———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSあり,実際には個々の症例,疾患ごとにその適応については十分な検討が必要となる.以下に個々の疾患ごとに白内障手術適応を決めるうえで参考となる最近の論文を紹介する.a.Beh?et病合田らは最終眼発作から6カ月以内に手術した症例と7カ月以上経て手術した症例では,後者の群のほうが眼発作の出現頻度が有意に低いことを報告している3).平岡らは長期間炎症が鎮静化していても,免疫抑制薬を使用しているような活動性の高い症例では術後に眼発作頻度が増加することを報告している4).またKadayif?ilarらは術前に3カ月の消炎期間をおいた場合,術後炎症は軽度でその後経過は良好であったと述べている5).b.若年性関節リウマチに伴うぶどう膜炎若年性関節リウマチ(juvenilerheumatoidarthritis:JRA)に伴うぶどう膜炎は欧米では多く,日本ではJRAとほぼ同一の病態を示す若年性慢性虹彩毛様体炎(chro-niciridocyclitisinyounggirls)が圧倒的に多い.併発白内障は約60~70%に発症し,重篤な視力障害の原因となる.しかし,対象が若年者であることや長期的に炎症が持続していること,また手術時にすでにcycliticmembraneを形成していることなどから術後成績については賛否両論である.最近のLamらの報告では最終受診時において全症例で0.5以上の視力が得られ,また術後に後発白内障と続発緑内障が約80%の症例で認められていた6).小児の併発白内障でも成人と同様にステはじめに一般にぶどう膜炎に対する治療の基本は副腎皮質ステロイド薬の局所および全身投与,免疫抑制薬や抗微生物薬の投与といった薬物療法が主体となる.しかしながらぶどう膜における短期間の著しい炎症,あるいは炎症の遷延化や再燃によりさまざまな合併症や続発症が生じ,その結果手術療法が唯一の治療手段となることもある.これまでぶどう膜に炎症を有する眼に対して,あるいは炎症の既往のある眼に対して外科的治療を行うことはさらなる炎症を誘発する可能性があり,その適応についてはかなり慎重に判断がなされていたが,近年の白内障,緑内障,硝子体疾患における手術手技の進歩や手術器具の改良,術前術後の効果的な抗炎症療法の導入により,良好な手術成績が得られるようになってきた1).本稿では,「ぶどう膜炎併発白内障および続発緑内障」に焦点を絞って手術治療に関する現時点でのevidencebasedmedicine(EBM)をまとめてみたい.Iぶどう膜炎併発白内障1.手術適応白内障手術に伴うさまざまな炎症性細胞の反応を予防するために,ある程度の期間活動性の炎症のないことを確認したうえで,手術計画を立てることが重要である.これまでさまざまな報告がなされているが,一般的には1カ月から6カ月の消炎期間を経たうえで手術を行うのが良いとされている2).しかし,これらは1つの目安で(37)????*HiroshiKeino:東京医科大学霞ヶ浦病院眼科〔別刷請求先〕慶野博:〒300-0395茨城県稲敷郡阿見町中央3-20-1東京医科大学霞ヶ浦病院眼科特集●非感染性ぶどう膜炎治療の最先端あたらしい眼科23(11):1421~1428,2006合併症に対する治療??????????????????????????????????????????????????????????????????慶野博*———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006ロイドの局所および全身投与,報告によってはメソトレキセートなどの免疫抑制薬を使用することで,しっかりと術前に消炎させることが良好な術後成績を得るうえで必須であることを述べている7,8).c.Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎これまでこの疾患の併発白内障手術についていくつかの報告がなされているが,おおむね術後成績は良好である9,10).ただし,術後の眼圧上昇や前房出血などを生じることがあるため,他のぶどう膜炎と同様に注意深い経過観察が必要である11).d.原田病原田病の併発白内障は特に遷延例において虹彩後癒着を伴って生じてくることが多い.Ganeshらは全体の80%で視力が改善し,50%は6/18以上の視力を得たと報告している.また全体の76%が後発白内障を生じ,そのうちの42%においてYAGレーザーによる後?切開が施行されていた12).一般的には炎症が鎮静化された時期に行えば視力予後は良好であるが,当施設における原田病併発白内障の術後合併症についてみると,全体の46%で術後の眼圧上昇を認めたことから,厳密な術後管理が重要である13).e.