———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSり,おもに本稿ではもともと他に疾患をもたない白内障手術時に合併症を生じた際の,IOL挿入の是非についてevidence-basedmedicine(EBM)の観点から,文献的考察を行う.I研究目的白内障手術の術中合併症発生後の,IOL挿入の利点と問題点についてEBMの観点から評価する.II研究方法1.分析対象文献白内障術中合併症について検討された論文について幅広く検索することを目的として,医学中央雑誌Web版Ver.3(以下,医中誌)およびMedlineを用いて検索をはじめに白内障手術が超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術(PEA+IOL)になり久しい.各種術式・機器などの進歩により,安全に手術を行うことに加えて,視覚の質すなわちqualityofvision(QOV)が問われるようになっている.手術を受ける患者の期待も高いこのような状況では,水晶体摘出のみだけでは白内障の手術を施行したとはいえないようになっている.しかし,臨床の場ではさまざまな理由で眼内レンズ(IOL)の挿入が困難な場合や,挿入時に合併症をひき起こす場合など,通常どおりにIOL挿入を続行可能か否か判断に苦慮するときがある.そこで,過去の報告をもとに術中合併症に遭遇した場合のIOL挿入の適応について考証する.疾患のある症例に対しての白内障手術については他稿に譲(35)???*TakuyaShiba:東京慈恵会医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕柴琢也:〒105-8461東京都港区西新橋3-19-18東京慈恵会医科大学眼科学教室特集●眼内レンズの適応を再考証するあたらしい眼科23(2):173~180,2006術中合併症例に対する眼内レンズ挿入????????????????????????????????????????????????????????????????????????????柴琢也*表1検索に用いたキーワード医学中央雑誌Medline検索に用いたキーワード(早期穿孔)and(白内障)(early-perforation)and(cataract)(前?切開)and(白内障)(capsulorhexis)and(cataract)(後?破損)and(白内障)(posterior-capsule-rupture)and(cataract)(創口熱傷)and(白内障)(thermal-burn)and(cataract)(虹彩断裂)and(白内障)(irisrupture)and(cataract)(Zinn小帯断裂)and(白内障)(zonular-rupture)and(cataract)(インジェクター)and(眼内レンズ)(injector)and(intraocular-lens)(眼内レンズ挿入)and(合併症)(intraocular-lens-implantation)and(complication)(Descemet膜?離)and(白内障)(Descemet?s-membrane)and(cataract)医学中史雑誌は左側の,Medlineは右側のキーワードを用いて文献検索を行った.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006行った.医中誌は1983~2004年までの文献を,Med-lineは1980~2004年までの英語の文献を検索対象とした.検索に用いたキーワードを表1に示す.検索に用いたキーワードは,白内障手術時のIOL挿入前の各過程〔1.創口作製時(早期穿孔),2.前?切開時(前?切開失敗),3.水晶体摘出時(後?破損,創口熱傷,虹彩断裂,Zinn小帯断裂),4.IOL挿入時(インジェクターによる合併症,Descemet膜?離)〕の代表的なものである.しかし,実際の手術では必ずしも特定の過程のみで生じ得ないことをお断りしておく.さらに,上記検索で得られた文献のうちタイトル,抄録から判断して,明らかに本研究の目的と異なると考えられる文献は除外した.2.分析方法対象文献から,術中合併症が生じた症例に対して,IOL挿入を行った術後予後について比較検討した.III結果医中誌およびMedlineによる各キーワードの検索文献数を表2に示す.このなかより,白内障手術中合併症後のIOL挿入について述べている文献について報告する.1.早期穿孔医中誌(キーワード:早期穿孔,白内障)およびMed-line(キーワード:early-perforation,cataract)の検索結果では,計7編の文献が検索されたが,その後のIOL挿入について述べたものはなかった.2.