———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS眼圧の日内変動については多くの報告が出されているが,日中,夜間とも測定時には座位である報告が多い.しかし,実際の生活姿勢においては,日中は座位,夜間は臥位と異なった体位をとっており,夜間の眼圧については臥位による眼圧上昇が加味されていると考える必要がある.過去の研究では臥位によって4~6mmHg1~6)の上昇が報告されており,臥位後どの程度で眼圧が一定になるかについての報告は少ないが,これまでは5分以内に一定の眼圧に落ち着くと考えられていた.しかし,当科での0分後,5分後,30分後の眼圧経過を測定した研究では,臥位後30分までは継続的な眼圧上昇を認めており,長時間の臥位ではさらなる眼圧の上昇の可能性が示唆された.今回,筆者らは臥位直後,5分後,30分後,180分後の眼圧を測定し,眼圧の推移を検討したので紹介する.■対象および方法対象は白内障手術,硝子体手術,緑内障手術目的で自治医科大学に入院した患者の健眼(非術眼)45眼で,内訳は男性22眼,女性23眼,平均年齢は65歳,緑内障7眼,非緑内障38眼であった.緑内障7眼のうちラタノプロストが5眼,チモロールが7眼,炭酸脱水酵素阻害薬が3眼に使用されていたが,これらは通常どおり継続したままで測定した.高血圧薬として9眼にCa拮抗薬,8眼にアンギオテンシン受容体遮断薬,4眼にb-blockerを内服中であったが,これらも継続したままで測定した.研究への参加については目的,方法,危険性などを説明,同意のうえ,参加していただいた.■測定方法測定にはpneumatonographyモデル30クラシックを使用し,検査中の歩行を避けるために病室に持ち込んで測定した.1.ベッドに腰掛けた状態で座位の眼圧を測定.2.臥位となり,直後1分以内に眼圧を測定.このあと臥位を保ちつづけるように指示し,5分後,30分後,180分後に臥位のままで眼圧を測定した.3.180分臥位測定後に座位となり,1分経過後に座位での眼圧を測定した.■解析方法①座位の眼圧と,臥位後の眼圧を検定した.②継時的に眼圧が上昇しているかについて5分後と30分後,30分後と180分後の眼圧を検定した.③座位と臥位180分後の眼圧の相関,臥位30分後と180分後の眼圧の相関を検討した.■結果平均眼圧の推移をグラフに示す(図1).直前の座位での平均眼圧は16.2mmHgであった.臥位直後(1分以内)では19.9mmHgと速やかに上昇,5分後にはやや低下するも,30分後にはさらに20.9mmHgと上昇した.その後180分後では21.1mmHgとほぼ横ばいであった.(63)●連載?緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄71.3時間連続臥位における眼圧経過佐々木誠原岳橋本尚子水流忠彦自治医科大学眼科実際の生活姿勢においては,日中は座位,夜間は臥位と異なった体位をとるため,夜間の眼圧は臥位による眼圧上昇が加味されていると考えられる.今回筆者らは,座位,臥位直後,5分後,30分後,180分後の眼圧の推移を検討した.21.115.216.219.919.520.905101520251803050*NSmin眼圧(mmHg)図1直前の座位,臥位直後,5分後,30分後,180分後,直後の座位での眼圧推移臥位5分後と30分後の比較では有意差を認めた(*p<0.01).30分後と180分後の比較では有意差を認めなかった(NS).———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006①臥位後の眼圧は,座位と比しすべての時点で有意な上昇を認めた.②臥位5分後と30分後の比較では,有意な上昇を認めたが,30分後と180分後の比較では,有意差を認めなかった.③30分後と180分後の眼圧は有意な相関を認め,相関係数0.88と特に高くなっていた.座位と180分後の眼圧も相関は有意であるが,相関係数は0.82と前者よりも低かった.その他,血圧,年齢,眼圧上昇率などを用いて検討したが,特に有意な相関を認めなかった.■考察本研究では,臥位直後では3.7mmHgの上昇(overshoot)を認め,5分後では3.5mmHg,30分後では4.7mmHg,180分後では4.9mmHgの上昇を認めた.