‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

光線力学的療法(PDT):広義滲出型加齢黄斑変性(PCV,RAP)の診断

2006年11月30日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLSポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvas-culopathy:PCV)と網膜血管腫状増殖(retinalangiomatousproliferation:RAP)は,加齢黄斑変性の特殊型に分類されている.自然経過や光線力学的療法(PDT)に対する治療成績も狭義加齢黄斑変性と異なることから診断を的確に行わなければならない.そのために検眼鏡所見と補助診断であるフルオレセイン蛍光眼底造影検査(FA),インドシアニングリーン蛍光眼底造影検査(IA),そして光干渉断層計(OCT)の所見を正確に読影する必要がある.●PCVPCVは,日本PCV研究会が作成した診断基準では,1.眼底検査で橙赤色隆起病巣を認める,あるいは,2.IAで特徴的なポリープ状病巣の所見を認めると確実例になる1).検眼鏡所見:網膜色素上皮(RPE)レベルの橙赤色隆起病巣(図1a矢頭)が特徴である.橙赤色隆起病巣がフィブリンに覆われ灰白色病巣として認められる場合には,感覚網膜下の脈絡膜新生血管(choroidalneovasu-culalization:CNV)いわゆるGass分類Type2との鑑別がむずかしいことがある.FA所見:PCVはRPE下の病変であるので,FAでは病巣を捉えきれない.ポリープ状病巣を覆うフィブリンが,過度のstainingの所見を示すとclassicCNVの所見と鑑別がむずかしいこともある.ポリープ状病巣は,内部は血液成分のblockによる低蛍光,周囲は蛍光漏出による過蛍光を示すこともある(図1d矢印).異常血管網の部は,上方のRPEが萎縮するのでwindowdefectによる過蛍光としてみられる(図1d矢頭で囲まれた範囲).IA所見:診断基準のポリープ状病巣とは,IAでみられる瘤状病巣あるいは瘤状病巣が集合したブドウの房状病巣のことである.造影時間の経過とともに大きくなり,ある時点から形,大きさは変わらない(図1e,f矢印).早期には,内部に小さな過蛍光を認めることもある(図1e矢印).後期にポリープ状病巣は均一な過蛍光を示すものが多い(図1f矢印)が,輪状の過蛍光を示すものもある1).異常血管網は脈絡膜動脈と同時に造影が始まる.口径不同,拡張,蛇行などの走行異常が認められ,異常血管網の範囲とその周囲には低蛍光を認める(図1e矢頭で囲まれた範囲).造影後期像は面状の過蛍光を示すものもある(図1f矢頭で囲まれた範囲).OCT所見:ポリープ状病巣は,RPEを押し上げる.網膜色素上皮?離(RPED)内の隆起所見として認めら(55)森隆三郎日本大学駿河台病院眼科光線力学的療法(PDT)セミナー監修/石橋達朗湯沢美都子2.広義滲出型加齢黄斑変性(PCV,RAP)の診断ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)と網膜血管腫状増殖(RAP)は,加齢黄斑変性(AMD)の特殊型に分類されており,光線力学的療法(PDT)に対する治療成績も狭義AMDと異なることから診断を的確に行わなければならない.そのために検眼鏡所見と補助診断であるフルオレセイン蛍光眼底造影検査(FA),インドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA),光干渉断層計(OCT)の所見を正確に読影する必要がある.提供図1ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)a:カラー,b:OCT,c,d:FA,e,f:IA.OCT①5mm①②5mm②baFA30秒FA10分IA30秒IA20分dcfe———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006(00)れることもある(図1b大矢頭).ポリープ状病巣がフィブリンに覆われるとGass分類Type2CNVと鑑別がむずかしい(図1b矢印).異常血管網の範囲には,RPEと脈絡膜毛細血管板および脈絡膜内層血管の間の高反射帯がみられる(図1b小矢頭).●RAPRAPでは,網膜血管由来の新生血管が網膜下やRPE下に発育し,黄斑部に出血や滲出が生じる2).RAPの診断基準はないが,網膜血管と新生血管の吻合を確認できれば診断できる(ただし,狭義加齢黄斑変性の瘢痕期のCNVが網膜血管と吻合したものは,RAPではない).RAPは,3病期に分類されている2).Stage1は,黄斑部網膜内新生血管である.Stage2は,網膜内新生血管が下方に伸展し,網膜下新生血管を伴うもので,RPEDを伴わない場合と伴う場合がある.Stage3は,さらに伸展してCNVを伴うものである.検眼鏡所見:黄斑部に網膜動脈や網膜静脈の末?血管に連なる新生血管がみられる.網膜内新生血管は網膜内の赤い塊としてみられる(図2a矢頭).網膜内出血がみられればその周囲に網膜内新生血管の存在を疑う.網膜下新生血管は,網膜内新生血管の下方周囲に灰白色の所見としてみられる.FA所見:造影早期に網膜内新生血管(図2c矢頭)と網膜動脈や網膜静脈の吻合がみられる(図2c矢印).網膜内新生血管は,後期まで強い蛍光漏出を示すことがある(図2d大矢頭).感覚網膜下新生血管は早期から面状の過蛍光としてみられる(図2c小矢頭で囲まれた範囲).OccultCNVである線維血管性(?brovascular)RPED(図2d点線で囲まれた範囲)は,Stage3の所見である.IA所見:FAと同様に新生血管は造影早期に網膜動脈や網膜静脈との吻合がみられる(図2e矢印).網膜内新生血管は,点状の過蛍光(図2e矢頭),感覚網膜下新生血管は早期から面状の過蛍光としてみられる(図2e,f).網膜色素上皮下のCNVは,過蛍光斑(hotspot)としてみられることもある.しかしRPE下液によるblockのために不明瞭な場合もあり,Stage2とStage3は鑑別できないこともある(図2e,f).OCT所見:網膜内新生血管は,大きければ描出される.網膜下新生血管は,RPE上の高反射として描出される(図2b矢頭).RPE下の高反射(図2b矢印)がRPE下の新生血管であるのかフィブリンであるのかが不明な場合,OCTではStage2とStage3の鑑別ができないこともある.文献1)日本ポリープ状脈絡膜血管症研究会:ポリープ状脈絡膜血管症の診断基準,日眼会誌109:417-427,20052)YannuzziLA,NegraoS,IidaTetal:Retinalangiomatousproliferationinage-relatedmaculardegeneration.???????21:416-434,2001OCT①10mm①②10mm②abFA35秒IA24秒IA20分AVAVFA10分dcfe図2網膜血管腫状増殖(RAP)a:カラー,b:OCT,c,d:FA,e,f:IA.

緑内障:新しい方式による前眼部光干渉断層計(OCT)

2006年11月30日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS●前眼部OCTへの期待近年,網膜の断層像を高解像度で非侵襲的にかつ簡便に得られる診断装置として,光干渉断層計(opticalcoherencetomograph:OCT)が普及してきた.おもに眼底疾患の診断に用いられてきたOCTであるが,緑内障の分野では,網膜神経線維層(RNFL)の解析だけでなく,隅角の観察や濾過手術後の濾過胞形状など,前眼部の観察にも応用されるようになってきた.これまでは,隅角の画像解析にはPavlinらによって開発された超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicro-scope:UBM)が一般的に用いられてきた.しかし,UBMは被検者を仰臥位にさせ,検査眼にアイカップを装着後,生理食塩水を介して検査を行うなど煩雑な操作が要求されるとともに,接触型の検査であるがゆえ感染症などに注意が必要であった.したがって,非接触,座位にて検査が可能であること,手術直後から非侵襲かつ短時間で行うことができ,患者の負担も軽いことなどから,隅角や濾過胞を観察するためにはOCTを用いることのメリットは大きい.また,解像度もUBMが50?mに対し,OCTでは垂直方向で10~20?mと格段に優れており,UBMに比べて有利な点が多い.最近では,前眼部専用のOCTが開発され,細隙灯顕微鏡に接続されたOCTにより診察を行いながら前眼部のOCT断層像を得ることができるものもあり,今後臨床での応用が期待されている.●従来のOCDR方式と新しいOFDR方式のOCT従来の眼底観察用OCTでは,opticalcoherencedomainre?ectometry(OCDR)とよばれる方式が採用され,820nmの近赤外光を参照ミラーを移動させることにより画像を取得している.一方,北里大学眼科学教室では,本学物理学教室(大林康二教授)とopticalfre-quencydomainre?ectometry方式(以下,OFDR方式)による新しいOCTを共同開発した1,2).これは,1,540~1,570nmのsuperstructuredgratingdistributedBraggre?ector(SSG-DBR)レーザー光を用いたもので,レーザー光を密に幅広く高速で変化させることによって,前眼部画像は短時間かつ高解像度で取得できるよ(53)●連載?緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄77.新しい方式による前眼部光干渉断層計(OCT)鈴木宏昌1)中西基2)庄司信行1)清水公也1,2)1)北里大学大学院医療系研究科臨床医科学群眼科学2)北里大学医学部眼科従来の光干渉断層計(opticalcoherencetomograph:OCT)と異なり,レーザーの波長を高速で変化させて画像を取得する新しい方式のOCT(OFDR-OCT)を用い,緑内障術後の隅角・濾過胞を観察した.術直後から房水流出経路の経時的変化が観察できるだけでなく,濾過胞内部の観察によってneedlingの適応を決定するなど,治療面も含めたさまざまな応用が期待される.図2トラベクロトミー後の線維柱帯部の内部突出とDescemet膜?離図1狭隅角図3濾過胞の一例———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006うになった.今回筆者らは,このOFDR-OCTにより得られた前眼部画像をいくつか紹介したい.●臨床応用前眼部OCTでの臨床応用ではおもに,角膜,結膜,濾過手術後の濾過胞の内部情報,虹彩形状,隅角などの観察があげられる.狭隅角の診断法として,UBMにおいてangleopeningdistance(AOD)やtrabecularirisangle(TIA)などが知られている3,4)が,OFDR-OCTにても同様の隅角像を得ることが可能である(図1).解像度の点でも優れており,線維柱帯切開術後の切開部位や合併症として生じたDescemet膜?離も詳細に捉えることができる(図2).一方,濾過手術における濾過胞所見については,従来のOCDR-OCTを応用し,その得られた内部所見に関する報告がすでにいくつか散見されるようになってきている5)が,本装置(OFDR-OCT)でも,濾過胞内部の房水流出路の観察(図3)や,線維化,癒着の程度まで観察が可能であり,また手術直後からの検査が可能である点など,得られる情報は多い.●OCTの限界と問題点OCTは,測定光を観察組織に照射し,戻ってきた反射光を検出して画像として描出している.そのため,深部組織や高反射の組織の後部では観察が困難となる.一般的にOCT画像は強反射では暖色系,低反射では寒色系として描出される.角膜などの弯曲した組織では,測定場所によって反射強度が異なってくる(図4).そのため,病変と表示色は必ずしも一致しないこともあり注意が必要である.現在のところ,前眼部OCTでは解像度の関係からSchlemm管の観察は困難であり,また観察光の到達距離が虹彩裏面までであるため,毛様体の観察は困難である.よって現時点では隅角と濾過胞の観察が主となるが,将来的には,Schlemm管の大きさや位置の確認,あるいは,毛様溝の観察を可能にすることによって眼内レンズの位置確認などに応用できるよう改良が必要と考えている.濾過手術直後に厚い出血などがあると,より深部組織の情報が得られにくくなるなどの欠点がある.画像取得速度がUBMに比べて遅いこともあり(UBM10枚/秒,OCT約1枚/秒),リアルタイムで濾過胞の全体像を把握するにはまだまだ改良の余地があるが,画像処理の高速化に関してはコンピュータ上の問題でもあり,近いうちに解決可能であると考えている.おわりに緑内障診療からみた前眼部OCTの魅力は,UBMと違って非接触型であり,術直後からの観察が可能なことにより,術直後からの房水流出経路の確認や,癒着・瘢痕の過程が観察できることである.また,座位でも検査が可能なため,将来的には一連の診察の流れで観察が可能になり,診療時間の短縮や効率化が得られる点も魅力である.さらに,needlingを予定した場合の濾過胞内部あるいは瘢痕部位の確認など,治療面も含め,さまざまな応用が期待される.文献1)AmanoT,Hiro-OkaH,ChoiDHetal:Opticalfrequency-domainre?ectometrywitharapidwavelength-scanningsuperstructure-gratingdistributedBraggre?ectorlaser.????????44:808-816,20052)NakanishiM,AmanoT,Hiro-OkaHetal:Anteriorseg-mentoptical-frequency-domain-re?ectometeropticalcoherencetomographyusingSSG-DBRlaser(2ndreport),ARVO2006annualmeeting,program#3293/Poster#B826,2006/4/30-5/4,FortLauderdale,Florida3)PavlinCJ,HarasiewiczK,FosterFS:Ultrasoundbiomi-croscopyofanteriorsegmentstructuresinnormalandglaucomatouseyes.???????????????113:381-389,19924)佐野令奈,黒川徹,栗本康夫ほか:うつむき試験陰性狭隅角患者の仰臥位と伏臥位における隅角開度および前房深度の比較.日眼会誌105:388-393,20015)SaviniG,ZaniniM,BarboniP:Filteringblebsimagingbyopticalcoherencetomography.???????????????????????????33:483-489,2005(54)図4レーザー虹彩切開術後角膜中央,濾過胞表面および周辺虹彩切除部付近の虹彩表面で高反射を示す部位がみられる.

