———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLSインターネットが普及して,まだ10年余しか経っていません.1995年当時は,ごく限られた研究者が,大学のサーバを利用して通信を行ったり,まだ画像のないホームページを立ち上げたりしていました.それから10年.インターネットはあっという間に私たちの社会にとけこみ,そして,私たちの生活に確実に影響を及ぼしてきました.この本は,この10年でITの世界で起こったこと,現在起こりつつあること,そして,近未来に起こることを予測しています.そのひとつのシンボルとしてこの本のなかで大きく取り上げられているのが,グーグルです.2005年はインターネット10周年の年でした.ヤフー,アマゾン・コム,eベイといった,アメリカのおもなネット企業は1995年に創業されました.それから遅れること3年,1998年にシリコンバレーで創業されたグーグルは「世界中の情報を整理しつくす」というビジョンのもと,情報発電所ともいうべきインフラを構築した会社です.「IT革命」とか「情報スーパーハイウェイ」といった言葉は,バブル崩壊後に死語となりました.このことは,物理的なITインフラである「情報スーパーハイウェイ」を構築すれば「IT革命」が達成されるという,1990年代には常識だったこの世界観が誤っていたことを証明するものです.本当に大切なのは,物理的なITインフラよりも,情報のインフラであることを証明したのが,グーグルでした.グーグルは,圧倒的成長によって,一気に1995年創業組を抜き去って,ネット時代の覇者に躍り出ました.グーグルの時価総額は,2005年10月には十兆円を超えました.いまやグーグル以上の時価総額を有する日本企業はトヨタ自動車だけです.グーグルの創業者二人は1973年生まれで,現在,若干32歳.一方で,マイクロソフトは,創業30周年を迎え,ビル・ゲイツは50歳になりました.彼は,2005年,アメリカタイム誌が選ぶ「今年の人」に選ばれましたが,それは,彼自身が私費を投じた慈善活動が評価されたからです.事業の達成が理由ではありませんでした.これは,マイクロソフトがもう業界の挑戦者ではなくなったということを象徴するできごとかもしれません.このように,アメリカではIT産業における世代交代が確実に進展しています.2004年から2005年にかけては,日本でもライブドア・フジテレビ問題,楽天・TBS問題が大きな話題となりました.楽天やライブドアの若い創業者が時の人となり,表面的にはアメリカと同じく世代交代が進んでいるようにもみえます.しかし,その内実は,日米で大きく違います.アメリカでグーグルが起こしつつある新しいビジネスと,楽天やライブドアのネットビジネスは,実は似ているようでまったく異なるものです.著者は文中で,楽天の三木谷氏やライブドアの堀江氏は,「テクノロジーへの関心が薄い」と指摘します.彼らは,テクノロジーを創造する気はなく,テクノロジーはサービスのために利用するものだ考えています.彼らの展開するネット産業は「生活密着型サービス産業」で,ITを通じて消費者にサービスを提供するという考え方に基づいて展開されています.そこで,彼らが投資するのはテクノロジーではなく,サービスの質や量,種類を増やすことです.一方,グーグルはネット産業を「テクノロジー産業」として考えました.そして,テクノロジーの開発,革新に大きな投資をし続けています.したがって,日本のIT産業のテクノロジー化について考えるときに,楽天やライブドアを対象にするのはお門違いで,実は,日立,東芝,富士通,NEC,ソニー,松下といった,(69)シリーズ─64◆伊藤守株式会社コーチ・トゥエンティワン■4月の推薦図書■ウェブ進化論─本当の大変化はこれから始まる梅田望夫著(ちくま新書)———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006日本のIT産業,エレクトロニクス産業を牽引してきたこれらの大企業に問うのが本筋であろうと著者は言います.アメリカでは,ヤフー,アマゾン・コム,eベイといったネット企業は,圧倒的な技術開発力を背景に斬新なインフラを構築するグーグルに刺激され,技術に大きな投資をするようになりました.ネット産業とは,ただ,ITを利用して早い者勝ちでサービスを展開すればいいものではなく,高度な技術開発で道を拓くべき産業なのだという新しい認識が生まれたのです.産業界全体が技術投資の重要性に気づき,大学での技術開発やベンチャー創造も大いに活性化してきました.ちなみに,グーグルの検索エンジン技術も,二人の創業者がスタンフォード大学に在学中に開発したものです.そして,大学はこの技術の特許をもっており,グーグルにこの検索エンジン技術の使用を認める見返りに,グーグル株を取得していました.2005年,グーグルが株式公開をしたときに,スタンフォード大学はその株を2005年に市場に放出しました.その売却益は四百億円にも上りましたが,この資金は,再び基礎研究や高等教育へと還流していくのでしょう.このようにして,グーグルという怪物を生みだす環境が作られていく.このことこそが,シリコンバレーや米国高等教育の底力なのでしょう.先に述べたようにグーグルの時価総額は,2005年10月には十兆円を超えました.グーグルをメディア企業と考えるのであれば,創業わずか8年で,すでに世界一の存在となったのです.グーグルは新しいネット産業として,象徴的な存在です.しかし,その他にも,同じ方向に向かって躍進する企業はたくさんあります.「不特定多数の意見をどのようなメカニズムで集積すると一部の専門家の意見よりも正しくなるかについての『wisdomofcrowds』(群衆の英知).見知らぬ者同士がネット上で協力して新しい価値を創出する手法『マス・コラボレーション』.ネット上にたまった富をどう分配すべきかという意味での『バーチャル経済圏』….インターネット上の開放空間で,新しい理論の研究から実験システムの開発,さらには事業創造のトライアルまでが繰り広げられ始めたのだ.」(本文より)ウェブの世界はいまも現在進行形で進化を続けています.この10年ですでに社会に大きな変化をもたらしたインターネットですが,著者は本当の大変化はこれから起こると明言します.新しい世界に向かって,いったい何が起こりつつあるかを教えてくれる一冊です.(70)☆☆☆