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網膜硝子体手術における眼底観察法の進歩

2007年1月31日 水曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSI硝子体手術用前置レンズ眼底の観察は,+60D(角膜:+40D+水晶体・眼内レンズ:+20D)を中和する凹レンズ(たとえば-60D)を前置して正立像を観察するか,相応する凸レンズ(たとえば+60D)を前置して倒像系で観察することで可能となる1)が,それぞれの観察法が硝子体手術へ応用され,進化した2).1.平凹レンズ型・プリズム凹レンズ・メニスカス型凹レンズ単純なレンズ構造が簡便で,観察しながらの手術操作が行いやすいため,経毛様体扁平部アプローチの確立以来現在まで最も汎用されている.a.レンズの形状と素材の進化液?空気置換による網膜復位法が確立すると,硝子体腔を空気に置換した状態での眼内操作が必要となった.角膜・前房・水晶体による巨大な凸レンズは,前後面ともに空気に接すると,+100Dを超え(図1),石英ガラス(屈折率1.488)の平凹レンズでは中和できないため,両凹型レンズ(通称「ズボラレンズ」と愛称)が用いられたが,収差がきわめて大きく,液?空気置換後の操作はごく大まかなものに限られた.そこで,田野ら3)は,高屈折素材(HRI:屈折率1.901)による前置レンズを開発し,空気置換後の眼内操作に必要な視認性が得られるようになった.はじめに硝子体手術の観察系は,他の外科顕微鏡手術分野と異なり,眼球自体が光学組織であるため,手術顕微鏡光学系以外に,前置される眼内観察用レンズ,手術眼ごとに異なるレンズ形状の角膜,水晶体・眼内レンズを含めた光学系を通して,眼内の任意の組織を任意の方向から観察する必要がある.しかし,手術顕微鏡は,眼球光学系を含めて設計されているわけではない.硝子体手術における観察技術革新の一つの鍵は,「眼球光学系の収差情報を含む手術顕微鏡光学系」を備えた「眼科手術顕微鏡」を開発することにある.一方,顕微鏡観察には,接眼レンズを通して肉眼で観察する系と,CCDカメラなどからの映像をディスプレイ表示して観察する系がある.従来,後者はもっぱら記録や中継などを目的としてのみ利用されていた.しかし近年の映像技術分野の進歩は,高精細立体視映像手術システムの実用化の可能性を開いた.肉眼では観察不能な超高感度,超詳細映像デバイスを用いた手術顕微鏡観察システムが臨床応用されれば,現在の限界を超える精度の観察が実現される可能性がある.観察映像に検査画像情報などを付加して表示したりすることも可能である.さらに,映像化された手術顕微鏡観察像は,手術室内以外の任意の場所でも閲覧できるため,専門性の高い医療技術の施設間支援への活用も期待される.本稿では,硝子体手術に関係した観察系の進歩と今後の展望について概説する.(37)??*TohruNoda:国立病院機構東京医療センター眼科〔別刷請求先〕野田徹:〒152-8902東京都目黒区東が丘2-5-1国立病院機構東京医療センター眼科特集●最新の網膜硝子体検査あたらしい眼科24(1):37~46,2007網膜硝子体手術における眼底観察法の進歩?????????????????????????????????????????????????????????????野田徹*———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(38)b.高屈折素材前置レンズ(HRIレンズ)高屈折前置レンズでは,広い視野が観察でき,また,プリズムレンズではふれ角がより大きくふれるため,より周辺部までの観察も容易となった.これにより硝子体手術はより安全に能率よく行えるようになった.c.高屈折低分散素材前置レンズ(HHVレンズ)へ網膜硝子体境界面と前部硝子体に関連した病態の理解とその処理法の確立とともに,硝子体手術の課題は,重症の増殖病変を伴う網膜?離の復位から,黄斑部手術へと移行した.人工的後部硝子体?離の作製に引き続き,内境界膜?離の有用性が注目されると,より詳細な眼底観察が求められた.しかし,HRIレンズでは,顕微鏡の倍率を上げても網膜面の微細構造がはっきりと見えない.高屈折素材は分散(各色ごとの焦点のずれ:色収差)が大きく結像状態が低下したためである.そこで,高屈折率でありながら分散の低い(異分散)素材を用いた前置レンズをHOYAが提供し,眼底の視認性はさらに改良された.d.前置レンズの材質・形状と色収差各種素材の平凹型,およびメニスカス型前置レンズを用いて標準的な(20D)PMMA(ポリメチルメタクリレート)眼内レンズ挿入眼の黄斑部を観察した場合の,各波長光の焦点の位置のずれを図2に示す.平凹型レンズでは,石英素材は波長の変化に伴う焦点位置のずれが少ないが,高屈折素材(HRI)はずれが大きく生じ,観察像自体が悪く,顕微鏡でいくら拡大してもはっきり見えない原因がよくわかる.高屈折低分散素材(HHV)では,そのずれが半減されている.注目すべきは,メニスカスレンズの特性で,その効果は単に倍率が大きく観察されるだけでなく,色収差が各素材ともにほとんど生じないため,黄斑部の詳細な観察などには最適な条件であることがわかる(図2).図1有水晶体眼の空気置換時の眼底観察有水晶体眼で硝子体腔を空気で置換すると,角膜・前房・水晶体により約100Dの巨大なレンズが形成される.眼底観察には,それ以上の屈折力の凹レンズを要するため,高屈折素材のレンズが必要となった.約+100D図2各素材の硝子体手術用コンタクトレンズを前置して黄斑部を観察した場合の各波長光の焦点位置のずれ(PMMA20D眼内レンズ挿入眼)平凹型レンズでは,石英に比してHRIは波長ごとの焦点のずれ(色収差)が大きいが,HHVでは,そのずれが半減されている.メニスカスレンズ型のレンズでは,各素材ともに色収差は少なく,黄斑部などの手術を行う場合の観察に適していることがわかる.a.平凹型コンタクトレンズb.凸凹(メニスカス)型コンタクトレンズ0-500-1,0001,000波長(nm)600500:石英:HRI眼底虚像形成位置(μm)5000-500-1,0001,000波長(nm)600500眼底虚像形成位置(μm)500:HHV———————————————————————-Page3(39)あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??手術顕微鏡内の光学系は,後述のごとくアポクロマート補正により,このような色ずれは高度に補正された光学系で構成されている.しかし,硝子体手術では,前置レンズ,眼内レンズを含めた眼球光学系を通して眼底を観察する必要があり,手術顕微鏡だけでは光学設計が不十分となる.これは眼科以外の科の顕微鏡手術にはない特異的な条件といえる.したがって,硝子体手術のための手術顕微鏡開発においては,「顕微鏡,前置レンズ,眼球光学系の収差を統合的に考えた観察システム」を考える必要がある.2.倒像観察系前置レンズ(wide-angle-viewingsystem)倒像鏡を日常診療で常用している眼科医にとって,広い視野で眼底周辺部までの観察が行え,小瞳孔や中間透光体の混濁などの条件に強い倒像観察系で硝子体手術を行うことは長年の課題であった.高屈折素材による非球面レンズ設計,多層膜コーティング技術,さらに,倒像を直像に変換するインバーターの開発により,手術用のレンズが実用化され,改良が加えられてきた4).a.接触型前置レンズVOLK,OCULUS,OcularInstrumentからそれぞれに工夫されたレンズが市販されている.2枚以上の非球面レンズで構成される(+60D~+130D)が,滅菌の必要があるため,レンズ間のスペースに結露しないように,開放構造や,レンズが分解できる構造などの工夫がされている.複数の素材を複合レンズに合成した一体型レンズもある.レンズを良好な位置に保持する必要があり,柄を取り付けて助手が保持するが,やや慣れが必要であり,角膜接触面にレンズを支える足のような部分が付けられているものもある.b.非接触型前置レンズシステム既存の手術顕微鏡システムに取り付け可能なBIOM-Ⅱ(OCULUS),顕微鏡と一体設計となったOFFISS(TOPCON)がある.前者は,各社の既存の手術顕微鏡に取り付けができ,汎用性が高い(LEICAの顕微鏡は,コントロールユニットも電動で連動する).後者は,顕微鏡が限定されるが,画期的な広視野照明を装備したシステムとの総合設計であるため,光学的にも操作性にも利点がある.II硝子体手術用顕微鏡1.照明光学系a.眼内照明ライトガイドなどの眼内照明は,前眼部の光学面での散乱を伴わずに直接眼内組織を照明できるのが特長である.硝子体切除では,照明光による硝子体フレアを観察するため,照明角の狭いライトガイドが観察しやすい.逆に,wide-angle-viewingsystemを用いる場合は,広い観察視野に対応して照明角が広いタイプのライトガイドが有用である.両手法による手術操作を行う際には,ライトガイドがシャフトに挿入できる剪刀や鑷子を用いるか,インヒュージョンプラグまたは独立した位置に照明を設置するシステム(シャンデリア照明)を併用する.最近は,スリット照明装置やOFFISSなどの顕微鏡照明も手術条件に合わせて選択できるようになった.b.顕微鏡照明近年は超音波白内障・眼内レンズ同時手術も行われることが多いため,顕微鏡は良好な徹照が得られる観察系も備えている必要がある.(1)同軸照明同軸照明とは,対物レンズを通しての照明で,観察光路の軸にできるだけ近い方向(2?程度)から照明すると良好な徹照光が得られやすく,また狭く深い術野まで照明が届きやすくなる.逆に,観察光路軸からずれた方向(6?程度)からの照明では,観察面の凹凸に影を形成して立体感が増す効果が得られる.ZEISSの顕微鏡は2?同軸照明に術者の好みに応じて6?照明を付加調光できるシステムを備えている(図6b).●OFFISS藤田保健衛生大学の堀口とTOPCON社が共同開発した観察系で,ちょうど眼底カメラを用いて眼底を観察しているような広い照明視野がwide-angle-viewingsys-temにより得られ,両手で手術操作が行える.眼内レンズなどの反射面が存在すると表面からの反射光を生じるため,眼内レンズ挿入は眼内操作の終了後に行うようにする.———————————————————————-Page4??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(40)(2)斜照明斜照明は対物レンズの外からの照明で,観察光路と照明光路の軸が大きくずれるため,術野が奥深く狭いと照明が届きにくく,徹照も得られないため,眼科手術顕微鏡では通常のものは,ほとんど用いられていない.●スリット照明装置(図3)近年,硝子体手術においてもその有用性が注目されている.原理は細隙灯顕微鏡と同様で,観察系焦点位置がスリット光の焦点となるように斜照明を装備したものである.硝子体基底部のshavingなど前部硝子体の観察処理には,直接硝子体から網膜面を直接観察できるため,特に有用である.後極部の病変に対しては,(反射防止加工した前置レンズを用いて:HOYA)両手法で操作が行える.フランスなど,欧州の術者は好んで用いているが,米国ではあまり普及していない.c.硝子体手術に用いる光源:ハロゲンvsキセノン眼科では,光毒性の問題から,一般の手術顕微鏡には短波長(青)成分が少ないハロゲン光源がおもに使用されてきた.キセノン光源は,照度に優れるが,網膜の光毒性の問題があるため,あえて避けられてきた(他科では汎用されている).しかし,近年,25ゲージ手術システムの普及とともに,細いゲージから有効に照度が得られる利点を生かして,眼科領域でもキセノン光源の有用性が注目されてきている(図4).●キセノン光源の特徴キセノン光源は,ヒトの視覚に最も影響する550nm前後のスペクトラムが高い(より長波長の成分はハロゲンに比して相対的に低くなる)ため,照度に優れる.短波長(青)成分は散乱を生じやすい.したがって,半透明な硝子体を照明すると,散乱光が多く生じるため硝子体が観察しやすい.また,網膜表面へ照明した場合は,より表層からの反射が強くなるため,表面の性状が観察しやすい.逆に,中間透光体などに混濁がある場合は散乱が生じて観察が妨げられやすく見にくいことがある.ライトガイド,スリット照明,顕微鏡同軸照明それぞれに,手術条件に合った光源の組み合わせを選択することで,より明瞭な観察が行える.2.観察光学系a.基本構造手術用顕微鏡の観察像からの光束は,対物レンズ系で平行光線となり,中間鏡筒光学系を経て接眼部に至る.図3スリット照明装置(ZEISS)近年,硝子体手術においてもその有用性が注目されている.前部硝子体の処理は直視下で硝子体を明瞭に観察でき,低反射加工前置レンズ(HOYA)を用いれば,後極部の操作も両手法で行うことができる.図425ゲージシステムとキセノン照明光源25ゲージシステムでは,細いライトガイドから効率よく明るい照明光を得る必要がある.キセノン光源は熱の発生を伴わずに高い照度を得やすいため,眼科手術においてもその有用性が再認識されている.a:20ゲージおよび25ゲージの照明プラグ(Synergetics).b:キセノン光源ユニット(上:ZEISS,中:Synergetics,下:Alcon).20ゲージ25ゲージab———————————————————————-Page5(41)あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??接眼部では,倍率をさらに拡大するとともに正立像とし,術者の観察姿勢にあった方向に光路を向ける.中間鏡筒内は原則的に平行光であるため,距離が増えても中心視野にはあまり影響はない.したがって,その間に,フィルターやビデオシステム,正・倒像インバーターなど,いくつか光学系を重ねて設置することができる.(1)対物レンズ:焦点距離(作動距離)高性能な手術顕微鏡は,術者および助手用顕微鏡の観察系と照明系とを同じ対物レンズで共有する構造となっている.(2)中間鏡筒光学系1)変倍モジュール硝子体手術では,フットペダルで倍率をコントロールするズーム変倍装置を用いる.2)レーザー保護フィルター使用する眼内レーザーの波長特性に合ったフィルターを設置する.アルゴンレーザーは波長域が広いため(半値幅が広い),広範囲の可視波長域をカットする必要があり,フィルターはレーザー装置と連動して照射時のみに電動で挿入されるシステムが必須である.810nm赤レーザーや,ダイオードを用いた532nm緑レーザーを用いる場合も同様であるが,ダイオードでは発振波長のみをシャープにカットすればよいため,視認性への影響が少ないフィルターを常時挿入して手術を行う術者もいる.3)ビームスプリッター・ビデオカメラシステム術者用観察系または助手用観察系の中間鏡筒部にハーフミラーを設置し,光束の一部をカメラへ分配する.以前は50%程度の分光比率が多かったが,最近はカメラの性能の向上に伴い,20%程度の設定が多い.ビームスプリッターで分配された光束は,使用するCCD板などの面積に合った焦点距離のレンズを介してカメラに接続する.4)絞り高性能な明るく解像度のよい(開口が大きい)顕微鏡は,不可避的に焦点深度が浅くなる.解像度よりも焦点深度の深さが優先される手術では,絞りを設置して,必要に応じて開口を絞ることにより焦点深度を深める効果が得られる.5)正・倒像インバーター(wide-angle-viewingsystem)OCULUSのSDI-Ⅱ(電動)のほかOcular,VOLKのシステム(手動)がある.前者は,各社の顕微鏡に汎用されている.TOPCON社のOFFISSも正・倒像インバーターはOCULUS社のSDIを用いている.6)周辺部観察用収差補正システム眼内レンズ挿入眼の周辺部眼底を観察する際には,高屈折素材の眼内レンズを鋭角に斜めに横切る光束での観察となるため,大きな収差(特に非点収差)が生じ,前置するプリズムレンズで生じる色収差とともに,詳細な眼底観察が行えない.筆者らは,TOPCONとの共同開発により,さまざまな色収差,非点収差を補正する収差補正ユニットの開発を進めている.(3)接眼レンズ顕微鏡の接眼レンズは10×程度が適当で,10×,25図5正・倒像リインバーターを内蔵した接眼鏡ユニット(ZEISS)正立・倒立リインバーターを接眼鏡ユニットに組み込むことは,顕微鏡の基本的なしくみから最も合理的であり,限りなく自然に正立像,倒立像を変換することができる.また,顕微鏡全体の構成もすっきりと配置される.a:術者用,助手用それぞれのリインバーター内蔵接眼鏡ユニット.b:リインバーター内蔵接眼鏡ユニットを用いた場合の顕微鏡システムの概観.c:従来の接眼鏡ユニットとSDI-Ⅱを組み合わせた顕微鏡システムの概観.abc———————————————————————-Page6??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(42)mm視界は53?視角に相当し,平均的な術者が観察しやすい視角となっている.