‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

時の人

2007年4月30日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS広島大学大学院医・歯・薬学総合研究科視覚病態学教室の歴史を簡単にひも解くと,昭和23年4月に赤木五郎先生(専門は緑内障)によって開講された.その後,百々次夫先生(網膜・硝子体),調枝寛治先生(網膜・硝子体),三嶋弘先生(緑内障)と引き継がれ,そして平成18年8月に木内良明先生が第5代目教授として就任された.木内先生の専門分野も緑内障であり,広島大学眼科は緑内障と網膜疾患の治療と研究を看板としてきたことになる.*木内良明先生は,昭和58年に広島大学を卒業され,広島大学および関連施設で研修後,緑内障の研究をスタートさせ,三嶋前教授の下で家兎毛様体における細胞内情報伝達系の研究で学位を得られた.その後,平成2年から2年間,米国エール大学で眼圧の日内変動の研究をされた.米国から帰国されたときはちょうどラタノプロスト(キサラタン?)の臨床開発が行われている最中で,臨床にたずさわりながらキサラタン?の房水循環動態や眼圧日内変動に及ぼす影響などを楽しみながら調べられていたという.しかし,平成9年からは三嶋前教授,大阪大学の田野保雄教授のご配慮で大阪大学眼科の関連施設である国立大阪病院で勤務できることになり,そこから臨床三昧の生活が始まったといわれる.国立大阪病院時代には糖尿病網膜症やぶどう膜炎に続発した緑内障の患者さんを診療する機会を多数得られたそうである.また,平成15年8月から国家公務員共済連合会の大手前病院に転勤され,「角膜移植や屈折矯正手術を経験するとともに前眼部疾患に続発した緑内障患者の治療経験を深めることができる幸運にも恵まれた.おかげで網膜疾患も緑内障も角膜前眼部疾患もかなり深い世界を見ることができたと思います.」と話された.木内先生が平成8年に勤務されていた広島赤十字・原爆病院は700床以上あるいわゆる大病院である.それでも眼科医は定員3名で毎日午前中が外来で,火曜日と木曜日の午後から手術を行われていたが,整形外科や,外科の先生方は朝から1日中手術室で働いておられたという.整形外科の先生からにはそんなに良いものではないと言われたが,手術的な治療が好きな木内先生は,「一度でよいから朝から晩まで手術ばっかりしてみたいとあこがれたものです.国立大阪病院,大手前病院では朝から晩まで1日中手術ができました.大手前病院に異動したころから急速に患者さんが増えてシステムが追いつかなかったこともあり,朝の9時から終電車がなくなる時刻まで手術室にいる生活が続きましたが,本当に良いものではありませんでした.おかげで手術技術は上達し,現在の眼科学の限界もみえました.その関係で緑内障の薬物治療,手術治療の発展に興味がありますが,今のところそこまで手が回りません.」と話された.*現在の教室のスタッフは若く,木内先生が赴任されたときは平成7年卒業の先生が医局長で最年長,助教授も講師もいない状態であったという.そこで,すでに医局を離れていた昭和63年卒業の高松倫也先生に,助教授として大学に戻ってもらったとのことである.現在は,広島大学が「21世紀COEプログラム」の拠点として採択された,「超速ハイパーヒューマン技術が開く新世界」の中で見えないものを見えるようにして緑内障の診断に役立てる技術の確立,および放射能影響研究所と共同して行う「被曝線量と緑内障」の研究に時間を割いておられる.そのほか,教室では三嶋前教授が確立されたシステムの中で,神経節細胞保護,網膜疾患におけるプロテオミクス解析などが行われており,その中心として活躍されている.木内先生は,信条,信念などは特にないが,しいて言えば「患者さんのためにできるだけのことをする,逃げない」,ことを心がけておられるという.(49)人の時広島大学大学院医・歯・薬学総合研究科視覚病態学・教授木?内??良??明??先生

眼表面サーモグラフィー

2007年4月30日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSの結果から,炎症性疾患や眼循環障害の評価におけるサーモグラフィーの将来性が期待されたが,その後はドライアイなどの眼表面疾患の病態解析の検討3,4)が散見されるにとどまっている.III通常のサーモグラフィーによる測定経験眼科臨床の現場では,サーモグラフィーはほとんど馴染みがない.この理由として,正確な測定に室内環境が一定に保たれた専用のスペースが必要なため,心電図やX線検査あるいはCT(コンピュータ断層撮影)検査などと同程度のややハードルの高い検査とみなされている点があげられる.しかし,サーモグラフィー装置(NECSanei社製サーモトレーサー:TH1106)(図1)を実際に使用してみると,機器の扱いは簡単で,画質も眼表面の解剖が十分にわかる解像度(図2)を有しており,使Iサーモグラフィーとは?サーモグラフィーとは,物体から放射されている電磁波の一種である赤外線を検知し,それを温度に変換することにより,物体の表面温度を測定できる装置である.近年,機器の改良に伴い医療用としても普及し,末?循環障害の診断などに広く利用されている.撮影は非接触のまま数秒以内に行えるほか,特殊な技術は不要で,人体に有害な副作用もない.測定結果は簡便なカラーマップとして表示されるため理解しやすく,きわめて有用な生理学的検査の一つといえる.II眼科領域でのサーモグラフィー研究表1に示すように,1957年にサーモグラフィー機器が開発され,1970年ごろから本格的に眼科領域で応用されはじめ,1980年代には蒲山ら1)が精力的な研究を行っている.その一部を紹介すると,正常者120眼の検討から角膜中央温度は平均34.6±0.5℃であること,さらに持続開瞼では,角膜中央温度は開瞼開始後40秒で0.5℃下降し,120秒後には約0.7℃下降する一定のパターンをとるという基礎データを示している1).また,冷却負荷試験を用いた検討で,白内障術後の炎症は術後13日目で術前状態に回復することや開放隅角緑内障眼の飲水負荷後(平均5mmHg上昇)は飲水前に比べて温度回復が著しく遅れることなども示している2).これら(41)???*ShiroKawasaki,MasahikoYamaguchi,ShiroMizoue,TakashiSuzuki&YuichiOhashi:愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻高次機能制御部門感覚機能医学講座視機能外科学分野〔別刷請求先〕川﨑史朗:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻高次機能制御部門感覚機能医学講座視機能外科学分野特集●前眼部四次元検査(前眼部キネティックアナリシス)あたらしい眼科24(4):439~446,2007眼表面サーモグラフィー???????????????????????????川?史朗*山口昌彦*溝上志朗*鈴木崇*大橋裕一*表1眼科領域へのサーモグラフィーの応用1957年1960年↓1970年↓1980年↓1990年↓サーモグラフィーが開発される眼科領域への応用が始まるわが国でも眼科応用が始まる1,2)・正常者の研究(角膜中央温度:34.6±0.5℃)・眼疾患の研究(炎症性疾患の温度上昇など)ドライアイなどの眼表面疾患の病態解析の検討3,4)———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007用感は,眼科での検査にたとえれば,角膜トポグラフィーの撮影に近いものである.試しに,持続開瞼のまま,健常者とドライアイ患者の眼表面を連続撮影すると,健常者では開瞼後も表面温度は下がりにくい(図3上)が,ドライアイ患者では開瞼後から徐々に角膜表面が冷却されていく様子がわかる(図3下).これはMorganらの報告3)と一致した所見であり,眼表面疾患,特にドライアイの病態解析に今後応用できる可能性を示唆している.(42)図1一般医療用サーモグラフィー装置(NECSanei社製サーモトレーサー:TH1106)図2一般医療用サーモグラフィー装置で得られた眼部サーモグラフィー15101510図3一般医療用サーモグラフィー装置で撮影した健常者(上)とドライアイ患者(下)の持続開瞼のサーモグラフィー健常者に比べて,ドライアイ患者は時間経過とともに冷却されやすい.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???また,最近,筆者らはトラベクレクトミー術後の濾過胞の機能評価にサーモグラフィーを応用し,興味深い知見を得ている5).たとえば,細隙灯顕微鏡所見上ではほぼ同様の形態を示す無血管性濾過胞を対象に,眼圧コントロール良好例(無治療で13mmHg)と眼圧コントロール不良例(眼圧下降薬を使用して24mmHg)のサーモグラフィー所見を比較したところ,図4(上)に示すように,前者の濾過胞表面温度は周辺結膜に比べて低い,低温エリアとして表示されるのに対し,図4(下)のように,後者の濾過胞表面温度は周辺結膜とほぼ同程度であった.この温度差は,おそらく濾過胞における房水の灌流効率を表していると筆者らは考えている.すなわち,図5のように,毛様体の無色素上皮細胞で産生された房水は,後房から前房へ移動し,前房に留まる間に角膜面より冷却され低下していく.よって,機能良好な濾過胞においては,冷却された房水が結膜下を常に灌流しているため,周辺結膜温度よりも相対的に低温となる勘定である.サーモグラフィーで捉えられた濾過胞の低温エリアは実際の房水灌流域を反映しており,生理学的な意味での濾過胞と考えている.このようにサーモグラフィーは,細隙灯顕微鏡では捉えることのできない生理学的所見をわれわれに提供してくれる有用なツールである.新たな視点からの機能評価法として眼科領域における価値が再評価されるべきであるが,それには,より精度が高く,効率的に測定可能な‘眼科用サーモグラフィー装置’の開発が必要であろう.(43)図4眼圧コントロール良好例(上)と不良例(下)の濾過胞サーモグラフィー良好例の濾過胞は周辺結膜と比べて低温となり,不良例は差がない.図5機能良好な濾過胞眼での房水動態の考察濾過胞には冷却された房水が灌流する.冷却角膜濾過胞外気温体温———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007IVOcularSurfaceThermographer?の開発そこで,愛媛大学は,株式会社トーメーコーポレーションと共同で,眼部に特化した眼表面サーモグラフィー装置(図6)の開発に取り組んでいる.本装置は角膜トポグラフィーの撮影と同じような感覚で使用できるように設計されているため,眼科医にも馴染みやすいと思われる.開発上特記すべき点として,第一に,同じ角度のサーモグラフィーと前眼部写真をほぼ同時に記録できるようになった点があげられる.従来は,サーモグラフィーと前眼部写真を別々に記録し,後にパソコン上で重ね合わせることにより位置情報を得ていたが,回転ミラーを用いて0.25秒ごとにカメラを切り替え,サーモグラフィーと前眼部写真を同軸で記録撮(44)図7可視光観察時(A)と温度観察時(B)のサーモグラフィー装置の光学配置状態(回転ミラー方式)可視光検出器赤外線検出器赤外線検出器赤外線レンズ赤外線レンズ可視光反射ミラー被写体AB被写体可視光反射ミラー可視光レンズ回転図8OcularSurfaceThermographer?で撮影した前眼部写真とサーモグラフィー前眼部写真・サーモグラフィーともに精度の高い画像が同時に撮影され,位置情報のリンクも容易かつ正確である.図6OcularSurfaceThermographer?愛媛大学と(株)トーメーで共同開発中の眼表面サーモグラフィー装置.角膜トポグラフィーを撮る要領で,眼表面サーモグラフィーの撮影ができる.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???(45)影することで(図7),位置情報へのリンクが容易かつ正確となった.光学系も眼球接写の位置で最高の解像度が得られるように設計している.図8は実際にOcularSurfaceThermographerTMで撮影した翼状片症例であるが,前眼部写真・サーモグラフィーともに精度の高い画像を同時に得ることができる.そのほか,計測開始直前に装置内での熱放射の影響を特製のシャッターで自動的に温度補正できるシステムも備えている.持続開瞼負荷試験に対応できるように,時系列に並べたデータをリアルタイムで供覧(図9)・解析(図10上)できるソフトウェアや,サーモグラフィーの3D表示(図10下),角膜部分の平均温度の経時的変化の表示機能も開発中である.VOcularSurfaceThermographer?の実際ここで,現在までに得られている臨床データの一部を紹介し,今後の応用の可能性について解説したい.1.角膜表面温度ドライアイに対する有用性の検討を,健常者およびSj?gren症候群患者を対象に行った5).開瞼直後では両群の眼表面温度に差はみられなかったが,10秒間持続開瞼させると,健常者(図11上)に比較しSj?gren症候群患者(図11下)では,角膜中央の表面温度が有意図9OcularSurfaceThermographer?撮影のモニター画面健常者の持続開瞼での前眼部写真とサーモグラフィーを10秒間連続記録した結果がリアルタイムで表示され,記録される.———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007(46)に低下していた.OcularSurfaceThermographerTMによる測定と記録は簡便であり,今後,スクリーニング検査として期待できるのではないかと思われた.細菌性角膜炎の1例(図12)では,炎症期の感染巣が周辺の角膜に比べてやや高温となり(図12上),持続開瞼しても冷却されにくく,炎症の消退とともに周辺角膜と同様の温度となった(図12下).虹彩炎症例を対象とした過去の報告2)でも,角膜中央は冷却されにくく,正常者と比べて高温を示しており,炎症という観点からは傾向は合致していた.角膜感染症などの炎症性疾患の臨床経過を細隙灯顕微鏡所見だけから判断するには,相当の知識や経験を要するが,サーモグラフィーを使用することで,客観的に炎症の程度を評価できる可能性がある.2.濾過胞表面温度OcularSurfaceThermographerTMによる測定を濾過胞についても試みた.たとえば,同一症例において,眼圧コントロール良好時と眼圧が再上昇して再手術を受ける直前を比較すると,眼圧コントロール良好時の濾過胞の表面温度は開瞼直後から低温であり,持続開瞼にてさらに冷えていくが,再上昇時には開瞼直後は低温ではな図10OcularSurfaceThermographer?で撮影した図9の症例の解析サーモグラフィー上をマウスで指した点での10秒間の経時的温度変化が表示できる(上).サーモグラフィーの3D画像も容易に作製できる(低温が凸で高温が凹と設定)(下).———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???(47)543210109876543210109876図11健常者例(上)とSj?gren症候群患者例(下)の10秒間持続開瞼サーモグラフィー健常者では眼表面の温度低下はほとんどないが,Sj?gren症候群例では約1.1℃低下した.0011223300112233図12細菌性角膜炎症例:炎症期(上)と終息期(下)炎症期には感染巣が周辺の角膜に比べてやや高温となり,持続開瞼しても冷却されにくく,炎症の消退とともに周辺角膜と同様の温度となった.4321043210図13同一症例における眼圧コントロール良好時(上)と再上昇時(下)の持続開瞼による濾過胞表面温度の比較眼圧良好時は濾過胞は低温エリアで,持続開瞼により冷却されやすいが,再上昇時は開瞼直後からは低温とならず,冷却されにくい傾向がみられた.———————————————————————-Page8???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007(48)く,持続開瞼にても冷えにくい傾向がみられた(図13).別の眼圧コントロール良好例の濾過胞のサーモグラフィーを3D表示(図14)でみると,細隙灯顕微鏡所見とは違った形態の濾過胞が見える.このように,時間要素や温度域の概念が加われば,より詳細な濾過胞機能評価ができる可能性がある.おわりにOcularSurfaceThermographerTMを用いれば,簡便に眼表面の温度変化を捉えることができる.今後,多くの症例を積み重ねれば,種々の疾患の病態理解に有用な情報が得られると期待される.文献1)蒲山俊夫:眼科サーモグラフィの研究(第2報).日眼会誌84:375-382,19802)蒲山俊夫,大木孝太郎:眼科サーモグラフィの研究(第3報・その2).日眼会誌86:116-126,19823)MorganPB,TulloAB,EfronN:Infraredthermographyofthetear?lmindryeye.???9:615-618,19954)MoriA,OguchiY,OkusawaYetal:Useofhigh-speed,high-resolutionthermographytoevaluatethetear?lmlayer.???????????????124:729-735,19975)川﨑史朗,溝上志朗,山口昌彦ほか:サーモグラフィーによる濾過胞機能評価.第60回日本臨床眼科学会,20066)山口昌彦,川﨑史朗,溝上志朗ほか:オキュラーサーモグラフィーTMを用いたドライアイにおける経時的な眼表面温度変化の解析.第60回日本臨床眼科学会,2006図14眼圧コントロール良好例の細隙灯顕微鏡所見と濾過胞のサーモグラフィー3D画像

