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硝子体手術のワンポイントアドバイス:硝子体腔内リンパシステム-その2(研究編)

2022年9月30日 金曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載232232硝子体腔内リンパシステム.その2(研究編)池田恒彦大阪回生病院眼科●脳内のリンパシステム前項の続きである.従来,脳にはリンパ組織がないと考えられてきたが,近年の研究で,脳硬膜や軟膜内にprelymphaticcapillarysystemの存在する可能性が報告されている1).一方,脳表面および脳実質内の血管周囲腔には,アストロサイトの足突起がグリア境界膜を形成している.この足突起にあるアクアポリンC4が,水移動を促進しており,グリアが介在するリンパシステムという意味でCglymphaticsystemとよばれている2).C●Bursapremacularisと脳内リンパ組織脳表面のグリア境界膜が脳軟膜に接する構造は,網膜でいうとCMuller細胞の基底膜である内境界膜が,bursapremacularis(BPM)に接しているのと同じ位置関係にある(図1)3).脳軟膜の肥満細胞を染めたトルイジンブルー染色(図2a)と,筆者らの報告したCBPMのトルイジンブルー染色(図2b)は非常によく似ている4,5).また,脳軟膜には免疫に関与する組織マクロファージ,樹状細胞が存在することが知られているが,硝子体にも樹状細胞や組織マクロファージとして機能するヒアロサイトが存在する6).C●硝子体腔内リンパシステム以上の結果から,硝子体腔内にはリンパシステムがあるのではないかと考えられる.すなわち,BPMやBerger腔を構成する袋状の硝子体組織が終末リンパ節として働き,老廃物を眼外に排出しているのではないだろうか(図3)4).そのトレナージ先としては視神経周囲のくも膜下腔や毛様体などが考えられる.このような眼球をめぐるリンパ組織の研究は,種々の眼疾患の病態解明の鍵となるように思われる.文献1)XieL,KangH,XuQetal:Sleepdrivesmetaboliteclear-ancefromtheadultbrain.ScienceC342:373-377,C20132)LouveauCA,CPlogCBA,CAntilaCSCetal:UnderstandingCtheC図1脳軟膜とbursapremacularis(BPM)の構造脳軟膜は,脳表面のアストロサイトの突起が形成するグリア境界膜とよばれる基底膜と接している.この構造は,網膜でいうとCMuller細胞の基底膜である内境界膜にCBPMが接しているのと同じ位置関係にある.(文献C3より引用)図2脳軟膜とBPMのトルイジンブルー染色脳軟膜およびCBMPには肥満細胞が存在し,トルイジンブルー染色所見(Ca:脳軟膜,b:BPM)は非常によく似ている.(文献4,5から引用)図3硝子体腔内リンパシステム(仮説)毛様体扁平部BPMやCBerger腔を構成する袋状の硝子体が終末リンパ組織として働き,硝子体腔内の老廃物を眼外に排出している可能性が考えられる.そのトレナージ先としては視神経乳頭周囲のくも膜下腔や毛様体などが考Csareaえられる().(文献C3より引用)CfunctionsCandCrelationshipsCofCtheCglymphaticCsystemCandCmeningeallymphatics.JClinInvest127:3210-3219,C20173)池田恒彦:網膜硝子体疾患の病態解明~臨床の素朴な疑問を出発点として.日眼会誌126:254-297,C20224)MichaloudiH,BatziosC,ChiotelliM,etal:Developmentalchangesofmastcellpopulationsinthecerebralmeningesoftherat.JAnat211:556-566,C20075)SatoCT,CMorishitaCS,CHorieCTCetal:InvolvementCofCpremacularmastcellsinthepathogenesisofmaculardis-eases.PLoSOne14:e0211438,C20196)SonodaCKH,CSakamotoCT,CQiaoCHCetal:TheCanalysisCofCsystemictoleranceelicitedbyantigeninoculationintothevitreouscavity:vitreouscavity-associatedimmunedevia-tion.CImmunologyC116:390-399,C2005(71)あたらしい眼科Vol.39,No.9,2022C12290910-1810/22/\100/頁/JCOPY

考える手術:斜視手術で学ぶ眼球の解剖の基本

2022年9月30日 金曜日

考える手術⑨監修松井良諭・奥村直毅斜視手術で学ぶ眼球の解剖の基本根岸貴志順天堂大学医学部眼科学講座聞き手:斜視手術を行ううえで抑えておかなければいけない解剖学について教えてください.根岸:まず,「Tillauxの螺旋」という言葉を覚えておきましょう.聞き手:これは何と読むのですか?根岸:「ティローのらせん」と読みます.外眼筋の付着部は角膜輪部からおよそ内直筋5mm,下直筋6mm,外直筋7mm,上直筋8mm後方に存在し,内→下→外→上の順に径がらせん状に大きくなっていきます(図1).外眼筋は結膜およびTenon.の下にあり,隠れていますので,それを発見する目安の距離を知っておくことは非常に重要です.聞き手:手術にどのように役立ちますか?根岸:外眼筋に斜視鈎をかけるときに,おおよその位置を推測できます.小切開で斜視手術を行う場合には,結膜越しにブラインドで斜視鈎をかけることになりますが,位置を推測できれば,手術の侵襲が少なく,時間が短縮され,患者に無理な疼痛負担を与えません.聞き手:各外眼筋の特徴があれば教えてください.根岸:内直筋は幅が広く,厚みもあります.外直筋は幅が狭く,厚みが薄く,前毛様体動脈が1本だけTenon.内を走行しています.内直筋・上下直筋には前毛様体動脈が2本走行しており,しかも筋内に存在するので,周囲のTenon.を切開しても出血しにくいのが特徴です.前毛様体動脈は前眼部を栄養しているので,直筋を同時に3本手術してしまうと,前眼部虚血に至るリスクが高くなります.このため,斜視の再手術を行うときには,前回どの筋を手術したのかが非常に重要となります.聞き手:年齢による違いはありますか?(69)あたらしい眼科Vol.39,No.9,202212270910-1810/22/\100/頁/JCOPY考える手術根岸:若いと結合織が豊富で,5歳以下の斜視手術はTenon.の処理が大変です.60歳を超えるとTenon.が菲薄化して,結膜を把持したときに容易に破れやすくなります.結膜下出血が高齢者に多いことも納得できますね.聞き手:斜筋については特徴がありますか?根岸:上斜筋は滑車より末梢側は筋がなく,腱になります.付着部にはアノマリーが多く,正常では上直筋の後方で扇状に強膜と付着していますが,付着部が前方にあったり,複数に分枝していたり,Tenon.内に消失してしまうなどの形態異常がみられることがあります.これが上斜筋麻痺の原因の一つです.下斜筋は付近に黄斑や渦静脈などの重要な組織が存在し,手術時に注意が必要です.聞き手:手術の際に注意する点はありますか?根岸:三叉神経の分布を考慮すると,患者が疼痛を感じやすい操作として,Tenon.を牽引する操作,直筋付着部を把持・結紮する操作があります.また,筋を牽引したときにもっとも迷走神経反射が起きやすいのは内直筋です.このため,Tenon.を巻き込んで内直筋に斜視鈎をかける操作は,患者が非常に痛がるうえに,心拍数が急激に低下して,悪心を生じやすくなります.聞き手:先生の手術はほとんど出血しないですね.根岸:注意深く血管を避けること,血管の位置を把握していること,見えないところを操作しないことが,出血しない手術のコツです.強膜に鋭利な剪刀の先端を当てないことも重要です.聞き手:出血しやすい場所はどこですか?根岸:結膜切開で出血しやすいのは,直筋の直上,角膜輪部,涙丘です.直筋の位置は結膜をよく観察すると筋が透けて見えるのでわかります.筋と筋の間を切開すると出血しません.角膜輪部は結膜の静脈が強膜から出てくる部位なので,必ず出血しますが,バイポーラで止めることができます.Tenon.内に広がると術後の結膜下出血が引きにくくなるので,広がる前に止めましょう.聞き手:どくどく出て止められないことがあるのですが.根岸:眼球表面の出血は,圧迫すれば必ず止まります.焦って盲目的にバイポーラで焼灼しても止まりません.ガーゼやMQAで出血部位を圧迫し,少しずつずらしながら出血点を探します.見つかった出血点をもういちど圧迫し,改めてずらして出血した瞬間にバイポーラで焼灼すると,一発で出血を止めることができます.非常に基本的な手技なので覚えておきましょう.聞き手:斜視手術はあまりやらないのですが.根岸:バックリングでも直筋の操作があります.バックリング手術後の斜視を手術することがありますが,開けてみて癒着が強いと,解剖を理解していない術者が手術をしたのだとすぐに力量を見抜くことができます.緑内障のインプラントでも直筋やTenon.,結膜を触ることになるので,眼表面の知識は術者の心得として最低限身につけておかないと,どんなに応用手技ができたとしても,底が浅い術者になってしまいます.基本を身につけることは,応用の深さにもつながります.時間がかかってもよいので,しっかりとした基本をもとに,無駄な操作を省いていくことで,だんだん手術が自然と早く終わるようになるでしょう.1228あたらしい眼科Vol.39,No.9,2022(70)

