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抗VEGF治療セミナー:囊胞様黄斑変性と治療中断

2025年4月30日 水曜日

●連載◯154監修=安川力五味文134.胞様黄斑変性と治療中断木戸愛京都大学大学院医学研究科眼科学教室.胞様黄斑変性(CMD)は,滲出性変化の現れである網膜内液とは異なり,新生血管型加齢黄斑変性の疾患活動性を反映したものではなく,積極的な治療対象ではない.長期的な治療をみすえ,患者の治療負担を最小限にするためにも,両者をしっかり区別して,患者ごとに適切な治療方針をたてることが望ましい.新生血管型加齢黄斑変性においては滲出性変化の見きわめが重要新生血管型加齢黄斑変性の診療において,適切な治療方針の決定のためには黄斑新生血管(macularCneovas-cularization:MNV)の活動性評価を正しく行うことが要となる.活動性の評価は基本的には非侵襲的な検査である光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)を用いて行われ,その検査所見からCMNVに滲出性変化があるかを見きわめることとなる.滲出性変化はMNV周囲の滲出液の貯留(網膜内液,網膜下液,漿液性網膜色素上皮.離),出血,フィブリン,硬性白斑などとして現れる.網膜内液(intraretinal.uid:IRF)は「滲出性変化がある」と判断する代表的な所見の一つであるが,非常に類似した所見として.胞様黄斑変性(cystoidCmaculardegeneration:CMD)があり,両者は似て非なるものであるため区別が必要である..胞様黄斑変性とはCMDは疾患の進行に伴い網膜組織が破壊され変性した結果として,網膜内に.胞様腔が観察される病態である.ほとんどの場合,.胞様腔がある部位には健常な視細胞は存在しておらず,瘢痕病巣(線維性瘢痕や萎縮性瘢痕)を伴っている(図1,2).OCTで観察される.胞様腔の形状の特徴として,滲出性変化として現れるCIRFは丸みをおびた形状であるのに対して,CMDは縁取りが直線状であったり角ばっていたり四角形に近い形状であることが多い1).また,.胞様腔内部は低輝度である(図1,2).CMDの大きさは非常に大きなものから小さなものまでさまざまで,網膜のどの層に認めるかもさまざまである(図1).また,蛍光眼底造影検査では蛍光色素の.胞様腔への貯留は認めるが,旺盛な蛍光漏出は認めない.CMDは抗CVEGF療法などの治療に反応しない(治療(73)の前後で.胞様腔の大きさが変化しない)ことも多く,もし治療に伴い縮小・消退することがあったとしても,視力回復や自覚症状の改善にはつながらない.また,長期的に徐々に.胞様腔の大きさが拡大することはあるが,数カ月の経過ではほぼ大きさや形状に変化がないと報告されている1).網膜内.胞様腔は変性か滲出性変化か上述のように,CMDは滲出性変化の所見ではなく変性所見であるため,新生血管型加齢黄斑変性の疾患活動性の評価には用いない2).そのためCCMDを根拠に治療を継続する必要はない.対して,同様の網膜内の.胞様腔であるCIRFは滲出性変化の所見であり,疾患活動性の評価に用いる.網膜内に.胞様腔を認めた際に,IRFかCCMDか,どちらと判断するかで治療方針の方向性がまったく逆となってくるのが厄介である.典型的なケースでは悩むことはないかもしれないが,両者の区別を要する場合は,①.胞様腔の形状,②.胞様腔の周囲の状態,③治療への反応・経時変化,に注目して総合的に判断をしてほしい.形状については,滲出性変化の現れであるCIRFは周囲に凸で丸みをおびた形状であるのに対して,CMDは辺が直線状であったり角ばっていたり四角形に近い形状であることが多いと述べた.しかし実際は,形状だけで両者を区別するのはむずかしいことが多い.その場合は.胞様腔の周囲の状態に注目してほしい.線維性瘢痕や網膜外層萎縮などの瘢痕病巣を伴っているか,周囲に網膜下液や出血などの他の滲出性変化の所見がないかを確認する.瘢痕性病巣があり,他の滲出性変化がめだたない場合は,.胞様腔はCCMDである可能性が高くなる.治療への反応性や経時変化も非常に参考となる.CMDは治療への反応性が不良であることが多い.治療への反応性を評価したいときは,治療直前の診察タイミング(treatandextend投与などでは,通常,診察タイミングを治療直前に設定している場合が多い)のみではあたらしい眼科Vol.42,No.4,20254630910-1810/25/\100/頁/JCOPY線維性瘢痕評価が不十分である.なぜなら,治療直前の診察タイミングに.胞様腔を認めたとしても,治療効果があり一度消退したが再発しているのか,そもそも治療効果がなく不変であるのかの判断がむずかしいからである.そこで,治療後C2~3週のタイミングでも.胞様腔の状態や症状改善がみられるかを評価してほしい.CMDの場合は治療前後で.胞様腔の大きさや形状に変化がないことが多く,縮小・消退があったとしても視力回復や自覚症状の改善は乏しい.逆に,治療前と比して.胞様腔が縮小・消退しており視力や自覚症状の改善がみられる場合は,滲出性変化である可能性が高く,治療対象の所見と考えたほうがいいだろう.筆者の考え新生血管型加齢黄斑変性の診療に携わっていると,通院や治療費の負担が患者にとって切実な問題であることを痛感する.とくに新生血管型加齢黄斑変性は一度の治C464あたらしい眼科Vol.42,No.4,2025図1線維性瘢痕を伴う.胞様黄斑変性.胞様黄斑変性を複数認める..胞様腔内部の輝度は低輝度で,縁取りが直線状で角ばっており,四角形に近い形状をしている.大きさは大きなものから小さなものまでさまざまである.図2網膜外層萎縮を伴う.胞様黄斑変性中心窩に.胞様黄斑変性を認める.眼底自発蛍光で蛍光色素の反射が完全に消失しており,網膜外層が萎縮していることがわかる.療で完治する疾患ではないため,長期管理をみすえた,持続可能な治療方針の決定が必要である.必要な治療と不必要な治療を見きわめ,患者ごとに最適と思われる治療方針を,患者のニーズをしっかり汲みあげながら一緒に考えていくことが眼科医に求められている.治療中断・経過観察という選択肢は,眼科医にとってときに勇気のいることであるが,本来治療が必要でないCMDに対して漫然と治療を継続することがないように注意したい.文献1)QuerquesCG,CCoscasCF,CForteCRCetal:CystoidCmacularCdegenerationCinCexudativeCage-relatedCmacularCdegenera-tion.AmJOphthalmolC152:100-107,Ce2,C20112)日本網膜硝子体学会新生血管型加齢黄斑変性診療ガイドライン作成ワーキンググループ:新生血管型加齢黄斑変性の診療ガイドライン.日眼会誌128:680-697,C2024(74)外層萎縮

緑内障セミナー:ROTA(網膜神経線維層テクスチャ解析)