サルコイドーシスサルコイドーシスの術後成績は比較的良好といわれており,術前の消炎が2~3カ月間にわたって維持されていれば眼内レンズ挿入も特に大きな問題はない.当施設でも術後ぶどう膜炎再燃例の疾患別頻度でみてもサルコイドーシスが最も頻度が低いという結果であった13).しかしながら,一部の症例では術後に?胞様黄斑浮腫が出現,あるいは増強することがあること,また術後炎症が強いケースではcycliticmembraneを形成することがあり注意を要する14).2.術前のぶどう膜炎活動性の評価ぶどう膜炎併発白内障手術では術前にある程度の消炎鎮静期間をおいた後,手術施行となるわけだが検眼鏡的に消炎が得られている(当施設では消炎の定義として前房中に炎症細胞を認めないか,認めたとしても全視野に1~5個程度であること)としても,subclinicalには前房内炎症が持続していることもある.その程度を評価する客観的な数値として当施設では前房フレア値をぶどう膜炎の術前評価項目として活用している.当院において手術直前のフレア値と術後視力との相関をみたところ,術前フレア値の高い症例ほど術後視力が悪い傾向があった13)(図1).また術前のフレア値が50photoncounts/ms以上の症例では術後6カ月を経ても鎮静化せず,反対に術前のフレア値が20photoncounts/ms以下の症例では術後のフレア値は安定しており,フレア値に上昇は認められなかった15)(図2).さらにぶどう膜炎を肉芽腫性と非肉芽腫性に分類し術後のフレア値を比較したところ,肉芽腫性のほうが非肉芽腫性に比べてフレア値が高く,フレア値の上昇が長く続くことが判明した15)(図3).これらの結果から術前のフレア値が50photoncounts/ms以上の肉芽腫性ぶどう膜炎の場合,慎重に手(38)術前020406080100120140期間フレア値(photoncounts/ms):術前炎症(+)併発白内障n=5:術前炎症(-)併発白内障n=20:対照群(加齢白内障)n=10p<0.051日3日7日6月3月1月14日図2ぶどう膜炎併発白内障手術前の炎症の有無による術後フレア値の変化(文献15より)0204060801.00.50.1術前フレア値(photoncounts/ms)術後視力n=66,r=-0.524,p<0.001図1術前フレア値と術後視力(文献13より)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006????術時期を決定する必要があると思われる.このように術前のぶどう膜炎の活動性を評価するうえで,細隙灯顕微鏡の所見だけでなく,フレア値を測定しておくことは術後の炎症の程度をある程度予測するうえで,有力な手がかりになりうると考えられる.3.術前の消炎対策術前の準備として消炎目的のために予防的にステロイド投与を行うかについては意見が分かれるところである.筆者らの施設では十分に消炎期間のとれている症例については,特に術前のステロイドの内服は行っていない.一方でMeacockらは白内障術前30分前からメチルプレドニゾロンを点滴静注(15mg/kg)した群と手術日の2週間前からプレドニゾロンを内服(0.5mg/kg)させた群で比較し,視力予後には差がないものの,血液?眼関門の破綻が後者のほうが軽度であったことを報告している16).4.術式および眼内レンズの種類最近の国内におけるぶどう膜炎患者の白内障手術における眼内レンズ挿入術に関しての報告をみると,全体の99%とほとんどの施設で眼内レンズ挿入術が行われていることが明らかとなっている17).挿入する眼内レンズの種類に関するデータをみると,acrylレンズが71%と最も多く,ついでpolymethylmethacrylate(PMMA)レンズが33%,heparinsurface-modi?ed(HSM)PMMAレンズが19%,siliconeレンズが8%であった17).当施設においてもacrylレンズが最も多く(全体の74.8%),ついでHSMPMMAレンズ18%,PMMAレンズ他7.2%であった18).使用頻度の最も多かったacrylレンズについてのこれまでの報告をみると,術後炎症が少なく,再燃の頻度も低いこと,後発白内障の頻度も他のレンズに比べて低いという利点がある19~21).Siliconeレンズについては術後の炎症細胞の付着が少ないものの後発白内障の頻度が高いことが指摘されている19,20).また術後の前房炎症の指標とされるフレア値についてacrylレンズ,siliconeレンズ,ハイドロジェルレンズで比較したところ,3者の間には有意な差はみられなかった22).