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眼感染症:眼感染症クライシス-世界の感染症と薬剤耐性菌-

2007年1月31日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??0910-1810/07/\100/頁/JCLS交通網の発達に伴う経済・文化交流は,同時に世界の感染症や薬剤耐性菌の交流をも顕著に増大させた.このため日常の患者診療においてもグローバルな観点から感染症を把握することが重要となり,感染対策はウイルス感染症をも含み,より複雑になった.眼科診療においても例外ではなく2003年3月16日にオランダで家禽の選別に濃密に従事している関係者18名とその家族1名に結膜炎,流涙,腫脹,眼痛などを主症状としたHPAI(高病原性鳥インフルエンザ)による眼感染症が確認された.さらに,この症例でHPAIがヒトからヒトへと感染伝播する1)ことが証明され,以後,家禽業者・家族や周辺住民へのワクチン接種と抗ウイルス薬の予防投与が徹底された.このようにパンデミックな感染症も眼科と無縁ではなく,またエンデミックな結核や麻疹患者も絶えず外来を訪れている.医療の危機管理が社会的問題となり病院の情報公開が実施される今日,世界の感染症を対岸の火事と侮ってはいけない.■危機管理の必要な感染症とは世界の感染症を危機管理の立場から分類すると,表1のように大きく5群に分けられる.表には代表的な疾患名または略名を明記した.EIDクライシス:新興感染症とは,過去20年以内に発見された伝播力の強い感染症を意味し,現在,世界流行が危惧されているHPAIやSARS(重症急性呼吸器症候群)などが該当する.WHO(世界保健機構)は,インフルエンザの世界流行を防止する目的で,表2に示すよ(77)44.眼感染症クライシス─世界の感染症と薬剤耐性菌─眼感染症セミナー─クライシスコントロール講座─●連載?監修=浅利誠志井上幸次大橋裕一浅利誠志大阪大学医学部附属病院感染制御部/検査部2007年4月施行予定の改正医療法ですべての医療機関の情報公開が義務づけられ,専門医数,手術件数,対応可能疾患などが都道府県のホームページに掲載される.今後は,死亡率,手術成功率など「病院の実力」を示すデータの公示が義務づけられると思われるが,病院の実力を支える最も大きな支柱の一つは,感染症危機管理の徹底である.表1危機管理の必要な感染症とはERIDクライシス院内感染クライシスNBCクライシスEID:パンデミック多剤耐性菌バイオテロ対策・HPAI:高病原性鳥インフルエンザ・SARS:重症急性呼吸器症候群・ウエストナイル熱・エボラ出血熱・MRSA,MDRP,PRSP,MRSE,BLNAR,VRE,ESBLs・炭疽菌・ペスト菌・鼻疽菌・類鼻疽菌・野兎病菌ウイルス感染症・麻疹,水痘,風疹,ムンプス,EKC,HSVRID:エンデミックSTDクライシスNIDクライシス・結核・HIV/AIDS・土壌伝播線虫症・マラリア・性器クラミジア症・住血吸虫症・コレラ・淋病・リンパ系フィラリア症・赤痢・梅毒・トラコーマ・狂犬病・B型肝炎・オンコセルカ症ERID:新興・再興感染症,EID:新興感染症,RID:再新興感染症,NBC:核・生物・化学,STD:性行為感染症,NID:Neglectedinfectiousdiseases,MRSA:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌,MDRP:多剤耐性緑膿菌,PRSP:ペニシリン耐性肺炎球菌,MRSE:メチシリン耐性白色ブドウ球菌,BLNAR;b?ラクタマーゼ陰性アンピシリン耐性ヘモフィルス属,VRE:バンコマイシン耐性腸球菌,ESBIs:拡張型b?ラクタマーゼ産生菌,EKC:流行性角結膜炎,HSV:単純ヘルペスウイルス,HIV:ヒト免疫不全ウイルス,AIDS:後天性免疫不全症候群.感染症は危機管理上,5群に分類すると理解しやすい.———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007うに「パンデミックインフルエンザ警報」を発し注意を促しており,現在はパンデミックアラート期のフェーズ3に位置している.このフェーズ3は,「新しい亜型によるヒト感染(複数も可)がみられるが,ヒト?ヒト感染による拡大はみられない,あるいは非常にまれではあるが密接な接触者への感染に留まる.」と,定義されており,今後の動向には注意が必要である.RIDクライシス:再新興感染症とは過去20年以前に発見されたがその後,継続的に強い伝播力を発揮している感染症である.経済大国世界第2位である日本の最大の感染症は結核で,2004年の新登録結核患者数は29,736人である.院内感染クライシス:院内感染対策上重要な微生物は,基本的に接触感染予防(①)の徹底で防止可能である.飛沫感染予防(②)が必要な感染症としては,風疹,ムンプス,インフルエンザ(Flu)などがあり,さらに,空気感染予防(③)が必要な感染症としては,麻疹,水痘,結核およびFluがある.標準予防策を体で習得し,これに重ねて①~③を適時使い分ける実践訓練が必要である.また,世界中で重要視されている薬剤耐性菌は表3に示すように9種あるが,VRSA(バイコマイシン耐性黄色ブドウ球菌)は国内では検出されていない.治療に際しては,耐性菌の特性を十分に知ることが治療成績の向上と耐性菌の発生防止につながる.STDクライシス:性行為感染症のなかで毎年増加傾向がみられているのはHIV(ヒト免疫不全ウイルス)で,2004年に新たに報告されたHIV感染者は780人(男性698人,女性82人),AIDS(後天性免疫不全症候群)患者は385人(男性344人,女性41人)であり,ともに前年を大きく上回り過去最高となっている.特徴としては,25~34歳群での報告数が顕著に増加している.また,淋病の特徴としては,多剤耐性化した淋菌が多く検出されているため,淋菌性結膜炎では薬剤感受性試験の実施により耐性菌の確認が必要である.NBCクライシス:核・生物・化学物質によるテロのなかで,炭疽菌やペスト菌などの微生物を用いたテロを生物テロとよぶ.2002年に米国内で発生した炭疽菌テロを契機に米国臨床検査標準化協会(CLSI:臨床検査の標準化を国際的に推進する組織)は,WHOの勧告に準じて表1の5菌種に対する検査法と薬剤感受性薬剤を標準化した.国内にはバイオテロ対策の検査基準がないため,有事の際はこの基準に準じて検査が行われる.NIDクライシス:おもに開発途上国で蔓延している感染症で軽視・無視されている感染症を意味する.近年はendemictropicaldiseasesとよばれている.土壌伝播線虫症に感染している患者は10億人以上,住血吸虫症2億人,フィラリア症1億2千万人,トラコーマ1億5千万人,オンコセルカ症1千8百万人と膨大な患者数(78)表3重要視されている薬剤耐性菌略号グラム染色日本語名英名MRSA陽性メチシリン耐性黄色ブドウ球菌methicillin-resistant?????????????????????MR-CNSメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌methicillin-resistantcoaglasenegative?????????????VRSAバンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌vancomycin-resistant?????????????????????VREバンコマイシン耐性腸球菌vancomycin-reisitant????????????spp.PRSPペニシリン耐性肺炎球菌penicillin-resistant????????????????????????BLNAR陰性b?ラクタマーゼ陰性アンピシリン耐性ヘモフィルス属b-lactamasenegativeampicillinresistant????????????ESBLs拡張型b?ラクタマーゼ産生菌extended-spectrumb-lactamaseproducingbacteriaMDRP多剤耐性緑膿菌multidrug-resistant??????????????????????MDR-NG多剤耐性淋菌multidrug-resistant?????????????????????検査結果にこのような耐性菌コメントが付記されていたら治療薬剤を再考する!表2WHOによる現在のパンデミックインフルエンザ警報フェーズパンデミック間期12パンデミックアラート期345パンデミック期6国立感染症情報センターまたはCDCのホームページへアクセスし確認!———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??が推定されているが,一部の感染症を除き治療薬の開発は著しく遅れているのが現状である.今後,地球の温暖化と国際交流に伴い熱帯・亜熱帯特有の感染症は急激に増加すると思われるが,パンデミック・エンデミック感染症に対する感染防止対策の習得は医療従事者の責務である.■本年,施行される改正感染症法とは1999年4月1日に感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)が施行されてから間もなく8年を経過しようとしている.この間,感染症法は何度か見直しがされたが,さらに2006年12月8日に改正感染症法(法律第一〇六号,厚生労働省)が公布され本年より大幅に変わる.主な改正事項としては,1.生物テロや事故による感染症の発生・まん延を防止するため,一種病原体(ペスト菌など)~四種病原体(狂犬病など)までの病原微生物の所持,輸入等の禁止,許可,届出,基準の遵守等の規則が設けられ,無許可での病原菌保管や譲渡ができなくなる.2.近年の医学的知見に基づき感染症の分類が見直され,医師・獣医師の届出や慢性感染症に関する情報の収集および発生状況等の情報が公開される.3.これまで独立していた結核予防法が感染症法に位置付けられ,総合的な対策(健康診断,就業制限,入院及び医療など)が実施される.■シリーズ:眼感染症クライシスとは本シリーズでは,1年間を通じて主に薬剤耐性菌に関するわかりやすい情報を検査室から眼科医に提供する.具体的には,本総説(1)で概説した薬剤耐性菌について,2.グラム染色の効用について解説後,3.MRSA,4.MRSE,5.MDRP,6.ESBLs,7.PRSP,8.BLNAR,9.VRE,10.多剤耐性淋菌,11.????????????????????????と???????????????,12.エビデンスに基づく点眼剤の使い分け,という順番で掲載予定である.検査室からのアドバイスが眼感染症治療の一助になれば幸甚である.文献1)DuRyvanBeestHolleM,MeijerA,KoopmansMetal:Human-to-humantransmissionofavianin?uenzaA/H7N7,TheNetherlands,2003.?????????????10(12):264-268,2005(79)■コメント■「眼感染症セミナー─クライシスコントロール講座─」と題するシリーズが今回から始まる.企画を大阪大学医学部附属病院感染制御部/検査部の浅利誠志先生にお願いして,眼科医のためのワンポイントレッスンを多数組んでいただいた.よく考えれば,われわれの周囲は微生物だらけである.眼,特に角結膜は外界と接しており,感染の好発部位と言えるが,鳥インフルエンザウイルスで結膜炎が起こるという話には背筋がぞっとした.このシリーズで感染制御学の知識レベルをワンランク,アップさせていただければ幸いである.愛媛大学医学部眼科大橋裕一☆☆☆