屈折矯正手術:屈折矯正手術の実践とノモグラム

2006年11月30日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLSLASIK(laser???????keratomileusis)を始めとする屈折矯正手術において眼科医に要求される最も重要なことは,「屈折矯正手術」に対する考え方であって,手術方法・レーザーの機種あるいは周辺機器の決定は二次的な問題にすぎない.屈折矯正手術を実践するうえで手術に対する眼科医としての考え方を明確にし,それをインフォームド・コンセントとして患者に伝える必要がある.表1に,手術において患者に伝えるべき要項を記載した.●目的・結果・リスクそもそも屈折矯正手術の目的は,裸眼視力の回復によって日常生活上で眼鏡あるいはコンタクトレンズに依存する確率をいかに減らせるかということである.1.2あるいは1.5という視力は眼科医にとっての目標で,手術を受ける側の目標は「眼鏡やコンタクトレンズのいらない生活」であって裸眼視力1.2あるいは1.5になることではない.患者の多くは1.2あるいは1.5以上の裸眼視力を期待しているであろうが,この視力は手術を行った数字上の結果であって手術の目的ではないことを理解させる必要がある.必然的にさまざまな原因で目標が達成されず結果的に1.2以上の視力に達しない場合もありうる.具体的には,①屈折誤差,②矯正誤差,③体調・環境の変化による視力変動,④近視への原因不明の戻り,⑤それ以外の不明な理由.もちろん,視力に影響する疾患は近視あるいは乱視のみではなくさまざまな疾患があるわけだから,術後5年先,10年先の結果を保証して手術しているわけではない点は強調する必要があろう.手術である以上リスクは0ではない点は明らかにしておく必要がある.手術適応を守りかつ顕微鏡手術に習熟した眼科医が適切な操作を行えば,現実問題として事故を起こす可能性はほとんどないといってよい手術ではあるが,100%確実な手術というものはあり得ない点を十分理解させなければならない.万一事故が起こったとしても過去に失明につながるような例はなく,予測するかぎりでは現在の眼科医の臨床レベルで十分対応できる事故しか起こり得ない点は強調するべきであろう.●視力の回復と視覚の質の変化患者の最も知りたい点は,実際にどの程度の視力にまで回復するのか,という点であることは間違いない.術後の視力結果は各施設によって若干の差があるのはやむを得ないとしても,過去の症例に対する手術結果を統計処理してデータを患者に提供できるようにしておく必要がある.あわせて,前述したように誤差や変動・近視への戻りによって期待視力に達しない場合もありうるが,(51)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載?監修=木下茂大橋裕一坪田一男78.屈折矯正手術の実践とノモグラム越智利行越智眼科屈折矯正手術においては,手術の目的・結果・リスク・視力の回復・視覚の質の変化に対する「眼科医としての考え方」を明確にしておく必要があり,そのことをインフォームド・コンセントとして患者に正確に伝える必要がある.さらにそれを基礎として,より高度な矯正効果を得るためには各施設での経験に基づいたノモグラムを作成する必要がある.表1屈折矯正手術の要項手術の目的1.裸眼視力の回復2.眼鏡・コンタクトレンズの要らない日常生活結果1,2以上に達しない場合も…①屈折誤差②矯正誤差③体調・環境変化の影響④近視への戻り⑤原因不明リスク100%の安全性は保証できないが…①過去に失明につながる重大事故はない②現在の眼科レベルで対応可能視力回復の確率各施設の手術結果によって…①視力の統計処理②追加矯正の可能性視覚の質の変化視覚は感覚的なものであること①体調・環境に左右される可能性②老視の発生の可能性③Wave-frontguidedなどのnewtechnol-ogyによる視覚の質の改善の可能性———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006必要かつ可能ならば追加矯正手術を行うことによって期待視力に近付ける可能性のあることも伝えておく必要がある.このことは逆にいうと,初回手術の際には必ず追加矯正の可能性も視野に入れて,手術方法や切除深度を決定しなければならないということにほかならない.日常生活での問題点として考えねばならない点は視覚の質の変化である.コントラスト感度の低下あるいはglareやhalloによる視覚の質の変化は,体調や環境に左右される感覚的な問題である.近年ではwave-frontguidedによる改良の余地が期待され,この手術方法を希望する患者もいるが,必ずしもすべての症例に可能なわけでもないし,結果が万全でもないことは十分理解させる必要がある.また老視の問題も年齢によっては避けて通れない.●インフォームド・コンセント近視矯正手術において最も重要なことは,患者に対するインフォームド・コンセントであることは論を俟たない.しかし敢えて結果がすべての評価を左右すると考えると,最終的には高い矯正精度を追求することは当然といえよう.視力の誤差すなわち低矯正・過矯正となるのは①角膜ベッドの状態,②術前の屈折,特に乱視の強弱,③年齢,④性別,⑤手術室の環境,⑥手術方法の違い,⑦レーザー・ケラトームなどの機種による特性,といったさまざまな原因があげられるが,これ以外にも術前のコンタクトレンズの種類や使用年数や使用状況,manifestrefraction決定の誤り,角膜自体の個体差,患者個々の生活状況など,あらゆる原因が考えられる.矯正精度をあげるためにはそのなかで試行錯誤をくり返しながら努力をしていく以外にない.さまざまな原因があることを念頭においてもなお実際の手術においてより正確な矯正効果を得るためには各施設固有のノモグラムが最も必要とされる.表2,図1に一般的なLASIKにおける近視性乱視矯正ノモグラムを掲げた.手術方法においてもPRK(photorefractivekeratecto-my)からLASIK,LASEK(laser-assistedsubepithelialkeratectomy),Epi-LASIK,Epi-PRKとさまざまな方法が考案・開発されている.それぞれ特徴と長所・短所があり,どの方法も完全に捨て去られる,あるいはすべて唯一の方法に統一されるというものではなかろう.さらには高次の収差を矯正し視覚の質を向上させるためのwave-frontguidedLASIKあるいはtopo-linkguidedLASIKといった新しい矯正手段が可能となっている.必然的に手術方法あるいはレーザー照射方式に適合した新しいノモグラムの開発が常に必要となってくるのは当然であろう.屈折矯正手術を行ううえでは,常に試行錯誤をくり返し高い矯正精度を目指す姿勢こそが重要であるといえよう.(52)表2LASIKノモグラムの一例(近視性乱視の入力値)乱視度数→近視度数↓0-0.25-0.5-0.75-1-1.25-0.25-0.5-0.45-0.36-0.29-0.260-0.5-0.75-0.71-0.67-0.5-0.45-0.41-0.75-1-0.96-0.91-0.87-0.75-0.68-1-1.24-1.21-1.17-1.13-1.09-1-1.25-1.45-1.46-1.41-1.36-1.31-1.28-1.5-1.75-1.71-1.68-1.63-1.59-1.55-1.75-1.99-1.96-1.93-1.9-1.87-1.84-2-2.15-2.11-2.08-2.04-2.01-1.97-2.25-2.35-2.32-2.28-2.25-2.21-2.18-2.5-2.55-2.52-2.48-2.45-2.42-2.39-2.75-2.73-2.7-2.67-2.64-2.61-2.59-3-2.9-2.87-2.85-2.82-2.8-2.77-3.25-3.13-3.1-3.08-3.05-3.03-3-3.5-3.36-3.33-3.31-3.28-3.26-3.23-3.75-3.59-3.56-3.54-3.51-3.48-3.46-4-3.82-3.79-3.77-3.74-3.71-3.69-4.25-4.04-4.01-3.99-3.96-3.93-3.91-4.5-4.27-4.24-4.21-4.19-4.16-4.13-4.75-4.49-4.46-4.43-4.41-4.38-4.35-5-4.72-4.69-4.66-4.64-4.61-4.58-5.25-4.94-4.91-4.88-4.85-4.82-4.8-5.5-5.16-5.13-5.1-5.07-5.04-5.02-5.75-5.38-5.35-5.32-5.29-5.26-5.23-6-5.6-5.57-5.54-5.51-5.48-5.45-6.25-5.81-5.78-5.75-5.72-5.69-5.66-6.5-6.03-6-5.97-5.94-5.91-5.88-6.75-6.24-6.21-6.18-6.15-6.12-6.09-7-6.46-6.43-6.4-6.37-6.34-6.31-7.25-6.67-6.64-6.61-6.58-6.55-6.52-7.5-6.88-6.85-6.82-6.79-6.76-6.73-7.75-7.09-7.06-7.03-7-6.97-6.94-8-7.3-7.27-7.24-7.2-7.17-7.14乱視が強度になるに従って,入力近視度数(D)は減弱する必要があることを示す.図1近視屈折度数と入力度数おおむね-2Dを境にして,屈折度数が強くなるに従って,屈折度数(D)に対する入力度数(D)は減弱する必要があることを示す.024681012140屈折度数(D)2468101214:屈折度数(D):入力度数(D)入力値(D)

眼内レンズ:IMS(infusion misdirection syndrome)の機序-術中浅前房化・前房動揺-

2006年11月30日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS術中の浅前房化ならびに前房動揺をきたす原因にはいろいろあるが,IMS(infusionmisdirectionsyn-drome)もその1つである.●IMSの機序IMSは1993年にMackoolにより報告1)されたもので,灌流液がZinn小帯領域を通過して硝子体腔に回ってしまうことによる浅前房化である.無硝子体眼などで前房内と硝子体腔を灌流液が自由に行き来する状態では大きな前房動揺をきたす.灌流液が硝子体腔に流入するという点でこれも一種のIMSと考えられるが,Mackoolは浅前房化しか報告していない.ではこの2つの現象の機序はどういうものであろうか?正常な状態では後部Zinn小帯と前部硝子体膜が一体化しており,水晶体後面に輪状に強く付着し,Wieger?帯を形成している.このZinn小帯・前部硝子体膜が隔壁として作用し,房水あるいは灌流液の急激な硝子体内への流入を防いでいる.もちろん前部硝子体膜は完全な膜ではないので,通常ゆっくりとした房水の移動は起こるが,急激な移動は起こらないのである(図1).しかしZinn小帯・前部硝子体膜隔壁に損傷が生じた場合には,損傷部を通してIMSが生じると考えられる.後?(49)永本敏之杏林アイセンター眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎243.IMS(infusionmisdirectionsyndrome)の機序術中浅前房化・前房動揺IMS(infusionmisdirectionsyndrome)は1993年に報告された白内障術中合併症で,灌流液がZinn小帯領域を通過して硝子体腔に回ってしまう状態である.Wieger?帯が外れているが,前部硝子体膜が割としっかりしている場合には,Berger腔に灌流液が貯留し浅前房化をきたす.一方,高度の硝子体液化や硝子体切除後で,硝子体ゲルがほとんど残っていない症例では大きな前房動揺をきたす.Wieger靱帯Berger腔前部硝子体膜図1前眼部断面図紫色で示した前部硝子体膜は後部Zinn小帯と一体化しており,Wieger?帯で後?に強く付着している.房水と硝子体液はZinn小帯・前部硝子体膜領域を通してゆっくりと行き来できるが,正常状態では急激な移動は起こらない.図2IMSによる浅前房化の機序Wieger?帯の一部または前部が後?から外れていると灌流液がBerger腔に回ってしまう.図3IMSによる前房動揺の機序硝子体切除後無硝子体眼あるいは硝子体の高度の液化変性(強度近視眼など)で,前部硝子体膜もほとんどない場合は,灌流液が前房と硝子体腔を自由に行き来し,水晶体が前後に動揺して前房動揺が起こる.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006(00)破損を通して灌流液が硝子体腔に達する場合も一種のIMSといえるが,その際は硝子体が前房内に突出し,後?の挙上(浅前房化)や前房動揺は通常起こらない.では,つぎに浅前房化だけをきたす症例と,大きな前房動揺をきたす症例の違いを考える.まず浅前房化であるが,Wieger?帯(後部Zinn小帯後?付着部)が一部または全部外れており,前部硝子体膜が割としっかりしている場合には,Berger腔に灌流液が回り,貯留した灌流液量に従って後?の挙上が起こる(図2).ただし,水晶体?内に核がある間は核が後?の形状を保持しており,後?は挙上してこない.しかし,フェイコの最終局面や皮質吸引の時点になると後?の可動性が高まり,浅前房化が起こってくる.この状態が起こりやすい症例としては,偽落屑症候群で後部Zinn小帯の変性が進み後?付着部が外れている症例,水晶体の前方移動に基づく緑内障発作を起こしたことのある症例(通常の急性緑内障発作と診断されている場合も多々見受けられる)があげられ,一般的に高齢者で,術前の前房深度は浅いか正常である.一方,大きな前房動揺をきたす場合は,高度近視などの硝子体の液化が強い症例や徹底的な硝子体切除が行われた症例などで,硝子体ゲルがほとんど残っておらず,前部硝子体膜にも損傷がある症例である.この場合,灌流液が眼房と硝子体腔をかなり自由に行き来する状態となっており,フェイコで灌流を開始した直後は灌流液の急激な前房内流入により水晶体は硝子体側に押され,前房が急激に深くなる(この状態を逆瞳孔ブロックとよぶ術者もいる).しかしZinn小帯が伸びきった時点で水晶体の後方移動は止まる.今度は灌流液がZinn小帯領域を通して前房から硝子体腔に回りだすと前房が浅くなる.これをくり返すために大きな前房動揺が起こると考えられる(図3).●IMSへの対処法浅前房化も前房動揺も,まずボトルの高さを低くし,最大吸引圧と吸引流量も低く設定する(表1).前房が浅くなる場合はボトルを低くではなく,「高くする」の間違いじゃないかと思われる読者も多いと思うが,IMSの場合は低くするのである.IMSによる浅前房化の場合に前房側から水晶体後方へ灌流液を回す力は灌流圧,すなわちボトルの高さに依存している.Zinn小帯およびWieger?帯部の抵抗に打ち勝つためには,それなりの高い灌流圧が必要である.つまり高吸引・高灌流の設定で起こりやすい現象であり,低灌流・低吸引の設定では起こりにくいのである.それ以上の対処法については紙面の都合上,他書に譲る.文献1)MackoolRJ:Infusionmisdirectionsyndrome.???????????????????????19:671-672,1993表1前房動揺と設定値通常設定低設定1234ボトル高(cm)6050403020最大吸引圧(mmHg)300280250200150吸引流量(m?/min)3330282520筆者の場合,前房動揺の程度に応じて低設定1から4へと設定値を変更していく(In?niti,30?micro?areABStip).

コンタクトレンズ:トライアルレンズの管理(2)

2006年11月30日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLSコンタクトレンズ(CL)処方においてはトライアルレンズが不可欠である.前号の「トライアルレンズの一般的な管理や規格の確認などについて(植田喜一)」に続き,今回は「トライアルレンズの消毒法」について,ハードコンタクトレンズ(HCL)の場合とソフトコンタクトレンズ(SCL)の場合に分けて概説する.●トライアルレンズの汚染CL処方時は感染の危険性のある不特定多数に対してトライアルレンズを使用するため,何らかの前眼部感染症をもつ人からのトライアルレンズの汚染が考えられる.また,感染のない場合でも表皮ブドウ球菌などの常在菌によってトライアルレンズが汚染される危険性がある.●トライアルレンズを取り巻く汚染媒体トライアルレンズ本体のほか,CL用保存ケース,手指,ピンセット,その他CL室で使用する器具,機械などが汚染の媒体となりうる危険性がある.汚染防止のためには手洗いの励行,トライアルレンズおよび使用器具の適切な消毒,感染・汚染物の適切な処理などを徹底しなければならない.●SCLのトライアルレンズのケア頻回交換レンズ,定期交換レンズ,ディスポーザブルレンズの場合には,トライアルレンズは毎回新品を使用することが可能で,これがトライアルレンズの理想である.使用後のレンズは感染媒体として扱い,確実に廃棄しなければならない.一方,従来型SCLの場合は毎回新品を使用することがむずかしく,洗浄・消毒を行って再利用する.1.洗浄・すすぎ患者にレンズの装脱を行った後,界面活性剤配合の洗浄液で洗浄する.洗浄・すすぎにより物理的に微生物を除去することができる.2.消毒最も確実な消毒法は,熱による煮沸消毒で細菌や真菌のみならず,ウイルス,アカントアメーバなどに対しても確実な消毒効果を有している.しかしながら,熱によるレンズ素材への影響も大きく,特に高含水レンズは煮沸消毒は不可能で,コールド消毒を行う.a.煮沸消毒煮沸消毒可能な低含水のトライアルSCLおよびSCL用保存ケースは100℃で20分以上煮沸消毒することが好ましい.従来型SCLは米国食品医薬品局(FDA)の分類でグループIが多く,一般に煮沸消毒で問題となる熱によるレンズ変形をきたしにくい.トライアルでの短時間の使用では汚れも軽度であるため,蛋白質の沈着の問題も生じにくい.b.コールド消毒煮沸ができないSCLの場合には熱を用いずコールド(47)柳井亮二山口大学大学院医学系研究科眼科学/下関市立豊田中央病院眼科コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純TOPICS&FITTINGTECHNICS269.トライアルレンズの管理(2)─トライアルレンズの消毒─図1トライアルレンズ管理のためのフローチャート消毒用石鹸を用いて流水で手を洗う直ちに流水で手を洗うことができない場合は,0.1%次亜塩素酸ナトリウム水溶液あるいは消毒用アルコール*に浸した脱脂綿などで清拭する患者に装脱の操作を行う*:HBに無効廃棄可能なCLは廃棄**再利用する場合煮沸20分以上オートクレーブ20分以上コールド消毒ケース,ピンセットは流水ですすぎ,煮沸あるいは消毒液に30分浸漬後流水ですすいだ後,保存バイアルビンまたはレンズケースにSCLを入れる洗浄液にて洗浄後,流水ですすぐ0.5%次亜塩素酸ナトリウム水溶液に10~30分浸漬する流水ですすぎレンズケースに保存液をそそぐトライアルレンズセットケースに保存SCLの場合HCLの場合**:密閉できる容器に保管し,焼却あるいはオートクレーブで滅菌後廃棄———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006(00)消毒剤による消毒を行う.一般には,MPS(多目的用剤)がレンズケアの主流であるが,MPSの消毒効果は煮沸消毒や過酸化水素よりも弱く,トライアルレンズの消毒には不十分であると考えられる.1)ポビドンヨードポビドンヨード(イソジン?)は,古くから医療現場に用いられている消毒剤で,広い抗菌スペクトルと生体に対する安全性が特長である.クレンサイド?(オフテクス)は,消毒効果と生体に対する安全性は高く評価されるが,つけ置き洗浄のシステムであるため,汚れを十分に除去できない可能性がある.また,ヨウ素に対するアレルギーに注意が必要である.2)次亜塩素酸ナトリウム塩素系の次亜塩素酸塩は,細菌,真菌,ウイルス,アメーバなどの消毒が可能で,0.5%次亜塩素酸ナトリウム水溶液に20分浸漬する.ただし,次亜塩素酸は漂白効果が強いため,退色に注意が必要である.SCL用ケア用剤としてはマンスリークリーナー?(東レ)やクラフレッシュ?マンスリークリーナー(クラレ)がある.市販消毒剤にはアンチホルミン?,クロラックス?,ピューラックス?,ハイター?,ミルトン?がある.3.保存最近は保存液中に界面活性剤や酵素を添加することにより,つけ置き洗浄を行うコールド消毒剤もある.ただし,眼刺激症状や過敏症をひき起こす可能性があり,装用前に防腐剤の入っていない生理食塩水などですすいだほうがよい.●HCLのトライアルレンズのケアHCLはSCLに比べると,汚れが付着しにくい素材で微生物の汚染も起こりにくいが,残存した汚れがレンズ表面の水濡れ性を低下させたり,微生物汚染の足場となる.1.洗浄・すすぎ蛋白質や脂肪が付着しやすいため,界面活性剤に酵素を配合した洗浄剤で洗浄を行い,大量の水道水ですすぐ.2.消毒ガス透過性ハードコンタクトレンズ(RGPCL)においても,感染予防のためにはトライアルレンズの消毒が必要で,次亜塩素酸塩による消毒が好ましい.しかしながら,次亜塩素酸塩は酸化力が強く,着色レンズの退色や破損,ひび割れを生じやすくなるため,丁寧に操作する.次亜塩素酸ナトリウム洗浄剤にはプロージェント?(メニコン),ハードケア?(HOYA)がある.3.保存わが国では,水濡れ性を保持するためにHCLを保存液に浸漬して保存するが,海外ではポリメチルメタクリレート(PMMA)素材のHCLと同様にRGPCLにおいても乾燥した状態でレンズケースに保管することが多い.これは乾燥により微生物汚染の予防になるほか,バイオフィルムの形成もなく衛生的にレンズを保存できる利点がある.保存液は定期的に交換しなければならないため,使用頻度の低いトライアルレンズの場合には,乾燥保管のほうがよい.ただし,RGPCLではレンズの水濡れ性が悪くなり,レンズのくもりの原因となりやすいため,トライアルレンズの使用前にCL装着液などで水濡れ性を改善する.おわりに近年はディスポーザブルレンズの増加により,トライアルレンズを洗浄・消毒する頻度は減少しているが,逆に洗浄・消毒の必要なトライアルレンズの管理が疎かになりやすくなる.CL診療において最も重要なトライアルレンズをきちんと管理し,衛生的に維持しておくことは,適切なCL処方の基本となるばかりでなく,院内における感染防止の観点からも重要である.