前?切開Medline(キーワード:capsulorhexis,cataract)の検索結果では,5編の文献がIOL挿入について述べていた.Haighらは,連続環状?切開(continuouscurvilinearcapsulorrhexis:CCC)の切開縁に亀裂が入った症例の術後経過を報告しているが,亀裂部位に対してIOLの位置を慎重に決めれば術後に問題は生じないとしている1).AssiaらやWassermanらは,それぞれ白内障手術の既往のある死亡摘出眼のIOLの固定状況についての報告をしている2,3).これによると,前?切開縁に亀裂が入った症例にIOLを?内固定した場合も,瞳孔領からレンズ光学部が外れることはなかったとしている.HansenらやMasketは,小さすぎる前?切開では術後に前?収縮をきたすことがあるとしているが,そのことがIOL挿入の禁忌になるとはしていない4,5).3.後?破損医中誌(キーワード:後?破損,白内障)およびMed-line(キーワード:posterior-capsule-rupture,cataract)(36)表2検索文献数医学中央雑誌Medlineキーワード検索数キーワード検索数(早期穿孔)and(白内障)5(early-perforation)and(cataract)2(前?切開)and(白内障)200(capsulorhexis)and(cataract)531(後?破損)and(白内障)97(posterior-capsule-rupture)and(cataract)82(創口熱傷)and(白内障)4(thermal-burn)and(cataract)5(虹彩断裂)and(白内障)1(irisrupture)and(cataract)0(Zinn小帯断裂)and(白内障)20(zonular-rupture)and(cataract)17(インジェクター)and(眼内レンズ)10(injector)and(intraocular-lens)31(眼内レンズ挿入)and(合併症)200(intraocular-lens-implantation)and(complication)235(Descemet膜?離)and(白内障)8(Descemet?s-membrane)and(cataract)101キーワードごとの検索文献数を表示する.キーワードにより検索文献数が異なるが,医学中史雑誌とMedlineで同様の傾向であった.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006???の検索結果では,それぞれ6編および4編の文献がIOL挿入について述べていた(表3).永本らは,後?破損をきたした場合は,残余水晶体?の支持能力が十分であると判断される際に限っては,IOL挿入を行っても術後合併症は少なく,視力予後も良好であるとしている6).?胞様黄斑浮腫(CME)の発生率は,後?破損後にIOL挿入を行わなかった症例よりも,IOL挿入を行った症例のほうが低いとのことである.佐藤らは,後?破損をきたした場合は,残留核,皮質,脱出硝子体の処理を適切に行えば,IOL挿入を行ってもCMEの発生が52眼中3眼で生じているものの,他に重篤な合併症を認めていないとしている7).高瀬らは,後?破損をきたした症例に,経毛様体扁平部水晶体切除術と硝子体切除術とを行った後にIOL挿入を行った2症例について報告している8,9).術後最良視力を得るまでの期間は,術中合併症をきたさなかった症例に比べて数日遅延する傾向があったが,それ以外に重篤な術後合併症はきたさなかったとしている.鬼塚らは,後?破損をきたした症例に,前部硝子体切除を行った後にIOLを?外固定した11眼について報告している.これによると,全症例ともに術後視力は術前に比べて2段階以上改善しており,重篤な合併症はきたさなかったとのことである10).Yapらは,後?破損をきたした症例の術後経過を報告している.術後早期には角膜浮腫,眼圧上昇などを生じたとしている.しかし,IOLを挿入していても術中に適切な処置が行われていれば,平均26カ月後まで経過を追っても重篤な術後合併症はみられないとのことである11).原らは,後?破損をきたした症例に,IOL挿入を行った54眼中1眼にIOLの硝子体への落下を認めたと報告している12).しかし,その詳細については述べられていない.また,後?破損を生じた後にIOL挿入を行った症例と,術中合併症を生じなかった症例間の術後予後に差を認めないとのことである.Changらは,後?破損をきたした症例に対して,粘弾性物質を毛様体扁平部より注入して,水晶体の硝子体(37)表3後?破損についての文献の比較著者眼数術操作についての記載術後視機能についての記載問題点についての記載永本ら6)15眼内レンズ挿入の条件1.