———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS像力欠損のためであり両眼視機能を得ることも困難であるという感覚異常説,Chavasse7)は輻湊機能の過剰反応による交叉固視から乳児内斜視は生じるとの運動異常説をそれぞれ述べ,両眼視機能回復は困難であると結論付けている.20世紀後半にはCostenbader8),Taylor9)らが2歳までの早期手術によって10Δ以内の眼位に矯正すれば立体視と融像の獲得は可能であると報告し,1981年Ing10)は10Δ以内の術後眼位を少なくとも6カ月間維持した乳児内斜視106例の術後結果より,手術時期2歳までの早期手術が両眼視機能の獲得に有効であることを証明した(図1).1988年vonNoorden11)も同様の報告をし,乳児内斜視の手術は2歳までに行われることが主流となっていた.しかし,1994年Wrightら12)が生後6カ月以内の超はじめに斜視治療の目的は,眼位の正位化と良好な両眼視機能の獲得であることは言うまでもない1).術前より比較的良好な両眼視機能を有している間欠性外斜視や後天内斜視と異なり,乳児(先天)内斜視は発症時期が早いため,眼位矯正手術を行っても良好な両眼視機能を獲得することはむずかしく,斜視学者にとっては乳児内斜視における良好な両眼視機能の獲得は大きな宿題として立ちはだかっている.しかし,今世紀に入って正常立体視の獲得が生後6カ月以内の超早期手術によって可能となりうるとの報告が数多く発表されるようになってきた2~5).わが国においても2005年の日本弱視斜視学会総会で「乳児内斜視の超早期治療」とのシンポジウムが開催され,両眼視機能,特に立体視の獲得には生後6カ月以内の超早期手術が有用であることが確認された.本稿では,乳児内斜視の手術時期の変遷,ヒトの両眼視の発達に関する最近の知見,サルの第一次視覚野における内斜視の両眼視発達への影響,筆者が報告した内斜視手術時期と両眼視機能との関係,などについて解説を進めたい.I乳児内斜視の手術時期の歴史20世紀前半には,乳児内斜視の手術は2歳以後の晩期手術が主流であり,手術によって良好な眼位が得られても両眼視機能は不良であることがほとんどであった.Worth6)は,乳児内斜視は遺伝に基づく中枢神経系の融(11)??*TeijiYagasaki:眼科やがさき医院〔別刷請求先〕矢ヶ﨑悌司:〒494-0001一宮市開明字郷中62-6眼科やがさき医院特集●小児眼科の新しい考え方あたらしい眼科23(1):11~18,2006両眼視機能の発達と内斜視の早期手術?????????????????????????????????????????????????????????????矢ヶ?悌司*0~67~1213~24眼位矯正月齢25~79両眼視機能の頻度(%)1007550250:FusionorStereopsis:FusionandStereopsis図1眼位矯正時期と両眼視機能(Ing,198110)より改変)———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006(12)早期手術によって正常立体視を獲得した症例を報告して以来,21世紀になり立体視の獲得には生後6カ月以内の乳児内斜視超早期手術が有用である結果が数多く発表されてきている2~5).IIヒトの両眼視の発達正常立体視の獲得可能な限界時期はいつなのであろうか.その前にヒトの両眼視の発達について解説してみたい.ヒトの両眼視の発達は,生後2カ月から4カ月頃より萌芽しはじめ,2歳までに正常成人の80%のレベルに達し,5歳までにほぼ完成するといわれている(図2)13).ヒトの視覚情報は,網膜?外側膝状体?大脳皮質に連結されている小細胞系(parvocellularpathway:P系)と大細胞系(magnocellularpathway:M系)の独立した2つの神経機構によって処理され,両眼視機能もこの2つの神経機構のいずれかに属する.両眼視のうち60?より良好な正常静的立体視はP系によって処理されて成立し,大まかな静的立体視,動的立体視や融像などはM系によって処理されて成立する(表1)14).P系とM系の発達には差がある15).M系の視覚反応は生直後より明らかに存在し,生後2カ月から4カ月頃より急速に発達し生後6カ月頃には最大の視覚反応を示す.その後反応はやや低下するものの,すでに成人の視覚反応レベルには到達している.それに対しP系の視覚反応は生直後にはほとんどなく,M系の発達に遅れて出現し,1歳の終わり頃までに徐々に増大する.その後も視覚反応の発達は継続し,4歳過ぎに成人の反応レベルまでに到達する.