写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史487.眼窩内静脈奇形(海綿状血管腫)奥拓明京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学図1左眼窩内腫瘍(MRI画像)造影MRI,ダイナミックでは徐々に造影増強効果の範囲が広がり,斑状で不均一な状態から遅延相で全体に濃染される像を認めた.図4術中写真図3初診時左眼窩筋円錐内に濃赤色の腫瘍を認める.左眼球突出を認める.(57)あたらしい眼科Vol.41,No.12,2024C14410910-1810/24/\100/頁/JCOPY人間ドックの頭部MRI検査で左眼窩内に腫瘍性病変を認めたため,京都府立医科大学病院(以下,当院)に紹介となった75歳,女性の症例を提示する.複視などの自覚症状はなかったが,当院受診時,左眼球突出を認めた.造影CMRIにて精査を行ったところ,耳下側の筋円錐内にC23C×16×22Cmm大の腫瘍性病変を認めた.T2強調画像では高信号を示し,ダイナミック造影では徐々に造影増強効果の範囲が広がり,斑状で不均一な状態から遅延相で全体に濃染される像を認めた(図1~3).腫瘍サイズが大きかったため,腫瘍摘出術を行った.手術は下眼瞼睫毛下皮膚よりアプローチした.筋円錐内に濃赤色の腫瘍を認め(図4),冷凍手術システム(クライオ)にて腫瘍の被膜を損傷することなく摘出した.病理学的検査では静脈奇形(海綿状血管腫)の診断であった.術後,眼球突出は改善を認め,その後は腫瘍の再発なく経過している.静脈奇形は,従来は海綿状血管腫として知られていた.しかし,近年では腫瘍ではなく,血管奇形の一種であり,静脈奇形とよばれることが多い.眼窩内静脈奇形(海綿状血管腫)は眼窩内腫瘍としてはリンパ腫,炎症性疾患についでC3番目に多いとされている.女性にやや多く,中年に多い傾向である.眼窩のどの部位からでも発症するが,症状は眼窩内の生じた部位により異なる.眼球突出がとくに多く,視力低下,眼球運動障害,疼痛を認めることがある1).一方,自覚症状を認めない患者も多く,約C30%は健診などで偶発的に発見される2).比較的柔らかい腫瘍であるため,他の腫瘍と異なりサイズが大きいものであっても視神経圧迫による視力障害は生じにくい.画像的特徴として,CT検査では境界明瞭な卵円形の形状を示す.MRIではCT1強調画像で筋肉や脳と等信号,脂肪より低信号を呈する.T2強調画像では脂肪や脳より高信号となる.ダイナミック造影では徐々に造影増強効果の範囲が広がり,斑状で不均一な状態から遅延相で全体に濃染されることが特徴である.治療は外科的に腫瘍摘出を行う.完全摘出後に再発した報告は少なく,被膜を保ったまま摘出することが望ましい.自覚症状がない場合は必ずしも手術加療は必要なく,腫瘍径の経過観察を行い,増大傾向や症状出現時に考慮する.また,放射線療法による腫瘍サイズの縮小の報告があり,治療後C12カ月で平均腫瘍体積のC63%の減少を認めたとされている3).本症例は偶発的に発見された眼窩内静脈奇形である.眼窩内静脈奇形は特徴的な画像所見より診断は容易である.比較的柔らかい腫瘍であるため,腫瘍径が大きくならないと自覚症状が生じにくい.手術加療による摘出が望ましいが,本症例のようにとくに筋円錐内にある腫瘍の場合は,手術による合併症(出血や視神経障害など)も考慮する.一方,閉経後に腫瘍径が小さくなるとの報告もあり4),自覚症状の有無や腫瘍径の推移などにより手術加療の可否を判断する必要がある.文献1)CalandrielloCL,CGrimaldiCG,CPetroneCGCetal:CavernousCvenousmalformation(cavernoushemangioma)ofCtheorbit:CurrentCconceptsCandCaCreviewCofCtheCliterature.CSurvOphthalmolC62:393-403,C20172)McNabCAA,CSelvaCD,CHardyCTGCetal:TheCanatomicalClocationandlateralityoforbitalcavernoushaemangiomas.COrbitC33:359-362,C20143)RatnayakeCGS,CMcNabCAA,CDallyCMJCetal:FractionatedCstereotacticCradiotherapyCforCcavernousCvenousCmalforma-tionsCofCtheCorbitalCapex.COphthalmicCPlastCReconstrCSurgC35:322-325,C20194)JayaramCA,CLissnerCGS,CCohenCLMCetal:PotentialCcorre-lationCbetweenCmenopausalCstatusCandCtheCclinicalCcourseCofCorbitalCcavernousChemangiomas.COphthalmicCPlastCReconstrSurgC31:187-190,C2015