———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS膜疾患に応用されるようになった1~4).しかし,TA硝子体内投与には,薬剤効果が短期間(数カ月まで)しか持続しないことと,薬剤濃度が一定に保てない(というより,濃度が今どのくらいであるのかわからない)という欠点がある.この欠点を補うものとしてフルオシノロンアセトニド硝子体内インプラント(以下,インプラント)が開発され,現在臨床試験が行われている.本稿では,この2つの硝子体内薬物治療について概説する.ITA硝子体内投与1.投与方法TAを直接硝子体内に投与する方法では,TA溶液に含まれるTA粒子安定剤に眼組織への毒性があるとさはじめに眼という臓器が約5m?という適度な大きさの球状閉鎖空間を形成しており,その空間を充?している硝子体が適度な粘度を有しているということが,他の臓器にない特殊なドラッグデリバリーシステム(drugdeliverysystem:DDS)を眼において可能にしているといえる.すなわち,硝子体内に薬物を投与すると,薬物は血流に乗って全身に拡散するのではなく,硝子体腔を形成している周囲組織(網膜,ぶどう膜,水晶体,前房)に徐々に浸透していくのである.その結果,全身の薬剤副作用をほとんど生じることなく,高い薬物濃度を眼組織において達成することが可能となるのである.つまり,副作用は最小限度で効果は最大限という理想的薬物治療が眼では可能となる.しかしながら,このDDSにも限界があり,病巣部位以外の眼組織に対する薬剤副作用を避けることは現在のところできないのである.感染性眼炎症疾患(細菌性眼内炎,真菌性眼内炎,サイトメガロウイルス網膜炎など)に対し抗微生物薬を硝子体内に直接投与することは1990年代以降積極的に行われるようになったが,非感染性眼炎症疾患に対し徐放性ステロイドであるトリアムシノロンアセトニド(tri-amcinoloneacetonide:TA)の硝子体内投与が広く行われるようになったのは2000年代になってからのことである.そして,非感染性眼炎症疾患のみならず,糖尿病黄斑症や加齢性黄斑症に対する効果がつぎつぎと発表されると,TA硝子体内投与は瞬く間にさまざまな網脈絡(13)????*NobuyukiOguro:大阪大学大学院医学系研究科感覚器外科学(眼科学)〔別刷請求先〕大黒伸行:〒565-0871吹田市山田丘2-2大阪大学大学院医学系研究科感覚器外科学(眼科学)特集●非感染性ぶどう膜炎治療の最先端あたらしい眼科23(11):1397~1402,2006ステロイド硝子体内投与???????????????????????????????????大黒伸行*図11回分ごとに分注したアンプル———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006れているため,この溶媒を除去しTA粒子を眼内灌流液などで再度懸濁させる必要がある.しかし,この方法は清潔操作が要求されるため外来の処置室で簡単にできるものではない.そこで筆者らは薬剤部と共同でTA粒子を低濃度ヒアルロン酸に溶解し,注射用バイアルに1回分ずつ小分けして滅菌する方法を開発した(濃度8mg/0.1m?:図1)5).そして使用する針を30ゲージの1/2インチのものを使用するようにした.これにより安全に硝子体内注射ができるようになった.具体的には,点眼麻酔ならびに1.25%ポビドンヨード点眼による結膜?内の消毒を行い(できれば眼瞼周囲をポビドンヨード原液で消毒しておく),1m?の注射シ(14)図2硝子体内投与手技A:1.25%ポビドンヨード点眼を3回行い,結膜?内を殺菌する.B:帽子・マスクを着用し,清潔手袋を装用する.以後は手術室同様の清潔操作を行う.C:手袋の入っていた袋を広げて,内側(こちら側は清潔)を上にし,そこに必要な器具(30ゲージ1/2インチ針2本,25ゲージ針1本,1m?注射器2本,開瞼器,有鉤鑷子,キャリパー)を載せる.D:ポビドンヨードで眼瞼周囲を十分に消毒する.E:清潔な穴あき覆布をかけ(これは必ずしも必要ではない),開瞼器を装着する.F:キャリパーで角膜輪部から4mmの部位にマークする.G:TA粒子を25ゲージ針で吸引する.H:30ゲージ1/2インチ針につけかえて,マーク部位より眼球に対し垂直に針を刺入する.I:患者に「真ん中が暗くないですか」と必ず問う(眼圧が上がりすぎと,網膜中心動脈閉塞症に似た状態になることがある).もし「はい」という返答が返ってくれば,用意したもう一つの30ゲージ1/2インチ針を用いて前房穿刺をしておいたほうがよい.GHIDEFABC———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006????リンジに作製したTA溶液を吸引して30ゲージ針を装着し,毛様体扁平部より50??注射するのである(図2).投与後,TA粒子により霧視を自覚することがあることは事前に説明しておく必要がある(図3).2.必要な‘ステロイドの量’は?ぶどう膜炎に対するステロイド全身治療で,最も投与量が多く,効果も高いのがパルス治療である.