《第10回日本視野画像学会シンポジウム》あたらしい眼科39(10):1386.1389,2022c前視野緑内障のOCT所見─緑内障の超早期診断をめざして竹本大輔金沢大学医薬保健研究域医学系眼科学COCTFindingstoDetectPreperimetricGlaucomaattheVeryEarlyStageDaisukeTakemotoCDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofMedicine,KanazawaUniversityCはじめに広義原発開放隅角緑内障は,加齢がリスク因子の慢性進行性疾患であり,今後ますます高齢化が進む社会において,一人でも多くの緑内障患者が「生涯現役」の視機能を実現できるよう,われわれは治療戦略を考えなければならない.そのためには,緑内障をより早期の時点から診断し,適切な時期に治療介入を行うことが必要となる.緑内障の早期診断法の探求は,緑内障の本質に迫りたいという学究的観点にとどまらず,このような社会的背景からみても緑内障臨床研究の重要なテーマの一つといえる.緑内障の診断は,眼科医による眼底所見の読影と視野障害の確認という方法がゴールデンスタンダードであり,その重要性が揺らぐことはないが,近年,光学的診療機器,とくに光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)のめざましい発展に支えられ,緑内障診療におけるCOCTの役割の重要性が増している.とくに,視野障害が出現する以前のいわば「緑内障予備軍」ともいうべき病態である前視野緑内障(preperimetricCglaucoma:PPG)についてますます注目が集まっており,緑内障分野の大きなトピックの一つになっている.本稿では,PPGのCOCT所見の解釈に必要な基礎事項と,より早期発見をめざした最近の話題について解説する.CI検査の特性を理解する緑内障の本態は,網膜神経節細胞の細胞体および軸索の進行性消失に起因する視神経障害と考えられており,OCTによってこれらを早期の段階から定量的に評価できる.具体的には,視神経乳頭周囲および黄斑部の網膜内層厚を測定し,セクター内の平均厚によって評価する.C1.視神経乳頭周囲解析視神経乳頭周囲は,眼内においてすべての網膜神経線維が集合している唯一の箇所であり,緑内障評価においてこの部位を解析部位として選択することは直観的にはもっとも自然と思われる.評価にはこの場所においてもっとも厚みを増す網膜神経線維層(circumpapillaryCretinalCnerveC.berlayer:cpRNFL)を通常用いる.こうした背景から,乳頭周囲は黄斑部解析よりも感度の高い緑内障評価ができると考えがちであるが,PPGのような早期例に関しては一概にそうともいえないようだ.PPGのような早期例の網膜神経線維層欠損(nerve.berlayerdefect:NFLD)は幅が狭く,かつ浅い傾向があり,セクター別厚み解析では周囲の正常部位によって平均化されてしまい異常が検出されにくいことが考えられる1).これを克服するため,セクター分類をより細分化するといった工夫がなされる2).C2.黄斑部解析黄斑部の最大の利点の一つは,乳頭周囲と比べて対象眼の個体差が現れにくいため(図1),標準化に優れていることである.測定範囲をさらに黄斑部近傍に限定することで,網膜血管などの影響を極力減らすことができる.その一方で,視神経乳頭周囲と異なり解析範囲を限定しているため,解析範囲外の病変を見逃してしまうこと(偽陰性)がデメリットとしてあげられる.黄斑部の評価には,黄斑部網膜神経線維層(macularreti-nalnerve.berlayer:mRNFL),網膜神経節細胞/内網状層(ganglionCcelllayer/innerCplexiformClayer:GCL/IPL),そして両者を合算した網膜神経節細胞複合体(ganglioncellcomplex:GCC)の三つの層の厚み測定が汎用されている.これら三つの層の使い分けについて考えたい.一般的にはGCLは黄斑部近傍でもっとも厚くなり,逆にCRNFLは乳頭周囲がもっとも厚く黄斑部近傍では相対的に薄くなることが知られている3).そもそもの厚みが大きいほうが検出力を上げるには有利であると考えられ,既報4)によれば,解析範囲〔別刷請求先〕竹本大輔:〒920-8641石川県金沢市宝町C13-1金沢大学医薬保健研究域医学系眼科学Reprintrequests:DaisukeTakemoto,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofMedicine,KanazawaUniversity,13-1Takara-machi,Kanazawa,Ishikawa920-8641,JAPANC1386(94)円形の乳頭小乳頭乳頭周囲網脈絡膜萎縮図1乳頭周囲および黄斑のバリエーションの例上図と下図はそれぞれ同一眼である.