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アンチエイジング医学で行う検査項目

2006年10月30日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS示した.1.血管年齢血管年齢の評価方法には加速度脈波法3)と脈波伝播速度(PWV)法4)がある.前者は脈波の形が何歳くらいの人の脈波に相当するかを調べるもの,後者は脈波が血管壁を伝わる速度が動脈硬化の程度を反映するという性質を利用している.両者を中立な立場で比較検討した成績が待たれる.血管年齢の検査結果はあくまで指標にすぎず,治療上大切なのは動脈硬化の危険因子の是正であIアンチエイジング医学老化だ,アンチエイジングだといったところで人の老化の仕方はさまざま,老化を促進する危険因子もさまざまである1).同様に眼の老化の仕方は個々により異なる.それぞれの状況に応じたアンチエイジング指導と治療が必要である.眼の老化は全身の老化と深く関わるので,眼から全身へ,全身から眼へと,全人的観点からのアンチエイジング医学はこれからの眼科医にきわめて有用となろう.アンチエイジングを実践する医療機関は増えつつあるが,それぞれが勝手気ままな検査をやっている状況が続くと,受診者は困惑するばかりでアンチエイジング医学の健全な発展は望めない.ここではある程度絞り込んだうえで,老化度を評価するためのいくつかの検査方法を紹介する.II老化度評価のための検査項目医療機関では,老化度を筋年齢・血管年齢・神経年齢・ホルモン年齢・骨年齢として評価すると良い.受診者は自分の機能年齢に興味をもつことが多く,骨年齢やホルモン年齢というような機能年齢として表現するとわかりやすい2).また老化危険因子として免疫機能・酸化ストレス・心身ストレス・生活習慣・代謝機能(解毒を含む)についても評価する.老化度と老化危険因子の代表的測定方法・バイオマーカーについては図1,表1に(13)????*YoshikazuYonei&YokoTakahashi:同志社大学アンチエイジングリサーチセンター〔別刷請求先〕米井嘉一:〒602-8580京都市上京区今出川烏丸東入同志社大学アンチエイジングリサーチセンター特集●眼科におけるアンチエイジング医学の流れあたらしい眼科23(10):1255~1261,2006アンチエイジング医学で行う検査項目?????????????????????????-????????????????????米井嘉一*高橋洋子*筋年齢骨年齢ホルモン年齢神経年齢血管年齢老化度免疫機能代謝機能生活習慣心身ストレス酸化ストレス老化危険因子図1老化度と老化危険因子———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006る.危険因子とはタバコ・糖尿病・高血圧・高脂血症の古典的因子とインスリン・アディポネクチン・コルチゾル(ストレスホルモン)・炎症反応〔高感度CRP(C反応蛋白)〕・酸化ストレス・ホモシステインである.頸動脈エコーでは頸動脈壁の中膜肥厚の有無を確認するが,眼科クリニックには不用であろう.内科では「眼底は血管を観察する窓」として動脈硬化の診断に重視している.眼科においても網膜静脈閉塞症,糖尿病網膜症,眼底出血など血管年齢と関連深い疾患がある.加速度脈波法の手技は「指先を数秒間端子に入れる」だけの簡便で安価な方法なので,眼底所見,抗加齢QOL(qualityoflife)共通問診票(後述)とセット検査を実施するなど,眼から全身へ,全身から眼へと,全人的診療をして欲しい.臨床経験を積めば眼底を診るだけで血管年齢を推定できるかもしれない.2.神経年齢高次脳機能には注意力,前頭葉機能,視知覚機能,認知知能,記銘力,精神機能全般が含まれる.障害が起こると,運動障害,感覚障害,意識障害といった要素的障害では説明できない言語,動作,認知,記憶,注意力の障害が現れる.高次脳機能の定量的評価法は確立されたわけではないが,日本脳ドック学会ガイドラインでは日本語版WisconsinCardSortingTest(http://cvddb.shimane-med.ac.jp/user/wisconsin.htmよりダウンロード可能)を推奨している5).パソコンに対面してゲーム感覚でできる5~10分の簡単かつ無侵襲の検査である(図2).基本検査により神経年齢の推定評価ができる.後述するAgingCheck?6)では自験例に基づいて反応時間などを加味したアルゴリズムを作成,より詳細な神経年齢が算出可能となっている.神経系のアンチエイジングとしては,神経は使わないと機能が衰えるので「まず使うこと」が鉄則となる.全身運動と細かい作業の組み合わせがよく,なにか報酬があると成果があがる.会話は,相手の目を見て,耳で聞いて,頭で考え,口を動かすといった一連の神経活動の集大成である.視神経・動眼神経・滑車神経・外転神経など脳神経のうち眼球の関連する割合は高く,視神経からの情報は大脳皮質内の広い領域で処理される.鑑賞(眼の保養)や眼球運動のような適度に眼を使う行為は神経系アンチエイジングに貢献するであろう.新たな機(14)表1老化度と老化危険因子の検査方法老化度?血管年齢:加速度脈波,脈波伝播速度(PWV),頸動脈エコー?神経年齢:高次脳機能検査(WisconsinCardSortingTest),抗加齢QOL共通問診票(http://www.yonei-labo.comより入手可能)?ホルモン年齢:IGF-1,DHEA-s,総テストステロン?骨年齢:骨密度(DEXA法)?筋年齢:握力,除脂肪筋肉量(インピーダンス法)老化危険因子?免疫力:NK細胞活性,DHEA-s?酸化ストレス:8-OHdG,イソプラスタン,LPO(過酸化脂質)?心身ストレス:コルチゾル,DHEA-s,DHEA-s/コルチゾル比?代謝機能(解毒):TSH,T3,T4,インスリン,アディポネクチン,ウエスト/ヒップ比,毛髪検査(有害金属)?生活習慣:睡眠時間,飲酒量,タバコ,運動量,水分摂取量図2日本語版WisconsinCardSortingTest———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006????能訓練法・インターベンション・サプリメント療法を実践する際には,眼科領域のパラメータに神経年齢や抗加齢QOL共通問診票(後述)を加えて評価するとよいだろう.3.ホルモン年齢はじめに加齢とともに低下するホルモンのうち若さと健康を保つために重要なものをあげる1).a.成長ホルモン(GH:growthhormone)/IGF-1(insulin-likegrowthfactor-1)GHやIGF-1レベルは30歳前後から低下し,生命予後やQOLの低下の予測因子となっている.若さと健康を保つためには,GH/IGF-1分泌の低下を防ぎ,最適値(オプティマル値)を維持する努力が必要である.GH/IGF-1分泌の刺激因子と抑制因子を図3に示した.ホルモン分泌が生活習慣の影響を受けることがよくわかる.GH/IGF-1分泌を改善させるためにはGH補充よりも生活習慣の是正が重要である.b.DHEA-s(dehydroepiandrosterone-sulfate)DHEAは体内で最も豊富に存在するステロイド系ホルモンで,これを源に性ホルモンや蛋白同化ホルモンなど,50種類以上のホルモンが作られる.DHEAは免疫力やストレスに対する抵抗性を維持し,糖尿病,高脂血症,高血圧,骨粗鬆症などの生活習慣病に対して予防的に作用する.検査では安定型のDHEA-sを測定する.オプティマル値に達しない場合は,運動,食事療法,体重の適正化,DHEA補充(医師であればダグラスラボラトリーズ,ピッツバーグ,http://www.douglasjap.comより入手可能)を考慮する.c.女性ホルモンエストロゲンなどの女性ホルモンは閉経期前(40代後半)から急激に減少し,のぼせ・いらつき・動悸をひき起こす.長期的には,骨粗鬆症や動脈硬化,Alzhei-mer病の発症率にも影響する.更年期障害の診断には,単に症状のみではなく,血中ホルモンの測定をすべきである.不足するホルモンを見きわめオプティマル値を治療目標にするが,近年の大規模介入試験の結果ではデメリットもあることが指摘されている.d.男性ホルモンテストステロンなどの男性ホルモンは40代頃より徐々に低下し,性的能力の低下,抑うつ気分,骨密度の低下,筋肉量の低下に関与する.特に男性更年期症状が現れる時期は,男性ホルモンが急激に下がる40代後半からである.テストステロン単独因子のみで説明がつかないこと,DHEA(-s)やGH/IGF-1分泌低下など加齢に伴うさまざまな因子が,個々において複雑に関与することから,診断にあたっては十分な診察とホルモン系の測定が大切である.ジヒドロテストステロンは前立腺肥大,前立腺癌,脱毛・禿げに関与するテストステロンの代謝産物である.ほとんどの抗うつ剤には副作用として性的衝動の低下があるが,唯一テストステロンのみが性的衝動に対してポジティブに作用する抗うつ剤である.e.メラトニンメラトニンは,脳の松果体から夜間に分泌されるホルモンで,睡眠と覚醒の周期をつかさどる.また,それ自体に抗酸化作用があり脳血液関門を通過することから,睡眠中に脳神経細胞を酸化ストレスによる傷害から防御する役割があるともいわれる7).メラトニンの分泌量は,成長期の子供の頃が最も高く,その後20歳代になると急速に低下する.メラトニン処方は抗加齢医療の一つの方法である(医師であればhttp://www.douglasjap.comにて入手可能).ホルモン年齢はIGF-1・DHEA-s・総テストステロンの血中濃度が指標とし,自験例データより高次回帰曲線を作成し算出した.エストラジオールなどの女性ホルモ(15)視床下部脳下垂体ソマトスタチン(抑制)成長ホルモン成長ホルモン筋・骨・皮膚心・肺消化器生殖器・泌尿器成長ホルモンGH放出ホルモン(抑制)肝臓IGF-1産生GHGHGHGH分泌刺激因子運動高蛋白食・アミノ酸質の高い睡眠抑制因子運動不足・睡眠不足・ストレス糖質摂取過剰コルチゾル経口エストロゲン製剤図3GHとIGF-1の分泌調節機構———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006ンは,①閉経前は月経周期により大きく変化すること,②閉経後は検出感度以下まで低下する例が多いこと,③40歳以上の男性では年齢と相関を示さないことから指標より除外した.男性ホルモンについては,遊離型テストステロンが,①女性で検出感度以下になる例が多いこと,②再現性にやや問題があることから,総テストステロンを指標に含めた.ホルモン年齢の改善には,①自己ホルモンの分泌を生活療法によって刺激する方法,②ホルモン補充療法がある1).成長ホルモン/IGF-1刺激には,①運動,②質の高い睡眠,③適量の蛋白質・アミノ酸摂取を実践する(図3).メラトニン刺激には,①真っ暗にして眠る,②朝に光を浴びる,を実践する7).DHEA分泌機構は不明な点も多いが,フリーラジカルにより生じた過酸化脂質が副腎に蓄積して分泌低下につながるので,抗酸化療法は有用と思われる.一般に眼科クリニックで採血検査を行わないので,実測値からホルモン年齢の算出は困難であろう.抗加齢QOL共通問診票とAgingCheck?6)によりホルモン年齢の推定評価が可能となっている.4.骨年齢骨年齢は骨密度より算出される.精度と再現性は超音波法より二重エネルギーX線吸収法(DEXA:DualenergyX-rayabsorptiometry)のほうが優れている.腰椎2~4番の計測が一般的だが,腰椎圧迫骨折と変形性腰椎症の有無について確認を要する.骨年齢など日本人男女別の基準加齢曲線が既報告8)のものはそれを利用して骨年齢を算出する.骨のアンチエイジングは骨粗鬆症の治療が中心になる.健常な骨代謝を保つためにビタミン(D・B・C・E・K)・ミネラル(Ca・Mg・Fe・Zn・Mnなど)・蛋白質といった栄養素が十分であることと骨端に刺激を与える運動負荷が欠かせない.眼科クリニックでは骨密度など測定しないだろうから,共通問診票から骨年齢の推定評価を行う.メディカルモールなどいくつかクリニックがあるところではAgingCheck?6)を共同で用いても良いだろう.5.筋年齢筋年齢は握力・除脂肪筋肉量から算出している.一般の体組成計は,身体に電流が流れたときの電気抵抗を基準に除脂肪筋肉量を求める(生体電気インピーダンス法).