———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSのであるが,ときにその変異の性質や場所により,重要な遺伝子の機能発現に変化をもたらすことになり,遺伝性疾患が発症する.サルコイドーシスの発症に関与する遺伝子をみつけるためのアプローチ法の代表的なものには連鎖解析と相関解析がある.連鎖解析とは家系調査による解析法であり,有病率が少ない多因子疾患にはあまり向かない.一方,相関解析は患者群と同じ民族の対照群において,既知の遺伝子または遺伝子マーカー(くり返し配列などから構成され,ゲノム中で特定の座位に存在する目印となるDNA配列)に存在する対立遺伝子〔多型(polymor-phism):塩基配列の個人差〕の保有頻度をc2検定で比較する方法である.特定の対立遺伝子が患者群で有意に多い場合,それ自身が疾患感受性遺伝子である場合と,その近くに存在する連鎖不平衡にある別の遺伝子が真の疾患感受性遺伝子の場合がある.また,両解析ともに特定の既知の遺伝子について検討する候補遺伝子アプローチと,ヒトゲノム全域にわたり多くの遺伝子マーカーを用いて網羅的に検索するゲノムスキャンがある.II候補遺伝子による相関解析サルコイドーシスの病態に関連している可能性の高い候補遺伝子の1つ,HLAについての相関解析がいろいろな人種,民族集団から報告されている.はじめに多くの眼疾患はいまだに発症の原因が不明であるが,内因(個体の遺伝素因),外因(感染因子,環境因子)に加え,ストレスや加齢などの誘因が関与している.サルコイドーシスは原因不明の全身性肉芽腫性疾患であるが,感染力の強い病原微生物や,特別な環境因子が原因とは考えにくく,むしろ遺伝素因や普遍的な誘因が発症に関与していると考えられている.サルコイドーシスには家族集積性があり,患者の同胞がサルコイドーシスに罹患するオッズ比は日本人では8.11)と高く,アメリカ人では4.7(白人に限ると18.0)であり2),遺伝素因は無視できない.また,1つの遺伝素因だけが発症に関与しているとは考えにくく,多数の遺伝素因が複雑に絡み合って発症する多因子(多遺伝子)疾患である可能性が高い.近年,分子遺伝学の発達とともに疾患感受性や疾患抵抗性についてDNAレベル,アミノ酸レベルで研究・解明が進んでいる.本稿ではサルコイドーシスの遺伝素因の1つとして,ヒト白血球抗原(humanleukocyteanti-gen:HLA)が疾患感受性や疾患抵抗性を規定している可能性について内外の知見を紹介する.I疾患感受性遺伝子検索法1999年,全ゲノムの塩基(DNA)配列が決定され,ヒトゲノムは約3.1Gb,31億塩基対からなることが明らかになった.実はその塩基配列は一人ひとり少しずつ違っている.この微妙な違いは通常なんら影響のないも(21)????*MamiIshihara:横浜市立大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕石原麻美:〒236-0004横浜市金沢区福浦3-9横浜市立大学医学部眼科学教室特集●組織適合抗原(HLA)のすべてあたらしい眼科23(12):1535~1541,2006HLAとサルコイドーシス???????????????????????????????????????????????????????石原麻美*———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.12,20061.HLAとは?3)サルコイドーシスは全身多臓器に非乾酪性肉芽腫を形成する疾患である.まず,病因抗原を組織マクロファージが貪食し,その結果生じた抗原ペプチドがHLAクラスⅡ分子とともに抗原提示細胞に表出され,T細胞上の受容体によりCD4陽性T細胞に提示される.このように非自己(病因抗原)を識別する際に働くのが主要組織適合抗原複合体(MHC)で,ヒトの場合はHLA(ヒト白血球抗原)である.その遺伝子は染色体6p21.31にあり,ゲノムのなかで最も多型性(塩基配列の個人差)に富んでいる.現在ではHLAクラスⅠ(A,B,C,D,E,F,G)抗原,およびクラスⅡ(DP,DQ,DR)抗原が遺伝子タイピングにより詳細に検討されている(図1).サルコイドーシスの場合はクラスⅡ抗原が重要である.クラスⅡ抗原は多型性に富むa鎖とb鎖からなり,特に細胞外ドメインのa1,b1ドメインは多型性が著明である.HLA-DR抗原のa鎖はHLA-DRAにより,b鎖はHLA-DRBによりコードされる.a1,b1ドメインで構成される抗原結合溝(ポケット)に9~30個のアミノ酸残基からなる抗原ペプチドが結合する(図2,3).