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抗VEGF治療:網膜静脈分枝閉塞症の予後予測因子

2022年8月31日 水曜日

●連載122監修=安川力髙橋寛二102網膜静脈分枝閉塞症の予後予測因子錦織奈緒美村岡勇貴京都大学大学院医学研究科眼科学網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)に伴う黄斑浮腫は,抗CVEGF治療の導入により制御しやすくなってきている.しかし再発がしばしば生じ,そのつど追加治療が必要になることが多い.また,その病勢には患者間で差があり,病態に応じた治療が重要と考えられる.筆者らは,黄斑部形態や視機能の予後に関して鍵となる所見を参考にしつつ,治療方針を患者ごとに計画している.はじめに網膜静脈分枝閉塞症(branchretinalveinocclusion:BRVO)は,糖尿病網膜症についで頻度の高い網膜血管疾患であり,しばしば黄斑浮腫を伴う.黄斑浮腫に対しては,現在抗CVEGF治療が第一選択となっている.しかし,抗CVEGF治療は静脈閉塞に対する根本的な治療ではないため,浮腫の再発が約C80%の患者に認められる1).全体を見渡すと,再発を生じない患者から再発を頻繁に繰り返すまで差が大きく,病態に応じた治療が求められる.また,BRVOでは浮腫以外の病態が視力低下に関連していることがあるため,浮腫に対する治療の際にはこれらの併存病態も併せて評価することが必要である.本稿では,光干渉断層計(opticalcoherencetomograC-phy:OCT)や光干渉断層血管撮影(opticalCcoherencetomographyCangiography:OCTA)を用いた筆者らの過去の検討結果をもとに,黄斑部形態と視機能に関する予後因子について簡単に説明する.中心窩の網膜下出血と視細胞障害視力は中心窩の視細胞層の状態に大きく依存している.OCTではCellipsoidzone(EZ)bandラインや外境界膜(externalClimitingmembrane:ELM)ラインの状態が視細胞層の健全性の指標として有用である.EZband・ELMラインがはっきりと確認できない患者では,治療により浮腫が消失しても,あまり良好な視力は期待できない.この視細胞障害は,中心窩における網膜下出血の遷延と関連する.黄斑浮腫に対して抗CVEGF治療を行った群では,無治療群と比べ中心窩の網膜下出血の残存期間が短く,視細胞障害が軽度で,最終視力が良好であった2).抗CVEGF治療は,黄斑浮腫の吸収とともに,新たな網膜下出血の抑制によって視細胞への障害を緩和して(75)いる可能性があり,初診時に黄斑浮腫とともに中心窩に網膜下出血を認める患者では,抗CVEGF治療をただちに開始する.黄斑虚血閉塞機転が重篤な場合,閉塞領域における網膜虚血が高度になる.近年ではCOCTの機能を拡張させたCOCTAによって網膜虚血を簡便,非侵襲的,層別に評価することが可能となった.OCTAを用いた検討において,傍中心窩に無灌流領域(nonperfusionarea:NPA)を伴う例では,治療後もCNPAにおける網膜感度や視力回復が限定的であった(図1)3).黄斑浮腫や網膜下液は抗VEGF治療によって速やかに改善しやすいが,NPAないしNPAに対する網膜感度低下は治療に反応しにくい.NPA上にある浮腫性変化への治療は,治療意義が低くなる.黄斑浮腫の変動BRVOに対する抗CVEGF治療の追加は,黄斑浮腫が再発した後のCpronenata(PRN)投与が主流となっている.しかし,近年行われた筆者らの施設を含む多施設の検討においては,黄斑浮腫の再発を繰り返し,網膜厚の変動が大きい例では,視細胞障害の進行とともに視力が低下していた4).このような症例は,初診時に高齢で視力低下を認めていた.このように浮腫を経過中に繰り返す患者には,注意深い経過観察のうえ,PRNよりも積極的な加療が望ましいかもしれない.黄斑浮腫の予見OCTAを用いた検討で,浮腫吸収時における傍中心窩の血管拡張所見が再発予測に有用であることがわかった(図2)5).この所見は,静脈のうっ血を表していると考えられる.初期治療後,浮腫が吸収した際にこのような血管形態が傍中心窩に観察される場合には,近い将来あたらしい眼科Vol.39,No.8,2022C10850910-1810/22/\100/頁/JCOPY図1傍中心小窩に無灌流領域(NPA)を伴うBRVOの1例上段:初回治療後のCOCT.黄斑浮腫は改善しているが,視力は初診時からの改善を認めなかった(RV=1.0→0.7).下段左・中央:上段と同日のOCTA.耳下側に大きなNPAを認める.下段右:上段と同日のマイクロペリメトリー.OCTAのCNPA部位に一致して網膜感度が著しく低下していることがわかる.(文献C3より改変引用)初期治療後の浅層初期治療後の深層3カ月後のOCT症例1症例2図2黄斑浮腫を多く認めたBRVOの2症例初期治療後のOCTA浅層(左列)と深層(中央列)で傍中心窩(患側,耳側)の網膜血管拡張がめだつ箇所()と一致する箇所に,3カ月後のOCT(右列)で黄斑浮腫の再発を認めている.(文献C5より改変引用)の浮腫再発に注意する.おわりにBRVOに伴う黄斑浮腫に対しては抗CVEGF治療が多くの場合に第一選択となり,急性期には良好な反応が期待できる.しかし,浮腫の再発もしばしばみられ,その場合には治療回数が多くなり,患者ひいては医療者側の負担も相応となる.しかし,視機能・黄斑形態の予後にかかわる鍵となる所見をなるべく早期段階に評価しておくことで,患者・医療者双方にとってむだの少ない有意義な治療が可能となる.文献1)HasegawaCT,CTakahashiCY,CMarukoCICetal:MacularCves-selreductionaspredictorforrecurrenceofmacularoede-1086あたらしい眼科Vol.39,No.8,2022maCrequiringCrepeatCintravitrealCranibizumabCinjectionCinCeyesCwithCbranchCretinalCveinCocclusion.CBrCJCOphthalmolC103:1367-1372,C20192)MuraokaCY,CTsujikawaCA,CTakahashiCACetal:FovealCdamageCdueCtoCsubfovealChemorrhageCassociatedCwithCbranchCretinalCveinCocclusion.CPLoSCOneC10:e0144894,C20153)KadomotoS,MuraokaY,OotoSetal:Evaluationofmac-ularCischemiaCinCeyesCwithCbranchCretinalCveinCocclusion.CRetinaC38:272-282,C20184)NagasatoCD,CMuraokaCY,CTanabeCMCetal:FovealCthick-ness.uctuationinanti-vascularendothelialgrowthfactortreatmentforbranchretinalveinocclusioninalong-termmulti-centerCstudy.COphthalamolCRetinaC2022CFebC23.[Epubaheadofprint]5)KogoCT,CMuraokaCY,CUjiCACetal:AngiographicCriskCfac-torsCforCrecurrenceCofCmacularCedemaCassociatedCwithCbranchretinalveinocclusion.RetinaC41:1219-1226,C2021(76)

緑内障:落屑緑内障の遺伝子異常と臨床病型

2022年8月31日 水曜日

●連載266監修=福地健郎中野匡266.落屑緑内障の遺伝子異常と臨床病型尾﨑峯生尾﨑眼科CYP39A1遺伝子に機能欠損型レアバリアント(G204Eなど)をもつ患者では,CYP39A1の機能障害によりコレステロール代謝異常をもたらし,落屑形成につながることが明らかとなった.G204Eを保有する落屑症候群患者は失明リスクおよび落屑緑内障の発現リスクが高く,緑内障の重症度が高い.●落屑緑内障の病態と分子遺伝学的解析落屑症候群は,異常な線維性細胞外マトリクスの過剰産生と蓄積を特徴とする加齢性眼疾患である.落屑物質は主として瞳孔縁・水晶体前面・隅角線維柱帯・Zinn小帯に認められる.落屑が隅角線維柱帯に蓄積することにより房水流出が障害され,落屑緑内障を生じる.落屑緑内障は原発開放隅角緑内障と比較して,眼圧が高く進行が早い.加齢とともに増加し,薬物療法に抵抗する.日本人の落屑緑内障は隅角線維柱帯切除術の成功率が低いことが知られている.患者によっては治療にもかかわらず失明するリスクが高い.落屑症候群のなかで落屑緑内障発症リスクが高い患者,また落屑緑内障となったあとに眼圧コントロールが不良となりやすい患者や視野障害の進行速度が速くなる患者を見きわめることができれば臨床的に有用である.落屑症候群および落屑緑内障に対する分子遺伝学リスク解析は有用なアプローチとなりうる.C●ゲノムワイド関連解析の限界2007年,ゲノムワイド関連解析(genome-wideasso-ciation.study:GWAS)によってCLOXL1における遺伝子多型が落屑症候群と関連することが初めて示された.LOXL1はエラスチンの架橋に関与する.ところが人種間でのリスクアレル逆転が認められた1).さらにCGWASを用いて,CACNA1A(神経細胞の活動に必要なカルシウムチャネルに関連),POMP(ユビキチンC-プロテアソーム複合体に関連),TMEM136(膜貫通型蛋白質),SEMA6A(膜貫通型蛋白質),AGPAT1(炎症に関連)およびCRBMS3(細胞増殖に関連)などいくつかの生物学的経路が関与していることが示されたが,蛋白質異常につながるすべての人種に共通な機能欠損型変異は特定できなかった(LOXL1のCY407Fは機能獲得型バリアント)2,3).●蛋白質をコードする原因遺伝子座の発見次世代シーケンサーを用いてエキソン配列のみを網羅的に解析する全エクソームシーケンスによって,蛋白質をコードする疾患関連レアバリアントを見いだすことが可能となり,とくに機能欠損型レアバリアントはまれなものであっても治療につながる突破口を示している可能性がある.日本落屑症候群遺伝子研究コンソーシアムが参加した国際共同研究の結果,CYP39A1遺伝子に機能欠損型レアバリアントを有する患者は,落屑症候群のリスクがC2倍に上昇することが明らかになった4).機能欠損を予測されたCCYP39A1レアバリアントC42カ所に対する生化学的分析によって,このうちC34カ所は平均94%の酵素活性低下を示した(図1)4).CYP39A1の機能障害は,コレステロール代謝異常をもたらし,最終的に落屑生成につながると考えられる.落屑症候群患者の眼球を免疫組織化学的に検討すると,毛様体上皮の表面にエステル化コレステロールの細胞外異常沈着が観察された(図2,3).毛様体上皮は血液房水柵機能の維持に重要であるため,その破綻は血液中蛋白質を房水中へ漏出させ,落屑形成につながる可能性がある.C●CYP39A1レアバリアントと臨床病型Bellらは,CYP39A1の機能欠損型レアバリアントG204E変異を有する落屑症候群患者の失明リスクおよび関連する臨床表現型を,CYP39A1変異をまったく有しない落屑症候群患者と比較評価した5).CCYP39A1G204E変異を有する落屑症候群患者では,CYP39A1変異のない落屑症候群患者と比べて失明(矯正視力C0.05未満)リスクが著しく高い(オッズ比7.1)ことが示され,落屑緑内障を有する割合がより高かった.また,有意に高いピーク眼圧,より大きな垂直C/D比,および,より低下した視野感度CMD値が認められ(p<0.001),レーザー治療または緑内障手術の介入をより多く必要とした5).(73)あたらしい眼科Vol.39,No.8,2022C10830910-1810/22/\100/頁/JCOPYaControlExfoliationbControlExfoliation図2毛様体組織におけるコレステロールの沈着a:正常組織と落屑症候群の毛様体組織の両方において①毛様体上皮の細胞膜にエステル化されていない遊離コレステロールが蓄積していた(上段).②毛様体の間質にエステル化コレステロールが蓄積していた(中段・下段).落屑症候群に罹患した眼球切片(中段・下段)では,落屑物質(→)中のエステル化コレステロールの著しい細胞外沈着を認めたが,対照組織では観察されなかった.Cb:落屑症候群の眼球切片(二重染色実験)では,インテグリン-b1(緑色蛍光)陽性の毛様体上皮細胞膜の上に,エステル化コレステロール(青色蛍光,→)陽性の落屑凝集体が認められた(上段).エステル化コレステロール(青色蛍光)とインテグリン-b1(緑色蛍光)が共局在していた(上段).毛様体上皮表面の落屑物質沈着(→)内にアポリポプロテインCE(ApoE,緑色蛍光,中段)とCLOXL1(緑色蛍光,下段)が観察されたが,対照眼の切片には観察されなかった.(文献C4より転載)文献1)OzakiCM,CLeeCKY,CVithanaCENCetal:AssociationCofCLOXL1genepolymorphismswithpseudoexfoliationintheJapanese.InvestOphthalmolVisSciC49:3976-3980,C20082)AungT,OzakiM,MizoguchiTetal:AcommonvariantmappingtoCACNA1Aisassociatedwithsusceptibilitytoexfoliationsyndrome.NatGenetC47:387-392,C20153)AungCT,COzakiCM,CLeeCMCCetal:GeneticCassociationCstudyCofCexfoliationCsyndromeCidenti.esCaCprotectiveCrareCvariantCatCLOXL1CandC.veCnewCsusceptibilityCloci.CNatCGenet49:993-1004,C20174)LiCZ,CWangCZ,CLeeCMCCetal:AssociationCofCrareCCYP39A1CvariantsCwithCexfoliationCsyndromeCinvolvingC●おわりにtheCanteriorCchamberCofCtheCeye.CJAMAC325:753-764,C2021CYP39A1において落屑症候群に関連する機能欠損5)BellCK,COzakiCM,CMoriCKCetal:AssociationCofCtheCCYP39A1CG204ECgeneticCvariantCwithCincreasedCriskCof型レアバリアントが見いだされた.CYP39A1CG204ECglaucomaCandCblindnessCinCpatientsCwithCexfoliationCsyn-をもつ落屑症候群患者は,落屑緑内障発症リスクが高Cdrome.Ophthalmology129:406-413,C2022く,緑内障の予後がより不良である.これらの知見は,落屑緑内障の疾患メカニズム解明,予後予測および治療戦略の改善に寄与するものと考えられる.図1毛様体上皮におけるCYP39A1蛋白質の発現落屑のない対照例(右列)の毛様体上皮にCYP39A1免疫組織化学的陽性所見(赤色)が認められた.しかし落屑症候群例(左列)では染色(赤色)が著しく減弱していた.図3機能欠損型レアバリアントをもつ落屑症候群例の毛様体所見落屑物質内にエステル化コレステロール,LOXL1およびアポリポプロテインCEの共在が認められた.1084あたらしい眼科Vol.39,No.8,2022(74)

