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新しい遠近両用コンタクトレンズの紹介

2006年7月31日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSン株式会社)があるが,満足のいく結果が得られない場合もあり,新しいタイプの遠近両用SCLの開発が求められていた.本稿では,新しく開発された遠近両用SCLとして,2005年11月24日に発売されたロートi.Q.?14バイフォーカル(ロート製薬)と近々発売予定のボシュロムソフレンズマルチフォーカル(ボシュロム・ジャパン)を紹介する.Iロートi.Q.?14バイフォーカル1.特徴a.デザイン同心円型,同時視型の遠近両用SCLで,商品名から二重焦点レンズだとイメージするが,実際には累進屈折力レンズである.本レンズは,2つの異なる光学デザイはじめに総務省が行った国勢調査によると2005年12月1日現在の総人口に対する45歳以上の割合は47.7%で,日本では着実に高年齢化が進んでいる.人は誰も加齢により調節力が減退するが,40歳代後半になると近見障害や眼精疲労を訴える場合が多く,適切な老視矯正を必要とする.一般に,老視の矯正の手段として眼鏡あるいはコンタクトレンズ(CL)が使用されるが,遠近両用CLは通常の単焦点CLに比べて処方がむずかしい,煩わしいという問題に加えて,良好な視機能が得られないことが多かった.しかしながら,各メーカーの研究,開発,技術の進歩によって十分に使用に耐えうる遠近両用CLが市販されるようになった.遠近両用CLは材質の面からハードコンタクトレンズ(HCL)とソフトコンタクトレンズ(SCL)に,形状の面からセグメント型と同心円型に,光学的な機能面から交代視型と同時視型に大きく分けられ,さらに光学部が二重焦点レンズや累進屈折力のものなど,多種多様なレンズがある1~6)(図1).ディスポーザブルSCLや2週間で頻回に交換するSCLの使用者が急増しているが,老視矯正を目的とした遠近両用SCLを処方する機会が増えてきた.現在,2週間で頻回に交換する遠近両用SCLとしてはアキュビューバイフォーカル(ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社)とフォーカスプログレッシブ(チバビジョ(9)???*KiichiUeda:山口大学大学院医学系研究科眼科学/ウエダ眼科**RyojiYanai:山口大学大学院医学系研究科眼科学〔別刷請求先〕植田喜一:〒751-0872下関市秋根南町1-1-15ウエダ眼科特集●新しいコンタクトレンズの展望あたらしい眼科23(7):851~860,2006新しい遠近両用コンタクトレンズの紹介???????????????????????????????????????????????????????????????????????植田喜一*柳井亮二**図1遠近両用CLの種類二重焦点累進屈折力(多焦点)デザイン屈折力(焦点)材質HCLHCL・SCLHCL・SCLセグメント型同心円型形状交代視型同時視型光学的機能———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006ンがあるのが特徴である5,6).遠用重視のレンズ(Dレンズ)のデザインを図2aに示す.中央は単焦点SCLと同じ遠用の球面デザインであるが,その外側(中間部)は非球面デザインで累進屈折力レンズとして働き,周辺部は近用の球面デザインである.近用重視のレンズ(Nレンズ)のデザインを図2bに示す.中央は近用の球面デザインであるが,その外側(中間部)は非球面デザインで累進屈折力レンズとして働き,周辺部は遠用の球面デザインである.Nレンズは近方の見え方だけでなく,中間から遠方までの見え方を考慮して設計されたレンズで,Dレンズよりも中央の光学部の面積は狭く,累進移行部が広い.これらの非球面形状は前面に施されており,後面は球面形状である.b.物性,仕様本レンズはイオン性素材で高含水率であるため,アメリカのFoodandDrugAdministration(FDA)分類ではグループⅣに属する.酸素透過係数(Dk値)は,19.6×10-11(cm2/sec)・(m?O2/m?×mmHg),酸素透過率(Dk/L値)は,12.3×10-9(cm/sec)・(m?O2/m?×mmHg)である.中心厚は0.159mm(球面度数-3.00D,加入度数+1.00D)で,レンズ径は14.4mm,ベースカーブは8.7mmのみである.球面度数は+4.00D~-6.00D(0.25Dステップ)で,加入度数は+1.00D,+1.50D,+2.00D,+2.50Dの4種類である(表1).2.処方患者の年齢および調節力からレンズのデザインを選択する.調節力の程度に応じて,①両眼ともDレンズ(以下D-D),②片眼にDレンズ,反対眼にNレンズ(以下D-N),③両眼ともNレンズ(以下N-N)の組み合わせのいずれにするかを検討する.遠方視を重視する場合にはD-D,近方視を重視する場合にはN-Nの組み合わせでよい.D-DおよびD-Nの組み合わせを行った場合の遠用度数および加入度数の決定の手順を図3に示す.トライアルレンズの遠用度数は完全矯正値を頂間距離補正した値に近い度数を選択する(乱視がある場合には,その乱視度数を等価球面度数で補正する).トライアルレンズの加入度数は視力検査時に必要とした検眼レンズの加入度数に最も近い度数を選択する.追加矯正は患者の作業距離によって両眼視による遠方と近方の見え方を参考にし(10)部用遠)ンイザデ面球(部用間中ンイザデ面球非()力折屈進累:部用近)ンイザデ面球(部用近)ンイザデ面球(部用遠)ンイザデ面球(部用間中ンイザデ面球非()力折屈進累:ba図2ロートi.Q.?14バイフォーカルのデザインa:遠用重視のレンズ(Dレンズ).b:近用重視のレンズ(Nレンズ).LC択選のンイザデに眼両D用装をズンレ定測を)離距業作(力視方近と力視方遠るよに視眼両:正矯加追LC定決方処に目き利D用装をズンレに目き利非N用装をズンレ準基択選の数度入加と数度用遠択選を数度い近に値たし正補離距間頂を値正矯全完は数度用遠・)正補で数度面球価等を数度視乱のそ,は合場るあが視乱(択選を数度い近も最に数度入加たれさと要必に時査検力視は数度入加・図3ロートi.Q.?14バイフォーカルの処方手順表1ロートi.Q.?14バイフォーカルの物性,仕様Frequency?55Multifocal素材含水率FDA分類Dk値Dk/L値中心厚直径ベースカーブ球面度数加入度数デザイン光学設計設計Metha?lconA55%グループⅣ19.6×10-11(cm2/sec)・(m?O2/m?×mmHg)12.3×10-9(cm/sec)・(m?O2/m?×mmHg)0.159mm(球面度数-3.00D,加入度数1.00D)14.4mm8.7mm+4.00D~-6.00D(0.25Dステップ)+1.00D,+1.50D,+2.00D,+2.50DDレンズ(遠用重視タイプ),Nレンズ(近用重視タイプ)累進屈折力前面非球面・後面球面———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006???て行う.本レンズは異なる2つのデザインがあり,加入度数も4種類あるため,多くの患者に対応することができるという利点があるが,処方変更を行う場合には,レンズデザイン,遠用の球面度数ならびに加入度数の変更をどのように行えばよいかという問題が起こりうる5).その参考として,手順を図4と図5に示す.3.臨床試験a.多施設による臨床評価試験2005年4月26日~6月22日の間に近見障害を訴える20名40眼(45~55歳)を対象に国内の3施設で臨床試験が行われた5).処方したDレンズは30枚,Nレンズは10枚で,これらのレンズの組み合わせは,D-Dが11例,D-Nが8例,N-Nが1例であった.年齢と検眼レンズによる加入度数および処方したレンズデザインの組み合わせを表2に示す.45~49歳の被験者(平均加入度数:+1.40±0.91D)に対してはすべてD-Dで,50~54歳の被験者(平均加入度数+1.91±1.19D)に対してはほとんどがD-DあるいはD-Nで,55~59歳の被験者(平均加入度数:+2.63±0.70D)に対してはD-Nで処方した.処方したレンズの遠用度数と加入度数を表3に示す.(11)Dズンレ更変=数度面球じ同=数度入加Dズンレ更変=数度面球じ同=数度入加Dズンレ更変=数度面球く弱=数度入加Dズンレ更変=数度面球く弱=数度入加Dズンレじ同=数度面球く強=数度入加Dズンレじ同=数度面球く強=数度入加Dズンレ更変=数度面球く強=数度入加Dズンレ更変=数度面球く強=数度入加点焦単に目き利遠方視に不満近方視に不満に目き利非Nズンレro点焦単LC利き目非利き目利き目非利き目図4D-Dの組み合わせの処方変更の手順Dズンレ更変=数度面球じ同=数度入加Nズンレじ同=数度面球じ同=数度入加Dズンレ更変=数度面球く弱=数度入加Nズンレじ同=数度面球じ同=数度入加Dズンレじ同=数度面球じ同=数度入加ズンレNじ同=数度面球く強=数度入加Dズンレじ同=数度面球じ同=数度入加ズンレN更変=数度面球く強=数度入加利き目にDレンズor単焦点CL近方視に不満遠方視に不満非利き目に単焦点CLor両眼にDレンズDズンレ更変=数度面球く弱=数度入加Nズンレ更変=数度面球じ同=数度入加Dズンレ更変=数度面球じ同=数度入加ズンレN更変=数度面球く強=数度入加Dズンレ更変=数度面球く弱=数度入加Nズンレ更変=数度面球く弱=数度入加Dズンレ更変=数度面球く強=数度入加ズンレN更変=数度面球く強=数度入加利き目非利き目利き目非利き目図5D-Nの組み合わせの処方変更の手順———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.7,200645~49歳の被験者(平均加入度数+1.40±0.91)に対して処方したレンズの加入度数は+1.00Dが6枚,+1.50Dが4枚,同様に50~54歳の被験者(平均加入度数+1.91±1.19)に対しては,+1.00Dが1枚,+1.50Dが13枚,+2.00Dが10枚,55~59歳(平均加入度数+2.63±0.70)に対しては+1.50Dが2枚,+2.00Dが4枚であった.高年齢になるほど検眼レンズによる加入度数は強い度数を必要とし,処方したレンズの加入度数も強い度数を処方した.レンズデザインと加入度数の関係を表4に示す.不同視のため,非利き眼に低い加入度数を処方した症例以外は,レンズデザインに関係なく両眼に同じ加入度数を選択した.両眼視による遠方視力を図6に示す.