———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSよとの本誌のご指示に従い敢えて独善的な考えを述べてみたい.浅学菲才ゆえの偏りについてはご寛恕賜りたい.筆者らは,加齢とともに免疫応答の一指標であるTh1/Th2バランスの偏奇が認められること,本偏奇が局所循環血流の低下や不安定性による局所酸素分圧の揺らぎを介する酸化ストレスや,ホルモンアンバランス〈交感神経・副交感神経バランス〉に基づく,抗原提示細胞(APC:マクロフアージ;Mf,樹状細胞;DC)の細胞内レドックス状態の偏奇によることを明らかにしている(表1)1~5).I低酸素組織環境と免疫応答癌組織の中心部は低酸素状態となりMfの浸潤が著明となり,血管内皮増殖因子(VEGF),インターロイキン(IL)-8などの血管新生因子の産生が促進され,血管新生抑制因子の機能は抑制され,DCの遊走能は抑制され,腫瘍血管新生が亢進する.この制御機構は癌組織はじめに筆者の眼科との接点は18年前になる.順天堂大学の金井淳教授から水晶体蛋白変性制御に筆者らのクローニングしたヒトチオレドキシンが使えないかとのお尋ねに始まる.本稿主題の一つであるグルタチオン(GSH)はグリシン,グルタミン酸,システインからなるトリペプチドであり,活性酸素の発生抑制/酸化ストレス予防,活性酸素の捕捉/酸化ストレス軽減,酸化ストレス障害の修復・再生の3段階のいずれにも働く優れた酸化ストレス防御物質である.GSHは水晶体の皮質で生合成され,水晶体の核内へと移行し,若年者では水晶体組織全体に分布するが,加齢とともに核内移行が傷害され老人性白内障の原因となる.GSHの細胞内局在という課題である.加齢に伴い循環器系疾患,糖尿病,悪性腫瘍,リウマチ様関節炎,筋萎縮など多様な疾患の発生頻度が高まる.眼科に限っても,老視をはじめ加齢黄斑変性症,加齢白内障,緑内障,ドライアイ,糖尿病網膜症など,ほとんどの眼疾患リスクが加齢とともに増加する.加齢性眼疾患について対応するには,正常な老化プロセス,インスリン様信号の担う寿命シグナルについての理解が基本的に不可欠であり,細胞代謝,Ca2+代謝,活性酸素など多様な軸が必要となる.免疫,炎症,癌の基礎研究ならびにレドックス研究に携わった筆者に,主題に応えることは任を超えるが,木下茂・坪田一男・谷原秀信先生らに戴いたご厚情をもとに,また,総花的記述を避け(41)????*JunjiHamuro:慶應義塾大学医学部微生物学免疫学教室/京都府立医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕羽室淳爾:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部微生物学免疫学教室特集●眼科におけるアンチエイジング医学の流れあたらしい眼科23(10):1283~1289,2006免疫とアンチエイジング眼科学???????????????????????????????????????????????羽室淳爾*表1加齢とTh1,Th2バランス老化→酸化ストレスの蓄積(ハーマンら,1955)(多くの生活習慣病の原因の一つ)加齢→Th1/Th2バランスのTh2への偏奇(羽室ら,2001)抗原提示細胞の細胞内レドックス状態がTh1/Th2バランスを規定する*(羽室ら,2000)低酸素→抗原提示細胞を酸化型に偏奇**(羽室ら,2002)(*図3参照,**図4,5参照)———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006を超えて,前眼部,後眼部においても同様と想定される.局所浸潤Mf/DCは細胞外マトリックスの構築に対しても重要な働きを示す.組織は低酸素状態になるとVEGFやVEGF受容体を発現し血管新生やリンパ管新生を誘発し,増殖促進や組織炎症亢進につながる.NO(一酸化窒素)がVEGF遺伝子発現を誘導することやプロスタグランジン(PG)E2などのアラキドン酸代謝産物が同様の作用を有すること,Mf由来のメタロプロテアーゼがプラスミノーゲンを分解して血管新生阻害因子であるアンジオスタチンを産生すること,TGFbもNO産生を抑制することなどは,血管,リンパ管新生も,Mfのレドックス機能と連関することを強く示唆する(表2).