写真:Capsular Block Syndrome

2006年11月30日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS(45)德田芳浩井上眼科病院写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦270.CapsularBlockSyndrome①①図2図1のシェーマ①:増殖した水晶体上皮細胞.図1ディフューズ光による観察レンズ全体が強く白濁しているようにみえる.図4レトロイルミネーションによる観察混濁の割りに,反射光はよく通ってみえる.図3スリット光による観察眼内レンズ(IOL)に混濁はなく,IOL後面から?内全体に乳白色の均一で無構造な液体が観察できる.後?は混濁の奥にあってはっきりしない.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006(00)Capsularblocksyndrome(CBS)とは,白内障手術や眼内レンズ(IOL)挿入に関連して,水晶体?の開口部(=連続前?切開窓)が何らかの要因で閉鎖することで?内圧の上昇や?内部への物質の貯留が起こる症候群であり,Miyakeらによって新しく3群に分類1)されている.今回,紹介する症例はその3群(術中CBS,術後早期CBS,術後晩期CBS)のうちの,術後晩期CBSであり,液状後発白内障2)とよばれていたものである.症例は73歳,女性,10年前に右眼の白内障手術を施行された.術中術後の合併症を認めず,予後良好な状態で経過していた.術前に糖尿病や緑内障などの,全身合併症や眼疾患の併発を認めていない.術式は典型的な超音波乳化吸引術による小切開白内障手術で,前?切開縁はスムーズで連続しており,IOLは6.0mm光学部径の3ピースアクリルフォーダブルレンズが完全?内固定されている.カルテ上では,術後約8年目から,IOL後方のはっきりとした混濁を認めている.実は,左眼も15年前に?外摘出術による白内障手術が施行され,ワンピースポリメチルメタクリレート(PMMA)レンズが挿入されているが,そちらには後発白内障を認めない.右眼のみのはっきりとした混濁にもかかわらず,問診にて見え方の左右差はないという解答を得ている.散瞳後の細隙灯顕微鏡による観察で,前?切開縁はぎりぎりのところもあるが全周でIOL光学部をカバーしており,前?切開窓は閉鎖されていると考えられる.IOL後方には部分的に水晶体上皮細胞の増殖と白色で均一な液体の貯留を認めた.矯正視力は両眼ともに術後から1.2を保持しており,自覚的な混濁の認識は認めない.文献的にこの液体は水晶体上皮由来の無構造な蛋白質とされている3).治療としては,YAGレーザーによる後?切開が最も一般的と考えられるが,フォーカシングがむずかしいと聞いている.また,この蛋白質による炎症を懸念して,筆者は外科的な?の洗浄を第一選択で行っている.前?とレンズは簡単に?離できるので,シムコ針を使って?内の液体を除去すると同時に,?赤道部にある増殖水晶体上皮をすべて取り去り,前?切開を拡張してブロックの再発を予防している.洗浄除去により,液状の後発白内障の再発はなくなるが,後?の線維性混濁タイプの後発白内障は再発する.ちなみに,本症例では本人の自覚がなく,治療を希望していないので経過観察としている.文献1)MiyakeK,OtaI,IchihashiSetal:Newclassi?cationofcapsularblocksyndrome.???????????????????????24:1230-1234,19982)MiyakeK,OtaI,MiyakeSetal:Liqueiedafter-cataract:Acomplicationofcontinuouscurvilinearcapsulorhexisandintraocularlensimplantationinthelenscapsule.???????????????125:429-435,19983)永田万由美,松島博之,泉雅子:液状後発白内障の成分分析.眼紀52:1020-1023,2001

