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プラトー虹彩

2006年8月31日 木曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS彩だけでなく虹彩の裏面に位置する毛様体をも含んだ相対構造を評価することができるため,プラトー虹彩の確定診断にはUBMが必須の検査となっている.閉塞隅角緑内障発症のメカニズムには,プラトー虹彩のほかに相対的瞳孔ブロックが関与することが知られており,頻度的には相対的瞳孔ブロックを主たる機序としはじめにプラトー虹彩(plateauiris)とは,最周辺部隅角が非常に狭いにもかかわらず,それより中心側の虹彩がほぼ平坦であり,中央部の前房深度が比較的深めであるような,隅角を中心とした前眼部の特徴的な構造をいう(図1).プラトー虹彩にはplateauiriscon?gurationとpla-teauirissyndromeの2つの概念が存在するので注意が必要である(表1).前者は,プラトー虹彩の解剖学的な特徴を有するものの眼圧上昇などの臨床症状と直結していない状況を指し,後者はプラトー虹彩に基づく眼圧上昇がみられた場合の臨床的診断ということができる.これらのほかに虹彩?胞や毛様体?胞,毛様体浮腫といった,虹彩を下方から押し上げるような器質的異常によってプラトー虹彩様の所見を呈することがあり,偽プラトー虹彩(pseudoplateauiris)とよばれている1).プラトー虹彩の診断のためには隅角構造を適切に評価することが最も重要である.隅角構造の評価には隅角鏡検査が現在でも最も一般的であるが,観察光や意図しない圧迫の影響を完全に避けることはむずかしい.またプラトー虹彩で重要視される毛様体の相対的位置については隅角鏡ではなんの情報も得られないため,隅角鏡だけですべてのプラトー虹彩の診断を下すのは困難である.それに対しultrasoundbiomicroscopy(UBM)による検査では,圧迫や観察光の影響をほとんど受けることがないため,より自然な状態の評価が可能であり,隅角と虹(21)???*HiroyoHirasawa:東京逓信病院眼科**AtsuoTomidokoro:東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学〔別刷請求先〕平澤裕代:〒102-8798東京都千代田区富士見2-14-23東京逓信病院眼科特集●隅角のすべてあたらしい眼科23(8):997~1001,2006プラトー虹彩????????????平澤裕代*富所敦男**図1プラトー虹彩模式図最周辺部隅角が非常に狭く,平坦な虹彩が特徴である.中央部の前房深度は比較的深い.表1プラトー虹彩の分類●Plateauiriscon?gurationプラトー虹彩の解剖学的な特徴を有するものを指す.隅角鏡検査によって特徴的な所見から診断される.●Plateauirissyndromeプラトー虹彩に基づく眼圧上昇がみられた場合になされる臨床的診断.実際にはplateauiriscon?gurationのなかでLIまたはPI施行後も隅角閉塞が解除されない場合に診断される.●Pseudoplateauiris(偽プラトー虹彩)毛様体?胞,毛様体浮腫などの虹彩根部を下から押し上げる何らかの器質的異常によりプラトー虹彩様の所見を呈するもの.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006て発症してくる閉塞隅角緑内障のほうが多いと考えられている.一般にプラトー虹彩とされる症例についても,実際には両メカニズムが混在する例が多く,個々の症例において両者を完全に分別することは困難である(図2).相対的瞳孔ブロックの影響をできるだけ除いてプラトー虹彩を評価するために,レーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)または周辺虹彩切除術(peripheraliri-dectomy:PI)を施行した後の隅角構造をUBMなどで評価することが推奨される.なお,上述のplateauirissyndromeでは,LIまたはPI施行後にもプラトー虹彩による隅角閉塞が持続するということが診断のための重要なポイントとなっている.したがって,純粋なプラトー虹彩(plateauirissyn-drome)では,LIまたはPIで相対的瞳孔ブロックを解除するだけでは,眼圧上昇のリスクを回避することができず,水晶体摘出(≒白内障手術)を含んだ観血的手術が必要となることが少なくない.逆にいえば,プラトー虹彩の要素を含んだ閉塞隅角緑内障眼において,それに気づかずLIまたはPIの施行だけで安心してしまうと,急性または慢性の眼圧上昇のリスクを残存させてしまうことにも注意が必要である.以下に,プラトー虹彩の診断と治療において重要な各ポイントについて詳説する.I隅角閉塞の発生機序プラトー虹彩がみせる臨床上の特徴を理解するために,隅角閉塞のメカニズムをその原因別に明らかにしておこう.相対的瞳孔ブロックを起こす重要な背景要因は,水晶体と眼球との大きさのアンバランスさである.すなわち小さい眼球に対して水晶体が相対的に大きく,前方へ偏位している.そのため瞳孔領で虹彩裏面と水晶体との間を流れる房水の流出抵抗が増大し,後房の圧が高まる.後房から押された虹彩は前方へ膨隆し,隅角が狭くなる.このメカニズムが相対的瞳孔ブロックである(図3).したがって,相対的瞳孔ブロックによる隅角閉塞では中央前房深度もそれなりに浅く,虹彩はゆるやかに前彎し,周辺部隅角が閉塞している.この状態に対して,LIまたはPIを行えば,前房と後房の圧較差が解消されるため,相対的瞳孔ブロックは解消し,隅角は開大する.(22)瞳孔ブロックによる隅角閉塞プラトー虹彩による隅角閉塞隅角閉塞発症!図2隅角閉塞発症のメカニズム隅角閉塞には相対的瞳孔ブロックとプラトー虹彩の両機序が混在することが多い.図3相対的瞳孔ブロックによる隅角閉塞瞳孔領での房水流出抵抗増加により後房圧が上昇するため虹彩が前方へ膨隆している.周辺部隅角は完全に閉塞し,中央前房深度も浅い.縮瞳時散瞳時図4プラトー虹彩による隅角閉塞本来,虹彩根部と隅角線維柱帯との距離がきわめて短い.散瞳によって虹彩が弛緩し厚みを増すと,虹彩根部が直接に隅角を閉塞する.周辺部隅角は閉塞しているが中央前房深度は比較的深いままである.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006???一方,プラトー虹彩による隅角閉塞は,虹彩根部と線維柱帯との距離がそもそも非常に短い.すなわち房水の圧較差は関与していない.そこで散瞳のような虹彩が弛緩し厚みを増す状態では,虹彩根部が直接線維柱帯を塞ぎ,隅角閉塞をきたすのである(図4).この場合,中央前房深度は比較的深いにもかかわらず周辺部隅角が閉塞している.当然のことながら,この病態に対してLIまたはPIを行っても隅角閉塞を解除する助けにはならない.実際の臨床では,相対的瞳孔ブロックとプラトー虹彩との両者のメカニズムがさまざまな比率で混在し,隅角閉塞を生じていると考えてよい.日常診療において,隅角が狭いわりには中央前房深度が浅くないような症例をみた場合,プラトー虹彩を想起することは容易である.注意するべきは,プラトー虹彩に相対的瞳孔ブロックによる隅角閉塞を併発した場合である.この場合,LIまたはPIを施行した後も隅角閉塞が生じうるので,プラトー虹彩の要素の有無を念頭においた経過観察が必要である.IIプラトー虹彩の隅角所見通常の隅角鏡検査では,虹彩の最後の隆起が高く,隅角の入り口を狭めるようにそびえたち,そこから急激に下方に屈曲していく様子が認められる.虹彩根部は線維柱帯のすぐ傍まで迫り,虹彩根部と線維柱帯の間がきわめて狭くなっている.さらに圧迫隅角検査を行うと,虹彩の両端の位置は変わらず,中央部分が陥没したかのような所見をみることができる.これをdoublehumpsignという.本来圧迫により下方に偏位するはずの虹彩根部が毛様体に支えられているため,下方偏位しないために生ずる所見である.結果的に毛様体に支えられている虹彩根部と水晶体前面上にある瞳孔領側の虹彩先端に比べて,中間地帯の虹彩が下方に陥没したかのようにみえるのである.隅角閉塞の主要原因である瞳孔ブロックとプラトー虹彩は隅角検査からある程度鑑別することができる.周辺部隅角が非常に狭いのは両者ともに同様であるが,前者では虹彩が全体的に前方に膨隆し,全体的に隅角が狭くなるのに対し,後者では虹彩が平坦であり,虹彩根部で急峻に隅角底へ向かうため,特に周辺部隅角が際立って狭くなる.IIIプラトー虹彩のUBM所見Plateauirissyndromeでは,LIまたはPIによって前後房の圧較差を解消してもなお虹彩根部が下方へ偏位せず,隅角を閉塞しうる位置に依然として存在する.UBM登場以前,その理由を明らかにすることはできなかった.その原因が,毛様体の前方偏位にあり,毛様体自身が虹彩根部を下方から押し上げている様子がUBMによって明らかとなったのは今から14年前のことである2).UBMはあたかも眼球を切断したかのように鮮やかな断面像を得ることができる.つまり,隅角鏡ではまったく見ることができなかった虹彩の裏側の様子を知ることができるのである.プラトー虹彩眼では,比較的深い中央前房深度と平坦な虹彩,さらに虹彩根部が前方偏位した毛様体に支えられ線維柱帯に非常に接近している特徴的な構造をみることができる.毛様体が前方偏位しているため毛様溝はほぼ消失している(図5).ここで最も重要なことはプラトー虹彩眼では毛様体が前方偏位していることである.瞳孔ブロックによる隅角閉塞の患者では毛様体の位置はさまざまであるのに対し,プラトー虹彩患者では一様に前方偏位していること(23)図5プラトー虹彩のUBM所見比較的深い中央前房深度と平坦な虹彩,毛様体に支えられた虹彩根部が線維柱帯に非常に接近している様子がみられる.毛様体が前方偏位しているため毛様溝はほぼ消失している.———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006が知られている.毛様体の前方偏位により,毛様溝はほぼ消失し,必然的に虹彩根部を下から支える形となる.したがって,LIやPI施行後であっても虹彩根部が「落ち窪む」ことはできないのである.UBM所見を詳細に検討しよう.まず,虹彩が平坦であるということは,前房と後房の圧較差がほとんどないことを示している.したがって,瞳孔ブロックの機序による隅角閉塞の影響は乏しいと理解してよい.さらにプラトー虹彩眼では毛様体が前方偏位しているため,正常人と比べ,隅角自体が非常に密になっていることがわかる.すなわち,線維柱帯から毛様体までの距離,Zinn小帯起始部から虹彩裏面までの距離,周辺部隅角開大度が正常人に比べて狭くなっている(図6).IV治療方針隅角閉塞の患者を前に,プラトー虹彩の存在が疑われる場合,まず何をするべきか.保存的療法としてピロカルピン点眼により縮瞳させ,虹彩根部の伸展から隅角閉塞の改善を図る方法があるが,効果は不確実であり,つぎの手を打つ必要がある.まず試みるべき方法はLIである.相対的瞳孔ブロックよりもプラトー虹彩による隅角閉塞が強く疑われた場合でも同様である.なぜならば,多少なりとも相対的瞳孔ブロックの要素を解消し,隅角閉塞のリスクを減じておくことが重要だからである.水疱性角膜症のリスクが高いなど,安全なLIが困難と考えられる症例ではPIを選択する.相対的瞳孔ブロック機序を解除し,幸いにも隅角閉塞が解除されたとしても油断は禁物である.隅角閉塞が解除された場合でも,plateauiriscon?gurationが存在するならば,数年の経過を経てplateauirissyn-dromeが発症する場合があることが知られている.長期的な経過観察が必要である.LIまたはPIを施行しても膨隆虹彩が解消されるにとどまり,周辺部隅角の開大が得られない場合,これがplateauirissyndromeである(図7).前房と後房の圧較差が解消しても,前方偏位した毛様体が虹彩根部の下方への移動を妨げるために,周辺部隅角の開大が得られないのである.UBM画像上,LIやPI施行前後で,隅角の開大度は変わらず,依然隅角閉塞の危険性が生じていることがみてとれる.Plateauirissyndromeの場合,つぎなる一手としてレーザー隅角形成術を試みてよい.周辺虹彩表面の熱収縮により隅角の開大が期待できる(図8).ちょうど隅角組織に接する周辺部の虹彩表面を軽度に熱収縮させれば,隅角はかなり強制的に開大される.虹彩周辺部のなかでも,より周辺側を熱収縮させたほうが隅角の開大は得られる.しかしながら,長期にわたる観察例が少ないため,隅角開大効果の持続がどれほど期待できるか明確でなく,長期予後は不明である.また,レーザー隅角形(24)正常眼プラトー虹彩眼500mm500mm①①③③②②図6正常眼とプラトー虹彩眼との比較①強膜?毛様体距離,②虹彩?Zinn小帯距離,③周辺部隅角距離.いずれも正常眼に比べプラトー虹彩眼のほうが小さく密な隅角構造である.周辺部虹彩切開術図7相対的瞳孔ブロックを合併したplateauirissyndromeLIまたはPIにより前房後房の圧較差が消失し膨隆虹彩は解除されたが,虹彩根部の下方移動が毛様体に妨げられ,虹彩根部が線維柱帯に接近したままである.レーザー照射位置が中途半端で隅角の開大が不十分周辺側にレーザー照射を行い隅角が開大している図8レーザー隅角形成術後周辺虹彩表面が熱収縮し,菲薄化する.虹彩周辺部のより周辺側を熱収縮させたほうが隅角の開大は得られる.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006????(25)成術によって毛様体の前方偏位の改善は当然のことながら期待できない.有効なLIやPI,十分な隅角形成術を施行してもなお隅角閉塞が持続する場合,隅角癒着解離術や線維柱帯切除術を試みることになる.Plateauirissyndromeに対する治療法として水晶体摘出(≒白内障手術)も検討に値する.水晶体を摘出することにより解剖学的容積が大幅に減少することから,隅角開大効果が期待できる.しかしながら,白内障手術後も毛様体の前方偏位が持続し,虹彩根部を押し上げたまま隅角閉塞の解除が得られないとの報告2)もあり,術後も引き続き注意深い経過観察が重要である.プラトー虹彩に対する治療方針を表2にまとめた.V今後の展望UBM登場以前から現在まで,プラトー虹彩眼に対しては隅角鏡検査でplateauiriscon?gurationを疑い,LIまたはPI施行後も隅角閉塞が生じた場合にplateauirissyndromeと診断される.UBMが普及し,隅角断面像から定量的解析が可能になった今,隅角構造を客観的数値として評価することが可能になっている.現在は隅角鏡所見というアナログ的な所見に基づいてplateauiriscon?gurationを診断するほかないが,今後,plateauiriscon?gurationと診断するに足るUBM検査に基づいた数値的基準が登場することを期待している.さらにplateauiriscon?gurationにとどまる症例とplateauirissyndromeへ進展しうる症例との構造的な違いが客観的な数値として明らかになればなおよい.UBMによる客観的診断が可能になれば,プラトー虹彩の治療に際して,早い段階で予後が予想でき確実な治療の一助になるだろうと期待している.プラトー虹彩の根本的な原因である毛様体の前方偏位の原因となるような質的変化は今までのところ報告されていない3).人体のさまざまな器官における個人差と同様,毛様体の大きさと位置の分布にもそれなりの幅があるのも妥当である.毛様体の前方偏位は純粋に解剖学的variantなのかもしれない.病的な変化をきたさないplateauiriscon?gurationと強固に隅角閉塞をきたすplateauirissyndromeとの差異もまた,解剖学的vari-antのもたらす差にすぎないのかもしれない.プラトー虹彩の根本原因の治療法は今後の課題であろう.文献1)AllinghamRR:Shields?TextbookofGlaucoma.p313-317,LippincotWilliams&Wilkins,Philadelphia,20052)PavlinCJ,RitchR,FosterFS:Ultrasoundbiomicroscopyinplateauirissyndrome.???????????????113:390-395,19923)WandM,PavlinCJ,FosterFS:Plateauirissyndrome:ultrasoundbiomicroscopicandhistologicstudy.????????????????24:129-132,1993表2プラトー虹彩の対処法●保存的療法ピロカルピン点眼●手術療法・レーザー虹彩切開術・周辺虹彩切除術・レーザー隅角形成術・水晶体摘出術(≒白内障手術)・隅角癒着解離術・線維柱帯切除術