後?破損と前?の亀裂がつながっているのが1カ所以内2.Zinn小帯断裂が60?以内術後視力0.8以上眼内レンズ挿入群75.0%眼内レンズ非挿入群42.9%?胞様黄斑浮腫(CME)1/15眼佐藤ら7)52硝子体カッターを用いて前部硝子体の切除を行う術後視力は全例術前より改善CME3/52眼高瀬ら8,9)2経毛様体扁平部水晶体切除術と硝子体切除術を行う術後視力1.0術後最良視力を得るまでの期間が3~4日延長鬼塚ら10)11硝子体カッターを用いて前部硝子体の切除を行う術後視力は全例術前より改善硝子体が創口に嵌頓3/11眼瞳孔偏位1/11眼眼内レンズ偏位2/11眼Yapら11)44硝子体カッターを用いて前部硝子体の切除を行う長期予後は良好術後早期のみ角膜浮腫26/44眼原ら12)58術後視力は合併症のない症例と同様眼内レンズ硝子体中落下1/54眼Changら13)8粘弾性物質を毛様体扁平部より注入して硝子体への核落下を防止しながら水晶体や前部硝子体を行う術後視力0.5以上重篤な術後合併症なしOlsenら14)23重篤な術後合併症なしChanら15)155硝子体カッターを用いて前部硝子体の切除を行う前房レンズ挿入に比べて後房レンズのほうが視力予後が良い後?破損後にIOL挿入を行っても予後は総じて良好であるとの報告が多かった.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006腔内への落下を防ぎながら,水晶体や前部硝子体の処理を行う方法を報告している13).その後に引き続いてIOL挿入を行い,最低18カ月以上の経過観察を行っているが,重篤な術後合併症は認めなかったとしている.Olsenらは,白内障手術の1.6%の症例に後?破損を認めたとしている14).その後IOL挿入を行っているが,そのことが術後合併症の発生に寄与するとはしていない.Chanらは,後?破損をきたした症例の早期経過について報告している15).それによると,術後視機能が損なわれる要因の一つに前房レンズ挿入をあげているが,後房レンズに関しては前房の脱出硝子体の処理などを確実に行えば術後経過は良好とのことである.4.創口熱傷医中誌(キーワード:創口熱傷,白内障)およびMed-line(キーワード:thermal-burn,cataract)の検索結果では,計9編の文献が検索されたが,その後のIOL挿入について述べたものはなかった.5.虹彩断裂医中誌(キーワード:虹彩断裂,白内障)では1編の文献が検索されたが,その後のIOL挿入については述べていなかった.6.Zinn小帯断裂医中誌(キーワード:Zinn小帯断裂,白内障)およびMedline(キーワード:zonular-rupture,cataract)の検索結果では,それぞれ1編および2編の文献がIOL挿入について述べていた(表4).原らは,術中にZinn小帯断裂をきたした症例に対して,IOLを挿入した22眼について報告している.合併症に対して適切な処置を行えば,術後視力は合併症のない症例に比べて差がないとのことである12).Olsenらは,白内障手術の1.2%の症例に術中Zinn小帯断裂を認めたとしている14).その後IOL挿入を行っているが,そのことが術後合併症の発生に寄与するとはしていない.Avramidesらは,水晶体落屑症候群に対する白内障小手術において,術中13.09%の症例にZinn小帯断裂を認めたとしている16).IOL挿入が術後合併症の発生に起因するとはしていないが,このような症例に対しては適切な処置を行える技量のある術者が手術を行うことが望ましいとしている.7.インジェクターによる合併症医中誌(キーワード:眼内レンズ,インジェクター)およびMedline(キーワード:intraocular-lens,injec-tor)の検索結果では,それぞれ1編および4編の文献がIOL挿入について述べていた(表5).岩城らは,インジェクターを用いたIOL挿入時の合併症について報告している17).これによると,1.9%の症例にIOL損傷などの合併症が発生したとしている.その対処としては,支持部の損傷が軽度であった症例はそのまま眼内に留置し,それ以外の症例は摘出を行い,新しいIOL挿入を行ったとのことである.Olsonらは,インジェクターにてIOL挿入を行った際に,毛様溝に支持部が入ってしまった症例を報告しているが,すぐに安全に?内に挿入可能であったとしている18).Habibらは,インジェクターを用いたIOL挿入時に合併症を生じた5症例について報告している19).