レオロジーモデルを用いた涙液油層伸展挙動のキネティックアナリシス

2007年4月30日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS報を反映するものと確信するに至った.そして,このような経緯のもと,筆者らは,油層伸展挙動の定量的な解析に取り組み,レオロジーモデルの一つがそれに当てはまる可能性を見出した.本稿では,現在,筆者らが取り組んでいるレオロジーモデルを用いた涙液油層の伸展挙動のキネティックアナリシスについて紹介する.I開瞼に伴う涙液層の伸展モデルDR-1?を用いて観察すると,瞬目のたびに涙液油層がくり返し上方へ伸展する様子を観察することができる.しかも,伸展後に静止した油層の干渉像は,個々の連続する瞬目において互いによく似ており,しばらく観察していてもそのパターンはゆっくりとしか変化していかない.Bronらによれば,これは,眼瞼縁に貯留した油脂が涙液油層に反映される過程が非常にゆっくりとしているためではないかとしている1).この開瞼後の油層の伸展挙動(図1)は,閉じられたヒダつきカーテンを広げる様子に似ているため“Pleateddrapee?ect”と形容される1,5).すなわち,閉瞼時,涙液油層はヒダつきカーテンを閉じたときのように上・下の眼瞼縁の間に折りたたまれており(図2),開瞼後は,あたかもそのカーテンが広げられてゆくように,上方に向けて伸展してゆくのではないかと推察されている(図1).ところで,瞬目後に涙液油層の上方伸展が起こるのはなぜであろうか?それをうまく説明するためには,油はじめに涙液油層は,マイボーム腺から分泌される油脂によって構成され,涙液の液層の蒸発を防ぐとともにその安定性を保つ働きをもつ.また,涙液油層は100nm程度の薄膜として振る舞うため,光の干渉原理に基づいて,各種の光学的測光法を用いてその厚みを測定したり,反射光の干渉像を得ることができる1).過去に筆者らは,涙液油層観察装置の一つであるDR-1?(興和)のプロトタイプを用いて,涙液油層の干渉像を観察し,その分類(Grade分類)を提唱するとともに,健常眼とドライアイでGrade分布が異なることやGradeとドライアイの重症度との間に有意な相関があることを報告した2).当時は主として,DR-1?の高倍モード[観察範囲は角膜中央の2.3mm(縦)×3.2mm(横)の矩形領域]を用いて開瞼後の涙液油層の“静止像”について観察していたが,その後,経験を積むにつれて,高倍モードを用いた“静止像”のGradingよりも,低倍モード[観察範囲は角膜中央の7.0mm(縦)×8.0mm(横)の楕円状領域]を用いた瞬目後の油層の伸展挙動の観察のほうが,ドライアイの重症度をよく把握できるという印象をもつようになった.これは,瞬目後の油層の伸展挙動が涙液量の情報を含み,涙液量が少ないと油層の伸展が緩徐になることが経験的にわかりはじめたからである.その後Gotoら3,4)の油層伸展の半定量的解析法が報告されると,筆者らは,涙液油層の伸展挙動が涙液貯留量の情報,ひいては角膜上の液層の厚み情(33)???*NorihikoYokoi&HideakiYamada:京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕横井則彦:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学特集●前眼部四次元検査(前眼部キネティックアナリシス)あたらしい眼科24(4):431~438,2007レオロジーモデルを用いた涙液油層伸展挙動のキネティックアナリシス?????????????????????????????????????????????????????????????????????横井則彦*山田英明*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007層のキャリアである液層の挙動を想定しながら説明せねばならず,なかなかむずかしい問題である.しかし,それを説明しようとする涙液層の伸展モデルがいくつか報告されている6~8).まず,BrownとDervichianは,角膜上の涙液層の伸展挙動を液層と油層に分けて,2ステップで説明するモデルを提唱した7).すなわちこのモデルによれば,開瞼時に上眼瞼が引き上げられると,第1番目のステップとして上方の涙液メニスカスの毛細管効果9)によって涙液の液層が引き上げられ,続く第2番目のステップとして閉瞼時に圧縮されていた油層が液層の上を伸展し,油層は液層を伴いながら伸展するため次第に開瞼時の涙液層の厚みが獲得されてゆくのではないかとされる.ついで,この2ステップモデルの第1番目のステップにあたる液層の挙動に関して,Wongらは,より詳細なモデルすなわち,液層の挙動をハケでペンキを塗るがごとくに説明しようとするコーティングモデルを提唱した8).つまり,このモデルによれば,上眼瞼縁(ハケに相当)における涙液メニスカスの陰圧9)(メニスカスの表面張力に比例し曲率半径Rに反比例する)は,メニスカスの液層が角膜上の液層に移行する領域に圧勾配を生じせしめ,その部に液層を塗りつける原動力になるという(図3).また,この圧勾配は,角膜表面によってもたらされる液層の粘性抵抗(液層の粘度と上眼瞼の開瞼速度(34)図1開瞼後の油層の伸展挙動DR-1?を用いると涙液油層の伸展挙動を観察することができる.図の1~6は,開瞼直後からの油層の伸展を示すデジタルキャプチャー画像.涙液油層がヒダ付きカーテンのごとく広げられてゆく様子がわかる(いわゆるpleateddrapee?ect5)).321654図2閉瞼時の油層断面の仮想図閉瞼時には,涙液油層は,ヒダ付きカーテンが折りたたまれたような状態になっている.(Bron教授のご厚意による図を改変)涙液油層上眼瞼下眼瞼涙液液層———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???に比例)と拮抗するため,涙液の粘性が高かったり開瞼速度が速いと,メニスカスから水を奪って液層の厚みが増すよう作用し,逆にメニスカスの表面張力が高かったりその曲率半径Rが小さいと(涙液減少を意味する)メニスカスに涙液が奪われて涙液層は薄くなるという.一方,BrownとDervichianの2ステップモデル7)の第2ステップにあたる油層の伸展挙動に関して,最近,King-Smithらは,液層の挙動を含めた新しいモデルを提唱した6).このモデルによると,開瞼時には,角膜から液層に対して粘性抵抗が働くために,角膜上の液層の水は上方のメニスカスから引き出され,その際,メニスカスの油層も引き出されて涙液層に加えられる.ところが,それらの涙液層の追加の際に,上方のメニスカスの水は,上眼瞼下に満たされた水によって十分に補われるのに対して,油層は液層のようには十分に補われないために,開瞼が進むに従って,涙液油層は下方に比べて上方で次第に薄くなってゆく.つまり,King-Smithらは開瞼後,角膜表面の涙液油層には厚みの勾配が生じ,その結果,表面張力の勾配(油層が薄いところほど表面張力が高い!)が生まれ,その勾配を消失せしめるべく油層の上方への伸展(再分配)が起こるのではないかと推察している(図4).II油層の伸展挙動―定量解析の黎明先に述べたように,DR-1?によって観察される涙液油層の上方への伸展は,重症の涙液減少においてはきわめて緩徐で,健常眼で俊敏であるのに比べて対照的であり,油層の伸展が眼表面の涙液貯留量に依存していることを想定させる.しかし,このことが客観性をもって解析されるようになったのは最近のことである.すなわち,Gotoら3,4)は,涙液油層の伸展挙動の半定量解析を試み,DR-1?を用いて伸展中の角膜上の涙液油層干渉像を約0.2秒ごとに静止画として取り込み,油層の伸展が終了するまでの時間をlipidspreadtime(LST)と定義してそれを求めた.その結果,健常眼に比べて,涙液減少型ドライアイではLSTが長く,涙点プラグの挿入後は,挿入前に比べLSTが短くなることを見出し4),油層の伸展挙動が貯留涙液量に依存する可能性を示した.一方,角膜上の涙液表面に浮遊する微粒子の動きを定量的に評価した興味深い報告10)もある.おそらく,この微粒子は油層表面に付着しており,その動きは油層の挙動を反映したものと推察されるが,この報告では0.04秒ごとの微粒子の移動量を記録し,微粒子の移動速度の時間変化を解析して,その対数近似式から求めた微粒子(35)図3液層の塗りつけモデル8)上方の涙液メニスカスの陰圧は,メニスカスの液層が角膜上の液層に移行する領域(◇)に圧勾配を生じせしめ,この力は,角膜表面によってもたらされる液層の粘性抵抗と拮抗しながら,角膜表面に液層を塗りつけてゆく原動力となる(文献6より引用改変).Rは涙液メニスカスの曲率半径.上眼瞼粘性抵抗圧勾配涙液メニスカス液層が塗りつけられる領域R図4開瞼後の油層の伸展挙動モデルa:開瞼直後,b:開瞼後,油層の伸展が終了した状態(King-Smithら6)による).開瞼直後,涙液油層には厚みの勾配が生じており,その結果,表面張力の勾配が生まれて,その勾配を消失せしめるべく油層の上方への伸展が生じる.(文献6より引用改変)涙液油層ab———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007の移動初速度(initialvelocity:IV)と微粒子の移動が止まるまでの時間(stabilizationtime:ST)について検討している.その結果,Gotoら4)の報告と同様,涙点プラグ挿入後では,健常眼と同じレベルまで,IVとSTが回復することを明らかにした.IIIレオロジーとVoigtモデルレオロジー(rheology)11)とは,物質の変形と流動を取り扱う学問分野であり,日本語に直訳すれば流動学であるが,現在では,レオロジーのままカタカナで使用するのが一般的である.この分野では一般に粘弾性体の挙動が取り上げられる.たとえばある粘弾性体に圧力(応力)を加えると,その粘弾性体は変形し平衡状態から離れた状態となる.しかし,圧力を解除すると,粘弾性体は再び平衡状態に戻ろうとする.そして,この粘弾性体が平衡状態へと復元しようとする物性挙動は,レオロジーにおいて,その最も単純なモデルである,Maxwellモデル,Voigtモデルあるいはそれらの組み合わせで表現しうる.また,これらのモデルは,粘弾性体の物性物理学の歴史において“時間”の要素が入った初めてのモデルといわれる.ここにVoigtモデルとは,バネ(弾性要素)とダッシュポット(粘性要素)を並列に組み合わせた力学モデルであり,バネはフック(Hooke)の法則に従い,力(s)は伸び(g)に比例する(s=k×g,k:バネ係数).ダッシュポットとは,先端を閉じたシリンジを引く際に生じる抵抗と同様のもので,ダッシュポットには速度(dg/dt)に比例した抵抗(s)を生じる(s=h×dg/dt,h:粘性係数).一般に,Voigtモデルは,g=g0(1-e-t/l)(g:伸び,g0:平衡状態での伸び,t:時間,l:遅延時間)で表され(図5),この挙動は,スポンジやクッションなどに指で作ったへこみが,指を離すと徐々に元に戻る様子(レオロジーでクリープ挙動とよぶ)をイメージするとわかりやすい.筆者らは,閉瞼時に圧縮され,開瞼後に元に戻る涙液油層の伸展挙動が,この粘弾性体の物性挙動モデルの一つであるVoigtモデルにあてはめられるのではないかと考えた.VI油層の伸展挙動がVoigtモデルにあてはまるとする理論的背景ある粘弾性体を引き伸ばして,その表面積を増やすにはエネルギーが必要であり,必要とされるエネルギーΔEは,ΔE=g×ΔA(g:表面張力,ΔA:増加させる表面積)で与えられる.つまり,増加させようとする表面積に比例したエネルギーが必要となる.ここで,涙液油層が液層の上を伸展しΔAだけ表面積が増加したとすると,増加するエネルギー(=油層の表面積をΔAだけ広げるのに必要なエネルギー)ΔEは,ΔE=goilΔA+goil/aqueousΔA-gaqueousΔA=(goil+goil/aqueous-gtear)ΔA(goil:油層の表面張力,goil/tear:油層と液層の界面張力,gtear:液層の表面張力)で与えられる.すなわち,油層の表面積の増加はバネ(弾性)で表現されうる(バネ係数×表面積の増加).しかし,油層の伸展に伴って,油層の内部には流動が起こるため,粘性(粘性係数×速度:ダッシュポットで表される)が生じ,この粘性が油層の容易な伸展に絶えず抑制をかけて,クリープの伸びが絶えず遅れるように作用する(遅延クリープ).すなわち,この推論は,涙液油層の伸展挙動がVoigtモデルで表されることを推理させるものである.そこで,1)油層の伸展がVoigtモデルで表されうること,および2)油層と水層との間の摩擦が無視できることの2点を仮定すると,油層に加わる応力s(単位面積当たりの力)と歪e(伸展した表面積÷元の表面積)(36)図5VoigtモデルVoigtモデルとは,バネとダッシュポットを並列に組み合わせた最もシンプルな粘弾性のレオロジーモデルの一つであり,g=g0(1-e-t/l)(g:伸び,g0:平衡状態での伸び,t:時間,l:遅延時間)で表現され,図のようなクリープ曲線を示す.バネkダッシュポットhg0時間tlg0(1-1/e)伸びg———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???