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抗VEGF 薬の副作用

2023年1月31日 火曜日

抗VEGF薬の副作用AdverseEventsAssociatedwiththeUseofAnti-VEGFDrugs片岡恵子*はじめに血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthCfac-tor:VEGF)は発生および生体の維持に必要不可欠の因子である.また,虚血や炎症などにより誘導されると血管漏出や病的な新生血管を生じる因子でもある.抗VEGF薬の登場は,加齢黄斑変性や糖尿病黄斑浮腫をはじめとする黄斑疾患や新生血管緑内障や未熟児網膜症などの治療を劇的に改善し,今では臨床現場に必要不可欠な治療薬となった.実臨床で使用する機会が増えた薬剤ではあるが副作用も存在するため,本稿では全身副作用および眼内炎症について解説する.CI抗VEGF薬の全身副作用抗CVEGF薬は従来から抗癌剤として全身投与が行われている薬剤であり,抗CVEGF薬の全身投与における副作用はいくつか報告されている1).抗CVEGF薬は血管内皮細胞での一酸化窒素の産生を抑制することで高血圧を生じるとされる.腎臓の糸球体上皮細胞と血管内皮細胞に作用し蛋白尿を生じる.血管新生は創傷治癒の過程に必要不可欠であるが,抗CVEGF薬により創傷治癒が障害されることで外科手術後の創離開などの合併症の増加が報告されている.また,血栓傾向や心拍出量の低下,甲状腺機能低下などの内分泌機能の低下も報告されている.しかし,これらはすべて全身投与により長期間高濃度の抗CVEGF薬の暴露を受けた場合の副作用である.硝子体内に投与を行った場合,血中へ移行した抗VEGF薬の濃度は全身投与の場合のC1/1,000程度ときわめて低濃度である2).したがって,抗CVEGF薬の全身副作用の発生頻度もきわめて低いことが予想される.無作為化臨床試験のメタ解析を用いて抗CVEGF薬の硝子体内投与により全身副作用の発現が増加するかを調べた報告では,心筋梗塞や脳卒中などの心血管イベントや,それらによる死亡のリスクは増加しなかったと報告されており3),抗CVEGF薬の硝子体投与による副作用の発現頻度は著しく低いと考える.ただし,無作為化臨床試験に参加する被検者は比較的健康である可能性が高いことと,後ろ向き研究ではあるがC65歳以上の患者では抗VEGF薬投与後に脳梗塞のリスクがあがったという報告もあることから4),著しく全身状態が不良などのハイリスク患者に抗CVEGF薬の硝子体内投与を行う際には多少の留意が必要と思われる.現在発売されている抗CVEGF薬は,ラニビズマブ,アフリベルセプト,ブロルシズマブのC3種類と,VEGFとアンジオポエチンC2の両者を阻害するファリシマブがある.抗体には,抗原と結合するフラグメント(Fab領域)と結晶化フラグメントとよばれるCFc領域があり,Fc領域は体内での抗体の分解や腎臓からの除去を制御することで抗体の再利用,つまり抗体の血中濃度の維持に役立っている.抗CVEGF薬は抗体の構造を利用して作製された薬剤であるが,ラニビズマブとブロルシズマブはCFc領域をもたないため,血中から早期に分解および除去され,全身副作用を低減できると期待される(表*KeikoKataoka:杏林大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕片岡恵子:〒181-8611東京都三鷹市新川C6-20-2杏林大学医学部眼科学教室C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(57)C57表1抗VEGF薬の特徴薬剤構造Fc領域の有無抗体CVEGFFabFc領域ありラニビズマブCVEGFなしアフリベルセプトCVEGFFc領域ありブロルシズマブCVEGFなしファリシマブCVEGFAng-2改変したFc領域Fc領域は改変されている表2ブロルシズマブ関連眼内炎症の臨床的特徴症状検査所見<細隙顕微鏡検査>充血異物感・痛み充血前房細胞角膜後面沈着物前房蓄膿前部硝子体細胞<眼底検査>飛蚊症霧視視力低下硝子体混濁網膜出血,軟性白斑白鞘化した網膜血管網膜血管の蛇行,拡張視神経乳頭の発赤/腫脹<フルオレセイン蛍光造影>暗点視野欠損網膜血管からの蛍光漏出網膜血管の充盈遅延/欠損無灌流領域視神経乳頭からの蛍光漏出図1飛蚊症を自覚して来院したブロルシズマブ関連眼内炎症の一例白鞘化した網膜血管()と網膜出血()がみられる.表3ステロイド治療の例投与法薬剤注意点点眼0.1%ベタメタゾン点眼4回/日前房の炎症が強い場合は点眼回数の増量や散瞳薬の併用を考慮する眼圧上昇の可能性があるTenon.下注射トリアムシノロンアセトニドC20Cmg/0.5Cml眼圧上昇や白内障の増悪の可能性がある内服プレドニゾロン0.5mg/kg/日炎症所見に応じて漸減糖尿病や全身感染症の増悪の可能性がある-