免合併症に対する治療

2006年11月30日 木曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSあり,実際には個々の症例,疾患ごとにその適応については十分な検討が必要となる.以下に個々の疾患ごとに白内障手術適応を決めるうえで参考となる最近の論文を紹介する.a.Beh?et病合田らは最終眼発作から6カ月以内に手術した症例と7カ月以上経て手術した症例では,後者の群のほうが眼発作の出現頻度が有意に低いことを報告している3).平岡らは長期間炎症が鎮静化していても,免疫抑制薬を使用しているような活動性の高い症例では術後に眼発作頻度が増加することを報告している4).またKadayif?ilarらは術前に3カ月の消炎期間をおいた場合,術後炎症は軽度でその後経過は良好であったと述べている5).b.若年性関節リウマチに伴うぶどう膜炎若年性関節リウマチ(juvenilerheumatoidarthritis:JRA)に伴うぶどう膜炎は欧米では多く,日本ではJRAとほぼ同一の病態を示す若年性慢性虹彩毛様体炎(chro-niciridocyclitisinyounggirls)が圧倒的に多い.併発白内障は約60~70%に発症し,重篤な視力障害の原因となる.しかし,対象が若年者であることや長期的に炎症が持続していること,また手術時にすでにcycliticmembraneを形成していることなどから術後成績については賛否両論である.最近のLamらの報告では最終受診時において全症例で0.5以上の視力が得られ,また術後に後発白内障と続発緑内障が約80%の症例で認められていた6).小児の併発白内障でも成人と同様にステはじめに一般にぶどう膜炎に対する治療の基本は副腎皮質ステロイド薬の局所および全身投与,免疫抑制薬や抗微生物薬の投与といった薬物療法が主体となる.しかしながらぶどう膜における短期間の著しい炎症,あるいは炎症の遷延化や再燃によりさまざまな合併症や続発症が生じ,その結果手術療法が唯一の治療手段となることもある.これまでぶどう膜に炎症を有する眼に対して,あるいは炎症の既往のある眼に対して外科的治療を行うことはさらなる炎症を誘発する可能性があり,その適応についてはかなり慎重に判断がなされていたが,近年の白内障,緑内障,硝子体疾患における手術手技の進歩や手術器具の改良,術前術後の効果的な抗炎症療法の導入により,良好な手術成績が得られるようになってきた1).本稿では,「ぶどう膜炎併発白内障および続発緑内障」に焦点を絞って手術治療に関する現時点でのevidencebasedmedicine(EBM)をまとめてみたい.Iぶどう膜炎併発白内障1.手術適応白内障手術に伴うさまざまな炎症性細胞の反応を予防するために,ある程度の期間活動性の炎症のないことを確認したうえで,手術計画を立てることが重要である.これまでさまざまな報告がなされているが,一般的には1カ月から6カ月の消炎期間を経たうえで手術を行うのが良いとされている2).しかし,これらは1つの目安で(37)????*HiroshiKeino:東京医科大学霞ヶ浦病院眼科〔別刷請求先〕慶野博:〒300-0395茨城県稲敷郡阿見町中央3-20-1東京医科大学霞ヶ浦病院眼科特集●非感染性ぶどう膜炎治療の最先端あたらしい眼科23(11):1421~1428,2006合併症に対する治療??????????????????????????????????????????????????????????????????慶野博*———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006ロイドの局所および全身投与,報告によってはメソトレキセートなどの免疫抑制薬を使用することで,しっかりと術前に消炎させることが良好な術後成績を得るうえで必須であることを述べている7,8).c.Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎これまでこの疾患の併発白内障手術についていくつかの報告がなされているが,おおむね術後成績は良好である9,10).ただし,術後の眼圧上昇や前房出血などを生じることがあるため,他のぶどう膜炎と同様に注意深い経過観察が必要である11).d.原田病原田病の併発白内障は特に遷延例において虹彩後癒着を伴って生じてくることが多い.Ganeshらは全体の80%で視力が改善し,50%は6/18以上の視力を得たと報告している.また全体の76%が後発白内障を生じ,そのうちの42%においてYAGレーザーによる後?切開が施行されていた12).一般的には炎症が鎮静化された時期に行えば視力予後は良好であるが,当施設における原田病併発白内障の術後合併症についてみると,全体の46%で術後の眼圧上昇を認めたことから,厳密な術後管理が重要である13).e.サルコイドーシスサルコイドーシスの術後成績は比較的良好といわれており,術前の消炎が2~3カ月間にわたって維持されていれば眼内レンズ挿入も特に大きな問題はない.当施設でも術後ぶどう膜炎再燃例の疾患別頻度でみてもサルコイドーシスが最も頻度が低いという結果であった13).しかしながら,一部の症例では術後に?胞様黄斑浮腫が出現,あるいは増強することがあること,また術後炎症が強いケースではcycliticmembraneを形成することがあり注意を要する14).2.術前のぶどう膜炎活動性の評価ぶどう膜炎併発白内障手術では術前にある程度の消炎鎮静期間をおいた後,手術施行となるわけだが検眼鏡的に消炎が得られている(当施設では消炎の定義として前房中に炎症細胞を認めないか,認めたとしても全視野に1~5個程度であること)としても,subclinicalには前房内炎症が持続していることもある.その程度を評価する客観的な数値として当施設では前房フレア値をぶどう膜炎の術前評価項目として活用している.当院において手術直前のフレア値と術後視力との相関をみたところ,術前フレア値の高い症例ほど術後視力が悪い傾向があった13)(図1).また術前のフレア値が50photoncounts/ms以上の症例では術後6カ月を経ても鎮静化せず,反対に術前のフレア値が20photoncounts/ms以下の症例では術後のフレア値は安定しており,フレア値に上昇は認められなかった15)(図2).さらにぶどう膜炎を肉芽腫性と非肉芽腫性に分類し術後のフレア値を比較したところ,肉芽腫性のほうが非肉芽腫性に比べてフレア値が高く,フレア値の上昇が長く続くことが判明した15)(図3).これらの結果から術前のフレア値が50photoncounts/ms以上の肉芽腫性ぶどう膜炎の場合,慎重に手(38)術前020406080100120140期間フレア値(photoncounts/ms):術前炎症(+)併発白内障n=5:術前炎症(-)併発白内障n=20:対照群(加齢白内障)n=10p<0.051日3日7日6月3月1月14日図2ぶどう膜炎併発白内障手術前の炎症の有無による術後フレア値の変化(文献15より)0204060801.00.50.1術前フレア値(photoncounts/ms)術後視力n=66,r=-0.524,p<0.001図1術前フレア値と術後視力(文献13より)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006????術時期を決定する必要があると思われる.このように術前のぶどう膜炎の活動性を評価するうえで,細隙灯顕微鏡の所見だけでなく,フレア値を測定しておくことは術後の炎症の程度をある程度予測するうえで,有力な手がかりになりうると考えられる.3.術前の消炎対策術前の準備として消炎目的のために予防的にステロイド投与を行うかについては意見が分かれるところである.筆者らの施設では十分に消炎期間のとれている症例については,特に術前のステロイドの内服は行っていない.一方でMeacockらは白内障術前30分前からメチルプレドニゾロンを点滴静注(15mg/kg)した群と手術日の2週間前からプレドニゾロンを内服(0.5mg/kg)させた群で比較し,視力予後には差がないものの,血液?眼関門の破綻が後者のほうが軽度であったことを報告している16).4.術式および眼内レンズの種類最近の国内におけるぶどう膜炎患者の白内障手術における眼内レンズ挿入術に関しての報告をみると,全体の99%とほとんどの施設で眼内レンズ挿入術が行われていることが明らかとなっている17).挿入する眼内レンズの種類に関するデータをみると,acrylレンズが71%と最も多く,ついでpolymethylmethacrylate(PMMA)レンズが33%,heparinsurface-modi?ed(HSM)PMMAレンズが19%,siliconeレンズが8%であった17).当施設においてもacrylレンズが最も多く(全体の74.8%),ついでHSMPMMAレンズ18%,PMMAレンズ他7.2%であった18).使用頻度の最も多かったacrylレンズについてのこれまでの報告をみると,術後炎症が少なく,再燃の頻度も低いこと,後発白内障の頻度も他のレンズに比べて低いという利点がある19~21).Siliconeレンズについては術後の炎症細胞の付着が少ないものの後発白内障の頻度が高いことが指摘されている19,20).また術後の前房炎症の指標とされるフレア値についてacrylレンズ,siliconeレンズ,ハイドロジェルレンズで比較したところ,3者の間には有意な差はみられなかった22).生体適合性の面からacrylレンズとHSMPMMAレンズとの間で比較したところ,acrylレンズのほうが炎症細胞の付着が少なく生体適合性に優れていることが判明している23).当施設でも後?切開の頻度についてレンズ間で比較したところ,acrylレンズはHSMPMMAレンズやPMMAレンズよりも有意に後?切開の頻度が少ないことが明らかとなった13).5.術後の薬物療法当院では,まず術後の消炎対策として,手術終了時に抗生物質とともにベタメタゾン(リンデロン?)の結膜下注射,また症例によってはトリアムシノロンアセトニド(ケナコルト?)の後部Tenon?下注射を行っている.さらに術翌日の炎症に応じてステロイド薬の全身投与(プレドニゾロン換算で20~40mg)や非ステロイド消炎薬の全身投与を2~4日間行う.これと並行してステロイド薬点眼(ベタメタゾン,またはフルオロメトロン),非ステロイド消炎薬(ジクロフェナクナトリウム,またはブロムフェナクナトリウム)などの点眼を最低3カ月継続する.炎症が持続しているうちは虹彩後癒着防止のため散瞳薬の点眼を就寝前に行う.6.術後合併症まず当施設における術後合併症の種類と発生頻度につ(39)術前01020304050期間フレア値(photoncounts/ms):肉芽腫性ぶどう膜炎n=18:非肉芽腫性ぶどう膜炎n=14:正常対照群(加齢白内障)n=10p<0.051日3日7日6月3月1月14日図3非肉芽腫性ぶどう膜炎併発白内障と肉芽腫性ぶどう膜炎併発白内障手術前後におけるフレア値の変化(文献15より)———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006いて表1に示す13).ぶどう膜炎の再燃が全体の27.8%,以下高眼圧が17.3%,後発白内障が16%でみられた.視力低下の原因となる?胞様黄斑浮腫の出現頻度は全体の2.5%であった.また術前,術後の6カ月から3年間におけるぶどう膜炎炎症発作発生頻度については,頻度が増加したものが17.3%,不変が45.7%,減少したものが37.0%であった13).さらに術後高眼圧を認めた症例を疾患ごとにみてみると,表2に示すように若年性関節リウマチが78%,原田病・交感性眼炎が46%,ヘルペス性虹彩毛様体炎が33.3%,Beh?et病が20%であった13).他施設のデータをみると,Estafanousらの報告によれば,ぶどう膜炎の再燃が全体の41%,後発白内障が62%,?胞様黄斑浮腫は33%,網膜前膜が15%,虹彩後癒着が8%でみられた24).またRahmanらは後発白内障が96%にみられ,?胞様黄斑浮腫は24%に認められたと報告している25).対象とした疾患や術式,用いた眼内レンズも施設間で違いがあるため当施設のデータと単純に比較はできないが,どの施設でも一定の割合で術後合併症が生じることは明らかであり,その発症をいかに少なくするかが今後も大きな課題である.7.まとめ近年のfoldable眼内レンズを組み合わせた小切開白内障手術の進歩により,ぶどう膜炎併発白内障に対してもより低侵襲で安全に手術を行えるようになった.しかしながらぶどう膜炎の種類によって術後の炎症や合併症の発生頻度はさまざまである.白内障手術を行う前に個々の症例ごとに疾患の同定および病型を把握して手術による影響を予測しておくこと,そして術後の消炎対策まで事前に準備しておくことなど,手術を中心とした術前,術後の総合的な治療戦略がぶどう膜炎併発白内障手術に不可欠である.IIぶどう膜炎続発緑内障1.続発緑内障の頻度と眼圧上昇機序ぶどう膜炎続発緑内障は併発白内障と並んで比較的頻度の高い合併症である.その発生頻度はぶどう膜炎全体の10~20%であると報告されている26~29).ぶどう膜炎続発緑内障の原因を2つに大別すると,閉塞隅角と開放隅角に分類される30).眼圧上昇の機序として閉塞隅角緑内障は,虹彩後癒着が瞳孔領全周に生じ瞳孔ブロックの状態(irisbomb?)にある場合,隅角に周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)が形成された結果,隅角線維柱帯が閉塞されて眼圧が上昇する場合,原田病のように発症早期に虹彩水晶体隔膜の前方移動で急性狭隅角緑内障をきたす場合,慢性的な炎症による新生血管緑内障の場合などがあげられる.開放隅角緑内障は隅角線維柱帯への炎症,炎症産物の蓄積による通過障害,炎症による隅角線維柱帯自体の機能低下,プロスタグランジンによる血液房水関門の破綻と房水産生の増加,ステロイド緑内障にみられる隅角線維柱帯への異常結合織とムコ多糖類の蓄積などがある.実際の臨床の場では,上記の眼圧上昇機序が重複しているケースも認められ,治療に苦慮することが少なくないが,眼所見を正確に把握し病態を理解することがその後の治療法や術式の選択をするうえで最も重要となる.ここではおもにぶどう膜炎続発緑内障の外科的治療に焦点を絞り,各々の術式の適応や成績について最近の知見(40)表1術後合併症の種類と発生頻度術後合併症眼数%(眼数)ぶどう膜炎再燃高眼圧後発白内障虹彩後癒着水晶体?異常収縮眼内レンズ偏位?胞様黄斑浮腫45282614118427.817.316.08.66.84.92.5(文献13より)表2術後高眼圧を認めた例の疾患別頻度術後合併症眼数%(眼数)Beh?et病サルコイドーシス原田病?交感性眼炎若年性関節リウマチヘルペス性虹彩毛様体炎同定不能(非肉芽腫性)(肉芽腫性)84631642201146783313227(文献13より)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006????と併せて述べる.2.レーザー虹彩切開術と周辺虹彩切除術慢性的な虹彩炎が持続すると,虹彩の後面と水晶体の前面が徐々に癒着していく(虹彩後癒着:posteriorsynechia).それが瞳孔全周へ拡大すると後房から前房への房水の流れが遮断され後房圧が上昇し,膨隆虹彩(irisbomb?)が生じる(図4).このような場合は早急にレーザー虹彩切開術を行う必要がある.使用するレーザーにはargonとYAGの2種類があるが,筆者は照射回数が少なくて済むYAGレーザーを使用している.しかし,前房炎症を有する眼にYAGレーザーを行った場合,術後の前房炎症により開通した穴が再度閉塞することがしばしばみられる.そこで通常の狭隅角に伴った緑内障発作時と比べて大きめにレーザー虹彩切開術を施行する.そして数発照射しても穴が開かないような場合,また再閉塞をきたすような場合は観血的に周辺虹彩切除術を施行する.その際,術後の炎症は必発であるため,ステロイドの点眼や結膜下注射,炎症の程度によっては内服も併用して消炎に努める.特にBeh?et病でirisbomb?が生じた場合,レーザー虹彩切開術を行うと炎症発作の増悪を誘導するおそれがあるため,当施設ではできるかぎり周辺虹彩切除術を施行するようにしている.3.隅角癒着解離術谷原らは続発閉塞隅角緑内障に対して隅角癒着解離術が40%に有効であったと報告している31).この事実は続発閉塞隅角緑内障でも症例によっては線維柱帯以降の房水流出障害の少ないものが存在することを示している.一方で線維柱帯以降の房水流出が完全に障害されているような症例に対しては,隅角癒着解離術を何度もくり返すのではなく,流出抵抗の部位に応じて他の術式を加えていくべきであろう.4.MitomycinC併用線維柱帯切除術ぶどう膜炎による続発緑内障に対するmitomycinC(MMC)併用線維柱帯切除術の眼圧コントロール成績について表3に示す.まずわが国からの論文をみると,1998年の比較的炎症の程度の軽い例を対象にした松村らの報告では術後3年で眼圧調節率が87%32),2001年に今泉らは術後5年で初回手術例において有効率が76.3%であったと述べている33).2002年に高橋らは20(41)図4膨隆虹彩(irisbomb?)ブロック解除前(左)とブロック解除後(右).表3MMC併用線維柱帯切除術の眼圧コントロール成績報告者報告年平均経過観察期間眼圧コントロール率松村ら32)今泉ら33)高橋ら27)高橋ら34)Ceballosら37)重安ら35)岡田ら36)Yalvacら38)199820012002200220022004200420042.0年1.9年記載なし3.8年2.5年2.0年2.3年3.3年87%*76%89%80%*62%70%*82%67%*:点眼併用と記載あり.