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HLA分子と全身疾患

2006年12月31日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSれる窪みが5~7個存在し,そこで抗原ペプチドと結合する.ポケットを構成するアミノ酸はHLA分子の各タイプ(対立遺伝子:アリル)により異なっているため,各HLAアリルと結合する抗原ペプチドは,その抗原ペプチドのアミノ酸配列により,HLA分子との結合性(親和性)が大きく異なってくる(図2).各HLAアリルは,特定の部位に特定のアミノ酸をもった抗原ペプチドと親はじめにHLA(humanleukocyteantigen)は,ヒトの主要組織適合抗原複合体(majorhistocompatibilitycomplex:MHC)である.HLA分子は免疫応答において重要な役割を担っている細胞膜蛋白であるが,つぎにあげるように,いくつかの側面をもつ.①文字通りに白血球抗原とよべば,白血球の型としてとらえることもできるが,②臓器移植の治療成績や拒絶反応に大きく影響することから移植抗原ともよべる.③機能的には自己・非自己の認識を行う免疫応答の中心的役割を担っている.④それ以外に,膠原病をはじめとする自己免疫疾患(図1,表1)をはじめとするさまざまな疾患の直接的な発症要因となる,もしくは間接的に疾患のマーカーとなることがある.今回,HLA分子と全身疾患との関連について,前半では免疫学の基本的な内容について,後半では膠原病を中心に,各疾患の病態におけるHLA分子の果たす役割について述べたい.IHLA分子と疾患の相関機序1.HLAアロ抗原特異性(HLA型による免疫応答の個人差)HLA分子と疾患の相関機序として,特定のHLA型とペプチド抗原の親和性の強弱が考えられる.HLAはaへリックスとbシートにより環状の構造をとり,そこに抗原ペプチドを結合し,T細胞に情報を伝える(抗原提示).このHLA分子の溝にはさらにポケットとよば(33)????*TakahikoHayashi&NobuhisaMizuki:横浜市立大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕林孝彦:〒236-0004横浜市金沢区福浦3-9横浜市立大学医学部眼科学教室特集●組織適合抗原(HLA)のすべてあたらしい眼科23(12):1547~1557,2006HLA分子と全身疾患?????????????????????????????????????????????????????????????林孝彦*水木信久*図1全身臓器と自己免疫疾患———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006(34)表1HLAと全身疾患との相関疾患相関コメント膠原病慢性関節リウマチDR4(Dw4,Dw14サブタイプ)DR1,DR10(白,東)DRB1*01,0401,0404(白)DRB1*0405,1001(東)DRB1遺伝子70~74番目のアミノ酸(Glu-Arg-Arg-Ala-Ala),Epstein-BarrvirusのglycoproteinB:???????のHspDnaJとのMHCmimicryの可能性若年性関節リウマチDR4,多関節型DRw6(白)少関節型DR5(女児),HLA-B27(男児)全身性紅斑性狼瘡(SLE)DR2,DR3,DQ3(白),DQB1*0602-DRB1*1501(日),DQB1*1501,1503(黒)HLAクラスⅢ抗原の一つをコードするC4A,C4B遺伝子の片方または両方が発現しない,自己抗原:ds-DNASj?gren症候群B8,DR3(白),DR53(日)膠原病類縁疾患Beh?et病B*5101(東,白)B*5102もわずか存在.シルクロード辺縁諸民族,HLA-B遺伝子63番目Asnと67番目Phe,MICA遺伝子A6アリル強直性脊髄炎B27各民族で患者の85~96%,特定のアリルとの相関なし,種々のグラム陰性腸内微生物とのMHCmimicry,B27トランスジェニックラットは自発的に本疾患類似症状発症Reiter症候群B27(白)強直性脊髄炎と同様急性虹彩毛様体炎B27白:30~88%,日:20~40%,黒:26%強直性脊椎炎と同様,またIRBPとMHCmimicryの可能性血管炎川崎病B51(白),B54(日)高安病B52,DQ1(日)近年ではHLA近傍のMICAとの遺伝子との関連性の指摘消化器疾患セリアック病B8,DR3,DR7(白)DQ2(DQA1*0501,DQB1*0201)(白)皮膚の疱疹状皮膚炎も同様のハプロタイプと相関自己免疫性肝炎DR3(白),HLA-DRB1*0405(DR4)(日)肝細胞表面のHLAクラスⅡ分子の発現の指摘皮膚疾患乾癬性関節炎B27陽性率は40%尋常性乾癬Cw6天疱瘡DQA1*0101,DQB1*0503(ユダヤ人)DR4,DR6,DQ5(白)DR5-DQ7,DR6-DQ5(日)地中海沿岸とユダヤ人に多いDR4またはDR6で白人患者の95%を占めるがDQが第一義的関与の可能性が強い,DQB1遺伝子57番目Asp内分泌疾患インスリン依存性糖尿病ⅰ)DQA1*0301-DQB1*0302ⅱ)DQA1*0302-DQB1*0302ⅲ)DQA1*0301-DQB1*0402(日)ⅳ)DQA1*0302-DQB1*0303(日)…※ⅰ)~ⅲ)はDQA1*03アリルとDQB1遺伝子57番目が非Asp(アスパラギン酸)のアリルの組み合わせ(※ⅳ)のようにAspのケースもあり)Basedow病B8,Cw7,DR3(白)B35,B44,DR5(日)DQA1*0102(白)DPB1*0501(日)自己抗原:TSHreceptor橋本病DR5(白,日),DQA1*0301,0302(白),DQB1*0201,0301(白)自己抗原:thyroglobulin自己反応性T細胞を抑制するサプレッサーT細胞の機能異常腎疾患抗糸球体基底膜症候群DR2(白)神経疾患多発性硬化症DR2(白),DRB1*1501(白),DRB5*1501(白)DPA1*0202,DPB1*0501(日)DQA1*0102,0103,0501の一つとDQB1*0602,0603,0604,0302,0303の一つの組み合わせ,EAE(MBPが標的抗原の自己免疫疾患動物モデル)と症状類似重症筋無力症B8(白),DR3(白),DQ3(日)DR9-DQ9(日),DR13-DQ6(日)自己抗原:acetylcholinereceptor感染症AIDS(早い進行)B7,B35,Cw7(白)(遅い進行)DQB1*0605眼疾患Vogt-小柳-原田病,交感性眼炎DR4,DQ4,DR53DRB1*0405,DQA1*0301,DQB1*0401,0402(日)日本人以外の民族ではDRB1*0405アリル以外のDRB1*04アリルと相関ありサルコイドーシスDR3(白),DR5,DR6,DR8,DR52DRB1*1101,1201,1401,0802(日)DRB1遺伝子11番目Ser散弾状網脈絡膜症A29(白)日本人はA29と相関せず,HLA-A遺伝子62番目Leuと63番目Gin白:白人,東:東洋人,黒:黒人,日:日本人.NODマウス:non-obesediabeticmouse(I型糖尿病自然発症モデルマウス),GOD-65:glutamicaciddecarboxylase65,CPH:carboxypeptidaseH,JunB,ICA512:膵細胞自己抗原,IPBP:inter-photoreceptorretinoid-bindingprotein,EAE:experimentalautoimmuneencephalomyelitis(実験的自己免疫性脳脊髄炎),MBP:myelinbasicprotein,MICA:MHCclassIchain-relatedgeneA,C4:complementcomponentC4(補体成分C4),ds-DNA:doublestrandDNA(二本鎖DNA).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????和性が強く,この特定のアミノ酸をHLAモチーフという.このように各HLA分子は独自のHLAモチーフをもつため,私達が,どのHLAアリルを所有するかによって,特定の抗原ペプチドとの親和性は大きく異なってくる.この所有するHLAアリルの相違(個人差)により,疾患のかかりやすさが異なってくるために,特定の疾患を発症しやすい人と,発症しにくい人が出てくると考えられる.2.分子擬態(molecularmimicry)説これは細菌やウイルスなどの外来抗原の抗原分子の一部と自己の細胞の一部(自己抗原)に分子相同性があるため,外来抗原に対し産生された抗体が,自己抗原にも反応してしまうと考えられている.具体的には,a.外来抗原とHLA分子に相同性がある場合,b.外来抗原と自己抗原に相同性がある場合,c.外来抗原と自己抗原のモチーフに相同性がある場合の3通りが想定されている.a.外来抗原とHLA分子の相同性(図3)強直性脊椎炎はHLA-B27抗原と顕著に相関するが,HLA-B27分子と肺炎桿菌の窒素分解酵素(ニトロゲネース)の間にはグルタミン(Q),スレオニン(T),アスパラギン酸(D),アルギニン(R),グルタミン酸(E),アスパラギン酸(D)という共通のアミノ酸配列が存在する.そのため,この外来抗原ペプチドに対して産生された抗体が,自己抗体として自己のHLA-B27分子とも交叉反応してしまうと考えられている.HLA分子も自己抗原であるので,厳密にはbと同じ範疇に含まれる.(35)図2HLAクラスⅠ分子のポケットと抗原ペプチドの結合(a)はHLAクラスⅠ分子のポケットと抗原ペプチドの結合の様子である.T細胞は自己のHLAと結合した抗原ペプチドのみを認識する(alteredself説).クラスⅠ分子にはペプチド結合溝の中にさらにポケットとよばれる6つの窪み(A~Fポケット)が存在する.6つのポケットにはまり込む形で9個のアミノ酸からなる抗原ペプチドが結合する.多くのクラスI分子ではB,CポケットおよびFポケットが抗原ペプチド抗原との結合性(親和性)に重要である.(b),(c)に示すように,Bポケットは抗原ペプチドの2番目のアミノ酸残基(P2)とFポケットは9番目のアミノ酸残基(P9)と結合するため,とても重要でアンカー残基とよばれる.このように各HLA分子によって,結合できる抗原ペプチドには一定の特徴(偏り)があり,これをHLA結合モチーフという.同様にHLAクラスⅡ分子にも数個(一般に5つ)のポケットが存在する.クラスII分子に結合する抗原ペプチドにも各クラスII分子により一定の特徴(モチーフ)がある.クラスⅡ分子に結合するペプチドは平均すると15アミノ酸で,長いのが特徴である.さらに,ペプチドとHLA分子との結合力もクラスⅠ分子ほど強固ではない.P1P5P6P7P8P9P4CNCβα1N末端ペプチドP1P2P3P4P5P6P7P8P9HLA-A*0201WLSLLVPFVLLFGVPVYVILKEPVHGYHLA-A*6801KTGGPIYKREVAPPEYHRAVAAVAARRHLA-B7GPGPQPGPLIPQCRLTPLPPPIFIRRLHLA-B27RRVKEVVKKGRIDKPILKRROKEIVKKP1P3P4P5P6P7P8P9P2ABDCEFHLANCP2P3BACDEF(a)(b)(c)アンカー残基ペプチドモチーフ123458967———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006b.外来抗原と自己抗原の相同性(図4)インスリン依存性糖尿病において,自己抗原である膵臓b細胞のグルタミン酸デカルボキシラーゼとコクサッキーウイルスは,プロリン(P),グルタミン酸(E),バリン(V),リジン(K),グルタミン酸(E),リジン(K)という共通のアミノ酸配列が存在する.したがって,外来抗原と自己抗原のアミノ酸配列の相同性により,外来抗原ペプチドに対して産生された抗体が,自己抗体として自己抗原ペプチドとも交叉反応してしまうと考えられている.c.外来抗原と自己抗原のモチーフの相同性(交叉反応)(図5)外来抗原と自己抗原の間に分子相同性はないが,両者にHLA結合モチーフが類似しているペプチドが存在するために,T細胞が交叉反応を起こしてしまうと考えられている.このような場合も広義のmolecularmimicryといわれる.本仮説は多発性硬化症(MS)において示唆されている.MSでは,自己抗原であるミエリン塩基性蛋白(myelinbasicprotein:MBP)と1型単純ヘルペスウイルス(herpessimplextypeⅠ:HSV-1),Epstein-Barrウイルス(EBV)やアデノウイルス(adenovirus:AdV)などの間に交叉反応があるといわれる.MBPとこれらのウイルスの間に分子相同性のあるペプチドは存在しないが,HLAクラスⅡ抗原との結合性(親和性)およびT細胞への反応性(抗原提示)に交叉反応性があり,それが疾患発症に関与すると考えられている.このように,アミノ酸配列が異なっているペプチド間で広義のmolecularmimicryが生じる可能性もある.3.HLA連鎖不平衡(遺伝子マーカー)説HLA遺伝子領域には,補体(C2,C4),リンフォトキシン,腫瘍壊死因子(TNF)-aなど,免疫系にとって重要な遺伝子が多数存在する.HLA遺伝子はこれらの遺伝子と連鎖し,ハプロタイプを形成しているため,特定の疾患があたかもHLA遺伝子と相関しているようにみえることがある.すなわち,真の疾患遺伝子がHLA分子の近傍にあり,HLA遺伝子が疾患のマーカーになっていることがある.たとえば,C2,C4欠損の患者は全身性紅斑性狼瘡(SLE)様症状を呈することがある3,4).またTNF遺伝子には多型性があり,ある型のTNF遺伝子は自己免疫疾患と相関する.一方,抗糸球体基底膜(抗GBM)病のように,抗原抗体反応を中心とする機序で発症する疾患であるが,近傍のHLA-DR2との相関が報告されている5).II自己免疫疾患発症とHLA分子正常な個体は,自己反応性クローンが自己抗体産生をしないような調節機構が働いている.しかし,自己免疫疾患では,自己抗体が高頻度に認められる.抗体産生のための免疫学的な応答は複雑で,自己免疫疾患の発症要因も一義的に解釈できるものではない.ここでは自己免疫疾患発症の機序として,代表的な3つの説について述べてみたい1).(36)図3強直性脊椎炎における外来抗原ペプチド(肺炎桿菌窒素分解酵素)とHLA-B27分子の相同性肺炎桿菌(窒素分解酵素)HSV-1図5多発性硬化症における外来抗原ペプチド(HSV-1ウイルスペプチド)と自己抗原ペプチド(ミエリン塩基性蛋白:MBP)のモチーフの相同性コクサッキーウイルス図4インスリン依存性糖尿病における外来抗原ペプチド(コクサッキーウイルスペプチド)と自己抗原ペプチド(グルタミン酸脱炭酸酵素)の相同性———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????1.分子擬態(molecularmimicry)説前述したように外来抗原とHLA分子の相同性,外来抗原と自己抗原の相同性,外来抗原と自己抗原のモチーフ相同性などにより,免疫寛容が破綻して自己免疫疾患が発症することがあり,その発症にはHLA分子が深く関わっている.2.T細胞バイパス説免疫系の発達の過程では,胸腺(T細胞の場合)と骨髄(B細胞の場合)において,自己と強く反応するものは排除され(負の選択),自己と弱く反応するものが生き残り(正の選択),自己MHC分子と反応がないものは死滅する.正常な個体では,中枢性免疫寛容(負の選択)と,末?性免疫寛容が存在する.末?組織には負の選択を免れて,自己抗原に反応するB細胞,T細胞が残存するが,末?性免疫寛容のため,アナジー(不活化)の状態に陥っているか,調節性T細胞によって抑制されているため,通常,自己免疫反応を起こすことはない.末?性免疫寛容を破綻させるものに,T細胞バイパスがある.これは,T細胞の活性化に不可欠である補助シグナルを誘導するための一つの方法である.通常では,自己抗原にはB細胞エピトープとT細胞エピトープが存在するが,B細胞によって取り込まれ,T細胞に抗原提示された場合には,補助シグナルを出すことはなく,免疫反応は惹起されない.しかし,薬剤やウイルス感染,紫外線などにより,自己抗原が変性をきたすことがあり,このような場合,自己抗原と類似部分は自己反応性B細胞に取り込まれ,自己抗原と異なる部分をヘルパーT細胞に提示して,補助シグナルも出してしまうため,B細胞により,自己抗体が産生されてしまう(図6).3.隠れた自己抗原の曝露生体内には眼や精巣などのように,通常の免疫系から隔離された場所,いわゆる免疫特権をもつ場所がある.これらの組織内には免疫系に曝されていない多くの隠れた自己抗原があることが知られている.すなわち,組織中にとどまっている間は,免疫寛容を獲得しているが,組織が傷害を受けて,組織から放出されるとその自己蛋白に対する自己抗体が産生されてしまうことがある.1956年Dresslerによって発見された,Dressler症候群2)は,心筋梗塞後,心筋細胞に対する自己抗体が産生されてしまい,それが引き金となり,多彩な症状を呈する疾患である.眼科領域では,眼外傷後の交感性眼炎は本仮説により発症すると考えられている.後述するが,インスリン自己免疫症候群(insulinautoimmunesyndrome:IAS)も同様の機序で発症する.メチマゾールやグルタチオンといった薬剤(還元剤)を内服することによりインスリンa鎖とb鎖のジスルフィド結合が解離され,このペプチドが直鎖状ペプチドとして生体内に大量に放出してくることにより,本来免疫系から隔離されていたこの自己ペプチドが抗原提示さ(37)ウイルス・紫外線・薬剤による修飾自己抗体産生⇒自己免疫疾患発症図6T細胞バイパス説自己免疫疾患発症の機序として,自己抗原の変性による免疫寛容(トレランス)の破綻機序が考えられる.通常では,自己抗原にはB細胞エピトープとT細胞エピトープが存在するが,B細胞によって取り込まれ,T細胞に抗原提示されても補助シグナルを出すことはなく,免疫反応は惹起されない(免疫寛容).しかし,薬剤やウイルス感染,紫外線などにより,自己抗原が変性をきたすことがあり,このような場合,自己抗原と類似部分は自己反応性B細胞に取り込まれ,自己抗原と異なる部分をヘルパーT細胞に提示して,補助シグナルも出してしまうため,B細胞により,自己抗体が産生されてしまう(免疫寛容の破綻).———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006れ自己免疫が発動されてしまうと考えられている.また,通常はHLAクラスⅠ分子しか発現しない細胞がHLAクラスⅡ分子を発現することによって,ヘルパーT細胞の攻撃をうけることがある.代表的なものとして,自己免疫性肝炎の肝細胞,Graves病の甲状腺細胞などがある.III各疾患におけるHLA分子の関与をどう評価するか?特定の抗原に対する免疫系の反応性は,おおむねT細胞レベルで決定される.T細胞には大きく分けて,CD8陽性のキラーT細胞(CTL)と,CD4陽性のヘルパーT細胞(Th)がある.CTLはMHCクラスⅠ分子と結合した抗原ペプチドを認識し,細胞傷害活性を有する.Thには細胞性免疫を誘導するTh1細胞と,液性免疫を誘導するTh2細胞がある.Thは,免疫応答を増強,または抑制するといった,免疫系の司令官として働いている.たとえば,ウイルス抗原などに反応するCTLは,Th1細胞非存在下では活性化されない.B細胞は,二次免疫応答では抗原提示細胞(antigenpre-sentingcell:APC)として機能するが,通常は抗体を産生する役割を担っている.しかし,B細胞の抗体産生分子は,ほとんどすべての抗原で,Th2細胞の助けが必要である.このように,ThとMHCクラスⅡ(ヒトの場合にはHLAクラスⅡ分子)との相互作用が免疫反応の中心的役割を担っている(図7).しかし,注意しなくてはならないのは,その特定のHLAアリルを所有していれば,必ずその疾患を発症するということではない.むしろそのHLAアリルを所有している人の大多数は,その疾患を発症しておらず,そのなかのほんの一部分の人がその疾患を発症しているにすぎない.多因子疾患になればなるほど,一つの疾患感受性遺伝子の寄与は小さくなる.このように,ある遺伝子型をもつ個体が,その疾患を発症する確率のことを浸透率という.たとえば,HLA-B51抗原は日本人の約16%の人(約1,500万人)が保有している抗原であるが,そのなかでBeh?et病を発症する人はほんのわずか(1万人程度)にすぎない.すなわち,Beh?et病の疾患感受性遺伝子の一つと考えられるHLA-B*51アリルの浸透率は約1/1,500とかなり低い.このように多くの多因(38)図7免疫系の概要生体防御機構における要は,免疫反応における自己と非自己の識別である.2経路(外来抗原,内在性抗原)により提示された抗原は2種類のT細胞レセプター(キラーT,ヘルパーTレセプター)により認識され,最終的に非自己抗原感染細胞を細胞性傷害や抗体で破壊される.また,癌化した細胞はNK細胞やNKT細胞により破壊される.TCR(Tcellreceptor):T細胞受容体.BCR(Bcellreceptor):B細胞受容体.GPI(glycosylphosphatidylinositol):グリコシルホスファジチジルイノシトール.細胞膜表面に存在する糖脂質で,補体系の制御を行っている.CD1d:抗原提示細胞のもつ非典型的MHCクラスI分子の一つで,ナチュラルキラーT細胞のTCR(T細胞受容体)と結合する.NK(naturalkiller)細胞:ナチュラルキラー細胞.自然免疫を担う細胞の一つであり,バクテリアやウィルスなどの非自己,癌細胞などの変質した自己を攻撃する.体内のリンパ球の約15%を占める.NKT(naturalkillerT)細胞:ナチュラルキラーT細胞.