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眼科医にすすめる100冊の本-1月の推薦図書-

2006年1月31日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006??0910-1810/06/\100/頁/JCLS天外伺朗さんは本名,土井利忠,ソニーの技術者で,CDを開発し,AIBOというロボット犬を作ったことで世界的に有名だ.日本を代表する技術者といっても過言ではないだろう.一方,天外伺朗としては,少し変わった視野のもとに活動を行っている.マハーサマーディ研究会という「いかに死ぬか」という研究会をはじめとして,さまざまな超常現象や運の研究も行っている.本のタイトルとしては『運命の法則』と,あたかもそのような法則があるように書かれているが,結論を先に言ってしまうと「いい運も悪い運も存在しないので,そんなに気にすることはない」という逆説的なメッセージが貫かれている.例をあげよう.たとえば受験生が希望の大学に入ったとしよう.これは運がいいのか?もちろんそのときは希望がかなって,とても嬉しいだろう.でも人生をトータルで考えたときには,本当にそれが良かったかどうかはわからない.希望の大学に入ったことで一流会社には入ったものの,自分が本当に望む人生とは違ったものを手に入れることになるかもしれない.一方大学に落ちたことは運が悪いのか?大学に落ちてそこでは落ち込むけれど,その後にベンチャービジネスをはじめたり,自分の好きな絵の世界に進んだりして,自分の世界を追求できるかも知れない.運命とは簡単にはわからないものだ,少なくともその瞬間には良いのか悪いのかはわからない.こういう考え方にたてば,ものすごくうまくいったときにも驕りたかぶることもなくなるし,うまくいかないときにも落ち込むことはない.しかし人生においては「運が良くてうまくいった」とか,「まったくついていない」というように物事が自分の思うようにいかない場合もある.いったい何が重要なのか?実はこれが最も大切なところなのだが「フローに乗って生きる」ということらしい.フローというのはわかりにくい概念だが,簡単に言えば,一つの仕事に熱中してそればかりやり,考えていると,フロー状態(人生の流れ?)というものが起き,人智を超えた結果が得られる.というものだ.天外さんはCDの開発や,AIBOの開発中に,このフローに入った経験があり,この状態では必要な情報は自然と手に入り,偶然によってあたかもプログラムされているかのように仕事がうまく進んでいくそうである.これを一般的な表現でいえば「最高に努力した人のもとに運は訪れる」「準備した人に風が吹く」ということになるだろう.要するに,運はただ単にやってくるものではなくて,引き寄せていくものだということになる.そのためには,心の底からその瞬間を楽しみ,熱中してやらなければならない.人智を超えた何かの力が働いていると言うのである.確かに自分自身でも,楽しみながら熱中して研究や仕事をしていたら,突然思ってもいない“いい風”が吹いてきて仕事がうまくいくことを何回も経験した.そのときは確かに無我夢中,一所懸命やっていた.うまくいったときの状況をまとめてみると,1)自分の利益とかエゴなどは忘れて熱中している2)興奮している3)絶対うまくいくと信じている4)仲間を信じているこのような状態のときにフローが起き,いわゆる“運”が訪れるというわけだ.これが“運命の法則”というわけだが,あくまで天外さんはそれでも運命にいいも悪いもないので,フローが起きた後に大きく落ち込むこともあるので気をつけなければいけないと言う.大変おもしろい考え方だと思う.自分はヨットを長くやってきたので,運を風にたとえ(69)シリーズ─61◆坪田一男慶應義塾大学医学部眼科■1月の推薦図書■運命の法則「好運の女神」と付き合うための15章天外伺朗著(飛鳥新社)———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006てみるとわかりやすい.風は海の上では公平に吹いている.時に強い風が吹いてくる(これをブローという.フローではないが,似ている).ちょっとしたブローならたいていの人が使えるが,あまりに強いと使い切れないので風を逃がして船を安定させる.それでも強風のためにひっくり返ってしまうこともある(沈という).しっかりと練習をして,強風を今か今かと待っているヨットマンには,この強風を使いこなすことができる.するとプレーニングが起きる.普通船は排水量に従って水を押しのけた分の浮力で浮いているが,ある程度の速度になると水中翼船のように,水の上に浮きあがることができる.このときには水の抵抗は極端に少なくなり,すばらしいスピードが出る.このプレーニングをいかに長い時間保つかがヨットレースの勝敗を決するのだ.天外さんがいう人生のフロー状態は,ちょうどこのヨットのブローによるプレーニングに似ている.そのときはいかにヨットを沈させずに,長い間プレーニングさせるかだけを考えている.エゴの入り込む余地もない生きている瞬間だ.いい運も悪い運もない.風は公平に吹くように,運も公平にやってくる.使いこなすのは僕たち自身だ.ということがとてもよくわかる本でした.(70)☆☆☆

硝子体手術のワンポイントアドバイス32.糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術後の血管新生緑内障(中級編)

2006年1月31日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006??0910-1810/06/\100/頁/JCLS●糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術糖尿病網膜症に合併するびまん性黄斑浮腫は,遷延すると不可逆的な視力障害を残す.黄斑浮腫の原因として,網膜血管透過性亢進や後部硝子体膜の牽引などが考えられている.びまん性糖尿病黄斑浮腫の治療として硝子体手術の有用性が報告されて久しいが,最近では各施設で多数例の手術が施行されている.糖尿病網膜症の硝子体手術のなかでは術中,術後合併症の比較的少ない病態であるが,最近,術後に血管新生緑内障を併発したとする報告が散見される1~3).●血管新生緑内障をきたしやすい症例筆者らが経験した血管新生緑内障発症例の特徴を以下に列挙する.1)増殖前糖尿病網膜症の状態で比較的広範囲の網膜無潅流域が存在していた.2)血管アーケード周囲の網膜浮腫が著明で,硝子体手術前および術中にこの範囲に十分な光凝固が施行できなかった.3)硝子体手術後に一時的に黄斑浮腫が増悪した(図1).4)眼底後極部を中心に網膜中大血管周囲に著明な硬性白斑が認められた.5)硝子体手術後に硝子体腔内のフレアが遷延していた.6)糖尿病のコントロールが不良であった.●術前の網膜症の評価が大切上記のように,血管新生緑内障を発症する症例は,すでに広範な網膜無潅流域を有していることが多いが,術前の蛍光眼底検査では,黄斑浮腫に注意を奪われて,眼底周辺部の網膜無潅流域を十分に確認していないことが多いように思う.特に蛍光眼底撮影の後期相では,蛍光漏出のため無潅流域が確認しずらくなる症例も多く,撮影に際しては十分な注意が必要である.●術後に必要があれば追加光凝固を黄斑浮腫が広範かつ高度な症例では,術前・術中に十分な光凝固が施行できないことがある.このような症例では,術後の浮腫消退を待って,追加光凝固を確実に施行する必要がある.また,術後眼内フレアが高い症例では,高度の血液網膜関門の破綻によって種々のサイトカインが遊離しやすくなっており,血管新生緑内障の誘因の一つになっている可能性がある.文献1)高木均,鳥井康司,山内知房ほか:糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術の長期予後.臨眼51:977-980,19972)小川邦子,川路隆博,中尾功ほか:糖尿病黄斑症のタイプ分類と硝子体手術成績.臨眼55:1080-1084,20013)竹安ー郎,南政宏,植木麻理ほか:糖尿病黄斑浮腫の硝子体手術後に発症した血管新生緑内障の2例.眼紀55:359-363,2004(67)硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載○3232糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術後の血管新生緑内障(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科術前の左眼眼底写真.後極部に硬性白斑を認める.aびまん性黄斑浮腫に加えて,中間周辺部の網膜無潅流域を認める.b図1硝子体手術後に黄斑浮腫が増悪し,血管新生緑内障を発症した症例c術2カ月後に硬性白斑の増加と浮腫の増悪を認めた.この後,血管新生緑内障が発症した.