光線力学的療法(PDT):照射範囲の決定

2007年1月31日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??0910-1810/07/\100/頁/JCLS滲出型加齢黄斑変性(AMD)は視力予後が不良で,欧米では失明原因の第1位であり,わが国でも急増している疾患である.ベルテポルフィン(ビスダイン?,ノバルティスファーマ株式会社)を用いた光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)は,2004年5月より日本に導入され,脈絡膜新生血管(CNV)を伴うAMDに対して視力低下を抑制する目的で行われており,広く臨床的に適用されている1,2).PDTの適応は中心窩下CNVを伴うAMDであり,その適応の判断およびPDTの照射範囲の決定には,フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)をもとにして行うのが原則である.まずFA所見をもとに病変サイズを決める必要があるが,ここでいう「病変」とは,FA像から,classicおよびoccultCNV,出血,網膜色素上皮?離(PED),瘢痕を含めたものすべてを指す.CNVはclassicCNVが病変の50%以上を占めるpredominantlyclas-sicCNV,50%未満のminimallyclassicCNV,classic成分のないoccultwithnoclassicCNVに分けられる1).「病変」の範囲のなかで最大直径に値するものを最大病変直径(greatestlineardimen-sion:GLD,?m)とよぶ.PDT照射の際に使用するスポットサイズは病変部を完全にカバーできるようにするために,病変に500?mの縁どりを行い,つまりGLDに1,000?mを加えた値とする(図1).測定に使用するFA写真は機種により拡大率は異なるが,TOPCONの眼底カメラでは,実際の眼底の2.5倍に拡大される35?の写真を用いて測定する.しかし,視神経乳頭の耳側縁より200?m以内は照射を行ってはいけないので注意が必要である.また推奨されるGLDは5,400?m以下である1,2).網膜下出血が多い症例やPEDを伴う症例では,GLDは大きくなりやすい(図2,3).AMDの一型であるポリープ状脈絡膜血管症(PCV)は脈絡膜血管に由来する枝状の異常血管網とその先端の拡張したポリープ状病巣からなり,インドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)によって異常血管像が証明される.PCVは日本人に多く,PDTを行うケースに遭遇しやすい疾患である.PCVは網膜下出血や,PEDを伴いやすく,この場合IA所見から得られるポリープ状病(75)齋藤昌晃福島県立医科大学眼科光線力学的療法(PDT)セミナー監修/石橋達朗湯沢美都子4.照射範囲の決定ベルテポルフィン(ビスダイン?)を用いた光線力学的療法(PDT)は脈絡膜新生血管を伴う滲出型加齢黄斑変性に対して視力低下を抑制する目的で広く行われている.照射範囲の決定には,フルオレセイン蛍光眼底造影所見を参考にするのが原則であるが,症例によってはインドシアニングリーン蛍光眼底造影所見を参考にする場合もある.提供図2網膜下出血を伴う例:MinimallyclassicCNV網膜下出血のためGLDは大きくなる,GLD:5,944?m.図1GLDの測定:PredominantlyclassicCNVFAでのGLD測定,GLD:5,350?m.———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(00)巣と異常血管網の範囲は,FA所見で決めたGLDよりも小さくなりやすい.照射の際にFA所見を参考にするのか,IA所見を参考にするのか迷うことが多い(図3).最近ではPCVでの照射範囲の決定の際に,FAをもとにした標準的な方法(FA-guidedPDT)3)のほかに,IAをもとにした方法(IA-guidedPDT)の報告4)があり,いずれも治療成績は良好である.IA-guidedPDTの場合,IA像からポリープ状病巣および異常血管網を含む最大直径である「PCV病変サイズ」(?m)を測定する.なお,漿液性網膜?離,色素上皮?離,出血などの,滲出性病変はPCV病変サイズに含めない.PCV病変サイズに1,000?mを加えた値をスポットサイズとするのが一般的である.しかし,これまでにわが国ではPDTの治療成績に関する前向き研究の報告がなく,照射範囲の方法のどちらが臨床的に適しているかの検討もない.そこで現在,眼科PDT研究会がPCVに対するFA-guidedPDT,IA-guidedPDTに関しての前向き試験を行っており,その結果が待たれる.文献1)TreatmentofAge-RelatedMacularDegenerationwithPhotodynamicTherapy(TAP)StudyGroup:Photody-namictherapyofsubfovealchoroidalneovascularizationinage-relatedmaculardegenerationwithvertepor?n:one-yearresultsof2randomizedclinicaltrials─TAPreport.???????????????117:1329-1345,19992)JapaneseAge-RelatedMacularDegenerationTrial(JAT)StudyGroup:Japaneseage-relatedmaculardegenerationtrial:1-yearresultsofphotodynamictherapywithverte-por?ninJapanesepatientswithsubfovealchoroidalneo-vascularizationsecondarytoage-relatedmaculardegener-ation.???????????????136:1049-1061,20033)SpaideRF,Donso?I,LamDLetal:Treatmentofpolyp-oidalchoroidalvasculopathywithphotodynamictherapy.??????22:529-535,20024)ChanWM,LamDS,LaiTYetal:Photodynamictherapywithvertepor?nforsymptomaticpolypoidalchoroidalvas-culopathy.One-yearresultsofaprospectivecaseseries.?????????????111:1576-1584,2004図3網膜色素上皮?離を伴った症例:PCVa:橙赤色隆起病巣を認める.b:FA所見をもとにしたGLDの測定,GLD:7,289?m.c:IA所見を基にしたGLDの測定,GLD:3,290?m.PEDを伴う症例ではFA所見と,IA所見とではGLDに差がでやすい.bac

緑内障:マイトカイシンC併用繊維柱帯切除術後の眼圧日内変動

2007年1月31日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??0910-1810/07/\100/頁/JCLS線維柱帯切除術は,マイトマイシンC(MMC)の併用で眼圧を長期に低くコントロールできるようになったため,緑内障の観血的手術として最も一般的な術式となっている.MMC併用線維柱帯切除術を含む濾過手術の眼圧日内変動に及ぼす効果については,これまで術前の平均眼圧を大きく下降させ,眼圧変動幅も著しく減少させることが報告されている1,2)が,MMC併用線維柱帯切除術後の眼圧日内変動についての詳細な報告は少ない.そこで,筆者らは熟練した同一術者による初回のMMC併用線維柱帯切除術後で術後2カ月以上経過した原発開放隅角緑内障(広義)20例31眼を対象に,術後の眼圧日内変動をGoldmann圧平眼圧計で測定した3).その結果,全対象の各測定時刻の平均眼圧は終日低く安定していたが,わずかではあるが日内変動を認め10時の眼圧が1時の眼圧より有意に高かった(10時の眼圧9.9±3.9mmHg,1時の眼圧8.8±3.5mmHg,p<0.05)(図1).また,術後1日平均眼圧(眼圧日内変動で得られた全測定時刻の眼圧の平均値)と術後眼圧変動幅(術後最高眼圧-術後最低眼圧)の間には,有意な正の相関を認め,術後1日平均眼圧が低いほど,術後眼圧変動幅は小さかった(相関係数r=0.456,p<0.05)(図2).このことから,手術による治療効果を高めるためには,術後合併症を招かない範囲でできるだけ低い眼圧を目指す必要があるといえる.しかし,実際には,術後1日平均眼圧がかなり低くても,ある測定時刻だけ眼圧が上昇したため,術後眼圧変動幅が大きい症例もみられた.以下,具体例を2例呈示する.〔症例1〕69歳,男性で,2001年2月1日に左眼のMMC併用線維柱帯切除術を施行された.外来での左眼術後眼圧は5mmHgであった.2001年4月3日(術後62日)に眼圧日内変動を測定したところ,術後1日平均眼圧は7.8mmHgと低いものの,10時と19時で眼圧はspike状に上昇していたため,術後眼圧変動幅は7(73)●連載?緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄79.マイトマイシンC併用線維柱帯切除術後の眼圧日内変動中元兼二東京警察病院眼科マイトマイシンC併用線維柱帯切除術後の眼圧日内変動を測定したところ,術後1日平均眼圧と術後眼圧変動幅の間には正の相関があり,術後1日平均眼圧が低いほど術後眼圧変動幅は小さかった.しかし,術後眼圧が低くても特定の時刻だけ眼圧がspike状に上昇する症例があり,術後眼圧の評価には注意が必要である.*平均値±標準誤差*p<0.05測定時刻(時)眼圧(mmHg)12111098761013161922137図1MMC併用線維柱帯切除術後の眼圧日内変動原発開放隅角緑内障(広義)20例31眼を対象に,術後の眼圧日内変動を測定したところ,全対象の各測定時刻の平均眼圧は終日低く安定していたが,有意な日内変動があり,10時の眼圧が1時の眼圧より有意に高かった.(文献3より)術後1日平均眼圧(mmHg)術後眼圧変動幅(mmHg)8765432104681012141618r=0.456,p<0.05図2術後1日平均眼圧と術後眼圧変動幅との相関関係術後1日平均眼圧と術後眼圧変動幅の間には,有意な正の相関を認め,術後1日平均眼圧が低いほど術後眼圧変動幅は小さかった.(文献3より)———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007mmHgと大きかった(図3a).2001年5月1日レーザー切糸術を施行し,2001年6月9日(術後99日)に再度眼圧日内変動を測定すると10時と19時のspike状の眼圧上昇は消失し,術後1日平均眼圧は5.5mmHgとさらに下降し,術後眼圧変動幅も2mmHgと終日低く変動の少ない眼圧日内変動となった(図3b).〔症例2〕78歳,男性で,1995年11月16日に左眼のMMC併用線維柱帯切除術を施行された.外来での左眼術後眼圧は5~8mmHgであった.術後2,014日に眼圧日内変動を測定したところ,10時から3時までは眼圧は5~7mmHgと低く安定していたが,7時にspike状の眼圧上昇を認めた.しかし,続く10時には6mmHgまで下降していた(図4).以上のように,原因は明らかでないが,MMC併用線維柱帯切除術後においても外来眼圧が低くても眼圧日内変動を測定すると,ある測定時刻でspike状に眼圧が上昇するものがあることがわかった.このことから,特に外来の眼圧コントロールが良好で視野障害が進行する症例では,術後であっても積極的に眼圧日内変動を測定し,24時間を通して眼圧が良好にコントロールされているか評価したほうがよいと考えられる.文献1)佐藤出,陳進輝,大野重昭:緑内障手術前後における眼圧日内変動の検討.臨眼58:1973-1976,20042)MedeirosFA,PinheiroA,MouraFCetal:Intraocularpressure?uctuationsinmedicalversussurgicallytreatedglaucomatouspatients.?????????????????????18:489-498,20023)福田匠,中元兼二,安田典子ほか:マイトマイシンC併用線維柱帯切除術後の眼圧日内変動.臨眼60:1961-1963,2006(74)測定時刻(時)眼圧(mmHg)2016128401013161922137測定時刻(時)眼圧(mmHg)2016128401013161922137ab図3症例1(69歳,男性)のレーザー切糸術前後の眼圧日内変動(左眼)a:術後62日の眼圧日内変動では,術後1日平均眼圧は低いが,術後眼圧変動幅は7mmHgと大きかった.b:レーザー切糸術後(術後99日)の眼圧日内変動では,眼圧変動幅が2mmHgと終日低く変動の少ない眼圧日内変動となった.測定時刻(時)眼圧(mmHg)14121086420101316192213710図4症例2(78歳,男性)のMMC併用線維柱帯切除術後の眼圧日内変動(左眼)術後2,014日に眼圧日内変動測定した.7時にspike状の眼圧上昇を認めたが,続く10時には6mmHgまで下降していた.☆☆☆

