写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦461.Alport症候群に合併した前部円錐水晶体加藤久美子三重大学大学院医学系研究科臨床医学系眼科学図2図1のシェーマ水晶体の突出(C..).図1初診時の前眼部写真水晶体の中央が突出している.図3初診時の波面収差解析OPD-Scan(ニデック)を用いて波面収差解析を行った.角膜収差は認められなかったが(左側),全眼球収差が増大していた(右側).図4Oildroplet像手術顕微鏡下で認められたCoildroplet像.図5前.切開時の異常所見水晶体突出している部位(10~12時)の水晶体.が脆弱で,ところどころに亀裂を生じた().(65)あたらしい眼科Vol.39,No.10,2022C13570910-1810/22/\100/頁/JCOPYAlport症候群は,IV型コラーゲンのa3鎖,a4鎖,a5鎖蛋白のいずれかの遺伝子変異に起因する進行性遺伝性腎症である1).IV型コラーゲンは眼ではおもにBowman層,Descemet膜,水晶体.,網膜内境界膜,そしてCBruch膜に発現している2).そのため,Alport症候群に合併する眼病変は,角膜,水晶体,網膜に生じる.前部円錐水晶体は,Alport症候群においてもっともよくみられる特徴的な眼病変であるが,後部円錐水晶体を呈する場合もある.円錐水晶体はC20~30代で明らかになることが多く,頻度は常染色体劣性(潜性)型でC80~100%,X連鎖型で約C30%と報告されている1).IV型コラーゲンの異常で水晶体.の菲薄化,脆弱性があるところに,調節に伴う水晶体へのストレスが加わることで円錐水晶体が形成されると考えられている.手術時に摘出した前.を電子顕微鏡で観察したところ,水晶体.に対し垂直方向の亀裂が観察されたとの報告もある3).進行した前部円錐水晶体では,細隙灯顕微鏡検査で水晶体.の突出を確認することができる.網膜からの徹照を利用すると,油滴のような像(oildroplet像)を観察することができる.波面収差解析装置,前眼部光干渉断層計を用いると軽度の円錐水晶体も評価可能である.治療は,前部円錐水晶体の進行に伴う屈折異常を矯正する目的で水晶体再建術が行われる.本疾患では水晶体.が脆弱であるため前.切開が困難である4).そのため,フェムトセカンドレーザーを用いて前.切開を行うという試みもなされている4).術後の視力回復は良好で,術後に水晶体.が断裂するなどの異常を認めたという報告はない.症例は,両眼の視力低下を主訴とするC50代男性である.初診時の矯正視力は右眼C0.2,左眼C0.15であった.細隙灯顕微鏡では左眼に顕著な前部円錐水晶体を認めたが(図1,2),水晶体の混濁は認めなかった.波面収差解析を行ったところ,全眼球収差は増大していたが,角膜収差はほとんど認められなかった(図3).前部円錐水晶体による屈折異常が原因で視力低下をきたしたものと考え,左眼に対し水晶体再建術を施行した.手術顕微鏡下で観察すると,水晶体.は中央部で突出し,oildrop-let像を呈していた(図4).水晶体.をCVisionBlueで染色し前.を攝子で把持して前.切開を行った.水晶体が突出している部位まで切.したところ,水晶体.が裂けはじめ,連続円形切.が完成する前に切れてしまった(図5).核硬度が低かったため,吸引のみで水晶体を除去し眼内レンズを.内固定した.術後の左眼矯正視力は1.0と良好である.前部円錐水晶体に対する水晶体再建術は非常に有効な治療法である.しかし前.切開に困難が生じる可能性が高く,前.染色を行うなど十分な安全対策を講じる必要がある.文献1)日本小児腎臓病学会編:眼病変.アルポート症候群診療ガイドラインC2017.p59~65,診断と治療社,20172)SavigeJ,ShethS,LeysAetal:OcularfeaturesinAlportsyndrome:pathogenesisCandCclinicalCsigni.cance.CClinCJCAmSocNephrol10:703-709,C20153)木全正嗣,水口忠,三宅悠三ほか:網膜と前.組織の異常を示したアルポート症候群のC1例.臨床眼科C74:721-728,C20204)BarnesCAC,CRothAS:FemtosecondClaser-assistedCcata-ractCsurgeryCinCanteriorClenticonusCdueCtoCAlportCsyn-drome.AmJOphthalmolCaseRepC6:64-66,C2017