処方時は1.0以上が90%,0.9~0.8が5%,0.7~0.6が5%であったが,再診時は1.0以上が95%,0.9~0.8が5%であった,両眼の近方視力を図7に示す.処方時は1.0以上が30%,0.9~0.8が45%,0.7~0.6が25%であったが,再診時は1.0以上が55%,0.9~0.8が25%,0.7~0.6が15%,0.5~0.4が5%であった.遠方視力,近方視力ともに再診時のほうがよかった.(12)表2年齢と検眼レンズによる加入度数および処方したロートi.Q.?14バイフォーカルのデザインの組み合わせ年齢(歳)眼数(眼)検眼レンズによる加入度数(D)デザインの組合せ(症例数)D-DD-NN-N45~49100.00~+2.50(+1.40±0.91)50050~54240.00~+3.50(+1.91±1.19)651*55~596+1.50~+3.25(+2.63±0.70)030計401181*近方視重視希望のため両眼にNレンズを処方.表4処方したロートi.Q.?14バイフォーカルのレンズの組み合わせと加入度数Dレンズ-Dレンズの組み合わせ年齢(歳)Dレンズ(枚)Dレンズ(枚)+1.00D+1.50D+2.00D+1.00D+1.50D+2.00D45~4950~5455~59300220040300220040計344344Dレンズ-Nレンズの組み合わせ年齢(歳)Dレンズ(枚)Nレンズ(枚)+1.00D+1.50D+2.00D+1.00D+1.50D+2.00D45~4950~5455~5900004101201*0031012計053143*不同視の非利き眼のため低い加入度数.表3処方したロートi.Q.?14バイフォーカルの遠用度数と加入度数遠用度数球面度数(D)眼数(眼)+3.75~+3.00+2.75~+2.00+1.75~+1.00+0.75~0.00-0.25~-1.00-1.25~-2.00-2.25~-3.00-3.25~-4.00-4.25~-5.00-5.25~-6.0020722411831加入度数加入度数(D)(眼)+1.00+1.50+2.0071914再診時1.0以上~0.8~0.6~0.4~0.2不明5%5%5%処方時n=2095%90%図6ロートi.Q.?14バイフォーカルによる遠方視力(両眼視)図7ロートi.Q.?14バイフォーカルによる近方視力(両眼視)再診時1.0以上~0.8~0.6~0.4~0.2不明5%30%25%処方時n=2055%25%15%45%———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006???処方時および再診時における本レンズのセンタリングはすべて良好で,動きも良好であった(図8,9).経過観察中に本レンズの装用に伴う角結膜障害は1例も認めなかった.交換したレンズは7枚(14.9%)で,これらはすべて処方時の度数変更で,再診時に処方変更したものはなかった.経過観察中にレンズが破損した症例はなかった.レンズの中止例は1例もなかった.再診時に行ったアンケートでは,遠方から近方のすべての距離において満足度は高く,視線を動かしたときや階段の昇降時の見え方,明るさの違いによる見え方についても満足度は高く,総合的な遠方または近方の見え方に対して高い満足度が得られた(図10).装用感,乾燥感,くもり,ハンドリングについてもおおむね良好な結果であった(図11).全体の印象として,満足あるいは(13)良いややずれる不良n=40n=40100%100%再診時処方時図8ロートi.Q.?14バイフォーカルのセンタリング過剰やや過剰良好やや少なめ動きなしn=40n=40100%100%再診時処方時図9ロートi.Q.?14バイフォーカルの動き図10アンケート調査(見え方)遠方(3m以上)1m~2mの距離1m~50cmの距離近方(40cm~50cm)遠方から近方へと視線を移したとき階段の上り下り総合的な遠方総合的な近方明るいところ暗いところn=20満足普通不満足図12アンケート調査(全体の印象)満足やや満足普通やや不満不満n=2040%35%25%装用感乾燥感くもりハンドリングn=20良好普通不良図11アンケート調査(装用感など)図13アンケート調査(継続使用の意志)使いたい少し使いたいどちらとも言えないあまり使いたくない使いたくないn=2040%35%25%図14総合評価満足感矯正効果有効性著効75%有効25%極めて有効75%満足90%普通10%効果あり25%安全性有用性極めて安全100%有用25%極めて有用75%n=40———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006やや満足は75%で(図12),継続使用の希望は75%であった(図13).総合評価は,満足感,矯正効果,有効性,安全性,有用性のいずれにおいても,高い評価が得られた(図14).b.有効加入度数の測定遠近両用眼鏡を処方する場合には他覚的屈折値および自覚的屈折値,年齢から考えられる調節力をもとに検眼を行うと期待される遠方視力および近方視力が得られるが,遠近両用SCLの場合にはこれらのデータをもとに検眼しても期待した視力が得られないことがある.表示された加入度数が有効に働いていないことが一つの要因である2,7).遠近両用SCLを装用した状態で測定した近点距離は,遠近両用SCLの加入度数の効果があれば単焦点SCLを装用したときよりも短い値になる.たとえば,単焦点SCLを装用して近点が50cmであれば+2.00Dの加入度数の遠近両用SCLを装用すると近点が25cmになると予想する.横軸を単焦点SCL装用時の調節力,縦軸を遠近両用SCL装用時の調節力としてグラフにプロットすると,遠近両用SCLの加入度数の効果を知ることができる2)(図15).加入度数の効果が表示通りであれば,その表示値を切片とした傾き1の直線状にプロットされ,効果がまったくなければ,原点を通る傾き1の直線プロットされる.また,実際に働いた有効な加入度数は,遠近両用SCL装用時の調節力から単焦点SCL装用時の調節力を減じた値となるので,簡単にグラフ上から読み取ることができる.そこで,12例24眼について,PUSH-UP法によって測定した本レンズと同社の単焦点(14)6.06.00.0近用加入度数(表示値)単焦点SCL装用時の調節力(D)b-a:有効加入度数ba遠近両用SCL装用時の調節力(D)図15遠近両用SCLの有効近用加入度数a:単焦点SCL装用時の調節力,b:遠近両用SCL装用時の調節力,b-a:遠近両用SCLの有効近用加入度数.単焦点SCL(D)ロートi.Q.14?バイフォーカルDレンズ近用加入度数(表示値)+2.00D遠近両用SCL(D)8.06.04.02.00.00.02.04.06.08.0単焦点SCL(D)ロートi.Q.14?バイフォーカルNレンズ遠近両用SCL(D)8.06.04.02.00.00.02.04.06.08.0単焦点SCL(D)近用加入度数(表示値)+2.50D遠近両用SCL(D)8.06.04.02.00.00.02.04.06.08.0単焦点SCL(D)n=14遠近両用SCL(D)8.06.04.02.00.00.02.04.06.08.0図16単焦点SCLおよびロートi.Q.?14バイフォーカル装用時の調節力———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006???SCL(ロートi.Q.?14アスフェリック)装用時の調節力を測定した結果を図16,有効加入度数の平均値を表5に示す.このように遠近両用SCLによる老視の矯正効果にはばらつきがあり,レンズに表示された加入度数が十分に働いていないことがある.これはレンズのデザインによって異なる2,7).c.立体視角の測定本レンズを処方した25例に対してNewStereoTestsを行った結果を表6に示す5).40cmにおける立体視角は,D-Dの組み合わせを行った群の平均値は眼鏡が70.8秒に対してD-Dは110秒,D-Nの組み合わせを行った群の平均値は眼鏡が66.2秒に対してD-Nは365秒,N-Nの組み合わせを行った群の平均値は眼鏡が95秒に対してN-Nは170秒と,左右で異なるレンズデザインを選択したD-Nが最も悪い結果であった.単焦点レンズを使用して,片眼を遠方,その反対眼を近方に合わせる方法をモノビジョン法というが,遠近両用レンズを使用した場合にはモディファイドモノビジョン法という.本レンズのD-Nの組み合わせはモディファイドモノビジョン法を行ったことになるが,立体視が悪くなることがある.d.波面収差の測定本レンズ(DレンズおよびNレンズ,遠用度数-3.00D,加入度数+2.50D)および同社の単焦点SCL(球面(15)単焦点SCL(D)ロートi.Q.14?バイフォーカルDレンズ近用加入度数(表示値)+2.00D遠近両用SCL(D)8.06.04.02.00.00.02.04.06.08.0単焦点SCL(D)ロートi.Q.14?バイフォーカルNレンズ遠近両用SCL(D)8.06.04.02.00.00.02.04.06.08.0単焦点SCL(D)近用加入度数(表示値)+2.50D遠近両用SCL(D)8.06.04.02.00.00.02.04.06.08.0単焦点SCL(D)n=14遠近両用SCL(D)8.06.04.02.00.00.02.04.06.08.0図16単焦点SCLおよびロートi.Q.?14バイフォーカル装用時の調節力表5ロートi.Q.?14バイフォーカルの有効加入度数の平均値表示値+2.00D表示値+2.50DDレンズ0.85±0.64D1.45±0.82DNレンズ1.77±0.80D2.39±0.94Dn=14n=140.350.300.250.200.150.100.050NレンズDレンズ単焦点SCL***RMS(μm)図17単焦点SCLおよびロートi.Q.?14バイフォーカル装用時におけるコマ収差への影響(S3,瞳孔径4mm)Dunnetts?multiplecomparisontest***p<0.001.図18単焦点SCLおよびロートi.Q.?14バイフォーカル装用時における球面収差への影響(S4,瞳孔径4mm)Dunnetts?multiplecomparisontest*p<0.05.0.160.140.120.100.080.060.040.020NレンズDレンズ単焦点SCL*RMS(μm)図19単焦点SCLおよびロートi.Q.?14バイフォーカル装用時における全高次収差への影響(S3+4,瞳孔径4mm)Dunnetts?multiplecomparisontest***p<0.001.0.400.350.300.250.200.150.100.050NレンズDレンズ単焦点SCL***RMS(μm)表6眼鏡およびロートi.Q.?14バイフォーカル装用時の立体視角眼鏡Dレンズ-眼鏡Dレンズ-眼鏡Nレンズ-DレンズNレンズNレンズ70.8秒110秒66.2秒365秒95秒170秒n=11n=12n=2正常立体視の合格基準:100秒以下.