眼科医のための先端医療61.眼色素上皮細胞の免疫学的抑制機構

2006年1月31日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006??0910-1810/06/\100/頁/JCLS眼の免疫学的特権眼は炎症から自己を守るための特殊な場所,immuneprivilegesiteの一つとして古くから考えられています.そのなかでも多くの眼組織および前房などはimmuneprivilegesiteの一部として強い免疫学的抑制機能をもちT細胞を含んだ炎症細胞から眼組織を守り,視機能を維持する働きがあると考えられていますが,その詳細はいまだ不明な点も多く,現在多くの施設でその解析が行われています.筆者らは眼の免疫機構における眼組織の役割とその分子機構,特に眼内炎症の調節機構を解明するために,眼色素上皮細胞(pigmentepithelialcells:PE)を用いて,つぎのような研究を行いました.眼色素上皮細胞の活性化T細胞抑制眼色素上皮は虹彩,毛様体,網膜の一連の層で構成されます.アメリカのDr.Streileinを中心としたグループは正常マウス眼より眼色素上皮細胞を樹立し,それらが????????において強い活性化T細胞抑制能を有することを報告しました.前眼部に位置する虹彩色素上皮細胞はcellcontactを用いて活性化T細胞抑制能を示すのに対して,後眼部に位置する網膜あるいは毛様体色素上皮細胞はcellcontactに加えて可溶性因子を多数産生してその抑制能を示していました.ただ,その特定分子は何なのか具体的には明らかにされていませんでした.筆者らは,虹彩色素上皮細胞(primaryculturedirisPE)がcostimulatorymoleculeの一つである,B7-2(CD86)を構成的に発現し,そのB7-2+irisPEがcytotoxicTlymphocyte-associatedantigen(CTLA)-4+活性化T細胞をcell-to-cellcontactにて抑制することを報告しました.そのirisPEには活性化T細胞を直接cell-to-cellにて抑制する能力とそれらを抑制T細胞(regulatoryTcell)へとコンバートする二つの能力が認められます.そのirisPEに曝露されたT細胞自身がB7分子を発現し,反応性T細胞のCTLA-4に結合することにより抑制シグナルを与え,T細胞抑制に関与していることも報告しました.さらに,irisPEが産生する膜結合型trans-forminggrowthfactor-b(TGF-b)がcellcontactを用いてTGF-breceptorII+反応性T細胞に結合することで抑制していました.眼内の組織にはTGF-b,特にTGF-b2が構成的に発現していることが多くのグループにより報告されていますが,筆者らは,TGF-b2だけではなく,TGF-b1やTGF-b3も発現していることを示しました.さらに,これらの眼色素上皮細胞はTGF-bのシグナルが入らない特殊なマウス由来のT細胞(domi-nantnegativeTGF-breceptorIITcells)の抑制をまったく認めることができませんでした.つまり,眼色素上皮細胞の産生するTGF-bがこの活性化T細胞抑制に重要であることが判明しました.興味深いことにTGF-bのシグナルがTGF-breceptorを介して反応性T細胞に入ることでそのT細胞のCTLA-4の発現が増強し,B7-CTLA-4相互作用を補助している可能性が示唆されました.虹彩色素上皮上に構成的に発現している分子は,B7,TGF-b,さらにはthrombospondin-1,CD47(thrombospondin-receptor)などがあり,いずれもT(63)◆シリーズ第61回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊杉田直(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科・認知行動医学系専攻システム・神経医学講座眼科学分野)眼色素上皮細胞の免疫学的抑制機構OcularPECD8+regulatoryTcellsB7B7Membrane-boundTGF-bLatentTGF-bTSP-1CD47CD103CD25GITRB7TGF-bRTGF-bIL-10TGF-bsignalCTLA-4TcellsuppressionE?ecterTcell図1眼の免疫学的特権:眼色素上皮細胞と抑制T細胞の活性化T細胞抑制OcularPE:ocularpigmentepithelium,B7:B7co-stimula-torymolecules,B7-1(CD80),B7-2(CD86),CD47:IAP(integrinassociatedprotein),thrombospondin-receptor,TSP-1:thrombospondin-1,Membrane-boundTGF-b:Membrane-boundtransforminggrowthfactor-b,TGF-bR:TGF-breceptor,CD25:IL-2receptora,CTLA-4:cyto-toxicTlymphocyte-associatedantigen4,CD152,IL-10:interleukin-10,CD103:integrinalphaE,GITR:glucocorti-coid-inducedTNFreceptorfamilyrelatedgene.———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006細胞抑制能か抑制T細胞誘導に関与していると考えられています(図1).Thrombospondin-1は潜在型TGF-bに結合し,TGF-bの活性化に関与しています.これらの分子は互いがリンクしていてその発現を増強したり,活性化したりしてそれぞれが深く関与していることがわかってきています.眼色素上皮由来抑制T細胞の特徴現在,眼由来の抑制T細胞,特に虹彩色素上由来抑制T細胞の解析を行っていますが,これらはCD8+CD25+抑制T細胞で,ナチュラルなCD4+CD25+抑制T細胞に類似し,????????において強い活性化T細胞抑制能をもっていることが判明しています.発現分子は,CD8,CD25,CTLA-4(CD152),B7-1(CD80),B7-2(CD86),thrombospondin-1,CD47,GITR,CD103および膜結合型TGF-bで,細胞表面にこれらの免疫調節分子を発現しています(図1).さらには,抑制性サイトカインとして可溶性型TGF-bとinterleu-kin-10を産生し,活性化T細胞抑制を行っています.眼?血液関門を形成する虹彩血管や網膜血管などから眼内に浸潤してきたT細胞は,その挿入の際に眼組織に発現している免疫調節分子に接触することで,抑制機能を有したT細胞へとコンバートされていると考えられています.ヒトへの新しい治療の可能性筆者らの研究を進めていくうえで,眼内組織上に存在する炎症調節分子あるいは炎症惹起分子を同定し,それらの機能について解析することはぶどう膜炎などの眼内炎症を解明し,さらには治療への応用を考慮していくうえで非常に重要と考えられます.今後の大きな課題として再生医療の観点から,これらのimmuneprivilegesiteを????????で作製し(????????-immuneprivilegeの導入),臨床応用を可能にすることを検討中です.現在進めているプロジェクトは,マウス脾細胞からT細胞を分離し,freshなirisとT細胞の好条件下で共生培養し,抑制T細胞を誘導します.????????ではこれらのT細胞が抑制T細胞へとコンバートされることが確認できていますので,自己免疫性ぶどう膜炎を惹起しているマウス眼へその培養T細胞を注入することでぶどう膜炎が抑制可能かどうか検討します.さらに別のプロジェクトとして現在検討中なのは,ヒト眼由来の抑制T細胞の誘導です.末?血由来のT細胞を手術で得られた眼組織(虹彩)あるいは眼内液下(前房水)で培養することで抑制T細胞を誘導します.さらに,末?血中のT細胞を眼組織に類似した環境下で????????で培養(眼色素上皮細胞に類似した細胞株と共生培養あるいは眼内に構成的に発現,産生されている蛋白質を添加)し,抑制T細胞を樹立し,まずは????????で活性化T細胞抑制能があるかどうかを検討する予定です.これらの抑制T細胞樹立は難治性眼内炎症疾患の治療へ利用できる可能性があるとして期待されています.文献1)StreileinJW:Ocularimmuneprivilege:Therapeuticopportunitiesfromanexperimentofnature.???????????????3:879-889,20032)SugitaS,StreileinJW:IrispigmentepitheliumexpressingCD86(B7-2)directlysuppressesTcellactivationinvitroviabindingtoCTLA-4.?????????198:161-171,20033)SugitaS,NgTF,Schwartzkop?Jetal:CTLA-4+CD8+TcellsthatencounterB7-2+irispigmentepithelialcellsexpresstheirownB7-2toachieveglobalsuppressionofTcellactivation.?????????172:4184-4194,20044)SugitaS,NgTF,LucusPJetal:B7+irispigmentepithe-lium(IPE)induceCD8+Tcellsregulatory;bothsup-pressCTLA-4+Tcells.?????????176:118-127,2006(64)***———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006??■「眼色素上皮細胞の免疫学的抑制機構」を読んで■眼球が免疫学的に特殊であり,拒絶反応が起こりにくいという現象は,すでに1945年にMadawarが報告しています1).この現象をひき起こすメカニズムは,「眼球では血管とリンパ管が直接つながっていないから」,あるいは「眼球の血管は血液?眼?関門といわれる構造で眼球内とは隔絶されているから」という形態学的特徴から説明されていました.しかし,Streileinらの精力的な研究により,この詳しいメカニズムが明らかになってくると,これは眼球に限らない免疫の精緻なシステムであることがわかってきました.たとえば,transforminggrowthfactor(TGF)-b2は眼球に豊富に存在していますが,これはT細胞,NK(natu-ralkiller)細胞,マクロファージの活性化を抑制しますし,前房中に豊富なalpha-melanocytestimulatinghormone(a-MSH)は,好中球の活性化を抑制したり,gamma-interferon産生性T細胞をregulatoryT細胞に転換させます.またこれら液性因子だけでなく,色素上皮に発現しているCD95ligandは,CD95+T細胞をアポトーシスに陥らせて,炎症を抑制しますし,網膜に広く発現しているgalactin-1は,色素上皮細胞からsolublefactorの分泌を促してT細胞の活性化を抑制します.本稿に書かれているように,杉田直先生らはこの分子メカニズムを詳しく解明しました.さて,従来考えられていたように,これが眼球だけでしか起こりえない現象であれば,サイエンスの世界で大きな注目を浴びることはなかったと思います.しかし,Streileinや杉田先生らが明らかにしたこのメカニズムは他の人体組織にも応用可能なのです.眼球以外の組織でも,治療などのために免疫反応を抑制する必要がある場合があります.その場合に,液性因子であるa-MSHやthrombospondin,TGF-bなどを投与したり,遺伝子工学の技術を駆使してCD95LやCD86などを目的の部位に発現させれば,眼球と同じような免疫寛容な組織が作れるのです.眼科領域の研究というと,サイエンスの他の分野で発見された知見を取り入れることが多い印象がありますが,この精緻な免疫システムの解明は,眼科領域の研究からサイエンスの他の領域へ発展しました.今後のさらなる発展が期待されます.文献1)MadawarP:Immunityinhomologousgraftedskin.II.Thefateofskinhomograftstransplantedtothebrain,tosubcutaneoustissues,andtotheanteriorchamberoftheeye.???????????????129:58-69,1945鹿児島大学医学部眼科坂本泰二(65)☆☆☆