隅角の異常所見と鑑別診断

2006年8月31日 木曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSぶどう膜炎に伴って認められる代表的な隅角所見として隅角結節がある.わが国では原因としてサルコイドーシスの頻度が高い.ちょうど隅角・線維柱帯の中央部に白色塊状の隆起性病変として認められる.典型的には下方で好発する.サルコイドーシス診断の契機になることもあり,重要な所見であるがステロイド薬による治療を開始すると,速やかに消失することが多い.治療開始前に隅角所見を観察する必要がある.Posner-Schlossman症候群では角膜後面沈着物と同様の小白色沈着物を,線維柱帯表面に認めることがある.たとえば,Beh?et病など前房蓄膿をきたす疾患では,細隙灯顕微鏡では確認できない微量の前房蓄膿が隅角検査で発見されることがあり,隅角蓄膿(anglehypopyon)とよばれる.また,ぶどう膜炎ではしばしばPASが認められる.PASそのものはすべて病的所見と考えるべきであるが,ときに虹彩突起など正常構造との鑑別がむずかしいことがある.細隙灯顕微鏡所見など他の所見との組み合わせはじめに緑内障においても病型決定,鑑別診断が,有効かつ的確な治療の第一歩であり,その点で隅角検査は緑内障診療にとって欠かすことのできない検査の一つである.昨今はさまざまな事情から非接触検査が好まれ,隅角検査も敬遠されがちであるが,開放隅角緑内障(POAG)・広義にとっては除外診断,原発閉塞隅角緑内障(PACG)やさまざまな続発緑内障にとっては確定診断,さらに治療の指標などにもなり,適切な機会に隅角検査を行うことは基本中の基本である.本稿では,おもに続発緑内障を中心にみられる代表的な隅角の異常所見とその鑑別について述べる.Iぶどう膜炎疾患:サルコイドーシス,Beh?et病,その他.所見:隅角結節(anglenodule:図1),周辺虹彩前癒着(PAS),隅角蓄膿(anglehypopyon).(17)???*TakeoFukuchi:新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野〔別刷請求先〕福地健郎:〒951-8510新潟市旭町通一番町754新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野特集●隅角のすべてあたらしい眼科23(8):993~996,2006隅角の異常所見と鑑別診断??????????????????????????????????????????????福地健郎*図1サルコイドーシス(隅角結節)サルコイドーシスでは隅角・線維柱帯部に白色の結節を認める(左).右はサクションゴニオスコピーによる所見で,Schlemm管内に血液が逆流している.結節の部分には血液が観察されず,結節によってその部のSchlemm管も閉塞していると考えられる.(写真は岩田和雄・新潟大名誉教授のご厚意による)———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006によって鑑別する.PASは原発・続発閉塞隅角緑内障などさまざまな病態で認められる.したがって,ぶどう膜炎によるPASなのか,他の緑内障によるものなのかを鑑別が必要である.鑑別については成書を参照のこと1,2).II外傷疾患:鈍的眼外傷.所見:隅角離断・外傷性隅角後退(traumaticanglerecession)(図2),虹彩離断(図2),毛様体離断(cyclodialysis),周辺虹彩前癒着(PAS).鈍的眼外傷は前眼部から後眼部,さらには眼窩内にもさまざまな障害を,かつさまざまな組み合わせで生ずる可能性があり,眼科医にとっていやな疾患の一つである.緑内障の点では前房出血や隅角の損傷,水晶体の脱臼・亜脱臼などさまざまなメカニズムが眼圧上昇にかかわり,治療に難渋することがしばしばである.隅角所見に関しては外傷性隅角後退,PAS,虹彩離断,毛様体離断,隅角裂傷など,さまざまな所見の組み合わせとして認められる.隅角後退そのものが眼圧を上昇させるわけではなく,隅角後退の程度と眼圧上昇の頻度は必ずしも相関しないといわれている.しかし,受傷後の隅角所見の有無,程度判定は,前眼部への外傷の程度を推測し,大まかに予後を推測するうえで意義がある.隅角検査は一般的には,受傷後1週程度経過したころに行うのが良い.前房出血がみられるような例では,むしろ前眼部の安静と再出血予防を優先すべきで受傷直後に隅角検査を行うことは勧められない.鈍的外傷後の時間経過と眼圧上昇のメカニズムには隅角・線維柱帯の外傷に対する瘢痕化が強くかかわっていると考えられるが,実際にはかなり複雑で,おそらく組み合わせによって生ずると理解する必要がある.III隅角の色素沈着疾患:落?緑内障(図3),色素性緑内障,ぶどう膜炎(帯状疱疹に伴う続発緑内障など),ICE(虹彩角膜内皮)症候群,アミロイドーシス,ghostcellglaucoma,眼メラノーシス(図4),その他.所見:Sampaolesi線(図3右).隅角の色素沈着は必ずしも病的な所見ではなく,正常(18)図2鈍的外傷鈍的外傷後には,周辺虹彩前癒着(PAS),隅角後退,虹彩離断,毛様体解離などさまざまな隅角所見が組み合わせとしてみられる.虹彩離断隅角後退PAS図3落?緑内障(隅角の色素沈着1)隅角に高度の色素沈着を示す代表的疾患として落?緑内障を示した.色素帯を中心に線維柱帯に高度の色素沈着を示しており(左),しばしばおもに下方隅角ではSchwalbe線を越えて色素のラインを呈し,Sampaolesi線とよばれる(右).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006???眼でも加齢とともに色素沈着が増加する傾向にある.しかし,他の前眼部所見や臨床所見との組み合わせで緑内障診断に重要な意味をもつことがある.落?緑内障はその代表で,落?物質の沈着とともに著しい色素沈着を示す.症例によってはSchwalbe線を越えるような位置に色素線がみられ,Sampaolesi線とよばれる.正常眼圧緑内障(NTG)と診断され近医で経過を観察されていた症例がある.片眼のみ次第に眼圧が上昇し,最終的には30mmHgを超え,コントロールができないとのことで紹介された.隅角検査では色素沈着が著しく,散瞳してみたところ落?物質が水晶体表面に発見された.NTGに落?緑内障が合併したものと考えられた.このような症例では眼圧上昇とともに視野障害が急速に進行することがあり注意が必要である.色素性緑内障は眼圧上昇と隅角の高度の色素沈着を示す緑内障の代表である.虹彩後面と水晶体が接触し機械的に擦れることで虹彩色素上皮細胞から色素顆粒が散布され,隅角に沈着,眼圧が上昇すると考えられている.強度近視をしばしば伴い,隅角の強い色素沈着に加えて虹彩の変化がみられる.虹彩はしばしば後彎し,いわゆるreversepupillaryblockの所見を示す.欧米においてはポピュラーな病型であるのに対して,わが国においては典型例に遭遇することは少ない.帯状疱疹に伴って強い虹彩毛様体炎を生ずることがあるが,しばしば著しい眼圧上昇を伴う.虹彩萎縮を生じ,色素が散布され,隅角は高度の色素沈着を生ずる.Ghostcellglaucomaは眼内出血の遷延によって赤血球の殻であるghostcellが隅角に沈着して生ずる.隅角はやはり高度の色素沈着を生ずるが,色は褐色というよりもいわゆるカーキ色で,診断の一助となる.まれな例であるが,眼メラノーシスに伴って発症した緑内障眼の前眼部所見と隅角所見を示す(図4).強膜メラノーシス(図4左)と同側の隅角には強い色素沈着を示していた(図4右)3).眼メラノーシスは太田母斑にしばしば合併する.IV隅角の異常血管疾患:血管新生緑内障,Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎.所見:隅角ルベオーシス(図5),隅角血管,PAS.(19)図4眼メラノーシス(隅角の色素沈着2)まれではあるが隅角の高度の色素沈着を呈する病態として眼メラノーシスがある.眼メラノーシスは太田母斑にしばしば合併する.強膜メラノーシス(左)とともに,隅角は全体に暗褐色で強い色素沈着を伴っている(右).図5血管新生緑内障(隅角新生血管)隅角ルベオーシス(左)と同じ部位の前眼部蛍光撮影の所見(右)を示した.開放隅角期であるが,隅角鏡で観察される新生血管だけでなく,線維柱帯は広範に新生血管が広がっていることが理解できる.(写真は済生会新潟第二病院:安藤伸朗・大矢佳美先生のご厚意による)———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006まれではあるが隅角に生理的に血管が認められることがある.虹彩周辺部にあり線維柱帯に平行に走る毛様体動脈輪の一部と,毛様体前面を横切りときに線維柱帯に達する短い前毛様体動脈の分枝の2種類に分けられる.それに対して新生血管は毛様体前面で立ち上がり,線維柱帯付近まで達すること,この付近で分枝すること,PASを伴うことが多いことなどが鑑別のポイントとしてあげられる.隅角の新生血管はすべて病的な所見である.血管新生緑内障は,1)前緑内障期:隅角に新生血管が認められるが眼圧上昇を伴っていない時期,2)開放隅角期:隅角新生血管と眼圧上昇があるが,PASが認められない時期,3)閉塞隅角期:PASが生じた時期,に大別される.開放隅角期では,すでに隅角新生血管によって線維柱帯間隙は埋め尽くされ,著しい房水流出障害を伴っている.図5は血管新生緑内障・開放隅角期の隅角所見と前眼部蛍光撮影(AFA)所見である.隅角所見としてはごく一部に細かい新生血管がみられるのみであるが,AFAで観察すると広い範囲の線維柱帯が新生血管で埋め尽くされているのがよく理解される4).まれではあるが,Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎では隅角新生血管が認められ,診断の一助になることがある.V隅角形成異常疾患:発達緑内障.所見:虹彩突起,高位付着(図6).隅角の先天異常の代表的所見として虹彩の高位付着がある.高位付着はHoskinsらにより,付着部位の位置と形態から,anterioririsinsertion,posterioririsinsertion,concave(wraparound)irisinsertionに分けられている.Anterioririsinsertionでは虹彩は線維柱帯もしくは強膜岬の高さで隅角に付着するのに対して,posterioririsinsertionでは虹彩は強膜岬の後方で隅角(20)に付着する.Concave(wraparound)irisinsertionは虹彩は強膜岬より後方で隅角に付着するが,細かい虹彩突起が線維柱帯前面を覆うように広がっている(図6).Axenfeld-Rieger症候群では膜状のぶどう膜組織と肥厚・前方移動したSchwalbe線が認められる.続発発達緑内障では高位付着とともにさまざまな所見がみられる.Sturge-Weber症候群ではSchlemm管の異常な充血がみられる.また,先天無虹彩症では著しく隅角底が形成不良である.文献1)北澤克明:緑内障クリニック.改訂3版,p39-60,金原出版,19962)北澤克明(編):隅角アトラス.医学書院,19953)福地健郎,沢口昭一,渡辺穣爾ほか:眼メラノーシスを伴った発達緑内障の二例.眼紀49:762-765,19974)大矢佳美,杉山和歌子,安藤伸朗:血管新生緑内障に対する硝子体手術の評価としての蛍光前眼部造影.日眼会誌109:741-747,2005図6発達緑内障(高位付着)隅角の先天異常の代表的所見として高位付着がある.写真はconcave(wraparound)irisinsertionを示しており,虹彩は強膜岬より後方で隅角に付着するが,細かい虹彩突起が線維柱帯前面を覆うように広がっている.