この場合,メチルプレドニゾロン1,000mgを静脈投与するのであるが,それで眼内濃度がどれくらいになるかというと,およそ0.6?g/m?になる(硝子体中濃度;対象疾患は黄斑上膜患者)6).硝子体の体積をおよそ5m?とすると,3.0?gのステロイドが硝子体内に存在することになる.この薬剤量計算には網脈絡膜濃度が含まれておらず,また,炎症があると血流が増加するとともに血液網膜柵も破綻するため薬剤移行もよくなるということも斟(15)図3TA硝子体内投与後1日目TA硝子体投与後はTAが視軸上に存在し,霧視を訴えることがある.図4経Tenon?下球後注射投与前(左)と投与後(右)TATenon?下注射でも消炎効果はあるが十分ではない.図5図4症例の反対眼左:硝子体投与前,右:硝子体投与1カ月後.TA硝子体内投与では十分な消炎が得られる.———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006酌しないといけないが,おおよその目安として10?g/日ほど眼局所に到達すれば,メチルプレドニゾロン1,000mg静脈投与と同程度の効果が期待できるという推論が成り立つ.3.長所は?本方法は眼内組織全体をターゲットにしているため,高度の汎ぶどう膜炎を伴った症例にきわめて有効である(図4,5).また,筆者らのデータでは,Beh?et病の炎症発作や原田病の再発を抑える効果も観察されており6),消炎効果のみならず炎症発作・再発を抑制する効果も期待できる方法である.しかし,TA硝子体内投与は本特集で河原先生がすでに記述されたTATenon?下注射に比較し,はるかに眼合併症をきたしやすい.TAの眼局所治療はもともとステロイド全身投与の副作用回避のために始めた治療である.それゆえ,局所治療といえども眼局所の副作用もできるだけ回避すべきであるのは当然である.後極部のみの炎症に対しTA硝子体内投与を行うのは,眼だけの炎症に対しステロイドを全身投与するのと同じことになりかねない.後極部のみの炎症に対しては,やはりTATenon?下注射を第一に考えるべきである.病巣のみを標的とし,副作用を最小限度にする方法というのを常に意識すべきと考える.4.短所は?手技上,眼内感染や眼内組織障害(網膜?離,硝子体出血,水晶体穿刺など)が合併症としてあるが,実際に問題なのは,ステロイドの眼合併症がでやすい点である.筆者らは,既存の方法では炎症をコントロールできなかった約60眼に本方法を施行しているが,そのうち8眼でトラベクロトミーを施行せざるをえない状況となった.これらの症例はいずれも慢性ぶどう膜炎で,ベタメタゾン1日6回点眼4週間持続にても眼圧上昇をきたさなかったが,TA硝子体内投与後6カ月くらい経過したころから眼圧上昇を突然生じ,薬物治療にまったく反応しなかった.また,白内障進行も多くの症例で認めている.現在筆者らはTA4mgを投与しているが,既述したように10?g/日で十分な効果が得られるはずであるから,今後投与量を減量していくことも考慮していく必要があるかもしれない.他の施設ではTA25mg投与している報告もある2,3)が,どのような根拠でこのような大量のTAを投与しているのか,理解に苦しむところである.ただ,誤解をおそれずに申し上げると,筆者らが対象としたような慢性かつ既存の薬物全身投与に反応しないような症例では,遅かれ早かれ,持続する炎症自体によって併発白内障や続発緑内障をきたす可能性が高いわけであるから,黄斑障害が高度になる前に本方法にて消炎することは治療戦略として間違っているとは思わない.もちろん,だからといって,副作用の少ない方法を模索していく必要があることは論を俟たないところではある.5.持続期間は?対象症例の多くが「内服ステロイドを減量していく過程で,ある濃度以下に減量すると再発する」という症例であったので,TA有効濃度が切れた時点でぶどう膜炎も再発するものと仮定できるのではと考えている.その観点で,筆者らの症例をみてみると,再発時期は注射後2~8カ月と症例によってバラバラであるという結果になっている.これは何を意味するのであろうか?一つには,最初の仮定が間違っていたということが考えられる.もう一つの可能性として,TAの硝子体中での徐放率は,硝子体の性状や炎症の程度など,個々の症例によって異なるのではないかということである.この点についてはさらに症例を増やして検討する必要があるが,硝子体内でのTAの有効期間には個体差が強いということは念頭においておいたほうがいいと思われる.IIインプラント本法の概略は,板状の基盤の端に円盤状の薬剤を接着させ,薬剤がないほうの板に開けてある孔に糸を通して強膜に縫合固定し,薬剤のあるほうを硝子体内に設置するというものである(図6).基本的には1990年代初頭より欧米において臨床応用されている製剤(サイトメガロウイルス網膜炎に対してガンアシクロビル製剤を硝子体に埋植するもの)を改良したもので,中に含まれてい(16)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006????る薬物をフルオシノロンアセトニドというステロイド薬にするとともに,製剤を小さくしたため切開幅が小さくてすむようになった.手術操作自体はそれほどむずかしいものではなく,単純硝子体切除術を習得した術者であれば問題ないと思われる.