新しい治療と検査シリーズ157.新しい眼筋機能測定装置「Diplomet」

2006年1月31日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006??0910-1810/06/\100/頁/JCLS?バックグラウンド1916年スイスの神経生理学者WalterRudolfHessの考案した1)“Hessのスクリーン”は,その後の100年近く多少の工夫はなされたものの,ほとんど原形のまま踏襲されてきた.現在入手可能な機種は,ElectricHessScreenMKII(ClementClarkInternational社製,輸入元;ジャパンフォーカス株式会社),ネオ・ビューヘススクリーンRH-10008(製造元:株式会社タカギセイコー),ヘスチャートプロジェクター(はんだや株式会社)で,いずれも大きいボードに被検者によって指示された点を検者が手書きで書き写すものである2,3).その測定点は中心点と15?8点,30?8点の計25点である.これらの器械で顎台に頭位を固定して中心固視による複像を得るためには15?が限界で,30?の点ではすでに周辺視野で重ねていると思われる.また視標サイズが中心部で2mm,周辺部で3mmの点光源となっているため,被検者の矢印の先端と視標との間で視野闘争が起こることが想定される.今回開発した眼筋機能測定装置は,パソコンを使用して検査距離を2種類設定し,5?間隔で中心15?(50cm)および20?(35cm)の範囲をより細かく測定するようにプログラムされている.ディスプレイ画面サイズの制限がなければさらに広く設定できる.被検者がマウスをクリックすることにより応答が記録され,測定結果はプリントされる.半暗室で測定できることと,幼児は困難だが小児でもマウスが操作できれば使え,高齢者でマウスが操作できないときには検者が補助できる配置としてある.データはID(identi?cation)によりファイル保存されるので随時利用できる.?装置の概要装置はノート型PC,21インチ液晶ディスプレイ,プリンタ,マウス,電源装置からなり電動光学台に装備している.頭位は自然視に近くするために顎台に固定せずに椅子に後頭部支えと頬押さえを設置した.検査距離は目的にあわせて35cmと50cmのいずれか,または両距離を選択する.被検者画面の背景は濃灰色で,視角の等位線(平面上に一定の角度の間隔で引いた線をここでは等位線という)は表示されない.画面上の視覚等位線は2種類作成し,図1に35cmを赤で,50cmを青で表す.中心を固視した場合の瞳孔間距離(PD)と検査距離(Z)に対する輻湊角(q?)およびprismdiopters(△)の計算結果を表1に示す.輻湊角とPDとの関係をみると,検査距離50cmでPD62mmでは7.1?(12.4△),PD54mmでは6.2?(10.8△)であり,成人と小児が同距離で測定すると,約1?(1.6△)の誤差がでる.被検者の検査距離を厳密に固定することは不可能であり,瞳孔距離に合わせて検査距離を変えることは煩雑であるため1?の誤差範囲を容認した.検査距離35cmでは中心から20?まで測定できるが,周辺視になる部分には誤差がでる可能性を考慮する必要がある.新しい治療と検査シリーズ(59)157.新しい眼筋機能測定装置「Diplomet」プレゼンテーション:平岡満里1)・渋谷英敏2)1)小金井眼科クリニック・2)ハナブサ電子工業コメント:三村治兵庫医科大学眼科学教室図1検査距離と視角の等位線50cm35cm°°———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006赤緑眼鏡は,液晶画面の赤緑視標を分離する波長(赤;640nm,緑;530nm)の色フィルタを使用し,周辺視に枠が妨げにならぬように両脇を広くした.強度の屈折異常の場合は,コンタクトレンズまたは眼鏡装用の上にオーバーグラスとした.視標(ターゲットとカーソル)のサイズ・輝度は可変でターゲット2?,カーソル0.4?を標準とするが,被検者の視機能により調整できる.測定方法は自動と手動があり目的に応じて選択する.画面に呈示されたターゲット(丸い輪)の中心にカーソル(丸い点)を入れるという“玉入れ法”で,視野闘争を避けるようにそれぞれのサイズを設定し,順次測定点を自動または手動で移動していく.右・左の測定については,赤緑眼鏡を交換するのではなく画面上で視標の色を反転する.測定点は,中心点から図1の水平および垂直方向±20?まで,50cmで合計25点,35cmで33点に反時計回りに四角を描く順序でターゲットが呈示される.自動シングル設定では,反応時間に制限は設けずマウスクリックを確認すると自動的につぎの測定点に移る.自動で進行するときには,検者は被検者の右斜め前にて検者画面でモニターしながら頭位に十分配慮できる.結果は,カーソルを□(右眼では緑,左眼では赤),ターゲットを×(左眼では緑,右眼では赤)で示し,両眼をA4サイズに結線表示で印刷(diplometchart)する.ほぼ数分で両眼の測定が終わる.対応異常がない眼位異常の症例にインフォームド・コンセントを得て検査を行った3例の結果について,交代プリズム遮閉試験(alternateprismcovertest:APCT)による眼位,Hessscreenchart,Synoptophore(タカギセイコー社製364型)9方向眼位との比較を行った.各症例の臨床経過と検査結果については,図の説明に記載した.?測定結果の信頼性APCTで得られる遠見眼位と近見眼位は,偏位角を定量測定する方法として最も信頼性が高いが,熟練した技術と時間,被検者の協力が必要である.Hessscreenchartは,麻痺筋の同定に有効であるが定性的な判定となる.Diplometは,マウスの操作ができれば特別な技術を必要とせず短時間で測定できるので被検者への負担も少ない.どの程度の定量化が可能であるかについてAPCTのデータと比較してみる.数理計算からすると,眼?画面間距離(cm)が57cmで瞳孔間距離(mm)と輻湊角(?)とが一致する.すなわち,画面を57cmに設置すれば被検者の瞳孔距離による輻湊角が自動補正でき(60)50545862669.510.311.011.812.616.718.019.320.722.08.28.89.510.110.814.315.416.617.718.97.27.78.38.99.412.513.514.515.516.56.46.97.47.98.411.112.012.913.814.75.76.26.67.17.610.010.811.612.413.25.25.66.06.56.99.19.810.511.312.04.85.25.55.96.38.39.09.710.311.0PD(mm)Z(cm)θ=2tan1{(PD/2)/Z}(180/π)Δ=10(PD/Z)30354045505560表1瞳孔間距離(PD)と検査距離(Z)に対する輻湊角(q?)・プリズム角(?)図2症例1:59歳男性,副鼻腔炎による左外転麻痺a:治療前,b:治療2週後.1週前発症でMRI(磁気共鳴画像)上,両側汎副鼻腔炎あり,軽症糖尿病(網膜症なし)合併.APCT;(D)30△ET,(N)10△ET.セフェム系抗生物質2週間内服,視能訓練治療後APCT;(D)6△ET,(N)0.Diplometchart;a:10?内方偏位,b:2?内方偏位.左方視で複視残存.-30-20-10U102030-30-20-10D102030302010T-10-20-30302010N-10-20-30-30-20-10U102030-30-20-10D102030302010T-10-20-30302010N-10-20-30b.治療後a.治療前■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■××××××××××××××××××××××××××Diprometchart左眼(50cm,ターゲット1.5?,カーソル0.3?)