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眼科医のための先端医療72.虹彩の“動き”が瞳孔膜の消退を誘導する-虹彩のもうひとつの機能

2006年12月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS瞳孔膜とは瞳孔膜は胎生9週頃から8カ月頃までの間に一過性に水晶体の前表面にみられる血管膜です1).「膜」という名がついていますが,組織学的には血管とわずかなコラーゲン線維で構成されており,大虹彩動脈輪の分枝血管が水晶体前表面に接着し血管網を形成しています2,3).その機能は毛様体で房水産生が始まるまでの水晶体上皮細胞の栄養であると考えられています.瞳孔膜消退という不思議な現象良好な視機能を獲得するためには,発達期に中間透光体が透明であることが必要です.視機能発達のために透明でなくてはならない光路上の水晶体に不透明な“膜”を張り,眼内に光が入射するまでにそれを完全に消すというプロセスは,その“膜”が遺残してしまう可能性を考えると,瞳孔膜が水晶体形成において如何に重要な機能を果たしているとしても,眼球にとって危険性が高い選択であったといわざるを得ません.しかし一方で,視機能の発達を障害するような重度の瞳孔膜遺残例に遭遇することはきわめてまれであり,健常成人のほとんどにおいて瞳孔膜は問題なく消退していることも事実です.このことから,瞳孔膜の消退は非常に効率的かつ安定したメカニズムによって誘導され,瞳孔膜遺残というリスクは巧妙に回避されているのであろうということが想像されます.これまでの研究から1994年にLangらによって瞳孔膜の消退の本態は血管のアポトーシスであることが明らかにされました4).その後瞳孔膜のアポトーシスを誘導する因子について多くの検討がなされており,これまでに瞳孔膜を取り巻く環境,すなわち水晶体,房水そして血流由来のアポトーシス誘導因子(マクロファージ,活性酸素種,骨形成蛋白)の増加および血管新生促進因子(血管内皮細胞増殖因子,塩基性線維芽細胞増殖因子)の減少が瞳孔膜消退に重要な役割を担うことが報告されています4~9).これらによれば,瞳孔膜の消退には実にさまざまな因子が関与しその経路は複数存在することになります.しかし,これらの因子・経路を眼球形成後期にほぼ個体差なく機能させ,瞳孔膜消退をひき起こすトリガーが何であるかということについては解明されていませんでした.虹彩の“動き”に伴って瞳孔膜の血流動態が大きく変化する筆者らはラット眼(ヒトとは異なり生後2週間で瞳孔膜の消退が完了する)において瞳孔膜の消退と虹彩の運(69)◆シリーズ第72回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊森實祐基*1,2毛利聡*2〔*1岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学*2同システム循環生理学〕虹彩の“動き”が瞳孔膜の消退を誘導する─虹彩のもうひとつの機能─図1瞳孔膜消退の時間経過(a)および虹彩の運動能発達の時間経過(b)a:生後各日数における瞳孔膜血管の分岐点数.生後8日目から瞳孔膜の消退が顕著となり14日目には完全に消退する.b:点眼薬によって交感神経を刺激し副交感神経を抑制した場合の瞳孔径(○)および副交感神経を刺激し交感神経を抑制した場合の瞳孔径(■).交感神経と副交感神経をともに抑制した場合の瞳孔径を100として表示.自律神経刺激に対する虹彩の反応は生後8日目頃からみられる.ba01002003004021214108604060801001201402040212141086生後日数(日)生後日数(日)瞳孔膜血管の分岐点数瞳孔径(自律神経抑制時に対する%)———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006動能(縮瞳能・散瞳能)の発達が同期的に進行することに着目し(図1),虹彩の“動き(縮瞳・散瞳)”が瞳孔膜のアポトーシスを誘導する引き金ではないかと仮説を立てました.そこで,独自に開発した生体ビデオ顕微鏡(空間解像度0.5?m)を用いて虹彩運動に伴う瞳孔膜の血流動態の変化を可視化・観察しました.その結果,虹彩の動きに伴って瞳孔膜の形態は大きく変化し,さらに縮瞳時には瞳孔膜の血流が停止し,散瞳時には血流が再開することが明らかになりました(図2)10,11).虹彩の“動き”を抑制すると瞳孔膜が遺残する血流の停止(虚血)や間欠的な停止(虚血再灌流)は活性酸素種や種々のアポトーシスリガンドの産生,shearstressの減少などを介して血管内皮細胞のアポトーシスを誘導することが明らかにされています12~15).筆者らは虹彩の動きが瞳孔膜の血流動態に変化をもたらし,アポトーシスを誘導するのではないかと考えました.そこで,虹彩の動きを持続的に抑制し瞳孔膜の血流動態の変動が起こらないようにすれば,瞳孔膜の消退が抑制されるかどうか検討しました.その結果,生後12日目まで虹彩運動を持続的に抑制すると,瞳孔膜血管内皮細胞のアポトーシスがコントロール群に比べて有意に抑制され瞳孔膜が遺残しました(図3).また,瞳孔膜消退を誘導する重要な因子の一つと考えられているマクロファージの遊走も有意に抑制されました.以上の結果から,虹彩の動きが瞳孔膜に血流動態の変化を起こし,それがマクロファージなどのアポトーシス誘導因子を活性化することによって瞳孔膜消退を誘導すると結論しました.研究の意義と今後の課題本検討では,虹彩?瞳孔膜?水晶体の相互関係によって瞳孔膜の消退が誘導されることが明らかになりました.この結果は,これまで遺伝子によってプログラムされた細胞死であると考えられてきた器官形成期のアポトーシスにおいて,組織間の生理的な相互作用がその誘導に重(70)図2虹彩の動きに伴う瞳孔膜血流の停止・再開(生後12日目)コントロール(自律神経抑制)状態(a),縮瞳時(b),散瞳時(c)における瞳孔膜の形態変化(上段,Bar:1mm),血流動態の変化(中段,Bar:100?m),虹彩?瞳孔膜?水晶体の相互関係模式図(下段).縮瞳時,虹彩によって瞳孔膜血管は瞳孔領中央に寄せ集められた(b上段の白矢印).その際,瞳孔膜は水晶体表面に接着しているため,瞳孔膜血管は強く屈曲し(b下段の*)血流が停止した(b中段の黒矢印).散瞳時には虹彩によって瞳孔膜血管は伸展され(c上段の白矢印)血流が再開した(c中段の黒矢印).*bac血流再開散瞳時縮瞳時血流停止*水晶体虹彩瞳孔膜図3虹彩の動きを抑制することでみられた瞳孔膜の遺残a:コントロール群の生後14日目.生後4時間ごとに生理食塩水を点眼した.瞳孔膜はほぼ完全に消退した.b:虹彩の動きを抑制した群の生後14日目.生後4時間ごとに1%アトロピンを点眼し虹彩運動を抑制した.その結果,瞳孔膜が遺残した(白矢印).遺残した瞳孔膜では血流が保たれていた.a.コントロール群b.虹彩の動きを抑制した群———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????5)LangRA,BishopJM:Macrophagesarerequiredforcelldeathandtissueremodelinginthedevelopingmouseeye.????74:453-462,19936)MeesonA,PalmerM,CalfonMetal:Arelationshipbetweenapoptosisand?owduringprogrammedcapillaryregressionisrevealedbyvitalanalysis.???????????122:3929-3938,19967)MeesonAP,ArgillaM,KoKetal:VEGFdeprivation-inducedapoptosisisacomponentofprogrammedcapil-laryregression.???????????126:1407-1415,19998)YanagawaT,MatsuoT,MatsuoN:Aqueousvascularendothelialgrowthfactorandbasic?broblastgrowthfac-tordecreaseduringregressionofrabbitpupillarymem-brane.????????????????42:157-161,19989)KiyonoM,ShibuyaM:Bonemorphogeneticprotein4mediatesapoptosisofcapillaryendothelialcellsduringratpupillarymembraneregression.?????????????23:4627-4636,200310)MorizaneY,MohriS,KosakaJetal:Irismovementmediatesvascularapoptosisduringratpupillarymem-braneregression.??????????????????????????????????????290:R819-825,200611)HinesPJ:Deathintheblinkofaniris.???????310:747-749,200512)DaemenMA,deVriesB,BuurmanWA:Apoptosisandin?ammationinrenalreperfusioninjury.???????????????73:1693-1700,200213)HouST,MacManusJP:Molecularmechanismsofcere-bralischemia-inducedneuronaldeath.??????????????221:93-148,200214)KrijnenPA,NijmeijerR,MeijerCJetal:Apoptosisinmyocardialischaemiaandinfarction.?????????????55:801-811,200215)ScarabelliT,StephanouA,RaymentNetal:Apoptosisofendothelialcellsprecedesmyocytecellapoptosisinisch-emia/reperfusioninjury.???????????104:253-256,2001要な役割を果たしていることを示した一例であるといえます.また眼科学的には,これまで知られていなかった虹彩の新たな機能を示唆する結果といえるのではないかと考えています.本検討はあくまでラットでの結果であり,そのままヒトに外挿することはできませんが,従来考えられてきた虹彩の機能─眼球に入る光量の調節,光学収差の減少,焦点深度の調節─に加えて,虹彩は光が眼球内に入る以前にも“瞳孔膜を消す”という機能を果たしている可能性があると考えます.今後,虹彩の動きとさまざまなアポトーシス誘導因子との関わりについて検討を進めるとともに,眼球形成期にみられる他の眼内血管(硝子体動脈,水晶体血管膜)の消退機構についても検討を進めたいと思います.そうすれば,不明な点が多い眼球形成の仕組みについてさらに解明が進むのではないかと考えます.文献1)BeebeDC:Adler?sPhysiologyoftheEye,10ed,p117-158,Mosby,StLouis,20032)MatsuoN,SmelserGK:Electronmicroscopicstudiesonthepupillarymembrane:the?nestructureofthewhitestrandsofthedisappearingstageofthismembrane.?????????????????10:108-119,19713)LatkerCH,KuwabaraT:Regressionofthetunicavascu-losalentisinthepostnatalrat.??????????????????????????21:689-699,19814)LangR,LustigM,FrancoisFetal:Apoptosisduringmacrophage-dependentoculartissueremodelling.????????????120:3395-3403,1994(71)■「虹彩の動きが瞳孔膜の消退を誘導する─虹彩のもうひとつの機能─」を読んで■医学に限らず,科学は新しいアイデアや,革命的コンセプトにより飛躍的に進歩します.研究設備が整った組織に属するのは,ある程度予測可能な結果を出すためには有利ですが,学問を飛躍的に進歩させるようなコンセプトを創造するためには,必ずしも有利とはいえません.なぜなら,新しいコンセプトは研究者のイマジネーションによってのみ創造されるものであり,イマジネーションは研究者の頭のなかにあるからです.頭のなかは,研究者が所属する機関の研究設備や資源には無関係です.それゆえ,新しいコンセプトを創造した研究者はよりいっそう賞賛されるのです.さて,今回の森實祐基先生の研究は,この新しいコンセプトを創造したものといえます.網膜の虚血・再灌流動物は,血管障害を擬した病変のモデルとして,さまざまな医学研究分野で使われてきました.眼科領域でいえば,このモデルを用いることで,網膜血管障害の後の網膜障害発生のメカニズムが,分子レベルで解明されるようになりました.たとえば,虚血・再灌流が起こるとアポトーシスがひき起こされますが,それはさらなる炎症を誘導し,最終的にはきわめて重篤な網膜の障害をひき起こします.多くの研究者は,虚血・再灌流という概念から,網膜静脈閉塞などの病態を思い浮かべるだけでした.ところが森實先生たちは,虚血・再灌流という概念をまったく違う視点からとらえました.本文にあるように,虚血・再灌流という現象が,発生における組織形成に重要な働きをして———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006(72)いるという仮説を立て,発生における瞳孔膜の消退現象を解析しました.特に,発生の過程で,瞳孔膜が瞳孔部分だけ綺麗に抜け落ちる理由は長く謎でしたが(多くの人はこのことを疑問にすら思いませんでした),その理由は,瞳孔膜血管の虚血・再灌流によるアポトーシスであり,アポトーシスの誘因が虹彩の動きであるために瞳孔部分だけが選択的に抜け落ちるからであると見事に証明しました.これは,誰も考え付かなかった考え方で,この考え方を応用することで,さまざまな生体現象が説明できるようになります.まさに,今後の研究を大きく発展させる新しいコンセプトといえます.このコンセプトの重要さは,この論文がScience誌の編集長による重要論文欄で取り上げられた1)ことからもわかります.このような新しく見事なコンセプトが出されると,コンセプトの内容よりも,どうしてこんなことを思いついたのか森實先生に聞きたくなるのは,私だけでしょうか.文献1)HinesPJ:Deathintheblinkofaniris.???????310:747-749,2005鹿児島大学医学部眼科坂本泰二☆☆☆