近年,MRI(磁気共鳴画像)による身体断面データから得た筋体積(MRI法)との相関性が高い機種が開発されている(フィジオン社,京都,http://www.physion.jp)9).筋年齢を補正するための指導は筋肉負荷トレーニングが中心になる.筋トレ・ダンベル体操はこれに含まれ,最近では加圧トレーニングが注目されている10,11).蛋白質およびアミノ酸は筋肉の重要な構成要素である.1日当たり適正量の蛋白質摂取が望ましい.目安は標準体重60kgで70~100g.摂取不足の際には食後2時間(例:午前10時,午後3時または就寝前)を目安にアミノ酸サプリメント(3~10g/日)を補うと,血中アミノ酸濃度が上昇して,筋肉・骨などの末?組織で有効利用される.眼球運動筋の筋力低下に対しても適切なアミノ酸補給は好影響をもたらす.III眼科医師の関わりと酸化ストレス眼科領域においても酸化ストレスが注目されはじめている.白内障においては,紫外線に曝露した際に眼球内の光増感物質によって生じる一重項酸素・スーパーオキシドラジカルなどの活性酸素やこれらにより二次的に生成される過酸化脂質が,水晶体の白濁に深く関わっている.日本人の大きな失明要因となっている加齢黄斑変性の発症と進展の過程でも活性酸素やフリーラジカルが関与し,抗酸化物質を主体とするサプリメントが疾患の進展予防に有効とされる.抗酸化能を発揮するために体内には抗酸化ネットワークが発達している12).抗酸化ネットワークにはさまざまな抗酸化物質が関与し,それらは予防型,フリーラジカル捕捉型,修復・再生型に分類される(図4).予防型抗酸化物質とは,スーパーオキシドディスムターゼ(SOD:superoxidedismutase)やグルタチオンペルオキシダーゼ,カタラーゼといったフリーラジカルを除去する働きのある抗酸化酵素群である.適度な有酸素運動は,運動時に生じる微量フリーラジカルの刺激に(16)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006????よってこれらの抗酸化酵素活性を高め,その効果は数日間持続する.結果として自己の抗酸化能が高まる.反対に高血糖状態ではSOD活性が抑制されるので抗酸化能は減弱する.フリーラジカル捕捉型抗酸化物質とは,フリーラジカルと反応して無毒化する作用を発揮しやすい成分である.ラジカルに対し電子を供給しやすく,それ自体は酸化されても無害であるいう一般的特徴をもつ.ビタミンA・C・E,コエンザイムQ10(ユビキノン),aリポ酸がその代表で,ほかにも食物中にはさまざまな抗酸化物質が含まれる.たとえばトマトのリコピン,ブルーベリーのアントシアニジン,緑茶のカテキン,サケのアスタキサンチン,ブドウ・小豆のポリフェノールである.修復・再生型抗酸化物質は酸化による組織障害を修復する作用を有する.DNAが損傷を受けるとDNA修復酵素によって修復されるが,DNA損傷は加齢とともに蓄積される.蛋白質の損傷にはプロテアーゼやトランスフェラーゼが,脂質損傷にはホスホリパーゼが関与する.細胞がフリーラジカルによる刺激を受けると,ホスホリパーゼが細胞膜のリン脂質に結合しているアラキドン酸を加水分解して,プロスタグランジン,トロンボキサン,ロイコトリエンなどの生理活性物質に変換する.これらのメディエーターは本来細胞の機能調節および修復に関与するが,破綻をきたすとさまざまな病態が惹起される.これらの抗酸化物質は体内で単独で作用しているのではなく,互いに補完しあっている.すなわち,一つの成分が減少しても他の物質でカバーし特定の反応産物が過剰にならずに,全体としてうまく機能を発揮するシステムである.たとえば,ビタミンEがラジカルと反応してビタミンEラジカルを生成すると,それが過剰にならないようコエンザイムQ10やビタミンCなど他の抗酸化物質によって速やかに還元される.しかし他の抗酸化物質が枯渇した状態ではビタミンEラジカル過剰となり,脂質ペルオキシルラジカルを介して連鎖的反応を起こし過酸化脂質が生成する.IV老化危険因子の評価酸化ストレス以外にも老化を促進させる危険因子として,免疫機能・心身ストレス・生活習慣・代謝機能(解毒を含む)をここにあげ,それぞれの検査方法を示した.1.免疫機能免疫機能の定量的評価マーカーは十分に確立されていない.DHEA-sは免疫機能と相関するといわれている.NK細胞活性は採血された血液の鮮度維持と煩雑さが問題となる.一般的に眼球周囲は涙液をはじめ強力な免疫システムに防御されている.2.酸化ストレス酸化ストレスは老化危険因子のなかで大きな位置を占め,抗酸化ネットワークの機能評価のためさまざまなバイオマーカーが提唱されている(図4)12).再現性・精度・データの蓄積の観点から8-OHdG(8-hydroxy-deoxyguanosine)・イソプラスタン尿中生成速度,血中過酸化脂質・ユビキノン(コエンザイムQ10)を基本指標とするのが良いと考えている.8-OHdGはDNA損傷を,イソプラスタンと過酸化脂質は脂質の酸化損傷を示すマーカーである.ユビキノンは酸化型と還元型の総血中濃度,酸化率(酸化型/酸化型+還元型)を評価する.詳細な検討のためには脂溶性抗酸化物質(ビタミンA・Eなど)・水溶性抗酸化物質(ビタミンCなど)・酸化前駆物質(Fe・コレステロールなど)についても評価する.これにより個々の結果に基づいた抗酸化物質の処方が可能となる.(17)(抗酸化ネットワーク)予防型フリーラジカル捕捉型修復・再生型SODカタラーゼペロキシダーゼ(酸化ストレスの評価)酸化前駆物質水溶性抗酸化物質脂溶性抗酸化物質遺伝子の傷害脂質の傷害コエンザイムQ10aリポ酸ビタミンAビタミンCビタミンEホスホリパーゼプロテアーゼトランスフェラーゼDNA修復酵素図4抗酸化ネットワークと酸化ストレスの評価———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006眼科クリニックで採血を実施するには抵抗もあるだろう.早朝第一尿の自宅での採取が可能なら,最終排尿時間,採取時間,尿量の情報と合わせて8-OHdG生成速度・イソプラスタン生成速度が測定できる(日本老化制御研究所,静岡,http://www.jaica.comにて測定可能).これらの酸化ストレス障害マーカーが高値の場合,①運動により抗酸化能を高める,②抗酸化物質の摂取といったフリーラジカル対策が必要である.3.心身ストレスコルチゾルとDHEA-s/コルチゾル比が心身ストレスのマーカーとして妥当であるか,抗加齢QOL共通問診票のどの項目と相関性があるか,現在検討中である.DHEA-s/コルチゾル比(同一単位のとき)が20以上となるよう指導している.加齢に伴いストレス抵抗性が脆弱化するメカニズムについてはすべて解明されたわけではないが,DHEA-sとコルチゾルのバランス(DHEA-s/コルチゾル比)が重要視されている.この比を改善させるためには,分母のストレス自体を減らすか,DHEAを補って分子を増やすか,どちらかである.ストレス対策としてダメージを受けたら,休養と睡眠によって十分にダメージから回復してからつぎのストレスに立ち向かうように指導する.ストレスの原因が既知の場合はできるだけ避ける.人間関係など精神的なストレスは自分だけで抱え込まずに家族・友人・同僚・医師に相談する.くよくよしたらまず歩く.ストレス負荷が大きくなると睡眠の質が低下し,ダメージからの回復が遅れるという悪循環に陥るのでこれを避ける.心身ストレスと眼科疾患の関連についてはあまり知られていない.アレルギーはストレスにより増強するのでアレルギー性結膜炎との関連はどうだろうか.4.生活習慣睡眠時間・飲酒量・喫煙量・運動量・水分摂取量・VDT作業時間が他の項目とどのような関連があるか興味深い.これらの項目は抗加齢QOL共通問診票に含まれる(http://www.yonei-labo.comよりダウンロード可能).抗加齢QOL共通問診票は,(NPO)日本抗加齢協会が推奨する問診票であり,人間ドック・企業における労働衛生管理(企業検診)・地域健診のみならず,サプリメント・健康食品・運動機器の臨床試験,スポーツ医学や東洋医学の分野で,広く内外にて使用されている.生活習慣と関連深い眼科疾患はドライアイ・仮性近視・糖尿病網膜症・網膜?離・眼底出血・飛蚊症・白内障・加齢黄斑変性など多岐にわたる.共通問診票を使用するだけでも眼から全身へ,全身から眼への診療のかけ橋となる.5.代謝機能代謝機能は,エネルギー・糖・脂質・蛋白質(アミノ酸)・毒物の代謝に関わる機能の総称である.代謝に関わるホルモンとしてインスリン・アディポネクチン・DHEA-s・甲状腺ホルモンがある.ホモシステインはアミノ酸の一種であるメチオニン代謝に関与し,また動脈硬化の危険因子でもある.毛髪中有害重金属(図5)13)は解毒機能の一つのマーカーである(らべるびぃ予防医学研究所,東京,http://www.lbv.jpにて測定可能).V眼科における老化度診断眼科においても水晶体の老化,網膜の老化,角膜の老化,涙腺分泌機能の老化,眼球運動機能の老化,虹彩の老化など老化の仕方には個人差がある.眼科のアンチエイジング,すなわちこれらの変化を早期に診断し,予防することは,発症後に治療を始めるよりも意義深い.眼科領域の老化度診断システムは慶應義塾大学医学部坪田一男教授を中心に現在研究開発中である.(18):男:女01,0002,0003,0004,0005,0006,0007,0008,0000~1516~1920~2930~3940~4950~5960~年齢(歳)Level(ppb)図5日本人の毛髪中水銀含有量(文献13より)———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006????文献1)米井嘉一:抗加齢医学入門.慶應義塾大学出版会,20042)YoneiY,MizunoY:Thehumandockoftomorrow─Annualhealthcheckupforanti-aging─.???????????19:5-8,20053)高沢謙二,会沢彰,喜納峰子ほか:加速度脈波による血管年齢の測定と臨床的有用性.臨牀と研究82:1032-1036,20054)VaitkeviciusPV,FlegJL,EngelJHetal:E?ectsofageandaerobiccapacityonarterialsti?nessinhealthyadults.???????????88:1456-1462,19935)加藤元一郎:前頭葉損傷における概念の形成と変換について─新修正WisconsinCardSortingTestを用いた検討─.慶應医学65:861-885,19886)伊藤光:アンチエイジングドック支援システムAgingCheck?の使用経験.モダンフィジシャン26:605-608,20067)服部淳彦:生体リズムを整える注目のホルモン脳内物質メラトニン.朝日出版社,1996(19)8)折茂肇,林泰史,福永仁夫ほか:原発性骨粗鬆症の診断基準.日本骨代謝学会誌18:76-82,20009)IshiguroN,KanehisaH,MiyataniMetal:Applicabilityofsegmentalbioelectricalimpedanceanalysisforpredictingtrunkskeletalmusclevolume.??????????????100:572-578,200610)井上浩一,佐藤義昭,石井直方:21世紀のスポーツ医学治療─加圧筋力トレーニング法のリハビリテーションへの応用─.日本臨床スポーツ医学会誌10:395-403,200211)YoneiY,MizunoY,TogariHetal:Muscularresistancetrainingusingappliedpressureanditse?ectsonthepro-motionofGHsecretion.????-??????????????????????1:13-27,2004(http://www.aofaam.org)12)内藤裕二:第3章エイジングの基礎3フリーラジカル.アンチエイジング医学─その理論と実践─(吉川敏一編),p46-49,診断と治療社,200613)YoneiY,MizunoY,KidoMetal:ResearchontoxicmetallevelsinscalphairoftheJapanese.????-??????????????????????2:11-20,2005(http://www.aofaam.org)