の関係は,次式で表される.s=ke+b×de/dt(1)[k:弾性係数(バネ係数),b:減衰係数,t:時間]ここでs=s0(一定)として,式(1)を積分すれば,e=s0/k+C×e-(k/b)t(C:定数)(2)となる.式(2)は油層を一定の応力で引き上げたときの油層の歪(表面積の増加率)を表す.ここで初期条件,e=0(t=0)を用いると,C=-s0/kとなり,両辺にL(元の表面積)をかければ,Le=(Ls0/k)[1-e-(k/b)t](3)となる.式(3)を書き換えれば,g=g0(1-e-t/l)となる.そこで,涙液油層の伸展挙動がこの式にあてはまるか否かを検討した.VVoigtモデルを用いた涙液油層伸展のキネティックアナリシス筆者らは涙液油層の伸展挙動をVoigtモデルを用いて解析するために,まず,DR-1?の低倍モードで得られる開瞼後の伸展中の涙液油層の光干渉像をデジタル録画し,つぎに0.05秒ごとに静止画像として取り込んで(図6),伸展中の油層領域を画像解析ソフトを用いて切り取(37)図6開瞼直後から0.05秒ごとにキャプチャーされた涙液油層の干渉像左上隅の像は,閉瞼時である.上段から下段に向けて,左から右に0.05秒ごとに静止画として取り込まれたデジタルイメージを示す.涙液油層の伸展挙動がわかる.———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007(38)図7伸展中の油層領域(図6参照)図6から,画像解析ソフトを用いて,伸展中の油層部分だけを切り取ったもの.図8Voigtモデルを用いた伸展油層面積の経時変化の解析伸展中の油層の面積を経時的にプロットし,これをVoigtモデルにあてはめて解析した.油層伸展挙動のパラメーターとして,油層伸展初速度S?(0)=dS(0)/dtを定義できる.353025201510504.00.50時間(秒)面積S(mm2)S?(0)=75.94(mm2/sec)Voigtモデルによるクリープ曲線の近似式S(t)=31.54-29.92×e-2.54×t(mm2)(R2=0.978)1.01.52.02.53.03.5———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???り(図7),それらの面積を計測した.つぎに,計測された油層面積の経時変化をプロットし,これをVoigtモデル[S(t)=r(1-e-t/l);S(t):伸展油層面積(mm2),r:定数,t:時間(秒),l:緩和時間(秒)]にあてはめて解析してみた(図8).その結果,計測し得たすべての例(29例)において,きわめて良好(R2の平均=0.985)にVoigtモデルで近似されうることが判明した12).また,このことは逆に,涙液油層の伸展挙動がレオロジーのVoigtモデルで表現される粘弾性挙動を示すことを示唆していると考えられる.VI油層伸展初速度と涙液貯留量の関係Gotoら4)やOwensら10)の報告にあるように,涙液減少と涙液油層の伸展速度には何らかの関係があり,涙液が少ないと油層の伸展が悪いことが推定される.そこで,両者の詳細な関係を知るために,先のVoigtモデルの式から油層伸展初速度S?(0)=dS(0)/dtを定義し(図8),S?(0)とビデオメニスコメーター13)で測定しうる涙液メニスカスの曲率半径R(涙液貯留量と相関14))との関係を検討してみた.その結果,両者の間には,有意な正の相関が認められた12).ここで,King-Smithら6)によれば,角膜上の涙液の厚みhは,h=1.338×R(?U/s)2/3(R:涙液メニスカスの曲率半径;?:涙液の粘度;U:上眼瞼の開瞼速度;s:メニスカスの涙液の表面張力)によって与えられ,hがRに比例することから,先のS?(0)とRとの有意な相関は,S?(0)とhとの相関,すなわち,涙液油層伸展初速度の増加が涙液の液層の厚みの増加によってもたらされていることを意味していると考えられる.また,以上の結果から,Gotoらの報告4)にあるように,涙液減少型ドライアイに涙点プラグを挿入すると,涙液貯留量が増加し,それに比例して角膜上の涙液の液層が厚くなり,油層の伸展が促進されることが容易に想像できる.そこで,涙点プラグ挿入前・後で油層伸展初速度を比較してみたところ,涙点プラグ挿入後にRが有意に増加するとともに,S?(0)が有意に増加することが見出された15).以上の結果から,逆に,涙液油層の伸展挙動をVoigtモデルを用いて解析することにより,角膜上の涙液の液層の厚みの情報(涙液減少型ドライアイの重症度を意味する)が得られるのではないかと考えた.VII涙液減少の評価としての油層伸展のキネティックアナリシスドライアイにおいては,一般に涙液と上皮の相互作用に悪循環がみられ16),その悪循環をもたらす原因としてその上流にさまざまなリスクファクターが存在する.なかでも涙液減少は最も大きなリスクファクターであり,日常臨床において,涙液減少のスクリーニング,すなわち,涙液の量的検査は,ドライアイ診断の一翼を担っているといっても過言ではない.現在までのところ,この涙液量の検査として,SchirmerテストI法や各種の涙液メニスカスの評価法がある.SchirmerテストI法17)は,反射性の涙液分泌を調べる検査法であり,眼表面に障害が生じたときにその障害を修復しうるだけのポテンシャルとしての涙液分泌があるか否かを調べる検査である.そして,この検査の意義はこの点にあり,SchirmerテストⅠ法にはそれなりの定量性もあるが,侵襲性が高いうえに,眼表面で現在使われている涙液量の検査とはいえない.一方,涙液メニスカスには眼表面の涙液の75~90%が貯留しているとされる18)ため,涙液メニスカスの評価は,ドライアイのスクリーニング指標としても意味のあるものであり,高さと曲率半径(R)がその指標として最も適しているとされる19).筆者らの施設では,ビデオメニスコメーター13)を開発し非侵襲的にRを計測することに成功している.しかし,このメニスコメトリー法で評価した涙液量も,ドライアイの戦場ともいえる,実際に上皮障害が起きている角膜表面の現場における涙液の液層の厚み情報を拾っているものではない.すなわち,角膜上の涙液の液層の厚みを計測できるならば,より理想的な涙液評価法として位置づけられるはずである.しかし,現在までのところ,涙液の厚みを計測しうる検査法6)はまだ限られており,ようやく正常眼の角膜中央でのピンポイントの測定結果が得られるようになったばかりである21).油層伸展のパラメーター[S?(0)]とRの有意な相関は,油層の伸展挙動の解析が,その直下の液層の厚み情報を得るのに役立つ可能性を意味していると考えられ,将来的には,この解析法が,短時間,非侵襲的,かつ定量的な涙液の量的検査となり(39)———————————————————————-Page8???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007うる可能性を示しているように思われる.おわりに瞬目後に涙液油層は,直下の液層の厚みを反映しながら,角膜表面の液層の上を上方に向かって伸展してゆく.涙液減少型ドライアイにおいては,角膜上の液層は薄く,上皮は少なからず障害を受けて,ガタガタ道を走るがごとくに油層の伸展は悪くなる.油層の伸展挙動の観察は,油層をトレーサーとして直下の液層の状態をスキャンする検査のように思える.近い将来,さらにこの新しい研究領域が発展して,油層のキネティックアナリシスで得られたワンパラメーターでドライアイのスクリーニングや重症度評価が行えることは,あながち夢ではないのではないだろうか.そして,もしそうなれば,侵襲的で,アーティファクトの多かったドライアイの検査が,一変して,非侵襲的かつ簡便で定量的な検査としてコメディカルの手にゆだねられ,眼科医は,得られた油層伸展挙動のデータを見て,ドライアイの重症度を的確に把握し,治療法を選択できるかもしれない.引き続き,この検査法の確立に努力してゆきたいと思う次第である.謝意:稿を終えるにあたり,油層伸展解析システムの確立にご尽力いただいた水草豊氏,鈴木孝佳氏(ともに興和株式会社),レオロジーの理論についてご教授いただいた東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻の加藤孝久教授に深謝いたします.文献1)BronAJ,Ti?anyJM,GouveiaSMetal:Functionalaspectsofthetear?lmlipidlayer.???????????78:347-360,20042)YokoiN,TakehisaY,KinoshitaS:Correlationoftearlipidlayerinterferencepatternswiththediagnosisandseverityofdryeye.???????????????122:818-824,19963)GotoE,TsengSC:Di?erentiationoflipidtearde?ciencydryeyebykineticanalysisoftearinterferenceimages.???????????????121:173-180,20034)GotoE,TsengSC:Kineticanalysisoftearinterferenceimagesinaqueoustearde?ciencydryeyebeforeandafterpunctalocclusion.?????????????????????????44:1897-1905,20035)McDonaldJE:Surfacephenomenaofthetear?lm.???????????????67:56-64,19696)King-SmithPE,FinkBA,HillRMetal:Thethicknessofthetear?lm.????????????29:357-368,20047)BrownSI,DervichianDG:Hydrodynamicsofblinking.Invitrostudyoftheinteractionofthesuper?cialoilylayerandthetears.???????????????82:541-547,19698)WongH,FattII,RadkeCJ:Depositionandthinningofthehumantear?lm.???????????????????????184:44-51,19969)McDonaldJE,BrubakerS:Meniscus-inducedthinningoftear?lms.???????????????72:139-146,197110)OwensH,PhillipsJ:Spreadingofthetearsafterablink:velocityandstabilizationtimeinhealthyeyes.???????20:484-487,200111)村上謙吉:やさしいレオロジー基礎から最先端まで.産業図書,198612)YokoiN,YamadaH,KomuroAetal:Rheologicalanalysisoftear?lmlipidlayerspreadinaqueoustear-de?cientdryeye.ARVOabstract,200613)YokoiN,BronAJ,Ti?anyJMetal:Re?ectivemeniscom-etry:anew?eldofdryeyeassessment.??????19:S37-43,200014)YokoiN,BronAJ,Ti?anyJMetal:Relationshipbetweentearvolumeandtearmeniscuscurvature.????????????????122:1265-1269,200415)YamadaH,YokoiN,KomuroAetal:Rheologicalanalysisoftear?lmlipidlayerspreadbeforeandafterpunctalocclusion,ARVOabstract,200616)YokoiN,SawaH,KinoshitaS:Directobservationoftear?lmstabilityonadamagedcornealepithelium.????????????????82:1094-1095,199817)SchirmerO:StudienzurPhysiologieundPathologiederTr?nenadsorderungunTr?nenabfuhr.???????????????????????????????????????????56:197-291,190318)HollyFJ:Physicalchemistryofthenormalanddisor-deredtear?lm.???????????????????????104:374-380,198519)MainstoneJC,BruceAS,GoldingTR:Tearmeniscusmeasurementinthediagnosisofdryeye.????????????15:653-661,199620)YokoiN,KomuroA:Non-invasivemethodsofassessingthetear?lm.???????????78:399-407,200421)King-SmithPE,FinkBA,FogtNetal:Thethicknessofthehumanprecornealtear?lm:evidencefromre?ectionspectra.?????????????????????????41:3348-3359,2000(40)