新しい治療と検査シリーズ167.フーリエドメイン光干渉断層計

2006年12月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS?バックグラウンド1991年に国際特許が取得され,1997年にHumphrey社(現在CarlZeissMeditec)から製品化された光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)は,網膜の断層像を内層・外層が議論できる程度に可視化し,眼底疾患の診断に革命的進展をもたらした1).黄斑円孔の病態解明と病期決定においては疾患概念へ影響をもたらし,糖尿病黄斑浮腫や網膜静脈閉塞症における黄斑網膜厚定量化により治療効果の判定にも不可欠となった.一方,乳頭周囲神経線維層厚計測が可能となり,緑内障早期診断の診断機器の一翼としても注目されてきた.2002年には,深さ分解能が10?mへ向上したが,マイナーチェンジであり,眼科診療に変革をもたらすほどではなく,発売から10年近く経過し,計測精度,病変描出力,撮影速度などの限界が指摘され,古くなった感は否めない2).従来のOCTのもう一つの問題は,網膜に垂直なOCT断層像を,眼底写真や蛍光眼底造影などベーシックな検査データへ対応させることがむずかしいことがあげられる.?新しい検査法従来のOCTはタイムドメインOCT(timedomainOCT:TD-OCT)とよばれ,光波の干渉を実空間(時間領域)で行うため,深さ方向へ機械的スキャンを要する.このため撮影の高速化が困難とされる.これに対し,フーリエドメインOCT(FourierdomainOCT:FD-OCT)は,光波の干渉を虚空間(周波数領域)で行うため,深さ方向の機械的スキャンが不要となり2桁以上3桁未満高速に画像を取得できる.さらにフーリエドメインOCTはプーブ光の使用効率が高いため,タイムドメインOCTと比べ信号雑音比が高い,すなわち高感度である(表1).桁違いに高速であるため,単に断層像のみならず数秒で三次元OCT情報を取得することが可能となり,三次元の形態情報を扱う新しい検査法へ発展した3~5).?実際の検査法従来の撮影と同様に病変部を狙いBスキャン断層像を撮影する方法①と病変を含む3~6mm平方を格子状にスキャンして三次元情報を取得する方法②がある.①は,たとえばAスキャン500本なら40枚/秒,Aスキャン1,000本なら20枚/秒程度の速度で撮影できる.②は,たとえば,3mm平方の領域に水平Aスキャン256本からなるBスキャンを垂直方向に256枚一定間隔で連続撮影する.言い換えると,256×256の格子状のAスキャンを行う(図1).すると,眼底は3mm×3mm×2~4mmの直方体に切り取られ,その中に三次元情報が詰まって取得される.撮影後に三次元解析用ソフトウエア上で,この直方体を,三次元像として観察することも可能であるが,より実用性の高い観察法は,水平方向,垂直方向,鉛直断面方向(いわゆるCスキャン方向)をはじめとする任意の面で切り取った断面像を観察できることである(図2).さらには,各面方向で約12?mごとの連続した断層像を1枚1枚観察し,病変の三次元方向の広がりを観察できる3~5).?本方法の良い点2桁以上3桁未満高速であるということは,文句なしに良い点である.通常のBスキャンが,リアルタイム新しい治療と検査シリーズ(67)167.フーリエドメイン光干渉断層計プレゼンテーション:板谷正紀京都大学大学院医学研究科眼科学教室コメント:不二門尚大阪大学大学院医学研究科感覚機能形成学教室表1タイムドメインOCT(TD-OCT)とフーリエドメインOCT(FD-OCT)の比較TD-OCT(StratusOCT)FD-OCT(京大プロトタイプ)スキャン速度400Aスキャン/秒18,700Aスキャン/秒感度約85dB約98dB———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006に撮れるため,固視微動によるアーチファクトを無視できる.つぎに三次元OCT情報が得られることにより,単に三次元に連続した緻密な病変観察が可能になっただけではなく,従来の眼底カメラタイプのベーシックな検査データ(カラー眼底写真,蛍光眼底写真,走査レーザー検眼鏡,マイクロペリメトリーなど)とOCT所見を重ね合わせて比較することが可能になった.眼底病変の形態と機能を三次元的に比較統合できる時代に入ったといっても過言ではない.文献1)板谷正紀:眼底の画像診断装置の現状と未来「より速く,より深く,より高精細に」.眼科48:923-936,20062)SaddaSR,WuZ,WalshACetal:Errorsinretinalthick-nessmeasurementsobtainedbyopticalcoherencetomog-raphy.?????????????113:285-293,20063)WojtkowskiM,SrinivasanV,FujimotoJGetal:Three-dimensionalretinalimagingwithhigh-speedultrahigh-resolutionopticalcoherencetomography.?????????????112:1734-1746,20054)Schmidt-ErfurthU,LeitgebRA,MichelsSetal:Three-dimensionalultrahigh-resolutionopticalcoherencetomog-raphyofmaculardiseases.?????????????????????????46:3393-3402,20055)HangaiM,OjimaY,GotohNetal:Three-dimensionalimagingofmacularholeswithhigh-speedopticalcoher-encetomography.?????????????,inpress(68)?本方法に対するコメント?3D-OCTは,従来の2D-OCTと比較して,三次元情報が得られる点がすぐれている.TimedomainのC-scan方式による3D-OCTはすでに実用化されており,臨床的にも強度近視眼の網膜血管の三次元的描出に有効性が示されている(Ikunoetal,AJO,2005).しかしながら,画像取得に時間がかかるため,三次元の精細な画像を得ることは困難であった.Fourierdomainの3D-OCTは画像の取得時間が短く,分解能の高い画像が得られる点が有利な点である.一方,6mmのscanを行うためには3秒以上かかり,角膜の乾燥や固視微動の影響が避けられない点がハードの問題として残っており,また膨大なデータのなかから効率よく有用な情報を抽出し,これをいかに保管するかというソフト面での改良が,真に臨床的に有用な器機となるために必要なステップである.図1ラスタスキャンプロトコールの1例ラスタスキャンプロトコール(rasterscanprotocol)とは,三次元OCTデータ取得を目的としたAスキャンの格子状分配パターンをいう.具体的には,どの撮影範囲で,どのようにAスキャンを分配するかということである.図には,3mm×3mmの正方形の範囲に,水平方向256本,垂直方向256本で格子状にAスキャンを分配するラスタスキャンプロトコールを示す.実際は,水平方向に256本のAスキャンを行い等間隔おきに256枚のBスキャンを取得する.ラスタスキャンプロトコールにより得た三次元OCTデータを三次元ソフトによりボリュームレンダリングを行い三次元OCT像を構築できる.(板谷正紀:眼科手術19:501-505,2006より転載)図2三次元OCT画像の観察方法三次元OCT画像は包括的な形態情報を有するが,ヒトの眼と頭脳は一目で三次元情報を理解できない.ここに列挙するような多彩な観察法で,緻密な観察を行うことが重要である.観察方法にA:3D外観,B:水平断層像,C:水平立体断面像,D:プロジェクション画像(projectionimage),E:Enface断層像,F:Enface立体断面像,G:約12?mごとの連続した断層像を1枚1枚観察し病変の緻密な変化の三次元の広がりを観察可能,H:あらゆる方向の断層像を観察することが可能.(板谷正紀:眼科手術19:501-505,2006より転載)

眼感染症:ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)