圧迫隅角検査の手技と実際

2006年8月31日 木曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSに接する部分が小さく第一眼位でも角膜の中央部を軽く圧迫し,水晶体と虹彩面を押し下げることで隅角底をみることができる(図2)が,角膜にひずみがでるとみえにくいので圧迫する力加減が必要である.また,隅角検査では対光反応による縮瞳の影響をできる限り受けないようにするため,スリット光の光源を絞って検査を行うように心がける.圧迫隅角検査は,Zeiss型四面鏡などの圧迫隅角検査専用の隅角鏡を用いることが基本である.一般的に普及しているGoldmann隅角鏡では眼球の位置をコントロールしないと狭隅角眼では第一眼位で隅角底はみえにくい.そこで,「みたいほうのミラーをはじめに隅角検査は,緑内障の診断で最も重要な検査の一つである.開放隅角か閉塞隅角かを診断するためには必須の検査といえる.しかしながら,接触式レンズを装着しなければ隅角は観察することができないことや圧迫隅角検査は熟練度により評価が一定しないこともあって実際には隅角検査を嫌う眼科医も多いのではないだろうか?近年,非接触式前眼部形状解析装置が開発され,隅角の評価がより簡便で定量的に計測可能となったが,機器は高価なものが多く,周辺部虹彩前癒着(PAS)の存在範囲までは検出できない.さらに,隅角検査は閉塞隅角眼でのみ重要なわけではなく,線維柱帯炎や血管新生緑内障などの続発緑内障の診断にも重要な検査となる.ここでは,具体的な圧迫隅角検査の手技のコツを示したい.I圧迫隅角検査の原理と手技のコツ(みみみの法則)細隙灯顕微鏡を用いた周辺前房深度を簡便に評価できるvanHerick法により周辺前房深度が角膜の厚みの4分の1以下であれば,隅角検査が必要である.圧迫隅角検査は,後述する機能的閉塞と器質的閉塞を見分けることができる有用な隅角検査法である.間接型隅角鏡にはGoldmann隅角鏡とZeiss型四面鏡があり(図1),どちらも検査前に点眼麻酔が必要であるが,前者はメチルセルロースを必要とし,後者ではメチルセルロースを必要としない.Zeiss型四面鏡(Sussmanレンズ)は,角膜(13)???*YasumasaOtori:大阪大学大学院医学系研究科脳神経感覚器外科学(眼科学)〔別刷請求先〕大鳥安正:565-0871吹田市山田丘2-2大阪大学大学院医学系研究科脳神経感覚器外科学(眼科学)特集●隅角のすべてあたらしい眼科23(8):989~992,2006圧迫隅角検査の手技と実際???????????????????????????????????大鳥安正*図1間接型隅角鏡(Goldmann型とZeiss型)左がGoldmann型隅角鏡で,右がZeiss型四面鏡.Zeiss型四面鏡では,角膜の中央部を圧迫すると圧迫隅角検査ができる.Goldmann型隅角鏡では,検者がみたいほうのミラーをみてもらう(みみみの法則)のがコツ.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006みてもらう」(みみみの法則)を覚えておくと便利である.上方の隅角をみたい場合には,下方の隅角鏡を使う.第一眼位で上方の隅角底がみえなければ眼球をみたいほうのミラーすなわち,下方をみてもらうと上方の隅角底がみやすくなる(図3).この要領で,隅角鏡をたとえば12時方向から順番に3時,6時,9時,12時の順番で隅角を360?回転させて,隅角所見をPASの範囲,隅角色素の程度,虹彩突起,隅角結節やpigmentpelletの有無,新生血管の有無などに気をつけながらスケッチをしていく.記載方法は,隅角鏡でみえたとおりに記載する場合もあるが,隅角鏡でみえた所見を180?逆転させて記載したほうがわかりやすい.II閉塞隅角緑内障の新分類2003年11月に発行されたわが国の緑内障診療ガイドラインによると,原発閉塞隅角緑内障(primaryangle-closureglaucoma:PACG)の定義は,「隅角閉塞が証明されながら眼圧上昇あるいは視神経の変化をきたしていない初期症例を含めてすべてPACGとする」とある.すなわち,眼圧が上昇しておらずPASがある症例も含めてPACGとするということになる.この定義に基づき,多治見スタディのPACGの有病率は,1.3%となっていた.ところが,Fosterらが報告した新分類1)によると,緑内障という病名をつけるには,緑内障性視神経障害があることが必須であるとされ,PASのない単なる狭隅角眼は原発閉塞隅角症疑い(primaryangleclosuresuspect:PACS),眼圧が上昇しているいないにかかわらず狭隅角眼でPASがある場合は,原発閉塞隅角症(primaryangleclosure:PAC)と分類された(表1).欧米との有病率を比較するうえでもPACGの診断基準(14)図2圧迫隅角検査の原理(Zeiss型)圧迫隅角検査は,圧迫隅角専用の隅角鏡(Zeiss型四面鏡など)を用いるのが基本である.角膜の中央部を圧迫することで房水を実線矢印のように隅角底に押しやり,機能的閉塞(A)か器質的閉塞(B)かを見分ける.(Schields?TextbookofGlaucoma5thedition,p226より)AB図3Goldmann型隅角鏡検査のコツ第一眼位(正面視)のときには,虹彩が前彎しているため隅角底がみえない.そこで,検者がみたいほうのミラーすなわち,下方をみてもらうと隅角底がみえてくる.正面視下方視———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006???を統一する必要性があり,2005年わが国のPACGの有病率は,0.6%と変更され,40歳以上の緑内障有病率は5.0%(20人に1人)となった2).一般的に,相対的瞳孔ブロックを伴う場合には,眼圧が上昇していなくてもPASがあれば(すなわちPAC),レーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)の相対適応となっている.PACSからPACになるのは,5年間で22%3),PACからPACGになるのは5年間で28%4)と報告されている.しかし,約10%程度にPACSから急性原発閉塞隅角症(acuteangleclosure:AAC)を起こす場合がある5).本来,予防的レーザー虹彩切開術は,AACを予防するために行われるものであるべきであり,わが国ではLI後の水疱性角膜症の発症率が高いことが知られていることからも,LIの適応はより慎重に考えるべきであり,PACの状態ですぐにLIを行わず,経過をみながらPASの範囲が増加するなどの変化をみてLIを行う,あるいは白内障があれば白内障手術をまず行うという考え方もある.LIの適応は今後変わってくる可能性はある.III機能的閉塞(appositionalclosure)と器質的閉塞(synechialclosure)機能的閉塞とは,圧迫隅角検査でPASがない状態であり,暗室下で隅角は閉塞しており明室下では隅角閉塞が起こらないような場合をいう(図4).超音波生体顕微鏡(UBM)で観察するとこのような所見は狭隅角眼では比較的よくみられる.機能的閉塞が慢性化すると器質的閉塞であるPASの形成,すなわちPACとなる.一般的にPASの範囲が50%を超えると眼圧が上昇するとさ(15)図4機能的隅角閉塞のUBM所見暗室下では,散瞳に伴って虹彩根部は分厚くなり隅角は閉塞しているようにみえるが,明室では隅角は開いている.このような症例に圧迫隅角検査をすると隅角には虹彩前癒着はなく,器質的閉塞はない.暗室明室表1閉塞隅角緑内障の新分類(Fosterら,2002)Acuteangleclosure(AAC):急性閉塞隅角症急性緑内障発作,GON(-)Acuteangleclosureglaucoma(AACG):急性閉塞隅角緑内障AAC&GON(+)Primaryangleclosuresuspect(PACS):原発閉塞隅角症疑いPAS(-),GON(-)Primaryangleclosure(PAC):原発閉塞隅角症PAS(+),GON(-)Primaryangleclosureglaucoma(PACG):原発閉塞隅角緑内障PAC&GON(+)GON:glaucomaopticneuropathy,PAS:peripheralanteriorsynechiae.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006(16)れており,眼圧上昇が慢性化し,緑内障性視神経障害を呈すると慢性閉塞隅角緑内障(chronicangleclosureglaucoma:CACG)となる.アジア人ではCACGになると,LIのみで眼圧コントロールができるのは約50%程度とされている6,7).閉塞隅角緑内障の発症機序として,相対的瞳孔ブロックによるものとプラトー虹彩形状によるものがあるとされているが,実際には両者を合併していることも多い.LI後に虹彩は平坦化するものの,プラトー虹彩形状が残存するために隅角底が閉塞したままになっているような場合では,眼圧コントロールが不良なことが多い.このような背景から最近ではCACGに対する治療に関しては,LIをせずに水晶体摘出をまず行うという考え方も出てきている.いずれにしてもLIの適応に関しては,今後も慎重に検討がなされなければならない.おわりに非接触で隅角を正確に評価できる診断機器が開発されれば,隅角検査はなくなるかもしれないが,それは今のところなく,隅角検査の重要性が変わることはない.医師が直接みて診断をつけることができるのが眼科学のすばらしい点の一つである.視神経乳頭の評価や隅角検査は,みる医師のスキルによって評価が異なりうる検査かもしれないが,逆に言うと眼科医の腕のみせどころでもある.いかに優れた診断機器が開発されたとしても,自分の眼でみることの重要性を忘れないようにしたいものである.文献1)FosterPJ,BuhrmannR,QuigleyHAetal:Thede?nitionandclassi?cationofglaucomainprevalencesurveys.???????????????86:238-242,20022)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:TheTajimiStudyreport2:prevalenceofprimaryangleclosureandsec-ondaryglaucomainaJapanesepopulation.?????????????112:1661-1669,20053)ThomasR,GeorgeR,ParikhRetal:Fiveyearriskofprogressionofprimaryangleclosuresuspectstoprimaryangleclosure:apopulationbasedstudy.???????????????87:450-454,20034)ThomasR,ParikhR,MuliyilJetal:Five-yearriskofprogressionofprimaryangleclosuretoprimaryangleclo-sureglaucoma:apopulation-basedstudy.?????????????????????81:480-485,20035)木下渥:狭隅角眼の長期観察結果.あたらしい眼科12:814-818,19956)Alsago?Z,AungT,AngLPetal:Long-termclinicalcourseofprimaryangle-closureglaucomainanAsianpopulation.?????????????107:2300-2304,20007)永田誠:わが国における原発閉塞隅角緑内障診療についての考察.あたらしい眼科18:753-765,2001