抗VEGF治療:糖尿病黄斑浮腫の予後予測因子

2022年9月30日 金曜日

●連載123監修=安川力髙橋寛二103糖尿病黄斑浮腫の予後予測因子杦本昌彦三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学糖尿病黄斑浮腫の治療後,網膜形態改善が必ずしも視力改善に直結するわけではない.視機能改善が得られない背景としては硬性白斑やChyperre.ectivefociによる網膜外層障害や網膜内層障害であるCdisorganizationoftheretinalinnerlayers,腎機能障害が知られている.はじめに糖尿病黄斑浮腫(diabeticCmacularedema:DME)の治療効果を評価する際には,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)が有用である.しかし,浮腫が軽減しても網膜障害が進行した患者では,形態改善にもかかわらず視力改善が得られない.このような形態と視力の乖離は“paradoxicalchange”とよばれている1).DMEの治療に際しては,網膜の正常な構築の保存されている間に解剖学的な形態改善を得ることが重要である.本稿ではCOCTによる所見を中心に,視機能改善が得られにくい症例を列挙する.網膜外層構築の障害検眼鏡で観察される硬性白斑は網膜症に典型的な所見の一つであり,OCTでは高輝度反射として描出される(図1a).硬性白斑の網膜下沈着は外層の障害も併発するため,浮腫の軽減が得られても不可逆的障害の原因となる(図1b).この症例のように治療による浮腫の軽減が得られても,ellipsoidlineやCinterdigitationlineなどの外層構築が消失すると視力は不良である.CHyperre.ectivefociDMEの網膜内には多数の高反射点が観察され,これはChyperre.ectivefoci(図2)とよばれ,その起源は漏出したリポ蛋白とされている2).年余を経て中心窩下に集積し,大きな硬性白斑を形成することがあり,視機能低下の原因となることがある3).CDisorganizationoftheRetinalInnerLayersOCTは従来の眼底検査では観察しえなかった網膜の微細な構築を観察可能とした.従来,視機能に影響するとされた外層の異常以外にも,網膜内層の障害も視機能に影響することが知られており,disorganizationoftheretinalInnerlayers(DRIL,図3)とよばれている4).図1硬性白斑と網膜外層障害66歳,女性.Ca:網膜毛細血管瘤を伴うDME.硬性白斑の沈着を認め(..),視力は(0.2)であった.網膜局所光凝固を行い,硬性白斑の退縮を認めたが(△),外層障害が遷延し,視力は(0.2)にとどまる.(67)あたらしい眼科Vol.39,No.9,2022C12250910-1810/22/\100/頁/JCOPY図2Hyperre.ectivefoci図3Disorganizationoftheretinalinnerlayers63歳,女性.高反射のChyperre.ectivefociを多数認める.72歳,男性.漿液性の浮腫を認める.網膜内層の走行が不正となり,CdisorganizationCofCtheCretinalCinnerClayers(白枠内)を認める.視力は(0C.3).C図4糖尿病腎障害患者の血液透析導入前後における黄斑浮腫の変化72歳,男性.腎症CStageIV.Ca:DMEを認め,視力は(0.4)であった.Cb:血液透析導入C3カ月後.浮腫が軽快し,視力は(0.5)に改善した.腎機能障害と黄斑浮腫糖尿病性腎症は網膜症・末梢神経障害とともに糖尿病3主徴として知られているが,全身浮腫の影響からDMEを併発することも知られている.また,腎障害が悪化している場合には貧血の進行によるCHbA1c値の低下やインスリンクリアランスの改善により,血糖コントロールが改善したようにみえることがあり,内科と連携した全身状態の把握はCDME管理の側面からも重要である.また,血液透析は末期腎不全に対する有用な腎代替療法である.Takamuraらは血液透析の導入が難治性DME患者のC1年後の視力と形態改善に寄与することを報告している5).図4に示す症例は坑CVEGF薬やステロイドによる治療に反応が乏しかったが,血液透析導入によりCDMEの改善を得ている.C1226あたらしい眼科Vol.39,No.9,2022文献1)DiabeticCRetinopathyCClinicalCResearchCNetwork,CBrown-ingCDJ,CGlassmanCARCetal:RelationshipCbetweenCopticalCcoherencetomography-measuredcentralretinalthicknessandvisualacuityindiabeticmacularedema.Ophthalmolo-gyC114:525-536,C20072)BolzCM,CSchmidt-ErfurthCU,CDeakCGCetal:OpticalCcoher-encetomographichyperre.ectivefoci:amorphologicsignoflipidextravasationindiabeticmacularedema.Ophthal-mologyC116:914-920,C20093)OtaM,NishijimaK,SakamotoAetal:Opticalcoherencetomographicevaluationoffovealhardexudatesinpatientswithdiabeticmaculopathyaccompanyingmaculardetach-ment.OphthalmologyC117:1996-2002,C20104)SunCJK,CLinCMM,CLammerCJCetal:DisorganizationCofCtheCretinalinnerlayersasapredictorofvisualacuityineyeswithcenter-involveddiabeticmacularedema.JAMAOph-thalmol132:1309-1316,C20145)TakamuraCY,CMatsumuraCT,COhkoshiCKCetal:FunctionalCandCanatomicalCchangesCinCdiabeticCmacularCedemaCafterChemodialysisinitiation:One-yearCfollow-upCmulticenterCstudy.SciRepC10:7788,C2020(68)

