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眼感染症:真菌培養検査

2006年8月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS角膜真菌症や真菌性眼内炎などの眼科領域の真菌感染症は,ときに重篤化し視力予後が不良になる場合があるため,初期に的確に診断し,治療を開始しなければならない.早期診断において,特徴的な臨床所見を把握するのはもちろん,塗抹標本検査に加え,真菌の培養検査によって,真菌を検出することで確定診断に結びつくだけではなく,分離した真菌の菌種や薬剤感受性を調べることによって,的確な抗真菌薬の選択に有用な情報になりうる.しかしながら,真菌培養検査は,細菌培養検査のように一般化されておらず,検出までの過程や注意点について理解されていない場合もある.そのため,真菌の生物学的特徴を理解して真菌培養検査を進める必要がある.このセミナーでは,真菌培養検査と薬剤感受性試験について,方法や注意点について詳細に解説する.●検体処理と輸送培養検査全般的に通じることとして,検体量が多いほど分離率も向上する.しかしながら,眼科領域における検体は,眼脂などの分泌物,角膜擦過物,眼内液など量的に制限されている場合が多く,細菌培養検査,塗抹標本検査など他の検査と併用して行うなかでは,優先順位をつけて検査を進めていく必要がある.そのため真菌感染症が強く疑われる場合は,真菌培養検査に多くの検体を使用するのが望ましい.検体の処理や培地の接種の方法については,検体によって異なり,眼脂・膿などの分泌物は平板培地に画線塗布し,コロニーが容易に分離できるようにする.角膜擦過物は,平板培地もしくは斜面培地に,軽度刺すように培地に接種するのがよいが,微量であるため,正確に培地に接種していることを確認する必要がある.眼内液の場合は,遠心し,その沈渣を使用し,画線塗布することで分離率が向上する.真菌培養検査においては,可能なかぎり検体を直接培地に接種するのが望ましいが,培地が入手不能で輸送せざるを得ない場合は,分泌物・角膜擦過物の場合は0.5m?ほどの生理食塩水に,撹拌して輸送するか,輸送用培地を使用するのがよい.眼内液の場合は,血液培養用のカルチャーボトルを使用して輸送するのが最も効率的である.●培養条件原因となる真菌の分離率を向上させるには適切な培地を使用するのが重要である.臨床検体から初代に分離する培地としては,サブロー・グルコース寒天培地が一般的に汎用されており,入手も容易である.しかしながら,わずかな検体から感度よく真菌分離させるには,より栄養を強化した培地が適切であり,ブレイン・ハー(55)39.真菌培養検査眼感染症セミナー─スキルアップ講座─●連載?監修=大橋裕一井上幸次鈴木崇市立宇和島病院眼科真菌培養検査においての注意点として,①できるだけ多くの検体を接種する,②適切な培地や輸送法を使用する,③糸状菌が疑われる場合は培地が乾燥しないように密閉し長期間培養する,などがあげられる.また,分離できた真菌に対して,菌種の同定,薬剤感受性試験を行うことで治療の選択のうえで貴重な情報となりうる.表1真菌の培養条件培地培養温度発育期間???????属サブロー・グルコース培地ブレイン・ハート・インフュージョン培地ヒツジ血液寒天培地CHROMagar????????室温と35℃数日糸状菌サブロー・グルコース培地ブレイン・ハート・インフュージョン培地室温(培地の乾燥を防ぐ)発育が遅いため,最低4週間の培養が必要———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006ト・インフュージョン培地がその一つとして適している1).また,明らかに細菌の存在が疑われるような検体から真菌を効率よく分離するには,クロラムフェニコールやゲンタマイシンなどの抗菌薬が含有されている培地を使用する必要がある.また,???????属の場合,血液寒天培地でも分離可能であるが,???????属の菌種特異的生化学的特性を利用し,コロニーの色によって????????属の菌種を分別することができるCHROMagar????????などの培地が便利である.使用する培地の形態としては,平板培地を使用してもよいが,糸状菌の場合は,長期間培養するため,培地が乾燥しないように,テープなどで平板培地を密封するか,栓ができる試験管培地を使用するのが望ましい.多くの真菌は,25~30℃で良好に発育できるため,検体からの真菌の分離には室温もしくは30℃が用いられる.糸状菌分離の場合は,室温のみでもよいが,????????属の分離の場合は室温と35℃の2つの温度で行うのがよい.???????属は通常1~2日で発育するが,糸状菌の場合は発育の遅い菌種もあるため,4週間は培養を続けるべきである.表1に培養条件をまとめた.●同定真菌の同定には,①培地上のコロニーの状態,②スライド培養法による形態の観察,③生化学性状,④遺伝子検査による同定などがあるが,通常は①と②で行う.???????属は通常の培地上では単細胞性の発育形式をとる(図1)が,コーンミール寒天培地上では菌糸をつくる.一方,糸状菌は,培地上で培養日数を増すにつれ,徐々にコロニーが大きくなる(図2).詳細な菌種同定は,経験のある検査機関に依頼するのが望ましい.●薬剤感受性試験???????属の場合は,通常市販されている微量液体希釈法のキット(ASTY?など)が用いられる.糸状菌の場合,微量液体希釈法での薬剤感受性の測定が手技的にむずかしいため,薬剤濃度が勾配になるよう調整されたストリップ(E-test?)を使用し測定する場合が多い.文献1)山口英世:培養検査.病原真菌と真菌症,改訂2版,p70~75,南山堂,2003(56)■コメント■どうみても角膜真菌症と思われる症例で,結局培養陰性となることを経験された先生方も多いことと思われる.真菌はどこにでも生えるので,培養しやすそうなものであるが,実際は増殖に時間がかかるので,そのことを度外視して細菌と同じような日数や条件で培養すると何も生えてこない.真菌培養の効率を上げるには,それぞれの施設で,検査室とのチームプレイでいろいろと工夫していくことが必要であろう.鳥取大学医学部視覚病態学井上幸次図2????????属による真菌性角膜炎の前眼部写真(左図)とサブロー・グルコース寒天培地による????????属の分離(右図)角膜中央の病巣部(左図)の角膜擦過物をサブロー・グルコース寒天培地の複数カ所に接種しテープで密閉した後,室温で培養した.培養3日目に培地上にコロニーを確認できた.スライド培養法にて????????属と同定できた.図1???????属による真菌性角膜炎の前眼部写真(左図)とヒツジ血液寒天培地による???????属の分離(右図)角膜中央の病巣部(左図)の角膜擦過物を生理食塩水に撹拌し,それを血液寒天培地に画線塗布し,35℃で培養した.培養1日目に,培地上の無数のコロニーを確認できた.生化学性状検査によって???????????????と同定できた.

