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Autofluorescence(自発蛍光検査)で何がわかるか

2006年9月30日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS状態にさせ,その後基底状態に戻ろうとするときに放出する余分なエネルギーが光となって観察され,このとき必ず,再発光の波長が吸収光の波長よりも長くなるという現象である.以前はフルオロフォトメトリーを利用する方法でFAFを測定しており1),また水晶体からも強い自発蛍光が生じるために,共焦点メカニズムを有するSLO(scanninglaserophthalmoscope)やHRA(Heidel-bergretinaangiogram)での観察例が多く報告されてきた2~4).一方,市販の眼底カメラ(TOPCONTRC50IX)を改良することにより,FAFをより簡便に撮影することができるようになった5).これは励起光通過フィルターに580nm(500~610nm)を使用し,眼底に到達する励起光の水晶体による減弱を減らすためにバリアフィルターは695nm(675~715nm)を使用しているものであるが,これによりSLOやHRAなどの高価な装置を使わずにFAFが撮影可能となった.III臨床例における自発蛍光の実際正常眼底においては網膜主幹動静脈,視神経乳頭,黄斑領域は弱い自発蛍光となる(図1).黄斑領域は網膜血管のヘモグロビンと黄斑のキサントフィルにより自発蛍光が吸収され,低蛍光の暗い領域として描出される.これまでの報告2)では弱い自発蛍光は網膜色素上皮萎縮部,網脈絡膜萎縮部,出血部などで認められ,強い自発蛍光はドルーゼン,網膜色素上皮?離部などで認められる.図2に網膜色素上皮裂孔の例を示すが,通常のカI眼底の自発蛍光とは?眼底の自発蛍光(fundusauto?uorescence:FAF)はおもに網膜色素上皮細胞(RPE)のリポフスチンに由来するとされる.リポフスチンは生理的に心筋,肝細胞,尿細管上皮,神経細胞,横紋筋,平滑筋,副腎皮質の網状帯(色素帯),精巣などに黄褐色の微細な色素顆粒として存在し,細胞内に散在性に現れ,電子顕微鏡下では脂質に似た明るい均質の部分を含む暗い顆粒で,脂質と結合している.RPE内のライソゾーム酵素により視細胞外節が分解・消化され,消化残?がリポフスチンとして細胞質内に蓄積される.これは加齢とともに蓄積されやすくなる.高齢者のRPEでは細胞器管の圧排,減少に伴い視細胞外節の貪食・消化能力が低下しさらにリポフスチンの蓄積が進む.リポフスチンの蓄積により眼底の自発蛍光は強くなる.したがってFAFはRPEの代謝機能を反映していると考えられる.強い自発蛍光は高齢者,RPEの外節貪食代謝亢進,病的代謝低下のRPEなどで認められ,弱い自発蛍光は若年者,RPEの外節貪食代謝障害,RPEの萎縮,欠損などで認められる.すなわちFAFの変化を調べることによりその部位のRPEの機能を推測することができる.II自発蛍光の観察方法FAFを観察するためにはフォトルミネッセンス現象が利用されている.これは,励起光を照射し分子を励起(23)????*SatoshiMizunoya:帝京大学ちば総合医療センター眼科**ShuichiYamamoto:千葉大学大学院医学研究院視覚病態学〔別刷請求先〕水野谷智:〒299-0111市原市姉崎3426-3帝京大学ちば総合医療センター眼科特集●網脈絡膜変性疾患のアップデートあたらしい眼科23(9):1133~1137,2006Auto?uorescence(自発蛍光検査)で何がわかるか???????????????????????????????????????水野谷智*山本修一**———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006ラー眼底写真でみるよりも裂孔部の境界は明瞭であり,RPEが折りたたまれている部位では逆にFAFが強くなっていることがわかる(図2a,b,c).Best病やfundus?avimaculatusではリポフスチンがRPEに蓄積するため眼底の自発蛍光は強くなることが報告されている6).図3にStargardt病の一例を示す.眼底全体で一見して明らかにFAFが強くなっているが,黄斑部が逆に暗く見え,ちょうどフルオレセイン蛍光眼底写真(FA)を反転させたような像が印象的である(図3a,b,c).図4に定型網膜色素変性の例を示す.変性している部位では蛍光が弱くあるいは消失している.機能が残っている網膜ではFAFは残存している(図4a,b,c).中心型網膜色素変性では黄斑部の自発蛍光は消失し,その周(24)図1正常者のFAF(61歳,男性)正常眼底においては網膜主管動静脈,視神経乳頭,黄斑領域は弱い自発蛍光となる.図2網膜色素上皮裂孔の例裂孔の部位はFAFがまったく消失している.裂孔縁は強い蛍光となる部位もある.aはカラー眼底写真,bはFAF写真,cはFAの写真である.以下,図3~8も同じ.abc図3Stargardt病の例黄斑部は暗く,その周囲は明らかにFAFが強くなっている.abc———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????囲は強い蛍光で縁取りされている像が見られる.強い蛍光の部位では逆に代謝が亢進している可能性もある(図5a,b,c).これらでは通常の眼底写真よりもFAFの写真のほうが障害部位とのコントラストがはっきりしていてわかりやすい.また網膜色素変性においては,FAFはFAをほぼ反転させた像を呈しており,特定疾患の申請に必須とされるFAに代わる非侵襲的検査として期待がもてる.中心性漿液性網脈絡膜症(CSC)では網膜?離部に一致して強い蛍光が見られ,一部黄白色の沈着物は特に強い蛍光となることが知られている.これは時間の経過とともにリポフスチン様物質がRPEに沈着するためと考(25)図4定型網膜色素変性症の例変性している部位では蛍光が弱くあるいは消失している.機能が残っている黄斑部ではFAFは残存している.abc図5中心型網膜色素変性症の例黄斑部のFAFは消失し,その周囲は強い蛍光で縁取りされている像が見られる.abc図6中心性漿液性網脈絡膜症の例網膜?離部に一致して強い蛍光が見られ,漏出点は弱い蛍光となっている.abc———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006(26)えられている.蛍光漏出点に一致して自発蛍光は消失しており,ここでもFAの代わりとなることが期待できる(図6a,b,c).加齢黄斑変性(AMD)では強い蛍光と弱い蛍光が混在して斑状になっている像や,変性の辺縁に沿って強い蛍光を示す例,検眼鏡では異常が軽微でもRPEの障害が進行している例が認められる(図7,8).AMD初期の例でFAFの経過を観察することにより国際分類でいうところのpatchypatternは視力予後不良の危険因子であるとの報告がある3).地図状萎縮の症例で萎縮部辺縁に沿って強い蛍光が見られる症例では,網膜の感度がより低下しているとの報告もある7).おわりにFAFにより従来の蛍光眼底検査のような侵襲なしにRPEの異常を検出することが可能になってきた.検眼鏡的に眼底の異常が認められる前に,FAFによってRPEの代謝機能の変化を発見できる可能性もある.経過を追うことで疾患の進行程度の推測もできる可能性があり,眼底疾患の病態の理解や治療にFAFは非常に有用であると考えられ,今後の発展が期待される.文献1)北川桂子,勝安彦,西田祥蔵ほか:フルオロフォトメトリーによる網膜色素上皮加齢変化の検討.日眼会誌92:780-784,19882)白木邦彦,洪里卓志,河野剛也ほか:ハイデルベルグ・レチナ・アンギオグラムを使用した網膜色素上皮リポフスチン由来自発蛍光の観察.臨眼55:283-287,20013)EinbockW,MoessnerA,SchnurrbuschUEKetal:Changesinfundusauto?uorescenceinpatientswithage-relatedmaculopathy.Correlationtovisualfunction:apro-spectivestudy.????????????????????????????????243:300-305,20044)DandekarSS,JenkinsSA,PetoTetal:Auto?uorescenceimagingofchoroidalneovascularizationduetoage-relatedmaculardegeneration.???????????????123:1507-1513,図7加齢黄斑変性の例強い蛍光と弱い蛍光が混在している例も認められる.abc図8加齢黄斑変性の例検眼鏡では異常が軽微でもFAFでは明らかに蛍光の減弱を示す例が認められる.abc———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????(27)20055)SpaideRF:Fundusauto?uorescenceandage-relatedmaculardegeneration.?????????????110:392-399,20036)EagleRC,LucierAC,BernardinoVBJetal:Retinalpig-mentepithelialabnormalitiesinfundus?avimaculatus:alightandelectronmicroscopicstudy.?????????????87:1189-1200,19807)Schmitz-ValckenbergS,BultmannS,DreyhauptJetal:Fundusauto?uorescenceandfundusperimetryinthejunctionalzoneofgeographicatrophyinpatientswithage-relatedmaculardegeneration.?????????????????????????45:4470-4476,2004

