●連載268監修=福地健郎中野匡268.緑内障患者の黄斑疾患に対する寺島浩子新潟大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野硝子体手術緑内障を合併した黄斑疾患の硝子体手術においては,諸々の問題点を考慮に入れておく必要がある.手術適応の判定や黄斑視野への影響,術後の眼圧管理,手術手技として内境界膜.離を併施するかどうかなど,黄斑疾患だけでなく緑内障の術後管理も含めたマネージメントを要する.●はじめに黄斑上膜(epiretinalmembrane:ERM)や黄斑円孔は黄斑部の機能形態異常であり,硝子体手術が広く行われている.とくに黄斑疾患のなかでもCERMはC2~10%と高い有病率である1).また,加齢に伴い緑内障の有病率も上昇し,緑内障のC10%以上にCERMを合併しているとの報告もある2).近年,硝子体手術はC20ゲージ(G)の時代からC25,27Gへと小切開硝子体手術が主流となっている.より低侵襲な手術操作が可能なことから,緑内障合併眼に対しても結膜温存をはじめとしたメリットがあると思われる.また,内境界膜(internalClimitingmembrane:ILM).離術はCERMや黄斑円孔の標準術式となっており,ERMの再発を予防し,円孔の閉鎖率向上に寄与している.一方,最近緑内障合併眼の硝子体手術後に視野の悪化が報告されてきており,ILM.離の是非についての議論が高まってきている.C●緑内障眼における硝子体手術の問題点Leeらは年齢をマッチさせた落屑緑内障眼C211例中40例(19.0%)にCERMがあり,原発開放隅角緑内障(primaryCopenCangleglaucoma:POAG)眼C4.1%,正常眼C2.4%にCERMがあったと報告している.さらにERMが緑内障の視野変化により影響を与えていたとのことである3).高齢化に伴い,緑内障眼に対する硝子体手術の機会は今後増加すると思われる.そこで,緑内障眼における硝子体手術およびCILM.離の諸々の問題点について考えてみる.C●硝子体手術適応の判定まず一つ目として,硝子体手術の適応の判断がむずかしいことがあげられる.中心まで視野障害が及んだ緑内障に黄斑疾患が重複すると,視野の進行が緑内障によるものか,黄斑疾患の影響によるものか判定しづらい場合がある.近年,緑内障眼の網膜内層の光干渉断層計(73)C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(opticalCcoherencetomography:OCT)所見における構造変化が多数報告されている.緑内障の重症度を検出するために,黄斑部の神経節細胞層の菲薄化が評価されるが,ERMによるアーチファクトの影響を受けることが問題となる2).また,自覚症状のおもな原因が緑内障によるものか,ERMに関するものか判定しづらく,硝子体手術の治療効果が果たしてあるのか否か,手術適応の判断に苦慮する場合もある.さらに緑内障合併CERMは術後視力の改善度が低いことが知られている4).術前に患者に視力予後も含めて十分な説明が必要である.C●硝子体手術後の眼圧変化次に,緑内障眼の硝子体手術後は,眼圧のコントロールが不良となるケースがある.とくに強度近視のCPOAGでは術後の高眼圧をたびたび経験する.図1にCPOAGに層状黄斑円孔を合併した患者の術後経過を提示する.進行した緑内障で重度の中心視野障害を呈しており,本人は視力低下と歪視の自覚があった.ILM.離を併用したC27G硝子体手術後,2週間を過ぎたあたりから眼圧はC30CmmHg以上に上昇し,点眼,内服でコントロールがつかず,結局トラベクレクトミーを要した.結果,最終視力は低下し中心視野は硝子体手術前より悪化し,本症例においては硝子体手術が緑内障に悪影響を与える結果となった.緑内障合併眼は術前の黄斑形態や視機能の評価に加えて,術後の眼圧管理も含めて十分慎重に手術適応を判定していく必要がある.C●緑内障眼に対するILM.離の取り扱い術前に緑内障とわかっている場合,黄斑疾患の手術の際にCILMを温存すべきか,.離したほうがよいのか,悩ましいところである.ILM.離は,非緑内障眼においても神経節細胞複合体の菲薄化や視野感度低下を助長する可能性がある5).Tsuchiyaらは,緑内障を合併したERMと非緑内障のCERM33眼の術後を比較すると,ILM.離を行った緑内障眼のほうが鼻側外側の視野のあたらしい眼科Vol.39,No.10,2022C1365図1代表症例67歳,男性.