屈折矯正手術:レーシックフラップトラブルの対処法

2022年8月31日 水曜日

●連載267監修=稗田牧神谷和孝267.レーシックフラップトラブルの対処法森井勇介森井眼科医院Laserinsitukeratomileusis(レーシック)フラップトラブルは不適切なドッキングや患者眼(顔面)の動きが原因となることが多い.この手術は医師一人でやれるものではなく,コメディカルスタッフも手術に携わるため,普段からチームでトラブル時の対処法を共有していると落ち着いて対処しやすく,結果として患者の安心感にもつながる.●はじめにフェムトセカンドレーザーによるレーシックフラップ作製時のトラブルの対処法について述べる.使用するフェムトセカンドレーザーによって,トラブルの対処法に多少の違いがあるので,総論的な内容になってしまうことはご容赦願いたい.●Suctionbreak(サクションブレイク)フェムトセカンドレーザー照射中にもっとも多いトラブルである1).原因は,不適切なドッキングや,患者の眼球や顔面の動きによって気泡が混入することにより,角膜に圧着していた圧平レンズ(コーン)が適切に圧平できなくなることである.その結果,レーザー照射の中断,もしくは予定外の方向にレーザーが照射されることとなる.瞼裂幅が非常に狭い目,極度にsteep,もしくは.atな角膜はリスクファクター1)となる.サクションブレイクを避けるために一番重要なのは,患者の緊張を解きほぐすことであるが,手技的には,角膜を中心に水平にドッキングする,強すぎず弱すぎずの適切な角膜の圧平,この2点が重要である.レーザー照射中は,患者が眼球や顔面を動かさないように,筆者は頻繁に「ここからは眼や顔を動かさないでくださいね」などとやさしく声かけをし,患者をリラックスさせるように心がけている.それでも,サクションブレイクが起こってしまった場合(図1)は,そのトラブルが照射中のどのタイミングで起こったかによって対応を考える必要がある(表1).フェムトセカンドレーザーの場合は,いきなり不完全フラップになることはないので,一度心を落ち着け,録画している動画を見直し,表1に従ってリカバリー策を実行すれば,同日中に手術完遂が可能である.この際,使用しているフェムトセカンドレーザーの機(71)種により対応が異なるので注意が必要である.当院はAlcon社のLenSxを用いてレーシックフラップを作製しているが,ベッド面での照射中にサクションブレイクが起こった場合,新たなコーンを接続し,フラップ直径を通常は9.0mm,フラップ厚を110μmに設定しているが,フラップ径を8.5mmに変更し,患者の角膜厚,予定切除量を勘案してフラップ厚を130~150μmに変更し,なるべく不完全な照射と重ならないように再照射することによってリカバリー可能である.サイドカット作製時にサクションブレイクが起こってしまった場合も,同様の考えで,なるべく不完全なサイドカットと重ならないように設定しなおし,サイドカットのみで照射する.不完全な照射となるべく重ならないように再照射することによって,よりきれいなリカバリーフラップが作製できる.AMO社のiFSの場合は,ベッド面作製時であれば,サクションブレイクすると同時に照射を止め,直後であれば,同じサクションで同じ設定(厚みや大きさ)で,フラップがレーザー照射による気泡で白くなったところに合わせて再度照射可能である.気泡部分はレーザーが当たらないので,まだ照射していない部分にだけ照射できる2).どうしても同日中のリカバリーが困難な場合は,無理せず手術を中断,延期し,日を改めて深さやフラップ径を変えて再試行を試みる.レーシック施行が困難と術者が判断した場合は,適応があるならば,有水晶体眼内レンズ手術やphotorefractivekeratectomy(PRK)へのコンバートを考慮する.●Opaquebubblelayerフェムトセカンドレーザー照射時に気泡が発生する.その気泡の逃げ道をフラップ作製時に同時に作製するが,気泡が何らかの理由で角膜実質内に溜まってしまうとopaquebubblelayer(OBL)が生じる(図2).角膜あたらしい眼科Vol.39,No.8,202210810910-1810/22/\100/頁/JCOPY表1フェムトセカンドレーザーでのフラップ作製時のトラブルと対処法合併症所見対処センタリング不良強膜が非対称に露出センタリングに注意し再ドッキング結膜の吸い込み患者インターフェース間への結膜の吸い込み結膜を吸い込まないよう注意し再ドッキング患者インターフェース間のエア患者インターフェース間にエアの存在エアの入らないように再ドッキングサクションブレイク(ベッド面作製時)ベッド切開面の照射が不完全不完全なベッド面の照射の状況を考慮しフラップの直径と厚さを変更し再照射*不完全なベッド照射面と重ならないようサクションブレイク(サイドカット作製時)サイドカット時の照射が不完全サイドカットのみで再照射*不完全なサイドカット照射と重ならないよう*同日にフェムトレーザー再照射の場合,コーンは新しいコーンに変える必要がある.*トラブルによって作製された不完全フラップの状態により,期間をおいての再治療やPRKなどへの術式変更も含め,最適な対処を選択する.*フェムトセカンドレーザーのメーカー,機種によって対応法に多少の違いがある.図1サクションブレイク時の術中写真ドッキング時に眼球が上転し,画面右下方の結膜も吸引していたため,レーザー照射中にサクションブレイクを起こした.図2OBLの術中写真ドッキング時に術眼が外転し,画面右側の角膜外側が強く圧迫されたため,OBLを生じた.中心に水平に,適切なドッキングができていないときに生じやすい.個人的な経験では,少々のOBLが生じても,ほとんどの場合,問題なくエキシマレーザーを照射できるが,OBLの面積が大きく,アイトラッキングがかからない状態の場合は,気泡が消失するまで数時間待てば,問題なくエキシマレーザー照射が可能となる.●Coldspot水滴,気泡,眼脂などの存在で,フェムトセカンドレーザー照射が十分でないspotが発生することによる.無理にリフトしようとすると,フラップに穴が開くことになり(ボタンホール),その場合は数カ月回復を待ってから再度フラップ作製を試みることとなるため,無理は禁物である.範囲がごく狭い場合は,丁寧にゆっくりと.離を試みると,リフト可能である.明らかに範囲が広い場合はフラップをリフトせず,時間をおいて40μm1082あたらしい眼科Vol.39,No.8,2022程度深い照射を行う2).●おわりにレーシックは医師一人でやれるものではなく,コメディカルスタッフも手術に携わるため,普段からチームでトラブル時の対処法を共有していると,落ち着いて対処しやすく,結果として患者の安心感にもつながる.レーシック手術件数は,かつてのレーシックバブルの頃に比べて激減しているのは周知のとおりであるが,屈折矯正,ことに近視矯正は国民の最大関心事であり,確実に希望者は存在する.診療時に屈折矯正手術に関する質問を受ける機会もそれぞれのクリニックであると思われるが,個人的な経験として,アンチ屈折矯正手術の先生方に否定され,困惑している患者も少なくない.正しい知識に基づく適応外の判断ならいいが,必要な検査もなしに根拠なく否定された患者も多数いるのではなかろうか.多焦点眼内レンズの際によく論じられるが,医療の進歩により,より正確な屈折矯正がクローズアップされてきている.ニーズは確実に存在するため,少しでも多くの眼科医が,レーシックを始めとする屈折矯正手術に対する偏見をなくし,正しい知識をもっていただけることを切に願ってやまない.地域密着の手術開業医による良質な屈折矯正手術施行施設が全国津々浦々に増えれば,よりわが国の国民とって福音であると確信する.文献1)FarahS,GhanemR,AzarDT:LASIKcomplicationsandtheirmanagement.In:RefractiveSurgery(AzarDT,ed),2nded,p195-221,Elsevier,Philadelphia,20072)稗田牧:屈折矯正トラブルシューティング①角膜屈折矯正手術の合併症と対処法─レーザーフラップの合併症.眼科手術33:388-390,2020(72)

眼内レンズ:角膜混濁眼の白内障手術における自動前囊切開装置ZEPTOの有用性

2022年8月31日 水曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋429.角膜混濁眼の白内障手術における加藤侑里堀裕一東邦大学大森医療センター大森病院眼科自動前.切開装置ZEPTOの有用性自動前.切開装置CZEPTOシステムは,角膜混濁眼などを含む白内障手術の難症例に対して前.切開を自動かつ正確に行うことができる装置である.ここでは,偽翼状片による角膜混濁を認めた患者に対してCZEPTOシステムを使用した症例を提示する.●はじめに白内障手術は高度な医療技術や手術機器の進歩により,安全に正確に行える手術になってきた.しかし,角膜混濁眼などでは眼内視認性が低いため,手術の難度が高くなり,術中合併症を起こすリスクも高くなる.最近,角膜混濁眼や難症例に対する白内障手術において,術中の視認性を向上させ手術の成功率を高めるためのいくつかの報告がなされており,術中の前.切開時に自動前.切開装置(ZEPTOシステム,マイノーシス社)を用いた白内障手術が注目されている1).当院でも,顆粒状角膜ジストロフィや角膜輪部疲弊症による角膜混濁のある患者の白内障手術にCZEPTOを使用してきた2).本装置は,低エネルギーのパルスを用いて短時間かつ自動で一貫した大きさの連続円形切.(continuouscur-vilinearcapsulorhexis:CCC)を行うことが可能なディスポーザブルの前.切開装置であり,本装置を用いた前.切開はCprecisionCpulseCcapsulotomy(PPC)ともよばれている3).2017年に米国食品医薬品局(FDA)に認可され,わが国においてもC2019年C8月に医療用機器として承認された.今回,偽翼状片による角膜混濁を認めた患者に対してCZEPTOを使用した経験を報告する.C●症例(89歳,男性)近医眼科にて緑内障の診断で点眼加療していた.右眼は鼻側に偽翼状片を認めており,右眼の白内障による視力低下の進行を認めたため,当院にて白内障手術を行うことになった.視力は右眼C0.2(0.8C×sph+3.75D=cly-5.00DAx175°),左眼0.1(0.3C×sph+0.50D=cly-2.00DAx150°),眼圧は右眼10mmHgであった.右眼は鼻側よりCpalisadesofVogtの消失と角膜の全周性の混濁を認めており,Emery-Little分類CII程度の白内障を認めた.前眼部三次元画像解析にて前房深度はC2.8Cmmであった.眼内の視認性を向上させるため毛様体扁平部から眼内シャンデリア照明を挿入し(図2a),前.染色(69)C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY図1ZEPTOの本体(当院より)を行った.前房内を眼科手術用粘弾性物質(ophthalmicviscosurgicaldevice:OVD)オペガンハイC0.85眼粘弾剤1%(参天製薬)で満たし,上方にC2.5Cmm程度の強角膜一面切開を作製した.先端のリングを切開創から前房内に挿入し(図2b,c),先端のリングを開きセンタリングを行い,水晶体に吸引固定させたのち通電し,前.切開を行った(図2d).ゆっくりと先端リングを引き出し,前.切開が完成していることを確認した(図2e,f).続いてハイドロダイセクションを行い,通常の超音波乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を行った.術中および術後は合併症なく,水晶体.の亀裂なども生じなかった.C●ZEPTOの有用性当院ではC2021年より本装置を導入し,とくに角膜混濁眼における白内障手術において積極的に使用している.今回は偽翼状片による混濁により前房内の視認性が悪い白内障眼にCZEPTOシステムを使用した手術例を紹介した.ZEPTOは,折りたたみが可能なハンドピース先端の前.切開リングを水晶体前面の中心に設置し,吸引をかけて固定したのち,リングから発生する衝動波にあたらしい眼科Vol.39,No.8,2022C1079図2術中所見a:鼻側C1-5時方向に偽翼状片がある.7時方向にシャンデリアを挿入する.Cb:トリパンブルーで前.染色後,前房内をCOVDで満たし,先端リングをセットする.Cc:折りたたんだリングを前房内に挿入する.Cd:先端リングを目視下に水晶体中央に置き,吸引固定を行なったあと通電し前.切開を行う.Ce:吸引解除後,リングを眼外へ引き抜き,切開した前.を取り出す.Cf:超音波乳化吸引術後のCCCCの状態.よりC0.004秒で直径平均C5.2Cmmの正円の前.切開を作製することができるシステムである.マニュアルによるCCCではC0.79~5.55%程度で水晶体.の亀裂などが生じると報告されている4).しかし,走査型電子顕微鏡を用いた切開縁の検討では,ZEPTOで形成される切開縁の形状は前房側にまくれ上がり,functionaledgeの所見を示しており,不均一な断面でもマニュアルCCCCと比較してC4倍,切開縁の強度が高いと報告されている5).ZEPTOは安定した前.切開を作製できるため,その後の手術を安全に遂行することができるが,前房内にリングを挿入するため,前房深度はC2.5Cmm以上が推奨されており1),切開創はC2.2Cmm以上が推奨されている6).浅前房例では虹彩損傷や角膜内皮障害などのリスクがあるため,一定以上の前房深度があることを事前に前眼部三次元画像解析にて測定する必要がある.またCZEPTOを使用するにあたり,本症例のような一部角膜混濁を有する偽翼状片などの徹照不良や角膜混濁のある眼には,前.染色やシャンデリアを併用することで,前.切開の確実性の向上につながると考える.本装置を使用することで術中合併症のリスクが軽減されるだけでなく,術者のストレス軽減にもつながるため,CCCの作製がむずかしいことが懸念される場合や今回のような角膜混濁眼においては,積極的にCZEPTOを使用することは有用であると考える.文献1)秦誠一郎:前.切開装置CZEPTOシステム.眼科手術C34:61-64,C20212)加藤侑里,須磨崎さやか,柿栖康二らほか:角膜混濁眼の白内障手術における自動前.切開装置CZEPTOCRシステムの使用経験.臨床眼科76:382-388,C20203)ChangCDF,CMamalisCN,CWernerL:PrecisionCpulseCcapsu-lotomy:Preclinicalsafetyandperformanceofanewcap-sulotomytechnology.OphthalmologyC123:255-264,C20164)Cari.G,MillerMH,PitsasCetal:Complicationsandout-comesofphacoemulsi.cationcataractsurgerycomplicatedbyanteriorcapsuletear.AmJOphthalmolC159:463-469,C20155)ChangDF:ZeptoCprecisionCpulsecapsulotomy:ACnewCautomatedanddisposablecapsulotomytechnology.IndianJOphthalmolC65:1411-1414,C20176)OlaliCA,AhmedS,GuptaM:Surgicaloutcomefollowingbreachrhexis.EurJOphthalmol17:565-570,C2007

