———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSとつ視力と字づまり視力を測定した結果,両種の視力に統計的有意の差が8歳の終わりまで認められたこと2),つまり,「読み分け困難現象」がこの年齢まで存在することから,ヒトの視覚の発達はほぼ8歳の終わりころまで続くのではないかと結論している.IV弱視の分類視機能は,生後すぐから「鮮明な像」を見ることによって発達する.視覚の発達期に黄斑部にピントの合った像を結ぶことができなかった場合,弱視となる.弱視は,その原因によって大きく4つに分類される.1.形態覚遮断弱視視覚の感受性期間内に中心窩への視覚刺激が遮断されI弱視とは「弱視」という語には,①社会的弱視と②医学的弱視の状態の意味がある.①社会的弱視眼や視路に障害があり視覚障害によるlowvisionの状態.低下した生活の質をできるだけ高めるために拡大鏡などの補助具を用いてlowvisioncareを行う.②医学的弱視視覚の発達期(感受性期間)に視覚刺激が不十分であったために起こった視機能の未発達の状態(amblyo-pia).早期発見・治療が重要である.II小児眼科領域での「弱視」一般に,小児眼科で「弱視」といえば②医学的弱視amblyopiaをさすが,一般の人々(保護者の方々)は「弱視」といえば①社会的弱視の状態を連想することが多い.このことを踏まえ,弱視児の保護者にはまず,「弱視とは」という説明から始めなければ,誤解が生じる原因となる.III視覚の感受性期粟屋の報告1)では,ヒトの視覚の感受性は,出生直後の1カ月は低く,生後3カ月ころから上昇し,1歳6カ月ころが最も高く,その後は徐々に減衰して8歳までは残存する(図1).これは,3歳児から10歳児まで字ひ(3)?*YoshikoTakihata:川崎医療福祉大学感覚矯正学科〔別刷請求先〕瀧畑能子:〒701-0193倉敷市松島288川崎医療福祉大学感覚矯正学科特集●小児眼科の新しい考え方あたらしい眼科23(1):3~9,2006弱視治療と三歳児健診??????????????????????????????????????????????????-????-????????????瀧畑能子*図1視覚の感受性期間出生直後の約1カ月間は低く,以後しだいに高くなり,1歳6カ月くらいまでが最も高く,しだいに減衰して8歳の終わりころまで続くものと考えられる.(文献1より)03182430カ月8歳??月(年)齢感受性の強さ———————————————————————-Page2?あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006(4)たこと(形態覚遮断)により生じる片眼性または両眼性の弱視.形態覚遮断の時期や期間によって程度は異なる.図2は,片眼遮閉の既往のある191例の弱視発生状況を示す1).1週間程度の片眼遮閉で弱視となったのは71例であったが,そのうち68例(95.8%)は生後18カ月までに片眼遮閉の既往があった.片眼遮閉の期間が長くなると児の年齢が大きくなっても弱視発生がみられる.原因としては,先天眼瞼下垂,眼瞼血管腫,医原性(眼帯,健眼遮閉),先天白内障,硝子体混濁,角膜混濁などがある.2.斜視弱視斜視眼が固定していると斜視眼への形態覚刺激が抑制され,視力発達が障害されることによって起こる.しかし,固視交代可能であっても左右差がある場合や,間欠性の斜視であっても斜視弱視は発生することがある.斜視弱視では,偏心固視,固視持続不良がある.固視検査では,児の眼前33cmにペンライトの光源を置き,片眼ずつ遮閉して角膜反射が瞳孔中心からずれていないかを見る.角膜反射が瞳孔中心からずれていれば,偏心固視である.3.不同視弱視左右眼の屈折値に違いがあるものを不同視という.左右眼の屈折値がまったく等しい眼はまれであり,2D程度の差を不同視として扱うことが多い.小児では,遠視性不同視が多い.ものを鮮明に見ようとしたとき,調節は左右眼に等しく行われるので,遠視度の小さい眼が黄斑部中心窩にfocusが合っている状態で,他眼(遠視度図2片眼性視性刺激遮断の既往のある191例における弱視の発生状況1週間程度の短期間完全遮断群の弱視のうち,18カ月までに遮断を受けた例が95.8%であった.