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コンタクトレンズ:トライアルレンズの管理(1)

2006年10月30日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLSコンタクトレンズ(CL)を処方する際には,メーカーから提供されたトライアルレンズを角膜に装着してレンズの安定位置(センタリング)と動きから,選択したトライアルレンズがうまく眼にフィットしているかを判断する.ハードコンタクトレンズ(HCL)では,トライアルレンズ下のフルオレセインの染色パターンや瞬目に伴う涙液交換を評価して,ベースカーブ(BC)や周辺部デザインが適合しているかどうかを判定する.CLの度数は,トライアルレンズを装用した上から追加矯正を行って決定する.このようにトライアルレンズはCLの処方において欠かせないものであるが,トライアルレンズのサイズやBC,度数などが規格通りでないと正しい検査結果が得られない.また,不衛生な状態で保存されていると,レンズ,保存液,レンズケースに微生物が増殖するので,管理には細心の注意が求められる.●ハードコンタクトレンズ1996年にウエダ眼科と山口大学医学部附属病院眼科で使用していた10社19種329枚のトライアルレンズのBCと度数を調査した結果,約10%のレンズに1段階(±0.05mm,±0.25D)以上の誤差を認めた1).したがって,トライアルレンズのBCや度数などの規格を確認することが求められる.BCはラジアスコープで,度数はレンズメータで測定できる.規格通りではなかった場合にはメーカーに交換を依頼する.酸素透過率(Dk値)の高いガス透過性ハードコンタクトレンズ(RGPCL)は変形しやすいので,取り扱いには注意を要する.酸素を透過しないポリメチルメタクリレート(PMMA)素材のレンズはdryな状態で保存してもよいが,RGPCLはwetな状態で保存しなければならない.RGPCLに含まれるシリコン系成分やフッ素系成分は疎水性であるため,dryな状態ではレンズ表面に疎水基が,wetな状態では親水基が多く配列するので,保存液に浸漬された状態のほうが水濡れ性が高くなる2)(図1a,b).HCLは一般に消毒という操作を行わないため,長期間保存液を交換しないままだと微生物が増殖することが考えられるので,定期的なトライアルレンズの洗浄と保存液の交換が求められる.レンズケースに付着したバイオフィルムによる感染症が問題になっているので,定期的にレンズケースを交換することを薦める.(53)植田喜一山口大学大学院医学系研究科眼科学/ウエダ眼科コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純TOPICS&FITTINGTECHNICS268.トライアルレンズの管理(1)図1aDry状態のレンズレンズと空気の界面は疎水基が多く配列し,全体的に涙に濡れにくい表面となっている.レンズ空気親水基疎水基涙に濡れやすい涙に濡れにくい図1bWet状態のレンズ水中に浸漬するとレンズと水の界面に親水基が多く配列し,涙に濡れやすい表面になる.レンズ水中———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006(00)●従来型ソフトコンタクトレンズソフトコンタクトレンズ(SCL)のBCの測定は困難であるが,度数はレンズメータで測定できるのでトライアルレンズの度数を確認したほうがよい.含水性SCLは乾燥すると変形が著しい(図2)ので,必ずwetな状態で保存しなければならない.SCLは微生物が増殖しやすいため,消毒が義務づけられている.患者に使用したトライアルレンズはこすり洗いを十分に行った後に消毒を行い,レンズケースに保存する.消毒は煮沸消毒が最も効果的であるが,煮沸消毒ができない場合には化学消毒剤による消毒を行う.トライアルレンズを使用しない場合であっても定期的に洗浄,消毒を行うことが大切である.HCLと同様にレンズケースの交換を定期的に行うことが望ましい.●ディスポーザブルSCL,頻回交換SCL,定期交換SCLこれらのトライアルレンズはブリスターケースに入っているので,レンズは衛生的に保存されていると考えられる.しかしながら,トライアルレンズには使用期限が記載されているので,その期限内であることを確認する必要がある.使用したトライアルレンズは再使用せずに廃棄する.●その他HCLおよび従来型SCLの処方時に異なる規格のトライアルレンズを使用することがあるが,レンズケースに誤って戻さないように細心の注意を払う必要がある.メーカーからトライアルレンズを委託された場合には,レンズの紛失,破損などが生じないようにしなければならない.災害などでトライアルレンズが使用できなくなった場合の損失は莫大な金額になるので,こうした場合の対応についてもメーカーとよく協議しておいたほうがよい.トライアルレンズを衛生的に保存することは重要なことであるが,これについては次回で山口大学の柳井亮二先生に詳しく述べていただく.文献1)竹内弘子,植田喜一,西田輝夫ほか:ハードコンタクトレンズにおける規格不良の検討.日コレ誌40:7-11,19982)植田喜一:ハードコンタクトレンズの水濡れ性.あたらしい眼科19:71-72,2002図2乾燥に伴うレンズの形状変化a:シリコーンハイドロゲルレンズ(グループⅠ).b:含水性ソフトコンタクトレンズ(グループⅣ).c:含水性ソフトコンタクトレンズ(グループⅡ).d:含水性ソフトコンタクトレンズ(グループⅣ).放置直後15分後ab放置直後15分後放置直後15分後放置直後15分後cd

写真:水晶体偏位(Marfan症候群)

2006年10月30日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS(51)西村栄一谷口重雄昭和大学藤が丘病院眼科写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦269.水晶体偏位(Marfan症候群)水晶体が外上方に偏位図2図1のシェーマ図1水晶体偏位水晶体偏位を認める(左眼).図4カプセルエキスパンダーカプセルエキスパンダーで水晶体?を支持しながら超音波水晶体乳化吸引術を施行することにより,核落下,著明な硝子体脱出を予防しつつ,手術を行うことが可能である.図3図1の症例の片眼(右眼)Marfan症候群は両側性に水晶体偏位を生じることが多い.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006(00)Marfan症候群は,中胚葉系形成異常により,全身の結合組織が低形成を呈する疾患で,水晶体異常,骨格異常,心血管系異常を三徴とする.遺伝形式は常染色体優性遺伝がほとんどを占めるが,15%は孤発性のこともある.大動脈,皮膚,Zinn小帯に含まれる蛋白質である?brillinをコードする遺伝子(????)の異常も判明している1).眼症状としては水晶体異常,球状水晶体,眼瞼下垂,網膜?離,コロボーマ,隅角異常,緑内障,青色強膜などを認める.水晶体異常は先天的に水晶体の位置がずれる水晶体偏位,後天的に位置がずれる亜脱臼・完全脱臼に分類されるが,Marfan症候群は両側性に水晶体偏位を生じる代表的な疾患であり,約60~80%に合併するといわれている(図1~4).原因はZinn小帯の断裂または脆弱に起因する.Zinn小帯は不均一に弱くなるため,Zinn小帯が強いほうへ水晶体は牽引され,外方・上外方に偏位することが多い.若年者の場合,有形硝子体やWieger?帯で水晶体が支えられ,あまり偏位しないこともある2).症状としては調節障害,単眼複視を生じ,水晶体が瞳孔領から大きく外れたり後方へ偏位したりすると遠視化する.また前方に偏位すると近視化を生じ,瞳孔領をブロックする場合には,急性緑内障発作を生じることもある.治療は特異的な治療法はなく,対症療法が主となる.偏位が軽度の場合は,経過観察とする.弱視を生じている場合は屈折矯正をしたうえで,遮閉法を行う.薬物療法の適応は少ないが,高眼圧に対し降眼圧療法を行うことや,体位変動で瞳孔ブロックを生じた場合は,水晶体を後房に戻した後,縮瞳薬を用いることもある.手術治療の適応は水晶体偏位が進行して視力低下を生じた場合,白内障が進行した場合,水晶体が脱臼した場合,急性緑内障発作を生じた場合などである.術式は一般的には?内摘出術を選択することが多いが,経輪部または経毛様体扁平部からのアプローチで水晶体摘出する方法もある.どちらの方法を用いても硝子体脱出は必発であり,水晶体核・皮質の硝子体内落下の危険性もあり,適切な処理をしないと,駆逐性出血,術後網膜?離などの重篤な合併症を生じかねない.近年カプセルエキスパンダーを用いて超音波水晶体乳化吸引を行い,毛様溝縫着術を施行後に水晶体?を処理すると,低眼圧,著明な硝子体脱出,水晶体の硝子体内落下などを予防しつつ,比較的安全に手術を施行することも可能である.文献1)田中靖彦:水晶体偏位.眼科診療ガイド(丸尾敏夫ほか編),p243-244,文光堂,20042)永原幸:水晶体偏位.講義録眼・視覚学(山本修一,大鹿哲郎編),p164-165,メジカルビュー社,20063)谷口重雄:カプセルエキスパンダー.??????18:82-83,20044)NishimuraE,YaguchiS,NishiharaHetal:Acapsuleexpanderdesignedtopreservelenscapsuleintegritydur-ingphacoemulsi?cationwithaweakzonule.???????????????????????32:392-395,2006

時の人

2006年10月30日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS東京歯科大学眼科学教室は,1990年に坪田一男・藤島浩・戸田郁子の3先生の他,視能訓練士,秘書の方々などごく少数のスタッフにより産声をあげ,当初より角膜,ドライアイなどの前眼部疾患に焦点を絞った診療・研究を行い,その成果を積極的に国内外に発信し続けてきた.その後,島?潤先生,ビッセン宮島弘子先生,篠崎尚史先生(現・角膜センター長)などがスタッフに加わり,角膜移植,白内障手術,屈折矯正手術などの分野で着々と実績を重ねてこられた.さらに,2000年にはビッセン宮島先生が,新設された同大学水道橋病院眼科の教授として異動し,白内障・屈折矯正手術を専門とするユニークな眼科を立ち上げられ,同時に2000年には,再生医学関係の大型研究費を取得,また,世界で唯一の角膜センタービルの竣工をみるなど研究体制が飛躍的に充実した.この間,角膜移植・角膜再生・ドライアイ・アレルギーなどのキーワードで海外一流誌に次々に論文を発表し,国際的にも大きな注目を集めるようになった.そして2003年,それまで13年にわたり同大学眼科学教室を牽引してこられた坪田先生が慶應義塾大学医学部眼科学教室に教授として赴任され,本教室は新しい時代に入り,島?部長のもと従来を上回る例数の角膜移植を行いつつ,培養上皮移植などの角膜再生の臨床応用,若手スタッフの教育などを積極的に推し進めてこられた.*このように若い本教室の第二代の教授に就任されたのが島?潤先生である.先生は1982年慶應義塾大学医学部を卒業後,眼科学教室に入局された.1985年に済生会神奈川県病院眼科に医長として赴任され,1987年にはボストン大学およびEyeResearchInstituteofRetinaFoundationに留学された.1989年慶應義塾大学病院眼科に戻られ,1992年1月に慶應義塾大学伊勢慶應病院眼科に部長として赴任された.同年10月に東京歯科大学眼科学教室に講師として招かれ,さらに1999年4月に助教授になられた.そしてこの度2006年1月に第二代の教授に就任されたのである.先生の専門は,角膜疾患,角膜移植,眼表面再建,再生医療,ドライアイ,屈折矯正など多岐にわたり,その業績も角膜移植関連,特に移植後の管理や視機能向上に関する臨床研究,オキュラーサーフェス再建関連,羊膜移植や輪部移植,培養上皮移植などに関する臨床.基礎的研究,またドライアイ関連,マイボーム腺機能不全の臨床研究,ドライアイ診断基準の作成など多くを数える.*先生は「世界レベルの診療・研究・教育を通じて最高の前眼部治療を行う」こと,さらに「眼科のなかでも角膜疾患,ドライアイ,白内障といった前眼部疾患に焦点を絞り,世界に通用するレベルの診療,教育を行うことを目標にする」ことを教室の使命とし,また,大切にすべきこととして次の4点をあげられた.①アカデミック:理論やエビデンスに基づいた診療,研究,教育と世界への発信,②オープン:学閥,性別,年齢に捉われずに有能な人材を受け入れ,他の医療機関や研究施設と積極的に交流,③協力:医師,パラメディカル,研究員,アイバンクスタッフは対等な関係のもとに協力,④患者さん主体:病院全体のハード・ソフト両面での改善も必要.このような方針の下,先生は現在およびこれからの研究テーマとして,角膜再生,角膜移植,ドライアイ,アレルギー炎症の4つをあげられた(なお,教室のHPのURLはhttp://www.tdc-eye.comである).最後に先生の信念・信条をお尋ねしたところ,①良い臨床医の条件としての“知識・常識・プロ意識”をもって,②“どうせやるなら楽しんで”をモットーにされている,とのこと.また,ご趣味は囲碁(免状6段,実力8段!),スポーツクラブ(週2回目標),読書,ゴルフと多彩である.(49)人の時東京歯科大学眼科学教室・教授島?????潤???先生

