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血管新生緑内障に対する緑内障チューブシャント術 (プレートのあるもの)の中期成績

2022年11月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科39(11):1539.1543,2022c血管新生緑内障に対する緑内障チューブシャント術(プレートのあるもの)の中期成績豊田泰大徳田直人塚本彩香山田雄介北岡康史高木均聖マリアンナ医科大学眼科学教室CIntermediate-TermResultsofTubeShuntSurgeryforNeovascularGlaucomaYasuhiroToyoda,NaotoTokuda,AyakaTsukamoto,YusukeYamada,YasushiKitaokaandHitoshiTakagiCDepartmentofOphthalmology,St.MariannaUniversity,SchoolofMedicineC目的:血管新生緑内障(NVG)に対する緑内障チューブシャント手術の中期成績について検討した.対象および方法:NVGに対して緑内障チューブシャント手術(Baerveldt緑内障インプラント,Ahmed緑内障バルブ)を施行し,術後C36カ月経過観察可能であった連続症例C13例C13眼(65.8C±13.8歳)を対象とした.NVGの原因別に過去の緑内障手術回数,手術前後の眼圧,術後合併症,累積生存率について検討した.結果:NVGの原因は糖尿病網膜症C7例(DR群),網膜中心静脈閉塞症C6例(CRVO群)であった.過去の緑内障手術回数はCDR群でC3.3C±1.3回,CRVO群でC3.0C±0.9回であった.眼圧はCDR群では術前C37.7C±5.2CmmHgが術後C36カ月でC12.0C±4.6CmmHg,CRVO群では術前C40.3C±10.3CmmHgがC15.2C±4.8CmmHgと両群ともに有意に下降した.術後C36カ月の累積生存率はCDR群C71.4%,CRVO群83.3%であった.重篤な術後合併症としてCDR群で眼球癆をC1例に認めた.結論:NVGに対する緑内障チューブシャント手術は中期的にも有効な術式である.CPurpose:Toinvestigatetheintermediate-termresultsofglaucomatubeshuntsurgeryforneovascularglau-coma(NVG)C.CMethods:ThisCstudyCinvolvedC13CconsecutiveCNVGpatients(meanage:65.8C±13.8years)whoCunderwentglaucomatubeshuntsurgery(i.e.,BaerveldtorAhmed)andwhocouldbefollowedupfor36-monthspostoperative.CInCallCsubjects,CpreoperativeCandCpostoperativeCintraocularpressure(IOP)C,CpostoperativeCcomplica-tions,and3-yearsurvivalratewasexaminedaccordingtothecauseofNVG.Results:ThecausesofNVGwerediabeticCretinopathyCinC7patients(DRgroup)andCcentralCretinalCveinCocclusionCinC6patients(CRVOgroup)C.CAtC3-yearsCpostoperative,CIOPCwasCsigni.cantlyCdecreasedCinCbothCgroups,Ci.e.,CfromC37.7±5.2CmmHgCtoC12.0±4.6CmmHgCinCtheCDRCgroupCandCfromC40.3±10.3CmmHgCtoC15.2±4.8CmmHgCinCtheCCRVOCgroup,CandCtheCsurvivalCrateCwas71.4%CinCtheCDRCgroupCand83.3%CinCtheCCRVOCgroup.CConclusion:GlaucomaCtubeCshuntCsurgeryCforCNVGisane.ectiveprocedureintheintermediate-term.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(11):1539.1543,C2022〕Keywords:血管新生緑内障,緑内障チューブシャント手術,バルベルト緑内障インプラント,アーメド緑内障バルブ.neovascularglaucoma,tubeshuntsurgery,Baerveldtglaucomaimplant,Ahmedglaucomavalve.はじめに血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)は一般的に難治性緑内障といわれており,緑内障診療ガイドライン1)においてもCNVGに対する手術治療は代謝阻害薬を併用した線維柱帯切除術や緑内障チューブシャント手術を行うとされている.緑内障チューブシャント手術の際に使用するCglau-comaCdrainagedevices(以下,GDD)は,わが国ではC2012年にCBaerveldt緑内障インプラント(以下,バルベルト)が,2014年にCAhmed緑内障バルブ(以下,アーメド)が認可され,NVGをはじめとする難治性緑内障治療のつぎの一手として広く行われるようになった.NVGに対する緑内障チューブシャント手術の場合,聖マリアンナ医科大学病院(以下,当院)では使用可能となった時期が早かったことや,既報2)でより眼圧が下がるとされていたことを理由にバルベルトを〔別刷請求先〕豊田泰大:〒216-8511神奈川県川崎市宮前区菅生C2-16-1聖マリアンナ医科大学眼科学教室Reprintrequests:YasuhiroToyodaM.D.,DepartmentofOphthalmology,St.MariannaUniversity,SchoolofMedicine,2-16-1Sugao,Miyamae-ku,Kawasaki-shi,Kanagawa216-8511,JAPANC選択する症例が多かったが,アーメドが使用可能となってからは,術中に眼球虚脱が生じる可能性がある無硝子体眼にはアーメドも積極的に使用するようになった.そこで今回筆者らは当院におけるCNVGに対する緑内障チューブシャント手術の中期成績について後ろ向きに検討したので報告する.CI対象および方法2014年C6月.2017年C5月に当院にてCNVGに対して緑内障チューブシャント手術(バルベルトまたはアーメド)を施行し,術後C36カ月経過観察可能であった連続症例C13例C13眼(平均年齢C65.8C±13.8歳)を対象とした.NVGの原因別に過去の緑内障手術回数,チューブの留置部位(前房,硝子体腔),手術前後の眼圧の推移,薬剤スコアの推移,術後合併症,累積生存率について検討した.薬剤スコアは,緑内障点眼薬C1剤につきC1点(緑内障配合点眼薬についてはC2点),炭酸脱水酵素阻害薬内服はC2点として計算した.統計学的な検討は検討項目により,onewayANOVA,Mann-WhitneyU検定,Cc2検定,Loglank検定を使用し,p<0.05をもって有意差ありと判定した.なお本研究は診療録による後ろ向き研究である(聖マリアンナ医科大学生命倫理委員会C5455号).手術は全例,球後麻酔による局所麻酔で行った.GDDについては,バルベルトはCBG103-250,アーメドはCFP7を使用した.各CGDDは挿入前にチューブ内にオキシグルタチオン眼灌流・洗浄液(オペガードネオキット眼灌流液C0.0184%)により通水し,灌流良好であることを確認した.プレート部インプラント挿入は,上直筋と外直筋の間の耳上側または外直筋と下直筋の間の耳下側に行い,6-0オルソー糸付縫合針で強膜に固定した.バルベルトの場合,チューブをC8-0合成吸収糸で結紮し完全に閉塞させ,結紮部よりも末梢の表1対象の背景チューブにC10-0ナイロン糸の針でスリットをC1カ所作製した.前房または硝子体腔への穿刺はC23CG針で行い,チューブはC2Cmm程度挿入し,10-0ナイロン糸で強膜に固定した.挿入部よりも中枢側のチューブは自己強膜トンネルを作製して被覆した.チューブの挿入部位は,硝子体手術の既往のある症例は硝子体腔へ挿入し,硝子体手術の既往のない症例は前房へ挿入した.CII結果表1にCNVGの原因別の背景を示す.NVGの原因は糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)がC7例C7眼(DR群),網膜中心静脈閉塞症(centralCretinalCveinocclusion:CRVO)がC6例C6眼(CRVO群)であり,眼虚血症候群の症例はなかった.年齢はCDR群C59.0C±15.4歳,CRVO群C73.8C±5.6歳と両群間の年齢に有意差を認めた.両群間の視力,術前眼圧,薬剤スコア,角膜内皮細胞密度,眼軸長,過去の緑内障手術回数に有意差は認めなかった.GDDの種類とチューブの留置部位は,バルベルトのチューブを前房に留置した症例がCDR群でC1眼,CRVO群でC2眼,バルベルトのチューブを硝子体腔に留置した症例がCDR群でC5眼,CRVO群でC2眼,アーメドのチューブを硝子体腔に留置した症例がDR群でC1眼,CRVO群でC2眼であった.視力はClogMAR視力でCDR群は術前C1.6C±0.4,36カ月時点でC1.4C±1.4,CRVO群は術前C1.4C±0.6,36カ月時点でC1.0C±0.8と両群ともに術前後の視力に有意差は認めなかった.図1に術前後の眼圧推移を示す.DR群では術前C37.7C±5.2CmmHgが術後C36カ月でC12.0C±4.6CmmHg,CRVO群では術前C40.3C±10.3mmHgが術後C36カ月でC15.2C±4.8CmmHgと,両群ともに術前に比し有意な眼圧下降を示した(oneCwayCANOVAp<0.01).図2に術前後の薬剤スコアの推移を示す.DR群でC50DR群CRVO群(7例7眼)(6例6眼)p値C40年齢(歳)C59.0±15.4C73.8±5.6C0.04*眼圧(mmHg)3020術前ClogMR視力C1.6±0.4C1.4±0.6C0.48(少数視力)(0.01-0.1)(0.01-0.3)眼圧(mmHg)C37.7±5.2C40.3±10.3C0.56C薬剤スコア(点)C4.4±1.3C4.2±1.2C0.70C角膜内皮細胞密度C10(/mm2)C2492.3±788.8C1794.3±984.6C0.20眼軸長(mm)C23.4±0.9C23.5±1.3C0.86C0過去の緑内障C3.3±1.6C3.0±0.9C0.70観察期間(カ月)手術回数(回)図1術前後の眼圧推移硝子体手術の既往C6/7C4/6両群ともに術後C36カ月でも有意な眼圧下降が得られた.errormean±standarddeviation*:Mann-WhitneyUtestp<0.05bar:standarddeviation.061218243036薬剤スコア(点)543210術前眼圧3カ月9カ月15カ月21カ月27カ月33カ月術後1カ月6カ月12カ月18カ月24カ月30カ月36カ月観察期間図2術前後の薬剤スコア推移術後C36カ月で薬剤スコアは両群ともに有意に減少した.errorbar:standarddeviation.C表2術後合併症100CRVO群83.3%合併症DR群CRVO群p値80累積生存率(%)(n=7)(n=6)(c2検定)DR群71.4%2眼0眼(28.6%)(0%)60前房出血40一過性眼圧上昇3眼2眼(42.9%)(33.3%)200061218243036観察期間(カ月)図3Kaplan.Meier生存分析による累積生存率死亡定義:眼圧が観察期間中,2回連続で術前眼圧もしくは20mmHg以上を超えたとき.術後C36カ月でCDR群C71.4%,CRVO群C83.3%と有意差を認めなかった(Loglank検定Cp=0.69).は術前C4.4C±1.3点が術後C36カ月でC1.7C±2.1点,CRVO群では術前C4.2C±1.2点が術後C36カ月でC1.7C±1.6点と両群ともに術前に比し有意に減少した(oneCwayCANOVAp<0.01).図3にCKaplan-Meier生存分析による累積生存率を示す.術後眼圧がC20CmmHgをC2回連続で上回った時点,または再手術となった時点を死亡と定義した場合の累積生存率は,術後36カ月でDR群71.4%(7例中5例),CRVO群83.3%(6例中C5例)と有意差を認めなかった(Loglank検定p=0.69).表2に術後合併症を示す.DR群で前房出血C2眼,一過性眼圧上昇がCDR群でC3眼,CRVO群でC2眼,低眼圧がCCRVO(101)低眼圧(4CmmHg以下)0眼(0%)1眼(1C6.7%)C0.26眼球癆1眼(1C4.3%)0眼(0%)C0.33水疱性角膜症0眼(0%)0眼(0%)C.チューブ関連(閉塞・露出)0眼(0%)0眼(0%)C.複視0眼(0%)0眼(0%)C.群でC1眼に認められた.重篤な術後合併症としてはCDR群で眼球癆C1眼を認めた.チューブシャント手術で報告2.4)されている水疱性角膜症,チューブ露出,複視といった合併症は認めなかった.角膜内皮細胞密度は,DR群は術前C2,492.3C±788.8/mm2が術後C36カ月でC1,910.2C±906/mm2,CRVO群は術前C1,794.3C±984.6/mm2が術後C36カ月でC1,712C±956.8/mm2と,両群ともに術前後で有意差は認めなかった.CIII考按バルベルトやアーメドといったCGDDが使用可能となってからC5年以上が経過し,当院でもその成績を見直すことができる時期になった.当院で緑内障チューブシャント手術(プレートのあるもの)が行われた症例は落屑緑内障や外傷後の続発緑内障などもあったが,NVG症例がもっとも多くを占めていたため,今回CNVGに対する緑内障チューブシャント手術の中期成績について検討した.対象について,DR群とCCRVO群で術前の眼圧,薬剤スコア,眼軸長,過去の緑内障手術回数について有意差を認めなかったが,DR群はCCRVO群に比し年齢が有意に若くなっていた.これはCCRVOが加齢とともに有病率が高くなることが知られている5)疾患であるのに対して,DRによるNVGは若年者でも発症しうる疾患であることなどが影響していると考える.術後C36カ月時点での眼圧はCDR群ではC12.0C±4.6CmmHg,CRVO群ではC15.2C±4.8CmmHgで,既報6)のバルベルトを用いた緑内障チューブシャント手術の術後C36カ月時点の眼圧と同程度の結果であった.点眼スコアはCDR群では術前C4.4C±1.3点が術後C36カ月でC1.7C±2.1点,CRVO群では術前C4.2C±1.2点が術後C36カ月でC1.7C±1.6点と既報6)と同程度であった.チューブ留置部位についてCDR群,CRVO群ともにチューブを硝子体腔に留置する症例が多かった.チューブを硝子体腔に留置した症例は硝子体手術後の無硝子体眼であり,DR群のほうが硝子体腔へ留置した割合が高かった.これは硝子体手術が必要となる重篤な症例がCDR群に多く含まれたことが要因と考える.NVGに対して硝子体手術を併用したバルベルトを用いた緑内障チューブシャント手術の有効性が報告されている7).今後は硝子体出血と眼圧コントロール不良の状態を合併したCNVG症例にはこのような方法も検討すべきかと考える.なお,当院ではバルベルトについてはBG103-250を使用している.既報では眼圧下降効果がC350のほうが優れるとされているが,350ではC250よりも結膜切開範囲を広く行う必要がある.今回の対象はすべて以前の緑内障手術によって強い結膜瘢痕をきたしており,250を選択せざるをえなかった.また当院では保存強膜が使えずホフマンエルボーの被覆が困難であるため毛様体扁平部挿入タイプBG102-350は使用していない.累積生存率は術後眼圧がC20CmmHgをC2回連続で上回った時点,または再手術となった時点を死亡と定義した.術後36カ月でCDR群C71.4%,CRVO群C83.3%と既報8)のDR続発CNVGに対するアーメドを用いた緑内障チューブシャント手術のC3年生存率,無硝子体眼C62.5%,有硝子体眼C68.5%と比較しても良好な結果であった.重篤な合併症としてはCDR群で眼球癆C1例が存在した.その症例は硝子体手術後でバルベルトを硝子体腔に挿入した症例であったが,術後基礎疾患である糖尿病網膜症が悪化したことが眼球癆に至った原因と考えている.緑内障チューブシャント手術ではそのほかにも重篤な視機能に影響する合併症が報告されており9),手術に際して留意しておく必要がある.とくに水疱性角膜症については,難治性緑内障の場合,緑内障チューブシャント手術を行うよりも以前に緑内障手術が複数回施行され術前の角膜内皮細胞密度がすでに減少している症例が多いことや,チューブ挿入部位によってはチューブの角膜内皮細胞への接触や,チューブの水流による角膜内皮細胞密度の減少例も報告9)されている.今回の検討において角膜内皮細胞密度は両群ともに術前後で有意差こそ認められなかったが減少傾向であったため,今後も注意深い経過観察が必要と考える.なお,当院では角膜内皮細胞密度の減少例に対してはチューブの硝子体腔への留置を行っているが,そのような対応を行ってもなお角膜内皮細胞密度の減少が生じる10)という報告もあるため,角膜専門医との連携も必要かと考える.このように緑内障チューブシャント手術は視機能に影響する合併症が生じる危険があることを常に意識し,術前に患者によく説明する必要があると考える.CIV結論血管新生緑内障に対する緑内障チューブシャント手術は原因,過去の手術回数にかかわらず中期的にも有効な術式であるが,基礎疾患の悪化を含め視機能に影響する重篤な合併症も生じる可能性がある.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌122:5-53,C20182)BudenzCDL,CBartonCK,CGeddeCSJCetal:Five-yearCtreat-mentCoutcomesCinCtheCAhmedCBaerveldtCcomparisonCstudy.OphthalmologyC122:308-316,C20153)GeddeCSJ,CSchi.manCJC,CFeuerCWJCetal:TubeCVersusTrabeculectomyCStudyCGroup:Three-yearsCfollow-upCofCtheCTubeCVersusCTrabeculectomyCstudy.CAmCJCOphthal-molC143:670-684,C20094)ChristakisCPG,CKalenakCJW,CTsaiCJCCetal:TheCAhmedCVersusCBaerveldtstudy:.ve-yearCtreatmentCoutcomes.COphthalmologyC123:2093-2102,C20165)RogersS,McIntoshRL,CheungNetal:TheprevalenceofCveinocclusion:pooledCdataCfromCpopulationCstudiesCfromtheUnitedStates,Europe,AsiaandAustralia.Oph-thalmologyC117:313-319,C20106)GeddeCSJ,CSchi.manCJC,CFeuerCWJCetal:TreatmentCout-comeCinCtheCTubeCVersusTrabeculectomy(TVT)studyCafter.veyearsoffollow-up.AmJOphthalmolC153:789-803,C20127)NishitsukaK,SuganoA,MatsushitaTetal:Surgicalout-comesafterprimaryBaerveldtglaucomaimplantsurgerywithCvitrectomyCforCneovascularCglaucoma.CPLoSCOneC16:e0249898,C20218)ParkCUC,CParkCKH,CKimCDMCetal:AhmedCglaucomaCstudyCduringC.veCyearsCofCfollow-up.CAmCJCOphthalmolCvalveCimplantationCforCneovascularCglaucomaCafterCvitrec-153:804-814,C2012CtomyCforCproliferativeCdiabeticCretinopathy.CJCGlaucoma10)MoriCS,CSotaniCN,CUedaCKCetal:Three-yearCoutcomeCofC20:433-438,C2011CsulcusC.xationCofCBaerveldtCglaucomaCimplantCsurgery.9)GeddeCSJ,CHerndonCLW,CBrandtCJDCetal:PostoperativeCActaOphthalmolC99:1435-1441,C2021complicationsintheTubeVersusTrabeculectomy(TVT)***