生体内に0.05%しか存在せず,NK細胞とNKT細胞の両方の特徴をあわせもっている.TCRNKBBCRNKTBGPICD1dBCRTCRGPIHLA自己HLA分子+非自己抗原———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????子疾患では,浸透率の低い遺伝子型を多数保有することによって,疾患発症に至ると考えられている.─全身疾患とHLA分子の相関─代表的疾患とHLA分子の関与を表にまとめてみた(表1).以下,代表的な疾患について概説してみる.I膠原病および類縁疾患1.慢性関節リウマチ(rheumatoidarthritis:RA)慢性関節リウマチは末?関節を対称性に侵し,組織破壊をきたす疾患である.有病率は約1%である.強膜炎や周辺部角膜潰瘍,Sj?gren症候群(RAの約30%)を合併した場合には乾性角結膜炎などがみられる.自己抗体として免疫グロブリン(Ig)Gや熱ショック蛋白(heatshockprotein:HSP)のほか,関節に含まれるⅡ型コラーゲンなどが示唆されている.リウマチ因子(rheu-matoidfactors:RF)はIgGのFc部分に対する抗体である.EBVとの関連も指摘7)されている.本疾患がTh1優位で起きているのかTh2優位で起きているのかについては,明確にはわかっていない.一方で,家族内集積がみられ,一卵性双生児などの研究から遺伝要因が関与していることが指摘されている6).この遺伝的疾患感受性に関与するのがHLA-DR4とDR1であることが示唆されている.HLA-DRで多型性のあるb鎖がDRB1*0101(DR1),DRB1*0401(DR4),DRB1*0404(DR4),DRB1*0405(DR4)の場合にはb鎖の67~74残基が特定のアミノ酸配列になり,このためHLA分子とRAの原因抗原との親和性の違いやThへの抗原提示の反応性の違いをもたらし,疾患発症に関与していると考えられている.一方,DRB1*0402(DR4)とDRB1*0403(DR4)の場合にはRAに対する感受性がなくなることも示唆されている.2.全身性紅斑性狼瘡(systematiclupuserythema-tosus:SLE)妊娠可能年齢の女性に多く発症する疾患で,有病率は人口10万人当たり40人である.白人よりも,東洋人,黒人に発症しやすい.細胞の核に対する抗体(抗核抗体)がみられる.環境因子としては,薬剤と紫外線(UV-B)が明らかにされている.一卵性双生児に関する研究から,遺伝要因が大きく関与することが示唆されている.関節炎,皮膚症状,光線過敏症,口腔内潰瘍,脱毛,精神神経症状(痙攣,うつ病),汎血球減少症,SLE腎症,心外膜炎など多彩な症状を呈する.そのほか,血小板などや血管内皮細胞のリン脂質に対する抗リン脂質抗体が動静脈に血栓症をきたし,脳梗塞や血小板減少症,流産などをひき起こすことがある(抗リン脂質抗体症候群).補体は消費されやすく,特にC4低値である.眼合併症としては,網膜血管炎やSj?gren症候群(10%),本疾患治療(ステロイド内服)に伴う合併症(白内障,緑内障)などがある.内的遺伝要因としてHLA分子の関与が示唆され,HLA-DR3(白人)やHLA-DR2(東洋人)との関連が指摘された.しかし,実際は,白人における研究でHLAクラスⅢ領域に存在する補体に関与する遺伝子(C4)の補体を産生しない遺伝子型(C4Q0サイレント)の相対危険度のほうが高く,こちらが真の疾患感受性遺伝子である可能性が示唆されている.この場合のハプロタイプはHLA-B8-DR3-DQ2-C4Q0であり,補体であるC4Aを産生しない.補体がつくられないことで,免疫複合体の処理が滞り,SLEを発症すると考えられている.3.Sj?gren症候群(SS)SSは涙腺,唾液腺の慢性的な炎症によって涙液産生,唾液産生が低下し,乾性角結膜炎や口腔乾燥症をきたす疾患である.中年女性に多く,男女比は1:9であり,単独発症する原発性SSとRAやSLE,まれに強皮症などに合併する続発性SSに分類される.本疾患もC型肝炎ウイルス(HCV)やEVB7,8),ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)など多くのウイルスとの関連が示唆されている.高ガンマグロブリン血症を生じ,高頻度で悪性リンパ腫を合併する.IgM型のRFが90%に陽性であり,抗核抗体(斑紋型,均質型)も陽性である.SSに特異的な抗核抗体は抗SS-A(Ro)抗体と抗SS-B(La)抗体である.これらは,SS患者の半数以上にみられるほか,SLE患者の20%(SS-A),10%(SS-B)にもみられる.内的遺伝要因としては,HLA-B8-DR3と相関があることが報告されている.また,HLA-DQa鎖,DQ(39)———————————————————————-Page8????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006b鎖の超可変領域の特定のアミノ酸配列がSS-A,SS-Bの産生を促進することも示唆されている.4.強直性関節炎(ankylosingspondylitis:AS)40歳までの男性に好発し,男女比は3:1である.典型的には脊椎が侵され,初発症状は仙腸関節炎による腰痛である.腰痛は3カ月以上持続し,運動により軽減する.診断上は脊椎X線でのbamboospineという椎体の癒合した所見が有用である.関節外症状として眼症状があり,片眼性の急性前部ぶどう膜炎を起こす.RFや抗核抗体は陰性で,血清反応陰性関節炎ともいわれる.HLA-B27抗原陽性率は90%以上であり(白人の場合),これは白人の一般集団の7%に比べると顕著に高い.しかし,HLA-B27抗原陽性は診断上,必須にはなっていない.HLA-B27抗原陰性患者の多くがHLA-B7抗原陽性であり,B27とB7のアミノ酸配列間の共通性が疾患発症に関与している可能性が示唆されている.病態としては,クレブシエラ,エルシニア,サルモネラなどの肺炎桿菌の先行感染による自己HLA-B27分子との交叉反応(molecularmimicry)説が示唆されている.HLA-B27分子と肺炎桿菌のニトロゲネース間にはグルタミン(Q),スレオニン(T),アスパラギン酸(D),アルギニン(R),グルタミン酸(E),アスパラギン酸(D)という共通のアミノ酸配列が存在する(図3).そのため,この外来抗原ペプチドに対して産生された抗体が,自己抗体として自己のHLA-B27分子とも交叉反応してしまうと考えられている.最近では,微生物抗原が関節局所から実際に見出されることから,HLA-B27分子の溝に微生物抗原が組み込まれ,CTLに抗原提示され,関節炎が惹起されるという関節炎ペプチドモデルという説も提唱されている.また,HLA-B27トランスジェニックラットを用いた研究では,関節炎や大腸炎の発症にHLA-B27分子が直接関与している可能性が示唆されており興味深い.5.Beh?et病Beh?et病は口腔内アフタ,皮膚症状,眼症状(ぶどう膜炎),陰部潰瘍を4主症状とする疾患であるが,その他にも神経症状,消化器症状など多彩な症状を呈する.病態として,さまざまな機序が考えられているが,人種を越えてHLA-B51抗原と顕著に相関していることが知られている.Beh?et病の病態形成において,HLA-B51分子が重要な役割を担っていると考えられている.HLA-B51抗原保有者では,Beh?et病に罹患する相対危険度が7~17倍10)ときわめて高い.詳細に関しては本特集の“HLAとBeh?et病”の項を参照されたい.6.Vogt-小柳?原田病(VKH)VKHにおいては,DRB1*0405(HLA-DR4)が重要な役割を担っており,DRb鎖57番目のアミノ酸(セリン)が疾患発症に関与している可能性が示唆されている.詳細に関しては本特集の“HLAとVogt-小柳?原田病”の項を参照されたい.II内分泌疾患1.インスリン依存性糖尿病(insulindependentdiabetesmellitus:IDDM)インスリン依存性糖尿病(I型糖尿病)は膵臓Langer-hans島b細胞からのインスリン分泌が少ないため,糖尿病を発症する疾患である.思春期頃に発症のピークがあり,罹病率は0.3%である.好発地域と低発症地域があり,緯度の違いも大きい.家族内集積がみられることや,一卵性双生児などの研究から,発症には遺伝要因が強く関与していると考えられている.病理学的には,Langerhans島炎がみられることもある.Langerhans島炎の例では,炎症細胞の浸潤がみられ,CD8陽性細胞が優位であり,CD4陽性細胞やマクロファージが続く.さらに,蛍光抗体法を用いると,Langerhans島細胞質に対するLangerhans抗体(ICA)が75%の患者に認められる.病態形成に関しては,ウイルス感染説,分子擬態説などいくつかの説がある11).IDDMにおいて,膵臓b細胞のグルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD65)とコクサッキーウイルスの間にプロリン(P),グルタミン酸(E),バリン(V),リジン(K),グルタミン酸(E),リジン(K)という共通配列がみられ,ウイルス感染により,molecularmimicryが成立している可能性も考えら(40)———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????れている.すなわち,コクサッキーウイルス内のこのペプチドに対して反応するT細胞が自己のGAD65内のこのペプチドにも交叉反応してしまう可能性が考えられている.また,HLA-DQbのアミノ酸配列の変化が本疾患の発症に関与しているという説も知られている12).HLA-DQ8陽性者では,DQbの57番のアミノ酸がアスパラギン酸ではない(非アスパラギン酸である)ため,HLA-DQ抗原のT細胞への反応性が変化し,本症を発症するという説である.しかし,日本人においては,HLA-DQb鎖の57番目がアスパラギン酸であるHLA-DQ9抗原陽性者が多く,日本人に関してこの説はあてはまらない13,14).2.インスリン自己免疫症候群(insulinautoimmunesyndrome:IAS)本症は,HLA-DRB1*0406アリルと顕著に相関する疾患であるが,メチマゾールやグルタチオンといった薬剤(還元剤)で誘発することも知られている(薬剤誘発性IAS).インスリンのa鎖にはDRB1*0406の結合モチーフに適合した高親和性のTSICSLYQLEというペプチドが存在する.しかし,生体内でインスリンa鎖はb鎖とジスルフィド結合をしており,このペプチドがDRB1*0406と結合可能な直鎖状のペプチド断片となることは少ない.それがこれらの薬剤を内服することによりインスリンa鎖とb鎖のジスルフィド結合が解離され,このペプチドが直鎖状ペプチドとして生体内に大量に放出されてくることにより,本来免疫系から隔離されていたこの自己ペプチドがT細胞に抗原提示され,自己免疫が発動されてしまうと考えられている.3.橋本病橋本病は自己免疫性甲状腺炎ともいい,甲状腺の腫大と,甲状腺機能低下による多彩な症状を呈する.罹病率は0.5%であり,女性に多く,男女比は1:4である.橋本病ではHLA-DR5抗原との相関が報告されている〔相対危険度(relativerisk:RR)は3〕(以下,RRとする).4.Graves(Basedow)病甲状腺を刺激する自己抗体により,甲状腺の機能が亢進され多彩な症状がみられる.罹病率は0.5%であり,女性に多く,男女比は1:7である.眼症状は8%にみられ,眼球突出や複視がみられる.Graves病ではHLA-DR3抗原との相関が報告されている(RR=4).本病では通常の甲状腺組織にはみられないHLAクラスⅡ抗原の発現が異所性にみられる15)が,これが,炎症の原因なのか結果なのかはわかっていない.III腎疾患抗糸球体基底膜(抗GBM)病,Goodpasture症候群本病は腎臓の糸球体基底膜に対する自己抗体によって発症すると考えられている.病理学的には半月体形成性糸球体腎炎を,臨床的には急速進行性糸球体腎炎を呈し,急速に腎不全に至る.肺組織の基底膜にも自己抗体が結合し,肺胞出血などを発症した場合には,Good-pasture症候群とよばれる.従来Ⅱ型アレルギーとして分類されてきたが,近年,HLA-DR2との有意な相関(RR=5)が指摘されており5),bシート内の28番目のアミノ酸近傍に存在する特有のアミノ酸が疾患発症に関与することが示唆されている.IV神経疾患多発性硬化症(multiplesclerosis:MS)多発性硬化症は脳,脊髄などの中枢神経において,ミエリンのみを侵す脱髄性疾患であり,眼症状としては視神経炎やぶどう膜炎がみられる.再発と寛解をくり返す.高緯度地域の白人に多く,発症年齢のピークは30歳で,男女比は1:2から1:7程度と報告されている.遺伝素因やHLA遺伝子,人種差などの内的要因と,緯度,移住地,ウイルス感染などの要因と外的要因が発症に重要であると考えられている.外的要因としては,15歳以下で低発症地域から高発症地域に移住した場合にはMS発症リスクが高まることや隔離された島の住人に小流行することが報告されている.内的要因としては,家族内集積がみられ,一卵性双生児では発症リスクは約300倍になるという報告もなされている.白人の(41)———————————————————————-Page10????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006患者の50~70%が,HLA-DR2抗原陽性である.アジア人に多い東洋型と白人に多い西洋型の間では,臨床症状にもHLA遺伝子のタイプにも明確な違いがあり17),東洋型ではHLAハプロタイプはHLA-DPA1*0202,DPB1*0501であり,臨床的には中枢神経の病変が少なく,視神経病変が多い.西洋型ではHLA-DRB1*1501,HLA-DRB5*0101であり,中枢神経症状が中心となる.動物実験モデルとして実験的アレルギー性脳髄膜炎(experimentalallergicencephalomyelitis:EAE)があり,異種動物の脳成分を注射することで,MS様の症状を惹起することが可能である.EAEモデルにおいて,MSを発症する動物の系統が限られており,疾患感受性遺伝子がMHCにあるという説を支持している.また,本疾患において前述したように分子擬態説も提唱されている.MSの自己抗原であるミエリン塩基性蛋白(MBP)とHSV-1,EBVやAdV間に交叉反応があるといわれる.MBPとHSV-1の間に分子相同性のあるペプチドは存在しないが,HLAクラスⅡ分子との結合性(親和性)およびT細胞との反応性(抗原提示)に交叉反応性があることが疾患発症に関与すると考えられている.アミノ酸配列の一致という点から考えると非典型的ではあるが,広義のmolecularmimicryと考えられる.HLAクラスⅡ分子との結合性では,左から2番目のバリン(V)がHSVとMBPで同一で,左から5番目のHSVのV(バリン)とMBPのフェニルアラニン(F)が類似アミノ酸である.T細胞受容体との結合性では,左から4番目のフェニルアラニン(F)がHSVとMBPで同一で,6番目のHSVのアルギニン(R)とMBPのリジン(K)が類似の親和性アミノ酸である(図5).したがって,ペプチドとしての相同性は低いが,ペプチドモチーフとしてはHLA分子結合性,T細胞反応性が類似しており,交叉反応を起こしてしまうと考えられている.おわりにHLA分子との関連性が指摘されている自己免疫疾患は数多く,ここでは臨床的によく遭遇する疾患について概説した.特定のHLAアリルが疾患発症に関与することは疑いないと思われるが,人種によって相関するHLAアリルが異なることも多く,疾患の感受性遺伝子を同定するためには,人種特有の変化も検討する必要がある.本稿がHLA分子と疾患の相関機序を考えるうえで先生方の日常診療の一助となれば幸いである.文献1)小山次郎,大沢利昭:免疫学の基礎.p161-180,東京化学同人,20042)DresslerW:Apost-myocardialinfarctionsyndrome:preliminaryreportofacomplicationresemblingidiopathic,recurrent,benignpericarditis.????160:1379-1383,19563)MeyerO,HauptmannG,Mascart-LemoneFetal:Genet-icde?ciencyofC4,C2orC1qandlupussyndromes.Associationwithanti-Ro(SS-A)antibodies.????????????????62:678-684,19854)HartungK,FontanaA,KlarMetal:AssociationofclassI,II,andIIIMHCgeneproductswithsystemiclupusery-thematosus.ResultsofaCentralEuropeanMulticenterStudy.?????????????9:13?18,19895)FisherM,PuseyCD,ReesAJetal:Susceptibilitytoanti-glomerularbasementmembranediseaseisstronglyassoci-atedwithHLA-DRB1genes.??????????51:222-229,19976)MacGregorAJ,BamberS,SilmanAJ:Acomparisonoftheperformanceofdi?erentmethodsofdiseaseclassi?ca-tionforrheumatoidarthritis.Resultsofananalysisfromanationwidetwinstudy.???????????21:1420-1426,19947)FoxRI,PearsonG,VaughanJH:DetectionofEpstein-Barrvirus-associatedantigensandDNAinsalivaryglandbiopsiesfrompatientswithSj?gren?ssyndrome.???????????137:3162-3168,19868)FoxRI,ChiltonT,VaughanJHetal:PotentialroleofEpstein-BarrvirusinSj?gren?ssyndrome.???????????????????????13:275-292,19879)DubinskyMC,TaylorK,RotterJIetal:Immunogeneticphenotypesinin?ammatoryboweldisease.Review.?????????????????????12:3645-3450,2006.10)Chajek-ShaulT,PisantyS,KnoblerHetal:HLA-B51mayserveasanimmunogeneticmarkerforasubgroupofpatientswithBeh?et?ssyndrome.????????83:666-672,198711)UenoA,ChoS,YangYetal:Diabetesresistance/suscep-tibilityinTcellsofnonobesediabeticmiceconferredbyMHCandMHC-linkedgenes.?????????175:5240-5247,200512)ToddJA,BellJI,McDevittHOetal:HLA-DQbetagenecontributestosusceptibilityandresistancetoinsulin-dependentdiabetesmellitus.??????329:599-604,198713)OisoM,NishiT,MatsushitaSetal:Di?erentialbinding(42)———————————————————————-Page11あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????(43)ofpeptidessubstitutedatputativeC-terminalanchorresi-duetoHLA-DQ8andDQ9di?eringonlyatbeta57.???????????52:47-53,199714)NishimuraY,KanaiT,MatsushitaSetal:MolecularanalysesofHLAclassII-associatedsusceptibilitytosub-typesofautoimmunediseasesuniquetoAsians.Review.?????????????66:93-104,199815)Zantut-WittmannDE,BoechatLH,VassalloJetal:Auto-immuneandnon-autoimmunethyroiddiseaseshavedi?erentpatternsofcellularHLAclassIIexpression.???????????????117:161-164,199916)KennedyJ,O?ConnorP,BanwellBetal:Ageatonsetofmultiplesclerosismaybein?uencedbyplaceofresidenceduringchildhoodratherthanancestry.?????????????????26:162-167,200617)OnoT,ZambenedettiMR,SasazukiTetal:MolecularanalysisofHLAclassI(HLA-Aand-B)andHLAclassII(HLA-DRB1)genesinJapanesepatientswithmultiplesclerosis(WesterntypeandAsiantype).???????????????52:539-542,1998

