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抗VEGF治療:加齢黄斑変性の長期治療継続のコツ

2022年12月31日 土曜日

●連載126監修=安川力髙橋寛二106加齢黄斑変性の長期治療継続のコツ渡辺五郎羔羊会弥生病院眼科滲出型加齢黄斑変性は慢性疾患であり,長期にわたる治療や経過観察が必要である.正確な診断と病型分類をもって治療に臨む必要がある.抗CVEGF薬治療の治療レジメンを個々の患者に合わせて調整し,場合によっては光線力学的療法の併用も検討する.的確な病状説明で患者の信頼を獲得することも重要である.はじめに滲出型加齢黄斑変性(neovascularCage-relatedCmacu-lardegeneration:nAMD)は高齢者の慢性疾患であり,その治療は長期にわたって継続していくこととなる.造影検査,抗CVEGF薬硝子体内注射,光線力学的療法(photodynamicCtherapy:PDT)など,検査・治療は侵襲的なものとなるうえに,経済的な負担も無視することはできない.良好な医師・患者関係の構築はもとより,治療に積極的に参加してもらうための病状説明,検査・治療への抵抗感を減らす努力も必要である.長期治療継続のためには,まずは短期視力の改善・維持がなくてはならない,そのためのポイントを以下にあげていく.正確な診断と症例の特徴を捉える病変サブタイプ,新しいCnAMD分類,pachychoroid関連疾患を加えた考え方(柳分類,図1)など.nAMDの分類は臨床的特徴から典型CAMD,ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalCchoroidalvasculopathy:PCV),網膜血管腫状増殖(retinalangiomatousCproliferation:RAP)の三つのサブタイプに分けて治療方針を立てていくことが一般的となっている.診断手順としては,日本人に多いCPCV,特徴的な所見のあるCRAPをまず診断し,典型CAMDは除外診断とするのがよい.近年,網膜由来の新生血管であるCRAPをCtype3として,typeC1MNV(macularCneovascular-ization),typeC2MNV,typeC3MNV,PCVと分類することが国際的に提唱されている(表1)1).また,わが国で多くみられるCpachychoroid(厚い脈絡膜)の概念が広まってきており,nAMDの分類は変化の途中といえる2)(図1).Type3MNVは,高齢・女性に多い,急速に進行しやすい,両眼性になりやすい,萎縮が進行しやすいなどの特徴があり,抗CVEGF薬に対する反応は良好なことが多いが,萎縮の進行や僚眼の発症などを常に注意しながら治療していく必要がある.僚眼の発症を見(73)C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY表1滲出型加齢黄斑変性の分類新しい用語古い用語CType1MNVCOccultCNVCPCVCPCVCType2MNVCClassicCNVCMixedtype1andtype2MNVCMinimallyclassicCNVCType3MNVCRAPMNV:macularneovascularization,CNV:choroidalCneovascu-larization,PCV:polypoidalchoroidalvasculopathy,RAP:reti-nalangiomatousproliferation.(文献C1より改変引用)逃しやすいので,他の病型よりも短期間でモニタリングすることが望ましい.治療レジメン固定投与,必要時投与(proCrenata:PRN),TAE,その他がある.どの投与レジメンでも適切なタイミングで治療をすることにより視力の維持が可能と考えられる.固定投与は必要十分な治療が可能であるが,過剰投与となりやすく,患者の状態に合わせた個別化治療という観点では長期にわたるCnAMD治療では継続がむずかしくなってくる可能性が高い.PRNでも,悪化の際に迷わず即時治療ができれば視力維持可能という報告もあるが,医療側・患者側の環境・気持ちなどに左右されて過小治療になりやすく,長期になると視力維持がむずかしくなる傾向にある.TAEは現在多くの専門家に支持されているレジメンであり,長期に耐えうることが実証された治療法である.オリジナルの方法ではC2週間間隔の短縮・延長だが,ALTAIRstudyのようにC4週ごとの投与間隔の短縮・「維持」・延長の調整でもよいと考えられる3).過去の多くの報告では,おおむね最初のC2年間の治療をしっかりとすることで,3年目以降の治療回数は少なくすむ可能性がある.患者によるが,最初のC2年程度は気を緩あたらしい眼科Vol.39,No.12,2022C1641めず治療に望むことが長期視力維持のコツということになる4).光線力学的療法の考え方従来,わが国のCnAMDと欧米との違いとしてドルーゼンの少なさやCPCVの多さがあげられていたが,pachychoroidの概念の登場により,脈絡膜の厚みや循環動態との関連が示唆されている.日本人のCnAMDにPDTが有効である原因はCPCVが多いからとされていたが,pachychoroidの概念をあてはめると,脈絡膜が厚いような患者にはCPDTが有効な可能性がある.EVER-EST2studyにより,抗CVEGF薬併用CPDTがCPCVに効果的で,治療回数減少に寄与することがわかっている5).Pachychoroidの比率が多いわが国のCnAMDには,長期的にはCPDTを絡めた治療のほうが向いている可能性がある.良好な医師・患者関係の構築長期治療は良好な医師・患者関係の構築が大切である.眼底写真,OCT画像を毎回の診療で患者に見せ,なぜ治療が必要なのか,今後どうやって治療をしていくとよいのかを示し,患者自身に自分の病状を理解してもらう努力が必要である.本稿執筆時点で新たなCnAMD治療薬が発売された.治療の選択肢が増えていくことは喜ばしいことである.C1642あたらしい眼科Vol.39,No.12,2022図1Pachychoroid関連疾患(文献C2より引用)筆者も常に正確な診断を心がけ,患者にとってどの治療法がよいのかを考え続け,二人三脚の医療を心がけていきたいと願っている.文献1)SpaideRF,Ja.eGJ,SarrafDetal:Consensusnomencla-tureforreportingneovascularage-relatedmaculardegen-erationdata:ConsensusConCNeovascularCAge-RelatedCMacularCDegenerationCNomenclatureCStudyCGroup.COph-thalmology127:616-636,C20202)YanagiY:Pachychoroiddisease:aCnewCperspectiveConCexudativeCmaculopathy.CJpnCJCOphthalmolC64:323-337,C20203)OkadaAA,TakahashiK,OhjiMetal:E.cacyandsafetyofCintravitrealCa.iberceptCtreat-and-extendCregimensCinCtheALTAIRStudy:96-weekoutcomesinthepolypoidalchoroidalCvasculopathyCsubgroup.CAdvCTherC39:2984-2998,C20224)YamashiroCK,COishiCA,CHataCMCetal:VisualCacuityCout-comesCofCanti-VEGFCtreatmentCforCneovascularCage-relat-edCmacularCdegenerationCinCclinicalCtrials.CJpnCJCOphthal-molC65:741-760,C20215)LimCTH,CLaiCTYY,CTakahashiCKCetal:ComparisonCofCranibizumabCwithCorCwithoutCvertepor.nCphotodynamicCtherapyCforCpolypoidalCchoroidalvasculopathy:TheCEVERESTCIICRandomizedCClinicalCTrial.CJAMACOphthal-mol135:1206-1213,C2017(74)