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006??る.AC/A比では100cmで一致するとされているが,調節性・近接性輻湊が加算されているため4)に数理的に得られた距離よりも大きい.APCTの近見は30cmであるから,表1にあるようにPD62mmであれば21△輻湊位で計測していることになる.Diplometを50cmで測定した場合には,12△の輻湊位で計測したことになるから両者の差は9△となる.すなわち9△近くの差が得られれば,理論値と実際の測定値の信頼性が実証される.〔症例1(図2)〕外直筋の炎症性麻痺であるが,近見30cmAPCT;10△ETに対して50cmDiplometの内方偏位は10?(18△)であったことから,その差8△は理論値と相似していた.〔症例2(図3)〕原因不明の外転麻痺であるが,APCT;遠見(3m)14△ET,近見(30cm)0に対して50cmDiplometの内方偏位は7?(12△)でその差8△を超えていた.理論値からすると3mと50cmの間には10△の輻湊が起こるが,PD60mmで+4.5Dの屈折から4△の調節性輻湊が加わったと考えた.(61)図3症例2:71歳女性,左外転麻痺a:術前,b:術後2週.急性発症で原因を特定できなかった.APCT;遠見3m(D)14△ET,近見30cm(N)2△EP?.視能訓練,Fresnel膜装用で6カ月経過をみたが回復せず,左外直筋短縮術を施行.術後APCT;(D)2△XP,(N)0.Diplometchart;a:7?内方1?上方偏位,b:3?外方,1?上方偏位.術後複視消失.-30-20-10U102030-30-20-10D102030302010T-10-20-30302010N-10-20-30-30-20-10U102030-30-20-10D102030302010T-10-20-30302010N-10-20-30■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■b.治療後a.治療前Diprometchart左眼(35cm,ターゲット2?,カーソル0.4?)××××××××××××××××××××××××××××××××××-30-20-10U102030-30-20-10D102030302010T-10-20-30302010N-10-20-30-30-20-10U102030-30-20-10D102030302010T-10-20-30302010N-10-20-30CHessscreenChartB9方向眼位右眼固定左眼偏位■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××Ltemp.nasal×××××××××××××××××××××××××DAPCT(N)ab5△XP?L/R3△HPR/L0.5△HP?b0-2△R/L0.5△-2△R/L1△L/R0.5△-2△-3△L/R0.5△0R/L0.5△-2△R/L0.5△updown←↑↓temp.nasal.→-2△L/R1.5△L/R2△-2△L/R2△-5△L/R3△-5△L/R2△-7△L/R7△-2△L/R1.5△L/R2△-2△L/R4△updowntemp.nasal.a←20°20°20°↑↓→20°baADiprometchart左眼(50cm,ターゲット2?,カーソル0.4?)図4症例3:67歳男性,右方視で複視a:初診時,b:1カ月後.右方視複視発症1週後の初診時APCT;(D)5△XPL/R4△HP,(N)5△XP?L/R3△HP(D-a).9方向眼位;右下方視で上下ずれ増加(B-a).Hesschartで内直筋・上直筋および上斜筋方向に軽度麻痺(C).Diplometchart;5?外方,1?上方偏位,右下方視で上方偏位が3?に増加(A-a).MRA(磁気共鳴血管撮影),MRIの検査で病巣特定されず.従来の高血圧治療で1カ月後自覚的な複視消失.APCT;(N)R/L0.5△HP?(D-b).9方向眼位;右方視の外方偏位残存(B-b),上下ずれはほぼ消失.Diplometchart;中心~右方視2~3?外方偏位のみで左方視と上下視は偏位0?(A-b).これらの結果から内直筋の麻痺に加えてSynoptophoreでは回旋眼位は検出されなかったが,Diplometchartからは左上斜筋麻痺と考えた.———————————————————————-Page4??あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006〔症例3(図4)〕左上斜筋麻痺が疑われたが自然緩解した例で,30cmAPCT;5△XP?L/R3△HPに対して50cmDiplometの外方偏位は5?(9△)であるが,右下方視で上方偏位が増加した.APCTとDiplometとの差は,水平偏位で4△,垂直偏位で1△あった.自覚症状が消失した1カ月後のDiplometでは,垂直偏位がなかったが,APCTではR/Lと逆転してわずか(0.5△)にみられた.これらの結果からSynoptophoreで検出されないが,APCTでは計測できた垂直偏位をDiplometで測定可能であった.すなわち,Diplometによってかなり精度の高い定量測定の可能性が考えられた.?適応と限界本装置では,従来の機器では測定できなかった中心20?内の測定が,プリズム偏位角と同等の精度で得られたのは大きな進歩と考える.しかし麻痺の程度が大きいとき,画面の範囲を超えることがあった.測定範囲内であれば,他の器械による眼筋機能測定でむずかしかった複数筋麻痺および回旋偏位がほぼ正確に測定できたことから有用であると考える.今回の器機では20?までを詳細にとるための“中心プログラム”としたが,将来はディスプレイが安価になって拡大されれば“周辺プログラム”としてのバージョンアップを考えている.?本装置の従来の機種にない利点1)検査時間が短い,2)頭位の負担が少ない(ただし,小児では介助が必要),3)視標の大きさ・輝度を可変,半暗室で検査可能,4)検査距離・範囲可変;35cm:20?,50cm:15?,5)結果は印刷,ファイル保存,6)スペースの節約,7)オプションプログラムに対応可能.共同研究者:橋本友紀子,諸田麻里子,菅沼雅子(小金井眼科クリニック).文献1)vonNoordenGK:Binocularvisionandocularmotility.TheoryandManagementofStrabismus.4thed,p182-184,Mosby,StLouis,19902)三村治:Hessコージメーター.眼科診療プラクティス18,眼科診断機器とデータの読み方(可児一孝編),p142-143,文光堂,19973)大平明彦:Hessスクリーンテスト.眼科検査法ハンドブック第2版(丸尾敏夫ほか編),p207-209,医学書院,19974)初川嘉一:斜視の屈折と調節.あたらしい眼科19:1547-1551,2002?本方法に対するコメント?Hessスクリーンは,眼筋麻痺の状態を半定量的に記録できる検査であるが,著者も指摘しているようにいくつかの欠点がある.特に,高齢者では視標が小さいため,視野闘争も加わって片方しか見えず測定不能と検査されることが多い.また,記録者のチェックの仕方でかなり結果が変化してしまうこともある.その意味で今回のDiplometは非常に優れた器械であり,特に暗室のスペースの狭いところではお薦めの器械といえる.ただ,あえて問題点を指摘するとすれば,本来のHessスクリーンと違い顎台に固定しない点に違和感がある.甲状腺眼症や重症筋無力症,外眼筋線維症の患者では顎を上げて代償するため,かなりきっちりと頭部を固定しないと測定結果が毎回異なってしまうことが多い.今回の測定方法では神経麻痺の測定など頭位の影響を受けないものでは安定した結果が得られ,患者にも優しい測定が可能であるが,できれば顎台のオプションの設定が必要ではないかと思われた.☆☆☆(62)