局所低酸素環境による酸化ストレスは,加齢とともに病態進展の認められる黄斑変性症,糖尿病網膜症の局所病態の制御に忘れてはならない視座である(図1).II細胞内レドックス機能とアミノ酸の取り込み一人寿命シグナルのみならず多くの生活習慣病,加齢に伴い病態の増悪する疾患には蛋白質の異化,同化作用のバランスが影響を与える.本バランスに係る重要な信号が寿命シグナルと考えられるインスリン様シグナルである(図2).加齢とともに筋肉細胞へのアミノ酸の取り込みには障害が生じ(同化作用の低下),ハウスキーピングの蛋白質から異化作用でアミノ酸を生成させアデノシン三リン酸(ATP)系に供給しエネルギー源として用いられる.老衰状態や末期癌患者,炎症性腸疾患患者などでみられる体重減少の一因である.アミノ酸を取り込むトランスポーター機能も細胞内レドックス状態により制御され,酸化状態では取り込みが減少する(図3).加齢とともに微小循環血流の低下が起こると,組織微小環境(42)図1低酸素環境下では組織内で活性酸素(ROS)が産生され酸化型組織に傾斜低酸素ミトコンドリアROSL-Glu-Cys+GlyL-Glu-Cys+ATP2GSHGSSGHIF-1aR-HS+ATPBSONADP+NADPHBCNU蛋白安定化gGCSGSSGレダクターゼアミノ酸蛋白質筋肉細胞(細胞内レドックス状態)(血漿中レドックス状態)[Cys]2/Cys2:生活習慣病の指標Ox-Alb:グルタチオンが結合した酸化型アルブミンOx-homoCys:酸化型ホモシステインGSSG>GSHGSH>GSSG創傷治癒癌循環器系疾患老化・体重減少糖尿・筋萎縮インスリンCysAlbCys2アミノ酸Ox-homoCysOx-AlbhomoCys図2老化プロセス,寿命シグナルとレドックス制御図3局所酸素分圧と抗原提示細胞機能温熱血流腫瘍間質酸素分圧血流改善(温熱療法,免疫療法,食品,代替療法)Mf/DC内レドックス状態遺伝子発現制御ミトコンドリア機能制御蛋白発現制御(Bax,Bcl)(プロテアゾーム経路での分解)(hsp90,70)(NF-κB,AP-1)表2免疫応答と組織修復血流(の揺らぎ),低酸素(の揺らぎ),低栄養,血管新生腫瘍関連マクロフアージ(TAM)とリンパ管,血管新生TSP(熱帯性痙性麻痺)の機能と分布(TGFbに関連)蛋白分解制御(遺伝子解析では不可能)NatMed(2004)末?でのVEGF受容体-3を介する信号制御による獲得免疫の人為的制御:VEGF受容体-3を介する信号を遮断すると樹状細胞のリンパ節への遊走が阻止され,遅延型過敏症も抑制され,角膜移植拒絶反応が抑制される.JCI(2006)丸山;京都府立医大CD11b+はリンパ管形成に関与:リンパ管内皮細胞にtransdi?erentiationする.眼アレルギー,感染防御:自然免疫vs獲得免疫タイプ1IFNvsIFN-g(IRFフアミリー,IL-15,IL-18,IL-33)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006????の酸素分圧が低下し,この低下をミトコンドリア膜上に存在するNADPH(nicotinamideadeninedinucleotidephosphate)などが感知し細胞内や組織内のレドックス状態は酸化型に傾斜する(図4).結果として,局所免疫応答は液性免疫(Th2)側に傾斜する(図4).線維芽細胞や肝細胞においては,NADPHが酸素分圧感知に働き,アクチン細胞骨格に保持されるKeap-1蛋白を酸化することで,Keap-1に会合するNrf-2蛋白が解離,核移行し,抗酸化応答性エレメント(ARE)に結合し,さまざまの抗酸化応答遺伝子を活性化する.この結果glu-tamatecysteineリガーゼ(GCL)の触媒サブユニットであるGCLCや制御サブユニットであるGCLMが誘導され細胞内GSH含量が増加する.抗酸化ストレスにおける蛋白分解に働くプロテアゾーム発現亢進にも本Keap-1/Nrf-2経路が関与する.Nrf-2は活性化Mfにおいて高発現されている.