ステムセルはエイジングする

2006年10月30日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSあると考えられている.マウスでは,角膜上皮細胞を胎児皮膚実質のうえで器官培養すると,皮膚角化細胞に変わってしまう,という報告もある2).つまり,皮膚のニッチが角膜上皮細胞になんらかのシグナルを送り,角膜上皮細胞を皮膚角化細胞へと分化転換してしまったのである.ステムセルはこれほど周囲の環境に影響されて,分化の方向性を決める細胞であり,特に生体外で組織特異的な正常分化の方向性を維持するよう培養する際は,異常分化させないよう注意が必要である.生体外での培養は,異常分化させないように,あるいは未分化度を維持したまま増殖させるように,成長因子,器質などいろいろと工夫されて実験されているが,人工でニッチにどれだけ近い状況を再現できるか,が最も重要である.しかしこのニッチには,周囲の細胞との接触,液性因子などさまざまなものが関与していると推測され,まはじめにステムセル(stemcell)の定義でいうと,広義にはES細胞(胚性幹細胞)なども含んでしまうのだが,ES細胞はpluripotentcell(内胚葉,中胚葉,外胚葉の3系統すべてに分化する能力をもつ細胞)であり,アダルトステムセルとはまったく分化能が異なる.アダルトステムセルは遺伝子導入,あるいは特別な環境が与えられない限り,組織特異性をもっており,外胚葉系から内胚葉系の細胞に分化したりすることはない.本稿では,アダルトステムセルのことを以下,ステムセルと略す.ステムセルは,その自己再生能(セルフリニューアル),組織特異的分化能,増殖能により定義される.哺乳類の組織のほとんどにステムセルが存在すると考えられているが,組織間で恒常性や損傷治癒過程には大きく違いがあり,ステムセルの貢献度は大きく異なる.たとえば,皮膚上皮細胞,角膜上皮細胞,などは細胞のターンオーバーが早く,再生能力も高く,ステムセルの貢献度が大きいが,神経細胞は,通常の状態ではステムセルの恩恵にあずかることは少ない1)(図1).組織が損傷し,細胞増殖が必要となった場合など,ステムセルに,増殖せよという活性化信号の刺激が入ると,非対称分裂,すなわち一つのステムセルは,ステムセルと増殖能の高い娘細胞に分裂し,その増殖能の高い細胞は組織を修復するように分化していく.このステムセルの特異性(ステムネス)を維持するためには,その周囲の微小環境(ニッチ)が非常に重要で(9)????*TetsuyaKawakita:東京歯科大学市川総合病院眼科**ShigetoShimmura:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕川北哲也:〒272-8513市川市菅野5-11-13東京歯科大学市川総合病院眼科特集●眼科におけるアンチエイジング医学の流れあたらしい眼科23(10):1251~1254,2006ステムセルはエイジングする????????????????????川北哲也*榛村重人**高い細胞循環高い再生能力低い細胞循環高い再生能力低い細胞循環低い再生能力低高組織修復,再生においてステムセルがどれだけ貢献しているか血球肝臓膵臓心臓皮膚網膜腎臓脳神経骨格筋乳腺上皮腸管上皮血管内皮副腎皮質脊髄神経図1組織によるステムセル貢献度の違い(RandoTA:Nature441:1080,2006,Figure1より改変)———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006だ不明なことが多く,今後の研究が待たれる.Iステムセルのエイジングステムセルはその個体の生涯にわたり自己再生すると考えられている.ステムセルの存在する組織は,エイジングにより自己再生能力が低下し,修復,再生過程の低下をひき起こす.この組織再生能力の低下は,ステムセル自身のエイジングによるものなのか,ニッチのエイジングによる影響なのか,またそのほかの全身的影響によるものなのか,いろいろな場合が考えられる(図2).生体内では,ステムセルはその個体の生涯にわたり枯渇しないことがステムセルたる前提であり,生体内,細胞レベルで細胞老化を観察するのは,むずかしい(図3).ただ生体内でも,個体の寿命とステムセルの機能や供給により規定されることを示した報告はなく,生体外という特殊な環境で,1種類の細胞集団を単離し,その増殖を誘発させて枯渇させることにより細胞老化を観察することが多い.通常の細胞はテロメアにより分裂可能回数がはじめからプログラムされている.それは,長寿であるステムセルの数を少なく保つことにより,突然変異の発生確率を減らすという戦略を生体がとっているとも考えられる.そのステムセルの突然変異が重なることにより癌のステムセルが誘発されるという仮説もある3).自己複製能が高い癌細胞は,ステムセルと似通った点も多く,エイジングの過程で突然変異,環境因子などにより,組織特異的ステムセルから,癌が誘発されるとなると,ステムセルのエイジングをいかに抑制するかが,重要となってくる.IIステムセルのアンチエイジング今年,ROS(refractiveoxygenspecies)によりステムセルが枯渇していき,それを抗酸化物質によって防止することが可能であったことを,ItoらがNatureMedi-cine誌に報告している4).エイジングの大きな要因として酸化ストレスは注目されているので,ステムセルとエイジングを関連づけた論文としてインパクトのある報告である.この報告によると,活性酸素種がステムセルの増殖を制御するメカニズムに迫っている.???(ataxiatelangiectasiamutated)遺伝子の欠損モデル,あるいはエイジングモデルのマウスでは,血液のステムセル中の(10)外環境全身的環境組織ニッチステムセル図2ステムセルの環境エイジング活性酸素種の増加p38MAPKの活性化???ノックアウトマウス環境要因遺伝子的ストレス正常なステムセル正常な血球分化増殖ステムセルの枯渇骨髄不全ステムセル図4活性酸素とステムセルのエイジングステムセルニッチ/サポート細胞組織損傷組織局所的な活性化シグナル未熟細胞の産生ステムセル自身のエイジングニッチのエイジング全身環境のエイジング若年時エイジング図3ステムセルの機能的エイジングの仮説———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006????活性酸素レベルが高かった.この高いレベルの活性酸素はp38MAPK(mitogen-activatedproteinkinase)のシグナリングを活性化させ,血液のステムセルを増殖させるサイクルに働く.このサイクルが過剰に働くと,血液のステムセルが枯渇するという結論を招き,臨床像としては骨髄不全を呈することとなる(図4).もちろんこれがステムセルのエイジングのメカニズムのすべてとは考えられないが,活性酸素とステムセルのエイジングを関連づけた最初の論文としての意義は大きく,今後のこの分野は大きく発展すると期待する.III眼のステムセルとエイジングステムセル研究は骨髄で最も進んでおり,骨髄ステムセルを用いたエイジングの研究が最近盛んに行われるようになった.しかし,残念ながら眼科領域におけるステムセルとエイジングの研究はまだ皆無といってよい.角膜,網膜などでステムセル研究が進まないのは,まだステムセルそのものがはっきりと同定されていないためである.したがって,ステムセルのエイジングの定義が曖昧であることと,眼球組織でのステムセルの存在そのものもはっきりしていないため,現状ではまだspecula-tionすることしかできない.眼科領域でステムセルの生物学的な特性がある程度わかっているのは,角膜輪部に存在する角膜上皮ステムセルである.また,筆者らは角膜実質に多分可能をもつ神経堤由来のステムセルが存在することをマウス角膜で報告した5).そのほかにも,網膜周辺部に神経網膜のステムセル,あるいは,線維柱帯付近に角膜内皮細胞の前駆細胞が存在することを示唆する報告もある.しかし,同じステムセルであっても,角膜上皮のように頻繁にターンオーバーする細胞と,基本的に細胞分裂はせずに一生涯にわたって生き続ける角膜内皮細胞や,神経網膜細胞とでは生物学的な特性が違う.細胞分裂しない組織にとっては,個々の細胞の老化がそのまま組織の老化を反映する可能性がある.一方で,ターンオーバーが活発な組織では,個々の細胞は数日から数週間でアポトーシスによって排除されることから,一つの細胞がエイジングすることと,個体のエイジングは関係ない.このような組織では,ステムセルのエイジングが組織全体のエイジングを規定している可能性がある.しかし,エイジングの定義がもう少し定まるまでは,混乱が続くであろう.角膜上皮のようにターンオーバーが活発な眼組織でステムセルがエイジングを起こすと,どのような現象が現れるのか?理論的には徐々に輪部機能が低下し,角膜周辺に血管を伴う結膜侵入を認めると考えられる.ところが高齢社会となった今でも,加齢が原因と思われる突発的な輪部機能不全は報告されていない.全身の組織が加齢する時間の総和が,個体としての寿命を上回るのか?疾病を罹患しない限り,寿命を全うしてもあまりある予備力がステムセルや細胞に備わっているのか?確かに,高齢者のドナーであっても,角膜内皮密度が十分であれば角膜移植が可能であり,実際に数十年と機能し続けるドナー角膜も存在する.細胞分裂をしない細胞は,環境が整っている限り永続的に存在し続けるのであれば,組織や臓器の抗加齢研究に道が拓けてくるかもしれない.一方で個体が元気であっても,疾病などによって諸臓器に障害をきたすことは避けられない.角膜を例にとると,内皮細胞の過度の減少は水疱性角膜症をきたす.発病から長期間放置された水疱性角膜症は,徐々に輪部から血管侵入が進行して,一種の輪部機能不全状態に陥る6)(図5).二次的に角膜上皮ステムセルが枯渇してしまうのは,上皮のターンオーバーが異常に更新したことによってステムセルが機能不全になることが考えられる.これは果たしてステムセルのエイジングなのか?(11)図5白内障術後の水疱性角膜症水疱性角膜症は長期経過すると輪部機能不全をきたす.———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006通常は一定数のquiescentstemcellを維持しなければ維持できない組織の恒常性が,炎症や創傷治癒機転が働くことで維持できなくなる可能性がある.すでに骨髄ステムセルの研究では,酸化ストレスによってステムセルのquiescenceが維持できないことが知られている4).酸化ストレスモデルマウスを用いた研究で,骨髄移植をくり返し行うことができる回数が制限されることが報告されている4).これらの現象に関与している細胞内シグナル伝達機構も徐々に明らかになっており,quiescenceの維持と,加齢,さらには発癌のメカニズムが密接に絡んでいることがわかってきた.眼表面のステムセルはどのようにquiescentに維持されているのか?角膜ほど紫外線や高酸素に曝露されている組織はない.そこで一生涯にわたって存在し続けなければならない角膜上皮ステムセルはいかに過酷な環境に存在しているかがわかる.角膜上皮ステムセルのニッチについてはまだあまり知られていないが,メラノサイトの密度が多いことが光酸化に対する防御メカニズムの一つであることが推測されている7)(図6).また,大気中にある酸素の影響を最小限にとどめるメカニズムが存在することも予想される.ニッチが何らかの要因によって破壊されると,ステムセルはquiescentでいられなくなる可能性がある.角膜実質は上皮と異なり,活発にターンオーバーしているとは考えられていない.ただ,創傷治癒が働くと実質細胞(keratocyte)のアポトーシスや線維芽細胞への活性化などがみられ,非常事態としてステムセルの活性化が起こっている可能性はある.しかし,keratocyteのステムセルについてはまだまだ不明な点が多く,今後の研究成果が待たれる.おわりに従来の研究方法に加わって,近年になってさまざまな網羅的解析法が盛んに用いられるようになった.加齢のような複雑な現象を研究することも可能な時代になってきており,今後の展開によっては加齢の概念が大きく変わることが予想される.加齢はまず眼から感じる人が多いと言われており,加齢プロセスを緩和できれば,老後のqualityoflifeの向上に結びつくことは間違いない.今後の加齢とステムセルの研究に期待したい.文献1)RandoTA:Stemcells,ageingandthequestforimmor-tality.??????441:1080-1086,20062)PeartonDJ,YangY,DhouaillyD:Transdi?erentiationofcornealepitheliumintoepidermisoccursbymeansofamultistepprocesstriggeredbydermaldevelopmentalsig-nals.??????????????????????102:3714-3719,20053)ClarkeMF,FullerM:Stemcellsandcancer:twofacesofeve.????124:1111-1115,20064)ItoK,HiraoA,AraiFetal:Reactiveoxygenspeciesactthroughp38MAPKtolimitthelifespanofhematopoieticstemcells.???????12:446-451,20065)YoshidaS,ShimmuraS,NagoshiNetal:Isolationofmul-tipotentneuralcrest-derivedstemcellsfromtheadultmousecornea.??????????,2006(inpress)6)UchinoY,GotoE,TakanoYetal:Long-standingbullouskeratopathyisassociatedwithperipheralconjunctivaliza-tionandlimbalde?ciency.?????????????113:1098-1101,20067)HigaK,ShimmuraS,MiyashitaHetal:MelanocytesinthecorneallimbusinteractwithK19-positivebasalepi-thelialcells.???????????81:218-223,2005(12)図6ドナー角膜輪部角膜輪部のニッチにはメラニン色素が豊富にみられ,それを産生するメラノサイトもニッチの構成要素の一つと考えられる.