免疫とアンチエイジング眼科学

2006年10月30日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSよとの本誌のご指示に従い敢えて独善的な考えを述べてみたい.浅学菲才ゆえの偏りについてはご寛恕賜りたい.筆者らは,加齢とともに免疫応答の一指標であるTh1/Th2バランスの偏奇が認められること,本偏奇が局所循環血流の低下や不安定性による局所酸素分圧の揺らぎを介する酸化ストレスや,ホルモンアンバランス〈交感神経・副交感神経バランス〉に基づく,抗原提示細胞(APC:マクロフアージ;Mf,樹状細胞;DC)の細胞内レドックス状態の偏奇によることを明らかにしている(表1)1~5).I低酸素組織環境と免疫応答癌組織の中心部は低酸素状態となりMfの浸潤が著明となり,血管内皮増殖因子(VEGF),インターロイキン(IL)-8などの血管新生因子の産生が促進され,血管新生抑制因子の機能は抑制され,DCの遊走能は抑制され,腫瘍血管新生が亢進する.この制御機構は癌組織はじめに筆者の眼科との接点は18年前になる.順天堂大学の金井淳教授から水晶体蛋白変性制御に筆者らのクローニングしたヒトチオレドキシンが使えないかとのお尋ねに始まる.本稿主題の一つであるグルタチオン(GSH)はグリシン,グルタミン酸,システインからなるトリペプチドであり,活性酸素の発生抑制/酸化ストレス予防,活性酸素の捕捉/酸化ストレス軽減,酸化ストレス障害の修復・再生の3段階のいずれにも働く優れた酸化ストレス防御物質である.GSHは水晶体の皮質で生合成され,水晶体の核内へと移行し,若年者では水晶体組織全体に分布するが,加齢とともに核内移行が傷害され老人性白内障の原因となる.GSHの細胞内局在という課題である.加齢に伴い循環器系疾患,糖尿病,悪性腫瘍,リウマチ様関節炎,筋萎縮など多様な疾患の発生頻度が高まる.眼科に限っても,老視をはじめ加齢黄斑変性症,加齢白内障,緑内障,ドライアイ,糖尿病網膜症など,ほとんどの眼疾患リスクが加齢とともに増加する.加齢性眼疾患について対応するには,正常な老化プロセス,インスリン様信号の担う寿命シグナルについての理解が基本的に不可欠であり,細胞代謝,Ca2+代謝,活性酸素など多様な軸が必要となる.免疫,炎症,癌の基礎研究ならびにレドックス研究に携わった筆者に,主題に応えることは任を超えるが,木下茂・坪田一男・谷原秀信先生らに戴いたご厚情をもとに,また,総花的記述を避け(41)????*JunjiHamuro:慶應義塾大学医学部微生物学免疫学教室/京都府立医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕羽室淳爾:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部微生物学免疫学教室特集●眼科におけるアンチエイジング医学の流れあたらしい眼科23(10):1283~1289,2006免疫とアンチエイジング眼科学???????????????????????????????????????????????羽室淳爾*表1加齢とTh1,Th2バランス老化→酸化ストレスの蓄積(ハーマンら,1955)(多くの生活習慣病の原因の一つ)加齢→Th1/Th2バランスのTh2への偏奇(羽室ら,2001)抗原提示細胞の細胞内レドックス状態がTh1/Th2バランスを規定する*(羽室ら,2000)低酸素→抗原提示細胞を酸化型に偏奇**(羽室ら,2002)(*図3参照,**図4,5参照)———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006を超えて,前眼部,後眼部においても同様と想定される.局所浸潤Mf/DCは細胞外マトリックスの構築に対しても重要な働きを示す.組織は低酸素状態になるとVEGFやVEGF受容体を発現し血管新生やリンパ管新生を誘発し,増殖促進や組織炎症亢進につながる.NO(一酸化窒素)がVEGF遺伝子発現を誘導することやプロスタグランジン(PG)E2などのアラキドン酸代謝産物が同様の作用を有すること,Mf由来のメタロプロテアーゼがプラスミノーゲンを分解して血管新生阻害因子であるアンジオスタチンを産生すること,TGFbもNO産生を抑制することなどは,血管,リンパ管新生も,Mfのレドックス機能と連関することを強く示唆する(表2).局所低酸素環境による酸化ストレスは,加齢とともに病態進展の認められる黄斑変性症,糖尿病網膜症の局所病態の制御に忘れてはならない視座である(図1).II細胞内レドックス機能とアミノ酸の取り込み一人寿命シグナルのみならず多くの生活習慣病,加齢に伴い病態の増悪する疾患には蛋白質の異化,同化作用のバランスが影響を与える.本バランスに係る重要な信号が寿命シグナルと考えられるインスリン様シグナルである(図2).加齢とともに筋肉細胞へのアミノ酸の取り込みには障害が生じ(同化作用の低下),ハウスキーピングの蛋白質から異化作用でアミノ酸を生成させアデノシン三リン酸(ATP)系に供給しエネルギー源として用いられる.老衰状態や末期癌患者,炎症性腸疾患患者などでみられる体重減少の一因である.アミノ酸を取り込むトランスポーター機能も細胞内レドックス状態により制御され,酸化状態では取り込みが減少する(図3).加齢とともに微小循環血流の低下が起こると,組織微小環境(42)図1低酸素環境下では組織内で活性酸素(ROS)が産生され酸化型組織に傾斜低酸素ミトコンドリアROSL-Glu-Cys+GlyL-Glu-Cys+ATP2GSHGSSGHIF-1aR-HS+ATPBSONADP+NADPHBCNU蛋白安定化gGCSGSSGレダクターゼアミノ酸蛋白質筋肉細胞(細胞内レドックス状態)(血漿中レドックス状態)[Cys]2/Cys2:生活習慣病の指標Ox-Alb:グルタチオンが結合した酸化型アルブミンOx-homoCys:酸化型ホモシステインGSSG>GSHGSH>GSSG創傷治癒癌循環器系疾患老化・体重減少糖尿・筋萎縮インスリンCysAlbCys2アミノ酸Ox-homoCysOx-AlbhomoCys図2老化プロセス,寿命シグナルとレドックス制御図3局所酸素分圧と抗原提示細胞機能温熱血流腫瘍間質酸素分圧血流改善(温熱療法,免疫療法,食品,代替療法)Mf/DC内レドックス状態遺伝子発現制御ミトコンドリア機能制御蛋白発現制御(Bax,Bcl)(プロテアゾーム経路での分解)(hsp90,70)(NF-κB,AP-1)表2免疫応答と組織修復血流(の揺らぎ),低酸素(の揺らぎ),低栄養,血管新生腫瘍関連マクロフアージ(TAM)とリンパ管,血管新生TSP(熱帯性痙性麻痺)の機能と分布(TGFbに関連)蛋白分解制御(遺伝子解析では不可能)NatMed(2004)末?でのVEGF受容体-3を介する信号制御による獲得免疫の人為的制御:VEGF受容体-3を介する信号を遮断すると樹状細胞のリンパ節への遊走が阻止され,遅延型過敏症も抑制され,角膜移植拒絶反応が抑制される.JCI(2006)丸山;京都府立医大CD11b+はリンパ管形成に関与:リンパ管内皮細胞にtransdi?erentiationする.眼アレルギー,感染防御:自然免疫vs獲得免疫タイプ1IFNvsIFN-g(IRFフアミリー,IL-15,IL-18,IL-33)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006????の酸素分圧が低下し,この低下をミトコンドリア膜上に存在するNADPH(nicotinamideadeninedinucleotidephosphate)などが感知し細胞内や組織内のレドックス状態は酸化型に傾斜する(図4).結果として,局所免疫応答は液性免疫(Th2)側に傾斜する(図4).線維芽細胞や肝細胞においては,NADPHが酸素分圧感知に働き,アクチン細胞骨格に保持されるKeap-1蛋白を酸化することで,Keap-1に会合するNrf-2蛋白が解離,核移行し,抗酸化応答性エレメント(ARE)に結合し,さまざまの抗酸化応答遺伝子を活性化する.この結果glu-tamatecysteineリガーゼ(GCL)の触媒サブユニットであるGCLCや制御サブユニットであるGCLMが誘導され細胞内GSH含量が増加する.抗酸化ストレスにおける蛋白分解に働くプロテアゾーム発現亢進にも本Keap-1/Nrf-2経路が関与する.Nrf-2は活性化Mfにおいて高発現されている.炎症終息に働く15d-PGI2はCOX-2の作用でアラキドン酸から産生されるが,一方で,Keap-1と付加体を形成し,Nrfの解離核移行を促進し,HO-1やパーオキシレドキシンの産生を促進し抗酸化応答を惹起する6).結果,腫瘍壊死因子(TNF)-a,MIF(マクロファージ遊走阻止因子)産生を抑制し,NFkBを抑制する.加齢とともにNrf-2の発現が低下することがGCL発現を低下させ,結果としてGSH合成が加齢とともに低下することに繋がる7).血流,組織酸素分圧,深部体温,APCやリンパ球の細胞内レドックス状態,アミノ酸の取り込み能が,血管新生の制御とともに組織炎症のpathophysiologyを規定する(図3).IIIアミノ酸代謝とマクロファージ機能の可塑性細胞が置かれている環境中のアミノ酸/アミノ酸代謝が,シグナル伝達物質/シグナル機能としての役割をもち,そのアミノ酸濃度のバランスを感知する機構が細胞に備わっている.ロイシンはmTOR(mammaliantar-getofrapamycin)を活性するが,本mTORが低酸素でも誘導される.非侵襲時には非必須アミノ酸であるグルタミンは,侵襲時にはその需要が増加し,必須アミノ酸となる.この傾向は粘膜組織において著しい.グルタチオン合成の律速段階は,システインの供給量である.システインは直接,あるいは,GSH合成・代謝を介して,Mf内の酸化還元状態を規定し,Th1あるいはTh2の極性化の鍵を握る因子であることになる(図5).アルギニンは,免疫栄養における最も重要な栄養成分の一つと考えられている.Mf内のアルギニン代謝機構として2つの経路が考えられている.iNOS(誘導型一酸化窒素合成酵素)を介しNOを産生する経路は,アルギニンによる感染抵抗性などの免疫賦活作用に関与する.アルギナーゼを介し,オルニチンを経てポリアミンに代謝される経路が今一つのものである.Th1病といわれる炎症性腸疾患,リウマチの病態においてはNOの過剰産生が,Th2病といわれる喘息病態モデルにおいてはアルギナーゼの亢進が認められている(図5).Mfによ(43)酸化型マクロファージ・樹状細胞還元型マクロファージ・樹状細胞細胞性免疫弱い:Th2細胞性免疫強い:Th1酸素の多い少ない:ミトコンドリアが察知周辺環境で酸素分圧が低いと組織,細胞内の酸素が増加(ROS)図4局所酸素分圧と抗原提示細胞機能図5還元型・酸化型マクロファージL-ArgL-OH-ArgONiNOSArginasePolyamineProOrnithine液性免疫細胞増殖創傷治癒細胞性免疫殺菌細胞障害RMfArgiNOSNO↑CitrullineArginaseOrn↑IL-6,IL-10,TGFb??fArg??fTrp・IFN-g・TNFa・IL-1IDOTrp↓???Cys↑Cys↓???IL-2↑IL-2↓GSH>GSSGGSSG>GSH抗原提示細胞より産生されるサイトカインOMfTh1サイトカイン・IL-4/IL-13・IL-10Th2サイトカインIL-12,IL-15,IL-18———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006るアルギニンの消費によりTリンパ球の機能低下が起こるが,これは,抗原情報の細胞内シグナル伝達に不可欠なCD3x鎖の発現低下に起因する.IV酸化型/還元型マクロファージの機能とTh1/Th2バランスの制御1972年,Parishは細胞性免疫と液性免疫応答の間の逆相関を感作抗原量の変化により観察した.T→T相互作用を担うIL-2,インターフェロン-g(IFN-g)などの可溶性因子を産生する活性化CD4+Tリンパ球がTh1,T→B相互作用を担うIL-4,IL-5,IL-6,IL-10,IL-13などの可溶性因子を産生するものがTh2と呼称されるようになった.現在では,Th1,Th2の前駆細胞としてのTh0に加えてTh3,Tr-1と呼称される免疫調節性のCD4+Tリンパ球亜集団の存在やCD8+Tリンパ球においてもサイトカイン産生パターンの異なる亜集団(Tc1,Tc2)の存在が示されている.筆者らは,Mfの機能の多様性をレドックス機能の視点から解析し,Th1/Th2バランスがAPCであるMfやDCの細胞内レドックス状態により制御されるとする新しいパラダイムを提唱した(表1,図5).細胞内の還元型グルタチオン含量の高いものを還元型Mf,低いものを酸化型Mfと呼称する.還元型GSH含量の高い還元型MfからのみIL-12は産生される.酸化型MfからはIL-12の産生はまったく認められず,Th1/Th2バランスに重要な働きを示すIL-12の産生が酸化型/還元型Mfのバランスで一義的に規定されていると考えている.Th1サイトカインIL-2,IFN-gは還元型Mfを誘導するのに対し,Th2サイトカインIL-4,IL-10,IL-13は酸化型Mfを誘導すること,TGFbはデキサメサゾン同様に強力に酸化型Mfを誘導する.サイトカイン自身がMf/DCの酸化型/還元型を選択的に規定するという知見である.還元型MfでのIL-12産生増強はp38MAPKの活性化とJNK活性阻害を介する.TGFbの作用は多様でNFkB,p38MAPK阻害を介する前炎症性サイトカイン産生阻害とSmad3,AP-1経路を介するMCP-1産生増強などが知られているが,いずれもMf内のレドックス制御を受ける.Mfにdichot-omyを想定するところに最大の新視点がある1~5).VエイジングとTh1/Th2バランス加齢とともに免疫能の低下することは一般紙に掲載されるほどであるが,内容は不分明なまま怪しげな健康食品が広がっている現状には忸怩たる思いを抱く.動物実験では,Th1/Th2バランスはTh2に傾斜する.野生型では加齢とともにTh2への傾斜が認められるが,チオレドキシンTgマウスでは若齢形質が保持され(図6),寿命の延長も認められる.固型癌局所壊死巣は,低酸素状態に陥り,DCの遊走が抑制され,酸化型Mfが浸潤し,悪液質や免疫抑制を誘導する.局所低酸素状態では外科,放射線治療いずれの予後も著しく不良である.加齢に伴い発症するリウマチ様関節炎患者では関節腔浸潤Tリンパ球は酸化ストレスにより抗原情報伝達に重要な(44)002040608001021248421262.752005001051002IFN/IL-4年齢(月)年齢(月):TRXマウス:WTマウスIFN-g/IL-4(雄)(雌)図6加齢に伴うTh1/Th2バランスの変遷加齢に伴ってCD4Tリンパ球から産生されるサイトカインがTh2に偏奇する.抗加齢にはTh1/Th2バランスの修復が必要.(羽室ら:MolImmunol,2001)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006????細胞膜上のLAT(lymphocyteactivatingtransducer)分子が細胞質に移行しTリンパ球機能は低下する(細胞内の機能性蛋白質の細胞内局在が細胞内レドックス状態で規定されることを示す).加齢とともに蓄積する酸化ストレスはこうしたからくりでTリンパ球機能不全状態を招来する.リウマチ様関節炎を自然発症するSKGマウスではAPCからのIFN-g産生が亢進し,IL-10産生は低下する.ために,局所自然免疫が偏奇し,Th1サイトカイン病態が惹起される.IL-2受容体g鎖,JAK3ノックアウトマウスでは酸化型APCが主流で短命である(図7).加齢に伴いインスリン非依存性糖尿病を自然発症するNODマウスは,Langerhans島破壊期には還元型APC/Th1回路が主となり,酸化型誘導により発症抑制と延命効果が認められる.OVA(卵白アルブミン)誘発喘息モデルでは,還元型誘導で遲発性気道抵抗性の改善が認められる.VI自然免疫応答とレドックス機能還元型Mf自身,Th1サイトカインの典型であるIFN-g産生をし,Th1/Th2バランスをTh2に傾斜させるIL-10は酸化型Mfからより多量に産生される.DCからの産生も還元型から起こる.IFN-g産生誘導能を有するIL-18も還元型Mfから産生されることも判明した.IL-15産生も還元型で起こり,IL-15自身還元型を誘導する(羽室ら,JExpMed印刷中).以上のことは,免疫応答の惹起段階でDCからIFN-gが産生され,本サイトカインによって局所浸潤Mfが還元型に傾斜し,IL-12,IL-15,IL-18が産生され,これらサイトカインの共存下において局所でIFN-gが著量産生されるというautocrine/paracrineactivationpathwayが局所自然免疫応答に重要な役割を担うことを示す.炎症局所に存在するMf/DCからIFN-g,IL-15,IL-18,IL-10のいずれが産生されるかによってTh1サイトカイン病,Th2サイトカイン病ともいうべき病態が起こる.IL-10は典型的な免疫抑制性サイトカインであるが酸化型Mfを誘導する.この作用はNFkBの抑制を介することが明らかであるが,本作用の過程にproteindisul?deisomerase(PDI)が介在する.IL-10により誘導されたPDIが細胞質内でのIkBの蛋白分解を阻害していると考えられている.PDIはNFkBのnegativeregulatorという点で構造類似のチオレドキシン(TRX)がposi-tiveregulatorとして作用することと好対照をなす.若年者では水晶体組織全体に分布するGSHが加齢とともに核内移行が傷害され老人性白内障の原因となることは前述したが,機能性蛋白質の細胞内局在が細胞内レドックス状態で規定されることと階層的制御機構の存在することを物語る.抗原情報を核に伝達するのに不可欠のLAT分子の細胞内局在にはレドックス系が関与し,酸化型ではLAT分子は細胞質に分散しTリンパ球の信号伝達不全状態を招来する.細胞のアポトーシスに関係するBcl-2分子の細胞内局在にもレドックス系が関与し還元型ではBcl-2分子は核に移行し,アポトーシスに抵抗性となる.白内障との関係で研究の進展が望まれる.VII加齢と微小循環血流温熱療法は癌細胞やウイルス感染細胞の易熱性による直接的効果を超え,熱ストレスにより誘導される熱ショック蛋白質(HSPs)による抗原提示の亢進など免疫賦活化作用のあることが判明している.全身温熱療法は血流改善,エンドルフィン産生促進などを介し癌性疼痛を軽減することが示唆されている.副交感神経優位の状態に偏奇させる自律神経免疫療法とみなしうる側面も有する.加齢とともにみられる老視や老人性白内障,緑内障,ドライアイなどには局所微小血流,交感/副交感神経系のバランスの加齢による揺らぎの低下が関与するのではないかと筆者は想定している(図8).また,硝子体(45)2.50864205年齢(月)年齢(月)JAK3+/-IL-2Rg+/YIL-2Rg-/YJAK3-/-7.51.00.90.80.70.60.51.00.90.80.70.60.5図7酸化型マクロファージに傾斜すると短命になる———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006(46)の皮質領域のゲル組織の中に存在する硝子体細胞(ヒアロサイト)は単球/Mf系の細胞とされており,分化の進んだMfとも考えられる.したがって,その機能は可塑的で加齢とともに不可逆変化を起こすことは容易に想像される.硝子体細胞が生理的には網膜色素上皮細胞,虹彩色素上皮細胞,血管内皮細胞の増殖抑制に働くことを考えると,硝子体腔の透明性維持,糖尿病硝子体網膜症の発症に関与していると考えられる.山田潤(明治鍼灸大学)らは角膜組織のレドックス状態が人為的に制御できることを明らかにしており(図9),アンチエイジングに向けた眼科領域における新しい試みとして期待される.図8免疫・内分泌・神経系と体温免疫系内分泌系神経系刺激交感神経優位副交感神経優位分泌されるホルモンの種類によって,免疫力が弱くなったり強くなったりする免疫細胞が抗原の刺激を受けると神経系を刺激して発熱し,ホルモンが分泌されて熱が下がる痛み・苦味・熱など体内の異常を認識し,異物の混入を防ぐ外部の刺激を受け,指令を出すホルモンの分泌で臓器の機能を保つTRPM8<22℃TRPV322~42℃TRPV142~52℃TRPV2>52℃MCBMerge(CD11b+Pl)Merge(MCB+CD11b)MCBMerge(CD11b+Pl)Merge(MCB+CD11b)a:生理食塩水b:シスチン誘導体図9角膜組織内のレドックス状態の人為的制御(山田潤,木下茂ら:未発表データ)———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006????(47)おわりに加齢に伴い血流機能障害,ホルモンバランス障害,局所酸素分圧障害,あるいは,より高位の交感/副交感神経系バランス障害が起こり結果として,MfやDCのレドックス状態を偏奇させて,結果,免疫応答の質的変化,血管,リンパ管形成の偏奇,炎症応答の遷延化など起こすことが,加齢に伴う多くの眼科疾患,視覚障害の原因の一つであると考える.再生医療を含めた新しい取り組みを最後に表3にまとめる.眼科の臨床現場を知らない素人の独白の機会をお許しいただいた木下茂編集主幹,本特集の企画者の坪田一男先生に深く感謝いたします.文献1)MurataY,ShimamuraT,TagamiTetal:TheskewingtoTh1inducedbylentinanisdirectedthroughthedis-tinctivecytokineproductionbymacrophageswithelevat-edintracellularglutathionecontent.???????????????????2:673-689,20022)MurataY,OhtekiT,KoyasuSetal:IFN-gammaandpro-in?ammatorycytokineproductionbyantigen-pre-sentingcellsisdictatedbyintracellularthiolredoxstatusregulatedbyoxygentension.?????????????32:2866-2873,20023)MurataY,AmaoM,HamuroJ:Sequentialconversionoftheredoxstatusofmacrophagesdictatesthepathologicalprogressionofautoimmunediabetes.?????????????33:1001-1011,20034)UtsugiM,DobashiK,IshizukaTetal:c-JunN-terminalkinasenegativelyregulateslipopolysaccharide-inducedIL-12productioninhumanmacrophages:roleofmito-gen-activatedproteinkinaseinglutathioneredoxregula-tionofIL-12production.?????????171:628-635,20035)UtsugiM,DobashiK,KogaYetal:Glutathioneredoxregulateslipopolysaccharide-inducedIL-12productionthroughp38mitogen-activatedproteinkinaseactivationinhumanmonocytes:roleofglutathioneredoxinIFN-gprimingofIL-12production.?????????????71:339-347,20026)ItohK,MochizukiM,IshiiYetal:TranscriptionfactorNrf2regulatesinflammationbymediatingthee?ectof15-deoxy-Δ12,14-prostaglandinJ2.?????????????24:36-45,20047)SuhJH,ShenviSV,DixonBMetal:Declineintranscrip-tionalactivityofNrf2causesage-relatedlossofglutathi-onesynthesis,whichisreversiblewithlipoicacid.??????????????????????101:3381-3386,2004表3眼科領域におけるアンチエイジング眼科領域での医療用具,医薬品再生医療:角膜再生,網膜再生生活習慣病と眼のはたらき疫学,全身疾患系統介入/食品:ARED(bカロチン,ビタミンC,E,亜鉛),Ocuvite,再生を促進する食品!加齢と眼のはたらき「眼から始めるアンチエイジング」坪田一男遺伝子による支配,免疫力の低下,フリーラジカルなどによる組織変性,ホルモンの低下木下茂,山田潤1.角結膜組織のGSH含量:どこに焦点をあわせるか非侵襲的診断(モニター)技術とリンク2.涙液のレドックス機能