HLAと交感性眼炎

2006年12月31日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSが,起交感眼は病像が修飾されるため組織像が破壊されているものもあり注意を要する8).臨床症状は視神経乳頭の腫脹,硝子体混濁,滲出性網膜?離,脈絡膜?離を生ずる(図2).発症から数カ月を経ると脈絡膜のメラノサイトが減少して夕焼け状眼底(図3)を示し,やがて脈絡膜が変性する.症例によってI交感性眼炎(sympatheticophthalmia)交感性眼炎は穿孔性眼外傷あるいは眼科手術の後に生じる両眼性肉芽腫性汎ぶどう膜炎である.1840年に初めてMackenzieが報告し,1905年にFuchsが臨床像を報告した.交感性眼炎の有病率は人口100万人当たり1.1人で,男女比は眼外傷の割合が男性に多いため男性が多い傾向がある.発症までの日数は約70%の症例は3カ月以内に,約90%の症例は1年以内に発症する.実際の報告例では,短いものでは5日後から,長いものでは20年以上のものや最長では62年後に発症したというものもある1,2).近年では網膜?離手術や硝子体手術など複雑な手術が多く行われるようになったため,眼科手術後の症例の報告が増え,特に再手術を受けた症例の報告が散見されるようになった3~5).さらに交感性眼炎は,穿孔性の眼科手術のみならず,YAGレーザー毛様体凝固術後や毛様体冷凍凝固術後などの非穿孔性眼科手術でも起こりうる疾患であることも示されている6,7).穿孔性外傷または手術を受けた側の眼を起交感眼(excitingeye),僚眼を被交感眼(sympathizingeye)とよぶ.交感性眼炎はメラノサイトに対する自己免疫疾患の一つと考えられている.組織像ではぶどう膜のメラノサイトに対するリンパ球の浸潤による慢性肉芽腫性ぶどう膜炎がみられる(図1).交感性眼炎はぶどう膜炎であり,網膜自体へ炎症の波及はまれである.基本的には病理学上は起交感眼,被交感眼とも同一の所見を示す(29)????*YumikoShindo:ユノクリニック〔別刷請求先〕新藤裕実子:〒243-0303神奈川県愛甲郡愛川町中津818-1ユノクリニック特集●組織適合抗原(HLA)のすべてあたらしい眼科23(12):1543~1546,2006HLAと交感性眼炎??????????????????????????????????????????????????????????????????新藤裕実子*図1交感性眼炎の病理所見脈絡膜の肥厚,リンパ球の浸潤による肉芽腫性変化がみられる.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006はDalen-Fuchs?spotを生じる.眼外症状として皮膚の白斑や毛髪の白髪化がみられる場合がある(図4).このように,交感性眼炎は臨床症状,病態生理,病理所見がVogt?小柳?原田病(以下,VKH病)ときわめて類似し,メラノサイトに対する自己免疫疾患と考えられている.II交感性眼炎とHLAの関係自己免疫疾患は免疫機構の何らかの異常により自己を非自己と認識するために生ずる自己防衛機能の破壊による疾患である.ヒトの主要組織適合抗原複合体(majorhistocompatibilitycomplex:MHC)であるヒト白血球抗原(humanleukocyteantigen:HLA)は,第6染色体短腕に位置し,免疫応答に深く関わり,疾患感受性を規定する遺伝的要因の一つであると考えられている.日本人の交感性眼炎におけるHLAを調べた.血清学的HLAタイピングでは,クラスⅡ抗原であるHLA-DR53,HLA-DR4,HLA-DQ4に有意な上昇が認められた.このうちHLA-DR53はHLA-DR4,HLA-DR7,HLA-DR9と連鎖不平衡にある.しかし交感性眼炎においてはHLA-DR4のみ相関が認められ,HLA-DR7,HLA-DR9とは相関がみられなかった.このことから交感性眼炎とHLA-DR53の相関は二次的相関によるものであり,HLA-DR4,HLA-DQ4に有意に相関することが推定された9).日本人のその後の交感性眼炎の症例報告において,HLAが調べられたものについてはHLA-DR4を示すことが報告されている.これらの結果を踏まえて筆者らはさらにHLA-DNAタイピングを行った.その結果,日本人において交感性眼炎はHLA-DQA1*0301-DRB1*0405-DQB1*0401と相関することが明らかになった.このうちHLA-DQA1*0301はHLA-DRB1*04とHLA-DRB1*09に連鎖不平衡にある.しかし交感性眼炎においてはHLA-DRB1*09とは相関しなかった.このことからHLA-DQA1*0301は連鎖不平衡による二次的相関であると考えられた.しかし,日本人においてはHLA-DRB1*04と(30)図2交換性眼炎の眼底写真視神経乳頭の発赤・腫脹,硝子体混濁がみられる.図3交感性眼炎の眼底写真メラノサイトが減少して夕焼け状眼底がみられる.図4交感性眼炎の眼外症状毛髪・睫毛の白髪化,皮膚の白斑がみられる.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????HLA-DQB1*04は連鎖不平衡にあり,この結果のみではどちらが有意に相関する可能性があるかは不明であった9).さらに注目すべきことに,この結果はVKH病におけるHLA-DNAタイピングの結果10)と一致するものであった.このことにより,日本人において,交感性眼炎は臨床症状のみならず,HLA-DNAタイピングにおいてもVKH病と一致することが示された.さらなる疾患感受性遺伝子の解析のためにはHLA-DRBとDQBの連鎖不平衡の異なる民族での交感性眼炎のHLA-DNA解析が望まれていた.2001年イギリスから交感性眼炎のHLA-DNAタイピングの27報告例がなされた.イギリスにおける交感性眼炎はHLA-DQA1*03-DRB1*04と相関し,HLA-DQB1との相関はみられなかった.さらにHLA-DRB1*04のサブタイプは日本人のHLA-RB1*0405ではなくHLA-DRB1*0404であった.この報告における交感性眼炎患者の民俗学的背景は,ネイティブイギリス人(14),スコットランド人(8),アイルランド人(4),北アイルランド人(1)であり,日本人とは異なる民族であった11).異なる民族においても,交感性眼炎が日本人と同様HLA-DRB1*04と相関したことは非常に興味深いものであった.この事実は交感性眼炎が民族を超えてHLA-DRB1*04と相関することを示唆するものであった.サブタイプの相違が他の民族でどうなのか,疾患にどのように関わるかは今後の課題となった.VKH病では白人には非常に少なく,東洋人,北米,中米,南米のインディアン,イヌイットなどに多く,発症頻度に民族差があることが知られてきた(「原田病」の項のVKH病の世界分布図を参照)12).しかも海外に移住した日本人でも発症頻度に有意差がないことが知られてきた.一方,交感性眼炎はこれまで中国,シンガポール,トルコ,サウジアラビア,スペイン,ロシア,ブラジル,ユーゴスラビア,イギリス,アイルランド,アメリカ,オランダ,カナダなど多くの国々で報告されている13~16).交感性眼炎は非常に発症頻度が低いため,これらの症例報告例をそのまま世界分布とするのは性急であろう.しかもこれらの報告では民族的背景までは細かく言及されていない場合がほとんどであり,交感性眼炎はVKH病のように明らかな人種差はみられないとされてきた.先に示したように日本人において原田病はHLA-DR4に相関し,そのアリルはHLA-DRB1*0405が95%を占め,HLA-DRB1*0405またはHLA-DRB1*0410のいずれかをもっていた.このHLA-DRB1*0405,DRB1*0410は東洋人,ヒスパニクスに多く白人にはまれなアリルでありVKH病の民族的有意差と一致するものであった.その後VKH病とHLA-DRB1*04の相関は日本人のみならず,韓国,中国,ブラジル,メキシコでも追試され,ラオス,ブラジルではHLA-DRB1*0405と相関していることが示された17~20).一方,交感性眼炎では日本人以外でHLAの相関を調べたものが2報告ある.一つ目はアメリカのVKH病とともに調べられた8報告例で,HLA-DR4と相関することが示されているがサブタイプまでは調べられていない21).二つ目は先に示したイギリスの27報告例で,患者は日本人でもヒスパニクスでもないがHLA-DRB1*04と相関したがそのサブタイプは筆者らが調べた日本人のHLA-DRB1*0405の相関とは異なりHLA-DRB1*0404であった11).交感性眼炎は必ずしも民族的有意差がみられないことと,HLA-DRB1*04に相関すること,HLA-DRB1*04のサブタイプにバリエーションがみられることが明らかとなったが,この事実が交感性眼炎の疾患感受性にどう関与するのかはVKH病との関連を含めて今後さらに検討が必要と考えられる.交感性眼炎ではサイトカイン遺伝子の多型性が重症度に関わっている可能性やVKHの項で述べられているチロシナーゼとの関連についても今後検討されるべき課題である22).おわりに交感性眼炎は人種を超えてHLA-DR4(HLA-DRB1*04)と相関することが示された.交感性眼炎が疑われた場合,HLAを調べることは診断および治療のスタートを決めるうえで有用であると考えられる.交感性眼炎とVKH病は臨床症状,病態生理,HLAについて非常に類似した疾患と考えられている.今後,HLAにおけるさらなる相関機序,ヒトゲノムにおけるさらなる疾患感受性遺伝子の検索が進められることが期(31)———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006待される.文献1)LubinJR,AlbertDM,WeinsteinM:Sixty-?veyearsofsympatheticophthalmia.Aclinicopathologicreviewof105cases(1973-1978).?????????????87:109-121,19802)MacClellanKA,BillsonFA,FilipicM:Delayedonsetsympatheticophthalmia.??????????147:451-454,19873)石川友昭,後藤浩,市側能稔博ほか:交感性眼炎16例の臨床的検討.臨眼52:555-558,19984)松山茂夫,日谷千夏,末廣龍害ほか:網膜?離手術後に脈絡膜?離を主体とした交感性眼炎をきたした一例.眼紀51:604-609,20005)久保勝文,中沢満,荒井優子ほか:黄斑円孔術後早期に発症した交感性眼炎の一例.臨眼55:683-586,20016)BechrakisNE,Muller-StolzenburgNW,HelbigHetal:Sympatheticophthalmiafollowinglasercyclocoagulation.???????????????112:80-84,19947)PollackAL,McDonaldHR,AiEetal:Sympatheticoph-thalmiaassociatedwithparsplanaviterectomywithoutantecedentpenetratingtrauma.??????21:146-154,20018)InomataH:Necroticchangesofchoroidalmelanocytesinsympatheticophthalmia.???????????????106:239-242,19989)ShindoY,OhnoS,UsuiMetal:Immunogeneticstudyofsympatheticophthalmia.???????????????49:111-115,199710)ShindoY,InokoH,YamamotoTetal:HLA-DRB1typ-ingofVogt-Koyanagi-Harada?sdiseasebyPCR-RFLPandstrongassociationwithDRB1*0405andDRB1*0410.???????????????78:223-226,199411)KilmartinDJ,WilsonD,LiversidgeJetal:Immunogenet-icsandclinicalphenotypeofsympatheticophthalmiainBritishandIrishpatients.???????????????85:281-286,200112)OhnoS:ImmunologicalaspectsofBeh?et?sandVogt-Koyanagi-Harada?sdisease.???????????????????????101:335-341,198113)SuDH,CheeSP:SympatheticophthalmiainSingapore:newtrendsinanolddisease.?????????????????????????????????244:243-247,200614)GurdalC,ErdenerU,IrkecMetal:Incidenceofsympa-theticophthalmiaafterpenetratinginjuryandchoiceoftreatment.??????????????????10:223-227,200215)El-AsrarAM,Al-ObeidanSA:Sympatheicophthalmiaaftercomplicatedcataractsurgeryandintraocularlensimplantation.????????????????11:193-196,200116)ChanCC,RobergeRG,WhitcupSMetal:32casesofsympatheticophthalmia.AretrospectivestudyatNationalEyeInstitute,Md.,from1982-1992.????????????????113:597-600,199517)KimMH,SeongMc,KwakNHetal:AssociationofHLAwithVogt-Koyanagi-HaradasyndromeinKoreans.???????????????129:173-177,200018)ZangXY,WangXM,HuTS:Pro?linghumanleukocyteantigensinVogt-Koyanagi-Haradasyndrome.????????????????113:567-572,199219)GoldbergAC,YamamotoJH,ChiarellaJMetal:HLA-DRB1*0405isthepredominantalleleIBrazilianpatientswithVogt-Koyanagi-Harada?sdisease.????????????59:183-188,199820)AlaesC,PilarMoraM,ArellanesLetal:Strongassocia-tionofHLAclassIIsequencesinMexicanswihVogt-Koyanagi-Harada?sdisease.???????????60:875-882,199921)DavisJL,MittalKK,FreidlinVetal:HLAassociationsandancestoryinVogt-Koyanagi-Haradadiseaseandsym-patheticophthalmia.?????????????97:1137-1142,199022)AtanD,TurnerSJ,KilmartinDJetal:Cytokinegenepolymorhphisminsympatheticophthalmia.??????????????????????????46:4245-4250,2005(32)

