———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS彩だけでなく虹彩の裏面に位置する毛様体をも含んだ相対構造を評価することができるため,プラトー虹彩の確定診断にはUBMが必須の検査となっている.閉塞隅角緑内障発症のメカニズムには,プラトー虹彩のほかに相対的瞳孔ブロックが関与することが知られており,頻度的には相対的瞳孔ブロックを主たる機序としはじめにプラトー虹彩(plateauiris)とは,最周辺部隅角が非常に狭いにもかかわらず,それより中心側の虹彩がほぼ平坦であり,中央部の前房深度が比較的深めであるような,隅角を中心とした前眼部の特徴的な構造をいう(図1).プラトー虹彩にはplateauiriscon?gurationとpla-teauirissyndromeの2つの概念が存在するので注意が必要である(表1).前者は,プラトー虹彩の解剖学的な特徴を有するものの眼圧上昇などの臨床症状と直結していない状況を指し,後者はプラトー虹彩に基づく眼圧上昇がみられた場合の臨床的診断ということができる.これらのほかに虹彩?胞や毛様体?胞,毛様体浮腫といった,虹彩を下方から押し上げるような器質的異常によってプラトー虹彩様の所見を呈することがあり,偽プラトー虹彩(pseudoplateauiris)とよばれている1).プラトー虹彩の診断のためには隅角構造を適切に評価することが最も重要である.隅角構造の評価には隅角鏡検査が現在でも最も一般的であるが,観察光や意図しない圧迫の影響を完全に避けることはむずかしい.またプラトー虹彩で重要視される毛様体の相対的位置については隅角鏡ではなんの情報も得られないため,隅角鏡だけですべてのプラトー虹彩の診断を下すのは困難である.それに対しultrasoundbiomicroscopy(UBM)による検査では,圧迫や観察光の影響をほとんど受けることがないため,より自然な状態の評価が可能であり,隅角と虹(21)???*HiroyoHirasawa:東京逓信病院眼科**AtsuoTomidokoro:東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学〔別刷請求先〕平澤裕代:〒102-8798東京都千代田区富士見2-14-23東京逓信病院眼科特集●隅角のすべてあたらしい眼科23(8):997~1001,2006プラトー虹彩????????????平澤裕代*富所敦男**図1プラトー虹彩模式図最周辺部隅角が非常に狭く,平坦な虹彩が特徴である.中央部の前房深度は比較的深い.表1プラトー虹彩の分類●Plateauiriscon?gurationプラトー虹彩の解剖学的な特徴を有するものを指す.隅角鏡検査によって特徴的な所見から診断される.●Plateauirissyndromeプラトー虹彩に基づく眼圧上昇がみられた場合になされる臨床的診断.実際にはplateauiriscon?gurationのなかでLIまたはPI施行後も隅角閉塞が解除されない場合に診断される.●Pseudoplateauiris(偽プラトー虹彩)毛様体?胞,毛様体浮腫などの虹彩根部を下から押し上げる何らかの器質的異常によりプラトー虹彩様の所見を呈するもの.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006て発症してくる閉塞隅角緑内障のほうが多いと考えられている.一般にプラトー虹彩とされる症例についても,実際には両メカニズムが混在する例が多く,個々の症例において両者を完全に分別することは困難である(図2).相対的瞳孔ブロックの影響をできるだけ除いてプラトー虹彩を評価するために,レーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)または周辺虹彩切除術(peripheraliri-dectomy:PI)を施行した後の隅角構造をUBMなどで評価することが推奨される.なお,上述のplateauirissyndromeでは,LIまたはPI施行後にもプラトー虹彩による隅角閉塞が持続するということが診断のための重要なポイントとなっている.