DR- 1Rによる涙液油層動態解析

2007年4月30日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSの文字を書いているのかなど,格段に得られる情報が増える(図2).涙液油層動態解析は基本的にはビデオ撮影およびそのコマ送り再生を行い,油層の分布を解析する.オキュラサーフェスはダイナミックである.涙のダイナミクスはcompositionalfactor(分泌,三層構造)と,hydrodynamicfactor(瞬目,閉瞼)によりなる1)(図3).涙腺で涙液が分泌され,マイボーム腺から油が分泌されるわけだが,それだけでは眼表面全体にきれいな三層構造は形成されない.瞬目することにより上下のメニスカスに貯留している涙液が眼表面に拡散し,また,油が閉瞼時に圧縮され開瞼時に涙液水層上に伸展するのである.そして涙液の大部分は涙道から排出され,開瞼時には一部分が眼表面から蒸発する.オキュラサーフェスのはじめに涙液が表層から油層,水層,ムチン層の三層構造をとることはよく知られているが,現在のところ,ドライアイの診断はSchirmerテストを中心にした水層の評価が中心となっている.治療に関しても,人工涙液やヒアルロン酸の点眼,涙点プラグや涙点閉鎖など水層をターゲットにしたものがほとんどである.しかしSchirmerテストに異常を示さないドライアイ患者やこのアプローチのみでは治癒しない患者も多く存在し,涙液油層やムチンに対して目が向けられるようになってきた.また,眼科全般において,検査の技術は目覚しい発展を遂げているが,特に動的要素の多いオキュラサーフェス領域においては,ある一瞬一瞬の結果だけでは病態評価が困難であり,二次元から三次元,さらには時間的な要素を加味した,いわゆる四次元検査が発展を続けている.本稿では,近年発展してきた涙液油層の非侵襲的検査DR-1?,およびその動的解析について述べる.I動的解析とは動きのあるものをある一瞬の結果のみ解析しても,その瞬間の情報しか得ることができない.たとえば,文字を書く経過を例にしてみるとわかりやすい.書いている途中のある一瞬を見ただけでは,その先に何を書くのかすらわからない(図1).書く経過を連続して見てみると,どのような書き順で,どのくらいのスピードで,何(25)???*EriHosaka&EikiGoto:鶴見大学歯学部眼科学講座〔別刷請求先〕保坂絵里:〒230-8501横浜市鶴見区鶴見2-1-3鶴見大学歯学部眼科学講座特集●前眼部四次元検査(前眼部キネティックアナリシス)あたらしい眼科24(4):423~429,2007DR-1?による涙液油層動態解析??????????????????????????????????????????????????-?????????保坂絵里*後藤英樹*図1静的解析のイメージ1枚の写真だけ見ても何の文字を書いているかはわからない.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007状態は刻一刻と変化し,瞬目直後と直前では涙液層の厚みや油層の動態,涙液の蒸発量はまったく異なるのである.すなわち,分泌量,層の厚さなどの静的解析のみならず,経時的変化を考慮した動的解析が重要になってくる.DR-1?が登場した当初は涙液油層干渉像の評価方法としては,TearscopeTMのパターン判定,DR-1?のグレード分類,干渉色からの油層の厚みのおおよその定量化などの静的解析がおもなものであった.動的解析の方法としてはDR-1?,TearscopeTMを用いたnon-inva-siveBUT(NI-BUT)測定が行われていた.最近での涙液油層動的解析としては,DR-1?を用いた脂質伸展時(26)表1オキュラサーフェスの解析静的解析動的解析Schirmer試験BUT染色試験NI-BUTメニスカスTSAS角膜トポグラフィーLipidspreadtime(脂質伸展時間)DR-1?のグレード分類油層厚み定量図2動的解析のイメージ連続写真を見ると経時的変化がわかり,情報量が格段と増大する.図3涙のダイナミクス涙液の分泌開瞼時に蒸発涙道を通り鼻腔へ瞬目による涙液の拡散および油の伸展マイボーム腺より油の分泌涙腺,———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???間(lipidspreadtime)の測定がある(表1).これは涙液層破壊時間(BUT),NI-BUT,TearStabilityAnaly-sisSystem(TSAS)(五藤智子先生の項参照)などと同様,大きな意味での涙液の安定性の検査といえる.IIDR-1?の原理涙液油層干渉像カメラDR-1?(興和,名古屋)(図4)は無色で観察しがたい涙液油層の動態を特殊な光学系を通して観察することのできるデバイスである2).角膜に白色光を投影すると,油層の表面と裏面からの2つの反射光に光路差が生じ,干渉現象が起こり,そのときに干渉縞を呈する3)(図5).多波長の白色光源では膜厚の変化に伴って茶色がかった灰色から徐々に明るくなり,虹色の干渉縞を呈する.わかりやすく言うと,シャボン玉(石けんの薄膜が覆っており,太陽光によって干渉現象が生じる)の表面が虹色に見えるのと同じ現象である.DR-1?では白色光源を用いており,涙液表層の薄膜(油層)によって呈される干渉像を観察することができ,無色の薄膜を可視化している.IIIDR-1?の所見DR-1?では,角膜上の油層の分布と開瞼時の油層の経時的変化を観察することができる.油層の厚みが0~約100nmの範囲では灰色の干渉光を呈し,厚みの増加に伴い,黄,茶,青の順に色が変化していく.DR-1?による油層の干渉像は瞬目後1~3秒で安定したパターンを示し,正常では開瞼後10~30秒でドライスポットが出現する.DR-1?は本来,薄膜干渉色情報(油層の厚み情報)を観察する装置である.しかし,涙液分泌が減少していると油が角膜上を均一に伸展,安定せず,油層の厚みが増すことが知られており,涙液分泌減少型ドライアイ(Sj?gren症候群など)の重症度の判定や涙点プラグや涙点閉鎖の治療後の評価にも有用である2,4).IVDR-1?の評価方法DR-1?の結果の評価には,瞬目数秒後の安定した油膜の状態を評価する静的解析(staticanalysis)と油膜の状態を経時的に評価する動的解析(kineticanalysis)がある.1.静的解析正常眼では,油層は瞬目後1~3秒で角膜全体に油が行きわたり,安定したパターンを呈する.Yokoiらは,この安定した時点での干渉像を5つのグレードに分類した2,4)(図6).正常眼では水層が十分に存在するので,油の伸展が良く薄く均一に分布するため,灰色一色の干渉色を示す(グレード1)が,ドライアイでは水層が減少するため,油が均一に伸展せず厚みにばらつきが生じる.そのため,干渉光が多彩になり干渉縞が観察される(27)図4涙液油層干渉像カメラDR-1?図5原理入射光が,油層表面で鏡面反射(g1)および油層水層境界面で鏡面反射(g2)し干渉することにより,干渉光(R)を呈する.?は角膜前涙液油層厚,f1は反射角でありDR-1?光学系ではレンズ設計により0?を実現しており,?は空気,涙液油層,涙液水層の屈折率である.(文献3より使用許諾を得て掲載)Air1.0Lipid1.48Aqueous1.33)R(?g1g2f1=0?———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007(グレード3~5).グレード5になると瞬目に伴う油層の伸展もほとんどみられず,角膜表面が露出している.かなりの重症ドライアイの所見である.涙液減少型ドライアイの重症度と相関するため,ドライアイのスクリーニングに有用と考えられている2,4).2.動的解析a.涙液干渉像によるNI-BUT(non-invasiveBUT)涙液の安定性の評価方法としてはフルオレセイン染色を用いたBUT測定があるが,フルオレセインを点眼することによって本来の涙液安定性に影響を与えてしまうことが知られている5).DR-1?やTearscopeTMなどの涙液干渉装置では,フルオレセインを点眼することなく,涙液層の破壊像を観察することができる(図7).正常眼では10~30秒程度とされているが,破壊像が観察されない症例もあることから,涙液三層のうち,どの層の破壊像なのかははっきりとわかっていない.b.脂質伸展時間(lipidspreadtime)の測定瞬目後約0.2秒間隔でDR-1?にて油層干渉像をビデオ撮影し,経時的な油層の動態を解析する.正常では油層の干渉縞が水平方向に伸展していくパターンがみられるが,マイボーム腺機能不全などの油層が減少していると考えられるドライアイ症例では,干渉縞は下から上へ垂直方向に伸展し,なおかつ角膜上方まで伸展しきらずに角膜全体に行きわたる前に伸展が止まってしまうパターンがみられることが多い6)(図8).Gotoらは瞬目してから油の伸展が止まるまでの時間を脂質伸展時間(lipidspreadtime)とし,健常者では0.36±0.22秒,(28)図7DR-1?によるNI-BUT開瞼10秒後に出現したドライスポット(矢印).グレード1グレード2グレード4グレード5グレード3図6DR-1?グレード分類———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???マイボーム腺機能不全患者では3.54±1.86秒,さらに涙液減少性ドライアイ患者では2.2±1.1秒であり,涙点閉鎖後では0.8±0.5秒と脂質伸展時間は有意に短縮したことを報告した6,7)(図9).健常者では1秒以内で眼表面全体に伸展する油がドライアイ患者では油の伸展障害が起こっており,伸展が止まるまでに時間がかかり,(29)図8正常眼(上)およびマイボーム腺機能不全患者(下)の油層の分布正常眼では,油層の分布が水平に伸展しているが,マイボーム腺機能不全患者では垂直に分布している.また,瞬目(O)から油層の伸展が止まる(X)までの時間が(脂質伸展時間)正常眼に比して,マイボーム腺機能不全患者では延長していることがわかる.(文献7より使用許諾を得て掲載)———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007さらに油が角膜全体に伸展しないことがわかる6,7).最近では,横井,山田らにより涙液油層の動態に関してレオロジーモデルを用いた解析が報告されており(横井則彦先生の項参照),そちらも今後の発展が期待される8).このようにDR-1?の動的解析を用いることにより,涙液脂質伸展,およびそれに影響する涙液水分量の(30)図9涙液減少型ドライアイ(上)vs涙点閉鎖術後(下)瞬目(O)から油層の伸展が止まる(X)までの時間(脂質伸展時間が)涙点閉鎖後では短縮していることがわかる.(文献6より使用許諾を得て掲載)———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???評価を行うことが可能となってきている.V今後の課題動的解析は四次元(xyz軸+時間軸)の対象を比較検討するもので,その結果の評価が現在のところ非常に困難である.まずは三次元の対象を一次元に表現するインデックスの開発が急務である.たとえば,角膜トポグラフィーにおけるSRI(surfaceregularityindex)や角膜波面収差におけるZernike多項式のような臨床上有用なものが望まれる.DR-1?画像においては油層の厚みは部位によって異なるため,その平均を一つの値で表現し,画像全面での厚み定量を可能にすることが今後の課題と考えている.文献1)SolomonA,TouhamiA,SandovalHetal:Neurotrophickeratopathy,basicconceptsandtherapeuticstrategies.??????????????????????3:165-174,20002)YokoiN,TakehisaY,KinoshitaS:Correlationoftearlipidlayerinterferencepatternswiththediagnosisandseverityofdryeye.???????????????122:818-824,19963)GotoE,DogruM,KojimaTetal:Computer-synthesisofaninterferencecolorchartofhumantearlipidlayer,byacolorimetricapproach.?????????????????????????44:4693-4697,20034)DanjoY,HamanoT:Observationofprecornealtear?lminpatientswithSj?gren?ssyndrome.?????????????????????73:501-505,19955)MengherLS,BronAJ,TongeSRetal:E?ectof?uores-ceininstillationonthepre-cornealtear?lmstability.????????????4:9-12,19856)GotoE,TsengSC:Kineticanalysisoftearinterferenceimagesinaqueoustearde?ciencydryeyebeforeandafterpunctualocclusion.?????????????????????????44:1897-1905,20037)GotoE,TsengSC:Di?erentiationoflipidtearde?ciencydryeyebykineticanalysisoftearinterferenceimages.???????????????121:173-180,20038)横井則彦,山田英明,小室青ほか:レオロジーモデルによる涙液油層伸展速度と涙液貯留量の関連の検討.第30回角膜カンファランス,東京,2006.2.9(31)