両眼視もM系機能とP系機能に分けられるが,P系機能の発達はM系機能の発達に続いて生じてくると考えられ,乳児内斜視における両眼視治療の第一目的は,まずM系機能を発達させて両眼視細胞を視覚中枢に存在させることに他ならない.IIIサルを用いた超早期手術の実験的考察ヒトの両眼視の発達に最も近い動物はサルであり,一次視覚中枢(V1)における両眼視ニューロンの発達と両眼視の成熟との関連を検討することに最も適した実験モデルである.正常アカゲザル(rhesusmonkey)の立体視の発達(図3)は,生後6日目にはすでに一次視覚中枢(V1)に存在している視差感受性細胞を介して生後2週から4週頃に急速に現れ,生後6週から8週頃には成人サルのレベルにほぼ到達している16).サルにおける週単位を月単位に置き換えるとほぼヒトの立体視の発達に一致する.プリズムレンズによって斜視を作製したサルの実験結果17~20)について解説を進めるが,週単位を月単位に変換してお読みいただくとより理解しやすい.表1両眼視に関する視覚情報処理機構小細胞系(Parvocellularpathway:P系)?60?より良好な正常静的立体視大細胞系(Magnocellularpathway:M系)?大まかな静的立体視?動的立体視?融像02468101214週齢立体視の頻度(%)100806040200:立体視≦1780?:立体視<88?図3サルの立体視の発達(O?Dellら,199716)より改変)0246810121416月齢立体視の頻度(%)100806040200:正位:内斜視図2ヒトの立体視の発達(Birch,199313)より改変)———————————————————————-Page3(13)あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006??1.立体視感受性期間のはじまり生後2週(ヒトの生後2カ月であり立体視発達前モデル)から2週間プリズム装用したサル,生後4週(ヒトの生後4カ月であり立体視発達開始モデル)から2週間プリズム装用したサル,生後6週(ヒトの生後6カ月であり立体視発達中モデル)から2週間プリズム装用したサルの一次視覚中枢(V1)ニューロンを正常サルと比較すると,3群とも正常サルより視差感受性ニューロンは減少し両眼抑制相互作用が認められた(図4)19).しかし,生後4週および生後6週から2週間プリズム装用したサルは,生後2週から2週間プリズム装用したサルと比較し,視差感受性ニューロンは減少と両眼抑制相互作用の程度は強く,特に生後6週から2週間プリズム装用したサルは,生後2週から2週間プリズム装用したサルの3倍の視差感受性ニューロンの減少(図5)と2倍の両眼抑制ニューロンが存在していた(図6)20).これらの結果は,斜視が立体視発達開始期(生後4週から6週,ヒトの生後4カ月から6カ月に相当)に存在すると一次視覚中枢(V1)に視差感受性の減少と抑制の発生が生じることを証明している.これらは立体視発達開始期の眼位正常化が必要因子であることを示唆している.2.斜視の立体視感受性への影響立体視発達の開始時期である生後4週(ヒトの生後4カ月)に,それぞれ2週間,4週間,8週間プリズム装用したサルの一次視覚中枢(V1)ニューロンを比較すると,すべてにおいて視差感受性ニューロンの高度の減少(図7)との高頻度の両眼抑制相互作用が認められた(図8)20).8週間プリズム装用したサルで視差感受性ニューロンの高度の減少との両眼抑制相互作用が最も強く認められたが,2週間プリズム装用したサルと比較しても大きな差はなく,視差感受性ニューロンの減少との両眼抑制相互作用の発生は,プリズム装用期間に相関したものではなく,立体視発達開始から2週間(ヒトの2カ月に相当)の短期間で急速に生じている.斜視の影響は立体視発達開始時期に最も感受性が高いことが証明されたものと考えられる.3.立体視感受性期間の終わり生後4週(ヒトの生後4カ月であり立体視発達開始モデル)から4週間(ヒトの4カ月)プリズム装用したサ00.10.20.30.4010203040週齢出生468:プリズムレンズ装用期間2~4W(n=2)4~6W(n=2)6~8W(n=2):V1ニューロン測定時期88107119:Proportiom:Bll両眼相互作用指数Bllが低いほうが抑制が強い視差感受性ニューロンの比率(%)図4サルの第一次視覚野における斜視の影響(1)立体視感受性開始時期の検討.(Moriら,200219)より改変)図5サルの第一次視覚野における斜視の影響(2)立体視と斜視時期の検討?視差感受性ニューロンについて.(Kumagamiら,200020)より改変)0124810011988948584:Normal:Prism週齢視差感受性ニューロン(%)1008060402000124810011988948584:Normal:Prism週齢両眼相互作用指数(低いほうが抑制的)0.60.50.40.30.20.1図6サルの第一次視覚野における斜視の影響(3)立体視と斜視時期の検討?