抗VEGF薬の副作用AdverseEventsAssociatedwiththeUseofAnti-VEGFDrugs片岡恵子*はじめに血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthCfac-tor:VEGF)は発生および生体の維持に必要不可欠の因子である.また,虚血や炎症などにより誘導されると血管漏出や病的な新生血管を生じる因子でもある.抗VEGF薬の登場は,加齢黄斑変性や糖尿病黄斑浮腫をはじめとする黄斑疾患や新生血管緑内障や未熟児網膜症などの治療を劇的に改善し,今では臨床現場に必要不可欠な治療薬となった.実臨床で使用する機会が増えた薬剤ではあるが副作用も存在するため,本稿では全身副作用および眼内炎症について解説する.CI抗VEGF薬の全身副作用抗CVEGF薬は従来から抗癌剤として全身投与が行われている薬剤であり,抗CVEGF薬の全身投与における副作用はいくつか報告されている1).抗CVEGF薬は血管内皮細胞での一酸化窒素の産生を抑制することで高血圧を生じるとされる.腎臓の糸球体上皮細胞と血管内皮細胞に作用し蛋白尿を生じる.血管新生は創傷治癒の過程に必要不可欠であるが,抗CVEGF薬により創傷治癒が障害されることで外科手術後の創離開などの合併症の増加が報告されている.また,血栓傾向や心拍出量の低下,甲状腺機能低下などの内分泌機能の低下も報告されている.しかし,これらはすべて全身投与により長期間高濃度の抗CVEGF薬の暴露を受けた場合の副作用である.硝子体内に投与を行った場合,血中へ移行した抗VEGF薬の濃度は全身投与の場合のC1/1,000程度ときわめて低濃度である2).したがって,抗CVEGF薬の全身副作用の発生頻度もきわめて低いことが予想される.無作為化臨床試験のメタ解析を用いて抗CVEGF薬の硝子体内投与により全身副作用の発現が増加するかを調べた報告では,心筋梗塞や脳卒中などの心血管イベントや,それらによる死亡のリスクは増加しなかったと報告されており3),抗CVEGF薬の硝子体投与による副作用の発現頻度は著しく低いと考える.ただし,無作為化臨床試験に参加する被検者は比較的健康である可能性が高いことと,後ろ向き研究ではあるがC65歳以上の患者では抗VEGF薬投与後に脳梗塞のリスクがあがったという報告もあることから4),著しく全身状態が不良などのハイリスク患者に抗CVEGF薬の硝子体内投与を行う際には多少の留意が必要と思われる.現在発売されている抗CVEGF薬は,ラニビズマブ,アフリベルセプト,ブロルシズマブのC3種類と,VEGFとアンジオポエチンC2の両者を阻害するファリシマブがある.抗体には,抗原と結合するフラグメント(Fab領域)と結晶化フラグメントとよばれるCFc領域があり,Fc領域は体内での抗体の分解や腎臓からの除去を制御することで抗体の再利用,つまり抗体の血中濃度の維持に役立っている.抗CVEGF薬は抗体の構造を利用して作製された薬剤であるが,ラニビズマブとブロルシズマブはCFc領域をもたないため,血中から早期に分解および除去され,全身副作用を低減できると期待される(表*KeikoKataoka:杏林大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕片岡恵子:〒181-8611東京都三鷹市新川C6-20-2杏林大学医学部眼科学教室C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(57)C57表1抗VEGF薬の特徴薬剤構造Fc領域の有無抗体CVEGFFabFc領域ありラニビズマブCVEGFなしアフリベルセプトCVEGFFc領域ありブロルシズマブCVEGFなしファリシマブCVEGFAng-2改変したFc領域Fc領域は改変されている表2ブロルシズマブ関連眼内炎症の臨床的特徴症状検査所見<細隙顕微鏡検査>充血異物感・痛み充血前房細胞角膜後面沈着物前房蓄膿前部硝子体細胞<眼底検査>飛蚊症霧視視力低下硝子体混濁網膜出血,軟性白斑白鞘化した網膜血管網膜血管の蛇行,拡張視神経乳頭の発赤/腫脹<フルオレセイン蛍光造影>暗点視野欠損網膜血管からの蛍光漏出網膜血管の充盈遅延/欠損無灌流領域視神経乳頭からの蛍光漏出図1飛蚊症を自覚して来院したブロルシズマブ関連眼内炎症の一例白鞘化した網膜血管()と網膜出血()がみられる.表3ステロイド治療の例投与法薬剤注意点点眼0.1%ベタメタゾン点眼4回/日前房の炎症が強い場合は点眼回数の増量や散瞳薬の併用を考慮する眼圧上昇の可能性があるTenon.下注射トリアムシノロンアセトニドC20Cmg/0.5Cml眼圧上昇や白内障の増悪の可能性がある内服プレドニゾロン0.5mg/kg/日炎症所見に応じて漸減糖尿病や全身感染症の増悪の可能性がある-