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緑内障:新しい眼圧計PASCALR

2006年9月30日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS眼圧測定のgoldstandardと考えられているゴールドマン圧平眼圧計(Goldmann)applanationtono-metry:GAT)は,角膜厚が520?mのときのみ,角膜自身のチップ反跳力と涙液の表面張力によるチップ吸引力を相殺して,Imbert-Fickの法則(外力=眼内圧×圧平面積)が成立し,眼圧を推測できる.実際には,角膜厚やそれ以外の角膜の物理特性は個人によりかなりばらつくのに加えて,レーザーによる角膜屈折矯正手術の急増に伴い,上記の前提を大幅に逸脱した角膜性状をもつ個人の眼圧測定を行う機会が増えている現状から,こうした角膜性状に左右されない測定原理をもつ眼圧計測方法の確立が望まれるようになった.最近開発されたdynamiccontourtonometry(PAS-CAL?;ZeimerOphthalmicSystems社製)1)は,GATと異なり,チップの先端が平坦でなく,半径10.5mmの凹面をしている.これは平均的な角膜の曲率半径より若干大きい.そして,その中央部に直径1.2mmの電子圧センサーが埋め込まれている.ディスポーザブルのプラスチック・キャップを装着後,角膜と直径7.5mmの面積で接触させると,その面積内でチップと角膜表面の形状が一致するとき,角膜内外の圧は理論上等しくなる1).このときの圧シグナルを収集し,100Hzの収集率で信号をデジタル化する(図1).平均拡張期眼圧と心拍に一致した脈拍眼圧(ocularpulseamplitude:OPA)を測定する1).死体摘出眼球を用いたmanometry(前房内に圧transducerを刺入して測定する眼内圧)との比較では,GATは真の眼圧より平均約4mmHg低く計測したうえ,角膜実質浮腫のある場合,過小評価の程度がより大きくなるのに対して,PASCAL?は真の眼圧とは平均約0.6mmHgの差しかなく,しかも実質浮腫の影響も小さかった2,3).(75)●連載?緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄75.新しい眼圧計PASCAL?中村誠神戸大学大学院医学系研究科器官治療医学(眼科学)PASCAL?は,凹面形状チップに角膜表面をフィットさせ,チップ中央部の圧センサーで眼圧を計測するdynamiccontourtomometerである.平均拡張期眼圧に加えて脈拍眼圧(ocularpulseamplitude)も測定できる.角膜厚や性状の影響を受けにくく,manometryに近い値を得られるといわれている.図1PASCAL?の本体とチップ図3プラスチック・カバーをチップに装着し,眼圧を測定しているところ図2細隙灯顕微鏡に装着したところ———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006GATや非接触式空気眼圧計は,中心角膜厚と計測眼圧値に有意な相関関係があるとする報告が多いが,PASCAL?では相関関係がないかあっても小さいとされる1).また,laser???????keratomileusis(LASIK)後,中心角膜厚が3~171?m薄くなった眼において,GATでは術1週後で平均4.9mmHg,術4週後で平均5.4mmHg低い値を示すのに対して,PASCAL?では術前・術後の眼圧値に有意差はみられなかった4).一方,GATでみられるこうしたLASIK後の眼圧低下は,中心角膜厚の変化率とは相関しなかった4).すなわち,PASCAL?で計測される眼圧値は角膜性状の影響を受けないと報告されている4).一方,OPA(正常,1~10mmHg)の臨床的意義はまだ不明だが,おそらく眼内,とりわけ毛様体の血流のおおまかな指標と考えられ,眼圧と有意な相関を示す(眼圧が高いほど大きい)ことが報告されている.線維柱帯切除後にはOPAは下降するが,翌日の下降幅が2mmHg以上のもののほうが,それ未満のものに比べ,3カ月後の時点での成功率(新たな眼圧下降治療を行わずに20%以上の眼圧下降を達成する率)が有意に高くなるという報告もある.術後の強膜の壁剛性の低下を反映していると考えられている.PASCAL?は,このように角膜性状の影響を受けず,真の眼内圧を反映する眼圧値に加えて,OPAという興味深い指標まで計測するとされる.しかし一方で,測定に10数秒かかることと大きなチップを角膜に接触させる必要があるため,固視不良例や瞼裂狭小例では測定できないことも多い.また,GATとはかなり値が異なるので,PASCAL?を標準眼圧測定とするには越えるべき障壁が多く残されているのが現状と思われる.文献1)KanngiesserHE,KniestedtC,RobertCA:Dynamiccon-tourtonometry.Presentationofanewtonometer.???????????14:344-350,20052)KniestedtC,NeeM,StamperRL:Dynamiccontourtonometry.Acomparativestudyonhumancadavereyes.???????????????122:1287-1293,20043)KniestedtC,NeeM,StamperRL:Accuracyofdynamiccontourtonometrycomparedwithapplanationtonometryinhumancadavereyesofdi?erenthydrationstates.?????????????????????????????????243:359-366,20054)SiganosDS,PapastergiouGI,MoedasC:AssessmentofthePascaldynamiccontourtonometerinmonitoringintraocularpressureinunoperatedeyesandeysafterLASIK.???????????????????????30:746-751,20045)VonSchulthessSR,KaufmannC,BachmannLMetal:Ocularpulseamplitudeaftertrabeculectomy.????????????????????????????????244:46-51,2006(76)☆☆☆

屈折矯正手術:屈折矯正手術におけるインフォームド・コンセントのポイント

2006年9月30日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS●自由診療であるということ近年,インフォームド・コンセントという言葉が一人歩きをしている感があるが,この言葉が出現してくる以前から,外科手術や処置・検査の際には必ず行われてきたことでもある.自由診療であるから特別にインフォームド・コンセントが重要とは考えていないが,手術を希望してくる患者のなかには,重要視している方も多い.医師が診療する際に,保険診療か自由診療かで,診療態度が変わることはあってはならないが,医師も患者も双方が「自由診療」に慣れていないため,不自然に構えてしまうこともある.屈折矯正手術のインフォームド・コンセントが特徴的なのは,最終的な目標が「治癒」ではなく「満足」にあることだと考えている.このことを踏まえて,筆者の経験から述べてみたい.●医師とスタッフの意思疎通はきわめて重要従来より患者心理として,医師の前では何も発言せずに,検査や受付のスタッフに対しては本音を話すものである.通常,術前説明の細部に関しては,スタッフが説明することが多く,医師はその確認をする方式がとられている.ここで,説明を担当したスタッフから入ってくる患者の情報は非常に大切である.問診票(図1)に基づいて,職業や趣味,手術を受けたい動機,目標となる見え方のイメージを,細かく確認してゆく.続いて,筆者の施設では,ガイダンスに沿って,メリット・デメリット・合併症などを順次説明する.こうしたやりとりのなかで,スタッフが感じた患者の人となりは,その後の診察のなかで,医師が説明をするポイントを絞り込むのに非常に有用なのである.過度に期待の大きい場合や,非常に神経質な場合などは,手術適応そのものから考える診察をすることができる1,2).医師の得たい情報の要点が的確に把握されるためには,常にスタッフとの意思疎通を図らなければならない.どういったケースにリスクがあるのか,適応と不適応をどのように判断しているのか,という部分で医師とスタッフに共通認識があれば,インフォームド・コンセントを得るのは容易であろう.熟練したスタッフであれば,患者の人となりと医師の診療傾向を把握し,医師が再確認するであろう部分を重点的に説明しているものである.この場合,診察を始める時点ですでにインフォームド・コンセントはほぼ確立している.日頃から,手術適応に関してのみならず,手術に対する考え方や意義,なぜ自分がこの手術をやりたいのか,などを常にスタッフに伝え,同じチームとして最良の結果が出せるようなmotivationを保つ努力をするべきであろう.●医師としてのアドバイス言うまでもなく,インフォームド・コンセントとは医師・患者間での契約である.最終的な判断は,医師が行い,その責任も医師にある.最終的に確認しておかなければならないのは,「日常生活は十分に可能な視力になるが,イメージしている見え方とは異なる可能性がある」ということを,受け入れられるかどうかであると筆者は考えている.その点が理解されていれば,手術を勧め,不安や迷いが見られたら,それに対する具体的な対処法を話し合う.コンタクトレンズの経験がなければ,まずコンタクトレンズでの生活を勧める場合もあり,年齢によっては白内障の手術を勧めてもよいであろう.また,PhakicIOLやCK(conductivekeratoplasty)といった他の手術方法が良いと判断した場合,その理由を説明する.常に,目の前の患者が自分の家族であればどうするか,という気持ちで選択肢を考えればよいであろう.(73)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載?監修=木下茂大橋裕一坪田一男76.屈折矯正手術におけるインフォームド・コンセントのポイント荒井宏幸南青山アイクリニック横浜屈折矯正手術の性格上,術後の不安や不満をいかに軽減するかは,術前のインフォームド・コンセントにかかっている.適応や合併症の列挙のみならず,担当医自身の意見を踏まえて説明すれば,本当の意味での納得や信頼は得られやすく,満足度も高くなると思われる.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006エキシマレーザーによる手術のみが,屈折矯正手術ではないことを十分に理解することは重要である.いろいろなオプションがあり,そのなかで最良と思われる方法を提示することにより,余裕と誠意のあるアドバイスをすることができると思う.まとめ冒頭にて述べたように,術後の患者がどのように感じているかを,直接聞いているのはスタッフの場合が多い.円滑なインフォームド・コンセントをとるには,自らの経験から得たものに加え,スタッフから吸収した意見を取り入れて,説明のポイントを構築することが最も効率的である.インフォームド・コンセントの基本は,医師・患者間の意思疎通であろう.患者に「満足」してもらうのみならず「感動」してもらおうと思う気持ちも重要なポイントではないだろうか.文献1)根岸一乃:患者選択はどのように行うのですか?.あたらしい眼科18(臨増):15-18,20012)林仁:LASIKの術前検査と適応について教えてください.あたらしい眼科18(臨増):113-116,2001(74)☆☆☆図1南青山アイクリニックで用いている問診票─術前問診票には,何を主たる目的として手術を希望しているかが,読み取れるような構成が望ましい.南青山アイクリニック問診票-術前記入日:平成年月日フリガナ生年月日:西暦19年月日(才)お名前性別:男・女血液型:型ご住所:〒ご自宅・会社※当院からご案内などをお送りする際にクリニック名を記載してもよろしいですか?はい・いいえ・郵送不可TEL:携帯番号:※当院からご連絡する際にクリニック名を出してもよろしいですか?はい・いいえ緊急連絡先TEL:E-mailアドレス@.ne.jp.co.jp.comご職業(なるべく具体的に)パソコン使用有・無/夜間の車の運転有・無1.当院をどちらでお知りになりましたか?該当する項目を○で囲んでください。(複数回答可)1.雑誌を見た()2.新聞を見た()3.ラジオ・テレビ()4.南青山アイクリニックのホームページを見た5.VoiceStoreからの情報6.知人の紹介(ご紹介者のお名前:)7.眼科紹介(病院名:)※ご紹介者のお名前は、差し支えなければご記入ください。8.その他(メルマガ・検索エンジン・その他)2.現在のコンタクトレンズの使用状況を以下からお選びいただき、○で囲んでください。1.使用していない2.使用している(ソフト・乱視用ソフト・ハード年間使用)3.はずしている(ソフト・ハード日前から)使用ソフトコンタクトレンズの種類に該当するものを○で囲んでください。①ふつうタイプ・②使い捨てタイプ(1DAY・1WEEK・2WEEK・1MONTH)3.どの程度の裸眼視力(メガネ、コンタクトレンズなしの視力)改善を期待していますか?1.1.0以上(遠くの細かいものが良く見える)2.1.0程度(遠くが見える)3.0.7程度(運転免許の更新ができる程度)4.0.5程度(日常生活がメガネやコンタクトレンズなしで、なんとか過ごせる程度)5.0.1程度(分厚いメガネから解放されれば良い)4.手術を受けたいと思う動機を以下からお選びいただき、○で囲んでください。(複数の回答可)1.職業的な理由()2.メガネは外見上不利3.スポーツ(種類:)や趣味のため、メガネ・コンタクトは不便4.不同視(左右の近視の度数が違いすぎるので疲れる)がある5.メガネはとても疲れる6.コンタクトレンズは異物感、充血が出現するので長時間できない7.コンタクトレンズの手入れが面倒8.新しい手術だから受けてみたい9.メガネ、コンタクトレンズはお金がかかる10.裸眼で生活したい11.その他()裏面へ続きます。5.現在の自覚症状と最も近いと思われるものをお選びいただき、○で囲んでください。右目全く感じない0123かなり感じる4目が疲れる左目01234右目01234まぶしく感じる左目01234右目01234乾燥感(乾き)がある左目01234右目01234異物感(ゴロゴロ)がある左目01234右目01234かゆみがある左目01234右目全くしない0123かなりある4充血する左目01234右目全くない0123かなりでる4目やにがでる左目01234※薄目を開けて寝ているといわれたことがありますか?はい・いいえその他の症状があれば、なるべく具体的にお書きください。6.現在、または過去に目(流行性角結膜炎(はやり目)・角膜ヘルペスなど)や全身の病気、手術、ケガがあればお書きください。7.輸血歴、肝炎、高血圧、糖尿病の既往歴過去に輸血を受けたり、肝炎になったことのある方はお答えください。輸血ある・ない肝炎ある・ない現在高血圧の方はお答えください。治療中はい・いいえ現在糖尿病の方はお答えください。治療中はい・いいえ8.現在妊娠中、授乳中、避妊薬(ピルなど)を内服中でしたらお書きください。妊娠中:(現在ヵ月)授乳中:(月まで予定)避妊薬内服中:(薬品:、いつ頃から)9.現在、使用中の薬がありましたらお書きください(市販薬も含む)。点眼薬:()内服薬:()注射:()10.アレルギーの有無についてお答えください。花粉症・食物()・薬物()その他()11.生活習慣と老眼について調べております。もしよろしければアンケートにお答えください。たばこ:①吸う②毎日本?年③年前に止めた④吸わないお酒:①毎日を本/合②週に何回か③飲まない運動:毎日/毎週/毎月回位を分ご記入が終わりましたらお手数ですが、受付までお持ちください※収集目的については、院内掲示または案内文をご覧ください。また当クリニック主任執刀医の荒井医師が当ビル4Fで「クイーンズアイクリニック」を開院しており、検査や診察等を一部4Fでおこなうことがあります。そのため皆様方の診療記録等をクイーンズアイクリニックに開示しておりますことをご了承ください。※当クリニックでは、患者様の誤認を防止するため、患者様のお名前をお呼びさせていただいております。