●正・倒像リインバーターを内蔵した接眼鏡ユニット(ZEISS)ZEISS社は,wide-angle-viewingsystemで用いる正・倒像インバーターを接眼レンズ系に組み込み,手動切り替えを行うシステムを開発した(図5).元々,接眼ユニットは像の方向を術者の観察方向に合わせる機能を受け持つ光学部分であり,正立像,倒立像の変換を行うユニットとしてはまさに最適といえ,実際,変換を行ってもほとんど見え方が変わらず自然な観察が得られる.問題は,ビデオモニター映像が倒像のまま記録されることであるが,映像信号に関しては方向の変換は比較的容易に行えるため,必要に応じて画像変換機器を用いればよい(インバーター機能を備えたビデオシステムもある:Ikegami).(4)術者用顕微鏡と助手用顕微鏡(図6)最近の顕微鏡は,術者と助手のそれぞれの左右の観察光路は互いに直行した位置関係に配置され,同軸(つまり同じ接眼レンズで)立体観察するシステムがとられている.術者用顕微鏡は電動ズーム方式,助手用顕微鏡は手動の段階式変倍形式をとるものが多いが,術者と助手が変倍モジュールも共有して常にほぼ同じ条件で観察できるシステムもある.術者および助手の左右の開口部分と照明の位置関係は,眼科手術顕微鏡の設計コンセプトに大きく関係する.TOPCONのOMS800(図6a)は,術者の左右の観察光路に対して助手の観察光路はずれた位置関係にある.この配置は,術者の観察光路付近に大きな照明をおくことができるため,前眼部手術の際には良好な徹照と立体感を併せて得やすくきわめて良好な条件となるが,眼底観察などの際には術者と助手の光路がずれているため,助手の観察が術者とずれを生じる可能性がある.前眼部手術をおもに行う術者や術者主導の硝子体手術を組み立てる術者には,きわめてコストパフォーマンスに優れた構造といえる.それに対して,ZEISS(図6b),LEICA(図6c)の顕微鏡は,術者と助手の観察光路が完全に直行した位置関係に配置され両者はほぼ完全な同軸観察となるため,両者の観察は眼底観察などにおいても常にほぼ共有されたものとなる.術者と助手が常に共同して手術を進める術者,教育熱心な術者には,最適な顕微鏡である.4つの観察光路が近接し,照明を設置するスペースは若干狭くなるので,照明は複数に分けるなどの配置をとっている.特に,LEICAの顕微鏡は,術者と助手の観察光路は同等の光学系でちょうど90?回転した位置に配置され,両者は常にほぼ同じ光学条件で観察される.この4つの光路はズーム変倍ユニットも連動し,術者と助手の術野の観察像は常に共有される特筆すべきシステムになっている.将来,接眼レンズを通しての肉眼観察が高性能カメラ映像に取って代わられた場合の次世代の顕微鏡システムの可能性を考えると(その具体的なシステム開発を計画すると),これは,時代を大きく先取りしたシステムといえる.b.収差補正解像度の高い高性能な顕微鏡には,高度な収差補正がなされている.手術顕微鏡性能の評価の際,しばしばポイントとされるのが,像面弯曲収差と色収差の補正の度合いであるが,眼科用のハイクラスな顕微鏡はいずれの収差も高度に補正されている.(1)像面弯曲:プランレンズ系硝子体手術に使用される顕微鏡は,眼底の観察の際に拡大すると黄斑部が隆起して見えるなどの不都合などが生じないように,全観察視野にわたって像面弯曲が補正され,平面がゆがみなく観察されるプランレンズである必要がある.(2)色収差補正:アクロマートとアポクロマート自然のままでは短波長の青色光は長波長の赤色光よりも焦点を短く結ぶ.そのずれ(色収差)は,色にじみや色ずれ,ぼけの原因となるため,高性能な顕微鏡では,主要な波長の焦点を一致させるように高度な技術で補正がなされている.色収差補正の等級には,アクロマート(赤:656nmと青:486nmの像点が一致する規格),アポクロマート(主要3波長の像点が一致する規格)などがあるが,現在の高性能な眼科手術顕微鏡では,アポクロマート補正が行われている.———————————————————————-Page7(43)あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??〔参考〕開口数,解像度,観察像の明るさ,焦点深度解像度を高くするためには,大きな開口数(NA)つまり,より大きな口径の対物レンズを必要とする.NAが大きいほど分解能,明るさの点で優れている.観察像の明るさは,照明光の明るさ,レンズの開口数,総合倍率で変わり,観察倍率を2倍にすれば明るさは1/4となる.像の明るさ(I)=観察面の明るさ(Io)×(NA/Mo)2大口径の(NAの高い)レンズ光学系は,明るく,解像度が高いが,色収差をはじめとする収差の完全補正のためにはより複雑な(きわめて高価な)レンズ系を要し,かつ焦点深度が浅くなる.両者は相容れない条件であり,そこで,手術操作にいかに対応した設定とするかが各社の特徴となっている.たとえば,解像度が高く明るい顕微鏡は,黄斑部など特定の部分観察には抜群の見や図6術者観察光路,助手観察光路,同軸照明の光路配置a:TOPCONOMS800.術者と助手の観察光路がややずれた位置に配置されている.硝子体手術の際には,助手は観察が妨げられる可能性がある(術者と同じ視野での観察を優先する場合は,術者の片側の光路を分光して助手の左右に振り分け,擬似立体として観察する).前眼部手術には,術者の観察光路付近から大きな同軸照明を配置できるため,最良の条件となる.b:ZEISSOPMIVISU200(最新モデルはVISU210).術者と助手の観察光路が90?回転した位置に配置され,術者と助手はほぼ同じ視野で観察できる.同軸照明の配置は,徹照を得るための2?照明と,立体感を得るための6?照明とに分けて設置され,6?照明は観察条件に応じて調光可能となっている.c:LEICAM844F40.術者と助手の観察光路は同等の光学系でちょうど90?回転した位置に配置され,両者は常にほぼ同じ光学条件で観察される.この4つの光路はズーム変倍ユニットも連動し,術者と助手の術野の観察像は常に共有されている.同軸照明は4つの観察光路の外側の位置に2カ所設置されている(※下図:QuadZoomTMユニットの構造模型).術者※助手助手術者術者白内障手術硝子体手術助手a.TOPCONOMS800c.LEICAM844F40b.ZEISSOPMIVISU200(最新モデルはVISU210)IlrRLrlIlrRLrlIIRLrlIIlrRLR:術者右観察光路L:術者左観察光路r:助手右観察光路l:助手左観察光路I:照明(反射鏡)———————————————————————-Page8??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(44)すさを発揮するが,焦点深度が浅く,単純硝子体切除の際に頻繁にピント合わせを要したり,白内障手術などで操作部位と後?とが同時に確認しづらかったりする.III手術映像の撮影,映像信号の転送・記録手術顕微鏡で観察される映像は,ビデオカメラで撮影することにより,見学者にもモニターで供覧したり,録画して手術映像を残したりすることができる.従来のビデオ映像は,それらを目的としてもっぱら用いられてきた.しかし近年,肉眼機能を超える超高感度,超高精細の映像システムが開発されており,今後の手術映像システムは,従来の接眼レンズを通した顕微鏡観察をはるかに超える特殊機能を備えた観察系として開発が進められる可能性が示唆されてきた.さらに,術野の映像に,術前・術中に採取された検査画像情報などを付加して表示することも可能となる.すでに脳神経外科領域では,脳腫瘍手術の際,顕微鏡映像にMRI画像を重ねて表示する手術支援システムが実用化されている5).将来的には,生体眼底顕微鏡と手術ロボット開発の組み合わせにより,網膜血管外科手術や,生体網膜細胞操作などの超微細手術やそれらの遠隔手術システムの実用化も必ずしも夢ではない時代となってきた.1.ビデオカメラ手術映像を記録するカメラの工学技術も飛躍的に進歩している6).高性能CCDなどの撮像素子の技術開発によるところが大きいが,さらに,手術野の特殊な条件で撮像された映像信号が,いかにしたら自然な画像となるか,色(特に術野では赤の再現性が重要)や輝度分布特性とその変化に対応するプログラム設定も重要なノウハウであり,各メーカーにより開発が進められている.a.CCDカメラ現在,主流となっているカメラの撮像方式は,RGBの3原色を各々1枚ずつのCCDで電気信号に変換する3CCD方式である.解像度,色再現性に優れるが,高価でやや大型になるのが欠点である(価格は販売台数に最も大きく依存する.手術専用のような設定のカメラは,販売台数が著しく限られるため価格は高価となる.先端的技術であっても汎用モデルはきわめて安価となる).1CCDや2CCD(G:緑はカメラの内蔵信号で代用)カメラは小型だが,映像は3CCDに大きく劣り,良好な画質が必要とされる分野での実用性はない.●HDTV(ハイビジョン)3CCDカメラ眼科手術顕微鏡に取り付けができ,手術映像として満足できる画質の小型ハイビジョンカメラはきわめて限られているのが現状で,2007年1月現在,SONYHDC-X300(図7)が唯一の選択となっている.しかし,カメラ本体が大型で,顕微鏡にかかる重量負荷も大きい.コントロールユニット(CCU)を分けるなど,早急に医療用に即した小型カメラの開発が切望される.ハイビジョンカメラを用いれば,細隙灯顕微鏡では,従来のカメラでは撮像困難であった角膜内皮細胞も描出でき,手術顕微鏡においても高品位高精細な手術映像が記録できる.b.最先端技術を備えた超高性能カメラ(1)超高感度高精細カメラSuperHARPカメラは,NHK放送技術研究所の谷岡ら7)が開発した超高感度高精細カメラで,肉眼ではほとんど視認不能な暗視野での鮮明なカラー画像の撮像を可能とし,多くの事件報道などで活用されている.すでに三宅ら7)は,同じくNHKの望月7)の開発したハイビジョン立体ビューワーと組み合わせた眼科顕微鏡手術システムを用いて,きわめて低照度で眼科顕微鏡手術が行えることを報告している.現在は,固体HARPカメラの開発により,さらにカメラの小型化が進められている.その他にも,IMPACTRONTMをはじめとする超高感度画像素子を利用した小型軽量のカメラの開発が進められている.超高感度高精細カメラを用いた低照度手術は,眼科領域では光毒性の問題からも,局所麻酔下で患者の受ける手術の質の向上の観点からもきわめて有用であり,今後の実用化が期待される.(2)超高速撮影用カメラnac社は,高解像度(1,280×1,024ピクセル),超高速(最大2億コマ/秒まで)の撮像を実現した世界最高速のハイスピードカメラを開発し,スポーツをはじめとするさまざまな映像分野において貴重な映像を提供している.眼科手術領域においても,硝子体カッターにより硝子体が切除される状態の分析や,超音波水晶体乳化吸引機序の解析などの研究に応用されている(三好ら8)).———————————————————————-Page9(45)あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??2.立体ビューワー観察システムモニター映像による手術は,外科領域ではすでに内視鏡手術として,広く臨床応用されている.眼科手術はきわめて微細であるうえに立体観察を要するために高精細立体映像システムは不可欠なものとなる.立体観察システムの方式には,偏光や赤緑信号を利用して左右の映像に画面を振り分け,偏光眼鏡や赤緑眼鏡で観察する方法などさまざまな方式がある.NHK放送技術研究所の望月らは,左右の顕微鏡観察映像を一つのハイビジョン画面の左右に配置して表示して,立体ビューワーで観察するシステム(図7)を開発している.長時間の観察を行っても他の立体ビューワーに比して疲れにくいのが特長である.左右の顕微鏡映像は,2組のCCDカメラ(カメラは通常のNTSCでも可能)で撮像して合成機を用いて1画面のハイビジョン映像に合成する方式(図7-2)と,アダプターレンズを用いて左右の映像を1台のハイビジョンCCDカメラに投影する方式がある(図7-1).ハイビジョンカメラで撮影される立体映像自体はかなり良好で,微細な手術操作も可能と思われるが,このシステムの実用化における今後の課題は小型で高精細のハイビジョンモニターの開発にかかっている.3.記録装置VHS,S-VHSなどのアナログビデオテープの映像は,複製,編集などにより映像が劣化するが,DVなどのデジタルビデオテープを用いて録画しておけば,手術ビデオの編集作業も画質の劣化がほとんど伴わずに容易に行えるようになった.近年,デジタル技術はさらに進み,DVDやブルーレイディスク,安価で大容量で高速のハードディスク(HDD)などのメディアに映像を直接記録したり,搬送に用いたりすることが可能となっていab左カメラ右カメラ右左2つのカメラからの映像をハイビジョン1画面に合成1)ab3)2)図7ハイビジョン立体映像撮影システム(望月,NHK)1)術者用顕微鏡の左右の観察光路からの2つの映像を1台のハイビジョンカメラに投影するビームスプリッター・アダプターレンズを用いたシステム(顕微鏡:ZEISSOPMIVISU200,ハイビジョンカメラ:SONYHDC-X300).a:カメラが大型であるため,ビームスプリッター・アダプターユニットを介して顕微鏡の後方に設置する.b:ハイビジョンカメラとステレオ・ビームスプリッター・アダプターレンズユニット.2)従来の小型CCD(NTSC)カメラ×2台で左右の顕微鏡映像を撮影し,1つのハイビジョン画面に映像を合成して表示するシステム(顕微鏡:TOPCONOMS800).3)ハイビジョン立体ビューワー(望月,NHK).1つのハイビジョン画面に表示された左右の顕微鏡映像を,立体ビューワー(プリズム+凸レンズ)で立体観察する.a:手術顕微鏡に接眼鏡と併設し,必要に応じてビューワーで観察する.b:見学者も術者と同じ立体映像を観察できる.———————————————————————-Page10??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(46)る.映像も,より高精細なハイビジョンの規格へと移行しつつある.以前はきわめて高額な映像機器を要した手術映像の編集作業も,今はパソコンで容易に行えるようになった.今後,手術顕微鏡整備を計画する際には,ハイビジョンデジタル映像記録を基調とした映像機器整備を併せて計画していく必要がある.4.医療画像の送信技術と遠隔医療への応用近年,インターネットの普及とともに,ADSL(asym-metricdigitalsubscriberline),光ファイバーなどによるデータの高速転送が可能となった.しかし,手術映像をはじめとする医療映像信号は,守秘されるべき個人情報であるため,それらの情報ネットワークを単純に利用して送受信を行うことはできない.ブロードバンド回線を利用した遠隔手術支援の実用化には,手術操作を行えるだけの高画質映像情報をリアルタイムに転送できること,ネットワーク接続が切断されないこと,通信のセキュリティーが保護されること,などが必要条件となる.映像が高精細になれば情報量が飛躍的に増大し,また,通信セキュリティー確保のための暗号強度の強化も,通信に遅延を生じるため,いずれも通信速度との干渉条件となる.東京医療センターと慶應義塾大学病院とは,和田らを中心とする外科チームが,シスコシステムズ,オリンパスプロマーケティング,フォーカスシステムズなどの技術協力を得て,外科内視鏡手術遠隔支援システムを構築し,倫理委員会の承認に基づいた実際の手術経験によるシステム検証を重ねてきている.音声情報による口頭指示や手術映像にペンで記入するなどの情報の付加もできるシステムとなっている.今後は,眼科手術へも応用し,さらに,光ファイバー回線を用いたハイビジョン立体映像システムへと発展させていく予定である.文献1)野田徹:眼底観察と前置レンズ.臨眼52(11):173-176,19982)野田徹:手術顕微鏡.眼科診療プラクティス71:32-40,20013)田野保雄,柏木豊彦,眞鍋禮三:高屈折率眼底観察用コンタクトレンズ.眼科手術1:161-165,19984)大路正人:硝子体手術とWideAngleViewingSystem.眼科手術11:321-327,19985)森田明夫,光石衛,割澤伸一ほか:深部脳神経外科支援ロボットMM1.Newton(日本語版)9:76-83,20046)野田徹:映像信号とそのデジタル化.眼科診療プラクティス33:84-87,19987)MiyakeK,OtaI,MiyakeSetal:Applicationofanewlydeveloped,highlysensitivecameraanda3-dimensionalhigh-de?nitiontelevisionsysteminexperimentalophthal-micsusrgeries.???????????????117:1623-1629,19998)三好輝行,吉田博則:超高速デジタルビデオカメラによる超音波チップの観察.眼科手術19:193-197,2006