緑内障:小児緑内障に対する緑内障インプラント手術

2022年12月31日 土曜日

●連載270監修=福地健郎中野匡270.小児緑内障に対する緑内障松田彰順天堂大学医学部眼科学講座インプラント手術小児緑内障治療の第一選択は多くの場合手術であり,トラベクロトミーなどの流出路再建術がまず試みられる.トラベクロトミーが奏効しない難治例では,濾過手術あるいは緑内障インプラント手術を施行することになるが,成人例とは異なるむずかしさがある.本稿では小児緑内障に対するインプラント手術の実際について述べる.●難治小児緑内障に対する術式流出路再建術が奏効しなかった難治小児緑内障に対する外科的なアプローチとしては,トラベクレクトミーなどの濾過手術,緑内障インプラント手術,毛様体破壊術が選択肢として考えられるが,どの術式にも問題点がある.小児緑内障に対する濾過手術は長期にわたる濾過胞感染のリスクを抱えることや,続発小児緑内障に多い無水晶体眼の緑内障に成績が悪いといった問題点が指摘されている1).一方で緑内障インプラントにはチューブの露出や眼の成長に伴う再手術などの問題点が,毛様体破壊術には網膜.離や眼球勞のリスクが指摘されてい図1Peters奇形に続発した小児緑内障に対するBaerveldt緑内障インプラント挿入術生後7カ月のPeters奇形の小児にBG101-250を前房内挿入したが,初回チューブの挿入時にの部位を角膜輪部と考えて,その1.5mm後方からチューブを挿入した.実際にはの部位が角膜輪部に相当していた(a).手術から5カ月後の僚眼手術時にチューブが輪部から露出していることが判明し(b),その後チューブの挿入位置を後方に移動した.チューブの後方移動の際は前房内に十分量のヒーロンVを注入し,前房を深く保って,後方から(角膜輪部から2mm程度後方の部位()から)前房内に27ゲージ→23ゲージの順に穿刺し(c),チューブを前房内に再挿入した(d).角膜径が拡大していることもあり,後方からの針の穿刺時には感覚的にかなりの違和感を感じながらの手技であった.その後チューブ露出は認めず,眼圧もコントロールされている.(71)あたらしい眼科Vol.39,No.12,202216390910-1810/22/\100/頁/JCOPY図2先天白内障術後の続発緑内障に対するBaerveldt緑内障インプラント挿入術先天白内障に対して8カ月時に両眼の水晶体吸引術+前部硝子体切除を施行し,6歳時に緑内障と診断され,12歳時にトラベクロトミーを施行するも眼圧コントロールが得られなかった症例.耳上側にBaerveldt緑内障インプラントのプレートを挿入し,前房内にチューブ先端を留置した.術後5年経過した現在でも良好な眼圧コントロールを維持している.る1).小児緑内障に対する緑内障インプラント手術における手技上の注意は成人例と共通の部分も多く,まずは成人例で十分な経験を積んでから難治小児例の手術に向かうのが適当と考える.●小児緑内障に対するインプラント手術の実際筆者自身は小児緑内障のインプラント手術では原則としてBaerveldt緑内障インプラントBG103-250を使用している.長期の眼圧コントロールがAhmed緑内障バルブより優れていることと,多くの場合,小児眼ではBG101-350を挿入することが容積的に困難であることがその理由である.また,特殊な場合を除いてチューブは前房内に挿入することになる.角膜径が拡大した小児緑内障では,隅角の位置を正確に同定することがむずかしく,実際の隅角よりも角膜寄りからチューブを挿入しがちである.図1に実際の例を示す.小児緑内障の場合は強膜が菲薄化していることが多く,チューブ位置の修正のために穿刺部位を変更することは術後過剰濾過の原因になることがあるため,できる限り避けるべきで,やむを得ない場合にも穿刺部位は必ず縫合しておく必要がある.また,チューブ周囲からの房水の漏出も過剰濾過を誘発することがあるため,強膜が薄い患者では,まず25ゲージで穿刺し,タイトな刺入部位からのチューブ挿入を心がけている.成人例であれば過剰濾過の場合でも前房形成やチューブ内へのステント挿入などのこまめな対処が可能であるが,小児では,そういった処置であっても全身麻酔をかける必要があり,追加処置のハードルが高いことを常に念頭におく必要がある.多重手術眼にみられる上方結膜の瘢痕化症例,先天白内障手術後の無水晶体眼に続発する緑内障,濾過手術の施行がむずかしいPeters奇形などの小児緑内障に対しては,濾過手術と比較して,緑内障インプラント手術に相対的なメリットがあると考えられる(図2).●小児緑内障インプラント手術の注意点小児緑内障に対するBaerveldt緑内障インプラント挿入術における注意点をあげる.①結膜を丁寧に扱う.②プレートは角膜輪部から9mm後方に8-0ナイロン糸で確実に固定する.眼球・眼窩の大きさが小さく挿入が困難な場合はプレートの一部をハサミで切断してトリミングすることもある.③安全性を考えてチューブの根部2カ所で7-0バイクリル糸を用い確実に(watertightに)結紮する.④術後の過剰濾過を防ぐためにSher-wood’sslitは置かない.⑤前房内へのチューブ挿入は虹彩と並行よりはやや虹彩向きに挿入する.⑥強膜パッチを用いてチューブを被覆し,丁寧に結膜縫合をする.⑦手術終了時には分散型の粘弾性物質を前房に残し,指で眼圧を確認して手術を終了する.こういったことを筆者は心がけている.文献1)WernerM,GrajewskiAL:Furthersurgicaloptionsinchildren.In:Glaucoma,2nded(ShaarawyTMed),p1137-1149,Elsevier,20151640あたらしい眼科Vol.39,No.12,2022(72)

屈折矯正手術:AIを用いたICLサイズの最適化

2022年12月31日 土曜日

●連載271監修=稗田牧神谷和孝271.AIを用いたICLサイズの最適化神谷和孝北里大学医療衛生学部視覚生理学後房型有水晶体眼内レンズの問題点として,レンズが大きすぎると隅角閉塞や眼圧上昇が,小さすぎると白内障やトーリックレンズの軸回転が生じるリスクがある.従来ノモグラムでは,サイズ選択ミスによる摘出・交換例が散見される.術前前眼部光干渉断層計データを機械学習させた人工知能(AI)でCvault量を予測したところ,すべての学習モデルにおいて従来より有意に予測誤差が軽減した.とくにランダムフォレストの予測性が高く,適切なサイズ選択に貢献できる可能性が示唆された.C●はじめに後房型有水晶体眼内レンズであるCimplantablecollam-erlens(ICL)は,挿入したレンズが大きすぎると隅角閉塞や眼圧上昇を生じるリスクがあり,小さすぎると外傷性白内障やトーリックレンズの軸回転を生じるリスクがある.したがって,適切なCICLサイズ選択は手術自体の安全性を考えるうえで重要な問題である.近年,機械学習をはじめとする人工知能(arti.cialintelligence:AI)による画像診断が注目されており,眼科医療においても広く応用されているが,機械学習についてはほとんど応用されていない.前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)の普及も加速しており,さまざまなバイオメトリー(生体計測)データを非侵襲的かつ高精度に得ることができるようになった.前眼部OCTによるさまざまなバイオメトリーデータをCAIに機械学習させてCICLのCvault量(レンズと水晶体の距離)を予測し,最適CICLサイズを決定することが可能となれば,ICL手術の術後合併症を大幅に軽減し,手術の安全性が向上するとともに,患者満足度も改善できる可能性が高い.しかし,これまで前眼部COCTを用いた予測式はいずれも線形重回帰によるアプローチであり,機械学習モデルを組み合わせたアプローチについては検討されていない.本稿では,韓国との国際多施設共同研究により,前眼部COCTによる多くの生体計測データをCAIに機械学習させることによってCvault量予測とCICLサイズの最適化を試みたので紹介する1,2).C●対象と方法通常のCICL手術を施行し,術後C1カ月の経過観察が可能であったC1,745例C1,745眼を対象として,前眼部OCT(CASIA2,トーメーコーポレーション)を用いて(69)術前前眼部形状データを計測し,術後C1カ月の時点において,同装置を用いてCvault量を定量した.屈折異常以外に眼疾患を有する症例や術中・術後合併症を生じた症例は解析から除外した.術前因子として,年齢,性別,球面度数,乱視度数,等価球面度数,矯正視力,ICLパワー,ICLサイズ,角膜横径(whitetowhite:WTW),前房深度(anteriorCchamberdepth:ACD),隅角間距離(angleCtoangle:ATA),水晶体膨隆度(CLR,ACW,LV),中心角膜厚,隅角開大度(AOD500,TISA500),瞳孔径を用いた.術後因子として,各レンズサイズ別の術後Cvault量を実測し,いくつかの機械学習モデルを用いて術後Cvault量予測を行い,予測Cvault量がC500Cμmにもっとも近いものを最適サイズとして選択した.全体をC5グループに分け,4グループのデータを機械学習に用いて,残りC1グループで術後Cvault量を予測し,5分割交差検証によって予測式の精度を検証した.機械学習モデルとして①サポートベクター回帰(supportCvectorregressor:SVR),②ランダムフォレスト回帰(randomforestregressor:RFR),③勾配ブースティング回帰(gradientCboostregressor:GBR),④線形回帰(linearregressor:LR)を用いて,もっとも予測性の高い手法を選択した.さらに,従来のCWTWとACDを用いたメーカー推奨ノモグラムとも比較した.C●結果術前患者背景因子について表1に示す.1,745眼中C12眼(0.7%)にCICL交換(9眼:lowvault,1眼:highvault,2眼:頻回の軸回転によるノントーリックCICLへの変更),27眼(1.5%)にトーリックCICLの軸整復を施行した.さまざまな機械学習によるCICLvault量予測性の結果を図1,2に示す.従来ノモグラムと比較して,すべての機械学習モデルにおいて有意に術後誤差が軽減し,とくにCRFRの予測性が高く,ついでCGBR,LR,あたらしい眼科Vol.39,No.12,2022C16370910-1810/22/\100/頁/JCOPY1250表1術前患者背景因子1250SVRGBR10001000眼数C1,745C750750500500年齢(歳)C26.2±6.8(95%CCI:12.9~39.4)356.3250250達成vault量-予測vault量達成vault量-予測vault量達成vault量-予測vault量達成vault量-予測vault量男:女(人)656:1089等価球面度数(diopter)-8.67±2.52(95%CI:-13.61~-3.72)0-250-327.20-250-500025050075010001250025050075010001250-500-1.78±1.16(95%CI:-4.04~0.49)達成vault量と予測vault量の和の平均達成vault量と予測vault量の和の平均乱視度数(diopter)RFR12501250LR矯正視力(logMAR)-0.02±0.09(95%CI:-0.19~0.16)WTW(角膜横径)(mm)C11.74±0.37(C95%CCI:C11.03~C12.46)ACD(前房深度)(mm)C3.34±0.24(C95%CCI:C2.87~C3.82)ATA(隅角間距離)(mm)C11.79±0.36(C95%CCI:C11.09~C12.49)100075050025001000750500250264.20-250-262.4-250CLR(mm)-46.18±181.31(C95%CCI:-401.55~C309.18)ACW(mm)C11.89±0.43(C95%CCI:C11.06~C12.72)LV(mm)-0.20±0.22(95%CI:-0.63~C0.23)中心角膜厚(Cμm)C528.4±34.1(C95%CCI:C461.7~C595.2)AOD500(mm)C0.74±0.27(C95%CCI:C0.21~C1.27)TISA500(degree)C57.04±13.76(C95%CCI:C30.07~C84.02)CLR:crystallinelensrise,ACW:anteriorchamberwidth,LV:lensvault,AOD:angleofdistance,TISA:trabecularirisspacearea,CI:con.dentinterval(信頼区間)C100■≦50μm■≦100μm■≦150μm■≦200μm90-500025050075010001250-500025050075010001250達成vault量と予測vault量の和の平均達成vault量と予測vault量の和の平均図1機械学習を用いたICL手術の予測vault量と達成vault量のBland.Altman解析点線範囲内がC95%信頼区間であり,とくにCRFRの予測性が高く,ついでGBR,LR,SVRの順であった.SVR:サポートベクター回帰,GBR:勾配ブースティング回帰,RFR:ランダムフォレスト回帰,LR:線形回帰.C32.52特微量の重要度8070601.51眼数(%)50400.530200ICLICLLVACDCLRATAACWAgeMSECCTWTWSphPupilsizepowersize10術前因子0SVRGBRRFRLRNomogram図3ランダムフォレスト回帰による特徴量の重要度ICLサイズがもっとも高く,ついでCICLパワー,LV,図2機械学習を用いたICL手術のvault量予測性ACD,CLR,ATAの順であった.従来サイズノモグラムと比較して,すべての機械学習モデルにおいて有意に予測性が向上したが,とくにCRFRの予測性が高かった.SVR:サポートベクター回帰,GBR:勾配ブースティング回帰,RFR:ランダムフォレスト回帰,LR:線形回帰,Nomogram:従来ノモグラム.SVRの順であった.RFRによるCvault量予測の特徴量の重要度を図3に示す.ICLサイズがもっとも高く,ついでCICLパワー,lensvault,ACD,CLR,ATAの順であった.以上の結果より,前眼部COCTとCAIを組み合わせることでCvault量予測性が著明に向上し,ICLサイズ選択ミスにより生じる閉塞隅角,眼圧上昇,外傷性白内障の発症リスクを軽減し,さらなる安全性の向上につながるC1638あたらしい眼科Vol.39,No.12,2022可能性が示唆された.さらに,複数のモデルを融合させたアンサンブル学習によって予測性がより向上する可能性があり3),今後さらなる研究の発展が期待される.文献1)KamiyaK,RyuIH,YooTKetal:Predictionofphakicintraocularlensvaultusingmachinelearningofanteriorsegmentopticalcoherencetomographymetrics.AmJOphthalmol226:90-99,20212)神谷和孝:AIを用いた予測式.有水晶体眼内レンズ手術(神谷和孝,清水公也編),医学書院,20223)KangEM,RyuIH,LeeGetal:Developmentofaweb-basedensemblemachinelearningapplicationtoselecttheoptimalsizeofposteriorchamberphakicintraocularlens.TranslVisSciTechnol10:5,2021(70)