緑内障:視野検査における眼優位性の影響

2006年8月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS日常視下における緑内障性視野異常の自覚症状は乏しく,特に単眼性の場合は両眼視によって視野異常が補完されることで早期発見が困難となることが予想される.しかしながら,視野検査測定時に,測定眼に対する非測定眼の遮閉による干渉(測定眼視野が暗くなったり,固視標が薄れたり)を知覚すると訴える患者も多々見受けられる.正確な視野検査結果を測定するためには,視野検査時の両眼視機能の影響(特に片眼遮閉時)を正確に把握する必要がある.この現象は”blankout”とよばれ,Humphrey視野計・Goldmann視野計のようなGanzfeldドームを用いた視野検査において片眼遮閉などにより左右眼の輝度に差異がでた場合に生じる知覚現象である1).この知覚現象は両眼に異質図形(直行する格子縞)を投影した場合に知覚する視野闘争と似通った現象であり,blankoutと視野闘争は共通の機構によって制御されているという報告もある2).視野闘争は眼優位性(利き眼)の定量評価が可能であり,眼優位性の強さの個人差を評価することができる3~5).視野闘争の知覚を評価することで視野検査時における遮閉眼の干渉の影響について評価できる可能性がある.そこで,緑内障性視野異常を有する患者の視野検査時における遮閉眼の干渉の影響について,視野闘争を用いて眼優位性の強さに注目して検討した.(53)●連載?緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄74.視野検査における眼優位性の影響半田知也庄司信行北里大学医療衛生学部視覚機能療法学緑内障性視野異常を有する患者の視野検査結果において優位眼の中心閾値は非優位眼よりも高く,その閾値差は眼優位性が強いほど大きくなる傾向を示した.非優位眼の測定時には優位眼からの強い干渉による影響が推察された.緑内障患者の視野検査結果においては眼優位性(強さ)が強く影響している可能性が示唆された.型旧)さ強の性位優眼:点転逆)価評るよに差間時覚知位優(COW(TEB社)トーャチ量定性位優眼式里北+型新>非優位眼優位眼100%60%20%100%・・・・100%100%Balancingtechnique図1眼優位性定量法(balancingtechnique)と装置60秒間の視野闘争刺激における優位眼・非優位眼それぞれの優位時間を各コントラストで測定し,非優位眼刺激優位時間が優位眼刺激優位時間を上回った際のコントラスト(逆転点)を“眼優位性の強さ”として評価する.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006●対象および方法対象は北里大学病院眼科に通院中で,中心10?以内に視野異常を有する緑内障患者14名,平均年齢59歳,遠見・近見視力ともに1.0以上であり,日常生活下において視野異常を自覚しない者とした.視野検査はHum-phrey自動視野計の中心10-2閾値測定プログラムにて単眼視下(優位眼・非優位眼),両眼開放下にて測定され,中心5?以内の平均閾値を用いて評価した.眼優位性は視野闘争を用いた眼優位性定量法(balancingtech-nique)を用いた.本法は左右眼に45?と135?の視角4?の直行する格子縞,サイズ:視角4?,空間周波数2c/deg優位眼刺激コントラストを100%から10%まで10%ごとに変化させ,非優位眼刺激コントラストは100%に固定した際の優位眼刺激と非優位眼刺激の知覚時間差によって評価する.図1に装置(旧型,新型)を示す.●結果と考察図2に中心5?以内の平均閾値の結果を示した.閾値は,優位眼が非優位眼より高値を示し,その閾値差は眼優位性が強いほど大きくなった.視野検査時に眼優位性の影響が示唆されるとともに,非優位眼測定時の優位眼遮閉による強い干渉が生じている可能性が推察される.図3には,優位眼と非優位眼の平均閾値差(優位眼閾値-非優位眼閾値)と両眼視下閾値を示した.両眼視下閾値は眼優位性の強さにかかわらず一定であった.これは,視野異常の進行に伴って眼優位性(強さ)に視野異常の補完を目的とした機能的適応変化,すなわち非優位眼に視野異常が生じた場合には優位眼をより優位に,優位眼に視野異常が生じた場合には優位眼の変化(非優位眼を優位眼に変化)が生じることで,両眼視下における視野異常の自覚を抑制している可能性が推察される.今後,眼優位性のさらなる研究が望まれるとともに,緑内障診断(特に視野検査)における眼優位性の影響について注目する必要性がある.文献1)BolanowskiSJJr,DotyRW:Perceptual“blankout”ofmonocularhomogeneous?elds(Ganzfelder)ispreventedwithbinocularviewing.??????????27:967-982,19872)HarradRA,WhitakerA,LaidlawDAH:Binocularrivalryinpatientswithunilateralcataract:apreviouslyunidenti-?edcaseofvisualdisability.?????????????????????????35(Suppl):1964,19943)HandaT,MukunoK,UozatoHetal:E?ectsofdominantandnondominanteyesinbinocularrivalry.?????????????81:377-382,20044)HandaT,MukunoK,UozatoHetal:Oculardominanceandpatientsatisfactionaftermonovisionbyimplantedintraocularlenses.???????????????????????30:769-774,20045)HandaT,UozatoH,HigaRetal:Quantitativemeasure-mentofoculardominanceusingbinocularrivalryinducedbyretinometers.???????????????????????32:836-841,2006(54)010203040両眼開放非優位眼優位眼平均閾値(dB)図2平均閾値単眼視下(優位眼,非優位眼)と両眼視下における中心5?以内の平均閾値の結果を示す.視野闘争によって決定された優位眼の閾値は非優位眼の閾値よりも高値を示した(Mann-WhitneyUtest,p<0.05).また両眼視下閾値は単眼視下(優位眼閾値,非優位眼閾値)よりも高値を示した(Mann-WhitneyUtest,p<0.05).100(n=0)80(n=4)60(n=4)40(n=2)20(n=1)noreversal(n=3)05101520253035平均閾値差(dB)図3平均閾値差・両眼開放閾値と眼優位性の強さ優位眼と非優位眼の平均閾値差(優位眼閾値-非優位眼閾値)と両眼視下閾値を示す.眼優位性が強い者ほど平均閾値差が大きくなる傾向が認められた(ANOVA,p<0.05).一方,両眼視下閾値と眼優位性の強さには有意差は認められなかった(ANOVA,p>0.05).:平均閾値差(優位眼平均閾値-非優位眼平均閾値).:両眼開放下平均閾値.

屈折矯正手術:最近の屈折矯正手術の適応

2006年8月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLSエキシマレーザーによるphotorefractivekeratecto-my(PRK)が正常ヒト眼に初めて行われたのが1988年1),Pallikarisがlaser???????keratomileusis(LASIK)を発表したのは1989年2)であるが,このLASIKがPRKにとってかわり屈折矯正手術の主流に躍りでたのは1996~1997年頃のことである.屈折矯正手術が世界的に広く施行されるようになって約10年が経過したことになる.この間の手術装置や器具,手術手技の改良は目覚ましく,ノモグラムの発達もあって,手術成績は著しく向上し,術中合併症の発生率は低下するなど安全性も増した.最近では,波面センサーや補償光学の導入によるwaverfront-guidedLASIKや角膜トポグラフィーにリンクしたtopography-guidedLASIKといった個々の眼に対応したカスタム照射による治療も可能となっている.新たな手術手技として,laser-assistedsubepithelialkeratectomy(LASEK)やepipolis-laser????????kera-tomileusis(Epi-LASIK)3,4)のようなPRKとLASIKの中間的な手術法が考案されて,一部ではsurfaceabla-tionへの回帰がみられ,さらには有水晶体眼内レンズ(phakicintraocularlens:phakicIOL)といったレーザー手術以外の術式も発展してきている.このように屈折矯正手術のなかでもいろいろな術式が出現してきたために,その適応をどのように決定するか,どの術式を選択するかの判断が非常に重要になってきた.今回は,最近のさまざまな屈折矯正手術の適応についてまとめてみたい.屈折矯正手術のなかで,いまだに最も高い頻度で行われている術式はLASIKである.確かに,開発当初の-15Dや-20Dといった強度近視も矯正可能か,といった期待や幻想は打ち砕かれ,さまざまな臨床データや研究の蓄積により,LASIKによる矯正の限界がみえてくると同時に,phakicIOLという術式の発展もあり,その適応範囲はさらに狭まりつつある.しかし,近視人口の多くを占める軽度から中等度の近視あるいは近視性乱視を広くカバーし,非常に精度と安定性のよい矯正効果(51)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載?監修=木下茂大橋裕一坪田一男75.最近の屈折矯正手術の適応堀好子南青山アイクリニック屈折矯正手術にもさまざまな術式が現われ,主流は相変わらずLASIKであるものの,その適応範囲は次第に狭まってきた.LASIK,surfaceablation,phakicIOLなどから,個々の症例に応じた術式の検討・選択が必要である.表1LASIKの安全基準1)レーザー照射後の角膜フラップ下実質ベッド厚は250?m以上残す2)術後の中心角膜厚は最低400?m以上とする表2LASIK適応の目安1)20歳以上(保護者の完全な同意があれば18歳以上)2)屈折度数が安定していること3)-10~-12D以下の近視,-5~-6D以下の乱視+3~+4D以下の遠視(ただし,角膜厚や角膜形状などの条件により異なる)4)矯正視力1.0以上5)説明を十分に理解していること表3LASIK不適応の目安LASIKを行わないほうがよい症例1)円錐角膜2)角膜ヘルペスの既往がある3)前眼部・後眼部の急性炎症4)明らかな瞳孔偏位5)妊娠中6)向精神薬を服用している精神疾患患者LASIK施行にあたって特別な注意が必要な症例1)角膜形状の不整(突出部位や菲薄部位がある)2)内皮細胞の減少(内皮細胞密度が1,500/mm2以下)3)単眼の患者4)閉瞼異常5)全身疾患(膠原病,糖尿病など)がある6)他の眼疾患(緑内障,白内障,網膜疾患など)がある7)病的なドライアイ8)理解力不足9)極端な角膜曲率半径(40.0D以下,48.0D以上)10)瞼裂狭小,ディープセットアイ,小眼窩11)他の屈折矯正手術の既往がある———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006を短時間に,術後疼痛などのストレスも最小限のレベルで得られることを考えると,今後もLASIKが屈折矯正手術の主流として施行されていく可能性は高い.そして,通常のLASIKの適応から外れるもの,何らかの理由でLASIKではリスクを伴い,それを他の術式で回避できる可能性が高い場合に,他の術式が選択されるという状況が今後しばらくは続くであろう.では,どのような症例がLASIKの適応で,どのような場合に適応から外れるのだろうか.表1にLASIKを施行する際の安全基準,表2にLASIK適応の目安を示す.術後に医原性円錐角膜ともよばれるkeratectasiaを起こさないためには,一般に表1の安全基準を満たす必要があると考えられている.表2は,標準的な角膜厚や形状を前提とした目安であり,530?m程度の平均的な中心角膜厚があれば-10D程度の矯正が可能ではあるが,最近では矯正度数が大きくなるほど術後収差の増大による夜間視力の低下やコントラスト感度の低下など,視機能の質的な低下をきたすことが明らかになっている.矯正度数が大きくなるほど屈折の戻りや低矯正になる確率も高い.-8~-9D以上の強度近視や,角膜厚が薄めで安全基準内での完全矯正が困難な場合には,phakicIOLという選択肢もあることを説明し,患者にとっての手術のメリット・デメリットを十分に検討することが必要であろう.表3にはLASIK不適応の目安を示す.この表3のLASIKという単語は,そのまま角膜(あるいはエキシマレーザー)屈折矯正手術に置き換えてもよいかもしれない.角膜の疾患や他の眼疾患などがあれば,その疾患の治療が最優先であり,手術は不適応である.表3にはないが,スポーツなどで眼に対する打撲の危険性が高い場合,特に格闘技選手などに対しては,角膜フラップ創の脆弱性を考慮して,PRKやEpi-LASIKなどのsur-faceablationを選択する.小角膜径,瞼裂狭小,極端にスティープまたはフラットな角膜などの場合,マイクロケラトームやエピケラトームなどの手術器具が安定して作動しないことも想定されるので,危険度が高いと判断した場合にはPRKやLASEKなどを選択する.再発性上皮?離のような上皮接着の異常がある場合は,PRKが第一選択である.最近surfaceablationとして比較されるPRK,LASEK,Epi-LASIKの優劣評価はまだ定まっていないが,上皮がフラップ状にレーザー照射面をカバーするメリットはあまりなさそうというのが実情である.不完全な上皮が残ることによって生じる上皮創傷治癒の遅れやヘイズ発生などのデメリットも認められており,ステロイド点眼を数カ月間使用しなければならないことへの配慮も必要である.ただ,フラップ作製に伴う収差の変化やフラップ創の脆弱性などを回避できるメリットはあり,今後の改良を期待したい.文献1)McDonaldMB,LiuJC,ByrdTJetal:Centralphotore-fractivekeratectomyformyopia.Partiallysightedandnormallysightedeyes.?????????????98:1327-1337,19912)PallikarisIG,PapatzanakiME,StathiEZetal:Laserinsitukeratomileusis.???????????????10:463-468,19903)PallikarisIG,NaoumidiII,KalyvianakiMIetal:Epi-LASIK:comparativehistologicalevaluationofmechanicalandalcohol-assistedepithelialseparation.???????????????????????29:1496-1501,20034)PallikarisIG,KalyvianakiMI,KatsanevakiVJetal:Epi-LASIK:preliminaryclinicalresultsofanalternativesur-faceablationprocedure.???????????????????????31:879-885,2005(52)☆☆☆