網膜酸素飽和度画像解析の臨床応用

2007年1月31日 水曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS起こった結果」を観察していることになる.OCTなどにより,より上質な形態観察が可能となった現在,さらに必要な情報となるのは,網膜の機能や代謝に関するものであると強く考える.筆者らの教室では,眼底での酸素飽和度測定装置をイスラエルのAppliedSpectralImaging(ASI)社と共同開発し,酸化および還元ヘモグロビンを非侵襲的に定量的解析をすることに成功した.この装置を多様な眼底病変で臨床応用し,その測定の臨床意義を明らかにしているところであるが,これを確認するには多施設での測定が必須であり,まだ評価が定まったものではない.しかし,従来の画像解析では得られなかった,網膜を代謝の側面から検索するするものであり,今後の臨床応用の発展を期待しているものである.本稿では,測定装置の紹介と理論背景,および測定の実際について紹介し,その測定意義について考察する.I酸素飽和度測定装置を理解するための基礎知識本酸素飽和度測定装置の基礎となっているのは,Sci-ence誌に発表されたSpectralKaryotyping(SKY)に使用されてされている装置である.SKY法を簡単に紹介すると,本法では染色体を蛍光染色し,その染色情報24通りのアルゴリズムに基づきスペクトルデータを解析するものである.これにより,従来解析困難であった複雑な染色体異常が容易に検出ではじめに眼底の画像解析法の古典であり,現在もその情報量において比肩するものがないのは蛍光眼底造影法と考える.この検査法では,網膜血管の配列・形態とともに血行動態を微小循環のレベルで検索をすることが可能であるほか,血液網膜柵の評価などその情報は多彩である.蛍光眼底造影法は,有意な検査法であるが,唯一の問題点として蛍光色素を投与する必要があること,言い換えれば,侵襲的な検査法であることがあげられる.しかし,良質な微小循環の画像化は,情報の不足も意識させることになる.それが酸素飽和度の問題である.眼底での非侵襲での酸素飽和度測定の試みは,1989年にDeloriらによって報告されている.その後もその試みは散見されるが,測定範囲は眼底血管上の一点であったり,測定精度の問題もあり,研究レベルでの話題でしかなかった.近年コンピュータ技術の発展により,多量の情報を演算解析することが可能となり,新たな画像解析法が開発されている.これには,レーザー技術の発展も大きく寄与しており,従来観察できなかった透明組織を画像化することに成功している.これが光干渉断層法(OCT)であり,ポラリメータである.これらにより,網膜を組織切片を見るように観察することや,網膜神経線維層の厚さを測定できるようになった.これにより,眼底疾患の理解が飛躍的に深まったことは周知のとおりである.しかし,これによる情報は,形態の変化であり,「何かが(31)??*ShinYoneya:埼玉医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕米谷新:〒350-0495埼玉県入間郡毛呂山町毛呂本郷38埼玉医科大学眼科学教室特集●最新の網膜硝子体検査あたらしい眼科24(1):31~35,2007網膜酸素飽和度画像解析の臨床応用??????????????????????????????????????????????米谷新*———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(32)きるようになっている.スペクトル解析に重要なのがLamber-Beerの法則である.つまり,Lmaberの法則は,入射光の強度?0と透過光の強度?との比の対数が吸収物質の厚さ?に比例する実験則であり,一方,溶液による光の吸光係数が濃度?に依存することを表したのがBeerの法則である.これを併せたのがLamber-Beerの法則で,つぎのように表される.log10(?0/?)=e??.e??.が吸光度となる.(図3bを参照)II測定装置の紹介装置の基本は吸光分析法で,これにより眼底の色素の定性および定量的検索が可能である.筆者らの使用した装置は,イスラエルのASI社と共同研究開発したもので,眼底カメラ,サニアック型干渉計,CCDカメラとFourier変換などを行う解析プログラムをもったコン図1b装置の光路を示す概念図対象画像の有する波長情報を解析し,波長ごとのイメージ画像が得られることを示す.sesnelgnitamilloCrettilpsmaeBsrorrimgnidloFaremacDCCmrofsnarTreiruoFegamIlartcepSsegamImargorefretnIretemorefretnIcangaS(x1,y1)x1,y1,I(λ1(I,)λ2(I,…,)λn)λ1λ2λ3λ4λnλλ1)ebuClaniteR(URC図1a装置の全景眼底カメラ,その上にサニアック型干渉計とCCDカメラが搭載され,コンピュータシステムに測定結果が送られ,Fourierモジュールを使って演算される.———————————————————————-Page3(33)あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??ピュータシステムから構成される(図1a,b).眼底観察は画角20?および35?での観察と測定が可能である.480~640nmの範囲で,2nmごとのスペクトルデータの取得ができる.測定時間は6秒間であるが,アイトラッキングシステムが搭載されている.装置の簡単な原理について説明する.眼底からの光を2つの位相差のある光路に分け,それを干渉させることによりインターフェログラム(光路差による光の強度の変化を示したもの)が得られる.それをFourier解析を行い,1ピクセルごとに眼底から反射してきた光の波長成分と強度を測定する.ヘモグロビンの酸素飽和度を評価するにあたっては,酸化および還元ヘモグロビンの標準吸光曲線をこの強度,すなわち光学濃度(OD)に数学的に変換する(図2a,b).この変換の基本は上述したLamber-Beerの法則によるものである.酸化および還元ヘモグロビンの比率が酸素飽和度になるが,これはその光学濃度と比例的な関係を示す.標準ヘモグロビン光学濃度と,測定された波長の光学濃度をコンピュータ上でフィットさせ,各ピクセルにおける酸素飽和度を算出する(図3).この各ピクセルで算出された酸素飽和度は,0~100%までを濃い青から赤までのカラーバーを使って表示し,その結果を対応する眼底画像の上にダブらせる.したがって,その測定結果は眼底画像上にカラーマッピングされる(図4).図4は,網膜中心静脈閉塞症の2症例と,そのうちの一症例の対側眼の所見を示す.症例1(図4a)では網膜浅層を中心に,べったりとした大きな網膜出血斑が後極部眼底にみられる.その蛍光眼底造影所見では,網膜静脈の拡張・蛇行が顕著であり,視神経乳頭面や網膜面で,血管壁からの蛍光漏出が観察される.静脈閉塞は高度であり,網膜血管床も後極部一帯で閉塞している.こ図2a酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンの吸光特性60,00050,00040,00030,00020,00010,0000500:HbO2:Hb吸光度[1/(cm×M)]波長(nm)520540560580600620640図2b網膜からの反射光に含まれる,ヘモグロビンに相当する光学濃度基準曲線図2aから,酸化ヘモグロビンの光学濃度を算出したものに図2bをフィットさせ,酸素飽和度を算出する.65060055050000.511.522.5波長(nm)光学濃度b:光学濃度(OD)の算出DOR+A(λ)=l(gol-R+Al/W)DOR(λ)=l(gol-Rl/W)(DOλ:)度濃学光lR+A(λ:))部脈動膜網(度強ルトクペスlR(λ:))部膜網景背(度強ルトクペスxelferlarelcSDOR+ADORaniterdiorohcarelcsaaniteRyretralR+A(λ)lW(λl)R(λ)図3光学濃度算出のための光路図(a)と理論式(b)———————————————————————-Page4??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(34)ab図4網膜中心静脈閉塞症(a,b)と健常対照眼(c)における酸素飽和度測定結果1ピクセルごとの酸素飽和度が,色表示されている.カラーバーに対応した酸素飽和度を示し,青から赤に行くに従って酸素飽和度は高くなる.閉塞の重症度に従って,後極部眼底の酸素飽和度は低いことが理解される.bでは,青く染まった中に,赤い点が線状に並び,網膜動脈と一致している.本装置の解像度は,網膜細動脈を描出するにはまだ不十分であることも理解される.c———————————————————————-Page5(35)あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??れに対応する波長解析による酸素飽和度測定の結果では,後極部は,濃い青で塗りつぶされており,高度の低酸素飽和度状態になっていることは一目瞭然である.これに対して症例2(図4b)では,高度の循環障害はあるが,網膜静脈からの蛍光漏出は顕著であるが,血管床閉塞は,黄斑耳側の一部で観察されるのみである.この症例の酸素飽和度測定結果では,酸素飽和度約50%を示す明るい青を主体に観察され,その中にまだらに,酸素飽和度40%以下を示す濃い青が島状に存在する.網膜動脈に一致して黄または赤の点が線状に配列している.この患者の対側眼(図4c)では,蛍光眼底造影上視神経乳頭周囲には著変なく,その一致する部位での酸素飽和度測定結果では,70%から100%近い酸素飽和度を示す黄から赤の点で塗りつぶされているのが観察される.網膜動脈枝に一致して赤点が配列している.筆者らのカラーマッピング法導入前に行った予備実験では,視神経乳頭近傍の網膜動脈はほぼ100%,静脈では70%で算出され,再現性のある測定ができることを確認している.III眼底での酸素飽和度測定の意義と問題点眼底での低酸素状態は,臨床的に直接検査する手段はなく,従来は蛍光眼底造影法で血管床閉塞の有無をみて間接的に乏血状態を定性的に評価していた.筆者らの開発した波長解析法による評価の最大の特徴は,非観血的な観察が可能な点である.そして,ここで臨床例をあげたように(図4),眼底局所の変化は蛍光眼底造影法での結果にほぼ対応するするが,その後の多彩な臨床例での検索では,その情報の質は,蛍光眼底造影法で得られるものとは別物であるとの感触を得ている.つまり,本法で表される酸素飽和度は,供給される酸素と消費された酸素の差を測定しているものであるため,局所の組織活性度?が結果に反映されていると考えている.これは,健常若年者と老年者との比較より,若年者で眼底後極部での酸素飽和度は老年者のそれに比べて低い,という結果より筆者らが推測をしていることである.また,血流量の測定結果とも必ずしも一致していない.これらの事実は,網膜循環だけでなく,網膜を代謝の面から検索可能であることを示唆していると考えられる.本装置の有用性については,多施設での評価が必要であり,まだ研究の緒についたばかりである.しかし,網膜酸素代謝を指標とした,網膜疾患を検索する新しい画像診断装置であると理解しており,今後の発展が期待される.文献1)YoneyaS,SaitoT,NishiyamaYetal:Retinaloxygensaturationlevelsinpatientswithcentralretinalveinocclusion.?????????????109:1521-1526,20022)BrindleyGS,WilmerEN:There?exionoflightfromthemacularandperipheralfundusoculiinman.?????????116:350-356,19523)vanNorrenD,TiemeijerLF:Spectralre?ectanceofthehumaneye.??????????26:313-320,19894)DeloriFC,P?bsenKP:Spectralre?ectanceofthehumanocularfundus.??????????????28:1061-1077,19895)CabibRA,BuckwaldY,GariniYetal:SaptiallyresolvedFouriertransformspectroscopy(spectralimaging):apowerfultoolforquantitativeanalyticalmicroscopy.????2678:278-291,1996

眼循環検査(HRA2を用いて)

