———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS水晶体核落下や網膜?離といった重大な術中,術後合併症を併発する危険性が高まる.後?破?,硝子体脱出を疑わせる術中所見として,①水晶体核が大きく傾斜する②水晶体核の位置が急に深くなる③瞳孔領に水晶体核や水晶体皮質を含まない暗黒色の領域が出現する④水晶体核が超音波チップ先端で吸引できない⑤瞳孔が偏位する⑥前後房中央で超音波チップを操作しているのに周辺の水晶体核や皮質が牽引される⑦後?に線状の破?線が観察されるなどがある.超音波乳化吸引中に水晶体核が急に大きく傾斜したり,水晶体核が急に後房側に沈下して前房深度が急に深くなるような現象が発生した場合は,比較的大きな後?破?が生じて水晶体核の硝子体落下が始まっている可能性がある.水晶体皮質や水晶体核で白濁している瞳孔領の一部に暗黒色の領域が出現する(図1)ことは,後?破?と硝子体脱出が生じ,脱出した硝子体により,近傍の水晶体核や皮質が押しのけられて暗黒色の透明野を作り出していることを意味する.さらに硝子体脱出が進行し,前後房で水晶体皮質や水晶体核と硝子体が絡み合うと,超音波チップ先端で硝子体をも吸引してしまうため,水晶体核がチップ先端に接しているにもかかわらず,目的とする水晶体核を吸引できなくなってしまう.はじめに白内障手術は手術装置の発達,手術手技の改良,新たな手術材料の出現とともに手術精度と安全性が向上し,術中合併症の発生頻度が低下している.しかし,術中後?破?やZinn小帯断裂,硝子体脱出を生涯経験しない眼科外科医はきわめてまれであろう1).また,一旦発生したこれらの術中合併症を適切に処置し,術眼に与える侵襲を最低限に抑えることは,患者の良好な術後視機能を維持するためにきわめて重要である.しかし,合併症発症頻度が下がり,まれな合併症となったために,その対処法に習熟できず,稚拙な術中処置を行った場合は,単に術後視機能低下を招くのみならず2),網膜?離,水疱性角膜症を始めとする重大な術後合併症発症に直結する3).患者の要求度の高まっている白内障手術において,これらの重大な術後合併症は患者の大きな不満のもととなり,医療訴訟に直結しかねない.本稿においては,近年,標準的白内障手術術式として普及した超音波白内障手術の代表的な術中合併症である後?破?と硝子体脱出を取り上げ,その術中合併症を確実に処理する基本的な手術戦略と手技,必要な手術器具や材料に関して概説する.I後?破?と硝子体脱出をどのような場合に疑うか?術中合併症を軽微に留める最大のポイントは早期発見である.術中合併症に気づかずに手術操作を続けると,(37)???*ShuichiroEguchi:江口眼科病院〔別刷請求先〕江口秀一郎:〒040-0053函館市末広町7-13江口眼科病院特集●白内障手術アップデート2006あたらしい眼科23(4):459~464,2006合併症対策:破?時のレスキューグッズ??????????????????????????:?????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????江口秀一郎*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006手術操作に伴う硝子体の牽引をその後も続けると,超音波チップに硝子体索が嵌入したまま手術操作が続けられるため,前房中央で手術操作を行っていても,瞳孔縁の一部が手術操作につられて牽引されたり,術操作を行っている領域より遠く離れた瞳孔領周辺部に存在する水晶体核や水晶体皮質が,手術操作に連動して動揺する現象が認められる.水晶体核や水晶体皮質の吸引除去がかなり終了した状態で後?に焦点を合わせると,大きく亀裂した後?の両端を明瞭に観察することもできる(図2).II後?破?に対する処置法1.ハンドピースをいきなり抜かない後?破?に気がついたら,直ちにすべての手術操作を中止する.ただし,急いで超音波チップを抜いたり眼内灌流を止めてはいけない.術中合併症に気づいたために慌ててハンドピースを引き抜くと,眼内から創口への圧勾配により脱出した硝子体が創口に嵌入してしまう.