———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006mmHgを目標眼圧とした場合,無投薬で62.9%,点眼併用で80.5%の生存率があったとしている34).2004年に重安らは平均観察期間48カ月において眼圧調整率は初回手術70%であったと報告している35).同じく2004年に岡田らは術後24カ月で生存率は81.6%であったと述べている36).海外からの報告では2002年にCeballosらはMMC併用あるいは5-?uorouracilを併用した線維柱帯切除術を行い,点眼を併用しても生存率は術後1年で78%,2年で62%であったと報告している37).興味深いことに男性では術後2年で生存率が39%であったのに対して女性では71%と女性のほうが良好な成績であった.2004年にYalvacらはBeh?et病に伴う続発緑内障に対してMMC併用線維柱帯切除術を行ったところ,術後1年で眼圧調整率は83%,術後3年では70%の成績を得たと報告した38).また開放隅角緑内障とぶどう膜炎続発緑内障で術後の眼圧調整率を比較した場合,長期経過ではその有効性はぶどう膜炎続発緑内障群において有意に低下していた33).さらに沖波らはPASが半周以上の症例では有効率は25%であったのに対して,半周未満ないし開放隅角では85%と有意な差があったと報告している39).つぎに続発緑内障に対して緑内障単独手術と白内障緑内障同時手術で術後眼圧を比較してみると,以前に溝口らは白内障手術を併用すると術後に眼圧を20mmHg以下へ調整できる確率は術後3年で68%,緑内障手術単独では87%,さらに14mmHg以下へ調整できる確率は同時手術群で24%,単独群では63%と有意な差があったとしている40).2004年の岡田らの報告では目標眼圧が15mmHgであった場合,眼圧調整率は同時手術群が16%であったのに対して単独群が58%であった36).これらの結果より眼圧をlowteenで安定させるためには,緑内障単独手術のほうがより効果的であると考えられる.術後の炎症管理は濾過胞維持のために重要であるが,最近のMoltenoらの報告によれば,続発緑内障術後の濾過胞を維持させる手段として,術後に一定期間ステロイドや非ステロイド系消炎薬およびコルヒチンを内服させると良好な結果が得られている41).5.線維柱帯切開術続発緑内障に対して線維柱帯切開術を行うか,線維柱帯切除術を行うかは術前の炎症や眼圧,視野障害の程度,視神経乳頭変化,術後の目標眼圧,患者の年齢などから総合的に判断する.線維柱帯切開術は術後highteenを目標眼圧とする比較的視野障害が軽度の症例に推奨される術式であるといえる42).また下方からのアプローチで本術式を行った場合,上方の結膜を温存することができ将来的に線維柱帯切除術が必要となった場合でも対応可能である.しかしながら本術式では術後の前房出血は必発であり,一部の症例では切開した隅角へ虹彩が癒着し,PASを形成することがある.ステロイド緑内障のように炎症が少なくPASがないような症例に対しては本術式が有効であると報告されている43).最近Freedmanらは小児慢性ぶどう膜炎の続発緑内障12例16眼に対して隅角切開術を施行したところ有効率が75%であったと報告しており44),Hoらも31例31眼に対して本術式を行い,71%の有効率を示している45).さらに術後成績を決定する因子として,虹彩炎の罹病期間,緑内障手術に至るまでの期間,PASの程度が少ないことなどをあげている45).これらのデータは小児ぶどう膜炎症例に対する本術式の有効性を示すものである.6.まとめぶどう膜炎続発緑内障の治療を行うためには,その病態を正しく把握し眼圧上昇の原因を明らかにすることが重要である.続発緑内障に対する手術治療はMMCの登場により,その成績は以前と比較して改善されてはいるものの,良好な眼圧コントロールを維持するうえで術前,術後の消炎は併発白内障手術と同様,必須であるといえる.ステロイド使用による眼圧上昇は大きな問題であるが,その機序についてもまだ未解明の部分が多い.今後はステロイドにかわるような薬剤による抗炎症療法によって続発緑内障への進展の予防,さらには続発緑内障治療成績の向上が期待される.本稿を終えるに際し,ご校閲いただいた東京医科大学臼井正彦教授に深謝いたします.(42)———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006????文献1)後藤浩:ぶどう膜炎に対する外科的治療法の適応と注意点.眼科手術17:149-154,20042)NussenblattRB,WhitcupSMeds:Uveitis,FundamentalsandClinicalPractice.p137-154,Mosby,StLouis,20043)合田千穂,小竹聡,笹本洋一ほか:ベーチェット病の併発白内障に対する手術成績.臨眼54:1272-1276,20004)平岡美衣奈,藤野雄次郎:ベーチェット病の併発白内障に対する手術成績.日眼会誌103:109-123,19995)Kadayif?ilarS,GedikS,EldemBetal:CataractsurgeryinpatientswithBeh?et?sdisease.???????????????????????28:316-320,20026)LamLA,LowderCY,BaerveldtGetal:Surgicalmanage-mentofcataractsinchildrenwithjuvenilerheumatoidarthritis-associateduveitis.???????????????135:772-778,20037)BenEzraD,CohenE:Cataractsurgeryinchildrenwithchronicuveitis.?????????????107:1255-1260,20008)LundvallA,ZetterstromC:Cataractextractionandintra-ocularlensimplantationinchildrenwithuveitis.????????????????84:791-793,20009)RamJ,KaushikS,BrarGSetal:Phacoemulsi?cationinpatientswithFuchs?heterochromicuveitis.???????????????????????28:1372-1378,200210)JavadiMA,JafarinasabMR,AraghiAAetal:Outcomesofphacoemulsi?cationandin-the-bagintraocularlensimplantationinFuchs?heterochromiciridocyclitis.????????????????????????31:997-1001,200511)BudakK,AkovaYA,YalvacIetal:CataractsurgeryinpatientswithFuchs?heterochromiciridocyclitis.????????????????43:308-311,199912)GaneshSK,PadmajaMS,BabuKetal:CataractsurgeryinpatientswithVogt-Koyanagi-Haradasyndrome.????????????????????????30:95-100,200413)薄井紀夫,鎌田研太郎,毛塚剛司ほか:ぶどう膜炎併発白内障手術における手術成績.臨眼55:172-181,200114)FosterCS,StavrouP,Za?rakisPetal:Intraocularlensremovalfrompatientswithuveitis.???????????????128:31-37,199915)毛塚剛司:ぶどう膜炎併発白内障における手術の適応・手技・予後.あたらしい眼科21:7-11,200416)MeacockWR,SpaltonDJ,BenderLetal:Steroidprophy-laxisineyeswithuveitisundergoingphacoemulsi?cation.???????????????88:1122-1124,200417)門田遊:ぶどう膜炎と白内障手術眼内レンズアンケート調査.眼科45:1803-1812,200318)後藤浩:眼内レンズの適応を再考証するぶどう膜炎.あたらしい眼科23:159-164,200619)Abela-FormanekC,AmonM,SchauersbergerJetal:Resultsofhydrophilicacrylic,hydrophobicacrylic,andsili-coneintraocularlensesinuveiticeyeswithcataract:comparisontoacontrolgroup.???????????????????????28:1141-1152,200220)AlioJL,ChipontE,BenEzraDetal:InternationalOcularIn?ammationSociety,StudyGroupofUveiticCataractSurgery:Comparativeperformanceofintraocularlensesineyeswithcataractanduveitis.???????????????????????28:2096-2108,200221)Abela-FormanekC,AmonM,SchauersbergerJetal:Uvealandcapsularbiocompatibilityof2foldableacrylicintraocularlensesinpatientswithuveitisorpseudoexfolia-tionsyndrome:comparisontoacontrolgroup.???????????????????????28:1160-1172,200222)Abela-FormanekC,AmonM,SchildGetal:In?amma-tionafterimplantationofhydrophilicacrylic,hydrophobicacrylic,orsiliconeintraocularlensesineyeswithcataractanduveitis:comparisontoacontrolgroup.???????????????????????28:1153-1159,200223)TognettoD,TotoL,MinutolaDetal:Hydrophobicacryl-icversusheparinsurface-modi?edpolymethylmethacry-lateintraocularlens:abiocompatibilitystudy.????????????????????????????????241:625-630,200324)EstafanousMF,LowderCY,MeislerDMetal:Phaco-emulsi?cationcataractextractionandposteriorchamberlensimplantationinpatientswithuveitis.????????????????131:620-625,200125)RahmanI,JonesNP:Long-termresultsofcataractextractionwithintraocularlensimplantationinpatientswithuveitis.???19:191-197,200526)Merayo-LlovesJ,PowerWJ,RodriguezAetal:Second-aryglaucomainpatientswithuveitis.???????????????213:300-304,199927)高橋哲也,大谷紳一郎,宮田和典ほか:ぶどう膜炎に伴う続発緑内障の臨床的特徴の解析.日眼会誌106:39-43,200228)後藤浩:内眼炎にみられる続発緑内障の病態.眼紀55:433-437,200429)KuchteyRW,LowderCY,SmithSD:Glaucomainpatientswithocularin?ammatorydisease.????????????????????????18:421-430,200530)MoorthyRS,MermoudA,BaerveldtGetal:Glaucomaassociatedwithuveitis.???????????????41:361-394,199731)谷原秀信,永田誠:続発性閉塞隅角緑内障における隅角癒着解離術.日眼会誌92:453-455,198832)松村美代,溝口尚則,永田誠:ぶどう膜炎による続発開放隅角緑内障に対するトラベクレクトミーの効果.眼紀49:290-294,199833)今泉佳子,栗田正幸,杉田美由紀ほか:ぶどう膜炎による続発緑内障に対するマイトマイシンC併用線維柱帯切除術の成績.臨眼55:359-363,200134)高橋知子,山本哲也:ぶどう膜による続発緑内障に対する濾過手術.眼科44:971-976,200235)重安千花,大竹雄一郎,安藤靖恭ほか:ぶどう膜炎に伴う続発緑内障に対する手術成績.あたらしい眼科21:949-953,200436)岡田康平,木内良明,伊藤奈美ほか:ぶどう膜炎に続発した緑内障の手術成績.臨眼58:1573-1577,200437)CeballosEM,BeckAD,LynnMJ:Trabeculectomywithantiproliferativeagentsinuveiticglaucoma.??????????11:189-196,200238)YalvacIS,SungurG,TurhanEetal:Trabeculectomywithmitomycin-Cinuveiticglaucomaassociatedwith(43)———————————————————————-Page8????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006Beh?etdisease.??????????13:450-453,200439)沖波聡:ぶどう膜炎の合併症に対する手術成績.眼紀52:361-376,200140)溝口尚則,松村美代,永田誠:ぶどう膜炎による続発隅角緑内障・併発白内障に対する白内障・トラベクレクトミー同時手術と単独手術.臨眼52:503-507,199841)VoteB,FullerJR,BevinTHetal:Systemicanti-in?am-matory?brosissuppressioninthreatenedtrabeculectomyfailure.??????????????????????????32:81-86,200442)山上淳吉:緑内障の治療.ステロイド緑内障.眼科44:1639-1643,200243)沖波聡,松村美代,寺内博夫ほか:続発緑内障に対するトラベクロトミーの成績.あたらしい眼科8:275-278,199144)FreedmanSF,Rodriguez-RosaRE,RojasMCetal:Goni-otomyforglaucomasecondarytochronicchildhooduve-itis.???????????????133:617-621,200245)HoCL,WaltonDS:Goniosurgeryforglaucomasecondarytochronicanterioruveitis:prognosticfactorsandsurgi-caltechnique.??????????13:445-449,2004(44)眼科領域に関する症候群のすべてを収録したわが国で初の辞典の増補改訂版!〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替00100-5-69315電話(03)3811-0544メディカル葵出版株式会社A5判美装・堅牢総360頁収録項目数:509症候群定価6,930円(本体6,600円+税)眼科症候群辞典<増補改訂版>内田幸男(東京女子医科大学名誉教授)【監修】堀貞夫(東京女子医科大学教授・眼科)本書は眼科に関連した症候群の,単なる眼症状の羅列ではなく,疾患自体の概要や全身症状について簡潔にのべてあり,また一部には原因,治療,予後などの解説が加えられている.比較的珍しい名前の症候群や疾患のみならず,著名な疾患の場合でも,その概要や眼症状などを知ろうとして文献や教科書を探索すると,意外に手間のかかるものである.あらたに追補したのは95項目で,Medlineや医学中央雑誌から拾いあげた.執筆に当たっては,眼科系の雑誌や教科書とともに,内科系の症候群辞典も参考にさせていただいた.本書が第1版発行の時と同じように,多くの眼科医に携えられることを期待する.(改訂版への序文より)1.眼科領域で扱われている症候群をアルファベット順にすべて収録(総509症候群).2.各症候群の「眼所見」については,重点的に解説.3.他科の実地医家にも十分役立つよう歴史・由来・全身症状・治療法など,広範な解説.4.各症候群に関する最新の,入手可能な文献をも収載.■本書の特色■