緑内障:Sturge-Weber症候群に伴う緑内障

2022年9月30日 金曜日

●連載267監修=福地健郎中野匡267.Sturge.Weber症候群に伴う緑内障春田雅俊久留米大学医学部眼科学講座Sturge-Weber症候群に伴う緑内障は,薬物療法のみでは眼圧がコントロールできない場合も多い.乳幼児期発症の緑内障では,線維柱帯切開術を施行することが多い.小児期以降発症の緑内障では,線維柱帯切除術やチューブシャント手術などの濾過手術も施行するが,駆逐性出血などの重篤な合併症に注意が必要である.●はじめにSturge-Weber(スタージ・ウェーバー)症候群は,脳軟膜血管腫,三叉神経領域の顔面血管腫(図1),緑内障を三徴とする神経皮膚症候群の一つで,出生C5万人あたりC1人の割合で発症する.性差や遺伝性はないが,GNAQ遺伝子の体細胞モザイク変異が血管腫の発生に関連することが報告された1).胎生初期の原始静脈叢の退縮不全が原因とされ,顔面血管腫と同側の眼瞼,上強膜,隅角,網脈絡膜などの眼組織に病理学的な異常を認め(図2),血流や房水の動態に影響しうる.Sturge-Weber症候群に伴う緑内障は,まず薬物療法を行うが,十分な眼圧コントロールが得られず観血的手術を必要とすることも多い.C●Sturge.Weber症候群に伴う緑内障Sturge-Weber症候群に伴う緑内障は,約C60%が乳幼児期に診断される2).これらの早発性の緑内障の原因として,おもに隅角発育異常による房水流出障害が考えられ,隅角検査では原発先天緑内障と同様の虹彩の高位付着を認めることもある.一方,残りの約C40%の緑内障は小児期以降に診断される2).これらの遅発性の緑内障の原因として,隅角発育異常に加えて上強膜静脈圧の上昇の関与が考えられ,隅角検査では上強膜静脈圧の上昇によりCSchlemm管内に鬱血を認めることがある(図3).C●Sturge.Weber症候群に伴う緑内障に対する観血的手術Sturge-Weber症候群に伴い,牛眼として乳幼児期に発症した緑内障に対しては,原発先天緑内障に準じて線維柱帯切開術を施行することが多い.線維柱帯切開術を選択する理由としては,房水流出抵抗がおもに線維柱帯の部分にあり,線維柱帯切開術の効果が期待できること,乳幼児での線維柱帯切除術では濾過胞管理が困難で,晩期感染症の問題があることなどがあげられる.一図1Sturge.Weber症候群の外眼部写真右三叉神経第C1枝領域に顔面血管腫を認める.図2Sturge.Weber症候群の右眼の前眼部写真上眼瞼と上強膜の血管異常を認める.(65)あたらしい眼科Vol.39,No.9,2022C12230910-1810/22/\100/頁/JCOPY図3Sturge.Weber症候群の右眼の隅角所見Schlemm管内の鬱血を認める.方,小児期以降に発症したCSturge-Weber症候群に伴う緑内障に対しては,隅角発育異常に加えて上強膜静脈圧の上昇の関与も考えられ,初回から線維柱帯切除術を選択すべきという意見もある.ただし,Sturge-Weber症候群に伴う緑内障に対する線維柱帯切除術では,脈絡膜.離,駆逐性出血,漿液性網膜.離などの重篤な合併症も多い3).これらの合併症の発症機序として,線維柱帯切除時の急激な眼圧低下による網脈絡膜血管の透過性亢進,血管の脆弱性および脈絡膜血管腫の存在などが考えられている.そのため,筆者の施設では,まず線維柱帯切開術を試み,十分な眼圧コントロールが得られない場合は,追加手術として線維柱帯切除術やチューブシャント手術などの濾過手術(図4)を考慮するようにしている4).Sturge-Weber症候群に対する線維柱帯切除術では,結膜創傷治癒の過程で瘢痕を形成しやすく,マイトマイシンCCなどの代謝拮抗薬を用いても異常血管によって濾過胞を形成しにくい5).そのため,マイトマイシンCCの濃度や塗布時間,切糸時期,眼球マッサージなどを調整して対応することも必要である.また,術中および術後の急激な眼圧変動は,駆逐性出血などの重篤な合併症のリスクを高めるため,十分に注意する必要がある.C●おわりにSturge-Weber症候群は,その特徴的な顔面血管腫か図4Sturge.Weber症候群に伴う緑内障に対する観血的手術シヌソトミー併用線維柱帯切開術,エクスプレス緑内障フィルトレーションデバイスとマイトマイシンCCを用いた濾過手術,ニードリングを施行するも十分な眼圧コントロールが得られず,Ahmed緑内障バルブを用いたチューブシャント手術を施行した.ら生下時に診断されることが多い.Sturge-Weber症候群が疑われた場合,眼科は関連する皮膚科,小児科などとの連携をはかり,時期を逸することなく,緑内障に対する精査と必要であれば適切な治療を開始する必要がある.また,乳幼児期だけでなく成人になって緑内障を発症する場合もあり,長期にわたって眼科の経過観察をすることが重要である.文献1)ShirleyCMD,CTangCH,CGallioneCCJCetal:Sturge-WeberCsyndromeCandCport-wineCstainsCcausedCbyCsomaticCmuta-tioninGNAQ.NEnglCJMed368:1971-1979,C20132)MantelliCF,CBruscoliniCA,CLaCCavaCMCetal:OcularCmani-festationsofSturge-Webersyndrome:pathogenesis,diag-nosis,CandCmanagement.CClinCOphthalmolC10:871-878,C20163)JavaidU,AliMH,JamalSetal:Pathophysiology,diagno-sis,andmanagementofglaucomaassociatedwithSturge-Webersyndrome.IntOphthalmolC38:409-416,C20184)春田雅俊,竹下弘伸,山川良治:スタージ・ウェーバー症候群に伴う緑内障に対する線維柱帯切開術の成績.臨眼C72:109-114,C20185)RaoA,SrinivasanG,GuptaV:AnomalousvesselsoveratrabeculectomyCblebCinCSturge-WeberCsyndrome.CDigitCJCOphthalmolC17:1-2,C20111224あたらしい眼科Vol.39,No.9,2022(66)