血管新生緑内障に対するアーメド緑内障バルブインプラント術と バルベルト緑内障インプラント術の術後成績の比較

2022年11月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科39(11):1534.1538,2022c血管新生緑内障に対するアーメド緑内障バルブインプラント術とバルベルト緑内障インプラント術の術後成績の比較練合かのこ井田洋輔鈴木綜馬渡部恵日景史人大黒浩札幌医科大学眼科学講座CShort-TermPostoperativeOutcomesbetweenAhmedGlaucomaValveImplantandBaerveldtGlaucomaImplantSurgeryforNeovascularGlaucomaKanokoNeriai,YosukeIda,SomaSuzuki,MegumiWatanabe,FumihitoHikageandHiroshiOhguroCDepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversityC目的:今回,血管新生緑内障に対して施行されたアーメド緑内障バルブインプラント術(Ahmedglaucomavalveimplanttubing:AGV)とバルベルト緑内障インプラント術(BaerveldtCglaucomaimplant:BGI)の術後成績を比較検討した.方法:2020年C6月.2021年C4月に眼圧コントロール不良の血管新生緑内障に対し,当院で施行されたバルブインプラント術をCAGV群(7例C8眼)とCBGI群(4例C4眼)に分け,眼圧を術後C3日目,2週間,1カ月,3カ月,薬剤スコアを術後C1カ月,3カ月で比較検討した.結果:術前平均眼圧はCAGV群でC38.8±13.6CmmHg,BGI群でC36.1±7.6CmmHgであった.術後C3日,2週間,1カ月,3カ月の眼圧は,それぞれCBGI群ではC16.8±10.0,26.8±15.0,9.5C±3.9,12.0±3.5CmmHg,AGV群ではC11.5±3.2,16.0±6.6,17.5±6.5,15.0±3.9CmmHgであった.術後眼圧は術前と比較すると,両群ともに観察期間すべてで有意な低下を認めた.両群間の術後眼圧に有意差は認めなかったが,術後3日目,2週間時点ではCBGI群の眼圧が高い傾向を示し,眼圧の変動は大きかった.薬剤スコアに関しては,AGV群およびCBGI群はいずれも術前に比べ有意差は認めず,群間でも有意差は認めなかった.結論:AGV群およびCBGI群いずれも高い降圧効果が得られたものの,BGI群はCAGV群に比べ眼圧の変動がみられたことから,視野障害が高度な眼圧コントロール不良な血管新生緑内障に対してはCAGVのほうが適していると考えられた.CPurpose:ToCinvestigateCtheCshort-termCpostoperativeCoutcomesCbetweenCAhmedCglaucomavalve(AGV)CimplantCandCBaerveldtglaucomaCimplant(BGI)surgeryCforCneovascularglaucoma(NVG).CMethods:ThisCstudyCinvolvedC12CeyesCofC11CNVGCpatientsCinCwhichCAGVimplant(8eyes)orBGI(4eyes)surgeryCwasCperformedCbetweenJune2020andApril2021.Intraocularpressure(IOP),drugscores,andsurgicalcomplicationswereevalu-atedCatC3-days,C2-weeks,C1-month,CandC3-monthsCpostoperative.CResults:MeanCbaselineCIOPCinCtheCAGV-groupCandCBGI-groupCeyesCwasC38.8±13.6CmmHgCandC36.1±7.6CmmHg,Crespectively.CAtC3-days,C2-weeks,C1-month,CandC3-monthsCpostoperative,CmeanCIOPCsigni.cantlyCdecreasedCtoC16.8±10.0,C26.8±15.0,C9.5±3.9CmmHg,CandC12.5±3.0CmmHg,respectively,intheBGIgroupand11.5±3.2,C16.0±6.6,C17.5±6.5,CandC15.0±3.9CmmHg,respectively,intheAGVgroup.Nosigni.cantdi.erenceindrugscoreandsurgicalcomplicationswasobservedbetweenthetwogroups.CConclusion:BothCAGVCimplantCandCBGICsurgeryCwereCfoundCe.ectiveCforCNVG.CHowever,CpostoperativeCIOPlevelsintheAGV-groupeyesweremorestable,thussuggestingthatitmaybeamoresuitabletreatmentforrefractoryNVG.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(11):1534.1538,C2022〕Keywords:緑内障,緑内障治療,アーメド緑内障バルブインプラント,バルベルト緑内障インプラント.glauco-ma,glaucomasurgery,Ahmedglaucomavalveimplant,Baerveldtglaucomaimplant.C〔別刷請求先〕練合かのこ:〒060-8543北海道札幌市中央区南C1条西C16丁目札幌医科大学眼科学講座Reprintrequests:KanokoNeriai,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversity,Minami1-jouNishi16-chome,Cyuo-ku,Sapporo,Hokkaido060-8543,JAPANC1534(94)表1各症例のまとめ年齢術前術前硝子体緑内障術前点眼CCAI術式症例性別原疾患術眼眼圧CPGCbaCAICRho(歳)(mmHg)視力手術手術スコア内服BGIC1C41男CPDR左C29C0.07Cp+.5C.+++.+2C67男眼虚血症候群左C34LP(+)+.6++++.+3C71女CPDR右C62CCF+.5++.+.+4C73男CPDR左C30LP(+)+.5++.+.+AGVC5C49男CPDR左C37C0.08+.5++.+.+6C49男CPDR右C35C0.5+.5++.+.+7C48男CPDR左C44C0.6+.2+.+…8C53女CPDR右C50C0.03+.6++++.+9C68女CPDR左C27C1++2C..+.+.10C75男CPDR右C28C0.2+.4+.+++.11C75女CPDR右C39C0.04+.6++++.+12C42男CPDR左C29CHM+.6++++.+PDR:増殖糖尿病,LP:光覚弁,CF:指数弁,PG:プロスタグランジン関連薬,Cb:b遮断薬,Ca:a刺激薬,CAI:炭酸脱水酵素阻害薬.はじめに緑内障に対するインプラント手術は,房水の流出路を人工的な素材によって確保することで流出路の閉塞を回避する目的で行われる1).近年,米国ではCTubeCversusCTrabeculec-tomy(TVT)studyの結果2)を受けてプレートを有するチューブシャント手術(以下,チューブシャント手術)を好む術者が増加している.日本でもC2012年にバルベルト緑内障インプラント(BaerveldtglaucomaCimplant:BGI)が保険適応となり,2014年にアーメド緑内障バルブ(Ahmedglauco-mavalve:AGV)が認可された.わが国の緑内障診療ガイドラインでは,線維柱帯切除術が不成功に終わった患者,結膜瘢痕化が高度な患者,線維柱帯切除術の成功が見込めない患者,他の濾過手術が困難な患者がチューブシャント手術の適応とされている3).その結果,血管新生緑内障やぶどう膜炎による続発性緑内障などの難治性緑内障に対してチューブシャント手術が施行されるケースが増加している.国内で使用可能なチューブシャント手術にはCAGVとCBGIがあり,眼球赤道付近の強膜にプレートを設置してその周囲に被膜を作らせ,房水が眼球からチューブを通って,被膜中に流出することで眼圧を低下させる.BGIとAGVの最大の違いはチューブの圧調節弁(valve)の有無である.BGIは圧調節弁がなく,低眼圧防止のため手術時にチューブを結紮する必要がある.結紮した糸が吸収されるまでは房水は排出されず,術直後は眼圧下降が得られにくい.そのため,高眼圧防止のためにチューブに針でCSherwoodslitを入れるが,その効果は定量できない.AGVはチューブがプレート内で弁構造を有しており,理論上はC8CmmHg以上の圧がかかると開放される.そのため,AGVでは術直後より眼圧下降が期待でき,なおかつ術後低眼圧が少ない可能性が期待できる.また,BGIとCAGVとではプレートの大きさにも差があり,AGVはCBGIよりもプレート面積が小さく,2直筋間に挿入することができる.現在までチューブシャント手術間の手術成績を直接比較した報告は少なく,対象疾患を絞った報告はさらに少ない.そこで,今回筆者らは当院で血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)に対して施行されたCAGVおよびCBGIの術後成績を比較検討した.CI対象および方法2020年C6月.2021年C4月にCNVGと診断され,当院にてチューブシャント手術を施行し,術後C3カ月観察が可能であったC11例C12眼を対象として,後ろ向きに検討した.術式はC2020年C6月.2020年C11月はCBGI,2020年C12月.2021年C4月はCAGVを選択した.対象の内訳はCBGI群C4例C4眼,AGV群C7例C8眼であった.各症例の年齢,性別,原疾患,硝子体手術の有無,緑内障手術の有無,術前眼圧,術前視力,薬剤スコア(点眼薬はC1点,配合薬はC2点,炭酸脱水酵素阻害薬内服はC2点)を比較した(表1).BGIの平均年齢はC63.0±12.9歳,AGVはC57.4C±12.3歳で有意差はなかった.性別はCBGIでは男性C3例,女性C1例,AGVでは男性C4例,女性C3例であった.NVGの原疾患はCBGIのC1例のみ眼虚血症候群,それ以外はすべて増殖糖尿病網膜症であった.また,すべての症例でチューブシャント以前に硝子体手術が施行されており,緑内障手術(トラベクレクトミー)を施行した症例はCAGVのC1例のみだった.術前眼圧はCBGIではC38.8±13.6mmHg,AGVではC36.1C±7.6CmmHg,術前視力(logMAR)はCBGIではC1.6C±0.3,AGVではC0.9C±0.6,点眼スコアはCBGIではC5.3C±0.4,AGVではC4.5C±1.6といずれも2群間で有意差は認めなかった.チューブシャント手術のチューブ留置部位はすべて硝子体腔内とした.BGIはまず結膜を切開し,外直筋および上直筋の制御後にC6C×7Cmmの強膜フラップを上耳側に作製した.BGI(全例C103-250)のチューブ根部をC8-0バイクリル糸で結紮し,完全閉塞されていることを確認したうえでCSher-woodslitを作製,BGIプレートを直筋下に固定した.角膜輪部よりC3.5Cmmの位置でチューブを硝子体腔内に挿入し,強膜フラップでチューブを被覆し終了とした.なお,AGVについては全例CFP7を使用し,直筋制御およびCSherwoodslitの作製は行わず,外直筋と上直筋の間に設置した.術前,術後C3日,2週間,1カ月,3カ月の眼圧および術前,術後C1カ月,3カ月の薬剤スコア,炭酸脱水酵素阻害薬の有無および手術後の有害事象の発症の有無を両群間で比較した.統計解析はCGraphPadCPrismCversion9.3.1を用いて,各時点での両群間の有意差を対応のないCt検定で比較した.6040II結果術後C3日,2週間,1カ月,3カ月の眼圧は,BGI群ではC16.8±10.0,26.8C±15.0,9.5C±3.9,12.0C±3.5CmmHg,AGV群ではC11.5C±3.2,16.0C±6.6,17.5C±6.5,15.0C±3.9CmmHgであった(図1).両群ともに術前に比べどの期間でも有意な眼圧下降を認めたが,両群間で有意差は認めなかった.術後C1カ月とC3カ月の薬剤スコアは,BGI群ではC4.5C±1.3とC3.0C±0.7で,AGV群ではC2.1C±1.5とC2.3C±1.5であった.BGI群では術前後で有意差はなかったものの,AGV群では術前と比較し,術後C1カ月の時点で有意な減少がみられたが,両群間で有意差はみられなかった(図2).またCBGI群では術前に炭酸脱水酵素阻害薬を全例で内服していたが,術後の内服はみられなかったのに対し,AGV群では術前C7例中C5例において炭酸脱水酵素阻害薬の内服が,術後C1カ月でC1例,3カ月でC3例に減少した(図3).周術期の有害事象はCBGI群で前房出血がC2例,硝子体出血がC1例,脈絡膜.離がC1例,AGV群では,チューブ閉塞がC1例,硝子体出血がC3例,脈絡膜.離がC1例みられた(表2).チューブ閉塞に関しては,閉塞解除のため再度硝子体手術を施行した.眼圧(mmHg)0無,有害事象について比較検討を行った.術後眼圧は両群ともに有意に下降し,両群間に有意差は認めなかったものの,BGI群ではCAGV群に比べ,術後眼圧の変動がみられた.これは,バルブを持たないCBGIにおいてチューブを結紮した図1術前後の平均眼圧術後C3日,2週間,1カ月,3カ月の眼圧は,BGI群ではことによるものと考えられた.国内でCNVGに対し施行したC16.8±10.0,26.8C±15.0,9.5C±3.9,12.0C±3.5mmHgであBGI,AGVの術後成績を比較した既報でも,術前と比較しった.AGV群ではC11.5C±3.2,16.0C±6.6,17.5C±6.5,15.0術後は有意に眼圧の下降は認めたが,術式による有意差はな±3.9CmmHgであった.AGV群BGI群882200術前術後1カ月術後3カ月術前術後1カ月術後3カ月図2術前術後の薬剤スコア術後C1カ月とC3カ月の薬剤スコアは,BGI群ではC4.5C±1.3とC3.0C±0.7,AGV群ではC2.1C±1.5とC2.3C±1.5であった.薬剤スコア*66薬剤スコア44AGV群BGI群8866CIA内服者数424200図3炭酸脱水酵素阻害薬(CAI)内服者数の変化CAIを全例で内服していたが,術後は内服している症例はなかった.一方でCAGV群ではC7例中C5例で術前にCCAIを内服していたが,術後にも内服していたのは術後C1カ月でC1例,3カ術前術後1カ月術後3カ月術前術後1カ月術後3カ月月でC3例であった.く,本研究と同様の結果であった4).NVG以外の疾患を含めた重症緑内障に対してCAGV,BGIを施行した国内からの報告でも同様の結果であった5).また,AhmedCBaerveldtcomparisonCstudy(ABCstudy)やCAhmedCVersusCBaer-veldtStudy(AVBstudy)ではC5年間と長期間の観察が行われ,長期的にみるとCBGIのほうが術後1.2CmmHg程度低い眼圧が得られた6,7)とされている.薬剤スコアに関しては,BGI群では術前と比較して有意差はみられなかったものの,AGV群では術後C1カ月の時点で有意な下降がみられた.術後の炭酸脱水酵素阻害薬の内服に関しては,BGI群では内服継続している症例はなかったが,AGV群では術後有害事象として,チューブ閉塞や硝子体出血が生じて眼圧が上昇したことで,AGV群では術後C3カ月の時点で炭酸脱水酵素阻害薬の内服を再開した症例がC3例あった.一般的にチューブシャント手術ではどのタイプのチューブであっても術後C1カ月から数カ月まで無治療時の眼圧がC30.50CmmHgまで上昇する高眼圧期が存在するとされている.これは,術後早期はチューブ本体周囲組織の浮腫が軽減することで組織の密度が高くなり,房水排出が減少することで眼圧が上昇しやすく,その後,消炎に伴い周囲組織が菲薄化していくことで眼圧が下降するといわれており,眼球マッサージが眼圧の維持に有効であったとの報告もある8).BGIはチューブを吸収糸で結紮するため手術直後のC1.2カ月間は高眼圧が持続することが広く知られており1,2),AGVでも術後の一過性に眼圧が上昇することが報告されているが9,10),それらは術直後のサイトカインの多い房水にCTenon.下組織が曝露されることが関与しているとの推察もあり,手術終了時にトリアムシノロンアセトニドをプレート周囲に散布することが高眼圧期の予防に有効だとの報告もある11).本研究でも術後に眼圧上昇が生じた症例で眼球マッサージにより,眼圧下降が得られた症例も存在した.また,ABCstudyや表2有害事象BGI群(n=4)AGI群(n=8)チューブ閉塞0眼1眼(1C2.5%)前房出血2眼(50%)0眼硝子体出血1眼(25%)3眼(3C7.5%)脈絡膜.離1眼(25%)1眼(1C2.5%)AVBstudyでは,BGIのほうが低眼圧による不成功が多いとの報告もあり6,7),重症の増殖硝子体網膜症,増殖糖尿病網膜症の硝子体手術後や重篤なぶどう膜炎などの網膜が広範囲に障害され,房水産生が減少しているような症例ではAGVのほうが安全であるといえる.今回,当院で施行したCBGIでは手術C1カ月後の時点までの眼圧変動が大きかったが,AGVでは安定した低眼圧が得られた.一方CBGIは術後一過性の高眼圧を生じやすく,前房穿刺やチューブ内に留置したCripcordやステントを抜去する必要が生じることもあるため,治療に非協力的な小児や認知症患者では対応が困難となる.その点,AGVでは術直後より眼圧下降が得やすいため,術後処置に協力が得られない患者の場合はCAGVのほうが望ましいと考えられる.また,すでに高度な視野障害が生じている患者では,BGIのような眼圧変動は視野障害をさらに悪化させる可能性が示唆されるため,AGVのほうが望ましいと考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)岩崎健太郎:アーメド緑内障バルブ,バルベルト緑内障インプラント.臨眼74:218-219,C20202)GeddeCSJ,CSchi.manCJC,CFeuerCWJCetal:TreatmentCout-comesintheTubeVersusTrabeculectomy(TVT)studyafter.veyearsoffollowup.AmJOphthalmolC153:789-803,C20123)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン第C3版,20124)田部早織,稲崎鉱,井上麻衣子ほか:血管新生緑内障に対するC2種類のチューブシャント手術の術後成績の比較.臨眼73:1275-1279,C20195)高木理那,小林未奈,田中克明ほか:重症緑内障に対するアーメド緑内障バルブインプラント術の初期成績.あたらしい眼科C35:1692-1695,C20186)BudenzCDL,CBartonCK,CGeddeCSJCetal:Five-yearCtreat-mentCoutcomesCinCtheCAhmedCBaerveldtCcomparisonCstudy.OphthalmologyC122:308-316,C20157)ChristakisCPG,CKalenakCJW,CTsaiCJCCetal:TheCAhmedCversusCBaerveldtstudy:Five-yearCtreatmentCoutcomes.COphthalmologyC123:2093-2102,C20168)Neuri-MahdaviK,CaprioliJ:Evaluationofthehyperten-siveCphaseCafterCinsertionCofCtheCAhmedCGlaucomaCValve.CAmJOphthalmolC136:1001-1008,C20039)JungCKI,CParkCK:RiskCfactorsCforCtheChypertensiveCphaseCafterCimpkantationCofCaCglaucomaCdrainageCdevice.CActaOpthalmolC94:260-267,C201610)SmithCM,CGe.enCN,CAlasbaliCTCetal:DigitalCocularCmas-sageCforChypertensiveCphaseCafterCAhmedCvalveCsurgery.CGlaucomaC19:11-14,C201011)YaxdaniCS,CDoozandehCA,CPakravanCMCetal:AdjunctiveCtriamcinoloneCacetonideCforCAhmedCglaucomaCvalveimplantation:aCrandomaizedCclinicalCtrial.CEurCJCOpthal-molC27:411-416,C2017***