メタボエイジング-メタボリックドミノからのアプローチ

2006年10月30日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS慣病の重積概念のなかに肥満を入れていないことは注目すべき点である.1999年になり,こうした病態に対して“メタボリックシンドローム,あるいはメタボリック症候群(metabolicsyndrome)”という疾患名が与えられた.しかし,現在までに,異なった考え方に基づく多種類の診断基準が発表され(表2),混乱を招いているのも事実である.WHO(世界保健機関)基準では,あくまで糖尿病からみた疾患概念であり,糖尿病あるいは耐糖能異常,インスリン抵抗性を基盤にして,高血圧症の合併あるいは微量アルブミン尿という合併症を含んだ概念である.つまり,糖尿病と,その他の生活習慣病の合併,マルチプルリスクファクター症候群と似た概念であった.今日微量アルブミン尿が心血管リスクとなることが明らかになり,臨床上,心血管合併症の進行の優れたIメタボリックシンドロームの考え方脳血管疾患と虚血性心疾患は,日本人の死亡原因の2位,3位を占めており,3人に1人はこうした動脈硬化性疾患によって死亡しているのが現状である.心血管病の危険因子は肥満,耐糖能異常,高血圧症,高脂血症などの生活習慣病であるが,これらの危険因子が同一の個体に重積すると,動脈硬化性疾患の発症頻度はきわめて高率になることが明らかにされている.危険因子が重積する病態は,1980年代末より,ReavenはsyndromeX,Kaplanはdeadlyquartet(死の四重奏)と名づけ注目していたが,当時,DeFronzoはインスリン抵抗性症候群,松澤らは内臓脂肪症候群と,病態の共通の病因を意識した疾患名を示している(表1).Reavenが,この生活習(31)????*HiroshiItoh:慶應義塾大学医学部内科学教室〔別刷請求先〕伊藤裕:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部内科学教室特集●眼科におけるアンチエイジング医学の流れあたらしい眼科23(10):1273~1281,2006メタボエイジング─メタボリックドミノからのアプローチ─“??????-?????”─????“????????????????”?????????─伊藤裕*表1メタボリックシンドローム内臓脂肪症候群松澤,1987SyndromeXReaven,1988SyndromeXplusZimmet,1990DeadlyquartetKaplan,1989インスリン抵抗性症候群DeFronzo,1991内臓脂肪蓄積耐糖能異常高血圧高TG血症低HDL-C血症インスリン抵抗性高インスリン血症高VLDL血症低HDL-C血症高血圧耐糖能異常インスリン抵抗性高インスリン血症高VLDL血症低HDL-C血症高血圧耐糖能異常上半身肥満高尿酸血症運動減少加齢上半身肥満耐糖能異常高TG血症高血圧肥満インスリン非依存性糖尿病高血圧動脈硬化性脳血管障害脂質代謝異常高インスリン血症TG:トリグリセライド,HDL-C:高比重リポ蛋白コレステロール,VLDL:超低密度リポ蛋白.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006surrogatemarkerとなっていることを考えると,診断基準のなかに,微量アルブミンを入れている点は面白い.NCEP-ATPⅢ(NationalCholesterolEducationProgram,AdultTreatmentPanelⅢ)基準は,ある意味画期的な診断の考え方を示しているといえる.すなわち,耐糖能異常を診断基準の1項目に引き下げ,また肥満に関して,腹囲を項目として採用し,初めて内臓脂肪の重要性を示している点である.2005年4月に松澤祐次先生を委員長とする日本内科学会および関連8学会により構成される委員会から,わが国におけるメタボリックシンドロームの診断基準が示された.1999年代になり,脂肪細胞が単に中性脂肪を蓄積するだけでなく,数多くのホルモン(アディポサイトカイン)を分泌する内分泌臓器であることが明らかになり,この分野において日本が世界をリードすることとなった.その研究実績を元に,メタボリックシンドロームに関して明確な視点を打ち出していることは非常に評価されるべきである(表3).すなわち,メタボリックシンドロームの診断意義を「内臓脂肪蓄積を必須項目とし,過剰栄養摂取の制限や身体活動度の増加などのライフスタイル改善をメタボリックシンドローム介入,心血管疾患予防の第一目標とする」として,肥満特に内臓脂肪蓄積を,その病因的基盤において,内臓脂肪蓄積を臨床的に簡便に評価できる指標として腹囲を採用し,腹囲が男性で85cm以上,女性で90cm以上を必須項目としている点が画期的である.また心血管イベントの発症予防のため早期からの治療介入を実現することを目指し,血圧も正常高値血圧を基準とし,また耐糖能異常を項目としており,生活習慣病がいわゆる予備軍の段階であってもその重積により心血管イベントの大きなリスクになることを示している点も重要である.その後,同年5月になり,国際糖尿病連盟(IDF)からもほぼ同じ概念の診断基準が示され,メタボリックシンドロームの診断基準はこの概念に落ち着くと思われたが,Reavenの流れを色濃く受け継ぐ欧米では,同年秋になり,アメリカ心臓病学会から,腹囲を必須項目とはせず,基本的にはNCEP-ATPⅢの基準に準ずる指針が示され,再び混乱を生じている.欧米ではメタボリックシンドロームそのものに対しても懐疑的な意見が出されている.すなわち,定義の曖昧性,診断項目の軽重,重篤度が斟酌されていないこと,あるいはすでに糖尿病になっている場合,あるいは心血管イベントを起こしている場合の診断意義などが批判点であり,マルチプルリスクファクター症候群以上の意義を見出しがたいとしているのである.これらの批判はある程度意味のあるものではあるが,欧米では,糖尿病患者のほとんどがメタボリックシンドロームとなってしまうが,日本では,糖尿病患者の半数のみがメタボリックシンドロームであり,患者背景が圧倒的に異なる点をわれわれは認識すべきである.メタボリックシンドロームは,単なる生活習慣病の重積(マルチプルリスクファクター症候群)ではなく「インスリン抵抗性,動脈硬化惹起リポ蛋白異常,血圧高値を個人に合併する心血管病易発症状態」と定義されており,少なくとも日本においては,肥満を病因とした生活習慣病の重積病態をしっかりとメタボリックシンドロームとして(32)表2メタボリックシンドロームの診断基準WHO基準(1999)NCEP-ATPⅢ基準(2001)糖尿病またはIGTまたはインスリン抵抗性・以下のうち2つ以上1)肥満;BMI>30kg/m?またはWHR(ウエスト/ヒップ比)>0.9(男)>0.85(女)2)脂質代謝異常中性脂肪>150mg/d?またはHDL-C<40mg/d?(男)<50mg/d?(女)3)高血圧血圧>140/90mmHgまたは降圧薬服用者4)微量アルブミン尿アルブミン排泄>20?g/分・以下のうち3つ以上1)空腹時血糖値>110mg/d?2)高中性脂肪血症中性脂肪>150mg/d?3)低HDL-C血症HDL-C<40mg/d?(男)<50mg/d?(女)4)高血圧血圧>130/85mmHgまたは降圧薬服用者5)腹部肥満腹囲(臍周辺)>102cm(男)>88cm(女)表3わが国におけるメタボリックシンドロームの診断基準ウエスト周囲径男性:85cm以上女性:90cm以上1.中性脂肪150mg/d?以上あるいはHDLコレステロール40mg/d?未満2.血圧130mmHgあるいは85mmHg以上3.空腹時血糖110mg/d?以上(以上3項目のうち2項目以上)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006????認識し,それぞれの病態が軽症のうちから,早期介入することは意義のあることであると思われる.現在日本の診断基準に基づいてその患者数を推定すると,その数は940万人,予備軍は1,020万人となり,両者をあわせると国民の20%にも達し,40~74歳の男性の2人に1人,女性の5人に1人がメタボリックシンドロームの可能性があることが明らかとなった.社会的にも大いに注目されているが,現在の問題点は,腹囲の基準値および空腹時血糖を診断項目としている点である.腹囲に関しては,CT(コンピュータ断層撮影)で測定した内臓脂肪量が100cm2を超えるとリスクファクターの重積の確率が高いとの松澤らの臨床結果をもとに,この値に対応する腹囲が男性85cm,女性90cmに相当するとして定められた.しかし,IDFではアジア人の基準として,男性は90cm,女性は80cmとしている(表4).また最近の臨床調査からは,女性の腹囲の基準は,80cmあるいはそれ以下が適当であるとの複数の報告もなされている.さらに今後内臓脂肪を簡便に測定する方法が見出されれば腹囲そのものの意義も薄らいでくると思われる.むしろ,より重要であると思われる点は,耐糖能異常の基準を空腹時高血糖としている点である.インスリン抵抗性あるいは内臓脂肪量は食後高血糖と強い相関があり,実際に空腹時高血糖の病態より,食後高血糖の病態のほうが心血管イベントのリスクとなることも明らかにされているからである.食後高血糖の評価が臨床的にはむずかしいので,今後は,ヘモグロビンA1c(HbA1c)5.6~5.8%程度の患者には積極的な経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を行い食後高血糖をスクリーニングしていくべきであると思われる.事実,厚生労働省では,「健康日本21」の成果が十分にあげられていないという2006年の調査結果をうけて,2008年より医療保険者全員に,健診と保険医療指導を行うことを事務化することにし,2013年までに生活習慣病を25%削減する目標を掲げている.このように,メタボリックシンドロームの診断各項目については今後修正が加えられていくと思われる.II“メタボリックドミノ”とは21世紀の内科医療において,おそらく悪性疾患とともに,メタボリックシンドロームを基盤にした代謝性疾患から循環器疾患への連続した一連の疾患群(lifestylemedicineともよべるかもしれない)が,2大疾患を形成すると考えられる.筆者は,この代謝性疾患から循環器疾患に至るプロセスについて,生活習慣病の“重積”のみならず,その成因と発症の順序,すなわち,生活習慣病の“流れ”,および心血管合併症の発症に至る生活習慣病の“連鎖”を把握する概念として“メタボリックドミノ”という考え方を示している(図1).すなわち,食生活の偏りや運動不足といった生活習慣の揺らぎが,いわば,ドミノ倒しの最初の一つの駒(ドミノ)を倒すことになり,その結果,まず肥満,特に内臓肥満そして,アディポサイトカイン分泌異常,インスリン抵抗性など共通の病因をひき起こし,高血圧,食後高血糖,高脂血(33)表4国際糖尿病連盟:民族別ウエスト周囲径の診断基準国/民族ウエスト周囲径欧州人男性女性94cm以上80cm南アジア人男性女性90cm80cm中国人男性女性90cm80cm日本人男性女性85cm90cm中南米民族暫定的に南アジア人に準じるサハラ以南アフリカ民族暫定的に欧州人に準じる東地中海,中近東民族暫定的に欧州人に準じる図1メタボリックドミノ———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006症といった病態がほぼ同じ時期に生じてくる.これがメタボリックシンドロームの段階である.最近では,メタボリックドミノの下流に位置する動脈硬化症の発症において重要である,炎症(炎症細胞浸潤)とその結果生じる各臓器での酸化ストレスの上昇が,この段階でも重要な役割を演じていることが明らかにされている.その結果,生活習慣病のそれぞれのドミノは,お互いのドミノが倒れることをひき起こしている.最近注目されている脂肪肝,さらにNASH(非アルコール性脂肪性肝炎)といった病態もこの段階で生じ,糖脂質代謝の中心臓器の一つである肝臓の機能障害が,これら複数のドミノが同時に倒れることに寄与していると考えられる.動脈硬化症はこの段階からすでに徐々に進んでおり,生命予後に直結する虚血性心疾患や脳血管障害などの発症につながっていく.しかしながら,この段階ではまだ糖尿病は発症しておらず,さらに膵機能障害,インスリン分泌不全が生じることで,糖尿病が起こり,その後,糖尿病3大合併症は糖尿病が発症してある一定の期間高血糖が持続することではじめて生じてくる.メタボリックドミノの総崩れ状態が,心不全,痴呆,脳卒中,下肢切断や腎透析,失明といった病態であり,この段階はもうpointofnoreturnと考えられる.こうしたメタボリックドミノの流れのなかで,各段階で,お互いのドミノがお互いが倒れることに寄与しているというエビデンスが報告されている.たとえば,糖尿病発症に至っていないIGT(耐糖能異常)でBMI(体型指数)25kg/m2以上の肥満患者を対象にしたアルファーグルコシダーゼ阻害薬を用いた糖尿病発症予防試験(STOP-NIDDM)では,糖尿病発症は投薬群で有意にその発症が抑えられたが,さらに興味深いことに高血圧発症までが34%有意に抑制された(図2).このことは食後高血糖が糖尿病のみならず,高血圧症発症にも関与していることを示している.そのメカニズムはよくわかっていないが,食後高血糖による肝臓や膵臓,血管での酸化ストレスが注目されている.さらにドミノの下流,糖尿病合併高血圧症患者においても,ドミノが複雑に倒れ込み合うことでその合併症が生じていることが明らかにされた.UKPDS(UKProspectiveDiabetesStudy)33では,厳格な血糖コントロールによりHbAlcを7.9%から7.0%に減少させることによって,ミクロアンギオ(34)1.00.90.80.70.60.50.4糖尿病に進展しなかった症例比率02004006008001,0001,200追跡日数プラセボアカルボース1.000.950.900.850.80高血圧を発症しなかった症例比率02004006008001,0001,200追跡期間(日)プラセボアカルボース34%リスク低下p=0.00681,400図2IGTを対象とした糖尿病発症予防試験(STOP-NIDDM)BMI25kg/m2以上の1,368名の男女を無作為に分け3年間追跡調査した.(ChiassonJLetal:Lancet359:2072-2077,2002より)図3糖尿病合併高血圧症患者の合併症発症の低下率(UKPDS33,Lancet,1998;352:837,UKPDS38,BMJ,1998;317:703より)20100-10-20-30-40-50糖尿病関連エンドポイント糖尿病関連死糖尿病三大合併症心筋梗塞脳卒中-12-10-25-161120100-10-20-30-40-50糖尿病関連エンドポイント糖尿病関連死糖尿病三大合併症心筋梗塞脳卒中-24-32-37-21-44厳格な血糖コントロール(HbA1c7.0%vs7.9%)UKPDS:UKProspectiveDiabetesStudy厳格な血圧コントロール(144/82vs154/87mmHg)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006????パチーである糖尿病の3大合併症は25%有意に抑制できたが,心筋梗塞や脳卒中などのマクロアンギオパチーは有意に抑制できなかった.一方,UKPDS38では,厳格な血圧コントロールにより収縮期血圧を10mmHg,拡張期血圧を5mmHg低下させることで,脳卒中が44%,心筋梗塞が21%抑制でき,さらに,糖尿病の3大合併症や糖尿病関連死を有効に抑制できた(図3).またBeza?brateInfarctionPrevention研究では高中性脂肪血症の抑制により糖尿病の発症も抑制されている.このように,生活習慣病の重積発症を時系列で捉えるとともに,時間的な流れの過程でそれぞれの疾患が相乗的に影響しあいながら病態が進展し,一気に心血管イベントが起こってくるという考え方がメタボリックドミノである.したがって,メタボリックドミノの概念では,従来からいわれてきた危険因子の“重積”に加え,危険因子の“流れ”と,その流れのなかで危険因子が“連鎖”反応を起こすことを重要視する.IIIメタボリックドミノにおける糖尿病合併高血圧症の位置づけ心血管病のリスクとして最も注目されているのが高血圧症と糖尿病の合併であり,その合併頻度も高い.糖尿病患者における高血圧症の発症頻度は,非糖尿病者に比べ約2倍高い.一方,高血圧症患者における糖尿病の発症頻度は正常血圧者に比べて約3倍高くなっている.糖尿病合併高血圧患者は実はメタボリックドミノのかなり下流に位置していることをわれわれは認識すべきである.未治療高血圧患者795人の10年以上のコホート研究において,エントリー時すでに糖尿病と診断されている患者と,エントリー時は糖尿病を発症しておらず,その後3年間のフォローアップで新規に糖尿病を発症した患者では,ほぼ同程度にその後の心血管イベントの発症率が,非糖尿病群に比べその後のフォローアップ期間中初期の段階から約4~5倍高いとされている(図4).この報告においても糖尿病発症時にすでに,血管障害が進行していることを物語っている.また,心血管イベントによる死亡率は非糖尿病者に対して糖尿病患者では数倍高くなるが,注目すべき点は糖尿病患者では心筋梗塞既往歴なしの死亡率が非糖尿病患者の心筋梗塞既往歴ありの死亡率と同等であるということである.糖尿病を発症しているというだけで,心筋梗塞の既往歴者と同等のリスクを背負っているということになる(図5).糖尿病性腎症の初期病変である微量アルブミン尿は,心血管イベントのマーカーになることが知られている.最近,病因の如何にかかわらず,腎機能が糸球体濾過値(GFR)で60m?/min以下に低下した患者は,「慢性腎臓疾患(chronickidneydisease:CKD)」として注目されている.わが国においてもCKD患者は,国民の20%に達すると推定されており,CKDとメタボリックシンドロームとの関連が示唆されている.CKDは,心血管イ(35)非イベント発症率(%)100人当たり年間イベント発症率(/100人/年)イベント発生までの年数グループABC03691215非糖尿病患者Ap=0.0001CB新規糖尿病発症患者糖尿病患者0.973.904.7010090807060504030543210図4糖尿病新規発症:心血管イベントの予知因子795人の未治療高血圧患者エントリー時の糖尿病罹患率:6.5%,フォローアップ中の新規糖尿病発症率:5.8%.(VerdecchiaP:Hypertension43:1-7,2004より)非糖尿病糖尿病心筋梗塞既往:なし:あり454035302520151050心筋梗塞発症率(%)図52型糖尿病患者および非糖尿病患者の心血管イベントにおける心筋梗塞既往歴の有無の比較─7年間のフォローアップ(Ha?nerSMetal:NEnglJMed339:229,1998より)———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006ベントのリスクとなり,いわゆる心腎連関の重要性とその機序が研究されている.IV“メタボエイジング”と抗加齢加齢現象の研究は,1935年,MacCayらにより,カロリー制限(caloricrestriction:CR)が生物の寿命を延長させるとの観察から始まった.以降,酵母(????????????????????????),線虫(??????????????????????),サカナ,マウス,ラット,イヌ,さらにサルなどにおいてCRが寿命を延長させることが明らかにされ,CRに,加齢現象の分子機序解明の糸口があると考えられ,現在精力的に研究が進んでいる.すべてのCRの生物において共通しているのは,低グルコース血症と,低インスリン(あるいはそのホモログ)血症およびインスリン感受性の亢進であり,基本的なエネルギー源であるグルコース代謝が加齢の鍵を握っているといえる.加齢現象は,酸化ストレス(活性酸素の産生)あるいはERストレス(ミスフォールデイング蛋白の増加)などの観点から語られることが多いが,筆者は代謝面からみた加齢現象を,“メタボエイジング”とよびたい(表5).こうしたCRにおける代謝面での変化は,メタボリックシンドロームにおける,過剰エネルギー状態での高血糖,高インスリン血症,およびインスリン抵抗性状態とまったく逆の状態でありきわめて興味深い.つまり,メタボエイジングとメタボリックシンドロームには多くの共通点があると思われる.CRは当初,栄養不足による成長遅延あるいは代謝低下さらに,それに伴う活性酸素産生の低下が寿命の延長の原因であると考えられた.しかしながら,CRを行った生命体の基礎代謝率は必ずしも低くなく,また活性酸素の産生に関しても必ずしも低下していないことが示されている(表6).酵母において糖濃度を2%から0.5%に低下させることにより,分裂回数が25%増加する.減少したカロリーの有効な利用のため酵母では,発酵〔2分子のアデノシン三リン酸(ATP)の産生〕より呼吸(28分子のATPの産生;ミトコンドリアにおけるTCA回路さらに電子伝達系/呼吸鎖)が好まれるようになる.効率のいいATP産生に伴い解糖系の速度は遅くなり,またNADHからNADへの再酸化が生じる.このことが,NAD依存性デカルボキシラーゼであるSIR2(silentinforma-tionregulator)を活性化し,寿命延長をもたらす.CRは,またNADsalvagepathwayを活性化し,亢進したnicotinamidaseによりnicotinamideが減少しこのこともSIR2の活性化につながる.一方,cAMP依存性プロテインキナーゼは,SIR2発現を負に制御している.この分子は原核生物から真核生物まで種を超えて保存されており,現在,メタボエイジングの鍵分子となることが明らかとなっている.ショウジョウバエでもCRの効果が認められるが,CRによりSir2遺伝子発現は亢進し,Sir2mutantではCRの効果は消失する.哺乳類のSir蛋白ホモログはSIRT1である.SIRT1は,CRにより,ラット肝臓,脂肪組織,脳,腎臓においてその発現量が増加する.Sir2は遺伝子発現のサイレンシングのみならず哺乳類ではエネルギー関連臓器へのさまざまの作用,脂肪細胞,筋細胞分化やアポトーシスへの効果が報告されており,これら多彩な作用が抗加齢に作用すると考えられている.表7aにマイクロアレイ解析により明らかにされた,代謝関連遺伝子発現の変化を示す.飢餓状態では,グリコーゲン分解,脂肪動員,糖新生,ケトン体形成,熱産生が起こり,これらはすべて脳での糖利用を優先させる(36)表5メタボエイジングCR:抗加齢メタボリックシンドローム?カロリー制限?低血糖?低インスリン血症?インスリン感受性亢進やせ,脂肪量減少?カロリー過多?高血糖?高インスリン血症?インスリン抵抗性“低インスリン血症”肥満,内臓脂肪増加表6カロリー制限とアンチエイジング?成長遅延説?体脂肪減少説?代謝率低下説?糖インスリン系変調説?成長ホルモンIGF系変調説?酸化ストレス減弱説?ストレス耐性説———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006????変化である.インスリン分泌は低下し,グルカゴン分泌は亢進し,肝臓では糖新生およびグリコーゲン分解が進み,脂肪組織からは脂肪分解が進む.一方,加齢においては糖新生の低下〔肝臓におけるglucose-6-phopha-tase(G6Pase)の低下〕,解糖系の亢進〔肝臓におけるpyruvatekinase(PK)の増加〕が起こる.また,カロリー摂取過多状態でも,解糖系〔glycealdehyde-3-dehy-drogenase,pyruvatedehydrogenase(PDH)〕の亢進,NAD+の消費,SIR2抑制が起こり,これらの変化は,加齢性の変化に類似している(表7b).空腹時やインスリン欠乏時に肝臓においてその発現が誘導され糖新生を促進するPGC-1a(peroxisomeproliferatoractivatedreceptor-gco-activator1a)は,SIRT1により脱アセチル化を受けて活性化されることが知られている.Vメタボエイジングとインスリン/IGF経路の意義内分泌系であるインスリン/IGF(インスリン様成長因子)-1経路が加齢現象に関与することが,おもに線虫,さらにショウジョウバエ,さらには,インスリン経路とIGF経路(成長ホルモンの支配下)に分離したマウスでも明らかにされている.事実CRでは低グルコース,低インスリン血症が認められる.少なくとも,線虫においては,インスリン/IGF-1経路は,CR,生殖細胞からのシグナル,clk経路と並んで寿命延長に重要であることは証明されている.図6に示すように,インスリン/IGF-1受容体ホモログであるDAF-2部分欠損により寿命が延長する.また,PI3キナーゼホモログであるAGE-1の部分欠損でも同様である.これらの欠損株では,forkhead/winged-helixfamilytranscriptionfactor(Foxo)ホモログであるDAF-16の活性が上昇することがその寿命延長に必須であることが示されている(Foxo3a欠損メスマウスでは,prematureagingが起こる).一方,この経路に拮抗するPTENフォスファターゼのホモログ,DAF-18欠損では寿命の延長が抑制される.最近DAF-2リガンドとしてCeinsulin-1が同定された.線虫では,体の先端部分で環境の変化を感覚神経が感知し,Ceinsulin-1が分泌されDAF-2受容体を介してシグナルが伝わり,最終的には神経系の活性が変(37)表7aCRにおける代謝性変化?低グルコース,インスリン血症?骨格筋,脂肪組織でのグルコース取り込みの亢進?インスリン感受性の亢進?糖新生の亢進:骨格筋(fructose-1,6-bisphophatase,glucose-6-phophatase,pyru-vatekinase):肝臓(phosphoenolpyruvatecarboxykinase,glucose-6-phosphatase)?解糖系の低下:肝臓(pyruvatekinase,phosphofructokinase-1,pyruvatedehydro-genase)?脂肪酸合成の亢進(fattyacidsynthase,PPARdelta):骨格筋?脂肪酸合成の低下(fattyacidsynthase,fattyacidbindingprotein2transaldolase):肝臓表7b加齢およびカロリー摂取過多における代謝性変化の類似性加齢における代謝性変化?糖新生の変化:肝臓におけるglucose-6-phophatase(G6Pase)の低下?解糖系の亢進:肝臓におけるpyruvatekinase(PK)の増加カロリー摂取過多時における代謝性変化?解糖系の亢進:肝臓におけるglycealdehyde-3-dehydrogenase,PDHの増加図6線虫におけるインスリン/IGF-1経路と寿命Insulin-likeligandDAF-2(Insulin/IGF-1receptor)AGE-1(PI3kinase)DAF-18(PTENphosphatase)PI(3.4)P2,PI(3.4.5)P3AKT-1/AKT-2DAF-16(Foxo)Longevity———————————————————————-Page8????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006(38)わることで寿命延長につながるようである.マウスにおいてもIGF-1受容体へテロ欠損マウスのメスにおいて寿命の延長が報告されている.しかし,寿命延長がメスにしか認められないことや,検討数が少ない点あるいはマウスsubstrainの問題など批判もある.一方,????小人症マウスでは,PROP1(下垂体の発達に必要なPit-1発現に必須)の欠損により成長ホルモン,プロラクチン,TSH(甲状腺刺激ホルモン)などの欠損がみられ,このマウスでは50%ほどの寿命の延長がみられる.またPit-1欠損である?????小人症マウスでも同様の減少が認められる.これらのマウスにおいて,どのホルモンの欠損が重要なのかを含め,そのメカニズムはよくわかっていない.これらのマウスでは,成長遅延に加えて,低体温,活性酸素の低下が認められる.哺乳類において,インスリンあるいは成長ホルモンが加齢においてどれほど重要であるかについては結論が得られていない.VIメタボエイジングと脂肪細胞分化,肥満CRマウスやラットさらにはサルにおいて脂肪量の減少が認められる.このことより脂肪量と寿命の関連が示唆された.特に脂肪細胞特異的インスリン受容体ノックアウトマウス(FIRKO)マウスでは脂肪量の減少とともに寿命の延長が認められた.しかし,レプチン受容体欠損肥満??/??マウスにおいても,CRはやせている対照マウスより寿命を延長させることが知られている.また脂肪量と寿命の相関はラットにおいてはそのsubstrainによって異なることが報告されている.線虫においては,長寿を示すDAF-2欠損株において腸管の色素沈着(脂肪蓄積を示す)が認められるものがあるが,必ずしも寿命延長とは直接の関連はないとされている.興味深いことに,寿命制御にかかわるSIRT1は,脂肪細胞において脂肪細胞分化に必須のPPAR-g(peroxi-someprolierator-activatedreceptor-g)発現を,転写の負の調節因子であるNcoR,SMRTを動員することにより抑制することが示されている.またSIRT1の過剰発現により,脂肪分解および蓄積脂肪量の低下が認められる.さらに,?????+/-マウスでは空腹時の脂肪細胞からの脂肪酸の動員が抑制されている.これまで代謝率が低いほうが長寿であるという考え方もあった(表6)が,現在議論をよんでいる.FIRKOマウスでは対照マウスに比べ過食傾向を示し代謝率は高い.また脂肪細胞分化の初期の段階に重要なC/EBPaをC/EBPbに置換したマウスでも脂肪分解亢進による代謝亢進を認め寿命の延長が認められる.またマウスでは酸素消費量(代謝率)と寿命との間に正の相関を認めるとの報告がある.この代謝率の亢進の分子機構として最近ではUCP(uncouplingprotein)が注目されている.UCPはミトコンドリアでの電子伝達系におけるATP産生においてプロトンの漏出を促進しATP産生を減らし逆に熱産生を増やす結果をもたらす.CRにおいて,UCP2(脂肪細胞)およびUCP3(骨格筋細胞)が上昇しミトコンドリアでuncoupling(脱共役)が上昇していることが観察されている.CRに伴う個体のサイズ減少は,表面積の相対的な増加による熱消失をきたし,そのために代償的にUCPによる熱産生が亢進していると考えられている.絶食によりマウス膵臓においてUCP2発現が亢進することも知られている.UCPによる脱共役の増加は,電子伝達系において産生される活性酸素量の減少をもたらす.事実,UCP2ノックアウトマウスでは活性酸素産生が亢進していることが報告されている.またマウスにおいては脱共役の程度と寿命に関連があるという報告もある.こういった観点からもUCPによる脱共役の亢進と寿命の延長の関係は興味深い.UCP活性亢進とSIRT1の関係は,今後の研究課題であるが,最近膵臓では,インスリン産生細胞でのSIRT1過剰発現マウスの検討などからSIRT1がUCP2発現を抑制し,膵b細胞でのATP含量が増加しインスリン分泌が増加することが明らかとなった.またSIRT1ノックアウトマウスではUCP2発現レベルは高い.このことは,CRにおいてインスリン分泌量が減少すること,線虫ではSIR2活性の増加によりインスリン/IGF-1経路の活性が減弱することとは逆である.VIIメタボエイジングとメタボリックドミノメタボエイジングのメカニズム解明にはCRの寿命延長作用機序が重要であり,そのなかでSIR蛋白の意義は大きいと思われる.しかしながら,上述したように,———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006????(39)CRにおける代謝性の変化は下等生物と高等生物で必ずしも同じでなく,またSIR蛋白の作用も同じではない.たとえば,下等生物では,外界のグルコース濃度の低下に対して,有効なエネルギーの獲得とその保存がより明確な形で代謝系の変化として現れ寿命延長に繋がる.一方,高等動物ではATP産生を犠牲にしても熱産生の亢進を高めるためにUCPの発現亢進が生じるなど複雑な反応が起こる(しかしUCP発現は,加齢において重要な活性酸素の産生を抑制するという意味で重要であるかもしれない).またCRにおけるインスリン分泌低下はSIRT1の活性がむしろ低下するためである可能性がある.一方,CRにおけるインスリン感受性の亢進は,脂肪細胞量の低下に伴うアディポサイトカイン分泌の変化により説明できるかもしれない(図7b).一般的に,線虫ではインスリン/IGF-1経路の活性化は寿命延長に対して抑制的に作用するが,ヒトの場合,インスリン抵抗性(インスリン/IGF-1経路の減弱)が,メタボリックシンドロームをひき起こし寿命は短縮する.SIRT1は,Fox3を脱アセチル化し,酸化ストレスに対する耐性を増強し,またアポトーシスの促進を抑制する作用も有しており,また老化促進分子であるp53やFasリガンド,Bax,Bimなどの抑制作用なども報告されており,細胞障害,細胞死に対する効果も重要である.いずれにしてもメタボエイジングの分子機構はまだまだ不明な点が多い.メタボリックドミノの出発点は過食,摂取エネルギー過多に伴うインスリン分泌過剰である.さらに脂肪細胞の増殖,肥大に伴いインスリン抵抗性が惹起される.CRにおける代謝変化とはまったく逆の変化が生じ,その結果,生活習慣病の発症,動脈硬化症の進展から心血管イベントによる寿命の短縮が起こる.また大腸癌など明らかに肥満に関連した悪性腫瘍も存在する.これらメタボリックドミノのすべての過程において,炎症の重要性が指摘されている.ドミノ上流では肥満に伴う脂肪組織炎症とそれによるインスリン抵抗性,ドミノ中流では肝臓,膵臓の炎症によるメタボリックシンドロームの進展や糖尿病の発症,さらにドミノの下流では血管の炎症による動脈硬化症の発症である.メタボリックドミノの進展をメタボエイジングとしてながめてみると,インスリン抵抗性による解糖系,脂肪分解の亢進などの代謝変化,あるいは活性酸素産生の増加以外にも,たとえば,過食に伴うSIRT1活性の低下は,脂肪細胞の形質転換とそれに伴うアディポサイトカイン分泌の変化(図7b),あるいは活性酸素産生の亢進と組織炎症や組織細胞障害の進展,さらに膵臓におけるインスリン分泌低下が想定される.今後,メタボエイジングの分子機構が明らかになれば,メタボリックドミノに対する新たな治療戦略が生まれることが期待される.InsulinresistanceBloodglucose;increaseInsulin;increaseAdiposetissueFatstorage;increaseAdiponectin;decreaseTNFa;increaseSkeletalmuscleGlycolysis;increaseLipolysis;decreaseLiverGlycolysis;increaseFattyacidsynthesis;increasePancreasβcellInsulinsecretion;increaseCalorieExcess図7bカロリー過多(メタボリックシンドローム)におけるエネルギーサイクルInsulinsensitivity;increaseBloodglucose;decreaseInsulin;decreaseAdiposetissueFatstorage;decreaseAdiponectin;increaseTNFa;decreaseSkeletalmuscleGluconeogenesis;increaseFattyacidsynthesis;increaseLiverGlycolysis;decreaseFattyacidsynthesis;decreasePancreasβcellInsulinsecretion;decreaseCR図7aカロリー制限時におけるエネルギーサイクル