Tear Stability Analysis System(TSAS)による涙液動態検査

2007年4月30日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSI角膜形状解析装置ビデオケラトスコープ角膜形状解析装置には,オートレフラクトメーターをはじめさまざまな種類があるが,オートレフラクトメーターは角膜上の数点しか角膜曲率半径を計測できないのに対して,フォトケラトスコープは同心円状の多数のリングを角膜に投影することにより,大まかな角膜形状を把握できるようになったこと,角膜曲率半径計測ポイントも増えたことなど大きく改善された.その次世代として登場したビデオケラトスコープは同じく角膜に同心円状のリングを投影するのであるが,そこから得られたマイヤー像をもとに1本のリング当たり約250ポイント,28本のリングを投影すれば約5,000ポイントもの角膜曲率半径をはじきだすことができるようになった(図1).しかもそれをカラーコードマップに変換することにより初期の円錐角膜でも,画期的にしかも容易に検出できるようになった2).このビデオケラトスコープがわれわれにもたらした恩恵は多大なものがある.ただこのマイヤーリングを用いて測定するタイプの装置は,眼表面の涙液の影響を受けるという,唯一ともいえる欠点がある.測定時は必ず瞬きをして開瞼して間もないとき(涙液層が安定している間)に測定をしなければきれいなマイヤー像は得られず,角膜形状を正しく反映しない場合がある(図2).筆者らはこのビデオケラトスコープが円錐角膜をはじめとする角膜形状異常をスクリーニングすることに成功したことから,その他のあらゆる角膜疾患はじめに日常の診察において非常にポピュラーな疾患であるドライアイは,Sj?gren症候群のような重症型からOA作業などに伴う軽症型まで疾患内のスペクトル幅はとても広く,またその病態にいたっては,基本的に涙腺の機能異常を主とする涙液分泌低下型と涙液層の安定性の異常を主とする蒸発型とに分類されてはいるものの,眼表面という観点からいうと,さまざまな要因がからみあっていることが多く,個々の病態に応じた治療戦略が必要とされる.ドライアイの診断基準が1995年にドライアイ診断基準委員会によって発表されてからも診断にあたって確実な基準となる検査法が見出されないまま,昨今ではその見直しがすでに検討され,ついに新たな診断基準が発表された1).患者の自覚症状を盛り込んだことで,最近ドライアイ患者数が増えている要因ともいうべき涙液層破壊時間(BUT)短縮型のドライアイをその診断基準のなかで取りこぼすことがないよう,非常にうまく改善された.しかしながら涙液を含む眼表面の恒常性を非侵襲的にできるだけ簡単なパラメーターで評価することは今後も大きな課題である.今回の小論では,そういった問題点から筆者らが開発することに至った角膜形状解析装置を利用した,涙液安定性評価装置(TearStabilityAnalysisSystem:TSAS)について,説明と考察を加える.(17)???*TomokoGoto:鷹の子病院眼科〔別刷請求先〕五藤智子:〒790-0925松山市鷹子町525-1鷹の子病院眼科特集●前眼部四次元検査(前眼部キネティックアナリシス)あたらしい眼科24(4):415~421,2007TearStabilityAnalysisSystem(TSAS)による涙液動態検査??????????????????????????????(????)五藤智子*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007をスクリーニングできることを目標とした.もともと涙液に影響を受けやすいという欠点を逆手にとり,涙液を非侵襲的に評価することに成功したのである.II涙液安定性評価装置(TearStabilityAnalysisSystem:TSAS)3)1.測定原理図2aは開瞼直後に撮影した正常角膜であるが,同じ眼を10秒間開瞼させた状態で撮影すると図2bのように異常なフラット像が現れる.角膜表面の涙液層が変化することによってその部位のマイヤーリングに変化をきたし,結果的にカラーコードマップに変化をきたすのである.このように角膜形状解析装置のビデオケラトスコープは涙液の影響を受けやすい.その欠点を利用して開瞼時から連続撮影できるよう改良を行った.図3a,bにTSASで得られた代表的な検査結果を示す.図3aは,正常眼の検査結果で,左上が開瞼直後0秒時のもの,以後,1秒,2秒と最長10秒まで,開瞼したままの状態で1秒ごとに連続撮影している.最後の右下のカラーマップはbreakupmapとよばれるもので,開瞼後の何秒の時点で角膜屈折値に0.5ジオプトリー(D)以上の変化が現れたかを示している.これによれば,涙液層の安定性を時間軸と面積軸からよりビジュアルに把握することができる.この症例では,開瞼直後からカラーマップにほとんど変化が認められず,涙液層がきわめて安定し(18)図1ビデオケラトスコープ同心円状のリング光を角膜に投影し,得られたマイヤー像を解析することでカラーコードマップに変換する.図2TSASの原理a:開瞼直後の角膜形状.b:aと同じ眼を開瞼して10秒後に撮影したもの.涙液破壊のため異常なフラット像がみられる.ab———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???た状態にあると考えられる.つぎに図3bは,Schirmer値は正常範囲であるがドライアイ様の症状を訴える症例である.ご覧のように,開瞼直後よりカラーマップが変化し,涙液層の安定性が悪いことがうかがわれる.2.TSASの有用性の検討はたしてこの検査がドライアイの検出に有用であるかどうかを,0.5D以上の角膜屈折値変化が現れるまでの時間(秒)であるTMS-BUTと,5秒以内に変化の認められた領域を面積比で表したTMS-BUAという,2つのパラメーターを用いて検討してみた(図4a,b).これらのパラメーターを従来からのBUT(SLE-BUTと記載)と比較したところ,TMS-BUTとは正の相関が,(19)表1SLE-BUTとTSASの比較検討SLE-BUTTotaleyesTMS-BUTTMS-BUA>5sec≦5sec<0.2≧0.2Norml(>5seconds)3423112212Short(≦5seconds)4603430640SLE-BUT:tearbreakuptimeevaluationusingslit-lampmicroscope.TMS-BUA:ratioofareahavingtearbreakuptime≦5secondstothewholecolor-codearea;TMS-BUT:TMStearbreakuptime.SLE-BUT正常群のなかにTSASにて異常を示した例がみられ,その89%になんらかのドライアイ症状が認められた.(文献3より)図3aTSASによって撮影された1回1眼に対する検査データ0秒から10秒までほとんど角膜屈折値に変化がみられず,涙液が非常に安定していることを表している.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007TMS-BUAとは負の相関が得られた(図5a,b).また,表1に示すように,あらかじめBUT短縮群と正常群に分けてそれぞれTSASの検査結果を検討したところ,正常群と判定されたなかにTSASでは異常を示す症例が認められ,さらにその89%が何らかのドライアイ症状を有していたことがわかった.これまでの検査では捉(20)図3b涙液の安定性が悪い症例開瞼直後より角膜屈折値にさまざまな変化がみられ,非常に涙液の安定が悪い.図4bTMS-BUAの算出方法TMS-BUA=0.89●TMS-BUT:thetimingofoccurrenceoftearbreakup(changeofcornealpower>0.5D)Areawithtearbreakuptime≦5sec●TMS-BUA=──────────────────Wholecolor-codearea図4aTSASから導いたパラメーターTMS-BUTとTMS-BUAの2つのパラメーターを用いてTSASの有用性について検討した.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???(21)えられなかった潜在的なドライアイ患者ポピュレーションを検出している可能性もある.3.TSASによるLASIK術前後評価4)LASIK(laser????????keratomileusis)は短時間で安定した矯正を得られることなどから,今や屈折矯正手術の大半を占めている.その合併症の一つである術後ドライアイは,ほとんどの症例が数カ月で改善が得られるということにはなっているが,なかには術後点状表層角膜症(super?cialpunctatekeratopathy:SPK)が遷延化し涙点プラグの挿入を余儀なくされる症例もみられる.その機序は明確にはされていないものの,角膜知覚が術後3カ月までは有意に低下している事実からも,マイクロケラトームによる角膜神経の切断が関与していることは明らかである.しかし3カ月以降は回復する傾向がみられるという事実があるにもかかわらず,ドライアイが重症化する症例が見受けられるのはなぜであろう?そもそもドライアイというのは涙液側とそれを保持する上皮側,上皮に均一な涙液層をつくる眼瞼,など多くの要因がその病態をつくり出す恐れのある眼表面疾患なのである.もともと悪条件を有する潜在的ドライアイに,涙液のre?exloopの求心路を担っている角膜知覚神経切断という大きなストレスが加わった場合,不可逆性のドライアイ状態となりうるのではないだろうか.筆者らは,TSASを用いてLASIK術前後の評価をし,術前においてTSASが異常であった場合にドライアイ合併症が多いという結果を得られた.その結果と術前ケアとして今後考えられることについて検討したことを,以下に述べる.4.LASIK術前後のTSASLASIKの手術前後でTSASにて撮影し,比較してみると(図6a),術後に涙液層の安定性が悪化していることがよくわかる.術後3カ月までは有意な低下がみられ6カ月で回復傾向がみられる.しかし症例のなかには術前のSchirmer試験,SLE-BUTは正常であったにもかかわらず,LASIK術後,SPKが長期間にわたって遷延し,最終的に涙点プラグを挿入せざるをえなくなったケースがみられ,その症例の術前TSASでは,わずかながらも開瞼直後よりカラーマップに乱れがあり,涙液層の安定性が悪いことが示されていた.術後のドライアイ合併症としてSPKが散見される.ほとんどの症例は回復し,自覚症状も改善がみられる.しかしながら,この症例のように術後ドライアイが重症化し角結膜上皮障害が遷延化するケースにおいては術前より何らかの潜在性ドライアイ要因があったのではないかと思われる.そこで筆者らは術前TSASのデータが正常であった群と異常であった群に分けてSPKの出現率をみてみることにした(図6b).その結果,グラフに示すように明らかに術前TSASが異常を示した群においては有意に術後経過中SPKの出現率が高かった.しかもその症例のなかには6カ月を経てもSPKが遷延化し,重症化するケー図5aTMS-BUTとSLE-BUTの関係正の相関関係がみられる.(文献3より一部改変)1412108642002468101214SLE-BUT(秒)TMS-BUT(秒)r=0.7219p<0.0001図5bTMS-BUAとSLE-BUTの関係負の相関関係がみられる.(文献3より一部改変)102468101214SLE-BUT(秒)TMS-BUAr=0.6317p<0.00010———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007(22)スが含まれた.このことよりTSASは術前検査において潜在性のドライアイ要因を鋭敏に検出しているのではないかと推察された.TSAS異常群においては,涙液量だけでなく涙液安定性に異常を及ぼすような要因を総合的に問診,観察をして突きとめておかなければならない.要因として考えられるものには,コンタクトレンズによる影響,アレルギー性結膜炎,その他の結膜炎,軽微なドライアイ,マイボーム腺機能異常などである.そのケアとしてはコンタクトレンズ離脱時間の考慮をはじめとしてそれぞれに対する点眼治療などであり,TSASが改善された状態において施術をすれば,術後ドライアイの重症化は防げる可能性も十分あるのであろう.図7ドライアイ患者(67歳,女性)への0.1%ヒアルロン酸点眼後のTSASによる涙液安定性の評価点眼前BUI:35.130.756.61分後30分後BUI:57.366.3120分後5分後Schirmer:5mmBUT:2秒A2D2図6aLASIK前後のTSAS術後1週より涙液の安定性は低下し,術後3カ月まで有意な低下がみられる.(文献4より一部改変)02468106カ月3カ月1カ月1週術前TMS-BUT(秒)****p<0.05経過期間図6b術前TSASとSPK出現率術前TSASが異常であった群において有意にSPK出現率が高い.(文献4より一部改変)1009080706050403020100SPK出現率(%)****6カ月3カ月1カ月経過期間1週術前:異常TSAS値:正常TSAS値*p<0.05———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???(23)現在TSASは改良が進められ,その評価法も新たなインデックスBUI(breakupindex)の導入が愛媛大学眼科学教室の山口らによって行われ,点眼薬が涙液安定性に及ぼす影響などさまざまな取り組みがなされている.5.ヒアルロン酸点眼薬の涙液への影響TSASを用いたさまざまな試みがなされているなかで,筆者らの愛媛大学眼科学教室では点眼薬が涙液に与える影響についてすでに検討を行った.図7に示すのはドライアイ患者に0.1%ヒアルロン酸を点眼した後の涙液安定性を経時的にTSASで評価したものである.指標として用いているBUIは新たに導入されたインデックスで,100を最高とし数値が高いほど涙液安定性がよいことを示している.点眼前はBUIが35.1と涙液安定性が悪かったのに対して,ヒアルロン酸点眼1分後では若干悪くなり,5分後,30分後と涙液の安定性は改善し,120分後には最も安定した数値が得られている.ヒアルロン酸は涙液保持効果が高いということからドライアイの治療に使われるようになって久しいが,実際点眼してからどのような時間経過で涙液を保持し安定化させることができるのかをこのような形で評価することができるということは画期的である.今後新薬の開発やその他の薬剤の評価に用いることが可能であり,いっそう期待されるところである.おわりにドライアイ患者の病態を捉えるためには,患者自身の生活環境や眼表面の病態を把握するため,詳細な問診と注意深い眼の観察を行うことが必要である.『なんとかしてこの上皮欠損を治したい!!』という熱意のなか,悪循環サイクルからの離脱策がひとたび奏効すれば,これ以上の快感はないであろう.しかしながら,涙液層を客観的に評価する方法がなければ,説得力のない独りよがりの診察となってしまいかねない.検査は非侵襲的で客観的な手法であることが望ましい.今後も新たなよりよい涙液評価法の開発が待たれるところであるが,そのなかでTSASは非侵襲的な検査法であり,そのデータを共有できる客観性もある.今後厳密な検討がなされ,涙液評価法の一つとして利用され役に立つ存在になることを期待したい.文献1)島?潤ほか(ドライアイ研究会):2006年ドライアイ診断基準.あたらしい眼科24:181-184,20072)MaedaN,KlyceSD,SmolekMK:Neuralnetworkclassi?-cationofcornealtopography.Preliminarydemonstration.?????????????????????????36:1327-1335,19953)GotoT,ZhengX,KlyceSDetal:Anewmethodfortear?lmstabilityanalysisusingvideokeratography.????????????????135:607-612,20034)GotoT,ZhengX,KlyceSDetal:Evaluationofthetear?lmstabilityafterlaserinsitukeratomileusisusingthetear?lmstabilityanalysissystem.???????????????137:116-120,2004