2025年4月30日 水曜日

●連載◯298監修=福地健郎中野匡298.ROTA(網膜神経線維層テクスチャ解析)西田崇カリフォルニア大学サンディエゴ校緑内障診断に一般的なOCTや眼底写真では,診断がむずかしい場合がある.ROTAは網膜神経線維層の微細な構造変化を捉え,レッドフリー眼底写真やOCT偏差マップでは見逃されていた欠損を高い感度,特異度で検出可能である.さらに黄斑部の観察や高眼圧症患者にも有用性を示しており,緑内障の早期発見に寄与する可能性がある.●はじめに緑内障の診断は,機能・構造的損傷を検出することによって行われる.構造的変化を評価するために一般的に使用される検査には,眼底写真による視神経乳頭の観察や,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)による網膜神経線維層(retinalnerve.berlayer:RNFL)の評価が含まれる.Wuらによるメタ解析では,機械学習アルゴリズムを用いることで,眼底写真を用いた緑内障の診断では感度が0.92,特異度が0.93,AUC(曲線下面積)が0.97と報告されている.同様に,OCTを用いた場合でも感度が0.90,特異度が0.91,AUCが0.96と高い診断性能が示された1).しかし,近視眼や非緑内障性視神経症が共存するケースでは,これらの技術でも診断が困難な場合がある.最近,LeungらはRNFLopticaltextureanalysis(ROTA)という新しい解析法を開発した2,3).ROTAはRNFLの微細な構造変化を捉えることが可能であり,緑内障の早期発見,進行管理に有用である可能性がある.●ROTAの原理ROTAはRNFLの厚さに加えて,反射率を非線形変換し,それを基にテクスチャ解析マップを生成する(図1).この生成されたマップを用いることでRNFL欠損を検出することが可能である.具体的には,OCTを用いてラスタースキャンを取得し,RNFLの境界をセグメント化する.その後,RNFL内の各画素位置(x,.y)の深さzにおける反射率値Pz,.xyを抽出する.光学テクスチャシグネチャSxyは以下のように計算される.1bi,yc1c2Sxy=*Pz,xyk/a4/aPrefz=b1,xyここでb1とbiは,それぞれRNFLの前部境界および(71)0910-1810/25/\100/頁/JCOPY図1ROTAによるRNFL欠損の検出上弓状線維束,下黄斑乳頭黄斑線維束,下弓状線維束欠損を認める.後部境界のz位置を表す.Pは網膜色素上皮で測定された最大反射率値の中央値をさrefす.c1,c2およびaは,Sのダイナミックレンジを最大化するために計算された定xy数である2).簡単にいえば,SxyはAスキャン方向のRNFL内の正規化された輝度値の総和を計算している.●ROTAの特長ROTAを用いることで,従来のレッドフリー眼底写真やOCTの偏差マップでは見逃されていたRNFL欠損を評価できることが報告されている.具体的には,95%特異度におけるレッドフリー眼底写真の感度は79.3%であったのに対し,ROTAでは98.9%という高い感度を示した.また,ROTAは正常眼データベースに基づく偏差データに依存せず評価が可能であるため,近視眼で眼軸長が長い患者にしばしば生じる偽陽性のリスクを低減することができる.特異度についてもROTAは94.3%を示し,黄斑部神経節細胞-内網状層の78.1%や視神経乳頭RNFLの87.9%を上回る結果となった2).さらにROTAは,弓状束,乳頭黄斑束,鼻側放射束あたらしい眼科Vol.42,No.4,2025461図2ROTA画像への24-2視野と10-2図3眼底写真視野の投影図1の症例.画像右側のレッドフリー眼底写真では,下方図1の症例.高い構造機能の一致が確認にRNFL欠損が確認できるが,上方のRNFL欠損は視認できる.が困難である.といった網膜の広範なRNFL欠損を検出することが可能である.Leungらは初期緑内障の204眼を調べ,乳頭黄斑束の71.6%,乳頭中心窩束の17.2%にRNFL欠損が認められたと報告した3).従来は,黄斑部は緑内障後期まで障害を受けにくいとされてきたが,初期においてもqualityoflifeに重要な黄斑を正確に評価できる可能性が示唆された.高い構造機能相関を示した一例(図1と同一症例)を図2に示す.同症例の眼底写真(図3),OCT画像(図4)も示す.また,ROTAは高眼圧症(ocularhypertension:OHT)の患者においても重要な役割を果たす可能性がある.Suらの研究では,600眼のOHTを対象にROTAを用いて解析を行い,10.8%の眼でRNFL欠損が認められた.このような欠損はOCT偏差マップや眼底写真において見逃されていたものであり,ROTAの診断的有用性が強調された4).●おわりにROTAは,現在市販のOCT装置への実装が計画されており,普及が期待されている.一方で,RNFL欠損の462あたらしい眼科Vol.42,No.4,2025図4OCT画像(Pano図Map)図1の症例.上方および下方に広範なRNFL欠損を認め,この所見は図2に示されるROTA画像の結果と一致している.主観的な判断や,モーションアーティファクト,網膜疾患,中間透光体混濁による画像品質への影響といった課題がある.今後のアルゴリズム改良やAI技術の活用により,これらの課題が克服されれば,ROTAは緑内障診療の新しいスタンダードとなる可能性がある.文献1)WuJH,NishidaT,WeinrebRNetal:Performancesofmachinelearningindetectingglaucomausingfundusandretinalopticalcoherencetomographyimages:ameta-analysis.AmJOphthalmol237:1-12,20222)LeungCKS,LamAKN,WeinrebRNetal:Diagnosticassessmentofglaucomaandnon-glaucomatousopticneu-ropathiesviaopticaltextureanalysisoftheretinalnerve.brelayer.NatBiomedEng6:593-604,20223)LeungCKS,GuoPY,LamAKN:Retinalnerve.berlayeropticaltextureanalysis:Involvementofthepapillomacu-larbundleandpapillofovealbundleinearlyglaucoma.Ophthalmology129:1043-1055,20224)SuCK,GuoPY,ChanPPMetal:Retinalnerve.berlayeropticaltextureanalysis:Detectingaxonal.berbun-dledefectsinpatientswithocularhypertension.Ophthal-mology130:1080-1089,2023(72)

屈折矯正手術セミナー:中高年の近視進行抑制

2025年4月30日 水曜日

●連載◯299監修=稗田牧神谷和孝299.中高年の近視進行抑制鳥居秀成慶應義塾大学医学部眼科学教室小児だけでなく,成人以降も近視が進行し続ける場合がある.とくに強度近視眼では成人以後も眼軸長が伸び続けることがわかってきた.さらに,白内障手術を受ける年齢層においても,眼内レンズの種類によっては近視が有意に進んだという報告もあり,長寿社会においては中高年の近視進行抑制も一つの課題である.●はじめに近年,小児の近視進行抑制がクローズアップされているが,強度近視眼では成人以後も眼軸長が伸び続けているという報告1)もある.そこで本稿では,成人の眼軸長伸長とその抑制に的を絞り,抑制できる可能性について最新の知見も交えて解説する.C●成人以後の近視の進行・眼軸長伸長とその程度20歳以上の成人でも,世界的に近視は進行していることが報告されており,その進行程度はC0.04~0.4D/年程度である(表1)2).成人以後は白内障(核硬化の進行)による近視化もあるため,眼軸長伸長による評価がより適切であると考えられる.強度近視眼〔等価球面値(SE)C.6D以下〕の年齢別の眼軸長伸長の軌跡を調べた中国の報告では,7歳~18歳未満ではC0.46Cmm/年,18歳~40歳未満では0.07mm/年,40歳~70歳未満では0.13Cmm/年であり,さらに,50~70歳でも中等度~急速に眼軸長が伸長する症例があることがわかった(図1)3).日本人の成人以後の強度近視眼の眼軸長伸長は,初診時の後部ぶどう腫の有無にかかわらず,0.06Cmm/年伸び続けることも報告2)されている.C●成人以後の眼軸長伸長とその原因幼少期において屋外活動が近視進行を抑制することは周知の事実であるが,20~28歳の成人においても屋外活動に近視進行抑制効果があることが報告4)された.幼少期から成人まで,屋外活動が近視進行を抑制する構成因子は何であろうか.その一つとして,屋外の光環境・波長が関与している可能性,そして室内にはほとんどなく屋外環境に存在するバイオレットライト(360~400nm)が関与している可能性を以前筆者らが報告5)した.さらに,白内障手術時にバイオレットライトを完全にカットする眼内レンズを挿入した群(バイオレットライトカット群)と,一部カットする眼内レンズを挿入した群で,白内障手術後C5年間の近視進行を後ろ向きに比較した報告6)によると,バイオレットライトカット群で白内障術後も有意に近視が進行した.表1成人以後の近視の進行の研究ReferencesCCohortCFollow-updurationCMyopiaincidenceCMyopiaprogressionCTheFaineStudyCommunity-based;baselineage=20yearsC8yearsC1.75%/yearC.0.041D/year(n=107)CJacobsenetal.Medicalstudents;baselineage=23yearsC2yearsC4.8%/yearC.0.12D/year(n=143)CJorgeetal.(n=118)Universitystudents;baselineage=21C3yearsC6.5%/yearC.0.10D/yearCJiangetal.C9monthsduring(n=64)Optometrystudents;baselineage=25yearsCschooltermC─C.0.37D/yearCLomanetal.Lawstudents;age=27yearsC3years,retrospectiveaC6.3%/yearaC─(n=117)CKingandMidelfart,Engineeringstudents;baselineage=21yearsC3yearsC11%/yearbC.0.17D/year(n=224)aBasedonparticipant-reportedinformation;bKingeandMiddelfartmyopiaassphericalequivalent..0.25D.世界的に,20歳以後の成人でも近視が進行していることがわかる.(文献C2より引用)(69)あたらしい眼科Vol.42,No.4,20254590910-1810/25/\100/頁/JCOPY333231302928272625Age,y●バイオレットライトが近視進行抑制効果を発揮するメカニズム幼児から白内障手術を受ける年齢層まで,一貫してバイオレットライトが近視進行抑制効果を発揮する一つのメカニズムとして,網膜神経節細胞に発現する非視覚光受容体で,バイオレットライト領域内のC380Cnmを最大吸収波長とするCOPN5を介す経路があることを筆者らが以前報告7)した.その研究の概要は,網膜特異的にOpn5遺伝子を欠損させたCOPN5ノックアウトマウスを用いた研究を実施し,網膜神経節細胞が発現するCOPN5でバイオレットライトが受光されることにより,脈絡膜厚が維持され,眼軸長伸長が抑制されることを示した.C●バイオレットライトが成人以後の近視進行を抑制する可能性筆者らは,白内障手術時にバイオレットライトの透過性の異なるC2種のCIOLを用いて,ランダム化単盲検並行群間比較試験を行い,屈折値や脈絡膜厚変化量などを前向きに比較検討した(UMIN000038961).術後C3~12カ月のC2群間(平均年齢C69歳)の脈絡膜厚変化量は,バイオレットライト透過により脈絡膜厚が有意に厚くなった.さらに,バイオレットライトは屋外に豊富に存在し,その受光量は屋外活動時間に依存することから,2群間の脈絡膜厚変化量の多変量解析を実施した.その結果,ことに,女性,バイオレットライトをより透過しやすい眼内レンズを選択したこと,屋外活動時間が長いことが,脈絡膜厚が厚いことと有意に関係することがわかった.以上の結果より,将来的には,中高年の近視進行抑制C460あたらしい眼科Vol.42,No.4,2025Axiallength,mm71020304050607080図1強度近視眼(SE≦-6.0D)の年齢別の眼軸長伸長の軌跡50~70歳でも中等度~急速に眼軸長が伸長する症例(赤枠内)があることがわかる.(文献C3より引用)に応用できる可能性がある.C●おわりに自然界に存在する波長にはそれぞれに意味があり,人為的に特定の波長をカットすることは,未だ発見されていない受容体などの存在とその生理活性を無視してしまうことにつながりかねない.まだ解決すべき課題はあるが,より生理的な視環境を維持することが重要である可能性がある.文献1)SakaCN,CMoriyamaCM,CShimadaCNCetal:ChangesCofCaxialClengthmeasuredbyIOLmasterduring2yearsineyesofadultsCwithCpathologicCmyopia.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC251:495-499,C20132)LeeSS,MackeyDA:Prevalenceandriskfactorsofmyo-piaCinCyoungadults:ReviewCofC.ndingsCfromCtheCRaineCStudy.FrontPublicHealthC10:861044,C20223)ZhangS,ChenY,LiZetal:AxialelongationtrajectoriesinCChineseCchildrenCandCadultsCwithChighCmyopia.CJAMACOphthalmolC142:87-94,C20244)LeeCSS,CLinghamCG,CSan.lippoCPGCetal:IncidenceCandCprogressionofmyopiainearlyadulthood.JAMAOphthal-molC140:162-169,C20225)ToriiCH,CKuriharaCT,CSekoCYCetal:VioletClightCexposureCcanbeapreventivestrategyagainstmyopiaprogression,EBioMedicineC15:210-219,C20176)佐藤裕之,佐藤裕也,貞松良成ほか:長眼軸眼に挿入された眼内レンズの分光透過特性の違いによる術後長期の近視化傾向の検討.IOL&RS34:635-640,C20207)JiangX,PardueMT,MoriKetal:Violetlightsuppresseslens-inducedCmyopiaCvianeuropsin(OPN5)inCmice,CProcCNatlAcadSciUSAC118:e2018840118,C2021(70)

