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10代でおしゃれを楽しみたくなったら

2022年11月30日 水曜日

10代でおしゃれを楽しみたくなったらIfYouWanttoEnjoyFashioninYourTeens月山純子*はじめにコンタクトレンズ(contactLens:CL)の装用目的はさまざまであるが,眼鏡をかけたくない,おしゃれを楽しみたいという理由も大きい.CL装用者の約C7割が女性である1)というデーターからみても,美容やおしゃれ目的でCCLを装用することは多いと思われる.10代を過ぎるあたりから,性別にかかわりなく自分の外観を気にするようになるが,これは成長過程での自然な流れである.そんな中で,カラーCCLも含めてCCLを希望することも多くなる.このような望みに寄り添いながらも,高度管理医療機器であるCCLを安全に使ってもらうための方法について考えてみる.CIまずは共感CLやカラーCCLを装用したい気持ちを,まずは受け止めることが大切である(図1).医療従事者自身の価値観を押しつけてはいけない.この共感のステップがないと,不満がくすぶってしまう.むずかしければまずはオウム返しでよいので,「CLを装用したいのですね」「カラーCCLが希望ですね」など,ひとこと伝える.そのうえで診療に進む.アレルギー性結膜炎や角結膜上皮障害など,CL装用よりも治療を優先しなければならない,あるいは乱視が強くてハードCCL(hardCL:HCL)でないと視力がでないなど,患者の希望に添えないときも,共感のステップを踏んでいないと,頭ごなしに否定されたと感じてしままずは共感CLやカラーCLをしたい,という気持ちを受け止める例「CLを装用したいのですね」「カラーCLを希望ですね」診療図1コミュニケーションのポイントいがちである.共感性については,個人差があることが報告されている.英国の精神科医であるCBillingtonら2)によると,共感性については,男女の差が顕著で女性は共感性が高い人の割合が多いが,男性では共感性が低い人が多い.共感性が低いタイプでは,物事を論理的に捉えることに長けていることが多く,論理的な説明が納得につながりやすい.共感性が高い人は,他人との会話においても共感性を求める傾向にあり,この要求が満たされないと不満につながりやすい.逆に,論理性が高いタイプの人に,論理的な説明がなく,共感のみを伝えても説得力に欠ける.CLやカラーCCLを希望して来院される患者には女性が多く,共感性が高い人の割合が多いと推察される.医療従事者自身が,共感性が低く論理的なタイプであったとしても,診療におけるコミュニケーションテクニック*JunkoTsukiyama:つきやま眼科クリニック〔別刷請求先〕月山純子:〒648-0065和歌山県橋本市古佐田C1-5-5つきやま眼科クリニックC0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(3)C1443の一つとして,まずは共感し,そのうえで論理の説明へとつなげてもらいたい.CII現在のCLの流通状況現在のCCLの流通状況については,ハイスペックなCLから,厚生労働省の承認はあるものの,安全性について心配なもの,厚生労働省の承認がなく安全性についてまったくわからない個人輸入のものなど,さまざまなレベルのものが流通している.個人輸入をすることで,厚生労働省未承認のCCLもインターネット通販で簡単に手に入るようになってしまっており,とくにカラーCCLでは注意が必要である.乱視用のカラーCCLは,厚生労働省承認のものは,まだまだ種類が少なく,乱視軸や度数の種類も多くない.このため,インターネットで検索して,知らず知らずのうちに,個人輸入をしてしまっていることがある.ホームページは日本語で書かれており,個人輸入であることは,ほんの小さな文字で,普通では認識できないところに書かれていることが多いので,気がつきにくい.かなりCLに詳しくないと,個人輸入サイトであることを見破るのはむずかしいと感じる.実際に,過去に個人輸入のカラーCCLの使用で角膜炎を生じた患者に,個人輸入したのかとたずねると,本人は個人輸入の意味さえ知らず,まったく気がついていなかった.このように,いつの間にか本人の自覚がないまま,個人輸入の厚生労働省未承認レンズを使用してしまっていることがある.十分な警戒が必要である.筆者らは,乱視用カラーCCLの性状について調べたが3),個人輸入の乱視用カラーCCLでは,本来,乱視用レンズに必要なガイドマークがない,レンズ表面が非常に粗いなど,多くの問題点がみつかった.個人輸入のレンズは,安全性にかかわる重要な基準を満たしているかどうか不明な,品質について非常に不安が大きいレンズである.CLの販売方法は多岐にわたっており,眼科医療機関を経由しての販売だけではなく,インターネット通販,眼鏡店やドラッグストアでの販売,雑貨店での販売などさまざまである.わが国では,CLの販売の際に,CL処方箋の義務づけがない.このため,CLの規格さえわかれば,自由に購入できてしまう.とくに,10代でおしゃれをしたい場合,情報源は友人やCSNSなどがほとんとで,誤った情報をそのまま受け取り,購入へと進んでしまいがちである.この状況を変えていくには,多大な労力を要するが,国民の眼を守るという視点に立ち,少しでもよい方向に向かうことを切に願う.CIII酸素透過率の問題2022年現在は,酸素透過性の高いシリコーンハイドロゲルCCL(siliconeChydrogelCL:SHCL)の割合が増加してきている.欧米ではCSHCLの比率がすでにC70.80%に達している.わが国ではCSHCLの割合は約C50%程度である4).わが国では,安全性を重視して,1日使い捨てCSCLの比率が高い.しかし,コストの問題もあり,SHCLではC2週間頻回交換型が多く処方されてきた.しかし,ここ数年は比較的低価格のC1日使い捨てCSHCLが続々と登場してきており,今後CSHCLの比率が増加していくものと思われる.このような,ハイスペックなCSHCLが登場している一方で,インターネット通販などでは,低含水性CHEMA(2-hydroxyethylCmethacrylate)とよばれる酸素透過性が低い素材も,1日使い捨てで,30枚入りC1箱C1,000円程度の低価格で出回っている.これまでカラーCCLでよく使われていた素材であるが,最近は透明なレンズでも低含水性CHEMA素材が数多く登場しており,価格につられて購入する人が増えてしまっている.低含水性CHEMAは,1972年にわが国で承認されたSCLであるので,約C50年前の素材である.含水率がC38%というのが大きな特徴で,添付文書やホームページに低含水性CHEMAとは書かれていないが,HEMAと架橋剤としてCEGDMA(ethyleneCglycolCdimethylacry-late)が使用されており,HEMAまたはC2-HEMA,EGDMAなどと記載されている.含水率が約C38%で,SHCLではない場合,低含水性HEMAである可能性が高い.低含水性CHEMAの酸素透過係数は,種類によっても若干異なるがC9.5C×10-11(cmC2/sec)・(mlOC2/ml×mmHg)程度である.仮にC0.1mmの厚みであったとすれば,酸素透過率CDk/LはC9.5C×10-9(cm2/sec)・(mlOC2/ml×mmHg)となり,Holden1444あたらしい眼科Vol.39,No.11,2022(4)表1低含水性HEMA素材を見抜くためのポイント・含水率約C38%・シリコーンハイドロゲルレンズではない・HEMA(2-hydroxyethylCmethacrylate)と,架橋剤としてEGDMA(EthyleneCglycolCdimethylacrylate)が使用されており,添付文書ではCHEMAまたはC2-HEMA,EGDMAと記載されている.ab図2カラーCLの希望や装用歴をいわず,CLの度数が知りたいと来院した女子高校生の症例a:一見問題ないようにみえるが,わずかな充血と角膜の血管新生を認める.b:フルオレセイン染色をすると,涙液のブレイクアップと,上方と下方に深い点状表層角膜炎を認めた.--表2眼障害を起こして来院したときのポイント・怒るのではなく,脅す.・現在の状況と,今後起こり得る最悪の事態について淡々と説明.失明の可能性についても言及.・できる限り具体的に,画像などを示しながら説明.・納得していないようでも,無理に説得しようとせず,自分で善悪を判断させるよう,専門家としての意見を述べる.・次回の来院につなげるようにする.

序説:世代別コンタクトレンズで快適ライフ

2022年11月30日 水曜日

世代別コンタクトレンズで快適ライフComfortableLifewithContactLensbyGeneration糸井素純*外園千恵**梶田雅義***日本におけるコンタクトレンズの歴史は,1950年代の酸素を通さないポリメチルメタクリレート(PMMA)製のハードコンタクトレンズの普及から始まった.その後,1960年代に低含水性のハイドロゲル素材のソフトコンタクトレンズが登場し,1970年代には酸素透過性素材のハードコンタクトレンズ(RGPCL)が,1980年代には含水率が50%を超える高含水性ソフトコンタクトレンズが普及していった.1980年代はハードコンタクトレンズ装用者がソフトコンタクトレンズ装用者より圧倒的に多く,ハードコンタクトレンズ装用者の割合は80%を超えてた.1990年代に入ると1週間連続装用ソフトコンタクトレンズ,2週間交換ソフトコンタクトレンズ,1日使い捨てソフトコンタクトレンズと,次々とディスポーザブルソフトコンタクトレンズが登場した.2000年代に入るとシリコーンハイドロゲル素材のディスポーザブルソフトコンタクトレンズが登場し,次第に製品数も増え,コンタクトレンズ装用者の80%以上がソフトコンタクトレンズ装用者となり,ソフトコンタクトレンズ装用者の50%以上がシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用者となった.1990年代の前半までは,日本ではディスポーザブルソフトコンタクトレンズは球面レンズのみが販売されていたが,その後,乱視用(トーリック),遠近両用(マルチフォーカル),カラーソフトコンタクトレンズ(ファッション目的,整容目的)が普及し,最近では,乱視用兼遠近両用,乱視用兼カラー,カラーシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズも登場してきた.そのほかにも,オルソケラトロジーレンズ,近視進行抑制ソフトコンタクトレンズ,調光用ソフトコンタクトレンズ,抗アレルギー薬配合ソフトコンタクトレンズ,スポーツ用ソフトコンタクトレンズなど,さまざまな付加価値のついたコンタクトレンズも処方可能となっている.さまざまなコンタクトレンズが登場してきたことによって,コンタクトレンズ装用者の年齢も拡大した.以前はコンタクトレンズ装用者の年齢層は高校生.50歳過ぎまでが主だったが,付加価値のついたコンタクトレンズの普及により,小児.高齢者と年齢層は広い世代にまたがり,適応自体も広がった.ユーザーはさまざまな付加価値のついたコンタクトレンズを知り,目的に応じて使いこなすことで,スポーツ,仕事など多方面で快適ライフを楽しむことができるようになったともいえる.その一方で,安易なコンタクトレンズの購入による眼トラブルが増えている.コロナ禍で外出を避け,眼科で処方を受けずにインターネット,薬局,*MotozumiItoi:道玄坂糸井眼科医院**ChieSotozono:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学***MasayoshiKajita:梶田眼科0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(1)1441

滲出型加齢黄斑変性を対象としたラニビズマブ(遺伝子組換え) バイオ後続品SJP-0133 の第III 相臨床試験─先行バイオ医薬 品との比較ならびに継続長期投与時の有効性および安全性評価