オミデネパグイソプロピル点眼液の有効性と安全性の 12 カ月成績

2022年11月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科39(11):1530.1533,2022cオミデネパグイソプロピル点眼液の有効性と安全性の12カ月成績力石洋平*1,2新垣淑邦*1古泉英貴*1*1琉球大学大学院医学研究科医学科専攻眼科学講座*2浦添総合病院眼科CEvaluationoftheLong-TermSafetyandE.cacyofOmidenepagIsopropylOphthalmicSolutionYoheiChikaraishi1,2),YoshikuniArakaki1)andHidekiKoizumi1)1)DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,UniversityoftheRyukyus,2)DepartmentofOphthalmology,UrasoeGeneralHospitalC目的:プロスタノイドCEP2受容体作動薬オミデネパグイソプロピル(OMDI)点眼液のC12カ月の有効性と安全性について検討した.方法:対象は緑内障および高眼圧症の患者のうちCOMDIを処方したC45眼.OMDIの新規処方例を新規群,追加投与例を追加群,他剤からCOMDIへの切替例を切替群とした.有効性はC12カ月以上経過観察が可能であったC33眼,安全性はC45眼すべてで検討した.結果:新規群の眼圧は投与前C17.4±3.5CmmHg,1カ月後C13.7±3.0mmHg,3カ月後C14.4±2.9mmHg,6カ月後C14.2±3.0mmHg,12カ月後C14.1±2.9CmmHgとすべての時点で有意な下降を認めた.追加群および切替群では有意な眼圧下降はなかった.全C45眼のうちC15眼(33%)で結膜充血がみられた.黄斑浮腫が出現した症例はなかった.結論:OMDI新規投与ではC12カ月間安定した眼圧下降が得られた.副作用としては充血の頻度が高かった.CPurpose:Toevaluatethelong-termsafetyande.cacyofomidenepagisopropyl(OMDI)eyedrops,aselec-tiveCEP2-receptorCagonist.CMethods:ThisCstudyCinvolvedC45CeyesCwithCglaucomaCorCocularChypertensionCtreatedCwithCOMDICeyeCdropsCthatCwereCdividedCinto1).rstCadministrationCgroup,2)additionalCgroup,Cand3)switchingCgroup.Safetywasexaminedinall45eyes,ande.cacywasevaluatedin33eyesthatcouldbefollowedupfor12monthsCorCmore.CIntraocularpressure(IOP)measurementsCwereCobtainedCatCbaselineCandCatC1-,C3-,C6-,CandC12-monthsposttreatmentinitiation.Results:Fromatbaselinetoat1-,3-,6-,and12-monthsposttreatmentini-tiation,IOPinthe.rstadministrationgroupsigni.cantlydecreasedfrom17.4±3.5CmmHgto13.7±3.0CmmHg,14.4C±2.9CmmHg,C14.2±3.0CmmHg,CandC14.1±2.9CmmHg,Crespectively(p<0.01).CInC15patients(33%),CconjunctivalChyperemiawasthemostcommonadverseevent,however,itdisappearedovertimeinmanycasesdespitecontin-uedadministration.Conclusion:OMDIophthalmicsolutionwasfoundtobesafeande.ective,andprovidedlong-termstableIOPreductionin.rst-administrationcases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(11):1530.1533,C2022〕Keywords:オミデネパグイソプロピル,結膜充血.omidenepagisopropyl(OMDI).はじめに緑内障は日本における中途失明原因の第一位であり,視神経障害および視野障害は進行性・非可逆的である.しかし自覚症状は初期や中期では少ないため,早期発見および早期治療が重要である.緑内障治療の目的は視神経障害,視野障害の進行を抑制することであり,唯一確実な治療方法は眼圧を下降させることである.眼圧下降の手段として点眼や内服,レーザー治療,手術治療などがあげられる.点眼においては現在では数多くの薬剤が登場しているが,第一選択は点眼回数の少なさや眼圧下降効果などからプロスタグランジン(prostagrandin:PG)関連薬とされている1).この状況のなか,新たな作用機序を有するプロスタノイド〔別刷請求先〕力石洋平:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原C207琉球大学大学院医学研究科医学科専攻眼科学講座Reprintrequests:YoheiChikaraishi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,UniversityoftheRyukyus,207Uehara,Nishihara-cho,Nakagami-gun,Okinawa903-0215,JAPANC1530(90)EP2受容体作動薬であるC0.002%オミデネパグイソプロピル点眼液(以下,OMDI)がC2018年C9月に承認され,同C11月に発売となった.第CII/III相臨床試験であるCAYAME試験ではラタノプロストに対する非劣性の眼圧下降効果を有し,高い安全性も報告された2).その後実臨床でのCOMDIの有効性,安全性を検討した研究で,短期成績は良好であるとの報告がなされている3.7).また,PG関連薬からの切り替えにより従来問題であったCPG関連薬の副作用である眼瞼色素沈着,虹彩色素沈着,上眼瞼溝深化(deepeningoftheuppereyelidsulcus:DUES)などのCPG関連眼窩周囲症(prosta-glandin-associatedCperiorbitalsyndrome:PAPS)が改善したという報告もなされている8,9).しかし,OMDIの有効性および安全性についてC12カ月成績の報告はほとんどない6).今回,OMDIを投与しC12カ月以上観察できた症例の有効性および安全性を検討したので報告する.CI対象および方法本研究は後ろ向き研究である.対象は琉球大学病院および浦添総合病院に通院中の緑内障および高眼圧症の患者のうちOMDIを処方した患者C45例C45眼を対象とした.OMDI単剤の新規処方を新規群,もともと抗緑内障薬を使用している状況でのCOMDI単剤の追加処方を追加群,PG関連薬からOMDIへの切替症例を切替群とした.切替群に関しては単剤からの切替症例とし,多剤からのCOMDIへの変更,もしくはCOMDI以外に同時に点眼を変更した患者は除外した.OMDI片眼投与例はその投与眼を,両眼投与の場合は右眼を対象とした.有効性に関してはC12カ月以上経過観察が可能であったC33例C33眼とし,安全性の検討ではC45例C45眼すべてで評価した.黄斑浮腫に関しては光干渉断層計(opti-calCcoherencetomography:OCT)を用いて評価できたC33例C33眼とした.対象は全症例有水晶体眼とした.活動性のある網膜硝子体疾患およびぶどう膜炎など,黄斑浮腫の原因となりうる疾患をもつ患者は除外した.眼圧はCOMDI投与前,投与C1カ月後,3カ月後,6カ月後,12カ月後で測定し表1有効性検討33眼の内訳た.OMDI投与前と投与後の眼圧はCBonferroni法を用いた対応のあるCt検定で比較した.統計学的有意水準はC5%とした.本研究はヘルシンキ宣言および人を対象とする医学系研究倫理指針に従い実施し,倫理委員会による承認を得た.CII結果有効性の検討を行ったC33例C33眼の背景を表1に示す.33眼のうち新規群はC19眼,追加群はC5眼,切替群はC9眼であった.緑内障病型は正常眼圧緑内障が新規群,追加群,切替群の順にC11眼,4眼,3眼,原発開放隅角緑内障はC6眼,1眼,1眼,高眼圧症は新規群でC2眼,切替群でC1眼,原発閉塞隅角緑内障は切替群でC1眼であった.追加群C5眼のOMDI追加前点眼は持続型カルテオロール塩酸塩C3眼,ブリモニジン酒石酸塩C1眼,ブリンゾラミド/チモロールマレイン酸塩配合薬C1眼であった.切替群C9眼において切替前の点眼はラタノプロストC3眼,トラボプロストC5眼,タフルプロストC1眼であった.各群の眼圧の経過を示す.新規群では投与前C17.4C±3.5mmHg,1カ月後C13.7C±3.0CmmHg,3カ月後C14.4C±2.9mmHg,6カ月後C14.2C±3.0CmmHg,12カ月後C14.1C±2.9mmHgとすべての時点で有意な下降を認め(p<0.01),眼圧の平均下降率はC18.2%であった(図1).新規群でC21CmmHg以上であったのはC3眼であった.追加群では,投与前C15.8C±3.0mmHg,1カ月後C13.0C±1.2mmHg,3カ月後C12.4C±1.5mmHg,6カ月後C14.2C±3.2CmmHg,12カ月後C14.6C±2.8mmHgであり平均眼圧下降率はC13.1%であったが,有意差はなかった(p=0.2,0.1,1,1)(図2).切替群では投与前C14.4±2.7CmmHg,1カ月後C14.4C±2.9CmmHg,3カ月後C13.9C±3.2mmHg,6カ月後C13.2C±3.2mmHg,12カ月後C13.7C±2.1CmmHg,平均眼圧下降率はC4.6%であり,すべての時点で投与前と比較して有意差はなかった(p=1,1,0.3,1)(図3).安全性の検討を行った全C45眼の副作用の内訳および経過を表2に示す.副作用発現時期は投与後C1カ月.3カ月が多C25新規群追加群切替群Cn=19Cn=5n=9C年齢(歳)C55.9±9.6C61.2±6.9C62.1±14.2男/女(人)C7/12C2/3C3/6投与前眼圧(mmHg)C17.4±3.5C15.8±3.0C14.4±2.7眼圧(mmHg)2015105病型(n)C0正常眼圧緑内障(眼)C11C4C3高眼圧症(眼)C2C0C1図1新規群19眼における眼圧の変化(平均値±標準偏差)原発開放隅角緑内障(眼)C6C1C4投与前と比較してすべての時期で有意な眼圧下降を認めた原発閉塞隅角緑内障(眼)C0C0C1(*:p<0.01,対応のある検定,Bon.eroni法で補正).投与前1M3M6M12M2015眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)1050投与前1M3M6M12M0投与前1M3M6M12M図2追加群5眼における眼圧の変化(平均値±標準偏差)投与前と比較してすべての時期で有意な眼圧下降はみられなかった(対応のある検定,Bon.eroni法で補正).C図3切替群9眼における眼圧の変化(平均値±標準偏差)投与前と比較してすべての時期で有意な眼圧下降はみられなかった(対応のある検定,Bon.eroni法で補正).C表2安全性検討45眼(黄斑浮腫は33眼)の内訳および副作用の割合とその経過新規群追加群切替群全体発現時期n=25Cn=7Cn=13Cn=451カ月3カ月6カ月12カ月経過C結膜充血8(32%)3(43%)4(31%)15(33%)C14C1C0C0*消退C10,中止C1,変化なしC4霧視1(4%)0(0%)1(3%)2(4%)C1C1C0C0消退1,中止C1羞明2(8%)0(0%)0(0%)2(4%)C1C1C0C0消退1,中止C1刺激感1(4%)0(0%)1(3%)2(4%)C2C0C0C0*消退1,中止C1虹彩炎1(4%)0(0%)0(0%)1(2%)C1C0C0C0中止黄斑浮腫0(0%)0(0%)0(0%)0(0%)C0C0C0C0*は同一症例く,6カ月,12カ月での発現はなかった.もっとも多かった副作用は結膜充血でありC15眼(33%)にみられた.投与継続したC14眼のうち経過とともにC10眼は消退し,4眼は変化なかった.羞明C1眼,霧視C1眼,虹彩炎C1眼は単独での出現であったが,それ以外は結膜充血に併発しており,副作用の出現によりCOMDI投与中止したC4症例(重複除く)は中止後すみやかに改善した.OCTを施行したC33眼のうち,黄斑浮腫が出現した症例はなかった.全症例で歪視の訴えはなかった.また,PAPSがみられた症例はなかった.45眼のうちC12カ月経過を追えなかったC12眼の内訳は,OMDIによる副作用により中止C4眼,眼圧下降不十分C2眼,受診中断C2眼,詳細不明C4眼であった.CIII考按第CIII相臨床試験であるCRENGE試験によると,OMDI投与後C52週の眼圧に関しては,ベースライン眼圧がC16CmmHg以上C22CmmHg未満の群でC3.7C±0.3CmmHg,22CmmHg以上34CmmHg以下の群でC5.6C±0.5CmmHgの下降が得られたとしている10).また金森らは新規群C62眼で投与前C17.1CmmHgに対し投与後C6カ月でC13.9CmmHg,経過が追えたC14眼では投与後C12カ月でC14.3CmmHgと有意な下降を示したと報告している6).本研究ではC12カ月経過が追えた新規群C19眼で投与前C17.4CmmHgに対し投与C12カ月後でC14.1CmmHgと同様に良好な眼圧下降が得られており,OMDI投与により短期だけでなく,長期に安定した眼圧下降を示した.追加群に関しては金森らの報告ではC7眼で投与前眼圧がC15.9CmmHgに対し,6カ月後でC14.1CmmHg,12カ月後でC14.3CmmHgと有意な下降があったとしている6).本研究では追加群C5眼で投与前眼圧がC15.8mmHgに対して投与C1カ月後で13.0CmmHg,3カ月後でC12.4CmmHg,6カ月後でC14.2mmHg,12カ月後でC14.6CmmHgであり,平均眼圧下降率は13.1%であったものの,眼圧に有意差が出なかったのは症例数が少ないことおよび眼圧値にばらつきがあったためと考えられた.今後症例数を増やしての検討が必要である.切替群9眼での切替前後で眼圧に有意差がなかったことに関しては,切替前の点眼がラタノプロストC3眼,トラボプロストC5眼,タフルプロストC1眼とすべてCPG関連薬からの切替であった.AYAME試験においてCOMDIのラタノプロストに対する非劣性が示されており2),本研究の結果は臨床試験と同様の結果であると考える.また第CIII相臨床試験であるCFUJI試験では,ラタノプロスト導入中の眼圧下降率がベース眼圧のC25%以下であり,かつ導入終了時の眼圧下降率がベース眼圧のC15%以下の治療抵抗例に対して,OMDI投与後C4週でC2.99CmmHgの眼圧下降を認めたとされる11),PG関連薬からの切替例やCPG関連薬以外の点眼からの切替例に関しても,今後症例数を増やし,長期観察期間での検討が必要である.本研究でもっとも多かった副作用は結膜充血(33%)であった.とくに追加群でC43%と高値であり,既存の緑内障治療薬との相乗効果で充血が強まった可能性が考えられる.第III相臨床試験であるCRENGE試験のなかでもっとも頻度が高かった副作用は結膜充血であり,そのうちCOMDI単剤では全体のC18.8%であり,OMDIとC0.5%チモロールとの併用群では結膜充血の頻度はC45%であったと報告している10).筆者らの研究結果はこれと矛盾しない.また,AYAME試験ではCOMDIの結膜充血の頻度はC24.5%でありラタノプロストのC10.4%と比較してC2倍以上であり2),本研究でも切替群でC31%と高率に充血がみられており,すべてがCPG関連薬からの切替であったことから,OMDIはCPG関連薬よりも充血の頻度は多い可能性がある.MDI投与による結膜充血には新規,追加,切替にかかわらず十分注意が必要であると考えられる.とくに多剤併用の場合は,注意が必要である.ただし,本研究では追加群,切替群ともに症例数が少ないため,これらの副作用発現に関しては今後症例数を増やしての検討が必要である.臨床試験と同様に本研究でも発現率が高かった結膜充血であるが,本研究では結膜充血のあったC15眼のうち投与継続で経過とともに消退した症例がC10眼と半数以上を占めており,このことはCOMDIによる結膜充血は継続投与することにより改善する可能性があることを示唆している.黄斑浮腫(.胞様黄斑浮腫を含む)に関しては,RENGE試験ではC125眼のうちC16眼で認め,そのうちCOMDIによるものと考えられたものがC14眼(11.2%)であったとしている10).そのすべてが眼内レンズ挿入眼であり,眼内レンズ挿入眼C29眼のうちC14眼(48.3%)と高率に発現すると報告している.また,特定使用成績調査中間集計結果12)によると,黄斑浮腫のみられたC1眼は有水晶体眼で黄斑上膜を合併しており,使用中止により改善したと報告している.本研究では活動性のある網膜硝子体疾患やぶどう膜炎など,黄斑浮腫の原因となりうる疾患を有する患者を除外していたため,OMDI投与後に黄斑浮腫がみられた症例はなかったと考えられる.今後,そのような患者に対しては,有水晶体眼であってもCOMDIを投与する際はCOCTによる黄斑部検査を定期的に行うべきである.今回,OMDI点眼液の有効性と安全性のC12カ月成績を検討した.新規投与では安定した眼圧下降が得られた.追加投与および切替投与では有意な眼圧下降は認めなかった.副作用としては充血の頻度が高いが,継続使用により改善する症例が多くあった.黄斑浮腫に関しては危険因子のある症例は注意が必要であり,投与後定期的な黄斑部の経過観察が必要であると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌C122:5-53,C20182)AiharaCM,CLuCF,CKawataCHCetal:OmidenepagCisopropylCversusClatanoprostCinCprimaryCopen-angleCglaucomaCandCocularhypertension:TheCphaseC3CAYAMECstudy.CAmJOphthalmolC220:53-63,C20203)柴田菜都子,井上賢治,國松志保ほか:オミデネパグ点眼薬の処方パターンと短期の眼圧下降効果と安全性.臨眼C74:1039-1044,C20204)宮平大輝,酒井寛,大橋和広ほか:原発開放隅角緑内障および高眼圧症に対するオミデネパグイソプロピル単剤投与短期成績.あたらしい眼科C38:202-205,C20215)清水美穂,池田陽子,森和彦ほか:0.002%オミデネパグイソプロピル点眼液(エイベリス)の短期眼圧下降効果と安全性の検討.あたらしい眼科C37:1008-1013,C20206)金森章泰,金森敬子,若林星太ほか:オミデネパグイソプロピル点眼液の効果と安全性の検討平均C10カ月成績.臨眼C75:767-774,C20217)InoueCK,CInoueCJ,CKunimatsu-SanukiCSCetal:Short-termCe.cacyCandCsafetyCofComidenepagCisopropylCinCpatientsCwithCnormal-tensionCglaucoma.CClinCOphthalmolC14:C2943-2949,C20208)NakakuraS,TeraoE,FujisawaYetal:ChangesinprosC-taglandin-associatedCperiorbitalCsyndromeCafterCswitchCfromCconventionalCprostaglandinCF2alphaCtreatmentCtoComidenepagCisopropylCinC11CconsecutiveCpatients.CJCGlau-comaC29:326-328,C20209)OogiCS,CNakakuraCS,CTeraoCECetal:One-yearCfollow-upCstudyCofCchangesCinCprostaglandin-associatedCperiorbitalCsyndromeCafterCswitchCfromCconventionalCprostaglandinCF2alfatoomidenepagisopropyl.CureusC12:e10064,C202010)AiharaM,LuF,KawataHetal:Twelve-monthe.cacyandCsafetyCofComidenepagCisopropyl,CaCselectiveCEP2Cago-nist,CinCopen-angleCglaucomaCandCocularhypertension:CtheRENGEstudy.JpnJOphthalmolC65:810-819,C202111)AiharaM,RopoA,LuFetal:Intraocularpressure-low-eringe.ectofomidenepagisopropylinlatanoprostnon-/Clow-responderCpatientsCwithCprimaryCopen-angleCglauco-maCorCocularhypertension:theCFUJICstudy.CJpnCJCOph-thalmolC64:398-406,C202012)参天製薬株式会社:エイベリス点眼液C0.002%特定使用成績調査中間集計結果のお知らせ(2018年C11月.2020年C03月).2021***