———————————————————————-Page8???あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006度数-3.00D)を装用した7例14眼に対し,Hartmann-Shack波面センサー(KR-9000PW,TOPCON)を用いて瞳孔径4mmにおける高次波面収差解析を行った結果を図17~19に示す.コマ収差,球面収差および全高次収差のすべてにおいて単焦点SCL装用時に比べDレンズ装用時のほうが有意に増加し,網膜シミュレーション像においても単焦点SCL装用時に比べDレンズ装用時のほうがLandolt環は不鮮明になっており,収差量と相関する結果が得られた(図20).一方,コマ収差,球面収差および全高次収差のすべてにおいてNレンズ装用時の収差の変化は単焦点SCL装用時と同等で,網膜シミュレーション像はDレンズ装用時に比べNレンズ装用時のほうが単焦点SCL装用時に近い結果が得られた.Dレンズは中心光学部径(遠用度数)が2.3mmで,瞳孔径4mmで算出した遠用部の面積が4.15mm2(瞳孔径の33%),累進移行部を含めた遠用部以外の面積が8.41mm2(瞳孔径の67%)であるのに対し,Nレンズは中心光学部径(近用度数)が1.2mmで,瞳孔径4mmで算出した遠用部の面積が1.13mm2(瞳孔径の9%),近用部以外の面積が11.43mm2(瞳孔径の91%)である.Nレンズは中央の光学部の面積を狭くすることにより,高次収差に対する影響が小さくなっていると考えられる.近方の見え方だけでなく,中間から遠方までの見え方を考慮して設計されたNレンズは,波面光学的には遠近両用SCLよりも単焦点SCLに近い性質を示すものと考えられる.IIボシュロムソフレンズマルチフォーカル1.特徴a.デザイン同心円型,同時視型の遠近両用SCLで,中央が近用光学部,周辺が遠用光学部である非球面デザインで累進屈折力レンズとして働くが,2つの異なる光学デザインがあるのが特徴である.加入度数が+1.50D(LowAdd)のレンズは周辺部から中央部に向かってプラス度数が徐々に増加する(図21).加入度数が+2.50D(HighAdd)のレンズは周辺部から中央部に向かってプラス度数が増加するが,中心部はプラス度数が高く,その移行部が狭い(図22).これらの非球面形状は前面に施されており,後面は球面形状である.b.物性・仕様本レンズは非イオン性素材で,低含水率であるためFDA分類ではグループⅠに属する.Dk値は8.4×10-11(cm2/sec)・(m?O2/m?×mmHg),Dk/L値は8.4×10-9(cm/sec)・(m?O2/m?×mmHg)である.中心厚は0.10mm(球面度数-3.00D,加入度数+1.50,+2.50D)で,レンズ径は14.5mm,ベースカー(16)図20単焦点SCLおよびロートi.Q.?14バイフォーカル装用時の網膜シミュレーション像NレンズDレンズ単焦点SCL近用部中間用部遠用部ab図21ボシュロムソフレンズマルチフォーカルのデザイン(加入度数+1.50D)a:正面図,b:屈折力分布.近用部中間用部遠用部ab図22ボシュロムソフレンズマルチフォーカルのデザイン(加入度数+2.50D)a:正面図,b:屈折力分布.———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006???ブは8.5mmと8.8mmの2種類である.球面度数は+6.00D~-10.00D(0.25Dステップ)で,加入度数は+1.50Dと+2.50Dの2種類である(表7).2.処方患者の調節力からレンズデザインを選択する.調節力の低下が軽い症例では加入度数が+1.50Dのレンズを選択する.このレンズで良好な近方視力が得られない場合には加入度数が+2.50Dのレンズを選択する.ロートi.Q.?14バイフォーカルと同様に,①両眼とも+1.50D②片眼に+1.50D,片眼に+2.50D③両眼に+2.50Dのいずれかの組み合わせを選択することで,多くの症例に対応することができると考える.3.臨床試験本レンズは厚生労働省に対して申請書を提出しているが,2006年5月現在では承認を得ていない.したがって,日本では本レンズの評価は明らかではないが,海外においては2002年にアメリカ,ヨーロッパ,カナダで発売されて以来,世界各地で高評価を得ている.アメリカで単焦点SCL(ソフレンズ59)を装用したモノビジョン法による老視矯正と本レンズを装用した老視矯正を比較評価する臨床試験の報告がある8).38例を対象とした試験で,本レンズを装用した両眼視によるハイコントラスト遠方視力およびハイコントラスト近方視力はともに1.0以上で,完全矯正眼鏡および単焦点SCLを装用したモノビジョン法とほとんど差はないが,ローコントラスト遠方視力およびローコントラスト近方視力は完全矯正眼鏡および単焦点SCLを装用したモノビジョン法よりも低下した(表8).本レンズを装用した立体視角の平均値は単焦点SCLを装用したモノビジョン法と比較して79秒低下した(表9).アンケート調査では76%の被験者が本レンズを,24%の被験者が単焦点SCLを装用したモノビジョン法をより良い老視矯正法として選択した.臨床試験中に本レンズの装用に伴う眼障害は認めなかった.おわりに高年齢化が進んで日本では適切な老視矯正を求める患者が増えている.屈折異常ならびに老視の矯正を目的としてウエダ眼科で眼鏡を処方した症例に対して,単焦点レンズと遠近両用レンズの割合を調べた結果を図23に(17)表7ボシュロムソフレンズマルチフォーカルの物性,仕様Bausch&LombSofLensMultifocal素材含水率FDA分類Dk値Dk/L値中心厚直径ベースカーブ球面度数加入度数デザイン光学設計設計Polymacon38.6%グループI8.4×10-11(cm2/sec)・(m?O2/m?×mmHg)8.4×10-9(cm/sec)・(m?O2/m?×mmHg)0.10mm(球面度数-3.00D,加入度数+1.50,+2.50D)14.5mm8.5mm,8.8mm+6.00D~-10.00D(0.25Dステップ)+1.50D(LowAdd),+2.50D(HighAdd)レンズ中心部近用光学部累進屈折力前面非球面・後面球面表8単焦点SCLおよびボシュロムソフレンズマルチフォーカル装用時の小数視力(平均値)完全矯正眼鏡を使用単焦点SCLを装用したモノビジョンボシュロムソフレズマルチフォーカルを装用ハイコントラスト遠方視力1.31.251.3ハイコントラスト近方視力1.11.11.0ローコントラスト遠方視力1.00.830.83ローコントラスト近方視力0.80.710.63(文献8より改変)表9単焦点SCLおよびボシュロムソフレンズマルチフォーカル装用時の立体視角所有眼鏡などを使用単焦点SCLを装用したモノビジョンボシュロムソフレズマルチフォーカルを装用158秒205秒126秒(文献8より改変)———————————————————————-Page10???あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006示す.眼鏡においては遠用目的あるいは近用目的で単焦点レンズを処方した割合は92.3%で,遠近両用目的で遠近両用レンズを処方した割合は7.7%であった.調査期間は異なるが,同様に屈折異常ならびに老視の矯正を目的としてガス透過性HCLと2週間頻回交換SCLを処方した結果を図24に示す.眼鏡およびガス透過性HCLに比して2週間頻回交換SCLの使用者の処方割合が少ない.眼鏡やガス透過性HCLに比して2週間頻回交換SCLは若い人が使用している割合が多いので年齢を考慮した比較をしなければならないが,これらの結果より老視矯正を目的として処方された眼鏡およびCLの傾向をみることができる.ガス透過性HCLに比して2週間頻回交換SCLにおいて遠近両用レンズの処方割合が少ない理由としては,遠近両用2週間頻回交換SCLは種類が少ないことや,球面度数,加入度数などの規格が制限されていることに加えて,遠方ならびに近方の見え方が悪いこと,立体視が悪くなること,コントラスト感度が低下するため像が暗くなることなどの問題があげられる.特に見え方の質に対して高い要求のある人は満足してもらえないことが多い.遠近両用2週間頻回交換SCLとして今回開発されたロートi.Q.?14バイフォーカルならびにボシュロムソフレンズマルチフォーカルは独特のレンズデザインであるが,今後これらを使用した患者からどのような評価が得られるのかを詳しく調べる必要がある.各メーカーからつぎつぎと新しい遠近両用CLが開発されており,適切なレンズを選択すれば良好な見え方が得られる場合が多くあるのも事実である.われわれ眼科医は積極的に遠近両用CLによる老視矯正を試みるべきである.文献1)曲谷久雄:多焦点コンタクトレンズの現状と未来.あたらしい眼科7:999-1008,19902)植田喜一:遠近両用ソフトコンタクトレンズの特性.あたらしい眼科18:435-446,20013)植田喜一:遠近両用コンタクトレンズの処方.視覚の科学23:69-77,20024)植田喜一:老視矯正からの選択.日コレ誌47:93-102,20055)西巻賢一:ロートi.Q.?14バイフォーカルの紹介.日コレ誌48:52-55,20066)植田喜一:マルチフォーカルコンタクトレンズによる老視矯正.眼科プラクティス9,屈折矯正完全版,p109-114,文光堂,20067)柳井亮二,植田喜一,稲垣恭子ほか:同時視型遠近両用ソフトコンタクトレンズの有効加入度数について.日コレ誌48(3)(2006,印刷中)8)RichdaleK,MitchellGL,ZadnikK:Comparisonofmulti-focalandmonovisionsoftcontactlenscorrectionsinpatientswithlow-astigmaticpresbyopia.??????????????83:266-273,2006(18)単焦点レンズ92.3%遠近両用レンズ7.7%眼鏡レンズ3,176枚(2002.1.4~2003.12.29)図23遠近両用眼鏡の処方割合単焦点レンズ99.1%単焦点レンズ88.7%遠近両用レンズ0.9%2週間頻回交換SCL9,706枚(2004.4.1~2005.3.31)HCL560枚(2004.4.1~2005.3.31)遠近両用レンズ12.3%図24遠近両用CLの処方割合