食べ物とアンチエイジング医学

2006年10月30日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS立って仕事をしている場合に適正なカロリー量で,同じ仕事をする成人女性では2,000kcalを摂取するとちょうどよいバランスになる.現在,動物レベルにおける「アンチエイジング」実験として最も確立された方法は「カロリー制限」であろう.たとえば,アメリカでは,実際に男女7名のボランティアにより,1日1,600kcalの制限食の実験も行われるなど,多くの興味ある研究が行われているが,このような「カロリー制限」と「寿命延長」の興味ある動物実験として,最近,ハツカネズミやサルを用いた「寿命延長」の研究の紹介があった2).たとえば,制限食を与えたハツカネズミの寿命は平均で45カ月(正常食では33カ月)という驚異的な延命であると紹介していたが,特に筆者が興味をもったのは,サルに制限食を与えた実験の結果であった.サルの一群に1日688kcalの正常食を与え,もう一方の群には477kcalの制限食を与えて比較した実験で,両者を比較すると,正常食のサルの体重は31ポンド,制限食の場合は21ポンドと約3分の2であった.体重における脂肪分の割合は,正常食では25%に対して制限食では10%,中性脂質は正常食169に対して制限食の場合は67という低値で,血圧も制限食では低く,血糖値も正常食の71に対して制限食56,特に,インスリンレベルは正常食93に対して制限食29という低値であった.これらの結果は,「カロリー制限」が「動脈硬化」や「糖尿病」の予防にもつながることを示唆している3).Iアンチエイジングと食生活生活習慣病の急増の原因として「ライフスタイル」,なかでも「食生活」が大きく影響し,とりわけ,食事の欧風化に伴うカロリーの摂取過剰が指摘されてきている.1976年に報告された世界39カ国の比較では,脂肪,特に動物性脂肪の摂取量と乳癌による死亡率の高い相関性が明らかにされている.1970年代になると,当時のニクソン大統領により,国家的なプロジェクトとして「食と発癌」の関連性を究明しようという研究予算案が署名されており,このような動きのなかで,アメリカ人の食事内容に警鐘が与えられ,それは1977年に,アメリカ上院のマクガバン委員会により「望ましい食事の取り方」の目標として提案されたが,理想とされたものは当時の日本人の食事の摂取パターンに非常に近いものであった1).当時のアメリカ人の平均の総カロリー摂取量は1日3,240キロカロリー(kcal)という高いもので,これを2,500kcalにまで減らそうというものであった.3,240kcalというのは,中肉中背の日本人の成人男性だと「強い生活活動強度」,すなわち,8時間の睡眠ののち2時間の激しいトレーニングか重い筋肉労働をし,4時間程度の歩行と5~6時間の立ち仕事をしてようやく消費できるカロリー量である.一方,2,500kcalというのは,中肉中背の日本人の成人男性が「中程度の生活活動強度」,すなわち,8時間の睡眠ののち,通勤,買い物や仕事などで2時間程度歩行をし,1日6~7時間は(21)????*ToshihikoOsawa:名古屋大学大学院生命農学研究科食品機能科学研究室〔別刷請求先〕大澤俊彦:〒464-8601名古屋市千種区不老町名古屋大学大学院生命農学研究科食品機能科学研究室特集●眼科におけるアンチエイジング医学の流れあたらしい眼科23(10):1263~1272,2006食べ物とアンチエイジング医学????-???????????????????????????????大澤俊彦*———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006しかしながら,このような「寿命延長」の実験に対して,正常食の場合は摂取カロリーの過剰で,本来動物のもっている寿命に至る前で死を迎えるにすぎないのではないか,という反論もある.確かに,これらの実験は,カロリー制限だけを行ったものでビタミンやミネラルなどの栄養素は同じように与えられ,あくまで「老化制御」の研究のために計画された研究アプローチであり,私たち人間の場合は,過食は問題であるがそれ以上にバランスのよい適度な栄養摂取が必要である,との指摘もされている.筆者の親しい友人であるメリーランド大学のSimic教授がとてもユニークな研究を発表している.私たちは,過剰に生成された「活性酸素」が常時,DNAに対して酸化傷害を与えつづけているが,私たちの体が健康なときには,この「酸化DNA」は「修復酵素」で正しい遺伝子の配列になるように修理されている.この「酸化DNA」の部分は尿に排泄されるので,この量を測定することでどれくらい酸化ストレスを受けているかがわかるというわけである.Simic教授は,自分自身を実験台に,図1に示したように,まず1カ月間,肉や乳製品中心の食生活で2,400kcalを摂取するという食生活を送り(A),次の1カ月間は同じ2,400kcalのカロリー摂取であるが,野菜や果物中心の食生活を過ごした(B).そこで彼は,尿中に出てくるDNAの酸化傷害バイオマーカー(8?ヒドロキシデオキシグアノシン)の量を測定したところ,同じ摂取カロリーでも野菜や果物の場合は半減するという結果であった4).この結果はとても示唆に富んでいる.私たちは,どうしても摂取カロリーの数値のみに目を向けがちであるが,同じカロリー摂取でも食事のメニューにより,酸化傷害の程度を半減させることができる,というわけである.ここで重要な役割を果たしたのが「栄養素」以外の色素や香り,辛味成分など「非栄養素」とよばれる成分であり,なかでも,「抗酸化成分」のもつ生理機能の重要性が認識されてきている5).最近の食生活の変化により,過剰なカロリー摂取や脂肪摂取過剰が問題となり,「メタボリックシンドローム」がジャーナリズムを賑わしている.特に,最近の厚生労働省,沖縄県の統計によると,25~50歳までの年齢層では,男性,女性ともに死亡率が全国平均より高く,女性はかろうじて全国一位の長寿を保っているものの,男性は26位と新聞に大きく報道されたことも記憶に新しい.最近の調査では,日本で肥満者とされるBodyMassIndex(BMI)の値が25以上の頻度の割合は,沖縄県では男性が42.7%(全国平均:27.5%)であり,女性でも28.4%(全国平均:18.9%)という高値であった.このままの状況が続くと,「世界最長寿」の看板も下ろさざるをえないと危惧され,特に,沖縄の伝統的な食生活から急激な欧米化への変化が問題視されている6).IIアンチエイジングと機能性食品因子このような背景で,アメリカでは,膨大な疫学研究のデータを背景とした「デザイナーフーズ:DesignerFoods」計画,すなわち,「植物性食品成分」(フィトケミカルズ:Phytochemicals)による癌予防」が1990年にスタートしている.特に注目されたのは,ポリフェノール類やイオウ化合物,テルペノイドやアルカロイド,カロテノイドなどの「非栄養素」とよばれる食品成分である.この研究の流れは,産官学を巻き込んだ「食と健康」研究の中心となり,ニューヨークやサンフランシスコで「デザイナーフーズ」に関する国際会議が開催され,筆者もオーガナイザーとして参加してきた.一方,日本では,1984年に「食品の機能性」に関する研究プロジェクトが世界に先駆けてスタートしている.このプロジェクトは,まったく新しいコンセプトのプロジェクトであり,特徴は,「栄養機能」である一次機能,「感覚機能」の二次機能に加えて食品研究の場に三次機能として「生理生体調節機能」という新しい概念(22)図1酸化ストレスが予防できるメニューの一例*キャベツ,ブロッコリー,アスパラガス,ニンジン,サツマイモ,リンゴ,オレンジ,プラムなど.00.20.40.6尿中に排出される遺伝子の酸化分解物(nmol/kg/日)01,0002,0003,000摂取カロリー(kcal/日)肉や乳製品中心の食事野菜・果物中心の食事*———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006????が取り入れられた点である.当初,「機能性」の概念にあまり積極的でなかった欧米でも徐々に浸透し,「ファンクショナルフーズ」として定着しつつある.このような研究の流れで,筆者らは「食品因子」(フードファクター)の概念を創出し,筆者を会長とする「第1回国際フードファクター学会」が1995年に開催され,日本における「機能性食品因子」研究の大きな流れのきっかけとなった.現在,筆者が理事長をつとめる「日本フードファクター学会」(http://www.jsoff.com/)が創設され,2007年12月には,吉川敏一京都府立医科大学教授を会長として「第4回国際フードファクター学会」(4thInternationalConferenceonFoodFactors:ICoFF04)が企画されている.このように,国内における「機能性食品因子」の概念は,確実に広まり,また,定着しつつあるが,特に重要視されているのが,データベースの構築である.東京農業大学の荒井綜一教授を班長として2000年にスタートした「機能性食品因子」のデータベース構築研究には多くの研究グループが参加し,筆者らも,ゴマリグナン類やクルクミン類縁体,アントシアニン類など,ハーブやスパイス,香辛野菜を中心に200種以上の「機能性食品因子」のデータベース化を行ってきた.現在,この内容は,機能性食品因子データベース(http://www.life-science.jp/FFF/index.jsp)として公開されている.現在,「健康食品」ブームといわれ,国内市場は1兆円を超えており,今後,ますます増加の一途をたどるものと推定されている.一方,2001年の「保健機能食品制度」の創設により,ビタミン,ミネラルの一部は規格基準型の「栄養機能食品」の範疇で取り扱われるようになった.そのなかで,生理・機能を表示できるのは,特定保健用食品,いわゆる「トクホ」だけであり,その機能性表示も限られているものの,2005年の時点で569品目が認可され,売り上げも6,299億円となっている.ところが,「トクホ」は限られた生理機能のみが表示できるが,今,日本国中至るところでみられる「健康食品」はもちろんのこと,「サプリメント」に関しても,用語上の定義も法令上は存在していない,というのが現状である.一方,欧米では,このようなビタミン,ミネラル,ハーブなどのもつ栄養性や生理機能に対する補助的な作用に着目し,アメリカでは「ダイエタリーサプリメント(DietarySupplements)」,ヨーロッパでは「フードサプリメント(FoodSupplements)」という用語が用いられてきている.しかし,これらの「健康食品」や「サプリメント」といわれる範疇に属する補助食品に対する考え方は必ずしも世界共通ではないのが現状であり,規格基準化と表示の国際的な統一の必要性が討議されるようになってきている.ヨーロッパでは,個々の国別の基準はあるものの,EUとしての統一された食品基準も必要となるために,グローバル化の必要性が検討されているが,日本の対応は大きく出遅れているのが現状である.今後,日本が孤立しないためにも日本でも真剣に国際的な食品規格の制定に積極的な関与が重要となり,さらに,産官学の連携が必要となる7).しかしながら,癌予防をはじめとする疾病予防機能をもつという「健康食品」のほとんどは,科学的な根拠(evidence-based)に基づいているとは言いがたいのが現状である.最近,国立健康・栄養研究所はウェブサイトにおいて「健康食品の安全性・有効性情報」に関するホームページ(http://hfnet.nih.go.jp/)を立ち上げ,現在市場に出回っている約250種類の「健康食品」の情報を公開しているが,十分な情報を網羅しているとは言いがたいのが現状であろう.もちろん,最も重要となるのはバランスの取れた基本的な「食生活」であり,疫学研究を背景にしたデータを基盤とすべきである.アメリカの「デザイナーフーズ」計画は疫学研究を基盤に,「癌をはじめ生活習慣病予防」という立場で40種の野菜や果物,香辛料や穀類,嗜好品などを取り上げた.筆者らは,「デザイナーフーズ」には,同じ科や類の食品群に共通する「機能性食品因子」が含まれていることに着目し,食品因子の効能に順位をつけるのではなく,科や類によって食品群のバランスを図ることを提唱した.そこで,「デザイナーフーズ」計画に取り上げられていなかった日本伝統の食品素材も含めて,12の食品群に分類してみたが,ここで強調したいのは,一つの分類の食品素材を大量に摂取するのではなく,できれば,1~2日の食事で12分類に含まれる食品をまんべんなく食べるように心がけたいと提案している(表1)8).(23)———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006IIIアンチエイジングが期待できる機能性食品素材最近,「フィトケミカル」による疾病予防へのアプローチは大きな注目を集めつつある.筆者らの研究グループも,子孫を絶やさず次世代に生命を残すための植物の生体防御機能をもつ多種多様な植物性食品素材に着目した.特に,色素や渋味,香り成分などが植物から高温や紫外線による酸化傷害から自身を保護しており,このような「抗酸化食品因子」を積極的に摂取することで「癌」をはじめ「生活習慣病」などの疾病の予防が期待されている.たとえば,黒米や黒豆,紫トウモロコシや赤ブドウなどに大量に含まれている赤色色素としてよく知られているシアニジングルコシドに関して,その強力な抗酸化性に関する研究を中心に進められてきたが,最近,このシアニジングルコシドが,高脂肪食を与えたラットで体脂肪の蓄積が抑制され,ラットの単離成熟脂肪細胞を用いたジーンチップによるmRNAレベルでの解析を行った結果,レプチンやアディポネクチンの上昇,????gの標的遺伝子の発現上昇や脂肪酸結合蛋白質4やホルモン感受性リパーゼなどについての変動を明らかにしている.最近,ヒト成熟脂肪細胞を用いた解析を進めており,図2に示したようなアディポサイトカインや脂質代謝,エネルギー代謝関連遺伝子については,リアルタイムPCR(polymerasechainreaction)による発現定量に成功しており,現在,蛋白質レベルでの解析を進めている.この結果は,ラットとヒトの個体差,また,肥満の抑制と生活習慣病の予防など,新しい展開ができるものと期待している.一般に,酸化ストレスに対する防御能の高い野生種の色は,有色タイプに多く含まれ,栽培種として私たちが日常食べている食品素材には含量が多くない.有色の野生種から長い間の交配・品種改良を進めた結果,自身の抗酸化的な防御機構は低下したと推定されているので,もう一度野生種のもつ機能性に目を向ける必要があるのではないかと考えている9).最近,機能性食品素材として大きな注目を集めている素材は,ハーブ,スパイス類であろう.ハーブとは地中海沿岸地方で産出される植物素材から得られたものが多く,ヨーロッパを中心にそれぞれの国々で伝統的に用いられ現在に至っている.ヨーロッパの長い歴史のなかで,人々が調理に用いたり煎じて飲んだり,身に帯びて香りを嗅いだりすると,体調が良くなったり,気分が安定したり快活になるような「不思議な力をもった植物」を「ハーブ」と称して,長い伝統の過程で選びだされた,と考えられている.「ハーブ」に利用される植物を人類が使用した歴史は古く,5万年以上も前の狩猟民族の時代に遡る,といわれている.以来,古代エジプトの時代から中世,近世を経て現代に至るまで,人類の文化の発展とともに「ハーブ」の種類も使い方も多様化して(24)高脂肪食高カロリー摂取食事療法薬物療法脂質代謝異常・血中脂質上昇・インスリン抵抗性・脂肪細胞肥大化・インスリン分泌不全肥満,糖尿病,動脈硬化の発症・病態の進展環境因子食品因子図2食品因子による抗肥満の可能性未病診断と食品因子による抗肥満評価法に,ニュートリゲノミクスとともにプロテーム解析,特に「抗体チップ」による評価法が期待されている.(例:アディポネクチン,レプチン,mcp-1,PAI-1,IL-6,UCP2,ACOX1,PLNなど)表1生活習慣病予防が期待できる12の食品群ユリ科タマネギ,ニンニク,アサツキ,ニラアブラナ科キャベツ,ブロッコリ,カリフラワー,ダイコンカブ,メキャベツナス科トマト,ナス,ピーマン,ジャガイモセリ科ニンジン,セロリ,パースニップ,パセリ,セリウリ科キュウリ,メロン,カボチャキク科ゴボウ,シュンギクミカン科オレンジ,レモン,グレープフルーツキノコ類シイタケ,エノキ,マッシュルーム,キクラゲ海藻類ヒジキ,ワカメ,コンブ穀類・豆類油糧種子玄米,全粒小麦,大麦,亜麻,エン麦,大豆,インゲン豆,オリーブ香辛料ショウガ,ターメリック(ウコン),ローズマリー,セイジ,タイム,バジル,タラゴン,カンゾウ,ハッカ,オレガノ,ゴマ,シソ嗜好品緑茶,紅茶,ウーロン茶,ココア———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006????きた.一方,「スパイス」の歴史も古く,「ハーブ」,「スパイス」の厳密な区分けはできないが,「スパイス」は,ヨーロッパを基点とする世界貿易が盛んに行われたために,インドや東南アジアなど熱帯,亜熱帯地方原産の素材が,アラビア人によりヨーロッパにもたらされてきた,とされている.このように,ヨーロッパで花開いた「ハーブ・スパイス」は,その多くは,歴史をたどると古く東洋で「アーユルヴェーダ」として用いられた植物素材に起源があり,その現代版として「アロマテラピー」が世界的に広まってきている.しかしながら,「アロマテラピー」に関しては,日本においては,薬事法や医師法の規制のために,医療としてではなく普及しているが,十分な科学的な根拠(evidence-based)に基づいているとはいいがたいのが現状である10).このような背景で,筆者らの研究グループが,特に注目している素材が,ゴマとターメリック(ウコン)である.ここでは,アンチエイジング食の応用の一例として,ウコンとゴマに焦点をあてて紹介してみたい.IV「クルクミノイド」と老化予防カレー料理をはじめインド料理に不可欠な香辛料,ターメリックの黄色の色素成分の一つであるクルクミンは,多くの注目が集められてきている.ターメリックは,秋ウコン(?????????????L.)の根茎を乾燥して粉末にしたもので,沖縄では,ウコン染めやウッチン茶として広く用いられている.ウコンは,古くから強肝利胆薬や健胃薬として広く用いられ,さらには疫痢,喘息,結核,子宮出血などに用いられてきた.ターメリックの主要な黄色色素,クルクミンは,皮膚の炎症を抑える効果が見出され,実際に,皮膚癌に対して強力な発癌プロモーションの抑制作用の発見に至った.最近,放射線医学研究所との共同研究で,g線照射による乳癌のモデルを用いて,「クルクミン」が乳腺腫瘍の形成を顕著に抑制することが明らかにされた.この「クルクミン」は,「イニシエーション」と「プロモーション」の両方の段階を抑制することが明らかにされたが,実際に血液や臓器中の「クルクミン」の存在量を測定してみても,「クルクミン」は「テトラヒドロクルクミン」の10分の1以下しか検出されなかった.筆者らの研究グループは,この「クルクミン」も経口で摂取すると腸管の部分で「テトラヒドロクルクミン」という強力な抗酸化物質に変わることを明らかにすることに成功しており,実際に,「テトラヒドロクルクミン」は,腸の細胞で吸収されるときに「クルクミン」が変化してできる物質で,体の中で実際に生理機能効果を示すのはこの「テトラヒドロクルクミン」であると推定している.