加齢黄斑変性の遺伝子研究の最前線

2006年9月30日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS色体上での位置を絞り込み,その周辺の遺伝子を網羅的に調べるポジショナルクローニング法によって,14の候補遺伝子の7つがすでに発見されている.発見された7つの遺伝子と加齢黄斑変性との関係については複数の研究グループが解析を行ったが,常染色体劣性遺伝のはじめに加齢黄斑変性は多因子疾患であると考えられ,加齢,遺伝そして環境などのリスク因子が作用して時間をかけて発症する1)(表1).加齢黄斑変性を発症しやすい体質があるとすれば,それはヒトの設計図であるゲノム配列と深く関係している.今日の遺伝子解読技術を用いれば,特定の遺伝子配列を解読することは比較的簡単であるが,問題はヒトゲノムには22,000ほどの遺伝子が存在し,どの遺伝子が加齢黄斑変性に関係するかわからないことである.最近になって,ようやく候補となる遺伝子が複数明らかになってきた.疾患に関係する遺伝子配列の発見は加齢黄斑変性の早期診断につながり,また発症までに時間があることから,有効な予防法による発症の遅延や人生設計の変更が可能になる.リスク遺伝子の機能解析によって,発症を防止する有効な薬の開発の可能性もある.このような理由から,加齢黄斑変性のリスク因子の1つである遺伝子についての研究が進められている.本稿では,加齢黄斑変性のリスク因子としての遺伝子解析について最新の状況をお伝えしたい.I加齢黄斑変性の候補となる遺伝子の探索加齢黄斑変性のリスク遺伝子を探索するにあたって,最も可能性の高い候補は,類似の症状が観察される黄斑ジストロフィの原因遺伝子である.先天性の黄斑ジストロフィは単一遺伝子の変異によって発症するものが多く,大家系を使った連鎖解析法によって原因遺伝子の染(15)????*TakeshiIwata:独立行政法人国立病院機構東京医療センター臨床研究センター(感覚器センター)視覚研究部門細胞・分子生物学研究室〔別刷請求先〕岩田岳:〒152-8902東京都目黒区東が丘2-5-1独立行政法人国立病院機構東京医療センター臨床研究センター(感覚器センター)視覚研究部門細胞・分子生物学研究室特集●網脈絡膜変性疾患のアップデートあたらしい眼科23(9):1125~1131,2006加齢黄斑変性の遺伝子研究の最前線??????????????????????????????????????????-????????????????????????????岩田岳*表1加齢黄斑変性のリスク因子(1)加齢高齢化:米国では65歳以上の失明率が最も高い疾患.(2)遺伝家族歴:親族のなかに加齢黄斑変性の患者がいる場合により高いリスクが生じる.人種:白人は黒人に比べて加齢黄斑変性を発症しやすい.日本人はその中間に位置する.性別:白人では女性に優位に発症するが,日本人では男性に優位に発症する.(3)環境喫煙:喫煙は複数の疫学調査によって高いリスク因子として報告されている.肥満:肥満は加齢黄斑変性の進行に関係してると考えられている.表2これまでに報告されている加齢黄斑変性のリスク遺伝子(1)ATP-bindingcassettetransporter(?????)(2)Fibulin6(Hemicentin1)(3)Complementcomponent2(4)ComplementfactorB(5)ComplementfactorH(6)Fibulin5(?????)(7)HypotheticalProteinLOC387715(8)Toll-likereceptor4———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006(16)図1国際HapMapプロジェクトのホームページ———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????Stargardt病の原因遺伝子であるATP-bindingcassettetransporter遺伝子(?????)を除いて相関は見つかっていない2).現在までに加齢黄斑変性との相関が報告されている遺伝子を表2にまとめた.これまで未知遺伝子の探索で利用されてきた連鎖解析法を用いて地道に連鎖解析マーカーと疾患との相関を調べる作業が今日も続いている.連鎖解析とはヒトゲノム中にある塩基配列の反復とその反復回数に個人差があることを利用して,あるゲノム上の反復配列とその反復回数が疾患といっしょに遺伝しているか調べることによって原因遺伝子の染色体上での位置を絞り込む方法である.加齢黄斑変性は複数の遺伝子が関与していることから,複雑に遺伝するが,多数の家系を調べた結果,統計的に候補となる遺伝子は染色体1,2,4,5,9,10,12,15,16,18,20の13の位置に存在すると予測されている3,4).IIハプロタイプを利用した加齢黄斑変性のリスク遺伝子の探索近年,ヒトゲノムプロジェクトによる全ゲノム配列が解読された結果,ゲノム上には平均で1,000塩基に1つの割合で異なる配列が存在することが明らかになった.この遺伝子多型(singlenucleotidepolymorphism:SNP)の生体への影響についてはまだ明らかになっていないが,その利用方法については注目されている.ゲノム上の単一のSNP,たとえばアデニン(A)からグアニン(G)の変化を疾患に結びつけることは困難であるが,SNPを複数組み合わせてブロックにして利用することにより,連鎖解析マーカーと同様な利用方法ができる.SNPの組み合わせをハプロタイプとよぶが,複数の国が参加して,すべてのハプロタイプを明らかにする国際ハップマッププロジェクト(InternationalHapMapProj-ect,http://www.hapmap.org/)が進行中である(図1).ゲノムの大きさが3×109塩基であることから1千万個のSNPが存在すると計算されるが,これだけのSNP数を安価に効率よく解析することは技術的に困難であった.しかし,最近,シリコンをベースにしたDNAチップの開発が進み,複数のSNPを同時に検出することができるようになってきた(図2).A?ymetrix社が販売するGENECHIPTMを利用すれば最大50万個のSNPを同時に解析することができる.このチップを利用しても全SNPの5%しかカバーできないが,今後測定できるSNP数は増加していくと思われる.III補体の活性化と加齢黄斑変性加齢黄斑変性の前兆として網膜色素上皮細胞とBruch(17)OOOOOOOOOOOHOHOOOTTOOOTTOOOTTTTAAAATTTTCCCCCCGGGGGCOTTOHOHOT--CRepeatLight(deprotection)GENECHIP?MicroarrayMask25-merIOOIOOO図2GENECHIPTMの製造工程———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006膜の間にドルーゼンの蓄積が観察される.ドルーゼンの蓄積とドライ型やウエット型の加齢黄斑変性への進行との関係は不明のままであるが,最近の研究によってドルーゼンを構成する分子は明らかになってきた.Hage-manやAndersonらは糸球体腎炎の患者でドルーゼンに類似する眼底所見が得られることから,糸球体の炎症に関わる補体の活性化が網膜下でも起こっていることを免疫染色法によって発見した5~7).さらに,Holly?eldらもドルーゼンを抽出してその蛋白質組成について質量分析計を使って分析したところ,補体の活性分子の存在を確認した8).ドルーゼン内で発見された分子のなかにはアミロイドb関連分子や酸化ストレス関連分子など,補体活性化の原因になりうる分子も確認されている.このような研究が進むなかで2005年に補体H因子(complementfactorH)のハプロタイプと加齢黄斑変性との相関を示す5つの論文が報告された9~13).この遺伝子は自然免疫の補体活性化を抑制する蛋白質で補体の2次経路およびレクチン経路を抑制する(図3).いずれの論文もアミノ酸402番のヒスチジンからトリプトファンの置換が加齢黄斑変性と強く連鎖することを報告した.しかしこの多型が患者および健常者に現れる頻度については論文によって異なっている.Hainesらの論文ではY402Tは健常者(185人)で46%,患者(495人)では96%の頻度で現れると報告している10)が,Zareparsiらの論文では健常者(275人)で34%,患者(616人)で61%と異なっている13).筆者らは日本人における補体H因子と加齢黄斑変性の関わりについて,独自の解析を行うことにした.DNA検体は患者や健常者の承諾を得て,国立病院機構東京医療センター,国立病院機構大阪医療センター,国立病院機構九州医療センター,順天堂大学浦安病院眼科から健常者89検体と患者96検体を集めて行われた.その結果,健常者(89人)4.3%,そして患者(96人)で3.8%とアメリカの解析結果と大きく異なることが明らかにされた14).2005年のアメリカ眼研究学会(ARVO)でも補体H因子のY402変異の生体機能への影響について議論されたが,筆者らの報告によってY402H変異と加齢黄斑変性との関係が絶対的なものではないことから,さらに詳細な検討が必要であるとセッションが締めくくられた(図4).最近,Gotohらによっても筆者らと類似する報告がなされている15).補体活性経路に関係する遺伝子と加齢黄斑変性との関係はAllikmetsらの最近の論文によってさらに強固なものになりつつある16)(図5).この報告では補体古典経路のC2と2次経路を抑制する補体B因子のハプロタイプ(18)C1=C1qr2S2C1q(460kDa)C1r(80kDa)C1s(80kDa)1~2mg/m?serumC3=C3a+C3bC3a(110kDa)C3b(75kDa)C4aProperdinFactorDFactorBMembraneAttackComplex細胞膜に接着FactorH(膜侵襲複合体)(古典経路)(2次経路)(レクチン経路)VitronectinClusterin抑制抑制C4(200kDa)C4C4b2aC4b2a3bC2C3C3C3bC3bBC3bBb(P)C3bBbC3b(P)C5C5bC5b6C5b67C5b-8C5b-8(C9)nC5C6C7C8C9MBP-MASP(LectinPathway)ClassicalPathwayAlternativePathwaylg-C1図3補体活性化経路———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????がプロテクティブ(予防)に働くことが明らかにされている.日本人におけるハプロタイプの解析は現在筆者らの研究室で進行中である.IVドルーゼンが観察される霊長類モデルの遺伝子解析加齢黄斑変性の動物モデルとして黄斑が発達している霊長類モデルが長年探し続けられてきたが,独立法人医薬基盤研究所霊長類医科学研究センターにおいて生後2年でドルーゼンを発症するカニクイザルがSuzukiらによって発見された17).この1頭の疾患個体から交配によって大型の家系を作ることに成功し,この過程で疾患が常染色体優性遺伝していることも明らかになった(図6).筆者らは厚生労働省科学研究難治性疾患克服研究事業として研究班を組織して平成15年度からこのカニクイザルの病理学的および遺伝子解析を行ってきた18~20).これまでの研究からこの疾患個体で観察されるドルーゼンの蛋白質組成は患者や加齢性の黄斑変性カニクイザルと類似していることが明らかになっている.遺伝形式からおそらく単一遺伝子の変異によって網膜下の代謝に異常をきたし,ヒトが50年以上かけて蓄積するドルーゼンと同様なドルーゼンをわずか2年で生成すると予測される.この遺伝子の発見はドルーゼン生成のメカニズムを解き明かす重要な情報をもたらす可能性もあり,その結果に注目している.(19)ハプロタイプ(米国)OR95%CIp患者(%)日本/米国健常者(%)日本/米国リスクとプロテクティブ日本/米国ハプロタイプ1G-T-T-G(3)NS─0.9733.8/NS3.8/NS─/─ハプロタイプ2A-T-T-A(2)0.420.26~0.670.00118/1235/21(プ)1.6/1.7ハプロタイプ3G-T-T-A(5)2.031.12~3.690.02819/NS10/NS(リ)1.9/─ハプロタイプ4A-T-T-G3.001.42~6.380.00415/NS6/NS(リ)2.5/─ハプロタイプ5G-T-C-A(1)NS─0.7443.8/504.3/29(リ)─/1.7図4日本人における加齢黄斑変性と補体H因子のハプロタイプI62V(G/A)(G/A)(T/C)(T/C)Q672QY402HIVS6エクソン1エクソン1エクソン6エクソン9エクソン13エクソン20C2BF4kbE318DInt10L9HR32QR150RK565EInt17ORpCASCONH1GGTGGAG1.320.00130.590.53H2GGTGGAAH5GGTGAAAH7GTTAGAA0.45<0.00010.0500.11H10CGAGGAG0.36<0.00010.0200.055図5アメリカ人における加齢黄斑変性と補体C2とB因子のハプロタイプ(文献16より)———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006V今後の加齢黄斑変性の遺伝子解析加齢黄斑変性の遺伝子研究については候補となる遺伝子がすでに黄斑ジストロフィや網膜色素変性症から補体関連遺伝子に移行しており,今後加速すると考えられる.補体関連分子は図3に示してあるように,補体活性系および抑制系は多数の遺伝子から構成されているので,これをすべて調べるまでには時間がかかることが予想される.また加齢黄斑変性が多遺伝子疾患であることから,多数のSNPを組み合わせたハプロタイプの計算がより複雑になっていくと予想される.DNAチップの解析に必要なバイオインフォマティックに詳しい人材が眼科の分野でも必要になってきた.A?ymetrix社のGENECHIPTMをはじめ,DNAチップで解析できるSNP数も50万個から100万個,さらに200万個と毎年倍々で増加していくことが予想される.これらの測定結果をDNAチップ以外の方法で追試するには膨大な時間と労力が必要であり,単一の眼科施設だけでは将来にわたって解析を継続することは困難である.感覚器センターでは関連施設との共同でオンライン症例情報収集ネットワークを構築し,自動DNA抽出機を用いて各施設から送られてきた血液からDNAを抽出し,3台のキャピラリーDNA解析装置を使って遺伝子解析までを行う,眼科疾患遺伝子解析センターの準備がほぼ整った.解析結果は参加施設にそのまま報告し,論文として報告していただくことになる.まずは加齢黄斑変性,緑内障,網膜色素変性の疾患を対象に遺伝子解析を開始する予定である.VI今後の課題今後の課題としては日本における加齢黄斑変性の遺伝情報を充実させることである.今回の補体H因子の解析結果からもわかるように,欧米の遺伝子情報だけでは日本人の遺伝的診断は困難であることは明白である.日本人と欧米人のリスク遺伝子には種類や内容が異なるものが多数存在する可能性があり,アメリカ主導の遺伝子解析研究の結果をそのまま日本人に当てはめることは危険である.感覚器センターを中心とした遺伝子解析サービスは全国の眼科遺伝子研究の起爆剤になればと期待している.2006年6月,厚生労働省厚生科学審議会科学技術部会は,2007年度から5年間の戦略研究課題として「感覚器戦略研究」を承認した.このなかには加齢黄(20)オスメス疾患正常不明図6若年性黄斑変性カニクイザルの家系———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????(21)斑変性の遺伝子解析による早期診断法の確立なども達成目標として盛り込まれており,今後の遺伝子研究には追い風になることが予想される.ヒトが得る情報の8割は視覚によると考えられ,高齢化が進行する日本においてqualityoflifeを維持するためにも加齢黄斑変性の遺伝子研究はますます重要になってきている.文献1)EvansJR:Riskfactorsforage-relatedmaculardegenera-tion.??????????????????20:227-253,20012)AllikmetsR,ShroyerNF,SinghNetal:MutationoftheStargardtdiseasegene(ABCR)inage-relatedmaculardegeneration.???????277:1805-1807,19973)IyengarSK,SongD,KleinBEetal:Dissectionofgenomewide-scandatainextendedfamiliesrevealsamajorlocusandoligogenicsusceptibilityforage-relatedmaculardegeneration.??????????????74:20-39,20044)AbecasisGR,YasharBM,ZhaoYetal:Age-relatedmac-ulardegeneration:ahigh-resolutiongenomescanforsus-ceptibilitylociinapopulationenrichedforlate-stagedis-ease.??????????????74:482-494,20045)HagemanGS,MullinsRF,RussellSRetal:Vitronectinisaconstituentofoculardrusenandthevitronectingeneisexpressedinhumanretinalpigmentedepithelialcells.???????13:477-484,19996)MullinsRF,RussellSR,AndersonDHetal:Drusenasso-ciatedwithagingandage-relatedmaculardegenerationcontainproteinscommontoextracellulardepositsassoci-atedwithatherosclerosis,elastosis,amyloidosis,anddensedepositdisease.???????14:835-846,20007)AndersonDH,MullinsRF,HagemanGSetal:Aroleforlocalin?ammationintheformationofdrusenintheagingeye.???????????????134:411-431,20028)CrabbJW,MiyagiM,GuXetal:Drusenproteomeanaly-sis:anapproachtotheetiologyofage-relatedmaculardegeneration.??????????????????????99:14682-14687,20029)KleinRJ,ZeissC,ChewEYetal:ComplementfactorHpolymorphisminage-relatedmaculardegeneration.????????308:385-389,200510)HainesJL,HauserMA,SchmidtSetal:Complementfac-torHvariantincreasestheriskofage-relatedmaculardegeneration.???????308:419-421,200511)EdwardsAO,RitterR3rd,AbelKJetal:ComplementfactorHpolymorphismandage-relatedmaculardegener-ation.???????308:421-424,200512)HagemanGS,AndersonDH,JohnsonLVetal:Acom-monhaplotypeinthecomplementregulatorygenefactorH(HF1/CFH)predisposesindividualstoage-relatedmac-ulardegeneration.??????????????????????102:7227-7232,200513)ZareparsiS,BranhamKE,LiMetal:StrongassociationoftheY402HvariantincomplementfactorHat1q32withsusceptibilitytoage-relatedmaculardegeneration.??????????????77:149-153,200514)OkamotoH,UmedaS,ObazawaMetal:ComplementfactorHpolymorphismsinJapanesepopulationwithage-relatedmaculardegeneration.???????12:156-158,200615)GotohN,YamadaR,HirataniHetal:NoassociationbetweencomplementfactorHgenepolymorphismandexudativeage-relatedmaculardegenerationinJapanese.?????????(inpress)16)GoldB,MerriamJE,ZernantJetal:VariationinfactorB(BF)andcomplementcomponent2(C2)genesisassoci-atedwithage-relatedmaculardegeneration.?????????38:458-462,200617)SuzukiMT,TeraoK,YoshikawaY:Familialearlyonsetmaculardegenerationincynomolgusmonkeys(Macacafascicularis).????????44:291-294,200318)UmedaS,AyyagariR,SuzukiMTetal:Molecularclon-ingofELOVL4genefromcynomolgusmonkey(Macacafascicularis).????????52:129-135,200319)UmedaS,AyyagariR,AllikmetsRetal:Early-onsetmaculardegenerationwithdruseninacynomolgusmon-key(Macacafascicularis)pedigree:exclusionof13candi-dategenesandloci.?????????????????????????46:683-691,200520)UmedaS,SuzukiMT,OkamotoHetal:Molecularcom-positionofdrusenandpossibleinvolvementofanti-retinalautoimmunityintwodi?erentformsofmaculardegenera-tionincynomolgusmonkey(Macacafascicularis).???????19:1683-1685,2005

