———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS全ゲノム上の体系的患者対照相関研究近年,遺伝子と疾病の関わりの研究は,遺伝子変異(頻度1%未満:rarevariants)により発症が規定される遺伝病の研究から,commondiseasesの発症が遺伝子多型(頻度1%以上:commonvariants)の研究に移行しつつあります.それにあわせて,遺伝子多型の検出方法もマイクロサテライトマーカーを使用した連鎖解析法から,ゲノム上でより高密度に存在する一塩基多型(SNP)のタイピングを用いた患者対照相関研究が主流になり,国際ハップマッププロジェクト1)の進行と商業ベースのタイピング法の進歩による全ゲノム領域にわたる体系的患者対照相関研究が,いよいよ現実味を帯びてきました.日本でも理化学研究所遺伝子多型センターから,いくつかのcommondiseasesに対する体系的患者対照相関研究の結果が発表されています2,3)が,本当に信頼性の高い患者対照相関研究を成し遂げることは非常に困難な作業です.現時点で信頼性十分と考えられる相関研究のガイドラインが,最近HumanMolecularGene-tics誌上にまとめられており,参考になります4).眼科領域のcommondiseasesと遺伝子多型研究2005年4月のScience誌上で3報の加齢黄斑変性症(AMD)に対する遺伝子多型研究が相次いで発表されました5~7).これらはすべて1番染色体上にあるcomple-mentfactor?遺伝子上の402番目のアミノ酸置換を伴う遺伝子多型(rs1061170)とAMD発症との相関を示した研究ですが,このうちの一報は,体系的患者対照相関研究法を用いて結果を出しています5).今後,全ゲノム領域をカバーする体系的患者対照相関研究,それに続くハプロタイプ地図および候補領域ゲノムの再シークエンスを用いた精密な疾患関連遺伝子多型の同定が研究の主流になることを示した好例と思います.アトピー素因と遺伝子多型アトピー素因(高免疫グロブリンE血症)は,多くの疾病の発症に関与していることから1980年代から数多くの遺伝子多型研究の対象となってきました.ごく最近,理化学研究所遺伝子多型センターで施行された日本人アトピー性皮膚炎患者(AD)を対象にした患者対照相関研究の結果から,Th2細胞(ヘルパー2型T細胞)の機能的マーカー分子であるST2をコードする??????遺伝子のプロモーター上の遺伝子多型とAD発症との間(59)◆シリーズ第62回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊松田彰(京都府立医科大学眼科学教室)アトピー素因と遺伝子多型研究図1ヒトマスト細胞におけるST2遠位プロモーター・レポータージーンアッセイ??????遺伝子プロモーター領域にある-26999Aアレルはアトピー性皮膚炎発症の危険因子である(相対危険度1.86)が,??????遺伝子転写誘導能が-26999Gアレルと比べ2倍高いことがレポータージーン解析で示された.(文献8より許可を得て転載).**———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006に強い相関が検出され,その機能的な意義も明らかになりつつあります(図1)8).遺伝子多型と疾病との間の相関が認められるということは,その多型が疾病発症の危険度に影響を与えるマーカーであるということを示しているにすぎず,機能的役割の解明はエクソン上のナンセンス変異などの場合を除き,多大な労力を要することが多いのです.イントロン上にある多型に関してはその意義の解析はさらに困難ですが,遺伝子の発現調節に関与している例も報告されており,より効率的な解析方法の確立が模索されているのが現状です.アトピー関連眼合併症の遺伝子多型解析筆者自身は,アトピー素因に合併する白内障,網膜?離,春季カタル,アトピー性角結膜炎といった病態に焦点をしぼり遺伝子多型解析を進めています.アトピー素因の強弱とこのような眼科的合併症の発症との間には相関がみられないことも多く,アトピー素因の遺伝的研究と同時に個々の疾病に関して着実な検討を積み重ねていくことが重要です.実際に現在施行しているプレリミナリーな検討の結果から考えると,アトピー素因に影響を与えている遺伝子多型と眼合併症の発症に影響する多型が異なる可能性が示唆されています.また,アトピー素因に合併する網膜?離およびアトピー性角結膜炎に春季カタル様の結膜増殖変化を認めることが多いといった日本特有の現状を,人種間の遺伝的多様性・環境因子との相互作用といった観点から検討することも大切です.最後に遺伝子多型研究における3S筆者は遺伝子多型研究において3つのSが大切であると考えています.それは,Sample(患者さん,健常対照ボランティアの定義・診断をいかに正確にするか),Strategy(どのような戦略で遺伝子多型を検出し,その多型の意義を分子生物学,生化学,免疫学,構造生物学などあらゆる分野の手法を用いて解析できるか),Spon-sor(この手の研究はとにかく,お金と時間がかかりますし,成果が出るという保証もありません)の3つです.