屈折矯正手術:ICLサイズ決定に対するKS式の精度

2022年9月30日 金曜日

●連載268監修=稗田牧神谷和孝268.ICLサイズ決定に対するKS式の精度五十嵐章史代官山アイクリニック有水晶体眼内レンズCICLのサイズ決定に用いる計算式のうち,最新のCKS式はCATA,CLR,ACDを元に選択したCICLサイズに対する術後Cvaultを予測する式である.STAAR社専用式と比較して予測精度は良好で,術者が任意に選択したCICLサイズに対するCvaultを予測できることから,術者の好みのサイズ感を得ることができ,臨床的応用がしやすい式になっている.C●はじめにImplantableCCollamerLens(ICL.STAAR社)は国内で唯一厚生労働省の承認を得ている有水晶体眼内レンズであり,2014年に承認されたCHoleICL(ICLCKS-AquaPORT,STAAR社)の登場により大幅に術後合併症が軽減され,近年手術件数が増加している.角膜屈折矯正手術と異なり,前房深度がC2.8Cmm以上あればおおむね手術適応となるが,適切なレンズサイズを選択することが重要となる.STAAR社より提供されるレンズ計算式Conlinecalcu-lationC&orderingCsystem(OCOS)では,角膜横径のCwhiteCtowhite(WTW)と前房深度(anteriorCchamberdepth:ACD)の二つのファクターによって適切なレンズサイズを算出する.しかし,この式はCHoleICL以前の旧タイプレンズに対応した式であり,やや大きめのレンズサイズが選択される傾向があるほか,測定する前眼部解析装置によりCWTW値に誤差が生じるためレンズサイズにばらつきが生じる欠点がある.また,決定する項目が推奨するレンズサイズのみのため,実際に移植した際のサイズ感は不明であった.KS式はそれらの欠点を解消すべく考案された式であり,選択するレンズサイズに対しての術後予測Cvaultを算出する式で,臨床的応用が広いのが特徴である.現在CKS式はオリジナル式から改良が加えられ,より精度が向上している.本稿ではその変遷と現状での精度を解説する.C●KS式の変遷KS式はCsweptsource前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)のCCASIA2(トーメーコーポレーション)を用いて,WTWより明瞭なメルクマールである隅角間距離(angletoangle:ATA)に注目し構築されたCICLサイズ計算式である.2016年に筆者が考案したオリジナル式1)から何度か改良が加わり,(63)C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY図1KSver.4式におけるレンズサイズ因子Ver.4式ではオリジナル式からのCATAのほか,縦情報としてCCLRとCACDが計算式の因子となっている.現在はCver.4となっている.これまでの式の変遷を以下に簡単に説明する.1)KSCver.11):ICL手術を施行し術後C3カ月経過した23例C44眼を対象に,術後Cvaultに影響する術前因子を検出するため重回帰解析を行った.目的変数を術後vault,説明変数を年齢,性別,自覚等価球面度数,眼圧,平均角膜屈折力,前房深度,眼軸長,角膜厚,ATA,WTW,挿入したCICLサイズのC11項目とした.術後Cvault(μm)=660.9×(ICLサイズ-ATA)+86.6(adjustedRC2=0.41)2)KSver.2:ATAの測定値をマニュアルからCCASIA2のオート測定値に変換した式がCver.2である.術後Cvault(μm)=456.86×(ICLサイズ-ATA)mm+110.033)KSCver.32):Ver.2式では全体としてはおおむね良好な予測性であったが,用いるレンズサイズにより予測誤差に一定の傾向があることがわかった.具体的には12.6Cmmでは良好な予測性であったが,12.1Cmmでは予測よりC20%小さく,13.2Cmm以上ではC30%大きくなることがわかったため,それらのサイズ別に補正を加えたのがCver.3式である.4)KSver.4:Ver.3までは基本的にCATAに依存した横方向の情報から形成されていたが,NK式でも採用されているCcrystallineClensrise(CLR)という縦方向の因子を加えて新たに重回帰解析を行い作成したものが最新のあたらしい眼科Vol.39,No.9,2022C1221予測絶対誤差(μm)Vault(μm)8001,0008006007006004664475001000KSVer.4予測vault術後vault図2KSver.4式予測vaultと術後1カ月のvault1,000900800700600500400300200400-600-800-1,000Total12.1mm12.6mm≧13.2mm(n=172)(n=51)(n=104)(n=17)予測相対誤差(μm)4002000-200-400図3レンズサイズ別のKSver.4式予測vault相対誤差KSver.4式における全体およびレンズサイズ別の相対誤差の箱ひげ図を示す.グラフ内の数字は中央値を示す.Cp=0.37)(図2).使用したレンズサイズ別のCKSCver.4式の相対予測誤差を図3に示す.Ver.4式ではCver.3式のようにレンズサイズ別に特別な補正はかけていないがわかった.図4に絶対誤差を示すが,おおむねC100CμmC200程度の誤差になっているので,予測精度は良好と考えC100る.C0Total12.1mm12.6mm≧13.2mm(n=172)(n=51)(n=104)(n=17)●おわりに300が,どのサイズでもおおむね良好な予測精度であること図4レンズサイズ別のKSver.4式予測vault絶対誤差KSver.4式における全体およびレンズサイズ別の絶対誤差の箱ひげ図を示す.グラフ内の数字は中央値を示す.Ver.4式である(図1).術後予測Cvault=-2338.84+ICLサイズC×324.05+CLR×-0.29+ATA×-132.92+ACD×102.25C●KSver.4式の予測精度近視および近視性乱視に対してCICL手術を施行し,術後C1カ月経過したC172眼に対するCKSver.4の予測vault精度を検証した.術前の平均CATA,CLR,ACDはそれぞれC11.88C±0.40Cmm,91.7C±205.9Cmm,3.28C±0.26Cmmであり,使用したCICLサイズはC12.1CmmがC51眼,12.6CmmがC104眼,13.2CmmがC15眼,13.7Cmmが2眼であった.術前のCKSver.4による予測Cvaultと術後1カ月のCvaultはそれぞれC447C±112Cμm,466C±209Cμmで両者に有意差はなかった(Wilcoxonsigned-ranktest,1222あたらしい眼科Vol.39,No.9,2022KSver.4式は予測Cvaultが正確であり,STAAR社の式と異なり,術者が任意に選択したレンズサイズに対してのCvaultを算出できるため,レンズ選択の自由度が高いことが特徴である.現在のCHoleICLではClowCvaultにおける白内障の進行リスクは改善しているため,術前のCACDが浅い場合は予測Cvaultが小さめのレンズを選択するなど,術者によるカスタマイズしたレンズ選択がよいだろう.文献1)IgarashiA,ShimizuK,KatoSetal:PredictabilityofthevaultCafterCposteriorCchamberCphakicCintraocularClensCimplantationCusingCanteriorCsegmentCopticalCcoherenceCtomography.CJCataractCRefractSurgC45:1099-1104,C20192)IgarashiCA,CShimizuCK,CKatoS:AssessmentCofCtheCvaultCafterimplantablecollamerlensimplantationusingtheKSformula.JRefractSurgC37:636-641,C2021(64)

眼内レンズ:囊外固定した眼内レンズの支持部が虹彩を穿通したと考えられた1例

2022年9月30日 金曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋430..外固定した眼内レンズの支持部が松本英里井上亮大阪労災病院眼科虹彩を穿通したと考えられた1例白内障手術時に後.破損を生じ.外固定とした眼内レンズの支持部が,長期経過後に虹彩を穿通していた症例を経験した.Soemmering’sringの形成により眼内レンズの回旋偏位を生じたことが原因と考えられた.●はじめに白内障手術時に後.破損を生じた場合,眼内レンズ(intraocularlens:IOL)を.外へ固定する方法は以前より行われているが,長期経過後に生じた.外固定CIOLに関する合併症の報告は少ない.今回筆者らは白内障手術からC8年経過したのちに,.外固定となっていた眼内レンズの支持部が虹彩を穿通したと考えられたC1例を経験したので報告する.C●症例66歳,女性.既存症に潰瘍性大腸炎.既往歴として8年前に当院で両眼の水晶体再建術を施行され,右眼は術中後.破損のためCIOLが.外固定となっていた.挿入されたCIOLは支持部がCpolymethylmethacrylate(PMMA)製であるCYA-60BBR(HOYA)であった.5日前から右眼結膜充血と眼痛を自覚し,近医よりベタメタゾン点眼を処方されたが,改善を認めないことから当院へ紹介となった.眼痛の自覚が強く,ロキソプロフェンナトリウムの内服を要した.初診時視力は右眼C0.2(0.6pC×sph-0.75D(cyl-1.50DCAx175°),左眼0.08(1.2pC×sph-3.50D(cyl-1.00DAx15°),眼圧は右眼13CmmHg,左眼C16CmmHgであった.右眼は結膜充血,前房内炎症細胞,硝子体混濁,黄斑浮腫を認め,汎ぶどう膜炎を呈していた.角膜後面沈着物はなく,角膜内皮細胞密度の低下も認めなかった.隅角検査を行ったところCIOLの支持部が虹彩根部を穿通している所見が確認できたが,隅角への色素散布は認めなかった(図1).穿通したCIOL支持部の機械的刺激が炎症の原因と考えられたことから,その整復を目的として手術を施行した.まず硝子体手術で硝子体混濁を切除し,隅角にあるIOL支持部をCSwan-Jacob型隅角鏡下で虹彩前面より虹彩裏面と水晶体.前面の間に回旋させながら抜き出した..内全周にCSoemmering’sringが形成され,一部残存した水晶体皮質が膨化していたため,25ゲージ硝子体カッターを用いて除去した(図2).後.破損を一部に認めるものの赤道部水晶体.は保たれ,Zinn小帯の脆弱性はないと判断し,IOLを.外から.内へ固定しなおし手術終了とした.術直後より眼痛は消失した.術後C6日目に黄斑浮腫に対しステロイドCTenon.下注射を施行し,術C1カ月後の右眼の視力はC0.3(0.4C×cyl-0.75DAx160°),眼圧は13CmmHgで,結膜充血,前房内炎症細胞,黄斑浮腫は消失し経過は良好である.図1術前所見a:前眼部写真,b:眼底写真,c:隅角所見.(61)あたらしい眼科Vol.39,No.9,2022C12190910-1810/22/\100/頁/JCOPY図2術中所見a:Swan-Jacob型隅角鏡下で穿通していたCIOL支持部を虹彩より抜き出した.Cb,c:.内全周に形成されたSoemmering’sringと,一部残存し膨化した水晶体皮質()を認めたため,除去した.Z軸方向への偏位およびXY軸方向への回旋図3偏位と回旋IOLが膨化した水晶体皮質により偏位・回旋する.●まとめ白内障手術後に水晶体前.と後.が癒着肥厚し,CSoemmering’sringが形成されることが知られている1).また,.外固定したCIOLは,.内固定となっているIOLに比べ安定性が乏しいため,年単位で徐々に形成されたCSoemmeringC’sringの圧排によりCIOLの回旋偏位が起ることが報告されている2).本症例ではCSoemmer-ing’sringの形成に加え,部分的に残存した水晶体皮質が膨化したことでCIOLの回旋偏位が生じ,IOL支持部が虹彩を穿通した可能性が考えられた(図3).さらに,IOL支持部がCPMMA製の硬い素材であり先端が丸みを帯びていたことも,回旋偏位時に穿通を助長した可能性が考えられた.本症例では虹彩に穿通していたCIOL支持部を.内に固定しなおしたことにより術後早期に眼痛や眼内炎症の改善を認めたことから,IOL支持部が虹彩を穿通したことでCuvetis-glaucoma-hyphemaCsyndrome3,4)を生じていた可能性が示唆された.白内障手術時に後.破損を生じ,IOLを.外固定とした場合は,長期経過後にCIOLが回旋偏位することで虹彩を穿通し眼内炎症を引き起こす可能性がある.文献1)松島博之:前.収縮・後発白内障.日本白内障学会誌C23:C13-18,C20112)森秀夫,福田宏美:後発白内障の膨化圧排により前房内に脱臼した眼内レンズを整復したC1例:ゼンメリング輪(SoemmerringC’sRing)除去の経験.IOL&RSC24:95-99,C20103)EllingsonFT:TheCuveitis-glaucoma-hyphemaCsyndromeCassociatedCwithCtheCMarkCVIIICanteriorCchamberClensCimplant.JAmIntraoculImplantSoc4:50-53,C19784)CheungCAY,CPriceCJM,CHartCJrJC:Late-onsetCuvertis-glaucoma-hyphemaCsyndromeCcausedCbyCSoemmeringCringcataract.CanJOphthalmolC54:445-450,C2019