写真:Vortex patternを呈した角膜上皮障害

2022年8月31日 水曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦459.Vortexpatternを呈した角膜上皮障害瀬越一毅京都府立医科大学眼科学教室バプテスト眼科クリニック横井則彦京都府立医科大学眼科学教室図2図1のシェーマ①角膜輪部の結膜侵入②耳側結膜の充血③渦状の外観を示す角膜上皮障害図1前眼部所見(ディフューザーによる観察)角膜輪部の結膜侵入と耳側結膜の軽度の充血を認める.図3前眼部所見(フルオレセイン染色による観察)渦状の外観を示す角膜上皮障害を認める.図47週間後の前眼部所見(フルオレセイン染色による観察)上皮障害は改善し,渦状の外観も消失した.(67)あたらしい眼科Vol.39,No.8,2022C10770910-1810/22/\100/頁/JCOPY症例は45歳,男性.3週間前からの右眼の視力低下[RV=(0.6×sph.4.00D),LV=(1.0×sph.2.50D(cyl.2.50DAx120°)]と充血を主訴に前医を受診し,0.5%レボフロキサシン(右眼4回/日),0.1%デキサメタゾンメタスルホ安息香酸エステルナトリウム点眼液(右眼C4回/日)の点眼で改善しない角膜炎として京都府立医科大学附属病院に紹介となった.初診時に右眼の局所的な輪部機能不全を想定させる角膜周辺の結膜侵入と渦状のパターン(vortexpattern)を示す点状表層角膜症(図1~3)を認め,Cochet-Bonnet角膜知覚計では両眼ともに軽度の角膜知覚低下(55Cmm)を認めた.また,角膜内皮細胞密度は正常範囲であった.防腐剤フリーのステロイド(0.1%ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム)点眼液(右眼C4回/日,左眼C1回/日)とC0.5%レボフロキサシン点眼液(右眼C2回/日,左眼C1回/日)を用いて経過観察した.7週間後には視力はRV=(1.0C×sph.4.25D(clyC.1.75DCAx5°),LV=(1.5C×sph.3.00D(cly.2.00DAx135°)まで改善し,角膜上皮障害も改善した(図4).本症例では過去(20年前)にソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)の使用歴があり,初診時の輪部機能不全が想定される角膜所見は軽度ではあったが,角膜知覚低下から,酸素透過性の低いCSCL装用の既往があったと考えられた.SCLの合併症として,点状表層角膜症,superiorepi-thelialCarcuatelesions(SEALs:上方の角膜輪部に沿う弓状の角膜上皮障害),角膜上皮幹細胞疲弊症(limbalCstemCcellde.ciency:LSCD),巨大乳頭結膜炎,角膜内皮障害などがある1).なかでもCSCLによるCLSCDは,化学外傷やCStevens-Johnson症候群といった他の眼表面疾患におけるCLSCDほどには重篤ではないが,基本的な病像は類似していると考えられる.角膜上皮の幹細胞は輪部に存在するとされ,そこから分裂した上皮細胞(transientCamplifyingcell:TAcell)は角膜中央に向かって移動(Y)したのちに基底細胞として分裂・増殖(X)し,表層細胞となって脱落(Z)することで,X+Y=Zの関係を保ちながら角膜の恒常性を維持している.そして,健常な上皮のターンオーバーではCYが可視化されることはない2)が,Zの亢進時に,Xが障害を受けている場合には,X+Y=Zの関係を維持するためにCYの亢進が表層上皮障害を反映して,動きのあるパターンの様相を示しながら,渦状などの上皮障害として観察される場合がある.また,この渦状の上皮障害パターンは,角膜移植術後や酸素透過性不良なCSCLの装用者,薬剤毒性などで報告されている3,4).今回,その契機は推測の域を出ないが,角膜輪部機能不全になんらかの角膜表層の上皮障害をきたす要因が加わることで,渦状の外観を示す角膜上皮障害を生じたものと考えられた.本症例のようなCSCL装用に起因する神経麻痺性角膜症,あるいはCLSCDが想定される病態に対する治療としては,SCLの使用の完全中止(本症例は以前から中止していた),防腐剤を含まない人工涙液による点眼治療,進行例では副腎皮質ステロイド点眼の併用などが用いられる5)が,本症例は角膜知覚や輪部機能の障害程度が軽度であったためか,ステロイド点眼のみで改善した.文献1)糸井素純:コンタクトレンズによる眼障害.日本医事新報C4625:69-72,C20122)ThoftCRA,CFriendJ:TheCX,CY,CZChypothesisCofCcornealCepithelialCmaintenance.CInvestCOphthalmolCVisCSciC24:C1442-1443,C19833)DuaCS,CGomesAP:ClinicalCcourseCofChurricaneCkeratopa-thy.BrJOphthalmol84:285-288,C20004)佐々木梢:抗癌薬CTS-1による角膜上皮障害のC1例.臨床眼科73:217-223,C20195)RossenJ,AmramA,MilaniBetal:Contactlens-inducedlimbalstemcellde.ciency.OculSurfC14:419-434,C2017