眼内レンズ:モデル眼を用いた多焦点眼内レンズの評価

2006年8月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS●多焦点眼内レンズの特徴多焦点眼内レンズ(IOL)には屈折型と回折型がある.IOL挿入後の細隙灯顕微鏡写真(散瞳後)で,それぞれのデザインが観察可能である.屈折型は同心円状に遠用度数と近用度数が交互に並んでいる(図1).瞳孔径が近用ゾーン(2.1~3.4mm)の大きさまであれば,中央で遠方,そのまわりで近方に焦点が合う,すなわち瞳孔径に依存するデザインである.回折型は細かい同心円の回折デザインで,瞳孔径にかかわらず遠方と近方の2点に焦点があう(図2).ここで紹介した回折型は3.6mm径が回折デザインで,そのまわりは単焦点になっている.全体が回折デザインになっているものもある.●瞳孔径の関与多焦点IOLの機能を検討するうえで,実際に遠方を見ているとき,近方を見ているときの瞳孔径を知っておくことが重要である.特に屈折型では瞳孔径によって近方のみでなく遠方の見え方も変わってくる.筆者らが実際に両眼開放下で近方視している際の瞳孔径を測定したが,特に白内障年齢層では2.1mmより小さい症例が多かった.屈折型多焦点IOLの選択に重要な要素である.●モデル眼今回使用したモデル眼のデザインを図3に示す.瞳孔径の影響をみるために,瞳孔を模擬した2.0mmから5.0mmのapertureを用い,明るさの条件を変え,異なった距離にある物体を撮影した.モデル眼の欠点は,角膜収差が考慮されていないことである.しかしながら,モ(49)ビッセン宮島弘子東京歯科大学水道橋病院眼科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎240.モデル眼を用いた多焦点眼内レンズの評価多焦点眼内レンズには屈折型と回折型デザインがあり,それぞれの特徴を理解するために,モデル眼を用い,近方および遠方画像を撮影し,瞳孔径による影響も評価した.モデル眼という限界はあるが,術後の視力のみでは知りえない全体の見え方を理解するのに有用と思われた.図1屈折型多焦点眼内レンズ挿入後中央が遠用,そのまわりが近用,さらに遠用,近用,遠用と5ゾーンになっている.図2回折型多焦点眼内レンズ挿入後中央3.6mmが回折デザインになっている.図3モデル眼各IOLを通しての画像をモニターで観察可能.CCDPhotographiclensIOLMonitorWatercell———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006(00)デル眼で撮影した画像を患者さんに見せると,ほとんどの人が実際の見え方と類似しているとの返答であった.さらに改良するためには,ヒトの角膜収差を考慮したものが必要となる.●昼間の見え方近方の物体としてモデル眼から40cmの位置に本を,遠方の物体として5mの位置に視力表をおき,両者が入るように撮影した.屈折型多焦点IOLでは,瞳孔径が2mmでは視力表ははっきり見えるが,近くの本の字の解読は困難である.しかし,4.5mmになると明らかに近くの本が読みやすくなるが,視力表は全体にぼやける(図4).一方,回折型多焦点IOLでは瞳孔径が2mmでも,本の字がはっきり見え,瞳孔径によらず近方視力が良好という臨床結果と一致している(図5).●コントラスト評価多焦点IOLによる見え方を全体のイメージとしてとらえるには,部屋の様子や外の風景を撮影するのが理解しやすい.しかし,それぞれのIOLの異なった瞳孔径や物体の位置での見え方を比較するには,コントラスト評価法がある.この場合は,物体を撮影するのではなく,Landolt環視力表を異なる距離に置いて撮影し,Landolt環と背景のコントラストを画像解析する.これによっても,屈折型と回折型多焦点IOLの特徴を理解することができる.●夜間の見え方夜間の見え方が最も危惧されている.グレアやハローを見るため,室内同様,屋外でモデル眼を用い,瞳孔径4.5mmの設定で撮影を行った.夜,車の走っている道路で,外灯や対向車のライトが撮影できる場所を選んで撮影したところ,屈折型多焦点IOLでは従来からいわれている明らかなグレアやハローが観察され,回折型多焦点IOL,単焦点IOLの順に軽減していた.多焦点IOLでは,夜間の見え方が心配されているが,術前の説明時にこのような写真画像が非常に役立つと思われる.おわりに以上,多焦点IOLを入れたモデル眼の画像は,角膜収差や眼から脳への情報部分まで考慮することができないが,異なる条件での見え方を理解するのに非常に有用と思われた.図5回折型多焦点眼内レンズによる画像瞳孔径2.0mm.図4屈折型多焦点眼内レンズによる画像左:瞳孔径2.0mm,右:瞳孔径4.5mm.