眼内レンズセミナー:CTRによる囊の前後方向固定作用

2025年4月30日 水曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋下分章裕455.CTRによる.の前後方向固定作用しもわけ眼科杉浦毅杉浦眼科急速に進む高齢化に伴い,白内障手術において脆弱なCZinn小帯やCZinn小帯断裂に遭遇するケースは増加すると考えられる.その場合は手術の難易度が上昇し,合併症のリスクも高まる.既報のとおり,水晶体.拡張リング(CTR)の使用により白内障手術時の侵襲を軽減することが可能である.しかし,CTR挿入後の長期的な安定性については依然として課題が残されている.CTRの.内における固定位置とその.固定作用について調べた.●はじめに一般的に水晶体.拡張リング(capsularCtensionring:CTR)は,.形状保持作用は有するが,.を眼球壁に固定する作用はないとされている1,2).しかし,術前水晶体振盪がある患者に対してCCTRを挿入し白内障手術を行うと,振盪症がなくなるケースを経験することがある.筆者らは,.を介してCCTRが毛様体溝に食い込み,.を内側から眼球壁に押し付け固定しているのではないかとの仮説を立て(図1),高解像度の眼内内視鏡を用いてCCTRの固定位置を観察した.C●方法と症例これまで,CTRが.のどの位置に固定されているかについての報告はほとんどされていなかった.観察方法として超音波生体顕微鏡があるが,解像度が十分ではなく,CTRの詳細な位置を把握するのは困難であった.そこで筆者らは高解像度の眼内内視鏡を用い,CTRの.内での固定位置を観察した.眼内内視鏡はCMVH-2010A(町田製作所),ライトガイドはCRLED-300(町田製作所),ハニカム除去装置はCFSC-HD1(町田製作所)を用いた.なお,患者にはヘルシンキ宣言に基づき,十分なインフォームド・コンセントを行い,杉浦眼科倫理委員会(21000131)の承認を得て行った3).C●症例173歳,男性,右眼.既往症:緑内障.Zinn小帯はきわめて脆弱で,水晶体振盪を認めた.Hydrodissectionの時点で水晶体は激しく動揺していた.超音波水晶体乳化吸引術の前にCCTRをCSpiralCCTRInjector(アールイーメディカル)を用いて挿入した4).皮質吸引後,眼内内視鏡で見ると,CTRは毛様体突起より上の毛様溝に固定されていた(図2a).眼内レンズ(intraocularlens:IOL)挿入後,ハプティクスはCCTRとともに毛様(67)C0910-1810/25/\100/頁/JCOPY図1CTRによる.の固定作用の概念図CTRが毛様体溝に食い込み,.を内側から眼球壁に押し付け固定している.溝に固定されていた(図2b).術後は偽水晶体振盪を認めず,IOLは安定していた.C●症例273歳,女性.右眼に偽落屑症候群を認め,Zinn小帯はきわめて脆弱であった.散瞳不良のためCMalyuginRing(MST社)を使用し,超音波水晶体乳化吸引術前にCCTRはCSpiralCTRInjectorを用いて挿入した.IOL挿入後は,CTRとハプティクスは毛様溝に固定されていた(図3).C●考察CTRを挿入したすべての症例でCCTRが.を介して毛様溝へ食い込むわけではなく,毛様体突起部やその後方へ固定されることもある.どのような条件でCCTRが毛様溝へ食い込みやすいかについては,下記項目別に解説する.①CCTRの直径と剛性CTRの直径はこれまでの研究によって現在のデザインや大きさに落ち着いたが5),毛様溝へ食い込むためにはCCTRの径が大きめで,なおかつCCTRの剛性がより高いほうが適している.現在,日本で広く使用されていあたらしい眼科Vol.42,No.4,2025C457図2症例1の内視鏡画像a:CTRが毛様溝へ食い込んでいる.Cb:CTRとCIOLハプティクスが毛様溝へ食い込んでいる.図3症例2の内視鏡画像CTRとCIOLハプティクスが毛様溝へ食い込んでいる.るCHOYA製のCCTRは,剛性が高く適していると思われる.ただし,CTRの径が水晶体.よりも相対的に大きすぎると,房水の前房への流れが阻害され,悪性緑内障のような状態になる恐れがある6).②CCTRの挿入時期水晶体乳化吸引の前にCCTRを挿入したほうが毛様溝に食い込みやすいと考えられる.③CCTRの挿入方法サイドポートから斜めに挿入するよりも,SpiralCCTRInjectorを用いて前.面に対して水平にCCTRを挿入したほうが毛様溝に食い込みやすい.④CZinn小帯の脆弱性Zinn小帯がより脆弱で,その範囲が広汎なほど,.の変形・可動域が広がり,CTRが毛様溝へ食い込みやすくなると考えられる.文献1)山根貴司,三好輝行,吉田博則ほか:CTR挿入眼の術後長期予後.IOL&RSC29:230-237,C20152)権慶花,西村栄一,吉野正範ほか:当院におけるCCTR併用白内障手術の安全性とその効果.IOL&RSC35:280-284,C20213)杉浦毅,下分章裕:眼内内視鏡を用いた水晶体.拡張リングの水晶体.内固定位置の検討.IOL&RSC38:611-617,C20244)下分章裕:スパイラルCCTRインジェクター.あたらしい眼科40:801-802,C20235)NagamotoCT,CBissen-MiyajimaH:ACringCtoCsupportCtheCcapsularCbagCafterCcontinuousCcurvilinearCcapsulorhexis.CJCataractRefractSurgC20:417-420,C19946)BochmannCF,CStrumerJ:ChronicCandCintermittentCangleCclosureCcausedCbyCin-the-bagCcapsularCtensionCringCandCintraocularlensdislocationinpatientswithpseudoexfolia-tionsyndrome.JGlaucomaC26:1051-1055,C2017

コンタクトレンズセミナー:英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解くコンタクトレンズ装用に伴う合併症(1)