顆粒球除去療法

2006年11月30日 木曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSどう膜炎),4:外陰部潰瘍を主症状とする原因不明疾患である.日本をはじめ,韓国,中国,中近東,地中海沿岸諸国によくみられ,silkroaddiseaseともいわれる1).日本では現在約18,000人の報告がある.発病年齢は,男女とも20~40歳に多く,30歳代前半にピークを示す.特に眼病変は男性で重症化しやすい.病因は不明で,何らかの内因と外因が関与して白血球の異常が生じて病態が形成されると考えられている.なかでも眼症状は重篤で失明に至るケースが多く,本症患者のqualityoflife(QOL)を著しく低下させている.本疾患に対する根本治療法はいまだ確立されていない.Beh?et病の眼病変の特徴は眼内各組織の閉塞性血管炎を主体とした眼組織全体の炎症である.急性前眼部発作時には,しばしば境界線が明瞭な前房蓄膿がみられる.虹彩や毛様体から前房や硝子体中に好中球が遊走し,前房蓄膿や硝子体混濁になる.前房蓄膿の臨床的特徴は「さらさら」していることであり,体位により容易に移動する.前房水スメアをギムザ染色すると,前房蓄膿の構成細胞はほとんどが分葉核をもつ好中球であり(非肉芽腫性虹彩ぶどう膜炎),好中球の何らかの異常がBeh?et病を誘発すると考えられる.症状は一過性であるが,炎症は再燃しやすい.再燃を重ねるに従って,種々の器質的障害が残るようになり,ついには失明またはそれに近い状態まで視機能が低下する.眼病変に対する治療は急性期と緩解期で異なる.急性期には副腎皮質ステロイド薬の頻回点眼や結膜下・後部はじめにアフェレーシス(眼科では聞き慣れない用語だが)とは,人工デバイスを用いて,血液から何らかの成分を除去する治療の総称である.血液透析や血漿交換など老廃物や毒素を除く治療や,自己免疫病で自己抗体を特異的に除去する治療などが含まれる.しかし液性成分のみでなく,特定血球細胞を除去する治療(cytapheresis)も重要なアフェレーシスの分野であり,近年さまざまな疾患で実施されている.Granulocytapheresisは翻訳すると「顆粒球除去療法」となる.顆粒球は文字通り細胞内顆粒をもった細胞の総称であるが,生体内の多くの顆粒球は好中球であるため,臨床的には「好中球除去療法」という意味合いをもつことが多い.Beh?et病に伴うぶどう膜炎発作に,活性化型顆粒球(おもに好中球)が深く関わることが知られる.筆者らは(Beh?et病と同様に顆粒球が発作に関わる)潰瘍性大腸炎患者に対し顆粒球除去治療が行われ,副腎皮質ステロイド薬が効きにくい重症患者でも一定の効果をあげていることに注目した.今回眼症状を伴うBeh?et病患者に対し,顆粒球除去治療を行った.本稿では,そのパイロットスタディの概要・成績を述べるとともに,今後の臨床応用について考察する.IBeh?et病のこれまでの治療Beh?et病は1:口腔内難治性アフタ潰瘍,2:結節性紅斑などの皮膚症状,3:虹彩毛様体炎・網脈絡膜炎(ぶ(31)????*Koh-HeiSonoda:九州大学大学院医学研究院眼科学**KenichiNamba:北海道大学大学院医学研究科眼科学分野〔別刷請求先〕園田康平:〒812-8582福岡市東区馬出3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学特集●非感染性ぶどう膜炎治療の最先端あたらしい眼科23(11):1415~1419,2006顆粒球除去療法???????????????????園田康平*南場研一**———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006Tenon?下注射といった局所投与を行う.急性発作が落ち着いた緩解期には,発作頻度減少を目的とした治療を行う.まずコルヒチンを0.5~1.5mg経口投与する.コルヒチン単独で無効の場合,シクロスポリンを5mg/kg/day併用内服する.これでも無効の場合や副作用で投与できない症例では,低用量プレドニゾロン(5~10mg)の持続内服を行う.これらの薬剤は造血系,腎臓,肝臓,中枢神経系などに障害をきたす副作用もしばしば出現し,注意深く治療していかなければならない.Beh?et病眼発作予防に行われてきた上記の薬物治療は,これまで一定の効果をあげてきたが,残念ながら治療に反応せず失明に至る症例が数多く存在する.また全身副作用のため長期で投与できないケースもある.患者はBeh?et病に伴う臓器障害に加え,薬物副作用による症状にも苦しんでいる.顆粒球除去療法は潰瘍性大腸炎ですでに治療の実績があり,目立った副作用は報告されていない.現状では有効な治療法がなく眼発作のたびに失明の恐怖におびえる患者にとって,本研究で有用性が確かめられればこの上ない選択肢となりうると考えた.II顆粒球除去療法をBeh?et病に応用するまで潰瘍性大腸炎は,大腸に限局して,くり返し慢性の炎症・潰瘍ができる原因不明の疾患である.中等症以上の患者を対象とした,カラム治療(1回/週×5週間施行)と薬物療法との多施設共同無作為割付比較試験の結果,特に重症や難治例でカラム治療の有用度が評価され,保険適用になっている2).潰瘍性大腸炎では腸間の炎症部位に多数の顆粒球が浸潤する3).酢酸セルロース製ビーズカラムが潰瘍性大腸炎で効果を示す機序は,顆粒球・単球を中心とした病的白血球の選択的吸着,細胞の機能変化などによる.上述したようにBeh?et病病態形成にも同様に顆粒球が深く関わる.ゆえにこれを直接除去するカラム治療はBeh?et病の新治療法になると考えた.III実施プロトコールおよび結果北海道大学・九州大学眼科の共同研究として,各大学倫理委員会で同一プロトコールによる治療計画承認後,同時期に本治療を開始した4,5).筆者らが採用した適応基準および除外基準を表1に示す(両大学での総数14名).今回の検討では急性期眼発作ではなく,治療前後6カ月間の眼発作回数で治療成績を評価した.ゆえに眼発作の頻度の高いこと(治療開始前14週に2回以上の眼発作を起こしている)をエントリーの条件とした.またエントリー時急性発作を起こしている患者は,発作緩解を確認した後治療を開始した.急性発作期に顆粒球除去療法を行っても早期消炎効果は期待できると思われる.しかしBeh?et病眼発作は,単一発作自体自然に緩解するため,仮に治療に反応して緩解しても,自然経過との比較が困難である.また同一患者でも,その時々で急性眼発作の程度がまちまちで(前房蓄膿や黄斑部を含む広範囲の網膜滲出斑がみられるような大発作を起こすときもあれば,ごく軽微な前眼部炎症のみの小発作のときもある),回復時間も自ずと異なる.今回のような症例数の限られたパイロットスタディでは,急性期発作での効果判定が困難と考えた.酢酸セルロース製ビーズカラムはこれまで潰瘍性大腸(32)表1適応基準および除外基準<選択基準>1)年齢:20歳以上2)性別:不問3)入院・外来:不問4)片眼あるいは両眼に再発性網膜ぶどう膜炎型を有する完全型または不全型Beh?et病の患者5)ステロイド,コルヒチン,シクロスポリンA単独または組み合わせ治療にもかかわらず,過去14週で2回以上の眼発作を起こしている患者6)治療およびそのプロトコールについて本人および代諾者より文書同意の得られた患者<除外基準>1)顆粒球数2,000/mm3以下の患者2)感染症を合併している患者および合併が疑われる患者3)妊娠中,または妊娠している可能性のある女性4)前眼部のみの眼発作患者<慎重に使用することが望まれる場合>1)肝障害・腎障害のある患者2)アレルギー素因のある患者3)抗凝固剤(ヘパリン,低分子ヘパリン,メシル酸ナファモスタット)に対し過敏症の既往のある患者4)心血管系疾患のある患者5)赤血球減少(300万/mm3以下),極度の脱水(赤血球600万/mm3以上),凝固系の高度亢進(フィブリノーゲン700mg/d?以上)のある患者6)体温38℃以上の患者———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006????炎に使われてきた実績からも,安全性の高い医療器具といえる.しかしBeh?et病に対しては初めての試みであり,予想外の副作用が発生する可能性も考えた.そこで個々の患者に対して安全性が確立されるまでの期間(1週間程度)は入院のうえ治療を受けていただいた.実際の治療プロトコールを図1に示す.本治療では,酢酸セルロースビーズカラムとしてアダカラム?(株式会社JIMRO)を使用し,週1回の頻度で連続5回治療を施行した.患者の一方の肘静脈を脱血側,反対側の肘静脈を返血側として血管を確保する.静脈から静脈に専用ポンプを用いて循環させ,途中でカラムを通すことでビーズに顆粒球を吸着させる.循環条件は血液流量:30m?/分,循環時間:1時間,処理血液量:1,800m?,体外流出血液量:約200m?である.機器内での血栓形成予防のため,ヘパリン(2,000単位)またはメシル酸ナファモスタット(フサン?20mg)を体外循環時に持続混入させる.血液流量は30m?/分,治療時間は60分であり,1回の治療で1,800m?の全血を処理することになる(図2).14例全体の平均発作回数は,治療前4.2±1.6回,治療後2.9±1.4回(p=0.028)であった(図3).本治療によって発作は完全に抑制されるわけではなかったが,統計学的有意差をもって発作抑制効果があることが確かめられた.また筆者らは有効な症例とそうでない症例に2分されると感じたため,有効群と無効・不変群に分けて(33)表2有効群と無効群での治療前後の発作回数治療前6カ月の治療後6カ月の発作回数発作回数患者大発作小発作大発作小発作12110有効23002有効30601有効45203有効52111有効64203有効70723有効80402有効92220有効103114無効111350無効120212無効131213無効141203無効大発作の定義:網膜の半分以上に及ぶ病変を伴う後眼部発作,または前房蓄膿を伴う前眼部発作.(文献5より)図1プロトコールの概要遡及期間(14週)観察期間(2週以内)有効性および安全性評価期間(24週)週1回計5回のアダカラム?治療入院1)カラム治療:1回/週,計5回.2)安全性が確立されるまでの期間(1週間程度)は眼科入院.その後は外来通院で行う.3)既存薬は増減せずそのまま併用4)治療前後6カ月間の発作回数で判定図3前症例の治療前後での眼発作回数の比較(文献5より改変)4.2±1.6回治療前6カ月876543210治療後6カ月症例1症例2症例3症例4症例5症例6症例7症例8症例9症例10症例11症例12症例13症例14眼発作回数2.9±1.4回(p=0.028)アダカラム?(酢酸セルロースビーズカラム)肘静脈(脱血側)肘静脈(返血側)抗凝固剤注入口返血脱血図2顆粒球除去療法の概略図———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006臨床的に解析を行った.表2に有効群と無効群での治療前後の発作回数を示す.エントリーした14例中,9例は治療後発作回数が減少し有効群と判定したが,残り5例は発作回数の減少がみられず無効群と判定した.有効群では特に治療前にみられた大発作が消失するケースもあり,発作回数以上に患者の満足度は高かった.一方,無効群においては発作の重症度にも大きな変化はなかった.このように有効群と無効群の分かれる要因を特定するため,2群間の年齢,性別,罹病期間,使用薬剤,病型(完全型・不完全型)などの因子を比較検討した.その結果,罹病期間が5年以上の症例は有効群,5年未満は無効群に分類される症例が多いことが判明した.事実,罹病期間5年以上の症例7例で解析すると,全体で解析した以上にカラム治療の効果が大きいことがわかった(図4).今回の検討では,期間を通して重篤な全身副作用は認めなかった.これまで本治療に伴う副作用には,治療直後の脱力感・倦怠感・めまいなどが報告されている2).これらはすべて一過性であり,顆粒球除去治療自体ではなく,治療中使用する抗凝固剤によるものと考えられている.また本治療は眼症状以外の口腔内アフタ性潰瘍・関節症状・皮膚症状なども軽快する傾向があった.眼症状では無効群と判定した患者のなかにも,眼外症状の経過がいいという理由で,本治療の再施行を希望する患者もいる.本治療の作用機序について,アダカラム?はBeh?et病患者の顆粒球・単球を効率良く吸着除去したことを確かめた(図5).またカラムを通過した顆粒球においては接着分子(CD62L)の発現が低下していた(図5).また,接着分子の発現変化に伴い,インターロイキン(IL)-1bで刺激したヒト臍帯静脈内皮細胞への接着能の低下が認められたが,顆粒球の貪食能には変化がないことが報告されている6).つまり組織にとどまり眼炎症に関与すると考えられる顆粒球のみが選択的にビーズに吸着されるということではないかと考えている.IV今後の展望今回筆者らが行ったパイロットスタディの結果は,顆粒球除去療法が再発性の眼発作に苦しむBeh?et病患者にとってある一定の効果があることを示している7).ただし,眼発作をすべて抑制できるわけではなく,またまったく効果がなかったと思われる症例も存在した.特に現プロトコールでは発症後5年以上経過した症例では効果が高いと考えられた.Beh?et病眼症に対して,顆粒球除去療法が奏効するメカニズムを今後さらに解析していく必要がある.おそらく各種接着因子や炎症性サイトカイン・ケモカインの産生能の高い,活性化型好中球を選択的に除去している結果と考えられる.現在こちらの解析を進めているところである.今後最も大切なことは,Beh?et病に伴うぶどう膜炎(34)**p=0.014;*p=0.009;***p=0.001,out?owvsin?ow白血球数(×103/m?)012345678Columnin?owColumnout?ow(A)Columnin?owColumnout?ow(B)陽性細胞数CD62L?uorescenceintensityCD62L?uorescenceintensity陽性細胞数総白血球*好中球**リンパ球モノサイト***図5治療前後の白血球の性状(文献5より改変)眼発作回数7.24±1.49年(n=14,p=0.0275)3.13±0.3年(n=7,p=0.829)11.4±1.97年(n=7,p=0.0054)PrePostPrePostPrePost全体罹病期間<5年012345罹病期間≧5年平均罹病期間図4罹病期間別の眼発作回数の推移(文献5より改変)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006????(35)に対して最適な治療プロトコールを作成することだと考えている.現プロトコールは潰瘍性大腸炎でなされたプロトコールをそのまま使用しており,決してBeh?et病にそのまま当てはまるものではない.くり返しであるがBeh?et病患者はいつも眼の状態が悪いわけではなく,緩解と増悪をくり返しつつ徐々に不可逆性の変化を眼にきたす.ゆえに眼発作予防・頻度減少が大切であり,その観点からも眼発作をある程度予測したうえで,予防的・集中的な治療が望ましい.今度何らかの方法(血液中の各種炎症マーカーなど)で病勢をモニターしつつ,増悪期に入りそうなときに治療を行うことが効果的と考えている.今後多症例での検討を積み重ねるうちに,患者ごとのオーダーメイド的な治療プロトコールができあがっていくと期待される.謝辞:本研究の遂行に当たり,以下の方々に深く感謝申し上げます.北明大洲,小竹聡,大野重昭(以上北海道大学眼科),稲葉頌一(神奈川県赤十字血液センター),宮本敏浩(九州大学病院輸血部),有山章子,松浦敏恵,中村隆彦,藤本武,肱岡邦明,石橋達朗(以上九州大学眼科),川野庸一(浜の町病院眼科),株式会社JIMRO.文献1)SakaneT,TakenoM,SuzukiNetal:Currentconcepts:Beh?et?sdisease.????????????341:1284-1291,19992)KashiwagiN,HirataI,KasukawaR:Aroleforgranulo-cyteandmonocyteapheresisinthetreatmentofrheuma-toidarthritis.?????????????????????2:134-141,19983)AllisoMC:Pathogenesisofin?ammatoryboweldisease.In?ammatoryBowelDisease.p15-22,Mosby,StLouis,19984)SonodaK-H,InabaS,AriyamaAetal:Therapeuticneu-trophilapheresisinpatientswithocularBeh?et?sdisease.???????????????123:267-269,20055)NambaK,SonodaK-H,KitameiHetal:Granulocytapher-esisinpatientswithrefractoryocularBeh?et?sdisease.????????????21:121-128,20066)下山孝,澤田康史,田中隆夫ほか:潰瘍性大腸炎の活動期における顆粒球除去療法─多施設共同無作為割付比較試験─.日本アフェレシス学会雑誌18:117-131,1999