(文献1より改変)024681012141618202224303歳6歳9歳12歳カ月遮閉を開始した年齢≦12年≦10年≦8年≦6年≦4年≦3年≦2年≦1年9カ月≦1年6カ月≦1年3カ月≦1年≦10カ月≦8カ月≦6カ月≦5カ月≦4カ月≦3カ月≦2カ月≦1カ月2週≦≦3週1週間遮閉した期間●:弱視になった例○:弱視にならなかった例———————————————————————-Page3(5)あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006?の大きい眼)はまだdefocusの状態である.遠視度の強い眼は,つねにdefocusの状態であり,弱視となる(図3,4).不同視弱視の原因になる不同視の程度を表1に示す3~5).4.屈折異常弱視両眼にある程度以上の強い屈折異常があると,黄斑部中心窩にはつねにdefocusの像しか結ばれない.両眼性の弱視である.小児では,遠視性の屈折異常弱視が多い(図5,6).屈折異常弱視の原因になる屈折異常の程度を表2に示す4,5).-10D以上の強度近視では,視性刺激の不足により屈折異常弱視になることもあるが,頻度は少ない6).図3遠視性不同視:調節安静時図4遠視性不同視:調節努力時遠視度の強い眼はdefocusである.図5遠視性屈折異常弱視における調節安静時図6遠視性屈折異常弱視における調節努力時両眼ともにdefocusである.表1不同視弱視をきたす屈折値遠視性不同視遠視+2.0D以上,かつ不同視1.0~2.0D以上乱視性不同視遠視性乱視混合乱視乱視度の差1.0~2.0D以上乱視度の差2.0~2.5D以上近視性不同視近視-4.0~5.0D以上,かつ不同視5.0D以上この表より小さい不同視であっても弱視となることがある.症例ごとに対応する必要がある.表2屈折異常弱視をきたす屈折値遠視+3.0D以上遠視性乱視遠視+2.0D以上,かつ乱視1.0D以上混合乱視乱視2.0D以上———————————————————————-Page4?あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006(6)V弱視の治療1.形態覚遮断弱視原因(疾患)の治療と健眼遮閉である.(片眼)先天眼瞼下垂は,下方視で十分に両眼視を維持できているから弱視にはなりにくいとされている6)が,嫌悪反射やpreferentiallooking(PL)視力法などで左右眼の視力差が明らかである児や眼位異常が出現した児には,眼瞼下垂に対する手術を積極的に行っている.片眼先天白内障術後の無水晶体眼に対する屈折矯正は,眼鏡では不等像が大きくなるため,コンタクトレンズによる屈折矯正が適応となるうえ,3歳ころまでは屈折の変化が大きいため,コンタクトレンズの度数の交換を頻回に行わなければならない.形態覚遮断弱視は,視力0.2未満,外斜視の合併が多く,他の弱視より治療に抵抗性で予後不良である.2.斜視弱視健眼遮閉にて,中心固視の獲得と視力発達を行う.健眼遮閉は,まずは1日3~6時間程度の部分時間遮閉からはじめるが,治療困難な場合は起床から就寝までの全覚醒時間を遮閉する終日遮閉を行うこともある.間欠性の斜視に部分時間遮閉を行う場合は,遮閉していないときには両眼視を積極的に行うように指導する.終日遮閉を行う場合は,健眼の弱視化を監視することが重要であり,1歳未満の乳児では1週ごと,1歳児では1~2週ごとの経過観察が必要である.3.不同視弱視および屈折異常弱視屈折異常が原因で起こる弱視であるから,治療は,視覚の感受性期間内に,網膜中心窩に鮮明な像を得るために完全屈折矯正を行うことが第一である.a.小児の屈折検査小児は調節力が大きい.オートレフラクトメータなどで他覚的屈折検査を行った結果,その屈折値が安定していたとしても,必ず調節の介入を考慮しなくてはならない(図7).つまり,非調節麻痺下での測定値で眼鏡処方すると,かなり近視側の屈折値となり,遠視の矯正をしては低矯正であり,弱視の治療用眼鏡としては不適切なものとなる.小児では,必ず調節麻痺薬を点眼して他覚的屈折検査を行う.調節麻痺効果が最も大きいのは,アトロピンであるが,最大効果を得るまでに約1週間かかる,効果持続が長い,発熱などの全身副作用がある,などの理由から,シクロペントレート(サイプレジン?)の点眼を用いることが多い.表3に調節麻痺薬の特徴を示す.しかし,眼鏡装用していても視力の向上が不十分な児には,アトロピンでの調節麻痺下の屈折検査を行う7).