HLAとサルコイドーシス

2006年12月31日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSのであるが,ときにその変異の性質や場所により,重要な遺伝子の機能発現に変化をもたらすことになり,遺伝性疾患が発症する.サルコイドーシスの発症に関与する遺伝子をみつけるためのアプローチ法の代表的なものには連鎖解析と相関解析がある.連鎖解析とは家系調査による解析法であり,有病率が少ない多因子疾患にはあまり向かない.一方,相関解析は患者群と同じ民族の対照群において,既知の遺伝子または遺伝子マーカー(くり返し配列などから構成され,ゲノム中で特定の座位に存在する目印となるDNA配列)に存在する対立遺伝子〔多型(polymor-phism):塩基配列の個人差〕の保有頻度をc2検定で比較する方法である.特定の対立遺伝子が患者群で有意に多い場合,それ自身が疾患感受性遺伝子である場合と,その近くに存在する連鎖不平衡にある別の遺伝子が真の疾患感受性遺伝子の場合がある.また,両解析ともに特定の既知の遺伝子について検討する候補遺伝子アプローチと,ヒトゲノム全域にわたり多くの遺伝子マーカーを用いて網羅的に検索するゲノムスキャンがある.II候補遺伝子による相関解析サルコイドーシスの病態に関連している可能性の高い候補遺伝子の1つ,HLAについての相関解析がいろいろな人種,民族集団から報告されている.はじめに多くの眼疾患はいまだに発症の原因が不明であるが,内因(個体の遺伝素因),外因(感染因子,環境因子)に加え,ストレスや加齢などの誘因が関与している.サルコイドーシスは原因不明の全身性肉芽腫性疾患であるが,感染力の強い病原微生物や,特別な環境因子が原因とは考えにくく,むしろ遺伝素因や普遍的な誘因が発症に関与していると考えられている.サルコイドーシスには家族集積性があり,患者の同胞がサルコイドーシスに罹患するオッズ比は日本人では8.11)と高く,アメリカ人では4.7(白人に限ると18.0)であり2),遺伝素因は無視できない.また,1つの遺伝素因だけが発症に関与しているとは考えにくく,多数の遺伝素因が複雑に絡み合って発症する多因子(多遺伝子)疾患である可能性が高い.近年,分子遺伝学の発達とともに疾患感受性や疾患抵抗性についてDNAレベル,アミノ酸レベルで研究・解明が進んでいる.本稿ではサルコイドーシスの遺伝素因の1つとして,ヒト白血球抗原(humanleukocyteanti-gen:HLA)が疾患感受性や疾患抵抗性を規定している可能性について内外の知見を紹介する.I疾患感受性遺伝子検索法1999年,全ゲノムの塩基(DNA)配列が決定され,ヒトゲノムは約3.1Gb,31億塩基対からなることが明らかになった.実はその塩基配列は一人ひとり少しずつ違っている.この微妙な違いは通常なんら影響のないも(21)????*MamiIshihara:横浜市立大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕石原麻美:〒236-0004横浜市金沢区福浦3-9横浜市立大学医学部眼科学教室特集●組織適合抗原(HLA)のすべてあたらしい眼科23(12):1535~1541,2006HLAとサルコイドーシス???????????????????????????????????????????????????????石原麻美*———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.12,20061.HLAとは?3)サルコイドーシスは全身多臓器に非乾酪性肉芽腫を形成する疾患である.まず,病因抗原を組織マクロファージが貪食し,その結果生じた抗原ペプチドがHLAクラスⅡ分子とともに抗原提示細胞に表出され,T細胞上の受容体によりCD4陽性T細胞に提示される.このように非自己(病因抗原)を識別する際に働くのが主要組織適合抗原複合体(MHC)で,ヒトの場合はHLA(ヒト白血球抗原)である.その遺伝子は染色体6p21.31にあり,ゲノムのなかで最も多型性(塩基配列の個人差)に富んでいる.現在ではHLAクラスⅠ(A,B,C,D,E,F,G)抗原,およびクラスⅡ(DP,DQ,DR)抗原が遺伝子タイピングにより詳細に検討されている(図1).サルコイドーシスの場合はクラスⅡ抗原が重要である.クラスⅡ抗原は多型性に富むa鎖とb鎖からなり,特に細胞外ドメインのa1,b1ドメインは多型性が著明である.HLA-DR抗原のa鎖はHLA-DRAにより,b鎖はHLA-DRBによりコードされる.a1,b1ドメインで構成される抗原結合溝(ポケット)に9~30個のアミノ酸残基からなる抗原ペプチドが結合する(図2,3).抗原結合溝に収容された抗原とHLA抗原との複合体が,T細胞上の受容体(T細胞レパトア)と結合して,抗原特異的免疫応答が惹起される(図3).事実,サルコイドーシスの一亜型であるL?fgren症候群で,DR17(DR3のsplit抗原)陽性患者の気管支肺胞洗浄液中には,特定の抗原受容体を有するT細胞がoligoclonalに増殖している4).2.HLAとサルコイドーシスの相関血清学的検査ではイタリア人でHLA-B8-DR35),スカンジナビア半島の白人でHLA-DR17(DR3のsplit抗原)6),ドイツ人でHLA-DR57),オランダ人でHLA-DR68)が報告されている.一方,日本人ではHLA-DR529~11)とDR59,11),DR611),DR810,11)頻度の増加が報告されてきたが,共通なのはDR52頻度の増加であった.筆者らは1994年,日本人サルコイドーシス患者では(22)図1ヒト第6染色体短腕上のHLA遺伝子領域の遺伝子群クラスⅡ領域にHLA-DR,DQ,DP遺伝子がある.テロメアヒト第6染色体長腕部セントロメアクラスⅡ抗原クラスⅠ抗原テロメア短腕部クラスⅢ抗原DPDQDRBCAクラスⅡクラスⅢクラスⅠDPDQDRHSP70-1HSP70-2Hum70tABEAGFC4DRAC4C2HSP70TNFBCDPB1DQB2DQA2DQA1DRB1DRB2DRB3DPA1DNARING3DMADMBDOBDQB3DQB1RING9TAP1TAP2LMP2LMP7———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????じめてHLA-DRB1,DRB3,DQA1,DQB1,DPB1遺伝子について遺伝子タイピングを行った.その結果,HLA-DR11,DR12(DR11,DR12はDR5のsplit抗原),DR14(DR14はDR6のsplit抗原),DR8のいくつかの対立遺伝子頻度〔DRB1*11(1101),DRB1*12(1201),DRB1*14(1401),DRB1*08(0802)〕の有意な増加を患者群で認めた12)(表1).さらにHLA-DR52の対立遺伝子の1つDRB3*0101頻度の有意な増加を認めた13).ここでサルコイドーシスの発症にはHLA-DR5,DR6,DR8とHLA-DR52のどちらが関与しているのかが問題となる.それについてはつぎのように説明できる(図4).HLA-DR5,DR6,DR8の抗原性はHLA-DRB1遺伝子でコードされている.また,日本人ではほとんど存在しないDR3(白人サルコイドーシスで頻度が高い抗原)の抗原性もDRB1遺伝子でコードされ(23)図2HLAクラスⅡ抗原(HLA-DR1分子)の三次元立体構造モデルa1,b1ドメインで構成されるbシートの抗原結合溝(ポケット1,4,6,7,9)に抗原ペプチドが結合する.11番目のアミノ酸はポケット6にあり,多型に富む〔このモデルはDR1分子なので,11番目はL(ロイシン)となっている.DR3,DR5,DR6,およびDR8分子ではS(セリン)である〕.(SternLJHetal:??????368:215,1994より)T細胞受容体ペプチドP2P3P4P1P6P7P9P5P8ポケット14679ヘルパーT細胞a鎖b鎖図3HLAクラスⅡ抗原(HLA-DR分子),抗原ペプチド,T細胞受容体のinteraction抗原結合溝である“ポケット”1,4,6,7,9は抗原ペプチドであるペプチドP1,P4,P6,P7,P9と直接結合する部位である.(SternLJHetal:??????368:215,1994より改変)DRB1DRB3DRADR52DR3DR3,DR11,DR12,DR5DR13,DR14DR6DRB1DRADR8DRB1DR8図4HLA-DR52グループ(DR3,DR5,DR6)とHLA-DR8グループのハプロタイプによるDR遺伝子構成DR52グループはDRB1とDRB3遺伝子をもち,DR8はDRB1遺伝子しかもたない.(BodmerJGetal:??????????????39:161,1992より改変)———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006ている.一方,HLA-DR52の抗原性はDRB3遺伝子でコードされている.図4に示すようにHLA-DR3,DR5,DR6はDRB1遺伝子とDRB3遺伝子の両方をもっているが,HLA-DR8はDRB1遺伝子だけでDRB3遺伝子はもっていない.サルコイドーシス患者群ではHLA-DR8の対立遺伝子頻度も増加していたので,発症にはHLA-DR3,DR5,DR6,DR8が共通してもっているDRB1遺伝子が関与していると考えられる.HLA-DR3,DR5,DR6,DR8がコードするDRB1遺伝子bドメインの9~12番目のアミノ酸残基(チロシン,セリン,スレオニン)は共通である.そのうち11番目のアミノ酸(セリン)は抗原結合溝(第6ポケット)を構成するアミノ酸の1つであり,抗原と直接結合する重要な部位である(図2,3).このHLA-DR3,DR5,DR6,DR8が共通にもつセリンはsharedepitopeとして重要なアミノ酸であるという仮説を図5に示した.このアミノ酸をコードする対立遺伝子頻度はサルコイドーシスで79.4%,対照で47.3%,相対危険度4.3であり,このアミノ酸をもつヒトはもたないヒトの4.3倍サルコイドーシスになりやすいといえる.また,HLA-DR6のsplit抗原であるDR13〔DRB1*13(1302)〕だけが11番目にセリンをもっているにもかかわらず,患者群で頻度が低かった(表1)が,その理由として71番目(これはT細胞レセプターと直接結合する部位)のアミノ酸がDRB1*11,DRB1*12,DRB1*14,DRB1*08の同位置のアミノ酸と異なっているため,抗原が結合しにくいと考えられる(図5).一方,DR1の対立遺伝子の1つであるDRB1*01(0101)頻度は患者群で有意に低下していた.DRB1*01の11番目のアミノ酸残基はロイシンであり,疎水性アミノ酸である(セリンは非疎水性).そのため抗原が結合する第6ポケットの性質や形状が変わってしまい,抗原が結合しにくくなるため,DR1保有者はサルコイドーシスになりにくいと考えられた(図5).つまりDR1は疾患抵抗性に働くと考えられ,このアミノ酸をコードする対立遺伝子頻度はサルコイドーシ(24)表1サルコイドーシスと相関のみられるHLA-DRB1遺伝子HLA抗原HLA対立遺伝子対照(n=110)患者(n=63)p値相対危険度DR1DRB1*01DRB1*010116(14.5%)1(1.6%)<0.020.1DR11(DR5)DRB1*11DRB1*11013(2.7%)9(14.3%)<0.025.9DR12(DR5)DRB1*12DRB1*12017(6.4%)12(19.0%)<0.0253.5DRB1*12023(2.7%)2(3.2%)DR13(DR6)DRB1*13DRB1*130218(16.4%)6(9.5%)DR14(DR6)DRB1*14DRB1*14016(5.5%)10(15.9%)<0.053.4DRB1*14031(0.9%)4(6.3%)DRB1*14052(1.8%)1(1.6%)DRB1*14063(2.7%)1(1.6%)DR8DRB1*08DRB1*08023(2.7%)8(12.7%)<0.0255.2DRB1*08039(8.2%)11(17.5%)DR11(DR5)DRB1*113(2.7%)9(14.3%)<0.025.9DR12(DR5)DRB1*1210(9.1%)14(22.2%)<0.052.9DR14(DR6)DRB1*1412(10.9%)16(25.4%)<0.0252.8DR8DRB1*0812(10.9%)19(30.2%)<0.013.5図5サルコイドーシスの疾患感受性遺伝子(HLA-DRB1*11,*12,*14,*08)と疾患抵抗性遺伝子(DRB1*0101,DRB1*1302)の模式図DRB1遺伝子上の11番目アミノ酸がsharedepitopeであるとする仮説.DRB1*11DRB1*12DRB1*14DRB1*08DRB1*1302DRB1*0101疾患感受性遺伝子疾患抵抗性遺伝子11-Ser71-Glu11-Ser11-LeuHLAAgHLAAgHLAAg———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????スで1.6%,対照で14.5%,相対危険度0.1であった.また,患者群でみられたDRB3*0101(DR52の対立遺伝子)やDQA1*0501,DQB1*0301の頻度の増加はHLA-DR5,DR6,DR8との連鎖不平衡で説明できる.2001年Foleyらは,イギリス,ポーランド,チェコスロバキアの3民族の白人それぞれについてHLA-DRB1とDQB1遺伝子多型を検討した14).その結果,DRB1*12(DR12はDR5のsplit抗原),DRB1*14(DR14はDR6のsplit抗原),DRB1*15(DR15はDR2のsplit抗原)が患者群で頻度が高く,DRB1*01(DR1),DRB1*04(DR4)の頻度が低かった.彼らは,頻度が患者群で低く疾患抵抗性に働くDR抗原(DR1,DR4)は,抗原結合溝(第6ポケット)を構成する11番目のアミノ酸(図2)が疎水性のアミノ酸で,逆に発症に関与しているDR抗原(DR12,DR14,DR15)では11番目のアミノ酸が非疎水性であったことから,11番目の疎水性アミノ酸が疾患抵抗性因子であると考察している.しかし,疎水性アミノ酸をコードする対立遺伝子頻度はサルコイドーシスで18%,対照で28%,相対危険度0.55であり,この値は疾患抵抗性因子としてあまり強いものではないと考えられる.2003年,Rossmanらはアメリカの黒人と白人についてHLA-DRB1,DQB1,DPB1遺伝子多型を検討した15).その結果,黒人ではDRB1*11(1101),DRB1*12(1201)とDPB1*0101頻度が高く,白人ではDRB1*11(1101),DRB1*14(1401),DRB1*15(1501),DRB1*04(0402)頻度が高かったが,両人種に共通して頻度の高かったのはDRB1*11(1101)であった.これを有しているのは黒人で16%,白人で9%であり,オッズ比はおのおの2.04,2.05であった.彼らはDRB1*11(1101),DRB1*12(1201),DRB1*15(1501)に共通している第7ポケットを構成する47番目のアミノ酸(図2)が発症に関与していると考察している.いろいろな人種・民族の遺伝子タイピングの結果から,HLA-DR3(DR17),DR5(DR11,DR12),DR6(DR14),DR8のDRB1遺伝子が疾患感受性に,HLA-DR1のDRB1遺伝子が疾患抵抗性に関与している可能性が考えられる.人種ごとに相関するHLAが多少異なっているのはつぎのような理由による.たとえば,DRB1*03(DR3)は白人ではよくみられるHLAタイプであるが,日本人ではきわめてまれなので,サルコイドーシス患者でもみられない.逆に日本人サルコイドーシスに相関のあるDRB1*08(DR8)は,白人や黒人では頻度が少ないので,患者でも少ない.このように,ある人種には頻度の高い対立遺伝子が,別の人種ではほとんどみられないため,疾患と相関するHLAに相違がある.3.サルコイドーシス臨床型,予後とHLAの相関発熱,結節性紅斑,関節痛,両側肺門リンパ節腫脹(BHL)を呈するL?fgren症候群はサルコイドーシスの一亜型であり,ヨーロッパ系白人に多くみられる.HLA-DR34)との相関が報告されており,特にDR17(DR3のsplit抗原)陽性患者で予後がよいといわれている6).また最近ではポーランド人でHLA-DRB1*03(DR3)とインターフェロン(IFN)g遺伝子のある対立遺伝子(IFN-gamma3,3)の両者をもつ患者が有意に多いという報告16)がある.日本人は他の民族に比べ心病変の合併が多いのが特徴であるが,心病変をもつ日本人サルコイドーシス患者26人の検討ではDRB1遺伝子ではなく,DQB1遺伝子が発症にかかわっている可能性も示唆されている17).予後とHLAとの関係では,アイルランド人でHLA-DR2またはHLA-DR11(DR5のsplit抗原)をもつ患者はHLA-DR3をもつ患者に比べて慢性化しやすく,予後も悪いとの報告がある18).また,イギリス人とオランダ人でHLA-DQB1*0201陽性患者はL?fgren症候群で発症することが多く,予後が良いとの報告があるが,これはDRB1*0301(DR3)とハプロタイプを作るDQ遺伝子である19).III連鎖解析によるゲノムスキャン疾患感受性遺伝子がどの染色体上に位置するかをスクリーニングするのによい方法である.サルコイドーシスでは2001年にドイツより63家系138名の患者でマイクロサテライトマーカーを使った連鎖解析がはじめて報告された20).その結果染色体6p-21-22のマーカー遺伝子に最も強い相関を認めた(p=0.001).ここはHLA遺伝子領域であり,特に補体やHSP70(ヒト熱ショック(25)———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006蛋白70),腫瘍壊死因子(TNF)遺伝子を含むクラスⅢ領域の近傍に疾患感受性遺伝子がある可能性が示唆された.そのほか,1p22,3p21,7q36,9q33,Xq21などの遺伝子マーカーと弱い相関が見いだされた.2003年にアメリカ黒人225家系704名を対象に,染色体6p-21-22上のHLA領域を網羅する6つのマイクロサテライトマーカーを使った連鎖解析が行われた21).クラスⅡ領域のうち,HLA-DQB1遺伝子領域(p=0.002)近傍のマイクロサテライトに最も強い相関がみられた.つまりアメリカ黒人では,相関解析ではDRB1遺伝子,ゲノムスキャンではDQB1遺伝子の関与が示唆されている.IVサルコイドーシスとHLA遺伝子サルコイドーシスは非乾酪性肉芽腫が多臓器にできるという共通の疾患でありながら,各臓器病変の頻度,臨床像,予後などに人種差,民族差がはっきりしている.たとえば,眼病変や心病変は日本人で多く,L?fgren症候群のような急性型はヨーロッパ白人に多い.また,アメリカの黒人は白人に比べ罹患率も高く,重症になりやすい.このような相違の原因の1つが,病因抗原に対する個体の反応の差,すなわち人種や民族ごとのHLA遺伝子の相違であると考えられる.近年のゲノムスキャンの結果から,少なくとも疾患感受性遺伝子の1つは,第6染色体上のHLA遺伝子領域近傍にありそうである.その場合,HLA遺伝子そのものまたは,HLA遺伝子の近傍にある遺伝子が疾患感受性遺伝子である可能性がある.一方,サルコイドーシスの遺伝子タイピングが報告されはじめてから10年以上が過ぎ,日本人,ヨーロッパ系白人,アメリカ黒人,アメリカ白人などさまざまな人種・民族からの相関解析の結果が蓄積されてきた.HLA遺伝子そのものが疾患感受性遺伝子である場合,HLAクラスⅡ領域のDR(DRB1)遺伝子が疾患感受性または抵抗性に働いているとする説はこれらの民族集団で見解の一致をみている.解析結果を合わせると,HLA-DR3(DR17),DR5(DR11,DR12),DR6(DR14),DR8のDRB1遺伝子(の共通するアミノ酸部位)が疾患感受性に関連している可能性があり,人種・民族ごとに,これらHLA遺伝子の相関が少しずつ異なっている.ある人種には頻度の高い対立遺伝子が,別の人種ではほとんどみられないから,という理由もあるが,このことが人種・民族間の臓器病変の頻度,臨床像,予後の相違をも説明しているのではないだろうか.たとえば,ヨーロッパ白人で多くみられる急性型(L?f-gren症候群)が日本人ではまれなのは,この病型と相関するHLA-DR3(DR17)が日本人にほとんどいないからであろう.またヨーロッパ白人でHLA-DR11(DR5)保有者はDR3保有者に比べ,慢性の経過をとり予後が悪いという報告は,日本人,アメリカ黒人,アメリカ白人のサルコイドーシス(3民族に共通な疾患感受性HLAはDR11)が慢性に経過するものであることと矛盾しない.一方,DQ(DQA1,DQB1)遺伝子はDRB1遺伝子と強い連鎖不平衡(ハプロタイプを作る)にあるため,病気の臨床型や一部の民族・人種によっては,統計学上これらの関与のほうが強く検出される場合もある.現在,筆者らは日本人サルコイドーシスでのゲノムスキャンを進めているが,他の人種と異なる結果が得られる可能性もあり,興味のあるところである.また,多因子遺伝疾患であると考えられるので,HLA遺伝子以外の疾患感受性遺伝子22)の関与も検討していく必要がある.文献1)片岡幹男,中田安成,平松順一ほか:サルコイドーシスの家族発生─本邦家族発症例の文献的考察と遺伝的素因の検討─.日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会雑誌20:21-26,20002)RybickiBA,IannuzziMC,FrederickMMetal:Familialaggregationofsarcoidosis.Acasecontroletiologicstudyofsarcoidosis(ACCESS).?????????????????????????164:2085-2091,20013)石原麻美,大野重昭:眼の免疫遺伝学─HLAと疾患感受性.新しい免疫学的アプローチと眼疾患(望月学編),眼科NewInsight4巻,p2-15,メジカルビュー社,19954)GrunewaldJ:LungT-helpercellsexpressingTcellreceptorAV2S3associatewithclinicalfeaturesofpulmo-narysarcoidosis.?????????????????????????161:814-818,20005)PasturenziL,MartinettiM,CucciaMetal:HLAclassI,II,IIIpolymorphismsinItalianpatientswithsarcoidosis.?????104:1170-1175,1993(26)———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????6)BerlinM,Fogdell-HahnA,OlerupOetal:HLA-DRpredictstheprognosisinScandinavianpatientswithpul-monarysarcoidosis.????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HLAとVogt-小柳-原田病