コンタクトレンズ:読んで広がるコンタクトレンズ診療 コンタクトレンズの研究・臨床を知るには

2022年9月30日 金曜日

提供コンタクトレンズセミナー読んで広がるコンタクトレンズ診療1.コンタクトレンズの研究・臨床を知るには糸井素啓京都府立医科大学大学院医学研究科■はじめにこのたび,小玉裕司先生からそのバトンを引き継ぎ,本セミナーを担当することになった.コンタクトレンズ診療を始めて10年ほどの私では力不足かと思ったが,私が心惹かれたコンタクトレンズ分野の面白さ・奥深さを皆様に紹介したいと思い,引き受けさせていただいた.■CLの研究・臨床を知るにはわが国で初めてコンタクトレンズ(contactlens:CL)が使用されてから約70年が経ち,その間にCL装用者は急増し,いまやCL診療は眼科医にとって必須のスキルとなっている.しかし,眼科研修の軸となっている大学病院・市中病院では,一般的なCL診療があまり行われておらず,その基礎や研究について学ぶ機会は減少している.さらに,CLの技術は日進月歩であり,知識のアップデートも容易ではない.そこで,今回はCL診療・研究を学ぶうえで有効な手法を解説する.■国内学会CL診療の初心者から上級者まで,すべての眼科医にとって有用なのが,年に1回の日本コンタクトレンズ学会総会である.この学会は医師以外の医療従事者の参加も多く,比較的理解しやすい内容が多いため,これからCL診療を学ぼうとする人・医学研究に親しみのない若い先生にもオススメである.新商品に関する話題も豊富なため,すでにCL診療に携わっている先生方の知識のアップデートにも効果的である.また,CL分野で著名な功績をあげた先生が講演される「特別講演」も必聴である.学術的な内容がわかりやすく解説されているだけでなく,医学研究に対する姿勢・考え方をゆっくりと聞くことができる貴重な機会である.このほかにも,日本眼科学会総会,日本眼光学学会総会,臨床眼科学会,角膜カンファランスなど,CL分野の研究には多くの学会でふれることが可能である.それぞれの学会でCL分野(59)視覚再生機能外科学の多面性を楽しんでいただきたい.■教科書CL診療に必要とされる知識は眼光学から関連法規まで,実は幅広い.そのため,知識を効率よく獲得するには教科書が効果的である.現在,CL診療に関するさまざまな教科書が出版されているが,まずは自分にあった1冊を選ぶとよい.ご存知の人も多いとは思うが,『コンタクトレンズバトルロイヤル』(メジカルビュー社,2007年)はとてもお勧めである.ある臨床的課題に対して,複数の先生がそれぞれ自分なりの解決策を討論するというスタイルだが,臨床的な課題に複数の解決策が提示されているという点で有用なだけでなく,回答者である先生方の情熱や信念が文章から溢れており,出版から時間が経っているにもかかわらず,絶対に手放せない良書である.■総説・解説教科書から得られる知識の補足として重要なのが,医学雑誌の総説・解説である.ちなみに,このセミナーも医学中央雑誌刊行会の定義で「解説」に分類される.総説・解説は,教科書と同様に基本的な知識の獲得に有用なだけでなく,臨床に役立つ実践的なポイントや学術的な背景など,教科書では網羅しきれないCL分野の奥深さに触れる内容となっている.また,教科書に比較して最新の知見を反映しやすいという利点もある.筆者自身,CL診療を始めて数年の間は総説・解説を繰り返し読んだことが記憶に新しい.このセミナーも皆様を惹きつけるような内容をめざしたい.■原著論文CL分野の研究に興味をもったならば,原著論文にも目を通していただきたい.知識を獲得するだけなら総説・解説で十分であるが,原著論文は,仮説をたてる背景から検証方法までが記述されており,「医学研究の流あたらしい眼科Vol.39,No.9,202212170910-1810/22/\100/頁/JCOPY表1日米英のコンタクトレンズ学会誌の紹介日本コンタクトレンズ学会誌EyeandContactLensContactlensandAnteriorEye日本コンタクトレンズ学会の学会誌で年4回刊行.米国のCL学会:EyeandContactLensAssociationの学会誌(前身はCLAOJournal)で月刊.英国のCL学会:BritishContactLensAssociationの学会誌で隔月刊.原著論文だけでなく,バトルロイヤル,ケア教室,製品紹介コーナー,コンタクトレンズUpdateなど企画が多彩であり,実践的で日常臨床に役立つ情報が多い.CLに関する論文が中心ではあるが,眼表面(角膜・涙液)や近視などCL分野以外の論文も多く含まれる.最近は近視進行に関する論文が目立つ.EyeandContactLensと同様にCL分野以外の論文も含まれているが,レンズの素材に関する論文など,ややディープな論文を読めるという印象がある.表2論文を読む際のPICO.PECOの利用法(例:多焦点CLによる近視進行抑制効果についての研究論文を読む場合)P:patient(対象患者)近視眼I/E:intervention/exposure(介入/投与)多焦点CL装用C:comparison(比較対象)単焦点CL装用O:outcome(効果)屈折力・眼軸れ」を学ぶことができるという点で優れている.CL分野の原著論文はさまざまな医学雑誌に掲載されるが,日本コンタクトレンズ学会誌,EyeandContactLens,ContactlensandAnteriorEyeの3誌は,それぞれ日本,米国,英国のコンタクトレンズ学会誌であり,CL分野の論文が充実している.各学会誌の特徴を表1に示す.原著論文を読むのは,とくに英語論文はハードルが高いと感じている人も多いだろう.そういった場合,総説・解説に記載された引用文献から読みはじめるのがお勧めである.あらかじめ総説・解説の内容を理解することで,引用されている論文を読むストレスはかなり軽減される.また,すでに概要を理解している論文であっても,導入や考案部分から得られる知識は多く,有意義である.また,臨床研究に関する論文はPICO/PECOの手法を意識して読むと,わかりやすい.PICO/PECOとは,臨床的課題を明瞭化する手法(表2)で,研究計画を立てるときのみならず,論文を読む際にも有効なので,ぜひ試していただきたい.■おわりに上述の4項が主だった手法ではあるが,ほかにも日本眼科学会のコンタクトレンズ診療ガイドライン,各種の勉強会やセミナー,海外学会など,CL分野を学ぶ手段・機会は減少傾向とはいえ,まだまだ数多い.本セミナーでは,株式会社サンコンタクトレンズの協賛を得て,CLの知識をさらに広げたい人のみならず,これからCL診療を学ぼうとする人にも理解しやすいように,ソフトレンズ・ハードコンタクトレンズ・レンズケアについて解説していくつもりである.