シリコーンハイドロゲルソフトコンタクトレンズ

2006年7月31日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSコーンラバーではDk値400~600が得られる.しかし,シリコーンラバーは水を透過しないために,角膜への吸着が問題となり,ソフトコンタクトレンズ素材としては普及しなかった1,2).つぎに注目されたのが,シロキサン樹脂を含水化することであった.当初は透明な素材を作製することがむずかしかったが,シロキサンをポリマー化せずにマクロモノマーの状態で含水性モノマーと二相性構造(図1)を形成させることにより透明化に成功した.これがシリコーンハイドロゲルである3~6).II含水率と酸素透過性従来のソフトコンタクトレンズの素材であるハイドロゲルでは,含水率を高めるほど,酸素透過性が高まった.そのため高酸素透過性のソフトコンタクトレンズは“乾燥しやすい”,“汚れやすい”,“破損しやすい”といIシリコーンハイドロゲルとはソフトコンタクトレンズ装用下の眼球への酸素供給は,95%以上ソフトコンタクトレンズ自体を透過する酸素に依存している.ソフトコンタクトレンズ装用下の眼球への酸素供給量を増やすには,素材の酸素透過性を上げることと,レンズ厚を薄くすることが必要である.しかし,従来のソフトコンタクトレンズの素材であるハイドロゲルでは,ガス透過性が素材に含まれる自由水の移動に依存しているため,水の酸素透過係数〔Dk値,単位=×10-11(cm2/sec)・(m?O2/m?×mmHg)〕である80を超えることは理論的に不可能であった.酸素透過性を上げるためにソフトコンタクトレンズを薄く加工する技術にも限界があった.そこで注目されたのがシリコーンであった.シリコーンの酸素透過性は高く,シリ(3)???*MotozumiItoi:道玄坂糸井眼科医院〔別刷請求先〕糸井素純:〒150-0043東京都渋谷区道玄坂1-10-19道玄坂糸井眼科医院特集●新しいコンタクトレンズの展望あたらしい眼科23(7):845~850,2006シリコーンハイドロゲルソフトコンタクトレンズ????????????????????????????????糸井素純*Trisフルオロシロキサン相ハイドロゲル相図1二相性構造200180160140120100806040200酸素透過係数シリコーンハイドロゲル水020406080100含水率(%)ハイドロゲル(従来SCL素材)図2含水率と酸素透過係数(文献7より改変)———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006うことが宿命であった.しかし,シリコーンハイドロゲルソフトコンタクトレンズは図2が示すように含水率を低くすることにより,酸素透過性は高くなる.これまでのハイドロゲルと異なり,シリコーンハイドロゲルでは低含水率でありながら,非常に高い酸素透過性を実現することができる.平成18年5月30日現在,唯一日本で発売されているシリコーンハイドロゲルソフトコンタクトレンズであるO2オプティクス(チバビジョン)は,含水率24%を採用し,Dk値は140である8).III表面処理シロキサンとハイドロゲルの重合に成功し,透明で光学的に優れ,酸素透過性が高く,良好なイオン(水)透過機能を有するシリコーンハイドロゲル素材の開発に成功したが,シリコーン,フッ素がレンズの表面の性質を支配することから,含水レンズであるにもかかわらず,表面が疎水性,親油性の特性をもつレンズとなってしまい,“水濡れ性が悪い”,“汚れが付着しやすい”などの問題が生じ,臨床的な応用は困難であった.その問題を解決した技術が表面処理である.O2オプティクスはメタンプラズマコーティング9),PUREVISION(平成18年5月31日現在,日本未発売)は酸素を用いたプラズマ酸化処理10),ACUVUEADVACNCE(平成18年5月31日現在,日本未発売)は親水性ポリマーであるポリビニルピロリドン(PVP)の表面溶出による親水化11)となる表面処理が施されている.ここではO2オプティクスに施されている表面処理について解説する.O2オプティクスの表面処理(メタンプラズマコーティング)モールド製法で製造したレンズをメタンと空気をプラズマ化させた混合気中に置いて,レンズ表面に架橋結合した親水性皮膜を形成することにより,レンズ表面にむらなく恒久的厚さ20nmの親水性ポリマーが形成され,水濡れ性が向上する4).さらに,コーティング膜は酸素や二酸化炭素などのガスおよび水やメチレンブルーのような低分子の物質は透過するが,ローズベンガルやフルオレセインなどの分子量の大きな物質の侵入は阻止するバリア機能を有する.そのため蛋白質や脂質などの高分子物質のレンズ内への侵入を阻止することができる.メタンプラズマ処理により得られたコーティング膜は素材や分子結合によりポリマー化し,かつ,強固な構造をもつ炭素結合が主体であるために,耐久性は高く,?離や短期間の変質などの問題は生じにくい.IV海外のシリコーンハイドロゲルソフトコンタクトレンズの現状海外では平成18年5月31日現在,4社から,合計6種類のシリコーンハイドロゲルソフトコンタクトレンズが販売されている(表1).1998年にNIGHT&DAY(日本で発売されているO2オプティクスと同一製品),1999年にPUREVISIONの発売が開始され,当初は1(4)表1海外で販売されているシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズレンズ名NIGHT&DAYPUREVISIONACUVUEADVANCEO2OPTIXACUVUEOASYSBIOFINITY販売会社CIBAVisionBausch&LombVistakonCIBAVisionVistakonCooperVisionポリマーLotra?lconABala?lconAGaly?lconALotra?lconBSeno?lconACom?lconADk値14010160110103128Dk/L値17511086138147160含水率(%)243647333848BC(mm)8.4,8.68.68.3,8.78.68.48.6装用方法1カ月間連続装用1カ月間終日装用1カ月間連続装用1カ月間終日装用2週間終日装用2週間終日装用1週間連続装用2週間終日装用2週間終日装用FDA分類ⅠⅢⅠⅠⅠⅠ**Dk:酸素透過係数〔×10-11(cm2/sec)・(m?O2/m?×mmHg)〕.**Dk/L:酸素透過率〔×10-9(cm2/sec)・(m?O2/m?×mmHg)〕.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006???カ月間の連続装用としてシリコーンハイドロゲルソフトコンタクトレンズは普及した.しかし,100%のシリコーンハイドロゲルソフトコンタクトレンズ装用者が1カ月間の連続装用を継続することは困難であり,徐々に,終日装用して使用される割合が高くなっていった.このような状況のなかで,2004年1月にはシリコーンハイドロゲルソフトコンタクトレンズとして,はじめてACUVUEADVANCEが2週間終日装用というカテゴリーで発売された.その後,O2OPTIX(日本で発売されているO2オプティクスとは異なる製品)が2週間終日装用と1週間連続装用,ACUVUEOASYS,BIO-FINITYが2週間終日装用というカテゴリーで発売されている.シリコーンハイドロゲルソフトコンタクトレンズの第一世代の製品であるNIGHT&DAY,PUREVISIONは高酸素透過性ではあるが,レンズ硬がやや硬く,そのために従来の使い捨てソフトコンタクトレンズに比べて装用感がやや劣り,特有の合併症〔SEALs(superiorepi-thelialarcuatelesions),巨大乳頭結膜炎〕の発生の問題があった.第二世代のシリコーンハイドロゲルソフトコンタクトレンズであるACUVUEADVANCEは,含水率を上げたために,酸素透過係数はDk値60と低下したが,レンズ硬をこれまでよりも柔らかくし,従来の使い捨てソフトコンタクトレンズに装用感を近づけた.第三世代のシリコーンハイドロゲルソフトコンタクトレンズとしてはO2OPTIX,ACUVUEOASYS,BIO-FINITYがあげられる.これらのレンズは,いずれもDk値100以上で,高酸素透過性でありながら,第一世代のレンズに比べて,レンズ硬が柔らかく,装用感も向上している.特有の合併症(SEAL,巨大乳頭結膜炎)の問題も改善されつつある.Vシリコーンハイドロゲルソフトコンタクトレンズの長所1.高酸素透過性ハードコンタクトレンズ装用下の眼への酸素供給はおもにレンズの動きに伴う涙液交換に依存しているが,ソフトコンタクトレンズ装用下の眼への酸素供給は,素材を通過する酸素に依存している.そのためソフトコンタクトレンズの酸素透過性はハードコンタクトレンズよりも重要である.これまでのハイドロゲルコンタクトレンズではDk値は含水率に依存し,水のDk値である80を超えることは理論的に不可能であった.そのため,ソフトコンタクトレンズでは,たとえ使い捨てソフトコンタクトレンズであっても,長時間の装用により酸素不足を生じ,感染症,角膜血管新生,角膜内皮細胞障害などの合併症を生じていた.シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズはハイドロゲルにシリコーンを配合させることにより,従来のハイドロゲルコンタクトレンズの数倍の酸素透過率(Dk/L値)が実現できている(図3).ソフトコンタクトレンズの弱点である酸素不足を改善することができ,酸素不足に伴う感染症,角膜血管新生,角膜内皮細胞障害などの合併症の発生を大幅に抑制できると期待される.2.乾燥感を軽減ソフトコンタクトレンズ装用下の乾燥感は,含水率とレンズ厚に左右される.含水率が高く,薄いソフトコンタクトレンズは乾燥感が強く,含水率が低く,厚いソフトコンタクトレンズは乾燥感が少ない.しかし従来のハイドロゲルソフトコンタクトレンズで高性能(高酸素透過性)のレンズは,高い含水率と薄型のデザインが採用され,乾燥感が強いという宿命があった.シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズでは,低含水率でありながら,高酸素透過性を実現できるために,薄型のデザイン(5)200180160140120100806040200Dk値/L値1751602626.7274021.97.6メニコンMAメニコン72アキュビューシークエンスフォーカス1ウィークフォーカスデイリーズフォーカス2ウィークO2オプティクス図3ソフトコンタクトレンズの酸素透過率〔Dk/L値,単位=×10-9(cm/sec)・(m?O2/m?×mmHg)〕———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006であっても,乾燥感の軽減が実現できた(図4).3.球結膜充血の軽減ソフトコンタクトレンズ装用下の球結膜充血は,重症な眼合併症とはいえないが,ソフトコンタクトレンズ装用者にとっては気になる問題である.ソフトコンタクトレンズ装用下の球結膜充血は素材の酸素透過性,レンズフィッティング,眼球表面の乾燥などの要因が複雑に絡み合って発症する.シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズであるO2オプティクスは表面処理,非球面デザインの採用により非常に高い酸素透過性とスムーズなレンズフィッティングを実現し,低含水性(含水率24%)であることから眼球表面の保湿効果も期待できる.これらの結果,O2オプティクスでは,従来のハイドロゲルコンタクトレンズよりも,慢性の球結膜充血を軽減することができた(図5,6).VIシリコーンハイドロゲルソフトコンタクトレンズに比較的多い眼合併症従来のハイドロゲルコンタクトレンズに比べて,シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに多い眼合併症として,ムチンボール,SEALs(epithelialsplitting),巨大乳頭結膜炎が報告されている12).ムチンボールはレンズ下に貯留する球状物で,本体はムチンと考えられている.眼への実害はない.SEALsは,従来からepithelialsplittingとして報告されていたもので,角膜上方輪部から1mm前後下方に発生する弧状の角膜上皮障害(図7)で,ときに浸潤を伴う.ベースカーブの変更,こすり洗いの徹底により改善することが多いが,再発がみられた(6)1234567良好普通不良ハイドロゲルレンズO2オプティクス装用1週間後O2オプティクス装用4週間後O2オプティクス装用12週間後ハイドロゲルレンズとの有意差**p<0.01******図4乾燥感の強さ.ハイドロゲルコンタクトレンズvsO2オプティクス図6O2オプティクス装用図7Superiorepitheliarlarcuatelesions(SEALs)図5ハイドロゲルコンタクトレンズ装用———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006???ときはレンズの種類を変えたほうがよい.巨大乳頭結膜炎は,従来のハイドロゲルコンタクトレンズにみられるものとは異なり,乳頭が眼瞼結膜の眼瞼縁側に局在していることが多い.ハードコンタクトレンズ装用者にみられる巨大乳頭結膜炎に類似し,機械的な刺激がおもな発症原因と推測される.なお,これまでにシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに多い眼合併症として報告されていたSEALs(epithelialsplitting),巨大乳頭結膜炎は,おもに第一世代のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(NIGHT&DAY,PUREVISION)によるもので,第二世代,第三世代とこれらの合併症が減少していくことが期待されている.VIIシリコーンハイドロゲルソフトコンタクトレンズと消毒剤の相性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズはPHMB(polyhexamethylenebiguanide)を含むMPS(multi-purposesolution)製品との相性が悪いことが国内外で報告されている13~15).筆者らが行った臨床実験でも,PHMBを含むMPSに浸漬したO2オプティクスを装用すると,装用直後(2~4時間後)にびまん性の点状表層角膜症が発症した(図8).ただし,同じPHMB製品であっても,配合される他の成分により,角膜上皮障害の程度は異なった.このような問題から,チバビジョン社は平成17年7月にO2オプティクスに対しては,過酸(7)図8O2オプティクスとPHMBを含む多目的溶剤使用者にみられた角膜上皮障害化水素水の消毒システムを第一選択とし,MPSを使用する場合はPHMBを含まないMPSを使用するように注意を喚起している.VIIIシリコーンハイドロゲルソフトコンタクトレンズの将来PMMA(polymethylmethacrylate)のハードコンタクトレンズがガス透過性ハードコンタクトレンズへ移行していったと同じように,ハイドロゲルコンタクトレンズが消滅し,すべてのソフトコンタクトレンズがシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへ移行していく日もそう遠くないであろう.海外ではシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの2週間交換レンズが,主流となりつつある.トーリックレンズを発売している国もある.シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの1日使い捨てレンズも,必ず近い将来,市場に登場するであろう.その一方で,シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは硬くて,これまでのハイドロゲルコンタクトレンズよりも装用感が劣り,SEALs(epithelialsplitting),巨大乳頭結膜炎の問題を生ずると否定的な意見も少なからず存在する.しかし,これらの問題は第一世代,特に初期の製品(日本未発売)の問題であり,今後登場してくる第二世代,第三世代と素材とデザインの改良を重ねた製品が登場してくる.合併症,装用感の問題も解決されつつある.現時点のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは眼科医,コンタクトレンズ装用者を100%満足させる製品とはいえないが,急速に,それに近づいていくことであろう.文献1)岩崎和歌子,高山三之,稲田智津子ほか:ドイツにおけるシリコーンラバーレンズによる角膜障害の研究.日眼会誌30:759-768,19792)吉川義三,濱野光,光永サチ子:ソフトコンタクトレンズの表面に関する研究.日コレ誌21:221-228,19793)宮本裕子:次世代のコンタクトレンズ─シリコーンハイドロゲルレンズを中心として─.あたらしい眼科21:757-760,20044)松沢康夫:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの基礎知識─表面の性質について─.あたらしい眼科22:1315-1324,20055)保坂幸一:O2オプティクスの紹介.日コレ誌47:77-80,———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006(8)20056)村岡卓:海外で発売されている1カ月連続装用SCLについて教えてください.あたらしい眼科20(臨増):179-182,20037)TigheB:Siliconehydrogels:Structure,propertiesandbehaviour.SiliconeHydrogels:Continuous-wearContactLenses,2nded(edbySweeneyDF),p3,Butterworth-Heinemann,Edinburgh,andothers,20048)伏見典子,小田江里子,澤充ほか:ソフトコンタクトレンズ(SEE-14)の臨床試験報告.日コレ誌45:198-205,20039)WeikartCM,MatsuzawaY,WintertonLetal:Evaluationofplasmapolymer-coatedcontactlensesbyelectrochemi-calimpedancespectroscopy.??????????????????54:597-606,200110)GrobeGL:Surfaceengineeringaspectsofsiliconehydro-gellenses.ContactLensSpectrum,Suppl,August,14s-17s,199911)McCabeKP,MolockFF,HillGAetal:BiomedicalDevic-esContainingInternalWettingAgents,WO03/022321A212)植田喜一:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの臨床試験.あたらしい眼科22:1325-1334,200513)JonesL,MacDougallN,SorbaraGL:Asymptomaticcor-nealstainingassociatedwiththeuseofbara?lconsilicone-hydrogelcontactlensesdisinfectedwithpolyaminopropylbiguanide-preservedcareregimen.?????????????79:753-761,200214)AmosC:Performanceofanewmultipurposesolutionusedwithsiliconehygrogels.????????227:18-22,200415)工藤昌之,糸井素純:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズと消毒剤との相性.あたらしい眼科22:1349-1355,2005