一旦,創口に硝子体が絡んでしまうとその切除がむずかしいだけでなく,引き続いて行われる眼内操作に伴う手術器具の出し入れ,または眼内操作のたびに,創口の硝子体を牽引することとなり,硝子体基底部付近の網膜裂孔を作製しやすくなってしまう.後?破?に気づいて手術操作を中止した後,サイドポートから粘弾性物質を前房内に十分量注入し(図3),前房内圧を上げて,ハンドピースを引き抜いても前房が虚脱せず,硝子体が創口に嵌入しないような状態を作り出してから静かにハンドピースを引き抜く.しかし,すべての症例で切開創にまったく硝子体が嵌入しないでハンドピースを引き抜くことができるわけではない.もし創口に硝子体が嵌入した場合は,創外に脱出している硝子体をMQAと剪刀を用いて切除し,創口や創間に残留している硝子体索をフックや粘弾性物質を用いて前房内に押し戻す.2.水晶体核の処理が先瞳孔領の状態をよく観察し,後?破?の範囲,硝子体脱出の程度,残留している水晶体核の大きさ,個数をよく把握する.水晶体核を残したまま脱出硝子体の切除を始めると,かろうじて硝子体上に乗っていた水晶体核片(38)図1後?破?時の術中所見瞳孔透明野を認める.図3破?時の処置法超音波ハンドピースを引き抜く前にサイドポートから粘弾性物質を前房内に十分量注入する.図2後?破?時の術中所見前?切開線と異なる後?の断裂線を認める.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???が,灌流液の水圧と水流により瞬時に硝子体腔内に落下していく.特に分割手技を用いて行っていた水晶体核処理の最中における後?破?,硝子体脱出例にては,それまでに行っていた水晶体核の分割と,乳化吸引処理されていない水晶体核片の部位,個数をよく考慮して,どの方向の虹彩下,水晶体?赤道部に大きな水晶体核が残存しているかを把握し,その摘出処理を確実に行うようにする.後?破?時に大きな水晶体核が残存している場合は,前後房を粘弾性物質で満たした後に創口を十分な大きさに拡大し,フックを用いて水晶体核を前房内に脱臼させてから輪匙を用いて水晶体核を確実に摘出する(図4).水晶体核が分割されている場合は切開創をあまり大きく拡大する必要もないが,水晶体核の厚さがある場合は,摘出時に見た目よりも大きな切開創を必要とすること,術中合併症を生じた場合の処理操作において新たな合併症を追加しないために,大きめの切開創を作製することを基本とする.残留している水晶体核片が小さい場合,または硝子体と絡まっている場合は,輪匙や超音波チップで除去するよりは,ビスコエクスプレッション手法にて水晶体核を娩出する.ビスコエクスプレッションを行うに当たっては,創口より虹彩面上で挿入した粘弾性物質注入針を,まず摘出する水晶体核の下方より水晶体核を通り越し,創口と水晶体核をはさんで対側に至る位置に置く(図5).その位置に保持しながら粘弾性物質を注入し続けると,次第に眼圧が上昇してくる.このとき粘弾性物質注入を続けながら創口を注入針でわずかに押し下げてやると,水晶体核背面から創口に向かう圧勾配が生じ,粘弾性物質の流れとともに前房内に残留した水晶体核が眼外へ圧出されてくる.粘弾性物質を注入する位置や注入方法に多少の慣れを要する点や,比較的多量の粘弾性物質を要する点に難点は残るが,小さめの水晶体核摘出や硝子体と絡まってしまった水晶体核の娩出にはきわめて有用な手術手技であり,習得を要する.水晶体核の摘出が終了したら,再度創口に嵌入した硝子体索を硝子体カッターやMQAと剪刀を用いて切除し,創口を絹糸などで一旦縫合する(図6).(39)図4Simcoeループ針を用いた水晶体核摘出図6MQAを用いた硝子体切除手技図5ビスコエクスプレッション法の実際粘弾性物質注入針の先端と水晶体核の位置関係に注意.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.4,20063.水晶体皮質除去と硝子体切除:ドライビトレクトミー手技か2-way手技か?比較的小さな後?破?と限局した硝子体脱出の場合は,ドライビトレクトミー手技をその処理法として選択する.