———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS器具の挿入方向と隅角鏡下での器具の動きが一致する(図1a)のに対し,間接隅角鏡では一致しない(図1b)ため,鏡面下での器具の動きに慣れない限りは術者の意図しない器具の動きを呈することとなってしまう.特に隅角手術は前房内という限られた空間における手術であるため,意図せぬ器具の動きは角膜内皮や虹彩への直接的侵襲となるために合併症の危険を伴うこととなる.2.直接隅角鏡の欠点手術用隅角鏡としては従来よりThorpe型,Hoskins-Barkan型,Swan-Jacobs型(図2)などが用いられていはじめに緑内障診療において隅角検査は必要不可欠な検査であるが,緑内障手術においても隅角鏡の有用性は計り知れない.本項では手術用隅角鏡の種類と特徴,手術用隅角鏡を利用する術式,手術時に隅角鏡を使用する際のポイント,ならびに新しい手術用隅角鏡の開発の試みについて述べる.I手術用隅角鏡の種類と特徴1.鏡像と正立像先の項で述べられているように隅角鏡は,直接的に隅角を観察する「直接隅角鏡」と内蔵する鏡面に反射させる「間接隅角鏡」の2種類に大別される.実際の手術の際には隅角鏡下に手術器具を操作する必要があることから,鏡像よりも正立像のほうが自然な操作が可能である.したがって,一般的には手術用隅角鏡は直接隅角鏡であることが多い.図1には隅角鏡を通して手術を行う際の直接隅角鏡と間接隅角鏡の違いを示す.直接隅角鏡では(33)????*KazuhikoMori:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕森和彦:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学特集●隅角のすべてあたらしい眼科23(8):1009~1012,2006手術用隅角鏡???????????????????????森和彦*ba図1直接隅角鏡(a)と間接隅角鏡(b)図2Swan-Jacobs型隅角プリズム———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006るが,これらはいずれも直接隅角鏡に分類され,正立像で隅角を観察・操作できる利点をもつ.しかしながら直接隅角鏡は視軸に対して平行な方向から隅角を観察することができないという欠点も併せもつ.図3に直接隅角鏡と間接隅角鏡の光路図を示すが,手術用顕微鏡下に直接隅角鏡を用いて隅角を観察・操作するためには,必然的に眼球や頭部を傾斜させるか,手術用顕微鏡自体を傾ける必要がある.すなわち全周の隅角を確認するために,その都度,顕微鏡,眼球もしくは頭部を目的とする方向へ傾斜させねばならない(「みみの法則」:診たいほうを見てもらう.ちなみに間接型は「みみみの法則」:診たいほうのミラーを見てもらう)ために,手間と時間がかかるとともに結果として無駄な操作が増えることとなる.3.新しい手術用隅角鏡このような欠点を克服するため,筆者らは新しい手術用隅角鏡を考案し,実際の手術に応用してきている(図4).この隅角鏡には以下に示す2つの利点がある.第1の利点は,岩崎らによって開発されたダブルミラー隅角鏡のコンセプトをもとに鏡面を2枚内蔵したことである.これにより眼球や頭部もしくは手術用顕微鏡を傾斜させることなく視軸に対して平行な方向から隅角を観察・操作することが可能となった.さらに第2の利点として,隅角鏡を回転しても手術器具の位置が確実に把握できるように中央部の視野を確保した点がある.ダブルミラーを介した光路と中央部の光路の2つの光路が存在する(図5)ため,隅角をより明るく照明することができるのみならず,器具による邪魔な陰影も形成されなくなり,より視認性に優れた隅角像を得ることができる.すなわち,全周の隅角を眼球や頭部を傾斜させることなく観察・操作可能な隅角鏡としてきわめて有用である.II手術用隅角鏡を利用する術式つぎに実際に手術用顕微鏡を利用する術式とその利用法について述べる.緑内障手術において最も手術用隅角鏡を利用する可能性の高い術式としては,隅角切開術と隅角癒着解離術があげられる.1.隅角切開術(goniotomy)と隅角癒着解離術(goniosynechialysis)(図6)いずれも全周にわたって隅角を確認しながら切開もしくは癒着の解離を施行する必要がある.先に述べた「みみの法則」をもとに,眼球と頭部,顕微鏡を傾斜させながら耳側,鼻側,上側,下側の1象限ずつ行う.ダブルミラーを用いることができれば,傾斜が不要であるために単なる隅角鏡の回転のみで全周の操作が可能である.(34)図4新しい隅角鏡図3直接隅角鏡(左)と間接隅角鏡(右)の光路図図5新しい隅角鏡の光路図———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006????2.