筆者らは,国立がんセンターとの共同研究で,大腸の前癌細胞の形成を「テトラヒドロクルクミン」のほうが「クルクミン」よりも強く抑制し,さらに,京都大学医学部と共同で,腎臓癌の抑制に対しても「テトラヒドロクルクミン」のほうが「クルクミン」よりもはるかに強力な抑制効果が期待できることも明らかにし,その作用は「テトラヒドロクルクミン」の強力な抗酸化性に基づくものではないかと推定している(図3)11).ところが,最近の興味ある結果として,糖負荷させたラットやサルで生じる白内障の発症に対して,「クルクミン」,特に「テトラヒドロクルクミン」が強力な予防効果を有することを明らかにすることができた.4週齢雄SD(Sprague-Dawley)ラットの水晶体をキシロース,ガラクトース,グルコースなどのいずれかを含有する培地でクルクミン,テトラヒドロクルクミンの存在下で培養したところ,いずれも水晶体混濁度が有意に減少し,(25)生理機能クルクミン黄色テトラヒドロクルクミン無色透明抗酸化性解毒酵素・抗酸化酵素誘導作用乳癌抑制作用皮膚癌抑制作用大腸癌抑制作用腎臓癌抑制作用糖負荷による白内障抑制作用動脈硬化予防作用老化抑制作用○○◎◎○○○──◎◎─○◎◎◎◎◎◎:強い抑制作用,○:弱い抑制作用,─:未検討.クルクミンテトラヒドロクルクミンH3COOCH3H3COOCH3OOOOOHOHHOHO<腸上皮細胞中の還元酵素>図3クルクミン,テトラヒドロクルクミンの???????系における生理機能の比較———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006その効果はテトラヒドロクルクミンのほうが強力であった.しかしながら,ポリオール蓄積量には差がなかったことから,その機構は,アルドース還元酵素阻害作用に基づくのではなく,抗酸化作用による可能性が示唆された(図4)12).そのような背景のなかで最近特に注目を集めているのが,第2相酵素をはじめとする抗酸化酵素誘導作用である.グルタチオン(GSH)などを基質に「抱合体」を形成し,最終的には体外へ排泄されるが,この第2相酵素の誘導に「クルクミン」,特に「テトラヒドロクルクミン」に強力な「グルタチオン-S-トランスフェラーゼ」誘導作用があることが見出されている.また,「テトラヒドロクルクミン」は同じ第2相酵素であるNADPH?キノンリダクターゼを誘導するとともに抗酸化酵素であるグルタチオンペルオキシダーゼを誘導することを明らかにすることができた.これらの結果は,「クルクミン」,特に「テトラヒドロクルクミン」は過剰に産生された活性酸素を捕捉することで酸化ストレス傷害を防御するとともに,抗酸化酵素や第2相酵素を誘導することで生体防御能を高める,という新しい機能を明らかにすることができた.最近では,テトラヒドロクルクミンに動脈硬化予防作用も見出されており,酸化ストレス制御因子としてのクルクミノイドのもつ疾病予防の役割に関する研究の進展に大きな注目が集められている.特に,抗酸化因子による老化予防の試みとして,筆者らは,最近,木谷健一長寿医療センター前センター長との共同研究で,13週よりテトラヒドロクルクミンを投与したマウスにおいて,最大寿命は延長しなかったが,加齢に従っての生存曲線の低下が緩和されるという興味ある結果が得られた(図5)13).このデータは,「抗酸化食品因子」による老化制御の可能性としては,寿命延長ではなく,図6に示したような「理想的な死」と考えられる「健康死」に至る可能性を示したものである.(26)図4ガラクトース投与ラット白内障におけるクルクミン(U1),テトラヒドロクルクミン(THU1)の効果・普通食:MF飼料(オリエンタル酵母).・ガラクトース食:ガラクトース食25%ラクトース含有MF飼料.・ガラクトース+THU1食:25%ラクトース含有MF飼料+0.2%THU1.・ガラクトース+U1食:25%ラクトース含有MF飼料+0.2%U1.4週齢雄SDラット.肉眼的な白内障所見により発症眼球を計数した.各群n=8.写真は飼育終了後のラットの眼球(上段)および摘出水晶体(下段)の典型例を示した.普通食ガラクトース食ガラクトース+THU1食ガラクトース+U1食白内障発症眼球(%)週齢:U1:THU1:Gal0102030405060753マウスの年齢(月)131824303638100806040200***:Tetrahydrocurcumincontainingdiet(0.2%)fedgroup:Controlgroup生存率(%)*p<0.01(chi-sequaretest)図5C57BL/J6マウスの生存率に対するテトラヒドロクルクミンの投与の効果———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006????今後,フリーラジカルとアンチエイジング,特に,酸化ストレス制御とアンチエイジングの関連性の研究の進展を期待したい.V「ゴマリグナン」とアンチエイジングゴマ種子中の主要なリグナン類は「セサミン」と「セサモリン」である.いずれもゴマ種子中に0.3~0.5%という高含量に存在しているが,どちらもゴマ種子中では抗酸化活性をもたないことから,今までほとんど研究はされていなかった.ところが,最近,「セサミン」のもつ動物レベルやヒトに対する栄養学的な分野での生理機能が注目され,アルコールの代謝を促進し,コレステロール低下作用や乳癌細胞の増殖抑制効果,肝臓癌発生抑制作用,免疫機能の改善,さらには,肥満の抑制効果や運動における酸化傷害の抑制など,「セサミン」のもつ機能性はますます注目されてきている(表2)14).ところが,最近の研究の結果,ゴマ種子中に水溶性の「セサミノール配糖体」が大量に存在していることが明らかとなった.これらの「セサミノール配糖体」はそれ自身抗酸化性をもたないものの,食品成分として摂取したのち,特に,腸内細菌のもつb-グルコシダーゼの作用でアグリコンが加水分解を受けてから腸管から吸収され,最終的には脂溶性である「セサミノール」が血液を経て各種臓器中に至り,生体膜などの酸化的障害を防御するということも重要であるとの結論を得ることができた.このような「セサミノール配糖体」という新しい素材の実際の抗酸化物質として応用開発の可能性を調べるため,最終的には,ヒトを対象とした臨床研究が必要であるが,とりあえず,ウサギを用いた個体レベルでの検討を行ったが,セサミノール配糖体は,過剰な酸化ストレスの結果生体内で生成する活性酸素の捕捉作用とともに,最近注目を集めている解毒酵素誘導の作用も有していた.その内容は,高コレステロール負荷(1%コレステロール食)を与えたウサギにおけるゴマ脱脂粕の動脈硬化に対する抑制効果を検討したところ,大動脈内におけるコレステロールの沈着を有意に抑制しており,また,家族性高脂血症のモデルであるWHHL-ウサギへのセサミノール配糖体の投与実験でも動脈硬化の抑制効果とともに,第2相酵素として注目されているグルタチオン-S-トランスフェラーゼが誘導されるという,興味ある結果を得ている.解毒酵素誘導は,生体のもつ重要な抗酸化防御機構としても注目をされ,筆者らの研究室でもメカニズムの遺伝子レベルからの解明にも研究を進めている15)ので,この分野の研究の進展が注目されるとともに,「セサミン」に続いて「セサミノール配糖体」が機能性食品素材として利用される日も近いものと期待されている.VI新しいアンチエイジング食品素材開発に向けて今までに紹介したように,アンチエイジング食の開発に向けて,まず,目を向けたのは,植物自身のもっている「抗酸化的な生体防御機構」であり,野生種植物に多く含まれている「フィトケミカル」は魅力的な存在であった.一方,筆者らが機能性食品素材として注目してき(27)表2ゴマリグナン類の種類とおもな機能性セサミン・肝機能改善・乳癌抑制・コレステロール合成・吸収阻害セサミノール配糖体・脂質過酸化抑制・動脈硬化抑制・糖尿病発症における酸化ストレスの低減セサミノール・脂質過酸化抑制・LDLの酸化抑制・トコフェロールへの相乗作用セサモリン・生体内抗酸化・動脈硬化抑制図6ヒトの歴史と生存率の関係20406080100年齢(年)生存率(%)80604020理想的な老化による生存率アメリカ(1970年)ローマ(1100BC)ヨーロッパ(15000年前)アフリカ(50000年前)———————————————————————-Page8????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006たのは,日本の伝統的な発酵法による新しい食品素材開発である.微生物は古来より醸造や発酵食品といった食品加工に広く利用されており,わが国では,特に麹菌(???????????属)を利用したものが多く知られている.麹菌はさまざまな酵素を生産し,その多彩な作用により,原料にはみられない甘味や風味成分が付与されたり,栄養価が増大したりすることが知られている.筆者らは,同様な反応がゴマリグナン類でも起こることを明らかにすることができた.ゴマ脱脂粕に種々の麹菌を作用させたが,特に,黒麹(??????????????????)とともに白麹菌(???????????????????????????????????)で強力な抗酸化性の増強作用が確認された.種々の検討の結果,脂溶性のリグナンであるセサミンも,水溶性リグナンであるセサミノール配糖体も麹菌で代謝され,カテコール体に変換される,という興味ある結果を得ることができた16).筆者らは,すでに,レモン中に存在するエリオシトリンをはじめ,レモンだけでなくミカンをはじめとする柑橘類に多く含まれるヘスペリジンやナリンジンも,麹菌で発酵させることにより,6位や8位に水酸基が導入され,新しい抗酸化物質が生成することが明らかとなった(図7).これらの水酸化反応は,実際のレモン果皮の発酵の場合も起こって,発酵レモン果皮のもつ強力な抗酸化性に大きな役割を果たしているものと推定されたので,名古屋工業大学の下村吉治教授らとの共同研究により,発酵レモンフラボノイドを体重(kg)当たり2g投与して,16?の傾斜を20m/minの速度で35分間走らせるという急激な運動負荷を行ったラットの肝臓で生じた酸化ストレスを測定した.評価方法は筆者が開発したもので,脂質過酸化反応の初期過程で生じる脂質ヒドロペルオキシドが蛋白質のリジン残基を修飾して生じるヘキサノイルリジン(HEL)に特異的なモノクローナル抗体を利用したELISA(enzyme-linkedimmunosorbentassay)法により測定する,という方法である.その結果,図8に示したように,安静の場合(sedentary)も運動負荷の場合(exercise)のどちらの場合でも,発酵レモンフラボノイド投与の場合に強い酸化ストレス抑制効果がみられた.レモンのみならず,ミカンやオレンジなど,大量の柑橘の果皮が廃棄物として生じるので,このような副産物を新たな機能性食品素材として利用しようとする研究開発は,今後,ますます多く試みられるようになるであろう.現在,機能性食品開発で重要なポイントは,科学的根拠に基づく「機能性食品」,いわゆる,“Evidence-basedFunctionalFoods”の開発であり,また,新たな機能性食品素材開発である.筆者らの研究グループは,前者については,すでに,酸化ストレスに特(28)図7発酵によるレモンフラボノイドの抗酸化活性増強効果0.090.010.020.030.040.050.060.070.080.0リノール酸メチル酸化抑制率(%)エリオディクティオールエリオシトリンヘスペリジンエスペレチン8-ヒドロキシ-へスペレチンナリンジンナリンゲニン8-ヒドロキシ-ナリンゲニン6-ヒドロキシ-ナリンゲニン0.20.160.120.080.040HEL-ELISA(Absorbanceat492nm)*SedentaryExerciseSedentaryExerciseSedentaryExerciseControl投与量運動負荷(2g/kg体重)4hr.(16°傾斜下り,20m/min,35min)Wistarrat(♂,10weeksold,n=7),mean±SE.*はcontrolに対して有意である(p<0.05)Lemon?avonoidFermentedlemon?avonoid図8急性運動負荷ラット肝臓の酸化損傷(HEL測定)———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006????(29)異的な数多くのモノクローナル抗体の作製に成功しており,現在,酸化ストレスに特異的な「抗体チップ」の開発を進めている.新しい機能性食品素材開発のために,野生タイプの植物に存在する「フィトケミカル」成分に着目して多くの研究を進めてきたが,「日本に伝統的な食品製造技術である「発酵」という,伝統的な食品加工技術にも新たな光を当てることで,今後,新たな「機能性食品素材」開発へ大きな原動力となるであろう.欧米では,新しい「機能性食品」開発の巨大プロジェクトがスタートしており,このままでは,「機能性食品」開発のパイオニアである日本が大幅に遅れてしまうのではないか,と懸念されているのが現状である.このような背景で,研究分野の垣根を取り払って若い研究者が中心となって早急に産官学連携の体制を確立し,日本のリードによる新しい機能性食品開発の世界戦略を発足されることを期待したい.筆者らが,今,全力で研究しているのが,これらの酸化ストレスの程度を測定できる抗体を数センチ四方の1枚のチップにのせることで,1滴の血液や唾液,尿から酸化ストレスの進み具合を測定しようというプロジェクトである17).その目的は,抗肥満をはじめ,脳内老化制御,I型アレルギー抑制および抗肥満食品開発を目的とした機能性の科学的評価に必須なバイオマーカー(生体指標)のプロファイリング解析を一挙に可能にする「抗体チップ」の作製と定量法の確立であり,「特定保健用食品」(トクホ)もヒトレベルでの臨床データが認可の必須条件となっている.これらの傾向は,今後,いっそう強まり,国家レベルでの大規模介入試験の必要性が唱えられ,また,バイオマーカーに基づいた大規模な分子疫学研究の重要性も認識されてきている18).そのためにも,微量の血液や唾液,尿中に存在する「バイオマーカー」に着目し,筆者らが開発した「抗体チップ」を用いて,科学的根拠をもつ機能性食品の開発のための評価システムの開発が最終的な目標である.このプロジェクトは,科学技術振興機構(JST)による平成17年度「大学発ベンチャー創出推進事業」に選定されているので,数年のうちに,この「抗体チップ」を予防医学の分野に応用することで,未病診断を行い,各個人に適したテイラーメードの食指導が可能になるとともに,科学的根拠に基づく「機能性食品」,いわゆる,“Evidence-basedFunctionalFoods”の開発へのツールになるものと期待している19).すでに,欧米では,オランダにおける“FoodValley”のような新しい「機能性食品」開発の巨大プロジェクトがスタートしており,このままでは,「機能性食品」開発のパイオニアである日本が大幅に遅れてしまうのではないか,と懸念されている20).今後,新しい科学的根拠を基盤とした「アンチエイジング食品」が開発されることを期待する.文献1)大澤俊彦:癌.????????????????23:653-656,20032)WeindruchR:Caloricrestrictionandaging.??????274:46-52,19963)Hay?ickL:人はなぜ老いるのか─老化の生物学(今西二郎,穂北久美子訳),三田出版会,19964)SimicMG,BergtoldDS:DietaryModulationofDNADamageinHuman.????????????250:17-24,19915)大澤俊彦:食品因子による疾病予防.食品工業における科学・技術の進歩(X)(日本食品科学工学会編),p67-95,20036)大澤俊彦:生活習慣病とがん罹患リスク─肥満,脂質摂取など.医学と薬学55:311-321,20067)大澤俊彦監修:世界の機能性食品開発の動向とCODEXの指針.医薬ジャーナル41:96-103,20058)大澤俊彦:十二の食品群のバランスで健全な食生活.文藝春秋特別版7月臨時増刊号,p132-133,20039)寺尾純二,津田孝範,室田佳恵子:食用色素,生体内代謝産物の生理作用研究の将来性.色から見た食品のサイエンス(高宮和彦,大澤俊彦,グュエン・ヴァン・チュエン,篠原和毅,寺尾純二編),サイエンスフォーラム,200410)大澤俊彦:内外における新規機能性食品素材開発の近況.ジャパンフードサイエンス,p21-32,200411)大澤俊彦:ウコン.機能性食品ガイド,p300-305,講談社,200412)上野有紀ほか:抗酸化食品因子による糖尿病合併症の予防,食による動脈硬化予防の現状と展望.食と生活習慣病─予防医学に向けた最新の展開(菅原努監修),p157-165,昭和堂,200313)大澤俊彦:フリーラジカルとアンチエイジング.日本抗加齢医学会雑誌1:29-40,200514)大澤俊彦:ゴマリグナンの生化学と機能性.食の科学334:8-15,200515)中村宜督:野菜による解毒酵素誘導と生体内での抗酸化機能の向上.食の科学317:17-24,200416)大澤俊彦:発酵で高まる食品機能.??????????21:41-46,200517)大澤俊彦:酸化ストレスマーカーの免疫化学的測定法.臨床検査49:193-196,2005———————————————————————-Page10????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006(30)18)大澤俊彦監修:がん予防食品開発の新展開─予防医学におけるバイオマーカーの評価システム─.シーエムシー出版,200519)大澤俊彦:酸化ストレス制御因子含有植物素材の探索と評価システム.日本食品科学工学会誌52:7-8,200520)OsawaT:Chapter36:FunctionalFoods.inCriticalReviewsofOxidativeStressofAgingAdvancesinBasicScience,DiagnosticsandIntervention(edbyCutlerRG&RodriguezH),p612-623,WorldScienti?c,NewJersey,2003眼科学【監修】眞鍋禮三(大阪大学名誉教授)I.総論VIII.ぶどう膜XV.屈折・調節異常II.眼科診療室にてIX.水晶体XVI.光覚・色覚の異常III.眼瞼X.網膜硝子体XVII.全身疾患と眼IV.涙器(涙腺,涙道)XI.視路,瞳孔,眼球運動XVIII.眼のプライマリーケアV.結膜XII.眼窩XIX.眼治療学総論VI.角膜XIII.緑内障XX.付録VII.強膜XIV.斜視,弱視A.眼科略語集/B.眼科関連法律(法令)/C.リハビリテーション/D.主な眼科雑誌の紹介基礎と臨床との関連性を強く前面に打ち出し、単に眼科学の知識の羅列でなく、何故そうなるのかがわかる記載を心がけた。また、基礎編の記載でも必ず臨床を念頭においた書き方に努めることとした。教科書の内容になじまないトピックス的なものにも触れようと囲み記事として随所に配したが、勉強中の息抜きの読み物として楽しんでもらえれば幸いである。楽しみながら、そして考えながら「眼科学」を身につけることができる教科書として、広く親しまれることを願ってやまない次第である。(あとがきより)B5判2色刷り総674頁カラー写真・図・表多数収録定価23,100円(本体22,000円+税5%)メディカル葵出版〒113─0033東京都文京区本郷2─39─5片岡ビル5F振替00100─5─69315電話(03)3811─0544■内容内容■考える診療のために!あの名著が更にUp-To-Dateな情報を盛り込んで!待望の改訂版、登場!■疾患とその基礎■<改訂版>株式会社

