———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSが,起交感眼は病像が修飾されるため組織像が破壊されているものもあり注意を要する8).臨床症状は視神経乳頭の腫脹,硝子体混濁,滲出性網膜?離,脈絡膜?離を生ずる(図2).発症から数カ月を経ると脈絡膜のメラノサイトが減少して夕焼け状眼底(図3)を示し,やがて脈絡膜が変性する.症例によってI交感性眼炎(sympatheticophthalmia)交感性眼炎は穿孔性眼外傷あるいは眼科手術の後に生じる両眼性肉芽腫性汎ぶどう膜炎である.1840年に初めてMackenzieが報告し,1905年にFuchsが臨床像を報告した.交感性眼炎の有病率は人口100万人当たり1.1人で,男女比は眼外傷の割合が男性に多いため男性が多い傾向がある.発症までの日数は約70%の症例は3カ月以内に,約90%の症例は1年以内に発症する.実際の報告例では,短いものでは5日後から,長いものでは20年以上のものや最長では62年後に発症したというものもある1,2).近年では網膜?離手術や硝子体手術など複雑な手術が多く行われるようになったため,眼科手術後の症例の報告が増え,特に再手術を受けた症例の報告が散見されるようになった3~5).さらに交感性眼炎は,穿孔性の眼科手術のみならず,YAGレーザー毛様体凝固術後や毛様体冷凍凝固術後などの非穿孔性眼科手術でも起こりうる疾患であることも示されている6,7).穿孔性外傷または手術を受けた側の眼を起交感眼(excitingeye),僚眼を被交感眼(sympathizingeye)とよぶ.交感性眼炎はメラノサイトに対する自己免疫疾患の一つと考えられている.組織像ではぶどう膜のメラノサイトに対するリンパ球の浸潤による慢性肉芽腫性ぶどう膜炎がみられる(図1).交感性眼炎はぶどう膜炎であり,網膜自体へ炎症の波及はまれである.基本的には病理学上は起交感眼,被交感眼とも同一の所見を示す(29)????*YumikoShindo:ユノクリニック〔別刷請求先〕新藤裕実子:〒243-0303神奈川県愛甲郡愛川町中津818-1ユノクリニック特集●組織適合抗原(HLA)のすべてあたらしい眼科23(12):1543~1546,2006HLAと交感性眼炎??????????????????????????????????????????????????????????????????新藤裕実子*図1交感性眼炎の病理所見脈絡膜の肥厚,リンパ球の浸潤による肉芽腫性変化がみられる.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006はDalen-Fuchs?spotを生じる.眼外症状として皮膚の白斑や毛髪の白髪化がみられる場合がある(図4).このように,交感性眼炎は臨床症状,病態生理,病理所見がVogt?小柳?原田病(以下,VKH病)ときわめて類似し,メラノサイトに対する自己免疫疾患と考えられている.II交感性眼炎とHLAの関係自己免疫疾患は免疫機構の何らかの異常により自己を非自己と認識するために生ずる自己防衛機能の破壊による疾患である.ヒトの主要組織適合抗原複合体(majorhistocompatibilitycomplex:MHC)であるヒト白血球抗原(humanleukocyteantigen:HLA)は,第6染色体短腕に位置し,免疫応答に深く関わり,疾患感受性を規定する遺伝的要因の一つであると考えられている.日本人の交感性眼炎におけるHLAを調べた.血清学的HLAタイピングでは,クラスⅡ抗原であるHLA-DR53,HLA-DR4,HLA-DQ4に有意な上昇が認められた.このうちHLA-DR53はHLA-DR4,HLA-DR7,HLA-DR9と連鎖不平衡にある.しかし交感性眼炎においてはHLA-DR4のみ相関が認められ,HLA-DR7,HLA-DR9とは相関がみられなかった.このことから交感性眼炎とHLA-DR53の相関は二次的相関によるものであり,HLA-DR4,HLA-DQ4に有意に相関することが推定された9).日本人のその後の交感性眼炎の症例報告において,HLAが調べられたものについてはHLA-DR4を示すことが報告されている.これらの結果を踏まえて筆者らはさらにHLA-DNAタイピングを行った.その結果,日本人において交感性眼炎はHLA-DQA1*0301-DRB1*0405-DQB1*0401と相関することが明らかになった.このうちHLA-DQA1*0301はHLA-DRB1*04とHLA-DRB1*09に連鎖不平衡にある.しかし交感性眼炎においてはHLA-DRB1*09とは相関しなかった.このことからHLA-DQA1*0301は連鎖不平衡による二次的相関であると考えられた.しかし,日本人においてはHLA-DRB1*04と(30)図2交換性眼炎の眼底写真視神経乳頭の発赤・腫脹,硝子体混濁がみられる.図3交感性眼炎の眼底写真メラノサイトが減少して夕焼け状眼底がみられる.図4交感性眼炎の眼外症状毛髪・睫毛の白髪化,皮膚の白斑がみられる.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????HLA-DQB1*04は連鎖不平衡にあり,この結果のみではどちらが有意に相関する可能性があるかは不明であった9).さらに注目すべきことに,この結果はVKH病におけるHLA-DNAタイピングの結果10)と一致するものであった.このことにより,日本人において,交感性眼炎は臨床症状のみならず,HLA-DNAタイピングにおいてもVKH病と一致することが示された.さらなる疾患感受性遺伝子の解析のためにはHLA-DRBとDQBの連鎖不平衡の異なる民族での交感性眼炎のHLA-DNA解析が望まれていた.2001年イギリスから交感性眼炎のHLA-DNAタイピングの27報告例がなされた.