写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦渡部りさ子福岡秀記462.Microsporidia角膜炎京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学図1前眼部所見数珠様の放射状に広がる角膜上皮病変を認める.図3フルオレセイン染色角膜表層性の病変を認める.図4全層角膜移植後の前眼部所見移植片は透明性を維持している.(59)あたらしい眼科Vol.39,No.11,2022C14990910-1810/22/\100/頁/JCOPY症例は78歳の男性.左眼の充血を自覚し前医を受診し,強膜炎と関節リウマチの治療を開始されたが改善を認めず,京都府立医科大学附属病院(以下,当院)に紹介受診となった.ぶどう膜炎も否定できず,各種検査を施行したが,リウマチ因子のみ陽性を認め,関節リウマチに対しての治療としてステロイド内服の漸減,漸増を繰り返すも治療反応に乏しく,所見の増悪寛解を繰り返した.当院初診時から約C2年が経過し,左眼角膜に星芒状角膜炎様のウイルス様上皮病変が出現した.ゾビラックス眼軟膏を開始したが,その後角膜病変が徐々に悪化し,1年後には数珠様の放射状に広がる病変を認めた(図1~3).角膜病変が出現してからC3年半で角膜穿孔をきたし,約C4年半で左眼の全層角膜移植術および水晶体再建術を施行し(図4),切除検体病理により,のちに微胞子虫(Microsporidia)の感染と判明した.移植後の移植片の生着や透明性は良好であり,再燃なく経過は順調である.Microsporidiaは生物の細胞内に寄生する胞子で,この胞子が悪環境に対する抵抗力を与え,拡散を促進する.動物や細胞内に寄生して増殖する単細胞真核生物で,体長は種によって多少異なるが,通常C1~30Cμmとアカントアメーバと似たような大きさであることがわかっている.Microsporidia感染のリスクファクターとしてはCAIDS患者などの免疫不全患者が知られている.本症例では,関節リウマチに対してステロイドの内服および点眼がなされており,免疫状態が低下した状態であった.人への感染は比較的珍しく,角膜感染症の原因としてはまれであり,診断がつかないことが多いが,一部の集団では微生物性角膜炎の約C0.4%を占めるとの報告もある.南アジアや東南アジアでの発症が多いとされている.未だこれといった治療は確立されていないが,病変部の擦過は有効であるとされている1).対症療法としては寄生虫感染症の治療で知られているアルベンダゾール内服や,フマギリン点眼薬が有効と報告されている2).Microsporidiaは細胞内に生息する生物であり,増殖には特定の細胞培養システムを必要とするため,しばしば検出が困難である.診断は多くの場合,組織切片上の生物の形態学的同定に依存しているが,サイズが一般的な寄生虫としては小さいため,顕微鏡では検出できないことがあり,そのためいくつかの分子的,非侵襲的な手法が診断の助けとなる.検出には顕微鏡検査と組織染色がもっとも一般的な手段であるが,分子および非侵襲的な技術(コンフォーカルマイクロスコピーや前眼部光干渉断層計)が診断に果たす役割は拡大していくと考えられる3).従来は南アジア諸国で多くみられたミクロスポリディアであるが,温暖化に伴い,わが国でも増加する可能性がある.また,角膜に異常所見を認めるものの,ぶどう膜炎の病像が主体であり,ステロイド治療がなされる角膜炎としてはアカントアメーバ角膜炎や非定型抗酸菌角膜炎があるが,今後はCMicrosporidiaも念頭に置くべきであろう.文献1)DasCS,CSharmaCS,CSahuCSKCetal:Diagnosis,CclinicalCfea-turesandtreatmentoutcomeofmicrosporidialkeratocon-junctivitis.BrCJOphthalmol96:793-795,C20122)Tung-LienQuekD,PanJC,KrishnanPUetal:Microspo-ridialCkeratoconjunctivitisCinCthetropics:aCcaseCseries.COpenOphthalmolJC5:42-47,C20113)ThanathaneeCO,CLaohapitakvornCS,CAnutarapongpanCOCetal:Anteriorsegmentopticalcoherencetomographyimag-esinMicrosporidialkeratoconjunctivitis.CorneaC38:943-947,C2019C