そのう(38)表4Zinn小帯断裂についての文献の比較著者眼数術操作についての記載術後視機能についての記載問題点についての記載原ら12)22術後視力は合併症のない症例と同様眼内レンズ硝子体中落下1/54眼Olsenら14)17重篤な術後合併症なしAvramidesら16)11適切な処置を行える技量のある術者が手術を行うことが望ましい術後視力7/10~10/10Zinn小帯断裂後にIOL挿入を行っても予後は総じて良好であるとの報告が多かった.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006???ち4症例はIOLの損傷で,いずれも摘出し新しいIOL挿入を行い,1症例は前房内にレンズが脱出してしまったが,すぐに後房内に挿入可能であったとのことである.Gohillらは,202眼にインジェクターを用いてIOL挿入を行い,そのうちの3眼にIOL損傷をきたし,1眼はレンズ挿入時に後?破損をきたしたと報告している20).しかし,レンズの損傷した症例に対しては新しいレンズを挿入し,後?破損をきたした症例に対しては硝子体の処理後にレンズ挿入を施行し,いずれも術後に重篤な合併症は認めなかったとのことである.8.Descemet膜?離医中誌(キーワード:Descemet膜?離,白内障)およびMedline(キーワード:Descemet?s-membrane,cataract)の検索結果では,それぞれ1編および8編の文献がIOL挿入について述べていた(表6).渡部らやPahorらは,白内障術後にDescemet膜?離が明らかになった症例に対して,ナイロン糸を用いてDescemet膜を角膜実質に縫着することで整復術を行い,良好な結果を得た症例について報告している21,22).Vastineらは,白内障術中にDescemet膜?離が明らかになった症例に対して,ナイロン糸を用いて整復術を行い,良好な結果を得た症例について報告している23).Nouriらは,白内障術中にDescemet膜?離をきたし,IOLを挿入した後に,縫合による整復および前房内への空気注入を行った症例について報告しているが,術後早期に軽度の角膜浮腫を認めたのみで,良好な術後視力が得られたとしている24).Boothらは,白内障術中にDescemet膜?離をきたし,(39)表5インジェクターによる合併症についての文献の比較著者眼数術操作についての記載術後視機能についての記載問題点についての記載岩城ら17)24支持部の損傷が軽度の症例はそのまま眼内に留置それ以外の症例は摘出し新しい眼内レンズを挿入Olsonら18)1毛様溝に支持部が入り,すぐに?内に挿入可能重篤な術後合併症なしHabibら19)5レンズの損傷した症例はすべて交換した前房内にレンズが脱出した症例は後房に戻した術後視力は全例術前より改善Gohillら20)4レンズの損傷した症例はすべて交換した後?破損をきたした症例に対しては硝子体の処理後にレンズを挿入術後視力6/6重篤な術後合併症なしインジェクターによる術中合併症に関する文献は,インジェクターによるIOL破損についての報告がほとんどであった.表6Descemet膜?離についての文献の比較著者眼数術操作についての記載術後視機能についての記載問題点についての記載渡部ら21)1空気・粘弾性物質を前房内に注入ナイロン糸による縫合術後視力1.0Pahorら22)1ナイロン糸による縫合術後視力0.9Vastineら23)3ナイロン糸による縫合重篤な術後合併症なしNouriら24)1ナイロン糸による縫合空気を前房内に注入術後視力20/25術後早期に軽度の角膜浮腫Boothら25)1空気を前房内に注入術後視力6/9Marconら26)15SF6を前房内に注入重篤な術後合併症なしMacsaiら27)3C3F8を前房内に注入重篤な術後合併症なしKremerら28)3SF6・粘弾性物質を前房内に注入重篤な術後合併症なしAssiaら29)1自然治癒Descemet膜?離後にIOL挿入を行っても予後は総じて良好であるとの報告が多かった.———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006IOLを挿入した後に空気を前房内に注入することにより治癒可能としている25).Marconらは,強角膜切開に比べて角膜切開でDes-cemet膜?離の発生率が高いとしている26).しかし,IOLを挿入してSF6(sulfurhexa?uoride)を前房内に注入することにより治癒可能としている.Macsaiらは,白内障術中にDescemet膜?離をきたし,IOLを挿入した後にC3F8(per?uoropropane)を前房内に注入することにより治癒可能としている27).Kremerらは,白内障術中にDescemet膜?離をきたし,IOLを挿入した後に粘弾性物質とSF6を前房内に注入することにより治癒可能としている28).Assiaらは,白内障術中にDescemet膜?