———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS測定の概念である.実用視力測定においては,実用視力(functionalvisu-alacuity:FVA),測定時間内の変動する視力の積分値が,測定スタート時の視力が仮にずっと維持できた場合のそれに対する割合である視力維持率(visualmainte-nanceratio:VMR)をおもな視標として検出する2).詳細は前項『新しい視力計:実用視力の原理と測定方法』を参照されたい.IIドライアイドライアイにおいて実用視力が低下すること3,4),また治療によりドライアイ症状が改善すると実用視力も改善すること4,5)が報告されている.ドライアイでは,眼光学系の最前層である涙液層に異常をきたし,涙液層の安定性が低下する6).そして,涙液層に乱れが生じた状態では,視機能が低下していることが予想される.図1は,ドライアイ症例の実用視力測定結果の一例である.スタート時の視力(通常の矯正視力)が右眼1.0,左眼1.2であるのに対し,FVAは右眼0.769,左眼0.517である.この症例は,Sj?gren症候群に伴う比較的重症のドライアイで,Schirmer試験における低値,角膜染色,眼乾燥感など典型的なドライアイの自覚・他覚症状を認めたが,それ以外に“かすみ目”の訴えもあった.この症例に対し,治療として上下涙点への涙点プラグ挿入術が行われた.そして図2はその1週間後の実用視はじめに矯正視力が正常であるにもかかわらず,患者から“かすみ目”や“見づらさ”の訴えを聞くことはしばしば体験する.そしてわれわれは,その自覚的な視機能の低下を他覚的にとらえることができないと,診断や治療に苦慮せざるをえない.診断ができない責任を「視力はいいのだから気のせいだ」「患者が神経質だから」と患者に転嫁し,お互いの信頼関係を損ねることにもなりかねない.それに対し,グレア視力測定,コントラスト視力測定といった測定条件を工夫した視力検査,近年では波面収差や点像強度分布解析の手法を使った視機能検査1)など,通常の視力検査では検出できない視機能の低下を客観的に検出するさまざまな試みがなされている.I実用視力測定通常の矯正視力検査では,被検者がものを見る能力の最高値を検出する.“風”にたとえるなら“最大瞬間風速”だといえる.しかし,視力1.2の人が日常生活において常に1.2の視力でものを見ているわけではない.眼表面から大脳視覚野までの形態的,機能的変化に伴って視機能も常に変化しているはずである.常に変化し続ける風速の一定期間の平均を平均風速とするならば,視力にも平均視力の概念が持ち込めるのではないか,そして日常生活においてわれわれが実際に感じている“見え方”を評価する手法の一つになりうるのではないか,これが,経時的に連続して視力を測定し解析する実用視力(11)???*ReikoIshida:いしだ眼科〔別刷請求先〕石田玲子:〒421-0301静岡県榛原郡吉田町住吉427-1いしだ眼科特集●前眼部四次元検査(前眼部キネティックアナリシス)あたらしい眼科24(4):409~413,2007実用視力の臨床応用:ドライアイから白内障まで????????????????????????????????????????????????????????????????????─?????????????????????????????????石田玲子*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007力測定の結果である.まず,視力の変動が治療前に比べて小さく,安定しているのがわかる.60秒間の視力の変動幅が小さくなり,FVAは右眼1.155,左眼0.944に改善している.患者自身も「ものの見え方が改善した」と喜んでいた.もう一つ注目すべきは瞬目回数である.治療前の測定では,60秒間に20回以上であった瞬目が治療後は10回未満に減少している.ドライアイでは瞬目回数が増加することが報告されている7)が,実用視力と瞬目との相関についても,今後検討される必要があると思われる.III白内障白内障の手術適応の決定には,まず矯正視力が検討される.患者がいくら見づらさを訴えていても,視力が1.0あれば適応外とされることが多いと思われる.コントラスト視力などの視機能検査が行われることもあるが,実際患者がどのくらい見づらいのかを検出することはむずかしい.図3は,矯正視力が1.0であるにもかかわらず霧視を訴える患者のFVA測定結果である.FVA0.601,VMR0.92で,視力が安定せず変動が大きいことがわかる.眼底と眼表面には異常がなく,FVA低下は白内障によると考えられ白内障手術が施行された.図4は手術後のFVA結果である.矯正視力は1.2と1段階の改善であるが,FVAは0.993,VMRも1.00に改善した.自覚的には,霧視が解消されて見やすくなったと満足が得られた.IV後発白内障後発白内障は,白内障術後に一定期間をおいて発生する霧視,矯正視力の低下がおもな症状であり,通常は比較的容易に診断に至る.治療として,一般的にYAGレーザーによる後?切開が施行される.図5は,両眼とも眼内レンズ挿入眼で,右眼の強い霧(12)FVA=0.517VMR=0.91FVA=0.769VMR=0.96左眼右眼図1ドライアイの実用視力左右とも視力が不安定である.左眼FVA=0.944VMR=0.96右眼FVA=1.155VMR=0.96図2図1と同じ症例の涙点プラグ挿入後の実用視力治療前に比べ視力が安定している.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???V眼瞼けいれん眼瞼けいれんは,眼輪筋の不随意な収縮が発生し,末期には開瞼困難で日常生活に多大な支障をきたす疾患である.図10のように特徴的な顔貌を示すことと,パチパチと素早く瞬目することができないのを注意して観察できれば,初期でも診断は可能である.しかし,初期に視を訴える症例の実用視力測定結果である.右眼に軽度の後?混濁を認めたが,両眼とも矯正視力は1.2で眼底は正常であるため,当初は霧視の原因が何かが議論された.YAGレーザーによる後?切開は,組織侵襲が比較的少ない治療ではあるが,無用な治療は行うべきではない.