コンタクトレンズ:円錐角膜用ハードコンタクトレンズデザインのキーポイント

2006年8月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLSコンタクトレンズ(CL)は“安全性,視力,装用感”の3大要素を考慮する必要がある.特に円錐角膜の場合,視力と進行予防の観点からハードCL(HCL)は医学的適応となり,快適な終日装用を可能にすることが前提となる.角膜形状や眼瞼は個々によってさまざまであり,どのようなデザインが最良であるか限定することはむずかしい.したがって,本稿では,一般的に円錐角膜に処方されるHCLデザインについて述べることにした.図1は円錐角膜の形状をPKS1000で撮影したもので,進行程度によって3段階に分類した1).それぞれの円錐角膜に対して球面HCLおよび多段階カーブHCLの装用例を示す(図2).●球面HCLHCLデザインが多様化した現在でも円錐角膜に対して球面HCLの処方率は依然高い.球面HCLの長所はオプティカルゾーン(OZ)の広さにあり,処方レンズサイズ(LS)が8.5~10.0mmの場合,OZは7.3~8.5mmあれば,静止位置が極端にズレない限り瞳孔領はカバーできる.つぎにフラットに処方されればパワーも低くなり,静止位置も中央や上方に位置しやすくなるので光学的にも有利になる2).ベベルデザインはメーカーによってさまざまである(図3).弊社のベベルはインターメディエイトカーブ(IC)とペリフェラルカーブ(PC)の2段カーブで,PCはエッジの角度を決定する重要な役割をもち,レンズの曇りや異物感に影響する.ベベル全体の浮き上がり量を表すエッジリフト(EL)は標準タイプ以外にも必要に応じて大きいタイプが選択できることや,ELやベベル幅はLSと連動して変化するようなデザインが望ましい.また,アトピー性皮膚炎が眼囲にあるケースでは,眼瞼によるレンズの引き上げが強まることや,レンズ周辺に蛋白系の汚れが付着することがある.これらはフロントベベルを薄くデザインすると改善する場合がある.逆に突出が強く眼瞼によるレンズの引き上げが弱い場合など,フロント周辺に細い溝を入れて引き上げやすくする方法がある.●多段階カーブHCLOZを狭くした5.00~7.00mm程度の小さなベースカーブ(BC)に段階的にフラットになる2段以上の周辺カーブを幅広く配置することで,円錐角膜の形状に近似させたデザインにしているのが特徴である(図4).長所は下方の浮きが減ることでズレや脱落が少なくなること(47)山内直樹㈱サンコンタクトレンズコンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純TOPICS&FITTINGTECHNICS266.円錐角膜用ハードコンタクトレンズデザインのキーポイントⅠ型(軽度)Ⅱ型(中等度)Ⅲ型(高度)図1円錐角膜の程度球面HCL多段階カーブ(エムカーブ)多段階カーブ(エムカーブ)図2図1に対してレンズを装用サイズオプチカルゾーンベベルエッジリフト図3球面レンズの各部名称———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006(00)や,円錐頂点部の接触が緩和されることがあげられる3).円錐角膜の頂点は耳側やや下方にあり,進行すればさらに顕著になる.BCが小さくなればレンズは下がりやすくなり,瞳孔領からOZが外れることもある.またBCが小さくなるほどパワーは高くなる.以上のことから一般的に光学性は劣ると考えられている2).しかし進行した円錐角膜の場合,装用感やフィッティングなどの問題から,球面HCLでは対応が困難な症例も存在する.そのような症例に多段階カーブHCLは有効である4).弊社では「エムカーブ」がそれにあたり,特徴は,①比較的広いOZと周辺3段カーブ,②周辺デザインは一つのBCに対してELの異なった5タイプから選択できる,③LSは8.0~10.0mm(0.1mmステップ)から選択できる.多段階カーブデザインのポイントは「①OZ,②第1周辺カーブの曲率半径とその幅」の設定である(図4).これらが視力,動き,角膜中央や周辺部の接触状態などに影響を与える.これは円錐角膜用に限らず「多段階カーブ」と称されるものに共通し,商品コンセプトを決定する.BC<第1周辺カーブが一般的であるが,BC>第1周辺カーブも考えられる.弊社では「ツインベルⅡ」がそれにあたり,中等度までの円錐角膜などは一つの選択肢ではないかと考えている.●非球面HCLHCLで使用される非球面は,ベベル部分を除きおもに楕円,放物線,双曲線が使われている.これらは円錐曲線(2次曲線)の離心率によって分類される.円錐角膜用としては中心から何φかを球面に設定し,それ以降を非球面にデザインするのが一般的である.多段階カーブHCLと非球面HCLの違いについていえば,前者は任意に曲率や幅が決められ自由度が高くなるが,各カーブのつなぎ方に工夫が必要である.後者は滑らかな曲面を形成できるが画一化しやすくなる.円錐角膜といっても通常角膜とほとんど変わらない軽度から,飛び出しの強い高度までさまざまである.むずかしい症例は中等度以上に多いが,軽度でも存在する.角結膜に異常なく快適に装用されているのであれば,どのようなデザインのHCLであっても,その方にとっては最良の円錐角膜用HCLといえる.筆者らは長年の苦情処理の経験から,どのような眼に対しても個々の眼に合ったデザインが最良だと考えている.文献1)須田秩史,松田司,眞鍋禮三ほか:円錐角膜に対するハードコンタクトレンズ装用の適応について.日コレ誌24:88-94,19822)糸井素純,前田直之,佐野研二ほか:円錐角膜に対するコンタクトレンズ処方.日コレ誌41:135-141,19993)糸井素純:多段階カーブハードコンタクトレンズ.あたらしい眼科19:411-417,20024)中川智哉,前田直之,西田幸二ほか:円錐角膜への多段階カーブハードコンタクトレンズ処方.日コレ誌45:184-188,2003第3周辺カーブ第2周辺カーブ第1周辺カーブBCBC<第1周辺カーブ多段階カーブ(エムカーブ)多段階カーブ(ツインベルⅡ)BC>第1周辺カーブ第3周辺カーブ第2周辺カーブ第1周辺カーブBC図4第1周辺カーブの曲率半径と幅の関係

写真:白内障術後前嚢収縮

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———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS(45)林研林眼科病院写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦267.白内障術後前?収縮①②③図2図1のシェーマ①:前?切開縁下線維組織,②:前?の放射状の皺,③:Zinn小帯は引き延ばされて,疎になっている.←図1網膜色素変性で前?収縮を起こした例網膜色素変性の眼で,術後に強い前?収縮をきたした.前?切開縁の線維組織形成が著しく,前?は引っ張られて放射状の皺を形成している.ab図4前?収縮に伴うレンズ?内偏位閉塞隅角緑内障眼など?自体が大きいと,?収縮に伴ってレンズが?内で偏心・傾斜を示すことがある.←図3YAGレーザー前?切開後前?に,YAGレーザーで上下左右にrelaxingincisionsを入れたところ(a),術後1週で切開部が拡大した(b).前?切開では,レンズ縁まで切開を入れて,切開縁を浮き上がらせることが重要である.6~8本の切開を入れてもよい.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006(00)白内障手術で,continuouscurvilinearcapsulor-rhexis(CCC)を施行すると,前?切開をした面積が数カ月の間に縮小するが,これを前?収縮という(図1).前?収縮は,1)核皮質が除去されたemptycapsu-larbagの収縮と,2)前?下線維組織形成という2種の組織反応からなる.通常2つの反応は比例しており,?収縮の強いものほど,線維化の程度も強い.前?切開面積の縮小は,術直後から始まり,術後3カ月くらいが最も小さく,その後線維組織の自然退縮により若干拡大して6カ月までに安定する.前?収縮率は,正常眼では平均して10~15%程度である.前?収縮は,前?縁が瞳孔領に塞ぐほどにならなければ,視力には余り影響しないが,一部が瞳孔領にかかればコントラスト感度が低下する.前?収縮に関連する因子として,個体側の因子と挿入するレンズの因子が考えられる.個体側の因子としては,さまざまな疾患で前?収縮が強いことが報告されている.最も収縮率の高いものは,網膜色素変性症であり,この疾患眼での平均前?収縮率は50%に近い1).つぎに,落屑症候群で,収縮率は25%程度である2).これら以外でも,閉塞隅角緑内障,糖尿病,ぶどう膜炎,アトピー性白内障,硝子体手術後などでは,収縮率が高い.前?収縮が強い理由として,①Zinn小帯の脆弱性と,②血液房水関門の破綻のために線維組織の形成が強いことがあげられる.Zinn小帯の弱いものの典型として落屑症候群があり,血液房水関門の破綻によるものとして糖尿病,ぶどう膜炎があるが,網膜色素変性では,双方の原因が組み合わさっているため,収縮率が高いものと推察される.一方,レンズ側因子として,光学部素材,光学部デザイン,支持部素材,支持部デザインが考えられるが,有意な影響を及ぼす因子として,光学部素材のみがあげられている3).すなわち,シリコーンや親水性アクリルなど,水晶体?との癒着を起こさない素材では,poly-methylmethacrylate(PMMA)や疎水性アクリルなど?と癒着する素材に比べ,前?収縮は若干強い.一方,支持部の素材やデザインなどは,あまり影響しない.ただし,前?収縮が強いレンズとしてプレート型シリコーンレンズがいわれているが,?収縮に耐えきれず支持部が変形しやすいレンズでは,例外的に支持部の影響があるかもしれない.光学部素材の違いによる前?収縮率の差は10%以内であり,正常眼では臨床的に大きな差ではない.それでも,網膜周辺変性があったり,糖尿病眼で将来汎網膜光凝固をする必要があったりするような眼では,PMMAやアクリルレンズを挿入しておいたほうが安全と考えられる.文献1)HayashiK,HayashiH,MatsuoKetal:Anteriorcapsulecontractionandintraocularlensdislocationafterimplantsurgeryineyeswithretinitispigmentosa.?????????????105:1239-1243,19982)HayashiH,HayashiK,NakaoFetal:Anteriorcapsulecontractionandintraocularlensdislocationineyeswithpseudoexfoliationsyndrome.???????????????82:1429-1432,19983)HayashiK,HayashiH:Intraocularlensfactorsthatmaya?ectanteriorcapsulecontraction.?????????????112:286-292,2005