離をきたし,IOLを挿入した症例が,数カ月後にDescemet膜?離が自然治癒した症例を報告している29).IV考察1.前?切開の失敗について今回検索した文献で,前?切開縁に亀裂が入った後にIOL挿入が禁忌であるという報告はなかった.CCCの成功はその後の術操作を安全に行うために必須と思われ,CCCが直接的・間接的に他の術中合併症の原因になる可能性がある.いずれの対象文献も安全にIOL挿入を行うためには,適切に核処理を行い,IOLを適切な方向に挿入すべきとしている.つまり,CCCの失敗が他の術中合併症の原因にならないよう十分な注意が必要と思われる.また,亀裂がその後の術操作によってより広がらないようにすることも同様に重要であろう.2.後?破損について対象文献のほとんどは,水晶体超音波乳化吸引中に後?破損をきたした症例についての報告であった.これらを比較すると,いずれの文献も後?破損後にIOLを挿入することを禁忌であるとはしていない.原らの報告で術後にIOLが硝子体中に落下したとの記載がある12)が,詳細については述べられていない.永本らの文献6)による,後?破損後にIOL挿入を行う条件を満たさない症例に,IOLを挿入した可能性も示唆される.各文献ともに,後?破損をきたしたときに重要なことは,①それ以上後?破損を広げない,②水晶体皮質・核を完全に取りきる,③前房内に脱出した硝子体を完全に処理する,④IOLを安全な位置に挿入する,というところでは概ね一致している.またChanらは,後房レンズ挿入は硝子体を硝子体腔内に留める意味からも,なるべく挿入したほうがよいとしている15).3.Zinn小帯断裂について参考文献のほとんどは,後?破損を生じたときと同様に,適切な処理を行った後に,しかるべき位置にIOLを挿入すれば術後に重篤な合併症をきたさないとしている.しかし,その適切な処理が確実に行えるかが重要であり,それ以上断裂の範囲を広げることなく,水晶体摘出を行うには十分な知識・技量が必要であろう.また,手術のどの段階でZinn小帯断裂が生じるかも,その後の操作中に別の術中合併症を併発する危険性を左右するものと思われる.4.インジェクターによる合併症について現在はさまざまなインジェクターが各IOL向けに開発されていて,従来は折りたたんで挿入されることの多かったfoldableIOLも,しだいにインジェクターにより挿入する機会が増えてきている.その利点として,鑷子を用いるときと比べて,①切開幅が小さい,②感染の予防を期待できる,③挿入時の前房の維持がしやすい,④術者が意図する位置にレンズを導きやすいなどがあげられている30)が,今回検討したようにインジェクター特有の合併症もある.そのインジェクターによる合併症についての文献は,眼球に対する損傷をきたしたものよりもIOL自体の破損をきたした報告が多かった.各文献ともIOLを交換する必要がある症例では,すべて無事に新しいIOLに交換可能であったとしていた.したがって,このような事態が生じた際には,損傷したIOLを摘出するだけでなく,新しいIOLを挿入することが望ましいと思われる.また,これら文献は2000年以前のものがほとんどで,それ以降はインジェクターによる合併症に関する発表はほとんど検索されなかった.このことは,現在は当時よりはインジェクターも改良されたことと,術者がインジェクターの取り扱いに慣れてきて(40)———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006???いることも関係しているものと考えられる.5.Descemet膜?離今回の対象文献は,いずれもDescemet膜?離後にIOLを挿入することを禁忌であるとはしていない.その対処としては,ナイロン糸でDescemet膜を角膜実質に縫着させるものや,手術終了時にタンポナーデ効果を期待して前房内に空気・ガス・粘弾性物質などを留置する方法が報告されている.いずれの報告も,重篤な術後合併症なく経過しているとしている.Descemet膜?離は白内障手術のどの過程でも生じうる合併症である.水晶体摘出中に器具の出し入れなどで創口断面に負荷がかかっている場合は,その時点までは術中合併症が顕著でなくても,その後のIOL挿入の操作自体がDescemet膜?離をひき起こす可能性があるので注意が必要であると考えられる.白内障手術は,さまざまな過程から構成されている.したがって,その術中合併症は多岐にわたる.今回は,一般的な術中合併症のみに焦点を当てて,それが生じた際のIOL挿入についての文献的考察を行った.その結果,合併症の種類は違っていてもそれに対する適切な処置を行うことが可能であれば,その後にIOLを挿入することが致命的な術後合併症の原因になるとの報告は今回検討した1,549編の文献中1編もなかった.