2025年4月30日 水曜日

■オフテクス提供■コンタクトレンズセミナー英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く16.コンタクトレンズ装用に伴う合併症(1)糸井素啓道玄坂糸井眼科英国コンタクトレンズ協会の“ContactCLensCEvidence-BasedCAcademicReports(CLEAR)”の第C9章はコンタクトレンズ装用に伴う合併症についてである.これからC3回に分けてその内容を紹介する.はじめにCLEARの第C9章では,コンタクトレンズ(CL)装用に伴う合併症をC38ページにわたり取りあげている1).第C9章の筆頭著者であるCFionaStapleton先生は,筆者(糸井)がニューサウスウェールズ大学(オーストラリア)に留学していた際の上司の一人である.とても多忙な方だったが,「9章の編集・執筆時の意向などについて教えていただきたい」と伝えると,オフィスに呼び入れてくださり,丁寧な,しかも熱気のこもった解説をしてくださった.今では良い思い出である.本稿では,CLEARの第C9章を,筆者がCFiona先生から伺った「執筆者の意向」も加え,3回に分けて解説する.コンタクトレンズ関連合併症の頻度導入部では,CL装用に伴う合併症は決して珍しいものではないことが強調されている.具体的には,米国のCL装用者の約C1/3が目の痛みや赤みを経験し,さらに眼科を受診したCCL装用者のうち約C1/3がレンズ装用に起因する合併症を経験したとする文献が引用されている.この数値は,日本におけるCCL関連眼障害に関する疫学調査の結果(約C5%)と比較するとかなり高く,読者の皆様も驚かれるかもしれない.しかし,こういった疫学調査は,調査対象(大学病院・クリニック・患者),調査方法(アンケートの内容など),言葉の定義の違いによって結果が大きく異なるため,単純に比較するのはむずかしい.そのため,この数字の差は,日本のCCL診療がより安全であることの根拠とはならないことに注意が必要である.コンタクトレンズ関連合併症の分類CLEAR第C9章の特徴の一つとして,合併症の分類に対して病因別分類が採用されていることがあげられる.疾患や合併症の分類手法はおもに,解剖学的分類,病因(65)C0910-1810/25/\100/頁/JCOPY別分類,重症度別分類のC3種類が知られているが,教科書やガイドラインでは解剖学的分類が採用されることが多い.解剖学的分類は,角膜や結膜などの構造ごとに分けて評価するアプローチであり,疾患を体系立てて理解しやすく,鑑別診断に有用で,外科的治療を計画しやすいというメリットがあるが,病態の把握がむずかしく,内科的治療や予防に直接役立つことが少ないというデメリットがある.また,重症度別分類に関しては,進行性の合併症を明確に区別することがむずかしいという課題がある.一方,病因別分類は,合併症の発症や進行のメカニズムに基づいて分類するアプローチである.そのため,CL関連巨大乳頭結膜炎(contactClensCrelatedCpapillaryconjunctivitis:CLPC)や角膜変形(cornealwarpage)など,複数のメカニズムが関与する疾患の分類にはむずかしさが伴うが,他の分類手法に比較して病態を把握しやすく,予防や管理に役立てやすいという利点がある.CLEAR第C9章では,「教科書のような読み物ではなく,臨床の現場で治療方針を立てる際に役立つものにしたい」という執筆者の強い意向に基づいて,CL装用に伴う合併症が病因別に分類されている(表1)2).恥ずかしながら,筆者はCStapleton先生の話を聞くまで疾患の分類手法について考えたことがほとんどなかったため,分表1コンタクト関連合併症の分類1.Infection:角膜感染症2.In.ammation:角膜の炎症(非感染)3.Metabolic:代謝異常(角膜低酸素)4.Mechanical:メカニカルストレス5.Toxicandallergicdisorder:毒性および過敏症6.Tearresurfacingdisorders:涙液の分布異常(文献C2より一部改変して引用)あたらしい眼科Vol.42,No.4,2025C455類手法からこだわるCFiona先生の熱い想いは,とても印象的であった.コンタクトレンズ関連角膜感染症本文では,CL関連感染性角膜炎の疫学について述べられており,その多くは近年発表されたわが国の疫学調査の結果と一致している.CL装用は感染性角膜炎の危険因子であり,都市部の基幹病院における感染性角膜炎のC35~65%をCCL関連角膜感染症が占めている.また,CL関連角膜感染症の発症頻度は,ソフトCCL(SCL)やハードCCL(HCL)の終日装用でC1万人当たり1~2件で,その約C9割は細菌による感染であり,もっとも一般的な原因菌は緑膿菌である.また,残りはアカントアメーバや糸状真菌などがあげられている.また,レンズの装用スケジュールによっても原因菌は異なり,1日使い捨て型ではブドウ球菌属などの結膜.常在菌が,頻回交換型などの再使用型では緑膿菌などの環境菌が多い.一方,近視進行抑制効果が期待されるオルソケラトロジーレンズや多焦点CSCLについては,データ不足によりCCL関連感染性角膜炎の発症率は定まっていないと書かれている.感染症の予防策もいくつかあげられており,①夜間就寝中の装用を避けること,②レンズ・保存ケースの衛生管理,および手指衛生に注意を払うこと,③C1日使い捨てレンズはCCL関連角膜感染症のリスクを低減しないものの,頻回交換型CCLに比較して失明に至るなどの重症例は少ないこと,早期に眼科専門医を受診することが重症疾患のリスクを低下させること,が示されてる.CCornealin.ltrativeeventCornealCin.ltrativeevent(CIE)という用語は定義が曖昧なため,使用されている文脈によって日本語訳が異なる.CLEAR第C9章では,感染性角膜炎との鑑別の重要性を強調したいという執筆者の意向に基づいて,一般的な解釈である「角膜浸潤」ではなく,「非感染性の無菌性浸潤」としてCCIEを使用している.つまり,感染性角膜炎の初期と考えられるものは除外され,酸素欠乏やケア用品・レンズの汚れに対するアレルギー反応に伴う角膜実質の炎症性混濁を意味している.感染性角膜とCIEの鑑別方法については,「CL装用を中止しても症状が軽快せずに悪化するのが角膜感染症,CL装用を中止すると症状が軽快するものがCIE」としている.CIEの発症頻度は,CLの装用スケジュールなどさまざまな因子の影響を受けるが,年間C0.0~5.71%と報告されている.CIEの危険因子は,装用スケジュール,レンズ交換スケジュール,ケース交換頻度,消毒システム,レンズケアの遵守,レンズ素材などの変更可能な因子と,年齢,性別,屈折異常,一般的な健康状態や眼の健康歴など,変更不可能な因子に分けられている.CIEの予防には,就寝時の装用を避け,1日使い捨て型のレンズを使用し,もし頻回交換型を使用する場合は過酸化水素消毒システムを使用することを推奨している.文献1)StapletonCF,CBakkerCM,CCarntCNCetal:CLEARC-contactClensCcomplications.CContactCLensCAnteriorCEyeC44:330-367,C20212)StapletonF,DartJ,MinassianD:Nonulcerativecomplica-tionsofcontactlenswear.Relativerisksfordi.erentlenstypes.ArchOphthalmol110:1601-1606,C1992

写真セミナー:春季カタル治療中に発症したヘルペス性角膜炎

2025年4月30日 水曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史491.春季カタル治療中に発症した松前洋岡山大学大学院医歯学総合研究科眼科学講座ヘルペス性角膜炎図2図1のシェーマ①角膜上皮びらん②結膜上皮びらん③角膜上皮びらん辺縁が一部Cterminalbulb様となっている.図1左眼前眼部のフルオレセイン染色写真角膜の広範囲に角膜上皮びらんを認め,一部は結膜にまで拡大していた.図3図1の前眼部写真角膜中央から上方にかけて角膜浸潤と上皮びらんを認めた.図4治療50日後瘢痕治癒し,視力(1.0)を得られた.(63)あたらしい眼科Vol.42,No.4,2025C4530910-1810/25/\100/頁/JCOPYアトピー性皮膚炎の既往があり,前医では春季カタルとして治療されていた48歳の女性の症例を提示する.ベタメタゾン点眼およびタクロリムス点眼による治療が行われていたが,角膜上皮びらんの拡大が認められたため,当院を受診した.初診時,春季カタルを示唆する結膜乳頭の所見は認められず,乳頭形成の原因となるコンタクトレンズの使用歴もなかった.角膜には広範囲の上皮びらんおよび角膜浸潤が認められ,一部では結膜にまで連続する上皮びらんが観察された(図1,2).細菌や真菌感染を疑う膿瘍はみられなかった.上皮欠損の辺縁に部分的にCterminalbulb様の所見が確認されたため,非典型的ではあるものの,ヘルペス性角膜炎と診断し治療を開始した.治療はアシクロビル眼軟膏をC1日C5回から開始し,ベタメタゾン点眼をC1日C2回に減らして継続した.タクロリムス点眼は中止した.徐々に角膜上皮びらんは改善し,治療開始C50日目には瘢痕治癒を確認した.その後は軟膏,点眼を適宜漸減し,中止後半年経過しても再発は認めなかった.ヘルペス性角膜炎は典型的には樹枝状角膜病変を呈するため診断は容易だが1),進行すると地図状角膜上皮びらんとなり鑑別が困難となる.また,アトピー性皮膚炎の既往がある場合は,ヘルペス性角膜炎の発症リスクの増加や重症化が報告されている2).本症例では,アトピー性皮膚炎の既往に加え,ステロイドおよび免疫抑制薬点眼の使用により,非典型的かつ重症化したと考えられる.わが国でヘルペス性角膜炎の外用薬として保険適用がある治療薬は,アシクロビル眼軟膏のみである.本症例では角膜上皮びらんの治癒にC1カ月以上を要した.アシクロビル眼軟膏は長期使用において薬剤毒性による角膜上皮障害が問題となることがあり,ヘルペス治療を継続しながらも,治癒しない角膜上皮障害が原疾患によるものか薬剤性のものか判断が困難な場合もある.本症例においても,治療中の薬剤毒性の影響を完全には否定できず,アシクロビル内服薬を併用することで治療期間を短縮できた可能性が考えられる.なお,わが国の感染性角膜炎ガイドラインではアシクロビル内服も治療選択肢の一つとなっているが3),現時点では使用期間が限定されており,今後のさらなる検討が必要である.ヘルペス性角膜炎は比較的頻繁に遭遇する疾患だが,非典型例では鑑別がむずかしく,常に念頭に置くべき重要な疾患である.文献1)LabibCBA,CChigbuDI:ClinicalCmanagementCofCherpessimplexviruskeratitis.Diagnostics(Basel)C12:2368,C20222)OmatsuCY,CShimizuCY,CHarukiCTCetal:E.ectCofCatopicCconditionsConCdevelopmentCandCrecurrencesCofCinfectiousCkeratitis.AllergolIntC73:445-452,C20243)日本眼感染症学会感染性角膜炎診療ガイドライン第C3版作成委員会:感染性角膜炎診療ガイドライン(第C3版).日眼会誌127:859-895,C2023