眼内レンズ:小切開からの毛様溝縫着レンズ

2006年9月30日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS近年,合併症症例にも積極的に眼内レンズ(IOL)挿入術(?内固定・?外固定,毛様溝縫着)が施行されている.従来の光学部がポリメチルメタクリレート(PMMA)の縫着専用IOLにおいては,固定は確実であったが,創口を大きく作製せねばならず,縫着手術による惹起乱視や強い術後炎症といった問題があった.このようなIOLは多くの病院ではIOLの二次挿入を計画的に行う際に取り寄せて使用するため,緊急時に使用することは困難である.今までにも,小切開からのシリコーン製IOLの毛様溝縫着などが報告されている1)が,小切開からの毛様溝縫着術に対応するフォルダブルIOLの開発が課題であった.今回筆者らは毛様溝縫着術に適したフォルダブルIOLを開発し,臨床例に用い良好な結果を得ている2)ので報告する.毛様溝縫着術では縫合糸の適切な位置への確実な固定がIOLの偏心,傾斜を防ぐうえで重要である3)が,従来のフォルダブルIOLはハプティックが直線状であることから,操作時に縫合糸のずれや緩みを生じる場合がある.硝子体手術の既往,加齢による硝子体の変化,アトピーの既往がある場合などでは,縫着術専用でない従来のフォルダブルIOLを使用すると,長期経過中にIOLに無理な張力がかかり,ハプティックから縫合糸が抜けてしまったりすることによる硝子体へのIOL脱臼など(71)小泉好子西原仁昭和大学藤が丘病院眼科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎241.小切開からの毛様溝縫着レンズ眼内レンズ(IOL)の毛様溝縫着は従来のフォルダブルIOLではIOL挿入時には縫合糸が外れたり,緩んだりすることにより,縫合糸をハプティックへ正確に対称固定することは困難であり,術後の偏心や傾斜の原因となる.今回,毛様溝縫着に際し小切開からの挿入,確実な固定が可能なフォルダブルIOLを開発したので報告する.図3CowHitchi法により固定された縫合糸縫合糸は術中操作中においても緩むことはない.13.0mm6.5mm図1レンズの全体像ハプティックの形状は肉眼的に区別がつかない.通常の?内固定としても使用可能である.1.30mm0.20mm0.13mm図2ハプティック先端の拡大像ハプティックの膨大部で確実な固定ができる.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006(00)の合併症を生じる4).縫合糸のずれは術後の偏心,傾斜の原因となるが,術後の傾斜は屈折誤差の原因となる5).そのため筆者らは,?内・?外固定,毛様溝縫着術にも使用可能なフォルダブルIOLを開発し,現在臨床例で使用している.小切開からIOLを挿入することで,乱視や炎症,硝子体出血などの合併症が軽減され,さらにカウヒッチ操作を行うことで縫合糸をハプティックに固定することが容易となる.小切開創から容易に毛様溝にIOLを縫着することは,術時間の短縮につながり,患者負担も軽減できる.このフォルダブルIOLはPMMAのハプティックが重合されたアクリル製シングルピースであり,全長13mm,光学系6.5mmである(図1).ハプティックの直径は0.13mmだが,先端から1.3mmの部分は0.20mmと太くなっており(図2),CowHitchi操作により縫合糸の結び目が締め上げられ確実に固定される(図3).ハプティックの形状は肉眼的に区別がつかないため,通常の?内固定としても使用可能であり,毛様溝挿入および毛様溝縫着にも対応できる.そのため,緊急の毛様溝縫着手術の際にも対応が可能である.臨床例においても,縫合糸のハプティックへの固定,小切開創からの挿入,毛様溝への縫着など一連の手術操作を通じて,縫合糸の弛緩やずれは生じておらず2),本IOLは毛様溝縫着に適したフォルダブルレンズであると思われる.文献1)松村謙一郎,秋谷忍:合成接着剤とCowHitchi法を併用したシリコーン製フォーダブル眼内レンズ(AQ110N)による毛様溝縫着術.眼科手術10:385-388,19972)小泉好子,千田実穂,西村栄一ほか:新しく開発したユニバーサルフォーダブル眼内レンズの有用性.????????19:455-458,20053)千田実穂,西原仁,島田一男ほか:毛様溝縫着に適したフォーダブル眼内レンズのハプティック.????????18:428-432,20044)日下野勉,北岡隆,雨宮次生:硝子体腔内眼内レンズ落下症例の検討.二次縫着には専用レンズを用いるべし.臨眼57:747-750,20035)具志堅直樹,小浜信司,福島茂ほか:眼内レンズ毛様溝縫着術後屈折値の検討.あたらしい眼科12:505-508,1995

コンタクトレンズ:連続装用の問題点

2006年9月30日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS連続装用は理想的なコンタクトレンズ(CL)の目標の一つである.しかし現状では,より重要な目標である安全性を損なう装用方法であり,好ましくない.CLの連続装用=就寝時装用が安全性を損なうのは,つぎの3つの問題のためである.1.就寝時,角膜上にCLが存在しているという機械的な問題.2.角膜上の酸素分圧低下がもたらす問題.3.連続装用を行う使用者に関する問題.●就寝時,角膜上にCLが存在している透気性ハードCLの就寝時装用によるオルソケラトロジーでは,起床時に高率でCLの固着が発生することが知られている.固着の程度とフィッティングによってはCL中央部,エッジ部に一致して角膜上皮障害や角膜変形が生ずる.ハード,ソフトにかかわらず角膜とCL間の涙液交換が妨げられ,角膜上皮?脱物,眼脂などがCL下に捉えられたままとなって,角膜上皮障害をひき起こす例も多い.CL前面の汚れによる上眼瞼結膜の乳頭結膜炎,後面の汚れによる角膜上皮障害も生じやすくなる.透気性の高いシリコーンハイドロゲルCLにおいてもCL下にムチン・ボールが生じやすくなり,その部の角膜上皮の菲薄化によって感染を起こしやすくなる可能性が指摘されている1).●角膜上の酸素分圧低下CLを装用して閉瞼すると30分以内にendothelialbleb(図1)が観察されるようになり2),1~2時間のうちに角膜浮腫が生ずることが知られている3).角膜浮腫は低酸素負荷による角膜上皮の代謝異常の結果と考えられるから,浮腫が生じた時点から臨床的な問題とするのが妥当だろう.逆に言えば,就寝時装用といっても1時間程度の仮眠であれば低酸素負荷に関する限り,大きな問題ではないと推測される.酸素透過性が低いCLの連続装用を続けると角膜上皮細胞の健常性が損なわれ4),浮腫,分裂能低下5),病原菌が付着しやすくなるなどの異常が発生する.就寝時装用によって機械的に障害を受けた角膜上皮に,低酸素負荷による上皮の健常性低下が加われば細菌性角膜炎の危険性が増し,分裂能低下によって上皮の?脱が阻害されれば病原菌が深部に侵入する機会が増すことになる.連続装用を行うと,永続的視力低下につながるおそれのある細菌性角膜炎の発症率が,終日装用の5~10倍程度に増加6,7)するのは,この結果と考えられる(図2).低酸素負荷による角膜内皮細胞の減少は看過してよい問題ではないが,大問題でもない.CLの装用のみが原(69)稲葉昌丸大阪市・稲葉眼科コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純TOPICS&FITTINGTECHNICS267.連続装用の問題点図1透気性ハードCLの連続装用によって生じたendothelialbleb図2連続装用時の細菌感染発生機序①:連続装用による角膜上皮の機械的な障害.②:低酸素負荷で健常性を失った上皮細胞に病原菌が付着.③:分裂能低下によって?脱遅延が生ずるため,病原菌が上皮に感染,繁殖.④:細菌性角膜炎発症.⑤:角膜潰瘍に発展する場合もある.①②③④⑤角膜実質角膜上皮———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006(00)因となった角膜水疱症は報告されていない.低酸素負荷などによって大小不同が生じた角膜内皮を自動解析すると小さな細胞が認識されず,細胞密度を過小評価することが多い.部位による差もあり,数十個の細胞を対象とした解析結果はばらつきが大きい.内皮細胞の変化はゆるやかであるから,年1回程度の測定を行い,多少の数字の変化には振り回されないよう評価を行う必要がある.●連続装用を行う使用者連続装用に伴うリスクを十分説明すれば,消防士,夜勤の医療従事者など職業的に連続装用せざるを得ない使用者を除いて,ほとんどの者は終日装用を選択する.にもかかわらず連続装用を行っているのは,十分なリスク説明がなく処方されているか,説明されても危険性が十分理解できない場合である.前者であれば処方施設のレベル自体が低く,CLのケアや装用を中止すべき自覚症状についての説明も不十分と考えられる.後者であればCLケア,定期検査,CLの交換などを励行しない可能性が大きい.いずれにしても,特別な必要性がないのに連続装用を行っている使用者は,CL装用自体についての危険性が高い.まとめ連続装用は角膜上皮に対して機械的な障害,低酸素負荷による異常をひき起こし,結果として細菌性角膜炎などの重篤な合併症をひき起こす危険性が高い.安易に連続装用CLを処方する施設,装用する使用者にも問題がある.連続装用を行う際には十分なリスク説明と適切な指導,慎重な経過観察が必要である.文献1)LadagePM,PetrollWM,JesterJVetal:Sphericalinden-tationsofhumanandrabbitcornealepitheliumfollowingextendedcontactlenswear.??????28:177-180,20022)ZantosSG,HoldenBA:Transientendothelialchangessoonafterwearingsoftcontactlenses.??????????????????????????54:856-858,19773)HoldenBA,SweeneyDF,SandersonG:Theminimumprecornealoxygentensiontoavoidcornealedema.?????????????????????????25:476-480,19844)NilssonSEG:Bacterialkeratitisandin?ammatorycornealreactions:possiblerelationstocontactlensoxygentrans-missibility.??????28:62-65,20025)HamanoH,HoriM,HamanoTetal:E?ectsofcontactlenswearonmitosisofcornealepitheliumandlactatecon-tentinaqueoushumorofrabbit.????????????????27:451-458,19836)水谷由紀夫:コンタクトレンズに関する選択基準─安全性からの選択─.日コレ誌47:88-92,20057)StapletonF,DartJKG,MinassianD:Riskfactorswithcontactlensrelatedsuppurativekeratitis.??????19:204-210,1993

写真:クインケ(Quincke)浮腫

2006年9月30日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS(67)加治優一筑波大学臨床医学系眼科写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦268.クインケ(Quincke)浮腫上眼瞼の浮腫図2図1のシェーマ図1両眼瞼のクインケ浮腫突然に両眼瞼の浮腫を生じた例.顔貌が大きく変わり,開瞼が困難となった症例.図4口唇粘膜のクインケ浮腫口唇粘膜の著しい浮腫を認める.図3口唇のクインケ浮腫下の口唇の浮腫を認める.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006(00)●歴史眼瞼や口唇などの皮膚~皮下において突然に浮腫が生じ,数時間~数日で消失する疾患.血管神経性浮腫(angioneuroticedema)ともいわれる.MarcelloDonati(1538~1602)によって最初の報告がなされ1),ドイツの内科医であるHeinrichIrenaeusQuincke(1842~1922)により詳細な記載がなされた2).Quinckeは髄液検査の創始者としても有名で,Bern大学およびKiel大学の内科主任教授を勤めた.●分類遺伝性と非遺伝性のタイプに分けられる.遺伝性のクインケ浮腫は,補体C1のエステラーゼ阻害物質が欠損することによって,補体反応が過剰になるために生じる3).遺伝性のタイプは重症になりやすく,皮膚症状にとどまらず,消化管粘膜の浮腫による下痢・腹痛や,喉頭粘膜の浮腫による気道閉塞のために窒息死を起こすこともありうる.非遺伝性のタイプは,アレルギーやストレスが発症の引き金となりやすい.●臨床所見眼瞼や口の周りなどに,突然に直径数cm大の無痛性の浮腫を生じる.病変を押しても凹むことはなく,痛みや痒みを伴うことは少ない.再発しやすい傾向にある.発症時には顔貌が大きく変わるために,悩んでいる患者は多い.●診断特徴的な肉眼所見より診断は比較的容易である.腹痛や下痢などの消化管症状や呼吸困難感を呈したとしても,患者は皮膚の病変と同じ病気とは考えていない.重症例を見逃さないためにも,家族歴や消化管・呼吸器疾患の病歴を含めた問診が大切である.●治療法・予後じんま疹と同様の機序で発症していると考えられているものの,正確な発症機序は不明である.患者が自らの判断で軟膏などを使用している場合には直ちに中止し,抗ヒスタミン作用をもつ内服薬を処方する.皮膚科や耳鼻科(特に呼吸困難感を伴う場合)専門医へのコンサルトも必要となる.文献1)DonatiM:Demedicahistoriamirabili.Mantuae,perFr.Osanam,15862)QuinckeHI:?berakutesumschriebenesHaut?dem.Monatsheftef?rpraktischeDermatologie,Hamburg.I:129-131,18823)DonaldsonVH,EvansRR:Abiochemicalabnormalityinhereditaryangioneuroticedema.????????????35:37-44,1963

時の人

2006年9月30日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS札幌医科大学医学部眼科学講座の歴代教授は,初代の末吉利三先生を初めとして,田川貞嗣先生,中川喬先生,大塚賢二先生と続き,平成18年(2006)4月に大黒浩先生が第5代の教授に就任された.本教室は,歴代教授の指導のもと,斜視,神経眼科,網膜硝子体,緑内障などの分野が発展を遂げ,各専門外来がそれぞれ優れたスタッフをもち充実している.これは,これまで専門的な分野をもつ眼科医が養成されてきた賜物である.歴代教授による教室の方針として,個々人の興味を重視した研究テーマを認め,自由に研究することをモットーとしてこられたとのことである.*大黒先生は,昭和59年(1984)3月に札幌医科大学医学部医学科を卒業,昭和63年(1988)3月に札幌医科大学大学院医学研究科を修了されたあと,同年4月から札幌医科大学医学部生化学第一講座に助手として勤務され,平成元年(1989)9月に眼科学講座に入局,同年10月から留萌市立病院眼科医長として勤務された.その後,大黒先生は平成4年(1992)7月に米国ワシントン大学眼科にseniorfellowとして留学され,ここで,ロドプシンキナーゼを世界で初めて分離・精製されたKrisPalczewski博士のもと,網膜光情報伝達機構に関する生化学研究を学ばれた.これが現在,大黒先生が行われている「網膜変性の分子病態と視細胞における光情報伝達機構の異常との関連性」の発見の基礎となった.この研究成果は,新しい治療法開発のきっかけになると期待されており,平成17年(2005)度第109回日本眼科学会宿題報告「網膜色素性に対するあたらしい薬物治療の可能性」として発表された.大黒先生は平成7年(1995)7月に札幌医科大学医学部眼科学講座に戻られ,平成9年(1997)3月同講座の講師に就任された.さらに,平成13年(2001)1月には弘前大学医学部眼科学講座に講師として勤務され,平成14年4月に同講座の助教授に就任された.先生はこの弘前時代に,研究はもとより,眼科臨床および教育を中沢満教授より“みっちり”ご指導を受けられたとのことである.そして,平成18年(2006)4月に札幌医科大学医学部眼科教室の教授に就任された.*大黒先生の研究テーマは「網膜変性および緑内障の分子病態および治療の研究」であり,平成8年に「日本神経眼科学会若手奨励賞」を,平成9年には「ロート賞」,平成16年には「第9回弘前大学医学部学術特別賞(金賞)」を受賞されるなど,多くの業績をあげられている.*大黒先生の信念は臨床面では,(1)これまでの札幌医科大学眼科の伝統である「専門性を意識した医師育成」を継承しつつ,(2)弘前大学で学んだ「眼科領域すべてを診られるという総合性」を兼ね備えた眼科医を育てることであり,これが北海道で求められる眼科医師像であると考えられておられるとのことである.研究面では,「人のまね」や「いわゆる流行りの研究」をするのではなく,自分が疑問に思っていることを解決するために,どうするかを考える,そして実現する.これを地道に行っていけばいつかは認められる,ということをモットーにしていきたいと先生は語られた.また,教育面では,学生や医員がお互いに奉仕し,継続してつきあっていくことが大切であると強調しておられた.*最後にご趣味についてお聞きすると,旅行,特に温泉巡り,そして映画鑑賞ですとお答えになられた.(65)人の時札幌医科大学医学部眼科学講座・教授大??黒??浩???先生

