0910-1810/06/\100/頁/JCLSアレルギー反応が起こりやすい部位である.一方,角膜は,1)上皮細胞層が高いバリア機能をもち抗原の侵入を阻止する,2)角膜内には一部の抗原提示細胞やマクロファージ系の細胞がみられるのみで,肥満細胞,好酸球などのアレルギー反応に重要な細胞は存在しない,3)無血管組織であり骨髄やリンパ組織からの免疫細胞の供給を受けにくい,などの理由により一次的なアレルギー反応は生じない.感作の成立した個体の結膜.にスギ花粉,ダニの死骸などの抗原が侵入すると,まず即時型のアレルギー反応がひき起こされる.この反応では肥満細胞の活性化と脱顆粒に伴い放出される種々のメディエーター,特にヒスタミンが重要な役割を果たしている.ヒスタミンの作用により結膜血管は拡張し,血管壁の透過性が亢進することにより,充血,浮腫,滲出物などの臨床的な変化が観察される.ついで抗原侵入後12~24時間をピークとする遅発相がひき起こされる.遅発相は活性化された肥満細胞内で新たに生合成されるロイコトリエン,プロスタグランジン,ヘルパーT細胞(Th)2サイトカイン*などが重要はじめに前眼部のアレルギー疾患であるアレルギー性結膜疾患では炎症反応はおもに結膜でひき起こされる.このために隣接した組織である角膜にも二次的に種々の病変が生じる.アレルギー性結膜疾患は4つに細分化されるが,それぞれに特徴的な病変が生じる.アレルギー性結膜疾患に伴う角膜病変の治療ではそれぞれの特性を理解して適切に診断,治療を行うべきである.I角結膜のアレルギー疾患の分類角結膜におけるアレルギー疾患は増殖性変化の有無,アトピー性皮膚炎の合併の有無,コンタクトレンズ・義眼などの結膜異物の有無によりアレルギー性結膜炎,アトピー性角結膜炎,春季カタル,巨大乳頭結膜炎の4つに分類される.それぞれに特徴的な角膜病変がみられるが,巨大乳頭結膜炎については本特集の別項で記載されているので,本稿では除外する.IIアレルギー性結膜疾患の角膜病変はおもに結膜でのアレルギー反応によって生じる前眼部を構成する角膜と結膜はアレルギー学的に対照的な特徴をもっている.結膜は,1)バリア機能が低く抗原成分が浸潤しやすい,2)肥満細胞などの免疫系の細胞が多く免疫反応が起こりやすい,3)血管やリンパ管に富み免疫反応が生じた場合に骨髄やリンパ節などで産生された免疫系の細胞が容易に浸潤する,などの理由から,(23)303*炎症反応は浸潤してくるT細胞の性質により大きくTh1,Th2反応に分けられる.Th1反応は細菌感染,ウイルス感染,自己免疫疾患などでみられ,Th1サイトカインであるインターフェロン(IFN)-g,インターロイキン(IL)-2などの炎症局所での濃度が上昇する.Th2反応は寄生虫感染やアレルギー反応でみられTh2サイトカインであるIL-3,-4,-5,-9,-10,-13などの炎症局所での濃度が上昇する.*NaokiKumagai:山口大学医学部分子感知医科学講座(眼科学)〔別刷請求先〕熊谷直樹:〒755-8505宇部市南小串1-1-1山口大学医学部分子感知医科学講座(眼科学)特集●基本的な角膜上皮疾患の考え方と治療方法あたらしい眼科23(3):303~309,2006アレルギー性結膜疾患に伴う角膜上皮傷害CornealLesionsinAllergicConjunctivalDiseases熊谷直樹*304あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006で,これらの生理活性物質により好酸球を中心とする炎症細胞の浸潤がひき起こされる.好酸球が放出する種々の細胞傷害性蛋白質(majorbasicprotein:MBP,eosinophilcationicprotein:ECP,eosinophilicperoxidase:EPO)などは角膜上皮細胞に対する傷害作用を有している.アレルギー性結膜炎では即時型反応が病態の主体であり,このために掻痒感を主体とする自覚症状がひき起こされるが,角膜上皮などの組織の傷害は明らかではない.一方,春季カタルでは即時型反応に加えて遅発型反応も強くひき起こされ,このために角膜の上皮傷害や結膜巨大乳頭の形成などがひき起こされる.