眼感染症:ファンギフローラY®

2006年1月31日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006??0910-1810/06/\100/頁/JCLS■ファンギフローラY?とはファンギフローラY?(バイオメイト社)は,スチルベンジルスルホン酸系蛍光染料(構造式非公表)を利用した染色法であり,b構造をもつ多糖類であるキチン,セルロースを特異的に染色することができる.このため,真菌,アカントアメーバのcystを特異的・かつ非常に鋭敏に検出することができる.ファンギフローラY?は,A液(変性ヘマトキシリン)とB液(スチルベンジルスルホン酸系蛍光染料と共染防止剤)から構成されている.角膜真菌症やアカントアメーバ角膜炎の診断には直接塗抹鏡検が必須項目である.しかし,臨床サンプルにおいて角膜病巣部の生検材料は微量しか採取することができず,真菌あるいはアカントアメーバの同定率も十分高いとはいえない.迅速に治療を開始するため真菌やアカントアメーバが鏡検で検出されるかどうか,さらに薬剤に反応して病原体量が減少しているのかどうかは,臨床上大きな意義があると考えられる.このような定性的または定量的な判定に用いることができる検査法として,ファンギフローラY?染色があげられる.欧米では,同様の染色試薬としてもともと織物の漂白剤の一種であったcalco?uorが真菌,アカントアメーバのcystの同定(57)眼感染症セミナー─スキルアップ講座─●連載○32監修=大橋裕一井上幸次32.ファンギフローラY?染色宮?大鳥取大学医学部視覚病態学ファンギフローラY?染色を用いた真菌,アカントアメーバの検出法は,観察に蛍光顕微鏡を必要とするが,高感度な方法であり,試料の保存性にもすぐれ,観察に高度な熟練を要しない点において,角膜真菌症,アカントアメーバによる角膜炎の診断に非常に有用であると考えられる.図3潰瘍部の生検標本のファンギフローラY?染色くびれた隔壁をもつ糸状菌を多数認める.図1フザリウムによる角膜潰瘍不規則な辺縁のhyphateulcerを認め,前房蓄膿を伴っている.図2潰瘍部の生検標本のグラム染色フザリウムに特徴的な大分生子を認める(矢印).———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006(58)に頻用されている.Calco?uorもキチン,セルロースを特異的に染色する試薬であるが,ファンギフローラY?に比べやや感度が劣るとされている.より一般的なパーカーインク?KOH法と比較した場合の相違点は,角膜実質がintactのまま保たれた状態での試料を作製することができる点と試料の保存性である.角膜組織への染色試薬の浸透性は非常によく,染色後も1年以上にわたって蛍光は退色しない.■染色方法角膜生検材料をスライドガラスに付着させ乾燥させる.この場合,できるだけ一塊となるよう26ゲージ針などで切除するように採取する(この際,セルロースを含む通常の綿棒などは使用しない).乾燥後,エタノールを滴下して固定する.なお,この状態で試料の保存は長期にわたって可能であり,手元に試薬や蛍光顕微鏡がない場合,後日他施設へ依頼することもできる.染色はまず,A液(変性ヘマトキシリン)を滴下し,一面に広げ約1~2分間染色し,生検材料がはがれないように,蒸留水(通常なら水道水でも可)で数回洗浄する.つぎに,B液を1~2滴生検材料に滴下し,2~5分染色する.再び蒸留水で数回洗浄する.乾燥後,400倍および1,000倍(油浸)の蛍光顕微鏡を用いて検鏡する.観察のみなら特に封入の必要はなく,試料の採取から診断まで30分以内で完了する.■染色結果の読み方本方法を用いれば,真菌の菌糸およびアカントアメーバのendocystを明瞭かつ非常に鋭敏に染色することができる.通常の観察光下での核染色との比較から(蛍光照明をつけたり消したりすることにより),菌糸およびendocystを鋭敏に検出することができ,ヘマトキシリン染色との対比により,角膜実質および炎症細胞との良好な空間的対比関係のもと観察できる.また,このためパーカーインク?KOH法に比べ,感度面においても真菌,アメーバの検出にすぐれている.結果の解釈として,もし陰性なら採取した試料のなかには真菌はないと判断している.ただし,診断を誤らないためにはできるだけ多くの組織を塊としてとることが重要となろう.このため,塗抹状態の標本を用いた場合,検出効率が低下する.つぎに,陽性と判断するための注意すべきポイントをあげたい.まず,壊死を起こした組織においては蛍光染料が非特異的に結合することがある.このため,非特異像が疑われる場合,蛍光像の形態が真菌と一致するかを確認する必要がある.ペーパータオルやほこりのかすなども,セルロースなら蛍光を発してしまうため,その形状と大きさの観察は必要である.ただ,真菌やアメーバの染色形態は非常に特徴的であるため,偽陽性像との形態的な区別は容易である.■染色結果の解釈と有用性基本的には熟練を要しない.未治療の症例の場合,試料が十分採取できていて,ファンギフローラY?が陰性なら,真菌症ではないと考えてもよかろう.一方,判断に困るのは,すでに前医において適切な検体をとることなく,やみくもに抗真菌薬の投与が開始されてしまっていたケースである.抗真菌薬の投与によりその症例を治癒させることができなかったとしても,耐性菌種である可能性もあり,その症例が真菌症であるのかないのかの診断には結びつかない.逆に,このようなケースでは,もともと表層に存在していた可能性のある真菌すら破壊され,明らかな真菌像として認識されがたくなる.このため,逆に診断の妨げとなってしまうことがよくあるので注意したい.文献1)宮崎大:真菌性角膜感染症.眼科プラクティス3,オキュラーサーフェスのすべて,p183-189,文光堂,2005■コメント■未治療で,かつ病巣から十分な材料を採取できる場合なら,通常の染色(たとえば,グラム染色やギムザ染色)にても病原体の検出は比較的容易であるが,サンプル量や病原体の数が少ない時などには,アーチファクトとの区別に戸惑うことも多い.そんなケースで威力を発揮するのがファンギフローラY?染色である.臨床所見から真菌やアカントアメーバによる感染が強く疑われる場合には,通常染色後のサンプルを二重染色してみることを強くお勧めする.通常染色所見の検証となるのみならず,診断への決定的な情報が得られることも少なくないからである.愛媛大学医学部眼科大橋裕一

緑内障:高脂血症治療薬と緑内障

2006年1月31日 火曜日

———————————————————————-Page1(55)あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006??0910-1810/06/\100/頁/JCLS■スタチンの多面的作用高脂血症治療薬であるスタチンは,コレステロール代謝の律速段階を規定する酵素(HMG-CoAリダクターゼ)阻害薬であり,動脈硬化病変の進行を抑制する.スタチンは,そのコレステロール低下作用のみならず,心血管保護作用を有することが多くの大規模臨床試験において明らかにされてきた.そしてその作用の一部はコレステロール低下作用に依存せず,細胞内シグナルに直接作用し,血管内皮機能の改善,平滑筋増殖抑制作用,血栓形成抑制作用,抗炎症作用,血管形成促進作用といった,いわゆる多面的作用(pleiotropice?ects)によることが明らかになってきている.■スタチンの神経保護効果筆者らはラット網膜虚血再潅流障害モデル眼において,スタチンの前投与が網膜における細胞接着分子のmRNA発現は抑制し(図1),その結果白血球の細胞内への浸潤を有意に抑制することを明らかにした(図2).また,スタチン前投与は神経保護効果を示し,虚血再潅流後24時間におけるTUNEL(terminaldeoxynucleo-tidyltransferase-mediateddeoxyuridinetriphosphatenick-endlabeling)陽性で描出されるアポトーシス細胞数を有意に減少させ,虚血再潅流障害1週間後における網膜組織障害を有意に抑制していた(図3).しかも,この神経保護効果は,NOS(一酸化窒素合成酵素)阻害薬であるL-NAMEにより抑制され,NO(一酸化窒素)代●連載○67緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄67.高脂血症治療薬と緑内障本庄恵北野病院眼科緑内障において神経保護治療の開発は大きな課題の一つである.臨床応用可能な薬物療法の可能性の一つとして,筆者らは高脂血症治療薬の組織保護作用に着目し,有意な神経保護効果を明らかにした.疫学的研究や眼圧下降効果に関する研究も行われており,高脂血症治療薬は今後さらなる可能性が期待できる薬物といえる.図1スタチン前投与による網膜における細胞接着分子の発現変化RT-PCR(reversetranscription-polymerasechainreaction)法による解析により,スタチン前投与によりラット虚血・再潅流障害12時間後網膜(I/R)におけるP-セレクチンとICAM-1(intracellularadhesionmolecule-1)の遺伝子発現が対照群(PBS投与)と比較し有意に抑制されていた.*p<0.05,**p<0.005.(文献1より改変)Non-operatedVehicle-treatedStatinDensity(fold)1.81.61.41.21.00.80.60.40.20*P-selectinI/RNon-operatedVehicle-treatedStatinDensity(fold)2.22.01.81.61.41.21.00.80.60.40.20**ICAM-1I/RNon-operatedVehicle-treatedPravastatinCerivastatinAccumulatedleukocyte(cells/mm2)7006005004003002001000##I/R図2スタチン前投与による網膜内への白血球の浸潤の抑制ラット網膜虚血再潅流モデルにおいて,スタチン(pravas-tatin,cerivastatin)を前投与することにより網膜内への白血球の浸潤が対照群(PBS投与)と比較し有意に抑制された.#p<0.001.(文献1より改変)———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006(56)謝が関与した作用であることが判明した1).■スタチンの緑内障治療薬としての可能性さらに最近なって,スタチンにはRho-ROCK阻害作用があることが解明され,房水動態に影響を与える可能性が報告されている2).以前より筆者らはRho-ROCKシグナル伝達系の阻害が線維柱帯細胞の細胞内骨格の再構成を誘導し,局所投与でも有意に眼圧を下げることができることを報告しており3),スタチンの眼圧下降作用についても今後の研究が望まれる.また,疫学的研究においても,スタチンの長期投与が,緑内障の発症および進行を抑制することが報告されており4),スタチンが緑内障の病態にどのように関与しうるか,今後のさらなる検討が期待される.文献1)HonjoM,TaniharaH,NishijimaKetal:Statininhibitsleukocyte-endothelialinteractionandpreventsneuronaldeathinducedbyischemia-reperfusionintheratretina.???????????????120:1707-1713,20022)SongJ,DengPF,StinnettSSetal:E?ectsofcholesterol-loweringstatinsontheaqueoushumorout?owpathway.?????????????????????????46:2424-2432,20053)HonjoM,TaniharaH,InataniMetal:Effectsofrho-associatedproteinkinaseinhibitorY-27632onintraocularpressureandoutflowfacility.?????????????????????????42:137-144,20014)McGwinGJr,McNealS,OwsleyCetal:Statinsandothercholesterol-loweringmedicationsandthepresenceofglaucoma.???????????????122:822-826,2004GCLIPLINLILMONLOLMI/RStatin○-○-○-○+○-○-○+○+○-○+○-○+○+○+○+L-NAME図3スタチン前投与によるラット網膜虚血再潅流障害1週間後における網膜組織障害の抑制スタチン前投与により,ラット網膜虚血再潅流1週間後における網膜組織障害は対照(PBS投与)と比較し有意に抑制されていた(中パネル).このスタチンの神経保護効果はNOS阻害薬であるL-NAMEを同時に前投与することにより抑制されていた(右パネル).(文献1より改変)☆☆☆