時の人

2006年8月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS昭和48年(1973)4月に関亮先生が初代教授に就任されて以来,平成2年(1990)就任の第2代小暮文雄教授,平成9年(1997)就任の第3代小原喜隆教授に続き,本年(2006)4月に妹尾正先生が第4代の眼科学教授に就任された.医局の歴史は30年余であるが,妹尾先生は初代から第3代の小原先生までのすべての教授の教えを受けられた教室生え抜きの教授ということになる.先生は,教室の特徴(歴代の教授が培ってこられた伝統とでもいうべきもの)として,地方における地域密着型臨床の発展を目指しておられる.特に昨今連携医療が重要視されてきており,これまでの歴代教授の努力の賜物として地域医療機関との良好な関係ができており,妹尾先生も連携医療の更なる発展を目指しておられる.地方の連携医療ということになると,現状ではすべての眼科疾患に(とりわけ手術の面で)対応していかなければならない.この点において,教室では“臨床面において,すべての医師がオールラウンド・プレーヤー”になれるよう教育されている.それは,当直や関連病院への出張,また,地元に帰っての開業など,独りで何でもできる眼科医でないと困ることが多いからである.妹尾先生ご自身,手術だけをみても,年間で白内障手術約600件,網膜硝子体手術約500件,緑内障手術約90件,そして角膜移植が約50件の他に,現在もなお眼科小手術もこなしておられる.5年目以降の医局員は,よほどのことがない限り,これらの手術,外来小手術はマスターできるようになっているとのこと.一方で,各医局員はそれぞれ2つの専門をもつように指導され,指導する立場に変わった現在もその方針を踏襲されている.先生はさらに主要研究分野である網膜硝子体,角膜の他に,診療分野を拡大しながら現在はぶどう膜炎,緑内障,黄斑部,未熟児,と研究分野を広げつつあるとのことである.*先生は昭和61年(1986)3月に獨協医科大学医学部を卒業され,同年5月に臨床研修医になられ,昭和63年(1988)3月に獨協医科大学越谷病院眼科学教室の助手,平成元年(1989)5月に獨協医科大学眼科学教室の助手となられた.その後平成9年(1997)12月にSchephensEyeResearchInstituteにPostDoctorFellowとして留学され,帰国後の平成12年(2000)4月に講師,平成14年(2002)7月に助教授になられ,本年4月に第4代教授に就任された.先生ご自身の研究テーマは,“角膜内皮細胞の細胞周期変化”で,移植することなく,水疱性角膜症を治療することが夢であると伺った.臨床面では手術手技の開発改善,特に深部表層角膜移植の術式の開発に努力されているとのことである.教室では現在,松島博之先生(講師)を中心とした白内障の原因究明とその治療,眼内レンズの開発,後発白内障抑制の研究,また,鈴木利根先生(講師)を中心としたぶどう膜炎,特に術後眼内炎やヘルペス性ぶどう膜炎の研究,さらに,高橋佳二先生(講師)を中心とした眼瞼,涙器・涙道疾患の治療と手術手技の開発,そして,新たに須田雄三先生(講師)を中心に黄斑外来が立ち上がり,それぞれ今後の発展が期待されている.*先生は指針として,研究面では『①隙間を衝く(老舗に勝つにはベンチャーであれ),②臨床直結を考えよう(病診連携の基本),③楽しくなければ仕事でない(一生続くのだから,当然),④思いついたら,やってみよう(もちろん患者さんにではない)』を,そして臨床面では『①誠心誠意(教室員の熱心さには驚きます),②みんな仲良く(小さな医局ですから,助け合っています),③一意専心(浅学菲才を克服するために)』を挙げられ,日本の眼科学の発展に寄与していきたいと,力強く語られた.(43)人の時獨協医科大学眼科学教室・教授妹?□?尾?正???先生