アンチエイジング医学で行う検査項目

2006年10月30日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS示した.1.血管年齢血管年齢の評価方法には加速度脈波法3)と脈波伝播速度(PWV)法4)がある.前者は脈波の形が何歳くらいの人の脈波に相当するかを調べるもの,後者は脈波が血管壁を伝わる速度が動脈硬化の程度を反映するという性質を利用している.両者を中立な立場で比較検討した成績が待たれる.血管年齢の検査結果はあくまで指標にすぎず,治療上大切なのは動脈硬化の危険因子の是正であIアンチエイジング医学老化だ,アンチエイジングだといったところで人の老化の仕方はさまざま,老化を促進する危険因子もさまざまである1).同様に眼の老化の仕方は個々により異なる.それぞれの状況に応じたアンチエイジング指導と治療が必要である.眼の老化は全身の老化と深く関わるので,眼から全身へ,全身から眼へと,全人的観点からのアンチエイジング医学はこれからの眼科医にきわめて有用となろう.アンチエイジングを実践する医療機関は増えつつあるが,それぞれが勝手気ままな検査をやっている状況が続くと,受診者は困惑するばかりでアンチエイジング医学の健全な発展は望めない.ここではある程度絞り込んだうえで,老化度を評価するためのいくつかの検査方法を紹介する.II老化度評価のための検査項目医療機関では,老化度を筋年齢・血管年齢・神経年齢・ホルモン年齢・骨年齢として評価すると良い.受診者は自分の機能年齢に興味をもつことが多く,骨年齢やホルモン年齢というような機能年齢として表現するとわかりやすい2).また老化危険因子として免疫機能・酸化ストレス・心身ストレス・生活習慣・代謝機能(解毒を含む)についても評価する.老化度と老化危険因子の代表的測定方法・バイオマーカーについては図1,表1に(13)????*YoshikazuYonei&YokoTakahashi:同志社大学アンチエイジングリサーチセンター〔別刷請求先〕米井嘉一:〒602-8580京都市上京区今出川烏丸東入同志社大学アンチエイジングリサーチセンター特集●眼科におけるアンチエイジング医学の流れあたらしい眼科23(10):1255~1261,2006アンチエイジング医学で行う検査項目?????????????????????????-????????????????????米井嘉一*高橋洋子*筋年齢骨年齢ホルモン年齢神経年齢血管年齢老化度免疫機能代謝機能生活習慣心身ストレス酸化ストレス老化危険因子図1老化度と老化危険因子———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006る.危険因子とはタバコ・糖尿病・高血圧・高脂血症の古典的因子とインスリン・アディポネクチン・コルチゾル(ストレスホルモン)・炎症反応〔高感度CRP(C反応蛋白)〕・酸化ストレス・ホモシステインである.頸動脈エコーでは頸動脈壁の中膜肥厚の有無を確認するが,眼科クリニックには不用であろう.内科では「眼底は血管を観察する窓」として動脈硬化の診断に重視している.眼科においても網膜静脈閉塞症,糖尿病網膜症,眼底出血など血管年齢と関連深い疾患がある.加速度脈波法の手技は「指先を数秒間端子に入れる」だけの簡便で安価な方法なので,眼底所見,抗加齢QOL(qualityoflife)共通問診票(後述)とセット検査を実施するなど,眼から全身へ,全身から眼へと,全人的診療をして欲しい.臨床経験を積めば眼底を診るだけで血管年齢を推定できるかもしれない.2.神経年齢高次脳機能には注意力,前頭葉機能,視知覚機能,認知知能,記銘力,精神機能全般が含まれる.障害が起こると,運動障害,感覚障害,意識障害といった要素的障害では説明できない言語,動作,認知,記憶,注意力の障害が現れる.高次脳機能の定量的評価法は確立されたわけではないが,日本脳ドック学会ガイドラインでは日本語版WisconsinCardSortingTest(http://cvddb.shimane-med.ac.jp/user/wisconsin.htmよりダウンロード可能)を推奨している5).パソコンに対面してゲーム感覚でできる5~10分の簡単かつ無侵襲の検査である(図2).基本検査により神経年齢の推定評価ができる.後述するAgingCheck?6)では自験例に基づいて反応時間などを加味したアルゴリズムを作成,より詳細な神経年齢が算出可能となっている.神経系のアンチエイジングとしては,神経は使わないと機能が衰えるので「まず使うこと」が鉄則となる.全身運動と細かい作業の組み合わせがよく,なにか報酬があると成果があがる.会話は,相手の目を見て,耳で聞いて,頭で考え,口を動かすといった一連の神経活動の集大成である.視神経・動眼神経・滑車神経・外転神経など脳神経のうち眼球の関連する割合は高く,視神経からの情報は大脳皮質内の広い領域で処理される.鑑賞(眼の保養)や眼球運動のような適度に眼を使う行為は神経系アンチエイジングに貢献するであろう.新たな機(14)表1老化度と老化危険因子の検査方法老化度?血管年齢:加速度脈波,脈波伝播速度(PWV),頸動脈エコー?神経年齢:高次脳機能検査(WisconsinCardSortingTest),抗加齢QOL共通問診票(http://www.yonei-labo.comより入手可能)?ホルモン年齢:IGF-1,DHEA-s,総テストステロン?骨年齢:骨密度(DEXA法)?筋年齢:握力,除脂肪筋肉量(インピーダンス法)老化危険因子?免疫力:NK細胞活性,DHEA-s?酸化ストレス:8-OHdG,イソプラスタン,LPO(過酸化脂質)?心身ストレス:コルチゾル,DHEA-s,DHEA-s/コルチゾル比?代謝機能(解毒):TSH,T3,T4,インスリン,アディポネクチン,ウエスト/ヒップ比,毛髪検査(有害金属)?生活習慣:睡眠時間,飲酒量,タバコ,運動量,水分摂取量図2日本語版WisconsinCardSortingTest———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006????能訓練法・インターベンション・サプリメント療法を実践する際には,眼科領域のパラメータに神経年齢や抗加齢QOL共通問診票(後述)を加えて評価するとよいだろう.3.ホルモン年齢はじめに加齢とともに低下するホルモンのうち若さと健康を保つために重要なものをあげる1).a.成長ホルモン(GH:growthhormone)/IGF-1(insulin-likegrowthfactor-1)GHやIGF-1レベルは30歳前後から低下し,生命予後やQOLの低下の予測因子となっている.若さと健康を保つためには,GH/IGF-1分泌の低下を防ぎ,最適値(オプティマル値)を維持する努力が必要である.GH/IGF-1分泌の刺激因子と抑制因子を図3に示した.ホルモン分泌が生活習慣の影響を受けることがよくわかる.GH/IGF-1分泌を改善させるためにはGH補充よりも生活習慣の是正が重要である.b.DHEA-s(dehydroepiandrosterone-sulfate)DHEAは体内で最も豊富に存在するステロイド系ホルモンで,これを源に性ホルモンや蛋白同化ホルモンなど,50種類以上のホルモンが作られる.DHEAは免疫力やストレスに対する抵抗性を維持し,糖尿病,高脂血症,高血圧,骨粗鬆症などの生活習慣病に対して予防的に作用する.検査では安定型のDHEA-sを測定する.オプティマル値に達しない場合は,運動,食事療法,体重の適正化,DHEA補充(医師であればダグラスラボラトリーズ,ピッツバーグ,http://www.douglasjap.comより入手可能)を考慮する.c.女性ホルモンエストロゲンなどの女性ホルモンは閉経期前(40代後半)から急激に減少し,のぼせ・いらつき・動悸をひき起こす.長期的には,骨粗鬆症や動脈硬化,Alzhei-mer病の発症率にも影響する.更年期障害の診断には,単に症状のみではなく,血中ホルモンの測定をすべきである.不足するホルモンを見きわめオプティマル値を治療目標にするが,近年の大規模介入試験の結果ではデメリットもあることが指摘されている.d.男性ホルモンテストステロンなどの男性ホルモンは40代頃より徐々に低下し,性的能力の低下,抑うつ気分,骨密度の低下,筋肉量の低下に関与する.特に男性更年期症状が現れる時期は,男性ホルモンが急激に下がる40代後半からである.テストステロン単独因子のみで説明がつかないこと,DHEA(-s)やGH/IGF-1分泌低下など加齢に伴うさまざまな因子が,個々において複雑に関与することから,診断にあたっては十分な診察とホルモン系の測定が大切である.ジヒドロテストステロンは前立腺肥大,前立腺癌,脱毛・禿げに関与するテストステロンの代謝産物である.ほとんどの抗うつ剤には副作用として性的衝動の低下があるが,唯一テストステロンのみが性的衝動に対してポジティブに作用する抗うつ剤である.e.メラトニンメラトニンは,脳の松果体から夜間に分泌されるホルモンで,睡眠と覚醒の周期をつかさどる.また,それ自体に抗酸化作用があり脳血液関門を通過することから,睡眠中に脳神経細胞を酸化ストレスによる傷害から防御する役割があるともいわれる7).メラトニンの分泌量は,成長期の子供の頃が最も高く,その後20歳代になると急速に低下する.メラトニン処方は抗加齢医療の一つの方法である(医師であればhttp://www.douglasjap.comにて入手可能).ホルモン年齢はIGF-1・DHEA-s・総テストステロンの血中濃度が指標とし,自験例データより高次回帰曲線を作成し算出した.エストラジオールなどの女性ホルモ(15)視床下部脳下垂体ソマトスタチン(抑制)成長ホルモン成長ホルモン筋・骨・皮膚心・肺消化器生殖器・泌尿器成長ホルモンGH放出ホルモン(抑制)肝臓IGF-1産生GHGHGHGH分泌刺激因子運動高蛋白食・アミノ酸質の高い睡眠抑制因子運動不足・睡眠不足・ストレス糖質摂取過剰コルチゾル経口エストロゲン製剤図3GHとIGF-1の分泌調節機構———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006ンは,①閉経前は月経周期により大きく変化すること,②閉経後は検出感度以下まで低下する例が多いこと,③40歳以上の男性では年齢と相関を示さないことから指標より除外した.男性ホルモンについては,遊離型テストステロンが,①女性で検出感度以下になる例が多いこと,②再現性にやや問題があることから,総テストステロンを指標に含めた.ホルモン年齢の改善には,①自己ホルモンの分泌を生活療法によって刺激する方法,②ホルモン補充療法がある1).成長ホルモン/IGF-1刺激には,①運動,②質の高い睡眠,③適量の蛋白質・アミノ酸摂取を実践する(図3).メラトニン刺激には,①真っ暗にして眠る,②朝に光を浴びる,を実践する7).DHEA分泌機構は不明な点も多いが,フリーラジカルにより生じた過酸化脂質が副腎に蓄積して分泌低下につながるので,抗酸化療法は有用と思われる.一般に眼科クリニックで採血検査を行わないので,実測値からホルモン年齢の算出は困難であろう.抗加齢QOL共通問診票とAgingCheck?6)によりホルモン年齢の推定評価が可能となっている.4.骨年齢骨年齢は骨密度より算出される.精度と再現性は超音波法より二重エネルギーX線吸収法(DEXA:DualenergyX-rayabsorptiometry)のほうが優れている.腰椎2~4番の計測が一般的だが,腰椎圧迫骨折と変形性腰椎症の有無について確認を要する.骨年齢など日本人男女別の基準加齢曲線が既報告8)のものはそれを利用して骨年齢を算出する.骨のアンチエイジングは骨粗鬆症の治療が中心になる.健常な骨代謝を保つためにビタミン(D・B・C・E・K)・ミネラル(Ca・Mg・Fe・Zn・Mnなど)・蛋白質といった栄養素が十分であることと骨端に刺激を与える運動負荷が欠かせない.眼科クリニックでは骨密度など測定しないだろうから,共通問診票から骨年齢の推定評価を行う.メディカルモールなどいくつかクリニックがあるところではAgingCheck?6)を共同で用いても良いだろう.5.筋年齢筋年齢は握力・除脂肪筋肉量から算出している.一般の体組成計は,身体に電流が流れたときの電気抵抗を基準に除脂肪筋肉量を求める(生体電気インピーダンス法).近年,MRI(磁気共鳴画像)による身体断面データから得た筋体積(MRI法)との相関性が高い機種が開発されている(フィジオン社,京都,http://www.physion.jp)9).筋年齢を補正するための指導は筋肉負荷トレーニングが中心になる.筋トレ・ダンベル体操はこれに含まれ,最近では加圧トレーニングが注目されている10,11).蛋白質およびアミノ酸は筋肉の重要な構成要素である.1日当たり適正量の蛋白質摂取が望ましい.目安は標準体重60kgで70~100g.摂取不足の際には食後2時間(例:午前10時,午後3時または就寝前)を目安にアミノ酸サプリメント(3~10g/日)を補うと,血中アミノ酸濃度が上昇して,筋肉・骨などの末?組織で有効利用される.眼球運動筋の筋力低下に対しても適切なアミノ酸補給は好影響をもたらす.III眼科医師の関わりと酸化ストレス眼科領域においても酸化ストレスが注目されはじめている.白内障においては,紫外線に曝露した際に眼球内の光増感物質によって生じる一重項酸素・スーパーオキシドラジカルなどの活性酸素やこれらにより二次的に生成される過酸化脂質が,水晶体の白濁に深く関わっている.日本人の大きな失明要因となっている加齢黄斑変性の発症と進展の過程でも活性酸素やフリーラジカルが関与し,抗酸化物質を主体とするサプリメントが疾患の進展予防に有効とされる.抗酸化能を発揮するために体内には抗酸化ネットワークが発達している12).抗酸化ネットワークにはさまざまな抗酸化物質が関与し,それらは予防型,フリーラジカル捕捉型,修復・再生型に分類される(図4).予防型抗酸化物質とは,スーパーオキシドディスムターゼ(SOD:superoxidedismutase)やグルタチオンペルオキシダーゼ,カタラーゼといったフリーラジカルを除去する働きのある抗酸化酵素群である.適度な有酸素運動は,運動時に生じる微量フリーラジカルの刺激に(16)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006????よってこれらの抗酸化酵素活性を高め,その効果は数日間持続する.結果として自己の抗酸化能が高まる.反対に高血糖状態ではSOD活性が抑制されるので抗酸化能は減弱する.フリーラジカル捕捉型抗酸化物質とは,フリーラジカルと反応して無毒化する作用を発揮しやすい成分である.ラジカルに対し電子を供給しやすく,それ自体は酸化されても無害であるいう一般的特徴をもつ.ビタミンA・C・E,コエンザイムQ10(ユビキノン),aリポ酸がその代表で,ほかにも食物中にはさまざまな抗酸化物質が含まれる.たとえばトマトのリコピン,ブルーベリーのアントシアニジン,緑茶のカテキン,サケのアスタキサンチン,ブドウ・小豆のポリフェノールである.修復・再生型抗酸化物質は酸化による組織障害を修復する作用を有する.DNAが損傷を受けるとDNA修復酵素によって修復されるが,DNA損傷は加齢とともに蓄積される.蛋白質の損傷にはプロテアーゼやトランスフェラーゼが,脂質損傷にはホスホリパーゼが関与する.細胞がフリーラジカルによる刺激を受けると,ホスホリパーゼが細胞膜のリン脂質に結合しているアラキドン酸を加水分解して,プロスタグランジン,トロンボキサン,ロイコトリエンなどの生理活性物質に変換する.これらのメディエーターは本来細胞の機能調節および修復に関与するが,破綻をきたすとさまざまな病態が惹起される.これらの抗酸化物質は体内で単独で作用しているのではなく,互いに補完しあっている.すなわち,一つの成分が減少しても他の物質でカバーし特定の反応産物が過剰にならずに,全体としてうまく機能を発揮するシステムである.たとえば,ビタミンEがラジカルと反応してビタミンEラジカルを生成すると,それが過剰にならないようコエンザイムQ10やビタミンCなど他の抗酸化物質によって速やかに還元される.しかし他の抗酸化物質が枯渇した状態ではビタミンEラジカル過剰となり,脂質ペルオキシルラジカルを介して連鎖的反応を起こし過酸化脂質が生成する.IV老化危険因子の評価酸化ストレス以外にも老化を促進させる危険因子として,免疫機能・心身ストレス・生活習慣・代謝機能(解毒を含む)をここにあげ,それぞれの検査方法を示した.1.免疫機能免疫機能の定量的評価マーカーは十分に確立されていない.DHEA-sは免疫機能と相関するといわれている.NK細胞活性は採血された血液の鮮度維持と煩雑さが問題となる.一般的に眼球周囲は涙液をはじめ強力な免疫システムに防御されている.2.酸化ストレス酸化ストレスは老化危険因子のなかで大きな位置を占め,抗酸化ネットワークの機能評価のためさまざまなバイオマーカーが提唱されている(図4)12).再現性・精度・データの蓄積の観点から8-OHdG(8-hydroxy-deoxyguanosine)・イソプラスタン尿中生成速度,血中過酸化脂質・ユビキノン(コエンザイムQ10)を基本指標とするのが良いと考えている.8-OHdGはDNA損傷を,イソプラスタンと過酸化脂質は脂質の酸化損傷を示すマーカーである.ユビキノンは酸化型と還元型の総血中濃度,酸化率(酸化型/酸化型+還元型)を評価する.詳細な検討のためには脂溶性抗酸化物質(ビタミンA・Eなど)・水溶性抗酸化物質(ビタミンCなど)・酸化前駆物質(Fe・コレステロールなど)についても評価する.これにより個々の結果に基づいた抗酸化物質の処方が可能となる.(17)(抗酸化ネットワーク)予防型フリーラジカル捕捉型修復・再生型SODカタラーゼペロキシダーゼ(酸化ストレスの評価)酸化前駆物質水溶性抗酸化物質脂溶性抗酸化物質遺伝子の傷害脂質の傷害コエンザイムQ10aリポ酸ビタミンAビタミンCビタミンEホスホリパーゼプロテアーゼトランスフェラーゼDNA修復酵素図4抗酸化ネットワークと酸化ストレスの評価———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006眼科クリニックで採血を実施するには抵抗もあるだろう.早朝第一尿の自宅での採取が可能なら,最終排尿時間,採取時間,尿量の情報と合わせて8-OHdG生成速度・イソプラスタン生成速度が測定できる(日本老化制御研究所,静岡,http://www.jaica.comにて測定可能).これらの酸化ストレス障害マーカーが高値の場合,①運動により抗酸化能を高める,②抗酸化物質の摂取といったフリーラジカル対策が必要である.3.心身ストレスコルチゾルとDHEA-s/コルチゾル比が心身ストレスのマーカーとして妥当であるか,抗加齢QOL共通問診票のどの項目と相関性があるか,現在検討中である.DHEA-s/コルチゾル比(同一単位のとき)が20以上となるよう指導している.加齢に伴いストレス抵抗性が脆弱化するメカニズムについてはすべて解明されたわけではないが,DHEA-sとコルチゾルのバランス(DHEA-s/コルチゾル比)が重要視されている.この比を改善させるためには,分母のストレス自体を減らすか,DHEAを補って分子を増やすか,どちらかである.ストレス対策としてダメージを受けたら,休養と睡眠によって十分にダメージから回復してからつぎのストレスに立ち向かうように指導する.ストレスの原因が既知の場合はできるだけ避ける.人間関係など精神的なストレスは自分だけで抱え込まずに家族・友人・同僚・医師に相談する.くよくよしたらまず歩く.ストレス負荷が大きくなると睡眠の質が低下し,ダメージからの回復が遅れるという悪循環に陥るのでこれを避ける.心身ストレスと眼科疾患の関連についてはあまり知られていない.アレルギーはストレスにより増強するのでアレルギー性結膜炎との関連はどうだろうか.4.生活習慣睡眠時間・飲酒量・喫煙量・運動量・水分摂取量・VDT作業時間が他の項目とどのような関連があるか興味深い.これらの項目は抗加齢QOL共通問診票に含まれる(http://www.yonei-labo.comよりダウンロード可能).抗加齢QOL共通問診票は,(NPO)日本抗加齢協会が推奨する問診票であり,人間ドック・企業における労働衛生管理(企業検診)・地域健診のみならず,サプリメント・健康食品・運動機器の臨床試験,スポーツ医学や東洋医学の分野で,広く内外にて使用されている.生活習慣と関連深い眼科疾患はドライアイ・仮性近視・糖尿病網膜症・網膜?離・眼底出血・飛蚊症・白内障・加齢黄斑変性など多岐にわたる.共通問診票を使用するだけでも眼から全身へ,全身から眼への診療のかけ橋となる.5.代謝機能代謝機能は,エネルギー・糖・脂質・蛋白質(アミノ酸)・毒物の代謝に関わる機能の総称である.代謝に関わるホルモンとしてインスリン・アディポネクチン・DHEA-s・甲状腺ホルモンがある.ホモシステインはアミノ酸の一種であるメチオニン代謝に関与し,また動脈硬化の危険因子でもある.毛髪中有害重金属(図5)13)は解毒機能の一つのマーカーである(らべるびぃ予防医学研究所,東京,http://www.lbv.jpにて測定可能).V眼科における老化度診断眼科においても水晶体の老化,網膜の老化,角膜の老化,涙腺分泌機能の老化,眼球運動機能の老化,虹彩の老化など老化の仕方には個人差がある.眼科のアンチエイジング,すなわちこれらの変化を早期に診断し,予防することは,発症後に治療を始めるよりも意義深い.眼科領域の老化度診断システムは慶應義塾大学医学部坪田一男教授を中心に現在研究開発中である.(18):男:女01,0002,0003,0004,0005,0006,0007,0008,0000~1516~1920~2930~3940~4950~5960~年齢(歳)Level(ppb)図5日本人の毛髪中水銀含有量(文献13より)———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006????文献1)米井嘉一:抗加齢医学入門.慶應義塾大学出版会,20042)YoneiY,MizunoY:Thehumandockoftomorrow─Annualhealthcheckupforanti-aging─.???????????19:5-8,20053)高沢謙二,会沢彰,喜納峰子ほか:加速度脈波による血管年齢の測定と臨床的有用性.臨牀と研究82:1032-1036,20054)VaitkeviciusPV,FlegJL,EngelJHetal:E?ectsofageandaerobiccapacityonarterialsti?nessinhealthyadults.???????????88:1456-1462,19935)加藤元一郎:前頭葉損傷における概念の形成と変換について─新修正WisconsinCardSortingTestを用いた検討─.慶應医学65:861-885,19886)伊藤光:アンチエイジングドック支援システムAgingCheck?の使用経験.モダンフィジシャン26:605-608,20067)服部淳彦:生体リズムを整える注目のホルモン脳内物質メラトニン.朝日出版社,1996(19)8)折茂肇,林泰史,福永仁夫ほか:原発性骨粗鬆症の診断基準.日本骨代謝学会誌18:76-82,20009)IshiguroN,KanehisaH,MiyataniMetal:Applicabilityofsegmentalbioelectricalimpedanceanalysisforpredictingtrunkskeletalmusclevolume.??????????????100:572-578,200610)井上浩一,佐藤義昭,石井直方:21世紀のスポーツ医学治療─加圧筋力トレーニング法のリハビリテーションへの応用─.日本臨床スポーツ医学会誌10:395-403,200211)YoneiY,MizunoY,TogariHetal:Muscularresistancetrainingusingappliedpressureanditse?ectsonthepro-motionofGHsecretion.????-??????????????????????1:13-27,2004(http://www.aofaam.org)12)内藤裕二:第3章エイジングの基礎3フリーラジカル.アンチエイジング医学─その理論と実践─(吉川敏一編),p46-49,診断と治療社,200613)YoneiY,MizunoY,KidoMetal:ResearchontoxicmetallevelsinscalphairoftheJapanese.????-??????????????????????2:11-20,2005(http://www.aofaam.org)