屈折矯正手術:固体レーザーを用いた角膜切除の将来

2006年1月31日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006??0910-1810/06/\100/頁/JCLSフッ化アルゴンエキシマレーザー(波長:193nm,以下エキシマレーザー)は屈折矯正手術に用いられるレーザーとして広く普及している.しかし,有毒なガスの入れ替えが必要な点,またそれに伴い維持費が高額となる点,レーザー光の品質や出力を安定させるのがむずかしい点,などの問題点も抱えている.そのため今後の治療精度の向上や普及の促進を考えると,新たな線源を開発する必要性が生じると考えられる.エキシマレーザーに代わるものとして,それと似た紫外域の波長を発する固体レーザーが近年注目されている.これらの装置は,Nd:YAGレーザーなどから得られた赤外域付近の波長をもつレーザー光を光源とし,非線形光学結晶などを用いて紫外域の光線に変換している.これらの固体レーザーは,有毒ガスが不要で維持費が抑えられる点のみならず,スポットサイズが小さい点,高頻度にくり返し発振でき出力の安定性が高い点,装置の小型化が可能,などの点でエキシマレーザーよりも優れていると期待されている.今までに開発された固体紫外レーザーの多くは,210~213nm付近の波長を有するものであり,それらを用いた角膜切除についての報告がなされている.ヒト眼角膜による吸収実験では,190~220nmの波長の吸収率はほぼ横ばいの値を示し,角膜切除に適切なレーザー波長は190~220nmの範囲であるとされている1).213nmの固体レーザーを用いた有色家兎の角膜切除では,3カ月の観察で,臨床経過も組織学的所見もエキシマレーザーの結果に近似していた2).その後もエキシマレーザーに近い結果を示す報告が続き,実際に臨床応用も始まっている.現在わが国で認可を受けているものはないが,海外では認可を受け使用できるシステムもすでに販売されている.Andersonらは,213nm固体レーザーであるCustomVis?社のPulzar?レーザーシステム(図1)を用いて3眼の不正乱視眼にPRK(photorefrac-tivekeratectomy)を行い,矯正視力やコントラスト感(53)●連載○68屈折矯正手術セミナー監修=木下茂大橋裕一坪田一男68.固体レーザーを用いた角膜切除の将来中川智哉前田直之大阪大学大学院医学系研究科固体紫外レーザーはフッ化アルゴンエキシマレーザーに比べて,メンテナンスのしやすさやレーザー光の品質で優れた特徴をもっている.固体紫外レーザーのなかでも波長や装置の違いによりレーザーの性質が異なるため,今後もエキシマレーザーの代替を目指して研究開発が進んでいくと考えられる.←図1CustomVis?社Pulzar?レーザーシステム認可国では臨床使用が可能であり,良好な結果が報告されている.(文献3より)→図2独自開発の紫外固体レーザープロトタイプ2号機大きな電源の右上に設置された箱状のものがレーザー本体であり,非常にコンパクトである.———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006度の改善を得たと報告している3).またこの報告では,固体レーザーのもつ小さな照射径と高頻度のくり返しが,より精密なカスタムアブレーションを可能とし,加えて発熱が少なくなるなどの利点もあるとしている.これらエキシマレーザーに近い結果を示す報告が多いが,0.9%塩化ナトリウム溶液やBSS?(balancedsaltso-lution)による吸収率はエキシマレーザーに比べて213nm固体レーザーのほうがはるかに小さかった,という両者間の差異も報告されている4).このことは,部屋の湿度や角膜上の水分による矯正結果への影響が小さいという利点が考えられるが,水分を用いた角膜不整に対するスムージングが困難になるという欠点が生じうる.上に述べた水に対する吸収率の違いや,エキシマレーザーと異なった波長を用いることで治験・承認時のハードルが高くなる恐れがある,といった点を解消するためには,エキシマレーザーと同じ193nmの波長を利用できる固体レーザーの開発が望まれる.筆者らは,大阪大学工学部と㈱ニコンとの共同研究で,独自に開発した193nmの波長をもつ固体レーザー(図2)を用いて角膜切除を試みている.その基本原理は,1,547nm半導体レーザーをファイバーアンプで増幅後,CsLiB6O10波長変換素子などを用いて合計5段階の波長変換を行うことにより193nm紫外光を発生させるものであり(図3),高品質レーザー光を高頻度にくり返して照射可能である5).プロトタイプ1号機とXYステージを用いて,3mW/10kHzの条件でレーザーを試料に照射したところ,PMMA(ポリメチルメタクリレート)プレートの切除効率はエキシマレーザーと同等であった.また摘出豚眼角膜に対しても精密な加工が可能であった.本193nm固体レーザーは他の波長の固体レーザーに比べて,水による吸収がエキシマレーザーにより近いという特徴をもっている.DNA変異原性についてはエキシマレーザーと同様で問題がないと考えられ,発熱に関してはパルス幅が0.1~1.5nsecと非常に短く,有利であると考えられる.一方で現時点での課題として,出力や照射径の拡大,および高速でのスキャンニング技術の開発などがあげられる.固体紫外レーザーはエキシマレーザーに比べて,メンテナンスが容易,出力の安定性が高い,くり返し周波数が速い,照射スポット径が小さい,などのすぐれた特徴をもっている.固体紫外レーザーはエキシマレーザーの代替として,面精度の向上,環境保全,経費節減を目指して今後ますます研究開発が進んでいく可能性がある.文献1)LembaresA,HuXH,KalmusGW:Absorptionspectraofcorneasinthefarultravioletregion.?????????????????????????38:1283-1287,19972)RenQ,SimonG,LegeaisJMetal:Ultravioletsolid-statelaser(213-nm)photorefractivekeratectomy.Invivostudy.?????????????101:883-889,19943)AndersonI,SandersDR,vanSaarloosPetal:Treatmentofirregularastigmatismwitha213nmsolid-state,diode-pumpedneodymium:YAGablativelaser.???????????????????????30:2145-2151,20044)DairGT,AshmanRA,EikelboomRHetal:Absorptionof193-and213-nmlaserwavelengthsinsodiumchloridesolutionandbalancedsaltsolution.????????????????119:533-537,20015)SasakiT,MoriY,YoshimuraM:ProgressinthegrowthofaCsLiB6O10crystalanditsapplicationtoultravioletlightgeneration.?????????????????23:343-351,2003(54)図3新規レーザーの波長変換の模式図1,547nmの波長を5段階の過程により193nmの波長に変換する.FiberOptics=1,547nmλω=193nm8λωωω→3+2ωωω→4+22ωωω→7+43ωωω→8+7ωωω→2+ωω/1,547nm:ω/773nm:2ω/516nm:3ω/387nm:4ω/221nm:7ω/193nm:8LBOLBOBBOLBOCLBOEDFADFB-LD

