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フリーラジカルとアンチエイジング医学

2006年10月30日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSニズム」はある生物や臓器・器官のみに当てはまるメカニズムである.「共通メカニズム」のなかで確信がありそうなのはフリーラジカル(活性酸素)のみであるとMartinらは述べている.個々の寿命は活性酸素の発生量とそれに対する防御機構の能力とのバランスにより決定されている可能性がある.興味あることに,この活性酸素を老化仮説の中心に考えると,他の多くの仮説がそこに関連づけられてしまう(図1)2).細胞内で発生する活性酸素のおよそ90%がエネルギー代謝の過程で電子伝達系から発生し,その量は総酸素消費量の0.1~2%になると考えられている3,4).電子伝達系は80以上のサブユニットからなり,それを構築するための遺伝子が100以上も必要となる.複合体Iは40以上ものサブユニットからなり,唯一,立体構造がはじめに「アンチエイジング(抗老化)」はヒトの心身ともに健康な長寿の実現を目指すものであるが,老化をひき起こすメカニズムを明らかにしないかぎり,科学的根拠に乏しい勘や経験によって抗老化の方法を模索せざるをえない.しかし老化は長くて複雑な過程を経るために,そのメカニズムはいまだに未解明で,そのためこれまで多くの老化仮説が考えられてきた(表1).これらの仮説はどれも魅力的なものであるが,すべての生物や臓器・器官の老化に当てはめることはむずかしかった.そのなかでMartinらは,1996年のNatureGenetics誌のなかで,老化のメカニズムを「共通メカニズム」と「個別メカニズム」に分けて考えることを提唱した1).「共通メカニズム」はこれまで考えられてきた,すべての生物や臓器・器官に当てはまる老化のメカニズムであり,「個別メカ(3)????*NaoakiIshii:東海大学医学部基礎医学系分子生命科学〔別刷請求先〕石井直明:〒259-1193伊勢原市望星台東海大学医学部基礎医学系分子生命科学特集●眼科におけるアンチエイジング医学の流れあたらしい眼科23(10):1245~1250,2006フリーラジカルとアンチエイジング医学??????????????????????-??????????????石井直明*表1さまざまな老化の仮説個体レベル神経内分泌説ストレス説免疫説細胞機能レベル体細胞分裂寿命限界説遺伝子機能レベルプログラム説体細胞突然変異説遺伝子翻訳エラー説分子レベル老廃物蓄積説高分子架橋説フリーラジカル説DNA傷害説分子から個体へエラーカタストロフ説ホルモン神経エネルギー代謝(酸素消費)細胞傷害DNA傷害修復機構代謝速度の調節(神経内分泌説)遺伝子による代謝速度の決定(プログラム説)ストレス説フリーラジカル説老化体細胞突然変異説遺伝子翻訳エラー説老廃物蓄積説DNA傷害説エラーカタストロフ説活性酸素抗酸化機構図1酸素が関わる老化説〔石井直明:分子レベルで見る老化.講談社ブルーバックスより転載〕———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006解明されていない大きな複合体である.複合体Iは少なくとも1つのFMN(?avinmono-nucleotide)と8つの硫酸鉄をもち,これらの個所から活性酸素が発生すると考えられている.複合体IあるいはIIから電子が複合体IIIに渡される.複合体IIIのなかではユビセミキノンが自動酸化されるときに酸素に電子が渡されることで活性酸素が発生すると考えられている(図2).電子が複合体IIIからIVと渡り,ATP(アデノシン三リン酸)は最終段階の複合体Vで合成される.酸素を一番消費するのは,電子伝達系の終末酵素であるシトクローム?オキシダーゼであるので,ここから多量の活性酸素が発生しても不思議ではないが,その証拠は得られていない.活性酸素はエネルギー代謝の副産物としてミトコンドリアから発生する以外にも,HAD(P)Hオキシダーゼやキサンチンオキシダーゼなどの生体酵素反応から,また放射線やタバコなどの外的要因からも発生する.活性酸素は細胞傷害や細胞死(アポトーシス)を起こし,それによって老化や老年性疾患が生じ,さらに傷害が遺伝子に及べば癌化が生じることが分子遺伝学的な基礎研究から明らかになってきた.I活性酸素と老化1960年から70年代にかけて行われた若い動物(細胞)と老いた動物(細胞),あるいは寿命の異なる動物間の比較研究のなかから,生物学的な老化のメカニズム解明に重要なヒントを与えてくれたものがある.一つは,体重の大きい動物(体重の重い動物)ほど長生きする傾向があることが明らかになった.さらに,体重の大きい動物ほどエネルギー代謝が低い傾向がある5).つまり,エネルギー代謝が低い動物ほど寿命が長いことになる.このようなデータは,寿命決定の遺伝子とエネルギー代謝の関係を明らかにした最近の分子遺伝学的な研究結果をすでに暗示していたことになる.線虫の一種,??????????????????????(??????????)の長寿突然変異体の???-?や???-?の遺伝子解析から明らかになったインスリン様シグナル伝達系はこのエネルギー代謝を制御している.現在では,インスリン様シグナル伝達系を介した寿命制御のメカニズムは??????????のみならず,ショウジョウバエ,マウス,ヒトと,多くの生物に共通であると考えられるようになってきた6).(4)複合体I複合体IV複合体V複合体III複合体IIコエンザイムQ電子ATP,熱O2O2-H2O2H2OSODカタラーゼGPxOH?Fe3+(エネルギー産生)(活性酸素産生)NADHNAD+FADFADH2電子活性酸素種O2-:スーパーオキシドOH?:ヒドロキシルラジカルH2O2:過酸化水素図2ミトコンドリア電子伝達系と活性酸素■用語解説■線虫,??????????線虫は種の数,生息数ともに他の生物を圧倒するほど多く,ヒトに寄生する回虫や,カミキリムシを媒体として松を枯らすマツノザイ・センチュウなど,その多くは寄生性であり特定の宿主の中で生息している.??????????は非寄生性の線虫であり,細菌を餌にして地中で自活している.体長1mmあまりの虫であるが,表皮,神経,筋肉,消化器官,生殖器官という動物に必要最小限の体制をもつ.SydneyBrennerが遺伝子のレベルで行動のメカニズムを解明するために開発したモデル動物であり,さまざまな突然変異体を分離され,分子遺伝学的手法が確立されている.多細胞動物で初めてゲノムの全塩基配列(約1億塩基対)が決定されている.??????????の成虫は,たった959個の体細胞から成り立っており,JohnsSulstonは,受精から成虫に至るまでのすべての細胞の分裂様式や運命を記述した細胞系統樹を完成させた.これは他の動物と比べて細胞数が少ない??????????でのみ可能な偉業であり,世界中で賞賛された.線虫の発生分化の段階ではプログラムされた細胞死が現れるが,BobHorvitzはそのメカニズムを遺伝子のレベルで解明し,ヒトを含むさまざまなアポトーシスのメカニズムの解明に先駆者的な役割を果たした.この3人はこれらの業績により2002年のノーベル医学生理学賞を受賞している.??????????は約1カ月の短い最長寿命をもつことから,老化の研究にも盛んに使われるようになった.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006????さらにもう一つの長寿突然変異体,???-?の原因遺伝子産物は電子伝達系に必要な酵素であり,エネルギー代謝に関与している7).興味あることに,これらの遺伝子の突然変異体はエネルギー代謝に関係することに加えて,酸素に耐性を示す.エネルギー代謝は,解糖系から,TCA(トリカルボン酸)サイクル,電子伝達系を介して,体温維持のための熱や,生体内の化学エネルギーであるATPを作りだす生化学反応である.多くの生物はこの反応のなかで酸素を必要とする.体内に取り込まれた酸素の多くはエネルギー代謝の最終反応で無害な水となるが,一部が無差別に細胞構成生物に傷害を与える活性酸素に変化する.生体内で生じる活性酸素の約90%は,このエネルギー代謝の副産物としてミトコンドリアに存在する電子伝達系から発生する.エネルギー代謝が高くなれば,活性酸素の発生量が増加する.これが,エネルギー代謝が高い動物ほど寿命が短くなることや,男性ホルモンによりエネルギー代謝が高い雄のほうが雌よりも寿命が短くなる一因になっていると考えられる.筆者らは複合体IIのサブユニットの一つである,シトクローム?大サブユニット(CYT-1)に欠損が生じた??????????の突然変異体(???-?)を分離した8~10).この変異は複合体IIから活性酸素の過剰産生をひき起こし11),その結果,大気中でも野生株に比べて短命で,酸素濃度に依存して寿命の短縮がみられ,さらにミトコンドリアの形態異常,老化のマーカーとして知られるリポフスチン(老人斑)や酸化蛋白質の早期蓄積などの早老症の兆候を示すようになる12,13).さらに,???-?の胚では正常な発生・分化とは無関係な野生株にはみられない細胞死も多数生じる14).??????????ではある細胞が胚発生期にアポトーシス(線虫では「プログラムされた細胞死」と定義)を起こし,それが個体の発生・分化に重要な役割を担っていることが知られている.アポトーシスには実行因子である???-?(カスペース3)が必要となり,これが欠損するとアポトーシスは起こらなくなる.???-????-?の二重突然変異体では,細胞死がまったくみられなくなることから,???-?に生じる過剰な細胞死も線虫がもつプログラムされた細胞死の経路が必要になる.???-????-?の平均寿命は???-?単独の寿命より長く,野生株よりも短い14).これは細胞死が寿命短縮に少なからず寄与していることがわかる.これらの結果から,加齢とともに電子伝達系に傷害が蓄積すれば,活性酸素が複合体IやIII以外からも発生するようになり,老化が加速されることを示唆している.線虫の???-?遺伝子に相当するSDHC遺伝子に???-?と同様の変異をもつマウスのNIH3T3培養細胞でも,ミトコンドリアから活性酸素が過剰に産生されるようになる15).その結果,ミトコンドリアの形態変化や膜電位の低下,酸化蛋白質の蓄積,核のDNA中のoxo8dG(8-oxo-2¢-deoxyguanosine)蓄積量と突然変異頻度の増加が起こる15).培養を続けるうちに,細胞はアポトーシスを生じるようになり,増殖速度が低下する.しかし培養をさらに続けると,アポトーシスを逃れた細胞が形質転換を生じ,増殖能力が復帰する15).これらの細胞をヌードマウス皮下に移植すると,アポトーシスを盛んに起こしている時期の細胞は短時間で貪食されるが,形質転換を生じた細胞を移植すると腫瘍を形成するようになる15).この現象は,個々の細胞の機能低下やアポトーシスにより生じる「老化」と,核DNAの遺伝子変異により生じる「癌化」が,活性酸素の傷害を起因とした同じ過程のなかで生じることを示した初めての例である(図3).家族性傍神経節腫(パラガングリオーマ)の患者に複合体IIのSDHCやSDHDサブユニットの遺伝子変異が見いだされたことから16),最近では,これらの遺伝子(5)図3ミトコンドリアが関わる老化や疾患のメカニズムエネルギー代謝細胞・遺伝子傷害細胞機能の低下器官・臓器の機能低下個体老化・疾患癌細胞の出現アポトーシス癌ミトコンドリア活性酸素———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006は腫瘍抑制遺伝子と定義されている17).TCAサイクルや電子伝達系を含む細胞小器官であるミトコンドリアは,エネルギー産生と,その過程の副産物である活性酸素を発生させ,さらにアポトーシスも制御しており,老化の鍵を握っているといっても過言ではない.とはいえ,エネルギー代謝・活性酸素と老化との関係には,一つの矛盾がある.活性酸素はエネルギー代謝の副産物としてミトコンドリアから産生されるため,エネルギー代謝が活発になれば,当然,活性酸素の発生量も増えることになる.活性酸素はあらゆる細胞内の分子を攻撃するので,これを産生するミトコンドリア自身にも傷害を与える.その結果,ミトコンドリアの機能低下が生じてエネルギー代謝が低下することになる.エネルギー代謝が低下すれば活性酸素の産生量が低下するはずである.これが正しければ,加齢とともに活性酸素の発生量は低下することになり,ミトコンドリアへの傷害は減少するはずである.現に??????????の実験で,ミトコンドリア電子伝達系の複合体のサブユニットをコードする遺伝子の発現を抑制すると,寿命が延長することが報告されている18,19).これらの遺伝子発現の抑制はエネルギー代謝の低下を招くことから,寿命延長効果は産生する活性酸素の量が低下するためと考えられている.しかし,前述したように,筆者らの研究では電子伝達系の傷害は活性酸素の過剰産生をひき起こし,??????????を短命にする.