網膜視神経に副作用を生じる薬剤

2023年1月31日 火曜日

網膜視神経に副作用を生じる薬剤SideE.ectsofSystemicDrugsontheRetinaorOpticNerve篠田啓*菅野順二*はじめに近年,診断技術の進歩や分子標的薬をはじめとする多くの抗癌剤の登場などによって,他科薬剤による眼科領域の副作用が増えている.処方科と診断する科が異なるために診療科間の連携がとくに重要であるが,同時に眼科医として一定の知識を日常的にアップデートしておきたい.ここでは,抗てんかん薬や,膠原病治療薬,糖尿病治療薬などの薬剤による眼部副作用について解説する.I抗てんかん薬ビガバトリン(サブリル)は2016年に承認された点頭てんかんに対する薬で,c-アミノ酪酸(GABA)という,脳神経の興奮を抑える抑制性神経伝達物質の分解を抑制してGABA濃度を高めることでてんかんを抑えるとされている.1999年に不可逆的な視野障害が報告されたが,本剤による視野障害誘発については今も議論が続いている1.3).視野障害の頻度は高くないものの不可逆性であり,米国ではtheRiskEvaluationandMitiga-tionStrategy(REMS)によって登録とモニター継続が必要とされている.わが国でも使用は登録医療機関のみに限られ,使用前と,使用中も定期的な眼科でのモニターが必要である.詳しくは日本眼科学会ホームページhttps://www.nichigan.or.jp/member/news/detail.html?itemid=138&dispmid=917を参照されたい.錐体機能障害と視神経萎縮を生じ,視野検査が困難な場合は網膜電図(electroretinogram:ERG)が有用である.また,近年はスペクトラルドメイン光干渉断層計(spectraldomainopticalcoherencetomography:SD-OCT)による神経線維厚の計測の有用性が報告されている4).II膠原病治療薬1.ヒドロキシクロロキン全身性エリテマトーデス(systemiclupuserythema-tosus:SLE)や皮膚エリテマトーデスに対するヒドロキシクロロキン(hydroxychloroquine:HCQ)(プラケニル)はわが国では2015年に承認された.SLE診療のガイドライン5)では「AmericanCollegeofRheumatology(ACR)改訂分類基準」(1997)もしくは「SystemicLupusInternationalCollaboratingClinics(SLICC)分類基準」(2012)を参考にSLEを診断したうえで,すべての患者にHCQ投与を考慮するとされているため,適応は広く使用者の数がますます増加すると予想される.本剤の副作用として網膜症が有名で1),わが国でも2021年に網膜症が報告された6)(図1).HCQは,網膜色素上皮細胞の代謝阻害によっておもに黄斑部の錐体に毒性を発現し,進行すると網膜障害は不可逆性で,投与中止後も進行しうるとされている7,8).2,000例を超える多数例での累積発症率の検討では治療開始後5年以内の発症はまれであるため,米国のガイドラインでは投与開始後5年目以降のスクリーニングが推奨されている9,10).また,近年の検査法を用いた網膜症診断の報告では,有*KeiShinoda&JunjiKanno:埼玉医科大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕篠田啓:〒350-0495埼玉県入間郡毛呂山町毛呂本郷38埼玉医科大学医学部眼科学教室0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(51)51右眼左眼29カ月図1ヒドロキシクロロキン(HCQ)網膜症の1例37歳,女性.全身性エリテマトーデスに対してCHCQ(プラケニル)をC200Cmg(4.4mg/実体重kg/日,4.4mg/理想体重kg/日)(うちC5カ月間C300Cmg/日に増量)(計C182Cg)内服時(治療開始後C29カ月時)に診断された網膜症.上段:HCQ中止時眼底カラー画像および眼底自家蛍光画像.中段:治療前,開始後C29カ月(HCQ投与中止時),中止後C17カ月のCSD-OCT画像.下段:治療前,開始後C29カ月,中止後C8カ月の中心視野.傍中心窩の網膜症を認め,中止後もやや進行している.ab図2経口血糖降下薬による黄斑浮腫の1例64歳,女性.問診で糖尿病治療薬としてピオグリタゾン(アクトス)を使用中と判明し,主治医と相談して薬剤を変更したところ,体重はC10kg減少し,眼瞼浮腫,黄斑浮腫も軽減した.Ca:眼科初診時の外眼部および左眼黄斑部断層画像.b:薬剤変更C1カ月後の同画像.(矢田眼科堀江英司先生のご厚意による)いては新たな発症はまれであるが,既存の黄斑浮腫が内服早期に増悪する可能性があるとされている(図2).CIV多発性硬化症治療薬スフィンゴシンC1リン酸(sphingosine1-phosphate:S1P)受容体阻害薬であるフィンゴリモド(イムセラ,ジレニア),a4b1インテグリン(veryClateantigen-4:VLA4)阻害薬であるナタリズマブ(タイサブリ),S1P受容体のサブタイプであるCS1P1とCS1P5に対する阻害薬であるシポニモド(メーゼント)の副作用として,急性網膜壊死,黄斑浮腫の報告がある1,15).黄斑浮腫の発症率はC0.3%,内服開始後C3カ月以内に多い.無症状例も多く,多発性硬化症そのものに伴うものであるという議論もある.治療は休薬であるが,ステロイドCTenon.下注射(sub-tenonCtriamcinoloneCacetonideCinjec-tion:STTA)や硝子体内注射(intravitrealCtriamcino-loneacetonideinjection:IVTA)の奏効例もある.CVコロナワクチン接種に関連したぶどう膜炎SARS-CoV-2ワクチンの投与後に発症したぶどう膜炎の報告が相ついでいる.海外では急性前部ぶどう膜炎が,わが国では原田病が多い.サルコイドーシス,ヘルペス感染症,多巣性脈絡膜炎や,ぶどう膜炎以外でも急性帯状潜在性網膜外層症(acuteCzonalCoccultCouterretinopathy:AZOOR),多発消失性白点症候群(multi-pleevanescentwhitedotsyndrome:MEWDS),中心性漿液性脈絡網膜症,acuteCmacularCneuroretinopa-thy,paracentralacutemiddlemaculopathy,角膜移植後の拒絶反応,視神経炎などが報告されている.mRNAによるCINF-c,CD4陽性T細胞,CD8陽性T細胞,などの炎症性因子やコルチコステロイドの誘導などを介した機序や,COVID-19患者は複数のタイプの自己抗体を発症する傾向があり,COVID-19ワクチン接種による既存の潜在的な自己免疫疾患を引き起こす可能性などが考えられている16).現在,日本眼炎症学会を中心とした,COVID-19ワクチン接種後の眼炎症性疾患発症実態調査が進行中である.VIエタンブトール視神経症結核および非結核性抗酸菌症に用いられるエタンブトール(ethambutol:EB)による視神経障害(図3)についての初めての報告は,1962年CCarrとCHenkindによるもので,わが国でもC1963年に原田らの報告をはじめとして多くの報告がされている.わが国の報告によると,EB視神経症の発生頻度はC0.44.6%(subclinicalにはC10%を超えるという報告もある),発症までの期間は2.6カ月が多いが,6カ月以上の例が多い,あるいは長いほどリスクも継続するとも報告されている17.21).1日投与量C25mg/kg/日,総量C100.400Cgで発症しやすく,危険因子としてC60歳以上,糖尿病,高血圧,腎障害,貧血などがある17.21).金嶋らは,EB内服開始目的で受診しC6カ月以上経過観察できたC152例を検討し,4例で視神経症を疑い内服を中止し,多くは視力および限界フリッカ値(criticalCfusionfrequency:CFF)の低下を認めたが,6カ月程度で自然に回復し,重篤な障害は残さなかったと報告している19).近年,非結核性抗酸菌症に対する長期投与例が増加しており,日本結核・非結核性抗酸菌症学会,日本眼科学会,日本神経眼科学会のC3学会合同で,呼吸器内科医がEB投与に際して行うべき眼科的副作用対策が協議され,EBによる視神経障害に関する見解が報告された22)(https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/resources/news/ethambutol.pdf).その骨子は,①投与前に早期発見のための最適な自己検査法,診察間隔,眼科医との連携について患者に十分に説明する.②投与中は定期的に眼科で評価を受ける.自覚症状がなければC1.3カカ月ごと,自身で毎日自己評価できる患者はC3カ月に一度,眼科で定期的に評価を受けることが早期発見に重要である.③検査内容は,視力検査(矯正視力)は必須で,視野検査も行う.必要に応じて,中心CCFF検査も行う.色覚検査(石原式),Amslerチャート(簡易な中心視野検査)も早期発見に有用である.というものである.CVIIその他経口避妊薬(低用量エストロゲン・プロゲストーゲン配合剤)による網膜静脈閉塞症1),エルゴタミン製剤(片54あたらしい眼科Vol.40,No.1,2023(54)図3エタンブトール視神経症の1例77歳,男性.3週間前からの霧視を主訴に来院.視力は右眼(0.15),左眼(0.1),限界フリッカ値は右眼C5CHz,左眼C5CHz.6カ月前からエタンブトール(エブトール)をC750Cmg/日(10Cmg/kg)内服中であることが判明.投与を中止したところ,4カ月後に視力は右眼(0.6),左眼(0.4)まで改善した.上段左:初診時右眼眼底写真.視神経蒼白所見は明らかではない.左眼も同様であった.上段右:右眼CGoldmann視野.中心暗点を認める.左眼も同様の所見であった.下段:初診時COCT所見.両眼とも神経節細胞複合体層の菲薄化を認める.(キッコーマン総合病院眼科平井千順先生のご厚意による)(55)あたらしい眼科Vol.40,No.1,2023C55-