生体適合性の面からacrylレンズとHSMPMMAレンズとの間で比較したところ,acrylレンズのほうが炎症細胞の付着が少なく生体適合性に優れていることが判明している23).当施設でも後?切開の頻度についてレンズ間で比較したところ,acrylレンズはHSMPMMAレンズやPMMAレンズよりも有意に後?切開の頻度が少ないことが明らかとなった13).5.術後の薬物療法当院では,まず術後の消炎対策として,手術終了時に抗生物質とともにベタメタゾン(リンデロン?)の結膜下注射,また症例によってはトリアムシノロンアセトニド(ケナコルト?)の後部Tenon?下注射を行っている.さらに術翌日の炎症に応じてステロイド薬の全身投与(プレドニゾロン換算で20~40mg)や非ステロイド消炎薬の全身投与を2~4日間行う.これと並行してステロイド薬点眼(ベタメタゾン,またはフルオロメトロン),非ステロイド消炎薬(ジクロフェナクナトリウム,またはブロムフェナクナトリウム)などの点眼を最低3カ月継続する.炎症が持続しているうちは虹彩後癒着防止のため散瞳薬の点眼を就寝前に行う.6.術後合併症まず当施設における術後合併症の種類と発生頻度につ(39)術前01020304050期間フレア値(photoncounts/ms):肉芽腫性ぶどう膜炎n=18:非肉芽腫性ぶどう膜炎n=14:正常対照群(加齢白内障)n=10p<0.051日3日7日6月3月1月14日図3非肉芽腫性ぶどう膜炎併発白内障と肉芽腫性ぶどう膜炎併発白内障手術前後におけるフレア値の変化(文献15より)———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006いて表1に示す13).ぶどう膜炎の再燃が全体の27.8%,以下高眼圧が17.3%,後発白内障が16%でみられた.視力低下の原因となる?胞様黄斑浮腫の出現頻度は全体の2.5%であった.また術前,術後の6カ月から3年間におけるぶどう膜炎炎症発作発生頻度については,頻度が増加したものが17.3%,不変が45.7%,減少したものが37.0%であった13).さらに術後高眼圧を認めた症例を疾患ごとにみてみると,表2に示すように若年性関節リウマチが78%,原田病・交感性眼炎が46%,ヘルペス性虹彩毛様体炎が33.3%,Beh?et病が20%であった13).他施設のデータをみると,Estafanousらの報告によれば,ぶどう膜炎の再燃が全体の41%,後発白内障が62%,?胞様黄斑浮腫は33%,網膜前膜が15%,虹彩後癒着が8%でみられた24).またRahmanらは後発白内障が96%にみられ,?胞様黄斑浮腫は24%に認められたと報告している25).対象とした疾患や術式,用いた眼内レンズも施設間で違いがあるため当施設のデータと単純に比較はできないが,どの施設でも一定の割合で術後合併症が生じることは明らかであり,その発症をいかに少なくするかが今後も大きな課題である.7.まとめ近年のfoldable眼内レンズを組み合わせた小切開白内障手術の進歩により,ぶどう膜炎併発白内障に対してもより低侵襲で安全に手術を行えるようになった.しかしながらぶどう膜炎の種類によって術後の炎症や合併症の発生頻度はさまざまである.白内障手術を行う前に個々の症例ごとに疾患の同定および病型を把握して手術による影響を予測しておくこと,そして術後の消炎対策まで事前に準備しておくことなど,手術を中心とした術前,術後の総合的な治療戦略がぶどう膜炎併発白内障手術に不可欠である.IIぶどう膜炎続発緑内障1.続発緑内障の頻度と眼圧上昇機序ぶどう膜炎続発緑内障は併発白内障と並んで比較的頻度の高い合併症である.その発生頻度はぶどう膜炎全体の10~20%であると報告されている26~29).ぶどう膜炎続発緑内障の原因を2つに大別すると,閉塞隅角と開放隅角に分類される30).眼圧上昇の機序として閉塞隅角緑内障は,虹彩後癒着が瞳孔領全周に生じ瞳孔ブロックの状態(irisbomb?)にある場合,隅角に周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)が形成された結果,隅角線維柱帯が閉塞されて眼圧が上昇する場合,原田病のように発症早期に虹彩水晶体隔膜の前方移動で急性狭隅角緑内障をきたす場合,慢性的な炎症による新生血管緑内障の場合などがあげられる.開放隅角緑内障は隅角線維柱帯への炎症,炎症産物の蓄積による通過障害,炎症による隅角線維柱帯自体の機能低下,プロスタグランジンによる血液房水関門の破綻と房水産生の増加,ステロイド緑内障にみられる隅角線維柱帯への異常結合織とムコ多糖類の蓄積などがある.実際の臨床の場では,上記の眼圧上昇機序が重複しているケースも認められ,治療に苦慮することが少なくないが,眼所見を正確に把握し病態を理解することがその後の治療法や術式の選択をするうえで最も重要となる.