序説:新しいコンタクトレンズの展望

2006年7月31日 月曜日

———————————————————————-Page1(1)???LeonardodaVinchiの着想に始まったコンタクトレンズ(CL)は古くはガラスを用いた強角膜レンズであったが,高分子化学の発展に伴い,1940年代にポリメチルメタクリレート(PMMA)を材質としたハードコンタクトレンズ(HCL)が,1961年にヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)を材質とした含水性ソフトコンタクトレンズ(SCL)が開発された.日本では1951年に水谷豊が円錐角膜患者に対してPMMA素材の強角膜レンズを処方したのが最初の成功例であるが,以後1958年頃よりPMMA素材の角膜レンズが急速に普及した.健常な角膜を維持するためには,PMMA素材ではなく,酸素透過性の高い素材がよいとされ,1979年にガス透過性ハードコンタクトレンズ(rigidgasper-meablecontactlens:RGPCL)が実用化された.一方,1972年にHEMA素材のSCLが市販され,その後の製造法の進歩によって高品質の含水性SCLが大量に製造されるようになると,1991年に1週間連続装用ディスポーザブルSCLが,1994年に2週間頻回交換SCLが,1995年に1日ディスポーザブルSCLが市販された.CLのデザインにおいても製造技術の進歩によって,CLの光学部,周辺部それぞれに球面,非球面,トーリック面,モノカーブ,マルチカーブなど加工を施すことが可能になり,乱視矯正を目的としたトーリックCLや,老視矯正を目的とした遠近両用CL,円錐角膜などの不正乱視の矯正を目的としたデザインのHCLなどの特殊なCLも市販された.CLに望まれることは,光学的に安定したよい視力が得られること,そして装用感がよく,長時間・長期間装用しても眼障害を生じないことである.角膜に対する安全性から酸素透過性の高いCLが求められ,現在,注目を浴びているのはシリコーンハイドロゲルSCLである.日本では2004年に終日装用として1カ月間で定期的に交換するレンズとして発売されたが,海外では30日間の連続装用が可能なレンズも販売されている.PMMA素材のHCLがRGPCLに移行したように,将来,含水性SCLはシリコーンハイドロゲルSCLに移行するものと予想する.日本は世界屈指の長寿国になり,加齢によって調節力が減退した患者の老視矯正が切実な問題となった.CL使用者には遠近両用CLが最適であるが,これまでのレンズでは満足のいく見え方を得られないことが多かったためあまり普及しなかった.しかしながら,最近では矯正効果の高い遠近両用CLが登場してきた.単焦点CLに比べて,多焦点CLの処方はむずかしい,煩わしいと思われがちであるが,積極的に取り込むべきだと考える.ディスポーザブルSCLおよび,頻回交換SCLの普及とともにRGPCLを処方する機会が減りつつあるが,強度の角膜乱視や円錐角膜などの不正乱視に0910-1810/06/\100/頁/JCLS*KiichiUeda:山口大学大学院医学系研究科眼科学/ウエダ眼科**YujiKodama:小玉眼科医院●序説あたらしい眼科23(7):843~844,2006新しいコンタクトレンズの展望??????????????????????????植田喜一*小玉裕司**———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006対してはRGPCLが第一選択である.強度の角膜乱視にRGPCLを処方する場合,通常の球面RGPCLではフィッティングが不良である,異物感が強い,角膜眼障害を生じる,乱視矯正が不十分である場合にはトーリックRGPCLの処方を考える必要がある.こうした症例においては,他の矯正手段では良好な視機能が得られないことが多いため,眼科医としてできる限りのことをすることが大切である.通常のCLは視力補正用レンズとして厚生労働省の認可を受けているが,別の範疇のレンズとしてオルソケラトロジーレンズがある.オルソケラトロジーとは特殊なデザインのRGPCLを装用することによって角膜を変形させて近視を矯正し,裸眼視力の向上を図る方法であるが,熟練したフィッティング技術を必要とする.現在,日本では治験が終了し,厚生労働省の認可を待っている状況であるが,近い将来,一般の眼科医にとっても身近なものになるであろう.SCLは細菌や真菌などの微生物に汚染しやすいため,毎日の消毒が義務づけられている.これまで,日本ではSCLの消毒法は加熱消毒(煮沸消毒)だけであったが,1991年にコールド消毒(化学消毒)が認可されて以来,数多くの製品が販売されている.とりわけ,多目的用剤(マルチパーパスソリューション:MPS)を使用しているユーザーが多いが,その消毒効果や副作用が問題となることがある.レンズケアに関する眼障害の報告は数多くあるので,十分な知識が必要である.最近のCLに関する話題としてバイオフィルム感染症がある.細菌は過酷な環境においても生き残るために,菌体外多糖体を産生して,そのなかでコロニーを形成する.この状態をバイオフィルムというが,適切なレンズケアがなされていないと,CLやレンズケースにバイオフィルムが形成され,感染症をひき起こすことがある.今回の特集では,「新しいコンタクトレンズの展望」と題して,それぞれの分野に精通した先生方に,国内外の最新の情報を提供していただいた.今後も新しい素材,付加価値の高いCLやケア用品が日本でも数多く発売されると思うが,それぞれの特徴を十分に理解し,適応を見きわめてこれらの製品を選択する必要がある.本号の特集が多くの患者のqualityofvisionの向上に役立てば幸いである.(2)

眼科医にすすめる100冊の本-6月の推薦図書-

2006年6月30日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS本書は,慶應義塾ニューヨーク学院での4日間のワークショップの記録です.中学生,高校生8人を対象にしたワークショップで,池谷裕二さんが一方的に話すのではなく,彼らからの質問に答えたり,ときには彼らに質問をしたりしながら進められています.たまたま私は,ニューヨークへ向かう飛行機のなかでこの本を読み,同乗していた息子と家内にも,この本を薦めました.いつもなら,退屈してしまう時間帯,家族で機内で脳について興奮して議論しました.あまりにもこの本に刺激され,ぜひ池谷先生に会社に来ていただき,講演してもらえないものかと依頼したところ,快く引き受けていただき,5月に直接お話を聞くことができました.言うまでもなく,講演は大好評でした.ともすると,アカデミックな話は退屈と思われがちですが,その1時間半はあっという間でした.脳の話をうかがいながらも,それは実は「自分について知る」とても新鮮な「視点」でもありました.脳を通じて,自分とは何かを知るとてもいい機会になりました.本の中でも触れられていますが,講演を通して学んだことは次のようになります.?脳は世界を勝手に解釈している.私たちはその解釈から逃れられない.人は見たいものを見たいように見,聞きたいことを聞きたいように聞いている.それはよく聞く話ではありましたが,なぜそうなのかを知る機会はこれまでありませんでした.講演は,それはなぜなのかという疑問を,脳の機能を通して知る,またとない機会になりました.?脳は足りない情報を補っている.たとえば視神経は,目から脳に100万の束になって伸びているが,デジカメで考えてみると,100万本というのは決して十分な解析度ではない.つまり,その本数では,本来画像はぼやけてしまうらしいのですが,脳はそれを鮮明な画像に作り変えてしまう.私たちが見ているものは,現実そのものではなく,脳が修正した画像を見ているということなのです.人間の意志についても,これまでは,自分の手を動かそうという意志を働かせるから手が動く,と思われてきました.しかし,脳のなかでは,手を動かそうという意志が働く前に,手を動かすセットアップが終わっていて,その後で手を動かそうという意志が働くのだそうです.そこには明らかに時間差があります.少なくとも脳には意志はなく,あるのは「自由否定」.つまり,身体が手を動かす準備をしていて,私たちができるのは,それをやめるかどうかだというのです.そもそも,自由意志はあるのでしょうか?それに対する大脳のレベルでの答えは,「NO」だといいます.では,人間を動かしているものは何なのでしょうか?それに対するひとつの答えとして,「海馬の揺らぎ」と,池谷先生は答えています.講演では,実際に,脳神経を顕微鏡で拡大したムービーを見せていただきました.それはとても幻想的で,印象的でした.なぜ脳が揺らいでいるのかについては,まだわからないのだとは思いますが,いつの日かそれも明らかにされるのでしょう.そうしたら,「人間とは何か?」,「何のために生きているのか?」,そういうことに対する答えも見つかるのだと思います.さて,本書に記録されているワークショップでは,脳に対してもっているイメージから始まり,《Science》や《Nature》から,ラットを使った実験のいくつかを紹介しながら,脳はどのように研究されているかを説明して(81)シリーズ─66◆伊藤守株式会社コーチ・トゥエンティワン■6月の推薦図書■進化しすぎた脳池谷裕二著(朝日出版社)———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006いきます.特に子どもたちを驚かせているのは,「ネズミをラジコンにしてしまった」という《Nature》に掲載された論文でした.どうしたらネズミを自由自在に操ることができるかについて紹介されている部分は,読んでいて目が離せなくなります.その実験では,外側から脳を刺激すれば,ラットを自由に操れることがわかってきます.外側からラット,つまり生き物をコントロールすることができるのです.外部からコントロールできるのであれば,一体「自分」とは何なのだろうかという疑問がわいてきます.本書は,読む者は自由に連想させ,どこまでも自由に疑問を発生させ,それを検証していきます.未知の世界,それも,脳という,自分と密接に関係のある,未知の世界に踏み込んでいくのですから,興味はますます喚起されます.ところで,偶然に,池谷先生のこのワークショップに参加した一人の生徒の話を直接聞く機会がありました.彼は池谷先生の話を聞いて,「自分も脳の研究をしたい.だから,医学部か薬学部に行きたい」と言っていました.本書もそうであるように,池谷先生の講義は,知ってみたい,もっと知りたいという気持ちを刺激します.人間の意識とは何かという問いに答えていく過程で「クオリア」という言葉がでてきます.人間の意識の定義のひとつとして,判断できること,表現を選択できること.歩こう,止まろう,呼吸をしよう,止めよう.そうやって,表現を選択できることが「意識」であると.しかし,つねられて痛かったり,きれいなものを見て美しいと思ったりすること.そう感じることを選択することはできません.音楽を聴いて感動する,絵を見て感動する,これらは意識の定義に反している.つまり,表現を選択できないのです.そのような感覚を「覚醒感覚」といいます.それは,意識できるものではなく,無意識に生じているものです.うれしい,楽しい.そしてリンゴを食べて,すっぱいと感じること.そういう生々しい感覚のことを「クオリア」というのです.『「クオリア」とは多分ラテン語で「質」という意味だと思うんだけど,英語では「quality」の語源になっている.ここでいう「質」というのは,物質の<質>という意味ではなくて,モノの本質に存在するような質感の<質>.実体ではない<質>.美しいとか悲しいとか,おいしいとかまずいとか,そういうのをひっくるめて「クオリア」と言おう.』(本文より)「知性は理性」であり,論理的であることが何か優位性をもっているかのように思われてきましたが,実は脳には,やはり感受性や情緒というものがあり,単に論理的であるだけではなく,豊かな感受性が備わって初めて,知性をもったことになるのだと思います.本書とは直接関係ないのですが,池谷先生と食事をしながら,味覚の話になりました.これまで,舌は味覚として甘み,苦味,辛味,酸味などを感じるが,「うまみ」を感じることなどないとされてきました.ところが,ヒトゲノム計画が終わる過程で,実は舌には「うまみ」を感じる神経があることがわかったのだそうです.それ以来「umami」という日本語が,そのまま英語として使われるようになりました.しかし,アメリカ人の舌には,その神経がとても少ない.ある意味,彼らの味覚は劣っているのかもしれません.すし屋で,醤油をじゃぶじゃぶ使ったり,ワサビを山のように醤油に溶かして食べたりするのは,日本食の食べ方を知らないからだと思っていましたが,実はそうではなかったのでしょう.言ってしまえば,味覚が鈍感なのです.だから,甘いものを際限なく食べてしまうことができるのかもしれません.日本人の食生活も大きく変わってきていますが,もしその影響で日本人が味覚を失うことがあるとすれば,それはとても残念なことです.同じように,豊かな感受性を失ってゆくのも残念です.本書は脳をとても身近なものにしてくれます.同時に自分を身近なものにしてくれた一冊でもありました.(82)☆☆☆

よくわかる医療情報のお話1.医療情報って何?

