトリアムシノロンTenon?下注射後a:1カ月後,b:3カ月後.黄斑浮腫と漿液性網膜?離は改善した.ab———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006????ができると考えている.眼球後方への確実な注入は,眼圧上昇や白内障進行などの合併症の発生頻度を少なくするうえでも重要である.1.鋭針を用いる方法26ゲージ針(短針)を結膜?円蓋部より刺入し,薬液を注入する.点眼麻酔後に,耳上側あるいは耳下側の円蓋部から刺入する.針先が目視できないので,眼球穿孔を避けるために針先を左右に振りながら眼球壁に沿って針を進める.注入前に血液の逆流がないことを確認する.2.鈍針を用いる方法(経Tenon?球後注射)21あるいは23ゲージのTenon?下注射用の曲鈍針と1.0m?注射シリンジを使用する.角膜輪部から7~8mmの部分に1~2mm程度の小さな結膜切開を行い,Tenon?を切開する.筆者らは,注射後の眼瞼下垂発生予防を考え,耳下方結膜円蓋部から行っている.強膜を確実に露出しそこから子午線方向に鈍針を眼球後方へ進めてから,ステロイド薬をゆっくり注入する.抵抗がある場合には,針先を動かす(少し戻す)と注入しやすくなる.戻しすぎると眼球後方に確実に注入できず,結膜切開部から薬液が漏出するので注意する.点眼麻酔薬で十分に表面麻酔を行っておくと,薬液(トリアムシノロン)注入時の痛みはさほどない.注入時に軽い圧迫感があることをあらかじめ患者に伝えておく.筆者らは,トリアムシノロン0.5m?(20mg)を注入している.外来で可能な処置であるが,感染予防のために清潔操作で行う.筆者らは,外来処置室で,内眼手術とほぼ同様に眼瞼周囲の皮膚および結膜?の洗浄・消毒を行い,ドレープ装用・顕微鏡下で行っている.感染性強膜炎や眼窩膿瘍などの報告もあり,また,ステロイド薬の性質上,感染が起こっても眼痛や充血などの症状が隠されることから診断の遅れにつながる.これらのことを考えると,鋭針を用いての経結膜下Tenon?下注射であっても,清潔操作下で行ったほうがよいと考える.結膜切開部の縫合は不要である.術後は,抗菌薬点眼を1週間程度使用する.Tenon?下注射は比較的安全な手技であるが,重篤な副作用や合併症5,6)も起こりうる(表2).また,Tenon?下に注入した薬液の除去は困難なため,適応は慎重に選ぶ必要がある.ぶどう膜炎では,あらかじめステロイド薬点眼が使用されていることが多く,ステロイドレスポンダーであるかどうかの判断は比較的やさしい.ステロイド薬点眼使用歴がない場合は,トリアムシノロン使用前に,ベタメタゾンやデキサメタゾンの点眼を2~4週間行い,ステロイドレスポンダーでないことを確認しておく.ステロイドレスポンダーには,トリアムシノロンTenon?下注射は選択しない.しかし,ステロイド薬点眼で眼圧上昇がなくても,トリアムシノロンTenon?下注射後に眼圧が上昇する症例も多く,注射後は眼圧の推移に注意する.大多数は,緑内障点眼薬と炭酸脱水酵素阻害薬で対応が可能であるが,眼圧コントロールが得られずに濾過手術が必要になることもある.おわりにステロイド薬は消炎効果に優れており,ぶどう膜炎治療には欠かせない薬剤であるが,その効果の反面副作用も多い.眼周囲注射に際しては,適応,投与方法,投与回数や間隔などを十分に考慮して行う.文献1)後藤浩:内眼炎の薬物療法─基礎と臨床:副腎皮質ステロイド薬.眼薬理18:39-43,20042)OkadaAA,WakabayashiT,MorimuraYetal:Trans-Tenon?sretrobulbartriamcinoloneinfusionforthetreat-mentofuveitis.???????????????87:968-971,20033)岡田アナベルあやめ:トリアムシノロンアセトニドの経テ(5)表2ステロイド眼局所投与の副作用一般的な副作用緑内障白内障感染症局所注射の副作用眼球穿孔・眼内誤注入7)感染性強膜炎・強膜軟化症5)眼窩膿瘍8)球後出血・網脈絡膜血管閉塞9)網脈絡膜血管塞栓,血管内誤注入眼瞼下垂10)眼窩脂肪ヘルニア10)———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006ノン?球後注入.眼紀55:442-444,20044)大黒伸行:眼局所へのドラッグデリバリーシステム.あたらしい眼科21:35-40,20045)直井信久,白坂陽子:網膜疾患に対するトリアムシノロン局所療法の副作用.あたらしい眼科21:1035-1041,20046)中西頼子,山本博之:黄斑浮腫に対するトリアムシノロンの効果と副作用.あたらしい眼科22:605-612,20057)大房祥江,川久保洋,島田宏之ほか:テノン?下注射によりステロイドが網膜に注入された1例.