癌治療薬に伴う網膜副作用

2023年1月31日 火曜日

癌治療薬に伴う網膜副作用RetinalAdverseEventsAssociatedwithSystemicAnticancerDrugs加藤久美子*松原央*はじめに近年,悪性腫瘍の治療法の進歩はめざましく,癌患者の5年生存率は向上している.悪性腫瘍に対する薬物治療は,悪性腫瘍切除後の転移巣の制御や再発防止を目的として行われる.薬物治療には化学療法,分子標的療法,ホルモン療法があり,いずれの治療法も全身および眼副作用を発症しうることが知られている(図1).本稿では,これらの薬物治療のうち,網膜副作用をきたしうるものについて述べる.I化学療法化学療法とは細胞障害性抗癌剤を用いた治療である.細胞増殖のしくみに着目し,その過程を阻害することで癌細胞の増殖を抑制する.細胞障害性抗癌剤は癌細胞だけではなく,正常な細胞の増殖を障害してしまうため副作用が発生する.網膜副作用を引き起こしうる細胞障害性抗癌剤は以下の通りである1).1.白金製剤代表的薬剤:シスプラチン,カルボプラチン,オキサリプラチン.作用機序:癌細胞のDNAに結合することでDNAの複製を阻害し,癌細胞のアポトーシスを誘導する.全身症状:骨髄抑制,悪心・嘔吐,腎障害,神経障害,聴覚障害.眼症状:網膜動脈閉塞症,視神経症,網膜虚血による視力低下,視野障害.検査所見:眼底検査では点状出血や硬性白斑を認める.網膜動脈閉塞を発症すると,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)で網膜内層の高反射化や網膜肥厚を呈する.発症機序:網膜あるいは視神経の微小血管が閉塞するためと考えられている.経過:発症は用量依存性で,しばしば不可逆的である.失明に至る場合もある.症例1:膀胱癌に対しシスプラチンとゲムシタビン投与を6コース施行した.眼底写真では網膜出血が散在し,網膜OCTでは網膜内層が高輝度となっていた(図2).シスプラチンによる網膜虚血と考えられた.2.微小管作用薬代表的薬剤:パクリタキセル,ドセタキセル.作用機序:細胞分裂の際に重要な役割を果たす微小管を阻害する.全身症状:白血球減少,末梢神経障害.投与時のアレルギー反応.眼症状:黄斑浮腫による視力低下.視神経症や角膜炎,ドライアイなどの副作用も報告されている.検査所見:OCTで両眼性の黄斑浮腫を認める.蛍光造影検査では造影剤の漏出は認められない.網膜電図検査ではsub-normalとなる.*KumikoKato&HisashiMatsubara:三重大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕加藤久美子:〒514-8507三重県津市江戸橋2-174三重大学医学部眼科学教室0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(43)43図1抗癌剤と眼副作用抗癌剤の種類と眼副作用が起こりうる場所を示した.図2シスプラチンに起因する網膜出血a:左眼底には出血が散在している.b:OCTでは網膜内層の高反射を認めた.発症部位初診時右眼左眼ab図3パクリタキセルによる黄斑浮腫a:初診時の眼底.明らかな異常を認めない.b:初診時のOCT.両黄斑浮腫を認めた.c:パクリタキセル中止後1カ月後のOCT.黄斑浮腫は消失した.パクリタキセル中止後1カ月初診時右眼左眼ab図4エンコラフェニブ・ビニメチニブによる漿液性網膜.離a:初診時の眼底.明らかな異常を認めない.b:初診時のOCT.両黄斑部に漿液性網膜.離を認めた.Cc:エンコラフェニブ・ビニメチニブ中止後C10日目のOCT.網膜下液は消失した.エンコラフェニブ・ビニメチニブ中止後10日目右眼左眼右眼左眼初診時1週間後2週間後4週間後図5ペムブロリズマブによる原田病様のぶどう膜炎a:初診時の眼底所見および蛍光造影検査.黄斑部を中心として漿液性網膜.離を認め,蛍光眼底造影では右眼において点状の蛍光漏出を認めた.b:OCTの経時的変化.治療開始後約C1カ月で漿液性網膜.離は消失した.初診時右眼左眼ab初診から約2年後図6ニボルマブ投与後2年で明らかとなった夕焼け眼底と睫毛の白毛化a:初診時および初診からC2年後の眼底写真.2年後には夕焼け眼底を呈していた.Cb:初診後C2年目の前眼部写真.睫毛は白毛化していた.初診時右眼左眼ab図7タモキシフェン投与後5年目に認められた網膜症a:初診時の眼底.明らかな異常を認めない.b:初診時のOCT.両眼の網膜内に.胞を認めた.Cc:タモキシフェン中止後C3カ月目のOCT..胞病変は左眼においてやや改善していた.中止後3カ月-

Stevens-Johnson 症候群

2023年1月31日 火曜日

Stevens-Johnson症候群Stevens-JohnsonSyndrome上田真由美*はじめにStevens-Johnson症候群(Stevens-JohnsonCsyn-drome:SJS)は,突然の高熱,結膜炎,皮膚の発疹に続いて,全身の皮膚・粘膜にびらんと水疱を生じる全身性の皮膚粘膜疾患である.中毒性表皮壊死症(toxicepi-dermalnecrolysis:TEN)は,SJSの重症型を含んだ病型であり,日本では皮疹の面積がC10%未満のものをSJS,それ以上のものをCTENとよんでいる1).薬剤が誘因となって発症すると考えられており,重症薬疹の一つである.重症薬疹とは,薬疹のなかでも臓器障害を併発し,生命に危険を及ぼす可能性のある薬疹のことをさす.SJSとCTENの発症率はC1年あたり百万人に数人で,大変まれな疾患であるが,小児を含めあらゆる年齢に発症する.SJSとCTENの眼所見は類似し,急性期ならびに慢性期をとおして,眼所見より両者を鑑別することは困難であること,また眼科では瘢痕性角結膜上皮症に至った慢性期の患者を診ることが多いことより,眼科ではSJSとCTENを併せて広義のCSJSと呼称している.CI原因薬SJS/TENの原因薬として,海外のおもに皮膚科医が中心となった研究では,抗痛風薬であるアロプリノール2)や,カルバマゼピン3)をはじめとする抗てんかん薬がよく報告されている.一方,厚生労働省の研究班の報告1)では,解熱鎮痛消炎薬(SJS14.6%,TEN16.8%)が抗菌薬に続いて二番目に多い被疑薬であり,総合感冒薬(SJS5.5%,TEN7.2%)と合せると,感冒時に処方される感冒薬が,抗菌薬を抜いてもっとも多い被疑薬となる.実際に,筆者らが京都府立医科大学附属病院眼科で診療している重篤な眼合併症を伴うCSJS/TEN患者の約C80%が,感冒様症状に対して病院で処方,あるいは市販の感冒薬を内服後に発症している.筆者らは,感冒薬が原因薬である場合は,他の薬剤と比べて重篤な眼合併症が生じやすいことも報告している4).また,海外の眼科医からの報告でも,重篤な眼後遺症を伴ったCSJS/TEN患者の原因薬としては感冒薬がもっとも多いことが示されている5~7).ただし,同じ解熱鎮痛消炎薬でも感冒様症状以外(たとえば,腰痛,関節リウマチなど)に対する処方をきっかけに発症している患者はほとんどいないため,感冒薬に加えて,感冒様症状のきっかけとなった何らかの微生物感染も同時に誘因になっている可能性があると考えている8).CII急性期の眼所見SJS/TEN全体における急性期の眼合併症発生率は,軽度の結膜炎を入れると約C70%であるが,眼後遺症につながるような重篤な眼合併症(偽膜と角結膜上皮欠損を伴う重度の結膜炎)の発生率は約C40%である4).眼科で診療するCSJS/TENは,皮膚科で診断されるCSJS/TENの一部であることに注意が必要である(図1).眼後遺症につながる重篤な眼合併症を伴うCSJS/TENの急性期の眼所見の特徴は,皮疹,粘膜疹とほぼ同時に*MayumiUeta:京都府立医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕上田真由美:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学眼科学教室C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(37)C37皮膚表皮.離の面積眼科で診療する広義のSJS粘膜病変あり粘膜病変なし図1皮膚科で診断されるStevens-Johnson症候群/中毒性表皮壊死症(SJS/TEN)における重篤な眼合併症を伴うSJS/TENの位置づけ図2眼後遺症を残す重篤な眼合併症を伴うSJS/TEN(SJS)の急性期の眼所見皮疹,粘膜疹とほぼ同時に両眼性の重度の結膜充血(Ca),角結膜上皮欠損(Cb),偽膜形成(Cc)を生じる.#:結膜上皮欠損,*:角膜上皮欠損.a.眼表面に広範囲の上皮欠損が生じ角膜上皮幹細胞が消失した場合b.眼表面の上皮欠損が少なく角膜上皮幹細胞が残存した場合図3急性期の角結膜上皮欠損と視力予後a:十分に眼表面の消炎がされないと急性期に角膜上皮幹細胞(輪部上皮の基底部に存在)が消失し,慢性期に角膜は結膜組織で被覆され混濁する.b:十分に消炎ができて角膜上皮幹細胞が残存した場合には,角膜はほぼ透明化する.図4重篤な眼合併症を伴うSJS/TEN(SJS)の眼後遺症重篤な眼合併症(重度の結膜炎,角結膜上皮欠損,偽膜)を生じたCSJS/TEN患者ほぼ全例に重篤なドライアイ(Ca)ならびに睫毛乱生(b)が生じる.瞼球癒着(Cc,d)や眼瞼の瘢痕化(Ce)を認めることも多い.重症例では,眼表面が皮膚のように角化する(Cf).C-