DSAEK とPKP 術後の角膜ヒステリシスの比較

2022年11月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科39(11):1525.1529,2022cDSAEKとPKP術後の角膜ヒステリシスの比較山口裕子竹澤由起池川和加子井上英紀坂根由梨原祐子白石敦愛媛大学大学院医学系研究科眼科学講座CAnalysisofCornealHysteresisafterDSAEKandPKPHirokoYamaguchi,YukiTakezawa,WakakoIkegawa,HidenoriInoue,YuriSakane,YukoHaraandAtsushiShiraishiCDepartmentofOphthalmology,EhimeUniversitySchoolofMedicineC目的:角膜内皮移植術(DSAEK)および全層角膜移植(PKP)術後の角膜ヒステリシスについて比較検討した.対象および方法:対象はC2020年C7月.9月に愛媛大学附属病院を受診し,DSAEKまたはCPKPを施行したCDSAEK群22例C22眼(76.0C±7.6歳),PKP群C17例C17眼(69.8C±15.4歳)で,角膜手術歴のない僚眼を対照群とした.OcularResponseCAnalyzer(ORA)で角膜ヒステリシス(CH),Goldmann相関眼圧(IOPg),補正眼圧(IOPcc)を測定した.結果:CHはCDSAEK術眼C7.4C±1.6,僚眼C9.3C±1.0CmmHg(p<0.001),PKP術眼C8.6C±1.8,僚眼C9.6C±1.6CmmHg(p<0.05)で両群とも有意に術眼が僚眼より低く,術眼の比較ではCDSAEK群がCPKP群より低かった(p=0.047).IOPgはDSAEK術眼C12C±6.7,PKP術眼C17.5C±6.7CmmHgでCDSAEK術眼が有意に低かった(p=0.045)が,IOPccはCDSAEK術眼C16.2C±6.4,PKP術眼C19.8C±6.8CmmHgで有意差はなかった.結論:角膜移植術後,とくにCDSAEK術後ではCCHが低いため,補正前の眼圧(IOPg)よりも補正後の眼圧(IOPcc)が高くなる.CPurpose:Tocomparecornealhysteresis(CH)usingtheOcularResponseAnalyzer(ORA;ReichertOphthal-micInstruments)intheeyesofpatientswhounderwentpenetratingkeratoplasty(PKP)andDescemetstrippingautomatedCendothelialkeratoplasty(DSAEK)withCthatCinCtheCnormalCfellowCeyes.CMethods:ThisCcross-sectionalCcomparativestudyinvolved22post-DSAEKeyes(DSAEKgroup;meanage:76.0C±7.6years)C,17post-PKPeyes(PKPgroup;meanage:69.8C±15.4years),andtherespectivenormalfelloweyes.Inalleyes,theORAwasusedtoCmeasureCCH,CGoldmann-correlatedIOP(gcIOP)C,CandCcorneal-compensatedIOP(ccIOP)C.CResults:MeanCCHCinCtheDSAEKgroupandPKPgroupwas7.4±1.6CmmHgand8.6±1.8CmmHg,respectively,andsigni.cantlylowerinbothCgroupsCcomparedCtoCtheCrespectiveCnormaleyes(p<0.001,Cp=0.047)C.CMeanCCHCinCtheCDSAEKCgroupCwassigni.cantlylowerthanthatinthePKPgroup(p=0.037)C.MeangcIOPintheDSAEKgroup(12C±6.7mmHg)wassigni.cantlyClowerCthanCthatCinCtheCPKPgroup(17.5C±6.7CmmHg)(p=0.045)C.CMeanCccIOPCinCtheCDSAEKCgroupCandPKPgroupwas16.2±6.4CmmHgand19.8±6.8CmmHg,respectively,withnosigni.cantdi.erencebetweenthetwogroups.Thedi.erencebetweenccIOPandgcIOP(CΔIOP)wassigni.cantlyhigherintheDSAEKgroup(4.2C±1.7mmHg)thaninthePKPgroup(2.3C±1.7mmHg)(p=0.002)C,andasigni.cantnegativecorrelationwasfoundbetweenCCHCwithCccIOPCandΔCIOP.CConclusion:CHCpostCPKPCandCDSAEKCwasClowerCthanCthatCinCnormalCeyes,CandthevaluesofccIOPwerehigherthanthoseofgcIOP,especiallypostDSAEK.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(11):1525.1529,C2022〕Keywords:角膜ヒステリシス,OcularResponseAnalyzer,全層角膜移植,角膜内皮移植術,補正眼圧.cornealhysteresis,OcularResponseAnalyzer,PKP,DSAEK,corneal-compensatedintraocularpressure.Cはじめに染症,縫合による不正乱視などの問題も多く,近年では角膜水疱性角膜症や角膜混濁などの角膜疾患に対する外科的治内皮移植術(DescemetCstrippingCautomatedCendothelial療として,従来は全層角膜移植(penetratingkeratoplasty:karatoplasty:DSAEK)などの角膜パーツ移植が登場したこPKP)がおもに施行されてきた.しかし,術後拒絶反応や感とにより,合併症のリスクが少ない術式の選択肢が増えてい〔別刷請求先〕山口裕子:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学医学部眼科学教室Reprintrequests:HirokoYamaguchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversitySchoolofMedicine,Shitsukawa,Toon,Ehime791-0295,JAPANCる.一方で,DSAEK後の眼圧上昇やCDSAEK後の角膜厚の増加が眼圧測定の精度に悪影響を与える可能性を指摘する報告1)もあり,DSAEKにおいても合併症の課題は少なからず残っている.角膜移植後の眼圧上昇は重大な合併症の一つであるが,角膜移植後では縫合糸や残存する角膜浮腫などの影響による角膜上皮の不整や角膜厚が一定でないことが多く,どのような眼圧計を用いても測定値に影響を受ける2,8).さらに角膜移植後は眼底透見性も不良となりやすく,視神経乳頭所見や視野異常の判定が困難なことが多い2).そのため角膜移植後では,緑内障管理のみならず眼圧測定値についても正しく評価することがむずかしい.また,近年の日本におけるCDSAEKの原因疾患では,Fuchs角膜ジストロフィやレーザー虹彩切開術後の水疱性角膜症よりも線維柱帯切除術後の水疱性角膜症が増えている3).そのためCDSAEK後の眼圧測定精度については既存の緑内障進行の面においても重要と考えられる.近年,角膜生体力学特性の概念が臨床的に用いられ,眼圧計測や緑内障進行に関連する可能性があることが報告されている4.7).角膜は外力が加わり変形すると,元に戻ろうとする弾性と,押し込まれたときと戻るときの動きに抵抗する粘性を併せ持つ“粘弾性”が働く.弾性によって戻ろうとする動きを粘性が抑えるため,角膜頂点を押し込むときと戻るときの動きは一致しない.この動きの違いにより,角膜に加えられたエネルギーは吸収され,その特性を角膜ヒステレシス(cornealhysteresis:CH)といい,角膜生体力学特性の一つとされる.OcularResponseCAnalyzer(ORA,Reichert社)は,定量的にCCHを測定でき,ORAで与える空気圧エネルギーを多く吸収できる場合には計測されるCCHが高くなり,反対に空気圧エネルギーの吸収が少ない場合にはCCHは低くなる.CHは日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン(第C4版)で進行危険因子の一つとして記載されており,低いCCHは緑内障性視野障害の進行に相関があるとの報告もある6.8).眼科手術のなかでも,とくに角膜移植後は前眼部構造が大きく変化するため,角膜生体力学特性も変化すると考えられる.これまでにもCPKP術後やCDSAEK術後では正常眼と比べてCCHが低いとの報告があり8.10),角膜移植後の生体力学特性の変化は,眼圧測定や角膜移植後緑内障に影響している可能性がある.そこで今回,筆者らはCORAを用いて,DSAEK後とCPKP後の角膜ヒステリシスや眼圧測定値について比較検討を行った.CI対象および方法対象はC2020年C7月.10月に愛媛大学附属病院眼科を受診したCDSAEK眼(DSAEK群)22名C22眼,平均年齢C76.0C±7.6歳(62.87歳),平均術後経過月数C26.7C±34.3カ月(1.132カ月),PKP眼(PKP群)17名C17眼,平均年齢C68.7C±15.4(26.86歳),平均術後経過月数C31.1C±34.5カ月(1.136カ月)である.DSAEK,PKP群ともに術後移植片不全や拒絶反応を認める症例は除外とした.対照群は,角膜移植歴および角膜疾患のないそれぞれの僚眼とした.検討項目はReichert社製COcularResponseCAnalyzer(ORA)を用いて測定したCH,およびCGoldmann相関眼圧値(Goldmann-cor-relatedCIOPmeasurement:IOPg),CHを考慮した補正眼圧値(corneal-compensatedIOP:IOPcc),また中心角膜厚(centralCcornealthickness:CCT)とした.CCTはCTOMEYCASIA2で測定を行った.各項目について後ろ向きに検討した.すべての統計解析には統計ソフトウェアJMP11を使用し,p<0.05をもって有意とした.なお本研究は愛媛大学医学部附属病院倫理委員会の承認(承認番号:1503007)のもと行った.CII結果原疾患の内訳は,DSAEK群ではすべて水疱性角膜症で,PKP群では角膜感染がC6眼,外傷がC4眼,水疱性角膜症C5眼,ICE症候群C1眼,サイトメガロウイルス角膜内皮炎C1眼であった.また,緑内障手術既往はCDSAEK群ではC15眼,PKP群ではC3眼でありCDSAEK群で有意に多かった.DSAEK群とCPKP群において平均年齢,平均術後期間に有意差は認めなかった(表1).まずCDSAEK群,PKP群それぞれにおける術眼と僚眼(対照群)での比較(表2)では,CCTはCDSAEK群では術眼が僚眼よりも有意に厚いが,PKP群では術眼と僚眼に有意差は認めなかった.CHは,DSAEK群では術眼C7.4C±1.6CmmHg,僚眼C9.3C±1.0CmmHg,PKP群では術眼C8.6C±1.8CmmHg,僚眼C9.6C±1.6CmmHgと両群とも術眼が有意に低かった.またIOPg,IOPccでは,DSAEK群では術眼と僚眼に有意差を認めなかったが,PKP群では術眼が僚眼より有意に高かった.さらにCIOPccとCIOPgの差(CΔIOP)においては,DSAEK群では術眼が僚眼より有意にCΔIOPが大きく,PKP群では術眼と僚眼に有意差を認めなかった.つぎに,DSAEK群およびCPKP群における術眼での比較(表3)では,DSAEK群の術眼においてCCHおよびCIOPgは有意にCPKP群の術眼より低かった.IOPccは両群間で有意差は認めなかった.CΔIOPにおいてはCDSAEK術眼で有意にCPKP術眼より大きかった.最後に各群におけるCCHとの相関を検討した.年齢や術後期間,graft/host厚比,CCTおよびCIOPgではCDSAEK群,PKP群ともに有意な相関を認めなかったが,IOPccおよびCΔIOPは両群ともCCHと負の相関を認めた(表4,図1).CIII考察今回の検討では,DSAEK,PKP両群ともに術眼でのCCH表1対象の内訳DSAEK群PKP群p値症例22眼17眼性別男性C12眼,女性C10眼男性C10眼,女性C7眼年齢C76±7.6歳(62.8C7歳)C68.7±15.4歳(26.8C6歳)Cp=0.105術後平均期間(カ月)C26.7±34.4C31.1±34.5Cp=0.695原疾患水疱性角膜症2C2眼角膜感染6眼水疱性角膜症5眼外傷4眼ICE症候群1眼サイトメガロウイルス角膜内皮炎1眼緑内障手術既往15眼3眼C*p=0.003Paired-t検定およびCFisher正確検定,*:有意差あり.