さらにアトピー性角結膜炎で炎症反応が年余にわたって持続する場合には眼表面のバリア機能の低下などによる感染への抵抗力の減弱,角膜を取り巻く涙液,マイボーム腺機能,睫毛などの異常を続発する.IIIアレルギー性結膜炎でみられる角膜病変の臨床像アレルギー性結膜炎では角膜病変を伴わないか,軽度の点状表層角膜症に留まる.アレルギー性結膜炎と思われる患者で角膜全面に及ぶ点状表層角膜症以上の変化を生じた場合には他の疾患を疑うべきである.鑑別すべき疾患としては,1)重症型のアレルギー性結膜疾患である春季カタルやアトピー性角結膜炎,2)点眼液による中毒性角膜炎,3)アレルギー性結膜炎とドライアイの合併,4)アデノウイルス結膜炎などの感染性結膜炎,などがある.特に春季カタルとの鑑別は重要である.5,6歳以下の年齢の小児においては上眼瞼に強い乳頭性結膜炎があっても巨大乳頭は形成しないことが多く,春季カタル患者がアレルギー性結膜炎と見誤られやすく,注意が必要である.また,アレルギー性結膜炎と思われる患者で偽性眼瞼下垂があれば角膜病変の存在を強く示唆しているので,春季カタルを強く疑うべきである.IV春季カタルでみられる角膜病変の臨床像春季カタルでは,強い好酸球性の結膜炎に伴って種々の角膜病変が生じる.日本眼科医会の調査では春季カタル患者の約半数で何らかの角膜病変がみられた1).初期には点状表層角膜症が生じるが,病勢が強まると点状表層角膜症が融合して角膜上皮全体が毛羽立ったようにみえる落屑様の点状表層角膜症を生じる.さらに炎症が強まると角膜びらんや角膜潰瘍へと進行し,上皮欠損部は数日の経過で白色の沈着物である角膜プラークに被覆される.角膜プラークは好酸球や上皮細胞の破片の集簇したものと考えられている.春季カタルでみられる角膜病変の診断や治療を考えるうえではいくつかの重要なポイントがある.1.点状表層角膜症が最も重要な所見である角膜病変を伴う春季カタルの治療では,角膜所見は原因となる抗原の濃度や飛散状態による寛解や増悪,治療による改善,季節性の変動などにより変化するために,病勢に応じて投与する薬物の種類や回数を適切に調整す(24)図1春季カタルの病勢の変化と角膜上皮病変春季カタルでは結膜の炎症反応に伴って点状表層角膜症(SPK)がまず生じる.結膜炎の増悪に伴って落屑状のSPKから角膜びらん,角膜潰瘍へと進展するが,このときには周囲にSPKが多く残っている.治療などで結膜炎が軽快するとSPKは速やかに消失するが,角膜びらんは修復されるのに時間がかかるのでしばらく残存する.やがて角膜びらんは徐々に縮小して角膜病変は治癒へ向かう.炎症の増悪炎症の軽快治癒SPK角膜びらん淡い混濁あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006305る必要がある.このためには病勢の的確な判定が必要となる.春季カタルでみられる角膜所見のうち,点状表層角膜症は寛解や増悪に最も反応しやすい所見であり,病勢を最も適切に表している.すなわち,角膜びらんがある症例において,角膜びらんの周囲に点状表層角膜症が存在しているならば病勢は強く増悪の過程にあり,角膜びらんのみがみられて点状表層角膜症がないならば治癒の過程にある(図1).2.春季カタルの角膜炎には特徴的な検眼鏡的所見がある春季カタルでは角膜はおもに角膜外の要因,すなわち結膜炎に伴い涙液中に放出された細胞傷害性の好酸球蛋白質や蛋白分解酵素によって傷害される.したがって,角膜上皮の傷害が実質の傷害よりも先行し,しかも広範囲で傷害の程度も強い.春季カタルでは潰瘍底は速やかにプラークにて被覆され,潰瘍周辺への細胞浸潤は臨床的にはみられない.これらは角膜内の要因でひき起こされる感染性角膜炎などとの際立った相違点である.また,形態的には角膜病変は類円形のことが多い.角膜病変が角膜の辺縁部にできた場合には扇型を呈するが,このときにも病変の周辺部は丸くなっている.この点は角張った病変を形成しやすい外傷性角膜びらんや単純ヘルペス角膜炎との際立った違いである.その他の特徴としては,春季カタルでは小さいびらんや潰瘍が多発することはなく,ほとんどの症例で大きな病変が1つだけ形成されるという特徴がある(図2).3.春季カタルの角膜病変の形成には結膜病変が重要である春季カタルでは角膜炎のみが単独で起きることはなく,必ず強いアレルギー性の結膜炎を伴う.角膜病変を伴う春季カタルでは結膜擦過物の鏡検で多数の好酸球を観察することができる.