網脈絡膜変性疾患の治療へ向けて:人工網膜

2006年9月30日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSらのグループによって,おもに網膜疾患の検査を目的としてコンタクトレンズ型電極を用いて経角膜で眼球を電気刺激した際のelectricalphospheneに関する数々の研究報告が行われた3~7).これら一連の研究から網膜色素変性症で失明に至った患者でも眼球への電気刺激によってelectricalphospheneが生じることが明らかになった.コンタクトレンズ型電極を用いた電気刺激では網膜全体に電流が拡散するため,electricalphospheneは視野全体に広がる.それに対し,直径数百マイクロメートル程度の単極電極を網膜に接触させ電気刺激を与えた場合,網膜が局所的に刺激されるため,被験者は1個の点状のelectricalphospheneを知覚することが知られている8).この刺激電極を多極化しそれぞれの電極で局所刺激を行うと,刺激部位に対応してelectricalphospheneが光の点の集まりとして知覚されるのではないかと考えられている.人工視覚ではテレビカメラなどを用いて体外の画像データを取得し,その情報をもとに刺激部位を多極電極で制御することで,パターン状のelectricalphospheneを生み出し簡単な文字や絵を表現することを目指している(図1).II人工視覚(arti?cialvision)の種類さまざまな方式の人工視覚が提案されており,それらは多極電極を埋植する部位によって分類することができる.現在のところ,網膜を刺激するタイプ(人工網膜,retinalprosthesis),視神経を刺激するタイプ(視神経はじめに網膜色素変性や加齢黄斑変性などの網脈絡膜変性疾患で,視細胞が変性し失明に至った場合,現在視力回復の手段は存在しない.遺伝子治療や,再生医療などの研究が精力的に行われているが,まだ臨床応用に至っていない.一方,網膜,視神経または大脳皮質への電気刺激によって生じる光覚を利用して,失われた視覚の再建を目指す人工視覚は,これらの疾患に対する有効なアプローチの一つとして期待されており,1日でも早い実用化を目指して,世界各国で精力的に研究開発が進められている.わが国においても2001年度より経済産業省(NEDO)と厚生労働省の連携国家プロジェクトとして人工網膜の研究が始まった.本プロジェクトでは大阪大学,名古屋大学,杏林大学,滋賀医科大学,奈良先端科学技術大学院大学,九州大学,(株)NIDEKが参加し,2011年の実用化を目指して研究開発を進めている.I人工視覚の原理被験者の視覚系伝導路の一部に電気刺激を与えると光感覚を生じる.これを電気閃光(electricalphosphene)とよぶ.Electricalphospheneの現象は古くから知られており,1755年にはLeRoyが眼球への電気刺激によるelectricalphospheneの報告を行っている1).その後,1960年代後半よりBrindleyによって大脳皮質を電気刺激した際に生じるelectricalphospheneの研究が行われた2).また同時期にPotts&Inoueらのグループや三宅(59)????*TakashiFujikado:大阪大学大学院医学系研究科感覚機能形成学教室〔別刷請求先〕不二門尚:〒565-0871吹田市山田丘2-2大阪大学大学院医学系研究科感覚機能形成学教室特集●網脈絡膜変性疾患のアップデートあたらしい眼科23(9):1169~1174,2006網脈絡膜変性疾患の治療に向けて:人工網膜??????????????????:?????????????????????????????????????????????????????????不二門尚*———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006刺激型人工視覚),そして視覚皮質を刺激するタイプ(皮質刺激型人工視覚)の3種類が提案されている9).原理的には視覚伝導路のどこを刺激してもelectricalphos-pheneが生じると考えられるため,上記のほか外側膝状体も刺激場所の候補としてあげられる9).人工視覚はその方式によって適応疾患や手術の安全性が異なる.たとえば,皮質刺激型人工視覚の場合,さまざまな疾患に対して適応が望めるものの,多極電極の埋植時に開頭術を要するため,手術の危険性やその後の感染症のリスクが高い.一方,人工網膜は装置の埋植手術の安全性は高いものの,網膜神経節細胞が変性している場合や視神経の機能が正常に保たれていない場合には,electricalphospheneを生み出すことができず,適応可能な疾患の範囲が限られる.III人工網膜(retinalprosthesis)の種類と開発状況人工網膜では,多極電極を網膜の近傍に設置して電気刺激を行う.前述のとおり刺激する電極の組み合わせを選ぶことによって,患者は文字などのパターンをちょうど電光掲示板のように複数の光点のパターンで知覚することができるのではないかと考えられている.人工網膜のシステム開発はまだ研究段階にあり,どのグループもいまだ臨床応用には至っていない.それは,実用化に向けて,クリアしなければならない安全面や機能面の課題が残っているためである.たとえば,手術時に電極で網膜を損傷させるリスクを極力抑えなければならない.そして大電流で生じる熱やpHの変動で生じる網膜損傷のリスクを抑えなければならない.また機能面の課題としては,刺激電極の改良や刺激方法の最適化を行うことで,解像度を上げる工夫が必要である.現在までに考案されてきた人工網膜は多極電極の埋植部位によってさらに網膜上刺激方式,網膜下刺激方式,脈絡膜上?経網膜刺激方式の3つの方式に分類できる(図2).次節ではそれぞれの方式について詳しく説明する.1.人工網膜の種類a.網膜上刺激方式これは,多極電極を網膜上(多極電極を網膜と硝子体の境界)に設置し網膜を刺激する方式である.多極電極は,網膜タックとよばれる小型の押しピンで網膜上に固定される.この網膜タックの先端は網膜を貫き強膜層まで到達する(図2A).1980年代後半にMichelsonやJuan&Humayunによって考案された網膜上刺激方式10,11)は,当初,撮像素子を多極電極と同一基盤内に組み込んだシステムを提案していた.しかし,この場合撮像面(硝子体側)と電極面(網膜側)が反対側を向くため,回路作製に非常に高度な技術を要する.その後多極電極,刺激回路,撮像素子などがそれぞれ分離されたシステムが提案された.2000年代に入りHumayunが率いる南カリフォルニア大のグループは人工内耳を改造して16極型の多極電(60)テレビカメラ強膜多極電極脈絡膜網膜図1人工視覚の想像図多極電極網膜タック網膜脈絡膜強膜ABC図2人工網膜の3つの方式A:網膜上刺激方式,B:網膜下刺激方式,C:脈絡膜上?経網膜刺激方式.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????極を装備した網膜上刺激方式の人工網膜を試作した.このシステムを実際に網膜色素変性症患者に埋植し1年以上機能したとの報告を行った12).この人工網膜は内部装置と外部装置の2つの装置から構成されている.外部装置は,体外に設置され,外界の画像データを取得するテレビカメラと画像処理を施す回路などから構成される.内部装置は体内に埋植される装置で,刺激装置と多極電極を搭載し,外部装置から受け取った画像データを基に多極電極で網膜の神経細胞を電気刺激し興奮させ画像情報を脳へ伝える.外部装置と内部装置との間はコイルを用いた電磁誘導により画像データと電力の無線伝送が行われる.この内部装置では,多極電極のみ眼内へ埋植しそのほか刺激回路やコイルは眼外(側頭部の皮下)に埋め込む方式が採用されている.側頭部にコイルを設置することによってコイルサイズを大きく設計することができるため大電力供給が可能となる.いかにして電極本数を増やし自然な視覚に近づけるか,また手術手技が複雑なためそれをどのように改良していくかが今後の課題となっている.一方,Walterらのグループは,内部装置を完全に眼内へ埋植する方式を採用したシステムを開発した13).この内部装置ではコイルと刺激装置が前眼部に設置され体外装置から電力と画像情報を取得する.多極電極は黄斑付近の網膜上に網膜タックで固定される.この試作機を実験動物の眼球に埋植したところ,人工網膜による電気刺激で神経興奮を惹起することができたと報告している13).移植手術時に眼球への侵襲が大きいため,慢性埋め込みに向けてこれをどのように改良するかが今後の課題である.b.網膜下刺激方式これは,多極電極を網膜下(神経網膜と網膜色素上皮の境界)に埋植し網膜を刺激する方式である(図2B).網膜上刺激方式に比べて,多極電極の固定は比較的安定し網膜タックを必要としない.また,電極面で眼内入射光を受けることができるため,撮像素子と多極電極を同一基盤上に組み込むことが可能である.したがって,このシステムでは人工網膜で生み出した視覚が眼球運動に対して自然に対応できる.ただ,脈絡膜からの網膜への栄養輸送が電極で遮断されることによる網膜損傷が生じることが危惧される.Tassickerは1956年に発表した特許のなかで,光感受性をもつ物質を表面に塗布した金属片を網膜下に移植することによって眼内入射光に応じて網膜の神経細胞を刺激する手法を発表した14).この特許が網膜下刺激方式の原型となった.その後1991年には半導体シリコン基盤表面に複数のフォトダイオードを作製した人工網膜がChowによって考案された15).実現性の高いアイデアであったため,この特許をきっかけに1990年代に半導体シリコンを用いた網膜下刺激方式の人工網膜の研究がChowのグループやZrennerのグループによって精力的に行われた.この装置はASR(arti?cialsiliconretina)またはMPDA(micro-photodiodearray)とよばれ,これらは近年急速に発達した集積回路技術を応用することで直径2~3mmの円形の薄い基板上に撮像素子とそれに対応する刺激電極を数千組搭載することが可能である.しかし,動物実験による機能評価が進むにつれ,眼内入射光だけでは神経細胞を興奮させるのに必要な電力をまかなうのが困難であることが徐々に明らかになってきた.そこでZrennerのグループは体外装置から赤外線で電力供給を行うことによって不足分の電力を補う新しいMPDAの開発を進めている.このMPDAの場合,赤外線受光部と信号処理回路を増設しなければならないため必然的に内部装置のサイズが大きくなり,装置すべてを眼内に埋植することが困難となる.そこで,経硝子体経由にて人工的に網膜?離させた部位に装置を移植する従来の術式(ab-interno方式)の代わりに,強膜を貫通して経脈絡膜的に網膜下へアプローチする術式(ab-externo方式)が開発された.この手術を用いて多極電極と赤外線受光部のみ眼内へ,刺激回路の一部が眼外へ飛び出した形での埋植が可能となった.一方,これまで網膜上刺激方式の研究を進めてきたRizzo&Wyattのグループは最近方針を変更し,網膜下刺激方式による人工網膜の研究に着手した.彼らの提唱する人工網膜は,ChowやZrennerの網膜下刺激方式の人工網膜と異なり,撮像部分が体外に設置される11).体外装置で取得した画像データと駆動用電力はコイルを介して内部装置へ伝送される.内部装置中のコイルと刺激(61)———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006(62)ABCDBEFGHN1P1N1P1図3健常ラットとRCSラットにおける網膜組織,ERG,光刺激に対する上丘の誘発電位,STSによる上丘の誘発電位の比較ヘマトキシリン?エオジン染色による網膜切片の光顕像からRCSラットでは外顆粒層,視細胞内節,視細胞外節が消失していることがわかる(A:健常,B:RCS).健常ラットではフラッシュ光に対するERG(C)と上丘誘発電位(E)の反応が得られているが,RCSラットではERG(D)と上丘誘発電位(F)とも反応が得られなかった.STSに対する上丘の誘発電位は健常ラット(G)からもRCSラット(H)からも反応が得られた.OS:視細胞外節,ONL:外顆粒層,INL:内顆粒層,IPL:内網状層,GCL:網膜神経節細胞層,スケールバー:100?m(A,B).刺激強度10,30,60,80,100?A(G,H).矢印は刺激を与えた瞬間を表す.縦軸:20?V,横軸:100ms(C,D),縦軸:100?V,横軸:100ms(E,F),縦軸:100?V,横軸:20ms(G,H).———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????回路は眼外の強膜上に設置し多極電極部のみab-exter-no手術で網膜下へ挿入される.これにより,2次コイルの面積を大きく設計することができるため最大1mAの出力が可能である.すでに彼らは試作機を作製し動物実験で安全評価試験を進めている.2.脈絡膜上?経網膜刺激方式網膜上刺激方式と網膜下刺激方式は「多極電極が眼内に埋植され網膜に直接接触している」という特徴を有する.多極電極が接触した状態で網膜に電気刺激を行うことでより高解像度の画像を再現させることを目指している一方で,多極電極の埋植時に網膜へ損傷を与える危険性がある.この問題を解決できる可能性をもった網膜刺激方式として脈絡膜上?経網膜刺激方式(suprachoroidal-trans-retinalstimulation:STS方式)が田野らによって考案され17),わが国のプロジェクトにて研究開発が進められている.STS方式では,多極電極を眼球「強膜半層切除した部位」または「脈絡膜と強膜の間」に設置し,参照電極を硝子体内に設置する(図2C).そして,硝子体内に設置した参照電極との間で網膜を貫通するように刺激電流を通電する.多極電極が網膜と接触していない点および多極電極が眼外に設置される点がこの刺激法の大きな特徴である.多極電極が網膜と接触しないため,手術時の網膜への侵襲を低減できると期待できる.さらに,網膜貫通型の電流を用いるため,たとえ多極電極が網膜と離れていても効率的に局所刺激が可能になるのではないかと考えられる.また大きな多極電極を移植することができ広い視野を確保できる.全体のシステムとしてはHumayunのグループやRizzo&Wyattのグループのシステム同様,外部装置と内部装置の2つの装置から構成される.外部装置にはテレビカメラや信号処理回路が搭載され,内部装置には刺激回路や多極電極が搭載される.STS方式は,まだ基礎研究の段階であるが,これまでのいくつかの研究から徐々に有効性が示されてきている.たとえば,STS方式の機能評価を網膜色素変性症モデル動物(RCSラット)視覚中枢から行った結果,低い刺激強度で限局した誘発電位を惹起できることが確認された18)(図3).また,昨年学内倫理委員会の承認を経て2例の網膜色素変性のボランティアに対して急性臨床試験を行い,STS方式により限局したelectricalphos-pheneが得られ,2点弁別が可能であることを見出した19).今後,空間分解能などの機能評価や安全性に関して研究を進めていく予定である.おわりに現在開発が進められている人工網膜の電極数は多くても数十極である.そのため,これらが仮にうまく機能したとしても高い解像度は望むことがむずかしい.ただ,すでに実用化されている人工内耳においては,電極数は22極しかなく,埋め込み直後も患者は音声の認識率が低いものの,手術後長期間のリハビリテーションによって音声の認識率が飛躍的に伸びると報告されている.そのため,人工網膜埋め込み直後は再現できる視力は低くても,訓練やリハビリテーションによって視機能が高まっていくことも考えられる.また,今後人工網膜は,研究が進むことでより解像度を増した人工網膜が開発されていくことと思われる.近い将来人工網膜によって読書可能な程度の視機能を回復させることが可能となるかもしれない.文献1)LeRoyC:O?l?onrendcomptedequelquestentativesquel?onafaitespourgu?rirplusieursmaladiesparl??lec-tricit?.?????????????????????????????????????????60:87-95,17552)BrindleyGS,LewinWS:Thevisualsensationsproducedbyelectricalstimulationofthemedialoccipitalcortex.?????????194:54-55,19683)PottsAM,InoueJ,Bu?umD:Theelectricallyevokedresponseofthevisualsystem(EER).?????????????????7:269-278,19684)PottsAM,InoueJ,Bu?umD:Theelectricallyevokedresponse(EER)ofthevisualsystem.II.E?ectofadapta-tionandretinitispigmentosa.?????????????????8:605-612,19695)PottsAM,InoueJ:Theelectricallyevokedresponseofthevisualsystem(EER).3.FurthercontributiontotheoriginoftheEER.?????????????????9:814-819,19706)三宅養三,柳田和夫,矢ケ?克哉:EER(ElectricallyEvokedResponse)の臨床応用(I)正常者のEER分析.日眼会誌84:354-360,1980(63)———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.23,No.9,20067)三宅養三,柳田和夫,矢ケ?克哉:EER(ElectricallyEvokedResponse)の臨床応用II.杆体,錐体系視路障害疾患のEER.日眼会誌84:502-509,19808)HumayunMS,deJuanEJr:Arti?cialvision.???12(Pt3b):605-607,19989)WarrenDJ,NormanRA:HandbookofNeuroprostheticMethods.p261-302,CRCPressLLC,BocaRaton,Florida,200310)MichelsonRP:USPatent:4628933,198611)DeJuanEJr,HumayunMS:USPatent:5109844,199212)HumayunMS,WeilandJD,FujiiGYetal:Visualpercep-tioninablindsubjectwithachronicmicroelectronicreti-nalprosthesis.??????????43:2573-2581,200313)WalterP,KisvardayZF,GortzMetal:Corticalactiva-tionviaanimplantedwirelessretinalprosthesis.?????????????????????????46:1780-1785,200514)TassickerGE:USPatent:2760483,195615)ChowAY:USPatent:5024223,199116)KarcichKJ,BuckA,WyattJetal:Asystemforleakagetestingof?exibleelectroniccomponents.??????????????????????????45:E-Abstract4183,200417)田野保雄,不二門尚,福田淳:公開特許公報JP2004-57628A,200418)KandaH,SawaiH,MorimotoTetal:Electrophysiologicalstudiesofthefeasibilityofsuprachoroidaltransretinalstimulationforarti?cialvisioninnormalandRCSrats.?????????????????????????45:560-566,200419)KameiM,FujikadoT,KandaHetal:Suprachoroidal-transretionalstimulation(STS)arti?cialvisionsystemforpatientswithretinitispigmentosa.?????????????????????????47:E-Abstract1537,2006眼科学【監修】眞鍋禮三(大阪大学名誉教授)I.総論VIII.ぶどう膜XV.屈折・調節異常II.眼科診療室にてIX.水晶体XVI.光覚・色覚の異常III.眼瞼X.網膜硝子体XVII.全身疾患と眼IV.涙器(涙腺,涙道)XI.視路,瞳孔,眼球運動XVIII.眼のプライマリーケアV.結膜XII.眼窩XIX.眼治療学総論VI.角膜XIII.緑内障XX.付録VII.強膜XIV.斜視,弱視A.眼科略語集/B.眼科関連法律(法令)/C.リハビリテーション/D.主な眼科雑誌の紹介基礎と臨床との関連性を強く前面に打ち出し、単に眼科学の知識の羅列でなく、何故そうなるのかがわかる記載を心がけた。また、基礎編の記載でも必ず臨床を念頭においた書き方に努めることとした。教科書の内容になじまないトピックス的なものにも触れようと囲み記事として随所に配したが、勉強中の息抜きの読み物として楽しんでもらえれば幸いである。楽しみながら、そして考えながら「眼科学」を身につけることができる教科書として、広く親しまれることを願ってやまない次第である。(あとがきより)B5判2色刷り総674頁カラー写真・図・表多数収録定価23,100円(本体22,000円+税5%)メディカル葵出版〒113─0033東京都文京区本郷2─39─5片岡ビル5F振替00100─5─69315電話(03)3811─0544■内容内容■考える診療のために!あの名著が更にUp-To-Dateな情報を盛り込んで!待望の改訂版、登場!■疾患とその基礎■<改訂版>株式会社(64)

