———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008???0910-181008\100頁JCLS今回はBarackObama(バラク・オバマ)の自伝を紹介したい.ちょうどアメリカ大統領選挙のプライマリー(予備選)の真っ最中であるが,二大政党のうち,民主党側で戦っているのはHillaryClintonとBarackObamaである.ヒラリーはよくご存知の前大統領BillClintonの「奥様」である.言うまでもないが,彼女は「ただの」奥様ではなく,きわめて優秀な弁護士(イェール大学ロースクール卒業)であり,現在はニューヨーク州の上院議員でもある.一方のBarackObamaとは誰なのか?まず,ニュースではおおむね「黒人」とされているが,実際は黒人と白人の「ハーフ」である.それ以外に46歳と若いことと現在イリノイ州の上院議員であることも知られている.また,ヒラリーと同様に優秀な弁護士(ハーバード大学ロースクール卒業)でもある.まったくの偶然であるが,私にとってBarackObamaはそれ以外にも特別な人物である.実は,彼は私の高校の同級生.当時は「バリー」とよばれており,その名前でしか馴染みがないので,以下当時の名前でよぶことにする.今ではあのとおり優秀でまじめで素晴らしい大統領候補者になっているが,彼のヒストリーはいささか趣を異にする.このことは彼の本でも触れられているが,高校時代,彼はいわゆる「不良」であった.私たちの母校はプナホウ学園(PunahouSchool)という,全米でもよく知られた私立の進学校である.日本でもそうであろうが,入学がむずかしく,優秀な子が大勢いた.幼稚園から高校までの一貫校で,高校卒業時の生徒数は1学年約400人だった.しかし,こんな学校にも当然不良はいて,大体はアメフトやバスケットボールなどスポーツクラブに属する男の子たちだった.彼らはしばしば違法の「pot」(マリファナのニックネーム)をスモークしていたので,potheadともよばれていた.バリーがどこまで吸っていたか正確にはわからないが,彼らの仲間であったのは事実で,本にもpotを吸っていたとはっきり書いている.とはいえ,マリファナはいわゆるドラッグのなかでは可愛いものであり,ハワイではマウイ島で作られる高品質のもの(マウイ・ワウイ)が有名であるが,今でもわりと簡単に入手できる.したがって,ハワイの少年少女でpotを一度くらいスモークした経験のあることはそう珍しいことではない.そのことよりも強調したいのは,この有力な大統領候補が,ちょっとした不良学生という点以外,高校当時はほとんど特徴がなかったことである.バスケットボールチームに参加していたが,特段「スター」であったとは記憶されていない.言うまでもなく将来大統領を争うリーダーとしての片鱗すら感じられない生徒であった.成績も進学校のPunahouでは下の方で,OccidentalCol-legeというカリフォルニア州の,それほど知られていない大学に入学した.このことをバリーの立場から考えてみるとどうなるのだろう.彼は,黒人と白人のハーフであり,ハワイのように当時ほとんど黒人がいない州で,彼は明らかに「皆と違う子」だった.ほとんどの同級生や周囲の大人は「なぜ彼はここにいるのか?」と心の中で感じていたように思う.私の学年にはもう一人の黒人の女の子がいたが,彼女は途中で転校したため,一緒に卒業しなかった.バリーは恐らく周りからいつもアウトサイダーとして扱われていた.比較のために,私のような「日系人」はどうだったかというと,当時のハワイでは人口の35%程度を占める存在で,しかもそのほとんどが他の人種との混血ではなく100%日本の血統だった(つぎは白人が30%,中国系人が20%くらい).したがって,ハワ(99)■4月の推薦図書■マイ・ドリーム:バラク・オバマ自伝バラク・オバマ著白倉三紀子・木内裕也訳(ダイヤモンド社)シリーズ─80◆岡田アナベルあやめ杏林大学医学部眼科———————————————————————-Page2イにおけるエスニック(人種)・グループのなかではマジョリティの一つだったので,人種やルーツの点で差別を受けたり,嫌な目にあった記憶はない.その意味でマジョリティの人間は影の部分に無頓着になりがちである.しかし,バリーは「宇宙人」のように浮いた存在で,自分の居場所を探すことは相当むずかしく,つらく苦しい少年時代を過ごしたのかもしれない.その結果,本当は優秀だったかもしれないが,彼が逃げ込める場所はそういう不良グループしかなかったともいえる.高校を卒業すると,バリーはまったく別人のようになっていった.OccidentalCollegeからニューヨークにあるアイビー・リーグの一つであるコロンビア大学に転校し,そこで学部を卒業すると,次は法科大学院では全米ナンバーワンのハーバード大学ロースクールに進学した.そこでHarvardLawReviewという,学生が編集する有名な雑誌のチーフエディターに選ばれた.その噂を高校の同級生から聞いたときには,あのバリーが?と本当に驚いたことを覚えている.それから彼はシカゴで弁護士の職を得て,政治活動に入っていく.その後の人生については,ニュースなどで伝えられている通りである.子どもの頃から同級生として知るバリーの半生を考えるとき,何より嬉しいことは,「人生は変えられる」と彼が証明してくれたことにある.アメリカの厳しい競争社会のなかにあって,出遅れた子どもであっても,夢をもって努力をすれば成功することができる.それも大統領という,リーダーのなかのリーダーにだってなれるかもしれないのだ.とかくやり直しがむずかしいようにいわれる日本の社会であるが,バリー(バラク)・オバマの来し方に興味をおもちの方はぜひ本書を読んでいただきたい.今回,民主党のプライマリー選挙で選ばれる大統領候補は確実に歴史的人物として記憶される.女性にせよ,(ハーフとはいえ)黒人にせよ,ここにたどり着いた者は過去に一人もいない.人種の坩堝(るつぼ)と言われる米国で黒人大統領が現実味をおびていることは,人種や性別を超越できるまでに米国が進歩,そして変化している証拠であり感慨深い.とはいえ,女性のリーダーの登場に関しては少し時間がかかりすぎてしまった感がある.英国のサッチャー首相や,ドイツのメルケル首相を引き合いに出すまでもなく,政治の分野における女性の社会進出という点では米国は先進国とは言い難い.☆☆☆(100)