しかし,実用視力は右眼において著明に低下を示し,FVAは0.547,VMRは0.90であった.患者の訴えを他覚評価できたため,YAGレーザーによる後?切開を施行した.ところが,術後に自覚的な霧視,実用視力ともに改善は認められなかった(図6).後?切開は,瞳孔領中心に約3mm径であった(図7)が,瞳孔内に混濁した後?が残存していた(図8).そこで,レーザー照射を追加して切開部を明時瞳孔径よりも大きく拡大したところ,強く訴えていた霧視は解消された.矯正視力は術前と変わらず1.2であったが,図9のように実用視力は著明に改善し,FVAは0.817,VMRは0.99であった.(13)図4図3と同症例の白内障手術後の実用視力FVAは0.993に改善し,視力が安定している.白内障術後FVA=0.993VMR=1.00白内障術前FVA=0.601VMR=0.92図3白内障の実用視力通常の矯正視力は1.0であるが,FVAは0.601と低下している.右眼FVA=0.547VMR=0.90左眼FVA=1.22VMR=0.97図5後発白内障の実用視力後?混濁をほとんど認めない左眼と比べ,右眼は視力が不安定である.矯正視力はともに1.2と変わらない.FVA=0.563VMR=0.88図6後?切開術後(右眼)の実用視力1回目のYAGレーザーによる後?切開後.実用視力は改善していない.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007はその多くがドライアイと診断されているといわれている8)ように,なかなか診断に至らず,結果として治療が遅れてしまうケースもある.図11は,眼瞼けいれん患者のFVA測定の一例である.途中から測定の続行ができなくなっているのがわかる.検査員からは「検査方法が理解できないため測定不可能」という報告であった.この疾患の初期から中期では,眼輪筋が常時収縮しているわけではなく,「何かを見ようとすると目が閉じてしまう」ことが多い.この症例においても,視標を凝視しようとすることで眼輪筋の収縮が誘発されたものと考えられる.ドライアイを含めた他の疾患では測定不可能になることはなく,眼瞼けいれんに特異的な変化として診断の一助になるのではないかと期待される.この症例に対し,治療としてボツリヌストキシンの眼周囲局注が施行された.図12は,その1週間後の(14)図7後?切開術後(右眼)図6の症例の写真.後?の切開部が小さい.図8後?再切開術後(右眼)1回目より切開部を広げてある.図9後?再切開術後(右眼)の実用視力矯正視力は1.2のままであるが,FVAは0.817に改善している.FVA=0.817VMR=0.99図10軽度眼瞼けいれん患者の顔貌眉間に深い縦じわがよるのが特徴である.図11眼瞼けいれん症例の実用視力(ボツリヌストキシン使用前)60秒間視標を見続けていることができないことがわかる.FVA測定不可———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???(15)FVA測定結果である.不安定ではあるが,治療前と違い60秒間視標を見続けることが可能になっていることがわかる.おわりに臨床の現場における実用視力測定の例をいくつかあげた.ドライアイの視機能低下を検出するために開発された手法であるが,被検者の自覚的な見え方を直接的に解析するため,さまざまな症例において,他の視機能検査では検出できなかった“見づらさ”の拾い出しができる可能性がある.疾患の診断や治療効果の検討,そして患者への説明や指導のために,実用視力測定が効果的に活用されていくことが望まれる.文献1)NegishiK,KobayashiK,OhnumaKetal:Evaluationofopticalfunctionusinganewpointspreadfunctionanalysissystemincataractousandpseudophakiceyes.?????????????????50:12-19,20062)KaidoM,DogruM,YamadaMetal:FunctionalvisualacuityinStevens-Johnsonsyndrome.???????????????142:917-922,20063)GotoE,YagiY,MatsumotoYetal:Impairedfunctionalvisualacuityofdryeyepatients.???????????????133:181-186,20024)IshidaR,KojimaT,DgruMetal:Theapplicationofanewcontinuousfunctionalvisualacuitymeasurementsys-temindryeyesyndromes.???????????????139:253-258,20055)GotoE,YagiY,KaidoMetal:Improvedfunctionalvisualacuityafterpunctalocclusionindryeyepatients.???????????????135:704-705,20036)KojimaT,IshidaR,DogruMetal:Anewnoninvasivetearstabilityanalysissystemfortheassessmentofdryeyes.?????????????????????????45:1369-1374,20047)TsubotaK,HataS,OkusawaYetal:Quantitativevideo-graphicanalysisofblinkinginnormalsubjectsandpatientswithdryeye.???????????????114:715-720,19968)MartinoD,DefazioG,AlessioGetal:Relationshipbetweeneyesymptomsandblepharospasm:amulti-centercase-controlstudy.??????????20:1564-1570,2005図12図11の症例のボツリヌストキシンによる治療後60秒間視標を見続けることができるようになり,測定が可能になった.FVA=0.473VMR=0.87