これは電子伝達系の複合体の傷害が電子の正常な流れを妨げ,電子伝達経路の先に進めなくなった電子がその場から逸脱し,近傍の酸素と反応して活性酸素を生じるためと考えられる.筆者らは最近,活性酸素の発生量は加齢で変化しないことを突き止めている20).これは,老化によるミトコンドリア傷害は活性酸素の産生量に影響を与えることはないためと考えられるが,ミトコンドリアの傷害により電子伝達系のなかで活性酸素量が増える個所と減少する個所が存在するために,総発生量としては変化が表れてこないことが原因であるとも考えられる.II活性酸素と老年性疾患活性酸素は老化のみならず,前述した癌をはじめ,加齢とともに増加するさまざまな疾患にも関与している(表2).最近は過食,運動不足によって内臓脂肪が蓄積し,メタボリックシンドロームとよばれる,高血圧症,高脂血症(コレステロールやトリグリセライドの高値),糖尿病(インスリン抵抗性)など複数の生活習慣病を合併する人が増えている.これらの病気はお互いが密接な関係をもって発生しており,多く合併するほど動脈硬化を促進して脳梗塞や心筋梗塞などを起こしやすくなる.動脈硬化には活性酸素が深く関与している.コレステロールの輸送に関わる低比重リポ蛋白質(LDL)は血中から血管の内皮細胞下に侵入すると,内皮細胞や平滑筋細胞で作られた活性酸素によって酸化LDLに変化する.一方,内皮細胞下に侵入したマクロファージは酸化LDLに結合する受容体をもつために,これを介して酸化LDLを取り込む.すると酸化LDLからコレステロールが切り離され,マクロファージ内に蓄積するようになる.この過程でマクロファージは泡沫細胞を形成する.この泡沫細胞が血管内膜に蓄積し,そこにリンパ球や血小板が集まってくる.血小板からは血小板由来増殖因子(PDGF)が放出され,これが平滑筋細胞の増殖を招くことで,血管の柔軟性が失われたり,血管の内腔が狭められたりしていく.このような経過により生じる,高齢者の大動脈にみられるアテローム性動脈硬化症に活性酸素がトリガーの役目を果たしている.最近,筆者らは電子伝達系複合体サブユニットであるSDHCの変異遺伝子を導入した遺伝子組換えマウス(トランスジェニック・マウス)の作製に成功した(未発表).この変異マウスは,同様の変異をもつ線虫や培養細胞と同様にミトコンドリアから活性酸素が過剰に産生(6)表2活性酸素が関与する傷害や疾患炎症リウマチ関節炎,高尿酸血症,熱傷癌癌の発生,癌の増殖,癌の転移神経Alzheimer病,Parkinson病,家族性筋萎縮性側索硬化症組織・臓器動脈硬化,潰瘍,糖尿病,白内障,加齢黄斑変性症,虚血,膵炎(鈴木?之:老化の原点をさぐる.裳華房,谷口直之,淀井淳司:酸化ストレス・レドックス.共立出版より改変)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006????され,さらに視力の低下といった老人性の疾患が野生型に比べて早期に認められるようになった.これにより,このマウスが生体内酸化ストレスを原因とする老化や老人性疾患のモデル動物として,老化の基礎研究のみならず臨床研究にも応用され,老化および老人性疾患の発症機構の解明から治療や予防まで幅広い分野で貢献することが期待される.III活性酸素とアンチエイジング実験動物で長寿を実現させる最も簡単な方法が,「腹八分目」,つまりカロリー制限である.これは単細胞から霊長類のサルまで,実験に使用した生物すべてに当てはまる.このメカニズムはいまだに不明であるが,カロリー制限という一種の飢餓状態を細胞が感知し,そのシグナルが抗酸化や免疫などの生体防御能力を高めることが一つの理由にあげられている21).活性酸素は細胞毒性が強いため,生物はそれに対する防御機構を進化させてきた.これらのなかには活性酸素を除去するスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)カタラーゼ,グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)などの酵素や,ビタミンCやEなどの低分子物質などが知られており,寿命が長い動物ほど,これらの酵素や低分子物質を多くもつことが知られている.??????????のインスリン様シグナル伝達系の下流では???-??(ヒトではHOXO)とよばれる転写因子が発生,老化,抗酸化にかかわる遺伝子を制御していると考えられ6),マンガン-SODの発現量が長寿突然変異体である???-?で上昇していることが知られている22).最近は,適度な運動が活性酸素に対する防御機構の能力を上げると考えられるようになった.これは運動によるエネルギー代謝亢進で発生する活性酸素の適応応答(ホルミシス効果)である可能性がある23).ホルミシスとは,これは軽度な傷害が防御機構をより強くし,大きな傷害に備えるような適応応答とよばれる現象である.ホルミシスは最初に放射線傷害から発見されたが,電離放射線による傷害の原因の90%が,放射線が水と反応して生じた活性酸素によるものであることや,あらかじめ酸素ストレスをかけた??????????が放射線に耐性を示すことから,ホルミシスの本来の役割は活性酸素に対する生体防御機構と考えられる.つまり,活性酸素は細胞構成成分に傷害を与える一方で,細胞伝達のシグナルとして発生や癌化の過程に関与すると同時に,活性酸素のシグナルが活性酸素に対する防御機構の活性化にも働いている.老化の促進や老年性疾患を防ぐには,活性酸素を必要のない場所で過剰に発生させず,一方で栄養や運動で抗酸化能力を高めることが必要になる.おわりに老化の研究者は,誰にでも生じる「生理的老化」以外に,誰にでも生じるわけではないが,加齢とともに増える疾患を「病的老化」として考えている.生理的老化による死亡は老衰であるが,これは総死亡数の3%にすぎない.多くの人たちは老化でなく,病的老化で亡くなるために100歳まで行き着かない.日本人の総死亡数の60%が脳と心臓の血管傷害と癌の疾患であり,これらの病的老化による疾患を克服すれば,「平均寿命」は今よりもさらに延びることになる.最近の研究から,活性酸素は生理的老化のみならず,病的老化にも密接に関与していることが明らかになってきた.生体内の活性酸素を制することは,寿命や老化を制することといっても過言ではないかもしれない.分子遺伝学にもとづいた老化のメカニズムの研究は,確かなヒトの健康的な長寿実現の方法を見いだしてくれるに違いない.文献1)MartinGM,AustadSN,JohnsonTE:Geneticanalysisofageing:Roleofoxidativedamageandenvironmentalstresses.?????????13:25-34,19962)石井直明:分子レベルで見る老化.講談社,20013)NichollsP,ChanceB:MolecularMechanisminOxygenActivation(edbyHayaishiO),p479-534,Academic,NewYork,19744)ImlayJA,FridovichI:Assayofthemetabolicsuperoxideproductionin????????????????.???????????283:6957-6965,19915)鈴木?之:老化の原点を探る.裳華房,19886)KenyonC:Theplasticityofaging:Insightfromlong-livedmutants(Review).????120:449-460,20057)StenmarkP,GrunlerJ,MattssonJetal:Anewmemberofthefamilyofdi-ioncarboxylateproteins.Coq7(???-?),amembrane-boundhydroxylaseinvolvedinubiquinonebiosynthesis.???????????276:33297-33300,2001(7)———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.23,No.10,20068)IshiiN,TakahashiK,TomitaSetal:Amethylviologen-sensitivemutantofthenematode??????????????????????.???????237:165-171,19909)HondaS,IshiiN,SuzukiKetal:Oxygen-dependentper-turbationoflifespanandagingrateinthenematode.????????:???????48:57-61,199310)IshiiN,FujiiM,HartmenPSetal:Amutationinsucci-natedehydrogenasecytochrome?causesoxidativestressandageinginnematodes.??????394:694-697,199811)Senoo-MatsudaN,YasudaK,TsudaMetal:Adefectinthecytochrome?largesubunitincomplexIIcausesbothsuperoxideanionoverproductionandabnormalenergymetabolismin??????????????????????.???????????276:41553-41558,200112)HosokawaH,IshiiN,IshidaHetal:Rapidaccumulationof?uorescentmaterialwithaginginanoxygen-sensitivemutant???-?of??????????????????????.???????????????????74:161-170,199413)AdachiH,FujiwaraY,IshiiN:E?ectsofoxygenonpro-teincarbonylandagingin??????????????????????mutantswithlong(???-?)andshort(???-?)lifespan.????????:???????53A:240-244,199814)Senoo-MatsudaN,HartmanPS,AkatsukaA:AcomplexIIdefectsmitochondrialstructure,leadingto???-?-and???-?-dependentapoptosisandaging.???????????278:22031-22036,200315)IshiiT,YasudaK,AkatsukaAetal:Amutationinthe????geneofcomplexIIincreasedoxidativestress,resultinginapoptosisandtumorigenesis.???????65:203-209,200516)NiemannS,MullerU:MutationsinSDHCcauseautoso-maldominantparaganglioma,type3.?????????26:268-270,200017)GottliebE,TomlinsonPM:Mitochondrialtumorsuppres-sors:Ageneticandbiochemicalupdate.???????????5:857-866,200518)DillinA,HsuA-L,Arantes-OliveiraNetal:Ratesofbehaviorandagingspeci?cbymitochondrialfunctiondur-ingdevelopment.???????298:2398-24011,200219)LeeSS,LeeRYN,FraserAGetal:AsystematicRNAiscreeningidenti?esacriticalroleformitochondriain??????????longevity.?????????33:40-48,200320)YasudaK,IshiiT,SudaHetal:Age-relatedchangesofmitochondrialstructureandfunctionin??????????????????????.???????????????????(inpress)21)GuarenteL,PicardF:Calorierestriction─the????con-nection.????120:473-482,200522)HondaY,HondaS:The???-?genenetworkforhongevi-tyregulateoxidativestressresistanceandMn-SODsuperoxidedismutasegeneexpressionin??????????????????????.???????13:1385-1393,199923)RadakZ,ChungHY,GotoS:Exciseandhormesis:oxida-tivestress-relatedadaptationforsuccessfulaging.???????????????6:71-75,2005(8)

