———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSはじめにオルソケラトロジー(orthokeratology)とは,特殊なデザインをもつハードコンタクトレンズ(HCL)を用いて屈折異常を一時的に矯正する方法である.現在のオルソケラトロジーは高い酸素透過係数(Dk)値の酸素透過性HCLを使用するため,夜間就寝中のみ装用し昼間は裸眼で生活できるという利点がある.LASIK(laser???????keratomileusis)などの屈折矯正手術と異なり,装用を中止すればまたもとの状態にもどるという点から患者側としては受け入れやすい矯正方法の一つとなる可能性がある.海外においては広範囲に普及しつつある方法であり,2002年にアメリカではFDA(FoodandDrugAdministration)によって認可がおりている.日本では臨床治験が行われているのが現状である.I矯正原理角膜形状をフラット化させることにより近視の矯正を行うのはLASIKなどの屈折矯正手術と同様である.もともと通常のHCLをフラットに処方することにより近視が矯正されることを手がかりとし,レンズのデザインが改良されてきた.現在臨床応用されているのは第三世代のオルソケラトロジーレンズ(以下,オルソレンズ)である.これは4つのカーブをもっており,良いフィッティングで最大の効果を出すように工夫されている.①ベースカーブ:矯正効果をもつ部分で通常6mm径,②フィッ(25)???*YoNakamura:京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学**OsamuHieda:バプテスト眼科クリニック〔別刷請求先〕中村葉:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学特集●新しいコンタクトレンズの展望あたらしい眼科23(7):867~871,2006オルソケラトロジーハードコンタクトレンズの紹介?????????????????????????????????????????????????中村葉*稗田牧**図1代表的なレンズのフルオレセイン染色パターン図2レンズのデザイン①ベースカーブ②フィッティングカーブ③アライメントカーブ④周辺カーブ———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006ティングカーブ:ベースカーブよりスティープで,レンズ後面が角膜と理想的に接するように働きレンズのフィッティングを決める部分,③アライメントカーブ:角膜中間から周辺部にかけて接し,レンズのセンタリングと矯正効果に関係する部分,④周辺カーブ:レンズの固着を防ぐための部分からなっている(図1,2).近視を矯正するために,角膜中心のフラットなケラト値(以下,K値)よりもさらにフラットなベースカーブのレンズを用いて中央部を圧迫し形状変化を起こしている.この圧迫変化がどのように生じているかは不明な点もあるが,涙液を介して陰圧を起こしているという説や角膜上皮の変化を生じている1,2)という説がある.II適応適応としてまず,HCLの扱いがきちんとできること,決められた使用方法を守れることが必要である.HCLと同様に以下の症例は適応外である.前眼部の急性炎症および感染症,角膜の外傷や疾患,重症ドライアイ,角膜知覚低下,コンタクトレンズ(CL)不適応の原因となる全身疾患,CL不適応となるアレルギー疾患などである.年齢についてHCL同様制限は設けられていない.ただし,夜間装用という通常のHCLとは違った環境での使用であるため,特に若年者に対する処方には注意が必要であると考えられる.レンズの種類により度数の適応は異なるが,おもに中等度までの近視(-6.0D以下)について良好な結果が得られている.また,乱視については1.5Dくらいまでが良い適応であるが,特に倒乱視は0.75Dくらいまでを適応としている.角膜曲率半径も種類により異なるが,極端にスティープな角膜やフラットな角膜は良好な結果を得にくい.39.0~47.0Dくらいまでが良い適応と考えられる.以上はメーカー側での適応のすすめであり,今後症例の蓄積によって有効性および安全性が確立されてくれば適応についても明らかになるであろう.III処方の仕方前項Ⅱで述べた適応条件を前提とし,処方する.まず,屈折度数とK値を測定し,フラットなK値と矯正量からレンズの選択を行う.