人と情報のネットワークが大切です.今後,10年のうちに遺伝子多型研究の方法論はさらに進化するものと考えられます.イギリスおよび日本では数十万人のゲノムを収集し,体系的に疾患と遺伝子多型の相関を解析するプロジェクトが進行しており,commondiseasesの予防,病態解明の強力な手段となりそうです.文献1)InternationalHapMapConsortium:Ahaplotypemapofthehumangenome.??????437:1299-1321,20052)OzakiK,OhnishiY,IidaAetal:FunctionalSNPsinthelymphotoxin-alphagenethatareassociatedwithsuscepti-bilitytomyocardialinfarction.?????????32:650-654,20023)SuzukiA,YamadaR,ChangXetal:Functionalhaplo-typesofPADI4,encodingcitrullinatingenzymepeptidyl-argininedeiminase4,areassociatedwithrheumatoidarthritis.?????????34:395-402,20034)FreimerNB,SabattiC:GuidelinesforassociationstudiesinHumanMolecularGenetics.?????????????14:2481-2483,20055)KleinR,ZeissC,ChewEYetal:ComplementfactorHpolymorphisminage-relatedmaculardegeneration.????????308:385-389,20056)HainesJL,HauserMA,SchmidtSetal:Complementfac-torHvariantincreasestheriskofage-relatedmaculardegeneration.???????308:419-421,20057)EdwardsAO,RitteR3rd,AbelKJetal:ComplementfactorHpolymorphismandage-relatedmaculardegener-ation.???????308:421-424,20058)ShimizuM,MatsudaA,YanagisawaKetal:FunctionalSNPsinthedistalpromoterofST2geneareassociatedwithatopicdermatitis.?????????????14:2919-2927,2005(60)***———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006???■「アトピー素因と遺伝子多型研究」を読んで■今回は松田彰先生による“commondiseasesの遺伝子診断研究”の展望をわかりやすく解説していただきました.ヒトゲノムプロジェクトの成果により塩基配列がすべて明らかになり,ヒト遺伝子総数は約3万個(いろいろな推計がありますが)といわれています.種々の遺伝子変異に伴う疾患の原因遺伝子の同定法は戦略的に行うことができるようになりました.基本的には変異をもつ家系がきちんと解析できれば原因遺伝子を突き止めることができます.しかしこのような戦略ではcommondiseasesの遺伝子変異をみつけることは多くの場合できません.糖尿病や高血圧がその代表であり,一部の遺伝子変異に基づく疾患を除くと多くの患者さんではそのような変異を見出すことができません.このような疾患の遺伝子診断にSNPs(松田先生の本文を参照)を用いることが現在,大きな期待とともに全世界で研究が急速に進展しております.これを可能にしたのが,遺伝子配列の同定の高速化,DNAチップなどのアレイ技術およびその情報を処理するバイオインフォーマティクスの進歩など,多くの技術革新が急速にみられることです.臨床検査として少量の血液を検査機関に送ることで,臨床家は煩雑な分子生物学的な研究手技から開放されて結果のみを受け取ることができるようになってきています.現段階でわれわれ臨床医に求められることは,遺伝子多型が疾患の病態にどのように関連しているのか,病態生理上意義があるのかというようなさらに高度な判断です.松田先生も述べておられますが,遺伝子多型がみつかった段階で分子生物学的に病態上の意義を検証すること,そして,環境因子など他の因子との関連を検証し,遺伝子多型が疾患診療上どれくらいの寄与があるのかを見きわめることです.さらに,遺伝子多型は人種差がかなり大きいようですので,日本人の診療をするわれわれは日本人で検証する必要があります.これは疾患の実態をよく知っている臨床医がやらなければならないことです.このように松田先生が示しておられるように,遺伝子医学研究において臨床医の行うべき仕事はかなり大きいことになります.これにより遺伝子研究の結果を盲目的に信じ込んでとんでもない診療を行うことを防ぎ,社会的に真に有益な医療を提供することができると考えます.山形大学医学部視覚病態学山下英俊(61)☆☆☆