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新しい治療と検査シリーズ163.メトトレキセート硝子体投与-原発性眼内悪性リンパ腫の治療として-

2006年7月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS?バックグラウンド原発性眼内悪性リンパ腫は,原発性中枢神経系悪性リンパ腫の1亜型でまれな疾患であり,通常はステロイド加療に抵抗する慢性の後部ぶどう膜炎を呈し,仮面症候群とよばれる.この疾患に対する治療として,おもに放射線治療と高容量のメトトレキセートを含む全身化学療法が行われてきたが,近年,眼局所の化学療法ということでメトトレキセートの硝子体投与が新たな選択肢として注目されるようになってきた1,2).?新しい治療方法1997年に原発性眼内悪性リンパ腫の治療にメトトレキセートの硝子体投与が安全かつ有効であることが報告され,その後の2002年の報告では16例26眼の原発性眼内悪性リンパ腫の治療に,再発した病変も含めて100%の寛解率を得たことが示された3,4).この数年で急激にこの治療法が浸透してきており,わが施設でも第一選択としてメトトレキセートの硝子体投与を行っている.?使用方法(治療の実際)以下のような硝子体注射を,導入療法として週2回×1カ月間,強化療法として週1回×1カ月間,維持療法として月1回×1年間行う.<硝子体注射の方法>①メトトレキセート400?gを0.05m?(あるいは0.1m?)に溶解したものを準備しておく.②手術時と同様に結膜?の洗浄,消毒を行う.③点眼麻酔をして開瞼器で開瞼後,まず前房穿刺(あるいは硝子体液吸引)を行う.④30ゲージ注射針にて,①を毛様体扁平部より硝子体に投与する.⑤生理食塩水で十分洗浄し,抗生物質入りの眼軟膏を塗布する.③では,注射前に低眼圧にすることで注射後に薬剤が眼外に漏れないようにしている.採取した硝子体液はサイトカイン解析で治療効果の判定に用いることができる.④の際に1/2インチ針を用いると眼内に針が当たることはなく,硝子体出血や網膜?離のリスクを避けることができる.治療効果の判定は,硝子体内細胞の数,治療前後の硝子体液サイトカイン濃度の変化,網膜浸潤病変の状態などを指標とできる.硝子体液のインターロイキン-10(IL-10)は悪性リンパ細胞から産出される1,2)ので,治療後に硝子体液IL-10の値が感度未満に低下すれば寛解と判断してよい.表1は当科でメトトレキセート硝子体内投与を第一選択として行った5症例における硝子体液サイトカイン濃度の推移であるが,全例で治療後のIL-10が感度未満となった.また症例1ではメトトレキセート硝子体投与によって速やかに網膜浸潤病巣が治癒した(図1).副作用として高頻度に角膜上皮障害が生じるが,点眼や眼軟膏で治癒しない場合や角膜輪部障害がみられた場合は,導入療法の週2回の注射を週1回に減らしたほうがよい(図2).角膜障害は1カ月に一度の注新しい治療と検査シリーズ(57)163.メトトレキセート硝子体投与─原発性眼内悪性リンパ腫の治療として─プレゼンテーション:曺麗加大阪大学大学院医学系研究科脳神経感覚器外科学(眼科学)コメント:後藤浩東京医科大学眼科学教室表15症例における硝子体液サイトカイン濃度の推移症例RorL治療前硝子体液IL-10/IL-6*1(pg/m?)治療後硝子体液IL-10/IL-6(pg/m?)経過観察期間(治療後)*31R4,870/57.6─*2/40.623カ月(M)L9,130/80.2─/3529M2R880/30.8─/9.631ML─/5.48M3R19.0/14.0─/27.46ML2,730/80.4─/32.223M4L4,080/280─/9.817M5R1,220/16─/14.419ML1,340/10.0─/5.76M*1IL-10:インターロイキン-10,IL-6:インターロイキン-6.*2─は,測定感度未満(≒0)を表す.*32006年6月現在.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006射頻度になると自然に治癒する.過去の報告では白内障の進行,黄斑症,硝子体出血,視神経萎縮,無菌性眼内炎などの副作用が問題となっているが,当科では現在,全例が白内障手術後であることもあり,角膜障害以外の副作用は生じていない.?本方法の良い点本治療法の良い点は,悪性リンパ腫が再発した場合もくり返し行えるという点と,治療の副作用が可逆的でコントロールできるという点であろう.放射線治療は有効であるが,一度しか行えず,放射線網膜症や難治性のドライアイなど非可逆的な副作用を生じる恐れがある1).当初,初発病変には放射線照射を行い,再発病変にはメトトレキセートの硝子体注射・全身投与を行うのが一般的であったが,最近の報告では初発病変においてもメトトレキセートの硝子体注射を全身化学療法とともに実施することが治療の第一選択として述べられているものもある2).しかしながら,本治療の歴史は浅く,長期的な副作用の有無,生命予後改善への寄与については今後の報告を待たねばならない.文献1)ChanCC,WallaceDJ:Intraocularlymphoma:updateondiagnosisandmanagement.??????????????11:285-295,20042)Levy-ClarkeGA,ChanCC,NussenblattRB:Diagnosisandmanagementofprimaryintraocularlymphoma.???????????????????????????19:739-749,20053)SmithJR,RosenbaumJT,WilsonDJetal:Roleofintra-vitrealmethotrexateinthemanagementofprimarycen-tralnervoussystemlymphomawithocularinvolvement.?????????????109:1709-1716,20024)FishburneBC,WilsonDJ,RosenbaumJTetal:Intravit-realmethotrexateasanadjunctivetreatmentofintraocu-larlymphoma.???????????????115:1152-1156,1997(58)?本方法に対するコメント?眼内悪性リンパ腫に対する治療の,少なくとも現時点における一般的な方法は眼局所への放射線照射である.一方,メトトレキセートの硝子体投与は比較的新しい治療法であるが,ここに紹介されているように切れ味もよく,有効な治療法であることは間違いない.放射線治療後の再発例などでは,これが唯一の治療法といっても過言ではない.ただし,メトトレキセート硝子体投与が放射線療法などを差し置き,第一選択の治療法として位置づけてよいのか否かは議論の分かれるところであろう.頻回な注射を必要とする現在のレジメについては検討の余地があるかもしれない.また,角膜障害をはじめとする有害事象についても十分な認識をもっておくべきである.なお,治療の効果判定に眼内液のIL-10測定は合理的な方法であるが,前房水のサイトカイン測定値はあてにならないことがあり,硝子体液を用いた評価が重要である.その採取に際しては合併症を生じて合併症を生じて本末転倒にならぬよう,細心の注意が求められる.図1表1の症例1の右眼眼底周辺部写真経過中,黄白色の網膜浸潤病巣が出現したが,メトトレキセート硝子体投与により治療後4カ月には網膜色素上皮の萎縮を残して治癒した.治療開始後4カ月治療開始後1カ月治療前図2メトトレキセート投与による角膜障害A:角膜びらん.B:糸状角膜炎.C:角膜輪部障害.Cのような所見が見られたら,メトトレキセート投与の頻度を減らすべきである.ABC

