———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSI画像診断的側面からの検討Duane症候群の臨床的な特徴の一つである外転制限は外転神経の欠損によるという説もあり,古くから病理学的に検討されてきた3).1998年にCameronら4)は磁気共鳴画像(MRI)のT1強調画像(slice厚は0.8mm)を用い外転神経の欠損を画像的に証明した.筆者らもSPGR(spoiledGRASS)-MRI法を用いて外転制限のあるDuane症候群で外転神経の欠損像を描出した(図1)5).しかし当時のslice厚は1mmだったことや解像度に問題もあったため,その信頼性は十分とはいえなかった.その後slice厚を0.6mmとしたFiesta法とcine-modeを用い,Duane症候群の外転神経欠損像をより信頼性をもって証明し,さらに多数例のDuane症候群を対象にMRI画像を用いて外転神経の欠損像の有無を検討したところ,4例に患側の欠損像を得た.その4例中3例はtypeⅠであったこと,外転神経の欠損と正面眼位との関連については統計学的な関連がなかったことなどの結果を得た6).OzkurtらもMRIにて11眼中6眼に外転神経の欠損像を得たと報告7)している.はじめにvonNoorden1)によると,Duane症候群にみられる異常眼球運動(著明な外転制限または外転欠損,眼球陥凹,内転時の瞼裂狭小)は1879年にHeuckが,1887年にStillingが,1899年にTurkがそれぞれ報告し,1905年にAlexanderDuaneが報告している.アメリカではこの症候群をDuane症候群とよんでいるが,ヨーロッパではStilling-Turk-Duane症候群としてよばれている.わが国では眼球牽引症候群やDuane症候群とよばれるのが一般的である.Duaneが本症候群を報告して,約100年経つ.しかしながらDuane症候群にはまだ解明されていない部分が数多く存在する.先天的な神経支配の異常といわれているが,それは末?なのか中枢なのか?それとも両方の障害なのか?外転神経の有無が混在しているがそれによる違いはあるのか?Huberによる病型分類〔近年Helvestonはその分類に加えtype4(表1)を示した2)〕は妥当なのか?全身疾患との関連は?遺伝的因子は?up-downshootはなぜ発生するのか?up-downshootを含めたDuane症候群の治療は?…など枚挙に暇がない.しかしながら,近年画像診断や遺伝子医学が発達してきたため,Duane症候群に関する新しい知見も散見するようになった.筆者らもDuane症候群に関して,画像診断に基づいた知見や興味深い術中所見を得ている.Duane症候群に関する近年の知見を筆者らのデータも含め報告する.(31)???*MasahiroOba:札幌医科大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕大庭正裕:〒060-8543札幌市中央区南1条西16丁目札幌医科大学医学部眼科学教室特集●もっと知りたい,斜視・弱視あたらしい眼科23(6):729~733,2006Duane症候群の最近の知見??????????????????????????????????大庭正裕*表1Helvestonのtype4(Simultaneousabduction-EMHIV)1.Large-angleexotropia2.Faceturntouninvolvedside3.Noadduction4.Simultaneousabductionlookingtowarduninvolvedside5.Usuallysuppresses———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006以上より,これらの画像所見は古くから言われているようにDuane症候群のなかには外転神経の欠損例が確実に混在していることを示唆した.最近は超高磁場拡散強調MRIにより,神経線維の軸索の追跡描出が可能8)となったことから,今後Duane症候群における神経欠損の有無に関してさらに,より明確な画像所見を得られる可能性がある.画像診断の飛躍は目覚しいものがあり,外転神経の全走行の把握,すなわち外転神経の外直筋への到達や別の外眼筋への迷入の有無などの描出が数年後には可能になるかもしれない.これらの画像診断的検索により,解剖学的異常の有無によるDuane症候群の病型の検討がなされる可能性もある.II遺伝的側面からの検討家族性のDuane症候群の報告は近年増加している.Chungらは一家系110人中Duane症候群が25名存在し,両眼性であったことやその他の神経麻痺を伴っていたことを報告9)し,遺伝の関与を指摘している.Duane症候群の代表的な合併症は先天性味涙反射症候群(croc-odiletears)や聴力障害であるが,筆者らはこれらの合併症を伴うDuane症候群を報告10)した.Duane症候群にこれら2つの合併症が生じる疾患としてはサリドマイド胎芽病が有名であるが,筆者らの症例の母親にサリドマイドの内服歴がなかったことから,本症例のDuane症候群は胎生4~6週における外転神経と顔面神経の核が存在する脳幹,橋における異常によると考えた.しかしこれらの合併症を伴ったDuane症候群の家族内発生の報告11)も存在することから,外的環境因子により発生したのではなく,遺伝的因子が胎生期に作用し,Duane症候群が発生した可能性が強い.遺伝子学的にはDuane症候群の大家系の報告12)があり,連鎖分析が行われ,第2染色体の2q31-q32にマップされている.