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———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS画角15?で16フレーム/秒と多く,動画撮影にはこちらのほうが適している.I眼循環をみるために必要な機能1.動画動画が必要とされるのは,血管閉塞性疾患における血流動態の把握,加齢黄斑変性(AMD)における新生血管の流出入血管の検出,ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)におけるポリープ状病巣の拍動の有無の確認など,さまざまな用途がある.動画の連続撮影時間は,1秒からコンピュータのメモリがフルになるまで(約1分弱)に設定することができる.また,撮影した動画をExpandし,動画内のすべての画像を単一画像としてみることがはじめにHRA2(HeidelbergRetinaAngiograph2)(図1)は,デジタルでフルオレセイン蛍光造影(FA),インドシアニングリーン蛍光造影(IA)を撮影する共焦点走査レーザーシステムで,FA,IA単独,もしくは同時に実行することができる眼底造影撮影装置である.この器械の最も優れた点は,静止画,動画ともに解像度の高い詳細な所見を得ることが可能なことである.造影画像はそれぞれ384×384,もしくは1,536×1,536画素の解像度でデジタル化され,コンピュータのハードディスクに保存される.視野走査サイズは標準装備の対物レンズで15?×15?,20?×20?,30?×30?に設定できるが,オプションでより広角な眼底像を得られる55?ワイドフィールドレンズという対物レンズを設置すると,55?×55?と広範囲の眼底造影画像を撮影することができる.さらに,接眼式の広角レンズを用いると,画質はやや落ちるものの,画角150?で動画,静止画ともに撮影することができる.スキャン解像度は,高画質モードと高速モードの2種類から選択でき,高画質モードはデジタル解像度5?m/pixelで,画像サイズは画角30?で1,536×1,536pixelと解像度の高い画像を得ることができる.この場合,取り込み速度が画角30?で5フレーム/秒と少ないため,静止画の撮影に適している.一方,高速モードはデジタル解像度10?m/pixelで,画像サイズは画角30?で768×768pixelと高画質モードより解像度はおちるが,取り込み速度が画角30?で9フレーム/秒,(23)??*ChiekoShiragami&FumioShiraga:香川大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕白神千恵子:〒761-0793香川県木田郡三木町大字池戸1750-1香川大学医学部眼科学教室特集●最新の網膜硝子体検査あたらしい眼科24(1):23~29,2007眼循環検査(HRA2を用いて)??????????????????????????????????????????????????????????????????白神千恵子*白神史雄*図1HRA2のカメラ本体とコンピュータ———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(24)できる.そこで,瞬目などによる不要な画像を削除することが可能で,さらに眼の動きを補正する機能(AlignMovie)も備わっている.2.FA,IA同時撮影FA,IAの同時撮影をすると,同時期に同部位のそれぞれの画像を一つのモニターで並べてみることができる.同時撮影静止画像の画面上で,FA,IAのどちらかの画像上の一カ所にカーソルを合わせると,もう一方の眼底像の同部位に指標がでるので,FAとIAの同時画面上同じ部位を同時に示すことが可能である.AMDではIAで検出される脈絡膜新生血管の範囲,PCVではIAで検出されるポリープ状病巣の位置などの確認が,FA画像上の網膜血管や中心窩をランドマークにすることによって容易であり,レーザー光凝固などの治療の際に非常に有用である.また,網膜静脈閉塞症において,FAでは出血などによって網膜血管の蛍光が遮断され,血管の走行や閉塞部位が不明瞭になることがあるが,IAは網膜出血の影響をあまり受けず,網膜血管の走行が比較的明瞭に描出されるため,FA,IAの同時撮影を行うと病態をより把握しやすくなる.3.画像処理コンピュータ内蔵のソフトにて,さまざまな画像処理,画像操作を行うことができる.まず,撮影画像をより鮮明な画像にするために,コントラストや明るさの調整,画像ノイズの処理,輪郭強調を調整することができる.また,角膜曲率半径の入力が必要であるが,画像上で距離や面積の測定ができるため,病変の面積や最大径,血管径などの測定ができる.さらに,眼底広範囲の造影写真を撮影した場合,それらの画像を選択してコンポジット処理を行うと,瞬時にパノラマ写真が合成される機能も備わっている.4.広角撮影標準装備のカメラの対物レンズは拡大が大きいため,黄斑疾患など血管アーケード内に主体病巣がある症例には適しているが,ぶどう膜炎,糖尿病網膜症など広範囲の撮影が必要なときは,静止画なら前述のコンポジット機能を用いる方法もあるが,オプションの55?ワイドフィールドレンズの対物レンズを使用すると,55?画角で動画,静止画ともに撮影できる.また,接眼式の広角レンズ(Staurenghi230SLORetinaLens,Ocular)を用いると,画角150?と広範囲の画像(図2)を撮影することが可能で,眼底全体の造影所見を一度に確認できる.II疾患別眼循環検査1.AMDa.栄養血管(FV)(図3)AMDにおいて,脈絡膜新生血管に血流を供給する動脈系のFVが検出されることがあり,栄養血管光凝固治療を行うことがある1).FVを検出するためにはIAの造影早期における動脈相の動画が必要である.高速モードで撮影すると,Rodenstock社製走査レーザー検眼鏡(SLO)で撮影したアナログ動画と同等のデジタル動画を得ることができ,さらに動画画像を高解像度の単一画像としてもみることができる.動画を1フレーム/秒で動くように設定すると,ビデオのコマ送りと同様にスローモーションで動画を読影することができるため,図2画角150?のIA画像接眼式の広角レンズ(Staurenghi230SLORetinaLens,Ocular)を用いて画角150?で撮影したポリープ状脈絡膜血管症のIA写真.———————————————————————-Page3(25)あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??FVの検出の際には,たいへん役に立つ.また,FA,IAの同時撮影を行った同時画面において,IAにて検出されたFVの起始部の位置をFA画像上でマーキングすることが可能で,治療の際にFA画像上での網膜血管の位置をランドマークにすることが容易となる.b.PCVのポリープ状病巣の拍動PCVは,IAにて,まず異常血管網が造影され,ついでその先端が瘤状に拡張したポリープ状病巣がみられるのが典型例である.PCVの活動性を判断する際に,ポリープ状病巣の拍動の有無は重要である.拍動のあるポリープ状病巣は自然経過でも破裂して大出血を生じやすいため,早めにレーザー治療などの出血予防処置をしておいたほうがよい.ポリープ状病巣の拍動をみるにはIA造影早期の動画が必要であるが,HRA2で撮影すると拍動の細かい動きも確認することができる.c.網膜血管腫状増殖(RAP)の網膜流出入血管RAPは網膜内に血管腫状の新生血管が発生し,網膜細動静脈と吻合して新生血管が発育していく疾患であ図3加齢黄斑変性のIA画像a:造影早期動脈相に脈絡膜新生血管(CNV)の栄養血管(FV)(矢印)が造影されている.b:静脈相になるとFVは不明瞭となり,CNV全体の新生血管網が明瞭に造影されている.ab図4網膜血管腫状増殖(retinalangiomatousproliferation:RAP)RAPの症例は,網膜の流出入血管の同定はFA(a)のほうがわかりやすく(矢印:流入動脈,矢頭:流出静脈),新生血管の範囲(矢頭)はIA(b)のほうがわかりやすい症例が多い.ab———————————————————————-Page4??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(26)る2)が,RAPと診断するためには造影検査によって網膜血管と新生血管の吻合を検出することが重要である.RAPの症例では網膜の流出入血管の同定はFA,新生血管の範囲はIAのほうがわかりやすい症例が多い(図4)ので,FA,IAの同時撮影を行い両画像の動画をみることによって診断が容易となる.d.光線力学的療法(PDT)後の脈絡膜血管の循環障害AMDに対しPDTを施行すると,ほとんどの症例において術後1週目頃にはレーザーの照射範囲がIAにて低蛍光を示しており,一時的に脈絡膜毛細血管や脈絡膜中大血管の一部が閉塞するものと考えられる(図5).このIAでの低蛍光の所見は造影早期から晩期にかけて認められ,脈絡膜循環障害であることを示している3).2.特発性黄斑部毛細血管拡張症(idiopathicmaculartelangiectasia)この疾患は,黄斑部の網膜毛細血管が拡張し,あるいは毛細血管瘤を形成して,血管壁の透過性が亢進し黄斑図5光線力学的療法(PDT)後の脈絡膜血管の循環障害ポリープ状脈絡膜血管症の症例で,典型的な瘤状に血管が拡張したポリープ状病巣を術前のIA(a)が示している.PDT施行後1週のIA(b)では,レーザーの照射野に一致して脈絡膜毛細血管の閉塞によると考えられる低蛍光の所見がみられる.abab図6特発性黄斑部毛細血管拡張症この疾患の診断にはFAの造影早期にみられる網膜毛細血管の拡張や毛細血管瘤が必要であるが,FAでは造影後期になると毛細血管からの蛍光漏出が強く(a),加齢黄斑変性などと鑑別がむずかしくなる.一方,IA(b)は網膜血管からの造影剤の蛍光漏出が少ないためこういった疾患の診断には有用である.———————————————————————-Page5(27)あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??浮腫が生じることによって,中心視力が低下する疾患である4).診断にはおもにFAの造影早期を用いるが,FAは造影後期になると蛍光漏出が旺盛なため(図6a),AMDや黄斑分枝静脈閉塞症などと診断を誤る症例も少なくない.FAにて造影早期の写真がきれいに撮れていれば問題はないが,IAで撮影すると造影剤の血管外漏出がほとんどないため,造影開始後ある程度時間がたっても網膜血管の走行が明瞭に確認でき(図6b),診断には有用である.3.多発性消失性白点症候群(MEWDS)MEWDSは眼底後極部から赤道部にかけて網膜深層に白色の滲出斑が多発性散在性に生じる炎症性疾患である.FAにおける過蛍光の部位に一致して,IAでは造影早期から晩期まで低蛍光を示す(図7).HRA2は,FAとIAの同時撮影ができることと,造影早期から晩期の造影画像が鮮明なことから,MEWDSなどぶどう膜炎の診断にも有用である.また,眼底広範囲に病変があるので,55?ワイドフィールドレンズを用いて撮影す図7多発性消失性白点症候群の蛍光眼底所見a:FA,IA同時撮影(造影早期).白点病巣はFA(左)にて過蛍光,IA(右)では低蛍光を示す.b:白点病巣のIA所見は造影早期から後期までの低蛍光である.ab図8網膜静脈分枝閉塞症a:造影開始後16秒のIA.網膜動脈のみ造影されている.b:造影開始後18秒のIA.閉塞した網膜静脈の血管壁が染色されている.c:造影開始後25秒のIA.閉塞血管は拡張,蛇行し,循環時間は著しく遅延している.また,網膜循環の側副血行(矢印)が形成されている.abc———————————————————————-Page6??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(28)るほうが病態全体を把握しやすい.4.網膜静脈閉塞症a.循環時間IAは網膜出血や滲出斑による蛍光ブロックの影響がFAに比較すると少なく,造影剤の血管外漏出も少ないため,網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)では,IAの動画撮影によって血管の閉塞部位の検出が容易となる.また,血管の閉塞部位より末?側での側副血行路の形成がしばしば認められるが,これもIAの動画にて静脈の血流を確認できるため検出しやすい(図8).それらの動画を高解像度の単一画像の静止画としてみることもでき,網膜循環の詳細を1枚ずつ読影することが可能である.b.治療前後の血管径の変化画像操作ツールを用いて網膜血管径を測定することができるので,網膜静脈閉塞症に対する治療の前後における血管径の変化を定量的に把握することができる(図9).c.網膜中心静脈閉塞症(CRVO)CRVOは病変が広範囲であるので,55?の広角レンズを用いて造影検査を行うのがよい(図10).FAでは造影早期から強い蛍光漏出を示し,出血や滲出斑によって網膜血管の走行が不明瞭となるが,IAを施行するとそれらの影響をあまり受けないため,網膜血管の拡張,蛇図9網膜静脈閉塞症の血管径の変化a:拡張した網膜静脈の血管分岐部における血管径をIA画像上測定したところ,0.23mmであった.b:同症例に硝子体手術を施行後,同部位の血管径を測定すると,0.16mmと細くなっていた.0.16mm0.16mm0.23mm0.23mmab図10網膜中心静脈閉塞症(CRVO)CRVOに55?ワイドフィールドレンズを用いて造影検査を行うと,FA(a)では造影早期から強い蛍光漏出を示し,また出血や滲出斑によって,網膜血管の走行が不明瞭となる.一方,IA(b)はそれらの影響をあまり受けないため,網膜血管の拡張,蛇行などの状態を把握しやすい.ba———————————————————————-Page7(29)あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??行などの状態を把握しやすい.5.網膜細動脈瘤前述したように,FAは網膜出血の影響で網膜血管の走行や形状が不明瞭となるが,IAはあまり影響を受けないため,網膜前出血のある症例での細動脈瘤の部位の同定にIAは有用である(図11).特に,造影早期の動画でみると,活動性のある細動脈瘤では拍動が確認できる.おわりにHRA2の特徴は,鮮明な画像を動画,静止画ともに撮影することが可能で,さらに動画を連続した単一画像としてみることができることから,さまざまな病変における部位の同定,範囲の把握,また脈絡膜血管の異常,ランドマークとしての網膜血管走行などを明瞭に検出できることである.特に,IAの施行はメリットが多く,FAだけでは不明瞭な病変や網膜血管を検出できるので,循環検査には有用である.HRA2を用いた眼循環検査では,疾患や造影検査の目的に合わせてFA,IAの同時撮影,広角レンズを用いた広角撮影,造影早期の動画撮影を行うことが必要である.文献1)ShiragaF,OjimaY,MatsuoTetal:Feedervesselphoto-coagulationofsubfovealchoroidalneovascularizationsec-ondarytoage-relatedmaculardegeneration.??????????????105:662-669,19982)YannuzziLA,NegraoS,IidaTetal:Retinalangiomatousproliferationinage-relatedmaculardegeneration.??????21:416-434,20013)Schlotzer-SchrehardtU,ViestenzA,NaumannGOetal:Dose-relatedstructurale?ectsofphotodynamictherapyonchoroidalandretinalstructuresofhumaneyes.????????????????????????????????240:748-757,20024)YannuzziLA,BardalAM,FreundKBetal:Idiopathicmaculartelangiectasia.???????????????124:450-460,2006図11網膜細動脈瘤網膜前出血のある症例では,FA(a)では出血による蛍光ブロックのため細動脈瘤の部位が不明だが,IA(b)では出血の影響をあまり受けないため細動脈瘤(矢印)の部位が特定できる.ab

光干渉断層計/走査レーザー検眼鏡(OCT/SLO)の実際

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———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSめ,検査室の四隅にも設置可能である.検査は,短時間で簡単にでき,被検者に無侵襲なため,研修医やスタッフが使用しても必要な病変部位を容易に撮影できる.光源は,波長820?mのスーパールミネセンスダイオード(SLD)を用いており,被検者の羞明感がない.眼底画像,OCT断層像を同一光源で取得することで,位置情報を正確に把握することが可能となる.散瞳不良症例(3mm以上の瞳孔径)の撮影にも有効である.OCT画像の解像度は,Z軸:9??m,X-Y平面:18?mで,断面層厚は最大6mm(可変)であるが,通常1.5mmを使用している.撮影範囲は,最大30?×30?(可変)で,初期値は24?×24?となっている.スキャン速度は,C-scan:2~32フレーム/秒,B-scan:1または2フレーム/秒で,固視に問題がない場合は,C-scan:2フレーム/秒,B-はじめに光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)により,非侵襲的に網膜断層像を,顕微鏡で組織切片を見るように観察可能となった.2002年には分解能が向上したOCT3000がCarlZeissMeditecから製品化された.しかし,このOCT装置では二次元情報が主であり,三次元化のためにはスキャン部位をかえて数10~数100枚の画像を取得後,ボリュームレンダリングなどの技術で再構築する必要がある.測定に長い時間を要し,アライメントも煩雑となり,高精度の三次元画像の構築はできないのが実状であった.1998年,Kent大学のPodoleanuらによって,二次元的にOCT像を取得する方法が考案され1),この原理を用いることにより三次元的に網膜を評価する可能性が生まれた.2003年になると,OTI社から走査レーザー検眼鏡(scanninglaserophthalmoscope:SLO)とOCTとを組み合わせて断層像を評価できるOCT/SLOが製品化された.この装置の特徴として,従来のOCT画像と同様の断層像(B-scan)を得ることもできるが,眼底と平行面のスキャン(C-scan)を重ね合わせて,三次元の画像を得ることができる.日本では(株)ニデックからOCTオフサルモスコープ(C7)として市販化されている.IOCTオフサルモスコープ(C7)の概要C7のシステムは測定器本体,液晶モニタ,コンピュータ本体,プリンタからなる(図1).対面式ではないた(15)??*YujiKato,SatoshiIshiko&AkitoshiYoshida:旭川医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕加藤祐司:〒078-8510旭川市緑が丘東2-1-1-1旭川医科大学眼科学講座特集●最新の網膜硝子体検査あたらしい眼科24(1):15~21,2007光干渉断層計/走査レーザー検眼鏡(OCT/SLO)の実際????????????????????????????????????????????????????/?????????????????????????????(???/???)??????加藤祐司*石子智士*吉田晃敏*図1OCTオフサルモスコープの撮影風景———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(16)scan:1フレーム/秒で使用している.B,C-scan像ともグレースケールと疑似カラー両者の表示が可能である.B,C-scanの撮影モードのほかに,立体撮影による網膜厚の評価も可能である.II測定方法と検査データの読み方1.C-scan眼底に平行な面(X-Y面)としての断層像を得ることができる.1スライスの厚さ,スキャン幅は可変であるが,通常は厚さ(Stackthickness)30??m,スキャン幅(Stackdistance)1,500??mで撮影している(図2).この場合,50枚のC-scanが得られる.このC-scan連続OCT像から,奥行きのある立体的な像が構築できる.また,SLO画像とC-scan画像はpixeltopixelで対応しているので,重ね合わせることで正確に病変部位を評価,確認できる(オーバーレイ機能).スキャン範囲は面であるが,眼底が凹に弯曲していることをイメージして読影する必要がある.C-scanは網膜水平方向の断面を表し,最も高反射となるラインが網膜色素上皮層で,正常者では同心円に描出される.円の外側が網膜色素上皮より深層,つまり脈絡膜で円より内側が感覚網膜である.網膜色素上皮層との位置関係により病変部の形状,大きさ,深さの情報を得ることがC-scan読影上のポイントである(図3).2.B-scan光軸方向のスキャンの幅は通常は1.5mm幅で,網膜?離や後部ぶどう腫など丈の高い疾患ではスキャン幅を大きくできる(図4).得られる画像は従来型OCTと一見同じである(図5)が,そのスキャン方法に違いがある.従来型OCTはA-scanを合成して断層像を得てい図2C-scan奥行き方向に任意の間隔で設定可能.疾患部の大きさ,位置,形状を考慮して設定する.図3正常者のOCTオフサルモスコープ所見左:共焦点画像,右:C-scan.最も高反射となるラインが網膜色素上皮で,正常者では同心円状に描出される.図4B-scan深さ方向(Z軸)に6mmまで測定範囲を切り替え可能.疾患部の大きな症例も逃さず撮影できる.図5正常者のOCTオフサルモスコープ所見(B-scan)視神経乳頭から黄斑部まで走査した.B-scan画像は網膜断面の各層をわかりやすくするため,深さ(高さ)方向を拡大表示している(上段).下段は縦横比1:1で表示した場合.———————————————————————-Page3(17)あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??るが,C7では,まず横方向(一眼底平面,X,Y方向)に高速でスキャンし,つぎにリファレンスミラーを奥行き方向へ動かすことでB-scan像を取得する(図6).断従来のOCTOCT/SLOX-YaxisZaxisMultipletransversal-scansMultipleA-scans図6断層像の取得方法従来のOCTはZ軸方向にスキャンした像を合成して眼底断面像を得ている.OCT/SLOは,水平方向にスキャンし,つぎにリファレンスミラーを奥行き方向へ動かすことで断層像を得ている.共焦点画像B-scan図73D-クロス表示図8共焦点画像とトポグラフィー固視のずれなどがあっても眼底の画像を見ながら任意の測定部位を探すことが可能である.図9Zone解析中心1mmの平均網膜厚,周辺3mmの平均網膜厚を表示する.従来のOCTのRetinalMapと比較するのに有用である.512×512の測定点を有しているので,マウスポインターを置くと,ピンポイントで網膜厚を表示することも可能である(矢印).図10トポグラフィー画像の3D表示(網膜色素上皮?離)ウインドウ上でのマウス操作により,表示の向きや傾きが変化し,三次元的に病巣部を捉えることが可能となった.———————————————————————-Page4??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(18)面位置の角度の変更も光軸中心に15?間隔で回転する.断面位置の上下・左右の変更も可能なため,共焦点画像を見ながら,C-scanで得た情報を基に,病変部を見落とすことなくB-scanを行うことが可能である.また,共焦点画像とB-scan像を3D-クロス画像として表示すると,患者への説明やプレゼンテーションに有用である(図7).図12症例1:硝子体黄斑牽引症候群のB,C-scanB-scan(上段)では,肥厚した後部硝子体膜に黄斑が牽引(↑)され,網膜?離が生じている様子が描出される.①の断面でC-scanを行うと(下段左),後部硝子体膜による網膜牽引の様子が,②の断面では網膜?離の広がりが理解しやすい(下段右).RPE:網膜色素上皮.①①②②網膜?離RPEC-scanC-scanB-scanオーバーレイオーバーレイ図11トポグラフィーのCompare機能上:網膜厚の増減を治療前後や,経時的な網膜厚の変化を詳細に把握することが可能.同一ポイントで比較できるように共焦点画像を参照して位置合わせを行う(ALIGN).下:2つのトポグラフィーのずれを自動補正した後,網膜厚の変化をマッピングするとともに,平均網膜厚差を表示する.初診時治療経過観察後———————————————————————-Page5(19)あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??3.トポグラフィー撮影(FastTopographyStack)網膜厚をC-scan画像を用いて詳細に計測できるモード.従来のOCTでの網膜厚測定は,B-scanを数枚撮影してカラーマップを作成するが,それに比べデータ量が豊富である.512×512の測定点をもっている.この豊富なデータ量を利用することで,共焦点画像を参照し確認しながら(図8),Grid解析(64分割の小エリアでの平均網膜厚を表示),Zone解析,ピンポイント解析で黄斑部の網膜厚測定が可能となる(図9).またトポグラフィー画像はRender表示(3D)によりあらゆる面から立体的に病変のOCT像が観察できる(図10).Com-pare機能を用いると,網膜厚の経時変化を定量的に計測することができる.同一ポイントで比較できるように位置合わせを行い,変化部位のカラーマップ表示と平均変化量の表示を行うことが可能である(図11).IIIOCT/SLO像?異常所見とその解釈従来のOCTから得られた知見は多くの論文や書籍で述べられている2,3).本稿では,いくつかの網膜硝子体疾患についてOCT/SLO像を,症例呈示し供覧する.図13第3期黄斑円孔のOCT/SLO所見上段のC-scanでは,円孔周囲に放射状に広がるHenle層の皺襞が花弁状に円孔を取り囲んでいるのが描出される.下段は中心窩を通るB-scanの水平断(0?).円孔周囲の網膜内層間分離を認め,蓋が後部硝子体皮質に付着して黄斑部に浮遊している.B-scanには,キャリパー機能もあり網膜色素上皮から蓋までの距離は0.9mmである.図14症例3:原田病の初診時眼底像(a)およびOCT/SLO所見(b)a:網膜?離は複数の?離が癒合した形を取っている(46歳,女性,視力0.2).黄斑部を含む類円形の網膜?離の断層像を矢印上で観察した.b:B-scan水平断(0?)では,網膜下腔に線状のOCT反射がある.B-scan(90?)では,2つの?離が接しており,この間の網膜に高度の?胞状の浮腫を認める.C-scanでは,漿液性網膜?離が近接しており,病変の広がりを確認することができる.ab共焦点画像C-scan感覚網膜網膜?離網膜?離RPEB-scan(0°)B-scan(90°)———————————————————————-Page6??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(20)症例1:硝子体黄斑牽引症候群図12は増殖糖尿病網膜症の症例である.部分的に?離した硝子体皮質が黄斑部網膜を牽引している様子が描出される.C-scanでは,X-Y面での後部硝子体膜や網膜?離の広がりがわかる.症例2:黄斑円孔黄斑円孔は,OCTでその形成過程を鮮明に描出できる.硝子体皮質の薄い?離は,細隙灯顕微鏡でも通常は観察困難で,OCTがその同定には不可欠である.図13は第3期黄斑円孔のC7の結果で,蓋が後部硝子体皮質に付着して黄斑部に浮遊している画像である.症例3:原田病(図14)原田病の急性期では後極部に漿液性網膜?離が生じる.OCT/SLOを用いることにより,網膜?離の広がりを鋭敏に捉えることができる.症例4:加齢黄斑変性(図15)加齢黄斑変性の脈絡膜新生血管(choroidalneovascu-larization:CNV)は,Gassが病理学的に2タイプに分類している4).網膜色素上皮(RPE)下に脈絡膜血管由来の新生血管が発育するタイプ(type1)とRPEの上に新生血管が発育するタイプ(type2)である.蛍光眼底造影検査とあわせ,OCT/SLOはこのような網膜外層の病理を考えるうえで非常に有用である.図15症例4:加齢黄斑変性の初診時眼底像(a),フルオレセイン蛍光眼底造影(b)およびOCT/SLO所見(c)a:網膜下に線維化の進行したtype2新生血管が見られる.b:フルオレセイン蛍光眼底造影.新生血管は早期に網目状を呈し,後期に組織染を示す.バーはOCTのB-scan部位.c:B-scan.RPEの高反射層の断裂様所見を認め(↑),網膜下に突出し,高反射の線維血管膜を認める.感覚網膜には?胞様黄斑浮腫(CME)を認める.CNV:脈絡膜新生血管,RPE:網膜色素上皮.acb共焦点画像C-scan感覚網膜硝子体腔脈絡膜CNVCNVRPEの断裂CMEB-scan(0°)RPE———————————————————————-Page7(21)あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??おわりにOCT/SLOは従来までのOCTとは異なり,網膜表層画像(共焦点画像)と,断面画像(C-scan画像)を同時に取得することで,今まで断層でしか観察できなかった症例を三次元表示させることが可能となった.今後のソフトウエアの改良で,体積が数値化できるため,客観的な診断,評価が可能となり,治療法の選択やインフォームド・コンセントなどに有用な装置となる.さらに,retinalnerve?verlayer(RNFL,網膜神経線維層)の解析がすでに可能となっており,緑内障分野にも活用される.また,インドシアニングリーン(ICG)蛍光眼底造影の搭載したOCT/SLO/ICGの開発も進んでいる.眼底病変を三次元,さらに眼循環などの機能検査と組み合わせて評価する時代が現実になろうとしている.文献1)PodoleanuAG,SeegerM,DobreGMetal:Transversalandlongitudinalimagesfromtheretinaofthelivingeyeusinglowcoherencere?ectometry.?????????????3:12-20,19982)岸章治(編):眼科診療プラクティス78,OCTの読み方,文光堂,20023)飯田知弘:光干渉断層計.あたらしい眼科21:319-323,20044)GassJDM:Biomicroscopicandhistopathologicconsider-ationsregardingthefeasibilityofsurgicalexcisionofsub-fovealneovascularmembranes.???????????????118:285-298,1994