したがって,純粋なプラトー虹彩(plateauirissyn-drome)では,LIまたはPIで相対的瞳孔ブロックを解除するだけでは,眼圧上昇のリスクを回避することができず,水晶体摘出(≒白内障手術)を含んだ観血的手術が必要となることが少なくない.逆にいえば,プラトー虹彩の要素を含んだ閉塞隅角緑内障眼において,それに気づかずLIまたはPIの施行だけで安心してしまうと,急性または慢性の眼圧上昇のリスクを残存させてしまうことにも注意が必要である.以下に,プラトー虹彩の診断と治療において重要な各ポイントについて詳説する.I隅角閉塞の発生機序プラトー虹彩がみせる臨床上の特徴を理解するために,隅角閉塞のメカニズムをその原因別に明らかにしておこう.相対的瞳孔ブロックを起こす重要な背景要因は,水晶体と眼球との大きさのアンバランスさである.すなわち小さい眼球に対して水晶体が相対的に大きく,前方へ偏位している.そのため瞳孔領で虹彩裏面と水晶体との間を流れる房水の流出抵抗が増大し,後房の圧が高まる.後房から押された虹彩は前方へ膨隆し,隅角が狭くなる.このメカニズムが相対的瞳孔ブロックである(図3).したがって,相対的瞳孔ブロックによる隅角閉塞では中央前房深度もそれなりに浅く,虹彩はゆるやかに前彎し,周辺部隅角が閉塞している.この状態に対して,LIまたはPIを行えば,前房と後房の圧較差が解消されるため,相対的瞳孔ブロックは解消し,隅角は開大する.(22)瞳孔ブロックによる隅角閉塞プラトー虹彩による隅角閉塞隅角閉塞発症!図2隅角閉塞発症のメカニズム隅角閉塞には相対的瞳孔ブロックとプラトー虹彩の両機序が混在することが多い.図3相対的瞳孔ブロックによる隅角閉塞瞳孔領での房水流出抵抗増加により後房圧が上昇するため虹彩が前方へ膨隆している.周辺部隅角は完全に閉塞し,中央前房深度も浅い.縮瞳時散瞳時図4プラトー虹彩による隅角閉塞本来,虹彩根部と隅角線維柱帯との距離がきわめて短い.散瞳によって虹彩が弛緩し厚みを増すと,虹彩根部が直接に隅角を閉塞する.周辺部隅角は閉塞しているが中央前房深度は比較的深いままである.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006???一方,プラトー虹彩による隅角閉塞は,虹彩根部と線維柱帯との距離がそもそも非常に短い.すなわち房水の圧較差は関与していない.そこで散瞳のような虹彩が弛緩し厚みを増す状態では,虹彩根部が直接線維柱帯を塞ぎ,隅角閉塞をきたすのである(図4).この場合,中央前房深度は比較的深いにもかかわらず周辺部隅角が閉塞している.当然のことながら,この病態に対してLIまたはPIを行っても隅角閉塞を解除する助けにはならない.実際の臨床では,相対的瞳孔ブロックとプラトー虹彩との両者のメカニズムがさまざまな比率で混在し,隅角閉塞を生じていると考えてよい.日常診療において,隅角が狭いわりには中央前房深度が浅くないような症例をみた場合,プラトー虹彩を想起することは容易である.注意するべきは,プラトー虹彩に相対的瞳孔ブロックによる隅角閉塞を併発した場合である.この場合,LIまたはPIを施行した後も隅角閉塞が生じうるので,プラトー虹彩の要素の有無を念頭においた経過観察が必要である.IIプラトー虹彩の隅角所見通常の隅角鏡検査では,虹彩の最後の隆起が高く,隅角の入り口を狭めるようにそびえたち,そこから急激に下方に屈曲していく様子が認められる.虹彩根部は線維柱帯のすぐ傍まで迫り,虹彩根部と線維柱帯の間がきわめて狭くなっている.さらに圧迫隅角検査を行うと,虹彩の両端の位置は変わらず,中央部分が陥没したかのような所見をみることができる.これをdoublehumpsignという.本来圧迫により下方に偏位するはずの虹彩根部が毛様体に支えられているため,下方偏位しないために生ずる所見である.結果的に毛様体に支えられている虹彩根部と水晶体前面上にある瞳孔領側の虹彩先端に比べて,中間地帯の虹彩が下方に陥没したかのようにみえるのである.隅角閉塞の主要原因である瞳孔ブロックとプラトー虹彩は隅角検査からある程度鑑別することができる.