網脈絡膜変性疾患の治療へ向けて:遺伝子治療

2006年9月30日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS加の一途をたどった.しかし,この遺伝子治療ブームの過熱とは対照的に,改善例を示すプロトコールは影を潜め,副作用を生じる症例が目立つようになった.1999年にはアデノウイルス(Ad)ベクターによる人為的ミスによる死亡事故,2002年以降にはレトロウイルスベクターによる11例中3例の白血病様症状の誘発が報告2)され,世界中の遺伝子治療関係者を震撼させた.決して十分でなかった基礎研究が問題視され,一部の臨床プロトコールは凍結し,以後遺伝子治療は暗い反省期に入った.しかしこれは人類が未経験の領域に足を踏み入れた必要な結果ともいえる.この警鐘を教訓とし,遺伝子治療は綿密な基礎研究のもと地道に進行している.当然のことながら,真に効果があり安全な治療以外は明確に淘汰される時代となったのである.2006年初頭の統計では,申請中を含めそのプロトコール数は1,145,そのうち24件の臨床研究がPhaseIII(ランダム化比較試験)に突入はじめに「遺伝子治療」という言葉を聞いて,皆さんは何を思われるだろうか?「ちょっと前までブームだったけど,下火かな」「安全性が確立できないなら,怖くて使えないよ」「本当に効果はあるの?」などという声が聞こえてきそうである.当たらずとも遠からず,といったところか.しかしその風潮のなかで,真に選び抜かれた遺伝子治療研究は確実に進歩を遂げ,一部は治療法のなかった疾患に苦しむ患者の福音となりえている.眼科領域でも加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)に対する遺伝子治療臨床研究プロトコールは着実に進行しており,眼科臨床の場に姿を現す未来はまったくの想像ではなさそうである.代替治療のない難治性網脈絡膜疾患の治療法として,遺伝子治療が存在価値を得る時代がはたしてやってくるのか,今回その可能性について述べてみたい.I遺伝子治療の歴史1970年,Science誌上にて遺伝子治療の可能性が示唆1)されて以後,遺伝性疾患に対する究極の治療法として注目を浴び続け,ついに1990年先天性酵素欠損であるアデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症の女児に初めて合法的な遺伝子治療が行われ,劇的な成功を収めた.改めてその効果を確信し,画期的な新治療に沸き立った研究者達は,その適応を遺伝性疾患から癌やAIDS(後天性免疫不全症候群)へと拡大させ,臨床研究件数も増(51)????*MasanoriMiyazaki&YasuhiroIkeda:九州大学大学院医学研究院眼科学分野〔別刷請求先〕宮崎勝徳:〒812-0082福岡市東区馬出3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野特集●網脈絡膜変性疾患のアップデートあたらしい眼科23(9):1161~1168,2006網脈絡膜変性疾患の治療へ向けて:遺伝子治療???????????????????????????????????????????????????????????????????????????宮崎勝徳*池田康博*:PhaseI62%(n=714):PhaseI/II20%(n=234):PhaseII14%(n=161):PhaseII/III1.0%(n=12):PhaseIII2.1%(n=24)図1現在の遺伝子治療臨床研究の進行状況———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006している3)(図1).淘汰の時代を乗り越え,本物の遺伝子治療がその潜在能力を発揮する段階にきている(表1).II眼科領域における遺伝子治療の歴史一方,眼科領域での遺伝子治療研究は出遅れ,最初にBennettらにより小動物における眼内遺伝子導入が報告されたのが1994年である4).翌年の1995年にはSaka-motoらが,増殖硝子体網膜症モデルを対象とした初の遺伝子治療結果を報告した5).以降研究は加速し,種々の疾患モデル動物を対象とした治療報告が数多くなされた.そしてついに2001年,JohnsHopkins大学においてAMDに対する臨床プロトコールが提出された6).これは,神経保護作用と血管新生抑制作用を併せもつ色素上皮由来因子(pigmentepithelium-derivedfactor:PEDF)遺伝子を搭載したAdベクターを硝子体内に投与し,眼内でPEDFを高発現させることにより,病態の主体である脈絡膜新生血管を退縮させる方法論である.2003年より開始されたPhaseⅠ臨床研究では28人の被験者を対象とし,治療経過において安全性に問題はないと報告されている7).現在はさらに軽症の20人の被験者を対象とし,PhaseIB臨床研究へ順調にステップアップしている.III遺伝子治療の位置づけと眼科領域における有用性当初,治療法のない遺伝性致死性疾患に対してのみ適応と考えられていた遺伝子治療は,その方法論が洗練されるに従い,上記変遷にみるように適応疾患・臓器を急速に拡大していった.これは,遺伝子異常の修復や正常遺伝子の補充といった「遺伝子の治療」のみならず,有効なドラッグデリバリーシステム(drugdeliverysys-tem:DDS)としての地位を確立したことを意味する.眼科領域は投与法の如何を問わず,網脈絡膜組織への薬剤移行性が低い.局所投与(点眼)ではその網脈絡膜への薬剤移行が非常に低いことが報告されている.一方,全身投与でも特に血液網膜関門の存在により,標的眼内組織で薬剤を有効濃度で作用させるためには大量投与や頻回投与が必要で,そのコスト・副作用が問題となる.そこでその活路として,眼内埋め込みデバイス,薬剤ターゲティングなど種々のDDSが考案されており,疾患によっては十分有効と考えられる.しかし網脈絡膜変性疾患は罹患期間が数年から数十年と長期であるため,いずれも反復投与を免れない.そこで標的である網脈絡膜,およびその近傍の細胞に遺伝子導入し,持続的に治療蛋白を発現・分泌させ,局所での有効濃度を維持できる遺伝子治療は特に慢性の経過をたどる変性疾患へのDDS,および治療として比較的受け入れられやすい(52)表1遺伝子治療の歴史年号遺伝子治療全体の歴史年号眼科領域における遺伝子治療1944DNAの発見1953DNAの二重らせん構造の解明1970Science誌に遺伝子治療の可能性1980サラセミアの遺伝子治療実験(米)1990ADA欠損症患者への遺伝子治療開始(レトロウイルスベクター・米)1991癌に対する遺伝子治療開始1993AIDSに対する遺伝子治療開始1994網膜への遺伝子導入(マウス・Adベクター・米)1995最初の遺伝子治療(マウス・Adベクター・米)1998遺伝子治療症例3,000例突破1999Adベクターによる死亡事故(米)2001レトロウイルスベクターによる白血病発症(仏)2001AMD患者に対する遺伝子治療臨床研究開始(Ad-PEDF硝子体内投与・米)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????と考えられる(図2).さらに眼内への遺伝子治療では,他臓器と比較して有利な点が存在する.第1に眼球は身体表面に露出し眼内が透見可能であることから,遺伝子導入操作が容易である.第2に小臓器であることから,効果を得るために必要なベクター投与量が抑えられる,さらに第3として眼球は閉鎖系であり血液眼関門で全身の血液循環から比較的隔絶されており,投与後の全身伝播の可能性が低い,などがあげられる.これらの利点と,QOL(qualityoflife)における視機能の重要度を考え合わせると,今後網脈絡膜変性疾患への応用の可能性も十分に考えられる.IVベクターの性能と眼科領域における将来性遺伝子治療の成否の鍵を握っているのが,治療遺伝子を標的細胞に導入する「ベクター」の性能である.ウイルスが元来もつ細胞進入機構を利用したウイルスベクターと,それ以外とに大きく分けられるが,その遺伝子導入効率の高さからウイルスベクターが臨床プロトコールの約70%を占める(図3).現在レトロウイルスベクター,Adベクターが主流であるが,新規ベクターも徐々に浸透してきている.おのおのの特性を表2に示す.ヒトへの投与がなされている現段階のベクターでも,その性能は発展途上である.おしなべて,遺伝子導入効率が低く,細胞特異性に乏しく,遺伝子発現制御技術が未熟,である.現状では逆に,そのレベルのベクターでも効果が得られる疾患が遺伝子治療のよい適応となる.この原則を踏まえたうえで,その遺伝子導入・発現特性に応じた疾患選定と治療戦略を熟考する必要がある.(53)表2各種ウイルスベクターの特徴レトロウイルスベクターアデノウイルスベクターアデノ随伴ウイルスベクターレンチウイルスベクターセンダイウイルスベクター導入効率やや低い非常に高いやや低い中非常に高い導入から発現までの期間比較的速い(1週間前後)非常に速い(24時間前後)遅い(数週間前後)速い(2日前後)非常に速い(24時間前後)発現持続期間1年間以上2週間前後半年間前後1年間以上1週間前後非分裂細胞への導入-++++染色体への組込み+-±+-その他挿入変異の可能性細胞毒性免疫原性導入遺伝子のサイズ制限挿入変異の可能性国産ベクターcedbffga図2眼科領域におけるドラッグデリバリーシステムa:角膜透過製剤,b:Tenon?下(内)注入デバイス,c:硝子体注入剤,d:強膜打込製剤,e:硝子体挿入デバイス,f:経口剤からの眼内移行,g:遺伝子治療.AdenovirusRetrovirusOthersHerpessimplexvirusAdeno-associatedvirusVacciniavirusPoxvirusLipofectionNaked/PlasmidDNA図3現在の遺伝子治療臨床研究に用いられている各種ベクターの割合(数字は%)———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.9,20061.レトロウイルスベクター現在最も汎用されているベクターの一つであるが,フランスにおける造血幹細胞への???????遺伝子導入治療後に白血病が発症した事故2)の経験もあり,ややその研究は足踏み状態の感がある.遺伝子導入に際して細胞分裂を必要とするため,神経網膜のように終末分化した細胞集団への導入には不向きである.しかし,増殖硝子体網膜症や眼内悪性腫瘍など病的細胞増殖が病態の主体となる疾患では,細胞選択的に遺伝子導入が可能であり,将来的に治療として応用される可能性は依然残されていると考えられる5).2.Adベクター現在唯一眼科領域で臨床研究が進められているベクターである.発現期間が短いため網脈絡膜変性疾患にはやや不適であるが,その高い発現量と硝子体内投与でも効率的に網膜外層まで遺伝子が導入できる特性8)から,その有用性は高い.さらに問題となっていたウイルスの催炎性や細胞毒性も,ベクターの改良に伴いその安全性が向上してきた.現在進行中のAMDに対するPhaseⅠ臨床研究には,この改良型Adベクターが使用されており,ヒト硝子体内投与による重篤な副作用は現在まで生じていないと報告されている6).3.アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター比較的長期間発現すること,非分裂細胞への遺伝子導入が可能であることから,網脈絡膜変性疾患に適したベクターであると考えられる.網膜下投与では網膜色素上皮細胞と視細胞,硝子体内投与では網膜神経節細胞や内顆粒層と,投与法により幅広い細胞に遺伝子導入が可能である点9)も魅力的である.動物モデルを対象とした研究も多く報告されており有望なベクターであるが,血中での安定性が高く生殖細胞への導入が危惧されること,挿入遺伝子の大きさに制約があること,大量生産が困難であることが臨床応用への障壁となっている.4.レンチウイルスベクター非分裂細胞ヘの遺伝子導入が可能であり,ベクターゲノムが宿主染色体に挿入されるため外来遺伝子を安定かつ長期間発現させることができる.このため,慢性の経過をたどる網脈絡膜変性疾患に対する遺伝子治療用ベクターとして最適であると考えられる.しかしながら,従来のレンチウイルスベクターはヒト免疫不全ウイルス(humanimmunode?ciencyvirus:HIV)を基本骨格とするため,ウイルスそのものの病原性が危惧され,いまだ臨床応用に至っていない.ベクターそのものの危険性を回避するために,自然宿主であるサルにも病原性を示さない「アフリカミドリザル由来免疫不全ウイルス(simianimmunode?ciencyvirusfromAfricangreenmonkey:SIVagm)」を基本骨格としたSIVベクターがわが国において開発され10),筆者らはこのベクターの網膜への遺伝子導入特性を以下のごとく報告した11)(図4).①ベクター注入部位に一致した網膜色素上皮細胞への遺伝子導入が可能であること.②導入早期(2日目)から遺伝子発現が認められ,少なくとも1年間の安定した発現が得られること.③網膜電図(electroretinogram:ERG)を用いた電気生理学的検討では,導入早期に一過性の電位の低下を認めるものの,導入30日後までには正常域に回復すること.④少なくとも1年間の経過観察期間において,眼球および諸臓器に悪性新生物の発生を認めないこと.以上の優れた特性を踏まえ,現在筆者らは種々の疾患モデルに対する治療実験を行っている12,13).一方,SIVベクターで唯一危惧される点は,外来遺伝子挿入による遺伝子発現の抑制や癌化である.これは前述のレトロウイルスベクターでの事故によりさらにクローズアップされている.レトロウイルスベクターでの白血病発症に関しては,①プロウイルスゲノムへの組み込みに必要なLTR(longterminalrepeat)配列の転写活性が,癌化に関与したこと,②元来アクティブな遺伝子の近傍に挿入されやすい性質をもっており,標的造血幹細胞は細胞増殖や分化に関わる遺伝子が活性化状態であること,③対象疾患が免疫不全状態であることから,発生した癌細胞を免疫学的に排除する機構が欠落していたこと,が大きな要因と考えられている.対照的にSIVベクターは,LTR配列の転写活性を排除していること(54)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????(55)16日SIV-GFP125日365日RPERDONLSIV-nls-lacZacdeb図4SIVベクターの網膜への遺伝子導入特性SIV-nls-lacZ投与群(a,b).網膜下投与により生じた網膜?離(RD)部位に一致して,青色で示す遺伝子発現が認められ(a),その発現は網膜色素上皮細胞(RPE)に特異的である(b).ONL:外顆粒層.SIV-GFP投与群(c,d,e).同一個体による経過を観察しているが,投与365日後においても発現の低下なく,長期安定した発現が認められる.(文献11より改変)CorneaONRD図5SeV-nls-LacZ網膜下投与による遺伝子導入導入時の網膜?離(RD)部位に一致して遺伝子が導入されている.ON:視神経.(文献16より改変)———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006(selfinactivation:SIN化),挿入のホットスポットを認めずランダムであること(未公表データ),筆者らが対象とする細胞が終末分化した網膜色素上皮細胞であることにより,癌化の可能性はきわめて低いと考えられている.5.センダイウイルス(SeV)ベクターセンダイウイルスの組換え技術は1996年に日本で開発され14),この組換え技術を応用したSeVベクターは純国産のウイルスベクターである15).SeVはヒトに対して病原性がなく,また感染細胞の細胞質内でゲノムの転写・複製が行われることから,ヒトに対してきわめて安全なウイルスと考えられる.眼科領域ではラット網膜色素上皮細胞への遺伝子導入を筆者らが報告している15)(図5)が,強力な遺伝子発現を示す一方で発現期間が2週間前後と短いことから,慢性の経過をたどる網膜変性疾患への応用はやや困難である.しかし安全で,感染に要する時間がきわめて短く,Adベクターを凌駕する非常に高い遺伝子導入効率・発現量をもつことから,Adベクターに取って替わる可能性を十分に秘めている.現在は免疫原性の軽減や長期発現を目指したベクターの改変が進められている17).V網脈絡膜変性疾患への適応と可能性遺伝子治療が未発達の現段階で,治療としてのコンセンサスを得るためには,対象疾患が①有効な治療法が存在しない,②視機能の悪化により,患者のQOLを著しく低下させる,③リスクを上回る有効な治療効果が期待できる,の3点を満たす必要がある.1.網膜色素変性(retinitispigmentosa:RP)上記条件を満たし,かつ遺伝性疾患である点で,最も遺伝子治療の対象として候補にあがる疾患である.RPは網膜のおもに視細胞(一部は網膜色素上皮細胞)の遺伝子変異により緩徐に視細胞のアポトーシス変性が進行する疾患である.その原因遺伝子はこれまで約40種類報告されており,これも氷山の一角とされている.RPにおいて遺伝子変異により誘導される視細胞のアポトーシスは,(A)必要な蛋白が生成されない,または生成量が不足することによる異常と,(B)異常蛋白が過剰に生成される異常,およびその両者に起因すると考えられる.そこで遺伝子治療のメソッドとしては,(A)に対しては①視細胞に対し正常遺伝子を導入する,(B)に対して②視細胞における異常遺伝子発現を抑制する,(A),(B)両者に対して③変性する視細胞にアポトーシス抑制遺伝子を導入する,④視細胞もしくはその近傍の細胞で神経保護因子を発現・分泌させる,の大きく4つが考えられる(図6).現在視細胞に高頻度に遺伝子導入可能なベクターが存在しないことから①,②,③が,また臨床応用を考慮した場合,すべての遺伝子異常に対応することは困難であることから①,②がその対象外となる.そこで神経栄養因子を分泌させ,広範囲の視細胞に作用させる方法論は,原因遺伝子を問わず広く治療が可能であり,将来の産業化にも有利であると考えられる.ここで現在筆者らが行っているPEDFを用いた遺伝子治療研究について紹介する.SIV-PEDFを網膜下投与し,網膜近傍で神経保護因子であるPEDFを過剰発現・分泌させ,視細胞のアポトーシスを広く抑制するメカニズムである.RPモデル動物であるRCSラットを対象とした視細胞変性抑制効果を病理組織学的ならびに電気生理学的に検討し,以下の結果を得た12)(図7).①投与後12週まで組織学的に視細胞数が保たれており,視細胞変性を抑制できた.②視細胞変性の抑制には神経保護因子であるPEDFのアポトーシス抑制が関与していた.③ERGを用いた電気生理学的検討において,機能的(56)必要な蛋白の生成不足異常蛋白の過剰生成②異常遺伝子発現の抑制④神経保護因子の導入・発現・分泌視細胞のアポトーシス死①正常遺伝子の導入③視細胞へのアポトーシス抑制遺伝子導入図6網膜色素変性に対する遺伝子治療方法———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????にも保護効果が得られた.筆者らの施設では他のRPモデル動物においても同様の研究を進め,有効な結果が得られている.このように複数のRPモデル動物での有効性が長期確認できたことから,現在筆者らは臨床応用を目指した前臨床試験を大型動物を対象に行っている18~20).先行するAMD臨床研究が存在すること,さらにそのなかでPEDF過剰発現の安全性に関してコンセンサスが得られていることは,研究を進めるうえで追風になると考えている.2.他の網脈絡膜変性疾患今回は割愛させていただくが,加齢黄斑変性,難治性緑内障などは十分にその適応を満たし,遺伝子治療研究も盛んである.筆者らも緑内障モデル動物における有効性を確認しており(未公表データ),何らかの形で遺伝子治療がそのサポートとして役立つ可能性はあると考えている.VI網脈絡膜疾患に対する遺伝子治療の将来展望淘汰の時代に生き残れる遺伝子治療はどのようなものなのか.それは綿密な研究結果に基づいた,既存治療と比較した「有効性」と「安全性」のバランスである.いかに安全でも効果が乏しければ治療として成り立たず,逆に劇的な効果があればわずかの危険性は容認されるのである.その意味で現行の遺伝子治療は,リスクを上回る確実なベネフィットに乏しいと言わざるを得ない.まず現状の遺伝子治療全体に期待されることは,新規高性能ベクターの開発である.安全性の向上はもとより,標的細胞への効率的な導入,組織特異的な遺伝子発現と,その発現レベル制御といった基礎的技術革新が心待ちにされる.さらに臨床応用を目指すわれわれ医師に今できることは,既存のベクターでの小動物・大動物を対象とした前臨床段階における効果判定試験,安全性試験を綿密に行い,科学的な根拠に裏打ちされた質の高い成果をあげ,その情報を公正に社会に開示することである.そのうえで所属機関,および厚生労働省での十分な審査・承認を得て,初めて試験的な医療として臨床試験を実施できるのである.逆に言えば,新たな治療であればあるほどその承認に時間を要し,患者の治療として成立するために長い年月を費やさなければならないジレンマも感じる.それを打破するためにも,より効率的な研究システムと,それを推進する国や企業の受け入れ態勢も必要であろう.わが国でも,筆者らの所属する九州大学において,網膜色素変性に対する遺伝子治療臨床研究が進行している.前述した小動物での有効な治療効果をヒトで実現させるために,現在大型動物を用いた安全性試験を実施中である.2004年度までに急性毒性試験が終了し良好な(57)abSIV-hPEDFSIV-hPEDFSIV-lacZUntreatedWildtype(msec)20015010050050?VUntreated図7SIV-PEDF網膜下投与による神経保護効果生後3週齢のRCSラットの網膜下に各ベクターを投与.7週齢で評価.a:網膜組織像.SIV-hPEDF群で視細胞が有意に残存している.b:暗順応ERG.高い振幅が得られている.(文献12より改変)———————————————————————-Page8????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006(58)結果が得られており,長期安全性試験を実施中の段階で,明らかな有害事象は認められていない18~20).今後遺伝子治療研究を続けていくにあたり,乗り越えなければならない問題が山積している.特に網膜変性疾患は長期の緩徐な進行を示すことから,その効果(ベネフィット)を証明するために要する時間は長い.しかし,遺伝子治療でしか救えない疾患も現に存在し,網膜色素変性はその代表であると考えている.難治性網脈絡膜疾患の治療として,筆者らの進める遺伝子治療が世界に認められ,多くの患者の喜ぶ顔を引き出す一助になれば幸いである.謝辞:遺伝子治療研究の遂行に際しご指導いいただいております千葉大学大学院医学研究院の米満吉和客員教授,ならびに各ウイルスベクターを供給いただいておりますディナベック株式会社の長谷川護社長に深謝いたします.文献1)DavisBD:Prospectsforgeneticinterventioninman.????????170:1279-1283,19702)Hacein-Bey-AbinaS,vonKalleC,SchmidtMeta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網脈絡膜変性疾患の治療へ向けて:再生治療