乳頭周囲のバリエーションの多さに対して,黄斑は比較的標準化しやすいと考えられる.を黄斑部近傍とする場合はCGCL/IPLを用いるのがよく,それよりもやや周辺を解析範囲とする場合はCRNFLが有利である.GCCはこれらを「いいとこ取り」した指標で,黄斑部9×9mmや12C×9Cmmスキャンなどの広範囲測定で用いる際に便利である.検査の選択とその解釈の際には,このような特性を理解しておく必要がある.CIIより早期発見をめざしてその1─ClusterCriteriaこのように網膜内層の平均厚によって定量的評価が可能であるが,厚みの減少がどの程度あれば緑内障性といえるのかを示した明確な基準はない.というのも,正常群とCPPG群の間では内層厚のオーバーラップが無視できないレベルで存在し,これらを単に平均厚のみで機械的に鑑別することは困難だからである.すなわちCPPGの微細な変化を捉えるには平均値を用いるだけでは大雑把すぎる.そこで,格子確率マップでの異常点とその連続性を考慮に入れた“ClusterCriteria”の概念によって,診断基準を明瞭に示した報告5)を紹介したい.トプコン社製COCTでは黄斑部C3D解析レポート内に黄斑部C6C×6Cmm内で10C×10Cgridsの格子確率マップ(signi.cancemap)が表示され,厚みが正常眼のC5パーセンタイル未満であれば黄色,1パーセンタイル未満であれば赤色で示される.ClusterCriteriaは,RNFLとCGCL/IPLにおいて定義され,GCL/IPLであれば「少なくともC3点が連続して赤であれば陽性」と定義され,平均厚を用いた判定よりも高いCPPG判定能が証明されている.この指標は日常図2ClusterCriteriaが判定に有用だったPPG眼の例GCL/IPL(GCL+)をみると,平均厚は異常ないが,ClusterCriteriaが陽性である(.).眼底写真では下方にやや幅狭のNFLDが確認される.なお,最下段のCasymmetrymapでは上下非対称性が明瞭にみられている.診療においても使用が簡便であり,近視眼でない標準的な眼の緑内障判定には非常に有効であると筆者は感じている.自験例を図2に示す.図3PPG眼の経過の1例2017年には眼底写真にC→で示すCNFLDがみられ,ClusterCriteria陽性ならびに上半分平均網膜厚菲薄化がみられる.2013年に遡るとこれらの徴候はまだみられていないが,それらを先取りするように当該部位に上下非対称性がすでに明瞭にみられ,二つの上下非対称性指標はカットオフ値(YoudenIndex法によりそれぞれC4.4Cμm,4個と算出)を上回っている.さらにC2010年まで遡ると上下非対称性はまだ出現していない.IIIより早期発見をめざしてその2─上下非対称性さらに早期発見をめざした,黄斑部の「上下非対称性」に着目した方法を紹介する.上下非対称性は,網膜内層の厚みそれ自体を評価するのではなく,その上下差を評価する.一般的に,緑内障性変化を生じた視神経乳頭では,陥凹拡大は乳頭の上下どちらかにより強く生じる.上下非対称性の検出は緑内障早期のこの性質を利用した方法で,シンプルでかつ理にかなっていると考えられる.PPGまたは早期緑内障に対して,良好な診断能がこれまでに数多く報告されている6.16).筆者らの最近の検討17)を以下に紹介する.トプコン社製COCTでの黄斑部C6C×6Cmm内の中央C6C×8Cgridsで,上下で対応するC24対のピクセル間での内層厚各層の上下差を算出し,これらの値からC2種類の上下非対称性指標(①上下差の絶対値の平均値,②上下差がある値CXCμm以上のピクセルの個数)を求めた.また,Xの最適値も同時に求めた.結果は,3層のうちCGCL/IPLの上下非対称性指標を用いた診断能がもっとも高く,その上下差CXはC8Cμmが最適値であった.GCL/IPLの上下非対称性指標は,平均厚およびCClusterCriteriaよりも有意にCPPG診断能が高かった.これらの結果から,黄斑部CGCL/IPLの上下非対称性がCOCTで現れる緑内障の最初の徴候ではないかと推察している.自験例を図3に示す.しかし,上下非対称性が有効ではない可能性を示唆する報告18)もあり,以下にそれを紹介する.PPGを含めた早期緑内障を,眼底写真でのCNFLDの位置により,上半網膜障害(下半視野障害)タイプと下半網膜障害(上半視野障害)タイプに分別し,それらの上下非対称性を検討したところ,下半網膜障害タイプでは上下非対称が明瞭であったものの,上半網膜障害タイプでは非障害側(すなわち下半網膜)も網膜内層厚は減少しており上下非対称は現れにくかった.