眼底OCT技術の進歩

2007年1月31日 水曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSer)ドメインOCTである.以上の製品化の流れは,多くの眼科医の経験してきたところであるが,ここにきて「タイムドメインOCTの限界」や「次世代OCTとしてのフーリエドメインOCT」などと難解な光学技術用語が出てくるに至り,多くの眼科医の先生方の思考は麻痺するのではないか.「OCTの進歩」を考えるとき,計測技術としてのOCT技術の研究の背景を知ることにより,むしろ今後のOCTの理解が容易になると思われる.ここでは,「OCT=OCT2000またはOCT3000」という経験上の固定概念を崩し,「OCTは光により物の断層像を描出する技術の一つ」という原点に立ち返り,それにより,OCT2000の登場は序章にすぎなかったこと,今後OCT装置に大きな展開があるという理解を共有したい.IOCTという技術の成り立ち光は粒子であるとともに波の性質も有する.生体を通過あるいは反射した光波は,生体組織の多重散乱などの影響で乱雑な波面を形成する.この光が生体から受ける乱れのなかにこそ,実は生体組織の豊富な情報が詰まっている.生体組織の影響を受けた光波面を直接検出し画像化する(イメージング)ことができれば,生体組織のさまざまな情報が得られると期待されるが,残念ながら現存する検出器(detector)の速度が幾桁も不足し,現時点でも近未来にも「光の直接イメージング」は見込みが立たない.その代わりに,光のもつコヒーレンス(可はじめに光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)は,眼科診療にかなり浸透したといえるが,その歴史はコンピュータ断層撮影(CT)や磁気共鳴画像(MRI)に比べるとまだ浅い.国内では1997年にHumphrey社(現在CarlZeissMeditec)から最初のモデルOCT2000が発売された.群馬大学の岸らが,第1号機を購入し,OCTの臨床的意義を広めたことは記憶に新しい.OCT2000は,網膜断層を内層・外層が議論できる程度に可視化し,さまざまな病変の断層イメージを提供し,眼底疾患の診断に革命的進展をもたらした.特に,網膜硝子体界面と中心窩病変の描出により黄斑円孔の病態解明と病期決定において疾患概念を変える知見をもたらした.また,実際の臨床においては,黄斑円孔手術後の円孔閉鎖の有無を容易に確認できるようになり,網膜厚計測とマッピングにより糖尿病黄斑症や網膜静脈閉塞症における黄斑浮腫の治療効果の評価にも不可欠となった.2002年に発売となったStratusOCT(OCT3000)は,深さ分解能(axialresolution)が10?mへ向上したが,技術的にはマイナーチェンジであり,眼科診療に変革をもたらすほどではなく,発売から10年が経過し,計測精度,病変描出力,撮影速度などにおいて限界が指摘されるようになった1).これは,従来のOCT製品が用いていたOCT技術であるタイムドメインOCT(timedomainOCT)の技術的限界でもある.そして,現在次世代のOCTとして注目されているのがフーリエ(Fouri-(3)?*MasanoriHangai:京都大学大学院医学研究科運動感覚系外科学眼科学〔別刷請求先〕板谷正紀:〒606-8507京都市左京区聖護院川原町54京都大学大学院医学研究科運動感覚系外科学眼科学特集●最新の網膜硝子体検査あたらしい眼科24(1):3~13,2007眼底OCT技術の進歩??????????????????????????????????????????????????????????板谷正紀*———————————————————————-Page2?あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007干渉性)という波の性質に着目し,組織からの反射光(後方散乱光)と参照光の時間領域の干渉を検出し,後方散乱光が有する生体情報を間接的に検出し画像化する技術,いわば「光の間接イメージング」が,opticalcoherencetomographyである2,3).この原理を最初に提案したのが山形大学の丹野らであり,1990年のことであった(表1)4).続いて1991年にマサチューセッツ工科大学(MIT)のFujimotoらにより画像化が実現された5).IIOCTの検出原理の研究の流れ1991年に,最初に画像化に成功したOCTはタイムドメイン(timedomain)とよばれる検出方式を取る.一方,2003年に,OpticsExpressやOpticsLetterなどの光学系ジャーナルに高速かつ鮮明な網膜の画像化が相ついで報告されはじめたのが,フーリエドメイン(Fourierdomain)とよばれる別の検出方式である(表1).タイムドメインOCTは,光波の干渉を実空間(時間(4)表1光干渉断層計(OCT)技術研究および製品化の流れ年代研究製品上市国内国外1990・山形大・丹野ら,国内特許出願1991・MITのFujimoto,国際特許出願・MITのFujimoto,ScienceにOCT画像を発表1993・Fujimotoら,OpticsLetterに眼底断層像掲載1995・FD-OCTの原理についての報告が掲載され始める1997・CZM社,OCT2000発売(群馬大・岸ら1号機購入)2000・筑波大・安野らによりFD-OCTのシステムが報告される2001・MITのDrexler,Fujimotoら,NatureMedicineに網膜のUHR-OCT画像を発表2002・CZM社OCT3000発売2003・FD-OCTの画像化成功が相つぐ2004・JST「生体計測用超高速フーリエ光レーダー顕微鏡」(筑波大・谷田貝)・MT社「EGスキャナー」発売・NIDEK社「OCTOphthalmoscopeC7」発売2005・JST先端計測分析技術・機器開発事業「生体計測用・超深達度光断層撮影技術」(北里大・大林)・NEDO「生活習慣病超早期診断眼底イメージング」(PL京都大・吉村)2006・トプコン社「3DOCT-1000」発売表中敬称略.MIT:MassachusettsInstituteofTechnology,FD-OCT:Fourierdomainopticalcoherencetomography,UHR-OCT:Ultrahighresolutionopticalcoherencetomography,CZM社:CarlZeissMeditec社,MT社:MicroTomography社(マイクロトモグラフィー社),PL:Projectleader.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007?領域)で行う.これに対し,フーリエドメインOCTは,光波の干渉をフーリエ空間(周波数領域または波長領域)で行う.別名,スペクトラルドメイン(spectraldomain)OCTまたはフリーケンシードメイン(frequen-cydomain)OCTともよばれる.眼科医が理解しておくとよいのは,フーリエドメインOCTがタイムドメインOCTよりも桁違いに高速撮影ができることである.高速化を可能にする大きな違いは,深さ方向への機械的走査の必要性の有無にある.タイムドメインOCTは,1回の計測により,試料の三次元構造の1点の情報を得る方式であるため,二次元の断層画像を構成するためには,横方向に加えて深さ方向(axialscan)の機械的走査を要する.フーリエドメインOCTは,深さ方向の情報が1回の計測で取得できる.すなわち,深さ方向の機械的走査を必要とせず,横方向の走査のみで二次元の断層画像を構成できる.したがって,深さ方向の機械的走査に要する時間だけ,フーリエドメインOCTは,タイムドメインOCTより高速になる.文献上では25~100倍速くなる6).さらに,光源の波長を高速に変化させることにより光波の干渉を同じくフーリエ空間で行う方式の波長走査型OCT(sweptsourceOCT:SS-OCT)の画像化も報告されているが,これもフーリエドメインOCTの一つであり,高速撮影が可能である.筑波大学計算光学グループ(ComputationalOpticsGroup:COG)が前眼部のSS-OCTによる高速撮影に成功している.開発される光源の性能次第では,将来のOCTの主流になる潜在力をもつ技術である.IIIしのぎを削るOCTの研究開発【フェーズ1】タイムドメインOCTの高分解能化OCTの深さ方向の分解能は,光源の波長の広さ(波長帯域)に依存する.OCT2000もOCT3000も,中心波長830nmで波長帯域20nmのスーパールミネッセント・ダイオード(superluminescentdiode:SLD)を使用するため,限界深さ分解能は,10?m程度である.2001年,MITのFujimotoとDrexler(現ImperialCol-lege)は165nmの広い波長帯域をもつフェムト秒レーザー(femtosecondlaser;別名,チタン・サファイアレーザー:titanium-sapphirelaser)を光源として用い,深さ分解能3?mの網膜断層画像を報告した7).超高分解能OCT(ultrahighresolutionOCT:UHR-OCT)とよばれる.以来,眼科英文メジャージャーナルにUHR-OCTの臨床報告が相ついでいる(図1)8~10).分解能が(5)図1超高分解能光干渉断層計(UltrahighresolutionOCT:UHR-OCT)の正常眼における断層像例中心波長815nm,波長幅125nmのtitanium:sapphirefemtosecondlaserを光源に用い,分解能3?mを得ている.水平Aスキャン数3,000である.商用タイムドメインOCTに比べ,網膜層構造が明瞭になり,特に外境界膜が可視化され,色素上皮層の高反射ラインの内方にもう1本の高反射ラインが観察される.A:黄斑断層像,B:Aの中心窩の拡大.INL:内顆粒層,IPL:内網状層,OPL:外網状層,RPE:網膜色素上皮,ELM:外境界膜,GCL:神経節細胞層,NFL:網膜神経線維層,ONL:外顆粒層,IS/OSjunction:視細胞内節外節境界部.(KoTH,WitkinAJ,FujimotoJGetal:Ultrahigh-resolutionopticalcoherencetomographyofsurgicallyclosedmacularholes.???????????????124:827-836,2006より)500μm250μmAB———————————————————————-Page4?あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007向上したが,撮影速度が遅くなったのが,実用性として問題である.高分解能化により眼底OCT画像の何が変わるだろうか?①網膜層構造のコントラストの向上:病変がどの層に存在するかが描出される(図1).②外境界膜と視細胞層の可視化:OCT3000では視細胞の外節内節境界部(photoreceptorinnerandoutersegmentjunction:IS/OS)と色素上皮層が高反射な二重ラインを成す(図1).一方,UHR-OCTではIS/OSの内側に外境界膜(ELM)が描出され,色素上皮層のラインが2つのラインに分離される.つまり四重ラインをなす.外境界膜の可視化は,視細胞層の病変(肥厚や菲薄化)を観察可能とし,黄斑円孔,黄斑浮腫,黄斑上膜などさまざまな黄斑疾患の視力障害と中心窩視細胞層の病変との関係を研究可能とする8~10).また,視細胞層の描出力も向上する.OCT3000では円孔部の視細胞は破壊されてなくなっているかのようにしか見えないが,UHR-OCTで観察すると円孔部のIS/OSの後方反射は光学的に減弱化しているものの低反射な視細胞層は観察され前方に吊り上げられている様子が理解できる9).手術後に円孔が閉鎖するとIS/OSが復元される.黄斑円孔でなぜ視力が改善するかが理解できる.③オカルト型脈絡膜新生血管(occultCNV)の可視化:色素上皮?離やoccultCNVにおいて網膜色素上皮の太い高反射ラインのすぐ外方に高反射な細い直線的なラインが観察される8).Bruch膜の外層と見なせるが,もしこれが正しければ,occultCNVは新生血管がBruch膜内部に存在することが示唆される.【フェーズ2】フーリエドメインOCTの画像化成功で火がついたOCT研究フーリエドメインOCTは,深さ方向への機械的走査が不要な技術であるため,二桁以上三桁未満高速に画像を得ることができるようになったことは前述した6).これに加え,フーリエドメインOCTはプローブ光の利用効率が高い検出法であるため,タイムドメインOCTと比べ信号雑音比(signal/noise)が高い,すなわち高感度であることが,理論的に予想され,実験的に実証されてきた.この2つの特性が,注目されていたが画像化にはもっと年月を要すると考えられていた.ところが,CCDなどの周辺ハードウエアの高機能化やFujimotoやDrexlerらを中心とするOCT研究者層の増大を背景に,フーリエドメインOCTの画像化が,特に眼底において一気に進んだ.2003年の光学系ジャーナルに,フーリエドメインOCTによる高速網膜断層撮影の成功の発表が相ついだ.わが国でも筑波大学COGの安野・谷田貝らが,フーリエドメインOCTによる網膜の画像化に成功し,(株)トプコンがCOGのシステムを基に3DOCT-1000を上市したことはご承知のことである.筆者は,2005年1月のBiomedicalOptics(BiOS)に参加し,FujimotoやDrexlerの超高分解能化された(ultra-high-resolution)フーリエドメインOCTの美しい網膜断層像を目の当たりにし驚愕したことが記憶に新しい.フーリエドメインOCTの成功とともに,BiOSにおけるOCTの発表が爆発的に増え,2006年のARVO(AssociationforResearchinVisionandOphthalmolo-gy)のフーリエドメインOCT関連発表の爆発的増加に波及した.IVOCTの将来「多様化するOCT」1.高深達OCT現行OCTでは,網膜色素上皮下の画像が急に不鮮明になる.原因は現行OCT光源の中心波長が800nm前後であるため多くが色素上皮で吸収されてしまうことにある.そこで,OCTの光源の波長を長くする研究が行われてきた.波長が長くなるほど組織の吸収が減り深達性が向上するが,逆に水への吸収が増えるため眼底へ届く光量が減るというジレンマがある.できるだけ長波長で水の吸収の谷間として注目されるのが1,040nm前後の光源である11).1,040nm前後の光源を用いると脈絡膜の描出が著しく改善する(図2).現在,OCT用の1,040nm前後光源の開発が行われてきており,将来の眼底用OCTは1,040nm前後の光源へ変わると予想される.色素上皮下や篩状板の病変の観察が向上すること(6)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007?が期待される.2.Full?eldOCT特殊なタイムドメインOCTであり,三次元的に最も高い分解能を実現でき細胞の可視化が期待される夢のOCT技術である.わが国の(財)山形県産業技術振興機構の陳,秋葉ら,フランスのBoccaraらにより研究開発されている.生摘出豚眼においては,角膜の上皮細胞,ケラチノサイト,内皮細胞が可視化され12),網膜神経節細胞が可視化されている.生きたヒト眼への応用には幾つかのハードルがあるが,現在克服に向けた研究が進行中である.わが国では,新エネルギー・産業技術総(7)図2高深達光干渉断層計(OCT)の原理:800nm光源と1,040nm光源のOCT像比較1,040nmは光の吸収が少ない谷間であるため長波長でありながら十分な光量が眼底へ到達する.長波長の特性として色素上皮の吸収が比較的少なく,色素上皮下の画像信号が十分得られる.実際,眼底を深く明らかに脈絡膜血管の構築の描出が改善している.眼底用OCTの理想的な波長である.NFL:網膜神経線維層,IPL:内網状層,OPL:外網状層,IS/OS:視細胞内節外節境界部,RPE:網膜色素上皮.(UnterhuberAetal:Invivoretinalopticalcoherencetomographyat1040nm-enhancedpenetrationintothecho-roids.??????????????13;3252-3258,2005より)200μm50μm:800nm:1,040nm1.51.00.50.0log.Intensit[a.u.]0100200300400500Depth[μm]OPLIS/OSRPEIPLNFLsubretinalvessels———————————————————————-Page6?あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007合開発機構(NEDO,プロジェクトリーダー京都大学・吉村長久)が助成している.OCTの深さ分解能は光源の波長帯域(波長の幅)で決まるが,横方向(X-Y面)の分解能は,対物レンズの開口により決まる.通常のタイムドメインOCTもフーリエドメインOCTも細く絞った光ビームを眼底に入射し,かつビームを横方向に走査する必要があるため,対物レンズの開口を大きくできないため,横方向の分解能が20?m程度である.Full?eldOCTはサンプルのX-Y断層画像を非走査で測定する技術であるため,光ビームの走査を必要とせず,サンプルのX-Y面と二次元センサーの間で結像関係を保つため対物レンズの開口を十分に活用することができ,高精細なCCDカメラを用いることで高い横方向分解能を成しうる.本技術がヒトの眼底に応用可能となれば,細胞レベルの病的異常に基づくまったく新しい次元の眼底疾患・緑内障の医療が始まる可能性がある.3.補償光学OCT(adaptiveopticsOCT:AO-OCT)眼底撮像において角膜・水晶体の波面(ウェーブフロント;wavefront)の収差が,分解能劣化の最大の原因であることは周知である.計測した波面収差をレーザーにより除去しクリアなvisionを得ようというのがwave-frontLASIK(laser????????keratomileusis)である.一方,波面収差を除去しクリアな像を得る学問を補償光学と言い,元は軍事技術として始まった.大気圏の波面収差を補償して人工衛星から敵国の軍事施設を偵察しようというわけである.実際には,補償光学は天文学の分野で実用化され,天体望遠鏡観察において大気圏の波面収差を除去しクリアな星々の像が得られている.日本では(8)10μmdepth10μm10μm10μm10μm10μm10μm10μm0μm1.5μm3μm4.5μm6μm7.5μm9μm10μmdepth10μm10μm10μm10μm10μm10μm10μm0μm1.5μm3μm4.5μm6μm7.5μm9μm図3補償光学光干渉断層計(adaptiveopticsopticalcoherencetomography:AO-OCT)超高分解能光干渉断層計(ultrahighresolutionOCT:UHR-OCT)に前眼部の波面収差を除去する目的の波面制御デバイスを融合した装置による視細胞画像.鉛直断面像(enface画像=Cスキャン画像)が7枚示されている.外顆粒層?外境界膜?外節を1.5?mずつ連続して示されている.1個1個の視細胞の断層が可視化されている.(FernandezEJetal:Three-dimensionaladaptiveopticsultrahigh-resolutionopticalcoherencetomographyusingaliquidcrystalspatiallightmodulator.??????????45:3432-3444,2005より)10μmdepth10μm10μm10μm10μm10μm10μm10μm0μm1.5μm3μm4.5μm6μm7.5μm9μm———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007?