フリーラジカルとアンチエイジング医学

2006年10月30日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSニズム」はある生物や臓器・器官のみに当てはまるメカニズムである.「共通メカニズム」のなかで確信がありそうなのはフリーラジカル(活性酸素)のみであるとMartinらは述べている.個々の寿命は活性酸素の発生量とそれに対する防御機構の能力とのバランスにより決定されている可能性がある.興味あることに,この活性酸素を老化仮説の中心に考えると,他の多くの仮説がそこに関連づけられてしまう(図1)2).細胞内で発生する活性酸素のおよそ90%がエネルギー代謝の過程で電子伝達系から発生し,その量は総酸素消費量の0.1~2%になると考えられている3,4).電子伝達系は80以上のサブユニットからなり,それを構築するための遺伝子が100以上も必要となる.複合体Iは40以上ものサブユニットからなり,唯一,立体構造がはじめに「アンチエイジング(抗老化)」はヒトの心身ともに健康な長寿の実現を目指すものであるが,老化をひき起こすメカニズムを明らかにしないかぎり,科学的根拠に乏しい勘や経験によって抗老化の方法を模索せざるをえない.しかし老化は長くて複雑な過程を経るために,そのメカニズムはいまだに未解明で,そのためこれまで多くの老化仮説が考えられてきた(表1).これらの仮説はどれも魅力的なものであるが,すべての生物や臓器・器官の老化に当てはめることはむずかしかった.そのなかでMartinらは,1996年のNatureGenetics誌のなかで,老化のメカニズムを「共通メカニズム」と「個別メカニズム」に分けて考えることを提唱した1).「共通メカニズム」はこれまで考えられてきた,すべての生物や臓器・器官に当てはまる老化のメカニズムであり,「個別メカ(3)????*NaoakiIshii:東海大学医学部基礎医学系分子生命科学〔別刷請求先〕石井直明:〒259-1193伊勢原市望星台東海大学医学部基礎医学系分子生命科学特集●眼科におけるアンチエイジング医学の流れあたらしい眼科23(10):1245~1250,2006フリーラジカルとアンチエイジング医学??????????????????????-??????????????石井直明*表1さまざまな老化の仮説個体レベル神経内分泌説ストレス説免疫説細胞機能レベル体細胞分裂寿命限界説遺伝子機能レベルプログラム説体細胞突然変異説遺伝子翻訳エラー説分子レベル老廃物蓄積説高分子架橋説フリーラジカル説DNA傷害説分子から個体へエラーカタストロフ説ホルモン神経エネルギー代謝(酸素消費)細胞傷害DNA傷害修復機構代謝速度の調節(神経内分泌説)遺伝子による代謝速度の決定(プログラム説)ストレス説フリーラジカル説老化体細胞突然変異説遺伝子翻訳エラー説老廃物蓄積説DNA傷害説エラーカタストロフ説活性酸素抗酸化機構図1酸素が関わる老化説〔石井直明:分子レベルで見る老化.講談社ブルーバックスより転載〕———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006解明されていない大きな複合体である.複合体Iは少なくとも1つのFMN(?avinmono-nucleotide)と8つの硫酸鉄をもち,これらの個所から活性酸素が発生すると考えられている.複合体IあるいはIIから電子が複合体IIIに渡される.複合体IIIのなかではユビセミキノンが自動酸化されるときに酸素に電子が渡されることで活性酸素が発生すると考えられている(図2).電子が複合体IIIからIVと渡り,ATP(アデノシン三リン酸)は最終段階の複合体Vで合成される.酸素を一番消費するのは,電子伝達系の終末酵素であるシトクローム?オキシダーゼであるので,ここから多量の活性酸素が発生しても不思議ではないが,その証拠は得られていない.活性酸素はエネルギー代謝の副産物としてミトコンドリアから発生する以外にも,HAD(P)Hオキシダーゼやキサンチンオキシダーゼなどの生体酵素反応から,また放射線やタバコなどの外的要因からも発生する.活性酸素は細胞傷害や細胞死(アポトーシス)を起こし,それによって老化や老年性疾患が生じ,さらに傷害が遺伝子に及べば癌化が生じることが分子遺伝学的な基礎研究から明らかになってきた.I活性酸素と老化1960年から70年代にかけて行われた若い動物(細胞)と老いた動物(細胞),あるいは寿命の異なる動物間の比較研究のなかから,生物学的な老化のメカニズム解明に重要なヒントを与えてくれたものがある.一つは,体重の大きい動物(体重の重い動物)ほど長生きする傾向があることが明らかになった.さらに,体重の大きい動物ほどエネルギー代謝が低い傾向がある5).つまり,エネルギー代謝が低い動物ほど寿命が長いことになる.このようなデータは,寿命決定の遺伝子とエネルギー代謝の関係を明らかにした最近の分子遺伝学的な研究結果をすでに暗示していたことになる.線虫の一種,??????????????????????(??????????)の長寿突然変異体の???-?や???-?の遺伝子解析から明らかになったインスリン様シグナル伝達系はこのエネルギー代謝を制御している.現在では,インスリン様シグナル伝達系を介した寿命制御のメカニズムは??????????のみならず,ショウジョウバエ,マウス,ヒトと,多くの生物に共通であると考えられるようになってきた6).(4)複合体I複合体IV複合体V複合体III複合体IIコエンザイムQ電子ATP,熱O2O2-H2O2H2OSODカタラーゼGPxOH?Fe3+(エネルギー産生)(活性酸素産生)NADHNAD+FADFADH2電子活性酸素種O2-:スーパーオキシドOH?:ヒドロキシルラジカルH2O2:過酸化水素図2ミトコンドリア電子伝達系と活性酸素■用語解説■線虫,??????????線虫は種の数,生息数ともに他の生物を圧倒するほど多く,ヒトに寄生する回虫や,カミキリムシを媒体として松を枯らすマツノザイ・センチュウなど,その多くは寄生性であり特定の宿主の中で生息している.??????????は非寄生性の線虫であり,細菌を餌にして地中で自活している.体長1mmあまりの虫であるが,表皮,神経,筋肉,消化器官,生殖器官という動物に必要最小限の体制をもつ.SydneyBrennerが遺伝子のレベルで行動のメカニズムを解明するために開発したモデル動物であり,さまざまな突然変異体を分離され,分子遺伝学的手法が確立されている.多細胞動物で初めてゲノムの全塩基配列(約1億塩基対)が決定されている.??????????の成虫は,たった959個の体細胞から成り立っており,JohnsSulstonは,受精から成虫に至るまでのすべての細胞の分裂様式や運命を記述した細胞系統樹を完成させた.これは他の動物と比べて細胞数が少ない??????????でのみ可能な偉業であり,世界中で賞賛された.線虫の発生分化の段階ではプログラムされた細胞死が現れるが,BobHorvitzはそのメカニズムを遺伝子のレベルで解明し,ヒトを含むさまざまなアポトーシスのメカニズムの解明に先駆者的な役割を果たした.この3人はこれらの業績により2002年のノーベル医学生理学賞を受賞している.??????????は約1カ月の短い最長寿命をもつことから,老化の研究にも盛んに使われるようになった.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006????さらにもう一つの長寿突然変異体,???-?の原因遺伝子産物は電子伝達系に必要な酵素であり,エネルギー代謝に関与している7).興味あることに,これらの遺伝子の突然変異体はエネルギー代謝に関係することに加えて,酸素に耐性を示す.エネルギー代謝は,解糖系から,TCA(トリカルボン酸)サイクル,電子伝達系を介して,体温維持のための熱や,生体内の化学エネルギーであるATPを作りだす生化学反応である.多くの生物はこの反応のなかで酸素を必要とする.体内に取り込まれた酸素の多くはエネルギー代謝の最終反応で無害な水となるが,一部が無差別に細胞構成生物に傷害を与える活性酸素に変化する.生体内で生じる活性酸素の約90%は,このエネルギー代謝の副産物としてミトコンドリアに存在する電子伝達系から発生する.エネルギー代謝が高くなれば,活性酸素の発生量が増加する.これが,エネルギー代謝が高い動物ほど寿命が短くなることや,男性ホルモンによりエネルギー代謝が高い雄のほうが雌よりも寿命が短くなる一因になっていると考えられる.筆者らは複合体IIのサブユニットの一つである,シトクローム?大サブユニット(CYT-1)に欠損が生じた??????????の突然変異体(???-?)を分離した8~10).この変異は複合体IIから活性酸素の過剰産生をひき起こし11),その結果,大気中でも野生株に比べて短命で,酸素濃度に依存して寿命の短縮がみられ,さらにミトコンドリアの形態異常,老化のマーカーとして知られるリポフスチン(老人斑)や酸化蛋白質の早期蓄積などの早老症の兆候を示すようになる12,13).さらに,???-?の胚では正常な発生・分化とは無関係な野生株にはみられない細胞死も多数生じる14).??????????ではある細胞が胚発生期にアポトーシス(線虫では「プログラムされた細胞死」と定義)を起こし,それが個体の発生・分化に重要な役割を担っていることが知られている.アポトーシスには実行因子である???-?(カスペース3)が必要となり,これが欠損するとアポトーシスは起こらなくなる.???-????-?の二重突然変異体では,細胞死がまったくみられなくなることから,???-?に生じる過剰な細胞死も線虫がもつプログラムされた細胞死の経路が必要になる.???-????-?の平均寿命は???-?単独の寿命より長く,野生株よりも短い14).これは細胞死が寿命短縮に少なからず寄与していることがわかる.これらの結果から,加齢とともに電子伝達系に傷害が蓄積すれば,活性酸素が複合体IやIII以外からも発生するようになり,老化が加速されることを示唆している.線虫の???-?遺伝子に相当するSDHC遺伝子に???-?と同様の変異をもつマウスのNIH3T3培養細胞でも,ミトコンドリアから活性酸素が過剰に産生されるようになる15).その結果,ミトコンドリアの形態変化や膜電位の低下,酸化蛋白質の蓄積,核のDNA中のoxo8dG(8-oxo-2¢-deoxyguanosine)蓄積量と突然変異頻度の増加が起こる15).培養を続けるうちに,細胞はアポトーシスを生じるようになり,増殖速度が低下する.しかし培養をさらに続けると,アポトーシスを逃れた細胞が形質転換を生じ,増殖能力が復帰する15).これらの細胞をヌードマウス皮下に移植すると,アポトーシスを盛んに起こしている時期の細胞は短時間で貪食されるが,形質転換を生じた細胞を移植すると腫瘍を形成するようになる15).この現象は,個々の細胞の機能低下やアポトーシスにより生じる「老化」と,核DNAの遺伝子変異により生じる「癌化」が,活性酸素の傷害を起因とした同じ過程のなかで生じることを示した初めての例である(図3).家族性傍神経節腫(パラガングリオーマ)の患者に複合体IIのSDHCやSDHDサブユニットの遺伝子変異が見いだされたことから16),最近では,これらの遺伝子(5)図3ミトコンドリアが関わる老化や疾患のメカニズムエネルギー代謝細胞・遺伝子傷害細胞機能の低下器官・臓器の機能低下個体老化・疾患癌細胞の出現アポトーシス癌ミトコンドリア活性酸素———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006は腫瘍抑制遺伝子と定義されている17).TCAサイクルや電子伝達系を含む細胞小器官であるミトコンドリアは,エネルギー産生と,その過程の副産物である活性酸素を発生させ,さらにアポトーシスも制御しており,老化の鍵を握っているといっても過言ではない.とはいえ,エネルギー代謝・活性酸素と老化との関係には,一つの矛盾がある.活性酸素はエネルギー代謝の副産物としてミトコンドリアから産生されるため,エネルギー代謝が活発になれば,当然,活性酸素の発生量も増えることになる.活性酸素はあらゆる細胞内の分子を攻撃するので,これを産生するミトコンドリア自身にも傷害を与える.その結果,ミトコンドリアの機能低下が生じてエネルギー代謝が低下することになる.エネルギー代謝が低下すれば活性酸素の産生量が低下するはずである.これが正しければ,加齢とともに活性酸素の発生量は低下することになり,ミトコンドリアへの傷害は減少するはずである.現に??????????の実験で,ミトコンドリア電子伝達系の複合体のサブユニットをコードする遺伝子の発現を抑制すると,寿命が延長することが報告されている18,19).これらの遺伝子発現の抑制はエネルギー代謝の低下を招くことから,寿命延長効果は産生する活性酸素の量が低下するためと考えられている.しかし,前述したように,筆者らの研究では電子伝達系の傷害は活性酸素の過剰産生をひき起こし,??????????を短命にする.これは電子伝達系の複合体の傷害が電子の正常な流れを妨げ,電子伝達経路の先に進めなくなった電子がその場から逸脱し,近傍の酸素と反応して活性酸素を生じるためと考えられる.筆者らは最近,活性酸素の発生量は加齢で変化しないことを突き止めている20).これは,老化によるミトコンドリア傷害は活性酸素の産生量に影響を与えることはないためと考えられるが,ミトコンドリアの傷害により電子伝達系のなかで活性酸素量が増える個所と減少する個所が存在するために,総発生量としては変化が表れてこないことが原因であるとも考えられる.II活性酸素と老年性疾患活性酸素は老化のみならず,前述した癌をはじめ,加齢とともに増加するさまざまな疾患にも関与している(表2).最近は過食,運動不足によって内臓脂肪が蓄積し,メタボリックシンドロームとよばれる,高血圧症,高脂血症(コレステロールやトリグリセライドの高値),糖尿病(インスリン抵抗性)など複数の生活習慣病を合併する人が増えている.これらの病気はお互いが密接な関係をもって発生しており,多く合併するほど動脈硬化を促進して脳梗塞や心筋梗塞などを起こしやすくなる.動脈硬化には活性酸素が深く関与している.コレステロールの輸送に関わる低比重リポ蛋白質(LDL)は血中から血管の内皮細胞下に侵入すると,内皮細胞や平滑筋細胞で作られた活性酸素によって酸化LDLに変化する.一方,内皮細胞下に侵入したマクロファージは酸化LDLに結合する受容体をもつために,これを介して酸化LDLを取り込む.すると酸化LDLからコレステロールが切り離され,マクロファージ内に蓄積するようになる.この過程でマクロファージは泡沫細胞を形成する.この泡沫細胞が血管内膜に蓄積し,そこにリンパ球や血小板が集まってくる.血小板からは血小板由来増殖因子(PDGF)が放出され,これが平滑筋細胞の増殖を招くことで,血管の柔軟性が失われたり,血管の内腔が狭められたりしていく.このような経過により生じる,高齢者の大動脈にみられるアテローム性動脈硬化症に活性酸素がトリガーの役目を果たしている.最近,筆者らは電子伝達系複合体サブユニットであるSDHCの変異遺伝子を導入した遺伝子組換えマウス(トランスジェニック・マウス)の作製に成功した(未発表).この変異マウスは,同様の変異をもつ線虫や培養細胞と同様にミトコンドリアから活性酸素が過剰に産生(6)表2活性酸素が関与する傷害や疾患炎症リウマチ関節炎,高尿酸血症,熱傷癌癌の発生,癌の増殖,癌の転移神経Alzheimer病,Parkinson病,家族性筋萎縮性側索硬化症組織・臓器動脈硬化,潰瘍,糖尿病,白内障,加齢黄斑変性症,虚血,膵炎(鈴木?之:老化の原点をさぐる.裳華房,谷口直之,淀井淳司:酸化ストレス・レドックス.共立出版より改変)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006????され,さらに視力の低下といった老人性の疾患が野生型に比べて早期に認められるようになった.これにより,このマウスが生体内酸化ストレスを原因とする老化や老人性疾患のモデル動物として,老化の基礎研究のみならず臨床研究にも応用され,老化および老人性疾患の発症機構の解明から治療や予防まで幅広い分野で貢献することが期待される.III活性酸素とアンチエイジング実験動物で長寿を実現させる最も簡単な方法が,「腹八分目」,つまりカロリー制限である.これは単細胞から霊長類のサルまで,実験に使用した生物すべてに当てはまる.このメカニズムはいまだに不明であるが,カロリー制限という一種の飢餓状態を細胞が感知し,そのシグナルが抗酸化や免疫などの生体防御能力を高めることが一つの理由にあげられている21).活性酸素は細胞毒性が強いため,生物はそれに対する防御機構を進化させてきた.これらのなかには活性酸素を除去するスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)カタラーゼ,グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)などの酵素や,ビタミンCやEなどの低分子物質などが知られており,寿命が長い動物ほど,これらの酵素や低分子物質を多くもつことが知られている.??????????のインスリン様シグナル伝達系の下流では???-??(ヒトではHOXO)とよばれる転写因子が発生,老化,抗酸化にかかわる遺伝子を制御していると考えられ6),マンガン-SODの発現量が長寿突然変異体である???-?で上昇していることが知られている22).最近は,適度な運動が活性酸素に対する防御機構の能力を上げると考えられるようになった.これは運動によるエネルギー代謝亢進で発生する活性酸素の適応応答(ホルミシス効果)である可能性がある23).ホルミシスとは,これは軽度な傷害が防御機構をより強くし,大きな傷害に備えるような適応応答とよばれる現象である.ホルミシスは最初に放射線傷害から発見されたが,電離放射線による傷害の原因の90%が,放射線が水と反応して生じた活性酸素によるものであることや,あらかじめ酸素ストレスをかけた??????????が放射線に耐性を示すことから,ホルミシスの本来の役割は活性酸素に対する生体防御機構と考えられる.つまり,活性酸素は細胞構成成分に傷害を与える一方で,細胞伝達のシグナルとして発生や癌化の過程に関与すると同時に,活性酸素のシグナルが活性酸素に対する防御機構の活性化にも働いている.老化の促進や老年性疾患を防ぐには,活性酸素を必要のない場所で過剰に発生させず,一方で栄養や運動で抗酸化能力を高めることが必要になる.おわりに老化の研究者は,誰にでも生じる「生理的老化」以外に,誰にでも生じるわけではないが,加齢とともに増える疾患を「病的老化」として考えている.生理的老化による死亡は老衰であるが,これは総死亡数の3%にすぎない.多くの人たちは老化でなく,病的老化で亡くなるために100歳まで行き着かない.日本人の総死亡数の60%が脳と心臓の血管傷害と癌の疾患であり,これらの病的老化による疾患を克服すれば,「平均寿命」は今よりもさらに延びることになる.最近の研究から,活性酸素は生理的老化のみならず,病的老化にも密接に関与していることが明らかになってきた.生体内の活性酸素を制することは,寿命や老化を制することといっても過言ではないかもしれない.分子遺伝学にもとづいた老化のメカニズムの研究は,確かなヒトの健康的な長寿実現の方法を見いだしてくれるに違いない.文献1)MartinGM,AustadSN,JohnsonTE:Geneticanalysisofageing:Roleofoxidativedamageandenvironmentalstresses.?????????13:25-34,19962)石井直明:分子レベルで見る老化.講談社,20013)NichollsP,ChanceB:MolecularMechanisminOxygenActivation(edbyHayaishiO),p479-534,Academic,NewYork,19744)ImlayJA,FridovichI:Assayofthemetabolicsuperoxideproductionin????????????????.???????????283:6957-6965,19915)鈴木?之:老化の原点を探る.裳華房,19886)KenyonC:Theplasticityofaging:Insightfromlong-livedmutants(Review).????120:449-460,20057)StenmarkP,GrunlerJ,MattssonJetal:Anewmemberofthefamilyofdi-ioncarboxylateproteins.Coq7(???-?),amembrane-boundhydroxylaseinvolvedinubiquinonebiosynthesis.???????????276:33297-33300,2001(7)———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.23,No.10,20068)IshiiN,TakahashiK,TomitaSetal:Amethylviologen-sensitivemutantofthenematode??????????????????????.???????237:165-171,19909)HondaS,IshiiN,SuzukiKetal:Oxygen-dependentper-turbationoflifespanandagingrateinthenematode.????????:???????48:57-61,199310)IshiiN,FujiiM,HartmenPSetal:Amutationinsucci-natedehydrogenasecytochrome?causesoxidativestressandageinginnematodes.??????394:694-697,199811)Senoo-MatsudaN,YasudaK,TsudaMetal:Adefectinthecytochrome?largesubunitincomplexIIcausesbothsuperoxideanionoverproductionandabnormalenergymetabolismin??????????????????????.???????????276:41553-41558,200112)HosokawaH,IshiiN,IshidaHetal:Rapidaccumulationof?uorescentmaterialwithaginginanoxygen-sensitivemutant???-?of??????????????????????.???????????????????74:161-170,199413)AdachiH,FujiwaraY,IshiiN:E?ectsofoxygenonpro-teincarbonylandagingin??????????????????????mutantswithlong(???-?)andshort(???-?)lifespan.????????:???????53A:240-244,199814)Senoo-MatsudaN,HartmanPS,AkatsukaA:AcomplexIIdefectsmitochondrialstructure,leadingto???-?-and???-?-dependentapoptosisandaging.???????????278:22031-22036,200315)IshiiT,YasudaK,AkatsukaAetal:Amutationinthe????geneofcomplexIIincreasedoxidativestress,resultinginapoptosisandtumorigenesis.???????65:203-209,200516)NiemannS,MullerU:MutationsinSDHCcauseautoso-maldominantparaganglioma,type3.?????????26:268-270,200017)GottliebE,TomlinsonPM:Mitochondrialtumorsuppres-sors:Ageneticandbiochemicalupdate.???????????5:857-866,200518)DillinA,HsuA-L,Arantes-OliveiraNetal:Ratesofbehaviorandagingspeci?cbymitochondrialfunctiondur-ingdevelopment.???????298:2398-24011,200219)LeeSS,LeeRYN,FraserAGetal:AsystematicRNAiscreeningidenti?esacriticalroleformitochondriain??????????longevity.?????????33:40-48,200320)YasudaK,IshiiT,SudaHetal:Age-relatedchangesofmitochondrialstructureandfunctionin??????????????????????.???????????????????(inpress)21)GuarenteL,PicardF:Calorierestriction─the????con-nection.????120:473-482,200522)HondaY,HondaS:The???-?genenetworkforhongevi-tyregulateoxidativestressresistanceandMn-SODsuperoxidedismutasegeneexpressionin??????????????????????.???????13:1385-1393,199923)RadakZ,ChungHY,GotoS:Exciseandhormesis:oxida-tivestress-relatedadaptationforsuccessfulaging.???????????????6:71-75,2005(8)