2006年6月30日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLSこれから数回にわたって,医療情報に関する話題をお話することになるのですが,「医療情報」という言葉はわかっているようで,よくわからない言葉です.眼科学といえば,眼に関する学問と表現しても差し支えないと思いますが,同様に,医療情報学を医療に関する情報学といってみたところで,何のことかよくわかりません.実は,医療情報学は,診断学,治療学,看護学,経営学,工学など,医療に関係する活動のすべてを含む広大な分野なのです.したがって,医療情報に関わる人々も医師,薬剤師,看護師,検査技師,エンジニア,経営分析の専門家などさまざまな職種の人々が関わっています.眼科に関する学会では集まる人々のほとんどが眼科医であるのとは対照的です.読者のなかで医療情報に関わる実務をされている先生は,どの程度いらっしゃるでしょうか.医療情報に関連する学会に出向いても,眼科医の姿を見かけることはほとんどありません.よく眼科用電子カルテはむずかしいと耳にしますが,もう少し眼科医も医療情報に関心をもって,多くの人々が積極的に参加してゆけば,短期間に解決される問題が数多くあるのではないかと筆者は考えています.これからお話することがそうした関心に少しでも役立てばと思います.医療情報をおもに扱っている部門といえば,もちろん医療情報部なのですが,近年は少し様子が変わってきました.医療情報部そのもののあり方が問われる時代になってきています.筆者らが医療情報に関して所属している名古屋大学では,一昨年から医療経営管理部という組織が新設され,病院経営と合わせて電子カルテ管理などの業務を扱う部門ができました.今までは,附属病院に導入されている電子カルテは医療情報部が導入・管理を行ってきたのですが,これからは業務分担を行って実務は医療経営管理部が扱い,これまでの医療情報部は大学院医療管理情報学教室として研究と教育を行う方向で改変した訳です.この背景には,電子カルテが単にカルテを電子化したものではなく,医療経営に対して多大な情報を吐き出すシステムであるということが関係しています.オーダリングシステムの時代には,病院業務が少しでも簡素化されるという意味で導入が進んだのとは大きな違いがあると思います.他の大学病院は個々の状況のなかで今後の方向を模索しているというのが現状です.また,過去には医療情報部は独自にシステム化・ソフトウェア作成を行っていた時代がありましたが,現在ではベンダーの開発製品を医療現場に導入するためのターミナルとしての役割を果たしています.次回からは以下の予定でお話をします.第2回「電子カルテその1~どのようにして導入されるのかな?」第3回「電子カルテその2~眼科に向いていないのかな?」第4回「年々進化するクリニカルパス」第5回「医療者が作成する医療用ソフトウェアの世界」第6回「眼科医も医療情報技師の資格を取りましょう」(79)よくわかる医療情報のお話●連載(隔月)①若宮俊司*1山内一信*2医療情報って何?*1ShunjiWakamiya:川崎医科大学眼科学教室/川崎医療福祉大学感覚矯正学科/同医療情報学科/名古屋大学大学院医学系研究科医療管理情報学教室*2KazunobuYamauchi:名古屋大学大学院医学系研究科医療管理情報学教室医療情報部のコンピュータ管理

硝子体手術のワンポイントアドバイス37.陳旧性硝子体出血例に対する硝子体手術時の注意点(初級編)

2006年6月30日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLSはじめに片眼性の硝子体出血をきたした増殖糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症などで,僚眼の視力が良好な場合に,硝子体出血をかなり長期間放置している症例にときどき遭遇することがある.このような例では術前の超音波Bモード検査で,後部硝子体?離が生じていることが多く,硝子体手術の難易度としては比較的低いと考えられがちだが,以下のような思わぬ落とし穴があるので注意が必要である.●陳旧性硝子体出血例に生じる網膜前膜茶褐色に変色したコアの硝子体を切除し,後部硝子体膜に窓をあけると,多量のghostcellを含んだ後部硝子体腔の出血が遊出してくる(図1).硝子体切除を周辺まで施行し,後部硝子体腔の陳旧性出血を吸引すると眼底がみえてくるが,数カ月以上出血が放置されていた症例では,しばしば網膜全面に茶褐色の薄い膜様組織が生じていることがある.網膜面に残存した薄い硝子体皮質が基盤となってこのような増殖膜を形成するのか,あるいは出血を貪食しようとして遊走してきたマクロファージが過剰な細胞増殖を促進するサイトカインを産生するのか不明な点が多いが,一般には後極部を中心にかなり広範囲に膜様組織を認めることが多い.(77)●網膜前膜の処理法このような膜様組織は増殖糖尿病網膜症にみられる線維血管性増殖膜とは異なり,一般に網膜との癒着は緩いので,ダイアモンドダストイレーサーで比較的容易に?離が可能である(図2).しかし黄斑部網膜前面のように膜様組織が一塊として?離できることはむしろ少なく,ちぎれやすいので,しばしば何度も膜?離のきっかけを得る必要がある.また,部分的に網膜との癒着が強固な部位があり,強引にmembranepeelingで処理しようとすると医原性裂孔を形成するので注意が必要である.医原性裂孔を形成したまま,周囲の網膜前膜の処理が不完全だと,術後に網膜?離をきたし,しかも難治の増殖硝子体網膜症に進行してしまうこともあるので注意が必要である.●医原性鋸状縁断裂にも注意陳旧性硝子体出血例では,硝子体基底部の硝子体ゲルが器質化して硬くなっているためか,器具の挿入時に医原性鋸状縁断裂(図3)を形成しやすい.術終了時には必ず強膜創の状態をチェックするよう心がける.硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載?37陳旧性硝子体出血例に対する硝子体手術時の注意点(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図1コアの硝子体切除後部硝子体膜に窓をあけると,多量のghostcellを含んだ後部硝子体腔の出血が遊出してくる.図2網膜面にみられた膜様組織後部硝子体?離が生じているようにみえても,しばしば網膜全面に薄い膜様組織が生じていることがある.一般に網膜との癒着は緩いので,ダイアモンドダストイレーサーで?離が可能である.図3医原性鋸状縁断裂陳旧性硝子体出血例では,器具の挿入時に医原性鋸状縁断裂を形成しやすい.

