———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.5,20086670910-1810/08/\100/頁/JCLS術前遠方視力右眼=0.06(0.6×5.0D(cyl1.75DAx165°)左眼=0.08(1.2×4.0D(cyl2.5DAx180°)術前近方視力右眼=0.1(0.6×4.5D(cyl1.75DAx165°)左眼=0.3(0.8×4.0D(cyl2.5DAx180°)新しい治療と検査シリーズ(91)バックグラウンド最近登場した回折型多焦点レンズは,良好な術後の遠近視力を提供できるようになった.白内障摘出による調節力の喪失が問題となる若年者の白内障治療に大変有効である1,2).実際の使用法多焦点眼内レンズは角膜乱視の少ない患者に有効であるといわれている.本レンズが有用であった症例を提示する.〔症例1〕28歳,男性,若年者の両眼白内障.術前遠方視力右眼=0.4(0.4×cyl+1.0DAx90°)左眼=0.1(0.1×cyl+1.0DAx90°)28歳であるので老視もなく,遠方も近方も眼鏡装用の経験はない.当然のことながら従来の単焦点レンズでは術後の近方視力が問題になる.本人の希望により回折型多焦点眼内レンズを挿入した結果が,以下のとおりである.術後遠方視力右眼=0.8(1.2×cyl+1.0DAx90°)左眼=0.9(1.2×cyl+1.25DAx90°)術後近方視力右眼=0.7(1.0×cyl+1.0DAx90°)左眼=0.6(0.9×cyl+1.25DAx90°)この症例では角膜乱視が少ないため,裸眼での遠近視力が良好であった.さらに,特筆すべき点は,遠方矯正度数の装用によって近方視力も向上する点である.このことは,白内障手術術後の屈折誤差に対しても一つの眼鏡で遠近両方の視力に対応できることと,さらには片眼の手術にも適応できることを意味しているからである.〔症例2〕35歳,男性,近視眼の片眼(右眼)白内障.182.若年白内障に対する多焦点眼内レンズプレゼンテーション:大木孝太郎大木眼科コメント:ビッセン宮島弘子東京歯科大学水道橋病院眼科図1わが国で臨床治験の終了している回折型多焦点眼内レンズ左側がReSTORR(アルコン社),右側がTECNISTMMultifocal(AMO社).図2内固定された回折型多焦点眼内レンズレンズ表面の同心円状の回折構造が観察できる.———————————————————————-Page2668あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008右眼が白内障で視力低下をきたしているが,遠方矯正時の左眼の近方視力は良好で,まだ老視年齢ではない.パソコン業務が多く,自覚的には片眼で作業をしている感じがして眼精疲労が強いことが主訴である.眼鏡使用者でコンタクトレンズの使用はまったく希望しない.したがって,左眼の近視状態に合わせて右眼の術後屈折値を45Dに設定して眼内レンズを挿入することになるが,単焦点レンズを用いた場合,遠方用の眼鏡を装用した状態では,調節力を喪失した右眼近方視力は当然不良となる.その結果,近方作業は片眼だけで行うことになり,それでは術前の片眼視による眼精疲労という本来の訴えを改善することがむずかしい.まだ調節力のある年齢であるので,右眼に対し正視を狙って白内障手術を行い,左眼はLASIK(laserinsitukeratomileusis)によって近視矯正を行うというオプションも考えられるが,本人がそれは望まず希望により,右眼に回折型眼内レンズを左眼の近視度数に合わせて使用した結果が,以下のとおりである.術後遠方視力右眼=0.08(1.2×4.5D(cyl1.75DAx180°)左眼=0.08(1.2×4.0D(cyl2.0DAx180°)術後近方視力右眼=0.1(0.8×4.5D(cyl1.75DAx180°)左眼=0.3(0.8×4.0D(cyl2.5DAx180°)右眼の近方視力が遠方矯正度数で非常に良好であり,遠方用の眼鏡一つで,違和感なくデスクワークが行えるようになり,高い満足を得られている.本治療法の利点白内障手術の大きな弱点は術後の調節力の喪失である.多くの白内障患者は高齢者であり,通常は術後の眼鏡使用に問題を感じない.しかし今回提示した若年者の症例では,老視眼鏡の使用は生活上の問題になることも多く,本レンズは非常に効果的である.1)大木孝太郎:AMOTecnis回折型多焦点眼内レンズ.IOL&RS21:227-229,20072)清水直子:回折型眼内レンズ─症例報告.あたらしい眼科24:169-175,2007(92)☆☆☆本方法に対するコメント従来,若年者の白内障手術については,水晶体摘出後に調節力を失うことが大きな問題であった.そのため,白内障で視力が低下していても,水晶体を温存することで調節力を保てる利点を考慮し,手術時期をなるべく延ばす例も少なくなかった.多焦点眼内レンズ,特に本稿で紹介された回折型多焦点眼内レンズは,術後に良好な近方視力が期待できるため,若年例でも調節機能障害によるハンディーがかなり軽減された.症例1のような両眼手術例では,術後の屈折値を悩まず正視にすることができるが,問題は症例2のような片眼性白内障で,かつ,もう片眼の屈折が遠視や近視例である.従来の単焦点眼内レンズでは,迷うことなく健眼の屈折が近視であれば,不同視を生じない程度の近視狙いで眼内レンズ度数を選択した.多焦点眼内レンズ挿入希望例で,コンタクトレンズは使えず眼鏡装用の場合は,担当医とじっくり話し合い,本症例のような選択も多焦点レンズの恩恵といえるであろう.筆者(ビッセン)はエキシマレーザーによる屈折矯正手術を同施設で行っているため,眼鏡への依存度を減らす多焦点眼内レンズの利点を最大限に生かすよう,術後屈折は正視目標とし,健眼にはコンタクトレンズ装用,あるいは屈折矯正手術を行い,非常に高い満足度を得ている.