粘弾性物質を前後房に注入し,残留している水晶体?を広げてから,灌流を止めたSimcoe針を眼内に挿入し,吸引孔を水晶体皮質の厚い部分に位置させてからゆっくりと水晶体皮質を吸引し,皮質を捕まえたらそのまま水晶体?から引き?がし前房中央に移動させる(図7).捕獲した水晶体皮質を前房中央で吸引してしまうと,より多量の粘弾性物質が必要となるだけでなく,硝子体を誤吸引する確率が高まり,硝子体と水晶体皮質が絡んでそれ以降の水晶体皮質吸引除去が困難となることもあり,水晶体皮質は全周にわたって処理を終えるまで前房中央に移動させるに留める.粘弾性物質が吸引され前房が虚脱するようなら,粘弾性物質を追加しながらすべての水晶体皮質を水晶体?から引き?がす.硝子体が前房内に脱出している場合は,Simcoe針の皮質吸引除去操作に先立ち,灌流を用いずに硝子体カッターにて脱出硝子体を切除する(図8).この際,後?の亀裂より後方まで硝子体カッターを深く挿入し,前部硝子体切除を行い,その空間に分散型の粘弾性物質を注入しておくと(図9),凝集型の粘弾性物質を注入した場合に比べ,粘弾性物質が後?下に長く残留するため,さらなる硝子体脱出を防止する4).硝子体切除により眼球が虚脱しそうな場合は,粘弾性物質を眼内に注入しながら硝子体切除(40)図9分散型粘弾性物質の硝子体腔注入によるタンポナーデ操作図102-way硝子体切除操作図7後?破?時のSimcoe針による水晶体皮質吸引除去操作図8後?破?時の硝子体カッターを用いたドライビトレクトミー———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???(41)を行う.皮質吸引や脱出硝子体切除を同軸灌流を有する通常のI/A(irrigationandaspiration,灌流吸引)チップやA-vit(硝子体カッター)にて行うと,灌流液が硝子体腔に回り込むことにより,さらなる硝子体脱出を促す.また通常のI/Aチップでは万一硝子体を誤吸引した際の開放操作が困難であるため,皮質吸引はSimcoe針を用いる.水晶体皮質がすべて前房中央に集まったら,ビスコエクスプレッション法で眼外に圧出するか,硝子体カッターで吸引除去する.ドライビトレクトミー法はくり返し粘弾性物質を注入しながら行う必要があるが,最低限の硝子体切除にて手術を行えるため,眼球が虚脱しにくく水晶体?も温存しやすい利点がある.大きな後?破?で多量の硝子体脱出や水晶体皮質が硝子体と絡まっている場合は2-way手技を選択する(図10).硝子体カッターのカットレートは最大とし,吸引はやや低めに設定し,灌流ボトルの高さを上げる.灌流は同軸とせず,前房メインテナーなどのやや太い注入針に連結する.通常,角膜輪部の3時および9時にサイドポートを作製し,まず硝子体カッターを9時のサイドポートから前房内に挿入し,創口や3時方向のサイドポート付近の硝子体索を,灌流を用いずに,またはわずかに加えるのみで切除する.ついで3時のサイドポートに灌流針を挿入し,本格的に前部硝子体切除を行うが,初めから灌流針をサイドポートに挿入して硝子体切除を行うと,創口付近の硝子体の嵌頓を悪化させてしまうことがあるので,初めは灌流を用いずに硝子体を切除する.サイドポートから硝子体カッターを挿入することにより,通常では処理のむずかしい12時付近の創口に嵌入した硝子体索も容易に切除することができるとともに,灌流を用いることにより眼球虚脱の心配なく十分な硝子体切除が行える.硝子体カッター先端は瞳孔縁から虹彩下まで挿入し,残留皮質と周辺部硝子体を十分に切除する.左右の器具を交代して硝子体切除を行うことにより,瞳孔縁に沿って360?の残留皮質除去と硝子体切除を行うことができる.III眼内レンズ挿入後の処置水晶体皮質除去と硝子体切除を行った後,眼内レンズを水晶体?外固定または経毛様体溝強膜縫着固定する.眼内レンズの良好な固定を確認した後に,前房内に塩化アセチルコリン(オビソート?)を注入し,縮瞳させる(図11).硝子体索が創口に嵌入している場合は瞳孔に変形をきたすため,その変形を手がかりに硝子体切除を追加するとともに,フックや注射針を用いたワイパリングを行い,創口に嵌入した硝子体索を完全に解放する.