2022年10月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科39(10):1421.1434,2022c滲出型加齢黄斑変性を対象としたラニビズマブ(遺伝子組換え)バイオ後続品SJP-0133の第III相臨床試験─先行バイオ医薬品との比較ならびに継続長期投与時の有効性および安全性評価近藤峰生*1小椋祐一郎*2髙橋寛二*3飯田知弘*4石橋達朗*5坂本泰二*6辻川明孝*7五味文*8長谷川久美子*9山本明史*9徳重秀樹*9*1三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学*2名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学*3関西医科大学眼科学講座*4東京女子医科大学医学部眼科学教室*5九州大学*6鹿児島大学医学部眼科学教室*7京都大学大学院医学研究科眼科学*8兵庫医科大学眼科学講座*9千寿製薬株式会社CPhaseIIIClinicalTrialtoVerifytheEquivalencebetweenRanibizumab(GeneticRecombination)Biosimilar(SJP-0133)andaRanibizumabReferenceProductinPatientswithWetAge-RelatedMacularDegenerationandEvaluatetheLong-TermSafetyandE.cacyofSJP-0133MineoKondo1),YuichiroOgura2),KanjiTakahashi3),TomohiroIida4),TatsuroIshibashi5),TaijiSakamoto6),AkitakaTsujikawa7),FumiGomi8),KumikoHasegawa9),AkifumiYamamoto9)andHidekiTokushige9)1)DepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,3)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,4)DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversity,5)KyushuUniversity,6)DepartmentofOphthalmology,KagoshimaUniversity,7)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,KyotoUniversityGraduateSchoolofMedicine,8)DepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicine,9)SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.C目的:滲出型加齢黄斑変性を対象に,ラニビズマブ(遺伝子組換え)バイオ後続品(SJP-0133)と先行バイオ医薬品(先行品)の同等性を検証し,またCSJP-0133の継続長期投与時の有効性・安全性を確認すること.対象および方法:351名にCSJP-0133または先行品を投与し,12週の同等性を検証した.12週以降は全例にCSJP-0133を必要時投与し,52週の有効性と安全性を評価した.結果:12週の視力の変化量(文字)は,SJP-0133群がC7.4,先行品群がC8.9であり,両群の差はC.1.5(95%両側CCI:C.3.2.0.3)で同等性が検証された.52週の視力の変化量は,SJP-0133群がC8.7,先行品群がC9.9であった.副作用はCSJP-0133群がC12.0%,先行品群がC6.3%であった.結論:SJP-0133は,滲出型加齢黄斑変性に対して有効性・安全性ともに先行品と同等であることが確認された.CPurpose:Toverifytheequivalencebetweenranibizumabbiosimilar(SJP-0133)andareferenceproduct(RP)Candevaluatethelong-termsafetyande.cacyofSJP-0133inpatientswithwetage-relatedmaculardegeneration(wAMD)C.SubjectsandMethods:ChangesCinCvisualCacuityCatCweekC12CwereCevaluatedCinC351CparticipantsCwhoCreceivedSJP-0133orRP.Afterweek12,SJP-0133wasadministeredasneeded,anditssafetyande.cacywereevaluatedCatCweekC52.CResults:Changes(letters)atCweekC12CwasC7.4CandC8.9CinCtheCSJP-0133CandCRPCgroups,Crespectively,CwhereCaCdi.erenceCofC.1.5(95%CI:C.3.2Cto0.3)demonstratedequivalence.CChanges(letters)atCweek52was8.7and9.9intheSJP-0133andRPgroups,respectively.IntheSJP-0133andRPgroups,theoccur-rencesofadversereactionswere12.0%and6.3%,respectively.Conclusion:Theseresultssuggestthatthesafetyande.cacyofSJP-0133aresimilartothoseofRPfortreatingwAMD.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(10):1421.1434,C2022〕Keywords:バイオ後続品,ラニビズマブ(遺伝子組換え),滲出型加齢黄斑変性,同等性試験.biosimilar,Cranibi-zumab(geneticrecombination)C,wetage-relatedmaculardegeneration,equivalencestudy.C〔別刷請求先〕徳重秀樹:〒650-0047神戸市中央区港島南町C6-4-3千寿製薬株式会社研究開発本部Reprintrequests:HidekiTokushige,Ph.D.,ResearchandDevelopmentDivision,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,6-4-3Minatojima-Minamimachi,Chuo-ku,Kobe,Hyogo650-0047,JAPANCはじめに滲出型加齢黄斑変性(age-relatedCmacularCdegenera-tion:AMD)は脈絡膜新生血管(choroidalCneovasculariza-tion:CNV)が網膜下あるいは網膜色素上皮下に伸展し,そのCCNVから滲出や出血などが生じることで視力低下を招く予後不良の疾患であり1),その病態生理には血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)が深く関与していると考えられている2.4).そのため,VEGF阻害によりCCNVを抑制することを目的として,ラニビズマブやアフリベルセプトなどの抗CVEGF薬が開発され,広く臨床に使用されている.ラニビズマブは,VEGFと特異的に結合する遺伝子組換えヒト化モノクローナル抗体のCFab断片であり5),わが国では最初に中心窩下CCNVを伴うCAMDの効能を取得している.滲出型CAMDを対象としたラニビズマブの海外第CIII相試験では,ラニビズマブ投与群の視力改善効果はシャム群または光線力学的療法群に対して優越性が示されている6,7).一方,バイオ医薬品である抗CVEGF薬は光線力学的療法に比べ高い有効性を示すものの,高額な薬剤の継続的かつ長期にわたる投与が必要となるため患者の経済的負担が大きく,患者の経済状況によっては治療継続を断念せざるをえないという課題がある.そのため,先行バイオ医薬品よりも安価で患者の費用負担を軽減できるバイオ後続品の開発が望まれてきた.バイオ後続品を含むバイオ医薬品は,高分子量の蛋白質やポリペプチドなどが主体であり,その製造に生体による生合成過程を利用していることから,構造が複雑で翻訳後修飾などに伴う不均一性を有している8).そのため,先発医薬品が化学合成可能な低分子化合物主体で,後発医薬品も同一の構造をもつ医薬品の場合とは異なり,バイオ医薬品の場合は後続品と先行医薬品の有効成分の同一性を実証するのは困難である8).したがって,バイオ後続品の開発にあたっては,品質や非臨床で先行バイオ医薬品との同等/同質性を確認したうえで,臨床試験において先行バイオ医薬品との同等性を示すことが求められている8).SJP-0133はラニビズマブを主成分とするわが国初の眼科用抗CVEGF注射薬のバイオ後続品であり,品質特性解析および非臨床試験にて先行バイオ医薬品であるラニビズマブ(ルセンティス)硝子体内注射用キットC10Cmg/mlとの同等/同質性が示されている.今回,滲出型CAMD患者を対象にSJP-0133と先行バイオ医薬品の投与C12週までの同等性を検証するための第CIII相比較試験を実施した.投与C12週以降は全被験者にCSJP-0133を必要時投与(prorenata:PRN)するよう計画し,SJP-0133の継続投与および先行バイオ医薬品からの切替え投与における投与C52週までの有効性および安全性を検討した.また,投与C52週までの評価からは,SJP-0133がCPRN投与されなかった被験者を除外したため,追加解析として,投与C12週以降も治験を継続した被験者の全治験期間を通した有効性について検討した.CI対象および方法1.治験実施期間および実施医療機関本治験は開始に先立ち,すべての実施医療機関の治験審査委員会で審議されて承認を得たうえで,ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則,「医薬品,医療機器等の品質,有効性および安全性の確保等に関する法律」第C14条第C3項および第C80条のC2ならびに「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)に関する省令」などの関連規制法規を遵守し,2017年C11月.2020年C2月に,表1に示す全国C85医療機関で実施した.治験の実施状況はCUMIN-CTRに登録した(UMIN試験CID:UMIN000030010).C2.対象対象は無治療の滲出型CAMDで表2の基準に該当する患者とした.すべての被験者から治験参加前に,文書による同意を得た.C3.方法a.治験薬被験薬は,1回の投与量(0.05Cml)中にラニビズマブ(遺伝子組換え)バイオ後続品C0.5Cmgを含有する硝子体内注射用プレフィルドシリンジキット(SJP-0133),対照薬は,1回の投与量(0.05Cml)中にラニビズマブ(遺伝子組換え)0.5mgを含有するラニビズマブ硝子体内注射用キット10Cmg/ml(ルセンティス)である.Cb.治験デザイン・投与方法本治験は,多施設共同無作為化単遮閉(評価者遮閉)並行群間比較試験として実施した.SJP-0133および先行バイオ医薬品を無作為化し,投与開始日からC4週ごとに投与C8週までに片眼に計C3回硝子体内投与した(比較期).投与C12週の評価後は,全被験者にCSJP-0133を症状に合わせてCPRN投与により投与C48週まで片眼に硝子体内投与した(PRN期).観察はC4週ごとに行い投与52週までを評価した(図1).治験薬はC1キットずつ小箱に入れて封緘し,外観上の識別不能性を確保した.治験薬は,独立した治験薬割付責任者が,識別不能性を確認したのち,ブロック法により無作為化した.また,群間の偏りをなくすため,CNV病変サブタイプならびに投与開始日の最高矯正視力および中心窩網膜厚を因子とし,SJP-0133群および先行バイオ医薬品群の比が,1:1となるよう中央登録方式で割付けした.割付表は厳封し,開鍵時まで治験薬割付責任者が保管した.Cc.被験者数および設定根拠同等性許容域をCEarlyCTreatmentCDiabeticCRetinopathyC表1実施医療機関および治験責任医師実施医療機関治験責任医師実施医療機関治験責任医師医療法人竹内眼科竹内眼科クリニック竹内忍医療法人社団研英会林眼科病院平田憲医療法人湘山会眼科三宅病院近藤永子佐賀大学医学部附属病院江内田寛三重大学医学部附属病院松原央日本赤十字社長崎原爆病院米田愛医療法人小沢眼科内科病院木住野源一郎宮崎大学医学部附属病院大久保陽子旭川医科大学病院大野晋治医療法人明和会宮田眼科病院片岡康志北海道大学病院野田航介鹿児島大学病院坂本泰二市立札幌病院今泉寛子獨協医科大学病院須田雄三医療法人社団桑園むねやす眼科竹田宗泰東京医科大学病院若林美宏福島県立医科大学附属病院石龍鉄樹順天堂大学医学部附属浦安病院海老原伸行富山大学附属病院林篤志東京医科大学八王子医療センター安田佳奈子自治医科大学附属病院髙橋秀徳昭和大学病院附属東病院淺野泰彦高崎佐藤眼科佐藤拓千葉大学医学部附属病院横内裕敬信州大学医学部附属病院村田敏規聖マリアンナ医科大学病院高木均東京医科大学茨城医療センター三浦雅博社会医療法人愛生会総合上飯田第一病院古川真理子埼玉医科大学病院篠田啓名古屋市立大学病院安川力東邦大学医療センター佐倉病院前野貴俊独立行政法人地域医療機能推進機構中京病院加賀達志順天堂大学医学部附属順天堂医院平塚義宗高須眼科高須逸平日本大学病院田中公二広島大学病院竹中丈二東京女子医科大学病院丸子留佳山口大学医学部附属病院波多野誠慶應義塾大学病院小澤洋子琉球大学医学部附属病院古泉英貴医療法人調布眼科医院大野仁東北大学病院國方彦志独立行政法人国立病院機構東京医療センター秋山邦彦群馬大学医学部附属病院松本英孝独立行政法人国立病院機構千葉医療センター新井みゆき医療法人社団豊栄会さだまつ眼科クリニック小林宏明山梨大学医学部附属病院杉山敦杏林大学医学部付属病院岡田アナベルあやめ国家公務員共済組合連合会横須賀共済病院竹内聡学校法人聖路加国際大学聖路加国際病院都筑賢太郎愛知医科大学病院藤田京子名古屋大学医学部附属病院伊藤逸毅医療法人社団同潤会眼科杉田病院杉田威一郎京都大学医学部附属病院大音壮太郎京都府立医科大学附属病院外園千恵大阪医科大学附属病院喜田照代滋賀医科大学医学部附属病院澤田智子医療法人財団シロアム会新城眼科医院風間成泰独立行政法人国立病院機構京都医療センター喜多美穂里秋田大学医学部附属病院齋藤昌晃大阪大学医学部附属病院坂口裕和佐藤眼科医院銅町クリニック佐藤さくら関西医科大学附属病院髙橋寛二横浜市立大学附属市民総合医療センター伊藤亜里沙社会福祉法人聖隷福祉事業団総合病院聖隷浜松病院尾花明学校法人藤田学園藤田医科大学病院堀口正之兵庫県立尼崎総合医療センター王英泰関西医科大学総合医療センター西村哲哉兵庫医科大学病院五味文社会医療法人きつこう会多根記念眼科病院川村肇一般財団法人住友病院御手洗慶一地方独立行政法人神戸市民病院機構神戸市立神戸アイセンター病院宮本紀子神戸大学医学部附属病院三木明子近畿大学病院日下俊次独立行政法人国立病院機構大阪医療センター松田理香川大学医学部附属病院白神千恵子岡山大学病院森實祐基徳島大学病院仙波賢太郎地方独立行政法人堺市立病院機構堺市立総合医療センター沢美喜福岡大学筑紫病院久冨智朗奈良県立医科大学附属病院緒方奈保子大阪市立大学医学部附属病院河野剛也独立行政法人国立病院機構小倉医療センター喜多岳志医療法人社団玄心会吉田眼科病院吉田紳一郎九州大学病院塩瀬聡美C─C─表2おもな選択基準および除外基準おもな選択基準1)50歳以上の外来患者(日本人),性別不問2)滲出型CAMDに起因した中心窩下CCNV(傍中心窩CCNV病変を含む)を認めた者おもな除外基準1)中心窩を含む網膜下出血を認めた者2)中心窩下に線維症または萎縮を認めた者3)網膜色素上皮裂孔を認めた者4)他の原因によるCCNVを認めた者5)視力の評価に影響を及ぼす他の網脈絡膜疾患を認めた者6)硝子体出血を認めた者7)過去に抗CVEGF薬を使用した者8)過去にCAMDに対する外科手術を実施した者9)本治験で使用する薬剤の成分に対し,アレルギーまたは重大な副作用の既往のある者投与開始日8週12週48週52週先行バイオ医薬品群SJP-0133群主要評価項目の評価図1治験デザインStudy(ETDRS)可読文字数でC4文字に設定し,投与C12週の最高矯正視力の変化量の標準偏差をC11,有意水準両側C5%,検出力をC80%,先行バイオ医薬品群とCSJP-0133群の差をC0文字と設定し,必要な評価被験者数を各群C160例と算出した.目標被験者数は,5%の脱落を考慮し各群C169例,合計C338例と設定した.C4.検査・観察項目表3に検査項目およびスケジュールを示す.最高矯正視力はCETDRS視力表を用いて測定した.C5.併用薬および併用処置治験期間中,抗CVEGF薬および副腎皮質ステロイドの眼局所および全身投与を禁止した.治験期間中,光線力学療法,レーザー網膜光凝固術などの滲出型CAMDに対する処置を禁止した.C6.評価項目a.有効性主要評価項目は,投与C12週における最高矯正視力の投与開始日からの変化量とした.副次評価項目は,(1)各来院日での最高矯正視力の実測値および投与開始日からの変化量,(2)投与開始日から投与12週およびC52週の最高矯正視力の減少がC15文字未満の被験者の割合,(3)投与開始日から投与C12週およびC52週の最高矯正視力の増加がC15文字以上の被験者の割合,(4)各来院日での中心窩網膜厚の投与開始日からの変化量,(5)投与12週およびC52週におけるCCNV面積の実測値およびスクリーニング日からの変化量,(6)投与C12週およびC52週におけるCdryretina(OCTで網膜内.胞様浮腫および網膜下液を認めないと定義)の達成率とした.Cb.安全性治験薬を投与された被験者に生じたすべての好ましくないまたは意図しない疾病またはその徴候を有害事象として収集した.安全性評価項目は,有害事象,眼圧,最高矯正視力,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)による網膜所見,角膜・結膜・水晶体・前房所見,眼底,血圧,脈拍数,臨床検査ならびに先行バイオ医薬品およびCSJP-0133に対する免疫反応(抗薬物抗体)とした.コンビネーション医薬品の機械器具などの破損,作動不良表3検査・観察スケジュール1:投与C1週の初期安全性評価被験者のみ実施.などを不具合として収集し評価した.C7.統計解析a.有効性有効性は,組み入れられたすべての被験者のうち,治験薬の投与を一度も受けなかった被験者,選択基準2)および除外基準に抵触した被験者,投与開始日以降の再来院がないなどの理由により有効性が評価できなかった被験者を除外した集団を最大の解析対象集団(fullCanalysisset:FAS)とし,FASを主たる解析対象集団とした.投与開始日から投与C12週を比較期,投与C12週から投与52週をCPRN期として解析した.PRN期の解析は,PRN期に一度でもCSJP-0133が投与された被験者を対象とし,PRN期に継続してCSJP-0133を投与した被験者をCSJP-0133群,PRN期に先行医薬品からCSJP-0133に切り替えて投与した被験者を先行医薬品群とした.PRN期の解析対象集団の条件はCSJP-0133をCPRN期で一度でも投与された被験者に限定しているため,比較期と解析対象集団が異なっている.そのため,投与開始日から投与52週までの有効性が評価できるように,比較期と同様の解析対象集団の条件でも全期間を追加解析した.主要評価項目の解析は,スクリーニング日のCCNV病変サブタイプ(classic型CCNVを伴うタイプまたはCclassic型CNVを伴わないCoccult型CCNVのみのタイプ)および層別化した投与開始日の最高矯正視力(54文字以下,55文字以上)を因子とした共分散分析(analysisCofcovariance:ANCOVA)を用いた投与群ごとの最小二乗平均値およびC95%両側信頼区間(confidenceinterval:CI)ならびに投与群の最小二乗平均値の差および差のC95%両側CCIを算出した(同等性検証).欠測値は,lastCobservationCcarriedCforward(LOCF)によりデータを補完した.Cb.安全性安全性は,組み入れられたすべての被験者のうち,治験薬の投与を一度も受けなかった被験者,初診時(投与開始日)以降の再来院がないなどの理由により安全性が評価できなかった被験者を除外した集団を安全性解析対象集団(safetyset:SS)とした.有害事象は,発現割合(発現例数/SS)を算出した.SJP-0133群は比較期にCSJP-0133を投与した被験者,先行バイオ医薬品群は比較期に先行バイオ医薬品を投与した被験者,全CSJP-0133群は,1度でもCSJP-0133が投与された被験者を対象とした.眼圧,最高矯正視力,OCTによる中心窩網膜厚,角膜・結膜・水晶体・前房所見,眼底,血圧,脈拍数,臨床検査ならびに先行バイオ医薬品およびCSJP-0133に対する免疫反応(抗薬物抗体)は,治験薬の投与前後を比較した.II結果1.被験者の構成a.被験者の内訳同意を取得したC523例のうちC351例が無作為化され,330例が比較期を完了した.比較期を完了したすべての被験者はPRN期に移行し,300例がCPRN期を完了した(図2).Cb.解析対象集団無作為化されたC351例から,手順違反などのC14例を除いたC337例(SJP-0133群C170例,先行バイオ医薬品群C167例)をCFASとし,投与遵守違反C1例(SJP-0133群)を除いた350例(SJP-0133群C175例,先行バイオ医薬品群C175例)をCSSとした(図3).被験者背景(FAS)を表4に示した.C2.有効性a.比較期主要評価項目である,投与C12週における最高矯正視力の投与開始日からの変化量(最小二乗平均値)は,SJP-0133群がC7.4文字,先行バイオ医薬品群がC8.9文字であった.両群の差(SJP-0133群C.先行バイオ医薬品群)は,C.1.5(95%両側CCI:C.3.2.0.3)文字で,95%CCIが同等性許容域(C±4文字)内にあることから,SJP-0133群の先行バイオ医薬品群に対する同等性が検証された.副次評価項目である最高矯正視力の実測値および変化量(1)は,各時点で両群とも同様の推移を示し,経時的に改善した(表5,図4).投与開始日から投与C12週の最高矯正視力の減少がC15文字未満の被験者の割合(2)および投与開始日から投与C12週の最高矯正視力の増加がC15文字以上の被験者の割合(3)は,両群とも同程度であった(表6).中心窩網膜厚の変化量(4)は,両群で同様の推移を示し,投与C1週で顕著に減少し,その後も投与C12週まで経時的に減少した(表7).投与C12週のCCNV病変面積の実測値および変化量(5)は,両群とも同程度で,スクリーニング時から改善した(表8).投与C12週のCdryretinaの達成率(6)は,両群とも同程図3解析対象集団FAS:最大解析集団,SS:安全性解析対象集団.表4被験者背景(fullanalysisset)先行バイオSJP-0133群医薬品群合計(n=170)(n=167)(n=337)項目区分例数(%)例数(%)例数(%)性別男性125(73.53)121(72.46)246(73.00)女性45(26.47)46(27.54)91(27.00)年齢(歳)平均±標準偏差C74.4±7.51C74.1±7.32C74.3±7.41最小値,最大値C50,C92C54,C88C50,C92CNV病変サブタイプclassic型CCNVを伴うタイプ64(37.65)61(36.53)125(37.09)classic型CCNVを伴わない106(62.35)106(63.47)212(62.91)occult型CCNVのみのタイプ眼局所の合併症の有無1有153(90.00)153(91.62)306(90.80)無17(10.00)14(8.38)31(9.20)眼局所以外の合併症の有無有159(93.53)147(88.02)306(90.80)無11(6.47)20(11.98)31(9.20)最高矯正視力(文字)平均±標準偏差C61.9±12.68C61.3±13.46C61.6±13.06中心窩網膜厚(μm)平均±標準偏差C385.3±135.44C388.2±127.48C386.7±131.38CNV面積(mmC2)平均±標準偏差C5.664±3.9537C5.611±4.4084C5.638±4.1791C1:左右眼どちらか一方でも該当した場合を有とした.度であった(表9).Cb.PRN期PRN期では,投与C12週から投与C48週にCSJP-0133を一度でも投与された被験者を対象に解析した.最高矯正視力の実測値および変化量(1)は,投与C12週から投与C52週まで,両群とも経時的に増加した(表5).また,投与C52週の最高矯正視力の減少がC15文字未満の被験者の割合(2)は,両群とも投与C12週よりわずかに減少した.最高矯正視力の増加がC15文字以上の被験者の割合(3)は,両群とも投与C12週よりわずかに増加した(表6).中心窩網膜厚の変化量(4)は,投与C12週から投与C52週まで,両群とも大きな変化は認めず,比較期終了後以降も網膜厚の減少効果を維持した(表7).投与C52週のCCNV病変面積の実測値および変化量(5)ならびに投与C52週のCdryretinaの達成率(6)は,両群とも投与C12週と同程度で,比較期終了後以降も改善を維持した(表8,9).Cc.追加解析追加解析では,PRN期でのCSJP-0133の投与の有無にかかわらずCFASを対象とし,比較期とCPRN期を同じ条件の対象集団で解析を行い,全期間の最高矯正視力の推移を確認した.最高矯正視力の変化量は,投与C12週から投与C52週まで,SJP-0133群はC6.3.8.7文字,先行バイオ医薬品群は7.9.10.1文字で推移した.投与C12週までの治療効果が,SJP-0133の継続投与,先行バイオ医薬品からCSJP-0133への切り替え投与ともに,投与C12週以降も継続していることを確認した(図5).(135)3.安全性治験期間中に発現した有害事象は,SJP-0133群C130/175例(74.3%),先行バイオ医薬品群C129/175例(73.7%),全SJP-0133群C242/327例(74.0%)であった.このうち副作用は,SJP-0133群C21例(12.0%),先行バイオ医薬品群C11例(6.3%),全CSJP-0133群C29例(8.9%)であった.おもな副作用は,SJP-0133群では眼圧上昇C8例(4.6%),網膜出血C2例(1.1%),先行バイオ医薬品群では脳梗塞C3例(1.7%),網膜色素上皮裂孔C2例(1.1%),全CSJP-0133群では眼圧上昇C8例(2.4%),網膜出血C3例(0.9%),網膜色素上皮裂孔C3例(0.9%),脳梗塞C3例(0.9%),高血圧C2例(0.6%)であった(表10).安全性に関連する他の検査項目でも,臨床上問題となるような変動や所見に関連する副作用はなかった.CIII考按SJP-0133と先行バイオ医薬品との有効性の比較において,本治験の主要評価項目である投与C12週における最高矯正視力の投与開始日からの変化量の差は,事前に設定した同等性許容域内であり,SJP-0133の有効性が先行バイオ医薬品と統計学的に同等であることが示された.副次評価項目である投与C12週までの最高矯正視力の実測値および変化量(1),投与C12週の最高矯正視力の減少がC15文字以上の被験者の割合および増加がC15文字以上の被験者の割合(2)(3),中心窩網膜厚の変化量の推移(4),CNV病変面積の実測値および変化量(5)ならびにCdryretinaの達成率(6)についてあたらしい眼科Vol.39,No.10,2022C1427表5最高矯正視力の実測値および変化量の推移(fullanalysisset)VISIT最高矯正視力SJP-0133群先行バイオ医薬品群比較期(文字)(n=170)(n=167)スクリーニング実測値C62.6±12.29(C170)C61.8±13.21(C167)投与開始日実測値C61.9±12.68(C170)C61.3±13.46(C167)投与4週実測値C66.0±12.70(C163)C66.1±13.62(C162)変化量C4.2±6.55C5.0±6.67投与8週実測値C67.1±13.06(C160)C67.8±13.50(C163)変化量C5.4±7.87C6.6±7.62投与12週実測値C68.1±13.15(C160)C69.5±12.89(C157)変化量C6.3±8.51C7.9±8.70SJP-0133群C1先行バイオ医薬品群1PRN期(n=156)(n=147)投与12週実測値C65.4±13.88(C65)C65.0±13.67(C56)変化量C3.2±8.26C3.9±5.67投与16週実測値C67.1±13.34(C113)C67.0±14.25(C103)変化量C5.1±8.35C4.9±9.24投与20週実測値C67.8±13.18(C132)C68.6±13.95(C121)変化量C6.0±8.83C7.0±9.79投与24週実測値C68.5±12.96(C143)C69.5±14.20(C131)変化量C6.7±9.14C8.3±10.50投与28週実測値C69.5±12.50(C147)C69.7±13.91(C131)変化量C7.5±9.19C8.0±11.01投与32週実測値C69.3±13.05(C144)C70.3±13.83(C134)変化量C7.6±9.13C8.2±10.22投与36週実測値C68.9±13.02(C144)C70.8±13.20(C131)変化量C7.2±9.94C8.8±10.35投与40週実測値C70.2±12.48(C142)C70.8±12.52(C131)変化量C8.6±9.58C8.9±9.61投与44週実測値C70.1±12.70(C142)C71.2±12.63(C133)変化量C8.6±10.34C9.5±10.39投与48週実測値C70.5±12.63(C140)C71.5±13.03(C133)変化量C9.2±10.66C9.8±10.17投与52週実測値C70.0±12.47(C140)C71.5±12.75(C132)変化量C8.7±10.70C9.9±10.54平均値±標準偏差(例数).1:PRN期にCSJP-0133を一度でも投与された被験者を対象とし,PRN期における初回のCSJP-0133投与以降の値を用いて集計した.