序説:眼科におけるアンチエイジング医学の流れ

2006年10月30日 月曜日

———————————————————————-Page1(1)????昨年本誌(Vol.22,No.4)で“眼科医のためのアンチエイジング医学”を特集したが,今回はその続編を企画した.アンチエイジング医学は日本でもここにきて急激に社会の関心が高まり,積極的なアプローチがなされようとしている.アンチエイジング医学の研究母体である日本抗加齢医学会も会員数が5,000名を超え,専門医,指導師の認定システムも稼動している.本年5月に行われた第6回日本抗加齢医学会総会は慶應義塾大学医学部眼科学教室が担当させていただいたが,参加人数が2,000名を超えた大きな学術集会へと成長した.6年前に20名ほどの有志と研究会を始めたことを考えると,いかにこの領域に関心が集まっているかがわかる.眼科領域においても,2005年より“眼抗加齢医学研究会”が発足し,すでに2回の研究会を開催している.従来の医学が疾病に対応する医学だったこととは視点を異にして,アンチエイジング医学は疾病の発症以前にエイジングに介入して罹患確率を下げようとする画期的な医学である.眼科領域でも,白内障,緑内障,加齢黄斑変性,老視,ドライアイなど,加齢と直接的に結びついたものも多く,エイジングに介入することは眼科疾患の予防に役立つことは間違いない.アンチエイジング医学がこれほど注目されている背景には,加齢の生物学的メカニズムの解明が進んでいることがあげられる.現在最も注目されている加齢に関する仮説は“フリーラジカルエイジング”とよばれるもので,1956年にネブラスカ大学のハーマン教授が提唱したものである.酸化ストレスによってわれわれの身体の構成成分である蛋白質,脂質,DNAが障害を受けるという理論である.この理論については,今回,東海大学の石井直明教授に解説をお願いした.この理論に基づいて加齢に介入することを考えると,サプリメント,食べ物による抗酸化物質の摂取が必要ということになる.食べ物について今回は名古屋大学の大澤俊彦教授に解説をお願いした.たくさんの食べ物が単なる栄養ばかりでなく抗酸化物質として作用していることがわかるだろう.酸化ストレスは従来,非特異的に組織障害を起こすと考えられてきた.しかし近年になって,酸化ストレスはp38MAPKなどの特異的な経路を介して,細胞,特にステムセルに影響を与えることがわかってきており,大変注目を集めている.ご存知のようにステムセルは再生医療において最も大切な細胞群である.この興味ある関連については,東京歯科大学の川北哲也先生と慶應義塾大学の榛村重人先生にレビューをお願いした.2005年に日本におけるメタボリックシンドロームの診断基準が定められ,2006年になってなんと1,600万人以上がメタボリックシンドローム予備軍だということが判明し,社会的にも大きな問題になっている.IGF(insulin-likegrowthfactor)パスウェイからインスリンシグナルは寿命と非常に大き0910-1810/06/\100/頁/JCLS*KazuoTsubota:慶應義塾大学医学部眼科学教室●序説あたらしい眼科23(10):1243-1244,2006眼科におけるアンチエイジング医学の流れ????-??????????????????????????????????????坪田一男*———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006な関連があることがわかり,今研究者の間では摂取カロリーを65~70%程度に抑えるカロリックリストリクション(caloricrestriction:CR)がさまざまな生物の寿命を延長させるとして注目されている.この観点からエイジングをみると,まさにメタボリックシンドロームはエイジングを加速する状態ととらえることもできる.この状態を“メタボエイジング”とよぶことを提唱している慶應義塾大学の伊藤裕教授に,今回はメタボリックシンドロームとエイジングの関連について解説をお願いした.また,従来から加齢によって癌や肺炎の発症率が高まることが知られているが,これらは免疫能の低下によると考えられている.加齢による免疫の変化について,慶應義塾大学の羽室淳爾教授に最近の視点をとりいれながら概説をお願いした.これらのアンチエイジング医学の基礎を踏まえ,現在どのような検査を行い,どのような介入を行っているのか,同志社大学の米井嘉一教授と高橋洋子先生にアンチエイジング医学の検査項目について解説をお願いした.これらの貴重な6編の総説をお読みいただいて,2006年現在のアンチエイジング医学の流れについてご理解いただければ幸いである.アンチエイジング医学は予防医学の一端として,これから急激に変化する日本の医療の中心的な課題となるテーマといえる.病気になったら治療するという基本戦略では,すでに日本の医療費が32兆円にも達し,これ以上の上昇は許されない.病気にならないための予防医学を積極的に導入することを,日本の医療システムとしても早急に考えなければならない時期にきていると思う.特に眼科領域においては,高齢者の失明を予防する感覚器医学としてのチャレンジは大きい.さらには,コンタクトレンズ,LASIK(laser???????keratomileusis)など,屈折矯正によるqualityofvisionの追求の領域においても,アンチエイジング医学的アプローチの重要性はさらに高まってくると考えられる.今後もますます目の離せない領域であることを確信している.(2)

ブックレビュー「コンタクトレンズ眼障害 ひと目でわかるトラブルシューティング」

2006年9月30日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS日本眼科医会の「コンタクトレンズによる眼障害アンケート調査」結果によると,コンタクトレンズ(CL)眼障害者は全国で1年間に約150万件と推定されている.CL装用人口が約1,500万人であることから,CL装用者の10人に1人の割合で眼障害が発生していると考えられる.そのため,眼科医はCLを扱っていようがいまいが,CLによる眼障害者を診療する機会が多くなってきている.このような状況下で,CLによる眼障害を扱った適切な書の出版が望まれていた.この度,発刊された糸井素純・稲葉昌丸両先生の編集による『コンタクトレンズ眼障害ひと目でわかるトラブルシューティング』は正に時宜を得た出版である.執筆者は編者を含めてCL診療を第一線で実践している方々で,CLによる眼障害の対策が実際面から記載されている.本書は6章から構成されているが,読んでいくとその編集の趣旨がよくわかる.すなわち,自覚症状からCLによるトラブルの原因と対策が記載され,これが重要な眼障害の原因と対処法の詳細に進み,さらには,眼障害の予防が学べるような流れになっている.第1章はCL診療には欠かせない診断法について記載されている.第2章は自覚症状から見たCLトラブルをハードCLとソフトCLに分けて,原因と原因別の対処法があり,わかりやすいカラー図はもちろんのこと,主訴から考えられる診断とそれに伴う適切な処置法が記載されていて,実際の臨床に役立つ.眼障害の詳しい対処法に関しては第3章のCL眼障害と対策方法を参照するとよい.また,眼障害の原因をさらに知りたい場合には,第4章のCLトラブルの代表的な原因を見るとよい.最も大切なことは眼障害を未然に防ぐことで,これは第5章のCL眼障害の予防に記載されている.最後の第6章には資料編として,光学的問題,法律,処方箋,医療費控除の処方箋の記載法などが書かれている.本書はCLによるトラブルと眼障害に関する事項が網羅されていて,症例の写真も執筆者の秘蔵のものと思われる典型的なもので,とても参考になる.また,探したい事項は右ページに記載されている色分けの各章タイトルと完備された索引とで,直ちに見つけることができ,忙しい診療中にも簡単に照会できるのはありがたい.執筆者はCL診療で活躍されている方々ばかりであり,学ぶところが多い書である.すべての臨床医が,CL診療をする上で,座右に置き常に参照したい書である.(東京医科歯科大学名誉教授所敬)(89)ブックレビュー■糸井素純・稲葉昌丸編集『コンタクトレンズ眼障害ひと目でわかるトラブルシューティング』〔B5判並製,240頁,定価7,980円(本体7,600円+税),ISBN4-521-67611-1,中山書店,2006〕☆☆☆