蛍光造影剤に伴う副作用とその対策

2023年1月31日 火曜日

蛍光造影剤に伴う副作用とその対策SideE.ectsAssociatedwithFluorescentAngiographicAgentsandTheirManagement松本英孝*はじめに現在,眼科領域で使用されている蛍光造影剤はフルオレセインとインドシアニングリーンである.これらを用いた蛍光造影検査では,一定の割合で副作用が起きることが知られている.本稿では,それぞれの蛍光造影剤の特徴をまとめ,副作用とその対策について解説する.I蛍光造影剤の特徴1.フルオレセインフルオレセインはフルオレサイト静注500mg1)としてノバルティスファーマから発売されている.1バイアル5.mlの赤色~黄赤色澄明の水性注射液である.通常,フルオレセイン200~500mgを肘静脈に注射する(留置針で静脈路を確保して側管から投与する).フルオレセインは血中で約80%が蛋白質(おもにアルブミン)と結合する.アルブミンと結合したフルオレセインは脈絡毛細血管板は透過するが,血液―網膜関門である網膜色素上皮と網膜血管は透過しない.フルオレセインの血中最大吸収波長は490nm付近で,最大蛍光波長は520~530nmであり,励起光,蛍光ともに網膜色素上皮に吸収されやすいため,脈絡膜血管の観察は困難である.網膜血管や網膜色素上皮の評価に有用である.静注されたフルオレセインは肝臓で代謝され,健常人では24時間以内に大部分は尿中に,一部は胆汁中に排泄される.このため,尿は変色する.また,フルオレセイン静注後1分以内に皮膚は黄染し,この変化は約2時間続く.禁忌として,フルオレセインに対して過敏症の既往歴のある患者,全身衰弱の患者,重篤な糖尿病の患者,重篤な心疾患のある患者,重篤な脳血流障害のある患者,妊婦または妊娠している可能性のある患者,肝硬変の患者があげられている.2.インドシアニングリーンインドシアニングリーンはオフサグリーン静注用25.mg2)として参天製薬から発売されている.1バイアル25mgの暗緑青色塊を添付の注射用水2mlで溶解する.通常,インドシアニングリーン25mgを肘静脈に注射する(留置針で静脈路を確保して側管から投与する).インドシアニングリーンは血中で約98%が蛋白質(おもにグロブリン分画のa1もしくはb-リポプロテイン)と結合し,脈絡毛細血管板は透過するが,血液―網膜関門である網膜色素上皮と網膜血管は透過しない.インドシアニングリーンの血中最大吸収波長は766nm,最大蛍光波長は826nmといずれも近赤外領域にある.近赤外領域の波長は網膜色素上皮で吸収されないため,脈絡膜の観察が可能である.網膜色素上皮の変化は検出されにくく,網膜の大血管は観察可能だが,毛細血管は観察困難なことが多い.静注されたインドシアニングリーンは血中から肝臓に選択的に取り込まれ,肝臓から胆汁中に高率かつ速やかに排泄される.禁忌として,インドシアニングリーンに対して過敏症の既往歴のある患者,ヨード過敏症の既往歴のある患者(薬剤にヨウ素が*HidetakaMatsumoto:群馬大学大学院医学系研究科脳神経病態制御学講座眼科学〔別刷請求先〕松本英孝:〒371-8511群馬県前橋市昭和町3-39-15群馬大学大学院医学系研究科脳神経病態制御学講座眼科学0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(31)31表1フルオレセイン蛍光造影の副作用頻度報告者(年度)調査数全副作用率重篤合併症率死亡率Zografos(1983)Yannuzzi(l986)Kwiterovich(1991)Jennig(l994)Lepri(1997)松浦(1996)京兼(1997)Mai(2004)Musa(2006)Kwan(2006)Kalogeromitros(2007)Lira(2007)河田(2007)Moosbrugger(2008)Bearelly(2009)Kalo(2009)Kalogeromitros(2009)594,687例22,781回2,025例2,789回1,173例6,524例10,003回1,499例580例8,344例3,58例1,1898回224例1,039例3,497例1,200例1,400例1,284回1,284回4.8%7.5%5.7%10.7%8.3%11.2%1.1%3.6%9.72%1.53%2.5%4.3%4.3%0.006%0.005%0.2%0%0.27%0.35%0%0.48%0.3%0.08%0.16%0.002%0.005%0%0%0%(文献3より引用)報告者(報告年)調査数全副作用率軽症中等症重症死亡率河内(1983,他科)文献検索0.05~0.3%0.009~0.07%(ショック)Hope-Ross(1994)1,226例1,923回0.15%0.2%0.05%0.0003%Obana(1994)2,820例3,774回0.34%0.26%今本(1993)2,820例3,774眼0.34%B社調査(2007)1,024例0.68%0.29%0.2%0.2%(文献3より引用)図1アナフィラキシーの診断基準(文献4より引用)さらにステップ4,5,6を速やかに並行して行う1アナフィラキシーを認識し,治療するための文書化された緊急時用プロトコールを作成し,定期的に実地訓練を行う.可能ならば,曝露要因を取り除く.例:症状を誘発していると思われる検査薬や治療薬を静脈内投与している場合は中止する.23患者を評価する:気道/呼吸/循環,精神状態,皮膚,体重を評価する.4助けを呼ぶ:可能ならば蘇生チーム(院内)または救急隊(地域).5大腿部中央の前外側にアドレナリン(1:1,000[1mg/ml]溶液)0.01mg/kgを筋注する(最大量:成人0.5mg,小児0.3mg).投与時刻を記録し,必要に応じて5~15分毎に再投与する.ほとんどの患者は1~2回の投与で効果が得られる.6患者を仰臥位にする,または呼吸困難や嘔吐がある場合は楽な体位にする.下肢を挙上させる.突然立ち上がったり座ったりした場合,数秒で急変することがある.7必要な場合,フェイスマスクか経ロエアウェイで高流量(6~8l/分)の酸素投与を行う.8留置針またはカテーテル(14~16Gの太いものを使用)を用いて静脈路を確保する.0.9%(等張)食塩水1~2lの急速投与を考慮する(例:成人ならば最初の5~10分に5~10ml/kg,小児ならば10ml/kg).必要に応じて胸部圧迫法で心肺蘇生を行う.910頻回かつ定期的に患者の血圧,心拍数・心機能,呼吸状態,酸素濃度を評価する(可能ならば持続的にモニタリング).図2アナフィラキシーの初期対応(文献4より引用)酸素(酸素ボンベ,流量計付きバルブ,延長チューブ)リザーバー付きアンビューバッグ(容量:成人700~1,000.ml,小児100~700.ml)使い捨てフェイスマスク(乳児用,幼児用,小児用,成人用)経口エアウェイ:口角(前歯)から下顎角までに対応する長さ(40.mm~110.mm)ポケットマスク,鼻カニューレ,ラリンジアルマスク吸引用医療機器挿管用医療機器静脈ルートを確保するための用具ー式,輸液のための備品一式心停止時,心肺蘇生に用いるバックボード,または平坦で硬質の台手袋(ラテックスを使用していないものが望ましい)聴診器血圧計,血圧測定用カフ(乳幼児用,小児用,成人用,肥満者用)時計心電計および電極継続的な非侵襲性の血圧および心臓モニタリング用の医療機器パルスオキシメータ除細動器臨床所見と治療内容の記録用フローチャートアナフィラキシーの治療のための文書化された緊急時用プロトコール(文献4より引用)