涙点プラグ:涙液油層減少を伴うドライアイ患者に対しての涙点プラグ挿入術-涙液油層治療の補助としての涙点プラグ-

2006年7月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS●涙液油層減少を伴うドライアイに対しての涙液油層治療涙液は,油層・水層・ムチン層の3層構造をとると考えられており,涙液油層には涙液の過剰な蒸発の防止,涙液層の安定性に寄与,光学的に平滑な涙液表面の形成,瞬目における潤滑,眼瞼縁におけるバリアという機能がある.このため涙液油層が減少しているとドライアイがひき起こされると考えられる.涙液油層の減少などの評価は従来困難であったが,涙液干渉像観察装置DR-1?(興和)が開発され1),その画像解析による涙液油層薄膜厚み測定が可能となってきている.これはナノメーターレベル薄膜の定量技術であるため“涙液ナノテクノロジー”と名付けた2).DR-1?画像でdarkgray-brown干渉色を呈する症例では涙液油層が薄くなっており(涙液油層減少),横井のDR-1?グレードの5および1または2の範疇に入る.グレード5は油層とともに涙液分泌が非常に減少している重症のドライアイである.グレード1,2の涙液油層減少には(正常者では明るいgray-brown干渉色を呈する)にはo?cedryeye(VDT症候群を伴うドライアイ.びまん性のマイボーム腺閉塞も高頻度にみられる)3),閉塞性マイボーム腺機能不全(MGD)(涙液分泌量正常なもの)4),Stevens-Johnson症候群などの重症ドライアイでMGDを合併しかつ比較的眼表面wetnessの保たれているもの5),フルオレセイン染色軽度の涙液分泌減少dryeye,shortBUT(tear?lmbreakuptime)dryeyeなどのドライアイ症例が含まれている.これらのうち,閉塞性MGDには油性点眼6),o?cedryeye3)および,Stevens-John-son症候群などの重症ドライアイでMGDを合併しかつ(55)涙点プラグセミナー監修/坪田一男後藤英樹鶴見大学歯学部眼科学講座4.涙液油層減少を伴うドライアイ患者に対しての涙点プラグ挿入術─涙液油層治療の補助としての涙点プラグ─近年,DR-1?を用い涙液油層減少を伴うドライアイの診断が可能となっており(涙液ナノテクノロジー),涙液油層治療がドライアイ治療の重要なオプションとなってきている.涙液油層治療に際しては適切な量の眼表面涙液貯留量が重要であり,ドライアイ症例で涙液貯留量が低下している場合,その増加をもくろむ手段としての涙点プラグ挿入術について述べた.ホワイトメディカル提供図1O?cedryeye患者のDR-1?画像涙液油層厚み40nm.ドライアイの治療で点眼治療と下涙点プラグを行ったあとの涙液干渉像.図2図1の症例に極少量オフロキサシン眼軟膏眼瞼縁投与後のDR-1?画像涙液油層厚みは若干のむらが見られるが,中心で90nm.眼の乾燥症状スコアも改善した.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006(00)比較的眼表面wetnessの保たれているドライアイ5)には,極少量オフロキサシン眼軟膏眼瞼縁投与が有効であった.これらは局所油性分補充療法であり,施行後に涙液油層が(厚みに関しては)健常化するため“涙液油層治療”とよんでいる.●涙液油層治療の補助としての涙点プラグ現在ドライアイの治療は人工涙液点眼投与,ヒアルロン酸点眼投与を行い,効果が少なければ涙点プラグ挿入へ進むことが多い.Sj?gren症候群など上下涙点プラグ挿入が著効するタイプ(鼻刺激Schirmerテストが低下しているドライアイ,多くは横井のグレード4または5)や,下方または上方のみのプラグで効果のある症例もあるが,臨床上は,点眼治療に反応せず,上下涙点プラグ挿入では流涙がひき起こされ,かといって上下いずれかのみのプラグではあまり効果がないというタイプのドライアイが未解決の問題として残っている.このタイプのドライアイを詳細に観察すると上記の涙液油層減少を伴ったドライアイが多く含まれている.このタイプのドライアイでSchirmerテストが正常(涙液水分量十分)であれば上記の涙液油層治療へ進むが,Schirmerテストの異常(涙液分泌低下)を伴う場合,投与した油成分の水層上での伸展が不十分となる場合が多い(電車理論)7).これらの症例に点眼療法─下方プラグ─涙液油層治療と治療を追加していくと,油層治療により正常に近い厚みをもった涙液油層が形成され,眼乾燥感の症状も改善することが多いため,現在涙点プラグを涙液油層治療前のオプションとして利用している(このような症例にプラグを施行せず,直接涙液油層治療を行ったらいいのではないかというアイデアもあるが,油層治療はドライアイ治療としてはまだオーソドックスではないため点眼療法,涙点プラグをまずやってそれでも不十分な場合,追加するようなステップを踏んでいる.油層治療はある程度の眼表面涙液貯留量がないと効きにくいのではないかというのが現段階での印象である).通常,下方のプラグのみではSchirmerテストが正常化しないため,眼表面涙液貯留量の正常化までは期待されないが,この治療のメカニズムとしては,涙液メニスカスの微妙な変化から涙液油層の伸展が助けられているのではないかと推測している.文献1)YokoiN,TakehisaY,KinoshitaS:Correlationoftearlipidlayerinterferencepatternswiththediagnosisandseverityofdryeye.???????????????122:818-824,19962)GotoE,DogruM,KojimaTetal:Computer-synthesisofaninterferencecolorchartofhumantearlipidlayer,byacolorimetricapproach.??????????????????????????44:4693-4697,20033)後藤英樹,村戸ドール,松本幸裕ほか:極少量オフロキサシン眼軟膏眼瞼縁投与によるドライアイの治療.第29回角膜カンファランス,徳島,2005年2月17日4)GotoE,TsengSC:Di?erentiationoflipidtearde?ciencydryeyebykineticanalysisoftearinterferenceimages.???????????????121:173-180,20035)GotoE,DogruM,MatsumotoKetal:Successfultearlipidlayertreatmentforseveredryeyepatientsbylow-doselipidapplicationonthefull-lengthlidmargin.Inter-nationalOcularSurfaceSociety,FortLauderdale,FL,2006.4.296)GotoE,ShimazakiJ,MondenYetal:Low-concentrationhomogenizedcastoroileyedropsfornonin?amedobstruc-tivemeibomianglanddysfunction.?????????????109:2030-2035,20027)川島素子,後藤英樹:眼の乾きと涙液油層─マイボーム腺脂質,涙液蒸発,涙液油層およびDR-1?.あたらしい眼科22:295-302,2005

眼感染症:アデノウイルス結膜炎迅速診断キット(免疫クロマトフラフィー法)

2006年7月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS■アデノウイルス結膜炎の診断流行性角結膜炎と咽頭結膜熱がヒトアデノウイルス(HAdV)による結膜炎と理解されているが,いずれも臨床病名であり,実際には他のウイルスが原因となっているものもある.原因ウイルスにより治療法が異なることに加え,HAdVの場合は他者への感染予防が必要であるため,現在では正確に病因診断を行ったうえでアデノウイルス結膜炎と診断することが求められる.本稿のテーマの免疫クロマトグラフィー法を用いたキットは,日本ではアデノチェック?が1997年に初めて発売され,15分という短時間で判定できることや,特異度100%と陽性例では確定診断ができることなどから現在広く普及している1).現在は数社よりキットが発売されているが,すべて本法を用いているキットである.■原理一つのメンブレン上に,①金コロイド標識マウス抗HAdV抗体,②抗HAdV抗体,③抗マウス免疫グロブリン抗体の3つの抗体を有するものである.アデノチェック?を例にすると,まず患者結膜を滅菌綿棒でよく擦過し,擦過物を付属の抽出液に懸濁させる.抽出液をプレートに滴下すると,すぐ先に①の抗体があり一緒にメンブレン上を移動,HAdVが存在すると①との間に抗原抗体反応が起こり結合する.その後抽出液は②抗体の位置にまで流れ,HAdVが存在すると①,ウイルス粒子,②が結合した免疫複合体を形成,①の金コロイドが凝集して赤紫色のラインが形成される.HAdVが存在しなければこの反応は起こらない.一方,HAdVと反応しなかった①の抗体はそのままメンブレン上を流れていき,③の抗体と結合してここにも赤紫色のラインが形成される.すなわちHAdVが存在する場合は2本のラインが,存在しない場合は1本のラインが形成される.③のラインがないときは反応自体がうまくいっていないことを意味するため,検査は無効である(図1,2).(53)38.アデノウイルス結膜炎迅速診断キット(免疫クロマトグラフィー法)眼感染症セミナー─スキルアップ講座─●連載?監修=大橋裕一井上幸次有賀俊英砂川市立病院眼科アデノウイルス結膜炎はウイルス性結膜炎の原因として約90%を占め,外来診療において頻繁に遭遇する疾患の一つである.ありふれた疾患ではあるが,ひとたび感染が拡大すると院内感染など大きな問題をひき起こすため,迅速かつ正確に診断する必要がある.迅速診断キットは有力なツールであり,積極的な利用が望まれる.図2アデノチェック?,キャピリア?アデノ・アイの実際の陽性例上:アデノチェック?,下:キャピリア?アデノ・アイ.判定部(SもしくはT),コントロール部(C)ともに赤紫色のラインが確認される(両キットで展開方向が逆なため,キャピリア?は逆さまにして撮影した).図1免疫クロマトグラフィー法の模式図金コロイドは凝集すると赤紫色の発色を呈する.図では?eeの金コロイド粒子も赤く示しているが,実際には分散状態では無色である.展開方向展開方向アデノウイルス金コロイド標識抗アデノウイルス抗体検体液中にアデノウイルスが存在する場合検体液中にアデノウイルスが存在しない場合抗アデノウイルス抗体抗マウス免疫グロブリン抗体———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006■キットの実際と陽性率アデノチェック?の一つの欠点としては,陽性率が60%前後と決して高くはないことがあった2).その後2003年に日本ベクトン・ディッキンソン社からより高感度のキャピリア?・アデノ(現キャピリア?アデノ・アイ,以下キャピリア?と略)が,また同時期にアデノチェック?の改良版も発売され,約70~80%と感度の向上が図られている.現在この2種のキットがいわゆる第二世代の迅速診断キットとして用いられている(表1).■アデノチェック?とキャピリア?アデノ・アイ添付文書によれば,アデノチェック?の検出感度は1×104粒子/m?,キャピリア?は1×103粒子/m?となっているが,筆者らが行った感度調査ではアデノチェック?73.5%3),キャピリア?66.4%4)とむしろアデノチェック?のほうが高くなっていた.ただ,両者には実験方法に差があり,キャピリア?で陽性率80%程度との報告もある5).後に行った臨床検体でのreal-timePCR(polymerasechainreaction)法によるDNAコピー数検査では,両キットにほとんど差はなく,同一条件での実験ではほとんど差はないのではと考えられる.両キットの大きな差は使用する抗体の違いであり,アデノチェック?は捕捉抗体としてポリクローナル抗体を,キャピリア?はモノクローナル抗体を用いている.この違いにより,血清型間の感度の差などが生じることが考えられ,特にモノクローナル抗体を用いたキャピリア?は抗原認識部位が1カ所であるため,この部位に変異のあるウイルスが出現すると感度の低下が起こりうる反面,親和性の高いウイルスでは少量でも非常に強く反応することが考えられる.そのため臨床検体を用いた実験で得られる感度差は,そのときに流行しているウイルスと抗体との親和性の違いによるものと考えられる.共通する問題点としては,いまだ20~30%の偽陰性が存在するということである.咽頭検体では眼科検体よりも良好な感度が得られており,両者の差の検討でさらなる感度上昇の鍵を得られるかもしれない.今後の発展に期待したい.いずれにしても両者とも陽性例では確実に診断できるキットであり,アデノウイルス結膜炎の正確な診断のためには積極的に利用していきたいものである.文献1)UchioE,AokiK,SaitohWetal:Rapiddiagnosisofade-noviralconjunctivitisonconjunctivalswabsby10-minuteimmunochromatography.?????????????104:1294-1299,19972)齋藤和香,内尾英一,青木功喜:免疫クロマトグラフィー法によるアデノウイルス結膜炎の迅速診断.臨眼51:1073-1076,19973)有賀俊英,三浦里香,田川義継ほか:改良版アデノチェックの臨床的検討.臨眼59:1183-1188,20054)大口剛司,有賀俊英,三浦里香ほか:アデノウイルス迅速診断キット「キャピリアアデノ」の検討.臨眼59:1189-1192,20055)竹内聡,中川尚,石岡みさきほか:第二世代のアデノウイルス迅速診断キットの評価.第41回日本眼感染症学会総会,札幌,2004(54)表1現在発売されているアデノウイルス結膜炎迅速診断キットキャピリア?アデノ・アイアデノチェック?イムノカードST?アデノウイルスアデノテストAD?販売元わかもと製薬㈱参天製薬㈱㈱テイエフビー㈱シード発売元日本ベクトン・ディッキンソン㈱明治乳業㈱製造元㈱タウンズSAScienti?c,Inc.MeridianBioscience,Inc.アドテック㈱包装5テスト10テスト5テスト10テスト反応時間15分10~15分(30分以内)10~15分15分捕捉抗体モノクローナル抗体ポリクローナル抗体モノクローナル抗体モノクローナル抗体■コメント■以前はアデノウイルス結膜炎の診断は臨床所見のみに頼ってなされていたが,この迅速キットが開発されて,実際の臨床現場ですぐに病因診断がなされるようになった.特に最近社会的に問題になっている院内感染における役割は重要で,未然に防止するための診断力の強化,あるいは院内感染が生じたときにその拡大を防ぐための入院患者全員のスクリーニングが可能である.筆者も述べているように今後,さらに感度の高いキットが開発されることが望まれる.鳥取大学医学部視覚病態学井上幸次