眼内レンズ:美容超音波HIFUによる急性白内障の1例

2022年12月31日 土曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋生駒透433.美容超音波HIFUによる急性白内障の1例金沢医科大学眼科学講座肌のリフトアップを目的とした高密度焦点式超音波(HIFU)が美容治療として世間で注目を浴びている.今回そのCHIFUを眼瞼に施行し,急性の白内障を生じたC1例を報告する.●はじめに高密度焦点式超音波(highCintensityCfocusedCultra-sound:HIFU)は,超音波を利用して深部組織を破壊し,治療効果を得るものである.以前から前立腺癌の治療に用いられ1),最近では緑内障の代替治療法としても注目されている2).また,HIFUは美容治療としても使用されており,強集束超音波(intenseCfocusedCultra-sound:IFUS)により表在性筋膜を含めた真皮および皮下を選択的に熱凝固することによってコラーゲン線維を増生させ,皮膚の弛緩および皺を改善する3).近年,IFUSは眼周囲への照射によって眼瞼の弛緩を治す「切らない眼瞼治療」として用いられているが,その場合にはアイシールドによる眼球保護が必要とされている.今回,上眼瞼にCIFUSを施行したあとに,急速に進行した白内障のC1例を報告する.C●症例患者はC47歳,女性.上眼瞼皮膚の弛みの治療目的で,エステサロンにて両上眼瞼にCIFUSを施行されたあとに左眼のかすみを訴え,当院外来を受診した.保護用のアイシールドを使用せずCIFUSを両眼瞼に施行された(照射時間・強度などは不明).眼科既往歴は近視以外になく,IFUS施行前の視力は良好であり,外傷歴や全身疾患の既往歴,ステロイドを含めた内服歴はなかった.視力は右眼C0.08(1.0×-3.50D(cyl-0.50DCAx20°),左眼C0.02(矯正不能)であった.結膜・角膜・虹彩,対光反射に異常はなく眼圧も正常だった.左眼には耳側上方に向かって並んだC7個の滴状・円錐状の混濁とC3個の小円形後.下混濁が認められた(図1a).また,後.全面に広がるロゼット状の後.下混濁も生じていた(図1b).前眼部光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomogra-phy:OCT)でも水晶体内の滴状・円錐状混濁と後.下(67)混濁(図2)を認めたが後.破損はなかった.眼底写真は後.下混濁が強く撮影不能であったが,黄斑部COCTでは異常は認められなかった.右眼の水晶体には混濁は認められなかった.初診からC1カ月後の診察では左眼の水晶体内の滴状・円錐状混濁に変化はなかったが,後.下のロゼット状混濁は若干の改善を認めた(図3a).しかし,視力は初診時から改善がなかったため,左眼の水晶体再建術を施行した.術前の前眼部COCTでは明らかな後.破損を認めなかったが,円錐状混濁の底部は後.に接着し,強い混濁を生じていたため,ハイドロダイセクションは施行しなかった.また,核の硬化がほとんどなかったため,水晶体はフェイコを施行せずCI/Aのみで吸引した(図3b).後.破損などの合併症もなく手術は終了し,術後C7日目には左眼視力はC0.2(1.5×-2.00D)に改善した.C●考察とまとめアイガードを使用せずに行った両眼瞼へのCIFUSによる急性発症の白内障のC1例を経験した.今回CIFUSは患者の左眼眼瞼を通して水晶体に到達し,水晶体蛋白質の熱凝固を引き起こし,その結果多数の滴状・円錐状水晶体混濁とロゼット状後.下混濁を生じたと考えられる.同じくアイシールドを装着せずに行ったにもかかわらず右眼に混濁が生じなかったのは,超音波のプローブの照射角度や時間,水晶体との距離に違いがあったためと考えられる.今回観察されたロゼット状後.下混濁は,一般的には鈍的または貫通性の眼球外傷にみられる所見であり,電気外傷やCYAGレーザーによる外傷でもまれに観察される4).水晶体皮質の浮腫や水晶体.の損傷が可逆的な病理変化をきたしたものとされており,今回の症例も経過のなかで後.下混濁の若干の改善を認めた.IFUSの眼瞼周囲や顎下のたるみに対する有効性は以あたらしい眼科Vol.39,No.12,2022C16350910-1810/22/\100/頁/JCOPY図1初診時の顕微鏡検査所見に示す水平に並んだC7個の滴状・円錐状混濁とに示す後.から前方に伸びた小円形混濁が認められた(Ca).徹照像ではロゼット状後.下混濁が認められた(Cb).(文献C6から引用)図3初診から1カ月後の徹照像ならびに術中所見後.の混濁はやや軽減したが,滴状・円錐状混濁に変化は認められない(Ca).水晶体核硬度は高くなく,I/Aで吸引可能であった.滴状・円錐状混濁部分は硬く,チョッパーを用い破砕して吸引した(Cb).(文献C6より引用)前から報告されていたが,近年急速に普及するようになった.そのなかで今回の症例と同じように白内障を生じたなど,眼損傷のケースが次々と報告されており,そのどれもが眼瞼周囲にCIFUSを施行する際にアイシールドを用いていなかった5).現在CHIFUはエステサロンにおいてセルフサービスで利用することができ,家庭用美容機器としても販売されている.眼瞼周囲へのCIFUS施行によって引き起こさ図2初診時の前眼部OCT所見水晶体皮質から核部を貫き並ぶ滴状・円錐状混濁が認められる(a).ロゼット状後.下混濁は厚みがあるが,明らかな後.破損は認められなかった(Cb).(文献C6より引用)れる眼球損傷の危険性と,IFUS施行時のアイシールド装着の徹底を広く周知していく必要がある.文献1)ChaussyCCG,CThuro.S:High-intensityCfocusedCultra-soundCforCtheCtreatmentCofCprostatecancer:ACreview.CJEndourolC31(S1):S30-S37,C20172)PosarelliCC,CCovelloCG,CBendinelliCACetal:High-intensityCfocusedCultrasoundprocedure:TheCriseCofCaCnewCnonin-vasiveglaucomaprocedureanditspossiblefutureapplica-tions.SurvOphthalmolC64:826-834,C20193)SuhCDH,CSoCBJ,CLeeCSJCetal:IntenseCfocusedCultrasoundCforCfacialtightening:histologicCchangesCinC11Cpatients.CJCosmetLaserTher17:200-203,C20154)WollensakCG,CEberweinCP,CFunkJ:PerforationCrosetteCofthelensafterNd:YAGlaseriridotomy.AmJOphthalmolC123:555-557,C19975)LevingerN,BarequetI,LevingerEetal:Acutecataractdevelopmentina43-year-oldwomanafteranultrasoundeyelid-tighteningCprocedure.CAmCJCOphthalmolCCaseCRepC24:101226,C20216)IkomaCT,CKuboCE,CSasakiCHCetal:AcuteCcataractCbyCaChigh-intensityCfocusedCultrasoundprocedure:aCcaseCreport.BMCOphthalmolC22:164,C2022

コンタクトレンズ:読んで広がるコンタクトレンズ診療 レンズケアはむずかしい?