両眼抑制相互作用について.(Kumagamiら,200020)より改変)———————————————————————-Page4??あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006(14)ルと8週間(ヒトの8カ月)プリズム装用したサルについて,生後8週目および12週目(ヒトの生後8カ月および12カ月)時と生後2歳(ヒトの生後8歳)時の一次視覚中枢(V1)ニューロンを比較し,斜視矯正後の一次視覚中枢(V1)の視差感受性と両眼抑制の可逆性について検討した(図9)19).プリズムを除去して眼位矯正がなされた生後8週目(ヒトの生後8カ月)時と生後12週目(ヒトの生後12カ月)時の視差感受性ニューロンの減少との両眼抑制相互作用の増加はともに認められた.生後4週(ヒトの生後4カ月であり立体視発達開始モデル)から4週間プリズム装用(ヒトの斜視期間4カ月)したサルにおいては,2歳時(ヒトの8歳時)の視差感受性障害と両眼抑制の程度は生後8週時(ヒトの生後8カ月)と比較しわずかであるものの改善していたのに対し,8週間プリズム装用(ヒトの斜視期間8カ月)したサルにおいては,このような視差感受性障害と両眼抑制の程度の改善はまったく認められていない.以上の結果は,立体視の可逆性は,生後8週(ヒトの生後8カ月)には程度は弱いなりに残存しているが,生後12週(ヒトの生後12カ月)における立体視の可逆性はほとんど消失していることを証明している.IVヒトの乳児内斜視の超早期手術と両眼視1981年Ing10)は,10Δ以内の術後眼位を少なくとも6カ月間維持した乳児内斜視106例を検討し,Worth四灯試験による近見融像,またはTitmusStereoTests(TST)による立体視を獲得したものは生後6カ月までに手術された群では100%,7カ月から12カ月までに手術された群では91%,13カ月から24カ月までに手術された群では92%であったのに対し,25カ月以後に手術された群では31%のみで,手術時期24カ月に両眼視機能の獲得に有意差(p<0.001)があることを証明した(図1).しかし,60?未満の正常立体視を得ることはむずかしく,正常対応であり周辺立体視や融像を獲得できるsubnormalbinocularvisionの状態や8Δ以内の微小斜視の状態を獲得することが限界であった11).この限界に一石を投じたものが1994年のWrightら12)の報告Birth1241286100111133107103948584:Normal:Prism週齢視差感受性ニューロン(%)100806040200図7サルの第一次視覚野における斜視の影響(4)立体視への斜視期間の検討?視差感受性ニューロンについて.(Kumagamiら,200020)より改変)Birth124121086100111133107103948583:Normal:Prism週齢両眼抑制ニューロン(%)6050403020100図8サルの第一次視覚野における斜視の影響(5)立体視への斜視期間の検討?両眼抑制ニューロンについて.(Kumagamiら,200020)より改変)8WNormal4週齢から8週齢まで4週間プリズム装用4週齢から12週齢まで8週間プリズム装用AdultInfantAdultInfant両眼相互作用指数(低いほうが抑制的)0.70.60.50.40.30.20.10図9サルの第一次視覚野における斜視の影響(6)眼位矯正期と視覚発達終了期における抑制の可塑性.(Moriら,200219)より改変)———————————————————————-Page5(15)あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006??であった.生後13週から19週の間に内斜視手術を行った7症例において,2例がTSTによる立体視力40?,1例が100?,2例が400?を,3例がRandotStereoTests(RST)による250?の立体視力を獲得したと報告し,その後に6カ月以内の超早期手術による正常立体視の獲得の可能性が論じられるようになってきた.その代表的な報告について解説する.1.Birchら(2000年)の報告2)生後2歳以内に手術を行った後,5年以上8Δ以内の安定眼位を得ていた129例の立体視の予後について報告している.RSTで500?以上の立体視は21.7%,TSTで3000?の立体視は14.7%,全体で36.4%の症例で立体視が獲得されていた.