問題がないとすれば,むしろ術後のQOVを重視すれば,適切な合併症に対する対処のもとにIOLを挿入したほうがよいであろう.検索を行うキーワードの設定により,他に検討する必要のある文献が多少ともあると思われる.今後さらなる検討を行いたい.おわりに医中誌およびMedlineによる文献的検証を行ったところ,白内障手術中に合併症を起こした場合に,合併症に対する適切な処置を行うことができれば,その後のIOL挿入を禁忌とするevidenceは認めなかった.文献1)HaighPM,LloydIC,LavinMJ:Implantationoffoldableintraocularlensesinthepresenceofanteriorcapsulartears.???9:442-445,19952)AssiaEI,LeglerUF,MerrillCetal:Clinicopathologicstudyofthee?ectofradialtearsandloop?xationonintraocularlensdecentration.?????????????100:153-158,19933)WassermanD,AppleDJ,CastanedaVEetal:Anteriorcapsulartearsandloop?xationofposteriorchamberintraocularlenses.?????????????98:425-431,19914)MasketS:Postoperativecomplicationsofcapsulorhexis.???????????????????????19:721-724,19935)HansenSO,CrandallAS,OlsonRJ:Progressiveconstric-tionoftheanteriorcapsularopeningfollowingintactcap-sulorhexis.???????????????????????19:77-82,19936)永本敏之,宮島弘子,木村肇二郎:後?破損・チン氏帯断裂と後房レンズ挿入について.???4:171-180,19907)佐藤宏,上条由美,高良由紀子ほか:後?破損後の処置と予後.眼科手術8:113-116,19958)高瀬正郎,矢那瀬淳一,栗原秀行:白内障手術時の後?破損に対する経毛様体扁平部処理.臨眼56:1143-1146,20029)高瀬正郎,矢那瀬淳一,譲原大輔ほか:白内障手術時における後?破損とその処理について.眼科手術13:421-425,200010)鬼塚尚子,久保田敏昭,松浦敏恵ほか:超音波白内障手術中に後?破損し前部硝子体切除を行った症例の術後成績.あたらしい眼科18:1551-1553,200111)YapEY,HengWJ:Visualoutcomeandcomplicationsafterposteriorcapsuleruptureduringphacoemulsi?cationsurgery.??????????????23:57-60,199912)原修哉,市川一夫,加賀達志ほか:耳側角膜小切開による日帰り白内障手術の術中合併症.臨眼57:743-746,200313)ChangDF,PackardRB:PosteriorassistedlevitationfornucleusretrievalusingViscoatafterposteriorcapsulerupture.???????????????????????29:1860-1865,200314)OlsenT,BargumR:Outcomemonitoringincataractsur-gery.?????????????????????73:433-437,199515)ChanFM,MathurR,KuJJetal:Short-termoutcomesineyeswithposteriorcapsuleruptureduringcataractsur-gery.???????????????????????29:537-541,200316)AvramidesS,TraianidisP,SakkiasG:Cataractsurgeryandlensimplantationineyeswithexfoliationsyndrome.???????????????????????23:583-587,199717)岩城久泰,宇多重員:Unfolderの問題点.