ここではおもにぶどう膜炎続発緑内障の外科的治療に焦点を絞り,各々の術式の適応や成績について最近の知見(40)表1術後合併症の種類と発生頻度術後合併症眼数%(眼数)ぶどう膜炎再燃高眼圧後発白内障虹彩後癒着水晶体?異常収縮眼内レンズ偏位?胞様黄斑浮腫45282614118427.817.316.08.66.84.92.5(文献13より)表2術後高眼圧を認めた例の疾患別頻度術後合併症眼数%(眼数)Beh?et病サルコイドーシス原田病?交感性眼炎若年性関節リウマチヘルペス性虹彩毛様体炎同定不能(非肉芽腫性)(肉芽腫性)84631642201146783313227(文献13より)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006????と併せて述べる.2.レーザー虹彩切開術と周辺虹彩切除術慢性的な虹彩炎が持続すると,虹彩の後面と水晶体の前面が徐々に癒着していく(虹彩後癒着:posteriorsynechia).それが瞳孔全周へ拡大すると後房から前房への房水の流れが遮断され後房圧が上昇し,膨隆虹彩(irisbomb?)が生じる(図4).このような場合は早急にレーザー虹彩切開術を行う必要がある.使用するレーザーにはargonとYAGの2種類があるが,筆者は照射回数が少なくて済むYAGレーザーを使用している.しかし,前房炎症を有する眼にYAGレーザーを行った場合,術後の前房炎症により開通した穴が再度閉塞することがしばしばみられる.そこで通常の狭隅角に伴った緑内障発作時と比べて大きめにレーザー虹彩切開術を施行する.そして数発照射しても穴が開かないような場合,また再閉塞をきたすような場合は観血的に周辺虹彩切除術を施行する.その際,術後の炎症は必発であるため,ステロイドの点眼や結膜下注射,炎症の程度によっては内服も併用して消炎に努める.特にBeh?et病でirisbomb?が生じた場合,レーザー虹彩切開術を行うと炎症発作の増悪を誘導するおそれがあるため,当施設ではできるかぎり周辺虹彩切除術を施行するようにしている.3.隅角癒着解離術谷原らは続発閉塞隅角緑内障に対して隅角癒着解離術が40%に有効であったと報告している31).この事実は続発閉塞隅角緑内障でも症例によっては線維柱帯以降の房水流出障害の少ないものが存在することを示している.一方で線維柱帯以降の房水流出が完全に障害されているような症例に対しては,隅角癒着解離術を何度もくり返すのではなく,流出抵抗の部位に応じて他の術式を加えていくべきであろう.4.MitomycinC併用線維柱帯切除術ぶどう膜炎による続発緑内障に対するmitomycinC(MMC)併用線維柱帯切除術の眼圧コントロール成績について表3に示す.まずわが国からの論文をみると,1998年の比較的炎症の程度の軽い例を対象にした松村らの報告では術後3年で眼圧調節率が87%32),2001年に今泉らは術後5年で初回手術例において有効率が76.3%であったと述べている33).2002年に高橋らは20(41)図4膨隆虹彩(irisbomb?)ブロック解除前(左)とブロック解除後(右).表3MMC併用線維柱帯切除術の眼圧コントロール成績報告者報告年平均経過観察期間眼圧コントロール率松村ら32)今泉ら33)高橋ら27)高橋ら34)Ceballosら37)重安ら35)岡田ら36)Yalvacら38)199820012002200220022004200420042.0年1.9年記載なし3.8年2.5年2.0年2.3年3.3年87%*76%89%80%*62%70%*82%67%*:点眼併用と記載あり.———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006mmHgを目標眼圧とした場合,無投薬で62.9%,点眼併用で80.5%の生存率があったとしている34).2004年に重安らは平均観察期間48カ月において眼圧調整率は初回手術70%であったと報告している35).同じく2004年に岡田らは術後24カ月で生存率は81.6%であったと述べている36).海外からの報告では2002年にCeballosらはMMC併用あるいは5-?uorouracilを併用した線維柱帯切除術を行い,点眼を併用しても生存率は術後1年で78%,2年で62%であったと報告している37).興味深いことに男性では術後2年で生存率が39%であったのに対して女性では71%と女性のほうが良好な成績であった.2004年にYalvacらはBeh?et病に伴う続発緑内障に対してMMC併用線維柱帯切除術を行ったところ,術後1年で眼圧調整率は83%,術後3年では70%の成績を得たと報告した38).