2006年12月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLSポリメラーゼ連鎖反応(polymerasechainreac-tion;PCR)は1971年Khoranaら1)により考案され,1986年にMullisらのグループ2)が実証して以来,生命科学の発展を支えてきた.このPCRは長いDNAのうち,狙った1カ所だけをくり返しコピー増幅させることで,解析できる程度の量にまでDNAを増やすための反応である.鋳型DNA,プライマー,耐熱性のDNAポリメレースである???酵素をバッファー中で混合させ(図1),3ステップからなる温度変化を30回程度くり返すことでDNAを増幅させる.●鋳型DNA純度の高いDNAにまで精製しなくとも,よほど多くの夾雑物がないかぎり涙液,眼脂,眼組織片などでも直接チューブに入れるだけで反応可能である.病原微生物の特異的な塩基配列を含む配列で後述するプライマーを設計する.●プライマー鋳型二本鎖DNAのうち目的とする領域を挟む形で,センスとアンチセンスの互いに向き合った1対のプライマーを設計する.目的とするDNAの前後(5?側と3?側)に設定する.特異性が高い配列(17~35塩基),適切なGC含量(GCcontent).鋳型鎖に結合(annealing)する温度(meltingtemperature:Tm)を一致させる.互いに相補性がないこと(primerdimerを形成するため).自身の配列内に回文構造がない(分子内高次構造を形成するため).これらに注意して設計する.プライマー設計するソフトウエアを用いれば,いくつかの候補を出力できる.プライマー合成会社に注文すると3日でプライマーが手に入るが,時間制約がある臨床現場では,眼感染症をひき起こすウイルス,細菌,原虫,真菌などのプライマー3)はあらかじめ用意しておく.●酵素?????????????????由来の????DNA合成酵素(????polymerase)は米国のイエローストーン国立公園の源泉から発見された耐熱性細菌の酵素である.カリフォルニアの山岳地帯をドライブしているときにPCR法を考えついたMullisら2)は1993年にノーベル化学賞を受賞している.現在ではさまざまな特性をもつ???が市販されている.エンテロウイルスなどのRNAウイルスの場合は逆転写酵素(reversetranscriptase:RT)を用いたRT-PCRを行う.●PCRサイクル上述のようにPCRのサイクルは高温(通常95~98℃)でのDNAの変性(denaturation),低温(プライマーのTm値よりやや低温)におけるプライマーのアニーリング(annealing),???DNA合成酵素至適温度(72℃)で(65)43.ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)眼感染症セミナー─スキルアップ講座─●連載?監修=大橋裕一井上幸次藤巻拓郎木村泰朗順天堂大学医学部眼科ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は鋳型DNA,プライマー,???酵素をバッファー中で混合させ加温冷却をくり返し,目的とするDNA領域を増幅させる方法である.眼感染症をひき起こすウイルス,細菌,原虫,真菌などを高感度で迅速に検出できる半面,病原体が絞り込めない場合は工夫が必要である.図1PCR溶液を混合させる作業台中央は50??のPCR専用チューブ.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006の伸長反応(extension),の3ステップを30回程度くり返すのが一般的である.通常50??のPCR専用チューブにマイクロピペットとチップを用いて各溶液を混合し(図1),サーマルサイクラーとよばれる機器(図2)にて加温冷却をくり返し,目的とするDNA領域を増幅させる.設定温度にもよるが,装置を作動させると2~3時間程度で反応は終了し,確認のためアガロースゲルにて産物を電気泳動させることでPCR産物を確認する(図3).●さまざまなPCR1.ReversetranscriptionPCR(RT-PCR)上述したエンテロウイルスなどのRNAウイルスの場合は逆転写酵素(reversetranscriptase)を用いたRT-PCRを行う.各社から1本のチューブでRNAをcDNAに変換しPCRを行うRT-PCR反応を,1本のチューブ内で連続的にonestepで行うキットが発売されている.2.NestedPCR(secondaryPCR)サンプルに不純物が多い場合やDNA量が少ない場合で,初回PCRでうまく増幅できなかったときに,最初のPCR産物をもとにさらに内側のプライマー対を用いることで2回目のPCRを行う.3.MultiplexPCR病原体が絞り込めない場合はいちどに複数のプライマー対を混合することで,多種類のターゲットのいずれかを同時に,あるいは1種類のみを検出できるPCR法がある4).プライマーのTm値を一定に揃えることと,各標的のPCR産物の長さを変えることが重要である.いずれの場合にも共通するが,予想された長さに相当するPCR産物ができても,目的の領域かどうかは塩基配列を確認するまでわからない.特に医療現場では時間的な制約があっても,確実な診断のためには塩基配列決定まで行うべきである.以上,PCR法の概要を記述したが,正しい方法で行えばPCRは感染症診断に際し非常に有効な検査である.文献1)KleppeK,OhtsukaE,KleppeRetal:XCVI.Repairrepli-cationofshortsyntheticDNA?sascatalyzedbyDNApolymerases.??????????56:341-361,19712)MullisK,FaloonaF,ScharfSetal:Speci?cenzymaticampli?cationofDNAinvitro:thepolymerasechainreac-tion.????????????????????????????????51,263-273,19863)伊藤典彦:眼科におけるウイルス学検査の実際─PCR法の種類と方法.NEWMOOK眼科,2.眼のウイルス感染症,p179-197,金原出版,20024)ZhangY,KimuraT,FujikiKetal:Multiplexpolymerasechainreactionfordetectionofherpessimplexvirustype1,type2,cytomegalovirus,andvaricella-zostervirusinocularviralinfections.????????????????47:260-264,2003(66)図2各種サーマルサイクラー■コメント■PCRは臨床診断にきわめて有用な方法であり,特にウイルス感染症の診断法としては定着した感がある.最近は感度の高いnestedPCRや一つのサンプルで複数の病原体を検索するmultiplexPCR,そして定量が可能なreal-timePCRなどさまざまな方法が考案されている.ヘルペスウイルス属については人体に潜伏感染しているため,単にPCR陽性のみでは診断につながらない,臨床所見や抗ウイルス薬に対する反応性,そしてウイルスDNAの量を勘案して診断すべきであろう.鳥取大学医学部視覚病態学井上幸次図3PCR産物の電気泳動写真レーン1は100bpマーカー.レーン2矢印はPCR産物.12500bp

光線力学的療法(PDT):光線力学的療法の適応・非適応

2006年12月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)が認可されてから2年以上経過した.日本でのPDT治療の基準となる「眼科PDTガイドライン」は,現在,日本PDT研究会によって作成中である.今回は,現時点におけるPDTの適応・非適応について紹介する.ベルテポルフィン(ビスダイン?),の添付文書の効能・効果には,「中心窩下脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)を伴う加齢黄斑変性症(age-relatedmaculardegeneration:AMD)」と明記されている1).ここでのAMDとは広義AMDとして解釈され,CNVを有する狭義AMDはもちろんのこと,広義AMDに含まれるポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV),網膜内血管腫状増殖(retinalangiomatousproliferation:RAP)についても,PDTの適応と考えられる.●視力わが国のPDT臨床治験,JAT(JapaneseAge-Relat-edMacularDegenerationTrial)Studyに従えば,小数視力に換算して,0.1~0.5が適応とされる2).視力が0.1未満であっても,最近の視力低下例であれば適応と考え,0.1未満が6カ月以上持続しているような慢性例では適応がないと考えられる.0.6以上の視力であれば,急激な視力低下を生じる可能性があるとの報告もあるが,急激な視力低下が予想される活動性の高いCNV例では,視力が0.6以上であっても適応と考える場合もある.●病変の位置・大きさ中心窩下にCNVが存在する症例のみがPDTの適応であり,傍中心窩・中心窩外に存在するCNVは現在のところ適応外である.しかし,傍中心窩CNVであっても,レーザー光凝固瘢が中心窩無血管野の中央までかかってしまう場合には,PDTの適応であるとする意見もある.照射サイズは病変の最大径(greatestlineardimension:GLD)に1,000?mを加算した値で決定される.視神経乳頭への照射を避けるため乳頭から200?m離す必要があり,視神経乳頭の辺縁から病変までの大きさが700?m以上離れている必要がある.GLDが小さいものほどPDTの効果が期待できる.JATStudyの基準に従えば,GLDが5,400?m以下の症例が適応であり,大きい病変では治療効果を期待しにくい.しかし,治療で用いるレンズの倍率次第で,さらに大きな病変を治療することは可能である.●病型欧米ではpredominantlyclassicCNVは良い適応とされているが,minimallyclassicCNVやoccultwithno(63)沢美喜大阪大学大学院医学系研究科眼科学視覚科学光線力学的療法(PDT)セミナー監修/石橋達朗湯沢美都子3.光線力学的療法の適応・非適応光線力学的療法の適応は,中心窩下に脈絡膜新生血管を有する広義の加齢黄斑変性である.最近,視力低下が進行し,漿液性網膜?離を伴い,フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)で旺盛な蛍光漏出を認め,視力0.1~0.5の症例は適応である.視力変化に乏しく,線維化が進行し,FAで蛍光漏出がなく,活動性のない症例は非適応である.提供図1フルオレセイン眼底造影所見a:PredominantlyclassicCNV.b:MinimallyclassicCNV.c:OccultwithnoclassicCNV.acb———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006(00)classicCNVも適応である(図1).わが国に多いPCVは,狭義AMDよりも良い治療成績が報告されている(図2)3).RAPに関しては,ビスダイン?の添付文書には慎重投与と明記されている.●活動性数カ月以内の視力低下・網膜下出血・漿液性網膜?離・フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)での旺盛な蛍光漏出がみられれば,活動性の高い病変と考え,PDTの適応と判断される.ClassicCNVは急激な視力低下を自覚することが多く,PCVでも漿液性網膜?離が生じると急激な視力低下を伴うことが多く,これらの状態はPDTの良い適応となる.一方,活動性の低い状態として,視力低下の進行がみられず,検眼鏡的に線維増殖がみられ,FAではCNVの組織染がほとんどで蛍光漏出が少ない場合には,非適応と考えられる.網膜断層撮影(OCT)で中心窩の?胞様黄斑変性がみられる場合には,適応外と判断できる(図3).出血が多い症例では,PDTでの十分な効果が得られないとして,臨床治験では適応外とされ,現在でもその適応は順守されている.しかし,中心窩の網膜下出血が薄い症例では,適応としてよい場合もある.大きな網膜色素上皮?離がみられる症例では,治療効果が期待できにくい場合もあり,慎重に適応を判断しなければならない.おわりに現段階では強度近視や網膜色素線条に合併した血管新生黄斑症,特発性脈絡膜新生血管は適応外である.強度近視に合併した加齢黄斑変性では,将来起こりうる周囲の萎縮拡大を考慮して,慎重に対応していく必要がある.文献1)ビスダイン?静注用15mg添付文書2)Japaneseage-relatedmaculardegenerationtrial:1-yearresultsofphotodynamictherapywithvertepor?ninJapa-nesepatientswithsubfovealchoroidalneovascularizationsecondarytoage-relatedmaculardegeneration.???????????????136:1049-1061,20033)ChanWM,LamDS,LaiTYetal:Photodynamictherapywithvertepor?nforsymptomaticpolypoidalchoroidalvas-culopathy:one-yearresultsofaprospectivecaseseries.?????????????111:1576-1584,2004図2ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)の症例a:橙赤色隆起病巣と漿液性網膜?離を認める.b:インドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)ではポリープ状病巣(大矢印)と異常血管網(小矢印)がみられる.c:OCT所見では,ポリープ状病巣による隆起と漿液性網膜?離を認める.このようなPCVは良い適応である.abc図3OccultCNVの陳旧例a:FAでは軽度の蛍光漏出を認めるも,組織染が主体である.b:OCTでは?胞様黄斑変性をきたしており,このような慢性例では非適応と考えられる.ab