遺伝性網脈絡膜疾患の遺伝子解析

2006年9月30日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS用である.本稿では,黄斑ジストロフィ,硝子体網膜ジストロフィ,Bruch膜ジストロフィのうち代表的な遺伝性網脈絡膜疾患とその原因遺伝子について概説する.I黄斑ジストロフィ黄斑ジストロフィとは,黄斑に進行性の変性がみられる遺伝性疾患の総称である.1.錐体(杆体)ジストロフィ錐体ジストロフィ(conedystrophy:COD)や錐体杆体ジストロフィ(cone-roddystrophy:CORD)は早期の錐体視細胞の変性による視力低下,色覚異常や中心暗点を特徴とする遺伝性網脈絡膜変性疾患の一つである.進行すると,錐体視細胞の変性に続き杆体視細胞の変性はじめに遺伝性網脈絡膜疾患は致死性でないものが大部分であり,各形質は子孫に伝えられるため,その数は多い.このことは,遺伝性疾患のオンラインデータベースであるOnlineMendelianInheritanceinMan(OMIM)のうち約4分の1が遺伝性眼疾患であることからもわかる.近年のヒトゲノムの解読により,染色体上の位置,構造,機能,個体差などの正確な情報が加速度的に蓄積されている1,2).その結果,疾患遺伝子座が位置する染色体領域を抽出すれば原因遺伝子を解明することが容易になったため(位置的候補遺伝子アプローチ),現在では大部分の単因子性の遺伝性網脈絡膜疾患の原因遺伝子が同定されている(表1).遺伝性網脈絡膜疾患のゲノム解析を行うことは,病態のより深い理解や診断の確定などに有(3)????*ShigeoYoshida&YokoYamaji:九州大学大学院医学研究院眼科学分野〔別刷請求先〕吉田茂生:〒812-8582福岡市東区馬出3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野特集●網脈絡膜変性疾患のアップデートあたらしい眼科23(9):1113~1123,2006遺伝性網脈絡膜疾患の遺伝子解析??????????????????????????????????????????????????????????????吉田茂生*山地陽子*表1遺伝性網脈絡膜疾患と原因遺伝子臨床像原因遺伝子黄斑ジストロフィ????????????????????????????????錐体ジストロフィ?????????????????????????????????????????????????????????硝子体網膜ジストロフィ?????????????????????????????????????????????????????網膜色素変性???????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????先天夜盲????????????????????????????????????????????????????????Bruch膜ジストロフィ?????脈絡膜ジストロフィ?????????遺伝性視神経萎縮???????????ミトコンドリア(11,778,14,484,3,460番塩基など)色覚異常???????????????????———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006が起こり,夜盲や周辺視野欠損などをひき起こす3~5).眼底像は多彩であり,非定型的黄斑変性,標的黄斑症(図1)や,異常のないものもある.網膜電図が診断の決め手となり,典型例では錐体系の反応が高度に減弱している(図1).CODやCORDの遺伝形式は多様で,これまでに優性,劣性,X連鎖性が報告されている.遺伝的異質性も高く,常染色体優性CORDでは???,??????,?????,??????,?????,??????が,常染色体劣性CORDでは?????,????が,X連鎖性CORDでは????が明らかになっている6)が,原因遺伝子を同定できない症例も少なくない.CORD遺伝子変異同定はその高い遺伝的異質性のため,まだ一般臨床で広く用いられるには至っていない.したがって,さまざまな候補となる遺伝子から迅速,効率的な原因遺伝子の同定法の確立が望まれる.筆者らは遺伝子型タイピングチップによる変異スクリーニングを行ったところ,変異同定には至らなかったが,チップスクリーニングシステム自体の再現性は高いと考えてよいことを確認した.したがって,適切な変異部位を網羅した遺伝子型タイピングチップを作成すれば,疾患原因遺伝子変異と疾患修飾遺伝子を同時にスクリーニングでき(4)AB図1錐体ジストロフィA:眼底写真.典型的な標的黄斑病巣(bull?seyemaculopathy)を認める.B:蛍光眼底造影写真.黄斑部の萎縮部位に一致して顆粒状の過蛍光を認める.C:網膜電図(ERG).錐体系の反応がほぼ消失している.ScotopicFlickerPhotopicSingle-?ash10ms100?V10ms100?V20ms100?V20ms100?Vononononononコントロール錐体ジストロフィC———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????る可能性があると考えている7).2.卵黄様黄斑ジストロフィ特徴的な卵黄様の黄斑所見からその病名がつけられた疾患で,1905年Bestにより初めて報告された8).遺伝形式は常染色体優性で,浸透率は高くない.眼底所見は病期によって変化し,卵黄様病巣期(図2),偽前房蓄膿期,いり卵期,萎縮期に分けられる.通常保因者でも5歳から10歳ごろまで正常眼底を示す.患者では病期にかかわらず眼球電図で明極大と暗極小の比(L/D比)の減少がみられる9,10).網膜電図は通常正常である.病理組織学的には病巣部より広範囲にわたって網膜色素上皮層のメラニン顆粒の増加や,異常なリポフスチン顆粒の細胞内蓄積,病巣部では視細胞層にも変性がみられる11).さらにBruch膜が断裂し,脈絡膜血管新生の報告もある12).原因遺伝子としてvitelliformmaculardystrophy2(????)が報告されている13).????のコードするbestrophin蛋白は網膜色素上皮のbasolateralmem-braneに存在するカルシウム感受性クロライドチャネルで14),????の遺伝子変異により網膜色素上皮細胞の膜電流が抑制され,眼球電図(EOG)の平坦化およびリポフスチンの沈着が生じると考えられる15).近年,????変異の公のデータベースが充実してきており,変異同定が容易になっている(図3)16).3.Stargardt黄斑ジストロフィ1909年にStargardtによって報告された常染色体劣性の疾患である17).通常小児期に両眼性の視力低下で発症する.眼底所見は多彩で,初期に認められる所見は中心窩反射の消失であり,ついで網膜深層に帯黄灰白色の斑点が現れる.進行期になると,黄斑部を中心に比較的境界明瞭な金属粉状の反射(beaten-metalappearance)が多数みられるようになり,ときには色素斑も出現する.病理組織所見として,後極部網膜の網膜色素上皮細胞の大きさの不揃い,メラニン顆粒の減少,さらに異常リポフスチン顆粒と思われるPAS陽性物質の色素上皮細胞内蓄積がみられる18).このため蛍光眼底造影で背景蛍光が暗くなるdarkchoroidという特徴的な所見が認められる.網膜電図は病変の進行度によって変化する19).原因遺伝子であるATP-bindingcassette,sub-familyA,member4(?????)20)はアデノシン三リン酸結合カセット(???)ファミリーの一つで,分子を細胞の内外へ輸送する膜蛋白質をコードしている.?????は視細胞外節円板に存在し,ビタミンA誘導体の再生過程に関与する.?????の異常では,その輸送活性が障害され,細胞障害性をもつ全トランス型レチナールが杆体,錐体に蓄積し,網膜色素上皮や視細胞の変性と,リポフスチンの異常な蓄積が起こると考えられている21,22).黄斑変性が軽度で黄色斑のみがみられる場合は黄色斑(5)図2卵黄様黄斑ジストロフィの眼底A:眼底写真.黄斑部に特徴的な卵黄様病変を認める.B:光干渉断層像(OCT3).視細胞層とRPE層の間に紡錘形の高反射体を認める.AB———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006眼底と診断されるが,遺伝学的には同一の疾患である.Stargardt病と黄色斑眼底を合わせて以下の4型に分類される23).Ⅰ群:黄斑萎縮巣のみ,Ⅱ群:黄斑萎縮巣とその周囲の黄色斑,Ⅲ群:黄斑萎縮巣と,広範に散在する黄色斑,Ⅳ群:広範に散在する黄色斑.?????の変異により,錐体杆体ジストロフィや網膜色素変性を生ずることも報告されているが,この疾患多様性は,変異分布の差異による正常?????蛋白の残存活性の程度によると考えられている24,25).II硝子体網膜ジストロフィ硝子体網膜ジストロフィとは,硝子体の変化および異常な網膜硝子体癒着や変性など網膜硝子体に異常を生じる遺伝性疾患である.1.X連鎖性網膜分離症X連鎖性遺伝を示す硝子体網膜ジストロフィである.車軸状?胞様の黄斑部網膜分離症(図4),周辺部網膜分離症,周辺網膜の金箔様反射,網膜電図での陰性b波などを特徴とする.病理組織学的にM?ller細胞の障害が示唆され,分離は網膜神経線維層で起こる(図4).黄斑部の加齢に伴い,?胞様変化は非定型的な変性巣に変化したり,周辺の網膜分離が消失し,網膜色素変性様の所見を示す場合があるなど,病像が変化する5).このため,診断確定に原因遺伝子であるretinoschisis1(???)26)の遺伝子解析が有用である場合がある.???は網膜発生過程から水平細胞以外の網膜神経細胞に発現し,網膜の分化や細胞接着に関与すると考えられる27,28).後部硝子体?離があると進行しないことから(6)図3VMD2変異のインターネット上のデータベース(http://www.uniwuerzburg.de/humangenetics/vmd2.htmlより)これまで報告された変異がまとめられている.自験例では既知の変異を同定しデータベース照合が有効であった.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006???????の変異で網膜層間の接着が脆弱になり,後部硝子体未?離眼では硝子体の牽引により,層間分離を助長する可能性がある.2.Stickler(STL)硝子体ジストロフィ網膜と硝子体の変性および高度近視を伴う常染色体優性遺伝の疾患である.高度近視,硝子体網膜変性や網膜?離を特徴とし,関節変性,顔面低形成,難聴などの眼外症状を合併する.1965年Sticklerらにより報告された29).現在まで眼科的に広く受け入れられている診断基準はないが,欧米では近年,分子遺伝学的に膜型硝子体を伴うSTL硝子体ジストロフィⅠ型(collagen,typeⅡ,alpha1;??????遺伝子異常),ビーズ型硝子体を伴うSTLⅡ型(collagen,typeXI,alpha1;???????異常),眼症状を伴わないⅢ型(collagen,typeXI,alpha2;???????異常)に分類されている30).Ⅰ型は眼限局型(??????のエクソン2の異常)と眼外症状合併型に細分類される(図5)31,32)が,エクソン2以外の変異でも眼に限局した病変が生じうると報告され33),今後の検討を要する.筆者らも,両眼に膜型の硝子体を伴う日本人の網膜?離患者に対し,??????の遺伝子解析を行ったところ,??????