———————————————————————-Page11076あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(00)各ステップが作り出す入射光の焦点までの距離(opticalpathlengthdierence)は,入射光の波長の整数倍でなければならず,多くの多焦点レンズの場合1つのステップの高さは1波長(l)分である.ステップとは,レンズの軸に平行な段差のことである.また,加入度数をより強くするためには,ステップの間隔を詰め密度を上げる必要がある.さまざまな回折型眼内レンズを観察する際に,このステップの密度を認識することにより,設計されている加入度数の強弱をつかむことができる1).しかし,回折型眼内レンズに特徴的なこのステップIAcri.LISARの特徴現在,各メーカーから多焦点眼内レンズが発売されている.筆者がこのレンズを主として使用するのは,その設計の良さにある.以下にAcri.LISAR(Acri.Tec/CarlZeissMeditec社製)の特徴を簡単に述べてみたい(図1).多焦点眼内レンズを屈折型,回折型という2つに分類されているが,正確にはすべての多焦点レンズは屈折・回折の両方の要素をもっている.回折型とよばれるレンズは,近方への焦点を主として回折効果により得ているために,そのようによばれているのである1).回折型眼内レンズの回折面のシェーマを図2に示す.*HiroyukiArai:南青山アイクリニック横浜〔別刷請求先〕荒井宏幸:〒220-6208横浜市西区みなとみらい2-3-5-CクイーンズタワーC8F南青山アイクリニック横浜特集●多焦点眼内レンズあたらしい眼科25(8):10761080,2008回折型レンズ(アクリリ)の術後成ResultswithDifractiveMultifocalIntraocularLens(Acri.LISAR)荒井宏幸*0910-1810/08/\100/頁/JCLS1076(30)図1Acri.LISARの外観プレート型の他にも1ピース型,PMMA(ポリメチルメタクリレート)のループをもつ3ピース型も用意されている.遠用焦点遠用焦点の屈折面近用焦点の屈折面実際のレンズ表面近用焦点ll図2回折型多焦点眼内レンズの光学特性のシェーマシェーマとして近方焦点は非常に強く誇張されている.———————————————————————-Page2あたらしい眼科Vol.25,No.8,20081077(31)使用する.おもな仕様は表1に示した.対象としては,両眼挿入を行い1カ月以上の経過観察が可能であった22例44眼とした.この44眼のなかに8眼のLASIK(laserinsitukeratomileusis)による追加矯正(touchup)を行った症例を含んでいる.また,術前に乱視が強いため,当初からtouchupを予定した症例は含めていない(表2).両眼での視力推移であるが,遠方・近方ともに良好な視力結果が出ている.回折型の弱点である中間視力は,遠方・近方視力と比べると若干の低下を認めた(図4).が,分散光による光学的なロスを生じ,waxy,グレアなどの原因ともなっている.Acri.LISARは,2つのphase-zoneを作ることにより,ステップを形成することなく回折効果を得るため,グレアなどの分散光を最小限に抑えることに成功している(図3).「このステップがない」ことがAcri.LISARの光学的な最大の特徴である.眼内レンズの外観写真にてステップのように見えるのは,sub-phasezoneの屈折差による反射の違いである.またAcri.LISARのもう1つの特徴は,球面収差補正がなされていることである.正確なRMS(rootmeansquare)値は公表されていないが,現在市販されている多焦点眼内レンズで,球面収差補正をしているのはAcri.LISARのみである.そのほか,MICS(micro-inci-sioncataractsugery:極小切開白内障手術)にも対応しており,最小の切開幅は1.5mmである.筆者らは通常2.2mmにて行っている.おもなレンズの仕様を表1に示す.IIAcri.LISARの術後成績(Acri.TwinRも含めて)今回は,Acri.LISARの前のversionであるAcri.TwinRも含めた結果を示す.Acri.TwinRはAcri.LISARとほぼ同様のスペックであるが,異なる入射光の分配比率のものを両眼に入れるというコンセプトである.有意眼には遠方:近方=70:30を,非有意眼には30:70を主ゾーン面主ゾーン面副ゾーン面PLE図3Acri.LISARの光学設計理論のシェーマ主ゾーン面の間を副ゾーン面がなだらかに結びステップを形成しない.PLE:opticalpathlengthdierence.表2対象の内訳対象抽出条件両眼挿入にて1カ月以上の経過観察手術期間2006/8/182008/2/15症例数男性4例8眼,女性18例36眼,合計22例44眼症例の内訳IOL女性男性合計Acri-TwinR24428Acri-LISAR12416合計36844年齢60.7±8.8歳(3778歳)年齢の内訳IOL平均SDp値Acri-TwinR58.87.60.097Acri-LISAR63.810.0合計60.78.8フォロー期間4.6±3.3カ月(1.013.4カ月)追加手術Acri.TwinR症例で,8眼LASIK施行表1Acri.LISAR(366Dタイプ)の仕様光学径6mm全長11mmプレートアングル0°加入度数+3.75D最小切開幅1.5mm(MICS対応)材質・特性アクリル(含水率25%)親水性表面処理球面収差補正製作範囲±0+32D(0.5Dステップ)———————————————————————-Page31078あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(32)受ける印象からすると,非常にクリアに見えているケースと,なんとか見えているケースがある.遠方・中間・近方ともに,日常生活において十分な視力結果であったことは,Alfonsoらの報告と一致している2).筆者らはIOLマスターにて眼内レンズの度数決定を行っており,術後の屈折値もほぼ目標通りであることを考慮すると,瞳孔径・脳の適応力・角膜や硝子体の透明度などが影響遠方の自覚屈折は,経過を通じてほぼ安定していた(図5).