線維柱帯切開術(trabeculotomy)(図7)線維柱帯切開術成功のキーポイントとしては,プローブが早期穿破することなく確実にSchlemm管内に挿入されていることが重要である.そのためには手術用隅角鏡を用いて隅角側からプローブ挿入部を観察し,線維柱帯を通してプローブの金属光沢を確認する(図7)ことが最も確実である.症例によってはプローブの曲率とSchlemm管の曲率がぴったり合致,もしくは線維柱帯部の抵抗が非常に強いためにプローブの回転が困難な場合がある.このような場合,隅角側からプローブ先端部に向かって切開を加える(図8)ことによって容易にプローブの回転を完成させることができる.3.その他の手術濾過胞再建術の際のレクトミーのwindowの状態のチェック,隅角を鈍的に擦過除去するgoniocurettage,線維柱帯を高周波によって切除するTrabectome,iStentとよばれるSchlemm管?前房間のマイクロステントなど,隅角マイクロサージェリーを行う際には手術用隅角鏡が必要である.III手術時に隅角鏡を使用する際のポイント従来型の隅角鏡を隅角手術,特に隅角癒着解離術に用いる際のポイントについて以下に述べる.第1かつ最大のポイントは,視認性の確保である.隅角の微細構造がしっかりと見えている状態で癒着解離を行えば,過剰な操作による隅角後退や前房出血の頻度を低下させることができるのみならず,器具の接触による角膜内皮の障害も防ぐことができる.角膜と隅角鏡の間隙に血液が迷入するだけでも視認性が著しく損なわれるため,可能な限り出血させずに癒着解離に入る必要がある.あるいは粘弾性物質を置いたり,常に水を流し続けたりするなど,接触面に血液が迷入しない方策が必要である.白内障同時手術の際には,可能な限り白内障手術よりも先に隅角癒着解離を行ったほうが,角膜の状態が良好であるためにより視認性に優れているということができる.(35)図6隅角癒着解離術図7線維柱帯切開術図8切開が困難な際の手技———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006(36)第2のポイントは,前房の保持である.前房という非常に限られた空間で器具を操作する必要があるため,粘弾性物質のなかでもできれば分子量の大きいものを用い,前房深度を十分に確保することが必須である.癒着解離操作中に房水が抜けることで前房が浅くなるのを防ぐために,可能な限り前房水のみならず後房水も抜いて粘弾性物質で置換しておく必要がある.浅前房での無理な癒着解離は角膜内皮障害のリスクが高まるのみならず,術後の炎症を惹起しやすくなることから再癒着の頻度が高くなる.第3のポイントは,しっかりした傾斜である(図9,10).これは第1のポイントである視認性の向上にもつながることである.耳側・鼻側の癒着解離の際には頭部と眼球を目的とする方向へ十分に傾斜(「みみの法則」)させれば隅角は確実に観察・操作可能である(図9).一方,上側・下側の癒着解離の際には頭部ならびに眼球の傾斜のみでは不十分なことが多く,手術台ごと全身を傾斜させるか手術用顕微鏡自体を傾斜させる必要がある(図10).以上,3つのポイントさえ十分押さえれば,隅角手術はそれほどむずかしい手術ではない.文献1)IwasakiN,TakagiT,LewisJMetal:Thedouble-mirrorgonioscopiclensforsurgeryoftheanteriorchamberangle.???????????????115:1333-1335,19972)AlwardWLM:PrinciplesofGonioscopy,Coloratlasofgonioscopy,p17-25,TheFoundationoftheAmericanAcademyofOphthalmology,20013)JacobiPC,DietleinTS,KrieglsteinGK:Techniqueofgoniocurettage:apotentialtreatmentforadvancedchronicopenangleglaucoma.???????????????81:302-307,19974)MincklerDS,BaerveldtG,AlfaroMRetal:Clinicalresultswiththetrabectomefortreatmentofopen-angleglaucoma.?????????????112:962-967,20055)BahlerCK,SmedleyGT,ZhouJetal:Trabecularbypassstentsdecreaseintraocularpressureinculturedhumananteriorsegments.???????????????138:988-994,2004図9耳・鼻側のポイント頭部・眼球の傾斜図10上・下側のポイント顕微鏡のtilting眼球の上転(下転)Chinup(down)