すばる顕微鏡に補償光学用の可変鏡が搭載されている.1997年に,Rochester大学のWilliamsらが眼底カメラに補償光学を適用し視細胞の撮影に成功したと報告した.続いて当時Houston大学(現カリフォルニア大学バークレー校)のRoordaが,SLOに補償光学を適用し白血球流の動画撮影に成功した(http://vision.berkeley.edu/roordalab/).そして,補償光学は,OCTにも適用が試みられ,感度の向上や視細胞の可視化が報告されている(図3;AO-OCT)13).まだ,ラボの装置だが,眼底の神経細胞のその場観察に基づく医療の可能性が示された.4.機能OCT(functionalOCT)―形態から機能へ生体を通過あるいは反射した光波は,ドップラー(Doppler)シフト,物性依存吸収スペクトル,偏光(polarization)など形態以外の機能的情報を豊富に有する.単に形態を描出する診断機器から網膜・視神経乳頭の機能を立体的に解析するためのfunctionalOCTの研究が行われている.①ドップラーOCT:観測者との相対的な速度によって波の周波数が異なって観測される現象をドップラー効果という.網膜血管の血流を求める技術として,眼底レーザードップラー装置が開発されている.ドップラーシフト量は血管の光軸に対する角度により補正してはじめて血流の絶対値に変換できる.製品としては,唯一キヤノン製CanonLaserBloodFlowmeter100は眼球トラッキングと2軸レーザー光を用いて血管の角度を考慮し,血管角度を反映して網膜の血流を計測できる優れた装置であったが,撮影に熟練を要し,残念ながら販売中止となっている.OCTは三次元情報を有するためドップラーOCT法は,網膜血流の絶対値を求める潜在的に最も優れた技術である14).レーザードップラーに対するアドバンテージは,血管の中の血流分布を(9)図4網膜のドップラーOCTの例京都大学プロトタイプFD-OCTによる網膜動脈のドップラーシフト量解析による網膜血流解析の例.筑波大学ComputationalOpticsGroupのプログラムを基に当科坂本らが改変した.血管内の血流分布が可視化され定量可能である.———————————————————————-Page8??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(10)可視化できることである(図4).血管の中心と血管壁の近くの血流の差を計測可能とし,糖尿病や高血圧など生活習慣病診断に資するきわめて有用な情報をもたらすことが期待できる.②偏光OCT:偏光は分子が一定方向に配列する組織において生じる.眼底においては網膜神経線維とコラーゲンを含む篩状板,血管壁,強膜などが偏光を示す.わが国では,筑波大学COGの安野・山成らが視神経乳頭の偏光OCT画像を報告しているが,篩状板や強膜輪の偏光が可視化されている.われわれ眼科医に馴染みがあるGDxは,網膜神経線維の偏光の一つである複屈折性(birefringence)を計測し,神経線維量を計測している.GDxは計測値を内部のデータベースに対してニューラルネットワークを用いて統計的に解析し神経線維厚を推定しているため統計誤差が含まれる.偏光OCTの利点は深さ方向の複屈折分布が計測できることである.すなわち,偏光としての神経線維量と形態情報としての神経線維厚を計測し分けることが可能になると考えられる.③分光OCT:分光とは,物質がもつ光の吸収特性からその物質の量を求める技術である.われわれ眼科医が手術のときに使用する末?血酸素飽和度をモニターするパルスオキシメータは,実用化された分光医療機器である.酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンの光の吸収特性の差を利用して血中の酸素飽和度を求める装置である.他にもグルコース,中性脂肪,蛋白質,コレステロール,尿素などが分光計測の研究対象であるが,精度の問題などで普及に至っていない.眼底においては,イスラエルのAppliedSpectralImaging社が眼底酸素飽和度を求める装置を試作し埼玉医科大学の米谷らにより臨床研究が報告されているが,実用化には至っていない.眼底カメラや走査レーザー検眼鏡(SLO)では,網膜と脈絡膜の情報が分離できない問題があるが,OCTは深さ方向の情報をもつため分光OCTは,網膜と脈絡膜の情報が分離できる.しかし,OCTは,深さ情報と分光波長解析力にはトレードオフ(trade-o?)が存在する.糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症,緑内障(特に正常眼圧緑内障)において酸素計測そのものの臨床的意義は高く,山積する技術的問題を解決し信頼性の高い検査機器が開発されることが期待される.わが国では,山形大学の山下(医),湯浅(工)らが分光OCTによる酸素飽和度三次元断層分布測定装置を提案している.V今後のOCT診断装置のスタンダードになる3D-OCT「3D-OCT」は,フーリエドメインOCT技術により高速化した結果生まれる臨床的特性の観点からの診断装置概念である.すなわち,高速になったため一気に三次元OCT情報を取得できるようになったことにより,3Dという新しい診断装置概念が生まれる15~18).現時点では,3D-OCT=フーリエドメインOCTであるが,将来,高速なsweptsourceOCT技術が実用化されれば,それも3D-OCTという診断装置を構成するはずである.診断装置としての3D-OCTの特性は,つぎの3つのスパイスにより構成される.[3つのスパイス]【高速】→【三次元情報】:後述するように,数秒で三次元空間のOCT情報を取得することが可能となり,三次元の形態情報を扱う新しい検査法へ発展した.【高感度】+【高分解能】→【微細な病変の可視化】:感度が上がるほど,ノイズに隠れて認識がむずかしい真の形態情報が,認識可能な画像として表出する.網膜の層構造がより明瞭になり,内網状層,内顆粒層,外網状層,外顆粒層,視細胞層の境界が同定可能になる(図5).これは,網膜厚だけではなく層ごとに厚み計測ができるポテンシャルのある画像である.特に重要なことは,視力に関係が深い中心窩視細胞層の外境界膜と視細胞層内節外節境界部(IS/OS)に相当する2本の高反射ラインが描出されることである(図5).この2本のラインは,描出される眼底疾患の活動期および治癒後の中心窩病変を読み解く鍵になる.[3D-OCTの撮影法]中心窩を含む3~6mm平方の領域に水平Aスキャン256本からなるBスキャンを垂直方向に256枚一定間———————————————————————-Page9(11)あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??隔で連続撮影する.言い換えると,256×256の格子状のAスキャンを行う(図6).このスキャンのデザインをラスタスキャンプロトコール(rasterscanprotocol)という.[3D-OCTにより生まれる新しい臨床アプローチ]①三次元観察:得られた三次元OCTデータをボリュームレンダリング法を用いて3D画像を得る(図7,8).3D画像は,黄斑円孔の網膜硝子体界面の観察に威力がある(図8).しかし,3D画像では,網膜内部の病変を観察できないため,やはり断層画像の観察が基本となる.断層画像は,これまでBスキャン像とよんできた断層像(crosssec-tion)と,3D画像の切断面としての立体断面(sec-tionedvolume)の2通りの観察法がある.そして,従来のOCTとは異なる3D-OCTの利点の一つは,水平方向,垂直方向,鉛直断面方向(いわゆるCスキャン方向)をはじめとする任意の面で切り取った断層像および立体断面を観察できることである(図7,8).さらには,これら断層および断面像は,ランダムに存在するのではない.水平方向なら,12~24?mおきの断層像が連続して並んでいるため,映画のコマ送りのように病変の網膜接線方向の広がりを観察することが可能となる(図7).②眼底カメラ系画像との照合:そして,さらに重要なことは,三次元情報は病変の深さ方向のみならず横方向の位置情報をもっていることである.われわれが日常見慣れている検眼鏡眼底像や眼底カメラタイプのベーシックな検査データ(カラー眼底写真,蛍光眼底造影写真,SLO,マイクロペリメトリーなど)は病変を光軸へ直交する面(Cスキャン面)への広がりとして認識しているわけであるが,3D-OCTは同様の形態情報の広がりを有する.同様の広がりをこの網膜の任意の深さのCスキャン像として観察することも可能になる(図7,8).OCTは3D-OCTになって眼底カメラ系画像と照合可能となった.図5フーリエドメイン光干渉断層計(Fourierdomainopticalcoherencetomography:FD-OCT)による正常網膜断層像例京都大学プロトタイプFD-OCTによる画像例.中心波長830nm,波長幅50nmのスーパールミネッセントダイオードを使用し空気中の分解能は6.1?m.超高分解能光干渉断層計(ultrahighresolutionOCT:UHR-OCT)に比べると分解能は低いが,感度が高いため,UHR-OCTに匹敵して,中心窩の4本の高反射ラインが観察される.IS/OS:photoreceptorinnerandoutersegmentjunction,視細胞内節外節境界部,VM:Verhoe??smembrane.(板谷正紀:3DOCTによる網膜病変の三次元観察.眼科手術19:501-505,2006より)神経節細胞層内網状層内顆粒層外網状層外顆粒層視細胞内節視細胞外節脈絡膜図6ラスタスキャンプロトコールの1例三次元OCTデータ取得を目的としたAスキャンの分配パターンをラスタスキャンプロトコール(Rasterscanprotocol)という.撮影範囲と水平および垂直方向に行うAスキャン数を決める.図は,3mm×3mmの正方形の範囲に,水平方向256本,垂直方向256本で格子状にAスキャン(赤矢印群)を行うラスタスキャンプロトコールの実例である.ラスタスキャンプロトコールにより得た三次元OCTデータを,LabVIEW7.1(NationalInstrumentsCorporatio,Austin,TX,USA)で変換し,三次元画像解析ソフトAmira3.1(MercuryComputerSystemsInc.,Chelmsford,MA,USA)によりボリュームレンダリングを行い三次元OCT像を構築した.(板谷正紀:3DOCTによる網膜病変の三次元観察.眼科手術19:501-505,2006より)———————————————————————-Page10??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(12)図7正常網膜三次元OCT画像の観察パターン三次元OCT画像は緻密な三次元形態情報を有するが,網膜内部の三次元構造を一目で観察することはむずかしい.ここに列挙するような多彩な観察法で,緻密な観察を行い形態と病変の三次元的広がりを理解することが重要である.A:3D外観,B:水平断層像,C:水平立体断面像,D:プロジェクション画像(projectionimage),E:Enface断層像,F:Enface立体断面像,G:約12?mごとの連続した断層像を映画のコマ送りのように1枚1枚観察し病変の緻密な変化の三次元の広がりを観察する.H:あらゆる方向の断層像を観察できる.(板谷正紀:3DOCTによる網膜病変の三次元観察.眼科手術19:501-505,2006より)図8黄斑円孔三次元OCT画像の観察パターンステージ3黄斑円孔症例を例に取り,3DOCTの観察法の実例を示す.ここに列挙するような多彩な観察法で,緻密な観察を行い病変の三次元的広がりを理解することが重要である.A:3D外観,B:水平断層像,C:水平立体断面像,D:3D画像におけるB,C,E,F,H,Iの観察面.E:垂直断層像,F:垂直立体断面,G:あらゆる方向の断層像を観察することが可能,H:Enface断層像,I:Enface立体断面像.(HangaiMetal:Three-dimensionalimagingofmacularholeswithhigh-speedopticalcoherencetomography.Ophthalmology,inpressより改変)———————————————————————-Page11(13)あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??おわりにわれわれ医師は,医療メーカーを通して,診断装置を知る.装置,ひいては技術の研究開発に精力を傾ける工学研究者の姿や研究の歴史に触れる機会は少なかった.しかし,OCTの分野では,ARVOや国内眼科学会でも工学研究者の発表を目にする機会が増えてきた.実は,OCTは世界的に見ても,医工連携がきわめてうまく機能している分野であり,逆に言うと医工の連携なくして良質な仕事が生まれない分野である.わが国では,丹野らがOCTの原理を世界に最初に提案し,岸らによりOCT装置の臨床的意義を世界に発信したことからわかるように,OCTの工学および医学の両サイドに胸を張れる実績を有する.現在では,筑波大学が台風の目になりOCTの医工連携が活性化している.(株)トプコン社の3DOCT-1000が世界で最初にわが国で発売になったこの時期に,3D-OCTの臨床的意義を明らかにし世界に発信することは,眼科臨床医に期待される仕事である.その意味で,これからも続くOCT技術の進歩をダイナミックに理解し,その行方を学会などで注視することは,今後の臨床に役に立つと考える.謝辞:・FD-OCTの説明に使用しました画像は,筑波大学ComputationalOpticsGroupと(株)トプコンの協力により京都大学附属病院に設置したFD-OCTプロトタイプによる(ヘルシンキ宣言遵守,京都大学医学研究科「医の倫理委員会」の承認取得,インフォームド・コンセント取得).ご指導をいただきました諸氏に深謝します.筑波大学ComputationalOpticsGroup:安野嘉晃先生,巻田修一様,山成正宏様,谷田貝豊彦先生.(株)トプコン:福間康文様,大塚浩之様,木川勉様塚田央様.京都大学画像外来の先生方.・本稿のご高閲をいただきました吉村長久教授に深謝します.文献1)SaddaSR,WuZ,WalshACetal:Errorsinretinalthick-nessmeasurementsobtainedbyopticalcoherencetomog-raphy.?????????????113:285-293,20062)丹野直弘,岸章治:光コヒーレンス断層画像化法と臨床診断.??????????????????????????17:3-10,19993)陳建培,丹野直弘:光波コヒーレンス断層画像化法.???17:8-14,20034)丹野直弘,市村勉,佐伯昭雄:光波反射像測定装置,日本特許第2010042号(出願1990)5)HuangD,SwansonEA,Lin,CPetal:Opticalcoherencetomography.???????254:1178-1181,19956)伊藤雅英,安野嘉晃,谷田貝豊彦:フーリエドメイン光コヒーレンストモグラフィ.視覚の科学26:50-56,20057)DrexlerW,MorgnerU,GhantaRKetal:Ultrahigh-reso-lutionophthalmicopticalcoherencetomography.???????7:502-507,20018)DrexlerW,SattmannH,HermannBetal:Enhancedvisualizationofmacularpathologywiththeuseofultra-high-resolutionopticalcoherencetomography.????????????????121:695-706,20039)KoTH,FujimotoJG,DukerJSetal:Comparisonofultra-high-andstandard-resolutionopticalcoherencetomogra-phyforimagingmacularholepathologyandrepair.??????????????111:2033-2043,200410)SchocketLS,WitkinAJ,FujimotoJGetal:Ultrahigh-res-olutionopticalcoherencetomographyinpatientswithdecreasedvisualacuityafterretinaldetachmentrepair.?????????????113:666-672,200611)UnterhuberA,Pova?ayB,HermannBetal:Invivoreti-nalopticalcoherencetomographyat1040nm-enhancedpenetrationintothechoroids.??????????????13:3252-3258,200512)GrieveK,PaquesM,DuboisAetal:Oculartissueimag-ingusingultrahigh-resolution,full-?eldopticalcoherencetomography.?????????????????????????45:4126-4131,200413)FernandezEJ,PovazayB,HermannBetal:Three-dimensionaladaptiveopticsultrahigh-resolutionopticalcoherencetomographyusingaliquidcrystalspatiallightmodulator.??????????45:3432-3444,200514)YazdanfarS,RollinsAM,IzattJA:Invivoimagingofhumanretinal?owdynamicsbycolorDoppleropticalcoherencetomography.???????????????121:235-239,200315)WojtkowskiM,SrinivasanV,FujimotoJGetal:Three-dimensionalretinalimagingwithhigh-speedultrahigh-resolutionopticalcoherencetomography.?????????????112:1734-1746,200516)Schmidt-ErfurthU,LeitgebRA,MichelsSetal:Three-dimensionalultrahigh-resolutionopticalcoherencetomog-raphyofmaculardiseases.?????????????????????????46:3393-3402,200517)AlamS,ZawadzkiRJ,ChoiSetal:ClinicalapplicationofrapidserialFourier-domainopticalcoherencetomographyformacularimaging.?????????????113:1425-1431,200618)HangaiM,OjimaY,GotohNetal:Three-dimensionalimagingofmacularholeswithhigh-speedopticalcoher-encetomography.?????????????,inpress