抗原結合溝に収容された抗原とHLA抗原との複合体が,T細胞上の受容体(T細胞レパトア)と結合して,抗原特異的免疫応答が惹起される(図3).事実,サルコイドーシスの一亜型であるL?fgren症候群で,DR17(DR3のsplit抗原)陽性患者の気管支肺胞洗浄液中には,特定の抗原受容体を有するT細胞がoligoclonalに増殖している4).2.HLAとサルコイドーシスの相関血清学的検査ではイタリア人でHLA-B8-DR35),スカンジナビア半島の白人でHLA-DR17(DR3のsplit抗原)6),ドイツ人でHLA-DR57),オランダ人でHLA-DR68)が報告されている.一方,日本人ではHLA-DR529~11)とDR59,11),DR611),DR810,11)頻度の増加が報告されてきたが,共通なのはDR52頻度の増加であった.筆者らは1994年,日本人サルコイドーシス患者では(22)図1ヒト第6染色体短腕上のHLA遺伝子領域の遺伝子群クラスⅡ領域にHLA-DR,DQ,DP遺伝子がある.テロメアヒト第6染色体長腕部セントロメアクラスⅡ抗原クラスⅠ抗原テロメア短腕部クラスⅢ抗原DPDQDRBCAクラスⅡクラスⅢクラスⅠDPDQDRHSP70-1HSP70-2Hum70tABEAGFC4DRAC4C2HSP70TNFBCDPB1DQB2DQA2DQA1DRB1DRB2DRB3DPA1DNARING3DMADMBDOBDQB3DQB1RING9TAP1TAP2LMP2LMP7———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????じめてHLA-DRB1,DRB3,DQA1,DQB1,DPB1遺伝子について遺伝子タイピングを行った.その結果,HLA-DR11,DR12(DR11,DR12はDR5のsplit抗原),DR14(DR14はDR6のsplit抗原),DR8のいくつかの対立遺伝子頻度〔DRB1*11(1101),DRB1*12(1201),DRB1*14(1401),DRB1*08(0802)〕の有意な増加を患者群で認めた12)(表1).さらにHLA-DR52の対立遺伝子の1つDRB3*0101頻度の有意な増加を認めた13).ここでサルコイドーシスの発症にはHLA-DR5,DR6,DR8とHLA-DR52のどちらが関与しているのかが問題となる.それについてはつぎのように説明できる(図4).HLA-DR5,DR6,DR8の抗原性はHLA-DRB1遺伝子でコードされている.また,日本人ではほとんど存在しないDR3(白人サルコイドーシスで頻度が高い抗原)の抗原性もDRB1遺伝子でコードされ(23)図2HLAクラスⅡ抗原(HLA-DR1分子)の三次元立体構造モデルa1,b1ドメインで構成されるbシートの抗原結合溝(ポケット1,4,6,7,9)に抗原ペプチドが結合する.11番目のアミノ酸はポケット6にあり,多型に富む〔このモデルはDR1分子なので,11番目はL(ロイシン)となっている.DR3,DR5,DR6,およびDR8分子ではS(セリン)である〕.(SternLJHetal:??????368:215,1994より)T細胞受容体ペプチドP2P3P4P1P6P7P9P5P8ポケット14679ヘルパーT細胞a鎖b鎖図3HLAクラスⅡ抗原(HLA-DR分子),抗原ペプチド,T細胞受容体のinteraction抗原結合溝である“ポケット”1,4,6,7,9は抗原ペプチドであるペプチドP1,P4,P6,P7,P9と直接結合する部位である.(SternLJHetal:??????368:215,1994より改変)DRB1DRB3DRADR52DR3DR3,DR11,DR12,DR5DR13,DR14DR6DRB1DRADR8DRB1DR8図4HLA-DR52グループ(DR3,DR5,DR6)とHLA-DR8グループのハプロタイプによるDR遺伝子構成DR52グループはDRB1とDRB3遺伝子をもち,DR8はDRB1遺伝子しかもたない.(BodmerJGetal:??????????????39:161,1992より改変)———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006ている.一方,HLA-DR52の抗原性はDRB3遺伝子でコードされている.図4に示すようにHLA-DR3,DR5,DR6はDRB1遺伝子とDRB3遺伝子の両方をもっているが,HLA-DR8はDRB1遺伝子だけでDRB3遺伝子はもっていない.サルコイドーシス患者群ではHLA-DR8の対立遺伝子頻度も増加していたので,発症にはHLA-DR3,DR5,DR6,DR8が共通してもっているDRB1遺伝子が関与していると考えられる.HLA-DR3,DR5,DR6,DR8がコードするDRB1遺伝子bドメインの9~12番目のアミノ酸残基(チロシン,セリン,スレオニン)は共通である.