周辺部隅角が非常に狭いのは両者ともに同様であるが,前者では虹彩が全体的に前方に膨隆し,全体的に隅角が狭くなるのに対し,後者では虹彩が平坦であり,虹彩根部で急峻に隅角底へ向かうため,特に周辺部隅角が際立って狭くなる.IIIプラトー虹彩のUBM所見Plateauirissyndromeでは,LIまたはPIによって前後房の圧較差を解消してもなお虹彩根部が下方へ偏位せず,隅角を閉塞しうる位置に依然として存在する.UBM登場以前,その理由を明らかにすることはできなかった.その原因が,毛様体の前方偏位にあり,毛様体自身が虹彩根部を下方から押し上げている様子がUBMによって明らかとなったのは今から14年前のことである2).UBMはあたかも眼球を切断したかのように鮮やかな断面像を得ることができる.つまり,隅角鏡ではまったく見ることができなかった虹彩の裏側の様子を知ることができるのである.プラトー虹彩眼では,比較的深い中央前房深度と平坦な虹彩,さらに虹彩根部が前方偏位した毛様体に支えられ線維柱帯に非常に接近している特徴的な構造をみることができる.毛様体が前方偏位しているため毛様溝はほぼ消失している(図5).ここで最も重要なことはプラトー虹彩眼では毛様体が前方偏位していることである.瞳孔ブロックによる隅角閉塞の患者では毛様体の位置はさまざまであるのに対し,プラトー虹彩患者では一様に前方偏位していること(23)図5プラトー虹彩のUBM所見比較的深い中央前房深度と平坦な虹彩,毛様体に支えられた虹彩根部が線維柱帯に非常に接近している様子がみられる.毛様体が前方偏位しているため毛様溝はほぼ消失している.———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006が知られている.毛様体の前方偏位により,毛様溝はほぼ消失し,必然的に虹彩根部を下から支える形となる.したがって,LIやPI施行後であっても虹彩根部が「落ち窪む」ことはできないのである.UBM所見を詳細に検討しよう.まず,虹彩が平坦であるということは,前房と後房の圧較差がほとんどないことを示している.したがって,瞳孔ブロックの機序による隅角閉塞の影響は乏しいと理解してよい.さらにプラトー虹彩眼では毛様体が前方偏位しているため,正常人と比べ,隅角自体が非常に密になっていることがわかる.すなわち,線維柱帯から毛様体までの距離,Zinn小帯起始部から虹彩裏面までの距離,周辺部隅角開大度が正常人に比べて狭くなっている(図6).IV治療方針隅角閉塞の患者を前に,プラトー虹彩の存在が疑われる場合,まず何をするべきか.保存的療法としてピロカルピン点眼により縮瞳させ,虹彩根部の伸展から隅角閉塞の改善を図る方法があるが,効果は不確実であり,つぎの手を打つ必要がある.まず試みるべき方法はLIである.相対的瞳孔ブロックよりもプラトー虹彩による隅角閉塞が強く疑われた場合でも同様である.なぜならば,多少なりとも相対的瞳孔ブロックの要素を解消し,隅角閉塞のリスクを減じておくことが重要だからである.水疱性角膜症のリスクが高いなど,安全なLIが困難と考えられる症例ではPIを選択する.相対的瞳孔ブロック機序を解除し,幸いにも隅角閉塞が解除されたとしても油断は禁物である.隅角閉塞が解除された場合でも,plateauiriscon?gurationが存在するならば,数年の経過を経てplateauirissyn-dromeが発症する場合があることが知られている.長期的な経過観察が必要である.LIまたはPIを施行しても膨隆虹彩が解消されるにとどまり,周辺部隅角の開大が得られない場合,これがplateauirissyndromeである(図7).前房と後房の圧較差が解消しても,前方偏位した毛様体が虹彩根部の下方への移動を妨げるために,周辺部隅角の開大が得られないのである.UBM画像上,LIやPI施行前後で,隅角の開大度は変わらず,依然隅角閉塞の危険性が生じていることがみてとれる.Plateauirissyndromeの場合,つぎなる一手としてレーザー隅角形成術を試みてよい.周辺虹彩表面の熱収縮により隅角の開大が期待できる(図8).ちょうど隅角組織に接する周辺部の虹彩表面を軽度に熱収縮させれば,隅角はかなり強制的に開大される.虹彩周辺部のなかでも,より周辺側を熱収縮させたほうが隅角の開大は得られる.しかしながら,長期にわたる観察例が少ないため,隅角開大効果の持続がどれほど期待できるか明確でなく,長期予後は不明である.