緑内障:急性原発閉塞隅角症と毛様体脈絡膜剥離

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———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS●超音波生体顕微鏡(UBM)で観察される毛様体脈絡膜?離UBMを用いることにより眼底検査では確認できない微少な毛様体脈絡膜?離(もしくは浮腫,uveale?u-sion)が観察される(図1).微少な毛様体脈絡膜?離は,内眼手術(特に濾過手術後1)),汎網膜光凝固術後,ぶどう膜炎(特にVogt-小柳?原田症候群2)などの炎症に伴って観察される.毛様体脈絡膜?離は一般に低眼圧と関連している.低眼圧は毛様体脈絡膜?離の原因になる一方,毛様体脈絡膜?離の存在は低眼圧の原因にもなる.濾過手術においては急激な減圧や手術時の微少な毛様体の損傷がその原因であると推測されている.しかし,UBMにより観察される毛様体脈絡膜?離は必ずしも低眼圧に付随して観察されるわけではない.急激な眼圧下降のほか炎症による毛様体からの滲出および房水のぶどう膜強膜流の増加という合目的的な生理反応と,強膜からの排出のアンバランスにより出現するものと考えられる(図2).●原発閉塞隅角症と毛様体脈絡膜?離筆者らは,原発閉塞隅角症においてレーザー虹彩切開術後に高頻度で観察されることを報告し,炎症によるぶどう膜強膜流の増加によるものと考察した3).しかし,一方でこの研究の間にレーザー虹彩切開術や内眼手術の既往がない眼において,特発性の毛様体脈絡膜?離が存在する症例のあることに気がついた.連続した原発閉塞隅角症症例に対するUBM観察の結果,原発閉塞隅角症(61)●連載?緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄78.急性原発閉塞隅角症と毛様体脈絡膜?離酒井寛琉球大学医学部眼科急性原発閉塞隅角症(いわゆる緑内障急性発作)では,薬物治療による発作緩解後に超音波生体顕微鏡で観察される毛様体脈絡膜?離を高率に生じている.急性発作緩解後の毛様体脈絡膜?離は,一過性の低眼圧の原因となる一方で再度の隅角閉塞の原因ともなる.その病態の理解は,臨床経過の予想に重要である.図1原発閉塞隅角症に観察される毛様体脈絡膜?離(上:矢状断,下:冠状断)a:UBMで明らかな毛様体脈絡膜?離.b:UBM上にわずかに観察される微少な毛様体脈絡膜?離.強膜毛様体扁平部強膜毛様体扁平部ab図2急性原発閉塞隅角症(急性発作)と毛様体脈絡膜?離の関係(概念図)炎症(PGs)ぶどう膜強膜流↑毛様体脈絡膜?離低眼圧短眼軸強膜肥厚,組織異常ぶどう膜強膜流のうっ滞毛様体前方回旋浅前房隅角閉塞急性発作治療による急激な眼圧下降———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006では開放隅角緑内障と比べて高率に特発性の微少な毛様体脈絡膜?離が存在することを発見した.各病型での毛様体脈絡膜?離の発生率および頻度を図3に示す4).●急性原発閉塞隅角症における毛様体脈絡膜?離の臨床的意義急性原発閉塞隅角症は最も古典的な「緑内障」病型であり,現代においても適切な治療がなされなければ重篤な視力障害の原因になる可能性のある疾患である.急性原発閉塞隅角症とその治療過程においては,眼圧上昇によるうっ血,眼圧の急激な下降,虹彩虚血による炎症,ピロカルピン点眼による毛様体収縮・炎症,アセタゾラミドの使用など毛様体脈絡膜?離の原因となりうる病態が集積している.真性小眼球においては毛様体脈絡膜?離が手術後にも手術前にも起こりうるが,急性原発閉塞隅角症眼も眼軸の短い眼に多いことから同様に毛様体脈絡膜?離を生じやすいのではないかと推測される.急性原発閉塞隅角症の治療後の毛様体脈絡膜?離発症頻度は約60%と非常に高い.しかしその程度はきわめて軽度であり,眼底検査で脈絡膜?離として診断されることはなくUBM検査においてのみ観察されるものである.?離は毛様体の後方から脈絡膜にかけて頻発し,全周性だけでなく限局性にも存在する.そのため,UBM検査を用いたとしても隅角部だけの撮影では検出されないことも多い.しかしながら,軽度であっても慢性閉塞眼では毛様体脈絡膜?離眼の前房深度が浅いことも判明しているので,急性発作治療後の前房は続発性にさらに浅くなっていると考えられる.毛様体脈絡膜?離は毛様体の前方回旋により隅角を閉塞するように働くことにも注意が必要である.急性発作が薬物治療で緩解し,薬物治療中止(減量)後にも低眼圧が数日続くことがある.これは,以前は毛様体の血流が発作によって途絶するためと考えられていたが,毛様体脈絡膜?離の高頻度での発症から,微少毛様体脈絡膜?離によるぶどう膜強膜流の増加によると考えるのが妥当であろう.実際に,急性発作緩解後角膜浮腫の軽減を待っている間に再発作を起こす症例を散見する.こうした症例のUBMを観察すると最初の発作解除後の隅角はあまり開放していないにもかかわらず眼圧が下降している.そして,数日後に眼圧が再上昇するのである.こうした経過は急性発作後の微少毛様体脈絡膜?離によって説明することができる.すなわち,急性発作後に微少毛様体脈絡膜?離を伴って眼圧は数日間下降するが,一方で浅前房は悪化し,隅角も多くが閉塞している.数日後,消炎や時間経過に伴い微少毛様体脈絡膜?離が消失すると,眼圧は隅角閉塞の程度に従って再上昇するものと考えられる(図4).おわりにUBM検査は行えない場合でも急性発作後には毛様体脈絡膜?離が存在している,と考えることが病態の理解および治療戦略において重要であることを強調したい.文献1)SugimotoK,ItoK,EsakiKetal:Supraciliochoroidal?uidatanearlystageaftertrabeculectomy.????????????????46:548-552,20022)KawanoY,TawaraA,NishiokaYetal:Ultrasoundbio-microscopicanalysisoftransientshallowanteriorchamberinVogt-Koyanagi-Haradasyndrome.????????????????121:720-723,19963)SakaiH,IshikawaH,ShinzatoMetal:Prevalenceofcil-iochoroidale?usionafterprophylacticlaseriridotomy.???????????????136:537-538,20034)SakaiH,Morine-ShinjyoS,ShinzatoMetal:Uveale?usioninprimaryangle-closureglaucoma.??????????????112:413-419,2005(62)図4急性発作緩解後の眼圧再上昇と毛様体脈絡膜?離の消長急性発作治療↓眼圧下降毛様体脈絡膜?離低眼圧&隅角閉塞持続眼圧再上昇毛様体脈絡膜?離の消失020406080100急性発作僚眼閉塞隅角慢性原発開放隅角:毛様体脈絡膜?離(-):毛様体脈絡膜?離(+)発症頻度(%)図3原発閉塞隅角症の各病型と毛様体脈絡膜?離発症頻度(文献4より作図)