も,SJP-0133群と先行バイオ医薬品群で同程度であった.投与開始日からの変化量は,本治験のCSJP-0133群ではC7.4とくに,副次評価で認められた中心窩網膜厚やCCNV病変面文字の改善であり,他方,先行バイオ医薬品の海外臨床試験積などの形態学的な変化は,主要評価項目の結果を裏付けるのCMARINA,ANCHOR,HARBORおよびCCATTの各試結果であった.験でのC0.5mg投与群では,5.6文字.10.0文字の改善であ本治験の投与C12週までの結果を,これまでに実施されたった6,7,9,10).とくに本治験と同じ投与方法で先行バイオ医薬先行バイオ医薬品の臨床試験と比較すると,最高矯正視力の品が投与されているCHARBOR試験との比較では,中心窩網最高矯正視力の投与開始日からの変化量(文字)25●:SJP-0133,○:先行バイオ医薬品20151050-5投与開始日4812(週)SJP-0133(170)(163)(160)(160)先行バイオ医薬品(167)(162)(163)(157)(例数)平均値±標準偏差図4最高矯正視力の変化量の推移図(比較期)(fullanalysisset)膜厚については本治験では投与C12週でC104.0μmの減少,HARBOR試験のC0.5Cmg投与群では,投与C3カ月で約C150μmの減少であった9).上述した先行バイオ医薬品の海外臨床試験の症例の大部分が白人であり,本治験では許容した傍中心窩下CCNVの症例を含まないため,本治験での対象集団とは異なるが,先行バイオ医薬品の海外臨床試験における視力改善効果や中心窩網膜厚の減少効果は本治験結果と同様であった.以上のこと,および本治験によって先行バイオ医薬品とCSJP-0133が統計学的に同等であると検証されたことから,投与C12週におけるCSJP-0133の有効性は,先行バイオ医薬品と同等であることが明らかとなった.また,先行バイオ医薬品でもCEXTEND-I試験で日本人症例C88例での検討がされているが11),本治験ではCEXTEND-Iを大きく上回る351症例でCSJP-0133と先行バイオ医薬品との比較検討をした.先行バイオ医薬品での臨床試験などの結果との比較については先述のとおりであるが,本試験では先行バイオ医薬品群も含めて,十分な症例数の日本人でCSJP-0133と先行バイオ医薬品を比較検討できており,日本人での有効性,安全性をより明確にできたと考える.本治験のCPRN期では,比較期のCSJP-0133群および先行バイオ医薬品群の両群ともに,SJP-0133がCPRN投与された.PRN期の解析では,SJP-0133を継続投与した場合および先行バイオ医薬品からCSJP-0133に切り替えて投与した場合の両者で,比較期終了後から投与C52週まで,最高矯正視力の経時的な改善が認められた.副次評価項目についても,比較期終了後から投与C52週まで改善の維持が認められた.以上のことから,SJP-0133をCPRN投与によって継続投与した場合と先行バイオ医薬品からCSJP-0133に切り替えて投与した場合の両者で,有効性は投与C52週まで持続すること(137)表6最高矯正視力の増減があった被験者の割合(fullanalysisset)SJP-0133群先行バイオ医薬品群投与12週(n=170)(n=167)15文字以上増加例数(%)95%CCI差(%)C1差のC95%CCIC115文字未満減少例数(%)95%CCI差(%)C1差のC95%CCIC1C23(13.53)(8.77,C19.61)C.5(.3.29)(.10.43,C3.84)159(93.53)(88.72,C96.73)2(.0.60)(.5.74,C4.54)28(16.77)(11.44,C23.31)157(94.01)(89.26,C97.09)SJP-0133群先行バイオ医薬品群2投与52週(n=170)(n=147)15文字以上増加例数(%)95%CI差(%)C1差のC95%CCIC115文字未満減少例数(%)95%CCI差(%)C1差のC95%CCIC1C39(22.94)(16.85,C30.00)8(1.54)(.6.86,C9.95)141(82.94)(76.43,C88.27)9(.6.92)(.14.39,C0.54)31(21.09)(14.80,C28.58)132(89.80)(83.73,C94.18)CI:con.denceinterval.1:差はCSJP-0133群C.先行バイオ医薬品群.スクリーニング日のCCNV病変サブタイプ(classic型CCNVを伴うタイプまたはclassic型CCNVを伴わないCoccult型CCNVのみのタイプ)および初回投与開始日の最高矯正視力.(54文字以下,55文字以上)を層別因子としたCochran-Mantel-Haenzel型推定値.2:PRN期の先行バイオ医薬品群は,SJP-0133を投与された被験者を対象とした.が確認された.本治験のCPRN期の投与C52週までの結果を,これまでに実施された先行バイオ医薬品の臨床試験と比較すると,最高矯正視力の投与開始日からの変化量は,本治験のCSJP-0133群ではC8.7文字の改善であり,他方,先行バイオ医薬品の臨床試験のCMARINAおよびCANCHORの各試験では,それぞれC7.2文字およびC11.3文字の改善であった6,7).両試験では先行バイオ医薬品が毎月投与されているが,SJP-0133の視力改善効果は両試験結果と比較して大きく劣るものではなかった.また,HARBOR試験における先行バイオ医薬品C0.5mg投与C12カ月でのC8.2文字の改善は,本治験のCSJP-0133群の結果と同様であり,中心窩網膜厚の変化量については,投与C12カ月におけるCHARBOR試験でのC0.5Cmg投与群では161.2Cμmの減少,本治験では投与C52週でC110.7Cμmの減少あたらしい眼科Vol.39,No.10,2022C1429表7中心窩網膜厚の実測値および変化量の推移(fullanalysisset)VISIT中心窩網膜厚SJP-0133群先行バイオ医薬品群比較期(μm)(n=170)(n=167)投与1週実測値C338.9±106.60(156)C339.0±106.49(159)変化量C.49.9±66.62C.52.0±72.86C投与2週実測値C320.9±100.92(155)C319.9±100.65(152)変化量C.68.5±80.11C.74.8±80.71C投与4週実測値C306.3±92.85(157)C304.8±102.18(152)変化量C.82.3±86.06C.85.4±85.89C投与8週実測値C292.5±91.99(155)C285.0±101.36(154)変化量C.98.9±95.11C.108.3±100.50C投与12週実測値C285.6±86.27(155)C267.0±74.54(150)変化量C.104.0±98.31C.119.7±103.90CSJP-0133群C1先行バイオ医薬品群1PRN期(n=156)(n=147)投与12週実測値C295.3±78.07(62)C289.9±83.44(51)変化量C.98.6±100.61C.107.7±97.06C投与16週実測値C298.0±98.55(109)C299.6±92.03(98)変化量C.105.3±119.19C.98.1±116.23C投与20週実測値C290.3±88.81(132)C281.1±77.32(119)変化量C.104.7±120.83C.110.2±117.97C投与24週実測値C289.0±89.80(141)C278.8±82.76(130)変化量C.100.9±107.98C.114.6±116.71C投与28週実測値C282.4±97.03(145)C279.4±78.04(128)変化量C.111.0±120.46C.113.1±115.34C投与32週実測値C289.2±91.36(143)C278.9±83.74(132)変化量C.102.5±129.71C.112.6±117.18C投与36週実測値C277.8±94.23(142)C270.4±69.81(130)変化量C.115.2±133.87C.117.5±113.65C投与40週実測値C278.5±74.97(139)C272.6±68.98(127)変化量C.111.0±120.37C.113.7±102.39C投与44週実測値C278.3±84.43(140)C266.0±66.12(130)変化量C.115.1±126.12C.118.7±104.04C投与48週実測値C282.4±78.43(138)C266.6±67.90(131)変化量C.111.7±128.38C.118.3±108.26C投与52週実測値C280.8±84.09(138)C268.5±68.43(129)変化量C.110.7±134.14C.115.0±108.42C平均値±標準偏差(例数).1:PRN期にCSJP-0133を一度でも投与された被験者を対象とし,PRN期における初回のCSJP-0133投与以降の値を用いて集計した.表8CNV病変面積の実測値および変化量の推移(fullanalysisset)VISITCNVの総面積SJP-0133群先行バイオ医薬品群比較期(mm2)(N=170)(N=167)スクリーニング実測値C5.664±3.9537(C170)C5.611±4.4084(C167)投与12週実測値C2.083±3.1621(C160)C1.571±2.8223(C156)変化量C.3.604±3.8556C.4.029±4.2157SJP-0133群C1先行バイオ医薬品群1PRN期(n=156)(n=147)投与12週実測値C3.309±3.5064(C64)C2.745±3.4756(C56)変化量C.2.573±3.0143C.4.193±5.5272投与52週実測値C2.143±3.2799(C137)C2.004±2.9398(C131)変化量C.3.383±4.3360C.3.611±4.6739平均値±標準偏差(例数).1:PRN期にCSJP-0133を一度でも投与された被験者を対象とし,PRN期における初回の本剤投与以降の値を用いて集計を行った.表9Dryretinaの達成率(fullanalysisset)VISITSJP-0133群先行バイオ医薬品群比較期(N=170)(N=167)投与12週CDry72(42.35)(160)82(49.10)(157)CNon-dry88(51.76)75(44.91)SJP-0133群C1先行バイオ医薬品群1PRN期(n=156)(n=147)投与12週CDry13(C8.33)(C64)15(C10.20)(C56)CNon-dry51(C32.69)41(C27.89)投与52週CDry62(C39.74)(C140)62(C42.18)(C132)CNon-dry78(C50.00)70(C47.62)達成例数(%)(例数).1:PRN期にCSJP-0133を一度でも投与された被験者を対象とし,PRN期における初回の本剤投与以降の値を用いて集計を行った.で,大きな差異は認めらなかった9).以上のように,投与C52週におけるCSJP-0133の有効性は,これまでに実施された先行バイオ医薬品の臨床試験結果と比較しても大きな差はなく,先行バイオ医薬品と同等であることが明らかとなった.HARBORおよびCCATTの各試験では先行バイオ医薬品の毎月投与とCPRN投与での効果を比較しているが,毎月投与のほうが視力改善効果は良好であったことが示されている9,10).しかし,毎月投与は患者の経済的負担や,毎月の注射に対する心理的負担が課題である.よって,導入期に毎月連続して投与して病状を落ち着かせ,その後は病状に合わせたCPRN投与は,効果と負担軽減のバランスのとれた方法であると考えられるが,治療が遅れる場合も生じうる.先行バイオ医薬品で,毎月投与やCPRN投与以外の投与方法として近年注目されている方法がCtreatandextend(TAE)投与である12.14).TREND試験は滲出型CAMDにおいて先行バイオ医薬品のCTAE投与(323例)と毎月投与(327例)を比較した国際共同治験である13).TREND試験において,投与12カ月における最高矯正視力の投与開始日からの変化量はTAE投与群でC6.2文字の改善,毎月投与群ではC8.1文字の改善であり,毎月投与群に対するCTAE投与群の非劣性が検証された13).TAE投与は,再発時に投与するCPRN投与よりもプロアクティブな投与方法であり,毎月投与のような固定投与よりも投与回数を減少させることができると考えられている15,16).近年では,維持期の抗CVEGF薬の投与方法として,PRN投与よりもCTAE投与のほうが広く使用されているという報告もある17).本治験では先行バイオ医薬品の添付文書に記載されている投与方法で投与を実施しており,TAE投与の検討は実施していない.このため,SJP-0133のCTAE投与による有効性および安全性については不明であるが,経済的な負担の軽減も含め,さらに治療負担を軽減させることができると考えられることから,今後,SJP-0133のCTAE投与による有効性および安全性の検討が必要であると考える.本治験では,試験期間を通したCSJP-0133の有効性を確認●:比較期SJP-0133/PRN期SJP-0133,○:比較期先行バイオ医薬品/PRN期SJP-0133最高矯正視力の投与開始日からの変化量(文字)2520151050-5投与開始日481216202428323640444852(週)SJP-0133(170)(163)(160)(160)(160)(159)(157)(156)(153)(152)(150)(148)(145)(145)先行バイオ医薬品(167)(162)(163)(157)(156)(153)(152)(149)(146)(143)(143)(142)(142)(141)(例数)平均値±標準偏差図5最高矯正視力の変化量の推移図(全期間)(fullanalysisset)PRN期もCSJP-0133の投与の有無にかかわらずにCFASを対象とし,比較期とCPRN期の対象集団を同一にして全期間を解析した.するため,投与開始日から投与C52週までのCSJP-0133群および先行バイオ医薬品群の最高矯正視力の変化量の推移を追加解析により検討した.その結果,SJP-0133群および先行バイオ医薬品投与群ともに,投与開始日以降,52週にわたって継続した視力改善が認められた.また,両群の視力推移には大きな差異はなく,未治療の滲出型CAMD患者へのSJP-0133の投与および先行バイオ医薬品からの切替え投与においても視力を維持できることが確認された.以上のように,本治験の主要評価項目である投与C12週における最高矯正視力の変化量がCSJP-0133群と先行バイオ医薬品群で統計学的に同等であったこと,SJP-0133の投与C12週およびC52週の有効性が先行バイオ医薬品の臨床試験結果と同様であったことから,SJP-0133の有効性は先行バイオ医薬品と同等であると考えられた.一方,投与C12週における各有効性評価項目の評価結果について,表5~9に示したとおり,SJP-0133の数値は先行バイオ医薬品の数値と比較してわずかに小さい傾向が認められた.しかし,滲出型CAMDの真のエンドポイントであり,臨床的な意義が明確な視力については,SJP-0133と先行バイオ医薬品で統計学的に同等であることが検証されており,また,先行バイオ医薬品との差異は小さいことから,本剤の有効性は先行バイオ医薬品と同様であると考えられる.なお,実臨床におけるCSJP-0133と先行バイオ医薬品との有効性の差異および本治験で認められたわずかな差異の原因については,さらなる検討が必要である.SJP-0133と先行バイオ医薬品との安全性の比較において,本治験の投与C12週までに認められた有害事象の発現率は両剤で同程度であった.全身性CVEGF阻害に関連すると考えられる動脈塞栓症イベントや,抗CVEGF薬の注射で認められる眼内炎などの有害事象について,本治験の投与C52週におけるCSJP-0133群での発現頻度はCHARBOR試験での発現頻度と同程度であった9).また,SJP-0133群で多く認められた副作用は眼圧上昇で8例(4.6%)であり,先行バイオ医薬品群ではC1例(0.6%)であった.12週以降は全被験者でCSJP-0133が投与されているため,本試験で投与C52週までに認められた全SJP-0133群の眼圧上昇の有害事象の発現率と,HARBOR試験で投与C12カ月までに認められた眼圧上昇の有害事象の発現率を比較したところ,同程度の発現頻度であった9).これらのことから,眼圧上昇の発現頻度は先行バイオ医薬品と比較して大きな差異はないと考えられた.以上のことから,SJP-0133の安全性は先行バイオ医薬品と同様であると考えられた.今回,SJP-0133は先行バイオ医薬品と同等/同質の品質,安全性および有効性を有するバイオ後続品であることが確認された.バイオ後続品の薬価は先行バイオ医薬品の約C7割程度となるため18),先行バイオ医薬品よりも安価なCSJP-0133は,滲出型CAMD患者の経済的な負担を軽減することで継続して治療を受けやすくし,患者のCQOLを改善できる薬剤であると考える.なお,本治験では投与C52週までのCSJP-0133の安全性および有効性が確認されたが,より長期の安全性および有効性表10副作用一覧副作用名1SOCCPTSJP-0133群(n=175)例数(%)件数先行バイオ医薬品群(n=175)例数(%)件数全CSJP-0133群C2(n=327)C例数(%)件数眼障害網膜出血網膜色素上皮裂孔眼痛網膜裂孔高眼圧症緑内障結膜炎網膜.離C視神経乳頭出血C眼充血C8(C4.57)C92(C1.14)C21(C0.57)C11(C0.57)C21(C0.57)C1C1(C0.57)C1C1(C0.57)C1C1(C0.57)C1C0C00C00C05(C2.86)C71(C0.57)C12(C1.14)C21(C0.57)C10C00C00C00C01(C0.57)C11(C0.57)C11(C0.57)C112(C3.67)C153(C0.92)C33(C0.92)C31(C0.31)C21(C0.31)C11(C0.31)C11(C0.31)C11(C0.31)C11(C0.31)C11(C0.31)C11(C0.31)C1心臓障害C心房細動C0C00C01(C0.57)C11(C0.57)C11(C0.31)C11(C0.31)C1一般・全身障害および投与部位の状態胸痛1(C0.57)C1C1(C0.57)C1C0C00C01(C0.31)C11(C0.31)C1感染症および寄生虫症鼻炎1(C0.57)C1C1(C0.57)C1C0C00C01(C0.31)C11(C0.31)C1臨床検査眼圧上昇g-グルタミルトランスフェラーゼ増加血中クレアチンホスホキナーゼ増加10(C5.71)C118(C4.57)C91(C0.57)C1C1(C0.57)C1C1(C0.57)C11(C0.57)C10C00C010(C3.06)C118(C2.45)C9C1(C0.31)C11(C0.31)C1神経系障害脳梗塞くも膜下出血大脳動脈塞栓症塞栓性脳梗塞C3(C1.71)C31(C0.57)C11(C0.57)C1C1(C0.57)C1C0C04(C2.29)C43(C1.71)C30C00C01(C0.57)C16(C1.83)C63(C0.92)C31(C0.31)C11(C0.31)C11(C0.31)C1血管障害高血圧1(C0.57)C11(C0.57)C11(C0.57)C11(C0.57)C12(C0.61)C22(C0.61)C21:副作用名はCICH国際医薬用語集CMedDRA/JVersion21.1を用いて分類した.2:治験期間中にC1回以上CSJP-0133が投与された被験者の合計については検証されていない.先行バイオ医薬品の長期投与の有効性については,MARINAおよびCANCHORの各試験の試験後症例を対象としたCHORIZON試験(試験期間:合計4年),HORIZON試験の試験後症例を対象としたCSEVEN-UP試験(試験期間:平均C7.3年)およびCCATT試験の試験後症例を対象としたCCATTFollow-up試験(試験期間:平均C5.5年)で検討されている19.21).これらの試験はCPRN投与での経過をみた試験であるが,HORIZON試験ではベースラインまで,そのほかの試験ではベースラインよりも視力が低下しており,その原因として平均投与回数が他のCPRN投与を用いた臨床試験と比較して少なく,undertreatmentであったことが考えられている19.22).以上のことから,長期の視力維持のためには臨床試験で規定されるような厳密な治療が重要であると考えられているが,実臨床でそのような治療を実施するのは困難であることから,TAE投与のように個々の病状や事情に合わせて計画的に治療を行っていく個別化治療の検討が必要であると考えられており22,23),実臨床においてはCTAE変法のようにCTAE投与の課題に対応した投与方法も検討されている24).SJP-0133についても,先行バイオ医薬品と同様に,投与方法の検討も含め,さらなる長期投与での安全性と有効性の検証が必要であると考える.利益相反:小椋祐一郎(カテゴリーCF:ベーリンガーインゲルハイム,ノバルティスファーマ),飯田知弘(カテゴリーCF:ニデック,トプコン),坂本泰二(カテゴリーCF:ノバルティスファーマ,パレクセルインターナショナル),辻川明孝(カテゴリーCF:ファインデックス,キヤノン),長谷川久美子(カテゴリーCE:千寿製薬株式会社),山本明史(カテゴリーCE:千寿製薬株式会社),徳重秀樹(カテゴリーCE:千寿製薬株式会社)文献1)MitchellCP,CLiewCG,CGopinathCBCetal:Age-relatedCmacu-lardegeneration.LancetC392:1147-1159,C20182)Kli.enM,SharmaHS,MooyCMetal:Increasedexpres-sionofangiogenicgrowthfactorsinage-relatedmaculop-athy.BrJOphthalmolC81:154-162,C19973)MelincoviciCCS,CBo.caCAB,C.u.manCSCetal:VascularCendothelialCgrowthfactor(VEGF)C-keyCfactorCinCnormalCandCpathologicalCangiogenesis.CRomCJCMorpholCEmbryolC59:455-467,C20184)SpilsburyK,GarrettKL,ShenWYetal:OverexpressionofCvascularCendothelialCgrowthfactor(VEGF)inCtheCreti-nalCpigmentCepitheliumCleadsCtoCtheCdevelopmentCofCcho-roidalCneovascularization.CAmCJCPatholC157:135-144,C20005)中村信介,嶋澤雅光,原英彰:網膜血管新生とその治療薬.日薬理誌135:149-152,C20106)RosenfeldPJ,BrownDM,HeierJSetal;MARINAStudyGroup:Ranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMedC355:1419-1431,C20067)BrownDM,KaiserPK,MichelsMetal;ANCHORStudyGroup:RanibizumabCversusCvertepor.nCforCneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.CNCEnglCJCMedC355:C1432-1444,C20068)厚生労働省医薬・生活衛局医薬品審査管理課長通知,薬生薬審発C0204第C1号「バイオ後続品の品質・安全性・有効性確保のための指針」.令和C2年C2月C4日9)BusbeeCBG,CHoCAC,CBrownCDMCetal:Twelve-monthCe.cacyCandCsafetyCofC0.5CmgCorC2.0CmgCranibizumabCinCpatientsCwithCsubfovealCneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.OphthalmologyC120:1046-1056,C201310)MartinCDF,CMaguireCMG,CYingCG-SCetal;CATTCResearchGroup:RanibizumabCandCbevacizumabCforCneo-vascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMedC364:1897-1908,C201111)TanoY,OhjiM;EXTEND-IStudyGroup.EXTEND-I:CsafetyCandCe.cacyCofCranibizumabCinCJapaneseCpatientsCwithCsubfovealCchoroidalCneovascularizationCsecondaryCtoCage-relatedCmacularCdegeneration.CActaCOphthalmolC88:C309-316,C201012)BergCK,CPedersenCTR,CSandvikCLCetal:ComparisonCofCranibizumabandbevacizumabforneovascularage-relatedCmacularCdegenerationCaccordingCtoCLUCASCtreat-and-extendprotocol.OphthalmologyC122:146-152,C201513)SilvaR,BertaA,LarsenMetal;TRENDStudyGroup:CTreat-and-extendCversusCmonthlyCregimenCinneovascularage-relatedCmaculardegeneration:resultsCwithCranibi-zumabCfromCtheCTRENDCStudy.COphthalmologyC125:C57-65,C201814)KertesCPJ,CGalicCIJ,CGreveCMCetal:E.cacyCofCaCtreat-and-extendCregimenCwithCranibizumabCinCpatientsCwithCneovascularCage-relatedCmaculardisease:aCrandomizedCclinicaltrial.JAMAOphthalmolC138:244-250,C202015)髙橋寛二,大島裕司,大中誠之ほか:滲出型加齢黄斑変性治療の臨床エビデンスと実態.日眼会誌C124:902-924,C202016)FreundCKB,CKorobelnikCJF,CDevenyiCRCetal:Treat-and-extendregimenswithanti-VEGFagentsinretinaldiseas-es:aCliteratureCreviewCandCconsensusCrecommendations.CRetinaC35:1489-1506,C201517)髙橋寛二,大島裕司,古泉英貴ほか:滲出型加齢黄斑変性診療の実態:実地診療を担う専門医を対象としたアンケート調査.眼科62:491-502,C202018)厚生労働省保険局長通知,保発C0210第C3号「薬価算定の基準について」.令和3年2月10日19)SingerCMA,CAwhCCC,CSaddaCSCetal;HORIZONCStudyGroup:HORIZON:anCopen-labelCextensionCtrialCofCranibizumabforchoroidalneovascularizationsecondarytoage-relatedCmacularCdegeneration.COphthalmologyC119:C1175-1183,C201220)RofaghaCS,CBhisitkulCRB,CBoyerCDSCetal;SEVEN-UPStudyCGroup:Seven-yearCoutcomesCinCranibizumab-treatedpatientsinANCHOR,MARINA,andHORIZON:CaCmulticenterCcohortstudy(SEVEN-UP)C.COphthalmologyC120:2292-2299,C201321)MaguireCMG,CMartinCDF,CYingCGSCetal;ComparisonCofCAge-relatedCMacularCDegenerationCTreatmentsCTrials(CATT)ResearchGroup:Five-yearoutcomeswithanti-vascularendothelialgrowthfactortreatmentofneovascu-larCage-relatedCmaculardegeneration:theCcomparisonCofCage-relatedCmacularCdegenerationCtreatmentsCtrials.COph-thalmologyC123:1751-1761,C201622)大中誠之,髙橋寛二:抗CVEGF薬治療のストラテジー(特集加齢黄斑変性アップデート).眼科C58:1573-1584,C201623)StewartMW:IndividualizedCtreatmentCofCneovascularCage-relatedCmaculardegeneration:whatCareCpatientsCgaining?orlosing?JClinMedC4:1079-1101,C201524)OhnakaCM,CNagaiCY,CShoCKCetal:ACmodi.edCtreat-and-extendCregimenCofCa.iberceptCforCtreatment-naiveCpatientsCwithCneovascularCage-relatedCmacularCdegenera-tion.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC255:657-664,C2017C***