緑内障:新しい眼圧計アイケアR

2006年7月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS圧入式のSchi?tz眼圧計を除き,現在繁用されている眼圧計はすべて,角膜を一定面積扁平化させるのに要する外力から眼内圧を推測する圧平式眼圧計(applanationtonometry)である.これに対して最近,新しい原理や測定方法に基づく眼圧計が相次いで開発され,臨床応用されつつある.その一つが,induction/impacttonometerまたはreboundtonometerとよばれるアイケア?(icareTA01,Tiolat社製)である.アイケア?は図1のように,携帯式の眼圧計で,ソレノイドとよばれるコイルを内蔵している.まず,先端にはプラスチックカバーがついた,ディスポーザブルの鉄製の細いプローブを装着する.電源を入れると自動的にキャリブレーションが行われる.被検者の眼前数cmの距離でスイッチを握ると,電流により磁場が生じて,プローブが角膜に向け発射される.プローブは角膜に当たって減衰し反跳するが,そのときのプローブの動きの変化で,コイル内に生じた磁場変化を電気信号に変換して眼圧を測定する1).数秒のうちに連続6回測定され,その平均がディスプレーされる.プローブと眼の距離や角度が正しくないため測定が不正確な場合は,エラー表示が出されるので再検する.アイケア?による眼圧測定には表面麻酔が不要なので麻酔薬アレルギーのある患者に使用しやすいし,プローブが細いので瞼裂の狭い個人でも測定が可能である.携帯式なので,車椅子の個人の測定が可能である反面,前後に傾けるとプローブの装着不良が生じるので仰臥位の(51)●連載?緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄73.新しい眼圧計アイケア?中村誠神戸大学大学院医学系研究科器官治療医学(眼科学)アイケア?は,携帯式で,表面麻酔薬不要の眼圧計である.プローブが角膜にぶつかる動きのモーメントから眼圧を推測するため,induction/impactまたはreboundtonometerとよばれる.Goldmann圧平式眼圧計に比べ平均0.6~1.8mmHg高く眼圧を測定する.図1アイケア?左:装置全景.右:眼圧測定中の状態.赤丸印はプローブ先端の拡大.図2アイケア?とGoldmann眼圧計のBland-Altmanプロット横軸に両者の平均,縦軸に両者の差を取り,2機種の一致性をみた.直線は差の平均,破線は95%一致性限界.(文献5より改変引用)6420-2-4アイケア?とGoldmann眼圧計の差(mmHg)アイケア?とGoldmann眼圧計の測定値の平均(mmHg)051015202530図3中心角膜厚のアイケア?とGoldmann眼圧計の測定値差に及ぼす影響r2=0.202(p=0.0012)で,中心角膜厚が厚くなるほど2機種の差は大きくなる.(文献5より改変引用)6420-2-4アイケア?とGoldmann眼圧計の差(mmHg)中心角膜厚(μm)0450500550600650———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006患者には使用しにくい弱点がある.Goldmann圧平眼圧計とアイケア?の眼圧測定の一致性をみた最近の研究2~5)によれば,アイケア?はGold-mann眼圧計より全体として0.6~1.8mmHg高く眼圧を測定する(図2).その差は眼圧の値によらずほぼ一定であるので,Goldmann眼圧計との互換性はあるようである.これに対し,同じように携帯式であるトノペン?とは平均の差はないが,眼圧が高いときはアイケア?のほうが,低いときはトノペン?のほうが眼圧を高く測定するので,注意が必要である5).圧平式眼圧計は,中心角膜厚をはじめ,前眼部のさまざまな生物物理特性に影響されることが知られている.これに対し,筆者らの調べたところでは,アイケア?も,同様に角膜厚の影響を受け,角膜厚が厚いほど眼圧は高くなった5).そして,角膜が厚いほどGoldmann眼圧計に比べ眼圧をより高く測定する傾向があった(図3)5).先に述べたようにアイケア?はプローブの減衰率から眼圧を推測するので,角膜が厚かったり,硬かったりすると眼圧を高めに見積もる可能性があると思われる.このようにその特性と限界を知っておく必要はあるが,Goldmann眼圧計と互換性があり,短時間に簡便に測定できる携帯式眼圧計として,今後臨床の場に普及することが期待される.文献1)KontiolaAI:Anewinduction-basedimpactmethodformeasuringintraocularpressure.?????????????????????78:142-145,20002)Martinez-de-la-CasaJM,Garcia-FeijooJ,CastilloAetal:Reproducibilityandclinicalevaluationofreboundtonometry.?????????????????????????46:4578-4580,20053)vanderJagtLH,JansoniusNM:Threeportabletonome-ters,theTGDc-01,theICAREandtheTonopenXL,com-paredwitheachotherandwithGoldmannapplanationtonometry.???????????????????25:429-435,20054)FernandesP,Diaz-ReyJA,QueirosAetal:ComparisonoftheICare?reboundtonometerwiththeGoldmanntonometerinanormalpopulation.???????????????????25:436-440,20055)NakamuraM,DarhadU,TatsumiYetal:Agreementofreboundtonometerinmeasuringintraocularpressurewiththreetypesofapplanationtonometers.????????????????(inpress)(52)☆☆☆

屈折矯正手術:新しいScheimpflug原理を用いた前眼部解析装置の屈折矯正手術への導入

2006年7月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLSLASIK(laser???????keratomileusis)などの屈折矯正手術を行うにあたっては,keratectasiaや不完全フラップなどの合併症を予防するために,術前の角膜形状をできるだけ詳細に把握することが重要である.特に屈折矯正手術における最も大きな術後合併症のひとつであるkeratectasiaは,角膜の菲薄化による前方突出のために近視化や不正乱視の発生をひき起こす.この発症のリスクとして,術後に角膜が薄くなりすぎることや,術前から円錐角膜の素因をもっていることがあげられている1).したがってこれらの合併症を予防するためには,術前の角膜厚や角膜形状解析装置でしか発見できないような軽度円錐角膜(円錐角膜疑い)のスクリーニングが重要となる.これらのスクリーニングには,プラチドリングの反射像から角膜形状を解析する,ビデオケラトスコープでは角膜後面形状や角膜厚分布の情報が得られないため,スリット光をスキャンすることにより得られた複数のスリット像を元に解析する,スリットスキャン式角膜形状解析装置による角膜後面形状や角膜厚分布の情報もチェックすることがより確実である.これまで臨床使用されていたスリットスキャン式角膜形状解析装置はオーブスキャンのみであったが,近年回転式Scheimp?ugカメラの原理を用いた前眼部解析装置であるペンタカム?が使用できるようになった.ペンタカム?は内蔵したScheimp?ugカメラを180?回転しながらスキャンすることにより,角膜前後面,虹彩および水晶体の三次元構築を行うことができる.ペンタカム?は縦方向のスリット光を左右にスキャンするオーブスキャンと比較して角膜中心付近の情報量が多いと考えら(49)●連載?屈折矯正手術セミナー監修=木下茂大橋裕一坪田一男74.新しいScheimp?ug原理を用いた前眼部解析装置の屈折矯正手術への導入中川智哉前田直之大阪大学大学院医学系研究科屈折矯正手術ではkeratectasiaなど合併症予防のため,術前に角膜厚や円錐角膜疑いをスクリーニングすることが重要である.新しいScheimp?ug原理を用いた前眼部解析装置であるペンタカム?は,角膜厚測定や円錐角膜の自動評価が可能であり,屈折矯正手術の術前評価に有用である.図1角膜厚マップ周辺の黒点の部分は強膜にかかり信頼性に乏しい部分であるが,広い範囲で測定可能である.カーソルをあてた任意の点で角膜厚を表示できる.図2LASIKの術前,術後における角膜厚の差画面左に術前,中央に術後,右に術前後の差が表示されている.LASIKにより角膜中央が薄くなっているのがわかる.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006れ,オートスタートとオートアラインメントや細分化された信頼係数の評価により,測定結果の再現性を高める工夫がなされている.ペンタカム?のスリット光は角膜輪部を越えてスキャンされるため測定範囲が広い.ペンタカム?による角膜厚測定のマップを示す(図1).角膜中央のみならず任意の点での角膜厚が計測でき,術前と術後の比較も可能である(図2).ペンタカム?の中心角膜厚は,検者間や検査間での再現性が高く,超音波パキメータとの差もおよそ6?m程度であったと報告されており2),比較的信頼性が高いと考えられる.しかしまだ多数例による評価ではないので,当面は超音波パキメータや角膜内皮スペキュラマイクロスコープなど,他の角膜厚測定装置との併用が望ましいと考えられる.筆者らの施設におけるLASIK術前中心角膜厚の基準は,術前に500?m以上,術後に400?m以上で,フラップ下の実質ベッドを250?m以上残せるもの,としている.ビデオケラトスコープを用いて角膜前面形状を解析することにより円錐角膜の自動診断を行うシステムは広く普及しているが,角膜後面形状の自動解析はあまり普及していない3).しかし前面形状や角膜厚は正常範囲であっても術後にkeratectasiaを発症する例があり,後面形状の異常についても関心が高まっている.角膜後面形状については,最もフィットする球面との差を示した高さデータのマップを見て判断することが必要である(図3).ペンタカム?には2つの判定基準に基づく円錐角膜の自動診断プログラムがある(図4).第1は,周辺から中央にかけての角膜の菲薄化をグラフ化して評価するプログラムであり,円錐角膜のような局所的菲薄化を検出できる.第2は,非対称性などの係数やFourier解析などから自動診断を行うプログラムであり,円錐角膜の程度判定や他の角膜異常を鋭敏に検出可能であるとしている.ペンタカム?は新しい機器であり,今後種々の応用が期待される.しかしまだ論文報告は十分とはいえず,より多数例での評価が必要であると考えられる.文献1)RandlemanJB,RussellB,WardMAetal:RiskfactorsandprognosisforcornealectasiaafterLASIK.??????????????110:267-275,20032)BarkanaY,GerberY,ElbazUetal:CentralcornealthicknessmeasurementwiththePentacamScheimp?ugsystem,opticallow-coherencere?ectometrypachymeter,andultrasoundpachymetry.???????????????????????31:1729-1735,20053)BesshoK,MaedaN,KurodaTetal:Automatedkerato-conusdetectionusingheightdataofanteriorandposteriorcornealsurfaces.????????????????(inpress)(50)図3円錐角膜疑い症例の4面マップ画面上段左に角膜前面の高さデータ,上段右に角膜後面の高さデータが表示されている.前後面ともに角膜中心より下方が最も高くなっているのがわかる.図4円錐角膜の自動診断プログラム画面上が菲薄化の程度を判定するプログラムであり,赤線で示された測定結果が正常よりも急激な菲薄化を示している.画面下には種々の係数と円錐角膜の重症度評価が表示されている.