増殖糖尿病網膜症への治療戦略

2025年4月30日 水曜日

あたらしい眼科42(4):443.451,2025c第29回日本糖尿病眼学会特別講演(眼科)増殖糖尿病網膜症への治療戦略TreatmentStrategyforProliferativeDiabeticRetinopathy井上真*はじめに糖尿病網膜症は最近の統計でも未だにわが国の失明原因の第3位である.糖尿病内科治療薬が進歩しているにもかかわらず糖尿病推定患者は増加しており,視覚の質(qualityofvision:QOV)を維持するための糖尿病網膜症に対する治療戦略構築は喫緊の課題である.増殖期前の治療は糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)に対する抗血管内皮増殖因子(vascularendothe-lialgrowthfactor:VEGF)療法と網膜光凝固である.光凝固はショートパルス光凝固の登場で低侵襲化しているが,DMEに対してはより効果を高めるために抗VEGF療法やステロイド療法も併用する.増殖期で吸収しない硝子体出血や網膜.離に対しては硝子体手術が適応になる.硝子体手術も広角観察システム,広角照明の他に25ゲージ(G)や27G手術など小切開硝子体手術の登場で低侵襲化が進んでいる.また,手術顕微鏡を覗いて手術をするのではなく,ビデオカメラを通して偏光モニターに映し出された3D画像をバイザーで観察しながら手術を行うheads-upsurgeryも登場した.治療が進歩したとはいえ,硝子体出血や網膜.離による視力障害が生じてから初めて眼科を受診する,光凝固未施行の,30.40歳代の,血糖コントロール不良な増殖糖尿病網膜症(proliferativediabeticretinopathy:PDR)への治療に難儀することも多い.本稿ではPDRに対する治療法の進歩と最新のトピックをまとめ,難治性PDRに対する治療の取り組みについて再考する.I疫学とスクリーニング糖尿病網膜症は糖尿病の三大合併症の一つである.日本における視覚障害の割合は2014年の報告(2007.2010年の検討)では1位が緑内障,2位が糖尿病網膜症,3位が網膜色素変性であった1).2019年(2015年の統計)と2023年(2019年の統計)の報告では1位は緑内障で2位は網膜色素変症,3位が糖尿病網膜症であり,糖尿病網膜症の順位が2位から3位になっている2,3).これは糖尿病への内科治療法が進歩して重症化する患者が少なくなったことと抗VEGF薬が登場したことによると考えられている.WHO基準では失明を視力0.05未満と定義しており,わが国での失明者は毎年約3,000人と推計されている.糖尿病推定患者数は約2,000万人とされ,50.60歳代の糖尿病患者のうち約300万人の38.3%が網膜症を発症していると推計されている.重症化する患者は少なくなっていると推測されているが,糖尿病網膜症は未だに失明原因の上位を占める疾患である.糖尿病網膜症は糖尿病腎症や糖尿病神経症と同様に,病態がかなり進行してからでないと症状が出現してこない.そこで糖尿病による眼病変の一番の治療は,定期検査をしっかり行い,網膜症を重症化する前に発見することである.2017年の米国糖尿病学会による研究では,定期検査によって糖尿病網膜症による視覚の損失の最高98%の予防が可能となると報告されている4).米国では人工知能(arti.cialintelligence:AI)搭載の眼底カメラが認可されており,この機械で眼底写真を撮影すると*MakotoInoue:杏林大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕井上真:〒180-8611東京都三鷹市新川6-20-2杏林大学医学部眼科学教室0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(53)443AIが糖尿病網膜症を自動判定する.この検査法は保険収載されているため,眼科医でなくても網膜症のスクリーニングができる.眼底写真の画像データをサーバーに集約することで自動診断の精度を向上させている.しかし,眼底写真は顔写真と同等の個人情報をもつと考えられ,この画像データそのものを個人情報の点からわが国ではどのように保護するかが問題になっている.II検査糖尿病網膜症のステージ分類は国際重症度分類,Davis分類,新福田分類が知られている5).Davis分類では単純網膜症,増殖前網膜症,増殖網膜症に分類している.眼底所見を記録するためには広い範囲を撮像できる広角眼底写真が有用である(図1a).蛍光眼底撮影は眼底の網膜血流の状態を調べるため,黄色の蛍光色素を静脈注射して眼底に流れ込んできた状態を連続して写真撮影する.網膜血管の灌流状態を把握できるだけでなく,毛細血管網の閉塞領域である無血管野や網膜新生血管を描出できる(図1c).一方で,蛍光色素の静脈注射による気分不快や,まれではあるがアナフラキシーショックが生じることが欠点である.そのため頻回には検査を行えない.非侵襲的な検査として,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)があげられる.OCTは眼底に投影した近赤外光の反射光を干渉させることで網膜の断層像を得る画像検査である.網膜の内部に液体が存在して黄斑浮腫となっているか,網膜下液なのかが判定できる.また,黄斑前膜や増殖膜によって黄斑部が牽引されているかどうかも観察できる.光干渉断層計血管撮影(OCTangiography:OCTA)は造影剤を使用しないで網膜血管像が得られる(図2).OCTの網膜断層像を経時的に比較して網膜像から動くものを抽出するとおもに赤血球が検出される.これを画像化することで血管像を構築する.OCTAは造影剤を使用しないのでアナフラキシーショックなどが起こらず,何回も反復して検査ができる.また,網膜深層の微小血管を描出できるため,虚血が網膜の表層であるか深層であるかも判定できる.網膜新生血管の検出には網膜硝子体面のスラブ(vitreo-retinalinterfaceslab)を解析すると判定しやすい6).一方で,広角OCTAの解析では,セグメンテーション(層間解析)不良によって網膜新生血管の検出率が低下するため,手動でセグメンテーションを修正すると検出率が増加すると報告されている6).また,網膜硝子体網膜血管像を構築するのには数秒から数十秒の間1カ所を固視しないといけないため,固視が不良である場合には血管像が得られないのが欠点である.CarlZeiss社のOCTAであるPlexEliteに前眼部観察用のレンズを装着すると前眼部のOCTAが撮像可能である(図3b).Aicherら7)は前眼部OCTAの画像を白内障手術後と硝子体手術後で比較した.前眼部OCTAを用いると虹彩ルベオーシスの判定がOCTAで可能である(図3).III治療1.光凝固網膜光凝固は大きく分けて汎網膜光凝固と局所光凝固の二種類がある.汎網膜光凝固は進行した前増殖期,もしくは増殖期に至ってしまった場合に失明を予防する治療である.中心領域を除く網膜の全体に広範に光凝固を行う.局所光凝固はおもに黄斑浮腫を起こしている網膜血管瘤に対する部分光凝固である.光凝固は網膜を熱で傷害する治療となり,光凝固の照射部位には網膜感度の低下を生じる.そこで最近の光凝固は低侵襲化している.ショートパルス光凝固は,レーザーの凝固時間を短縮することで網膜内で発生する熱エネルギーを最小限にしている8).通常の光凝固が網膜全層を凝固するのに対して,ショートパルス光凝固では網膜外層のみを凝固するが,光凝固の虚血を抑制する効果は通常の光凝固より減弱する.マイクロパルス光凝固や閾値下光凝固なども低エネルギー光凝固である.ナビラスレーザーは追視装置の付いたナビゲーションレーザー(自動光凝固装置)である8).眼底写真などをレーザー装置に取り込んで,あらかじめ光凝固を行う領域をプログラムする.局所光凝固や汎網膜光凝固では凝固範囲を取り込んだ画像から指定すると装置が自動で光凝固を行うが,眼球の動きを追尾する機能があるため,目標に正確に照射できることが利点である.2.抗VEGF薬DMEに対しては抗VEGF薬の眼内注射が第一選択になっている.現在認可されている抗VEGF薬はラニビズマブ,アフリベルセプト,ブロルシズマブ,ファリシマブの4種類がある.治療方法としては最初は1カ月ごとに3.6回の導入期投与を行い,その後は必要に応じて注射を続けていく.効果がある治療法であるが,欠点図1増殖糖尿病網膜症の広角眼底写真,OCTA,広角蛍光眼底画像a:広角眼底写真では点状出血や軟性白斑がみられる.b:OCTAでは血管アーケード外で広範な無血管野がみられる.12×12mmの撮像範囲では網膜新生血管はみられない.c:広角蛍光眼底画像では鼻側に網膜新生血管()と耳側周辺部の網膜血管からの漏出もみられる.は薬剤が高額であり,かつ反復投与が必要なことであいるが,治療開始後2年では視力回復に差がなかった9).る.DRCR.netによるProtocol-T研究では,DMEに対DMEを軽快させる内服薬としてsodium-glucoseするラニビズマブ0.3mg(日本でのラニビズマブの認可transportprotein2(SGLT2)阻害薬が注目されていは0.5mg)とアフリベルセプト2mgの効果を比較してる10).血液中のブドウ糖は,腎臓の中の糸球体で濾過さ図2増殖糖尿病網膜症での広角眼底写真とOCTAの比較a:視力はC1.0であるが,広角眼底写真では点状出血と軽度の硬性白斑のみのような印象であるが鼻側にループ状血管()と後極にモヤモヤした網膜血管()がみられる.Cb:同写真の拡大像では網膜静脈のループ状血管()とその周囲の静脈経は不同である.Cc:同写真の拡大像ではモヤモヤした網膜血管は新生血管()であることがわかりやすくなる.Cd:全網膜スラブのCOCTAでは無血管野と網膜新生血管()が描出されている.Bスキャン(下図)では断層像で血流がある箇所が赤く表示される.Ce:網膜硝子体面のスラブのCOCTAでは網膜表面から突出した網膜新生血管()が描出されている.網膜新生血管の部位のCBスキャン(下図)では網膜から突出した網膜新生血管の血流()が確認される.図3虹彩ルベオーシスに対する前眼部OCTAa:スリット写真では瞳孔縁に新生血管がみられる().b:前眼部COCTAでも虹彩と虹彩縁に新生血管がみられる.結膜血管や眼瞼皮膚の血管も描出されている.Cc:前眼部COCTAのCBスキャンでは虹彩の前面と後面に血流の血流分布()が赤く表示されている.れ一度排出されるが,尿細管で再吸収される.SGLT2阻害薬はブドウ糖の取り込みで働いているCSGLT2蛋白の働きを抑えることで,ブドウ糖を尿に排泄させて血糖を下げる働きをもつ.現在市販されているCSGLT2阻害薬は数種あるが,慢性心不全や慢性腎不全に対しても一部が保険適用となっている.抗CVEGF薬に反応が不良であったCDMEの患者にCSGLT2阻害薬を投与すると黄斑浮腫が軽快することが報告されている10).DMEに対してCSGLT2阻害薬は抗CVEGF薬の治療を増強する可能性があり,注目されている.C3.硝子体手術1992年にCLewisら11)は,肥厚した後部硝子体膜を伴うCDMEにおいて,肥厚した後部硝子体皮質を.離する硝子体手術を行い,黄斑浮腫が軽快することを報告した.その後にわが国からもCTachiら12)によって後部硝子体が未.離のCDMEに有効であることや,Satoら13)によって後部硝子体.離があっても硝子体手術が有効であることが報告され,わが国では硝子体手術が盛んに行われた.海外では,硝子体手術後に白内障による視力低下が出現するため,DMEへの治療は抗CVEGF療法に置き換わっている.