遠視性弱視の屈折矯正の基本は,調節麻痺下での他覚的屈折検査で得られた屈折値をそのまま眼鏡の度とする「完全屈折矯正」である.他覚的屈折検査の方法としては,乳幼児では検影法が最も良い方法である(図8).しかし,成人と同様に据え置き型オートレフラクトメータも用いられる.4歳未満の児では,手持ち式オートレフラクトメータも使われる(図9).図74歳児の非調節麻痺下での屈折検査手持ち式オートレフラクトメータで測定した値は,近視でほぼ安定していても,4分後には,近視度数が減少した値となっている.4分後表3調節麻痺薬の比較麻痺効果効果最大効果持続副作用アトロピン完全5日3週間発熱顔面紅潮サイプレジン?(1.0%シクロペントレート)不完全0~+1.5D(AT値と比べて)60~120分2日幻覚一過性運動失調———————————————————————-Page5(7)あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006?b.不同視弱視の眼鏡・健眼遮閉乳幼児の不同視は,軸性の不同視であるため,Knappの法則より眼鏡による不等像視は生じにくく装用可能である8).6D程度の不同視であっても眼鏡装用可能である.乱視も6D程度であれば装用可能で,乱視軸が左右で異なる場合も特に調整は必要ない.屈折矯正だけでは,弱視眼の視力の発達があまり望めない場合は健眼遮閉も併用する.健眼遮閉は,通常2~6時間/日の部分時間遮閉を行う.遮閉治療中は両眼視機能(立体視)や眼位の増悪がないか注意しなければならない.視力がある程度(1.0以上)発達したら,30分/日として遮閉治療中に細かい字拾いなどを行うこともある.弱視眼の視力向上が十分となり,遮閉治療を中止して1カ月後に視力を確認すると低下している場合は,健眼遮閉を再開する.c.屈折異常弱視弱視のなかでは,最も速やかに視力の向上が得られる.治療としては,完全屈折眼鏡を処方する.VI弱視治療のヒヤリハット屈折異常や斜視が認められた場合でも,視力不良のおもな原因がほかにあることがある.つまり,眼底疾患や前眼部疾患を見逃さないようにしなくてはならない.特に,弱視治療になかなか反応せず視力の改善がほとんどみられない場合は視神経,脳を含む視路の異常,網膜疾患や角膜疾患も念頭において,見落としはないか,もう一度,視力障害の原因検索を行うことが重要である.VII三歳児健康診査の歴史三歳児健診は,1961年に母子保健法に基づき厚生省児童局および医務局からの通達で実施となったが,眼科は,「目の疾病および異常の有無」とされ,問診・視診で発見可能な異常に限られていた.湖崎らは,1970年に大阪市内保健所の三歳児健診にLandolt環字ひとつ視力検査を2.5mの距離で行い,スクリーニング基準として0.5が適当であると報告した9).1990年,三歳児健診に視力検査が導入された.その後,厚生省心身障害研究「小児の視覚発達の評価法に関する研究」の一環として,丸尾らが三歳児健康診査のガイドラインを作成した10).1997年度から三歳児健診の実施主体が都道府県から市町村へ委譲された.VIII三歳児健診の流れ三歳児健診の流れを図10に示す.一次健診は,家庭に問診(アンケート),Landolt環視標(0.1と0.5)と視力検査の方法の説明書が送付され,家庭で保護者が視力検査と眼に関するアンケートの回答を行う.アンケートの回答で眼疾患が疑われるか,視力検査の結果片眼でも0.5未満か視力検査ができなかった場合は,保健所での二次健診として,保健師の視力検査と小児科医の眼異常チェックを受ける.二次健診でも視力が片眼でも0.5未満か,眼異常が疑われる児は,精密健診を眼科で受ける.各市町村では,このガイドラインをもとに工夫,アレ図9手持ち式オートレフラクトメータ(レチノマックス:JFC社製)図8検影法乳幼児の屈折検査としては最も良い方法である.調節の介入状態,角膜の状態,中間透光体の状態なども把握できる.———————————————————————-Page6?あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006(8)ンジしている.IX三歳児健診の実施年齢神田らは3,4歳児の月齢ごとのLandolt環字ひとつ視力検査(検査距離5m)の検査可能率を,3歳0カ月では73.3%であるが,3歳6カ月では95%になると報告している(図11)11).