●連載◯276監修=稗田牧神谷和孝276.LASIKフラップと翼状片手術森井勇介森井眼科医院LASIK術後眼はフラップ接着面が永続的に弱くなっているため,翼状片がフラップエッジを越えて進展してしまった場合の手術の際は,慎重に.離すべきである.頭部の.離の際に,過度に牽引するとフラップの部分.離を招く恐れがある.C●はじめにLaserCinCsitukeratomileusis(LASIK)は,これまでもっとも多く施行されてきた屈折矯正手術である.翼状片もよくみる疾患であり,手術をする機会は多い.今回,LASIK術後眼に翼状片が発症し,手術が必要になった場合の注意点について,経験に基づいて述べる.C●当院での翼状片手術翼状片手術にはさまざまな手術方法があるが,筆者はいろいろな方法を試して紆余曲折を経た結果,京都府立医科大学眼科医局の研修医時代に教えてもらった術式に戻り,現在に至っている.簡単に述べると,頭部の鈍的.離後,初発であっても0.04%に希釈したマイトマイシンCC溶液を短時間作用させたのち,十分に洗浄を行う.異常結膜を切除して正常結膜部分を直筋付着部あたりの強膜に密着するイメージで,なるべくテンションをかけて数糸縫合(7-0シルク糸)することで,強膜が露出した状態で手術を終了する.縫合糸はC1週間後に抜糸する.詳細は割愛するが,当院ではこの方法で毎年C50.80件程度の執刀を行っているが,再発率は低く,個人的には満足な手術結果を得ている.C●LASIK術後眼の翼状片手術の特徴LASIK術後眼の最大の特徴は,角膜面にフラップが形成されており,そのフラップの接着面は正常角膜面に比べ,永続的に生体力学的に弱くなっている1)ことである.そのため,とくに注意が必要なのは頭部の鈍的.離の局面である.頭部がCLASIKフラップエッジに達していない,もしくはエッジで留まっている場合は通常どおりでよいが,頭部が瞳孔領近くまで達した翼状片の場合は,細心の注意が必要である.これまで当院で施行したCLASIK術後眼の翼状片手術はC5眼である.5眼中C3眼はCLASIKフラップエッジで(75)C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY図1LASIKフラップエッジで進展が停滞している翼状片LASIKフラップエッジに沿って翼状片が進展しつつも,エッジを越えていない.進展が止まっていたが,2眼はフラップエッジを乗り越え,瞳孔領にまで侵入していた.このC2眼を観察すると,LASIKフラップに沿って翼状片が進展しつつもエッジで進展が停滞していたことから,フラップエッジの微妙な段差がCcontactinhibitionの効果を有している可能性を感じる(図1).幸い全例とも術後再発は認めていないが,1例だけ痛恨の経験をしたので報告する.C●痛恨の症例患者はC47歳,男性である.約C10年前に両眼にCLASIKを施行.数年前より翼状片が生じ,増大してきたため,手術目的にて当院を受診.右眼に瞳孔領に侵入した翼状片を認めた(図2a).翼状片頭部の血管が豊富で,活動性の高い翼状片であることが示唆された2).その患者まで,LASIK術後眼の翼状片手術はC4眼経験し(うちC1眼は瞳孔領に侵入していた),いずれも問題なく経過していたため,通常の翼状片手術と変わらない説明をし,手術予定とした.術前視力は右眼C0.6(0.9×sph+2.00D(cyl.3.00DAx160°),翼状片の圧迫による不正乱視の影響で,矯正あたらしい眼科Vol.40,No.5,2023653abc図2痛恨の症例a:術前写真.翼状片がフラップエッジを乗り越え,瞳孔領に達している.鼻上側の薄い翼状片はフラップエッジに沿って進展しており,その段差が解消された後に,鼻側から,瞳孔領まで伸びる翼状片が成長してきているように見える.頭部の血管が豊富で強固な癒着が予想された.Cb:術翌日前眼部写真(フルオレセイン染色後).うっすらとフルオレセイン染色が残っているエリアが,LASIKフラップ.離部分である.c:術C1年C4カ月後.EyeBridレンズ(LCL社)を装用し,良好な矯正視力を得ている.視力はC1.0未満であった.こうしてる間に徐々に患者が状況に慣れてきたため,な先に述べた方法で翼状片手術を施行した.頭部を.離んとか日常生活はできるとのことで,いずれも施行せずする際,角膜面との癒着が強固で,鈍的.離が困難であに月日が経っていった.ったものの,なんとか.離した.ただし,フラップエッとはいえ,訴えがなくなったわけではないため,術後ジ側の角膜面に翼状片組織が依然として付着していたた1年C4カ月後,未認可の製品ではあるものの,センターめ,それを.離しようと有鈎鑷子で付着物を強く牽引しがハードコンタクトレンズで,周辺部がスカート上にシたところ,きれいに一層.離された.その後,型通りのリコーンハイドロゲルレンズとなっているハイブリッド手術を施行し終了した.レンズCEyeBridレンズ(LCL社)を提案し,試しに装用術中はとくに疑問もなく,翼状片組織の付着した角膜したところ,良好な装用感と視力を得たため,現在はそ表層面が.れたものと完全に思いこんでいたが,妙にきのレンズを装用していただいている(図2c).れいに.れたことと,実際の翼状片の範囲外のところも術後C1年半が経過した現時点で,EyeBridレンズ装着.離したので,帰宅してからよく考えると,LASIKフ下にて右眼視力はC0.7(1.2C×cyl.1.00DAx110°)であラップを部分的に.離していたのでは…と気づき,眠れる.翼状片の再発は認めていない.ぬ夜を過ごした.翌日診察時,瞳孔領を含むCLASIKフラップ部分を一部.離してしまっていることが発覚したC●苦い経験から得た教訓(図2b).LASIK術後眼の翼状片手術の際は,頭部の鈍的.離はフラップの.離を招かないように細心の注意が必要でC●その後の経過ある.可能ならば,翼状片がフラップエッジ縁で留まっ当然ながら激しい不正乱視を認め,当初はかなり視力ている状況で手術に踏み込みたい.角膜面に翼状片組織不良の訴えが強かったが,状態が安定するまでは我慢しの強固な癒着が残存している場合は,無理に牽引せず,ていただいた.その間,ゴルフ刀などで慎重に.離すべきである.・不正乱視矯正のためハードコンタクトレンズ装着筆者の苦い経験が,皆様の今後の診療に役立てば幸い・不正乱視の矯正は不能だが,正乱視面の矯正だけでもである.ということで,有水晶体眼内レンズによる矯正・残存フラップを除去してしまうフラップ除去文献などをリカバリー案として患者に説明した.ハードコ1)福岡佐知子:屈折矯正手術による組織学的変化.IOL&RSンタクトレンズは一度装用してもらったが,装用感が耐C29:497-504,C2015えがたいとのことで拒否され,有水晶体眼内レンズによ2)森洋斉:再発のリスクが高い翼状片に対する手術.眼科る矯正は視力矯正効果が不十分なため拒否された.そう手術32:200-206,C2019C654あたらしい眼科Vol.40,No.5,2023(76)