さらにこれらの症例を,内斜視発症時期,眼位矯正時期,眼位未矯正期間と立体視の予後との関係について詳細に検討している.生後2カ月から6カ月までの内斜視発症時期の違いは,立体視獲得率および立体視力へ有意な影響を与えていなかった.眼位矯正時期とRST立体視の関連については(図10),生後6カ月未満の眼位矯正時期群では100%の症例に獲得されていたが,生後1歳半以降に矯正された症例では8%にまで有意に低下し,立体視力値も生後6カ月未満に矯正された症例のほうがそれ以降に眼位矯正された症例より有意に良好であった.眼位未矯正期間とRST立体視については,未矯正期間3カ月未満の症例では65%に立体視が獲得されていたが,眼位矯正が発症より1年以上遅れた群では立体視は4%でしか獲得されておらず(図11),立体視力についても眼位未矯正期間が3カ月未満の症例においては有意に良好であった.8Δ以内の安定した術後眼位を得る超早期手術は,乳児内斜視における良好な立体視獲得の条件であり,手術が遅れても眼位未矯正期間は内斜視発症から3カ月までである,と結論づけている.2.Ingら(2002年)の報告3)生後24カ月以内の手術後,少なくとも6カ月以上の間継続して眼位が10Δ以内に矯正された90例のTST立体視を検討している.全症例の74%にTST立体視が認められていた.眼位矯正時期で分類して検討すると,3~56~89~1112~1819~24眼位矯正月齢RST立体視の頻度100806040200図10眼位矯正時期とRST立体視(Birchら,20002)より改変)3~50~26~89~1112~1819~24眼位未矯正期間(月)RST立体視の頻度100806040200図11眼位未矯正期間とRST立体視(Birchら,20002)より改変)16例/20例37例/46例14例/24例0~6カ月7~12カ月13~24カ月80%80%58%眼位矯正月齢TST立体視の頻度(%)1009080706050403020100図12眼位矯正時期とTST立体視(Ingら,20023)より改変)38例/74例4例/16例0~12カ月13~21カ月51%25%眼位未矯正期間(月)800″以下の立体視の頻度(%)1009080706050403020100図13眼位未矯正期間とTST立体視(Ingら,20023)より改変)———————————————————————-Page6??あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006(16)生後6カ月以内に眼位矯正された症例と生後7~12カ月間に眼位矯正された症例ではともに80%にTST立体視が認められていたのに対し,生後13~24カ月間に眼位矯正された症例では58%と有意に低下していた(図12).眼位未矯正期間とTST立体視については,眼位の未矯正が12カ月以内症例の51%が800?またはより良好な立体視力値を獲得したのに対し,眼位矯正が発症より12カ月以上遅れた症例ではわずか25%であった(図13).以上の結果より,立体視を獲得するためには10Δ以内の眼位矯正が遅くとも生後12カ月以内に得られることが必要であると結論づけている.3.わが国における超早期手術の報告Shirabeら4)が生後8カ月までに手術を行い,術後4年以上の経過観察を行った9症例のうち5症例(55.6%)でTSTの立体視が確認でき,立体視の獲得には生後8カ月以内の超早期~早期手術と8Δ以内の安定した術後眼位の必要性を報告している.4.矢ヶ?ら(2005年)の報告21)2005年の日本弱視斜視学会総会におけるシンポジウムで筆者らが報告した結果について解説する.43症例を対象として手術時期によって,生後6カ月以内である超早期群の9症例(20.9%),生後6カ月以降から2歳以内の早期群の21症例(48.8%),2歳以降の晩期群の13症例(30.2%)の3群に分類し,両眼視機能の予後などについて検討をした.全症例中29症例(67.4%),超早期群は9例中8例(88.9%),早期群は21例中13例(61.9%),晩期群は13例中8例(61.5%)でBagolini線条レンズ検査による近見融像が認められたが,3群間に統計学的有意差は認められなかった.しかし,遠見融像は超早期群は9例中8例(88.9%),早期群は21例中10例(47.6%),晩期群は13例中4例(30.8%)で,遠見融像の獲得と手術時期との間には統計学的に有意な関連が認められた.TST立体視は全症例中13症例(30.2%)であり,超早期群は9例中6例(66.7%),早期群は21例中5例(23.8%),晩期群は13例中2例(15.4%)で(図14),RST立体視も全症例中11症例(25.6%)に認められ,超早期群は9例中7例(77.8%),早期群は21例中3例(14.3%),晩期群は13例中1例(7.7%)で(図15),超早期手術はTST立体視およびRST立体視の獲得に統計学的に非常に有用であることが認められた.