炎症終息に働く15d-PGI2はCOX-2の作用でアラキドン酸から産生されるが,一方で,Keap-1と付加体を形成し,Nrfの解離核移行を促進し,HO-1やパーオキシレドキシンの産生を促進し抗酸化応答を惹起する6).結果,腫瘍壊死因子(TNF)-a,MIF(マクロファージ遊走阻止因子)産生を抑制し,NFkBを抑制する.加齢とともにNrf-2の発現が低下することがGCL発現を低下させ,結果としてGSH合成が加齢とともに低下することに繋がる7).血流,組織酸素分圧,深部体温,APCやリンパ球の細胞内レドックス状態,アミノ酸の取り込み能が,血管新生の制御とともに組織炎症のpathophysiologyを規定する(図3).IIIアミノ酸代謝とマクロファージ機能の可塑性細胞が置かれている環境中のアミノ酸/アミノ酸代謝が,シグナル伝達物質/シグナル機能としての役割をもち,そのアミノ酸濃度のバランスを感知する機構が細胞に備わっている.ロイシンはmTOR(mammaliantar-getofrapamycin)を活性するが,本mTORが低酸素でも誘導される.非侵襲時には非必須アミノ酸であるグルタミンは,侵襲時にはその需要が増加し,必須アミノ酸となる.この傾向は粘膜組織において著しい.グルタチオン合成の律速段階は,システインの供給量である.システインは直接,あるいは,GSH合成・代謝を介して,Mf内の酸化還元状態を規定し,Th1あるいはTh2の極性化の鍵を握る因子であることになる(図5).アルギニンは,免疫栄養における最も重要な栄養成分の一つと考えられている.Mf内のアルギニン代謝機構として2つの経路が考えられている.iNOS(誘導型一酸化窒素合成酵素)を介しNOを産生する経路は,アルギニンによる感染抵抗性などの免疫賦活作用に関与する.アルギナーゼを介し,オルニチンを経てポリアミンに代謝される経路が今一つのものである.Th1病といわれる炎症性腸疾患,リウマチの病態においてはNOの過剰産生が,Th2病といわれる喘息病態モデルにおいてはアルギナーゼの亢進が認められている(図5).Mfによ(43)酸化型マクロファージ・樹状細胞還元型マクロファージ・樹状細胞細胞性免疫弱い:Th2細胞性免疫強い:Th1酸素の多い少ない:ミトコンドリアが察知周辺環境で酸素分圧が低いと組織,細胞内の酸素が増加(ROS)図4局所酸素分圧と抗原提示細胞機能図5還元型・酸化型マクロファージL-ArgL-OH-ArgONiNOSArginasePolyamineProOrnithine液性免疫細胞増殖創傷治癒細胞性免疫殺菌細胞障害RMfArgiNOSNO↑CitrullineArginaseOrn↑IL-6,IL-10,TGFb??fArg??fTrp・IFN-g・TNFa・IL-1IDOTrp↓???Cys↑Cys↓???IL-2↑IL-2↓GSH>GSSGGSSG>GSH抗原提示細胞より産生されるサイトカインOMfTh1サイトカイン・IL-4/IL-13・IL-10Th2サイトカインIL-12,IL-15,IL-18———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006るアルギニンの消費によりTリンパ球の機能低下が起こるが,これは,抗原情報の細胞内シグナル伝達に不可欠なCD3x鎖の発現低下に起因する.IV酸化型/還元型マクロファージの機能とTh1/Th2バランスの制御1972年,Parishは細胞性免疫と液性免疫応答の間の逆相関を感作抗原量の変化により観察した.T→T相互作用を担うIL-2,インターフェロン-g(IFN-g)などの可溶性因子を産生する活性化CD4+Tリンパ球がTh1,T→B相互作用を担うIL-4,IL-5,IL-6,IL-10,IL-13などの可溶性因子を産生するものがTh2と呼称されるようになった.現在では,Th1,Th2の前駆細胞としてのTh0に加えてTh3,Tr-1と呼称される免疫調節性のCD4+Tリンパ球亜集団の存在やCD8+Tリンパ球においてもサイトカイン産生パターンの異なる亜集団(Tc1,Tc2)の存在が示されている.筆者らは,Mfの機能の多様性をレドックス機能の視点から解析し,Th1/Th2バランスがAPCであるMfやDCの細胞内レドックス状態により制御されるとする新しいパラダイムを提唱した(表1,図5).