眼科医のための先端医療66.もっと速く患者様の病因を知りたい

2006年6月30日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLSゲノム医科学の発展は眼科学に多大なインパクトを与えている近年ヒトゲノムが解読され,われわれがもつ遺伝子の染色体上の位置,構造,機能,個体差などの情報が加速度的に蓄積されています.この結果,生命の設計図であるゲノム情報を基盤として生命現象や病気を捉えようとする「ゲノム医科学」という新しい学問分野が創出されています.テレビや新聞でも「ゲノム」という語彙がしばしば飛び交っており,ゲノム医科学は21世紀の社会や医療に多大なインパクトを与えると考えられています.眼科領域でもヒトゲノム解読に伴い,疾患遺伝子座が位置する染色体領域を抽出すれば原因(疾患感受性)遺伝子を同定することが容易になったため,commondiseaseを含めた各種眼疾患の病因解明も急速に進みつつあります1,2).筆者らも九州大学病院倫理委員会の承認を得て,数年前よりおもに難治性の遺伝性眼疾患のゲノム解析を開始しました.これまでの解析を通して,角膜ジストロフィ,家族性滲出性網膜症や黄斑ジストロフィなどの遺伝性眼疾患は致死性のものが少ないため,決して少ないとはいえず,そのゲノムレベルの探索は,病態の正確な把握と診断の確定に有用であることがわかりました.したがって,患者様の同意とプライバシーに十二分に配慮したうえで,病因を把握しておくことは正しい診断,経過観察や治療方針の決定などに有用であると思われ,将来に導入される可能性がある再生医療や遺伝子治療の適応の決定にも必要となると考えます.角膜ジストロフィは近年最も原因遺伝子解明が進んだ眼疾患の1つである角膜ジストロフィは遺伝性,両眼性に角膜混濁を生じる疾患群で,近年原因遺伝子の解明が最も進んだ眼疾患群の1つです.約10年前に,角膜実質に種々の混濁を生じ,常染色体優性遺伝形式を示す顆粒状角膜ジストロフィ,格子状角膜ジストロフィ,Avellino角膜ジストロフィ,そしてReis-B?cklers角膜ジストロフィは同一の?????遺伝子の異なる変異により生じることが明らかになりました3).?????変異のホモ接合体はヘテロ接合体に比べ重症で4),角膜移植術や治療的レーザー角膜表層切除術後,早期に混濁が再発します5).また筆者らは,典型的な格子状病変のない角膜混濁を示す症例に対し,?????遺伝子解析により格子状角膜ジストロフィI型と診断しました(図1)6).このように遺伝子診断が角膜ジストロフィの診断確定に有用です7).しかしながら,実際の臨床の現場で遺伝子診断を行っている施設は現在のところ大学病院などに限られ,広く一般臨床に普及しているとはいえません.この理由の1つとして,臨床現場で運用できるような簡便,迅速な遺伝子診断法が確立されていないことがあげられます.現在筆者らは患(73)◆シリーズ第66回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊吉田茂生(九州大学大学院医学研究院眼科学分野)もっと速く患者様の病因を知りたい図1非典型的な所見を示す角膜ジストロフィの前眼部写真格子状病変をもたない角膜混濁を示した患者に?????遺伝子解析を行ったところ,格子状角膜ジストロフィI型に特徴的な変異を同定した.左:右眼,右:左眼.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006者様のゲノム解析にはおもにPCR(polymerasechainreaction)?ダイレクトシークエンス法を用いていますが,まだ高価で,労力も少ないとはいえず,改善の余地があると考えています.今ある基礎技術を臨床に応用し,角膜ジストロフィを迅速,正確に診断できた筆者らはこれまでの報告と同様に8),九州地方でも,?????のエキソン4と12が変異の好発部位であることを確認しました9).特にエキソン4の隣り合う塩基の変異で格子状角膜ジストロフィとAvellino角膜ジストロフィを生じるため,この部位をターゲットとして,迅速診断システムを構築できないか試みました10).近年のゲノム医科学研究の進展に伴い,既知の遺伝子型を迅速かつハイスループットで解析(タイピング)する方法として,マイクロアレイ法,Invader法,TaqManPCR法,HybridizationProbe法,MALDI-TOF/MS法など数多く開発されてきていますが,このうちLightCy-clerを使用したHybridizationProbe法に着目しました.本法では,2本の蛍光プローブによりPCRの各サイクルで蛍光をモニターし,遺伝子型のリアルタイム検出を行うことで,精度の高い遺伝子診断が可能です.また,PCR後の電気泳動は不要なため,迅速,簡便で,チューブ交換によるサンプルの取り違えや,コンタミネーションの危険もありません.筆者らはまず,?????のエキソン4と12を増幅するプライマーを設計し,おのおののPCR産物の配列内にハイブリダイズするような3?端をフルオレセインでラベルしたプローブと5?端を????????蛍光色素でラベルしたプローブを設計しました(図2A).それぞれのプライマーとプローブを1本のキャピラリーに混合し,PCR法で増幅後,蛍光シグナルをモニターしながら,温度をゆっくりと上げて融解曲線解析を行いました.すなわち,ある高温に達するとまずTm値(融解温度:プローブとその相補鎖との間で形成されるDNAハイブリッドの安定性を特徴づける)の低いほうのプローブが(74)水正常BA418G>Aホモ(Arg124His)417C>Tヘテロ(Arg124Cys)418G>Aヘテロ(Arg124His)Temperature(℃)Fluorescence-d(F2/F1)/dT5?3????????5?3????????????????????????????cggctahu変異検出プローブアンカープローブ図2LightCyclerPCRを用いた角膜ジストロフィの迅速診断システムA:?????遺伝子エキソン4のプライマーとプローブデザインの模式図.B:?????遺伝子エキソン4の融解曲線解析.野生型ホモ接合体,変異型ホモ接合体,ヘテロ接合体の判別は,融解曲線における蛍光強度の一次微分のピーク値(Tm値)を用いた.野生型に特徴的なTm値のみを示した場合は正常,変異型に特徴的なTm値のみを示した場合は変異型ホモ接合体,両方のピークを示したときはヘテロ接合体であると診断できた.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???のではないかと考えています.文献1)吉田茂生,山地陽子,桑原留美ほか:遺伝子診療学14.眼科疾患(福嶋義光編).日本臨牀63(臨増):264-268,20052)吉田茂生:加齢黄斑変性の分子遺伝学.臨眼58:2063-2068,20043)MunierFL,KorvatskaE,DjemaiAetal:Kerato-epithe-linmutationsinfour5q31-linkedcornealdystrophies.?????????15:247-251,19974)MashimaY,KonishiM,NakamuraYetal:SevereformofjuvenilecornealstromaldystrophywithhomozygousR124Hmutationinthekeratoepithelingenein?veJapa-nesepatients.???????????????82:1280-1284,19985)InoueT,WatanabeH,YamamotoSetal:RecurrenceofcornealdystrophyresultingfromanR124HBig-h3muta-tionafterphototherapeutickeratectomy.??????21:570-573,20026)YoshidaS,YoshidaA,NakaoSetal:Latticecornealdys-trophytypeIwithouttypicallatticelines:roleofmuta-tionalanalysis.???????????????137:586-588,20047)YoshidaS,KumanoY,YoshidaAetal:Twobrotherswithgelatinousdrop-likedystrophyatdi?erentstagesofthedisease:roleofmutationalanalysis.???????????????133:830-832,20028)MashimaY,YamamotoS,InoueYetal:AssociationofautosomaldominantlyinheritedcornealdystrophieswithBIGH3genemutationsinJapan.???????????????130:516-517,20009)YoshidaS,KumanoY,YoshidaAetal:AnanalysisofBIGH3mutationsinpatientswithcornealdystrophiesintheKyushudistrictofJapan.????????????????46:469-471,200210)YoshidaS,YamajiY,YoshidaAetal:RapidgenotypingformostcommonTGFBImutationswithreal-timepoly-merasechainreaction.?????????116:518-524,2005解離し,フルオレセインと????????の距離が離れるため蛍光強度が急激に低下します.DNAハイブリッドにミスマッチが存在すると,完全にマッチした配列よりも解離しやすくなり,Tm値がより低い値となるため,各PCR産物のプローブに対するTm値の差から遺伝子型を検出できます.融解曲線解析で,各遺伝子型(418G>A,417C>T,1710C>T,および野生型)は異なる融解ピーク温度によって検討した66例全例で明確に区別でき,ダイレクトシークエンスによる結果と100%一致しました(図2B).血液採取から解析終了までの所要時間は約1時間30分で,PCR-ダイレクトシークエンス法が丸1日以上かかるのに比べると,迅速性や労力,コスト面で優れていると考えました.本法は正確であるため,現在日常の臨床診断に用いています.本システムにより,非典型的な臨床所見を示す?????関連角膜ジストロフィの正確な診断,?????関連角膜ジストロフィと紛らわしい角膜疾患における除外診断,さらに遺伝性角膜ジストロフィのゲノム解析に基づいた疾患単位の再分類がより容易になると考えています.現在ヒト幹細胞についての捏造疑惑が世間を騒がせており,科学者のモラルが問われていますが,これは,現代科学が実力以上に背伸びをしすぎている一面を反映しているのかもしれません.ゲノム解読を背景にした情報・技術基盤は確実に増加しており,今できる技術を有効に活用し,少しでも多くの患者様の病因をより迅速,正確に把握し,小さくても着実に前進していくことは,近未来のよりよい眼科医療に向けた,意外な近道になる(75)■「もっと速く患者様の病因を知りたい」を読んで■今回は遺伝子診断の実用化を目指す取り組みについて九州大学の吉田茂生先生にわかりやすく解説していただきました.遺伝子診断についてはこのコラムでも過去に多くの取り組みを取り上げてきましたが,検査法自体がかなりややこしく敬遠されることも多かったと思います.吉田先生は日常臨床のレベルを上げるために遺伝子診断が特別の検査法でなく,日常診療の一環として行える検査法にするために如何に効率的に遺伝子異常を検索するシステムをつくるかという先生の取り組みを紹介していただいています.われわれ臨床眼科医が貧血の有無,血糖値などを直接に測定する機会はかなり少なく,患者から採血ののち検査室に検体を送って結果を読むことで,患者の治療を行っています.これと同じような手間で遺伝子診断ができるためには,検査法が簡便になりコストを極力下げる必要があり,近年の分子生物学の進んだ技術は低コストで大量のデータ処理ができる検査システムを構築しつつあることが吉田先生の総説からよくわかります.今後はこのような検査を行い,検査結果の解釈までを医師,患者に返す医療事業が発展すると考えられます.その際に注意すべきことは,遺伝子情報のもつ意味を厳しく判断して正しく患者に伝えることです.?????の遺伝子異常により角膜ジストロフィの診断をすることはかなり近未来でできると考えられますが,その意義———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006☆☆☆(76)づけはかなりはっきりとしています.しかし,今後問題になる生活習慣病のような多因子遺伝性疾患は多くの遺伝子が関与していると考えられています.ある疾患と関連する多くの遺伝子の多型は統計学的に関連のある組み合わせを示すことは可能ですが,それがどのような臨床的な意義,意味をもつのかはまだ未解明の問題も多く,実用化にはまだ時間が必要です.しかし,このような多因子遺伝の遺伝子多型の情報からある疾患の危険性(ある遺伝子型をもっていると○○○○○になりやすいといった解釈)が出始めているのも事実です.これについてはある人の将来を予言することにもなるため,その人の人生を狂わせてしまうかもしれません.遺伝子医療に携わるわれわれ医師はこのことの重大性をいつも認識しつつ科学にまじめに向かいあうことが求められています.このような時代だからこそ高い倫理性が求められていると考えます.山形大学医学部視覚病態学山下英俊

新しい治療と検査シリーズ162.Conductive Keratoplasty

2006年6月30日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS?バックグラウンド角膜に何らかの方法で熱を与え,その形状および屈折力を変化させる手術は角膜熱形成術と総称され,100年以上前から多くの方法が提唱されてきた.しかし,いずれの方法も「創傷治癒の障害」や「効果の戻り」などの問題を解決できず普及には至らなかった1).Mendezら2)によって開発されたConductiveKerato-plasty(CK)(Refractec社)は,角膜熱形成術のうち現在最も注目される方法であり,これまでの術式よりも良好な結果が期待されている(図1).?新しい治療法角膜熱形成術に関する過去の研究から,十分な手術の効果を得るためのポイントは,コラーゲンが収縮しつつ融解しない最適な温度(50~60℃)と,十分な組織深達度を得ることとされている.CKでは,低エネルギー,高周波の電流を,角膜実質に刺入した長さ450?m,直径90?mのプローブ(Keratoplasttip)の先端から流す.するとプローブから流れる電流に対し角膜実質が抵抗として働き,角膜実質に熱作用を及ぼす.この熱作用によるスポットを角膜周辺部にリング状に作製すると,ベルトを縮めるような効果が生じ,角膜中央部をスティープ化させることが可能となる.CKは2002年4月に+0.75Dから+3.00Dの遠視矯正への適応3)が,2004年3月にはモノビジョンによる老視矯正への適応4)が,それぞれアメリカのFDA(食品医薬品局)により認可されている.?実際の手術法点眼麻酔をした角膜上にCK専用マーカーでマーキングを行う.マーキングされた位置に,それぞれ専用プローブを垂直に刺入する.ここで刺入部が深く陥凹するほどプローブの先端に力を加えないように注意する.この状態を保ちながらフットペダルを踏むと,刺入部周囲の狭い範囲に,熱作用による白いスポット(leukoma)が形成されるのが認められる(図2).現在の標準的なノモグラムによれば,光学径6,7,8mmのうち1つに8スポット,または2つの光学径に各新しい治療と検査シリーズ(71)162.ConductiveKeratoplastyプレゼンテーション:伊藤光登志南青山アイクリニックコメント:坂西良彦坂西眼科医院図1CK手術器械の写真(Refractec社)器械本体,フットスイッチ,プローブ(Keratoplasttip),開瞼器,マーカーなどからなる.図2CK術後1日の前眼部写真目標矯正量+1.00Dを得るため,光学径8mm部分に計8個のスポットを作製した.治療スポットの白斑(leukoma)は術後早期には顕著であるが,術後1カ月頃にかけて退色していく.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.6,20068スポット(計16スポット)をリング状に配置することにより,+1.00D,+1.75D,+2.50D,+3.50Dの4種類の矯正度数が選べる.乱視矯正のノモグラムはまだ確立されていないが,角膜トポグラフィで確認されたフラットな軸上にスポットを配置する.非対称なスポットの配置により不正乱視の矯正も可能であるとされる5).?本法の利点LASIK(laser???????keratomileusis)と比較した場合,フラップをつくらず角膜中心部に侵襲を加えないため,安全性が高いうえに,視力の質的な側面が損なわれにくい.具体的には,LASIKによる遠視矯正でときどき生じる「矯正視力の低下」が起こりにくいと考えられる.今後期待されるCKの適応としては,LASIKやPRK(photorefractivekeratectomy)後に老視矯正を必要とする症例や,遠視の追加矯正を必要としながら,エキシマレーザーによる追加手術のリスクが高い症例などがあげられる.たとえば,初回手術でフラップの合併症を生じた場合や,残存角膜厚が薄い場合などである5).さらに,白内障術後の遠視,老視矯正などへの適応も広がるであろう.文献1)伊藤光登志:laserthermalkeratoplasty(LTK).眼科診療プラクティス36,屈折矯正手術の正しい進め方,p102-103,文光堂,19982)MendezA,MendezNobleA:Conductivekeratoplastyforthecorrectionofhyperopia.SurgeryforHyperopiaandPresbyopia(edbySherN),p163-171,WilliamsandWilkins,Philadelphia,19973)McDonaldMB,HershPS,MancheEEetal:ConductiveKeratoplastyUnitedStatesInvestigatorsGroup.Conduc-tivekeratoplastyforthecorrectionoflowtomoderatehyperopia:U.S.clinicaltrial1-yearresultson355eyes.?????????????109:1978-1989,20024)McDonaldMB,DurrieD,AsbellPetal:Treatmentofpresbyopiawithconductivekeratoplasty:six-monthresultsofthe1-yearUnitedStatesFDAclinicaltrial.???????23:661-668,20045)HershPS,FryKL,ChandrashekharRetal:ConductivekeratoplastytotreatcomplicationsofLASIKandphotore-fractivekeratectomy.?????????????112:1941-1947,2005(72)?本方法に対するコメント?ConductiveKeratoplasty(CK)は近年,老視の治療法の1つとして注目されているが,以下のような問題点がある.①術後早期の過矯正:術後早期に過矯正となる症例があり,患者は遠方視力低下を訴える.②術後疼痛:術当日強度の疼痛を訴える症例がある.③惹起乱視:不均一な穿刺やセンタリング不良により惹起乱視が出現することがあるが,多くは次第に軽快する.場合によってはenhancementが必要になる.④ノモグラム:Milneのノモグラムを用いて行った自験例初期連続10眼において±0.5Dに収まった症例は60%(術後3カ月)に過ぎず,多数症例による検討が必要である.⑤ラーニングカーブ:一見容易そうな手技であるが,本手術にはラーニングカーブが存在する.しかしCKの一番の利点は致命的な合併症がないことであり,遠視,老視のみならず,他の屈折矯正手術後の過矯正,円錐角膜,乱視に対する治療などへの応用の可能性がある.☆☆☆