2006年12月31日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSが知られている5)(図1).さらに,日本在住の日本人と,南米やハワイなどに移住した日系人,その子孫との間にその発症頻度に大きな差がみられないことも知られている.このように,人種的に発症頻度に大きな差がみられることと,移住による環境要因の変化によってもその発症頻度に大きな差がみられないことから,VKH病の発症には遺伝的な要素が大きくかかわっていることが以前から考えられてきた.IIVKH病とHLAの関係HLA(humanleukocyteantigen)クラスⅠアリルと原田病の相関については,過去にいくつかの報告がなされている.日本人ではHLA-B54頻度がVKH病患者群で高いと報告されている5,6)が,韓国人7),中国人8,9),ブラジル人10),ヒスパニック11)ではHLA-B54との相関はみられないことが報告された.また,韓国人ではHLA-A31,B-55の頻度が有意に高い7)ことも報告された.このことから,日本人でHLA-B54と連鎖不平衡にある遺伝子が調べられ,HLA-DR4,-DR53,-DQ4がVKH病と相関することが報告された5,12,13).しかし,DR53はDR4,7,9と連鎖不平衡にあるにもかかわらず,DR7および9にはVKH病患者とコントロール群との間で有意差がみられないことから,DR53の増加はDR4に連鎖したものと考えられるようになった.HLAタイピングの技術の進歩により,この後DR4はさらに細かいサIVogt?小柳?原田病の病態Vogt?小柳?原田病(VKH病)は両眼性の肉芽腫性汎ぶどう膜炎を主体とする疾患である.しかし,その症状は眼科領域にとどまらず,頭痛,発熱,耳鳴り,感音性難聴,頭髪のぴりぴり感,めまい,皮膚の白斑,頭髪の白変,脱毛など多岐に及ぶ1,2)(表1).VKH病の本態は,患者リンパ球がメラノサイトを攻撃している組織像がみられること3),患者リンパ球がメラノサイトに対し細胞障害性を示すこと4)などからメラノサイトに対する自己免疫疾患と考えられている.また,VKH病は日本をはじめ,韓国,台湾などの東アジアやオーストラリアのアボリジニ,北米や中米,南米などのアメリカインディアン,イヌイット,インディオなどのモンゴロイドに多くみられるが,アフリカの黒人にはみられず,白人ではその発症は非常に少ないこと(15)????図1VKH病の世界分布*YukoTakemoto&ShigeakiOhno:北海道大学大学院医学研究科眼科学分野〔別刷請求先〕竹本裕子:〒060-8648札幌市北区北15条西7丁目北海道大学大学院医学研究科眼科学分野特集●組織適合抗原(HLA)のすべてあたらしい眼科23(12):1529~1533,2006HLAとVogt?小柳?原田病???????????????????????????????????????????????-????????-??????????????竹本裕子*大野重昭*———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006ブタイプに分類されるようになり,日本ではDRB1*0405およびDRB1*0410と,中国,ラオスではDRB1*0405と,メキシコやブラジルではHLA-DRB1*04との非常に強い相関がみつかっている12,14~16).また,日本人ではHLA-DRB1*1302やDRB1*0803と負の相関があること,DQA1*0301および*0401が正の相関を,DQA1*0103が負の相関を示すことも報告されている12).しかし,DQA1*0301はDR4およびDR9と連鎖不平衡にあるが,DR9に有意差がみられないことから,DQA1*0301はDR4に連鎖しているための二次的上昇と考えられるようになった.HLAと疾患との相関は,HLAそのものが特定の自己あるいは非自己抗原に対する免疫応答の個体差を決定することにより疾患感受性を直接的に決定している場合と,HLAと連鎖不平衡にあるHLA以外の疾患感受性遺伝子が存在する場合の2通りが考えられる.たとえば,前者では自己免疫疾患などがその例であると推定される.また疾患感受性を示す自己ペプチドとHLAの複合体が,胸腺におけるT細胞レパートリーの形成(posi-tiveselection)に重要な役割を担い,このようなT細胞のなかに自己免疫疾患を誘導する自己反応性T細胞が含まれる可能性も提唱されている.後者の例としては,補体第2,第4あるいはB因子欠損症および21-ヒドロキシラーゼの欠損による先天性副腎過形成などがある.(16)表1VKH病の診断基準完全型(complete):1~5の全項目を満たすもの1.穿孔性眼外傷あるいは手術の既往歴がない2.他の眼疾患を示唆する臨床所見がないか補助検査に該当しない3.両眼性であり,疾患の時期によりaまたはbが満たされているa.初期所見(1)他の炎症所見の有無にかかわらず,びまん性脈絡膜炎を示唆する次のどれかの所見(a)限局性の網膜下液,または(b)胞状漿液性網膜?離(2)網膜下液や網膜?離が明確でない場合は,次の両所見が必要(a)フルオレセイン蛍光眼底造影検査による限局性の脈絡膜灌流遅延,多発性点状漏出,大きな斑状過蛍光,網膜下蛍光貯留,または乳頭蛍光染色,および(b)超音波検査によるびまん性脈絡膜肥厚b.晩期所見(1)3aを示唆する原病歴,および次の(2)および(3),あるいは(3)の複数の所見(2)次のいずれかの眼色素脱失所見(a)夕焼け状眼底,または(b)杉浦徴候(3)他の眼所見(a)貨幣状の網脈絡膜色素脱失斑,または(b)網膜色素上皮遊走を示唆する色素沈着の所見,または(c)再発性あるいは慢性前部ぶどう膜炎4.神経,聴覚所見(眼科診察の際にすでに消失している可能性がある)a.髄膜刺激症状b.耳鳴りc.髄液細胞増加5.皮膚所見(ぶどう膜炎発症前には存在しない)a.脱毛b.白毛c.皮膚白斑不全型(incomplete):項目1~3,および項目4あるいは項目5を満たすもの疑い例(probable):項目1~3を満たすもの(ReadRW,HollandGN,RaoNAetal:ReviseddiagnosticcriteriaforVogt-Koyanagi-Haradadisease:reportofaninternationalcommitteeonnomenclature.???????????????131:647-652,2001より)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????これらの疾患は,特定のHLA-BおよびHLA-DR対立遺伝子と連鎖した,補体第2,第4,B因子あるいは21-ヒドロキシラーゼの構造遺伝子に突然変異が生じ,機能を有する蛋白質が産生されないことに起因する.この場合,疾患と相関を示すHLA対立遺伝子は単なるマーカーにすぎず,HLAと疾患発症との間には因果関係はない.そこで,VKH病と正の相関を示すDRB1*0405,*0410および負の相関を示す*0803,さらにVKH病の発症のまれな白人で最も多いHLA-DR4サブタイプであるDRB1*0401のアミノ酸配列を比較してみたのが表217)である.この表からわかるとおり,DRB1*0405および*0410の両者に共通して特異的なアミノ酸は57番目のセリンであり,さらにVKH病と負の相関を示すDRB1*0803では57番目のセリンと,70番目にアスパラギン酸をもっていることがわかった.これらのアミノ酸はいずれもaへリックスに位置し,これらの部位でのアミノ酸変化は抗原結合部位の立体構造変化をもたらし,抗原ペプチドとの結合やT細胞受容体の認識に大きな影響をもたらすことが報告されている18~21).このため,HLA-DRB1*0405やDRB1*0410に特異的なこれらのアミノ酸がVKH病疾患感受性因子として働いていると考えられる.IIIHLA-DRB1*0405と日本人日本人においてHLA-DRB1*0405の頻度は約12%と非常に高い(表3)22).しかし,VKH病の新患は北海道大学では年間10人前後,ぶどう膜炎患者の新患全体の約10%であることからHLA-DRB1*0405をもつ日本人の多くは,VKH病を発症しないでその生涯を終えることが予想される.また,VKH病の家族発症頻度は低く,このことからも遺伝要因以外にもVKH病発症に関与する要因が存在すると考えられる.このように,単一の要因で発症するか否かが決まらず,複数の要因が発症に関(17)表2HLA-DRB1のアミノ酸配列アミノ酸配列番号9135770717486DRB1*0101WQLKFDQRAGDRB1*0401E─V─H──K──DRB1*0402E─V─H─DE─VDRB1*0403E─V─H───EVDRB1*0404E─V─H────VDRB1*0405E─V─HS────DRB1*0406E─V─H───EVDRB1*0407E─V─H───E─DRB1*0408E─V─H─────DRB1*0409HS─K──DRB1*0410S───VDRB1*0411S──EVDRB1*0803EYSTGSD─L─(大野重昭:第96回日本眼科学会総会宿題報告免疫と眼眼疾患の免疫遺伝学的研究.日眼会誌96:1558-1579,1992より)表3日本人におけるHLA-DRB1アリル頻度AlleleGenefrequencyDRB1*0101DRB1*0401DRB1*0403DRB1*0404DRB1*0405DRB1*0406DRB1*0407DRB1*0410DRB1*0701DRB1*0802DRB1*0803DRB1*0901DRB1*1001DRB1*1101DRB1*1201DRB1*1202DRB1*1301DRB1*1302DRB1*1401DRB1*1403DRB1*1405DRB1*1406DRB1*1407DRB1*1412DRB1*1501DRB1*1502DRB1*16020.0650.0070.040.0010.1150.0350.0090.0180.0030.040.0810.1240.0090.0340.0380.0150.0070.0770.0420.0150.0110.0180.0030.0010.0850.10.009(SaitoS,OtaS,YamadaEetal:Allelefrequenciesandhap-lotypicassociationsde?nedbyallelicDNAtypingatHLAclassIandclassIIlociintheJapanesepopulation.???????????????56:522-529,2000より)———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006与する疾患を多因子疾患とよぶ.このため,HLA-DRB1以外の遺伝子とVKH病との相関や,感染などの環境要因とVKH病発症との関係が調べられている.IVVKH病の発症機序現在,VKH病の発症にはチロシナーゼが関わっている可能性が示唆されている.チロシナーゼとはチロシンをメラニンやドーパミンに変換する際に働く酵素である(図2).この酵素を構成するペプチドの一部を合成し,ラットや秋田犬に投与したところ,脱毛やぶどう膜炎などのVKH病様の症状を惹起することが確認された23,24).また,VKH病患者から得られたT細胞株をチロシナーゼ構成ペプチドで刺激すると免疫反応を惹起することが確認されている25,26).さらに,T細胞免疫応答を誘導するこの構成ペプチドは,HLA-DRB1*0405結合ペプチドモチーフを含むと報告されている25).しかし,患者と健常人のチロシナーゼをコードしている遺伝子に多型はみられなかった27).つまり,チロシナーゼの発現や構造にはVKH病患者と健常人で変化はなく,その認識系に変化が生じていると考えられる.以上から,HLA-DRB1*0405などの内的要因(遺伝素因)をもっているヒトに,感染などの外的要因が加わることによって,本来は免疫寛容で免疫機構に認識されないはずの自己蛋白であるチロシナーゼとHLA-DRB1*0405との複合体に対してCD4+T細胞が誤って反応してしまい,メラノサイトに炎症が惹起されると推定される.また,現在までのところ,HLA-DRB1以外の遺伝子とVKH病との相関は報告されていないが,おそらくHLA-DRB1以外のVKH病疾患感受性遺伝子が存在することが予想され,今後の研究報告が待たれるところである.おわりにVKH病はわが国ではサルコイドーシスについで多くみられる内眼炎である.本病のHLAとの真の相関機序,さらには全ゲノムにわたる疾患感受性遺伝子の検索により,本病の分子遺伝学的発症機序が解明され,将来はその応用としての遺伝子診断,そして遺伝子治療が確立されることが強く望まれる.文献1)杉浦清治:Vogt?小柳?原田病.臨眼33:411-424,19792)ReadRW,HollandGN,RaoNAetal:ReviseddiagnosticcriteriaforVogt-Koyanagi-Haradadisease:reportofaninternationalcommitteeonnomenclature.????????????????131:647-652,20013)OkadaT,SakamotoT,IshibashiTetal:VitiligoinVogt-Koyanagi-Haradadisease:immunohistologicalanalysisofin?ammatorysite.???????????????????????????????234:359-363,19964)MaezawaN,YanoA,TaniguchiMetal:TheroleofcytotoxicTlymphocytesinthepathogenesisofVogt-Koyanagi-Haradadisease.???????????????185:179-186,19825)OhnoS:ImmunologicalaspectsofBeh?et?sandVogt-Koyanagi-Harada?sdiseases.???????????????????????101:335-341,19816)TagawaY:Lymphocyte-mediatedcytotoxicityagainstmelanocyteantigensinVogt-Koyanagi-Haradadisease.????????????????22:36-41,19787)KimMH,SeongMC,KwakNHetal:AssociationofHLAwithVogt-Koyanagi-HaradasyndromeinKoreans.???????????????129:173-177,20008)ZhaoM,JianY,AbrahamsW:AssociationofHLAanti-genswithVogt-Koyanagi-HaradasyndromeinaHanChi-nesepopulation.???????????????109:368-370,19919)ZhangXY,WangXM,HuTS:Pro?linghumanleukocyteantigensinVogt-Koyanagi-Haradasyndrome.????????????????113:567-572,199210)GoldbergAC,YamamotoJH,ChiarellaJMetal:HLA-DRB1*0405isthepredominantalleleinBrazilianpatientswithVogt-Koyanagi-Haradadisease.???????????59:183-188,199811)WeiszJM,HollandGN,RoerLNetal:AssociationbetweenVogt-Koyanagi-HaradasyndromeandHLA-DR1and-DR4inHispanicpatientslivinginsouthernCalifor-nia.?????????????102:1012-1015,1995(18)図2チロシナーゼのはたらきチロシン3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)ドーパミンノルアドレナリンアドレナリンフェニルアラニン3,4-キノンメラニンチロシナーゼチロシナーゼ———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????12)ShindoY,InokoH,YamamotoTetal:HLA-DRB1typ-ingofVogt-Koyanagi-Harada?sdiseasebyPCR-RFLPandthestrongassociationwithDRB1*0405andDRB1*0410.???????????????78:223-226,199413)OhnoS,CharDH,KimuraSJetal:Vogt-Koyanagi-Hara-dasyndrome.???????????????83:735-740,197714)ShindoY,InokoH,NakamuraSetal:Clinicalandimmu-nogeneticinvestigationofaLaotianpatientwithVogt-Koyanagi-Harada?sdisease.???????????????210:112-114,199615)Arellanes-GarciaL,BautistaN,MoraPetal:HLA-DRisstronglyassociatedwithVogt-Koyanagi-HaradadiseaseinMexicanMestizopatients.???????????????????6:93-100,199816)AlaezC,delPilarMoraM,ArellanesLetal:Strongasso-ciationofHLAclassIIsequencesinMexicanswithVogt-Koyanagi-Harada?sdisease.???????????60:875-882,199917)大野重昭:第96回日本眼科学会総会宿題報告免疫と眼眼疾患の免疫遺伝学的研究.日眼会誌96:1558-1579,199218)BjorkmanPJ,SaperMA,SamraouiBetal:StructureofthehumanclassIhistocompatibilityantigen,HLA-A2.??????329:506-512,198719)BjorkmanPJ,SaperMA,SamraouiBetal:TheforeignantigenbindingsiteandTcellrecognitionregionsofclassIhistocompatibilityantigens.??????329:512-518,198720)SchwartzRH:T-lymphocyterecognitionofantigeninassociationwithgeneproductsofthemajorhistocompati-bilitycomplex.???????????????3:237-261,198521)SpiesT,BresnahanM,BahramSetal:AgeneinthehumanmajorhistocompatibilitycomplexclassIIregioncontrollingtheclassIantigenpresentationpathway.??????348:744-747,199022)SaitoS,OtaS,YamadaDetal:Allelefrequenciesandhaplotypicassociationsde?nedbyallelicDNAtypingatHLAclassIandclassIIlociintheJapanesepopulation.???????????????56:522-529,200023)YamakiK,KondoI,NakamuraHetal:Ocularandextra-ocularin?ammationinducedbyimmunizationoftyrosi-naserelatedprotein1and2inLewisrats.???????????71:361-369,200024)YamakiK,TakiyamaN,IthohNetal:ExperimentallyinducedVogt-Koyanagi-HaradadiseaseintwoAkitadogs.???????????80:273-280,200525)KobayashiH,KokuboT,TakahashiMetal:TyrosinaseepitoperecognizedbyanHLA-DR-restructedT-celllinefromaVogt-Koyanagi-Haradadiseasepatient.???????????????47:398-403,199826)GochoK,KondoI,YamakiK:Identi?cationofautoreac-tiveTcellsinVogt-Koyanagi-Haradadisease.??????????????????????????42:2004-2009,200127)HorieY,TakemotoY,MiyazakiAetal:TyrosinasegenefamilyandVogt-Koyanagi-HaradadiseaseinJapanesepatients.????????????????(inpress)(19)