屈折矯正手術:屈折矯正手術-エンハンスメントの適応と実際-

2007年1月31日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??0910-1810/07/\100/頁/JCLS屈折矯正手術後に予定矯正量より低矯正または過矯正となったため,あるいは裸眼視力が再度低下し(regression)追加矯正手術を行うことを一般にエンハンスメントと呼称している.現在ではエンハンスメントの対象症例はその大半がLASIK(laser???????keratomile-usis)手術後の低矯正またはregression症例に対する近視矯正であるため,本稿ではLASIK後の近視エンハンスメントの適応と手技に関して述べる.●エンハンスメントの適応エンハンスメントの適応決定には視力,年齢,屈折値,角膜厚,角膜形状,術後経過や経過期間などを考慮する必要がある.視力に関しては,患者が術後裸眼視力に満足できない状態がエンハンスメントの適応となり,裸眼視力が幾つ以下ならエンハンスメントを行うという絶対的な境界値は存在しない.エンハンスメント適応に年齢制限はないが,エンハンスメントを行う際に年齢を考慮するには二つの理由がある.一つは,高齢の患者にとって軽度の近視残存は良好な近方裸眼視力という利点を有するため,この点を十分に患者に説明してから適応決定を行う.もう一つは,若年者に比べ30歳以上の患者では術後regres-sion頻度がやや高く,屈折値の変化もやや長期にわたる傾向がある.このため高齢者のエンハンスメント適応は,若年者に比べ十分な経過観察を行い,できれば初回手術後6カ月は経過してから決定する.屈折値に関しては,初回手術前の屈折値と術後の残存近視量の値を考慮する必要がある.初回手術前屈折値が6D未満の症例では術後1カ月程度で屈折値はほぼ安定し,術後3カ月経過した時点でエンハンスメントの適応を判断しても問題はないが,術前9Dを超える強度近視の場合,術後のregressionが3カ月以上の長期にわたる場合があり1),屈折値が十分,安定するのを確認してからエンハンスメントの適応を決定する.術後残存近視量が0.5D未満とわずかな場合は,b-遮断薬点眼加療によるregression加療を優先するとともにエンハンスメントに伴う角膜上皮迷入などのリスクを十分説明してから手術を行う.角膜厚測定はkeratectasia予防のために重要である.確定した値ではないが,一般にはエンハンスメント後の残余角膜厚が400?mおよびフラップ厚が既知な場合はベッド厚250?mを残せる症例が適応となる.初回手術の角膜フラップ厚が不明な場合は慎重な検討を要する.初回LASIK術後に角膜上皮が肥厚したために角膜厚が増大し,残存ベッド厚が過大評価されしまう症例があることを忘れず,角膜厚に十分な安全量を残す2).角膜形状測定も角膜厚と並んでエンハンスメント適応(71)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載?監修=木下茂大橋裕一坪田一男80.屈折矯正手術-エンハンスメントの適応と実際-江口秀一郎江口眼科病院屈折矯正手術後のエンハンスメントは患者の視力,年齢,術前および初回手術後の屈折状態,角膜厚,角膜形状,さらには術後経過や経過期間などを考慮して適応を決定する.特に角膜厚と角膜形状は術後keratectasia予防のために重要である.手術はリフティング法を基本とし,角膜上皮迷入防止に配慮した手技を要する.図1エンハンスメント術前にkeratectasiaを疑われた症例のOrbscan?結果角膜後面のエレべーションマップ(右上)で突出したエリアがある.前面エレベーションマップ(左上)の突出頂点と後面の突出頂点が非対称で位置が不一致である.Axialマップで上下の非対称性が強い.以上の所見が初回LASIK術前に円錐角膜が存在していた疑いが強い.———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007決定にきわめて重要である.特に走査型角膜形状解析装置Orbscan?を用いて,角膜前面のみならず角膜後面の形状と変化を定量的に測定することが重要である.角膜厚が十分に厚くとも,角膜後面の前方偏位量が大きい症例や,角膜前後面で突出頂点の位置が著しく異なる症例は,もともと円錐角膜症例であった疑いが強く,エンハンスメント適応としないほうが安全である(図1).初回手術の術後経過において,術後に角膜上皮?離,角膜上皮迷入やDLK(di?uselamellarkeratitis)がなかったか,ステロイド緑内障の既往がなかったかなどを確認し,これらの術後合併症を有した症例に対してはエンハンスメントを避ける.術後経過期間に関しては屈折値の安定を確認するため,最低でも初回手術後3カ月経過してからエンハンスメントを行うべきであるが,術前屈折値や年齢なども併せて考慮する必要がある点は前述した.●エンハンスメントの手術手技エンハンスメントは,初回手術時に作製したフラップを再?離するリフティング法と新たなフラップをマイクロケラトームで作製するリカット法に分かれる.初回手術後2~3年経過してもフラップとベッドの間の癒着はきわめて緩く,エンハンスメントにはリフティング法が主として用いられている.リフティング法でエンハンスメントを行う場合は,まず,細隙灯顕微鏡下にて27ゲージ注射針などを用いてフラップ縁をマーキングまたは小さく再?離し,エキシマレーザーに付随した顕微鏡下にてもフラップ縁を見失わないよう準備する.ときに細隙灯顕微鏡下でもフラップ縁の同定が困難な症例がある.そのような場合は,角膜をフルオレセイン染色してみると,フラップ縁が淡い混濁として観察でき,マーキングが容易となる.消毒後,顕微鏡下でフラップを正しい位置に戻すためのマークを置き,細隙灯顕微鏡下で付けたマーキングをガイドとしながらスパーテルを用いてフラップエッジを全周にわたり?離する(図2).この際,術後角膜上皮迷入やDLKを防止するため,角膜上皮損傷,欠損が最小限になるように留意する.初回手術でパンヌスからの出血があった部位ではフラップとベッドの癒着が強固で,フラップの?離はきわめて困難である.このような場合は,無理にフラップを牽引せずに剪刀にて癒着部位のフラップを切断したほうが手術侵襲が少ない.フラップ中央部?離はスパーテルや鑷子を用いてもよいが,層間洗浄針でBSS(balancedsaltsolution)を注入していくと容易に?離することが可能であるとともにフラップの乾燥も防止可能である(図3).フラップ?離後,エキシマレーザー照射を行う.レーザー照射後,角膜ベッドを十分に洗浄し,フラップをもとの位置に戻し,フラップ下に異物,角膜上皮細胞片がないことを確認する.初回手術に比べ角膜上皮に対する侵襲が強いので,治療用コンタクトレンズを装用させて手術を終了する.文献1)ChayetAS:Regressionanditsmechanismsafterlaserinsitukeratomileusisinmoderateandhighmyopia.??????????????105:1194-1199,19982)BrahmaA,McGheeCN,CraigJPetal:Safetyandpre-dictabilityoflaserinsitukeratomileusisenhancementby?apreelevationinhighmyopia.???????????????????????27:593-603,2001(72)図2エンハンスメント術中所見スパーテルを用いて術前マーキング地点よりフラップエッジを?離していく.図3エンハンスメント術中所見フラップエッジの?離が終了したら層間洗浄針でBSSを注入していくと容易に?離することが可能である.

眼内レンズ:Intraoperative Floppy Iris Syndrome(1)-症状と機序-

2007年1月31日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??0910-1810/07/\100/頁/JCLS前立腺肥大症に対して排尿障害改善剤a1ブロッカーを内服している患者において,白内障手術中に「水流による虹彩のうねり」,「虹彩の脱出・嵌頓」,「進行性の縮瞳」を三徴とするintraoperative?oppyirissyndrome(IFIS,術中虹彩緊張低下症候群)が生じることが最近報告されている.2005年のASCRS(TheAmericanSocietyofCataractandRefractiveSurgery)において米国のChangとCampbellが提唱したのが最初で1),その後,種々の施設から同様の症例が報告され,わが国でも報告が相次いでいる.IFISは虹彩のトーヌスが低下し,rigidity(剛性)が損なわれている状態であり,術中のさまざまな段階において認められる.水流によって虹彩がうねる(図1,2),創口やサイドポート,あるいは超音波チップに虹彩が嵌頓・脱出する(図3,4),進行性に縮瞳する(図5)など(69)図4a超音波チップへの虹彩の嵌頓大鹿哲郎筑波大学大学院人間総合科学研究科機能制御医学専攻眼科学眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎245.IntraoperativeFloppyIrisSyndrome(1)─症状と機序─Intraoperative?oppyirissyndrome(IFIS,術中虹彩緊張低下症候群)とは,前立腺肥大症に対して排尿障害改善剤a1ブロッカーを内服している患者において,白内障手術中に「水流による虹彩のうねり」,「虹彩の脱出・嵌頓」,「進行性の縮瞳」を三徴とする虹彩異常が生じるものである.図1aUS時の水流による虹彩のうねり図1b図1aのシェーマ図2b図2aのシェーマ図2aI/A時の水流による虹彩のうねり図3a創口からの虹彩の脱出傾向図3b図2aのシェーマ図4b図3aのシェーマ———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(00)の症状がみられる.当初,米国では前立腺肥大症の排尿障害改善剤である塩酸タムスロシン(ハルナール?)を服用している患者に集中してIFISが発現するとされていたが,その後の調査で,a1受容体サブタイプ(a1A,a1B,a1D)のうちa1A受容体サブタイプに選択性が高い薬剤によってIFISが生じることが明らかになっている.前立腺と同じく,虹彩の散大筋でもa1A受容体がドミナントであることから,これらの薬剤が両者に影響しているものと考えられる.わが国では6種類の排尿障害改善剤が市販されているが,そのなかでa1A受容体サブタイプに選択性が高く,IFISを生じる可能性の高いものは3種類である(表1).なお,点眼のaブロッカーであるブナゾシンは受容体サブタイプ選択性が異なるため,IFISをひき起こすことはない.発生頻度は白内障手術患者中,米国で約2%1),わが国で約1%2)と報告されている.a1A受容体選択性ブロッカーを内服している患者ではさらに高く,40~60%でIFISが発症するとされている.文献1)ChangDF,CampbellJR:Intraoperative?oppyirissyn-dromeassociatedwithtamsulosin.???????????????????????31:664-673,20052)OshikaT,OhashiY,InamuraMetal:Incidenceofintra-operative?oppyirissyndromeinpatientsoneithersys-temicortopicala1-adrenoceptorantagonist.????????????????143:150-151,2007表1IFISを生じる可能性が高い排尿障害改善剤メーカー一般名商品名アステラス製薬塩酸タムスロシンハルナールハルナールD旭化成ファーマ日本オルガノンナフトピジルフリバスアビショットキッセイ薬品第一製薬シロドシンユリーフ図5進行性の縮瞳