緑内障眼に対する白内障手術併用Ab Interno Trabeculotomy の手術成績

2022年10月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科39(10):1417.1420,2022c緑内障眼に対する白内障手術併用AbInternoTrabeculotomyの手術成績石部智也*1八坂裕太*1,2久保田敏昭*1*1大分大学医学部眼科学教室*2九州大学大学院医学研究院眼科学教室SurgicalOutcomesofAb-InternoTrabeculotomyCombinedwithCataractSurgeryforGlaucomaTomoyaIshibe1),YutaYasaka1,2)andToshiakiKubota1)1)DepartmentofOphthalmology,OitaUniversityFacultyofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,KyushuUniversityGraduateSchoolofMedicine白内障手術併用abinternotrabeculotomyの術後短期成績について報告する.対象は2018.2021年に大分大学医学部附属病院眼科にて白内障手術と併施してマイクロフックを用いて線維柱帯切開術を施行した26例37眼.年齢は47.89歳(平均73.7歳),術前眼圧は8.25mmHg(平均14.1mmHg),術後観察期間は6.21カ月(平均7.7カ月)であった.病型は原発開放隅角緑内障14例18眼,落屑緑内障10例16眼,続発開放隅角緑内障2例3眼であった.術後3カ月で13.5±3.7mmHg,術後12カ月の眼圧は13.3±3.4mmHgと術前と比較して有意な変化はみられなかったが,薬剤スコアが術前2.6±1.3点から術後3カ月で0.4±0.7点,術後12カ月で0.9±1.4点とぞれぞれ有意に減少した.眼圧のコントロール不良により追加手術が必要となった症例は存在せず,また術後感染症や低眼圧をきたした症例もみられなかった.術後黄斑浮腫が1例にみられたが,その他白内障手術に関連した合併症はみられなかった.白内障手術併用abinternotrabeculotomyは良好な眼圧コントロールを得ながら薬剤スコアを減少させる.緑内障眼に対して,白内障併用abinternotrabeculotomyは良好な眼圧コントロールを得ながら薬剤スコアを減少させるのに有用であった.Purpose:Toreporttheshort-termsurgicaloutcomesofab-internotrabeculotomy(TLO)combinedwithcat-aractsurgeryforglaucoma.PatientsandMethods:Thisstudyinvolved37eyesof26glaucomapatients[meanage:73.7years(range:47.89years)]whounderwentmicrohookab-internoTLOcombinedwithcataractsur-geryattheDepartmentofOphthalmology,OitaUniversityHospital,Oita,JapanfromDecember2018toJune2021.Themeanfollow-upperiodwas7.7months(range:6.21months).Results:Meanintraocularpressure(IOP)priortosurgerywas14.7mmHg(range:8.25mmHg),whilethatat3-and12-monthspostoperativewas13.5±3.7mmHgand13.3±3.7mmHg,respectively.Themedicationscoredecreasedfrom2.6±1.3priortosurgeryto0.4±0.7and0.9±1.4,respectively,at3-and12-monthspostoperatively(p<0.01).Nopatientrequiredanadditionaloperation,andnohypotonyorpostoperativeinfectionwasobserved.Therewerenocomplicationsassociatedwithcataractsurgery,except1caseinwhichpostoperativemaculaedemaoccurred.Conclusion:Inglaucomapatients,ab-internoTLOtrabeculotomycombinedwithcataractsurgerycanreducethemedicationscorewithgoodIOPcontrol.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(10):1417.1420,2022〕Keywords:線維柱帯切開術,白内障手術,手術成績.trabeculotomy,cataractsurgery,surgicaloutcomes.はじめにり,おもに眼球外からアプローチする眼外法(abexterno)緑内障眼に対する線維柱帯切開術(trabeculotomy)は線維と眼内からアプローチする眼内法(abinterno)が存在する.柱帯を切開することで生理的房水流出を再建する術式であ近年低侵襲緑内障手術(minimallyinvasiveglaucomasur-〔別刷請求先〕久保田敏昭:〒879-5593大分県由布市挟間町医大ケ丘1-1大分大学医学部眼科学教室Reprintrequests:ToshiakiKubota,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,OitaUniversityFacultyofMedicine,1-1Idaigaoka,Hasama-machi,Yufu,Oita879-5593,JAPANgery:MIGS)とよばれる低侵襲な緑内障手術が開発され,角膜の小切開創から施行でき,重篤な術後合併症が非常に少ない手術法として注目を浴びている.2016年に谷戸らが報告したマイクロフックを用いた線維柱帯切開術は簡便な手術器具によって短時間のうちに行える新たなabinternotra-beculotomyであり,眼圧下降効果も従来のabexternotra-beculotomyと遜色ないことが報告されている1.3).今回筆者らは,大分大学医学部付属病院眼科(以下,当院)で施行した白内障手術併用のマイクロフックを用いたabinternotra-beculotomy(以下μLOT)の短期手術成績について報告する.I対象および方法対象は2018年12月.2021年6月に当院で白内障手術と表1患者背景症例数37眼/26例年齢,歳平均±標準誤差(レンジ)73.7±10.5(47.89)歳性別男性女性16眼/13例21眼/13例病型原発開放隅角緑内障落屑緑内障続発緑内障18眼16眼3眼logMAR視力平均±標準誤差(レンジ)0.34±0.35(0.1.7)眼圧平均±標準誤差(レンジ)14.1±4.3(8.32)mmHg屈折値平均±標準誤差(レンジ).3.6±6.92(.25.2)D内皮細胞数平均±標準誤差(レンジ)2,496±281(1,934.3,114)個/mm2MD値平均±標準誤差(レンジ).10.6±8.71(.30.3.0.01)dB併用して谷戸氏abinternoトラベクロトミーマイクロフック(以下,谷戸氏フック)(M-2215S,イナミ)を用いてtra-beculotomyを施行した26例37眼である.性別は男性13人16眼,女性13人21眼であった.平均年齢は73.7±10.5歳(47.89歳),平均観察期間は7.7±4.2カ月(6.21カ月)であった.病型は原発開放隅角緑内障14例17眼,落屑緑内障10例16眼,続発開放隅角(ステロイド)緑内障2例3眼であった(表1).全例白内障手術との併用手術であり,耳側からのアプローチで白内障手術を施行し,眼内レンズを挿入後に角膜サイドポートから直の谷戸氏フックを挿入し,隅角プリスムでの観察下に鼻側の線維柱帯を約120°切開した.術前後の眼圧値,薬剤スコア,視力,屈折誤差,角膜内皮細胞数について比較検討,術後合併症についても検討した.薬剤スコアは緑内障点眼薬を1点,配合剤点眼薬を2点,アセタゾラミド内服を2点とした.緑内障点眼薬は術後に原則的にすべて中止とし,術後の眼圧に応じて適宜点眼,内服薬を再開した.眼圧値と薬剤スコアはDunnett法を用いて統計学的検討を行い,有意水準5%未満を有意差ありとした.II結果術前と術後の眼圧値,薬剤スコア,視力について示す(図1~3).術前の眼圧値は14.7±5.2mmHg(8.32mmHg),術後の眼圧値は術後1週間で17.5±9.0mmHg(7.4328n=37logMAR視力眼圧(mmHg)24201612840術前124132652(週)図1術前後の眼圧経過術前と比較してすべての時点で有意差を認めなかった.3.50.83.00.62.5薬剤スコア(点)0.42.01.51.00.20術前124132652(週)-0.2術前42652(週)図2術前後の点眼スコア経過図3術前後の視力経過術前と比較して各時点で有意な減少を認めた(p<0.01).術後早期より有意な改善を認めた(p<0.01).mmHg),術後2週間で15.0±4.8mmHg(7.29mmHg),術後1カ月で12.6±3.0mmHg(7.19mmHg),術後3カ月で13.5±3.7mmHg(7.22mmHg),術後6カ月で12.6±3.6mmHg(7.20mmHg),術後12カ月で13.3±3.4mmHg(9.21mmHg)であった.術前と比較してすべての時点で有意差を認めなかった.薬剤スコアは術前が2.6±1.3点(0.5点),術後1週間で0.5±0.9点(0.3点),術後2週間で0.5±0.9点(0.3点),術後1カ月で0.4±0.7点(0.2点),術後3カ月で0.4±0.7点(0.3点),術後6カ月で0.5±0.8点(0.4点),術後12カ月で0.9±1.4点(0.4点)であった.薬剤スコアは術前と比較して各時点で有意に減少した(p<0.01).視力は平均logMAR視力にて術前0.35±0.35(0.+1.70),術後1カ月で0.04±0.14(.0.08.+0.40),術後6カ月で0.01±0.11(.0.20.+0.10),術後12カ月で.0.02±0.09(.0.20.+0.10)と術前と比較して有意に改善した(p<0.01).(1,934角膜内皮細胞数は術前2,496±281個/mm2.3,114個/mm2),術後1.3カ月で2,499±269個/mm2(1,669.3,073個/mm2).術後1.3カ月での角膜内皮細胞数は0.4±9.0%で術前とほぼ変化はなかった.術後3カ月における平均屈折誤差は.0.09±0.54D(.1.25.+0.75D)で,73%(27眼)が目標屈折の±0.5D以内,97%(36眼)が±1.0D以内の誤差であった.術後合併症を表2に示す.線維柱帯を切開した際に認める逆流性出血は92%(34眼)にみられた.術後1日目にニーボーを形成する前房出血は27%(10眼)にみられたが,いずれも1週間以内に吸収された.一過性眼圧上昇(術後1週間以内で一過性に眼圧30mmHg以上)は16%(6眼)にみられた.遷延性の眼圧上昇(術後3カ月以降で眼圧21mmHg以上)は8.1%(3眼)にみられ,緑内障点眼再開により眼圧下降している.眼圧のコントロール不良により線維柱帯切除術などの追加手術が必要となった症例は存在しなかった.また,術後感染症や5mmHg以下の術後低眼圧をきたした症例はみられなかった.角膜上皮障害が5.4%(2眼)にみられたが,いずれも点眼加療にて3日以内に軽快した.また,黄斑浮腫が2.7%(1眼)にみられたが,点眼加療により増悪なく経過している.III考按従来,緑内障に対する観血的治療は線維柱帯切除術および眼外から行う線維柱帯切開術が主であったが,2011年にわが国で認可されたTrabectomeを皮切りにiStent,KahookDualBladeなど,低侵襲の緑内障手術を可能とするさまざまなデバイスが登場してきた.欧米では成人の開放隅角緑内障に対する標準術式は線維柱帯切除術とされているが,このようなデバイスを用いた線維柱帯切開術も行われるようになっている1).利点として,結膜を温存することができるため,表2術後合併症逆流性出血34眼(92%)術後1日目にニボー形成する前房出血10眼(27%)一過性眼圧上昇(術後1週間以内で一過性に眼圧30mmHg以上)6眼(16%)遷延性の眼圧上昇(術後3カ月以降で眼圧21mmHg以上)3眼(8.1%)角膜上皮障害2眼(5.4%)黄斑浮腫1眼(2.7%)術後に眼圧のコントロールが困難となった場合でも追加で線維柱帯切除術やインプラント手術を行うことができる.谷戸氏フックはそれらのデバイスと同様に角膜小切開創から施行でき,手術時間も短時間で行うことができる.また,比較的安価な手術器具によって手術を行うことができることは他のデバイスと比較して秀でている点である2,3).谷戸氏フックの登場からまだ年月が浅いことや海外では一般的でないこともあるが,μLOTの手術成績に関する報告はあまり多くない.既報では2017年に谷戸らがμLOT単独手術で術前眼圧25.9±14.3mmHgおよび薬剤スコア3.3±1.0が,188.6±68.8日の平均観察期間で14.7±3.6mmHgおよび2.8±0.8に,白内障手術併用のμLOTで術前眼圧16.4±2.9mmHgおよび薬剤スコア2.4±1.2が,術後9.5カ月で11.8±4.5mmHgおよび2.1±1.0に低下したと報告している1).当院における手術では術後にすべての緑内障点眼薬を中止し,その後の経過観察中に必要に応じて点眼薬を再開しており一概に比較ができないが,術前の眼圧をほぼ維持しながら薬剤スコアを顕著に減少させており非常に良好な手術成績を得られていると思われる.術後になんらかの合併症を認めた頻度は30%(37眼中11眼)と既報3.6)より低めであった.低眼圧,感染症などの重篤な合併症は過去の報告も当院でも存在しなかった.筆者らは白内障手術を併用したμLOTを行い良好な眼圧コントロールを得ながら薬剤スコアを減少させることができた.緑内障眼に対して白内障手術を行う際,点眼加療でコントロールできている症例に対しμLOTは点眼を減らすために有用と思われる.今回の報告は観察期間が短期間かつ症例が少数であり,今後はさらなる長期的かつ多数例での観察が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)TanitoM,SanoI,IkedaYetal:Short-termresultsofmicrohookabinternotrabeculotomy,anovelminimallyinvasiveglaucomasurgeryinJapaneseeyes:initialcaseseries.ActaOphthalmol95:e354-e360,20172)TanitoM,SanoI,IkedaYetal:Microhookabinternotrabeculotomy,anovelminimallyinvasiveglaucomasur-gery,ineyeswithopen-angleglaucomawithscleralthin-ning.ActaOphthalmol94:e371-e372,20163)TanitoM,IkedaY,FujiharaEetal:E.ectivenessandsafetyofcombinedcataractsurgeryandmicrohookabinternotrabeculotomyinJapaneseeyeswithglaucoma:reportofaninitialcaseseries.JpnJOphthalmol61:457-464,20174)EsfandiariH,ShahP,TorkianPetal:Five-yearclinicaloutcomesofcombinedphacoemulsi.cationandtrabectomesurgeryatasingleglaucomacenter.GraefesArchClinExpOphthalmol257:357-362,20195)MoriS,MuraiY,UedaKetal:Acomparisonofthe1-yearsurgicaloutcomesofabexternotrabeculotomyandmicrohookabinternotrabeculotomyusingpropensityscoreanalysis.BMJOpenOphthalmol5:e000446,20206)石田暁,庄司信行,森田哲也ほか:TrabectomeRを用いた線維柱帯切開術の短期成績.あたらしい眼科30:265-268,2013***

非特異的な経過により自然閉鎖した黄斑円孔の2 症例

2022年10月31日 月曜日

非特異的な経過により自然閉鎖した黄斑円孔の2症例坂井博明山本聡一郎江内田寛佐賀大学医学部眼科学講座CTwoCasesofSpontaneousAtypicalIdiopathicMacularHoleClosureHiroakiSakai,SoichiroYamamotoandHiroshiEnaidaCDepartmentofOphthalmology,SagaUniversityFacultyofMedicineC目的:後部硝子体.離を認めないまま,硝子体牽引力や方向が変化した影響で自然閉鎖したと考えられた黄斑円孔のC2症例を報告する.症例1:50歳,女性.近医より左眼黄斑円孔の加療目的で紹介受診した.左眼にCStage2の円孔を認めた.硝子体牽引の方向が変化したことで後部硝子体.離が起こらないまま円孔は閉鎖し,.胞が拡大し,分層円孔様に変化した可能性が考えられた.症例2:73歳,女性.右眼眼球癆の経過観察中,左眼にCStage1Bの黄斑円孔を生じた.耳側の硝子体牽引力が変化したことで後部硝子体.離が起こらないまま円孔は閉鎖し,.胞が拡大し,分層円孔様に変化した可能性が考えられた.結論:硝子体接着部の網膜の形態変化から硝子体牽引力や方向が変化したことで円孔が閉鎖した可能性が考えられた.黄斑円孔は後部硝子体.離が起きていない場合でも非特異的な自然閉鎖が得られることがあるため,症例によっては慎重な経過観察も選択肢となりうる.CPurpose:ToCreportCtwoCcasesCofCidiopathicCmacularhole(MH)inCwhichCtheCholeCspontaneouslyCclosedCwithCnoposteriorvitreousdetachment,yethadchangesofvitreoustractionvectorandpower.Case1:A50-year-oldfemalepresentedwithmetamorphopsiainherlefteyeafterbeingdiagnosedwithMHatalocalclinicandsubse-quentlyCreferredCtoCourChospitalCforCtreatment.CAtCinitialCpresentation,CopticalCcoherencetomography(OCT)Crevealedapartial-thickness(Stage2)MHinherlefteye,whichsubsequentlyspontaneouslyclosedandbecamealamellar-likeCholeCwithCnoCposteriorCvitreousCdetachment.CCase2:AC73-year-oldCfemaleCpresentedCwithCphthisisCbulbiinherrighteye.Afollow-upOCTexaminationrevealedafoveal-detachment(Stage1B)MHinherlefteye,whichCsubsequentlyCspontaneouslyCclosedCandCbecameCaClamellar-likeCholeCwithCnoCposteriorCvitreousCdetachment.CConclusion:MorphologicalchangesoftheretinaandvitreousbodyadhesioninourtwocasessuggestchangesofvitreoustractionvectorandpowercausedspontaneousMHclosure.Insuchcases,carefulfollow-upisoneoption,asspontaneousMHclosurecansometimesoccurwithoutposteriorvitreousdetachment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(10):1412.1416,C2022〕Keywords:黄斑円孔,自然閉鎖,硝子体牽引,後部硝子体.離.macularhole,spontaneousclosure,vitreoretinaltraction,posteriorvitreousdetachment.Cはじめに黄斑円孔は自然閉鎖を認めることがあり,特発性黄斑円孔の自然閉鎖率はCGassの分類のCStage1ではC50%,StageC2以上ではC4.11.5%程度とされており,Stage3,4ではC20例ほどの報告に留まっている1.4).自然閉鎖の機序として後部硝子体.離,円孔底でのグリア細胞の増殖,Muller細胞による架橋,黄斑上膜による収縮があげられる5.8).Stage1,2の黄斑円孔は後部硝子体.離後に自然閉鎖することが多く,黄斑円孔の自然閉鎖は一般に硝子体牽引の解除による1,5).今回,後部硝子体.離を認めないまま硝子体牽引力や方向が変化した影響で自然閉鎖し,分層円孔様に変化したと考えられた特発性黄斑円孔のC2症例を経験したため報告する.CI症例[症例1]50歳,女性.左眼の歪視を主訴に近医眼科を受診し,左眼黄斑円孔,右眼硝子体黄斑牽引症候群を認め,精査加療目的で佐賀大学医〔別刷請求先〕坂井博明:〒849-8501佐賀市鍋島C5-1-1佐賀大学医学部眼科学講座Reprintrequests:HiroakiSakai,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SagaUniversityFacultyofMedicine,5-1-1Nabeshima,Saga849-8501,JAPANC1412(120)3カ月後10カ月後図1症例1のOCT,enfaceOCT所見OCTの後部硝子体膜を矢頭(△)で示す.Ca,b:Stage2の全層円孔.Cc:黄斑円孔周囲の.胞(*)と中央の.胞の間に.胞壁がある.Cd:円孔周囲に同心円状の複数の.胞を形成している.Ce,f:ELM・ONLの架橋を認めた.Cg:硝子体付着部の網膜の形態(円孔弁の角度)が変化している.Ch:中央にC1個の.胞を認める.Ci,j:円孔は自然閉鎖.網膜.胞内腔が拡大し分層円孔様に変化している.Ck:円孔弁の角度がさらに変化している.l:中央の.胞が拡大している.学部附属病院(以下,当院)を紹介受診した.初診時,矯正視力は右眼(1.2C×sph.12.0D(cyl.1.0DAx40°),左眼(0.5C×sph.9.0D(cyl.1.0DAx180°)で左眼にStage2の全層円孔を認めた(図1a~c).円孔径は最短径でC184Cμm,円孔底でC351Cμm,光学的眼軸長測定にて左眼の眼軸長は27.37Cmmであった.光干渉断層計(opticcoherencetomog-raphy:OCT)RS-3000Advance2(ニデック)の網膜内層レベルのCenface画像で網膜内に同心円状に広がる複数の.胞を認めた(図1d).なおCenface画像の網膜内層の基準面は内網状層(innerplexiformClayer:IPL)と内顆粒層(innernuclearlayer:INL)の境界面であり,enface画像を構築したスラブ幅はC42Cμmである.後部硝子体.離による円孔の自然閉鎖を期待し,まずは経過観察とした.3カ月後,外境界膜(externallimitingmembrane:ELM)・外顆粒層(outernuclearlayer:ONL)の架橋を認め,左眼矯正視力はC0.7に改善がみられた(図1e~g).EnCfaceOCTで同心円状に広がる複数の.胞は中央に一つの.胞へと変化を認めた(図1h).10カ月後,後部硝子体.離およびCMullerCcellCconeC(MCC)の分離は認めないまま円孔は自然閉鎖し,左眼矯正視力はC0.9まで改善を認めた(図1i~k).OCTでは網膜.胞内腔が拡大し分層円孔様に変化を認めた(図1j,k).EnfaceOCTでは円孔周囲に同心円状に複数の.胞を形成していたが,.胞が融合し中央に一つの.胞となり,その形態の変化を認めた(図1l).[症例2]73歳,女性.前医で右眼黄斑円孔に対し,右眼硝子体手術・白内障手術を施行後に右眼内炎をきたし,複数回の手術が施行され,右眼は眼球癆となっていた.当院へはセカンドオピニオン目的で受診となった.初診時,右眼視力は手動弁(矯正不能),左眼矯正視力は(1.2C×sph+0.5D)であった.右眼眼球癆の経過観察中に,左眼矯正視力C0.5と低下を認め,左眼にCStage1Bの黄斑円孔を生じた(図2a~c).円孔径は最短径でC351Cμm,円孔底でC643Cμm,光学的眼軸長測定装置にて左眼の眼軸長はC21.52Cmmであった.EnCfaceOCTで網膜内に同心円状に広がる複数の.胞を認めた(図2d).右眼が黄斑円孔手術後に眼球癆となった経緯もあり,左眼の黄斑円1カ月後5カ月後図2症例2のOCT,enfaceOCT所見OCTの後部硝子体膜を矢頭(.)で示す.Ca~c:Stage1Bの外層円孔.Cd:円孔周囲に同心円状の複数の.胞を形成している.Ce,f:ELM・ONLの架橋を認めた.Cg:耳側の硝子体付着部に.胞(☆)を形成.鼻側の.胞は吸収された.Ch:耳側にC1個の.胞を認める.Ci,j:円孔は自然閉鎖.網膜.胞内腔が拡大し分層円孔様に変化している.k:.胞前壁が裂けている.l:中央.耳側に.胞を形成している.孔の積極的な手術希望がなく,まずは経過観察とした.1カ月後,ELM・ONLが架橋し,左眼矯正視力はC0.6に改善がみられた(図2e~g).enCfaceOCTで同心円状に広がる複数の.胞は耳側に一つの.胞へと変化を認めた(図2h).5カ月後,後部硝子体.離およびCMCCの分離は認めないまま円孔は自然閉鎖し,左眼矯正視力はC0.7まで改善を認めた(図2i).OCTでは網膜.胞内腔が拡大し分層円孔様に変化を認めた(図2j,k).EnfaceOCTでは円孔周囲に同心円状の.胞を形成していたが,自然閉鎖に伴い中央.耳側に一つの.胞となり,その形態の変化を認めた(図2l).CII考按後部硝子体.離を認めないまま円孔が自然閉鎖した機序について検討した.流体力学モデルでは,黄斑や視神経乳頭以外の後部硝子体.離が進行すると,黄斑への硝子体牽引による張力は増加すると考えられている9).そのため黄斑の後部硝子体.離が起こらないまま経過した場合,張力の観点では円孔の自然閉鎖は起こりにくくなる.しかし,2症例で自然閉鎖が起こった要因を考察すると,硝子体の牽引力や方向が変化したことで円孔が自然閉鎖した可能性が考えられた.硝子体牽引の方向と黄斑円孔の関係について,黄斑円孔では健常眼や黄斑上膜眼と比して硝子体と視神経乳頭の接着が観察されることが多く,遠心性の硝子体牽引が黄斑円孔の形成に影響を与えている可能性が考えられている10).しかし,黄斑円孔の閉鎖に硝子体牽引方向の変化が影響したとの報告は見られない.円孔形成時の硝子体牽引については,サッケード運動時の後部硝子体ポケット内の液化した硝子体の移動や硝子体皮質の収縮などの機序により牽引がかかると考えられており,硝子体の牽引力・方向には後部硝子体ポケットの形態も影響している11,12).今回のように円孔の形成後も黄斑の後部硝子体.離が起きないまま経過した場合,これらの因子が硝子体牽引の変化を起こし,円孔の閉鎖にも影響する可能性が考えられた.円孔が自然閉鎖した機序を考察する.なお,後述する垂直方向の牽引とは網膜に対して垂直な方向を,水平方向とは網膜接線方向をさす.症例C1では硝子体付着部の網膜の形態(円孔弁の角度)が変化したことから,硝子体牽引のベクトルのうち垂直方向成分が減少し,水平方向成分が増加した可能性が考えられた(図3).abc図3症例1のOCT所見円孔弁に近似した直線を緑の直線で示す.RPEおよびCRPEに平行な直線をともに黄色の直線で示す.円孔弁の角度は円孔弁に近似した直線とCRPEに平行な直線がなす赤の円弧で示す角度をさす.円孔弁の角度から推測される硝子体牽引のベクトルをC.で示す.Ca:初診時OCTの拡大図.Cb:3カ月後COCTの拡大図.円孔弁の角度の変化から硝子体牽引のベクトルのうち垂直方向成分が減少し,水平方向成分が増加した可能性が考えられた.Cc:10カ月後COCTの拡大図.円孔弁の角度から硝子体牽引のベクトルのうち,水平方向成分がさらに増加した可能性が考えられた.ここで円孔弁の角度とは,円孔弁に近似した直線と網膜色素上皮(retinalpigmentCepithelium)に平行な直線がなす角度をさす(図3).経時的に円孔弁の角度が変化しており,円孔弁の角度の変化から硝子体牽引のベクトルが変化した可能性を考えた.なお,図に示した牽引のベクトルは円孔弁の角度から推測したものである.ベクトルが変化した過程に関して,まず円孔が形成された際に,それまで網膜にかかっていた垂直方向の牽引が弱まり,垂直方向成分のベクトルが減少した.さらに円孔弁の形態の変化から,垂直方向への牽引のベクトルが経時的に水平方向のベクトルに変化した可能性が考えられる(図3).以上により,硝子体牽引の垂直方向成分のベクトルが減少したことで網膜外層に伝わる垂直方向の牽引も弱まり,ELM・ONLの架橋が生じ(図1c,g),その後網膜外層が閉鎖した(図1k).また,水平方向へ硝子体牽引の方向が変化したことで網膜内層に伝わる牽引力も変化し,円孔周囲の.胞と中央の.胞間の.胞壁に張力がかかり,.胞壁が裂け,.胞同士が融合し,分層円孔様になったと考えられた(図1c,g).硝子体の牽引方向が変化した要因として,硝子体の収縮や後部硝子体の液化による後部硝子体ポケットの形態変化などが考えられる.症例C2はCOCT,enfaceOCTで示すように,黄斑の耳側に.胞が形成されていることから,耳側へ強い牽引がかかった可能性が推測された(図2c,d,g,h).円孔の形成過程で黄斑に.胞が形成された場合,硝子体による垂直方向への牽引は減弱する.本症例では,耳側へ強い牽引がかかったことにより耳側に.胞が形成された.それにより網膜内層に対する垂直方向への牽引が弱まったことで鼻側の.胞が吸収されたと考えられる(図2c,g).さらに網膜外層に伝わる垂直方向の牽引も弱まったことにより,ELM・ONLの架橋を生じ,その後網膜外層の閉鎖が起こったと考えられた.耳側に強い牽引がかかった要因として,症例C1と同様に硝子体の収縮や後部硝子体ポケットの形態変化,後部硝子体.離が耳側優位に起こった可能性などが考えられる.今回は網膜内層レベルのCenCfaceOCTに関しても検討を行った.EnCfaceOCTで円孔周囲に観察される.胞は,硝子体の牽引によって細胞間質圧が低下し,血管内の漿液が流入して形成される可能性が考えられている13).それと関連して黄斑の.胞は滲出性と牽引性でCenCfaceOCTでの形態が異なっており,滲出性の.胞が花弁状の比較的不規則な形態を呈するのに対し,牽引性の.胞は同心円状に形成され,同心円状の.胞は牽引による影響が考えられている14).2症例のCenCfaceOCTで観察された.胞形態の変化は,硝子体牽引の方向が関連していると考えられる.まず症例C1では垂直方向の硝子体牽引がかかることによってCZ-shapeのCMuller細胞の配列と一致した同心円状の.胞が形成された.その後,牽引が水平方向へ変化したことで,.胞壁が裂け,.胞同士が融合して中央に一つの.胞へ変化したと考えられた(図1d,h,i).症例C2では同心円状の.胞が形成されていたが,垂直方向の牽引が弱まったことで同心円状の複数の.胞は吸収され,耳側方向への牽引が強まったことで耳側優位に一つの.胞が形成されたと考えられる(図2d,h,i).今回のC2症例のようにCOCTとCenfaceOCTを照らし合わせることで,硝子体牽引の変化が類推できる可能性があり,黄斑円孔の経過観察においてCenCfaceOCTが有用であると考えられる.硝子体接着部の網膜の形態変化から硝子体牽引力や方向が変化した影響で黄斑円孔が自然閉鎖した可能性が考えられた.黄斑円孔は後部硝子体.離が起きていない場合でも,非特異的な自然閉鎖が得られることがあるため,患者によっては慎重な経過観察も選択肢となりうる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)GassJD:IdiopathicCsenileCmacularChole.CItsCearlyCstagesCandpathogenesis.ArchOphthalmolC106:629-639,C19882)FreemanCWR,CAzenCSP,CKimCJWCetal:VitrectomyCforCthetreatmentoffull-thicknessstage3or4macularholes.ResultsCofCaCmulticenteredCrandomizedCclinicalCtrial.CTheCVitrectomyCforCTreatmentCofCMacularCHoleCStudyCGroup.CArchOphthalmolC115:11-21,C19973)EzraCE,CGregorZJ:SurgeryCforCidiopathicCfull-thicknessCmacularhole:two-yearCresultsCofCaCrandomizedCclinicalCtrialCcomparingCnaturalChistory,Cvitrectomy,CandCvitrecto-myCplusCautologousserum:Moor.eldsCMacularCHoleCStudyCGroupCRAeportCno.C1.CArchCOphthalmolC122:224-236,C20044)LiangX,LiuW:Characteristicsandriskfactorsforspon-taneousclosureofidiopathicfull-thicknessmacularhole.JOphthalmol:e4793764,C20195)PrivatE,TadayoniR,GaucherDetal:ResidualdefectintheCfovealCphotoreceptorClayerCdetectedCbyCopticalCcoher-encetomographyineyeswithspontaneouslyclosedmacu-larholes.AmJOphthalmolC143:814-819,C20076)MilaniP,SeidenariP,CarmassiLetal:Spontaneousreso-lutionCofCaCfullCthicknessCidiopathicCmacularhole:fundusCauto.uorescenceCandCOCTCimaging.CGraefesCArchCClinCExpOphthalmolC245:1229-1231,C20077)Garcia-PousM,Udaondo-MireteP,Amselem-GomezLetal:SpontaneousresolutionofidiopathicmacularholetypeIV:opticalCcoherenceCtomographyCfollow-up.CArchCSocCEspOftalmolC81:229-232,C20068)LewisH,CowanGM,StraatsmaBR:Apparentdisappear-anceofamacularholeassociatedwithdevelopmentofanepiretinalCmembrane.CAmCJCOphthalmolC102:172-175,C19869)DiMicheleF,TatoneA,RomanoMRetal:AmechanicalmodelofposteriorvitreousdetachmentandgenerationofvitreoretinalCtractions.CBiomechCModelCMechanobiolC19:C2627-2641,C202010)SebagCJ,CWangCMY,CNguyenCDCetal:VitreopapillaryCadhesionCinCmacularCdiseases.CTransCAmCOphthalmolCSocC107:35-44,C200911)MoriCK,CKannoCJ,CGehlbachCPLCetal:MontageCimagesCofCspectral-domainCopticalCcoherenceCtomographyCinCeyesCwithidiopathicmacularholes.OphthalmologyC119:2600-2608,C201212)SpaideRF:Measurementoftheposteriorprecorticalvit-reousCpocketCinCfellowCeyesCwithCposteriorCvitreousCdetachmentandmacularholes.RetinaC23:481-485,C200313)MatetCA,CSavastanoCMC,CRispoliCMCetal:EnCfaceCopticalCcoherenceCtomographyCofCfovealCmicrostructureCinCfull-thicknessmacularhole:amodeltostudyperifovealMul-lercells.AmJOphthalmolC159:1142-1151,C201514)GovettoCA,CSarrafCD,CHubschmanCJPCetal:DistinctiveCmechanismsCandCpatternsCofCexudativeCversusCtractionalCintraretinalcystoidspacesasseenwithmultimodalimag-ing.AmJOphthalmolC212:43-56,C2020***