すなわち,上半網膜障害タイプではびまん性に網膜内層が菲薄化する傾向があるため,上下非対称性に着目していても病初期の変化を見逃す可能性について言及している.そもそもの眼底の上下対称性を前提とした緑内障進行様式の議論に対して疑問を投げかけ,下方網膜の組織脆弱性を提唱したCHoodらの仮説19,20)を一部支持する結果とも解釈できる大変興味深い報告である.障害部位による緑内障進行様式の違いについては,現在活発な議論が行われている.おわりにPPGでは,微細な眼底の構造変化のみをもって緑内障性か否かを判断せねばならない場合があり,その診断はときにむずかしいものとなる.OCTは,PPGを含めた初期緑内障診療の非常な強力なツールであるが,紛らわしい所見を示す例もあり,扱い方を誤ると早合点によって,かえって誤診や見逃しが容易に発生してしまうことを認識すべきである.視神経乳頭およびその周囲の立体的観察という緑内障の眼底評価の原点をおろそかにしてはならない.文献1)NukadaCM,CHangaiCM,CMoriCSCetal:ImagingCofClocalizedCretinalCnerveC.berClayerCdefectsCinCpreperimetricCglauco-maCusingCspectral-domainCopticalCcoherenceCtomography.CJGlaucomaC23:150-159,C20142)JeoungCJW,CParkKH:ComparisonCofCCirrusCOCTCandCStratusCOCTConCtheCabilityCtoCdetectClocalizedCretinalCnerveC.berClayerCdefectsCinCpreperimetricCglaucoma.CInvestOphthalmolVisSciC51:938-945,C20103)OotoCS,CHangaiCM,CTomidokoroCACetal:E.ectsCofCage,Csex,CandCaxialClengthConCtheCthree-dimensionalCpro.leCofCnormalCmacularClayerCstructures.CInvestCOphthalmolCVisCSciC52:8769-8779,C20114)NakataniCY,CHigashideCT,COhkuboCSCetal:In.uencesCofCtheinnerretinalsublayersandanalyticalareasinmacularscansbyspectral-domainOCTonthediagnosticabilityofearlyCglaucoma.CInvestCOphthalmolCVisCSciC55:7479-7485,C20145)KanamoriA,NakaM,AkashiAetal:Clusteranalysesofgrid-patternCdisplayCinCmacularCparametersCusingCopticalCcoherenceCtomographyCforCglaucomaCdiagnosis.CInvestCOphthalmolVisSciC54:6401-6408,C20136)NakanoN,HangaiM,NakanishiHetal:Maculargangli-onCcellClayerCimagingCinCpreperimetricCglaucomaCwithCspeckleCnoise-reducedCspectralCdomainCopticalCcoherenceCtomography.OphthalmologyC118:2414-2426,C20117)UmCTW,CSungCKR,CWollsteinCGCetal:AsymmetryCinChemi.eldmacularthicknessasanearlyindicatorofglau-comatousCchange.CInvestCOphthalmolCVisCSciC53:1139-1144,C20128)SeoCJH,CKimCTW,CWeinrebCRNCetal:DetectionCofClocal-izedCretinalCnerveC.berClayerCdefectsCwithCposteriorCpoleCasymmetryCanalysisCofCspectralCdomainCopticalCcoherenceCtomography.CInvestCOphthalmolCVisCSciC53:4347-4353,C2012C9)Sullivan-MeeCM,CRueggCCC,CPensylCDCetal:DiagnosticCprecisionCofCretinalCnerveC.berClayerCandCmacularCthick-nessasymmetryparametersforidentifyingearlyprimaryopen-angleCglaucoma.CAmCJCOphthalmolC156:567-577,C201310)KawaguchiCC,CNakataniCY,COhkuboCSCetal:StructuralCandCfunctionalCassessmentCbyChemisphericCasymmetryCtestingCofCtheCmacularCregionCinCpreperimetricCglaucoma.CJpnJOphthalmolC58:197-204,C201411)YamadaH,HangaiM,NakanoNetal:Asymmetryanaly-sisofmacularinnerretinallayersforglaucomadiagnosis.AmJOphthalmolC158:1318-1329,C201412)KimYK,YooBW,KimHCetal:Automateddetectionofhemi.eldCdi.erenceCacrossChorizontalCrapheConCganglionCcell-innerCplexiformClayerCthicknessCmap.COphthalmologyC122:2252-2260,C201513)KhanalCS,CDaveyCPG,CRacetteCLCetal:IntraeyeCretinalCnerve.berlayerandmacularthicknessasymmetrymea-surementsCforCtheCdiscriminationCofCprimaryCopen-angleCglaucomaCandCnormalCtensionCglaucoma.CJCOptometryC9:C118-125,C201614)LeeCSY,CLeeCEK,CParkCKHCetal:AsymmetryCanalysisCofCmacularCinnerCretinalClayersCforglaucomaCdiagnosis:CSwept-SourceCOpticalCCoherenceCTomographyCStudy.CPLoSOneC11:e0164866,C201615)Shari.pourF,MoralesE,LeeJWetal:VerticalmacularasymmetrymeasuresderivedfromSD-OCTfordetectionofCearlyCglaucoma.CInvestCOphthalmolCVisCSciC58:4310-4317,C201716)ChenMJ,YangHY,ChangYFetal:Diagnosticabilityofmacularganglioncellasymmetryinpreperimetricglauco-ma.BMCOphthalmolC19:12,C201917)TakemotoCD,CHigashideCT,COhkuboCSCetal:AbilityCofCmacularinnerretinallayerthicknessasymmetryevaluat-edbyopticalcoherencetomographytodetectpreperimet-ricglaucoma.TranslVisSciTechnolC9:8,C202018)SaitoH,IwaseA,AraieM:Comparisonofretinalgangli-onCcell-relatedClayerCasymmetryCbetweenCearlyCglaucomaCeyesCwithCsuperiorCandCinferiorChemiretinaCdamage.CBrJOphthalmolC104:655-659,C202019)HoodCDC,CRazaCAS,CdeCMoraesCCGCetal:TheCnatureCofCmacularCdamageCinCglaucomaCasCrevealedCbyCaveragingCopticalCcoherenceCtomographyCdata.CTranslCVisCSciCTech-nolC1:3,C201220)HoodCDC,CSlobodnickCA,CRazaCASCetal:EarlyCglaucomaCinvolvesCbothCdeepClocal,CandCshallowCwidespread,CretinalCnerve.berdamageofthemacularregion.InvestOphthal-molVisSciC55:632-649,C2014***