眼科38:1559-1563,19968)EngelmanCJ,PalmerJD,EgbertP:Orbitalabscessfol-lowingsubtenontriamcinoloneinjection.???????????????122:654-655,20049)MoshfeghiDM,LowderCY,RothDBetal:Retinalandchoroidalvascularocclusionafterposteriorsub-tenontri-amcinoloneinjection.??????????????134:132-134,200210)DalCantoAJ,Downs-KellyE,PerryJD:Ptosisandorbitalfatprolapseafterposteriorsub-Tenon?scapsuletriamcinoloneinjection.?????????????112:1092-1097,2005(6)年間予約購読ご案内眼における現在から未来への情報を提供!あたらしい眼科2007Vol.24月刊/毎月30日発行A4変形判総140頁定価/通常号2,415円(本体2,300円+税)(送料140円)増刊号6,300円(本体6,000円+税)(送料204円)年間予約購読料32,382円(増刊1冊含13冊)(本体30,840円+税)(送料弊社負担)最新情報を,整理された総説として提供!眼科手術2007Vol.20■毎号の構成■季刊/1・4・7・10月発行A4変形判総140頁定価2,520円(本体2,400円+税)(送料160円)年間予約購読料10,080円(本体9,600円+税)(4冊)(送料弊社負担)日本眼科手術学会誌【特集】毎号特集テーマと編集者を定め,基本的事項と境界領域についての解説記事を掲載.【原著】眼科の未来を切り開く原著論文を医学・薬学・理学・工学など多方面から募って掲載.【連載】セミナー(写真・コンタクトレンズ・眼内レンズ・屈折矯正手術・緑内障・光線力学的療法・眼感染症)新しい治療と検査/眼科医のための先端医療他【その他】トピックス・ニュース他■毎号の構成■【特集】あらゆる眼科手術のそれぞれの時点における最も新しい考え方を総説の形で読者に伝達.【原著】査読に合格した質の高い原著論文を掲載.【その他】トピックス・ニューインストルメント他株式会社メディカル葵出版〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替00100-5-69315電話(03)3811-0544お申込方法:おとりつけの書店,また,その便宜のない場合は直接弊社あてご注文ください.http://www.medical-aoi.co.jp

序説:非感染性ぶどう膜炎治療の最先端

2006年11月30日 木曜日

———————————————————————-Page1(1)????非感染性ぶどう膜炎に対する治療は近年大きく変わってきている.海外で行われている治療で,まだ国内には取り入れられていないものも数多くある.本特集では,現在よく使用されているものから,将来的にわが国でも利用可能になることを期待するものまで,ぶどう膜炎に対する治療の最先端を紹介したい.非感染性ぶどう膜炎の治療は,一般的には3つのカテゴリーに分類される.第一は伝統的な副腎質ステロイド(以下,ステロイド)で,抗炎症作用だけでなく免疫抑制作用をもち,非常に効果的でありながらも全身的副作用の危険性が高い薬剤である.全身的副作用を軽減するために,最近はTenon?下あるいは硝子体内に積極的に局所投与をすることもあるが,むしろ眼副作用に悩まされるようになった.眼科医にとっては,自分の領域範囲内で,ある意味管理しやすい副作用と考えがちである.しかし,特にステロイド緑内障は不可逆的な視機能低下をきたす可能性があるため,決して軽く考えてはいけない.本特集のステロイド療法については,河原澄枝(点眼,眼球周囲投与),菅原道孝(全身投与)と大黒伸行(硝子体内投与)の3氏に現場の臨床医にとって欠かせない情報をまとめていただいた.非感染性ぶどう膜炎に対する治療の二つめは,免疫抑制薬であり,これはわが国のぶどう膜炎領域では最も利用が進んでいない.海外では,患者の病態に応じてさまざまな免疫抑制薬が「免疫抑制療法」(immunosuppressivetherapy)あるいは「免疫調整療法」(immunomodulatorytherapy)として使われているにもかかわらず,わが国で利用できるのはシクロスポリン1剤のみである.しかも,Beh?et病の病名がなければ保険適用はない.膠原病のような全身疾患を伴うぶどう膜炎の場合は,薬剤の種類は若干広がるが,基本的にほとんどの非感染性ぶどう膜炎に使用できない.しかし,免疫抑制薬はいずれも,単に免疫を抑制する目的に用いられている.薬剤の選択は,病名だけでなく患者の病状および全身状態に依存する.たとえば,Beh?et病といえどもシクロスポリンしか効果がないという訳ではない.