2022年12月31日 土曜日

提供コンタクトレンズセミナー読んで広がるコンタクトレンズ診療4.レンズケアはむずかしい?■はじめに現在,さまざまなコンタクトレンズ(CL)ケア用品が登場しているが,レンズケアについて記述した教科書は多くない.また,レンズケアに関する研究も数多く行われているが,その多くは英語論文であり,日本語論文は少ない.このため,レンズケアはフィッティングなどと比較して学びづらい状況にある.そこで本稿では,レンズケアの概要をわかりやすく解説する.C■不適切なCLケアによるトラブル涙液に含まれる蛋白質・脂質がレンズに付着すると,レンズのくもりだけでなく,レンズの酸素透過性の低下,角膜への機械的刺激の増加を生じる.その結果,くもりによる視力低下や,眼瞼結膜のアレルギー反応や機械的刺激の増加に伴う装用感の悪化など,さまざまな症状を引き起こす.また,CL装用による機械的刺激や角膜低酸素によって角膜上皮のバリア機能が破綻すると,CLに付着した微生物が増加した際に,角膜感染症を発症しやすくなる.C■レンズケアの目的と工程レンズケアの目的は,①レンズに付着した蛋白質・脂質・微生物を除去し,②衛生的に保存・装用するとともに,③レンズの特性を失わないことである.そのため,レンズの洗浄・消毒のみならず,清潔に取り扱うための手指洗浄やケースの乾燥・洗浄もレンズケアの工程に含まれる.レンズケアの工程と注意点を図1に示す.C■手指洗浄レンズケアではハンドソープを用いた手指洗浄が必須である.手指洗浄の目的は,手指からの汚れをレンズに付着させないことである.レンズの洗浄・消毒は正しくできているにもかかわらず,不十分な手指洗浄が原因でレンズがくもることは珍しくない.見落としがちではあるが,レンズケアの一環として手指洗浄をしっかりと指導したい.糸井素啓京都府立医科大学大学院医学研究科視覚再生機能外科学道玄坂糸井眼科レンズの装用前に丁寧に手指を洗浄するSCLのすすぎに水道水の使用は禁止洗浄後,水分を拭き取り乾燥させるレンズをはずす前にも手指を洗浄するこすり洗いを必ず行うSCLのすすぎに水道水の使用は禁止過酸化水素剤・ポビドンヨードによる消毒では中和を行う図1レンズケアの工程手指洗浄やレンズケースの乾燥も,レンズケア工程の一つである.C■洗浄と消毒レンズケアの工程には,付着した汚れを除去することを目的とした「洗浄」と,病原微生物の除去を目的とした「消毒」がある.わが国では,ソフトCCL(SCL)のケアには洗浄と消毒が必要とされている一方で,ハードCL(HCL)は洗浄のみで消毒は必要ないとされている.これは,HCLの素材が水分を含まないため微生物が繁殖しづらいことが理由として考えられる.しかし,オルソケラトロジーレンズのような特殊形状CHCLはレンズ内面の汚れを落としづらく,洗浄だけでは汚れや微生物が十分に除去できない可能性がある.そのため,2017年のオルソケラトロジーガイドラインでは,ポビドンヨード剤による消毒が推奨されている.HCLの洗浄方法は,こすり洗いとつけおき洗いのC2種類に大別され,こすり洗いを行う場合は専用クリーナーとCHCL用の保存液が,つけおき洗いを行う場合は洗浄保存液が必要となる.物理的洗浄であるこすり洗いは,化学的洗浄であるつけおき洗いに比較して洗浄効果が優れており,HCLのケアではこすり洗いが原則となる1).ほかにも,蛋白汚れや脂質汚れが目立つ場合は,それぞれ蛋白除去剤や,アルコール入りの洗浄液を使用する.(65)あたらしい眼科Vol.39,No.12,2022C16330910-1810/22/\100/頁/JCOPY表1SCL消毒方法の比較種類主成分消毒力注意点細菌真菌アカウントアメーバCPHMBCMPSアレキシジン△.○C△C×製品ごとの消毒力の差が塩化ポリドロニウム大きい過酸化水素剤過酸化水素C○C○C△中和を要する中和を要するポビドンヨード剤ヨウ素C◎C◎C○甲状腺機能障害の既往があると禁忌図2乾燥時のレンズケースの置き方左はCSCL,右はCHCLのレンズケース.いずれも清潔なティッシュペーパーで十分に水分を拭き取り,8時間以上乾燥させる.現在,SCLの消毒方法は,C①CMPS(multipurposesolution)またはCMPDS(multipurposeCdisinfectingsolution),②過酸化水素,③ポビドンヨードのC3種に大別され,それぞれ消毒力が異なる(表1).MPSは,洗浄から保存までをC1本で行えるため利便性に優れているが,製品ごとの消毒力の差が大きく,他の方法に比較して消毒力が劣っている.しかし近年は,MPSに比べて消毒力の高いCMPDS2)が新しく登場している.過酸化水素とポビドンヨードは,いずれもCMPSよりも消毒力に優れているが,それぞれ中和が必要なため,利便性に劣る.とくに過酸化水素は,中和をしないで装用すると強い痛みとともに角膜上皮障害を引き起こすため,使用方法について,丁寧な指導を行うことが望ましい.また,アカントアメーバのシストにはC3種とも十分な消毒効果を示さない3)ことに注意を要する.上述のC3種の消毒方法は,消毒効果と生体安全性,利便性がそれぞれ異なるため,患者の希望と感染リスクに応じて選択する.■レンズケースのケアケース消毒後に,残留した微生物がケース内に増加すると,レンズに汚れ・微生物が再付着する可能性が高くなり,眼感染症の危険因子となる4).また,レンズケース内の汚染が長期にわたると,菌同士が強固に接着したバイオフィルムを形成し,細菌の除去がより困難となる.そのため,レンズケースは水洗い後に乾燥させて水分を除去し,1.2カ月ごとに交換することが望ましい(図2).C■おわりに安全かつ快適なCCL装用を続けるには,適切なレンズの取り扱いとレンズケアが欠かせない.そのため,各種ケア方法の特徴に基づいて患者に適したレンズケア方法を選択するだけでなく,手指消毒の徹底,こすり洗いの遵守,レンズケースの乾燥・交換などの基礎的な対策の有効性をくり返し説明することが望ましい.文献1)糸井素純:安全性を優先したコンタクトレンズのケア.あたらしい眼科28:1665-1671,C20112)水野洋平:消毒成分配合CMPDSの消毒効果.日本コンタクトレンズ学会抄録集,20223)KobayashiT,GibbonL,MitoTetal:E.cacyofcommer-cialCsoftCcontactClensCdisinfectantCsolutionsCagainstCAcan-thamoeba.JpnJOphthalmolC55:547-557,C20114)山崎勝英:レンズケース内の消毒.日コレ誌C28:163-166,C2020C

写真:免疫チェックポイント阻害薬を使用中に生じたSjögren症候群様の角結膜上皮障害

2022年12月31日 土曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦463.免疫チェックポイント阻害薬を使用中に富永千晶福岡秀記京都府立医科大学眼科生じたSjogren症候群様の角結膜上皮障害図1前眼部所見(ディフューザーによる観察)軽度の結膜充血を認める.図2前眼部所見(フルオレセイン染色のブルーフリーフィルターによる観察)角膜下方に点状表層角膜症を認める(中央).耳側鼻側結膜に高度の点状染色がみられる(左右).図3図2のシェーマ①結膜上皮障害②角膜下方の点状表層角膜症(63)あたらしい眼科Vol.39,No.12,2022C16310910-1810/22/\100/頁/JCOPY症例は67歳の男性.中咽頭癌肺転移に対して2020年4月より京都府立医科大学附属病院(以下,当院)耳鼻咽喉科で化学療法が開始された.2020年5月から11月までニボルマブを投与され,2021年5月からはペンブロリズマブ+シスプラチン,2021年C10月からはペムブロリズマブ単剤が使用開始となった.2022年6月頃より両眼の痛みを生じたため,当院眼科へ紹介となった.それまでドライアイの既往はない.SchirmerテストCI法では右眼C5Cmm,左眼C0Cmmと著明に低下していた.また,角膜よりも結膜優位の上皮障害を認め,Sjogren症候群様のドライアイであった(図1~3).血液検査では抗CSS-A抗体,抗CSS-B抗体,抗核抗体,リウマチ関連因子はすべて陰性であった.0.1%フルメトロン点眼(両眼C1日C4回)で治療を開始し,経過観察中である.免疫チェックポイント阻害薬(immuneCcheckpointinhibitor:ICI)は,免疫チェックポイント分子へのシグナル伝達を阻害して免疫応答を増強する,比較的新しい癌の治療薬である.ICIは,T細胞上に発現するCcytoC-toxicT-lymphocyteCantigen-4(CTLA-4)やCpro-grammedCcelldeath-1(PD-1),抗原提示細胞や癌細胞表面上に発現するCprogrammedCcellCdeathCligandC1(PD-L1)を標的とする特異的な抗体である1).従来から使用されている抗癌剤や分子標的治療薬は,癌細胞そのものを治療標的としており,腫瘍内に異なる遺伝学的背景をもった複数の治療抵抗性のクローンが残存する可能性があり,効果にも限界があった.ICIはCT細胞免疫を介して,非自己と認識した癌細胞を攻撃することができ,生存率向上に寄与するため,使用の適応は拡大している.しかし,その一方で,治療を契機に免疫を正常に調整できなくなり,自己免疫疾患や炎症性疾患様の副作用を生じる事象が報告されている2).これらは免疫関連有害事象(immune-relatedCadverseevents:irAE)とよばれる.ICI使用による眼毒性は比較的まれとされているが,なかでもドライアイ,ぶどう膜炎は多く報告されている3).その理由として,ICIはCCD8陽性CT細胞のリンパ球浸潤とCIL-2の分泌を誘発し,涙腺のサルコイドーシス様の肉芽腫性炎症につながるという説と,ICIのなかでもとくに抗CPD-1抗体薬が眼表面へのCT細胞の浸潤を引き起こすとされている説が提唱されている4).ほとんどの症例がCICI開始後C6カ月以内にCirAEを発症していた.重度のドライアイを生じた例ではCICIの中止を余儀なくされている.irAEによる眼障害は,症状,眼所見,視力によりCGrade分類されており,それぞれ異なった治療が示されている(CTCAEGrade)1).もっとも重度のCGrade4ではCICIの投与中止と,ステロイド全身投与が推奨されている.重度のドライアイに対してはシクロスポリンの局所投与が効果的であったとの報告もある5).ニボルマブやペムブロリズマブなどの抗CPD-1抗体が腫瘍細胞に対するT細胞の作用を促進することを考えると,シクロスポリンは反対に抑制するためと考えられる.わが国で承認されている抗CPD-1抗体のCICIはニボルマブ,ペムブロリズマブであり,本症例においても使用されていた.irAEはCICI使用中止後も生じることもあり,他科との連携が重要と考えられる.文献1)岩田大樹:チェックポイント阻害薬と眼副作用-抗CPD1抗体,抗CPD-L1抗体,抗CCTLA-4抗体治療に伴う眼副作用.あたらしい眼科39:179-186,C20222)ParkRB,JainS,HanHetal:Ocularsurfacediseaseasso-ciatedCwithCimmuneCcheckpointCinhibitorCtherapy.COculCSurfC20:115-129,C20213)Abdel-RahmanO,OweiraH,PetrauschUetal:Immune-relatedCocularCtoxicitiesCinCsolidCtumorCpatientsCtreatedCwithCimmuneCcheckpointinhibitors:aCsystematicCreview.CExpertRevCAnticancerTherC17:387-394,C20174)HoriJ,KunishigeT,NakanoY:Immunecheckpointscon-tributeCcornealCimmuneprivilege:ImplicationsCforCdryCeyeCassociatedCwithCcheckpointCinhibitors.CIntCJCMolCSciC21:3962,C20205)NguyenAT,EliaME,MaterinMAetal:CyclosporinefordryCeyeCassociatedCwithNivolumab:ACcaseCprogressingCtocornealperforation.CorenaC35:399-401,C2016