左眼原発開放隅角緑内障+層状黄斑円孔に対してC27G硝子体手術+内境界膜.離を施行.Ca~d:HFA10-2の術前後の変化.1年で中心視野はかなり狭窄した.Ce,f:マイクロペリメトリーの術前後の変化.Cg,h:OCTの術前後の所見.術後も層状黄斑円孔の残存がみられる.悪化が有意に認められたと報告している6).ILM.離による視野に影響を受けやすいリスク因子は,中等度以上緑内障,強度近視,高齢,眼圧コントロール不良等が報告されている6).また,黄斑形態の特徴では,進行したERM,とくに網膜内層不整や網膜分離を伴ったCERMや偽黄斑円孔タイプ7)や中心窩網膜.離を伴う近視性牽引黄斑症は,術後に視野障害が助長されるリスクが高いと思われる.進行した緑内障合併黄斑疾患に対するILM.離は視野悪化の一因となると考える.しかし,一律にCILMを温存することは,ERM再発のリスクを高め,その結果かえって視力低下,再手術の必要性が高まるデメリットがある.そこで進行した緑内障眼に対して,筆者らの施設では新しい試みを行っている.術前のマイクロペリメトリー(MP-3を使用)の黄斑視感度の結果をもとにCILM.離範囲を計画する.絶対暗点の場所からCERMもはがしはじめ,絶体暗点と正常に近い視感度領域のみにCILM.離を行い,感度が低下している領域はできるだけCILMを温存する方法である.長期成績をみて術式の効果判定を行うべきであるが,短期成績はおおむね良好な結果が得られている(図1).緑内障合併黄斑疾患のCILM.離を含め,硝子体手術の適応は緑内障の重症度やリスクファクターを十分考慮して症例ごとの検討が必要であると考える.文献1)XiaoCW,CChenCX,CYanCWCetal:PrevalenceCandCriskCfac-torsCofCepiretinalmembranes:ACsystematicCreviewCandCmeta-analysisCofCpopulation-basedCstudies.CBMJCOpenC7:C1-10C20172)AsraniS,EssaidL,AlderBDetal:Artifactsinspectral-domainCopticalCcoherenceCtomographyCmeasurementsCinCglaucoma.JAMAOphthalmol132:396-402,C20143)LeeJY,SungKR,KimYJ:ComparisonoftheprevalenceandCclinicalCcharacteristicsCofCepiretinalCmembraneCinCpseudoexfoliationCandCprimaryCopen-angleCglaucoma.CJGlaucomaC30:859-865,C20214)KoY-C,ChenY,HuangYetal:Factorsrelatedtounfa-vorableCvisualCoutcomeCafterCidiopathicCepiretinalCmem-branesurgeryinpatientswithglaucoma.Retina42:712-720,C20225)TerashimaH,OkamotoF,HasebeHetal:Vitrectomyforepiretinalmembranes:GanglionCcellCfeaturesCcorrelateCwithCvisualCfunctionCoutcomes.COphthalmolCRetinaC2:C1152-1162,C20186)TsuchiyaCS,CHigashideCT,CUdagawaCSCetal:Glaucoma-relatedCcentralCvisualC.eldCdeteriorationCafterCvitrectomyCforCepiretinalmembrane:topographicCcharacteristicsCandriskfactors.Eye(Lond)C35:919-928,C20217)TerashimaCH,COkamotoCF,CHasebeCHCetal:EvaluationCofCpostoperativeCvisualCfunctionCbasedConCtheCpreoperativeCinnerlayerstructureintheepiretinalmembrane.GraefesArchClinExpOphthalmol259:3251-3259,C20211366あたらしい眼科Vol.39,No.10,2022(74)