近年,Okihiro症候群13)(上肢の形成異常や眼球運動の制限などを主症状とする疾患)の原因遺伝子にジンクフィンガー蛋白質?????が確認されている14).Okihiro症候群における眼球運動制限は“Duaneanomaly”と記載されていることから,?????遺伝子変異がDuane症候群の発現因子になりうる可能性が示唆されている.しかし一方で,McCannらによる2世代3名のDuaneanomalyを伴うArthorogryposis-Ophthalmoplegia症候群(Okihiro症候群の類似疾患)に対して?????遺伝子を調べたところ異常はなかったとの報告15)やDuane症候群単独では証明できないなどの報告も散見し,現在のところ意見はさまざまである.このように合併症を伴うDuane症候群は遺伝的な背景を検討するうえで注目すべき病型となっている.Duane症候群の遺伝子疾患としての側面は今後も大きな研究課題であろう.IIIUp-downshootに関する検討Duane症候群のup-shoot,down-shoot(図2,3)も古くから知られており,その発生は“bridle”or“leashe?ect”とよばれる,いわゆる<たずな効果>によるものとされている16).すなわち,内転しようとしたときに外直筋が収縮することにより外直筋の筋緊張が高まり,わずかに上方を見るとup-shootし,わずかに下方を見るとdown-shootする.このup-downshootはDuane症候群の25~39%に発生するといわれており,筆者らの経験ではHuberの分類によるどの病型にも生じうること,up-shootとdown-shootが両方生じるとは限らないことなどが示唆されている.また,up-downshootはmechanicaltypeとinnerva-tionaltypeとに分類されるといわれている17).その分(32)Lt..tR図1Duane症候群のSPGR-MRI画像(水平断)右の外転神経は描出(矢印),左の外転神経が描出されてない.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???類を表2に示す.これらup-shootに対する術式には外直筋の後転やY字split法や垂直筋後転術,Faden手術などが有用である(図4,5).筆者らはup-shootを伴うDuane症候群で外直筋,下斜筋,上直筋の関与が乏しい状態でも,内転時にup-shootを生じている症例を経験しており,Duane症候群の異常眼球運動と瞼裂狭小についての新たな推論を報告している18).この2typeを主とするup-downshootに関する分類は,はたして妥当な分類なのかは今後の課題でもある.IV治療に関する検討Duane症候群の治療は,1)正面眼位の矯正,2)眼球運動制限に伴う異常頭位,3)up-downshootの軽減が目的となる19).Duane症候群の場合は通常両眼視を獲得していることが多いため,軽度の眼位異常は頭位で代償されていることが多い.正面で内斜視があれば,内直筋の後転,外斜視があれば外直筋の後転を通常行う.一般にDuane症候群による内・外斜視の斜視角は大きくなく,その他の術式は必要としないことが多い.術量は術中の牽引試験の結果も参考にするので一概にはいえない.外転制限のある外斜視に外直筋を少量後転しても効果が少ないこともある.筆者らはDuane症候群11例に対して,正面眼位や頭位異常の矯正を目的に手術を施行したが,全例治療目的は達成され,治癒している.したがって,これら正面眼位や頭位異常の予後はおおむね良(33)図2左眼のDuane症候群(Ⅲ型)の9方向眼位左眼は内外転制限を認め,また強度なup-shootを認める.図3Duane症候群のup-shootのMRI画像症例は右方視しているため,画像で左眼のup-shootが確認できる.表2Up-downshootの分類Innervationaltype内直筋と垂直直筋の異常神経支配のために内転時にup-downshootが起こるとする説.垂直筋後転術が有効.Mechanicaltype内転時の眼球の機械的スリップによりverticalshootが起こるとする説.外直筋後転術が有効.(KraftSPら,1988)———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006好である.注意すべきなのはup-downshootを伴うDuane症候群の場合である.Up-downshootの術式には両内外直筋の後転,Faden手術,外直筋Ysplit法,垂直筋後転術などがあげられる(図4a,b).しかし,その術式や術量の選択に一定な基準を設けることはなかなかむずかし(34)図4右眼のDuane症候群(Ⅰ型)頭位異常とup-shootを認める.正面眼位は右内斜視15?.手術は右内直筋後転とFaden法を施行.a:術前後の水平3方向眼位(上段:術前,下段:術後).右眼のup-shootが術後軽減されている.b:術前後の頭位の比較(左:術前,右:術後).頭位異常も消失している.ab図5右眼のDuane症候群(Ⅰ型)の左方視時眼位の比較右内斜視7?,術前よりup-downshootを認める.本症例は術中の牽引試験で内転方向で陽性であったため,左外直筋のみを後転した.Up-downshootはともに軽減(down-shootの著明な軽減)したが,まだ残存している.正面眼位は外直筋を後転しても良好であった.上段:術前後によるup-shootの比較(左:術前,右:術後).下段:術前後によるdown-shootの比較(左:術前,右:術後).———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???