また,角膜内皮細胞密度は,術前が2,662個/mm2であったのに対して,術後は2,535個/mm2であった.コントラスト感度は通常光下およびグレア光下の両条件下にても,術前と術後で有意な変化は認めなかった(図6).満足度であるが,術後1カ月から1年までの全体比率を図7に示した.術後1カ月では,一部不満のケースもあるが,時間の経過とともに満足度は上昇し,1年の時点では不満のケースはなく良好な満足度が得られている.III多焦点眼内レンズ成功へのポイント視力経過はおおむね良好であったが,実際の診察から:遠方:中間:近方030901803601.21.00.50.1視力経過日数(日)図4裸眼視力の経緯遠方・近方に比べ中間視力はやや低い傾向にある.:屈折度数3090180360屈折度数経過日数(日)0370.0-1.0-2.0-3.0-4.0-5.0-6.0図5自覚屈折の経緯術後3カ月くらいからほぼ安定している.通常光:術前:術後2.521.510.50361218LogCS間波数(c/d)グレア光:術前:術後2.521.510.50361218LogCS空間周波数(c/d)図6通常光(上図)とグレア光(下図)術前・術後とも有意な変化を認めなかった.:不満:やや不満:満足:とても満足1週1カ月3カ月6カ月1年100806040200構成比(%)術後経過期間図7満足度の経緯術後1カ月では不満のケースもあるが,時間とともに満足率は増加している.———————————————————————-Page4あたらしい眼科Vol.25,No.8,20081079(33)選択が最も重要であろう.筆者の方針を以下に示す.①「白内障のないケースには行わない」矯正視力が良好なケース,特に強度近視でハードコンタクトレンズを装用している場合などは,年齢的な配慮だけで多焦点眼内レンズを選択すると,術後の視機能の低下をダイレクトに感じるため,高い満足度を得ることは非常にむずかしい.②「すべてを見たいというケースには行わない」多焦点眼内レンズはあくまでも単焦点眼内レンズによる近方視不良を補完的に補うものであり,決して「夢のレンズ」ではないことを理解していただかなくてはならない.③「こちらからは誘わない」自分が興味をもった治療法には積極的になるのが,医療の常である.あらかじめパンフレットなどを渡し,興味をもった場合に説明をする形をとったほうがスムーズである.また,現在すでに多焦点眼内レンズが認可されている以上,治療を受ける側の権利として,多焦点眼内レンズという選択肢があることを知らせる必要がある.現在,多焦点眼内レンズを扱っていない施設でも,こうしたレンズの普及に伴い,将来には入れ替えの要求や非通知に対する不満が出てくる可能性がある.最後に,現在の多焦点レンズはまだ発展段階であり,白内障のない例にclearlensectomyとして用いるには,まだ時期尚早ではないかと思われる.比較的若年者のアトピー性白内障などは,良い適応と思われるが,年配者で強度近視性の核白内障でハードコンタクトレンズにて十分な矯正視力が得られている場合などは,慎重な適応としたほうがよいと感じている.また,筆者らは世界しているものと思われる.しかし,それらのうち,術前に定量的な観察が可能なのは瞳孔径くらいであり,複雑な光学系における多焦点レンズとしての効果を予測するには,術前の判断材料は乏しいと言わざるをえない.内皮細胞数に関しては,軽度減少しているが,これは手術による侵襲に起因するものと推測される.減少率からみても,白内障の手術としての許容範囲にあると思われる.コントラスト感度であるが,術前は白内障のため当然コントラスト感度は低下しており,術後には改善することが予測されたが,実際は統計学的に有意差はなかった.グレア光下でのコントラスト感度にも有意差がなかったことから,白内障による光の分散と多焦点性のレンズによる分散が相殺し,結果的にコントラスト感度に変化が出なかったと推察している.しかし実際には術後にグレアを訴えるケースもあり,詳しく聞けば日常生活には支障はない程度であるという回答が多い.このことが大きなクレームにならないのは,術前に十分な説明を行ったからと思われる.ただし,術後検査にてコントラスト感度の低下を示していても,症状をまったく訴えないケースもあり,感受性の個体差もあるものと推察される.満足度は良好であった.ただし,アンケートには中間視力や像のシャープさなどが,もう少し向上すればさらに良いという旨の記述も多く,すべてが満足というわけでもなさそうである.実際の術後の眼鏡装用率は,22名中5名で約23%であった.眼鏡の内訳は遠用が3名で近用が2名であった.この眼鏡装用者のなかで,日常生活の50%の局面で眼鏡装用をしている者が1名で,他はすべて必要時であった.多焦点レンズはまだ始まったばかりであり,成功への確実な方法はいまだない.レンズのもつ,光学的な多焦点性は今後も改良されてゆくことが予想されるが,網膜上に集光した像に対して脳の適応がなければ,「見えている」という感覚はない.この脳の適応能力の個体差は現在の多焦点眼内レンズの限界と思われる.現時点では自費診療であることから,白内障の治癒のみならず患者の「満足度」が治療結果の成否における大きなウエイトを占めている.普及前の現時点では,適応となる症例の図8Acri.LISARtoricの外観乱視軸ようのマーカー線が観察できる.———————————————————————-Page51080あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(34)文献1)FialaW,PintzerJ:Analyricalapproachtodiractivemultifocallenses.EurPhysJAP9:227-234,20002)JoseF,LuisF,AnaSetal:ProspectivestudyoftheAcri.LISAbifocalintraocularlens.JCataractRefractSurg33:1930-1935,200730カ所にて行っている,乱視用多焦点眼内レンズの多施設研究に参加しており,実際に使用し良好な結果を得ている.乱視矯正効果があれば,術後にLASIKによる乱視補正(touchup)が必要なくなり,適応も拡大するであろう.今後の市販化が待たれるところである(図8).