実用視力の臨床応用:ドライアイから白内障まで

2007年4月30日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS測定の概念である.実用視力測定においては,実用視力(functionalvisu-alacuity:FVA),測定時間内の変動する視力の積分値が,測定スタート時の視力が仮にずっと維持できた場合のそれに対する割合である視力維持率(visualmainte-nanceratio:VMR)をおもな視標として検出する2).詳細は前項『新しい視力計:実用視力の原理と測定方法』を参照されたい.IIドライアイドライアイにおいて実用視力が低下すること3,4),また治療によりドライアイ症状が改善すると実用視力も改善すること4,5)が報告されている.ドライアイでは,眼光学系の最前層である涙液層に異常をきたし,涙液層の安定性が低下する6).そして,涙液層に乱れが生じた状態では,視機能が低下していることが予想される.図1は,ドライアイ症例の実用視力測定結果の一例である.スタート時の視力(通常の矯正視力)が右眼1.0,左眼1.2であるのに対し,FVAは右眼0.769,左眼0.517である.この症例は,Sj?gren症候群に伴う比較的重症のドライアイで,Schirmer試験における低値,角膜染色,眼乾燥感など典型的なドライアイの自覚・他覚症状を認めたが,それ以外に“かすみ目”の訴えもあった.この症例に対し,治療として上下涙点への涙点プラグ挿入術が行われた.そして図2はその1週間後の実用視はじめに矯正視力が正常であるにもかかわらず,患者から“かすみ目”や“見づらさ”の訴えを聞くことはしばしば体験する.そしてわれわれは,その自覚的な視機能の低下を他覚的にとらえることができないと,診断や治療に苦慮せざるをえない.診断ができない責任を「視力はいいのだから気のせいだ」「患者が神経質だから」と患者に転嫁し,お互いの信頼関係を損ねることにもなりかねない.それに対し,グレア視力測定,コントラスト視力測定といった測定条件を工夫した視力検査,近年では波面収差や点像強度分布解析の手法を使った視機能検査1)など,通常の視力検査では検出できない視機能の低下を客観的に検出するさまざまな試みがなされている.I実用視力測定通常の矯正視力検査では,被検者がものを見る能力の最高値を検出する.“風”にたとえるなら“最大瞬間風速”だといえる.しかし,視力1.2の人が日常生活において常に1.2の視力でものを見ているわけではない.眼表面から大脳視覚野までの形態的,機能的変化に伴って視機能も常に変化しているはずである.常に変化し続ける風速の一定期間の平均を平均風速とするならば,視力にも平均視力の概念が持ち込めるのではないか,そして日常生活においてわれわれが実際に感じている“見え方”を評価する手法の一つになりうるのではないか,これが,経時的に連続して視力を測定し解析する実用視力(11)???*ReikoIshida:いしだ眼科〔別刷請求先〕石田玲子:〒421-0301静岡県榛原郡吉田町住吉427-1いしだ眼科特集●前眼部四次元検査(前眼部キネティックアナリシス)あたらしい眼科24(4):409~413,2007実用視力の臨床応用:ドライアイから白内障まで????????????????????????????????????????????????????????????????????─?????????????????????????????????石田玲子*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007力測定の結果である.まず,視力の変動が治療前に比べて小さく,安定しているのがわかる.60秒間の視力の変動幅が小さくなり,FVAは右眼1.155,左眼0.944に改善している.患者自身も「ものの見え方が改善した」と喜んでいた.もう一つ注目すべきは瞬目回数である.治療前の測定では,60秒間に20回以上であった瞬目が治療後は10回未満に減少している.ドライアイでは瞬目回数が増加することが報告されている7)が,実用視力と瞬目との相関についても,今後検討される必要があると思われる.III白内障白内障の手術適応の決定には,まず矯正視力が検討される.患者がいくら見づらさを訴えていても,視力が1.0あれば適応外とされることが多いと思われる.コントラスト視力などの視機能検査が行われることもあるが,実際患者がどのくらい見づらいのかを検出することはむずかしい.図3は,矯正視力が1.0であるにもかかわらず霧視を訴える患者のFVA測定結果である.FVA0.601,VMR0.92で,視力が安定せず変動が大きいことがわかる.眼底と眼表面には異常がなく,FVA低下は白内障によると考えられ白内障手術が施行された.図4は手術後のFVA結果である.矯正視力は1.2と1段階の改善であるが,FVAは0.993,VMRも1.00に改善した.自覚的には,霧視が解消されて見やすくなったと満足が得られた.IV後発白内障後発白内障は,白内障術後に一定期間をおいて発生する霧視,矯正視力の低下がおもな症状であり,通常は比較的容易に診断に至る.治療として,一般的にYAGレーザーによる後?切開が施行される.図5は,両眼とも眼内レンズ挿入眼で,右眼の強い霧(12)FVA=0.517VMR=0.91FVA=0.769VMR=0.96左眼右眼図1ドライアイの実用視力左右とも視力が不安定である.左眼FVA=0.944VMR=0.96右眼FVA=1.155VMR=0.96図2図1と同じ症例の涙点プラグ挿入後の実用視力治療前に比べ視力が安定している.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???V眼瞼けいれん眼瞼けいれんは,眼輪筋の不随意な収縮が発生し,末期には開瞼困難で日常生活に多大な支障をきたす疾患である.図10のように特徴的な顔貌を示すことと,パチパチと素早く瞬目することができないのを注意して観察できれば,初期でも診断は可能である.しかし,初期に視を訴える症例の実用視力測定結果である.右眼に軽度の後?混濁を認めたが,両眼とも矯正視力は1.2で眼底は正常であるため,当初は霧視の原因が何かが議論された.YAGレーザーによる後?切開は,組織侵襲が比較的少ない治療ではあるが,無用な治療は行うべきではない.しかし,実用視力は右眼において著明に低下を示し,FVAは0.547,VMRは0.90であった.患者の訴えを他覚評価できたため,YAGレーザーによる後?切開を施行した.ところが,術後に自覚的な霧視,実用視力ともに改善は認められなかった(図6).後?切開は,瞳孔領中心に約3mm径であった(図7)が,瞳孔内に混濁した後?が残存していた(図8).そこで,レーザー照射を追加して切開部を明時瞳孔径よりも大きく拡大したところ,強く訴えていた霧視は解消された.矯正視力は術前と変わらず1.2であったが,図9のように実用視力は著明に改善し,FVAは0.817,VMRは0.99であった.(13)図4図3と同症例の白内障手術後の実用視力FVAは0.993に改善し,視力が安定している.白内障術後FVA=0.993VMR=1.00白内障術前FVA=0.601VMR=0.92図3白内障の実用視力通常の矯正視力は1.0であるが,FVAは0.601と低下している.右眼FVA=0.547VMR=0.90左眼FVA=1.22VMR=0.97図5後発白内障の実用視力後?混濁をほとんど認めない左眼と比べ,右眼は視力が不安定である.矯正視力はともに1.2と変わらない.FVA=0.563VMR=0.88図6後?切開術後(右眼)の実用視力1回目のYAGレーザーによる後?切開後.実用視力は改善していない.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007はその多くがドライアイと診断されているといわれている8)ように,なかなか診断に至らず,結果として治療が遅れてしまうケースもある.図11は,眼瞼けいれん患者のFVA測定の一例である.途中から測定の続行ができなくなっているのがわかる.検査員からは「検査方法が理解できないため測定不可能」という報告であった.この疾患の初期から中期では,眼輪筋が常時収縮しているわけではなく,「何かを見ようとすると目が閉じてしまう」ことが多い.この症例においても,視標を凝視しようとすることで眼輪筋の収縮が誘発されたものと考えられる.ドライアイを含めた他の疾患では測定不可能になることはなく,眼瞼けいれんに特異的な変化として診断の一助になるのではないかと期待される.この症例に対し,治療としてボツリヌストキシンの眼周囲局注が施行された.図12は,その1週間後の(14)図7後?切開術後(右眼)図6の症例の写真.後?の切開部が小さい.図8後?再切開術後(右眼)1回目より切開部を広げてある.図9後?再切開術後(右眼)の実用視力矯正視力は1.2のままであるが,FVAは0.817に改善している.FVA=0.817VMR=0.99図10軽度眼瞼けいれん患者の顔貌眉間に深い縦じわがよるのが特徴である.図11眼瞼けいれん症例の実用視力(ボツリヌストキシン使用前)60秒間視標を見続けていることができないことがわかる.FVA測定不可———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???(15)FVA測定結果である.不安定ではあるが,治療前と違い60秒間視標を見続けることが可能になっていることがわかる.おわりに臨床の現場における実用視力測定の例をいくつかあげた.ドライアイの視機能低下を検出するために開発された手法であるが,被検者の自覚的な見え方を直接的に解析するため,さまざまな症例において,他の視機能検査では検出できなかった“見づらさ”の拾い出しができる可能性がある.疾患の診断や治療効果の検討,そして患者への説明や指導のために,実用視力測定が効果的に活用されていくことが望まれる.文献1)NegishiK,KobayashiK,OhnumaKetal:Evaluationofopticalfunctionusinganewpointspreadfunctionanalysissystemincataractousandpseudophakiceyes.?????????????????50:12-19,20062)KaidoM,DogruM,YamadaMetal:FunctionalvisualacuityinStevens-Johnsonsyndrome.???????????????142:917-922,20063)GotoE,YagiY,MatsumotoYetal:Impairedfunctionalvisualacuityofdryeyepatients.???????????????133:181-186,20024)IshidaR,KojimaT,DgruMetal:Theapplicationofanewcontinuousfunctionalvisualacuitymeasurementsys-temindryeyesyndromes.???????????????139:253-258,20055)GotoE,YagiY,KaidoMetal:Improvedfunctionalvisualacuityafterpunctalocclusionindryeyepatients.???????????????135:704-705,20036)KojimaT,IshidaR,DogruMetal:Anewnoninvasivetearstabilityanalysissystemfortheassessmentofdryeyes.?????????????????????????45:1369-1374,20047)TsubotaK,HataS,OkusawaYetal:Quantitativevideo-graphicanalysisofblinkinginnormalsubjectsandpatientswithdryeye.???????????????114:715-720,19968)MartinoD,DefazioG,AlessioGetal:Relationshipbetweeneyesymptomsandblepharospasm:amulti-centercase-controlstudy.??????????20:1564-1570,2005図12図11の症例のボツリヌストキシンによる治療後60秒間視標を見続けることができるようになり,測定が可能になった.FVA=0.473VMR=0.87