わが国では白内障同時手術を行うことが多いため,現在でも対象を選択して硝子体手術が行われている.Otaniら14)はCDMEをスポンジ様浮腫,.胞様黄斑浮腫,漿液性網膜.離という三つのタイプに分類した.スポンジ様浮腫に関しては近年のCOCTの進歩で黄斑前膜を伴うことが知られ,DMEに黄斑前膜があると抗CVEGF療法に抵抗性であることから,スポンジ様浮腫に対しては硝子体手術が選択される.黄斑浮腫の合併症として黄斑下に硬性白斑が沈着すると抗CVEGF療法には抵抗性である.Takagiら15)はC1999年に黄斑下に沈着した硬性白斑に対して,網膜下注入針で眼内灌流液を吹き付けながら洗浄する黄斑下手術が有効であることを報告した.以降は抗CVEGF療法が広まったため,DMEへの硝子体手術は減少しているが,症例を選択すれば有効な方法である.Morizaneら16)は網膜下に眼内灌流液を注入して人工的に網膜.離を作製することで難治性の黄斑浮腫を早期に改善することができたと報告した.また,Imaiら17)は中心窩.胞を硝子体手術で摘出することで,術後に中心窩網膜厚が減少して視力も維持されたと報告した.さらに摘出した.胞にスペクトロメトリー解析を行い,.胞がフィブリノーゲンに近い性質を示したと報告している.DMEに対する硝子体手術は内境界膜.離を行うことが主流になっているが18,19),新しい手術手技も報告されており,抗CVEGF療法に抵抗性のCDMEに対する新しい手術適応となっている.増殖期になって網膜.離や硝子体出血が出現すると硝子体を切除する硝子体手術が適応となる.硝子体手術の歴史は,Machemerら20)がC1970年代に経毛様体扁平部に強膜創を作製するCclosedvitrectomyを開発して始まった.当時は強膜創がC1カ所であるCone-portvitrecto-myで,ローター式の硝子体カッターと眼内照明と,眼内灌流が一体になっていた.3.3Cmmの切開が必要であったが,それ以前の,角膜を取りはずして直視下で硝子体切除を行うCopen-skyCvitrectomyより格段の低侵襲図4両眼の無治療増殖糖尿病網膜症45歳,女性.増殖糖尿病網膜症による硝子体出血が右眼(Ca)と左眼(Cb)にみられる.視力は右眼C0.6,左眼0.2であるが,右眼は黄斑部を除いてほぼ全.離の状態であった.Cc:右眼の術中画像ではC25Gの硝子体剪刀と鑷子を用いた双手法で.離した網膜上の増殖膜を除去している.Cd:液体パープルオロカーボンで後極網膜を押さえながら周辺部に後部硝子体.離を拡大している.Ce:術C7カ月後の右眼と左眼(Cf)の眼底写真では網膜は復位しており,視力は右眼C0.9,左眼C1.0であった.手術であった.ている.網膜を復位させたC25%のうち,59%で視力改Machemerら21)は硝子体手術の黎明期であるC1981年善が得られ,全体としてC46%の症例で著明な視力改善に硝子体出血を併発したCPDR663眼の治療成績を報告となった.また,20/200以上の視力を維持できた症例している.網膜新生血管からの出血はC97%でみられ,を加えると,全体の成功率はC51%であったと報告して増殖膜膜の除去はC42%,網膜.離が合併した場合はC60いる.驚くべきはこの時代から網膜.離と虹彩のルベオ%で増殖膜を除去していた.もっとも多い合併症は網膜ーシスが予後不良のおもな要因であると報告しているこ裂孔の形成であった,水晶体はC73%の症例で摘出除去とで,全眼のC42%に少なくともある程度の虹彩ルベオし,保持された透明水晶体のC82%では白内障は進行せーシスがあり,全眼のC23%が血管新生緑内障になってず,白内障がなければ水晶体は温存すべきであると述べいた.硝子体手術後の血管新生緑内障をいかに予防すべ図5硝子体出血を伴う増殖糖尿病網膜症a:左眼に硝子体出血がみられ,視力は手動弁であった.b:超音波検査では視神経乳頭周囲に牽引性網膜.離がみられる.Cc:27Gのベベルド硝子体カッターの先端を増殖膜の下に挿入して増殖膜を切除している(は進行方向).d:鼻側の増殖には硝子体カッターを持ち替えてカッターの頭部の角度が眼球壁に併行するように増殖膜を切除していく(は進行方向).e:術C2カ月後には硝子体出血も軽快して網膜も復位した.視力は0.8であった.Cf:OCTでも黄斑部は良好な形態を維持している.きかは現在でも共通の問題点である.近年の硝子体手術はC20Gの時代からC25GやC27Gの時代に変化している.Yokotaら22)はCPDR424眼の硝子体手術成績をC20G,23G,25Gごとに比較した.小切開硝子体手術ではC1回の硝子体切除量が減少するため,術中の医原性裂孔の発生が少なく,術後の強膜創血管新生が予防でき,術後の硝子体出血が減少するのではと考えられた.結果としては,小切開硝子体手術であるC23GとC25Gでは従来のC20G手術と比べて医原性裂孔が少なく,液体パーフルオロカーボンの使用頻度が少なく,術後の血管新生緑内障が少なかった.しかし,術後C1カ月以降に生じる硝子体出血の頻度には差がなかった.術後の血管新生緑内障が減少したことに関しては,従来の20G手術では強膜創を縫合していたのに対して小切開硝子体手術では切開が小さく,強膜創を縫合する頻度が減少して,前眼部虚血を起こしにくくしていたことが原因と考えられた.一方で硝子体手術装置の進歩により硝子体カッターの切除が高速化している.Sanoら23)はCPDR393眼を毎分1,500.2,500カットのアキュラスを使用した低速カット群と毎分C5,000カットのコンステレーションを使用した高速カット群で術後成績を比較した.高速カット群では術中に剪刀を使用する頻度が少なく,術後C1カ月以降に生じる術後硝子体出血が少なかった.小切開硝子体手術では高速カットになるとC1回の切除量がさらに減少しうるため,硝子体カッターのみで増殖膜の処理ができる症例が増加したためと考えられた.しかし,増殖膜の牽引が著しい難治症例に対しては,25G手術での硝子体剪刀や鑷子を用いた双手法が必要となる(図4).広角観察システムやシャンデリア照明などの手術装置の進歩によりCPDR手術では結膜がより温存できる小切開硝子体手術が標準術式となっている.硝子体カッターの先端にC30°の角度をつけたベベルド硝子体カッターは,従来の硝子体カッターと比較してカッターの開口部を網膜表面により近く設置することができ,より網膜近傍での増殖膜処理に有利である.また,硝子体カッター開口部への吸引水流を改善させることで硝子体切除効率も向上させていた24).さらに硝子体カッターの内筒にもう一つの開口部をもつCdual-bladeのベベルド硝子体カッターは硝子体切除の効率をさらに向上させた25).硝子体切除効率がC25G手術と比較して不良であったC27G手術でもC25G手術と同様な硝子体切除効率が可能となり,ベベルド硝子体カッターと相まってとくにCPDR手術においてその威力を発揮できるようになっている.このような器具の進歩がCPDR手術でのより小切開であるC27G手術で対応できる適応拡大につながっている.Heads-upsurgeryのような観察系の進歩や,このような硝子体手術装置や器具の進歩によってPDRの手術成績は確実に向上していると考えられるが,やはり糖尿病のコントロールと定期検査による適切な時期での光凝固や抗CVEGF薬を使用することで難治症例を作らないことが重要である.硝子体手術が必要になった場合でも,手術の安全性を向上させ,視力予後にもっとも関連している因子であることはいうまでもない.CIVまとめ糖尿病網膜症はわが国の失明原因の第C3位である.定期検査によって糖尿病網膜症患者のC98%で失明の予防が可能であると算出されており,血糖コントロールに加えて定期検査を行うことがもっとも重要である.診断技術や,低侵襲光凝固や抗CVEGF薬による治療が進歩しているが,糖尿病コントロールと定期検査に勝る治療法はない.難治性のCPDRをいかに予防できるかが今後の重要課題である.文献1)若生里奈,安川力,加藤亜紀ほか:日本における視覚障害の原因と現状.日眼会誌118:495-501,C20142)MorizaneCY,CMorimotoCN,CFujiwaraCACetal:IncidenceCandCcausesCofCvisualCimpairmentCinJapan:theC.rstCnation-wideCcompleteCenumerationCsurveyCofCnewlyCcerti.edCvisuallyCimpairedCindividuals.CJpnCJCOphthalmolC63:26-33,C20193)MatobaCR,CMorimotoCN,CKawasakiCRCetal:ACnationwideCsurveyCofCnewlyCcerti.edCvisuallyCimpairedCindividualsCinCJapanCforCtheC.scalCyear2019:impactCofCtheCrevisionCofCcriteriaCforCvisualCimpairmentCcerti.cation.CJpnCJCOphthal-molC67:346-352,C20234)SolomonCSD,CChewCE,CDuhCEJCetal:DiabeticCretinopa-thy:aCpositionCstatementCbyCtheCAmericanCDiabetesCAssociation.DiabetesCareC40:412-418,C20175)日本糖尿病眼学会診療ガイドトライン委員会:糖尿病網膜症診療ガイドライン(第C1版).日眼会誌C124:955-981,C20206)HiranoCT,CHoshiyamaCK,CHirabayashiCKCetal:Vitreoreti-nalCinterfaceCslabCinCOCTCangiographyCforCdetectingCdia-beticCretinalCneovascularization.COphthalmolCRetinaC4:C588-594,C20207)AicherCNT,CNagahoriCK,CInoueCMCetal:VascularCdensityCofCtheCanteriorCsegmentCofCtheCeyeCdeterminedCbyCopticalCcoherencetomographyangiographyandslit-lampphotog-raphy.OphthalmicResC63:572-579,C20208)NozakiCM,CAndoCR,CKimuraCTCetal:TheCRoleCofClaserCphotocoagulationCinCtreatingCdiabeticCmacularCedemaCinCtheCeraCofCintravitrealCdrugadministration:aCdescriptivereview.Medicina(Kaunas)C59:1319,C20239)BresslerCNM,CBeaulieuCWT,CMaguireCMGCetal:DiabeticCretinopathyCclinicalCresearchCnetwork.CearlyCresponseCtoCanti-vascularendothelialgrowthfactorandtwo-yearout-comesamongeyeswithdiabeticmacularedemainproto-colT.AmJOphthalmolC195:93-100,C201810)TatsumiCT,COshitariCT,CTakatsunaCYCetal:Sodium-glu-coseco-transporter2inhibitorsreducemac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眼内リンパ腫