隅角検査の実際、いつ診るか、どう診るか

2006年8月31日 木曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS用して観察するため,反射鏡は観察部隅角の反対側に位置する.a.検査用レンズ間接法に用いる隅角鏡には多くの種類があるが,基本構造はGoldmann一面鏡,もしくはZeiss,あるいはGoldmann三面鏡のなかの隅角用ミラーに代表される(図2).ミラーの位置と角度:間接法では隅角からの光を,鏡面を利用して観察するため,反射鏡の位置,高さ,角度によって観察される像が変化する.反射鏡の位置が角膜中心に近く,高さが高く,角度が大きいほど隅角を上から覗き込むことになり,虹彩根部によって隅角底が透見しにくい狭隅角眼での隅角観察が容易であるが,隅角を線維柱帯の接線方向から覗き込むことになるため,隅角の丈が低く見える(図4).ミラーの数:隅角用のコンタクトレンズのミラーの数はじめに隅角検査の検査対象は,①緑内障,虹彩炎などの確定・鑑別疾患を要する症例,②虹彩,毛様体の腫瘤性病変,③隅角外傷,④緑内障の術後などである.特に,緑内障の診療においては緑内障の病型を正しく決め,その原因を確定もしくは推定したうえで治療方針を検討するために重要である.緑内障では,眼圧上昇の原因によって治療方針が異なるため,隅角検査は緑内障の診療上必須の検査である.また,異常を判断するためには正常を理解する必要がある.このため,日常診療において正常の隅角を観察することも重要である.I隅角鏡の種類隅角検査は,角膜上にコンタクトレンズを装着し,角膜から外眼に至る光路を変更することによって行われるが,用いるコンタクトレンズ表面の彎曲を強くすることによって,隅角からの光の入射角を臨界角以下として光線を眼外へと導き,隅角をそのままの方向から観察する直接型隅角検査法,コンタクトレンズ壁面を鏡面として隅角の鏡面像を観察する間接型隅角検査法に分類される(図1~3).その他,隅角底の観察が困難な狭隅角眼に対する特殊な検査法として圧迫隅角検査がある.1.間接検査法細隙灯顕微鏡を利用して検査できることから,日常臨床で最もよく用いられる.隅角からの反射光を鏡面を利(3)???*KazuhideKawase:大垣市民病院眼科〔別刷請求先〕川瀬和秀:〒503-8502大垣市南頬町4-86大垣市民病院眼科特集●隅角のすべてあたらしい眼科23(8):979~987,2006隅角検査の実際,いつ診るか,どう診るか?????????????????????????????????????????????????川瀬和秀*図1隅角検査法(文献3,p4,図1-7より)間接検査法直接検査法———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006は,1ミラー,2ミラー,4ミラーあり,ミラーの数が少ないほど一面で観察できる範囲は広くなるが,360?の観察には1周回す必要がある.4ミラーでは,上下左右が一度に観察できるが,その間を観察するために45?回転させるだけでよいが,一面で観察できる範囲は狭い(図5).隅角鏡の接着面:隅角鏡の接着面には,圧迫しやすい「つばがなく接着面の小さい」ものから,固定のしやすい「大きいつば」のタイプがある.つばがなく接着面の小さいタイプでは,メチルセルロースなどの粘弾性物質を使用せずに装着できるPosnerレンズ,Sussmannレンズ,Zeiss四面鏡など(図6)があるが,装着時の角膜圧迫により隅角が開大しやすく,隅角の広狭の判定を誤る可能性があるので,開大度を判定した後に隅角底の観察に用いるべきである.また,つばの大きいタイプでは,圧迫しても角膜輪部までつばがあり,角膜に皺が寄り,隅角底を観察することがむずかしい(図7).このような理由から初めは,一度に観察できる範囲が(4)bac図3直接検査用レンズa:Koeppeレンズ,b:Barkanレンズ,c:Swan-Jacobレンズ.1ミラー(マグナビュー)4ミラー2ミラー見える範囲広い・大きい見える範囲狭い・小さい全周観察簡便全周観察不便図5ミラーの数とその特徴cbad図2間接検査用レンズa:一面鏡(マグナビュー),b:二面鏡,c:四面鏡,d:Posnerレンズ.abcdアイウ図4狭隅角眼での観察狭隅角眼では,同じ高さからみる場合(a-b)には隅角から近い位置(ア)のほうが,同じ距離からみる場合(c-d)には高い位置あるいは観察角度が急なほう(ウ)が隅角底を観察しやすい.したがって反射鏡位置が瞳孔中心に近く,反射鏡の高さが高く,角度が大きいほうが観察しやすい.(文献3,p5,図1-9より)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006???広く,固定が比較的良く,圧迫隅角検査もしやすいGoldmann二面鏡の使用が望ましい.b.検査手技点眼麻酔の後,隅角鏡の角膜面にメチルセルロースを滴下して角膜に装着する.患者に上転させ,下から被せる方法が一般的であるが,上転がむずかしい場合には上眼瞼を挙上し眼球を下転させて,上方から装着する方法もある.細隙灯顕微鏡を使用し,一般的には隅角が最も広く隅角の構造が把握しやすく,色素・炎症物質などの沈着が起こりやすい下方隅角から開始する.間接法では,上下方向に比べて耳,鼻側方向の隅角の観察が困難であるが,光軸を傾斜,回転により観察可能となる.前房が浅い患者では,患者の眼をミラー方向に向けることで隅角底の観察が可能となる.2.直接検査法現在では日常診療においてはあまり用いられないが,隅角癒着解離術や隅角切開術などを行う際には必要で,習得すべき手技である.a.検査用レンズ直接法で用いる検査レンズは,Koeppeレンズに代表される.Koeppeレンズはレンズの拡大作用により隅角は約1.5倍に拡大される.その他,隅角切開術や隅角解離術などの手術時に隅角を観察するための直接型隅角鏡レンズとしてBarkanレンズ,Worstレンズ,Swan-JacobレンズおよびThropeレンズなどが考案されている(図3).b.検査手技患者を仰臥位にし,顎と前頭部を同じレベルに合わせ頭部を水平にする.点眼麻酔を行い,Koeppeレンズでは凹面側にエチルセルロースを滴下してレンズを装着する.Barkanレンズなどの手術用直接型隅角レンズは,角膜との接触面積を縮小化し,レンズ内面率を角膜曲率よりやや大きくすることで角膜表面とレンズの間に空気(5)図6隅角鏡の設置部分の違いによる特徴つばなし接着面小つばなし接着面大小さいつば大きいつば固定しやすい固定しにくい圧迫しにくい圧迫しやすい前迫圧後迫圧つばなしつばあり図7“つばなし”と“つばあり”の圧迫による違い———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006を入れない工夫がなされており,エチルセルロースなどを使用せず直接,眼球にレンズを装着することが可能となる.IIいつ診るか?(隅角検査が必要なとき)忙しい外来での隅角検査は,必要がないとなかなか施行できない.隅角検査が必要なタイミングにはつぎのような場合がある.浅前房:多治見スタディにおけるPACG(原発閉塞隅角緑内障),susp.PACG,PACを合わせると,約1.0%強が隅角閉塞をきたしやすい状況にあると考えられる1)(図8).60歳を過ぎると急に増加するため,初診時の隅角が広い場合でも60歳を過ぎたら,診察のたびに簡便なvanHerick法で周辺前房の深さをチェックし,角膜厚の1/4(gradeⅡ)より浅い場合は随時隅角検査を行う必要がある.片眼性眼圧上昇:前房に炎症がない場合でも,隅角結節が存在しサルコイドーシスによる眼圧上昇で,ステロイド点眼により眼圧下降が得られる場合もある.また,Posner-Schlossman症候群や片眼性落屑緑内障による隅角色素沈着の左右差を認める場合がある.外傷による前房内出血や前房内炎症:隅角損傷として隅角離開以外に毛様体解離,線維柱帯の裂傷,虹彩離断などを認める.発達緑内障:隅角の分化不全を認める.糖尿病,網膜静脈閉塞症:隅角の新生血管は眼圧上昇前から認める.眼圧に左右差を認める場合や,瞳孔領に新生血管を認めるときには隅角を観察する.緑内障手術の前後:緑内障の手術を行う場合,手術施行部位の状態を把握する必要がある.虹彩前癒着や血管新生がある場合には線維柱帯切開術はむずかしく,線維柱帯切除術を施行する場合も角膜寄りのブロックを切除する必要がある.術後,創口の虹彩嵌頓や虹彩前癒着の存在により濾過が悪化している場合はYAGレーザーにて濾過を回復することも可能である.III所見の記載方法隅角検査の所見は,①隅角の広狭,②先天異常,発育異常所見,③続発性変化,④手術に関した情報などを記載する2)(表1).A隅角鏡所見の分類および正常所見と異常所見3)1.開大度Sha?er分類:隅角の広さを測定し客観的に判断する方法としてSha?er分類が広く用いられている.これは,隅角線維柱帯と周辺部虹彩のなす角度を観察することにより,広隅角の4?から完全閉塞の0?までの5段階に分類したものである4)(図9,表2).Scheie分類:隅角の深さを示す分類にはScheie分類が用いられる.隅角構造が観察可能なWIDEからSchwalbe線が観察できないⅣ度の5段階に分類したものである5)(図10).vanHerick法:隅角鏡を使用せず,細隙灯顕微鏡を用いて周辺部の前房の深さを観察することにより,隅角の開大度を推定する方法である.簡便であり,角膜混濁(6)図8多治見スタディによる年齢,性別によるPACG+PACG疑い+PACの割合の変化(文献1より作成):男性:女性:全体PACG+PACG疑い+PAC(%)21.81.61.41.210.80.60.40.2040~4950~5960~69年齢(歳)70~7980表1隅角検査で必要な情報①隅角の広狭:開放隅角か閉塞隅角か②先天異常,発育異常所見③続発性変化1)色素沈着2)周辺虹彩前癒着3)血管新生4)炎症所見5)外傷その他④手術に関した情報1)手術部位の選択2)手術効果の判定———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006???や角膜浮腫のため隅角の観察ができない症例にも有用である6)(表3).2.周辺虹彩の形と付着部位の相違Spaeth分類:これは,隅角の広狭の他に,周辺虹彩の形・虹彩付着部位の相違による隅角の形態変化を加えて分類したものである7)(図11).3.色素沈着Scheie分類(色素沈着):隅角の色素沈着は正常若年者にはほとんどみられない所見であるが,加齢とともに増加する.色素沈着は通常,下方隅角で著明であるため,部分別に判定を行う.色素沈着の程度分類には(7)図9Sha?er分類(文献8,p282,図1より)開放隅角grade3~4狭隅角grade2狭隅角grade1閉塞隅角grade0angle20~45°angle10°angle20°図10Scheie分類による隅角の広さの分類0:線維柱帯,強膜岬,毛様体帯のすべてが見える.Ⅰ:強膜岬はみえるが毛様体帯が見にくい,Ⅱ:強膜岬はみえず線維柱帯の下半分が見にくい,Ⅳ:線維柱帯がみえずSchwalbe線まで虹彩が隠されている.(文献5,p511,Fig.2より)図11Spaeth分類による隅角形状の模式図(文献8,p283,図3より)abc隅角の角度分類周辺部虹彩の形態分類虹彩根部の隅角付着部の見かけ上の位置の分類s(steep)ABCDEr(regular)q(queer)10°20°30°40°表2Sha?er分類角度(?)度数臨床的意義広隅角30~403~4隅角閉塞は生じない狭隅角軽度202隅角閉塞が生じうる狭隅角極度101将来隅角閉塞の可能性大完全あるいは部分閉塞隅角<100隅角閉塞がある表3vanHerick法隅角の広さ周辺部における前房深度Ⅳ角膜厚に等しいⅢ角膜厚の1/2~1/4Ⅱ角膜厚の1/4Ⅰ角膜厚の1/4以下0前房なし———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006Scheie分類(色素沈着)が広く用いられ,色素沈着を認めないNONE(0?)から,高度に色素沈着を認めるⅣ度まで分類されている5)(図12).4.正常所見と正常のバリエーション(図13,表4)Schwalbe線:Schwalbe線は隅角の前縁を形成しており,その幅が狭いときは白色のわずかに突出した線として観察される.線維柱帯:Schwalbe線と強膜岬の間に存在する.若年者では半透明にみえるが,加齢とともに色素を帯び,その透明性が低下する.Schlemm管:Schlemm管は強膜岬の直前方,線維柱帯の中央で幅1/3を占めているが,通常は前房側にぶどう膜網,角強膜網,傍Schlemm管組織が存在するため,隅角鏡検査では観察することはできない.