イギリスにおける交感性眼炎はHLA-DQA1*03-DRB1*04と相関し,HLA-DQB1との相関はみられなかった.さらにHLA-DRB1*04のサブタイプは日本人のHLA-RB1*0405ではなくHLA-DRB1*0404であった.この報告における交感性眼炎患者の民俗学的背景は,ネイティブイギリス人(14),スコットランド人(8),アイルランド人(4),北アイルランド人(1)であり,日本人とは異なる民族であった11).異なる民族においても,交感性眼炎が日本人と同様HLA-DRB1*04と相関したことは非常に興味深いものであった.この事実は交感性眼炎が民族を超えてHLA-DRB1*04と相関することを示唆するものであった.サブタイプの相違が他の民族でどうなのか,疾患にどのように関わるかは今後の課題となった.VKH病では白人には非常に少なく,東洋人,北米,中米,南米のインディアン,イヌイットなどに多く,発症頻度に民族差があることが知られてきた(「原田病」の項のVKH病の世界分布図を参照)12).しかも海外に移住した日本人でも発症頻度に有意差がないことが知られてきた.一方,交感性眼炎はこれまで中国,シンガポール,トルコ,サウジアラビア,スペイン,ロシア,ブラジル,ユーゴスラビア,イギリス,アイルランド,アメリカ,オランダ,カナダなど多くの国々で報告されている13~16).交感性眼炎は非常に発症頻度が低いため,これらの症例報告例をそのまま世界分布とするのは性急であろう.しかもこれらの報告では民族的背景までは細かく言及されていない場合がほとんどであり,交感性眼炎はVKH病のように明らかな人種差はみられないとされてきた.先に示したように日本人において原田病はHLA-DR4に相関し,そのアリルはHLA-DRB1*0405が95%を占め,HLA-DRB1*0405またはHLA-DRB1*0410のいずれかをもっていた.このHLA-DRB1*0405,DRB1*0410は東洋人,ヒスパニクスに多く白人にはまれなアリルでありVKH病の民族的有意差と一致するものであった.その後VKH病とHLA-DRB1*04の相関は日本人のみならず,韓国,中国,ブラジル,メキシコでも追試され,ラオス,ブラジルではHLA-DRB1*0405と相関していることが示された17~20).一方,交感性眼炎では日本人以外でHLAの相関を調べたものが2報告ある.一つ目はアメリカのVKH病とともに調べられた8報告例で,HLA-DR4と相関することが示されているがサブタイプまでは調べられていない21).二つ目は先に示したイギリスの27報告例で,患者は日本人でもヒスパニクスでもないがHLA-DRB1*04と相関したがそのサブタイプは筆者らが調べた日本人のHLA-DRB1*0405の相関とは異なりHLA-DRB1*0404であった11).交感性眼炎は必ずしも民族的有意差がみられないことと,HLA-DRB1*04に相関すること,HLA-DRB1*04のサブタイプにバリエーションがみられることが明らかとなったが,この事実が交感性眼炎の疾患感受性にどう関与するのかはVKH病との関連を含めて今後さらに検討が必要と考えられる.交感性眼炎ではサイトカイン遺伝子の多型性が重症度に関わっている可能性やVKHの項で述べられているチロシナーゼとの関連についても今後検討されるべき課題である22).おわりに交感性眼炎は人種を超えてHLA-DR4(HLA-DRB1*04)と相関することが示された.交感性眼炎が疑われた場合,HLAを調べることは診断および治療のスタートを決めるうえで有用であると考えられる.交感性眼炎とVKH病は臨床症状,病態生理,HLAについて非常に類似した疾患と考えられている.今後,HLAにおけるさらなる相関機序,ヒトゲノムにおけるさらなる疾患感受性遺伝子の検索が進められることが期(31)———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006待される.文献1)LubinJR,AlbertDM,WeinsteinM:Sixty-?veyearsofsympatheticophthalmia.Aclinicopathologicreviewof105cases(1973-1978).?????????????87:109-121,19802)MacClellanKA,BillsonFA,FilipicM:Delayedonsetsympatheticophthalmia.??????????147:451-454,19873)石川友昭,後藤浩,市側能稔博ほか:交感性眼炎16例の臨床的検討.臨眼52:555-558,19984)松山茂夫,日谷千夏,末廣龍害ほか:網膜?離手術後に脈絡膜?離を主体とした交感性眼炎をきたした一例.眼紀51:604-609,20005)久保勝文,中沢満,荒井優子ほか:黄斑円孔術後早期に発症した交感性眼炎の一例.臨眼55:683-586,20016)BechrakisNE,Muller-StolzenburgNW,HelbigHetal:Sympatheticophthalmiafollowinglasercyclocoagulation.???????????????112:80-84,19947)PollackAL,McDonaldHR,AiEetal:Sympatheticoph-thalmiaassociatedwithparsplanaviterectomywithoutantecedentpenetratingtrauma.??????21:146-154,20018)InomataH:Necroticchangesofchoroidalmelanocytesinsympatheticophthalmia.???????????????106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