2025年4月30日 水曜日

眼内リンパ腫Intraocularlymphoma蕪城俊克*はじめに眼内リンパ腫(intraocularlymphoma)は眼内に原発するまれな眼内の血液系腫瘍で,浸潤部位から網膜硝子体リンパ腫(vitreoretonallymphoma:VRL)とぶどう膜リンパ腫(uveallymphoima)に分けられ,ほとんどが前者である1).VRLは悪性度が高く,とくに脳中枢神経系(centralnervoussystem:CNS)へ進展しやすく,生命予後不良となりやすい1).しかも内因性ぶどう膜と誤診されやすく,古くから「仮面症候群(masqueradesyndrome)」ともよばれ,注意すべき疾患とされてきた.一方で,ぶどう膜リンパ腫はVRLより悪性度は低いとされているが,後部強膜炎などと誤診しやすい.本稿ではVRL患者の特徴的な眼科画像検査所見について総説する.I前眼部所見・硝子体所見の特徴VRLはCNSへの進展のリスクが高く,診断の遅れは生命予後不良につながりやすい.早期診断のためには,眼所見からVRLを疑い,硝子体生検などによって確定診断する必要がある.VRLは比較的特徴的な眼所見を認めることが多い.細隙灯顕微鏡検査による観察では,VRLの角膜後面沈着物(keraticprecipitate:KP)は,白色小型から微塵様であることが多い(図1a).また,前部硝子体中には大型で白色の炎症細胞を多数認めることが多い(図1b).細胞径が大きいのは,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫であるためである.硝子体混濁はびまん性で濃淡のある混濁を特徴とし,オーロラ状またはベール状混濁とよばれる(図1c).混濁は眼底後極部よりも周辺部でより強いことが多い.まれに雪玉状あるいは数珠状の硝子体混濁(図1d)や偽前房蓄膿を呈することもある(図1e).II眼底画像所見の特徴近年では眼底写真,光干渉断層計(opticalcoherenttomography:OCT),フルオレセイン蛍光造影(.uore-sceinangiography:FA),インドシアニングリーン蛍光造影(indocyaninegreenangiography:IA),眼底自発蛍光(fundusauto.uorescence:FAF)など複数の画像検査を組み合わせて眼底病変を評価するマルチモーダルイメージングが日常臨床で頻用されている.VRLについても,診断や病変の活動性評価に有用な情報を提供してくれる.以下,各眼底画像検査におけるVRLの特徴的所見について述べる.1.カラー眼底撮影日本でのVRL患者217例を対象とした多施設後ろ向き研究によると,VRLでみられた眼所見は,硝子体混濁(91%),網膜下浸潤(57%),虹彩炎(31%),角膜後面沈着物(25%),網膜血管炎(10%),視神経乳頭浮腫(2%)などであった2).一方,海外の原発性VRL患者23例43眼の超広角眼底撮影像を後ろ向きに検討した研*ToshikatsuKaburaki:自治医科大学附属病院眼科〔別刷請求先〕蕪城俊克:〒329-0498栃木県下野市薬師寺3311-1自治医科大学附属病院眼科0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(47)437図1VRL症例の前眼部所見・硝子体所見a:白色小型の角膜後面沈着物.Cb:前部硝子体中の大型の白色炎症細胞浸潤.Cc:濁はびまん性で濃淡のあるオーロラ状の硝子体混濁.d:雪玉状あるいは数珠状の硝子体混濁.e:偽前房蓄膿.図2周辺部に網膜下浸潤病巣を認めたVRL症例の眼底画像(同一症例)a:広角眼底撮影.周辺部に隆起性の黄白色病変を認め,表面に色素性顆粒を認める(豹紋状斑点).b:OCT像(後極部).RPE上の散在性の結節.c:OCT像(周辺部).RPE()とCBruch膜()の間への均一な高輝度物質の貯留とCRPEの隆起を認める.Cd:FA像(早期).RPE隆起部は蛍光ブロックにより顆粒状の低蛍光となる.Ce:FA像(後期).障害されたCRPEの組織染色により過蛍光となる.Cf:IA像.RPE隆起部は低蛍光領域として描出される.Cg:FAF像.RPE下病変の過自発蛍光,および後極部の過自発蛍光斑と低自発蛍光斑の混在(豹紋様斑)を認める.de図3多発性脈絡膜炎様の周辺部病変を呈したVRL症例a:カラー眼底写真:黄白色の癒合性のある斑状病変を認める.b:OCT像.病変部はCRPE上の散在性の結節あるいはCRPEの小隆起として観察される.Cc:FA像(早期).RPE隆起部は蛍光ブロックにより低蛍光となる.Cd:FA像(後期).その部位は後期像ではCRPEの組織染色により過蛍光となる.Ce:IA像:RPE隆起部は低蛍光となる.図4網膜血管炎を呈したVRL症例a:カラー眼底写真.血管に沿った白色浸潤を認める.b:OCT像.血管炎の部位は網膜内層の高反射浸潤病変として観察される.Cc:FA像(後期).血管からの旺盛な蛍光漏出を認める.de図5後極部網膜の肥厚を伴う浸出性網膜炎を呈したVRL症例a:カラー眼底写真.後極部網膜に白色浸潤病巣を認める.b:OCT像.RPE上の帯状の高反射像を認める.Cc:FA像(早期).RPE上帯状病変部は蛍光ブロックにより低蛍光となる.d:FA像(後期).RPE上帯状病変部は後期像ではCRPEの組織染色により過蛍光となる.e:FAF像.過自発蛍光斑と低自発蛍光斑の混在がみられる.図6脈絡膜ぶどう膜リンパ腫の症例a:カラー眼底写真.夕焼け状様の眼底で,表面にCRPE細胞の過形成による色素性顆粒を認める.Cb:OCT像.Bruch膜下の脈絡膜にリンパ腫細胞が浸潤するため,脈絡膜肥厚やCRPEの波打ちはみられるが,RPEとCBruch膜の分離像はみられない.-

多発消失性白点症候群(MEWDS)および 点状脈絡膜内層症(PIC)