眼内レンズ:Rescue Lensを用いた落下核皮質の処理

2006年1月31日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006??0910-1810/06/\100/頁/JCLS水晶体乳化吸引術(PEA)中に水晶体核,皮質が落下する場合がある.硝子体手術器械がない,近くに紹介可能な信頼できる熟練した硝子体手術者がいない,患者さんが転院を希望しないあるいはできないなど,種々のケースが存在する.このようなとき,白内障術者自身が安全に処理できる方法があることが望まれる.筆者らの調べた範囲では大塩の報告1)があるのみである.筆者らは,視認性を高めるために眼内ファイバーを使用できるなど工夫した同様なサンコンタクト社製中京式RescueLens(以下,レンズと略)2,3)を作製したので,具体的な手術手技を含め以下に紹介する.●手術手技1.術前準備落下水晶体核,皮質の処理法は,基本的に硝子体手術である.的確な手術を行わないと網膜?離などの重篤な合併症をひき起こす可能性がある.白内障術者は硝子体手術を経験したことが少ないため,事前に豚眼で十分に練習をしておく必要があり,患者さんに対する最低限のマナーである.合併症が発生した場合,気が動転していることも多く的確な判断ができない.あらかじめ必要なものをRes-cueセットとして準備しておくことが重要である(図1).2.観察粘弾性物質をレンズに塗布後,角膜に固定,眼内の状態を観察,処理方法をイメージする.眼内観察の際,通常の顕微鏡照明では限界があるため,ZEISS社顕微鏡に付属するスリット照明VISULUXか眼内ファイバーなど,眼内観察に優れる照明を使用するべきである(図2).眼内ファイバーは,硝子体の視認性の優れる短波長が主体のキセノン光などが有利である.片手による固定が必要であるが,眼内ファイバーは,視野が広く,眼内(51)加賀達志市川一夫社会保険中京病院眼科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎233.RescueLensを用いた落下核皮質の処理落下水晶体核皮質の最も安全な処理は,熟練した術者が硝子体器械で毛様体扁平部硝子体切除術を行うことであるが,困難な場合がある.サンコンタクト社製中京式RescueLensを用いることで,白内障術者自身で比較的安全に処理できる方法を考案したので紹介する.図1Rescueセットいざというときのために中京式RescueLensを含め必要なものをセットで準備しておくことが重要である.超音波チップは,小さな切開創より入るようにスモールチップを準備する.トリアムシノロンを即座に作製できるように,フィルタ,三方活栓,注射器もセットのなかに準備する.トリアムシノロン作製キット前房メンテナースリットナイフ硝子体カッター超音波スモールチップ眼内ファイバー中京式RescueLens顕微鏡照明スリット照明眼内ファイバー眼内ファイバー図2各種照明による眼内の視認性の違いスリット照明は,視野が狭いが,落下水晶体核,眼底がはっきりと確認できる.眼内ファイバーは,視野が広く,落下水晶体核,眼底,硝子体が確実に視認できる.顕微鏡照明は,硝子体などの詳細な確認が困難であり,使用するべきではない.———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006(00)の観察,特に硝子体の視認性に優れる(図2,右下).縮瞳状態であれば虹彩リトラクターなどで散瞳させるほうが容易である.眼内観察の結果,自身の手術技量と照らし合わせて処理が困難と思われれば,この方法はあきらめるべきである.3.前房,前部硝子体処理レンズを外し,使用する器具にあった創口を簡単に作れるスリットナイフで対角線上に2カ所の切開創を作製する.後に眼内ファイバーを観察光として使用する場合には,それらの切開創に対して90?の位置にもう1カ所切開創を作製する.白内障の手術時の切開創はこれらの器具には巨大であり,水の流出により前房が不安定になるため,基本的に使用しない.眼内操作では,一手法は水流によるキックバックがあり効率が悪いため,基本的に二手法で手術を行うべきである.硝子体カッターを用いて,二手法で前房ならびに前部硝子体を十分に処理する.この際,硝子体カッターを吸引のみのモードにして水晶体?に残存した皮質も吸引除去する.トリアムシノロンを硝子体に吹きかけると硝子体の視認性を向上できるため,安全に硝子体の処理が可能である4).4.後部硝子体,落下水晶体核,皮質処理レンズに粘弾性物質を塗布し角膜に固定する.手術中,創口からの逆流した水流で角膜上のレンズが浮遊し不安定になりやすいため,粘弾性物質は粘稠度の高いものが推奨される.それでも水流によりレンズは浮遊しやすいため,前房メンテナー,硝子体カッターあるいは眼内ファイバーを挿入する際それぞれの器具をレンズの対角線上に挿入し,レンズを挟むように機械的に固定することがレンズの浮遊を少なくする大事なポイントである.前房メンテナーを使用すると片手が自由になり,硝子体カッターなどの両手による固定あるいは眼内ファイバーの固定に使用できる.硝子体カッターで落下皮質を含め後部硝子体を十分処理をする.後部硝子体?離が起こっている症例では中心部の硝子体切除は完全に行えるが,起こっていない症例では後部硝子体?離を行わないかぎり完全切除は不可能であり,多少の残存は気にしない.最大の目的は,落下した水晶体核,皮質を吸収される限界以内まで除去することであり,硝子体?離まで行って硝子体を切除することではない.安全な処理のためには,硝子体の視認性を向上させるためのトリアムシノロンを適時塗布することが重要である.5.残存水晶体核,皮質処理水晶体核,皮質が残存していれば,超音波チップを挿入し,吸引で捕獲する.この際,硝子体を吸引していないことを十分に確認した後,眼球の中央部の安全な位置まで引き上げ,超音波で破砕することが網膜?離などの合併症を予防するうえで重要である.図1では,一手法による処理のため白内障手術時の創口よりスリーブを付けたまま挿入しているが,スリーブを外したスモールチップを他の切開創より挿入した二手法で行うほうが,核のキックバックが少なく圧倒的に容易である.後部硝子体?離が起こっていない場合には小さな落下水晶体核,皮質は捕獲困難であるが,多少の残存であれば吸収が期待できるため,無理をしないことが肝要である.文献1)大塩善幸:前部硝子体切除手術のためのコンタクトレンズ.眼科手術15:501-503,20022)加賀達志,市川一夫,吉田則彦ほか:水晶体落下時の白内障術者用の救助レンズ中京式EscapeLens.第18回日本眼内レンズ屈折矯正手術学会発表,20033)加賀達志,市川一夫,渡辺三訓ほか:中京式RescueLensを用いた水晶体核,皮質落下時の処理の方法.第19,20回日本眼内レンズ屈折矯正手術学会発表,2004,20054)PeymanGA,CheemaR,ConwayMDetal:Triamcinoloneacetonideasanaidtovisualizationofthevitreousandtheposteriorhyaloidduringparsplanavitrectomy.??????20:554-555,2000