春季カタルでみられる結膜の変化は上眼瞼に強く,上眼瞼の所見が他の部位の結膜よりも判定しやすいので,経過観察はおもに上眼瞼結膜を対象に行う.上眼瞼結膜の所見としては,充血・浮腫・滲出物の程度,巨大乳頭の形態,トランタス斑の有無が特に重要な所見である.結膜所見を客観的に評価する指標としては日本眼科アレルギー研究会で作成された判定基準を用いる.しかし,特定の患者の寛解,増悪を判定する目的であれば,適切に撮影した前眼部写真のほうがより適している.写真の判定には慣れが必要であるが,以下の点に気をつけると判定がしやすい.1)浮腫については写真ではわかりにくいが,浮腫が増悪すると結膜が混濁するために結膜血管が見えにくいが,浮腫が軽減すると血管がはっきりと見えるようになる.また,浮腫が増悪すると上眼瞼結膜が全体に大きく,丸くなったように見えるが,軽快すると小さくなったように見える.2)巨大乳頭は上眼瞼結膜の上(反転すれば下側になる)1/3の範囲では評価しない.正常者でも円蓋部近傍には巨大乳頭がみられることが多い.3)巨大乳頭は大きさよりも形が活動性の変化を観察するうえでは重要である.増悪期には巨大乳頭は丸く(25)図2春季カタルでみられる角膜病変の特徴春季カタルでみられる角膜病変には以下の特徴がある.1)強い上眼瞼結膜の充血・浮腫・滲出物がある.球結膜充血を伴う.2)トランタス斑がしばしばみられる.3)角膜病変は上方にできることが多い(例外あり).4)楕円形あるいは周辺に広い扇型である.5)病変が多発することはない.6)細胞浸潤による混濁はない.7)上皮.離部に薄い混濁(プラーク)が速やかに形成される.8)びらん周囲にわずかに上皮層の持ち上がりがある.9)びらん周辺にSPKがある.10)病変は輪部には達しないことが多い.306あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006ドーム状になっており,徐々に増大する.炎症が寛解すると,巨大乳頭は高さが低く,頂点が平坦になる.巨大乳頭が消失するには数カ月を要する(図3).4)巨大乳頭上のトランタス斑は,フルオレセインで染色すると見つけやすい.4.角膜プラークは結膜の炎症反応とあまり関係がない角膜びらんや角膜潰瘍が生じた後に形成される角膜プラークはひとたび形成されると結膜の炎症反応が治癒してもなかなか消失せず,春季カタルの薬物治療を行う際の目安にはならない.角膜プラークがあることは過去において強い角膜傷害があったことを示す所見である.Vアレルギー性結膜疾患に伴う角膜病変の治療:総論前述したように春季カタルでみられる角膜病変は,結膜における強いアレルギー性炎症の結果生じると考えられる.したがって角膜病変を直接の治療のターゲットにするのではなく,まず結膜の炎症反応を抑制することを目標に薬物療法や手術療法を行うべきである.1.抗原回避春季カタルなどのアレルギー疾患では感作の成立した個体でも抗原に接触しない限り炎症反応は発症しない.したがって春季カタルで重篤な角膜病変を伴う場合には後述する薬物治療とともに抗原回避についても説明する必要がある.ただし,患者や家族が抗原回避を熱心に行ってくれることは残念ながら少ないようである.抗原回避をするためには原因抗原を把握しなければならないので,あらかじめ血清中抗原特異的免疫グロブリン(Ig)E抗体価の測定や皮膚反応などによって原因となる抗原を調べておく.調べるべき抗原はわが国ではダニ抗原(ヤケヒョウヒダニあるいはコナヒョウヒダニ),スギ花粉,ヒノキ花粉,イネ科植物花粉(カモガヤ,ハルガヤ,イネ科花粉混合物のいずれか),ペット上皮(イヌ上皮,ネコ上皮など)である.秋に飛散する雑草植物花粉(ブタクサ,ヨモギなど)が関与する症例は少ない.2.薬物療法前述したようにアレルギー性結膜疾患における角膜病変は結膜における炎症反応により二次的に生じている.アレルギー性結膜疾患に伴う角膜病変に対する薬物療法では,結膜におけるアレルギー性炎症を沈静化させて,角膜病変の自然回復を促すことを目標としている.アレルギー性結膜疾患では,かなり強い角結膜病変がみられる場合でも角膜上皮細胞の機能には異常がなく,結膜の炎症反応が沈静化すれば速やかに治癒へ向かう.逆に,結膜の炎症反応が抑制されない状態でヒアルロン酸製剤,コンドロイチンなどの角膜上皮保護薬を投与しても無効である.a.