臥位直後および5分後の時点では,座位よりも眼圧が有意に上昇しているものの,180分後と比較すると有意に低く,この時点では眼圧の上昇が均衡に達していないと考えられた.一方,臥位30分後の眼圧は20.9mmHg,180分後の眼圧は21.1mmHgと有意な上昇はなく,症例数の増加によっては有意差が出てくる可能性もあるが,30分の時点で眼圧は一定に落ち着いていると考えられた.このことから,30分後の眼圧を測ることで,少なくとも3時間後までの眼圧は把握できると考えられた.また,3時間の間に日内変動が影響した可能性については,直前,直後の座位での眼圧には有意差を認めず,大きな影響はなかったと考えた.以上より,臥位5分後の時点では180分後の眼圧上昇値の70%はすでに出現しているが,その後も眼圧は上昇を続け,30分以内に均衡に達すると考えられた.既報では座位と臥位の眼圧には強い相関がみられることから,座位の眼圧から臥位の眼圧を算出する補正式なども報告されている.本研究でも強い相関を認めており,座位眼圧からの予測が可能か検討してみた.座位眼圧16mmHgの場合では回帰直線より臥位眼圧は20.9mmHgと計算される.しかし予測の信頼区間は16.0~25.7mmHg(95%有意水準)と算出され,実際の診療現場で必要とされる精度は得られなかった.また座位眼圧がもともと高い被検者では,臥位眼圧も高くなるのが妥当であり,(臥位眼圧)=(座位眼圧)+(臥位による上昇分)と考えると,両者が(座位眼圧)を共通のパラメータとしてもっていることが見かけ上相関を強くしている可能性もある.座位眼圧からの予測は困難であり,実際に30分後の眼圧を測定する必要性があると考えられた.これまでの報告では臥位開始後から測定までの時間には違いがあるが,3.6~5.6mmHgの眼圧上昇が報告されている1~5)(図2).■結論座位と比較し,臥位では有意に眼圧が上昇した.臥位5分後と30分後の比較では有意な上昇を認めたが,30分後と180分後の比較では有意な上昇は認めなかった.夜間の眼圧を検討するためには臥位30分後の眼圧測定が有用と考えられた.文献1)MosaedS,LiuJH,WeinrebRN:Correlationbetweeno?ceandpeaknocturnalintraocularpressuresinhealthysubjectsandglaucomapatients.???????????????139:320-324,20052)LiuJH,KripkeDF,Ho?manREetal:Nocturnalelevationofintraocularpressureinyoungadults.?????????????????????????39:2707-2712,19983)LiuJH,KripkeDF,TwaMDetal:Twenty-four-hourpatternofintraocularpressureintheagingpopulation.?????????????????????????40:2912-2917,19994)柴田哲夫,近藤和義,三島弘:体位変換による眼圧変動─短時間および長時間の仰臥位における眼圧上昇幅の検討.日眼会誌89:696-701,19855)広田篤,高松倫也,塚本秀利ほか:体位や光が眼圧の日内変動に与える影響.あたらしい眼科14:609-612,19976)HaraT,HaraT,TsuruT:Increaseofpeakintraocularpressureduringsleepinreproduceddiurnalchangesbyposture.???????????????124:165-168,2006(64)6.718.914.818.027.125.021.1216.25.613.619.612.518.416.5113.49.0221.15.421985,柴田ら*1健常23眼緑内障16眼1997,広田ら*2平均23歳,健常21人1998,Liuら*318~25歳,健常12人1999,Liuら*3平均60歳,健常21人2005,Mosaedら*3平均22歳,健常33人平均58歳,健常35人平均60歳,緑内障35人本研究平均65歳45眼:座位:臥位01020mmHg図2過去の報告との比較*1臥位は3時間後に測定.*2臥位は9,12,3,6時の平均.*3日中は臥位5分後に測定し,夜間は臥位のまま測定しているが,ここでは日内変動の点から日中の座位の平均眼圧と日中の臥位5分後の平均眼圧を示した.