以上の臨床報告をサルの実験結果を加味して考察すると,1)乳児内斜視に対する早期手術のなかでも,生後12カ月以後の早期手術では術後に立体視を獲得する可能性は非常に低いこと,2)生後6~12カ月の早期手術でも,斜視が発症し手術までの眼位未矯正期間が短いほど獲得できる立体視力は良好で,特に眼位未矯正期間が3カ月以内であることが非常に有利であること,3)生後6カ月の超早期手術は早期手術と比較して良好な立体視獲得に非常に有利であること,4)生後6カ月の超早期手術でも正常立体視の獲得はむずかしく,立体視発達開始の生後4カ月までの眼位矯正が必要と推定されるこ6例5例2例超早期手術9例200″が最良早期手術21例手術時期晩期手術13例100%75%50%25%0%p=0.026,Kruskal-WallisのH検定:Stereo(-):Stereo(+)図14手術時期とTST立体視(矢ヶ﨑ら21))7例3例1例超早期手術9例200″が最良早期手術21例手術時期晩期手術13例100%75%50%25%0%p=0.0003,Kruskal-WallisのH検定:Stereo(-):Stereo(+)図15手術時期とRST立体視(矢ヶ﨑ら21))———————————————————————-Page7(17)あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006??と,などが結論づけられる.しかし,立体視感受性期間までの眼位の正位化が理想であることは言うまでもないが,生後4カ月までの内斜視では,斜視角の経時的変動が大きく22,23),生後4カ月は安定した手術量の決定という点でやや早いと思われる.現時点での超早期手術の時期は,正常立体視の獲得はむずかしいものの正常に近い立体視は獲得可能である生後5~6カ月が最も適切な手術時期と考えられる.V術後眼位は8Δ~10Δ以内サルの乳児内斜視モデルの実験やヒトの臨床的検討より,生後6カ月以内の超早期手術が立体視獲得に有用であることはほぼ解明された.サルの実験ではプリズムレンズ装用によって光学的内斜視を作製したが,ヒトの内斜視手術に相当するものはプリズムレンズの除去である.サルの実験ではプリズムレンズの除去によって眼位は正位となるため,同様に効果をヒトの臨床上で得るためには,内斜視術後の眼位が正位であることが理想となる.それでは,両眼視の発達に必要な術後眼位がどの程度であろうか.1982年Zakら24)は,24カ月以内に手術を行い5年以上経過観察を行った105症例を,術後眼位が10Δ以内の61症例と11Δ以上の44症例に分類して両眼視機能の結果について検討している(表2).術後眼位11Δ以上群ではBagolini線条レンズ試験による融像は70%,Worth四灯試験による近見融像は14%,TSTによる立体視は7%に認められたのに対し,術後眼位10Δ以内群ではそれぞれ93%,61%,38%とすべて危険率0.1%以下で統計学的に有意差を示し,10Δ以内の術後眼位は両眼視機能の獲得に必要であることを報告している.正常立体視に先行する大まかな立体視や周辺融像などのsubnormalbinocularvisionを獲得するためには,超早期手術においても8Δ以内の微小斜視11)や10Δ以内のmono?xationsyndrome26)に持ち込むことが最低条件と考えられる.このように安定した眼位を得るためには,術前の斜視角測定には正確な検査方法が必要であることは言うまでもない.おわりに乳児内斜視の超早期手術によって良好な両眼視,特に困難と考えられていた立体視の獲得に有用であることが解明された.しかし,臨床的に獲得された立体視はM系機能である大まかな立体視であり,P系機能である60?未満の正常立体視にはいまだ到達してはいない.今後の課題はM系機能の両眼視の発達に追随して生じるP系機能の両眼視の発達をいかに正常発達に近づけるか,多くの実験的考察や臨床的検討の蓄積が必要であると考えられる.文献1)矢ヶ﨑悌司:両眼視機能獲得を目的とした乳児内斜視の手術時期.あたらしい眼科21:1179-1185,20042)BirchEE,FawcettS,StagerDR:Whydoesearlysurgicalalignmentimprovestereoacuityoutcomesininfantileeso-tropia????????4:10-14,20003)IngMR,OkinoLM:Outcomestudyofstereop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