眼科の先達に学ぶ:5.清水 弘一 先生

2022年12月31日 土曜日

岸章治前橋中央眼科ここに『論文論』という本がある.これは清水弘一教授が「臨床眼科」誌(医学書院)に,論文の書き方と学会の発表の仕方をコラムで連載したものを集めて私家版(1992年)にしたものである.表紙は銀色,表題は松葉色で,著者名は凹加工されている.見返しは若草色である.これは清水先生の美的センスによるもので,エッセイ集『べらどんな』も同じスタイルである.序文は,清水先生の恩師である鹿野信一教授が寄せている.曰く「清水弘一教授は御承知の通り,東大の中でも該博の智識と,独英仏は当然として,ラテン語,ギリシア語まで堪能な方であり,医学研究の上でも独特の鋭い観察と考え方で数多くの名論文を発表されている.そのベテランが展開された“論文論”である.よい本となるのは当然だと思う」.清水先生には言語学者,エッセイストとしての側面があった.『論文論』は短い断片からなっており,それぞれに「なぜ論文を」「白い紙面」「ひとり相撲」「お子様ランチ」「赤い糸」「君がため」「悪魔の弁護士」などの魅力的なタイトルがつけられている.これらの話は,門下生ならあの時,教えられた話だと思い当たるであろう.略歴恩師清水弘一先生は,昭和8年2月に満州国奉天省撫順市で出生.昭和22年7月に内地に引き揚げ愛媛県立大洲中学校に編入.昭和26年3月に愛媛県立大洲高等(57)0910-1810/22/\100/頁/JCOPY清水弘一先生(1992年)学校を卒業し,4月に東京大学教養学部理科二類に入学.昭和28年4月東京大学医学部医学科に進学し,昭和32年3月に卒業.東京大学医学部附属病院で1年間インターンをされ,入局直前の昭和33年4月に奥さま(岡田玄子さま)と結婚.奥さまは高校の同級生とお聞きした.お茶の水女子大出で才色兼備の方だった.奥さまは清水先生が亡くなるまで,先生の最大の理解者で応援者であった.昭和33年7月に東京大学眼科に入局,同時に文部教官助手となった.入局後は萩原朗教授・鹿野信一助教授に師事.昭和35年に文部省留学生としてドイツ国ボン大学に留学(1年間).昭和39年7月東京大あたらしい眼科Vol.39,No.12,20221625図1『論文論』表紙(1992年)学眼科講師,昭和46年9月東京大学眼科助教授.そして昭和47(1972)年4月,39歳で群馬大学眼科教授として赴任.平成10(1998)年3月に定年退官された.群馬大学での在任期間は26年に及んだ.1998年のMacu-laSocietyで日本人としては初のArnallPatzMedalが授与された.受賞者はGoldberg,Green,Hayrehと続き,数年後に,Yannuzzi,Coscasが受賞している.定年後は帝京大学や埼玉医科大学で客員教授をされていた.昨年(2021年12月),ご家族に見守られて88歳で逝去された.学会活動清水先生の国内におけるおもな特別講演は,日本眼科学会宿題報告として,昭和45年に「蛍光眼底造影をめぐる諸問題」,昭和52年に「光凝固をめぐる諸問題」をされている.日本に最初にアルゴンレーザーが輸入されたのは昭和48年で,群馬大学と広島大学に設置された.昭和50年代では,汎網膜光凝固(panretinalphoto-coagulation:PRP)により増殖糖尿病網膜症が鎮静化し,新生血管が退縮することは新知見だった.学会ではPRPを暴挙と考える意見も出ていた.日本眼科学会特別講演としては,平成元年に「糖尿病網膜症」を,日本臨床眼科学会特別講演は,平成5年に「赤外蛍光造影」をされている.清水先生のおもな研究テーマは,東京大学時代の前半は前房隅角だったが,その後,蛍光眼底造影に移った.蛍光眼底造影は黎明期であり,先生は自分でフルオレセインを被検者に注射し,自分で撮影をしていたという.群馬大学に来てからも蛍光眼底造影がおもな研究手段であり,そこから糖尿病性網膜症の病態,光凝固による治療,家族性滲出性硝子体網膜症や高安病の網膜血管病態,血管鋳型による三次元的な眼血管構築などに広がった.蛍光眼底造影は私が入局当初(1976年)はトプコンの画角30°のカメラを使っていたが,2,3年後にキャノンが60Zという画角が60°で解像力のよいカメラを開発した.このカメラを使って後極だけでなく,周辺の造影写真もとれるようになった.撮影は最初に後極部,次に中間周辺部,さらに最周辺部がとられ,各部の造影写真を貼り合わせてパノラマ蛍光眼底写真が作成された.これにより,糖尿病網膜症は後極だけを見ていたのではだめで,中間周辺部に無灌流領域(nonperfusionarea:NPA)が初発すること,NPAの境界に新生血管が生じること,NPAが拡大すると,乳頭新生血管が生じること,さらに拡大すると血管新生緑内障になることが示された.それを集大成したのが,1981年のOphthalmolo-gy誌に出た“Midperipheralfundusinvolvementindiabeticretinopathy”である.これは糖尿病網膜症を語るうえで金字塔というべき業績であった.外国の学会では,画面一杯にパノラマ蛍光眼底が映し出されると聴衆が唸り,講演が終わると大拍手が起こった.清水先生は得意満面であった.このパノラマは村岡兼光先生のグループの労力のもとに作成された.外国人が見学に来たが,laborintensive(手間がかかりすぎる)なので,自分たちには無理だと言っていた.この技術は群馬大学のお家芸となり,インドシアニングリーン蛍光造影にも応用された.ここでは高橋京一先生らによって,脈絡膜血管の可塑性に関する新知見が次々に発表された.最近,群馬大学から出ているパキコロイド病における渦静脈のリモデリングのアイデアは,この知見に立脚したものである.清水先生はたくさんの単行本(モノグラム)を出版した.これらの本は編集代表としてではなく,自ら執筆したものである.最初の本は昭和40年の『前房隅角図譜』(鹿野信一先生と共著)である.当時,先生は32歳である.昭和42年に「蛍光眼底造影」を英文で出版(34歳!),昭和48年には「蛍光眼底微小血管造影」をやはり英文で出版している.このころ,清水先生は東京で図2『べらどんな』表紙(1981年)国際蛍光眼底造影の学会を主催されている.先生は若いときから世界のリーダーと目されていた.外国人は音に聞くShimizuが現れたらあまりに若いのでびっくりしたそうである.清水先生は,海外の学会には「戦いに行くような覚悟で臨む」と語ってくれたことがある.「日本はアメリカの植民地ではない」とも言った.背筋をピンと伸ばし,堂々と世界のリーダーたちと渡り合う姿はサムライのようであった.ドイツの学会では日本人のShimizuが完璧なドイツ語を話すので,米国人が驚いたそうである.先生は欧米の網膜の教授たちに多くの友人がいたが,なかでも“TheRetinalCirculation”を著したPaulHenkind(1932~1986年)は,ほぼ同い年であり,お互いに尊敬しあう親友であった.1978年に京都で国際眼科学会が行われたとき,清水先生は倉敷でRetinaWorkshopを主催した.海外から50人ほどの著明な研究者が参加した.清水先生は「手紙で一本釣りしたら,Shimizuのためならと,皆さん手弁当で来てくれたんだ」と言っていた.フィレンツェのBlancato教授の弟子のフランチェスコの話では,清水先生がベニスに来たとき,食事会でダンテの『神曲』をそらんじたそうである.単行本は,昭和52年には『光凝固』(野寄喜美春先生との共著),昭和53年に“StructureofOcularVessel”(氏家和宣先生との共著),昭和57年に『レー図3『べらどんなの妹』の見返し(1984年)「眼科にもささやかなロマンが」と書き入れて贈呈してくださった.ザー光凝固』(野寄喜美春先生との共著),昭和59年に『糖尿病網膜症』(野寄喜美春先生との共著),昭和61年に『眼底出血』(野寄喜美春先生・猪俣孟先生との共著),昭和62年に『レーザー眼治療』(野寄喜美春先生との共著),平成4年に『レーザー眼治療(英文)』(野寄喜美春先生との共著)が刊行された.清水先生は臨床研究の大切さをいつも強調していた.「MDがPhDのまねをしてどうする」というのが口癖だった.ClinicalScienceを究めた人が海外でも尊敬されるのだと言っていたが本当だった.私が師事した眼病理学のMarkTso教授も病理所見の解釈にはMDのセンスを生かせといつも言っていた.病気を直接見ることができるのはMDの特権である.「病気は神様が作った実験だと思え」と清水先生はよく言っていた.抗VEGF薬が出てから,治験が大はやりである.清水先生は製薬会社から持ち込まれる治験の依頼はすべて断っていた.見返りの研究費が欲しいのは山々であるが,どうしても嘘をつくことになるし,それに使う時間も惜しいということだった.「ダメなことに時間を使うと大事なことをする時間がなくなる」とよくおっしゃっていた.図4PaulHenkindが描いた清水先生の似顔絵(1976年)臨床講義清水先生の臨床講義は学生に強烈な印象を与えた.