コンタクトレンズ:コンタクトレンズによる視力補正(2)-コンタクトレンズの度数決定-

2006年1月31日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006??0910-1810/06/\100/頁/JCLSコンタクトレンズ(CL)の度数は,トライアルレンズを装用した状態で未矯正の屈折異常の程度を測定することによって求める.測定結果から必要と考えられる度数をトライアルレンズの度数に加えて処方するCLの度数を決定する.この際に注意すべき点を述べる.●トライアルレンズの選択他覚的屈折値ではなく,自覚的屈折値を参考にしてトライアルレンズの度数を選択する.ディスポーザブルレンズや頻回交換レンズなどでは豊富な度数のトライアルレンズがあるため,自覚的屈折値に近いものを選択するが,近視眼の場合は見えすぎるレンズ(過矯正レンズ)を装着すると,調節を強いられた状態になるため,自覚的屈折値よりも弱い度数のレンズを選択する.遠視眼の場合は自覚的屈折値より強い度数のレンズを選択する.±4.00D以上の近視,遠視では眼鏡レンズとCLでは角膜頂点間距離が異なるので,近視眼の場合にはさらに弱い度数を,遠視眼の場合には強い度数を選択したほうがよい.乱視眼に対するトーリックソフトコンタクトレンズ(SCL)の処方においては,なるべく乱視軸と一致した円柱軸を選択し,円柱度数は乱視度数よりも弱いものを選択する.乱視眼では検眼レンズによる矯正の値(球面レンズと円柱レンズの度数の和)が±4.00D以上になると角膜頂点間距離の違いによる補正が必要である(図1).ハードコンタクトレンズ(HCL)および従来型SCLのトライアルレンズの度数は-3.00Dのものが多く,-3.00D以下の近視眼や遠視眼に装用する場合は必ずトライアルレンズの上からプラスの検眼レンズをかけて雲霧状態を壊さないようにしなければならない.●トライアルレンズのセンタリングレンズのセンタリングが悪いと良好な安定した視力が得られない.特に,ハイマイナス,ハイプラスのレンズではレンズの中心部と周辺部では屈折力の差が大きい(49)図1レンズの度数補正a)乱視の矯正を必要としない場合:検眼レンズによる矯正の値(球面レンズの度数)が±4.00D以上のときは角膜頂点間距離の補正を行う(たとえば,-5.00Dの球面レンズは-4.75Dとなる).b)乱視の矯正を必要とする場合:検眼レンズによる矯正の値(球面レンズと円柱レンズの度数の和)が±4.00D以上のときは強主経線方向と弱主経線方向のそれぞれについて補正を行う(たとえば,強主経線方向が-8.00Dなら-7.25D,弱主経線方向が-6.00Dなら-5.50Dとなる).a)b)-5.00D-8.00D-6.00D-4.75D-5.00D-4.75DS-5.00DS-6.00DC-2.00DAx180°S-4.75D()-7.25D-5.50DS-5.50DC-1.75DAx180°()図2ハイマナスのHCL(-9.00D/8.8mm)の屈折力分布レンズの中心の屈折力は-9.00Dであるが,中心から離れるにつれて屈折力は強くなる.-8.50-9.00-9.50-10.00-10.50-11.00-11.50-12.00-12.50-13.00-13.500.01.02.03.04.05.06.07.08.0(mm)-8.50-8.75-9.00-9.25-9.50-9.75-10.00-10.25(D)(D)植田喜一ウエダ眼科コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純TOPICS&FITTINGTECHNICS259.コンタクトレンズによる視力補正(2)─コンタクトレンズの度数決定─———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006(00)(図2)ため,レンズの中心と瞳孔の中心が大きくずれることは好ましくない.●トライアルレンズによる追加矯正トライアルレンズを装用した状態でオートレフラクトメータや検影法による他覚的屈折検査を行った後に,検眼レンズによって自覚的な見え方を確認しながら必要なレンズ度数を測定する.前回に述べたように,両眼開放状態による検査が望ましい.赤緑試験(二色テスト)を行って低矯正,あるいは過矯正を確認する.遠方だけでなく,近方(30cmの距離ではなく患者の作業距離)の見え方を確認する必要がある.●処方レンズの度数決定追加矯正に要した検眼レンズの度数にトライアルレンズの度数を加えるが,検眼レンズの度数が±4.00D以上の場合は,角膜頂点間距離の違いを補正した換算表を用いて処方するCLの度数を決定する.HCLを角膜上に装着すると,HCLの後面と角膜前面との間隙は涙液で満たされるが,これがレンズとして働く(涙液レンズ).角膜形状に対してパラレルにフィットした場合には涙液レンズは±0Dであるが,1段階(0.05mm)フラットなベースカーブ(BC)のHCLを選択すると,涙液レンズは-0.25Dとして働く.同様に1段階スティープなBCのHCLを選択すると涙液レンズは+0.25Dとして働く(図3).仮に,-3.00Dのトライアルレンズを装用しても1段階スティープなBCのレンズでは-3.00D+0.25D=-2.75Dとして働くことになる.HCLの処方時にトライアルレンズのBCと異なるものを選択する場合には,レンズ度数も変更しなければならない(表1).次回は,定期検査時におけるCLの視力補正について述べる.フラット1段階(0.05mm)-0.25Dパラレル0Dスティープ1段階(0.05mm)+0.25D図3HCLのBCと涙液レンズ角膜形状に対するHCLのBCの違いで,涙液レンズの度数は変化する.BCを1段階(0.05mm)フラットにすると涙液レンズは-0.25Dの働きをし,1段階スティープにすると涙液レンズは+0.25Dの働きをする.表1HCLのBCの変更に伴う度数の変更BC:8.00mmレンズ度数:-3.00Da)BC:8.05mm?レンズ度数:-2.75Dを選択b)BC:7.95mm?レンズ度数:-3.25Dを選択BCが8.00mm,レンズ度数が-3.00DのHCLで適切な矯正ができている場合に,a)BCが8.05mm,レンズ度数が-3.00Dを選択するとレンズ度数と涙液レンズがトータルとして-3.25Dになる.0.25Dの過矯正になるので,選択するCLの度数は-2.75Dとなる.b)BCが7.95mm,レンズ度数が-3.00Dを選択するとレンズ度数と涙液レンズがトータルとして-2.75Dとなる.0.25Dの低矯正になるので,選択するCLの度数は-3.25Dとなる.

写真:落屑症候群

2006年1月31日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006??0910-1810/06/\100/頁/JCLS(47)富田剛司東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能医学講座眼科学写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦260.落屑症候群図1水晶体前面の落屑物質の沈着瞳孔領中央部における落屑物質の円盤状沈着(centraldisc)が明瞭に認められる例である.一部,膜様に沈着している部分もあり,偽落屑物質とよばれた所以である.虹彩角膜①②③図2図1のシェーマ①:虹彩のru?の消失.②:膜様に沈着した落屑物質.③:円盤状の落屑物質の沈着.図3瞳孔縁のフケ様沈着虹彩の瞳孔縁にみられる落屑物質の白色フケ様沈着.虹彩ひだ(ru?)部の脱色素も観察される.これがみられたら,落屑症候群を疑い,散瞳して水晶体前面の落屑物質沈着の有無を確認すべきである.図4落屑症候群の隅角隅角鏡による観察で,強い色素沈着を認める.Schwalbe線前方には,色素が波をうつようなSampaolesilineを認める.———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006(00)落屑症候群(exfoliationsyndrome)は,眼組織が線維性細胞外物質(落屑物質)を産生し,水晶体,虹彩などの眼組織に進行性に沈着することを特徴とする.落屑物質は,眼組織のみならず,皮膚,心臓,肺,肝臓などの全身臓器にも存在することが知られている.落屑物質が線維柱帯組織に沈着すると同部における房水通過障害が生じ,続発緑内障の原因となることがある.落屑症候群に伴う続発開放隅角緑内障は落屑緑内障とよばれる.本症候群は,赤外線による水晶体?の表層?離との形態的類似性から,偽落屑症候群とよばれ,それに伴う緑内障を偽落屑緑内障,あるいは水晶体?に関連した緑内障という意味合いで,水晶体?性緑内障または?性緑内障(capsularglaucoma)とよばれることも多い.ただ最近では,日本緑内障学会による緑内障診療ガイドラインおよび日本眼科学会による眼科用語集第4版には落屑症候群および落屑緑内障の用語が採用されている.そのため,本セミナーでは“落屑症候群”を用いた.落屑症候群の有病率は,世界的にみて大きな地域差があり(北欧,スコットランド,ギリシャなどで多く,逆にイヌイットではゼロ),年齢とともに上昇する.特に60歳代後半から70歳前半で増加する.ただし,男女差が存在するかどうかは明確ではない.わが国では,多治見スタディの基礎データによれば,40歳以上で平均0.71%(うち緑内障は0.25%),70歳以上で3.29~3.68%(うち緑内障は0.82~0.86%)と報告されている1).高眼圧症を含む緑内障の有病率は,多治見スタディの結果からもわかるように,20~30%との報告が多い2).落屑物質は,水晶体前面,瞳孔縁,Zinn小帯,角膜内皮,隅角などに沈着する.特に瞳孔縁や水晶体前面の落屑症候群の沈着は本症候群に最も特徴的で(図1),細隙灯顕微鏡検査で瞳孔縁に白色のフケ様の沈着物やそれに伴って虹彩のひだ(ru?)の消失を認める場合は,散瞳して水晶体前面をよく観察すべきである(図2).落屑症候群の典型的な沈着パターンは,中央部に細かい沈着物が集合した円盤状の混濁(centraldisc),周辺部から瞳孔に向かって鋸歯状あるいは石筍様の不規則な辺縁を有する膜状の沈着(peripheralband)および,両者の間に介在する沈着物を欠く領域(intermediatezone)の3者よりなる.Peripheralbandはすべての症例に存在するが,centraldiscは,20~60%の症例では認めない.落屑症候群がZinn小帯に沈着すると同部の脆弱性を招き,水晶体動揺や水晶体脱臼が生じることがある.さらに,9~18%の症例で狭隅角がみられ,14%で周辺虹彩前癒着が観察されたと報告されている.また,散瞳不良とも相俟って白内障手術時に硝子体脱出などの合併症をきたしやすい.隅角色素沈着は高度で,また下方に沈着が強い傾向がある.Sampaolesilineとよばれる波状の色素沈着線が,Schwalbe線の前方に認められる(図4).治療は原発開放隅角緑内障に準じて行う.レーザー線維柱帯形成術は,原発開放隅角緑内障とほぼ同等の長期成績が報告されている.観血的治療では,線維柱帯切開術もその病態から比較的よく奏効する.文献1)澤田明,石田恭子,山本哲也:落屑緑内障.緑内障(北澤克明監修),p237-238,医学書院,20042)RitchR,Schlotzer-SchrehardtU:Exfoliationsyndrome.???????????????45:265,2001