生物学的製剤

2006年11月30日 木曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSI炎症性サイトカインと炎症性疾患近年のめざましい分子生物学的進歩によりRA,Crohn病,Beh?et病といった炎症性疾患において,TNF-a,インターロイキン(IL)-1,IL-6といった炎症性サイトカインが病態形成の中心的な役割を担っていることが解明されてきた.これらの疾患においては炎症性サイトカインが抗炎症性サイトカインを凌駕しバランスが炎症性サイトカインに過度に偏った状態にあるといえる(図1).生物学的製剤として抗サイトカイン抗体が用いられたのはRAがはじめである.RAの病態は,T細胞を中心とした自己免疫反応が関節滑膜に生じ,滑膜細胞や浸潤はじめに近年,関節リウマチ(RA)やCrohn病の治療として新たに生物学的治療が登場し,切り札的存在となってきている.その代表的なものが抗腫瘍壊死因子(TNF)-a抗体(表1)であるが,現在日本で製品として使用できるものはインフリキシマブとエタネルセプトである.そのうち,インフリキシマブがこれまで約8年の治験を経て,ようやく後眼部への炎症発作をくり返すBeh?et病への適応拡大まで後一歩というところまできている.これはBeh?et病患者への大きな福音となるに違いない.また,現在多くの生物学的製剤が開発中であり,それらのうちぶどう膜炎治療への応用が期待される薬剤について述べる.(25)????*KenichiNamba&ShigeakiOhno:北海道大学大学院医学研究科眼科学分野〔別刷請求先〕南場研一:〒060-8638札幌市北区北15条西7丁目北海道大学大学院医学研究科眼科学分野特集●非感染性ぶどう膜炎治療の最先端あたらしい眼科23(11):1409~1414,2006生物学的製剤???????????????南場研一*大野重昭*IL?1IL?6TNF?aIL?10IL?4TGF?b炎症性サイトカイン抗炎症性サイトカイン図1サイトカインのバランス炎症性疾患においては,炎症性サイトカインと抗炎症性サイトカインのバランスが崩れて,炎症性サイトカイン側へ傾いた状態にあるといえる.生物学的製剤の治療はこのバランスを是正することにある.表1抗TNF-a抗体製剤?インフリキシマブ(レミケード?)ヒト?マウスキメラ型抗体0,2,6週,以後8週ごとの点滴治療RA,Crohn病に適用Beh?et病,乾癬,潰瘍性大腸炎,ASに対して治験中?エタネルセプト(エンブレル?)ヒトTNF可溶性レセプター週2回の皮下注射(自己注射可)RAに適用?アダリムマブ(ヒューミラ?)ヒト型抗体RA,乾癬,AS,潰瘍性大腸炎,Crohn病,JIAに対して治験中RA:関節リウマチ,AS:強直性脊椎炎,JIA:若年性突発性関節炎,TNF:抗腫瘍壊死因子.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006してきたマクロファージ,リンパ球から炎症性サイトカインが過剰産生され,関節を主座とした全身の炎症が生じると考えられている.これまでのRAの治療は,1.非ステロイド系抗炎症薬,2.メトトレキサート,3.低容量ステロイド薬であったが,1993年のFeldmannらにより報告された抗TNF-aキメラ抗体による治療成績は驚くべき有効性を示していた1).それまでにもTNF-a,IL-1,IL-6といった炎症性サイトカインがRAの病態形成に関与していることは示されてきたが,サイトカインの生物活性の多重性,ネットワークの存在より,たった1つのサイトカインの制御が治療に結びつくことに対して嫌疑的な意見が多かった(筆者もそうであった).しかしながら実際には抗TNF-a抗体による治療は高い有効性を示し,後述のごとく他のサイトカインに対する治療薬が次々と開発されるに至っている.Beh?et病においても,Beh?et病患者では末?血中TNF-a値が他のぶどう膜炎と比較して有意に高いこと,単球のTNF-a産生能の亢進が示されてきた2).一方,ヒトぶどう膜炎の動物モデルであるマウス,ラットでの実験的自己免疫性ぶどう膜網膜炎(EAU)においてもTNF-aがぶどう膜炎の発症に関与していることが示され,抗TNF-a抗体あるいはTNF可溶性レセプターの投与によりEAUが抑制された3,4).このような事実より抗TNF-a抗体治療がBeh?et病をはじめとするぶどう膜炎に対して有効であることが期待される.IIこれまでのBeh?et病の治療これまでBeh?et病の眼炎症発作予防の治療としては,第一選択薬としてコルヒチンの全身投与が行われ,コルヒチンでの発作抑制効果が不十分である場合にはシクロスポリン内服が選択されてきた.シクロスポリンが登場した当時,シクロスポリンに対する期待は大変大きかった.しかし,残念ながら発作抑制が得られる症例は約半数であること,腎障害,中枢神経症状出現などの副作用のために使用を中止せざるをえない症例も多いことから,満足のいく治療方法とはいえないのが現状である.したがって現在でも失明に至るBeh?et病患者は多く存在し,新たな治療方法の模索が続いている.IIIぶどう膜炎を有するBeh?et病患者に対する抗TNF-a抗体治療現在ぶどう膜炎を有するBeh?et病患者に対するインフリキシマブの治験が進行中である(図2).その結果の一部を示す.まず,1999年6月より2001年5月まで全国5施設にて行われた前期第Ⅱ相臨床試験についてである5,6).対象は18歳以上65歳未満の網膜ぶどう膜炎を有するBeh?et病患者のうちシクロスポリン治療の効果不十分,あるいは副作用により投与が不可能となった症例で,治験登録前の遡及期間(14週)と観察期間(14週以内)にそれぞれ1回以上,かつ両期間中に3回以上の眼炎症発作を生じた例である.登録順に1回当たり5mg/kgもしくは10mg/kgの2用量を割り付け,0週,2週,6週,10週の4回点滴静注を行った.実際に投与を受けた症例は5mg/kg投与群7例,10mg/kg投与群6例であった.5mg/kg投与群では7例中5例において,10mg/kg投与群では6例中5例において眼炎症発作がみられなくなった.また,平均発作回(26)評価期間14週026100261422303846(週)インフリキシマブ遡及・観察期間前期臨床試験評価期間(有効性54週,安全性62週)観察期間長期臨床試験図2網膜ぶどう膜炎を有するBeh?et病におけるインフリキシマブ投与臨床試験既存治療抵抗性の網膜ぶどう膜炎を有するBeh?et病におけるインフリキシマブ投与試験のスケジュールを示す.先に前期臨床試験として0,2,6,10週のインフリキシマブ投与を行い投与開始から14週の有効性・安全性の評価を行い,後に約1年間の長期臨床試験として0週,2週,6週,さらに8週おきに46週まで投与を行い投与開始から54週の有効性,62週の安全性を評価した.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006????数を投与前14週の遡及・観察期間と投与後14週の評価期間において比較してみると,5mg/kg投与群では投与前に平均3.5±1.1回であった発作回数が投与後平均1.0±2.2回へと有意に減少し,10mg/kg投与群においても同様,投与前平均3.8±1.7回が投与後0.2±0.4回へと有意に減少していた(図3).有害事象として1例に粟粒結核,結核性髄膜炎がみられ,さらに,薬剤に対する中和抗体が1例において検出された.その他下痢,感冒様症状,嘔気,血圧変動などがみられた.つぎに,先に行われた13名の臨床試験参加者のうち1年間の長期投与試験を行えた症例について述べる.対象は,18歳以上65歳未満の網膜ぶどう膜炎を有するBeh?et病患者で先の臨床試験においてインフリキシマブ治療を予定通り行い治療後26週の評価を得ることができ,眼炎症発作減少の有効性がみられた症例である.先に行った投与量と同じ1回当たり5mg/kgもしくは10mg/kgを,0週,2週,6週,さらに8週おきに46週まで投与を行い投与開始から54週を評価期間として効果を判定した.投与を受けた症例は5mg/kg投与群4例,10mg/kg投与群4例であった.長期試験に参加できた全症例は,先の臨床試験においてインフリキシマブ投与中に眼炎症発作は完全にみられなかったが,長期試験開始までのインフリキシマブ投与中止中はシクロスポリン投与を再開しても全症例において眼炎症発作が再発しており,改めてインフリキシマブ治療の効果が再認識された.平均発作回数を投与前54週に換算した観察期間と投与後54週の評価期間において比較してみると,5mg/kg投与群では投与前に平均10.1±3.0回であった発作回数が投与後平均0.5±0.6回へと有意に減少し,10mg/kg投与群においても同様,投与前平均15.1±5.7回が投与後1.7±1.7回へと有意に減少していた(図4).また,治療開始から62週を安全性評価期間として有害事象の調査を行ったが,結核を含めた感染症など重篤な有害事象はみられず,みられたものは注射反応として一時的にみられる頭痛,血圧変動などであった.以上,既存治療に抵抗性の網膜ぶどう膜炎を有するBeh?et病に対する抗TNF-a抗体インフリキシマブの治験成績を示したが,従来のコルヒチン,シクロスポリンの治療効果と比較すると驚異的ともいえる非常に高い眼炎症発作抑制効果を示している.RAにおいて切り札的な治療と位置づけられてきている治療であるが,(27)図4長期(1年間)インフリキシマブ投与臨床試験先に行われたインフリキシマブ投与試験に参加したBeh?et病患者の一部に1年間のインフリキシマブ投与試験を行った.先の試験においてインフリキシマブ投与中に眼炎症発作の抑制が得られていた患者でもインフリキシマブ投与中止時の観察期間には再び眼炎症発作がみられるようになっていた.インフリキシマブ投与再開後は5mg/kg投与群,10mg/kg投与群いずれにおいても眼炎症発作が有意に減少した.0510152025:5mg/kg群:10mg/kg群治療前(観察期間)治療後(評価期間)眼炎症発作回数/54週0246p=0.031p=0.031:5mg/kg群:10mg/kg群治療前(遡及・観察期間)治療後(評価期間)眼炎症発作回数/14週図3インフリキシマブ投与前期臨床試験コルヒチンやシクロスポリンなどの既存治療にて眼炎症発作が抑制されないBeh?et病患者にインフリキシマブ治療を行った.インフリキシマブの5mg/kg投与群,10mg/kg投与群いずれにおいても有意な眼炎症発作抑制効果がみられた.———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006Beh?et病においても同様に眼炎症発作抑制の切り札となることを期待したい.しかしながら,インフリキシマブの治療においていくつかの問題点があることも事実である(表2).TNF-aは炎症の起点となると同時に感染防御に重要なサイトカインである.そのTNF-aの働きを遮断する治療であるために副作用として最も懸念されるのは感染症である.特に結核の発症のリスクが高いといわれており,実際,この治験中にも1例の結核感染症がみられた.抗TNF-a抗体治療中に発症する結核は潜在的に存在していた結核の再活性化によるものと考えられている.投与前の胸部X線写真・CT(コンピュータ断層撮影)など結核感染スクリーニング検査および内科医の診察が必須であり,リスクのある患者では抗結核薬(イソニアジド)の予防投与も必要である.最近ではこの抗結核薬の予防投与により治療中の結核の発現がほとんど生じなくなったとの報告もある.また,反復投与中にアナフィラキシー症状(血管浮腫,チアノーゼ,呼吸困難,気管支痙攣,血圧上昇/低下など)を呈することがあり,毎回投与中および投与後は十分な観察が必要である.さらに,インフリキシマブにはマウス由来の蛋白構造が含まれるため,反復投与によりインフレキシマブに対する中和抗体が誘導されることがあり,その場合薬剤効果が減弱されてしまう.以上のように,インフリキシマブはいくつかの問題点があるものの非常に大きな効果が期待される治療である.Beh?et病の治療において革新的な治療になるに違いない.IV今後ぶどう膜炎治療へ期待される生物学的製剤インフリキシマブの高い有効性に基づき,つぎつぎと他の製剤が開発,発売されている(表1,3).1.エタネルセプト(エンブレル?)インフリキシマブと同じくTNF-aをターゲットとした生物学的製剤であるが,こちらはヒトTNF可溶性レセプターである.点滴静注による投与ではなく,週に2回皮下注射を行う.インスリンのように自己注射も行え(28)表3他の生物学的製剤製剤標的分子一般名商品名有効性が報告されている疾患IL-1レセプター拮抗薬IL-1アナキンラキネレットRA(治験中)ヒト化抗IL-6レセプター抗体IL-6トシリズマブアクテムラCastleman病(保険適用)RA,若年性突発性関節炎(治験中)CTLA4IgCD80/CD86:CD28アバタセプトオレンシアRA(治験中)抗CD20キメラ抗体CD20リトキシマブリツキサンB細胞性リンパ腫(保険適用)RA(米国にて治験中)SLE(報告のみ)ヒト化抗VEGF抗体VEGFベバシズマブアバスチン結腸・直腸癌(治験中)加齢黄斑変性症(報告のみ)増殖糖尿病網膜症(報告のみ)新生血管緑内障(報告のみ)PEG化抗VEGFアプタマーVEGFペガプタニブマキュジェン加齢黄斑変性症(治験中)増殖糖尿病網膜症(報告のみ)抗VEGFFab抗体VEGFラニビズマブルセンティス加齢黄斑変性症(治験中)IL:インターロイキン,CTLA4Ig:細胞障害性Tリンパ球関連抗原4免疫グロブリン融合蛋白,VEGF;血管内皮細胞増殖因子,PEG:ポリエチレングリコール,RA:関節リウマチ,SLE:全身性エリテマトーデス.表2インフリキシマブの問題点?感染症(特に結核)?アナフィラキシー?薬剤に対する中和抗体———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006????るがややむずかしい.日本国内では現在RAにのみ保険適用されている.ぶどう膜炎に対してもインフリキシマブと同等の効果が期待される.2.アダリムマブ(ヒューミラ?)インフリキシマブと同様抗TNF-a抗体であるがマウスとのキメラ抗体ではなく,完全ヒト型抗体であるという点で優れている.このため,中和抗体の出現が少なく反復使用により効果が減弱することも少ないと考えられる.現在米国でRAに対する使用が承認されており,日本でもRAに対する治験が進行中である.小児ぶどう膜炎に対する有効性の報告もある.3.アナキンラ(キネレット?)ヒトIL-1レセプター拮抗薬で,米国にてRAに対する臨床試験で有効性が示され,RAに対して使用が認可されている.日本ではRAに対する治験が行われている.炎症性サイトカインの一つであるIL-1を阻害する薬剤であるので,ぶどう膜炎に対しても有効性が期待できる.4.トシリズマブ(アクテムラ?)ヒト化抗IL-6レセプター抗体で,大阪大学と中外製薬との共同開発により日本で製品化された.腫脹したリンパ節から多量のIL-6が産生される疾患であるキャッスルマン(Castleman)病に対して2005年に保険適用.現在RAおよび若年性突発性関節炎に対して治験を行っている.炎症性サイトカインの一つであるIL-6を阻害する薬剤であるので,ぶどう膜炎に対しても有効であることが期待される.5.アバタセプト(オレンシア?)T細胞の活性化には抗原提示細胞からの抗原提示に加えて抗原提示細胞上のCD80/CD86分子からT細胞上のCD28分子への補助刺激が必要である.アバタセプトはCD28よりも強力な結合力をもつ細胞障害性Tリンパ球関連抗原4(CTLA4)分子を可溶化したCTLA4免疫グロブリン融合蛋白であり,投与により補助刺激を阻害しT細胞活性化を抑制する.米国,カナダにおいて2006年2月よりRAに対して使用が承認され,日本でもRAに対して治験が行われている.T細胞の活性化を抑制する薬理効果が期待できることからぶどう膜炎にも有効であることが期待される.6.リツキシマブ(リツキサン?)抗CD20キメラ抗体.現在CD20陽性B細胞非ホジキンリンパ腫に対して保険適用.現在RAに対する治験が行われている.また,全身性エリテマトーデス(SLE)に対して有効性を示す報告がある.この治療はB細胞系の免疫反応を介した疾患に有効であり,ぶどう膜炎への応用はむずかしいかもしれない.7.ベバシズマブ(アバスチン?)ヒト化抗血管内皮細胞増殖因子(VEGF)抗体で,血管新生に重要な役割を果たしているVEGFを中和するものである.米国ではすでに結腸・直腸癌に対しての使用に承認されているが,日本でも同疾患に対して治験を行っている.最近,加齢黄斑変性症,増殖糖尿病網膜症,血管新生緑内障に対するベバシズマブの硝子体内投与により高い有効性が得られることが相ついで報告されている.新生血管を伴うぶどう膜炎に対して有効である可能性がある.8.ペガプタニブ(マキュジェン?):ポリエチレングリコール(PEG)化抗VEGFアプタマーベバシズマブと同様VEGFをターゲットにしているが,PEG化により消失までの時間延長を図っており,硝子体内投与において有効性が高い.米国ではすでに加齢黄斑変性症に対して使用の認可を受けており,日本においても治験が進行中である.新生血管を伴うぶどう膜炎に対して有効である可能性がある.9.ラニビズマブ(ルセンティス?):ヒト化抗VEGF抗体のFabフラグメント抗体のFabフラグメントを遺伝子組み換え合成したもの.全長ヒト化抗体と同等の効果を有しながら低分子蛋白であるため,網膜への浸透性が高いと考えられる.ペガプタニブと同様に硝子体内へ投与することにより加(29)———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006齢黄斑変性症に対して有効であり,日本でも治験が行われている.新生血管を伴うぶどう膜炎に対して有効である可能性がある.以上,代表的なものを列挙したが,この他にも多く薬剤が開発中であり,さらに,今年のノーベル医学生理学賞の受賞テーマであるRNA干渉を使った治療も検討されている.それらのなかからどれだけのものが生き残り,患者へ使用できるようになるか定かではない.いずれにしてもこれら生物学的製剤が今後のぶどう膜炎を含む炎症性眼疾患の治療において大きな役割を果たすようになるのは間違いがない.文献1)ElliottMJ,MainiRN,FeldmannMetal:Randomiseddouble-blindcomparisonofchimericmonoclonalantibodytotumournecrosisfactoralpha(cA2)versusplaceboin(30)rheumatoidarthritis.??????344:1105-1110,19942)中村聡,杉田美由紀,田中俊一ほか:ベーチェット病患者における末?血単核球のinvitrotumornecrosisfactor-alpha産生能.日眼会誌96:1282-1285,19923)SartaniG,SilverPB,RizzoLVetal:Anti-tumornecrosisfactoralphatherapysuppressestheinductionofexperi-mentalautoimmuneuveoretinitisinmicebyinhibitingantigenpriming.?????????????????????????37:2211-2218,19964)RobertsonM,LiversidgeJ,ForresterJVetal:Neutraliz-ingtumornecrosisfactor-alphaactivitysuppressesactiva-tionofin?ltratingmacrophagesinexperimentalautoim-muneuveoretinitis.?????????????????????????44:3034-3041,20035)OhnoS,NakamuraS,HoriSetal:E?cacy,safety,andpharmacokineticsofmultipleadministrationofin?iximabinBeh?et?sdiseasewithrefractoryuveoretinitis.????????????31:1362-1368,20046)中村聡,堀貞夫,島川眞知子ほか:ベーチェット病患者を対象とした抗TNFa抗体の前期第II相臨床試験成績.臨眼59:1685-1689,2005