細胞内の還元型グルタチオン含量の高いものを還元型Mf,低いものを酸化型Mfと呼称する.還元型GSH含量の高い還元型MfからのみIL-12は産生される.酸化型MfからはIL-12の産生はまったく認められず,Th1/Th2バランスに重要な働きを示すIL-12の産生が酸化型/還元型Mfのバランスで一義的に規定されていると考えている.Th1サイトカインIL-2,IFN-gは還元型Mfを誘導するのに対し,Th2サイトカインIL-4,IL-10,IL-13は酸化型Mfを誘導すること,TGFbはデキサメサゾン同様に強力に酸化型Mfを誘導する.サイトカイン自身がMf/DCの酸化型/還元型を選択的に規定するという知見である.還元型MfでのIL-12産生増強はp38MAPKの活性化とJNK活性阻害を介する.TGFbの作用は多様でNFkB,p38MAPK阻害を介する前炎症性サイトカイン産生阻害とSmad3,AP-1経路を介するMCP-1産生増強などが知られているが,いずれもMf内のレドックス制御を受ける.Mfにdichot-omyを想定するところに最大の新視点がある1~5).VエイジングとTh1/Th2バランス加齢とともに免疫能の低下することは一般紙に掲載されるほどであるが,内容は不分明なまま怪しげな健康食品が広がっている現状には忸怩たる思いを抱く.動物実験では,Th1/Th2バランスはTh2に傾斜する.野生型では加齢とともにTh2への傾斜が認められるが,チオレドキシンTgマウスでは若齢形質が保持され(図6),寿命の延長も認められる.固型癌局所壊死巣は,低酸素状態に陥り,DCの遊走が抑制され,酸化型Mfが浸潤し,悪液質や免疫抑制を誘導する.局所低酸素状態では外科,放射線治療いずれの予後も著しく不良である.加齢に伴い発症するリウマチ様関節炎患者では関節腔浸潤Tリンパ球は酸化ストレスにより抗原情報伝達に重要な(44)002040608001021248421262.752005001051002IFN/IL-4年齢(月)年齢(月):TRXマウス:WTマウスIFN-g/IL-4(雄)(雌)図6加齢に伴うTh1/Th2バランスの変遷加齢に伴ってCD4Tリンパ球から産生されるサイトカインがTh2に偏奇する.抗加齢にはTh1/Th2バランスの修復が必要.(羽室ら:MolImmunol,2001)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006????細胞膜上のLAT(lymphocyteactivatingtransducer)分子が細胞質に移行しTリンパ球機能は低下する(細胞内の機能性蛋白質の細胞内局在が細胞内レドックス状態で規定されることを示す).加齢とともに蓄積する酸化ストレスはこうしたからくりでTリンパ球機能不全状態を招来する.リウマチ様関節炎を自然発症するSKGマウスではAPCからのIFN-g産生が亢進し,IL-10産生は低下する.ために,局所自然免疫が偏奇し,Th1サイトカイン病態が惹起される.IL-2受容体g鎖,JAK3ノックアウトマウスでは酸化型APCが主流で短命である(図7).加齢に伴いインスリン非依存性糖尿病を自然発症するNODマウスは,Langerhans島破壊期には還元型APC/Th1回路が主となり,酸化型誘導により発症抑制と延命効果が認められる.OVA(卵白アルブミン)誘発喘息モデルでは,還元型誘導で遲発性気道抵抗性の改善が認められる.VI自然免疫応答とレドックス機能還元型Mf自身,Th1サイトカインの典型であるIFN-g産生をし,Th1/Th2バランスをTh2に傾斜させるIL-10は酸化型Mfからより多量に産生される.DCからの産生も還元型から起こる.IFN-g産生誘導能を有するIL-18も還元型Mfから産生されることも判明した.IL-15産生も還元型で起こり,IL-15自身還元型を誘導する(羽室ら,JExpMed印刷中).以上のことは,免疫応答の惹起段階でDCからIFN-gが産生され,本サイトカインによって局所浸潤Mfが還元型に傾斜し,IL-12,IL-15,IL-18が産生され,これらサイトカインの共存下において局所でIFN-gが著量産生されるというautocrine/paracrineactivationpathwayが局所自然免疫応答に重要な役割を担うことを示す.