しかし,隅角鏡の縁で輪部を圧迫するなどの上強膜静脈圧の上昇により血液がSchlemm管内へ逆流し,Schlemm管が赤い帯として観察できる.強膜岬:毛様体帯の前方に位置する一定の幅をもつ白色の線としてみえる.毛様体帯:隅角底を形成し,強膜岬と虹彩根部の間にみられる.毛様体前面をその覆うぶどう膜網を通して観察され,日本人では青みがかかった灰色,灰褐色,濃い灰白色などの表現でその色調が表現される.虹彩突起:虹彩根部より線維柱帯面上に達する糸状,束状,樹枝状の突起である.隅角血管:隅角血管は毛様体上,虹彩根部にみられるほか,虹彩根部から毛様体帯上を横切り,線維柱帯中央部まで直線的に走行するものがある.5.病的隅角異常開大度:隅角の広狭の判定は,隅角検査の最も基本的な目的である.正常隅角でも上方はやや狭い.しかし,隅角の部位により広さが極端に異なる場合には,虹彩?腫,水晶体脱臼,虹彩後癒着などの局所病変を考えなければならない.周辺虹彩前癒着が広範に生じている場合,特にSchwalbe線に色素が沈着していると,その色素を線維柱帯の色素沈着と見誤り,開放隅角と判断してしまうことがありうる.こうした見誤りやすい隅角はpseudoangleとよばれる(表5).虹彩根部の形状:色素緑内障の場合は,reverse(8)図12Scheieによる隅角の色素沈着の分類(文献5,p511,Fig.2より)Schwalbe線Schlemm管強膜岬毛様体帯虹彩根部図13隅角組織所見と隅角鏡所見の対比(文献8,p277,図2より)———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006???pupillaryblockとして凹状の周辺虹彩(Spaeth分類q型)を示し,プラトー虹彩形態の場合は急峻で凸状の周辺虹彩(Spaeth分類s型)となる.異常色素沈着:隅角,特に線維柱帯に黒色あるいは黒褐色の色素沈着を認めることがある.色素沈着は加齢とともに増加する.また,下方隅角に著明に生じることが多い(表6).周辺虹彩前癒着:隅角と周辺部虹彩の癒着であり,すべて病的な所見と考えてよい(表7).血管新生:隅角に血管を認める場合,生理的なものか新生血管であるかを鑑別する必要がある.隅角に認められる新生血管は眼内の虚血に続発したものであり,すべて病的な所見と考えられる.血管の形態的な特徴として,毛様体前面を立ち上がり,線維柱帯色素帯付近まで達すること,分枝すること,周辺虹彩前癒着を伴うことが多いことがあげられる.Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎で微細な新生血管を生じることがあり,診断的な価値が高い.Schlemm管の充血:Sturge-Weber症候群では,上強膜静脈圧の上昇によりSchlemm管の異常な充血の所見を認める.(9)表4正常所見と正常のバリエーション部位,所見正常所見バリエーション,その他Schwalbe線・白色のわずかに突出した線・線上に色素の沈着はない・幅が広いときは比較的平滑な表面と,やや粗な表面をもつ線維柱帯の間に存在する不鮮明な線・高齢者では,特に下方において線状の色素沈着がみられる線維柱帯・Schwalbe線と強膜岬の間・若年者では半透明・加齢とともに色素を帯び,透明性が低下Schlemm管・強膜岬の直前方,線維柱帯の中央で幅1/3に存在・前房内に出現した色素顆粒は,この部分に沈着しやすい・線維柱帯における帯状の色素沈着部位を色素帯とよび,その外方にSchlemm管が存在する強膜岬・毛様体帯の前方に位置する一定の幅をもつ白色の線・隅角底の形成が不良な場合や,狭い隅角では観察がむずかしい毛様体帯・隅角底を形成・強膜岬と虹彩根部の間・色調は灰色,灰褐色,濃い灰白色など・隅角底の形成は生後1年で完成するため,新生児ではみられない虹彩突起・虹彩根部より線維柱帯面上に達する糸状,束状,樹枝状の突起・鼻側隅角に多い・強膜岬の高さまでのものが大部分隅角血管・虹彩周辺部にあり,線維柱帯と平行に走る血管(毛様体の動脈輪の一部)・毛様体前面を横切り,線維柱帯に達する短い血管(前毛様体動脈の分枝)・病的血管に比較して太く,分枝を出すことはまれ・造影剤を使った検査でも漏出はみられない表5隅角の開大度の変化の所見と原因所見原因広い隅角正常眼,近視眼,偽水晶体眼,無水晶体眼軽度の狭隅角遠視眼高度の狭隅角原発閉塞隅角緑内障,プラトー虹彩形態閉塞隅角続発閉塞隅角緑内障開大度が部位により異なる水晶体脱臼,虹彩?腫,虹彩後癒着部位により著しく広い水晶体脱臼,隅角離開,毛様体解離表6色素沈着の原因と所見原因所見落屑緑内障線維柱帯上に中等度の色素沈着Sampaolesi線(Schwalbe線から角膜よりに存在する波状の色素沈着)色素緑内障高度な色素沈着ICE症候群Schwalbe線および色素帯に高度の色素沈着レーザー虹彩切開術後虹彩の色素が線維柱帯に沈着———————————————————————-Page8???あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006炎症性滲出物:種々の炎症性疾患により隅角に滲出性病変が確認されることがある(表8).隅角離開:鈍的眼外傷により,特徴ある隅角変化が生じることがある.代表的な所見として隅角離開があげられる.隅角離開の特徴は毛様体前面が通常より幅広く,その表面がスムーズでないことである.色はやや青みがかっている.部位により毛様体前面の幅が異なることも特徴である.軽度の隅角離開の場合は左右眼の比較により確認されることもある.隅角損傷には隅角離開以外に毛様体解離,線維柱帯の裂傷,虹彩離断があり,これらは単独で存在することもあれば,併在することもある.分化不全:隅角の分化不全の所見を表9に示す.発達緑内障(早発型)に認められる虹彩の高位付着と,Axen-feld-Rieger症候群に認められる索状あるいは,膜状の虹彩組織の残存が重要である.6.圧迫隅角検査圧迫隅角検査に用いる隅角鏡は,角膜との接触面積が小さい.圧迫隅角検査は,この隅角鏡で角膜の一部を圧迫し,前房を変形させ,房水を隅角に集めることで,一時的な隅角の開大を生じさせ,隅角底に観察される周辺虹彩前癒着の有無,高さ,幅を調べる方法である.適度な角膜・虹彩根部の変形を人工的に作製する必要がある.B隅角鏡所見記載の基本ルール1.観察方法,使用レンズの記載a.間接検査法Goldmann一面鏡,Goldmann三面鏡,Posner四面鏡,Sussmann四面鏡,Zeiss四面鏡など.b.直接検査法Koeppeレンズ,Barkanレンズ,Worstレンズ,Swan-Jacobレンズ,Thorpeレンズなど.c.圧迫隅角検査岩田式圧迫隅角鏡,Posner四面鏡,Sussmann四面鏡,Zeiss四面鏡,Goldmann一面鏡(間接検査法).Kitazawaレンズ(直接検査法).2.チャートによる記載圧迫隅角検査による虹彩前癒着の範囲や高さを示す場合は有効である.隅角所見記録用紙:隅角検査所見は隅角を外側に展開した図を用意し,そこに病変を記入すると,異常の存在とその位置が理解しやすい(図14).(10)表7周辺虹彩前癒着をきたす原因とその特徴原因周辺虹彩前癒着の特徴原発閉塞隅角緑内障テント状,台形,幅の広いものなど(Schwalbe線を越えない)血管新生緑内障血管新生を伴う,幅の広い癒着Irisbombe角膜に及ぶこともあるぶどう膜炎テント状,台形鈍的外傷隅角離開を伴うICE症候群幅が広い癒着(高さは角膜に及ぶ)前房消失幅が広い癒着(高さは角膜に及ぶ)内眼手術手術部位の癒着ALT*後レーザー照射部位のテント状の癒着*:アルゴンレーザートラベクロプラスティ.表8炎症性疾患とその所見原因所見サルコイドーシス虹彩根部,線維柱帯に白色塊状の小結節周辺虹彩前癒着Posner-Schlossman症候群線維柱帯表面ないし毛様体前面の沈着物(角膜後面沈着物と同様の沈着物)患眼の線維柱帯の脱色素(色素沈着が健眼よりも薄い)原田病狭隅角(初期に一過性浅前房となることがある)瞳孔遮断や周辺虹彩前癒着表9発達異常を示す所見1.虹彩根部が強膜岬や線維柱帯,Schwalbe線の位置に存在する(虹彩高位付着)2.隅角底や線維柱帯を覆う中胚葉組織の遺残(虹彩組織の残存)3.線維柱帯の幅が広い4.隅角底の欠如5.Schwalbe線の肥厚(後部胎生環)6.大動脈輪からの血管係蹄の存在7.多数の虹彩突起の存在8.毛様体が狭い,あるいは認められない———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006???3.文字による記載a.開大度Sha?er分類にて記載(例:Sha?ergrade3open).b.色素沈着Scheie分類にて記載(例:pigmentationScheiegradeⅡ).c.方向の記載(1)時計の方向による位置の記載:虹彩前癒着,新生血管など(例:新生血管が5時から8時に散在).(2)上方,鼻側,下方,耳側(sup,nasal.,inf.,temp.)による位置の記載:色素沈着など(例:Sampaolesilineなど).d.周辺虹彩前癒着の記載(1)高さ:CB:毛様体,SS:強膜岬,Schl:線維柱帯色素帯,Schw:Schwalbe線.(2)形状:テント状,台形,マウント状,幅が広いなど.(3)範囲:方向(○時),範囲(○時~○時△分).(4)PASindex:周辺虹彩前癒着の割合を示す.全周で5時間のPASであれば5/12と記す.(5)圧迫の有無:圧迫により確認される所見の場合.e.部位と所見の記載(1)瞳孔縁:後房,水晶体前面の所見の記載.散瞳下では,水晶体,Zinn小帯,毛様体突起の所見も記載.(2)虹彩根部:Spaeth分類での記載(q型,r型,s型).(3)毛様体帯:毛様体帯の幅や色の異常を記載.(4)強膜岬.(5)線維柱帯:異常色素の沈着や脱色素,虹彩前癒着(PAS),小結節(nodule)などの記載.(6)Schlemm管:上強膜静脈圧の上昇による充血などの記載.(7)Schwalbe線:Axenfeld-Rieger症候群では索状,膜状の虹彩組織の付着などの記載.また,落屑緑内障ではSampaolesi線の記載.(8)手術創:緑内障手術術後の創の位置と状態,虹彩の癒着の有無の所見を記す.文献1)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:TheTajimiStudyreport2:prevalenceofprimaryangleclosureandsecond-aryglaucomainaJapanesepopulation.?????????????112:1661-1669,20052)布田龍佑:隅角の読み方①隅角の基本構造と隅角検査の意義.?????????????????????2:103-108,20013)北澤克明(編):隅角アトラス.医学書院,19954)Sha?erRN:Primaryglaucomas.Gonioscopy,ophthalmos-copyandperimetry.?????????????????????????????????????64:112-127,19605)ScheieHG:Widthandpigmentationoftheangleoftheanteriorchamber.???????????????58:510,19576)vanHerickW,Sha?erRN,SchwartzA:Estimationofwidthofangleofanteriorchamber.???????????????68:626-630,19697)SpaethGL,AruajoS,AzuaraA:Comparisonofthecon-?gurationofthehumananteriorchamberangle,asdeter-minedbytheSpaethgonioscopicgradingsystemandultrasoundbiomicroscopy.???????????????????????93:337-347,19958)田野保雄(編):眼科プラクティス4,眼科所見の捉え方と描き方,文光堂,2005(11)SchwSchlSSCBODOS図14隅角所見記録用紙と記入例CB:毛様体,SS:強膜岬,Schl:線維柱帯色素帯,Schw:Schwalbe線.右は周辺虹彩前癒着の位置と高さを記入したもの.この場合,10時半から1時に幅の広いSchwに付くPAS,5時にSchlに付く台形のPAS,6時半にSchwに付く台形のPAS,7時から8時にSSに付くマウント状のPASを認める.PASindexは6/12程度である.(文献8,p280,図3より)