ステムセルはエイジングする

2006年10月30日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSあると考えられている.マウスでは,角膜上皮細胞を胎児皮膚実質のうえで器官培養すると,皮膚角化細胞に変わってしまう,という報告もある2).つまり,皮膚のニッチが角膜上皮細胞になんらかのシグナルを送り,角膜上皮細胞を皮膚角化細胞へと分化転換してしまったのである.ステムセルはこれほど周囲の環境に影響されて,分化の方向性を決める細胞であり,特に生体外で組織特異的な正常分化の方向性を維持するよう培養する際は,異常分化させないよう注意が必要である.生体外での培養は,異常分化させないように,あるいは未分化度を維持したまま増殖させるように,成長因子,器質などいろいろと工夫されて実験されているが,人工でニッチにどれだけ近い状況を再現できるか,が最も重要である.しかしこのニッチには,周囲の細胞との接触,液性因子などさまざまなものが関与していると推測され,まはじめにステムセル(stemcell)の定義でいうと,広義にはES細胞(胚性幹細胞)なども含んでしまうのだが,ES細胞はpluripotentcell(内胚葉,中胚葉,外胚葉の3系統すべてに分化する能力をもつ細胞)であり,アダルトステムセルとはまったく分化能が異なる.アダルトステムセルは遺伝子導入,あるいは特別な環境が与えられない限り,組織特異性をもっており,外胚葉系から内胚葉系の細胞に分化したりすることはない.本稿では,アダルトステムセルのことを以下,ステムセルと略す.ステムセルは,その自己再生能(セルフリニューアル),組織特異的分化能,増殖能により定義される.哺乳類の組織のほとんどにステムセルが存在すると考えられているが,組織間で恒常性や損傷治癒過程には大きく違いがあり,ステムセルの貢献度は大きく異なる.たとえば,皮膚上皮細胞,角膜上皮細胞,などは細胞のターンオーバーが早く,再生能力も高く,ステムセルの貢献度が大きいが,神経細胞は,通常の状態ではステムセルの恩恵にあずかることは少ない1)(図1).組織が損傷し,細胞増殖が必要となった場合など,ステムセルに,増殖せよという活性化信号の刺激が入ると,非対称分裂,すなわち一つのステムセルは,ステムセルと増殖能の高い娘細胞に分裂し,その増殖能の高い細胞は組織を修復するように分化していく.このステムセルの特異性(ステムネス)を維持するためには,その周囲の微小環境(ニッチ)が非常に重要で(9)????*TetsuyaKawakita:東京歯科大学市川総合病院眼科**ShigetoShimmura:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕川北哲也:〒272-8513市川市菅野5-11-13東京歯科大学市川総合病院眼科特集●眼科におけるアンチエイジング医学の流れあたらしい眼科23(10):1251~1254,2006ステムセルはエイジングする????????????????????川北哲也*榛村重人**高い細胞循環高い再生能力低い細胞循環高い再生能力低い細胞循環低い再生能力低高組織修復,再生においてステムセルがどれだけ貢献しているか血球肝臓膵臓心臓皮膚網膜腎臓脳神経骨格筋乳腺上皮腸管上皮血管内皮副腎皮質脊髄神経図1組織によるステムセル貢献度の違い(RandoTA:Nature441:1080,2006,Figure1より改変)———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006だ不明なことが多く,今後の研究が待たれる.Iステムセルのエイジングステムセルはその個体の生涯にわたり自己再生すると考えられている.ステムセルの存在する組織は,エイジングにより自己再生能力が低下し,修復,再生過程の低下をひき起こす.この組織再生能力の低下は,ステムセル自身のエイジングによるものなのか,ニッチのエイジングによる影響なのか,またそのほかの全身的影響によるものなのか,いろいろな場合が考えられる(図2).生体内では,ステムセルはその個体の生涯にわたり枯渇しないことがステムセルたる前提であり,生体内,細胞レベルで細胞老化を観察するのは,むずかしい(図3).ただ生体内でも,個体の寿命とステムセルの機能や供給により規定されることを示した報告はなく,生体外という特殊な環境で,1種類の細胞集団を単離し,その増殖を誘発させて枯渇させることにより細胞老化を観察することが多い.通常の細胞はテロメアにより分裂可能回数がはじめからプログラムされている.それは,長寿であるステムセルの数を少なく保つことにより,突然変異の発生確率を減らすという戦略を生体がとっているとも考えられる.そのステムセルの突然変異が重なることにより癌のステムセルが誘発されるという仮説もある3).自己複製能が高い癌細胞は,ステムセルと似通った点も多く,エイジングの過程で突然変異,環境因子などにより,組織特異的ステムセルから,癌が誘発されるとなると,ステムセルのエイジングをいかに抑制するかが,重要となってくる.IIステムセルのアンチエイジング今年,ROS(refractiveoxygenspecies)によりステムセルが枯渇していき,それを抗酸化物質によって防止することが可能であったことを,ItoらがNatureMedi-cine誌に報告している4).エイジングの大きな要因として酸化ストレスは注目されているので,ステムセルとエイジングを関連づけた論文としてインパクトのある報告である.この報告によると,活性酸素種がステムセルの増殖を制御するメカニズムに迫っている.???(ataxiatelangiectasiamutated)遺伝子の欠損モデル,あるいはエイジングモデルのマウスでは,血液のステムセル中の(10)外環境全身的環境組織ニッチステムセル図2ステムセルの環境エイジング活性酸素種の増加p38MAPKの活性化???ノックアウトマウス環境要因遺伝子的ストレス正常なステムセル正常な血球分化増殖ステムセルの枯渇骨髄不全ステムセル図4活性酸素とステムセルのエイジングステムセルニッチ/サポート細胞組織損傷組織局所的な活性化シグナル未熟細胞の産生ステムセル自身のエイジングニッチのエイジング全身環境のエイジング若年時エイジング図3ステムセルの機能的エイジングの仮説———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006????活性酸素レベルが高かった.この高いレベルの活性酸素はp38MAPK(mitogen-activatedproteinkinase)のシグナリングを活性化させ,血液のステムセルを増殖させるサイクルに働く.このサイクルが過剰に働くと,血液のステムセルが枯渇するという結論を招き,臨床像としては骨髄不全を呈することとなる(図4).もちろんこれがステムセルのエイジングのメカニズムのすべてとは考えられないが,活性酸素とステムセルのエイジングを関連づけた最初の論文としての意義は大きく,今後のこの分野は大きく発展すると期待する.III眼のステムセルとエイジングステムセル研究は骨髄で最も進んでおり,骨髄ステムセルを用いたエイジングの研究が最近盛んに行われるようになった.しかし,残念ながら眼科領域におけるステムセルとエイジングの研究はまだ皆無といってよい.角膜,網膜などでステムセル研究が進まないのは,まだステムセルそのものがはっきりと同定されていないためである.したがって,ステムセルのエイジングの定義が曖昧であることと,眼球組織でのステムセルの存在そのものもはっきりしていないため,現状ではまだspecula-tionすることしかできない.眼科領域でステムセルの生物学的な特性がある程度わかっているのは,角膜輪部に存在する角膜上皮ステムセルである.また,筆者らは角膜実質に多分可能をもつ神経堤由来のステムセルが存在することをマウス角膜で報告した5).そのほかにも,網膜周辺部に神経網膜のステムセル,あるいは,線維柱帯付近に角膜内皮細胞の前駆細胞が存在することを示唆する報告もある.しかし,同じステムセルであっても,角膜上皮のように頻繁にターンオーバーする細胞と,基本的に細胞分裂はせずに一生涯にわたって生き続ける角膜内皮細胞や,神経網膜細胞とでは生物学的な特性が違う.細胞分裂しない組織にとっては,個々の細胞の老化がそのまま組織の老化を反映する可能性がある.一方で,ターンオーバーが活発な組織では,個々の細胞は数日から数週間でアポトーシスによって排除されることから,一つの細胞がエイジングすることと,個体のエイジングは関係ない.このような組織では,ステムセルのエイジングが組織全体のエイジングを規定している可能性がある.しかし,エイジングの定義がもう少し定まるまでは,混乱が続くであろう.角膜上皮のようにターンオーバーが活発な眼組織でステムセルがエイジングを起こすと,どのような現象が現れるのか?理論的には徐々に輪部機能が低下し,角膜周辺に血管を伴う結膜侵入を認めると考えられる.ところが高齢社会となった今でも,加齢が原因と思われる突発的な輪部機能不全は報告されていない.全身の組織が加齢する時間の総和が,個体としての寿命を上回るのか?疾病を罹患しない限り,寿命を全うしてもあまりある予備力がステムセルや細胞に備わっているのか?確かに,高齢者のドナーであっても,角膜内皮密度が十分であれば角膜移植が可能であり,実際に数十年と機能し続けるドナー角膜も存在する.細胞分裂をしない細胞は,環境が整っている限り永続的に存在し続けるのであれば,組織や臓器の抗加齢研究に道が拓けてくるかもしれない.一方で個体が元気であっても,疾病などによって諸臓器に障害をきたすことは避けられない.角膜を例にとると,内皮細胞の過度の減少は水疱性角膜症をきたす.発病から長期間放置された水疱性角膜症は,徐々に輪部から血管侵入が進行して,一種の輪部機能不全状態に陥る6)(図5).二次的に角膜上皮ステムセルが枯渇してしまうのは,上皮のターンオーバーが異常に更新したことによってステムセルが機能不全になることが考えられる.これは果たしてステムセルのエイジングなのか?(11)図5白内障術後の水疱性角膜症水疱性角膜症は長期経過すると輪部機能不全をきたす.———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006通常は一定数のquiescentstemcellを維持しなければ維持できない組織の恒常性が,炎症や創傷治癒機転が働くことで維持できなくなる可能性がある.すでに骨髄ステムセルの研究では,酸化ストレスによってステムセルのquiescenceが維持できないことが知られている4).酸化ストレスモデルマウスを用いた研究で,骨髄移植をくり返し行うことができる回数が制限されることが報告されている4).これらの現象に関与している細胞内シグナル伝達機構も徐々に明らかになっており,quiescenceの維持と,加齢,さらには発癌のメカニズムが密接に絡んでいることがわかってきた.眼表面のステムセルはどのようにquiescentに維持されているのか?角膜ほど紫外線や高酸素に曝露されている組織はない.そこで一生涯にわたって存在し続けなければならない角膜上皮ステムセルはいかに過酷な環境に存在しているかがわかる.角膜上皮ステムセルのニッチについてはまだあまり知られていないが,メラノサイトの密度が多いことが光酸化に対する防御メカニズムの一つであることが推測されている7)(図6).また,大気中にある酸素の影響を最小限にとどめるメカニズムが存在することも予想される.ニッチが何らかの要因によって破壊されると,ステムセルはquiescentでいられなくなる可能性がある.角膜実質は上皮と異なり,活発にターンオーバーしているとは考えられていない.ただ,創傷治癒が働くと実質細胞(keratocyte)のアポトーシスや線維芽細胞への活性化などがみられ,非常事態としてステムセルの活性化が起こっている可能性はある.しかし,keratocyteのステムセルについてはまだまだ不明な点が多く,今後の研究成果が待たれる.おわりに従来の研究方法に加わって,近年になってさまざまな網羅的解析法が盛んに用いられるようになった.加齢のような複雑な現象を研究することも可能な時代になってきており,今後の展開によっては加齢の概念が大きく変わることが予想される.加齢はまず眼から感じる人が多いと言われており,加齢プロセスを緩和できれば,老後のqualityoflifeの向上に結びつくことは間違いない.今後の加齢とステムセルの研究に期待したい.文献1)RandoTA:Stemcells,ageingandthequestforimmor-tality.??????441:1080-1086,20062)PeartonDJ,YangY,DhouaillyD:Transdi?erentiationofcornealepitheliumintoepidermisoccursbymeansofamultistepprocesstriggeredbydermaldevelopmentalsig-nals.??????????????????????102:3714-3719,20053)ClarkeMF,FullerM:Stemcellsandcancer:twofacesofeve.????124:1111-1115,20064)ItoK,HiraoA,AraiFetal:Reactiveoxygenspeciesactthroughp38MAPKtolimitthelifespanofhematopoieticstemcells.???????12:446-451,20065)YoshidaS,ShimmuraS,NagoshiNetal:Isolationofmul-tipotentneuralcrest-derivedstemcellsfromtheadultmousecornea.??????????,2006(inpress)6)UchinoY,GotoE,TakanoYetal:Long-standingbullouskeratopathyisassociatedwithperipheralconjunctivaliza-tionandlimbalde?ciency.?????????????113:1098-1101,20067)HigaK,ShimmuraS,MiyashitaHetal:MelanocytesinthecorneallimbusinteractwithK19-positivebasalepi-thelialcells.???????????81:218-223,2005(12)図6ドナー角膜輪部角膜輪部のニッチにはメラニン色素が豊富にみられ,それを産生するメラノサイトもニッチの構成要素の一つと考えられる.