い.内直筋の拘縮が強い場合は両内外直筋の後転でup-downshootが軽快しても続発性の外斜視になる可能性もある.内斜視でも牽引試験が内転方向に陽性の場合もあり,術式に苦慮する症例も存在する(図5).眼位異常とup-downshootの矯正を目的とするDuane症候群の治療は現時点では,牽引試験の結果を考慮し,術式を熟考する必要がある.またMoradらは麻痺性外斜視やDuane症候群の外斜視に対して,外直筋を付着部より離断し,眼窩外壁に縫着することにより,外斜視を治療する新しい術式を報告20)している.おわりにDuane症候群は上述のように画像診断,遺伝的要因,up-downshootの原因と治療などが近年の話題となっている.これらを総合的に検討することにより,Duane症候群の本態が明確になり,その分類も整備されていくと思われる.文献1)vonNoordenGK:BinocularVisionandOcularMotility.p458-466,Mosby,StLouis,20022)HelvestonEM:SurgicalManagementofStrabismus.p149-151,WayenborghPublishing.Belgim,20053)MulhernM,KeohaneC,O?connerG:Bilateralabducensnervelesionsinunilateraltype3Duan?sretractionsyn-drome.???????????????78:588-591,19944)CameronF,GrantPE,DillonPDetal:AbsenceoftheabducensnerveinDuanesyndromeveri?edbymagneticresonanceimaging.???????????????125:399-401,19985)大庭正裕,中川喬:眼球後退症候群の磁器共鳴画像診断.第53回日本臨床眼科学会講演抄録集,p358,19996)長内一,大庭正裕,佐々木紀子ほか:当院を受診したDuane症候群25例の検討(抄録).日本弱視斜視学会雑誌32:141,20057)OzkurtH,BasakM,OralYetal:MagneticresonanceimaginginDuane?sretractionsyndrome.????????????????????????????????40:19-22,20038)MasutaniY,AokiS,AbeOetal:MRdi?usiontensorimaging:recentadvanceandnewtechniquesfordi?usiontensorvisualization.????????????46:53-66,20039)ChungM,StoutJT,BorchertMS:ClinicaldiversityofhereditaryDuane?sretractionsyndrome.?????????????107:500-503,200010)三戸千賀子,大庭正裕,佐々木紀子ほか:CrocodileTearsと軽度感音性難聴を伴った両側性Duane症候群の1例.眼紀51:185-187,200011)大沼学,福原晶子,岩重博康ほか:両側Duane症候群の親子例.日本弱視斜視学会誌25:151-154,199812)AppukuttaanB,GillandersE,JuoS-Hetal:LocalizationofageneforDuaneretractionsyndrometochromosome2q31.??????????????65:1639-1646,199913)OkihiroMN,TasakiT,NakanoKKetal:Duanesyn-dromeandcogenitalupperlimbanomalies.???????????34:174-179,197714)TerhalP,RoslerB,KohlhaseJ:AfamilywithfeaturesoverlappingOkihirosyndrome,hemifacialmicrosomiaandisolatedDuaneanomalycausedbyaNovelSALL4muta-tion.???????????????140:222-226,200615)McCannE,FryerAE,NewmanWetal:AfamilywithDuaneanomalyanddistallimbabnormalities.???????????????139:123-126,200516)vonNoordenGK,MurrayE:Up-anddownshootinDuane?sretractionsyndrome.????????????????????????????????23:212-215,198617)MohanK,SarohaV,SharmaA:FactorspredictingupshootanddownshootinDuane?sretractionsyndrome.???????????????????????????????40:147-151,200318)大庭正裕:第62回日本弱視斜視学会総会:斜視難症例検討会,浜松,2006.日本弱視斜視学会誌(投稿中)19)大月洋:Duane?sretraction症候群の最近の考え方と手術適応.神経眼科18:87-89,200120)MoradY,KowalL,ScottABetal:Lateralrectusmuscledisinsertionandreattachmenttothelateralorbitalwall.??????????????l89:983-985,2005(35)