2006年9月30日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSそして網膜における最初の移植実験が報告されたのは1986年のことである.II網膜移植研究の歴史1986年にTurnerらは新生児ラットの全層網膜を,損傷させた成体網膜へ移植し,物理的に欠損部分を補うこと,移植片が分化して成体同様の層構造をとることを証明した1).それまでにも,神経網膜を脳内や前房内へ異所性に移植した報告はあったが,治療的な目的での移植研究は,この報告が初めてである.その後,動物モデルを用いて,組織学的評価や機能的評価が行われてきた.ドナーとしては,全層神経網膜移植,視細胞層移植,遊離細胞移植,全層網膜移植(色素上皮細胞を含む)などが材料として試みられた.評価方法としては,対光反応の改善,視覚聴覚抑制の改善などの機能評価や,シナプス形成なども報告されている.そして,10年後,海外では実際の患者に移植治療が試みられることとなった.III網膜移植の臨床応用1997年,Kaplanらは網膜色素変性に対して献眼網膜の移植を行いその結果を報告した.残念ながら,1年後の時点で視機能改善はみられなかったものの,拒絶反応などはなかった2,3).Dasらは中絶胎児網膜を指数弁から光覚の14例の網膜色素変性患者に移植している.数例に改善傾向がみられたが,第2相試験へ向けての足がはじめに─移植と再生再生医療と移植医療はしばしば混同されるが,必ずしも同じではない.しかし,再生医療には移植を伴うことが多いのも事実である.機能低下や物理的な欠落を外科的に,同等のもので補うのが移植であろう.再生には外科的処置を伴う外的な再生と,外科的処置を伴わない内的な再生がある.本稿では広く移植と再生をまとめて取り扱う.I移植医療─網膜移植に至るまで─欠損部分に移植して,物理的・機能的回復を試みるという行為は紀元前にまで遡ることができ,ヒポクラテスの時代にすでに自己皮膚移植は成功していたといわれている.しかし,現代医療に近い形での内臓の移植実験が行われたのは20世紀以降である.仔イヌを用いた心臓移植実験,腎臓,膵臓の移植実験が20世紀初頭に行われ始めた.ヒトに対する医療としての試みが行われたのは,腎臓で1954年,肝臓で1963年,心臓で1967年と50年以上もの年月がかかった.移植によって不治の病が治療できるというインパクトは計り知れない.実際,移植医療の開拓者Carrelと骨髄移植の開拓者Thomasはそれぞれ1912年と1990年にノーベル医学生理学賞を受賞した.眼科領域に目を向ければ,角膜移植は1789年にガラス片の移植が試みられたことがその始まりといわれている.角膜移植手術に初めて成功したのは1905年Zirmによる.実験から100年以上経過した後だった.(43)????*MasayukiAkimoto:京都大学医学部附属病院探索医療センター開発部網膜再生プロジェクト〔別刷請求先〕秋元正行:〒606-8507京都市左京区聖護院川原町54京都大学医学部附属病院探索医療センター開発部網膜再生プロジェクト特集●網脈絡膜変性疾患のアップデートあたらしい眼科23(9):1153~1160,2006網脈絡膜変性疾患の治療へ向けて:再生治療?????????????????????:?????????????????????????????????????????????????????????秋元正行*———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006かりとだけ位置づけている4).deJuanらも,光覚を有する8例の網膜色素変性と1例の加齢黄斑変性患者に胎児網膜を移植している.短期的に改善を自覚した症例はいるものの1年程度の観察では積極的効果がみられていない.しかし,加齢黄斑変性患者に関しては,その後,剖検の機会を得て組織学的な検討をしている.報告によれば,色素上皮細胞欠損部位の視細胞は確認されなかったが,3年という長期の後でも移植細胞が生存していたという5,6).移植片とホスト網膜がシナプスを形成もしくは形成しようとしていた状況証拠としてシナプトフィジン染色で示している点も注目される.他臓器における移植の歴史を考えれば,網膜移植の臨床への応用は性急とも映る.しかし,眼科学だけでなく,医療,科学技術の飛躍的に進歩している背景においては,決して早すぎるということない.実際にこれらの臨床報告では,視機能の改善はあまりみられていないものの,物理的な移植自体は成功しており,第1段階としても網膜移植自体の安全性の検証は果たされたと考えられる.最近になって,視機能回復という意味での成功例が報告された.Radtkeらは5例の網膜色素変性患者に網膜色素上皮のついた胎児網膜を移植した.患者視機能の改善はみられなかったとしている7).しかし,彼らはデバイスを改良し,神経網膜と網膜色素上皮を含む全層移植によって術前20/800から術後1年で20/160まで視機能が著明に改善した1例を2004年に追加報告している8)(図1).網膜移植医療が第2段階に入ったことを示す報告といえる.IV成果と問題点最近10年間で,網膜移植手術手技は,既存手技の応用で可能なことはおおむね示された.しかし,機能的な意味での成功例の報告はまだ1例あるだけである.今後,症例を重ねること,物理学的成功をより効率的に機能的成功へとつなげるための基礎研究の展開が期待される.網膜移植が機能的に成功するためには移植片の生存だけでなく,移植片が宿主細胞とシナプスを形成して電気的につながる必要があるからだ.2003年頃,複数の研究室から網膜変性モデルにおいて残存網膜のリモデリングと瘢痕形成についての報告が続いた.報告によれば,視細胞が傷害を受けた後,残った双極細胞は可塑的に異所的なシナプスを形成し新たな神経回路を形成し,M?ller細胞は増殖してバリアを形成する9).このバリアを越えて,ドナーとホストが電気的につながること,双極細胞の神経回路を元に戻すことが,網膜移植の物理的成功から機能的成功に変えるキーワードと考えられる.筆者らは,このバリアに注目し研究を行ってきた.バリアの形成を阻害するために,RNAi(標的RNAを破壊して機能を低下させる働きをもつ)や種々の薬剤を用いて,移植への効果を調べた.M?llerグリアの働きを弱めるRNAi投与では移植への効果はみられなかった.しかし,バリア形成初期にグリアが分泌するコンドロイチン硫酸を抑制するChondroitinaseABCを投与すると,薬剤なしでは神経突起を水平にしか伸長させない移植細胞がバリアを越えて神経突起を伸長させることがわかった(図2)(投稿中).しかし,他臓器と同様,網膜移植医療においてはその組織入手に倫理的な問題がある.海外での移植成功例は,胎児網膜を利用したものであり,成人献眼からの網膜移植は機能的には成功していない.動物実験でも分化が完成した網膜より分化途中の幼弱な網膜細胞のほうが適していることがわかっている.しかし,日本国内では(44)図1網膜全層移植が著効した症例の眼底写真とマイクロペリメトリーの合成写真黄点は移植シートの範囲,青十字は固視点,水色塗四角は視覚あり,水色枠四角は視覚なし.(RadtkeNDetal:ArchOphthalmol,2004より改変)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????中絶胎児を医療に利用することはできない.幼弱網膜もしくは幼弱な視細胞を作製しなければ移植もできない.V再生医療へプラナリアを切断すれば2匹になる.イモリの眼は摘出しても再生する.ヒトの皮膚などは再生するけれども中枢神経細胞は再生しない.100年も前に神経解剖学者Cajalが唱えた「ヒトの中枢神経は再生しない」という考えは,つい最近までは一般常識であった.しかし,その常識が変わりつつある.中枢神経にも再生能力があることが示されて以来,神経再生医療研究が活発となった.視機能の再生を目指す網膜・視細胞再生医療もその例外ではない.網膜の元となる未分化で増殖能・多分化能をもつ細胞は網膜幹細胞とよばれるが,こうした細胞は発生段階においては大量に網膜に存在し分化・成熟の過程で消失すると考えられていた.しかし,網膜幹細胞は,成体においても毛様体上皮細胞のなかに存在し,網膜の細胞に再分化する能力があることが,AhrmadらとTropepeらによって突き止められた10,11).またヒトにおいてもこうした細胞があることも示された.臨床的には毛様体は扱いにくい組織ではあるが,増殖・分化させて自家移植の可能性を示した点で大きな意義があるといえる.さらにこのような幹細胞は網膜内にもあるとする報告もある.Harutaらは,虹彩色素上皮細胞からでも,遺伝子導入を併用することでロドプシン陽性細胞を得ることに成功している12).網膜再生を目的として,試みられたそのほかの体細胞由来の幹(45)胚性幹細胞胚性幹細胞神経幹細胞神経幹細胞虹彩虹彩色素上皮細胞色素上皮細胞毛様体網膜幹細胞毛様体網膜幹細胞視細胞視細胞骨髄間質幹細胞骨髄間質幹細胞図3移植細胞のさまざまなソースChondroitinaseABC移植バリアがあるとシナプスを形成し難いバリアが壊れ,シナプスを形成しやすくなる網膜変性に伴うリモデリングの過程EarlyStage3Stage2Stage1Normal(a)(b)(c)(d)図2網膜変性に伴うリモデリングの過程と移植における問題点(JonesBW,MarcRE:ExpEyeResearch,2005より改変)———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006細胞としては,骨髄幹細胞,骨髄間質幹細胞,神経幹細胞などがある(図3).完全な万能性をもった幹細胞は胚性幹細胞である.胚性幹細胞についても,特殊な培養条件で,機能的にほぼ完成された網膜色素上皮細胞を分化誘導できるようになった.Hiranoらは胚性幹細胞の培養で,二次元的に眼様構造が多数でき網膜様構造の中にはロドプシン陽性細胞があることを報告している13).Ikedaらはマウス胚性幹細胞から網膜前駆細胞様の細胞を効率的に作製する特殊な培養方法を確立した14).胚性幹細胞由来の神経前駆細胞の段階でも網膜への移植で網膜細胞に分化するという報告もでてきた.虹彩や毛様体からの分化誘導には自家移植の可能性があるが,病因として遺伝子に問題がある場合は,必ずしも有用ではない.一方,樹立されているヒト胚性幹細胞株注)から分化誘導するほうが,病因遺伝子という観点では問題を含まない.誘導率が低くとも大量培養することで量的問題は解決されうる.とはいえ,各種幹細胞から視細胞をはじめとする網膜細胞をより効果的に分化誘導させるための改良は今後も引き続き必要と考えられる(図4).注)韓国の某教授が報告した胚性幹細胞がねつ造であったとして逮捕され,論文が撤回された.その細胞とは,成人の体細胞から核を抽出し,脱核した卵子に移植した後増殖させる,いわゆるクローン技術によって作製したとするものである.つまり遺伝子レベルで患者と同一の細胞の胚性幹細胞を作製する技術であり,もし本当なら移植による拒絶反応など予想される合併症を大幅に軽減でき,臨床応用へ飛躍的に近づく可能性があっただけに残念である.しかし,受精卵を増殖させて胚性幹細胞を樹立する方法は世界的に確立されているので誤解されぬよう確認したい.VI発生から再生へ効率的に目的細胞を分化誘導するためには,その細胞の分化誘導の仕組みを理解する必要がある.最も大事なことはマスター遺伝子を知ることである.眼発生においては転写因子????が有名である.????を強制発現すると,ハエが3つ目(複眼なので正確ではない)にな(46)ES細胞から眼球様構造を誘導(HiranoMetal:DevDyn,2003より)ES細胞からRPE胞細を分化誘導(HarutaMetal:InvestOphthalmolVisSci,2004より)ES細胞から視細胞,M?llerグリアを誘導スケールバー:E=10?m,F=20?m(IkedaHetal:ProcNatlAcadSciUSA,2005より)ABABONL:外顆粒層,INL:内顆粒層,G:神経節細胞層.1.5mm20μm100μm図4胚性幹細胞から誘導された眼関連細胞———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????る15).遺伝子を欠損させると眼が形成されない.????遺伝子の異常は,種々の遺伝性眼疾患と関係しており,その働きから眼球形成のマスター遺伝子であるとされている.遺伝子導入技術を用いればマスター遺伝子を強制発現することも可能であるし,その発現に注目すれば外的因子などによる培養条件を検討することも容易になる.網膜色素変性症を代表とする遺伝性網膜変性疾患で最も傷害をうけるのは杆体視細胞であり,杆体視細胞の発生を理解することは重要である.視細胞・杆体視細胞に関しては????と同格のマスター遺伝子は見つかっていない.しかし,???,???,????,?????という転写因子群が重要な役割をもつことがわかってきた.杆体視細胞数は,発生段階での培養系実験では,各種の薬剤処理で増えることから,分化の初期条件としてプログラムされている細胞タイプであると長く考えられてきた.しかし,近年の遺伝子改変マウスを用いた研究でその考え方は変わりつつある.b甲状腺ホルモン受容体欠損マウスでは赤緑色素体細胞が欠失する一方でその分青色錐体細胞が増えた16).???欠損マウスでは杆体視細胞が欠失するが,青色錐体細胞がその分増えた17).