初診から32 年後に眼感染症網羅的PCR 検査にて診断に 至ったHSV-2 壊死性ヘルペス性網膜症の1 例

2022年10月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科39(10):1408.1411,2022c初診から32年後に眼感染症網羅的PCR検査にて診断に至ったHSV-2壊死性ヘルペス性網膜症の1例大場絢加*1海老原伸行*1,2山口昌大*1春日俊光*1,3田部陽子*4保坂好恵*5村上晶*1*1順天堂大学医学部眼科学講座*2順天堂大学医学部附属浦安病院眼科*3順天堂大学医学部附属練馬病院眼科*4順天堂大学医学部臨床検査医学講座*5順天堂大学医学部臨床検査部遺伝子検査室CACaseofHSV-2NecrotizingHerpeticRetinopathyDiagnosedbyComprehensivePCRTestforOcularInfectionsThirty-TwoYearsAftertheInitialEpisodeAyakaOba1),NobuyukiEbihara1,2),MasahiroYamaguchi1),ToshimitsuKasuga1,3),YokoTabe4),YoshieHosaka5)CandAkiraMurakami1)1)DepartmentofOphthalmology,JuntendoUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,JuntendoUniversityUrayasuHospital,3)DepartmentofOphthalmology,JuntendoUniversityNerimaHospital,4)DepartmentofClininalLaboratoryMedicine,JuntendoUniversitySchoolofMedicine,5)DepartmentofClinicalLaboratory,JuntendoUniversityHospitalC目的:発症からC32年後に眼感染症網羅的CPCR検査により診断に至った壊死性ヘルペス性網膜症の報告.症例:4歳発症,32年間両眼に再発する原因不明のぶどう膜炎として加療されていた.虹彩炎のほか,右眼には網膜血管炎・血管閉塞,線維性増殖膜,網膜裂孔を認めた.35歳時に右網膜.離を発症,硝子体手術で復位した.36歳時右眼ぶどう膜炎再発時に前房水CPCR検査を施行したところ,単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV)2型を検出し,バラシクロビル内服で炎症は改善した.結論:32年間診断がつかなかった壊死性ヘルペス性網膜症を眼感染症網羅的CPCR検査を用いることによって診断することができた.眼感染症網羅的CPCR検査は診断に有効なことが確認できた.本症例では出産時の垂直感染が疑われた.CPurpose:Toreportacaseofnecrotizingherpeticretinopathydiagnosedbycomprehensivepolymerasechainreaction(PCR)testingCforCocularCinfectionsCthatCoccurredCatC32CyearsCpostCdiseaseConset.CCase:ThisCstudyCinvolvedCaC36-year-oldCpatientCwhoChadCundergoneCtreatmentCforCrecurrentCbilateralCuveitisCofCunknownCoriginCsincehewas4yearsold(i.e.,for32years).Inaddition,iritis,retinalvasculitis/vascularocclusion,.brousproliferat-ingmembranes,andretinaltearswereobservedinhisrighteye.Attheageof35,retinaldetachmentoccurredinhisrighteye,yetitwase.ectivelytreatedbyvitrectomy.Attheageof36,whenuveitisrecurredinhisrighteye,PCRoftheanteriorchamber.uidwasperformed,andherpessimplexvirustype2(HSV-2)wasdetected.Conclu-sion:HSV-2necrotizingherpeticretinopathy,whichhadgoneundiagnosedfor32years,wasultimatelydetectedbyacomprehensivePCRtestforocularinfections,thusshowingthatcomprehensivePCRtestingforocularinfec-tionsise.ectiveforthediagnosisofHSV-2.Inthiscase,transmissionofthediseaseatbirthwassuspected.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(10):1408.1411,C2022〕Keywords:眼感染症網羅的CPCR検査,HSV-2,壊死性ヘルペス性網膜症,性器ヘルペス,垂直感染.compre-hensivePCRtestforocularinfections,HSV-2,uveitis,necrotizingherpeticretinopathy,genitalinfection.Cはじめに目[単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV)1,眼感染症網羅的ポリメラーゼ連鎖反応(polymerasechainHSV-2,水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella-zostervirus:reaction:PCR)検査は前房水や硝子体液の微量検体で多項VZV),EBウイルス(Epstein-Barrvirus:EBV),サイト〔別刷請求先〕大場絢加:〒113-8421東京都文京区本郷C2-1-1順天堂大学医学部眼科学講座Reprintrequests:AyakaOba,DepartmentofOphthalmology,JuntendoUniversitySchoolofMedicine,2-1-1Hongo,Bunkyo-ku,Tokyo113-8421,JAPANC1408(116)メガロウイルス(cytomegalovirus:CMV),ヒトヘルペスウイルス(humanCherpesvirus:HHV)6,ヒトCT細胞白血病ウイルス(humanCT-cellCleukemiaCvirustype1:HTLV-1),トキソプラズマ,梅毒]の検出が可能である.眼感染症網羅的CPCR検査は先進医療としてC2013年に承認され(HTLV-1,トキソプラズマなど一部先進医療適応外の項目あり),順天堂大学医学部附属順天堂医院(以下,当院)では2019年から施行している.2018年C9月.2021年C5月まで62検体のうち当院における前房水CPCRの陽性率はC21%だった.その内訳としてはCVZVがC5眼と最多だった.その他では,HSV-1陽性C2眼,HSV-2陽性C1眼,EBV陽性C1眼,CMV陽性C2眼,HHV-6陽性C1眼,トキソプラズマ陽性C1眼であった.今回,発症からC32年後に診断に至ったCHSV-2壊死性ヘルペス性網膜症について報告する.CI症例患者:36歳,男性.主訴:右眼の霧視.既往歴:4歳時に右眼ぶどう膜炎発症,その後もC32年間,原因不明のぶどう膜炎として加療されていた.この数年以内に虹彩毛様体炎・網膜子体炎で,右眼はC7回,左眼はC4回再発しており,それぞれステロイドの点眼・内服,結膜下注射などで加療されていた.ぶどう膜炎に伴う眼圧上昇時は眼圧下降点眼液も併用された.35歳時に右眼裂孔性網膜.離を発症し,検体採取を含む硝子体切除術,水晶体再建術,トリアムシノロンCTenon.下注射を施行されたが,前房水・硝子体液の通常のCPCR検査ではCHSV-1(C.),VZV(C.),CMV(C.)であった.現病歴:36歳時に右眼の霧視が再び出現し当院を受診,豚脂様角膜後面沈着物,前房炎症,硝子体混濁の再発,眼圧上昇を認め,右眼ぶどう膜炎再発と診断した.初診時所見:視力は右眼(0.7C×.0.5D(cyl.0.75DCAx135°),左眼(1.2×+1.25D(cyl.1.25DAx65°),眼圧は右眼はC27CmmHg,左眼はC11CmmHgであった.右眼は豚脂様角膜後面沈着物,前房中炎症細胞(+),硝子体混濁を認め,右眼ぶどう膜炎の再発と診断した.虹彩後癒着や虹彩萎縮,隅角異常所見は認めなかった.右眼上耳側には線維性増殖膜を,左眼の上耳側には円孔周囲のレーザー痕,下耳側には網膜周辺の萎縮巣を認めた.全身検査結果:血液検査では,血算・生化学は正常,梅毒・結核・肝炎・HIVなどの感染の既往歴は認めなかった.HSVやCVZVなど一般の血清抗ウイルス抗体価は既感染を示す以外に有意な所見は認めなかった.胸部CX線写真に異常はなかった.経過:今回の右眼ぶどう膜炎再発前より右眼にブロムフェナクナトリウム点眼液,両眼にラタノプロスト,ドルゾラミド塩酸塩とチモロールマレイン酸塩の合剤を使用していたため,0.1%ベタメタゾン点眼,虹彩後癒着予防にトロピカミドとフェニレフリン塩酸塩の合剤を上記点眼に追加した.前房水を採取し,眼感染症網羅的CPCR検査である感染性図1右眼バラシクロビルの投与前(a)と投与後(b)a:投与前.強い硝子体混濁とともに,周辺網膜の血管閉塞と萎縮,上耳側から耳側にかけて線維性増殖膜を認めた.Cb:投与後.線維性増殖膜,血管白線化,閉塞性血管炎は残るが,硝子体混濁は著明に改善した.図2右眼フルオレセイン蛍光造影写真網膜血管の閉塞,滲出斑・線維性増殖膜の過蛍光を認めた.静注3分36秒.図3最終診察時の眼底写真右眼上耳側には線維性増殖膜・血管閉塞を,左眼の上耳側には円孔周囲のレーザー痕,下耳側には網膜周辺の血管閉塞と萎縮巣,下鼻側にはわずかに硝子体混濁を認める.ぶどう膜炎キット(DirectCstripPCR)を施行したところ,HSV-2が陽性であった.バラシクロビル内服C3,000Cmg/日を開始した.その後右眼の炎症は改善し,視力は(0.9)に改善した.図1に右眼のバラシクロビル投与前後の眼底写真を示す.バラシクロビル投与前には強い硝子体混濁,周辺網膜の血管閉塞と萎縮,線維性増殖膜を認めた.右眼フルオレセイン蛍光造影写真は硝子体混濁が強く詳細不明であった.バラシクロビル投与後には硝子体混濁は著明に改善した.図2に示すバラシクロビル投与後の右眼フルオレセイン蛍光造影写真では,長年の繰り返す炎症による網膜血管閉塞や萎縮,線維性増殖膜は残るが,硝子体混濁は認めない.バラシクロビルはC3,000Cmg/日をC21日間内服,その後C1,500Cmg/日内服に減量して合計C49日で終了した.3カ月後には再度の前房水CPCR検査にてCHSV-2陰性が確認できた.CII考按急性網膜壊死(acuteCretinalnecrosis:ARN)の臨床所見に類似するが,経過に合致しないものに壊死性ヘルペス性網膜症という概念がある1,2).1994年に米国ぶどう膜炎学会によって,ARNと壊死性ヘルペス性網膜症の診断基準が定められた3).のちに日本でも厚生労働省研究班によってCARNの診断基準が定められた4,5).ARNが抗ウイルス治療未治療では急性に進行するのに対して,壊死性ヘルペス性網膜症は慢性の経過をたどる.HSV-2による年少者CARNの報告はある6.8).本症例はARNの診断基準は満たさないが,発症からC32年後に診断に至るまで診断がつかず,再発,炎症を繰り返し,壊死性網膜裂孔からの網膜.離を発症するという慢性の経過をたどっており,HSV-2による壊死性ヘルペス性網膜症と考えられた.壊死性ヘルペス性網膜症の治療の基本は,全身の抗ウイルス薬投与と抗炎症療法である2).症例数が少ないため,網膜症に対する定型的な治療方針は確立されていないが,個々の症例報告が壊死性ヘルペス性網膜症の治療方針の指針となっている9).本症例はバラシクロビル内服のみでぶどう膜炎は改善したが,硝子体混濁や網膜血管閉塞も認めていたので,ステロイド全身投与やアスピリン内服の併用も効果があったと考える.32年間診断がつかなかった壊死性ヘルペス性網膜症を,眼感染症網羅的CPCRによりCHSV-2を検出することで診断することができた.壊死性ヘルペス性網膜症の診断・治療に眼感染症網羅的CPCRが有効であることが確認できた.原因不明のぶどう膜炎に関しては積極的に眼感染症網羅的CPCRを施行することによって,速やかな原因究明,治療が施されることが推奨される10).とくに壊死性ヘルペス性網膜症はPCR検査を用いないと正しい診断ができない11).本症例でももっと早く原因がわかっていれば続発性の網膜.離は防ぐことができたかもしれない.48年間診断がつかなかった既報の壊死性ヘルペス性網膜症2)と本症例では,数年の間隔をあけて僚眼に発症したこと,周辺に網膜萎縮病変を認めたこと,経過中に裂孔原性網膜.離を発症したこと,PCR検査で診断に至ったこと,バラシクロビル内服で寛解したことなどの共通点を認めた.壊死性ヘルペス性網膜症は高率に裂孔原性網膜.離を発症し,片眼性が多いが,およそC10.30%の症例では経過中または数年の間隔をあけて僚眼に病変が出現する2).相違点としては,既報ではC3回網膜.離を繰り返していたが,本症例では網膜.離の再発は認めなかったこと,既報では眼トキソプラズマ症との合併の可能性も否定できなかったが,本症例では血清抗トキソプラズマ抗体は陰性であったこと,また既報ではバラシクロビル内服に加えてステロイド内服もしていたが,本症例ではバラシクロビル内服のみで奏効したことである.本症例では母親が出産時性器ヘルペスに罹患しており,垂直感染が疑われた.ヘルペスウイルスの母親から新生児への垂直感染のC85%が出産時の産道感染である12).先天性ヘルペス感染症はCHSV-1による感染がC15.30%,HSV-2による感染がC70.85%であり13),HSV-2による感染が多いとされている.既報でも乳幼児の角膜炎やぶどう膜炎の原因として垂直感染からのCHSV-2の報告を認めており14),年少者のぶどう膜炎診療においては念頭におくべきである.文献1)藤川亜月茶,北岡隆:健常人に発症したヘルペスウイルス初感染による壊死性ヘルペス性網膜症のC1例.臨眼C63:C1341-1345,C20092)福田泰子,高瀬博,菅本良治ほか:初診からC48年後に診断された壊死性ヘルペス性網膜症のC1例.臨眼C63:1353-1357,C20093)HollandCGN,CtheCExecutiveCCommitteeCofCtheCAmericanCUveitisSociety:StandardCdiagnosisCcriteriaCforCtheCacuteCretinalCnecrosisCsyndrome.CAmCJCOphthalmolC117:663-667,C19944)TakaseCH,COkadaCAA,CGotoCHCetal:DevelopmentCandCvalidationCofCnewCdiagnosticCcriteriaCforCacuteCretinalCnecrosis.JpnJOphthalmolC59:14-20,C20155)高瀬博:急性網膜壊死.臨眼62:1149-1154,C20206)KingJ,ChungM,DiLoretoDAJr:A9year-oldgirlwithherpessimplexvirustype2acuteretinalnecrosistreatedwithintravitrealfoscarnet.OcularImmunolIn.ammC15:C395-398,C20077)GroseC:AcuteCretinalCnecrosisCcausedCbyCherpesCsim-plexCvirusCtypeC2Cinchildren:reactivationCofCanCundiag-nosedlatentneonatalherpesinfection.SeminPediatrNeu-rolC19:115-118,C20128)VenincasaCVD,CEmanuelliCA,CLengCTCetal:AcuteCretinalCnecrosissecondarytoherpessimplexvirustype2inneo-nates.COphthalmicCSurgCLasersCImagingCRetinaC46:499-501,C20159)IttnerCEA,CBhakhriCR,CNewmanT:NecrotisingCherpeticretinopathies:aCreviewCandCprogressiveCouterCretinalCnecrosiscasereport.ClinExpOptomC99:24-29,C201610)高瀬博,中野聡子,杉田直ほか:我が国の感染性ぶどう膜炎診断目的の眼内液polymerasechainreaction施行状況に関する実態調査.日眼会誌123:764-770,C201911)ScheepersCMA,CLecuonaCKA,CRogersCGCetal:TheCvalueCofCroutineCpolymeraseCchainCreactionCanalysisCofCintraocu-lar.uidspecimensinthediagnosisofinfectiousposterioruvetitis.Scienti.cWorldJC2013:1-8,C201312)PinnintiSG,KimberlinDW:Managementofneonatalher-pessimplexvirusinfectionandexposure.ArchDisChildFetalNeonatalEdC99:240-244,C201413)SauerbreiCA,CWutzlerP:HerpesCsimplexCandCvaricella-zostervirusinfectionduringpregnancy:currentconceptsofprevention,diagnosisandtherapy.Part1:Herpessim-plexvirusinfections.MedMicrobiollmmunolC196:89-94,C200714)InodaCS,CWakakuraCM,CHirataCJCetal:StromalCkeratitisCandCanteriorCuveitisCdueCtoCherpesCsimplexCvirus-2CinCaCyoungchild.JpnJOphthalmolC45:618-621,C2001***