硝子体手術のワンポイントアドバイス40.巨大裂孔網膜剥離に対する硝子体手術(中級編)

2006年9月30日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLSはじめに巨大裂孔網膜?離は以前は難治性の網膜?離であり,翻転網膜を固定するために,対面通糸法,網膜鋲,回転式ベッドなど種々の方法が考案されたが,液体パーフルオロカーボンの出現で最近では非常に楽に治療できるようになった.しかし,裂孔が120~150?以上に及ぶものでは,硝子体切除後の眼内液?空気同時置換術時に,網膜の滑り落ち現象(slippage)を生じることがある.このような症例には液体パーフルオロカーボンとシリコーンオイルを置換する方法が有用である1).●手術の実際裂孔が200?に及ぶ巨大裂孔網膜?離の1例を例にとり,手術手技を説明する.1)経毛様体扁平部水晶体切除術後に硝子体ゲルを周辺部に至るまで十分に切除する(図1).2)液体パーフルオロカーボンを後極に滴下し(図2),翻転網膜を復位させる(図3).3)液体パーフルオロカーボン下で眼内光凝固を裂孔縁に施行する(図4).4)液体パーフルオロカーボンとシリコーンオイルを置換する.インフュージョンカニューレからシリコーンオイルを注入しながら液体パーフルオロカーボンを抜去していくと,最後にバブル状になった液体パーフルオロカーボンが確認できる(図5).この方法では網膜のslippageがほとんど生じない.●本術式の問題点本術式は,シリコーンオイル抜去という複数回の手術を要するので,筆者はslippageが軽度に留まるような120?以下の症例では,原則としてシリコーンオイルは使用しないで,液?空気置換により網膜を伸展させている.また,巨大裂孔縁の硝子体牽引残存による再?離を予防するために,#240シリコーンバンドによる周辺部輪状(87)締結術を併用することが多い.文献1)石田政弘,竹内忍,中原正彰ほか:液体フルオロカーボン:シリコーンオイル置換を用いた巨大裂孔網膜?離に対する硝子体手術.眼科手術8:327-330,1995硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載?40巨大裂孔網膜?離に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図1硝子体切除硝子体ゲルを周辺部に至るまで十分に切除する.図2翻転網膜の復位(1)液体パーフルオロカーボンを視神経乳頭上に滴下する.図3翻転網膜の復位(2)液体パーフルオロカーボンによって翻転網膜が徐々に伸展していく.図4眼内光凝固による裂孔閉塞液体パーフルオロカーボン下で裂孔縁に眼内光凝固を施行する.図5シリコーンオイルで置換液体パーフルオロカーボンとシリコーンオイルを置換する.最後にバブル状になった液体パーフルオロカーボンが確認できる.

眼科医のための先端医療69.網膜の内在性幹細胞

2006年9月30日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS網膜再生と幹細胞網膜を含めた中枢神経系はいちど障害されるとその神経細胞は再生されず,失われた機能を取り戻すことができないと考えられてきました.しかし近年,神経幹細胞が胎生期ばかりでなく,ヒトを含む成体哺乳類動物の脳にも存在することが明らかになるにつれ,中枢神経系においても幹細胞システムを駆使して組織学的に再生させようという試みがなされ始めました.網膜再生の分野については,すでにアメリカを中心に胎児網膜を用いて網膜色素変性や加齢黄斑変性の患者に対して移植が数十例行われており,結果が報告されつつあります1).しかしながら胎児網膜を用いることには倫理的な問題があり,また供給に限りがあるため均一な移植細胞を十分得ることはむずかしく一般的な治療とはなりえません.そこで幹細胞が今後の細胞移植源として期待されています.幹細胞の視細胞分化への試み2000年にvanderKooyらのグループは,成体マウスの毛様体上皮細胞にneurosphereを形成する網膜幹細胞が存在することを報告しました2).ただ視細胞を含む網膜細胞に分化する割合は非常に低く,移植に使える量ではありません.さらに,毛様体の患者からの採取には危険を伴います.一方,Harutaらは成体ラットの虹彩細胞に注目し,虹彩培養細胞に視細胞の分化に重要な役割を果たすホメオボックス型の転写因子であるCrxをレトロウイルスを用いて遺伝子導入したところ,効果的にロドプシン陽性細胞を得ることができました3).加えて,霊長類であるサルの虹彩組織からもロドプシン陽性細胞が得られることを見出しました4).虹彩は周辺虹彩切除術により視機能に影響することなく,安全に組織を得ることができ,自家移植が可能であります.しかし臨床応用を考えた場合,レトロウイルスで導入するかぎりrandominte-grationによる危険性が残るため,今後遺伝子導入の方法あるいは遺伝子導入によらない方法を開発する必要があります.胚性幹細胞(ES細胞)については,複数のグループで視細胞の誘導に成功しています5)が,拒絶反応や腫瘍形成,視細胞の純化など越えなければならない壁はまだ多いのが現状です.網膜の内在性幹細胞中枢神経機能再生の方法には細胞移植のほかにもう一つのアプローチとして,中枢神経に内在している神経幹細胞を賦活して中枢神経の再生を促す方法があります.下等動物ではさまざまな組織幹細胞が網膜を再生することがわかっています(図1).魚類や両生類ではciliarymarginalzone(CMZ)とよばれる毛様体辺縁部に網膜幹細胞が存在し,体の成長にあわせて網膜も成長させています.哺乳類でも毛様体辺縁部から網膜幹細胞の性質をもった細胞がneurosphere法により培養可能です2)が,実際に生体内でこれらの細胞が網膜再生に関与しているかは不明です.イモリなどの両生類では網膜障害時に網膜色素上皮細胞が分化転換によって網膜を再生させます.魚類では網膜外層に視細胞杆体前駆細胞の存在が知られています.そして近年,鳥類を用いた実験でM?ller細胞が内在性網膜幹細胞としての性質をもつことが報告されました6).2001年Rehらのグループは,ニワトリ網膜に急性障害を与えると,網膜内のM?ller細胞が分裂を始め網膜神経幹細胞特異的な遺伝子を発現(83)◆シリーズ第69回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊大音壮太郎(兵庫県立尼崎病院眼科)網膜の内在性幹細胞毛様体辺縁部魚類,両生類哺乳類網膜内魚類(杆体前駆細胞)鳥類・哺乳類(M?ller細胞)網膜色素上皮両生類図1さまざまな網膜の内在性幹細胞———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006し,一部は神経特異的なマーカーを発現したと報告しました.つまり網膜中のM?llerグリア細胞が網膜幹細胞としての性質をもつわけです.そこで筆者らは,網膜の内在性神経幹細胞は成体の哺乳類でも存在するのか,また網膜の神経幹細胞が成体でも存在しているならば,何らかの因子を投与し,幹細胞を活性化させ,神経を再生できないかということを検討しました7).ラット網膜での急性障害後の神経再生?-methyl-D-aspartate(NMDA)を6~7週齢の成体ラットの硝子体中に投与し,網膜内層に急性の障害を起こしました.網膜障害後分裂細胞をラベルするためbromo-deoxyuridine(BrdU)を硝子体中および腹腔内に投与し,免疫組織化学により細胞の分裂を調べました.すると網膜障害後2日目に内顆粒層に分裂細胞がみられ,これらはすべてM?ller細胞であることがわかりました.このM?ller細胞由来の分裂細胞は神経前駆細胞様の性質を獲得し,時間経過とともに一部は外顆粒層に遊走しました.そして網膜障害後2~4週間において,M?ller細胞由来の分裂細胞の一部は双極細胞および視細胞に特異的なマーカーを発現し,M?ller細胞から網膜神経細胞へ分化したことが示唆されました.すなわちM?ller細胞は成体哺乳類網膜において内在性神経幹細胞としての性質を有しており,成体哺乳類網膜にも再生する能力があることがわかったわけです.しかしこうした神経細胞のマーカーを発現する割合は非常に低く,また神経節細胞,水平細胞,アマクリン細胞のマーカーを発現する分裂細胞はありませんでした.筆者らは哺乳類成体網膜には全種類の網膜神経細胞を分化誘導する要素が欠けているのだと考え,外的・内的因子を導入することによりM?ller細胞由来の分裂細胞の分化誘導を試みました.神経細胞の分化にかかわる外的因子であるレチノイン酸を硝子体中に投与したところ,有意に双極細胞への分化を促進することができました.またレトロウイルスベクターを用いて,網膜神経細胞の分化にかかわるbHLH型・ホメオボックス型の転写因子をM?ller細胞由来の分裂細胞に遺伝子導入したところ,アマクリン細胞・水平細胞への分化も認められ,さらにはCrx(ホメオボックス型転写因子)とNeu-roD(bHLH型転写因子)を同時に強制発現させることにより,視細胞への分化も促進することができました.以上のように,筆者らは,成体ラットの網膜において急性障害後神経再生が起こることを発見しました.さらに外的・内的因子によって再生された神経細胞の運命をある程度コントロールすることもできるわけです.新たな網膜再生治療の可能性このようにM?ller細胞は成体の網膜再生の細胞源となる可能性をもっているといえます.将来M?ller細胞は,網膜変性疾患において,薬物治療や遺伝子治療のターゲットとなるかもしれません.より効果的にM?l-ler細胞を活性化させ,さらに多くの神経細胞を生成し,神経回路網に組み込まれ機能することを示すことができれば,網膜再生治療の新たな可能性が広がることになるでしょう.文献1)RadtkeND,AramantRB,SeilerMJetal:Visionchangeaftersheettransplantoffetalretinawithretinalpigmentepitheliumtoapatientwithretinitispigmentosa.???????????????122:1159-1165,20042)TropepeV,ColesBL,ChiassonBJetal:Retinalstemcellsintheadultmammalianeye.???????287:2032-2036,20003)HarutaM,KosakaM,KanegaeYetal:Inductionofpho-toreceptor-speci?cphenotypesinadultmammalianiristissue.????????????4:1163-1164,20014)AkagiT,AkitaJ,HarutaMetal:Iris-derivedcellsfromadultrodentsandprimatesadoptphotoreceptor-speci?cphenotypes.?????????????????????????46:3411-3419,20055)IkedaH,OsakadaF,WatanabeKetal:GenerationofRx+/Pax6+neuralretinalprecursorsfromembryonicstemcells.??????????????????????102:11331-11336,20056)FischerAJ,RehTA:M?llergliaareapotentialsourceofneuralregenerationinthepostnatalchickenretina.????????????4:247-252,20017)OotoS,AkagiT,KageyamaRetal:Potentialforneuralregenerationafterneurotoxicinjuryintheadultmamma-lianretina.??????????????????????101:13654-13659,2004(84)***———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????(85)■「網膜の内在性幹細胞」を読んで■網膜色素変性症や加齢黄斑変性など,網膜自体がダメージを受ける疾患患者は,現代の医学をもってしても,視力を回復することができません.網膜を含む中枢神経は,長い間再生しないとされていましたので,これは解決が不可能な問題と考えられていました.ところが,最近中枢神経にも再生する力があるということがわかり,網膜再生治療の研究が広く行われています.これが実用化されると,網膜色素変性症のみならず,多くの網膜疾患の治療が可能になるため,患者さんの受けるメリットには計り知れないものがあります.しかしながら,網膜再生治療の臨床応用には,解決すべきいくつかの大きな問題があります.その一つは,治療用細胞の源の問題です.視力を再生させるためには,十分量の細胞が必要ですが,それをどこに求めるかです.その問題に関して画期的な報告が,2004年に大谷篤史先生(ソーク研究所:現京都大学)からなされました.それは簡単にいうと,骨髄の幹細胞を用いて網膜変性を抑制するというものです.これは厳密には網膜再生治療ではありませんが,網膜変性症の治療としては,きわめて有効なものです.骨髄細胞は網膜細胞よりもはるかに多数存在し,取り扱いも容易ですので,この方法は網膜変性防止・再生医療を実用化へ近づけた重要なものといえます1).事実,欧米のマスメディアで大きく取り上げられ,現在世界中で行われている研究の大きな流れの一つになっています.一方,今回大音壮太郎先生が述べられているのは,別の方法です.骨髄細胞ほどではありませんが,眼球内にも多くの細胞があり,それらはすでに網膜内で存在し,活動しているので,それを視細胞に分化させて,視力再生に活用するというものです.そうすれば,視力再生に不可欠な網膜細胞同士のネットワーク化がスムーズに行われ,外から細胞を導入する際の問題点もなくなるという考え方です.具体的な方法は本文にわかりやすく述べられていますので省きますが,網膜再生という本来の目的にはこの方法が適しており,網膜変性症治療のブレークスルーになるかもしれません.特に素晴らしいのは,この研究は日本のオリジナルの研究である点です.科学には国境がないといいますが,現代において科学技術は戦略物資の一つです.わが国オリジナルの研究は少ないといわれているなかで,この研究は大きな期待を集めています.文献1)OtaniA,DorrellMI,KinderKetal:Rescueofretinaldegenerationbyintravitreallyinjectedadultbonemar-row-derivedlineage-negativehematopoieticstemcells.?????????????114:765-774,2004鹿児島大学医学部眼科坂本泰二☆☆☆