のエクソン2に変異を認め,わが国にも眼限局型STLⅠ型が存在するのを確認している34)(図6).眼限局型STLI型は眼外症状を伴わないため見落とされているかWagner病などと混同されている可能性があり(表2),??????遺伝子の解析が,STL硝子体ジストロフィの診断確定や診断基準の確立に有用であると考えている35).(7)表2Stickler硝子体ジストロフィとWagner病の比較Stickler硝子体ジストロフィWagner病遺伝形式屈折異常硝子体異常網膜?離網脈絡膜異常夜盲眼外症状原因遺伝子常染色体優性強度近視+約50%+-±???????????????常染色体優性中等度近視+まれ++-?????図4X連鎖性若年性網膜分離症A:眼底写真.黄斑部に車軸上の網膜分離を認める.B:光干渉断層像(OCT3).網膜の中間層に網膜分離がみられる.分離した網膜内外層はM?ller細胞によりつながっている.AB図5II型コラーゲンのアイソフォーム??????は選択的スプライシングによりエクソン2を含むⅡA型コラーゲンと含まないⅡB型コラーゲンのアイソフォームを生じる.ⅡA型は硝子体に,ⅡB型は軟骨に優位に発現している.現在のところ,??????のエクソン2の変異で眼限局型の表現型が,エクソン2以外の変異で全身症状合併型のStickler症候群を生じると考えられている.134N452134N452134N45??????遺伝子選択的スプライシングⅡA型コラーゲン硝子体優位に発現ⅡB型コラーゲン軟骨優位に発現———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.23,No.9,20063.Wagner病1938年Wagnerによって硝子体の液化(発達不全)と網膜色素変性,白内障などの異常を伴う疾患として報告された常染色体優性遺伝の網膜硝子体ジストロフィである36).STL硝子体ジストロフィとしばしば混同されているが,網膜?離の頻度は低く,近視の程度は中等度で,全身異常は合併しない.Erosivevitreoretinopathyとともに5番染色体長腕に連鎖し37,38),分子遺伝学的にStickler症候群と異なった疾患であることが明らかになっている.Chondroitinsulfateproteoglycan2(?????)が原因遺伝子である可能性が示唆されている38~40).?????は硝子体中でヒアルロン酸およびⅡ型コラーゲンと結合し,硝子体の安定化に寄与していると考えられる39).4.家族性滲出性硝子体網膜症(FEVR)周辺部網膜血管の発育不全により未熟児網膜症類似の病変を示す遺伝性疾患である.1969年Criswick,Schepensによって初めて報告された41).若年性網膜?離の原因として重要である.網膜硝子体病変は,周辺網膜無血管野のみのものから,続発する血管新生や鎌状網膜?離などを伴うものまで多彩である.無血管野への光(8)図6眼限局型Stickler症候群I型の硝子体所見A:25歳女性の右眼の前眼部写真.B:B-モードエコー(水平断).膜型の硝子体がみられる.C:??????遺伝子のダイレクトシークエンスで新規の第237グアニンの欠失変異(矢印)をヘテロ接合で同定した.(文献34より)ABC———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????凝固は進行予防に効果がある.現在まで確立した診断基準はないが,網膜血管走行異常があり,未熟児,酸素投与の既往がないことが必須とされている.近年,原因遺伝子が相次いで報告されている.FEVRには遺伝的異質性があり,遺伝形式として常染色体優性(frizzledhomolog4:????遺伝子異常,lowdensitylipoproteinreceptorrelatedprotein5:????遺伝子異常),常染色体劣性(????),X連鎖性劣性遺伝(Norriedisease:???遺伝子異常)が報告されている42~45).????,???,????ともにWntシグナル伝達系に関与していることが明らかになっている46)(図7).Wntシグナリングはショウジョウバエからヒトに至るまで普遍的に保存されるシグナル伝達機構で,発生分化に重要な役割を演じており,ヒト周辺網膜血管の成熟にも関与していることが示唆される.FEVRの病変は生涯にわたって変化する可能性があり,早期の診断と適切な時期の治療が必須である47).鑑別疾患である第一次硝子体過形成遺残と誤診されることもあり48),診断確定には遺伝子診断が有用である場合がある.筆者らも,約10年間の経過観察中に内斜視,滲出性網膜?離,網膜円孔など多彩な眼底所見を呈した日本人FEVR患者に新規の????遺伝子変異を同定した49)(9)図7家族性滲出性硝子体網膜症A:13歳女児の右眼の眼底写真.牽引乳頭と耳側血管の直線化がみられる.B:同一症例の左眼底周辺網膜.無血管野があり,網膜円孔,網膜硝子体癒着(矢印)を生じている.C:????遺伝子のダイレクトシークエンス.595番目のアデニン(A)からグアニン(G)へのミスセンス変異をヘテロ接合で同定した.D:Wnt受容体複合体の模式図.7回膜貫通型受容体であるfrizzledhomolog4(????),lowdensitylipoproteinreceptorrelatedprotein5(????),Norriedisease(???)はWnt受容体複合体を形成し,周辺部網膜血管形成を制御していると考えられる.(文献49より)ABWnt???????????CD———————————————————————-Page8????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006(図7).IIIBruch膜ジストロフィ網膜色素線条網膜色素線条(angioidstreaks)はBruch膜の断裂により特徴的な線条が眼底にみられる常染色体劣性の疾患である.皮膚の屈側に弾性線維性仮性黄色腫(pseudo-xanthomaelasticum)を伴うことが多く,眼と皮膚の症状を合わせてGronblad-Strandberg症候群とよばれている50).線条は通常赤黒褐色で,乳頭を囲む輪状の部分とそこから放射状に伸びる部分からなる.線条の両側には灰白色の帯を伴い,乳頭周囲では線条を取り囲むヒトデ様の外観を呈する.さらに,後極部の眼底は萎びたミカンの皮(peaud?orange)類似の色調を示し,わが国では梨子地眼底とよぶ51).線条が黄斑に及ぶと,視力障害や変視などが生じる.ごく軽い外傷でも黄斑に出血を起こすことがある.視力障害の主因は,網膜下血管新生,網膜色素上皮?離および黄斑変性で,加齢黄斑変性と類似の病像を示す(図8).蛍光眼底造影検査では,線条部は動脈期から著明な過蛍光を示す.病理組織学的観察ではBruch膜は肥厚,断裂し,弾性線維にカルシウムの沈着がみられる.Bruch膜の断裂部の網膜色素上皮細胞は菲薄化し,線条の両側では網膜色素上皮細胞が変性萎縮する52).原因遺伝子は,???ファミリーに属するATP-bind-(10)図8網膜色素線条A:48歳男性の左眼の眼底写真.視神経乳頭からのびる網膜色素線条を認める.黄斑部に網膜下出血,脈絡膜新生血管を生じている.B:ATP-bindingcassette,sub-familyC,member6(?????)遺伝子のダイレクトーシークエンス.1,026番目のシトシン(C)からチミン(T)へのミスセンス変異をホモ接合で同定した.C:?????蛋白の構造.3つの膜貫通ドメインと2つのATP結合ドメインから成る.(文献54より)ABNH2COOHATP結合部位ATP結合部位細胞外細胞膜細胞内C———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????ingcassette,sub-familyC,member6(?????)で,網膜の有核細胞で発現している53,54)(図8).筆者らも網膜下新生血管を生じた網膜色素線条患者に新規の変異を同定している54)(図8).その輸送基質はまだ明らかでないが,軟部組織のミネラルの代謝制御を介して,弾性線維の恒常性維持に重要な役割を演じていると考えられ,網膜色素線条の根本原因は代謝異常病であることが示唆される55,56).?????とともに,網膜の機能維持における???ファミリーの重要な役割が推察される.おわりに21世紀は,遺伝子診療の時代といわれている.現在も,さまざまな生物のゲノム情報がすでに確立した塩基配列決定法を基盤に集積され続けており,ゲノム情報がこれからも眼科臨床にインパクトを与え続けることは確実である.今後,DNAチップなどを用いた疾患原因遺伝子や修飾遺伝子の包括的かつ迅速なゲノム解析システムが確立していけば57),非定型的な臨床所見を示す遺伝性網脈絡膜疾患の診断確定や,病勢の予測診断がより容易になる可能性があり,遺伝カウンセリングにも有用となるだろう.また,疾患概念があいまいなFEVRなどでは,遺伝子型によるより確かな診断基準の確立がなされていくかもしれない.さらに,生命の設計図であるゲノムレベルでの病因把握を続行し,これを基盤にして発症の分子機序を明らかにできれば,病態の新しい理解や,確実な治療の分子標的の創出につながっていくことが期待される.文献1)InternationalHumanGenomeSequencingConsortium:Finishingtheeuchromaticsequenceofthehumangenome.??????431:931-945,20042)AltshulerD,BrooksLD,ChakravartiAetal:Ahaplo-typemapofthehumangenome.??????437:1299-1320,20053)MooreAT:Coneandcone-roddystrophies.???????????29:289-290,19924)RabbMF,TsoMO,FishmanGA:Cone-roddystrophy.Aclinicalandhistopathologicreport.?????????????93:1443-1451,19865)三宅養三:黄斑ジストロフィ.日眼会誌107:229-241,20036)ItoS,NakamuraM,NunoYetal:NovelcomplexGUCY2DmutationinJapanesefamilywithcone-roddys-trophy.?????????????????????????45:1480-1485,20047)YoshidaS,YamajiY,YoshiokaAetal:Noveltriplemis-sensemutationsofGUCY2DgeneinJapanesefamilywithcone-roddystrophy:Possibleuseofgenotypingmicroar-ray.???????(inpress)8)GodelV,ChaineG,RegenbogenLetal:Hereditaryvitel-liformmaculardystrophy.????????????????????14:221-228,19869)ArdenGB:Alterationsinthestandingpotentialoftheeyeassociatedwithretinaldisease.???????????????????????82:63-72,196210)CrossHE,BardL:Electro-oculographyinBest?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序説:網脈絡膜変性疾患のアップデート