アレルギー性結膜炎に伴う角膜病変への薬物療法(図4)アレルギー性結膜炎に伴う軽度の点状表層角膜症に対しては,抗アレルギー薬や抗ヒスタミン薬の投与をベー(26)図3春季カタルの病勢の変化と巨大乳頭春季カタルでは炎症反応が持続すると上眼瞼に巨大乳頭が形成される.炎症が増悪しているときには巨大乳頭はドーム状に隆起しており,頂点に黄白色のトランタス斑がみられる.炎症反応が軽減すると乳頭の底面積は変わらないままで乳頭が平坦化し,頂点が平らになる.トランタス斑は消失する.炎症が消退して数カ月を経て巨大乳頭は消失する.炎症の増悪炎症の軽快治癒巨大乳頭トランタス斑あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006307スに,症状の重いときのみステロイド薬の懸濁液であるフルオロメトロンの点眼液を投与する.もしも,この薬剤を追加投与しても角膜病変が増悪する場合には春季カタル,アトピー性角結膜炎などの他の角結膜疾患や,アレルギー性結膜炎に乾性角結膜炎,薬剤中毒性角膜症などの他の角膜疾患が合併していることを疑うべきである.b.春季カタルを伴う角膜病変への薬物療法(図5)春季カタルの治療においても抗アレルギー薬や抗ヒスタミン薬の点眼液の投与が基本であるが,これらの薬物のみで管理できる症例は少ない.ほとんどの症例では春から夏にかけての増悪時にはステロイド薬の点眼投与が必要である.角結膜病変をよく観察しながらステロイド薬を増減し,軽度の点状表層角膜症以下の角膜病変に留まるように管理を行う.ステロイド薬としては懸濁性ステロイド薬であるフルオロメトロンに加えて,水溶性ステロイド薬であるベタメタゾンやデキサメタゾンが用いられる.水溶性ステロイド薬のほうが懸濁性ステロイド薬よりも効果も副作用も高い.春季カタルで懸濁性ステロイド薬のみでコントロールができる症例は少なく,炎症反応が増悪して角膜全体に及ぶ点状表層角膜症や角膜びらん,角膜潰瘍などがみられた場合には初期に水溶性ステロイド薬を投与して結膜の炎症反応を強く抑制し,その後水溶性ステロイド薬を漸減して懸濁性ステロイド薬へと変更していく.増悪時の初期投与量としては0.1%のベタメタゾンあるいはデキサメタゾンを1日4回が標準的な投与量である.角膜病変を伴う春季カタルの治療では薬物を漫然と投与するのではなく,角結膜の病像から炎症反応の増悪・寛解を的確に判定し,病勢に応じて薬物の種類や点眼回数を増減する必要がある.薬物の効果の判定のために最も重要な臨床的な所見は前述したように点状表層角膜症の程度であり,治療を開始あるいは増強前に散在していた点状表層角膜症が治療後に消失していれば,たとえ角(27)図4アレルギー性結膜炎の角膜病変への対応のフローチャート抗アレルギー薬,ステロイド薬で治療アレルギー性結膜炎角膜病変を確認SPK以下の病変かYesNo他疾患の鑑別改善したか治療の継続NoYes図5春季カタルの角膜病変への対応のフローチャート春季カタル角膜病変を確認病勢を観察しながら薬物を継続YesYesYesYesYesNoNoNoNo抗アレルギー薬点眼液を投与軽度のSPK以下の病変かステロイド薬の点眼回数増加ステロイド薬眼注ステロイド薬内服改善したか抗アレルギー薬点眼液とステロイド薬(免疫抑制薬)点眼液を投与改善したか巨大乳頭切除術上皮化されていない角膜プラークはあるか改善したか角膜プラーク除去術No308あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006膜びらんや潰瘍が残存していても治療は奏効している.また,結膜の充血,浮腫,滲出物も治療が有効な場合には速やかに消失する,効果判定の良い指標である.巨大乳頭は存在すること自体よりも前述したような形状の変化がより重要である.また,巨大乳頭の頂点にトランタス斑がみられた症例では治療が奏効すればトランタス斑は速やかに消失する.薬物療法を開始してこれらの炎症反応の軽快を示す所見が得られた場合には治療をさらに追加する必要はなく,経過を観察していけば徐々に角膜病変は回復して治癒へ至る.逆に,角膜病変を伴う春季カタルに対する治療を強化して1週間程度たっても角膜上皮の点状表層角膜症が改善しない,結膜所見が回復しない場合には薬物治療は不十分であり,このまま経過観察をしても角膜上皮傷害の回復は見込めないので,さらに治療を強化する必要がある.