屈折矯正手術:屈折矯正手術-LASIK術後管理の注意点

2006年12月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLSLASIK(laser???????keratomileusis)は現在最も行われている屈折矯正術であり,年間の手術件数も約10万件に達する.専門施設で手術を施行され,術後は他の眼科施設を訪れる患者が今後は増加すると考えられるため,術後管理についての一般的知識を共有することは大切である.●早期合併症のモニタリングと治療術後1週間以内は,フラップの創傷治癒にかかわる合併症が起こりやすいので,特に注意が必要である.またフラップの接着が弱いため,外傷などによってフラップのずれなどが起こりうる時期である.1.Di?uselamellarkeratitis(DLK)フラップ下への原因不明の細胞浸潤で術後1日に発症することが多い.細胞浸潤の程度と経過によってStage1~4に分類される.Stage1は周辺部のみの細胞浸潤,Stage2はフラップ下全体のびまん浸潤,Stage3は細胞どうしが一部塊となり,さざなみ様を呈する状態,Stage4は中央部に細胞が集中し実質のmeltingが始まる状態,である1)(図1).治療方針はStage1ではステロイド点眼(1~2時間ごと),Stage2ではステロイド内服(PSL30mg/日),Stage3ではフラップ下の洗浄である.Stage4に達すると視力障害が残る可能性があり,適切な時期にフラップ下洗浄を行いStage4への進行を予防しなければならない.したがって,Stage2の(59)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載?監修=木下茂大橋裕一坪田一男79.屈折矯正術-LASIK術後管理の注意点-戸田郁子南青山アイクリニックLASIKは術後回復も早く重篤な術後合併症もないため,術後管理は比較的容易である.術後1カ月以内は,di?uselamellarkeratitis(DLK),フラップ偏位,epithelialingrowth,ドライアイ,夜間のみにくさなどの可能性があるが,いずれも適切な管理により改善することがほとんどである.長期における屈折の戻りは再手術にて対応する.図1Di?uselamellarkeratitis(DLK)のStage分類Stage1:フラップ辺縁部の細胞浸潤,Stage2:フラップ下全体のびまん性細胞浸潤,Stage3:細胞が一部かたまって「さざなみ様」を呈した状態,Stage4:細胞が中央に集結し,フラップのmeltingが始まった状態.Stage1Stage2Stage3Stage4図2ガタースコアフルオレセイン点眼の後フラップ縁の染まる範囲をGrade1~3で判定する.Grade0:染まらない.1:1/2以下の染色.2:1/2以上の染色.3:全周の染色.Grade0Grade1Grade3Grade2———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006DLKをみたら1~2日ごとに診察する必要がある.2.フラップ偏位フラップ周辺部上皮化は約24時間で完成するが,1カ月くらいまでの間は,ぶつけたり強くこすったりしないよう指導する.万が一フラップ偏位が起こった際は,視力や屈折に影響する場合は整復を行う.周辺部の軽度の皺などは放置してもよい.3.Epithelialingrowthフラップ周辺部の上皮がフラップ下に迷入する状態で,術後1週間までの間に発症することが多い.軽度のものは,そのままかソフトコンタクトレンズ装用によって数週間でフラップエッジの上皮化が起こり,自然消滅するため経過観察してよい.フラップエッジの創傷治癒が悪い場合は,フルオレセインで染色すると染まり(ガター),その部位から上皮が侵入していることがわかる(図2).異物感の強い場合,進入速度と範囲が広い場合,ガターの範囲が広い場合,などはフラップ下を洗浄し迷入上皮を除去する.4.ドライアイLASIK術後は涙液分泌や涙液安定性が低下し,患者はドライアイ症状をうったえる2).症状にあわせて人工涙液の点眼や涙点プラグなどを施行する.術後ドライアイは平均1カ月くらいで改善するが,重症の場合は数カ月続いたり,ときに視力や屈折に影響する場合があり,意外に術後の不満の原因となるため適切な管理が大切である.5.夜間の見え方LASIK術後は高次収差が増加し,特に夜間において光のにじみやコントラストの低下などの視力の質の低下が起こる.ほとんどの場合は時間とともに改善するが,矯正度数が大きい場合は残ることもある.対策はあまりないが,半年以上経っても改善しない場合,縮瞳薬や過矯正眼鏡が効果的な場合もある.●長期管理術後1カ月経てば生活制限はなくなり,水泳やダイビングを含めたすべてのスポーツが可能である.その後の合併症発生はきわめてまれである.1.屈折変化LASIK後は約1割の患者では,屈折の戻りや進行による裸眼視力低下が起こる.角膜厚に余裕がある場合は,術後3カ月以上経って屈折が安定していれば再手術で対応する.2.ケラトエクタジアLASIK術後の角膜の一部が進行性に突出する状態で,いわゆる医原性円錐角膜である.術後の残余全角膜厚400?m,フラップベッド250?m以上を維持することがケラトエクタジアの防止とされているが,この基準でも発症した例が報告されている3).また,術前に潜在的な円錐角膜であるとケラトエクタジア発症のリスクが高まる.したがって,角膜形状解析を用いた術前のスクリーニングは大切である.発症後の対応は円錐角膜に準じ,まずは眼鏡やコンタクトレンズ矯正を試みる.角膜の変形が強い場合は,角膜内リング(ICRS)や深層角膜移植術などの適応になる.文献1)LinebargerEJ,HardtenDR,LindstromRL:Di?uselamel-larkeratitis:diagnosisandmanagement.???????????????????????26:1072-1077,20002)TodaI,Asano-KatoN,Hori-KomaiYetal:Dryeyefol-lowinglaserinsitukeratomileusis.????????????????132:1-7,20013)RandlemanJB,RussellB,WardMAetal:RiskfactorsandprognosisforcornealectasiaafterLASIK.??????????????110:267-275,2003(60)☆☆☆

眼内レンズ:Infusion Misdirection Syndrome( IMS)対策

2006年12月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLSInfusionmisdirectionsyndrome(IMS)1)は,特に高齢者でZinn小帯が脆弱でかつWieger?帯2,3)が外れている場合に,水晶体乳化吸引(PEA)や吸引灌流(I/A)中に発症し4),わが国では吉冨らによりI/A時?拡張不全症候群とよばれていた.これは上記の理由から,術中灌流液が脆弱Zinn小帯を容易に通過して,後房,とりわけBerger腔に回り,後?を前?の位置まで押し上げることにより生ずる.このとき,もしサージが生じたら,後?は一時的にさらに上昇し,PEAや粗暴なI/A操作により後?は容易に破損する.これらを防ぐためには,Cole核操作具やM-フック5)などをサイドポートから前房に挿入し,後?を強制的に通常の位置まで押し下げてPEAやI/Aを続行すればよい.あるいは,PEAの最終段階で,小さい核片のみが残っている場合には,破?前に核片をvisco-extractionしてもよい.いずれにしても後?破損を防ぐ最良の方法はPEA後半(前半は核片が後?を押し下げているので認識できない)やI/Aの際に,後?の挙動をよく見きわめ,もし後?がサージとは別に上昇してくるようであれば,IMSか,灌流液不足,創口よりのリークが多いなどの異常にいち早く“気づく”ことである.(57)三好輝行*1吉田博則*2*1医療法人節和会三好眼科*2高知大学医学部眼科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎244.InfusionMisdirectionSyndrome(IMS)対策Infusionmisdirectionsyndromeは,特に高齢者でZinn小帯が脆弱でかつWieger?帯が外れている場合に,水晶体乳化吸引(PEA)や吸引灌流(I/A)中に発症する.不意に生じる後?破損を避けるには,Cole核操作具やM-フックで後?を強制的に押し下げながら手術操作を続行するか,後?が破損する前に残りの核片をvisco-extractionすればよい.図1IMSの発生機序Zinn小帯が弱く,かつWieger?帯が一部でも外れている(部分前部硝子体?離の生じている)症例では,灌流液は密でないZinn小帯の間隙を速やかに通過して後房(Berger腔)に回る.核片が大きい間は後?の上昇を核片自体がブロックしているが,核片が小さくなると後?は上昇し,この時点でサージが起こると容易に破?する.それを防ぐために,M-フックやCole核操作具で後?を強制的に押し下げることが必要となる.図2IMSによる後?破損の防ぎ方PEA後半,Cole核操作具で後?を押し下げて核乳化吸引を安全に行えるスペースを確保する.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006(00)付記するまでもないが,脆弱Zin小帯を予想できる要因としては,高齢者,強度近視,ぶどう膜炎,緑内障,浅前房,レーザー虹彩切開術施行,小瞳孔,偽落屑症候群,網膜色素変性症,鈍的外傷歴,アトピー性白内障,膨化白内障,過熟白内障,網膜硝子体・緑内障などの内眼手術術後,Marfan症候群,Marchesani症候群,ホモシスチン尿症などがある.なお,きわめてまれではあるが,後?,虹彩ともいっそう上昇して前房がさらにできにくく,あるいはまったくできない状態を招来した場合には当然のことながら激しい疼痛,acutechoroidale?usionや駆逐性出血前駆状態などの“緊急事態”(これらの合併症は,高齢者,高血圧症または術中血圧上昇,糖尿病,緑内障の患者に生じやすい)を考えるべきである.文献1)MackoolRJ,SirotaM:Infusionmisdirectionsyndrome.???????????????????????19:671-672,19932)HammingNA,AppleD:Anatomyandembryologyoftheeye.PrinciplesandPracticeofOphthalmology(edbyPey-manGA,SandersDRetal),p3-68,Saunders,PA,19803)猪俣孟,吉冨文昭,沖坂重邦:ベルガー腔とウイガー?帯.臨眼54:1034-1035,20004)三好輝行,吉田博則:Wieger?帯の術中観察.あたらしい眼科23:889-890,20065)南宣慶:M-フックの多角的機能性とその使い方(M-Cutテクニック).あたらしい眼科13:1129-1132,1996図4Visco-extraction核片が小さく残り少なくなった時点でIMSの発症に気づいた場合は,破?が生ずる前に残りの核片をvisco-extractionしてもよい.図3I/A時の後?保護I/Aの際も同様にM-フックなどで後?の上昇を防護しながら操作を続行する.

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ装用者における緑内障の症例

2006年12月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS●近視眼には緑内障が発症しやすいコンタクトレンズ(CL)装用者や装用希望者の診察を行う際に,緑内障をみつけることが多い.緑内障の多治見スタディや他の報告から,筆者は「40歳以上の人で約5%が緑内障になる」と患者に説明している.ワタナベ眼科(当院)の調査(2003年)1)でも,CL装用者の0.2%に視野異常を伴う「緑内障」が認められた.また,緑内障の疑いのある高眼圧症が1.8%,視神経乳頭陥凹拡大が1.0%みられた.当院はオフィス街の中にあり,患者は男女とも20~35歳が多い.CL装用者の年齢分布と緑内障関係の疾患をもつ患者の年齢分布を図1,2に示すが,40歳以下でも多いことがわかる.2006年8月の当院のデータでは,2万人のCL装用者の約800人(約4%)を緑内障および緑内障疑いで経過観察をしている.もともと,近視眼に高眼圧が多いという話がある.第16回日本緑内障学会のランチョンセミナー「緑内障ベースで近視を見る!」2)に興味あるデータがでていた.いくつかの論文を検討したところ,近視眼には緑内障が合併しやすく,正視眼の1.48~3.3倍もあるとしている.また,近視の程度が強くなるほど眼圧が高い傾向があり,眼圧に対する抵抗力が弱い可能性があるとしている.すなわち,CL装用者は,特に緑内障の検査が必須であるということになる.●緑内障を発見するボランティア精神をもつこと2006年4月に医療費改定でCL診察の包括化が行われた.厚生労働省は,CL装用者は若年者が多いため,精密眼圧検査や眼底検査は必要がないと判断していると想像できる.もし,緑内障の発見が遅れたら,厚生労働省は責任をとってくれるのであればよいが,結局は,診察した医師の責任か,症状を言わなかった患者本人の自己責任になる.したがって,眼科専門医は,自分の責任を果たすために,ボランティアで検査を行うことが強いられる.緑内障の検査は,眼圧検査と眼底検査(視神経乳頭陥凹)が主であるが,前房の深さや隅角のチェックも忘れてはいけない.非接触式眼圧検査以外は,非眼科医では行えない検査である.これまで,リテイラー(商売人や非眼科医が経営)の診療所では,行ってもいない検査を保険請求し続けてきたことが,今回の医療費改定につながったと考えられている.●視神経乳頭の観察早期の正常眼圧緑内障の発見率が増えている印象がある.筆者は,CL装用者を眼科専門医が眼底精査することが励行されていることが発見率を増加させた一因と推(55)渡邉潔ワタナベ眼科コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純TOPICS&FITTINGTECHNICS270.コンタクトレンズ装用者における緑内障の症例図2緑内障の疾患をもつ患者の年齢分布10~1415~1920~2425~2930~3435~3940~4445~4950~5455~5960~6465~6970~年齢(歳)050100150200250300患者数(人):緑内障:高眼圧症:視神経乳頭陥凹拡大02,0004,0006,0008,00010,00012,00014,00016,00010~1415~1920~2425~2930~3435~3940~4445~4950~5455~5960~6465~6970~年齢(歳)患者数(人)図1CL装用者の年齢分布———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006(00)測している.リテイラーや通信販売でCLを購入していたCL装用者が,調子が悪くなった場合,眼科専門医を受診することが常識となってきたからであろう.多くの患者は,リテイラーには眼科専門医はいないことを知っているが,「少々診察代金が高くても,空いていて,CL代金が安いリテイラーで購入していた」,そして,「眼に異常を感じたら,眼科医のいる眼科に行く」という.毎回,無散瞳であっても眼底検査で視神経乳頭を観察することは必須であると考える.視神経乳頭の変化があった場合,一般の眼科診療所では視神経の画像解析などできないが,眼底写真を示して患者に説明すれば患者は緑内障について関心をもってくれる.近視眼の乳頭の形態にはいろいろある.形態分類では,①円形,②楕円形,傾斜の分類では,①非傾斜,②傾斜に分類できる.図3は,楕円の傾斜の例である.乳頭の傾斜を示す血管起始部の偏位がある.ほとんどが鼻側にずれていることが多い.耳側にコーヌスを認めるが,乳頭とコーヌスを含めると,真円形になることが多いといわれており,研修医などは見誤ることがある.●緑内障治療薬と角膜障害緑内障の薬物療法が長期にわたることや多剤を併用するため,角膜上皮障害をひき起こしやすい.CL装用で上皮障害が生じた場合,その治癒を遅らせることもある.また,緑内障治療薬のなかには,角膜上皮細胞に毒性のある塩化ベンザルコニウムが高濃度含まれているものもある.●緑内障治療薬による角膜上皮障害の診察方法ソフトCL装用者でも,CLをはずしてフルオレセイン染色を行い,上皮障害の有無をみる.薬剤毒性の上皮障害のパターンは「びまん性の点状表層角膜症」が最も多い.また,染色して1分以上経過してみると,マスクメロン様上皮障害やバスクリン角膜症など上皮のバリアーの破壊を意味する所見をみることがある.また,保険請求のルール上では,CL装用者の緑内障検査には,接触式の眼圧計(アプラネーション)を使用することになっているが,接触式は角膜上皮をかなりの頻度で傷めるので,通常は非接触式を用いるべきである.文献1)渡邉潔,大原博美,日下佳苗:コンタクトレンズ装用者の定期的診察の重要性第1報─屈折以上以外の眼疾患の有病率─.日コレ誌46:80-83,20042)吉川啓司,松本俊,坪井俊一ほか:緑内障3分診療を科学する!─近視を「見る!」─.眼科48:357-372,2006図3近視眼の視神経乳頭陥凹拡大─楕円の傾斜の例

