ウイルス性肝炎の治療・感染予防TreatmentandPreventionofViralHepatitis戸島洋貴*柿崎暁**是永匡紹***はじめに肝炎ウイルスには,A~E型の5種類がある.A型,E型は経口感染が主体で,B型,C型,D型は血液・体液を介して感染し,A型,B型,C型,の一部は性行為感染による急性肝炎の原因になりうる.B型,C型肝炎は急性感染ののち,慢性化し肝硬変・肝癌など重大な病態へ進展しうるため,肝炎ウイルス対策は国内のみならず世界的な喫緊の課題となっている.WHOは2016年に,2030年までにウイルス性肝炎を撲滅する戦略を掲げた.わが国では2010年に肝炎対策基本法が制定され,2023年の改定では,肝炎検査を行った施設は「その規模を問わず」検査結果を受検者に適切に説明し,受診・受療につなげることを求めている.肝炎ウイルス検査は手術前等のスクリーニング検査として医療機関で広く行われている.手術件数の多い眼科においては検査件数も多く,眼科における肝炎ウイルス対策は重要な課題である.IB型肝炎1.B型肝炎ウイルスとはB型肝炎ウイルス(hepatitisBvirus:HBV)はヘパドナウイルス科のDNAウイルスである.出産時・乳幼児期の感染では9割が持続感染に移行し,約1割が慢性肝炎へ至る.成人が感染した場合,潜伏期間(6週~6カ月)後に30~50%が急性肝炎を発症し,典型的には臨床的寛解に至るが,慢性化する場合もある.HBV感染者は全世界に4億人ほど存在すると推定されている.国内における感染率は1%程度であり,高齢者層において感染率が高い1).A~J型の9つの遺伝子型があり,わが国では遺伝子型CとBが多く,近年A型も増加している2).2.感染経路感染力の強いウイルスであり,血液・体液から感染する.垂直感染(母子感染)と水平感染に分けられ,水平感染としては性行為感染,傷のある皮膚への体液の付着(針刺し事故など),刺青・ピアスの穴開け,静注薬物の乱用,不衛生な器具を用いた医療行為などがあげられる.かつては感染経路として母子感染が最多であったが,1980年代から開始されたハイリスク者への出生直後のワクチン接種・免疫グロブリン投与により減少した.現在では水平感染,とくに性行為感染が多い.3.感染症としての特徴不特定多数との交渉をもつ者はとくに感染のリスクが高く,ワクチン接種をはじめとする感染予防を行うことが望ましい.近年,5~10%と高率に慢性化する遺伝子型AのHBVが増加しており2),若年者の性的接触や薬物乱用を原因とする水平感染に関与しているとして注目されている.*HirokiTojima:群馬大学大学院医学系研究科内科学講座消化器・肝臓内科学分野,厚生労働省「肝炎ウイルス検査受検率の向上及び受診へ円滑につなげる方策の確立に資する研究」班**SatoruKakizaki:国立病院機構高崎総合医療センター臨床研究部,厚生労働省「肝炎ウイルス検査受検率の向上及び受診へ円滑につなげる方策の確立に資する研究」班***MasaakiKorenaga:国立国際医療研究センター肝炎・免疫研究センター,厚生労働省「肝炎ウイルス検査受検率の向上及び受診へ円滑につなげる方策の確立に資する研究」班〔別刷請求先〕戸島洋貴:〒371-8511群馬県前橋市昭和町3-39-15群馬大学大学院医学系研究科内科学講座消化器・肝臓内科学分野0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(67)1189表1B型肝炎,C型肝炎の関連検査表2B型慢性肝炎・肝硬変の治療法~核酸アナログとペグイン検査項目検査の意義B型肝炎ターフェロン~HBV感染を示す,感染有無のスクリーニングHBs抗原に用いる.HBV既往感染またはワクチン接種により得らHBs抗体れる防御抗体.HBe抗原一般的にCHBVの増殖能が高いことを示す.HBe抗体一般的にCHBVの増殖能が高くないことを示す.既往感染を意味し,ワクチン接種では誘導さHBc抗体(IgG)れない.HBc抗体(IgM)急性感染を示唆する.血液中のCHBVのウイルス量を示す.陽性であCHBVDNAれば感染力がある.抗ウイルス治療のマーカーとなる.核酸アナログ治療PEG-IFN治療治療効果高率予測困難治療期間生涯にわたる48週間副作用少ない多彩(発熱,網膜症など)投与経路経口皮下注射催奇形性否定できないなし薬剤エンテカビルCPEG-IFNa-2aテノホビルアラフェナミドテノホビルジソプロキシル肝硬変症例使用可能(必須)治療不可HCV抗体HCV感染有無のスクリーニングに用いる.ウイルスが排除されても陽性のまま残る.C血液中のウイルス量を示す.治療により持続HCVRNA陰性化したことをもってウイルスが排除されたと定義され,治療成功例では陰性である.ロン(peginterferon:PEG-IFN)治療がある(表2).核酸アナログはC9割以上の確率でCHBVDNAの減少・陰性化とCALTの正常化を達成できる.現在使用される薬剤(エンテカビル,テノホビルジソプロキシル,テノホビルアラフェナミド)は長期的にも治療効果が高いが5~7),内服中止により高率に肝炎の再燃をきたすため治療期間は一生涯にわたる.また,催奇形性のため挙児希望がある場合は安全性が比較的高いテノホビルジソプロキシルが選択される.