例として,患者のK値が43.0D,44.0D(平均:43.5D)で-3.5Dの近視であるとすると,フラットなK値である43.0Dをとって,43.0D/-3.5Dのレンズを選択することとなる.このレンズを装着させて30分程度なじませた後,タイトで動きが悪い,または鼻側に偏るようであれば,よりフラットなアライメントカーブをもつレンズに変更する.この際,フラットにすると矯正効果が強くなるため,矯正量を弱めて処方しなおす,つまり42.5D/-3.0Dに変更してみる.再び,フィッティングを観察し,良好なフィッティングになるようにしてレンズを決定する.フラットであれば,逆にスティープなレンズに変更して観察する(図3).このように効果を判定しながら処方を変更していく必要があり,患者さんには視力が安定するまで頻回の来院が必要な可能性のあることを説明するべきである.レンズは特に朝はずす際に固着している可能性があるため,起きてからしばらくたってから人工涙液を十分に点眼した後,レンズの動きをみてからはずすようにする.また,就寝時閉瞼が不完全な症例では乾燥による固着が起こりやすいため,患者の訴えや角膜の状態を十分観察する必要がある.診察はレンズを装着1日後,1週間後には観察を行い,効果が安定してくれば1カ月期間をあけて観察する.定期診察時には,効果判定のため視力測定,センタリングの判定のため角膜形状解析,合併症の予防のため角膜上皮のフルオレセイン染色検査および角膜内皮細胞検査を行う3).(26)屈折検査(オートレフラクトメータなど),視力検査・角膜形状検査(ケラトメータ,ビデオケラトグラフィー)フラットK値,矯正量でレンズ選択(例:43.0D,-3.5D)フィッティングチェック(センタリング,動き,クリアランス)装用後,角膜形状・屈折度数により調整タイト,鼻側偏位ならフラットに(例:42.5D,-3.0D)ルーズ,耳側偏位ならスティープに(43.5D,-4.0D)図3オルソケラトロジーのレンズ選択———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006???IV症例提示〔症例1〕11歳,女性.初診時屈折値は右眼:sph-2.75Dcyl-0.75DAx180?,左眼:sph-2.5Dcyl-0.75DAx180?であった.角膜曲率半径は右眼はK1(フラットなケラト値):44.0D,K2(スティープなケラト値):46.25D,K(ケラト値の平均値):45.0D,左眼はK1:44.0D,K2:46.25D,K:45.0Dであった.この症例に対して右眼はベースカーブ(BC):43.75D,-3.0D,左眼はBC:44.0D,-3.0Dのレンズを処方した.経過を角膜形状解析装置TMS-2で測定した図で表す.両眼とも約1週間で裸眼視力が1.5と改善しており,昼間時の日常生活に問題なく高い満足度を得られた(図4,5).(27)2.1(3.057.0-C=D57.2-S)081xAD12.1(3.0)05.1-SW15.1).c.nM15.1).c.n図4症例1:右眼経過5.1(4.0)081AD57.0-C=D05.2-SD12.1(5.0)081A05.0-C=D05.1-SW1)c.n(5.1M1)c.n(5.1図5症例1:左眼経過———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006〔症例2〕27歳,男性.初診時屈折値は右眼:sph-5.5Dcyl-1.25DAx11?,左眼:sph-5.5Dcyl-1.25DAx9?であった.角膜曲率半径は右眼はK1:42.0D,K2:44.5D,K:43.75D,左眼はK1:42.0D,K2:44.5D,K:43.75Dであった.処方レンズは右眼はBC:42.0D,-5.5D,左眼はBC:42.0D,-6.0Dであった.近視度数が中等度であり乱視度数もやや大きかったが,1カ月ほどで裸眼視力は回復した.右眼装用前に裸眼0.08であったが,1年6カ月後には1.0に回復,左眼も0.04の裸眼が1年6カ月後には1.2に回復していた.ただし,オートレフラクトメータによる屈折度は右眼:sph-6.25Dcyl-4.00DAx1?,左眼:sph-5.75Dcyl-5.00DAx166?であり,オートレフラクトメータで測定した屈折度と自覚測定した屈折度に大幅な相違があった.図6,7に装用前と装用1年6カ月後のTMS-2で測定した角膜形状を示す.