炎症局所に存在するMf/DCからIFN-g,IL-15,IL-18,IL-10のいずれが産生されるかによってTh1サイトカイン病,Th2サイトカイン病ともいうべき病態が起こる.IL-10は典型的な免疫抑制性サイトカインであるが酸化型Mfを誘導する.この作用はNFkBの抑制を介することが明らかであるが,本作用の過程にproteindisul?deisomerase(PDI)が介在する.IL-10により誘導されたPDIが細胞質内でのIkBの蛋白分解を阻害していると考えられている.PDIはNFkBのnegativeregulatorという点で構造類似のチオレドキシン(TRX)がposi-tiveregulatorとして作用することと好対照をなす.若年者では水晶体組織全体に分布するGSHが加齢とともに核内移行が傷害され老人性白内障の原因となることは前述したが,機能性蛋白質の細胞内局在が細胞内レドックス状態で規定されることと階層的制御機構の存在することを物語る.抗原情報を核に伝達するのに不可欠のLAT分子の細胞内局在にはレドックス系が関与し,酸化型ではLAT分子は細胞質に分散しTリンパ球の信号伝達不全状態を招来する.細胞のアポトーシスに関係するBcl-2分子の細胞内局在にもレドックス系が関与し還元型ではBcl-2分子は核に移行し,アポトーシスに抵抗性となる.白内障との関係で研究の進展が望まれる.VII加齢と微小循環血流温熱療法は癌細胞やウイルス感染細胞の易熱性による直接的効果を超え,熱ストレスにより誘導される熱ショック蛋白質(HSPs)による抗原提示の亢進など免疫賦活化作用のあることが判明している.全身温熱療法は血流改善,エンドルフィン産生促進などを介し癌性疼痛を軽減することが示唆されている.副交感神経優位の状態に偏奇させる自律神経免疫療法とみなしうる側面も有する.加齢とともにみられる老視や老人性白内障,緑内障,ドライアイなどには局所微小血流,交感/副交感神経系のバランスの加齢による揺らぎの低下が関与するのではないかと筆者は想定している(図8).また,硝子体(45)2.50864205年齢(月)年齢(月)JAK3+/-IL-2Rg+/YIL-2Rg-/YJAK3-/-7.51.00.90.80.70.60.51.00.90.80.70.60.5図7酸化型マクロファージに傾斜すると短命になる———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006(46)の皮質領域のゲル組織の中に存在する硝子体細胞(ヒアロサイト)は単球/Mf系の細胞とされており,分化の進んだMfとも考えられる.したがって,その機能は可塑的で加齢とともに不可逆変化を起こすことは容易に想像される.硝子体細胞が生理的には網膜色素上皮細胞,虹彩色素上皮細胞,血管内皮細胞の増殖抑制に働くことを考えると,硝子体腔の透明性維持,糖尿病硝子体網膜症の発症に関与していると考えられる.山田潤(明治鍼灸大学)らは角膜組織のレドックス状態が人為的に制御できることを明らかにしており(図9),アンチエイジングに向けた眼科領域における新しい試みとして期待される.図8免疫・内分泌・神経系と体温免疫系内分泌系神経系刺激交感神経優位副交感神経優位分泌されるホルモンの種類によって,免疫力が弱くなったり強くなったりする免疫細胞が抗原の刺激を受けると神経系を刺激して発熱し,ホルモンが分泌されて熱が下がる痛み・苦味・熱など体内の異常を認識し,異物の混入を防ぐ外部の刺激を受け,指令を出すホルモンの分泌で臓器の機能を保つTRPM8<22℃TRPV322~42℃TRPV142~52℃TRPV2>52℃MCBMerge(CD11b+Pl)Merge(MCB+CD11b)MCBMerge(CD11b+Pl)Merge(MCB+CD11b)a:生理食塩水b:シスチン誘導体図9角膜組織内のレドックス状態の人為的制御(山田潤,木下茂ら:未発表データ)———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006????