コンタクトレンズ:カラーソフトコンタクトレンズを処方するうえでの注意点

2007年1月31日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??0910-1810/07/\100/頁/JCLSカラーソフトコンタクトレンズ(以下,カラーSCL)には,医療用として虹彩欠損症,無虹彩症,瞳孔異常などに処方される虹彩付きレンズと,整容用としてファッション目的,角膜白斑,虹彩異色症などに処方される美容用レンズ(表1)がある.本稿では,一般に屈折異常の矯正にも広く用いられている後者を処方するうえでの注意点について述べる.●処方適応の注意点本来,眼科医は屈折異常を矯正する医療を目的とした症例に対してのみコンタクトレンズ(CL)を処方するべきであるが,CLの処方と処方後の安全管理を行い得るのは眼科医のみであるため,ファッション目的でカラーSCLの処方を希望する症例に対しても関わらなければならないのが現状である.屈折異常の矯正を目的とする症例の適応は,一般的な球面ソフトコンタクトレンズ(SCL)と同様である.屈折矯正を必要としないファッション目的の正視やカラーSCLの規格外の度数の遠視,乱視の症例では,CL装用による視力が裸眼視力より低下しない状態(planoレンズあるいはレンズ下の涙液レンズによっても屈折が変化しない場合)であれば適応となる.カラーSCLの見え方への影響が大きいと予想される生活環境(暗所での就労者,運転手,良好な近方視力を要する近業従事者など)にある症例は適応とならない.カラーSCLに独特な注意点として,レンズのセンタリングに影響の出る極端な下三白眼(下方球結膜露出が著しい場合)や閉瞼不全(メイキャップによる二重瞼眼も含む)は適応とならないことがあげられる.着色部分に金属成分が含まれているカラーSCLでは,金属アレルギーの既往のある症例は適応とならないことがある.●フィッティングの注意点一般的なSCLのベースカーブ(BC)の選択時には,涙液交換が十分になるよう適度な動きがあることが優先される.カラーSCLでも,基本的には同様の考え方でBCを選択する.カラーSCLでは光学部の周辺に同心円状に着色部分があるため,見え方に影響を及ぼさないためと装着時の整容的観点から,一般的なSCLの処方時よりもセンタリ(67)塩谷浩しおや眼科コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純TOPICS&FITTINGTECHNICS271.カラーソフトコンタクトレンズを処方するうえでの注意点表1カラーソフトコンタクトレンズ一覧レンズ名イリュージョンエレガンス(ナチュラルタッチ)デュラソフトカラーフレッシュルックカラーフレッシュルックカラーブレンドスーパーカラビュータイプFDA分類含水率ベースカーブ直径度数瞳孔径従来型Ⅰ37.5%8.3,8.6,8.9mm13.8mm±0~-10.00D5.2mm従来型Ⅰ38%8.4,8.7mm13.8mm±0~-6.00D5.1mm従来型Ⅲ38%8.3,8.6,8.9mm13.8,14.5mm+3.00~-20.00D5.0mm2週間頻回交換型Ⅳ55%8.6mm14.5mm+0.25~-8.00D5.0mm2週間頻回交換型Ⅳ55%8.6mm14.5mm+0.25~-8.00D5.0mm2週間頻回交換型Ⅰ38.5%8.7mm13.8mm-0.25~-8.00D5.0mmレンズ名フレッシュルックデイリーズカラーブレンドワンデーアキュビューカラーワンデーアキュビューディファインタイプFDA分類含水率ベースカーブ直径度数瞳孔径1日交換型Ⅱ69%8.6mm13.8mm-0.50~-6.00D5.0mm1日交換型Ⅳ58%8.5mm14.2mm+1.00~-9.00D5.4mm1日交換型Ⅳ58%8.5mm14.2mm+1.00~-9.00D7.7mmFDA:アメリカ食品医薬品局.———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(00)ングが重視される.さらに瞬目時と上下左右への視線の移動時のレンズの動きが少ないことが重視される.図1,2は上眼瞼圧が強く,角膜曲率半径(角膜形状)が小さいためレンズが下方にずれている例である.このような症例では,たとえ角膜曲率半径が小さくても標準のBC(?atなBC)を初めに装用させフィッティングを観察し,その結果によりBCに種類があれば,つぎにsteepなBCを選択する.センタリングが良好になっても,レンズの動きが少なく,装用経過中にtight?t化することが予想される場合には,レンズの種類を変えるか,処方を断念する.●屈折矯正の注意点カラーSCLでの見え方は,レンズの光学部以外が不透明あるいは半透明であるため,レンズの角膜上での安定位置と動き,瞳孔の大きさ,昼夜の時間帯,環境の明暗による影響を受けやすい.そのため処方検査時に視力が出にくく,過矯正を生じやすいので注意する必要がある.また検査室内では自覚的な見え方に満足が得られても,実際の使用で不満が出る場合があることを想定し,予想される見え方について説明しておく必要がある.●カラー選択の注意点カラーSCLは同じ系統のカラーであっても,種類により着色部分の虹彩紋理や透光性などの特徴が異なっている.レンズのカラーを選択する際には,この特徴により,装着時には装用者の虹彩の色とその濃淡の影響を受けて,色合いが異なって見えることを説明する.また装着状態での色合いの判断時には,他人と接する距離まで鏡から離れて観察するよう指導する.●装用指導時の注意点軽度の屈折異常,正視やoccasionaluseの症例では,カラーSCLをファッション装具としてのみ認識していることが多いと思われる.レンズ,ケア方法,装用方法の説明や指導の際には,高度管理医療機器としての理解が得られるようにレンズの角膜や結膜への影響や定期検査の必要性について十分に説明する.また,貸し借りの危険性,従来型カラーSCLでの一般的な使用期間(半年から1年以内)について装用開始前に理解させる.さらに,着色部分に金属成分を含むカラーSCLの装着状態でMRI(磁気共鳴画像)検査が施行されると,角膜障害を惹起する可能性があることを説明する.●定期検査一般的なCLの定期検査と同様に屈折検査,細隙灯顕微鏡検査,詳細な使用状況の聴取を行う.細隙灯顕微鏡検査では,必ずレンズをはずして角膜の状態を観察する.また使用中の従来型カラーSCLは実体顕微鏡で観察する.←図1カラーSCLの下耳側へのずれ→図2カラーSCLの下方へのずれ

写真:Glistening(グリスニング)

2007年1月31日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??0910-1810/07/\100/頁/JCLS(65)柴琢也東京慈恵会医科大学眼科写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦272.Glistening(グリスニング)①②③④図2図1のシェーマ①:glistening,②:レンズ前面,③:瞳孔縁,④:前?縁.図1Grade3のglistening(76歳,男性)水晶体乳化吸引術+眼内レンズ(PEA+IOL)術後6カ月頃よりglisteningを認め,術後1年6カ月頃には写真のようにgrade3(200/mm3)まで増加した.既往歴にコントロール不良の糖尿病があり,術中合併症はない.図3Grade2のglistening(82歳,男性)PEA+IOL術後4カ月頃よりglisteningを認め,術後1年頃には写真のようにgrade2(100/mm3)まで増加した.既往歴は特記すべきことはなく,術中合併症はない.図4Grade1のglistening(71歳,女性)PEA+IOL術後6カ月頃よりglisteningを認め,術後2年を経過しても写真のようにgrade1(50/mm3)のままである.既往歴にコントロール良好の糖尿病と高血圧症があり,術中合併症はない.———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(00)10年ほど前よりアクリルソフト眼内レンズAcrySof?(Alcon?)の光学部に,小輝点が認められることが報告されるようになった1).この小輝点はglisteningとよばれており,術後しばらく経過してから観察される.Glisteningはアクリルレンズに認めることが多いが,他素材のレンズにおいても発生することが報告されている2,3).すべての症例にglisteningを認める訳ではなく,程度もさまざまであるため(図1,3,4),その発生にはさまざまな要因が関与していることが推察される.その要因の一つにmolding製法とよばれる鋳型製法があげられている.この製法で作製されたレンズ内には材質の不均一な部分があり,そこにmicrovoidとよばれる小間隙が形成される.このレンズが眼内に挿入されることにより,房水がmicrovoidに取り込まれてきらきらと輝いて見えるという説である1).また,温度がその発生に関与しているとする報告も多く,レンズを高温環境や温度変化が大きい環境に暴露すると発生しやすくなるとされている4,5).前の説で解釈すると,温度変化によってレンズ内の不均一性が増すことによりmicrovoidが形成されやすくなり,そのことがglisteningの発生につながると考えられる.したがって,アクリルレンズを温水に浸水させて折りたたみやすくすることは,glisteningを発生しやすくする可能性があるため行うべきではない.Glisteningは,古くはアメリカで発売されていたアクリパックとよばれるレンズケースとともに滅菌処理されることにより出現し,日本や欧州で発売された車輪型のケースでは出現しないとされていた6).しかし,車輪型のケースで包装されたAcrySof?においても高頻度にglisteningを生じるという報告もされている7).当初は,glisteningが視機能に影響を与えることはなく,美容的な問題とされてきた.しかし,glisteningが発生したことによってコントラスト感度が低下した症例1)や,後発白内障治療のためのYAGレーザーのターゲット光が集光しない症例8)などが報告されていることより,美容的な問題と簡単に処理してよいものかは疑問である.現在のアクリルソフト眼内レンズは,各メーカーの技術開発により従来のものに比べてglisteningが発生しにくくなっているが,完全になくなったわけではない.視機能に異常がないという報告があることに甘んじることなく,一生涯患者の水晶体として機能する人工臓器である以上は,glisteningのまったく発生しないフォルダブル眼内レンズが開発されることが望まれる.文献1)DhaliwalDK,MamalisN,OlsonRJetal:Visualsigni?-canceofglisteningsseenintheAcrySofintraocularlens.???????????????????????22:452-457,19962)MilauskasAT,KershnerRM,ZiembaSL:Siliconeintra-ocularlensimplantdiscolorationinhumans.????????????????109:913-915,19913)宮田章,内田信隆,中島潔ほか:シリコーン眼内レンズのグリスニング発生実験.日眼会誌106:112-114,20024)ShibaT,MitookaK,TsuneokaHetal:InvitroanalysisofAcrySofintraocularlensglistening.????????????????13:759-763,20035)宮田章,内田信隆,中島潔ほか:アクリルレンズに発生する輝点とその発生モデル.日眼会誌104:349-353,20006)OmarO,PirayeshA,MamalisNetal:InvitroanalysisofAcrySofintraocularlensintheAcryPakandwagonwheelpackaging.???????????????????????24:107-113,19987)三戸岡克哉:眼内レンズの変化グリスニング.眼科診療プラクティス52:66-67,19998)三戸岡克哉,柴琢也,常岡寛ほか:Glisteningにより視機能低下を認めた眼内レンズ挿入眼の1症例.眼科40:1501-1504,1998