2006年9月30日 土曜日

———————————————————————-Page1(1)????今月号の《あたらしい眼科》では,「網脈絡膜変性疾患のアップデート」と題して遺伝性網膜疾患,特に網膜色素変性(RP)を中心とした難治性の網脈絡膜変性疾患を特集した.新生血管を伴った加齢黄斑変性(AMD)に対して新しい治療法が次々に臨床応用されてきている現在,RPはいまだに実際の臨床治療にまで至っておらず,その道程は長く険しいもののように思われる.しかし,最近はいくつかの明るい話題も出てきた.神経栄養因子の一つであるCNTF(ciliaryneu-rotrophicfactor)を分泌する細胞を内包したカプセルを眼内に移植するSievingらの治療は,米国の患者への臨床試験Phase1を終えて,Phase2へ進みつつある.イヌのレーバー先天盲のモデル動物(RPE65)の遺伝子治療に成功したBennettとAgu-irreのグループは,実際の患者への応用を見据えてサルへの安全性実験を着実に進めている.また今年のARVO(AssociationforResearchinVisionandOphthalmology)では,光受容から電位発生までを一つの蛋白質で行うchannelrhodopsinを神経節細胞に発現させた治療のマウスモデルでの成功が大きな注目を集めていた.一つの発見を契機にRPの治療は一気に加速していく可能性がある.今回の特集では,まず遺伝性網脈絡膜疾患の遺伝解析の現状について吉田茂生と山地陽子先生が解説した.単一遺伝子疾患の多くは原因遺伝子が解明されている.この遺伝子診断が今後もっと一般臨床に汎用されるようになるにはどのような技術革新が必要なのだろうか.また,最近の話題の一つとして,欧米のAMDの発症に関与するといわれるcomple-mentfactorHの発見があった.複数の遺伝因子と環境因子が発症に関わる多因子疾患に関する原因解明のアプローチを岩田岳先生に解説していただいた.今なおRPの網膜の機能解析や画像解析の研究が必要とされる理由は,治療が必要な患者を絞り込むため,そして実際の治療効果を確実に判定するためである.米国では1990年代の後半に実際の臨床治療を見据えて,いかにRPの残存黄斑機能を正確に解析するかについて専門家による会議がくり返された.町田繁樹先生には網膜の機能面を中心に,水野谷智先生と山本修一先生には画像検査の話題として自発蛍光検査の話題について述べていただいた.最後に難治性の網脈絡膜変性疾患の治療について,3人の先生に解説をお願いした.宮崎勝徳先生と池田康博先生には日本オリジナルのベクターを用いた遺伝子治療について,秋元正行先生には再生治療の可能性と問題点について,また不二門尚先生には人工視覚の進歩と現状についてわかりやすく解説していただいた.明日から外来に訪れるRPの患者さんへお話しする最新の話題として,今回の特集を役立てていただければ幸いである.0910-1810/06/\100/頁/JCLS*MineoKondo:名古屋大学大学院医学研究科頭頸部・感覚器外科講座**ShigeoYoshida:九州大学大学院医学研究院眼科学分野●序説あたらしい眼科23(9):1111,2006網脈絡膜変性疾患のアップデート????????????????????????????????????近藤峰生*吉田茂生**

ニュープロダクツ黄色フォーダブル眼内レンズアルコンTMアクリソフRナチュラルアクリソフシングルピース

2006年8月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006????●黄色フォールダブル眼内レンズ<アルコン?アクリソフ?ナチュラルシングルピース>(日本アルコン株式会社)日本アルコン株式会社より,黄色フォールダブル眼内レンズ〈アルコン?アクリソフ?ナチュラルシングルピース〉が6月9日に発売された.本製品は,今までのアクリソフ?シングルピース素材に独自に開発された黄色色素を共重合したもので,網膜に有害とされる短波長光(青色光)に対するフィルター効果を有する折り畳み可能な眼内レンズである.以下のような特徴があるという.1.分光透過特性は,波長400~500nmの領域において,健常なヒト水晶体に近似している.2.????????の試験より,網膜色素上皮細胞への高い保護効果が報告されている.3.後発白内障抑制に関する良好な臨床成績を有するアクリソフ?素材,機械的安定性に優れたアクリ●プリセット型フォールダブル眼内レンズ<アルコン?アクリサート?アクリソフ?シングルピース>(日本アルコン株式会社)日本アルコン株式会社より,プリセット型フォールダブル眼内レンズ〈アルコン?アクリサート?アクリソフ?シングルピース〉が6月16日に発売された.本製品は,光学径6.0mm,全径13.0mmの同社製眼内レンズ「アルコンTMアクリソフ?シングルピース」が専用挿入具にあらかじめ装?された挿入具一体式の製品で,以下のような特徴があるという.1.操作が簡便で効率的なデリバリーシステムである.2.優れた術後パフォーマンスを有するアクリソフ?シングルピースがあらかじめ装?されている.3.レンズに直接触れることなく眼内へより衛生的に挿入することができる.4.使い捨て製品のため常に清潔な状態を維持できる.ソフ?シングルピースの利点を継承している.4.術後視力,色覚,コントラスト感度などにおいて,従来のアクリソフ?シングルピースと同様の術後視機能を得られることが報告されている.〔問い合わせ先〕日本アルコン株式会社マーケティング本部マーケティング推進部学術情報室〒107-0052東京都港区赤坂2丁目17-7赤坂溜池タワー電話:03-3588-3221本欄に紹介した製品は,すべて当該社の提供資料による.〔問い合わせ先〕日本アルコン株式会社マーケティング本部マーケティング推進部学術情報室〒107-0052東京都港区赤坂2丁目17-7赤坂溜池タワー電話:03-3588-3221(69)ニュープロダクツ