写真:Descemet膜剝離に対する前房水空気置換術

2022年9月30日 金曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦460.Descemet膜.離に対する宮平大福岡秀記京都府立医科大学眼科学教室前房水空気置換術図1紹介受診時の前眼部写真角膜鼻下側サイドポートから瞳孔領にかけて角膜浮腫を認めた.図3前眼部光干渉断層撮影鼻下側に局所に限局するCDescemet膜.離を認めた.図4前房内空気注入直後の前眼部写真空気は上方に移動し,瞳孔ブロックは解除され,Descemet膜はすでに接着している.(57)あたらしい眼科Vol.39,No.9,2022C12150910-1810/22/\100/頁/JCOPY症例は77歳,女性.前医で右眼白内障に対して超音波水晶体乳化吸引術(phacoemulsi.cationandaspiration:PEA)+眼内レンズ挿入術(intraocularlensimplantation:IOL)を施行された.右眼の手術後,鼻側サイドポート周辺に角膜浮腫を認め,遷延するため手術からC1カ月経過後,京都府立医科大学附属病院へ紹介となった.受診時所見として,右眼のサイドポート付近から瞳孔領にかけて角膜浮腫を認めた(図1,2).前眼部光干渉断層撮影では鼻下側にCDescemet膜.離(DescemetC’sCmembranedetachment:DMD)を認めた(図3).右眼の矯正視力は(0.4)であった.初診からC3日後に入院し,同日右眼前房水空気置換術を施行した.前房水を排液し前房内に空気を注入した.術後の体位はCDescemet膜の接着のため仰臥位を維持したものの,注入後C3時間で前房内空気が虹彩を前方から眼内レンズに向けて圧迫し,房水流出が遮断されたことによる瞳孔ブロックを生じた.これに対してトロピカミド・フェニレフリン塩酸塩点眼液右眼C1日C2回を開始し,仰臥位から座位へ体位変更した結果,速やかに瞳孔ブロックの解除を得られた(図4).術翌日に角膜浮腫は消退傾向であった.術後C4日目,前眼部光干渉断層撮影でCDMDは消失しており,右眼の矯正視力は(0.9)と改善していた.DMDは外傷や内眼手術により角膜実質からCDesC-cemet膜がはがれた状態である1)..離範囲が狭い場合には無症候性であり,手術後数日で自然に再接着する.しかしCDMDが広範囲であれば角膜実質および上皮に浮腫を生じ,視力低下を生じる.術後の視力低下で初めて気づくこともあり,疑った場合には細隙灯顕微鏡による前眼部観察と前眼部光干渉断層撮影が診断に重要である2).CPEA+IOL後のCDMD発生率はC0.5%と報告されているが,経験の浅い術者でより生じやすいとされる2).DMDの頻度は低いものの,介入が遅れることによってDescemet膜の線維化,収縮,皺襞化をきたすことで再接着が困難になる可能性がある.また,DMDとそれに伴う角膜浮腫が遷延した場合には内皮移植を必要とする場合もあるため,早期の介入が望ましい3).DMDに対する前房内空気注入術は,CC3F8やCSFC6と比較して前房内残留期間が短く,タンポナーデ効果は弱いものの,それらと比較して瞳孔ブロックを生じにくいとされる安全な方法である4).しかし,本症例のように前房内空気注入術後に瞳孔ブロックを生じる場合があり,帰宅させないことと,生じた場合には散瞳薬点眼と座位への体位変更で瞳孔ブロックの解除を図る必要がある.白内障手術後に保存的加療での治癒が困難と予想されるCDMDを生じた場合は,積極的に前房内空気注入を行うのがよいと考えられた.また,その際に瞳孔ブロックを生じることがあるため,術数時間の経時的な前眼部評価と介入が非常に重要である.文献1)大鹿哲郎,外園千恵編:前眼部アトラス.総合医学社,C20202)粥川佳菜絵,北澤耕司,脇舛耕一ほか:全層角膜移植術C10年後にCDescemet膜.離を来した円錐角膜のC1例.日眼会誌121:768-771,C20173)JainR,MurthySI,BasuSetal:Anatomicandvisualout-comesCofCdescemetopexyCinCpost-cataractCsurgeryCDes-cemet’sCmembraneCdetachment.COphthalmologyC120:C1336-1372,C20134)OdayappanCA,CShivanandaCN,CRamakrishnanCSCetal:ACretrospectivestudyontheincidenceofpost-cataractsur-geryCDescemet’sCmembraneCdetachmentCandCoutcomeCofCairdescemetopexy.BrJOphthalmol102:182-186,C2018