シクロスポリンおよびステロイドの全身投与で炎症発作が抑制されない患者には,視機能を失う前に他の免疫抑制薬であるアザチオプリンなどを使いたいところであるが,残念ながらわが国の保険医療制度,厚生労働省の薬剤承認制度では認められていない.わが国における免疫抑制薬の使用については,毛塚剛司氏に詳しく述べていただいた.非感染性ぶどう膜炎の治療のカテゴリーの三つめは,近い将来わが国で認可される予定の生物学的療法である.これは,ぶどう膜炎領域では画期的なできごとである.この20年ほど新しい治療法はなく,コントロールできない疾患には徐々に免疫抑制療法をエスカレートすることしか手段がないうえに,副0910-1810/06/\100/頁/JCLS*AnnabelleAyameOkada:杏林大学医学部眼科●序説あたらしい眼科23(11):1385-1386,2006非感染性ぶどう膜炎治療の最先端??????????????????????????????????????????????????岡田アナベルあやめ*———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006作用に悩ませられてきた.無論,生物学的療法においても副作用は多く存在するが,薬理作用が疾患の発症機序に対して選択的であるため,効果が高いと考えられる.欧米のぶどう膜炎専門家が,特にtumornecrosisfactoraを阻害するモノクローナル抗体であるin?iximabを広く使用するようになり,さまざまな疾患で効果が確認されている.わが国においても,大野ら1)によりBeh?et病におけるin?iximabの有用性が報告されている.しかし,本薬剤の使用に際してわが国ではひとつ大きな懸念がある.これは,in?iximab治療中の日和見感染症,特に結核の危険性である.周知のとおり,結核は潜伏感染を含め,諸外国に比べわが国ではまだまだ比較的高率である.杏林アイセンターの眼炎症外来において全身検査を必要とした患者の調査では,約20%が強陽性(硬結≧10mm)であった2).しかし,これらの患者の胸部X線はほとんど正常と読影されており,潜伏結核感染の有無がわかりにくい.結核感染症の3割から4割が肺外結核であるため,潜伏感染は必ずしも胸部X線に異常所見が生じないという事実を忘れてはならない.潜伏感染の可能性を除外するには,Quantiferon?-TBGoldという検査があるが,海外ではすでに応用されているにもかかわらず残念ながら結核の多いわが国ではまだ導入されていない3).本特集では,生物学的療法について南場研一氏と大野重昭氏に詳しく解説していただいた.薬剤以外の療法も近年生まれつつある.これはわが国特有の状況である.顆粒球除去療法(granulo-cytapheresis)は大腸炎のために開発されたものであるが,最近,Beh?et病のぶどう膜炎にも効果が示された.より多症例での臨床調査を必要とするが,副作用の少ない治療法であるため,保険医療上の応用が非常に期待されている.これについては,Beh?et病に初めて使用した園田康平氏と南場研一氏に解りやすく紹介していただいた.さらに非感染性ぶどう膜炎の治療の一部に合併症に対する手術のあることはいうまでもない.特に,白内障および緑内障が最も頻度が高い外科的に処置できる合併症である.この両者に注目し,慶野博氏に手術のevi-dence-basedmedicine(EBM)を細かくまとめていただいた.最後に一言付け加えておきたい.ぶどう膜炎領域では専門家の意見が分かれることも少なくないし,エキスパートを集めて議論すると,考え方がかなり異なることがわかる.本特集で述べられている内容は,あくまでその著者個人の意見ということになる.しかしながら,いずれも多くのぶどう膜炎を診察し治療した経験に基づくものであり,述べられている意見はガイドラインとして受けとっていただければよいと思う.文献1)OhnoS,NakamuraS,HoriSetal:Ef?cacy,safetyandpharmacokineticsofmultipleadministrationofin?iximabinBeh?et?sdiseasewithrefractoryuveoretinitis.????????????31:1362-1368,20042)MorimuraY,OkadaAA,KawaharaSetal:Tuberculinskintestinginuveitispatientsandtreatmentofpre-sumedoculartuberculosisinJapan.?????????????109:851-857,20023)MoriT,SakataniM,YamagishiFetal:Speci?cdetec-tionoftuberculosisinfection:aninterferon-g-basedassayusingnewantigens.?????????????????????????170:59-64,2004(2)