HLAとbehCet病

2006年12月31日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS抗原と顕著に相関することが知られており1,2),疾患感受性遺伝子はHLA-B*51対立遺伝子(アリル)であると考えられる.しかしながら,HLA-B*51アリルを保有する人は日本人の約16%(1,500万人以上)も存在するが,本病を発症する人はそのなかのほんのわずかにすぎない(浸透率が低い).したがって,本病発症には外来抗原などの外的要因やHLA-B*51アリル以外の他の疾患感受性遺伝子(内的要因)も関与していると考えられる.本稿では,Beh?et病の病態およびHLAとの関連について,最新の知見を交えながら概説したい.IBeh?et病の疫学旧厚生省および厚生労働省の全国疫学調査3~5)によると,患者数は1972年には8,500人,1984年には12,700人,1991年には18,300人と年々増加していたが,2002年には15,000人と減少した.性比(男/女)の推移をみると,1.20(1972年),0.86(1977年),0.92(1984年),0.96(1991年),0.93(2002年)で,当初は男性患者が多かったものの,女性患者の激増により1977年には女性が多くなっている.その後,男性患者が増加する傾向がみられるが,現在も女性の割合がやや多い.平均発症年齢は32.2歳(1972年),35.5歳(1984年),37.8歳(1991年)とこの20年間で上昇し続けている.また発症するBeh?et病の症状にも変化がみられ,疑い例と分類不能例を除いた完全型と不全型のみの割合でみると男性でははじめにBeh?et病は1937年にトルコのイスタンブール大学皮膚科のHulusiBeh?et教授により初めて報告された疾患で,口腔内アフタ性潰瘍,眼症状,皮膚症状,外陰部潰瘍を4主症状とする再発性の難治性炎症性疾患である.しばしば関節炎,副睾丸炎,消化器病変,血管病変,中枢神経病変などの副症状を伴い,出現する症状により完全型,不全型,疑いおよび特殊型に分類される(表1).青壮年期に多く発症し,長期間にわたり再発と寛解をくり返すため,患者のqualityoflife(QOL)に大きく影響する.本病はわが国のぶどう膜炎の原因疾患として頻度が高く,近年の治療法の進歩により視力の予後は改善してきているが,今なお失明率の高い疾患である.Beh?et病の発症機構はいまだ明確ではないが,本病は特定の内的遺伝要因のもとに何らかの外的環境要因が関与して発症する多因子疾患と考えられている.単一遺伝子性疾患は1つの遺伝子における変異が原因で発症し,その遺伝子変異を有している人はほぼ100%の確率でその疾患を発症すると予測される(浸透率100%).これに対して,多遺伝子性疾患の場合,特定の遺伝子のみでは疾患を発症しないが,その疾患に対する罹患リスクを上昇させるため,そのような遺伝子は疾患感受性遺伝子とよばれる.本病の疾患感受性を規定している遺伝要因の少なくとも1つは第6染色体短腕上のHLA(ヒト白血球抗原;humanleukocyteantigen)領域に存在すると考えられている.本病は人種を超えてHLA-B51(7)????*AkiraMeguro&NobuhisaMizuki:横浜市立大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕目黒明:〒236-0004横浜市金沢区福浦3-9横浜市立大学医学部眼科学教室特集●組織適合抗原(HLA)のすべてあたらしい眼科23(12):1521~1527,2006HLAとBeh?et病????????????????????????????????????????????目黒明*水木信久*———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006完全型が50.9%(1972年)→44.1%(1984年)→35.9%(1991年)→29.9%(2002年),女性では38.7%→36.5%→32.8%→27.8%と男女ともに完全型が減少している.さらに過去1年間における臨床経過では,1991年は1972年に比べて,各症状の“発作なしまたは改善”の頻度が大幅に上昇(24.5%→57.0%)し,逆に“不変または悪化”の頻度が大幅に減少(不変:42.0%→31.7%,悪化:30.1%→9.1%)している.死亡例も減少傾向(1.0%→0.4%)にあり,近年,Beh?et病は軽症化傾向にあるといえる.これらのことより,受診しない軽症者の割合が増加したことが推測され,この軽症化が1991年から2002年にかけての患者数の大幅な減少に影響を与えた可能性が考えられる.そのため患者数は潜在患者を考慮すると報告数よりもかなり多いと推定される.IIBeh?et病の病因1.内因Beh?et病は,世界的には地中海沿岸から中近東,東アジアに至る北緯30度から北緯45度付近のシルクロード沿いの地域で多く発症することが知られている(図1)2,6~20).本病はHLA-B51抗原と強く相関していることが明らかにされており,これらの地域のどの民族においても患者群のHLA-B51抗原陽性頻度は35~80%であり,健常群の10~30%と比較して有意に上昇しているため(表2)21~30),HLA-B51抗原が本病の発症に何らかの影響を及ぼしていることが考えられる.シルクロー(8)図1Beh?et病の世界分布:推定有病率を面積で相対的に示した.有病率はトルコが10万人当たり100人以上と最も高く,日本は10万人当たり約13.5人である.:推定有病率が10万人当たり1人未満の地域を示す.:有病率は不明であるが発症報告が少ない,あるいはまれである地域を示す.×:これまでに発症の報告なし.Beh?et病の発症が地中海沿岸から東アジアにかけての北緯30度から45度の地域で高頻度にみられる.表1Beh?et病の症状と診断基準(厚生省ベーチェット病調査研究班,1987年改訂)(1)主症状①口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍②皮膚症状(a)結節性紅斑様皮疹(b)皮下の血栓性静脈炎(c)毛?炎様皮疹,?瘡様皮疹参考所見:皮膚の被刺激性亢進③眼症状(a)虹彩毛様体炎(b)網膜ぶどう膜炎(網脈絡膜炎)(c)以下の所見があれば(a)(b)に準じる(a)(b)を経過したと思われる虹彩後癒着,水晶体上色素沈着,網脈絡膜萎縮,視神経萎縮,併発白内障,続発緑内障,眼球癆④外陰部潰瘍(2)副症状①変形や硬直を伴わない関節炎②副睾丸炎③回盲部潰瘍で代表される消化器病変④血管病変⑤中等度以上の中枢神経病変(3)病型診断の基準①完全型経過中に4主症状が出現したもの②不全型(a)経過中に3主症状,あるいは2主症状と2副症状が出現したもの(b)経過中に定型的眼症状とその他の1主症状,あるいは2副症状が出現したもの③疑い主症状の一部が出現するが,不完全型の条件を満たさないもの,および定型的な副症状が反復あるいは増悪するもの④特殊病変(a)腸管(型)Beh?et病─腹痛,潜血反応の有無を確認する(b)血管(型)Beh?et病─大動脈,小動脈,大小静脈障害の別を確認する(c)神経(型)Beh?et病─頭痛,麻痺,脳脊髄症型,精神症状などの有無を確認する———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????ド沿いの地域の有病率は人口10万人当たり10~370人と多いのに対し,北欧や北米では10万人当たり1人にも満たないまれな疾患である.北欧および北米の健常群のHLA-B51抗原陽性頻度が0~10%と低値であるように人種間におけるHLA-B51抗原出現頻度の偏りがこの有病率の地域差に反映していると推測される.一方,イタリア,ポルトガル,エスキモーの健常群のHLA-B51抗原陽性頻度は17~28%とシルクロード沿いの地域の健常群と同等であるのにもかかわらず,本病の有病率はイタリア,ポルトガルでは10万人当たり2人前後,エスキモーにおいては本病の発症は報告されていない.このため本病の発症をHLA-B*51アリルのみで規定することはできず,何らかの外的環境要因もしくは他の疾患感受性遺伝子の存在を考慮しなければならない.本病は家族内発症の報告が少ないのに加え,日本人と同じ遺伝背景をもつハワイやアメリカ本土在住の日系人では本病の発症がほとんどみられないことからも環境因子が関与している可能性が高い.また,本病患者の20~50%はHLA-B51抗原陰性者であるため,環境因子に加えてHLA-B51遺伝子以外の他の内的遺伝因子の関与も示唆される.Beh?et病では一般に好中球の機能亢進が認められていることから,近年では免疫応答を制御する炎症性サイトカインに関与する遺伝子の相関解析が盛んであるが,いまだ確証を得た結果は得られていない.2.外因Beh?et病は,シルクロード周辺地域に偏在することから,地域特異的な外的環境因子が考えられる.Beh?et病を初めて報告したBeh?et教授は外因としてウイルスをあげているが,これまでに有意な結果を示す報告は少ない.また,わが国では1960年代より急激にBeh?et病の患者数が増加したことから,高度成長期下の環境汚染あるいは環境の変化が発症の要因であるとして検討されたこともあったが,因果関係はわからなかった.近年,患者の口腔内細菌叢に高頻度にみられるレンサ球菌由来の熱ショック蛋白質(HSP)が注目されている.HSPは熱などの細胞にとってストレスとなる刺激により発現し,シャペロンとして生体防御や機能維持に関与する細胞内蛋白質である.HSPは免疫原性が強く,種を超えてアミノ酸配列の相同性がきわめて高いため,細菌由来のHSPとヒト由来のHSPの交叉反応性からBeh?et病が発症するという自己免疫反応説を示唆する報告もされている.IIIBeh?et病の病態活動期のBeh?et病では,急性炎症病変部への好中球主体の浸潤が観察される.好中球は末?血中の多形核白血球の90%以上を占め,高い運動性と貪食能により体内に侵入する細菌を細胞内に取り込み,効率よく殺菌分解する.本病の基本病態はこの好中球の機能亢進にあると考えられている.本病患者の好中球では,走化性亢進,活性酸素およびサイトカイン産生能の亢進がみられるため,元来,生体の防御機構の初期に作用する物質が組織障害をひき起こし,本病の病態形成に関与すると推測されている.このことから好中球の機能異常と本病で高頻度に保有されるHLA-B51抗原の関連が検討されており,現在までにHLA-B51分子が好中球の機能制御に関与している可能性が示唆されている.HLA-B51抗原陽性者はBeh?et病の有無にかかわらず,好中球による活性酸素産生能が亢進していた.さらに,ヒトのHLA-B51遺伝子を発現したトランスジェニックマウスの好中球はfMLP(N-formyl-Met-Leu-Phe)刺激により活性酸素を産生するのに対し,HLA-B35遺伝子を発現したマウスでは活性酸素の産生はなかった.このように(9)表2各国のHLA-B51抗原陽性頻度国患者健常者文献東アジア日本韓国中近東アジアイランヨルダンサウジアラビアトルコヨーロッパイタリアスペインギリシャドイツ白色人種58.9%35.2%61.9%63.2%76.9%75.0%57.4%36.2%78.9%57.6%42.9%13.8%22.5%28.7%16.0%22.2%24.7%19.2%19.6%22.5%12.3%10.0%21)22)23)24)25)26)27)28)29)26)30)———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006HLA-B51遺伝子自体が好中球の機能を制御し,本病の発症に深く関与している可能性が示唆されている.IVBeh?et病とHLA領域ヒトの主要組織適合遺伝子複合体(majorhistocom-patibilitycomplex:MHC)であるHLAは,第6染色体短腕上の6p21.3領域(3.6Mb)に存在している.HLAは自己の標識として異物由来の抗原ペプチドをT細胞に提示し自己と非自己の識別に関与することにより,免疫応答の誘導に深く関わっている.HLA領域の遺伝子の最大の特徴は,機能を有するヒトの遺伝子としては最も高度な多型性(個人差)を示すことである.これまでの遺伝子解析の結果から,多くの遺伝子座が多型性を示すことが明らかとなっており,通常の遺伝子座では数個の対立遺伝子が観察されるにすぎないが,HLA遺伝子座には膨大な数のアリル(対立遺伝子)が存在し,HLA-A遺伝子座には400種類以上,HLA-B遺伝子座には800種類以上,HLA-DR遺伝子座には500種類以上のアリルが報告されている.この類いまれなる多型性(個人差)により,免疫応答の個人差が生じ,疾患発症のかかりやすさに違いが生じてくることがわかってきた.HLA領域では,これまでに数多くの疾患と特定のHLAアリルとの有意な相関が報告されている.このように,疾患とHLA遺伝子が相関を示した場合,一般的にはHLA遺伝子自体が抗原に対する免疫応答の個体差を決定する遺伝要因となり,疾患に対する感受性を規定していると考えるが,病因および病態が明確ではない疾患では,HLA遺伝子は単なる遺伝子マーカーであり,その相関は真の感受性遺伝子が近傍に存在するため,強い連鎖不平衡により観察されている可能性があることを考慮しなければならない.Beh?et病では,主要な遺伝要因としてHLA-B*51アリルが見いだされ,HLA-B51を中心としたHLA領域の解析が進んでいる.1.HLA-B*51対立遺伝子HLA-B遺伝子は最も高度の遺伝的多型性を有し,800種類以上の対立遺伝子が報告されている.この著明な多型性のため,HLA-B遺伝子は疾患の感受性遺伝子を検索するうえで優れた遺伝標識となっている.必ずしもHLA-B遺伝子自体が疾患に対する感受性を規定しているとは限らないが,これまでに多くの疾患で特定のHLA-Bアリルとの相関が認められている(表3).一般に,HLA分子は外来抗原ペプチドを収容溝に取り込み,CD8+T細胞への抗原提示を行うが,そのペプチド収容溝を構成するアミノ酸の相違によって結合ペプチドが異なるため,特定のペプチドに対する免疫応答が大きく異なり,それにより疾患が発症する可能性がある.Beh?et病では,どの民族においても患者群でHLA-B51抗原が顕著に増加することが知られているが,興味深いことに,HLA-B51抗原と2カ所のアミノ酸残基以外まったく同一であるHLA-B52抗原は本病とまったく相関していない.このためHLA-B51分子特異的な2カ所のアミノ酸,63番目のアスパラギンおよび67番目のフェニルアラニンに結合する特定の抗原に対する免疫応答がBeh?et病の発症に直接関与している可能性が考えられている.近年の研究により,HLA分子と結合する抗原ペプチドが解析され,HLA-B51分子は他のHLA分子とはまったく異なるHLA結合モチーフを有することがわかっている.しかしながら,本病に関与する外来抗原および自己抗原はいまだ不明であり,病因を解明するうえで今後のさらなる解析が必要である.2.MICA分子MICA(MHCclassⅠchain-relatedgeneA)はHLA-B遺伝子座のわずか46kbセンテロメア側のきわめて近傍に位置する非HLA遺伝子であり,HLAクラスⅠ類似蛋白質をコードする.筆者らの以前の研究ではMICA遺伝子の膜貫通領域に存在するマイクロサテラ(10)表3HLA-Bと疾患との相関疾患HLA-BBeh?et病強直性脊椎炎Reiter病高安病全身性エリテマトーデス亜急性甲状腺炎Basedow病B51B27B27B52B8,B39B35B8,B35,B46———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????イト(MS)多型とBeh?et病との有意な相関が見いだされた.MSとはゲノム上に散在する数塩基単位の反復配列のことで,その反復配列に多型性があり,疾患感受性遺伝子マッピングの有用な遺伝マーカーとなりうる.本病患者ではアラニンをコードするGCTを6回反復するMS(MICA-A6)が健常群に比して有意に上昇していることが明らかにされた31).MICA-A6遺伝子と本病の相関はHLA-B*51アリルによる相関と同程度の高値を示しており,本病の有力な感受性遺伝子である可能性が考えられた.しかし,HLA-BとMICAの遺伝子座は近接して座位しており,両遺伝子間には強い連鎖不平衡が存在するため,両遺伝子が本病に対しておのおの独立に作用する可能性は低い.その後の筆者らの両遺伝子間の連鎖解析(層別解析)により,多くの民族でHLA-B*51アリルが本病と第一義的に相関しており,HLA-B遺伝子近傍領域に存在する本病の感受性遺伝子はMICA-A6アリルではなく,HLA-B*51アリルである可能性が示唆された21,27,29).しかしながら,興味深いことに,MICA分子の発現は上皮細胞,血管内皮細胞,ケラチノサイトなどに限局し,Beh?et病の病変部(粘膜上皮,血管内皮,皮膚)と一致している.また,MICA分子はナチュラルキラー(NK)細胞,gdT細胞およびCD8+T細胞に抗原提示し,何らかの免疫応答に関与することが示唆されているが,まさに本病患者の病変部ではNK細胞,gdT細胞およびCD8+T細胞の機能亢進が報告されている.これらの報告からも,MICA-A6がBeh?et病の病態形成に何らかの関わりがある可能性も依然残っている.近年,HLA-B51分子はMICA-A6を含むペプチドと高い親和性があることが報告されており,MICA-A6を含むペプチドがHLA-B51分子上に提示され,それを認識するCD8+T細胞がMICA-A6発現細胞を傷害し,炎症性病態を形成する可能性も示唆されている.これらのことより,HLA-B*51アリルの著しく強い連鎖不平衡の下に発現したMICA-A6アリルが本病発症に二次的に関与している可能性も考えられ,本病の病態誘導にはHLA-B51分子とMICA-A6分子の両者の組み合わせが重要である可能性も考えられている.(11)図2日本人,ギリシャ人,イタリア人,ヨルダン人のマイクロサテライト多型解析各民族の患者において,HLA領域に存在する8種類のMSマーカー(C1-2-A,MICA,MIB,C1-4-1,C1-2-5,C1-3-1,C2-4-4,C3-2-11)およびHLA-B遺伝子の多型解析の結果を示す.横軸は各MSマーカーの位置をHLA-B遺伝子からの距離で示している.縦軸は患者群と健常群でのMSのアリル分布の統計学的有意差検定の値(p値の対数の逆数値)を示している.Locationofpolymorphicmarkerspvalue2.01.00.50.22C1-2-AMICA(GCT)nMIBHLA-BC1-2-5C1-3-1C2-4-4C3-2-11C1-4-1101221866249171630(kb)ギリシャ人ヨルダン人イタリア人日本人———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.23,No.12,20063.HLA-B遺伝子近傍領域のマイクロサテライト多型解析1999年,筆者らはヒトゲノムプロジェクトの一環として,HLAクラスⅠ領域(1.8Mb)の全塩基配列を決定し,HLA-B遺伝子近傍にMICA遺伝子のほか多くの未知の遺伝子および700個以上のMSを同定した32).HLA-B遺伝子近傍に本病とより強固に相関する真の感受性遺伝子が存在する可能性も残っていたため,筆者らは日本人,ギリシャ人,イタリア人,ヨルダン人を対象にHLA-B遺伝子を含むHLAクラスⅠ領域の約1.1bのMS多型解析を行った24,33,34).その結果,すべての民族においてHLA-B遺伝子が本病と最も強く相関しており,この領域に存在する本病の感受性遺伝子はHLA-B*51アリルであることが示唆された(図2).HLA領域には130個を超える発現遺伝子が存在し,その半数近くが免疫系に関与している.現在,HLA領域には多くの免疫疾患の疾患感受性遺伝子がマッピングされている.Beh?et病では,HLA-B遺伝子近傍領域の解析が盛んに行われてきたが,残りのHLA領域はいまだ詳細には解析されていない.今後,これらの領域をさらに解析していきたい.VBeh?et病と非HLA領域Beh?et病患者の20~50%はHLA-B51抗原陰性であり,本病発症にはHLA-B*51アリル以外の他の疾患感受性遺伝子も関与している可能性が高い.しかしながら,HLA領域以外に本病の有力な疾患感受性遺伝子は現在まで見つかっていない.一般的に,免疫に関連する疾患の遺伝解析が困難な理由として,①候補遺伝子が明確ではなく,検索すべき遺伝子が特定できない,②メンデル遺伝形式が不明である,③遺伝子の浸透率が低く,検出感度が落ちる,④外的環境の影響が大きい,などがあげられる.これらの問題点を考慮し,筆者らは2003年より,全染色体を網羅する23,465個のMSマーカーを用いて,全ゲノムを網羅的に解析し,Beh?et病の疾患感受性遺伝子の検索を行っている.現在,全染色体でMSスクリーニングを終了しており,本病の疾患感受性遺伝子の候補領域を147領域まで絞り込んでいる.本病の全ゲノム網羅的解析の詳細については,本特集の「疾患感受性遺伝子同定のアプローチと今後の展望」の項を参照されたい.おわりにBeh?et病の病態および遺伝学的発症機序についてHLAを中心に紹介した.疾患感受性遺伝子を同定する最終的な目的は,臨床応用すなわちトランスレーショナルリサーチである.本病の疾患感受性遺伝子を解明し,本病の有効な予防法および治療法に結びつけられるよう努力していきたい.文献1)OhnoS,AokiK,SugiuraSetal:HL-A5andBeh?et?sdis-ease.??????ii:1383-1384,19732)OhnoS,OhguchiM,HiroseSetal:CloseassociationofHLA-Bw51withBeh?et?sdisease.???????????????100:1455-1458,19823)厚生省特定疾患ベーチェット病調査研究班,昭和47年度研究業績,p1-27,p38-43,19734)厚生省特定疾患ベーチェット病調査研究班,平成3年度研究業績,67-69,19925)厚生労働科学研究(難治性疾患克服研究事業)ベーチェット病に関する調査研究,平成16年度研究報告書,p89-94,20056)VerityDH,MarrJE,OhnoSetal:Beh?et?sdisease,theSilkRoadandHLA-B51:historicalandgeographicalper-spectives.???????????????54:213-220,19997)BangD,LeeJH,LeeESetal:EpidemiologicandclinicalsurveyofBeh?et?sdiseaseinKorea:the?rstmulticenterstudy.????????????????16:615-618,20018)Al-OtaibiLM,PorterSR,PoateTWJ:Beh?et?sdisease:areview.??????????84:209-222,20059)SakaneT,TakenoM,SuzukiNetal:Beh?et?sdisease.????????????341:1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序説:HLAとは