眼科の先達に学ぶ 3.眞鍋 禮三 先生

2022年9月30日 金曜日

【略歴】1928年2月12日香川県三豊郡三野町にて出生1954年3月大阪大学医学部卒業1955年4月大阪大学大学院医学研究科入学1955年10月医師免許証取得1959年3月大阪大学大学院医学研究科修了,医学博士取得1959年7月大阪大学医学部眼科助手1963年8月ミュンヘン大学へ留学(.同年12月)1965年1月大阪大学医学部眼科講師1969年7月ボストンレチナファンデーションヘ留学(.昭和47年7月)1974年5月大阪大学医学部眼科学教授(第7代)1991年4月大阪大学名誉教授1991年4月箕面市立病院,藤田保健衛生大学病院院長1996年4月多根記念眼科病院院長2005年3月多根記念眼科病院名誉院長2021年7月19日逝去(93歳)【主な研究分野】電気生理,視覚生理に関する研究と検査機器開発眼球保存液の開発角膜上皮障害の病態解明と治療法の開発角膜ヘルペスの病態解明【主な学外の役職】日本眼科学会理事長1987年.1989年日本角膜学会理事長1995年.1996年日本眼球銀行協会理事長1982年4月.2000成12年4月大阪アイバンク理事長2003年6月.2014年3月日本角膜移植学会(理事),日本眼光学学会(理事),日本眼薬理学会(理事),日本眼科手術学会(理事),日本眼内レンズ学会(理事),日本移植学会(評議員),日本結合組織学会(評議員)国際眼研究会議(ISER)(組織委員)日本眼科紀要編集委員長日本コンタクトレンズ学会誌編集理事学術審議会専門委員1983年2月.1985年1月日本学術会議機能回復医学研究連絡委員会委員1988年10月.1991年10月(51)0910-1810/22/\100/頁/JCOPY眞鍋禮三先生【主な学術講演】1982年第36回日本臨床眼科学会特別講演「角膜疾患の臨床─角膜ヘルペスを中心に」1983年第87回日本眼科学会宿題報告「角膜に関する諸問題─角膜上皮障害に対する新しい治療の試み」1985年第39回日本臨床眼科学会特別講演「治療的角膜移植」1986年第9回日本眼科手術学会特別講演「角膜疾患に対する角膜手術」1987年第91回日本眼科学会特別講演「眼とヘルペス」【主な受賞歴】1998年日本眼科学会賞2003年日本眼科学会特別貢献賞2006年日本角膜学会特別功労賞2009年第1回今泉賞(日本アイバンク協会)2009年PfizerOphthalmicsAwardJapan2009特別賞●眞鍋禮三先生の教えと眼科学への貢献西田幸二大阪大学大学院医学系研究科脳神経感覚器外科学(眼科学)眞鍋禮三先生が2021(令和3)年7月19日に享年93歳でご逝去されました.筆者は1988年に眞鍋先生が主宰される大阪大学眼科学教室に入局致しました.在任期間中に直接ご指導いただいたのは4年余りでしたが,先生はご退官後も名誉教授として,大所高所から常にわれわれをご指導くださいました.このたび木下茂教授より「眼科の先達に学ぶ」の第4回として眞鍋禮三先生を取り上げたい旨のご依頼いただきました.眞鍋先生はこれまでに多くの先生を育ててこられ,薫陶を受けられた眞鍋門下の先生方が日本全国でご活躍されています.それらの諸先輩方をさしおいて大変僭越ではありますが,ご指導いただいた弟子の一人として,眞鍋礼三先生の業績の一端をご紹介させていただきます.眞鍋先生は,1928年2月12日香川県にご誕生されました.1954年3月大阪大学医学部を卒業され,医師実地修練と研究に従事したのち,1959年7月大阪大学助手に任ぜられ,眼科学講座に勤務,1965年1月同大学講師,そして1974年5月1日には第7代眼科学教室教授に就任され,1974年から1991年までの17年間教授を務められました.先生のご専門は,当初,網膜電図(electroretinogram:ERG)で,赤色光と白色光を用いて錐体機能と杆体機能を分離する方法を開発され1),中心フリッカ測定装置やアコモドメーター2)を開発されるなど(図1),臨床検査装置を自ら開発し,その装置を用いて臨床研究をされていました.ボストンレチナファンデーションに留学後は角膜の研究に専念され,角膜実質の含水率と散乱特性の関係,角膜潰瘍におけるコラゲナーゼの関与と治療法の開発,角膜上皮創傷治癒の基礎研究とフィブロネクチン点眼による治療法の開発3),角膜ヘルペスの病態4),ドナー保存液EP-2の開発(図2)5)などにかかわられ,臨床においては2,000眼以上の角膜移植を施行されました.優れた研究業績のもと,日本眼科学会や臨床眼科学会をはじめとする多くの主要学会で特別講演の栄誉にあずかられました.そして,1983年日本医師会医学研究奨励賞,2003年日本眼科学会賞,2003年日本眼科学会特別貢献賞など数多くの賞を受賞されました.教授在任中は,臨床,研究,教育に尽力されました.在任された1972年.1979年頃は,昭和40年代始めからの大学学園紛争がようやく終焉し,エネルギー溢れる団塊の世代が入局しはじめた時期でした.そして,眼科の診療・研究レベルは欧米と比べ未だ低く,欧米に追いつく日を夢みた時代でもありました.実際,眞鍋時代の17年間に阪大眼科の臨床・研究レベルは飛躍的に向上し,世界のトップグループに数えられる角膜,網膜などの分野が育ちました.教授就任から5年が経過し,若手教官層の急速な成長に加え,毎年10名を超す新入局者数とも相まって教室は発展期に入りました.この頃には専門領域を基軸とした臨床・研究活動が主流となり,関連病院に出向中の若手医局員がこれらのグループに所属するなかで,角膜,ぶどう膜炎,網膜.離,緑内障,糖尿病網膜症,神経眼科などさまざまな研究グループが発展し,臨床への社会実装をめざす研究テーマが数多く生まれました.就任から10年目となる1984年頃を境に教室は円熟期に入り,とくに眞鍋先生が専門とする角膜領域を中心に優れた人材が多く輩出し,1977年に眞鍋先生が角膜領域の小集会として創設した「角膜カンファランス」はより大きな学術組織へと成長し,40年以上を経た現在,同会は日本角膜学会として参加者1,000名を擁する学術組織に発展しています.眞鍋先生の医局運営はいわゆるトップダウン型ではありません.むしろ,ボトムアップで湧き上がってくる医局員のモチベーションを自由に伸ばしていくことをことのほか好まれました.とはいっても単なる放任主義ではなく,課題解決に悩む医局員には的確なアドバイスとともに温かい手を差し伸べられました.「なんでや」という言葉を好まれていたようにブラックボックスの存在を嫌い,真理の追究をこよなく愛されていました.また,教室員の指導育成にたゆまぬ熱意を注がれ,40名を超える教室員を海外に留学させ,あるいは外国人研究者を招聘して共同研究を行い,眼科学の国際交流の促進に貢献されました.筆者にも多くのチャンスを与えていただき,また機会があるごとに貴重なアドバイスをいただきましたが,その門下からは第一線で活躍している俊英を多数輩出し,18名が自大学または他大学の教授に就任し,自由闊達な「眞鍋イズム」は全国に波及していくこととなりました.このように,17年間の教授在任中に教育,研究,臨床のあらゆる面で大阪大学眼科学教室を世界レベルに押し上げられた比類なき名教授です.1975年からは日本眼科紀要の編集委員長を務められ,a.阪大式アコモドメータb.阪大式中心フリッカー値測定器図1臨床検査装置の開発図2眼球保存液(EP.II)の開発図4米寿の会(2015年)1979年からは日本コンタクトレンズ学会誌の編集理事として両誌の発展に尽力されました.1975年以降は日本眼科学会の評議員を務める一方,2年任期の理事を6年務められ,1987年6月から1989年6月までの2年間は日本眼科学会の理事長としてその運営と発展に貢献されました.さらに,日本眼科学会,日本臨床眼科学会,日本コンタクトレンズ学会,日本眼科手術学会,国図3教授退官記念講義(1991年3月)際眼研究会議日本部会の会長を務められ,その発展に寄与されました.加えて,1987年からは国際眼研究会議のカウンシルメンバーに選任され,国際学会の運営でも活躍されました.また,1983年2月から1985年1月まで学術審議会専門委員として活躍され,1988年10月.1991年10月まで日本学術会議機能回復医学研究連絡委員会委員を委嘱され活躍されました.1991年に退官され(図3),大阪大学名誉教授となられました後,1996年から2005年までは多根記念眼科病院院長を務められました.また,1982年.2000年まで日本アイバンク協会理事長,2003年.2014年までは大阪アイバンク理事長を務め,アイバンク活動の普及に貢献されました.眞鍋先生はおいくつになられても門下生とのつながり図5眞鍋禮三名誉教授追悼シンポジウム(2022年)大橋裕一先生(右上),西田輝夫先生(右下),澤充先生(左下),筆者(左上).図6眞鍋禮三名誉教授追悼シンポジウム(2022年)木下茂先生図7眞鍋先生を囲む会(2013年)を大事にしておられました.教室として米寿のお祝いの会を開催させていただきましたのは大変よい想い出です(図4).また,阪大眼科角膜グループの有志で開催した木下茂先生,大橋裕一先生の謝恩会にもご出席いただき,想い出話に花が咲く大変楽しい時間となりました.昨年7月の眞鍋先生のご逝去に際して,私は次世代を担う若者に眞鍋先生の功績やビジョンを伝えていけるような機会を設けたいと考えました.早速,翌年開催が予定されていた「角膜カンファランス2022」の会長である金沢大学の小林顕先生に相談しましたところ,すでにプログラムがおおむねフィックスされている段階であったにもかかわらず,追悼セッションの開催をご快諾いただき,「眞鍋禮三名誉教授追悼シンポジウムBacktotheBasic,LooktotheFuture」を開催いただけることとなりました.このシンポジウムでは,眞鍋先生ゆかりの先生方にご講演いただきました.最初に筆者が眞鍋先生の功績をご紹介した後,木下茂先生が「眞鍋禮三先生から学んだ治療的角膜移植,そして角膜再生医療へ」,大橋裕一先生が「眞鍋イズムに学ぶ」,西田輝夫先生が「眞鍋禮三教授から学ばせていただいたこと」,澤充先生が「アイバンクと後輩の育成」というテーマで,それぞれの先生が眞鍋先生との思い出を語りながら,角膜におけるそれぞれの領域について,眞鍋先生の時代から現在に至るまでの発展,未来の展望について,とくに若者をエンカレッジするような内容のご講演をいただきました(図5,6).以上のように,眞鍋先生は眼科学領域において斬新かつ卓越した業績をあげるとともに,新時代にふさわしい多くの眼科医の養成(図7),新しい眼科学の教育に傑出した能力を発揮したほか,大学の管理運営にも著しい貢献をされるなど,その功績はまことに顕著でありました.われわれには,先生が築かれた教室,そして阪大眼科の精神をこれからも長く伝え,さらに発展させていく責務があることを,改めて強く感じております.文献1)眞鍋礼三,尾辻孟:ERGの臨床特に小児ERGの診断的価値.日眼紀16:38-43,19652)MizukawaT,NakabayashiM,ManabeR:Onanaccom-modometerdevelopedbyusfortheaccommodationtime.BerZusammenkunftDtschOphthalmolGes65:495-499,19643)西田輝夫,八木純平,大鳥利文ほか:フィブロネクチン点眼剤の臨床効果.臨眼42:33-37,19884)真鍋礼三,湯浅武之助,福田全克ほか:眼とヘルペス.日眼会誌92:1-26,19885)真鍋礼三,木下茂,糸井素一:新しい眼球保存液(EP-2)の臨床使用経験.日眼紀35:1263-1265,1984☆☆☆

