硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載232232硝子体腔内リンパシステム.その2(研究編)池田恒彦大阪回生病院眼科●脳内のリンパシステム前項の続きである.従来,脳にはリンパ組織がないと考えられてきたが,近年の研究で,脳硬膜や軟膜内にprelymphaticcapillarysystemの存在する可能性が報告されている1).一方,脳表面および脳実質内の血管周囲腔には,アストロサイトの足突起がグリア境界膜を形成している.この足突起にあるアクアポリンC4が,水移動を促進しており,グリアが介在するリンパシステムという意味でCglymphaticsystemとよばれている2).C●Bursapremacularisと脳内リンパ組織脳表面のグリア境界膜が脳軟膜に接する構造は,網膜でいうとCMuller細胞の基底膜である内境界膜が,bursapremacularis(BPM)に接しているのと同じ位置関係にある(図1)3).脳軟膜の肥満細胞を染めたトルイジンブルー染色(図2a)と,筆者らの報告したCBPMのトルイジンブルー染色(図2b)は非常によく似ている4,5).また,脳軟膜には免疫に関与する組織マクロファージ,樹状細胞が存在することが知られているが,硝子体にも樹状細胞や組織マクロファージとして機能するヒアロサイトが存在する6).C●硝子体腔内リンパシステム以上の結果から,硝子体腔内にはリンパシステムがあるのではないかと考えられる.すなわち,BPMやBerger腔を構成する袋状の硝子体組織が終末リンパ節として働き,老廃物を眼外に排出しているのではないだろうか(図3)4).そのトレナージ先としては視神経周囲のくも膜下腔や毛様体などが考えられる.このような眼球をめぐるリンパ組織の研究は,種々の眼疾患の病態解明の鍵となるように思われる.文献1)XieL,KangH,XuQetal:Sleepdrivesmetaboliteclear-ancefromtheadultbrain.ScienceC342:373-377,C20132)LouveauCA,CPlogCBA,CAntilaCSCetal:UnderstandingCtheC図1脳軟膜とbursapremacularis(BPM)の構造脳軟膜は,脳表面のアストロサイトの突起が形成するグリア境界膜とよばれる基底膜と接している.この構造は,網膜でいうとCMuller細胞の基底膜である内境界膜にCBPMが接しているのと同じ位置関係にある.(文献C3より引用)図2脳軟膜とBPMのトルイジンブルー染色脳軟膜およびCBMPには肥満細胞が存在し,トルイジンブルー染色所見(Ca:脳軟膜,b:BPM)は非常によく似ている.(文献4,5から引用)図3硝子体腔内リンパシステム(仮説)毛様体扁平部BPMやCBerger腔を構成する袋状の硝子体が終末リンパ組織として働き,硝子体腔内の老廃物を眼外に排出している可能性が考えられる.そのトレナージ先としては視神経乳頭周囲のくも膜下腔や毛様体などが考Csareaえられる().(文献C3より引用)CfunctionsCandCrelationshipsCofCtheCglymphaticCsystemCandCmeningeallymphatics.JClinInvest127:3210-3219,C20173)池田恒彦:網膜硝子体疾患の病態解明~臨床の素朴な疑問を出発点として.日眼会誌126:254-297,C20224)MichaloudiH,BatziosC,ChiotelliM,etal:Developmentalchangesofmastcellpopulationsinthecerebralmeningesoftherat.JAnat211:556-566,C20075)SatoCT,CMorishitaCS,CHorieCTCetal:InvolvementCofCpremacularmastcellsinthepathogenesisofmaculardis-eases.PLoSOne14:e0211438,C20196)SonodaCKH,CSakamotoCT,CQiaoCHCetal:TheCanalysisCofCsystemictoleranceelicitedbyantigeninoculationintothevitreouscavity:vitreouscavity-associatedimmunedevia-tion.CImmunologyC116:390-399,C2005(71)あたらしい眼科Vol.39,No.9,2022C12290910-1810/22/\100/頁/JCOPY