フリーラジカルとアンチエイジング医学

2006年10月30日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSニズム」はある生物や臓器・器官のみに当てはまるメカニズムである.「共通メカニズム」のなかで確信がありそうなのはフリーラジカル(活性酸素)のみであるとMartinらは述べている.個々の寿命は活性酸素の発生量とそれに対する防御機構の能力とのバランスにより決定されている可能性がある.興味あることに,この活性酸素を老化仮説の中心に考えると,他の多くの仮説がそこに関連づけられてしまう(図1)2).細胞内で発生する活性酸素のおよそ90%がエネルギー代謝の過程で電子伝達系から発生し,その量は総酸素消費量の0.1~2%になると考えられている3,4).電子伝達系は80以上のサブユニットからなり,それを構築するための遺伝子が100以上も必要となる.複合体Iは40以上ものサブユニットからなり,唯一,立体構造がはじめに「アンチエイジング(抗老化)」はヒトの心身ともに健康な長寿の実現を目指すものであるが,老化をひき起こすメカニズムを明らかにしないかぎり,科学的根拠に乏しい勘や経験によって抗老化の方法を模索せざるをえない.しかし老化は長くて複雑な過程を経るために,そのメカニズムはいまだに未解明で,そのためこれまで多くの老化仮説が考えられてきた(表1).これらの仮説はどれも魅力的なものであるが,すべての生物や臓器・器官の老化に当てはめることはむずかしかった.そのなかでMartinらは,1996年のNatureGenetics誌のなかで,老化のメカニズムを「共通メカニズム」と「個別メカニズム」に分けて考えることを提唱した1).「共通メカニズム」はこれまで考えられてきた,すべての生物や臓器・器官に当てはまる老化のメカニズムであり,「個別メカ(3)????*NaoakiIshii:東海大学医学部基礎医学系分子生命科学〔別刷請求先〕石井直明:〒259-1193伊勢原市望星台東海大学医学部基礎医学系分子生命科学特集●眼科におけるアンチエイジング医学の流れあたらしい眼科23(10):1245~1250,2006フリーラジカルとアンチエイジング医学??????????????????????-??????????????石井直明*表1さまざまな老化の仮説個体レベル神経内分泌説ストレス説免疫説細胞機能レベル体細胞分裂寿命限界説遺伝子機能レベルプログラム説体細胞突然変異説遺伝子翻訳エラー説分子レベル老廃物蓄積説高分子架橋説フリーラジカル説DNA傷害説分子から個体へエラーカタストロフ説ホルモン神経エネルギー代謝(酸素消費)細胞傷害DNA傷害修復機構代謝速度の調節(神経内分泌説)遺伝子による代謝速度の決定(プログラム説)ストレス説フリーラジカル説老化体細胞突然変異説遺伝子翻訳エラー説老廃物蓄積説DNA傷害説エラーカタストロフ説活性酸素抗酸化機構図1酸素が関わる老化説〔石井直明:分子レベルで見る老化.講談社ブルーバックスより転載〕———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006解明されていない大きな複合体である.複合体Iは少なくとも1つのFMN(?avinmono-nucleotide)と8つの硫酸鉄をもち,これらの個所から活性酸素が発生すると考えられている.複合体IあるいはIIから電子が複合体IIIに渡される.複合体IIIのなかではユビセミキノンが自動酸化されるときに酸素に電子が渡されることで活性酸素が発生すると考えられている(図2).電子が複合体IIIからIVと渡り,ATP(アデノシン三リン酸)は最終段階の複合体Vで合成される.酸素を一番消費するのは,電子伝達系の終末酵素であるシトクローム?オキシダーゼであるので,ここから多量の活性酸素が発生しても不思議ではないが,その証拠は得られていない.活性酸素はエネルギー代謝の副産物としてミトコンドリアから発生する以外にも,HAD(P)Hオキシダーゼやキサンチンオキシダーゼなどの生体酵素反応から,また放射線やタバコなどの外的要因からも発生する.活性酸素は細胞傷害や細胞死(アポトーシス)を起こし,それによって老化や老年性疾患が生じ,さらに傷害が遺伝子に及べば癌化が生じることが分子遺伝学的な基礎研究から明らかになってきた.I活性酸素と老化1960年から70年代にかけて行われた若い動物(細胞)と老いた動物(細胞),あるいは寿命の異なる動物間の比較研究のなかから,生物学的な老化のメカニズム解明に重要なヒントを与えてくれたものがある.一つは,体重の大きい動物(体重の重い動物)ほど長生きする傾向があることが明らかになった.さらに,体重の大きい動物ほどエネルギー代謝が低い傾向がある5).つまり,エネルギー代謝が低い動物ほど寿命が長いことになる.このようなデータは,寿命決定の遺伝子とエネルギー代謝の関係を明らかにした最近の分子遺伝学的な研究結果をすでに暗示していたことになる.線虫の一種,??????????????????????(??????????)の長寿突然変異体の???-?や???-?の遺伝子解析から明らかになったインスリン様シグナル伝達系はこのエネルギー代謝を制御している.現在では,インスリン様シグナル伝達系を介した寿命制御のメカニズムは??????????のみならず,ショウジョウバエ,マウス,ヒトと,多くの生物に共通であると考えられるようになってきた6).(4)複合体I複合体IV複合体V複合体III複合体IIコエンザイムQ電子ATP,熱O2O2-H2O2H2OSODカタラーゼGPxOH?Fe3+(エネルギー産生)(活性酸素産生)NADHNAD+FADFADH2電子活性酸素種O2-:スーパーオキシドOH?:ヒドロキシルラジカルH2O2:過酸化水素図2ミトコンドリア電子伝達系と活性酸素■用語解説■線虫,??????????線虫は種の数,生息数ともに他の生物を圧倒するほど多く,ヒトに寄生する回虫や,カミキリムシを媒体として松を枯らすマツノザイ・センチュウなど,その多くは寄生性であり特定の宿主の中で生息している.??????????は非寄生性の線虫であり,細菌を餌にして地中で自活している.体長1mmあまりの虫であるが,表皮,神経,筋肉,消化器官,生殖器官という動物に必要最小限の体制をもつ.SydneyBrennerが遺伝子のレベルで行動のメカニズムを解明するために開発したモデル動物であり,さまざまな突然変異体を分離され,分子遺伝学的手法が確立されている.多細胞動物で初めてゲノムの全塩基配列(約1億塩基対)が決定されている.??????????の成虫は,たった959個の体細胞から成り立っており,JohnsSulstonは,受精から成虫に至るまでのすべての細胞の分裂様式や運命を記述した細胞系統樹を完成させた.これは他の動物と比べて細胞数が少ない??????????でのみ可能な偉業であり,世界中で賞賛された.線虫の発生分化の段階ではプログラムされた細胞死が現れるが,BobHorvitzはそのメカニズムを遺伝子のレベルで解明し,ヒトを含むさまざまなアポトーシスのメカニズムの解明に先駆者的な役割を果たした.この3人はこれらの業績により2002年のノーベル医学生理学賞を受賞している.??????????は約1カ月の短い最長寿命をもつことから,老化の研究にも盛んに使われるようになった.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006????さらにもう一つの長寿突然変異体,???-?の原因遺伝子産物は電子伝達系に必要な酵素であり,エネルギー代謝に関与している7).興味あることに,これらの遺伝子の突然変異体はエネルギー代謝に関係することに加えて,酸素に耐性を示す.エネルギー代謝は,解糖系から,TCA(トリカルボン酸)サイクル,電子伝達系を介して,体温維持のための熱や,生体内の化学エネルギーであるATPを作りだす生化学反応である.多くの生物はこの反応のなかで酸素を必要とする.体内に取り込まれた酸素の多くはエネルギー代謝の最終反応で無害な水となるが,一部が無差別に細胞構成生物に傷害を与える活性酸素に変化する.生体内で生じる活性酸素の約90%は,このエネルギー代謝の副産物としてミトコンドリアに存在する電子伝達系から発生する.エネルギー代謝が高くなれば,活性酸素の発生量が増加する.これが,エネルギー代謝が高い動物ほど寿命が短くなることや,男性ホルモンによりエネルギー代謝が高い雄のほうが雌よりも寿命が短くなる一因になっていると考えられる.筆者らは複合体IIのサブユニットの一つである,シトクローム?大サブユニット(CYT-1)に欠損が生じた??????????の突然変異体(???-?)を分離した8~10).この変異は複合体IIから活性酸素の過剰産生をひき起こし11),その結果,大気中でも野生株に比べて短命で,酸素濃度に依存して寿命の短縮がみられ,さらにミトコンドリアの形態異常,老化のマーカーとして知られるリポフスチン(老人斑)や酸化蛋白質の早期蓄積などの早老症の兆候を示すようになる12,13).さらに,???-?の胚では正常な発生・分化とは無関係な野生株にはみられない細胞死も多数生じる14).??????????ではある細胞が胚発生期にアポトーシス(線虫では「プログラムされた細胞死」と定義)を起こし,それが個体の発生・分化に重要な役割を担っていることが知られている.アポトーシスには実行因子である???-?(カスペース3)が必要となり,これが欠損するとアポトーシスは起こらなくなる.???-????-?の二重突然変異体では,細胞死がまったくみられなくなることから,???-?に生じる過剰な細胞死も線虫がもつプログラムされた細胞死の経路が必要になる.???-????-?の平均寿命は???-?単独の寿命より長く,野生株よりも短い14).これは細胞死が寿命短縮に少なからず寄与していることがわかる.これらの結果から,加齢とともに電子伝達系に傷害が蓄積すれば,活性酸素が複合体IやIII以外からも発生するようになり,老化が加速されることを示唆している.線虫の???-?遺伝子に相当するSDHC遺伝子に???-?と同様の変異をもつマウスのNIH3T3培養細胞でも,ミトコンドリアから活性酸素が過剰に産生されるようになる15).その結果,ミトコンドリアの形態変化や膜電位の低下,酸化蛋白質の蓄積,核のDNA中のoxo8dG(8-oxo-2¢-deoxyguanosine)蓄積量と突然変異頻度の増加が起こる15).培養を続けるうちに,細胞はアポトーシスを生じるようになり,増殖速度が低下する.しかし培養をさらに続けると,アポトーシスを逃れた細胞が形質転換を生じ,増殖能力が復帰する15).これらの細胞をヌードマウス皮下に移植すると,アポトーシスを盛んに起こしている時期の細胞は短時間で貪食されるが,形質転換を生じた細胞を移植すると腫瘍を形成するようになる15).この現象は,個々の細胞の機能低下やアポトーシスにより生じる「老化」と,核DNAの遺伝子変異により生じる「癌化」が,活性酸素の傷害を起因とした同じ過程のなかで生じることを示した初めての例である(図3).家族性傍神経節腫(パラガングリオーマ)の患者に複合体IIのSDHCやSDHDサブユニットの遺伝子変異が見いだされたことから16),最近では,これらの遺伝子(5)図3ミトコンドリアが関わる老化や疾患のメカニズムエネルギー代謝細胞・遺伝子傷害細胞機能の低下器官・臓器の機能低下個体老化・疾患癌細胞の出現アポトーシス癌ミトコンドリア活性酸素———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006は腫瘍抑制遺伝子と定義されている17).TCAサイクルや電子伝達系を含む細胞小器官であるミトコンドリアは,エネルギー産生と,その過程の副産物である活性酸素を発生させ,さらにアポトーシスも制御しており,老化の鍵を握っているといっても過言ではない.とはいえ,エネルギー代謝・活性酸素と老化との関係には,一つの矛盾がある.活性酸素はエネルギー代謝の副産物としてミトコンドリアから産生されるため,エネルギー代謝が活発になれば,当然,活性酸素の発生量も増えることになる.活性酸素はあらゆる細胞内の分子を攻撃するので,これを産生するミトコンドリア自身にも傷害を与える.その結果,ミトコンドリアの機能低下が生じてエネルギー代謝が低下することになる.エネルギー代謝が低下すれば活性酸素の産生量が低下するはずである.これが正しければ,加齢とともに活性酸素の発生量は低下することになり,ミトコンドリアへの傷害は減少するはずである.現に??????????の実験で,ミトコンドリア電子伝達系の複合体のサブユニットをコードする遺伝子の発現を抑制すると,寿命が延長することが報告されている18,19).これらの遺伝子発現の抑制はエネルギー代謝の低下を招くことから,寿命延長効果は産生する活性酸素の量が低下するためと考えられている.しかし,前述したように,筆者らの研究では電子伝達系の傷害は活性酸素の過剰産生をひき起こし,??????????を短命にする.これは電子伝達系の複合体の傷害が電子の正常な流れを妨げ,電子伝達経路の先に進めなくなった電子がその場から逸脱し,近傍の酸素と反応して活性酸素を生じるためと考えられる.筆者らは最近,活性酸素の発生量は加齢で変化しないことを突き止めている20).これは,老化によるミトコンドリア傷害は活性酸素の産生量に影響を与えることはないためと考えられるが,ミトコンドリアの傷害により電子伝達系のなかで活性酸素量が増える個所と減少する個所が存在するために,総発生量としては変化が表れてこないことが原因であるとも考えられる.II活性酸素と老年性疾患活性酸素は老化のみならず,前述した癌をはじめ,加齢とともに増加するさまざまな疾患にも関与している(表2).最近は過食,運動不足によって内臓脂肪が蓄積し,メタボリックシンドロームとよばれる,高血圧症,高脂血症(コレステロールやトリグリセライドの高値),糖尿病(インスリン抵抗性)など複数の生活習慣病を合併する人が増えている.これらの病気はお互いが密接な関係をもって発生しており,多く合併するほど動脈硬化を促進して脳梗塞や心筋梗塞などを起こしやすくなる.動脈硬化には活性酸素が深く関与している.コレステロールの輸送に関わる低比重リポ蛋白質(LDL)は血中から血管の内皮細胞下に侵入すると,内皮細胞や平滑筋細胞で作られた活性酸素によって酸化LDLに変化する.一方,内皮細胞下に侵入したマクロファージは酸化LDLに結合する受容体をもつために,これを介して酸化LDLを取り込む.すると酸化LDLからコレステロールが切り離され,マクロファージ内に蓄積するようになる.この過程でマクロファージは泡沫細胞を形成する.この泡沫細胞が血管内膜に蓄積し,そこにリンパ球や血小板が集まってくる.血小板からは血小板由来増殖因子(PDGF)が放出され,これが平滑筋細胞の増殖を招くことで,血管の柔軟性が失われたり,血管の内腔が狭められたりしていく.このような経過により生じる,高齢者の大動脈にみられるアテローム性動脈硬化症に活性酸素がトリガーの役目を果たしている.最近,筆者らは電子伝達系複合体サブユニットであるSDHCの変異遺伝子を導入した遺伝子組換えマウス(トランスジェニック・マウス)の作製に成功した(未発表).この変異マウスは,同様の変異をもつ線虫や培養細胞と同様にミトコンドリアから活性酸素が過剰に産生(6)表2活性酸素が関与する傷害や疾患炎症リウマチ関節炎,高尿酸血症,熱傷癌癌の発生,癌の増殖,癌の転移神経Alzheimer病,Parkinson病,家族性筋萎縮性側索硬化症組織・臓器動脈硬化,潰瘍,糖尿病,白内障,加齢黄斑変性症,虚血,膵炎(鈴木?之:老化の原点をさぐる.裳華房,谷口直之,淀井淳司:酸化ストレス・レドックス.共立出版より改変)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006????され,さらに視力の低下といった老人性の疾患が野生型に比べて早期に認められるようになった.これにより,このマウスが生体内酸化ストレスを原因とする老化や老人性疾患のモデル動物として,老化の基礎研究のみならず臨床研究にも応用され,老化および老人性疾患の発症機構の解明から治療や予防まで幅広い分野で貢献することが期待される.III活性酸素とアンチエイジング実験動物で長寿を実現させる最も簡単な方法が,「腹八分目」,つまりカロリー制限である.これは単細胞から霊長類のサルまで,実験に使用した生物すべてに当てはまる.このメカニズムはいまだに不明であるが,カロリー制限という一種の飢餓状態を細胞が感知し,そのシグナルが抗酸化や免疫などの生体防御能力を高めることが一つの理由にあげられている21).活性酸素は細胞毒性が強いため,生物はそれに対する防御機構を進化させてきた.これらのなかには活性酸素を除去するスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)カタラーゼ,グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)などの酵素や,ビタミンCやEなどの低分子物質などが知られており,寿命が長い動物ほど,これらの酵素や低分子物質を多くもつことが知られている.??????????のインスリン様シグナル伝達系の下流では???-??(ヒトではHOXO)とよばれる転写因子が発生,老化,抗酸化にかかわる遺伝子を制御していると考えられ6),マンガン-SODの発現量が長寿突然変異体である???-?で上昇していることが知られている22).最近は,適度な運動が活性酸素に対する防御機構の能力を上げると考えられるようになった.これは運動によるエネルギー代謝亢進で発生する活性酸素の適応応答(ホルミシス効果)である可能性がある23).ホルミシスとは,これは軽度な傷害が防御機構をより強くし,大きな傷害に備えるような適応応答とよばれる現象である.ホルミシスは最初に放射線傷害から発見されたが,電離放射線による傷害の原因の90%が,放射線が水と反応して生じた活性酸素によるものであることや,あらかじめ酸素ストレスをかけた??????????が放射線に耐性を示すことから,ホルミシスの本来の役割は活性酸素に対する生体防御機構と考えられる.つまり,活性酸素は細胞構成成分に傷害を与える一方で,細胞伝達のシグナルとして発生や癌化の過程に関与すると同時に,活性酸素のシグナルが活性酸素に対する防御機構の活性化にも働いている.老化の促進や老年性疾患を防ぐには,活性酸素を必要のない場所で過剰に発生させず,一方で栄養や運動で抗酸化能力を高めることが必要になる.おわりに老化の研究者は,誰にでも生じる「生理的老化」以外に,誰にでも生じるわけではないが,加齢とともに増える疾患を「病的老化」として考えている.生理的老化による死亡は老衰であるが,これは総死亡数の3%にすぎない.多くの人たちは老化でなく,病的老化で亡くなるために100歳まで行き着かない.日本人の総死亡数の60%が脳と心臓の血管傷害と癌の疾患であり,これらの病的老化による疾患を克服すれば,「平均寿命」は今よりもさらに延びることになる.最近の研究から,活性酸素は生理的老化のみならず,病的老化にも密接に関与していることが明らかになってきた.生体内の活性酸素を制することは,寿命や老化を制することといっても過言ではないかもしれない.分子遺伝学にもとづいた老化のメカニズムの研究は,確かなヒトの健康的な長寿実現の方法を見いだしてくれるに違いない.文献1)MartinGM,AustadSN,JohnsonTE:Geneticanalysisofageing:Roleofoxidativedamageandenvironmentalstresses.?????????13:25-34,19962)石井直明:分子レベルで見る老化.講談社,20013)NichollsP,ChanceB:MolecularMechanisminOxygenActivation(edbyHayaishiO),p479-534,Academic,NewYork,19744)ImlayJA,FridovichI:Assayofthemetabolicsuperoxideproductionin????????????????.???????????283:6957-6965,19915)鈴木?之:老化の原点を探る.裳華房,19886)KenyonC:Theplasticityofaging:Insightfromlong-livedmutants(Review).????120:449-460,20057)StenmarkP,GrunlerJ,MattssonJetal:Anewmemberofthefamilyofdi-ioncarboxylateproteins.Coq7(???-?),amembrane-boundhydroxylaseinvolvedinubiquinonebiosynthesis.???????????276:33297-33300,2001(7)———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.23,No.10,20068)IshiiN,TakahashiK,TomitaSetal:Amethylviologen-sensitivemutantofthenematode??????????????????????.???????237:165-171,19909)HondaS,IshiiN,SuzukiKetal:Oxygen-dependentper-turbationoflifespanandagingrateinthenematode.????????:???????48:57-61,199310)IshiiN,FujiiM,HartmenPSetal:Amutationinsucci-natedehydrogenasecytochrome?causesoxidativestressandageinginnematodes.??????394:694-697,199811)Senoo-MatsudaN,YasudaK,TsudaMetal:Adefectinthecytochrome?largesubunitincomplexIIcausesbothsuperoxideanionoverproductionandabnormalenergymetabolismin??????????????????????.???????????276:41553-41558,200112)HosokawaH,IshiiN,IshidaHetal:Rapidaccumulationof?uorescentmaterialwithaginginanoxygen-sensitivemutant???-?of??????????????????????.???????????????????74:161-170,199413)AdachiH,FujiwaraY,IshiiN:E?ectsofoxygenonpro-teincarbonylandagingin??????????????????????mutantswithlong(???-?)andshort(???-?)lifespan.????????:???????53A:240-244,199814)Senoo-MatsudaN,HartmanPS,AkatsukaA:AcomplexIIdefectsmitochondrialstructure,leadingto???-?-and???-?-dependentapoptosisandaging.???????????278:22031-22036,200315)IshiiT,YasudaK,AkatsukaAetal:Amutationinthe????geneofcomplexIIincreasedoxidativestress,resultinginapoptosisandtumorigenesis.???????65:203-209,200516)NiemannS,MullerU:MutationsinSDHCcauseautoso-maldominantparaganglioma,type3.?????????26:268-270,200017)GottliebE,TomlinsonPM:Mitochondrialtumorsuppres-sors:Ageneticandbiochemicalupdate.???????????5:857-866,200518)DillinA,HsuA-L,Arantes-OliveiraNetal:Ratesofbehaviorandagingspeci?cbymitochondrialfunctiondur-ingdevelopment.???????298:2398-24011,200219)LeeSS,LeeRYN,FraserAGetal:AsystematicRNAiscreeningidenti?esacriticalroleformitochondriain??????????longevity.?????????33:40-48,200320)YasudaK,IshiiT,SudaHetal:Age-relatedchangesofmitochondrialstructureandfunctionin??????????????????????.???????????????????(inpress)21)GuarenteL,PicardF:Calorierestriction─the????con-nection.????120:473-482,200522)HondaY,HondaS:The???-?genenetworkforhongevi-tyregulateoxidativestressresistanceandMn-SODsuperoxidedismutasegeneexpressionin??????????????????????.???????13:1385-1393,199923)RadakZ,ChungHY,GotoS:Exciseandhormesis:oxida-tivestress-relatedadaptationforsuccessfulaging.???????????????6:71-75,2005(8)

序説:眼科におけるアンチエイジング医学の流れ

2006年10月30日 月曜日

———————————————————————-Page1(1)????昨年本誌(Vol.22,No.4)で“眼科医のためのアンチエイジング医学”を特集したが,今回はその続編を企画した.アンチエイジング医学は日本でもここにきて急激に社会の関心が高まり,積極的なアプローチがなされようとしている.アンチエイジング医学の研究母体である日本抗加齢医学会も会員数が5,000名を超え,専門医,指導師の認定システムも稼動している.本年5月に行われた第6回日本抗加齢医学会総会は慶應義塾大学医学部眼科学教室が担当させていただいたが,参加人数が2,000名を超えた大きな学術集会へと成長した.6年前に20名ほどの有志と研究会を始めたことを考えると,いかにこの領域に関心が集まっているかがわかる.眼科領域においても,2005年より“眼抗加齢医学研究会”が発足し,すでに2回の研究会を開催している.従来の医学が疾病に対応する医学だったこととは視点を異にして,アンチエイジング医学は疾病の発症以前にエイジングに介入して罹患確率を下げようとする画期的な医学である.眼科領域でも,白内障,緑内障,加齢黄斑変性,老視,ドライアイなど,加齢と直接的に結びついたものも多く,エイジングに介入することは眼科疾患の予防に役立つことは間違いない.アンチエイジング医学がこれほど注目されている背景には,加齢の生物学的メカニズムの解明が進んでいることがあげられる.現在最も注目されている加齢に関する仮説は“フリーラジカルエイジング”とよばれるもので,1956年にネブラスカ大学のハーマン教授が提唱したものである.酸化ストレスによってわれわれの身体の構成成分である蛋白質,脂質,DNAが障害を受けるという理論である.この理論については,今回,東海大学の石井直明教授に解説をお願いした.この理論に基づいて加齢に介入することを考えると,サプリメント,食べ物による抗酸化物質の摂取が必要ということになる.食べ物について今回は名古屋大学の大澤俊彦教授に解説をお願いした.たくさんの食べ物が単なる栄養ばかりでなく抗酸化物質として作用していることがわかるだろう.酸化ストレスは従来,非特異的に組織障害を起こすと考えられてきた.しかし近年になって,酸化ストレスはp38MAPKなどの特異的な経路を介して,細胞,特にステムセルに影響を与えることがわかってきており,大変注目を集めている.ご存知のようにステムセルは再生医療において最も大切な細胞群である.この興味ある関連については,東京歯科大学の川北哲也先生と慶應義塾大学の榛村重人先生にレビューをお願いした.2005年に日本におけるメタボリックシンドロームの診断基準が定められ,2006年になってなんと1,600万人以上がメタボリックシンドローム予備軍だということが判明し,社会的にも大きな問題になっている.IGF(insulin-likegrowthfactor)パスウェイからインスリンシグナルは寿命と非常に大き0910-1810/06/\100/頁/JCLS*KazuoTsubota:慶應義塾大学医学部眼科学教室●序説あたらしい眼科23(10):1243-1244,2006眼科におけるアンチエイジング医学の流れ????-??????????????????????????????????????坪田一男*———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006な関連があることがわかり,今研究者の間では摂取カロリーを65~70%程度に抑えるカロリックリストリクション(caloricrestriction:CR)がさまざまな生物の寿命を延長させるとして注目されている.この観点からエイジングをみると,まさにメタボリックシンドロームはエイジングを加速する状態ととらえることもできる.この状態を“メタボエイジング”とよぶことを提唱している慶應義塾大学の伊藤裕教授に,今回はメタボリックシンドロームとエイジングの関連について解説をお願いした.また,従来から加齢によって癌や肺炎の発症率が高まることが知られているが,これらは免疫能の低下によると考えられている.加齢による免疫の変化について,慶應義塾大学の羽室淳爾教授に最近の視点をとりいれながら概説をお願いした.これらのアンチエイジング医学の基礎を踏まえ,現在どのような検査を行い,どのような介入を行っているのか,同志社大学の米井嘉一教授と高橋洋子先生にアンチエイジング医学の検査項目について解説をお願いした.これらの貴重な6編の総説をお読みいただいて,2006年現在のアンチエイジング医学の流れについてご理解いただければ幸いである.アンチエイジング医学は予防医学の一端として,これから急激に変化する日本の医療の中心的な課題となるテーマといえる.病気になったら治療するという基本戦略では,すでに日本の医療費が32兆円にも達し,これ以上の上昇は許されない.病気にならないための予防医学を積極的に導入することを,日本の医療システムとしても早急に考えなければならない時期にきていると思う.特に眼科領域においては,高齢者の失明を予防する感覚器医学としてのチャレンジは大きい.さらには,コンタクトレンズ,LASIK(laser???????keratomileusis)など,屈折矯正によるqualityofvisionの追求の領域においても,アンチエイジング医学的アプローチの重要性はさらに高まってくると考えられる.今後もますます目の離せない領域であることを確信している.(2)