そのうち11番目のアミノ酸(セリン)は抗原結合溝(第6ポケット)を構成するアミノ酸の1つであり,抗原と直接結合する重要な部位である(図2,3).このHLA-DR3,DR5,DR6,DR8が共通にもつセリンはsharedepitopeとして重要なアミノ酸であるという仮説を図5に示した.このアミノ酸をコードする対立遺伝子頻度はサルコイドーシスで79.4%,対照で47.3%,相対危険度4.3であり,このアミノ酸をもつヒトはもたないヒトの4.3倍サルコイドーシスになりやすいといえる.また,HLA-DR6のsplit抗原であるDR13〔DRB1*13(1302)〕だけが11番目にセリンをもっているにもかかわらず,患者群で頻度が低かった(表1)が,その理由として71番目(これはT細胞レセプターと直接結合する部位)のアミノ酸がDRB1*11,DRB1*12,DRB1*14,DRB1*08の同位置のアミノ酸と異なっているため,抗原が結合しにくいと考えられる(図5).一方,DR1の対立遺伝子の1つであるDRB1*01(0101)頻度は患者群で有意に低下していた.DRB1*01の11番目のアミノ酸残基はロイシンであり,疎水性アミノ酸である(セリンは非疎水性).そのため抗原が結合する第6ポケットの性質や形状が変わってしまい,抗原が結合しにくくなるため,DR1保有者はサルコイドーシスになりにくいと考えられた(図5).つまりDR1は疾患抵抗性に働くと考えられ,このアミノ酸をコードする対立遺伝子頻度はサルコイドーシ(24)表1サルコイドーシスと相関のみられるHLA-DRB1遺伝子HLA抗原HLA対立遺伝子対照(n=110)患者(n=63)p値相対危険度DR1DRB1*01DRB1*010116(14.5%)1(1.6%)<0.020.1DR11(DR5)DRB1*11DRB1*11013(2.7%)9(14.3%)<0.025.9DR12(DR5)DRB1*12DRB1*12017(6.4%)12(19.0%)<0.0253.5DRB1*12023(2.7%)2(3.2%)DR13(DR6)DRB1*13DRB1*130218(16.4%)6(9.5%)DR14(DR6)DRB1*14DRB1*14016(5.5%)10(15.9%)<0.053.4DRB1*14031(0.9%)4(6.3%)DRB1*14052(1.8%)1(1.6%)DRB1*14063(2.7%)1(1.6%)DR8DRB1*08DRB1*08023(2.7%)8(12.7%)<0.0255.2DRB1*08039(8.2%)11(17.5%)DR11(DR5)DRB1*113(2.7%)9(14.3%)<0.025.9DR12(DR5)DRB1*1210(9.1%)14(22.2%)<0.052.9DR14(DR6)DRB1*1412(10.9%)16(25.4%)<0.0252.8DR8DRB1*0812(10.9%)19(30.2%)<0.013.5図5サルコイドーシスの疾患感受性遺伝子(HLA-DRB1*11,*12,*14,*08)と疾患抵抗性遺伝子(DRB1*0101,DRB1*1302)の模式図DRB1遺伝子上の11番目アミノ酸がsharedepitopeであるとする仮説.DRB1*11DRB1*12DRB1*14DRB1*08DRB1*1302DRB1*0101疾患感受性遺伝子疾患抵抗性遺伝子11-Ser71-Glu11-Ser11-LeuHLAAgHLAAgHLAAg———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????スで1.6%,対照で14.5%,相対危険度0.1であった.また,患者群でみられたDRB3*0101(DR52の対立遺伝子)やDQA1*0501,DQB1*0301の頻度の増加はHLA-DR5,DR6,DR8との連鎖不平衡で説明できる.2001年Foleyらは,イギリス,ポーランド,チェコスロバキアの3民族の白人それぞれについてHLA-DRB1とDQB1遺伝子多型を検討した14).その結果,DRB1*12(DR12はDR5のsplit抗原),DRB1*14(DR14はDR6のsplit抗原),DRB1*15(DR15はDR2のsplit抗原)が患者群で頻度が高く,DRB1*01(DR1),DRB1*04(DR4)の頻度が低かった.彼らは,頻度が患者群で低く疾患抵抗性に働くDR抗原(DR1,DR4)は,抗原結合溝(第6ポケット)を構成する11番目のアミノ酸(図2)が疎水性のアミノ酸で,逆に発症に関与しているDR抗原(DR12,DR14,DR15)では11番目のアミノ酸が非疎水性であったことから,11番目の疎水性アミノ酸が疾患抵抗性因子であると考察している.