抗癌剤に伴う角膜・涙道副作用

2023年1月31日 火曜日

抗癌剤に伴う角膜・涙道副作用AdverseEffectsofAnticancerDrugsontheCorneaandLacrimalDuct鎌尾知行*はじめに近年,癌薬物治療はめざましい進歩をみせている.従来の抗癌剤は癌細胞だけでなく正常な細胞にも作用する「殺細胞性抗癌剤(化学療法)」であった.正常な細胞にも作用するため全身に多岐にわたる副作用がみられた.これに対して1990年代以降,癌細胞の増殖にかかわる特定の分子に作用する「分子標的治療薬(分子標的療法)」が開発された.正常な細胞には影響が少ないため,副作用が軽減した.さらに「ホルモン製剤(内分泌療法)」や,近年では「免疫チェックポイント阻害薬(免疫療法)」が登場し,数種の抗癌剤を組み合わせた薬物治療が可能となり,従来は治療が困難であった癌に対しても生命予後が著明に改善している.一方で,抗癌剤を投与される患者の増加,期間の長期化に伴い,生命予後に影響しないさまざまな副作用が増加している.眼の副作用も例外ではなく,しかも障害部位は眼瞼,涙道,角結膜,ぶどう膜,水晶体,網膜,視神経と多岐にわたり,視機能に影響する副作用もある.眼科医は,癌疾患の診療に携わる機会が少なく,抗癌剤に対して明るくないことが多いが,知らなかったでは済まされない副作用もある.そこで,本稿では抗癌剤の角膜・涙道副作用について概説する.I抗癌剤の角膜・涙道障害の機序抗癌剤の基本的な作用は細胞増殖の阻害,抑制であり,細胞増殖の盛んな組織,毛髪や皮膚,血球系などに副作用を生じやすい.角膜上皮や涙小管上皮は重層扁平上皮で構成されており,細胞増殖の盛んな組織として知られており,抗癌剤の影響をもっとも受けやすい組織である.作用機序としては,血液中から涙腺に取り込まれた抗癌剤の成分が涙液中に分泌され,涙液中の抗癌剤の濃度上昇により角膜上皮細胞,涙小管上皮細胞の増殖が抑制されることで,角膜障害,涙道閉塞を引き起こすと考えられている.また,血中の抗癌剤の成分が直接角膜,涙小管上皮に働く機序も推定されている.II抗癌剤の角膜副作用角膜障害を引き起こす代表的な抗癌剤としては,5-FUなどのフルオロウラシル系抗癌剤,ドセタキセルなどのタキサン系抗癌剤,エルロチニブなどの上皮成長因子受容体(epidermalgrowthfactorreceptor:EGFR)チロシンキナーゼ阻害薬があげられる1.3).近年,もっとも問題となっているのがフルオロウラシル系抗癌剤のS-1(ティーエスワン)である.なぜならS-1は,わが国でもっとも多く処方されている内服抗癌剤であり,眼合併症である角膜,涙道障害が高頻度で,臨床で遭遇する頻度が高いためである.S-1は,テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合の抗癌剤である.テガフールが主薬であり,フルオロウラシルのプロドラッグである.ギメラシルはフルオロウラシルの分解阻害薬で抗腫瘍効果を高め,オテラシルカリウムは消化管障害を軽減する作用をもつ.肝臓で代謝されたフルオ*TomoyukiKamao:愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻器官・形態領域眼科学〔別刷請求先〕鎌尾知行:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻器官・形態領域眼科学0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(23)23図1S-1による角膜障害a:点状表層角膜症(II型角膜上皮障害).フルオレセイン染色.b,c:角膜上方からシート状の異常上皮が下方に向かって侵入してくる場合(IV型角膜上皮障害).フルオレセイン染色(b)と強膜散乱法.-図2エルロチニブ角膜障害の一例75歳,女性.肺腺癌多発転移(EGFR変異陽性)に対してエルロチニブ内服を開始後,両眼に点状表層角膜症を認め,ヒアルロン酸点眼で治療を行うも,両眼とも角膜潰瘍に進行し,左眼は角膜穿孔に至った.涙管通水検査にて両側鼻涙管閉塞を認めたため,涙道内視鏡下涙管チューブ挿入術を施行したところ,右眼の角膜潰瘍が消失した.Ca:右眼角膜下方に細胞浸潤の乏しい角膜潰瘍を認める.Cb:右眼フルオレセイン染色検査所見.Cc:涙管チューブ挿入術後C2週間.右眼角膜潰瘍は縮小傾向.Cd:涙管チューブ挿入術後C2カ月.右眼角膜潰瘍は消失した.表1抗癌剤による涙道閉塞の部位抗癌剤閉塞部位涙点涙小管涙.・鼻涙管CS-15(3C1%)10(C63%)1(6%)ドセタキセル6(5C5%)5(4C5%)C0(文献C10より改変引用)表2抗癌剤による涙道閉塞に対する治療方法と症状の改善率抗癌剤治療方法流涙症状の改善涙点形成術涙管チューブ挿入術涙腺へのボトックス注射CS-1CドセタキセルC0C4C13C13C11014(C58%)17(C100%)S-1は涙管チューブ挿入術で治療できない症例が半数おり,それらの症例に涙腺へのボトックス注射を行い,涙液分泌量を減らす治療を行っているが,流涙症状の改善を得られていない.一方,ドセタキセルは涙点形成または涙管チューブ挿入術で流涙症状がC100%改善している.(文献C11より改変引用)C-重症度手術方法Grade1涙点からブジーが10mm以上挿入可能.涙管通水検査にて上下交通が確認できる.涙管チューブ挿入術Grade2涙小管造袋術涙点からブジーが7.8mm以上挿入可能.涙管通水検査にて上下交通がない.経皮的涙小管再建術Grade3涙点からブジーが7.8mm未満しか挿入不可.結膜涙.鼻腔吻合術図3涙小管閉塞の重症度と対応する手術方法矢部・鈴木分類は,涙点から閉塞部の距離で重症度を分類する簡便な評価方法である.涙小管閉塞は,閉塞距離が長くなればより重症となるが,非観血的に閉塞部以降の状態を把握できないため,閉塞距離を評価することはできない.閉塞部の場所が涙点近傍であるほど閉塞距離が長くなるリスクが高くなることで評価する.図4涙小管造袋術の手術方法涙乳頭が存在する場合は,その部位にC18ゲージ針もしくは15°メスで穿刺し,涙小管垂直部を探索する.涙乳頭が存在せず涙点の位置が明確でない場合,涙点があったと考えられる部位からC15°のメスで瞼縁を切開し,涙小管を探す.白色で光沢のある組織が涙小管内腔の上皮である.その場所で涙小管を見つけられない場合,切開部位より鼻側に新たな切開を加えて探索する.図5経皮的涙小管再建術の手術方法涙点側からブジーを挿入して閉塞部位を鼻側に押し付けて,内総涙点側からメスで切開・開放する.表3結膜涙.鼻腔吻合術の治療成績と合併症報告者報告年症例数治療成績合併症CSteinsapirKD16)C1990C79C96%脱落C51%偏位C22%チューブ閉塞C23%CSekharGC17)C1991C69C98.5%脱落C30%偏位C28%チューブ閉塞C28%CRoseGE18)C1991C326C91%脱落C41%CLeeJS19)C2001C124C97%脱落C10%結膜侵入C12%図6結膜涙.鼻腔吻合術の手術方法結膜.と涙.もしくは鼻腔とをバイバスする方法.鼻外法や鼻内法,レーザーアプローチで涙.鼻腔吻合術を行ったあと,結膜から涙.または鼻腔へステントを通す.結膜から涙小管を介さずにステントを介して涙.,鼻腔へと涙液が流れる.2008~20132014~2018Grade2,39%Grade15%図7S-1関連涙道障害の初診時の障害部位2009.2018年のC10年間に当院でCS-1関連涙道障害と診断し,涙道内視鏡下涙管チューブ挿入術を施行した患者C88例C169側の当院初診時の障害部位の内訳を示す.2009.2013年を前期治療群,2014.2018年を後期治療群とした.障害部位は涙管通水検査,ブジー,涙道内視鏡による観察で判定した.後期治療群では涙点・涙小管狭窄の割合が増加し,Grade1以上の涙小管閉塞の割合が減少しているのがわかる.’C