序説:眼科におけるアンチエイジング医学の流れ

2006年10月30日 月曜日

———————————————————————-Page1(1)????昨年本誌(Vol.22,No.4)で“眼科医のためのアンチエイジング医学”を特集したが,今回はその続編を企画した.アンチエイジング医学は日本でもここにきて急激に社会の関心が高まり,積極的なアプローチがなされようとしている.アンチエイジング医学の研究母体である日本抗加齢医学会も会員数が5,000名を超え,専門医,指導師の認定システムも稼動している.本年5月に行われた第6回日本抗加齢医学会総会は慶應義塾大学医学部眼科学教室が担当させていただいたが,参加人数が2,000名を超えた大きな学術集会へと成長した.6年前に20名ほどの有志と研究会を始めたことを考えると,いかにこの領域に関心が集まっているかがわかる.眼科領域においても,2005年より“眼抗加齢医学研究会”が発足し,すでに2回の研究会を開催している.従来の医学が疾病に対応する医学だったこととは視点を異にして,アンチエイジング医学は疾病の発症以前にエイジングに介入して罹患確率を下げようとする画期的な医学である.眼科領域でも,白内障,緑内障,加齢黄斑変性,老視,ドライアイなど,加齢と直接的に結びついたものも多く,エイジングに介入することは眼科疾患の予防に役立つことは間違いない.アンチエイジング医学がこれほど注目されている背景には,加齢の生物学的メカニズムの解明が進んでいることがあげられる.現在最も注目されている加齢に関する仮説は“フリーラジカルエイジング”とよばれるもので,1956年にネブラスカ大学のハーマン教授が提唱したものである.酸化ストレスによってわれわれの身体の構成成分である蛋白質,脂質,DNAが障害を受けるという理論である.この理論については,今回,東海大学の石井直明教授に解説をお願いした.この理論に基づいて加齢に介入することを考えると,サプリメント,食べ物による抗酸化物質の摂取が必要ということになる.食べ物について今回は名古屋大学の大澤俊彦教授に解説をお願いした.たくさんの食べ物が単なる栄養ばかりでなく抗酸化物質として作用していることがわかるだろう.酸化ストレスは従来,非特異的に組織障害を起こすと考えられてきた.しかし近年になって,酸化ストレスはp38MAPKなどの特異的な経路を介して,細胞,特にステムセルに影響を与えることがわかってきており,大変注目を集めている.ご存知のようにステムセルは再生医療において最も大切な細胞群である.この興味ある関連については,東京歯科大学の川北哲也先生と慶應義塾大学の榛村重人先生にレビューをお願いした.2005年に日本におけるメタボリックシンドロームの診断基準が定められ,2006年になってなんと1,600万人以上がメタボリックシンドローム予備軍だということが判明し,社会的にも大きな問題になっている.IGF(insulin-likegrowthfactor)パスウェイからインスリンシグナルは寿命と非常に大き0910-1810/06/\100/頁/JCLS*KazuoTsubota:慶應義塾大学医学部眼科学教室●序説あたらしい眼科23(10):1243-1244,2006眼科におけるアンチエイジング医学の流れ????-??????????????????????????????????????坪田一男*———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006な関連があることがわかり,今研究者の間では摂取カロリーを65~70%程度に抑えるカロリックリストリクション(caloricrestriction:CR)がさまざまな生物の寿命を延長させるとして注目されている.この観点からエイジングをみると,まさにメタボリックシンドロームはエイジングを加速する状態ととらえることもできる.この状態を“メタボエイジング”とよぶことを提唱している慶應義塾大学の伊藤裕教授に,今回はメタボリックシンドロームとエイジングの関連について解説をお願いした.また,従来から加齢によって癌や肺炎の発症率が高まることが知られているが,これらは免疫能の低下によると考えられている.加齢による免疫の変化について,慶應義塾大学の羽室淳爾教授に最近の視点をとりいれながら概説をお願いした.これらのアンチエイジング医学の基礎を踏まえ,現在どのような検査を行い,どのような介入を行っているのか,同志社大学の米井嘉一教授と高橋洋子先生にアンチエイジング医学の検査項目について解説をお願いした.これらの貴重な6編の総説をお読みいただいて,2006年現在のアンチエイジング医学の流れについてご理解いただければ幸いである.アンチエイジング医学は予防医学の一端として,これから急激に変化する日本の医療の中心的な課題となるテーマといえる.病気になったら治療するという基本戦略では,すでに日本の医療費が32兆円にも達し,これ以上の上昇は許されない.病気にならないための予防医学を積極的に導入することを,日本の医療システムとしても早急に考えなければならない時期にきていると思う.特に眼科領域においては,高齢者の失明を予防する感覚器医学としてのチャレンジは大きい.さらには,コンタクトレンズ,LASIK(laser???????keratomileusis)など,屈折矯正によるqualityofvisionの追求の領域においても,アンチエイジング医学的アプローチの重要性はさらに高まってくると考えられる.今後もますます目の離せない領域であることを確信している.(2)