アカントアメーバ角膜炎19 眼の治療期間と予後

2022年10月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科39(10):1403.1407,2022cアカントアメーバ角膜炎19眼の治療期間と予後田中万理*1佐々木香る*1嶋千絵子*1出田真二*2髙橋寛二*1*1関西医科大学眼科学教室*2出田眼科病院CDurationofTreatmentandPrognosisin19EyeswithAcanthamoebaKeratitisMariTanaka1),KaoruAraki-Sasaki1),ChiekoShima1),ShinjiIdeta2)andKanjiTakahashi1)1)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,2)IdetaEyeHospitalCアカントアメーバ角膜炎(AK)の長期治療遂行に必要な平均的な治療期間と予後について検討する.対象は,AKと診断されたC18例C19眼.男性C11例,女性C7例,平均年齢C32C±14.8歳.病期は初期群がC8眼,進行群(移行期+完成期)がC11眼であり,発症前にステロイド点眼,アシクロビル眼軟膏が投与されていたものは各々C13眼,8眼であった.平均.爬回数は初期群C2.6回,進行群C3.3回と有意差なく,進行群では表層角膜切除がC3眼に施行されていた.治療期間の中央値は初期群でC3カ月,進行群ではC5カ月であったが,進行群のうち約半数でC1年前後と長期の治療期間であった.最終矯正視力で(0.8)以上を得たものは初期群では転帰不明のC1例を除いたC7例(100%)で,進行群でもC8眼(73%)であった.進行群の視力不良例では血管侵入をきたしていた.これらの治療期間と予後を伝えたうえで,患者の希望にあわせた治療の選択が必要であると思われた.CPurpose:ToCinvestigateCtheCaverageCtreatmentCdurationCandCprognosticCinformationCrequiredCtoCcarryCoutClong-termCtherapyCofCAcanthamoebakeratitis(AK)C.CMethods:ThisCstudyCinvolvedC19CeyesCofC18CAKcases(11males,7females;meanage:32C±14.8years)C.Ofthose19eyes,8were‘early-stage’AKand11were‘advanced-stage’AK.Priortodiseaseonset,13eyesweretreatedwithsteroideyedrops,while8weretreatedwithacyclovireyeointment.Results:Intheearly-stageandadvanced-stagegroups,themeannumberofperforationswas2.6MandC3.3M,Crespectively,CwithCnoCsigni.cantCdi.erence,CandCtheCmedianCtreatmentCperiodCwasC3CmonthsCandC5Cmonths,Crespectively.CHowever,Capproximately50%CofCtheCadvanced-stageCeyesCunderwentCaClongerCtreatmentCperiodCofCaboutC1Cyear.CFinalCcorrectedCvisualCacuityof(0.8)orCbetterCwasCachievedCinC7patients(100%)inCtheCearly-stagegroup(excludingC1CpatientCwithCanCunknownoutcome)C,CandCinC8eyes(73%)inCtheCadvanced-stageCgroup.CInCtheCadvanced-stageCgroup,C8eyes(73%)hadCvascularCinvasion.CConclusion:InCpatientsCa.ictedCwithCAK,itisnecessarytoinformthemabouttreatmentdurationandprognosisinordertoselecttheoptimaltherapy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(10):1403.1407,C2022〕Keywords:アカントアメーバ角膜炎,角膜感染症,角膜表層切除,治療期間,治療予後.AcanthamoebaCkerati-tis,cornealinfection,super.cialkeratectomytreatment,duration,treatmentprognosis.Cはじめにわが国でアカントアメーバ角膜炎(Acanthamoebakerati-tis:AK)が初めて報告されて以来1),多くの症例報告がなされてきた2).一般的にCAKの治療は長期間に及ぶとされている.これまで,治療期間や最終視力について明記された症例報告はいくつかみられ,石川ら3)や,佐々木ら4)をはじめとする初期症例の報告では,治療期間はC1.5カ月程度とされている.また,移行期以降の症例については,住岡ら5)や武藤ら6)の報告で,治療期間はC2.55カ月までと幅が広く,そのC56%がC6カ月以上の治療期間を要している.このようなAK角膜炎の長期に及ぶ治療期間は,患者の社会生活を損ない,精神的負担,経済的負担は重いと推測される.一般的にCAKの治療には,まず角膜.爬とともに薬物治療が行われ,治療抵抗性の場合や重症例では角膜移植などの外科的加療が選択されるが,アカントアメーバはシスト,栄養体とその形態を変化させるため,投薬が奏効したかどうかの判別は臨床所見からはむずかしく,外科的治療の時期決定がむずかしい.〔別刷請求先〕田中万理:〒573-1010枚方市新町C2-5-1関西医科大学眼科学教室Reprintrequests:MariTanaka,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,2-5-1Shin-machi,HirakataCity,Osaka573-1010,JAPANCかかる状況において,治療に対する患者の前向きな姿勢を維持するため,また治療方針決定に際して患者の意思も尊重するためには,治療期間および予後を明言することが必要と考えられる.しかし,多数例を解析して病期別に治療期間について,明言した報告はない.そこで,今回,18例C19眼のCAKの自験例を介入のない後ろ向き観察研究として,初期群と,移行期と完成期を合わせた進行群のそれぞれの平均治療期間を明確にするべく予後とともに検討した.CI対象および方法対象はC2007年C11月.2019年C9月に,関西医科大学眼科・永田眼科医院・JCHO星が丘医療センター眼科で培養・塗抹・PCR・臨床所見にてCAKと診断されたC18例C19眼で,年齢はC17.64歳(平均C32C±14.8歳),男性11例,女性7例であった.石橋らの分類1)に従い,2人の医師により患者情報なしにカルテ記載と前眼部写真によって,初期群と進行群に分類した.治療期間は病勢が安定し抗アメーバ薬点眼(0.02%クロルヘキシジン点眼)がC1日C2回となった時期までとし,最終受診時の視力を最終視力とした.なお,本研究は関西医科大学倫理審査の承認(No.2020225:多施設共同研究)を得て行った.また,ヘルシンキ宣言に則り行った.CII結果病期は偽樹枝状病変を示す初期群がC8眼,進行群はC11眼に分類された.初期群および進行群の症例一覧を表1,2に示す.治療はいずれの群でも,0.02%クロルヘキシジン点眼,0.1%ピマリシン眼軟膏,角膜.爬(一部表層切除)による加療を基本とし,AKの診断が確定したのち必要に応じてステロイド点眼を併用した.発症前にステロイド点眼が投与されていたものはC13眼,アシクロビル眼軟膏が投与されていたものはC8眼であった.平均.爬回数は初期群,進行群の順に2.6回,3.3回であり,進行群では外科的加療として表層角膜切除がC3眼(症例C7,10,11)に施行されていた(2例は治療開始後C6カ月目,1例はC10カ月目に施行).治療期間の中央値は初期群ではC3カ月であったのに対し,進行群ではC5カ月であり,有意に長いことがわかった(paired-tCtestCp=0.0095).また,進行群の約半数でC1年前後(12C±2カ月)に及んだ..爬回数の平均値については初期群(2.2回)と進行群(3.3回)で有意差は認めなかった(p=0.8452)が,進行群では.爬後に角膜混濁の増強を認めた(図3).最終矯正視力が(0.8)以上であったものは,初期群ではC100%,進行群ではC73%であった.進行群のなかで矯正視力が(0.8)以下であった症例では,角膜内に多数の血管侵入を認めていた.初期群と進行群の代表症例を示す.[初期群代表例:症例1]20代女性.主訴:右眼痛,充血,流涙.既往歴:特記事項なし.現病歴:普段から頻回交換型ソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)を装用していた.20XX年C9月初旬より主訴が出現.近医を受診した.0.1%フルオロメトロン点眼,0.1%ヒアルロン酸点眼,1.5%レボフロキサシン点眼で治療開始したが,症状改善しないため発症C10日後に関西医科大学附属病院(以下,当院)を紹介受診した.経過:初診時に偽樹枝状病変を認め,初期CAKと判断した(図1).0.02%クロルヘキシジン点眼,0.1%ピマリシン眼軟膏,角膜.爬による加療で,所見はすみやかに改善し,3カ月後には点眼終了し,最終矯正視力は(1.2)まで改善した.[進行群代表例:症例2]50代,女性.表1初期群の一覧表症例年齢診断前投与ステロイド診断前投与アシクロビル.爬回数治療期間最終矯正視力C164歳不明不明不明1.5カ月C1.0C225歳0.1%CFLMC○5回(前医含む)3カ月C2.0C316歳不明不明不明3カ月C1.2C427歳0.1%CFLMなし1回3カ月C1.2C528歳不明不明不明3カ月C1.0C659歳0.1%CFLMなし3回3カ月C0.9C720歳なしC○1回4カ月C1.2C821歳0.1%CFLMなし1回5カ月C1.0平均C32.5±17.2歳C2.2±1.6回(不明例除く)3カ月(中央値)FLM:フルオロメトロン.C表2進行群の一覧表症例年齢診断前投与ステロイド診断前投与アシクロビル.爬回数外科処置治療期間最終矯正視力C132歳CRDC○3回3カ月C1.2C247歳CFLMなし1回3カ月C1.5C325歳CRDなし3回4カ月C1.5C425歳CRDなし5回4カ月C1.0C531歳なしC○4回5カ月C1.2C638歳CFLMC○2回5カ月C1.2C755歳CFLMなし5回(前医含む)CLK10カ月C0.2C817歳なしなし2回(前医含む)10カ月C0.7C917歳CFLMC○4回11カ月C0.8C1051歳CFLMC○3回CLK15カ月C1.0C1123歳CFLMC○7回(前医含む)CLK15カ月C0.6平均C32.8±12.2歳C3.3±1.8回5カ月(中央値)RD:0.1%ベタメタゾンFLM:0.1%フルオロメトロンLK:lamellarkeratectomy.図1症例1(初期例)の左眼細隙灯顕微鏡によるscleralscattering撮影耳側に偽樹枝状病変を認めた.主訴:左眼充血,疼痛.既往歴:卵巣.腫.現病歴:1年前からC1日使い捨てCSCLを装用していた.20YY年C2月末より主訴が出現し近医を受診した.角膜ヘルペスとしてアシクロビル眼軟膏,0.1%ベタメタゾン点眼で治療開始したが,症状が改善しないためC2カ月後に当院を紹介受診した.経過:初診時は強い毛様充血と,角膜中心部に広範囲な輪状浸潤と放射状角膜炎を認め(図2),臨床所見から進行期AKと判断し,0.02%クロルヘキシジン点眼,0.1%ピマリシ図2症例2(進行例)の1回目の角膜.爬後の前眼部所見角膜浮腫が強く,.爬した部位を中心としてびまん性に不均一な浸潤を認めた.ン眼軟膏,角膜.爬による加療を開始した.後日,角膜擦過物から培養でアメーバが検出された.初診時からC3カ月間はアメーバに対する治療を行ったが,3回目の角膜.爬の後,角膜混濁と充血の増強,角膜浮腫が高度となったため(図3),薬剤毒性を疑いC2週間抗アメーバ療法を中止した.その後,抗アメーバ療法を再開しステロイド点眼や内服などの消炎治療も併用したところ,毛様充血は軽減したが角膜浮腫は継続した.治療開始C5カ月後に前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)を施行したところ,角膜浮腫は実質表層C1/2に限局し,実質深図3症例2の3回目の角膜.爬後角膜混濁はC2回目よりも増悪し遷延性上皮欠損を認めた.上方からの血管侵入を強く認める.図5症例2の白内障手術後の前眼部所見(治療開始15カ月後)AKの再燃がないことを確認し,白内障手術を実施した.術後も上皮化は安定し矯正視力(1.0)を得た.層が比較的健常であることが確認され,250Cμmの深さで角膜表層切除を実施した(図4).その後はレバミピド点眼を追加し,角膜内に侵入した血管を消退させるためにステロイド点眼と内服を行った.治療開始C14カ月で角膜上皮が安定したところで(図5)白内障手術を実施し,治療開始C15カ月後には最終矯正視力(1.0)を得た.CIII考察今回,初期群CAKと進行群CAKの治療期間に大きな差があることが明らかとなった.初期群では治療期間が約C3カ月であったのに対し,進行群では約半数でC1年近い治療期間が必要であり,改めて早期診断の必要性が再確認された.初期図4症例2の治療開始5カ月後の前眼部OCT(角膜表層切除前後)a:術前.角膜厚はC961Cμmと肥厚している.角膜実質浅層C1/2層に高度な浮腫を認め(.),実質深層C1/2は比較液健常であることが確認できる.Cb:術後.角膜浮腫の部分は切除され,角膜厚はC525Cμmとなった.AKの角膜上皮病変については,放射状角膜神経炎,偽樹枝状病変の観察の重要性が知られており7,8),これらの特徴的な角膜上皮病変を確実に診断すれば,AKの初期病変は予後が比較的良好である9).しかし,移行期以降は円板状の浮腫や輪状の浸潤を呈し,ヘルペスやその他の感染症との鑑別が困難となり,確定診断に時間を要する.さらに今回の検討から,たとえ診断がついたとしても治療期間が長期化することが明らかとなった.受診までにかかった時間や,治療開始までの抗ヘルペス療法やステロイド治療の有無など,それぞれの経過背景も治療期間に影響すると思われるが,今回はこれらの背景を含めたうえでの,初期群と進行群の比較検討を行った.一般的に角膜感染症の治療薬は徐々に漸減され,また治癒と考えられたとしても予防的な投与期間があるため,実際のエンドポイントの設定がむずかしい.とくにCAKでは,治癒したあとにも上皮下浸潤や充血の再燃を認めることがあり,ステロイド点眼が投与され,あわせてクロルヘキシジン点眼の予防投与再開がなされる場合があった.これらを含めて最終的に,投薬を終了する前提でクロルヘキシジン点眼が1日C2回となった時点をエンドポイントとした.そのため,今回の検討では,治療期間が長期化している可能性はあるが,既報でもC10カ月あるいはC14カ月と報告され,やはり重症例ではその治療が長期にわたることが示唆される10).治療期間がC6カ月を超えて長期に及ぶと,精神的な問題を惹起する可能性が高くなることが顎関節症の報告11)でも示唆されており,実際に筆者らが経験した進行群の症例でも,治療開始からC6カ月経過した時期には強い不安を訴えることが多かった.このような状況において,平均治療期間や予後を提示し,経過の予測を伝え,また外科的処置選択を提示することは,患者にとって精神的な支えとなり,治療方針の決定に有用と思われる.患者の不安は日常生活の支障度や家族構成や家族の理解度によっても大きく影響されるため,治療を継続するうえで,患者背景を考慮することも必要であると思われた.視力予後に関しては,初期症例に比して悪化する症例があるものの,最終矯正視力(0.8)以上を得たものがC73%あり,細菌感染などに比して比較的アカントアメーバは組織破壊が少ない可能性が推測された.しかし,角膜への血管侵入はAKの視力予後不良因子の一つと報告されており12),今回の検討でも同様であった(進行群症例C7,8,11).今後,進行例におけるCAKの最終視力予後改善のためには,抗アメーバ療法とともに血管侵入防止も大切だと思われた.長期に及ぶCAK治療の途中で薬剤抵抗性が出現した場合や角膜穿孔を生じた場合には,角膜移植を選択する必要がある.一般的に感染症治療においてもっとも好ましいのは,完全に微生物が鎮静化してから角膜移植を行うことである.しかしCAKの場合,鎮静化させるまでの期間が長期に及ぶことや,病勢を臨床所見から推測することが困難であること,さらに移植後に再燃した場合は予後不良である13)ことが問題となり,手術時期決定がむずかしい.このような状況において,平均的な治療期間や予後を患者に伝えることは治療の過程で必要であり,外科的加療について患者が自分の意思を決定するうえでも重要な情報である.AKの外科的加療のうち治療的レーザー角膜切除(photo-therapeuticCkeratectomy:PTK)や角膜表層切除は全層や深層角膜移植に比して,①感染の足場となる縫合糸を必要としないこと,②万が一病原体が残存していても,局所に直接抗アメーバ薬点眼を投与できること,③ステロイドの増量の必要がないことなどの治療上の利点があげられる.AKにおいて全層角膜移植では予後不良が報告されているが13),深層角膜移植については治療期間を短縮させるという報告があり14,15),今回の症例でも治療期間を短縮できた可能性はある.しかし,代表症例C2では,実質浮腫が前眼部COCTにて表層1/2にとどまり,深層では実質構造が保たれていたことや,角膜厚そのものがC916Cμmと非常に厚かったことから,提供角膜を必要としない角膜表層切除を選択して良好な視力を得ることができた.それぞれの症例の病態によって,適切な外科的加療の方法を選択すべきである思われる.以上,AKの治療期間と予後について検討した.初期と移行期以降では治療期間が有意に異なり,この結果を患者の説明に提示することは,長期に及ぶ治療期間において,治療方針を決定するあるいは治療に前向きな姿勢を保つうえで,有用と思われる.謝辞:本論文統計処理に関して,指導いただきました関西医科大学数学教室・北脇知己教授に感謝申し上げます.文献1)石橋康久,本村幸子:アカントアメーバ角膜炎.あたらしい眼科5:1689-1696,C19882)鳥山浩二:アカントアメーバ角膜炎─最近の動向と診断法レビュー.あたらしい眼科33:1573-1579,C20163)石川功,武藤哲也,松本行弘ほか:ミカファンギン点眼とアゾール系抗真菌薬の併用で治療したアカントアメーバ角膜炎のC3症例.眼科52:1087-1092,C20104)佐々木香る,吉田稔,春田恭照ほか:アカントアメーバ角膜炎のC2症例から得られた知見.あたらしい眼科C21:C379-383,C20045)住岡孝吉,岡田由香,石橋康久ほか:早期診断にもかかわらず治療に難渋した両眼アカントアメーバ角膜炎のC1例.眼臨紀7:946-951,C20146)武藤哲也,石橋康久:両眼性アカントアメーバ角膜炎のC3例.日眼会誌104:746-750,C20007)佐々木美帆,外園千恵,千原秀美ほか:初期アカントァメーバ角膜炎の臨床所見に関する検討.日眼会誌114:1030-1035,C20108)篠崎友治,宇野敏彦,原祐子ほか:最近C11年間に経験したアカントアメーバ角膜炎C28例の臨床的検討.あたらしい眼科27:680-686,C20109)松本和久,原田勇一郎,木村章ほか:最近経験したアカントアメーバ角膜炎のC2症例.眼臨紀2:1154-1157,C200910)KaisermanCI,CBaharCI,CMcAllumCPCetal:PrognosticCfac-torsCinCAcanthamoebaCkeratitis.CCanCJCOphthalmolC47:C312-317,C201211)和気裕之:顎関節症患者の不安と抑うつに関する心身医学的研究.口科誌48:377-390,C199912)BouheraouaN,GaujouxT,GoldschmidtPetal:Prognos-ticCfactorsCassociatedCwithCtheCneedCforCsurgicalCtreat-mentsCinCacanthamoebaCkeratitis.CCorneaC32:130-136,C201313)KashiwabuchiRT,deFreitasD,AlvarengaLSetal:Cor-nealCgraftCsurvivalCafterCtherapeuticCkeratoplastyCforCAcanthamoebaCkeratitis.CActaCOphthalmolC86:666-669,C200814)大塩毅,佐伯有祐,岡村寛能ほか:福岡大学病院における最近C10年間のアカントアメーバ角膜炎の治療成績.臨眼C73:1291-1296,C201915)CremonaCG,CCarrascoCMA,CTytiunCACetal:TreatmentCofCadvancedAcanthamoebakeratitiswithdeeplamellarker-atectomyandconjunctival.ap.CorneaC21:705-708,C2002***