磁気共鳴画像(MRI)を用いた網膜,脈絡膜腫瘍の診断

2007年1月31日 水曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS眼内の腫瘍性病変に対するMRI検査の問題点としては,硝子体もT1強調画像で低信号,T2強調画像で高信号を示すので,T1強調画像で低信号,T2強調画像で高信号を呈する一般的な病変はコントラストの面で判別しにくい.さらにMRIの解像度から,ある程度,腫瘍に厚み(3mm以上)がないと検出困難である.しかし,MRI検査が診断に非常に有用な情報をもたらす眼内腫瘍の症例もあるので,今回,MRI検査を用いた網・脈絡膜腫瘍の診断について概説する.I悪性腫瘍悪性の網・脈絡膜腫瘍で頻度が高いのは,脈絡膜悪性黒色腫,網膜芽細胞腫,転移性脈絡膜腫瘍,眼内悪性リはじめに一般に腫瘍性病変の確定診断は,生検あるいは摘出した腫瘍の病理組織学的検索によって行われることが原則である.最近の網膜硝子体手術の発達によって眼内に存在する網膜,脈絡膜腫瘍に対しても生検や摘出術が行われるようになってきたが,ある程度の視機能低下をひき起こすことは避けられない.また,悪性腫瘍を疑って眼球摘出を行い,術後の病理組織学的検索で良性であったという場合には患者のqualityoflife(QOL)を著しく損なってしまうこともある.そこで網膜,脈絡膜腫瘍に対してはさまざまな非侵襲的な方法を駆使して診断を目指すことが重要である.検眼鏡的所見,フルオレセイン蛍光眼底造影検査,インドシアニングリーン赤外蛍光眼底造影検査,超音波検査,シンチグラフィー,コンピュータ断層撮影(CT)検査,磁気共鳴画像(MRI)検査などが行われている.一般にMRI検査はT1およびT2強調画像での信号強度の特異性から種々の病変の診断に頻用されている(表1)1).多くの病変はT1強調画像で低~等信号,T2強調画像で等~高信号を示す.T1強調画像で高信号を示す病変は比較的少なく,脂肪を含む病変,高蛋白の?胞,悪性黒色腫,発症数日後から数カ月の出血などである.T2強調画像で低信号を示す病変も比較的まれで,悪性黒色腫,髄膜腫の一部,転移性腫瘍の一部,石灰化,出血後数日までの急性期血腫と数カ月以上経過した陳旧性血腫などである1,2).(59)??*HiroshiTakamura:山形大学医学部情報構造統御学講座視覚病態学分野〔別刷請求先〕高村浩:〒990-9585山形市飯田西2-2-2山形大学医学部情報構造統御学講座視覚病態学分野特集●最新の網膜硝子体検査あたらしい眼科24(1):59~63,2007磁気共鳴画像(MRI)を用いた網膜,脈絡膜腫瘍の診断???????????????????????????????????????????????????????????????高村浩*表1いろいろな病変の信号強度低信号高信号T1強調画像大部分の病変脂肪腫特に水を成分とする?胞奇形腫高い内容濃度,出血を伴う?胞黒色腫亜急性期の血腫T2強調画像黒色腫大部分の病変髄膜腫特に海綿状血管腫線維腫骨腫急性期,陳旧性の血腫(文献1の表1を改変)———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(60)ンパ腫である.1.脈絡膜悪性黒色腫脈絡膜悪性黒色腫は腫瘍に含まれるメラニン色素が磁性体であるためMRI検査でT1とT2が短縮し,T1強調画像で高信号,T2強調画像で低信号を呈するので,硝子体と鮮明なコントラストがみられるのが特徴である1,3).ガドリニウム(Gd-DTPA)造影では腫瘍は均一に造影される(図1).悪性黒色腫と同様のT1,T2強調画像のパターンを示すものに網膜芽細胞腫がある.発症年齢である程度区別できるが,比較的年齢の進んだ網膜芽細胞腫症例との鑑別が困難な場合がある4).また,腫瘍内のメラニンの多寡によってT1,T2強調画像の信号強度が変化することもある(図2).そこで,脈絡膜悪性黒色腫を診断するためのその他の検査所見として以下のようなものがあげられる.検眼鏡的に,黒色調で,ときに出血や網膜?離を伴う隆起性病変がみられること.フルオレセイン蛍光眼底造影検査でmultiplepinpointleaks,二重循環(doublecirculation),コロナ状の蛍光色素漏出などがみられること.インドシアニングリーン赤外蛍光眼底造影検査で腫瘍内血管が検出されること3,5).超音波検査でchoroidalexcavationやcollarbuttonshapeの所見がみられること6)などである.特に最近はN-isopro-pyl-p-[123I]-iodoamphetaminsinglephotonemissionCT(123I-IMPSPECT)の有用性が強調されている5,7)(図3).2.網膜芽細胞腫網膜芽細胞腫も脈絡膜悪性黒色腫と同様にMRI検査でT1強調画像で高信号,T2強調画像で低信号を示すが,T1強調画像で硝子体よりわずかに高信号を呈する8),T1強調画像で硝子体と等信号を呈する9),造影で腫瘍はほぼ均一に造影され著明な高信号を呈する8)とすa図1脈絡膜悪性黒色腫(72歳,男性)a:眼底所見.腫瘍は豊富なメラニン色素を伴って著明に隆起している.b:T1強調画像.腫瘍は著明な高信号を呈している.c:T2強調画像.腫瘍は著明な低信号を呈している.d:造影T1強調画像.腫瘍は均一に造影されている.bcd———————————————————————-Page3(61)あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??るものもある.網膜芽細胞腫では腫瘍内に石灰化がみられることがあるのでCT検査が有用である.その石灰化に対応してMRI検査では腫瘍内の信号強度が不均一にみられることがある(図4).3.転移性脈絡膜腫瘍転移性脈絡膜腫瘍のMRI所見は,T1およびT2強調画像とも外眼筋と等信号を呈するとか,T1強調画像で等~高信号,T2強調画像で低~等信号を呈し,中等度の造影効果を示すなどさまざまな所見を呈するとされる2,8).腫瘍は比較的扁平なものが多いと思われ,MRI検査での検出は困難である.肺や乳房などの他臓器の悪性腫瘍の既往があり,眼底で黄白色調の腫瘤をみた場合は,転移性腫瘍の可能性を考えるべきである.4.眼内悪性リンパ腫眼内悪性リンパ腫は,硝子体混濁を主とする病型と網膜滲出斑を主とする病型に大別される.網膜の病巣が隆起してみられることもあるが,MRI検査で検出できる図2脈絡膜悪性黒色腫(78歳,女性)a:眼底所見.b:眼球摘出時の腫瘍の肉眼所見.腫瘍はメラニン色素が乏しく,白色調である.c:T1強調画像.腫瘍は淡い高信号を呈している.d:T2強調画像.腫瘍は低信号を呈している.e:造影T1強調画像.腫瘍は不均一に造影されている.cdeab図3脈絡膜悪性黒色腫の123I-IMPSPECT所見腫瘍に一致して集積がみられる(矢印).(文献5より)———————————————————————-Page4??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(62)ほどの厚みはないので,眼内悪性リンパ腫をMRI検査で診断することは困難である.ステロイド治療が無効であるぶどう膜炎(仮面症候群)の臨床経過や網膜や硝子体の生検による細胞診,免疫組織化学的検討,遺伝子再構成,フローサイトメトリーなどの検索から確定診断に至る.硝子体液中のinterleukin-10/interleukin-6の比が1以上であることも悪性リンパ腫と炎症を鑑別するうえで有用とされている.II良性腫瘍良性の網膜,脈絡膜腫瘍には,脈絡膜血管腫,網膜血図4網膜芽細胞腫(3歳,女児.両眼性)a:T1強調画像.腫瘍は硝子体よりわずかに高信号である.b:T2強調画像.腫瘍は低信号で内部が一部不均一である.c:造影T1強調画像.腫瘍は不均一に造影されている(国立がんセンター中央病院眼科の鈴木茂伸先生のご厚意による).d:CT所見(0歳,男児.両眼性).腫瘍内の石灰化がみられる.abcd図5脈絡膜骨腫(41歳,女性)a:CT所見.右眼球の後壁に骨と同じ吸収値をもつ扁平な病変がみられる.b:T1強調画像.c:T2強調画像.MRI検査では病変は検出できない.abc———————————————————————-Page5(63)あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??管腫,脈絡膜母斑,網膜色素上皮肥大,視神経乳頭上黒色細胞腫,脈絡膜骨腫などがあるが,一般に扁平で,サイズも小さいのでMRI検査で検出されることは少ない.そのなかで,脈絡膜血管腫はT1強調画像で硝子体よりわずかに高信号を呈するが,メラニンに富んだ悪性黒色腫に比べて信号強度は低いとされる.T2強調画像では硝子体より若干低い程度で,造影すると均一に高信号を呈するとされている2,8).また,脈絡膜骨腫の診断にはCT検査が有用である2)(図5).おわりに網膜,脈絡膜腫瘍のなかでも著明な隆起を示す悪性黒色腫や網膜芽細胞腫に対してはMRI検査が診断に大きな威力を発揮する.しかし,ときに典型的なMRI所見を呈さない場合もあるので,MRI検査以外の種々の検査を組み合わせて総合的に診断することが必要である.稿を終えるにあたりまして,貴重な網膜芽細胞腫症例のMRI検査画像をご提供いただきました国立がんセンター中央病院眼科の鈴木茂伸先生に深く感謝いたします.文献1)百島祐貴:MRI.眼科診療プラクティス90,眼窩疾患の診療(丸尾敏夫,坂上達志,本田孔士ほか編),p84-87,文光堂,20032)木村肇二郎,志賀逸夫,中村裕ほか:MRI診断のポイント.症例編.眼科MRIガイドブック(慶應義塾大学病院眼科眼窩外来編),p29-57,金原出版,19983)高村浩,佐藤武雄,高橋茂樹:脈絡膜悪性黒色腫の蛍光眼底造影所見と病理組織学的所見の比較検討.眼臨93:50-57,19994)笠木靖夫,山口克宏,高橋茂樹:11歳の男児に発症した片眼性網膜芽細胞腫の1例.眼臨93:78-81,19995)後藤浩:眼科領域の悪性黒色腫と悪性リンパ腫のマネージメント:眼と全身の連携.あたらしい眼科19:593-602,20026)佐野秀一:眼内腫瘍.眼科診療プラクティス50,眼科で診る腫瘍性疾患(柏井聡,丸尾敏夫,本田孔士ほか編),p34-37,文光堂,19997)GotoH:Clinicale?cacyof123I-IMPSPECTforthediag-nosisofmalignantuvealmelanoma.????????????????9:74-78,20048)佐野秀一:ぶどう膜腫瘍.眼内腫瘍(箕田健生編),p29-130,金原出版,19999)志賀逸夫:MRI.眼科診療プラクティス24,眼窩疾患と画像診断(小口芳久,丸尾敏夫,本田孔士ほか編),p78-87,文光堂,1996

視神経乳頭観察法の進歩(緑内障を中心に)