ブックレビュー「コンタクトレンズ眼障害 ひと目でわかるトラブルシューティング」

2006年9月30日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS日本眼科医会の「コンタクトレンズによる眼障害アンケート調査」結果によると,コンタクトレンズ(CL)眼障害者は全国で1年間に約150万件と推定されている.CL装用人口が約1,500万人であることから,CL装用者の10人に1人の割合で眼障害が発生していると考えられる.そのため,眼科医はCLを扱っていようがいまいが,CLによる眼障害者を診療する機会が多くなってきている.このような状況下で,CLによる眼障害を扱った適切な書の出版が望まれていた.この度,発刊された糸井素純・稲葉昌丸両先生の編集による『コンタクトレンズ眼障害ひと目でわかるトラブルシューティング』は正に時宜を得た出版である.執筆者は編者を含めてCL診療を第一線で実践している方々で,CLによる眼障害の対策が実際面から記載されている.本書は6章から構成されているが,読んでいくとその編集の趣旨がよくわかる.すなわち,自覚症状からCLによるトラブルの原因と対策が記載され,これが重要な眼障害の原因と対処法の詳細に進み,さらには,眼障害の予防が学べるような流れになっている.第1章はCL診療には欠かせない診断法について記載されている.第2章は自覚症状から見たCLトラブルをハードCLとソフトCLに分けて,原因と原因別の対処法があり,わかりやすいカラー図はもちろんのこと,主訴から考えられる診断とそれに伴う適切な処置法が記載されていて,実際の臨床に役立つ.眼障害の詳しい対処法に関しては第3章のCL眼障害と対策方法を参照するとよい.また,眼障害の原因をさらに知りたい場合には,第4章のCLトラブルの代表的な原因を見るとよい.最も大切なことは眼障害を未然に防ぐことで,これは第5章のCL眼障害の予防に記載されている.最後の第6章には資料編として,光学的問題,法律,処方箋,医療費控除の処方箋の記載法などが書かれている.本書はCLによるトラブルと眼障害に関する事項が網羅されていて,症例の写真も執筆者の秘蔵のものと思われる典型的なもので,とても参考になる.また,探したい事項は右ページに記載されている色分けの各章タイトルと完備された索引とで,直ちに見つけることができ,忙しい診療中にも簡単に照会できるのはありがたい.執筆者はCL診療で活躍されている方々ばかりであり,学ぶところが多い書である.すべての臨床医が,CL診療をする上で,座右に置き常に参照したい書である.(東京医科歯科大学名誉教授所敬)(89)ブックレビュー■糸井素純・稲葉昌丸編集『コンタクトレンズ眼障害ひと目でわかるトラブルシューティング』〔B5判並製,240頁,定価7,980円(本体7,600円+税),ISBN4-521-67611-1,中山書店,2006〕☆☆☆

硝子体手術のワンポイントアドバイス40.巨大裂孔網膜剥離に対する硝子体手術(中級編)

2006年9月30日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLSはじめに巨大裂孔網膜?離は以前は難治性の網膜?離であり,翻転網膜を固定するために,対面通糸法,網膜鋲,回転式ベッドなど種々の方法が考案されたが,液体パーフルオロカーボンの出現で最近では非常に楽に治療できるようになった.しかし,裂孔が120~150?以上に及ぶものでは,硝子体切除後の眼内液?空気同時置換術時に,網膜の滑り落ち現象(slippage)を生じることがある.このような症例には液体パーフルオロカーボンとシリコーンオイルを置換する方法が有用である1).●手術の実際裂孔が200?に及ぶ巨大裂孔網膜?離の1例を例にとり,手術手技を説明する.1)経毛様体扁平部水晶体切除術後に硝子体ゲルを周辺部に至るまで十分に切除する(図1).2)液体パーフルオロカーボンを後極に滴下し(図2),翻転網膜を復位させる(図3).3)液体パーフルオロカーボン下で眼内光凝固を裂孔縁に施行する(図4).4)液体パーフルオロカーボンとシリコーンオイルを置換する.インフュージョンカニューレからシリコーンオイルを注入しながら液体パーフルオロカーボンを抜去していくと,最後にバブル状になった液体パーフルオロカーボンが確認できる(図5).この方法では網膜のslippageがほとんど生じない.●本術式の問題点本術式は,シリコーンオイル抜去という複数回の手術を要するので,筆者はslippageが軽度に留まるような120?以下の症例では,原則としてシリコーンオイルは使用しないで,液?空気置換により網膜を伸展させている.また,巨大裂孔縁の硝子体牽引残存による再?離を予防するために,#240シリコーンバンドによる周辺部輪状(87)締結術を併用することが多い.文献1)石田政弘,竹内忍,中原正彰ほか:液体フルオロカーボン:シリコーンオイル置換を用いた巨大裂孔網膜?離に対する硝子体手術.眼科手術8:327-330,1995硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載?40巨大裂孔網膜?離に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図1硝子体切除硝子体ゲルを周辺部に至るまで十分に切除する.図2翻転網膜の復位(1)液体パーフルオロカーボンを視神経乳頭上に滴下する.図3翻転網膜の復位(2)液体パーフルオロカーボンによって翻転網膜が徐々に伸展していく.図4眼内光凝固による裂孔閉塞液体パーフルオロカーボン下で裂孔縁に眼内光凝固を施行する.図5シリコーンオイルで置換液体パーフルオロカーボンとシリコーンオイルを置換する.最後にバブル状になった液体パーフルオロカーボンが確認できる.

眼科医のための先端医療69.網膜の内在性幹細胞

2006年9月30日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS網膜再生と幹細胞網膜を含めた中枢神経系はいちど障害されるとその神経細胞は再生されず,失われた機能を取り戻すことができないと考えられてきました.しかし近年,神経幹細胞が胎生期ばかりでなく,ヒトを含む成体哺乳類動物の脳にも存在することが明らかになるにつれ,中枢神経系においても幹細胞システムを駆使して組織学的に再生させようという試みがなされ始めました.網膜再生の分野については,すでにアメリカを中心に胎児網膜を用いて網膜色素変性や加齢黄斑変性の患者に対して移植が数十例行われており,結果が報告されつつあります1).しかしながら胎児網膜を用いることには倫理的な問題があり,また供給に限りがあるため均一な移植細胞を十分得ることはむずかしく一般的な治療とはなりえません.そこで幹細胞が今後の細胞移植源として期待されています.幹細胞の視細胞分化への試み2000年にvanderKooyらのグループは,成体マウスの毛様体上皮細胞にneurosphereを形成する網膜幹細胞が存在することを報告しました2).ただ視細胞を含む網膜細胞に分化する割合は非常に低く,移植に使える量ではありません.さらに,毛様体の患者からの採取には危険を伴います.一方,Harutaらは成体ラットの虹彩細胞に注目し,虹彩培養細胞に視細胞の分化に重要な役割を果たすホメオボックス型の転写因子であるCrxをレトロウイルスを用いて遺伝子導入したところ,効果的にロドプシン陽性細胞を得ることができました3).加えて,霊長類であるサルの虹彩組織からもロドプシン陽性細胞が得られることを見出しました4).虹彩は周辺虹彩切除術により視機能に影響することなく,安全に組織を得ることができ,自家移植が可能であります.しかし臨床応用を考えた場合,レトロウイルスで導入するかぎりrandominte-grationによる危険性が残るため,今後遺伝子導入の方法あるいは遺伝子導入によらない方法を開発する必要があります.胚性幹細胞(ES細胞)については,複数のグループで視細胞の誘導に成功しています5)が,拒絶反応や腫瘍形成,視細胞の純化など越えなければならない壁はまだ多いのが現状です.網膜の内在性幹細胞中枢神経機能再生の方法には細胞移植のほかにもう一つのアプローチとして,中枢神経に内在している神経幹細胞を賦活して中枢神経の再生を促す方法があります.下等動物ではさまざまな組織幹細胞が網膜を再生することがわかっています(図1).魚類や両生類ではciliarymarginalzone(CMZ)とよばれる毛様体辺縁部に網膜幹細胞が存在し,体の成長にあわせて網膜も成長させています.哺乳類でも毛様体辺縁部から網膜幹細胞の性質をもった細胞がneurosphere法により培養可能です2)が,実際に生体内でこれらの細胞が網膜再生に関与しているかは不明です.イモリなどの両生類では網膜障害時に網膜色素上皮細胞が分化転換によって網膜を再生させます.魚類では網膜外層に視細胞杆体前駆細胞の存在が知られています.そして近年,鳥類を用いた実験でM?ller細胞が内在性網膜幹細胞としての性質をもつことが報告されました6).2001年Rehらのグループは,ニワトリ網膜に急性障害を与えると,網膜内のM?ller細胞が分裂を始め網膜神経幹細胞特異的な遺伝子を発現(83)◆シリーズ第69回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊大音壮太郎(兵庫県立尼崎病院眼科)網膜の内在性幹細胞毛様体辺縁部魚類,両生類哺乳類網膜内魚類(杆体前駆細胞)鳥類・哺乳類(M?ller細胞)網膜色素上皮両生類図1さまざまな網膜の内在性幹細胞———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006し,一部は神経特異的なマーカーを発現したと報告しました.つまり網膜中のM?llerグリア細胞が網膜幹細胞としての性質をもつわけです.そこで筆者らは,網膜の内在性神経幹細胞は成体の哺乳類でも存在するのか,また網膜の神経幹細胞が成体でも存在しているならば,何らかの因子を投与し,幹細胞を活性化させ,神経を再生できないかということを検討しました7).ラット網膜での急性障害後の神経再生?-methyl-D-aspartate(NMDA)を6~7週齢の成体ラットの硝子体中に投与し,網膜内層に急性の障害を起こしました.網膜障害後分裂細胞をラベルするためbromo-deoxyuridine(BrdU)を硝子体中および腹腔内に投与し,免疫組織化学により細胞の分裂を調べました.すると網膜障害後2日目に内顆粒層に分裂細胞がみられ,これらはすべてM?ller細胞であることがわかりました.このM?ller細胞由来の分裂細胞は神経前駆細胞様の性質を獲得し,時間経過とともに一部は外顆粒層に遊走しました.そして網膜障害後2~4週間において,M?ller細胞由来の分裂細胞の一部は双極細胞および視細胞に特異的なマーカーを発現し,M?ller細胞から網膜神経細胞へ分化したことが示唆されました.すなわちM?ller細胞は成体哺乳類網膜において内在性神経幹細胞としての性質を有しており,成体哺乳類網膜にも再生する能力があることがわかったわけです.しかしこうした神経細胞のマーカーを発現する割合は非常に低く,また神経節細胞,水平細胞,アマクリン細胞のマーカーを発現する分裂細胞はありませんでした.筆者らは哺乳類成体網膜には全種類の網膜神経細胞を分化誘導する要素が欠けているのだと考え,外的・内的因子を導入することによりM?ller細胞由来の分裂細胞の分化誘導を試みました.神経細胞の分化にかかわる外的因子であるレチノイン酸を硝子体中に投与したところ,有意に双極細胞への分化を促進することができました.またレトロウイルスベクターを用いて,網膜神経細胞の分化にかかわるbHLH型・ホメオボックス型の転写因子をM?ller細胞由来の分裂細胞に遺伝子導入したところ,アマクリン細胞・水平細胞への分化も認められ,さらにはCrx(ホメオボックス型転写因子)とNeu-roD(bHLH型転写因子)を同時に強制発現させることにより,視細胞への分化も促進することができました.以上のように,筆者らは,成体ラットの網膜において急性障害後神経再生が起こることを発見しました.さらに外的・内的因子によって再生された神経細胞の運命をある程度コントロールすることもできるわけです.新たな網膜再生治療の可能性このようにM?ller細胞は成体の網膜再生の細胞源となる可能性をもっているといえます.将来M?ller細胞は,網膜変性疾患において,薬物治療や遺伝子治療のターゲットとなるかもしれません.より効果的にM?l-ler細胞を活性化させ,さらに多くの神経細胞を生成し,神経回路網に組み込まれ機能することを示すことができれば,網膜再生治療の新たな可能性が広がることになるでしょう.文献1)RadtkeND,AramantRB,SeilerMJetal:Visionchangeaftersheettransplantoffetalretinawithretinalpigmentepitheliumtoapatientwithretinitispigmentosa.???????????????122:1159-1165,20042)TropepeV,ColesBL,ChiassonBJetal:Retinalstemcellsintheadultmammalianeye.???????287:2032-2036,20003)HarutaM,KosakaM,KanegaeYetal:Inductionofpho-toreceptor-speci?cphenotypesinadultmammalianiristissue.????????????4:1163-1164,20014)AkagiT,AkitaJ,HarutaMetal:Iris-derivedcellsfromadultrodentsandprimatesadoptphotoreceptor-speci?cphenotypes.?????????????????????????46:3411-3419,20055)IkedaH,OsakadaF,WatanabeKetal:GenerationofRx+/Pax6+neuralretinalprecursorsfromembryonicstemcells.??????????????????????102:11331-11336,20056)FischerAJ,RehTA:M?llergliaareapotentialsourceofneuralregenerationinthepostnatalchickenretina.????????????4:247-252,20017)OotoS,AkagiT,KageyamaRetal:Potentialforneuralregenerationafterneurotoxicinjuryintheadultmamma-lianretina.??????????????????????101:13654-13659,2004(84)***———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????(85)■「網膜の内在性幹細胞」を読んで■網膜色素変性症や加齢黄斑変性など,網膜自体がダメージを受ける疾患患者は,現代の医学をもってしても,視力を回復することができません.網膜を含む中枢神経は,長い間再生しないとされていましたので,これは解決が不可能な問題と考えられていました.ところが,最近中枢神経にも再生する力があるということがわかり,網膜再生治療の研究が広く行われています.これが実用化されると,網膜色素変性症のみならず,多くの網膜疾患の治療が可能になるため,患者さんの受けるメリットには計り知れないものがあります.しかしながら,網膜再生治療の臨床応用には,解決すべきいくつかの大きな問題があります.その一つは,治療用細胞の源の問題です.視力を再生させるためには,十分量の細胞が必要ですが,それをどこに求めるかです.その問題に関して画期的な報告が,2004年に大谷篤史先生(ソーク研究所:現京都大学)からなされました.それは簡単にいうと,骨髄の幹細胞を用いて網膜変性を抑制するというものです.これは厳密には網膜再生治療ではありませんが,網膜変性症の治療としては,きわめて有効なものです.骨髄細胞は網膜細胞よりもはるかに多数存在し,取り扱いも容易ですので,この方法は網膜変性防止・再生医療を実用化へ近づけた重要なものといえます1).事実,欧米のマスメディアで大きく取り上げられ,現在世界中で行われている研究の大きな流れの一つになっています.一方,今回大音壮太郎先生が述べられているのは,別の方法です.骨髄細胞ほどではありませんが,眼球内にも多くの細胞があり,それらはすでに網膜内で存在し,活動しているので,それを視細胞に分化させて,視力再生に活用するというものです.そうすれば,視力再生に不可欠な網膜細胞同士のネットワーク化がスムーズに行われ,外から細胞を導入する際の問題点もなくなるという考え方です.具体的な方法は本文にわかりやすく述べられていますので省きますが,網膜再生という本来の目的にはこの方法が適しており,網膜変性症治療のブレークスルーになるかもしれません.特に素晴らしいのは,この研究は日本のオリジナルの研究である点です.科学には国境がないといいますが,現代において科学技術は戦略物資の一つです.わが国オリジナルの研究は少ないといわれているなかで,この研究は大きな期待を集めています.文献1)OtaniA,DorrellMI,KinderKetal:Rescueofretinaldegenerationbyintravitreallyinjectedadultbonemar-row-derivedlineage-negativehematopoieticstemcells.?????????????114:765-774,2004鹿児島大学医学部眼科坂本泰二☆☆☆