眼科手術11:501-503,199818)OlsonR,CameronR,HovisTetal:ClinicalevaluationoftheUnfolder.???????????????????????23:1384-1389,199719)HabibNE,SinghJ,AdamsADetal:Crackedcartridgesduringfoldableintraocularlensimplantation.???????????????????????22:630-632,199620)GohillJ,BhamraJ:Unfolderlensinjectionsystemwithacrylicintraocularlenses:retrospectivestudy.???????????(41)———————————————————————-Page8???あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006????????????29:980-982,200321)渡部通史,堀田喜裕,陳秀郁ほか:白内障手術中に発生したDescemet膜?離の1症例.あたらしい眼科8:1801-1803,199122)PahorD,GracnerB:SurgicalrepairofDescemet?smem-branedetachment.?????????????25(Suppl):13-16,200123)VastineDW,WeinbergRS,SugarJetal:StrippingofDescemet?smembraneassociatedwithintraocularlensimplantation.???????????????101:1042-1045,198324)NouriM,PinedaRJr,AzarD:Descemetmembranetearaftercataractsurgery.????????????????17:115-119,200225)BoothFM,KurdianP,LiuH:RepositioningofDescemet?smembrane:acasereport.?????????????????12:341-343,198426)MarconAS,RapuanoCJ,JonesMRetal:Descemet?smembranedetachmentaftercataractsurgery:manage-mentandoutcome.?????????????109:2325-2330,200227)MacsaiMS,GainerKM,ChisholmL:RepairofDescemet?smembranedetachmentwithper?uoropropane(C3F8).??????17:129-134,199828)KremerI,StiebelH,YassurYetal:Sulfurhexa?uorideinjectionforDescemet?smembranedetachmentincata-ractsurgery.???????????????????????23:1449-1453,199729)AssiaEI,Levkovich-VerbinH,BlumenthalM:Manage-mentofDescemet?smembranedetachment.???????????????????????21:714-717,199530)谷口重雄:foldableIOL挿入法.超音波白内障手術ABC(大鹿哲郎編),p114-119,メジカルビュー社,2002(42)眼科学【監修】眞鍋禮三(大阪大学名誉教授)I.総論VIII.ぶどう膜XV.屈折・調節異常II.眼科診療室にてIX.水晶体XVI.光覚・色覚の異常III.眼瞼X.網膜硝子体XVII.全身疾患と眼IV.涙器(涙腺,涙道)XI.視路,瞳孔,眼球運動XVIII.眼のプライマリーケアV.結膜XII.眼窩XIX.眼治療学総論VI.角膜XIII.緑内障XX.付録VII.強膜XIV.斜視,弱視A.眼科略語集/B.眼科関連法律(法令)/C.リハビリテーション/D.主な眼科雑誌の紹介基礎と臨床との関連性を強く前面に打ち出し、単に眼科学の知識の羅列でなく、何故そうなるのかがわかる記載を心がけた。また、基礎編の記載でも必ず臨床を念頭においた書き方に努めることとした。教科書の内容になじまないトピックス的なものにも触れようと囲み記事として随所に配したが、勉強中の息抜きの読み物として楽しんでもらえれば幸いである。楽しみながら、そして考えながら「眼科学」を身につけることができる教科書として、広く親しまれることを願ってやまない次第である。(あとがきより)B5判2色刷り総674頁カラー写真・図・表多数収録定価23,100円(本体22,000円+税5%)メディカル葵出版〒113─0033東京都文京区本郷2─39─5片岡ビル5F振替00100─5─69315電話(03)3811─0544■内容内容■考える診療のために!あの名著が更にUp-To-Dateな情報を盛り込んで!待望の改訂版、登場!■疾患とその基礎■<改訂版>株式会社