総説:緑内障手術で視力を守るために

2022年8月31日 水曜日

あたらしい眼科39(8):1063~1076,2022c第32回日本緑内障学会須田記念講演緑内障手術で視力を守るためにToProtectthePatient’sVisioninGlaucomaSurgery庄司信行*はじめに線維柱帯切除術(trabeculectomy:以下,LET)を勧める際には,現在の治療では進行が止められず,いずれ重篤な視機能障害をもたらす可能性が高いため,眼圧を下げる手術が必要であることを説明する.一方で,手術の目的は視機能の現状維持であるものの,ときに視力低下が生じて元に戻らないことがあることも説明しなければならない1~7).視野を保つためと説明しながら,視力低下のリスクについても説明しなければならないというジレンマは,緑内障手術を担当する医師であれば何度も経験することである.しかもわれわれは,視力が術後どのような経過をたどるかについて,あまり具体的なデータをもっていない.また,昨今,LETと白内障手術の相性はあまりよくない,同時手術の成績はよくないので別個に行うべきである,という報告8~10)もあり,はたして同時手術は避けるべきなのかどうかを知りたい.さらに,同時手術を行うにしろ単独にしろ,視機能の限られた緑内障患者に対して,通常の白内障手術と同じ眼内レンズ(intraocularlens:IOL)を使用してよいのだろうか,という疑問も生じる.緑内障手術は患者の視機能を保つために行われるが,患者の視機能を損なうこともある.筆者の意図するところは,患者の視機能のなかでも重要な視力を手術で損なうことなく守る方法を探ることである.そこで今回の須田記念講演では,1)LET後の視力の経過,術直後に低下した視力の回復を妨げる要因はなにか,2)同時手術の是非と,行う場合のIOL度数決定の問題,そして3)緑内障に適した眼内レンズとは,という三つの項目について講演したのでまとめた.なお,現在論文作成中のデータが発表に含まれていたため,内容の一部は割愛させていただいたことをお断りしておく.ILETと視力変化LET後の視力低下に関する論文は以前よりいくつかみられるが,Francisら7)は,一過性の視力低下は56.5%にみられ,平均して約3カ月で回復したものの,なかには2年近くかかった症例が存在することを報告している.長期的な視力低下でいわゆる中心視野消失を生じた症例は2%で,術前の中心視野障害(いわゆるmaculasplitting)がみられるような進行例と,術後の合併症がみられた症例とのことである.わが国の全国濾過胞感染調査(CollaborativeBleb-RelatedInfectionIncidenceandTreatmentStudy:CBIITS)のデータを用いたKashiwagiらの報告11)では,WHOの定義によるblindnessは12.2%で,やはり術前の視力不良例や,術後の合併症発症例でリスクが高かったと報告されている.一方,logMAR値で0.2以上の悪化は観察期間5年の間には28.3%だったが,長期経過の観察だったので,緑内障そのものの進行例も含まれ,視力は経時的に低下していたことも報告されている.こうした長期観察は,緑内障診療の要になるものであるが,手術そのものの影響とも考えられる比較的早期の視力の経時的な変化に関する報告12,13)は少ない.また,これらの報告では白内障手術との同時手術例が含まれていたので,単独手術や同時手術を分け,より多数での検討*NobuyukiShoji:北里大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕庄司信行:〒252-0375神奈川県相模原市南区北里1-15-1北里大学医学部眼科学教室0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(53)1063表1線維柱帯切除術(LET)単独症例の背景平均±標準偏差最小-最大性別(男性/女性)年齢(歳)術前視力(logMAR)眼軸長(mm)術前眼圧(mmHg)術前10-2MD(dB)128/8866.0±12.318-880.072±0.19.0.30-0.7025.5±2.321.3-35.219.1±6.08.0-45.0.19.19±7.6.34.3-.1.2n=216(1例1眼)が必要と考えた.1.LET術後の視力変化2015年4月~2020年3月に北里大学病院でLET単独手術を施行した824眼のうち,①初回手術例,②術前矯正視力0.3以上,③白内障以外に視力に影響する可能性のある他の眼疾患を認めないこと,④Humphrey視野計10-2SITAstandardを施行し,中心窩閾値が測定されている,などの条件で選択し,さらに両眼手術例の場合はランダムに選択した片眼のみを採用した216例216眼を対象として検討を行った(表1).まず,これらの症例を,術前矯正視力が小数視力で1.0以上の群(術前視力良好群)と1.0未満の群(術前視力不良群)に分けて検討した.眼圧経過は,術前,術後1,2,3日,1週,2週,1カ月,3カ月の順に示すと,術前視力不良群で21.0±8.4,16.5±9.4,13.7±9.9,10.2±6.3,9.9±5.8,8.6±4.6,9.7±4.7,10.2±3.8mmHg,術前視力良好群で21.1±8.2,15.3±10.0,12.6±9.0,9.9±6.2,9.3±5.6,8.7±4.3,10.0±4.2,10.4±3.4mmHgと,両群とも同様の経過をたどっていた.そうした眼圧経過において,視力の経過は図1,2の通りであった.術前視力不良群では,やはり3カ月経っても回復せず,logMAR値の平均で約0.1低下したままであることがわかった.言いかえれば,小数視力が術前0.6程度まで落ちていた症例は,術後2週間で0.3~0.4程度まで低下し,徐々に改善してくるものの,3カ月で0.5程度までしか回復しないということになる.また,術前視良好群では,術前1.0~1.2が術後2週間で0.7~0.8に低下し,徐々に回復するものの3カ月経っても0.9~1.0と完全には回復しないことがわかった.これらの結果をもとに,LETの説明をする際には,最初の2週間ほどは2~3段階程度の視力低下が生じ,徐々に回復するものの,3カ月経っても元のように見えるようにならない可能性が高いことを患者に説明しなければならないことがわかった.2.LET術後の視力低下の関連因子上記の検討において,術後3カ月の時点でlogMAR値0.2以上の悪化がみられた症例は216眼中34眼であった.では,その34眼と悪化がみられなかった症例182眼の背景にどのような違いがあったのだろうか.性別,術後合併症の頻度をFisher’sexacttestを用いて,年齢,術前視力(logMAR換算値),眼軸長,術前眼圧,術前平均偏差(meandeviation:MD)値(10-2)をMann-WhitneyUtestを用いて比較した結果,悪化した症例は,悪化しなかった症例と比べて男性が多く,術前眼圧が高めであり,脈絡膜.離と浅前房の発症頻度が有意に高いことがわかった(いずれもp<0.01).そのうち,視力低下に影響の大きい因子は,多変量解析の結果,浅前房発症例であり,オッズ比は7.8であった.logMAR値が0.4以上悪化した10例とそうでない206例を比較したところ,悪化した症例では術前視力が低く(p=0.031,Mann-WhitneyUtest),脈絡膜.離,浅前房の頻度が高いことがわかった(いずれもp<0.01,Fisher’sexacttest).多変量解析を行うと脈絡膜.離と浅前房の二つの因子が選択され,オッズ比はそれぞれ14.9,26.6と非常に高い値であった.3.術前中心窩閾値と視力術前中心窩閾値と術後の視力低下の関連について受信者動作特性曲線(receiveroperatingcharacteristiccurve:ROC曲線)でみると,logMAR値0.2以上の悪化を示す症例では,感度は低いが33.5dBを,0.4以上の悪化は29.5dBをカットオフ値とすることがわかった(図3).ここで,そのカットオフ値である33.5dBを上回る値,つまり術前の中心窩閾値が34dB以上であったにもかかわらず,術後3カ月の時点で術前視力に戻らなかった症例36眼と戻った症例53眼にどのような違いがあったかをみたところ,浅前房の発症は視力が戻らなかった群で5眼,戻った群で1眼,低眼圧黄斑症の発症例はそれぞれ4眼と0眼で,有意に前者の頻度が高いことがわかった(p=0.037と0.024).多変量解析の結果,視力低下と有意な関連があったのは,年齢が高いこと,術前視力や術前10-2のMD値が低いことで,とくに浅前房やlogMAR換算値-0.100.10.20.30.40.50.219(0.60)n=1300.3110.436(0.37)0.400(0.40)(0.49)n=130n=1060.446(0.36)n=88n=560102030405060708090days図1術前視力不良群の平均logMAR値の変化術前logMAR値>0,すなわち小数視力が1.0未満の症例の平均視力の変化.logMAR変化量(3M.術前)は0.091±0.253.数値はlogMAR値,カッコ内は小数視力,nは眼数を表す.-0.1logMAR換算値00.10.20.30.40.5-0.059(1.14)n=1870.0150.1000.116(0.80)0.063(0.87)n=154(0.97)n=187(0.77)n=155n=880102030405060708090days図2術前視力良好群の平均logMAR値の変化術前logMAR値≦0(小数視力≧1.0),すなわち小数視力が1.0以上の症例の平均視力の変化.logMAR変化量(3M.術前)は0.074±0.118.数値はlogMAR値,カッコ内は小数視力,nは眼数を表す.低眼圧黄斑症の発症例ではその頻度が高いことがわかった.次に,logMAR値0.4以上の悪化を示した症例の術前中心窩閾値のカットオフ値である29dB以下の症例で,3カ月の時点で視力が戻った症例19眼と戻らなかった症例34眼を比較した.その結果,患者背景には有意な違いはなかった.しかし,多変量解析を行うと,脈絡膜.離の発症例で視力低下を生じる可能性が非常に高いことがわかった.つまり,中心窩閾値が低下している症例で視力を維持しようとしたら,術後の合併症として脈絡膜.離を起こしてはならない,ということになる.しかし,視力が戻った症例は術後3日目の眼圧が有意に低く,5mmHg以下に下がった症例は8眼(40%)で,視力が戻らなかった症例4眼(13%)に比べてその割合が高いものの,脈絡膜.離を生じた症例はなかった.つまり,脈絡膜.離が生じた症例は全例視力が戻らなかったことになる.ROC曲線による解析では,カットオフ値8mmHgのときp値は0.0396であるものの,感度0.61,特異度0.28であり,曲線下面積(areaunderthecurve:AUC)は0.67であった.特異度が低いため明確なことはいえないが,術後3日目の眼圧が8mmHgを超えないように調整することが望ましいと考える.つまり,中心窩閾値が29dB以下の症例では,術後早めに眼圧を下げ,かつ脈絡膜.離が生じないように管理を行えlogMAR0.2以上の悪化logMAR0.4以上の悪化Sensitivity0.00.20.40.60.81.0Sensitivity0.00.20.40.60.81.00.00.20.40.60.81.00.00.20.40.60.81.01-Speci.city1-Speci.cityAUC=0.65[95%CI:0.55-0.75]p<0.01AUC=0.82[95%CI:0.68-0.95]p<0.01Cut-o.=33.5dB(感度0.45,特異度0.79)Cut-o.=29.5dB(感度0.79,特異度0.80)図3視力悪化例の術前中心窩カットオフ値AUCp値Cut-o.値(dB)感度(%)特異度(%)上耳側上鼻側下耳側下鼻側0.780.680.870.79<0.01<0.01<0.01<0.0127.53.525.525.560.870.981.671.584.056.080.078.0ば,術後の視力低下は術前まで戻る可能性が高くなる,という結果になるが,現実的には非常にむずかしい管理ということになる.やはり,中心窩閾値が下がる前に手術を行うことが望ましいのではないかと考える.そこで,中心窩閾値が29dB以下になるときの固視点を囲む中心4点のカットオフ値をみたところ,上鼻側の1点は特異度が低いが,下方のとくに下耳側が25.5dBを下回ると中心窩閾値が29dB以下になる可能性が高いことがわかった(図4).そのため,手術を行うなら,中心4点がこれらの値を下回る前に行ったほうが,術後の一過性の視力低下から回復する可能性は高くなると考えられた.4.中心窩閾値良好例の視力低下術前の中心窩閾値が悪い症例では視力が悪化しやすく,元に戻る割合が低いことはある程度理解できるが,36dB以上と高い症例でも,一定の割合で視力は下がり,1年経過しても戻らない症例が存在する.今回の対象216眼のうち,術前中心窩閾値が36dB以上であった症例は49眼で,そのうち術後3カ月までに視力が回復した症例は81.6%,12カ月経過しても視力が戻らなかった症例は12.2%存在した.こうした症例は,先ほどの結果を合わせて考えると,やはり合併症によるものが大きく,良好な視力もしくは中心窩閾値を保つためには,合併症の発生を極力抑える工夫をしなければならないと考えた.そこで,術後合併症のうち,脈絡膜.離,浅前房,低眼圧黄斑症を発症した症例の背景を,記載が不明であった8眼を除いた208眼で調べることにした.まず脈絡膜.離を生じた症例18眼と生じなかった190眼を比較したところ,術前視力やMD値,中心窩閾値などに差はなかったが,脈絡膜.離が生じなかった症例と比較して術前眼圧が高く(21.4±5.2vs19.0±6.1mmHg),術後3日目と1週目の眼圧下降率が有意に高いことがわかった(それぞれ64.1±19.4vs41.3±37.1,69.0±23.2vs42.5±36.0%).多変量解析の結果では,術後1週目の眼圧下降率が選択された(オッズ比は1.04).感度・特異度がそれほど高くないので,p値が0.05未満であっても言い切ることはむずかしいが,脈絡膜.離は術前眼圧が19mmHg以上の症例で生じやすく,これを避けるためには,術後3日目の眼圧下降率は50%未満に抑え,1週目には,もう少し下げたとしても70%を超える下降とならないように管理すると,脈絡膜.離は生じにくいという結果であった.浅前房に関しては,術前の眼圧やMD値,中心窩閾値に差はなかったものの,発症例16眼の術後1週目の眼圧下降率が非発症例192眼のそれより有意に大きいことがわかった(60.8±39.4vs43.4±35.3%).多変量解析では,術後1週の眼圧下降率が選択され,浅前房は70%の眼圧下降率を境に発生頻度が高くなる可能性が示唆された(オッズ比は1.02).低眼圧黄斑症に関しては,術前の視力や眼圧,中心窩閾値などに差はみられなかったものの,発症例13眼では術後2日目の下降率が大きいことがわかった(56.0±39.4vs23.6±50.7%).多変量解析でも術後2日目の下降率が選択された.術後2日目の早期から眼圧が下がりすぎると黄斑症が生じやすく,57%以上の下降は避けたほうがよいことが示された.つまり,術翌日,2日目などの早期の極度な眼圧下降は避けたほうがよいと考えられる.5.病型と視力低下病型別の視力経過についておもな結果をかいつまんで述べると,視力が戻らなかった症例群は,原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)127眼中44眼で,やはり術前の視機能(logMAR値,10-2のMD値,中心窩閾値,中心4点の閾値)が有意に低かった.術翌日の眼圧は,視力の戻った症例に比べて有意に高く(19.9±9.1vs16.2±9.4mmHg),1週目に15mmHg以上の眼圧の症例の割合も高かった(30vs15%)ことから,術直後からある程度の眼圧下降を得なければならないということだと考える.一方,戻らなかった症例では,脈絡膜.離の割合も有意に高い結果だった(18vs3%).正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)48眼の場合も,視力が戻らなかった症例17眼は術前の視機能が低かった.また,視力の戻らなかった症例では,戻った症例に比べて術後3日と1週目の眼圧が有意に高かった(それぞれ11.3±5.0vs8.2±5.2,10.2±4.9vs7.4±5.2mmHg).有意差はないが,3日目には8mmHg以下になった症例の割合は,視力の戻った症例のほうが多い傾向にあった.つまり,視力の戻らなかった症例では術後早期の眼圧があまり下がっていなかった症例が多かったようで,視力回復のためにも,ある程度の眼圧下降が必要ではないかと考えられる.一方,POAGに比べてより低い眼圧をめざしてLETを行い,実際に40%近くの症例が術後3日以内に5mmHg以下になっていても,NTGでは脈絡膜.離はけっして多くなかった(48眼中3眼のみ).もちろん眼圧値の下限はあると思われるが,脈絡膜.離は,先に述べたように術前からの眼圧下降率が高すぎることによって生じることのほうが多いと推測された.落屑緑内障眼の視力が戻った症例13眼と戻らなかった症例19眼を比較したところ,視力,視野感度など術前の視機能や眼軸長,術前眼圧に関しては両群間に差はなかった.術後2週目の眼圧のみ有意差がみられ,戻らなかった症例が12.6±7.0mmHg,戻った症例が7.9±2.9mmHgであった.しかし,それ以外には差がみられなかった.裏を返せば,落屑緑内障では,どのような症例でも視力が低下し,回復しない可能性があるということではないだろうか.ROC曲線による解析では,カットオフ値10mmHgでAUC0.74,p=0.021であった.感度は0.82だったが特異度は0.42であったので,一つの参考でしかないが,落屑緑内障では術後2週目の眼圧を10mmHg以下に下げておくことがよいのではないかと考えている.6.術後低眼圧の視力への影響近年のLETの手術成績の判断基準において,眼圧5mmHg以下は不成功と判断されることが多いが,LET術後5mmHg以下の低眼圧の症例で視力低下や合併症が多かったのかどうかを調べた.6~8mmHgで経過した症例と比較した結果,術後1カ月,3カ月とも5mmHg以下の群で有意に視力が低かった(logMAR値0.14と0.14に対して5mmHg以下の群では0.42と0.41).また,有意差はないが,3カ月の時点での視力悪化例が5mmHg以下の症例で31%(6~8mmHg群では9%)と多い傾向(p=0.051)にあることもわかった.合併症に関しては,症例数が少ないことも関係していると思われるが,発生率は少なく,5mmHg以下の極端な低眼圧は,脈絡膜.離や浅前房などを生じなくても,視力低下が回復しない可能性が高いのではないかと考えられる.一方,6~8mmHgの群と9~12mmHgの群の間には有意差はなかった.合併症の頻度も有意差はなく,真の眼圧値かどうかの議論はあるにしても,6mmHgまでを眼圧下降の下限とする考えは納得できるものであった.以上の結果から,術後いったん下がった視力は,眼圧が適度に下降しないと回復しにくい一方,眼圧下降率が高すぎて合併症が生じると,さらに視力は戻りにくくなると考えられる.つまり,手術侵襲で視力は下がるものの,眼圧下降で視力回復のチャンスが生まれることになるが,眼圧が下がることでなにが起こっているのだろうか?適度な眼圧下降時に起こっていることはなんであろうか?それは血流の改善かもしれないし,脈絡膜.離が視力予後に影響することを考えると,脈絡膜の環境の変化なのかも知れない.当院では,術前と術後1~3カ月の時点での血流を,レーザースペックルフローグラフィを用いて調べたが,有意な変化は認めなかった.やはり術翌日から直後の1,2週間になにが起こっているのかを調べる必要があるだろう.眼圧変化に伴う角膜形状変化も含めて,今後の課題と考える.IILETと白内障手術との同時手術近年,LET単独のほうが同時手術よりも成績が良好であるとの報告は,日本緑内障学会で行われたCBIITSのデータを用いた検討をはじめ,いくつも報告されている8~10).一方で,成績に変わりはなく,同時手術はむしろ合併症が少ないとのレビュー14)も出されている.しかし,LETを先に行った場合,白内障手術による炎症の影響で濾過胞の機能低下が生じる可能性が高く,LET術後の白内障手術は,1年程度などの一定の間隔をあけることが望ましいとの報告15~17)も多い.過去に当院でLETを行った症例のうち,2015~2020年に当院で白内障手術も行ったのは18例21眼で,LETから白内障手術までの期間は0.5~53年(平均16年)であった.術前眼圧は11.5±3.8mmHgで,術後は平均10.4から14.1mmHgの間を変動していたが,統計学的に有意な眼圧変化はみられなかった.しかし,点眼の追加が必要になった症例は2眼,濾過胞の機能不全に陥り,再建術を行った症例が1眼だったことから,白内障手術は濾過機能に多少影響する可能性はあると考える.そこで,同時手術の是非を考えるために,まず水晶体眼とIOL眼におけるLET単独手術での比較を行い,それぞれのLET単独手術とLET水晶体再建術との同時手術の比較を行った.1.LET単独手術―有水晶体眼vsIOL挿入眼有水晶体眼に対するLET単独手術47眼(有水晶体群)とIOL挿入眼でのLET単独手術169眼(IOL群)の経過を比較すると,術前の眼圧に差はないものの(19.2±5.6vs19.1±6.2mmHg),術後1週目は有水晶体群で有意に低く,術後3日以内に8mmHg以下になった症例の割合は68%と,IOL群の50%に比べて有意に高かった.脈絡膜.離の頻度は有水晶体群に若干多い傾向(15%vs7%,p=0.067)であった.術前視力(log-MAR換算値)に差はなかったものの(0.08vs0.07),術後1週で視力が戻った症例の頻度は有水晶体群20%であったのに対し,IOL眼で40%と有意に高かった.3カ月の時点で視力が術前に戻っていた症例の割合はそれぞれ62%と60%で差はなかった.2.LETと白内障の同時手術群とIOL眼に対するLET単独手術群の比較LETと白内障の同時手術(同時手術群)142眼とIOL眼におけるLET単独手術(IOL群)169眼を比べると,術後2週の眼圧が前者で10.0±5.5,後者で8.7±4.6mmHgと有意に低かったが,以降の眼圧に有意差はなく,視力(logMAR換算値)の平均値にも有意差はなかった.しかし,術後3カ月の時点での2段階以上の視力低下例の割合が,同時手術群1%に対してIOL群5%と有意に後者が高かった.浅前房の頻度も,同時手術群が4%だったのに対しIOL群が9%と有意に高く,合併症の発症は同時手術群で少ない可能性が考えられた.3.LETと白内障の同時手術群と有水晶体眼に対するLET単独手術群の比較有水晶体眼のLET単独群(有水晶体群)47眼と同時手術群142眼を比較すると,眼圧の経過は3カ月の時点まで有意に同時手術群(10.4~11.8mmHg)が有水晶体群(8.4~9.4mmHg)と比較して有意に高かったものの,脈絡膜.