私もそうだが,先生の講義を聴いて眼科を選んだひとは多いのではないか.講義は金曜日の午後1時から2時半までである.1時を3分ほど過ぎると先生が颯爽と臨床講堂に入ってくる.皆が注目しているなかで,先生は黙って黒板に前の机の上に,チョークを白・赤・黄・緑・青とキチンと並べる.その後,学生に対峙するのだが,いきなり講義の主題には入らない.外国の学会に行った話,医学部の予算配分,病院建築がどのように進んでいるかなどの話をした.いわゆる「枕を振る」のである.聞き手がその気分になったところで本題に入る.主題はいつも一つである.白斑とか出血,そして回数が進んでくると脈なし病や網膜.離が話題になってくる.階段教室なので前が広くあいている.先生は竹の竿をぶらぶらさせ歩きながら話をした.大事なところでは,竿を立てて大きな目でこちらを睨むのであった.今思うと歌舞伎役者が見得を切るのに似ていた.「未熟児網膜症は無血管野の虚血が原因である.治療は目玉焼き」といって鋭い眼光のまま口元をニッとするのであった.講義はいつも面白くわかりやすかった.予備知識なしでちゃんと理解できるのであった.最終回の話題は「医原病」であっ図5外来暗室で(1989年頃)た.ステロイド緑内障,スモン,クロロキン網膜症などを解説したあとで強調されるのが,「加害者である医師はすべて善意の人だった」という話である.そして,「医師は善人であるだけでは十分でなく,賢くなければならない」「だから諸君は将来医者になってもしっかり勉強しなさい」と強調して講義が終わった.医局員の教育昭和51(1976)年5月,私が連休明けに初出勤した日,清水先生は“Adler’sPhysiologyoftheEye”を人数分用意して待っていた.新人を前にして,先生は「泳ぎができない人を泳がせる方法はプールに放り投げることである」と言い,そのまま我々を外来に連れて行き,いきなり新患をもたせたのであった.カルテに描く眼底のスケッチは,最初のころは直像鏡しか使えなかったので乳頭とその周辺だけであったが,夏が終わる頃には倒像鏡で眼底全体が描けるようになった.新人は出勤第1日目から古参の医局員と一対一で組んで仕事をする,この兄弟子と弟弟子の関係を,オーベン,ネーベンという.オーベンはカルテの記載の仕方,ムンテラのコツ,手術の手ほどきなど眼科の現場に関係するすべてを教える.それと並行して,新人相手にクルズスが20回ほど行われた.クルズスでは,視力測定,検影法,ボンノスコープの使い方,直像鏡,倒像鏡,スパルトの見方,Goldmann視野計,眼圧測定法(シェッツとアプラネーション),蛍光造影法,網膜電図などのレクチャーがあった.もっとも詳しかったのは,蛍光造影写真の現像と紙焼きであった.Adlerの輪読会は最初のうちは清水先生がつき合ってくれたが,あとは自分たちでということ図6筆者(岸)の教授選出後の祝杯(1996年3月,眼科研究室)だった.当時は日本語のよい本がなかったし,日本語をいう意味からは非能率であるが,若い医者にとっては毎読むのは安直だという風潮があった.丸善が定期的に本回添削を受けることができるし,紹介医は上医診を期待を持ってきた.洋書は2,3万した(当時は1ドル=360しているのでそれに応えることができる.暗室には10円).今の感覚では6万円の本を買うようなものである.個ほどのカーテンで仕切った診察ブースが並んでいる.先生は「本は高いと思うな.高いと思うなら,そのお金暗室全体を見渡せる角に広めのブースがあり,そこで教をあげるから本を書いてみろ」とよく言っていた.授診が行われた.暗室の奥には眼底カメラ,光凝固装置Tolentino,Schepensの“Vitreoretinaldisorders”,などが並んでいた.蛍光眼底造影は年間2,000件行われYano.の『眼病理』,Hoganの『電顕組織学』を読んだた.大部屋なので会話は筒抜けである.医局員は先輩やことは,その後大いに役立った.群馬大学では眼科全般後輩のムンテラを聞きながら,互いに学んでいくのであに対応できる医師の育成をめざしていたので,医局員をる.先生は声が大きいので週2回の教授診の間,すべて専門別に分けることはしなかった.先生は信長のようなの会話が否応なしに入ってきた.先生は貴重な経験を皆ところがあり,いつも「下剋上」と言っていた.学問ので共有しよう考えていた.あるとき1診のベルがチリン世界で弟子は師の縮小再生産であってはならず,それをと鳴った.全員集合の合図である.このとき小口病の金超えなければならないということであった.先生からは箔眼底を初めて見せてもらった.清水先生は個室診療の疾患の考え方,論文の書き方,発表の形式に至るまで指弊害をよく語っていた.私もある大学の外来を見学した導された.「三毛猫は三毛猫でもみな違う,簡単に文献ことがあるが,完全な個室であった.静かな空間で,患を信じるな,権威者はほどほどに,病気から学べ」とい者のプライバシーは保たれるであろうが,どんな診察がうのが口癖だった.行われているかチェックの仕様がないし,他からも学べないであろう.清水先生は,貴重な症例を個人が温めて診療スタイル人に見せないのを「院内開業」とよび,ほとんど憎んでいた.先生の眼底スケッチは,それをまとめて本にした群馬大学眼科の外来の特徴は,上医診と大部屋スタイいほど秀逸であった.先生は絵心があり,色鉛筆を何色ルであり,いまでもその伝統が踏襲されている.若い医も使い,スケッチ自体が美しく,洗練されていた.何よ者は自分勝手に患者を帰すことはできない.所見をとりもスケッチに解釈が示されていた.たとえば,網膜.り,1,2診(教授+講師または助教授+講師)に出し,離では裂孔からどのように.離が進展したか,硝子体がコメントと指示を仰ぐことになる.これは患者の回転とどう関与しているか,裂孔からの色素細胞がどう散布さ図7筆者(岸)の日本眼科学会特別講演に来られた清水先生ご夫妻(2014年)れ,網膜表面に膜ができたかが詳細に描かれていた.1970年代は硝子体手術も眼内レンズもない時代である.私の入局の3年前(1973)にアルゴンレーザーが導入されていたが,西独Zeissのキセノン光凝固も現役だった.先生は「アルゴンは眼底に焦げ目をつける器械,キセノンは病気を治す器械」といっていた.キセノンは未熟児網膜症や網膜.離,ときに糖尿病網膜症にも使われていた.この装置は「象」とよばれており,箪笥くらいの大きな本体から太い筒が出ていた.網膜.離はもっぱらバックリング手術で清水先生が全例執刀していた.先生の手術日には,我々は病棟から手術場まで「象」を引きずっていった.教養の大切さ清水先生は,「ひとは表芸(仕事)だけではだめで,裏芸(教養)の深さが人間の価値を決めるのだ」といつも語っていた.先生はそれを「べらどんな」やワインのコラムで自ら示した.私が新人のころ,医局にはワイン屋が時々来て,試飲会を行っていた.当時はドイツワインが主流だった.タバコをふかしながら,『べらどんな』を書いているときの先生は本当に楽しそうだった『べらどんな』は昭和52(1977)年に「臨床眼科」誌(金原出版)のコラムとして始まった.最初のコラムは「シャーロック・ホームズと眼科学」である.このシリーズは平成9(1997)年,先生の定年退官の前年に第6巻でいったん完結した.その後もコラムの連載が続き,亡くなる1年ほど前(2020)まで続いた.今回,『べらどんな』シリーズを改めて読んで,洒脱な文章にちりばめられた先生の才能と教養の深さに驚かされた.新人のころ,先生から「クリムト展が三越に来ているから見に行くとよい」といわれた.清水先生は高校時代にドイツ語の先生がいたので,学生向けのゲーテの『ファウスト』をドイツ語で読み,大学に進学してからは,レクラムの文庫本を手に入れて,好きな箇所を何度も読み返したという.トーマス・マンも長編『ファウスト博士』を書いた.教養学部のドイツ語の先生がこれの翻訳をしていたので,その勧めで,800ページある原著を3カ月かけて通読し,いまでも愛読書のひとつであるという.あるとき,『ジャン・クリストフ』のフランス語版を示して学生時代に読んだといわれたときはびっくりした.私は和訳でさえ途中で投げ出してしまったのだから.『論文論』の「赤い糸」では,ワーグナーのライトモチーフが紹介されている.先達に学ぶ「少年よ,大志を抱け」というが,私はまったくそんなことはなかった.平凡に生きたいと思っていたのである.清水先生は私に強烈なimprintingを与えた.元々,開業しようとも出世しようとも思っていなかったので,ずっと大学に在籍した.清水先生はいつも私を支援してくれ,留学もさせてくれた.大学にいれば,日本眼科学会,日本臨床眼科学会に演題を出さなければならない.そして「今場所が終われば,来場所をめざして稽古に励む」生活が清水先生の下で22年間続いたのであった.それだけで完結する論文は存在せず,論文をひとつ仕上げれば,次になにをすべきかが自然に提起されるのである.先生は世界のShimizuであった.海外の権威を有り難がったりはしなかった.弟子は知らず知らずに影響を受けたのである.最後に心に残った先生の名言を紹介する.「世の中,金で解決できることは所詮たいしたことではない」.

