———————————————————————-Page1特集●眼科における薬剤副作用あたらしい眼科25(4):425~429,2008抗微生物薬局所投与による眼障害OcularComplicationsofTopicalAntimicrobialAgents鈴木崇*はじめに眼感染症疾患の予防と治療を行ううえで,抗菌薬や抗ウイルス薬の局所投与は必要不可欠なものである.しかし,薬剤や使用方法,もしくは投与される組織側のさまざまな要因で,眼障害をひき起こす場合も少なくない.特に,感染症治療中に認められた眼障害が,感染症による所見なのか,それとも抗微生物薬による副作用なのかを見極めることは,感染症治療の経過観察をするなかで重要なポイントとなってくる.これらの鑑別には,抗微生物薬の眼障害の特徴を理解しておく必要がある.本稿では,まず,抗菌薬,抗真菌薬,抗ウイルス薬のそれぞれの眼障害の種類について解説し,症例において,どのように診断・鑑別や治療をするかについても述べる.I抗菌点眼薬による眼障害抗菌点眼薬は,細菌性角膜炎や細菌性結膜炎などの外眼部感染症のみでなく,周術期管理のため,手術前後にも使用される場合が多い.そのため,抗菌点眼薬による眼障害についても理解しておく必要がある.まず,抗菌薬に対するアレルギー反応は,いずれの抗菌点眼薬点眼によっても出現する可能性がある.図1の症例では,トブラマイシン点眼薬使用後,眼周囲に発赤・腫脹が出現した.トブラマイシン点眼薬に対するⅣ型アレルギーとして,接触性皮膚炎をひき起こした可能性が高い.また,毒性としての眼障害をひき起こすこともあり,それは抗菌薬の種類によって,その頻度や特徴も若干異なってくる.1.フルオロキノロン点眼薬フルオロキノロン点眼薬は,広域スペクトルであり,かつ点眼薬として安定性や保存の利便性がよいため,眼感染症の予防・治療の第一選択薬として使用される.フルオロキノロン点眼薬の眼障害は比較的少なく,その面でも使用しやすい抗菌薬である.しかしながら,刺激感・充血や角膜上皮障害などの眼障害は,治験時において各フルオロキノロン点眼薬の数%に認められており,まったくないわけではない.フルオロキノロン間での,眼障害の差異については,いまだ明確ではないが,櫻井らは,invitroにおいて各種フルオロキノロン薬の角膜図1トブラマイシン点眼後に認められた接触性皮膚炎*TakashiSuzuki:SchepensEyeResearchInstitute〔別刷請求先〕TakashiSuzuki:20StanifordStreet,Boston,MA02114,USASchepensEyeResearchInstitute0910-1810/08/\100/頁/JCLS(3)425———————————————————————-Page2上皮細胞に対する影響を細胞増殖率の50%抑制濃度(IC50:halfinhibitingconcentration)を指標として,比較検討し,その結果,各薬剤によって異なっていたことを報告している1).また,ある種のフルオロキノロン点眼薬に含有されている防腐剤などの添加剤が角膜上皮障害などをひき起こす可能性も否定できない.さらに,pHや溶解性の影響により,析出もしくは他の点眼薬との配合変化がみられるフルオロキノロン点眼もあり,これらの変化が眼障害をひき起こすことも考えられる2).2.セフメノキシム点眼薬セフメノキシム点眼薬は,スルベニシリン点眼薬が市販されなくなったため,唯一市販されている..-ラクタム系の点眼薬として,グラム陽性球菌をターゲットに使用する価値は高い.しかし,使用時に溶解するため,高齢者において,使用方法を間違えるなどのトラブルも散見される.セフメノキシム点眼薬の眼障害は,フルオロキノロン点眼薬と同様に,充血や角膜上皮障害など眼障害がまれに認められることがある.3.アミノグリコシド点眼薬アミノグリコシド点眼薬は,グラム陰性桿菌に感受性があるため,緑膿菌角膜炎などのグラム陰性桿菌による眼感染症治療に効果が高い.しかしながら,細胞障害性が比較的強いため,充血や角膜上皮障害を生じやすい.図2は,セラチアによる角膜炎に対してトブラマイシン点眼を投与した症例であるが,トブラマイシン点眼開始後,病巣は縮小傾向を示すも,結膜充血・結膜上皮欠損を示した.さらに,アミノグリコシド点眼は眼瞼に対しても毒性をひき起こす場合があり,本薬剤の使用中は眼障害の出現に注意する必要がある4.エリスロマイシン・コリスチン点眼薬・クロラムフェニコール点眼エリスロマイシン・コリスチン点眼薬やクロラムフェニコール点眼の眼障害として,他の抗菌点眼薬と同様に充血や角膜上皮障害があるが,頻度はそれほど高くない.5.バンコマイシン点眼薬バンコマイシン点眼薬は,MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)による角膜炎・結膜炎に対して効果を示すため,自家調整し,使用することがある.その場合,細胞毒性が強いため,充血や角膜上皮障害などの眼障害は比較的多い.