新しい治療と検査シリーズ164.加齢黄斑変性に対するサプリメント療法

2006年9月30日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS?バックグラウンド最近,加齢黄斑変性(AMD)を取り巻く環境が,光線力学的療法,抗新生血管薬治療などの新しい治療の開発,導入によって大きく変化した.にもかかわらず,これらの治療をもってしても良好な視力の獲得は容易ではなく,疾患の予防,進行防止といった面からのアプローチが相変わらず重要であることに変わりはない.従来から,進行防止を狙ってドルーゼンの光凝固が試みられてきたが,脈絡膜新生血管(CNV)の発生をかえって促進させることが大規模臨床試験で明らかにされ1,2),現在の考えではこの方法は用いるべきではないというのが一般的である.そういった背景から最近注目されているのが,サプリメント摂取による本症の予防である.2001年にAge-RelatedEyeDiseasesStudy(AREDS)によって,抗酸化剤の摂取がAMDの進行防止に有効であることが明らかにされ3),このEBM(evidence-basedmedicine)によってAMD患者にサプリメントの摂取を勧めることができるようになった.そこで,本稿では,エビデンスのある,このAREDSフォーミュラ(表1)に沿ったサプリメント療法を述べる.?原理活性酸素による網膜色素上皮障害が,黄斑部網膜の加齢に関連する.亜鉛は,スーパーオキサイドディスムターゼ(SOD)の補酵素として機能し,またビタミンCやE,bカロテンは活性酸素を除去する作用を有する.実際,過去の疫学的研究によって,抗酸化作用を有するビタミンや亜鉛がAMD患者に不足していることが明らかにされている.したがって,こういった抗酸化物質の摂取が,AMDの予防,進行防止に有効である可能性が示唆されてきた.それに応えるべく行われたAREDSの結果3)では,表1のサプリメント投与が,1)中等度(125?m≧,>65?m)から大型(>125?m)のドルーゼンが多数存在する,もしくは中心窩外地図状萎縮の存在する中期AMD,2)片眼が,滲出型AMDあるいは中心窩地図状萎縮といった進行期AMDに進行しているあるいはドライAMDで0.6以下に視力が低下しているといった場合の僚眼,といった2つのカテゴリーにおいて,5年間に,進行期AMDへの進行率を28%から20%に有意に低下させ,3段階以上の視力低下を29%から23%に有意に低下させた.なお,まったくドルーゼンのない症例における発症の予防効果は認められなかった.?実際の方法まず,摂取方法であるが,AREDSフォーミュラに沿った1日量(亜鉛酵母30mg,銅1.5mg,ビタミンC408mg,ビタミンE241.6mg,bカロテン15,750?g)新しい治療と検査シリーズ(81)164.加齢黄斑変性に対するサプリメント療法プレゼンテーション:白神史雄香川大学医学部眼科学教室コメント:湯沢美都子日本大学医学部附属駿河台病院眼科表1AREDSフォーミュラ(1日量)?亜鉛80mg?銅2mg?ビタミンC500mg?ビタミンE400IU?bカロテン15mg図1軟性ドルーゼンの症例———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006を3回に分けての内服を指示する.つぎに誰に勧めるかであるが,筆者自身,軟性ドルーゼンが両眼に多数みられるような症例(図1),すでに片眼に滲出型AMDや地図状萎縮が発症している症例に勧めている.なお,喫煙者においては,bカロテンが肺癌の発生を若干促進するので,bカロテンを含まないフォーミュラを勧めている.?本法の良い点と注意点何よりも良いのは,内服で行える点である.また,喫煙者には前述のように注意が必要であるが,それ以外には副作用がほとんどないことも良い点である.問題点は,食品であって薬剤ではないので患者個人で購入しないといけない点で,若干の費用が必要である.なお,最近エビデンスのないサプリメント療法が巷に氾濫しているが,眼科医として,エビデンスのあるサプリメント療法をあくまで勧めるべきであろう.?その他のサプリメント療法従来から,ルテイン,ゼアキサンチンといったカロテノイドがこのAMDの発生防止に有効であることが報告されている4).また,w3多価不飽和脂肪酸(LCPUFA)もAMDの予防に効果があるのではないかと考えられている5).AREDSの症例における高摂取群と低摂取群の比較検討でも,進行期AMDへの進行の防止にこれらの物質が有効であることが示されている.これらのサプリメント療法に関する大規模臨床研究による結果が待たれる.実際に,ARDESでは,AREDSIIとしてbカロテンの代わりにルテイン8mgを含むフォーミュラでの予防効果を現在研究中である.まとめ?亜鉛,ビタミンC,E,bカロテンという抗酸化剤を含むサプリメント療法(AREDSフォーミュラ)は,AMDの進行防止に有効である.?AREDSフォーミュラに沿っていないサプリメント療法には現時点ではエビデンスがない.?ルテインやw3不飽和脂肪酸といったサプリメントに関しては,今後の大規模臨床試験の結果が待たれる.文献1)ChoroidalNeovascularizationPreventionTrialResearchGroup:Lasertreatmentinfelloweyeswithlargedru-sen:updated?ndingsfromapilotrandomizedclinicaltrial.?????????????110:971-978,20032)FribergTR,MuschDC,LimJIetal;PTAMDStudyGroup:Prophylactictreatmentofage-relatedmaculardegenerationreportnumber1:810-nanometerlasertoeyeswithdrusen.Unilaterallyeligiblepatients.??????????????113:622.e1,20063)Age-RelatedEyeDiseasesStudyGroup:Arandomized,placebo-controlled,clinicaltrialofhigh-dosesupplementa-tionwithvitaminsCandE,betacarotene,andzincforage-relatedmaculardegenerationandvisionloss:AREDSreportno.8.???????????????119:1417-1436,20014)SeddonJM,AjaniUA,SperdutoRDetal:Dietarycarot-enoids,vitaminsA,C,andE,andadvancedage-relatedmaculardegeneration.EyeDiseaseCase-ControlStudyGroup.????272:1413-1420,19945)SanGiovanniJP,ChewEY:Theroleofomega-3long-chainpolyunsaturatedfattyacidsinhealthanddiseaseoftheretina.??????????????????24:87-138,2005(82)?本方法に対するコメント?AREDSの結果は,EBM(evidence-basedmedi-cine)のうちで最も信頼性が高い多施設無作為前向き臨床試験の結果であり無視できない.私(湯沢)も滲出型加齢黄斑変性になる危険性の高い黄斑所見を有する人には勧めている.しかし問題がある.第一はこの結果は,1日3回5年間毎日服用した結果得られたものであり,忠実に服用するにはかなり無理があるように思う(私にはできない!).第二にサプリメントなので保険が利かず,高価である.第三に,プラセボに比較して脈絡膜新生血管の発生が抑えられるのは25%であり,しかも,萎縮型への進行防止には効果がない.AREDSの処方量は通常の食生活では摂取不可能な大量であり,サプリメントとして服用するしかないのだが,サプリメントはバランスの良い食事をしたうえで足りないものを補足するのが本来の形である.サプリメントに頼る前に,加齢黄斑変性になりやすい要因と報告されているある種の食物性脂肪を控え,一方,有用とされる抗酸化物質,抗酸化ミネラルw3脂肪酸などを多く含む食物を食べるなど,食生活を見直すことも必要なのではないだろうか.