また,レーザー隅角形(24)正常眼プラトー虹彩眼500mm500mm①①③③②②図6正常眼とプラトー虹彩眼との比較①強膜?毛様体距離,②虹彩?Zinn小帯距離,③周辺部隅角距離.いずれも正常眼に比べプラトー虹彩眼のほうが小さく密な隅角構造である.周辺部虹彩切開術図7相対的瞳孔ブロックを合併したplateauirissyndromeLIまたはPIにより前房後房の圧較差が消失し膨隆虹彩は解除されたが,虹彩根部の下方移動が毛様体に妨げられ,虹彩根部が線維柱帯に接近したままである.レーザー照射位置が中途半端で隅角の開大が不十分周辺側にレーザー照射を行い隅角が開大している図8レーザー隅角形成術後周辺虹彩表面が熱収縮し,菲薄化する.虹彩周辺部のより周辺側を熱収縮させたほうが隅角の開大は得られる.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006????(25)成術によって毛様体の前方偏位の改善は当然のことながら期待できない.有効なLIやPI,十分な隅角形成術を施行してもなお隅角閉塞が持続する場合,隅角癒着解離術や線維柱帯切除術を試みることになる.Plateauirissyndromeに対する治療法として水晶体摘出(≒白内障手術)も検討に値する.水晶体を摘出することにより解剖学的容積が大幅に減少することから,隅角開大効果が期待できる.しかしながら,白内障手術後も毛様体の前方偏位が持続し,虹彩根部を押し上げたまま隅角閉塞の解除が得られないとの報告2)もあり,術後も引き続き注意深い経過観察が重要である.プラトー虹彩に対する治療方針を表2にまとめた.V今後の展望UBM登場以前から現在まで,プラトー虹彩眼に対しては隅角鏡検査でplateauiriscon?gurationを疑い,LIまたはPI施行後も隅角閉塞が生じた場合にplateauirissyndromeと診断される.UBMが普及し,隅角断面像から定量的解析が可能になった今,隅角構造を客観的数値として評価することが可能になっている.現在は隅角鏡所見というアナログ的な所見に基づいてplateauiriscon?gurationを診断するほかないが,今後,plateauiriscon?gurationと診断するに足るUBM検査に基づいた数値的基準が登場することを期待している.さらにplateauiriscon?gurationにとどまる症例とplateauirissyndromeへ進展しうる症例との構造的な違いが客観的な数値として明らかになればなおよい.UBMによる客観的診断が可能になれば,プラトー虹彩の治療に際して,早い段階で予後が予想でき確実な治療の一助になるだろうと期待している.プラトー虹彩の根本的な原因である毛様体の前方偏位の原因となるような質的変化は今までのところ報告されていない3).人体のさまざまな器官における個人差と同様,毛様体の大きさと位置の分布にもそれなりの幅があるのも妥当である.毛様体の前方偏位は純粋に解剖学的variantなのかもしれない.病的な変化をきたさないplateauiriscon?gurationと強固に隅角閉塞をきたすplateauirissyndromeとの差異もまた,解剖学的vari-antのもたらす差にすぎないのかもしれない.プラトー虹彩の根本原因の治療法は今後の課題であろう.文献1)AllinghamRR:Shields?TextbookofGlaucoma.p313-317,LippincotWilliams&Wilkins,Philadelphia,20052)PavlinCJ,RitchR,FosterFS:Ultrasoundbiomicroscopyinplateauirissyndrome.???????????????113:390-395,19923)WandM,PavlinCJ,FosterFS:Plateauirissyndrome:ultrasoundbiomicroscopicandhistologicstudy.????????????????24:129-132,1993表2プラトー虹彩の対処法●保存的療法ピロカルピン点眼●手術療法・レーザー虹彩切開術・周辺虹彩切除術・レーザー隅角形成術・水晶体摘出術(≒白内障手術)・隅角癒着解離術・線維柱帯切除術