眼内レンズ:Wieger靱帯の術中観察

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———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS白内障手術中におけるWieger?帯(図1)1,2)の重要性についてはわが国では吉富,大木,鳥井らによってたびたび強調されてきた.インドシアニングリーン染色液が後房に回って偶然Wieger?帯が線状に確認された藤田の報告(2002ASCRS)もある.今回筆者らは南によって改良されたMiyakeviewで豚眼のWieger?帯と思われる組織を確認できた(図2).動画では水晶体後?の挙動に一致してこの組織が動く様子がよく確認された.筆者らの施設(三好眼科)で昭63年4月から平成18(47)三好輝行*1吉田博則*2*1医療法人節和会三好眼科*2高知大学医学部眼科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎239.Wieger?帯の術中観察水晶体後?と前部硝子体膜が堅固に接着している部位があり,この部をWieger?帯とよぶ.豚眼の解剖所見および白内障手術中Wieger?帯と思われるラインを確認できた症例を呈示し,あわせてinfusionmisdirectionsyndrome(IMS)の発症機序についても述べた.図1Wieger?帯の解剖模式図Wieger?帯は,正式にはhyaloidcapsularligamentofWieger.図2豚眼におけるWieger?帯と思われる組織(赤丸内)水晶体後?にかなり強固に接着していた.図3眼内レンズ挿入後のWieger?帯(ライン)眼位,眼球運動によってもこのラインの位置は変わらない.図4I/A中に確認されたWieger?帯(ライン)4時から6時を回って10時まで確認できた.眼位,眼球運動によってもこのラインの位置は変わらない.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006(00)年5月まで施行した白内障手術約27,000例のなかで現在までにWieger?帯を捉えられたものは15例あったが,すべてWieger?帯によると思われるラインを部分的に確認することができた症例のみである(図3,4).これらはZinn小帯が弱くかつWieger?帯が部分的に外れていた,すなわち部分前部硝子体?離が生じていた例と思われる.このような症例ではPEA(水晶体乳化吸引)またはI/A(灌流吸引)中に灌流液が容易にBerg-er腔に回り,infusionmisdirectionsyndrome(IMS)を生じ後?破損を起こす可能性が高い(図5)3).IMSによる破?を防ぐにはCole核操作具やMフックなどでPEA術中に後?を強制的に押し下げて,PEAスペースを確保するとよい(図6).映像として捉えることがむずかしいWieger?帯を確認することは,後?の動きを確実に認識するきわめて重要なステップの一つとなり,後?破損などの合併症を防ぐ一助となると思われる.文献1)HammingNA,AppleD:Anatomyandembryologyoftheeye.PrinciplesandPracticeofOphthalmology(edbyPey-manGA,SandersDRetal),p3-68,Saunders,PA,19802)猪俣孟,吉富文昭,沖坂重邦:ベルガー腔とウイガー?帯.臨眼54:1034-1035,20003)MackoolRJ,SirotaM:Infusionmisdirectionsyndrome.????????????????????????19:671-672,1993図5IMSの発症機序Zinn小帯が弱く,かつWieger?帯が一部でも外れている(部分前部硝子体?離の生じている)症例では,灌流液は密でないZinn小帯の間隙を速やかに通過して後房(Berger腔)にまわる.核片が大きい間は後?の上昇を核片自体がブロックしているが,核片が小さくなると後?は上昇し,この時点でサージが起こると容易に破?する.図6IMSによる後?破損の防ぎ方PEA後半,Cole核操作具やMフックなどで後?を強制的に押し下げて核乳化吸引を安全に行えるスペースを確保する.

コンタクトレンズ:角膜解析装置の現状

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———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS角膜,とりわけその表面は眼の光学系の最大屈折要素であり,角膜解析といえば表面形状計測のことを意味することが多い.最近は屈折測定やさらには屈折系の収差測定装置と合体させた複合装置,あるいは光切断で前房の三次元モデリングを行う装置などが登場し,角膜解析装置はますます複雑なものになってきている.●表面形状解析のほとんどはプラチド像解析1990年以降の屈折矯正手術の普及を背景に,世界中で数多くの角膜形状解析装置が販売されるようになった.図1に1987年に筆者らが先駆的に発売したリアルタイム計測装置を示すが,これ以降後述する最新の複合機能装置まで,ほとんどの機器は角膜表面による反射像(プラチド像)に基づいて表面形状計測を行っている.この方法の原理は角膜前方に同心円パターン(プラチド盤)を配置し,角膜表面によるその反射像を撮影して同心円の歪みや間隔を読み取って形状を数値的に割り出すというもので,いわば多重リングケラトメーターというべきものである.結果の表示は屈折力(=曲率)分布をカラーで表現した,いわゆるカラーマップが一般的で角膜形状計測の代名詞になっている.●カラーマップを解釈するうえでの注意点カラーマップはプラチド像のリング間隔を計測した結果をカラー変換したもので,乱視や屈折矯正術後の中心部の扁平化などを強調して表現する.プラチドを素顔とすれば,カラーマップは化粧した顔であり,これを解釈するうえではいくつかの注意点がある.その1は,コンピュータはリングの読み取りをしばしば間違えることである.図2に示すように隣り合うリングが合わさって再び分離したり,リングが蛇行する場合などもあり完全な自動読み取りを行うのはほとんど不可能である.間違った読み取りに基づくカラーマップを信じることは,付けまつ毛を本物と信じるごとしである.注意点その2は,カラーマップよりもプラチド像のほうがわかりやすい場合がしばしば存在することである.図2にその例を示すが,表面に傷やコンタクトレンズの圧迫痕がある場合,涙液層に異常のある場合などがこれに相当し,プラチド像を見るほうが角膜の状態を理解しやすい.注意点その3は,コンタクトレンズデザイン設計などを目的に正確(45)丸山節郎㈱サンコンタクトレンズコンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純TOPICS&FITTINGTECHNICS265.角膜解析装置の現状図1初期のリアルタイム計測装置サンコンタクトレンズ社:PHORM200.1987年.フォトケラトスコープにCCDビデオカメラを搭載している.リアルタイムでプラチド像読み取りおよび解析を行うタイプの先駆的な装置.図2プラチド像とカラーマッププラチド像の自動読み取りがきわめて困難な例.またカラーマップよりもプラチド像のほうがわかりやすい例でもある.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006(00)な形状再現(モデリング)を行おうとすれば,ピントを正確に合わせる,プラチド盤と角膜間の距離を十分大きくするなどの条件が必要になることである.形状測定の結果が本当に正確か?の検証は意外にむずかしく,筆者らはフルオパターンのシミュレーションと実際の比較を行って検証した.前記条件はケラトメーターの測定機構を想起すれば当然のことなのだが,カラーマップではあまり問題にされない.これは使用目的の大半が絶対値の正確性を必要としないという事情によるものと思われる.●光切断による前房モデリング装置図3は最近の前房モデリング装置で,多方向の光切断像をもとに前房全体の形状再現(モデリング)を行うが,その機能の一環として角膜表面形状のマッピングを行う.この装置以外の形状マッピングはすべてプラチド像に基づくものであり,その点からきわめて斬新な装置といえる.反射像によらずに測定精度を確保することは困難であり,高精細デジタルカメラおよび平滑化処理でマップ機能を実現していると思われるが,技術上の詳細は不明である.プラチド像の場合は進行した円錐角膜のように反射光が発散して撮影系に光が入らない部分の解析は不可能だが,本装置のように散乱を利用する場合はその制限が相当少なくなることが期待される.●トレンドは複合機能化角膜形状計測機についての近年の主要なトレンドはオートレフなどと一体化するハイブリッド化のようにみえる.図4はレフケラと機能を一体化した例だが,さらに屈折収差解析を行ったり,屈折力のマップ表示を行うなどますます複雑な機能付加が進行中である.角膜形状測定に関しては,機構の簡単さから今後ともプラチド像をベースにした形式が主流であろうと考えられるが,リング読み取りの間違いを減らすこと,情報源であるプラチド像をより明瞭に記録することなどが今後とも継続する課題であろう.図3最近の前房モデリング装置OCULUS社/中央産業貿易:ペンタカム.角膜の光切断像から前房モデリングを行う.角膜表面のマッピング機能があり,プラチド像に依存しないおそらく唯一の形状測定装置.図4最近の複合計測装置サンコンタクトレンズ社:PR-7000.レフケラ機能と形状測定機能を一体化したもの.