なかでも,結膜炎に使用した場合,感染自体による充血か,バンコマイシンによる影響かは,使用前後の充血状態を慎重に比較しながら考慮する必要があるが,点眼後に角膜上皮障害が出現した場合は,バンコマイシンの副作用の可能性が高い.II抗真菌点眼薬・眼軟膏の眼障害抗真菌薬は,真菌性角膜炎の治療として使用され,市販薬としてはピマリシン点眼・眼軟膏がある.また,自家調整を行い,治療に使用する場合も多い.アムホテリシンBやピマリシンなどのポリエン系抗真菌薬は,エルゴステロールに直接結合し真菌細胞膜を破壊することトブラマイシン点眼後に発症した結膜充血(上)と結膜上皮欠損(下)426あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008(4)———————————————————————-Page3で抗真菌作用を示すが,ヒト細胞のコレステロールにも結合するため,細胞毒性が強い.眼部においても角膜に毒性を示すことが多く,上皮障害をひき起こしたり,感染によって角膜実質の融解が起こっている場合は角膜穿孔を生じる場合もある(図3).アゾール系抗真菌薬は,チトクロームP450を介して選択的にエルゴステロールの合成を阻害することで抗真菌作用を示すが,ヒト細胞のチトクロームP450のアゾール系薬剤親和性は低いため,ポリエン系よりは毒性が少ない.しかしながら,ミコナゾールは,0.1%など高濃度で使用すると充血や角膜上皮障害などの眼障害をひき起こす.特にミコナゾールを長期間に使用すると,眼瞼の腫脹やマイボーム腺の障害など,眼瞼への影響が高頻度で生じる(図4).ミカファンギンは,ヒトに存在しない真菌細胞壁の主要構成成分である1,3-..-D-グルカンの生合成を特異的に阻害することで,抗真菌作用を示すため,局所投与で使用しても,角膜上皮障害などの眼障害は比較的軽微である.III抗アカントアメーバ薬の眼障害アカントアメーバ角膜炎は,コンタクトレンズ装用者に認められる角膜炎のなかでも難治性であり,特効薬がないのが現状である.そのため,治療としては抗真菌薬の局所投与に加えて,PHMB(polyhexamethylenebiguanide)やクロルヘキシジンなどを使用する.これらの薬剤も角膜上皮障害などの眼障害をひき起こす(図5).IV抗ウイルス薬点眼・眼軟膏の眼障害角膜ヘルペスの治療において,アシクロビル眼軟膏などの抗ウイルス薬の使用は絶対不可欠である.しかし,長期間に使用する場合も多く,アシクロビル眼軟膏の場合は,細胞毒性によって角膜中央部から下方にかけて点状表層角膜炎などの角膜上皮障害が高頻度に出現する(図6).また,アシクロビル眼軟膏の登場により,使用頻度が低くなったイドクスウリジン(idoxuridine:IDU)はアシクロビルよりも細胞毒性が強く,角膜上皮障害以外にも涙点閉塞や濾胞性結膜炎をひき起こすことがある.日本では市販されていないトリフロロチミジンも角膜ヘルペスに効果的であるものの,アシクロビルよりも眼障害をひき起こしやすい.ガンシクロビルは,サイト(5)あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008427———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008(6)図6アシクロビル眼軟膏点入中に認められた角膜やや下方の点状表層角膜炎図7多種類の抗菌薬を点眼中のMRSA角膜炎表1抗微生物薬による眼障害の可能性を示すポイント多種類の抗微生物薬を投与している.角膜全体の点状表層角膜炎を認める.角膜上皮再生遅延を認める.上皮欠損の境界部が盛り上がる場合もある.結膜充血・眼瞼腫脹を認める.角膜細胞の浸潤(黒矢印)の境界のほうが,角膜上皮欠損部の境界(白矢印)よりも小さい.メガロウイルスに効果があるため,近年発見され報告されたサイトメガロウイルス内皮炎の治療として,点眼は効果がある可能性がある3).しかし,pHが高く眼障害をひき起こす可能性も否定できない.V角膜感染症治療中の抗微生物薬による眼障害の診断と対策前述のように,抗微生物薬の眼部への局所投与において,眼障害として角膜上皮障害をひき起こすことがしばしば認められるため,その上皮障害が,副作用として現れているのか,感染症の所見として現れているのかの鑑別をする必要がある.特に,原因微生物が特定されておらず,多くの種類の抗微生物薬を投与されている場合は,効果のある薬物を推定しながら,眼障害をひき起こしさらに治療効果の少ない薬剤を中止する必要がある.抗微生物薬の眼障害が顕著な場合は非栄養性の角膜潰瘍に移行する場合もある.そのため,鑑別が必要となってくる.抗微生物薬による眼障害の可能性を示すポイントを表1にまとめる.まず,結膜上皮障害が軽微であるにもかかわらず,点状表層角膜炎が,角膜全体に認められる場合は抗微生物薬の眼障害が考えられるため,病巣の所見が改善しているならば,漸減,中止をしていく必要がある.また,角膜の炎症が軽快しているにもかかわらず,角膜上皮の再生が明らかに遅延している場合は,抗微生物薬の影響が考えられる.