眼科医にすすめる100冊の本-8月の推薦図書-

2006年8月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLSこの本の著者であるベンジャミン・ザンダー氏の講演を初めて聴いたのは2004年,カナダで行われた国際コーチ連盟の大会のときのことです.そのとき彼は,話をしながら講演会場を動き回り,自らピアノを弾きました.また,参加者を巻き込んで歌を歌わせたり,カルテットの演奏のコーチングをしたりしました.彼の講演は,ビジュアルに,そして,五感全部に訴えてくるものでした.ベンジャミン・ザンダー氏は,もともとボストンフィル・ハーモニーの指揮者です.あるとき,経営者を対象にした講演を依頼され,そこでの成功がもとで,特にリーダーシップについて全米,全世界で講演活動を始めるようになりました.2年前に彼の講演を聴いたとき,彼は突然あらぬ方向から現れて,話し始めました.彼の講演は,最初から終わりまで目を話すことができません.その講演の聴衆は全部で1,500人くらいいましたが,途中で,参加している人の中からその日が誕生日だという人を見つけ出して前に座らせ,会場中の人に,HappyBirthdayの歌を歌わせました.最初会場の人たちは,いつも歌うようにHappyBirthdayを歌いました.彼らが歌い終わると,ベンジャミンは,前に座っている彼女に聞きます.「どうですか?歌ってもらって,何か感じますか?」「いつも歌ってもらっているのと同じよ」「なるほど」そう言って,ベンジャミンは会場にいる人たちに問いかけます.「あなたたちはどれだけこの人の誕生日を祝おうと思って歌いましたか?どんな気持ちを込めて歌ったかについて考えてください.もし,心を込めて歌ったらどんなことが起こると思いますか?」そして,もう一度全員で,HappyBirthdayを歌うのですが,それは,これまでで最も感動したHappyBirth-dayソングでした.同じ歌,同じ話,同じ演奏であっても,コーチングを受けることで,それはまるで違うものになってしまうという実証でした.さて,本書には,12の手法が紹介され,それはすべて,チャンスを広げるための思考のトレーニングにつながっていきます.手法の1は,人間がどのように現実を認識しているか,またどのような前提でものごとに接しているかについて展開されます.その中に紹介されているエピソードがあります.ある男性が列車のコンパートメントで画家のピカソに気づき,なぜ「本物と同じように」人物を描かないのかとたずねた.ピカソはそれはどういう意味かと聞き返した.男性が財布を開け,妻の写真を取り出し「妻です」と言うと,ピカソは答えた.「ずいぶんと小さくて平らですね」(本文より)ピカソの場合,写真を,被写体自体とはまったく別の,単なる『もの』として見ていたわけです.手法の1のタイトルは「世の中全部作りもの」.人間は,現実をそのまま認識するわけではありません.ベンジャミンは,どのみち,すべて自分の頭の中で作り出したものなのだから,自分やまわりの人の人生の質が高まるように解釈した枠組みの中で何でも作ってしまったほうがいいという考え方をしています.それは,次の手法である『みんなに「A」をつける』に続いていきます.ミケランジェロの言葉としてよく引用される言葉があ(67)■8月の推薦図書■『チャンスを広げる思考トレーニング』ロザモンド・ストーン・ザンダー/ベンジャミン・ザンダー著田中志ほり訳(日経BP社)シリーズ─68◆伊藤守株式会社コーチ・トゥエンティワン———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006る.どんな石や大理石の塊のなかにも美しい像があり,いらない部分を取り除くだけで中の芸術品が姿を現す.これを教育に当てはめると,子どもを他の子どもと比較するのは無意味だとわかる.石を彫ること,つまり,その子の伸びる力,理解力,自己表現を妨げるものを取り除くことにこそ力を注ぐべきなのだ.(本文より)これが,『みんなに「A」をつける』という手法の考え方です.手法は,『競争ではなく貢献を』,[そして,『だれでもリーダーになれる』に続きます.オルフェウス管弦楽団という楽団があります.その楽団には,指揮者やコンサートマスターがいません.楽団員全員が指揮者であり,コンサートマスターというスタンスで,自分でも演奏するが,同時に,ときどき客席に下りて,自分たちの演奏を聴き,それに対してフィードバックする,といったように,より自律的な音楽活動を展開している楽団です.オルフェウスの場合,全員がリーダーとしての役割をもつことによって,演奏の質を上げているわけです.ベンジャミンも,それに近いことを試みています.その他の彼の手法は,『ありのままを受け入れる』,『情熱に身を任せる』,『相手を引き込む』,『「ゲーム盤」になる』,『可能性が開く枠組みをつくる』.そして,『「わたしたち」の視点で見る』といったものです.ピーター・ドラッカーも,「『わたしからあなた』へのコミュニケーションは機能しない.『わたしたちのひとりから,わたしたちのひとり』へ向けてコミュニケートする必要がある」と言っています.本書では次のように書かれています.歴史はほとんどが自分たちと他者との対立の記録だ.この構図は幅広く見られる.国家間,政党間,労使間,そして日常生活でも.資源,縄張り,「真実」をめぐって対立する相手と自分たちの両方を変えるのはどんな枠組みだろうか.かたくなな敵意から熱意と深い敬意に満ちた姿勢に変わるには,何を考え出せばよいだろう.(本文より)ここで,ベンジャミンは,ドラッカーとほぼ同じ,つまり「わたしたちの物語」の中で解決を試みています.彼は,わたしたちの物語では,個人ではなく人間関係に焦点があたり,そして「わたしたち」はひとつの生き物であり,展開していく旋律でもあると言っています.その手法を身につけるためのステップは次のとおりです.1.「わたしたち」の視点で語る.わたしたち全員を結びつける目に見えない糸,可能性について語る.2.「わたしたち」に耳をかたむけ,探し求める.3.「わたしたちは現状をどう変えたらいいか」「わたしたちにとって一番いいのは何か」…一人ひとりにとって,また全員にとって.「わたしたちの次の一歩はなにか」(本文より)「わたし対あなた」の関係は,早晩,対立を生みます.今日までどんなにいい関係を築いてきても,「わたし対あなた」の関係になると,分離,分裂を生じさせます.そして,それは修復をとてもむずかしいものにします.その関係を改善するのに,また「わたしとあなた」の関係で試みるわけですから,その問題が解決するわけもありません.また,ベンジャミンの言う「わたしたちの物語」は,『場と共創』の著者である,清水博先生の「場」と二重生命の理論に,酷似しています.二重生命とは,人間の体の細胞は,それ一つひとつが生命をもっていると同時に,その生命はからだ全体として培われてゆくという考え方です.会社も人間と同じです.組織であると同時にその中で社員一人ひとりが生きています.それは,オーケストラも同じでしょう.一人ひとりの演奏者,そして,オーケストラ.そのどちらを優先することもできない,という考え方です.また,生命は「場」を共に創り,未来を予測しながら生きているという考え方も,ほとんど同じだと思います.いずれにしても本書は,コーチングのセオリーの確かな一冊であることには違いありません.この本は,なぜコーチングが機能するかを知るための貴重な一冊です.(68)☆☆☆

よくわかる医療情報のお話2.電子カルテ その1-どのようにして導入されるのかな?

2006年8月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS電子カルテ導入に関する国の施策の流れは,平成11年の「診療録等の電子媒体による保存について」の基準(カルテの電子保存が法的に認められた),平成13年の「保健医療分野の情報化に向けてのグランドデザイン」(電子カルテの普及目標が具体的に定められた),平成14年の「診療録等の保存を行う場所について」の通知(オンラインで他の医療施設などに保存することが認められた),平成17年の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」(電子カルテの運用に関する指針が定められた),平成18年の中医協の診療報酬改定答申での「電子化加算」の新設などとなります.その間には導入にかかる多額の補助金が補正予算として認められています.現在までのところ,必ずしもグランドデザインの目標通りには普及していないものの,医療現場における電子化は年々増加してきています.非常に高額なシステムであり,診療のスタイルがすっかり変わってしまううえに,業務の標準化,分析など,構築に向けて相当な努力が必要であるため,電子カルテの導入はいずれの施設においても負担が大きいということがいえます.では,実際にはどのようにして導入されるのでしょうか.ここでは公的な病院における導入についてお話しましょう.何のために電子カルテを導入するのかは施設ごとに異なるポリシーがあり,導入の方法も異なる部分があると思いますが,全体としての流れには共通したものがあります.最初に概算要求の段階でどのような電子カルテシステムを導入するのかを決めます.つぎに,複数のベンダーからの資料を基に仕様書を作成しますが,作成した仕様書に対するベンダーからの意見書の提示を求めて修正を行い,その後,入札となります.仕様書を作成する段階からは各部門の調整を行うプロジェクトチームが必要となります.サブシステムごとにワーキンググループが組織され,それらすべてに関係するコアメンバーが選出されることになります.プロジェクトチームは各現場の業務調査を行い,それらをシステムの要件としてまとめて仕様書を作成する重要な役割があります.仕様書次第で自らが望むシステムとなるかが決まるので,その作成には多大な労力を要するのが通常です.仕様書は最終的に検収の際にも用いられるので,システム導入全般に関わる最も大切なものということができます.ベンダーが決まった後は,仕様書に基づいたシステム全体の基本設計に続いて,具体的な性能や機能を決める外部設計やマスタ作成が行われます.ここではプロジェクトチームはベンダーと各現場の意見を調整する重要な役割を担っています.医療者がシステム設計に関係するのは通常はここまでです.その後はプロセスモデルにより少し違いがありますが,ベンダー内部で開発が行われ,導入となります.導入後はマニュアル類の作成,トレーニング・リハーサルなど,いよいよ運用を開始する準備へと進むことになります.(65)よくわかる医療情報のお話●連載(隔月)②若宮俊司*1山内一信*2電子カルテその1─どのようにして導入されるのかな?*1ShunjiWakamiya:川崎医科大学眼科学教室/川崎医療福祉大学感覚矯正学科/同医療情報学科/名古屋大学大学院医学系研究科医療管理情報学教室*2KazunobuYamauchi:名古屋大学大学院医学系研究科医療管理情報学教室電子カルテ診療の一情景