離の頻度は有意に低く(4vs15%),視力の回復に関しては,これは白内障手術をしているので当然かも知れないが,同時手術群のほうが有意に良好であった.幸い,今回の検討例では中心視野を消失した症例はなかった.4.LETの同時手術先に述べたように,当院でLET後に半年以上あけて白内障手術を行った症例では,平均眼圧の有意な上昇はなかったものの,点眼の強化や追加手術が必要となった症例が数例認められた.同時手術群は単独手術群に比べて1mmHg前後眼圧が高めとなったが,白内障手術の効果のためか視力回復は早く,合併症も有意に少ない結果であった.これらのことから考えると,白内障合併眼に対してLETを行う場合に,あえて半年や1年以上の間隔をあけてLET後に白内障手術を二段階に分けて行う必要性は感じられなかった.こうした短期間での結果を踏まえて,さらに観察期間を延ばした比較が必要と考える.5.同時手術におけるIOL度数決定LETと白内障手術の同時手術を考える際に,IOL度数決定のための計算式にはなにを選べばよいのだろうか.とくに,白内障単独手術の場合と違って,眼圧を大幅に下げる手術を併用すると,眼圧下降に伴う眼軸長の短縮と,強膜弁作製によるケラト値の変化が生じる可能性が考えられる.眼軸長の変化は微量であるが,たとえばもし20mmHgも下げたとすると,これまでの報告18,19)に基づけば0.3~0.4mm程度の短縮となり,これはIOL度数でいえば度数で1~2段階の差が生じる可能性が生じることになる.以前,筆者らはトラベクトーム手術においても,眼軸長が眼圧に応じて変化することを報告した20).図5は,当教室の飯島が2019年に日本眼科学会総会で発表した白内障手術眼でのデータであるが,通常使われることが多い水色のドットで表したSRK/T式は角膜形状や眼軸長の影響を受けやすく,赤色のドットで表したBarrett式は受けにくいことがわかった.そこで,LET同時手術眼でBarrett式とSRK/T式の比較を行ったところ,予測誤差はBarrett式で.0.15D,SRK/T式で平均.0.38と,Barrettのほうが予測,絶対とも誤差が有意に少ないという結果であった(図6).データの詳細は省くが,±0.5D以内に入った症例の割合はBarrettが70%,SRK/Tが57%,±1.0D以内の割合はBarrettが94%,SRK/Tが79%でどちらも有意差はなかったが,Barrett式のほうが予測性は良好である傾向が示されたので,筆者らの施設ではBarrett式を原則として用いるようにしている.6.LETと乱視矯正手術の併用LET術後に乱視が強くなることは知られているが,乱視が増えれば裸眼視力は低下するし,高齢者では若年者に比べて乱視の影響を受けやすい21)ことから,LET後に生じる乱視はなるべく矯正したい.手術で生じる乱視,すなわち惹起乱視の値や方向などが予測できるのであれば,乱視矯正IOLを併用できる可能性がある.惹起乱視の評価には算術平均術後惹起乱視(mean-surgi-callyinducedastigmatism:M-SIA)が用いられることが多い.M-SIAは乱視の大きさのみを考慮し決定する方法で,軸の方向は考慮されていない.一方,セントロイドSIA(centroid-SIA:C-SIA)は乱視の大きさだけでなく軸の方向も考慮し決定する方法である.したがって,C-SIAはM-SIAより全体のSIAの傾向を把握するのに臨床的に有用な可能性がある22,23).詳細は現在論文投稿中なので省くが,乱視は強膜弁作製方向に大きくなるものの,個々の症例で乱視量や軸の方向のばらつきも大きく,術中に乱視矯正IOLや角膜輪部減張切開術(limbalrelaxingincision:LRI)による乱視矯正はあまり高い精度が保てないと考え,適応にはしづらいと考えている.n=4802211SRK/BarretTt予測誤差(D)-2-2-3-3予測誤差(D)00-1-1384042444648505220222426283032平均角膜屈折力(D)眼軸長(mm)PearsonPearson相関係数rp相関係数rpSRK/T-0.485<0.001SRK/T0.223<0.001Barrett0.0300.506Barrett0.0270.56図5予測誤差との相関(SRK.T式vsBarrett式)SRK/T式(青い点)は角膜形状や眼軸長の影響を受けやすいが,Barrett式(赤い点)は受けにくい.(飯島ら,日本眼科学会一般講演,2019)術前術後3カ月p値矯正視力(logMAR)0.08±0.160.02±0.100.002眼圧(mmHg)18.9±4.310.6±2.6<0.001平均角膜屈折力(D)44.21±1.4144.27±1.410.371角膜乱視量(D)0.88±0.441.34±0.70<0.001絶対誤差(D)32p<0.001p=0.029Pairedttest10-1予測誤差(D)21-2-3BarrettSRK/TBarrettSRK/T0-0.15±0.54-0.38±0.610.44±0.340.55±0.46予測誤差絶対誤差図6LET同時手術前後の屈折誤差予測誤差,絶対誤差の比較において,Barrett式とSRK/T式の間には有意差がみられた.(飯島ら,日本緑内障学会一般講演,2019年)下させる可能性が常に指摘されており,緑内障眼に挿入III緑内障に適した眼内レンズは?した場合,コントラスト感度がさらに低下する可能性が1.コントラスト感度と多焦点IOL推測される.今回,緑内障眼でのコントラスト感度を検近年,さまざまな多焦点IOLが開発され,普及する討するために,単焦点IOLを挿入された緑内障以外のことによって,緑内障眼にも挿入されているケースを経疾患のない矯正視力1.0以上の症例78眼のコントラス験する機会が増えた.多焦点IOLはコントラストを低ト感度をVCTS-6500で測定した.その結果,MD値との有意な関連はみられなかったが,中心窩閾値が低下するにつれてコントラスト感度が有意に低下することがわかった.これは明所下でも薄暮下でも同様の結果であった.したがって,中心窩閾値に影響が及びつつある緑内障眼では多焦点CIOLの挿入は慎重に検討しなければならず,実際には避けるべきと考える.当院でも,他院で多焦点CIOL挿入術を受け,見え方に不満を訴えて単焦点CIOLに交換した患者を経験した.この患者はC48歳のPOAGの女性で,遠方矯正視力はC0.6,中心窩閾値がC26dBであり見づらさを強く訴えていた.IOL交換に伴う危険性を納得したうえで単焦点CIOLに交換したところ,眼圧は術前と変わりなく,視野障害の程度も変わりなかった.遠方矯正視力はわずかに向上し,曇っている感じがとれて見え方の違和感がなくなったと,本人の訴えも大きく改善した.コントラスト感度は正常範囲に戻ったわけではないものの,全周波数で明らかな改善がみられた(図7).つまり,多焦点CIOLを挿入したことにより,この患者はこれだけコントラスト感度の落ちた生活を強いられていたことになる.これまでにも,多焦点CIOLでコントラスト感度の低下が生じることはいくつも報告されている24~26).さらに緑内障や網膜疾患の患者は視機能をさらに低下させる可能性があると指摘されている27).したがって,緑内障眼に対して,コントラスト感度をさらに低下させる可能性のある多焦点CIOL挿入は漫然と行うべきではない.もちろん,超高齢社会において,ある程度の遠近視力の向上に対する一定のニーズはあるが,コントラスト感度が低下しないといわれている焦点深度拡張型多焦点CIOLは検討の余地はあるものの,それでも,中心視野への進行速度を評価し,中心視野障害の可能性を否定できるような視野検査の蓄積,眼底所見を含めた緑内障の評価をしっかり行ってから選択の判断を行うべきであることはいうまでもない.C2.着色IOLの影響わが国ではC1990年代に登場した黄色着色レンズが使われることが多い.これは羞明や術後の色合いの変化を少なくするなどが目的といわれている.以前は色感覚変化や羞明感への影響や,睡眠や血圧への影響,加齢黄斑変性の予防などに関して報告28~34)があり,加齢黄斑変性の予防効果についてはあまり期待通りではないようだが35,36),緑内障眼にどのような影響があるかについてはコントラスト感度(log)2.521.510.501.5361218空間周波数(cpd)図7本症例のコントラスト感度(術前後)多焦点眼内レンズから単焦点眼内レンズに交換したのち,コントラスト感度は大きく改善した.あまり検討されていない.たとえば,緑内障の早期に短波長感受性錐体の感度低下が起こることは,ブルーオンイエロー視野計の研究でよく知られている.緑内障のない白内障手術患者の片眼に黄色着色IOL,僚眼には非着色CIOLを入れてブルーオンイエロー視野計で測定し,影響の有無を調べた研究では,やはり着色レンズの影響があることが報告されている32).したがって,緑内障眼で短波長をカットすることは,何の影響もないといいきることはできないのではないだろうか?また,今回の講演では触れなかったが,白内障術後に短波長光が網膜のメラノプシン神経節細胞を刺激することで概日リズムが調整され,睡眠が改善するようになることは知られている.短波長の感受性が落ちている緑内障にさらに短波長をカットする眼内レンズを使うことは本当に問題ないのだろうか?本研究で使用した黄色着色レンズの詳細は図8の通りである.現在販売されている着色CIOLの分光透過率を参考に選択し,HOYA社のカラーフィルターガラスL39,L42,Y44,眼鏡レンズ基材CVGを使用した.それぞれわかりやすいように分光透過率に応じてCG1~G4とした.分光透過率曲線を示す図8は,上が今回使用したレンズ,下が現在販売されているおもな着色CIOLである.まず,正常若年者C20例C20眼において,フィルターなしとCG1~G4までのフィルターをつけた眼鏡装用下でカラーフィルターガラス眼鏡レンズ基材100使用レンズ0着色眼内レンズG1(L39)・G3(L42)・G4(Y44)G2(VG)透過率(%)350370390410430450470490510530550570590波長(nm)図8使用した黄色着色レンズの詳細上段:使用したレンズの透過率,下段:臨床で使用されているおもな黄色着色CIOLの透過率.G1~G4は便宜上の名称で,カッコ内はそれぞれのフィルターガラス(HOYA)の型番を示す.Humphrey視野計におけるCSITA-SWAPを測定し,その中心C4C×4点と中心窩閾値の計C17点を合計した網膜感度について調べたところ,G4の黄色着色レンズは明らかに網膜感度を低下させることがわかった(図9).図10はフィルターなし(N)とCG4装用時の網膜感度を等価球面度数,眼軸長別にみたものである.等価球面度数に関しては,N,G4ともに正の相関がみられたが,近視眼であるほどCG4による網膜感度への影響は大きいことがわかった.眼軸長に関しては,G4装用時に負の相関がみられ,眼軸長が長いほど,網膜感度への影響が大きくなることがわかった37).以上の正常者の実験から,緑内障患者ではどの程度の感度低下が生じるのかを調べるために,同一日に通常のクリアレンズ装用下での視野測定と,先ほどのCG4着色レンズ装用下での視野検査の結果を比較した.水晶体の着色の影響を除外するために,クリアCIOL挿入眼を対象とした.結果は予想に反して,MD値に関しては着色レンズ装用時のほうが有意に良好であった.パターン標準偏差値や中心窩閾値,固視点近傍のC4点やC16点の閾値の合計は有意差がなかった.MD値が良好となった理由としては,もしかすると色収差や散乱光の低減により,結果がよくなった可能性がある.一方,緑内障患者では,障害された神経節細胞が過敏性を獲得するとの報告38)もあり,正常若年者でのシミュレーションでは,緑内障患者の状況を反映していない可能性がある.外来で緑内障眼に行ったCdysphotopsiaに関するアンケートでは,dys-photopsia(まぶしさや光の軸,黒い影などの異常な光視)の自覚がCIOL挿入眼で多く,緑内障のない白内障患者のCIOL挿入眼より非常に高頻度にみられた.このようなCdysphotopsiaが疾患特有のものであるとしたら,そのメカニズムがあまりわかっていないのに,ある特定の分光透過率をもつ着色CIOLを眼内に挿入してしまってよいのか,それともクリアなCIOLにして遮光眼鏡などで工夫をする31)ほうがよいのかは,今後しっかりと検討すべき課題なのではないだろうか.緑内障眼に対する着色CIOL使用の是非はさらなる検討が必要と考えている.C3.視野障害に対するdysphotopsiaの影響ここまでは見えるほうのCdysphotopsiaの話だったが,今度は見えないほうの影響をシミュレーションを通して正常若年者20眼**平均閾値(dB)343230282624NG1G2G3G4反復測定分散分析p<0.0001**Sche.e検定p<0.01図9黄色着色レンズの網膜感度への影響平均閾値(dB)各フィルターガラス(図C8で示したCG1~G4)を装用し,正常若年者C20眼においてHumphrey視野計CSITA-SWAPを測定した.フィルターの装用順は無作為に行い,中心C17点の閾値の平均を算出し,比較した.Nは着色レンズ非装用を示す.G4装用時の感度は他のすべての測定条件における感度と比較して有意に低下していた.等価球面度数眼軸長G4p<0.01r=0.67G4p<0.01r=-0.5934Np=0.04r=0.47Np=0.10r=-0.46343232平均閾値(dB)3030282826262424222220-10-8-6-4-202024682022242628等価球面度数(D)眼軸長(mm)Spearmanrankcorrelationcoe.cient図10眼軸長,等価球面度数と網膜感度フィルターなし(N)とCG4装用時の網膜感度を,等価球面度数,眼軸長別に測定した.等価球面度数別の測定では,N,G4ともに正の相関がみられたが,近視眼であるほどCG4による網膜感度への影響は大きかった.眼軸長別の測定では,G4に負の相関がみられ,眼軸長が長いほど,網膜感度への影響が大きかった.●:N装用,○:G4装用.確認し,緑内障性視野障害に影響の少ないCIOLを考えとよばれる.このCnegativeCdysphotopsiaはCIOLの屈折てみた.率によって異なり,高屈折率の素材では光が大きく曲が見えないほうのCdysphotopsiaは,IOLの光学部を通るため,中心に向かってグレア光が移動し,光の当たらる光,エッジを通る光,そして虹彩-IOL間を通る光にない領域を作り出し,グレアを知覚しやすくなる(図よって生じ,光の合間の暗い部分がCnegativephotopsiaC11).屈折率1.413屈折率1.550アッベ数56.7アッベ数37.0図11IOLの屈折率とnegativedysphotopsiaNegativedysphotopsiaは,IOLの光学部を通る光,エッジを通る光,そして虹彩-IOL間を通る光によって生じる,光の合間の暗い部分である.高屈折率の素材では光が大きく曲がるため,中心に向かってグレア光が移動し,光の当たらない領域が広くなり,グレアを知覚しやすくなる.左図は低屈折率素材のCIOLを用いたとき,右図は高屈折率素材のCIOLを用いたときのシミュレーションである.屈折率C1.550,いわゆるアクリル製CIOLに使われる素材でのシミュレーションではC78~90°の広い範囲でCneg-ativedysphotopsiaが発生していた.低い屈折率,つまりシリコーンCIOLでのシミュレーションではCnegativedysphotopsiaのみられる範囲は若干狭くなることがわかった39).NegativeCdysphotopsiaが生じる部位は,ちょうど耳側残存視野にかかる領域になる.広い範囲にdysphotopsiaが生じてしまうと,視野の狭窄につながってしまうかもしれない.もちろん,患者の残存視野にもよるが,このリスクを考えると,緑内障性視野障害を有する患者には屈折率の低い眼内レンズが望ましく,筆者はシリコーンCIOLもしくは低屈折率のアクリルCIOLを選択するようにしている.CIVまとめ線維柱帯切除術後の視力低下はC3カ月経過しても回復しないことが多いことがわかった.いったん下がった視力の回復の可能性について検討した結果,視力回復の鍵は,術前の視機能の余力ともいうべき中心窩閾値に依存することから,中心窩閾値が低下する前に手術を勧めるべきである.また,病型によって異なるが,術後にはある程度のすみやかな眼圧下降が必要である一方,脈絡膜.離や浅前房・黄斑症といった低眼圧による合併症が生じると視力回復の可能性は著しく低下し,それらの合併症は眼圧下降率が高すぎることで生じることがわかった.これらの現象のメカニズムについては不明な点が多く,より安全な治療のためには引き続き検討を行っていく必要がある.同時手術はCLET単独手術に比べてC1CmmHg程度高く経過するが,合併症の頻度は明らかに少なく,白内障手術を併用したので当然かも知れないが,術後の視力低下が生じにくい術式と考えられる.同時手術におけるCIOL度数の算出には,強膜弁作製による惹起乱視や眼圧下降による眼軸長の変化の影響の少ないCBarrett式が効果的であると考えられる.同時手術を行う場合,単に白内障手術で用いるCIOLを流用せず,緑内障眼に適したCIOLを用いるべきである.緑内障が進行性の疾患であることを考えれば,先々コントラスト感度の不要な低下を増長する可能性のある多焦点CIOLは避けるべきである.LETによって強膜弁方向への惹起乱視が生じるが,その変化や軸の方向は個人差があり,乱視矯正用CIOLや乱視矯正角膜切開術のような術中の乱視矯正はむずかしいと考える.短波長感受性錐体のコントラスト感度低下や網膜感度の低下を生じる可能性のある黄色着色レンズの使用は慎重にすべきであろう.Dysphotopsiaによる視野狭窄の可能性を考えると,用いるCIOLの屈折率は,シリコーンもしくは低屈折率のアクリルが望ましいと考える.本講演では明確な回答が出せなかったが,緑内障患者の白内障術後に訴えの多い羞明に関しても,網膜神経節細胞レベルで対応がむずかしいのか,それともなにか光学的な対応が可能なのかなどは,引き続き今後の課題としたい.謝辞:恩師新家眞先生,白土城照先生,山本哲也先生に深謝申し上げるとともに,筆者の緑内障研究の入口でご指導いただいた中野豊先生,山上淳吉先生,小関信之先生,鈴木康之先生,そして本講演の座長の労をおとりいただいた相原一先生や東京大学医学部眼科学教室の先生方,また今回の講演のために一からデータ収集をして解析してくれた笠原正行君や平澤一法君,佐藤信之君をはじめとした北里大学医学部眼科学の医局員と医療衛生学部視覚機能療法学の教員の方々,そしてこうした素晴らしい財産を引き継がせていただいた清水公也先生に心より感謝申し上げます.文献1)AggarwalCSP,CHendelesS:RiskCofCsuddenCvisualClossCfol-lowingCtrabeculectomyCinCadvancedCprimaryCopen-angleCglaucoma.BrJCOphthalmolC70:97-99,C19862)MartinezJA,BrownRH,LynchMGetal:Riskofpostop-erativeCvisualClossCinCadvancedCglaucoma.CAmCJCOphthal-molC115:332-337,C19933)TopouzisCF,CTranosCP,CKoskosasCACetal:RiskCofCsuddenCvisuallossfollowing.ltrationsurgeryinend-stageglauco-ma.AmJOphthalmolC140:661-666,C20054)LangerhorstCCT,CdeCClercqCB,CvanCdenCBergTJ:VisualC.eldCbehaviorCafterCintra-ocularCsurgeryCinCglaucomaCpatientswithadvanceddefects.DocOphthalmolC75:281-289,C19905)CostaVP,SmithM,SpaethGLetal:Lossofvisualacuityaftertrabeculectomy.OphthalmologyC100:599-612,C19936)LawCSK,CNguyenCAM,CColemanCALCetal:SevereClossCofCcentralCvisionCinCpatientsCwithCadvancedCglaucomaCunder-goingCtrabeculectomy.CArchCOphthalmolC125:1044-1050,C20077)FrancisCBA,CHongCB,CWinarkoCJCetal:VisionClossCandCrecoveryCafterCtrabeculectomy.CArchCOphthalmolC129:C1011-1017,C20118)LochheadCJ,CCassonCRJ,CSalmonJF:LongCtermCe.ectConCintraocularpressureofphacotrabeculectomycomparedtotrabeculectomy.BrJOphthalmolC87:850-852,C20039)Ogata-IwaoCM,CInataniCM,CTakiharaCYCetal:ACprospec-tiveCcomparisonCbetweenCtrabeculectomyCwithCmitomycinCCandphacotrabeculectomywithmitomycinC.ActaOph-thalmolC91:e500-e501,C201310)ArimuraS,IwasakiK,OriiYetal:Comparisonof5-yearoutcomesCbetweenCtrabeculectomyCcombinedCwithCphacoemulsi.cationCandCtrabeculectomyCfollowedCbyphacoemulsi.cation:aCretrospectiveCcohortCstudy.CBMCCOphthalmolC21:188,C202111)KashiwagiK,KogureS,MabuchiFetal:Changeinvisu-alCacuityCandCassociatedCriskCfactorsCafterCtrabeculectomyCwithCadjunctiveCmitomycinCC.CActaCOphthalmolC94:Ce561-e570,C201612)Beltran-AgulloCL,CTropeCGE,CJinCYCetal:ComparisonCofCvisualCrecoveryCfollowingCEx-PRESSCversusCtrabeculecto-my:ResultsCofCaCprospectiveCrandomizedCcontrolledCtrial.CJGlaucomaC24:181-186,C201513)KobayashiN,HirookaK,NittaEetal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非器質的(心因性)視覚障害