新しい視力計:実用視力の原理と測定方法

2007年4月30日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS日常生活ではヒトは常に眼を使い,連続的にものを見ている.経時的な視力変化を測定することにより,日常生活での視機能を評価するのが実用視力なのである.実用視力は従来の視力検査では検出できない,「視力検査では1.0であるが,なんとなく見えにくい」といった視機能を評価するのに有用であると考えられる.I原理実用視力はGotoらにより最初にその概念が紹介された4).ヒトが集中してものを見るとき,瞬きが抑制される1,2).このような状態での視機能を評価しようとしたのが実用視力である.Gotoらは瞬目を意図的に抑制して開瞼させた状態を「集中してものを見る」,すなわち「凝視」の状態と仮定し,瞬目を抑制した状態で視力を測定することで視機能を評価した.眼表面点眼麻酔により瞬目を抑制させ,開瞼後10秒の時点での視力を実用視力として測定した.眼表面麻酔は涙液の反射性分泌を抑制し,また開瞼による眼の痛みや不快感を最小限にすることにより10秒以上の開瞼を可能にするためである.しかし,開瞼後10秒時点での正確な視力測定は検査員の熟練を要し,一般的な測定方法として適していない.そこで開発されたのが実用視力計である.II実用視力測定方法視力変化を連続的に測定する新しい視力検査機器として実用視力計がIshidaらにより紹介された5).Gotoらはじめに実用視力(functionalvisualacuity)は連続して視力を測定することにより視機能を評価するものであり,通常の視力検査では検出できないような「見え方の質」を評価するのに有用であると考えられる.通常の視力検査では自由な瞬目下の,ある一時点での視力を測定しており,一瞬でも見えればそれが視力として評価される.しかしこの視力が日常生活での視力にどの程度反映しているかは議論されるところである.実際,ドライアイの診療において視力検査では良好な視力が得られているにもかかわらず,「かすみ目」の訴えをしばしば経験する.読書,パソコン,車の運転などの凝視作業時にかすみ目を感じることがあり,このことは目を継続して使用することにより視力が低下する可能性を示唆している.そして,この視力の変動は開瞼中の眼表面の涙液層の状態変化に関係しているのではないかという仮説に基づき,実用視力という概念が提案された.凝視により瞬目は抑制され眼表面は乾き,涙液層は不安定になる.開瞼下では涙液層の乱れが生じることにより視力は低下すると考えられ,特にドライアイ患者で視力は著しく低下すると報告されている1,2).実際にドライアイ患者は正常者に比べて涙液の安定性が悪いという報告3)があり,Gotoらはドライアイ患者を対象に開瞼10秒後の視力を測定し,従来の視力検査で得られた視力値より低下していること,ドライアイ患者では正常者に比べ有意に低下していることを示している4).(3)???*MinakoKaido:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕海道美奈子:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室特集●前眼部四次元検査(前眼部キネティックアナリシス)あたらしい眼科24(4):401~408,2007新しい視力計:実用視力の原理と測定方法???????????????????????????????????????????????:?????????????????????????????????????????????????????????????????海道美奈子*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007は強制開瞼10秒後の一時点での視力を実用視力と定義したのに対して,実用視力計を用いることにより設定した時間内の経時的な視力変化の測定が可能になった.Ishidaらはこの実用視力計を用いて強制開瞼下で30秒間の視力変化を測定し,10秒あるいは20秒,30秒の時点の視力を実用視力とし,通常の視力検査で得られた視力値と比較している.実際には実用視力を開検10秒時点の視力に限定する必要はないが,通常の視力検査での視力値と開瞼10秒時点の視力の関係に有意差が認められており4,5),10秒時点の視力を実用視力として用いるのは妥当であると考えられる.しかし,眼表面点眼麻酔により強制的に開瞼した状態での視力は本当に集中してものを見る「凝視」という状態を反映しているのだろうか.日常生活でのヒトが感じている視力を検出するためには,もっと自然な状態での測定方法が検討されるべきである.そこで,自然状態に近いように,点眼麻酔をせずに自然瞬目下で連続的に視力を測定する方法が推奨されている.連続的に視標マークを見るという行為そのものが「凝視」であり,この状態で測定した視力がむしろ日常の見え方であると考えられる.III実用視力計実用視力計はハードディスク,モニター,ジョイスティックの3つの構造より構成されており,患者はモニターに表示されたLandolt環に応じてジョイスティックを動かし,回答する仕組みになっている(図1).視力は瞬目により正常な涙液層が生じた直後が最も良好で,その後徐々に低下するという仮説に基づいて実用視力計が開発されたため,初期型実用視力計ではモニターに表示される視標は経時的に視力が低下していくようにプログラムされていた.すなわち,視標マークは回答が不正解または無回答ごとに視力が一段階低下し,正解の場合は同サイズの視標マークが表示される.しかし,実際に測定してみるとジョイスティックの精度や患者の誤操作により回答が不正解と判定される場合があり,このため実際より低い実用視力値が結果として表示されることがわかった.バージョンアップされた最新型実用視力計では回答が不正解または無回答の場合には視標マークが大きくなるが,正解の場合には視標マークの大きさは変わらないという従来の測定モードに加えて,回答の正誤に伴い視標マークが大きくなったり小さくなったりする測定モードが追加搭載された(図2).視力測定範囲は検査距離を1m,2.5m,5mのいずれかを選択することにより,0.01から2.0の視力測定が可能である.実際の検査では,本機種を用いて手動検眼により最高矯正視力を測定し,この視力値をスタート視力として完全矯正下で実用視力の測定を開始する.モニ(4)図2視力表示の仕組みモニターに表示される視標マークに対して,1回目の回答が正解の場合は同サイズの視標マークが表示されるが,2回目の回答でさらに正解の場合には一段階小さい視標マークが表示される(矢印).不正解の回答に対しては随時,大きな視標が表示される.解正1目回答回無・解正不答回無・解正不正解2回目解正1目回解正1目回答回無・解正不正解2回目答回無・解正不解正1目回答回無・解正不解正1目回答回無・解正不答回無・解正不図1最新型実用視力計———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???ターに矯正最高視力のLandolt環の視標マークが表示され,この表示に対しジョイスティックで回答する.視標マークが表示される時間(視標表示時間)は1~5秒が選択できる.経験的に視標表示時間は2秒に設定しているが,その根拠は特にない.視標表示時間内でジョイスティックを動かした場合には,その時間が応答時間として表示され,つぎの視標マークが回答の正誤に従い表示される.設定時間内に回答できない場合には不正解とみなされて,視標表示時間後に自動的に一段階大きい視標マークが表示される.検査結果は表とグラフにより表示される(図3).表では,経時的変化に伴い被検者が回答したすべての視力値が,正解の場合は○マーク,不正解の場合は×マーク,無回答の場合は空欄になるように表示される.また,回答に要した時間も反応時間として表示される.グラフ表示では,回答が正解であった視力値のみをプロットし,(5)図3実際の実用視力結果(表とグラフ)表による結果表示では,経時的変化に伴い回答が得られたすべての視力値が表示される.回答と同時に瞬目した場合はレ点,つぎの回答との間で瞬目が生じた場合は^1,2(数字は瞬目回数)で表示される.回答の正誤は○マーク,×マークで,無回答の場合は空欄で表示される.グラフ表示では,回答が正解であった視力値のみをプロットすることにより,視力の変動を表示する(赤線).青線はスタート視力,緑線は実用視力,矢印(↓)は瞬目時点を示す.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007線でつなげることにより視力の変動が判読しやすい.さらに,検者が被検者の瞬目をチェックし,瞬目時にキーボードのキーを押すことにより瞬目時点をグラフに↓マークで表示することが可能になった.IV実用視力評価項目従来の実用視力評価方法は経時的に測定した視力の10秒時点,あるいは20秒,30秒時点の視力を実用視力として評価していた4,5).しかし,通常の視力検査で得られる視力がある一時点での視力であるのと同様に,この評価法も「開瞼後のある一時点での視力」である.これに対し,最新型実用視力計では連続的に測定して正解が得られたすべての視力の平均視力を実用視力として算出されるようになった.さらに,視力維持率(visualmaintenanceratio:VMR)が重要な評価項目として追加された(図4).この視力維持率とはスタート視力に対する実用視力の比である.視力維持率は,VMR=(2.7-FVA)/(2.7-スタート視力)の式で算出する.2.7は最小視力の対数視力であり,手動弁を小数視力0.002とした対数視力値である.視力維持率は通常の視力値に対して連続的な見え方がどの程度維持できるかというもので,視力の違う群同士の比較研究においても客観的な評価ができるようになったことでその意義は大きい6).そのほか,実用視力の標準偏差(対数表示),測定時間内の最高視力と最低視力,平均応答時間,瞬目時点の瞬目回数が表示される.平均応答時間とは回答が正解のときの応答時間を平均した値である.最高視力,最低視力の表示により測定時間内の変動の大きさ,すなわち連続的にものを見る場合の視力の安定性が評価できる.また,瞬目時点の表示が可能になり,測定時間内の合計瞬目回数も算出される.これにより,瞬目と視力変動の関係についても今後の検討が期待される.V実用視力測定の適応ドライアイ患者では眼表面の涙液層が不安定であることが示されており,また実用視力についても正常者に比べ低下していることが明らかにされている4,5,7,8)(図5,(6)=RMVの面積/で囲まれた面積図4視力維持率赤線は視力の変動であり,視力維持率は赤網部分の面積を青点線で囲まれた面積で割った値である.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???(7)0.1AVtratS49.0AVF99.0RMV図5正常眼の実用視力典型例スタート視力は1.0,経時的視力変化はほぼ横ばいで,実用視力は0.94,視力維持率は0.99である.5.1AVtratS26.0AVF77.0RMV図6ドライアイ眼の実用視力典型例スタート視力は1.5であるが,経時的視力変化の測定直後より視力は低下している.実用視力は0.62,視力維持率も0.77と低値を示している.———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.4,20076).そもそも実用視力はドライアイ眼の視機能を評価するために考案されたが,実際に通常の視力検査では検出しがたい視機能を評価するのに有用であると考えられる.さらに,ドライアイ眼に対する涙点プラグ治療の評価にも実用視力は有用であることが示されている5).涙点プラグ挿入により眼表面の涙液層が改善することがTearStabilityAnalysisSystem(TSAS)を用いて示されており,この涙液層の安定性の増加が実用視力の改善に影響している可能性が示唆される3)(図7a,b).また,LASIK(laser????????keratomileusis)後の視力の評価においても実用視力は有用である.LASIK後の視力は通常非常に良好であるにもかかわらず,「何となくかすむ」という訴えがある.TanakaらはLASIKを受けたドライアイ患者とドライアイ疑わしい患者の2群(8)図7aBUT(tear?lmbreakuptime)短縮型ドライアイの涙点プラグ挿入前の実用視力とTSAS視力は測定直後より低下し,ある時点でほぼ横ばいに維持されている.BUI(breakupindex)は37.4%であった.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???(9)について術後1日,1週間後の実用視力を比較している9).両群とも術後の視力は良好であるにもかかわらず,ドライアイ確定患者では術後1日の実用視力は低下しており,「何となくかすむ」という自覚症状を裏付ける結果を示している.さらに,Stevens-Johnson症候群患者の視機能評価においても実用視力検査は有用である.KaidoらはSte-vens-Johnson症候群とSj?gren症候群,正常者の実用視力を比較している6).これまで涙液機能の低下に伴い実用視力は低下するとされていたが,本報告で対象となった症例において,Stevens-Johnson症候群はSj?gren症候群に比べ良好な涙液機能であるにもかかわらず,実用視力は悪化していた.このことは単に実用視力は涙液機能のみに影響されているのではなく,その他の要因が実用視力に影響していることが示唆された.そして臨床所見と実用視力との関係において,角膜混濁と角膜への血管侵入という2つの臨床所見が実用視力に有意に関係があることが明らかにされた.このことは,実用視力が涙液機能との関係だけでなく,他の要因にも影響される可能性を示し,他の疾患の視機能を評価するのにも有効図7bBUT(tear?lmbreakuptime)短縮型ドライアイの涙点プラグ挿入後の実用視力とTSAS視力は経時的にほぼ維持されており,BUI(breakupindex)も95.8%と改善している.———————————————————————-Page8???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007(10)であることを示唆している.VI今後の展望実用視力計により従来の視力検査では検出できない視機能の低下を評価できるようになったことは画期的である.最新型実用視力計では実用視力値に加え視力維持率の算出を可能にしたことにより視力の違う群との比較も可能にした.元来,ドライアイの視機能評価のために実用視力という概念が考案され,正常眼に比べドライアイ眼では実用視力が低下していることが明らかにされた4,5).しかしSj?gren症候群ほど涙液機能が低下していないStevens-Johnson症候群で実用視力がより低下していることが示されたことより,涙液機能に関連した疾患の視機能評価だけでなく,今後はもっと広い範囲での実用視力の応用が期待される.単に実用視力値や視力維持率に焦点を置くのではなく,瞬目回数と視力の関係や,視力の変動など実用視力の応用範囲は拡大されることが期待される.文献1)TsubotaK,NakamoriK:Dryeyesandvideodisplayter-minals.????????????328:584,19932)NakamoriK,OdawaraM,NakajimaTetal:Blinkingiscontrolledprimarilybyocularsurfaceconditions.???????????????124:24-30,19973)KojimaT,IshidaR,DogruMetal:Anewnoninvasivetearstabilityanalysissystemfortheassessmentofdryeyes.?????????????????????????45:1369-1374,20044)GotoE,YagiY,MatsumotoYetal:Impairedfunctionalvisualacuityofdryeyepatients.???????????????133:181-186,20025)IshidaR,KojimaT,DogruMetal:Theapplicationofanewcontinuousfunctionalvisualacuitymeasurementsys-temindryeyesyndromes.???????????????139:253-258,20056)KaidoM,DogruM,YamadaMetal:FunctionalvisualacuityinStevens-Johnsonsyndrome.???????????????142:917-922,20067)LizZ,P?ugfelderSC:Cornealsurfaceregularityandthee?ectofarti?cialtearsinaqueoustearde?ciency.??????????????106:939-943,19998)RiegerG:Theimportanceoftheprecornealtear?lmforthequalityofopticalimaging.???????????????76:157-158,19929)TanakaM,TakanoY,DogruMetal:E?ectofpreoper-arivetearfunctiononearlyfunctionalvisualacuityafterlaserinsitukeratomileusis.???????????????????????30:2311-2315,2005