涙点プラグ:肉芽に対する処置

2006年9月30日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS涙点プラグの装着によって,涙小管壁に慢性的な刺激が加わると,涙小管内に肉芽が形成されることがある1).この肉芽形成の多くは,涙点プラグ挿入術の合併症として位置づけられるが,必ずしも欠点ばかりではない.すなわち,肉芽によって涙小管の完全閉塞が得られると,肉芽は涙点プラグのごとく振る舞い,涙点プラグの装着時と同等の効果が得られる.しかし,合併症としての肉芽形成には,さまざまな問題点がある.まず,肉芽形成により涙点プラグが押し出されて涙点から突出し,眼表面が刺激されるようになると異物感や上皮障害の原因となりうるし,脱出したプラグの鍔の周りに眼脂などが付着してバイオフィルム形成の原因にもなりうる.また,肉芽形成により涙点プラグが脱出してしまうと,再挿入が困難になる場合がある.●検査高度に肉芽が形成されない限り,涙小管内の肉芽は,一般に確認できない.そのため,涙点プラグの脱落後は,涙点ゲージを用いて肉芽の存在を確認する必要があり,スムーズにゲージを挿入できる場合は,肉芽の形成はないか乏しく,涙点プラグの再挿入が可能である.しかし,ゲージが挿入できない場合は,高度の肉芽形成が考えられ,この場合は,①角膜上皮障害が再発,②涙液メニスカスが低い,③涙液ターンオーバが速い2)などの涙点の疎通性を疑わせる所見を確認しながら,総合的に涙小管の閉塞程度を評価する.●処置筆者らが外来で行っている対処法について紹介する.1.涙点プラグが突出してきた場合(図1a)涙点から突出している涙点プラグをみた場合は,以下のケースが考えられる.まず,涙点プラグの挿入時あるいは挿入後に涙点が拡大し,涙点プラグと涙小管壁との密着程度が低下して,涙点プラグが可動性をもち,涙点から突出してきた場合がある.この場合は,涙点プラグの鍔を把持してプラグを涙点に押し込むと,容易に再挿入できる.この場合,涙小管内の肉芽は存在しないか軽度と推定されるが,涙点が拡大している場合が多い3)ため,再度プラグが突出してきたり脱落する可能性が高い.この場合には1サイズ大きい涙点プラグの再挿入も考慮する必要がある.つぎに,涙小管内に肉芽が形成され,それによって涙点プラグが突出してくる場合がある.この場合は,プラグを押し込もうと試みても,肉芽によって涙小管が占拠されているため,不可能な場合が多い.突出した涙点プラグによって結膜が擦過され,強い異物感や充血などの合併症がみられない場合にはそのままにして経過観察するが,そうした合併症がみられる場合には,涙点プラグを抜去する必要がある.(79)涙点プラグセミナー監修/坪田一男西井正和横井則彦京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学6.肉芽に対する処置涙点プラグの装着後,涙小管内に形成された肉芽により涙点プラグが脱落し,涙点プラグの再挿入が不可能となる場合がある.この際,肉芽による涙小管の完全閉塞が得られておれば,点眼治療のみでよいが,涙小管に疎通性がある場合は,外科的涙点閉鎖術や肉芽に切開を加えて涙点プラグを再挿入するといった処置が必要となる.ホワイトメディカル提供ab図1肉芽が形成された場合の代表例a:形成された肉芽によって涙点プラグが押し出されている例.b:涙小管内に高度の肉芽が形成され涙点プラグが脱落した例.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006(00)2.涙点プラグがすでに脱落している場合(図1b)と涙点プラグを抜去せざるを得なかった場合涙小管内に形成された肉芽によって,涙点プラグがすでに脱落している場合の対処法は2通りに分かれる.まず,涙点プラグの脱落後も,眼表面に涙液および人工涙液が貯留され,角膜上皮障害の再発を認めない場合は,涙小管が完全に肉芽によって閉塞されている状態と考えられる.この場合は肉芽が涙点プラグのごとく振る舞うため,特別な処置を要さず経過観察としてよいが,低力価のステロイド点眼を行っている場合には,肉芽の消失を防ぐために,ステロイドの点眼を当面,中止する.つぎに,これが最も問題となる場合であるが,肉芽形成によって涙点プラグの再挿入が不可能となっており,かつ不完全な肉芽形成のために涙点から涙液または人工涙液の疎通がある場合がある.この場合,外科的涙点閉鎖術を行い,涙点の完全閉塞を図るのが望ましい.しかしながら,それが適当ではない場合,すなわち,手術ができないような状況においては,外来処置での対応が必要となり,肉芽を切除あるいは切開して涙点プラグを挿入しうるスペースを確保してその後再挿入を行うとうまくいく場合がある.また,このとき,プラグの頭部が肉芽を越えるようにプラグを選択して挿入すれば,頭部が肉芽にひっかかって脱落しにくくなり効果的である.なお,涙点プラグの特異な脱出様式として,いわば“太鼓締め”状にプラグのシャフト部分を結膜組織が帯状に覆い,涙点付近に横たわる形でプラグが固定されている様子が観察されることがある(図2)4).この場合,涙小管はすでに肉芽組織によって完全閉塞されている場合が多く,プラグの装着時と同等の効果が得られているため,異物感などの症状がなければ,ただちにプラグを抜去する必要はない.おわりにわが国では2社の涙点プラグが保険適用となっているが,肉芽形成はFCI社のパンクタルプラグで多くみられる.これはプラグ頭部の角が鋭角的で,涙小管壁に機械的刺激を及ぼしやすくなっていることが関与していると考えられる.しかし,最近,使用されるようになったEagleVision社のスーパーフレックスプラグもパンクタルプラグに似た頭部の形状をもつため,肉芽を形成しうることも予想され,今後の報告が待たれる.文献1)小嶋健太郎,横井則彦,中村葉ほか:重症ドライアイに対する涙点プラグの治療成績.日眼会誌106:360-364,20022)丸山邦夫,横井則彦,西井正和ほか:ドライアイ治療におけるデジタル画像を用いた涙小管の疎通性の評価.日眼会誌107:526-529,20033)稲垣香代子,横井則彦,西井正和ほか:涙点プラグ脱落前後における涙点サイズの変化と選択したプラグの検討.日眼会誌109:274-278,20054)FayetB,AssoulineM,HanushSetal:Siliconepunctalplugextrusionresultingfromspontaneousdissectionofcanalicularmucosa:Aclinicalandhistopathologicreport.?????????????108:405-409,2001図2いわば“太鼓締め”様に下涙点からプラグが脱出している例