2022年8月31日 水曜日

非器質的(心因性)視覚障害Non-Organic(Psychogenic)VisualDisturbance山上明子*I非器質的視覚障害とは非器質的視覚障害とは,視力・視野障害の原因が特定できず現在の医学レベルでは器質的異常を検出できない状態であり,機能的な視覚障害と考えられる.機能的視覚障害のうち精神的・心理的要因が発症メカニズムに関与する場合が心因性視覚障害であるが,精神的・心理的な要因であることを証明することは容易ではなく,心因性と診断するための確実な方法はない.また,詐病・詐盲とは厳に区別しなければならない.検査上何も異常がみつからない=器質的疾患がないというわけではなく,器質的疾患の初期症状の可能性も否定できないので,非器質的視覚障害と診断しても,症状の進行の有無や他の症状の出現などないか経過観察を行っていく必要がある.II非器質的視覚障害と診断までのアプローチ非器質的視覚障害と診断するまでのフローチャートを示す(図1).非器質的視覚障害はさまざまな検査所見から器質的疾患を除外して診断する.視力障害を説明できる所見が角膜,水晶体および眼内にみられない場合には,まず視野検査を行ってみる.視野検査の結果から病変部位を推測し(視神経疾患か,視交叉以降の病変か,視交叉以降の病変か),眼窩および頭部磁気共鳴画像(magneticresonanceimag-ing:MRI)撮像を行って視神経および頭蓋内病変を精視力障害を説明できる所見が眼内に見あたらない視野検査視機能異常は両眼性か片眼性か視野障害のパターンから視路障害の部位を推定眼窩MRIで視神経~視交叉および頭蓋内精査MRIで異常がみられない視神経症(遺伝性,薬物性など)を鑑別眼底検査で異常がみられない網膜病変の精査上記で器質的疾患が否定できれば非器質的視覚障害図1非器質的視覚障害の診断までのアプローチ査する.MRI検査で視神経および頭蓋内疾患が否定されたら,MRIで異常がみられない視神経症や,検鏡的に異常がみられない網膜疾患を鑑別していく(表1)1).表1に示す疾患が除外し,非器質的視覚障害と診断する.III非器質的視覚障害の診断に必要な問診や各検査のポイント(表2)1.問診器質的な疾患を鑑別除外するためには問診が重要とな*AkikoYamagami:井上眼科病院〔別刷請求先〕山上明子:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(47)1057表1非器質的(心因性)視覚障害と鑑別を要する視神経・網膜疾患視神経疾患(MRIで異常がみられない視神経症)Leber遺伝性視神経症優性遺伝性視神経症後部虚血性視神経症網膜疾患(検鏡的に異常がみられない網膜疾患)Stargart病X染色体劣性網膜分離症線維性異形成急性帯状潜在性網膜外層症(acutezonaloccultouterretinopathy:AZOOR)急性特発性盲点拡大症候群(acuteidiopathicblindspotenlargementsyndrome:AIBES)多発消失性白点症候群(multipleevanescentwhitedotsyndrome:MEWDS)Occultmaculardystrophy癌関連網膜症(cancer-associatedretinopathy:CAR)悪性黒色腫関連網膜症(melanoma-associatedretinopathy:MAR)自己免疫性網膜症(文献1より改変引用)表2非器質的視覚障害の診断に有効な検査および検査所見a)問診:眼および全身の既往歴,遺伝歴,薬物歴(過去にさかのぼって),交通事故を含めた外傷歴b)視野検査:静的視野検査の中心窩閾値と視力検査結果との乖離,対座法と動的/静的視野検査の乖離c)対光反射:片眼性または両眼性でも左右の障害に差がある場合に相対的瞳孔求心路障害(RAPD)の有無を確認非器質的視覚障害ではRAPD陰性となる(ただし,レーベル遺伝性視神経症の一部では陰性)d)矯正視力:レンズ打消し法での視力測定,近方視力と遠方視力の乖離,視力検査結果の変動e)眼窩MRI:視神経疾患や頭蓋内疾患の有無の鑑別f)調節機能検査:調節けいれん,調節不全や輻湊障害の有無を鑑別,調節けいれんで矯正視力が低下することもあるg)電気生理学的検査網膜電図(ERG)や多極所ERGで網膜疾患の有無を鑑別,視覚誘発電位(VEP)で視神経や頭蓋内疾患の有無を鑑別,非器質的視覚障害では電気生理学的検査は正常所見となるh)色覚検査:非典型的な色覚検査結果i)複視試験や両眼視機能検査片眼の重度の視力低下症例に対して,両眼視を利用して行う検査プリズムで上下斜視を作製した時に両眼性複視を自覚する場合や,チトマス立体試験で立体視が確認できる場合は両眼視があるということで非器質的視覚障害と考えられる.見から総合的に診断を進める必要がある.さらに,静的視野検査では中心窩閾値を測定し,視力検査の結果と整合性があるか確認する.視力が低下していても,静的視野検査および中心窩閾値が正常で,中間透光体や角膜病変が否定できれば,非器質的視覚障害が疑われる.視力不良例では対座法も参考になる.診察室での様子が視力・視野障害と乖離している場合(視力・視野障害が重篤にもかかわらず,移動やしぐさがスムーズな場合など)には,視野検査結果では見えないはずの部位に不意に視標を提示し色を答えさせたり,追視を促したりすると見えないはずの部位の視標が確認できるなど視野検査結果と対座法での乖離が確認できる場合は非器質的視覚障害が疑われる.その他,視野検査結果の再現性がない場合(変動する場合)や,動的視野と静的視野結果の乖離も非器質的視覚障害を示唆する所見となる.3.対光反射視力障害が片眼性(または両眼性でも左右の障害の程度に差がある場合)の場合には相対的瞳孔求心路障害(relativea.erentpupillarydefect:RAPD)の有無を確認する.非器質的視覚障害ではRAPDは陰性となる(ただしLeber遺伝性視神経症では視力に左右差があっても陰性となる場合がある).また,両眼性の重篤な視力障害でも対光反射が迅速十分であり,視運動性眼振が誘発されればある程度の視力があると推定され,参考所見となる.4.矯正視力一般的な視力検査では視力が出ないが,被検者が検査結果に動揺したり,検査中の反応が理不尽な印象がある場合には,レンズ打消し法を用いると視力が出ることがある.レンズ打消し法とは最初に強めの凸レンズを入れて網膜像をぼやかしたあと,それと同一度数の凹レンズを入れて視力を測定する方法で,とくに小児の心因性視覚障害の診断には有効である2).また,レンズ打消し法と通常の視力検査結果の乖離や近方視力と遠方視力の検査結果の乖離も非器質的視覚障害を示唆する所見になる.5.MRI検査視神経疾患や頭蓋内病変の鑑別のためにMRI検査を行う(CTでは視神経炎など炎症性疾患は検出できない).MRI撮像方法・スライスが重要であり,眼窩内脂肪抑制をかけた撮像方法で視神経に沿って冠状断スライスでの撮像をオーダーする.単純に頭部MRIをオーダーするだけでは脳の水平断のみで視神経疾患を見逃す可能性があるので,注意が必要である.また,放射線科に読影を依頼する際にはどのあたりの病変を疑っているのか,鑑別として考えている疾患(病態)を詳しく記載すると,読影の際に参考にしてもらえるので所見の見逃しが少なくなる.6.調節機能検査視力低下の原因に調節障害(多くは調節けいれんの状態)が関与している場合がある.原因不明の視力低下の場合はもう一度屈折を確認してみる.オートレフ値が検査日ごとに異なっていたり,以前もっている眼鏡と屈折値が異なっている場合(近視化している場合)は,調節麻痺薬を用いて正確な屈折値を確認すると,調節けいれんの状態になっていることもある.また,頭頸部外傷後や脳脊髄液漏出症の患者では調節の異常(調節障害や輻湊障害,偽近視)が出現しやすく遷延性であり,外傷直後より数カ月経過してから悪化したり,矯正視力が変動したり低下してくることもしばしば経験する3).調節に関して通常測定可能なのは調節力であるが,これは絶え間なく繊細に行われるはずの調節系のごく一部の視標にしか過ぎず,ダイナミックな調節機能の異常を検出できる検査方法はない.また,高次脳機能障害と考えられるさまざまな視覚異常症も経験する4).7.電気生理学的検査網膜電図(electroretinogram:ERG)や視覚誘発電位(visualevokedpotential:VEP)は他覚的検査であり,網膜疾患や視神経疾患など検鏡的に眼内に異常がみられない視神経・網膜疾患や頭蓋内病変など,器質的疾患の存在の有無の鑑別には重要である.網膜疾患のなかに(49)あたらしい眼科Vol.39,No.8,20221059は,眼底所見が正常で,光干渉断層計(opticalcoher-encetomography:OCT)やERG(局所および多局所ERG)で診断できる疾患を鑑別する.8.色覚検査視神経疾患では色覚異常を自覚して(色がわかりにくいなど)受診することがある.非器質的視覚障害で色覚異常を主訴に受診することはまれであるが,心因性が疑われる症例の約半数以上で何らかの色覚異常を呈し,通常の色覚異常では分類できないような非典型的結果を示すとされる5).9.複視試験や両眼視機能検査複視試験は両眼視を利用して片眼の重度の視力低下の症例に対して行う検査で,眼に4Δのプリズムを基底上方または下方に挿入して上下斜視を作製し,視標にずれてみえるかたずねる.ずれを認識していれば,患眼も視標が見えていることになる.また,チトマス立体試験(Titmusstereotest)も有効で,立体的に見えれば両眼視しているということになり,非器質的視覚障害の裏づけとなる所見となる.IV心因性視覚障害とは非器質的視覚障害のうち精神的・心理的要因が発症メカニズムに関与することが推定される場合が心因性視覚障害である.心因性視覚障害の発症メカニズムとしては,視覚機能は形態角,動態覚,視野,明暗知覚,色覚,調節などの各機能について,左右別々の眼球からの情報が統合されたものであるが,この本来統合されている視覚機能が精神的・心理的要因でさまざまな形で統合が崩れた状態となり,容認できない観念によって生じた心的興奮は防衛という機制を介して身体的症状に転換されるという転換説と,人間は感覚・精神・運動・生物的な機能を統合させて機能しているが,この統合には心的エネルギーが必要であり,疲弊などで病的に心的エネルギーが低下すると統合が崩れて解離が起こるとする解離説でという概念で説明されている6).小児の心因性視覚障害は,学校検診で視力不良を指摘されるも自発的な視覚障害の苦痛の訴えがなく,心因となるエピソードがないことが多く,転換性障害の診断基準を満たさない非転換性障害と考えられている.一方,精神医学にける代表的な診療マニュアルであるDSM-5では心因性視覚障害は身体症状症の変換性/転換性障害(機能性神経症状症)に分類され,その症状と認められる神経疾患または医学的疾患とが適合しないことを裏づける所見があり,その所見は臨床的に意味のある苦痛,または社会的,職業的,または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている,または医学的な評価が必要であると定義される7).非器質的視覚障害の要因が心因性であることを診断するのは非常にむずかしく,要因と思われる問題が解決し視覚障害が軽快消失すれば心因性と診断できるが,臨床的には要因と思われる問題がみつからない場合も多い.V脳脊髄液漏出症とは脳脊髄液漏出症とは脳脊髄液腔から脳脊髄液(髄液)が持続的ないし断続的に漏出することにより減少し,頭痛,頸部痛,めまい,耳鳴り,倦怠感などさまざまな症状を呈する疾患である2).代表的な症状としては起立時に増悪する頭痛・頸部痛,めまい,耳鳴り,視機能異常,嘔気,倦怠感,疲労感など多彩な症状を呈する(表3)8,9).視機能異常は代表的な症状で眼科を受診することが多い.脳脊髄液漏出症症例の眼の自覚症状と眼所見について表4に示す2).多くの患者が視機能異常を自覚しているが,その自覚症状や眼所見は多彩であり,眼瞼けいれんや輻輳けいれん・調節不全など調節系の異常のほか,羞明や視力低下・視野欠損があってもそれを説明できる病変が眼内・脳内に認められない例や,求心性視野狭窄を呈する例など,今までわれわれが心因性視覚障害(非器質的視覚障害)と診断してきたような所見を呈する.このような眼科所見のほかに,頭痛(眼科を受診する脳脊髄液漏出症患者では頭痛が明確ではない患者もあるが)やさまざまな全身症状,めまいやふらつき,さまざまな部位の痛み,気圧による体調の変化および誘因となるような外傷の既往や手術既往があるときに脳脊髄液漏出症による眼症状を疑い,専門医に紹介している(紹介1060あたらしい眼科Vol.39,No.8,2022(50)表3脳脊髄液漏出症の症状主症状頭痛(90%以上,起立で増悪),頸部痛,めまい,視機能異常,倦怠感などその他の症状嘔気・嘔吐,聴覚過敏,耳鳴り,小脳失調,歩行障害,認知症,記憶障害,直腸膀胱障害乳汁分泌,腰痛,歩行障害など症状が連日性かつ薬の有効性が乏しい(脳脊髄液漏出症学会ホームページより改変)=表4脳脊髄液漏出症の自覚症状および眼所見自覚症状眼痛ピントが合わない,単眼複視,複視,視力低下,羞明,視野障害眼科的診断視力障害,視野障害,中枢性羞明,輻湊けいれん,調節障害,眼瞼けいれん,眼位異常,視覚陽性現象,眼科検査で異常を検出できない例