序説:最新の網膜硝子体検査

2007年1月31日 水曜日

———————————————————————-Page1(1)?網膜硝子体疾患の治療法として,網膜光凝固,硝子体手術,ステロイド薬やanti-VEGF(抗血管内皮増殖因子)などの薬物治療など多くの方法が臨床応用され,きわめて良好な治療効果が得られるようになってきている.これらの治療法をさらに有効なものとするためには網膜硝子体疾患の病態研究の進歩,個々の患者における病態・病像の把握により最も適切な治療法を行うことが重要となってきている.本特集では,非侵襲的に病態・病像を形態学,機能的な面から把握するために近年開発され日常診療の現場に応用されてきた検査法の最新情報をお届けする.近年の画像診断の進歩としては,以下の点があげられる.1)病理学的な病態・病像把握を企図するもの種々の眼循環異常による網膜浮腫,黄斑円孔,硝子体による網膜牽引などについての形態学的な状態把握においては,従来のタイムドメインOCT(光干渉断層計)に加えて新しいFourierドメインOCT,OCT-SLO(走査レーザー検眼鏡),さらに次世代のOCTが開発され,臨床現場でも利用することができるようになってきた.これにより,新しい疾患概念,治療法の選択などができるようになる可能性がある(板谷正紀先生,加藤祐司先生・石子智士先生・吉田晃敏先生の項).2)眼循環の評価法HRA2(HeidelbergRetinaAngiograph2),超音波Doppler法による診断法の進歩により,眼循環異常の評価,疾患の病態理解がきわめて精密に行えるようになってきた.この進歩により,診断,種々の治療法の評価が進化し,ひいては治療の進歩につながると考えられる(白神千恵子先生・白神史雄先生先生,加藤聡先生の項).さらに広い意味では眼循環の病態評価として網膜における酸素飽和度のマップを作成することができれば,網膜疾患の病態・病像の把握は新しい局面を迎え,治療法の開発と治療の評価が可能になる(米谷新先生の項).この意欲的な研究成果を本特集で紹介できたことは大変意義深いことと考える.3)網膜硝子体循環異常以外の疾患の診断についての進歩緑内障,網脈絡膜腫瘍の診断の進歩についても今回の特集では取り上げてスペシャリストに紹介していただいた.緑内障の疾患概念として視神経の障害を正しく把握することの重要性が増してきた.これを近年進歩してきた画像診断法〔HRTII(Heidel-bergRetinaTomographⅡ),OCT〕により精密,定量的に行うことを研究してこられた杉山和久先生の業績を同教室の大久保真司先生と共著でわかりやすく解析していただいた.検査法の進歩により緑内障の診療が今後,変わっていくことが考えられる.また,眼科領域の腫瘍の診断は困難なことが多いが,日常診療で利用できる磁気共鳴画像(MRI)検0910-1810/07/\100/頁/JCLS*HidetoshiYamashita&TeikoYamamoto:山形大学医学部情報構造統御学講座視覚病態学分野●序説あたらしい眼科24(1):1~2,2007最新の網膜硝子体検査?????????????????????????????????????????????????????????:???????????山下英俊*山本禎子*———————————————————————-Page2?あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(2)査が有用であることを高村浩先生にpracticalに示していただいた.明日の診療から応用可能である.4)網膜硝子体手術における眼底観察法野田徹先生が長年取り組んでこられた,網膜硝子体手術時の眼底観察法の進歩により,いかに手術がやりやすくなったかが詳細に解説されている.これまで名人芸でしか乗り越えられなかった症例を多くの術者が乗り越えられるようになるのはこのような進歩によると考えられる.以上のように,本特集では網膜,硝子体の領域の種々の疾患の画像診断について,それぞれの分野の第一人者に解説をしていただくことができ,現時点での最新の情報をお届けできると自負している.今後の診療に少しでも役立ていただければ望外の幸せである.年間予約購読ご案内眼における現在から未来への情報を提供!あたらしい眼科2007Vol.24月刊/毎月30日発行A4変形判総140頁定価/通常号2,415円(本体2,300円+税)(送料140円)増刊号6,300円(本体6,000円+税)(送料204円)年間予約購読料32,382円(増刊1冊含13冊)(本体30,840円+税)(送料弊社負担)最新情報を,整理された総説として提供!眼科手術2007Vol.20■毎号の構成■季刊/1・4・7・10月発行A4変形判総140頁定価2,520円(本体2,400円+税)(送料160円)年間予約購読料10,080円(本体9,600円+税)(4冊)(送料弊社負担)日本眼科手術学会誌【特集】毎号特集テーマと編集者を定め,基本的事項と境界領域についての解説記事を掲載.【原著】眼科の未来を切り開く原著論文を医学・薬学・理学・工学など多方面から募って掲載.【連載】セミナー(写真・コンタクトレンズ・眼内レンズ・屈折矯正手術・緑内障・光線力学的療法・眼感染症)新しい治療と検査/眼科医のための先端医療他【その他】トピックス・ニュース他■毎号の構成■【特集】あらゆる眼科手術のそれぞれの時点における最も新しい考え方を総説の形で読者に伝達.【原著】査読に合格した質の高い原著論文を掲載.【その他】トピックス・ニューインストルメント他株式会社メディカル葵出版〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替00100-5-69315電話(03)3811-0544お申込方法:おとりつけの書店,また,その便宜のない場合は直接弊社あてご注文ください.http://www.medical-aoi.co.jp

眼科医にすすめる100冊の本-12月の推薦図書-

2006年12月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS本書は,有名な本なので,読まれた方も多いと思います.私が留学から帰り,日本とアメリカの違いを漠然と考えていた頃に読んだ本です.日本とアメリカの物事の考え方の違いを明確に教えてくれたもので,印象深かったことを覚えております.さて,戦争というのは,国の総力を挙げて行う行為であり,当該国の思考法,哲学が色濃く反映されます.アメリカと戦った第二次世界大戦は,日本の存亡をかけた戦いであったため,日本人の思考法がはっきりと現れた戦いでした.そして,その思考法は,形を変えて現在にも脈々と流れています.三野正洋氏は,本書で日本軍の失敗を取り上げていますが,失敗の原因は単なる物量の差よりも,日本人の思考法であったことを述べています.●名人芸に頼る日本と平易化するアメリカ私が特に興味深かったのは,日本軍は名人芸を重んじたが,アメリカ軍は平易化(一般人が実行可能な技術を開発すること)を重んじたという点です.たとえば,日本軍は大砲の命中精度を上げるために,兵隊に厳しい訓練を課して名人になることを求めました.一方,アメリカ軍は,優秀な照準器を開発することで,普通の兵隊でも標準以上の能力が発揮できるようにしました.その結果,日本軍では戦争の経過とともに戦闘力が極端に低下したのに比べ,アメリカ軍は常に圧倒的な戦闘力を有することになりました.そこには,人間を鍛えれば未誤謬の域まで達することができるはずという日本と,人間の能力には限界があるので,それを補う方法を考案するほうが実際的だというアメリカの,人間に対する考え方の違いが現れています.どちらが合理的であるかは,自明でした.そして,この差は兵隊の教育方法にも現れていました.第二次世界大戦の頃は,車の運転技術は特殊技能であり軍隊入隊時に運転できる人はごくわずかでした.日本では運転技術を教えるのに,専門用語で書かれた本を用い,車の各部名称を完全に暗記するまで,一切運転させないという教え方でした.まさに歪んだ名人育成主義と言えます.一方,アメリカでは最初から車を運転させ,教則本にも漫画が用いられていました.部品の名称をすべて覚える必要などありませんでした.これは,運転さえできれば,その他のことはどうでもよいという合理的な考えです.その結果,日本軍では運転できるようになった兵はわずかであったのに比べ,アメリカ軍では,ほとんどすべての兵が運転できるようになっていました.戦争末期の東南アジアでは,日本軍は物資の欠乏で敗れたとされていましたが,実はトラックや燃料が豊富な状況でも,運用できなかったということを知り,驚きました.これらは本書の一部の例ですが,アメリカ軍は常に状況を冷静に分析しました.その結果,「人間の能力には限界があり失敗をするものである」という当たり前の結論が導き出され,限界を補う器械の開発や,効果的な教育法,失敗した場合の対処法が考案されました.一方,わが国では,「人間は鍛えれば名人になり,名人は失敗するはずがない」という,根拠のない思い込みに基づいて作戦計画を立てたため,有効な対処法が考案されずに悲惨な結末を迎えました.アメリカのB29爆撃機には,被弾した場合(失敗時)に備え二重三重の消火設備がありましたが,日本の戦闘機ゼロ戦に被弾(失敗時)に備えて装甲板を装着しようとしたところ,軍の上層部から「卑怯者」と一喝され装着されなかったという本書の記載をみると,「日本の名人芸とは,人間に過酷な要求を(81)■12月の推薦図書■日本軍の小失敗の研究─現代に生かせる太平洋戦争の教訓三野正洋著(光人社NF文庫)シリーズ─69◆坂本泰二鹿児島大学医学部眼科———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006するものだ」と感じ入りました.ここまで酷くはありませんが,現代の眼科でも似たような例があります.私が,硝子体手術を始めた頃,網膜表面組織が視認できないので,ベテラン術者に,どうすればできるようになるのか尋ねたところ,「手術症例を積み重ねれば見えるようになる」と言われました.しかし,症例を積み重ねても(この言葉も曖昧ですが),たいして視認できるようにはなりませんでした.当然のことながら,自分自身が教える立場になっても,「経験を積めばできるようになる」という指導しかできませんでした.私の経験がまだまだ足りないせいもあるでしょうが,そこには問題点を正確に把握する努力をせずに,やみくもに訓練で乗り越えようという思考法があります.つまり,名人芸を要求することにおいては,旧日本軍と同じであり,彼らを嗤うことはできないのです.兵隊ではなく新人医師に過酷なだけです.これは,日本人のDNAなのでしょうか.その意味で,硝子体手術における内境界膜?離のために,インドシアニングリーン(ICG)染色をすると発表された際には,二重に衝撃を受けました.一つはアイデアの斬新さ,もう一つは日本人からアイデアが出されたという点です.「人間の視認力には限界がある」という,きわめて当然の事実に基づき,目標物(内境界膜)に着色することで,私が克服できなかった視認性の問題を解決しました.この方法は,先述した大砲の照準器の開発問題と同じ思考法によっており,私のような平凡な術者も,かつての名人に近い手術成績を残すことを可能としました.そして,このことは日本人(堀口正之先生,門之園一明先生)が考案したのです.三野氏は,名人芸に頼ろうとするのは日本人の性癖かもしれないと書いています.たぶん,そうでしょう.しかし,それは本質的な問題解決を避けているにすぎないことが多いのも事実です.名人になるための訓練,修行,…勇ましい言葉ではありますが,問題から逃げているように感じます.逆に,問題を平易化することは,問題の本質をつかみ,それに対処する必要がありますから,より難しい仕事です.しかし,平易化された場合,そのメリットは計り知れません.われわれの進むべき道がどちらであるかは,明らかです.本書は,そのことを教えてくれます.(82)☆☆☆