免疫抑制薬

2006年11月30日 木曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS投与がしにくいBeh?et病やステロイド薬の投与が基本となる遷延型原田病,または重症の急性前部ぶどう膜炎や中間部ぶどう膜炎においても,免疫抑制薬が第一選択となることはまずない.免疫抑制薬の適応は,Beh?et病の治療でコルヒチン無効例か,遷延型原田病でステロイドの反応性が悪く,投与してもすぐ再発してしまう場合に限られる.これは,免疫抑制薬の効果もさることながら,第一選択薬とするには副作用が強いことが原因の一端である(これについては後ほど述べる).免疫抑制薬を第二選択薬として使用したが,あまり効果があがらなかった場合,ステロイド薬やコルヒチンと併用して免疫抑制薬が使われることになる.1.シクロスポリンa.わが国におけるシクロスポリンの使用状況わが国において,免疫抑制薬はシクロスポリンを中心に使用されている.他にアザチオプリン(イムラン?,アザニン?),シクロフォスファミド(エンドキサン?)も用いられることがあるが,その使用頻度は保険の適用となるシクロスポリンに比べたらわずかである.1987年から用いられてきたシクロスポリン(サンディミュン?)は,最近マイクロエマルジョン製剤(ネオーラル?)への切り替えが進んできている.その理由として,ネオーラル?のほうがサンディミュン?に比べて血液中の薬物動態パラメータのばらつきが少なく,実際,食事や胆汁分泌に影響されにくく安定した吸収ができる2~4).またはじめに眼科領域,特にぶどう膜炎で免疫抑制薬をよく使用するようになったのは,シクロスポリンからである.活動性の眼病変のあるBeh?et病に対して,1987年に厚生省の認可を得て以来,諸外国で用いられた種々の免疫抑制薬はあまり使用されることはなく,シクロスポリン(サンディミュン?)が投与されてきた.また,2000年にはより効果的と考えられているシクロスポリンのマイクロエマルジョン製剤であるネオーラル?が認可された.わが国のぶどう膜疾患で免疫抑制薬を用いざるをえなくなるのは,Beh?et病と頻度は少ないが遷延型原田病の難治例に対してである.これらの疾患に対してシクロスポリンがどのように用いられているかを中心に述べていきたいと思う.ぶどう膜炎の薬物療法における免疫抑制薬の位置づけぶどう膜炎(内眼炎)は,免疫応答の亢進によってひき起こされる疾患であり,比較的軽症な虹彩毛様体炎から重症な汎ぶどう膜炎に至るまでいろいろなパターンがあり,それぞれの治療選択肢を考えなければならない1).基本的にはステロイド薬の点眼療法から始め,ステロイド局所投与,全身投与を行うことが多い.Beh?et病に限っては,長期間にわたるステロイド薬の全身投与を行うと,ステロイド減量中に大きな眼炎症発作を起こしやすくなるため,禁忌とされている.ステロイド薬の全身(19)????*TakeshiKezuka:東京医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕毛塚剛司:〒160-0023東京都新宿区西新宿6-7-1東京医科大学眼科学教室特集●非感染性ぶどう膜炎治療の最先端あたらしい眼科23(11):1403~1408,2006免疫抑制薬????????????????????????毛塚剛司*———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.11,200610mg,25mg,50mgと細かな用量調節ができるというメリットもある.シクロスポリン治療は,副作用の観点から,5mg/kg/dayから開始することになっている.これを1日2回に分けて食前または食後に服用し,しばらくの間継続することになる.ついで,次回投与直前のシクロスポリン血液濃度(トラフレベル)を月1回程度調べることで薬効と副作用に対する安全性を確認することができる5).通常全血中濃度が50~200ng/m?になるようにシクロスポリン量を調整する.このとき,グレープフルーツジュースによりシクロスポリン血中濃度が上昇することや,ステロイド薬との併用により血中濃度が高く維持されることを注意すべきである.気候が安定した時期なら,経過をみながら0.5mg/kg/dayを1~2カ月かけて減量するようにし,最終的に2.5~3.0mg/kg/day程度になるようにする.この過程において,トラフレベルが50ng/m?をきることもあるが,眼症状が安定していれば差し支えないと思われる.シクロスポリンの血中濃度と薬効は,個々の症例で異なり少量でも非常に効果的な場合や,逆に相当濃度をあげても効果が薄い症例もある.このときは臨床効果をみながら徐々に増減し副作用の発現をできるかぎり抑えていかなければならない.減量のタイミングとしては季節の変わり目や冬場は,眼発作が起こりやすいので,性急な減量は控えるべきである3).シクロスポリン内服の中止の目安として,中川らは6カ月間まったく眼炎症発作がないか,3カ月間にわたりまったく眼炎症発作がなく,かつその前の6カ月間に軽度の眼発作が1~2回程度でおさまった場合を最低基準にするよう提唱している2).中止の時期が近くなると,低容量のシクロスポリン投与でトラフレベルが基準値より低くなるため,いきなり中止したりせずにゆっくりと中止したほうがよいと思われる.表1にシクロスポリンの用法と用量をまとめる.b.シクロスポリンの副作用コルヒチンに比べ,シクロスポリンは副作用が強く初回投与前および投与中に種々の全身検査が必要となる.トラフレベルが高いと副作用は起きやすくなる.以下に症状をあげる.1)中枢神経症状シクロスポリンの副作用として,最も問題となる.多くは頭痛が初発症状となり,手足のしびれ,振戦のこともある.疑わしい症例では神経内科医と連携をとり,緊急で頭部MRI(磁気共鳴画像),髄液検査を行いシクロスポリンは中止とする.Kotakeらは,Beh?et病における中枢神経症状の発現頻度を調査し,シクロスポリン投与症例で47例中12例に発現し,非投与症例では270例中9例にとどまったことから,シクロスポリンでは中枢神経症状が高頻度で起こることを示した6).また,シクロスポリンは,コルヒチン内服時にミオパチーが出現しやすいが,シクロスポリン単独でも出現することがある.このため,定期的に血清CPK(creatinephosphoki-nase)値を測定する必要がある.2)腎機能障害腎障害は,トラフレベルにかかわらず出現する可能性がある.血清クレアチニン値とb2?マイクログロブリンを測定し,異常値となれば30~50%減量するのが望ましい7).3)高血圧血圧は,収縮期165mmHg以上,拡張期95mmHg以上になるようなら減量を考える7).以上の副作用の発現をより早く知るために,初期には1カ月に1回,その後は1~2カ月に1回の割合で採血を行い末?血,生化学検査を行い,同時に血圧検査を施行するべきである.表2にシクロスポリン投与時の(20)表1Beh?et病におけるシクロスポリン(ネオーラル?)の用法と用量5)投与量および用法初期には5mg/kg/dayの投与を2回/dayで行う.継続期において,増量:初期投与量でも臨床効果が十分に得られず,またシクロスポリンのトラフレベルが基準値(150ng/m?以内)より低い場合に,1~2mg/kg/dayを1~2カ月ごとに施行.減量:以下のいずれかを満たす場合1)臨床効果が十分に得られた場合2)シクロスポリンのトラフレベルが高い場合3)副作用が出現した場合4)副作用の出現の恐れがある場合急激な減量は,重篤な眼炎症発作の再発をきたすことがある.再発した場合は,ステロイド薬の局所療法による対症療法を行う.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006????チェック項目を示す.c.シクロスポリンと他剤の併用シクロスポリンが,ぶどう膜炎の眼炎症発作を抑制する薬剤として登場する以前は,Beh?et病の眼発作に対する内服治療薬としてコルヒチンのみが用いられていた.このため,わが国においてぶどう膜炎(Beh?et病)のシクロスポリン導入に際してシクロスポリンとコルヒチンの二重盲検試験が行われた8,9).その結果,シクロスポリンはコルヒチンに比べ,有意に眼炎症発作が抑制できることが判明した8,9).Beh?et病の眼炎症頻度を下げるにはコルヒチンの内服加療が重要であるが,コルヒチンで眼炎症発作の頻度を押さえ込めないならシクロスポリン(ネオーラル?)への切り替えが必要となる8).導入量は5mg/kg/dayであるが,前述したように維持量として2.5~3mg/kg/dayまで徐々に減量していく.それでも眼発作が続くようなら,シクロスポリンとコルヒチンの併用療法を行う4)(表3).d.Vogt-小柳-原田病に対するシクロスポリン療法Vogt-小柳-原田病の治療には,基本的にステロイド大量療法を行うが,ステロイドで炎症を抑制できない場合,免疫抑制薬を用いることがある.導入量は5mg/kg/dayであるが,併用しているステロイドを徐々に減量していき,ステロイド薬を完全に中止してからシクロスポリンを減量していく10,11).当教室の経験では,シクロスポリンを5mg/kg/dayから用いてもBeh?et病に比べて副作用が出にくい傾向があった.その一方,Vogt-小柳-原田病では,最初に高用量のステロイド薬をシクロスポリンと併用したとき,ステロイド薬にシクロスポリンの血中濃度が高く維持する働きがあるため,思わぬほどにトラフレベルが上昇することがある12).このようなときはまずステロイド薬の減量を行い,2週間ほどみてからまたトラフレベルが高いようならシクロスポリン濃度を下げるというように,交互に減量を行うことが望ましい.2.タクロリムスタクロリムス(プログラフ?)は,日本で初めに発見された?????????????????????????から分離された物質であり,以前FK506とよばれていた.現在ではおもに臓器移植に用いられており,プロトピック軟膏?としてアトピー皮膚炎にも使われている.作用としてはシクロスポリンと似通っており,T細胞の活性を弱めサイトカインの産生を抑制する1).以前に多施設共同臨床試験を非感染性ぶどう膜炎53例(80%がBeh?et病)に対して行ったところ,0.05~0.2mg/kg/dayでの調査では最も高い濃度で効果がみられた13~15).しかし,腎機能障害が28%に,神経障害が21%に,胃腸障害が19%に,高血糖が13%に各々みられた14).その後,イギリスなどでシクロスポリン無効例のぶどう膜炎に対してタクロリムスが使用され,一定の効果をみた16,17).しかし,現在のところぶどう膜炎に対して保険適用はなく,使用できない状況にある.(21)表2シクロスポリン(ネオーラル?)投与時のチェック項目5)眼科的一般検査:視力,眼圧,眼底検査?このとき,眼病変の臨床経過を追うことが望ましい.?眼炎症の有無など.全身検査項目:?血圧:165/95mmHg以上が続くなら,シクロスポリンの30~50%減量もしくは中止を検討し,対症療法を開始する.?血中シクロスポリン濃度(トラフレベル):50~200ng/m?を超えないようにする.開始初期は200ng/m?を超えないようにするが,投与期間が長くなる場合100ng/m?を超えないように調整する.測定は,投与開始はじめは2週間ごと,投与後1カ月以降は1カ月ごとに行う.投薬を増減した場合,その直後に測定する.?腎機能検査(血中クレアチニン,BUN,血中b2-マクログロブリン):トラフレベルが150ng/m?を超えると腎機能障害が起きやすくなるので,より期間を短くして測定する.可能なら副作用の発現も考え,この値以下のトラフレベルが望ましい.?肝機能検査(GOT,GPT,g-GTP)GOT:グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ,GPT:グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ,g-GTP:g-グルタミルトランスペプチダーゼ.表3Beh?et病眼炎症発作予防のためのシクロスポリン治療の選択4)第一選択:コルヒチン処方:コルヒチン?(0.5mg)2T/day分2(朝・夕食後)第二選択:シクロスポリン(ネオーラル?)処方:ネオーラル?(50mg)5T/day分2(朝・夕食後)第三選択:コルヒチンとシクロスポリン(ネオーラル?)の併用処方:コルヒチン?(0.5mg)1T/day分1(朝食後)ネオーラル?(50mg)4T/day分2(朝・夕食後)———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.11,20063.メソトレキセート最初は抗癌剤として使用されたメソトレキセートは,リウマチ性関節炎や他のリウマチ疾患にも用いられた.メソトレキセートは,その作用として葉酸代謝拮抗薬として働くが,少量用いることでサイトカイン産生抑制,細胞増殖抑制といった免疫抑制効果を生む1).難治性ぶどう膜炎に対して,欧米ではステロイド薬の全身投与の無効例に投与することがあるが,わが国ではシクロスポリンに比べてあまり使用されていない.Samsonらは,若年性関節リウマチ,HLA-B27関連ぶどう膜炎,サルコイドーシス,Beh?et病やVogt-小柳-原田病などによる多数のぶどう膜炎の症例で,ステロイド薬の全身投与無効もしくはステロイド薬の副作用をきたしたものに限り,メソトレキセート治療を行い検討した18).結果は,メソトレキセート治療(12.3mg/week)で76%が炎症を抑制できたが,7%において副作用のために中止せざるをえなかった18).副作用で最も一般的なのが嘔吐,下痢などの消化器症状であるが,肝機能障害,造血器障害,中枢神経障害,呼吸器障害も起きることがあり注意が必要である.また,他の報告では,若年性関節リウマチ患者に低濃度のメソトレキセートを投与したところ,7例中6例においてぶどう膜炎が軽快した19).さらなる報告では,ステロイド薬が無効なサルコイドーシス患者に低濃度のメソトレキセートを投与したところ,11例で炎症が抑制され,視力が改善した20).4.アザチオプリンアザチオプリン(イムラン?,アザニン?)は,プリン合成を阻害しDNA合成やRNA合成ができず,生体内ではリンパ球減少やリンパ球増殖抑制,抗体産生抑制などの免疫担当細胞障害を起こす1).このため,臓器移植に対する免疫抑制薬としてよく用いられるが,わが国ではシクロスポリンに比べて,ぶどう膜炎に対してあまり用いられない.欧米での報告では,低濃度(1~3mg/kg/day)の経口投与を行うが,リンパ球減少と肝機能障害をきたすことがあるため,1カ月ごとのモニタリングが必要である1).Andraschらは,難治性の内因性ぶどう膜炎22例において,低濃度のアザチオプリン(2.0~2.5mg/kg/day)と低濃度のプレドニゾロン(10~15mg/kg/day)を併用した治療効果を検討した21).結果は12例で眼炎症が抑制されたが,10例で効果が認められなかったか,もしくは副作用のため中止せざるをえなかった21).当研究では,ステロイド薬の全身投与のみでは炎症が抑制できなかった症例に限っており,難治例が多かった可能性がある.Beh?et病に対してもトライアルはなされており,2.5mg/kg/dayのアザチオプリンでプラセボに比べ,有意に眼炎症発作の抑制効果が認められた22,23).また低濃度のステロイド薬とアザチオプリンを併用して用いた場合でも眼炎症発作の抑制に効果的である24).5.シクロフォスファミドシクロフォスファミド(エンドキサン?)は,ナイトロジェンマスタードのアナログで,正常細胞より細胞障害性細胞に効果的なアルキル化剤である.DNAとRNA機能抑制および合成障害をきたし,細胞周期にも影響しアポトーシスを誘導する1).実際リンパ球増殖抑制および抗体産生の抑制,遅延型過敏反応の抑制が起きる1).副作用も多く,リンパ球減少や好中球減少に代表される骨髄抑制が最も多くみられる1).このため日和見感染も多々みられ,投与中は他の免疫抑制薬と比べてきめ細かなモニタリングが必要である.Beh?et病の治療では,シクロフォスファミドと低濃度のステロイド薬との組み合わせで一定の効果がある25).一方,Beh?et病患者に対して,シクロフォスファミドとコルヒチンを組み合わせた治療とシクロスポリン投与とを比較したが,シクロスポリンのほうが有効であったという報告もある26).これらから考慮してもシクロフォスファミドは他の免疫抑制薬と比較して第一選択とはならないと思われる.6.ミコフェノール酸モフェチルミコフェノール酸モフェチル(mycophenolatemofetil,セルセプト?)は,プリンの???????合成に働きかけ,免疫抑制に働く.このため,欧米ではおもに臓器移植の拒絶抑制に用いられている1).筆者らが以前行ったラットぶどう膜炎におけるミコフェノール酸モフェチルの抑制効果は絶大で,ほぼ完全にぶどう膜炎の眼炎症を抑制(22)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006????した27).最も規模の大きいヒトぶどう膜炎治療の研究では,ステロイド薬の全身投与,または他の免疫抑制薬の単独療法では寛解の得られなかった54症例を選び,ミコフェノール酸モフェチルの投与を行っている28).ミコフェノール酸モフェチルの単独投与で眼炎症が沈静化したのは65%にのぼり,11%でシクロスポリンを追加投与することにより炎症が抑制された.しかし44%において消化器症状などの副作用が出現した28).このように効果が期待されるミコフェノール酸モフェチルは,現在わが国ではぶどう膜炎での適応がなく,眼科領域では使えない状況にある.以上に述べたシクロスポリン以外の免疫抑制薬について表4にまとめる.おわりにこれまで難治性ぶどう膜炎に対する種々の免疫抑制薬を述べてきたが,わが国でぶどう膜炎が適応疾患として認められている免疫抑制薬は,シクロスポリンのみである.このため,現在のところシクロスポリンの使い方を習熟することがより良いぶどう膜炎治療につながることになる.しかし,ステロイド薬の全身投与やシクロスポリンの無効例も少なからず存在し,他の免疫抑制薬を使わざるをえないこともありうる.このようなとき,どのような免疫抑制薬があり,どのような用量で用い,副作用の発現のモニタリングはいかにして行うかを知っておくことは有益なことだと思われる.文献1)OkadaAA:Immunomodulatorytherapyforocularin?ammatorydisease:Abasicmanualandreviewoftheliterature.???????????????????13:335-351,20052)中川やよい,春日恭照,多田玲ほか:ベーチェット病に対するシクロスポリンの長期投与.眼紀39:1786-1790,19883)藤野雄次郎:Beh?et病眼症に対するシクロスポリン治療.医学のあゆみ215:95-98,20054)川島秀俊:Beh?et病の眼病変(病態・診断・治療).医学のあゆみ215:55-59,20055)大野重昭:ネオーラルによるベーチェット治療のガイドライン.厚生省厚生科学研究.ベーチェット病に関する調査研究班.20006)KotakeS,HigashiK,YoshikawaKetal:CentralnervoussystemsymptomsinpatientswithBeh?etdiseasereceiv-ingcyclosporinetherapy.?????????????106:586-589,19997)中村聡,石原麻美:ぶどう膜炎免疫抑制薬治療のEBM.臨眼55(増刊号):164-171,20018)FujinoY,JokoS,MasudaKetal:Ciclosporinmicroemul-sionpreconcentratetreatmentofpatientswithBeh?et?sdisease.????????????????43:318-326,19999)MasudaK,NakajimaA,UrayamaAetal:Double-maskedtrialofcyclosporinversuscolchicineandlong-termopenstudyofcyclosporininBeh?et?sdisease.??????8647:1093-1096,198910)WakatsukiY,KogureM,TakahashiYetal:CombinationtherapywithcyclosporinAandsteroidinseverecaseofVogt-Koyanagi-Harada?sdisease.????????????????32:358-360,198811)岩永洋一,望月學:Vogt-小柳-原田病(症候群)の診断と治療3.Vogt-小柳-原田病の薬物療法.眼科47:943-948,200512)稲用和也,藤野雄次郎:ぶどう膜炎の治療原田病の治療.眼科43:1307-1317,200113)MochizukiM,IkedaE,ShiraoMetal:PreclinicalandclinicalstudyofFK506inuveitis.????????????11(Suppl):87-95,199214)MochizukiM,MasudaK,SakaneTetal:AclinicaltrialofFK506inrefractoryuveitis.???????????????115:(23)表4シクロスポリン以外のぶどう膜炎に対する免疫抑制薬以下にあげる免疫抑制薬は,わが国ではぶどう膜炎に対して適応とされておらず,難治性ぶどう膜炎といえども使いにくい状況にある.しかし,欧米では豊富な使用経験があり,報告もされている.?タクロリムス(プログラフ?)シクロスポリン療法に反応しない難治性ぶどう膜炎に対して炎症抑制ができるかもしれない.しかしわが国における臨床治験ではBeh?et病に対して有意な有効性は認められていない.?メソトレキセート(メソトレキセート?)ステロイド薬の全身療法で無効か,もしくは副作用で使用できない場合に眼炎症の抑制可能である.低濃度の全身ステロイド薬と合わせて使用する場合もある.?アザチオプリン(イムラン?,アザニン?)多くのぶどう膜炎で有効性を認められている.低濃度の全身ステロイド薬と合わせて使用するとより良いと思われる.?シクロフォスファミド(エンドキサン?)難治性ぶどう膜炎や強膜炎で有効性が確認されている.しかし強い細胞毒性(骨髄抑制)があるため,他の免疫抑制薬の無効例に限り使用されるべきである.?ミコフェノール酸モフェチル(セルセプト?)ステロイド薬の全身投与で効果がなかった症例もしくは他の免疫抑制薬を用いても眼炎症が抑制できない症例に用いる.———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006763-769,199315)IshiokaM,OhnoS,NakamuraSetal:FK506treatmentofnoninfectiousuveitis.???????????????118:723-729,199416)KilmartinDJ,ForresterJV,DickAD:Tacrolimus(FK506)infailedcyclosporineAtherapyinendogenousposterioruveitis.???????????????????6:101-109,199817)SloperCML,PowellRJ,DuaHS:Tacrolimus(FK506)inthetreatmentofposterioruveitisrefractorytocyclospo-rin.?????????????106:723-728,199918)SamsonCM,WaheedN,BaltatzisSetal:Methotrexatetherapyforchronicnoninfectiousuveitis:analysisofacaseseriesof160patients.?????????????108:1134-1139,200119)WeissAH,WallaceCA,SherryDD:Methotrexateforresistantchronicuveitisinchildrenwithjuvenilerheuma-toidarthritis.?????????133:266-268,199820)DivS,McCallumRM,Ja?eGJ:Methotrexatetreatmentforsarcoidosis-associatedpanuveitis.?????????????106:111-118,199921)AndraschRH,PirofskyB,BurnsRP:Immunosuppressivetherapyforseverechronicuveitis.???????????????96:247-251,197822)YaziciH,PazarliH,BarnesCGetal:AcontrolledtrialofazathioprineinBeh?et?ssyndrome.????????????322:281-285,199023)HamuryudanV,?zyazganY,HizliNatal:AzathioprineinBeh?et?ssyndrome.???????????????40:769-774,199724)K?tterI,D?rkH,SaalJetal:TherapyofBeh?et?sdis-ease.????????????????5:92-97,199625)?zyazganY,YurdakulS,YaziciHetal:Lowdosecyclo-sporinAversuspulsedcyclophosphamideinBeh?et?ssyn-drome:asinglemaskedtrial.???????????????76:241-243,199226)AndoK,FujinoY,HijikataKetal:Epidemiologicalfea-turesandvisualprognosisofBeh?et?sdisease.?????????????????43:312-317,199927)SakaiJ,KezukaT,YokoiHetal:Suppressivee?ectofanovelcompoundoninterphotoreceptorretinoid-bindingprotein-inducedexperimentalautoimmuneuveoretinitisinrats.?????????????????????????48:189-197,199928)BaltatzizS,TufailF,YuENetal:MycophenolateMofetilasanimmunomodulatoryagentinthetreatmentofchron-icocularin?ammatorydisease.?????????????110:1061-1065,2003(24)