先天眼振

2022年8月31日 水曜日

先天眼振CongenitalNystagmus林孝雄*はじめに眼の揺れを呈する疾患としては,先天眼振,後天眼振,および眼振とは区別される後天発症の眼球運動振動現象(saccadicoscillation)の三つ1)があり,神経眼科疾患としては後者二つが当てはまる.この二つの神経眼科疾患とまぎらわしい疾患となると,先天眼振ということになる.鑑別のポイントとして,これら三つの疾患群の揺れにはそれぞれ特徴的なものがあるので,基本的には先天眼振の種類と揺れと病態を把握しておけば,それ以外の揺れをみたら後天眼振または眼球運動振動現象と判断することができる.その後の対応としては,先天眼振であれば,頭位異常の矯正や眼振の減弱を目的として治療方針を決めていけばよいが,後天眼振や眼球運動振動現象であれば,まずはその原因を探るべく脳幹や小脳を中心とした部位の画像検査を急ぐ必要がある.本稿では,眼振である先天眼振と後天眼振の種類と揺れの状態をまとめ,両者の鑑別ができるようにする.I先天眼振の種類と病態先天眼振(広義の先天眼振)には,表1に示すように乳児眼振(狭義の先天眼振),先天周期交代性眼振,(顕性)潜伏眼振,眼振阻止症候群,点頭発作(spasmusnutans)の5種類がある.それぞれの眼振の揺れの特徴と病態を表2に示し,下記に詳しく説明する.表1(広義の)先天眼振の種類…1)乳児眼振(狭義の先天眼振)2)先天周期交代性眼振乳児眼振症候群3)潜伏眼振・顕性潜伏眼振4)眼振阻止症候群5)点頭発作1.乳児眼振(狭義の先天眼振)乳児眼振(infantilenystagmus)は,生後2~4カ月頃に発症するので,先天眼振(congenitalnystagmus)ではなく,このようによばれるようになった2).乳児眼振は,発症初期から成長とともに揺れの状態が変化するのが特徴である.まず,発症初期には水平の大きな等速度の往復運動を示し,電気眼振検査法(electronystagmography:ENG)で記録すると三角波形(図1a)を示す.そして,生後6カ月頃からは左右に細かく振子のように揺れる(振子様眼振)ようになり,ENGではサインカーブのような振子様波形(図1b)がみられてくる.さらに1歳頃から左右どちらかに引っ張られるような律動眼振に変化し,ENGでは緩徐相(用語解説参照)が徐々に速度が増加する速度増加型(用語解説参照)の律動波形(図1c)を示すようになる.ただし,成長しても振子様眼振のままで律動眼振に変化しない患者もいる.律動眼振がみられるようになると,静止位(nullzone,nullpoint)という,もっとも眼振が弱い部位がみられるようになり,その位置が顔の正面にない場合は頭位異常を示すようになる.*TakaoHayashi:帝京大学医療技術学部視能矯正学科〔別刷請求先〕林孝雄:〒173-8606東京都板橋区加賀2-11-1帝京大学医療技術学部視能矯正学科0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(39)1049表2(広義の)先天眼振の揺れと病態1)乳児眼振(狭義の先天眼振)①左右眼の同調する水平方向の眼振で,成長とともに眼振の様相が変化する.②静止位が正面にない場合は頭位異常を示す.③静止位より右を見ると右向きの眼振,左を見ると左向きの眼振がみられる.④静止位から右や左に眼を動かして行くに従い,眼振の振幅が大きくなっていく(Alexanderの法則).⑤輻湊により眼振が減弱あるいは消失する症例が約80%にみられる.⑥動揺視を自覚しないが,眼振が強くなるとぼやけ(視力低下)を感じる.2)先天周期交代性眼振①静止位が左右に移動するため,見やすい位置で見ようとして顔回しが右や左に変化する.②静止位の移動の周期は一定でなく,左右どちらに長時間留まることが多い.③静止位が移動し始めるときに動揺視を自覚する症例が多い.3)潜伏眼振・顕性潜伏眼振①潜伏眼振は片眼を遮閉することにより誘発される左右同調性の律動眼振である.②眼振の向きは固視眼への向きで,ENGでは緩徐相は速度減弱型を示す.③顕性潜伏眼振は,斜視や片眼の弱視があるため,両眼開放下でもみられる潜伏眼振である.4)眼振阻止症候群①内斜視で眼振が減弱されている.②内転眼で固視し,その眼の向きに顔を回して見る.③固視眼を外転させると外転方向に向かう律動眼振が両眼同調してみられる.④律動眼振の緩徐相は潜伏眼振と同じ速度減弱型を示す.5)点頭発作①左右眼で同調性のない振子様眼振がみられる.②異常頭位と頭部のうなずき(headnodding)を伴う.③小児期に自然に消失する.④視神経膠腫による後天性の点頭発作と類似する.そのため鑑別目的で頭部画像検査を必ず行う.a.三角波形右左b.振子様波形c.律動波形(速度増加型)時間図1乳児眼振の波形(シェーマ)a:三角波形.等速度で左右に往復する波形.b:振子様波形.小さな振幅のサインカーブのような波形.c:律動波形.緩徐相と急速相の二つの成分をもち,繰り返す波形(緩徐相は速度増加型).緩徐相急速相右左時間左向きの眼振図2律動眼振の成分律動波形は緩徐相と急速相をもち,緩徐相は徐々に速度が増加する速度増加型を示している.また,急速相の向かう方向が眼振の向きであり,この波形は左向きの左向きの律動眼振の波形であることがわかる.静止位が正面の場合右方視で右向きの眼振左方視で左向きの眼振図3静止位と眼振の向きとの関係静止位が正面にある場合,静止位より右を見ると右向きの律動眼振,左を見ると左向きの律動眼振がみられる.図4先天周期交代性眼振静止位が左方にあるときは,顔を右に回して見るが,静止位が右方に移動すると,その部位で正面を見ようとして顔を左に回して見るようになる.本人は無意識でこの顔回しを周期的に繰り返す.両眼開放では眼振なし右左緩徐相:速度減弱型左向きの眼振時間右眼遮閉図6(顕性)潜伏眼振の波形潜伏眼振・顕性潜伏眼振の波形は,緩徐相の速度が徐々に減少する速度減弱型を示す.右向きの眼振左眼遮閉図5潜伏眼振両眼開放下では眼振はみられないが,右眼を隠すと左向き,左眼を隠すと右向きの左右同調した律動眼振がみられる.表3後天眼振の種類,原因,眼振の様相原因眼振の様相中枢性眼振1)輻湊後退眼振中脳水道症候群輻湊と両眼の眼球後退が同調してみられる眼振2)解離性眼振核間麻痺(MLF症候群)病巣側の眼の内転障害と僚眼の外転時にみられる律動眼振3)CBruns眼振小脳橋角部の聴神経鞘腫など側方視時にみられる律動眼振4)上向き眼振Wernicke脳症,髄膜炎,有機リン化合物の中毒などによる小脳虫部や延髄の障害両眼の同調した上向きの律動眼振5)下向き眼振頭蓋頸椎移行部のCArnold-Chiari奇形や脊髄小脳変性症など両眼の同調した下向きの律動眼振6)後天周期交代性眼振外傷,脳炎,梅毒,多発性硬化症,脊髄小脳変性症など静止位が左右に移動する律動眼振7)シーソー眼振傍トルコ鞍や視床下部を含む間脳の腫瘍,脳幹上部の血管性病変など片眼が上転するのに同調して他眼が下転する眼振8)黒内障性眼振大脳皮質の萎縮,小眼球,先天白内障,全色盲,眼白子症など少しでも見えるところがないかと探すように左右に大きく往復運動をさせる眼振9)(後天性)点頭発作視交叉部の神経膠腫など左右眼で同調性のない振子様眼振末梢性眼振(末梢前庭眼振)前庭眼振半規管などの末梢前庭神経障害水平あるいは上下-回旋方向の律動眼振上斜筋ミオキミア原因不明.(脳幹背側部で滑車神経を血管が拍動性に圧迫?)内方回旋方向と同時に下転方向への律動眼振b.解離性眼振核間麻痺(内側縦束症候群)の場合に,脳幹の病巣側の内転障害と同時に,僚眼にみられる外転時の耳側方向への律動眼振である.核間麻痺では,一側の内側縦束が障害されることによって,障害側の眼は内転障害を示すが,その眼を内転させようとするインパルスが僚眼の外転時眼振を引き起こすといわれている.Cc.Bruns眼振Bruns眼振とは,側方視したときにその方向に引っ張られる注視眼振で,小脳橋角部の聴神経鞘腫などでみられる.腫瘍側へは大振幅で小頻度,健側へは小振幅で大頻度の律動眼振を示す.聴神経鞘腫はC50~60歳代に多く,小児期には少ない9).Cd.上向き眼振上向き眼振は,両眼の同調した上向きの律動眼振である.Wernicke脳症や髄膜炎,有機リン化合物の中毒などによる小脳虫部や延髄の障害でみられる.Ce.下向き眼振下向き眼振は,両眼の同調した下向きの律動眼振である.頭蓋頸椎移行部のCArnold-Chiari奇形や脊髄小脳変性症などでみられる.Cf.後天周期交代性眼振先天周期交代性眼振と同様に,律動眼振の静止位が左右に移動し,そのために右や左に顔回しをする.外傷,脳炎,梅毒,多発性硬化症,脊髄小脳変性症などでみられるので,発症機転を十分に聞き取り,先天性との鑑別を行う必要がある.Cg.シーソー眼振シーソー眼振とは,右眼が上転したときに左眼が下転し,逆に左眼が上転したときには右眼が下転するという,シーソーのように上下に揺れる眼振である.傍トルコ鞍や視床下部を含む間脳の腫瘍や脳幹上部の血管性病変などでみられる.Ch.黒内障性眼振黒内障性眼振は生直後からみられ,視性眼振ともいわれる.すなわち,視力不良が原因で,少しでも見えるところはないかと探すように,左右に大きく往復運動をさせる眼振である.大脳皮質の萎縮のほか,小眼球,先天白内障,全色盲,眼白子症などの眼球自体の障害が原因となる.生直後からみられ,水平の大きな往復運動の眼振であることから,上述の乳児眼振発症初期の三角波形を示す眼振との鑑別が必要である.Ci.(後天性)点頭発作後天性の点頭発作は,先天性のものと同様に左右眼で同調性のない振子様眼振を示す.上述したように,後天性の場合は視交叉部の神経膠腫などの中枢神経病変を伴っていることがあるので,必ずCMRI検査で確認をする.とくに,小児の視神経膠腫はC90%がC19歳以前,平均7.0歳で診断されるC10))といわれているので,先天性との鑑別に気をつける必要がある.C2.末梢性眼振(末梢前庭眼振)末梢性眼振は前庭眼振ともいわれ,水平あるいは上下-回旋方向に向かう律動眼振がみられる.半規管などの末梢前庭神経障害が原因で生じる.C3.上斜筋ミオキミア上斜筋ミオキミアは,発作性に生じる回旋性の小振幅な眼振である.回旋眼振の急速相は上斜筋の作用方向である内方回旋方向で,同時に下転方向への律動眼振を伴う.通常片眼にみられ,上下に揺れる動揺視を伴う.原因は不明であるが,脳幹背側部で滑車神経を血管が拍動性に圧迫するため,との説がある.そのため純粋な眼振ではなく,「眼振様運動」に分類されることもある(原因不明であるので,表3の欄外に記載した).おわりに神経眼科疾患である後天眼振のまぎらわしい疾患として,(広義の)先天眼振を取り上げ,両者の眼振の揺れの特徴および病態を述べた.眼振の発症時期などから,ある程度先天性か後天性かを判断するのはできるが,それ以外に知っておくことは,(広義の)先天眼振は基本的には水平眼振のみということである.すなわち,上下の眼振や回旋性の眼振をみたら後天眼振を強く疑えばよい.また,先天周期交代性眼振以外の(広義の)先天眼振では動揺視を自覚しないので,平衡障害としてのめまいやふらつきなども後天眼振を疑わせる重要な所見となる.1054あたらしい眼科Vol.39,No.8,2022(44)■用語解説■緩徐相:電気眼振検査(ENG)をするとみられる律動眼振波形の成分で,眼球がゆっくりと固視目標からずれていくときにトレースされる部分をいう.速度増加型:律動眼振の緩徐相が,徐々に速度を増加させていくタイプであることをいう.急速相:ENGをするとみられる律動眼振波形の成分で,ずれた眼球を急速に固視目標に戻すときにトレースされる部分をいう.速度減弱型:律動眼振の緩徐相が,徐々に速度を減弱させていくタイプであることをいう.-