写真:両眼の眼瞼ならびに球結膜に多発した結膜乳頭腫

2006年12月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS(53)若山美紀千葉大学大学院医学研究院眼科学写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦271.両眼の眼瞼ならびに球結膜に多発した結膜乳頭腫①②③④図2図1のシェーマ①:円蓋部から眼瞼結膜にかけて発生した結膜乳頭腫.②:眼瞼結膜に発生した結膜乳頭腫.③:球結膜に発生した結膜乳頭腫.④:円蓋部結膜に発生した結膜乳頭腫.図1右下眼瞼ならびに球結膜に生じた結膜乳頭腫眼瞼結膜に血管に富んだ桑実状腫瘤,球結膜ならびに眼瞼結膜に花弁状腫瘤を計4個認めた.病理組織学的検査にて結膜乳頭腫と診断した.免疫学的検査を施行したが,HPV(ヒトパピローマウイルス)は検出されなかった.図3左上眼瞼結膜に生じた結膜乳頭腫図1と同患者の左上眼瞼である.花弁状腫瘤が多発しているのがわかる.図4左眼球結膜に生じた結膜乳頭腫図1と同患者の左眼球結膜である.円蓋部から連続したカリフラワー状腫瘤が球結膜にも広く分布している.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006(00)乳頭腫は,重層扁平上皮が乳頭状に増殖した良性腫瘍で,皮膚・口腔内・喉頭・外陰部粘膜などに発生する.その原因は,感染性・非感染性に分けられ,感染性のものは若年者に多く,両眼多発性・有茎性・再発性で,眼瞼縁や結膜円蓋部に好発する.非感染性のものは高齢者に多く,片眼単発性・無茎性で,角膜輪部や球結膜に好発し,悪性化のおそれがある.特に高齢者にみられる輪部病変や急速に進行増大する病変は,異形成・上皮内癌・扁平上皮癌などを考慮しなければならない.感染性乳頭腫の原因にヒトパピローマウイルス(humanpapillomavirus:HPV)の関与があげられ,皮膚の疣贅,生殖器における尖圭コンジローマ,子宮頸癌などの発生に関与していることが明らかとなっている.HPVはパポバウイルス科に属し,二本鎖DNAをもつ,直径約55nm,正20面体の球状ウイルスで,宿主特異性が強く,ヒトの上皮系組織でのみ増殖し,上皮細胞の異型性に関連があるとされている1,2).DNAの塩基配列の相同性により,現在では約80型に分類され,それぞれの型による病変の特徴や臓器親和性が解明されつつある.結膜乳頭腫では,尖圭コンジロームや喉頭乳頭腫と関連の深いHPV6・11型が多く検出され,結膜の上皮内異形成・上皮内癌・扁平上皮癌などの悪性疾患では,HPV16・18型が多く検出される1).また,病理組織像上,増殖上皮の表層にみられるkoilocytosis(上皮細胞の核の濃染と細胞質の空胞化)は,ウイルス感染を示唆する所見といわれている.HPVの感染経路について,小児では,尖圭コンジローマをもつ母体からの産道感染が報告されている3).成人では,手指などからの直接感染として,結膜乳頭腫に性感染症である尖圭コンジローマを合併した症例や,兄弟間での感染と考えられる報告がある4).また,産道感染後に再活性化が起こり発症する可能性などが考えられている.治療としては,切除が基本であるが,再発が多い.病巣の単純切除術と冷凍凝固術やマイトマイシンC処理の併用が有効であるが,インターフェロンa-2bの投与5),マイトマイシンCや5-FU(フルオロウラシル)の局所投与の有効性も報告されている.また,シメチジン(タガメット?)の内服が有効であった報告もある6).文献1)ShieldsCL,ShieldsJA:Tumorsoftheconjunctivaandcornea.???????????????49:3-24,20042)伊藤由香,小幡博人,水流忠彦:Insituhybridization法を用いてヒトパピローマウイルスを検出した結膜乳頭腫の再発例.臨眼57:29-32,20033)NaghashfarZ,McDonnellPJ,McDonnellJMetal:Genitaltractpapillomavirustype6inrecurrentconjunctivalpap-illoma.???????????????104:1814-1815,19864)WilsonFM,OstlerHB:Conjunctivalpapillomasinsib-lings.???????????????77:103-107,19745)SchechterBA,RandWJ,VelazquezGEetal:Treatmentofconjunctivalpapillomatawithtopicalinterferonalfa-2b.???????????????134:268-270,20026)ShieldsCL,LallyMR,SinghADetal:Oralcimetidine(Tagamet)forrecalcitrant,di?useconjunctivalpapilloma-tosis.???????????????128:362-364,1999