円錐角膜眼に対するミニスクレラルレンズ処方の有効性の検討

2022年10月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科39(10):1399.1402,2022c円錐角膜眼に対するミニスクレラルレンズ処方の有効性の検討荻瑳彩*1西田知也*1片岡嵩博*1片岡麻由香*1磯谷尚輝*1小島隆司*1,2吉田陽子*1中村友昭*1*1名古屋アイクリニック*2慶應義塾大学医学部眼科学教室CEvaluationoftheClinicalOutcomesofMini-ScleralLensWearinEyeswithKeratoconusSayaOgi1),TomoyaNishida1),TakahiroKataoka1),MayukaKataoka1),NaokiIsogai1),TakashiKojima1,2)C,YokoYoshida1)andTomoakiNakamura1)1)NagoyaEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicineC目的:円錐角膜眼に処方したミニスクレラルレンズの有効性の検討.方法:対象は円錐角膜眼に強膜レンズであるミニスクレラルレンズ(MSL)を処方したC23例C30眼.処方に至った経緯と処方成功率(処方後C3カ月以上装用と定義)を検討した.次に眼鏡とCMSL矯正視力を比較した.さらにC23例中のハードコンタクトレンズ(HCL)装用者C10例C13眼のCHCLとCMSLの矯正視力(logMAR)を比較した.結果:MSL処方経緯はCHCL装用困難がもっとも多く(63%),処方成功率はC93%であった.MSL矯正視力(0.01C±0.15)は眼鏡矯正視力(0.7C±0.53)より有意に良好であった(p<0.0001).HCLとCMSLの平均矯正視力はC0.02C±0.16,0.02C±0.15であり有意差はなかった(p=0.9721).結論:HCL装用困難な円錐角膜眼に対してCMSLは良好な矯正視力を得ることが可能で,有用な屈折矯正方法と思われる.CPurpose:Toevaluatetheclinicaloutcomesofmini-sclerallens(MSL)wearineyeswithkeratoconus.Meth-ods:ThisCstudyCinvolvedC30CeyesCofC23CkeratoconusCpatientsC.ttedCwithCanCMSL.CCorrectedCvisualacuity(VA)CwascomparedbetweenMSLwearandspectacleuse.Foreyes(n=13)wearingarigidgaspermeablecontactlens(RGP-CL)C,CcorrectedCVACwasCcomparedCbetweenCRGP-CLCuseCandCMSLCuse.CDataConCpatientCbackgroundCandCMSL-wearsuccess-rate(de.nedas3monthsofMSLwearwithoutcomplications)wasanalyzed.Results:AmongthereasonsforMSLprescription,hardCL-weardiscomfortwashighest(63%)C,andtheMSLsuccess-ratewas93%.MeancorrectedVA(logMAR)wassigni.cantlybetterintheMSL-useeyes(logMAR,0.01±0.15)thaninthespectacle-useeyes(0.7C±0.53)(p<0.0001)C.Nosigni.cantdi.erenceinmeancorrectedVAwasfoundbetweentheRGP-CL-useeyes(0.02C±0.16)andCMSL-useeyes(0.02C±0.15)(p=0.9721)C.CConclusion:ForCkeratoconusCeyesCwithRGP-CLintolerance,MSLusecanprovidegoodcorrectedVAandbeausefulmethodforrefractivecorrec-tion.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(10):1399.1402,C2022〕Keywords:強膜レンズ,ミニスクレラルレンズ,円錐角膜.sclerallens,mini-sclerallens,keratoconus.はじめに円錐角膜(keratoconus:KC)は非炎症性の角膜脆弱性疾患であり,進行性の角膜菲薄化と角膜不正乱視を特徴とする.KCによる視力低下が進むと眼鏡矯正が困難となる場合が多く,その場合の矯正方法はハードコンタクトレンズ(hardcontactlens:HCL)が第一選択となる.しかしCHCLは屈折矯正効果は高いが,異物感や痛みなどを感じやすいというデメリットもある.KCの重症度が上がり角膜の突出や不正乱視が強くなると,異物感や痛みを強く感じやすく,さらにCHCLのフィッティング不良を生じることも多い.場合によってはCHCL装用困難となる場合も少なくない.強膜レンズはCHCLと比較して大きなレンズ径が特徴であり,強膜部分で支持するコンタクトレンズである.内部を人工涙液で満たし,レンズ内面までを架空角膜と想定することで,さまざまな不正角膜に対応できる矯正方法である1.6)(図1).さらに兎眼や重度のドライアイなどの眼表面障害の治療にも用いられる1,7.11).装用感の面ではCHCLと異なり,敏感な角膜にレンズが触れないため異物感や痛みを感じにくい.〔別刷請求先〕荻瑳彩:〒456-0003愛知県名古屋市熱田区波寄町C24-14COLLECTMARK金山C2F名古屋アイクリニックReprintrequests:SaayaOgi,NagoyaEyeClinic,COLLECTMARKKanayama2F,24-14Namiyose-cho,Atsuta-ku,Nagoya,Aichi456-0003,JAPANCレンズ(屈折率:1.442)図1ミニスクレラルレンズ装用時のレンズ,角膜および涙液の関係涙液層と角膜は屈折率が近いため,不正のある角膜が涙液で満たされることで,涙液層がレンズと接する面が仮想角膜表面と考えることが可能である.この効果によってミニスクレラルレンズの不正乱視が矯正される.強膜レンズをCKCに処方した場合は,異物感が少なく装用感がよいと報告されている12).不正乱視の矯正効果もあるため,KCやその他の角膜病変の不正乱視を合併する患者にとって有用な矯正方法であるとの報告がある12,13).さらに,膜レンズを処方することで角膜移植を行わなくても過ごせる患者がある程度存在するという報告もあり,強膜レンズの有用性は高いと考えられる14).強膜レンズは大きさによってミニスクレラルレンズ(minisclerallens:MSL)とフルスクレラルレンズ(fullsclerallens:FSL)に分類され,FSLのCPros-theticCReplacementCofCtheCOcularCSurfaceCEcosystem(PROSE)については小島らがCKC眼に有効であると報告している.しかし,日本のCMSLの既報では,不正乱視眼への安定した矯正効果があることが報告されている15)が,少数例の報告でまとまった報告は筆者らの知る限りない.今回筆者らはCKC患者に処方したCMSL装用者の矯正視力および処方経緯,処方成功率を後方視的に検討した.CI対象および方法対象はC2018年C3月.2020年C7月に名古屋アイクリニックのCKC外来を受診し,角膜専門医にCKCと診断され,MSLのCi-sight(GPSpecialist社)を処方し,3カ月以上経過観察が可能であった症例C23例C30眼(男性C22名,女性C1名,平均年齢C34.1C±11.2歳)である.平均角膜屈折力C55.80C±8.55D,平均角膜乱視C4.61C±2.72D.KCの重症度はCStage1がC5眼,Stage2がC11眼,Stage3がC2眼,Stage4がC12眼である(表1).i-sightのベースカーブ規格はC10段階(No.1.10)あり,円錐角膜の重症度に基づきメーカー推奨に応じてCStage1ならCNo.4もしくは5,Stage2はCNo.3もしくは4,Stage3はNo.2もしくはC3,Stage4はCNo.1もしくはC2を選択した.レンズ後面と角膜前面の距離がC400Cμm程度のレンズを最終決定とした.度数はトライアルレンズにてベースカーブ決定表1患者背景項目結果症例数23例30眼年齢C34.2±11.1歳性別男性C22名女性C1名平均角膜屈折力C55.57±8.50D平均角膜乱視C4.60±2.67D円錐角膜重症度Stage15眼Stage21C1眼Stage32眼Stage41C2眼後にオーバーレフを測定し,レフの値を参考に度数決定を行った.検討方法は,①眼鏡矯正視力とCMCL矯正視力を比較した.②CMSLを処方したC23例中,HCL装用者でありCHCL矯正視力が測定可能であったC10例C13眼において,HCL矯正視力とCMSL矯正視力を比較した.MSL視力は処方直後の視力を使用した.③CMSL処方に至った経緯を検討した.④使用後約C3カ月時点でのアンケート結果を検討.アンケート内容はCMSL装用時の乾燥感,痛み,異物感についてCVisualCanalogscaleを行い,0がなし,10が耐えられないほどひどいとしてC10段階評価をし,さらに満足度について大変満足,満足,どちらでもない,やや不満,不満のC5段階で評価した.⑤C3カ月以上問題なく装用できる状態を処方成功と定義し,処方成功率を求めた.なお,統計学的解析はCWilcoxon検定を用い有意水準を5%未満とした.i-sightは厚生労働省未承認のコンタクトレンズであるため,患者に起こりうる危険性を含め十分にインフォームド・コンセントを行った後に処方した.今回の研究は院内倫理委員会の承認後に調査を行った.臨床研究法を遵守し,世界医師会ヘルシンキ宣言(1964年C6月)に則り行われた.後ろ向き研究のため,同意書に代わってオプトアウト法が院内倫理委員会に承認された.CII結果患者背景は,アレルギー性結膜炎C6例,アトピー性皮膚炎5例,喘息C4例,春季カタルC3例であった.手術歴は角膜内リングがC1例であった.処方したCMSL(i-sight)の規格は平均度数.8.33±3.99D,レンズナンバーはCNo.1が5眼,No.2が5眼,No.3が9眼,No.4が8眼,No.5が1眼,No.6が2眼,サイズはすべてC16.4Cmmであった.また,11例(37%)が初回CMSL処方後に度数などの規格を変更した.眼鏡矯正視力(logMAR)0.67C±0.53(小数視力C0.4),MSL矯正視力C0.01C±0.15(1.0)であり,MSL矯正視力が有意に良好であった(p<0.0001)(図2a).HCL装用者であったC10例C13眼のCHCL矯正視力はC0.02C±0.16(1.0),MCL矯正視力はC0.02C±0.15(1.0)であり,有意差は認めなかった(p=0.9721)(図2b).HCL矯正視力と比較したCMCL矯正視力の視力変化は,1段階向上がC1眼,2段階向上がC4眼,変化なしがC3眼,1段階低下がC4眼,2段階低下がC1眼であった.MCL処方に至った経緯はC63%(19眼)がCHCL装用困難,27%(8眼)が別の快適なレンズを試したい,3%(1眼)がスポーツ時にはずれにくいコンタクトレンズを希望するため,その他がC7%(2眼)であった.HCL装用困難の理由としては,53%(10眼)が装用中の痛み,16%(3眼)がフィッティング不良,11%(2眼)が乾燥感,11%(2眼)がはずれやすい,5%(1眼)が異物感,5%(1眼)が視力不良という内訳であった.アンケートの結果は,19例が過去にCHCL,2例がソフトコンタクトレンズ(SCL),1例がCFSLを使用していた.アンケート内容のうちのCMSL装用時の乾燥感,痛み,異物感についてCVisualCanalogscaleの結果は,乾燥感の平均点数はC1.5点,痛みは平均C0.7点,異物感は平均C0.8点であった.MCLの満足度は,大変満足C4例,満足C16例,どちらでもないC2例,未回答C1例であった.処方成功率はC93%であり,角膜障害や角膜感染を引き起こした症例はなかった.CIII考按今回の結果では,眼鏡矯正視力よりCMSL矯正視力のほうが優れていた.レンズと角膜の間の涙液レンズによって不正乱視が矯正され,MSL矯正視力が良好になったと考えられる.HCLとCMSLの矯正視力には有意差はなかったが,logMAR視力評価でC1段階向上がC1眼,2段階向上がC4眼,変化なしがC3眼,1段階低下がC4眼,2段階低下がC1眼と個人差を認めた.この視機能の結果はCKCに対してCPROSEを処方した既報と同等と思われた12).MSLで矯正視力がCHCLより改善した症例は,HCLのフィッティング不良が改善された症例であった.HCLはレンズ面で角膜頂点を押さえることで角膜不正乱視が改善され,よって視力が向上するという特徴をもつが,MSLにはその特性がない.角膜を変形させる特性がない分,HCLよりも視機能は劣る場合があると考えられる12).MSL矯正視力がCHCL矯正視力よりも低下した症例の原因でもあると考えられる.今後多数例でどのようなケースでCHCL視力より低下するのかの検討が必要である.強膜レンズの問題点として,過去の報告では強度の角膜不正乱視による矯正視力不良,費用の問題が指摘されている5,12).今回の検討の対象となったCKC患者の重症度はCStage3がC2眼,Stage4がC12眼であり,危惧されていた重症例の角膜不正乱視に対しての処方にも成功した.a2.01.51.00.50.0-0.5b0.20.0-0.2logMARlogMARHCL矯正MSL矯正図2眼鏡矯正視力とミニスクレラルレンズ矯正視力の比較および,ハードコンタクトレンズ矯正視力とミニスクレラルレンズ矯正視力の比較ミニスクレラルレンズ矯正視力は眼鏡矯正視力より有意に良好であった(Ca).ハードコンタクトレンズ矯正視力とミニスクレラルレンズ矯正視力とでは有意差はなかった(b).***:p<0.0001ns:有意差なし.アンケート結果では,乾燥感の平均点数はC1.5点,痛みは平均C0.7点,異物感は平均C0.8点であり,乾燥感や異物感,痛みもほぼ認めなかった.処方成功率も高く,満足と回答した症例はC23例中C20例であった.HCL装用時に問題となるフィッティング不良やドライアイ,痛み,はずれやすいなどの問題もCMSLの場合はほぼ取り除かれるため,処方成功率も満足度も高いと考えられる.MSL装用中の大きな合併症はなく,安全に処方が可能であることも示唆された.乾燥感の平均点のみ他の項目よりも点数が高かったのは,涙液が角膜面を覆っているため,眼表面から感じるドライアイについては改善が見込めるが,MSLは眼瞼との接触面積も大きく,瞼結膜との摩擦でドライアイ症状を呈しているからと思われた.しかし,乾燥感のスコアはC1.5と低く,問題となることは少ないと考えられる.今回,HCLを使用していたときの装用感についてはアンケートを行っていないため比較できないが,今後CHCLからCMSLへ変更したときに症状がどのように変化するか調査が必要である.小島らの報告にあるように,強膜レンズの欠点としてレンズ装用時に起こる霧視があげられる12).分泌物が多い患者では,レンズと角膜の間の涙液層にデブリスが貯留し霧視を起こす.装用時間が長いほど起こりやすい.とくにアレルギー性疾患を有する患者はこの症状が起こりやすいといわれており12),その場合はC1日に数回ほどCMSLをはずして装用し直す必要がある.HCL処方も同様であるが,MSL処方においてもアレルギー性結膜炎のコントロールが重要となる.点眼薬などで治療を続けながらの装用が必要である.今回の研究の限界としては,研究の対象者はCMSLを処方した患者のみを検討した点である.実際にはCMSLを試すのみで処方に至らないケースも多く存在する.重症のCKCでは形状によってはCMSL矯正視力が期待よりも向上せず,処方に至らない場合もあるため,見きわめが重要である.今後は前向き研究で,試すのみで処方に至らなかった症例も含めて検討をすることで,どのような患者にCMCLが適するのか明確になると思われる.今回の検討でCMSLはCKC眼に対して良好な装用感と矯正視力を得ることが可能で,とくにCHCL装用困難なCKC眼に対して有用な屈折矯正方法であることが示唆された.謝辞:本論文執筆にあたり,英訳のご協力をいただいた鈴木奈央様に深謝いたします.文献1)JacobsCDS,CRosenthalP:BostonCscleralClensCprostheticCdeviceCforCtreatmentCofCsevereCdryCeyeCinCchronicCgraft-versus-hostdisease.CorneaC26:1195-1199,C20072)RosenthalP,CotterJM,BaumJ:TreatmentofpersistentcornealCepithelialCdefectCwithCextendedCwearCofCaC.uid-ventilatedCgas-permeableCscleralCcontactClens.CAmCJCOph-thalmolC130:33-41,C20003)SegaICO,CBarkanaCY,CHourovitzCDCetal:ScleralCcontactClensesCmayChelpCwhereCotherCmodalitiesCfail.CCorneaC22:C308-310,C2003C4)HeurCM,CBachCD,CTheophanousCCCetal:ProstheticCreplacementCofCtheCocularCsurfaceCecosystemCscleralClensCtherapyforpatientswithocularsymptomsofchronicSte-vens-JohnsonCsyndrome.CAmCJCOphthalmolC158:49-54,C20145)SchornackCMM,CPateISV:ScleralClensesCinCtheCmanage-mentofkeratoconus.EyeContactLensC36:39-44,C20106)吉野健一:円錐角膜や強度不正乱視に対する強膜レンズ.あたらしい眼科33:50-60,C20107)WeynsM,KoppenC,TassignonMJ:Scleralcontactlens-esCasCanCalternativeCtoCtarsorrhaphyCforCtheClong-termCmanagementCofCcombinedCexposureCandCneurotrophicCkeratopathy.CorneaC32:359-361,C20138)PortelinhaCJ,CPassarinhoCMP,CCostaJM:Neuro-ophthal-mologicalapproachtofacialnervepalsy.SaudiJOphthal-molC29:39-47,C20159)ChahalCJS,CHeurCM,CChiuGB:ProstheticCreplacementCofCtheCocularCsurfaceCecosystemCscleralClensCtherapyCforCexposureCkeratopathy.CEyeCContactCLensC43:240-244,C201710)TakahideCK,CParkerCPM,CWuCMCetal:UseCofC.uid-ventilated,Cgas-permeableCscleralClensCforCmanagementCofCsevereCkeratoconjunctivitisCsiccaCsecondaryCtoCchronicCgraft-versus-hostCdisease.CBiolCBloodCMarrowCTransplantC13:1016-1021,C200711)YeP,SunA,WeissmanBA:Roleofmini-scleralgas-perC-meableClensesCinCtheCtreatmentCofCcornealCdisorders.CEyeCContactLensC33:111-113,C200712)小島隆司,片岡嵩博,磯谷尚輝ほか:円錐角膜に対して強膜レンズCProstheticCReplacementCofCtheCOcularCSurfaceCEcosystem(PROSE)を処方した症例の検討.日コレ誌C59:128-132,C201713)OttenCHM,CvanCderCLindenCBJJJ,CVisserES:ClinicalCper-formanceCofCaCnewCbitangentialCmini-scleralClens.COptomCVisSciC95:515-522,C201814)KoppenCC,CKrepsCEO,CAnthonissenCLCetCalCScleralClensesCreducetheneedforcornealtransplantsinseverekerato-conus.AmJOphthalmolC185:43-47,C201815)松原正男,武田桜子:KCなどの患者におけるミニスクレラルレンズ処方の検討.日コレ誌53:267-273,C2011***