視機能からみた私の眼内レンズ選択 

2022年9月30日 金曜日

視機能からみた私の眼内レンズ選択MyChoiceofIOLfromthePerspectiveofVisualFunction市川一夫*はじめに特集「自分の眼に入れるなら眼内レンズはこれだ」の1項目として「眼内レンズと視機能」の原稿の執筆を依頼された.筆者は1980年代初頭,水晶体全摘出後に虹彩支持レンズを入れてから,前房レンズ,後房レンズ(.外・.内固定)に移行し,現在では必要に応じて強膜固定や有水晶体眼内レンズ挿入も行ってきた.素材では,ポリメチルメタクリレート(polymethylmethacry-late:PMMA),シリコーンや疎水性および親水性アクリルレンズ,コラマーレンズとほとんどのものを使用してきている.眼内レンズ(intraocularlens:IOL)も単焦点・多焦点・焦点拡張型レンズ・トーリックレンズなど,患者と相談のうえ術後屈折値を決め,さまざまなレンズを挿入してきた.焦点の種類も患者にそれぞれの利点・欠点を説明し,患者の希望を重視しながら選択してきた.もし筆者が本誌に同時掲載される先生方と異なる点があるとすれば,1980年代後半からIOLの着色化でいくつかのメーカーと研究開発をともにしてきた経験により,水晶体の加齢や色覚からIOLについて,術者としての意見以外に生理学者・開発者としての意見をもっていることだと思う.着色ILOの開発にあたっては,本当に着色化に利点があるか,もし欠点があるとすればなにか,どのようにすれば解決できるかを考え,研究し開発してきた.その研究から,IOLについて筆者なりの考え方が備わったので,そのことを紹介しながら現在白内障手術を受けるなら自分の眼に挿入したいIOLについて述べる1).I1980年代後半,着色眼内レンズについて考えられ知られていたこと1.利点白内障手術を多く始めた80年代,患者が手術後に赤視症や青視症など色の変化を訴え,多くは2~3週間で消失するものの,少数例では長期に訴えが残る患者がいることを経験し興味をもった.調べてみると,国内では大正時代,すでに前田が白内障術後の色視症の報告をしており2),青視症は術後の短波長光が過剰に入るため,赤視症は強い光を浴びたため,と実験的に確かめられていた3).有名な画家のクロード・モネなどは,白内障手術後色感覚が変わってしまい絵が描けなくなった.その後,医師の勧めにより黄色の眼鏡をかけて再び描けるようになったとの報告もあった4).そこで,術後長く経過した患者たちにも何か色の変化があるかと聞いてみると,共通して無彩色のもの,とくに夕暮れのアスファルトを見ると「薄いが青っぽく見える」ということを話してくれた.人の正常水晶体を調べてみると,年齢とともに黄色化する,思春期以後の黄色化が網膜を光毒性から守ると成書に記載されていたし,着色は可視光を制限することになり慎重に検討する必要があるとされていた5).また,当時のクリアレンズや紫外線(ultraviolet:UV)カットIOLを挿入した患者は,*KazuoIchikawa:中京眼科視覚研究所〔別刷請求先〕市川一夫:〒456-0032愛知県名古屋市熱田区三本松町12-22中京眼科視覚研究所0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(43)1201806040200WAVELENGTH(nm)74YR図12歳と74歳の水晶体の色と分光透過特性TRANSMITTANCE(%)2YR400500600700y0.350.300.300.350.400.45x図2C光源を透過したときの各年齢の正常水晶体の色を刺激純度と主波長でCIE色度図に図示0.40正答数18171615141312110~45~910~1415~1920~2425~2930~3435~3940~4445~4950~5455~5960~6465~6970~7475~7980~8485~8990~9495~99年代Mann-Whitney’sUtest,*:p<0.05図3標準色覚検査表第3部(SPP3)の年代別の正答文字数検査表はC19文字で構成されており,3~90歳までのC23,604人(男性C11,550,女性C12,054)を対象とした.1.0正答率0.90.80.70.60.550~5455~5960~6465~6970~7475~7980~84年齢薄い着色IOL(19)(46)(107)(116)(191)(137)(57)濃い着色IOL(5)(15)(37)(62)(104)(84)(30)UV-cutIOL(4)(12)(14)(31)(35)(34)(11)t-test,*:p<0.05,**:p<0.01,***:p<0.001図4薄い着色眼内レンズ・濃い着色眼内レンズ・UVカット眼内レンズの標準色覚検査表第3部(SPP3)の年代別誤り文字数の比較網膜内の視細胞1.00.50図5網膜内に存在する視物質の分光感度特性400Cnm以上の可視光カットは,OPN5とCS錐体の一部の受容を遮断する.(文献C5より引用)957555AlconSN60ATJ&JZCB00V35HOYAYA60BBNIDEKNS-60YGKowaAN6KSTAARAQ-Ni15SantenNX60-5Wavelength[nm]図6市販されている着色眼内レンズの分光透過特性J&J(ZCB00V)のみC400Cnmを超える領域でシャープカットになっており,人眼の分光透過度と異なりCOPN5視物質を刺激しない.300400500600700800図7市販されている着色眼内レンズの色と刺激純度C光源を透過した色として色度図上に示した.Transmittance[%]-