Stevens-Johnson症候群/中毒性表皮壊死症の眼障害

2022年12月31日 土曜日

Stevens-Johnson症候群/中毒性表皮壊死症の眼障害OcularComplicationofStevens-JohnsonSyndrome/ToxicEpidermalNecrosis松本佳保里*外園千恵*はじめにStevens-Johnson症候群(Stevens-Johnsonsyn-drome:SJS)と中毒性表皮壊死症(toxicepidermalnecrosis:TEN)は,おもに薬剤への暴露により全身の皮膚粘膜で炎症が惹起され,全身の発疹,粘膜のびらん・水疱形成,熱発などの全身症状や結膜充血,角結膜上皮欠損,偽膜形成などの眼病変を生じる疾患として知られる.慢性期には粘膜病変の瘢痕化や癒着が進行し,全身に重篤な後遺症がみられる場合があり,継続した通院治療が必要な疾患である.本稿では,SJS/TENの基本的な臨床像や適切な医療費助成を得るポイントについて述べる.ISJS/TENの臨床像SJS/TENは,高熱を伴う全身性の紅斑・びらん・水疱から発症し,眼病変として結膜充血,角結膜上皮欠損,偽膜形成を特徴とする(図1).その他,粘膜病変では口唇・口腔粘膜や鼻粘膜,上気道粘膜,消化管粘膜など全身の粘膜に壊死性変化がみられ,重篤な後遺症を残すことがある.わが国では,発症後は速やかに被疑薬を中止し,全身管理および抗炎症のため全身ステロイド治療を開始することが推奨されているが,治療開始後も皮疹や粘膜病変が悪化することがあり,細やかな管理が必要である.眼病変に関しては,全身症状と同時もしくは数日早く両眼の結膜充血がみられる場合が多く,充血に加えて角結膜上皮欠損や偽膜が生じていると視力予後が不良となる.このため,SJS/TENが疑われる場合は,必ずフルオレセイン染色を用いた診察が必要である.上皮欠損が広範囲に及ぶと瞼球癒着や輪部機能不全を生じ,重篤な眼後遺症に陥る可能性がある.また,次項で述べる診断基準とは別に,重症度分類が作成されており,「眼表面(角膜・結膜)の上皮欠損(びらん),あるいは偽膜形成が高度なもの」はスコアにかかわらず眼所見のみで重症と判断されるため,眼科医による診察はSJS/TENの診断・治療において非常に重要である.II診断基準わが国では,2004年に厚生労働省の調査研究班が結成され,2005年に初めてSJS/TENの診断基準が確立された.その後,診療指針の策定や多施設調査の結果を踏まえて,2016年に「重症多形滲出性紅斑診療ガイドライン」が作成された1).SJSの診断基準は主要所見の5項目と4項目の副所見で構成されており,副所見を考慮したうえで主要所見をすべて満たす場合にSJSと診断する(表1).臨床像で述べたように,SJS/TENは治療開始にもかかわらず,しばしば病態が悪化するため,初期の評価だけでなく全経過を通して評価する.また,わが国では表皮.離面積が10%以上の症例をTENと定義しているが,欧米では10%以上30%未満の症例をSJS/TENオーバーラップ症例,30%以上の症例をTENと定義している.*KaoriMatsumoto&ChieSotozono:京都府立医科大学大学院医学研究科視機能再生外科学〔別刷請求先〕松本佳保里:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視機能再生外科学0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(51)1619図1SJS/TENの急性期眼所見aba:結膜充血.球結膜および眼瞼結膜に著明な充血がみられる.Cb:偽膜形成.睫毛鑷子で引っ張ると偽膜がはがれてくる.Cc:角膜上皮欠損.角膜中央に上皮欠損がみられる.d:結膜上皮欠損().結膜上の偽膜を除去すると上皮欠損がみられる場合がある.表1SJSの診断基準主要所見(必須)1.皮膚粘膜移行部(眼,口唇,外陰部など)の広範囲で重篤な粘膜病変(出血・血痂を伴うびらんなど)がみられる.2.皮膚の汎発性の紅斑に伴って表皮の壊死性障害に基づくびらん・水疱を認め,軽快後には痂皮,膜様落屑がみられる.その面積は体表面積のC10%未満である.ただし,外力を加えると表皮が容易に.離すると思われる部位はこの面積に含まれる.3.発熱がある.4.病理組織学的に表皮の壊死性変化を認める.5.多形紅斑重症型(erythemamultiforme[EM]major)を除外できる.副所見1.紅斑は顔面,頸部,体幹優位に全身性に分布する.紅斑は隆起せず,中央が暗紅色のC.atatypicalCtargetsを示し,融合傾向を認める.2.皮膚粘膜移行部の粘膜病変を伴う.眼病変では偽膜形成と眼表面上皮欠損のどちらかあるいは両方を伴う両眼性の急性結膜炎がみられる.3.全身症状として他覚的に重症感,自覚的には倦怠感を伴う.口腔内の疼痛や咽頭痛のため,種々の程度に摂食障害を伴う.4.自己免疫性水疱症を除外できる.副所見を考慮のうえ,主要C5項目をすべて満たす場合にCSJSと診断する.(文献C1より引用)緩徐な進行・中等症進行性・重症急速進行性・最重症反応不良(重篤な眼障害)反応不良ステロイド増量不可PSL:プレドニゾロン図2急性期全身治療アルゴリズム(文献C1より引用)-2145711172126(日)病日図3急性期SJSの治療例64歳,男性.病日C4日に当院皮膚科を受診し当科紹介となった.当科初診時に結膜上皮欠損がみられ翌日から偽膜が出現した.ステロイドパルス療法を開始後も病日C7日までは眼病変は増悪したため,ベタメタゾン点眼・眼軟膏が増量された.その後は全身所見,眼所見に合わせてステロイド量は漸減された.全身所見の改善により終了(-)週2回程度で経過観察(+)毎日診察(眼科併診)充血の消褪により終了(ステロイドパルス療法など全身管理)+0.1%ベタメタゾンまたはデキサメタゾン点眼あるいは眼軟膏1日6回以上図4急性期眼科治療アルゴリズム図5SJS/TENの慢性期眼所見a:結膜.短縮,睫毛脱落,眼瞼縁の不整.涙点は急性期の炎症により自然閉鎖している.b:著明な涙液減少および角膜上皮欠損がみられる.Cc:角膜混濁,血管侵入,瞼球癒着.涙点プラグ挿入によりドライアイの治療を行っている.d:眼表面の角化が進行している.表2視覚障害認定で利用できる制度年金の受給障害基礎年金,障害厚生年金医療費の軽減1,2級を対象とした医療費助成制度補装具費の支給白杖,遮光眼鏡など支援事業の利用就労支援,自立訓練などその他の制度交通費の割引,税金の減額など表3医薬品副作用被害救済制度による給付の種類と給付額給付の種類区分給付額医療費健康保険等による給付の額を除いた自己負担分通院のみの場合1カ月のうちC3日以上月額C36,900円(入院相当程度の通院治療を受けた場合)1カ月のうちC3日未満月額C34,900円医療手当入院の場合1カ月のうちC8日以上月額C36,900円1カ月のうちC8日未満月額C34,900円入院と通院がある場合月額C36,900円障害年金*1級の場合年額C2,804,400円(月額C233,700円)2級の場合年額C2,244,000円(月額C187,000円)障害児療育年金1級の場合年額C877,200円(月額C73,100円)2級の場合年額C702,000円(月額C58,500円)遺族年金年金の支払はC10年間(ただし,死亡した本人が障害年金を受けたことがある場合,その期間がC7年に満たないときはC10年からその期間を控除した期間,その期間がC7年以上のときはC3年間)年額C2,452,800円(月額C204,400円)遺族一時金7,358,400円葬祭料212,000円*通常の視覚障害年金と別に副作用被害救済として給付される.(独立行政法人医薬品医療機器総合機構ホームページより引用)

抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎

2022年12月31日 土曜日

抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎Anti-Aquaporin4Antibody-PositiveOpticNeuritis河合愛実*石川均**はじめに視神経脊髄炎(neuromyelitisopticaspectrumdisor-ders:NMOSD)は,中枢に存在する水分子チャンネルアクアポリン(aquaporin:AQP)4に対する特異的な自己抗体である抗AQP4抗体が関与する自己免疫疾患である.国際診断基準は,抗AQP4抗体が陽性で視神経炎や脊髄炎,脳症候群による神経症状を呈する疾患と,抗AQP4抗体陰性または抗AQP4抗体検査結果が不明で,中枢神経系の病変に由来する主要臨床症候を示す関連疾患を,NMOSDと総称している(図1)1).NMOSDは,血清中の抗AQP4抗体が血液脳関門の破綻により中枢神経のアストロサイト上のAQP4に結合し,補体を活性化することでアストロサイトの細胞死を引き起こす.よって,多発性硬化症(multiplesclero-sis)のようなオリゴデンドロサイトを中心とした中枢神経の炎症性脱髄性疾患とは区別される1,2).わが国におけるNMOSDの有病率は10万人あたり2~4人で,性差は9割を女性が占める.好発年齢は,30~40歳代前半であり,しばしば小児や高齢でも発症する1).INMOSDの所見・症状1.抗AQP4抗体陽性視神経炎1,2)抗AQP4抗体陽性視神経炎診療ガイドラインによる診断基準を示す(表1)1).急性期の所見は,視力や中心フリッカ値の低下,MRI冠状断shortTIinversionrecovery(STIR)法および脂肪抑制T2強調像で罹患視神経に高信号,ガドリニウム造影法で造影効果を呈する.対光反射は,片眼性は相対的瞳孔求心路障害(rela-tivea.erentpupillarydefect:RAPD)陽性,両眼性は両眼の対光反射が減弱する.また,視野障害は中心暗点のほか,両耳側半盲,水平半盲,非調和性同名半盲などさまざまである.視機能障害は他の視神経炎と異なり,両側同時の発症や光覚弁以下の視力低下,視力回復不良,再発しやすいといった重篤な経過を示すことが多い.視神経乳頭は最終的に萎縮を呈する.光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)では網膜神経線維層や網膜神経節細胞層など網膜内層厚が経時的に菲薄化する.抗AQP4抗体陽性視神経炎を含むわが国の難治性視神経炎の特徴は,石川ら3)が2019年に全国の疫学調査結果をまとめているので参考にされたい.2.脊髄炎脊髄病変は,脊髄中心部に脊髄長軸方向に長く生じることが多い.病変レベルに一致した文節性の温痛覚障害,病変レベル以下の全感覚障害,対麻痺あるいは四肢麻痺,膀胱直腸障害が生じる.高位頸髄病変では呼吸不全をきたし人工呼吸器などによる全身管理が必要となる.後遺症として,病変レベルに有痛性強直性攣縮,温痛覚過敏,自発痛,帯状絞扼感,しびれが生じる.3.脳症候群脳病変は,無症候性病変を含めるNMOSDの大半に*ManamiKawai:北里大学医学部眼科学教室**HitoshiIshikawa:北里大学医療衛生学部視覚機能療法学〔別刷請求先〕河合愛実:〒252-0373神奈川県相模原市南区北里1-15-1北里大学医学部眼科学教室0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(43)1611NMOSDの主要臨床症候1.視神経炎2.急性脊髄炎3.他の原因では説明できない吃逆あるいは嘔気,嘔吐を起こす最後野症候群のエピソード4.急性脳幹症候群5.NMOSDに典型的な間脳のMRI病変を伴う症候性ナルコレプシーあるいは急性間脳症候群6.NMOSDに典型的な脳MRI病変を伴う症候性大脳症候群AQP4抗体陽性NMOSDAQP4抗体陰性あるいはAQP4抗体検査結果不明のNMOSD1.最低一つの主要臨床症候がある1.1回以上の臨床的増悪で最低二つの主要臨床症候があり,以下の条件2.AQP4抗体陽性をすべて満たす3.他疾患の除外a.最低1つの主要臨床症候は,視神経炎,3椎体以上の横断性急性脊髄炎,最後野症候群b.空間的多発(二つ以上の異なる主要臨床症候)c.該当病巣のMRI所見が下記の条件*も満たす2.AQP4抗体陰性あるいはAQP4抗体検査が未実施3.他疾患の除外*AQP4抗体陰性およびAQP4抗体検査結果不明のNMOSDのMRI追加要件1.急性視神経炎は,脳MRIが(a)正常または非特異的白質病変のみ,(b)視神経MRIでT2高信号病変やT1強調ガドリニウム造影病変が視神経の1/2以上に伸展,または視交叉病変がある2.急性脊髄炎は,3椎体以上に連続性する髄内MRI病変,または急性脊髄炎に合致する既往歴を有する患者において3椎体以上に連続する局所性の脊髄萎縮がある3.最後野症候群は,背側延髄/最後野の病変がある4.急性脳幹症候群は,脳室上衣周囲の病変がある図1視神経脊髄炎(NMOSD)の国際診断基準(2015)表1抗AQP4抗体陽性視神経炎の診断基準2)1.血清抗アクアポリン4抗体陽性1.突然発症する片眼または両眼の重度の視力障害2.眼球運動痛,眼痛,眼窩痛,頭痛3.中心暗点,水平半盲,耳側半盲,同名半盲などの重度の視野障害4.急性期には頭部MRI冠状断STIR法およびT2強調像で罹患視神経に高信号5.副腎皮質ステロイド治療に抵抗性1.他の血清自己抗体が陽性である抗核抗体,リウマチ因子,甲状腺関連自己抗体(抗TSH受容体抗体,抗サイログロブリン抗体,ペルオキシダーゼ抗体),抗SS-A抗体,抗SS-B抗体など〕2.脊髄MRIで3椎体以上の脊髄病変3.発症時に脳MRI病変が多発性硬化症基準を満たさない4.10~70代での女性に幅広く分布してみられる主要項目5項目のうち3項目と必須項目を満たす.(文献2より引用)表2生物学的製剤の特徴一覧商品名ソリリスエンスプリングユプリズナリツキサン標的蛋白メカニズム補体CC5抑制IL-6受容体拮抗CD19抑制CD20抑制投与方法2週ごとの点滴4週ごとの皮下注射6カ月ごとの点滴6カ月ごとにC2週間間隔でC2回点滴単剤の再発予防効果100%軽減74%軽減72.8%軽減C─おもな副作用感染症(とくに髄膜炎菌感染)感染症感染症感染症薬価604,716円C/瓶1,532,660円C/本3,495,304円C/瓶118,714円C/瓶年間医療費約C63,000,000円約C20,000,000円約C21,000,000円約C950,000円はいいいえ図3NMOSDの医療費助成までの流れ出典:特定非営利活動法人CMSキャビンホームページ(https://www.mscabin.org/nmosd/nmosdiryohi/)より一部改変(閲覧日C2022/9/14)左眼右眼図4Goldmann視野右眼の中心暗点と左眼は周辺視野が残存している.右眼左眼図5OCT両眼ともに黄斑と視神経乳頭周囲の網膜内層厚が菲薄化している.

Leber遺伝性視神経症

2022年12月31日 土曜日

Leber遺伝性視神経症LeberHereditaryOpticNeuropathy上田香織*I概要Leber遺伝性視神経症(Leberhereditaryopticneu-ropathy:LHON)はミトコンドリア遺伝子の点変異を原因とし,若年の男性を中心に発症する視神経疾患である.約9割の患者で原因遺伝子としてm.3460,m.11778,m.14484が検出される.視機能は著明に低下するものの,大部分の患者では完全な失明には至らないこと,一部の患者では自然回復がみられることなど,他の視神経疾患にはみられないような特徴の多い疾患である.確立された治療法はないが,内服薬や電気刺激で網膜神経節細胞の機能を保存,ないし回復させる試みがある.II疫学LHONは10~30歳代の男性を中心に発症する希少疾患である.日本での最新の疫学調査は2019年に行われ,1年間の新規発症者は69名(男性62名,女性7名),総患者数は2,491名(男性2,333名,女性158名),有病率は1:50,000程度と推計された1).この結果は諸外国での調査結果とおおむね同等である.LHON患者は男性が圧倒的に多い.上述の疫学調査でも年間新規発症者,総患者数ともに男性が90%を超えていた.さらに男性の発症割合については近年ますます上昇傾向にあることが示唆されているが2),この理由は明らかではない.過去には性染色体の関与が推測され研究されていたが,LHONとの関連について今日まで証明されていない.LHONの原因遺伝子としておもに検出されるm.3460,m.11778,m.14484は三大変位とよばれる一方で,10%未満の希少変異についても報告例が増えつつある.III所見LHONを発症すると片眼に視力低下をきたしたのち,数週~数カ月の間隔をおいて他眼でも視力低下を生じることが典型的である.視力は(0.01)程度にまで低下し,以降は安定する場合が多く,光覚消失にまで至る患者はまれである.また,視神経疾患ではあるが,限界フリッカ値(critical.ickerfrequency:CFF)も正常範囲ないし軽度低下するのみであることが多い.視野は中心暗点となるが,発症早期で視野検査を行うと,視力は低下していても視野がおおむね保たれていることがある.また,一見中心暗点にみえる領域でも,検査条件を変更することによりある程度の感度が残存している場合があり,患者本人も感度の残存する部分に視線をずらしてものを見ている.視神経疾患ではあるが対光反射が保たれることも,LHONの大きな特徴的所見といえる.網膜神経節細胞のなかでも内因性光感受性網膜神経節細胞(intrinsicallyphotosensitiveretinalganglioncell:ipRGC)が残存すると予測されている3).おもな眼底所見として視力低下などの自覚症状をきたす前より視神経乳頭の発赤と乳頭周囲の毛細血管の拡張*KaoriUeda:神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野〔別刷請求先〕上田香織:〒650-0017神戸市中央区楠町7-5-1神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(37)1605図1典型的なLHON症例で比較的発症早期のもの(視力0.02)a:視神経乳頭は発赤し,乳頭周囲の毛細血管の軽度拡張・蛇行所見がみられる.ほかには器質疾患は認めない.Cb:蛍光造影検査にて異常所見を認めない.Cc,d:眼科部拡大造影CMRIにて,T2画像(c)および造影(d)ともに異常所見を認めない.~図2発症ごく早期で右眼(1.5)左眼(0.02)と視力に差がある症例a:眼底所見は図C1と同様の所見である.Cb:OCTではすでに左眼で網膜内層の菲薄化が確認できる.c:Humphrey視野検査(Sita-standard,C30-2,視標サイズIII)の結果では両眼ともに視野はまだほぼ保たれている.図3図1と同一症例の経時変化発症半年後(Ca),2年後(Cb)のもの.視神経乳頭は徐々に蒼白化し萎縮していることがわかる.図4図1と同一症例の視野と固視a:Goldmann視野検査にて中心暗点を呈している.Cb:Humphrey視野検査にてC30-2/視標サイズCVで検査すると上方に残存視野が確認できる.Cc:固視位置の検索結果(水色で囲まれた範囲に視線が動き,固視位置は十字で示されている):残存視野の位置に対応した部位で固視しようとしていることがわかる.表1LHONの認定基準(文献C10より改変引用)’C’C’C