2006年12月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(1)????I主要組織適合遺伝子複合体(MHC)とHLA主要組織適合遺伝子複合体(majorhistocompati-bilitycomplex:MHC)はマウスの皮膚移植をしたときに,系統が異なると拒絶反応をひき起こす原因として発見されたH2遺伝子1,2)をはじめとする遺伝子群の総称である.つまり,MHCは自己と他者を認識する際に働く遺伝子群の総称といえる.MHCはヒト,ブタ,マウスなどの哺乳類のみならず,ニワトリ,サメなどの非哺乳類にも存在することが報告されている.しかし,非哺乳類のMHCは単純な構造となっており,さらに,非脊椎動物には存在しない.このため,軟骨魚類が他の脊椎動物と進化的に分かれる以前,おそらく5億年以上前にもともと異なる機能を果たしていた蛋白分子の遺伝子が,遺伝子重複で二つ(またはそれ以上)に重複し,そのうちの一つが進化し,MHCになったと考えられている3~5).脊椎動物の非哺乳類から哺乳類への進化とともにMHC領域ではその後も遺伝子重複が続き,その構造は複雑化したと考えられる.マウスのMHC遺伝子がH2遺伝子とよばれるのと同様に,ヒトのMHC遺伝子はHLA遺伝子とよばれている.HLA遺伝子は,妊婦や輸血を受けた患者の血液中で発見された抗白血球抗体が認識する抗原を規定する遺伝子として発見されたため,ヒト白血球抗原(humanleukocyteantigen:HLA)遺伝子と命名された.しばしば同義語のように使われることのあるMHCとHLAであるが,MHCは通常,脊椎動物以上の生物すべてに共通した内容に関して用いられ,HLAはヒトに限定した内容を示す場合に用いられることが多い(図1).その働きから,いまでは免疫における三大主要分子(Ig:免疫グロブリン,TCR:T細胞受容体,HLA)の一つと考えられている.IIHLA分子の分類HLA遺伝子の規定する分子(ヒト白血球抗原分0910-1810/06/\100/頁/JCLS*YukoTakemoto&ShigeakiOhno:北海道大学大学院医学研究科眼科学分野〔別刷請求先〕竹本裕子:〒060-8648札幌市北区北15条西7丁目北海道大学大学院医学研究科眼科学分野●序説あたらしい眼科23(12):1515-1519,2006HLAとは????????????????????????????????竹本裕子*大野重昭*図1MHCとHLAMHCは通常,脊椎動物以上の生物すべてに共通した内容に関して用いられ,HLAはヒトに限定した内容を示す場合に用いられることが多い.ALHCHM———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006子)はその構造と機能によって大きく二つに分類され,HLAクラスI分子とHLAクラスII分子とよんでいる(図2).HLAクラスI分子のうち,ほとんどの有核細胞と血小板の細胞膜上に発現しているものを古典的HLAクラスI分子,特定の分化段階の組織や細胞のみに発現しているものを非古典的HLAクラスI分子と分類している.古典的HLAクラスI分子にはHLA-A,-B,-Cの3種類が,非古典的クラスI分子にはHLA-E,-F,-Gが属する.同様に,HLAクラスII分子は古典的クラスII分子とよばれるHLA-DR,-DQ,-DP分子の3種類と,非古典的HLAクラスII分子とよばれるHLA-DM,-DO分子の2種類が存在する.古典的HLAクラスII分子はマクロファージ,樹状細胞といった抗原提示細胞とB細胞などの限定された細胞のみに発現している.非古典的HLAクラスII分子であるHLA-DM分子は古典的HLAクラスII分子と同様に抗原提示細胞とB細胞に発現しているが,HLA-DO分子は成熟B細胞と胸腺上皮細胞のみに発現が限定されている.HLAは免疫学的に自己と他者(細菌や腫瘍細胞,ウイルス感染細胞など)を認識し,免疫応答を制御しているが,発現部位の異なるそれぞれの分子はその機能も少しずつ異なっている.たとえば,古典的HLAクラスI分子は細胞内のウイルス,細菌や腫瘍抗原に由来するペプチドと結合し,キラーT細胞に提示したり,ナチュラルキラー(NK)細胞と結合し,その細胞障害活性を抑制する.また,自己抗原ペプチドを未成熟胸腺細胞上のTCRに提示することで自己抗原に反応してしまうT細胞を除去し,高い応答性を示すT細胞のみを末?へ送り出すためのT細胞の教育も行っている.多型性の比較的少ない非古典的HLAクラスI分子は妊娠時に胎児(非自己)が母体(自己)から拒絶されないように働いていると考えられている.一方,古典的HLAクラスII分子は細胞外の抗原ペプチドをヘルパーT細胞に提示する.非古典的HLAクラスII分子の一つであるHLA-DM分子はHLA-DR分子への抗原ペプチド結合を促進する触媒作用をもっている.HLA-DO分子はHLA-DM分子によるこの触媒作用を抑制していると考えられているが,その機序や調節機構についてはいまだ不明な部分が多い(表1).このほか,HLA領域にコードされているが,HLAクラスI分子およびHLAクラスII分子以外のもの,つまり「その他」といった意味で,HLAクラスIII分子が定義されている.そのなかには補体の構成成分や熱ショック蛋白(HSP70),腫瘍壊死因子(TNF),細胞内抗原の輸送に携わるLMP(lowmolecularmasspolypeptide),TAP(transporter-associatedwiththeantigenprocessing)などの生体防御や個体のホメオスタシスに関する蛋白質をコードする遺伝子が含まれている.(2)図2HLA分子とその分類HLAHLA-AHLA-BHLA-CHLA-EHLA-FHLA-GHLA-DRHLA-DQHLA-DPHLA-DMHLA-DOHLAクラスIHLAクラスII古典的HLAクラスI非古典的HLAクラスI古典的HLAクラスII非古典的HLAクラスII———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????IIIHLA分子の多様性HLA分子が自己と他者(細菌や,腫瘍細胞,ウイルス感染細胞など)を認識し,免疫機能を働かせる際に重要な役割を果たすことはすでに述べた.非常に多様な他者に対して,自己を維持するためには,非常に多様な対応を迫られる.そのために重要な免疫の多様性は,先に述べた免疫の三大主要因子(Ig,TCRそしてHLA)の多様性によって規定されている.IgやTCRはゲノム上に多数の遺伝子が存在し,その再構成で莫大な多様性を出現させる機能をもっている(図3)6).一方,HLAはそのアリル(対立遺伝子;同じHLA-B遺伝子にもHLA-B51やHLA-B27といった異なるアリルが存在する)の種類を増やすことで多様性を得てきた.HLAアリルの多様性は,多くが「非同義置換(アミノ酸変異を伴う塩基置換)」で,その変異は抗原ペプチドとHLA分子が結合する「溝」(抗原ペプチドを選択できる部位)やTCRの受容部位に多発している(図4,5)7).このため,HLAの多型によりHLAのペプチド収容溝の形状を変化させ,HLA結合ペプチドのモチーフを変化させることで,特定のペプチドに対する免疫応答に起因する免疫疾患への感受性の個体差を形成する.また,HLA多様性はHLA遺伝子からHLA分子への転写・翻訳を量的に制御する「プロモーター領域」にもみられる.これらの多様性をもっていることで,特定の他者に対し,ほかのアリルをもつ個体よりも進化上有利に働いたと考えられる.(3)図3TCRの遺伝子再構成可変部遺伝子V,D,J領域で複数個の遺伝子からおのおの1個ずつが選び出され,連続することによりTCR分子の多様性が生まれる.VDJCAAA胚細胞型DNA再構成DNA転写RNAmRNA転写スプライシング表1HLA分子の発現と機能発現機能HLAクラスI古典的ほとんどの有核細胞と血小板細胞内ウイルスや細菌,腫瘍由来ペプチドをキラーT細胞に提示したり,NK細胞の細胞障害活性を抑制胸腺におけるT細胞の教育非古典的胎盤など特定の分化段階の組織や細胞妊娠の維持などHLAクラスII古典的抗原提示細胞とB細胞細胞外抗原ペプチドをヘルパーT細胞に提示非古典的抗原提示細胞とB細胞HLA-DM:HLA-DRへの抗原ペプチド結合を促進HLA-DO:HLA-DMの作用を抑制———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006IVHLA領域の遺伝子構造HLA抗原をコードするHLA遺伝子は,第6染色体短腕部のp21.3の約4,000kb内に存在する.このHLA領域は,テロメア側にクラスI遺伝子領域と,セントロメア側にクラスII遺伝子領域,これらの間には免疫機能を有するがクラスIやクラスII遺伝子とは構造的な類似性をもたない補体成分(C2,C4,Bf)や腫瘍壊死因子(TNF)遺伝子と,免疫とは無関係な機能をもつと考えられる遺伝子(21-ヒドロキシラーゼなど)を支配するクラスIII遺伝子領域が存在する8).HLA遺伝子領域は,(1)遺伝子密度がヒトゲノムの平均よりも約4倍高い,(2)遺伝的多型性が高い,(3)遺伝子重複の痕跡が多くみられる,(4)GC(DNAにおけるグリシンとシトシン)含量の高い領域と低い領域が混在する,(5)高度反復配列の豊富な領域が存在する,(6)さまざまな疾患に対する疾患感受性を規定している,などの特徴がある.疾患感受性は患者群と健康対照群との間でHLA対立遺伝子の頻度を比較することにより,その疾患の感受性遺伝子の存在を検定する.眼科領域でも,Beh?et病とHLA-B*51019,10),Vogt-小柳-原田病とHLA-DRB1*040511~13),HLA-B*27関連ぶどう膜炎とHLA-B27などが,HLAと強い相関を示すことが知られているが,その発症機序はいまだに不明な点が多い.そこで,次章からはこの(4)図4HLAクラスI抗原の立体構造(大野重昭:日眼会誌96:1558-1579,1992より一部改変)aヘリックスaヘリックスaヘリックスa2b2ma1a3bシートbシートNNNCC図5HLAクラスII抗原の立体構造aへリックスからなる溝に抗原が結合し,T細胞に提示される.(大野重昭:日眼会誌96:1558-1579,1992より一部改変)NN9aヘリックスbシートb1a113707157———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????(5)ようなHLAと疾患との関係について,疾患ごとに最新の知見を交えて解説してみたい.文献1)GornerPA:Thedetectionofantigenicdi?erencesinmouseerythrocytesbyemploymentofimmunesera.?????????????17:42,19362)SnellGD:Histocompatibilitygenesofthemouse.II.Pro-ductionandanalysisofisogenicresistantlines.??????????????????21:843,19583)KleinJ,FigueroaF:Evolutionofthemajorhistocompati-bilitycomplex.????????????????6:295-386,19864)HughesAL,NeiM:EvolutionaryrelationshipsofclassIImajor-histocompatibility-complexgenesinmammals.?????????????7:491-514,19905)HughesAL,NeiM:Evolutionaryrelationshipsoftheclassesofmajorhistocompatibilitycomplexgenes.???????????????37:337-346,19936)BernierGM:Structureofhumanimmunoglobulins:myelomaproteinsasanaloguesofantibody.?????????????14:1-36,19707)大野重昭:第96回日本眼科学会総会宿題報告免疫と眼眼疾患の免疫遺伝学的研究.日眼会誌96:1558-1579,19928)ShiinaT,InokoH,KulskiJK:AnupdateoftheHLAgenomicregion,locusinformationanddiseaseassocia-tions.???????????????64:631-649,20049)MizukiN,OtaM,KatsuyamaYetal:HLA-B*51alleleanalysisbythePCR-SBTmethodandastrongassocia-tionofHLA-B*5101withJapanesepatientswithBeh?et?sdisease.???????????????58:181-184,200110)MizukiN,OtaM,KatsuyamaYetal:Sequencing-basedtypingofHLA-B*51allelesandthesigni?cantassociationofHLA-B*5101and-B*5108withBeh?et?sdiseaseinGreekpatients.???????????????59:118-121,200211)ShindoY,InokoH,YamamotoT,OhnoS:HLA-DRB1typingofVogt-Koyanagi-Harada?sdiseasebyPCR-RFLPandthestrongassociationwithDRB1*0405andDRB1*0410.???????????????78:223-226,199412)KimMH,SeongMC,KwakNHetal:AssociationofHLAwithVogt-Koyanagi-HaradasyndromeinKoreans.???????????????129:173-177,200013)GoldbergAC,YamamotoJH,ChiarellaJMetal:HLA-DRB1*0405isthepredominantalleleinBrazilianpatientswithVogt-Koyanagi-Haradadisease.???????????59:183-188,1998

硝子体手術のワンポイントアドバイス42.眼内レンズ毛様溝逢着術(初級編)

2006年11月30日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLSはじめに白内障手術に際して,広範な水晶体?の欠損などにより,眼内レンズが?外に固定できない場合には,眼内レンズ毛様溝縫着術を施行することがある.筆者は,この術式は基本的に硝子体手術と併用すべきであると考えている.理由としては,以下のようなことがあげられる.1)灌流ポートを設置して,眼圧を一定に保持しながら,適切な硝子体処理が施行できる.その結果,角膜内皮傷害を軽減することができる.2)術中の出血に対しても灌流圧を上昇させることで,止血が容易となる.3)眼内レンズ挿入時に眼内灌流によってレンズのセンタリングが容易となる.4)必要があれば後部硝子体切除術を併用できる.●手術の実際1)灌流ポートを設置し,closedな状態で前部硝子体切除を行う.2)強角膜切開を行う.3)真横は避けて,鼻側と耳側に強膜半層弁を作製する.4)10-0プロリン糸のついた30ゲージ直針を毛様溝から眼内に刺入し,対側から27ゲージ針で直針を保持しながら眼外に糸を導く(図1).5)強角膜創から糸を出して切断し,両端を毛様溝縫着用眼内レンズに縫合固定する.6)眼内レンズを挿入する.筆者はこのとき,圧は低い状態で灌流をオンにしている.このほうが眼内レンズが偏位しにくい(図2).7)強膜半層弁を貫通した糸をバランスよく引っ張り,眼内レンズのセンタリングを確認して,強膜半層弁下に縫合する(図3).8)アセチルコリンで縮瞳させる.(65)●術後の網膜?離の予防について眼内レンズ毛様溝縫着術後は網膜?離の発症頻度が非常に高い.最近筆者は,前部硝子体切除に引き続き,硝子体はほぼトータルに切除して(図4),術中に網膜格子状変性巣などの有無を確認するようにしている.変性巣があれば,可能なかぎり硝子体を周辺部まで切除し,眼内光凝固あるいは経結膜冷凍凝固を予防的に行っている.硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載?42眼内レンズ毛様溝縫着術(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図110-0プロリン糸の設置30ゲージ直針を毛様溝から眼内に刺入し,対側から27ゲージ針で直針を保持しながら眼外に糸を導く.図2眼内レンズ挿入灌流をオンにしたまま,眼内レンズを挿入する.図3眼内レンズの縫合固定強膜半層弁を貫通した糸をバランスよく引っ張り,眼内レンズのセンタリングを確認して,強膜半層弁下に縫合する.図4後部硝子体切除前部硝子体切除に引き続き,硝子体はほぼトータルに切除する.

眼科医のための先端医療71.食品? それとも薬品?