レーザーか手術か:古くて新しい問題-レーザー虹彩切開術の問題点と白内障手術(clear lensectomyを含む)-

2006年8月31日 木曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSが,最近③水晶体の外科的治療(白内障手術)が注目されてきた.レーザー治療はいまだにACGの治療の中心であることは間違いなく,その手技については多くの報告がある1).本稿では最近話題となっているレーザー治療による問題点について自験例を中心にわかりやすく解説し,さらに最近注目され始めたACGに対する治療的白内障手術についてその利点や問題点について述べる.I閉塞隅角緑内障に対するレーザー虹彩切開術の問題点1.角膜内皮障害と水疱性角膜症〔症例1〕77歳,男性.LI後の角膜内皮障害の進行.62歳時に右眼の急性発作〔急性閉塞隅角緑内障(AACG)〕で近医で治療された.このとき両眼にLIが施行された.約10年後より右眼が霞むようになり近医を受診しBKの診断で当科に紹介受診した(図1).視力は矯正で右眼0.1,左眼1.0であった.角膜内皮細胞密度は予防的LIの左眼2,200cells/mm2で,右眼は測定不能であった.右眼のBKは悪化したが,角膜移植の希望はなかった.初診より5年後,左眼の白内障が進行し矯正で0.6となり白内障手術を予定した.左眼の角膜内皮細胞密度は550cells/mm2と著明に減少していた(図1b,c).ポイント1:発作眼のLI後10年目でBKを発症.ポイント2:予防的LIで僚眼も角膜内皮障害,白内障(核白内障)手術の難化.はじめに1)閉塞隅角緑内障治療の変遷:閉塞隅角緑内障(ACG)の治療は1980年代前半までは内科的治療として縮瞳薬の点眼,外科的には周辺虹彩切除(PI)が一般的であった.もっとも他に方法がなかったというのがより正しいかもしれない.しかしながら縮瞳薬の点眼は暗黒感や長期的な白内障の進行などをもたらし,またPIは悪性緑内障や感染症など予期せぬ合併症をまれながら生じた.さらに眼圧コントロールが不良なACGに対する濾過手術は濾過手術の合併症の宝庫とさえいえた.1980年代半ばに入りレーザー虹彩切開術(LI)が開発され,外来で短時間で簡便にできること,外科的手術に伴う合併症がほぼ皆無であることなどから急速に普及し現在に至っている.2)レーザー虹彩切開術の問題点:理論的で安全,簡便な治療と考えられていたLIによる予期せぬ合併症が問題となり始めた.問題点として①白内障の進行,②眼圧コントロールが中~長期的に不良となる症例が存在する,③角膜内皮障害と水疱性角膜症(BK)の発症の3点があげられる.特にBKの治療には角膜移植が必須であり,ドナー角膜の供給の圧倒的に少ないわが国において大きな問題となっている.3)閉塞隅角緑内障の病態と白内障手術:ACGの発症には①相対瞳孔ブロック,②プラトー虹彩形状と③水晶体起因の3つの要因がある.これまでACGの治療にはレーザーによる①,②に関する治療が中心となっていた(37)????*ShoichiSawaguchi:琉球大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕澤口昭一:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原207琉球大学医学部眼科学教室特集●隅角のすべてあたらしい眼科23(8):1013~1018,2006レーザーか手術か:古くて新しい問題─レーザー虹彩切開術の問題点と白内障手術(clearlensectomyを含む)─(─澤口昭一*———————————————————————-Page2あたらしい眼科Vol.23,No.8,20062.慢性閉塞隅角緑内障(CACG)に対するレーザー治療後の眼圧上昇〔症例2〕70歳,男性.予防的LI術後の眼圧上昇と白内障手術.55歳時に左眼AACGで近医受診し,左眼のみLIを施行された.1回目のLIで虹彩に孔が開かず,翌日2回目のLIで虹彩に孔が開いた.10年後に左眼のBKを発症し,当科に紹介受診した.右眼はLIを行わず経過観察したところ,2年後に眼圧が次第に上昇し,点眼による治療が開始されたが,眼圧は下降せずLIを行った.LI施行半年後より眼圧の再上昇を認め,縮瞳薬の点眼を行ったところ,ようやく眼圧は安定した〔図2a,超音波生体顕微鏡(UBM)〕.その3年後に白内障の進行による視力低下があり手術を予定している.しかし瞳孔は縮瞳薬の影響で散瞳不良となった(図2b).ポイント1:CACGに対するレーザー治療後に眼圧の再上昇.(38)ab図2症例2a:レーザー虹彩切開術施行後に縮瞳薬でわずかに隅角が開大(プラトー虹彩形状).b:レーザー虹彩切開術施行(10時方向)と縮瞳薬の併用で散瞳不良となった.abc図1症例1a:レーザー虹彩切開術施行後の水疱性角膜症.b:レーザー虹彩切開術施行後(2時方向)の白内障進行と角膜内皮減少(c).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006????ポイント2:縮瞳薬の追加で白内障のいっそうの進行と散瞳不良による手術の難化.3.急性発作眼のレーザー虹彩切開術施行後の眼圧再上昇〔症例3〕59歳,男性.AACGへのLI後の眼圧再上昇.56歳時,左眼のAACGで近医で加療,LIを施行した.右眼は予防的にLIが行われた.1年後より左眼の眼圧が次第に上昇したためβ遮断薬と炭酸脱水酵素阻害薬の点眼を開始したがコントロール不良で当科に紹介受診.UBMで下方にわずかにスリット状の隅角の開放している所見がみられた(図3a,b).ラタノプロスト追加投与で眼圧はコントロールされた.ポイント1:LI後も眼圧再上昇に注意する.ポイント2:プロスタグランジン製剤はACGに有効2).II閉塞隅角緑内障に対する白内障手術の利点と問題点1.急性閉塞隅角緑内障の白内障手術〔症例4〕58歳,女性.急性発作の状態と白内障術後の状態.56歳時,右眼のAACGで当科に紹介受診(図4a).救急処置で発作は解除し,角膜内皮が観察できた時点で白内障手術を施行した.術後,中央前房深度,周辺前房深度は非常に深くなっている(図4b,c).その後2年間眼圧コントロールは点眼なしで良好.左眼はLIを施行.ポイント1:AACGへの治療的白内障手術の効果.2.慢性閉塞隅角緑内障の白内障手術〔症例5〕72歳,女性.CACGのLI後.CACGに対してLI施行も左眼の眼圧コントロール不良にて当科に紹介受診.b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬,プロスタグランジン製剤の点眼を行っていた.隅角検査でプラトー虹彩形状,左眼は3/4周を超える周辺虹彩前癒着であった.LIと隅角形成術を施行も眼圧はコントロール不良で白内障手術を施行した.白内障手術施行後も眼圧コントロールは不良で最終的に線維柱帯切除術を施行した(図5).ポイント1:LI後の眼圧上昇と慢性化.ポイント2:白内障手術のタイミングと術後の眼圧コントロール(慢性化するとこじれる).3.閉塞隅角緑内障予備軍〔primaryangleclosure(suspect)〕に対する白内障手術〔症例6〕66歳,女性.視力良好例(clearlens)で間欠的に小発作をくり返す.数年前より右眼の違和感,軽度の充血,軽度の頭痛,霞む感じを特に夕方以降暗くなると感じていた.近医に受診したが心配ないと言われていた.眼の重苦しい感じ,霞む感じが次第に増強したため当科に受診した.中(39)図3症例3a:急性発作後にレーザー虹彩切開術を施行した.瞳孔は散瞳気味.b:隅角は下方のみわずかに開大している.ab———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006央前房深度はやや浅く,周辺前房はvanHerickI度であった.UBMでは暗室で4方向の閉塞の所見を示していた(図6a).視力は良好であったが,AACGの家族歴があり白内障の手術を希望した.UBMで前房,隅角とも非常に深くなった(図6b).その後症状は消失し,眼圧も良好である.ポイント1:中年の女性の眼を含めた不定愁訴はACGをまず疑う.ポイント2:治療の選択には十分なインフォームド・コンセントが大切である.まとめ1)レーザー治療の問題点:ACGやその予備軍に対するLIの合併症について当科で経験した症例を提示し解説した(症例1~3).ACGに対するLIは今後も治療の主流として必要な手技と考えられるが,一方で,頻度は少ないもののいくつかの合併症,問題点が生じており,今後ともその発症病因の解明が望まれる.特にBKは一旦発症した場合,角膜移植が必要となるが,わが国におけるドナー角膜の入手の困難さ,さらに角膜移植における本症のいっそうの増加は今後も引き続き重要な問題である(症例1).LIが全能の治療法でないことも次第に明らかとなってきた.LI後,眼圧が再上昇し眼圧コン(40)図4症例4および類似症例a:急性発作時の前眼部所見.散瞳,充血,角膜浮腫が認められる.b,c:白内障術後には前房深度(b),周辺前房深度(c)は著しく深くなる(aとは異なる症例).abc図5症例5最終的に線維柱帯切除術を施行し,濾過胞が形成されコントロールは良好となった.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006????(41)トロールが悪化する症例がかなり存在することが明らかとなってきており注意を払う必要がある(症例2,3).特に急性および慢性のACGに対するLIやPI後にその半数以上の症例に慢性の眼圧上昇をきたし,そのなかの半数以上が濾過手術を含めた追加的な治療が必要となることも報告されている3,4).一方で,AACGの僚眼や,まだ眼圧上昇のないACG予備軍〔primaryangleclo-sure(suspect)〕に対する予防的なLI後に眼圧が上昇する危険性は非常に少ないが,皆無ではないことも知っておく必要がある(症例2).LIやPIでは術後の房水の流出経路が変化するため白内障の進行が速まることが推定され,さらに高齢化によりこのような症例に対する白内障の手術の適応がいっそう増加することが予想される.このとき,すでに行ったLIによる角膜内皮障害や縮瞳薬による縮瞳や核の硬化は手術の難易度を高め,白内障手術自体のリスクを増加させる(症例2,3).2)なぜ白内障手術か:白内障手術を施行することで症例4,5,6に示すようにACGの解剖学的な異常は解消し,長期的な眼圧上昇のリスクは軽減あるいは消失する5).急性,あるいは慢性のACGに対して白内障手術を行うことで中~長期的で良好な眼圧コントロールが得られることが知られてきた.特に慢性のACGでは隅角の器質的な異常がPIあるいはLI後も進行するため,中~長期的な眼圧上昇はほぼ必発とされる4).これに対し,白内障手術はACGの異常な形態を解消し,それによって眼圧の低下,眼圧下降治療薬剤の軽減,中~長期的な眼圧コントロールが得られる6,7).もっとも症例5のように眼圧コントロール不良なCACGでは最終的に濾過手術が必要となる場合もまれではない.手術時期についても今後検討が必要と考える.3)白内障手術の問題点:白内障手術は内眼手術であり,LIとは違ったリスクを背負っている.LI自体は経験豊かな眼科専門医であれば短時間で比較的簡便に行え,しかも短期的な治療成績は術者にかかわらずほぼ100%である.一方で白内障手術を選択する場合は手術に伴うリスクが皆無ではない.破?,感染症,角膜内皮への影響,特に前房が非常に浅い眼に対する白内障手術は,それだけで白内障手術のリスクが高まることは言うまでもない.しかも良好な視力の患者を手術する場合,術後の視力が改善することはありえず(屈折は改善するが),眼内レンズの測定誤差によってはむしろ患者の満足度が低下する恐れもある.LIの適応についてはいくつかの考え方が提起され,一定のコンセンサスが得られている.今後,ACGに対する白内障手術(clearlensを含む)に関してもその適応を含めてなんらかの基準が提起される必要がある.文献1)澤口昭一,桑山泰明(編集):閉塞隅角緑内障:診断と治療のアップデート.あたらしい眼科22:1167-1217,20052)SakaiH,ShinjoS,NakamuraYetal:Comparisonoflatanoprostmonotherapyandcombinedtherapyof0.5%timololand1%dorzolamideinchronicangleclosureglau-ab図6症例6a:暗室では全方向に超音波生体顕微鏡で隅角閉塞の所見がみられる.b:白内障術後に隅角は全方向に広く開大した.———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006(42)comainJapanesepatients.21:483-489,20053)AungT,AngLP,ChanSPetal:Acuteprimaryangleclosureglaucoma:long-termintraocularpressureout-comeinAsianeyes.131:7-12,20014)Alsago?Z,AungT,AngLPKetal:LongtermclinicalcourseofprimaryangleclosuregalucomainanAsianpopulation.?????????????107:2300-2304,20005)NonakaA,KondoT,KikuchiMetal:Anglewideningandalterationofciliaryprocesscon?gurationaftercata-ractsurgeryforprimaryangleclosure.113:437-441,20066)筋野哲也,上野聡樹,青山裕美子ほか:慢性閉塞隅角緑内障に対する水晶体摘出の影響.臨眼52:369-372,19987)JacobiPC,DietleinTS,LukeCetal:Primaryphacoemul-si?cationandintraocularlensimplantationforacuteangleclosureglaucoma.109:1597-1603,2002『あたらしい眼科』別巻発売のお知らせ発売中特集:トシル酸トスフロキサシン点眼液定価:2,940円(本体2,800円+税5%)送料は140円です。本誌、臨時増刊号とは別に本年も別巻を発行いたしました。本号は特別号のため、年間予約ご購読料に含まれておりません。お申し込みは、小社ホームページご注文フォーム、郵便、FAXのいずれにても結構です。あるいは、本誌巻末に綴じ込んであります「振替用紙」にてお振込下さい。年間予約ご購読読者様はお申し込みの際、読者コードを必ずご記入下さい。〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5階ホームページ:http://www.medical-aoi.co.jpFAX:03-3811-06372006年7月株式会社メディカル葵出版