眼感染症:寄生虫検出検査

2006年9月30日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS寄生虫検出検査には,寄生虫自体を直接的に検出する方法(培養検査,塗抹標本直接鏡検検査,免疫学的手法による抗原検出,遺伝子検査)と間接的に検出する方法(免疫学的手法による抗体検出)に分けられるが,疾患ごとで検査法は大きく異なる.本セミナーでは,寄生虫による眼感染症の代表疾患であるアカントアメーバ角膜炎,眼トキソカラ症,眼トキソプラズマ症における検査法についてそれぞれ解説する.●アカントアメーバ角膜炎アカントアメーバ角膜炎を確定診断するには,角膜病巣部からアカントアメーバを検出することが必須である.検出法としては,塗抹標本と培養検査がある.特に塗抹標本の直接鏡検検査は特別な技術も必要でなく比較的容易であるため,アカントアメーバが疑われたらまず行う検査である.塗抹標本に用いる染色法にはKOH・パーカーインク染色,ギムザ染色,グラム染色,ファンギフローラ染色があり,それらによって栄養体や二重壁をもったシストを検出する(図1).なかでもKOH・パーカーインク染色・ファンギフローラ染色は,組織中のアカントアメーバシストを検出するのに優れている.また,グラム染色やギムザ染色においては,炎症細胞がアーチファクトとしてシストに間違えられやすいため注意が必要である.一方,培養検査は,検出されれば診断の確実性が向上するため,可能ならば行いたい検査である.作製法・培養法を表1に示す.コンタクトレンズ装用者においては,その原因にレンズケースや保存液の汚染が関与している場合もあるため,角膜擦過物のほかにケースや保存液も同時に培養することが望ましい.●眼トキソカラ症眼トキソカラ症は,イヌ回虫幼虫の網脈絡膜への転移によって生じる疾患であるが,病巣から直接幼虫を検出することは不可能なため,免疫学的手法により抗体を検出することで,病原体の存在を間接的に確認すること(77)40.寄生虫検出検査眼感染症セミナー─スキルアップ講座─●連載?監修=大橋裕一井上幸次鈴木崇市立宇和島病院眼科寄生虫検出検査は,疾患で異なり,アカントアメーバ角膜炎では塗抹標本,培養検査が,また,眼トキソカラ症ではイヌ回虫幼虫排泄物抗原などを用いた抗体検出検査が診断に有用である.また,眼トキソプラズマ症においては,血清中のトキソプラズマ抗体の陽転化,ペア血清による4倍以上の抗体価増加を認められれば診断意義が高い.表1アカントアメーバ用培地の作製方法と培養方法①アメーバ分離用NN培地もしくは栄養素を含まない透明な培地を用意する.②熱処理した大腸菌(60℃で1時間)を乳白色ほどの濃さにして,寒天培地に塗布し,表面を乾燥させる.③培地の中央に角膜擦過物を接種する.④培地表面を上にして室温で培養する.⑤培養数日後,顕微鏡(200倍)で培地上の下図のような栄養体を確認する.10?m10?m図1アカントアメーバ角膜炎における塗抹標本輪状浸潤を呈した角膜炎(左図)の病巣部擦過物をギムザ染色による塗抹標本を作製し,鏡検したところ,二重壁を有するアカントアメーバシストが検出(右図)された.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006が,診断への重要な情報となりうる.抗体検出に用いる検体としては,血清と眼内液があり,血清における抗体の検出は補助診断に用いられ,一方,眼内液における抗体の検出では,確定診断につながる.現在眼トキソカラ症の抗体検査に使用されている抗原としては,イヌ回虫幼虫抗原,イヌ回虫幼虫排泄物抗原があり,それらを用いた酵素抗体法(ELISA:酵素により抗体を標識し,酵素反応の結果生ずる色調の変化を分光光度計にて測定し,抗原に結合した抗体量を測定する)によって抗体量を定量するが,特定の専門機関に依頼する必要がある.トキソカラチェックは,イヌ回虫幼虫排泄物抗原の抗原抗体反応を利用したイヌ回虫幼虫排泄物抗体の簡易型検出法で,検体を10倍と50倍に希釈し,それぞれキットに滴下し,50倍希釈で反応がある場合(キットの真ん中に赤いスポットが現れる)は陽性,50倍希釈で反応がなく10倍希釈で反応がある場合は疑陽性,両方とも反応がない場合は陰性と判定する(図2).反応時間が短く,簡便であるが一般に市販されていないため,今後の汎用化が望まれる.一方,外注にて使用できるmultiple-dotELISA(寄生虫抗体スクリーニング検査)に含まれる抗原はイヌ回虫成虫抗原であり,眼トキソカラ症症例に対しては,陰性の結果が得られることもあり,本疾患の診断に使用できるかについては疑問が残るため,今後の検討が必要である1).●眼トキソプラズマ症眼トキソプラズマ症は,トキソプラズマ原虫感染による網脈絡膜炎で,検査としては免疫学的手法(赤血球凝集反応,ラテックス凝集反応,ELISA)によりトキソプラズマ抗体を検出することで,間接的に病原体を証明する方法が通常用いられる.しかしながら,本法では成人の10~30%がトキソプラズマ原虫の不顕性感染をしており,抗体検出のみでは診断につながらないが,経過観察中に抗体陰性からの陽転化や,ペア血清における4倍以上の抗体値の増加が認められれば診断意義は高い.また,後天感染においてはIgM抗体の検出により初感染を確認できれば診断につながる.PCR(polymerasechainreaction)法にて,眼内液からのトキソプラズマ原虫DNAを検出する方法も報告されている2).文献1)鈴木崇,上甲武志,陳光明ほか:眼トキソカラ症の診断におけるトキソカラチェックの有用性.あたらしい眼科22:263-266,20052)AouizerateF,CazenaveJ,PoirierLetal:DetectionofToxoplasmagondiiinaqueoushumourbythepolymerasechainreaction.???????????????77:107-109,1993(78)■コメント■眼科領域での寄生虫感染は決して症例数が多いとはいえないために,鑑別にあたって,その可能性を考えることをつい忘れてしまいがちであるが,炎症性の疾患を診断していくうえでやはり重要である.しかし,その検査についてもなじみがないことが多いために,方法や結果の解釈に間違いが起こりやすい.寄生虫を疑う症例に遭遇し,検査が必要な場合は,専門家にコンサルトするなどして正しい検査結果を得るよう心がける必要があるだろう.鳥取大学医学部視覚病態学井上幸次図2トキソカラチェックによる眼トキソカラ診断硝子体索条物を有するぶどう膜炎(上図)症例より前房水を採取し,トキソカラチェック(下図)を施行したところ,50倍希釈にてキットの真ん中に赤いスポットが出現し(下図左)陽性を示したため,眼トキソカラ症と診断した.

緑内障:新しい眼圧計PASCALR

2006年9月30日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS眼圧測定のgoldstandardと考えられているゴールドマン圧平眼圧計(Goldmann)applanationtono-metry:GAT)は,角膜厚が520?mのときのみ,角膜自身のチップ反跳力と涙液の表面張力によるチップ吸引力を相殺して,Imbert-Fickの法則(外力=眼内圧×圧平面積)が成立し,眼圧を推測できる.実際には,角膜厚やそれ以外の角膜の物理特性は個人によりかなりばらつくのに加えて,レーザーによる角膜屈折矯正手術の急増に伴い,上記の前提を大幅に逸脱した角膜性状をもつ個人の眼圧測定を行う機会が増えている現状から,こうした角膜性状に左右されない測定原理をもつ眼圧計測方法の確立が望まれるようになった.最近開発されたdynamiccontourtonometry(PAS-CAL?;ZeimerOphthalmicSystems社製)1)は,GATと異なり,チップの先端が平坦でなく,半径10.5mmの凹面をしている.これは平均的な角膜の曲率半径より若干大きい.そして,その中央部に直径1.2mmの電子圧センサーが埋め込まれている.ディスポーザブルのプラスチック・キャップを装着後,角膜と直径7.5mmの面積で接触させると,その面積内でチップと角膜表面の形状が一致するとき,角膜内外の圧は理論上等しくなる1).このときの圧シグナルを収集し,100Hzの収集率で信号をデジタル化する(図1).平均拡張期眼圧と心拍に一致した脈拍眼圧(ocularpulseamplitude:OPA)を測定する1).死体摘出眼球を用いたmanometry(前房内に圧transducerを刺入して測定する眼内圧)との比較では,GATは真の眼圧より平均約4mmHg低く計測したうえ,角膜実質浮腫のある場合,過小評価の程度がより大きくなるのに対して,PASCAL?は真の眼圧とは平均約0.6mmHgの差しかなく,しかも実質浮腫の影響も小さかった2,3).(75)●連載?緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄75.新しい眼圧計PASCAL?中村誠神戸大学大学院医学系研究科器官治療医学(眼科学)PASCAL?は,凹面形状チップに角膜表面をフィットさせ,チップ中央部の圧センサーで眼圧を計測するdynamiccontourtomometerである.平均拡張期眼圧に加えて脈拍眼圧(ocularpulseamplitude)も測定できる.角膜厚や性状の影響を受けにくく,manometryに近い値を得られるといわれている.図1PASCAL?の本体とチップ図3プラスチック・カバーをチップに装着し,眼圧を測定しているところ図2細隙灯顕微鏡に装着したところ———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006GATや非接触式空気眼圧計は,中心角膜厚と計測眼圧値に有意な相関関係があるとする報告が多いが,PASCAL?では相関関係がないかあっても小さいとされる1).また,laser???????keratomileusis(LASIK)後,中心角膜厚が3~171?m薄くなった眼において,GATでは術1週後で平均4.9mmHg,術4週後で平均5.4mmHg低い値を示すのに対して,PASCAL?では術前・術後の眼圧値に有意差はみられなかった4).一方,GATでみられるこうしたLASIK後の眼圧低下は,中心角膜厚の変化率とは相関しなかった4).すなわち,PASCAL?で計測される眼圧値は角膜性状の影響を受けないと報告されている4).一方,OPA(正常,1~10mmHg)の臨床的意義はまだ不明だが,おそらく眼内,とりわけ毛様体の血流のおおまかな指標と考えられ,眼圧と有意な相関を示す(眼圧が高いほど大きい)ことが報告されている.線維柱帯切除後にはOPAは下降するが,翌日の下降幅が2mmHg以上のもののほうが,それ未満のものに比べ,3カ月後の時点での成功率(新たな眼圧下降治療を行わずに20%以上の眼圧下降を達成する率)が有意に高くなるという報告もある.術後の強膜の壁剛性の低下を反映していると考えられている.PASCAL?は,このように角膜性状の影響を受けず,真の眼内圧を反映する眼圧値に加えて,OPAという興味深い指標まで計測するとされる.しかし一方で,測定に10数秒かかることと大きなチップを角膜に接触させる必要があるため,固視不良例や瞼裂狭小例では測定できないことも多い.また,GATとはかなり値が異なるので,PASCAL?を標準眼圧測定とするには越えるべき障壁が多く残されているのが現状と思われる.文献1)KanngiesserHE,KniestedtC,RobertCA:Dynamiccon-tourtonometry.Presentationofanewtonometer.???????????14:344-350,20052)KniestedtC,NeeM,StamperRL:Dynamiccontourtonometry.Acomparativestudyonhumancadavereyes.???????????????122:1287-1293,20043)KniestedtC,NeeM,StamperRL:Accuracyofdynamiccontourtonometrycomparedwithapplanationtonometryinhumancadavereyesofdi?erenthydrationstates.?????????????????????????????????243:359-366,20054)SiganosDS,PapastergiouGI,MoedasC:AssessmentofthePascaldynamiccontourtonometerinmonitoringintraocularpressureinunoperatedeyesandeysafterLASIK.???????????????????????30:746-751,20045)VonSchulthessSR,KaufmannC,BachmannLMetal:Ocularpulseamplitudeaftertrabeculectomy.????????????????????????????????244:46-51,2006(76)☆☆☆