2006年11月30日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS希少糖とは希少糖は,自然界にその存在がきわめて少ない単糖です.最も自然界に多種類存在する糖である六炭糖は全部で34種類あります.そのうち自然界に多く存在する糖はブドウ糖など4種類であるのに対して,希少糖は残り30種類に及びます.しかしながら,希少糖は量の確保の問題から,その機能や物理化学的性質などの基本的性質についても解明されていないのが現状でした.香川大学では,希少糖の基礎的研究を積み上げてきた結果,近年全単糖の体系化・構造化に成功しこれをIzu-moringと名付けました(図1)1).Izumoringは全六炭糖の構造関係を示すだけでなく,自然界に多量に存在する単糖から希少糖を作成する設計図でもあります.したがって,これを活用することにより,全希少糖を計画的に生産することが可能となりました.量産可能なD-プシコースとD-アロースD-フラクトースは,デンプンなど未利用植物資源から容易に得ることの可能なD-グルコースを原料として,D-キシロースイソメラーゼを用いて大量に生産することができ,D-フラクトースからD-タガトース3-エピメラーゼを用いてD-プシコースの大量生産が可能とな(61)◆シリーズ第71回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊廣岡一行(香川大学医学部眼科)食品?それとも薬品?図1Izumoringそれぞれの円は炭素数6の単糖を表している.全部で34個存在する.円を結ぶ線および矢印は酵素反応を示す.:希少糖:自然界に多量に存在する単糖LD域領のスーコルグ-Dルートニンマ-Lルートリグ-Dルートシルグ-Lルートィデイ-Dルートリトルア-Dルートリタ-Dルートニンマ-Dルートィデイ-Lルートシルグ-Dルートリグ-Lルートリタ-Lルートリトルア-Lスーボルソ-DD-プシコーススートクラフ-Dスーコシプ-Lスーボルソ-Lスートガタ-Lスーログ-Lスーロタ-Lスーロトルア-Lスードイ-Dスーノンマ-Lスートクラフ-Lスーロア-Lスートクラガ-DD-アローススートクラガ-Lスーノンマ-Dスーコルグ-Lスーログ-Dスーロトルア-Dスーロタ-Dスートガタ-Dスードイ-Lルートチクラガ-Dルートチクラガ-Lルートリア-Dルートリア-LD域領のL域領の———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006りました(図2).D-プシコースはL-ラムノースイソメラーゼによってD-アロースへ転換されます(図2).D-プシコースは内分泌異常に対し,またD-アロースは虚血に対し何らかの効果のあることがわかってきました.D-アロースの効果希少糖は遊離単糖として多くの生理活性があることが明らかになりつつあり,さまざまな生理活性を探るとともに,その作用メカニズムの解明を目指しています.希少糖の研究が文部科学省の知的クラスター創成事業に採択されたことにより,香川大学医学部の多くの研究者が希少糖の医学,生理学,薬理学的な効果を検討しています.その結果少しずつではありますが,希少糖の効果が明らかになってきました.希少糖の一つであるD-アロースに糖代謝異常の一部の産物である活性酸素の抑制効果のあることが判明し2),また一過性脳虚血に伴う神経細胞死に対して保護的に働くことが明らかになりました3).さらに移植拒絶時における肝細胞の保護効果を有する4)ことがわかったことから,一般的な虚血に対して耐性効果を有することが推測されました.網膜虚血再灌流障害神経伝達物質であるグルタミン酸は細胞の内部には非常に多く存在するアミノ酸です.網膜虚血再灌流モデルは,眼圧負荷などで一過性の網膜虚血を作り,その後解除して再灌流させるモデルですが,網膜虚血再灌流時にはグルタミン酸が過剰に細胞外に放出されることが,マイクロダイアリシス法を用いて明らかにされています5).細胞外に増加したグルタミン酸は,NMDA(?-methyl-D-asparate)受容体とkainate/AMPA(alpha-amino-3-hydroxy-5-methyl-4-isoxyazole-propionate)受容体を活性化し,Caチャンネルを開口して細胞内のCaイオン,Naイオン,Clイオンを過剰流入させ脱分極を起こします.その結果電位依存性のCaチャンネルも開口し,Caイオンがさらに流入して細胞死を起こす引き金になっていると考えられています.このことからグルタミン酸の細胞外への放出を抑制するような薬剤は神経細胞死を抑制する可能性が高いと考えられます.D-アロースと網膜神経保護筆者らはマイクロダイアリシス法を用いて,網膜虚血時および再灌流時に細胞外のグルタミン酸濃度が上昇することを確認しました6).さらに,D-アロースを投与することにより虚血再灌流時の細胞外のグルタミン酸濃度の上昇の抑制および活性酸素の一つである過酸化水素の放出を抑制することにより,虚血再灌流による網膜障害に対してD-アロースが神経保護的に働くことを明らかにしました6).これらの作用はD-アロースがグルコースと競合的に作用するためではないかと考えています.希少糖の薬理学的な解明は徐々にではありますが進められてはいるものの,まだまだ不明な点が多数あります.糖であることから,長期投与に対しても副作用を生じる可能性が少ないのではないかと思われます.今後さらなる解析が進み,網膜虚血や緑内障などの疾患の治療薬あるいは補助薬となりうることが期待されます.文献1)GranstromTB,TakataG,TokudaMetal:Izumoring:anovelandcompletestrategyforbioproductionofraresug-ars.???????????????97:89-94,20042)MurataA,SekiyaK,WatanabeYetal:Anovelinhibito-rye?ectofD-alloseonproductionofreactiveoxygenspe-ciesfromneutrophils.???????????????96:89-91,20033)ItanoT,MiyamotoO,JinmingPetal:Thee?ectofalloseontransientischemicneuronaldeathandanalysisofitsmechanism.RareSugars:Creatinganovelbio-worldwithraresugars,p181-188,InternationalSocietyofRareSugars,20044)HossainMA,WakabayashiH,GodaFetal:E?ectofimmunosuppressantFK506andD-alloseonallogenic(62)CHOHCOHHCOHHCOHHOCHCH2OHD-グルコースD-フルクトースD-キシロースイソメラーゼD-プシコースD-アロースCH2OHCH2OHC=OC=OHCOHHCOHHOCHCH2OHD-タガトース3-エビメラーゼHCOHHCOHHCOHCH2OHD-ラムノースイソメラーゼCHOHCOHHCOHHCOHHCOHCH2OH図2D-プシコースおよびD-アロースの化学構造式———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006????19926)HirookaK,MiyamotoO,JinmingPetal:Neuroprotectivee?ectofD-alloseagainstretinalischemic-reperfusioninju-ry.?????????????????????????47:1653-1657,2006orthotopiconlivertransplantationinrats.???????????????32:2021-2023,20005)Louzada-JuniorP,DiasJJ,SantosWFetal:Glutamatereleaseinexperimentalischaemiaoftheretina:anapproachusingmicrodialysis.???????????59:358-363,(63)■「食品?それとも薬品?」を読んで■今回は廣岡一行先生に希少糖の生体への作用とそれを利用した網膜神経保護作用について最先端の研究成果をご紹介いただいた.D-アロースが希少糖の遊離単糖として作用すること,網膜虚血時および再灌流時に細胞外に上昇するグルタミン酸濃度がD-アロースを投与することにより抑制され,活性酸素の一つである過酸化水素の放出も抑制されて,網膜障害が抑制されるというものです.まったく新しい切り口での神経保護作用をもつ治療薬が開発される可能性をもつすばらしい研究成果です.また,この研究は筆者の廣岡先生の所属される香川大学での希少糖の基礎的研究の成果を医療の場へと応用したものであり,その長年の研究には感動を覚えます.私の属する山形大学も同様にいわゆる地方国立大学として近年の大学法人化などの波に揺られている感がありますが,その活性化にはきわめて高いオリジナリティーをもつ研究で臨床医学などに応用できるものを発展させていくことが非常に重要です.この一連の研究には多くの英知が結晶しており,今後の臨床応用を心から願うものです.希少糖の実社会への応用の可能性としては自然界に存在するこのような分子を種々の食品などに添加するサプリメントとしての可能性を示唆することです.本来,少量のものを不必要に多量に摂った場合の副作用についてはあらかじめ十分に検討をする必要がありますが,それをクリアーすれば食品へ添加するものとして有望と考えられ,現今のサプリメントブームが追い風になりうるとも考えられます.今後,ますます発展の可能性を秘めた新しい研究分野を紹介していただいたことに心から感謝します.山形大学医学部視覚病態学山下英俊☆☆☆

新しい治療と検査シリーズ166.Coaxial phacoによる極小切開白内障手術

2006年11月30日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS?バックグラウンド白内障手術の歴史は,切開創を小さくする歴史であったともいえる.3mm切開が一般的となり,小切開白内障手術でほぼ完成したと思われていた一方で,超音波ハンドピースより灌流系と吸引系を分離したbimanualphacoによる極小切開白内障手術が一部で行われていた1).最近の機器の進歩は,このbimanualphacoによる極小切開白内障手術をより繊細な手術として発展させることを可能にし普及し始めた2).これに対抗するかのごとく,2mm前後の切開創手術が可能な手術として2005年1月に登場したのが,coaxialphacoによる極小切開白内障手術である.?新しい治療法新しい治療法といっても,超音波ハンドピースより灌流系と吸引系を分離したbimanualphacoとは異なり,従来と基本的な手技が同じままで極小切開で白内障手術ができるというのがこのcoaxialphacoによる極小切開白内障手術である.?実際の手術法と原理超音波(US)チップをフレアーチップ(口径0.9mmのマイクロと1.1mmのスタンダードチップがある)にし,ウルトラスリーブまたはナノスリーブを装着させて手術を行う.フレアーチップの先端は幅が広いが,切開創を通過するシャフトの部分の口径は細く,この周囲を灌流液が流れることにより灌流量を確保する.従来のマイクロスリーブでは,2.6~3.0mmの切開創を作製し,USチップ(マイクロフレアーチップなど)を挿入していたが,ウルトラスリーブでは,この切開幅が,2.2mm(2.1~2.5mm),ナノスリーブでは,1.9mm(1.7~2.0mm)で挿入が可能になる(図1).手術手技としては,従来のphacochop法,Divide&Conquer法のいずれでも可能であり,大きな手技の違いはない(図2).新しい治療と検査シリーズ(59)166.Coaxialphacoによる極小切開白内障手術プレゼンテーション:黒坂大次郎岩手医科大学眼科学講座コメント:常岡寛東京慈恵会医科大学附属第三病院眼科?Micro:2.6~3.0mm?Ultra:2.1~2.5mm?Nano:1.7~2.0mm図1各種スリーブおよびスリーブと必要な切開創幅図2ナノスリーブ(1.9mm切開)での水晶体乳化吸引術———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006?本方法の良い点切開創を小さくできることは,角膜形状の変化を減少できる可能性があるばかりでなく,術後眼内炎の発症を抑えられる可能性も秘めている.切開幅では,bimanualphaco法のほうがより小さな切開からの白内障除去が可能なわけであるが,現行の眼内レンズ(IOL)では,挿入に2mm前後の切開幅が必要で,bimanualphacoで行っても,IOL挿入の際には,切開創を広げるか,別に作製する必要がある3).さらに,ラーニングカーブが必要であるが,coaxialphacoによる極小切開白内障手術では,ほぼ従来と同じ手技がそのまま使えるので,ラーニングカーブも少なく優れている.さらに,coaxialphacoによる極小切開白内障手術では,切開創から灌流液を漏らさない.USチップ周囲から灌流液を漏らす従来のcoaxialphacoやbimanualphacoと違い,ほぼすべての灌流液は,USチップから排出されるわけで,核片の効率的な除去という点からも合理的な手術といえる.設定をうまくコントロールすることにより,灌流不足を補うボトル高の上昇を減らせ,より侵襲を減らせる可能性がある4).さらに,この秋に登場したトーショナルフェイコと組み合わせると,従来よりボトルを落としての手術も可能になる.ナノスリーブでもほとんど問題なく手術を行える.文献1)HaraT,HaraT:Clinicalresultsofendocapsularphaco-emulsi?cationandcompletein-the-bagintraocularlens?xation.???????????????????????13:279-286,19872)常岡寛:極小切開白内障手術.??????18:372-378,20043)常岡寛:2mm切開時代のIOL挿入.眼科手術18:481-487,20054)黒坂大次郎:白内障手術アップデート2006極小切開白内障手術を可能にした器具.あたらしい眼科23:435-439,2006(60)?本方法に対するコメント?新しい手技を習得することなしに創口を小さくすることができるため,coaxialphacoによる極小切開白内障手術はきわめて有意義な術式である.ただ,ナノスリーブを用いた1.9mm切開での手術はまだ前房の安定性に問題があり,現状での眼内レンズ(IOL)挿入を考えるとウルトラスリーブを用いた2.2mm切開での手術のほうがよいと思われる.しかし,極小切開対応IOLの開発が進み,日本でも来年(2007年)には現行のモデルを少し改変したIOLを1.5mmの強角膜創から挿入することが可能になるため,現状のcoaxialphacoでは対応できなくなる.さらに細い超音波チップと灌流スリーブを用いるようにするか,細いスリーブでは不足する灌流量をサイドポートからも供給できるようなシステムにするか,それとも灌流スリーブの装着をあきらめてbimanualphacoにするか,さらなる検討と発展が望まれる.☆☆☆

眼感染症:感染性ぶどう膜炎の血液検査

2006年11月30日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS臨床的に感染性ぶどう膜炎が疑われる場合,その診断あるいは治療効果の評価目的に病原微生物に対する血清抗体価を中心とした血液検査が行われることがある.しかし,病因を直接反映することの多い眼内液を用いた検索とは異なり,末?血から得られる検査データは常に眼局所の病勢を反映しているわけではなく,その評価は眼所見も踏まえて総合的に行う必要がある.■ウイルス性ぶどう膜網膜炎多くの成人は単純疱疹ウイルス(HSV)や帯状疱疹ウイルス(VZV)に対して不顕性感染を起こしている.したがって,ウイルス性ぶどう膜網膜炎の診断目的に血清ウイルス抗体価を測定しても,その結果のみでは診断に役立つことはない.ただし,抗体価がまったく上昇していない場合,すなわち未感染の場合には発症における当該ウイルスの関与を否定する根拠にはなりうる.1.桐沢型ぶどう膜炎(急性網膜壊死)(図1)血清の抗体価とともに眼内液(前房水もしくは硝子体液)中の抗体価を同時期に測定し,それぞれの免疫グロブリン量で補正した比率を求め,その値(Goldmann-Witmer係数,Q値)が41)~62)以上の場合には,当該ウイルスによって眼内局所で抗体産生が行われている可能性があり,診断的意義も高い.HSVによって発症する桐沢型ぶどう膜炎の場合,Q値に基づく診断では交差性の問題からHSV-1とHSV-2の区別はできない.しかし,中和試験(NT)による血清抗HSV抗体価の測定結果は,眼内から検出されるウイルスDNAとよく相関することから,血清レベルの抗体検索が両ウイルスの区別に役立つ3).2.サイトメガロウイルス網膜炎サイトメガロウイルス網膜炎の診断は眼底所見そのものと,背景となる免疫抑制の確認が基本となるが,診断のスクリーニングとして末?血を用いたアンチジェネミア検査は有用である4).ただし,アンチジェネミアの結果と網膜炎の病勢は必ずしも平行しないことに留意する.臨床的にサイトメガロウイルス網膜炎が疑われるが,明らかな免疫抑制状態につながる治療歴や既往歴のない場合は後天性免疫不全症候群(AIDS)の可能性も考慮し,インフォームド・コンセントのもとに抗ヒト免疫不全ウイルス(HIV)抗体の検索が望ましい場合もある.3.HTLV-I関連ぶどう膜炎ヒトTリンパ球向性ウイルス1型(HTLV-Ⅰ)に感染したキャリアにみられるHTLV-Ⅰ関連ぶどう膜炎では,血清抗HTLV-Ⅰ抗体の上昇がみられる5).というよりも本症に特徴的な眼底所見に加え,血清抗HTLV-Ⅰ抗体が上昇しており,かつ患者が南九州などの本ウイルスの高浸淫地域出身であるならば,HTLV-Ⅰ関連ぶどう膜炎である可能性が高い.独特な硝子体混濁や網膜血管上の結節様病変などがみられる場合に血清抗HTLV-Ⅰ(57)42.感染性ぶどう膜炎の血液検査眼感染症セミナー─スキルアップ講座─●連載?監修=大橋裕一井上幸次後藤浩東京医科大学眼科感染性ぶどう膜炎における血液検査の意義は,疾患や同一疾患でも病期によって異なり,その結果が診断の鍵を握ることもあれば,解釈に慎重を要することもある.診断に際してはあくまでも検眼鏡的な所見を含めた臨床所見と経過を重視し,血液検査については参考にとどめたほうがよいことがあることを銘記すべきであろう.図1桐沢型ぶどう膜炎血清VZVIgG(FA)は72.6mg/d?,HSVIgG(FA)は10未満であった.この検査結果が診断に直結することはないが,少なくともHSVに起因する病態ではないことはわかる.前房水を用いたPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)ではVZVDNAが陽性,HSVDNAは陰性であった.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006抗体が上昇していることを確認することの意義は大きいが,そのような眼所見はないが抗体価のみが高値を示した場合には,他の疾患の可能性も否定はできない.■真菌性眼内炎真菌性眼内炎(図2)の診断は特徴的な眼底所見に加え,静脈カテーテルなどの使用歴や免疫抑制などの患者背景を把握することによって可能なことが多い.起炎菌の多くは????????????????であるが,ムコールを除く真菌全般における細胞壁の主要構成成分を反映する血清b-D-グルカンの定量(ファンギテックGテスト)は,カンジダをはじめ多くの真菌症の診断に有用である.治療効果の評価を含め,経時的に測定することも臨床的に意義がある.ただし,眼内炎発症時には真菌血症としてのピークは過ぎ,すでに血清b-D-グルカン値も低値となっていることもある.■眼トキソプラズマ症眼トキソプラズマ症(図3)の診断は蛍光眼底造影所見を含めた特徴的な眼底像から可能なことが多い.特に再発例では網脈絡膜萎縮病巣の辺縁から滲出病巣が出現し,多くは検眼鏡的に診断されるが,血清抗トキソプラズマ抗体の測定結果は診断を確定する根拠となる.ただし,後天性眼トキソプラズマ症の際に上昇するトキソプラズマIgM抗体については,治療後も数カ月から数年にわたって高値を示すことがある.したがって,検査結果の解釈や治療継続の是非については,臨床所見や経過を踏まえて判断する必要がある.文献1)DussaixE,CerquetiPM,PontetFetal:Newapproachestothedetectionoflocallyproducedantiviralantibodiesintheaqueousofpatientswithendogenousuveitis.????????????????194:145-149,19872)沖津由子:各種目疾患における眼内液ヘルペス群ウイルス抗体価および抗体率の検索.眼内ウイルス感染の診断指標として.臨眼42:801-805,19883)薄井紀夫,柏瀬光寿,箕田宏ほか:ヘルペス性ぶどう膜炎における単純ヘルペスウイルスの型別.日眼会誌104:476-482,20004)FezzaJ,WitzmanM,ShoemakerDetal:QuantitativeCMVantigenemiacorrelatedwithophthalmoscopicscreeningforCMVretinitisinAIDSpatients.???????????????????????32:81-82,20015)NakaoK,MatsumotoM,OhbaN:Seroprevalenceofanti-bodiestoHTLV-Iinpatientswithoculardisorders.???????????????75:76-78,1991(58)図3眼トキソプラズマ症血清抗トキソプラズマ抗体は1.28倍(PHA),トキソプラズマIgG抗体は103IU/m?(正常6未満),トキソプラズマIgM抗体は1.7(正常0.8未満)であった.この症例のように網脈絡膜萎縮病巣の辺縁に新鮮な網膜滲出病巣がみられる場合,先天感染の再燃か,それとも後天感染の再発なのかは判然としない.図2真菌性眼内炎咽頭癌に対する放射線ならびに化学療法後に発症した症例.眼科受診時の血清b-D-グルカンの値は165pg/m?と高値を示した.■コメント■直接眼内液などの検体を得ることがむずかしい感染性ぶどう膜炎の診断においては,血液検査によるスクリーニングは重要な意味をもつ.特に,詳細な問診をベースに患者背景を焙り出し,血液検査などで裏付けていく作業は診断への近道ともなる.筆者も述べているように,血液検査は絶対的なものではないが,臨床所見との対比のなかでうまく利用すべきであろう.ここに書かれてあるノウハウを学ぶとともに,ぜひ引用文献にも目を通していただきたい.愛媛大学医学部眼科大橋裕一