硝子体手術のワンポイントアドバイス39.弱毒菌性眼内炎に対する眼内レンズ温存硝子体手術(初級編)

2006年8月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS●白内障手術後の遅発性眼内炎白内障術後の急性細菌性眼内炎は進行がきわめて速く,緊急硝子体手術が必要で,しばしば眼内レンズ摘出を余儀なくされる.一方,弱毒菌による遅発性眼内炎は,進行が緩徐で,抗生物質に一旦反応し鎮静化する例もみられる.しかし,このような例でも眼内炎症がくり返す場合には,最終的に硝子体手術が必要となることが多い.ただし,強毒菌による急性眼内炎と違って,このようなケースでは眼内レンズを温存できる可能性が高い.●遅発性眼内炎の原因白内障手術時に結膜?内の常在細菌を付着させたまま眼内レンズを挿入し,その後暫くの間は無症状に経過するが,YAGレーザー後?切開術を契機に,?内に潜んでいた細菌が硝子体腔内に散布され,眼内炎を発症することが多い.このような症例に対して硝子体手術を施行する場合には,硝子体切除に加えて,水晶体?内を灌流液で十分に洗浄することで眼内レンズを温存することができる1).●水晶体?内洗浄の方法まず硝子体カッターで眼内レンズが脱臼しない程度にできるだけ後?を大きめに切除する(図1a,b).ついで灌流針(27ゲージ鈍針)を角膜輪部から前房内に挿入し,前?切開縁と眼内レンズの間の癒着を解離する.その後,灌流針の先端から水晶体?内に人工房水を注入し,水流で水晶体?を開くようにしながら?内を可能な限り洗浄する(図2a,b).?内洗浄に用いた灌流液は硝子体カッターでできるだけ吸引除去する.●術後の経過観察弱毒菌性眼内炎では,本法によって術後比較的早期に炎症は鎮静化する(図3a,b).炎症が遷延する場合には,(63)水晶体?内の洗浄が不十分か,毒性の強い細菌の可能性があるので,眼内レンズ摘出を考慮する.文献1)阿部智美,佐藤文平,江富朋彦,池田恒彦:硝子体手術時に眼内レンズを温存した遅発性白内障術後眼内炎の3例.眼科手術15:233-236,2002硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載?39弱毒菌性眼内炎に対する眼内レンズ温存硝子体手術(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図1後?切除a:眼内レンズが脱臼しない程度に後?を大きく切除する.b:シェーマ.ab図2水晶体?内の洗浄a:灌流針を前?切開縁と眼内レンズの間に挿入し,癒着を解離しながら水晶体?内を洗浄する.b:シェーマba図3硝子体手術施行例の前眼部写真a:術前.前房内炎症とフィブリン析出を認める.b:術後.炎症は鎮静化している.ab

眼科医のための先端医療68.緑膿菌性角膜腫瘍の病変制御

2006年8月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLSはじめにグラム陰性桿菌の緑膿菌(??????????????????????)による角膜炎の特徴は輪状膿瘍を伴う軟らかい潰瘍で,輪状膿瘍の周囲はスリガラス状混濁を呈します.輪状膿瘍は集簇した好中球とラメラ構造の破壊にほかなりません.また,軟らかい潰瘍は角膜実質組織の液化壊死で,スリガラス状混濁は輪部血管網から角膜病変に向かって走化中の好中球によるものです.緑膿菌性角膜炎は病変の進行がきわめて速く,広範な角膜潰瘍から穿孔をきたすことがあります.角膜病変が重篤化する原因として,本菌がプロテアーゼや毒素などの病原因子を産生すること,それに対して好中球を主体とする炎症細胞の浸潤が強く起こることがあげられます.好中球は細菌を貪食・殺菌し,菌の増殖を抑えますが,一方において,好中球に含まれるライソゾーム酵素や活性酸素などが細胞外にも放出され,組織破壊をきたします.好中球の浸潤には走化性因子が必要で,緑膿菌の外膜を構成するリポ多糖(このなかでもリピドA)は,補体系を活性化してC5aやC3aなどの走化性因子を生じます.緑膿菌性角膜炎におけるサイトカイン,ケモカインの役割近年,主としてマウスを用いた緑膿菌性角膜炎モデルでの研究からサイトカインやケモカインの役割が徐々に解明されてきました.マウスには緑膿菌感染において違った反応を示すC57BL/6J(B6)とBALB/cがいます.B6マウスは緑膿菌感染に感受性があり,重篤な角膜病変を生じ,穿孔するのに対し,BALB/cマウスは緑膿菌感染に抵抗性を示し,病変は軽度で治癒します.この違いが何からくるのか?サイトカインレベルで検討しながら,臨床例への治療に応用できないか考えてみたいと思います.まず,緑膿菌性角膜炎において重要なサイトカインやケモカインはインターロイキン(IL)-1b,IL-6,mac-rophagein?ammatoryprotein(MIP)-2(ヒトのIL-8に相当します),macrophageinhibitoryfactor(MIF),IL-10,IL-12,IL-18とinterferon-g(IFN-g)です(図1).特に,IL-1bは炎症反応の主たるサイトカインであり,MIP-2(IL-8)の産生を介して好中球の浸潤を亢進させます.IL-1bは角膜上皮細胞からのIL-6やMIP-2(IL-8)の発現を調整します.さらに,IL-1bは角膜実質細胞からのmatrixmetalloproteinases(MMP)の発現を亢進させます.IL-6は多機能性サイトカインで,IL-1やtumornec-rosisfactor(TNF)と重なる機能をもちます.IL-6ノックアウト(KO)マウスでは,緑膿菌感染モデルにおいて角膜病変が重篤化することより,IL-6は病変の軽減化に働いています.その機序としては,IL-6が感染初期においてintercellularadhesionmolecule-1(ICAM-1)やMIP-2の発現亢進を介して効果的に好中球浸潤を促すことによると考えられています.MIP-2(IL-8)はCXCケモカインで,好中球走化活性があります.緑膿菌感染モデルで,角膜内のMIP-2発現が持続しますと角膜内の好中球浸潤が遷延化し,かえって角膜病変が重篤になります.たとえば,緑膿菌感(59)◆シリーズ第68回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊松本光希熊本大学大学院医学薬学研究部視機能病態学〔現・NTT西日本九州病院眼科〕緑膿菌性角膜潰瘍の病変制御図1緑膿菌性角膜炎におけるサイトカイン,ケモカインネットワーク実線→:亢進作用,点線:抑制.IL-1Ra:interleukin-1receptorantagonist,MIF:macrophagemigrationinhibitoryfactor,MIP-2:macrophagein?ammatoryprotein-2,KC:cytokine-inducedneutrophilchemoattractant,MMP:matrixmetalloproteinases,ICAM-1:intercellularadhesionmolecule-1,B6:C57BL/6Jmice,BALB/c:BALB/cBJmice,PMN:polymorphonuclearleukocytes,NK:naturalkiller,NKT:naturalkillerT,IFN-g:interferon-g,TNF-a:tumornecrosisfactor-a.IL-1bMIFCaspase-1MMPs↑KCMIP-2(IL-8)ICAM-1IL-6IL-10血管新生IL-12(B6)IL-18(BALB/c)IL-1RaPMN浸潤殺菌組織破壊Caspase-1inhibitorNK細胞Th1細胞IFN-gTNF-aNK細胞NKT細胞Th2細胞IFN-g穿孔殺菌1a,25-DihydroxyvitaminD3(VD3)———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006染に抵抗するBALB/cマウスにrMIP-2を投与しますと角膜内の好中球数が増加し,病変が重篤化します.一方,緑膿菌感染に感受性のあるB6マウスに抗MIP-2抗体を投与しますと角膜内の好中球数が減少し,病変が軽減されます.また,抗IL-1b抗体を投与しますとMIP-2とcytokine-inducedneutrophilchemoattrac-tant(KC)の活性が低下することより,MIP-2とKCはIL-1bによる調節を受けているといえます.MIFは最近発見された炎症性サイトカインで,好中球走化活性や血管新生を調節する役割が知られてきました.MIFは病変に関与しますが,これはIL-8やIL-1bの発現を介して起こっていると考えられます.IL-10は,微生物感染に対して,炎症メディエーターのバランスをとることにより,過剰な炎症や生体防御を調節していると考えられています.B6マウスに発現されるIL-12は,naturalkiller(NK)細胞やT細胞の増殖を亢進させるなど多くの生物活性を有します.たとえば,ヘルパーT(Th)1細胞への分化,他のサイトカイン,特にIFN-gの産生に影響します.緑膿菌感染に抵抗を示すBALB/cマウスはIL-12を発現しませんが,このBALB/cマウスにrIL-12を投与しますとIFN-gやTNF-aの発現を介して緑膿菌感染に感受性のあるB6マウスのような反応を示し,病変が重篤化します.BALB/cマウスに発現されるIL-18はIL-12といくつかの機能を共有します.すなわち,T細胞,NK細胞やNKT細胞によるIFN-gの産生を誘導します.IL-18はマクロファージや樹状細胞から産生されます.IL-1と同様に前駆体として放出され,IL-1g-変換酵素/cas-pase-1による活性化が必要です.BALB/cマウスでは,緑膿菌感染に伴い,角膜内にIL-18とIFN-gのレベルが上昇します.しかし,IL-12は検出されません.BALB/cマウスに抗IL-18抗体を投与しますとIFN-gmRNAが低下し,病変は悪化します.IFN-gKOマウスでは角膜内の菌数が有意に増加し,穿孔します.このことから,IL-18はIFN-gを誘導し,そしてIFN-gは殺菌に必要であることが示唆されます.以上を踏まえて,両マウスの緑膿菌感染に対する反応性を考察しますと,緑膿菌感染に抵抗するBALB/cマウスはTh2優位の反応を示し,IL-18駆動のIFN-gの発現を亢進させます.また,マクロファージが角膜内の好中球数を調節します.この系では効果的に菌の殺菌が行われ,組織障害も軽度であります.一方,B6マウスはTh1優位の反応を示し,IL-12駆動のIFN-gの発現を亢進させます.また,CD4+のT細胞によって角膜内の好中球数が調節されます.この系では角膜組織破壊,ひいては穿孔をきたします.サイトカイン,ケモカイン制御による緑膿菌性角膜炎の治療つぎに,緑膿菌性角膜炎におけるサイトカインネットワークを制御して治療効果を上げられないか考えてみます.抗IL-1b抗体を投与しますとIL-1bを介するIL-6やMIP-2(IL-8)の発現やMMP-9の産生が抑制され,角膜病変が軽減されることが予想されます.IL-1bの産生に必要なIL-1bconvertingenzyme(ICE)も重要で,そのKOマウスでは,感染病巣での好中球の減少,サイトカインやケモカインの低下,アポトーシスの増加,IL-1receptorantagonist(IL-1Ra)の増加をもたらします.このことからICEを抑制することにより生体反応を制御して病変の軽減化を図ることができると思われます.たとえば,抗菌薬にICE阻害薬を加えた治療は新たな治療法となる可能性があります.また,1a,25-dihydroxyvitaminD3(VD3)という物質を培養角膜上皮細胞に添加しますとIL-1b,IL-6とIL-8の発現が抑えられます.このことからVD3も新しい治療薬になる可能性があります.また,MIP-2を制御することにより病変を調節することが可能と考えられます.さらに,Toll受容体やneuropeptidesの役割を解明し,RNAsilencingのような新しい技術で疾患を制御する方法の開発も必要です.文献1)MatsumotoK,IkemaK,TaniharaH:Roleofcytokinesandchemokinesinpseudomonalkeratitis.??????24(Suppl1):S43-49,20052)RudnerXL,KernackiKA,BarrettRPetal:ProlongedelevationofIL-1in??????????????????????ocularinfec-tionregulatesmacrophage-in?ammatoryprotein-2pro-duction,polymorphonuclearneutrophilpersistence,andcornealperforation.?????????164:6576-6582,20003)ThakurA,BarrettRP,McClellanSetal:Regulationof??????????????????????cornealinfectioninIL-1bcon-vertingenzyme(ICE,caspase-1)de?cientmice.????????????29:225-233,20044)ThakurA,BarrettRP,HobdenJAetal:Caspase-1inhib-itorreducesseverityof??????????????????????keratitis(60)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006????keratitis.??????????????????????????29:179-182,20019)ColeN,KrockenbergerM,StapletonFetal:Experimen-tal??????????????????????keratitisininterleukin-10geneknockoutmice.????????????71:1328-1336,200310)HazlettLD,RudnerXL,McClellanSAetal:RoleofIL-12andIFN-gin??????????????????????cornealinfection.?????????????????????????43:419-424,200211)HuangX,McClellanSA,BarrettRPetal:IL-18contrib-utestohostresistanceagainstinfectionwith??????????????????????throughinductionofIFN-gproduction.?????????168:5756-5763,200212)HazlettLD:Cornealresponseto??????????????????????infection.??????????????????23:1-30,2004inmice.?????????????????????????45:3177-3184,20045)XueML,ZhuH,ThakurAetal:1a,25-Dihydroxyvita-minD3inhibitspro-in?ammatorycytokineandchemokineexpressioninhumancornealepithelialcellscolonizedwith??????????????????????.?????????????????80:340-345,20026)ColeN,BaoS,StapletonFetal:??????????????????????keratitisinIL-6-de?cientmice.????????????????????????130:165-172,20037)XueML,ThakurA,WillcoxMDetal:Roleandregula-tionofCXC-chemokinesinacuteexperimentalkeratitis.???????????76:221-223,20038)ThakurA,XueML,WangWetal:Expressionofmacro-phagemigrationinhibitoryfactorduringPseudomonas(61)■「緑膿菌性角膜潰瘍の病変制御」を読んで■緑膿菌感染症はあらゆる細菌感染症のうちで,最も予防・治療がむずかしい疾患の一つです.それは,緑膿菌が広範な消毒薬や抗菌薬に対して抵抗性をもつからだけではなく,緑膿菌は低栄養下でも生存可能なため,医療現場を含むさまざまな環境下に存在し,完全に菌を消滅させることが不可能なことが理由としてあげられます.医療現場は緑膿菌の培地といってもよいほどなのです.治療に関していうと,近年は緑膿菌にも有効なチカルシリンやアミカシンなどの薬剤が開発されています.眼球外の臓器では,これらの薬剤は確かに有効ですが,「角膜の治療」には必ずしも有効とはいえません.なぜなら,緑膿菌は,ビオシアニンといわれる色素をはじめとしてさまざまな外毒素(エラスターゼ,アルカリプロテアーゼなど),溶血素,分泌酵素を出して宿主組織を破壊するので,きわめて強い組織反応が起こるからです.そして,その宿主反応自体が角膜の透明治癒を妨げます.つまり緑膿菌感染が治癒しても,角膜が混濁したならば「角膜の治療」に成功したとはいえないのです.緑膿菌感染に限らず,感染症に対する宿主反応は,破壊と再生の絶妙なバランスのうえに成り立っています.しかし,従来の方法ではこのバランスの理解が不十分でした.このバランスの解析は,マイクロアレイなどの網羅的研究により大幅に進歩し,宿主反応過程で働くサイトカイン,酵素,Toll-likereceptorなどの種類,発現時期などが理解されるようになりました.本稿で松本光希先生が述べられていることは,緑膿菌性角膜感染について,これらをわかりやすく解説されたものです.このことが理解されると,宿主反応をコントロールした「角膜の透明治癒」治療も可能になります.サイトカインネットワークというと,わかりにくく敬遠されがちですが,本稿ではこの点に関して重要な事柄が述べられています.鹿児島大学医学部眼科坂本泰二☆☆☆