序説:前眼部四次元検査(前眼部キネティック アナリシス)

2007年4月30日 月曜日

———————————————————————-Page1(1)???0910-1810/07/\100/頁/JCLS眼科検査は日々進歩を続けているが,診断効率をさらに上げるために,より多面的な角度から情報を得ることが重要である.その好例として,OCT(光干渉断層計)による網膜の三次元表示があげられるが,この三次元を超えるファクターとして「時間」がある.従来,眼科検査ではある瞬間の画像や検査結果をデータとしてきたが,新たに時間の要素を取り込み,よりダイナミックに解析しようとする動きが,オキュラーサーフェスを中心に広がりつつある.たとえば,視力測定を考えてみると,従来まではある一瞬だけの最高視力をその個人の視力と規定してきた.しかしながら,ドライアイにおいては開瞼中に涙液層が破綻し,光学面が不整となる結果として,開瞼中に視力が低下することがわかってきた.もちろん,車の運転やVDT(visualdisplayterminal)作業中でも瞬目数が減少して開瞼時間が長くなることにより視力は低下する.そこで最近,一定時間における眼表面,特に涙液層の安定性を評価するいくつかの方法が考案されている.ここでは,どのくらいの時間,同一の視力が保持できるかという実用視力の考え方を,海道美奈子先生,石田玲子先生(いしだ眼科,慶應義塾大学医学部・眼科)に,連続したトポグラフィー検査によって涙液の安定性を評価するTSAS(TearStabilityAnalysisSystem)のコンセプトを五藤智子先生(鷹の子病院・眼科)に解説していただく.また,涙液の動態については,古くから京都府立医科大学・眼科の横井則彦先生がDR-1?を用いて研究されてこられたが,最近,この画像を動画として解析する方法が確立しつつある.これこそ,まさにキネティックアナリシス,時間軸を用いた手法であるが,この先駆的な領域を開発しつつある保坂絵里先生・後藤英樹先生(鶴見大学歯学部・眼科)に基本原理の解説を行っていただく.一方で,横井則彦先生も,その動画情報を用いて涙液のレロロジー解析という画期的な手法を開発された.2006年2月の角膜カンファレンスで,この発表を最初に聞いた時の感動は忘れられない.静止画像でなく,動画画像の変化率を求めることによって涙液の性状をたった一つのパラメーターで表現するという,これからの検査機器の方向性をも示唆する素晴らしい考え方だったからだ.これについて横井先生・山田英明先生にわかりやすく解説をしていただく.そして,最後は古くも新しい課題である温度測定である.現代医学がこれだけ進歩してもまず病院で測定するのは体温である.温度は身体の状況を正直に反映する.それならば,臓器レベル,組織レベルではどうなのか?これまでなかなか臨床応用がむずかしかった分野ではあるが,眼科専用の機器を試作し,時間軸の考え方を導入した新しい方法論が確立されつつある.これについては,川?史朗先生ら(愛媛大学医学部・眼科)に解説をしていただく.今までの静止画による診断ではなく,時間軸の概念を加えて,ダイナミックに画像解析することにより,より機能的な診断が可能となる.そうした新しい四次元検査の萌芽と未来への可能性を今回の特集から知っていただければ幸いである.*KazuoTsubota:慶應義塾大学医学部眼科学教室**YuichiOhashi:愛媛大学医学部眼科学教室●序説あたらしい眼科24(4):399,2007前眼部四次元検査(前眼部キネティックアナリシス)??????????????????????????????????????????????坪田一男*大橋裕一**

眼科医にすすめる100冊の本-3月の推薦図書-

2007年3月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLSこの連載で意外と科学関係の書籍が紹介されていないようなので,今回は科学の面白さ,そして科学研究の面白さを教えてくれる本を紹介したいと思う.本書は講談社科学出版賞を受賞した作品であり,科学読み物のなかでは珍しく一般の読者にも広く読まれている本であると聞く.最近ではスローライフなどの言葉も聞かれるが,逆にいえば私たち現代人は時間に縛られて生活しているということを誰しも強く感じている.時には時間の束縛から逃げ出したくもなろうか.ところが,よく考えればそもそも生物にとって時間とはとても重要なものであって,むしろ現代人以上に昔の人類にとって,あるいは人類以外の生物にとっても,時間や季節とともに生活することが必要であったはずである.なぜなら地球上には昼と夜があり,春夏秋冬の季節がある.生物が生きてゆくうえで昼と夜の生活リズムをつくり,自分に有利な時間帯で休んだりエサを探したりの行動をし,季節に合わせて活発に活動したり冬眠をしたり,特定の季節に生殖活動を行うなど,その重要性は説明するまでもないだろう.それゆえ生物にとって時間を知ることはとても重要なことであるのは間違いない.それでは,生物はどのようにして時間を知ることができるのだろうか.時間を知る方法としてはもちろん太陽が昇ったり沈んだりということが最も考えられるが,実はそれだけではない.生物は自らの体内で時間を正確に知る体内時計(生物時計)を備えているのである.その証拠にマウスなどをまったくの暗闇で生活させてもマウスはほぼ一日のリズムを守って生活することがわかっている.その他の例として,セミなどはまだ暗いうちに土の中から這い出し,明け方には羽化している.私たち自身も時差ぼけというようなことで昼夜とは関係なしに体のリズムができているということは実感しているはずである.これらはすべて生物時計の働きで行われている.生物時計がどれほど重要かということは,地球上のほとんどあらゆる生物が生物時計の仕組みをもっていることからもうかがうことができる.しかも驚くべきことにその仕組みはヒトとショウジョウバエとでほとんど変わることがないという.ショウジョウバエとヒトが進化のうえで別れたのは7億年以上前とされているので,生物時計は7億年以上の進化の壁を越えて受け継がれているわけである.また,生物時計は体内で起こる多くのことを制御しているが,私たち人間にとって最も生物時計との関連を感じることができるものは睡眠であろう.睡眠もまた身近でありながら多くの謎に満ちた行動であり,大変魅力的な研究分野である.誰もが興味をもつであろう生物時計と睡眠という2つが本書のテーマである.著者である粂和彦氏は東京大学医学部を卒業後,分子生物学の分野で第一線の研究を続ける医学研究者であり,そのかたわら内科の診療を行う医師でもある.最近では「眠らないハエの研究」でメディアにも登場しているのでご存知の読者もあるかもしれない.本書のなかで粂氏は生物時計,睡眠に関する研究の最近の進歩を非常にわかりやすく,かつ面白く説き明かしてくれる.粂氏自身がそれらの研究に参加し,多くのすばらしい業績をあげた経験を織り込んでの話だけに,その語りは臨場感にあふれている.そういうとノーベル賞学者のワトソン博士の著書「二重らせん」にあるような研究者同士の熾烈な競争を描いたものを想像されそうだが,本書では研究者間の競争を描いているわけではなく,それぞれの研究者の業績を公平に,わかりやすく述べていて,その視(75)■3月の推薦図書■時間の分子生物学─時計と睡眠の遺伝子─粂和彦著(講談社現代新書)シリーズ─71◆吉田宗徳名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007点はあくまでも純粋に研究を楽しむ者のそれであると感じられるのも好感がもてる.あまり内容を詳しく紹介してしまうと実際に本書を手にとられてからの楽しみを損なう恐れがあるが,ごく一部を以下に紹介させていただく.まず生物時計をつかさどる仕組みであるが,驚くべきことにこの十数年ほどの間に生物時計の仕組みはほぼ完全に解明されてしまった.それも,その仕組みとは次のように非常に単純なものであった.ある種の蛋白質が細胞内で産生され,その産生にネガティブフィードバックがかかることによって,蛋白質の量がある周期で増減する.つまり,振り子時計の振り子と同じように一定周期を刻む役をするのである.この周期がちょうど地球の自転と同じ24時間周期になっているのである.しかし,一つひとつの細胞が勝手に時を刻んでいては全体の調和が取れない.これをつかさどり全体をまとめている部署が人間では視交差上核という脳のちょうど視交差の上の部分にある.生物時計は朝の光の刺激によってリセットされるので,ここにあることは都合が良いのだろう.ちなみに本書のなかには生活リズムが狂ってしまったような場合にどのようにすれば狂ってしまった生物時計をもとに戻すことができるかとか,どうすれば時差ボケを最低限に済ませられるか,といったことのヒントが示されているので,興味のある読者はぜひ試してみていただきたい.睡眠に関しても大変面白いことがたくさん学ばせてもらえるが,一つ紹介するとすればナルコレプシーに関する記述だろう.ナルコレプシーは日中などに突然睡眠の発作を起こしてしまう病気として知られる.ナルコレプシーの原因としてオレキシンという神経伝達物質の受容体に異常を起こしていることが1999年に突き止められた.これはそもそも遺伝的にナルコレプシーを起こすイヌを用いて10年かかって見つけられたものである.一方,別のグループではオレキシンのノックアウトマウス(オレキシンが体内で働かなくなるように遺伝子を操作されたマウス)を用いて,オレキシンが働かないとナルコレプシーを起こすことをほぼ同時期に発見した.このように科学の大発見というものはしばしばまったく別のアプローチから同じ結果を得ることがあり,また,偶然にも同時にゴールにたどり着くことがあるのは不思議である.先にも述べたようにあまり内容を詳しく紹介したくはない.あとは読者の皆さんがご自分でこの奥深い世界を自由に楽しんでいただきたい.内容の面白さは保証する.また,現在研究に励んでいる眼科医,あるいは今後研究を志す眼科医にはぜひ本書を手に取っていただきたい.実は粂氏は私の古い友人でもある.その人柄どおり,あくなき科学への興味を素直に研究にぶつけている粂氏の姿勢は本書から十分感じ取っていただけるものと思う.同時に本書を通じて研究のすばらしさ,研究の楽しさに触れることができるものと確信する.(76)☆☆☆

硝子体手術のワンポイントアドバイス46.硝子体出血をきたした網膜分離症に対する硝子体手術(中級編)

2007年3月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLSはじめに先天性網膜分離症は網膜硝子体ジストロフィの一つで,伴性劣性遺伝形式をとり,網膜神経線維層で感覚網膜が内層と外層に分離する疾患である.本疾患は車軸状の黄斑部網膜分離に加えて,周辺部網膜分離が約50%の症例に合併するとされている.周辺部網膜分離は耳下側赤道部付近に薄く半透明な隆起として認められ,しばしば円形あるいは楕円形の内層裂孔を伴っている.ときに,この部位の架橋網膜血管が破綻して硝子体出血をきたすことがある.●硝子体出血をきたした網膜分離症に対する硝子体手術出血は自然吸収する場合もあり,超音波Bモードで網膜?離が生じていなければ,しばらく経過をみることが多いが,出血が消退しない場合には硝子体手術の適応となる.この際,分離した網膜内層と架橋網膜血管を硝子体カッターで切断し,その断端を確実に凝固止血することにより再出血を予防する方法が一般的と考えられ(73)る.網膜を内層ごと切除する理由としては,分離した内層網膜は外層網膜とシナプスの連絡が絶たれているため,たとえ内層を温存し復位できても,その部分の視機能は回復しないこと,網膜分離部の網膜硝子体癒着は非常に強固であり後部硝子体?離の作製は困難であること,などがあげられる.また,網膜分離症の進行を予防する目的で,分離境界部に網膜光凝固を加えることもある.ただし,網膜光凝固は網膜外層裂孔を惹起する可能性があるとされ賛否両論がある.●自験例の術中所見筆者らが経験した3歳,男児の症例(左眼の硝子体出血)では,後部硝子体は全象限で未?離であったが,上方の非網膜分離部は硝子体カッターにて比較的容易に後部硝子体?離を作製することができた.しかし,下方は硝子体と内層網膜の癒着が強固であったため,硝子体カッターで内層網膜ごと切除した(図1).架橋網膜血管を切除する際の出血量はわずかであり,血管の断端に眼内ジアテルミー凝固を施行した(図2).網膜分離は下方の血管アーケードまで進行しており,これ以上の進行を予防するために網膜内層切除断端の健常側に眼内光凝固を施行した.術後,右眼アイパッチによる弱視訓練にて術2カ月後で左眼視力0.2(術前光覚弁)に改善した(図3)1).文献1)産賀真,植木麻理,村井克行ほか:硝子体出血をきたした先天性網膜分離症に対して硝子体手術を施行した1例.眼科手術19:381-384,2006硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載?46硝子体出血をきたした網膜分離症に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図1術中所見(1)下方は硝子体と内層網膜の癒着が強固であったため,硝子体カッターで内層網膜ごと切除した.図2術中所見(2)架橋網膜血管を切除する際の出血量はわずかであり,血管の断端に眼内ジアテルミー凝固を施行した.図3術後左眼眼底写真術2カ月後,左眼視力は0.2に改善した.