序説:隅角のすべて

2006年8月31日 木曜日

———————————————————————-Page1(1)???隅角検査は緑内障検査の基本中の基本である.定期的な隅角検査は緑内障診療においてきわめて重要であり,その所見によって緑内障の治療方針が大幅に変更されることもまれではない.しかしながら日々の忙しい診療において,どれほどの眼科医が定期的に隅角を診ているであろうか.「時間がかかる」「スコピゾルをつけると患者さんが嫌がる」「洗うのが面倒」などの言い訳で,ついつい診ずに済ませてしまっていることはないだろうか.さらに手技的に難易度の高い圧迫隅角検査に至っては系統立てて学ぶ機会も少なく,苦手意識をもっている人も多いのではなかろうか.一方,近年の画像解析装置の発達は著しく,超音波生体顕微鏡(UBM)や前眼部光干渉断層計(前眼部OCT)を用いて隅角形状を定量的に解析することが可能となってきている.隅角検査を行わずとも隅角の構造を知ることができると誤解されるために,今後いよいよ隅角検査が軽視される可能性もある.しかし,これらの機器はあくまでも補助的な診断機器にすぎず,決して隅角鏡を用いる隅角検査の重要性が減じたわけではない.むしろこれらの機器の助けによって,自らの隅角検査の能力に磨きをかけられるようになったと考えるべきである.それはちょうど視神経乳頭解析装置の発展によって,視神経乳頭所見の確認ができるようになったことと似ており,装置の限界を知りつつ利用してゆく姿勢が大切である.「隅角のすべて」と題した本特集では,以下の7名の先生方に原稿をお願いし,隅角検査に関わる基本から応用までを可能な限り網羅することを試みた.すなわち,最初に大垣市民病院の川瀬和秀先生に「隅角検査の実際」に関して,隅角鏡の種類と基本手技,検査の頻度,所見の記載方法について書いていただいた.大阪大学の大鳥安正先生には手技的に難易度が高く,検者によって所見の取り方が変わるといわれている「圧迫隅角検査」の具体的な手技ならびに機能的閉塞と器質的閉塞の違いについて,新潟大学の福地健郎先生には「隅角の異常所見と鑑別診断」を種々の隅角写真をもとに実際に提示していただいた.東京大学の平澤裕代先生と富所敦男先生には意外と見逃されていることの多い「プラトー虹彩」の特徴的所見とその治療方針について,そして三重大学の伊藤邦生先生にはUBMとの比較からみた「隅角検査の限界」について記載していただいた.治療との関連については「手術用隅角鏡」に関して森が担当し,最後に原発閉塞隅角緑内障に対する治療方針をめぐるトピックスに関して琉球大学の澤口昭一先生にまとめていただいた.お忙しいなか,本特集にご寄稿いただいた諸先生にこの場を借りて厚く御礼申し上げる.日ごろから隅角検査は苦手と考えておられる方,隅角検査には自信があると思っておられる方も,この機会にぜひ隅角について再確認・マスターしていただければ望外の喜びである.0910-1810/06/\100/頁/JCLS*KazuhikoMori:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学**TetsuyaYamamoto:岐阜大学大学院医学系研究科眼科学●序説あたらしい眼科23(8):977,2006隅角のすべて????????????????????森和彦*山本哲也**

眼科医にすすめる100冊の本-7月の推薦図書-

2006年7月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLSコンビニやスーパーに行けば食べ物がたくさんあり,いつでも好きな物を食べられる便利な時代になった.でも漠然と「食べ物がどうしてこんなに腐らないのだろう?」と感じていた.少し前のことだが,コートのポケットの中に1カ月以上も忘れて入れたままになっていた“おにぎり”の臭いをかいでみて,まったく腐った臭いがしないのに驚愕.以前,服部幸應先生が「葬儀屋さんが“最近の遺体は腐らないねー.保存料の入った食べ物ばかり食べているからかね”といっているんですよ」と話されているのを聞いて,この話は冗談なのか本当なのか?と思ったことがあったが,このときばかりはちょっと真剣に考えてしまった.そんな折,週刊ホテルレストランという食品業界専門誌を出版しているオータパブリケイションズの太田進さんに薦められて読んだのが,この『食品の裏側』.食品添加物がいかに世の中でたくさん使われているかを知って,怖くなってしまった.実際,今まで大好きだった明太子,かまぼこなども,違った目で見るようになってしまった.著者は“食品添加物の神様”とよばれていた食品添加物を扱う商社の営業マンである.どうしようもないクズ肉に添加物を入れることによって,おいしいミートボールを作る天才という.たとえばあるとき,メーカーが“端肉”を安く大量に仕入れてきたことがあった.端肉というのは,牛の骨から削り取る肉ともいえない部分で,ペットフードに利用されるそうだ.形はドロドロ,水っぽいし,とても食べられるしろものではない.そこで,まず安い廃鶏(卵を生まなくなった鶏)のミンチ肉を加え,ソフト感を出すために組織状大豆タンパクを加える.これでは味がないので“ビーフエキス”“化学調味料”を大量に入れて味をつけ,歯ざわりを滑らかにするために“ラード”や“加工でんぷん”を投入.さらに結着剤,乳化剤を加える.さらに色をよくするために着色料,保存性をよくするために保存料,pH調整剤,酸化防止剤を入れる.ソースとなるケチャップも市販のものを使っていたのでは高いので,トマトペーストに着色料で色をつけ,酸味料を加え,増粘多糖類でとろみをつけて,ケチャップもどきを作るという.添加物は合計20~30種類は使っているので,もはや添加物の塊と言っていいくらいのものである.このミートボールを「おいしいね」と言いながら,愛する子供が食べているのを見て怖くなり,会社を辞めるとともに,食品添加物の情報公開を自分の天命にするようになったという.このあたりの話は物語としてもおもしろく,著者が本音で語っているので興味深い.“ポリリン酸ナトリウム”“グリセリン脂肪酸エステル”“リン酸カルシウム”“赤色3号”“赤色102号”“ソルビン酸”“カラメル色素”など,これらを駆使した添加物の塊で子供たちを育てるわけにはいかないという消費者側の感覚が,彼にこの本を書かせた動機となっている.にせものしょうゆ,にせもの日本酒,にせものかまぼこなどなど,読み進むうちに本当に驚く.たとえばコーヒーや紅茶を飲むときに使う小容器入りのミルク.このミルクは何から作られているのでしょう?実はミルクや生クリームはまったく使われていないのだ.確かに,部屋に常温で置いていてもぜんぜん腐らないので不思議ではあった.これらはすべて添加剤の魔法でできているというから驚きである(表1).小容器や包装が小さい場合(30cm2以下)は内容物を表記しなくてもよいと食品衛生法で決められているために,レストランでも誰も確かめようがないのだと言う.紅茶を飲むときにはいつも大量に使っていた僕は大きなショックを受けた.(65)シリーズ─67◆■7月の推薦図書■食品の裏側安部司著(東洋経済新報社)坪田一男慶應義塾大学医学部眼科———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006現在,食品添加物は1,500種以上にも及び,現代人の食生活には欠かせなくなっている.著者は,やみくもに食品添加物を否定するのではなく,便利な部分も十分認識すべきだとも言う.食品の見た目がよくなる,長持ちするなどのプラスも大きい.しかしながら一方で,まったく添加物の情報が正しく伝わっていないことは大変問題であり,消費者が添加物のプラスとマイナスを理解して選択できる時代がくることを願っているという.僕たちも完全に食品添加物を食べないわけにはいかないけれども,どのくらい食べるかは,特に子供たちへの摂取については,十分情報を得て配慮していきたいものである.(66)☆☆☆表1小容器入りミルクの原材料の例植物油脂カゼインナトリウム加工でんぷんグリセリン脂肪酸エステル増粘多糖類クエン酸クエン酸ナトリウムカラメル色素香料(ミルクフレーバー)

硝子体手術のワンポイントアドバイス38.網膜再剥離例に対する追加ガスタンポナーデと光凝固の併用療法(中級編)

2006年7月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLSはじめに硝子体手術後の再?離例に対しては,速やかに再手術を施行するのが原則であるが,初回硝子体手術時に十分な硝子体切除が施行されている無水晶体眼例では,追加ガスタンポナーデと経瞳孔的光凝固を施行することで網膜の復位が得られる場合がある.●本法の適応増殖性変化を認めないかあってもごく軽度な症例,再?離の原因裂孔が経瞳孔的光凝固施行可能な範囲にある症例,角膜の状態が良好である症例などが適応となる.●実際の方法実際の手順を以下に述べる.1)再?離が確認されたら,伏臥位でポンピングにより眼内液?空気置換を行う.2)翌日,眼内の空気が一塊となって,網膜が復位していることを確認する.この時点では下方に液体部分が生じているので,空気を追加しないと光凝固が施行しにくい(図1).3)空気追加時および光凝固施行時の疼痛緩和の目的で,球後麻酔を施行する.4)伏臥位で角膜輪部から眼内液を抜去した後,仰臥位で毛様体扁平部から空気を適量(眼圧が正常になるまで)注入する(図2).あるいは30ゲージ針で角膜輪部から空気を注入してもよい(角膜輪部からポンピングで液?空気置換を施行すると,気体がバブル状となり光凝固ができなくなる).5)眼内がすべて空気になった時点でGoldmann三面鏡あるいは倒像型高屈折レンズ(TransEquator?,Qudraspheric?,Mainster?など)を装着して光凝固を施行する(図3).(63)6)光凝固は気体を通して施行することになるが,眼内が空気でほぼ完全に満たされているので,全象限で光凝固が可能となる(図4).裂孔周囲だけでなく,バックル上やその後極も含めて比較的広範囲に凝固するほうが確実である.文献1)池田恒彦,田野保雄,玉田玲子ほか:硝子体手術後の再?離例に対するPneumaticretinopexy.眼臨82:1329-1332,1988硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載?38網膜再?離例に対する追加ガスタンポナーデと光凝固の併用療法(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図1液?空気置換翌日の前眼部所見下方に液体部分が生じているので,空気を追加しないと光凝固が施行しにくい.図2空気追加後の前眼部所見伏臥位で角膜輪部から眼内液を抜去した後,仰臥位で空気を適量注入することで,眼内の空気を一塊のままにする.図3倒像型高屈折レンズによる光凝固裂孔周囲およびバックル上やその後極も含めて光凝固を施行する.図4空気追加後の状態眼内が空気でほぼ完全に満たされているので,全象限で光凝固が可能となる.