涙点プラグ:Sjogren症候群に対する涙点プラグ治療のコツ-上下のプラグを行う必要性について-

2006年8月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLSSj?gren症候群の重症ドライアイに対し,治療後早期に,自覚所見の改善が得られる確実な方法は涙点プラグである1~3).反射性分泌の低下した重症ドライアイにおいて,防腐剤無添加の人工涙液の頻回点眼,ヒアルロン酸点眼,眼軟膏治療の継続により,ある程度の症状および所見の改善は得られるとはいえ,湿度の低下や体調不良など,ドライアイの増悪因子が重なると悪化し,重症例においては点眼治療のみでは限界があることを実感する.Sj?gren症候群におけるドライアイでは,涙腺の障害が基盤にあり,粘膜を潤わすための涙液の水分としての役割に加え,角結膜上皮の恒常性を維持するために不可欠な涙液に含まれる成分が減少あるいは欠如していることが考えられる.したがって,重症ドライアイに対し涙点プラグが点眼治療に比べ劇的な治療効果を発揮する要因としては,持続的な水分の補給だけではなく,涙液成分の供給という働きが大きいと考えている.今まで点眼治療では角結膜上皮障害の改善がみられなかった重症例においても,上下の涙点に涙点プラグを挿入することで,直後より,Schirmer値は上昇し,翌日から染色スコアの改善が始まり,1週間後には染色部位がほとんど消失し,角結膜上皮障害の著明な改善が認められる1).今まで長期にわたり症状がとれなかった重症ドライアイ患者にとって,涙点プラグは非常に満足度の高い治療法といえる.この劇的な改善を得るためには,眼表面への持続的な涙液の供給が重要であり,そのためには,涙点からの涙液の排出を完全に途絶させることで効果が高まることは容易に想像できる.実際,Sj?gren症候群における重症ドライアイで,人工涙液頻回点眼,ヒアルロン酸点眼,眼軟膏点入を数カ月間継続しても,角膜上皮障害が残存し,自覚症状の改善が得られなった症例(図1)に,上下の涙点にプラグを挿入したところ,挿入直後から,自覚症状が改善し,その後角結膜の染色がほとんどない状態が継続していた(図2).しかし,その後,片方の涙点プラグが脱落すると,角結膜の染色,自覚症状の急激な悪化がみられた(図3).また,計画的に一涙点ずつ,涙点プラグを挿入する場合,片方の涙点に挿入しただけでは,劇的な改善を得ることは少なく,多くの場合,上下両方の涙点が閉鎖されてはじめて患者さんの満足度が上がる.これらのことを考えると,重症ドライアイに対し,涙点プラグの効果を十分発揮するためには,上下の涙点プラグ挿入が必要である.しかし,涙点プラグの問題点はプラグが,自然に脱落してしまうことである3,4).今までの報告では約1年で半数の症例に涙点プラグの脱落が認められている.涙点プラグのサイズ,形状と涙点の大きさ,形状が一致しない,といったことは,涙点プラグがオーダーメードでもない限りなかなか解消されない問題点の一つである.プラグ挿入後1年未満で自然脱落が起こった場合,症状(57)涙点プラグセミナー監修/坪田一男高村悦子東京女子医科大学眼科5.Sj?gren症候群に対する涙点プラグ治療のコツ─上下のプラグを行う必要性について─涙腺の障害に基づくSj?gren症候群において,涙点プラグが点眼治療に比べ劇的な治療効果を発揮する要因としては,持続的な水分の補給だけではなく,涙液成分の供給という働きが大きい.重症例に対し,確実な治療効果を得るためには,上下の涙点にプラグを挿入し,涙液の排出を完全に途絶させることが必要である.ホワイトメディカル提供図1涙点プラグ挿入前フルオレセイン染色6点(9点満点)を認める.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006(00)の悪化は,すぐに現れる.自覚症状とともに角結膜上皮障害が出現する.しかし,挿入後数年たち,角結膜上皮の改善が得られ,ある程度時間がたっている場合は,一方の涙点プラグが脱落しても,急激な症状の悪化はないこともあり,点眼治療の追加のみで自覚症状の改善が得られることもある3).これには,プラグ脱落の原因として,プラグによる涙小管上皮の機械的刺激により,涙点に肉芽が形成されることが考えられている.しかし,場合によっては,この肉芽により涙小管が閉鎖され,涙点プラグと同様な閉鎖が起きているのかもしれない.いずれにせよ,上下の涙点が閉塞している状態が,重症ドライアイの症状改善には“必要”ということであろう.文献1)ShinozakiK,TakamuraE,YukariJetal:Siliconepunctalpluginsertionintreatmentofseveredryeye.LacrimalGland,TearFilmandDryEyeSyndrome3,BasicScienceandClinicalRelevance,p1273-1276,KluwerAcademic/Plenum,NewYork,20022)楊浩勇,五十嵐翔,後藤英樹ほか:新型シリコーン涙点プラグによるドライアイの治療.あたらしい眼科14:1825-1830,19973)小島健太郎,横井則彦,中村葉ほか:重症ドライアイに対する涙点プラグの治療成績.日眼会誌106:360-364,20024)篠崎和美:涙点プラグ─利点と欠点─.あたらしい眼科20:23-27,2003図2プラグ挿入後(上下涙点)プラグ挿入直後からフルオレセイン染色の著明な改善とともに自覚症状も改善した(上).上下の涙点にプラグが挿入されている(下).図3下涙点のプラグ脱落後フルオレセイン染色(4点)の悪化,自覚症状の悪化を認めた(上).下涙点のプラグが脱落している(下).