また,進化論的な遺伝子の解析からも青色錐体細胞が最も原始的な視細胞であり初期条件としてプログラムされている可能性がわかってきた.杆体細胞においては,???,???,?????は1つだけでは十分ではなく,相乗効果をもってその分化を誘導し,???,?????は青色錐体細胞への分化を阻止し,赤緑錐体細胞においては???と????が分化に相乗的に作用し,????が青色錐体細胞への分化を阻止しているものと考えられる.筆者らは杆体視細胞前駆細胞と杆体視細胞が蛍光で標(47)図5杆体視細胞の発生分化杆体視細胞およびその前駆細胞を標識し各発生段階における杆体視細胞の誕生を観察した.経時的に杆体視細胞が増加していく.VZ:脳室帯,NBL:神経芽細胞層.b~gのスケールバー:25?m.(AkimotoMetal:ProcNatlAcadSciUSA,2006より)???Rodbirth???E10E12E14E16E18P0P2P4P6P8P10P12P14P21PeakofrodbirthRhoexpressionOSformationEyeopeningMaturerods———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006識されるマウスを作製した18).杆体視細胞前駆細胞は発生段階で経時的に増加していった.各発生段階での杆体視細胞前駆細胞を回収し,発現する遺伝子をmicroar-ray法で網羅的に調べた.杆体視細胞の発生にのみ注目した網羅的遺伝子発現図は,杆体視細胞の設計図ともいえる.杆体視細胞を分化誘導するための羅針盤となることが期待される(図5).VIIそのほかのアプローチ移植・再生医療と関連するが,通常と異なる手法で効果の期待されるアプローチがある.1.移植による残存網膜の保護的作用移植治療は,移植片を機能させることが,本来の目的である.しかし,移植片は宿主錐体細胞の延命にも役立っているとする報告もある19).網膜色素変性では通常杆体細胞が先に傷む.錐体細胞の遺伝子に傷害がなくとも,引き続き,ゆっくりと錐体が変性する症例がある.これは,杆体細胞が錐体細胞への栄養因子を分泌していると説明されている.反論もあるが,移植片それ自体が光感受せずとも,残存する錐体細胞の生存の延長に利用できる可能性がある.2.血管の再生Otaniらは,骨髄幹細胞を硝子体注入すると網膜血管が再生し,網膜変性モデルマウスの網膜変性,特に錐体視細胞の変性が抑制されたと報告した20)(図6).骨髄幹細胞の精製技術は,すでに臨床応用されており,最も臨床に近い技術であり,骨髄幹細胞の単独移植による残存中心視力の温存もしくは,同時移植視細胞の生存率を高める方法として,今後期待される.3.内在性網膜幹細胞の利用M?llerグリアは網膜変性時,網膜のリモデリングに関与して移植の障害となっている可能性がある.しかし,その一方で内在性網膜幹細胞としての利用の可能性も示唆されている.Rehらは,ニワトリの網膜に薬剤で障害を加えたところ,M?llerグリアが脱分化を起こして,幹細胞様になることを報告した21).Ootoらはラットにおいても同様の現象が起こることを報告している22)(48)図6骨髄幹細胞移植による網膜変性の抑制骨髄幹細胞を??マウスの硝子体に注入した.網膜血管が維持され,錐体細胞変性が抑制された.GCL:神経節細胞層,INL:内顆粒層,ONL:外顆粒層.(OtaniAetal:JClinInvest,2004より)840-4Amplitude(μV)Amplitude(μV)020406080100Time(ms)Righteye(treated)840-4020406080100Time(ms)Lefteye(control)ACB———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????(49)(図7).遺伝子導入などの手法を併用することで,ロドプシン陽性細胞に分化させることも可能であり,網膜内網膜幹細胞の再活性化を利用した再生治療という新しい治療の可能性が示された.この方法では遺伝子レベルの治療は困難であるため,進行の遅いタイプの網膜色素変性症患者に対しては応用できる可能性がある.手術手技で網膜を直接触る必要がない点は特長である.4.視細胞以外を視細胞に仕立てるBiらは残存した神経細胞を視細胞に仕立てるというユニークな再生的手法を報告している23).視細胞の消失したマウスに微生物由来の原始的なロドプシン遺伝子を導入した.原始的なロドプシンは視細胞が存在するかのような光応答性を観察した.遺伝子治療と再生医療を組み合わせた方法で今後の展開が期待される.おわりにマウス,サルでの実験結果を元に,ヒト胚性幹細胞を用いた実験計画は2年にわたる倫理委員会での討議の末に網膜色素上皮細胞作製実験は承認されたが,視細胞作製実験は動物実験検証不十分として保留となった.しかし,その後,動物実験での進歩を踏まえて視細胞作製に関しても追加承認された.倫理面でも十分な配慮のうえで研究が行われている.技術的には,サルで確立された技術はヒトへの応用も決して遠いものではないと考えられる.文献1)TurnerJE,BlairJR:Newbornratretinalcellstransplant-edintoaretinallesionsiteinadulthosteyes.?????????391:91-104,19862)KaplanHJ,TezelTH,BergerASetal:Humanphotore-ceptortransplantationinretinitispigmentosa.Asafetystudy.???????????????115:1168-1172,1997図7内因性網膜幹細胞増殖分化の試み内在性網膜幹細胞を刺激し再増殖させた,遺伝子を導入しロドプシン陽性細胞を得た.ONL:外顆粒層,INL:内顆粒層.*:有意差あり.スケールバー:100?m.(OotoSetal:ProcNatlAcadSciUSA,2004より)CLIG-CrxCLIG-CrxNeuroDACBLTRLTR3mycCrxIRESGFPLTRNormalLTR3mycCrxIRESGFP201623840CLIG*%Immunopositive(RET-P1+)CrxNeuroDCrxNeuroDD806040200CLIG**%Immunopositive(GS+)CrxCrxNeuroDyy———————————————————————-Page8????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006(50)3)BergerAS,TezelTH,delPrioreLVetal:Photoreceptortransplantationinretinitispigmentosa:short-termfollow-up.?????????????110:383-391,20034)DasT,delCerroM,JalaliSetal:Thetransplantationofhumanfetalneuroretinalcellsinadvancedretinitispig-mentosapatients:resultsofalong-termsafetystudy.??????????157:58-68,19995)delCerroM,HumayunMS,SaddaSRetal:Histologiccorrelationofhumanneuralretinaltransplantation.?????????????????????????41:3142-3148,20006)HumayunMS,deJuanEJr,delCerroMetal:Humanneuralretinaltransplantation.??????????????????????????41:3100-3106,20007)RadtkeND,SeilerMJ,AramantRBetal:Transplantationofintactsheetsoffetalneuralretinawithitsretinalpig-mentepitheliuminretinitispigmentosapatients.???????????????133:544-550,20028)RadtkeND,AramantRB,SeilerMJetal:Visionchangeaftersheettransplantoffetalretinawithretinalpigmentepitheliumtoapatientwithretinitispigmentosa.???????????????122:1159-1165,20049)JonesBW,WattCB,FrederickJMetal:Retinalremodel-ingtriggeredbyphotoreceptordegenerations.?????????????464:1-16,200310)ChackoDM,RogersJA,TurnerJEetal:Survivalanddi?erentiationofculturedretinalprogenitorstransplantedinthesubretinalspaceoftherat.??????????????????????????268:842-846,200011)TropepeV,ColesBL,ChiassonBJetal:Retinalstemcellsintheadultmammalianeye.???????287:2032-2036,200012)HarutaM,KosakaM,KanegaeYetal:Inductionofphotoreceptor-speci?cphenotypesinadultmammalianiristissue.????????????4:1163-1164,200113)HiranoM,YamamotoA,YoshimuraNetal:Generationofstructuresformedbylensandretinalcellsdi?erentiat-ingfromembryonicstemcells.???????228:664-671,200314)IkedaH,OsakadaF,WatanabeKetal:GenerationofRx+/Pax6+neuralretinalprecursorsfromembryonicstemcells.??????????????????????102:11331-11336,200515)HalderG,CallaertsP,GehringWJ:Inductionofectopiceyesbytargetedexpressionoftheeyelessgeneindro-sophila.???????267:1788-1792,199516)NgL,HurleyJB,DierksBetal:Athyroidhormonereceptorthatisrequiredforthedevelopmentofgreenconephotoreceptors.?????????27:94-98,200117)MearsAJ,KondoM,SwainPKetal:Nrlisrequiredforrodphotoreceptordevelopment.?????????29:447-452,200118)AkimotoM,ChengH,ZhuDetal:TargetingofGFPtonewbornrodsbyNrlpromoterandtemporalexpressionpro?lingof?ow-sortedphotoreceptors.??????????????????????103:3890-3895,200619)MeyerJS,KatzML,MaruniakJAetal:Embryonicstemcell-derivedneuralprogenitorsincorporateintodegener-atingretinaandenhancesurvivalofhostphotoreceptors.??????????24:274-283,200620)OtaniA,DorrellMI,KinderKetal:Rescueofretinaldegenerationbyintravitreallyinjectedadultbonemar-row-derivedlineage-negativehematopoieticstemcells.?????????????114:765-774,200421)RehTA,FischerAJ:Stemcellsinthevertebrateretina.????????????????58:296-305,200122)OotoS,AkagiT,KageyamaRetal:Potentialforneuralregenerationafterneurotoxicinjuryintheadultmamma-lianretina.??????????????????????101:13654-13659,200423)BiA,CuiJ,MaYPetal:Ectopicexpressionofamicrobi-al-typerhodopsinrestoresvisualresponsesinmicewithphotoreceptordegeneration.??????50:23-33,2006