眼科医のための先端医療67.強度近視に続発する中心窩分離症

2006年7月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS中心窩分離症とは中心窩分離症(myopicfoveoschisis)の歴史は古く1958年のPhillipsらの論文にさかのぼります.“Retinaldetachmentattheposteriorpole”と題してBritishJournalofOphthalmologyに記載されたのは「後部ぶどう腫の強い強度近視眼に続発した黄斑円孔を伴わない後極部網膜?離」でした1).1967年のDuke-Elderには強度近視眼の後極部に網膜分離が生じることが記載されており,その剖検図が記載されています.強度近視特有の萎縮性変化のため網膜のどの層で分離するかはっきりしませんが,網膜が内層と外層の2層に分離し,その間にcolumnとよばれるグリア細胞の架橋がみられます2).その後この疾病があまり注目されたとは思えません.一つはconventionalな細隙灯顕微鏡の観察では診断が容易でなく,軽症例は見逃され,重症例は黄斑円孔網膜?離と誤診されていたと筆者は勝手に想像しています.実際,多くの症例で中心窩網膜が非常に菲薄化しており,検眼鏡的に黄斑円孔と紛らわしくあります.しかしながら,1999年にTakanoらが光干渉断層計(OCT)で観察した中心窩分離症32眼を報告し,黄斑円孔網膜?離の前駆状態として注目を集めはじめました3).この疾病に対する理解が急速に深まった一番の理由はOCTという画期的な画像診断技術が普及し,誰でも診断や病態把握ができるようになったことです.加えてトリアムシノロンやインドシアニングリーンなど補助薬剤を使用した硝子体手術手技が確立するにつれ比較的安全に治療できるようになったことも皆が注目した理由でしょう.邦文による最初の硝子体手術の報告が2001年で4),その後多くの症例報告が相次ぎました5,6).現在,中心窩分離症に対する硝子体手術はかなり一般的となっています.中心窩分離症の治療比較的最近の疾病なので中心窩分離症を長期に観察した報告はきわめて少数です.Gaudricらは昨年のAmer-icanAcademyofOphthalmologymeetingで29眼を平均33カ月フォローし,約34%が不変,約48%が分離症悪化,約17%が黄斑円孔を発症したと報告しています.黄斑円孔網膜?離に至った場合は視力の回復がむずかしく,予防的な意味も含め,できれば黄斑円孔発症前に手術を行うのが望ましいという意見が趨勢になりつつあります.自験例では黄斑円孔のない場合,硝子体手術により約7割の症例が視力改善し,術後の黄斑円孔発症率は数%でした.このように硝子体手術は効果的かつか(59)◆シリーズ第67回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊生野恭司(大阪大学大学院医学系研究科眼科学)強度近視に続発する中心窩分離症図1典型的な中心窩分離症の眼底写真と光干渉断層像A:典型的な中心窩分離症の術前眼底写真.強度近視に伴う萎縮性変化を認める.検眼鏡的に中心窩分離ははっきりしない.B:術前の光干渉断層像.中心窩を含む網膜が分離している.C:硝子体手術3カ月後の光干渉断層計像.術後中心窩は完全に復位し,形態的に中心窩陥凹も回復している.ABC———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006なり安全な治療と考えられています(図1).硝子体手術の実際の手技はまず,トリアムシノロンで硝子体を可視化し7),網膜面にはりついている後部硝子体皮質をdiamond-dustedmembranescraperで除去します.強度近視眼では硝子体分離(vitreoschisis)が生じていることが多く,一見後部硝子体?離が生じているようにみえる場合でも網膜面を丹念に調べ,残存後部硝子体皮質の有無を確かめる必要があります.後部硝子体?離はできるだけ広範囲で作製するのが望ましいですが,癒着の強い例では医原性網膜裂孔を生じる可能性があるため,無理はしなくてかまいません.その後インドシアニングリーンで内境界膜を染色し最低3~5乳頭径?離します.強度近視眼では内境界膜が脆くちぎれやすいことに留意します.最後に眼内液?空気置換をし,ガスタンポナーデを行います.黄斑円孔のない場合はさほど長期のタンポナーデを要しません.中心窩分離症の病因現在までに中心窩分離症の病因が100%わかったわけではありません.しかしながら最近,おぼろげながらわかってきました.筆者らは硝子体手術を施行した中心窩分離症症例をOCTで観察し,その形態的変化を検討しました.すると約70%の症例で検眼鏡的には発見できないような微小な皺襞が形成されていることを発見しました(図2)8).この微小皺襞は網膜の細動静脈と一致しており,あたかも網膜血管が洗濯紐を引っ張るように網膜を吊り上げる,いわゆる“clotheslinetraction”を生じていると考えられました.この原因として,強度近視眼では後部ぶどう腫の形成や眼軸の延長など網膜に過剰な伸展が強いられていますが,たとえば硬化した網膜細動脈は神経網膜の伸展に追随できず,相対的に内方への牽引を生じているのではないかと考えられます.網膜血管だけでなく内境界膜の非伸展性9)や網膜前膜の存在10)により,網膜自身が内方に牽引され結果として外側の網膜と分離するというのが現時点での病因の考え方です.今後の課題中心窩分離症にはさらに議論を尽くすべき課題もあります.一つは内境界膜?離の是非です.従来から内境界膜?離の問題点として網膜機能障害の可能性が指摘されており,最近になって少数例ながら内境界膜?離を行わずに分離症の復位が可能であると報告されました11).筆者は内境界膜の非伸展性が主病因の一つであると考えており,内境界膜?離が必須との立場ですが,エビデンスはありません.他にもガスタンポナーデの是非や,手術基準などさらに検討を要する課題もあります.文献1)PhillipsCI:Retinaldetachmentattheposteriorpole.???????????????42:749-753,19582)Duke-ElderS,DobreeJH:Diseasesoftheretina.SystemofOphthalmology,VolX,p567,HenryKimpton,London,19673)TakanoM,KishiS:Fovealretinoschisisandretinaldetachmentinseverelymyopiceyeswithposteriorstaph-yloma.???????????????128:472-476,19994)石川太,荻野誠周,沖田和久ほか:高度近視眼の黄斑円孔を伴わない黄斑?離に対する硝子体手術.あたらしい眼科18:953-956,20015)KobayashiH,KishiS:Vitreoussurgeryforhighlymyopiceyeswithfovealdetachmentandretinoschisis.??????????????110:1702-1707,20036)IkunoY,SayanagiK,TanoYetal:Vitrectomyandinter-nallimitingmembranepeelingformyopicfoveoschisis.???????????????137:719-724,20047)SakamotoT,MiyazakiM,HisatomiTetal:Triamcino-lone-assistedparsplanavitrectomyimprovesthesurgicalproceduresanddecreasesthepostoperativeblood-ocularbarrierbreakdown.????????????????????????????????240:423-429,20028)IkunoY,GomiF,TanoY:Potentretinalarteriolartrac-tionasapossiblecauseofmyopicfoveoschisis.????????????????139:462-467,20059)KuhnF:Internallimitingmembraneremovalformaculardetachmentinhighlymyopiceyes.???????????????135:547-549,200310)PanozzoG,MercantiA:Opticalcoherencetomography?ndingsinmyopictractionmaculopathy.???????????????122:1455-1460,200411)SpaideRF,FisherY:Removalofadherentcorticalvitre-ousplaqueswithoutremovingtheinternallimitingmem-braneintherepairofmaculardetachmentsinhighlymyopiceyes.??????25:290-295,2005(60)図2硝子体手術術後にみられる典型的な網膜微小皺襞の光干渉断層像(矢印)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006???(61)■「強度近視に続発する中心窩分離症」を読んで■今回は生野恭司先生に強度近視に続発する中心窩分離症について解説していただきました.個人的な感想をまず申しあげて恐縮ですが,このカラム記事は臨床の現場から新しい疾患概念が生まれ,進歩していく過程のロマンを解説していただいたすばらしいストーリーであると感じました.われわれ眼科医の最も大切なフィールドは言うまでもなく眼科の臨床現場です.先人の臨床的な先駆的な観察が優れた臨床医による研究,先端的な医学機械,そして治療学の進歩により確かな疾患エンティティーとして確立していく経過を興味深く,ダイナミックに,そしてわかりやすく書いていただきました.強度近視に続発する中心窩分離症の疾患の病態については,ここにあらためて解説する必要もないほどにわかりやすく書かれた本文を参照ください.特に感銘を受けたのは,病態について網膜血管による‘clotheslinetraction’理論は大変視覚的,感覚的にむずかしい病態を一瞬にして説明し理解できるすばらしい理論です.臨床医学の粋をみせていただいたと感じています.臨床医の基本であり,出発点は言い旧されてはいますが,患者さんをとにかくよく観察することです.すぐれた臨床医はすぐれた観察眼をもっています.生野先生の解説によりますと「中心窩分離症」を初めて記載したのは1958年のPhillipsとのことです.いまのような先端的な検査機器がない状態で新しい概念を生みだしたのはすばらしいことで,その業績はすばらしいと考えます.Phillipsの前にも同じような眼底を診察した臨床医は多数いたはずですが,最初の記載者はPhillipsになりました.しかし,光干渉断層計(OCT)の画像から‘clotheslinetraction’理論を考えつかれた生野先生もまた優れた観察者であると考えます.同様に生野先生と同じOCTをみた臨床医は以前にもいたはずですが,‘clotheslinetraction’理論の独創性は生野先生を待たなければなりませんでした.これは臨床医学のロマンであると考えます.われわれ臨床医の醍醐味を見せていただいた総説です.山形大学医学部視覚病態学山下英俊☆☆☆