写真:ヘルペス眼瞼炎

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———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS(43)田聖花東京歯科大学市川総合病院眼科写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦266.ヘルペス眼瞼炎①②③図2図1のシェーマ①:皮疹,一部痂皮化している,②:臍窩,③:発赤.図1上眼瞼内眼角側にみられた皮疹中央に臍窩を伴い,発赤した丘疹を認めた.図3図1と同一症例の球結膜所見充血が非常に強く,当初流行性角結膜炎(EKC)も疑われた.瞼縁にびらんも認める.図4図1と同一症例のフルオレセイン所見角膜輪部近くの球結膜に不規則な形のびらんを数カ所認める.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006(00)症例:55歳,女性.右眼の充血,眼脂,掻痒感があり近医を受診した.アレルギー性結膜炎あるいは流行性角結膜炎(epidemickeratoconjunctivitis:EKC)を疑われてガチフロキサシン点眼,フルオロメトロン点眼およびプレドニゾロン軟膏を処方され,1週間継続するも改善がみられず,当科紹介受診となった.近医初診時,患側の顎下リンパ節腫脹と球結膜のびらんが認められていた.図1~4に呈示したような特徴的な水疱性皮疹を認めたため,ヘルペス眼瞼炎を疑い,アシクロビル眼軟膏を開始し,10日間で治癒した.ヘルペス眼瞼炎には単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV)と帯状ヘルペス(varicella-zostervirus:VZV)によるものとがある.VZVの場合は三叉神経の支配領域に一致した皮疹を呈し,また眼瞼腫脹や眼周囲の頭痛が強いことが多く,鑑別は比較的容易である.HSVの場合は眼周囲の皮疹は三叉神経の分布域に一致しない.1型でも2型でも起こりうるが,大半は1型である.小児の初感染型と三叉神経への潜伏感染後の再発型とがある.まれに成人の初感染例もある.初感染型では口内炎や口唇ヘルペスの合併や,発熱などの全身症状を伴うことが多い.再発型では全身症状を伴わないことが多い.耳前リンパ節や顎下リンパ節の腫脹を伴うことがある.皮疹は発赤隆起し,臍窩を伴った水疱性皮疹を呈するのが特徴である(図1).疼痛はVZVの皮疹に比べると軽い.瞼縁の丘疹はびらんを呈する.急性濾胞性結膜炎を合併することが多くEKCとの鑑別が重要である.ときに結膜潰瘍(びらん)を伴うことがあり(図4),診察時にフルオレセイン染色を行うのが有用である.治療はアシクロビルの軟膏(ゾビラックス?軟膏)が基本である.瞼縁の皮疹や結膜所見の合併がある場合は眼軟膏を使用する.1日5回から開始し,改善に応じて回数を減らす.混合感染予防に抗生物質の点眼薬を1日3回併用する.ステロイドは併用しないのが原則である.この点からもEKCとの鑑別が大切である.呈示例も近医でEKCとして治療されていた(図3).原因検索にはウイルス抗原検出が手軽である.病巣擦過物をスライドグラスに塗布し,蛍光抗体法によってHSV1型と2型を鑑別することができるキットがあり,数時間で結果が得られるため,有用である.HSVは不安定なため,採取後すぐ検査室に供するようにするとよい.皮疹はしだいに痂皮化して,多くの場合瘢痕を残さず治癒し,予後はよい.文献1)Pavan-LangstonD:Herpeticinfections.TheCornea,3rded,p181-215,LittleBrownandCompany,Boston,19942)下村嘉一:単純ヘルペス,帯状ヘルペス.結膜クリニック,p20-24,医学書院,1997