屈折矯正手術:屈折矯正手術におけるインフォームド・コンセントのポイント

2006年9月30日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS●自由診療であるということ近年,インフォームド・コンセントという言葉が一人歩きをしている感があるが,この言葉が出現してくる以前から,外科手術や処置・検査の際には必ず行われてきたことでもある.自由診療であるから特別にインフォームド・コンセントが重要とは考えていないが,手術を希望してくる患者のなかには,重要視している方も多い.医師が診療する際に,保険診療か自由診療かで,診療態度が変わることはあってはならないが,医師も患者も双方が「自由診療」に慣れていないため,不自然に構えてしまうこともある.屈折矯正手術のインフォームド・コンセントが特徴的なのは,最終的な目標が「治癒」ではなく「満足」にあることだと考えている.このことを踏まえて,筆者の経験から述べてみたい.●医師とスタッフの意思疎通はきわめて重要従来より患者心理として,医師の前では何も発言せずに,検査や受付のスタッフに対しては本音を話すものである.通常,術前説明の細部に関しては,スタッフが説明することが多く,医師はその確認をする方式がとられている.ここで,説明を担当したスタッフから入ってくる患者の情報は非常に大切である.問診票(図1)に基づいて,職業や趣味,手術を受けたい動機,目標となる見え方のイメージを,細かく確認してゆく.続いて,筆者の施設では,ガイダンスに沿って,メリット・デメリット・合併症などを順次説明する.こうしたやりとりのなかで,スタッフが感じた患者の人となりは,その後の診察のなかで,医師が説明をするポイントを絞り込むのに非常に有用なのである.過度に期待の大きい場合や,非常に神経質な場合などは,手術適応そのものから考える診察をすることができる1,2).医師の得たい情報の要点が的確に把握されるためには,常にスタッフとの意思疎通を図らなければならない.どういったケースにリスクがあるのか,適応と不適応をどのように判断しているのか,という部分で医師とスタッフに共通認識があれば,インフォームド・コンセントを得るのは容易であろう.熟練したスタッフであれば,患者の人となりと医師の診療傾向を把握し,医師が再確認するであろう部分を重点的に説明しているものである.この場合,診察を始める時点ですでにインフォームド・コンセントはほぼ確立している.日頃から,手術適応に関してのみならず,手術に対する考え方や意義,なぜ自分がこの手術をやりたいのか,などを常にスタッフに伝え,同じチームとして最良の結果が出せるようなmotivationを保つ努力をするべきであろう.●医師としてのアドバイス言うまでもなく,インフォームド・コンセントとは医師・患者間での契約である.最終的な判断は,医師が行い,その責任も医師にある.最終的に確認しておかなければならないのは,「日常生活は十分に可能な視力になるが,イメージしている見え方とは異なる可能性がある」ということを,受け入れられるかどうかであると筆者は考えている.その点が理解されていれば,手術を勧め,不安や迷いが見られたら,それに対する具体的な対処法を話し合う.コンタクトレンズの経験がなければ,まずコンタクトレンズでの生活を勧める場合もあり,年齢によっては白内障の手術を勧めてもよいであろう.また,PhakicIOLやCK(conductivekeratoplasty)といった他の手術方法が良いと判断した場合,その理由を説明する.常に,目の前の患者が自分の家族であればどうするか,という気持ちで選択肢を考えればよいであろう.(73)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載?監修=木下茂大橋裕一坪田一男76.屈折矯正手術におけるインフォームド・コンセントのポイント荒井宏幸南青山アイクリニック横浜屈折矯正手術の性格上,術後の不安や不満をいかに軽減するかは,術前のインフォームド・コンセントにかかっている.適応や合併症の列挙のみならず,担当医自身の意見を踏まえて説明すれば,本当の意味での納得や信頼は得られやすく,満足度も高くなると思われる.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006エキシマレーザーによる手術のみが,屈折矯正手術ではないことを十分に理解することは重要である.いろいろなオプションがあり,そのなかで最良と思われる方法を提示することにより,余裕と誠意のあるアドバイスをすることができると思う.まとめ冒頭にて述べたように,術後の患者がどのように感じているかを,直接聞いているのはスタッフの場合が多い.円滑なインフォームド・コンセントをとるには,自らの経験から得たものに加え,スタッフから吸収した意見を取り入れて,説明のポイントを構築することが最も効率的である.インフォームド・コンセントの基本は,医師・患者間の意思疎通であろう.患者に「満足」してもらうのみならず「感動」してもらおうと思う気持ちも重要なポイントではないだろうか.文献1)根岸一乃:患者選択はどのように行うのですか?.あたらしい眼科18(臨増):15-18,20012)林仁:LASIKの術前検査と適応について教えてください.あたらしい眼科18(臨増):113-116,2001(74)☆☆☆図1南青山アイクリニックで用いている問診票─術前問診票には,何を主たる目的として手術を希望しているかが,読み取れるような構成が望ましい.南青山アイクリニック問診票-術前記入日:平成年月日フリガナ生年月日:西暦19年月日(才)お名前性別:男・女血液型:型ご住所:〒ご自宅・会社※当院からご案内などをお送りする際にクリニック名を記載してもよろしいですか?はい・いいえ・郵送不可TEL:携帯番号:※当院からご連絡する際にクリニック名を出してもよろしいですか?はい・いいえ緊急連絡先TEL:E-mailアドレス@.ne.jp.co.jp.comご職業(なるべく具体的に)パソコン使用有・無/夜間の車の運転有・無1.当院をどちらでお知りになりましたか?該当する項目を○で囲んでください。(複数回答可)1.雑誌を見た()2.新聞を見た()3.ラジオ・テレビ()4.南青山アイクリニックのホームページを見た5.VoiceStoreからの情報6.知人の紹介(ご紹介者のお名前:)7.眼科紹介(病院名:)※ご紹介者のお名前は、差し支えなければご記入ください。8.その他(メルマガ・検索エンジン・その他)2.現在のコンタクトレンズの使用状況を以下からお選びいただき、○で囲んでください。1.使用していない2.使用している(ソフト・乱視用ソフト・ハード年間使用)3.はずしている(ソフト・ハード日前から)使用ソフトコンタクトレンズの種類に該当するものを○で囲んでください。①ふつうタイプ・②使い捨てタイプ(1DAY・1WEEK・2WEEK・1MONTH)3.どの程度の裸眼視力(メガネ、コンタクトレンズなしの視力)改善を期待していますか?1.1.0以上(遠くの細かいものが良く見える)2.1.0程度(遠くが見える)3.0.7程度(運転免許の更新ができる程度)4.0.5程度(日常生活がメガネやコンタクトレンズなしで、なんとか過ごせる程度)5.0.1程度(分厚いメガネから解放されれば良い)4.手術を受けたいと思う動機を以下からお選びいただき、○で囲んでください。(複数の回答可)1.職業的な理由()2.メガネは外見上不利3.スポーツ(種類:)や趣味のため、メガネ・コンタクトは不便4.不同視(左右の近視の度数が違いすぎるので疲れる)がある5.メガネはとても疲れる6.コンタクトレンズは異物感、充血が出現するので長時間できない7.コンタクトレンズの手入れが面倒8.新しい手術だから受けてみたい9.メガネ、コンタクトレンズはお金がかかる10.裸眼で生活したい11.その他()裏面へ続きます。5.現在の自覚症状と最も近いと思われるものをお選びいただき、○で囲んでください。右目全く感じない0123かなり感じる4目が疲れる左目01234右目01234まぶしく感じる左目01234右目01234乾燥感(乾き)がある左目01234右目01234異物感(ゴロゴロ)がある左目01234右目01234かゆみがある左目01234右目全くしない0123かなりある4充血する左目01234右目全くない0123かなりでる4目やにがでる左目01234※薄目を開けて寝ているといわれたことがありますか?はい・いいえその他の症状があれば、なるべく具体的にお書きください。6.現在、または過去に目(流行性角結膜炎(はやり目)・角膜ヘルペスなど)や全身の病気、手術、ケガがあればお書きください。7.輸血歴、肝炎、高血圧、糖尿病の既往歴過去に輸血を受けたり、肝炎になったことのある方はお答えください。輸血ある・ない肝炎ある・ない現在高血圧の方はお答えください。治療中はい・いいえ現在糖尿病の方はお答えください。治療中はい・いいえ8.現在妊娠中、授乳中、避妊薬(ピルなど)を内服中でしたらお書きください。妊娠中:(現在ヵ月)授乳中:(月まで予定)避妊薬内服中:(薬品:、いつ頃から)9.現在、使用中の薬がありましたらお書きください(市販薬も含む)。点眼薬:()内服薬:()注射:()10.アレルギーの有無についてお答えください。花粉症・食物()・薬物()その他()11.生活習慣と老眼について調べております。もしよろしければアンケートにお答えください。たばこ:①吸う②毎日本?年③年前に止めた④吸わないお酒:①毎日を本/合②週に何回か③飲まない運動:毎日/毎週/毎月回位を分ご記入が終わりましたらお手数ですが、受付までお持ちください※収集目的については、院内掲示または案内文をご覧ください。また当クリニック主任執刀医の荒井医師が当ビル4Fで「クイーンズアイクリニック」を開院しており、検査や診察等を一部4Fでおこなうことがあります。そのため皆様方の診療記録等をクイーンズアイクリニックに開示しておりますことをご了承ください。※当クリニックでは、患者様の誤認を防止するため、患者様のお名前をお呼びさせていただいております。