年齢,術後平均期間において,各群間での有意差は認めなかった.DSAEK群ではCPKP群より有意に緑内障手術既往眼が多かった.表2DSAEK群,PKP群の術眼と僚眼(対照群)での比較DSAEK群PKP群術眼僚眼p値術眼僚眼p値CCT(Cμm)C633±89.4C532±48.7*p<C0.001554±68.5C537±48.9Cp=0.84CH(mmHg)C7.4±1.6C9.3±1.0*p<C0.0018.6±1.8C9.6±1.6C*p=0.047IOPg(mmHg)C12.0±6.7C12.8±3.2Cp=0.633C17.5±6.7C13.0±3.3C*p=0.031IOPcc(mmHg)C16.2±6.4C14.8±2.9Cp=0.331C19.8±6.8C14.7±3.5C*Cp=0.013ΔIOP(mmHg)C4.16±1.7C2.03±1.2*p<C0.0012.28±1.7C1.64±1.8Cp=0.21Paired-t検定,*:有意差あり.CCT:中心角膜厚,CH:角膜ヒステレシス,IOPg:Goldmann相関眼圧値,IOPcc:補正眼圧値,ΔIOP:IOPccとCIOPgの差(IOPcc-IOPg).各群の術眼と僚眼での比較では,DSAEK群でCCT,CH,CΔIOPにおいて有意差を認めた.一方CPKP群ではCH,IOPg,IOPccにおいて有意差を認めた.表3DSAEK群,PKP群の術眼での比較DSAEK群の術眼PKP群の術眼p値CH(mmHg)C7.4±1.6C8.6±1.8C*p=0.037IOPg(mmHg)C12.0±6.7C17.5±6.7C*p=0.045IOPcc(mmHg)C16.2±6.4C19.8±6.8Cp=0.225CΔIOP(IOPcc-IOPg)C4.16±1.7C2.28±1.7C*p=0.002Paired-t検定,*:有意差あり.CCT:中心角膜厚,CH:角膜ヒステレシス,IOPg:Goldmann相関眼圧値,IOPcc:補正眼圧値,ΔIOP:IOPccとCIOPgの差(IOPcc-IOPg).術眼での比較では,CH,IOPgはともにCDSAEK群で有意に低く,CΔIOPはDSAEK群で有意に大きかった.が僚眼より有意に低くなっており,既報とも一致した結果ででIOPgやIOPccに有意な差はなく,PKP群では術眼であることから角膜移植術後眼ではCCHが低下している可能性IOPg,IOPccともに有意に僚眼より高くなっていた.これが示唆された8.10).一方で,今回CDSAEK群では術眼と僚眼はCDSAEK術後に比べるとCPKP術後ではステロイド点眼使表4DSAEK群,PKP群におけるCHとの相関DSAEK群PKP群p値相関係数p値相関係数CIOPgCp=0.31Cr=.0.23Cp=0.089Cr=.0.42CIOPccC*Cp=0.028r=.0.47C*Cp=0.005r=.0.64CΔCIOP*p<C0.001r=.0.85*p<C0.001r=.0.87CCCTCp=0.82Cr=0.05Cp=0.66Cr=.0.11graft厚/host厚Cp=0.91Cr=0.03C..平均術後期間Cp=0.34Cr=0.21Cp=0.21Cr=.0.32年齢Cp=0.62Cr=0.11Cp=0.11Cr=0.11Pearsonの積率相関係数,*:有意差あり.CCT:中心角膜厚,CH:角膜ヒステレシス,IOPg:Goldmann相関眼圧値,IOPcc:補正眼圧値,ΔIOP:IOPccとCIOPgの差(IOPcc-IOPg).両群ともCIOPccおよびCΔIOPにおいてCCHと有意な負の相関を認めた.CHCHΔIOPΔIOP図1:CHとΔIOPの相関両群ともCCHとCΔIOPにおいて有意な負の相関を認めた(p<0.001,Pearsonの積率相関係数).用が長期であることや,DSAEK群で有意に緑内障手術後の水疱性角膜症が多かったことが影響し,僚眼との比較においてこのような結果となったと考える.術眼における比較では,DSAEK群の術眼がCPKP群の術眼より有意にCCHが低く,さらにCCHを考慮し補正された眼圧であるCIOPccとCIOPgの差(CΔIOP)においても,DSAEK術眼では僚眼およびCPKP術眼と比較しても有意に大きかった.以上の結果より,DSAEK術眼では緑内障手術既往眼が多いため,僚眼と有意差をもつほどの高い眼圧値とはならないものの,PKP術眼よりもCΔIOPが大きく,DSAEK眼のIOPccはIOPgより高くなりやすい可能性があると思われる.また今回CCHと有意な相関を認めたのはCIOPccとCΔCIOPのみであり,どちらも負の相関であった.IOPccはCCHを考慮し補正された眼圧であり,その補正計算式などの詳細な情報は明らかとなっていないが,CHが低いほどその補正された眼圧であるCIOPccが大きくなることは補正上当然の結果である.またΔIOPにおいてもCCHと有意な負の相関を認めたが,CHが低いほどその補正された眼圧であるCIOPccとIOPgとの眼圧測定値の差が大きくなることから,これも補正上当然の結果といえる.一方で,今回の検討においてはCDSAEK群,PKP群ともにCCCTやCgraft厚/host厚比,術後平均期間,および年齢とはCCHと有意な相関は認めなかった.正常眼におけるCCHでは,CCTが薄く眼圧が高い症例ほどCCHは低くなるが,年齢や性別についてはCCHと明らかな相関は認めないという報告11)がある.しかしながら,角膜移植術後のCCHに関する既報では,PKPおよびCDSAEK後どちらも有意に正常眼よりもCCHが低く,IOPccと負の相関がある一方,CCTとは相関しないという報告8,10)があることから,やはり角膜移植後ではその角膜生体力学特性は正常眼とは異なり,角膜厚以外にもドナー角膜の剛性や術後構造変化などさまざまな因子が複雑に関連している可能性が考えられる.角膜移植術後においてCCHが変化する理由はこれまで明らかとはなっていないが,既報では角膜移植後の曲率の変化や残存レシピエント角膜の力学特性の影響の可能性を推察する報告10)のほか,ドナーとレシピエント間の創傷治癒反応による影響を指摘する報告12)などがある.PKP術後においては縫合による影響の可能性も考えられるが,既報では縫合糸の有無による眼圧やCCHなどへの相関はみられていない13).一方CDSAEKにおいては,水疱性角膜症に伴う術前からの慢性的な角膜浮腫によって実質コラーゲンがたるんでしまい,実質が置き換わるCPKPと違ってCDSAEKでは移植後もその影響が残るため,CHが低いのではないかと推察する報告12)もある.今回の検討においては,既報とほぼ一致する結果であったが,一方で術後経過中一度のみの測定結果であるため,術前および術後経過中の角膜力学特性については評価できなかった.また,Fuchs角膜ジストロフィや緑内障多重手術後など水疱性角膜症の原因による角膜力学特性の違いや術前後での角膜浮腫の軽減に伴う経時的なCCHの変化については今後症例数を増やし,検討課題としたい.角膜移植が必要な症例では,術前から緑内障を合併している患者や,術後もステロイド使用などの影響によって続発緑内障を合併する患者も多く,眼底透見性の低下や眼圧測定がむずかしく緑内障進行の評価が困難なことが多い.今回の検討では角膜移植術後,とくにCDSAEK後においてはCCHが低く,IOPgとCCHを考慮した補正後眼圧CIOPccとの差が大きかった.今回,実際のCGoldmann眼圧は測定していないため,一般の非接触眼圧計での測定値とCIOPg,およびIOPccとの差は不明であるが,今回の結果から角膜移植術後眼において,一般的な補正機能のない非接触眼圧計の測定値の解釈には注意が必要と考えられた.文献1)EspanaCEM,CRobertsonCZM,CHuangB:IntraocularCpres-sureCchangesCfollowingCDescemet’sCstrippingCwithCendo-thelialCkeratoplasty.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC248:237-242,C20102)森和彦:角膜移植後の緑内障はこう治す.あたらしい眼科C26:317-321,C20093)NishinoCT,CKobayashiCA,CYokogawaCHCetal:AC10-yearCreviewofunderlyingdiseasesforendothelialkeratoplasty(DSAEK/DMEK)inatertiaryreferralhospitalinJapan.ClinOphthalmolC12:1359-1365,C20184)DascalescuD,CorbuC,VasilePetal:TheimportanceofassessingCcornealCbiomechanicalCpropertiesCinCglaucomaCpatientsCcare-aCreview.CRomCJCOphthalmolC60:219-225,C20165)CongdonCNG,CBromanCAT,CBandeen-RocheCKCetal:Cen-tralCcornealCthicknessCandCcornealChysteresisCassociatedCwithCglaucomaCdamage.CAmCJCOphthalmolC141:868-875,C20066)MangouritsasG,MorphisG,MourtzoukosSetal:Associ-ationCbetweenCcornealChysteresisCandCcentralCcornealCthicknessCinCglaucomatousCandCnon-glaucomatousCeyes.CActaOphthalmolC87:901-905,C20097)ParkJH,JunRM,ChoiKR:Signi.canceofcornealbiome-chanicalCpropertiesCinCpatientCwithCprogressiveCnormalCtensionglaucoma.BrJOphthalmolC99:746-751,C20158)FeiziCS,CFaramarziCA,CMasoudiCACetal:GoldmannCappla-nationCtonometerCversusCocularCresponseCanalyzerCforCmeasuringCintraocularCpressureCanalyzerCforCmeasuringCintraocularCpressureCafterCDescemetCstrippingCautomatedCendothelialkeratoplasty.CorneaC37:1370-1375,C20189)FaramarziCA,CFeiziCS,CNajdiCDCetal:ChangesCinCcornealCbiomechanicalCpropertiesCafterCDescemetCstrippingCauto-matedCendothelialCkeratoplastyCforCpseudophakicCbullousCkeratopathy.CorneaC35:20-24,C201610)MohamedCSamyCAbdCElaziz,CHodaCMohamedCElsobky,CAdelGalalZakyetal:Cornealbiomechanicsandintraoc-ularCpressureCassessmentCafterCpenetratingCkeratoplastyCfornonkeratoconicpatients,longtermresults.BMCOph-thalmolC19:172,C201911)KamiyaCK,CHagishimaCM,CFujimuraCFCetal:FactorsCa.ectingCcornealChysteresisCinCnormalCeyes.CGraefesCArchCClinExpOphthalmolC246:1491-1494,C200812)FeiziS,MontahaiT,MoeinH:Graftbiomechanicsfollow-ingthreecornealtransplantationtechniques.JOphthalmicVisResC10:238-242,C201513)FabianCID,CBarequetCIS,CSkaatCACetal:IntraocularCpres-sureCmeasurementsCandCbiomechanicalCpropertiesCofCtheCcorneaineyesafterpenetratingkeratoplasty.AmJOph-thalmolC151:774-781,C2011***