(47)おわりに加齢に伴い血流機能障害,ホルモンバランス障害,局所酸素分圧障害,あるいは,より高位の交感/副交感神経系バランス障害が起こり結果として,MfやDCのレドックス状態を偏奇させて,結果,免疫応答の質的変化,血管,リンパ管形成の偏奇,炎症応答の遷延化など起こすことが,加齢に伴う多くの眼科疾患,視覚障害の原因の一つであると考える.再生医療を含めた新しい取り組みを最後に表3にまとめる.眼科の臨床現場を知らない素人の独白の機会をお許しいただいた木下茂編集主幹,本特集の企画者の坪田一男先生に深く感謝いたします.文献1)MurataY,ShimamuraT,TagamiTetal:TheskewingtoTh1inducedbylentinanisdirectedthroughthedis-tinctivecytokineproductionbymacrophageswithelevat-edintracellularglutathionecontent.???????????????????2:673-689,20022)MurataY,OhtekiT,KoyasuSetal:IFN-gammaandpro-in?ammatorycytokineproductionbyantigen-pre-sentingcellsisdictatedbyintracellularthiolredoxstatusregulatedbyoxygentension.?????????????32:2866-2873,20023)MurataY,AmaoM,HamuroJ:Sequentialconversionoftheredoxstatusofmacrophagesdictatesthepathologicalprogressionofautoimmunediabetes.?????????????33:1001-1011,20034)UtsugiM,DobashiK,IshizukaTetal:c-JunN-terminalkinasenegativelyregulateslipopolysaccharide-inducedIL-12productioninhumanmacrophages:roleofmito-gen-activatedproteinkinaseinglutathioneredoxregula-tionofIL-12production.?????????171:628-635,20035)UtsugiM,DobashiK,KogaYetal:Glutathioneredoxregulateslipopolysaccharide-inducedIL-12productionthroughp38mitogen-activatedproteinkinaseactivationinhumanmonocytes:roleofglutathioneredoxinIFN-gprimingofIL-12production.?????????????71:339-347,20026)ItohK,MochizukiM,IshiiYetal:TranscriptionfactorNrf2regulatesinflammationbymediatingthee?ectof15-deoxy-Δ12,14-prostaglandinJ2.?????????????24:36-45,20047)SuhJH,ShenviSV,DixonBMetal:Declineintranscrip-tionalactivityofNrf2causesage-relatedlossofglutathi-onesynthesis,whichisreversiblewithlipoicacid.??????????????????????101:3381-3386,2004表3眼科領域におけるアンチエイジング眼科領域での医療用具,医薬品再生医療:角膜再生,網膜再生生活習慣病と眼のはたらき疫学,全身疾患系統介入/食品:ARED(bカロチン,ビタミンC,E,亜鉛),Ocuvite,再生を促進する食品!加齢と眼のはたらき「眼から始めるアンチエイジング」坪田一男遺伝子による支配,免疫力の低下,フリーラジカルなどによる組織変性,ホルモンの低下木下茂,山田潤1.角結膜組織のGSH含量:どこに焦点をあわせるか非侵襲的診断(モニター)技術とリンク2.涙液のレドックス機能