新しい治療と検査シリーズ163.メトトレキセート硝子体投与-原発性眼内悪性リンパ腫の治療として-

2006年7月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS?バックグラウンド原発性眼内悪性リンパ腫は,原発性中枢神経系悪性リンパ腫の1亜型でまれな疾患であり,通常はステロイド加療に抵抗する慢性の後部ぶどう膜炎を呈し,仮面症候群とよばれる.この疾患に対する治療として,おもに放射線治療と高容量のメトトレキセートを含む全身化学療法が行われてきたが,近年,眼局所の化学療法ということでメトトレキセートの硝子体投与が新たな選択肢として注目されるようになってきた1,2).?新しい治療方法1997年に原発性眼内悪性リンパ腫の治療にメトトレキセートの硝子体投与が安全かつ有効であることが報告され,その後の2002年の報告では16例26眼の原発性眼内悪性リンパ腫の治療に,再発した病変も含めて100%の寛解率を得たことが示された3,4).この数年で急激にこの治療法が浸透してきており,わが施設でも第一選択としてメトトレキセートの硝子体投与を行っている.?使用方法(治療の実際)以下のような硝子体注射を,導入療法として週2回×1カ月間,強化療法として週1回×1カ月間,維持療法として月1回×1年間行う.<硝子体注射の方法>①メトトレキセート400?gを0.05m?(あるいは0.1m?)に溶解したものを準備しておく.②手術時と同様に結膜?の洗浄,消毒を行う.③点眼麻酔をして開瞼器で開瞼後,まず前房穿刺(あるいは硝子体液吸引)を行う.④30ゲージ注射針にて,①を毛様体扁平部より硝子体に投与する.⑤生理食塩水で十分洗浄し,抗生物質入りの眼軟膏を塗布する.③では,注射前に低眼圧にすることで注射後に薬剤が眼外に漏れないようにしている.採取した硝子体液はサイトカイン解析で治療効果の判定に用いることができる.④の際に1/2インチ針を用いると眼内に針が当たることはなく,硝子体出血や網膜?離のリスクを避けることができる.治療効果の判定は,硝子体内細胞の数,治療前後の硝子体液サイトカイン濃度の変化,網膜浸潤病変の状態などを指標とできる.硝子体液のインターロイキン-10(IL-10)は悪性リンパ細胞から産出される1,2)ので,治療後に硝子体液IL-10の値が感度未満に低下すれば寛解と判断してよい.表1は当科でメトトレキセート硝子体内投与を第一選択として行った5症例における硝子体液サイトカイン濃度の推移であるが,全例で治療後のIL-10が感度未満となった.また症例1ではメトトレキセート硝子体投与によって速やかに網膜浸潤病巣が治癒した(図1).副作用として高頻度に角膜上皮障害が生じるが,点眼や眼軟膏で治癒しない場合や角膜輪部障害がみられた場合は,導入療法の週2回の注射を週1回に減らしたほうがよい(図2).角膜障害は1カ月に一度の注新しい治療と検査シリーズ(57)163.メトトレキセート硝子体投与─原発性眼内悪性リンパ腫の治療として─プレゼンテーション:曺麗加大阪大学大学院医学系研究科脳神経感覚器外科学(眼科学)コメント:後藤浩東京医科大学眼科学教室表15症例における硝子体液サイトカイン濃度の推移症例RorL治療前硝子体液IL-10/IL-6*1(pg/m?)治療後硝子体液IL-10/IL-6(pg/m?)経過観察期間(治療後)*31R4,870/57.6─*2/40.623カ月(M)L9,130/80.2─/3529M2R880/30.8─/9.631ML─/5.48M3R19.0/14.0─/27.46ML2,730/80.4─/32.223M4L4,080/280─/9.817M5R1,220/16─/14.419ML1,340/10.0─/5.76M*1IL-10:インターロイキン-10,IL-6:インターロイキン-6.*2─は,測定感度未満(≒0)を表す.*32006年6月現在.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006射頻度になると自然に治癒する.過去の報告では白内障の進行,黄斑症,硝子体出血,視神経萎縮,無菌性眼内炎などの副作用が問題となっているが,当科では現在,全例が白内障手術後であることもあり,角膜障害以外の副作用は生じていない.?本方法の良い点本治療法の良い点は,悪性リンパ腫が再発した場合もくり返し行えるという点と,治療の副作用が可逆的でコントロールできるという点であろう.放射線治療は有効であるが,一度しか行えず,放射線網膜症や難治性のドライアイなど非可逆的な副作用を生じる恐れがある1).当初,初発病変には放射線照射を行い,再発病変にはメトトレキセートの硝子体注射・全身投与を行うのが一般的であったが,最近の報告では初発病変においてもメトトレキセートの硝子体注射を全身化学療法とともに実施することが治療の第一選択として述べられているものもある2).しかしながら,本治療の歴史は浅く,長期的な副作用の有無,生命予後改善への寄与については今後の報告を待たねばならない.文献1)ChanCC,WallaceDJ:Intraocularlymphoma:updateondiagnosisandmanagement.??????????????11:285-295,20042)Levy-ClarkeGA,ChanCC,NussenblattRB:Diagnosisandmanagementofprimaryintraocularlymphoma.???????????????????????????19:739-749,20053)SmithJR,RosenbaumJT,WilsonDJetal:Roleofintra-vitrealmethotrexateinthemanagementofprimarycen-tralnervoussystemlymphomawithocularinvolvement.?????????????109:1709-1716,20024)FishburneBC,WilsonDJ,RosenbaumJTetal:Intravit-realmethotrexateasanadjunctivetreatmentofintraocu-larlymphoma.???????????????115:1152-1156,1997(58)?本方法に対するコメント?眼内悪性リンパ腫に対する治療の,少なくとも現時点における一般的な方法は眼局所への放射線照射である.一方,メトトレキセートの硝子体投与は比較的新しい治療法であるが,ここに紹介されているように切れ味もよく,有効な治療法であることは間違いない.放射線治療後の再発例などでは,これが唯一の治療法といっても過言ではない.ただし,メトトレキセート硝子体投与が放射線療法などを差し置き,第一選択の治療法として位置づけてよいのか否かは議論の分かれるところであろう.頻回な注射を必要とする現在のレジメについては検討の余地があるかもしれない.また,角膜障害をはじめとする有害事象についても十分な認識をもっておくべきである.なお,治療の効果判定に眼内液のIL-10測定は合理的な方法であるが,前房水のサイトカイン測定値はあてにならないことがあり,硝子体液を用いた評価が重要である.その採取に際しては合併症を生じて合併症を生じて本末転倒にならぬよう,細心の注意が求められる.図1表1の症例1の右眼眼底周辺部写真経過中,黄白色の網膜浸潤病巣が出現したが,メトトレキセート硝子体投与により治療後4カ月には網膜色素上皮の萎縮を残して治癒した.治療開始後4カ月治療開始後1カ月治療前図2メトトレキセート投与による角膜障害A:角膜びらん.B:糸状角膜炎.C:角膜輪部障害.Cのような所見が見られたら,メトトレキセート投与の頻度を減らすべきである.ABC

涙点プラグ:涙液油層減少を伴うドライアイ患者に対しての涙点プラグ挿入術-涙液油層治療の補助としての涙点プラグ-

2006年7月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS●涙液油層減少を伴うドライアイに対しての涙液油層治療涙液は,油層・水層・ムチン層の3層構造をとると考えられており,涙液油層には涙液の過剰な蒸発の防止,涙液層の安定性に寄与,光学的に平滑な涙液表面の形成,瞬目における潤滑,眼瞼縁におけるバリアという機能がある.このため涙液油層が減少しているとドライアイがひき起こされると考えられる.涙液油層の減少などの評価は従来困難であったが,涙液干渉像観察装置DR-1?(興和)が開発され1),その画像解析による涙液油層薄膜厚み測定が可能となってきている.これはナノメーターレベル薄膜の定量技術であるため“涙液ナノテクノロジー”と名付けた2).DR-1?画像でdarkgray-brown干渉色を呈する症例では涙液油層が薄くなっており(涙液油層減少),横井のDR-1?グレードの5および1または2の範疇に入る.グレード5は油層とともに涙液分泌が非常に減少している重症のドライアイである.グレード1,2の涙液油層減少には(正常者では明るいgray-brown干渉色を呈する)にはo?cedryeye(VDT症候群を伴うドライアイ.びまん性のマイボーム腺閉塞も高頻度にみられる)3),閉塞性マイボーム腺機能不全(MGD)(涙液分泌量正常なもの)4),Stevens-Johnson症候群などの重症ドライアイでMGDを合併しかつ比較的眼表面wetnessの保たれているもの5),フルオレセイン染色軽度の涙液分泌減少dryeye,shortBUT(tear?lmbreakuptime)dryeyeなどのドライアイ症例が含まれている.これらのうち,閉塞性MGDには油性点眼6),o?cedryeye3)および,Stevens-John-son症候群などの重症ドライアイでMGDを合併しかつ(55)涙点プラグセミナー監修/坪田一男後藤英樹鶴見大学歯学部眼科学講座4.涙液油層減少を伴うドライアイ患者に対しての涙点プラグ挿入術─涙液油層治療の補助としての涙点プラグ─近年,DR-1?を用い涙液油層減少を伴うドライアイの診断が可能となっており(涙液ナノテクノロジー),涙液油層治療がドライアイ治療の重要なオプションとなってきている.涙液油層治療に際しては適切な量の眼表面涙液貯留量が重要であり,ドライアイ症例で涙液貯留量が低下している場合,その増加をもくろむ手段としての涙点プラグ挿入術について述べた.ホワイトメディカル提供図1O?cedryeye患者のDR-1?画像涙液油層厚み40nm.ドライアイの治療で点眼治療と下涙点プラグを行ったあとの涙液干渉像.図2図1の症例に極少量オフロキサシン眼軟膏眼瞼縁投与後のDR-1?画像涙液油層厚みは若干のむらが見られるが,中心で90nm.眼の乾燥症状スコアも改善した.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006(00)比較的眼表面wetnessの保たれているドライアイ5)には,極少量オフロキサシン眼軟膏眼瞼縁投与が有効であった.これらは局所油性分補充療法であり,施行後に涙液油層が(厚みに関しては)健常化するため“涙液油層治療”とよんでいる.●涙液油層治療の補助としての涙点プラグ現在ドライアイの治療は人工涙液点眼投与,ヒアルロン酸点眼投与を行い,効果が少なければ涙点プラグ挿入へ進むことが多い.Sj?gren症候群など上下涙点プラグ挿入が著効するタイプ(鼻刺激Schirmerテストが低下しているドライアイ,多くは横井のグレード4または5)や,下方または上方のみのプラグで効果のある症例もあるが,臨床上は,点眼治療に反応せず,上下涙点プラグ挿入では流涙がひき起こされ,かといって上下いずれかのみのプラグではあまり効果がないというタイプのドライアイが未解決の問題として残っている.このタイプのドライアイを詳細に観察すると上記の涙液油層減少を伴ったドライアイが多く含まれている.このタイプのドライアイでSchirmerテストが正常(涙液水分量十分)であれば上記の涙液油層治療へ進むが,Schirmerテストの異常(涙液分泌低下)を伴う場合,投与した油成分の水層上での伸展が不十分となる場合が多い(電車理論)7).これらの症例に点眼療法─下方プラグ─涙液油層治療と治療を追加していくと,油層治療により正常に近い厚みをもった涙液油層が形成され,眼乾燥感の症状も改善することが多いため,現在涙点プラグを涙液油層治療前のオプションとして利用している(このような症例にプラグを施行せず,直接涙液油層治療を行ったらいいのではないかというアイデアもあるが,油層治療はドライアイ治療としてはまだオーソドックスではないため点眼療法,涙点プラグをまずやってそれでも不十分な場合,追加するようなステップを踏んでいる.油層治療はある程度の眼表面涙液貯留量がないと効きにくいのではないかというのが現段階での印象である).通常,下方のプラグのみではSchirmerテストが正常化しないため,眼表面涙液貯留量の正常化までは期待されないが,この治療のメカニズムとしては,涙液メニスカスの微妙な変化から涙液油層の伸展が助けられているのではないかと推測している.文献1)YokoiN,TakehisaY,KinoshitaS:Correlationoftearlipidlayerinterferencepatternswiththediagnosisandseverityofdryeye.???????????????122:818-824,19962)GotoE,DogruM,KojimaTetal:Computer-synthesisofaninterferencecolorchartofhumantearlipidlayer,byacolorimetricapproach.??????????????????????????44:4693-4697,20033)後藤英樹,村戸ドール,松本幸裕ほか:極少量オフロキサシン眼軟膏眼瞼縁投与によるドライアイの治療.第29回角膜カンファランス,徳島,2005年2月17日4)GotoE,TsengSC:Di?erentiationoflipidtearde?ciencydryeyebykineticanalysisoftearinterferenceimages.???????????????121:173-180,20035)GotoE,DogruM,MatsumotoKetal:Successfultearlipidlayertreatmentforseveredryeyepatientsbylow-doselipidapplicationonthefull-lengthlidmargin.Inter-nationalOcularSurfaceSociety,FortLauderdale,FL,2006.4.296)GotoE,ShimazakiJ,MondenYetal:Low-concentrationhomogenizedcastoroileyedropsfornonin?amedobstruc-tivemeibomianglanddysfunction.?????????????109:2030-2035,20027)川島素子,後藤英樹:眼の乾きと涙液油層─マイボーム腺脂質,涙液蒸発,涙液油層およびDR-1?.あたらしい眼科22:295-302,2005