2007年1月31日 水曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSI視神経乳頭観察法視神経乳頭の観察方法としては,倒像鏡,直像鏡および細隙灯顕微鏡を用いた方法がある.しかし,通常の倒像鏡による眼底検査では像が小さく視神経乳頭の詳細な観察には不向きである.いずれの場合も散瞳して観察を行うことが望ましいが,さまざまな事情で散瞳できない場合も多い.非散瞳下では直像鏡が有用である.直像鏡では視神経乳頭の拡大率が大きく詳細な観察が可能である.直像鏡は単眼での平面的な観察ではあるが,視線の方向を変えながら,血管の屈曲点を注意深く観察することによりかなり正確に乳頭辺縁部(リム)を同定できる.90DやSuper?eldなどの非接触型前置レンズやGoldmann三面鏡,隅角鏡でも非散瞳下のリムをある程度立体的に把握できる.さらに,ステレオバリエータのついているタイプでは,これを用いることにより像は平坦化するが小瞳孔でも立体視が得やすい.立体視が得られない場合でも,スリット光を動かしながら観察することによりある程度陥凹を把握することが可能である.散瞳下では,Goldmann三面鏡,隅角鏡,非接触型前置レンズなどを症例および状況に応じて使用し,立体的に視神経乳頭の観察を行う.1.細隙灯顕微鏡を用いた眼底検査における使用レンズの特性細隙灯顕微鏡を用いた眼底検査を行う際に使用するレはじめに視神経乳頭観察は眼科医の診察の基本であり,基本的な観察方法に大きな変化はない.視神経乳頭を観察するポイントとして,視神経に異型性がないか色調がどうであるかなどの平面的な情報だけでなく,視神経乳頭が隆起しているかあるいは陥凹がないかといった立体的な評価をする必要がある.特に緑内障の診断と経過観察には,視神経乳頭の緑内障性変化を的確に評価することが最も重要である.多治見スタディの結果1),日本人には正常眼圧緑内障が多いことが明らかになり,緑内障スクリーニングにおける視神経乳頭観察の重要性も増してきている.しかし,視神経乳頭観察は主観的で経験に左右される.定量性がないために視神経乳頭による病期分類や経過の比較が困難である.そのため,視神経乳頭評価の数字化や,ステージングを行うことが試みられてきた.今回,視神経乳頭観察と,その評価法の進歩に関して緑内障を中心に述べたい.近年,視神経乳頭を客観的に定量的に評価するためにさまざまな検査機器が開発されている.これらの代表的な機器として,HeidelbergRetinaTomographII(HRTII;HeidelbergInstruments,Dossenheim,Germany)およびOpticalCoherenceTomography3000(OCT3;CarlZeissMeditec,Dublin,CA)の視神経乳頭解析について簡単に解説したい.(51)??*ShinjiOhkubo&KazuhisaSugiyama:金沢大学大学院医学系研究科視覚科学〔別刷請求先〕大久保真司:〒920-8641金沢市宝町13-1金沢大学大学院医学系研究科視覚科学特集●最新の網膜硝子体検査あたらしい眼科24(1):51~57,2007視神経乳頭観察法の進歩(緑内障を中心に)????????????????????????????????????????????????大久保真司*杉山和久*———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(52)ンズの特性を理解しておく必要がある.眼底観察像の大きさ(横倍率)は眼の全屈折力(60D)と前置レンズの屈折力の比でほぼ決定される.たとえば,90Dレンズを用いた倒像鏡検査では眼底像は約2/3倍になる.眼底の凹凸など観察方向の倍率(縦倍率)は横倍率の2乗に比例するので,眼球に接触させずに手軽に使用できる90DやSuper?eldでは,視神経乳頭の陥凹は実際の約1/2となり初期の微妙な陥凹を観察評価するには適さない.それに対してGoldmann三面鏡や隅角鏡は縦倍率が1倍で陥凹の詳細な観察に適する.ここで忘れてならないのは,細隙灯顕微鏡の倍率を上げてもレンズの解像度を代償することはできないことである.すなわち低倍率の前置レンズを使用した場合,いくら細隙灯顕微鏡の倍率を上げても高い解像度の像を得ることはできない.2.緑内障診療における視神経乳頭観察のポイント視神経乳頭陥凹を評価する際,平面的に乳頭の色調のみから陥凹の大きさを判断すると早期の緑内障ではその評価を誤る可能性があり,必ず立体的に評価する.乳頭陥凹は一般に視神経乳頭が大きいほど大きいので,大きい乳頭では過大評価されやすい.したがって,乳頭陥凹の大きさよりもむしろリムの厚みに注目し,視神経乳頭を観察する.実際の緑内障診療における視神経乳頭の観察においては乳頭陥凹の大きさ,リムの厚みだけではなく乳頭陥凹の左右差(水平cup/disc比の左右差が0.2より大きいことは正常人の3%以下であるとされている),notch-ing(乳頭辺縁の局所的な菲薄化),乳頭上網膜血管の鼻側偏位,視神経乳頭の線状出血および乳頭周囲の網脈絡膜萎縮(peripapillaryatrophy:PPA)などに注意する.また視神経乳頭のみならず網膜神経線維層欠損(nerve?berlayerdefect:NFLD)がないか注意して観察する.小さい視神経乳頭など緑内障性変化を評価しにくい場合には,NFLDなど網膜神経線維の変化の観察が有用である(図1).II眼底写真通常の平面的な眼底写真でも注意深く血管の屈曲点を追うことで乳頭陥凹を評価できる.しかし,血管のない部位の評価が困難であること,乳頭鼻側の陥凹拡大を見落としやすいことなどの欠点がある.ステレオ眼底写真は,視神経乳頭を立体的に観察することができ診断および経過観察に役立つ.撮影角度の変わらない同時撮影のステレオ眼底写真が理想的であるが,通常のカメラでも左右に少し移動して片眼を2枚撮影することによってステレオ眼底写真を撮影することができる(図2,3a).し図1右緑内障眼の眼底写真視神経乳頭は小さく,乳頭陥凹の判定は困難である.網膜神経線維層欠損(黒矢印で囲まれた部位)とその境界に視神経乳頭出血(白矢印)がみられる.図2右緑内障眼のステレオ眼底写真(平行移動法)ステレオ眼底写真を用いることで視神経乳頭陥凹を立体的に観察することができる.6時半に視神経乳頭出血(白矢印)を認める.———————————————————————-Page3(53)あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??かし,同時撮影でない場合は常に撮影角度が一定とはいえないので,正確に視神経乳頭の経時的な立体的変化を評価することは困難である.また,最近ではコンピュータのソフトと特殊なメガネを使用してステレオ眼底写真を観察するビューワーシステムが開発されており,大量に眼底写真の読影が必要な際に重宝する.III視神経乳頭変化の定量化緑内障診療において①診断(健常か緑内障かの鑑別),②おおまかな病期分類,③経過観察(進行したかどうかを判断する)ために,視神経乳頭変化を定量化する必要がある.1.Cup-to-discratio(C/D比)1960年代にArmaly2)が報告したC/D比は,視神経乳頭のダメージを定量的に評価した最初の指標であり,非常に簡単で使いやすいために普及し,現在も広く用いられている.一般的にC/D比が大きいほど,緑内障が疑われるが,実際にはC/D比が大きくとも緑内障でない人もいれば,C/D比が大きくなくても緑内障の人もいる.正常人の平均C/D比は緑内障患者の平均C/D比より小さいが,C/D比は両群ともばらつきが大きくて,かなりの人がオーバーラップする3).よって垂直および水平C/D比のみでは,特に早期の緑内障診断は困難である.C/D比での緑内障診断を困難にしている原因はおもに①C/D比は中心を測定するので,乳頭陥凹の同心円性の拡大は正確に評価できるが,緑内障の場合は偏心して乳頭陥凹の変化を起こすことも多い,②notchingなどの局所的な変化を反映しない,③健常人において視神経乳頭線維の数が同じとすれば,リムの面積は同じになるが,視神経乳頭が小さければC/D比は小さくなり,視神経乳頭が大きくなればC/D比は大きくなる,以上の3点が考えられている.2.TheDiskDamageLikelihoodScale(DDLS)近年C/D比での問題点を解決すべく,TheDiskDamageLikelihoodScale(DDLS)というシステムが報告されている4).このシステムは少しずつ改変されており,9段階に分類されたバージョンに関する論文が最も多いが,10段階に分類される最新バージョン5)が最も単純でわかりやすい.このシステムは,いずれの部位であっても最も薄い幅のリム/乳頭比に基づいて決められ,さらにリムが消失している場合はリムの消失している角度で評価される.具体的には,視神経乳頭径が1.5mmから2.00mmの平均的な大きさの場合,DDLSのステージ1は最も狭いリム/乳頭比が0.4以上,同様にステージ2は最も狭いリム/乳頭比が0.3から0.39,ステージ3では最も狭いリム/乳頭比が0.2から0.29,ステージ4では最も狭いリム/乳頭比が0.1から0.19,ステージ5では最も狭いリム/乳頭比が0.1以下(0ではない)である.リム/乳頭比が0すなわち,いずれかの場所でリムが消失している場合はステージ6から10に分類される.リムが消失している角度が45?未満の場合はステージ6,46?から90?の場合はステージ7,91?から180?の場合はステージ8,181?から270?の場合はステージ9,270?以上の場合はステージ10に分類される.この際耳側のリムの評価には注意を要する.すなわち,傾斜しているリムを,リムの消失と誤らないようにしなければならない.さらに視神経乳頭の大きさを考慮して,小さい視神経乳頭(乳頭径<1.5mm)の場合ステージを1段階上げ,大きい視神経乳頭(乳頭径>2.0mm)の場合ステージを1段階下げる.ちなみに視神経乳頭径は,60Dから90Dのレンズを用いて測定し,レンズごとに決まった値の補正値を使用して求める.DDLSの欠点としては,リムが狭細化している場所が考慮されていない点および連続していないリムの狭細化■用語解説■C/D比(cup-to-discratio):通常視神経乳頭の中央は凹んでおり,乳頭陥凹とよばれる.乳頭陥凹の大きさをある経線上の端から端で計測(陥凹径)して,その同一線上での乳頭径に対する比である.Armalyの定義では,C/D比といえば横径を計測する水平C/D比であるが,初期の緑内障変化は陥凹の垂直方向の変化から起こることが多く,緑内障性変化を評価する際には縦径を計測する垂直C/D比が重要である.———————————————————————-Page4??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(54)があった場合,狭い部位に関しては考慮されない点があげられる.また先天奇形を伴った視神経乳頭など分類が困難な視神経乳頭を,評価することは困難である.このシステムは,C/D比に比べてやや複雑であるが,基本的な考え方としては,緑内障を評価する際には,乳頭陥凹の大きさよりもむしろリムの厚みに注目し,視神経乳頭を観察するという原則や,緑内障性変化は小さい乳頭では過少評価され,大きい乳頭では過大評価されやすい点を考慮している点はわれわれが通常診療において常に気をつけている点と一致している.しかし,C/D比にしろDDLSにしろいずれの評価法においても,評価は主観的で観察者に依存する.その点を克服するために,画像解析装置が用いられてきている.IV最近の画像解析装置(HRTおよびOCT)視神経乳頭を定量的に評価して客観的に緑内障を診断し,経過観察を行うための手段として,近年Heidel-bergRetinaTomograph(HRT;HeidelbergEngineer-ing,Dossenheim,Germany)と光干渉断層計(OpticalCoherenceTomography:OCT;CarlZeissMeditec,Dublin,CA)などが用いられてきている(症例呈示:図3a~d).1.HeidelbergRetinaTomographII(HRTII)HRTは波長670nmのダイオードレーザーを使用した共焦点レーザー走査型顕微鏡で,優れた測定再現性および乳頭パラメータの信頼性をもつ画像解析装置である.近年HRTの普及型として解析部位を視神経乳頭に絞り,撮影画角のサイズを15?×15?に固定したHRTIIが導入された.HRTIIでは検査にあたって散瞳する必要はなく,内部固視灯を被検者が固視するとちょうど画面の中央に視神経乳頭が位置するように設定されている.検査眼のフォーカスを合わせて一度操作ボタンを押すだけでHRTIIは自動的にスキャン幅を決定し,その後3回連続して画像を取り込み,面倒な設定なしに短時間で平均画像を得ることができる.取り込んだ画像は16から64枚の連続的で等距離(1/16mm)の二次元のシリーズ画像で構成され,各二次元画像は384×384ピクセルの解像度をもつ.コンピュータがその画像を立体的に再構築し,三次元解析が可能となる.検者が測定画面上で視神経乳頭縁(コントアライン)を決定すると,自動的にコントアラインに沿った網膜表面の高さが得られる(図?