網脈絡膜疾患の網膜機能解析

2006年9月30日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSI他覚的機能検査法1.ERGa.ERGの種類と各成分の発生起源図1に示した暗順応ERGの最大応答に注目していただきたい(図1,左側の最下段).最初に現れる陰性波がa波で,視細胞および視細胞外節の機能を反映する.また,a波に続く陽性波はb波で,双極細胞に由来する.b波の上行脚にみられる律動様小波は,アマクリン細胞の機能を反映していると考えられている.したがって,それぞれの成分を評価することによって,網膜各層の機はじめに網膜の機能検査は他覚的と自覚的な検査に分けられ,それぞれ網脈絡膜疾患の診断で重要な役割を担っている.他覚的機能検査としては網膜電図(electroretino-gram:ERG)と眼球電図(electrooculogram:EOG)がある.また,自覚的機能検査としては,視野検査および暗順応検査があげられる.眼底検査,眼底造影検査および網膜機能検査を駆使することによって,多くの網脈絡膜疾患を正確に診断することができる.今回はこれらの検査の有用性を代表的な網脈絡膜疾患を列挙しながら解説する.(29)????*ShigekiMachida:岩手医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕町田繁樹:〒020-0015盛岡市内丸19-1岩手医科大学眼科学教室特集●網脈絡膜変性疾患のアップデートあたらしい眼科23(9):1139~1151,2006網脈絡膜疾患の網膜機能解析???????????????????????????????????????????????????????????町田繁樹*図1全視野刺激で得られる網膜電図(ERG)の種類杆体応答最大応答100?V100?V3msec3msec3msec128msec128msec128msec錐体応答30HzフリッカーERG50?V50?V50?V明順応ERG暗順応ERGa波b波律動様小波150msON応答OFF応答Long-?ash錐体応答———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006能変化を判定することが可能である.ERGは記録条件を変えることで,波形が大きく変化し,杆体系と錐体系の反応を分離記録することができる.国際臨床視覚電気生理学会(ISCEV)1)が推奨するプロトコールで記録された正常者のERG波形を示した(図1).代表的な網脈絡膜疾患のERG所見について後述する際に,図1に示した正常波形と病的な波形とを比較していただきたい.20~30分の暗順応後に暗順応下で弱い光で刺激すると,杆体のみが刺激されて杆体系の応答が得られる(杆体応答).波形はa波がなくb波のみで形成される.暗順応下で強い刺激光を用いると,杆体のみならず錐体が反応し,a波およびb波から構成される波形が得られる(最大応答).つぎに10分間の明順応を行い,明順応下で記録できるのが錐体応答で,錐体系の機能を反映している.さらに,30Hzの高頻度刺激で得られる30HzフリッカーERGも錐体系の反応を表している.以上のERGはすべて持続時間が短い刺激光で記録したものである.持続時間の長い刺激光を錐体応答に用いると,ONとOFF応答を分離することできる(図1,右側の最下段).錐体系は杆体系とは異なって,2つの経路がある.つまり,光が照射されると脱分極する双極細胞(ON型双極細胞),光が消えたときに脱分極する双極細胞(OFF型双極細胞)の2種類がある.それぞれ,ONとOFF経路を形成している(図2).ONとOFF応答は,それぞれON型とOFF型双極細胞の応答を反映していると考えられ2),どちらかの経路のみが選択的に障害される疾患がある.b.多局所ERG(multifocalERG:mERG)mERGは眼底後極部の各網膜局所を刺激し,そこからの応答を短時間で記録できるシステムである.各網膜局所からのERG波形が得られ(図3A),応答密度を3Dトポグラフィとして表現できる(図3B).病変が網膜に広範に及ぶ場合は,通常のERGで病変を捉えることができる.しかし,眼底後極部の局所網膜に病変が限局している場合に,mERGが診断に有用である.2.EOG眼球の前極(角膜側)と後極の間には電位差が存在し(前極が後極よりも相対的にプラスになっている),これを眼球の常存電位とよび,網膜色素上皮がその起源と考(30)ON経路視細胞双極細胞ON型ON型OFF型ON経路OFF経路杆体系錐体系図2杆体系と錐体系の伝達経路(文献2より改変)200nV80mSec0BA図3多局所網膜電図(mERG)の各刺激部位から得られた波形(A)とその波形に基づいた3Dトポグラフィ(B)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????えられている.常存電位は暗順応あるいは明順応によってゆっくりと変化し,その変化を波形に表したのがEOGである.記録方法の詳細は割愛するが,内・外眼角の皮膚上にそれぞれ平皿電極を設置する.眼球を1分ごとに1Hzの頻度で左右に約30?動かしてもらう.眼球の前極が電極に近づくと,その電極はプラスに,もう一方の電極は眼球の後極が近づくのでマイナスとなる.2つの電極間での電位差を記録する.暗順応を開始すると,EOG振幅は減少し10分程度で極小(darktrough)に達し,さらに暗順応を続けると再び上昇する(図4A).つぎに,明順応を開始すると,EOG振幅は徐々に増大し(明上昇),明順応開始6~9分で極大(lightpeak)に達する.その後,明順応を続けるとEOG振幅は減少する.明極大と暗極小の振幅比をL/D比とよび,正常ではL/D比は1.8以上になるが,視細胞あるいは網膜色素上皮に広範な障害が存在する場合は,L/D比は1.65未満となる.EOGは得られる情報量においてはERGにかなわないが,EOGが診断に不可欠な疾患がある.後述するBest病はEOGが診断の決め手となる疾患として重要である(図4A).II自覚的機能検査法1.視野検査網脈絡膜疾患では視野異常を訴えることが多く,視野変化を定量化することは,診断および経過観察に重要である.周辺部視野が障害される疾患では動的量的視野検査が適している.また,中心視野が侵される疾患では,Humphrey視野計などを用いた静的量的視野検査が適している.Humphrey視野計では黄色の背景に青色刺激を用いた(blue-on-yellow)視野検査のプログラムが組み込まれており,青錐体系の感度を測定できる.後述するが,青錐体系の感度に特徴的な変化をきたす疾患があり,病態解明や診断の一助となる.2.暗順応検査暗順応曲線は,暗順応の経過に伴った光覚閾値の変化を計測したものである(図4B).暗順応開始5~10分で急速に閾値が約3.0logunit低下する(第1次暗順応).屈曲点を形成して(rod-conebreak),再び閾値が低下し暗順応開始から約45分で最終閾値に達する(第2次暗順応).正常者では,暗順応中に光に対する感度が105~106倍となる.暗順応検査は夜盲をきたす疾患の診断に役立つ.III代表的な網脈絡膜疾患日常臨床で遭遇する可能性の高い網脈絡膜疾患をあげて,その病態,眼底所見および網膜機能検査の所見について述べる.1.網膜色素変性症網膜色素変性症は,視物質のサイクル(phototrans-ductionとretinoidcycle)に関与する蛋白質や視細胞外節の構造蛋白などをコードしている遺伝子異常によって発症する.原因が多いため,表現型にはバリエーションがあり,発症年齢,経過および予後はさまざまである.(31)図4正常者(●)およびBest病(◯)の眼球電図(EOG)(A),と正常者の暗順応曲線(B)0352025101500002004006008時間(分)時間(分)振幅(?V)室内光暗順応光照射0504030201001234567光覚閾値(対数)AB明極大暗極小Rod-conebreak———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006杆体の機能障害が錐体のそれに先行するため,夜盲が初発症状となり,視力は最後まで比較的保たれる.典型的な眼底所見としては血管アーケード付近から周辺部の網膜が萎縮し,特徴的な骨小体様の色素沈着がみられ,網膜血管は狭細化し,視神経乳頭は蒼白化する(図5A).しかし,非定型例では,眼底変化が軽度あるいは黄斑変性を伴うことがある.視野検査では,輪状暗点(図5B)や求心性視野狭窄がみられる.本症のERG所見としては,杆体応答はきわめて減弱するが,錐体応答と30HzフリッカーERGは記録可能なことがある(図5C).しかし,進行例では錐体系応答も記録不能となる.2.錐体ジストロフィ錐体ジストロフィでは,網膜色素変性症と同様にphototransductionおよび視細胞外節の構造蛋白などをコードしている遺伝子の異常が報告されている.20歳以前に発症することが多く,視力低下,羞明,中心暗点および色覚異常を主症状とする.錐体ジストロフィの典型的な眼底所見は,bull?seyepatternの黄斑変性である(図6A).しかし,非特異的な黄斑変性,変性近視様所見あるいは正常眼底を示すことがあって,眼底所見から診断するのは困難である.したがって,ERGが診断に必須な疾患といえる.また,杆体の機能障害を合併し,網膜色素変性症に類似した眼底所見を呈することがある(図6C).視野検査では,典型例では中心暗点がみられ(図6B),杆体機能障害を伴う症例では中心暗点および不完全な輪状暗点がみられる(図6D).錐体ジストロフィのERG所見は特徴的で,杆体応答および最大応答がほぼ正常に保たれているにもかかわらず,錐体応答と30HzフリッカーERGの減弱が目立つ(図7).杆体の機能障害を合併した症例でも,錐体応答の振幅低下が杆体応答の低下に比較して著しい.このように杆体の機能障害を伴った場合は,錐体?杆体ジストロフィと診断する.(32)図5網膜色素変性症の眼底(A),動的量的視野(B)およびERG(C)50?V50?V100?V100?V杆体応答錐体応答30HzフリッカーERG最大応答ABC———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????3.Stargardt病常染色体劣性遺伝性疾患で,レチノイドサイクルに関与するATP-bindingtransportergene(????)の異常が報告されている3).リポフスチンの前駆物質のA2Eが過剰に生成され,網膜色素上皮にリポフスチンが蓄積する.特徴的な眼底所見は,黄斑変性と多発性の黄色斑(33)図6錐体(?杆体)ジストロフィのフルオレセイン蛍光眼底造影(AおよびC),静的量的視野(BおよびD)ACBD錐体-杆体ジストロフィ錐体ジストロフィ50?V25ms25ms25ms50ms50?V100?V100?V杆体応答錐体応答30HzフリッカーERG最大応答図7錐体ジストロフィおよび錐体?杆体ジストロフィのERG———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006である(図8A)が,進行すると,黄色斑は網膜色素上皮萎縮のために目立たなくなる.フルオレセイン蛍光眼底造影は非常に診断的価値が高く,リポフスチンによる蛍光遮断でdarkchoroidがみられる(図8B).また,黄色斑はwindowdefectによる過蛍光を示す.本症の網膜機能は病変の広がりや病期の進行によって異なるので,網膜機能検査は補助的なものとなる.ERGの所見から,正常な錐体・杆体機能,異常な錐体機能,異常な錐体・杆体機能の3つのタイプに分類される.本症例では錐体機能のみが低下していた(図8C).4.先天網膜分離症伴性劣性遺伝性疾患で男性のみが発症し,女性は保因者となる.小児の黄斑疾患のなかで最も高頻度にみられる疾患である.網膜内の細胞と細胞の接着に関与するretinoschisinをコードしている???遺伝子の異常によって発症する4).黄斑部病変は必発で?胞様変化を示し(図9A),光干渉断層法(OCT)では?胞様変化が網膜分離であることが確認できる(図9B).周辺部網膜には周辺部網膜分離,網膜内層円孔,銀箔様反射,白色樹枝血管がみられる.ERG所見は特徴的で,最大応答のa波はほぼ正常だが,b波の振幅が減弱し,a波よりもb波が小さくなるいわゆるnegativeERGを呈する(図9C).視細胞と双極細胞の接着に問題があり,シナプス間の伝達が障害されているためと考えられる.黄斑部の変化が,非特異的な病変となった症例や網膜分離と網膜?離を鑑別しにくい小児例などでは,ERG所見が診断に非常に役に立つ.(34)図8Stargardt病の眼底(A),フルオレセイン蛍光眼底造影(B)およびERG(C)ABC50?V25ms25ms25ms50ms50?V100?V100?V杆体応答錐体応答30HzフリッカーERG最大応答———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????(35)ABC図9先天網膜分離症の眼底(A),OCT(B)および最大応答ERG(C)図10完全型および不全型の先天停在性夜盲(CSNB)のERG(A)および病態(B,文献7より改変)完全型CSNB不全型CSNB完全型CSNB不全型CSNBON経路ON経路OFF経路ON経路ON経路OFF経路NO型NO型FFO型錐体系杆体系杆体系NO型NO型FFO型錐体系AB50?V25ms25ms25ms50ms50?V100?V100?V50ms100?V杆体応答錐体応答30HzフリッカーERG最大応答視細胞双極細胞Long-?ash錐体応答———————————————————————-Page8????あたらしい眼科Vol.23,No.9,20065.先天停在性夜盲(congenitalstationarynightblindness:CSNB)CSNBは,夜盲よりも,学校検診や就学時検診で視力低下を指摘されて眼科を受診することが多い.ERGの所見は特徴的であり,最大応答がnegativeERGとなる(図10A).ERG所見から完全型と不全型の2つに分類されている5).CSNBは眼底所見がほぼ正常であるが,完全型は近視を伴うため豹紋状眼底を呈する.完全型CSNBでは杆体応答がほぼ消失しているのに対して,不全型CSNBでは杆体応答が残存している.錐体応答と30HzフリッカーERGの振幅は,完全型CSNBでは保たれているが,不全型CSNBでは減弱している.完全型CSNBの錐体応答では,a波の底が広くsquare-typea-waveとよばれている.Long-?ash錐体応答は非常に特徴的で,完全型CSNBではON応答が消失している.一方,不全型CSNBではONおよびOFF応答がともに低下している6).ERGの所見からもわかるように,完全型CSNBでは杆体系と錐体系のON経路のみが障害され,不全型CSNBではすべての経路が不完全に障害されていると考えられる(図10B)7).完全型CSNBでは杆体系の機能が消失しているため,暗順応曲線は第1次暗順応のみとなり,杆体閾値は存在しない.一方,不全型CSNBでは杆体の最終閾値は正常者よりも1.5logunit高いが第2次暗順応が存在する(図11A)7).