手術用隅角鏡

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———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS器具の挿入方向と隅角鏡下での器具の動きが一致する(図1a)のに対し,間接隅角鏡では一致しない(図1b)ため,鏡面下での器具の動きに慣れない限りは術者の意図しない器具の動きを呈することとなってしまう.特に隅角手術は前房内という限られた空間における手術であるため,意図せぬ器具の動きは角膜内皮や虹彩への直接的侵襲となるために合併症の危険を伴うこととなる.2.直接隅角鏡の欠点手術用隅角鏡としては従来よりThorpe型,Hoskins-Barkan型,Swan-Jacobs型(図2)などが用いられていはじめに緑内障診療において隅角検査は必要不可欠な検査であるが,緑内障手術においても隅角鏡の有用性は計り知れない.本項では手術用隅角鏡の種類と特徴,手術用隅角鏡を利用する術式,手術時に隅角鏡を使用する際のポイント,ならびに新しい手術用隅角鏡の開発の試みについて述べる.I手術用隅角鏡の種類と特徴1.鏡像と正立像先の項で述べられているように隅角鏡は,直接的に隅角を観察する「直接隅角鏡」と内蔵する鏡面に反射させる「間接隅角鏡」の2種類に大別される.実際の手術の際には隅角鏡下に手術器具を操作する必要があることから,鏡像よりも正立像のほうが自然な操作が可能である.したがって,一般的には手術用隅角鏡は直接隅角鏡であることが多い.図1には隅角鏡を通して手術を行う際の直接隅角鏡と間接隅角鏡の違いを示す.直接隅角鏡では(33)????*KazuhikoMori:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕森和彦:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学特集●隅角のすべてあたらしい眼科23(8):1009~1012,2006手術用隅角鏡???????????????????????森和彦*ba図1直接隅角鏡(a)と間接隅角鏡(b)図2Swan-Jacobs型隅角プリズム———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006るが,これらはいずれも直接隅角鏡に分類され,正立像で隅角を観察・操作できる利点をもつ.しかしながら直接隅角鏡は視軸に対して平行な方向から隅角を観察することができないという欠点も併せもつ.図3に直接隅角鏡と間接隅角鏡の光路図を示すが,手術用顕微鏡下に直接隅角鏡を用いて隅角を観察・操作するためには,必然的に眼球や頭部を傾斜させるか,手術用顕微鏡自体を傾ける必要がある.すなわち全周の隅角を確認するために,その都度,顕微鏡,眼球もしくは頭部を目的とする方向へ傾斜させねばならない(「みみの法則」:診たいほうを見てもらう.ちなみに間接型は「みみみの法則」:診たいほうのミラーを見てもらう)ために,手間と時間がかかるとともに結果として無駄な操作が増えることとなる.3.新しい手術用隅角鏡このような欠点を克服するため,筆者らは新しい手術用隅角鏡を考案し,実際の手術に応用してきている(図4).この隅角鏡には以下に示す2つの利点がある.第1の利点は,岩崎らによって開発されたダブルミラー隅角鏡のコンセプトをもとに鏡面を2枚内蔵したことである.これにより眼球や頭部もしくは手術用顕微鏡を傾斜させることなく視軸に対して平行な方向から隅角を観察・操作することが可能となった.さらに第2の利点として,隅角鏡を回転しても手術器具の位置が確実に把握できるように中央部の視野を確保した点がある.ダブルミラーを介した光路と中央部の光路の2つの光路が存在する(図5)ため,隅角をより明るく照明することができるのみならず,器具による邪魔な陰影も形成されなくなり,より視認性に優れた隅角像を得ることができる.すなわち,全周の隅角を眼球や頭部を傾斜させることなく観察・操作可能な隅角鏡としてきわめて有用である.II手術用隅角鏡を利用する術式つぎに実際に手術用顕微鏡を利用する術式とその利用法について述べる.緑内障手術において最も手術用隅角鏡を利用する可能性の高い術式としては,隅角切開術と隅角癒着解離術があげられる.1.隅角切開術(goniotomy)と隅角癒着解離術(goniosynechialysis)(図6)いずれも全周にわたって隅角を確認しながら切開もしくは癒着の解離を施行する必要がある.先に述べた「みみの法則」をもとに,眼球と頭部,顕微鏡を傾斜させながら耳側,鼻側,上側,下側の1象限ずつ行う.ダブルミラーを用いることができれば,傾斜が不要であるために単なる隅角鏡の回転のみで全周の操作が可能である.(34)図4新しい隅角鏡図3直接隅角鏡(左)と間接隅角鏡(右)の光路図図5新しい隅角鏡の光路図———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006????2.線維柱帯切開術(trabeculotomy)(図7)線維柱帯切開術成功のキーポイントとしては,プローブが早期穿破することなく確実にSchlemm管内に挿入されていることが重要である.そのためには手術用隅角鏡を用いて隅角側からプローブ挿入部を観察し,線維柱帯を通してプローブの金属光沢を確認する(図7)ことが最も確実である.症例によってはプローブの曲率とSchlemm管の曲率がぴったり合致,もしくは線維柱帯部の抵抗が非常に強いためにプローブの回転が困難な場合がある.このような場合,隅角側からプローブ先端部に向かって切開を加える(図8)ことによって容易にプローブの回転を完成させることができる.3.その他の手術濾過胞再建術の際のレクトミーのwindowの状態のチェック,隅角を鈍的に擦過除去するgoniocurettage,線維柱帯を高周波によって切除するTrabectome,iStentとよばれるSchlemm管?前房間のマイクロステントなど,隅角マイクロサージェリーを行う際には手術用隅角鏡が必要である.III手術時に隅角鏡を使用する際のポイント従来型の隅角鏡を隅角手術,特に隅角癒着解離術に用いる際のポイントについて以下に述べる.第1かつ最大のポイントは,視認性の確保である.隅角の微細構造がしっかりと見えている状態で癒着解離を行えば,過剰な操作による隅角後退や前房出血の頻度を低下させることができるのみならず,器具の接触による角膜内皮の障害も防ぐことができる.角膜と隅角鏡の間隙に血液が迷入するだけでも視認性が著しく損なわれるため,可能な限り出血させずに癒着解離に入る必要がある.あるいは粘弾性物質を置いたり,常に水を流し続けたりするなど,接触面に血液が迷入しない方策が必要である.白内障同時手術の際には,可能な限り白内障手術よりも先に隅角癒着解離を行ったほうが,角膜の状態が良好であるためにより視認性に優れているということができる.(35)図6隅角癒着解離術図7線維柱帯切開術図8切開が困難な際の手技———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006(36)第2のポイントは,前房の保持である.前房という非常に限られた空間で器具を操作する必要があるため,粘弾性物質のなかでもできれば分子量の大きいものを用い,前房深度を十分に確保することが必須である.癒着解離操作中に房水が抜けることで前房が浅くなるのを防ぐために,可能な限り前房水のみならず後房水も抜いて粘弾性物質で置換しておく必要がある.浅前房での無理な癒着解離は角膜内皮障害のリスクが高まるのみならず,術後の炎症を惹起しやすくなることから再癒着の頻度が高くなる.第3のポイントは,しっかりした傾斜である(図9,10).これは第1のポイントである視認性の向上にもつながることである.耳側・鼻側の癒着解離の際には頭部と眼球を目的とする方向へ十分に傾斜(「みみの法則」)させれば隅角は確実に観察・操作可能である(図9).一方,上側・下側の癒着解離の際には頭部ならびに眼球の傾斜のみでは不十分なことが多く,手術台ごと全身を傾斜させるか手術用顕微鏡自体を傾斜させる必要がある(図10).以上,3つのポイントさえ十分押さえれば,隅角手術はそれほどむずかしい手術ではない.文献1)IwasakiN,TakagiT,LewisJMetal:Thedouble-mirrorgonioscopiclensforsurgeryoftheanteriorchamberangle.???????????????115:1333-1335,19972)AlwardWLM:PrinciplesofGonioscopy,Coloratlasofgonioscopy,p17-25,TheFoundationoftheAmericanAcademyofOphthalmology,20013)JacobiPC,DietleinTS,KrieglsteinGK:Techniqueofgoniocurettage:apotentialtreatmentforadvancedchronicopenangleglaucoma.???????????????81:302-307,19974)MincklerDS,BaerveldtG,AlfaroMRetal:Clinicalresultswiththetrabectomefortreatmentofopen-angleglaucoma.?????????????112:962-967,20055)BahlerCK,SmedleyGT,ZhouJetal:Trabecularbypassstentsdecreaseintraocularpressureinculturedhumananteriorsegments.???????????????138:988-994,2004図9耳・鼻側のポイント頭部・眼球の傾斜図10上・下側のポイント顕微鏡のtilting眼球の上転(下転)Chinup(down)

隅角検査の限界(UBMとの比較検討)