涙点プラグ:BUT短縮タイプに対する涙点プラグ治療のコツ-上下のプラグ挿入を行い、後で抜く必要性について-

2006年6月30日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS涙点プラグはドライアイの治療に大変有効であると考えられている.しかし,BUT(涙液層破壊時間)短縮タイプのドライアイでは涙液分泌量は正常であり,また角膜上皮障害は非常に軽度,あるいはまったく認められないことより,眼不定愁訴として治療薬も処方されずに対処される場合も少なくない.BUT短縮型ドライアイの特徴として,検査所見が乏しいにもかかわらず,眼の乾燥感,しょぼしょぼする,眼が開けられない,何となく見づらいなどの自覚症状は比較的強い.原因としては,マイボーム腺機能不全による涙液油層の異常やアレルギー性結膜炎,結膜弛緩症などがあげられ,その治療法として防腐剤無添加人工涙液の点眼やヒアルロン酸点眼に加え,抗炎症目的に低濃度のステロイド点眼が薦められる.しかし点眼治療で自覚症状の改善が認められない症例に対して,筆者は涙点プラグの挿入を試みている.十分なプラグ効果を得るには上下涙点へのプラグ挿入が望ましく,また「涙の溜まる感覚」を患者に自覚してもらうためにも最初から上下両方にプラグを挿入している.涙点プラグの挿入にあたり大切なことは,患者に十分なムンテラを行うことである.説明には一般的なプラグの挿入方法や合併症に加え,上下片方のプラグ挿入では十分なプラグ効果が得られないことより上下涙点へのプラグ挿入を行うこと,また合併症として流涙を生じる可能性があり,その場合には片方どちらかのプラグ除去により流涙は改善することを説明する.実際の症例を示す.症例1は79歳,男性,眼精疲労,かすみ目を主訴に受診した.右眼矯正視力は1.2,Schirmer値は11mm,ティアークリアランス4倍,BUT3秒,生体染色はフルオレセイン,ローズベンガルともに陰性であった.また,実用視力測定では実用視力0.355,視力維持率0.81(69)涙点プラグセミナー監修/坪田一男海道美奈子慶應義塾大学医学部眼科3.BUT短縮タイプに対する涙点プラグ治療のコツ─上下のプラグ挿入を行い,後で抜く必要性について─BUT(涙液層破壊時間)短縮型ドライアイは検査所見が乏しいにもかかわらず,眼の乾燥感や見づらいなどの自覚症状は比較的強い.防腐剤無添加人工涙液やヒアルロン酸点眼で十分な効果が得られない場合には上下涙点へのプラグ挿入が有効であり,視機能の向上にもつながる.流涙を生じる場合には片方のプラグ除去で自覚症状の改善が得られる.ホワイトメディカル提供図1a症例1の涙点プラグ挿入前従来の視力1.2に対し,実用視力0.355,視力維持率0.81と低下が認められる.図1b症例1の涙点プラグ挿入後実用視力,視力維持率ともに改善している.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006(00)であった(図1a).上下涙点にプラグを挿入1週間後の矯正視力は1.0,Schirmer値は3mm,ティアークリアランス32倍,BUT6秒となり,自覚症状にも改善が認められた.さらに,実用視力では実用視力0.740,視力維持率0.95と改善していた.本症例において,従来の視力測定では患者の訴えているかすみ目を検出することはできなかったが,実用視力の測定によりかすみ目の他覚的評価が可能であった.さらに,上下のプラグ挿入により従来の視力値はほぼ同程度であるにもかかわらず,自覚症状の改善に伴い実用視力は0.355から0.740と改善している(図1b).症例2は79歳,男性,流涙を主訴に受診した.BUT3秒で短縮していたため,上下涙点へのプラグ挿入を行ったが,自覚症状は改善せず,実用視力と視力維持率においても改善は認められなかった.涙点プラグにより下眼瞼メニスカスは過剰に増加し,これに伴い瞬目直後の角膜トポグラフィーのカラーコードマップで下方に局所的に急峻化した帯状の暖色部を生じ(図2a),またドライアイ観察装置DR-1?で同部位に一致した涙液油層の乱れが認められた(図2b).自覚症状や実用視力の改善が認められなかったことは,これらの検査所見に裏づけられると考えられる.症例2は下方プラグの除去により自覚症状は改善している.BUT短縮タイプのドライアイは軽症であると認識され,積極的な治療が行われないことも多いが,上下への涙点プラグ挿入は自覚症状の改善とともに,視機能の向上にもつながる有効な治療法と考えられる.文献1)KojimaT,IshidaR,DogruMetal:Anewnoninvasivetearstabilityanalysissystemfortheassessmentofdryeyes.?????????????????????????45:1369-1374,20042)IshidaR,KojimaT,DogruMetal:Theapplicationofanewcontinuousfunctionalvisualacuitymeasurementsys-temindryeyesyndrome.???????????????139:253-258,2005図2a症例2の涙点プラグ挿入後の角膜トポグラフィー涙点プラグによる下眼瞼メニスカスの過剰な増加に伴い,下方に局所的に急峻化した帯状の暖色部が認められる.図2b症例2の涙点プラグ挿入後のDR-1?角膜トポグラフィーのカラーコードマップの帯状の暖色部に一致した部位に涙液油層の乱れが認められる.

眼感染症:クラミジア検査

2006年6月30日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS経験豊かな眼科医ではない場合,初期のクラミジア結膜炎はウイルス性結膜炎との鑑別診断で苦渋する.患者背景,経過には特徴があり,臨床症状の注意深い観察に基づく臨床診断が最も重要である.検査には抗原検査と抗体検査がある.抗原検査には分離培養法,直接蛍光抗体法,免疫クロマトグラフィー法,酵素抗体法,遺伝子検出法がある.いずれにおいても迅速性と感度を兼ね備えたものはない.検査に補佐されながら経験を重ね臨床診断力を身につけていくことが望ましい.■抗体検査法表1に代表的な検査法の種類とその特徴を示す.?????????????????????は性感染症の代表的な原因菌であり,その一つの表現形としてクラミジア結膜炎や咽頭炎がある.クラミジア結膜炎では本人あるいはパートナーのクラミジア性感染症が活動性である場合が多い.感染時期を推定する意味でIgGに加えてIgMの測定を行う.性器感染では活動性の指標とされているIgAは,結膜炎での測定意義は見いだされてない.日常生活で感染することはまれであるために血清中の特異抗体の測定には意義がある.クラミジア感染症では,本人に加えパートナーの検査・治療も同時に行うことが重要である.パートナーは付き合いのつもりで眼科を受診し,いきなり性器からの抗原検索では抵抗がある.特異抗体測定で問題となるのは?????????????との交差反応である.?????????????は肺炎クラミジアとよばれ,??????????????と異なり成人では約半数が抗体を保有している.各種抗体測定法のなかではヒタザイム・クラミジア?,ペプタイド・クラミジア?ともに特異性には優れているが,判定の明確さではダイナミックレンジの広いヒタザイムが勝る.表1にあげた検査法に加えて補体結合法もあるが,現在では使用されることは少ない.■抗原検査法代表的な検査法を表2に示す.迅速性を求めるならば直接蛍光抗体法か免疫クロマトグラフィー法を選択する.免疫クロマトグラフィー法は抽出用緩衝液と80℃で10分間の反応が必要である.直接蛍光抗体法は理論上1粒子存在すれば検出可能だが,反応操作が煩雑かつ蛍光顕微鏡が必要であり,判定には熟練が必要である.酵素抗体法は遺伝子検出法に比較して所要時間が短いものの感度は低く,もはや選択される理由はない.遺伝子検査法は感度と特異性が高く依頼検査の際には第一選択となる.現在,LCR(ligasechainreaction)法が撤退し,SDA(stranddisplacementampli?cation)法とPCR(polymerasechainreaction)法で検査可能である.実験室データに基づく公称感度に差はあるが,臨床検体を(67)眼感染症セミナー─スキルアップ講座─●連載?監修=大橋裕一井上幸次37.クラミジア検査伊藤典彦横浜市立大学医学部眼科クラミジアは数パーセントではあるが急性濾胞性角結膜炎のなかに必ず潜んでおり,アデノウイルスやヘルペスウイルスとの鑑別が重要である.クラミジアに対する特異抗体を通常は保有していないので抗体の測定にも意義がある.抗原検査では迅速な蛍光抗体法や免疫クロマトグラフィー法を用いた検査,また感度は高いが時間を要するPCR(polymerasechainreaction)法やLCR(ligasechainreaction)法を用いた遺伝子増幅検査が選択される.表1クラミジア抗体検査法原理商品名サブクラス使用抗原所要時間特徴間接蛍光抗体法試薬自家調整IgG,A,M精製基本小体3時間判定に熟練要酵素抗体法ヒタザイム・クラミジア?(日立化成)IgG,A,M外膜蛋白複合体2.5時間判定が明確ペプタイド・クラミジア?(明治乳業)IgG,A合成ペプチド2.5時間偽陽性多い———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006対象とした感度は同等である.検査の際,アデノウイルスとヘルペスウイルスとの鑑別が重要な目的である.直接蛍光抗体法,免疫クロマトグラフィー法,酵素抗体法,遺伝子検出法ではクラミジアの有無は判定可能だが,両ウイルスとの鑑別は行うことができない.表3に示すごとく分離培養法では複数の細胞株を組み合わせることで,クラミジアだけではなくアデノウイルスやヘルペスウイルスを同時に検出することが可能である.さらに,分離培養法では分離した病原体を株として保存,分与し,微生物学的性状解析が可能となる.このように感染性結膜炎の微生物学としては有用な分離培養法であるが,判定までに1週間は必要であり,なおかつ保険適用がない.市中病院では困難であっても大学病院では分離培養法を併行して行うことを励行されたい.現在,ウイルスの分離培養に最も長けているのはSRL社で,クラミジアの分離培養は受注していないが,表3に示す細胞株を取り揃えており,アデノウイルスやヘルペスウイルスなどの依頼検査は可能である.文献1)中川尚:ウイルス性結膜炎のガイドライン.第4章検査,日眼会誌107:17-23,2003(68)■コメント■クラミジアは眼科領域での頻度はそれほどでもないが,特に近年,性感染症として蔓延してきており,それに対応するためにこれだけ多くの種類の検査が利用できるわけである.頻度が低いと,診断に確信をもてず,そのため,性器感染や,感染の機会やパートナーについての問診も十分にできない(この手の問診は特にわれわれ眼科医は苦手である)が,これらの検査でクラミジアであることを確かめればより自信をもって問診ができ,適切な治療につなげることができる.鳥取大学医学部視覚病態学井上幸次表2抗原検査法原理商品名感度所要時間特徴分離培養法試薬自家調整酵素抗体法と同等1週間微生物学の基本直接蛍光抗体法クラミジアFA試薬生研?(デンカ生研)1EB(理論値)30分判定に熟練要免疫クロマトグラフィー法Clearview?Chlamydia(日本シェーリング)104EBs30分簡便だが低感度酵素抗体法IDEIAPCE?Chlamydia(DAKO)102EBs2時間遺伝子検出に劣る遺伝子検出法SDA法BDプローブテックET?(日本ベクトン・ディッキンソン)3×101EBs3時間高感度,省力PCR法アンプリコア?STD-1(Roche)2EBs5時間高感度表3細胞株感受性細胞株名由来クラミジアADVHSVVZVCMVHeLa229*Hela○McCoy*マウス○PHfbヒト包皮○○○○MRC-5胎児肺○○○○A549ヒト肺癌○○HEp-2ヒト喉頭癌○293ヒト胎児腎○*SRL社で外注は不可.ADV:アデノウイルス,HSV:単純ヘルペスウイルス,VZV:水痘・帯状疱疹ウイルス,CMV:サイトメガロウイルス.☆☆☆