しかし,疎水性アミノ酸をコードする対立遺伝子頻度はサルコイドーシスで18%,対照で28%,相対危険度0.55であり,この値は疾患抵抗性因子としてあまり強いものではないと考えられる.2003年,Rossmanらはアメリカの黒人と白人についてHLA-DRB1,DQB1,DPB1遺伝子多型を検討した15).その結果,黒人ではDRB1*11(1101),DRB1*12(1201)とDPB1*0101頻度が高く,白人ではDRB1*11(1101),DRB1*14(1401),DRB1*15(1501),DRB1*04(0402)頻度が高かったが,両人種に共通して頻度の高かったのはDRB1*11(1101)であった.これを有しているのは黒人で16%,白人で9%であり,オッズ比はおのおの2.04,2.05であった.彼らはDRB1*11(1101),DRB1*12(1201),DRB1*15(1501)に共通している第7ポケットを構成する47番目のアミノ酸(図2)が発症に関与していると考察している.いろいろな人種・民族の遺伝子タイピングの結果から,HLA-DR3(DR17),DR5(DR11,DR12),DR6(DR14),DR8のDRB1遺伝子が疾患感受性に,HLA-DR1のDRB1遺伝子が疾患抵抗性に関与している可能性が考えられる.人種ごとに相関するHLAが多少異なっているのはつぎのような理由による.たとえば,DRB1*03(DR3)は白人ではよくみられるHLAタイプであるが,日本人ではきわめてまれなので,サルコイドーシス患者でもみられない.逆に日本人サルコイドーシスに相関のあるDRB1*08(DR8)は,白人や黒人では頻度が少ないので,患者でも少ない.このように,ある人種には頻度の高い対立遺伝子が,別の人種ではほとんどみられないため,疾患と相関するHLAに相違がある.3.サルコイドーシス臨床型,予後とHLAの相関発熱,結節性紅斑,関節痛,両側肺門リンパ節腫脹(BHL)を呈するL?fgren症候群はサルコイドーシスの一亜型であり,ヨーロッパ系白人に多くみられる.HLA-DR34)との相関が報告されており,特にDR17(DR3のsplit抗原)陽性患者で予後がよいといわれている6).また最近ではポーランド人でHLA-DRB1*03(DR3)とインターフェロン(IFN)g遺伝子のある対立遺伝子(IFN-gamma3,3)の両者をもつ患者が有意に多いという報告16)がある.日本人は他の民族に比べ心病変の合併が多いのが特徴であるが,心病変をもつ日本人サルコイドーシス患者26人の検討ではDRB1遺伝子ではなく,DQB1遺伝子が発症にかかわっている可能性も示唆されている17).予後とHLAとの関係では,アイルランド人でHLA-DR2またはHLA-DR11(DR5のsplit抗原)をもつ患者はHLA-DR3をもつ患者に比べて慢性化しやすく,予後も悪いとの報告がある18).また,イギリス人とオランダ人でHLA-DQB1*0201陽性患者はL?fgren症候群で発症することが多く,予後が良いとの報告があるが,これはDRB1*0301(DR3)とハプロタイプを作るDQ遺伝子である19).III連鎖解析によるゲノムスキャン疾患感受性遺伝子がどの染色体上に位置するかをスクリーニングするのによい方法である.サルコイドーシスでは2001年にドイツより63家系138名の患者でマイクロサテライトマーカーを使った連鎖解析がはじめて報告された20).その結果染色体6p-21-22のマーカー遺伝子に最も強い相関を認めた(p=0.001).ここはHLA遺伝子領域であり,特に補体やHSP70(ヒト熱ショック(25)———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006蛋白70),腫瘍壊死因子(TNF)遺伝子を含むクラスⅢ領域の近傍に疾患感受性遺伝子がある可能性が示唆された.そのほか,1p22,3p21,7q36,9q33,Xq21などの遺伝子マーカーと弱い相関が見いだされた.2003年にアメリカ黒人225家系704名を対象に,染色体6p-21-22上のHLA領域を網羅する6つのマイクロサテライトマーカーを使った連鎖解析が行われた21).クラスⅡ領域のうち,HLA-DQB1遺伝子領域(p=0.002)近傍のマイクロサテライトに最も強い相関がみられた.つまりアメリカ黒人では,相関解析ではDRB1遺伝子,ゲノムスキャンではDQB1遺伝子の関与が示唆されている.IVサルコイドーシスとHLA遺伝子サルコイドーシスは非乾酪性肉芽腫が多臓器にできるという共通の疾患でありながら,各臓器病変の頻度,臨床像,予後などに人種差,民族差がはっきりしている.