中心性漿液性脈絡網膜症の構造と機能 ─光線力学的療法前後の比較

2022年10月31日 月曜日

《第10回日本視野画像学会シンポジウム》あたらしい眼科39(10):1396.1398,2022c中心性漿液性脈絡網膜症の構造と機能─光線力学的療法前後の比較藤田京子愛知医科大学眼科学講座CStructureandFunctionofCentralSerousChorioretinopathy─ComparisonbetweenbeforeandafterPhotodynamicTherapyKyokoFujitaCDepartmentofOphthalmology,AichiMedicalUniversityはじめに中心性漿液性脈絡網膜症(centralCserousCchorioretinopa-thy:CSC)は黄斑部に網膜.離が生じ,変視症や中心暗点などの自覚症状が出現する疾患で,中年男性に好発する.原因は不明であるが,精神的・身体的ストレスやCA型気質,ステロイドホルモンの使用などが指摘されている1,2).CSCの病態生理は,脈絡膜血管透過性亢進により脈絡膜が肥厚し,その結果,二次的に網膜色素上皮(retinalpigmentepi-thelium:RPE)が障害され,網膜下に液性成分が貯留すると考えられている.RPEの障害が軽度であれば数カ月で網膜.離が吸収するが,RPEの異常が高度でびまん性の場合には網膜.離が遷延する.網膜.離が遷延すると網膜は菲薄化し不可逆性の視機能障害をきたすため,治療として網膜光凝固術や保険適用外ではあるが光線力学的療法(photody-namictherapy:PDT)などが行われる.PDTの有効性についてはこれまでに多数の報告があり,筆者らも.離が遷延した慢性CCSCに対しベルテポルフィン半量CPDTを行い,204例中C89.2%でC1年以内に.離の吸収が得られ,合併症もみられなかったことを報告した3).このように網膜.離の吸収が高率に得られることは明らかになったが,日常診療では構造面の改善が必ずしも自覚症状の改善に結びつかないケースをしばしば経験する.しかし,これまでにCCSCにおける構造面と視機能との関連をみた報告は少ない.本稿では慢性CSCに対するCPDT後の網膜.離吸収という構造上の変化と視機能について述べる.CI変視症変視症はCCSCの主症状の一つであり,日常生活に支障をきたす場合がある.では網膜.離が吸収されれば変視症も消失するのであろうか.Baranらは網膜.離吸収後の変視症をAmslerチャートを用いて検討した結果,67.7%でみられたと報告している4).行われた研究は定性的な評価であるが,網膜.離が吸収しても変視が完全に消失しないことがわかる.筆者らは変視症を定量化できるCM-CHARTSを用いてPDT前後の変視量を測定し,PDT前後における変視量の変化をみた5).対象は慢性CCSC45例C45眼で,PDT前とC1年後の変視量とを比較した.その結果,PDT前の平均変視量は縦線がC0.52±0.53°,横線がC0.61±0.52°,PDT1年後は縦線がC0.33±0.46°,横線がC0.49±0.56°で両方向とも変視量は有意に改善していた(p<0.05)(図1).このように平均値は改善したが,横線の変視量はC45眼中C19眼で不変,8眼で0.2°以上の悪化,縦線は18眼で不変,6眼で0.2°以上の悪化を示し,PDTで網膜.離が吸収されても半数以上で変視症が残存することがわかった.患者への治療に関するインフォームド・コンセントでは,網膜.離が吸収されても変視症が残存する可能性があることを話しておいたほうがよい.なお,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)から得られた網膜外層の所見と変視量には有意な相関はみられなかった.HayashidaらはChalf-.uencePDTを行ったPDT前矯正視力がC1.0以上のCCSC36例C36眼の変視症について検討し,PDT12カ月後の変視量に関連する治療前因子として外顆粒層の厚みをあげ,治療前の外顆粒層が薄いほど変視量が大きいと報告している6).今後は網膜外層のみならず他の層との関連の評価も必要と考える.〔別刷請求先〕藤田京子:〒480-1195愛知県長久手市岩作雁又C1-1愛知医科大学眼科学講座Reprintrequests:KyokoFujita,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,AichiMedicalUniversity,1-1Yazakokarimata,Nagakute,Aichi480-1195,JAPANC1396(104)0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(104)C13960910-1810/22/\100/頁/JCOPYlogMAR視力横線の変視量縦線の変視量:網膜感度:小数視力**1.218160.71.00.614変視量(°)/logMAR視力網膜感度(.)0.8120.50.40.3小数視力100.6860.440.20.220.100図2ベルテポルフィン半量光線力学的療法(PDT)前後の網膜感度PDT前136912(月)図1ベルテポルフィン半量光線力学的療法(PDT)前後の網膜感度はCPDT1カ月以降有意に改善した.*:p<0.01変視症(t検定).(文献C7より改変引用)PDT1年後の変視量は治療前と比較して縦線,横線とも有意に減少した.*:p<0.05(t検定).(文献C5より改変引用):CSC眼:僚眼▲:正常眼感度を測定した.網膜.離はC13眼中C11眼でCPDT後C1カ月目には消失,1眼でC3カ月目に消失,残りのC1眼はC12カ月0.80.6PDT後C1カ月以降で有意な改善が得られた(図2)7).OCTで観察した網膜外層との関連では,PDT12カ月後における目まで徐々に減少した.網膜感度は網膜.離の吸収とともに0.4logMAR視力ellipsoidzoneとCinterdigitationzoneの両者の回復例で網膜感度が高いという結果が得られた.網膜感度と網膜.離との関連については,Ojimaらが網膜.離吸収眼の網膜感度とOCT所見との関連性を検討し,網膜感度低下部では網膜色0.20-0.2-0.40.1110100背景輝度(cd/m2)図3中心性漿液性脈絡網膜症の低輝度視力中心性漿液性脈絡網膜症眼では低輝度視力が有意に低下していた.*:p<0.05(t検定),**:p<0.01(t検定).(文献C10より改変引用)CII網膜感度CSCでは網膜.離部に一致した比較暗点が生じ,患者は「中心に丸い影が見える」,「中心に残像のようなものが見える」などと訴える.眼底直視下微小視野計(マイクロペリメータCMP-1,ニデック)は眼底写真に網膜感度を重ね合わせて表示でき,網膜.離部に一致した網膜感度がわかる.そこでCMP-1を用いてCPDT前後で網膜.離部の網膜感度の変化をみた.対象は慢性CCSCに対しベルテポルフィン半量CPDTを行ったC13例C13眼,平均年齢C50.7歳で,PDT前後で網膜素上皮不整もしくは視細胞内節/外節接合部(IS/OS)ラインの欠損がみられたと述べており8),Sugiuraらが網膜感度と網膜.離の高さに関連があると報告している9).網膜感度と網膜外層との間には関連があることは明らかであるが,いずれの報告も症例数が少ないため今後さらに症例数を増やして検討する必要がある.CIII低輝度視力CSCは通常の視力検査では比較的良好な視力が得られ,明所での行動に不自由を感じる場面は少ないが,薄暮時や夜間など暗い環境下になると視力が低下し,車の運転に不安を感じるなど生活に支障がでるケースもみられる.しかし,このような症状は明所で測定する通常の視力検査から推測できないため客観的な評価がむずかしい.筆者らは以前背景輝度をC5段階に低下させた低輝度視力表を作成し,CSCは正常眼と比較して有意に低背景輝度下での視力が低下することを報告した(図3)10).そこで,PDTによる網膜.離吸収後に低輝度視力がどのように変化するかを検討した11).対象は慢性CCSC8例C8眼で,PDT前後で低輝度視力測定を行った.その結果,PDT3カ月後以降ではすべての背景輝度でCPDT(105)あたらしい眼科Vol.39,No.10,2022C1397低輝度logMAR視力PDT3カ月後以降ではすべての背景輝度で有意な改善が得られた.また,低輝度視力とCellipsoidzoneの回復時期が一致していた.0.60.50.40.30.20.10.0*:p<0.05(Wilcoxon符号順位検定)前と比較し有意な低輝度視力の改善が得られた(図4).また,中心窩下のCOCT所見との関連では低輝度視力とCellip-soidzoneの回復時期が一致していた.本研究の結果から,PDTによって慢性CCSC眼の低輝度視力が改善すること,視力改善にはCellipsoidzoneの回復が関与している可能性があることがわかった.おわりに眼底カメラやCOCTなど検査機器の発展に伴い構造上の詳細が明らかになってきたが,構造と視機能との関連は不明な点が多い.実臨床では治療によって構造の改善が得られてもそれが自覚症状の改善に結びつかないケースも経験する.今後は患者の自覚症状に即した視機能の評価を行い構造との関連を明らかにし,治療の適応や予後の説明に役立てたいと考えている.文献1)YannuzziLA:TypeCACbehaviorCandCcentralCserousCcho-rioretinopathy.CTransCAmCOphthalmolCSocC84:799-845,C19862)Carvalho-RecchiaCA,YannuzziLA,NegraoSetal:Cor-ticosteroidsandcentralserouschorioretinopathy.Ophthal-mologyC109:1834-1837,C20023)FujitaCK,CImamuraCY,CShinodaCKCetal:One-yearCout-comesCwithChalf-doseCvertepor.nCphotodynamicCtherapyCforchroniccentralserouschorioretinopathy.Ophthalmolo-gyC122:555-561,C2015PDT前136912(月)図4ベルテポルフィン半量光線力学的療法(PDT)前後の低輝度視力(文献C11より改変引用)4)BaranCNV,CGurluCVP,CEsginH:Long-termCmacularCfunc-tionCinCeyesCwithCcentralCserousCchorioretinopathy.CClinCExpOphthalmolC33:369-372,C20055)FujitaCK,CImamuraCY,CShinodaCKCetal:Quanti.cationCofCmetamorphopsiaCinCchronicCcentralCserousCchorioretinopa-thyCafterChalf-doseCvertepor.nCphotodynamicCtherapy.CRetinaC34:964-970,C20146)HayashidaM,MikiA,NakaiSetal:PredictivefactorsofmetamorphopsiaCafterCreduced-.uenceCphotodynamicCtherapyCinCpatientsCwithCcentralCserousCchorioretinopathyCwithgoodbaselinevisualacuity.PLoSOne15:e0240557,C20207)FujitaCK,CShinodaCK,CImamuraCYCetal:CorrelationCofCintegrityofconeoutersegmenttipslinewithretinalsen-sitivityCafterChalf-doseCphotodynamicCtherapyCforCchronicCcentralserouschorioretinopathy.AmJOphthalmolC154:C579-585,C20128)OjimaY,TsujikawaA,HangaiMetal:RetinalsensitivitymeasuredCwithCtheCmicroCperimeterC1CafterCresolutionCofCcentralserouschorioretinopathy.AmJOphthalmolC146:C77-84,C20089)SugiuraCA,CFujinoCR,CTakemiyaCNCetal:TheCassociationCbetweenCvisualCfunctionCandCretinalCstructureCinCchronicCcentralserouschorioretinopathy.SciRepC24:16288,C201710)FujitaK,ShinodaK,MatsumotoCSetal:Lowluminancevisualacuityinpatientswithcentralserouschorioretinop-athy.ClinExpOptomC96:100-105,C201311)FujitaCK,CShinodaCK,CImamuraCYCetal:ImprovementCofClowCluminanceCvisualCacuityCinCpatientsCwithCchronicCcen-tralCserousCchorioretinopathyCafterChalf-doseCvertepor.nCphotodynamictherapy,JClinMedC9:3980,C2020網膜.離吸収ellipsoidzoneの連続性interdigitationzoneの連続性78.2cd/m231.87cd/m211.37cd/m24.14cd/m21.3cd/m20.7cd/m2網膜.離吸収,ellipsoidzoneおよびinterdigitationzone連続性の割合(%)***(106)

傾斜乳頭

2022年10月31日 月曜日

《第10回日本視野画像学会シンポジウム》あたらしい眼科39(10):1390.1395,2022c傾斜乳頭澤田有国立病院機構あきた病院眼科CTiltedDiskYuSawadaCDepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganizationAkitaHospitalCはじめに視神経乳頭は本来やや縦長の楕円形をしているが,近視眼では変形し,半月状の傾斜乳頭を呈する.近視眼において傾斜乳頭が発生する機序は,眼球の伸長に伴って視神経乳頭が耳側へ牽引され,乳頭の耳側が平坦化して鼻側が隆起することによると考えられている1).傾斜乳頭では,組織の耳側牽引に伴い,乳頭周囲の網脈絡膜層にずれが生じ,内層のBruch膜が外層の前強膜から耳側へ偏位する.これにより,視神経乳頭の耳側にCBruch膜のないCg-zone乳頭周囲脈絡網膜萎縮が生じ,Bruch膜と前強膜が重なっている部分が半月状の傾斜乳頭として認識されるようになる.CI近視眼緑内障の傾斜乳頭では乳頭耳側辺縁に複数の篩状板欠損が生じている近視眼の傾斜乳頭では,緑内障を生じていなくても,耳側辺縁の篩状板と強膜の間に小さな裂け目が複数生じている(図1)2).篩状板とは,視神経乳頭の奥の強膜に隣接する組織で,多数の穴の開いた,「ふるい(篩)」のような構造をしている3).網膜神経節細胞の軸索は,乳頭に達するとC90°向きを変え,篩状板の孔の中を通過し,視神経を形成して視中枢へと向かう.緑内障眼ではこの篩状板が変形し,その中を通過する軸索が障害されて,対応する部分の視野が障害される.近視眼において,眼軸伸長による視神経乳頭を耳側へ牽引する力が閾値を超えた場合,組織接合の弱い強膜と篩状板の間が解離して亀裂が生じることが考えられる(図1).一般に緑内障眼では,大きな篩状板の孔に,より大きな張力がかかることが知られており,近視眼に緑内障が生じた場合,乳頭耳側の亀裂部分により大きな張力がかかることが考えられる.亀裂周囲の組織は浸食され,亀裂は拡大して篩状板欠損の基準を満たすようになり,欠損部分を通過する軸索は,構造上・機能上のサポートを失って障害される.近視眼緑内障C133眼〔平均眼軸C25.99Cmm,Humphrey視野検査の平均Cmeandeviation(MD)値.10.41CdB〕を調べたところ,そのC90%に少なくとも一つの篩状板部分欠損がみられた(図2)2).1眼における篩状板欠損の数は平均C3.8個で,そのうちC2.8個(73.7%)は視神経乳頭の耳側領域にみられた(図2).一般に,緑内障眼における篩状板欠損は,視神経乳頭の耳下側に,1眼に一つみられることが多いが,これと比較して,乳頭耳側辺縁の複数の篩状板欠損は,近視眼緑内障に特徴的な構造変化といえる.近視眼緑内障における篩状板部分欠損の数は,視神経乳頭の傾斜比とCMD値に相関しており,乳頭傾斜が大きく,また,視野障害が重篤な眼ほど多くの欠損がみられる3).これは,乳頭傾斜の大きい眼はより多くの篩状板欠損を有し,結果的に強い軸索障害と視野障害を生じる可能性があることを示唆している.CII傾斜乳頭における耳側篩状板欠損は近視眼緑内障に多くみられる傍中心暗点に対応している近視眼緑内障では早期から傍中心暗点を生じるケースがあることが知られており,これは,一般に緑内障では中心視野が末期まで保たれるのとは異なっている.これを篩状板欠損という観点からみてみると,近視眼緑内障における乳頭耳側辺縁の篩状板欠損は,耳側網膜の菲薄化と,それに伴う傍中心暗点に対応しているといえる(図3)2).近視眼緑内障を,傍中心暗点のある眼とない眼に分けて比較すると,傍中心暗点のある眼では視神経乳頭の傾斜角が有意に大きく,乳頭耳側セクターにおける篩状板欠損の数が有意に多かった(図3)3).このことは,視神経乳頭の傾斜に伴って乳頭耳側縁に篩状板欠損が生じ,そこを通過する乳頭黄斑線維束が障害さ〔別刷請求先〕澤田有:〒018-1393秋田県由利本荘市岩城内道川字井戸ノ沢C84-40国立病院機構あきた病院眼科Reprintrequests:YuSawada,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganizationAkitaHospital,84-40Idonosawa,Irojonai-do,YurihonjoCity,Akita018-1393,JAPANC1390(98)図1傾斜乳頭の耳側辺縁における篩状板と強膜の間の亀裂近視眼の傾斜乳頭(Ca~c)では,視神経乳頭の耳側辺縁に小さな裂け目が複数生じている.提示症例はCcpRNFL厚(Cd)と視野(Ce)が正常範囲の,緑内障を生じていない近視眼である.この眼の視神経乳頭をCcに示すラインでCOCTスキャンしてみると,強膜と篩状板の間に小さな亀裂がC5個みられた(Cf~j).近視緑内障眼(n133)性別(male/female)73/60年齢(yrs)52.5±13.4IOP未治療時(mmHg)19.7±5.6最終検査時(mmHg)14.6±3.1等価球面度数(diopter)-6.15±2.31眼軸長(mm)25.99±1.14CCT(μm)524.9±32.0視神経乳頭回旋角(度)4.4±8.8傾斜角(度)1.28±0.26Meandeviation(dB)-10.41±7.85篩状板欠損が一つ以上ある眼の割合(%)90.0一眼における平均の篩状板欠損数3.8±3.0近視眼緑内障(n=133)1眼における平均篩状板欠損数:3.8上方:0.4defects耳側:鼻側:2.8defects0.1defects下方:0.5defects図2近視眼緑内障の対象背景と篩状板部分欠損の視神経乳頭内における位置近視眼緑内障C133眼において,少なくともC1個の篩状板欠損が確認された眼はC90%であった.1眼における平均欠損数はC3.8個で,このうちC2.8個(73.7%)は視神経乳頭の耳側周辺にみられた.(文献C2より改変引用)傍中心暗点(+)傍中心暗点()(n35)(n37)pvalue眼軸長(mm)26.02±1.0825.90±0.950.6168視神経乳頭回旋角(度)5.4±9.30.9±11.90.0713傾斜角(度)9.2±4.37.0±3.10.0083Meandeviation(dB)-5.26±2.95-4.55±2.890.2791篩状板欠損の数3.7±2.52.6±2.00.0252視神経乳頭耳側セクターにある2.9±2.01.7±1.5篩状板欠損の数0.0020図3近視眼緑内障における傍中心暗点とそれに対応する耳側乳頭の篩状板部分欠損この近視眼緑内障症例は,Caに示すような傾斜乳頭を呈し,耳側CcpRNFLの菲薄化とそれに対応する傍中心暗点がみられた.IR画像に示すように,視神経乳頭の耳側・耳上側辺縁には,cpRNFLの菲薄化に一致する部分にC3個の篩状板欠損がみられ(Cbの白い点線),OCT断面像では篩状板と強膜の間の組織欠損がみられた(Cf~h).近視緑内障眼を傍中心暗点のある眼とない眼に分けて比較すると,傍中心暗点のある眼では神経乳頭の傾斜角が有意に大きく,乳頭耳側セクターの篩状板欠損の数が有意に多く,視神経乳頭の傾斜に伴って乳頭耳側縁に篩状板欠損が生じ,乳頭黄斑線維束が障害されて傍中心暗点を生じることを示唆している.(文献C2より改変引用)患者:62歳,男性SE:-3.5D眼軸長:26.07mm眼圧:初診時15.0mmHg,経過観察期間平均14.3mmHgMD-6.98dB,PSD11.65dB2017年図4Oval型篩状板欠損耳側傾斜・下方回旋している視神経乳頭の耳下側縁にみられる楕円形の大きな篩状板欠損で,それに対応する上方の視野欠損を伴っている.提示症例において,眼圧は未治療時C15CmmHg,経過観察期間平均C14.3CmmHgとあまり下降していなかったが,視野障害はC7年間ほとんど進行しなかった.OCTのCIR画像では,視神経乳頭の耳下側縁(白い点線で囲んだ部分)に大きなCoval型の篩状板欠損を認め,OCT断層画像では,その部分に楔状の組織欠損が確認された.cpRNFL厚は,篩状板欠損に接する耳下側で菲薄化しており,上方の視野障害に対応していた.これは,乳頭耳下側縁の篩状板欠損部を通過する軸索が障害され,対応する上方視野障害が生じたことを示唆している.れて傍中心暗点が発生することを示唆している.の視神経乳頭の耳側に,乳頭の拡張によって裂けたような放射状の切れ込みとして観察され,傍中心暗点を伴っているCIII近視眼緑内障のなかには非進行性の緑内障様視野(図5).Oval型は近視眼緑内障のC10.2%に,radial型は3%障害を呈する近視眼が含まれているにみられ,oval型のほうが頻度が高かった.また,眼軸長近視眼緑内障のなかには,眼圧下降の有無にかかわらず進は,oval型で平均C25.9Cmmと必ずしも強度近視でなかった行しないケースがあることが以前より指摘されていた.筆者のに対し,radial型は平均C26.56Cmmと,より近視の強い眼らは同様の近視症例を経験し,その篩状板を光干渉断層計にみられた.これらの眼のC7年間の平均CMDslopeはC.(opticalCcoherencetomography:OCT)を用いて観察した0.05dB/年で,非進行性と考えられた.ところ,視野障害に対応する部分に特徴的な篩状板欠損を見これらの篩状板欠損とそれに対応する視野欠損は,緑内障つけ,それらをその形よりCoval型・radial型と名づけた4).よりも,むしろ近視性視神経乳頭変形に関係する可能性が考Oval型篩状板欠損は,耳側傾斜・下方回旋している近視眼えられた.それは,平均眼圧下降率がC12.9%と,緑内障の視神経乳頭の耳下側縁にみられ,上方の視野欠損を伴ってい進行を停止するには低い割合であったことと,特徴的な近視る(図4).Radial型篩状板欠損は,傾斜の少ないほぼ円形性視神経乳頭変形を呈していたことによる.患者:43歳,女性SE:-6.75D眼軸長:26.59mm眼圧:初診時16.0mmHg,経過観察期間平均14.0mmHg2009非近視眼近視眼図6Oval型篩状板欠損の発症機序(仮説)Oval型篩状板欠損は,耳側傾斜・下方回旋している視神経乳頭の耳下側縁という,これらの近視性乳頭変形によってもっとも大きな張力を受ける部分に生じていたことから,張力が大きくなり限界を超えたときに組織が裂けて生じたと考えられる.篩状板欠損部位は緑内障によって障害される部位と同じであるため,緑内障様の視野障害を生じ,成人となり近視性眼球変形の進Oval型篩状板欠損行が停止すると,視野進行も停止して非進行性となることが考えられる.Oval型篩状板欠損の発生機序は以下のように考えられる(図6).篩状板欠損は,耳側傾斜・下方回旋している視神経乳頭の耳下側縁という,これらの近視性乳頭変形によってもっとも大きな張力を受ける部分に生じていたことから,張力が大きくなって限界を超えたときに組織が裂けて欠損となったと考えられた.篩状板欠損部位は緑内障によって障害される部位と同じであるため,緑内障様の視野障害を生じ,成人となり近視の進行が停止すると,視野進行も停止して非進行性となったと考えられた.近視は緑内障発症の危険因子であるが,進行の危険因子ではないといわれている5).これは,近視眼緑内障と診断されたなかに,近視性視神経乳頭変形によって生じた,非進行性の緑内障様視野障害を呈する眼が含まれており,平均して進行が遅く算定されることが原因の一つである可能性がある.一方で,近視緑内障眼の多くは正常眼圧緑内障であり,もともと進行が遅いことも考えられる.近視と緑内障進行の関係については,前向き研究を含めた今後の研究が必要と思われる.文献1)KimM,ChoungHK,LeeKMetal:LongitudinalchangesofCopticCnerveCheadCandCperipapillaryCstructureCduringCchildhoodCmyopiaCprogressionConOCT:BoramaeCMyopiaCCohortCStudyCReportC1.COphthalmologyC125:1215-1223,C20182)SawadaY,AraieM,IshikawaMetal:MultipletemporallaminacribrosadefectsinmyopiceyeswithglaucomaandCtheirCassociationCwithCvisualC.eldCdefects.COphthalmologyC124:1600-1611,C20173)QuigleyHA,HohmanRM,AddicksEMetal:Morpholog-icCchangesCinCtheClaminaCcribrosaCcorrelatedCwithCneuralClossCinCopen-angleCglaucoma.CAmCJCOphthalmolC95:673-691,C19834)SawadaY,AraieM,KasugaHetal:Focallaminacribro-saCdefectCinCmyopicCeyesCwithCnonprogressiveCglaucoma-tousCvisualC.eldCdefect.CAmCJCOphthalmolC190:34-49,C20185)SohnCSW,CSongCJS,CKeeC:In.uenceCofCtheCextentCofCmyopiaConCtheCprogressionCofCnormal-tensionCglaucoma.CAmJOphthalmolC149:831-838,C2010***