狭隅角には注意を要する薬剤

2023年1月31日 火曜日

狭隅角には注意を要する薬剤DrugsthatRequireCautionwhenUsedinNarrowAngleEyes石岡みさき*I狭隅角眼に使用する場合に注意を要する薬剤とは隅角が狭い眼は散瞳時に隅角が閉じてしまい眼圧が上がることがあり,いわゆる急性緑内障発作の状態となる.眼圧はときに40~80mmHgとなり,早急に眼圧を下げないと失明する可能性もある.狭隅角眼に使用する場合に注意を要する薬剤とは散瞳する薬剤のことである.眼科でおもに検査時に用いる散瞳点眼薬(表1)は眼科医であればなじみがあると思うが,散瞳する薬剤は点眼薬だけではなく内服薬にも多く存在し(表2),そのほとんどは眼科以外で使われているものである.そしてかなりの数の薬剤が狭隅角に要注意とされている.薬剤添付文書には「閉塞隅角緑内障に禁忌」と書かれていることが多いが,正確にいえば「閉塞隅角眼に禁忌」であり,広い意味では今回のタイトルのように「狭隅角眼」に要注意となる.II隅角のチェック方法1.眼科では眼科ではほぼ全症例を細隙灯顕微鏡で診察しているので,前房の深さから隅角の状態を推測している.習慣的に前房が深い,浅い,と判定しているが,図1のようなグレード分類は昔から知られている.細隙灯顕微鏡の診察で隅角が狭いと考えられる患者では隅角鏡を使い隅角のチェック(器質的に閉塞しているかどうかもみる)を行い,また最近では前眼部光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)での検査も行われている(図2).2.眼科以外の診療科では眼科以外の診療科での問診票には「緑内障といわれていますか?」という項目がよくある.狭隅角眼に要注意の薬剤を使用する場合に備えての質問項目と思われるが,多治見スタディ(用語解説参照)1,2)(表3)の結果では日本人の緑内障のほとんどが開放隅角のため,緑内障の診断がついていても散瞳して眼圧が上がることはそれほど多くないといえる.患者は病型を説明されていても覚えていないことが多く,緑内障の病型について他科や調剤薬局から問い合わせが来ることがある.日本眼科医会作成の緑内障病型説明カードを緑内障の診断がついた時点で渡しておくと役に立つ(図3).しかし,緑内障と診断がついている人だけが薬剤投与時に要注意となるわけではない.緑内障になっていない狭隅角の人も散瞳すると眼圧が上がる可能性はあるが,皆が眼科を受診しているわけではないからである.隅角が狭い眼は遠視が多く,遠視の人は子どものころより視力がよいため眼科を受診する機会が少ない.そのため眼科受診歴のない人のほうが狭隅角の可能性が高いともいえるので,眼科以外の診療科で狭隅角眼に要注意の薬を投与する際に緑内障の既往歴を尋ねても,眼圧の上がるリスクをすべて回避できるとはいえない.とはいっても,薬剤投与前に全員に眼科受診を勧めるのは現実的で*MisakiIshioka:みさき眼科クリニック〔別刷請求先〕石岡みさき:〒151-0064東京都渋谷区上原1-22-61Fみさき眼科クリニック0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(17)17表1散瞳する点眼薬・眼軟膏一般名先発品名アトロピン硫酸塩水和物日点アトロピン点眼液1%リュウアト1%眼軟膏フェニレフリン塩酸塩ネオシネジンコーワ5%点眼液トロピカミドミドリンM点眼液0.4%トロピカミド・フェニレフリン塩酸塩配合ミドリンP点眼液シクロペントラート塩酸塩サイプレジン1%点眼液表2狭隅角眼に要注意の薬ベンゾジアゼピン系(抗不安薬,抗てんかん薬)抗うつ薬抗パーキンソン薬のレボドパ,抗コリン薬低血圧治療薬麦角アルカロイド抗ヒスタミン薬(第一世代)鎮咳薬(第一世代の抗ヒスタミン薬を含むもの)感冒薬(第一世代の抗ヒスタミン薬を含むもの)鎮暈薬(第一世代の抗ヒスタミン薬を含むもの)鎮痙薬(抗コリン作用のあるもの)排尿障害治療薬気管支拡張薬(抗コリン作用のあるもの)散瞳点眼薬(別表参照)図1VanHerick法(用語解説参照)細くしたスリット光を角膜輪部に直角に当て(観察軸と60°の角度から光を入れる),角膜厚と前房深度を比較する方法.Grade1:前房の深度が角膜厚の1/4未満.隅角閉塞が起きやすいとされている.Grade2:前房の深度が角膜厚の1/4.Grade3:前房の深度が角膜厚の1/4から1/2.Grade4:前房の深度が角膜厚以上.a:強度近視眼.前房の深さは角膜厚より深いことがわかる.Grade4.b:遠視眼.前房の深さは角膜厚よりやや浅い.Grade3.筆者自身の眼である.表3多治見スタディによる緑内障有病率図2前眼部OCT図1bと同一眼(筆者の眼).OCTは接触せずに前眼部の画像解析が行えるので患者負担が少ない.筆者は自分の前房が浅いことは知っていたが,自らには隅角鏡検査は当然行えず,またOCTが高額で自分のクリニックでは導入していないため,西府ひかり眼科の野口先生にお願いして撮ってもらった.細隙灯顕微鏡で診察するとかなり前房が浅く見えるのだが,OCTでは隅角は開放していることが確認できて安心した.(西府ひかり眼科野口圭先生のご厚意による)図3緑内障連絡カード(表と裏)二つ折りにするとクレジットカードサイズになり財布などに入れやすい.図4ペンライトによる隅角のチェック方法角膜輪部耳側から真横に光を当てると,隅角が広い場合は前房内全体を照らすことができるが,隅角が狭いと虹彩にさえぎられ前房内を照らしにくくなる.a:近視眼に耳側から光を当てると虹彩全面に光が当たる.b:図1bの眼に同様に光を当てると,光源と反対側の鼻側の虹彩には光が当たっていない.表4久米島スタディにおける原発閉塞隅角の割合日本語病名英文病名略称定義%原発閉塞隅角症疑いprimaryangleclosuresuspectPACS機能的な隅角閉塞があるが,眼圧上昇およびその既往を疑わせる所見はなく,緑内障性視神経障害もなし8.8原発閉塞隅角症primaryangleclosurePACPACSの所見に加え,周辺虹彩前癒着や,眼圧上昇あるいはその既往を疑わせる所見はあるが,緑内障性視神経障害はなし3.7原発閉塞隅角緑内障primaryangleclosureglaucomaPACGPACの所見に加え,緑内障性視神経障害あり2■用語解説■多治見スタディ:岐阜県多治見市で行われた緑内障有病率調査.久米島スタディ:沖縄県久米島で行われた緑内障有病率調査.VanHerick法:細隙灯顕微鏡診察による角膜厚と前房深度を比較して隅角の広さを推測する検査法.

緑内障点眼薬に伴う副作用

2023年1月31日 火曜日

緑内障点眼薬に伴う副作用SideE.ectsofTopicalGlaucomaMedications三木篤也*はじめに緑内障のもっともメジャーな病型である原発開放隅角緑内障は,慢性進行性不可逆性の視神経症である.不可逆性であるから,多くの緑内障患者は,診断が下った時点から一生点眼を継続することになる.さらに,最近では多種多様な緑内障点眼薬が上市された結果,複数の点眼薬を使用している患者も多い.点眼薬に限らず,どのような薬剤でもある程度は副作用を生じるが,緑内障の場合,長期にわたり多数の点眼薬を使用することが多いため,副作用を生じる頻度が多いと考えられる.緑内障診療をするうえで,緑内障点眼薬の代表的な副作用とその対処法を知っておくことは重要である.CI角結膜上皮障害緑内障点眼薬を使用している患者では,角結膜上皮障害を中心とした眼表面疾患(ocularCsurfacedisease)を認めることが多い.点眼薬の成分そのもの,あるいは防腐剤などの添加物が原因になる.もっとも一般的に認められる角膜上皮障害については,点眼薬の角膜上皮ターンオーバーへの作用,眼表面の麻酔作用,防腐剤の作用などにより点状表層角膜症や角膜びらんなどの上皮欠損を生じる.とくに,多剤を長期にわたって使用している患者や,塩化ベンザルコニウムを中心とした防腐剤を含む点眼薬を使用している患者,ドライアイを合併している患者に角膜上皮障害がみられやすい.緑内障点眼薬を使用している患者に角膜上皮障害を認めた際には,点眼薬の毒性による角膜上皮障害なのか,ドライアイなのかの鑑別が必要である.両方を合併している場合も多いので,全例で明確に鑑別ができるわけではないが,典型例においては,ドライアイでは結膜上皮障害のほうが角膜上皮障害より優位であり,瞼裂部を中心に上皮障害が生じやすいのに対して,薬剤毒性では角膜上皮障害のほうが結膜上皮障害より優位であり,角膜全体にびまん性に上皮障害が広がることが多い(図1,表1).上皮ターンオーバーの異常から上皮障害を生じている場合は,渦巻き状の点状表層角膜症(ハリケーン角膜症)からCepithelialCcracklineとよばれる上皮に割れ目ができたように見える状態に進行することがある(図2).点眼薬の毒性により角膜上皮障害を生じている場合は,原因薬剤を中止し,人工涙液点眼をして眼表面から原因薬剤を洗い流すのが原則である.複数薬剤を使用していて,どの薬剤が原因であるか不明の場合には,すべての薬剤を中止するのが基本である.しかし,病状的にすべての薬剤を中止するのがむずかしい場合は,状況から考えて原因薬剤である可能性が高い薬剤を中止し(たとえばこれまで角膜上皮障害がなかった眼に最近薬剤を追加して上皮障害が生じた場合は最後に追加した薬剤が疑わしいし,塩化ベンザルコニウムを使用している薬剤など比較的上皮障害を起こしやすい薬剤と,防腐剤フリーなど上皮障害を起こしにくい薬剤がある),他の薬剤を継続することもある.しかし,いったん重症の上皮障*AtsuyaMiki:愛知医科大学医学部眼科学近視進行抑制学〔別刷請求先〕三木篤也:〒480-0015愛知県長久手市岩作雁又C1-1愛知医科大学医学部眼科学近視進行抑制学C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(11)C11図1点眼薬(b遮断薬)による角膜上皮障害図2点眼薬(プロスタグランジン関連薬とb遮断薬併用)角膜優位でびまん性の点状表層角膜症を認める.による高度の角膜上皮障害角膜前面にびまん性の点状表層角膜症を認め,瞳孔下方にCepithelialcracksign(横方向に線状に角膜上皮が割れるよ表1薬剤毒性による角膜上皮障害とドライアイの鑑別うに上皮欠損を認める所見)を認める.薬剤毒性ドライアイ角膜Cvs結膜角膜優位結膜優位角膜内での分布びまん性瞼裂優位,しばしば集簇性対処法原因薬剤中止ドライアイ治療※ドライアイと薬剤毒性を合併している症例が多いことにも注意.図3点眼による眼瞼皮膚炎(右眼)図4プロスタグランジン関連薬点眼によるプロスタグラン痂皮を生じている.点眼をうまく眼球に入れられず,眼瞼ジン関連眼窩周囲症(PAP)に滴下してしまうことが多い高齢者,視野障害の強い患者上眼瞼溝の深化を認める.この患者ではそれ以外に睫毛のなどで生じやすい.伸長,産毛の増加,皮膚の色素沈着も認める.表2おもな緑内障点眼薬の副作用薬剤種別副作用プロスタグランジン関連薬PAP,睫毛伸長,色素沈着,結膜充血,黄斑浮腫EP2受容体作動薬結膜充血,黄斑浮腫Cb遮断薬気道閉塞,徐脈炭酸脱水酵素阻害薬角膜内皮機能低下Ca受容体作動薬結膜アレルギー,角膜浸潤,傾眠ROCK阻害薬結膜充血,眼瞼炎