たとえば,眼病変や心病変は日本人で多く,L?fgren症候群のような急性型はヨーロッパ白人に多い.また,アメリカの黒人は白人に比べ罹患率も高く,重症になりやすい.このような相違の原因の1つが,病因抗原に対する個体の反応の差,すなわち人種や民族ごとのHLA遺伝子の相違であると考えられる.近年のゲノムスキャンの結果から,少なくとも疾患感受性遺伝子の1つは,第6染色体上のHLA遺伝子領域近傍にありそうである.その場合,HLA遺伝子そのものまたは,HLA遺伝子の近傍にある遺伝子が疾患感受性遺伝子である可能性がある.一方,サルコイドーシスの遺伝子タイピングが報告されはじめてから10年以上が過ぎ,日本人,ヨーロッパ系白人,アメリカ黒人,アメリカ白人などさまざまな人種・民族からの相関解析の結果が蓄積されてきた.HLA遺伝子そのものが疾患感受性遺伝子である場合,HLAクラスⅡ領域のDR(DRB1)遺伝子が疾患感受性または抵抗性に働いているとする説はこれらの民族集団で見解の一致をみている.解析結果を合わせると,HLA-DR3(DR17),DR5(DR11,DR12),DR6(DR14),DR8のDRB1遺伝子(の共通するアミノ酸部位)が疾患感受性に関連している可能性があり,人種・民族ごとに,これらHLA遺伝子の相関が少しずつ異なっている.ある人種には頻度の高い対立遺伝子が,別の人種ではほとんどみられないから,という理由もあるが,このことが人種・民族間の臓器病変の頻度,臨床像,予後の相違をも説明しているのではないだろうか.たとえば,ヨーロッパ白人で多くみられる急性型(L?f-gren症候群)が日本人ではまれなのは,この病型と相関するHLA-DR3(DR17)が日本人にほとんどいないからであろう.またヨーロッパ白人でHLA-DR11(DR5)保有者はDR3保有者に比べ,慢性の経過をとり予後が悪いという報告は,日本人,アメリカ黒人,アメリカ白人のサルコイドーシス(3民族に共通な疾患感受性HLAはDR11)が慢性に経過するものであることと矛盾しない.一方,DQ(DQA1,DQB1)遺伝子はDRB1遺伝子と強い連鎖不平衡(ハプロタイプを作る)にあるため,病気の臨床型や一部の民族・人種によっては,統計学上これらの関与のほうが強く検出される場合もある.現在,筆者らは日本人サルコイドーシスでのゲノムスキャンを進めているが,他の人種と異なる結果が得られる可能性もあり,興味のあるところである.また,多因子遺伝疾患であると考えられるので,HLA遺伝子以外の疾患感受性遺伝子22)の関与も検討していく必要がある.文献1)片岡幹男,中田安成,平松順一ほか:サルコイドーシスの家族発生─本邦家族発症例の文献的考察と遺伝的素因の検討─.日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会雑誌20:21-26,20002)RybickiBA,IannuzziMC,FrederickMMetal:Familialaggregationofsarcoidosis.Acasecontroletiologicstudyofsarcoidosis(ACCESS).?????????????????????????164:2085-2091,20013)石原麻美,大野重昭:眼の免疫遺伝学─HLAと疾患感受性.新しい免疫学的アプローチと眼疾患(望月学編),眼科NewInsight4巻,p2-15,メジカルビュー社,19954)GrunewaldJ:LungT-helpercellsexpressingTcellreceptorAV2S3associatewithclinicalfeaturesofpulmo-narysarcoidosis.?????????????????????????161:814-818,20005)PasturenziL,MartinettiM,CucciaMetal:HLAclassI,II,IIIpolymorphismsinItalianpatientswithsarcoidosis.?????104:1170-1175,1993(26)———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????6)BerlinM,Fogdell-HahnA,OlerupOetal:HLA-DRpredictstheprognosisinScandinavianpatientswithpul-monarysarcoidosis.????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