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———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSあり,狭隅角眼でわずかに隅角鏡を傾けるだけで隅角のかなり深いところまで観察できるようになったりすることがある.このため,判定にはSha?er分類以上に迷うことがあり,やはり客観性に欠ける.また使用する隅角鏡の種類によっても隅角の広さの評価が異なる場合がある.はじめに隅角検査においては,隅角鏡を用いた方法がそのgoldenstandardであることには変わりはなく,その重要性については言うまでもない.実際,さまざまな隅角の正常・異常所見が直接,肉眼で観察でき,また間接検査法は通常の一般眼科検査の細隙灯顕微鏡検査に引き続いて行うことができる.しかし,隅角鏡による隅角検査は手技・診断に熟練する必要があり客観性にやや乏しいなどの欠点があることも事実である.こういった欠点を補うのが最近一般化されている超音波生体顕微鏡(UBM,図1)で,客観性があり利用価値は高い.本稿では,隅角鏡による隅角検査の弱点とその弱点をいかにUBMが補うかを考えてみたい.I隅角鏡による隅角検査で見逃されやすい所見(表1)1.定量的評価隅角鏡を用いた隅角検査による隅角の広狭の判定で最も一般的なSha?er分類は隅角角度と隅角閉塞の可能性を組み合わせたもので,臨床的にきわめて有用である.しかし隅角鏡所見から凹凸のある複雑な周辺虹彩表面と線維柱帯のなす角度を目測で判定するため,検者の主観や技量の差が大きく影響し,測定誤差が生じる可能性は否定できない.もう一つの隅角の広狭分類であり,隅角構造のどの部分まで観察できるかで判定するScheie分類も,簡便ではあるが隅角鏡を一定の角度に保つ必要が(27)????*KunioIto:三重大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕伊藤邦生:〒514-8507津市江戸橋2-174三重大学医学部眼科学教室特集●隅角のすべてあたらしい眼科23(8):1003~1007,2006隅角検査の限界(UBMとの比較検討)??????????????????????????????????????(????????????????????????????????????????)伊藤邦生*表1隅角鏡による隅角検査で見逃されやすい所見1.定量的評価2.角膜混濁・前房出血例での隅角観察3.暗所での隅角観察4.圧迫隅角検査5.狭・閉塞隅角の病態把握図1UBM装置(Humphrey社Model840)———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006このように隅角鏡による隅角検査では困難な定量的評価は,UBMの最も得意とする点の一つである.UBMでは,実際に得られた隅角断面画像(図2)から,隅角部の実際の距離,角度,面積などが解析ソフトなどを使うことで容易に測定できる.AOD500(angleopeningdistance500mm:scleralspurから500mmの位置での線維柱帯から虹彩表面までの距離),TIA(trabecularirisangle:隅角底の先端とAOD500の2点を結ぶ線のなす角度)などの隅角の定量的指標があり(図3),さまざまな隅角部の臨床研究に利用されている.2.角膜混濁・前房出血例での隅角観察検査の性格上,角膜混濁や前房出血などの細隙灯顕微鏡のスリット光の隅角部への入射を妨げる状況が存在する場合は隅角の観察は困難となる(図4).こういった状況下でもUBMは検査の特性から隅角構造の観察・把握が可能である.図4は虹彩角膜内皮症候群の症例で,角膜に混濁・浮腫があり隅角鏡による隅角観察が困難である.UBMで隅角部に周辺虹彩前癒着があるのが観察できる(図5).3.暗所での隅角観察狭隅角眼において,暗所時の自然散瞳下の隅角所見を観察することは予防的レーザー周辺虹彩切開術の適応を(28)Schwalbe線強膜岬強膜角膜虹彩毛様体水晶体図2正常眼の隅角UBM断面像500mmAOD500TIAScleralspur図3AOD500とTIA(trabecularirisangle)図4角膜混濁眼の前眼部写真BlebPAS図5角膜混濁眼のUBM像———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006????決定するうえで,本来は非常に重要な情報をもたらし,重要なことである.しかし通常の隅角鏡検査では隅角の観察にスリット光が必要となるためどうしても縮瞳してしまい,暗所時の自然散瞳下での隅角観察は困難である(図6).UBM検査については,TVモニターのわずかな明るさは残るものの,眼球に対しほぼ完全な暗所下で検査を行うことが可能である.図7は明所下と暗所下のUBM隅角断面像である.明所では隅角は開いているが,暗所にすると隅角が閉塞するのがわかる.このUBMの特性を利用して,筆者らの施設では予防的レーザー虹彩切開術の前に必ず暗所時自然散瞳下の隅角所見を全周で確認し,適応・施行の参考にしている.4.圧迫隅角検査隅角閉塞は機能的閉塞(appositionalclosure)と器質的閉塞(adhesiveclosure)に区別され,圧迫隅角検査で判別する.しかし間接型隅角鏡を用いた圧迫隅角検査は通常の隅角検査以上に大きく技量の差が影響し,狭隅角の程度が強いと角膜の変形のために観察が困難になる(図8).これまでUBMにおいては,機能的隅角閉塞と器質的隅角閉塞の鑑別は困難とされてきた.しかし,筆者らは特殊なUBM検査用アイカップを開発し使用することで圧迫隅角検査を可能にし,報告した.図9はrelativepupillaryblock眼であるが,圧迫前には虹彩が前方への弓状彎曲を示し,後房が広く,隅角は閉塞している.筆者らの開発したアイカップを用いた圧迫により虹彩が後方(硝子体側)に彎曲し,隅角が開いている.5.狭・閉塞隅角の病態把握狭・閉塞隅角をきたす原因・病態はさまざまあり,単に瞳孔ブロックだけによるものからそれに加えて虹彩付着部を含めた毛様体の形態や水晶体の位置が関与するなどの複雑な混合メカニズムによることもある.通常,隅角鏡では虹彩表面より後方の虹彩内や毛様体突起などの(29)図6スリット光による縮瞳明所時暗所時図7明所・暗所時の隅角UBM像図8隅角鏡による圧迫隅角検査図9UBMによる圧迫隅角検査———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006観察は不可能で,正確な病態の把握をすることはむずかしい.これに対しUBMはこの隅角鏡では観察できない虹彩内部・裏面,毛様体などの観察が可能で,狭・閉塞隅角の病態把握に大きな役割を果たしている.実際には,以下のIIで述べる病態把握・確定診断ができる.IIUBMで確定できる病態(表2)UBMの隅角検査の大きな利点としては,隅角断面像が客観的に観察できること,隅角形態が観察光による影響を受けないことがあげられる.また断面像が観察できることから,特に狭隅角・閉塞隅角眼の診断に大きな力を発揮する.1.プラトー虹彩(図10)虹彩は平坦で中心前房深度は比較的広いにもかかわら(30)ず隅角部は非常に狭く,毛様体の前方回旋と毛様溝の消失が特徴的な所見である.2.悪性緑内障(図11)極端な浅前房,後房の消失,毛様突起の変位・圧排や毛様体脈絡膜滲出が特徴的である.3.原田病による続発閉塞隅角緑内障(図12)浅前房,毛様体前方回旋,毛様体脈絡膜?離が特徴的である.4.虹彩毛様体?腫・腫瘍(図13,14)図13,14はともに隅角が閉塞している.虹彩毛様体表2UBMで確定できる病態1.プラトー虹彩2.悪性緑内障3.原田病による続発閉塞隅角緑内障4.虹彩毛様体?腫・腫瘍図10プラトー虹彩のUBM像図11悪性緑内障のUBM像図13虹彩毛様体?腫のUBM像図14虹彩腫瘍のUBM像図12原田病による続発閉塞隅角緑内障のUBM像———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006????(31)?胞(図13)の内部は低輝度を示し,一方,虹彩腫瘍(図14)では内部が高輝度を示す.III今後の隅角検査としてのanteriorsegmentOCTAnteriorsegmentOCTが最近開発され,VisanteOCT?(Zeiss)として海外で発売になり,話題となっている(図15).光の干渉現象によって画像を描出する従来のOCT(opticalcoherencetomography)の光源波長を変更し,角膜,虹彩,隅角を含めた前眼部を高解像度で観察可能にした装置であるが,わが国ではまだ発売に至っていない.直接角膜に接触する隅角鏡やアイカップを装着しスコピゾルや生理食塩水を貯めて検査するUBMに比べ,VisanteOCT?は非接触での検査であるために角膜結膜の障害や感染などを起こしにくい.さらに,操作や手技も隅角鏡やUBMよりかなり容易で,医師以外での操作も可能である.一般に仰臥位でしか検査できないUBMに比較して,VisanteOCT?は間接型隅角鏡と同様に座位でのみの検査である.ただ装置が高価なことと,虹彩裏面・毛様体などの所見が不明瞭な点が欠点である.おわりにUBMは従来の臨床検査機器にはない特徴を備え,緑内障診療に大きな役割を果たすようになってきた.しかしどの施設にもあるというものではなく,さらにいくらUBMでも現在の精度では隅角鏡を用いた隅角検査では見落とすことのないサルコイド結節や新生血管といった重要な所見や隅角部の色素沈着の程度を捉えることができない.こういったことからも隅角検査での主役はやはり隅角鏡によるものであることに疑いはない.しかし,隅角鏡による隅角検査の欠点をUBMが補える部分も多い.隅角検査では,どちらの方法を用いるかではなく,隅角鏡,UBMそれぞれの利点,欠点を熟知し,両者を併せて観察することによって,確実な緑内障病態の把握,治療が行われ,今後もさまざまな新しい知見がもたらされることが期待される.文献1)北澤克明:隅角アトラス.医学書院,19952)伊藤邦生,宇治幸隆:隅角鏡による隅角検査と超音波生体顕微鏡検査.前眼部疾患と病変の診かた,眼科47(臨時増刊号):1389-1397,20053)伊藤邦生,宇治幸隆:超音波生体顕微鏡や新しい画像解析装置による評価.眼科インストラクションコース7,緑内障細隙灯顕微鏡診断完全マスター,p88-91,メジカルビュー社,20064)PavlinCJ,FosterFS:UltrasoundBiomicroscopyoftheEye.Springer-Verlag,NewYork,19945)MatsunagaK,ItoK,EsakiKetal:Evaluationofeyeswithrelativepapillaryblockbyindentationultrasoundbiomicroscopy.???????????????137:552-554,20046)MatsunagaK,ItoK,EsakiKetal:Evaluationandcom-parisonofindentationultrasoundbiomicroscopygoniosco-pyinrelativepupillaryblock,peripheralanteriorsynechia,andplateauiriscon?guration.??????????13:516-519,2004図15VisanteOCT?(Zeiss)