治療法の強化の方法としては,1)ステロイド薬の点眼回数の増加,2)ステロイド薬の短期間内服,3)巨大乳頭の手術的な切除などがある.このうち,ステロイド薬の点眼回数の増加は最も副作用が少ない方法であり,第一に試みるべき治療法であるが,学校で点眼することを好まない患児も多く,頻回点眼が実際に可能かどうかをよく尋ねてからにしたほうがよい.ステロイド薬の内服療法として筆者らはプレドニゾロン0.6mg/kg(BW)を1週間のみ投与するミニパルス療法を用いている.1週間しか投与しない場合では継続的に使用する場合に比べて効果の面では劣るものの,消化性潰瘍や感染症の増悪以外の重大な副作用はほとんど生じず,安全性が高い.3.手術療法(図5)角膜病変を伴う春季カタルの症例でステロイド薬の点眼回数の増加,ステロイド薬の眼局所への注射,内服などを行っても改善しない症例では巨大乳頭の切除術を行うと改善することが多い.この手術では,上眼瞼結膜円蓋部と眼瞼皮下に局所麻酔を行った後に巨大乳頭を切除する.大きな乳頭を数個切除するのみではほとんど効果が得られず,上眼瞼結膜にみられる増殖性の変化をすべて切除するべきである.角膜上皮病変の改善は通常手術の翌日からみられる.角結膜炎の治癒後に角膜上に角膜プラークが残存することがある.一般に角膜上皮で被覆されている角膜プラークは自然に吸収されるが,上皮で被覆されていないプラークは吸収されにくく,それ自体が結膜炎の増悪因子である.そのために,上皮化されていない角膜プラークに対しては除去術が行われる.この際に留意すべき点は以下の2点である.1)結膜の炎症反応が消退してから角膜プラークを除去する.結膜の炎症反応が軽快しない状態で角膜プラークを除去すると数日でプラークが再形成されてしまう.そのためにプラークを除去する時期はアレルギー反応の原因となる抗原の飛散が少なく,多くの患者で炎症反応が消退しやすい季節である冬季に行うのが適している.また,プラーク除去数日前からプレドニゾロンの短期間内服などで炎症反応を強く抑えるのも有効である.2)プラークは見かけよりも大きいことが多い.一般に角膜プラークは周辺部に淡く混濁して角膜上皮に被覆された部位が,中央部に強く混濁して上皮に被覆されない部位がある.このためにプラークの大きさはフルオレセインで染色される範囲よりも大きい.術前に細隙灯顕微鏡でよく観察して,プラーク全体を除去するように心がける.VIアトピー性角結膜炎でみられる角膜病変の治療アトピー性角結膜炎でみられる角結膜病変(図6)は春季カタルの角結膜病変に類似している.しかし,以下の点で春季カタルの角膜病変とは大きな違いもある.1)春季カタルでは病勢の季節性の変動が大きく,多くの症例では15歳前後で寛解する.しかし,アトピー性角結膜炎では炎症反応の季節性の変動はわずかで,加齢による自然回復傾向はほとんどみられない.2)アトピー性角結膜炎では,持続する炎症反応により角結膜のバリア機能は障害され,涙液分泌,マイボーム腺機能の異常などより角膜上皮を取り巻く環境が悪化している.3)アトピー性角結膜炎では角膜感染症,特に単純ヘルペス角膜炎が起こりやすく,重症化しやすい.4)アトピー性角結膜炎では巨大乳頭はないかあって(28)あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006309もわずかで,治療方法としての巨大乳頭切除術は行えない.アトピー性角結膜炎でみられる角結膜病変への対応は春季カタルに準じるが,ステロイド薬の使用は感染症の予防のために必要最小限にとどめるべきであるとされる.また,角膜上皮を取り巻く環境の整備に努めるべきである.アトピー性角結膜炎では年余にわたって角膜病変が続くことが多く,経過中に遷延性角膜上皮欠損,角膜プラークの形成,白内障の出現などにより重篤な視力障害をきたす症例が多い.アトピー性角結膜炎の治療は角結膜疾患の専門医に任せるべきである.文献1)アレルギー性結膜疾患の診断と治療のガイドライン(大野重昭編),日本眼科医会アレルギー眼疾患調査研究班業績集.日本眼科医会,p9-11,1995(29)図6アトピー性角結膜炎患者の角結膜所見A:上眼瞼結膜に強い充血,浮腫を伴う乳頭性結膜炎がみられるが巨大乳頭は形成しない.B:角膜に広範な角膜プラークが形成され角膜の透明性が損なわれている.上下眼瞼のマイボーム腺機能不全と白内障を伴っている.AB