2025年4月30日 水曜日

多発消失性白点症候群(MEWDS)および点状脈絡膜内層症(PIC)MultipleEvanescentWhiteDotSyndrome(MEWDS)andPunctateInnerChoroidopathy(PIC)柳井亮二*はじめに多発消失性白点症候群(multipleevanescentwhitedotsyndrome:MEWDS)と点状内脈絡網膜症(punc-tateinnerchoroidopathy:PIC)は,類似した臨床症状を示すまれな白点状脈絡網膜症である.MEWDSは一般的に若い女性に発症し,網膜に多数の白色斑点を呈する疾患で,網脈絡膜の炎症所見や黄色~橙色の顆粒状所見を特徴とする1).PICもおもに若い近視の女性に発症する炎症性の網脈絡網膜症で2,3),前房や硝子体の炎症を伴わずに,後極に多数の小規模な黄白色病変として出現する2).MEWDSは原発性疾患として発症する場合とPICの二次性疾患として発症する場合があり4),他のぶどう膜炎との鑑別もむずかしい.確定診断は,おもに臨床所見と画像診断に基づいて行われるため,マルチモーダルイメージングが不可欠となる3).本稿では,MEWDSとPICの臨床像とマルチモーダルイメージングを示しながら,MEWDSおよびPICの疾患概念を解説するとともに,MEWDSとPICを合併した症例を呈示する.I多発消失性白点症候群とはMEWDSはellipsoidzone(EZ)を中心とする網膜外層が障害される,まれな自己免疫性の炎症性眼疾患である1,5,6).MEWDSおよびPICを含む白点症候群の年間発生率は,10万人あたり0.45人と推定されており,他の自己免疫疾患との関連性6)やインフルエンザなどのワクチン接種との関連性も報告されている7).しかし,原因や病態の詳細は未解明の部分が多く,さらなる研究が望まれる眼疾患の一つである.自覚的には光視症や視力低下,中心暗点で発症することが多く,通常は1~3カ月で自然治癒する.網膜の白点が消失するとともに視力低下などの症状も回復する7).診断には,臨床所見に加え,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)によるEZの消失やインドシアニングリーン蛍光造影(indocyaninegreenangiography:IA)による低蛍光斑などの特徴的所見から総合的に判定する.さらに,近年では眼底自発蛍光(fundusauto-.uorescence:FAF)による過蛍光所見の有用性も報告されている8).治療は大半の患者で自然軽快するため不要である.PICに続発したMEWDSに対しては,副腎皮質ステロイドが用いられ,良好な結果が報告されている9).このように,MEWDSに対する治療の要否は個々の患者に応じた対応が必要である.II多発消失性白点症候群に対するマルチモーダルイメージング広角眼底写真では黄白色の白点が多数認められ,後極部から網膜周辺部までの局在が明らかである(図1).さらに,中心窩には黄色~橙色の顆粒状所見がみられることもある.FAFでは白点部位に一致して過蛍光斑がみ*RyojiYanai:徳島大学大学院医歯薬学研究部眼科学分野〔別刷請求先〕柳井亮二:〒770-8503徳島市蔵本町2-50-1徳島大学大学院医歯薬学研究部眼科学分野0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(41)431初診時1カ月後3カ月後広角眼底眼底自発蛍光(FAF)光干渉断層計(OCT)図1多発消失性白点症候群の自然経過39歳,女性.初診時の眼底写真では黄白色の白点の多数認められ,眼底自発蛍光で過蛍光を呈している.OCTでは,EZ消失()や中心窩の顆粒状所見()が観察される.これらの所見はC1カ月後には改善し,3カ月後には異常所見はみられない.図2多発消失性白点症候群のインドシアニングリーン蛍光造影(IA)a,b:41歳,男性.Cc,d:34歳,女性.広角眼底(Ca,c)でみられる白斑に一致して,IA(Cb,d)では低蛍光斑が観察される.図3点状内脈絡網膜症のマルチモーダルイメージング39歳,女性.21歳時より視力低下の自覚症状があり,数年ごとに再発を繰り返していた.Ca:カラー眼底.b:OCT.c:フルオレセイン蛍光造影.d:インドシアニングリーン蛍光造影.e:眼底自発蛍光.図4点状内脈絡網膜症のOCTによる治療経過17歳,女性.Ca,b:初診時.c:初診C3週間後のCVEGF治療開始時.Cd:VEGF治療C1カ月後.CNVは縮小した.Ce:VEGF治療C2カ月後.CNVは消失したが,EZは軽度消失している.ab図5点状内脈絡網膜症のOCTAによる治療経過17歳,女性.Ca:初診C3週間後のCVEGF治療開始時,Cb:VEGF治療C1カ月後.CNVは縮小した.図6点状内脈絡網膜症に続発した多発消失性白点症候群39歳,女性.図C3と同一の症例.Ca,b:初診時.c,d:3カ月後.広角眼底(Ca,c)および広角自発蛍光(Cb,d)では,後極部から網膜周辺部に広がる白斑がみられ,同部位に一致した過蛍光がみられる.3カ月後(Cc,d),網膜の白斑は消失し,自発過蛍光も消失した.—

急性後部多発性斑状色素上皮症(APMPPE)

2025年4月30日 水曜日

急性後部多発性斑状色素上皮症(APMPPE)AcutePosteriorMultifocalPlacoidPigmentEpitheliopathy(APMPPE)鈴木佳代*はじめに急性後部多発性斑状色素上皮症(acuteposteriormul-tifocalplacoidpigmentepitheliopathy:APMPPE)は,1968年にGassらにより最初に報告された疾患であり,一過性に後極部網膜に散在性の白点病変が多発する原因不明の疾患群である「白点症候群」の一つに分類される1).本疾患は急性もしくは亜急性に若年層で発症することが特徴であり,患者はおもに霧視,暗点,変視症といった自覚症状を訴える.一般的に両眼性の発症が多く,両眼が同時に発症する場合や,片眼に初発したのち,数日遅れてもう片眼が発症する場合が報告されている.また,発症に先立ちインフルエンザ様の症状がみられることがあり,これがウイルス感染との関連性を示唆する要因の一つとして注目されている2).APMPPEは,他の白点症候群のみならず,Vogt-小柳-原田病や後部強膜炎といった疾患とも類似した眼所見を呈する場合があるため,その鑑別診断がきわめて重要である.これらの疾患を正確に診断するには,眼所見のみで判断することはむずかしく,詳細な検査が必要である.とくに,フルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiography:FA)やインドシアニングリーン蛍光造影(indocyaninegreenangiography:IA)が診断の基本となるが,近年では光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)や眼底自発蛍光(fundusauto-.uorescence:FAF)などの非侵襲的画像診断技術の進歩が著しく,診断にも有用である.さらには,非侵襲的に網膜や脈絡膜の血流を評価可能なレーザースペックルフローグラフィ(laserspeckle.owgraphy:LSFG)も有用であることが示されている.これらの複数の画像診断手法を組み合わせたマルチモーダルイメージングのアプローチがAPMPPEの診断と治療方針の決定において必須であると考えられる.本稿では,APMPPEの診断および治療におけるマルチモーダルイメージングの有用性について,これまでの知見を基に詳細に解説するとともに,同疾患の特徴的な眼所見や画像所見についても触れる.I眼所見APMPPEにおける眼所見は,前房炎症が比較的軽度であることが特徴である.前房および前部硝子体内にはわずかな細胞浸潤が観察される程度であり,急性ぶどう膜炎にみられるような激しい炎症所見を呈することはまれである.初発病変は,おもに後極部から中間周辺部にかけて広がる白色病巣として現れる(図1).これらの病巣は大きさがおよそ1/2~1/4乳頭大であり,発症初期には境界がやや不鮮明であることが多いが,経過とともに次第に明瞭化し,多くの場合に発症から数週間以内に自然に消退する.しかし,一部の病巣は瘢痕病巣となり,とくに黄斑部に瘢痕化病変が残存した場合には,視機能障害が不可逆的となる可能性が高い.このため,黄斑部病変を有する患者には発症早期にステロイドの内服や後部Tenon.下注射などの積極的な治療介入が推奨*KayoSuzuki:北海道大学大学院医学研究院眼科学教室〔別刷請求先〕鈴木佳代:〒060-8638札幌市北区北15条西7北海道大学大学院医学研究院眼科学教室0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(35)425図1APMPPEの初発病変黄斑部および視神経乳頭周囲に黄白色の滲出斑が多数みられる.図2APMPPEの瘢痕化病変寛解期には色素沈着を伴う瘢痕病変が残存することもある().図3APMPPEのOCT画像OCTでは急性期に脈絡膜が肥厚し(),漿液性網膜.離()を伴うこともある.図4APMPPEのフルオレセイン蛍光造影所見早期に滲出斑が低蛍光(Ca)となり,後期では過蛍光(Cb)となる逆転現象がみられる.図5APMPPEのインドシアニングリーン蛍光造影所見初期から低蛍光がみられていたがC,後期にも低蛍光斑が残存している.図6APMPPEの眼底自発蛍光(FAF)画像a:FAFは活動性病変は過自発蛍光となるが,その内部が低自発蛍光を呈することもある().b:色素沈着を伴った瘢痕病変が残存した場合には同部位で低自発蛍光がみられる()が,その内部が過自発蛍光を呈することがある().c:再発病変では過自発蛍光が再び出現する().図7APMPPEのレーザースペックルフローグラフィ所見a:急性期には黄斑部Cmeanblurrate(MBR)が減少し,寒色調となる.Cb:寛解期にはCMBRが上昇し,暖色調へ変化する.図8Relentlessplacoidchorioretinitisの眼病変a:発症初期はCAPMPPEに類似するが,より広範囲に病変がみられることが多い.Cb:時間経過とともに病変は再発を繰り返し,色素沈着を伴った広範囲な萎縮を生じる().-