青錐体系は緑・赤錐体とは異なって,OFF経路をもたずON経路のみからなる.したがって,完全型CSNBでは青錐体系の機能は著しく低下すると考えられる.しかし,色覚機能検査では正常である.Blue-on-yellow視野検査で青錐体系の感度を測定すると,完全型CSNBではドーナッツ状に視野が欠損し,中心10~15?の青錐体系の感度が保たれている(図11B)8).黄斑部の青錐体系の機能が保たれているために,色覚検査では異常を示さないと考えられる.完全型CSNBは,伴性劣性および常染色体劣性の遺伝形式をとる.伴性劣性遺伝性の完全型CSNBでは,ON経路の発達を促すnyctalopinをコードしている???遺伝子の異常が見つかっている9).(36)ABCase1Case2Case3Case4Case5W/WB/Y7654321005101520253035暗順応時間(分)光覚閾値(対数)完全型CSNB不全型CSNB正常図11完全型および不全型の先天停在性夜盲(CSNB)の暗順応曲線(A,文献7より)完全型CSNBのwhite-on-white(W/W)およびblue-on-yellow(B/Y)を用いた静的量的視野(B,文献8より)———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????不全型CSNBは伴性劣性遺伝であり,L-typevolt-age-gatedcalciumchannel(???????)の変異がみられる.???????は杆体と錐体へのカルシウムイオンの流入をコントロールし,視細胞からの神経伝達物質の放出に関与している.したがって,???????に変異があれば,視細胞から双極細胞への伝達が障害される10).CSNBは,遺伝子の機能と網膜機能異常との関連性が明らかとなった疾患である.ERGがその病態解明に重要な役割を果たした.6.小口病小口病は,常染色体劣性遺伝性の停在性夜盲症である.光によって活性化したロドプシンが不活化するために必要なarrestinあるいはrhodopsinkinaseに変異がある11,12).ロドプシンは不活化されると光を受け取り反応することができる.したがって,ロドプシンが常に活性化した状態にあると,光に反応できず,杆体機能は著しく低下する.眼底には金箔様の反射がみられ(図12A),長時間の暗順応後に反射は消失する(水尾?中村現象).杆体応答は消失しており,最大応答はnegativeERGとなる(図12B).先天網膜分離症やCSNBのnegativeERGとは波形が異なっており,a波振幅は正常に比較して減弱している.錐体系のERGはまったく正常である.7.白点状眼底遺伝性で非進行性の夜盲症の一つである.そのほとんどが常染色体劣性遺伝を示し,レチノイドサイクルに関与している11-???retinoldehydrogenaseの異常によって発症する13).つまり,網膜色素上皮から視細胞へのレチナールの供給が減少し,ロドプシンの再生が著しく遅延しているものと考えられる.したがって,杆体機能が著しく低下している.眼底には網膜色素上皮レベルの小白点が無数に認められる.通常,視力は正常であるが,錐体ジストロフィを合併することがある.ERGでは,杆体および最大応答は非常に小さいが,錐体系のERGは正常である.暗順応時間を2時間程度に延長すると,杆体および最大応答は正常まで増大す(37)50?V25ms25ms25ms50ms50?V100?V100?V杆体応答錐体応答30HzフリッカーERG最大応答AB図12小口病の眼底(A)およびERG(B)図13正常者,小口病および白点状眼底の暗順応曲線(文献14より)654321001020504030200100300500400暗順応時間(分)光覚閾値の対数白点状眼底小口病正常———————————————————————-Page10????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006(38)左眼右眼AB200nV80mSec0200nV80mSec0図14Occultmaculardystrophy(OMD)の眼底(A)およびmERG(B)ABCBlue-on-yellowWhite-on-white左眼(患眼)右眼(健眼)図15Acutezonaloccultouterretinopathy(AZOOR)の眼底(A),静的量的視野(B)およびmERG(C)———————————————————————-Page11あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????る.本症の暗順応検査では,正常の杆体閾値に達するまでの時間が延長し,約2時間を要する.小口病でも最終杆体閾値は正常であるが,白点状眼底とは異なり,正常閾値に達するまで5時間以上を要する(図13)14).網膜色素変性症の一つに白点状網膜炎がある.白点状網膜炎は,白点状眼底に眼底所見が類似しているが,進行性の視細胞変性疾患である.白点状網膜炎では暗順応時間を延長しても,ERG振幅および杆体閾値の回復がみられない.8.Best病常染色体優性遺伝性の黄斑ジストロフィで,黄斑部に特徴的な卵黄様病変をきたす.????遺伝子がコード(39)256ms3ms128ms3ms128ms3ms128ms256ms150ms左眼右眼AB20?V20?V100?V100?V100?V杆体応答錐体応答30HzフリッカーERG最大応答Long-?ash錐体応答図16Unilateralconedysfunction(UCD)の眼底(A)およびERG(B)———————————————————————-Page12????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006しているbestrophinsに変異がみられる15).Bestrophinsは網膜色素上皮の脈絡膜側の細胞膜Clチャンネルで,EOGの明上昇に関与している.小児期に発症し,前卵黄期,卵黄期,いり卵期,偽蓄膿期,萎縮期と病変は進行してゆく.黄斑部の特徴的な卵黄様病変は,網膜色素上皮下の沈着物で,リポフスチン様の物質と考えられている.本症では,ERGはほぼ正常である.EOGはほぼ平坦でそのL/D比が1.65未満となる(図4A).遺伝子異常があっても,特徴的な黄斑病変が発症しないことがあり,眼底所見の浸透率は高くない.一方,EOG所見の浸透率は100%であり,保因者を同定するのにも役立つ.30~50歳代でBest病に類似した眼底所見で発症する成人型卵黄様黄斑ジストロフィがある.Best病とは異なり,EOG所見は正常で鑑別のポイントとなる.9.眼底がほぼ正常な疾患群眼底後極部に限局性の網膜機能障害をきたす網脈絡膜疾患として,occultmaculardystrophy(OMD)16)とacutezonaloccultouterretinopathy(AZOOR)17)があげられる.これらの疾患は,眼底所見がほとんどみられないため,網膜機能検査が診断に必須である.特に,眼底後極部の局所網膜からの応答を記録できるmERGが診断に威力を発揮する.OMDの主症状は両眼の視力低下であるが,進行は緩徐で0.1程度の視力を保つ.眼底所見と全視野刺激で得られるERGはまったくの正常である(図14A).しかし,mERGでは,両眼の黄斑部とその周囲からの応答が選択的に低下する(図14B).AZOORは若年から中年の女性にみられる疾患で,急激な視野欠損および光視症を主訴とする.眼底疾患でありながら眼底はほぼ正常である(図15A).視野欠損は,Mariotte盲点の拡大からそれが周辺視野へ穿破するものまで程度はさまざまである(図15B).視野欠損が中心視野に及ぶ場合は,視力が低下する.視野欠損に一致あるいはそれよりも広い範囲でmERGの応答が低下する(図15C).通常の視野検査で暗点がはっきりしなくても,blue-on-yellowを使うと広範囲に広がる暗点を検出することができる(図15B)18).眼底所見がほぼ正常であるにもかかわらず,片眼の錐体機能がきわめて低下する疾患があり,unilateralconedysfunction(UCD)と命名されている.若い女性に多く,急激な片眼性の視力低下と中心暗点を訴える.代表症例のように,眼底所見では左右差を認めないものの(図16A),左眼の錐体系のERGがきわめて低下している(図16B).筆者らは,UCDの反対眼に典型的なAZOORが発症した症例を経験したことから,UCDはAZOORの表現型の一つと考えている19).おわりに今回列挙した網脈絡膜疾患のほとんどは,治療不可能である.しかし,その予後は疾患によって大きく異なる.停止性であり,日常生活には何ら支障をきたさない疾患も含まれている.正確な診断に基づいた患者への説明が,最も重要な疾患群と思われる.正確な診断のためには網膜機能検査が必須と考えられ,網膜機能検査を理解しその重要性を認識することが大切である.謝辞:多くの症例のERG記録を行っていただいた岩手医科大学眼科学教室助手木澤純也先生に深謝いたします.文献1)MarmorMF,ZrennerE:Standardforclinicalelectroreti-nography(1999update).??????????????97:143-156,19992)SievingPA:Photopicon-ando?-pathwayabnormalitiesinretinaldystrophies.???????????????????????91:701-773,19933)AllikmetersR,SinghN,SunHetal:Aphotoreceptorcell-speci?cATP-bindingtransportergene(ABCR)ismutatedinrecessiveStargardtmaculardystrophy.?????????15:236-246,19974)TheRetinoschisisConsortium:Functionalimplicationofthespectrumofmutationsfoundin234caseswithX-linkedjuvenileretinoschsis(XLRS).?????????????7:1185-1192,19985)MiyakeY,YagasakiK,HoriguchiMetal:Congenitalsta-tionarynightblindnesswithnegativeelectroretinogram:anewclassi?cation.???????????????104:1013-1020,19866)MiyakeY,YagasakiK,HoriguchiMetal:On-ando?-responsesinphotopicelectroretinogramincompleteandincompletetypesofcongenitalstationarynightblindness.????????????????31:81-87,1987(40)———————————————————————-Page13あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????7)MiyakeY:CompleteandincompletetypesofCSNB.Elec-trodiagnosisofRetinalDiseases(edbyMiyakeY),p90-113,Springer,Tokyo,20068)TerasakiH,MiyakeY,NomuraRetal:Blue-on-yellowperimetryinthecompletetypeofcongenitalstationarynightblindness.?????????????????????????40:2761-2764,19999)Bech-HansenNT,NaylorMJ,MaybaumTAetal:Muta-tionsinNYX,encodingtheleucine-richproteoglycannyc-talopin,causeX-linkedcompletecongenitalstationarynightblindness.?????????26:319-323,200010)StormTM,NyakaturaG,Apfelstedt-SyllaEetal:AnL-typecalcium-channelgenemutatedinincompleteX-linkedcongenitalstationarynightblindness.?????????19:260-263,199811)FuchsS,NakazawaM,MawMetal:Ahomozygonous1-basepairdeletioninthearrestingeneisafrequentcauseofOguchidiseaseinJapanese.?????????10:360-362,199512)YamamotoS,SippelKC,BersonELetal:DefectsintherhodopsinkinasegeneinpatientswiththeOguchiformofstationarynightblindness.?????????15:175-178,199713)YamamotoH,SimonA,ErikssonUetal:Mutationsinthegeneencodig11-cisretinoldehydrogenasecausedelayeddarkadaptationandfundusalbipunctatus.?????????22:188-191,199914)近藤峰生:小口病.どうとる?どう読む?ERG(山本修一,新井三樹,菅原岳史,近藤峰生編),p94-95,メジカルビュー社,200415)MarquardtA:Mutationsinanovelgene,VMD2,encod-ingaproteinofunknownpropertiescausejuvenile-onsetvitelliformmaculardystrophy(Bestdisease).?????????????7:1517-1525,199816)MiyakeY,HoriguchiM,TomitaNetal:Occultmaculardystrophy.???????????????122:6446-6453,199617)GassJDM:Acutezonaloccultouterretinopathy.??????????????????????13:79-97,199318)MachidaS,Haga-SanoM,IshibeTetal:Decreaseofblueconesensitivityinacuteidiopathicblindspotenlarge-mentsyndrome.???????????????138:296-299,200419)MachidaS,KizawaJ,FujiwaraTetal:Unilateralconedysfunctionasamanifestationofacutezonaloccultouterretinopathy.??????,2006,inpress(41)