下方偏位をしてはいるが,自覚的には視力の変動がややあるものの日常生活には特に問題なく,ある程度の満足度が得られていた.V合併症一般的なHCL同様に,アレルギー性結膜炎,角膜上皮障害,一時的な酸素欠乏による浮腫などは起こる可能性がある.京都府立医科大学病院眼科で経験した角膜上皮障害の症例を提示する.症例は24歳,男性.装用初日に写真のような角膜上皮障害を生じた(図8).レンズをはずす際の点眼の指導などにより,その後問題なくレンズの使用ができている.つぎの症例は8歳の女性.装用後ときどき軽度の角膜上皮障害を生じていたが,装用8カ月ころより視力低下を自覚し,受診.写真に示すような角膜上皮障害を生じており,矯正1.2であった視力が1.0に低下していた(図9,10).レンズを中止し,抗生物質および低濃度ステロイド点眼にて約1カ月後には軽快した.この症例については治療に1カ月の期間を要したことから,角膜上皮の酸素不足または機械的な障害から表層のみではなく深層上皮の障害が生じたものと考えられた.オルソレンズの特徴として緑膿菌感染の報告がいくつかみられる4,5).一部の地域における報告に限られていることから,これはおそらく洗浄方法や装着方法など使用方法に問題があったのではないかと推測される.ただし,オルソレンズはその形状からレンズ後面に汚れがたまりやすいこと,夜間装用による涙液交換の少なさが感染の危険性をあげることを考えて,洗浄方法や装着方法などについては十分患者に確認し定期的な経過観察をする必要がある.また,角膜の形状を変化させることに起(28)図6症例2:角膜乱視の強い例(装用前)図8角膜上皮障害図7症例2:角膜乱視の強い例(装用1年6カ月後)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006???因する合併症として角膜鉄沈着がある.これは他の屈折矯正手術,LASIKやPRK(photorefractivekeratecto-my)でも以前から報告されているが,角膜形状の変化に伴い凹面部分に鉄が沈着する.自覚的症状もなく視力にも特に影響しないものであり,この変化は可逆的なものであると考えられている6).酸素透過性の高いHCLを使用してはいるものの酸素不足による内皮障害については今後長期の経過観察が必要である.現在の報告では1年の経過では内皮障害は生じていなかったとの報告がある6).いずれにしても現在行われている臨床治験の結果,安全性についても明らかにされていくであろう.オルソレンズは今後日本においてもその手軽さから希望者が増加する可能性のある屈折矯正の一つの方法である.治験の結果が明らかとなり適応をきちんと決めたうえで,処方技術をもつ医師が処方をしていくようにするべきである.(29)文献1)吉野健一:屈折矯正手術の新しい展開Orthokeratology.????????19:168-173,20052)MatsubaraM,KameiY,TakedaSetal:Histologicandhistochemicalchangesinrabbitcorneaproducedbyanorthokeratologylens.????????????????30:198-204,20043)稗田牧:視力補正・矯正診療の仕方オルソケラトロジー.角膜疾患─外来でこう診てこう治せ─,p232-233,メジカルビュー社,20054)YoungAL,LeumgAT,CheungEYetal:Orthokeratolo-gylens-relatedPseudomonasaeruginosainfectiouskerati-tis.??????22:265-266,20035)YoungAL,LeungAT,ChengLLetal:Orthokeratologylens-relatedcornealulcersinchildren:acaseseries.??????????????111:590-595,20046)HiraokaT,FuruyaA,MatsumotoYetal:Cornealironringformationassociatedwithovernightorthokeratology.??????23(Suppl8):S78-81,20047)HiraokaT,FuruyaA,MatsumotoYetal:In?uenceofovernightorthokeratologyoncornealendothelium.???????23(Suppl8):S82-86,2004図10図9と同一症例のフルオレセイン染色像図9角膜上皮障害