また,神田らは正常3,4歳児の月齢ごとの平均視力を3歳0カ月で0.55,3歳6カ月で0.82と報告している(表4)11).現行のシステムでは3歳6カ月で実施すると効率がよい.X視力測定ができなかった児の対処野山らは三歳児健診でLandolt環での視力測定不能で精密健診として眼科初診したときの屈折検査,細隙灯検査,眼底検査の検査可能率はそれぞれ91.2%,88.6%,84.2%であり,保健所で視力検査をくり返さず眼科受診することによって他覚的検査を行うことにより,早期発見・早期治療が可能となると報告している12).XI日本小児眼科学会の三歳児健診検討会2001年に三歳児健診検討会が発足し,2002年から保図10三歳児健康診査の流れ一次健診は家庭で保護者が行う.アンケート記入・視力検査nononononoアンケート○なし家庭視力0.5以上二次検査視力0.5以上眼異常なし3歳児精密検査受診票発行処理可専門医療機関終了終了終了終了家庭保健所眼科図113,4歳児の月齢ごとの視力検査可能率Landolt環字ひとつ視力検査(5m)での検査可能率は,3歳6カ月では95%となる.(文献11より)年齢1009080700(%)3歳0カ月1カ月2カ月3カ月4カ月5カ月6カ月7カ月8カ月9カ月10カ月11カ月4歳0カ月1カ月2カ月3カ月4カ月5カ月6カ月7カ月8カ月9カ月10カ月表43,4歳児の月齢ごとの平均視力年齢平均視力3歳0カ月1カ月2カ月3カ月4カ月5カ月6カ月7カ月8カ月9カ月10カ月11カ月4歳0カ月1カ月2カ月3カ月4カ月5カ月6カ月7カ月8カ月9カ月10カ月11カ月0.550.660.820.790.790.780.820.820.820.860.870.880.880.870.900.890.990.960.970.931.001.081.15─3歳0カ月では0.55,3歳6カ月では0.82となる.(文献11より改変)———————————————————————-Page7(9)あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006?護者向けの「三歳児健診で弱視の早期発見を」というタイトルのパンフレットを作成・配布している(図13).XII弱視治療用(視力発達促進用)眼鏡に対する療養費の給付小児の弱視治療用眼鏡は,治療具であるが医療装具に対する療養給付の対象となっていない.しかし,弱視児をもつ保護者や眼科医などの努力により,2004年,厚生労働省社会保険審査会での公開審査において,「弱視治療用の眼鏡と遮閉具(アイパッチ?)は療養費の支給要件に該当し,家族療養費の支給対象となるものを認めるのが相当である」という結果が出され,療養給付されるケースが増えてきている.文献1)粟屋忍:形態覚遮断弱視.日眼会誌91:519-544,19872)神谷貞義,西岡啓介,西信元嗣ほか:視力の統計的考察─NonParametricTestを用いての字づまり視力と字ひとつ視力の差の検定.臨眼23:511-515,19693)初川嘉一:不同視.屈折異常の診療,眼科診療プラクティス9,p70-73,文光堂,19944)加藤和男:弱視と屈折異常.眼臨81:2001-2006,19875)矢ヶ﨑悌司:弱視.小児眼科プライマリ・ケア.眼科診療プラクティス100,p24-28,文光堂,20036)安間正子,粟屋忍:片眼性先天眼瞼下垂の視機能に関する研究.眼紀36:1510-1517,19857)八子恵子:弱視・斜視の眼鏡.あたらしい眼科21:1435-1440,20048)粟屋忍:不同視の矯正法.眼臨77:1407-1416,19839)湖崎克,内田晴彦,三上千鶴:3歳児健康診査における視力検査の検討.臨眼24:211-217,197010)丸尾敏夫,神田孝子,久保田伸枝ほか:三歳児健康診査の視覚検査ガイドライン.眼臨87:73-77,199311)神田孝子,山口直子,川瀬芳克:保育園における3,4歳児の視力検査.眼臨87:288-295,199312)野山規子,及川幹代,瀧畑能子ほか:滋賀県三歳児健康診査視力スクリーニングにおける測定不能児への対処.日本視能訓練士協会誌27:169-173,1999図12日本小児眼科学会の三歳児健診検討会が作成した保護者向けのパンフレット必要な方は,瀧畑能子(〒701-0193倉敷市松島288川崎医療福祉大学感覚矯正学科)宛にご請求ください(無料).