新しい治療と検査シリーズ164.加齢黄斑変性に対するサプリメント療法

2006年9月30日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS?バックグラウンド最近,加齢黄斑変性(AMD)を取り巻く環境が,光線力学的療法,抗新生血管薬治療などの新しい治療の開発,導入によって大きく変化した.にもかかわらず,これらの治療をもってしても良好な視力の獲得は容易ではなく,疾患の予防,進行防止といった面からのアプローチが相変わらず重要であることに変わりはない.従来から,進行防止を狙ってドルーゼンの光凝固が試みられてきたが,脈絡膜新生血管(CNV)の発生をかえって促進させることが大規模臨床試験で明らかにされ1,2),現在の考えではこの方法は用いるべきではないというのが一般的である.そういった背景から最近注目されているのが,サプリメント摂取による本症の予防である.2001年にAge-RelatedEyeDiseasesStudy(AREDS)によって,抗酸化剤の摂取がAMDの進行防止に有効であることが明らかにされ3),このEBM(evidence-basedmedicine)によってAMD患者にサプリメントの摂取を勧めることができるようになった.そこで,本稿では,エビデンスのある,このAREDSフォーミュラ(表1)に沿ったサプリメント療法を述べる.?原理活性酸素による網膜色素上皮障害が,黄斑部網膜の加齢に関連する.亜鉛は,スーパーオキサイドディスムターゼ(SOD)の補酵素として機能し,またビタミンCやE,bカロテンは活性酸素を除去する作用を有する.実際,過去の疫学的研究によって,抗酸化作用を有するビタミンや亜鉛がAMD患者に不足していることが明らかにされている.したがって,こういった抗酸化物質の摂取が,AMDの予防,進行防止に有効である可能性が示唆されてきた.それに応えるべく行われたAREDSの結果3)では,表1のサプリメント投与が,1)中等度(125?m≧,>65?m)から大型(>125?m)のドルーゼンが多数存在する,もしくは中心窩外地図状萎縮の存在する中期AMD,2)片眼が,滲出型AMDあるいは中心窩地図状萎縮といった進行期AMDに進行しているあるいはドライAMDで0.6以下に視力が低下しているといった場合の僚眼,といった2つのカテゴリーにおいて,5年間に,進行期AMDへの進行率を28%から20%に有意に低下させ,3段階以上の視力低下を29%から23%に有意に低下させた.なお,まったくドルーゼンのない症例における発症の予防効果は認められなかった.?実際の方法まず,摂取方法であるが,AREDSフォーミュラに沿った1日量(亜鉛酵母30mg,銅1.5mg,ビタミンC408mg,ビタミンE241.6mg,bカロテン15,750?g)新しい治療と検査シリーズ(81)164.加齢黄斑変性に対するサプリメント療法プレゼンテーション:白神史雄香川大学医学部眼科学教室コメント:湯沢美都子日本大学医学部附属駿河台病院眼科表1AREDSフォーミュラ(1日量)?亜鉛80mg?銅2mg?ビタミンC500mg?ビタミンE400IU?bカロテン15mg図1軟性ドルーゼンの症例———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006を3回に分けての内服を指示する.つぎに誰に勧めるかであるが,筆者自身,軟性ドルーゼンが両眼に多数みられるような症例(図1),すでに片眼に滲出型AMDや地図状萎縮が発症している症例に勧めている.なお,喫煙者においては,bカロテンが肺癌の発生を若干促進するので,bカロテンを含まないフォーミュラを勧めている.?本法の良い点と注意点何よりも良いのは,内服で行える点である.また,喫煙者には前述のように注意が必要であるが,それ以外には副作用がほとんどないことも良い点である.問題点は,食品であって薬剤ではないので患者個人で購入しないといけない点で,若干の費用が必要である.なお,最近エビデンスのないサプリメント療法が巷に氾濫しているが,眼科医として,エビデンスのあるサプリメント療法をあくまで勧めるべきであろう.?その他のサプリメント療法従来から,ルテイン,ゼアキサンチンといったカロテノイドがこのAMDの発生防止に有効であることが報告されている4).また,w3多価不飽和脂肪酸(LCPUFA)もAMDの予防に効果があるのではないかと考えられている5).AREDSの症例における高摂取群と低摂取群の比較検討でも,進行期AMDへの進行の防止にこれらの物質が有効であることが示されている.これらのサプリメント療法に関する大規模臨床研究による結果が待たれる.実際に,ARDESでは,AREDSIIとしてbカロテンの代わりにルテイン8mgを含むフォーミュラでの予防効果を現在研究中である.まとめ?亜鉛,ビタミンC,E,bカロテンという抗酸化剤を含むサプリメント療法(AREDSフォーミュラ)は,AMDの進行防止に有効である.?AREDSフォーミュラに沿っていないサプリメント療法には現時点ではエビデンスがない.?ルテインやw3不飽和脂肪酸といったサプリメントに関しては,今後の大規模臨床試験の結果が待たれる.文献1)ChoroidalNeovascularizationPreventionTrialResearchGroup:Lasertreatmentinfelloweyeswithlargedru-sen:updated?ndingsfromapilotrandomizedclinicaltrial.?????????????110:971-978,20032)FribergTR,MuschDC,LimJIetal;PTAMDStudyGroup:Prophylactictreatmentofage-relatedmaculardegenerationreportnumber1:810-nanometerlasertoeyeswithdrusen.Unilaterallyeligiblepatients.??????????????113:622.e1,20063)Age-RelatedEyeDiseasesStudyGroup:Arandomized,placebo-controlled,clinicaltrialofhigh-dosesupplementa-tionwithvitaminsCandE,betacarotene,andzincforage-relatedmaculardegenerationandvisionloss:AREDSreportno.8.???????????????119:1417-1436,20014)SeddonJM,AjaniUA,SperdutoRDetal:Dietarycarot-enoids,vitaminsA,C,andE,andadvancedage-relatedmaculardegeneration.EyeDiseaseCase-ControlStudyGroup.????272:1413-1420,19945)SanGiovanniJP,ChewEY:Theroleofomega-3long-chainpolyunsaturatedfattyacidsinhealthanddiseaseoftheretina.??????????????????24:87-138,2005(82)?本方法に対するコメント?AREDSの結果は,EBM(evidence-basedmedi-cine)のうちで最も信頼性が高い多施設無作為前向き臨床試験の結果であり無視できない.私(湯沢)も滲出型加齢黄斑変性になる危険性の高い黄斑所見を有する人には勧めている.しかし問題がある.第一はこの結果は,1日3回5年間毎日服用した結果得られたものであり,忠実に服用するにはかなり無理があるように思う(私にはできない!).第二にサプリメントなので保険が利かず,高価である.第三に,プラセボに比較して脈絡膜新生血管の発生が抑えられるのは25%であり,しかも,萎縮型への進行防止には効果がない.AREDSの処方量は通常の食生活では摂取不可能な大量であり,サプリメントとして服用するしかないのだが,サプリメントはバランスの良い食事をしたうえで足りないものを補足するのが本来の形である.サプリメントに頼る前に,加齢黄斑変性になりやすい要因と報告されているある種の食物性脂肪を控え,一方,有用とされる抗酸化物質,抗酸化ミネラルw3脂肪酸などを多く含む食物を食べるなど,食生活を見直すことも必要なのではないだろうか.