基礎研究コラム:66.LV-SEMの眼科応用

2022年11月30日 水曜日

LV-SEMの眼科応用LV-SEMとは透過型電子顕微鏡(transmissionCelectronmicroscope:TEM)は組織の微細構造を詳細に観察でき,診断や研究に有用ですが,観察に複雑な専門技術を要する点,撮影から観察までに時間を要する点,限られた範囲を非選択的に観察する点など,専門性の高さから,適応には限りがありました.近年,簡易・迅速に免疫染色スライドから電子顕微鏡観察を可能にする低真空走査型電子顕微鏡(low-vacuumscanningelectronmicroscope:LV-SEM)が開発され,腎臓などの領域ではすでに有用性を認められており1),活用されています.LV-SEMは簡易な前処理で観察できる低真空状態のCSEMであり,重金属染色を組み合わせることで生物資料を効果的に観察できます.TEMを比較するとCLV-SEMは有効な研究ツールであることがわかります(表1).眼の領域ではどうでしょうか筆者らはラット角膜アルカリ外傷モデルを作製し,外傷後の角膜新生血管の形成過程を時系列でCLV-SEM観察しました2).血管新生の形成に関しては,血管内皮細胞とそれを囲むペリサイトの関係が重要です.血管新生期にはペリサイトが離脱するのに対して,安定期には両者が固着しています.血管内皮細胞をCPt染色で,ペリサイトをCa-SMA染色で免疫染色した後にオスミウム処理して二重に強調させてLV-SEM観察したところ,外傷後C4日目に血管新生期におけるペリサイトの離脱を観察することができました(図1).今後の展望これまで観察不可能だったさまざまな研究対象が今後表1LV.SEMとTEMの比較LV-SEMCTEM手技の難しさ簡易煩雑観察までの時間1日以内約1~2週間画像三次元的二次元的設備投資/約C500万円/約C6,000万円C/年間維持費100万円以内約C200万円①広範囲①狭い範囲のみ観察可能な範囲②ピンポイントで選択し②観察箇所の特定がた箇所の観察が可能不可能高倍率超高倍率観察倍率(~10,000-fold)(100,000-fold以上)LV-SEMは卓上型でコンパクト.倍率ではCTEMに劣るが,さまざまな面でCLV-SEMにはメリットがある.有馬武志日本医科大学眼科・解析人体病理学LV-SEMを用いて解析されることが期待できます.その一例としてCZinn小帯の微細構造の観察があげられます.角膜で発生した炎症細胞が水晶体にも波及することはわかっていましたが,その経路として,毛様体赤道部から発生した好中球,マクロファージなどの免疫浸潤細胞がCZinn小帯を通過して水晶体上皮細胞基底膜へと移動することが,近年明らかになってきました3).アルカリ外傷モデルにおいて浸潤細胞が綱渡りのように水晶体に向かって遊走する現象をLV-SEMで観察したところ,Zinn小帯の線維に沿って遊走するマクロファージ細胞を認めました(unpublisheddata).一部のマクロファージは線維の組織構造を破壊するように遊走していることも確認できました.これらの結果から,炎症細胞が白内障のみならず,その遊走過程でCZinn小帯断裂も引き起こしているという仮説が成立し,炎症に起因する白内障においてCZinn小帯脆弱例が多いことの病態説明になりうる可能性があります.今後もCLV-SEMを用いてさらに研究が進展することを願っております.文献1)MasudaCY,CYamanakaCN,CIshikawaCACetal:GlomerularCbasementmembraneinjuriesinIgAnephropathyevaluat-edCbyCdoubleCimmunostainingCforCa5(IV)andCa2(IV)CchainsoftypeIVCcollagenandlow-vacuumscanningelec-tronmicroscopy.ClinExpNephrolC19:427-435,C20152)ArimaCT,CUchiyamaCM,CShimizuCACetal:ObservationCofCcornealCwoundChealingCandCangiogenesisCusingClow-vacu-umscanningelectronmicroscopy.TranslVisSciCTechnolC9:14,C20203)DeDreuCJ,CBowenCCJ,CLoganCCMCetal:AnCimmuneCresponseCtoCtheCavascularClensCfollowingCwoundingCofCtheCcorneainvolvesciliaryzonule.brils.FASEBCJ34:9316-9336,C2020血管新生期安定期図1LV.SEMを用いたラットアルカリ外傷後の角膜新生血管の観察アルカリ外傷後約C4日で角膜新生血管が出現する.ペリサイト(P)と血管内皮細胞(En)が離脱している像が観察できた.外傷後C14日で離脱したペリサイトが血管内皮細胞に再度接着し,安定した血管像が観察できた.(75)あたらしい眼科Vol.39,No.11,2022C15150910-1810/22/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:234.眼内光凝固後の医原性脈絡膜新生血管(中級編)

2022年11月30日 水曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載234234眼内光凝固後の医原性脈絡膜新生血管(中級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめに光凝固が誘発する医原性脈絡膜新生血管(iatrogenicchoroidalneovascularization:iCNV)は,黄斑疾患に対する経瞳孔的光凝固後の報告が多いが1),硝子体手術後に生じたとする報告も散見される.C●症例提示53歳,男性.牽引性網膜.離を併発した活動性の高いCPDR(図1)に対して硝子体手術を施行した.上方血管アーケードに沿って増殖膜を認め,膜処理中に医原性裂孔を形成した.気圧伸展網膜復位術後に光凝固を施行したが,裂孔周囲の網膜が器質化していたため,通常より強い凝固条件(300CmW,0.4秒,約C100発)が必要であった(図2).術後C6カ月,同部位に橙赤色の網膜下病変と滲出性変化を認め(図3a),フルオレセイン蛍光眼底検査で旺盛な蛍光漏出を認めた(図3b).光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)ではCCNVと思われる陰影を認めた(図3c).術中の過剰凝固によって誘発されたCiCNVと診断し,ベバシズマブ硝子体内注射を施行した.その後,橙赤色病変は徐々に縮小し沈静化した(図4).C●光凝固によって誘発される脈絡膜新生血管硝子体手術後に発生するCiCNVの原因としては術中の網膜色素上皮やCBruch膜に対する機械的侵襲,過剰光凝固などが考えられる.Appanrajらは網膜.離に対する硝子体手術時の網膜への機械的侵襲によって誘発されたCiCNVのC1例を報告しており2),本提示例と類似点がみられる.iCNV発生予防としては,網膜色素上皮やBruch膜に対する機械的な侵襲や過剰光凝固を極力避けることが重要である.医原性裂孔周囲の光凝固斑が出にくい症例では,液体パーフルオロカーボンを使用するな(73)C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY図1術前の左眼眼底写真上耳側に活動性の高い増殖膜を認める.図2術中所見医原性裂孔周囲の網膜が器質化,肥厚しており,通常より強い凝固出力を要した.図3術6カ月後の左眼眼底写真網膜下出血を伴う橙赤色の網膜下病変と滲出性変化を認め(a),フルオレセイン蛍光造影検査で旺盛な蛍光漏出を認めた(Cb).OCTではCCNVと思われる陰影を認めた(Cc).図4術12カ月後の左眼眼底写真ベバシズマブ硝子体内注射を施行後,橙赤色病変は徐々に縮小し(Ca),OCTの陰影も薄くなった(Cb).どの工夫が必要である.文献1)LimJI:Iatrogenicchoroidalneovascularization.SurvOph-thalmol44:95-111,C19992)AppanrajCR,CDuraiswamyCH,CSaravananCVCatal:Intravit-realCbevacizumabCforCiatrogenicCchoroidalCneovascularCmembraneCfollowingCvitreoretinalCsurgeryCforCretinalCdetachment.CIndianJOphthalmolC68:1201-1203,C2020あたらしい眼科Vol.39,No.11,2022C1513