バイオフィルム感染症

2006年7月31日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSさて,細菌がその種の保存のために数を増やす活動において,付着・定着というプロセスが非常に重要である.なぜなら,彼らにはほとんど運動器官が存在せず,細胞に寄生して移動することができないので,浮遊しながら足場を求め,たまたま何かに引っかかって付着すると,必死になって定着を試みる.バイオフィルムは,この定着において活躍する,いわば“バイオの糊”なのである.2.形を変えるバイオフィルムバイオフィルムは,七変化する.Glycocalyxははじめ微小な突起を形成する(図1)が,それは次第に長さと粘性を増していき,菌同士を接着させる糊のような役割を果たす.この“糊”によって付着・定着が確実となり,細菌は安心して増殖することができる.問題は定着した後,である.仮に増殖が旺盛に行われたとしても,何らかの理由で菌数が減少する方向に向かうことがある.自然界では水などの物理的な力がそれに相当する.そんな状況に置かれたときglycocalyxは,次第に強度を増し,菌体を保護する“鎧”となる(図2).IIバイオフィルム感染症とは1.いわゆる古典的感染症細菌が生体に入ると,付着・定着し増殖して菌塊(コロニー)を形成する.これが感染の成立であり,これによって生体に炎症反応が起こることが,細菌感染症(古はじめにバイオフィルム形成が関与する感染症という概念をCostertonら1)が提唱してから,すでに20年近い年月がたった.いまやバイオフィルム感染症は,日常臨床において広く認知された疾患概念となっている.バイオフィルム感染症のなかには,バイオマテリアルが関連しているものが多く,さまざまなバイオマテリアルを使用する眼科領域においてもバイオフィルム感染症の存在が報告された2).コンタクトレンズ(CL)は眼科領域で広く用いられるバイオマテリアルの一つであるが,他のバイオマテリアルと同様に,使用したCL上に形成されたバイオフィルムに関する症例報告3,4)があり,実験的にも確認された5,6).最近馴染み深くなった疾患概念ではあるが,再度その詳細を整理するとともに,CLとの関連,そして,今後CLを取り巻く環境とどのように関わっていくかを考えてみたい.Iバイオフィルムの概念1.バイオフィルムとはバイオフィルムとは本来,細菌などの微生物が増殖をしていく過程で菌体外に産生される物質で,これは細菌の生態においてきわめて生理的で,種の保存のうえで大切な物質である.その実態はglycocalyxという菌体外多糖である.(37)???*YukoKamei:東京女子医科大学東医療センター眼科〔別刷請求先〕亀井裕子:〒116-0011東京都荒川区西尾久2-1-10東京女子医科大学東医療センター眼科特集●新しいコンタクトレンズの展望あたらしい眼科23(7):879~883,2006バイオフィルム感染症??????-?????????????????亀井裕子*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006典的感染症)の発症である(図3).感染症に対して,生体の感染防御機構が働いて細菌の攻撃に成功すると,病巣は徐々に退縮していく.2.バイオフィルムが関与する感染症しかし仮に,このような感染防御機構による細菌の撃退が不完全に終わって,細菌が「ひそかに生き残ってしまう」としたらどうだろうか.細菌を完全に撃破したと“勘違いして”いるので,すでに感染防御反応は撤収してしまっている.つまり,生体は細菌に対して無防備な状況になったことになる.この“隙”を細菌は見逃さない.再び増殖を始め,新たなコロニーをここかしこに作り始めるに違いない.バイオフィルムは実のところ,細菌同士を接着させるだけでなく,細菌が「あたかも死滅してしまった」かのように,感染防御機構を“だます”うえでも重要な役割を演じている(図3).前述のように,バイオフィルムは“糊”や“鎧”に形を変えることができ,この“鎧”こそが,感染防御機構の攻撃をかわし,その身を護るための無敵の城壁となっている.バイオフィルムに覆われたコロニーは,生存していることを気づかれないように息を潜めている.そして,感染防御機構の撤退を確認するや否や,今度は“鎧”を脱いで増殖を始める.このように,感染防御機構の手を逃れて生き延びた細菌が,増殖に適した環境では仲間を増やし,過酷な環境ではバイオフィルムに護られて増殖せずに生存するサイクルをくり返すと,生体内には慢性的な感染が持続することになる.(38)図1表皮ブドウ球菌に形成されたバイオフィルムGlycocalyxの突起(矢印*1).糸状のバイオフィルム(矢印*2)は硬く変化する(矢印*3).*1*2*3図2黄色ブドウ球菌に形成されたバイオフィルム糸状のバイオフィルム(矢印*1)は硬い膜となっている(矢印*2).*1*2図3古典的感染症とバイオフィルム感染症バイオフィルム感染症は,コロニーがバイオフィルムに覆われることで感染防御反応から逃れ,静かに増殖できる感染様式である.古典的感染症浮遊菌増殖攻撃増殖阻止死滅感染防御系/薬剤バイオフィルム静かな増殖エスケープ環境好転侵入/増殖浮遊菌バイオフィルム感染症———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006???3.バイオフィルムを作る細菌基本的に細菌はすべて,バイオフィルムを作る能力をもつ8)といわれているが,いわゆる“バイオフィルム形成能”は菌種や株によっても異なるといわれている.CL装用者に起こる角膜感染症の代表的起炎菌9)である,緑膿菌やブドウ球菌も,もちろんバイオフィルム産生能がある5~8).表皮ブドウ球菌は代表的な結膜?常在菌の一つであるが,やはりバイオフィルムを産生する5,6,8).IIIバイオフィルムとバイオマテリアルバイオマテリアルの役割は,付着・定着の足場の提供にある7).「GuidelineforthePreventionofSurgicalsiteInfection1999」には,手術部位感染(surgicalsiteinfection:SSI)の危険性は『汚染した細菌量×毒力/宿主の抵抗力』であると記されている.量的細菌汚染が組織1g当たり105以上になると,SSIはさらに著しく増加する.ところが仮にここに異物,たとえばシルク縫合糸が存在すると,組織1g当たり100個のブドウ球菌でも感染を起こしうると記載されている10).さらにバイオマテリアルには,足場として適した素材,形状がある.本来細菌は平滑な面よりもいびつな面を好む5,11).眼内レンズ(IOL)ではレンズに形成された傷,ホールやループの付け根,水晶体?に接する部分など(図4)に,バックルでは溝や内腔をもつものや,ポアが大きいラフな素材に,縫合糸ではナイロンより,シルクのような縒り糸のほうに付着しやすい(図5).涙点プラグや涙道留置用チューブは,管もしくはくぼみが存在する.構造上,ウォッシュアウトをうけにくく,内部に細菌が付着しやすい(図6).CLの表面への付着は構造的要素よりレンズ素材の荷電や傷などの影響を受ける6).このようにして定着のための足場を得た細菌は,体液によるウォッシュアウトを受けにくくなり,限りなく増殖を続けることができるのである.IVCLとバイオフィルム1.バイオフィルム形成に必要な条件細菌がCLに付着して増殖する過程で,バイオフィルムを形成することがある.CLが細菌の付着に必要な足場となっていることは間違いないが,装用中は通常,瞬(39)図4眼内レンズ上に付着した細菌図58-0シルク糸上に形成された黄色ブドウ球菌のコロニー図6涙道留置用チューブの内腔に形成された細菌の塊細菌同士が無数に付着しているのがわかる(右下は拡大図).———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006目や涙液によるウォッシュアウトを受けているので,付着することはできても盛んに増殖することがむずかしい環境であると考えたほうがよい.つまり,涙液によるウォッシュアウトが低下する環境が関与していると考えられる.実は細菌が増殖するチャンスは,必ずしも眼表面だけではない.むしろ,付着・定着と増殖は,別の場所で成立することもありうる.すなわち,非装用時,保管時の環境の問題である.保管に使用するレンズケース内で細菌が増殖すると,増殖した細菌はCL上でも増殖し,バイオフィルムを形成するに至る可能性が高い.CLにおける細菌バイオフィルム形成は,角膜に細菌感染を起こす危険性を高めるだけでなく,アカントアメーバなど他の微生物を接着させる足場となっているという報告もある12).2.CL素材の影響CLの素材によってバイオフィルム形成は異なるのであろうか.筆者らの実験6)によれば,ソフトコンタクトレンズ(SCL)がガス透過性ハードコンタクトレンズよりもバイオフィルムが形成されやすい傾向にあり,SCLに対する形成は高含水率のほうが低含水率より強かった.Bruinsmaら13)は接触角の異なる2種類のハイドロゲルSCLで緑膿菌の接着強度を比較したところ,CL表面が疎水性ほど強く接着すると報告した.Henriquesら14)は,連続装用ハイドロゲルSCLと終日装用ハイドロゲルSCLとで緑膿菌と表皮ブドウ球菌の接着能を比較したところ,連続装用ハイドロゲルSCLにおける接着のほうが終日装用ハイドロゲルSCLにおけるそれよりも強い傾向にあり,連続装用ハイドロゲルSCLが疎水性で終日装用ハイドロゲルSCLが親水性であることに起因すると述べている.Catalanottiら15)も,SCLと表皮ブドウ球菌と黄色ブドウ球菌のスライム産生能を調べた報告のなかで,レンズ表面が疎水性であるほど産生能が高いと報告した.CL素材と細菌の接着能やバイオフィルム形成との関連は,種々の報告があるものの,CLに含まれる微量素材の違いや,表面の帯電,その他,さまざまな要因が関与している可能性があり,一定の傾向を導き出すに至っていない.今後のさらなる検討が待たれるところである.3.レンズケアの影響レンズケアは,CLに付着した細菌を除去するために必要な作業であるが,この作業が十分に行われない場合,残存した細菌が増殖してバイオフィルムを形成しやすくなると考えられる.Grayら16)は,回収したレンズケースで微生物の混入が確認されたもののうち,75%が過酸化水素消毒後のケースであったと報告した.したがって,仮にCL自体に付着した細菌をほぼ100%除去できたとしても,レンズケース内で保管している間に,ケースに付着して増殖した9,17)細菌がCLに付着して増殖し,ケース内でバイオフィルムを形成する18)可能性がある.Vバイオフィルム対策1.細菌の除去微量の菌でもCLに残存していれば,増殖してバイオフィルムを形成するきっかけとなる.まずは,確実に菌を減らすための手段として,こすり洗いと消毒によって100%除去を目指す.2.レンズケースの管理消毒後のケース内は無菌ではない16).過酸化水素消毒は,ケース内で中和が完了すると消毒効果がなくなる19)ので,時間の経過とともに細菌が増殖することが知られている.一方,マルチパーパスソリューションは,ケース内に消毒薬が充?された状態で保管されるものの,菌種によっては増殖を抑えられないことがある.したがって,レンズケースは常に洗って乾かし,定期的に交換することが推奨される16,20).3.素材の開発細菌が付着しにくい素材の検討が行われているが,種々の報告12~15)があるものの,付着阻止100%と保障された素材がない.今後の開発が待たれる.(40)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006???(41)4.薬剤の開発現在上市されているケアソリューションには,界面活性剤を使用することで細菌の増殖抑制を図るものが多い.SCLのケアには消毒用剤を用いるが,消毒効果が高い薬剤は細胞毒性が高く,角結膜障害が少ない消毒剤は消毒効果に問題があるなど,それぞれに利点・欠点がある.ケアに用いるソリューションにバイオフィルム形成を抑える作用をもつ物質として,非ステロイド系消炎剤(サリチル酸ナトリウム21),ジクロフェナク22)など)の効果が報告されているが,消毒剤以外の成分が消毒剤を補うだけの効果があるのか,さらなる検討が必要であろう.おわりにCLは常に細菌汚染にさらされており,バイオフィルム感染症発症の危機にあるといって過言ではない.新しい素材やケア用品の開発は,CLユーザーに利益をもたらしている一方で,細菌汚染のリスクを高めている可能性もある.今後,細菌汚染を防止してバイオフィルム形成を抑制するような,優れた素材が出てくることを期待したいところではあるが,まずは微生物学の基本に立ち,細菌を付着させないための最大の努力を怠らないことが重要である.付着した細菌を完全に除去すること(CLの洗浄,消毒),さらには再付着を防止すること(レンズケースの管理)が2本柱である.すなわち,レンズケアこそバイオフィルムの形成を阻止する最も重要な対策といえる.文献1)CostertonJW,ChengKJ,GesseyGGetal:Bacterialbio?lmsinnatureanddiseases.??????????????????41:435-464,19872)ElderMJ,StapletonF,EvansEetal:Bio?lm-relatedinfectionsinophthalmology.???9:102-109,19953)SlusherMM,MyrikQN,LewisJCetal:Extended-wearlenses,bio?lm,andbacterialadhesion.????????????????105:110-115,19874)工藤昌之,針谷明美,上野聰樹ほか:連続装用コンタクトレンズに観察された細菌バイオフィルム.臨眼56:1129-1132,20025)林立飛,宮尾洋子,三田哲子ほか:眼科医療材料のバイオフィルム形成.あたらしい眼科13:1885-1889,19966)亀井裕子,栗原理恵,三田哲子ほか:コンタクトレンズにおけるバイオフィルム形成.日コレ誌39:143-147,19977)小林宏行:細菌バイオフィルムの臨床.臨床科学30:931-937,19948)秋山尚範,鳥越利加子,森下佳子ほか:皮膚科領域のbio-?lm感染症.化学療法の領域10:1489-1494,19949)原二郎,秦野寛:コンタクトレンズと感染.あたらしい眼科12:883-337,199510)MangramAJ,HoranTC,PearsonMLetal:Guidelineforpreventionofsurgicalsiteinfection,1999.?????????????????????????????20:247-278,199911)山本直樹,高坂昌志,井上孝ほか:眼内レンズにおける実験的バイオフィルムの形成.生物試料分析22:157-162,199512)SimmonsPA,TomlinsonA,SealDV:TheroleofPseudo-monasaeruginosabio?lmintheattachmentofAcantham-oebatofourtypesofhydrogelcontactlensmaterials.?????????????75:860-866,199813)BruinsmaGM,vanderMeiHC,BusscherHJ:Bacterialadhesiontosurfacehydrophilicandhydrophobiccontactlenses.????????????22:3218-3224,200114)HenriquesM,SousaC,LiraMetal:AdhesionofPseudo-monasaeruginosaandStaphylococcusepidermidistosili-cone-hydrogelcontactlenses.?????????????82:446-450,200515)CatalanottiP,LanzaM,DelPreteAetal:Slime-produc-ingStaphylococcusepidermidisandS.aureusinacutebacterialconjunctivitisinsoftcontactlenswearers.?????????????28:345-354,200516)GrayTB,CursonsRT,SherwanJFetal:Acanthamoeba,bacterial,andfungalcontaminationofcontactlensstoragecase.???????????????79:601-605,199517)WilsonLA,SawantAD,SimmonsRBetal:Microbialcon-taminationofcontactlensstoragecasesandsolutions.???????????????110:193-198,199018)針谷明美,工藤昌之,上野聰樹ほか:ガス透過性ハードコンタクトレンズのレンズケースのバイオフィルムの観察.臨眼55:485-488,200119)亀井裕子:コールド消毒の利点と欠点.あたらしい眼科15:311-316,199820)亀井裕子:コンタクトレンズケアの指導要領.月刊眼科診療プラクティス4:62-63,200121)FarberBF,HsiehHC,DonnenfeldEDetal:Anovelantibio?lmtechnologyforcontactlenssolutions.??????????????102:831-836,199522)PerilliR,MarzianoML,FormisanoGetal:Alternationoforganizedstructureofbio?lmformedbyStaphylococcusepidermidisonsoftcontactlenses.??????????????????49:53-57,2000