点眼薬による眼不快感と角膜障害 (中毒性角膜症)

2023年1月31日 火曜日

点眼薬による眼不快感と角膜障害(中毒性角膜症)Eye-Drop-InducedOcularDiscomfortandCornealDisorders(ToxicKeratopathy)近間泰一郎*はじめに点眼薬は,われわれにとって身近なものである.現代社会における眼に対するストレスは増加しており,ドラッグストアなどでも医師の処方箋なしに購入できる一般用医薬品(OTC医薬品)点眼薬を購入して,セルフメディケーションを行う人も多い.近年,医療用医薬品がOTC医薬品に転用されたスイッチOTC医薬品点眼薬も増加している.眼の痒み,ドライアイ症状,疲れ眼,コンタクトレンズ使用に伴う不快感などに対しては,眼科を受診せずにセルフケアでの対応も多いと推察される.点眼薬のさし心地は,使用者の点眼に対するコンプライアンスにも直結する.また,さし心地に求めるものが個々で異なることもある.具体的には,点眼に爽快感のみを求めたり,反対にしみることを不快に感じたり,眼表面の自覚的な潤いのみを必要としたりといった具合である.いずれにしても,使用者が期待する効果が得られ,視機能に障害が出ていなければ問題はない.一方で,医師から処方されている点眼薬は,基本的に眼疾患の治療を目的に処方されており,患者自身の裁量で使用するのではなく,指示通り点眼することが求められている.とりわけ,新規や追加で点眼薬を処方した際に眼不快感や角膜障害が出現した場合には,眼科医による迅速な対応が求められる.問題は,点眼薬使用によりそれまで感じたことがなかったかすみや眩しさ,異物感や痛みが生じている場合である.診察に際しては,それまで使用した市販薬も含めた薬剤の種類と,その使用法を丁寧に聴取することが必要である.近年,さまざまな病態に対する新しい薬剤が発売され,処方の選択肢が拡大したと同時に,同一疾患に対する併用可能薬剤も増加してきている.点眼薬は,主薬と賦形剤からなる.賦形剤には緩衝剤,防腐剤などが含まれ,主薬を標的部位に有効にかつ安全に到達させると同時に点眼薬としての安定化を目的に使用されている.眼科領域においても数多くの後発医薬品が上市されている.後発医薬品は先発医薬品と主薬は同じであるが,賦形剤は異なる場合がほとんどである.中毒性角膜症とは,主薬による直接的な作用,知覚神経や涙液分泌機能への影響を介する間接的な作用,あるいは防腐剤などの細胞毒性による種々の角膜障害(とくに上皮障害)のことである.臨床的には数種類の点眼薬の併用や頻回点眼による角膜上皮障害の出現をしばしば経験する.本稿では,点眼薬による眼不快感や角膜障害について,1)角結膜の知覚神経と自覚症状の生じるメカニズム,2)点眼薬の組成と賦形剤の役割,3)中毒性角膜症の臨床とその対応,について概説する.I角結膜の知覚神経支配と自覚症状の生じるメカニズム結膜の知覚神経は,三叉神経第1枝から分岐した涙腺*TaiichiroChikama:広島大学大学院医系科学研究科視覚病態学(眼科学)〔別刷請求先〕近間泰一郎:〒734-8553広島市南区霞1-2-3広島大学大学院医系科学研究科視覚病態学(眼科学)0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(3)3図1ヒトの角膜神経の三次元的シェーマ(文献2より引用)表1温度応答性TRPチャネルの性質とおもな発現部位,関連疾患受容体活性化温度閾値発現部位ほかの活性化刺激関連疾患CTRPV143℃<感覚神経・脳カプサイシン・酸カンフル・アリシン・脂質2-APB・NO・バニロトキシンレシニフェラトキシン直腸過敏症,炎症性腸疾患(IBD),過敏性腸症候群(IBS)機能的ディスペプシア(FD),食道炎,胃食道逆流症(GERD)炎症性膀胱痛,膀胱機能異常(過活動膀胱や神経因性膀胱)肺疾患(咳発作や気管支喘息)CTRPV252℃<感覚神経・脳・脊髄・肺・肝臓・脾臓・大腸膀胱上皮・筋肉・免疫細胞機械刺激・成長因子・2C-APBプロペネシド・リゾリン脂質消化管の弛緩異常に起因する疾患筋萎縮心筋症CTRPV332.39℃<皮膚・感覚神経・脳脊髄・胃・大腸2-APB・サイモール・メントールオイゲノール・カンフルカルバクロール・不飽和脂肪酸結腸直腸癌,Olmsted症候群温度感覚異常発毛異常(マウス)CTRPV427.35℃<皮膚・脳・膀胱上皮腎臓・肺・内耳血管内皮低浸透圧刺激・GSKC1016790・脂質機械刺激・4a-PDD短脊柱症,脊椎,骨幹端異形成症(SMD)Kozlowski型変容性骨異形成症,肩甲腓骨脊髄性筋萎縮症遺伝性運動感覚性ニューロパチータイプCIIC,膀胱機能異常呼吸機能異常,皮膚乾燥症CTRPM4Cwarm心臓・肝臓などカルシウム糖尿病,自己免疫性脳脊髄炎,多発性硬化症,脊髄障害肥満細胞のかかわる免疫異常C耐糖能異常味覚異常TRPM5味細胞・膵臓TRPM236℃<脳・膵臓免疫細胞などcyclicADP-ribose・HC2O2Cb-NAD+・ADP-ribose耐糖能異常,免疫異常,双極性障害,筋萎縮性側索硬化症様Parkinson病様神経疾患CTRPM8<25.2C8℃感覚神経・前立腺メントール・イシリン膜リン脂質温度感覚異常痛覚異常CTRPA1<1C7℃(?)感覚神経腸管エンテロクロマフィン細胞アリルイソチオシアネート・アリシンシナモアルデヒド・機械刺激?2-APB・カルバクロール・アリシンカルシウム・細胞内アルカリ化・HC2O2冷刺激異痛症家族性一過性疼痛症候群炎症性疾患呼吸器疾患哺乳類(ヒト,マウス,ラット)の場合を示す.リガンド応答性や活性化温度閾値は生物種によって異なることが報告されており,生理機能も多様であると予想される.アリシン(ニンニクの辛味成分),アリルイソチオシアネート(ワサビの辛味成分),シナモアルデヒド(シナモンの辛味成分),カルバクロール(オレガノの主成分),サイモール(タイムの主成分)(富永真琴:漢方医学37:166-175,2013)図2点眼薬の組成表2賦形剤の種類とはたらき可溶化剤有効成分の可溶化.塩形成による溶解または溶解補助剤(界面活性剤)による溶解.(塩形成)ナトリウム塩,カリウム塩(界面活性剤)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油pH調節剤有効成分に最適のCpHに調節する.水酸化ナトリウム,塩酸緩衝剤薬物や他の賦形剤の分解などによる点眼液の経時的なCpH変動を防止する.緩衝力が強すぎると点眼時の眼刺激性が高まる.ホウ酸,リン酸,酢酸塩ソルビトール,マンニト-ル等張化剤浸透圧の調整.涙液と等張な点眼液が望まれる.塩化ナトリウム,塩化カリウム,ホウ酸,グリセリン安定化剤薬物の加水分解や酸化分解の防止.加水分解はCpH調節,酸化分解は容器や包装の工夫により防止することも可能.(加水分解)エデト酸ナトリウム,クエン酸(酸化分解)亜硝酸ナトリウム防腐(保存)剤微生物汚染の防止塩化ベンザルコニウム,パラベン類,クロロブタノール図3中毒性角膜症の多彩な所見表3中毒性角膜症の原因となりうる主薬1.抗緑内障薬Cbブロッカー:上皮伸展抑制,角膜知覚低下,結膜杯細胞減少,涙液減少,偽類天疱瘡プロスタグランジン製剤:角膜上皮障害,眼瞼・虹彩色素沈着,睫毛異常ピロカルピン:結膜.短縮2.抗微生物薬(微生物に対する有効濃度と上皮細胞毒性を示す濃度との間に差がないもの)アミノグリコシド系,抗真菌薬(ピマリシン,アンホテリシンB),抗ウイルス薬(IDU)3.抗炎症薬非ステロイド性抗炎症薬:上皮細胞の増殖・分化に影響(ジクロフェナック)ステロイド:DNA合成阻害,増殖抑制4.表面麻酔薬:濫用による細胞障害性と沈着点眼薬素因(細胞脆弱性)糖尿病角膜を取り巻く環境ジストロフィ涙液・眼瞼幹細胞疲弊症知覚神経結膜での免疫系角膜上皮障害図4中毒性角膜症の発症機転表4先発医薬品と後発医薬品の賦形剤の違い賦形剤(赤字は防腐剤)CpH浸透圧薬価先発医薬品CA乾燥亜硫酸ナトリウム,塩化ナトリウム,結晶リン酸二水素ナトリウム,リン酸水素ナトリウム,水酸化ナトリウム,パラオキシ安息香酸メチル,パラオキシ安息香酸プロピル7.5.C8.5約C0.8C82.00後発医薬品CB塩化ナトリウム,塩化ベンザルコニウム,結晶リン酸二水素ナトリウム,ポリソルベートC80,リン酸水素ナトリウム,pH調節剤6.5.C8.5約1C29.80後発医薬品CCホウ酸,ホウ砂,パラオキシ安息香酸メチル,パラオキシ安息香酸プロピル,乾燥亜硫酸ナトリウム7.5.C8.50.9.C1.1C28.60後発医薬品CDホウ酸,ホウ砂,塩化ナトリウム,塩化ベンザルコニウム,クエン酸ナトリウム,ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油C607.5.C8.5約C0.9C28.60後発医薬品CEホウ酸,ホウ砂,エデト酸ナトリウム,等張化剤(防腐剤フリーとの記載あり)7.5.C8.50.9.C1.1C29.20主剤:リン酸ベタメタゾン(文献C15より引用追記)表5中毒性角膜症発症リスクのチェックポイント細隙灯顕微鏡検査・涙液機能評価(メニスカス,涙液層破壊時間)・上皮障害評価(角膜・結膜)・角膜を取り巻く環境因子(瞼球結膜,眼瞼,内皮など)・角膜知覚,Schirmerテスト問診(お薬手帳の活用)・全身疾患(糖尿病,膠原病,アトピー,脳外科疾患,癌など)・使用点眼薬(処方薬以外も)・内服薬(ステロイド,抗癌剤,向精神薬など)