図7は,角膜感染症からMRSAが検出されたため,バンコマイシン・アルベカシン・クロラムフェニコール・ガチフロキサシン・トブラマイシンの点眼を使用されていた症例で,角膜細胞浸潤が消失している部位においても角膜上皮が再生しておらず,多くの抗菌点眼薬を投与していることが影響していると考えられた.バンコマイシンとアルベカシン点眼のみとし,他の抗菌点眼を中止したところ,角膜上皮が再生し,また,角膜細胞浸潤も縮小,瘢痕化した(図8).このように多くの抗菌点眼薬を使用していることで,眼障害をひき起こすだけでなく,治療効果を妨げているメガロウイルスに効果があるため,近年発見され報告されたサイトメガロウイルス内皮炎の治療として,点眼は効果がある可能性がある3).しかし,pHが高く眼障害をひき起こす可能性も否定できない.V角膜感染症治療中の抗微生物薬による眼障害の診断と対策前述のように,抗微生物薬の眼部への局所投与において,眼障害として角膜上皮障害をひき起こすことがしばしば認められるため,その上皮障害が,副作用として現れているのか,感染症の所見として現れているのかの鑑別をする必要がある.特に,原因微生物が特定されておらず,多くの種類の抗微生物薬を投与されている場合は,効果のある薬物を推定しながら,眼障害をひき起こしさらに治療効果の少ない薬剤を中止する必要がある.抗微生物薬の眼障害が顕著な場合は非栄養性の角膜潰瘍に移行する場合もある.そのため,鑑別が必要となってくる.抗微生物薬による眼障害の可能性を示すポイントを表1にまとめる.まず,結膜上皮障害が軽微であるにもかかわらず,点状表層角膜炎が,角膜全体に認められる場合は抗微生物薬の眼障害が考えられるため,病巣の所見が改善しているならば,漸減,中止をしていく必要がある.また,角膜の炎症が軽快しているにもかかわらず,角膜上皮の再生が明らかに遅延している場合は,抗微生表1抗微生物薬による眼障害の可能性を示すポイント多種類の抗微生物薬を投与している.角膜全体の点状表層角膜炎を認める.角膜上皮再生遅延を認める.上皮欠損の境界部が盛り上がる場合もある.結膜充血・眼瞼腫脹を認める.図6アシクロビル眼軟膏点入中に認められた角膜やや下方の点状表層角膜炎図7多種類の抗菌薬を点眼中の———————————————————————-Page5可能性もある.したがって,角膜感染症の治療経過を確認するなかで,角膜細胞浸潤の消失スピードと角膜上皮の再生スピードを比べながら,角膜細胞浸潤の消失スピードよりも角膜上皮の再生スピードが遅い場合は,抗微生物薬の眼障害が出現している可能性がある.これらの眼障害を取り除くためには,原因となっている抗微生物薬を見極めて,注意する必要がある.そのためには,まず原因微生物を同定して薬剤感受性を把握することが重要で,さらに前述のようにそれぞれの細胞毒性を考慮しながら,必要最小限の治療メニューを構築することが必要である.また,角膜ヘルペス治療中においてアシクロビル眼軟膏によって,cracklineとよばれる線状の角膜上皮障害が出現する場合があり,その病変が角膜ヘルペスによる樹枝状角膜炎か否かを鑑別する必要がある.樹枝状角膜炎の場合,ターミナルバルブといわれる,病変の先端に樹枝状の盛りあがりがあるのに対して,cracklineはギザギザである(図9).さらに,アシクロビル眼軟膏による角膜上皮障害の場合,フルオレセイン液の角膜内への浸透性が向上していることも鑑別点の一つとなる.おわりに抗微生物薬の眼障害は,不可逆的かつ致命的なものは少なく,いずれの場合も責任薬剤を中止するだけで軽快する.しかし,気づかずに投与し続けた場合には無菌性に角膜穿孔をきたすことがある.眼感染症に対する治療効果がある場合は,ある程度の眼障害を覚悟で治療を続ける必要がある.時間の経過を追いながら,継続もしくは中止の見極めを行い,眼障害を念頭にその変化を見ていくべきで,所見の詳細なスケッチや写真がその考察の手助けになると考えられる.文献1)櫻井美晴,羽藤晋,望月弘嗣ほか:フルオロキノロン剤が角膜上皮細胞および実質細胞に与える影響.あたらしい眼科23:1209-1212,20062)WilhelmusKR,HyndiukRA,CaldwellDRetal:0.3%ciprofloxacinophthalmicointmentinthetreatmentofbacterialkeratitis.ArchOphthalmol111:1210-1218,19933)KoizumiN,SuzukiT,UnoTetal:Cytomegalovirusasanetiologicfactorincornealendotheliitis.Ophthalmology115:292-297,2008図8図7の薬物中止後図9アシクロビル眼軟膏点入中に認められたcracklineバンコマイシン・アルベカシン以外の薬物を中止すると,角膜上皮欠損・角膜細胞浸潤は縮小・消失した.(7)あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008429