疾患感受性遺伝子同定のアプローチと今後の展望

2006年12月31日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSにする.本稿では,疾患に関連する遺伝子の多様性および遺伝子同定の戦略について,最新の情報を交えて概説したい.Iゲノムと遺伝子「ゲノム」とは「ある生物をその生物足らしめるのに必須な遺伝情報」,すなわちその生物の遺伝情報の総体のことであり,ゲノムには生命現象のプログラムが書き込まれている.ヒトでは22種類の常染色体とX,Yの2種類の性染色体に遺伝情報が蓄えられ,この遺伝情報を担っているのが「DNA」である.DNAは4つの塩基,アデニン(A),チミン(T),グアニン(G),シトシン(C)で構成され,4塩基の並び(配列)が遺伝情報を決定している.ヒトに限らずすべての生物の遺伝情報は,この4種類の塩基のみから構成されているが,その並び方(配列)の違いにより異なった生物となっている.DNAのなかでヒトの体の構成要素である蛋白質をコードしている領域が「遺伝子」であり,A,T,G,Cの4塩基が3個1組の順列で1つのアミノ酸を規定し,その連続である蛋白質の種類を特定する.ヒトゲノムは約30億個の塩基対から成るが,蛋白質をコードしている領域(遺伝子)はそのうちのわずか2%程度にすぎず,大半は非遺伝子領域である.ヒトの遺伝子数はこれまで予想されていた数よりも大幅に少ない23,000個程度と推定され,フグ(約22,000個)や線虫(約20,000個)と同程度である(表1).他の生物よりも高度かつ多様な生はじめにワトソン(Watson)とクリック(Crick)によるDNAの二重らせん構造の発見から半世紀となる2003年,ヒトの全ゲノムの塩基配列の解読完了が発表された.これは全ゲノムの99%の配列を99.999%以上の精度で解読したとされている1).この遺伝情報の解明が21世紀のバイオテクノロジーや医学の発展に寄与するところは多大である.現在のところ,ヒトの遺伝子の数は当初予測されていた100,000に比べはるかに少ない23,000程度と推定されている.この23,000個の遺伝子により10万種類を超える蛋白質が合成され,ヒトのさまざまな生体組織が形成されている.脳,心臓,肝臓などの諸臓器もおのおのの遺伝情報から作り上げられ,精密な機能が備えられている.すなわち,23,000個の遺伝子から人体を構成する60兆個の細胞が寸分違わず再現されるのである.しかし,われわれの姿形や体質が千差万別であるように,「生命の設計図」である遺伝情報には個人差(多型)が存在する.そしてこの遺伝子の多型が多くの疾患の発症に関与していると考えられ,多型と疾患の関連を解明することがポストゲノム時代のこれからの医学,科学の重要課題となっている.ヒトゲノム解読に加え,近年の遺伝子解析技術の飛躍的な進歩により,疾患の原因蛋白質の同定や発症機序の解明が遺伝子レベルで急速に進展してきている.このような遺伝学的知見は疾患の理解のみならず,疾患のより的確な診断や治療といった臨床医学の新たな一歩を可能(45)????*AkiraMeguro&NobuhisaMizuki:横浜市立大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕目黒明:〒236-0004横浜市金沢区福浦3-9横浜市立大学医学部眼科学教室特集●組織適合抗原(HLA)のすべてあたらしい眼科23(12):1559~1566,2006疾患感受性遺伝子同定のアプローチと今後の展望????????????????????????????????????????????-?????????????????????????????????????????目黒明*水木信久*———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006命活動を営むヒトの遺伝子数が予想外に少ないのは驚きであるが,このことは遺伝子の数が必ずしも生物の多様性や知性を決定しているのではないということを示唆する.ヒトが多様性に富む生物である理由は,1つの遺伝子から合成される転写産物(mRNA)およびその翻訳産物(蛋白質)の多様性に因るものと考えられる.II疾患と遺伝子多くの疾患は遺伝学的見地から,非遺伝性疾患,単一遺伝子疾患,多因子性遺伝子疾患(多因子疾患)の3つに大別される.非遺伝性疾患では,環境因子のみが疾患の発症要因となる.一般に外傷や中毒性疾患などが代表的な疾患である.遺伝性疾患である単一遺伝子疾患は特定の1つの遺伝子に突然変異が生じることで発症する.遺伝因子により発症が規定されるこの疾患は種類が多いものの,有病率の低いまれな疾患である.古くは鎌状赤血球症,フェニルケトン尿症あるいはHuntington病などが有名である.一方,多因子疾患は複数の環境因子と遺伝因子の相互作用により発症する有病率の高い疾患で複雑な病態を示す.遺伝因子の多数は多型遺伝子からなると考えられている.糖尿病,高血圧,肥満といった日常的にありふれた疾患(commondisease)が多因子疾患の代表的な例である.単一遺伝子疾患では特定の遺伝因子(原因遺伝子)が発症の必要条件であるのに対し,多因子疾患においては特定の遺伝因子は疾患発症の必要条件でもなければ,十分条件でもない.多因子疾患では遺伝因子の保有は疾患に対する「かかりやすさ(感受性)」を規定しており,複数の遺伝因子(疾患感受性遺伝子)の関与のもとに,環境因子が合わさって発症に至ると考えられている.インターネット上のOMIM(OnlineMendelianInheritanceinMan)からの統計結果では,2型糖尿病は17遺伝子,高血圧は16遺伝子,肥満は18遺伝子との関連が指摘されている(表2).多様な精神機能の障害がみられる統合失調症では最も多くの21遺伝子が関連遺伝子として同定されている.また,自己免疫疾患と考えられる疾患においても,免疫応答の惹起に疾患感受性遺伝子が関与していると推測されており,これまでにいくつかの疾患において感受性遺伝子が同定(46)表1各種生物の推定遺伝子数生物遺伝子数哺乳類ヒト23,000チンパンジー20,000~25,000アカゲザル22,000イヌ18,000~20,000マウス24,000ラット22,000~23,000ウサギ15,000鳥類ニワトリ18,000両生類ニシツメガエル18,000魚類フグ22,000メダカ21,000昆虫類ショウジョウバエ14,000ガンビエハマダラカ13,000~14,000線虫線虫20,000菌類分裂酵母5,000出芽酵母6,000~7,000植物シロイヌナズナ27,000イネ34,000インターネット上のNCBI,Ensemblのデータベースを参考にした(2006年10月現在).遺伝子数は推定のため,後に修正される場合がある.表2各疾患に関連のある遺伝子の数疾患遺伝子数関節リウマチ7肺癌9Parkinson病10全身性エリテマトーデス11乳癌12喘息12Alzheimer病13大腸癌・直腸癌14高血圧162型糖尿病17肥満18前立腺癌19統合失調症21インターネット上のOMIMのデータベースから検索した(2006年10月現在).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????されてきている.III疾患感受性遺伝子同定の戦略ヒトの生命活動は遺伝子にプログラミングされたとおりに適材適所に適量の蛋白質を合成することで,健常に営まれる.しかしながら,ヒトの遺伝子には多くの変異や多型が存在し,合成される蛋白質の量や質に個人差が生じる.この個人差の異常こそが多因子疾患発症の主因であると推測されている.このような遺伝因子の解明に飛躍的な進歩をもたらしたのは,1980年半ばのPCR(polymerasechainreaction)技術の発見である2).このPCR技術の進歩は,遺伝性疾患のなかでも特に単一遺伝子疾患の原因遺伝子の同定に対して大きな力を発揮した.そして現在,ヒトゲノムの完全解読により数多くの遺伝子多型が判明し,従来は困難であった遺伝学的アプローチによる多因子疾患の疾患感受性遺伝子の同定の研究が急速に進められている.多因子疾患の感受性遺伝子同定の戦略としては大きく分けて,①疾患でみられる機能異常などから候補となりうる遺伝子や遺伝子領域をあらかじめ選択して解析を行う「候補遺伝子アプローチ」と②全遺伝子を網羅するように全染色体の解析を行う「ゲノムワイドアプローチ(全ゲノム網羅的解析)」の2つがある.候補を絞り込み同定を試みる「候補遺伝子アプローチ」は,「ゲノムワイドアプローチ」に比べ,はるかに効率的に感じられるが,多因子疾患の分子病理の複雑さゆえに疾患感受性遺伝子がまったく予想もしない遺伝子であったりするため,「候補遺伝子アプローチ」では的外れの候補遺伝子解析になってしまう場合も少なくない.一方,全染色体を対象とした「ゲノムワイドアプローチ」は網羅的に疾患感受性遺伝子のマッピングを行うため,われわれの予測を超えた遺伝子の同定も可能であり,多因子疾患の遺伝学的解析の主流になりつつある.疾患感受性遺伝子をゲノムワイドに絞り込む手法の一つとしては,罹患した兄弟姉妹(同胞対)を含む小家系を多数用いた罹患同胞対解析(a?ectedsib-pairanaly-sis)がある.遺伝マーカーとしてマイクロサテライト(MS:ゲノム上に散在する数塩基単位の反復配列)が頻繁に用いられ,疾患とともに家系内で遺伝する遺伝因子を探索する.この解析法の利点は,前述したようにゲノム全域にわたって疾患感受性遺伝子を同定できる点である.しかしながら,検出力が低いという欠点があり,遺伝子寄与(相対危険率)の低い疾患感受性遺伝子を見いだすことができない可能性がある.検出力を高めるには,多くの同胞対を必要とするが,罹患同胞対を含む家系を多数集めるのは非常に困難である.このようななかで現在最も有力であると考えられるゲノムワイドな解析法は,患者群(case)と健常群(control)を比較し,患者群に偏った遺伝因子を統計学的に検索する相関解析(case-controlstudy)であると考えられている.相関解析自体は何ら目新しい手法ではないが,最も検出力が高く,患者と健常者がともに数百人ずつ集まれば,遺伝子寄与の低い疾患感受性遺伝子も同定することが可能である.相関解析では遺伝マーカーとしておもにSNP(sin-glenucleotidepolymorphism:1塩基多型)を用いる方法とMSを用いる方法がある.IV疾患遺伝子へのアプローチ近年の遺伝子解析技術のめざましい進歩に加え,ヒトゲノムの全解読によってSNPやMS多型の大半が判明した今日,「ゲノムワイドアプローチ」による多因子疾患の疾患感受性遺伝子を同定する試みが行われてきている.筆者らもこれまでに多くの多因子性眼疾患の疾患感受性遺伝子の検索をゲノムワイドに行ってきた.以下に筆者らが実際に行っているMSマーカーを利用した方法とSNPマーカーを利用した方法による多因子疾患のゲノム解析について実例を交えて概説する.1.マイクロサテライト多型解析マイクロサテライト(MS)とはゲノム上に散在する数塩基単位の反復配列のことで,たとえば,CとAが順列にn回反復する場合は(CA)nのように表記される.一般に遺伝子間やイントロンなどの非コード領域に多く存在し,生理的には意味をもたない配列である.しかしながら,その反復回数に個人差(多型)が多く認められるため,疾患遺伝子マッピングの有用な遺伝マーカーになりうることが示されてきた3).MSは連鎖不平衡(複数の対立遺伝子や多型の組み合わせがランダムではなく(47)———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006相関している現象)の距離が100kb以上にわたって存在している4).したがって,およそ30億塩基対(30Gb=3×109b)からなるヒトゲノムの全染色体上に100kb(1×105b)ごとに1個の密度で計3万個のMSマーカーを設定して相関解析を行えば,100kb前後に疾患遺伝子候補領域が特定(マッピング)できると予想される.筆者らは2000年度から,日本人集団において多型性豊富なMSマーカーの検索を行い,全染色体を網羅する約3万個のMSマーカーの収集・設定を完了している(図1).また,筆者らは各個人のDNA量が均一になるように100~200人程度のDNAを混合したpooledDNAを用いてPCRをする方法(pooledDNAPCR法)を確立しているため,PCRの回数が従来の100~200分の1となり,時間的にも,コスト的にも,労力的にも大幅に効率的な遺伝子マッピングが可能となっている.筆者らはこれまでに本法を用いて強度近視,Beh?et病,正常眼圧緑内障,網膜格子状変性,本態性高血圧などの多因子疾患の疾患感受性遺伝子の解析を遂行してきた.