また開放隅角緑内障とぶどう膜炎続発緑内障で術後の眼圧調整率を比較した場合,長期経過ではその有効性はぶどう膜炎続発緑内障群において有意に低下していた33).さらに沖波らはPASが半周以上の症例では有効率は25%であったのに対して,半周未満ないし開放隅角では85%と有意な差があったと報告している39).つぎに続発緑内障に対して緑内障単独手術と白内障緑内障同時手術で術後眼圧を比較してみると,以前に溝口らは白内障手術を併用すると術後に眼圧を20mmHg以下へ調整できる確率は術後3年で68%,緑内障手術単独では87%,さらに14mmHg以下へ調整できる確率は同時手術群で24%,単独群では63%と有意な差があったとしている40).2004年の岡田らの報告では目標眼圧が15mmHgであった場合,眼圧調整率は同時手術群が16%であったのに対して単独群が58%であった36).これらの結果より眼圧をlowteenで安定させるためには,緑内障単独手術のほうがより効果的であると考えられる.術後の炎症管理は濾過胞維持のために重要であるが,最近のMoltenoらの報告によれば,続発緑内障術後の濾過胞を維持させる手段として,術後に一定期間ステロイドや非ステロイド系消炎薬およびコルヒチンを内服させると良好な結果が得られている41).5.線維柱帯切開術続発緑内障に対して線維柱帯切開術を行うか,線維柱帯切除術を行うかは術前の炎症や眼圧,視野障害の程度,視神経乳頭変化,術後の目標眼圧,患者の年齢などから総合的に判断する.線維柱帯切開術は術後highteenを目標眼圧とする比較的視野障害が軽度の症例に推奨される術式であるといえる42).また下方からのアプローチで本術式を行った場合,上方の結膜を温存することができ将来的に線維柱帯切除術が必要となった場合でも対応可能である.しかしながら本術式では術後の前房出血は必発であり,一部の症例では切開した隅角へ虹彩が癒着し,PASを形成することがある.ステロイド緑内障のように炎症が少なくPASがないような症例に対しては本術式が有効であると報告されている43).最近Freedmanらは小児慢性ぶどう膜炎の続発緑内障12例16眼に対して隅角切開術を施行したところ有効率が75%であったと報告しており44),Hoらも31例31眼に対して本術式を行い,71%の有効率を示している45).さらに術後成績を決定する因子として,虹彩炎の罹病期間,緑内障手術に至るまでの期間,PASの程度が少ないことなどをあげている45).これらのデータは小児ぶどう膜炎症例に対する本術式の有効性を示すものである.6.まとめぶどう膜炎続発緑内障の治療を行うためには,その病態を正しく把握し眼圧上昇の原因を明らかにすることが重要である.続発緑内障に対する手術治療はMMCの登場により,その成績は以前と比較して改善されてはいるものの,良好な眼圧コントロールを維持するうえで術前,術後の消炎は併発白内障手術と同様,必須であるといえる.ステロイド使用による眼圧上昇は大きな問題であるが,その機序についてもまだ未解明の部分が多い.今後はステロイドにかわるような薬剤による抗炎症療法によって続発緑内障への進展の予防,さらには続発緑内障治療成績の向上が期待される.本稿を終えるに際し,ご校閲いただいた東京医科大学臼井正彦教授に深謝いたします.(42)———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006????文献1)後藤浩:ぶどう膜炎に対する外科的治療法の適応と注意点.眼科手術17:149-154,20042)NussenblattRB,WhitcupSMeds:Uveitis,FundamentalsandClinicalPractice.p137-154,Mosby,StLouis,20043)合田千穂,小竹聡,笹本洋一ほか:ベーチェット病の併発白内障に対する手術成績.臨眼54:1272-1276,20004)平岡美衣奈,藤野雄次郎:ベーチェット病の併発白内障に対する手術成績.日眼会誌103:109-123,19995)Kadayif?ilarS,GedikS,EldemBetal:CataractsurgeryinpatientswithBeh?et?sdisease.???????????????????????28:316-320,20026)LamLA,LowderCY,BaerveldtGetal:Surgicalmanage-mentofcataractsinc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科の実地医家にも十分役立つよう歴史・由来・全身症状・治療法など,広範な解説.4.各症候群に関する最新の,入手可能な文献をも収載.■本書の特色■