紙面の都合で詳細を記述できないので,具体的な手術手技は別報を参照願いたい7).埋植後,製剤は水晶体後面斜め下方に存在しており,製剤自体視野には入らないため,患者は特に自覚症状を訴えない(図7).その効果については,現在臨床治験中であり提示できないが,文献的に報告されているものを見るかぎり難治性ぶどう膜炎に対する効果はTA硝子体内投与と同等の効果が期待できそうである8).また,一度埋植すれば3年間炎症をコントロールすることが可能になるという点,および,硝子体中薬剤濃度を一定に保てる点においてTA硝子体内投与に優っているといえる.ただ,欠点は観血的方法であることと,TAの硝子体内注射同様,硝子体内にステロイド薬が放出されるため白内障や眼圧上昇をきたしやすいという点にある.本法は,難治性ぶどう膜炎や慢性ぶどう膜炎に対する新しい治療方法として大きな期待が寄せられており,長所,短所を踏まえて,今後の臨床治験の成績が待たれる.おわりに全身の副作用を避けながらも病巣への薬物効果が十分に発揮できる硝子体内薬物治療は,近い将来,眼科領域,特に後眼部疾患における薬物治療の中心になっていくことが予想される.今後は疾患ごとにどのような薬物(17)図6インプラント製剤(上)と埋植術後模式図図7埋植術後スリット所見(A)と眼底所見(B)製剤は眼内レンズ下後方に存在し,周辺部硝子体中にしっかりと固定されている.AB———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.23,No.11,2006を選択するかが問題となってくるわけで,そういう意味において,今まで以上に「分子レベルでの病態解析→標的分子解明」が重要となってくる.文献1)MartidisA,DukerJS,GreenbergPBetal:Intravitrealtriamcinoloneforrefractorydiabeticmacularedema.??????????????109:920-927,20022)JonasJB,HaylerJK,Panda-JonasS:Intravitrealinjectionofcrystallinecortisoneasadjunctivetreatmentofprolifer-ativevitreoretinopathy.???????????????84:1064-1067,20003)DegenringRF,JonasJB:Intravitrealinjectionoftriam-cinoloneacetonideastreatmentforchronicuveitis.???????????????87:361,20034)DanisRP,CiullaTA,PrattLMetal:Intravitrealtriam-cinoloneacetonideinexudativeage-relatedmaculardegeneration.??????29:244-250,20005)OishiM,MaedaS,NakamuraAetal:Examinationofpuri?cationmethodsanddevelopmentofintravitrealinjectionoftriamcinoloneacetonide.????????????????49:384-387,20056)Behar-CohenFF,GauthierS,ElAouniAetal:Methyl-prednisoloneconcentrationsinthevitreousandtheserumafterpulsetherapy.??????21:48-53,20017)大黒伸行:眼局所へのドラッグデリバリーシステム.あたらしいしい眼科21:35-40,20048)Ja?eGJ,Ben-NunJ,GuoHetal:Fluocinoloneacetonidesustaineddrugdeliverydevicetotreatsevereuveitis.?????????????107:2024-2033,2000(18)外眼部外来手術マニュアルEyeadnexaの手術を写真・イラストを多用しわかりやすく,読みやすく!【編集】稲富誠(昭和大学教授)・田邊吉彦(昭和大学客員教授)Ⅰ眼瞼の疾患1.霰粒腫(三戸秀哲井出眼科新庄分院)2.麦粒腫(三戸秀哲)3.眼瞼下垂(久保田伸枝帝京大学)4.眼瞼内反(根本裕次帝京大学)5.眼瞼外反─老人性(八子恵子福島医科大学)6.兎眼(八子恵子)7.睫毛乱生(柿崎裕彦愛知医科大学)8.眼瞼皮膚弛緩症(井出醇・山崎太三・辻本淳子井出眼科病院)9.眼瞼良性腫瘍(小島孚允さいたま赤十字病院)Ⅱ結膜・眼球の疾患1.翼状片(江口甲一郎江口眼科病院)2.眼窩脂肪脱出(金子博行帝京大学)Ⅲ涙器の疾患1.涙道ブジー(先天性狭窄)(吉井大国立身体障害者リハビリテーションセンター)2.涙小管炎(吉井大)3.涙点閉鎖(吉井大)B5判総122頁写真・図・表多数収載定価6,300円(本体6,000円+税300円)メディカル葵出版株式会社〒113─0033東京都文京区本郷2─39─5片岡ビル5F振替00100─5─69315電話(03)3811─0544■内容目次■(かっこ内は執筆者)