筆者らが現在行っているBeh?et病感受性遺伝子のMSマッピングを紹介する.Beh?et病は全身の諸臓器に急性の炎症をくり返す原因不明の難治性疾患であり,内的遺伝要因に加え,何らかの外的環境要因が作用して発症する多因子疾患と考えられている.本病は人種を超えてHLA-B51抗原と顕著に相関しており,HLA-B*51対立遺伝子(アリル)が本病の疾患感受性遺伝子として有力視されている.しかしながら,患者群のHLA-B51(48)400kb以上のマーカーギャップ?nisheddraftゲノムのphase213456789101112131415X16171819202122Y図1多型マイクロサテライトマーカーの分布各染色体上に設定したMSマーカーを青色の横線で示す.全染色体を網羅するように,約100kbごとに31,924個のMSマーカーを設定した.400kb以上のマーカーギャップがあるところは赤矢印で示した.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????(49)1番染色体2番染色体3番染色体4番染色体5番染色体HLA6番染色体7番染色体8番染色体9番染色体10番染色体11番染色体12番染色体13番染色体14番染色体15番染色体16番染色体17番染色体18番染色体19番染色体20番染色体21番染色体22番染色体X染色体Y染色体図2Beh?et病のMSスクリーニング結果横軸は染色体上のMSマーカーの位置を示す.縦軸は患者群と健常群でのMSのアリル分布の有意差検定の値(p値)を示している.青色の横線がp値0.05を示し,それより下がp値0.05未満である.p値0.05未満の陽性MSマーカーを黄色丸で示した.———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006抗原陽性頻度はどの民族においても60%前後であり,残りの40%前後はHLA-B51抗原以外の他のHLA-B抗原を有している.また,HLA-B51抗原陽性者のうち本病を発症するのはほんのわずかである(浸透率が低い).したがって,本病発症にはHLA-B*51アリル以外の他の遺伝子も関与している可能性が示唆されるために,全ゲノムを網羅するMSマーカー約3万個を用いて,ゲノムワイドに本病の疾患感受性遺伝子のマッピングを行っている.本MSマッピングでは,偽陽性を防ぐために患者群,健常群ともに300人ずつを対象にし,両群ともに100人ずつの3集団(一次~三次pooledDNA)に分けて3段階の解析を行った.独立した3集団のすべてにおいて患者群と健常群の比較で有意差を認めたMSマーカーのみを真の陽性MSマーカーとした.これまでに3段階のpooledDNAスクリーニングが終了し,本病の疾患感受性遺伝子の候補領域を147領域に絞り込んでいる(図2).本病と強い相関が知られているHLA-B遺伝子から36kbテロメア側に位置するMSマーカーが本病と顕著に相関しており,このMSマーカーがHLA-B遺伝子と強い連鎖不平衡にあることがわかる.このことから,残り146個のいずれかのMSマーカーの近傍にも本病の疾患感受性遺伝子が存在することが示唆される.146個のうち,3個はHLA領域に位置し,残りはY染色体を除くすべての染色体に散在していた.これらの近傍領域をSNP解析することによりHLA-B*51アリル以外の本病の疾患感受性遺伝子を同定することが可能と考えている.現在,筆者らは146個の陽性MSマーカーのpooledDNAスクリーニングにおける解析データおよび近傍の遺伝子情報を考慮して11個のMSマーカーを抽出し,おのおの100kb内外のゲノム領域のSNP解析を行っているところである.2.SNP解析SNP(singlenucleotidepolymorphism)とは一塩基多型のことであり,個人間における塩基配列上の単一塩基の違いのことである.ヒトゲノムの大部分では1,000塩基(10kb)に1個の割合でSNPがあり,ゲノム全体で300万~1,000万個存在すると推定されており,最も高頻度に存在する多型である.SNPは疾患感受性遺伝子同定の指標(遺伝マーカー)として広く用いられているが,実際に機能的SNPも多数存在し,SNP自体が疾患の危険因子となる場合がある.蛋白質をコードする遺伝子領域には50万個のSNPが存在すると推測され,これら遺伝子領域にあるSNPは,発現レベルやアミノ酸配列に直接影響し,遺伝子産物の質・量あるいは機能に違いを生じさせ,疾患に対する感受性(かかりやすさ)や薬剤への応答性(効きやすさ)などの個人差をもたらすと考えられている.近年の遺伝子解析技術の大幅な進歩に加え,ゲノムを網羅するデータベースの整備によりSNP情報を詳細に得ることが可能となった.これまでは多量のサンプルと大量の試薬や機器を必要とし,非常に高価であった全ゲノムの網羅的SNP解析は現在は安価で迅速(ハイスループット)に遂行できるようになってきた.代表的なSNP解析法としては,Invader?法,Sniper?法,TaqMan?法,GeneChip?法などがあり,現在でも解析技術の開発競争が行われている.ここでは,筆者らが用いているSNP解析法として,GeneChip?法を紹介する.GeneChip?(A?ymetrix社)とは固相化学合成と半導体製造用の光リソグラフィ技術の応用で作製され,ガラスの基盤上に数十万種類のオリゴヌクレオチドを配置し(50)図3GeneChip?HumanMapping500KArray(原寸大)500KArraySetは2枚のアレイからなる.中央部の1.28cm四方の基板上に25万個のSNPを配置している.2枚のアレイのみで50万個のSNPを一度にジェノタイピングできる.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????た超高密度マイクロアレイである.GeneChip?は当初,全ゲノムを対象とした遺伝子発現の解析に開発されたが,その後飛躍的に進歩し,ハイスループットで高精度なSNP識別ツールとして全ゲノムの網羅的相関解析を可能にしている.GeneChip?は数cm四方のカートリッジ式で,オリゴヌクレオチドをプローブとして担体上にアレイし,ラベルされたサンプルとハイブリダイズさせてSNPを検出する(図3).前述のようにSNPはゲノム全体で300万~1,000万個存在し,それらすべてのSNPを解析することは困難であり,非現実的である.SNPは多型性が少ないために連鎖不平衡の距離が約3~10kbと短く,ゲノムワイドに疾患感受性遺伝子をマッピングするためには,高密度にSNPを設定する必要がある5)が,筆者らが使用しているGeneChip?HumanMapping500KArraySetには全ゲノムにわたり50万個を超えるSNPが平均距離5.8kbごとに超高密度にプロットされてある.さらに,ヒトゲノムの85%が10kb以内に1個のSNPを含んでいることを考慮すると,HumanMapping500KArraySetを用いることでゲノムワイドに高精度のSNP解析を行うことが可能と考えられる.現在筆者らは,HumanMapping500KArraySetを用いて正常眼圧緑内障の全ゲノムの網羅的相関解析を行っている.正常眼圧緑内障の疾患感受性遺伝子の解析はMSとSNPの両方面からゲノムワイドに行っており,解析結果のデータベースを整備することでより良い結果が得られるものと考えている.Vトランスレーショナルリサーチトランスレーショナルサーチとは高度かつ先進的な医療を行うための研究開発のことで,基礎研究で得られた成果を速やかに臨床応用することを目指している.近年,この基礎研究と臨床をつなぐトランスレーショナルリサーチに注目が集まっており,多大な期待が寄せられている.1.遺伝子診断昨今,疾患発症に関与する染色体や遺伝子の変異(または多型)を各個人で検査する遺伝子診断が注目されている.疾患の原因遺伝子や感受性遺伝子の有無の判別により,将来的に特定の疾患を「発症する」か「発症しない」か,または「発症しやすい」か「発症しにくい」かを診断する.生活習慣病を含め多くの疾患は複数の要因の相互作用で発症する多因子疾患であり,疾患感受性遺伝子の保有は発症を規定するものではなく,発症のリスク(かかりやすさ)を規定するものである.そのため遺伝子診断により,①自分が保有している疾患感受性遺伝子の数とその相対危険率を知る,②疾患発症の相乗モデルから,将来自分が疾患を発症する確率を推定する,③疾患の早期発見,早期診断の一助となる,④疾患に対する本人の注意喚起,意識改革をひき起こす,といったことが想定され,その医学的価値は大変高いと考えられる.しかしながら,浸透率の低い疾患感受性遺伝子では陽性の結果が得られても,陰性の人と比較してほんのわずかにその疾患を発症しやすい程度である.大きな混乱を招かないためにも,遺伝子診断の有効性を客観的に評価するシステムを構築する必要がある.また,着床前診断や出生前診断による生命の選別,疾患遺伝子保有者への遺伝子差別などが起こらないように,その利用には十分注意しなくてはならない.2.ゲノム創薬ゲノム創薬とはゲノム研究の成果を利用して新規医薬品の開発を行うことである.解明された疾患感受性遺伝子をもとに発症に関与する蛋白質(標的分子)を同定し,この標的分子を手がかりに医薬品を開発する.標的分子が分泌酵素や蛋白質修飾酵素であった場合,それらの阻害薬が治療薬となりうる.また,標的分子の活性化部位を特異的に不活化する化合物を合成したり,不活化された蛋白質の高次構造を変化させ機能を回復させるような化合物の検索がなされたりしている.レセプターに対するアゴニスト(作用薬)やアンタゴニスト(拮抗薬),シグナル伝達物質の刺激薬や阻害薬,モノクローナル抗体なども治療薬となりうる.ゲノム研究により疾患の原因の標的を絞ることができれば,このようにより有効な副作用の少ない医薬品の提供が可能となる.3.個人化医療個人化医療(personalizedmedicine)は個人のゲノム(51)———————————————————————-Page8????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006情報に基づいた薬剤応答性を予測し,個人に最も適切な薬剤と投与量を選択するものである.従来の医療は疾患が中心であり,疾患名に応じた画一的な治療が行われてきた.個々人の体質は千差万別であり,同一の疾患であっても薬剤に対する応答性や副作用の程度が異なることは以前より知られていたが,そのような薬剤に対する個人差をあらかじめ予測する手立てはなかった.しかしながら,ヒトゲノム完全解読以降の遺伝学的研究の著しい進歩により,従来「体質」とよばれてきた個々人で多様に異なる特性は遺伝子の多様性に起因するものであり,薬剤の治療効果をこの遺伝子の多様性が規定していることがわかってきた.今後,多数の遺伝子の機能や多型の情報が蓄積されれば,多くの疾患において副作用のないより有効な治療法が確立されることが期待される.おわりに以上,疾患感受性遺伝子同定のアプローチと今後の展望について最新の知見を交えながら概説した.今日の遺伝子研究の飛躍的な進展により,疾患に関与する遺伝要因が数多く解明されてきた.しかしながら,遺伝要因と環境要因の相互作用についてはいまだ不明な点が多く,疾患発症のメカニズムの解明には今後のさらなる研究が必要である.文献1)InternationalHumanGenomeSequencingConsortium:Finishingtheeuchromaticsequenceofthehumangenome.??????431:931-945,20042)MullisKB,FaloonaFA:Speci?csynthesisofDNAinvitroviaapolymerase-catalyzedchainreaction.???????????????155:335-350,19873)DibC,FaureS,FizamesCetal:Acomprehensivegenet-icmapofthehumangenomebasedon5,264microsatel-lites.??????380:152-154,19964)KochHG,McClayJ,LohEWetal:AlleleassociationstudieswithSSRandSNPmarkersatknownphysicaldis-tanceswithina1MbregionembracingtheALDH2locusintheJapanese,demonstrateslinkagedisequilibriumextendingupto400kb.?????????????9:2993-2999,20005)WeissKM,TerwilligerJD:HowmanydiseasesdoesittaketomapagenewithSNPs??????????26:151-157,2000(52)