図3左緑内障眼のステレオ眼底写真(a),HRTII解析結果(b),OCT3のOpticNerveHead解析画面(c)およびHumphrey視野(d)a:乳頭陥凹は拡大しており,5時から6時のリムは完全に消失している(白両矢印).明瞭ではないが,2時と5時に網膜神経線維層欠損(NFLD)(黒矢印で囲まれた部位)がみられる.b:ベースライン検査では,トポグラフィ画像(上段左),反射画像(上段右),Y軸高さプロファイル(上段中央),X軸高さプロファイル(中段左),コントアラインの高さ変化(中段右),立体計測パラメータ(下段左)およびMoor?elds回帰解析結果(下段右)が表示される.トポグラフィ画像は,各測定点における眼底表面の高さを表している.明部は凹部,暗部は凸部を表している.さらに乳頭には赤/青/緑のオーバーレイを表示.赤の領域は視神経乳頭の陥凹領域で,乳頭の残りのリム領域は,傾斜部(青)と平らな部分(緑)に分けられる.反射画像は,各測定点の反射率を表示.明るい部分はより多くの反射光がカメラに戻ってきた場所を示す.さらに視神経乳頭を6分割して各セクターのMoor?elds回帰解析判定結果を重ねて表示.Moor?elds回帰解析判定が“withinnormallimits”,“borderline”,“outsidenormallimits”であれば,それぞれ緑色のチェックマーク,黄色の感嘆符,赤い×印が表示される.コントアラインの高さは耳側,上側,鼻側,下側の順に展開した曲線として表示(中段右).この症例ではMoor?elds回帰解析は“Outsidenormallimits”(下段右).HRTIIで測定した視神経乳頭サイズ(DiskArea)2.234mm2,垂直C/D比(LinearCup/DiskRatio)は0.792(下段左).c:画面左にスキャン画像(この図では垂直方向のスキャン),その下に眼底画像が表示される.スキャン画像中のライトブルーの円内のライトブルーの2本の直線の交点(白矢印)が網膜色素上皮の終結する参照点.この2点の参照点間を結んだ直線が乳頭径と定義される.この直線に対して150?m前方に平行する赤点線(赤矢印)より高い位置がリム(赤の凝縮された部位),低い位置が陥凹とされる.画面右側の表示は視神経乳頭解析画像で,6本の放射状スキャン画像から構築される視神経乳頭の合成画像.赤線で囲まれた円の内部がDiskArea,緑線で囲まれた円の内部がCupArea.OCT3で測定した視神経乳頭サイズ(DiskArea)2.394mm2,垂直C/D比(Cup/DiskVert.Ratio)は0.885(下段右).d:Humphrey視野では,下方のリム消失に対応した上方の視野変化および2時のNFLDに対応すると思われる下方の視野変化(グレースケールでは,はっきりしないが,パターン偏差では明瞭となっている)がみられる.HfaFilesVer5(BeelineO?ceCo.Japan)によるプリントアウト.———————————————————————-Page5(55)あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??3b中段右).耳側350?~356?のセクターにみられる乳頭黄斑束部のコントアラインの平均の高さより50?m低い位置は,神経線維層の底の部分とほぼ同じ位置になり,その線がリファレンスプレーンの位置となる.リファレンスプレーンより上がリム,リファレンスプレーンより下が陥凹と定義される.HRTIIでは視神経乳頭に関する多くのパラメータが表示されるとともに,視神経乳頭の緑内障性変化の有無を判定する自動診断プログラムが付属されている.視神経乳頭を6セクターに分け,Wollsteinら6)が報告したMoor?eldsの回帰解析に基づき全体と各セクターでのリム面積と乳頭領域の面積比を評価することにより,“withinnormallimits”,“borderline”,“outsidenormallimits”の3段階で判定する(図3bの下段右).abcd図3左緑内障眼のステレオ眼底写真(a),HRTII解析結果(b),OCT3のOpticNerveHead解析画面(c)およびHumphrey視野(d)(図説明はp.54参照)———————————————————————-Page6??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(56)2.OpticalCoherenceTomography3000(OCT3)近年OCTも,緑内障診断に用いられている.OCTは従来の超音波を用いた画像診断と類似の原理に基づく測定機器であり,超音波の代わりにダイオード光源による波長820nmの近赤外線低干渉光を用いるため,非侵襲的に高い解像度の画像が得られ,OCT3では縦断面,横断面ともに10?mの解像度が得られる.OCT3では,検査可能な被検者の最小瞳孔径が3.2mmとなったので,無散瞳でも検査可能になった.OCT3には,緑内障診断補助プログラムとして,RNFLThicknessAverage(網膜神経線維層厚解析),RNFLThicknessMap(網膜神経線維層厚マップ),OpticNerveHeadAnalysis(視神経乳頭解析)がある.そのなかで乳頭解析プログラムとしてはOpticNerveHeadAnalysis(視神経乳頭解析)があり,視神経乳頭を4mmの放射状ラインで6本スキャンして得られる結果から,水平・垂直C/D比,リム面積・体積,カップ径,陥凹の深さなどが自動的に計測解析される(図3c).この解析では反射輝度の特定の閾値を検索することによって神経線維層前面と網膜色素上皮を検出する.解剖学的に網膜色素上皮が終結する視神経乳頭の両端が解剖学的マーカー(参照点)として決定され,この2点が視神経乳頭の全解析の基本となる.視神経乳頭両端の2点の参照点間を直線で結ぶことにより乳頭径が求められる.この直線に対して150?m前方に平行する赤点線より高い位置がリム,低い位置が陥凹とされる.これらは客観的に自動的に計算されるが,手動で参照点を調整することができる.OCT3では,解像度は低いが6本のラインスキャンを1.92秒で一度に捉えることができるfastscansというシステムが導入された.通常の高解像度のスキャンでは1本のラインのスキャンに1.28秒かかり,これを少なくとも6本測定しなければならない.Kamppeterら7)は,正常人を通常のモード(OpticalDisc),fastscansモード(FastOpticalDisc)の2つのモードで測定し,それぞれにおいて自動で参照点を決めて計算した場合と,参照点を手動で修正した場合で再現性について検討し,通常のモードで修正しなかった場合はアーチファクトのため良いデータが得られず,fastscansモードで参照点を手動で修正した場合が最も再現性が高かったと報告している.その理由として,1本ずつ捉えるパターンでは全スキャンが終了するまで時間がかかり,その間患者の固視移動,スキャン部位の移動などで解析結果にばらつきが生じるためと思われる.3.HRTIIとOCT3の測定値の比較(図3)近年それぞれの測定値の関係について検討されてきている.HRTIIとOCT3で測定した視神経乳頭面積は高い相関があるが,HRTIIで測定した平均の視神経乳頭面積は,OCTで測定した乳頭面積よりいずれの視神経乳頭サイズでも常に小さい傾向にあるようだ8,9).Arthurら10)は,水平C/D比と垂直C/D比について,同時撮影ステレオ眼底写真,HRTII,OCT3で比較し,OCT3が水平C/D比と垂直C/D比ともに最も大きく,水平C/D比が最も小さかったのは同時撮影ステレオ眼底写真で,垂直C/D比が最も小さかったのはHRTIIであったと報告している.水平C/D比と垂直C/D比ともにOCTは陥凹の最長径に対する視神経乳頭最長径の比率を計算しているのに対して,HRTIIでは視神経乳頭の中心でC/D比を測定している.この点が,OCTのC/D比が,HRTIIのC/D比より大きい理由の一つと考察されている.各機器で測定された各パラメータはそれぞれよく相関しているが,それぞれの機器のデータの互換性は今のところないので,同一機種間での経過観察には使用できるが,各パラメータを比較する際には注意を要する.おわりにいかに画像解析装置が進歩しようとも,視神経乳頭を立体的に観察することは緑内障診療の基本であり,視神経乳頭を常に立体的に観察する習慣をつける必要がある.C/D比なり,DDLSなり自分なりの視神経乳頭変化の定量化システムをもつことは,緑内障の診断,病期分類および経過観察の際に重宝する.最新の画像解析装置は再現性も信頼性も高く,客観的に定量化することができ,診断および経過観察の心強い補助診断機器と思われる.———————————————————————-Page7(57)あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??6)WollsteinG,Garway-HeathDF,HitchingsRA:Identi-?cationofearlyglaucomacaseswiththescanninglaserophthalmoscope.?????????????105:1557-1563,19987)KamppeterBA,SchubertKV,BuddeWMetal:Opticalcoherencetomographyoftheopticnervehead:interindi-vidualreproducibility.??????????15:248-254,20068)Ho?mannEM,BowdC,MedeirosFAetal:Agreementamong3opticalimagingmethodsfortheassessmentofopticdisctopography.?????????????112:2149-2156,20059)SchumanJS,WollsteinG,FarraTetal:Comparisonofopticnerveheadmeasurementsobtainedbyopticalcoher-encetomographyandconfocalscanninglaserophthalmo-scopy.???????????????135:504-512,200310)ArthurSN,AldridgeAJ,DeLeon-OrtegaJetal:Agree-mentinassessingcup-to-discratiomeasurementamongstereoscopicopticnerveheadphotographs,HRTII,andStratusOCT.??????????15:183-189,2006文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryopen-angleglaucomainJapanese.?????????????111:1641-1648,20042)ArmalyMF:Theopticcupinthenormaleye.I.Cupwidth,depth,vesseldisplacement,oculartensionandout-?owfacility.???????????????68:401-407,19693)CaprioliJ,MillerJM:Videographicmeasurementsofopticnervetopographyinglaucoma.?????????????????????????29:1294-1298,19884)BayerA,HarasymowyczP,HendererJDetal:Validityofanewdiskgradingscaleforestimatingglaucomatousdamage:correlationwithvisual?elddamage.????????????????133:758-763,20025)SpaethGL,LopesJF,JunkAKetal:Systemforstagingtheamountofopticnervedamageinglaucoma:acriteriareviewandnewmaterial.???????????????51:293-315,2006コンタクトレンズフィッティングテクニック【著】小玉裕司(小玉眼科医院院長)CLの処方に必要な角膜・涙液・屈折矯正・その他の知識/CLの選択/ハードCLの処方/フルオレセインパターンの判定方法と注意点/レンズデザインと角膜形状/ベベル・エッジのチェック/SCLの処方・種類・選択/CLと定期検査・眼障害/HCLの修正/修正によるHCLの苦情処理-くもり・充血・異物感・視力/SCLの苦情処理-くもり・かすみ・視力低下・異物感・眼痛・流涙・充血/乱視に対するCLの処方/ドライアイ/ラウンドコルネア/カラーCL/治療用SCL/無水晶体眼・乳幼児と小児に対するCLの処方/光彩付きCL・義眼CLの処方/ハード・ソフトタイプバイフォーカルCLの処方/HCLのカスタムメイドの処方/CLと点眼薬/CLとケア用品/●ワンポイントB5判総152頁カラー写真多数収載定価8,400円(本体8,000円+税400円)メディカル葵出版〒113─0033東京都文京区本郷2─39─5片岡ビル5F振替00100─5─69315電話(03)3811─0544■内容目次■この本があれば,明日からのコンタクトレンズ診療は安心して出来る!株式会社