考える手術:11.トラベクレクトミー

2022年11月30日 水曜日

考える手術⑪監修松井良諭・奥村直毅トラベクレクトミー谷戸正樹島根大学医学部眼科学講座緑内障手術はトラベクロトミーに代表される流出路再建術,トラベクレクトミーに代表される濾過手術,AhmedやBaerveldtなどのロングチューブによる濾過手術に大別される.また,房水産生抑制を狙った術式として内視鏡的毛様体光凝固術などがある.このなかで,狙って一桁の眼圧が達成されるのはトラベクレクトミーのみである.低侵襲緑内障手術が次々と登場するなかで,トラベクレクトミーが未だ主たる緑内障手術であ「眼球壁に穴を開け」「結膜の下に水を漏らす」だけの手術であるが,各「人事を尽くして天命を待つ」という言葉があるが,われわれ術者は「人事を尽くす」ことを心がける必要がある.術者の数ほどバリエーションがあるといわれるトラベクレクトミーであるが,それぞれの手順は術後管理との関係から設定されていることが多い.本稿ではその一例として筆者の行っている術式を,考え方とともに紹介する.それぞれの術者のそれぞれの手順について,なぜその手順を行うのかを考える際の参考にしていただきたい.聞き手:トラベクレクトミーの適応はどのように考えたす.トラベクレクトミーが不成功となった場合や,結膜らよいですか?瘢痕がある場合,onechambereye(無水晶体眼,眼内谷戸:現在,われわれが行うことができる緑内障手術のレンズ強膜内固定眼,前房内硝子体脱出眼など)はなかで,狙って一桁の眼圧が達成できる手術はトラベクAhmed緑内障バルブがよい適応です.レクトミーのみです.そのため,目標眼圧が一桁の緑内障がトラベクレクトミーのよい適応となります.10台聞き手:手術部位の選択や結膜切開で気をつけること前半の眼圧コントロールを行っているのに視野進行が続は?く原発開放隅角緑内障は,トラベクレクトミーの適応で谷戸:現在では,角膜輪部で結膜切開を行う術式(円蓋す.白内障による視力低下を伴ったケースでは低侵襲緑部基底結膜切開)がおもな術式になっています.後方に内障手術(マイクロフックトラベクロトミーやiStent)広がる奥行きがあって,高度に無血管化しない濾過胞をと角膜切開からの白内障同時手術がよい適応となりま形成することを目標としているためです.もしトラベク(71)あたらしい眼科Vol.39,No.11,202215110910-1810/22/\100/頁/JCOPY考える手術レクトミーが不成功となった場合は,将来的に耳上側でチューブシャント手術を行うことになります.そのため,筆者は鼻上側でトラベクレクトミーを行うことにしています.結膜を切開した場所は必ず瘢痕化をきたします.結膜切開の開始部位を,強膜弁を行う場所からなるべく遠くに置いたほうが濾過胞形成の邪魔になりません.右眼の場合は3時,左眼の場合は9時から結膜切開を開始します.聞き手:強膜弁作製と周辺虹彩切除で気をつけることは?谷戸:強膜弁は一重でも二重でも構いません.それぞれの施設のやり方に応じて作製します.ただし,強膜弁の作製の仕方によって,縫合糸の数やマッサージなどの方法,レーザー切糸のタイミングは変わってきます.トラベクレクトミーは単純な手術ですが,経過のバリエーションが多く,そのため経験への依存度が大きくなります.1例1例の経過を大切にして,次の症例に生かす姿勢がとくに大切です.聞き手:結膜の扱い方で注意することは?谷戸:有鈎鑷子では結膜を持たないことが大切です.マイトマイシンC(MMC)を使用する際,結膜を持ってスポンジを挿入すると結膜が裂ける原因となります.MMCを使用する際は,結膜ではなく,Tenon.を持って操作するようにしてください.筆者は,裏返したコリブリ鑷子でTenon.を持つようにしています.動画①(2分50秒あたり)で確認してみてください.聞き手:強膜弁縫合で気をつけることは?谷戸:元にあった場所に強膜を戻す感覚で通糸するとよいと思います.2-1-1で結紮する際も,締めつけるのではなくて,あくまでも強膜面同士を合わせる程度にしておくと,眼圧を上げたときにちょうどよく締まります.10-0ナイロン糸の扱いに慣れておくことが重要です.とくに,順針/逆針がうまく使えるようになっていると格段に強膜弁縫合の精度が向上し,縫合に要する時間が短縮します.これらの運針は,チューブシャント手術,バックル手術,全層角膜移植などの精度にも影響する技術です.これから手術を習得する先生は,普段の白内障手術や豚眼ウェットラボで実際のトラベクレクトミーの場面を想定しながら運針を練習するとよいと思います.上述の通り,何糸縫うかは,フラップの作り方や管理の方針によって変わってきますが,筆者の場合は,3×3mmの表層フラップ,深層フラップは切除,5糸縫合(後端,両角,両脇)して,前房維持のため前房内にシェルガンを留置して手術を終了することにしています.聞き手:結膜縫合で気をつけることは?谷戸:強膜弁と同様,結膜縫合でも元にあった場所に結膜を戻す感覚で通糸するとよいと思います.結膜切開をした場所は必ず瘢痕化しますので,元の位置にさえ戻しておけば創傷治癒過程で癒着します.筆者の場合は輪部ギリギリで結膜切開を行いますので,結膜縫合の際にも結膜と角膜を通糸するようにしています.動画②(10分05秒あたり)で確認してみてください.端々縫合とマットレス縫合を組み合わせて縫合しています.結膜縫合が終わったあとは,ステロイドの結膜注射を兼ねて濾過胞内にリンデロン注を行って濾過胞の漏出がないかどうかを確認しています.聞き手:術後管理で気をつけることは?谷戸:前房内に注入したシェルガンは術後3日目に消失します.それまでは,眼圧にかかわらず,経過をみるだけとする場合がほとんどです.術後3日間以内で,眼圧が高く,眼圧上昇の原因が出血による強膜弁癒着でないと判断される場合には,ちょっと眼球を押して濾過胞の形成を確認します.眼圧が高くても,出血塊を伴っている場合には,眼球の圧迫は再出血の原因となりますので,触らず,血液が融解するまで数日間ダイアモックス内服とします.前房消失は多くはありませんが,その場合も,シェルガンによる角膜内皮保護が期待できますので,少なくとも術後数日はアトロピン点眼で様子をみます.それでも前房深度が変わらない場合は,程度に応じて前房内にシェルガンの追加または空気注入を行いますが,気体の注入はのちの結膜瘢痕化の原因となります.レーザー切糸は,術後5日目以降に,後端,鼻側角,耳側角の順番に3本まで行うようにしています.1512あたらしい眼科Vol.39,No.11,2022(72)

抗VEGF治療:長期視力維持ができなかった加齢黄斑変性症例

2022年11月30日 水曜日

●連載125監修=安川力髙橋寛二105長期視力維持ができなかった村上智哉筑波大学医学医療系眼科加齢黄斑変性症例抗CVEGF薬治療を行っても視力が低下する滲出型加齢黄斑変性(wAMD)患者は少なくない.黄斑萎縮は治療法がなく,wAMD治療中の視力低下の原因として重要である.今回,wAMDに対するC8年にわたる抗VEGF薬治療中に黄斑萎縮が出現し,進行して視力低下をきたした患者を経験したので報告する.はじめに抗CVEGF薬が登場してから,滲出型加齢黄斑変性(wetCage-relatedCmaculardegeneration:wAMD)患者の視力予後は飛躍的に改善した.多くの臨床試験で抗VEGF薬治療の固定投与などの厳格な治療で視力の改善を維持できることが報告されているが,Seven-upstudyでは,厳格な抗CVEGF薬治療で一度改善した視力が,実臨床に戻ると徐々に低下することが報告されている1).実際に,外来で抗CVEGF薬治療を行っても,Cundertreatment,出血,萎縮などのさまざまな理由で一度改善した視力を維持できないことは少なくない.なかでも萎縮は,それに対する効果的な治療方法がなく,厄介な合併症である.今回は,wAMDに対して当院で8年に及ぶフォローアップ中に黄斑萎縮をきたして,視力を維持できなかった症例を提示する.症例提示患者はC70歳,女性.20XX年に左眼視力低下を自覚し近医を受診し,wAMDを疑われ,筑波大学附属病院眼科を紹介受診した.矯正視力は右眼(1.0),左眼(0.5)で,左眼網膜内血管腫状増殖(retinalCangiomatousCpro-liferation:RAP)すなわちCtype3macularneovascular-ization(typeC3MNV)と診断され(図1a),ラニビズマブ硝子体内注射(intravitrealranibizumab:IVR)での治療を開始した.1カ月ごとのC3回のCIVRを行ったところ,左眼視力は(0.9)まで改善し,必要時投与(proCrenata:PRN)で経過観察していたが,その後も再発を繰り返したため,アフリベルセプト硝子体内注射(intravitreala.ibercept:IVA)のCtreatCandCextend(TAE)に切り替えて3~4カ月間隔で治療した.滲出性変化はおおむねコントロールできていたが,徐々に視力は低下し,20XX+8年には左視力は(0.5)となった(8年間で合計C28回硝子体内注射を施行).中心窩から耳側の網膜色素上皮の萎縮を認め,中心窩耳側の外境界膜(69)C0910-1810/22/\100/頁/JCOPYとCellipsoidzoneは欠損しており,脈絡膜厚は治療前に比較して菲薄化していた(図1b).また,眼底自発蛍光では中心窩から耳側に低蛍光領域を認めた(図1c).抗VEGF薬治療が萎縮を加速させている可能性が考えられ,以後はCIVRでのCPRNでフォローしている.右眼は,初診時より網膜色素上皮.離やCsoftdrusen,pseudodrusenを認めたが(図2a),傍中心窩の萎縮が出現しwAMDの診断に至った.その後萎縮は徐々に進行しているが,中心窩を回避しており視力は(1.0)を維持している(図2b,c).両眼とも光干渉断層計(opticalcoher-encetomography:OCT)と,眼底写真,眼底自発蛍光を用いて慎重に黄斑萎縮をフォローアップしている.考察TypeC3MNVと考えられるCwAMDのC8年にわたる治療期間中に,黄斑萎縮をきたし視力が低下した.CRIVALCstudy2)では,treatment-naiveのCwAMDを対象としてCIVRもしくはCIVAのCTAEでC2年間治療し,黄斑萎縮の推移を評価している.黄斑萎縮を有したものはCIVR群とCIVA群でそれぞれ治療前からC2年後にC7%からC37%,8%からC32%に増加しており(2群間に有意差なし),黄斑部萎縮は,wAMD治療中に出現する合併症としては珍しくはなく,注意すべき合併症と考えられる.注射回数が多いほど黄斑萎縮が生じやすいことや3),typeC1MNVは萎縮が生じづらい一方で4),typeC3MNV(RAP)は抗CVEGF薬治療前後ともに萎縮面積がもっとも広いこと5)が報告されており,注射回数が多い患者,type1MNV以外(とくにCtype3)の患者では注意が必要と考えられる.本症例はCtypeC3MNVであり,治療が長期にわたることで注射回数も多くなり,黄斑萎縮をきたしやすい背景があったと考えられる.外来が混雑していると,網膜下液や網膜内液,網膜色素上皮.離,出血といった滲出性変化のみに注目して診療しがちである.実際,本症例では,視力が低下してきたことで黄斑萎縮が生じていたことに気づき,治療法を変更しあたらしい眼科Vol.39,No.11,2022C1509図1左眼のOCT像(水平断)と眼底自発蛍光a:20XX年治療前のCOCT像.網膜内液・下液,網膜色素上皮.離を認める.Cb:20XX+8年のCOCT像.中心窩耳側の外境界膜とCellipsoidzoneは消失し,CchoroidalCsignalCenhancementを認め,網膜色素上皮も消失している.初診時と比較し,脈絡膜厚が菲薄化している.Cc:C20XX+8年の眼底自発蛍光.中心窩から耳側に低蛍光領域を認める.図2右眼のOCT像(水平断)と眼底自発蛍光a:20XX年治療前のOCT像.漿液性網膜色素上皮.離と耳側にCdrusenを認める.Cb:20XX+8年のCOCT像.中心窩耳側の外境界膜とCellipsoidzoneは消失し,choroidalCsignalCenhance-mentを認める.Cc:20XX+8年の眼底自発蛍光.傍中心窩に低蛍光領域を認める.CmulticenterCcohortstudy(SEVEN-UP)C.COphthalmologyC120:2292-2299,C20132)GilliesMC,HunyorAP,ArnoldJJetal:MacularatrophyinCneovascularCage-relatedCmaculardegeneration:ACran-domizedCclinicalCtrialCcomparingCranibizumabCanda.ibercept(RIVALStudy)C.OphthalmologyC127:198-210,C20203)EshtiaghiA,IssaM,PopovicMMetal:Geographicatro-phyincidenceandprogressionafterintravitrealinjectionsofanti-vascularendothelialgrowthfactoragentsforage-relatedCmaculardegeneration:ACmeta-analysis.CRetinaC41:2424-2435.C20214)DanielE,MaguireMG,GrunwaldJEetal;ComparisonofAge-RelatedCMacularCDegenerationCTreatmentsCTrialsCResearchGroup:IncidenceCandCprogressionCofCnongeo-graphicatrophyintheComparisonofAge-RelatedMacu-larCDegenerationCTreatmentsTrials(CATT)ClinicalCTrial.JAMAOphthalmol138:510-518,C20205)YunCC,COhCJ,CAhnCJCetal:ComparisonCofCintravitrealCa.iberceptCandCranibizumabCinjectionsConCsubfovealCandCperipapillarychoroidalthicknessineyeswithneovascularage-relatedCmacularCdegeneration.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC254:1693-1702,C20166)MatsumotoH,MorimotoM,MimuraKetal:Treat-and-extendCregimenCwithCa.iberceptCforCneovascularCage-relatedCmaculardegeneration:E.cacyCandCmacularCatro-phydevelopment.OphthalmolCRetinaC2:462-468,C2018(70)た.OCTでの網膜外層障害や,網膜色素上皮の菲薄化や消失,choroidalCsignalenhancement,眼底自発蛍光像での低蛍光領域などの所見に,萎縮リスクのある患者ではとくに注意すべきだろう.また,萎縮をすでに生じている患者や,萎縮リスクが高い患者では,overtreat-mentになりすぎないようにCPRNで治療するなどの対策が必要かもしれない.萎縮を生じている患者にいずれの薬剤を選択するか,という点に関してはまだ決着がついていない.RIVALstudyでは,IVR群とCIVA群では萎縮の頻度に差は認めないことが報告されているが,IVRよりCIVAのほうがCwAMD眼の脈絡膜厚は薄くなるということや5),Ctype3MNVでは脈絡膜厚が薄いほど治療後の萎縮面積が広くなることが報告されており6),typeC3MNVではIVAのほうが萎縮を促進させることが懸念される.この点に関しては,今後のエビデンスの積み重ねが望まれる.文献1)RofaghaCS,CBhisitkulCRB,CBoyerCDSCetal;SEVEN-UPStudyGroup:Seven-yearoutcomesinranibizumab-treat-edCpatientsCinCANCHOR,CMARINA,CandHORIZON:aC1510あたらしい眼科Vol.39,No.11,2022