脱出硝子体を確認するために前房内にトリアムシノロンを注入し,硝子体を視認化して処理する方法も報告されている5)が,瞳孔の変形を目安として処理できる場合が多い.ワイパリングとは,目的とする創口より45?から90?離れたサイドポートよりフックまたは注射針を虹彩面上に沿って目的とする創口,隅角底付近に挿入し,そこから瞳孔中央に向かってフックや注射針をワイパーの図11オビソート?注入後の縮瞳と硝子体索嵌頓による瞳孔変形図12ワイパリング操作———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006(42)ように動かすことにより,創口に強く嵌入した硝子体索を瞳孔領に引き戻す操作をいう(図12).硝子体脱出を生じている症例で,前房内が灌流液で満たされている場合,手術器具の出し入れに伴い眼内と眼外に圧勾配が常に生じるため,器具を出し入れする創口には,眼内灌流液の流れに乗って必ず硝子体索が嵌頓していると考え,手術器具を出し入れした切開創に対しては手術操作の最後に必ずワイパリングを行い,硝子体索嵌頓を解除しておくことが必要である.文献1)PingreeMF,CrandallAS,RandallJQ:Cataractsurgerycomplicationsin1yearatanacademicinstitution.????????????????????????25:705-708,19992)IonidesA,MinassianD,StephenT:Visualoutcomefol-lowingposteriorcapsuleruptureduringcataractsurgery.???????????????85:222-224,20013)OsherR,CionniR:Thetornposteriorcapsule;itsintra-operativebehavior,surgicalmanagement,andlong-termconsequences.???????????????????????16:490-494,19904)Arshino?SA:Dispersive-cohesiveviscoelasticsoftshelltechnique.???????????????????????25:167-173,19995)BurkSE,DaMataAP,SnyderMEetal:Visualizingvit-reoususingKenalogsuspension.???????????????????????29:645-651,2003眼科学【監修】眞鍋禮三(大阪大学名誉教授)I.総論VIII.ぶどう膜XV.屈折・調節異常II.眼科診療室にてIX.水晶体XVI.光覚・色覚の異常III.眼瞼X.網膜硝子体XVII.全身疾患と眼IV.涙器(涙腺,涙道)XI.視路,瞳孔,眼球運動XVIII.眼のプライマリーケアV.結膜XII.眼窩XIX.眼治療学総論VI.角膜XIII.緑内障XX.付録VII.強膜XIV.斜視,弱視A.眼科略語集/B.眼科関連法律(法令)/C.リハビリテーション/D.主な眼科雑誌の紹介基礎と臨床との関連性を強く前面に打ち出し、単に眼科学の知識の羅列でなく、何故そうなるのかがわかる記載を心がけた。また、基礎編の記載でも必ず臨床を念頭においた書き方に努めることとした。教科書の内容になじまないトピックス的なものにも触れようと囲み記事として随所に配したが、勉強中の息抜きの読み物として楽しんでもらえれば幸いである。楽しみながら、そして考えながら「眼科学」を身につけることができる教科書として、広く親しまれることを願ってやまない次第である。(あとがきより)B5判2色刷り総674頁カラー写真・図・表多数収録定価23,100円(本体22,000円+税5%)メディカル葵出版〒113─0033東京都文京区本郷2─39─5片岡ビル5F振替00100─5─69315電話(03)3811─0544■内容内容■考える診療のために!あの名著が更にUp-To-Dateな情報を盛り込んで!待望の改訂版、登場!■疾患とその基礎■<改訂版>株式会社