海外のマルチパーパスソリューションの現状

2006年7月31日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS説参照)のスタンドアローンテスト(standalonetest)一次基準に適合し,人工汚れを加えたときも微生物活性が著明に影響されず,さらに,洗浄効果も示すという条件をクリアしたものにFDA(FoodandDrugAdminis-tration)が承認を与えたものである.実際には,“no-rub”表示の製品でも,こすり洗いをしたほうが消毒,洗浄効果が高まることが証明されており1),FDAをはじめ多くの処方医は,“no-rub”表示があってもこすり洗いを行うことを薦めている.IIMPSに含まれるおもな成分1.防腐剤・消毒剤現在のMPSに使用される消毒剤は塩化ポリドロニウム(polyquaternuim-1)と塩酸ポリヘキサニド〔poly-hexametylenebiguanide(PHMB):polyaminopropylbiguanide,polyhexanideともよばれる〕の2種類がほとんどである.Polyquaternuim-1は分子量の大きな(MW~7,500,サイズ~22.5nm)陽イオン重合体で,長鎖分子構造がレンズ基質内に蓄積するのを防ぐ.OPTI-FREE?,OPTI-ONE?,OPTI-FREE?????????,OPTI-FREE?RepleniSHTMなどのAlcon社製品に使用されている.PHMBの分子量(MW~2,400,サイズ8.0~15.0nm)はpolyquaternuim-1より小さいが,高含水SCLのポアサイズ(3.0nm)よりははるかに大きい.強い陽性荷はじめにアメリカでは,第一世代の防腐剤による化学消毒法を経て,1988年にいわゆるマルチパーパスソリューション(multi-purposesolution:MPS)が承認され,現在ではソフトコンタクトレンズ(SCL)に対して使用される消毒法としてMPSは約90%以上を占めている.当初のMPSはレンズ汚れを除去するために専用クリーナーや酵素剤を併用することが薦められたが,より簡便なケアシステムを求めて改良が続けられ,現在では専用クリーナーを併用するものは少なく,MPSによる洗浄(こすり洗い)さえも不要な“no-rub”と謳うものが増えてきた.洗浄効果だけでなく,さらに消毒効果を高め,SCLのドロップアウトの最大の原因とされる乾燥感による装用感不良を改善するために,新しくさまざまな化学物質を溶液中に処方配合したMPSが使用され始めている.一方で,アレルギーや過敏反応をはじめ,特定のレンズ材料と特定のMPSの組み合わせによる角膜ステインの発生など,MPSの生体安全性についても注目されている.さらに,最近,最新のMPSによる角膜感染症の異常増加と,その製品の製造・販売中止という事件が発生し,MPSの開発競争に警鐘が鳴らされている.IMPS,MPDS,No-rub表示海外では“no-rub”「こすり洗い不要」と表記した多くのMPSが市場にある.これは,ISO14729(用語解(31)???*YukioMizutani:水谷眼科診療所〔別刷請求先〕水谷由起夫:〒450-0003名古屋市中村区名駅南1-24-30名古屋三井ビル本館地下1F水谷眼科診療所特集●新しいコンタクトレンズの展望あたらしい眼科23(7):873~878,2006海外のマルチパーパスソリューションの現状???????????????????????????????????-?????????????????水谷由紀夫*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006(32)表1最新MPSの成分商品名メーカー成分OPTI-FREE?????????AlconPOLYQUAD?0.001%(防腐・消毒剤)ALDOX?0.0005%(防腐・消毒剤)クエン酸ナトリウム(洗浄剤・緩衝剤)Tetronic?1304(水濡剤)(非イオン界面活性剤)AMP-95(洗浄成分)塩化ナトリウム(等張化剤)ホウ酸(緩衝・防腐剤)ソルビトール(粘稠剤)EDTA0.05%(防腐補助・キレート剤)OPTI-FREE?RepleniSHTMAlconPOLYQUAD?0.001%(防腐・消毒剤)ALDOX?0.0005%(防腐・消毒剤)クエン酸ナトリウム(洗浄剤・緩衝剤)Tetronic?1304(水濡剤)(非イオン界面活性剤)C9-ED3A(水濡剤)(界面活性剤)塩化ナトリウム(等張化剤)ホウ酸(緩衝・防腐剤)プロピレングリコール(粘稠剤・等張化剤)COMPLETE?MoisturePLUSTMAMOPHMB(TrisChem?)0.0001%(防腐・消毒剤)Poloxamer237(非イオン界面活性剤)HPMC(潤滑剤・増粘剤)プロピレングリコール(粘稠剤・等張化剤)リン酸緩衝液(緩衝剤)タウリン(角膜保護)塩化ナトリウム(等張化剤)塩化カリウム(等張化剤)EDTA(防腐補助・キレート剤)Regard?AdvancedEyecereResearch亜塩素酸ナトリウム(消毒剤)過酸化水素0.01%(安定化剤,消毒成分の再活性化)HPMC0.15%(潤滑剤・増粘剤)Pluronic?F68(水濡剤)(非イオン界面活性剤)AQuify?5MinuteCIBAVisionPHMB0.0001%(防腐・消毒剤)HydroLocTM(湿潤剤)Pluronic?F127(洗浄剤)(非イオン界面活性剤)トロメタミン(緩衝剤)リン酸二水素ナトリウム(緩衝剤)EDTA(防腐補助・キレート剤)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006???電で,微生物の細胞壁のリン脂質と結合し,細胞壁を崩壊させ細胞を死滅させる.ReNu?,ReNuMultiPlus?(Bausch&Lomb),COM-PLETE?MoisturePLUSTM(AMO),AQuify?5Minute(CIBAVision)などAlcon社以外のほとんどのMPSに使用されている.2.界面活性剤大半のMPSにpoloxamine,poloxamer,Pluronic?,Tetronic?などの非イオン性界面活性剤が含まれており,レンズ表面の有機物汚れを可溶性とし,洗い流し,細菌細胞膜を破壊し,微生物を洗い流して抗菌効果を増強する働きもある.含まれる量は少量であるが,感受性の高い使用者では過敏症が起こり,乾燥感が増すこともある.3.潤滑剤,湿潤剤レンズ装用中の乾燥感を少なく,装用感の良さを長時間保つために,レンズの水濡れ性を向上し,湿気を保持させるためのいろいろな薬剤がMPSに添加されるようになった.それらには,表面張力を低下させ,湿気を保持するHPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース),レンズ基質内に水を引きつけるプロピレングリコール,レンズ表面の疎水基を親水性に転換するTetronic?1304,その他ポビドン,デキストランなども使用されている.4.金属イオン封鎖剤(キレート剤)レンズ表面からカルシウムや蛋白質の除去を促進する化学物質で,いくつかのMPSに採用されている.クエン酸はマイナス荷電分子で,カルシウムに対するキレート効果に加え,プラス荷電している涙液蛋白質,リゾチームを除去するのも助ける.Hydroxyalkylphospho-nate(HYDRANATE?)は4つのマイナス荷電をもつ多機能分子を含み,カルシウムの複合体を形成し,蛋白質に付着,分散,除去する働きがある.III最新のMPS(2006年5月現在)おもに海外で使用されているMPSの特徴について紹介する.それぞれのおもな成分については表1に示す.1.OPTI-FREE?????????MPDSLastingComfortNoRubTMFormula(Alcon)“no-rub”表示,シリコーンハイドロゲルCLにも適合.防腐剤としてpolyquaternium-1(POLYQUAD?),消毒剤としてALDOX?を含んでいる.ALDOX?は分子量の小さい(MW312,サイズ~2.0nm)カチオン性のアミドアミン類で,グラム陽性,グラム陰性細菌,真菌,アメーバに有効とされる.クエン酸は蛋白質を引き付け,洗浄剤,緩衝剤として働き,分散性質のあるアミノアルコール(AMP-95)は洗浄を補助する.界面活性剤Tetronic?1304は脂質を乳化し,洗浄し,湿潤剤の役割を果たす.ラベルに“LastingComfortFormula”(33)[表1のつづき]商品名メーカー成分ReNu?withMoistureLocTMBausch&Lombアレキシジン0.00045%(防腐・消毒剤)HYDRANATE?(蛋白除去,キレート剤)Poloxamine(洗浄剤)MoistureLocTM(界面活性剤・水濡剤)ホウ酸(緩衝剤)リン酸ナトリウム(緩衝剤)塩化ナトリウム(等張化剤)POLYQUAD?:polyquaternium-1,塩化ポリドロニウム,ALDOX?:myristamidopropyldimethylamine,AMP-95:2-amino-2-meth-yl-1-propanol,EDTA:ethylenediaminetetraaceticacid,エデト酸,C9-ED3A:nonanoylethylenediaminetriaceticacid,PHMB:polyhexamethylenebiguanide,塩酸ポリヘキサニド,HPMC:ヒドロキシプロピルメチルセルロース,HydroLocTM:dexpanthenol,ソルビトール,MoistureLocTM:poloxamer407,polyquaternium-10.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006と記すことをFDAに承認されている.2.OPTI-FREE?RepleniSHTMMulti-PurposeDisinfectingSolution(MPDS)(Alcon)“no-rub”表示,シリコーンハイドロゲルCLにも適合.OPTIFREE?EXPRESS?と同じ防腐剤POLY-QUAD?と抗カビ剤ALDOX?を含む.シリコーンハイドロゲルCL用に設計された溶液で,TearGlydeTM(Tetronic?1304とC9-ED3A:nonanoylethylenede-aminetriaceticacid)によりレンズ表面の水濡れ性を高め,蛋白質汚れを減らし,その結果,装用感が改善するのを期待している.3.AQuify?5MinuteMulti-PurposeSolution〔SOLOCAREAQUA?(アメリカ以外の販売名)〕(CIBAVision)“no-rub”表示,シリコーンハイドロゲルCLにも適合.こすり洗いをしないときは,4時間以上浸漬する必要があるが,片面10秒のこすり洗いをし,十分すすぎを行えば,溶液中に5分間浸漬するだけでよい.