超音波カラーDoppler法を用いた網脈絡膜疾患血流動態解析

2007年1月31日 水曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSはじめに超音波カラーDoppler(CDI)による眼血流測定は,通常の眼底検査で透見できない眼窩内の球後血流を測定する方法である.その血流測定は,眼動脈(OA),網膜中心動脈(CRA),短後毛様動脈(PCA)について血流速度を測るものであり,血流量そのものは測れない.収縮期と拡張期の最高速度から血管抵抗指数(後述)を求め,眼循環を評価するものである.測定にあたっては,球後の血管走行は複雑で個人差が大きく,検者の熟練を要する.検者は測定値の変動係数が10%以下になることが要求される.I測定の実際1,2)被検者の血圧,脈拍を測定後,測定眼の眼瞼上にゼリーを塗布し,眼球を圧迫せずにプローブを当てて測定する.Bモードでプローブは眼球に対して水平に当て,上下スキャンし眼球形態を把握したうえで,視神経と眼球を断層画像として検出させる.カラーモード画面で目的部分血管をスキャンし,プローブに向かってくる血流は赤色(動脈系)で,その逆は青色で表される(図1,2).網膜中心動脈では眼球後方の視神経内で,短後毛様動脈では視神経に並行して眼球内に入る直前で観察される.眼動脈は眼球後方深部から前方にて観察される.網膜中心動脈,短後毛様動脈の正常人における最高流速値は10~15cm/sec,最低流速値は3~5cm/secと報告されている.また,正常人の眼動脈の最高流速値は30~(47)??*SatoshiKato:東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学〔別刷請求先〕加藤聡:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学特集●最新の網膜硝子体検査あたらしい眼科24(1):47~50,2007超音波カラーDoppler法を用いた網脈絡膜疾患血流動態解析????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????加藤聡*図1網膜中心動脈(CRA)の測定結果図2短後毛様動脈(PCA)の測定結果———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(48)45cm/sec,最低流速値は10cm/secと報告されている.末?血管の抵抗を反映し,その結果,末?の動脈循環の指標として末?血管抵抗指数としてResistivityIndex(RI)とPulsatilityIndex(PI)の2つが考案され,眼循環の評価に利用されている.RI=(最高流速値-最低流速値)/最高流速値PI=(最高流速値-最低流速値)/時間平均流速値末?血管抵抗に影響する因子として,血管の長さ,血管径,血管圧力に対する伸展性,血管の狭窄,血液の粘性などがある.II眼科疾患とCDI1~3)本題では網脈絡膜疾患とCDIではあるが,CDI測定は特に緑内障の視神経障害の機序の一つとして考えられている循環障害を示す指標として活用されてきた.すなわち,原発開放隅角緑内障や正常眼圧緑内障では各血管の血流速度,特に最低流速値が低下し,RIが高値であると報告され,緑内障点眼薬の選択にあたってもCDI測定にて眼血流が改善するような薬剤が考慮されるようになってきている.III網脈絡膜疾患とCDI眼底の網膜循環を評価するには,眼底が透見できる場合は蛍光眼底撮影や他の網膜の血流が測れる機器による計測が行われている.しかし,CDIによる測定によって球後血流,特に脈絡膜循環についての情報を得ることができる.現在までに糖尿病網膜症,加齢黄斑変性,網膜中心静脈閉塞症においてCDIを用いた検討が行われている.そのほかに糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固術や硝子体手術の影響,透析中の糖尿病網膜症患者の循環動態についての報告がある.以下に今までの報告とともに筆者らの検討した結果を併わせて示す.IV糖尿病網膜症4~6)以前からCDIを用いた研究にて糖尿病患者では,眼動脈と網膜中心動脈では最高血流速値と最低血流速値がともに低く,糖尿病による血液性状の変化や凝固能の亢進を裏付ける報告がされていた.さらに筆者らは糖尿病患者73例において,CDIを用い,短後毛様動脈,網膜中心動脈,眼動脈およびおのおのの静脈にて収縮期最高血流速度(PSV),拡張期最低血流速度(EDV),ResistivityIndex(RI:収縮期最高流速値-拡張末期最低流速値/収縮期最高流速値)を指標として座位にて測定した.糖尿病症例73例を,糖尿病網膜症を認めない38例と糖尿病網膜症を認める35例の2群に分けて検討した.73例中36例は経時的に観察を行った.経過観察期間中に網膜症が進行した群としなかった群を比較した.その結果,断面的検討では,単純糖尿病網膜症群では非糖尿病群に比較して短後毛様動脈における拡張期最低血流速度は減少しており(p=0.01),RIは増加していた(p=0.0003).また,同様に網膜中心動脈のRIは単純糖尿病網膜症群では非糖尿病群に比し,有意に増加していた(p=0.006).眼動脈のRIは単純糖尿病網膜症群では非糖尿病網膜症群および非糖尿病群に比較して有意に高値であった(p=0.007,p=0.004).短後毛様動脈のRIは,非糖尿病網膜症群では非糖尿病群に比較して有意に高値であった(p=0.01)が,網膜中心動脈のRIは非糖尿病群と有意差は認められなかった(p=0.32).網膜中心動脈におけるEDVの減少は非糖尿病群に比較して,非糖尿病網膜症群でも認められた(p=0.007).また,網膜中心静脈の平均血流速度は非糖尿病網膜症群に比較して,単純糖尿病網膜症群で有意に増加していた(p=0.0007).同様に単純糖尿病網膜症群の網膜中心静脈のRIは,非糖尿病網膜症群および非糖尿病群に比し,有意に増加していた(p=0.0004,p=0.0002).つぎに,経時的に糖尿病患者にて計測していった検討では,経過観察期間中に糖尿病網膜症が進行した症例では,網膜中心静脈のすべての指標(PSV,EDV,RI)が網膜症が進行する前の値に比し有意に増加していた(p=0.004,p=0.04,p=0.02).その一方,経過観察期間中に糖尿病網膜症が進行しなかった群ではすべての指標で有意な変化はみられなかった.以上のことより今回の検討では,短後毛様動脈の循環が非糖尿病網膜症群および単純糖尿病網膜症群で変化していたことは脈絡膜循環の異常を示唆させるものであると考えられた.非糖尿病網膜症眼で短後毛様動脈のRI———————————————————————-Page3(49)あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??が増加していたことは,糖尿病網膜症発症以前に脈絡膜血管壁が硬化していることが推測された.また,経時的検討からは,糖尿病網膜症の進行に最も影響を受けるのは網膜中心静脈であることが示唆された.V加齢黄斑変性7,8)筆者らは44例の加齢黄斑変性患者および32例の正常患者においてCDIを用い,短後毛様動脈,網膜中心動脈,眼動脈にてPSV,EDV,PI,RIを指標として座位にて測定した.加齢黄斑変性患者を初期加齢黄斑変性11例,滲出型後期加齢黄斑変性25例,線維型後期加齢黄斑変性8例に分類し,比較した.また,片眼性滲出型加齢黄斑変性21例を対象として健眼の血流を検討した.その結果,滲出型加齢黄斑変性例での短後毛様動脈のPIは正常例に比較して有意に増加していた(p=0.0075)ものの,初期加齢黄斑変性および線維型後期加齢黄斑変性では正常眼に比較して有意差はみられなかった.片眼性滲出型加齢黄斑変性眼では,正常例に比し有意にRIは高値であり(p=0.0157),その健眼では正常例に比し,EDVが有意に減少していた(p=0.0164).両眼とも正常例に比し,PIが有意に高値であった(p=0.0191,p=0.0327).しかし,片眼性滲出型加齢黄斑変性眼とその他眼ではどの指標でも有意差はみられなかった.以上のことより,今回の検討において滲出型加齢黄斑変性での短後毛様動脈のPIが有意に増加していたことは,この段階の加齢黄斑変性では脈絡膜循環が低下していることが考えられた.片眼性の滲出型加齢黄斑変性眼では,患眼および健眼ともに差がなく,短後毛様動脈のRIおよびPIが正常例に比し有意に上昇していたことは,健眼であろうともすでに脈絡膜循環が低下していることを示唆させるものであった.今回の結果から,循環動態の変化は初期加齢黄斑変性の発症に関与する因子ではないが,滲出型加齢黄斑変性へ進展する際に何らかの役割をしていることが示唆された.VI網膜中心静脈閉塞症9)網膜中心静脈閉塞症では,網膜中心動脈と網膜中心静脈の血流速度は他眼や正常の対照に比べて有意に低下していることが報告されている.そのなかでも虚血型の網膜中心静脈閉塞症では,網膜中心静脈の血流速度は低下しており,発症から3カ月以内の虹彩新生血管の発生と網膜中心静脈の血流速度の低下との関連を指摘し,臨床的な有用性が明らかになっている.VII糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固術や硝子体手術の影響10,11)糖尿病網膜症症例では網膜光凝固術前から眼動脈,網膜中心動脈の血流速度は低下しているが,光凝固後さらに血流速度が低下すると報告されている.また,硝子体手術の影響により,網膜中心動脈と短後毛様動脈の血流速度の低下と網膜中心動脈にてRIが一過性に上昇することが認められ,硝子体術後の視機能が十分に改善しないことがある症例を経験することと関連するのではないかと報告している.VIII透析中の糖尿病網膜症患者の循環動態12)透析中の糖尿病網膜症患者の眼動脈血流抵抗は大きく,さらに網膜中心動脈血流速度の低下を合併している増殖糖尿病網膜症患者では,特に虹彩ルベオーシス発症に対して注意が必要であると報告されている.おわりにCDIは今まで,緑内障および緑内障点眼薬の研究に応用されていたことが多かったが,最近の研究では糖尿病網膜症をはじめとする網膜疾患の研究にも有用であることが判明し,一部の結果は臨床上有用性が高いものとなっており,今後の研究に期待がかかる.しかしCDIを用いた検査は,検者の測定値の信頼性が大きく左右されることであることを十分念頭においておく必要がある.すなわち,一研究において複数の検者による測定は信頼性が低く,論文のなかにも検者が1名であることを明記することが望ましいと考えられる.文献1)宇治幸隆:超音波カラードプラ法による眼血流測定.神経眼科20:407-416,20032)井戸正史:眼血流測定法Ⅱ.超音波カラードップラー(CDI).———————————————————————-Page4??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(50)?????????????????????4:181-185,20033)井戸正史,宇治幸隆:GlaucomaQ&A眼圧下降はそのまま眼循環改善につながるのでしょうか?.??????????????????????3:129,20024)MendivilA,CuarteroV,MendivilMP:Ocularblood?owvelocitiesinpatientswithproliferativediabeticretinopa-thyandhealthyvolunteers:aprospectivestudy.???????????????79:413-416,19955)DimitrovaG,KatoS,TamakiYetal:Choroidalcircula-tionindiabeticpatients.???15:602-607,20016)DimitrovaG,KatoS,YamashitaHetal:Relationbetweenretrobulbarcirculationandprogressionofdiabeticretino-pathy.???????????????87:622-625,20037)DimitrovaG,TamakiY,KatoSetal:Retrobulbarcircula-tioninmyopicpatientswithorwithoutmyopicchoroidalneovascularization.???????????????86:771-773,20028)DimitrovaG,TamakiY,KatoS:Retrobulbarcirculationinpatientswithage-relatedmaculopathy.???16:580-586,20029)WilliamsonTH,BaxterGM:Centralretinalveinocclu-sion,aninvestigationbycolorDopplerimaging.??????????????101:1362-1372,199410)KarharinaK,ElzbietaP,AndreasWetal:Ocularblood?owparametersafterparsplanavitrectomyinpatientswithdiabeticretinopathy.??????23:192-196,200311)MendivilA:Ocularblood?owvelocitiesinpatientswithproliferativediabeticretinopathyafterpanretinalphotoco-agulation.???????????????42:S89-95,199712)斉藤禎子,椿森省二,阪本吉広ほか:透析中の糖尿病網膜症患者における眼循環動態.眼紀54:172-175,2003