序説:眼科医が知っておきたい薬剤の副作用

2023年1月31日 火曜日

眼科医が知っておきたい薬剤の副作用DrugSideE.ectsthatOphthalmologistsNeedtoKeepinMind辻川明孝*眼科診療では点眼薬,内服薬などの種々の薬剤を用いる.緑内障の点眼薬により,角膜上皮障害や黄斑浮腫が生じることもあれば,喘息が誘発されることもあるため,処方の際には注意が必要である.前もって患者に起こりうる副作用の情報を伝えておくことは重篤な状態に陥ることを防ぐとともに,トラブルの防止にもつなががる.とくに,喘息や不整脈は命にかかわることもある副作用であるため,事前にリスクに関する聴取は欠かせない.そして,聴取したことをカルテにきっちり記載しておくとこも重要である.近年,眼科で盛んに用いられるようになった抗VEGF治療にもさまざまな副作用がある.眼内炎,白内障,網膜.離,眼内炎症などの眼局所の副作用や脳卒中などの全身的な副作用が報告されている.そのため,治療開始前に十分な病歴の聴取,副作用の説明は重要である.多くの眼科医が実感しているように,抗VEGF治療により加齢黄斑変性などの視力予後は大きく改善した.しかし,脳梗塞の既往がある場合などでは,リスクとベネフィットを勘案したうえで,患者と相談しながら治療方針を決めることが重要である.眼科検査に用いる薬剤にも注意が必要である.診療の際に用いる散瞳薬は,狭隅角の場合には急性緑内障発作のリスクがある.忙しい日常臨床において,このような患者に誤って散瞳薬を用いないように対策を講じることが必要である.眼科日常臨床でよく施行する造影剤の副作用にも注意を要する.とくに,フルオレセインナトリウムでは,悪心・嘔吐,発疹などの軽度な副作用は比較的よく経験するが,ときには,アナフィラキシーショック,心停止に至ることもあり,死亡例も数年に1例は報告されている.このような副作用は完全に避けることはできないので,アナフィラキシーショックが生じた際に救急処置するための機器・薬剤を普段から準備しておき,発症した際の対応シミュレーションを定期的に行うことが重要である.一方で,他科で処方された薬剤によっても眼副作用が生じることがある.なかでもステロイドの副作用が頻度的に高い.内科や小児科からのステロイドの全身投与の際に副作用の評価を依頼されることはよくある.また,アトピー性皮膚炎に対して皮膚科から処方されたステロイド軟膏によって緑内障が生じ,視野障害がかなり進行してから初めて受診する患者は依然として経験する.エタンブトールに伴う視神経症,ヒドロクロロキンに伴う網膜症,アミオダロンに伴う角膜症など,他科で処方される薬剤の副作用に関しても頻度の高い眼合併症は理解してお*AkitakaTsujikawa:京都大学大学院医学研究科眼科学0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(1)1く必要がある.薬剤の副作用としてもっとも重篤なケースがStevens-Johnson症候群である.眼科で処方した抗菌薬でも発症しうるが,皮膚科からの眼症状に関する紹介で遭遇することが多い.結膜炎症に対する初期対応によって患者の眼科的な予後は大きく変わるので,眼科医として対応の方法をよく認識しておくことは非常に重要である.最後に,抗癌剤は種々の眼合併症を引き起こすことは以前から知られていた.ST-1に伴う角膜・涙道副作用はこれまでもよく経験してきた.近年,免疫チェックポイント阻害薬などの新しい抗癌剤が次々に上市されている.このような抗癌剤は黄斑浮腫や漿液性網膜.離など,網膜に副作用をしばしば引き起こす.腫瘍内科などから副作用の評価を依頼された場合にはわかりやすいが,視力低下や変視症などを自覚した患者が自発的に眼科を受診する場合もある.最近の癌治療は進歩しているため,一見元気そうであっても抗癌剤による治療を継続している患者もよく経験する.患者が抗癌剤の副作用と認識していない場合には,眼科医に内服していることを伝えてくれないので,医師側から積極的に質問する必要がある.診療において,薬剤を使う限り,薬剤の副作用は避けることはできない.本特集は眼科医として日常臨床で最低限意識しておきたい薬剤の副作用の理解を促すために企画した.2あたらしい眼科Vol.40,No.1,2023(2)