レンズの湿潤性を増すためにHydrolockTMとよばれる新しい処方を含む.Dexpant-5(dexpanthenol)は水と結合し,蒸発による乾燥を防ぎ,天然の保湿剤であるソルビトールとともにレンズの湿気を保つ働きをする.4.COMPLETE?MoisturePLUSTMMulti-PurposeSolution(AMO)“no-rub”表示,シリコーンハイドロゲルCLにも適合.抗乾燥成分として眼科用粘滑剤のプロピレングリコールとHPMCを含み,角膜の生理的効果を高めるためにタウリンと電解質を加えた.5.Regard?(AdvancedEyecareResearch)シリコーンハイドロゲルCLにも適合.消毒後の中和が不要で,防腐剤を含まない唯一のケア製品.ベースとなる亜塩素酸イオン(ClO2-)は酸性微生物構成物(細菌細胞膜)と相互作用し,一時的に強力な消毒剤である二酸化塩素(ClO2)に変換する(二酸化塩素は飲料水の消毒に使用される)(1).二酸化塩素は不安定なため,微量の過酸化水素により亜塩素酸イオンへと安定化されているが,この過酸化水素も抗菌活性を相乗的に増強する(2).亜塩素酸ナトリウムはボトルから出され,光に当たると塩化ナトリウムと酸素に分解する(3).過酸化水素は非常に低濃度(0.01%,100ppm)で眼安全性は高く,酵素(カタラーゼとスーパーオキサイドジムスターゼ)により涙液中で水と酸素に分解する(4).湿潤剤HPMCと界面活性剤(Pluronic?F68)を含むが,防腐剤を含まないため眼安全性が高く,細菌,アカントアメーバに対しても有効といわれる.(1)ClO2-+acidicmicrobialcomponent→ClO2(2)ClO2+H2O2→ClO2-+H2O2(3)NaClO2-→NaCl+O2(4)H2O2→H2O+O26.ReNu?withMoistureLocTMMulti-PurposeSolution(Bausch&Lomb)2004年9月にReNuMultiPlus?MPSNoRubFor-mulaに代わる製品として発売された.“no-rub”表示で,シリコーンハイドロゲルCLにも適合.新しく防腐剤として分子量の小さいbiguanideで,口腔消毒製品に使用されている0.00045%アレキシジンを使用し,レンズ表面に結合し,水を引き込む働きをするセルロースをベースにした陽イオン重合体polyqua-ternium-10と,HYDRANATE?とともに蛋白質汚れの沈着を防ぎ,湿気を保持する非イオン界面活性剤polox-amer407を使用するなど処方内容を大きく変更した.データでは,アカントアメーバの栄養型(trophozo-ite)と?子(cysts)に対しても非常に有効とされている.しかし,2006年2月にシンガポールで,この製品を使用していたCL装用者に真菌性(フザリウム)角膜炎の集団発生が報告され,アメリカ国内においても,5月中旬にはCL使用者のフザリウム角膜炎患者125人のうち64%は本溶液を単独で使用していることが確認され,Bausch&Lomb社はこの製品の製造・販売を中止した.はっきりした原因は不明であるが,実験室と実際の使用環境での,製品に含まれる化学物質の反応の違いが考えられ,MPSの抗菌テストの限界と臨床的リスクが示された.(34)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006???IVMPS以外のケアシステム過酸化水素システムにも,取り扱いがより簡便な“no-rub”表示のものがある.1.ClearCare?(アメリカ,カナダ),AOSept?Plus(ヨーロッパ,ラテンアメリカ)(CIBAVision)シリコーンハイドロゲルCLにも適合.白金触媒で中和を行うが,非イオン界面活性剤(Pluronic?17R4)を含み,洗浄なしで,中和後そのまま装用可とされる.しかし,実際には,清潔な生理食塩水(SCL保存液など)によるこすり洗いとすすぎが薦められている.MPSは防腐剤,消毒剤をはじめとする多くの薬剤を含み,アレルギー,過敏反応や角膜ステイン発生などの生体安全性について危惧されるため,薬剤を使用しない消毒法として紫外線消毒法が紹介されている.2.PuriLens?(TheLifeStyleCompany)SCLを洗浄消毒するために,短波長紫外線(UV-C253.7nm:15分間)を照射しながら亜音速振動(60サイクル/秒)を使用するシステム.防腐剤を含まない生理食塩水を使用する(図1,2).紫外線照射は,微生物のDNA内のチミンの二量化をひき起こすことにより死滅させ,亜音速流体力学作用により汚れを落とし,防腐剤や界面活性剤を使用せず過敏反応を防ぐことができる.Vレンズ材料とMPSとの相性MPSによるアレルギー反応,過敏反応と思われる眼障害や細胞毒性についての報告はすでにいくつかみられる2~4)が,近年,特定のレンズ材料とMPSの組み合わせによる角膜ステインの発生が注目されている.この角膜ステインは自覚症状がないことも多く,レンズをはずし,フルオレセインで染色して確認する必要がある.ステインの程度はいろいろであるが,FDA分類グループⅡ(高含水,非イオン性)レンズにPHMBベースのMPSを使用したときにその発生が多いといわれている5,6).原因はまだ十分解明されていないが,グループⅡのレンズには脂質が沈着しやすく,脂質とMPS中の成分が結合し,角膜上皮に損傷を与えると考えられている.シリコーンハイドロゲルCLでもPHMBベースのMPSはpolyquaternium-1ベースのMPSより角膜ステインの発生は多く,過酸化水素は最も少ない.レンズ材料によってもその程度は異なり,親水性表面処理の違いの影響も原因として考えられている7,8).角膜ステインだけでなく,レンズ規格などに影響するレンズとケア溶液の不具合な組み合わせもあり,最近は不適合ケア製品あるいは不適合レンズが明記されているものも多い.(35)図1PuriLens?UVランプCLに対してUVは直接照射されないCL亜音速撹拌図2PuriLens?の消毒メカニズム———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006VIプライベートブランドアメリカでは,量販店などがメーカーから購入した製品に自社の店名をつけて販売することが行われ,これらはプライベートブランドあるいはジェネリックケア製品とよばれ,アメリカ国内ではケア製品市場の約25%以上を占めるといわれる.基本的に,製品の処方内容は古いものが多く,処方者や使用者もどのような内容の溶液を使用しているかわからず,障害発生時の対応を困難にしていることが問題になっている.おわりに海外においては,種々の“より簡便な”レンズケアシステムがわが国に先行して使用されている.より強力な消毒効果,洗浄効果をもち,乾燥感を少なく,装用感を良くし,しかも取り扱いステップを少しでも少なくする工夫がなされている.結果として,多くの薬剤(化学物質)が1液中に処方されることになるが,それらの相互作用と生体に及ぼす影響について十分検討されているとはいえない.今後,わが国にも新しいケア製品が紹介されると思われるが,SCLやシリコーンハイドロゲルCLのレンズケアについてはまだまだ改良,開発途上にあると考えるべきで,その選択と使用には慎重でありたい.文献1)RosenthalRA,HenryCL,SchlechBA:Contributionofregimenstepstodisinfectionofhydrophiliccontactlenses.??????????????????????27:149-156,20042)Horwath-WinterJ,SimonM,KolliHetal:Cytotoxicityevaluationofsoftcontactlenscaresolutionsonhumanconjunctival?broblasts.???????????????218:385-389,20043)TchaoR,McCannaDJ,MillerMJ:Comparisonofcontactlensmultipurposesolutionsbyinvitrosodium?uoresceinpermeabilityassay.??????28:151-156,20024)角出泰造,土屋利江:代謝協同試験によるソフトコンタクトレンズ用化学消毒剤の評価.生体材料19:93-97,20015)LebowKA,SchachetJL:Evaluationofcornealstainingandpatientpreferencewithuseofthreemulti-purposesolutionsandtwobrandsofsoftcontactlenses.?????????????????29:213-220,20036)GarofaloRJ,DassanayakeN,CareyCetal:Cornealstain-ingandsubjectivesymptomswithmultipurposesolutionsasafunctionoftime.????????????????31:166-174,20057)JonesL,MacDougallN,SorbaraLG:Asymptomaticcor-nealstainingassociatedwiththeuseofbala?lconsilicone-hydrogelcontactlensesdisinfectedwithapolyaminopro-pylbiguanide-preservedcareregimen.??????????????79:753-761,20028)AmosC:Aclinicalcomparisonoftwosoftlenscaresys-temsusedwithsiliconehydrogelcontactlenses.????????227:16-20,2004(36)■用語解説■ISO14729試験基準(ISO:InternationalOrganizationforStandardiza-tion)スタンドアローンテスト・一次基準:レンズは使用せず,微生物(3種類の細菌:?????????????????????,??????????????????????,????????????????????,2種類の真菌:????????????????,???????????????)と溶液を使用し,指示された浸漬時間中に各細菌を3log(99.9%)以上減少させ,各真菌については1log(90.0%)以上減少させる.・二次基準:上記の3種類の細菌を1log減少させ,3種類の合計で5log減少させ,上記の真菌を浸漬時間中に静菌状態に保つことに適合.Regimentestスタンドアローンテストに用いた微生物を人為的に付着させたCLについて,製品に記載したケア方法の手順で処理して,あらかじめ付着させた接種菌が5log減少することを実証.一次基準に適合すれば,CL消毒製品(contactlensdisinfectingproduct)と表示でき,“multi-purposedisinfectingsolution”(MPDS)と表示できる.二次基準に適合し,かつregimentestに適合すれば,CL消毒法の一部(partofacontactlensdisinfectingregimen)と表示しなければならない.