ヒト免疫不全ウイルス(humanimmunode.ciencyvirus:HIV)共感染例に核酸アナログを単剤投与するとCHIV薬剤耐性変異を誘導するため,治療前にはCHIV感染を調査する.PEG-IFN治療はドラッグフリーをめざすことができるが,効果の予測が困難であり,副作用も多く,非代償性肝硬変の患者に対しては禁忌である.C7.再活性化HBs抗体やCHBc抗体のみ陽性の既往感染者も免疫抑制・化学療法によりCHBVの再活性化をきたすことがある.リツキシマブなど抗CCD20抗体薬によるものが有名だが,ステロイドや生物学的製剤,ヤヌスキナーゼ(Januskinase:JAK)阻害薬の投与でも生じる.重症化しやすく,HBs抗原陰性者ではC40%が劇症肝炎化し,50%が死亡するため8),再活性化による肝炎を確実に予防する必要がある.予防策は厚生労働省研究班によりガイドラインが発表されている.免疫抑制をきたす治療を行う前にはCHBs抗原・HBs抗体・HBc抗体の検査が必要であり,陽性の場合は治療中~治療終了後C1年までは定期的なCHBVDNA,AST・ALTの測定が求められる.HBs抗原陽性者,HBVDNA陽性者はあらかじめ核酸アナログの投与が行われる.経過中にCHBVDNA陽性化がみられた場合は,速やかに専門科と連携し診療にあたる.CIIC型肝炎1.C型肝炎とはC型肝炎ウイルス(hepatitisCCvirus:HCV)はC1989年に発見されたフラビウイルス科のCRNAウイルスである.感染するとC70%で慢性化し,自然排除率は年間C0.2%に留まり,数十年を経て肝硬変へと進展する.肝硬変では年率約C7%で肝細胞癌を発症する.わが国における肝細胞癌の最多原因であり,肝癌対策上大きな課題となっている.感染者数は全世界でC5,800万人,国内においてはC90~130万人と推定されている.遺伝子型によってC1型~6型に分類され,国内ではC1b型,2a型,2b型が多くを占めている.HBV同様,高齢者で有病率が高い1).C2.感染経路血液・体液を介して感染する.以前は輸血・血液製剤を介した感染が多くみられたが,現在はまれになった.ほかに医療従事者の針刺し事故,汚染された医療器具を用いた医療行為,注射器・針の使いまわし,刺青やピアス,性的接触などがあげられる.HBVより感染力は弱く,母子感染での感染率はC4~7%,針刺し事故での感染率はC1.8%ほどである9).C3.性感染症としての特徴HBVより確率は低く,異性パートナー間での感染率はC0.6%とされる.男性同性間性的接触者での感染率は高く10),性感染症としてのCHCVが流行する危険性は危惧されている.不特定多数との性接触もリスクとなる.C4.感染予防・ワクチン現在有効なワクチンはない.性的接触時のコンドームの使用や,医療従事者においては血液・体液への接触予防策が有効である.C5.検査HCV抗体陽性の場合に感染を疑い,HCVRNA定量を行う.HCVRNA陽性は持続感染を示し,感染力を有する.HCV抗体はウイルス排除後も陽性が持続する(表3).C6.治療かつて主力であったインターフェロン(interferon:IFN)治療は副作用(発熱・関節痛や血球減少,網膜症など)が多く,治療期間が長く,治療成功率もC40~50(69)あたらしい眼科Vol.40,No.9,2023C1191表3C型慢性肝炎・肝硬変のDAA治療薬剤名略称遺伝子型投与期間非代償性肝硬変への投与腎機能初回治療ソホスブビル・レジパスビル配合剤CグレカプレビルC/ピブレンタスビル配合剤CソホスブビルC/ベルパタスビル配合剤C再治療ソホスブビルC/ベルパタスビル配合剤+リバビリンCSOF/LDVCGLE/PIBSOF/VELSOF/VEL+RBV1,2すべてすべてすべて12週C慢性肝炎8週肝硬変,再治療例1C2週※遺伝子型C1,2以外1C2週C12週(8週投与は不可)24週C××〇適応×eGFR>3C0〇eGFR>3C0eGFR>5C0図1肝炎検査後の対応フローチャートa.陰性説明資料b.HBV陽性説明資料c.HCV陽性説明資料図2肝炎検査結果説明資料■用語解説■核酸アナログ:HBVの増殖過程を抑制することにより効果を発揮する.現在第一選択となっている薬剤はいずれも治療効果が高く,薬剤耐性変異を誘導しにくい.核酸アナログは増殖過程において逆転写酵素の働きを阻害し,HBV-DNAの増殖を抑制する.HIVの共感染者に核酸アナログを単剤で用いると,HIVの逆転写酵素も阻害され,これによりCHIVに薬剤耐性変異を誘導する可能性があり注意が必要である.CSustainedvirologicalresponse(SVR):主としてCC型肝炎治療に用いられる.薬剤投与(IFNまたはCDAA)を終了してもウイルスが血中から検出されなくなることをさしており,一般的には治療終了後C24週間にわたりCHCV-RNAが検出されなくなったことを治癒と判定する(SVR24).治療終了後の経過観察期間中にHCV-RNAが再検出された場合は再燃と診断され,追加治療が検討される.肝炎医療コーディネーター:2008年に通知された肝炎患者等支援対策事業実施要項に基づき各都道府県で育成が行われており,肝炎患者らが適切な医療や支援を受けられるように,医療機関,行政機関その他の地域や職場の関係者間の橋渡しを行うことが期待されている.主として看護師や保健師,自治体職員,職域の健康管理者,医師・歯科医師,臨床検査技師,薬剤師,患者会・自治会役員などが対象であるが,各都道府県で定め講習を受講するなどすれば職種を問わず資格を取得できる(取得の基準は各都道府県の規定による).