涙点プラグ:肉芽に対する処置

2006年9月30日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS涙点プラグの装着によって,涙小管壁に慢性的な刺激が加わると,涙小管内に肉芽が形成されることがある1).この肉芽形成の多くは,涙点プラグ挿入術の合併症として位置づけられるが,必ずしも欠点ばかりではない.すなわち,肉芽によって涙小管の完全閉塞が得られると,肉芽は涙点プラグのごとく振る舞い,涙点プラグの装着時と同等の効果が得られる.しかし,合併症としての肉芽形成には,さまざまな問題点がある.まず,肉芽形成により涙点プラグが押し出されて涙点から突出し,眼表面が刺激されるようになると異物感や上皮障害の原因となりうるし,脱出したプラグの鍔の周りに眼脂などが付着してバイオフィルム形成の原因にもなりうる.また,肉芽形成により涙点プラグが脱出してしまうと,再挿入が困難になる場合がある.●検査高度に肉芽が形成されない限り,涙小管内の肉芽は,一般に確認できない.そのため,涙点プラグの脱落後は,涙点ゲージを用いて肉芽の存在を確認する必要があり,スムーズにゲージを挿入できる場合は,肉芽の形成はないか乏しく,涙点プラグの再挿入が可能である.しかし,ゲージが挿入できない場合は,高度の肉芽形成が考えられ,この場合は,①角膜上皮障害が再発,②涙液メニスカスが低い,③涙液ターンオーバが速い2)などの涙点の疎通性を疑わせる所見を確認しながら,総合的に涙小管の閉塞程度を評価する.●処置筆者らが外来で行っている対処法について紹介する.1.涙点プラグが突出してきた場合(図1a)涙点から突出している涙点プラグをみた場合は,以下のケースが考えられる.まず,涙点プラグの挿入時あるいは挿入後に涙点が拡大し,涙点プラグと涙小管壁との密着程度が低下して,涙点プラグが可動性をもち,涙点から突出してきた場合がある.この場合は,涙点プラグの鍔を把持してプラグを涙点に押し込むと,容易に再挿入できる.この場合,涙小管内の肉芽は存在しないか軽度と推定されるが,涙点が拡大している場合が多い3)ため,再度プラグが突出してきたり脱落する可能性が高い.この場合には1サイズ大きい涙点プラグの再挿入も考慮する必要がある.つぎに,涙小管内に肉芽が形成され,それによって涙点プラグが突出してくる場合がある.この場合は,プラグを押し込もうと試みても,肉芽によって涙小管が占拠されているため,不可能な場合が多い.突出した涙点プラグによって結膜が擦過され,強い異物感や充血などの合併症がみられない場合にはそのままにして経過観察するが,そうした合併症がみられる場合には,涙点プラグを抜去する必要がある.(79)涙点プラグセミナー監修/坪田一男西井正和横井則彦京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学6.肉芽に対する処置涙点プラグの装着後,涙小管内に形成された肉芽により涙点プラグが脱落し,涙点プラグの再挿入が不可能となる場合がある.この際,肉芽による涙小管の完全閉塞が得られておれば,点眼治療のみでよいが,涙小管に疎通性がある場合は,外科的涙点閉鎖術や肉芽に切開を加えて涙点プラグを再挿入するといった処置が必要となる.ホワイトメディカル提供ab図1肉芽が形成された場合の代表例a:形成された肉芽によって涙点プラグが押し出されている例.b:涙小管内に高度の肉芽が形成され涙点プラグが脱落した例.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006(00)2.涙点プラグがすでに脱落している場合(図1b)と涙点プラグを抜去せざるを得なかった場合涙小管内に形成された肉芽によって,涙点プラグがすでに脱落している場合の対処法は2通りに分かれる.まず,涙点プラグの脱落後も,眼表面に涙液および人工涙液が貯留され,角膜上皮障害の再発を認めない場合は,涙小管が完全に肉芽によって閉塞されている状態と考えられる.この場合は肉芽が涙点プラグのごとく振る舞うため,特別な処置を要さず経過観察としてよいが,低力価のステロイド点眼を行っている場合には,肉芽の消失を防ぐために,ステロイドの点眼を当面,中止する.つぎに,これが最も問題となる場合であるが,肉芽形成によって涙点プラグの再挿入が不可能となっており,かつ不完全な肉芽形成のために涙点から涙液または人工涙液の疎通がある場合がある.この場合,外科的涙点閉鎖術を行い,涙点の完全閉塞を図るのが望ましい.しかしながら,それが適当ではない場合,すなわち,手術ができないような状況においては,外来処置での対応が必要となり,肉芽を切除あるいは切開して涙点プラグを挿入しうるスペースを確保してその後再挿入を行うとうまくいく場合がある.また,このとき,プラグの頭部が肉芽を越えるようにプラグを選択して挿入すれば,頭部が肉芽にひっかかって脱落しにくくなり効果的である.なお,涙点プラグの特異な脱出様式として,いわば“太鼓締め”状にプラグのシャフト部分を結膜組織が帯状に覆い,涙点付近に横たわる形でプラグが固定されている様子が観察されることがある(図2)4).この場合,涙小管はすでに肉芽組織によって完全閉塞されている場合が多く,プラグの装着時と同等の効果が得られているため,異物感などの症状がなければ,ただちにプラグを抜去する必要はない.おわりにわが国では2社の涙点プラグが保険適用となっているが,肉芽形成はFCI社のパンクタルプラグで多くみられる.これはプラグ頭部の角が鋭角的で,涙小管壁に機械的刺激を及ぼしやすくなっていることが関与していると考えられる.しかし,最近,使用されるようになったEagleVision社のスーパーフレックスプラグもパンクタルプラグに似た頭部の形状をもつため,肉芽を形成しうることも予想され,今後の報告が待たれる.文献1)小嶋健太郎,横井則彦,中村葉ほか:重症ドライアイに対する涙点プラグの治療成績.日眼会誌106:360-364,20022)丸山邦夫,横井則彦,西井正和ほか:ドライアイ治療におけるデジタル画像を用いた涙小管の疎通性の評価.日眼会誌107:526-529,20033)稲垣香代子,横井則彦,西井正和ほか:涙点プラグ脱落前後における涙点サイズの変化と選択したプラグの検討.日眼会誌109:274-278,20054)FayetB,AssoulineM,HanushSetal:Siliconepunctalplugextrusionresultingfromspontaneousdissectionofcanalicularmucosa:Aclinicalandhistopathologicreport.?????????????108:405-409,2001図2いわば“太鼓締め”様に下涙点からプラグが脱出している例

眼感染症:寄生虫検出検査

2006年9月30日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS寄生虫検出検査には,寄生虫自体を直接的に検出する方法(培養検査,塗抹標本直接鏡検検査,免疫学的手法による抗原検出,遺伝子検査)と間接的に検出する方法(免疫学的手法による抗体検出)に分けられるが,疾患ごとで検査法は大きく異なる.本セミナーでは,寄生虫による眼感染症の代表疾患であるアカントアメーバ角膜炎,眼トキソカラ症,眼トキソプラズマ症における検査法についてそれぞれ解説する.●アカントアメーバ角膜炎アカントアメーバ角膜炎を確定診断するには,角膜病巣部からアカントアメーバを検出することが必須である.検出法としては,塗抹標本と培養検査がある.特に塗抹標本の直接鏡検検査は特別な技術も必要でなく比較的容易であるため,アカントアメーバが疑われたらまず行う検査である.塗抹標本に用いる染色法にはKOH・パーカーインク染色,ギムザ染色,グラム染色,ファンギフローラ染色があり,それらによって栄養体や二重壁をもったシストを検出する(図1).なかでもKOH・パーカーインク染色・ファンギフローラ染色は,組織中のアカントアメーバシストを検出するのに優れている.また,グラム染色やギムザ染色においては,炎症細胞がアーチファクトとしてシストに間違えられやすいため注意が必要である.一方,培養検査は,検出されれば診断の確実性が向上するため,可能ならば行いたい検査である.作製法・培養法を表1に示す.コンタクトレンズ装用者においては,その原因にレンズケースや保存液の汚染が関与している場合もあるため,角膜擦過物のほかにケースや保存液も同時に培養することが望ましい.●眼トキソカラ症眼トキソカラ症は,イヌ回虫幼虫の網脈絡膜への転移によって生じる疾患であるが,病巣から直接幼虫を検出することは不可能なため,免疫学的手法により抗体を検出することで,病原体の存在を間接的に確認すること(77)40.寄生虫検出検査眼感染症セミナー─スキルアップ講座─●連載?監修=大橋裕一井上幸次鈴木崇市立宇和島病院眼科寄生虫検出検査は,疾患で異なり,アカントアメーバ角膜炎では塗抹標本,培養検査が,また,眼トキソカラ症ではイヌ回虫幼虫排泄物抗原などを用いた抗体検出検査が診断に有用である.また,眼トキソプラズマ症においては,血清中のトキソプラズマ抗体の陽転化,ペア血清による4倍以上の抗体価増加を認められれば診断意義が高い.表1アカントアメーバ用培地の作製方法と培養方法①アメーバ分離用NN培地もしくは栄養素を含まない透明な培地を用意する.②熱処理した大腸菌(60℃で1時間)を乳白色ほどの濃さにして,寒天培地に塗布し,表面を乾燥させる.③培地の中央に角膜擦過物を接種する.④培地表面を上にして室温で培養する.⑤培養数日後,顕微鏡(200倍)で培地上の下図のような栄養体を確認する.10?m10?m図1アカントアメーバ角膜炎における塗抹標本輪状浸潤を呈した角膜炎(左図)の病巣部擦過物をギムザ染色による塗抹標本を作製し,鏡検したところ,二重壁を有するアカントアメーバシストが検出(右図)された.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006が,診断への重要な情報となりうる.抗体検出に用いる検体としては,血清と眼内液があり,血清における抗体の検出は補助診断に用いられ,一方,眼内液における抗体の検出では,確定診断につながる.現在眼トキソカラ症の抗体検査に使用されている抗原としては,イヌ回虫幼虫抗原,イヌ回虫幼虫排泄物抗原があり,それらを用いた酵素抗体法(ELISA:酵素により抗体を標識し,酵素反応の結果生ずる色調の変化を分光光度計にて測定し,抗原に結合した抗体量を測定する)によって抗体量を定量するが,特定の専門機関に依頼する必要がある.トキソカラチェックは,イヌ回虫幼虫排泄物抗原の抗原抗体反応を利用したイヌ回虫幼虫排泄物抗体の簡易型検出法で,検体を10倍と50倍に希釈し,それぞれキットに滴下し,50倍希釈で反応がある場合(キットの真ん中に赤いスポットが現れる)は陽性,50倍希釈で反応がなく10倍希釈で反応がある場合は疑陽性,両方とも反応がない場合は陰性と判定する(図2).反応時間が短く,簡便であるが一般に市販されていないため,今後の汎用化が望まれる.一方,外注にて使用できるmultiple-dotELISA(寄生虫抗体スクリーニング検査)に含まれる抗原はイヌ回虫成虫抗原であり,眼トキソカラ症症例に対しては,陰性の結果が得られることもあり,本疾患の診断に使用できるかについては疑問が残るため,今後の検討が必要である1).●眼トキソプラズマ症眼トキソプラズマ症は,トキソプラズマ原虫感染による網脈絡膜炎で,検査としては免疫学的手法(赤血球凝集反応,ラテックス凝集反応,ELISA)によりトキソプラズマ抗体を検出することで,間接的に病原体を証明する方法が通常用いられる.しかしながら,本法では成人の10~30%がトキソプラズマ原虫の不顕性感染をしており,抗体検出のみでは診断につながらないが,経過観察中に抗体陰性からの陽転化や,ペア血清における4倍以上の抗体値の増加が認められれば診断意義は高い.また,後天感染においてはIgM抗体の検出により初感染を確認できれば診断につながる.PCR(polymerasechainreaction)法にて,眼内液からのトキソプラズマ原虫DNAを検出する方法も報告されている2).文献1)鈴木崇,上甲武志,陳光明ほか:眼トキソカラ症の診断におけるトキソカラチェックの有用性.あたらしい眼科22:263-266,20052)AouizerateF,CazenaveJ,PoirierLetal:DetectionofToxoplasmagondiiinaqueoushumourbythepolymerasechainreaction.???????????????77:107-109,1993(78)■コメント■眼科領域での寄生虫感染は決して症例数が多いとはいえないために,鑑別にあたって,その可能性を考えることをつい忘れてしまいがちであるが,炎症性の疾患を診断していくうえでやはり重要である.しかし,その検査についてもなじみがないことが多いために,方法や結果の解釈に間違いが起こりやすい.寄生虫を疑う症例に遭遇し,検査が必要な場合は,専門家にコンサルトするなどして正しい検査結果を得るよう心がける必要があるだろう.鳥取大学医学部視覚病態学井上幸次図2トキソカラチェックによる眼トキソカラ診断硝子体索条物を有するぶどう膜炎(上図)症例より前房水を採取し,トキソカラチェック(下図)を施行したところ,50倍希釈にてキットの真ん中に赤いスポットが出現し(下図左)陽性を示したため,眼トキソカラ症と診断した.