緑内障:眼瞼圧と眼圧

2022年11月30日 水曜日

●連載269監修=福地健郎中野匡269.眼瞼圧と眼圧浪口孝治愛媛大学大学院医学系研究科視機能再生学講座眼瞼圧とは眼瞼が眼球を圧迫する圧力である.眼瞼圧は眼圧の変動に影響を与える可能性が示唆されており,眼圧と眼瞼圧の関連を明らかにすることで,緑内障の病態解明および治療に大きく貢献することができる可能性がある.●はじめに緑内障はわが国の中途失明の原因第C1位の疾患であり,眼圧・眼血流・視神経の脆弱性などが報告されており,眼圧がその進行のおもな原因とされている.眼圧には日内変動や体位に伴う変動があるということは広く知られており,就寝時臥位で高値を示し,臥位から座位,立位になると数分で下降がみられるなどの眼圧変動に関する報告がなされている1).実際,日中の外来診察時には眼圧は良好だが,夜間や早朝などに眼圧上昇があり,視野障害が進行しているというような患者もまれならず経験する.近年,コンタクトレンズ(contactlens:CL)型眼圧計(Trigger.sh,SENSIMED社)が開発され,終日装用して眼圧変動を記録することが可能となった.筆者らもCCL型眼圧計の測定結果および安全性について報告してきたが,図1に示すように,瞬目に伴いスパイク様の眼圧上昇を示すこと,睡眠中に眼圧が上昇していることから,閉瞼により眼圧が上昇する可能性が示唆されている.C●眼瞼圧とは眼瞼は,眼表面の保護,視覚の確保,さらには涙液の安定性に働いているが,眼球を圧迫することにより眼圧を変化させることが推測される.眼瞼が眼球を圧迫する圧力が眼瞼圧であり,その概念はCSnellenによりC1869図1CL型眼圧計(Trigger.sh)による眼圧日内変動の測定年に報告されている.過去にもさまざまな方法で眼瞼圧の測定が行われてきたが,操作が煩雑,機器のサイズが大きいなどの理由で実用化には至らず,眼瞼圧測定を臨床応用した研究はこれまでになかった.筆者らは静電気容量センシングを応用した高感度の圧力トランスデューサーを使用した,小型で簡便な再現性の高い眼瞼圧測定器を開発し,眼瞼圧上昇による眼瞼と眼表面の摩擦亢進が瞬目関連疾患に関与していることを報告した2,3)(図2).また,下眼瞼圧と瞬目時の眼球後退量が相関することを示して,眼瞼圧が眼球に強く影響していることを示してきた4).C●眼瞼けいれんに対するA型ボツリヌス毒素治療による眼瞼圧と眼圧への影響眼瞼けいれんは,間欠性あるいは持続性の過度な収縮により,眼瞼周囲の筋に不随意的な閉瞼を生ずる疾患で,自覚症状がドライアイと酷似しているといわれている.A型ボツリヌス毒素投与を行うことで,眼輪筋および眼周囲の筋力を低下させ開瞼を容易にさせる.緑内障と眼瞼けいれんの関連を調べたCLeeらの報告では,眼瞼けいれんの反復性およびけいれん性の眼瞼収縮が,眼圧の上昇または変動につながる可能性を示唆している5).筆者らは異常な瞬目が起こる眼瞼けいれんにおいて眼図2眼瞼圧測定器(67)あたらしい眼科Vol.39,No.11,2022C15070910-1810/22/\100/頁/JCOPY5045403530眼瞼圧(mmHg)眼瞼圧(mmHg)25201510550020*18この結果から,眼瞼圧は眼圧に影響を与える可能性が上眼瞼下眼瞼■正常群■眼瞼けいれん群図3正常群と眼瞼けいれん群の眼瞼圧の比較上眼瞼下眼瞼■治療前■治療後図4BTX.A治療前後の眼瞼圧1614121086420図5BTX.A治療前後の眼圧■治療前■治療後眼圧(mmHg)示唆された.ただし,本研究にはいくつかの制限がある.第一に,眼瞼圧測定は自然な瞬目ではなく,自発的な閉瞼で測定が行われている.そのため,自然な瞬目ではそこまでの眼瞼圧増加は起こらない可能性がある.第二に,本研究では,眼圧は開瞼した状態で測定し,眼瞼圧は閉瞼した状態で測定した.したがって,眼圧と眼瞼圧との相関関係は完全には実証されていない可能性がある.対策としては,閉瞼した状態で眼圧を測定するCCL瞼圧と眼圧が変化しているのではないかと考え,眼瞼けいれんに対するCA型ボツリヌス毒素治療(以下,BTX-A)による眼瞼圧と眼圧への影響を研究し報告した6).対象はC2013年C3月~2015年C8月に愛媛大学医学部附属病院眼科において眼瞼けいれんに対してCBTX-Aを施行し,その前後で眼瞼圧と眼圧の測定が可能であった患者である.また,眼科疾患を有さない正常ボランティアの眼瞼圧を測定し比較対象とした.内訳は眼瞼けいれん群C33例C66眼(男性C12例,女性C21例,平均年齢C61.1±14.7歳),正常群20例40眼(男性10例,女性10例,平均年齢C59.7C±11.3歳)であった.正常群と眼瞼けいれん群の上眼瞼圧と下眼瞼圧を眼瞼圧測定器で計測し,眼瞼けいれん群ではCBTX-A治療のC2~4週間後にも眼瞼圧測定と眼圧測定を行った.正常群の平均眼瞼圧は上眼瞼でC31.0C±6.8CmmHg,下眼瞼C29.9C±6.5CmmHgであった.BTX-A治療前の眼瞼圧は,眼瞼けいれん群で上眼瞼C35.3C±7.0CmmHg,下眼瞼C37.8C±6.6CmmHgであった.眼瞼けいれん群の眼瞼圧は,上眼瞼および下眼瞼で正常群の眼瞼圧よりも有意に高かった(p<0.001)(図3).BTX-A治療後の眼瞼圧は,上眼瞼C29.9C±7.5mmHg,下眼瞼でC32.8C±7.0CmmHgであった.BTX-A治療後に上眼瞼圧および下眼瞼圧は有意に低下した(p<0.001)(図4).眼瞼けいれん群の眼圧は治療前C15.1C±2.9CmmHgからCBTX-A治療後C14.5C±2.8CmmHg(p=0.0197)と有意に眼圧が下降した(図5).C1508あたらしい眼科Vol.39,No.11,2022型眼圧計などを用いて再検証を行う必要がある.C●まとめ眼瞼圧は眼圧の変動に影響を与える可能性があり,緑内障患者の眼瞼圧を測定し,緑内障と眼瞼圧の関連を明らかにすることで,緑内障の病態解明および治療に大きく貢献することができる可能性がある.文献1)HaraCT,CHaraCT,CTsuruT:IncreaseCofCpeakCintraocularCpressureCduringCsleepCinCreproducedCdiurnalCchangesCbyCposture.ArchOphthalmolC124:165-168,C20062)YoshiokaE,YamaguchiM,ShiraishiAetal:In.uenceofeyelidpressureon.uoresceinstainingofocularsurfaceindryeyes.AmJOphthalmolC160:685-692,Ce1,C20153)SakaiE,ShiraishiA,YamaguchiMetal:Blepharo-tensi-ometer:newCeyelidCpressureCmeasurementCsystemCusingCtactileCpressureCsensor.CEyeCContactCLensC38:326-330,C20124)YamamotoY,ShiraishiA,SakaneYetal:InvolvementofeyelidCpressureCinClid-wiperCepitheliopathy.CCurrentCEyeCResearchC41:171-178,C20165)LeeMS,HarrisonAR,GrossmanDSetal:Riskofglauco-maCamongCpatientsCwithCbenignCessentialCblepharospasm.COphthalmicPlastReconstrSurgC26:434-437,C20106)NamiguchiK,MizoueS,OhtaKetal:E.ectofbotulinumtoxinAtreatmentoneyelidpressureineyeswithblepha-rospasm.CurrEyeResC43:896-901,C2018(68)

屈折矯正手術:老視矯正の多焦点有水晶体眼内レンズ

2022年11月30日 水曜日

●連載270監修=稗田牧神谷和孝270.老視矯正の多焦点有水晶体眼内レンズ北澤世志博サピアタワーアイクリニック東京後房型有水晶体眼内レンズの普及に伴い,老視矯正も可能なレンズが登場した.白内障手術において多焦点眼内レンズが普及したように,期待される多焦点有水晶体眼内レンズについての情報を提供する.●はじめに後房型有水晶体眼内レンズ(ICL)の適応は,日本眼科学会屈折矯正手術ガイドラインで老視年齢については要慎重となっている.また,近い将来の白内障や老視対策の必要性も考えC45歳くらいまでが適応といわれているが,ICLの普及に伴い,老視年齢の手術希望者も増加している.本稿ではCICLでの老視対策として注目されている多焦点有水晶体眼内レンズについて解説する.C●多焦点有水晶体眼内レンズ多焦点有水晶体眼内レンズは,2000年代初期にCAlioらが近方C1.75D加入のCPMMA素材のプロトタイプの結果を報告し1),Baiko.らは近方+2.50D加入のフォーダブルレンズの使用経験を報告した2)が,いずれも前房型で角膜内皮細胞減少の問題があり普及しなかった.しかし近年,後房型の多焦点有水晶体眼内レンズが登場し,初期臨床成績が報告されている3,4).ひとつはCSTAARSurgical社のCEVO+VisianCICLCwithCAsphericCOptic(以下,EVOViva)で,2020年にCCEマークの承認を受けた.もうひとつはCEyeOL社から販売されたCIPCLCV2.0Presbyopicで,2017年にCCEマークの承認を受けている.いずれのレンズもわが国では未承認である.CEVOViva(図1)の素材はCICLと同一のCcollamerで,多焦点の構造は焦点深度拡張(extendedCdepthCofCfocus:EDOF)型である.ICLと同じホールがあり,サイズもCICLと同じC12.1Cmm,12.6Cmm,13.2Cmm,13.7mmのC4種類で,レンズの度数規格は球面-0.50~-18.0Dでトーリックレンズはない.EVOVivaは世界各地のC10施設ほどで限定的に使用されている.PackerらはC40~60歳のC35例の両眼にCEVOVivaを挿入し,術後C6カ月の裸眼視力(logMAR)は遠方C0.07C±0.10,中間-0.02±0.08,近方-0.01±0.05と良好で,1例は結果に不満で抜去したが,34例中C31例(91.2%)は満足であったと報告している3).CIPCLCV2.0Presbyopic(図2)の素材は親水性アクリルで,多焦点の構造はCtrifocalCdi.ractiveapodizedで,エネルギー配分は遠方C50%,中間C20%,近方C30%である.レンズには中央のほか多数のホールがあり,サイズはC11.0~14.0CmmまでC0.25Cmm間隔でC13サイズある.レンズの度数規格は球面+6.0~-30.0D,円柱+1.0~+6.0D,近方加入度数は+1.0~+4.0の範囲でC0.50D間隔で選択でき,わが国でも個人輸入すれば使用が可能である.IPCLは当初はレンズ中心にホールがなかったが,ホールのあるCV2.0では術後眼圧上昇はなく,左右で近方加入度数の異なるレンズを挿入したところ,遠方から中間,近方まで良好な裸眼視力が得られ,角膜内皮細胞減少率も術後C12カ月でC1.43%であったという報告4)がある.図2IPCLV2.0Presbyopic(EyeOL社製)の写真上方を示すホール()のほか多数のホールがある.図1EVO+VisianICLwithAsphericOptic(STAARSurgical社製)の写真レンズ上方を示すホール()がある.(65)あたらしい眼科Vol.39,No.11,2022C15050910-1810/22/\100/頁/JCOPY図3EVOViva症例の術前後の視力とコントラスト感度図4IPCLV2.0Presbyopic症例の術前後の視力とコントラスト感度●症例提示筆者が院内倫理委員会の承認取得後,患者に十分なインフォームド・コンセントを取得して執刀した多焦点有水晶体眼内レンズの症例を提示する.症例C1はC48歳,女性,専業主婦である.遠近両用眼鏡で生活していたが煩わしく,手術を希望してC2021年10月C30日当院を受診した.初診時,両眼強度近視で両眼正視目標のCEVOVivaを挿入した.術後C6カ月検診では遠方裸眼視力は右眼C0.9,左眼C1.0,中間C50Ccm裸眼視力は右眼C1.0,左眼C0.9,近方C30Ccm裸眼視力は右眼C0.9,左眼C0.9で,コントラスト感度は正常範囲内であった(図3).手元はよく見えるが,欲をいえば遠方がもう少し見えたかったとのことであった.症例C2はC46歳,男性である.14年前にCLASIKを受けたが視力が低下し,2021年C8月C21日当院を受診しC1506あたらしい眼科Vol.39,No.11,2022た.両眼正視目標のCIPCLV2.0Presbyopic近方加入+2.50Dを挿入した.術後C3カ月検診では遠方裸眼視力は右眼C1.5,左眼C1.2,中間C50Ccm裸眼視力は右眼C0.7,左眼C0.7,近方C30Ccm裸眼視力は右眼C0.8,左眼C0.9で,コントラスト感度は正常範囲内であった(図4).近方は少し見にくいが遠方はよく見えているとのことであった.C●多焦点有水晶体眼内レンズの課題これまでの経験では,EVOVivaは目標視力を正視にしても近視が残る傾向があり,中間から近方はよく見えるが遠方視力がやや低く,矯正視力がC1段階低下するケースや,度数アップしたレンズへ入れ替えを要したケースもある.また,軽度近視の患者で近方が見えるようになるのに術後C3カ月以上要したケースもあり,Cneuroadaptationも考慮して適応の術前屈折度には注意が必要である.一方CIPCLV2.0Presbyopicは,遠方視力は良好でも中間や近方が見にくいケースがあった.目標視力の設定や近方加入度数をいくつにするかなど決まったノモグラムがなく,試行錯誤しながら挿入しているのが現状である.また,術後視力は遠方から近方まで良好であったが,waxyvisionの訴えが強く,レンズ抜去や,ICLへの交換を希望して施行したケースもある.どちらのレンズも多焦点構造は現在白内障手術で使用されている多焦点眼内レンズと同じなので,中間や近方で良好な裸眼視力が得られるか,waxyvisionやハロー・グレアが強くないかなどが危惧される.C●おわりに有水晶体眼内レンズの理想は屈折異常だけでなく老視矯正もできることであるが,白内障患者より若い患者に挿入するので,使用の可否は慎重に検討すべきである.文献1)AlioJL,MuletME:Presbyopiacorrectionwithananteri-orchamberphakicmultifocalintraocularlens.Ophthalmol-ogyC112:1368-1374,C20052)Baiko.G,MatachG,FontaineAetal:Correctionofpres-byopiawithrefractivemultifocalphakicintraocularlenses.JCataractRefractSurgC30:1454-1460,C20043)PackerCM,CAlfonsoCJF,CAramberriCJCetal:PerformanceCandCsafetyCofCtheCextendedCdepthCofCfocusCImplantableCCollamerRLens(EDOFICL)inphakicsubjectswithpres-byopia.ClinOphthalmolC14:2717-2730,C20204)BianchiGR:PresbyopiaCmanagementCwithCdi.ractiveCphakicCposteriorCchamberCIOL.CCeskCSlovCOftalmolC76:C211-219,C2020(66)