Sagging Eye Syndrome

2022年8月31日 水曜日

SaggingEyeSyndrome國見敬子*後関利明*はじめにSaggingeyesyndrome(SES)は眼窩周囲組織の加齢性変化によって起こる遠見内斜視または上下斜視として発症する斜視疾患である1).その病態は眼球運動神経麻痺や外眼筋疾患に起因する神経眼科疾患ではなく,眼窩プリーの異常による.SESは「第二の老眼」とも表現され1),2020年より眼科専門医ガイドラインの履修項目としても採択されたが,眼窩プリーやSESは日本眼科学会「眼科用語集」第6版(Web-2018年版)v6.2.01には掲載のない用語で,その名前の浸透はいまだ乏しい.SESは微小斜視角を呈するため,所見を検出しづらく,ドライアイや原因不明と診断されることも多い.長年悩んだ末にようやく診断がつき,安堵,治療にたどりつく患者がいることも事実である.加えてSESは2022年現在,わが国や米国では後天斜視の原因の第1位であり,加齢とともに発症者の割合が増加する2,3)ため,今後も増加する可能性が高い.今回SESの病態,診断方法,神経眼科疾患を含めた鑑別すべき疾患,治療方法について解説する.ISESの有病率と病態先に述べたように現在,SESは高齢発症の斜視疾患の第1位で,わが国の報告では,後天性の両眼性複視を訴えた60歳以上の236例のうち57例(24.2%)が2)SESであった米国の報告では,40歳以上の後天性の両眼性複視を訴えた945例のうち297例(31.4%),90歳以上では60.9%にSESが認められたと報告されており,年代ごとにSESの割合は増加する3).1989年,病理・画像診断により,眼周囲のTenon.内に眼窩プリーが存在することがMillerによって発見された4).眼窩プリーとは,外眼筋の位置および眼球運動を安定させる組織である.具体的には,上斜筋以外の外眼筋は,エラスチンと平滑筋によって剛性が強化されたコラーゲンからなる構造物に包まれ,さらにそれらを眼球の赤道部付近でリング状に結ぶ,きしめん様の構造物で構成されている(pulleyrings).Pulleyringsの前方は眼窩壁に蜘蛛の巣のような形状で眼窩壁につながるサスペンションに連続し,後方は眼球に向かって外眼筋を構成する2層(強膜挿入部に連続するgloballayerとプリー組織に連続するorbitallayer)のうち,orbitallayerに連続している(pulleyslings).これらの組織全体をorbitalpulleysystemという5~8)(図1).外眼筋は眼窩プリーを起点に滑車として屈曲する.この機能により,眼窩プリーは外眼筋の位置および眼球運動を安定させている.眼窩プリーより前方の外眼筋は視線変化によって走行を変化させるのに対し,眼窩プリーよりも後方の外眼筋の走行は視線変化によって位置を変えない.眼窩プリーの位置が安定しているため,むき眼位によって外眼筋の位置はほとんど変化せず,眼球運動を行うことができる5).頭部を固定し,眼球運動の開始点を定めると,すべての眼球運動は,その点からの1回転で表せ,回転軸は同一平面上に乗るというListingの*KeikoKunimi&ToshiakiGoseki:国際医療福祉大学熱海病院眼科〔別刷請求先〕後関利明:〒413-0012静岡県熱海市東海岸町13-1国際医療福祉大学熱海病院眼科0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(33)1043CollagenElastinTrochleaLPSSOLGOLLR-SRBandLEMEOrbitalLayer図1眼窩プリーの構造Pulleyringは眼球の赤道部付近にリング状にきしめん様の構造物で構成される.その前方は眼窩壁に蜘蛛の巣のような形状で眼窩につながるサスペンションに,後方は眼球に向かって外眼筋を構成するC2層のうち,orbitallayerに連続し,pulleyslingとよばれており,これらの組織を総じてCorbitalpulleysystemという.(文献C5より引用)SmoothMusclebaAponeuroticblepharoptosis腱膜性眼瞼下垂症Baggylowereyelid下眼瞼の眼窩脂肪織によるふくらみ図2Saggingeyesyndromeの臨床的特徴a:特徴的な顔貌.SunkenCuppereyelid(上眼瞼の脂肪が下方移動することなどにより上眼瞼がくぼむ),apo-neuroticblepharoptosis(腱膜性眼瞼下垂),baggylowereyelid(下眼瞼の眼窩脂肪織によるふくらみ).b:正常.LR-SRバンドがCMRIではっきり確認できる.開散麻痺様内斜視:LR-SRバンドの変性が左右対称.10CΔ程度の遠見内斜視,近見斜位(外斜位を含む)となる.小角度の上下斜視:LR-SRバンドの変性が左右非対称.5CΔ程度の外方回旋を伴う微小上下斜視となる(文献C6より改変引用).c:HeavyCeyesyndromeのCMRI冠状断.強度近視による眼軸の伸展で,上直筋と外直筋の間から筋円錐外に脱臼し,眼位は内下転位に偏位する.眼窩容積と眼球容積の不一致加齢に伴う眼窩プリーの変化SESHES図3眼窩プリーが障害される疾患Saggingeyesyndrome(SES)とCheavyeyesyndrome(HES)の関係.近視性後天性後天共同性内斜視急性後天共同性内斜視内斜視SaggingEye強度近視Syndrome性内斜視眼窩窮屈症候群固定内斜視図4後天内斜視の関係灰色:解剖学的要因.白:機能的要因.(神眼38:239~240,2021より引用)診断に至らず長年苦しみ,時に精神的な疾患に移行してしまうこともある.SESはC40歳以上の後天性複視の原因疾患の第C1位であった3)こともふまえ,高齢化が進む日本において今後患者数が増えていくことが予想されるため,眼科関係者として認識しておくべき新しい疾患概念である思われる.文献1)RutarT,DemerJL:Heavyeyesyndromeintheabsenceofhighmyopia:aconnectivetissuedegenerationinelder-lystrabismicpatients.JAAPOSC13:36-44,C20092)KawaiCM,CGosekiCT,CIshikawaCHCetal:Causes,Cback-ground,CandCcharacteristicsCofCbinocularCdiplopiaCinCtheCelderly.JpnJOphthalmolC62:659-666,C20183)GosekiT,SuhSY,RobbinsLetal:PrevalenceofsaggingeyeCsyndromeCinCadultsCwithCbinocularCdiplopia.CAmJOphthalmol62:55-61,C20204)MillerJM:FunctionalCanatomyCofCnormalChumanCrectusCmuscles.VisionResC29:223-240,C19895)DemerCJL,COhCSY,Poukens:EvidenceCforCactiveCcontrolCofCrectusCextraocularCmuscleCpulleys.CInvestCOphthalmolCVisSciC6:280-1290,C20006)GosekiT:Saggingeyesyndrome.JpnJCOphthalmol65:C448-453,C2017)KonoCR,CClarkCRA,CDemerJL:Activepulleys:magneticCresonanceCimagingCofCrectusCmuscleCpathsCinCtertiaryCgazes.InvestOphthalmolVisSciC43:2179-2188,C20028)DemerJL:TheCorbitalpulleyCsystem:aCrevolutionCinCconceptsCofCorbitalCanatomy.CAnnCNCYCAcadCSciC956:C17-32,C20029)DemerJL:PivotalCroleCofCorbitalCconnectiveCtissuesCinCbinocularalignmentandstrabismus:theFriedenwaldlec-ture.InvestOphthalmolVisSciC45:729-738,C200410)KonoCR,CPoukensCV,CDemerJL:QuantitativeCanalysisCofCthestructureofthehumanextraocularmusclepulleysys-tem.InvestOphthalmolVisSciC43:2923-2932,C200211)ChaudhuriZ,DemerJL:Saggingeyesyndrome:connec-tivetissueinvolutionasacauseofhorizontalandverticalstrabismusinolderpatients.JAMAOphthalmolC131:619-625,C201312)ClarkCRA,CDemerJL:E.ectCofCagingConChumanCrectusCextraocularmusclepathsdemonstratedbymagneticreso-nanceimaging.AmJOphthalmolC134:872-878,C200213)DemerJL:TheCaptClecture.CconnectiveCtissuesCre.ectCdi.erentCmechanismsCofCstrabismusCoverCtheClifeCspan.CJAAPOSC18:309-315,C201414)PinelesSL:DivergenceCinsu.ciencyCesotropia:surgicalCtreatment.AmOrthoptJC65:35-39,C201515)KawaiM,GosekiT,IshikawaHetal:CharacterizationoftheCpositionCofCtheCextraocularCmusclesCandCorbitCinCacquiredesotropiabothatdistanceandnearusingorbitalmagneticCresonanceCimaging.CPLoSCOneC16:e0248497,C202116)LimL,RosenbaumAL,DemerJL:Saccadicvelocityanal-ysisCinCpatientsCwithCdivergenceCparalysis.CJCPediatrCOph-thalmolStrabismusC32:76-81,C199517)YokoyamaCT,CTabuchiCHCetal:TheCmechanismCofCdevel-opmentinprogressiveesotropiawithhighmyopia.Trans-actionsCofCtheC26thCmeeting,CEuropeanCStrabismologicalCAssociationCBarcelona,CSpain,CSeptemberC2000.Cp218-221,CSwetsandZeitlingerPublishers,Lisse,200018)YotsukuraCE,CToriiCH,CInokuchiCMCetal:CurrentCpreva-lenceCofCmyopiaCandCassociationCofCmyopiaCwithCenviron-mentalfactorsamongschoolchildreninJapan.JAMAOph-thalmolC137:1233-1239,C201919)IwasaM,WakakuraM,KohmotoHetal:ClinicalfeaturesofCcrowdedCorbitalCsyndromeConCmagneticCresonanceCimaging.NeuroophthalmologyC45:87-91,C202120)KohmotoCH,CInoueCK,CWakakuraM:DivergenceCinsu.ciencyCassociatedCwithChighCmyopia.CClinCOphthal-molC5:11-16,C201021)TanRJ,DemerJL:HeavyeyesyndromeversussaggingeyeCsyndromeCinChighCmyopia.CJCAAPOSC19:500-506,C201522)LyonsCCJ,CTi.nCPA,COystreckD:AcuteCacquiredCcomi-tantesotropia:aCprospectivestudy.CEye(Lond)C13:617-620,C199923)SpiererA:AcuteCconcomitantCesotropiaCofCadulthood.COphthalmologyC110:1053-1056,C200324)鎌田さや花,稗田牧,中井義典:近視性後天性内斜視の臨床像と手術成績.眼紀11:811-815,C201825)BurianCHM,CMillerJE:ComitantCconvergentCstrabismusCwithacuteonset*.AmJOphthalmolC45:55-64,C195826)LeeCHS,CParkCSW,CHeoH:AcuteCacquiredCcomitantCeso-tropiarelatedtoexcessiveSmartphoneuse.BMCOphthal-molC16:37,C201627)飯森宏仁,佐藤美保,鈴木寛子ほか:(亜)急性後天共同性内斜視に関する全国調査デジタルデバイスとの関連について.眼臨紀C13:42-47,C202028)AkagiT,MiyamotoK,KashiiSetal:Causeandprogno-sisCofCneurologicallyCisolatedCthird,Cfourth,CorCsixthCcranialCnervedysfunctionincasesofoculomotorpalsy.JpnJOph-thalmolC52:32-35,C200829)AkbariCMR,CMirmohammadsadeghiCA,CMahmoudzadehCRCetal:Managementofthyroideyedisease-relatedstrabis-mus.JCurrOphthalmolC32:1-13,C202030)ChaudhuriZ,DemerJL:GradedverticalrectustenotomyforCsmall-angleCcycloverticalCstrabismusCinCsaggingCeyeCsyndrome.BrJOphthalmolC100:648-651,C201631)ChaudhuriCZ,CDemerJL:MedialCrectusCrecessionCisCasCe.ectiveaslateralrectusresectionindivergenceparalysisesotropia.ArchOphthalmolC130:1280-1284,C201232)ChaudhuriZ,DemerJL:Long-termsurgicaloutcomesinthesaggingeyesyndrome.StrabismusC26:6-10,C20181048あたらしい眼科Vol.39,No.8,2022(38)

急性内斜視

2022年8月31日 水曜日

急性内斜視AcuteAcquiredComitantEsotropia吉田朋世*仁科幸子*はじめに急性発症した両眼複視を訴える患者が来院した場合,早急に鑑別すべき疾患として,脳神経(動眼神経,滑車神経,外転神経)麻痺,重症筋無力症,外眼筋疾患などの神経眼科疾患がある.これらは発症早期に診察を行うと,一般的に非共同性の斜視を示し,さまざまな程度の眼球運動制限を認める.ところが近年,急性もしくは亜急性の両眼複視を訴えるが,共同性の斜視で,眼球運動制限を認めない内斜視の報告が増加してきた.その原因として,スマートフォンなどのデジタルデバイスの過剰使用が疑われている.現在,全国調査でこのような斜視の病態について検討が行われている1).本稿では,元来の急性内斜視と異なる,デジタルデバイスに関連した急性内斜視の特徴を筆者らの経験をふまえながら解説する.I急性内斜視急性内斜視の定義は,生後6カ月以降に急性に発症する内斜視で,調節性要因の関与がない共同性の内斜視である.Burianらの古典的な分類がもっとも多く使われており,これによるとおもに三つのタイプに分けられる.I型(Swantype)は,片眼の遮閉や視力低下による融像の遮断によって起こるもの,II型(Burian-France-schettitype)は心身のストレスや精神的ショックが誘因となって起こり,他に原因がないもの,III型(Biel-schowskytype)は5.00D以上の近視の低矯正によって起こるものである2).Buchらは,これらに加えて,mono-.xationsyndromeもしくは内斜位の代償不全に関連するもの(IV型),頭蓋内病変によって起こるもの(V型),周期性内斜視(VI型),輻湊けいれんに続いて発症したもの(VII型)の分類を行った3)が,その定義は未だ議論の余地がある.症状としてもっとも多いのは急性の両眼複視であるが,年少児の場合はすぐに斜視眼の抑制がかかるので複視を訴えず,周囲が眼位異常に気づいて受診することが多い.そのほか片目つぶりなどがみられることもある.問診では発症時期,症状,眼鏡矯正の有無,外傷・発熱などの随伴症状の有無,誘因となりうる生活の変化などについて聴取する.検査項目として,瞳孔反応,年齢に応じた視力・両眼視機能検査,遠見・近見眼位,眼球運動検査,前眼部・眼底検査などを行い,非共同性斜視や器質疾患の除外を行う必要がある.また,調節麻痺薬を用いた精密屈折検査により調節性内斜視や調節けいれんを鑑別する.さらに,中枢神経系疾患を除外するために頭部CT,MRIを実施する必要もある.III型の急性内斜視は,遠見の内斜視で発症し,間欠性のうちは適正な屈折矯正のみで治癒することもあるが,一般的には手術治療を要する.プリズム治療やボツリヌス毒素注射が有効な場合もある.適切な時期に治療を行えば,眼位および両眼視の予後は良好であることが多い.*TomoyoYoshida&SachikoNishina:国立成育医療研究センター眼科〔別刷請求先〕吉田朋世:〒157-8535東京都世田谷区大蔵2-10-1国立成育医療研究センター眼科0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(27)1037表1デジタルデバイス関連内斜視の症例報告報告年齢デジタルデバイスの使用時間屈折矯正治療Leeら(C2016)7.1C6歳1日C4時間以上4カ月以上適矯正デジタルデバイスの制限および手術治療吉田ら(C2018)5歳,1C0歳1日3.4時間4カ月以上適矯正デジタルデバイスの制限および手術治療Mehtaら(C2018)16歳1日C8時間以上1カ月間低矯正デジタルデバイスの制限および屈折矯正Kaurら(C2019)8.1C2歳1日C4時間以上1週間.1カ月間適矯正デジタルデバイスの制限および点眼治療永山ら(C2020)16歳1日6.1C2時間1年以上過矯正デジタルデバイスの制限および屈折矯正,プリズム治療松永(C2020)10歳1日3.4時間以上1年以上適矯正デジタルデバイスの制限および手術治療江塚ら(C2021)11歳,1C2歳1日4時間1カ月間適矯正デジタルデバイスの制限およびプリズム眼鏡橋本ら(C2021)14歳1日C12時間以上7カ月間低矯正デジタルデバイスの制限および屈折矯正VanHoolstら(C2022)5.1C5歳10例中5例が1日2時間以上,5例がC2時間以下8例がC3カ月以上適矯正デジタルデバイスの制限および手術治療-III自験例デジタルデバイスの過剰使用を契機に発症したと思われる急性内斜視について,筆者らが,国内ではじめて報告したC2症例の経過を以下に紹介する5).C1.症例15歳,男児.もともと間欠性の内斜視があり,近医で経過観察されていた.4歳頃より携帯電話のゲームをC1日C2,3時間使用したところ,恒常性の内斜視が出現し当院を受診した.初診時,視力は右眼C1.0(1.2C×cyl+0.50Ax80°),左眼C1.2p(n.c.)であり,遠見C40PD,近見C40PDの共同性内斜視を認めた.眼球運動制限は認めなかった.両眼視機能はチトマス立体試験(Titmusste-reotest:TST)では検出できず,大型弱視鏡で同時視を検出できるのみだった.頭部CCTおよび神経学的検査では異常所見を認めなかった.デジタルデバイスの使用以外に明らかな眼位悪化の契機がないことから,デジタルデバイスの使用制限を指示したが,眼位の改善を認めず,5カ月後に斜視手術(右眼内直筋後転術C4Cmm+外直筋短縮術C5Cmm)を施行した.術後眼位は正位となり,両眼視機能はCTSTでC40秒まで回復を認めた.C2.症例210歳,男児.4カ月以上にわたりデジタルデバイスをC1日C3時間以上使用した後に内斜視,複視が出現し当院を受診した.初診時,視力は右眼C1.5(n.c.),左眼C1.0p(1.5C×cyl+0.50DAx105°)であり,遠見C35PD,近見40PDの共同性内斜視を認めた(図1)8).眼球運動制限は認めなかった.両眼視機能はCTSTでは検出できず,大型弱視鏡で融像を検出できるのみだった.Bagolini線条レンズ試験では,融像の抑制がみられた.頭部CCTおよび神経学的検査では異常所見を認めなかった.デジタルデバイスの使用以外に明らかな眼位悪化の契機がないことから,デジタルデバイスの使用制限を指示したが,眼位の改善を認めず,7カ月後に斜視手術(左眼内直筋後転術C5Cmm+外直筋短縮術C4Cmm)を施行した.術後眼位は正位となり,両眼視機能はCTSTでC50秒まで回復を認めた(図2).CIV発症機序とリスク因子現在,デジタルデバイスの使用が直接的に急性内斜視の発症に関与するという証明はまだできていない.しかし,その発症機序についてはさまざまな仮説がたてられている.もっとも有力な説として考えられているのは,近業の増加による近見反応の増強である.原らは,近見反応の適応・学習から内斜視を発症する可能性があると推察している13).すなわち,近見反応では調節と輻湊がお互いにクロスリンクしているが,近方視を繰り返すことで近見システムが酷使され順応し,一方で遠見視を行わないことで開散反応が低下し,内斜視を最終的に発症するという仮説である.また,野原らは,携帯電話・スマートフォン使用時の平均視距離を検討し,書籍読書時の平均視距離に比べ携帯電話・スマートフォンでのメール作成の平均視距離は有意に短いことを報告している14).スマートフォンやタブレットの使用により急性内斜視をきたした症例は,同じデジタルデバイスを使うコントロール群に比べ有意に視距離が短かったとの報告もある8).従来の近業よりもさらに視距離が短い状態で,長時間の近方視を行った結果,過剰な輻湊が惹起され内斜視を発症したと考えられる.リスク因子としては,第一に内斜視を発症しやすい素因をもつことがあげられる.Leeらは,もともと融像域が狭い,もしくは内斜位のある若年者が,スマートフォンを近距離で長時間使用することによって,元来保たれていた調節と輻湊のバランスを崩し,内斜視をきたすのではないかと推測している.筆者らが以前報告した症例のなかにも斜視の既往を認めるものがあり,もともと不安定ながら両眼視を獲得していた人が長時間の近業を行うことで,その均衡を失い,斜視や複視などの症状を発現してしまうと思われる.長時間の近業が増加していても急性内斜視を発症しない人のほうが圧倒的に多いことから,先天的な素因も重要な要素だと考えられる.第二に,年齢が発症に関与する可能性がある.牛丸らは,2008.2018年の近視を伴う亜急性後天性共同性内斜視の調査を行い,2010年以前ではC10.20代前半と(29)あたらしい眼科Vol.39,No.8,2022C1039図1術前9方向眼位(文献C8より引用)図2術後9方向眼位(文献C8より引用)デジタルデバイスの過剰使用近見反応の増強(近見視の順応,開散反応の低下)デジタルデバイス関連急性内斜視図3デジタルデバイス関連急性内斜視の発症機序表2神経眼科疾患による内斜視とデジタルデバイス関連内斜視の違い神経眼科疾患による急性内斜視デジタルデバイス関連急性内斜視非共同性斜視のタイプ共同性さまざまな程度の制限あり眼球運動制限なし異常所見を認めることがある頭部画像検査異常を認めない日常の行動では変化しない斜視角の変動デジタルデバイスの制限により減弱することがある症例によっては不良治療予後良好–