私が思うこと2. 留学して感じたこと

2006年12月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????私が思うこと●シリーズ②(77)はじめに私の偉大なる師の一人である故J.W.Streilein教授に心より感謝し,ご冥福を祈りたいと思います.今回,九州大学・園田康平先生からバトンを頂き,このシリーズの2回目を担当させていただくことになりました.私は園田先生と同じ研究施設であるBoston・HarvardMedicalSchool関連のSchepensEyeResearchInstituteへ2003年から3年間留学しておりました.前回,園田先生がBostonやSchepensについて詳しく書かれておりましたので,今回は留学で体験できたことを中心に書いて見ようと思います.私は3年間で3つのラボを移動するという日本人では数少ない経験をもっておりまして,それぞれまったく個性の違うラボを体験しましたので,そのこともおりまぜて書かせていただきたいと思います.私の留学体験は,一言で言えば波瀾万丈でした.留学前から世間ではいろいろなことが起きておりました.すでに遠い昔に感じられる方も少なくないと思いますが,イラク戦争の開戦,SARSの流行などがあり,周りからは留学に行くことに反対されておりました.しかし,私にとって留学は長年の夢でしたので,戦争やSARSよりも,早く留学したいという気持ちが強く,留学を延期しようと思う気持ちはまったくありませんでした.後で述べますが,延期せずに早く留学しておいてよかったと今も思うことがあり,やはり夢を追いかけることは大事だとこの留学期間でつくづく思いました.第一のラボと発見私の第一の留学先はJ.W.Streilein教授のラボでした.彼のラボは眼の免疫を中心に研究していて,特にぶどう膜炎や角膜移植後拒絶反応についての治療の基礎となる研究で世界的に有名なラボでした.そのため多くの国から彼の下へ勉強をしにやってくる研究者が跡を絶たたず,多くの日本人の先生方も研究をしに来られておりました.このラボで一番印象に残ったことは“日本人とドイツ人はよく働き,仕事が正確で結果を出し,実はアメリカのラボを支えているのは日本人とドイツ人”と言っても過言ではないということでした.ただ,英語圏の人と違い海外で日本人が損をしているのはcommunica-tionの部分であり(実はこれが最も研究では重要であり),このcommunicationの壁をなくすことができるのなら日本人の研究者が多くの分野において世界でトップになることができるということを日本人の先生方と終始話しておりました.私はいつもこのcommunicationの壁に悩まされずに世界に挑む方法を日々考えておりまして,その一つの方法がcollaboration(共同研究)であり,上手にcollaborationすれば良い研究成果を生み出すことができることがわかりました.Collaborationはposi-tiveでもnegativeでも結果をすぐに出すことが大切であり(もちろんpositiveならより良いのですが),この結果を早く出す行動こそがcollaboratorから信頼を得る方法だと思っています.今も私はBostonで培った人脈をもとに,日本だけでなく,アメリカ・ヨーロッパの人たちとcollaborationを進めています.このようにcol-laborationを作ることも留学の醍醐味ではないかと思っています.突然の別れ,そして第二のラボ皆さんもご存じかと思いますが,私のボスであったJ.W.Streilein先生は2004年3月15日に68歳という若0910-1810/06/\100/頁/JCLS丸山和一(?????????????????)京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学講座1973年大阪府生まれ.趣味はサッカー,スキー.明るく楽しい実験をモットーに現在も眼科領域ではあまり知られていないリンパ管の研究を続けている.体育会系の研究好き人間.(丸山)留学して感じたこと———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006さで他界されました.今でもあの時の様子は思い出すだけで辛く切なくなります.ボスが突然いなくなる状況など考えたこともなく,生まれて初めて路頭に迷うという体験をしました.あの時に人の優しさ,むごさなどを見る機会があり,本当に何回か辛い状況に追い込まれました.その時に支えてくれたのがStreilein先生の教え(諦めず最後まで仕事を仕上げる),木下茂教授が私に下さった言葉(継続は力なり),友人たちの励ましの言葉,そして陰になり日向になり私を精神的に支えてくれた妻の存在でした.私はボスが他界した後,彼の妻であったJoan-SteinStreilein先生の下で研究を再開しました.その後,彼女の援助もあり約9カ月はJ.W.Streilein先生と行った仕事をもとに研究を続けさせてもらい,その結果,実験は終了することができました.このラボで一番学んだことは自分の意見をしっかりもち,発言することで道は切り開けることがわかったことでした.これから留学する人にはぜひ,自分の考えを積極的に発言し,その考えを行動に移してもらいたいと思っています.第三のラボ・これぞアメリカンドリームボストンで最も嬉しかったことは2年目の11月下旬に突如起こりました.それは,Streilein教授が他界されてから,私の面倒を陰ながら見てくださっていたPatri-ciaA.D?Amore教授からの突然のメールでした.彼女は血管新生の分野では世界的に有名で,ボストンにおいてはその分野では知らない人はいないくらいでした.私の研究は血管・リンパ管新生と免疫を複合させた研究でしたので,Streiline教授が亡くなってからは,毎週彼女のラボミーティングに出て勉強をさせていただき,彼女は1カ月に一度個人面談もしてくださっていました.その彼女から突然以下のようなメールを頂きました.HiKazu-IhavebeenwonderingifyouwouldconsiderstayingonanotheryearortwoatSchepensasapostdocinmylab.Sinceyourworkisnowsomuchinmyareaandsinceyouknowmeandmylab,Ithoughtyoumightconsiderthisagoodopportunity.IfyouarenotinterestedbecauseofyourunpleasantinteractionswithotherSERIpeopleIwouldde?nitelyunderstandandIwouldnotbeo?endedinanyway.Let?stalkaboutittomorrow.Patこのメールを頂いたときは,仕事を続けていて良かったと本当に思いました.自分で努力し,売り込んでおけば必ず何かチャンスが来る,これぞアメリカンドリームと肌で感じました.研究を続けることはもちろん留学では大事です.しかし自分を売り込む力を身につけることも忘れてはいけないと思います.日本人はシャイなので,言いたいことを言えないことが多いのですが,思ったことは思い切って言ってみるべきです.そしていろいろな人と話すべきだと思います.実験を進めることで,一番大事なことはラボメンバーを大切にすることが重要です.ラボメンバーを大切にすることで仕事が何倍もやりやすくなります.たとえば,実験に使用するものが緊急で欲しいときにすぐに彼らが手伝ってくれ,手に入れてくれます.また実験をするとき(78)▲J.W.Streilein教授との思い出─Streilein教授と日本人研究員(とその奥様方)▲Pat?sLabの送別会─左から2人目がD?Amore教授,左端はリンパ管研究で有名なChildren?sHospital,BostonのKaipainen先生———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????にそれぞれに得意分野がありますので,その道のプロに任せることが一番正確で確実ですので(もちろん自分で行うことは大切ですが,私は正確性,スピードをそれよりも大切にしていますので実験の分業化を推奨しています),その時にも彼らは楽しみながら実験してくれます.実験は一人の人がデータを出し,論文をまとめるよりも,何人かで集まり,それぞれの人が実験を理解しているほうが論文作成の時に議論もできますし,何よりも正確なデータを出すことができると思います.私のボストン最後のラボはこれぞ究極のラボのあり方だと感じました.このラボスタイルはボスの推奨する形であり,何度も助けられました.日本に帰国した今でも毎日メールをして,彼女たちからサンプルなどを頂き助けてもらっています.留学での大事なこと最後に留学での大事なことについて述べたいと思います.一つは先にも挙げました沢山の仕事をこなすことももちろん大事なのですが,私は人間関係も大事にしようと思っていました.留学では外国人はもちろんですが,多くの日本人とも知り合う機会があります.留学は眼科に限らず多くの分野の人と知り合いになることができる機会だと思います.私はパーティー(飲み会)に呼んでいただければいつも喜んで参加していました.飲み会はストレス発散の場所にもなりますし,何よりも情報交換ができる場所でした.それぞれのラボのスタイルやどのような実験をしているのかなどをも知る機会でしたので,これから留学される人はぜひ参加していただきたいと思います.そこで必ず何かしら新しい発見があります.妻もそのような場所で友人作りや情報交換ができ,参加するのをとても楽しみにしていましたので,一緒に留学される奥様や子供さんにもとても有意義なものだと(79)思います.もう一つはストレス発散方法を見つけることです.私はその一つとして園田先生も第一回で述べられておりましたが,旅行というストレス発散方法をみつけました.大きな声では言えませんが,私は旅行へ行きまくりました.いくら良い環境で働いていても,働くということでストレスを感じています.旅行先では必ず心に余裕ができますので,そういう時に,ストレスが発散され,思い詰めていたことに対しても良い考えが浮かぶことが多々あります.旅行は「いろいろなことを考える時間」だと思いますので,ぜひお出かけください.もう一つは留学したら留学先のその国にある何かに深くはまってください(ちなみに私はアメリカのプロスポーツにはまりました).これもストレス発散になります.仕事とは違う何かに没頭する時間も一日のうちで大事だと思っています.たくさんのことを書きすぎましたが,留学は本当に素晴らしいものだと思います.これから機会のある人は決して逃がさないでください.これを読んでくださった皆さんのなかから将来留学し,このコラムが少しでもお役に立てることを心から願っております.☆☆☆丸山和一(まるやま・かずいち)1998年金沢医科大学卒業,京都第二赤十字病院,宇治徳洲会病院を経て,2001年に京都府立医科大学視覚機能再生外科学大学院入学.2003年から3年間HarvardMedicalSchool,SchepensEyeResearchInstituteに留学,2006年3月に京都府立医科大学視覚機能再生外科学大学院卒業,同年4月より京都府立医科大学視覚機能再生外科学講座後期専攻医,AdjunctAssistantScientist,DepartmentofOpthalmology,HarvardMedicalSchool,SchepensEyeResearchInstituteとなる.kmaruyam@ophth.kpu-m.ac.jp

よくわかる医療情報のお話4.年々進化するクリニカルパス

2006年12月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLSクリニカルパスあるいはクリティカルパス(以後パスと略します)は1980年代,カレン・ザンダー氏がボストンのニューイングランド・メディカルセンター病院において,産業現場における工程管理法を医療に応用したところから始まります.わが国に導入されたのは1990年代であり,歴史的にはごく浅いものです.元来は,米国におけるDRG/PPS(疾患別関連群/包括支払い方式)への対応が背景にあったわけですが,パスは医療介入のプロセス構築を行うものであるがために,従来,「医師の指示待ち」であった医療形態をすっかり変えてしまう結果となりました.パスの発展経緯や複雑な患者状態に対する適応のむずかしさなどから,パスを毛嫌いする医療者が存在することは事実ですが,パスに含まれる医療の質の向上,標準化,効率化,開示性などといった導入意義は今日の医療に求められている姿勢そのものであり,わが国においては独自のDPC(定額支払い方式)が拡大していくなかで,すでに,現在の医療には欠くことのできない手法となっています.わが国にパスが導入され始めた当初,パスは作成しやすい外科系の疾患がほとんどであり,パスにとって重要なアウトカムの設定をどのようにすればよいのか,バリアンスコードの作成や分析をどのように行えばよいのかなどは,それぞれの施設が手探りの状態で試行錯誤を行っていました.ところが,その後のパスの進歩には著しいものがあり,フォーマットもよく見かけるオーバービュー式のほかに,オールインワン式,日めくり式,などが開発され,施設ごとの書式や用語の統一,シート作成におけるevidence-basedmedicin(EBM)の検討なども行われるようになってきました.アウトカムに関してはクリニカルインディケーター(影響の大きいアウトカム)に関するベンチマーキングの実施(施設間比較),バリアンスに関しては収集方式のシステム化,バリアンス分析手法の確立などがなされてきました.パスの対象疾患も外科系から内科系へと拡大するとともに,日数を設定する従来型のパスのほかに,プチパス(部分的なパス),フェーズ別パス(日数設定が困難な疾患対象のパス),アルゴリズムパス(患者状態適応型パス)が作成されるようになってきています.また,現在でもほとんどのパスは入院疾患が対象ですが,近年は外来や救急にも適応されています.医療システムとの関連で言えば,独自に稼働するパスのシステム,オーダリング機能にリンクしたパスのシステムなどが登場し,最近では電子カルテ上で稼働するパスのシステムが最先端となっています.ただ,電子カルテ自体の導入もかなりの努力が必要ですが,パスを電子カルテ上で稼働させるにはさらに努力と工夫が必要で,いまだ紙ベースでパスを運用している施設が大多数というのが現状です.1999年に相次いで設立された日本クリニカルパス学会,医療マネージメント学会はわが国におけるパスの発展に大きな役割を果たしてきています.(75)よくわかる医療情報のお話●連載(隔月)④若宮俊司*年々進化するクリニカルパス*ShunjiWakamiya:川崎医科大学眼科学教室/川崎医療福祉大学感覚矯正学科/同医療情報学科/名古屋大学大学院医学系研究科医療管理情報学教室クリニカルパスの一例

硝子体手術のワンポイントアドバイス43.糖尿病性牽引性偽視神経萎縮に対する硝子体手術

2006年12月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLSはじめに増殖糖尿病網膜症の増殖膜が視神経乳頭近傍(特に鼻側)に存在する例では,後部硝子体?離の進行に伴い乳頭周囲の血管が増殖膜によって牽引され,視神経乳頭(特に耳側)が蒼白となり,視力低下および中心視野障害をきたすことがある.Krollらはこのような症例をtractinalopticnervepseudoatophyindiabeticretinop-athyと命名し,早期に硝子体手術を施行して視神経乳頭への牽引を解除することで視力改善が得られる可能性を報告した1).●硝子体手術による視神経乳頭循環の改善筆者らも過去に,同様の症例に対して硝子体手術を施行し,術前後にレーザースペックルで視神経乳頭周囲の血流を測定し,視野の改善とともに乳頭耳側の循環状態(73)が改善した症例を報告した2).硝子体手術後,視神経乳頭の色調は若干改善し(図1),Goldmann視野検査では術前の中心暗点は消失した(図2).レーザースペックル検査でも,術後に視神経乳頭の耳側の血流の改善をみた(図3).●手術適応の決定視神経乳頭周囲に増殖膜が存在し,黄斑部の変化を認めないにもかかわらず進行性に中心視力低下をきたす症例では,まず視野検査を施行することで本症を疑う.中心暗点が生じて長期間経過している症例では不可逆性の視神経萎縮が生じているので手術適応はないと考えられるが,進行性の場合には硝子体手術により視機能の改善が得られる可能性がある.文献1)KrollP,WiegandW,SchmidtJ:Vitreopapillarytractioninproliferativediabeticvitreoretinopathy.????????????????83:261-264,19992)佐藤孝樹,杉山哲也,池田恒彦ほか:硝子体手術を施行した糖尿病性牽引性偽視神経萎縮の2例.眼紀52:33-37,2001硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載?43糖尿病性牽引性偽視神経萎縮に対する硝子体手術池田恒彦大阪医科大学眼科ab図1糖尿病性牽引性偽視神経萎縮に対して硝子体手術を施行した症例a:術前眼底写真,b:術後眼底写真.ab図2Goldmann視野検査所見a:術前,b:術後.図3レーザースペックル検査所見(数値は四角内のSBR値)a:術前,b:術後.12.811.4a11.419.8b